2019年4月21日日曜日

財務省はいつから「同じ失敗を繰り返すエリート集団」になったのか―【私の論評】財務官僚の"増税烈士"ごっこを打ち砕くためには、財務省を解体するしかない(゚д゚)!

財務省はいつから「同じ失敗を繰り返すエリート集団」になったのか

財務省にとっての「平成」(2) 
ドクター Z




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大蔵省の大きなあやまち

前回(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64039)に引き続き、「財務省にとっての平成」について追っていきたい。

バブル絶頂とともにはじまった平成は、日銀の「バブル潰し」を目的とする金融引き締めによって完全に経済停滞し、'90年代半ばからはデフレ経済に日本は陥った。

多くの人は当時意識しなかったが、インフレ率がマイナスになることは世界のどこを見わたしてもほぼ皆無だった。名目金利は低くても、インフレ率がマイナスであれば、実質金利は高い。つまり、経済成長を望むのが難しい状況になった。

これに追い打ちを掛けるように、大蔵省はとんでもない間違いを犯してしまった。

'97年4月、消費税を3%から5%へ増税したことだ。デフレ経済へ突入したタイミングで消費増税である。この結果、'99年度(平成11年)は'97年度と比べ、所得税収と法人税収の合計額が6兆5000億円もの税収減となり、失業者数は300万人を超えた。

1997年4月、テレビ東京系で『ポケットモンスター』の放送がスタートした

不幸というべきか、大蔵省は政治巧者だった。'93年8月、非自民の細川連立内閣が成立した。不安定な政権に付け込み、大蔵省は消費増税を仕掛けた。これが「国民福祉税騒動」('94年2月、消費税を廃止して7%の国民福祉税を設けると細川首相が突如発表した)に発展し、羽田内閣への政権交代へとつながった。

大蔵省が再び消費増税を仕掛けたのは、社会党と自民党連立の村山内閣時である。そして'97年4月、自民党単独内閣である橋本内閣になって消費増税は実現してしまった。目まぐるしく代わる政権を利用した、大蔵省の荒業である。

景気回復後、ふたたび奈落に
1回目の消費増税以降、明らかに景気停滞が進んだにもかかわらず、大蔵省はその因果関係を決して認めようとしなかった。今でも定説になっているのは、'97年に発生したアジア通貨危機が原因という説だ。

アジア通貨危機は、韓国やタイで発生した。たしかに「震源地」の両国では経済減速がみられたが、その後の回復は早かった。日本は震源地でもないのに経済低迷したままだった。これは日本が国内要因、つまり消費増税で景気低迷したことを示している証拠だ。

   1990年代に歌手・安室奈美恵のファッションを真似た「アムラー」が女子高生を中心に流行し、
   コギャルスタイルが定着。さらに90年代後半には「ヤマンバギャル」が登場し、「ヤマンバ」が
   「マンバ」へと進化した。写真は当時流行したマンバ(2016年ハロウィン@渋谷)

数々の金融機関が潰れ、先の見えない不況に沈むなか、'01年の森政権時に中央省庁の再編が行われ、大蔵省は財務省へと名を変えた。金融行政の権限は金融庁へと移管し、池田勇人首相が揮毫した大蔵省の門標との別れを惜しんだ官僚もいたという。

こうしたなか、「聖域なき構造改革」を掲げたのが、'01年に首相の座を射止めた小泉純一郎だ。国庫支出金の改革や郵政民営化、数々の規制緩和など、財務省のみならずあらゆる官庁と熾烈なバトルを繰り広げた時代といえよう。

報道では構造改革や民営化が目立っていたが、その裏で小泉首相は金融緩和を進めていた。そのため雇用が回復し、'02年から「いざなみ景気」と呼ばれる好景気が見られたのは事実である。

しかし、'08年9月から始まるリーマンショックで、麻生政権時に再び日本経済は奈落の底に突き落とされた。その後、政権は民主党へ代わり、金融緩和と積極財政が求められたが、日銀も財務省もまるで対応しなかった。バブル対応を誤った、およそ20年前と同じことを繰り返していると思うと、情けない限りだ。

【私の論評】財務官僚の"増税烈士"ごっこを打ち砕くためには、財務省を解体するしかない(゚д゚)!

“官庁の中の官庁”といわれる財務省に入ったエリート中のエリートたちが、予算編成権と徴税権を盾に政治家やマスコミ、他省庁をひれ伏させ、“最強官庁”の名をほしいままにしてきたにもかかわらず、常識では考えられない、幼稚ともいえるような、次官のセクハラ発言や文書改竄などの不不祥事を繰り返したか?多くの人が憤りを感じ、理解に苦しんだことでしょう。

「近年の官僚の劣化」を指摘する声もあります。しかし、財務省の「おごり」と「欺瞞」は今に始まったことではありません。大昔から繰り返されてきたことです。それが、「セクハラ、改竄、口裏合わせ」という不祥事の形でようやく表面化してきたにすぎません。

財務省の「欺瞞」が最も顕著なのが、長年にわたる消費増税をめぐる議論だです。財務省は国債と借入金、政府短期証券を合わせた「国の借金」が1000兆円を超えたと喧伝し、増税を煽り続けているが、これは政府の負債だけに着目するまやかしです。

世界標準の考え方では国の財政状況を正しく見るためには日銀を含めた「統合政府」としてのバランスシートが基本です。それで見ると、日本はほぼ財政再建が終わっている状態です。これは、米国や英国よりも良い状況です。

統合政府(政府+日銀)のパランスシート
統合政府BSの資産は1350兆円。統合政府BSの負債は、国債1350兆円、日銀発行の銀行券450兆円になります。
ここで、銀行券は、統合政府にとって利子を支払う必要もないし、償還負担なしなので、実質的に債務でないと考えて良いです。

また国債1350兆円に見合う形で、資産には、政府の資産と日銀保有国債がある。これらが意味しているのは、統合政府BSのネット債務はほぼゼロという状況です。このBSを見て、財政危機だと言う人はいないと思います。そうして、このような尺度でみれば、日本の財政状況は米国や英国などよりもはるかに良好なのです。

ところが、当の財務官僚は自らのことを「悪者になってもいいから、あえて国民に不人気な増税という選択肢を突き進む"増税烈士"」だと勘違いしています。この幼稚な思い上がりに財務官僚の決定的な「おごり」があると思います。

財務官僚の忖度という構図もありました。これは、財務省に忖度したマスコミから流れたのかもしれないですが、このようなことはありえないです。随分前から、時の政権をも脅かす財務省です。2度目の安倍晋三政権下でも、「財政再建」と「金融緊縮」を至上命題とする財務省は、「経済成長」と「金融緩和」を中心とする官邸と暗闘を繰り広げています。

こうしたおごりと欺瞞にまみれた財務省が、前代未聞の不祥事を立て続けに起こしたのです。財務省の信頼回復のためには「財務省解体」という荒業が必要です。それほどまでに取り返しのつかないことを財務省はしてしまったのです。

財務省解体とは、国税庁を財務省から切り離し、日本年金機構の徴税部門と合併させて、新たに税金と社会保険料の徴収を一括して行う「歳入庁」を新設することです。

他省庁は予算を求め、政治家は徴税を恐れ、マスコミはネタを求めて、財務省にひれ伏しています。世界を見渡しても「予算編成」という企画部門と「徴税」という執行部門が事実上、一体となっている財務省のような組織はまず見当たらないです。

これは、上場企業をみれば明らかです。「予算編成」という企画部門と営業部門である執行部門が一体となっている企業などありません。そもそも、会社法などの法律でそのようなことはできないことになっています。経理部門と財務部門も一緒にはできません。

これは、日本だけではなく、世界中がそうなっています。日本以外の国では、民間企業だけではなく、政府機関もそうなっています。

なぜでしょうか。昔から、企画部門と執行部門が同一になっていれば、必ず不祥事が起こるからです。そんなことは考えてみれば、誰にでも一目瞭然です。予算案を作成する部門とお金を使う部門が一緒になれば、何が起こるか誰にでも容易に想像がつくはずです。

自らを本来は存在することなどあり得ない"増税烈士"になぞらえ、増税することその事事態に、高揚感を覚え、陶酔する財務官僚を生み出したのは、通常のまともな組織では、最初から成り立ちえない不適合組織である財務省なのです。

"増税烈士"幻想を打ち砕くためには、財務省を解体するしかないのです。159年前の日本の将来を憂い社会を憂い水戸藩の浪士が中心となり決起した桜田門外ノ変では多くの浪士が、討ち死に、後には切腹などで死亡しました。彼らのやり方は、過激なところもありましたが、彼らの犠牲もあってわずか変の後8年後に明治維新が成就したことには異論はないと思います。烈士とはこういう人たちのことをいうのであって。"増税烈士"などあり得ません。

今年も盛大に行われた「桜田烈士祭」

そもそも、烈士とは、革命や維新などにおいて戦い功績を残し、犠牲となった人物またはその人物の称号をいう。 幕末の日本においては、志士のうち、特に生命を危険にさらしたり、犠牲を払った人物を指します。志士そのものをいう場合も多いです。桜田門外の変に加わった水戸藩や薩摩藩の浪士を桜田烈士と呼称する例があります。

桜田門外の変は、確かに直接維新につながりはせず、そのやり方は現代で言えばテロと言っても良い方法でありしかも、時期尚早ではありましたが、彼らの思いは確かに多くの人たちに大きな影響を与え、維新への道をはやめ、維新後に日本の構造転換を一気にすすんだのです。この構造転換により、アジアの小さな国日本が、短期間で列強に肩を並べるまでになったのです。

彼らの犠牲が多くの人々の心を打ったからこそ、今年も「桜田烈士祭」が盛大に開催されているのです。

一方現状の"増税"は、日本の構造転換を促すものはないのは無論のことですが、さらに日本をデフレスパイラルのどん底に再び沈め、多くの人々を不幸するだけです。そもそも、財務官僚は何があったとしても、本物の烈士のように亡くなることもなく、退官後の安逸を貪っています。

そもそも、エリートの本来の意味は、本人の命よりもその責任が重い人のことをいいます。だから、昔のエリートであった武士は、切腹の作法を学びいつでも切腹できるようにしていたのです。そういう意味では、財務官僚は真のエリートとはいえません。

財務官僚には、幼稚な「増税烈士ごっこ」はやめさせるべきです。

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2019年4月20日土曜日

挙国一致で中国と対決、何が米国を本気にさせたのか?―【私の論評】戦略の発動の時期と順番を間違えた中国は米国の事実上の敵国となった(゚д゚)!

挙国一致で中国と対決、何が米国を本気にさせたのか?

これ以上中国を放置できない、米国の専門家が語る米中関係の展望
古森 義久

米国のロバート・ライトハイザー通商代表部代表(左)、中国の劉鶴副首相(中央)、
スティーブン・ムニューシン財務長官(右、2019年2月14日撮影、参考写真)

 米国の首都ワシントンで取材していて、外交について最も頻繁に接するテーマはやはり対中国である。政府機関の記者会見でも、議会の審議や公聴会でも、民間のシンクタンクの討論会でも、「中国」が連日のように語られる。

 しかも「中国の不正」や「中国の脅威」が繰り返し指摘される。ほとんどが中国への非難なのだ。

 そうした非難を述べるのはトランプ政権や与党の共和党だけではない。他の課題ではトランプ政権を厳しく糾弾する民主党系の勢力も、こと相手が中国となると、トランプ政権に輪をかけて、激しい非難を浴びせる。ときにはトランプ政権の中国への対応が甘すぎる、と圧力をかける。

 私はワシントンを拠点として米中関係の変遷を長年追ってきたが、米側からみるいまの米中関係は歴史的な変化を迎えたと言える(その実態を3月中旬、『米中対決の真実』という単行本にまとめた。本稿とあわせてお読みいただきたい)。

 では、なぜ米国は中国と対決するのか。今後の両国関係はどうなるのか。その原因と現状、さらには米中関係の展望について、米国有数の中国研究の権威であるロバート・サター氏に見解を尋ねてみた。

 サター氏は米国歴代政権の国務省や中央情報局(CIA)、国家情報会議などで中国政策を30年以上、担当してきた。10年ほど前に民間に移ってからも、ジョージタウン大学やジョージ・ワシントン大学の教授として中国を分析してきた。

 サター氏の認識に私が重きをおくのは、彼が政治党派性に影響されていないという理由もある。政府機関で働いた時期はもちろん官僚としての中立性を保ってきた。個人的には民主党支持に近い立場のようだが、民間での研究を続けてからも、時の民主党政権をも辛辣に批判し、共和党政権からも距離をおくという感じだった。

 今回はジョージ・ワシントン大学にあるサター氏の研究室を訪れて、話を聞いた。インタビューの主な一問一答は次のとおりである。

共和党も民主党も中国を強く警戒
──米中関係が歴史的な変化の時代を迎えたと言えそうですが、その変化をもたらした原因とはなんだと思いますか。

ロバート・サター氏(以下、敬称略) 変化を招いた直接の原因は米国側での危機感でしょう。中国をこのまま放置すれば米国が非常に危険な状況へと追い込まれるという危機感が、政府でも議会でも一気に強くなったのです。ただし中国側は米国のこの感覚を察知するのが遅かった。トランプ政権や議会を誤認していたといえます。ここまで強く激しく中国を抑えにかかってくるとは思わなかったのでしょう。

 米国側の危機感、切迫感を生んだ第1の要因は、中国がハイテクの世界で世界の覇権を目指し、ものすごい勢いで攻勢をかけてきたことです。米国は、このままでは中国に経済的にも軍事的にも支配されると感じたわけです。この状況を変えるには、たとえその代償が高くても今すぐに行動をとらねばならない、という決意になったのです。

 第2には、中国側が不法な手段を使って米国の国家や国民に対して体制を覆そうとする浸透工作、影響力行使作戦を仕掛けてきたことです。統一戦線工作を駆使しての威嚇、圧力、買収、スパイ工作まで米国の心臓部に踏みこむような乱暴な浸透活動が、米側で一気に指摘され、警戒されるようになったのです。
ロバート・サター氏

──米側の中国への不信はきわめて広範囲のようですね。

サター 一般国民も政府も議会も中国に対して強い警戒心を持っています。共和党議員だけではなく民主党議員も、共和党議員と歩調を合わせて対中強硬策を提唱しています。たとえば大統領選への名乗りをあげたエリザべス・ウォーレン上院議員が中国のスパイ活動を非難しました。また、民主党ベテランのパトリック・ リーヒ上院議員は「一帯一路」を嫌っています。民主党で外交問題に関して活躍するマーク・ウォーナー上院議員も、米国のハイテクが中国に輸出されることに強く反対しています。

──であれば、米中間の対立は今後もずっと続くということになりますね。

サター 摩擦がずっと続くでしょう。中国が米国の要求をすべて受け入れることはありえません。また、米国が中国に強硬な態度をとることへの超党派の強い支持は揺るがないからです。

これまでの大統領とは大違いのトランプ

──現在、米中両国の対立で最も分かりやすいのは貿易面での衝突ですね。米中関税戦争とも呼ばれます。

サター これまでの関税交渉では、米側が中国に圧力をかけ守勢に追い込みました。中国側はトランプ政権の勢いに押され、状況の悪化を恐れて、圧力に屈したという感じです。問題は、中国が米国の要求にどこまで応じ、米側からの圧力をどこまで減らすことができるか、でしょう。中国側がかなり妥協して、関税問題では一時的な休戦あるいは緊張緩和になるかもしれません。

 ただし経済問題では、トランプ政権内部にいくらかの姿勢の違いがあります。ロバート・ライトハイザー通商代表のように中国に対してきわめて強硬な人たちと、スティーブ・ムニューシン財務長官のようなやや協調的な人たちが混在しているのです。ではトランプ大統領がどんな立場なのかというと、この判定が難しい。

 関税問題では米側がある程度の妥協を示すこともあるでしょう。ただし、基本的な問題は厳然と残っています。関税問題の基盤にある米中間の底流は非常に対立的であり、険悪です。

 当面の関税交渉では、米国の中国に対する懲罰的な関税を中止するのかが焦点となりますが、この点に関してトランプ大統領はこれまでの歴代大統領とはまったく異なります。中国に対して譲歩や妥協をしないのです。トランプ氏にとって「譲歩」というのは、懲罰の量を減らすだけということになります。

──中国はトランプ大統領に対して戸惑っているということですか。

サター そうです。トランプ大統領はオバマ氏ら前任の大統領たちと違い中国に対して譲歩をしません。米側が欲することを中国側に圧力をかけて実行させるという点では、トランプ大統領は今のところ大きな効果をあげています。しかし、習近平主席は米側が求める総合的な構造変革をすることはないでしょう。ライトハイザー通商代表が要求しているような経済の体系的な変革はないだろう、ということです。

 中国側は「大きな変革を実行する」という合意に応じたところで、アメリカ側をだます見通しが強いといえます。このことはこれまで繰り返し起きてきました。ライトハイザー氏はすでにこのことを指摘しています。だから関税問題でたとえ米中間の合意が成立しても、両国関係の基本を変えるような前進はまずないだろうと思います。

──関税問題とは別に、厳然と残っている基本的な経済問題とはなんですか。

サター 米中間のハイテク競争、そして中国の米国への浸透、知的所有権の窃盗、米側企業を取得して米国のハイテク産業をコントロールすることなどです。米側は中国のこの種の動きに、はっきりと抵抗しています。

 さらには中国への輸出管理です。米側の商務省がこの問題に対処しています。中国の膨張を許すような品目の対中輸出は自粛する。これは東西冷戦時代にソ連圏への輸出を規制したココム(対共産圏輸出統制委員会)に似た概念です。中国との関係は、東西冷戦時代のソ連との対決とはまだ同じ段階に達していません。しかし、ファーウェイに対する米側の対応は事実上ココム的管理に等しく、その厳しさはさらに強くなっていくでしょう。
中国は「大きな変革」に着手するか

──サターさんは、米側が求める最終目標として中国側の「総合的な構造変革」という言葉を使いましたが、具体的になにを意味するのでしょうか。

サター 国家がコントロールする企業の役割、国家が産業界と一体になる産業政策、特定企業への優遇財政措置、外国企業、とくに米国企業の中国市場へのアクセスの制限、といった中国の産業政策が実際にどう変わるかです。知的所有権の扱い、外国の技術などの盗用、スパイも大きな要素です。こうした諸領域で中国政府がどんな改革措置をとるかが『総合的な構造変革』を占う指針となります。

 しかし、中国政府は表面をとりつくろうことがきわめて巧みです。なにもしていないのに、なにかをしているかのようにみせかける。そのため米国政府側の中国不信は非常に強い。だから米国政府は最大の注意を向けて中国側の動向を監視しています。もし中国側がこれまでのように大きな変革措置をとるという約束をして、実際にはしなかったことを確認した場合、米中関係は重大な危機を迎えるでしょう。トランプ大統領はそんな中国の背信を許さないでしょう。この点では、議会でも共和党、民主党が一致して中国への強硬な姿勢を保っています。
中国の危険な拡大を食い止めよ

──トランプ政権は経済問題以外でも中国を非難しています。具体的には中国のどのような動きが米側を最も強く反発させているのでしょうか。

サター 南シナ海での膨張、日本への圧力、ロシアとの結託、ウイグル民族の弾圧など米国の国益や価値観を侵害する一連の動きです。中国は米国のパワーを削ごうとしている。米国はその動きを止めようとしているということです。

 米国が究極的に目指すのは、中国にそのような侵略、侵害を冒させない国際秩序の保持だといえます。中国の攻勢に対しては、ケースバイケースで対応していく。そこで商務省、財務省、通商代表部、国防総省、連邦捜査局(FBI)などがそれぞれ中国の攻勢に立ち向かっているという状況です。

──サターさんのこれまで40年もの米中関係への関わりからみてトランプ政権の現在の中国への対応は適切だと思いますか。

サター はい、米国は中国の攻勢をはね返す必要があったと思います。中国が米国を弱いとみて進出や膨張を重ね、米国の勢力圏を侵害していくという近年の状況は危険でした。率直に述べて、オバマ政権時代の後半はそうでした。トランプ政権の政策担当者たちはそうした中国の危険な拡大を止めるための具体策を取り始めた。私はその基本姿勢に同意します。

 トランプ大統領が長期の総合的な対中政策のビジョンを持っているかどうかは別として、中国の膨張を止める政策を断固としてとれた指導者は、2016年の大統領選の候補者の中には他にいませんでした。中国への有効な対策を取るためには、米中関係の緊迫を覚悟せねばならない。トランプ氏以外にそうした緊迫を覚悟して自分の政策を推進できる指導者はまずいなかったと思います。現在のような強固な対中政策が米国には必要なのです。

【私の論評】戦略の発動の時期と順番を間違えた中国は米国の事実上の敵国になった(゚д゚)!

冒頭の記事において、米国側の危機感、切迫感を生んだ第1の要因は、中国がハイテクの世界で世界の覇権を目指し、ものすごい勢いで攻勢をかけてきたことをあげています。これについては、随分と報道などされてきているので、ここでは詳細は述べません。

第2の中国による統一戦線方式の対米工作については、特定部分がワシントンの半官半民のシンクタンク「ウィルソン・センター」から昨年9月上旬に学術研究の報告書として発表されました。

「米国の主要大学は長年、中国政府工作員によって中国に関する教育や研究の自由を侵害され、学問の独立への深刻な脅威を受けてきた」

このようなショッキングな総括でした。1年以上をかけたという調査はコロンビア、ジョージタウン、ハーバードなど全米25の主要大学を対象としていました。アジアや中国関連の学術部門の教職員約180人からの聞き取りが主体でした。結論は以下の要旨でした。
・中国政府の意を受けた在米中国外交官や留学生は事実上の工作員として米国の各大学に圧力をかけ、教科の内容などを変えさせてきた。 
・各大学での中国の人権弾圧、台湾、チベット自治区、新(しん)疆(きょう)ウイグル自治区などに関する講義や研究の内容に対してとくに圧力をかけてきた。 
・その工作は抗議、威嚇、報復、懐柔など多様で、米側大学への中国との交流打ち切りや個々の学者への中国入国拒否などを武器として使う。
この報告の作成の中心となった若手の女性米国人学者、アナスタシャ・ロイドダムジャノビク氏はこうした工作の結果、米国の大学や学者が中国の反発を恐れて「自己検閲」をすることの危険をとくに強調していました。

こうした実態は実は前から知られてきました。だがそれが政府公式の調査報告として集大成されて発表されることが、これまでなら考えられなかったのです。

これは、昨今の米国の対中態度の歴史的な変化の反映だといえるでしょう。さて、わが日本でのこのあたりの実情はどうでしょうか。日本でも、同様の工作が行われていることが、10年以上も前から言われてきました。

特に、日本は工作員天国といわれています。日本には世界の国ならどこでも持っている「スパイ防止法」がないのです。

工作員にとっての天国とは次のような状態です。①重要な情報が豊富な国、②捕まりにくく、万一捕まっても重刑を課せられない国のことです。

日本は最先端の科学技術を持ち、世界中の情報が集まる情報大国でもあります。しかも、日本国内で、工作員がスパイ活動を働いて捕まっても軽微な罪にしか問われないのです。スパイ活動を自由にできるのが今の日本なのです。つまり、工作員にとっては何の制約も受けない「天国」だということを意味しています。

アメリカに亡命したソ連KGB(国家保安委員会)少佐レフチェンコが「日本はKGBにとって、最も活動しやすい国だった」と証言しています。ソ連GRU(軍参謀本部情報総局)将校だったスヴォーロフは「日本はスパイ活動に理想的で、仕事が多すぎ、スパイにとって地獄だ」と、笑えない冗談まで言っています。

レフチェンコ氏

日本は北朝鮮をはじめとする工作員を逮捕・起訴しても、せいぜい懲役1年、しかも執行猶予がついて、裁判終了後には堂々と大手をふって出国していきます。日本もなめられたものです。

今後米国が、本気で中国と対決するというのですから、日本経由で米国の重要情報が漏れたり、たとえ米国の情報でなくとも、日本の技術等が中国に漏れそれが、中国を利することになり米国が不利益を受けることになっても、日本が現状を放置しておくことにでもなれば、米国は日本の大学や企業、政府機関、金融機関等を制裁対象とする可能性は十分にあります。

日本でも、米国のように日本国内での中国による統一戦線工作の実態を暴く報告書を作成するなどして実態を明るみに出し、それを期にスパイ防止法を成立させるべきです。

習近平

米国が、中国と本気で対決しようとしたのには、別の理由もあります。米国は中国が国債秩序を塗り替えるつもりではないかと懸念してきたことに対して、中国はそのとおりであると宣言したことです。

中国の習近平国家主席が、グローバルな統治体制を主導して、中国中心の新たな国際秩序を構築していくことを昨年宣言しています。この宣言は、米国のトランプ政権の「中国の野望阻止」の政策と正面衝突することになります。

習近平氏は昨年6月22日、23日の両日、北京で開かれた外交政策に関する重要会議「中央外事工作会議」で演説して、この構想を発表したといいます。

習主席はこの会議で「中国は今後グローバルな統治の刷新を主導する」と宣言し、「国際的な影響力をさらに増していく」とも明言しました。中国独自の価値観やシステムに基づいて新たな国際秩序を築くと宣言している点が、これまでの発言よりもさらに積極的でしたた。

習氏の演説の骨子は、以下のとおりです。
・中国はグローバルな統治を刷新するための道を指導していかねばならない。同時に、中国は全世界における影響力を増大する。 
・中国は自国の主権、安全保障、発展利益を守り、現在よりもグローバルなパートナーシップ関係の良い輪を作っていく。 
・中国は多くの開発途上国を同盟勢力とみなし、新時代の中国の特色ある社会主義外交思想を作り上げてきた。新たな国際秩序の構築のために、中国主導の巨大な経済圏構想「一帯一路」や「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」をさらに発展させる。
・中国主導の新しいスタイルの国際関係は、誰にとっても「ウィン・ウィン」であり、互恵でなければならない。
米国政府は中国に対して従来から警戒や懸念を表明してきました。習近平政権は米国の懸念に対して、それまで正面から答えることがなかったのですが、これは、その初めての回答とも呼べるものです。

つまり、米国による「中国は年来の国際秩序に挑戦し、米国側とは異なる価値観に基づく、新たな国際秩序を築こうとしている」という指摘に対し、まさにその通りだと応じたのです。米国と中国はますます対立を険しくすることになったのです。

中国の立場にたったとしても、私は、この宣言は早すぎたと思います。この宣言はできれば、20年後、早くても10年後にすべきでした。

現在の中国は、米国第二の経済国といわれていますが、まだまだ米国には及びません、個人あたりのGDPも当然米国に及ぶこともなく、日本や他の先進国にもまだまだ及びません。

このような宣言は、少なくとも国全体のGDPが米国と肩を並べるくらいになってからすべきでした。

過去においては中国の経済の成長は目覚ましいものがあり2017年には米国と肩を並べるなどともいわれていましたが、今は成長が鈍化し見る影もありません。かつての中国では、保八ということがいわれ、中国は発展途上であり、雇用を確保するためには最低8%の経済成長がなければ、それは不可能になるとして、経済成長率8%を死守するとしてきましたが、最近ではこの保八すら守れない状況になってきました。

これは、中国では十分な雇用を確保できなくなったことを意味します。さらには、最近ではこのブログでも掲載したように、金融緩和策も取れない状況に陥りました。マクロ経済学上の常識では、金融政策=雇用政策でもありますから、これは中国ではますますまともな雇用政策もできなくなったことを示しています。

現在の中国は経済力でも軍事力でも、米国には到底およびませんし、米国とその同盟国ということになれば、雲泥の差と言っても良いくらいです。ちなみに、米国では昨年は雇用状況がかなり良くなっていました。日本もそうでした。

中国が先のような宣言を昨年に実施したことにより、日米ならびにその同盟国は、中国に従来以上に警戒感を高め、中国に対抗しようという機運が高まりました。

もし、中国があのような宣言の内容をおくびにも出さず、20年後に宣言することになっていたとしら、それまでの間に、経済・軍事力を強化し、その頃になって、尖閣での示威行動をはじめたり、南シナ海を突然大規模に埋め立て、あのような宣言をしたとしたら、世界はとんでもないことになっていたかもしれません。それこそ、第三次世界大戦になる可能性もあったかもしれません。

しかし、中国が昨年の時点で、あのような宣言をしてしまったため、米国は無論他の先進国も事前に中国の野望を知りそれを阻止する暇が得られることになりました。

中国は、完璧に戦略を間違えました。戦略というより、戦略の発動の時期と順番を間違えました。ただし、時期と順番を間違えなかったとしても、それこそ第三次世界大戦となり、中国にとってもとんでもない事態になったかもしれません。

民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされていない、中国中心の新たな国際秩序とは、はっきり言えば闇の世界です。米国が第二次世界大戦後につくりあげてきた国際秩序は、良いことばかりではありませんが、それでも中国中心の新たな国際秩序よりは、はるかにましだし、まともです。

中国中心の新たな国際秩序なるものが形成されれば、結局のところ世界は、19世紀、もしくは18世紀の遅れた社会構造にもどることになるだけです。テクノロジーや、素材などが、最新のものでも、非効率、非生産的な遅れた社会では、特に先進国の人々は夢も希望も持てなくなります。

日本もせっかく明治維新で社会が近代化できたにもかかわず、江戸時代に戻ることになったかもしれません。そんなことは、米国だけではなく、世界中のまともな国々や、先進国では、たとえ政治的立場が保守派であろうが、リベラル・左派であろうが、とても許容できるものではありません。

本来は、中国こそが社会構造を変えていくべきなのです。日米などの先進国も、中国が経済発展すれば、そうなるだろうと期待していたのです。しかし、それは見事に裏切られたどころか、中国は自らの社会構造の遅れを認識せず、単に遅れた社会構造を自らの核心的価値観として世界に押し付けようとしたのです。だからこそ、米国は、超党派で中国に対抗しているのです。

この米国の姿勢は、中国が少しぐらい譲歩したからとって変わることはありません。中国が、社会構造改革を約束して、それを本当に実行するか、経済的に疲弊して、他国に影響力を及ぼせないくらいに衰退するまで続くことになります。この米国の姿勢は、もはや超党派のものとなり、トランプ政権の後の政権もこれを踏襲することになります。中国は米国の事実上の敵国となったのです。

他の先進国も、これに同調することになります。中国は金で多くの国をたらしこもうとするので、中には、イタリアや中欧諸国のように中国に同調しようとするような国もでてくるかもしれませんが、大勢としては、ほとんどの国、特に先進国が中国に対して対抗姿勢を顕にすることでしょう。結果が出るまで、約20年は続くとみておくべきでしょう。米中の対立の根は見かけよりもずっと深いのです。

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2019年4月19日金曜日

インド経済にとって最大の「アキレス腱」とは?―【私の論評】今回の国政選挙ではモディ政権が勝利するだろうが、その後の対パキスタン政策に注視(゚д゚)!

インド経済にとって最大の「アキレス腱」とは?
総選挙後のモディ政権の「安全保障政策」に注目

野瀬大樹 (公認会計士・税理士)


4月の頭、私は毎月恒例のインド南部ハイデラバードへの出張の日程を調整するために現地のインド人社長に電話をした。

「今度のご訪問ですが4月11日はいかがですか?」

 すると、先方社長は即座に「11日はダメだ。だって選挙じゃないか。うちも会社は休みだよ」とのこと。

 そうだ。2019年4月11日、それは世界最大の選挙、5年に1度のインド下院(ロク・サバ―)選挙が始まるまさにその日だったのだ。外国人であり投票権を持たない私はそれをすっかり忘れていた。

2019年4月11日 インド総選挙

「世界最大の選挙」インドで始まる

 インドは13億を超える人口を抱える世界2位の人口大国。そして人口1位の中国と異なり民主主義国家であるため、自動的にインドが「世界最大の民主主義国家」となり、さらにその有権者数は日本の約9倍の9億人といわれている。投票所の数は小さなものも含めるとなんと100万カ所も存在するのだ。

 そのため、選挙は日本よりずっと大がかりだ。

 選挙のスタートは4月11日で最終的な結果が判明するのは5月23日と実に一カ月を超える長丁場。投票日の夜にはほぼ結果が分かる日本の総選挙とは大違いだ。州ごとに投票日が定められており先述のハイデラバードがあるテランガナ州は初日の4月11日、最も注目が集まる首都デリーは5月12日だ。

 余談だがこの投票日は暴動や有権者同志の小競り合いも警戒して「ドライデー」と言われる「お酒が飲めない日」でもある。選挙に対するインド政府の緊張感が伝わってくるようだ。とにかくそれくらいインドの総選挙は「大がかり」な一大イベントなのだ。

 もちろん日本と違い、選挙に関連する暴動や抗議活動、またテロへの警戒など警備面での手続きも必要なので一概には比較できないが、9億人の有権者に一斉投票をよびかけてそれを集計するということの難しさは容易に想像がつくだろう。前回の記事でも書いたがインドの国家運営はまさに「芸術的」なのである。

投票方法から見る「政府への不信感」

 また、今回は全ての投票所において「VVPAT」が導入される初めての選挙である点も注目されている。VVPATとは「Voter Verifiable Paper Audit Trail」の略で、電磁的な投票を行うと同時に投票記録が紙にも印字され、有権者に発行されるシステムのことである。どこに投票したかが分かる紙を受けることができるため、電子投票による不正の可能性を排除できるのだ。

 インドは未だに紙での投票を行う日本と異なり、原則として全て「電子投票」だ。有権者は投票所に行き各政党のシンボルマークが描かれたボタンを押すことで投票する。これは、多すぎる有権者からの投票を管理するのには紙では非現実的なのと、インドは貧富の差が激しく未だに文字を読めない人が多く存在することが原因だ。

 ただ、この電子投票に対して「作為的に操作されているのではないか」という疑惑が昔から存在していたため、選挙管理委員会はその疑念を払拭することを目的に前回(2014年)の総選挙でVVPATを試験的に導入し、今回から完全導入する運びとなった。注目すべきは、このような装置が100万カ所あるすべての投票所に導入されなければならないほど、有権者が自分の国の選挙運営に疑念を持っていたということである。

 また、選挙管理委員会はインドの国民的娯楽と言われる映画においても、「伝記もの」については選挙期間中の上映を止めるよう通達を出した。特定の人物を演出付きで描く「伝記もの」は投票行為に影響を与え、選挙の公平性を毀損するとの判断だ。こうした娯楽への介入に踏み切るほど、選挙委員会も「透明性」に関してピリピリしているのだ。

モディ政権が選挙直前で巻き返しに成功したワケ

 さて、その選挙の結果は5月23日まで未確定だが、現状では年初の予想を覆し現首相モディが率いるインド人民党が支持を盛り返しつつある。

 支持率が下落傾向にあった農村部への所得補償を滑り込みで決めたことや、カシミール地方でのインド・パキスタン両軍の衝突事件における強硬な姿勢が支持率の回復に繋がったと見られている。

 また、モディ首相は4月14日に懸案のカシミール地方を訪問し、自身の政権運営の成果を強調した。さらに同日、まだ選挙も始まったばかりなのに「政府が選挙後100日に行う事」というアジェンダを発表した。経済成長の約束はお決まりだが、雇用創出や全国的な水質の改善などの施策まで打ち出した。「今後も我々が政権運営を担う」という自信の表れだろう。

インド経済にとって最大の「アキレス腱」とは?

 ただ、こうした政府の強気な姿勢には新たな懸念も感じる。

 パキスタン政府の「穏便に事を収めたい」という姿勢のおかげもあり、印パ危機は去ったように見えているが、今回の支持率回復に味をしめたインド政府が今後も強気な姿勢を続けた場合、その安全保障上の姿勢がインド経済に悪影響を及ぼす可能性があるのだ。

 現在のインド経済にとって最大のアキレス腱は、雇用問題でも国内需要の弱さでもなく、実は「ルピー安」だ。昨年後半の記録的なルピー安相場は底を打った感があるものの、まだその水準は低いままである。原油輸入国であるインドにとってルピー安は経常収支の悪化だけでなく、原材料価格の高騰が国内のインフレを招き、結果として個人消費に冷や水を浴びせる厄介な問題なのだ。ルピー安によって恩恵を受けるような強力な輸出産業もまだ育っていない。

「ルピー安」が招いた大手航空会社の経営危機

 このインド経済の懸念事項「ルピー安リスク」が顕在化したと言えるのが、まさにいま日本でも話題になっている「ジェットエアウェイズ騒動」だ。ジェットエアウェイズは国内第2位のシェアを誇っていた航空会社で、インドでは日常茶飯事の遅延や欠航が少ないことを売りにして業績を拡大。国際線も活発に飛ばすなどインド旅客業界で大きな存在感を誇っていた。

 実際、私もインド国内の移動でよく使っていたが、昨年半ばより徐々に欠航が発生しその数は日を追うごとに増加。4月18日以降は完全に運行停止になった。

 理由は経営状況の悪化。2018年初頭より続いたルピー安による燃料価格の高騰にもかかわらずシェアの死守を意識したジェットエアウェイズは航空チケットの値上げに踏み切れずにいた。そして予想以上に続いたルピー安により徐々に燃料費が経営を圧迫。パイロットに支払う給料さえ滞るようになり、ストライキなどが原因で欠航が相次いだのだ。ルピー安は国内大手航空会社を1年ちょっとで機能不全に陥れるほどのインパクトを持つ重要な経済上のファクターなのだ。

 ルピー相場に大きな影響を及ぼす安全保障は、経済とは切っても切り離せない関係にあり、その緊張は再び大きなルピー安を引き起こす可能性がある。事実、今年1月に上昇に転じていたルピー相場は印パが緊張状態になった2月に対ドルで急落している。

今後のインド経済を占う「外交政策」の行方

 インドのような成長途上の大きな国を安定した成長軌道に乗せるには強力かつ安定した政権が必須だ。インドでビジネスをしている私も今回モディ率いるインド人民党が支持率を盛り返した点には正直ホッとしている。中国とは違い民主主義国家で、移ろいやすい有権者の支持を得てそれを実現するのは難しいからだ。

 しかし、やや右派的性格を持つモディ政権が行う今後の外交上の判断次第では、「ルピー安不況」が顕在化するリスクも確かに存在する。

 5年目に突入したモディ政権は、当初ドラスティックな政策を次々打ち出すと考えられていたが、実際は良く言えば穏健で調整型とも言える国内向け政策をとっている。モディ政権の優勢で選挙が一段落したあとの外交は「穏健で調整型」になると私は希望も込めて予想しているが、果たしてどうだろうか。

【私の論評】今回の選挙ではモディ政権が勝利するだろうが、その後の対パキスタン政策に注視(゚д゚)!

インド経済は、モディ首相就任後、外資導入の積極化やインフラ整備の推進といった投資促進に加え、上記でも掲載したように、2016年11月には高額紙幣を廃止し、2017年7月には物品サービス税(GST)導入といった経済構造改革も断行しながら、高い成長率を達成してきました。

構造改革により、一時的に経済が混乱する局面はあったものの、2018年後半からはインド経済は持ち直しの動きが見られます。2018年実質GDP成長率は、+7.3%に達した模様です。


2019年もインド経済は消費主導の成長が続くと予想しています。これまでの金利上昇や貿易摩擦の激化など輸出環境の悪化が、設備投資や輸出を鈍化させる見込みですが、民間消費は旺盛なままであり、引き続きインド経済の牽引役になると期待できます。農作物の最低調達価格の引上げが実施されることから、農業所得が持ち直す見込みで、これも、消費が堅調さを維持することにつながるでしょう。

生産面では、耐久消費財生産も非耐久消費財生産も、それぞれ堅調に拡大しています。総固定資本形成は、現在のところ好調ですが、金利が上昇してきたことや貿易環境の悪化などを背景にやや鈍化することが懸念されます。

設備稼働率は、断続的に上昇してきましたが、今年は総選挙を控えていることもあるためか、企業の新規投資計画は、モディ政権になって初めて鈍化してきており、企業が先行きへの不透明感から、設備投資にそれほど前向きでないことがうかがわれます。

したがって、経済成長が大きく加速すると見込むことは難しいものの、2019年の実質GDP成長率は、旺盛な消費需要に支えられて2018年と同程度の成長を予想しています。モディ政権が維持されれば、やや上振れて、+7.5%程度の経済成長を達成することは可能ではないかと考えています。

インド経済に与える原油価格の影響は大きいのですが、2018年との比較でいえば、原油価格が落ち着きを取り戻したことは、インド経済にとって追い風になるでしょう。インフレ率が安定すれば、賃金の実質増加割合も増えるため、消費拡大に寄与します。また経常収支の改善にも繋がるでしょう。

金融政策は、政府と中央銀行の確執が取りざたされてきましたが、中銀総裁の辞任により、風向きは変わりました。インド中銀が、金融政策で引き締め姿勢から緩和的な姿勢に転換する可能性もあります。

インド失業率の推移

インドのベンガルールにある私立アジム・プレムジ大学が16日発表したリポートで、2016─18年に職を失ったインド人は少なくとも500万人に達し、都市部に住む若い男性が最も打撃を受けていることが分かりました。

上の記事にもあるとおりインドでは、5月19日に総選挙が終了する予定で、モディ政権は雇用を含む経済業績の擁護に躍起となっています。

リポート「2019年、インドにおける労働の現状」の筆頭執筆者は「2016年以降、高等教育を受けた人の失業が増加しているが、それに加えて、相対的に教育水準が低く(非正規の可能性が高い)人の失業も増加し就業機会が狭まっている」と述べました。

ただリポートは、この期間に創出された雇用は明らかにしていません。全体の動きをみると、2014年から2018年までの年間統計では失業率が問題となる水準ではなさそうです。

2016年11月にモディ首相が脱税抑制と電子取引促進のため高額紙幣を突然廃止したことで中小企業が打撃を受け、レイオフの波が発生しました。さらに、17年に「物品サービス税(GST)」が導入されると、一部企業にとって困難が増幅する結果となりました。

リポートによると、失業者の大半は高等教育を受けた20─24歳の若年層。リポートは「たとえば都市部の男性の場合、この年齢層は労働年齢人口の13.5%ですが、失業者全体に占める比率は60%に上る」としています。

公式統計で過去5年間の経済成長率が7%前後となっているにもかかわらず、モディ首相は数百万人の若年失業者の雇用に十分な措置を講じていないと批判されています。

ビジネス・スタンダード紙は2月、政府が公表を拒んだ公式調査として、2016/18年度の失業率は少なくとも過去45年間で最高水準に達したと伝えました。

シンクタンクのインド経済モニタリングセンター(CMIE)がまとめたデータによると、今年2月の失業率は7.2%と、2016年9月以来最高に上昇。前年同月の5.9%からも上昇しました。これは直近では問題ありといえそうです。

このような状況では、通常の先進国ならば、雇用の改善のために金融緩和ということになるのでしょうが、インドではそれと同時に構造改革が必要です。

米国では、労働者の大多数は大企業で働いていて、自営業はほんの10%にすぎません。一方、インドでは、大きな企業で働いている労働者はほとんどいなくて、80〜85%が自営業者です。これは、インドは米国より起業の盛んな社会であり、これが雇用問題を悪化させている点は否めません。

LiveMint が要約している世界銀行の報告書草稿に掲載されているデータによると、インドには正式な月給稼ぎの雇用が少ないです。米国のような先進国と比べて少ないだけでなく、そこまで発展していない他の多くの国々と比べても少ないのです。



この問題の解決は、労働者の人数が急速に増えているインドにとって最大の課題です。土地改革と労働市場の規制緩和が最初の一歩です。ここでいう規制緩和には、企業の成長を抑制するオウンゴールを止めることや、馬鹿みたいに「気前のいい」育児休暇手当をもとめる法制化をやめることなども含まれます。

2018年は、米国の金融引き締めが断続的に実施され、金利が上昇したことで、新興国通貨安・米ドル高がトレンドとなりました。インドルピーも、この流れの中で下落を強いられましたが、米FRBの金融引き締め姿勢に変化を嗅ぎ取った市場では、新興国通貨に対する見直し機運が高まっています。ルピーの安定は、インド経済にとっては大きな支援材料になるでしょう。

輸出については、まず輸出が米中貿易戦争を背景とする世界貿易環境の悪化を受けて、年明けから鈍化傾向です。輸入は旺盛な消費需要を背景に、拡大基調を維持するでしょう。

今回の総選挙の前哨戦ともいわれた国内5州の議会選挙モディ首相
率いる国政与党インド人民党(BJP)は5州で全敗した

今月の総選挙に関しては、与党インド人民党の地方選挙での苦戦が続いていることから、予断を許さない状況です。最終的に、国政レベルではインド人民党の辛勝で落ち着くと予想していますが、地方選の結果は、インド上院での勢力構成に跳ね返ります。

下院での多数を維持することでモディ政権が維持されても、議会勢力図の変化は政権の安定感を損ない、経済政策ではこれまでほど構造改革で指導力を発揮できない可能性が出てきます。

そうなると、総選挙後の民間設備投資の加速は、思ったより進まないかもしれません。また、公共投資については、総選後には政府が再び財政再建に注力する可能性が高く、インフラや住宅開発など政府プロジェクトの大幅な加速は見込みにくくなるでしょう。

なお、今回の総選挙に向けて、インドの野党連合はベーシックインカムの導入を提唱しています。もし、政権交代が起こった場合には、財政の悪化とインフレ懸念の増大に気を付けておく必要があるでしょう。

インド経済は、2019年度が+7.5%、2020年は投資の回復が順調に続けば+7.7%まで成長率が上昇することも十分に視野に入ります。企業業績も拡大が続く見込みです。内需消費が主導するインド経済は、相対的に米中貿易摩擦の影響を受けにくいと考えられます。

インド株式市場は、予想PER(株価収益率)からすれば、株価に割高感はありません。選挙やインフレ懸念が払しょくできれば、株式市場を取り巻く環境は良好な状態が続くでしょう。

上の記事にもあるように、インド経済にとって最大の「アキレス腱」であるルピー安ですが、上昇基調にあります。



2月に隣国パキスタンとの軍事対立が激化しました。インド・パキスタンの南アジア二大国が帰属を争うカシミール地方のインド側・プルワマで2月14日に起きた自爆テロでは、同地に駐留する治安部隊44人が死亡するなど大きな被害が出ました。

翌15日にはパキスタン「領内」に拠点を持つイスラム過激派ジャイシュ・エ・ムハンマド(JeM、ムハンマドの軍隊)が犯行声明。インド軍は26日、カシミール地方を分断する停戦ライン(LoC)を越境して過激派拠点を報復爆撃。その後もLoCを挟んだ印パ両軍による砲撃の応酬もあり、事態は再び緊迫化の一途をたどりました

4月にいよいよ投票が始まる総選挙を控え、国内向けに強硬姿勢を示す必要があったインドに対し、国際通貨基金(IMF)との協議が続き経済再建を優先するパキスタンはおおむね冷静かつ妥協的な姿勢を続けるという、かなり対照的な構図となりました。

しかし、3月14日にはパキスタン領内にあるシーク教の聖地にインド人巡礼者を受け入れるための二国間協議が予定通り行われ、事態は徐々に緊張緩和の方向に進みました。これにより、買いが入りました。4~5月に実施される総選挙で苦戦が予想されていたモディ首相率いる与党の支持率上昇を好感しているものとみられます。

インドルピーは2018年10月に史上最安値となる1ドル=74ルピー台を付け、その後も70ルピー台の安値圏が続きました。3月10日にインドの選挙管理委員会から5年に1度の総選挙(下院選)の日程が公表されると、選挙情勢への関心が高まりました。

民間調査などによると、2月のインド国内でのテロ攻撃に端を発したパキスタンとの対立が、与党の支持率上昇に寄与しました。それまで与党の苦戦が報じられてきたが、モディ政権が続くとの期待が高まり、3月中旬には一時68ルピー台にまで上昇しました。

以上の情勢から、おそらくモディ政権が今回の選挙で勝利するでしょうが、問題はその後の外交・軍事政策いかんと考えられます。特にパキスタン関係のいかんよっては、再びルピー安に見舞われる可能性は十分にあります。

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2019年4月18日木曜日

アメリカの株高と金利安定は長期化しそうだ  日本は消費増税を取りやめたほうがいい―【私の論評】増税凍結の判断は連休開けの5月〜6月にかけての可能性が高まった(゚д゚)!


東洋経済オンライン / 2019年4月17日 7時40分

NYダウは16日の時点では回復している


アメリカ株の回復が続いている。ニューヨークダウ平均などは最高値圏まであと一歩のところまで上昇している。

筆者が2月に執筆したコラム「アメリカ株は『もう上がらない』と言い切れるか」(2月12日配信)では、早期バランスシート縮小停止などFRB(連邦準備制度理事会)による緩和政策が、新興国を含めた世界経済の安定をもたらし、一部で高値警戒感がささやかれていたアメリカ株を中心に、リスク資産の上昇をもたらす、との見通しを示した。

■「FRBの豹変」は2016年と似ている

その後実際に、FRBは「政策スタンスのハト派化」を強めた。3月半ばのFOMC(連邦公開市場委員会)において、多くのメンバーが政策金利を当面据え置くことを示し、そしてバランスシート縮小を9月早々に停止するとした。

FRBの政策判断の背景には、成長率、インフレが下振れるリスクが高まっていることがある。しかし、2018年後半のアメリカを震源地とした株式市場の大幅な下落は、FRBの判断ミスに対する懸念が主たる要因だった。FRBの政策については、従来からドナルド・トランプ大統領がたびたび批判するなど、混乱している状況をどうみるか、考え方はさまざまだろう。

実際には、インフレ率が2%前後で安定しているにもかかわらず、FRBが政策金利を3%台へ利上げすることへの懸念は、トランプ大統領だけではなく多くの投資家に共有されていた。昨年末から年初早々にジェローム・パウエル議長などが利上げ見送りのメッセージを早々に示し大きく方針転換を行い、金融市場が発するリスクシグナルに柔軟に配慮した、アグレッシブな政策変更は妥当と筆者はみている。

このFRBの豹変は、金融市場が動揺した後に路線変更を行った2016年初と似ている。当時も、2016年初に1年間に4回の利上げを想定していたFRBは、あっさりと利上げを見送り、その後の景気回復と株高をもたらした。2016年と2019年の共通点を指摘する声は増えているが、年初から筆者自身はこの点を強く意識していた。

依然、欧州などの経済指標は停滞している。だが、下落していたグローバル製造業景況感指数は、3月に下げ止まりの兆しがみられる。金融市場で悲観論が強まった2016年初に世界経済が下げ止まったが、この点でも2019年と2016年は似てきている。年初から株高のピッチが速いため多少のスピード調整はありうるが、筆者は「2019年は金利安定とリスク資産上昇が併存し続ける可能性が高い」とみている。

日本の経済メディアでは、筆者からすれば根拠が曖昧にしか思えない「金融緩和の弊害」が強調され、また金融政策の役割や効果を軽視する論調が目立つ。実際には、一足早く成長率が高まり、中央銀行が利上げを始めたアメリカでも、金融緩和的な状況を保つことが重要である構図は、2019年になっても変わっていない。

主要な先進国、さらには多くの新興国で経済成長率が2000年代よりも高まらない中で、中銀が経済を浮上させる景気刺激的な総需要安定化政策を継続することが必要ということである。

また、労働市場において、アメリカや日本などで大幅な失業率の低下がみられている。失業率低下が、賃金やサービスインフレの上昇につながっていないことには、さまざまな議論があるが、筆者は依然として日米ともに失業率には低下余地があると考えている。

もはや10年以上も経過するが、2008年の世界的な金融危機による経済ショックが極めて大きかったが故に、表面的な失業率の改善などが示すよりも経済全体にはなおスラック(余剰)が残っており、それが低インフレの長期化をもたらしているとみている。

■「消費増税」=「緊縮財政政策」への危機感が薄すぎる

FRBも、2019年初からのハト派方向への転換に加えて、6月は大規模な会議を開催する予定だ。そこでは、これまでFOMC等で議論してきた、次の景気後退に備えた政策枠組みなどが話し合われる見込みだ。

国民の経済厚生を高めるための金融政策の在り方などについて、重鎮の経済学者なども参加する予定であり、具体的な、インフレ目標の引き上げなどを含めた金融政策のフレームワークなどもテーマになるという。経済安定、低インフレが長期化する中で、インフレ上振れを許容するアグレッシブな金融政策の妥当性が議論されるのではないか。

アメリカでこうした議論が活発になっていることには、低インフレ、低金利が長期化していることがある。これは、主要国経済の「日本化」ともいえるが、この状況に経済学者やエコノミストが強い危機感を感じていることが、政策議論が活発になっている要因の背景となっている。

本来であれば2%インフレの目標実現に一番遠い位置にある日本において、こうした議論がより真剣に行われる必要があるはずだ。ただ、実際には反対のことが起きている。日本銀行の金融政策運営は、2018年からは、利上げバイアスが強い事務方の影響が増している。根拠が曖昧な「金融緩和の弊害」が強調されるなど、金融政策に関する議論について、日本では2012年以前のように、アメリカなどとの対比でかなり低調になっているようにみえる。

一方、2019年10月予定の消費増税については、景気指標の下振れを受けて見送られる可能性がやや高まっているが、可能性は五分五分だろうか。もし増税が実現すればGDPを0.5%前後押し下げるマイナス効果があり、日本経済は主要先進国の中で最も緊縮的な状況に直面する、とみている。だが、日本の経済学者などは、緊縮財政政策への危機感が薄いままである。

こうした状況では、これまでも連載で繰り返し述べてきたが、「アメリカ株>日本株」、のパフォーマンス格差が続く可能性は依然として高いとみる。こうした構図が変わるには、日本銀行による金融緩和徹底は言うまでもないが、消費増税の取りやめ、あるいは家計部門への負担を相殺する追加的な財政政策の発動が必要だろう。

村上 尚己:エコノミスト

【私の論評】増税凍結の判断は連休開けの5月〜6月にかけての可能性が高まった(゚д゚)!

増税などすべきでない理由は、このブログでも何度か掲載してきました。私としては、ぞ増税しないのがごく当然であり、増税するのは異常であるとしか思えません。

特に、14年4月に増税したあとのことを考えれば、10月に再度増税するということは狂気の沙汰としか思えません。

しかし、財務省の増税キャンペーンに煽られたのか、多くの頭の悪い政治家や、マスコミ、それに追随する識者など、あたかも増税は既定路線であるかのような口ぶりで、増税を語っています。

しかし、そうとばかりはいえないことが言えないような事態も生じています。

10月に実施予定の消費増税について、自民党の萩生田光一幹事長代行は本日、日本銀行が7月に発表する6月の企業短期経済観測調査(短観)などで示される経済情勢次第で延期もあり得るとの認識を示しています。

同党幹部が具体的な判断材料を示して増税延期に言及したのは初めてです。市場は反応薄でしたが、夏の参院選を控え、与党幹部から同様の発言が続けば波乱要因となる可能性もあります。

萩生田氏は18日のインターネット番組「虎ノ門ニュース」のジャーナリスト、有森香氏の番組で、10月の8%から10%への消費税率引き上げに関し、「景気が回復傾向にあったが、ここに来て日銀短観含めて落ちている。6月はよくみないといけない」と指摘しました。

その上で、「本当にこの先、危ないぞというのがみえてきたら、崖に向かってみんなを連れていくわけにはいかない。そこはまた違う展開があると思う」と語りました。同氏は党総裁特別補佐、官房副長官などを歴任しており、安倍晋三首相の側近として知られます。

萩生田光一氏

夏には参院選も予定されています。萩生田氏は増税を「やめるとなれば、国民の了解を得なければならないから信を問うということになる」としましたが、衆参同日選の可能性については「ダブル選挙というのはなかなか日程的に難しい。G20(20カ国・地域)サミットもある」と否定的な見方を示しました。

以下に萩生田氏の上記発言の部分を含む動画を掲載します。下の動画は、消費税の話題から始まるように設定しています。




消費増税を巡り、政府は世界的な経済危機や大震災などリーマンショック級の出来事がない限り、予定通り実施する方針を示しています。菅義偉官房長官は同日の記者会見で、政府の考え方は「全く変わらない」と語りました。

日銀が4月1日に発表した3月調査の短観では、大企業・製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)はプラス12と、昨年12月の前回調査から7ポイント悪化しました。悪化は2四半期ぶりで、悪化幅は2012年12月調査(9ポイント悪化)以来の大きさでした。6月調査は月末に開かれるG20サミット終了後の7月1日に発表の予定です。

消費増税を巡っては、同党の西田昌司参院議員も18日のインタビューで、完全にデフレ脱却という状況ではなく、景気回復が実感できないとの声も多いため、現在の経済状況を「事実として受け止めれば消費増税という選択肢はあり得ない」と指摘しました。

増税延期論者は実際は党内にも「それなりにいると思う」と付け加えました。10月からの幼児教育の無償化は消費増税分が財源だが、延期の場合は「国債発行する以外にはない」と述べました。ただし、以前も指摘したように、日本政府の借金など、負債だけではなく資産も加味すれば、ゼロであり、米英よりもはるかに財務は良い状況にあります。

さらに、日銀が金融緩和で、市場から国債を買い取ってきたため、市場では国債が少ない状況にあるうえ、国債の金利もご存知のようにあがっていません。この状況では、国債をある程度刷り増ししたところで、何の支障もありません。というより、国債を発行することがすべて悪であるかのような考えは全くの間違いです。

西田昌司参院議員

このような主張がでてきたということは、無論自民党内でそのような意見の人が一定以上存在することを示していると考えられます。

ただし、安倍総理も現状では、予定通り増税するとしていることから表だってはっきりとはいえない雰囲気があるものと考えられます。安倍総理やその側近たちは、財務省や増税賛成の他の大勢の自民党の議員の議員らの手前、本当は増税などやりたくないにもかかわらず、はっきり言える状況ではなく、その機会を伺っているのではないかと思います。

このブログでは、最近は経済が停滞する傾向がみられつつあると掲載したことがあります。ただし5月には元号が変わり、平成から令和と変わり、祝賀ムードがあり、さらには27日から始まるゴールデンウイークの10連休があります。そのため、景気が目立って落ち込むことはないと思います。

ただし、その反動と経済の停滞が、連休後に顕著になり、5月から6月上旬ぐらいにかけて、それが誰の目に見えて明らかになり、首相が『こんな景気の状況じゃ消費増税できません』と言って、通常国会会期末に消費増税凍結を信を問うと言って、衆参同日選挙を7月に実施と宣言する可能性があると思います。

自民党の中には、憲法改正の国民投票を成功させるため、自民党内に増税の先送りを後押しに利用すべきだと主張する人はある一定数以上は存在するでしょう。もし、5月から6月にかけて、経済の停滞が明らかになった場合、10%への引き上げに伴う駆け込み需要・反動減を抑えるための大型景気対策を実施しても、景気の落ち込みは破滅的となり、世論の不興は避けられないでしょう。憲法改正の国民投票で過半数の賛成票を集めるためには増税の再々延期しかないと考えられます。

まさに、萩生田氏はそれを想定しているのではないかと思います。そうして、6月になっても増税を阻止してみせるという財務省に対する牽制でもあるのではないかと思います。そうして、6月になってからでも、増税凍結の判断を実行に移す方法があるということを意味しているのだと思います。


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2019年4月17日水曜日

政治に左右される為替管理 国家資本主義・中国の限界―【私の論評】国際金融のトリレンマにはまり込んだ中国人民元の国際化は不可能(゚д゚)!

政治に左右される為替管理 国家資本主義・中国の限界

人民元の限界とドル覇権

倉都康行 (RPテック代表取締役、国際金融評論家) 

 最近の為替市場や株式市場の慌ただしい展開に比べれば、国際通貨制度の動きは極めて緩慢である。10年前の金融危機の際には「ドルの信認低下」が世界中で騒がれたが、IMF(国際通貨基金)の統計によれば、昨年9月末時点での準備通貨におけるドルのシェアは61・9%と、ユーロの20・5%、円の5・0%、ポンドの4・5%を大きく引き離しており、事実上の「世界通貨」としての地位は揺らいでいない。

 とはいえ、ドルの占める割合が徐々に低下していることもまた事実であり、2015年3月末の66・0%という水準から約3年半で4・1%のシェア・ダウンとなっていることを考えれば、今後一段と低下する可能性もないとは言えないだろう。

(注)ユーロは左から20%→19.1%→20.5%で推移 (出所)IMF資料を基にウェッジ作成


 では、この間に準備通貨のシェアはどう変わったのだろうか(上図)。ドル以外の通貨をみると、ユーロは20・0%からわずかに上昇、3・8%と同水準にあった円とポンドはともに1%超の上昇となっている。豪ドルやカナダドルは1%台のシェアでさほど変わっていない。一方で16年12月末から公表開始となった人民元のシェアは、2年足らずの間に1・1%から1・8%まで伸びて、豪ドルを抜いている。カナダドルのシェアを追い越すのも時間の問題であろう。

 つまりドルのシェアを食っているのは、円やポンド、そして人民元といった通貨であることが分かるが、その変化のタイミングもまた重要である。しばらく65%台を維持していたドルのシェアが顕著に低下し始めたのが17年3月末以降であることは、トランプ大統領の登場が変化の一つの契機になっていると思われるからである。

進む新興国の「ドル嫌い」
逃避先は金と人民元


 トランプ大統領は就任以来、その政治的軍事的優位を利用して経済制裁をたびたび発動してきた。米財務省外国資産管理室を通じて実行された制裁件数は、10年の1000件から18年には6000件以上に急増した。中でも、ドルの使用を制限する金融制裁は極めて強力である。その対象国は、イランやベネズエラ、ロシア、そしてトルコなど敵対国から友好国まで幅広い範囲となっている。

 こうした厳しい制裁方針は、当然ながら他国のドル依存体制にも影響を及ぼしていく。米国の核合意からの離脱でドル利用が困難になったイランは、欧州諸国と共同で非ドルの決済システム構築を検討中であり、ロシアはユーロ中心となっている外貨準備においてドル保有をさらに低下させたと言われている。中国が米国債保有額を徐々に低減させていることも明らかになった。今後2年間のトランプ政権運営下で、ドル保有額が一段と減少する可能性は高い。

 こうした新興国におけるドル保有の引き下げは、財政赤字や経常赤字を懸念した従来の「ドル離れ」とは性格が異なり、「ドル嫌い」といった方が適切なのかもしれない。準備通貨としての地位は認めざるを得ないが、制裁によって身動きを縛られることになれば、自国経済が麻痺(まひ)しかねない。その防衛策として、幾つかの国々で発動されているのが「金への逃避」である。

 昨年8月に1195ドルまで下落した金は今年に入って上げ足を早め、1340ドル台にまで上伸し、その間10%を超える上昇率を記録している。ドル金利のピーク感や地政学リスクへの懸念などを背景に金を選好する機関投資家が増えているが、新興国などの中央銀行も昨年来着々と金購入を継続している。金の国際調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)にれば、18年の各国中銀やIMFなどの公的部門に拠る金購入量は前年比74%増の651・5トンと1971年の金ドル兌換(だかん)停止以来の最高水準を記録した、という。

(出所)World Gold Council資料を基に筆者作成

 その牽引(けんいん)役となっているのがロシアであり、昨年の金購入量は274・3トン、金額では270億ドルとともに過去最高記録を更新している(上図)。中銀全体の購入量も過去最高に達したと推定されるが、ロシアはいずれも40%以上を占めており、その外貨準備における金保有比率は18%前後に上昇したようだ。ドイツやオーストリア、インドネシアなど金売却を進めた国もあるが、ロシアと同様に金購入を増やしているのがトルコやカザフスタン、インド、ポーランドといった国々である。

 インフレ・ヘッジという従来の金選好要因は低インフレが続く今日では説得力を失っているが、政治的なヘッジという判断での金購入には合理性がある。信用通貨へのアンチ・テーゼとして生まれた暗号通貨への信頼性が失墜したいま、ドルの逃避先としてはまず金だ、というのが実態なのかもしれない。

 そして、金とともに注目されているのが人民元だ。人民元は中国政府の「準備通貨化」という国策も手伝って徐々に利用度を上げてきた。準備通貨におけるシェアは前述のようにまだユーロや円、ポンドの比ではないが、市場での利用頻度は確実に上昇している。

 その一例が、イングランド銀行(英中銀)が半期に一度公表している「マーケット・サーベイ」に表れている。調査に拠れば、18年4−9月期の「ドル・人民元」の取引額は前期比17%増加して「ユーロ・ポンド」を抜き、取引シェアは2・3%から2・8%へと拡大して全体の7番目の位置にまで上昇している(下表)。

(出所)Results of the Foreign Exchange Joint Standing
Committee (FXJSC) Turnover Survey for October 2018を基に筆者作成

 世界全体で為替取引額がやや低下傾向にある中で人民元取引が顕著な増加を見せていることは注目に値しよう。香港市場では人民元の投機的な動きがたびたび見られるが、ロンドン市場においては人民元建て社債のような資本取引の定着を背景とする取引が着実に増えているのかもしれない。

 ドル・人民元取引が第6位の「ドル・カナダ」を抜くのも時間の問題だろう。ドル円に次ぐシェアを獲得する時代の到来は、そう遠いことではないかもしれない。

西側体制に挑む中国
拙速な国際化の代償


 だが、いかに準備通貨や決済通貨、あるいは資本通貨としての台頭が目覚ましくとも、人民元はユーロや円、ポンドに比べればまだマイナー通貨との印象は拭えない。ドルを脅かす存在になる日が近未来にやってくるという可能性もほとんどないと言ってよいだろう。

 もっとも、この数年、ブレトンウッズ体制に挑む元の国際化の動きがあった。従来西側諸国が担ってきた、途上国へ手を差し伸べる役割をも演じ始めたのである。習主席の鳴り物入りで始まった「一帯一路」プロジェクトやインフラ投資銀行であるAIIBの創設がその好例だ。いずれも、人民元を最大限に活用しようとする試みを胚胎するものであり、特に一帯一路はアジアから中東、アフリカにまで至り世界的規模に及んでいる。

 だがその積極策はパキスタンやスリランカなどで深刻な過剰債務問題を生んでいる。従来、ソブリンの債務問題にはIMFや先進国政府・銀行などが協調して対応に当たってきたが、一帯一路では国際協調路線が採れず、袋小路に陥る可能性が高い。それは人民元の拙速な国際化政策の代償でもあろう。

 また、IMFは16年秋に人民元をSDR(特別引出権)バスケットの構成通貨に採用することを決定し、ドル、ユーロ、円、ポンドに並ぶ主要通貨としてのお墨付きを与えたが、あくまで国際政治的な判断であり、金融経済的な判断ではなかった。市場における人民元に対する評価とIMFの決定との間には、大きな溝があると言わざるを得ない。

 人民元には準備通貨としての基本的な脆弱(ぜいじゃく)性もある。一に、その流動性や交換性についての信認が乏しいことである。経済力と金融力が比例しないのは日本を見れば明白であるが、中国の場合はさらに資本規制・為替管理がいつ課されるか分からない、という懸念が残る。人民元の国際化に関しては習政権の誕生以来改革は棚上げ状態にあり、同主席の長期政権化の下で国家による中央集権的な管理体制がむしろ強化される方向性が顕著となって、人民元の変動相場制移行など改革期待感は大きく後退している。

遅れる中国の市場整備
当面続く米国の通貨覇権


 さらに、人民元の運用機会が制限されていることや、債券市場の多様化や透明化が遅れていることも、人民元が国際通貨体制のメジャー・グループに入れない要因となっている。例えば主要通貨の場合、準備通貨として保有する中銀など公的機関や貿易決済のために外貨を保有する企業、それを預金として受け容(い)れる銀行は、当該国で運用する機会を探さねばならない。

 米国や日欧などでは短期から超長期まで幅広い満期を擁する国債が常時売買されており、格付けが高く流動性も高い投資適格社債や証券化商品なども存在する。だが中国の場合、国債市場は発展中だがまだ海外投資家が自由にアクセスし得る状況ではなく、社債などの信用格付けも整備されている状況からはほど遠い。

 為替市場だけでなく社債などの資本市場にたびたび政府介入が見られることも、市場が政治的に歪(ゆが)められていることを示唆している。また外貨を中長期で保有する際には時にヘッジ機能も必要になるが、人民元の場合はオプションやスワップなどのデリバティブズ取引は未発達である。

 換言すれば、人民元が主要な準備通貨として認められるには、中国の国家主義的資本システムが胚胎する「非市場的ルール」という印象が断ち切られる必要がある、ということでもある。だが13年に習主席がトップの座に就任して以来、市場化や自由化などの構造改革機運は大きく後退しており、米国による圧力もその流れを変えるには至らないだろう。

 08年に金融危機が世界を襲った際には一気にドル不信が巻き起こり、ドル一強体制の終焉(しゅうえん)まで囁(ささや)かれたことがあったが、約10年が経過して判明したことは、逆に国際通貨体制におけるドルの強靭(きょうじん)さであった。ユーロなど既存通貨だけでなくSDRのようなバスケット通貨構想もドルを代替する力が無(な)いことが、あらためて確認されたのである。

 そして経済力では目覚ましい拡大を続ける中国の人民元が準備通貨の主役候補になれそうにないことは、米国の通貨覇権がまだ当面持続することを意味している。奇妙な話ではあるが、米中覇権戦争におけるトランプ流の圧力が効かずに中国が市場経済国へと変身しない方がドルの長期的覇権を担保することになる、ということもできる。

 つまり、外貨準備に占めるドルのシェアがいずれ50%台に低下し、人民元が5%程度まで上昇することになったとしても、中国が国家主導の経済モデルを放棄しない限り、ドルの「世界通貨」としての役割が低下したり存在感が薄れたりすることはないだろう。

代替性のないドル一強という
アンバランスな通貨体制


 もっとも、粘り強いドルにも脆弱な構造問題があることは誰でも知っている。経常赤字は慢性化しており、財政赤字は今後急拡大することが予想されている。排他的な保守主義を主張するのはトランプ大統領だけではない。米議会にも10年前のような「世界的な金融危機の際には海外勢のドル不足を支援する」といった金融当局の行動を許すムードはない。そして英エコノミスト誌は、オフショアダラーである「ユーロダラー市場」を採り上げて、「最後の貸し手が存在しないリスク」を指摘している。

 言い換えれば、政治的かつ経済的な問題を抱え続ける米国のドルが代替性のない「最強通貨」として君臨する時代がまだまだ続く、ということでもある。二番手のユーロは経済同盟が完備されていない不完全通貨から抜け出せず、準備通貨化への意欲も乏しい。円やポンドの役割は低下する一方で、人民元の信頼性や利便性が急速に改善する見通しも薄い。国際政治経済がG2時代へと移行する中で、通貨体制はアンバランスな状態が続く。

 歴史的に国際通貨制度は、金・銀時代やポンド・ドル時代、ドル・金時代、ドル・マルク・円時代に見られるように、複合的で補完性のあるシステムであった。だが今後は「信頼性に欠ける一強通貨」という資本システムに依存せねばならない、フラジャイルな時代の到来が不可避となるだろう。

【私の論評】国際金融のトリレンマにはまり込んだ中国人民元の国際化は不可能(゚д゚)!

上の記事では、回りくどい解説をしていますが、「国際金融のトリレンマ」という昔から知られている原理を知れば、人民元の国際化は現状のままでは不可能であることがすぐに理解できます。

今年3月の全人代は「異例」づくめだった

先月開催された中国の全国人民代表大会(全人代)では、金融政策で量的緩和を実施しないことが明らかになりました。その背景は何なのでしょうか。結論からいえば、中国の政治経済の基本構造が根本要因です。

基本知識として、先進国ではマクロ経済政策として財政政策と金融政策がありますが、両者の関係を示すものとして、ノーベル経済学賞の受賞者であるロバート・マンデル教授によるマンデル・フレミング理論があります。

経済学の教科書では「固定相場制では金融政策が無効で財政政策が有効」「変動相場制では金融政策が有効で財政政策無効」と単純化されていますが、その真意は、変動相場制では金融政策を十分緩和していないと、財政政策の効果が阻害されるという意味です。つまり、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先する方が、マクロ経済政策は効果的になるというものです。

これを発展させたものとして、国際金融のトリレンマ(三すくみ)があります。この結論をざっくりいうと、(1)自由な資本移動(2)固定相場制(3)独立した金融政策-の全てを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べないというものです。

これらの理論から、先進国は2つのタイプに分かれます。1つは日本や米国のような変動相場制です。自由な資本移動は必須なので、固定相場制をとるか独立した金融政策をとるかの選択になりますが、金融政策を選択し、固定相場制を放棄となっています。



もう1つはユーロ圏のように域内は固定相場制で、域外に対して変動相場制というタイプです。自由な資本移動は必要ですが域内では固定相場制のメリットを生かし、独立した金融政策を放棄します。域外に対しては変動相場制なので、域内を1つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえます。

中国は、こうした先進国タイプになれません。共産党による一党独裁の社会主義であるので、自由な資本移動は基本的に採用できません。例えば土地など生産手段は国有が社会主義の建前です。

中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社を持つことができません。中国に出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁までで、外資が会社の支配権を持つことはできません。

一方、先進国は、これまでのところ、基本的に民主主義国家です。これは、自由な政治体制がなければ自由な経済体制が作れず、その結果としての成長がないからです。

もっとも、ある程度中国への投資は中国政府としても必要なので、政府に管理されているとはいえ、完全に資本移動を禁止できません。完全な資本移動禁止なら固定相場制と独立した金融政策を採用できますが、そうではないので、固定相場制を優先するために、金融政策を放棄せざるをえなくなったのです。

要するに、固定相場制を優先しつつ、ある程度の資本移動があると、金融政策によるマネー調整を固定相場の維持に合わせる必要が生じるため、独立した金融政策が行えなくなるのです。そのため、中国は量的緩和を使えなくなってしまったのです。

そもそも、国内で金融緩和政策すらできない国の、通貨が本格的に国際化できるはずもありません。何か国際金融において、大きな問題が起こったにしても、金融緩和できないのであれば、その問題にまともに対処することすらできません。

中国は、グローバル経済に組み込まれた今や世界第2位の経済大国であり、こうした 国は最終的に日米など主要国と同様の変動相場制に移行することで、国内金融政策の 高い自由度を保持しつつ、自由な資本移動を許容することが避けられないです。

移 行が後手に回れば国際競争力が阻害されたり、国内バブルがさらに膨らむおそれがあります。一方で、 拙速に過ぎれば、大規模資本逃避や急激な人民元安が懸念されます。何より金融緩和ができないという状況は、最悪です。なぜなら、マクロ経済上の常識である、金融政策=雇用政策という事実から、中国では雇用を創造することができないからです。中国は今後一層難 しい舵取りを迫られることになるでしょう。

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2019年4月16日火曜日

「台湾国産潜水艦」工場の着工迫り反発強める中国―【私の論評】日本は台湾がシーパワー国になれるよう支援すべき(゚д゚)!

「台湾国産潜水艦」工場の着工迫り反発強める中国

 井上雄介 (台湾ライター)

    台湾の国産潜水艦(IDS)建造計画が着々と前進している。台湾メディアの上報は、造船大手の台湾国際造船(台船)が近くIDS専用工場の建設に着手すると伝えた。陳水扁・民進党政権時代の2002年以降、17年の紆余曲折を経た計画が、ようやく日の目を見ようとしている。

 台湾は、日増しに高まる中国の脅威を前に、現在保有する4隻の潜水艦の更新と増強にこだわり続けてきた。通常動力の潜水艦は、自衛用には理想の装備と考えられている。進撃してくる敵艦隊の攻撃のほか、戦時に予想される海上封鎖の突破にも役立つためだ。

   台湾の造船最大手、台湾国際造船は21日、第二次世界大戦期に米国で建造された海軍の
             テンチ級潜水艦「海獅(アシカ)」の延命改修が完了したと発表した。1945年の終戦
            直前に就役したディーゼル潜水艦で、73年に台湾に供与された。就役期間は世界最長。

 台湾は当初、海外からの調達を試みたが、中国政府の圧力で各国とも二の足を踏んだ。ブッシュ政権時代の米国が一時8隻の売却を承諾したが様々な理由で中断。オバマ政権時代に入ると、幾度打診してもなしのつぶてとなった。馬英九・国民党政権末期に、海軍トップが「もう待てない」と国内建造を強く進言して計画が始動した。

 16年に台湾独立志向の蔡英文・民進党政権が発足すると、計画が加速。同年中に台船が受注し、今年ようやく工場建設にこぎつけた。 

 工場の設計プランは、ドイツ、日本、韓国の技師に委託して提出させたが、最終的に日本人退職技師のものが選ばれたという。

 工場の設計は、秘密保持に重点が置かれている。人工衛星から写真撮影ができない「密閉式」の建屋となり、鋼材など材料の加工から装備の据え付け、完成後の保守まで全作業を建屋内で行う。内部の様子が見えないよう、建屋の大扉も進水時以外は閉め切りとなる。

潜水艦の自主開発に舵を切った蔡英文総統(写真中央)

 台船は潜水艦の設計を、ジブラルタルの軍事コンサルティング会社、Gavron・Limited(GL)に委託。GLは、英国の潜水艦設計専門の退職技師ら約30人を送り込んだ。武器などの装備は、欧米の専門会社15社と仮契約を結んだ。

 建造費用は1号艦が約500億台湾元(約1800億円)。うち専門工場の建設費が86億台湾元。残りの400億台湾元余りは装備とシステムの費用に充てられる。IDSは8隻建造し、工場建設や機械の購入費用が分担されるため、最終的には1隻当たり約250億台湾元に下がる見通しだ。

 もちろん中国は計画に強く反発。同国外務省は1月、いかなる国であれIDSへの関与を許さないと警告しており、今後、関連の外国企業に圧力が掛かる可能性もある。

 ただ、これまでのところ計画は順調で、厳徳発国防相はこのほど「IDS計画は一切が正常に進んでいる」と述べ、1号艦は24年の10~12月に進水する見通しを明らかにした。今後の行方に注目したい。

【私の論評】日本は台湾がシーパワー国になれるよう支援すべき(゚д゚)!

昨今の台中関係を考えますと、潜水艦は台湾の中国に対する抑止力を高めるための大きなカギとなるのは明らかです。航空戦力は既に圧倒的に中国側が有利であり、中国から台湾への攻撃があった場合、単純に両国間の戦力差を比較すると台湾は2、3日で制空権を失うと言われています。

これに関しては台湾の中国に対する、「A2AD(接近阻止・領域拒否)」的な能力の向上が重要ですが、実現には新鋭の潜水艦が不可欠です。しかし、現在台湾が保有する4隻の潜水艦(2隻は米国製、2隻はオランダ製)は、老朽化が進んでいます。これに対し、中国は約60隻もの潜水艦を保有しています。

2001年に米国のブッシュ(子)政権は、台湾に8隻のディーゼル推進式潜水艦の売却を決めたものの、結局、実現していません。そこで蔡英文政権は米国からの購入を断念し、自主建造に方向転換、2026年までに1隻目を就役させることを目指しています。

台湾の王定宇・立法院議員は、台湾の海中戦闘能力向上のための防衛計画は10年前に始まっていて然るべきものであり、潜水艦建造は既に予定より20年遅れている、と強い懸念を示しています(昨年4月9日付、台北タイムズ)。また、船体は自主建造できるにせよ、エンジン・武器システム・騒音低減技術等は海外から導入する必要があります。

王定宇・立法院議員

状況を俯瞰すると、米国から台湾に潜水艦技術が供与されることが望まれるところです。この点、昨年4月9日、台湾国防部は、台湾の潜水艦自主建造計画を支援するために米企業が台湾側と商談をすることを米政府が許可したと明らかにしていました。

台湾の経済団体「台湾国防産業発展協会」は、5月10日に台湾南部の高雄市で「台米国防産業フォーラム」を開催し、米国の軍事企業と技術協力について議論しました。

同フォーラムでは、艦船の製造、宇宙空間・サイバースペースの安全に重点が置かれ、米台間でハード・ソフト両面での協力が推進されました。米国からロッキード・マーチン社など15社以上が参加しました。これを機に、潜水艦技術の輸出についても商談が進む可能性もあります。

ただ、商談が成立したとしても、実際に輸出されるには米政府の許可が必要となります。この点は不透明な要因ですが、最近の米国の潮流は台湾への武器供与に積極的になっています。

台米国防産業フォーラムに出席する在日米陸軍元司令官のワーシンスキー氏

2016年7月、米議会では、台湾関係法と「6つの保証」(1982年にレーガン大統領が発表)を米台関係の基礎とすることを再確認する両院一致決議が採択されています。台湾関係法は、台湾防衛のために米国製の武器を供与することを定めています。

「6つの保証」の内容は、1.台湾への武器売却の終了時期は合意されていない、2.台湾と中国の間で米国が仲介することはない、3.台湾に中国と交渉するよう圧力をかけることはない、4.台湾の主権に関する立場を変更することはない、5.台湾関係法の規定を変更することはない、6.台湾への武器売却決定に当たり事前に中国と協議することはない、となっています。

トランプ政権は、昨年6月、14億ドル相当の武器を台湾に売却すると議会に通知し、同12月に発表された米国の「国家安全保障戦略」では、台湾関係法に基づく台湾への武器供与が明記されなどしています。

台湾は、日本の潜水艦技術にも強い関心を持っていると言われています。日本の潜水艦技術は世界でもトップクラスであり、特に騒音軽減技術が優秀です。台湾が最新鋭の潜水艦を導入することは、日本の安全保障にとっても当然プラスになります。

これを機会に、日本は、台湾がいずれ強力なシーパワー国に成長できるように支援すべきです。無論これには、数十年の年月を要するでしょう。軍事技術だけではなく、かなりのコストを要するため、経済的にも発展しなければ、シーパワー国にはなれません。

ソ連とその後継のロシアは、結局シーパワー国にはなれませんでした。中国は、最近海洋進出を強化していますが、未だシーパワー国にはなれていません。経済力だけでもなれないのです。韓国もなれないでしょう。

トランプ大統領は韓国にはほとんど興味がないようですし、日本としてはもう昨年で韓国を相手にしても時間と労力の無駄であることがはっきりしました。

日本としては、韓国の異常ぶりを国際社会に晒し続けるにしても、もう韓国には一切深入りせず、台湾を支援すべきです。そのほうが、はるかに費用対効果が大きいです。今年は、日米両国とも韓国から台湾に軸足を移す年になるでしょう。そのほうが日米としては、対中封じ込めに余程効果を期待できます。

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2019年4月15日月曜日

大阪補選の結果次第で、消費増税が吹っ飛ぶ可能性にお気づきか―【私の論評】補選の結果いかんで、令和年間は大変化の時代に突入(゚д゚)!

大阪補選の結果次第で、消費増税が吹っ飛ぶ可能性にお気づきか

実は、とても重要な選挙だ








大阪補選に注目すべき理由

先週8日に実施された大阪ダブル選挙(府知事・市長)では、維新の吉村・松井両氏と、反維新の小西・柳本両氏の戦いだったが、吉村・松井の完勝に終わった。投票締め切りの20時直後に、NHKから当確が出たほどの維新の圧勝だった。

事前の世論調査では、大阪市長選挙では、「維新劣勢」あるいは「互角」と報じられていたが、蓋を開ければ改めて大阪の維新の強さが分かった。大阪府知事選の投票率は49.49%、大阪市長選は52.70%で、前回2015年の「ダブル選」と比べ、知事選は4.02ポイント、市長選は2.19ポイント投票率が上がったことにも注目すべきだ。

今回のダブル選は「大阪都構想の推進」が争点であった。維新は、これまでの府市行政での実績も十分あり、さらに2025年万博と夢洲IRという将来への布石も打ってきた。こうした実績と政策を丁寧に訴えたことが、維新の勝因だろう。実績と政策に勝るモノはない。維新は正攻法で選挙に臨み、それに賢明な大阪府市民が応えた、ということだ。

さて、これから大阪都構想を具体的に進めるためには、大阪府議会と大阪市議会の両方が住民投票を行い、過半を超える賛意をとる必要がある。この意味で、大阪都構想の実現にはまだハードルが残っている。

今回、大阪では府知事・市長のダブル選挙と同時に、大阪府議会議員選挙と大阪市議会議員選挙もあった。府議選の投票率は50.44%、市議選は52.18%、前回よりそれぞれ5.26ポイント、3.54ポイント上がり、府議会も市議会も維新は大きく議席を伸ばした。その結果、大阪府議会では定数88のところ、維新が51議席をとり過半数を超えた。

しかし、大阪市議会では定数83のところ維新は40議席。過半数には二人分足りなかった(もっとも、2議席ぐらいなら、維新以外の議員の切り崩しなどを行えばなんかなるという、射程距離の範囲だ)。

松井新市長は、選挙後に「大阪都構想に反対の人もいるのも事実なので、丁寧に説明していきたい」と話した。選挙前に公明党幹部が再三使っていた「丁寧に説明」という言葉を繰り返したあたり、4年間の任期をもらったことによる余裕の対応である。

維新は、この10年間で大阪経済を浮揚させてきた。景気も雇用も10年前と比べてよくなった(4月1日付け本コラム「平成は終わるが、大阪の成長を終わらせてはいけない 大阪選挙の論点を11の図表で確認」 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63847 参照)。2025年には万博も控えているし、カジノ施設などを建設する夢洲IR計画もこれまでの路線通りなので、これを起爆剤として、今後の大阪経済も発展するだろう。

さて、ダブル選後の大阪で、次の参院選の前哨戦ともいわれる衆院大阪12区補欠選挙(大阪府寝屋川市、大東市、四條畷市)が行われる。これは、自民党の北川知克・元環境副大臣が亡くなったことにより行われるもので、候補者は、無所属元職の宮本岳志氏(59)=共産、自由推薦、日本維新の会新人の藤田文武氏(38)、無所属元職の樽床伸二氏(59)、自民新人の北川晋平氏(32、亡くなった北川氏の甥)=公明推薦の4氏。


この補選は国政選挙であり、この結果は①消費増税はもちろんのこと、その先に控える②憲法改正にも大きく影響するだろう。それぞれ説明しよう。

消費増税が吹っ飛ぶ…?

まず、消費増税について。これまでの言動からみると、宮本氏は消費増税に反対、藤田氏も反対、樽床氏は賛成、北川氏も賛成だろう。常識的には自民党の弔い合戦なので北川氏が有利であるはずだが、ある世論調査をみると、そうはなっていない(https://www.47news.jp/news/3466883.html)。先のダブル選でも事前調査はあまり当たっていなかったので、過信するわけにはいかないが、参考にすべき材料ではある。

政権与党である自民・公明は、政府が今年10月からの消費増税実施を予定しているので、消費増税賛成にならざるを得ない。一方維新は、国政では今年度予算に反対している。これは、10月からの消費増税に反対だからだ。

この大阪12区衆院補選で維新が勝つと、自民は7月参院選を控えて「やっぱり消費増税では選挙が戦えない」という声が高まり、消費増税は腰砕けになるような感じがする。となると、この補選で自民党が負ければ、安倍政権は消費増税を引っ込める可能性が出てくるだろう

安倍政権は、これまで消費増税を2回スキップしている。一度目は2014年12月の衆院解散総選挙において、2015年10月から予定されていた消費増税をスキップ。二度目は2016年5月の伊勢志摩サミットにおいて、2017年4月から予定されていた消費増税をスキップした。

過去2回のケースはともに、予算成立の前であった。今回は、予算成立後であるが、消費増税延期の「大義名分」があり、そのうえで増税延期に関連する補正予算を出せば、消費増税を吹っ飛ばすことは可能だ。

ダブル選挙の日程を読む

なお、一部から消費増税をスキップするために「7月21日に衆参ダブル選挙がある」という予測が出ている。筆者も過去に衆参ダブル選挙の可能性を指摘しているが、その期日は7月21日より前の可能性があるだろうと思っている。なぜか。

マスコミが「7月21日説」を唱えるのは、今国会の会期末が6月26日だからだ。この場合、会期末まで国会をやれば、参議院選挙の投票日は閉会日から「24日以後30日以内」(公職選挙法第32条)なので、7月4日告示、21日投開票というスケジュールが出てくる。

しかし、このスケジュールで衆参ダブル選挙をやろうとすれば、会期末ぎりぎりで解散することになる。このスケジュールを完全に否定するワケではないが、これではさすがにあまりに芸がないだろう。

6年前に選ばれた参院議員の任期は7月28日まで。となると、参院選はその日の前から30日以内に行う(公職選挙法第32条)ので、投票日は6月30日、7月7日、14日、21日の日曜日がありえることが分かる。

衆議院の解散による衆議院議員の総選挙は、解散の日から40日以内に行う(公職選挙法第31条)ので、解散日によっては、7月21日以外の日に衆参ダブル選挙を設定できるのではないだろうか。ちなみに候補となるのは、6月30日(友引)、7月7日(仏滅)、7月14日(大安)、7月21日(赤口)である。

いずれにしても、5月20日の今年1-3月期のGDP速報はマイナスが見えており、場合によっては昨年度GDPもマイナスかもしれない。

さらに、IMF(国際通貨基金)は9日、世界経済の見通しを発表し、今年の世界全体の成長率を前年比3.3%と予測、1月の時点から0.2ポイント下方修正した。国別では、2019年のアメリカの成長率を2.3%とし、今年1月時点から0.2ポイント引き下げ。ユーロ圏は1.3%と0.3ポイント下落。日本は1.0%と0.1ポイント下げた。

IMFは、日本の10月の消費増税を歓迎するというが、これは、日本の財務省からIMFへ出向している職員が言うことなので、すなわち日本の財務省の意見と考えたほうがいい。先週紹介したウォール・ストリート・ジャーナルの社説のように「いまのタイミングで増税とはワケがわからない」というのが常識だろう。

補選が「国の形」に影響を与える可能性

さて、大阪補選に話を戻そう。この結果が②憲法改正に与える影響も大きい。現時点では、憲法改正に向けた国会の議論は停滞している。

衆院憲法審査会は、与野党幹事間の懇談会を開き、今後の段取りを話し合うはずだったが、今国会で3月28日、4月3日、4月10日と立憲民主党をはじめとする野党はこの審査会を3回連続で欠席した。この野党による国会サボタージュがあるならば、改憲勢力だけで議論を進めていく本気の覚悟がなければ、話は停滞したままになるだろう。

この場合、公明党の積極性がポイントとなる。公明党は改憲ではなく「加憲」という独特委の言葉を使っているが、改憲には実はあまり積極的でないことはご承知の通りだ。

そのような中で、大阪12区衆院補選で維新が勝てば、憲法改正に弾みがつくだろう。なぜなら、維新は憲法改正推進派だからだ。

実は、維新の憲法改正は、大阪都構想の次の段階として見据える「道州制」と大きく関係している。今のところ、維新は憲法改正について、①教育無償化、②統治機構改革、③憲法裁判所の設置という3点に絞っている。ここで、②の統治機構改革の一環として、本格的な道州制を導入することが提言として入っている。

大阪都構想は、大都市問題を解決するためのツールである。大阪市のような政令指定都市は基礎的な自治体の範囲を大きくしすぎて、広域的な行政を行う府県と業務がバッティングし、二重行政状態になっている。

これは、反対に言えば府県の広域行政が狭すぎるという問題でもあるので、広域行政を府県からさらに広く道州まで広げる、というのが道州制である。道州の広域行政は、現在は国の出先機関(各地方整備局など)がカバーしているが、地方分権を進めることでそれらは各府県とともに道州に移管され、広域行政を担うことになる。

このような道州制の本格的な実施を進めるなら、国の形をどうするのかという「国家百年の計」の観点から憲法改正まで視野に入れて、進めていかなければならない。

大阪ダブル選挙の結果を受けて、大阪が変わり始めることで、ようやく日本の形を変える長い道のりの第一歩を踏み出した。令和の時代に適した、新しい国作りが求められているなか、大阪補選の結果が国政に与える影響はとても大きいことを改めて指摘しておこう。

【私の論評】補選の結果いかんで令和年間は、大変化の時代に突入(゚д゚)!

さて、今月21日に投開票が行われる、衆議院大阪12区補欠選挙。報道ベンチャーのJX通信社では13日・14日の2日間、電話世論調査を行い、定性的な情報も加味して情勢を探りました。調査の概要や実施方法は、本稿末尾の記載の通りです。
維新・藤田氏がリード 北川・樽床氏追う 宮本氏は伸び悩む 
衆院大阪12区補欠選挙の中盤情勢は、日本維新の会公認の藤田文武氏がリードし、自民党公認・公明党推薦の新人北川晋平氏と無所属の前職樽床伸二氏が追う展開となっている。共産党前職で今回の補選に無所属で立候補した宮本岳志氏は伸び悩んでいる。ただ、有権者の3割弱が態度を決めておらず、情勢は流動的だ。 
藤田文武氏

藤田氏は日本維新の会支持層の6割台半ば、自民党支持層の約3割に加え、無党派層の約2割から支持を得ている。北川氏は、自民党支持層の4割弱と公明党支持層の約7割から支持を集めている。無党派層からの支持は1割弱に留まっている。樽床氏は日本維新の会支持層の約1割、公明党支持層の約2割、立憲民主党支持層の約4割のほか、無党派層から3割弱の支持がある。宮本氏は共産党支持層の7割、立憲民主党支持層の約3割から支持されている。 
今回の補欠選挙は、自民党の北川知克氏の死去に伴うもので、甥の北川晋平氏がその後継候補として出馬している。しかし、北川氏は自民党支持層を固めきれておらず、藤田氏と樽床氏に支持層を奪われている状態だ。 



大阪ダブル選の結果、強く影響か 
今月7日に行われた大阪府知事選の投票行動と照らし合わせると、知事選で維新・吉村氏に投票した有権者は半分弱が藤田氏を支持している。一方、小西氏に投票した有権者は半分弱が北川氏を支持しているほか、約2割が樽床氏を支持している。 
投票にあたって重視する政策を聞いたところ「経済や景気、雇用」とした有権者が28.6%で最も多く、「福祉や医療」が27.2%、「大阪都構想について」が13.6%と続いた。経済や景気、雇用、福祉や医療を重視するとした有権者からの支持は、藤田・北川・樽床3氏が分け合っているが、大阪都構想を重視するとした有権者は6割以上が藤田氏を支持しており、大阪ダブル選の影響が色濃く反映した情勢と言えそうだ。 
調査の概要:13日(土曜日)と14日(日曜日)の2日間、無作為に発生させた電話番号に架電するRDD方式で、大阪12区(寝屋川市・大東市・四條畷市)内の18歳以上の有権者を対象に調査した。有効回答は全体で632件だった。
現状では、維新の藤田氏が有利ということですから、 これはひょっとすると、藤田氏が圧勝すれば、高橋洋一氏が主張しているように、増税延期は無論のこと「国の形」に影響を与える可能性もでてきました。

2010年、当時の橋下府知事が府と市の二重行政による無駄を省き、効率的な行政を進めることができるとして提唱したこの構想は、大阪市を解体し、東京のような特別区に再編成するというものでした。

ところが、2015年、大阪市で行われた住民投票で僅差で否決、一度は廃案に追い込まれました。大阪市長だった橋下氏が政界を引退した後、松井、吉村両氏は再び住民投票を実施すべく奔走してきました。ところが、それまでタッグを組んでいた公明党との交渉は決裂。今回のダブルクロス選挙に突入することになりました。

日本維新の会の足立康史衆議院議員

日本維新の会の足立康史衆議院議員は、AmebaTVのニュースで以下のようにうったえていました。
大阪維新が勝手に言っているわけではないく、東京都と同じように政令市の代わりに特別区を置くという、大都市地域特別区設置法に基づいているもので、自民党や公明党等が作った法律だ。これからの大都市は経営を一元化していくために特別区を作った方が良いことには彼らも賛成していたはず。 
それなのに、今回は維新の会以外、自民から共産まで全部反対に回った。都構想実現の際には莫大な費用がかかるとも言われているが、今まで無駄なビルをたくさん建てたりしてきたことに比べれば一時的なもの。将来への投資ということで、我々は心配していない。 
大阪だけでなく、国全体として経済が成長すればパイは増える。東京だけに頼るんじゃなく、全国の都市が成長する中で高齢者の福祉、子供たちの教育といったものに初めて税金が回せるようになる。
高橋洋一氏が主張するように、都構想がどうなるかで、将来の日本の姿が決まることでしょう。日本では東京と福岡以外では全県が人口減少しています。都に変えるのに確かにお金はかかりますが、変えない方がここから100年間でもっとお金がかかることになります。

どこで変えるべきかが問われてきたのに、平成の31年間、結局野放しにされてきました。残念ながら、人口100万人以下の県は県としてこれからは、成立するのが困難になるでしょう。日本国のあり方を変えないといけないのですが、前回の4年前の選挙の時に、この都構想に反対したのは70代以上の高齢者でした。

他の各年代は賛成の方が多かったのです。4年経って構図が変わってきたようです。大阪では、変えたことによって良いことがあると実感できる出来事がいくつかありました。

例えば関空民営化後に来日する外国人の3、4割が関空を経由するようになりました。変化を嫌う人は外国人がたくさん入ってくると大変だと思うかもしれないですが、潤うという事実があります。変化することによって良いことがあるというのは、平成の間に日本が忘れていたことでもあります。

変化について、経営学の大家ドラッカー氏は以下のように語っています。
長い航海を続けてきた船は、船底に付着した貝を洗い落とす。さもなければ、スピードは落ち、機動力は失われる。(『乱気流時代の経営』)
 あらゆる製品、あらゆるサービス、あらゆるプロセスが、常時、見直されなければならないです。多少の改善ではなく、根本からの見直しが必要です。

なぜなら、あらゆるものが、出来上がった途端に陳腐化を始めているからです。そして、明日を切り開くべき有能な人材がそこに縛り付けられるからです。ドラッカーは、こうした陳腐化を防ぐためには、まず廃棄せよと言います。廃棄せずして、新しいことは始められないのです。

ところが、あまりにわずかの企業しか、昨日を切り捨てていません。そのため、あまりにわずかの企業しか、明日のために必要な人材を手にしていません。

自らが陳腐化させられることを防ぐには、自らのものはすべて自らが陳腐化するしかないのです。そのためには人材がいります。その人材はどこで手に入れるのでしょうか。外から探してくるのでは遅いのです。

成長の基盤は変化します。企業にとっては、自らの強みを発揮できる成長分野を探し出し、もはや成果を期待できない分野から人材を引き揚げ、機会のあるところに移すことが必要となります。
乱気流の時代においては、陳腐化が急速に進行する。したがって昨日を組織的に切り捨てるとともに、資源を体系的に集中することが、成長のための戦略の基本となる。(『乱気流時代の経営』)
ドラッカーは企業経営について、語っているのですが、これは無論政治の世界にも当てはまります。

平成年間の日本はほとんどの期間がデフレスパイラルの底に沈んでいました。そのような状況では、企業は無論のこと政府や地方行政も停滞するのが当然でした。この時期に、企業や日本政府や地方行政組織が変化することは容易なことではありませんでした。

そんなことをすれば、組織自体が崩壊したり毀損したりする可能性のほうが大きかったのです。だからこそ、変化を厭い、個人なら保身、組織なら現状維持ということで精一杯だったのです。

これから始まる新たな令和年間は、平成年間のような状況にはすべきではありません。この年間は、まともなマクロ経済政策を実行できる状況にし、その上で憲法改正は無論のこと、積極的に国益に沿って「国の形」を変えていく年間にすべきです。

今回の補選が良い結果に終わり、それが令和年間の変化の幕開けとなれば良いと思います。いや、そうしなければならないのです。

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