2021年9月21日火曜日

緊急事態宣言 全面解除視野に検討 28日に決定へ―【私の論評】あらゆる統計が、緊急事態宣言を解除すべきことを示している(゚д゚)!

緊急事態宣言 全面解除視野に検討 28日に決定へ

菅総理

政府は、9月末に期限を迎える19の都道府県への緊急事態宣言について、全面的な解除も視野に、検討に入った。
菅首相が今後、関係閣僚や専門家の意見をふまえて、28日に最終決定する方向。 複数の政府関係者によると、新型コロナウイルスの新規感染者数が全国的に減少傾向にあることから、東京など19の都道府県に出している宣言を、9月30日の期限で解除する検討に入った。

 政府高官は、解除に際して、「宣言を完全に解除する案」と、「宣言を解除し、まん延防止措置に移行する案」があり得るとしている。

 また、「18日からの3連休で、どの程度、人出が増えたのかも見る必要がある」と述べていて、解除の判断を慎重に行う考えも示している。

加藤官房長官「(広島と岡山が)6月20日に解除された時には、まん延防止等重点措置は導入されなかったという経緯もある。

まん延防止等重点措置をもう1回はさんだケース、ケース・バイ・ケースと思う」 政府は、菅首相がアメリカ訪問から帰国する26日以降に最終判断する方針で、28日に対策本部を開いて正式決定し、その後、菅首相が記者会見を行う方向で調整を進めている。

【私の論評】あらゆる統計が、緊急事態宣言を解除すべきことを示している(゚д゚)!

麻生太郎財務相は21日の記者会見で、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会など専門家の主導でこれまで導入してきた行動制限について、「外で飯を食うな、人に会うな等々、制限をいつまでされるおつもりなのか。その根拠は何なのか。本当にそれが必要で効果があったのか。私にはなんとなく、ちょっと違うんじゃないかという感じはする」と苦言を呈しました。

麻生財務相

また、人流増加が感染増加につながると専門家が警告していたにも関わらず、最近は人出が増えているのに新規感染者はピーク時から大幅な減少傾向となっていることについて、「われわれ素人からみて、あの話はまったく噓だったって話になるんですかね。よく分からないね俺は」と指摘。

その上で、「もう少し、プロといわれる方々が正確な情報を出していただけることを期待している」と述べ、コロナ対策に関する情報発信の仕方を改めるよう提案しました。麻生氏の語っていることは、全く正しいと思います。コロナ観戦情報に関して、マスコミだけではなく、客観的な一次情報等にあたった人は誰でもこのような考えをするのではないかと思います。

ただし、政府分科会の上に対策閣僚会議があり、麻生大臣はそのメンバーだったので、政府の意思決定の時に言うべきだったと思います。

さて、緊急事態はどうすべきなのかといえば、私自身は全面解除すべきと思います。それは、言葉で説明するよりも以下のグラフをご覧いただければ、一目瞭然と思います。


これだけだと、比較の対象がないので、以下に英国との比較を掲載します。


百万人あたりのコロナ感染者数、死者数とも英国のほうが日本よりはるかに多いですが、ある程度の制限はあるものの、日本のように自粛要請にもとづく実質的な行動制限等は行われていません。

その英国のボリス・ジョンソン首相は5日の記者会見で、イングランドの新型コロナウイルス対策が今月19日に最終段階に入り、マスク着用や他人との距離確保のルールは廃止されるとの見通しを示しています。

イングランドで16カ月間にわたって実施と解除が繰り返されてきた日常生活の制限措置が、終了することになります。個人宅での集まりを6人までとする決まりや、在宅勤務のガイダンスも撤廃されます。

最終段階「第4ステップ」を予定どおり19日に開始するかは、12日に最新データを基に検討して決めます。

ジョンソン氏が明らかにした新たな段階には、以下の内容が含まれています。
  • 結婚式や葬式の参加者数制限をなくす
  • バーやレストランのテーブル席での接客に関するルールや、会場での受け付け手続きの義務付けを廃止する
  • 介護施設の訪問者数制限をなくす(指名された訪問者について)
  • 地方自治体による規制強制の権限をなくす
  • 大規模イベントの認可が法的には不要になる
ナイトクラブは、パンデミックが始まって以来初めて営業を再開できます。バーも再び酒類を提供できるようになります。

ジョンソン氏は、ワクチン接種や新型ウイルス検査の陰性証明の提示は法的に義務づけないが、店側が客に求めることはできるとしました。

学校のバブル(関係者だけでつくる安全圏)や旅行、自主隔離に関しても近く見直される予定。ギャヴィン・ウィリアムソン教育相が6日に詳しく説明するといいます。

ジョンソン氏はマスクについて、着用が法的義務ではなくなった後も、自分は混雑した場所では「礼儀として」着け続けるつもりだと述べました。

また、イングランドで法的制限の大部分を終了させられるのは、ワクチン接種が進んだことで、新型ウイルス感染が死亡につながりにくくなったからだと説明しました。

ただ、1日あたりの感染者は今月中に5万人に上ると予測されていると警告。「悲しいことだが、(新型ウイルス感染症の)COVID-19で今後も死者は増えるという事態と、私たちは折り合いをつけなければならない」と話しました。

日本の場合は、英国よりは、感染者数も死者数も少ないですから、折り合いをつけるという消極的な考えではなく、感染者数が増えても、重症者、死者を増やさない強靭な社会を構築するほうに舵を切るべきです。

デルタ株を心配する人も多いですが、これについても、デルタ株は感染力は強いものの、弱毒性のようです。これについては、大阪市が独自の調査を行っています。

デルタ株が広がった第5波で若年感染者は大幅に増えたものの、重症化リスクはほとんど変わらず、極めて低い水準であることが、大阪府の年代別重症例の集計結果(9月6日判明分まで)でわかっています。その結果をまとめたのが下の表です。


東京も感染者数そのものが、減少しました。以下の表を御覧ください。


あらゆる統計が、緊急事態宣言を解除すべきことを示しています。

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2021年9月20日月曜日

米露関係の焦点となるウクライナ―【私の論評】NATOと直接対峙できないプーチンは、ウクライナに対して呼びかけをして機会を探りはじめた(゚д゚)!

米露関係の焦点となるウクライナ

岡崎研究所

 ウクライナのゼレンスキーは大統領当選後、ホワイトハウスで米大統領と会談することを求めてきたが、これが9月1日にようやく実現した。会談は2時間行われたという。

 ウクライナ側は、バイデン大統領はロシアに迎合しウクライナを軽視しているのではないかとの懸念を抱いて来た。6月に行われた米ロ首脳会談は、米政権は2014年のロシアのウクライナのドンバスへの侵攻を軽く扱っているとのウクライナの批判や懸念を招いた。7月にバイデンがメルケルと取り引きを行い、ノルドストリーム2パイプラインへの反対を取り下げた決定も同様である。


 バイデンは今回の会談で、米国の「ウクライナの主権擁護への強固な約束とロシアの〝侵略〟への反対」を打ち出し、ウクライナを安心させようとした。バイデンは、ウクライナに対する6000万ドルの安全保障支援パッケージを発表し、ペンタゴンは黒海での安全保障、サイバー安全保障、情報共有についての協力を推し進める「戦略的防衛枠組み」に署名した。

 ゼレンスキーは、訪米前に米国がウクライナのNATO加盟についてイエスかノーかの回答をバイデンより得たいとメディアに述べていたが、NATO加盟問題について米国より明確な回答は無かった模様である。ウクライナのNATO加盟は米国が単独で決められる問題ではなく、今や30か国になったNATO同盟国の全会一致で決められるべき問題であるので、ゼレンスキーの要求は過剰な要求であったように思われる。

 ホワイトハウスのサキ報道官は記者会見で「米国はウクライナのNATO加盟願望を支持しているが、そのためにウクライナにはしなければならない行動がある、ウクライナはそれが何であるかを知っている。その行動とは法の支配の前進努力、防衛産業の近代化、経済成長の拡大である」と指摘し、「(加盟希望国が)加盟国の義務を履行できるようになり、欧州大西洋地域の安全に貢献できる時のためにNATO参加の扉を開いたままにしておくことを支持している」と述べた。

 NATO加盟問題については、進展はなかったが、上述の通り、ウクライナに対する武器供与については6000万ドルの安全保障支援パッケージが合意されたこと、バイデンからウクライナの主権と領土一体性を守る米のコミットメントは「鉄の装甲のように固い」との発言を引き出したことは、ウクライナ側にとり歓迎できることであったと思われる。

行動指針を示したとも言えるプーチンの論文

 米中対立では台湾が今後焦点になるが、欧州における米ロ関係では、今後ウクライナが焦点になる可能性が最も高いと思われる。 

 本年7月21日にプーチンは自ら「ロシア人とウクライナ人の歴史的統一について」という論文を発表している。要するに、ロシア人とウクライナ人は同じ民族であるとする主張である。これをプロパガンダと片づける人も多いが、プーチンの今後の政策、行動方針を示したものと言う人もある。後者のごとくみなして、警戒していく事が正解ではないかと考えられる。

 今年の4月、ロシアはクリミアや東部ウクライナの国境近くに10万以上の兵力を演習と称して展開、ウクライナに威圧を加えた。バイデンがプーチンとの首脳会談を持ち掛けたのはこの緊張の緩和をも狙ったものであった。ロシアはこの兵力は撤収させたが、ウクライナ側はいつでもロシアは兵力展開ができる状況が続いているとしている。ウクライナ問題はかなり大きな影響を世界情勢に与える問題であり、注視する必要がある。

【私の論評】NATOと直接対峙できないプーチンは、ウクライナに対して呼びかけをして機会を探りはじめた(゚д゚)!

上の記事で、プーチンが論文を書いたことが示されています。プーチン大統領は元々節目節目で「論文」を発表する人です。もちろんそれは学術的な意味での論文ではないですが、プーチン氏の政見がうかがえるという意味で興味深くはあります。

その先駆けとなったのが、まだ首相だった1999年12月30日に発表した「千年紀の狭間におけるロシア」という論文でした。


その翌日、エリツィン大統領が電撃的に辞任し、プーチン氏は大統領代行に就任して、名実ともにロシアの最高権力者となりました。


プーチン氏


2012年3月の大統領選挙前には「論文攻勢」を仕掛けたこともありました。2012年に入ると、プーチン首相(当時)は実質的に自らの選挙綱領に相当する一連の論文を新聞紙上で次々と発表しました。週1本のペースで発表された論文は計7本に上りました。


このように、何か事を起そうという時にまず「論文」を発表して、自らのビジョンを示して見せるというのがプーチン流なのです。


そうして、2021年7月12日付の大統領の署名による「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」というタイトルの論文がクレムリンのHPに掲載されました。

ちなみに、ウクライナ国民の感情に配慮したのか、ロシア語に加え、ウクライナ語のテキストも添えられています。

以下に、論文の主要点を掲載します。
近年、ロシアとウクライナの間に出現した壁を、私は大きな共通の不幸、悲劇として認識している。それは、様々な時期に我々自身が犯した過ちの結果ではある。

しかし、我々の統一性を常に損ねようとしてきた勢力が意図的にもたらした結果でもあった。

今日のウクライナは、完全にソ連時代の産物である。ウクライナは多分に、「歴史的なロシア」を損なう形で形成された。「歴史的なロシア」は、ソビエト政権の下で、実質的に簒奪されたのである。

ウクライナ人が独立した民族だという概念を強化する上で決定的な役割を果たしたのは、ソ連当局だった。

まさにソ連の民族政策によって、大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人からなる三位一体のロシア民族に代わり、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人という3つの個別のスラヴ民族が、国家レベルで固定化されたのである。

ソ連が崩壊した時、新生ロシアは新たな地政学的現実を受け入れた。それのみならず、ウクライナが独立国としてやっていけるよう、困難な1990年代にも、2000年以降も、ウクライナに巨額の支援を行ってきた。

1991~2013年に、天然ガスの値引きだけでも、ウクライナの国庫は820億ドル以上を節約できた。ウクライナ当局は、今日でもロシアから年間15億ドルのガス・トランジット収入を得ることに汲々(きゅうきゅう)としている。

ロシアとの正常な経済関係が維持されれば、ウクライナはその経済効果で年間数百億ドルを期待できたはずなのだが。

ウクライナとロシアは、数十年、数百年と、単一の経済システムとして発展してきた。30年前の協力関係の深さはEU諸国が羨むほどのものだった。

両国は、自然かつ補完的な経済パートナーである。緊密な関係は、お互いの競争力を強化し、両国の潜在能力を数倍にも発揮することを可能とする。

ウクライナには、大きな経済的ポテンシャルがあった。ソ連から遺産を継承したウクライナの指導者たちは「ウクライナの経済はヨーロッパでトップレベルになり、国民は最も高い生活水準を享受できるようになる」と約束した。

ところが、かつてウクライナとソ連全体が誇りとしたハイテク巨大企業は、今日では休眠している。過去10年間で機械産業の生産は42%減少した。過去30年間で発電量がほぼ半減していることからも、工業の衰退と経済全体の劣化の程がうかがえる。

IMFによると、2019年のウクライナの一人当たりGDPは4,000ドルを下回っており、ウクライナは欧州最貧国となっている。こうした状況に責任があるのはウクライナ国民ではなく、権力者である。

ウクライナは欧米によって危険な地政学的ゲームに引き込まれていった。その目的はウクライナをヨーロッパとロシアを隔てる障壁にし、またロシアに対する橋頭堡にすることだった。

ウクライナには、ロシアとの提携を支持する人々が数百万人もいるが、彼らは自分たちの立場を守る法的な機会を実質的に奪われている。彼らは脅迫され、地下に追いやられている。 ロシアはウクライナとの対話に前向きで、複雑な問題を議論する用意がある。

私は、ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップによってのみ可能であると確信している。ともにあれば、これまでも、そしてこれからも、何倍も強く、成功するはずだ。結局、我々は一つの民族なのだから。
ロシア大統領府公式サイト
論文の中でプーチン氏は、ロシア人とは異なるウクライナ人の民族的独自性を否定するようなことを述べています。プーチン氏は以前もそのような主張を唱えていました。

さらに、ロシア人という包括的な民族があり、大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人の三つはその支族であったという定式は、ロシアにおける伝統的な民族観を踏襲したものに過ぎません。

2010年に行われた意識調査によると、ロシア人とウクライナ人が単一の民族だと認識しているのは、ロシア側では47.1%、ウクライナ側では48.3%だったといいます。

そのため、今回プーチン氏がロシア人とウクライナ人がもともとは民族的に同一と述べたからと言って、特別新奇な問題発言というわけではありません。

ロシアの人口は200近くの異なる民族で構成されており、その中には200万~300万人のウクライナ人も含まれています。ウクライナ人とベラルーシ人は、ロシアの他の少数民族よりも文化的にロシア人に近いです。

ロシア人はウクライナの人口の17%を占めており、ロシアの文化はウクライナの文化の一部であることを意味しています。

とはいえ、いくつかの違いはありますが、それは対照的と言うよりかは連続的なものです。ウクライナ東部と南部に住むウクライナ人はロシア人とほとんど区別がつかないのに対し、ウクライナ西部のウクライナ人は文化的にはかなり違っています。

最も明白な違いは言語です。ウクライナ人のほぼ全員がロシア語を話しますが、家庭でロシア語を使うのは半数にすぎず、ロシア語を母国語としているのは30~50%にすぎません。ウクライナの西部地域では、ウクライナ語が主流です。

もう一つの違いは宗教です。ロシア人のほぼすべての民族はロシア正教の信奉者であり、特にウクライナの東部や南部のウクライナ人の大多数も同様です。しかし、ウクライナ西部ではカトリックの信者が多く、プロテスタント/福音主義者の数はロシアよりも多いです。

政治的には、強権国家を支持するロシア人よりも、無政府主義的な態度をとるウクライナ人の方が多いのではないでしょうか。また、現時点では、ウクライナ人はロシア人よりも西欧に対して好意的な態度を取っています。

しかし、ウクライナでも時代とともに独自の民族理念が浸透し、2014年の政変以降はそれがさらに強まっています。

ウクライナ領クリミアを一方的に併合し、東ウクライナ・ドンバス地方に戦乱をもたらした張本人のプーチン氏が、ロシア人とウクライナ人は同一民族というようなことを述べれば、多くのウクライナ国民が不快に感じるのは必至です。

そもそも、プーチン氏はなぜこのタイミングで、確実に物議をかもすであろう論文を発表したのでしょうか。

ロシアの専門家による分析の中で、には確かにプーチンは今回ロシア人とウクライナ人の民族的一体性を強調してみせたのですが、だからと言ってそれを根拠にプーチン政権がウクライナに対し、新たに侵略的な政策を発動することは考えにくいという指摘がありました。

今年に入ってから、ロシアが対ウクライナ国境に兵力を集結させるなどして、ドンバス情勢が緊迫化した経緯がありました。

ウクライナのドンバスの位置 色が濃い部分

しかし、強硬姿勢が思うような効果を挙げなかったため、プーチン政権としては対ウクライナおよびドンバス政策を仕切り直そうとしており、その一環としてプーチン氏は「論文」という形でロシアの立場を改めて明確化しておくことにしたのでしょう。

今回のプーチン論文をウクライナ国民がどのように受け止めているかを調べた世論調査の類は、まだ発表されていないようです。

そのため、ウクライナ国民の反応については推測するしかないのですが、今のところプーチン論文がウクライナ国民の意識を大きく変えることはないのではないようです。ウクライナの人々は、プーチン体制のロシアに対する態度を、すでに固めているからです。

ウクライナ国民の多数派は、2014年にプーチン政権が行ったクリミア併合・ドンバス介入という仕打ちを許していません。今さら、プーチン氏がロシア人とウクライナ人の民族的一体性をアピールしたところで、「なるほど、ではロシアをパートナーに選ぼう」ということにはならないでしょう。

もちろん、プーチン論文はロシア国民の琴線には触れるところがあり、プーチン政権が対ウクライナ政策を国内向けに正当化するという意味はあるでしょう。

ちなみに、プーチン論文へのコメントを求められたゼレンスキー・ウクライナ大統領は、ロシアの我が国に対する態度は真に兄弟的なものとは言えず、むしろ「カインとアベルの関係を思わせる」と指摘しました。

カインとアベルは、旧約聖書に登場するアダムとイヴの息子たちのことであり、兄がカイン、弟がアベルである。旧約聖書によれば、カインがアベルを殺してしまい、これが人類初の殺人で、さらにそのことについてカインが白を切ろうとしたことが、人類初の嘘であったとされています。

ゼレンスキー・ウクライナ大統領

ロシアは面積こそ世界一ですが、人口は約1億4000万で日本をわずかに上回る程度です。経済規模は日本の3分の1以下、米国の10分の1以下で、世界で12位。G7各国はもちろん、韓国をも下回ります。そんな国がなぜ大統領選への介入疑惑で米国をゆさぶり、中東や朝鮮半島情勢で発言権を確保できるのでしょうか。

まずは、ロシアは旧ソ連の核や軍事技術を直接継承した国であるということです。GDPが低下したからといって、この点は侮れないところがあります。さらに、それだげてはありません。

力の源泉をたどっていくと、やはり石油と天然ガスです。

この10年ほど、ロシアが戦略的に進めてきたのがアジア・太平洋方面への輸出の拡大です。日本も石油・天然ガスともに1割近くを依存。欧米からの制裁が、「東方シフト」をさらに後押ししています。


北極方面からロシアの地図を眺めると、旧ソ連時代に建設された欧州方面へのパイプラインに加えて、中国や太平洋に向けて、両腕を広げるようにパイプラインの建設が進んでいることがわかります。


欧州の命綱を握っているという自信が、国際的に孤立しても強気の姿勢を崩さない理由のひとつでしょう。さらに、どこにでも運べるLNGの生産能力を高めていくことがロシアの戦略です。


ところが、石油・天然ガスは、ロシアのアキレス腱でもあります。1991年のソ連崩壊は、85年から86年にかけて起きた原油価格の急落が引き金を引いたと指摘されています。エリツィン政権時代も安値が続き、98年には債務不履行(デフォルト)に追い込まれました。


それが、2000年のプーチン政権の誕生と機を同じくして価格は上昇に転じ、ロシアは瞬く間に債務国から債権国に。ところが、その後もリーマン・ショックなどによる原油価格下落のたびに、ロシア経済は大きく揺らぎました。


米国発のシェールガス革命は、天然ガスでのロシアの独占的な立場を脅かしています。頼みの「東方シフト」の先行きも不透明です。輸出先として期待する中国は中央アジア諸国からも輸入しており、ロシアの資源を安く買おうと揺さぶりをかけます。石油とガスは、ロシアにとって諸刃の剣になっています。


軍事技術は別にして、その他は、石油・ガスだけが、一次産品のロシアの原動力であることから、これから急激に発展する可能性は全くありません。


ロシアは、米国を除いたNATOさえ対峙できないでしょう。たとえば、ウクライナを巡ってロシアがNATOと戦争にでもなった場合、初戦においては、最新の軍事技術を用いたり、石油天然ガスをとめるなどで、大きな成果をおさめるかもしれません。


しかし、その後戦争が長引けば、NATO諸国は同盟国の力も借りることができるのて、反転攻勢にでるでしょう。


ロシアは、元々GDPが低迷していることと、他国からの援助もなく、兵站を維持できなくなるでしょう。食料・弾薬などが尽きて、お手上げになります。そうなれば、多くの兵士は自国内に敗走するしかなくなります。そうして、兵站にすぐれたNATO加盟国は追撃戦に入り、ロシア国内にまで入り込むことになるでしょう。


これが、現在のロシアの実力です。ロシアはもはや超大国ではないどころか、EUなどと比較すれば、貧しい国なのです。そのようなことはわかりきったことなので、プーチンとしては、NATO諸国と事を構えることはできないので、ウクライナに対して呼びかけをして、機会を探るという戦略に出たのでしょう。


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2021年9月19日日曜日

イラン科学者暗殺はロボット兵器 米紙報道、遠隔操作で銃撃―【私の論評】今後スナイパーは自らを危険にさらすことなく標的を仕留められるようになる(゚д゚)!

イラン科学者暗殺はロボット兵器 米紙報道、遠隔操作で銃撃


ファクリザデ氏襲撃現場の写真

 米紙ニューヨーク・タイムズは18日、昨年11月にイラン人核科学者ファクリザデ氏が暗殺された事件で、人工知能(AI)を活用した遠隔操作の高性能ロボット兵器が使われたと報じた。イスラエルが米国の支持を得て銃撃を実行したという。米国やイスラエル、イランの当局者らの話としている。

  「イラン核開発の父」と呼ばれたファクリザデ氏は昨年11月27日、首都テヘラン東方を護衛付きの車列で移動中、銃撃を受け殺害された。同紙によるとイスラエルの対外特務機関モサドが、車列を待ち伏せたピックアップトラックに積まれた機関銃を遠隔操作した。

【私の論評】今後スナイパーは自らを危険にさらすことなく標的を仕留められるようにな(゚д゚)!

2020年11月、イランの核科学者モフセン・ファクリザデ氏が何者かに暗殺された際、イランのメディアは犯行がイスラエルとイラン国外の反体制派組織によるもので、人工衛星経由で制御されたロボット兵器によって実行されたというにわかには信じがたい情報を伝えていました。

モフセン・ファクリザデ氏

そのため、このブログでも暗殺されたことは掲載しましたが、ロボット兵器に関しては、掲載しませんでした。しかしそれは正しかったようです。

暗殺に関してイランおよびイスラエルの政府はともに公式にはロボット兵器が使用されたことを認めてはいません。しかしNew York Timesが新たに報じた情報によると、イラン核兵器開発の第一人者とされるファクリザデ氏の暗殺に用いられたのは、ベルギー製のFN MAG機関銃にAIと複数のカメラで遠隔制御可能な機構を装備した、1分間に600発の弾丸を発射できるロボット兵器だったとのことです。

暗殺者らは作戦のためにこのロボット兵器をパーツごとに細かく分けてイラン国内に持ち込み、現地で組み上げたと報じています。


イスラエル国防軍のプーマ戦闘工兵車のRWSに搭載されているFN MAGです。普段は車内から遠隔操作できます。

RWS(Remote Weapon System、Remote Weapon Station)は、軍用装甲車などの装甲戦闘車両や軍用船舶に装備されている遠隔操作式の無人銃架・砲塔の事を指す。

イスラエルは、FN MAG機関銃を装備したRWSを開発しているので、これを用いた遠隔操作できるロボット兵器を開発することは比較的簡単であったと考えられます。

この機関銃の特筆すべき点は、銃身を非常に素早く交換できるという点です。よく訓練された兵士は、およそ3秒以内に新しい銃身に交換することができます。機構的な過熱を防ぐため、継続射撃を行う際にもベルトリンクは100連に制限されています。訓練の際にはこの制限がしばしば省略されますが、それでも継続して射撃を行うことができます。

たとえば、フォークランド紛争におけるグース・グリーンに対する攻撃の際、イギリス軍空挺(エアボーン)部隊の兵士は、交換用の銃身なしで5,000-8,000発もの弾丸を発射する必要がありました。結果的に、銃身が白くなるほど過熱したのですが、それでもこの機関銃は作動し続けることが証明されました。

この機関銃を含むロボット兵器は、道ばたにうち捨てられたピックアップトラックに仕込まれ、自動車で移動中のファクリザデ氏を衛星を介した遠隔制御で蜂の巣にしたとされます。銃に取り付けられたAIは、カメラセンサーにより自動車で移動中のファクリザデ氏を顔認識で識別する機能を持ち、また射撃時には標的の移動偏差修正や銃の反動の制御も行っていたと報告されています。

その狙撃がいかに正確だったかは、車に同乗していたファクリザデ氏の妻や関係者が無傷で、負傷して車外に出たファクリザデ氏がさらに致命傷を負うまで銃撃されていた状況からもうかがい知ることができます。

ただ、NYTはAI顔認識は精度が低かったため、おとりとして用意した別のカメラ搭載の自動車でファクリザデ氏の特定をアシストしたとしています。また犯行後、工作員は証拠隠滅のためにロボット兵器を搭載するピックアップトラックを相当量の爆薬で爆破したものの、ロボット兵器の本体部分は爆風で車外に放り出されたために、その犯行の概要がわかったと伝えています。

ファクリザデ氏はイランで最も著名な核科学者で、イラン革命防衛隊の幹部でした。

イスラエルや西側の安全保障筋は、ファクリザデ氏がイランの核開発計画を主導してきたと考えてきました。

物理学教授のファクリザデ氏は、1989年にイランが極秘で発足した核兵器研究計画「プロジェクト・アマド」を主導していたとされます。

国際原子力機関(IAEA)によると、この計画は2003年に終了しています。しかし、イスラエルが2018年に入手した極秘文書からは、ファクリザデ氏がプロジェクト・アマドを引き継ぐ新たな計画を主導していることが分かったといいます。

イランと敵対するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はかつて、演説でファクリザデ氏の「名前を覚えておくように」と語っていました。

一方のイランは、イスラエルが2010~2012年の間に、イランの核科学者4人を暗殺したと非難しています。

アナリストからは、今回の暗殺はイランの核開発を止めるためではなく、2018年にドナルド・トランプ米大統領が離脱した核合意に、ジョー・バイデン次期米大統領が再び参加するのを防ぐためだったのではないかとの分析も出ています。

イランは2015年、イギリスやアメリカなど6カ国と核合意を結び、濃縮ウランの製造を制限すると約束しました。しかしトランプ大統領が2018年に核合意から離脱を決めて以降は、イランもこの合意内容に抵触するようになりました。

近年では、イランが濃縮ウランの製造を拡大しているという新たな懸念が浮上しています。濃縮ウランは、民生用の原子力発電においても、核兵器製造においても、重要な要素です。

ロボット兵器を使うとはまるでスパイ映画のような話ですが、技術的には驚くほどでもありません。銃をロボット化して遠隔操作することで周囲の警備状況を手薄にさせることができ、またドローンを飛ばしたときのように警報を発せられることもありません。

そして仮に、計画どおりピックアップトラックとともにロボット兵器も完全に破壊されていれば、イラン当局は事件の概要を知ることもできなかった可能性があります。

米QinetiQ社の無人兵器MAARS

NYTの報告がすべて正しければ、今後はこのようなスパイ活動が当たり前になっていく可能性が高そうです。今後スナイパーは自らを危険にさらすことなく標的を仕留められるようになっていくことでしょう。

それが必ずしも今回のように成功するかはわかりません。ファクリザデ氏は事件に至るまで複数の警備上の警告・勧告を軽んじた行動をとっており、そのぶん殺害が容易になったとされます。それでも、ロボット兵器による殺害は今後も計画されていく可能性が高いと思わざるをえません。

これを一番恐れているのは、世界の独裁者たちかもしれません。

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2021年9月18日土曜日

北朝鮮のミサイルだけじゃない…日本周辺は先進国で最も危険 敵基地攻撃能力の徹底議論を―【私の論評】日米安保に日米潜水艦隊の有効活用は外せない!双方の協同で無敵の潜水艦打撃群ができあがる(゚д゚)!

北朝鮮のミサイルだけじゃない…日本周辺は先進国で最も危険 敵基地攻撃能力の徹底議論を

列車から撃たれた15日の北朝鮮弾道ミサイル=朝鮮中央通信

 北朝鮮が新型長距離巡航ミサイルの実験に成功したと発表した。さらに15日には、弾道ミサイル2発を発射したことがわかった。日本はどのように対処すべきなのか。

 本コラムでも紹介してきたが、国際政治学の中で最も理論らしい理論といわれる民主的平和論では、民主主義国間は、民主主義国と非民主主義国間や、非民主主義国間より戦争確率が低い。

 わが国の周りを見ると、中国、ロシアと北朝鮮という非民主主義国が隣国となっており、危険な地域だといえる。英エコノミスト誌が毎年公表している民主主義指数(0~10で、数字が高いほど民主主義)では、167カ国中、中国は2・27で151位、ロシアは3・31で124位、北朝鮮は1・08で最下位だ。先進国の中では最も危険な地域に存在しているといってもいい。しかも、やっかいなのは、非民主主義国では軍事費の実態が分かりにくい。

 軍事研究で定評のあるストックホルム国際平和研究所による世界各国の軍事費データでも、北朝鮮の軍事費の実態はさっぱり分からない。経済力と比べて相当な無理をしているのは確実だが、それでも近年着実に成果を挙げつつある。

 日本としてはどう対処すべきか。これも国際政治のセオリーからいえば、同等の軍事技術を持ち、軍事費が不均衡にならないようにすべきだ。

 一つの対処方法が、敵基地攻撃能力だ。これは昨年6月、当時の安倍晋三政権が、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を撤回し、その代わりとして浮上したものだ。

 筆者は、イージス・アショアのアイデアはいいと思ったが、その運用を陸上自衛隊が行う点について、かねてより懸念していた。というのは、イージス艦の運用が海上自衛隊であるので、その延長線で行うのが世界の常識だからだ。

 イージス・アショアの陸上自衛隊への配備で内陸の基地となったところ、迎撃ミサイル発射のブースターの落下が問題になった。迎撃ミサイルを発射するという危機的な事態なので、本来はブースターの落下など問題とすべきではないが、問題としてしまったのが間違いだった。

 自衛隊基地内に落下させるという従来のシステムでは想定外の話となって、結局断念せざるを得なかった。

 いずれにしても、今の自民党総裁選において、敵基地攻撃能力が一つの争点になっているのは好ましい。

 岸田文雄前政調会長は、敵基地攻撃能力について、憲法問題を含めて検討するとした。高市早苗前総務相はもう少し前向きで、迅速な敵基地の無力化についてサイバー攻撃を含めて具体的な方法を考えるとしている。

 河野太郎行革担当相は、ミサイルへの対応以前に、サイバー戦などでの抑止をどうするか検討が必要としている。

 敵基地攻撃について、自民党総裁選でどのような結論になるのか、注目したい。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日米安保に日米潜水艦隊の有効活用は外せない!双方の協同で無敵の潜水艦打撃群ができあがる(゚д゚)!

上の記事もそうですが、日米の大方の軍事関係の記事ではある特徴があります。それは大部分の記事には潜水艦のことが書かれていないということです。まるで、日米ともに潜水艦など存在しないような記事が多いです。

これは、米国でも同じ傾向があります。米国は強力な戦略原潜と攻撃型原潜を多数持っているにもかかわらず、なぜかこれはあまり触れられることがありません。

これは、通常潜水艦の行動や対潜戦(ASW)に関しては秘匿されるのが常なので、仕方のないところもあるでしょう。ただ例外もあります。

たとえば、昨年太平洋艦隊所属でグアム島基地を拠点とする攻撃型潜水艦(SSN)4隻をはじめ、サンディエゴ基地、ハワイ基地を拠点とする戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)など少なくとも合計7隻の潜水艦が5月下旬の時点で西太平洋に展開して、臨戦態勢の航海や訓練を実施していることを公表しました。

そうして、最近もあったように、日本は中国の潜水艦が、接続水域を航行したことを公表しています。

しかし、これは例外中の例外です。ただ、両者とも明確な意図をもって実施されています。米国の場合は、当時いくつかの空母打撃群が乗員のコロナ感染によって稼働できなくなっていたため、中国を抑止するため意図して、意識して公表したものです。

日本の事例は、未だに中国の潜水艦は日本にすぐに発見されてしまうため、いくら尖閣などで日本向けに示威行動をしても無意味であることを伝えて、中国を牽制するという目的があるとみられます。これも意図して、意識して実施したものです。特に、昨年までは「外国潜水艦」としたものを今年から「中国の潜水艦」として、意図して意識して中国を牽制しています。

そうして、最近の米国のシンクタンク「ランド研究所」は、防衛省・自衛隊に提言し、叱咤(しった)激励する衝撃的な論文を発表していますが、一読して、防衛省・自衛隊を子供扱いにしたような論文ではありますが、内容そのものは妥当です。しかし、この論文に出てくる潜水艦(submarine)という言葉はわずか一語だけでした。

この報告書の詳細は、原典をあたっていただくものとして、以下に概要を掲載します。

ランド研究所は、自衛隊に対して、「マルチドメイン(複数領域)防衛軍を目指すべきだ」と提言しています。マルチドメイン防衛軍とは、米陸軍の作戦構想「マルチドメイン作戦」が遂行できる部隊のことです。 

米陸軍マルチドメイン変革(米陸軍参謀総長文書#1)より


ランド論文が「マルチドメイン防衛軍」を創設するために提言した17の新興技術は、先進通信ネットワーク、人工知能(AI)、自律技術、ビッグデータ、最新のサイバー戦技術、量子通信、量子コンピューティング、量子センシング、3Dプリンティング、バイオ技術、指向性エネルギー兵器、最新宇宙技術、極超音速滑空体、マイクロエレクトロニクス、ナノテクノロジー、無人機です。

ランド研究所は、中国が新興技術の軍事利用を推進しているのに比し、日本の遅れを叱咤している。中国が重視する技術は、ランドの17技術とほぼ同じだ。そして、自衛隊が新興技術を軍事利用することによるメリットを列挙しています。以下にそれらを掲載します。
第1に、サイバー攻撃、電子戦、マイクロ波指向性エネルギー兵器の使用により、攻撃者は明確な証拠を残すことなく攻撃できる。

第2に、自律技術、AI、最新遠距離通信、量子コンピューティングなどを利用することで、戦争遂行を劇的にスピードアップできる。 

第3に、無人機やロボットなどは将来の戦争で中心的な役割を果たす。

第4に、長距離でターゲットを非常に正確に攻撃することができる。 

第5に、ネットワークの安全確保と相手側のネットワークの破壊が紛争時における中心テーマになるため、電子戦やサイバー攻撃に対する防御が重要になる。 

第6に、従来の空・陸・海の領域加えて、電磁波、宇宙、サイバー空間の領域を作戦成功の中核になる。 

第7に、情報ドメインに関連する技術分野がますます重要になっている。他国は、紛争のすべての段階で、日本の認知機能(頭脳など)に悪影響を及ぼし、世論を操作しようとする。日本は、敵の大規模な偽情報・誤情報作戦に対処する必要がある。
 以上みてきたように、ランド論文は軍事専門家にとっては常識に沿ったもので、適切な提言だとは思います。防衛省・自衛隊がこの提言を受けて、これをいかに活用するかが課題です。この提言を無視する選択肢はないとは、思います。

マルチドメイン防衛軍構想は、もともと米陸軍によって作成されたものなので、海戦を想定したものが少なくなるのは当然とは思いますが、それにしてもこの報告書の中にでてくる、「潜水艦」というキーワードが一つしかないというのが気になります。それに、サイバー攻撃への対応や、偽情報・誤情報作戦への対応などは、緊急の課題ですが、他のものはすぐにできるとは考えられず、いずれも将来の課題といえると思います。

しかし、潜水艦に関してはまだまだできることがあり、やればかなり成果をあげられる分野が多くあると思います。

米国の戦略家ルトワック氏は、論文「軍事におけるイノベーションをやり直す」の中で潜水艦について以下のように述べています。
過去2回の世界大戦におけるもっとも激しい軍事競争により、1915 から 1945 年 の間には戦争を変えるような多くのものが生まれ、その中から、その後の規範とな るウエポン・システムであるプラットフォームが誕生し、現在に至っている 。1945 年以降さまざまな形の科学的、技術的発展があったにもかかわらず、長期の全面戦 争から以外は生まれ得ない革命的なトランスフォーメーションがないまま、我々は 相変わらず 60 年以上前のプラットフォーム(ただし、潜水艦だけは例外)をかなり 多く使っている。

また、以下のようにも述べています。

戦争はその苛烈さに比例して、組織上、作戦上、戦術上、そして時には戦略上の イノベーションとともに、新機軸の兵器のコンセプト(例:第一次世界大戦におけ る武装航空機、第二次世界大戦における原子爆弾など)や、少なくともプラット フォームの新しいシステム構成(例:1944 年までに出現したジェット戦闘機、1918 年の空母、1916 年の戦車など)の出現を促す。軍指導部も、戦時中にイノベーショ ンを行うために必ずしもイノベーティブである必要はない。イノベーションを行う敵 を模倣するか、効果的にそれに対抗するだけでいい。ただし、いずれも行わないと 敗けは免れない。

 反対に平時には、軍事におけるイノベーションが起こることはめったにない。(平 時の軍事におけるイノベーションの、もっとも有名で最大の例外は原子力潜水艦で あろう。米国海軍のコンセンサスとして、1,200psi の蒸気ボイラーシステムはいい が、ガス・タービンや、ましてや原子力推進というハイマン・リッコーヴァー (Hyman Rickover)の突飛なアイデアには頑なに反対していたことを考えれば、実 現性はほとんど不可能に近いと言われていた。)軍事組織は、奉仕や自己犠牲といっ た重要な価値観を維持するためには総じて保守的だが、この軍の保守的傾向はこと さら非難されるべきものではない。変化に対する抵抗は、いかなる組織にも見られ るからである。  

原子力潜水艦は、軍事上の戦後のイノベーションといえる画期的なものです。そうして、ほとんど無音の通常型潜水艦である日本の潜水艦も、戦後のイノベーションといえるでしょう。そうして、潜水艦は、電磁波などマイクロ波指向性エネルギー兵器では攻撃できない可能性が大きいです。

さらに、サイバー攻撃に関しても、水中に深く潜る潜水艦には、通常の電波は届きません。ましてや、インターネットのコードも繋がっていません。

では、どうやって連絡をとるかといえば、結論からいうと超長波(VLF)を用いて連絡をします。無論、水上に浮上するか、アンテナのみを浮上させて、通常の電波で通信することもできます。ただし、そうすれば、敵にすぐに発見されてしまいます。しかし、潜水艦が水中に潜るということから、サイバー攻撃にさらされる危険はかなり低いといえます。

文春新書『ラストエンペラー習近平』において、ルトワック氏は潜水艦について以下のように趣旨のことを述べています。
現在、世界各国が持っている海軍の船は、実は2種類しかない。1つは空母などの水上艦艇、もう1つが潜水艦。水上艦艇はすべて、いざ戦争が起こったら、ターゲットでしかない。船が浮かんでいる時点で、レーダーなどで、どこで動いているのか存在がわかってしまう。そこを対艦ミサイルなどで撃たれてしまえば、1発で沈められる。しかし、潜水艦はなかなか見つからないので、「潜水艦が本当の戦力なのだ」。

 こういう観点から見ると、中国はたくさんの水上艦艇を持っていますが、潜水艦的な、水面より下の戦力は弱いです。日米は、水面より下の戦力において中国より圧倒的に強いです。

ルトワック氏

特に、日米は対潜哨戒能力が中国と比較して圧倒的に高いです。そのため、対潜戦(英語: Anti-submarine warfare, ASW)も圧倒的に強いです。さらに、日本の潜水艦は、もともとステルス性(静寂性)に優れていたものが、最新型はリチュウムイオンバッテリーを動力にしているため、ほとんど無音に近くなりました。

海上自衛隊は、敵潜水艦の行動を探知するべく、日本の近海に潜んでいます。もし、敵性潜水艦が近づいてきた場合でも、無音状態で迅速に行動することができます。視界も電波もさえぎられる水中、敵は音を探知しながら進んできますが、音を発しないこちらの姿を探知することは、ほとんどできません。まるで忍者のようにその姿を隠すことができるのが、通常動力潜水艦艦の強みです。

一方米国の攻撃型原潜は、もともと原子力潜水艦ということで、ある程度騒音は出ます。原子炉で発生させた蒸気を使ってタービンを回し、その力でプロペラ軸を回しますが、この時に使う減速歯車が騒音の原因といわれています。タービン自体は高速で回転させるほうが効率も良いのですが、そのまま海中でプロペラを回転させるとさらなる騒音を発生させるために、減速歯車を使ってプロペラ軸に伝わる回転数を落とす必要があります。

ほかにも、炉心冷却材を循環させるためのポンプも大きな騒音を発生さるといいます。このポンプは静かな物を採用することによって、かつてに比べ騒音レベルは下がってきているといいますが、頻繁に原子炉の停止・再稼動をさせることが難しい原子力潜水艦においては、基本的にこのポンプの動きを止めることはできません。

しかし、米国の攻撃型原潜は、原潜としてはステルス性が高く、対潜哨戒能力が低い中国には発見しずらいです。ただ、米国の攻撃型原潜は、速度がはやく長期間潜水していられることの他、オハイオ級攻撃型原潜は、最大で計154発のトマホークを搭載可能等、攻撃力にも優れています。

台湾有事が想定された場合、600発の巡航ミサイルを積んだ「見えない空母」とかつてトランプ氏が称した、数隻の攻撃型原潜が、第1列島線の内側に入り込み、ピンポイントで中国のレーダーや宇宙監視の地上施設を攻撃して、まず「目」を奪うでしょう。そうなれば、中国は米空母などがどこにいるか把握できず、ミサイルを当てようがないです。

米国は原潜をつくりはじめてから、通常型潜水艦を建造することをやめました。もはや日本のような静寂性の高い通常型潜水艦を製造する能力はありません。

私としては、マルチドメイン防衛軍を創設することには、やぶさかではありませんが、それよりも現実的な方法は、潜水艦隊や対潜哨戒能力、対潜能力のさらなる強化だと思います。

日本の場合は、敵基地攻撃能力の中に、潜水艦による情報収集と、攻撃も含めるべきと思います。敵基地攻撃というと、すぐに航空機などを思い浮かべる人もいるようですが、それだけではなく、潜水艦による監視と攻撃も含めるべきです。日本のステルス性の高い潜水艦は、北朝鮮や中国の港や沿岸に侵入しても発見されることはありません。

そのため、じっくりと長期間にわたり詳細に情報収集ができる可能性が高いです。さらに、ミサイルなどで敵基地を的確に迅速に攻撃できます。

米国においては、「マルチドメイン(複数領域)防衛軍」において、米原潜を活用する方法を模索すべきと思います。米攻撃型原潜は、敵に発見されることなく、局所的に破滅的な攻撃をすることができます。この能力が「マルチドメイン防衛」に役に立たないはずがありません。

日本の横須賀基地で2015年12月23日、米海軍はSSN-766「シャルロット」攻撃型原潜、SSN-775「テキサス」攻撃型原潜が同時に停泊する貴重な写真 クリックすると拡大します

米海軍においては、空母打撃群中心主義からはやく脱却すべきです。それには、水上艦艇はすべて、いざ戦争が起こったら、ターゲットでしかないということもありますが、差し迫った他の理由もあります。

それは、航空母艦の稼働率が劇的に低下するという危機的状況に陥りつつあるということです。稼働率の低下の最大の原因は、海軍工廠(こうしょう)と民間造船所を含んだ米国内における造艦・メンテナンス能力の不足にあります。

このような海軍関係ロジスティックス能力の低下は量的なものだけではなく、質的にも深刻であるという調査結果も数多く提示され、アメリカの国防上、深刻な問題となりつつあるのです。

この問題は、早急には解決できません。それまでの間は、空母よりは、メンテナンス能力を必要としない攻撃型原潜をどのように活用するのかということが、課題になるでしょう。

最後に日米の課題ですが、将来は「マルチドメイン防衛軍」を目指すにしても、当面の敵は中国であり、その中国と比較すると、海戦能力では日米が格段に勝っています。これを有効活用しない手はありません。

そうして、日米ともに対潜哨戒能力がすぐれており、米国の攻撃型潜水艦はステルス性には、難がありますが、攻撃力、速度、長期間の運用に優れています。

日本の潜水艦はステルス性に優れていますが、攻撃力は米軍に比較すると弱いですし、速度も遅く、潜航時間も米原潜には及びません。

この事実からすると、対中国ということで、日米ができることは、日米協同の潜水艦隊を創設することではないかと思います。

協同潜水艦隊により、双方の強みを活かし、双方の弱みを消してしまうのです。ステルス性に優れた日本の潜水艦隊は、主に情報収集にあたり、その情報を日米で共有して、米攻撃型原潜は、その情報に基づいて迅速に正確に敵に対して破滅的な打撃を与えるのです。

このような協同ができれば、世界最強の潜水艦打撃群ができあがることになります。そうなれば、確実に中国の海洋進出を防ぐことができます。

このようなことを考えると、防衛省・自衛隊を子供扱いにしたランド研究所の論文は、いくぶん上滑りしているように思えてなりません。彼ら自身も、もう少しに地に足のついた戦略を考えるべきと思います。そうして、安全保障の論議がまともになるように、米軍も潜水艦に関することも差し支えない範囲で公表すべきです。

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2021年9月17日金曜日

中国がTPP正式申請も…加入できないこれだけの理由 貿易摩擦、領有権問題などなど門前払いの可能性―【私の論評】英国は加入でき、中国はできないTPPは、世界に中国の異質性をさらに印象づけることに(゚д゚)!

中国がTPP正式申請も…加入できないこれだけの理由 貿易摩擦、領有権問題などなど門前払いの可能性

中国の習近平国家主席

 中国は16日、日本などが参加している環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加入を正式申請した。TPPによる中国包囲網に対する習近平主席の強い警戒感が背景にあるとみられるが、自由化と透明性が要求されるTPPはハードルが高い。他の加盟国との対立も抱え、門前払いの可能性もある。

 習主席は昨年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、TPP参加を「積極的に検討する」と表明していた。

 TPPには英国も参加を申請し、台湾も意欲を見せている。米国が離脱後、TPPを主導する日本では自民党総裁選が行われるなど政局が流動化している時期に加入を申請し、揺さぶりをかける狙いもあるようだ。

 だが、交渉入りには高い水準のルール順守が前提条件になる。TPPは国有企業への優遇や補助金で自由競争をゆがめることを禁じている。政府調達の際の外資排除や国外へのデータの持ち出し禁止を含めた強権的な自国優遇策も問題だ。共産党の一党支配をやめるぐらいの覚悟がないと加入は難しいのが現実だ。

 また、加入には全参加国の承認が必要だが、オーストラリアと貿易摩擦を抱えるほか、ベトナムとは南シナ海の領有権問題で対立、日本も尖閣問題に神経をとがらせている。

 いずれにせよ、中国の思惑に振り回されるのは得策ではない。

【私の論評】英国は加入でき、中国はできないTPPは、世界に中国の異質性をさらに印象づけることに(゚д゚)!

中国のTPP加入は、結論からいうと不可能です。そもそもWTO違反を繰り返す、中国がより厳しい貿易協定であるTPPに加入することはできません。正式申請をしても、確実に門前払いになります。

現在の通商代表部(USTR)代表キャサリン・タイ氏 両親が台湾出身の米国人

2018年、米国通商代表部(USTR)は「中国のWTO加盟支持は誤りだった」と する年次報告書を出しています。その趣旨を以下に掲載します。
中国は、2001年にWTOに加盟後、加盟議定 書に定められた条項で要求されるように、 WTOの義務に従うために何百もの法律や規制 などを改正する予定であった。

米国の政策立案 者は、中国の加盟議定書に定められた条項が、 開放的で市場主義的な政策に基づいており、無 差別、市場アクセス、相互性、公平性、透明性 の原則に立脚した国際貿易体制と両立しない既 存の国家主導の政策と慣行を解体することを望 んだ。

しかし、その希望は失われた。中国は現在、 国家主導経済のままであり、米国や他の貿易相 手国は、中国の貿易体制に深刻な問題に直面し 続けている。一方、中国はWTO加盟国として の承認を、国際貿易の支配的プレーヤーにするために利用してきた。これらの事実を踏まえ て、中国の開放的な市場指向の貿易体制が確保 されないことが証明された以上、米国が中国の WTOへの加盟を支持したことが誤りだったこ とは明らかである。

中国はWTO加盟国として の承認を、国際貿易の支配的プレーヤーにするために利用してきました。もし、仮にTPPに入れたとしても、TPPを同じように利用するだけです。

TPPの現状のルールは先進国にとっては当然のことで、部分的に異なることも多少はありますが、それを改定することはさほど難しいことではなく、加入するのは難しくないですが、中国にとっては困難です。中国が現在のままのTPPに加入するためには、国内の体制を変えなければ無理です。

特に、民主化、政治と経済の分離、法治国家化は必須です。これができないと、TPPのルールを満たすことは不可能です。しかし、これを実行してしまえば、中国共産党は国内で統治の正当性を失い、共産党一党独裁制は崩れ、現体制は崩壊することになります。

これについては、昨年このブログに掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。

習氏、TPP参加「積極的に検討」 APEC首脳会議―【私の論評】習近平の魂胆は、TPPを乗っ取って中国ルールにすること(゚д゚)!

昨年11月APEC首脳会議で議長を務めるマレーシアのムヒディン首相

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分を引用します。

日本としては、TPPを大いに発展させ、1993年以降の世界貿易の変化を反映したTPP協定の規定をWTOに採用するように働き掛けることができます。これには、EUも賛成するでしょう。 
TPPのルールを世界のルールにするのです。単なる先進国だけの提案ではなく、アジア太平洋地域の途上国も合意したTPPの協定をWTOに持ち込むことには中国も反対できないでしょう。

TPPのルールがWTOのルールとなれば、中国は中共を解体してもTPPルールを含む新WTOに入るか、新WTOには入らず、内にこもることになります。内にこもった場合は、中国を待つ将来は、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。その時には他国に対する影響力はほとんどなくなっているでしょう。

いずれにせよ、TPPは加盟国だけではなく世界にとって、有用な協定になる可能性が高まってきたのは事実です。日本は、TPPのルールを世界の自由貿易のルールとするべくこれからも努力すべきです。

日本は、このような姿勢を堅持すべきです。

麻生太郎財務相は17日の閣議後会見で、中国が日本やオーストラリアなどが参加する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加入を正式に申請したことについて、「今の中国が新規加入できる状態かね」と述べ、否定的な見方を示しました。

オーストラリアのテハン貿易相は17日に声明を出し、2国間で「閣僚級協議で解決すべき重要な問題がある」として中国をけん制した。中国が政治問題と絡めた制裁関税などを解かない限り、交渉入りに応じられないとの立場をにじませました。

オーストラリアのテハン貿易相

テハン氏は、加入交渉を始めるには全加盟国の承認が不可欠で、貿易自由化などで「高い水準」を満たさなければならないとの原則を強調。さらに、新型コロナウイルスや人権問題を巡るオーストラリアの対中政策に反発して、貿易を絡めて圧力を強める中国を暗に批判しました。

環太平洋連携協定(TPP)に参加する11カ国は1日、閣僚級会合「TPP委員会」をテレビ会議形式で開きました。議長を務めた西村康稔経済再生担当相は終了後に記者会見し、英国の加入交渉に関する初会合を今月中にも開催する意向を示しました。今後1カ月以内をめどに開くことで各国が合意し、自由貿易を巡るルール水準を維持することも確認しました。 

西村氏は、英国加入に「極めて大きな戦略的な意味がある」と強調しました。 

この日の会合では6月に事実上始まった英国の加入交渉の進展状況などを議論。終了後に「英国が協定の全ての義務を順守する旨を十分に示すことに期待している」との共同声明を公表しました。

今後TPPは、英国は加入可能なのに、中国は加入できないということで、改めて中国の異質性を顕にすることになりそうです。

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2021年9月16日木曜日

中国で進められる「習近平思想」の確立と普及―【私の論評】党規約に「習近平思想」と平易に記載されたとき、習近平の野望は成就する(゚д゚)!


岡崎研究所

 8月28日付の英Economistが、最近中国で多く作られている習近平の考え方を学ぶ研究センターについて、その影響などについて分析している。多くの研究者が動員され、習近平の地位の強化に利用されている。次の党大会での習近平の留任のためかもしれない。

 習近平と、そのインナーサークルが、新時代のマルクス主義、マルクス主義の中国化と称して、正に「習近平思想」を作り上げようとしていることは間違いない。理由は多々あり、長期政権を目指すためだけではない。



 まず、中国社会の現実が、新たな理念を必要していることは間違いない。鄧小平の解決すべき課題は、地に落ちた共産党の威信と国民の信頼を取り戻すために、いかにして経済を発展させるかにあった。しかし、その経済発展が作りだした中国の現実が、鄧小平理論では収まりきれなくなり、新しい理念ないし理論を必要としている。鄧小平が超大国になってから何をすべきか語ったことはない。「中国の夢」は、それへの回答でもある。

 次に、その社会を統治する共産党の現実が、新たな理念ないし理論を必要としている。そこで巨大化した組織を再構成する必要があり、その根幹に「規律」と「法治」を据えた。さらに、党内に多くの敵を作り、アメよりもムチを多用する習近平にとり、最後の支えは国民の支持となる。

 先祖返りのように「人民第一」を強調しているのは、社会の不安定化を避けると共に、国民の多数を味方につけ、党内を牛耳る算段でもある。先進大企業たたきや経済分野への積極的介入も国民対策だ。しかし、如何にして発展の原動力である民間企業のやる気を持続させるかという難問に逢着する。

小学校の必修科目にも

 最後に、それらの集大成としての「習近平思想」となる。これが完成すれば、習近平政権は長く続けることができるだけではなく、毛沢東を越えて歴史に名を残せる。毛沢東思想も鄧小平理論も、本人が生きている間だけではなく、その後も影響力を持った。

 だが毛沢東思想・鄧小平理論との本質的な違いは、この二つが毛沢東と鄧小平の頭の中で紡ぎ出され論理的一貫性を持つのに対し、現在、「習近平思想」はアイディアの寄せ集めに過ぎないという点にある。現場対応に追われ、その都度新たなアイディアを語ってきた。18の習思想研究センターの存在が、そのことを表している。

 ただ、「習近平氏の思想」の普及は、研究センターの設置というシンクタンクに留まらない。この9月1日から始まった新学期では、小学校から必修科目として、「習近平氏の思想」が導入された。小学校から高校まで教本は4冊あるとされ、大学や社会人になっても中国共産党の思想教育は継続されるようだ。既に、共産党員に対して、ネットで頻繁に教育教材が送られ、回答しないと催促されると言う。

 世界各地で影響力を行使している中国であるが、それは、経済のみならず、思想統制まで及ぶようになるのだろうか。中国国内の動きにも目が離せない。

【私の論評】習が現役で党規約に「習近平思想」と平易に記載されたとき、習近平の野望は成就する(゚д゚)!

2019年4月中国社会科学院が編集した『習近平新時代中国特色社会主義思想学習叢書』が出版された

「習近平思想」とは何かと、いえば無論「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」が原点であることは間違いないでしょう。

2012年に登場した中国共産党の習近平体制は5年の任期を終え、2017年10月に開催された中共
第19回大会で第2期習近平体制が発足しました。
 
そうして、この大会において「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」が党規約に盛り込まれたました。

約2万の漢字で構成される党規約「中国共産党章程」の構成は、総則から第十一章:党の徽章と党旗から構成されていますが、最も重要なのは総則です。

総則が規定する共産党員の「行動指針」は、これまで社会主義の先達である①マルクス、②レーニン、③毛沢東、④鄧小平、⑤江沢民、⑥胡錦濤に敬意を表し、【マルクスレーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、「三つの代表」の重要思想、科学的発展観】とあったのが、この大会のときに「習近平時代の中国の特色ある社会主義思想」という、いわゆる「習近平思想」なるものが追加されました。

まずこれは、随分長い名称であることが目を引きます。この「習近平思想」なるものの、当規約入りをどう評価すべきでしょうか。
 
まず毛・鄧・江・胡の四氏の思想は、かれらの死後ないしは引退後に規約入りした。習近平氏はバリバリの現役です。
 
「三つの代表」と「科学的発展観」には、提唱者の名前が抜けています。名がついているのは、毛沢東思想と鄧小平理論だけであり、これでは習近平は、江沢民、胡錦濤を追い抜き、毛、鄧に並んだことになります。

しかも共産主義の世界では、「思想」の方が「理論」よりも格上であることから、習近平は
「鄧小平理論」の鄧小平を追い抜き、毛沢東に並んだという考えも成り立ちます。
 
しかしここで腑に落ちないところが二点あります。
 
もし習近平が毛沢東主席並みに偉大な思想家であれば、シンプルに「習近平思想」とすればよいのなぜ、「習近平新時代中国特色社会主義思想」としたのでしょうか。
 
もうひとつは「習近平新時代」の意味するところが、よくわかりません。

結論からいえば、長い思想名となったのは政治的妥協の産物だからでしょう。演説集は、出版されているものの、著作が一作もない習氏の考え方を「思想」と位置づけて良いものなのでしょうか。

党内でも様々な意見がありながらも、周到な根回しが済んでいる重要案件を、党大会で無下に却下するわけにもいかず、そこで党内の知恵者が『新しい時代をユニークな社会主義路線で指導する習近平思想』どうかと提議して、双方が歩み寄った結果ではないでしょうか。

現役指導者にもかかわらず、党規約入りに成功したことだけみれば、習近平氏は大満足だったでしょうが、あいまいな思想名に終わってしまったことは、不本意だったに違いありません。

次に「新時代」の意味するところですが、これは2017年から国営メディアが盛んに流しているプロパガンダと辻褄を併せたもののようです。人民日報は建国以来の発展段階を3つの時代に総括しています。

中国語の表現を用いると、毛沢東は中国を「站起来(=立ち上げた)」、鄧小平は中国を「富起来(=豊かにした)」、そして習近平は中国を「強起来(=強国にした)」としています。

しかし、これは極めて乱暴な区分けではないでしょうか。毛沢東が中国を立ち上げたのは良いとしましょう。次に鄧小平が「中国を豊かにした」のも、中国を世界の最貧国から、もうちょっとで先進国に手が届くところまで引き上げたという意味では理解できます。

しかし、中国を豊かにした功績は江沢民にも胡錦濤にもあります。ここで、自分がBIG3入りしたいがために、江・胡の二人をバッサリ切り捨てるのはかなり乱暴と言わざるを得ません。

中国のビッグ・スリーを目指す習近平だが・・・

更に習近平がいう「強国」とは2035年までに「社会主義現代化を基本的に実現し」、50年までに「中国を社会主義現代化強国にする」という遠大なる目標です。

第一時代は歴史的事実、第二時代は、評価が固まりつつありますが、現在進行形です。一方、習近平の第三時代は目標・願望です。これが「中国の新時代」の正体です。

国営メディアは、奇妙なことに中国の発展段階を、過去形・現在形・未来形を混在させた形で規定しており、「富国」時代は終わっていないのに、早くも「強兵」時代がはじまったともいえるような論調です。

そうして、党規約に登場する人名は江沢民と胡錦濤が各一箇所のみです。これに比べると、習近平は11箇所も登場しますが、鄧小平は12箇所、毛沢東は13箇所です。党内の見えざる手が、しっかりバランスをとったようです。

党規約入は、習近平氏にとって大成功でしたが、①曖昧で長い思想名、②党主席制復活(習近平は国家主席)に失敗、③腹心王岐山の留任に失敗ということで、まさに2016年の党大会は、習近平にとては不本意なものであったに違いありません。

このときの失敗を取り返し、党規約に盛り込まれた「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を「習近平思想」に変えてしまうことが、習近平の野望のようです。

それを目指して、「習近平思想」なるものを小学校から必修科目として、「習近平氏の思想」が導入されたのです。小学校から高校まで教本は4冊あるとされ、大学や社会人になっても中国共産党の思想教育は継続されるようです。

習近平の野望は成就するか

これは、一つの目印になると思います。もし、党規約の中の習近平の思想が「習近平思想」と書かれるようになれば、そうして習近平が現役のうちにそうなれば、この野望は成功したとみなせるでしょう。そうして、習近平の独裁体制が成立したとみるべきです。

いくら「習近平思想」を学校などで普及させたようにみえても、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」のままであれば、成功したとはいえないでしょう。そうして、習近平の独裁体制は成立していないとみるべきです。

今後どうなるか、注目したいです。特に、今後の党大会で、どうなるのかが、見ものです。

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2021年9月15日水曜日

アフガン情勢で改めて高まる台湾の位置付け―【私の論評】アフガンと台湾とでは、地政学的条件が全く異なり、台湾守備では圧倒的に米軍が有利(゚д゚)!

アフガン情勢で改めて高まる台湾の位置付け

岡崎研究所

 8月22日付のTaipei Timesの社説が、バイデンの台湾へのコミットメントの発言について、米国の台湾に対する政策は変わらず、台湾は米国および他の多くの国々との非公式な関係を強化することで影響力を可能な限り拡大していくのが現実的である、と説いている。

 米国軍のアフガニスタン撤収を見て、台湾では一時「今日のアフガニスタンは明日の台湾」という見方が広まり、米国への信頼が大きく揺らぐ現象が見られた。それに対して、バイデン大統領は、8月17日の米ABC放送とのインタビューの中で、米国の同盟国へのコミットメントは、アフガニスタンと比較になるものではないとして、同盟国への米国のコミットメントの信頼性は変わるものではないと強調した。

 この時、バイデンは意図的か、あるいは、勘違いによるものかはわからないが、台湾へのコミットメントを日本、韓国と同列の「同盟国」の重要性を持つものとして取り上げた。そして、「我々は、NATOの同盟国に侵略や攻撃をするものがあれば対抗措置をとるという北大西洋条約第5条に厳粛にコミットしている。日本、韓国、台湾についても同様だ」と述べた。台湾の人々はこのバイデンのインタビューの記事を歓迎し、喜んだと報道されている。


 8月22日のTaipei Timesの社説は、このような台湾における米国への見方の動揺ぶりを踏まえ、「米国の台湾政策は変わらない」、米国の信頼性に一喜一憂することはない、として冷静かつ現実的に米台関係を維持・発展させるべしと述べており、傾聴に値する内容となっている。

 アフガン後の米国の対台湾政策は、米中台の対立を含め、これからその真価を問われることとなろう。

 人民日報系の機関紙「環球時報」は社説のなかで「台湾の最良の選択肢は、米国に頼って中国大陸に反抗するという路線を大幅に軌道修正することだ」と揺さぶりをかけた。これに対し、台湾の蘇貞昌・行政院長(首相に相当)は「アフガンが陥落したのは内政が乱れたことが理由で、内政が安定している台湾は如何なる侵攻にも対抗できる」と反論した。

 また、蔡英文総統は「台湾の唯一の選択肢は自らをより強くし、より団結することだ」と述べ、「民主と自由の価値を堅持し、国際社会で台湾の存在意義を高めることが重要だ」と強調した。

 ここ数年間、米国政府は台湾との間の交流・接触のレベルを上げてきており、米当局者と台湾側カウンターパートとの接触制限の緩和や米軍用機の台湾への立ち寄りなどが行われた。しかし、同時に、米国としては「一つの中国」の原則の解釈をめぐり、「戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)」を放棄することまでは考えていないと言って良い。

日本や欧州も巻き込んだパワーゲーム

 米国としては、台湾海峡の「現状」(状況が絶えず変化している中で、この言葉が如何に欺瞞的であろうとも)を変更することなく、両岸の「平和的解決」と「意味ある対話」を勧奨しつづけていく構えを見せている、というのは Taipei Times の指摘の通りである。蔡英文は最近も「圧力に屈することなく、支持を得ながらも暴走せず」、現状維持を貫くと述べている。

 なお、米国家安全保障会議インド太平洋担当調整官のカート・キャンベルが本年5月に米政府が台湾に対する政策を変更すれば、「重大なマイナス面(some significant downsides)」が生じるだろう、と述べたことは台湾人の間ではよく知られている。

 「一つの中国」の原則を順守していても米国は、台湾との「非公式な」関係を拡張する数多くの手段を持っており、台湾への確固たるコミットメントを示したいのであれば、より多くの現実的なことをなしうる、という本社説の指摘はそのとおりだろう。本社説は、台湾、中国、米国の関係は、いまや、これら三者だけの問題ではなく、日本、豪州、そして台湾との関係発展に熱心な欧州諸国など、多くの国々を巻き込んだ形のパワーゲームになっている、という。

 2期目を3年残す蔡英文にとり、重要な任務の一つは、台湾としては、様々な国との関係を強化し、それにより、いかに制約があろうとも、出来るだけ多くの場所において台湾の影響力を拡大できるようにし続けることだ、と述べ、Taipei Timesは社説をむすんでいる。このように、本社説は、最近のアフガン情勢を踏まえ、改めて世界に占める台湾の位置を見つめなおすものとなっている。

 実際、台湾の新型コロナウイルスへの対処等により、日本を含む多くの国々が台湾の世界保健機関(WHO)への参加を支持した(ただし、中国の反対によりいまだに台湾のオブザーバー参加さえ許されていない)。また、欧州からは、チェコの上院議長一行が台湾を訪問したり、リトアニアでは、Taiwanという呼名で代表事務所が開設されたりしている。

 東京オリンピック・パラリンピック2020でも、台湾は、「たいわん」と呼ばれて選手団が入場した。また、それ以上に、台湾の国際的地位を高めたのは、半導体技術である。5Gさらには6Gまで視野に入れた通信技術において不可欠な技術を台湾が握っていることである。ただ、巨大化した中国がアフガン情勢においても大きな影響力を占める中、台湾がいかに国際的存在感を高めて行かれるかは、今後も課題となっていくだろう。その中で、日本の果たすべき役割は少なくない。

【私の論評】アフガンと台湾とでは、地政学的条件が全く異なり、台湾守備では圧倒的に米軍が有利(゚д゚)!

台湾とアフガニスタンにおいては、地理的状況が全く異なります。結論からいうと、米国はア国土のほとんどが険しい山岳地帯であるフガニスタンを守ることは困難ですが、海に囲まれた台湾は守るのは比較的簡単です。

アフガニスタンを米国などの超軍事大国が守備することの難しさについては、このブログでも解説したこどかあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米軍アフガン撤収 タリバン攻勢に歯止めを―【私の論評】米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直しつつある(゚д゚)!
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
最貧国にあげられるこの国がなぜ超大国を屈服させられるのでしょうか。まず、国土の四分の三が「ヒンドゥー・クシュ」系の高い山で、超大国得意の機動部隊の出番がありません。ちなみに「ヒンドゥー・クシュ」とは「インド人殺し」の意味で、この山系を超えるインド人の遭難者が多かったことによるものとされています。
アフガニスタン ヒンドゥー・シュク山脈
 次に、古くは古代ギリシャのアレクサンドロス大王やモンゴルのチンギスハーン、ティムールなどの侵略を受けて、国民が征服者に対して「面従腹背」で対応することに慣れていることです。

 さらに、アフガニスタン人と言っても主なパシュトゥーン人は45%に過ぎず、数多くの民族がそれぞれの言語を使っているので、征服者がまとめて国を収めるのはもともと無理なことが挙げられます。

この国を征服しようとした超大国は、なす術もなくこの国を去ることになったわけですが、この後もアフガニスタンを自らのものにしようという帝国が現れるのでしょうか。

アフガンでは、超大国が大機動部隊を出しても、大編隊で重爆撃しても、武装集団を駆逐する事はできませんでした。このような山岳地帯では、正規軍が対応しようにも、武装集団は隠れる場所が多数あるからです。

このような山岳地帯においては、正規軍よりも地元の人間で個々の山を知りぬいたというか、そこで長年生活してきた人間がゲリラ戦を展開することのほうが遥かに有利です。

正規軍は長年かけても、地元の地理を知りぬいたゲリラを掃討することはできません。掃討一歩手前までいっても、残党は必ず危機を回避して、国内の山岳地帯のいずれかに逃げるか、場合によっては国境を超えて他国に行って、また、武装を強化したり、食料弾薬を得て、仲間集めて、また正規軍にゲリラ戦を仕掛けることになります。

結局この繰り返しで、正規軍は長い時間をかけても、敵を掃討することができず、物理的にも精神的にも追い詰められ、結局撤退することになるです。

これをかつての英軍、ソ連軍、そうして米軍が繰り返して失敗というか、成果をあげられなくて、結局撤退したのです。 

一方台湾はアフガニスタンとは異なる、海洋に浮かんだ島嶼です。これは、米軍に圧倒的に有利です。それについても、以前このブログで述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

中国への脅威となれる日米豪印「クワッド」―【私の論評】対潜哨戒能力も同盟関係も貧弱な中国にとって、日米豪印「クワッド」はすでに脅威(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部引用します。
現在、世界各国が持っている海軍の船は、実は2種類しかありません。1つは空母などの水上艦艇、もう1つが潜水艦です。水上艦艇はすべて、いざ戦争が起こったら、ターゲットでしかありません。

船が浮かんでいる時点で、レーダーなどで、どこで動いているのか存在がわかってしまいます。そこを対艦ミサイルなどで撃たれてしまったら、空母だろうと何であろうと1発で撃沈です。しかし、潜水艦はなかなか見つからないので、その意味では現代の海戦においては潜水艦が本当の戦力なのです。
現代の海戦においては潜水艦が本当の戦力
そういう観点から見ると、中国はたくさんの水上艦艇を所有していますが、潜水艦そのもや対潜戦闘などの能力、水面より下の戦力は弱いです。一方日米は、水面より下の戦力においては圧倒的に強いです。

サイズ的には中国海軍は、数も多いし脅威ではありますが、実際の戦闘態勢になったら、水中の戦力は日米のほうが圧倒的です。海戦ということになると、中国は日本単独と戦っても負け戦になってしまいます。

特に、日米が協同した場合、海戦においては世界最強です。日本の通常型潜水艦は、静寂性(ステルス性)に優れており、中国にはこれを発見することはできません。一方米国の原潜(米国製通常型潜水艦は製造されていない)は、攻撃型も戦略型も攻撃力は世界一です。

日米潜水艦隊が協同して、日本の潜水艦隊が情報収集にあたり、米原潜が攻撃をするなど双方の長所を生かした役割分担をした場合、これに勝てる海軍はありません。ロシアは無論のこと中国でも海戦では全く歯がたちません。

米国が、台湾を守るとすれば、攻撃型原潜を3隻ほど常時台湾の海域に配置しておけば、十分守ることができます。

台湾有事が想定された場合、600発の巡航ミサイルを積んだ「見えない空母」とかつてトランプ氏が称した、攻撃型原潜が、第1列島線の内側に入り込み、ピンポイントで中国のレーダーや宇宙監視の地上施設を攻撃して、まず「目」を奪うでしょう。そうなれば、中国は米空母などがどこにいるか把握できず、ミサイルを当てようがないです。

攻撃型原潜には、対地ミサイルのほか、対空ミサイル、対艦ミサイル、魚雷も多数配備されていますから、艦艇、航空機などもことごとく破壊できます。それどころか、

特に、米軍は対艦戦闘能力にすぐれていますがら、中国の潜水艦はことごとく撃沈されるおそれがあります。

そうなると、中国海軍が台湾に武力侵攻しようとして、中国の港を出て台湾に近づけば、空母を含めた艦艇も航空機もことごとく破壊されることになります。

運良く奇襲的に、中国軍が台湾に上陸できたとしても、攻撃型原潜に台湾包囲されてしまえば、上陸部隊は、武器・弾薬、食料・水などが補給できなくて、お手上げになってしまいます。

アフガニスタンとは大きな違いです。アフガンでは、無論米軍は攻撃型原潜を有効に使うことはできません。もしアフガニスタンのようなところであれば、中国軍はゲリラ戦もできるかもしれませんが、台湾ではそのようなことはできません。食料・弾薬が尽きかけたころに、台湾の地理を知りぬいた台湾軍に掃討されてしまうことでしょう。

アフガニスタンと台湾とでは、このように地政学的条件が全く異なり、圧倒的に米軍に有利なのです。このようなことから、アフガンから撤退し、東アジアの安全保障に力を振り向けようとする米軍が、その要ともいえる台湾から手を引くことなどあり得ません。

ところが、今年3月9日、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官が米上院軍事委員会の公聴会で、今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると証言しました。

そうして、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長(陸軍大将)は6月17日、中国が必要とする軍事力を開発するには時間がかかるため、中国が近い将来、台湾を軍事的に占領しようとする可能性は低いと述べました。

マーク・ミリー統合参謀本部議長

先に述べてきたことと、デービッドソン司令官の発言とは、矛盾します。これはどう考えるべきなのでしょうか。

先程も述べたように、サイズ的には中国海軍は、数も多いです。デービッドソン司令官は、米軍も艦艇を増やすべきと考え、予算を獲得するために、このような発言をしたものとみられます。

さらに、日本に対して弾道ミサイルを配備すべきという「政治的メッセージ」とも受け取れます。これについては、以前このブログでも述べたことですので、これに興味のある方は、是非その記事をご覧になってください。

やはり、マーク・ミリー統合参謀本部長の見解を米軍の見解とみるべきです。


中国の空母戦力が抱えるミサイルへの脆弱性―【私の論評】海戦で圧倒的に有利な日米は、 中国の空母開発を大歓迎(゚д゚)!


2021年9月14日火曜日

日本、東南アジアでテロ攻撃の可能性があるとして在住邦人に警告―【私の論評】アフガンで多くのテロ集団等が拮抗し長い間膠着状態となり、テロが世界中で蔓延する可能性は十分にある(゚д゚)!

日本、東南アジアでテロ攻撃の可能性があるとして在住邦人に警告


東京:外務省は13日、テロ攻撃の可能性があるとして、東南アジア6か国にある宗教施設や混雑した場所に近づかないよう邦人に警告した。

外務省によると、「自爆テロなどのリスクが高まっている」という情報があったという。

この警告はインドネシア、フィリピン、シンガポール、マレーシア、タイ、ミャンマーに住む邦人に向けたものだ。

このうちの数か国では、そのような脅威について何も知らず、また情報源についても日本側から伝えられていないため困惑している。

タイ外務省のTanee Sangrat報道官は、日本はこの件に関する情報源を明かさず、日本大使館も「タイに限った話ではない」こと以外に何も把握していないと述べた。

キサナ・ファサンナチャロエン警察副報道官は、タイの治安当局は、脅威の可能性について何の情報も得ていないと述べた。

同じく、フィリピン外務省も脅威が高まっているという情報について何も知らないと述べた。一方、インドネシア外務省のテウク・ファイザシャ報道官は、現地の邦人に警告が出されたこと自体を否定した。

この短い警告文の中で、日本は自国民に対し、現地のニュースや情報に注意し、「当分の間」は警戒するよう促しているが、具体的な期間やその他の詳細については触れていない。

日本の外務省は、情報源の開示や他の国々との共有に応じていない。

今回の注意喚起は関連する国々の大使館に出され、邦人に伝えられたという。

【私の論評】アフガンで多くのテロ集団等が拮抗し長い間膠着状態となり、テロが世界中で蔓延する可能性は十分にある(゚д゚)!

そのようなことを述べれば、カントリーリスクを疑われ、投資などを控えられたり、外国の企業が撤退するおそれもあります。よほど目前に明らかに、脅威が迫っている場合を除いて、いずれの国でも、テロの脅威など喧伝しないのが、国益にかなった行動といえます。

しかし、本当にテロの脅威が高まっていないと思っているとしたら、あまりにインテリジェンス能力に乏しいといわざるをえません。

なぜなら、私のような素人でさえ、国際的なテロの危険を感じるからです。それも、単なる不安などではなく、様々な情報をあたれば、その危険をひしひしと感じるからです。

世界に衝撃を与えた米同時テロから11日で20年となりました。米国は8月末でアフガニスタン戦争に幕を引きましたが、テロとの戦いに終わりは見えません。

2001年9月11日、国際テロ組織アルカイダ所属のテロリストが民間機を乗っ取り、ニューヨークの世界貿易センタービルに突っ込みました。その後のアフガン戦争は、テロ組織を根絶やしにするはずでした。

ハイジャックされた航空機が衝突し、炎上する世界貿易センタービル(ニューヨーク、2001年9月11日)

しかし20年に及ぶ戦争で米国は疲弊。イスラム主義組織タリバンの復権を許し、最終局面ではIS系勢力の自爆テロを受けました。投げ出したかのような撤収の失態も新たなリスクになりかねないです。

アフガン南部カンダハル。1日のタリバンの軍事パレードでは、米製ヘリコプター「ブラックホーク」が旋回しました。ドローンや軍用車両「ハンビー」、自動小銃M16。米国が旧政府軍に提供した武器がタリバンの手に渡りました。同国には約20のテロ組織があるとされ、アルカイダなどに流れる懸念さえあります。

テロの脅威は「アフガンをはるかに超え、世界中に転移している」(バイデン米大統領)。米国務長官が指定する外国テロ組織は70を超え20年で約2.5倍に増加しました。


米ブラウン大によれば、米国は対テロで18~20年に7カ国でドローンを含む空爆を実施し、79カ国で現地治安部隊などを訓練しました。

タリバンの勝利で、各地のテロ組織は勢いづいています。アルカイダ幹部はタリバン復権について「歴史的勝利だ」と称賛し、米への再攻撃を辞さない構えをみせています。

テロ組織の活動も20年で大きく進化しています。

「暗号資産(仮想通貨)の寄付集めを含む洗練されたサイバー技術だ」。米司法省は20年8月、アルカイダやISなどのテロ組織から数百万ドルの仮想通貨を押収したと発表しました。

米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は6月、ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃の脅威は、同時テロ並みだと危機感も示しました。今後、多くのテロ組織がサイバー空間での活動を本格化させる懸念が高まっています。

アルカイダや「イスラム国」を支持する武装勢力は東南アジア、南アジア、中東、アフリカなど各地にあります。それらの活動は基本的には地域的なものですが、数としては限定されるものの、これまでも現地にある欧米権益などはテロの標的になってきました。

昨今のアフガニスタン情勢が各地の武装勢力の士気を高め、テロ活動がエスカレートすることへの懸念の声も聞かれます。

たとえば、インドネシアでは歴史的にアルカイダと関係があるイスラム過激派「ジェマーイスラミア(JI)」や「イスラム国」を支持する「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」が活動しており、インドネシアの治安当局はネット監視を含め警戒を強めています。

新華社通信(8月20日報道)によると、インドネシアでは8月中旬に国内11州でテロ組織への一斉摘発が行われ、インドネシア独立記念日(17日)にテロを計画していた容疑で計53人を逮捕され、うち50人がJIのメンバー、3人がJADのメンバーだったといいます。

 ロイター通信(8月29日報道)によると、マレーシアではタリバンがカブールで最近拘束した「イスラム国ホラサン州」の戦闘員6人のうち2人がマレーシア人だったということで、政府はこの件で警戒を強めています。

また、英国の情報機関は7月、アフガニスタン情勢が悪化すれば、イスラム過激思想の影響を受ける英国人がアフガニスタンに渡り現地のテロ組織に参加し、帰国後、国内でテロを実行する恐れがあるだけでなく、アルカイダなどは自らの勝利と認識してネット上での広報活動を活発化させ、国内に潜む過激派分子が刺激を受け単独でテロを起こす危険性があるとの認識を示しました。

 今日、アフガニスタン情勢が直接的に、グローバルなテロリスクになっているわけではありません。しかし、アフガニスタンが再び内戦の模様を呈し、第2次タリバン政権と諸外国の関係構築が上手くいなかければ、中長期的にはこういったリスクが現実を帯びてきます。

アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは7日、暫定政権の主要閣僚を発表し、最高指導者アクンザダ師が声明で「すべてはイスラム法(シャリア)によって統治される」と宣言しました。首都カブール制圧後は穏健路線を掲げ、あらゆる勢力による「包括的な政府の樹立」を主張していましたが、強権統治時代からの幹部らが独占する体制となりました。

統治の基盤固めを急ぐタリバンは、国民に経済復興などへの参加を呼び掛け、国際社会に支援を要請しました。ただ、米政府は一部閣僚の所属組織やこれまでの活動に懸念を示しており、国内外の「タリバン政権の承認」は難航必至です。

現地メディアなどによると、閣僚ら33人が任命され、複数ポストは調整中。将来の国家体制を決める暫定政権だといい、首相のモハメド・ハッサン・アフンド師をはじめ、国連の制裁対象者や、米国が国際テロ組織に指定するグループ幹部らが名を連ねました。

タリバンの母体のパシュトゥン人が大半を占め、現段階で女性やガニ前政権のメンバーらは含まれていません。


2001年に崩壊した旧タリバン政権時代、厳格なイスラム法の実践を監督した「勧善懲悪省」も復活しました。女性の権利や娯楽が厳しく制限された当時、暴力的な取り締まりを行い、市民に恐れられました。

首相のアフンド師は「厳格な宗教指導者」とされ、旧政権で副首相などを務めました。バーミヤン巨大石仏の破壊を認める立場にあったとされています。

国際テロ組織アルカイダや、過激派組織「イスラム国」(IS)との関係を指摘されるタリバン最強硬派「ハッカニ・ネットワーク」からは、シラジュディン・ハッカニ指導者が内相に就任した他、幹部数人が閣僚に任命されました。アクンザダ師は政府の上位で意思決定する「評議会」(シューラ)を主導します。

暫定政権の発足を前に、派閥の主導権争いが伝えられました。タリバンの内情に詳しいパキスタン人専門家は「亀裂が深まるのを避けるため、ポストをすべて分け合った結果、排他的な政府となった」とみています。

これでは、第2次タリバン政権と諸外国の関係構築が上手くいくことはありません。そうして、アフガニスタンは内戦状態になるでしょう。

タリバン、旧アフガニスタンの軍の残党、アルカイダなどのいくつもの武装集団などが拮抗し、長い間膠着状態となり、紛争が継続されることになるでしょう。そうなれば、テロが世界中でエスカレートする可能性は十分にあります。

東南アジアでのテロは、その前哨戦になる可能性もあります。

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