2022年6月3日金曜日

プーチンが変えた世界のバランス・オブ・パワー―【私の論評】リアルな立場に立脚すれば、日本こそウクライナ戦争を終わらせる原動力になり得る(゚д゚)!

プーチンが変えた世界のバランス・オブ・パワー

岡崎研究所

 プーチンはウクライナをロシアに吸収合併し、ベラルーシとの3カ国よりなる「ミニ・ソ連の再興」を夢見たのだろうが、結果としては、国連憲章にある戦後の秩序を壊し、ロシアの国際的な地位にも大きな損害を与え、制裁によりロシア経済も疲弊させている。


 オースティン米国防長官はウクライナ訪問後、ロシアを弱体化することを目的にするとの発言をして、一部から批判されたが、キッシンジャーは、プーチンがそういう状況を自ら作り出していると指摘している。その通りである。

 ウクライナ戦争により世界のバランス・オブ・パワーは大きく変化している。このことにつき、ワシントンポスト紙コラムニストのデヴィッド・イグネイシャスは、5月17日付け同紙掲載の論説‘The new balance of power: U.S. and allies up, Russia down’で概観を試みている。イグネイシャスは、以下の諸点を指摘する。

・単純に言えば、米国と欧州の同盟国は上に上がり、ロシアは下に下がった。

・プーチンの誤算は中露関係に影響を与え、中露分断の機会もあり得る。

・中露の勢いが削がれる中、米国はアジアでの戦略パートナーシップを推進。

・インド、サウジアラビアなど湾岸諸国、東南アジア諸国、ブラジルといった「重要な中級国家」において米国は機会を持つ。

・米の軍事力、情報優位、戦略的パートナーシップは圧倒的に強いということを、世界中が想起。

 イグネイシャスによる上記の俯瞰は、大体当たっているように思われる。

ロシアへの民主化の波は訪れるのか

 将来のウクライナについて言うと、ウクライナが分裂国家になっても欧州連合(EU)に入り、民主主義国として繁栄するようになると、人的にも文化的にもつながりの多いロシアにそれが影響しないわけはないと考えられる。民主的なウクライナがロシアの民主化を促進する可能性は強いと思われる。ドイツなどがウクライナのEU加盟に否定的であることは、その意味で視野が短絡的に過ぎるように思われる。

 プーチンは政権の座から引きずり落とされてしかるべきだが、これはロシア人自身がやらなければならない問題である。このような失敗をしたプーチンへの不満がロシア国内でもくすぶっているはずで、その素地に点火する人が出て来る可能性は否定できないだろう。

【私の論評】リアルな立場に立脚すれば、日本こそウクライナ戦争を終わらせる原動力になり得る(゚д゚)!

バランス・オブ・パワーとは、国際政治における勢力の均衡を指す国家間の秩序モデルです。各国の勢力を均等化することで現状を維持し、緊張を含みながらも平和を継続させる効果を持つのです。

このバランスが崩れると秩序は混乱し戦争が生じます。19世紀の大英帝国は国家戦略として勢力均衡を適用し、国益を維持したといわれます。戦争を抑止するために各国間で条約を結んだり、地域や国際的な集団保障体制を構築したりして安定的な秩序を保ちます。

現代の国際連合は秩序維持の代表的なメカニズムです。しかし、未来永劫、繁栄を極める国や継続する同盟はなく、パワーポリティクスのもとでは国家は勢力の拡大を目指します。国家の興亡によって均衡が崩れると、パワーシフト(力の移行)が生じます。

現実の世界は、ヴェストファーレン条約以来、米ソの冷戦時代を除き、数カ国のパワーオブバランスの上になりたってきたのです。ちなみに、ヴェストファーレン条約(ヴェストファーレンじょうやく、独: Westfälischer Friede、英: Peace of Westphalia)は、1648年に締結された三十年戦争の講和条約で、ミュンスター条約とオスナブリュック条約の総称です。英語読みでウェストファリア条約とも呼ばれます。近代における国際法発展の端緒となり、近代国際法の元祖ともいうべき条約です。

ヴェストファーレン条約締結の図

この条約によって、ヨーロッパにおいて30年間続いたカトリックとプロテスタントによる宗教戦争は終止符が打たれ、条約締結国は相互の領土を尊重し内政への干渉を控えることを約し、新たなヨーロッパの秩序が形成されるに至ったのです。この秩序をヴェストファーレン体制ともいいます。

そうして、第二次世界大戦後のバランス・オブ・パワーに挑戦をしたのが、ロシアであり、それを絶対に許さないという姿勢で臨んでのが米国とその同盟国です。そうして、ロシアは第二次世界大戦中に、独ソ戦で多大な犠牲を出しつつも連合国側につき、戦後に当時のソ連が勝ち取りそれを引き継いだロシアの常任理事国の地位を失うことになります。

こうしたロシアの蛮行に対して、リアリストとリベラルの受け止め方は大きく異なります。リアリストは、以前からNATOの東方拡大はロシアの死活的な安全保障上の利益を脅かすことになり、同国はそれを守るための軍事行動を厭わないので危険だと主張していました。

したがって、リアリストはロシアがウクライナを侵略した意味をNATOがロシアの生存を脅かした予想された結果であり、不幸にしてウクライナが犠牲になってしまったととらえたようです。

他方、リベラルは、ロシアの侵略に大きな衝撃を受けました。この学派の人たちは、ロシアが引き起こした国際法に違反する行動を「法の支配に基づく国際秩序」を破壊する重大な「犯罪行為」だと解釈したのです。

リベラルは、国際社会を発展する規範や制度から構成されるものとみなす傾向にあります。とりわけ、リベラル派は、主権国家間の境界線を尊重する「領土保全規範」が、国家の他国への侵略を抑制する重要な役割を果たしていると信じていました。

その規範を大胆に破ってウクライナを軍事力で攻撃したロシアの行動は、国際社会全体の「公共善」に対する挑戦であると、リベラルは危機感を募らせたわけです。だから、リベラルの人たちの多くは、ウクライナとロシアの戦争を「善と悪」との闘争とみなしたのです。

他方、リアリストはロシア・ウクライナ戦争をバランス・オブ・パワーの変化が引き起こした事象と理解しています。したがって、リアリストはこの戦争に善悪の基準を当てはめようとしないのです。

リアリストは、戦争には必然的にパワーの分布が反映されるとみなします。したがって、戦争の終結形態は、残念ながら、ロシアとウクライナの国力の差に左右されてしまうとリアリストは主張します。リアリストの重鎮であるアメリカの元国務長官ヘンリー・キッシンジャー氏は、ウクライナがロシアに領土を割譲すべきととれる発言をして、たいへんな物議をかもしました。

彼は5月23日、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)において、「今後2カ月以内に和平交渉を進めるべきだ」との見解を示すとともに、「理想的には、分割する線を戦争前の状態に戻すべきだ」と述べました。この「戦争前の状態」という言葉は、ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島や、親ロシア派勢力が支配する東部ドンバス地方の割譲を意味すると受けとられました。


この発言に対して、ウクライナのウォディミル・ゼレンスキー大統領やドミトロ・クレバ外相は猛反発しました。かれらは、ロシアに譲る地域にはウクライナ人が住んでおり、ロシアへの譲歩は戦争を防げなかったではないかと、キッシンジャー氏を激しく批判しました。

バランス・オブ・パワーといった地政学的要因がウクライナの行動を制約していることについて、ウクライナ政府内では、その受け止め方に迷いがあるようです。

ゼレンスキー大統領は「私たちには戦う以外の選択肢はない」「侵略者を罰するための前例がなければならない」「侵略者が全てを失えば戦争を始める動機を間違いなく奪うことができる」と強気の発言をしています。

ロシア軍が東部ドンバスや南部ミコライウで空爆や砲撃を実施し攻勢を強めた中、アンドリュー・イェルマーク大統領府長官は5月22日、「戦争は、ウクライナの領土の一体性と主権を完全に回復して終結しなければならない」と述べて、ウクライナは停戦や領土の譲歩はしない姿勢を示しました。

こうしたゼレンスキー政権の対ロシア政策は、ウクライナ国民に広く支持されています。ウクライナ国民の82%は、戦闘が長期化して国家の独立性への脅威が高まることになっても、ロシアとの交渉で領土を割譲すべきでないと考えていることが、世論調査の結果で分かっています。

その一方で、ゼレンスキー大統領は5月21日に報じられたテレビインタビューで、ロシア軍がウクライナへの本格侵攻を開始した2月24日以前の領土を取り戻すことができれば「ウクライナにとっての勝利とみなす」と表明して、クリミア奪還は必ずしも目指さないと示唆していました。この方針は、先述のキッシンジャー氏の提言とあまり変わりません。

おそらく、ゼレンスキー大統領としては、理想としてクリミア半島を含むすべてのウクライナの領土をロシアから取り返したい反面、それを目指すことはロシア軍との戦闘が長く激しくなり、国民の多くの生命を犠牲にしてしまうことも理解しているのでしょう。こうしたジレンマに直面して、普通の人では想像できないような深く苦しい悩みを抱えるゼレンスキー氏の心情は、察するにあまるものです。

くわえて、ウクライナを支援するNATOの軍当局者にも、同様の迷いがあるようです。かれらは、ドンバス地方やクリミア半島の一部地域では地元住民からの反発も考えられることから、ウクライナ政府が実際に領土を取り戻すために戦うべきかどうかについては、疑問な点もあると述べています。

言うまでもないことですが、ウクライナ政府がロシアとの戦争の目的と手段を決める明白な権利を持っています。われわれにできることは、外からウクライナを助けることです。問題は、関係各国が、どのようにウクライナを支援するかです。

リアリストの答えは、自国の国益の観点からウクライナ政策を打ち出すべきだということになります。他方、リベラルの処方箋は、国際社会の公共善を守るために、その規範を踏みにじったロシアという悪を徹底的に打倒すべきとなるでしょう。

ウクライナの最大の支援国である米国は、今のところリベラル派の進言にしたがって行動しているようです。バイデン政権は、第二次世界大戦後、初めてとなる戦時の「レンド・リース法」をウクライナに適用して、全面的で大規模な軍事援助を行っています。

また、アメリカはヨーロッパにおいて、異例ともいえる大規模な増派をしています。アメリカのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、侵攻前にヨーロッパに展開していたアメリカ軍の兵力規模は、米軍欧州軍や陸海空軍、海兵隊、宇宙軍を合わせ約7万8000人だったが、わずか数カ月で30%増となり、10万2000人態勢に拡大したと発表しました。これは中国の脅威の増大を念頭においたリバランス政策において、インド・太平洋地域に展開してきた米兵数を上回っています。アメリカは再びヨーロッパに回帰したのです。

こうしうたアメリカのウクライナ支援策については、リアリストから苦言が呈されています。ジョン・ミアシャイマー氏は、以下のようにバイデン政権を批判しています。
オバマ政権で副大統領を務めていたバイデンは、ウクライナ加盟の”超タカ派”として動いてきました。彼は、ウクライナのNATO加盟に積極的になるのです。バイデン大統領は現在のウクライナ危機を引き起こしたメインプレーヤーの一人です。バイデン自身が副大統領時代にウクライナのNATO加盟にコミットしすぎたためでしょう。それでリアリストのロジックではなく、リベラル覇権主義のまま(ウクライナに)肩入れしていったわけです。ウクライナにいるロシア軍を決定的に敗北させ(ることは)。ロシアの生存を脅かしている。これはまさに『火遊び』なのです。
(『文藝春秋』2022年6月、149-156ページ)。
ミアシャイマー氏の見解が正しければ、アメリカがウクライナ情勢に深入りしすぎてしまったため、ロシアを交渉により戦争終結へと動かすことは不可能になってしまったようです。

ミアシャイマー氏

米国に戦争の「出口戦略」がないことは、以前から識者が懸念していました。外交問題評議会のリチャード・ ハース会長は、「奇妙なことに、ウクライナでの西欧の目標は初めから明確とは言い難い。ほぼ全ての議論が手段に集中している。何が戦争を終わらせるかにほとんど言及がない。どう戦争を終了すべきかに答えることは、ロシアとの闘争が重大局面をむかえる中、大規模な戦闘の気配がするので、死活的に重要だ」と早くから指摘していました。

最近になって、アメリカの専門家から、西側は戦争終結の出口戦略とウクライナ支援をパッケージにすべきだとの積極的な意見もだされるようになりました。ブレンダン・リッテンハウス・グリーン氏(ケート研究所)とカイトリン・タルマージ氏(ジョージタウン大学)は、ロシア軍の完全な敗北を目指すと核の惨劇のリスクは高まり、そうならなくても人道被害は甚大になるので、西側は武器支援をキーウが受け入れ可能な紛争解決に関連づけ、「必要であれば(ウクライナへの)軍事支援の栓を閉めることも厭わないと示す」べきだと踏み込んだ提言をしています。

現在、米国やウクライナはリベラルの助言に従っています。これはバイデン大統領が、5月23日、ロシアのウクライナ侵攻について「プーチン大統領に責任を負わせる」と述べたことに表れています。ウクライナ大統領府長官のアンドリュー・イェルマーク氏も「今日、善と悪の間に中間は存在しない。あなた方は、善につくか、悪につくかのどちらかだ」と、リベラル派の言説でロシアのウクライナ侵略への西側の支援を訴えています。

日本はウクライナへの経済支援に全力を傾けています。岸田文雄総理大臣は「日本としては、世界銀行と協調する形で、従来の3億ドルを倍増して6億ドルの財政支援を行うことにする」と述べ、さらに3億ドルの借款を追加する方針を明らかにしました。これにより日本のウクライナへの借款は6億ドル、日本円でおよそ770億円規模となります。

同時に、日本は中国や北朝鮮の脅威に対処するために、防衛費を現状の2倍にすることを目指しています。ウクライナの勇敢な戦いを支えながら、台頭する中国の脅威から安全保障を確保しなければなりません。こうした苦境を打開する万能薬が日本にはあります。それは、安倍元総理も述べたように、政府日銀連合軍による調達です。

政府が大量に国債を発行し、日銀がそれを買い取るという方式です。これにより、防衛費をケンづいの2倍にしても財政的に苦しくなることはありません。現に、安倍・菅両政権の期間には、合計で真水の100兆円にものぼる補正予算を組み、コロナ対策を実施しました。これと米国などにはない雇用調整助成金制度で、日本はコロナ感染が拡大しても、失業率が2%台で推移させるという他国には見られない偉業を達成しました。

この方式の唯一良くない点は、インフレを招いてしまう可能性ですが、日本はもともとデフレ気味だったので、コロナ対策期間中には米国やヨーロッパのように6%〜8%ものインフレになることはありませんでした。

総理大臣在任期間中に多大な成果をあげた安倍氏と菅氏

最近では、消費者物価指数が全体では2.5%ですが、コアコア(生鮮食料品、エネルギーを除く)では、0.8%であり、まだまだ余裕があります。エネルギー価格の上昇などを手厚く保護しつつ、積極財政を行うことで、政府日銀連合軍により、防衛費を獲得しつつ、ウクライナに対して米国に迫るような支援をすることは可能です。

岸田政権は、そうしたことを実施すれば、ウクライナや米国や西側諸国に対して、存在感を発揮することができます。その上で、米国や西側同盟国とウクライナを交えながら、ゼレンスキー政権が受け入れ可能な「出口戦略」を本格的に協議してもよいのではないでしょうか。そして、リベラル寄りの西側の戦略をリアリストの方に少しずつ動かす努力は、検討に値するでしょう。

中国という出現しつつある地域覇権国の脅威にさらされる日本の国民は、国益を最大化できる国家戦略について感情的にならず冷静に考えて、その答えをだすことが求められると私は思います。

しかしながら、現在のアメリカには、そうした政治的意思はないようです。ロイド・オースチン国防長官は「アメリアはウクライナとロシア間の和平取引にとって可能性のある条件を要求してはいない」と発言して、バイデン政権が「出口戦略」をゼレンスキー政権と構築することを否定しています。

このままでは、ウクライナ戦争はいつまで続くかわかりません。現状ですぐに、リアルな解決法を模索することは、ロシアのプロパガンダに利用されるだけかもしれません。そのことを恐れたからこそ、2月24日以前の領土を取り戻すことができれば「ウクライナにとっての勝利とみなす」というキッシンジャー氏の発言にゼレンスキー大統領は、激怒したのでしょう。

しかし、今はまだ戦争が始まってから3ヶ月程度です。6月中には戦争がはじまってから4ヶ月を迎えます、8月になれば半年です。来年1月になれば、1年です。

6ヶ月を超えても、戦争がいつ終わるかわからない状態が続けば、ロシアは経済的にも軍事的にも疲弊し、ウクライナは自国領土が戦場といことで疲弊します。両方とも、先が見えないことに対してかなりの不安を感じることになるでしょう。

半年を超えたあたりから、ロシアもウクライナも理想論や原理原則ばかりを語ってはおられなくなり、現実的な「出口」戦略を模索することになるでしょう。

まさに「戦争にチャンスを与えよ」で米国の戦略家ルトワック氏が語っていたことが現実になるのです。ルトワック氏は、平和な時代には人々は戦略問題を軽視し、近隣諸国の不穏な動きにも敏感に反応せず、日常の道徳観や習慣の方を戦略課題よりも優先してしまう。このために戦争のリスクが一気に高まるといいます。今の日本の状況はまさにそうかもしれません。

また、戦争が始まると男達は戦争に野心やロマンを見出し、嬉々としてこれに参加しようとします。しかし、戦争が一旦始まり、膨大な量の血と物資の消耗が始まると、最初の野心は疲弊と倦怠感に取って代わり、戦う気力はどんどんと失われていきます。

人々は遺恨や憎しみよりも平和を希求するようになるといいます。あるいは抗争中のどちらかの勢力が圧倒的な勝利を収めた際も戦争は終結します。破れた側に闘う力が残されていないためです。戦争を本当の意味で終結させるのは膨大な犠牲を待たねばならないのです。つまり戦争が平和を生むのです。

これは、リベラリストには到底受け入れがたいことでしょうが、これは冷徹な現実なのです。現在中途半端に介入すれば、遺恨が残り戦争の種はくすぶり続けることになります。

ウクライナ、ロシアがともに平和を希求するようになったとしても、リベラリズムで固まった米国の態度は変わらない可能性が大きいです。その時こそ、日本の出番です。米国や西側同盟国とウクライナを交えながら、ゼレンスキー政権が受け入れ可能な「出口戦略」を本格的に協議して、ロシアとの仲介役を買ってでるべきです。

日本にはこれに似たことをすでに実施したことがあります。それはインド太平洋戦略です。これは、安倍晋三氏が総理大臣だった頃に提唱し、それをトランプが受け入れて、現在でも米国の基本戦略になっています。バイデン政権も今年になってからはじめてバイデン政権の「インド太平洋戦略」を公表しています。

ただ、これも米国だけが動いていたとしたら、インド太平洋地域や関係国には米国に反発する勢力も多く、なかなか今日のような形にはならなかったと思いますが、安倍総理が米国とそれらの国々との橋渡し役を買ってでたため、今日のような形になったといえます。これを米国は高く評価しています。

これは、ウクライナ戦争停戦でも同じようなことがいえると思います。米国や中国、ましてやロシアが直接動いては、反発する勢力も多いです。EUも反発される可能性が大きいです。しかし、日本なら米・EU、中露よりは反発は少ないです。

これを評価しないというか、無視するのが日本国内のメディアや野党です。先にも述べたように、日本国内では安倍・菅両政権の期間には、合計で真水の100兆円にものぼる補正予算を組み対策を実行して、輝かしい成果をあげたのですが、メディアはこれを失敗したかのごとく印象操作し、実際失敗したと思い込んでいる人も多いようです。しかし、当時の数字をみれば、そうではないことがはっきりわかります。

菅政権は日本特有の強力な鉄のトライアングル、特にその中でも、医療村の強烈な抵抗にあって、病床確保には失敗しましたが、それでも結局医療崩壊を起こすこともなく、驚異的なワクチン接種率の向上を実現し、深刻な経済の落ち込みも招くことなく、相対的に大成功しました。

このような日本の潜在力を十二分に発揮すれば、日本こそウクライナ戦争を終わらせる原動力になるくらいの能力を持っているといえます。

ただ、リベラル的な観点から物事をみていては成就しません、やはりリベラル・保守などの立場を超えて、リアルな立場から物事をみていくべきです。綺麗事、お花畑、理想・理念に凝り固まり、現実から目をそらしていれば、何も成就しません。

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2022年6月2日木曜日

立民が主張する「金利引き上げ論」 実施すれば失業率上昇、円高進みGDPが減少 安保は「お花畑論」経済政策も真逆…的外れの野党―【私の論評】参院選では自民が勝利するが、その後には積極財政派に転向するよう緊縮派議員に丁寧に陳情しよう(゚д゚)!

日本の解き方


政衆院予算委で立憲民主党の泉健太代表の質問に答弁する岸田文雄首相=26日午後、国会・衆院第1委員室

 5月26日の衆院予算委員会で、立憲民主党の泉健太代表が「物価高を止めるという意味では金利を少し引き上げることも選択肢に入れるべきではないか」と質問した。

 金融政策の鉄則として「ビハインド・ザ・カーブ」というものがある。インフレ(物価上昇)に対して意図的に利上げのタイミングを遅らせることだ。逆にいえば、物価の上昇を先取りする予防的な利上げは行わないという伝統手法だ。

 米国で実際に行われたので、米国のインフレ率の推移を見ておこう。全体の消費者物価指数の対前年同月比は、今年1月が7・5%、2月は7・9%、3月は8・5%、4月は8・3%だった。エネルギーと食品を除く指数は1月が6・0%、2月が6・4%、3月が6・5%、4月が6・2%だった。

 米国は政策金利を3月中旬に「0・0~0・25%」から「0・25~0・5%」へ、5月上旬にはさらに「0・75~1・0%」へと引き上げた。米国で利上げに転じたのは、全体のインフレ率が8・5%、食品・エネルギーを除くインフレ率が6・5%になってからだ。

 翻って、日本ではどうか。4月の消費者物価総合は前年同月比2・5%、生鮮食品・エネルギーを除く総合で0・8%だ。これらが米国並みに8%台と6%台となれば、さすがに利上げを考えるべきだが、当分その気配もない。というのは、日本では、GDPギャップ(総供給と総需要の差)が30兆円以上もあると考えられるので、多くの業界で需要不足である。そのため、原材料・エネルギー価格が上昇しても十分に転嫁できず、インフレ率が高騰するような状況ではないからだ。

 この状況で、もし万が一利上げしたら、設備投資などの需要がさらに落ち込み、GDPギャップはさらに拡大する。GDPギャップが拡大すると、半年後くらいに失業率が高くなるだろう。と同時に、インフレ率は下がり、下手をするとデフレに逆戻りになる。また、利上げは円高要因になるが、それはGDPを減少させ、雇用も失うことになるだろう。

 これは経済協力開発機構(OECD)の計量モデルでも確認できる。日本が金利を1%上昇させると、1~3年間でGDPは0・2%低下、インフレ率も0・1%程度低下する。

 日本の内閣府の計量モデル(2018年度版)では、短期金利を1%上昇させると、1~3年間でGDPは0・12~0・23%低下、消費者物価は0・02~0・06%低下、失業率は0・01~0・03%上昇と試算される。GDPギャップは0・11~0・17%拡大する。

かつて、筆者はテレビ討論番組で興味深い体験をした。一緒に出ていた民主党(当時)の枝野幸男氏が「金利を上げた方が経済成長する」という独自の論を展開し、「テレビで言わないほうがいい」と諭したのだ。

 野党の経済政策が頼りないのは、こうした間違いを平気で言うからだ。安全保障は「お花畑論」、経済政策も真逆という的外れの野党がいるおかげで、自民党は楽に参院選を戦えるのではないか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】参院選では自民が勝利するが、その後には積極財政派に転向するよう緊縮派議員に丁寧に陳情しよう(゚д゚)!

確かに立憲民主党の経済認識は間違っていますし、安保でもお花畑でお話になりません。

ただ、経済の認識ということでは、自民党の大多数の議員も似たりよったりです。ただ、自民党の中には少数ではありますが、正しい経済認識をする人もいます。これが野党との決定的な違いであると思います。

こうしたことを反映してか、参院選の前哨戦ともいわれる選挙で立憲民主党は敗退しています。

新潟県知事選の投開票が29日行われ、現職の花角英世氏が「原発再稼働反対」などを訴えた住宅メーカー副社長の片桐奈保美氏を破り、再選を果たしました。事前の世論調査や出口調査などから花角氏の勝利は予想されていたものの、注目されたのは、その圧勝ぶりです。花角氏の得票数は全体の約77%にあたる70万票あまり。一方、片桐氏は約20万票にとどまりました。


今回の知事選の結果が夏の参院選に直結するとは考えにくいです。しかし、影響がまったくないとも言い切れないです。新潟県知事選にあたってNHKが29日に行った出口調査によると、新潟県内の政党支持率は、自民が51%で立民が10%だったのです。

今夏の参議院選挙で、新潟選挙区(改選定数1)は4選を目指す立憲民主党現職の森ゆうこ氏と、自民党新人の小林一大新潟県議との一騎打ちと予想されています。森氏が3選を果たした前回の2016年と2019年と2回連続で野党候補が競り勝っています。

特に森氏の選挙戦は壮絶を極め、自民党候補と森氏との得票数の差はわずか0.2ポイント、票差にして2279票の大激戦でした。そうした記憶も残る中、この政党支持率は森氏にとって衝撃的ではないでしょうか。

森ゆうこ議員

参院選は全国45選挙区のうち、32を占める定数1の「1人区」が結果を左右する。前回2019年の参院選では、1人区で自民党が22勝しました。

報道向けのデータ収集を行うJX通信社(東京都千代田区)が4月23~25日に全国約2万7千人を対象に実施した情勢調査によると、1人区の7割超を占める24選挙区で自民候補がリードしていることがわかりました。 

獲得議席予想は自民52〜71、公明10〜15、立憲11〜26、維新10〜21、共産4〜10、国民民主2〜4、れいわ1〜3、社民0〜1などとなってます。 

約半数の有権者はまだ態度を明らかにしておらず、各党の候補者擁立も完了していないため情勢は流動的であることが大前提です。しかしこのままいけば、「自民圧勝」が濃厚といえそうです。同社の情勢調査事業責任者でデータアナリストの衛藤健さんは「自民の強さの要因は野党にある」といいます。

「野党の票が割れているのが大きいと見ています。昨年の衆院選で『野党共闘は失敗した』と言われましたが、選挙結果を冷静に分析すると、着実に票の取り込みにつながっていて、実際には成功しています。ただ、立憲・共産両党の底力がそもそも弱くなっているため失敗に見えるのだと思います。今回もある程度候補者を一本化できれば、もっといい勝負ができる選挙区は少なくないでしょう」

衛藤氏は続けてこのようにも語っています。

「現状の支持率は立憲のほうが維新より上ですが、最終的に維新が上回る展開は十分あると思っています。今回の参院選は二大政党の一翼を担ってきた旧民主党系の政党が伸び悩み、野党第1党が維新に変わる転換点になる可能性があります」

その理由は、民主党政権時代の政権担当能力への疑問が払拭されておらず、「立憲は無党派層の支持が弱いから」だといいます。かつては「投票率が下がれば自民党が有利」というのが選挙の常識でしたが、今は様相が異なるようです。

 「無党派層からの支持が最も多いのは自民。野党では維新です。投票率が上がれば上がるほど自民党が有利になり、野党だと維新が伸びると見ています」(同)

 「自民一強」は岸田内閣の支持率の高さにも表れています。全国平均は48.7%で、不支持率が支持率を上回る選挙区はゼロ。ちなみに全国最高は岸田文雄首相の地元の広島県で69.6%、最低は沖縄県で37.3%でした。

夏の参院選で投票したい政党や投票したい候補者がいる政党を日本経済新聞社の最近の世論調査では、もっとも多かった回答は自民党で50%でした。2位は日本維新の会の8%、3位は立憲民主党の7%でした。自民党が優勢ということでは、変わりはないようです。

自民党が参院選負けると、参院議員の任期は6年ですから、6年間影響します。また、憲法改正もできなくなります。2007年の参院選敗退が民主党の政権交代のきっかけとなったことも忘れるべきではありません。

日本では、事業計画や予算は政府というよりも自民党の党内政治で決まる構造になっています。そうして、野党にはこのような機能はなく、野党が政権をとった場合、官僚による一方的な政治がおこわなれることになります。実際、民主党政権のときには私達は、その有様をまざまざと見せつけられたのです。

民主党政権というと、あの「一番でないとだめなんですか」という蓮舫議員の言葉で象徴されるように事業仕分けが有名ですが、あの事業仕分けを裏で仕切ったのは財務省です。

野党が政権をとると、いかに善意の野党であったとしても、結果として今の日本では、官僚主導の一方的な政治になってしまうのです。

この日本の政治システムに関しては、以下の渡邉哲也氏のロング・ツイートがかなり平易に解説しています。ぜひご覧になってください。


日本は独裁国家ではありません。日本の国政は行政の長である総理よりも議会の方が強く、総理に関与できる範囲は限られます。逆に地方は首長の力が非常に強く、議会は監視と後承認機関になっています。地方は独裁的な政治を行うことができる仕組みです。

現在、岸田政権において実施される補正予算は2.7兆円に過ぎず、これでは焼け石に水であり、ほとんど対策らしい対策はできないのは目に見えています。

しかし、これは岸田総理が決めているというよりは、自民党党内で緊縮派の勢力が強くそのような結果になっていると見るべきです。

安倍元首相は、マクロ経済に明るい方であり、第二次安倍政権のときには、デフレから完璧に抜けきれていない日本で、消費税増税をするなど夢にも思わなかったでしょうし、絶対にそうしたくなかったでしょうが、結局党内での緊縮派の勢力のほうが強く、結局在任中に2度も消費税増税をせざるを得ませんでした。安倍総理としては、断腸の思いだったことでしょう。

岸田首相も同じような立場にあるのです。しかし、首相がどうであれ、党内で緊縮派の勢いが強ければ、2度にわたる消費税増税が行われてしまうのが日本なのです。もちろんそうした政治風土は変えていかなくてはならないとは思いますが、現実はそうなのです。その現実の中で私達は、政治を変えていかざるを得ないのです。

岸田総理

であれば、まともな経済対策を望むなら、積極財政派を自民党内で増やすしかないのです。参院選では1人が、選挙区と比例区(以下、比例代表)の2票を投票することになります。選挙区では、自民党の候補者に入れ、2枚目はの比例代表では、政党名と個人名が書けますが、積極財政派の議員の名前を書くべきです。

そうして、選挙が終わって、自民党が勝利すれば、その後は昨日も述べたように、陳情をすべきです。選挙が終われば、自民緊縮派議員に緊縮ではなく積極財政をすべきという内容で丁寧に陳情すべきです。なぜなら、自民党内で積極財政派を増やしたいなら、もともと積極財政派である人に陳情しても、積極財政派が増えることはないからです。

先にも述べたように、今回の参院選は野党の不甲斐なさで、自民党が勝利を収めそうですが、勝利した後では、緊縮派議員に対して積極的に陳情をすべきです。地元の議員が緊縮派であれば、なんとか会う機会をつくるなり、文書を送るなりして、陳情すべきです。

緊縮派政治家に保守的政策の陳情をしてもあまり意味がないです。 そうでない自民党の議員に陳情して考えを変えてもらう必要があるのです。自分が積極財政派であれば、積極財政派の議員に話たり、陳情するのは楽でしょう。それでも、それで何かをしたつもりになれるかもしれませんが、 内輪の議論をしていても意味はありません。 それでは輪が小さくなるだけです。そうして、昨日も述べたように陳情はツイッターでもできます。便利な世の中になったものです。

そうして、陳情するときには、丁寧にすべきです。れいわ新選組の大石晃子議員の首相への発言が話題を呼んでいます。大石氏は1日の衆議院予算委員会で、首相を「資本家の犬、財務省の犬」といった言葉を用いて痛烈に批判しました。このような態度は許されないです。

このようなことをすれば、意味はなく、ただ無礼であるとの印象を相手に与えるだけです。緊縮派の議員には、それなりの背景があってそうなっているのですから、喧嘩腰の陳情をしても逆効果です。国民のためを考えて陳情というのは当然のことですが、それプラス当該議員かが積極財政派に転向することの大きなメリットを訴えることができれば、最高だと思います。

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2022年6月1日水曜日

財政審「歴史の転換点」の意味 安倍・菅政権後に本音が爆発! 意向が通りやすい岸田政権で露骨な「増税路線」と「ご都合主義」―【私の論評】理想や理念ではなく、リアルな行動の積み重ねが、日本の政治を変えていく(゚д゚)!

日本の解き方


 財務省の財政制度等審議会が「歴史の転換点における財政運営」とする建議を行った。

 財政審の建議は、形式的には審議会委員が起草しているが、財務省の考えそのものだといえる。

 その内容は、ズバリ財政再建で、「歴史の転換点」というのは、長期にわたった安倍晋三・菅義偉政権が終わったので、再び財政再建路線にかじを切りたいという思いがうかがえる。

 安倍・菅政権は、経済を中心とする「経済主義」と、財政が中心の「財政再建主義」との対立概念からすると、経済主義の側だった。財政再建至上主義の財務省としては歯がゆかったのだろう。

 財務省の意向が通りやすい岸田文雄政権になったので、官邸に気兼ねせずに財政再建主義を露骨にしたともいえる。

 今回の建議では、財務省の従来の考え方がストレートに出ている。総論を見ても、グロス公債等残高対国内総生産(GDP)比について、日本が他国に比べて格段に大きいことが問題であるとしている。

 グロス公債等残高対GDP比の動きと、プライマリーバランス(基礎的財政収支)対GDP比には、金利・成長率などを所与とすれば一定の関係があるので、「プライマリーバランスを黒字化」することによりグロス公債等残高対GDP比が発散しない財政運営という「目標」が出てくる。

 もちろん、こうしたグロス公債等残高対GDP比に着目した財政運営方針は、安倍・菅政権でも骨太方針では書かれていた。しかし、景気対策時には、それらを無視して、適切なマクロ経済運営が行われた。安倍・菅政権での「総額真水100兆円」の補正予算において、日銀を含めた「統合政府」でのネット公債等残高対GDP比を増大させない運営方針だった。

 それを、安倍元首相は「政府・日銀の連合軍」と表現し、先日話題になった「日銀は政府の子会社」発言と同じことを実際の政策で行った。

 財務省は、安倍氏の首相在任時には文句を言わなかったが、首相退任後に話したら否定したわけで、これほど分かりやすい例はない。もはや安倍・菅政権でないという意味で、「歴史の転換点」なのだ。

 各論でも、防衛に関する部分が興味深い。欧州諸国で国防費の増額を表明する国が出ているが、それは平時において財政余力を確保してきたからだとしている。その裏には、増税への思惑が見え隠れしている。

 欧州には欧州中央銀行など国際機関が多くあり、各国の財政のオフバランス化に貢献してきた。たとえば、欧州中銀が各国国債を金融緩和などのために購入すると、日本や米国、英国と同じように、国債の利子・償還負担はなんらかの形で軽減するはずだ。その事実を無視して、税収だけで財政余力があるかのように説明するのはあまりに財務省のご都合主義だ。

 防衛費の一定部分は、今の財政制度の下で建設国債を活用してできるものもある。ネット公債等残高対GDP比を増大させないというまともな方針なら、できることは少なくない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】理想や理念ではなく、リアルな行動の積み重ねが、日本の政治を変えていく(゚д゚)!

歴史の転換点における財政運営」は次のような文章から始まっています。
歴史の転換点ともなり得る世界的な環境変化が急速に進行している。 本建議では、我が国が抱える経済・金融・財政の脆 弱 ぜいじゃく 性を直視し、とるべ き責任ある経済財政運営の在り方を示すとともに、今後、各分野において 求められる改革について具体的に提言する。

財務省は一言でいえば、「増税」したいのです。したくて、したくてたまらないのです。

上の記事にもあるように、安倍・菅政権での「総額真水100兆円」の補正予算を組みました。これは、無論安倍政権でコロナ対策として、補正予算を組みはじめてから、菅政権が終了するまでの間に組まれた補正予算の合計です。

このブログては、何度かこのことについ述べたことがあります。無論このことについては、高橋洋一氏も述べていて、コロナが深刻化しはじめた頃には、日本では100兆円の需給ギャップがあることを指摘していました。

これに対して安倍政権は、2020年4月に補正予算真水で16.7兆円を組みました。これに対して、高橋洋一氏は「あまりにシャビー」と酷評していました。 確かに、100兆円の需給ギャップがあるのに、16.7 兆円では、あまり少なすぎます。

ところが、安倍政権の補正予算はそれではすみませんでした。機会があるごとに補正予算を組み、安倍政権の期間では、結局合計60兆円の予算を組みました。

さらに、菅政権においても、機会があるごとに補正予算を組み、菅政権期間中には結局合計40兆円の真水の補正予算を組みました。

結局安倍・菅両政権においては、100兆円の真水の補正予算を組み、コロナ対策にあたりました。

このせいと、日本には米国にはない「雇用調整助成金」という制度があり、これは雇用者に助成金を交付するものですが、これと補正予算の中の雇用に関するものもあわせて対策を行ったので、安倍・菅両政権の期間中に雇用が悪化することなく、2%台で推移しました。

この安倍・菅政権での「総額真水100兆円」の補正予算において、日銀を含めた「統合政府」でのネット公債等残高対GDP比を増大させない運営方針でした。

それを、安倍元首相は「政府・日銀の連合軍」と呼ぶ方式、政府が巨額の国債を発行し、日銀がそれを買い取るという方式で成し遂げました。

コロナ感染期間中には、日本以外の国では、失業率がかなり上がりました。日本のようにコロナ以前からあまり変わらなかったのは、世界でも日本だけです。これは大成功といえます。確かに、テレビなどでは、自粛に協力した飲食店の業者らが苦境を訴えているシーンが放映されましたが、では一般の勤め人などどうだったかといえば、さほどのことはありませんでした。

少なくと、景気が悪くなった2000年代のように「年越し派遣村」がテレビで盛んに報道されるというような事態はありませんでした。

これは、安倍・菅政権の偉業と呼んでも良いと思います。しかし、この偉業が日本では理解されていません。そもそも、マスコミや野党はこうしたことを評価しないどころか、菅政権においては、「コロナ経済対策」に大失敗しているような印象操作を大々的におこなつていました。

海外の経済のことも見ていた私は、こうしたマスコミや野党などの行動は、発狂したようにしか見えませんでした。

確かに、安倍・菅政権においては、コロナ病床の確保には失敗しました。ただ、それは頑強な医療村の抵抗にあったからであり、これは安倍・菅政権の直接の責任ではありません。マスコミは、これを針小棒大に報道しまくり、野党もこれに迎合し、自民党内では、「菅総理」では、衆院選を戦えないという声がおこり、結局菅政権は短期で終わることになりました。

しかし、安倍・菅両政権においては、結局医療崩壊を起こすこともなく、ワクチン接種も進み、結果としては大成功だったと言えると思います。

このようなこともあったので、私はこのブロクではっきり表明したように、菅政権は継続させるべきと思いました。

このようなことをいうと、雇用統計などを見ている人の中では、4月の失業率は2.5%であり、岸田政権はなかなか良くやっているという人もいるかもしれません。


しかし、こういうことをいうマスコミや政治家は重要な点を見逃しています。それは、失業率は典型的な遅行指標であるということです。

遅行指標とは、景気に対し遅れて動く経済指数のことです。 内閣府が毎月作成している景気動向指数は、景気に先行して動く先行指数、ほぼ一致して動く一致指数と遅行指数の3本の指数があります。 景気の現状把握には一致指数、景気の動きを予測するには先行指数、事後的な確認には遅行指数が用いられます。

失業率は景気に対して半年遅れて動くとされています。4月の半年前というと、菅政権から岸田政権に変わったばかりのころであり、これは岸田政権の成果ではなく、菅政権の成果ととらえるべきです。

これに対して、株価は先行指標といわれています。これは、景気に対して先に動く経済指標です。株価は、景気に対して半年まえに動く指標とされています。

株価はどうかといえば、岸田内閣が昨年10月に発足してから、株価はずっと下落傾向にありました。昨年9月の時点で、東証一部の時価総額はおよそ778兆円ありました。しかし、1月末には約679兆円にまで落ち込んでしまった。たった4カ月で100兆円が吹っ飛んだことで、ネットでは『岸田ショック』なる言葉も誕生したくらいです。

こうした状況のなか 2022年度一般会計補正予算は31日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立しました。歳出総額は2兆7009億円で、赤字国債の増発に伴う公債依存度は335.9%と安倍・菅政権のときと比較するとかなり減りました。参院選後に追加策が編成されなければ、さらなる経済の悪化も視野に入ります。

再出総額が2兆7009円だというのですから、真水はさらに少なくなります。高橋洋一氏は現状てば、30兆円を超える需給ギャップがあるとしています。これでは、ほとんど焼け石に水です。

内閣府の推計では需給ギャップを17兆円としています。これは、高橋洋一氏の計算よりは、低めですが、内閣府という身内が算出しているものなので、少なくとこれを意識した補整予算を組むべきです。少なくとも、真水で10兆は必要でしょう。

それで対策をしてみて、ギャップがあれば、参院選後に追加補正予算を組む、それでも足りなければ、また組むという具合にやれば、短期間で合計30兆円を超える補正予算を組むことができます。これをすれば、岸田政権も安倍・菅政権と並ぶような経済対策ができるかもしれません。

こういうことをしないで、財務省のいいなりで増税などしてしまえばとんでもないことになります。岸田政権にはさらなる不安もあります。

それは、現在の日銀総裁黒田氏の人気が来年3月までだということです。先日もこのブログに掲載したように、現在の日銀は金融緩和策を継続するとしていて、まともな運営がされているといえます。

しかし、来年の人事で、黒田氏から別の総裁になり、日銀が今の日本は需給ギャップがあるにもかかわらず、日銀再び金融引締策をするという馬鹿真似をするようになったら大変なことになります。もし、その時に岸田政権が参院選後に追加策が編成せず、来年の4月にも編成せず、その後全くしなくなった場合。日本は、またデフレスパイラルの底に沈むことになります。

やがて就職氷河期をまた迎え、日本人の賃金は過去30年上がらなかったというのに、今後も上がる見込みがなくなります。

今私たちはそうならないように、具体的に、政治を動かす必要があります。だからといつて、自民党にお灸を据えるなどの考えは最低だと思います。実際にそのようなことで、民主党政権が誕生しどうなったのかということをみれば、これは明らかです。

経済も安定し、安保や外交でも懸念事項もあまりない状況であれば、将来のことを考えて、新しい人や、弱小政党に投票するということもありでしょうが、現状のように実施すべきこと(積極財政、金融緩和、安保・外交)が明白なときには、自民党の中での保守系を増やす必要があります。 

そうして、選挙後には議員に陳情して議案に賛成するなど、力を貸してもらう必要もあります。選挙は議員選びの道具ですが、選挙が終わってからが政治です。

そうして、野党では政策や議案づくりに参加することはまず不可能です。また陳情するにしても保守系議員にしてもあまり効果はないです。逆に自民リベラル系議員を動かすと大きく動きます。役付なら尚更です。丁寧に「ご理解頂く」事が重要です。

このあたりについては、以下の渡邉哲也氏の動画が参考になります。


いくら理想論を語っていても、お灸をすえるだとか、保守派の先生としか話をしないというのであれば、幼稚なリベラル・左派とあまり変わりありません。

来る参院選では、保守派を増やし、選挙が終われば、自民リベラル派議員に丁寧に陳情をすることが大切です。

それこそ、財務省の官僚がご説明資料を持って、政治家に丁寧に説明して、内容はデタラメながら、省益に沿った行動をするよう促すような地道な努力が必要です。わかりやすく、時間もかからないような、それでいて筋が通った正しい内容の陳情を心がけるべきです。

自民党にお灸を据えようとか、菅政権を短期政権に追いやったように、岸田政権を追いやったにしても、岸田氏と同じような考えの人が総理大臣になったり、力の弱い人がなれば、何も変わりません。

そんなことより、岸田政権を叩こうが、何をしても良いとは思いますが、結局政権の行動を変えられなければ無意味です。

それよりも、より現実的な行動をすべきです。リアルな行動の積み重ねが、日本の政治を変えていくことになります。ただし、財務省の悪行はしっかりと認識しておくべきです。

こんなことをいうと、難しく感じるかもしれませんが、ツイッターをしている政治家も大勢います。このような人たちに、わかりやすく目にとまりやすい陳情をツイッターですれば、意外と見たり読んだりしていただけます。地元の政治家に直接会うこともできます。ただ、応援しますなどというより、わかりやすく政権に何を具体的にしていただきたいのか、丁寧に説明すべきと思います。

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2022年5月31日火曜日

中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか―【私の論評】米軍による台湾防衛は実は一般に考えられている程難しくはないが、迅速に実行すべき(゚д゚)!

中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか

岡崎研究所

 バーンズ米中央情報局(CIA)長官は、5月7日に行われたフィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューで、ウクライナ情勢は中国指導部の台湾統一戦略に何らかの影響を与えているだろう、と述べた(CIA director says China ‘unsettled’ by Ukraine war, FT, May 8)。バーンズは以下の諸点を指摘する。


・習近平がロシアによるウクライナ侵略の残忍性との関連により中国にもたらされる可能性のある評判の低下に少々動揺し、戦争がもたらした経済的な不確実性にも不安になっているとの印象を強く受ける。

・中国は「プーチンがやったことが欧州と米国を接近させた事実」にも失望しており、台湾につき「どんな教訓を引き出すべきか慎重に検討している。

・プーチンのロシアからの脅威を過小評価することは出来ないが、習の中国は「われわれが国家として長期的に直面する最大の地政学的課題」だ。

 上記のバーンズの発言は、慎重な言い回しのなかにも、米CIA当局の判断が的確に示されている、と言って良いだろう。

 プーチンと習近平は、オリンピックの開会式に合わせて北京で会談し、両者の間の連携には「限界」はない、と宣言した。しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、欧米各国の間で反ロシアの同盟関係が急速に進んでいることを見て、習近平は不安の色を隠せないようだ。

 バーンズの見る通り、習近平にとっては、ロシアの侵略がはじまってから、10~12週間がたち、中国にとっては、台湾問題との関係で、自分たちの計算が狂ってきたと思っているのではないか。習近平にとっては、ロシアの無謀な侵略とロシア経済が制裁によって受ける不確実性を中国としては今後どのように考えればよいのか、という点も重なっているだろう。

 いまだ台湾に残る米国が助けてくれるかの懸念

 ウクライナのケースと台湾のケースを比較することには慎重でなければならないが、「台湾関係法」という国内法をもち、台湾の防衛に事実上コミットしている米国としては、台湾を「準同盟国」として扱う以上、もし将来、中国から台湾への一方的な軍事侵攻があれば、台湾を如何に支持、防衛するか、について、今回のバーンズ発言からは、今一つ明瞭な答えは出ていないといえよう。

 現在、台湾住民たちにとっての最大の関心事は、依然として「いざとなったとき、米国は助けにきてくれるだろうか」という一点に尽きるといえよう。これは、現在のバイデン政権の一大課題である。

 なお、バイデン大統領は5月23日、クワッドの首脳会合のために訪日した際、岸田文雄首相との首脳会談後の共同記者会見で、台湾が攻撃された際の米国の台湾防衛の意思を問われ、「一つの中国」政策を維持するとしつつ、「イエス」と答えた。

【私の論評】米軍による台湾防衛は実は一般に考えられている程難しくはないが、迅速に実行すべき(゚д゚)!

ヘインズ国家情報長官

バーンズ米中央情報局(CIA)長官が上記のような見解を示す一方、米国の情報機関を統括するヘインズ国家情報長官は10日、議会上院の公聴会で、台湾統一を目指す中国について「彼らは、われわれの介入を押し切って台湾を奪えるように懸命に取り組んでいる」と述べて、軍備の増強を進めているとの見方を示しました。

ただ「中国は武力衝突を避ける形で強制的に統一することを望んでいる」と述べて、軍事力を行使せずに統一を実現するため、外交、経済、軍事面で圧力を強めているとの考えを示しました。

さらにヘインズ長官は、中国がロシアによるウクライナへの侵攻について分析を続けているとの見方を示し「中国は欧米各国が一致して制裁を打ちだしたことに驚いている。彼らは台湾の文脈でもこのことを考えるだろう」と述べました。

そのうえで「ロシアで起こったことを見て、中国の自信は揺らいでいるかもしれない」と指摘し、苦戦が伝えられるロシア軍の状況を踏まえ、台湾への侵攻について、より慎重になっている可能性があるとの見方を示しました。

ロシアのウクライナ侵攻の失敗は、中国が想像するほど台湾攻略は容易ではないというシグナルを中国に送るもので、自国より小さかったり軍事的に弱かったりする相手をミサイルで負かすことができるという誤った通説を打ち砕くことにもなるのは間違いないようです。

ウクライナで破壊されたロシアの戦車

米空軍の上級戦略顧問であるエリック・チャン氏はVOAに対して「ロシアのウクライナ侵攻が迅速な軍事行動によってウクライナ占領という『既成事実』を作ることを目的としていたように、中国も迅速な軍事行動によって台湾占領の既成事実を作ることを望んでいた。しかし、ウクライナ戦争が長引いていることで、中国の最高指導部は、これまでの作戦よりもさらに迅速で破滅的な戦略が必要だと考えるようになっている」と指摘しています。

つまり、艦船を多数遊弋(ゆうよく)させ時間をかけて台湾封鎖を実行する余裕はなく、いきなり台北などの台湾本土の重要都市へのミサイル攻撃や空爆、艦船による艦砲射撃などで主導権を奪い、米国などの外国勢力の支援が入る前に、多数の空挺部隊などを台湾に上陸させて、台北や高雄などの重要都市を占領し、1週間程度で中国の制圧下に置くという作戦です。

ある専門家は「そのために、台湾の物資、指導部、通信施設など、開戦当初はより強力に台湾を叩くことを検討するのではないか」と予測しています。

そのうえで、「中国は台湾に対する『法戦』を強化し、『台湾は中国の一部』であり、この戦いは『中国の内政問題』であることを国際的に強調し、米国やその他の国がウクライナと同じように台湾を援助することを警告・抑止する方式をとり、より長い時間をかけて、台湾の中国化を既成事実化するだろう」と指摘しています。

ただ、ロシア軍もこうしたようなことを実行しようとして、露軍が首都キーウ(キエフ)近郊のアントノフ国際空港を一時占拠したのですが、その目論見は失敗しました。そうして、制空権すら掌握できず、苦戦しています。

中国軍も、様々な企てをしつつ台湾に侵攻するかもしれませんが、それがすべて思い通りに進むとは限りません。

中国が一番簡単に間違いなく台湾に進行できる確実な方法があります。それは、恐ろしい話で書きたくもありませんが、全くの仮の話として書かせていただきますが、台湾に核ミサイルを打ち込み、全土を破壊し、その後に台湾に侵攻することです。そうなれば、中国は全く抵抗を受けずに台湾に侵攻することができます。

しかし、このことに意味があるでしょうか。そもそも、中国が台湾を侵攻する目的は何なのでしょうか。それには、遠大な計画があるのかもしれません。ただ、それを実現するためにも、まずは台湾を併合するというのが、中途の目標になるのは間違いないでしょう。

併合するためには、併合されるべき人達がいなければ無意味です。併合すべき、産業や物資などがあれば、なお良いです。しかし、台湾が核で完全破壊されたとすれば、人もほんどいなくなり、産業も何もありません。そんなところに人民解放軍が上陸したとしても、何の意味もありません。仮に生き残っている人がいたとしても、敵愾心に燃えているでしょうから、こう人たちを納得させ併合するのは至難の技です。

ただ、そうなる前に米国は中国に反撃するでしょう。そうして、その反撃は大方の人が想像するように、空母などの艦船や航空機、あるいは海兵隊によるものではないないでしょう。なぜなら、それには大きな犠牲が伴うからです。空母やその他の艦艇や、海兵隊員を載せた揚陸艦も、中国のミサイルの格好の標的になるだけです。

ですから、それはこのブログでも過去に掲載したきたように、攻撃型原潜による反撃になるでしょう。従来から述べているように、中国海軍はASW(対潜水艦戦)能力が、米軍よりも段違いに劣っているからです。

米攻撃型原潜は、大型になると1隻で100発以上ものトマホークを搭載できます。これらを台湾近くの海域に交替しつつ常時2〜3潜ませれば、米軍は台湾を常時包囲できます。台湾の近くには、日本があり、日本には米潜水艦隊の基地もあり、交替はスムーズにいくでしょう。

それに加えて、米軍は最近潜水母艦フランクケーブルを日本に寄港させたりしていますが、これにより、台湾付近の原潜は緊急時には、交代せずとも、ミサイル、食糧、水などの補給をうけて長い期間台湾包囲の任務につくことができます。

潜水母艦「フランクケーブル」

中国軍はこの包囲を容易に破ることはできません。対潜哨戒能力に優れた米軍は、まずは中国の潜水艦を台湾付近から追い払うか、撃沈するでしょう。その後、中国が台湾に艦艇で上陸部隊を送れば、これを撃沈するでしょう。

仮に上陸させるることができても、台湾は米原潜に包囲されていれば、これを突破することができず、補給線や航空機による補給ができなくなります。そうなれば、台湾に上陸した人民解放軍はお手上げ状態になってしまいます。

米軍の台湾防衛というと、すぐに空母だのイージス艦だの、航空機や海兵隊がどうのなどと思い浮かべるから防衛が難しいと思うのかもしれませんが、攻撃型原潜で台湾を包囲して防衛すると考えれば、これはかなりやりやいです。何しろ、現在の攻撃型原潜は、様々な大量兵器の格納庫と化しています。

対艦ミサイル、魚雷、巡航ミサイル、SLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)、核も通常型も搭載できます、まさに、現代の潜水艦は、水中のミサイル基地なのです。しかも、敵はなかなか発見されにくく、原潜ならほぼ無限に近いくらい潜航できます。水も、酸素も生成することができます。ただし、従業員の休養や物資、武装の補充のために、定期的にいずれかの港に寄港する必要はあります。

ただ、心配なのは、米軍がどのタイミングで、台湾封鎖をするかです。私は、もし中国が台湾に核先制攻撃をかけて台湾を崩壊させた場合は、確実に台湾を包囲すると思います。確かに、これをしてしまえば、中国が台湾を併合する意味はなくなりますが、それでも台湾を軍事拠点として利用できます。

中国軍がこれを目指して、中国軍を上陸させようとした場合、米軍はこれを阻止するために、台湾を潜水艦で封鎖するでしょう。

もし、台湾危機がバイデン、もしくはバイデン以降でも、バイデンのような大統領であれば、核戦争になることを恐れて、なかなか包囲に踏み切れず、それこそ台湾が核攻撃を受けたあとに重い腰をあげるということになるかもしれないです。

ただこのようなことだけは、避けていただきたいです。中国が台湾侵攻の素振りをみせれば、できるだけ早い時期に実行すべきです。どの時点で米軍が決断しても、中国の台湾侵攻を防ぐことができます。たとえば、仮中国軍が台湾にかなり上陸してしまったとしても手遅れにはなりません。封鎖してしまえば、補給ができなくなり、中国軍はお手上げになるからです。

そうして、これは比較的やりやすいです。なぜなら、同じ原潜でもSLBM原潜(核兵器搭載原潜)ではないので、核戦争を招く可能性は低いからです。それに、米軍は中国軍より、ASWでは格段に優勢なので、犠牲者もほとんど出ません。

それに、原潜を台湾近海に潜ませておけば、それだけで抑止力になります。中国海軍が、台湾侵攻の素振りをみせた場合、攻撃型原潜が何らかの形で威嚇をすれば、中国は台湾侵攻を思いとどまるかもしれません。

トランプ氏は、黒海に核武装した原潜を派遣せよと述べたことがありますが、これはアイディアとしては悪くはないですが、あまり実用的ではないと思います。

なぜなら、黒海に米原潜を派遣すれば、黒海艦隊は沈黙するでしょうし、ウクライナは穀物を輸出できるようになるかもしれませんが、軍事的にはロシア軍が黒海艦隊の行動を封じられたとしても、ロシアとウクライナは陸続きなので、ロシア軍の補給を絶つことはできません。

やはり、ウクライナと台湾では状況が全く異なります。米政権としては、このようなことを踏まえて、台湾有事が懸念された場合は、迅速に行動していただきたいものです。はやく行動することが台湾の安全保障により多く貢献することになります。

台湾が核兵器で完全破壊されてしまってから動くようでは、中国が台湾を軍事基地化することを防ぐことはできますが、国際的にかなり非難されることになるでしょう。アフガンの撤退で失敗し、ウクライナの安全保障で失敗し、台湾でも失敗と評価されることになるでしょう。

日本としても、中国との有事があった場合は、米国は日本が焦土と化してからでないと、米国は助けに来ないと判断せざるを得なくなるでしょう。米国の国際的な地位はかなり下がることになります。

中国軍が台湾に侵攻しようとし、それに米軍が対抗して攻撃型原潜で台湾を包囲すれば、台湾近海の、すべての中国の艦艇は撃沈され、航空機も甚大な被害を受けることになるでしょう。

仮に台湾に、上陸部隊を送り込めたとしても、補給ができずに、陸上部隊はお手上げになりことになります。しかも、ASWに劣る中国軍はこれに有効に反撃する手立てはないのです。予想されるのは、ほとんど無傷の米軍と、壊滅的打撃を受ける中国軍です。

その後は、米潜水艦隊が国際的非難を受けることもなく、中国近海を遊弋し、中国海軍は港を一歩も出ることができなくなるでしょう。それどこころか、南シナ海を現在でも遊弋している米潜水艦隊は余勢をかって南シナ海の中国の軍事基地を吹き飛ばすことになるでしょう。

上記のような展開が予想されるからこそ、ヘインズ国家情報長官は、「ロシアで起こったことを見て、中国の自信は揺らいでいるかもしれない」と指摘し、苦戦が伝えられるロシア軍の状況を踏まえ、台湾への侵攻について、より慎重になっている可能性を指摘したものと思います。

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2022年5月30日月曜日

コロナで時短「命令」必要?東京都VS飲食店判決を読む―【私の論評】日本の緊急事態宣言やマスクの本質は「自主規制」以外の何ものでもない(゚д゚)!

 コロナで時短「命令」必要?東京都VS飲食店判決を読む

グローバルダイニング「カフェ・ラ・ボエム麻布十番」

 都内を中心に飲食チェーンを展開しているグローバルダイニング社が東京都に対して、新型コロナウイルスによる営業時間短縮の命令が違法であるとして損害賠償を求めた訴訟について、2022年5月16日、都の対応に違法があると判断する判決が出された。

 東京都は、新型コロナによる緊急事態宣言下で飲食店に営業時間短縮を「要請」していたところ、グローバル社はこれに応じることなく、むしろ緊急事態宣言下でも平常通り営業することをウェブサイト上で宣言していた。

 これに対して東京都は、緊急事態宣言が解除される4日前になって、同社を含む6社に新型インフルエンザ等対策特別措置法(「特措法」)に基づく営業時間短縮の「命令」を発した。グローバル社はこの「命令」が違法であったとして訴訟を提起したものだ。

 グローバル社は都の「命令」が違法であると主張するにあたり、憲法違反の問題を含めていくつかの理由を挙げていた。そのひとつに、都による「命令」が出されたのが緊急事態宣言解除直前であることから、時短営業の要請に応じないことを宣言していた同社を狙い撃ち・見せしめにしたという主張が含まれる。

 判決は、結論として都の損害賠償責任は否定したが、他方でグローバル社に対する「命令」には違法があったと判断した。

営業時間短縮の「命令」は適切だったのか

 特措法は、新型コロナや新型インフルエンザなど法律で定める感染症が、全国的かつ急速な蔓延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼしていると判断される場合に、緊急事態宣言を発出して感染拡大防止に向けた措置を講じることを定めている。

 緊急事態宣言の対象となった都道府県の知事は、感染拡大防止のため、不特定多数が利用する一定の施設に対し、期間を定めて、使用制限等の措置を講ずるよう「要請」することができる。今回、都が飲食店に要請した営業時間短縮の要請は、この規定に基づいてなされたものだ。この段階の「要請」は、あくまでも要請であり、応じない場合であっても罰則等の適用はない。

 もっとも要請の対象となった飲食店等が「正当な理由がなく」要請に応じない場合には、都道府県知事は感染拡大防止等のため「特に必要があると認めるときに限り」、要請に応じることを命令することができる。この「命令」には強制力があり、従わない場合には罰則が課される。

 東京地裁は今回の判決で、時短営業の要請に応じなかったグローバル社に対して都が時短営業の「命令」を出したことについて、違法性があると判断した。

 特措法の「命令」は、単に飲食店が「要請」に応じなかったというだけでは出すことができない。「命令」を出すには、(1)要請に応じないことに正当な理由があることに加え、(2)感染拡大防止等のため特に必要があると認められることが必要だ。

合理的な説明はなされていない

 このうち(1)「正当な理由」について、グローバル社は、要請に応じた場合の補償の仕組みが著しく不十分であり、漫然と要請に応じた場合に経営に支障がきたされるので、要請に応じないことに正当な理由があると主張していた。

 しかし判決は、特措法上、事業者に対する支援が予定されており、対象期間も一時的であることなどからすると、経営状況等は「正当な理由」にはならないと判断した。飲食店ごとの経営状況を考慮すると、要請の目的の達成に支障を来すというものだ。

 他方で判決は、都による命令に(2)「特に必要があると認められること」を否定し、都の対応に違法があると判断した。グローバル社が換気の強化や消毒、検温などの感染防止対策を行っていたことを前提に、緊急事態宣言の解除まで残り4日という中であえて命令を出すことについて合理的な説明がないというものである。

 なお、判決は、都の対応に違法があったとしながらも、損害賠償責任は認めなかった。特措法に基づく命令が出されたのは今回が初めてのことであり、前例がないため、適切な判断できなかったというのがその理由だ。

 新型コロナの感染拡大はこれまで社会が直面したことのない問題であり、国や自治体には難しいかじ取りを求められた。特措法に基づく「命令」の制度も新型コロナの問題が起きてから行われた法改正によるもので、都にも試行錯誤があったことは否めない。

 とはいえ、緊急事態宣言の解除まで残り4日の時点で、敢えて命令に踏み切った都の姿勢は、見せしめ的な目的があると受け止められても仕方がないだろう。

 判決は、都が狙い撃ちや見せしめの目的で命令を出したとまでは認めがたいとするものの、命令に必要性がないと判断する理由の一つに、営業時短の要請に従っていない店舗が2000店舗以上ある中で、グローバル社の店舗を含む6店舗に対してしか命令が出されていないことは不公平であることを挙げている。

経営状況を考慮しないでよいのか

 判決は、経営状況等は原則として要請に応じないことの正当な理由にならないと判断した。飲食店にとって時短営業による売上減は死活問題だ。自主的な協力を建前とする「要請」に応じるうえで、経営状況の問題が正当な理由にならないというのは、一抹の疑問が残る。

 この点について、特措法の改正に際して見解を表明した内閣官房は、経営状況等は「正当な理由」にならないとしたうえで、正当な理由がある例として「地域の飲食店が休業等した場合、近隣に食料品店が立地していないなど他に代替手段もなく、地域の住民が生活を維持していくことが困難となる場合」を挙げる。しかし、地域の食生活の問題は行政が解決すべき課題であり、個々の飲食店が自主的な判断で解決する問題ではないだろう。

 感染症の拡大という社会全体の問題に対処するため、一部の業界に不利益を求めるのであれば、そのコストは公的資金による支援金などの形で、社会全体で負担するのが本来の姿のはずだ。

 いずれにせよ、場当たり的な対応は、経済活動を疲弊させた挙句、感染拡大防止も不十分な結果に終わったということになりかねない。

 今回の判決は、残り4日のみの営業時短命令という場当たり的とも思える措置に対して警鐘を促した格好になるが、飲食店に不利益を求める以上、明確な方針に基づく措置が必要だろう。そうしなければ、〝新常態〟という中での起業の新たな挑戦の芽も摘みかねない。

河本秀介

【私の論評】日本の緊急事態宣言やマスクの本質は「自主規制」以外の何ものでもない(゚д゚)!

高橋洋一氏は、今回の判決の対して、以下のような論評をしています。


日本の緊急事態宣言といっても、欧米から見れば、戒厳令でもなく行動制限は弱いです。日本の緊急時での法規制は心許ないです。その根本原因は、普通の国なら当然存在する「戒厳令」が日本には存在しないことです。「戒厳令」は私権を制限するものですから、上で高橋洋一氏も述べているように、憲法上の規定である緊急事態条項がないとその根拠となる法律を作れないのです。

そもそ新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)は、かなり腰の引けた法律です。正々堂々と私権制限が出来ないので、「に必要があると認めるときに限り」といった制限が付いています。

東京都としては、飲食で事実上規制下にあり、やりやすい業種で命令を出したのでしょう。それでも違憲にはかろうじてならなかったのですが、特措法の基づく命令が違法とされたので、今後命令を出しにくくなったのは事実です。緊急事態条項を設ける憲法改正と、それに基づく私権制限を、平時においてまともに議論しないといけなったともいえます。

私権制限といえるかどうかはやや疑問なしとはしないが、「マスク問題」も、しっかりしたルールがないことに混乱の一因があると考えられます。

6月1日から、入国者数について1日上限を1万人から2万に引き上げます。また、6月10日から団体ツアーに限り、98の国と地域からの観光客の受け入れを再開します。

これについて、岸田首相は5月27日の衆院予算委員会で、外国人観光客については旅行会社などを通じてマスク着用の徹底を求め、ビジネス関係者や留学生に関しても、受け入れ先の企業などに「日本のルールに従う」ように促すとしました。

そもそもマスクについて、政府が「推奨する」としたのは、2年前の2020年5月からです。海外ではマスク着用は法的義務となっていたところが多いですが、日本では法的根拠がなく、あくまで政府推奨、つまり「お願い」ベースです。しかも海外では、マスク着用の義務は現在は解除されているところがほとんどです。

いずれにしても、日本でマスク着用するかしないかは個人の判断です。それが、いつの間にか社会の「ルール」になっているのは、違和感があります。国会で首相が「ルール」というからには、その根拠を質問しないといけないところだと思うのですが、27日のやりとりを見る限り、その形跡はありません。

外国人観光客については、国交省が許認可を握っている旅行会社が政府の意向を代行するが、旅行会社はマスク着用に「努めた」という形を取るでしょう。その他のビジネス関係者や留学生に関しても、受け入れ先の企業がやはり「努めた」という形でしょうが、旅行会社よりも緩い形になるでしょう。法的根拠もないのに「お願い」しても、外国人にどこまで通用するのか。「お願い」する人も大変です。

こんな姿も過去のものになるのか・・・・・・

今年はすでに全国的に5月だというのに、すでに30度を超えたところが続出しています。暑い夏を控えて、日本でのマスク着用には限界も来ています。現時点でも、外でマスクをしない日本人は増えています。

にもかかわらず、今でも厚生労働者は子どもたちへのマスクの「推奨」をしています。

こうした「推奨」が政治主導で決まり、マスコミ報道ではそれをあたかも社会的な「ルール」のように報道しているが、あくまで、時と場合に応じて個人が判断すべき事柄です。

給食を前に、マスクをしたまま手を合わせる子どもたち

要するに、日本の「ルール」とは、「時と場合」で自ら判断してもいいといえば、外国人にも納得できるはずだ。「自粛」を英語で言うと、”voluntary restraint(直訳:自主規制)”となるので、それと同じと言えば良いでしょう。

今回の判決は、それを明確にしたともいえます。

憲法に緊急事態条項がないと不都合が起こることは、コロナの感染症だけではありません。阪神・淡路大震災や東日本大震災の時にも不都合が生じていました。

いちばん大きかったのは財産権の問題でしょう。例えば、津波でクルマが流されてきた。しかし、所有者が分からないので撤去できない、ということがありました。ご遺体の処置に困ることもありました。ご家族の元に届けることができればよいのですが、破損が激しいとどなたか特定できない場合があります。

ただ、災害対策基本法が「災害緊急事態」を定めているので、それで十分という議論もあります。例えば、特に不足している生活必需物資を配給にするためや、国民生活の安定に必要な物の価格を統制するため、政令を定める権限を内閣に与えています。

しかし法律で決められていることは、それに従えばよいでしょう。しかし、すべての事態を想定して法律を事前に整備することはできません。既存の法律で対処できない時に、国民の生命、身体及び財産を保護する目的で、政府に権限を与えるのが緊急事態条項ともいえます。

緊急事態条項がないと、政府は、法律のないまま、国民の生命、身体及び財産を保護する措置を講じなければなりません。何もしなければ憲法13条が定める国の義務を果たさないことになります。法令上の根拠のない措置は超法規的、超憲法的な措置になってしまう。緊急事態条項は憲法秩序を守るための手段でもあるのです。

ちなみに憲法13条は以下のようなものです。
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
ただ緊急事態条項があっても、それに基づいて、様々な法律を制定する必要があります。どんな法律でも、それを定めるには時間がかかります。緊急事態条項は迅速に対応することを重視しています。もし衆議院や参議院がそれぞれ、あるいは同時に選挙期間中にある時に緊急事態が生じた場合、国会として何らの対応もとれません。

やはり緊急事態条項を定めておいて、法律を迅速に定めておく必要があります。

なお、憲法に緊急事態条項を定めて、それにもとづき様々な法律を定めれば、政府の権限が強くなりすぎてとんでないことになるのではと心配するむきもありますが、別な方向からいえば、緊急事態条項がないと恐ろしいことになりかねません。

大津波で流された車両の処分はどうするのか?

緊急事態条項に基づく法律もなければ、それでも政府や地方自治体が必要に迫られ、自然災害や伝染病が発生したときに、法律もないのに、曖昧なままで、なし崩し的に様々な「ルール」を適用するのが当たり前になってしまうかもしれません。そうなると、恣意的に何でもできるような状況になりかねません。こちらも本当に恐ろしいです。

このような恐ろしさもありますし、緊急事態条項がなくて法律も整備されていなけれは、政府は何をするにしても国民などにお願いするしかなくなります。これでは、国民の生命や財産を守ることは難しいです。

日本でも、憲法に緊急事態条項を定め、法律も整備して緊急事態に対処できるようにすべきです。今回の裁判は、このように重要な問題を提起しているともいえます。

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2022年5月29日日曜日

穀物2200万トン輸出出来ず、港湾封鎖で ウクライナ大統領―【私の論評】ウクライナが穀物が輸出出来ないから世界も日本も大変だと思えば、プーチンの術策にはまるだけ(゚д゚)!

穀物2200万トン輸出出来ず、港湾封鎖で ウクライナ大統領

ロシア軍の攻撃によって破壊された穀物の貯蔵施設=25日、ウクライナ・ドンバス地方

 ウクライナのゼレンスキー大統領は29日までに、侵攻したロシア軍によるウクライナの主要港湾の封鎖で本来なら黒海やアゾフ海を通じて輸出されるはずの穀物の約半分の量が貯蔵庫内に滞留している状態にあることを明らかにした。

 【映像】元米特殊部隊員、ウクライナでの戦いを語る

 インドネシアの外交問題のシンクタンクがオンライン形式で開いた会合で述べた。輸出出来ず滞っている穀物は2200万トン相当と指摘。世界規模での食糧の安全保障の確保にとって大惨事となりかねない要因になっているとも訴えた。

 また、飢餓の被害者が今年は新たに5000万人増える可能性に言及した国連の分析に触れ、「低く見積もった数字」とし、実際はより多くなるであろうことを示唆。今年7月には多数の国で昨年の収穫分の在庫が尽きるだろうとし、「大惨事の現実的な到来が明白になるだろう」と予想した。

 ゼレンスキー大統領はインドネシアが今年11月に同国バリ島で開く主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)への招待を受け入れる意向も表明。その上で同サミットには「友好国家」だけ集まるべきだとし、ロシアを除外するよう主催国に暗に促した。

【私の論評】ウクライナが穀物が輸出出来ないから世界も日本も大変だと思えば、プーチンの術策にはまるだけ(゚д゚)!

ロシアのプーチン大統領は28日、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相と電話協議した。ロシア側によるとプーチン氏はウクライナ侵攻に伴う食料問題の解決に向けて、黒海の港からウクライナ産を含む穀物輸出などを検討する用意があると表明。同時に米欧の対ロシア制裁の解除が必要だと主張しました。

プーチン氏は独仏首脳に対し、穀物価格の高騰など世界的な食料危機を「西側諸国の誤った経済政策や対ロ制裁の結果だ」と批判しました。米欧による制裁が強化されるなか、食料供給への協力と引き換えに制裁解除を促したかたちです。

確かに、ロシアもウクライナも小麦の大輸出国(それぞれ国としては第1位と第5位)となっている。ただし、EU諸国をまとめると、EUが6100万トンで首位、続いてロシア(3700万トン)、アメリカ(2600万トン)、カナダ(2600万トン)、ウクライナ(1800万トン)と続きます。

1973年の食料危機が旧ソ連の穀物大量買い付けによって引き起こされたように、かつてロシアは世界最大の小麦輸入国だったのであり、輸出国となったのは、2000年代以降です。このため、黒海周辺の両国は、新興輸出国と言われます。

また、両国の小麦は、品質的には、米国等に劣り、仕向け先としては中東が主です。ただし、両国が、戦争による物流の混乱などにより小麦を輸出することが困難になると、世界全体の小麦供給量が減少し、高品質な小麦を含めて、価格水準は上昇します。


また、ロシアのウクライナ侵攻後、原油価格が大きく上昇している。トウモロコシからエタノールというガソリンの代替品が作られます。原油価格が上がってガソリン価格が上がると、代替品であるエタノールへの需要も高まり、その価格も上がります。そうなると、エタノールの原料であるトウモロコシの価格が上がり、その代替品である他の穀物価格に波及していきます。2008年には、このような事態が起きました。このように、原油価格と穀物価格が連動するようになっています。また、ウクライナは世界第4位のトウモロコシ輸出国でもあります。

何人かの民間エコノミストが、テレビに出演して、小麦の用途は裾野が広く、パン、ラーメン、うどん、スパゲッティなどさまざまな食品の原料なので、家計が影響を受けると指摘していました。

しかし、これは本当なのでしょうか。今回と同様、2008年小麦の国際価格が2~3倍に上昇し、パンなどの価格も上がったとき、食料品全体の消費者物価指数は、2.6%上がっただけでした。2012年ころ穀物価格が騰貴したときも、食料品の消費者物価指数はほとんど変化していません。4月の消費者物価指数は、2.1%の上昇に過ぎません。

大きな理由は、小麦の輸入額は、日本全体の飲食料費支出の0.2%に過ぎないことです。我々が払う飲食料費の9割は、加工、流通、外食に帰属します。農産物への帰属はわずかで、特に小麦を含めた輸入農産物への支出は2%です。

さらに、先ほどの、原油と穀物(ガソリンとエタノール)のように、消費には代替性がある。牛肉の値段が上がると、豚肉の消費を増やそうとする。我々は、パンやラーメンなどの小麦製品だけを食べているのではない。パンの値段が上がれば、その代替品である米の消費が増える。2008年には、それまで減少していた米の消費が増加した。さらに、最近は米粉も普及しており、これによってパンなどもつくることができます。

財やサービスに代替性があり、消費者が、一定の所得を前提に、財やサービスの相対価格を考慮して、適正な財の組み合わせを決定することは、ミクロ経済学の初歩です。食料の消費や需給を検討する際に、「代替性」は重要なキーワードです。

なお、2008年米の消費が増えたのは、スーパーの棚にフリカケが並んだからだという(珍)説が、農水省の中でもっともらしく伝わり、かなりの職員が信じていたようです。実際にはパンなどの小麦製品の価格が上がったから、相対的に価格が低下した米の消費が増えたのです。

米の消費が増えたのでスーパーはフリカケの販売を増やしました。因果関係は逆です。この説が正しいなら、フリカケをたくさん売れば米の消費は簡単に増やせることになります。残念ながら、農水省の職員のほとんども、経済学を知らないで、農業政策を作っているようです。

これは、このブログでもよく取り上げているように、経済学を知らないで、財政政策を作る財務省職員と似たりよったりです。日本の省庁の職員に共通するのは、経済学を知らないといことかもしれません。

以下の図は、小麦輸出国の生産と輸出の関係を示しています。主要な輸出国において、輸出が生産に占める割合が大きいことに気づかれるでしょう。この割合は、ロシアで43%、ウクライナでは73%にも達します。アメリカ、カナダ、オーストラリアなど日本が輸入している国も同様です。

100万トン

これらの輸出国が、小麦を輸出できなかったとすると、国内で小麦があふれることになります。小麦価格は大幅に低下すると同時に、サイロに収納できない小麦が農家の庭先に野積みされることになります。

かつて手痛いダメージを受けたアメリカが輸出制限をすることはないでしょう。1979年アフガンに侵攻したソ連を制裁するため、アメリカはソ連への穀物輸出を禁止しました。しかし、ソ連はアルゼンチンなど他の国から穀物を調達し、アメリカ農業はソ連市場を失いました。あわてたアメリカは、翌年禁輸を解除したのですが、深刻な農業不況に陥り、農家の倒産・離農が相次ぎました。

最近の米中貿易戦争で、中国がアメリカ産大豆の関税を大幅に引き上げたときにも、輸出できなくなったアメリカの中西部の農家は多額の政府援助に頼らざるを得なくなりました。

輸出できなくなったり、輸出制限を行ったりすると、アメリカが経験したと同様のことがロシアやウクライナに起きることになります。

しかし、これまでロシアは国際的な穀物価格が高騰した際、輸出制限を行ってきました。自由に輸出が行われると、価格の低い自国から国際市場に穀物が供給され、国内の供給が減少し、価格も国際価格と同水準になるまで上昇します。

このとき、所得の高いアメリカやカナダなどと異なり、ロシアのように、所得が低く(年収100万円前後)、そのかなりを食料品に割いている国では、穀物価格上昇に国民が耐えられなくなるからです。輸出を制限すると、国内価格を国際価格よりも低く抑えることができます。

ロシア政府は3月14日、ベラルーシやカザフスタンなどの近隣諸国への小麦など穀物の輸出を一時的に制限することを決めました。大幅なルーブル安で生活物資の価格が高騰しています。自給できる小麦などの穀物価格は低く抑え、国民生活の負担をできる限り少なくしようとしたのでしょう。

ロシアにとってベラルーシは、ウクライナ侵攻の直前まで共同軍事演習を行い、またウクライナへの派兵を要請したという報道がなされるくらいの同盟国です。そのベラルーシへの輸出を制限しなければならないことは、ロシアの国民生活が相当厳しい状況に追い込まれていることを示唆しています。

一方ウクライナは、たしかにせっかく戦争下で小麦を作っても輸出できないですから、小麦農家は大変でしょうが、できれば政府が買い取って備蓄用に保存するような措置が望ましいと思います。ただ、戦争によって農家だけではなく、他の職業の人々も、酷い目にあっているのですから、農家だけに手厚い保護をすることは難しいでしょう。

こうなった責任はすべてロシアにあるわけですから、農家も含めて、戦後にはロシアに賠償させるなどのことをすべきでしょう。ただ、ロシアに請求してもそのようなことはしないでしょうから、世界中の国々が制裁で凍結したロシアの資産をそれに用いるべきと思います。

フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相も当然のことながら、自国のインテリジェンスを通じてこの位のことは理解しているでしょう。

先にも掲載したように、プーチン氏は、米欧による制裁が強化されるなか、食料供給への協力と引き換えにフランス、ドイツに対して制裁解除を促したかたちですが、プーチン氏もこのような状況については、当然ドイツも、フランスも知っていると認識しているでしょうから、試しに言ってみたくらいのことなのだと思います。

それにひきかえ、上でも述べたように飢餓の被害者が今年は新たに5000万人増える可能性に言及した国連は分析しているようで、これは「低く見積もった数字」とし、実際はより多くなるであろうことを示唆しているというのですから、これは一体どうしたことなのでしょうか。

そもそも2018年時点で、世界では9人に1人、約8億もの人々が飢餓に苦しんでいます。もともとこのような状態なのに、ウクライナの小麦の輸出が滞ったことだけにより、急激に飢餓被害者が増えるとも考えられません。

そもそも、最近の国連は中国等の影響が強まっているとされています。最近でも、28日まで6日間の日程で行われたバチェレ国連人権高等弁務官の新疆(しんきょう)ウイグル自治区訪問に、人権活動家などは早くも厳しい目を向けています。これについては、アメリカのブリケン国務長官も批判しています。

バチェレ国連人権高等弁務官

これには、同自治区への訪問を「調査ではない」とする中国側の意向に同調するようなバチェレ氏の発言が報じられ、実効性への疑念が強まったためです。中国側は、強権的な少数民族政策を正当化すべくプロパガンダを積極化させるとみられます。

日本では、経済も世界情勢もよくわかっていないような民間エコノミストがテレビに出演して、語ったり、国連関係機関などか何かを公表すると、無条件で信じる傾向が強いです。特に、ワイドショー民といういわれる、高齢でテレビなどが主な情報源の人たちには、そういう人か多いようです。

やはり、自ら統計などを見たりすれば、そのようなことは防げると思います。インターネットが発達した現在、そのようなことはさほど難しいことではありません。

それをしないで、ウクライナが穀物2200万トン輸出出来ないから世界が大変だー、日本も大変だーなどと信じ込んでしまえば、それこそロシアのプロパガンダに加担することになります。

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2022年5月28日土曜日

中国の申し入れ「受け入れられず」 日本大使館が反論、クアッド巡り―【私の論評】中国がインド太平洋で新たな枠組みを作っても大きな脅威にはならないが、習に勘違いだけはさせるな(゚д゚)!

中国の申し入れ「受け入れられず」 日本大使館が反論、クアッド巡り

 日米豪印首脳会合に臨む(左から)オーストラリアのアルバニージー首相、バイデン米大統領、
 岸田文雄首相、インドのモディ首相=24日午前、首相官邸

 中国外務省は24日、東京で開かれた日米首脳会談や日米豪印による協力枠組み「クアッド」首脳会合で中国に関する後ろ向きで間違った言動があったとして、日本側に厳正な申し入れを行い強烈な不満と重大な懸念を表明したと発表した。北京の日本大使館は「中国側の申し入れは受け入れられないと反論した」と25日未明に公表した。

 中国外務省アジア局長が24日夜、日本の駐中国特命全権公使を呼び出した。

 日本側は「一方的な中国側の行動に対して懸念を表明し、適切な行動を強く求めた」と明らかにした。また中国とロシアの爆撃機が24日に日本周辺を共同飛行したことに対し重大な懸念も伝えた。中国側は「正常な活動で、どの国も対象にしていない」と応じたという。

【私の論評】中国がインド太平洋で新たな枠組みを作っても大きな脅威にはならないが、習に勘違いだけはさせるな(゚д゚)!

今回のQuadの共同声明に対する、中国側の発言は、日本に対する「内政干渉」以外の何ものでもなく、日本側の駐中国特命全権公使が、上記のような反応をしたのは当然のことです。

それに、この共同声明では中国を名指しもしていませんでした。なかったのは問題だと思います。また、クアッドの枠組みができてから数年経ちます。そろそろNATOのような、安全保障の枠組みに具体的に進めるべきです。このままでは形式的なもので終わる恐れもあります。

にもかかわらず、これに対して中国がなぜこのような反応を示すのでしょうか。

それは、中国がQuadがいずれNATOのような軍事同盟になることを恐れているからでしょう。一方で中国は、バイデン大統領が日本に来てからの一連の動きや、台湾問題も含めて、クアッドに対しては神経を使っています。 

中国は、バイデン大統領の台湾問題に対する発言に関して、中国はそれほど激しく反応しませんでしたが、クアッド首脳会合の開催当日にロシアと爆撃機の共同飛行をしたり、日本大使館に対して異議を申し立てるなど、かなり過剰に反応しています。クアッドという枠組みがNATO的な軍事連携に発展していくことを、中国が恐れているからです。

中国と共同飛行した爆撃機と同型のロシアのTU95爆撃機

中国は、以前は日本を見下していました。実際に、1994 年中国の当時の李鵬首相が、オーストラリアを訪問した時に、当時の オーストラリアのジョン・ハワード首相に向かって 「い まの日本の繁栄は一時的なものであだ花です。 その繁栄を創ってきた世代の日本人がもう すぐこの世からいなくなりますから、20 年もしたら国として存在していないのではないで しょうか。 中国か韓国、 あるいは朝鮮の属国にでもなっているかもしれません」 という 発言をしました。 

ところが安倍政権が誕生して以降、気がつけば日本が中国包囲網の中心になっていたのです。 
安倍総理大臣が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を2016年8月の第6回アフリカ開発会議(TICADVI)の場で提唱してから5年以上が経過し、アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至るインド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を実現することの重要性が、国際社会で広く共有されてきています。

当時の安倍首相がこの構想を出したとき、中国はほとんど気にしていませんでした。しかし、その枠組みが目の前にでき上がってしまったということが、彼らの誤算でした。しかも「AUKUS(オーカス)」、「ファイブ・アイズ」という2つ枠組みがあり、アジアのなかでは日本だけが枠組みの一部に入るような事態も招いたともいえます。

しかし、習近平政権がこの数年間、戦狼外交や覇権主義戦略を進めた結果、このようなことを招いてしまったということに彼らは気が付いていなようです。

 そもそもわずか数年前まではオーストラリアもインドも、中国との関係は悪くありませんでした。 中国は戦狼外交や覇権主義戦略を進めてしまったのために、インドもオーストラリアも、自分たちの方から敵に回してしまったのです。クアッドができ上がったいちばんの功労者は習近平といえるかもしれません。

米戦略問題研究所(CSIS)の上級顧問であるエドワード・ルトワック氏は、著書『ラストエンペラー 習近平』の中で「大国は小国に勝てない」と主張しています。この論理の重要な点は、「1対1では戦わない」という点です。

1対1では大国が勝利するのは当然です。片方が大国の場合、周辺諸国は、次は自分かも知れないと恐怖を感じ小国に肩入れするであろうことから、大国が目的を達することが難しくなるという理屈です。理屈としては理解しても、実際の国際情勢ではどうだろうかという疑問があらりましたが、まさにその通りの状況が展開されています。それは、中国と台湾の関係です。

習近平政権がこの数年間、戦狼外交や覇権主義戦略を進めた結果、当の台湾がこれを脅威に感じ、周辺諸国の日本、オーストラリア、インドが台湾に肩入れするようになったのです。それ以外の英米等もそうするようになったのです。

最近では、オーストラリアは政権が変わりました。労働党になっても、中国に対しての反応は変わりはないようです。 新たな首相が就任してからクアッドに参加しています。オーストラリアの新首相が就任してすぐに、李克強首相が祝電を送ったのですが、何の反応も示していません。

ただ、インド太平洋地域には、懸念材料もあります。

中国の王毅外相は、4月に安全保障協定を締結した南太平洋のソロモン諸島を訪問し、両国関係を強化し「中国と島しょ国との協力の手本にしたい」と強調しました。

王毅外相は今月26日、8カ国歴訪の最初の訪問国となるソロモン諸島でソガバレ首相らと会談し「ソロモン諸島の主権と安全、領土保全を断固支持する」と述べ、「できる限りのあらゆる支援を行う」とアピールしました。

また、マネレ外相との会談では両国関係を「中国と島しょ国との協力の手本にしたい」と強調し、ソロモンとの協力関係を他の南太平洋の島しょ国にも広げる考えを示しました。「中国の軍事基地を建設する意図はない」と強調しました。また、協定はソロモン諸島の治安能力を高めるのが目的で、他の国と対抗するためのものではないと説明しました。

ソガバレ首相は中国国営テレビのインタビューで、安全保障協定は暴動鎮圧などのためで基地建設の意思はなく、中国側からも提案はないと強調しました。

周辺国などからの中国の軍事拠点化が進むとの懸念をあえて否定した形です。

ソガバレ首相はまた、「一つの中国」原則を堅持すると述べ、台湾問題で中国政府の立場を指示する姿勢を示しました。


オーストラリアやインドが中国から離れて、クアッドやAUKUSもできました。中国はそれに対抗する新たな枠組みをつくらなければなりません。しかし、ついてくる国が少ないので、結局、中国の経済援助なしでは成り立たないような国々を束ねて対抗することになります。

中国の経済援助なしで成り立たない国々というところに注目していただきたいです。中国がいくら大国になったからといって、一人あたりのGDPは未だに10000ドル前後(日本円で約100万円前後)です。その中国がクアッドなどに対抗するために新たな枠組みを作るのには限界があります。

これについては、以前もこのブログで述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ソロモン諸島、中国が治安支援 警察関係者受け入れ―【私の論評】一人ひとりの国民が豊かになるために、ソロモン諸島は、民主的な道を歩むべき(゚д゚)!

ソロモン諸島の海岸

中国は、国全体では、GDPは世界第二といわれていますが、個人ベース(個人所得≒一人あたりのGDP)ではこの程度(10000ドル、日本円で100万円程度) です。そのため、以前このブログで中東欧諸国と中国の関係に関して述べたように、中国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無なのです。
そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

ただ、中国は独裁者やそれに追随する一部の富裕層が儲けるノウハウを持っているのは確かであり、ソロモン諸島の為政者が、独裁者となり自分とこれに追随する富裕層が大儲けするという道を選ぶ可能性はあります。

ただ、一人ひとりの国民が豊かになる道を選びたいなら、やはり民主的な国家を目指すべきです。その場合は、急速に民主化をすすめた台湾が参考になります。このブログにも何回か掲載したように、先進国が豊かになったのは、民主化をすすめたからです。民主化をすすめなかった国は、たとえ経済発展しても、10000万ドル前後あたりで頭打ちになります。これは、中進国の罠と呼ばれています。

Quadが今より軍事的な色合いを深めたり、日豪印などが、NATOに加入するようなことがあったとすれば、中国もソロモン諸島などと構築する枠組みを軍事的なものにして、ソロモン諸島に中国の軍事基地をつくるかもしれません。

しかし、考えてみてください。Quadに比較すれば、中国がたとえこれに対抗するするためにインド太平洋で新たな枠組みを作ったとします。それにいくつかの国が加入するかもしれません。たとえば、仏領ニューカレドニアが独立して、この枠組みに参加するかもしれません。しかし、ニューカレドニアの一人あたりのGDPは中国を超えており、東欧諸国がそうであったように、結局中国からはなれていくことでしょう。

そうして、残るは一人あたりのGDPが10000万ドル前後以下の貧乏国にばかりになります。これはロシアなど旧ソ連6カ国でつくる軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)に所属している国々を想起させます。これらの国々の首脳会議が16日、モスクワで開かれました。

ザシ事務局長によると、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻について説明したのですが、CSTOの侵攻への参加は議論されなかったといいます。同盟強化を目指すロシアに対し、加盟国間の思惑の違いも取りざたされており、ロシアの孤立が浮き彫りになりました。

ちなみに、CSTOの加盟国はロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アルメニアです。これらの国々の共通点は、ロシアも含めて一人あたりのGDPが10000万ドル前後よりも低いということです。ロシアだけが、10,126.72ドルですが、それにしてもこれからは、これを下回ることはあっても伸びる見込みはありません。

結局貧乏国の集まりでは、いざ戦争になってすら、協力することすらままならないですし、したくてもできないというのが本音でしょう。中国の新たな枠組みもそういうことになるでしょう。有利な点としては、国連などの国際会議の決議で、貧乏国であっても、国連加盟国であれば投票する権利があり、一票の重みとしては大国とは変わらないというくらいなものです。

ロシアの人口は1億4千万人であり、中国の人口はその10倍の14億人です。ただ、人口が10倍なので、国単位としてのGDPでは中国はロシアの10倍です。ロシアは国単位では、GDPは韓国や東京都なみです。

ただ一人あたりのGDPでは、ロシアも中国も10000ドル(100万円)台なので、両国とも一人ひとりの国民を豊かにするノウハウなど持ち合わせていません。

中国が仮に、Quadに対抗できるような新たな枠組みを作ったにしても、CSTOくらいのものしか作れません。

しかし、中国は、先に述べたように、習近平政権がこの数年間、戦狼外交や覇権主義戦略を進めた結果、このようなことを招いてしまったということに彼らは気が付いていなようです。

であれば、中国が何らかの新しい枠組みをつくれば、Quadに対抗できるると思い込む可能性はあります。その挙げ句の果に、プーチンのように、勘違いして、NATOに対抗するためにウクライナに侵攻すれば、短期間で制圧できると思い込んだように、中国も勘違いし、台湾などを含むインド太平洋地域の国々に侵攻しないという保証はありません。

そうなっても、結局習近平は、プーチンが明らかにウクライナで失敗したように、インド太平洋で簡単に軍事作戦を遂行しても具体的な成果をあげることはできないでしょう。結局失敗するでしょう。

それに、ソ連は中東欧諸国まで衛星国や属国にしていたことはありますが、中国はインド太平洋地域全域を一度たりともそのようにしたことはありません。台湾に関しても、清朝が一時的に統治したことがあるのみです。

ムスリム系出身の鄭和がインド太平洋地域に大航海をしたという記録がありますが、それは古代の話ですし、鄭和艦隊は後のヨーロッパ人による大航海時代とは対照的に、基本的には平和的な修好と通商を目的とし、到着した土地で軍事行動を起こすことはあまりありませんでした。

中国がインド太平洋地域に侵攻する大義は、ほとんどありません。現代の中国が、これらの地域に武力攻撃を行えば、ロシアのウクライナ侵攻と同じく、国際法違反になるのは間違いありません。しかし、南シナ海を実行支配したことを国際司法裁判所で不当なものと判決されても、中国はそれを無視しました。

習近平が誇大妄想に陥りこの地域で軍事作戦を遂行すれば、取り返しはつきません。結局その中国のその試みは失敗する可能性が高いですが、甚大な被害を受ける国がでてくる可能性は否定できません。それが日本ではないという確実な保証もありません。

このようなことは絶対避けるべきです。そのためにも、Quadは、これからも習近平にプーチンのような勘違いをさせないように、緊密に連携し、中国に対応していくべきですし、ロシアのウクライナ侵攻に対しては、習近平に勘違いさせないためにも、厳しい対処を継続すべきです。


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