2024年10月10日木曜日

ドイツ、24年は0.2%のマイナス成長見通し=経済省報道官―【私の論評】ドイツ経済の危機を招いた脱原発政策:日本が学ぶべき教訓

ドイツ、24年は0.2%のマイナス成長見通し=経済省報道官

まとめ
  • ドイツ経済省は、2024年の経済成長率見通しを0.3%のプラス成長から0.2%のマイナス成長に下方修正し、これにより2年連続のマイナス成長が予測されている。
  • ドイツの主要経済研究所も、2024年のGDP成長率予測を0.1%減に修正しており、経済省はこれらの予測を反映した見通しを10月9日に発表予定。
  • 経済省の報道官は、今回の経済予測が経済情勢や基礎データに基づいた包括的な評価であり、詳細な説明を提供するためのものであると述べた。

ドイツのフォルクスワーゲンの工場

ドイツ経済省は、2024年の経済成長率見通しを従来の0.3%のプラス成長から0.2%のマイナス成長へと下方修正することを発表した。この発表は南ドイツ新聞の報道を確認する形で行われ、ドイツ経済が今後さらに厳しい状況に直面することを示唆している。2023年の国内総生産(GDP)はすでに0.3%減少しており、ユーロ圏の主要国の中でも特に低迷していたことから、これで2年連続のマイナス成長となる見通しだ。

また、ドイツの主要経済研究所であるIFO経済研究所、ドイツ経済研究所(DIW)、ハレ経済研究所(IWH)、キール世界経済研究所(IfW)、およびライプニッツ経済研究所(RWI)の5つの研究機関も、2024年のGDP成長率を0.1%減に下方修正する予測を示しており、これを踏まえてドイツ経済省は新たな経済見通しを10月9日に公表する予定だ。

経済省の報道官は、この経済予測が経済情勢や見通し、そしてその背後にあるデータや分析に基づいた包括的な評価を提供するものであり、より詳細な説明が可能になるようにする意図があると述べた。

【私の論評】ドイツ経済の危機を招いた脱原発政策:日本が学ぶべき教訓

まとめ
  • 最近マスコミは、ドイツが日本のGDPを追い越したと報道していたが、それは名目GDPのことである。名目GDPは物価変動を考慮しないため、実質GDPと比較すると経済の実態を反映しない。名目GDPの高低で国の経済力を判断することは無意味である。
  • 現実のドイツは不況にあえいでいる。ドイツは「脱原発」を進めた結果、エネルギー不足や高騰する電力料金に直面し、経済成長が損なわれている。
  • さらに再生可能エネルギーへの過剰依存がエネルギー供給の不安定さを引き起こし、企業や家庭にさらなる経済的負担をかけている。
  • 移民問題の経済的影響: 大量の移民や難民を受け入れたことで、ドイツの社会が混乱し、経済的な負担が増大している。
  • ドイツが全原発を廃炉にしたことは、新しい原子力技術への道を閉ざし、エネルギー安全保障を脅かす結果となっている。日本も同様の誤りを繰り返すべきではない。

テレビで報道されたテロップ

最近、マスコミでは「ドイツが日本のGDPを追い抜いた」と報じられることがあるが、実はそれは名目GDPの話である。名目GDPとは、物価変動を考慮しないそのままの数字であり、実質GDPとはインフレーションを調整したもので、経済の実際の成長を反映するものだ。名目GDPの比較は、物価の違いや経済構造の違いを無視しているため、あまり意味がないとされている。

国際通貨基金(IMF)のデータでも、名目GDPは短期的な変動に敏感であり、経済の実体を示すものではないとされている。このため、名目GDPが高いからといって、その国の経済が強いわけではないのだ。名目GDPでドイツの経済が大きくなったようにみえたのは、物価の高騰によるところが大きい。

上の記事にもあるように、今やかつての経済大国ドイツが不況の泥沼にはまり込んでいるのをご存じだろうか。その原因の一つは、はっきり言って「脱原発」という愚策の極みとも言える選択にある。ドイツは、エネルギー政策において左翼的な思想に基づいた判断をしてしまい、その結果、現在の苦境に陥っているのだ。

原子力は、非常に安定したエネルギー源であり、多くの国々が経済成長の土台として活用してきたものである。実際、国際エネルギー機関(IEA)のデータによれば、原子力はCO2排出量が少なく、安定した供給能力を持つエネルギー源であるとされている。

しかし、ドイツの左派勢力は、科学的事実や合理的な視点を無視し、いわゆる「グリーン・アジェンダ」という環境主義の名のもとに恐怖を煽り立て、原発の廃止を強引に進めた。その結果、ドイツは貴重なエネルギー源を自ら手放すという、大きなミスを犯してしまったのだ。

その影響はどうだったのか?第一に、ドイツはエネルギー不足という深刻な問題に直面している。原発を閉鎖したことで、代わりにロシアからの天然ガスなど、外国からのエネルギーに依存するようになった。2021年のドイツの天然ガス輸入量のうち約55%がロシア産であり、この依存がもたらすリスクは、ウクライナ情勢をきっかけに痛感されることとなった。これはまさに自ら首を絞める行為であり、世界の市場や地政学的なリスクに対して脆弱な立場に追いやられたのだ。

さらに、エネルギー価格が急騰し、一般家庭も企業もその影響を受けている。2022年のエネルギー危機の際には、ドイツの電力料金は過去最高を記録し、欧州の中でも最も高い水準に達した。ドイツ人は高騰するエネルギー料金に苦しみ、企業はコストの高騰により、製造業や化学産業などが深刻なダメージを受けている。これにより、フォルクスワーゲンなど一部の企業は、エネルギーコストがもっと安く済む国への移転を検討するという、まさに国の産業基盤が揺らぐような事態に陥っているのだ。

ドイツでは、2014年時点で再生可能エネルギーの占める発電割合が、過去最高となっていた

そして、ここに追い打ちをかけているのが、再生可能エネルギーへの過剰な依存である。再生可能エネルギーは、クリーンで環境に優しいと言われているが、その一方で非常に不安定なエネルギー源でもある。

風力や太陽光は天候に左右されるため、安定した電力供給が難しく、2022年にはエネルギー供給の不安定さが原因で電力不足の危機が何度も訪れた。これはドイツの産業界にとって致命的であり、結局は石炭火力やガス火力といった化石燃料への依存を再び高めざるを得ないという皮肉な結果を招いているのだ。

再生可能エネルギーの不安定さが引き起こす問題は、エネルギーの安定供給を妨げ、さらには価格の急騰を引き起こしている。国際エネルギー機関の報告によれば、エネルギー価格の不安定化は欧州全域に影響を与え、特にエネルギーを大量に消費する産業にとって大きな打撃となっているとのことだ。これによって、ドイツ国内の企業や家庭はさらなる経済的負担を強いられている。環境に優しいという名のもとに導入されたはずの再エネが、皮肉にもドイツ経済を揺るがす一因となってしまっているのだ。

さて、こうした経済的混乱に拍車をかけているのが、移民や難民問題である。2015年の移民危機以降、ドイツは大量の難民を受け入れてきたが、その結果、社会が混乱し、経済的な負担も増大している。ドイツ政府によると、2021年だけでも移民にかかる費用は約220億ユーロに上り、これが社会保障制度に大きな圧力をかけている。

移民の多くは、十分な教育や職業スキルを持たず、労働市場に適応するのが難しいため、失業率の上昇や治安の悪化といった問題も引き起こしている。経済的な側面だけでなく、社会の安定をも脅かす結果となっているのだ。

ドイツ・ベルリンで行われた親パレスチナデモ=2023年11月4日

さらに、原発を廃炉にしたとしても、そのプロセスには時間がかかり、核物質の管理は依然として大きな課題である。例えば、原子炉の廃炉には通常、数十年もの長い年月が必要であり、その間、放射性物質の管理が必要だ。これに関する研究によれば、廃炉作業が完了するまでには、原発のリスクが依然として存在することが示されている。また、廃炉を決めただけではリスクは低減されず、適切な管理がなければ、放射性物質が環境に漏れる危険性も残るのだ。

そんな中、比較的新しい技術である小型モジュール炉(SMR)が期待されている。SMRは、小型でありながら高い安全性を兼ね備えており、事故が起こりにくい設計がされている。例えば、アメリカのエネルギー省によると、SMRは従来の原発よりも安全性が高く、導入が進むことで電力供給の安定化が図られるとされている。

また、将来的には核融合炉の技術も期待されている。核融合炉は、燃料が豊富で環境への負荷が極めて少ないという特性を持ち、これが実用化されればエネルギー問題は根本的に解決する可能性があるのだ。

しかし、ドイツが全原発を廃炉にし、新たな原発を設置しないことで、新たな小型モジュール炉や核融合炉への道も閉ざしてしまった。国際原子力機関(IAEA)の見解によれば、原子力技術の進化には既存の知識と経験が不可欠であり、過去の原発技術を無視して新しい技術を開発することは非常に難しい。そのため、ドイツが全ての原発を廃炉にすることは、大きな誤りであり、エネルギーの安定供給を図り、経済成長を促進するためにも原子力は重要な選択肢であり続けるべきである。

このように、ドイツの状況は、左翼イデオロギーが国家経済に現実的かつ有害な影響を及ぼす可能性を明確に示している。安定したエネルギー源を放棄することで、ドイツのエネルギー安全保障と繁栄は危機に瀕しているのだ。

こうした時代錯誤の政策に対して、私たちは強く立ち向かわなければならない。原子力発電は、経済成長と国家安全保障を保証する強固なエネルギー戦略の重要な一部である。左翼的な決定がもたらす結果は、広範囲に及び、大きな代償を払うことになるのだ。

したがって、日本はドイツのようになってはいけない。左翼的な政策が経済や社会に及ぼす影響を直視し、正しい選択をすることが求められている。日本の未来のためにも、原子力を含む信頼できるエネルギー源を守り、国家の繁栄を確保していく必要がある。

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2024年10月9日水曜日

日本保守党、百田尚樹氏が比例代表の近畿ブロック 有本香氏が東京ブロックから出馬へ 次期衆院選―【私の論評】次期衆院選と高市早苗氏:保守派の台頭と財務省の抵抗、雨降って地固まる政治転換の可能性

日本保守党、百田尚樹氏が比例代表の近畿ブロック 有本香氏が東京ブロックから出馬へ 次期衆院選

まとめ
  • 日本保守党が次期衆院選で百田尚樹氏と有本香氏の出馬を発表し、百田氏は「日本を守りたい」という意気込みを示した。
  • 各ブロックに複数の候補者を擁立しており、地域ごとの代表も明らかにされた。

街頭演説する百田氏と有本氏

 政治団体「日本保守党」は8日、次期衆院選に向けて記者会見を開き、党代表の百田尚樹氏が比例代表の近畿ブロックから、有本香氏が東京ブロックから出馬することを発表した。百田氏は「日本を守りたい、日本の良さを残したい」と述べ、理念に賛同する候補者と共に戦う意気込みを示した。

 また、北海道ブロックには元北海道議の小野寺まさる氏、東京ブロックには元仙台市長の梅原克彦氏、南関東ブロックには荒川区議の小坂英二氏、近畿ブロックには島田洋一氏が名を連ねている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】次期衆院選と高市早苗氏:保守派の台頭と財務省の抵抗、雨降って地固まる政治転換の可能性

まとめ
  • 保守派である私にとって、今回の衆院選では自民党議員と日本保守党候補への投票を迷わず決断できる状況である。
  • 高市早苗氏に対する危害を示唆する投稿が確認されたことから、警護措置が強化され、これは彼女の政治的存在感が全国で増していることも示している。
  • 石破政権の低迷を背景に、高市氏への期待が高まり、次期総裁選での動向が注目されている。麻生太郎氏からの助言もあり、高市氏の将来的なリーダーシップが期待されている。
  • 安倍晋三氏が総理在任中に消費税増税を延期しながらも最終的に増税を強いられた背景には、財務省や財務省寄り政治家たちの強力な抵抗があった。この点は安倍晋三回顧録にも詳細に記され、財務省の影響力の強さが政治決定に大きく関与していることが示されている。
  •  次の選挙で抵抗勢力の議員が落選し、保守党が国政政党として台頭すること他の野党の保守派の連動で、日本の政治が大きく変わる転換点を迎える可能性がある。「雨降って地固まる」という状況が現実のものとなる可能性が大である。
私の住む選挙区では、自民党の議員が再び立候補する。この議員は高市早苗氏の推薦人であり、総裁選では2度とも高市氏に投票している筋金入りの支持者だ。一方、比例では地元から日本保守党の候補者が出る。保守派である私にとって、今回は迷わず投票先が決まっている。

日本保守党の北海道ブロックから立候補する小野寺まさる氏

過去の市長選や知事選では悩みに悩み抜いて投票先を決めたが、今回の衆院選挙はまったく迷いがない。この点だけを見れば、本当にありがたい話だ。

さて、話を高市早苗氏に戻す。次期衆院選に向け、高市氏には異例の警護措置が取られることになったという。サイバーパトロールにより、高市氏への危害を示唆する投稿が確認され、選挙期間中にはSPが常に付き添うことが決まった。これは、高市氏の存在感が全国で増していることを示す一つの証左だろう。

高市氏は自民党総裁選で1回目の投票でトップに立ち、その存在を改めて誇示した。警護の強化は、要人襲撃事件が相次ぐ昨今、彼女の身の安全を確保するための措置でもある。こうした背景を考えると、高市氏の影響力は今後さらに増していくことが予想される。

だが、一方で石破政権の支持率が低迷する中で、高市氏への期待が日増しに高まっている。麻生太郎党最高顧問からは次期総裁選に向けての準備を求められたとも言われ、政局は大きく動きつつある。先月末の総裁選で高市氏が敗北したことは残念だったが、それがむしろ逆風を追い風に変える結果になるかもしれない。


石破政権が成立したことは、私たち保守派にとって衝撃だった。リベラル派や新中派、財務省寄りの勢力に押される形での政権成立であり、保守派の思惑とは大きく異なるものだった。だが、この状況こそ、我々にとってチャンスの到来だと捉えるべきだ。

次の衆院選では、自民党にとって決して楽観できない選挙戦が待っている。そのため、一部には来年夏の参院選前に石破政権が崩壊するというシナリオすらささやかれている。我々保守派はこの流れを確実にするべく、総裁選で高市氏を支援した議員たちを守り抜く戦略で次の選挙に臨むべきだ。

高市氏が総裁選で勝利していたなら、私たち保守派は歓喜に沸いていただろう。しかし、それでも半年や1年で失望の淵に立たされたかもしれない。自民党内部には、安倍政権の影響を払拭しようとする勢力が強く、高市氏がその中で自由に政権運営を行うのは至難の業だったに違いない。

現に、高市氏が経済安全保障担当大臣だった時も、その立場でLGBT理解増進法案に対して反対の立場を貫けなかった。記者からの質問に対して、「賛成」と述べるしかなかったのだ。もしここで「反対」と答えていれば、閣内不一致となり、大臣辞任という事態に追い込まれていた可能性もある。

これは、高市氏に限った話ではない。安倍晋三氏も同様に、消費税増税を二度延期するも最終的には実行せざるを得なかった。その背景には、財務省や財務省寄りの政治家たちによる強力な抵抗があったからだ。総理大臣の地位にあってすら、財務省の圧力に逆らうことがいかに難しいかは、安倍晋三回顧録にも詳しく記されている。


そう考えると、高市氏が仮に総裁選で勝利して総理になっていたとしても、党内の抵抗や財務省の影響を押し返すのは容易ではなかっただろう。だが、それでも彼女はきっと粘り強く戦ったに違いない。それでもなお、政策の進展が遅々として進まなかった可能性は高い。

しかし、今は状況が変わりつつある。次の選挙では、抵抗勢力に属する議員たちが多数落選する可能性が出てきている。さらに、保守党が国政政党として台頭し、国政において影響力を持ち始めるかもしれない。他の野党の保守派もこれに連動する可能性もでてきた。この状況こそ、我々保守派が待ち望んでいた転換点ではないか。

まさに、私たちは日本の政治史の転換点を目の当たりにしつつあるのかもしれない。使い古された言葉ではあるが、「雨降って地固まる」という現象が、来年には確実に起こるのだと信じてやまない。

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2024年10月8日火曜日

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高橋洋一「日本の解き方」

まとめ
  • 石破茂首相が掲げる2020年代の最低賃金1500円目標は、左派的政策であり、実現可能性が低い
  • 最低賃金の大幅引き上げは、韓国の文在寅政権や日本の民主党政権の例から、失業率上昇や雇用悪化を招く可能性が高い
  • 目標達成には5年連続7.4%の引き上げが必要だが、過去の実績(最高6.9%、平均2.6%)から見て非現実的
  • 最低賃金引き上げは、インフレ率と失業率に依存しており、目標達成には5年連続で2桁以上のインフレが必要
  • 安倍政権は専門家の計算に基づく現実的なアプローチを取っていたのに対し、石破政権は理念先行で具体的手順を欠いている

 石破茂首相は2020年代に最低賃金平均1500円を目指すと表明し、政権の左派的性格が明確になった。左派政党は雇用重視だが、金融政策の重要性を理解せず、賃金にのみ注目する傾向がある。雇用を作るため重要なのは金融緩和なのだが、金利の引き下げが「モノへの設備投資」を増やすとともに、「人への投資」である雇用を増やすことを左派の人は分からない。

 韓国の文在寅前政権は2018年に最低賃金を16.4%引き上げた結果、失業率が3.6%から4.4%に上昇した。日本の民主党政権も2010年に、本来0.3%程度が適切だった引き上げ率を2.4%まで上げ、就業者数が約30万人減少した。一方、金融政策を重視した第2次安倍政権では300万人以上増加し、対照的な結果となった。

 石破政権の目標達成には5年連続で7.4%の引き上げが必要だが、1980年以降の最高実績は6.9%、平均2.6%であり、実現は困難と考えられる。最低賃金の引き上げ率は前年のインフレ率と失業率に依存し、失業率には下限がある。失業率の下限を2%台半ばとすると、目標達成には5年連続で2桁以上のインフレ率が必要となる。

 安倍政権時代は、首相が毎年のように最低賃金引き上げの可能性を専門家に確認し、インフレ率と失業率の関係フィリップス関係を用いて慎重に検討していた。一方、2019年の参院選では、立憲民主党が「5年以内に最低賃金1300円」、れいわ新選組が「1500円」を掲げており、今や与党からも同様の政策が提案されている。

 石破政権は理念先行で具体的な手順を欠いており、文政権や民主党政権のような失敗を繰り返す可能性が高い。安倍元首相が最低賃金引き上げの現実的な可能性を重視していたのと対照的に、石破政権の左派的アプローチは経済的な悪影響をもたらす可能性がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】フィリップス曲線の真髄:安倍政権の置き土産を食い潰す愚かな自民と立民

まとめ
  • フィリップス曲線は経済政策の重要な指針だが、多くの政治家はその本質を理解していない。
  • NAIRU(インフレを加速しない失業率)の概念を無視し、単純に数値目標だけを追求することは経済政策として不適切。
  • 日本が一度も陥ったことのないスタグフレーションに対する誤解が根強く、日本経済の実態を正しく理解していない政治家が多い。
  • 立憲民主党の「物価目標を0%超に変更」など、現実の経済状況を無視した政策提案が見られる。
  • 安倍政権の経済政策の成果を理解せず、その遺産を台無しにしようとする愚かな政治家たちの暴走を断固として阻止しなければならない
コロナ直前までのフィリップス曲線 ー 出展:独立行政法人経済産業研究所

上の記事にもでてくる、インフレ率と失業率の関係フィリップス関係とはフィリップス曲線と呼ばれるものだ。これはインフレ率と失業率の関係を示したもので、ざっくり言えば「インフレ率が高くなると失業率が下がり、インフレ率が下がると失業率が上がる」という理屈だ。

この理論は1958年にアルバン・ウィリアム・フィリップスという英国の経済学者が提唱したが、未だに経済政策の指針として重宝されている。現代の経済政策も、多かれ少なかれこのフィリップス曲線の影響を受けているわけだ。しかし、理論がわかっているふりをしているだけの政治家が多いこと多いこと。まるで、教科書の一節を暗記しただけで、実戦経験がない素人のようなものです。

例えば、アベノミクスも、このフィリップス曲線を背景にした政策と言えますが、その真髄を理解している政治家がどれほどいるでしょうか?表面だけを見て、「インフレを上げれば景気が良くなる」とか、「失業率を下げれば全て解決だ」なんて言っている人は、正直言って話になりません。

高橋洋一氏が言っている「NAIRU(ナイル)」の概念、つまり「インフレを加速しない失業率」の重要性を見落としているのだ。経済の舵取りをする上で、これを無視することは致命的な過ちである。さらに、数字だけを盲信しているようでは、経済政策を語る資格などない。以下に高橋洋一氏の「マクロ政策・フィリップス曲線」についての説明をあげておく。
 NAIRU(インフレを加速しない失業率)がマクロ経済政策、とりわけ金融政策において重要だと指摘してきた。一般的に、インフレ率と失業率は逆相関であり、NAIRUを達成する最小のインフレ率をインフレ目標に設定するからだ。ここから導かれる金融政策は、失業率がNAIRUに達するほど低くない場合、インフレ率もインフレ目標に達しないので金融緩和、失業率がNAIRUに達すると、その後はインフレ率がインフレ目標よりも高くなれば金融引き締めというのが基本動作である。

 そして、筆者の推計として、NAIRUを「2%台半ば」としてきた。国会の公聴会でも説明したが、経済学は精密科学でないので、小数点以下に大きな意味はないが、あえてイメージをハッキリさせるために、「2%台半ば」を2・5%ということもある。これは、2・7%かもしれないし2・3%かもしれない。2・5%程度というと数字が一人歩きするので、普通は「2%台半ば」といっている。
しかし「失業率が2.5%、インフレ率が2%」という数値目標を立てたとしても、その数値だけに囚われてはならない。数字というのはあくまで目安に過ぎないのだ。経済は生き物だから、ちょっとやそっとの数値の変動で右往左往していたら、経済全体がどんどん不安定になる。

たとえインフレ率が2%を超えたとしても、失業率が上がらなければ、緩和策を続けてじっくり様子を見るべきなのだ。反対に、失業率が2.5%に達したとしても、物価がまだ低迷していれば、安易にブレーキを踏むべきではない。経済は、急に冷やしたり、壊してしまったら再び温めるのがとんでもなく大変なことになる。

しかし、そもそも、フィリップス曲線すら理解せず、頓珍漢なことを言う人がいかに多いことか。これは、古今東西いずれの国のにもあてはまる原則だ。いい加減これだけは、認めたらどうなのか。これを認められてないということは、世界標準のマクロ経済を理解していないということであり、世界の檜舞台では馬鹿にされることはあっても褒められことはない。

そして、スタグフレーションに対する誤解も根深い。フィリップス曲線の話になると、必ず「インフレと失業が同時に悪化するスタグフレーションが起きたらどうするんだ!」と騒ぎ立てる人たちが出てくるが、正直言って、彼らは何もわかっていない。日本経済の歴史を振り返っても、スタグフレーションと呼べるような状況に陥ったことは一度もない。

1970年代のオイルショックで似たような状況になったことはあったが、それも一過性のものだった。スタグフレーションがどうこうと言う前に、まず自分たちが経済の理論をきちんと理解しているのかを考え直してほしいものだ。

さらに、立憲民主党が次期衆院選の公約で掲げた「物価目標を2%から0%超に変更する」という案には、正直言って耳を疑った。現状の物価が2%前後に達している中で、なぜ突然「0%超」などという荒唐無稽、奇妙奇天烈な発想が飛び出してくるのか。彼らは一体、どの次元に住んでいるのだろうか?

現実の日本経済をまるで見ていないことは明らかだ。経済政策の基本的な理屈を理解していれば、そんな発言は絶対に出てこないはずだ。物価が上がっているのは、国内の需要だけではなく、海外からのエネルギー・資源価格の高騰が大きく影響していることを見ればわかるはずだ。

立憲民主党は次期衆院選の公約を公表したが・・・・・

このような状況下で、石破茂氏や立憲民主党、さらには野田元首相までもが経済の基本をわかっていないように見える。彼らが掲げる政策は、経済の仕組みを理解しているとは到底思えない内容ばかりで、どうにも信頼がおけない。

経済の機微を感じ取れないということは、すなわち国民の生活の実態もわかっていないということだ。政治家として最も重要なのは、経済を語るだけでなく、国民の暮らしを直接感じ取り、そのために必要な政策を実行するセンス。これが欠けているようでは、政治家として存在する意味すら疑われる。

日本経済の舵を取るには、ただ数字を並べるだけではなく、その背後にある複雑な動きを読み解く力が必要だ。現状の経済を本当に理解しているのか、経済政策を本気で考えているのか、それが見えてこない政治家たちに未来を託すわけにはいかない。

経済政策の本質を捉えず、安易に緩和策をやめろと言う連中は、経済の停滞を招きかねない。これでは、国民の暮らしを守るどころか、逆に生活を苦しめる結果になる。こんな政策を掲げる政治家たちに、本当にこの国の未来を任せていいのか、大いに疑問だ。

安倍政権が残した素晴らしい経済政策の遺産を、岸田、石破、野田といった輩が台無しにしようとしているようだ。フィリップス曲線に基づく安倍政権の卓越した経済戦略を理解できない彼らの愚かさには呆れるばかりだ。

岸田首相のときは、安倍・菅両政権の経済政策の恩恵(特に100兆円の補正予算)の余波が続いていたが、石破首相にはもうそれはなく、本来自分で開拓していかなければならいはずだ。しかし、経済に疎い彼にはそれはできない。ましてや、野田氏にもその力量はない。政権交代をしても何も変わらない。

アベノミクスによって日本経済は見事に蘇ったというのに、その成果を無にしようとする彼らの行為は、許すことはできない。政治家としての器の小ささを露呈し、国民の期待を裏切り続ける彼らに、もはや日本の未来を託すことはできない。

真の愛国者なら、安倍政権の経済政策を継承し、さらに発展させるべきだ。このままでは日本は再び暗黒の時代に逆戻りしてしまう。我々国民は、こうした愚かな政治家たちの暴走を断固として阻止しなければならない。

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自民に激震「比例重複認めず」 非公認対象広がる 党勢後退すれば首相の責任問題も

まとめ
  • 石破首相の方針: 政治資金収支報告書に不記載の自民党議員を公認しても、比例代表との重複立候補を認めず、非公認の対象が拡大する。
  • 旧安倍派の影響と党内対立: 不記載事件に関与した旧安倍派の議員が狙い撃ちされ、党内の対立が深刻化する見込み。
  • 選挙戦の厳しさと責任問題: 非公認となる議員は選挙戦で厳しい状況に直面し、落選が続けば首相自身が責任を問われる可能性がある。
パーティー収入不記載事件に関係する議員の衆院選公認を巡る方針を発表する石破茂首相=6日午後、党本部

石破茂首相は、政治資金収支報告書に不記載が確認された自民党議員を次期衆院選で公認しても、比例代表との重複立候補を認めない方針を固めた。これにより非公認対象が広がり、有権者の不満を抑える狙いがあるが、選挙での当選確率が下がるため、自民党内に動揺が広がっている。

特に旧安倍派議員への影響が大きく、安倍晋三元首相との距離を理由に狙い撃ちと見られている。非公認によって厳しい選挙戦が予想され、衆院選で落選する議員が続出した場合には、首相自身が責任を問われる可能性もある。

自民党内では、首相の決断が党勢後退を招くのではないかと懸念する声も強まっており、刺客を送り込まない現状では議席数の減少が避けられないとの意見も出ている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】安倍晋三 vs. 石破茂:リーダーシップの対比と高市現象の必然

まとめ
  •  石破茂は心のなが見通せるという意味では「正直者」だが、彼の行動は復讐心から来ており、あからさまな「報復人事」を実行した。
  • 石破は安倍派の議員を冷遇し、彼らを選挙でも追い詰める厳しい選挙戦略を採用している。
  • 高市早苗の人気は、グローバリズムに対する反動であり、国際的な自国第一主義と共鳴している。
  • リーダーは自己を超越し、組織の成功を重視するべきで、石破は自己中心的な振る舞いに陥っている。
石破茂、彼を語るにはまず「正直者」という言葉が浮かぶ。だが、その正直さが単なる無骨さに過ぎないのか、あるいは冷酷なまでに計算された策略の一環なのか、その真意を見極めるのは容易ではない。政治の舞台において、冷や飯を食わされ続けた男が復讐を遂げる瞬間——その劇場の幕が上がった。

報復人事は労基法では禁じられているが、閣僚人事、自民党役員の人事などは適用外

まず、石破茂が登場する舞台、それは人事の世界だ。企業でも官庁でも、人事は組織の成長を左右する最重要課題であり、それを司るのは一握りのエリートたち。彼らは組織を陰で動かし、成功に導く黒幕でもある。しかし、永田町の世界では、人事は一人の権力者の手中にある。

権力の源を握った者だけが人事を操り、己の敵を討ち、味方を引き上げる。その冷厳たるリアリズムこそが政治の本質である。石破はまさにその権力を手にした瞬間、冷や飯を食わされてきた自らの境遇に報いるかのように、絵に描いたような「報復人事」を炸裂させた。

彼は安倍氏を「国賊」として謗った村上誠一郎を重要ポストに抜擢し、一方で、かつて安倍晋三の手下として勢いを振るった旧安倍派を徹底的に冷遇した。そのあからさまな動きは、まるで復讐劇の幕開けを告げるかのようだった。旧安倍派の議員たちが次々とその牙城を崩される様は、かつて彼らが安倍晋三の陰で糧を得ていた日々を思い出させずにはいられない。彼のやり方は実にあからさまで、その復讐の矛先は誰の目にも明らかだった。

旧安倍派幹部

さらに、石破茂の真骨頂はその選挙戦略にあった。彼は、政治資金収支報告書に不記載が発覚した議員たちに対して、比例代表との重複立候補を認めないという厳しい方針を打ち出した。この決断は、ただ単に選挙の公平性や透明性を守るためのものではなく、むしろ旧安倍派有力者たちを狙い撃ちにするためのものだった。彼らが選挙で苦境に立たされるよう仕向けることこそが、石破の狙いであったのだ。

これにより、比例代表というセーフティネットを失った彼らは、個別選挙区での勝負を強いられることとなった。安倍派の中堅議員たちは「これでは政権を支え続ける気力が失せる」と憤りを隠さなかった。石破の選挙戦略は、まさに自らの敵を選挙の場で追い詰めるための策略であり、その冷酷さに驚きを禁じ得ない。

ここで、リーダーシップの本質について考えてみよう。このブロクでも過去に掲載した経営学の大家ドラッカー氏による、真のリーダーの定義とは、仕事そのものに自らを捧げ、己を捨ててでも組織を前進させる者のことである。安倍晋三はまさにその資質を持ったリーダーであった。彼は石破茂をあえて幹事長に据え、表向きは協調路線を演出しながら、徐々に石破の影響力を削ぎ取っていった。その巧妙な手腕は「悪党政治家」と呼ぶにふさわしく、まさに百戦錬磨の政治家たる由縁であった。ここでいう悪党とは、政治家としては、むしろ褒め言葉である。

安倍の冷静さと計画性、それに比べて石破の自己中心的な振る舞いは、政治家としての資質の違いを如実に表している。安倍が持っていたのは、あくまで組織のため、仕事のためという強い信念と覚悟であり、それが彼をして「悪党」としての道を歩ませた。しかし、石破にはそれがなかった。彼の動きはあまりにも感情的で、復讐心に満ちている。虚栄心に支配され、自らの感情をあらわにして報復に走った彼の行動は、リーダーとしての冷静さを欠いている。

リーダーシップとは、自己を超越した存在であり、組織の成功を第一に考えるものでなければならない。チャーチルが後進の育成を最後まで続けたように、真のリーダーは自らを越える者たちを支援し、その育成を惜しまないのだ。石破茂の行動はその逆を行き、自らの敵に対して怨念を燃やし、組織を分断させることになるだろう。

自民党総裁選の決選投票を前に演説する高市早苗氏

そうして「高市現象」は単なる国内政治の一部ではなく、国際的な流れの一部なのだ。グローバリズムの影響で広がる社会の分断と、それに反発する動きの象徴として、高市早苗の主張が多くの国民に支持されている。日本もまた、自国第一主義の時代(これは単なるモンロー主義などとは異なる、ただ長くなるのでここでは説明しない)に向かいつつあり、それが新しい政治の形を生み出そうとしている。これは「時代が求める強きリーダー像」への希求であり、世界が新しい形のリーダーシップを渇望している証拠なのだ。

結局のところ、石破茂と安倍晋三、そして高市早苗——彼らの違いはどこにあるのか。それは、リーダーとしての資質と覚悟、そして組織を超えた目的意識にある。石破は、自己の怨念を晴らすために動き、安倍は冷徹に組織を強化するために行動した。

そして高市早苗は、時代の要求に応えるために立ち上がった。これこそがリーダーシップの本質であり、石破茂にはそれが足りなかったと言わざるを得ない。最後に残るのは、リーダーとしての覚悟の違いが、彼らの運命を大きく分けることになるだろうとの結論である。

以下に総裁選で高市氏に投票した議員そうでいない議員のリストを掲載します。

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2024年10月6日日曜日

石破茂首相の奇異な言語感覚―【私の論評】シンプルな英語の重要性と石破構文の問題点:陳腐な決まり文句が政治に与える影響とは?

 石破茂首相の奇異な言語感覚

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

まとめ
  • 石破氏の言語感覚は奇妙極まる。最も簡明でわかりやすい事柄を最も複雑でわかりにくい言語で表現。
  • 所信表明演説でも、当たり前のことを改めて大上段から振りかざす形でさも新しいことのように述べた。
  • 当たり前の表現の羅列は、米政治ではplatitudeと呼ばれ軽蔑される。

新首相となった石破茂氏の言語感覚について、筆者は長年奇妙に感じてきた。石破氏は簡単なことを複雑でわかりにくい言葉で表現し、漢字や関係代名詞を多用するため、表面上は重厚に見えるが、内容は単純なものが多い。

石破氏が自民党の総裁となり、総理となっての一連の言葉の使い方から、さらにそう思わされるようになった。彼が所信表明演説で、打ち出した「納得と共感の内閣」というスローガンも、主語が曖昧で、石破内閣が納得し共感するのではなく、本来は国民がそうすべきだという意味であるべきだ。

この種の当たり前の表現の羅列はアメリカの政治の場などでは、platitude(プラティテュード)と呼ばれて、軽蔑される。手垢のついた平凡、平板の決まり文句、というような意味である。石破氏の言語もどうしても私にこのplatitude という英語を連想させてしまうのだ。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】シンプルな英語の重要性と石破構文の問題点:陳腐な決まり文句が政治に与える影響とは?

まとめ
  • アメリカでは、政治や職場でシンプルな英語が推奨され、誰にでも理解しやすい表現が重視されている。
  • 一方イギリスの名門校では、難解な言葉遣いがエリート教育の一環として使われてきた。しかし、一国のリーダーはエリート校の教育者ではない。シンプルさを心がけるべき。
  • 石破茂氏の「石破構文」は、具体性や実現可能性に欠け、複雑すぎるとの批判がある。
  • 政治家には、複雑な問題をシンプルに伝え、有権者に理解しやすいメッセージを発信する責任がある。
  • 我々有権者は、正しいことに「イエス」、間違ったことに「ノー」と言える胆力を持つことが大切だ。
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米国では、専門分野を除けば、政治、教育、職場などで「シンプルな英語(Simple English)」が推奨されている。これは、特に英語が母語でない人や、教育レベルが異なる人々にも正確に情報を伝えるためだ。政治の世界では、国民全体に理解されやすい言葉を使うことが求められており、わざと複雑な表現を使うことは避けられる。

教育現場でも、英語を第二言語とする学生や識字力に差がある生徒がいるため、簡潔でわかりやすい表現が好まれている。また、Wikipediaにも「Simple English」というバージョンがあり、誰にでも理解できるような文章で情報が提供されている。

職場においても、シンプルで明確な英語が推奨されており、ミスコミュニケーションを防ぐために必要とされている。特に、グローバルなビジネスの現場では、英語が母語でない同僚や取引先と効果的にコミュニケーションを取るために不可欠だ。こうしてアメリカでは、幅広い層に向けた情報発信において、簡単で明確な英語が用いられているのだ。

その中でも、上の記事にもある通りアメリカでは「platitude」(平凡で陳腐な決まり文句)が嫌われる。なぜなら、これらの言葉は曖昧で意味が薄く、聞き手に具体的な行動や内容を伝えることができないからだ。アメリカで推奨されるシンプルな英語では、明確で簡潔な言葉が重視され、誰にでも理解できるような表現が求められている。そのため、platitudeのような決まり文句は避けられ、具体的でわかりやすい説明が必要とされている。

一方で、イギリスのエリート養成校では、わざと複雑な言葉遣いや難解な表現が使われてきた歴史がある。これには理由があり、学生たちに高度な思考を促し、彼らの知的好奇心を刺激するためだ。難しい言葉を解読し、複雑な内容を理解することで、批判的思考力や分析力が鍛えられる。そして、こうした特殊な言葉遣いを習得することで、学生たちはエリートとしての意識を持ち、自らが特別な集団に属しているという感覚を強くする。このような教育手法は、名門校で伝統的に続けられてきたものだ。

だが、一国のリーダーとなる者は、エリート校の教育者とは違う。国民全体に向けて政策を訴え、誰にでも理解できる形でメッセージを伝える能力が求められる。つまり、シンプルな言葉を使って、政策の重要性やその必要性をわかりやすく説明する力が不可欠なのだ。


上の写真は英国の元首相チャーチルとその言葉である。"There is no greater mistake than to suppose that platitudes, smooth words, timid politics, offer today a path to safety."

これを日本語に訳すと、「陳腐な決まり文句(platitudes)、耳障りのよい言葉、臆病な政治が今日の安全への道を提供すると考えるほど大きな間違いはない」である。この言葉は、困難な時代や危機的状況において、表面的な対応や妥協的な態度ではなく、勇気ある行動と明確な立場表明の必要性を強調している。チャーチルは、真の安全と進歩は、時に不快であっても真実を直視し、果断な決断を下すことによってのみ達成されると主張している。

チャーチルは、イートン校と並ぶ最高峰の全寮制パブリックスクールであるハーロー校の出身であり、これは典型的なエリート養成校である。そのチャーチルがplatitudeを否定しているのだ。

ここで石破茂首相の「石破構文」について触れよう。この発言スタイルに対しては、「簡単なことをわざわざ複雑にしている」との批判が付きまとい、実際その指摘には正当性がある。石破氏の発言や政策提言を詳しく見ていくと、具体性や実現可能性に欠けている点がいくつか見つかる。

例えば「アジア版NATO創設」など、壮大に聞こえる提案をしてはいるものの、現実的な裏付けや国際情勢に対する深い理解が欠けている。また、多くの政策提言において、財源についての具体的な説明がないため、無責任な印象を与えてしまう。

さらに、憲法に関する発言と行動に一貫性がないため、憲法論議を深めるための信頼性にも疑問が生じている。そして、マクロ経済に関する基本的な理解が不十分なまま、複雑な言葉を駆使して経済政策を説明しようとする姿勢も見受けられる。これは、内容の乏しさを難解な言葉遣いで隠そうとしているように感じられる。

確かに、石破氏の発言スタイルは、複雑な問題を多角的に捉えようとしている努力の一環とも取れなくもないが、具体性や実現可能性を欠いている点は否定できない。「石破構文」は、表面的には深い思考をしているように見えても、実際には問題の本質を捉え切れておらず、具体的な解決策を提示できていないことが多い。政治家として、複雑な問題に取り組む姿勢は評価できるが、有権者に対して明確で理解しやすいメッセージを発信する責任がある。


結論として、「石破構文」は、深い思考や具体的な政策を反映しているわけではなく、「簡単なことを複雑にしている」という批判は当たっている。政治家として、より明確で具体的な提案をし、それをわかりやすく伝える能力が求められるのだ。この分析を通じて、「石破構文」の特徴と問題点がより明確になり、政治家の発言スタイルが持つ影響力と責任の重要性が改めて浮き彫りになったと言えるだろう。

最後に言いたいのは、私たちはこのような一見複雑な言葉や石破構文等に惑わされることなく、正しいことには堂々と「イエス」と言い、間違ったことには断固として「ノー」と言える胆力を持つべきだということだ。

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2024年10月5日土曜日

<主張>所信表明演説 政策の修正は歓迎するが 産経社説―【私の論評】石破茂が日本を壊す!アイデンティティー政治で進む国民分断の危機

<主張>所信表明演説 政策の修正は歓迎するが 産経社説

まとめ
  • 石破茂首相は初の所信表明演説で、自民党総裁選での政策を一部軌道修正し、安全保障や経済政策について岸田政権路線継承の方向性を示した。
  • 経済では「賃上げと投資が牽引する成長型経済」を訴え、物価高克服とデフレ脱却の必要性を強調したが、今後の政策方向性についても明確にするべき。
  • 憲法改正や政治資金問題については国民的な議論や透明性向上について言及されたが具体策には言及せず、「国民の納得と共感を得られる政治を実践することで、政治に対する信頼を取り戻す」と強調した。であれば、予算委員会を開催すべきではないか。

野次が飛びまくった石破首相の所信表明演説

 演説で首相は「国民の納得と共感を得られる政治を実践することで、政治に対する信頼を取り戻す」と強調した。そうであるなら、党首討論に加え、全閣僚が出席して行う予算委員会を開いたらどうか。石破茂首相が初の所信表明演説を行った。自民党総裁選で訴えていた政策のいくつかに関し、軌道修正したことを歓迎する。安全保障政策では、アジア版NATOに言及せず、岸田前首相の認識を示し、「自由で開かれたインド太平洋」構想を踏襲した。防衛力の抜本的強化の具体策を今後期待したい。

 経済では「賃上げと投資が牽引する成長型経済」を訴え、おおむね岸田路線を継続。物価高克服とデフレ脱却の政策継続が必要だが、デフレ脱却後の経済・財政政策の方向性も明確にすべきだ。エネルギー政策では原子力発電の利活用に触れ、総裁選時の姿勢から転換した。

 憲法改正には国民的な議論を深めるよう期待を示したが、具体的な条文案には言及しなかった。政治資金問題では透明性を高める努力を約束したが、具体策は不明確。首相は代表質問と党首討論後に衆院解散の方針だが、総裁選時の姿勢と異なり不信を招いた。国民の納得と共感を得られる政治を実践するなら、予算委員会も開くべきだ。

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【私の論評】石破茂が日本を壊す!アイデンティティー政治で進む国民分断の危機

まとめ
  • 石破茂政権の危険性:石破氏は「アイデンティティー政治」を推進し、特定の集団の利益を過剰に優先する政策を進めることで、日本社会を分断させる恐れがある。
  • アイデンティティー政治の破壊力:女性活躍推進法、アイヌ新法、LGBT理解増進法などの政策は一見正義に見えるが、特定の集団を優遇しすぎることで、社会全体の調和を崩し、分断を加速させる。
  • 世界の例が示す危機:アメリカやEUでは、アイデンティティー政治が社会の対立を深め、国の統合を破壊してきた。ユーゴスラビアでは「民族浄化」まで行われた。日本も同じ道を辿れば、深刻な分裂が待ち受けている。
  • メディアの分断促進:既存メディアは特定の情報を拡散し、対立を煽る役割を果たしており、社会の細分化と分裂を助長している。
  • 日本の未来への警鐘:石破氏がアイデンティティー政治を進めれば、国全体の共通理念が失われ、日本は分裂の危機に直面する。
石破茂氏

石破茂総理に対しては、経済政策や外交、安全保障など様々な批判があるのは確かだ。しかし、私が最も危機感を抱いているのは、彼の政権が「アイデンティティー政治」にますます傾倒していく可能性だ。石破氏の言動や政策を見る限り、この危険な流れは止まるどころか、今後ますます加速する恐れがある。これが何を意味するのか、そしてどれほど危険か、真剣に考えねばならない。

まず、これまで自民党が進めてきたアイデンティティー政治の象徴的な例をいくつか挙げてみよう。2015年に成立した「女性活躍推進法」、これは女性という特定のアイデンティティーに基づく政策だ。次に、2019年の「アイヌ新法」。これもまた、アイヌ民族という特定の集団を対象とした政策であり、典型的なアイデンティティー政治の産物だ。

そして、最近では「LGBT理解増進法案」が議論され成立しが、これも性的少数者というアイデンティティーに基づく法案だ。これら一つひとつの政策は、表向きは社会正義や平等を訴えているが、その裏にあるのは、特定の集団の利益を押し進めるための「分断政治」だと言っても過言ではない。

石破氏は、このようなアイデンティティー政治に積極的な姿勢を示している。彼は女性の社会進出や政治参加を支持し、ジェンダーの平等を強調している。また、外国人労働者の受け入れにも前向きで、多様性を美徳として掲げる。しかし、これは本当に日本のためになるのか?彼の言う「多様性」や「包摂」とは、一見すると耳触りがいいが、実は社会の分断を進める危険な道具である可能性が高い。石破氏が目指す社会は、特定の集団に配慮しすぎることで、国全体の統合を崩壊させることに繋がる。

アイデンティティー政治とは一体何か? これは、特定の人種、性別、民族、性的指向といったアイデンティティーに基づいて政治的主張を行うことを意味する。つまり、少数派の声を大きくし、彼らの権利を守るという名目で、社会全体を分断する政治手法だ。

女性活躍、移民の権利、アイヌ新法、LGBT理解増進法、すべてはこのアイデンティティー政治の典型例だ。これら一つひとつが単独では大きな問題に見えないかもしれない。しかし、これらが組み合わさり、行き過ぎるとどうなるか?答えは簡単だ。日本社会は根底から崩壊する危険がある。

歴史を振り返れば、アイデンティティー政治が社会を分断し、国を滅ぼしたりその危機に直面する事例は数多くある。アメリカでは、オバマ政権下でアイデンティティー政治が進行し、民主党は黒人、フェミニズム、性的マイノリティーなど、さまざまな集団の権利を主張する政党となった。

しかし、その結果、伝統的な支持基盤である白人労働者層との亀裂が深まり、2016年の大統領選挙でトランプの台頭を許すことになった。ヒラリー・クリントンが少数派や女性に希望を与えるキャンペーンを張ったが、保守的な白人労働者層からの反発を招き、大敗したのだ。これがアイデンティティー政治の末路だ。

ヒラリー・クリントン

ヨーロッパでも同様の現象が見られる。EU諸国では、リベラル左派の政権が移民や難民の受け入れ、LGBTQ+の権利拡大、多文化主義の推進を進めている。しかし、このような政策は伝統的な価値観を持つ人々との対立を引き起こし、保守派の台頭を招いている。こうした政策は一見、社会の「多様性」を尊重しているように見えるが、実際には多くの国民を置き去りにし、社会の分断を深めている。

ここで重要なのは、アイデンティティー政治が「多様性の尊重」とは表向き言っているものの、実際には特定の集団の声を過剰に強調することで、他の集団を抑圧し、社会の対立を煽っているという点だ。これは左翼的な思想家たちが意図的に仕掛けている戦略でもある。彼らは「平等」や「人権」という美辞麗句を掲げつつ、実際には自分たちのイデオロギーに合致しない層を攻撃し、社会の分断を促進しているのだ。

米国の事例が示すように、アイデンティティー政治は結局のところ、「国民国家」という形での統合を破壊する。アメリカはもともと様々な人種や文化が混在しているが、それでも国民としての共通の理念や価値観があった。しかし、オバマ政権以降、その共通理念は失われ、特定のアイデンティティーを持つ集団同士の対立が深まり、国家の統合が危ぶまれている。これと同じ道を日本がたどってはいけない。

さらに、既存メディアもこの危険な分断を助長している。社会はさらに細分化されている。こうして「属性ラベリング」やステレオタイプが強化され、異なる集団同士の対立が激化していく。

極端なアイデンティティー政治が行き着く先は、ユーゴスラビアの崩壊だ。1990年代のユーゴスラビア紛争では、民族や宗教の違いに基づく深刻な対立が起こり、民族浄化という残虐な行為にまで至った。これは、アイデンティティー同士の対話が失われ、互いに違いだけが強調され続けた結果だ。日本がこのような悲劇に陥らないためにも、私たちはアイデンティティー政治の危険性を十分に認識しなければならない。

1993年、国連平和維持軍の兵士がアフミチの虐殺で殺害された人々の遺体を集めている

石破茂氏が総理としてさらに力を持ち、アイデンティティー政治に基づく政策を推進すれば、日本はこの分断の道を進むことになるだろう。彼の政策が高い支持を集めることで、社会全体がアイデンティティー政治に傾き、無党派層やリベラルな層からも支持を得るかもしれないが、その代償は計り知れない。私たちはこの流れを食い止める必要がある。

今こそ、日本が団結し、一つの国としての共通の理念を再確認する時だ。分断を招くアイデンティティー政治に依存することなく、国民全体が共に手を携え、未来に向けて進むべき道を模索しなければならないのだ。このまま石破茂が政権を握り続ければ、日本は社会の調和を失い、分裂の危機に瀕するだろう。これは決して他人事ではなく、今すぐにでも直面する問題だ。

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この記事から、従来の「です。ます。」の文体から「である。だ。」の文体に変えさせていただきます。やはり、従来の文体では「締り」がなく、まるで石破政権集合写真のように「だらし内閣」になりがちなので、改めることにしました。よろしくお願います。

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2024年10月4日金曜日

日銀追加利上げのハードルさらに上昇か、世界的な金融緩和強化の流れ―【私の論評】日銀の独立性と過去の失敗:石破政権が目指すべき金融政策の方向性

日銀追加利上げのハードルさらに上昇か、世界的な金融緩和強化の流れ

まとめ
  • 英中銀とECB、一段と積極的な緩和の道筋が予想されている
  • 他国・地域の利下げペース加速時の日銀利上げは一段と困難との見方
日銀は、金融政策決定会合で、政策金利を0.25%程度に引き上げる追加の利上げを決定

 多くの先進国で金融緩和が強化される中、日本銀行が利上げを検討していることで、その政策が際立つ恐れがある。

 イングランド銀行や欧州中央銀行は利下げを示唆し、カナダとスウェーデンでも弱い経済データにより追加緩和の見通しが高まっている。エバコアISIのアナリストは、日本が利上げを行うのは他国の利下げ加速により困難になると指摘する。

 米国では大幅な利下げが進んでおり、特に米雇用統計の低調さが金融政策に影響を与えている。日本政府・日銀は、米経済の軟着陸を確認するまでは一層の緩和縮小はないとの立場を示している。石破茂新首相も追加利上げは必要ないと発言し、日銀への政策指示とも取れる発言を行った。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日銀の独立性と過去の失敗:石破政権が目指すべき金融政策の方向性

まとめ
  • 林芳正官房長官は、石破茂首相の発言が金融市場に影響を与えたことに関連し、日銀の金融政策の独立性を強調し、具体的な手法は日銀に委ねるべきとの立場を表明した。
  • 日銀は「物価の安定」を主要な目標としており、雇用はその副次的効果とされているが、世界標準では雇用の最大化も重要な目標とされている。
  • 過去の日銀の失敗として、1980年代後半に日銀が資産価格の高騰を理由に金融引き締めに転じた結果、実際の物価上昇を無視して企業の資金調達コストを上昇させ、経済成長を鈍化させてバブル崩壊を招いた事例がある。
  • 政府は日銀に直接命令を出せないが、協調のための対話は可能であり、過去の事例として「アベノミクス」やコロナ対策における政府・日銀の連携が挙げられる。
  • 石破政権は短期的には日銀との協調を図り、長期的には日銀法の改正を目指すべきである。
林官官房長官

林芳正官房長官は3日午後の記者会見で、石破茂首相の発言が金融市場に影響を与えたことに関連し、日銀の金融政策の独立性を強調しました。政府として、金融政策の具体的な手法は日銀に委ねるべきとの立場は変わらないと述べました。

石破首相は、植田和男日銀総裁との会談後に、追加の利上げを行う状況ではないとの見解を示しました。林官房長官は、日銀が金融市場や経済状況を見極める余裕を持ちつつ、政府と連携して適切な政策を運営することを期待すると述べました。

この林官房長官の発言に間違いはありません。しかし、全く問題がないかといえばそうとはいえないです。

世界標準における中央銀行の独立性には、通常、金融政策の目標として「物価の安定」に加え、「雇用の最大化」も含まれます。特に米国の連邦準備制度(FRB)のような例では、「デュアルマンデート(二重の使命)」として、物価安定と雇用最大化の両方を目標に掲げています。

具体的には、政府がこれらの目標を設定し、中央銀行は専門的な立場から、インフレや雇用のバランスを取るために政策手段を自由に選択します。例えば、インフレが高騰しすぎれば利上げを行って物価を抑制し、逆に景気が低迷し失業率が高まれば、金融緩和を行い雇用を促進するという判断が行われます。だからこそ、上の記事にあるように、米雇用統計の低調さが金融政策に影響を与えているのです。

日本銀行(日銀)の総裁が雇用に関して言及したことは、過去に何度かありますが、日銀が直接的に雇用を目標とすることは少なく、その役割は通常、物価の安定や経済成長を通じて間接的に雇用に影響を与えるという形で述べられています。

植田総裁は、日銀の政策目標として雇用を明確に掲げたことはありません。金融政策の結果として、経済成長や雇用の改善が期待されるという見方を示しているに留まります。日本銀行の主要な役割は依然として「物価の安定」であり、雇用はその副次的な効果として扱われています。

日銀総裁が雇用もに関して言及した、近年の例として、2013年から2020年まで日銀総裁を務めた黒田東彦氏の発言が挙げられます。黒田総裁は、日銀の「量的・質的金融緩和」政策を通じて日本経済のデフレ脱却と成長を促進し、その結果として雇用の改善にも貢献することを目指すという趣旨の発言をしています。

金融緩和について説明する黒田氏

ただし、日銀の法律上の使命は「物価の安定」を中心としており、米国のFRBのように「雇用の最大化」を明確に目標にしているわけではありません。日銀が雇用に関する発言をする際も、物価の安定を達成することで、間接的に経済の成長や雇用改善につながるというスタンスが一般的です。

日銀総裁が雇用に言及することはあるものの、日銀の主要な使命は「物価の安定」にあり、雇用はその結果として改善を期待される分野という位置づけが主流です。

世界標準では政府が「物価安定」と「雇用の最大化」の両方を目標として掲げ、それに基づき中央銀行が独立した判断で金融政策を運営することが、世界標準における中央銀行の独立性の定義です。

しかし、現行の日本銀行法では、「物価の安定」だけが日銀の主要な目標として位置づけられています。このため、日銀はこの目標を達成するために独立して金融政策を実施します。政府、特に財務省は、経済全体の政策の枠組みを決定し、日銀との協調のもとで全体的な経済政策を運営しますが、具体的な金融政策の目標を設定するのは日銀自身です。日銀は政府の経済政策を尊重しつつも、実際の金融政策の運営に関しては独立性を持っています。

日銀の独立性は、物価の安定を図るために金融政策を自由に実施できることを意味します。つまり、日銀が設定する具体的な金融目標(例:2%のインフレ目標)は、政府が決定した経済政策の一部として位置づけられますが、実際の目標設定と手段と運営は日銀が独自に行います。このように、政府が全体的な経済政策の枠組みを設定し、日銀がその中で「物価の安定」を主な目標としてそれを定め金融政策を実施するという構造になっています。

日銀は「物価の安定」だけを主目的にしていることで、過去に大きな間違いをしています。1980年代後半、日本は金融緩和と低金利政策を採用し、土地や株式の資産価格が急激に上昇しました。マスコミは「狂乱物価」などと報道しました。この際、日銀は株価や不動産価格の高騰を懸念し、一般物価が高騰していないにもかかわらず金融引き締めに転じました。

この判断は誤りであり、実際の物価上昇ではなく資産価格の変動を理由に金融政策を変更したことが、企業の資金調達コストを上昇させ、経済成長を鈍化させた結果、バブル崩壊を招いたたのです。しかも、日銀はその後も引き締め策を継続し、日本はデフレに見舞われました。この経験からも、金融政策は物価や資産価格だけでなく、経済全体の健全性(特に雇用)を考慮する必要があります。一般物価を基準に考えると、そもそもバブルであったという認識が間違いであり、これは単なる好景気であったと認識すべきでした。

日銀が物価の安定だけに拘泥すれば、これからも同じような間違いを犯す可能性があります。

政府は日銀に直接命令を出すことはできませんが、協調のための話し合いは可能です。実際、政府と日銀の間での対話は、経済政策の整合性を保つために重要です。安倍晋三元首相の在任中には、特に「アベノミクス」において、日銀の金融緩和政策を後押しし、政府と日銀の連携が強調されました。

コロナ対策においても、日銀と政府は連携して(安倍首相の言葉を借りると政府と日銀の連合軍)、政府が大量の国際を発行し、日銀がそれを引き受ける形で、資金調達し、安倍・菅政権であわせて100兆円の対策を打つことができました。これと、雇用調整助成金制度を活用し、他国では一時失業率がかなり上がったにもかかわらず、日本ではそのようなことはありませんでした。

上のグラフをみると、イタリアはコロナによる打撃きが大きく、死者も多く、医療分野の財政支出が多いです。日本の場合は政府関係機関による支援が多いです。これは世界最大です。これによって、日本経済はほとんど毀損されず、雇用も守られました。このような大偉業をマスコミは全く無視しました。

それどころか、安倍・菅政権のコロナ政策は失敗であると喧伝しました。これを評価したのは、主に海外のメディアや識者でした。

日銀と政府の金融政策に関する協議は、政府の財政政策と日銀の金融政策を効果的に結びつけ、持続可能な経済成長を促進するために不可欠です。今後も、物価や雇用に関する目標について意見交換を行うことが重要です。石破政権もこのような意見交換は継続すべきです。

さらに、日銀の独立性に関しても、日銀法を改正して、世界標準にすることと「雇用の最大化」も政府の金融政策の目標、日銀の政策の中に含めるべきです。

岸田政権は、短期では日銀との協調をすべきですし、長期では日銀法の改正を目指すべきです。

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高橋洋一「日本の解き方」

まとめ
  • 第1回投票では高市氏が181票、石破氏が154票、小泉氏が136票を獲得した。
  • 決選投票で石破氏が215票、高市氏が194票を獲得し、石破氏が逆転勝利して新総裁に選出された
  •  1回目と2回目で議員票に大きな違いが出た要因として、高市氏への警戒感と石破氏への安心感があったとみられる
  • 石破氏勝利の背景には、小泉氏支持者の票の流入や岸田派のほぼ一体化などがあったとみられる
  • 石破新総裁の経済政策や外交姿勢に対して一部で懸念の声も上がっており、石破政権は前途多難

 自民党総裁選では、石破茂元幹事長が激戦の末、新総裁に選ばれた。第1回投票では、高市早苗経済安保相が181票(国会議員票72、党員票109)、石破氏が154票(国会議員票46、党員票108)、小泉進次郎元環境相が136票だった。林芳正官房長官が65票、小林鷹之前経済安保相が60票、茂木敏充幹事長が47票、上川陽子外相が40票、河野太郎デジタル相が30票、加藤勝信元官房長官が22票となった。

 筆者の予想は、高市氏が155票(国会議員票45、党員票110)、石破氏が155票(国会議員票35票、党員票120)で、小泉氏115票、林氏70票、小林氏80票、茂木氏50票、上川氏50票、河野氏45票、加藤氏30票だった。

 党員票はほぼ当たりだが、高市氏の国会議員票は外した。麻生太郎副総裁が土壇場で高市氏に投票を呼び掛けたと報じられたが、しかし、第1回からというのは想定していなかった。

 決選投票では、石破氏が215票(国会議員票189、都道府県連票26)、高市氏が194票(国会議員票173、都道府県連票21)だった。

 筆者の予想は石破氏が205票(国会議員票180、都道府県連票25)、高市氏が205票(国会議員票185、都道府県連票20)だった。筆者が互角としたのは、石破氏には小泉氏、林氏らの票、高市氏には小林氏、茂木氏らの票が行くというのが基本的な流れで、河野氏、加藤氏、上川氏は分断という読みからだ。両陣営ともに刃こぼれ(相手陣営に投票)があったが、岸田文雄首相が石破氏側に回ったのが大きかった。

 石破氏の勝利によって、円高株安の「石破ショック」が発生し、マーケットにも影響を与えた。石破氏は記者会見で、円安による日本経済の好転は期待できないと述べたが、石破氏は円安による「近隣窮乏化」を理解できていないし、能登でも補正予算ではなく予備費で対応すると語り、来年の参院選後には消費税15%を狙ってくる可能性もあり、経済政策には期待が持てない。

 また、石破氏がアジア版NATOを主張していることや、財務省や中国が石破氏の勝利を歓迎していることから、筆者は新政権の前途が多難だ。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】岸田政権の国際戦略転換と石破氏のアジア版NATO構想:大義を忘れた政治の危険性

まとめ
  • 岸田文雄首相は、安倍残滓払拭のために石破総裁誕生に奔走したが、その岸田氏は安倍元首相が確立した「自由で開かれたインド太平洋戦略」をあまり用いず、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」という新たな表現を用いたが、この変化は、安倍の影響力を払拭し、新たな国際的立場を築こうとする試みだったといえる。
  • 石破氏が提唱するアジア版NATOについては、時間的制約や憲法上のハードル、アジア諸国の多様性などから懸念が示されており、実現可能性が低いとの指摘が多い。インドのジャイシャンカル外相や米国の専門家も、この構想に懐疑的な立場を取っている。
  • 岸田元首相ならびに石破首相が安倍元首相の遺産を排除しようとする努力は、国内では功を奏したが、国外では限界があり、完全に払拭することは困難。特に、国際舞台での安倍残滓払拭は一筋縄ではいかない。
  •  三島由紀夫の言葉に倣い、政治家は自己中心的ではなく、大義のために行動すべきである。彼の思想は、他者とのつながりや社会への奉仕の重要性を強調し、政治家たちにとっても大義を重視する姿勢が求められる。
  • 岸田首相と石破氏は、安倍残滓の払拭を目指すあまり、本来の大義を見失う危険性がある。彼らは、国民や国際社会の利益を第一に考え、大義のために行動することが求められている。このようにしなければ、結果的に自らの信頼性や自由を失うことになるだろう。
官邸を去った岸田元総理だが・・・・・・

総裁選結果の票読みには、すでに様々な分析が出回っていますが、上の高橋洋一氏の分析は、分析過程など詳細には示されてはいないものの、数量経済学者らしく数字に基づいたもののようで、他の分析に比較すると余分なノイズが少なく客観的であるため、掲載させていただきました。元記事の分析部分に関しては、あまり要約せず、元記事に近い内容にしています。

結論として、やはり第二回目の投票で岸田文雄首相が石破氏側に回ったのが勝敗を決したというのは間違いないです。これによって、岸田氏は、岸波総裁に岸田政権の政策を踏襲させるつもりでしょう。そうして、しばらくは石破氏は、その路線をなるべく踏襲するようにつとめるでしょう。

上の記事では、石破氏がアジア版NATOを主張していることも掲載されていますが、これに対して高橋洋一氏は否定的です。私も、これには否定的です。

ただ、国際関係などは流動的であり、NATOやQUAD、AUKUSなどの同盟は異なった思惑の国々の集合体ですから、必ず離合集散します。現在の国際的な枠組みもいつかは統合し、分裂し、さらにNATOや日米同盟もこれらに吸収されることになるかもしれないです。そうしてアジア板NATOになっていく可能性もあるでしょうし、それを否定するつもりはありません。

ただ、現時点で石破政権がすぐにアジア版NATOに舵を切ることには反対です。その理由は、主に時間的制約、人材や資源の分散、憲法上の問題、アジア諸国の多様性、抑止対象の不明瞭さ、そして歴史的・地政学的背景に基づいています。

アジア版NATOを設立するのにかかる時間が、特に台湾や日本が直面する可能性がある近未来の脅威に対して間に合わない可能性が高いです。また、日本の政府は既に防衛力を増強するために多くのリソースを投入しており、新たな軍事同盟の形成はこれらのリソースを分散させることになる可能性があるからです。

さらに、日本憲法第9条の制約を考慮すると、集団的自衛権の行使に関する憲法改正か解釈変更が必要であり、これはすぐにはできないでしょう。また、アジアの国々は政治的、経済的、文化的に多様であり、中国に対する明確な抑止力を示す意思が統一されていません。この多様性がアジア版NATOの効果的な運用を難しくします。

また、石破氏が「中国を最初から排除することを念頭に置いていない」と述べている点も、抑止の対象が曖昧であるという批判を招いています。抑止の対象が明確でない軍事同盟は実効性に欠けることになります。最後に、過去の国際協調事例から、必ずしも正式な軍事同盟が存在しなくても効果的な対策が取られることがあり、そのような枠組みと比較してアジア版NATOの必要性が高いかが問われています。

以上の理由から、アジア版NATO構想に対して慎重な姿勢を取るべきであり、このような大規模な軍事同盟の形成が現時点では適切でないと思います。現実的な時間的制約、政治的・法律的ハードル、そしてアジアの地域特有の複雑さを考慮に入れれば現時点ではそのような認識になります。

実際に、そのように考えている人もいます。たとえば、インドのジャイシャンカル外相は1日、石破茂首相が提唱する「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」の構想について「我々はそのような戦略的な構造は考えていない」と否定的な見解を示しました。ワシントンで開かれたカーネギー国際平和財団のイベントで語りました。

インドのジャマンカル首相

ジャイシャンカル氏は、石破氏の構想について「日本は米国と条約上の同盟関係にある。そうした歴史や戦略的文化がある場合、考え方がそうした方向性になるのだろう」と指摘。その上で「インドはどの国とも条約上の同盟国になったことはない。我々には(日本とは)異なる歴史があり、世界に対して異なるアプローチの方法がある」と述べました。インドはQUADの構成国でもあります。

昨年(2023年)10月23日、国会での所信表明演説のことだ。それまで政府が唱えてきた「自由で開かれたインド太平洋(free and open Indo-Pacific: FOIP)」に岸田文雄首相が触れることはありませんでした。

その一方で、岸田は「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を繰り返しました。「インド太平洋」には言及したが、「自由で開かれた」空間ではなく、「成長センター」と表しました。重要な戦略空間であるはずのインド太平洋は後ずさりしました。

これは、なるべく安倍色を払拭したいとの動きの一環かもしれません。なにしろ、安倍首相は、インド太平洋戦略やQUADの生みの親です。

石破総理の、組閣人事、自民党役員人事をみていると、旧安倍派の入閣はなく、これは安倍残滓払拭内閣と言っても良い陣容です。これは、もちろん岸田元首相の意向も反映していることでしょう。


ただ、国内では様々な方策で、安倍残滓を払拭できるかもしれませんが、国外ではそうはいきません。国外で安倍残滓を払拭するためには、インド太平洋戦略やQUADの枠組みに変わるものを提唱したいのかもしれません。石破氏はこアジア板NATOを提唱することにより、安倍残滓払拭の総仕上げをしたかったのかもしれません。

しかし、その目論は、早々に失敗したようです。

岩屋外務大臣は、石破総理大臣が提案する「アジア版NATO」構築について、直ちに設立するのは難しいと述べ、中長期的な課題として検討するべきだとしました。彼は、インド太平洋地域の各国の多様性を考慮した上で、当面は現在の多国間安全保障協力を丁寧に積み上げるべきだと説明しました。

また、日米地位協定の改定については、石破総理の意見を尊重しつつ、日米同盟の強化に向けた取り組みを検討すると述べました。さらに、韓国や中国との関係改善についても、対話を通じて関係を深化させる意向を示しました。

岸田元首相には、バイデン政権が強い影響を与えているようですが、アジア版NATO構想に対する米国の見解は、特に専門家やシンクタンクの意見を反映すると、主に懐疑的または現実性に欠けると評価されています。

例えば、米ランド研究所のジェフリー・ホーナン上級研究員は、アジア版NATOを「非現実的」と表現しています。これは、アジア地域の政治的、地政学的状況が欧州と異なり、NATOのような多国間軍事同盟を形成する共通の脅威認識や政治的意志が十分に存在しないという認識に基づいています。民主党系の政治家やシンクタンクはこれに言及する人いません。

さらに、X上での議論からも、アジア版NATO構想は実現可能性が低い、または地域の現実に即していないという意見が見られます。これらの意見は、中国や北朝鮮といった具体的な脅威に対抗するための共同戦線を形成することの困難さ、そしてアジア各国の多様な国益と戦略的視点が一致しない点を指摘しています。

したがって、米国から見たアジア版NATO構想の評価は、現実的な軍事戦略としてよりも、むしろアジア地域の安全保障環境の複雑さを理解するための議論の一環として捉えられていることが多いです。

このような状況なので、アジア版NATO構想は、単なる石破氏のひとりよがりの構想となりそうです。

さすがに、国際舞台で安倍残滓を払拭するのは無理があるようです。以上、安倍残滓払拭に血道をあげているような岸田氏は、石破氏について論じてきましたが、多くの人はそんな大人気ないことはしないだろうと思っているかもしれません。しかし、現実はそのようです。現在の自民党の体たらくをみている、上にあげた推測は必ずしも的外れとはいえないようです。

安倍残滓を払拭するために、新たな総裁を選んだり、国際舞台に働きかけようとする背景には、結局は国民などは二の次で、「自分が」という思いが強いのでしょう。それは岸田、石破両名とも「総理大臣」になりたい、あるいは権力を得たいという思いは強いものの、では総理大臣になって日本のために何をしたいかという意図がよく見えないことからもうかがえます。

本来なら、政治家は、安倍氏のことなど関係なく、天下国家のことを考えるべきです。しかし、このようなことを繰り返してきた末に待つのは悲惨な末路ということになりそうです。

三島由紀夫

三島由紀夫は、かつて「人は自分のためだけに生きていけるだけ強くはない」と語っていました。これは、人間は完全に自己中心的には生きられず、他者とのつながりや社会への奉仕、自己を超える対象、これを大義といいますが、この大義への行為によって初めて真の強さと自由を得られるという彼の哲学を表しています。

この考えは、彼の作品や人生を通じて、人間の存在が他者や共同体と切り離せないものであり、自己犠牲や献身がその本質的な強さを示すと主張しています。三島の生涯と死は、この思想がどれだけ深く彼自身の行動に反映されていたかを物語っています。

暗殺されてしまった安倍元首相は、自らの政権の支持率が下がることを認識しながらも、インド太平洋戦略やQUADを提唱しただけではなく、その実現の基ともなる、安全保障関連法規の改正や解釈の変更を実現しました。これは、強力な反対勢力があることを承知しながら、国民の財産や生命を守るという使命を実現するために必要な措置でした。安倍元総理は、こうした大義に準ずる人でした。

私は、言いたいです。「岸田さん、石破さん、"安倍残滓払拭"などという姑息な行動原理で動かず、大義のために動け」と。両名とも政治家とは大義のために動くべきということを思い出してほしいです。そうしなければ、いずれ弱体化し自由を失うことになるでしょう。

私には、総裁選に勝利した石破氏、それを確実なものにした岸田氏よりも、今回総裁選に負けた高市氏のほうが、よほど強く生き生きしているようにみえます。

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まとめ
  • 石破茂新総裁が衆参両院の本会議で102代首相に指名され、石破内閣が発足。閣僚は石破氏に近い議員が重用され、旧安倍派からは誰も入閣しなかった。
  • 閣僚人事に対する批判:石破氏の人事は他の派閥に譲る姿勢が欠けており、自民党内での不評や反発が強いことが報じられた。
  • 政治評論家の見解:田崎氏が旧安倍派を干しているとの見解を示し、これが安倍元首相への恨みを象徴しているとの発言があった。

 自民党の石破茂氏が第102代首相に選ばれ、石破内閣が発足した。閣僚には石破氏に近い議員が多く、麻生派、旧茂木派、旧二階派からはそれぞれ2人が入閣したが、旧安倍派からは1人も選ばれなかったことが大きな話題となった。

 総務相に起用された村上誠一郎氏は、安倍晋三元首相の国葬を「国賊」と表現したことで党役職停止処分を受けており、この人事に対して高市早苗氏の陣営からは批判が噴出しているという。田崎史郎氏は、石破氏が旧安倍派を冷遇する人事を行ったことに党内でも不満があり、「恨みがあったのでは」とも分析している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】安倍首相、石破首相との比較から見る長期政権を支えた唯一の資質とは

まとめ
  • 安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」は、日本経済の復活を目指して大胆に推進され、デフレ脱却と成長を目標に真摯に取り組んだ。
  • 外交政策においても、東南アジア諸国やアメリカのトランプ大統領との強固な信頼関係を築くなど、国際社会で日本の地位向上に真摯に取り組んだ。
  • 安全保障の改革では、国家安全保障会議(NSC)の設立や安保法制の改正を通じ、日本の安全と抑止力強化に真摯に対応した。
  • 安倍氏の政策立案や実行力、真摯な態度が石破氏の政策の具体性不足と対照的だった。
  • 真摯さは、リーダーの資質として唯一認められるものであり、安倍氏の政策立案や実行力は真摯さに裏打ちされていたことは論を待たない。

安倍晋三元首相は、憲政史上最長となる在職日数2,887日、約8年に及ぶ長期政権を築き上げました。この驚異的な政権運営は、安倍氏の卓越した政治手腕と深い知識、そして豊富な経験に裏打ちされたものでした。

安倍氏は経済政策を最優先課題とし、アベノミクスと呼ばれる大胆な金融緩和政策を実施しました。その結果、デフレ脱却に向けて大きな前進を遂げ、GDP600兆円という野心的な目標を掲げるまでに至りました。また、外交面でも積極的な姿勢を見せ、就任直後から東南アジア諸国を訪問し、各国首脳との個人的信頼関係を深めました。これは、祖父である岸信介元首相の外交手法を踏襲したものであり、安倍氏の政治的洞察力の深さを示しています。

さらに、安全保障面では日本版NSCの設置を実現し、外交・安全保障政策の一元化と迅速な意思決定を可能にしました。これは第一次安倍内閣時からの懸案事項であり、安倍氏の粘り強さと政策実現能力を示す好例です。

一方、石破茂氏の政策立案能力や専門知識は、安倍氏と比較すると不足していると言わざるを得ません。例えば、2015年の安全保障関連法案の審議において、石破氏は「存立危機事態」の定義について明確な説明ができず、国会で混乱を招きました。また、経済政策においても、石破氏のアベノミクス批判は具体性に欠け、代替案の提示も不十分でした。

2018年の自民党総裁選では、石破氏は「地方創生」を掲げましたが、その具体的な施策や財源について明確な説明ができませんでした。これは、安倍氏が掲げた「GDP600兆円」や「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」といった具体的な数値目標と対照的です。

また、憲法改正に関しても、安倍氏が自衛隊明記を含む改正案を積極的に推進したのに対し、石破氏は慎重な姿勢を示しました。しかし、石破氏の憲法解釈に関する発言は時に矛盾を含み、専門家からの批判を受けることもありました。

安倍氏の長期政権を支えた要因の一つに、人事面での手腕があります。第二次安倍内閣では、麻生副総理と菅官房長官、二階自民党幹事長などを礎石に据え、安定した政権運営を実現しました。これは、第一次政権での経験から学んだ結果であり、安倍氏の政治的成長を示しています。

さらに、安倍氏は国際舞台でも存在感を示し、特にトランプ大統領との個人的な関係構築に成功しました。ゴルフを通じて率直に意見交換できる関係を築いたことは、安倍氏の外交手腕の高さを示しています。

これらの事実は、安倍氏の政治家としての能力と経験が、石破氏を大きく上回っていることを明確に示しています。安倍氏が築いた長期政権は、その政策立案能力、実行力、そして外交手腕の賜物であり、石破氏との能力差は明らかです。この差は、最終的に石破氏の政治的立場を弱め、党内での影響力低下につながったと考えられます。

以上から考えると、旧安倍派の冷遇は、会社の人事であれば報復人事とも受け取られないかねない人事です。たた、この人事の元となったのは、やはり石破氏やその取り巻きが安倍晋三氏を理解できないというところがあるのかもしれません。

そもそも、安倍晋三氏は特異な政治家でした。その特異さ故、これを総理大臣はもとより政治家のスタンダートとすることには無理があると考えられます。無論これは、安倍晋三氏を否定するものではないので、最後まで私のつたない文章を読んで頂きたいです。

高橋洋一氏は、安倍晋三元首相を特異な政治家だったと評価しており、以下のようなエビデンスを挙げています。

金融政策への関心について、高橋氏は、安倍氏が官房副長官時代から金融政策について質問してきた初めての政治家だったと述べています。当時、ほとんどの政治家が金融政策を役所に任せきりにしていた中で、安倍氏は「ゼロ金利解除はいいのか」と高橋氏に質問しました。これは、安倍氏の経済政策への深い関心を示しています。

専門外の分野への理解に関しては、安倍氏は元々厚労族でしたが、金融政策という全く異なる分野に関心を持ち、理解を深めようとしていました。高橋氏は、これを「例外的な政治家」の特徴として挙げています。

経済財政諮問会議への参加については、安倍氏は官房副長官時代に、経済財政諮問会議にオブザーバーとして参加し、金融政策の議論に関心を持っていました。これは、安倍氏が幅広い政策分野に精通しようとしていたことを示しています。

専門家の意見への関心として、高橋氏は、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンからのメール(ゼロ金利解除は失敗だったという内容)を安倍氏に見せたことがあると述べています。これは、安倍氏が専門家の意見を重視し、政策立案に活かそうとしていたことを示唆しています。

これらのエビデンスから、高橋氏は安倍氏を、通常の政治家とは異なる幅広い関心と理解力を持ち、専門家の意見を積極的に取り入れようとする特異な政治家として評価していたことがわかります。

さらに、安倍氏の特異性は、政策立案への関与の仕方にも表れていました。高橋氏によれば、他の総理大臣、例えば小泉純一郎氏などは、政策案を提示されると「よしわかった。任せる」と言って、詳細には立ち入らないことが多かったそうです。しかし、安倍氏は例外的な存在でした。安倍氏は政策案を提示されても、その内容について詳細に質問し、理解しようとする姿勢を見せました。時には、政策の細部にまで踏み込んで議論を行うこともあったといいます。

衆院を解散し記者会見する小泉首相(2005年8月)

このような安倍氏の姿勢は、単に政策を承認するだけでなく、その背景や影響を深く理解しようとする姿勢の表れでした。これは、安倍氏が政策立案プロセスに積極的に関与し、自身の考えを反映させようとしていたことを示しています。

安倍氏のこうした特異性は、彼が長期政権を築き上げ、アベノミクスなどの大規模な経済政策を実行に移すことができた要因の一つだと考えられます。政策への深い理解と積極的な関与が、安倍氏の政治手腕を支える重要な要素となっていたのです。

これらの特徴は、安倍氏が単なる政策の承認者ではなく、積極的な政策立案者としての役割を果たしていたことを示しています。このような姿勢は、日本の政治において新しい形のリーダーシップを示すものであり、安倍氏の政治家としての特異性を際立たせる要因となっていたと言えるでしょう。

しかし、すべての日本の総理に安倍氏のような資質を求めるのには、無理があります。私は、菅氏、岸田氏などは安倍氏と直接比較されたため、低く評価された部分があったといえると思います。石破氏もこれから安倍氏に比較され低く評価される可能性があると思います。

ただ、私は安倍氏について特異な政治家であったあったことの他に、優秀な政治家であったことを際立たせるものが他にもあると考えています。それは、真摯さ(integrity)です。

これは、このブログにも過去に何度が述べてきましたが、ドラッカーがリーダーに求める唯一の資質ともいえます。実際ドラッカーは優秀なリーダーの資質は多様であって、特定の資質はないと断言しています。ただ、一つだけ譲れないのが、真摯さ(integrity)であると主張しています。これについて再度以下に掲載します。
日頃言っていることを昇格人事に反映させなければ、優れた組織をつくることはできない。本気なことを示す決定打は、人事において、断固、人格的な真摯さを評価することである。なぜなら、リーダーシップが発揮されるのは、人格においてだからである。(ドラッカー名著集(2)『現代の経営』[上])
ドラッカーによれば、人間のすばらしさは、強みと弱みを含め、多様性(これは現代のリベラル派が主張する多様性とは根本的な異なるもので、人の強み、弱みにもとづく もの)にある。同時に、組織のすばらしさは、その多様な人間一人ひとりの強みをフルに発揮させ、弱みを意味のないものにするところにある。

だからドラッカーは、弱みは気にしません。山あれば谷あり。むしろ、まん丸の人間には魅力を感じないようです。ところが、一つだけ気にせざるをえない弱みというものがあります。それが、真摯さの欠如です。真摯さが欠如した者だけは高い地位につけてはならないという。ドラッカーは、この点に関しては恐ろしく具体的です。

人の強みではなく、弱みに焦点を合わせる者をマネジメントの地位につけてはならないのです。人のできることはなにも見ず、できないことはすべて知っているという者は組織の文化を損なうことなります。何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者も昇格させてはならないのです。仕事よりも人を問題にすることは堕落であるとしています。

真摯さよりも、頭脳を重視する者を昇進させてはならない。そのような者は未熟なのです。有能な部下を恐れる者を昇進させてもならない。そのような者は弱いのです。

仕事に高い基準を設けない者も昇進させてはなりません。仕事や能力に対する侮りの風潮を招くことになるからです。

判断力が不足していても、害をもたらさないことはあります。しかし、真摯さに欠けていたのでは、いかに知識があり、才能があり、仕事ができようとも、組織を腐敗させ、業績を低下させるのです。
真摯さは習得できない。仕事についたときにもっていなければ、あとで身につけることはできない。真摯さはごまかしがきかない。一緒に働けば、その者が真摯であるかどうかは数週間でわかる。部下たちは、無能、無知、頼りなさ、無作法など、ほとんどのことは許す。しかし、真摯さの欠如だけは許さない。そして、そのような者を選ぶマネジメントを許さない。(『現代の経営』[上])
ドラッカーは真摯さを非常に重要な資質と位置づけており、特にマネジメントやリーダーにとって欠かせない要素としています。彼は真摯さには「仕事上の真摯さ」と「人間としての真摯さ」の二つの側面があり、後天的に習得できるものではないと指摘しています。

真摯さは、自分の役割について考える能力として表れ、他者との信頼関係を築く基盤となります。ドラッカーは、真摯さを持つ人間かどうかを判断するための質問として、「自分の子供をその人の下で働かせたいと思うか」を挙げており、責任感と信頼に裏打ちされたものであることを強調しています。

ドラッカー氏

安倍晋三首相が安全保障法制の改正に取り組んだ姿勢は、彼の政治家としての真摯さを如実に示しています。2015年9月に成立した安保法制は、戦後70年にわたる日本の防衛安全保障政策の大きな転換点となりました。この法制は、集団的自衛権の限定的な行使を可能にし、日本の抑止力を向上させることを目的としていました。

安倍首相は、この法制改正の必要性を、中国の海洋進出や軍事費の増大、北朝鮮の核・ミサイル開発など、東アジアを中心とする安全保障環境の変化に求めていました。しかし、この法制改正は国内で大きな議論を巻き起こし、多くの反対の声が上がりました。国会周辺では連日のようにデモが行われ、「戦争法案」だとする批判も強まりました。

にもかかわらず、安倍首相は自身の信念に基づき、この法制改正を推し進めました。世論調査では「政府の説明は分かりにくい」との声が過半数を超え続け、政権支持率の低下も避けられない状況でした。ただ、これは今から振り返ると、政府の説明が分かりにくいというよりは、政府の説明をメディアがまともに報道しなかったためとみられます。しかし、安倍首相は国民の理解を得るべく、国会での説明を重ね、法案の必要性を訴え続けました。

この姿勢こそが、安倍首相の真摯さの真骨頂と言えるでしょう。政権支持率の低下という政治的リスクを承知の上で、国家の安全保障という重要課題に取り組んだことは、彼の政治家としての責任感と真摯な態度を示しています。安倍首相は、目先の人気や支持率にとらわれることなく、自身が国家にとって国民にとって必要だと信じる政策を推し進める強い意志を持っていたのです。

さらに、安倍首相は法制改正の過程で、与党内の調整や野党との議論にも真摯に取り組みました。特に、連立与党である公明党との調整には多くの時間を費やし、慎重に合意形成を図りました。これは、単に自身の考えを押し通すのではなく、民主主義のプロセスを尊重する姿勢の表れと言えます。

また、安倍首相は国際社会における日本の役割についても深く考慮していました。「積極的平和主義」を掲げ、世界の平和と安定に貢献する日本の姿勢を示そうとしたのです。これは、単に国内の安全保障だけでなく、国際社会における日本の責任を果たそうとする真摯な態度の表れと言えるでしょう。

このように、安倍首相が政権支持率の低下という困難な状況下でも安保法制の改正に取り組んだことは、彼の政治家としての真摯さと信念の強さを示す重要なエビデンスとなっています。それは、短期的な政治的利益よりも国家の長期的な安全と繁栄を優先する姿勢であり、まさに安倍首相の真摯さの真骨頂と言えるものです。

さて、私は石破氏の能力の低さ高さ、見かけ、語り口などは問題にしません。ただ、真摯さについてはこれからじっくり注視していきます。そうして、はやければ今月中になるとみこまれる、総選挙の判断材料にします。

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2024年10月1日火曜日

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【中国への対応はアジア版NATOではない】政権移行期を狙った中国の軍事行動、毅然かつ冷静に対峙する覚悟を

勝股秀通( 日本大学危機管理学部特任教授)

まとめ
  • 海自艦の台湾海峡通過:日本の海上自衛隊護衛艦「さざなみ」が台湾海峡を初めて通過し、中国はこれに対して抗議した。これは法の支配に基づく日本の毅然とした対応を示すものである。
  • 中国の軍事的威圧行動:中国は日本の政権移行期を狙い、領空侵犯や領海侵入などの挑発行為を活発化させている。特に、中露による共同軍事演習が日本周辺で行われており、警戒が必要とされている。
  • アジア版NATOの創設構想:石破茂氏が自民党総裁選で「アジア版NATO」の創設を提唱しているが、現時点では日米豪印(QUAD)など既存の枠組みを強化することが優先されるべきである。
  • 周辺国との連携強化:日本は日米韓や英仏独、カナダなどとの連携を強化し、インド太平洋地域での安全保障を確保する必要がある。
  • 中国国内の安全保障問題:日本人に対する暴力事件やスパイ容疑での拘束が増加しており、これに対して多国間で中国に説明を求める取り組みが重要である。
石破茂氏(左)と岸田文雄氏=平成27年12月

 中国の軍事的威圧が強まる中、日本の海上自衛隊護衛艦「さざなみ」が台湾海峡を初めて通過した。この行動は法の支配に基づくものであり、中国は日本政府に厳重に抗議した。岸田文雄首相の退任以降、中国は日本の政権移行を狙い、軍事行動を活発化させている。

 具体的には、中国軍機が日本領空を侵犯し、中国海軍の艦艇が日本の領海に侵入するなどの挑発が続いている。

 日本は長年、「専守防衛」の方針を採用し、周辺国を刺激しない戦略を取ってきたが、中国はその間に軍事力を増強し、領海侵犯や挑発行為を繰り返している。特に、台湾海峡は国際法上の公海であり、他国の軍艦が航行することに問題はない。しかし、中国はここでも主権を主張し、国際法を無視している。

 こうした中国に等に対して、日本は嫌がることをしてこなかったが、これは改めるべきである。戦略とは本来、相手の嫌がることを考え、実行することだからだ。

 このような状況下で、日本は日米韓や日米豪印などとの連携を強化し、インド太平洋地域での軍事活動を常態化させる必要がある。また、中露による共同軍事演習や報復行動にも備えなければならない。防衛省は領空侵犯したロシア軍機の航跡と中露海軍艦艇の行動を公開しており、これらは日本周辺での緊張を高めている。

 さらに、中国では日本人への暴力事件や拘束事例も増加しており、企業活動に対する不安が広がっている。特に、日本人学校での刺殺事件やスパイ容疑で拘束された社員の問題は深刻だ。これらの問題に対処するためには、多国間で中国に説明を求める必要がある。

 新首相には、「台湾有事は日本有事」というメッセージを発信し続け、中国との冷戦状態に備える覚悟と戦略的思考が求められる。中国の挑発には毅然とした態度で臨むことが重要だ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】海自護衛艦台湾海峡初通過と石破台湾訪問は日本版対中国"国家統御術"の先駆けになり得るか

日本の海上自衛隊護衛艦「さざなみ」が初めて台湾海峡を通過したことを、私は高く評価しています。この出来事は、総裁選に埋もれてほとんど報道されませんでしたが、日本にとって画期的な出来事です。この点については、以前このブログでも指摘したばかりです。

その記事へのリンクを以下に掲載します。
日米豪共同訓練を実施中の「さざなみ」

この記事の詳細はリンク先をご参照いただくとして、以下に結論部分を掲載します。
今回の日本の護衛艦による台湾海峡通過は、岸田政権の「置き土産」として評価されるべき重要な出来事です。この行動は、岸田政権が推進してきた「自由で開かれたインド太平洋」構想を具体的に実践したもので、次期政権においても政策の継続性が確保されることを示しています。

さらに、オーストラリアやニュージーランドの艦艇と共に通過したことで、同盟国との連携を強化し、中国に対する明確なメッセージを発信しました。また、台湾海峡の安定が日本の安全保障にとって重要であることを具体的に示し、「航行の自由」という国際法の原則を支持する姿勢を貫いた意味もあります。これらの要素は、岸田政権が残した重要な政策的遺産となり、次期政権にとっても大きな基盤となるでしょう。
日中関係は、海上自衛隊護衛艦「さざなみ」の台湾海峡通過によって、「point of no return」(後戻りできない状況)に近づいたといえます。この表現は、外交や軍事の文脈で、ある行動を取った後に元の状態に戻れない状況を指します。中国はこの行動に強く抗議し、軍事的威圧を強化しています。

一方で、石破氏は「親中派」ともされており、石破内閣の閣僚にも親中派が多いとされています。こうした背景を認識した岸田首相は、次の政権に「楔」を打ち込んだといえるでしょう。

新政権には、「台湾有事は日本有事」というメッセージを発信し続け、中国との冷戦状態に備える覚悟と戦略的思考が求められています。現在の状況は、軍事行動の開始や外交関係の断絶といった国際関係の重大な転換点を示す "point of no return" の概念に近づいているといえます。

さらに、石破茂氏が8月に台湾を訪問したことも、日中関係における重要な転換点となり、"point of no return"に近づく一因となりました。この訪問は、日本の政治家が台湾との関係を重視する姿勢を明確に示したものであり、中国はこれに対して強く反発しました。

日本が従来の「周辺国を刺激しない」方針から、より積極的な対台湾政策へと転換する可能性を示唆しています。この訪問は、中国との外交的緊張を高める要因となり、日本が「法の支配」に基づく国際秩序を強化する姿勢を示したものでもあります。

また、石破氏の訪問と海上自衛隊護衛艦の台湾海峡通過は、日中関係が新たな段階に入ったことを示しています。これは、仮に保守派の高市氏がこのようなことをしてもさほど驚くべきことではないのですが、リベラル派と目される石破(当時総裁候補)、岸田首相で行われたということが注目に値します。

"Point of no return"(後戻りできない状況)は、軍事や外交の文脈で重要な概念です。特に軍事分野では、一度行動を起こすと元の状態に戻ることが不可能になる瞬間を指します。例えば、軍事作戦を開始すると、その決定を撤回するのが極めて難しくなることが挙げられます。

日中関係では、石破茂氏の台湾訪問や海上自衛隊護衛艦の台湾海峡通過が、この"point of no return"に近づく出来事といえます。これらの行動は、日本が従来の「周辺国を刺激しない」方針から、より積極的な対台湾政策へと転換する可能性を示唆しています。


中国はこれに対し強く反発し、軍事的威圧を強化しています。また、ロシアとの軍事連携も進展しており、日本はこれに備える必要があります。新政権には、中国との冷戦をどう戦い抜くかという覚悟と戦略的な知恵が求められています。

"Point of no return"を超えたからといって、直ちに戦争が起こるわけではありません。米中関係を見てもわかるように、両国は協調的な関係に戻れない段階にありながらも、直接的な軍事衝突を避けています。これは、相互抑止力、経済的相互依存、外交チャンネルの維持、国際社会からの圧力、そして軍事以外の競争手段の活用によるものです。

ただし、米国の対中政策は"Point of no return"を超えた現状において、国家運営術である「statecraft(ステートクラフト):(国家統御術)」の次元に高められていると言えます。これは、党派性を超えた米国の意思と言って良いです。

Statecraftとは、国家利益を追求するために外交、経済、軍事などの手段を戦略的に活用する技術や実践を指します。米国の対中政策は、包括的アプローチ、同盟国との連携強化、経済・技術戦略、軍事的抑止、情報戦略など、多岐にわたる施策を通じて、このstatecraftを実践しています。

これらは単なる対立や対抗ではなく、国家の総合力を活用して国益を追求するためのstatecraftの実践と言えます。米国は軍事衝突を避けつつ、中国との競争を管理し、自国の優位性を維持しようとしています。しかし、このような高度なstatecraftの実践は、両国間の緊張を高める可能性があり、誤解や誤算のリスクも高まります。そのため、対話チャンネルの維持と危機管理メカニズムの強化が必要です。

中国もまた、日米に対峙する際にstatecraftを実践しています。中国の戦略は、軍事、経済、外交、技術などの多面的アプローチを通じて、日米に対抗することに特徴があります。具体的には、南シナ海や台湾周辺での軍事的圧力を強化し、「一帯一路」構想を通じて国際的な影響力を拡大しています。

また、ロシアとの連携を深め、共同軍事演習や情報戦略を展開することで、国際社会における自国の立場を強化しています。これらの行動もまた、国家の総合力を活用して国益を追求するstatecraftの一環といえます。中国は軍事衝突を避けつつ、日米との競争を管理しながら自国の影響力を拡大しています。

statecraftを駆使する中国

日本も、米国のように中国との対立をstatecraftの次元に引き上げるべきです。これは単なる対立ではなく、国家の総合力を戦略的に活用して国益を追求するための実践です。日本のstatecraftでは、外交、経済、技術、安全保障など、多面的な分野で中国に対抗する戦略が必要です。特に、日米同盟を基軸にQUADや欧州諸国との関係を強化し、中国に対する国際的な圧力を高めることが重要です。また、重要技術の保護や対中投資の管理など、経済面での対抗策を講じる必要があります。

さらに、自衛隊の能力向上とインド太平洋地域での軍事プレゼンスを強化し、中国の威圧行動に備えることも求められます。情報戦略としては、中国の人権問題や国際ルール違反を国際社会に訴え、日本の立場への理解を促進することが重要です。このようなstatecraftの実践により、日本は軍事衝突を避けつつ、中国との競争を管理し、自国の利益を守ることができます。しかし、緊張を高めるリスクもあるため、対話のチャンネルを維持し、危機管理メカニズムを強化することも不可欠です。

結論として、岸田政権による海上自衛隊護衛艦の台湾海峡通過は、日本版statecraftの先駆けとなる可能性を秘めています。この行動は、法の支配に基づく国際秩序を守りつつ、日本の国益を追求する点で高く評価されるべきです。日本が単なる受動的な立場を脱し、積極的かつ戦略的に国際情勢に関与していく姿勢を示したこの行動は、今後の日本外交における重要な転換点となるでしょう。

故安倍首相がご存命なら、こうした個々の行動をするだけにとどまらず、意図して意識して、日本版statecraftの次元にひきあげようとしたでしょう。多くの日本の政治家は、こうした安倍氏の大きな枠組みでものを考えるという姿勢を見習ってほしいです。

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