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2024年5月12日日曜日

中国企業が「世論工作システム」開発か、Xアカウントを乗っ取り意見投稿…ネットに資料流出―【私の論評】世論工作の影響に警鐘:あなたと周りの人もその標的に

中国企業が「世論工作システム」開発か、Xアカウントを乗っ取り意見投稿…ネットに資料流出

まとめ
  • 中国の安洵信息技術有限公司が「ツイッター世論誘導統制システム」を開発し、Xアカウントを不正に乗っ取って中国当局への有利な世論操作がされていた疑いがある
  • 同社の内部資料約20ページがネットに流出し、乗っ取り手口などが記載されている
  • 同社は中国当局、特に公安機関等と密接な取引関係があり、世論工作ツールを販売している
  • 台湾のサイバー企業は「本物の文書」と判断し、中国のSNS世論工作の「初の証拠」と指摘
  • 日本政府も資料を入手し、中国の対外世論工作との関連を調査中

安洵信息技術有限公司

 中国の安洵信息技術有限公司が開発したとされる「ツイッター世論誘導統制システム」の内部資料が、インターネット上に流出していたことがわかった。この約20ページの資料では、旧ツイッターのXアカウントに不正なURLを送ることで乗っ取り、ダイレクトメッセージを盗み見たり、中国当局に都合のよい投稿をさせることができると記載されている。

 資料によると、同システムは「好ましくない反動的な世論を検知する」ことを目的に構築され、「社会の安定には、公安機関が世論をコントロールすることが極めて重要」と明記されていた。近年、他人に乗っ取られたとみられるXアカウントが、中国語や日本語で中国の反体制派を批判するケースが相次いでおり、このシステムが使われている可能性があるという。

 安洵信息技術は2010年に設立された企業で、国家安全省からIT製品の納入業者に選定されるなど、中国当局と密接な関係にあった。資料流出と合わせて公開された約580ファイルには、同社が地方の公安当局と契約を結び、通信アプリ向けの世論工作ツールを販売していた記録が残されていた。

 台湾のサイバーセキュリティ企業「TeamT5」は、資料に記載された工作手口などから「本物の流出文書と確信している」と分析。さらに「中国が世論工作のため西側諸国のSNSを利用する意志と能力を持っていることを示す初の証拠だ」と指摘している。

 日本政府の情報機関も、流出資料を入手し本物と判断。分析を進めるとともに、中国の対外世論工作との関連を詳しく調査している。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】世論工作の影響に警鐘:あなたや周りの人もその標的

まとめ
  • 中国による世論工作の手口は、大きく分けて、大量のネット工作員の投入やボットアカウント、トロールアカウントの利用、さらにはSNS投稿の監視と削除などが挙げられる。
  • 民間企業への世論工作の委託やコメント操作アプリの利用も行われている。
  • 他国でも同様の動きが見られ、ロシアの「インターネット研究所(IRI)」やトルコ政府の「アストロターフィング」キャンペーン、イランのサイバー軍の活動が挙げられる。
  • 世論操作に対処するためには、情報源の確認や正確性の検証、バイアスに気をつけることが重要である。
  • 自らの政治的・経済的スタンスが不明確な人々は、世論操作の標的になりやすく、その対策としては主体的な判断力を養い、多様な情報源から情報を検証すべきである
中国による世論工作の手口について、テクノロジーツールだけでなく、人為的な工作も含めてより幅広く事例を挙げます。


1. 「五毛党」と呼ばれる大量のネット工作員の投入
中国政府は、大量のネット工作員を雇い、インターネット上で政府の主張を支持する投稿を行ったり、批判的な意見を攻撃したりすることで、世論を誘導しようとしているとわれています。2010年代には20万人以上が動員されていたと推定されています。
2. ボットアカウントやトロールアカウントの利用
政治的プロパガンダの拡散などを目的に、大量の自動投稿アカウント(ボット)やトロール(誹謗中傷を行うアカウント)を作成し、世論操作に利用していると指摘されています。
3. 検閲ツールを使ったSNS投稿の監視と削除
Facebook、Twitter、Instagramなどの海外SNSで中国批判的な投稿を自動で監視し、削除させるための検閲ツールを開発・利用していると報じられています。
4. 民間企業への世論工作委託
中国政府は、一部の世論工作を民間のIT企業に委託し、専門的なツール開発やネット工作員の雇用などを行わせているとされています。今回の安洵信息技術の事例がこれに当たります。
5. コメント操作アプリの利用
動画サイトなどで、コメント操作アプリを使って人気コメントを不正に操作し、政府に都合の良い世論を作り出そうとする動きが確認されています。  
6. SNSアカウントのハイジャック
不正なリンクを開かせることで、他人のSNSアカウントを乗っ取り、ダイレクトメッセージの盗聴や政府に都合の良い投稿を行う手口も報告されています。
このように、中国当局は多様な手段を組み合わせて、インターネット上の世論をコントロールしようとしていると考えられています。

これは、中国以外の国々でも行われています。

ロシアでは、政府資金を受けた「インターネット研究所(IRI)」が、ソーシャルメディア上での情報拡散や議論に影響を与えるツールを開発。オンライン世論を監視し操作することが目的とされているとされています。

トルコ政府は、ソーシャルメディアを監視し、偽アカウントから政府支持の投稿を行う「アストロターフィング」キャンペーンを実施。都合のいい情報を拡散させようとしているとされています。

イランのサイバー軍も、偽アカウントを用いて虚偽情報を拡散したり、反体制派を攻撃したりするなど、ソーシャルメディア上での世論操作ツールを活用しているとされています。

このように、中国に加えて、ロシア、トルコ、イランなど他国でも、政府や特定組織がソーシャルメディアを利用して世論を操作する試みがなされており、偽情報に惑わされないよう注意が必要です。ただ、これらはいままでは、おそらく正しいとはみられていたものの、推測の域にとどまっていました。

ネットに流出した「世論工作システム」の資料とみられる文書の表紙

しかし今回の、資料流出はこれが本物であれは、中国当局の関与を強く示す内部資料が初めて現われたということになります。台湾の専門家も「中国によるSNS世論工作の初の証拠」と指摘しているとおり、これまでの疑惑を裏付ける重要な一次資料となり得るのです。

ただし、資料の完全な信頼性は未確認です。日本政府が資料を精査し、本物と判断すれば、中国の世論工作の実態が明らかになる極めて重要な証拠となるでしょう。

ソーシャルメディア上での世論操作ツールに惑わされないためには、以下の点に注意することが重要です。
  • 情報の発信元を確認する 投稿者のアカウントが本物かどうか、信頼できる発信源からの情報かどうかを確認します。偽アカウントやボットアカウントからの投稿には注意が必要です。実在の人物や組織による発信であるかを確認すべきです。匿名(個人、組織)アカウントによる発信は、一部を除いて著しく信憑性は劣るものとみなすべきでしょう。
  • 情報の正確性を検証する 投稿内容が事実に基づいているか、根拠となる情報源が明記されているかどうかを確認します。デマやフェイクニュースに惑わされないよう注意深く内容を吟味する必要があります。
  • バイアスに気をつける 特定の政治的立場や主張を支持する内容に偏りがないか、バイアスがかかっていないかに注意を払います。客観性や公平性に欠ける投稿は慎重に評価する必要があります。
  • 批判的に考える 投稿内容を鵜呑みにせず、常に批判的な視点を持ち、自分で考え、判断することが大切です。単に人気コメントや拡散されている投稿に惑わされないようにしましょう。
  • 信頼できる情報源に頼る 政府機関や専門家、権威あるメディアなど、信頼できる情報源からの情報を確認し、参考にすることをおすすめします。
特に、自らの政治的・経済的スタンスや価値観が確固としていない人(軸がはっきりしていない人)は、ソーシャルメディア上の世論操作の標的になりやすいです。理由は以下の通りです。

1. 主体的な判断力が乏しい
自らの軸がはっきりしていない人は、様々な情報に惑わされやすく、主体的に情報を評価し、判断する力が弱い傾向にあります。操作されやすい土壌となってしまいます。
2. 一貫性のある考え方を持っていない
確固たる信念や一貫したスタンスがないため、ごく一時的な影響で簡単に意見が動転してしまう可能性があります。世論操作の影響を受けやすくなります。
3. 多様な情報源から検証しない
自らの価値観が確立していないと、情報を偏りなく収集し、様々な視点から検証する態度に欠ける場合があります。偽情報に惑わされやすくなります。
4. 大勢に流される
自己主張が曖昧だと、大勢の流れに身を任せてしまいがちです。世論の訴えかけに惑わされ、操作に加担してしまう危険性が高くなります。
このように、自らの価値観や判断基準が明確でない人は、世論操作の標的になりがちです。政治・経済問題に関して主体的に考え、自らの軸を確立することが、偽情報や世論誘導に惑わされないための大切な土台となるでしょう。

ソーシャルメディアは世論操作の標的になりやすい環境です。常に注意を払い、冷静に情報を評価することが、誤った影響を受けずに済む賢明な対処法となるでしょう。

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2024年5月9日木曜日

中国の「麻薬犯罪」を暴露した米下院報告書がヤバすぎる…!ついに明らかとなる「21世紀版アヘン戦争」の非道な中身―【私の論評】非対称戦の可能性、日本も対岸の火事ではない

中国の「麻薬犯罪」を暴露した米下院報告書がヤバすぎる…!ついに明らかとなる「21世紀版アヘン戦争」の非道な中身

まとめ

  • ブリンケン米国務長官の中国訪問後、米中関係が悪化する新たな火種となるリスクが浮上した。
  • 米下院委員会が、中国政府がフェンタニル原料の製造に関与し米国のオピオイド危機を助長していると指摘する報告書を公表した。
  • フェンタニルは極めて危険な合成オピオイド系麻薬で、中国が原料供給源との疑惑が以前から持たれていた。
  • フェンタニル問題が2024年米大統領選の主要争点となり、共和党がバイデン政権の対中政策を追及する可能性がある。
  • 中国が意図的にフェンタニル問題で米国社会を不安定化させ、新たな「アヘン戦争」を仕掛けているのではないかとの憶測があり、米中関係が一気に悪化するリスクが高まった。
ブリンケン国務長官

 ブリンケン米国務長官が4月に中国を訪問したが、この訪問がむしろ米中関係に深刻な影を落とす新たな火種となる可能性が浮上した。訪問中、ブリンケン氏は対ロシア制裁を潜脱するロシアへの中国の輸出阻止と、米国の景気減速を招く"デフレ輸出"の自粛を中国側に強く求めた。一方の中国側は、習近平国家主席がブリンケン氏との会談で「米中はライバルではなくパートナーであるべき」と述べるなど、表面上は融和的な姿勢を示そうとした。

 しかし、ブリンケン氏が中国共産党公安部長の王小洪氏と会談し、麻薬取締における両国の法執行協力について言及したことで、思わぬ火種が散らばることになった。それは、米国が最近、フェンタニル問題で中国政府の関与を追及し始めたためだ。

 米連邦下院の中国共産党に関する特別委員会は4月16日、中国政府がフェンタニルの原料となる化学物資の製造に資金的援助を行い、米国のフェンタニル危機を助長していると指摘する報告書を公表した。フェンタニルはモルヒネの100倍、ヘロインの50倍の強力な合成オピオイド系麻薬で、米国では2021年に7万人以上がこれによる過剰摂取で死亡している。

 中国政府の関与が明確に指摘されたのは初めてで、この問題が今年11月の米大統領選の主要争点となる可能性が出てきた。共和党は、これをバイデン政権の対中政策の失敗と見なし、さらに追及するだろう。一部からは、中国が意図的にフェンタニル問題で米社会を混乱に陥れ、新たな「アヘン戦争」を仕掛けているとの憶測も出ている。

 マリフアナ合法化で中国系マフィアが市場を牽制しているとの指摘もあり、FBIは中国政府がマフィアの不正資金を一帯一路事業に流用している可能性に注視している。こうした中で、フェンタニル問題が契機となり、両国関係が一気に悪化に向かう危険性が生じてきた。

【私の論評】非対称戦の可能性、日本も対岸の火事ではない

まとめ

  • オピオイド危機は、1990年代後半から始まり、医療機関の過剰な処方が原因。
  • 米政府の対策として適切な処方ガイドラインを提供し、治療プログラムを強化。
  • 中国がフェンタニルの輸出企業への支援が指摘されるも、対策不足。
  • 日本は、厳格な法規制と取り締まりにより対策がなされている。
  • 一方日本は、エネルギーや高齢化、サイバーセキュリティ、地政学的緊張等の脆弱性がありこれらへの警戒と対策の必要性。
オピオイド危機は、1990年代後半から2000年代初頭にかけて始まりました。この危機は、医療機関がオピオイド系薬剤の処方を増やし始めたことがきっかけとなっています。医師たちは、オピオイド系薬剤が痛みの制御に効果的で依存性が低いと信じていたため、これらの薬剤を積極的に処方するようになりました。しかし、実際にはオピオイド系薬剤は非常に依存性が高く、処方された人々が薬物依存症に陥るケースが増加しました。

この危機のピークは2017年で、この年だけで64,000人以上のアメリカ人がオピオイドの過剰摂取によって命を落としました。2021年時点では、1日130人以上がオピオイドの過剰摂取によって命を落としています。

この危機に対処するために、米政府はさまざまな対策を行っています。例えば、医療従事者に対する適切な処方ガイドラインの提供や、オピオイド過剰摂取による死亡の防止のための薬の処方などです。また、薬物依存症の治療プログラムや薬物乱用防止教育プログラムを拡充するなど、広範な取り組みが行われています。しかし、オピオイド危機は未だに大きな社会問題であり、解決に向けて多くの努力が続けられています。

上の記事にもある報告書によると、中国政府はフェンタニルやその原料を輸出する企業に税金還付や補助金を与えているとされています。例えば、同委員会が入手した資料によると、2018年までに、税の還付制度により、少なくとも17種類の違法な麻薬の輸出を奨励しています。このほか、フェンタニルなど違法な合成麻薬を扱う企業に地方政府が補助金を出したり、表彰したりする例も挙げられています。

また報告書によると、中国政府機関が違法な合成麻薬の販売を行う企業の株式を所有し、事実上、国有企業となっているケースが複数ある。これらのうち世界最大規模のフェンタニル原料の輸出企業は、違法な麻薬販売を公然と行いながらも、「共産党幹部から繰り返し称賛された」といいます。

さらに、中国が「人類史上最も進んだ全体主義的監視国家」であり、違法な薬物製造や輸出を取り締まることができるにもかかわらず、それを怠ってきたと指摘。米国の法執行機関が捜査のため中国に正式な協力要請を行った際には、中国当局が中国企業側にそれを通知し、犯罪行為が露見しないようやり方を変えさせたとしました。

報告書によれば、中国政府はフェンタニルの輸出促進を米国に対する「非対称戦」(軍事力や戦略・戦術が大幅に異なる戦争)の一部と見なしているとされています。中国軍の戦略家たちが著書の中で、「麻薬戦争は他国に災難をもたらし、莫大(ばくだい)な利益をもたらす」として、有効な非対称戦の手段の一つに挙げているといいます。

その上で報告書は、フェンタニルの世界的なサプライチェーン(供給網)を標的にしたタスクフォースの創設や麻薬密売に関与する者に対する制裁強化を議会に提言しました。

バイデン大統領と習近平国家主席による昨年11月の米中首脳会談では、原料を製造する中国企業を取り締まることで合意されました。しかし、報告書によれば、中国政府によるフェンタニル輸出業者への支援は現在も続けられており、有効な対策は取られていないとみられる。

16日開かれた議会公聴会で証言したウィリアム・バー前司法長官は、「中国共産党は単なる傍観者ではない」と指摘。「彼らは米国内で流通するフェンタニルとその原料の生産と輸出を積極的に支援し、奨励し、促進している」と非難した。

また、同委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和党:当時)は「中国共産党の行動から、彼らがより多くのフェンタニルを米国に流入させたいと考えていることが分かる」と強調。その上で「彼らはフェンタニルの蔓延による混乱と荒廃を望んでいる。米国人の死者が増えてほしいと思っているのだ」と訴えました。

マイク・ギャラガー氏

中国における非対称戦に関する代表的な著書としては、以下のようなものがあります。
  • 孫子:『孫子兵法』(紀元前5世紀)
  • 毛沢東:『遊撃戦』(1937年)
  • 林彪:『遊撃戦戦争論』(1964年)
  • 劉華清:『現代戦争論』(1999年)
  • 喬良(ジョウ・チェン):『超限戦』(1999年)

『超限戦』の日本語訳版は、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件を予言していたと注目を集めました。

『超限戦』 の独創性は、従来の非対称戦の概念を拡張し、情報戦や経済戦などの新しい形態の戦争も含めた包括的な理論を構築したことにあります。しかし、中国における非対称戦に関する研究成果を無視して『超限戦』を評価することはできません。

『超限戦』から麻薬について記述に以下に掲載します。
  • 第2章「超限戦の理論」では、麻薬が「非対称性の高い兵器」として挙げられています。これは、麻薬は少量で大きな被害を与えることができ、国家間の戦争だけでなく、テロや犯罪にも利用される可能性が高いことを意味します。
  • 第4章「超限戦の戦略」では、麻薬の密輸や密売が超限戦の戦術として紹介されています。これは、麻薬の流通を操作することで、敵国の経済や社会に混乱を引き起こすことを目的としたものです。
  • 第5章「超限戦の事例」では、実際に麻薬が超限戦の手段として利用された事例がいくつか紹介されています。例えば、ベトナム戦争において、アメリカ軍は麻薬の密売を通じて北ベトナムの経済を弱体化させようとしたことが挙げられています。
これらの記述から、『超限戦』の著者であるジョウ・チェン氏は、麻薬が超限戦において重要な役割を果たす可能性を認識していたことがわかります。

ただし、『超限戦』はあくまで理論的な書籍であり、実際の麻薬密売や密輸に関する具体的な情報は含まれていません。しかし、中国共産党はこれを参考にしている可能性は否定できません。

米国ではフェンタニル等の中毒患者が蔓延、ゾンビと呼ばれでいる

トランプ政権はオピオイド危機への対策として、2017年に非常事態を宣言し予算を確保したほか、メキシコ国境での麻薬密輸取り締まり強化、中国への原料規制要求、製薬企業への法的措置、治療・予防への予算計上などを行いました。しかし、規制の権限が連邦と州で分散していたことや製薬業界のロビー活動の影響もあり、根本的な供給ルート遮断までは至らず、包括的な対策は不十分との評価が多く、課題がバイデン政権に引き継がれました。

一方バイデン政権のこれに対する危機対策については、大きな新規施策が見られず、中国への圧力も手薄であるとの指摘があります。一部ではオピオイド処方規制への批判もあり、十分な実績を残せていないと評価されています。バイデン政権は発足から既に一定期間が経過しているにもかかわらず、強力な対策が打ち出されていないことから、この問題への取り組みは不十分との見方が多数を占めています。今後、抜本的な供給ルート遮断など、より積極的な施策が求められているのが実情です。

日本は、厳格な法規制と徹底した対策により、フェンタニル乱用の深刻化を防いでいます。

麻薬取締法でフェンタニルを麻薬指定し、密輸や所持を厳しく取り締まることで、国内への流入を抑制しています。医療現場においても、フェンタニルの管理を徹底し、不正な流出を防ぐ体制を整備しています。

さらに、麻薬取締部や警視庁など関係機関が連携し、密輸組織への情報収集と捜査を強化することで、供給ルートの断絶を目指しています。加えて、厳しい勾留措置で再犯を防ぎ、抑止力としています。

これらの対策が一体となって、日本のフェンタニル乱用問題の抑制に効果的に貢献していると考えられます。日本の取り組みは、世界各国にとって参考となるモデルと言えるでしょう。

麻取の装備品

日本は薬物規制において高い実績を誇っていますが、エネルギー、高齢化社会、サイバーセキュリティ、地政学的緊張といった脆弱性も抱えています。これらの脆弱性は悪用される可能性があり、一部ですでに悪用されているといえます。

米国におけるオピオイド危機と同様に、日本も対象は異なるものの、弱点を突かれる可能性がありますし、薬物危機が広がらないとも言い切れない状況になっており、対岸の火事ではなく、他山の石として教訓を学び、更なる対策を講じる必要があります。

具体的には、憲法改正、軍事力強化、エネルギー・ドミナンスの確立、まともな金融財政政策の実施、サイバー攻撃への対策強化、情報操作への警戒、国際的な協力体制の構築などが重要です。

日本は強みを生かしながら、これらの課題に取り組むことで、より安全で安心できる社会を実現していくべきです。

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2024年5月7日火曜日

ハマス、ガザ停戦案の受け入れ表明 イスラエルは「要求からかけ離れた内容」―【私の論評】捕虜交換並びに地域のパレスチナ人の安全のための交渉と、和平交渉は全く別物

ハマス、ガザ停戦案の受け入れ表明 イスラエルは「要求からかけ離れた内容」

まとめ
  • ハマスがカタール・エジプトの仲介による停戦案を受け入れたと表明
  • 段階的な停戦では、第1段階でイスラエル人人質解放と引き換えにパレスチナ人囚人釈放
  • 第2段階でガザ封鎖の完全解除が想定されている
  • イスラエル側は停戦案の内容に難色を示しつつも、交渉は継続する構え
  • 米国もパートナー国と協議し、人質解放の合意に向けた努力を続ける方針
ハマス戦闘員

 パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘の一時停止と、ハマスによる人質確保のイスラエル人の解放に向けた交渉において、イスラム組織ハマスは6日、仲介役のカタールとエジプトから提示された停戦案を受け入れると発表した。

 この停戦案は、段階的に進められるもので、第1段階では、イスラエル軍がガザ地区南部ラファの一部から撤退し、主要ルートからも撤退する一方で、イスラエルの刑務所に収監中のパレスチナ人囚人約50人(終身刑の者も含む)の釈放と引き換えに、ハマスが人質に捉えているイスラエル人女性兵士らを解放することが盛り込まれている。

 第1段階は42日間かけて実施される。さらにその11日後には、家を追われたパレスチナ人のガザ北部への帰還が認められる予定だ。

 第2段階も42日間で、パレスチナ側の高官によると「持続可能な長期的な平穏」とガザの封鎖の完全解除で締めくくられるという。ハマス側は「イスラエルが停戦合意に応じるのか、それとも妨害するのか。ボールは今イスラエル側のコートにある」と語っている。

 一方、イスラエル政府高官はハマスが受け入れたとする提案内容は、エジプトの提案よりも「弱められた」ものでイスラエル側が受け入れられない「広範囲におよぶ決定」が含まれていると指摘。首相官邸は「ハマスの提案がイスラエル側の基本的要求から外れていても、交渉は継続し、イスラエルが受け入れられる条件で合意に達する可能性を追及する」と表明した。

 一方で、戦時内閣ではラファでの軍事作戦の継続も決定しており、ハマスへの軍事的圧力を維持する構えも示した。イスラエル側の目標は、人質解放に加え、ハマスの軍事・統治能力の破壊、そしてガザが将来的にイスラエルの脅威とならないようにすることだという。

 米国務省はハマスの反応を検討し、パートナー国と協議していると語り、「人質解放の合意がイスラエル国民の最善の利益になると信じ続けている」として、引き続き合意実現への努力を続ける方針を示した。

【私の論評】捕虜交換並びに地域のパレスチナ人の安全のための交渉と、和平交渉は全く別物

まとめ
  • 中東情勢は依然として難しく、今回の交渉もその一部。
  • ハマスはテロ組織であり、交渉は悪魔との取引に等しい。
  • 交渉の難航の理由:ハマスの極端な姿勢、イスラエルの安全保障、ガザ封鎖と国際圧力、人質と収監者の問題。
  • 歴史が示す教訓:テロリストとの交渉や妥協は悲劇的な結果を招く。
  • ハマスとの交渉は誤りであり、テロリズムとの闘いにおいて強固な立場を取るべき。
中東情勢は依然として非常に難しく繊細な問題です。今回の交渉も、その長く困難な歴史の最新の一コマに過ぎません。

まず第一に言っておかなければならないのは、ハマスはテロ組織そのものだということです。彼らは凶暴なやくざ集団にすぎず、本質は過激思想と暴力主義にあります。

ハマスはテロ組織

政治的集団や支援団体を装っているだけで、その行動は言葉よりも雄弁に物語っています。このような集団と交渉するのは、悪魔と取引を試みるようなものです。彼らの約束は信用できず、合意も非常に不確かなものになるでしょう。

この交渉が難航している主な理由は以下の通りです。
  • ハマスの極端な姿勢:妥協を拒み、極端な要求を繰り返してきました。彼らの思想の根底にはイスラエル破壊があり、暴力とテロを武器としています。そうした融通が利かず敵対的な相手との交渉は本来困難です。
  • イスラエルの安全保障:イスラエルには自国民の安全を守る当然の権利があります。ハマスのテロ行為を直接経験しており、譲歩の隙を与えればハマスが勢力を取り戻し、更なる攻撃につながると危惧しています。
  • ガザの封鎖と国際圧力:ガザに対する封鎖はハマスに圧力をかけ、武器の流入を防ぐ必要な戦略です。ハマスが求める封鎖解除は、イスラエルの安全保障に深刻な影響があります。
  • 人質と収監者の問題:感情的で複雑な問題です。イスラエルは確かに自国民の解放を望んでいますが、代償が将来の人質確保に繋がれば危険です。
バイデン政権のテロリスト集団ハマスへの対応は妥協に過ぎず、歴史の教訓を忘れています。ハマスはパレスチナ人を代表する適切な当事者でありません。テロリストと交渉すること自体が間違っており、そうすれば彼らを勢いづかせるだけです。

捕虜の交換やハマスとは無関係のパレスチナ人の安全のためにハマスとイスラエルが交渉するのは良いと思いますが、今回イスラエルが中途半端にハマスと停戦合意などすべきではありません。これは、全く別なことです。このあたりが日本では曖昧に報道されているので、誤解する人もでてくるのではいなかと思います。

この問題をもっと一般化すると、非合法の武装暴力団が、ある地域を支配しており、その地域において人質をとっている場合、しかもその人質を奪還するために警察や軍などが強硬手段をとれば、多くの人が巻き込まれことがあらかじめ予想される場合、人質交換や地域の人々の安全のために暴力団と交渉する余地はあるにしても、暴力団と和平交渉して地域の安全・安定を目指すなどということあり得ません。

日本でいえば、指定暴力団がある町や村や、その一部を占拠していると考えてみて下さい。この事例だと誰でも、指定暴力団と政府や県等が和平交渉して、その地域を指定暴力団に統治させるなどのことは到底考えられないでしょう。無論、パレスチナはこのような一般化はできないかもしれませんが、それにしても理論的にはこれに近いものがあります。

無論世界中には事実上そのようになってしまっている地域もありますが、それは真の平和ではなく、偽りの平和です。偽りの平和は束の間であり、すぐに騒乱がはじまり、すぐに消えてなくなります。

歴史は明白に教えてくれています。邪悪な存在とは交渉できないのです。歴史が示すように、テロリストと関与し、彼らの要求に譲歩し懐柔を試みれば、結果としてテロが増長し、彼らの勢力が強まるだけです。

PLO故アラファト議長

たとえば、1970年代、世界はPLOを「パレスチナ人の正当な権利」を主張する組織として認め、交渉を試みました(オスロ合意)。しかし、この判断は誤りでした。PLOはテロリストの集団であり、そうした組織との交渉や妥協は、結果としてテロリストを力づけ、より一層の凶悪な犯行に走らせただけでした。

1970年代のPLOは強力な武装勢力を持ち、中東地域で大きな影響力を持っていました。しかし、レバノン内戦での過酷な戦いやイスラエルとの対立の結果、勢力が大きく削がれました。

また、1980年代後半には第一次パレスチナ人暴動(インティファーダ)の失敗や、オスロ合意を契機とした路線転換の過程で、過激派勢力が分裂していったことも指摘されています。

結局オスロ合意のプロセスは、2000年のキャンプ・デービッドにおけるアメリカを仲介としたバラック・オバマとアラファトPLO議長の会談の失敗と第2次インティファーダの勃発により終了しました。

現在のPLOぱ非暴力路線をとるようになりましたが、これは実際に武力闘争を継続する力(あるいは財力)が、残されていなかったことが大きな要因だったと見られます。テロ行為への関与を事実上、選択肢から外さざるを得なくなったのです。

PLOを承認し、彼らの要求に応えようとしたことで、かえって世界はテロリストの脅威を増長させてしまったのです。そこには、テロリストとの妥協は絶対に許されないという歴史の教訓を無視した過ちがあったと言えるでしょう。

このようにテロリストとの関与は、いつの時代でも悲劇的な結末しか生みませんでした。テロリストに対しては毅然とした姿勢で臨み、一切の妥協を拒絶することが不可欠なのです。この原則を曲げてはなりません。

ハマスに関しても、同じ過ちを繰り返してはならないです。彼らはテロリスト集団そのものなのです。ハマスをパレスチナの統治者として認め、交渉し、妥協すれば、歴史が繰り返されるだけです。ハマスはパレスチナ人を代表していません。彼らはパレスチナ人を人質に取り、人間の盾に利用し、政治的利益のために搾取しているだけです。

テロリストに対処する唯一の方法は、彼らに対して揺るぎなく強く団結することです。誤った交渉の試みで彼らを力づけてはならないです。自由世界は明確なメッセージを送らなければならないです。「テロリズムは決して容認されない。テロに手を染める者は力と決意をもって臨む」と。
岸田首相とバイデン大統領

バイデン政権はテロリズムと戦う最前線の同盟国イスラエルと共に立ち、自由と民主主義を壊そうとするこのようなテロ組織の要求に決して応じてはならないです。これは善悪の戦いであり、バイデン政権は自由を守り抜き、テロリズムを毅然と糾弾し、断固とした決意をもって対峙すべきです。

妥協の偽りの約束に惑わされてはならず、テロリストであるハマスとは捕虜交換や、ハマスに関係ないパレスチナ人の安全を確保するための交渉は別にして、和平交渉自体はすべきでありません。これをすれば、ハマスを国家として認めることとなります。

これに関しては断固拒否し、「要求は絶対に聞き入れない」と明確なメッセージを送るべきです。それこそがバイデン政権のすべきことであり、テロリストに勝利する道といえます。無論、日本もこれに同調すべきです。

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2024年5月3日金曜日

日本は「排外主義的」と米大統領が批判-移民受け入れに消極的と指摘―【私の論評】バイデンの混乱と矛盾に満ちた移民政策、日本はこれに翻弄されるな

日本は「排外主義的」と米大統領が批判-移民受け入れに消極的と指摘

まとめ
  • バイデン大統領は、移民受け入れに消極的な国として、中国、ロシアに加え同盟国の日本も挙げ、経済的行き詰まりの一因と批判した。
  • この日本に対する批判的発言は、日米同盟関係に亀裂を生じさせるリスクがある。

 バイデン米大統領は、選挙資金集めイベントでのスピーチで、移民受け入れに消極的な国のリストに中国やロシアに加え、同盟国の日本も含めた。経済発展には移民の受け入れが重要だと指摘し、中国、日本、ロシアなどの国が排外主義的で移民を望んでいないことが、経済的に問題を抱える一因だと非難した。

 この米同盟国日本に対する批判的発言は、日本政府の反発を招く可能性がある。先月、日米は中国への対抗で防衛協力を強化することで一致していただけに、同盟関係に亀裂が生じるリスクがある。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になってください。

【私の論評】バイデンの混乱と矛盾に満ちた移民政策、日本はこれに翻弄されるな

まとめ
  • 安倍晋三氏の保守主義は、国益の守護と伝統文化の継承を重視していた。
  • バイデン政権の移民政策は、無秩序な国境開放と法の無視により混乱を招いている。
  • 日本もバイデン政権の影響下にあり、外国人労働者受け入れの圧力が増している。
  • トランプ前政権の移民政策は、主権国家としての権益を重視しており、その方針の継続が日本にも好影響をもたらす可能性がある。
  • 日本の保守層は、安倍氏の遺産を引き継ぎ、国の未来のために力を合わせて行動すべきだ。
私たち保守主義者にとって、国益の守護と伝統文化の継承こそが何より重要な責務です。この点において、故・安倍晋三氏はまさに範とするべき指導者でした。

安倍氏は、無秩序な外国人労働者の受け入れが国家に及ぼす深刻な弊害を熟知し、日本の固有の風土と価値観を守ろうと力を尽くされました。国の繁栄は国民の結束と文化の統一にこそ由来する、この保守主義の普遍的真理を体現された方です。


一方、残念ながらバイデン政権の対応は、移民・外国人労働者問題においてまったく的をはずすものとなっています。無秩序な国境開放、違法移民への包括的な赦免、法の無視など、同政権が取った一連の施策は、外国人の流入を加速させ、米国の主権と国民性を傷つける結果を招いてしまいました。

この無謀な政策の悪影響は、私たちの祖国・日本にも及びつつあります。バイデン政権を支える進歩主義勢力が、グローバリズムの理念を押し付け、各国家の自主性を掘り崩そうとしているのです。

実際、近年における日本の移民政策の緩和の動きには、このような勢力による圧力の影が見て取れます。「労働力確保が成長への鍵」といった経済論理を口実に、外国人労働者受け入れ促進の機運が高まり、就労ビザ要件の実質的緩和につながっています。

このバイデン政権とグローバリスト勢力による圧力に、私たち保守層は敏感でなくてはなりません。そして、安倍氏が体現された先見の明と愛国心に習い、日本の伝統と独自性を守り抜く覚悟が求められているのです。

もとより、国によって事情は異なり、日本の対応が我が国の最善の利益に資するべきことは言うまでもありません。しかし、外国人労働者受け入れをめぐるグローバリストの圧力に惑わされず、主権国家としての矜持と自信を持ち続けることが何より重要です。

トランプ前政権の移民政策は、望ましい方向性を示していました。違法移民流入の厳格な規制、合法移民の優先、アメリカ人労働者の保護など、その政策の本質は「アメリカ第一主義」に他なりません。こうした姿勢は、主権国家として当然の権益重視の立場から生まれたものです。そして、こうした施策は他国にも大きな影響を及ぼしました。


仮にこのトランプ政権の路線が継続されていれば、グローバリストの力は後退し、日本をはじめとする各国が自主的に移民政策を決定できる環境が整ったことでしょう。

しかし、それでもなお、バイデン政権の影響力が及ぼそうとしている保守勢力への圧力に対し、私たちは冷静に対処し、日本の独自性を貫く必要があります。強靭なリーダーシップと国民の覚悟があれば、この試練は乗り越えられるはずです。

ここで、バイデン政権の具体的な移民政策の失敗を、数値エビデンスを交えつつ改めて確認しておきましょう。

同政権下の2022会計年度には、過去最多の210万人を超す不法移民がメキシコ国境で拘束されています。つまり日々5,800人以上が違法に国境を越えていたことになります。この記録的な流入に対し、バイデン政権は国境警備隊の人員と資源を大幅に追加投入せざるを得ませんでした。

一方で、緊急避難的な送還措置「Title 42」を濫用した結果、同年度の正規の庇護認定審査は大幅に制限を余儀なくされました。その結果、庇護認定率は約36%に低迷し、過去10年で最低の水準となってしまいました。

さらに矛盾したことに、不法移民に対する一時的な許認可措置の検討を重ねる一方で、2022年3月には新規制により、合法的な移民が親族を呼び寄せる際の所得要件を大幅に引き上げるといった規制強化の動きもありました。

バイデン政権は国境への兵力配備も大規模に行いましたが、不法移民に対する人道的な処遇を期待する声はあまり高くありませんでした。保護施設の過密状態が深刻化するなど、受け入れ体制の不備も露呈しています。

加えて、出身国によって取り扱いを大きく変えるなど、移民に対する差別的な面も否めません。ベネズエラ、キューバ、ニカラグア、ハイチ出身者に対しては即時強制送還の可能性が高い一方、ウクライナ人に対しては受け入れを優遇するなど、一貫性を欠いた運用となっていました。

このように、国境での取り締まり強化と庇護審査の制限、一時的な不法移民の許認可検討と合法移民規制の両輪で、バイデン政権の移民政策は著しく矛盾したものとなっていました。流入抑制と受け入れ促進の相反する施策が同時に打ち出され、一貫性を欠いた混沌とした状況に陥っていたのです。

こうした一連の矛盾した対応が、バイデン政権の移民政策の大きな失敗であり、その無原則さが大きな批判を招いているのが実情です。

米ニューヨークの移民

私たちは今こそ、故・安倍晋三氏の遺徳に学び、日本の主権と伝統文化を守り抜く決意を新たにする時です。無秩序な移民の受け入れは、国家へのまっとうな危険であり、バイデン政権の矛盾した政策はその危険をさらに増幅させています。

しかし、私たち日本人には、世界に冠たる独自の文化的アイデンティティーがあります。先人から脈々と受け継がれてきた誇り高き伝統は、いかなる外的圧力があろうとも決して踏みにじられてはなりません。

この試練の時こそ、保守主義者の責務である「国家守護」の精神を発揮すべきです。日本の独自性を貫き、グローバリストの蝕む勢力に屈することなく、主権国家にふさわしい矜持ある対応をとり続けなければなりません。

そしてひとたび、トランプ前大統領が再選されグローバリストの勢力が後退する事態になれば、日本の岸田政権もより主権的な移民政策への転換を図れるかもしれません。強硬な違法移民規制と労働者保護を旨とするトランプ政権の方針が継続され、開国や無秩序な外国人流入の圧力が和らぐことから、日本がより自主的に移民管理できる状況が生まれる可能性があるのです。

保守層同士が力を合わせ、愛国心を共有することで、この逆境を乗り越えることができるはずです。私たちの手にかかっているのは、祖国の未来そのものなのですから。

私たち保守主義者こそ、日本の伝統と文化の守り手なのです。力強く前へ邁進し、安倍晋三氏が遺された偉大なる遺産を引き継ぎ、守り抜く覚悟を持ち続けるべきです。

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2024年5月2日木曜日

米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も―【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開

米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も

まとめ
  • 計画にはイスラエルをハマスとの戦争終結へと促す内容も
  • 合意に達すれば、サウジによる米国の最新兵器入手に道開く可能性

サウジのムハンマド皇太子とバイデン米大統領(2022年7月)

 米国とサウジアラビアは、サウジに対する安全保障提供と引き換えに、サウジがイスラエルとの外交関係を樹立することを内容とする歴史的な協定で、合意に近づいているという。

 この協定が実現すれば、中東情勢に大きな影響を与えることが予想される。具体的には、イスラエルとサウジの安全保障が強化され、米国の中東における影響力が高まる一方で、イランや中国の影響力が低下する可能性がある。

 サウジ側は、この協定を通じて、これまでアクセスできなかった米国の最新兵器の購入が可能になると見られている。その一方で、ムハンマド皇太子は、米国の大規模投資を受け入れる代わりに、国内ネットワークから中国技術を排除し、民生用核プログラムでも米国の支援を仰がなければならない。

 米国は、この協定をイスラエルのネタニヤフ首相に提案する見込みだ。ネタニヤフ首相には、サウジとの正式な外交関係樹立と、この協定への参加か取り残されるかを選択を迫られることになる。ただし、ネタニヤフ首相が協定に参加する重大な条件は、ガザの紛争終結とパレスチナ国家樹立に向けた道筋への合意となるだろう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開

まとめ
  • ハマスは、イスラエルとの平和を拒否し、サウジアラビアはファタハを支持する傾向があるため、米国とサウジアラビア間の平和協定に反対している。
  • トランプ政権下での中東政策が平和プロセスの基礎となっている。
  • 米国とサウジアラビアの協定が中東の安定に寄与する可能性がある。
  • この協定により、イランの影響力が減少することが期待される。
  • 中東の将来が明るくなる可能性がある。

ハマス戦闘員

私は、米・サウジアラビアの合意が近づきつつあることを察知したハマス側が、これを妨害しようとして紛争を起こしたのではないかと考えています。その根拠としては、以下のようなことが考えられます。
  • ハマスはイスラム主義過激組織であり、イスラエルの存在自体を認めていません。したがって、イスラエルとの和平合意を受け入れることは組織理念に反します。
  • ハマスはガザ地区を実効支配しており、和平合意が実現すればパレスチナ自治政府の権威が高まり、ハマスの勢力が相対的に失われるおそれがあります。
  • サウジはスンニ派の立場からハマスよりもファタハ(1957年にアラファトが中心となって組織したパレスチナ・ゲリラの武装組織)を支持する傾向にあり、ハマスとの対立構図があります。ハマスはサウジ主導の和平案には強く反発します。
  • サウジがイスラエルと国交を持つことは、イスラム教徒の聖地であるエルサレムの扱いにも影響を及ぼし、ハマスはこれを受け入れがたいと考えています。
  • イランは長年ハマスを支援してきましたが、最近はその軍事支援を控えめにしている模様です。それでもハマスはイランの勢力圏にあり、米主導の和平案には反対の立場です。

このように、ハマスには米・サウジ主導の和平合意に強く反発する理由が複数あり、そうした中で合意が現実味を帯びてきたため、紛争を起こすことでハマス側との交渉の可能性を排除させないようにしたものと考えられます。

このように、交渉の突然の再開や加速、サウジの対米協調路線への転換など、複数の事実が、ハマスの思惑とは反対に、むしろ和平交渉を前進させる契機となったようです。

現在の米国とサウジアラビアによる中東和平の動きは、トランプ前政権の取り組みが大きな礎となっていると考えられます。

具体的には以下の点が、トランプ政権の功績として挙げられるでしょう。

1. エルサレムをイスラエルの首都として認定:この決断は地域の現実を直視したもので、イスラエルとの強力な連携を世界に示しました。

2. イラン核合意への挑戦:オバマ政権による不適切な合意を見直し、イランへの厳格な制裁を実施しました。これにより、イランのテロ資金供給と地域の不安定化の能力が弱まりました。

3. ISISの壊滅:米国とそのパートナーの強力なリーダーシップにより、イラクとシリアでISISを大きく後退させ、いわゆるカリフ国家を崩壊させました。

4. アブラハム協定:イスラエルとアラブ首長国連邦・バーレーン間での国交正常化を仲介し、地域の平和と安定を促進する歴史的な一歩となりました。

5. エネルギー支配の実現:米国のエネルギー潜在力を最大限に活用し、エネルギー自立と純エネルギー輸出国となることで外交の地位を強化しました。

6. パレスチナ自治政府へのアプローチ:その腐敗と誠実な交渉の拒否を指摘し、資金提供の削減と外交使節団の閉鎖によって新たなスタンスを示しました。

7. サウジアラビアとの関係強化:地域の安定に対して極めて重要な役割を担うサウジアラビアとの関係を深め、イランの影響力に対抗しました。

これらは、トランプ政権の外交政策で達成された数多くの成功例の一部に過ぎません。米国が世界で大きなリーダーシップを発揮した事例です。

こうした施策が、現在の米サウジによる和平プロセスの地ならしとなり、中東有事における同盟国の肩入れを可能にしている側面は否定できません。

トランプ政権下でのアメリカとサウジアラビアの関係強化は、トランプ大統領の卓越した外交戦略と「アメリカ第一主義」への強固なコミットメントの賜物です。トランプ大統領はサウジアラビアとの戦略的同盟の重要性を理解し、交渉術を駆使して両国間の関係を強化し、繁栄への基盤を築きました。

この同盟の重点は、サウジアラビアへの武器売却や危険なイラン核合意への反対など、地域の安定と相互の利益追求にありました。数々の批判にも関わらず、現在の米国とサウジアラビアの進展はトランプ大統領の政策による直接的な成果であり、彼のビジョンとリーダーシップに感謝すべきです。


もし米国とサウジアラビアが主導する中東和平プロセスが実現すれば、中東地域に大きな変化が訪れると考えられます。

米国とエジプトの合意が中東地域の情勢を大きく変えるかもしれません。この合意は、米国のリーダーシップを示すもので、特にサウジアラビアとイスラエルの和解への影響が大きいでしょう。

これらの国が関係を正常化することで、地域の安定をもたらし、イランの脅威に立ち向かう強力な同盟を築くことができます。サウジアラビアがイスラエルを承認することは、長い間中東を苦しめてきた反ユダヤ主義に対する明確な拒絶であり、平和と希望の新たな扉を開く勇気ある一歩です。

米国からの全面的な支援と安全保障により、この新しい始まりを支えるべきです。これには、最新鋭の兵器システムの提供も含まれ、潜在的な脅威からサウジアラビアを守ります。

イランにとって、この合意はその地域での影響力を大きく弱めることになるでしょう。イランが長年にわたって近隣国に干渉し、不安定を招いてきたことに対し、サウジアラビアとイスラエルの強固な同盟が有効な歯止めとなります。

また、サウジアラビアが中国との距離を置くことで、自由な世界の側に立ち、中国共産党の抑圧的な手法に対してはっきりと反対の意志を示すことにもなります。

ネタニアフ イスラエル首相

イスラエルのネタニヤフ首相にとって、サウジアラビアとの国交正常化は歴史的なチャンスであり、より安定し繁栄する中東でイスラエルの地位を固める大きな一歩となります。パレスチナ問題に対しても、この合意はガザ紛争の終結と安全なパレスチナ国家の樹立を目指すもので、2国家解決を通じて永続的な平和への道を描きます。

この合意が実現すれば、中東は大きく変わり、より強固な団結と調和をもたらすことでしょう。イランと中国の影響力が弱まり、地域全体に明るい未来が開けることになります。これは大きな一歩であり、長い目で見れば平和と安定への大きな貢献となるでしょう。

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2024年5月1日水曜日

【中国へのけん制強まるか】豪・英・米の安全保障協、AUKUSへの日本参加歓迎の意味―【私の論評】AUKUSのもう一つの側面 - SMR(小型原子炉)でエネルギー・ドミナンス強化に挑む中国への対抗策

【中国へのけん制強まるか】豪・英・米の安全保障協、AUKUSへの日本参加歓迎の意味

まとめ
  • AUKUS(オーカス)の勢いと支持者の増加
  • AUKUSは地域の緊張を高める原因ではなく、中国の軍事力増強に対する抑止力の回復の一環
  • 日本とカナダのAUKUSへの関与は積極的に評価される
  • 岸田首相の米国訪問の成果と日米同盟の進化
  • インド太平洋地域の結束の強化と日本の役割

 2021年に発足した米英豪の安全保障枠組みAUKUS(オーカス)が、当初の批判を乗り越え、勢いを増し支持者も広がっている。

 AUKUSの中心的な柱は、豪州への米国からの原子力潜水艦の技術移転であるが、最近では先進技術協力が第二の柱として浮上し、日本やカナダなども参加を検討している。今年4月には米英豪の国防相が正式に日本の参加を呼びかけた。

 AUKUSは、中国の軍事力増強に対する地域の抑止力回復の一環と位置付けられている。中国側は地域緊張を高めるとの批判を展開しているが、むしろ中国の一方的な軍事力増強こそが緊張の元凶であり、AUKUSはそれへの均衡を図る正当な努力だと本記事は反論する。

 また、中国からはアングロスフィア(英米圏)の勢力維持を企図していると非難されているが、日本の参加でそうした批判は的外れになった。AUKUSを結びつけているのは、自由民主主義国家同士が地域の安全保障を守ろうとする決意なのだ。

 さらに、岸田首相の最近の訪米で日米首脳は日本のAUKUS協力を歓迎する共同声明を発出した。訪米を通じ、日米同盟がより成熟し、インド太平洋における同盟国ネットワークが進化を遂げつつあることが伺えた。今後、日本もAUKUSへの積極的な関与が求められると本記事は述べている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】AUKUSのもう一つの側面 - SMR(小型原子炉)でエネルギー・ドミナンス強化に挑む中国への対抗策

まとめ
  • 安倍晋三氏とAUKUSには直接の関係はないものの、安倍政権の「自由で開かれたインド太平洋」構想とAUKUSの考え方は軌を一にするものである。
  • AUKUS自体は軍事同盟であるが、SMR(小型モジュール原子炉)を通じて、エネルギー分野での中国の影響力拡大や「エネルギー・ドミナンス」の阻止も狙いの一つである。
  • 原子力潜水艦の原子炉技術は、SMRの先駆けであり、SMRはこうした軍事技術を民生用に応用しようとするものである。
  • 中国は大型のSMRプラントを建設中だが、SMRの本来の特徴を十分生かせていない
  • 日本企業には様々な分野での小型化技術が蓄積されており、SMRの実用化に貢献し、中国に対抗できる高い技術力を有しており、そこに日本がAUKUと協力する重要な意味がある。

上の記事には、いくかの重要な観点が抜けています。この記事ではそれを補足します。

まずは、安倍晋三氏とAUKUS(オーストラリア、英国、米国の新たな安全保障協力体制)との直接的な関係は確認されていません。ただし、安倍氏は在任中、日米同盟の深化や印太地域における自由で開かれたインド太平洋構想の推進に尽力しました。AUKUS構想は中国の影響力拡大への対抗として位置づけられており、安倍氏が目指した地域秩序構築の考え方と軌を一にするものでした。

安倍氏の遺志を継ぐ岸田文雄政権は、日本がAUKUSに参加することはないものの、AUKUS諸国との連携を深める方針です。日本は従来から米国主導の集団的自衛権の行使に慎重でしたが、中国・北朝鮮の 軍事活動に対する危機感から、準同盟国としてAUKUSと協調する事態も想定されています。

ですので、安倍氏とAUKUSには直接の関係はなかったといえますが、地政学的にAUKUSの考え方は安倍政権の路線と軌を一にするものであり、その意味で両者は無関係ではありません。

次に、AUKUSは原子力潜水艦を介した軍事同盟という意味合いだけではなく、エネルギー・ドミナンスの意味合いも含んでいるということを認識すべきです。

原子力潜水艦に搭載される原子炉は、SMR(小型モジュール原子炉)の原型ないし先駆けともいえる存在です。

両者には以下の共通点があります。
  • コンパクトな設計 原子力潜水艦の原子炉は、狭小なスペースに収まるよう小型化されています。SMRも大型の商用原発に比べてコンパクトであることが特徴です。
  • 工場製造方式 潜水艦用原子炉は工場で製造され、艦体に搭載されます。SMRも工場で製造したモジュール式の原子炉を想定しています。
  • 長期運転 潜水艦原子炉は長期間の連続運転を前提に設計されており、SMRも長期無停止運転が期待されています。
  • 高い安全性 軍事面での運用を考慮し、潜水艦原子炉には高い安全性と堅牢性が求められます。SMRにも同様の安全設計が求められています。

このように、コンパクト性、工場製造、長期運転、高安全性などの点で、潜水艦用の原子炉技術はSMRの先駆けとなっていると言えます。SMRはこうした軍事利用を背景に生まれた技術を、民生用に応用しようとするものだと位置付けられます。

SMRは中国やロシアも開発しており、世界への普及も目指しているようです。AUKUSが中国による世界へのSMR普及によるエネルギー・ドミナンス強化の対抗策の一端を担う可能性は以下の点から指摘できます。

中国は遼寧省で「華龍一号(ACP100)」と呼ばれる比較的大型のSMR(小型モジュール原子炉)プラントの建設を進めています。ACP100は出力125MWの原子炉1基を有し、SMRの一般的定義の300MW以下に収まっているものの、SMRの本来の利点である小型コンパクト性においては大型原発に近い存在です。

中国はこのSMRを国内の遠隔地などで活用する計画ですが、安全性への懸念から一部で批判され、工事も遅れているとの指摘があります。全体として中国はSMR実用化を主導しようとしているようですが、必ずしもSMRの特徴を十分生かしているわけではないようです。

これに先立ち、中国は南シナ海への洋上SMRをすすめていると発表したことがありますが、これは未だに実現していません。

ロシアも、SMRの開発に成功していますが、2022年のウクライナ侵攻により、特に欧米諸国でのロシア離れは必至であり、今後、SMR含めた原子力の国外輸出も足踏みすることが予想されます。

海上原子力発電所として運用された「アカデミック・ロモノソフ」

AUKUSを構成する米国、英国もSMR開発を重視しており、中国に対抗する技術協力が深まる可能性があります。そこに、大型プラントや器材危惧小型化などでは実績があり、工作技術にすぐれた日本が加わることに大きな意味があります。

日本企業には大型プラントや機器の小型化で高い技術力と実績があります。

例えば、原子力分野では、日立製作所が小型の加圧水型原子炉「BWRX-300」を開発しています。これは従来の大型BWRを小型化したもので、出力は約30万kWと中小規模のSMRに相当します。

また、三菱重工はイギリス企業と共同で、出力16万kWの小型モジュール型原子炉を開発中です。

一般産業機器でも、日本メーカーは精密機器や小型ロボット、精密な工作機械など、小型化と高性能化を両立する技術に長けています。

さらに、造船業界では、大型船舶に搭載される複雑な機器のコンパクト化が常に進められてきました。

こうした幅広い分野における小型化技術の蓄積が、将来的なSMRの本格的な実用化に生かされる可能性があります。

一方で、SMRの普及にあたっては、小型化に伴うコストダウンと安全性の確保が大きな課題となります。ここが日本の強みが発揮される分野です。

SMRの概念モデル 

SMRは遠隔地や外国でも活用が想定されており、AUKUS諸国がSMRを地政学的に重要な拠点に普及させ、中国の影響力拡大を抑える「対抗策」となり得ます。特に、エネルギー・ドミナンスによる中国の覇権を防ぐという意味で重要です。

つまり、AUKUS自体は軍事同盟ですが、中国のSMR開発への対抗策を通じて、エネルギー・ドミナンスで中国に対抗して、世界のエネルギー安全保障体制を確保しようとする目的もあることを認識すべきです。

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2024年4月29日月曜日

時代遅れの偵察衛星システムで日本は隣国からのミサイル攻撃を防げるのか?―【私の論評】シギント(信号諜報)の重要性と日米台の宇宙からの監視能力 - 中国の脅威に備えるべき課題

時代遅れの偵察衛星システムで日本は隣国からのミサイル攻撃を防げるのか?

江崎 道朗 茂田 忠良

書籍『シギント 最強のインテリジェンス』より

まとめ
  • 日本が「反撃能力」の保有を決定したが、具体的にどの武器をどう使うかが曖昧
  • トマホーク巡航ミサイル購入、国産ミサイル射程延伸、超音速ミサイル開発などが計画されるが、撃つ対象が不明
  • 静止衛星や無人機の導入は示されたものの、ミサイル監視・追跡能力で米中に大きく遅れ
  • 米国は従来の警戒衛星から多数の小型低軌道衛星によるミサイル追跡システムへ移行中
  • 中国も大規模な偵察衛星群や通信衛星網の整備を進め、日本の体制は大きく後れを取る恐れ

 2022年12月、日本政府は防衛力の大幅な強化を盛り込んだ新たな「安全保障の基本方針」を示した。中でも大きな転換となったのが、これまでの専守防衛の考え方から、一定の「反撃能力」の保有を容認したことである。

 近年、中国、ロシア、北朝鮮などが次々とミサイル戦力を増強し、日本列島が射程に入る事態となった。これに対し日本はミサイル防衛システムを整備してきたが、相手側の能力の向上に追いつかなくなってきた。そこで、ミサイル防衛に加え、一定の「反撃」によって相手の武力攻撃を抑止するため、長距離の精密打撃能力やミサイル能力の強化を打ち出した。

 具体的には、アメリカ製トマホーク巡航ミサイルの購入、国産の地対艦ミサイルの射程延伸、さらには超音速ミサイル開発などが示された。しかし、こうした武器をどのように運用し、いったいどこを攻撃目標とするのかについては不明確なままとなっている。

 一方で、静止衛星の打ち上げや無人偵察機の運用計画が記されているものの、ミサイル監視・追跡能力の面では、米中に大きく遅れをとっている恐れがある。米国は従来の早期警戒衛星から、多数の小型低軌道衛星によるミサイル追跡システムへと移行を進めており、中国も大規模な偵察衛星群や通信衛星網の整備を計画している。

 このように日本の防衛態勢は大きく転換したものの、具体的な武器の性能や運用、それを支えるインテリジェンス能力の面で、不明確な点が多く残されている。今後は米国との緊密な連携を図りつつ、より実効的な計画の策定が求められよう。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたいかたは元記事をご覧になってください。

【私の論評】シギント(信号諜報)の重要性と日米台の宇宙からの監視能力 - 中国の脅威に備えるべき課題

まとめ

  • シギント(信号情報)は諜報活動の中で最も重要な手段の一つである。
  • 潜水艦などの探知・監視には、ソナー信号やレーダー波などのシギント活動が不可欠。
  • 日本は海洋におけるシギント能力は高いが、宇宙からのミサイル監視・追跡能力は不足している。
  • 中国はミサイル監視・追跡能力の向上に注力しているが、その実態は不透明である。
  • 日米台はミサイル監視・追跡における中国の動向を注視しつつ、宇宙におけるシギント能力の強化が課題。
インテリジェンス(諜報)活動には大まかに分類して、シギント、ヒューミント、オシントがあることはこのブログでも解説しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
「研究所流出説」を甦らせた素人ネット調査団、新型コロナの始祖ウイルスを「発見」!―【私の論評】今やいかなる組織も、何らかの非合法な活動や隠蔽をすれば、オシントで合法的に素人に暴かれる(゚д゚)!


ただこの記事をはじめとして、このブログに掲載してきた諜報活動は、どちらかというシギントは軽視しがちでした。どちらかというと、オシント(公開資料にもとづく諜報活動)に重きをおいたものでした。それは、インターネットなどの発達により、いまやオシントは諜報・防諜活動に従事していない、素人でも簡単にできるようになったきたということがあるからです。

それに、諜報活動というとテレビや映画ではヒューミント(人による諜報活動)が目立ちますが、諜報活動の大部分は、現実には地味な公開資料の分析によるオシントが大部分を占めるからです。

しかしそうしたこととは別に、シギントは昔から今にいたるまで、最強の諜報活動といえます。ただし、シギントは素人が個人で行えるものではなく、国家による関与が不可欠ともいえます。そのため、一般の人にはあまり知られていないというのが実情です。

まずは、シギントについて詳しく説明します。

シギント(SIGINT)とは、Signal Intelligenceの略で、電波信号から情報を収集する諜報活動のことを指します。主な手法は以下の通りです。

1.コムイント(COMINT)

相手の通信内容を盗聴・解読することで情報を収集するもの。有線通信や無線通信の電波を捕捉し、復号化して内容を解析します。

2.エリントインテリジェンス(ELINT)

電子機器が放射する電磁波のパラメータ(周波数、強度、変調様式など)から、その機器の性能や機能、運用態様などを解析し情報を収集するもの。レーダー探知機やジャミング装置の性能評価などに用いられます。

3.フィジントインテリジェンス(FISINT)

 原子力施設や化学施設から放出される特定の粒子線や化学物質を検知して、その施設の活動状況を監視するためのインテリジェンス活動。

シギントには、地上施設に加え、艦船や航空機、さらには静止軌道や低軌道の偵察衛星からの電波収集能力が不可欠です。収集した情報は、通信解読や電子機器の性能分析、施設の活動状況把握などに活用されます。

特に今日では、ミサイル発射の電磁波パラメータからその性能を推定したり、指揮統制通信の盗聴で発射の有無を察知したりと、シギントは世界各国の軍事行動の把握に欠かせない重要な手段となっています。

このブログには良く掲載している、対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Warefare)における潜水艦探知能力もシギントの一環と言えます。

潜水艦は水中を航行するため、視覚的な探知が困難です。そのため、潜水艦から発せられる種々の「信号」を捕捉・解析してその存在や活動を探知することがASWの重要な手段となります。

南シナ海でASWの訓練をする海自

具体的には、以下のような手法がシギントとして活用されています。 

  • ソナー(SONAR)信号の捕捉・解析 潜水艦が運用するソナーの能動的な送波や受波音を監視し、潜航姿勢を推定する。
  • レーダー信号の捕捉(RADINT) 潜水艦のレーダーの電波を捕捉し、浮上時の活動を探知する。
  • 電磁信号の捕捉(COMINT) 潜水艦の通信電文の盗聴や、プロペラ回転に伴う極超短波の捕捉など。
  • 放射線/化学物質の検知(FISINT) 原子力潜水艦から漏れる放射線や化学物質を検知する。
  • 測量情報収集 潜水艦に搭載された測量装置を使って、水深や海底地形、海流などのデータを収集できます。この情報は潜水艦の運用や海上交通路の把握に役立ちます。
  • 艦船/施設監視 潜水艦の望遠鏡や撮影装置を使って、対岸の軍事施設や艦船の動向を監視できます。水上からは監視しにくい箇所の情報収集が可能です。

こうしたシギント活動によって潜水艦の存在や行動を察知し、対潜作戦に活用することができます。したがって、対潜哨戒はシギントの重要な一部と言えるでしょう。

これ以外にも、潜水艦には特殊諜報活動が 上陸したスパイの潜入/離脱、無人機の投入、海底設置型センサーの布設/回収など、秘匿性の高い特殊な諜報活動にも使われます。

このブログにも何度か掲載してきたように、日本の潜水艦はステルス性(静寂性)が高いことは、さらには日本の対潜哨戒能力が高いため、潜水艦や対潜初回活動等による、海洋におけるシギント能力はかなり高いといえます。

これにより、日本は中国に対して海戦面ではかなり有利であり、仮に日中戦争になったとしても、中国が日本に大部隊を送り込むことは困難であり、仮にそうすればすぐに発見され、撃沈されることになります。

そのため、日本は独立を維持できるでしょうが、このブログでも何度かのべてきたように、日本国内が中国のミサイルによって大きく破壊される可能性は高いです。

それは、台湾も同じことです。このブログでのべてきたように、第二次世界大戦中に米軍が、台湾上陸作戦をしなかったことでも明らかなように、台湾の急峻な地形、平坦な地域であっても、河川や湾が複雑に入り組んだ地形てあり、上陸地点が限られてしまうという事実は、天然の要塞と言っても良い状況であり、これを侵攻するのは難しいです。

しかし、台湾も対中戦争になれば、国土の大部分を破壊されることを免れることは難しいでしょう。

その背景には、上の記事にもあるように、日台はミサイル監視・追跡能力の面では、米中に大きく遅れをとっている恐れがあるからです。

ミサイルの監視を行う米国の衛星の想像図

先に述べたように、日本の海洋におけるシギント能力はかなり高く、台湾も潜水艦を時前で建造するなど、海洋でのシギント能力をたかめつつありますが、宇宙におけるシギント能力は高いとはいえません。これを高めていくべきです。

ただし、未だ中国の宇宙でのシギント能力が高いという確たる事実は発見されていません。中国の軍事技術の主な入手先は主にロシアですが、そのロシアのウクライナでの苦戦ぶりをみれば、ロシアはミサイル監視・追跡に関する基盤的な能力は持っているものの、作戦で要求される高度な能力までは未だ備えていないように見受けられます。宇宙でのシギント能力は、さほど高いとはいえないようです。

ただし、中国は近年、ミサイル監視・追跡能力の強化に注力しています。

その取り組みとしては、偵察衛星の大量打ち上げによる宇宙資産の増強、新型の大型レーダーシステムの運用開始、海上・航空機からの監視能力の拡充などが挙げられます。

このように監視・追跡体制の整備が進められている一方で、その具体的な性能や実効性については不透明な部分が多く残されています。中国が米国を上回る"かなり高い"ミサイル監視・追跡能力を備えているかどうかを確たる根拠に基づいて評価することは現時点では困難です。

監視・追跡分野における能力向上の兆しはみられるものの、その程度を断じるには情報が不足しており、引き続き動向を注視していく必要があるでしょう。

日米台としては、中国の動向を注視しつつも、宇宙でのシギント能力を高めていくことが大きな課題といえます。

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2024年4月27日土曜日

米、反イスラエル学生デモ拡大 バイデン氏、再選へ影響懸念―【私の論評】日本への警鐘:アイデンティティ政治とビバリーヒルズ左翼の台頭に見る危機

 米、反イスラエル学生デモ拡大 バイデン氏、再選へ影響懸念

まとめ

  • 全米の大学で、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ攻撃を非難するデモが拡大している。
  • デモはニューヨークのコロンビア大から始まり、ワシントンにも波及しており、バイデン大統領の支持基盤である若者の離反が懸念される。
  • コロンビア大では、学生らが大学にイスラエル関連企業とのつながりを断つことなどを要求し、抗議活動が行われている。
  • 全米の大学では、抗議活動に参加した数百人が拘束され、一部で授業中止や卒業式の主要式典の中止などの影響が出ている。
  • バイデン大統領は、反ユダヤ主義的な活動を非難しつつも、イスラエルへの軍事支援とガザの人道状況改善の両立に苦慮している。

イェール大学学生の親パレスチナデモ

 全米の大学で、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ攻撃を非難するデモが広がっている。これは、ニューヨークの名門コロンビア大学から火が付き、首都ワシントンにも波及している。このようなデモの拡大は、バイデン大統領にとって深刻な問題となっている。なぜなら、これらのデモは民主党支持の傾向が強い若者の離反を意味し、バイデン大統領の再選に影響を与えかねないからだ。特に、コロンビア大学では抗議活動が活発化し、学生らは大学に対しイスラエル関連企業とのつながりを断つことなどを要求している。

 全米の大学では、抗議に参加した数百人が拘束されるなどの影響が出ている。例えば、南カリフォルニア大学(ロサンゼルス市)では保安上の理由から卒業式の主要式典を中止し、エマーソン大学(ボストン市)では授業を取りやめるなどの措置が取られている。しかしながら、一部の抗議活動には反ユダヤ主義的な要素も混じっており、大学側は表現の自由と差別助長の阻止との間で難しい判断を迫られている。

 さらに、抗議活動の影響は学内にとどまらず、ホワイトハウスから数ブロック西のジョージワシントン大学で、イスラエルへの対外支援法を成立させた政権に抗議する声も上がっている。バイデン大統領は、これらのデモについて「反ユダヤ主義の抗議活動を非難する。同時に、パレスチナ人の状況を理解しない人々も非難する」との立場を示しているが、イスラエルへの軍事支援とガザの人道状況改善の両立は容易ではなく、混乱収束に向けた妙案は見えていない。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本への警鐘:アイデンティティ政治とビバリーヒルズ左翼の台頭に見る危機

まとめ
  • 米国での出来事は、日本が陥りかねない危険信号が現れており、これに目を向ける必要がある。
  • かつての労働者階級の代表とされた「左翼」がエリート層の価値観に同化し、"ビバリーヒルズ左翼"と呼ばれる存在になりその支持基盤から離れている。
  • アイデンティティ政治といわれる、個々のアイデンティティに基づく政治的主張が対立や分断を助長し、偏見や敵対心を増大させる恐れがある。
  • 米国では難関とされる、カリフォルニア大学アーバイン校やコロンビア大学での抗議行動や反ユダヤ主義的な行動が報告されている。
  • 日本でも米国と同様の兆候が見られ、伝統的な価値観や勤労精神を守り、エリート主義に囚われた考え方を排除する必要がある。
米国で起こっている出来事に目を向ける必要があります。なぜなら、そこには日本が陥りかねない危険信号が現れているからです。

日本が陥りかねない危険信号 AI生成画

米国では、かつて労働者階級の代表として位置づけられていた「左翼」と呼ばれる勢力が、今やその本来の支持基盤から離れ、いわゆるエリート層の価値観に同化しつつあります。

これを私は「ビバリーヒルズ左翼」と呼んでいます。これはもちろん、日本でも人気のあった米国のドラマ「ビバリーヒルズ高校白書/ビバリーヒルズ青春白書」を念頭においたものです。

この「ビバリーヒルズ左翼」は、裕福な環境で育った人々の集まりであり、勤労者の現実的な課題から目を背け、知的エリートの関心事にのみ熱心です。以前は労働組合の集会に参加していた彼らが、今やアイビーリーグの大学キャンパスに集まるようになりました。

このグループは、安全保障、国民の食の確保や雇用創出などの現実的な問題よりも、リベラルな価値観の推進やアイデンティティ政治に熱心です。彼らが関心を寄せるのは、移民問題やLGBT、マイノリティの権利など、アイデンティティに関する課題が多いです。

ビバリーヒルズ青春白書

最近の一部の名門大学での反イスラエルデモの過激化は、まさにこの「ビバリーヒルズ左翼」の影響が学生運動に及んでいる例です。デモは時に反ユダヤ的な言動に走り、大学側を危機に追いやっています。特に優秀な学生ほど、反ユダヤ主義的なプロパガンダに洗脳されやすい傾向にあると指摘されています。

米国で有名校とされる、カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)では、イスラエル関連のイベントに対する抗議行動や反ユダヤ主義的な行動が報告されています。

同じく有名校とされるコロンビア大学(Columbia University)でも、イスラエル関連の講演会やイベントに対する抗議行動や妨害が発生し、反ユダヤ主義的な言動が報告されています。

反イスラエルの姿勢が問題なのは、それが極端な反ユダヤ主義につながる危険性があるからです。イスラエルに対する批判が一線を越えれば、ユダヤ人への差別的な言動や憎悪犯罪に直結します。これは絶対に許されません。

このような状況に対して、大学側は厳しい対応を迫られています。大学は多様な価値観を受け入れる場であると同時に、学生に安全な環境を提供する責任があります。反ユダヤ的な言動は構内の治安を脅かし、大学の中立性や知的開放性を損なうおそれがあります。そのため、大学はデモの過激化を放置することはできません。

アイデンティティ政治への過度の焦点は、米国民の分断と対立を助長します。"ビバリーヒルズ左翼"は、米国民を"違い"で定義し、"被害者"意識を植え付けようとしています。

アイデンティティ政治とは、個々の人々や集団が自らのアイデンティティ(身元や所属、属性)に基づいて政治的主張や行動を展開することを指します。これは、性別、人種、民族、宗教、性的指向、身体的能力など、さまざまな身元や属性に関連しています。

アイデンティティ政治の負の側面は、しばしば社会の対立や分断を深め、個々のアイデンティティに基づいた偏見や敵対心を助長することです。

例えば、アイデンティティ政治が進むと、特定のアイデンティティグループが自らの権利や利益を強調し、他のグループとの摩擦が生じます。これにより、社会全体が対立状態に陥り、対話や協力が阻害される可能性があります。

また、アイデンティティ政治はしばしば単純化や過剰な一般化を招きます。特定のアイデンティティに基づいて個人やグループをラベリングし、その属性に応じて全ての行動や意見を決定付けようとする傾向があります。これにより、個々の多様性や複雑さが無視され、個人の自由や多様性が制限されるおそれがあります。

さらに、アイデンティティ政治はしばしば感情的な反応や怒りを引き起こし、合理的な討論や協力を難しくします。このような感情的な偏見や敵対心は、社会の結束や共存を脅かす要因となります。

アイデンティティ政治が過度に強調されると、社会は分断され、対立が激化する可能性があります。その結果、個々のアイデンティティが優先されることで、全体の共通の利益や社会の結束が犠牲にされるおそれがあります。

ビバリーヒルズ左翼はアイデンティ政治等のリベラルな理想論に惑わされ、現実から遠ざかった考えに走っています。多くの国民が直面する生活の困難や雇用の不安を見過ごしているのが現状です。"進歩"を掲げながらも、彼らの本当の狙いは、エリート主義的な価値観を押し付けることにあるかもしれません。

滑稽なアイデンティティ政治  AI生成画

残念ながら、日本でも同様の兆候が見られます。いわゆる「リベラル」と呼ばれる一部の層が、多くの国民の実態から遊離した理想論や表面的な正義を追求しています。例えば、最近の「LGBT理解増進法」成立をめぐっては、自民党内の保守派からも国民の生活への影響を十分に考慮せずに急いで成立させたとの批判がありました。

安倍政権は例外的であり、1990年代以降の自民党はリベラル政党とみなすことができます。自民党は結党時の保守的な価値観に立ち返り、国民の生活を最優先に考える政党に再びなるべきです。

このままでは、米国と同じ道を歩むことになりかねません。日本の伝統的な価値観、すなわち勤労を尊重し、個人の自立を重視し、国民全員が平等に自由に恵まれる社会を大切にしなければなりません。

私たち日本人は、祖先から受け継いできた誇り高い文化や価値観を決して忘れてはいけません。自由という尊い価値は、努力と責任を尊重することなくしては守られません。これを守り、次世代に継承することが、私たちの責務です。

エリート主義にとらわれた考え方が、日本に蔓延することを許してはいけません。日本の伝統的な勤労精神と自立の志こそが、国の繁栄につながる道です。

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2024年4月25日木曜日

中国が優勢、南シナ海でのエネルギー争奪戦-米国には不愉快な実態―【私の論評】中国の南シナ海進出 - エネルギー・ドミナンス確立が狙い

中国が優勢、南シナ海でのエネルギー争奪戦-米国には不愉快な実態

まとめ
  • ベトナム、フィリピンは国内の天然資源開発を計画していたが、中国の南シナ海における一方的な領有権主張と強硬な行動により妨げられている。
  • 中国は法的根拠が不明確な「九段線」「十段線」に基づき、南シナ海のほぼ全域に対する領有権を主張し続けている。
  • その結果、ベトナム、フィリピンはエネルギーの輸入に頼らざるを得なくなり、フィリピンではエネルギー危機が深刻化している。
  • 中国船舶がフィリピン領海で放水砲を使うなど強硬な行為に出ており、米国を含む関係国との緊張が高まっている。
  • 米国はフィリピンを全面支持し、合同軍事演習の規模を拡大。中国との緊張緩和は見込めない状況が続いている。

 ベトナムとフィリピンは、それぞれ国内で発見された大規模な天然ガス田やガス・石油埋蔵地から、エネルギー確保を図る計画を立てていた。しかし、南シナ海における中国の一方的な領有権主張と強硬な行動によって、その計画が大きく妨げられている。

 中国は、法的根拠が不明確な「九段線」の地図に基づき、南シナ海のほぼ全域に対する領有権を主張してきた。2016年にはオランダの仲裁裁判所がこの主張を退けたが、習近平国家主席はその判断を無視し、さらに2023年には「十段線」と呼ばれる新たな領有範囲の地図を発表するなど、自国の主張を強めている。

 こうした中国の一方的な行動により、ベトナムのブルーホエール天然ガス田プロジェクトは遅れ、フィリピンでは独占権があるはずのリード堆周辺での資源開発もできずにいる。結果的に両国とも、液化天然ガス(LNG)など燃料の輸入に頼らざるを得なくなっている。

 特にフィリピンではエネルギー供給が危機的状況に陥りつつある。マランパヤガス田の枯渇が予測されており、先月には猛暑で複数の発電所が停止し、ルソン島で一時的な停電にも見舞われた。有力者は、マランパヤが止まれば経済は崩壊すると警告している。

 一方、中国の船舶はフィリピン領海内で相手船舶に放水砲を使うなど強硬な行為に出ており、緊張が高まっている。米国はフィリピンを全面的に支持する構えで、合同軍事演習の規模も年々大きくなっている。バイデン大統領は岸田首相、マルコス大統領と会談し、中国との緊張関係を論じ、相互防衛条約の発動に言及するなど、東南アジア諸国を支える姿勢を鮮明にした。

【私の論評】中国の南シナ海進出 - エネルギー・ドミナンス確立が狙い

まとめ
  • 中国は南シナ海に埋蔵される豊富なエネルギー資源を確保し、同地域でのエネルギー面での優位(ドミナンス)を獲得しようとしている。
  • そのため中国は「九段線」を根拠に、人工島建設や軍事拠点化、周辺国への妨害行為などで実効支配を強めてきた。
  • 中国が、南シナ海支配権の獲得でエネルギー資源の独占と供給ルート確保を狙っているのは明らかである。
  • 中国の南シナ海進出を事実上許した要因は、米国を始めとする関係国の当初の対応の遅れや連携不足にあった。
  • しかしバイデン政権も南シナ海問題への対応が不十分で、中国のエネルギー獲得・ドミナンス確立を容認する形となっている。今こそ、ホワイトハウスが、米国の力と決意を示す強力で断固たるリーダーシップを発揮すべき時なのだ。
中国の南シナ海における一方的な現状変更の試みには、同海域に存在すると見られる豊富なエネルギー資源を確保し、エネルギー面での優位を獲得しようという狙いがあると考えられます。南シナ海には石油・天然ガスが大規模に埋蔵されていると期待されており、中国のエネルギー安全保障上、極めて重要な戦略的価値を持っています。

そのため中国は、「九段線」に基づく広範な領有権主張を根拠に、この海域における実効支配を着実に強めてきました。環礁への人工島建設と軍事拠点化、周辺国の資源開発事業への妨害行為などを通じて、石油・ガス田開発における主導権を握ろうとしているのです。

中国共産党が主張してきた九段線

エネルギー資源の独占的な活用権を得られれば、アジア有数のエネルギー消費国である中国は、同地域におけるエネルギー面でのドミナンス(支配力)を手にすることができます。また、この地政学的要衝の支配権を獲得することで、中国はエネルギー供給ルートの安全も確保できます。

近年の中国の海洋進出は、資源・エネルギーの獲得はもちろん、それらを安全に運ぶ海上交通路の確保が大きな目的との指摘もあります。このように、南シナ海の実効支配を強化する中国の行動の背景には、同海域のエネルギー資源の確保とそれに基づくエネルギー面でのプレゼンス向上への強い意欲があると考えられます。

中国の南シナ海における一方的な現状変更を事実上許してしまった要因は複雑で、米国の対応だけでなく、関係国全体の対応にも問題があったと指摘されています。

確かに、オバマ政権時に南シナ海問題への対応が手遅れになったとの批判があります。しかし、その後のトランプ政権、バイデン政権と、米国は次第に強硬な姿勢を取るようになりました。合同軍事演習の規模拡大や、フリーダムオブナビゲーション(航行の自由)作戦の実施、マルコス政権への支持表明など、中国に対する牽制を強めています。


他方で、東南アジア諸国連合(ASEAN)が一致した対応を取れなかったことも大きな要因と言えます。ASEANには中国に配慮せざるを得ない国々があり、団結した姿勢が示せませんでした。また、関係国が早期からより強硬に対応すべきだったという意見もあります。

米国のみならず、ASEAN、そして関係国全体の当初の対応の遅れや、足並みの乱れが、現状を生み出した一因と考えられます。米国単独で状況を抑え込むのは難しく、関係国の連携強化が課題と言えるでしょう。

ただし、中国の南シナ海における一方的で過激な動きが過去数年間で一層目立つようになったことは確かです。そしてこの背景には、バイデン政権の対応の遅れや、強硬姿勢の不足があったことは否めません。

バイデン政権が国際社会で力強いリーダーシップを発揮できていないことは広く知れ渡っており、特に中国への対応は極めて不十分でした。南シナ海における中国の攻撃的な行動は、バイデン政権から発せられる弱々しく一貫性を欠いた外交方針の直接的な結果といえます。

バイデン大統領と民主党幹部は、矛盾した複雑な姿勢を示すことで、米国の脆弱なイメージを世界に植え付け、ライバル国や敵対国からの侵害を招いてしまいました。バイデン大統領は当初から、中国が世界の平和と米国の利益を脅かす存在であることを軽視し、中国に対して穏健な対応姿勢をとっていました。トランプ前政権が行ってきた中国への強硬姿勢は大きく後退させられました。
 

特に、バイデン政権は南シナ海に埋蔵される豊富なエネルギー資源をめぐる中国の実効支配強化に対し、何ら有効な対抗策を講じていません。この海域のエネルギー支配権の獲得が中国の最大の狙いであるにもかかわらず、バイデン政権はその重大性を軽視し続けています。中国のエネルギー・ドミナンス獲得を防ぐ具体的な取り組みが全くなされていないのが実情です。

バイデン政権が発足当初に中国共産党政権と示した協調路線は、お互いを理解し協力するという誤った前提に基づくものであり、結果的に習近平政権を追認し、強化することにつながりました。特に南シナ海問題については、バイデン政権は中国の違法な人工島建設や軍事拠点化に何ら反発の姿勢を示さず、米国の力を行使し同盟国を守る決然たる行動もありませんでした。

いまこそホワイトハウスが、エネルギー安全保障にも真剣に取り組み、中国共産党に立ち向かい、米国の力と決意を示す強力で断固たるリーダーシップを発揮すべき時なのです。

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