2019年6月13日木曜日

習近平氏“失脚”危機!? 香港流血デモ、負傷者70人超…中国共産党は“内紛”状態 専門家「G20前にヤマ場」―【私の論評】習近平が、かつての華国鋒のような運命をたどる可能性がかなり高まった(゚д゚)!

習近平氏“失脚”危機!? 香港流血デモ、負傷者70人超…中国共産党は“内紛”状態 専門家「G20前にヤマ場」

香港で、学生らと警官隊が激しく衝突した。中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案の撤回を求め、立法会(議会)を包囲していた学生らに対し、警官隊が12日、多数の催涙弾やゴム弾などを撃ち込んだのだ。負傷者は79人に上ったという。30年前の「天安門事件」の悪夢は繰り返されるのか。香港は13日朝も緊迫している。「自由」と「法の支配」を守ろうとする学生らの抗議運動に対し、中国共産党幹部が香港入りしたとの報道もある。米国務省は、学生らの行動に理解を示した。今後の展開次第では、習近平国家主席の政権基盤が揺らぐ可能性もありそうだ。

「学生らの自発的行動(デモ)は『雨傘革命』以上だ」「香港の良さ(=自由や権利の保障、公平な裁判など)を、破壊しているのは、今の香港政府と中国共産党政権だ」

香港の民主化を求めた2014年の「雨傘革命」で学生団体幹部だった周庭(アグネス・チョウ)氏(22)は12日、東京・神田駿河台の明治大学での講演で、こう語った。その内容は後述するとして、香港の現状は深刻だ。

2018年12月に来日した周庭(アグネス・チョウ)氏

「逃亡犯条例」改正案の成立を阻止するため、立法会周辺の道路を占拠していた学生らに対し、12日午後、盾や警棒などを持った警官隊が出動し、催涙弾やゴム弾を発射した。頭から血を流して倒れ込む学生。SNSでは、無抵抗の学生らに襲いかかる警官隊の動画も拡散されている。

催涙弾の発射は「雨傘革命」以来で、市民や民主派らが強く反発するのは確実だ。緊張が高まっており、さらなる衝突が起きる懸念も強まっている。改正案は当初、立法会で20日にも採決される予定だったが、今回の衝突を受けて、不透明な状況になった。

中国共産党政権が支持する香港政府トップ、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は12日、地元テレビ局のインタビューで、改正案を撤回しない方針を改めて表明した。同日夜には声明を発表し、デモについて「公然と暴動を起こした」と非難し、催涙弾の発射などを正当化した。

これに対し、国際社会の見方は違う。

米国務省のモーガン・オルタガス報道官は12日の記者会見で、「根源的な権利をめぐって中国の支配下に入りたくないから抗議している」といい、若者らの行動に理解を示した。香港政府に対しては表現や集会の自由を守るよう求めた。

 EU(欧州連合)の欧州対外活動庁(外務省に相当)の報道官も同日、多くの負傷者が出たことを受けて、「平和的で自由に集まり、意見を表現する権利は尊重されなければならない」「香港市民の多くの懸念を共有する」とする声明を発表した。

香港は1997年に中国へ返還された後も、「一国二制度」に基づく「高度な自治」を約束されてきた。ところが、共産党独裁の習政権による強権支配が強まっており、「自由」や「司法の独立」が奪い取られようとしている。

前出の周氏は、明治大学での講演で「中国は法治国家でもなく、人権の保証もない」と訴え、続けた。

「香港は法治社会だったが、(『逃亡犯条例』改正案の可決で)身の安全すら保障されなくなる可能性がある。国際金融都市としての『特別な地位』もなくなる。社会や経済にも悪影響を及ぼす」「香港に来る外国の観光客や記者が逮捕されて、中国本土に引き渡される可能性がある。日本にも無関係でない法案だが、日本政府は意見を言っていない。日本の政府や政治家も、改正案に(反対の)意思をはっきり示してほしい」

共産党独裁国家にのみ込まれる危機に直面した、切実な訴えというしかない。

中国事情に詳しいノンフィクション作家の河添恵子氏は「学生たちは、香港にあったはずの『人権』と『自由』と『民主』がなくなってきていることを実感している。ここ数年、(共産党に批判的な)出版社店主などが次々と拘束されている。香港が監視社会になってきている」と語る。

習氏は今月末、大阪市で開かれるG20(20カ国・地域)首脳会合に出席するため来日する予定だが、激化するデモの展開次第で、どうなるか。

河添氏は「現在、中国共産党は内紛状態にある。習氏がデモ制圧のために軍を動かす判断をしなくても、反習派によって動く軍はたくさんある。万が一、軍が動いて大きな被害が出れば、国際社会は習政権を厳しく批判することになる。そのなかで、習政権の責任論が浮上する可能性もある。国内でクーデターが起こる可能性もある。G20前にヤマ場が来るのではないか」と分析している。

【私の論評】習近平が、かつての華国鋒のような運命をたどる可能性がかなり高まった(゚д゚)!

米国は、今回の香港の流血デモの直前に、習近平を追い詰める措置をとっていました。それは、事実上台湾を国として認めたことです。

米国防総省が最近発表した「インド太平洋戦略報告書」で、台湾を協力すべき対象「国家(country)」と表記しました。これは、米国がこれまで認めてきた「一つの中国(one China)」政策から旋回して台湾を事実上、独立国家と認定することであり、中国が最も敏感に考える外交政策の最優先順位に触れ、中国への圧力を最大限引き上げようという狙いがうかがえます。

ちなみにこの報告書では、昨日もこのブログに掲載したように、「北朝鮮による日本人拉致事件の解決への支援」も明記しています。トランプ政権の日本人拉致事件解決への支援はすでに広く知られてきましたが、政府の公式の文書で明記されたことはこれが初めてだといいます。

また同文書は同時に北朝鮮を「無法国家」と断じ、米朝間で非核化交渉を進めているにもかかわらず、同国が相変わらず日米両国にとって軍事脅威であることを強調していました。

インド太平洋戦略報告書の表紙

国防総省は報告書で、「インド太平洋地域の民主主義国家として、シンガポール、台湾、ニュージーランド、モンゴルは信頼でき、能力がある米国のパートナー」とし、「4国は世界で米国のミッション遂行に貢献しており、自由で開かれた国際秩序を守護するために積極的な措置を取っている」と強調しました。

これらの国は、米国のインド太平洋戦略のパートナー国家として、既存の同盟国家である韓国、日本、オーストラリア、フィリピン、タイに触れ、追加で協力を拡大・強化する対象国として言及されました。

米国は1979年、中国との国交を正常化した後、「一つの中国」政策に基づいてこれまで台湾を国家と認定しませんでした。その米国が事実上、米国に対抗する公式報告書で台湾を国家と表記したのです。

香港サウスチャイナ・モーニン・ポストは7日、関連内容を報じ、「米国が一つの中国政策を事実上、廃棄した」と指摘しました。同紙は、「これは中国を狙った最近の米国の挑発的な措置の一つ」とし、「米中両国が貿易、セキュリティ、教育、ビザ、技術だけでなく『文明』競争を行う過程でトランプ政権が出した奇襲攻撃」と強調しました。

これに先立ち、ロイター通信によると、米国は台湾に対戦車兵器など20億ドル規模の兵器販売も推進しています。台湾との外交関係修復と協力強化、軍事的支援を通じて、台湾を中国封鎖政策に参加する域内プレーヤーに引き込むということです。米中間の覇権競争が激化する状況で、中国の激しい反発が予想されます。

トランプ米大統領は6日(現地時間)、今月末の大阪での主要20ヵ国・地域(G20)首脳会議で、中国の習近平国家主席と首脳会談を行った後、中国製品に追加関税をするかどうか決めると明らかにしました。ロイター通信によると、欧州を歴訪中のトランプ氏は同日、フランスのマクロン大統領との昼食前に記者団に、中国に3千億ドル(約354兆ウォン)規模の新たな関税を課す時期を問われ、「G20の後、2週間以内に決定する」と話しました。

米国が、中国の世界貿易機関(WTO)内の開発途上国の地位剥奪を推進中という報道もあります。7日、「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)の中国語版によると、米下院外交委員会所属のテッド・ヨーホー議員(共和党・フロリダ州)は同日、米外交政策委員会(AFPC)の主催で開かれた中国関連会議で、「米議会は政府とともに中国の開発途上国地位の剥奪を推進しており、ポンペオ長官と議論した」と明らかにしました。


今回の混乱により、香港立法会(議会)の梁君彦議長は、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案を13日に審議しないことを決めました。立法会がウェブサイトで発表しました。改正案は当初、12日に審議が再開される予定でしたが、13日に延期されていました。審議日程は議長が決定し次第、発表されるとしています。

混乱がさらに続き、「逃亡犯条例」改正の審議が長引き、米国により対中国冷戦が発動されるとともに、台湾が事実上米国に国家として認められたことなどから、習近平は相当追い詰められています。

上の記事にあるように、今回の出来事ですぐにクーデターが起きて、習近平がすぐに失脚ということもあり得るとは思いますが、もしそうならなくても、習近平がかつての華国鋒のような運命をたどる可能性は、今回の一連の出来事でかなり高まっ

華国鋒

1976年10月、毛沢東の後継者として中国の最高指導者の地位に就いた華国鋒は、自らに対する個人崇拝の提唱や独断的な経済政策を推進したため、当時の党内の実力者、鄧小平ら長老派と対立しましたた。

78年末に開かれた党の中央総会で華が推進する政策が実質的に否定されたあと、影響力が低下し始めました。華はその後も党内から批判され続け、側近が次々と失脚するなか、約3年後に自らが辞任する形で政治の表舞台から去りました。

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2019年6月12日水曜日

米国政府、日本人拉致の解決支援を初めて公式明記―【私の論評】今後日米は拉致問題に限らず様々な局面で互いに助け合うことになる(゚д゚)!

日本支援の継続を確約、北朝鮮に対する大きな圧力に


(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 米国政府が最新の公式政策文書で、北朝鮮による日本人拉致事件の解決への支援を明記した。トランプ政権の日本人拉致事件解決への支援はすでに広く知られてきたが、政府の公式の文書で明記されたことはこれが初めてだという。

 また同文書は同時に北朝鮮を「無法国家」と断じ、米朝間で非核化交渉を進めているにもかかわらず、同国が相変わらず日米両国にとって軍事脅威であることを強調していた。

公式文書で初めて日本への支援を明記

 米国国防総省は6月1日に「2019年インド太平洋戦略報告書」という公式政策文書を発表した。米国政府としてのインド太平洋地域の安全保障や脅威への認識と、政策、戦略を記した文書である。56ページから成るこの報告書は、インド太平洋地域で米国にとって脅威となる勢力を「挑戦(チャレンジ)」という表現でまとめ、中国、ロシア、北朝鮮の3カ国を挙げていた。

 同報告書でとくに注目されるのは、北朝鮮の扱いだ。まず冒頭で北朝鮮を "Rogue State" (無法国家)と表現している。 "Rogue" は法律や規則を守らない無法者、悪漢という意味で、国家としては国際規範を順守せず国家テロに走るような国を指す。 "Rogue State" とは、いわば「ならず者国家」である。



 同報告書は北朝鮮に関する記述のなかで、日本の拉致問題に関する米国政府の立場を以下のように明記していた。

「米国政府は、北朝鮮が日本人拉致問題を完全に解決しなければならないとする日本の立場への支援を継続する。実際に日本人拉致問題を北朝鮮当局者に対して提起してきた」

 簡潔な記述ではあるが、北朝鮮当局による日本人拉致事件を「完全に解決せよ」とする日本側の主張を米国政府は支援し続ける、という明確な政策表明だった。

 日本人拉致事件に関して、これまで米国のトランプ政権は事件の解決に向けて日本を支援する意図を表明してきた。大統領自身が国連演説でその事件の悲劇と早期の解決を求めたほか、金正恩委員長との2回の米朝首脳会談でも、合計3回にわたり日本人拉致事件に言及し、その早期の一括解決を要求したという経緯がある。

 これまで米国の歴代政権が政策表明の公式文書に日本人拉致事件解決への支援を明記することはなかった。しかし、トランプ政権は初めて明記することとなった。

 米国政府の日本人拉致問題への対応に精通している日本側の「救う会」の副会長の島田洋一氏は、「米側の支援が政府の政策文書にきちんと書かれた例は、私の知る限り初めてだ。とくに米国政権全体のアジア太平洋地域への安全保障政策の表明という重要な文書に明記されたことは、トランプ政権の東アジア政策の一部に日本人拉致事件解決を位置づけたことの熱意と真剣さを表わす指針として重視したい」と述べた。

 トランプ政権は北朝鮮に完全な非核化を求めている。そうした基本政策の一部に、日本人拉致問題の完全解決を盛り込んでいるという姿勢が明示された。北朝鮮側にとっては、日本人拉致の解決を対米交渉での議題として受け止めざるをえない状況が生まれたともいえる。

「日本支援」明記が北朝鮮へのさらなる圧力に

 なお、国防総省は今回の「インド太平洋戦略報告書」で、トランプ政権があくまで北朝鮮の完全な非核化を求める政策を継続する一方、その要求に応じない北朝鮮は米国とその同盟諸国にとって安全保障上の挑戦であり、脅威であり、さらには無法国家である、という認識を強調していた。その記述は以下のとおりである。

 「朝鮮民主主義人民共和国は、金正恩委員長が誓約した最終的かつ完全で検証可能な非核化を達成するまでは、米国、そしてグローバルな秩序、米側の同盟諸国、友好諸国にとっての安全保障上の挑戦者、かつ競合相手であり続ける」

「北朝鮮の核兵器問題を外交的に解決する平和への道が開かれてはいるが、核兵器以外の大量破壊兵器、ミサイルの脅威、そして北朝鮮がなお突きつける安全保障上の挑戦は現実であり、継続した監視体制を必要とする」

「北朝鮮はこれまでイランやシリアのような諸国に、通常兵器、核兵器技術、弾道ミサイル、化学兵器材料などを継続して拡散してきた。その歴史は、米国側の懸念をさらに深めている」

「さらに、国民に対する個人の表現の自由の禁止など、北朝鮮政府の苛酷な人権弾圧と虐待は国際社会にとって深い懸念の対象となっている」

 以上の記述は、トランプ政権が対北朝鮮政策として、なお北朝鮮にCVID(完全で検証可能、非可逆的な非核化)を求め、核兵器以外の通常兵器の開発や大量破壊兵器の国外拡散、さらには自国民に対する人権弾圧も中止させるという厳しい姿勢で対決していることを示したといえる。そのなかでの日本人拉致事件の解決支援の宣言は、北朝鮮へのさらなる圧力とも受け取れる。

【私の論評】今後日米は拉致問題に限らず様々な局面で互いに助け合うことになる(゚д゚)!

拉致被害者家族と面会し、挨拶する安倍首相=5月19日午後、東京都千代田区

「拉致問題で総理大臣になった」と言われても過言ではないほど、安倍総理は拉致問題に力を入れ、また積極的に発言をしてきました。その中から象徴的発言を8つ挙げ、今回の無条件対話提唱が決して「苦肉の策」等ではなく、北朝鮮に対する明確なメッセージであったのかを明らかにしていこうと思います。

▲「北朝鮮は重油も止められ、食糧も不足し、核問題で外交的にも孤立しているので必ず折れてくる、時は日本に味方している」

これは17年前の2002年10月、官房副長官時代の発言です。結局のところ、北朝鮮は折れず、日本が先に折れることになりましたが、今後制裁はますます強まり、17年も継続したあげく、いよいよ時は日本の味方になりつつあります。

▲「北朝鮮の善意を期待しても動かない。彼らを動かすのは圧力のみで、経済制裁法案を通したら拉致被害者5人の家族が帰ってきた」

これは15年前、安倍総理が幹事長代理(2004年)の座にあった時の発言(12月2日)です。今後の北朝鮮への日本の圧力は、過去のオバマ政権の頃とは異なり、トランプ政権の後ろ盾もあり、今後ますます北朝鮮への圧力が高まることを金正恩は覚悟しなければならなくなりました。

▲「拉致に対して北朝鮮が誠意ある対応を取らなければ日本が何か出すことは基本的にはない」

第一次安倍政権時代の2007年2月5日、総理官邸での発言です。北朝鮮は今でも拉致問題で誠意ある態度を取っていませんが、結果として日本が北朝鮮にボールを投げ、彼らが先に動かなければならなくなりました。さらに、トランプ大統領は北朝鮮が核を放棄した後の支援は直接米国が行うことはないと公表しています。それは、日本に任せようとしているようです。そうなると、北朝鮮にとっては、将来は経済支援は日本が頼みということになります。

▲「今、国会を解散して選挙がスタートしようとしている時にこういうこと(日朝交渉)を持ち掛けるのは、明らかに北朝鮮に足元を見られる以外のなにものでもない」

民主党政権下の2012年11月、野党・自民党の総裁として安倍総理は、北朝鮮に交渉を呼び掛けた野田政権を痛烈に批判していました。今回も2か月後には参議院選挙が控えています。今度は、安倍総理のほうから、金正恩にすでにボールを投げています。金正恩は、このはじめての事態にどのように対応すべきか、考えあぐねていることでしょう。下手に対応すれば、今度は米国の軍事制裁もあり得ることになってしまったのです。

▲「北朝鮮がこれまで約束を守ったことがなかったことに注目しなければならない。だから、強い圧力が交渉のために必要だ」

第二次安倍政権下の2012年12月28日、拉致被害者家族会との面談の席で、圧力の姿勢でもって、解決にあたりたいと強調していましたが、今回、金委員長との首脳会談実現に向けて「圧力」という言葉をあえて使いませんでした。これは、わざわざ「圧力」という言葉をつかわなくても、日本の拉致交渉の背後には米国が控えているということで十分すぎるほどの圧力なるからであると推察できまます。

▲「対話のための対話は意味がない。金正恩と握手するショーを見せるための会談であってはならない。結果を伴わない会談は相手を利するだけだ」

これは2年前の2017年3月夕刊紙「フジ」(13日付)とのインタビューでの発言だい。対話のための対話はやらないと繰り返し言っていましたが、今回はすっかり金正恩にボールを投げ、どう投げ返してくるかを見ることになりました。まさに、立場が逆転しました。

▲「対話による問題解決の試みは、一再ならず、無に帰した。なんの成算あって、我々は三度、同じ過ちを繰り返そうというのでしょう。北朝鮮にすべての核・弾道ミサイル計画を完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法で、放棄させなくてはなりません。そのため必要なのは対話ではない。圧力なのです」

一昨年(2017年)の国連総会での演説(9月21日)で世界各国に対して対話による問題解決ではなく、圧力による解決を呼び掛けていました。金正恩は、今後の会談は対話ではなく、重大な取引になるであろうことを覚悟したことでしょう。

▲「日朝首脳会談は拉致問題の解決につながらなければならない。ただ会って1回話をすればいいということではない」

昨年5月のフジテレビの番組での発言です。日朝首脳会談は拉致問題の解決を前提にしていましたが、今回は、そうした前提を付けずに無条件対話を呼び掛けました。ここでも、金正恩はポールを投げかけられた形となり、自らが何らかの対応しなければならなくなりました。これまでとは明らかに立場が変わったのです。

持久戦と長期戦という名の「日朝の綱引き」の果に結局のところ、毅然たる外交を標榜していた安倍政権がとうとう金正恩にボールを投げ、どのように投げ返してくるのかをみて、米国と協議しながら、対応を決めることになったのです。

こうなることは、金正恩もわかっていたでしょう。それについては以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ついに「在韓米軍」撤収の号砲が鳴る 米国が北朝鮮を先行攻撃できる体制は整った―【私の論評】日本はこれからは、米韓同盟が存在しないことを前提にしなければならない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部をこの記事から引用します。
 トランプ大統領とその夫人は、皇居で天皇陛下やご家族と親しく交わった。横須賀では、安倍晋三首相夫妻と海上自衛隊の空母型護衛艦「かが」に乗艦。その後、大統領夫妻は米海軍の強襲揚陸艦「ワスプ(Wasp)」にヘリコプターで移動した。
天皇陛下とトランプ大統領

 太平洋戦争で空母「加賀」は真珠湾攻撃に参加し、ミッドウェー海戦で米海軍の急降下爆撃機によって沈められた。先々代の米正規空母「ワスプ」は第2次ソロモン海戦で伊19潜水艦の雷撃を受けて大火災を起こし、総員退艦後に自沈した。 
 太平洋の覇権をかけ死に物狂いで戦った2つの海洋国家が、固く結束し共通の敵に立ち向かう意思を表明したのだ。もちろん「共通の敵」の第1候補は北朝鮮である。 
 在韓米軍撤収の号砲が、日米の運命的な結束誇示の直後に始まったことも、金正恩委員長の目には、さぞ不気味に映っていることだろう。
このトランプ大統領の行動は、戦後はじめて米国の大統領により、大東亜戦争(米側では太平洋戦争)の米大統領による精算ということができると思います。そうして、それは何のためかといえば、全世界、特に北朝鮮・中国・ロシアに対する日米の結束ぶりをアピールするものです。

そうして、日米首脳会談で安倍総理とトランプ大統領は拉致問題についても話あったでしょう。そうして、トランプ大統領は、拉致問題に関して協力する旨を約束したことでしょう。その結果として最初に現れたのが、公式の文書で明記ということだったのでしょう。

今後、さらにこの協力は様々な方面でなされていくことでしょう。金正恩が感じたであろう不気味さはまさに的をいたものとなりました。

今後日米は拉致問題に限らず様々な局面で互いに助け合うことになるでしょう。

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2019年6月11日火曜日

迫ってきた消費増税の判断時期 「参院選公約」と「骨太方針」がカギ! 景気対策は補正予算で対応へ ―【私の論評】令和年間を平成年間とは対照的に、全世代にとって希望に満ちた年間にすべき(゚д゚)!

迫ってきた消費増税の判断時期 「参院選公約」と「骨太方針」がカギ! 景気対策は補正予算で対応へ 

政府が今月策定する経済財政運営の指針「骨太方針」の原案が判明したと報じられている。



 それぞれ報道によって扱いが微妙に異なる点が興味深い。ある報道では、骨太方針原案のポイントとして「就職氷河期世代の約100万人を集中支援し、今後3年間で正規雇用者を30万人増やす」との数値目標が掲載されている。また、「社会保障制度改革を進めて年金・介護は法改正も視野に、2019年末までに結論」とされている。

 これについては、アベノミクスによる雇用の成果をさらに40歳前後の就職氷河期世代にまで行き渡らせようとする点は評価できるだろう。

 そのほか、「景気次第で機動的なマクロ経済政策を躊躇(ちゅうちょ)なく実行」ともされ、景気優先を強調し、米中貿易摩擦などの悪影響が波及した場合に追加経済対策を講じる姿勢としている。

 本コラムでも、米中貿易戦争や英国のブレグジット(EU離脱)などはリーマン・ショック級の経済変動を起こしうるという見方を示しているが、加えて、国内景気もぱっとしない。

 7月以降に予定されている参院選の前にも、安倍晋三政権は景気対策を検討しているとも噂されているので、消費増税による景気腰折れを懸念し、その対策を抜かりのないようにするとの見方は当然ありうるだろう。

 他方、骨太方針原案に「(消費税率10%への)引き上げを予定している」と明記する方針で、その後、与党内の調整で、6月下旬に閣議決定するという報道もある。

 その報道では、幼児教育や低所得者世帯対策は消費増税が前提であるとし、いまさら増税の撤回は困難であるとしている。

 たしかに消費増税を予定通りやらざるを得ないということは、今年度予算において10月からの消費増税が織り込まれ、それを前提とした予算が成立した3月末からいわれている。

 しかし、消費増税なしの補正予算を提出すれば、予算が成立しているからというのは理由にならなくなる。

 特に参院選で景気対策という話になれば補正予算は必要になってくるので、その中身として消費増税なしという選択肢もありえる。

 こうしたなか、自民党は7日に参院選での公約を発表し、「10月に消費税率を10%に引き上げる」と明記した。

 一方、安倍首相は、連日エコノミストとの非公式な会合を持っている。多くのエコノミストは、これまで消費増税について「影響は軽微である」と予想し、外してきた。

 こうした事実を安倍首相はよく知っているはずだが、最終的にどのような結論を出すにせよ、一応話を聞いておかないとまずいと思ったのだろう。

 6月末の大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議でも、世界経済は当然、主要課題になる。

 世界の中で、日本経済としてできることを踏まえ、同時に参院選(ひょっとしたら衆参ダブル選)を占う意味でも、骨太方針の行方には要注意である。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】令和年間を平成年間とは対照的に、全世代にとって希望に満ちた年間にすべき(゚д゚)!

2012年12月に発足した安倍政権は、金融政策と財政政策、成長戦略を「3本の矢」とする経済政策の推進を表明。日銀は13年1月の政府との共同声明で2%の物価安定目標を掲げました。足元では物価下落が継続するという意味でのデフレではない状況となったものの、2%目標の達成には程遠いです。日銀の最新の経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、21年度の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比見通しは1.6%上昇にとどまります。

  3本の矢は着実に行われたわけではない、第二の矢は、増税で逆をやってしまった。
  第一の矢はイールドカーブコントロールを導入して以来十分ではない。

先月20日に発表された1-3月期の実質国内総生産(GDP、速報値)は小幅のマイナス成長の市場予想に反して前期比年率2.1%増となりましたが、民需の弱さを背景とした輸入の減少が成長率を押し上げました。デフレを脱却する途中に増税したことによって、相当GDPに対する押し下げ効果は大きいです。リーマンショックが発生した08年度の実質GDP成長率(前年度比3.4%減)と同程度のショックが起こる可能性は十分あります。

冒頭の高橋洋一氏の記事にもあるように、消費増税に対する安倍首相の最終判断は、6月末の20カ国・地域(G20)首脳会合(大阪サミット)のプロセスのどこかで下されることになるでしよう。伊勢志摩サミットのG7のときのように、

安倍首相や麻生太郎財務相らはリーマンショック級の出来事が起こらない限り、予定通り10月に消費増税に踏み切る方針を繰り返し表明しています。増税による悪影響によりリーマン級の不況が訪れる可能性は大です。

リーマンショックという言葉は和製英語であり、震源地である欧米は日本よりもはるかに立ち直りがははやいものでした。なぜそのようなことになったかといえば、リーマンブラザースの破綻に端を発した不況に対して各国の中央銀行は迅速に大規模金融緩和を実施したにもかかわらず、日銀だけがそうしなかったためです。

リーマン・ブラザーズ破綻後の不況に各国は大規模な金融緩和を行ったが、日銀だけは実行しなかった

そのため、震源地であるはずの欧米が不況からすばやく立ち上がり、日本だけが一人負けの状態になりました。だからこそ、欧米ではリーマンショックなる言葉は生まれなかったのでしょうが、一人負けの日本にだけ「リーマンショック」という言葉があるわけです。

そのため私は、このブログでは「リーマンショック」とは呼ばずに「日銀ショック」と呼んでいます。そのほうが実体をあらわしています。他国の銀行が大規模な金融緩和を行っているときに、日銀だけがそれを行わなければ、デフレがさらに進化し、円高になるのは当然の帰結です。

もし今回日本が増税して不況になっても、日銀がさらなる量的緩和に踏み切らなかつた場合、日本はふたたびり破滅の底に沈むことになります。

金融政策だけでデフレ脱却を図ることについては限界があります。それを打開するために財政の力が必要です。教育無償化など所得再分配政策について消費税のような逆進性の強い税目を充てるべきではなく、教育国債を発行し、日銀が市場から国債を買い取る形で、人材育成と量的緩和を同時に進めるべきです。マネタイゼーションという言葉は悪いイメージがありますが、デフレから脱却するときには必要です。

デフレは、資本主義にとって『死に至る病』ですが、国民にとって非常に分かりにくい病です。デフレ下では個々人にとって正しい貯蓄などの行動が、経済全体を破壊してしまうという意味で、「不思議の国のアリス」の状態から一刻も早く脱却し、「普通の国のアリス」にいかに戻すかが課題です。

昨日は、このブログで「老後に2000万円不足」という金融庁のレポートについて掲載しました。金融庁のこのレポートは老後の2000万円不足を補うために、運用をすすめています。しかし、昨日も指摘したように、欧米に比較すると、投資に不慣れな日本人は、運用よりも貯蓄に走ってしまう可能性のほうが高いと思います。

人々がこぞって貯金をするということは、一見良いようにも見えますが、消費が落ち、内需が縮小することに直結します。そんなことになれば、国内景気が悪くなり、税収が減ります。そうなれば、また財務省は国民などおかまいなしに、増税するのでしょう。

いくつかの政策のミスが重なれば、本来順調に回復するはずの日本経済が奈落の底に沈む可能性も十分あります。

増税して、景気が落ち込めば、骨太の方針の「就職氷河期世代の約100万人を集中支援し、今後3年間で正規雇用者を30万人増やす」という目標も、絵に描いた餅に終わってしまいます。



そのようなことよりも、中国や韓国、欧米などとは異なり、現在世界で一番潜在可能性の高いとみられる日本は、財政・金融政策でデフレから脱出するというアベノミクスを成功させ、政策によりデフレを脱却する世界初のモデルを構築すべきです。

それによって、令和年間を平成年間とは対照的に、次世代を担う現在の若者にとっても、ロスジェネや他の世代の人々にとっても、希望に満ちた年間にすべきです。

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2019年6月10日月曜日

「老後に2000万円不足」金融庁レポートと消費増税の不穏な関係―【私の論評】財務省も金融庁も国民のことは二の次で自らの利益のため国政を操っている(゚д゚)!

「老後に2000万円不足」金融庁レポートと消費増税の不穏な関係

財務省が、ほくそ笑んでいる




老後資金「2000万円不足」は本当か?

先週末ごろから、「7月の選挙は衆参ダブル選ではなく、10月の消費増税は予定通りに行われる」という観測記事が出始めた。

7月の参院選における自民党の公約に、「本年10月に消費税率を10%に引き上げる」と書かれていることが判明した、というのがその根拠である。

これまで安倍総理も「消費増税は予定通り」と公言してきたので、既定路線に変更なしということなのだろう。たしかに、7月の参院選公約をそろそろ確定しないと、もろもろの作業が間に合わなくなるころだ。

自民党の参院選公約と同時並行で策定されるのが、政府の「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる「骨太の方針」である。この原案でも、「消費増税は予定通り」となっている。これが政府の正式案として閣議決定されるのは6月中下旬である。

自民党の公約、政府の骨太方針ともに、これから政府与党内プロセスを経て正式決定されるが、報道によれば、現状の案のまま決定される見込みという。

「べき論」からいうと、今の時期に消費増税を実施すべきではないのは、筆者のこれまでの本コラムを読んでもらえばわかるだろう。

筆者は単に(1)景気論から消費増税に反対しているのではなく、(2)財政論(今の日本の財政は健全で、消費増税を行う必然性はない)や、(3)社会保障論(消費税を社会保障目的税とする国はなく、社会保障拡充のためには歳入庁の創設が有効)の見地からも消費増税はおかしいという、日本では珍しい意見の持ち主である。

まず、(1)景気論がひどい。

福岡市で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は9日、共同声明を採択した。世界経済の下振れリスクとして貿易摩擦の激化を挙げ、「G20はこれらのリスクに対処し続けるとともに、さらなる行動をとる用意がある」とした。にもかかわらず麻生財務大臣は、10月の消費増税を各国に説明したというのだから、まるで議長国として発表した共同声明を無視するかのような経済政策である。これでは日本の見識が疑われる。

福岡市で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議にて

(2)の財政論は、先週の本コラムで再三書いたので、繰り返さない。

今回の本題は、(3)の社会保障論だ。

6月3日に金融庁が公表した、資産形成に関する金融審議会報告書が話題である(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf)。報道では、「95歳まで生きるには、夫婦で約2000万円の金融資産の取り崩しが必要になる」とされている。

報告書の中の記述は、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1300万円~2000万円になる」である。

これは、審議会に提出された厚労省資料に基づく見解であるが、オリジナル資料は総務省家計調査(2017年)で、数字は夫65歳以上、妻60歳以上の高齢無職夫婦世帯の平均だ。

実は、同じ総務省の家計調査では、貯蓄額の数字も出ている。60歳以上の二人以上世帯の平均貯蓄額は2366万円である。このため、不足額の2000万円は賄えることになる。

もちろん、高齢者世帯の貯蓄額は人それぞれだ。貯蓄はある意味で人生の結果でもあるので、格差は大きく、その分布はピンからキリまでわかれている。

平均は2366万円であるが、貯蓄額を低い世帯から並べたときにちょうど中央に位置する世帯の貯蓄額は、1500万円程度である。このため、「2000万円の金融資産の取り崩しが必要」というマスコミ報道について、過剰に反応する人が多く出てくるのだろう。

要するに、今でも高齢者世帯では貯蓄の取り崩しが行われているわけで、これを公的年金の不足のせいとみるか、それとも公的年金以上の支出水準を維持するために貯蓄した結果とみるかは、人それぞれであろう。

しかし、報告書で「2000万円の不足」と書かれ、それだけがマスコミ報道で切り取られているから、案の定、「今さら年金をあてにするな、自助努力しろ、と言うのはおかしい」という意見が多く出ている。これは、高齢者世帯の貯蓄額の数字を出さずに「2000万円の不足」と強調し、煽る報道のためである。ネットで過剰反応する人は、高齢者世帯の貯蓄額も調べない人ばかりであろう。

金融庁と財務省の思惑

ここで重要なのは、公的年金について「不足している」、「ひょっとしたら破たんしているかもしれない」と一般の人が考えることは、消費増税を狙う財務省にとって好都合である、ということだ。「年金充実のためにも消費増税」と主張できるのである。

そこで、今回の金融庁による報告書が意味を持ってくる。金融庁のトップは麻生財務大臣である。金融庁はもともと財務省から分離された組織で、今の金融庁幹部は財務省に入省した官僚だから、財務官僚と同じ遺伝子を持っているといってもいい。

マスコミが過剰反応し「年金が不足する」と報じるのを金融庁は見越して、報告書でもその部分を強調したはずだ。それが結果として、「年金充実のための消費増税」をサポートするわけだ。

年金が少ない、あるいは破たんすると煽って金融商品を売りつけるのは、金融機関の営業ではよくある話だ。今回の金融庁の報告書は、まるで金融機関のパンフレットのように金融商品を推奨している。金融庁が金融機関の営業を後押ししている点でも異様なのだ。

年金制度「破綻疑惑」の読み方

では、日本の年金制度は破綻しているのか? 筆者の答えはノーだ。

そもそも年金とは、長生きするリスクに備えて、早逝した人の保険料を長生きした人に渡して補償する保険であるといえる。

65歳を年金の支給開始年齢とすれば、それ以前に亡くなった人にとっては、完全な掛け捨てになる。遺族には遺族年金が入るが、本人には1円も入らない。逆に運よく100歳まで生きられれば、35年間にわたりお金をもらえる。

極端に単純化して言えば、年金とは、平均年齢よりも前に死んだ人にとっては賭け損だが、平均年齢以上生きた人にとっては賭け得になるものだ。このように単純な仕組みなので、人口動態が正しく予測できれば、まず破綻しない。

具体的に言えば年金は、数学や統計学を用いてリスクを評価する数理計算に基づいて、破綻しないように、保険料と保険給付が同じになるように設計されている。確率・統計の手法を駆使して、緻密な計算によって保険料と給付額が決められている。

年金制度を実施する集団について、脱退率、年金受給者が何歳まで生きているのかという死亡率、積立金の運用利回り(予定利率)など、将来の状態の予想値(基礎率)を用いた「年金数理」で算出している。

2004年の年金制度改革で、給付額についてマクロ経済スライドが導入された。端的に言えば、保険料収入の範囲内で給付を維持できるように、数理計算で給付額を算出しようということだ。物価や賃金が上がると、それに連動して給付額は増えるが、現役世代の人口減少や平均寿命の延びを加味して、給付水準を自動的に調整(抑制)する仕組みだ。

年金は掛け捨ての部分が大きくなれば保障額が多くなり、小さければ少なくなる。つまり、現役世代の人口が減って保険料収入が少なくなろうが、平均寿命が延びて給付額が増えようが、社会環境に合わせて保険料と給付額を上下させれば、破綻しない制度ということだ。

経済界も加担している

年金不安の根拠として必ず持ち出されるのが、「65歳以上の高齢者1人を、15~64歳の現役世代X人で支えることになる」という理屈だ。

内閣府の「高齢者白書」によれば、2020年には2人、2040年には1・5人で1人の高齢者を支えることになる。このような人口減少はすでに十分予測されており、年金数理にも織り込まれている。つまり、人口減少は予測通りに起こっているので、社会保障制度での心配は想定内である。

にもかかわらず、一般国民にとっては、「年金は間もなく破たんする」という印象が強い。消費増税を目論む財務省が、社会保障費に対する世間の不安を煽り、マスコミがそれを増幅しているからだ。

「年金は保険」という認識が一般人に浸透すれば、消費増税ではなく保険料アップで対応すればいいという、至極まっとうな指摘が出てくる。しかしそうなると、予算編成と国税の権力を握り「最強官庁」の名をほしいままにしてきた、財務省の屋台骨が揺らいでしまう。

つまり、財務省としては「年金は社会福祉であり、今は原資が不十分な状態」という誤解が広まれば広まるほど、「社会福祉は税金でまかなうものだから、消費増税しかない」という俗論がまかり通るほど、好都合なのだ。

その意味では経済界も、「年金は保険」という認識が世間に浸透すると困る立場にある。「保険料の引き上げ」という本来の解決策がとれないのは、経済界の強硬な反対もある。なぜなら、年金保険料は労使折半だからだ。

企業は従業員の保険料の半分を負担しているため、負担を上げてほしくない。保険料アップで年金がまかなえるとなれば、会社負担が増えるのは明らかだ。だから、広く社会一般に負担を押し付ける消費増税の方がマシだと経営サイドは考えている。

財務省は年金制度の成功例として、社会保障が充実している北欧をしばしば引き合いにするが、それらの国における社会保障の充実が社会保険料負担、それも労働者というより経営サイドの大きな負担でもたらされていることには、決して言及しない。

そんな財務省の意向のもとで消費増税を実行すれば、かえって将来の社会保障制度も危機にさらされてしまうだろう。

【私の論評】財務省も金融庁も国民のことは二の次で自らの利益のため国政を操っている(゚д゚)!

さて、今回話題になっている、6月3日に金融庁が公表した、資産形成に関する金融審議会報告書ですが、正式名称は、金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書、「高齢社会における資産形成・管理」です。PDFで56ページに及ぶ提案書です。

オリジナルの文書に関心のある方は、リンクを張っておくので、よろしければご覧になってください。

この文書のキモの部分だけを抜き出すと、以下のようになります。
・定年の退職金が、バブル期のピークからすでに3~4割ほど減少している
・年金だけで暮らすのは厳しく、試算では毎月約5万円ほど貯金等からの持ち出しが必要となる
・つまり100歳近くまで生きるなら、2000万円は必要なので、準備しなさい

SMBCコンシューマーファイナンスは、2019年1月7日~9日の3日間、30歳~49歳の男女を対象に「30代・40代の金銭感覚についての意識調査2019」をインターネットリサーチで実施し、1,000名の有効回答を得ました。

全国の30歳~49歳の男女1,000名(全回答者)に対し、毎月自由に使えるお金はいくらあるか聞いたところ、全体の平均額は30,532円。家族構成別にみると、未婚者は38,674円、子どものいない既婚者は28,565円、子どものいる既婚者は22,096円となりました。

2018年に同社が実施した調査と比較すると、平均額は2018年30,272円→2019年30,532円と微増しています。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、驚いたことに、30、40代では23.1%もの人が貯蓄セロと答えていることです。



このグラフからは、貯蓄が0円~50万円以下という人が、何と47%と、半数近く占めることが分かります。

年代別の報告では、

30代・・2018年198万円→2019年194万円(4万円減)
40代・・2018年316万円→2019年196万円(120万円減)

と、40代では、たった1年で、平均が120万円も減少しています。

平均で出すと分かりにくいですが、これまでの流れから見ると、全体的に額面が落ちたのではなく、おそらく「ゼロに近い人の頭数」が増えたのではないでしょうか。

この人たちが、仮に35歳から60歳までに2000万円貯金するには、月々8万円を貯金しなければならないことになります。衝撃です。

そんなことが出来るくらいなら、現時点の貯蓄が50万円以下であるはずがないです。

しかし、落ち着いて、今一度この金融庁の文書をよく読んでみると、実はこの報告書にはは、国民に対して「貯金しろ」という言葉は出てこないです。

人々がこぞって貯金をするというのは、消費が落ち、内需が縮小することに直結します。この文書をよく見ると、「預金」ではなく、「運用」という言葉が頻繁に出てきます。
そしてご丁寧に、「金融サービスのあり方」と銘打った、銀行に対してのアドバイスの項目も含まれています。

私は、この文書のキモは、国民の老後を考えているものではなくて、長引く金融緩和で疲弊した銀行が、顧客に資産運用商品を売りやすくするためのキャンペーンを、金融庁が張ったのではないかと見ています。無論、上で高橋洋一氏が語ったように、この背景には無論財務省の増税という意図もあるでしょう。

しかし、将来の年金の不安を煽ることで、銀行が個人資産コンサルティングに入り込みやすい顧客の心理状況をつくり、なんとか銀行の業績を底上げしようという意図があるのではないでしょうか。

もはや構造不況業種の銀行業

おそらく銀行界隈では、今後、老後のための個人向け資産を長期運用する類の商品が続出するのではないでしょうか。

若・中年層が老後に突入する頃、麻生大臣はもちろん、財務省のおエラ方も定年を迎え、とっくに現場からいなくなっています。その時、世の中がどうなっていようが、そんなことに彼らは興味がないのでしょう。彼らが心配するのは、常に目先の話なのでしょう。

上の高橋洋一氏の文章のなかにも、「今回の金融庁の報告書は、まるで金融機関のパンフレットのように金融商品を推奨している。金融庁が金融機関の営業を後押ししている点でも異様なのだ」としています。

結局現状の、銀行等の金融機関はそれほど窮地に立たされているということでしょう。

欧米に比較すると、投資に不慣れな日本人は、運用よりも貯蓄に走ってしまう可能性のほうが高いと思います。人々がこぞって貯金をするということは、一見良いようにも見えますが、消費が落ち、内需が縮小することに直結します。そんなことになれば、国内景気が悪くなり、税収が減ります。そうなれば、また財務省は国民などおかまいなしに、増税するのでしょう。

財務省も金融庁も国民のことなどどうでも良いのでしょう。とにかく、天下り等のために有利な状況をつくっておきたい一心で、増税したり金融機関を助けようとして国政を操っているのです。

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2019年6月9日日曜日

日本を危険にさらす財務省「ヤバい本音」〜教育に金は出せないって…―【私の論評】希望にあふれる未来を次世代の国民に約束するため、教育や研究に投資するのは当然のこと(゚д゚)!

日本を危険にさらす財務省「ヤバい本音」〜教育に金は出せないって…

そもそも「税でまかなう」は間違いです


教育は「見返りが少ない」って…?

「知識に投資することは、常に最大の利益をもたらす」というのは、18世紀米国の政治家、ベンジャミン・フランクリンの言葉だ。

現代の政治において、政府ができる最大の「知識の投資」とは、もちろん教育のことである。実際、将来の所得を増やす実証分析は多く、たとえば大学や専門学校などの「高等教育」と呼ばれる教育は、将来の所得増・失業減などによって、2.4倍の費用対経済的便益があるという。

政府も教育投資を純粋に進める方針を取ればいいのだが、財務省の理屈が絡むと話がこじれるのが常だ。

5月16日、財政制度等審議会(財政審)財政制度分科会歳出改革部会が開かれ、高等教育にかかる経済的負担軽減について議論した。

このなかで、6年制薬学部の卒業率や薬剤師合格率を例示し、基本的な教育の質を保証できていない大学があるとした。こうした大学は、財政負担軽減の対象除外とすることを徹底すべきとの考えが上がったのだ。

財政審は各界から有識者を集めているが、結局財務省官僚のお手盛りのメンバーにすぎない。そのため、財政審の意見には財務省の「本音」が見え隠れする。「教育の質」に関する議論がたびたび起こるが、これは財務省のソロバンの上では、教育が「見返りが少ない」投資対象だと思われていることにある。

教育投資が非常に重要であることは冒頭で述べたとおりだ。ただでさえ財務省は、消費増税によって学生の経済状況を苦しめることになるのに、何を言っているのかと思うのが普通だろう。

たしかに教育や大学の基礎研究は、大規模で結果に結びつくまでの期間が長い。だからこそ、民間部門ではなく公的部門として主導し、国債を発行すれば、財源を確保しつつ将来の税収増で十分な見返りが見込まれる。にもかかわらず、教育を税財源で補う前提の財務省は、一部の薬学部のケースを例に挙げ、まるで社会の負担であるかのように言うのだ。

国債を発行すれば済む話

これは民間の企業であれば、本来行うべき投資を単なる費用と勘違いしてケチり、結局会社を潰す典型的なダメ経営者と似ている。

基礎研究と教育の財源は、国債発行によって賄うべきだという考え方は、じつは旧大蔵省にはあったものだ。かつて本コラムでも触れたが、小村武元大蔵事務次官の『予算と財政法』という本に、興味深い記述がある。この本は財務省主計局の「法規バイブル」であり、本来であれば財務省の「公式見解」とみるべきものだ。


同書には「投資の対象が、通常のインフラストラクチャーのような有形固定資産であれば国債で賄うのは当然」のこととし、「研究開発費を例として、基礎研究や教育のような無形固定資産の場合も、建設国債の対象経費としうる」とある。

現在の財務省は、道路や下水道を整備するのに建設国債を発行するのは当たり前と考えていても、教育や研究開発費は目に見えない資産なので、国債を発行してまで投資するものではないと勘違いしているのだろう。

税財源のみで教育を賄おうとするからこそ、無意味な増税を繰り返したり、「教育の質」問題を蒸し返す。根本的なロジックの誤りを認めない財務省は、この国に悪影響を与えるばかりだ。

『週刊現代』2019年6月15日号より

【私の論評】希望にあふれる未来を次世代の国民に約束するため、教育や研究に投資するのは当然のこと(゚д゚)!

大学や専門学校などの「高等教育」と呼ばれる教育は、将来の所得増・失業減などによって、2.4倍の費用対経済的便益があるという事実は昔から経験的に知られていることです。それは、当たり前といえば当たり前です。企業が新人を雇用するのは、この経験則を十分知っているからです。

そもそも、会社のほとんどの仕事は人が実行します。会社で働いている人も、一定の年齢になれば、退職します。新人を雇用しなければ、将来会社は消えることになります。そうして、新人を雇用すれば、様々な資金がかかるだけではなく、入ったばかりの新人は仕事ができないため、訓練や教育を必要とします。

目先の生産性だけを考えれば、新人など採用しないで既存の社員に仕事を実施させれば、経費も訓練や教育のための資金もいりません。しかし、それを続けていれば、会社は発展もしないし、継続すらできません。だからこそ、適切な雇用管理が重要なのでする。

ほとんどの企業は、雇用の重要性を理解しているのですが、それでも企業によってその重要性の理解度は異なります。駄目な会社は、景気が良いと人を多めに雇用し、景気が悪いと人を雇用しないというようなことをします。

そうすると、新しい管理職が必要なときに困ることになります。優秀な管理職を登用するためには、少なくとも6人の候補者が必要ですが、その時に候補者が十分いないということになります。

まともな会社は、その時々の景気に関係なく、将来と現在を見極めて毎年本当に必要な人数を雇用します。景気が悪かったからといって一人も雇わないということはしません。

現在の、財務省の官僚はこのような単純な経験則を十分理解していないようです。将来の日本国のビジョンに基づき、教育や研究に投資しなければ、将来の日本はとんでもない国になるだけです。日本を存続するだけではなく、希望にあふれる未来を次世代の国民に約束するため、教育や研究に投資するのは、当然のことです。

日本は経済大国ですが、財務省の姿勢ともあいまって教育にカネを使わない国であることはよく知られています。その根拠とされるのが、GDP(国内総生産)に占める公的教育費の支出額の割合です。

OECD(経済協力開発機構)の2017年版の教育白書によると、2014年の日本の数値は3.2%と加盟国の中で最も低いです。ここ数年は最下位を免れていたのですが、再び不名誉なランキングに転落してしまいました。

しかし日本は少子化が進んで子どもが少ないので、この割合が低いのは当然という見方もできます。子ども人口比が15%の国と30%の国を同列で比べるのは公平ではないです。そこで、子ども・若者1人あたりの額を試算して比較してみます。

2014年の日本の名目GDPは4兆8531億2100万ドルなので、先ほどの比率(3.2%)をかけて、公的教育費の支出額は1561億200万ドル。これを25歳未満人口(2898万人)で割ると1人あたり5386ドル(約60万円)となります。

同じやり方で、主要国の子ども・若者1人あたりの公的教育費を試算すると<表1>のようになります。


日本は韓国に次いで低いです。子ども・若者1人あたりの絶対額で見ても、教育にカネを使わない国であることは明らかです。スウェーデンは10342ドル(約114万円)と、日本の2倍近くの額を費やしています。

他のOECD加盟国の試算もできます。下の<図1>は、横軸に公的教育費の対GDP比、縦軸に子ども・若者1人あたりの公的教育費をとった座標上に、34カ国を配置したグラフです(瑞はスウェーデンをさす)。公的教育費の相対比率と絶対額が見られるようにしました。


日本の横軸が最下位なのは分かっていますが、子ども・若者1人あたりの公的教育費(縦軸)の絶対額でも少ない部類に属しています。OECD諸国の平均値に達していないです。

対極の右上には、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、フィンランドといった北欧諸国があります。ノルウェーでは1人あたり1万9000ドル(約210万円)もの教育費を国が投じています。幼児教育から高等教育までの学費が無償であるのも頷けます。ICT(情報通信技術)教育先進国のデンマークも、教育への公的投資額が多いです。

日本は高等教育への進学率が高く、今や同世代の半分が大学に進学します。それにもかかわらず公的教育投資が少ないため、負担が家計にのしかかっています。高額な学費や貧弱な奨学金は、その表れに他ならないです。OECDの教育・スキル局長も「日本の私費負担は重い。家庭の経済状態による格差をなくすためにも、一層の公的支出が必要だ」と指摘しています(2017年9月12日、日本経済新聞)。

給付型奨学金が導入され、高等教育の無償化の議論が進むなど、日本の教育の現状も変わりつつあります。高等教育のどの部分を対象にするかなど議論の余地は多いですが、法が定める「教育の機会均等」の理念が実現するよう改善が必要です。

そうして、何よりも今必要なのは、国債で教育費を賄うのが当然であるという、財務省に欠けた知識です。このブログでも以前指摘したように、BSを読めず、雇用も理解できず適正な会社運営できない彼らには無理なのかもしれません。

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2019年6月8日土曜日

墜落したF35A戦闘機 パイロットの遺体の一部を発見―【私の論評】戦闘機の運用は、全体を考えて3機種体制を堅持すべき(゚д゚)!

墜落したF35A戦闘機 パイロットの遺体の一部を発見


今年の4月9日19 時27分ごろ、青森県三沢市の北東135kmの海上で、航空自衛隊三沢基地に所属する最新鋭のF35戦闘機1機が、訓練で飛行中にレーダーから機影が消えた件について、岩屋防衛相は7日、行方不明になっていたパイロットの遺体の一部を発見したと発表した。


当時、この機体にはパイロット1名が搭乗しており、およそ30分前の19時頃、三沢基地を離陸したということで、航空自衛隊は詳しい状況を確認していた。これまでにエンジンや主翼の一部を発見していたが、フライトレコーダーは見つかっていないという。現在、機体の捜索は事実上打ち切りとなっている。

岩屋防衛相は、F35Aの部品が散在していた海域から、パイロットの体の一部とみられるものを発見したと明らかにし、死亡と判断したという。

同機は、ステルス性能を備えた最新鋭の戦闘機で、2018年1月から三沢基地で配備が始まり現在13機運用されている。同機はレーダーに映りにくいステルス性能を持つが、訓練中は機体から位置情報が発信され、飛行を把握できる仕組みになっているという。

【私の論評】戦闘機の運用は、全体を考えて3機種体制を堅持すべき(゚д゚)!

まずは、今回の事故で亡くなられた細見彰里3等空佐(41)のご冥福をお祈りさせていただきます。

この事故はF35Aの飛行隊が発足して2週間後に発生しており、まだ試験運用中だったはずだったとみられます。自衛隊に導入された装備はすぐに使えるようになると思っている人が多いようですが、実際には数年の試験期間を要します。すでに開発企業による試験が重ねられていても、導入された後に運用サイドが、さらに数年かけて試験をくり返すのです。

これは大変重要なプロセスで、機器を熟知する時間が必要なのはもちろんのことです。さらに大事なのは、自衛隊の装備品は基本的には「国内運用」が前提であり、輸入品は特に、気象、地形、そして法律も、人の体格も外国と違う条件のため、すべて適合させるための期間を設けることです。

装備品を戦力化することは、そう簡単ではないのです。日本向けでない外国製品はかえって手間がかかることも多いのです。

そして、事故機が国内組み立て初号機だったことが取り沙汰されていますが、最終チェックは米国側が行っています。このため、このことが事故と関係あるとは思えないです。

むしろ問題視して省みるべきは、日本が「武器輸出3原則」によって、世界のトレンドである共同開発に乗り遅れたことです。苦肉の策で、国内最終組み立てとなりましたが、実際ほとんどブラックボックスで、言ってみれば製造場所をロッキードマーティン社に提供しているだけのような状況だったことでしょう。この状況からも、事故調査も日本が主導できないことは想像できます。

織田邦男・元空将に、空自がこれまで続けてきた「3機体制」の重要性を聞いたことがある。これは「3機体制」というより正確には「3機種体制」と言ったほうが良いかもしれません。

織田邦男・元空将

最新鋭機種で航空優勢を維持することと、国内技術・生産基盤に配慮した機種を持つこと、また、万が一、事故が起きた際は同機種は飛行停止になるため、多機種を持つようにしていたのです。

わが国は今後F35Aを105機、艦艇に発着できるF35Bを42機導入する計画だといいますが、何かトラブルがあれば全てが飛べなくなります。スクランブルが増加するなか、国民の安全を守る隙のない防空には思慮深い調達が不可欠です。

逆にあまりに多くの機種を持つことにも危険があります。あまりに多いと量産体制がとれないということもあります。さらに、部品供給に支障をきたすということもあります。

それを考えると、3機種体制は丁度良いのかもしれません。

多機種体制というと、米軍は今でも多機種体制です。その中でも、特に最近米軍がF15EXの調達を決めたことが目を引きます。

米国防総省は2019年3月12日に発表した2020年度予算案で、「F-15EX」戦闘機8機の調達費として、10億5000万ドルを計上。合わせて2020年度から2024年度までの5年度で、80機を調達する方針を発表しました。同機は、航空自衛隊などが運用しているF-15「イーグル」戦闘機の最新型で、この「最新型のF-15」に関しては、これまで多くのメディアが「F-15X」という名称で報じてきました。

F-15EX

米空軍は現在、空対空戦闘を主任務とする制空戦闘機型で、航空自衛隊が保有するF-15Jの原型となった単座型(乗員1名)のF-15Cと、同じく航空自衛隊F-15DJの原型となった複座型(乗員2名)のF-15D、複座で精密誘導爆弾なども搭載できる、多用途戦闘機型のF-15Eという、3種類のF-15を運用しています。

メーカーのボーイングは、既存のF-15Cを大幅に能力向上させる「F-15C 2040」をアメリカ空軍に提案してきました。今回、調達計画が発表された80機のF-15EXは、老朽化したF-15C/Dの更新用という位置づけですが、アメリカ空軍は制空戦闘機型であるF-15C/Dの能力向上型ではなく、F-15Eをベースとする多用途戦闘機型のF-15EXを選択しました。

F-15C/Dは生産が終了していますが、F-15Eはミズーリ州セントルイスにあるボーイングの工場で、サウジアラビア空軍向けの能力向上型F-15SAが生産されており、カタール空軍向け能力向上型F-15QAの生産も開始されています(ボーイングはこれら輸出向けの能力向上型F-15Eをまとめて「アドバンスドF-15」と呼称)。このため、新規に生産ラインを設置するための投資を必要とせず、機体の価格を抑えられることも、F-15EがF-15EXのベース機となった理由のひとつだと、ボーイングは説明しています。

なお、ボーイングは「F-15EXと同じ能力を持つ単座型の開発も可能である」とも述べており、もし採用された場合は、「F-15CX」という名称になるとの見通しも示しています。

アメリカ空軍はF-35A「ライトニングII」戦闘機の導入を進めており、2020年度予算案でも48機の調達費を要求しています。アメリカ軍の制服組トップであるジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長は、3月14日にアメリカ議会上院軍事委員会で、第5世代戦闘機であるF-35Aの導入が進むなかで、あえてF-15EXを導入する理由として、「アメリカ空軍の戦闘機の数を確保するためである」と説明。ボーイングによれば、アメリカ空軍が現在の戦闘機戦力を維持するためには、1年に72機の戦闘機を導入する必要があるのだそうです。

2020年度予算に計上されたF-15EXの機体価格は、1機あたり1億3125万ドル(約151億円)と、F-35Aの1機あたり機体価格8920万ドル(約99億円)を上回りますが、1年度あたり18機の調達を計画している2021年度以降は、約9100万ドル(約101億円)から9800万ドル(約109億円)と、F-35Aと大差無い価格になります。

ダンフォード統合参謀本部議長は、F-15EXの機体価格はF-35Aと同程度ながら、維持運用にかかる経費はF-35Aの半分以下、機体寿命は2倍以上であると説明した上で、アメリカ空軍における将来の主力戦闘機がF-35Aであるという方針は変わらないものの、現状において、限られた経費のなかで戦闘機の量を確保するには、F-35AとF-15EXを混合運用することが正しい選択だと判断したと述べています。

またボーイングは、たとえば濃密な防空網を持つ敵地への攻撃といった、F-35AやF-22Aのような第5世代戦闘機でなければ行なえない作戦があることを認めた上で、必ずしも第5世代戦闘機を投入する必要の無い作戦環境では、兵装搭載量、航続距離、速度性能でF-35Aを上回るF-15EXを投入し、また必要に応じてF-35Aと連携することで、アメリカ空軍へより柔軟な戦闘機の運用能力を与えるとの見解を示しています。

F-16にも、F-16Vという最新型があります。15年10月16日、ロッキード・マーティンF-16V仕様機が初飛行しました。

F-16V

F-16には、ノースロップ・グラマンの先進APG-83アクティブ電子走査アレイ(AESA)スケーラブル・アジャイル・ビーム・レーダー(SABR)が搭載されています。このほか今後数十年間に出現する脅威に対抗するため、新しいセンター・ペデスタル・ディスプレイや新しいミッション・コンピューター、高容量イーサネット・データバスなど先進のアビオニクスを採用しています。

「F-16V仕様は、世界中で実績のあるF-16を第4世代戦闘機としての地位を確実なものにし、国際的な安全保障の最前線で使用し続けるために多くの機能が強化されている」とロッキード・マーティンF-16/F-22インテグレーテッド・ファイターグループのロッド・マクレーン氏が話しています。

F-16Vは新造機でも従来機のアップグレードにも対応し、これまでのインフラが活用でき、実績のあるマルチロール戦闘機を手頃な予算で大幅に性能アップさせることができ、今まで4,550機以上をデリバリーしたF-16のステップアップとして、最も自然なものとしています。

ノースロップ・グラマンはF-22ラプターとF-35ライトニングIIのAESAレーダーを生産し、APG-83 SABR AESAレーダーは第5世代戦闘機の空対空、空対地戦闘能力をもたらします。いわゆるステルス機でなくても、現状のステルス機と同じレベルのレベルのレーダーを搭載すれば、ミッションによってはステルス機並みの性能を発揮できるというわけです。

日本も、F35ばかり揃えるというのではなく、既存のF-15やF-2(F-16を大型化した機体に空対艦ミサイルを最大4発搭載可能で、戦闘機としては世界最高レベルの対艦攻撃能力と対空能力を兼備)の改修や、新型の導入で織田邦男・元空将の主張する3機種体制を維持すべきです。中国のステルス戦闘機J-31の脅威が囁かれなくなった現状では、最新鋭戦闘機ばかりに力を入れるのではなく、稼働率をを高めるとか、運用のしやすさなども加味して、日本の防空体制を考えていくべきです。

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