2019年9月4日水曜日

驚きの事実、韓国は北朝鮮内を偵察できていなかった―【私の論評】今のままだと、韓国は周辺諸国からは安保でも経済でも「どうでも良い」国に成り下がる(゚д゚)!

想像以下だった情報収集力、GSOMIA破棄で打撃を受けるのは韓国

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

安倍総理と文在寅大統領

 韓国の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄は日韓両国にどのような影響を与えるのか。さまざまな意見が飛び交うなか、朝鮮半島の軍事情勢に精通した米国の専門家が、同協定の破棄は韓国側にとってきわめて不利になるという見解を公表した。日本は偵察衛星を使って北朝鮮内部のミサイル発射の動向などを探知できるが、韓国にはその能力がないからだという。元米軍高官の同専門家は、今回の韓国の措置は米韓同盟を傷つけ、北朝鮮や中国を有利にするだけだとして厳しく非難している。
日本と韓国の情報収集ギャップ

 同専門家は、現在ワシントンの安全保障研究機関「民主主義防衛財団(FDD)」の上級研究員を務めるデービッド・マックスウェル氏である。マックスウェル氏は韓国のGSOMIA破棄についての見解を、防衛問題専門紙の「ディフェンス・ニュース」(8月29日号)に論文として発表した。

デービッド・マックスウェル氏

 マックスウェル氏は米国陸軍の将校として在韓米軍・参謀本部に勤務した経験を持つ。在韓米軍では特殊作戦部長を務めたほか、在日米軍や国防総省にも勤務した。陸軍大佐として2011年に退役した後は、米国防大学やジョージタウン大学で朝鮮半島の安全保障などについて教えると同時に、FDDの研究員としても調査や研究を続けてきた。

「韓国は北朝鮮とその支援国の手中に陥っている」というタイトルの同氏の論文は、韓国が日本との軍事情報を交換する協定の破棄を決めたことの誤りや危険性を強調していた。

 同論文がとくに注目されるのは、韓国には人工衛星で北朝鮮内部の軍事動向を探知する偵察能力がまったくないという指摘だった。一方、日本にはその偵察能力があるから、GSOMIAの破棄はむしろ韓国にとって不利な状況を招くという。

その点について同氏の論文は以下のように述べていた。

「韓国と日本は2016年11月に、北朝鮮の弾道ミサイル発射と通常戦力作戦に関する秘密情報を含めた軍事情報を交換する協定『GSOMIA』に調印した。だが韓国側の人工衛星による情報取得の能力は、南北軍事境界線の南側の領域対象だけに限られている。一方、日本の自衛隊は、軍事境界線の北側の北朝鮮軍の動向を偵察できる偵察衛星数機を保持している。GSOMIAはこうした両国間の情報収集ギャップを埋める協定だった」

 マックスウェル氏はこれ以上は韓国の偵察衛星の能力には触れていなかったが、韓国が現在にいたるまで北朝鮮領内を偵察できる独自の人工衛星を保有していないことは韓国側からの情報でも明らかとなっていた。

断られた偵察衛星の「レンタル」

 考えてみれば、これは驚くべき現実である。北朝鮮は長年、韓国を公然たる敵とみなし、いつでも軍事攻勢をかけられるかのような言動をとってきた。トランプ政権の圧力により最近こそ敵対的な姿勢は後退したかに見えるが、北朝鮮の韓国に対する軍事的脅威は変わってはいない。

 その韓国が、北朝鮮内部のミサイル発射や地上部隊の進撃の動きをつかむ人工衛星を保有していないというのだ。

 韓国の中央日報などの報道によると、韓国政府は2017年8月に、レーダー搭載衛星4機と赤外線センサー搭載衛星1機の計5機の偵察衛星を2021年から3年の間に打ち上げて運用するという計画を発表した。しかし、この計画が完成する2023年まで、つまり2017年から約6年間は、北のミサイル発射の兆候を探知する方法がない。そこで、韓国軍は偵察衛星の「レンタル」というアイデアを思いつき、諸外国に打診したという。

 このあたりの実情は日本でも産経新聞の岡田敏彦記者が2017年9月に詳しく報道していた。韓国政府はイスラエル、ドイツ、フランスの3国に偵察衛星の借用を求めたが、いずれも断られたというのだ。その結果、現在にいたるまで韓国は独自の北朝鮮偵察用の衛星を持っていない。この韓国の態度を、岡田記者は楽観や怠慢が原因だとして批判していた。

 一方、日本は北朝鮮のテポドン・ミサイルの脅威への自衛策として、2003年頃から北朝鮮の軍事動向を探知できる人工偵察衛星の打ち上げ計画に着手した。2013年には光通信衛星とレーダー衛星という2種類の偵察衛星を打ち上げて組み合わせることで、北朝鮮内部の動きを探知できるようになった。

 人工衛星はその後、機能強化、追加の打ち上げなどを経て、現在も光通信衛星2機、レーダー衛星5機の運用体制が保たれているという。つまり、北朝鮮内部の危険な軍事行動を察知する人工衛星の情報収集能力は、韓国よりも日本のほうがずっと高いということなのだ。
 マックスウェル氏は、だからこそ韓国が日本との軍事情報交換の協定を破棄することは賢明ではないと断じるのだ。北朝鮮の軍事動向に関する情報源は、もちろん人工衛星以外にも北朝鮮内の通信傍受やスパイや脱北者からの通報など多々あるが、偵察衛星の役割も非常に大きいといえる。
 米国の人工衛星での情報収集能力は、言うまでもなく日本よりずっと高い。韓国政府はGSOMIAがなくても、これまでと同様に米国からその情報を入手することができる。だが、それでも日本からの情報を遮断する措置は害はあっても益はない、ということだろう。

米国にとっては「裏切り行為」

 マックスウェル氏はこの論文で、韓国のGSOMIA破棄が米韓同盟に悪影響を与える点も強調していた。

 同論文によると、トランプ政権のエスパー国防長官は、8月に韓国を訪問して文在寅大統領と会談した際、GSOMIAの継続を相互に確認し合ったと解釈していた。だから、米側は文政権の今回の措置を裏切り行為に近いと捉えているという。

 また同論文は 韓国の措置が米国の政策にも害を及ぼし、逆に北朝鮮とその背後にいる中国やロシアを利することになる点を強調して、韓国政府への非難を繰り返していた。

【私の論評】今のままだと、韓国は周辺諸国からは安保でも経済でも「どうでも良い」国に成り下がる(゚д゚)!

冒頭の記事にあるような内容は、軍事専門家や評論家の間ではよく知られた事実です。このブログでも、これに近い内容は過去の記事にも掲載してきました。ただし、散発的に掲載したもので、上記のようにまとまった内容ではなかったので、本日掲載させていただくことにしました。

米国・日本・韓国の3カ国間による軍事協定が存在することの意味は、対北朝鮮・対中国という反共を目的とした軍事協定に他ならないです。その軍事協定を韓国が破棄するということは、韓国が日米との自由主義協定を捨て去ることを意味しています。

日韓におけるGSOMIA【軍事情報に関する包括的保全協定】は3年前の2016年11月23日に締結されました。協定は1年ごとに自動更新されることになっており、更新しない場合は3ヶ月前に申し出なければならないですが、奇しくも昨日8月23日はその更新を決める締め切り日に当たる日でした。

日韓GSOMIA協定は朴槿恵前大統領のときに締結された

この図ったかのようなタイミングの良さは、韓国にとっては、まさに渡りに船で、日本の輸出規制のせいでGSOMIAを破棄しなければならなくなったとうそぶくことが1つの目的なのだろうと考えられます。

もともと、文在寅氏は左翼革命家(出身は人権派弁護士)として南北朝鮮を統一するという目的を持った人物です。ところが、マクロ経済の理解が乏しいせいか、左翼的な経済政策が失敗し、米朝問題では存在感を示せずに蚊帳の外に置かれ、日韓問題でも、行き過ぎた反日政策が仇となり、もはや切り札としての「反日」というカードには使用期限が付いてしまっていました。

この八方塞がりの状況を打破しない限り、文在寅氏は、かつてのその他多くの韓国大統領達と同じような末路を辿ることが予感されていました。

そのためでしょうか、やぶれかぶれとなり、自国のゴールにオウンゴールするという奇策を講じました。一見すると、狂ったかのような行動にも見えますが、当の本人は至って、本気なのかもしれないです。

韓国が「GSOMIAを破棄したのは日本のせいだ」と米国に吹聴することで日米間の信頼に亀裂を生じせしめ、その隙に北朝鮮に擦り寄ることを計画しているのかもしれないですが、そんな子供騙しの計画は、当初から成功する可能性は限りなく0に近いものでした。そのような幼稚な策に騙されるほど世界の目は節穴ではありません。

このままいくと、近い将来、軍事的関係としては、(米国+日本+台湾)vs(中国+北朝鮮+韓国)という構図になっていくのかもしれないと思う人も多いかもしれません。

しかし、私はそうではないと思います。おそらく(米国+日本+台湾)vs(中国+北朝鮮+ロシア)という構図になっていくことでしょう。ただし、それは見かけだけのことで、各国それそれぞれが、それぞれの思惑があり、その思惑がありながらも、外見上は上記のような構図で動いていくということになるでしょう。

ただし、(米国+日本+台湾)は、各々の国の思惑があるとはいえ、それは互いにあまり離反することはなく、大きな共通の目的があり、(中国+北朝鮮+ロシア)ほど各々の思惑が離反していることはありません。

ただ、(米国+日本+台湾)(中国+北朝鮮+ロシア)これらすべて国々に共通する考えがあります。それは、南北朝鮮の統一などではなく、朝鮮半島の現状維持です。北と韓国が分離された状態が続くことを望んでいるのです。

どの国も朝鮮戦争終了後の秩序をそのまま維持することを望んでいます。この事実を文在寅は見誤ったのです。特に、北朝鮮は統一を望んでいると、錯覚したのです。

金正恩の望みは、一つであり、それは金王朝の存続です。どのような形であれ、朝鮮半島の南北を統一してしまえば、チュチェ思想を学んだこともなく、金王朝にもともと尊敬の念などない韓国人が北朝鮮にも多数入ってくることになります。

金正恩の望みは唯一、金王朝の存続

そのようなことは金正恩は到底許容できません。にもかかわらず、南北統一に関心があるように、文在寅にみせかけたのは、一重に苦しい制裁逃れをしたかったからです。しかし、文は金のその腹を読むことができず、南北統一で舞い上がってしまったのです。

この状況では、韓国は、自由主義陣営にも、共産主義陣営にも入れないでしょう。おそらく、安全保障上は空き地のような存在になるでしょう。

なぜなら、北朝鮮にとって中国は親の友人ではなく、その証左として、金正恩は、自分の叔父である張成沢氏を処刑し、自分の兄である金正男氏を暗殺しました。両名とも、かなり中国に近い存在でした。

金正恩は、中国の干渉を極度に嫌っています。そのため、北朝鮮と北朝鮮の核が中国の朝鮮半島への浸透を防いでいます。これに関しては、韓国が自由主義陣営から抜けても、同じことでしょう。

まかりまちがって、中国が韓国に軍隊を送ろうとしたり、送った場合、北朝鮮はそれを歓迎することなく、中朝国境付近と38度線の軍備を増強したり、短距離ミサイルの発射を繰り返し、中国と韓国を恫喝するでしょう。

このようなことになれば、南北統一を目指して、韓国が自由主義陣営から抜け出せば、安全保障上は空き地のような存在となり、経済的にも日米からの支援がなくなり、中国も支援することなく、かなり経済が疲弊することになります。

おそらく、韓国の経済は北朝鮮よりはましという程度のものになるでしょう。

それでも韓国は、表面上は共産主義をとりいれたようにみせかけるかもしれませんが、中国にはまともに相手にされないでしょう。無論ロシアも経済的に疲弊した韓国には何の興味ももたないでしょう。

かくして、韓国は、周辺諸国からは「どうでも良い」国になります。ただし、日米は韓国に北や中国の軍隊が入ることを許容しないでしょう。中露は、米軍が再び韓国に入ることを許容しないでしょう。

もし、そういう状況となり、韓国が安全保障上も経済的にも無意味な存在なれば、歴史的には文在寅大統領が韓国を滅ぼしたということになる可能性があります。実際今のままだと、そうなる可能性か高いです。それに、もうすでにそうなりかけています。

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2019年9月3日火曜日

「第2の天安門」の懸念が消えない香港デモ―【私の論評】香港のインターネットをはじめとする、あらゆる通信手段がシャットアウトされたとき、中国の香港への武力侵略が始まる(゚д゚)!

「第2の天安門」の懸念が消えない香港デモ

岡崎研究所

「逃亡犯条例」の改正をめぐって始まった香港の抗議デモは、10週を超え、空港や市内の交通機関を麻痺させるほど展開を見せている。これに対して、中国共産党は、人民解放軍を香港の近くに集結させる等、「第2の天安門事件」が香港において起こりうるような状況が出てきている。

中国人民解放軍

 8月8日付の英エコノミスト誌は、天安門事件のようなことにならないようにとの希望、期待を表明し、そういうことになった場合、「中国の安定も繁栄も」悪影響を受けると中国に警告している。しかし、中国の共産党指導部がどう考えるか、予断を許さない状況である。

 ここで思い出される事件は、1968年のソ連軍のチェコ侵攻である。まさかソ連がそこまで乱暴なことはしないであろうと考えていたが、間違いであった。8月21日、タス通信が、「ソ連はチェコ人民に友好的援助を提供することにした、その援助には軍事的手段によるものも含まれる」と報じ、ソ連軍は、チェコに軍事侵攻した。実は、この侵攻の前に、赤軍とワルシャワ条約機構の軍隊がチェコ周辺で演習をしていたことが、あとから分かった。

 今回も、香港に近い深圳で人民解放軍が演習をしている。部隊が集結している。それを踏まえて、トランプ大統領は、中国に自制を求め、習近平主席に香港のデモの代表者らと対話することを訴えているが、習近平がそれに応じる気配は今の所ない。

 人民解放軍は、香港自治政府の要請があれば、いつでも出動する用意があるとしており、国務院の香港担当部局は、我々の自制を弱さと受け取ってはならないと警告を発している。

 香港の抗議デモ隊の側も、香港自治政府側も、不信を乗り越えて対話するなど、事態を鎮静化する方向で努力すべきであろう。逃亡犯条例改正問題は、抗議者側が実質的にそれを阻止することに成功した。更なる民主化をという気持ちはわかるし、警察のやり方への憤懣もわかるが、ほどほどに要求を抑える必要がある。香港独立、香港人が主役の香港など実現不可能である。香港の特別な制度は2047年までは続くことになっている。その制度、地位を守るためには、多少の妥協も必要になろう。

 中国は、米国の策謀、テロの兆しを指摘し、軍事介入した場合の口実作りをしている気配がある。また、中国のこの問題への対処ぶりは、外交上の考慮よりも内政上の考慮で決められる可能性が高い。新疆ウイグル、チベット自治区の現状を見ても、香港の将来が明るいとは決して言えないだろう。1989年と比べても中国は大きくなりすぎた。1997年に、香港の「一国二制度」が50年間続けば、中国も民主化するのではないかと言われていたことが、幻想であったことは、今日の状況を見れば明らかである。

 そんな中、8月20日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙に、米上院院内総務のマコーネルが、香港のデモを支持する論説を掲載した。マコーネル院内総務は、香港の問題は北京の国内抑圧の強化と海外での覇権追求の結果である、香港の自治が侵食されれば米上院は対応措置を取っていく、中国は混乱を回避すべきであると述べている。中国が香港に武力介入することがあれば、すぐに米国議会が何らかの措置を取ることになるだろう。トランプ大統領も習近平主席に対して、香港に武力介入したら議会が対抗措置を取るから、貿易で取引も出来なくなってしまう、だから止めてほしい、と述べている。

【私の論評】香港のインターネットをはじめとする、あらゆる通信手段がシャットアウトされたとき、中国の香港への武力侵略が始まる(゚д゚)!

まずは、冒頭の記事にもある、1968年のソ連軍のチェコ侵攻について振り返っておきます。



チェコスロヴァキアでは、1948年に成立したチェコスロヴァキア社会主義共和国のノヴォトニー共産党第一書記による政権のもとで、経済の停滞と言論の抑圧などに対する不満が強まっていました。1968年に民主化運動が盛り上がり、ノヴォトニーは辞任、後任にドプチェクが就任しました。

ドプチェク第一書記は、路線の転換と民主主義改革を宣言、一気に「プラハの春」と言われた改革を実行しました。3月にはノヴォトニーは大統領も辞任、代わって第二次世界大戦の国民的英雄スボボダが選出されました。ドプチェクの改革は社会主義を否定するものではなく、「人間の顔をした社会主義」という言葉で示されるように、国民の政治参加の自由、言論や表現の自由などを目指すものでした。

この動きに対してソ連のブレジネフ政権は社会主義体制否定につながると警戒し、介入を決意、1968年8月20日にソ連軍を主体とするワルシャワ条約機構5カ国軍の15万が一斉に国境を越えて侵攻、首都プラハの中枢部を占拠してドプチェク第一書記、チェルニーク首相ら改革派を逮捕、ウクライナのKGB(国家保安委員会)監獄に連行しました。

これがチェコ事件と言われるもので、全土で抗議の市民集会が開かれ、またソ連の実力行使は世界的な批判を浴びました。スボボダ大統領は執拗にドプチェクらの釈放を要求、ソ連は釈放は認めましたが、ソ連軍などの撤退は拒否しました。

当時世界は、まさか当時(戦後23年、社会主義国チェコ・スロバキア独立より20年)のソ連が、ソ連軍を主体とするワルシャワ条約機構5カ国軍の15万人もの軍隊をチェコに侵攻させるとは思いもよりませんでした。

こうした苦い経験があるからこそ、上の記事では「第2の天安門事件」が香港において起こりうることを憂慮しているのです。

しかし、香港が大英帝国の統治下にあったときから、今日に至るまで、香港は他国から武力侵攻を受けた歴史はありません。日本軍も、香港には武力侵攻していません。あくまで、平和的に英国から行政権を移譲という形式で統治しています。

なぜ、香港が武力侵攻されなかったのか、それにはそれなりの理由があります。

それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
香港騒動でトランプは英雄になる―【私の論評】トランプの意図等とは関係なく、香港の自治が尊重されないなら、米国は香港を中国と別の扱いにすることはできない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、現在の香港が中国の武力侵攻を受けにくい理由に関する部分のみ以下に引用します。
 ところが、まずそうした状況にはならないだろうと楽観視しているのは香港の事情に精通する米国人ジャーナリスト、ワシントン・ポストのマーク・セッセン記者だ。 
「中国の軍隊が香港に侵入し、香港市民の抗議デモを鎮圧するのはかなり難しいのではないのか。軍隊を出動させても抗議デモを天安門の時のように鎮圧できないからだ」 
 その理由を3つ挙げている。 
 1つは、香港の地形だ。香港島、九龍半島、新界と235余の島からなるが、山地が全体に広がり、平地は少ない。香港島北部の住宅地と九龍半島に人口が集中している。 
 市街は曲がりくねった狭い迷路だらけ。それに坂が多い。重装備の戦車や装甲車が活動するには極めて不適切だ。 
 2つ目は、今回の抗議デモには指導者がいないし、1か所を叩いてもすぐほかの場所で抗議デモが始まる。モグラ叩きのようなものだ。 
 現在は6月に200万人デモを行った民主派団体「民間人権陣線」が抗議活動の指揮を執っているようだが、市民は自然発生的に広がっている。 
 3つ目は1989年の天安門事件の当時にはなかったSNSをはじめとするインターネットの普及だ。市民間のコミュニケーションの手段になっているだけでなく、中国軍の一挙手一投足が動画で世界中に流れる。 
 中国政府の全く統制の取れない状況下で中国軍対香港市民の武力衝突→多数の死傷者といった事態が同時多発的に全世界に流れる。 
 それが習近平国家主席と中国共産党にとってどんな意味を持つか。知らぬはずがない。 
https://www.washingtonpost.com/opinions/2019/08/15/china-does-not-have-upper-hand-hong-kong-trump-does/
確かに、香港は市街戦をするにしても、なかなかできそうにもありません。攻める側は相当苦戦と犠牲を強いられるでしょう。

デモ隊の鎮圧もかなり困難を極めるでしょう。

実は香港には、すでに中国人民解放軍(PLA)の守備隊約5000人が駐屯しています。ただし、これは返還後から続いていることで、ふだんは存在感が薄く、中国の主権を示す象徴的な存在に過ぎません。

とはいいながら、7月31日にはこの守備隊が、兵士の訓練動画という形で沈黙を破りました。動画では兵士が広東語(香港の公用語)で「何があっても自分の責任だぞ」と叫んだり、香港警察がデモ制止に使う決まり文句「停止衝撃否則使用武力(突入を止めろ、さもなくば武力を使うぞ)」が書かれた赤い警告旗を掲げて行進したりしています。

これは中国側からの「警告」と、広くとらえられた。中国政府からは「火遊びをすれば大やけどをする」、「(中国の)抑制的な姿勢を弱さと勘違いすべきではない」といった発言も出ています。

しかし、中国が軍事介入をした場合、国内的にも国際的にも政治的リスクがあまりに大きく、事態を悪化させるのは必定です。

軍事介入は圧倒的なものでない限り、ますます抵抗を呼ぶことになるでしょう。では、他の方法で、香港を制圧することはできるのでしょうか。

まずは、中国は政治介入による制圧が可能かということがあります。これに関しては、議論の分かれるところですが、すでに中国は何度も香港に政治介入をしており、それが最近の抗議行動につながっていると見ることができます。

香港の立法会(議会)は中国寄りです。2017年には大規模な抗議デモにもかかわらず、ひとつの法律を成立させました。香港トップの行政長官に立候補する人は、親中国のメンバーが多数を占める委員会であらかじめ承認される必要がある、という内容でした。

さらに、当選した行政長官は中国政府の承認を得なければならず、その後に閣僚を選出できるとされました。

2017年の選挙で当選した現職の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、「逃亡犯条例」改定案を立法会に提案。今回の長期にわたる抗議デモを引き起こしました。

林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官

中国政府は林鄭月娥氏の辞任を断固として認めなかったり、同氏が改定案を取り下げるのを拒んだり、あらゆる方法で力を誇示してきました。

中国政府は、世論が林鄭氏の辞任に追い込むことなどできないと示したいので、辞任を認めないでしょう。

仮に林鄭氏が辞めることになっても、中国政府が支持する人が後任になることは間違いないです。

ただし、中国が香港に対して、政治介入を強めれば、強めるほど、香港デモは激化することも間違いないです。

次に、中国は個人を標的にできるでしょうか。今回の抗議デモの発端となった「逃亡犯条例」改定案は、中国政府にとって、香港の政治活動家たちを本土に移送し、有罪と認定する手段になると非難されています。

林鄭氏は、改定案の審議はもう求めないとしています。ところが、逃亡犯条例が改定されないとしても、中国政府が法律のあるなしに関わらず、抗議に参加する市民を拘束するのではないかという心配が、香港で根強いです。

そうした不安を感じさせる有名な事件が、香港の書店主で、中国政府に批判的な本を販売していた桂民海氏をめぐるものです。桂氏は2015年にタイで行方不明になった後、中国にいることが確認されましたが、2003年の交通事故をめぐって拘束されており、裁判で有罪とされ刑務所に送られました。

2017年に出所したが、翌年に中国の列車内で再び拘束されたとみられ、それ以降は行方が確認されていないです。

活動家の家族が中国本土に住んでいる場合は、その家族に影響が及ぶことも考えられます。

ただし、個人を標的にして、さらに多数の個人を拘束したとしても、香港デモはさらに激化するだけに終わります。

結局、政治的介入も、個人を標的することでも、中国は香港のデモを鎮圧できないことになります。

では、中国にとって残された道は、香港に人民解放軍を送りこみ、武力鎮圧して、香港そのものを中国領土にしてしまうのでしょうか。

これも、できそうもありません。共産党政権は香港を利用してきました。香港を窓口にして西側の情報を収集し、金融センターとしての利点を十二分に活用。先端技術と豊富な資金を延々と本土に吸い上げてきました。

ただし自分が強くなったので香港を切り捨てるかというと、そうもいかないのです。北京にとって、情報収集窓口や金融センターとしての利用価値は下がりつつありますが、それ以上に重要なのは香港が共産党高官たちの「蓄財の要塞」として機能している点です。

国家主席の習近平を含め、共産党政権の高官たちはほぼ例外なく香港に不正に獲得した財産を隠匿している、と報道されています。「祖国内部に不正蓄財」するわけにいかないので、彼らは今後も「半死」状態の香港に、限られた「繁栄と自治」を与え続けるでしょう。

そうなると「香港民族」の都市国家建設の夢も消えないでしょう。それは、中国共産党としては許容できないので、結局いずれ、香港を武力鎮圧することになる可能性は高いです。

ただし、武力鎮圧の直前には、インターネットをはじめあらゆる通信手段をシャットアウトするでしょう。そうして、中国は、人民解放軍ではなく、鎮圧の専門部隊である、人民武装警察を大量に動員して、香港を鎮圧するでしょう。当然多数の犠牲者は出ますが、それでもあまり犠牲者を出さないことと、情報を切断することで、中国は世界からの批判をかわそうとるするでしよう。

ただし、世界からの批判は中国政府が思ったよりも激しいものになり、天安門事件の直後のように、世界中から制裁を受け、当惑することになるでしょう。それで、習近平は失脚することになるかもしれません。

その後香港にはは、中国政府の傀儡政権ともいえるような、行政府ができあがり、限られた「繁栄と自治」を与えられ、細々と生きていくといことになるでしょう。香港が元に戻れるのは、中国が崩壊したときになるでしょう。

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2019年9月2日月曜日

ナチスドイツのポーランド侵攻から80年 戦争賠償をポーランドがいまドイツに請求する理由―【私の論評】戦争責任をナチスに押し付け、自分たちもナチスの被害者とするドイツ(゚д゚)!


ポーランドに侵攻するドイツ軍、それを激励するヒトラー

「戦後補償」をめぐり日韓関係が再び袋小路に入っている。こうしたとき、ドイツの「戦後処理」の仕方が模範として引き合いに出されることが多い。

だがそのドイツがいま、ポーランドから「戦争賠償」を請求されている。ドイツ政府は1953年に解決済みとしているが、なぜポーランドは21世紀に入ってから賠償請求しているのか。米メディア「ブルームバーグ」がポーランドからレポートする。

ナチのポーランド侵攻から80年

ドイツは隣国ポーランドに対して、第二次世界対戦の開始から80年を経て、赦しを乞うた。一方、ポーランドの首相はドイツに対して改めて戦争補償金を求めた。

ドイツのフランク=ヴァルター・シュタインマイアー大統領は、1939年9月1日のナチスドイツ空襲で初めて大勢の一般市民犠牲者を出したポーランドのビエルンを訪れ、ドイツは過去を忘れず、あの戦争の恐怖と残虐行為の責任をとると語った。

演説するドイツのシュタインマイヤー大統領

ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領に招かれた式典で、シュタインマイアーは最初にドイツ語で、次にポーランド語で次のように述べた。

「ビエルン空襲の犠牲者の前に頭を垂れ、ドイツの残虐行為の犠牲者の前に頭を垂れ、赦しを乞います」

9月1日、ワルシャワで開かれた、世界史上最も血にまみれた戦争の開始を記念する80回目の式典には、米国のペンス副大統領、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領ら約40名の首脳たちが列席した。

米国のトランプ大統領は欠席の理由を、ハリケーン「ドリアン」が南大西洋岸の州に大規模被害をもたらす可能性があるので、米国にいる必要があるからとした。

「ねじれたイデオロギー」

ワルシャワにある「無名戦士の墓」の近くで、ペンス米副大統領は、第二次大戦中「ポーランド人以上に、勇気と意志と義憤をもって戦った人々はいない」と述べた。

ポーランドのドゥダ大統領は、かつてのユーゴスラビアやルワンダでの民族虐殺、近年のロシアによるウクライナやジョージアへの侵攻に触れ、世界は第二次大戦から教訓を得ていないと述べた。

ペンス米副大統領は、20世紀の「ねじれたイデオロギー」に触れ、それらが「暗殺部隊、強制収容所、秘密警察、国家プロパガンダのしかけによる嘘の蔓延、教会の破壊、信仰を持つ人々への終わりなき敵意」につながったのだと非難した。

演説するマイク・ペンス米副大統領

ナチズム・共産主義の全体主義という悪によって、人類は歴史上で「神を忘れた」時期に至ったともペンス副大統領は述べた。

バルト海からのポーランド侵攻を記念するグダニスクで開かれたまた別の式典で、ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は、物議を醸している戦争賠償金の話題を再び持ち出した。ポーランドの西隣りにして最大の貿易相手であるドイツに、侵略と占領による経済的損害の責任をとるよう呼びかけたのだ。

2019年3月、ポーランドの特別国会議員委員会が公表した予備研究では、6年間の戦争でポーランド経済は8500億ドル(90兆円)以上の代償を払った可能性があることが示された──同国のほぼ2年分の生産高に近い額だ。

一方、ドイツ政府としては、すべての請求はずっと昔に解決済みだとしている。

補償要求

「犠牲者を覚え、そして補償を要求すべきだ」とモラヴィエツキ首相は述べた。

ポーランドは、第二次大戦の賠償請求を戦後数十年で解決した西欧諸国と異なり、共産主義時代の領主モスクワに賠償請求を事実上阻止されたと主張している。

ポーランドがドイツと戦後の国境条約に署名したのは、「鉄のカーテン」が開いた1年後の1990年になってからようやくのことだ。

約600万人──その半数がユダヤ人──が殺された1939~1945年の戦争に関する補償要求により、2017年以来、ワルシャワとベルリンの関係は悪化している。

共産党当局による1953年の宣言は、ソビエト連邦の傀儡政権によるものであって、独立した決定ではなかったとポーランドは主張している。一方的な宣言は、「当時の憲法秩序に添って、またソビエト連邦の圧力のおそれの渦中でなされたのであり、承認されえない」とポーランド政府は2004年に述べているのだ。

【私の論評】戦争責任をナチスに押し付け、自分たちもナチスの被害者とするドイツ(゚д゚)!

1970年12月7日ドイツ連邦共和国のブラント首相(当時)が黒衣に身を包み、ワルシャワのユダヤ人犠牲者記念碑前でひざまずき許しをこいました。

ワルシャワのユダヤ人犠牲者記念碑前でひざまづいたブラント首相

1985年5月8日、リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカーが議会で「終戦40周年演説」を行い、日本ではいわゆる左翼が狂喜乱舞しました。

この演説は、日本においては左翼によって歪められ、以下のような通説を生み出してしまいました。
ヴァイツゼッカーの「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります」との発言に耳を傾けよ。ドイツはナチスの犯罪を謝罪し、歴史問題を解決している。
そして、「日本もドイツを見習い謝罪と賠償をしろ」と左翼の連中は騒ぎ立てました。

しかし、ブランとやヴァイツゼッカーに限らず、多くのドイツ人はナチスの犯罪を謝罪などしていません。むしろ、責任をナチスに押し付けています。彼らにとっては、自分たちもナチスの被害者なのです。

ユダヤ人に対しても補償はしても賠償はしていません。保証と賠償は、お金を渡すことでは同じですが、その意味合いは全くことなります。補償は「お悔み申し上げます」、賠償は「私が悪うございました」ということですです。まったく意味が異なります。

それに対し、日本は多くの国々に対して、賠償をしています。非を認めているのです。残念ながら、日本では過去の政権が、そうした日本の態度を毅然と国際社会に発信したという話は聞いたことがありません。

日本の歴史学者や教育者のなかには「ヒトラーより悪いことをした国がある」と大日本帝国を批判する人がいますが、これがドイツをどれだけ喜ばせたことでしょうか。

同じ年の9月、G5はプラザ合意をしました。詳細は他の文献を参照していただくものとして、要するに米国が日本に円高不況を押し付けてきたが、当時の大蔵省に心ある人がいて日銀にバズーカを撃たせたら勢い余ってバブル好況になり、米国の連邦準備制度理事会(FRB)のほうがお家騒動になった、という話です。

冷戦期の日本など、国際関係を除けば、これが最大のできごとだったといっても過言ではありません。

これとて、米英仏がソ連をつぶそうと本気で軍拡をしているときに、西ドイツと日本に軍費を求めたというのが真相です。

西ドイツは核武装こそしていませんが、戦車を大量に所有する、ヨーロッパ最大の陸軍国です。それでも「経済大国として威張っていられるのは軍拡が足りないからだ」と“矢銭”を押し付けられるわけです。

二つの世界大戦の記憶を忘れない米英仏は、現実に西ドイツに軍拡を求めながらも、必要以上の軍事強国化を恐れているから、「ほどほどに軍事協力させ、金は巻き上げる」という方式をとってきたのです。

コールもそれをわかっていたからこそ、自国が不況になるのを覚悟でマルク高誘導に応じたのです。

さて、矢銭を押し付けられてきたということでは似ている日独ですが、第二次世界大戦に関する考え方は全く違います。

日本は、当時の軍部等の非を認めています。これは、当然といえば当然のことです。戦争自体は、悪いことですから、戦争した国は、どちらか一方だけが良いとか、どちらか一方だけが悪い等ということはありえず、どちらの国にも何らかの非があるはずです。

日本は非常に常識的だったので、大東亜戦争に関して日本の非を認めたわけです。しかし、ドイツはそうではありません。

ドイツはナチス・ドイツと自分たちを全く異なるものとして、ナチス・ドイツを悪魔化し、ナチス・ドイツとその直接の協力者については処断したものの、それ以外の人々は犠牲者であるとしたのです。

しかし、この見方は一方的に過ぎます。たしかに、日本の戦争とドイツの戦争は根本的に異なるものであり、当時の国の体制も異なります。特にドイツはナチスによる全体主義体制により、戦争を遂行しましたが、日本はそうではありませんでした。これを同一視するような人は、全体主義についてもう一度良く考えてみるべきです。ここでは、本論からそれるので、詳細は説明しません。

確かに、戦争中のドイツはナチスによる全体主義だったのですが、ドイツ国内でナチスを台頭させてしまった責任は、多かれ少なかれ、ナチス以外の人々にもあったはずです。実際ナチスを台頭させないためのチャンスは何度もありました。にもかかわらず結局ナチスは台頭してしまったのです。ドイツは未だにそれに関する過ちは、認めていません。

戦争直後も、現在に至るまで、ドイツの知識層が、それに関する反省の弁を語ったことはありません。しかし、日本は常識的に戦争責任を認めたので、そこを様々な戦勝国につけ込まれる隙を与えてしまったのです。

挙げ句の果に戦勝国でもない韓国にもつけ込まれ、すでに戦後賠償は終了したにもかかわらず、いつまでも金づるにしようとされてきたのです。

まさに、ヴァイツゼッカーの"「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります」との発言に耳を傾けよ。ドイツはナチスの犯罪を謝罪し、歴史問題を解決している"との通説が生まれる背景として存在していたのです。

さすがに韓国に対しては、いつまでも金づると考えられては困るということで、最近の日本は韓国に対しては一定の距離を保つようになりましたが、これはいずれ大東亜戦争の戦勝国に対してもそのようにして行くべきなのです。

そうでないといつまでたっても、日本では「戦後」は終わらないのです。

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2019年9月1日日曜日

米国、米韓同盟破棄を真剣に検討か―【私の論評】韓国はいまのままなら文によって、日米を蔑ろにしつつ、相手にされてもいない北や中国に秋波を送り続けることになるだけ(゚д゚)!

米国、米韓同盟破棄を真剣に検討か

韓国はもはや味方にあらず、日米豪印同盟に舵切る米政権


「韓国は米軍のリスクを増大させた」

 韓国の文在寅政権による日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄のショックが冷めやらぬ中、ドナルト・トランプ米大統領と安倍晋三首相がフランス南西部ビアリッツで会談した。

フランス南西部ビアリッツで会で会談をしたトランプ米大統領と安倍首相

 会談後の政府高官によるブリーフィングによると、両首脳は日米韓連携の重要性は確認したものの、GSOMIA破棄に関するやりとりはなかったという。

 首脳会談内容のブリーフィングではこうした「ウソ」はままある。

 筆者の日米首脳会談取材経験から照らしても、首脳会談後のブリーフィングがすべて「包み隠さぬ事実」だったためしがない。

 オフレコを条件に米政府関係者から話を聞いたという米記者の一人は筆者にこうコメントしている。

 「(文在寅大統領の決定に対する)トランプ大統領の怒りは収まりそうにない。それを安倍首相にぶつけないわけがない」

 「ただ、憤りはちょっと置いておいて、当面文在寅大統領の出方を静観することで2人は一致した。大統領は『韓国に何が起こるか見守る』とツィートしているのもそのためだ」

 だが、日米首脳会談の直後、「伏せた部分」はほぼ同時刻、モーガン・オータガス米国務省報道官が公式ツィッター上で意図的に(?)「代弁」している。

 「韓国政府のGSOMIA破棄決定に深く失望し懸念している。これは韓国を守ることをさらに複雑にし(more complicated)、米軍に対するリスク(risk)を増大させる可能性がある」

 米国務省は22日、同趣旨の報道官声明を出している。今回は韓国の決定が「米軍に対するリスクの増大の可能性」にまで言及した。ダメを押したのだ。

平気でウソをつく文在寅政権

 米国の怒りようは半端ではない。

 米政府高官たちが怒っているのは、文在寅大統領のブレーンにあれほど「破棄するな」と要求していたにもかかわらず、しらっと破棄に踏み切ったからだけではない。

 発表に際して、文在寅政権の高官でこの問題の最高責任者がぬけぬけと嘘をついたからだ。

 金鉉宗・国家安保室第2次長だ。

 タイトルから見ると偉そうに見えないが、韓国人記者によれば「ニクソン政権時代のヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官のような存在」らしい。

 今年6月の時点からワシントンを訪問し、日韓間の確執について文大統領の言い分をトランプ政権高官に直接説明に来たのはこの人物だ。

 金鉉宗第2次長は、韓国人記者団にこうブリーフィングした。

 「米国は韓国にGSOMIA延長を希望した。米国が表明した失望感は米側の希望が実現しなかったことに伴うものだ」

 「外交的な努力にもかかわらず、日本から反応がなければGSOMIA破棄は避けられないという点を米国に持続的に説明した。私がホワイトハウスに行き相手方に会ったときにも、この点を強調した」

 「またGSOMIA破棄の決定前には米国と協議し、コミュニケーションを取った。米国に(韓国の決定についての)理解を求め、米国は理解した」

 この発言に米政府高官は直ちに反論した。

 「韓国政府は一度も米国の理解を求めたことはない」

 別の政府高官は韓国通信社ワシントン特派員に対して厳しい表現でこう述べている。

 「これはウソだ。明確に言って事実ではない。米国政府は駐米韓国大使館とソウルの韓国外務省に抗議した」

 外交儀礼として相手方の大統領府高官の発言を「ウソだ」と言うのも異例なことだ。

http://www.koreaherald.com/view.php?ud=20190823000106
https://www.asiatimes.com/2019/08/article/us-verbal-broadside-at-seoul-over-axing-of-pact/

 「文在寅は長年にわたって築いてきた米国家安全保障体制をぶち壊した」

 ワシントン駐在の外交官たち(無論その中には韓国大使館員たちも含まれる)にとっては「虎の巻」ともされている米外交政治情報を流すニューズレターがある。

 購読料が高いので一般の人の目にはとまらない(筆者は米政府関係筋から間接的に入手することができた)。

 米政権中枢の極秘情報を提供する「ネルソン・リポート」だ。

 同リポートは韓国政府の決定直後の米政府高官・元高官の露骨なコメントを記している。さすがに主要メディアはそこまでは報じない、歯に衣着せぬコメントばかりだ。

トランプ政権高官:
 「文在寅という男は本当に阿呆(Fool)。どうしようもない」

駐韓国大使館で高位の外交官だった人物:

 「文在寅は戦略的痴呆症(Strategic stupidity)と言い切っても過言ではない」

米情報機関で朝鮮半島を担当した専門家:

 「文在寅の決定は愚かで誤り導かれた決定(Foolish and misguided decision)以外のなにものでもない」

 「後世の史家は、こう述べるに違いない。『この決定は何十年にもわたって築き上げられてきた北東アジアにおける米国の安全保障の中枢構造が終焉する、その始まりを暗示するシグナルだった、と』」

別の米外交官OB:

 「文在寅という男は、韓国に対する安全保障上の脅威(Security threats)はどこから来ると思っているのか、全く分かっていない」

 「コリア第一主義(Korea First Tribalism)に凝り固まった衆愚の知恵(Wisdom of the crowd)としか言いようがない」

「日米韓三角同盟よ、さようなら」
「日米豪印同盟よ、いらっしゃい」


 GSOMIA破棄決定を受けて米国は今後どう出るのか。

 短期的には北朝鮮のミサイル情報収集としては、2014年に締結された日米韓の「軍事情報共有協定」(TISA)がある。これまでGSOMIAと並行して機能してきた。

 同協定に基づき、米国を介した日韓間の情報交換は今後も継続させるというのが米国の方針だ。

 GSOMIAもTISAも何も北朝鮮のミサイル情報だけを扱っているわけではない。むしろもっと重要なのは中国やロシアの動向をチェックすることかもしれない。

 日米軍事情報の共有は今後さらに強化されるだるう。米国は韓国から得た情報をこれまで以上に迅速に日本に流すことになるだろう。

 国防総省関係筋はこう指摘している。

 「米国は文在寅大統領は信用しない。だが、韓国軍は信用している。つき合いは文在寅大統領とのつき合いよりも何十倍も古い」

 「先の米韓共同軍事演習も文在寅大統領の反対を押し切って実施した。それを阻止できなかったから北朝鮮は文在寅大統領を口汚く罵った」

大幅な米軍駐留費分担増要求へ

 韓国政府は、GSOMIA破棄決定を踏まえて今後米韓二国間の安全保障関係を一層強化すると宣言している。

 米国にとってはいい口実ができた。直近の対韓要求は2つある。

 一つは、駐韓米軍駐留費問題(SMA)。

 米韓問題を専門とするダニエル・ピンクストン博士(トロイ州立大学国際関係論講師)は米国はこの問題で高圧的になるとみている。

 「米軍駐留費協定交渉は昨年末以降中断したまま。韓国側は年間10億ドルを分担するとしているが、トランプ政権はその5倍、50億ドルを要求してくるといわれている」

 「協定だから議会の承認が必要だ。来年4月には選挙がある。それまでに協定に合意できなければ、駐留費問題は選挙の最大のアジェンダになってしまう」

https://www.nknews.org/2019/08/what-south-koreas-termination-of-the-gsomia-means-for-north-korea-policy/

 文在寅大統領としては米韓の隔たりを埋めて、穏便に年内に決着させたかったところだが、GSOMIA破棄決定で米国の怒りを鎮めるには米側の法外な要求も受け入れざるを得なくなってきているわけだ。

 もう一つはイランによる外国籍タンカーへの威嚇行動で生じた危機管理問題だ。

 中東ホルムズ海峡を航行する船舶の安全を確保する米主導の「有志連合構想・海洋安全舗装イニシアティブ」への参加協力要請だ。

 ホルムズ海峡は日本同様、韓国にとっても中東からのシーレーン確保の要だ。

 コリア第一主義の大衆ナショナリズムは一歩間違えば、反日から反米に点火する危険性を帯びている。文在寅大統領としても何が何でも米国の言うことを聞くわけにはいかない。

 米国にとっては、長期的にみると、これから5年、10年後の韓国をどうとらえるべきか、という重要懸案がある。

 中国が推し進めている「一帯一路」路線に対抗する米国の「インド太平洋戦略」の中核となる同盟国の構成をどうするか、だ。

 米国内には「韓国は外すべきだ」という主張が台頭している。早晩、韓国は「あちら側」つまり中国サイドにつくと見ているのだ。

 トランプ政権内部ではすでに「韓国抜き」の「インド太平洋戦略」が動き出していると指摘する専門家もいる。

 日本、豪州、インドという準大国を同盟化するというのだ。

 特に経済通商上の理由から米国と中国とをある意味で天秤にかけてきたオーストラリアは、スコット・モリソン政権発足と同時に米国に超接近し、米国の考える「インド太平洋戦略」の構築に積極的になってきたからだ。

http://www.iti.or.jp/kikan114/114yamazaki.pdf

豪ダーウィン港湾に軍用施設建設へ

 その事例がすでにある。

 マイク・ポンペオ米国務長官とマーク・エスパー国防長官は8月、オーストラリアを訪問し、米豪初の国務・国防閣僚による「2プラス2」協議で同盟強化を再確認している。

https://www.theguardian.com/world/2019/aug/04/mike-pompeo-urges-australia-to-stand-up-for-itself-over-trade-with-china

 米軍の豪州駐留永久化だ。

 米国はこれまでオーストラリア北部のダーウィンに近い豪州陸軍基地に米海兵隊を乾期だけに配備してきた。

 この港湾にワスプ級揚陸艦(LHD)が着艦可能な軍用施設を建設することを決めたのだ。すでに総工費2億1150万ドルが計上されている。

 ダーウィン港湾の管理権は15年以降、中国大手「嵐橋集団」(ランドブリッジ)が99年間貸与する契約を結んでいる。当時、中豪協力のシンボルとして騒がれた。米政府は強く反発していた。

 「嵐橋集団」のトップ、葉成総裁は人民政治協商会議の代表。中国共産党とも太いパイプを持っており、ダーウィン港湾管理権貸与の背景には対米抑止力の一翼を担う狙いがあるとされている。

 同港湾に米軍が軍用施設を建設するというのは、小さな一歩かもしれないがシンボリックな意味合いを持っている。

 米国とインドとの関係も直実に同盟化のロードマップに沿って動いている。

https://www.washingtonexaminer.com/opinion/our-most-important-alliance-in-2019-will-be-with-india-but-two-other-big-foreign-policy-opportunities-await

 オバマ政権で国務省コリア部長(韓国と北朝鮮を担当)確認だったミンタロウ・オバ氏はこう指摘する。

「GSOMIA破棄決定に米政府はこれ以上ないほどのネガティブに反応している。オバマ政権が将来を考えて編み出した協定だったからだ」

「当時関係者は『これは北東アジアにおける米安全保障体制にとっての聖杯*1(Holy Grail)だ』と言っていたくらいだ」

*1=イエス・キリストがゴルゴタの丘で磔刑された際に足元から滴る血を受けた杯。「最後の晩餐」の時にキリストの食器として使われたとされる。この杯で飲むと立ちどころに病や傷が癒され、長き命と若さを与えられるとされてきた。

 「ワシントンの多くのアジア関係者は日韓関係に赤信号が灯り始めたと見ている。韓国は今後その戦術展開の幅を狭くしてしまった」

 ワシントンの外交安保専門家たちから見ると、GSOMIA破棄で完全に米国を怒らせてしまった韓国はもはや「米国の同盟国」ではなくなってしまったようだ。

【私の論評】韓国はいまのままなら文によって、日米を蔑ろにしつつ、相手にされてもいない北や中国に秋波を送り続けることになるだけ(゚д゚)!

トランプ米政権は、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が米政府の説得を振り切って日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄し、日韓の対立を安全保障分野に持ち込んだことで、文政権への怒りと不信を募らせています。

South Korea Flag Bikini 

協定の破棄で今後、ほんど日本には悪影響はないとともに、韓国のほうが悪影響があるともされていますが、それは情報のやりとりに関してのみいえることであり、信頼関係が大きく毀損されたことは間違いありません。

日米韓関係筋によると、トランプ政権は韓国が実際に協定破棄を強行するとは事前に認識していなかったとされ、完全に虚を突かれた形となりました。

米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は22日、トランプ政権高官の話として、韓国政府は米政権に対し、協定破棄の意思はないとの態度を事前に示していたと伝えました。

政権高官は「韓国のこうした行動は、文政権が米国などとの集団的安全保障に真剣に関与していく意思があるのか、根本的な疑問を生じさせるものだ」と述べ、韓国の同盟軽視の姿勢を痛烈に批判しました。

政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)のビクター・チャ上級顧問は「協定は北朝鮮の行動に関する日米韓の情報共有を円滑化させてきた」と意義を説明。協定破棄は「米国の同盟システムと対立する北朝鮮や中国、ロシアを利するだけだ」と警告しました。

CSISのビクター・チャ上級顧問

日本にとっては協定破棄で今後、北朝鮮の弾道ミサイルに対する早期警戒能力が低下する恐れはありません。それはつい先日、北朝鮮から短距離ミサイルが発射されたとき、日本のほうがそれをいち早く発表しました。過去の韓国側からの北のミサイル発射情報においては、誤りも多々あり、日本側の公表の後に訂正ということもしばしばありました。

そもそも、韓国は人工衛星がないという点からも、日米から比較すると情報収集能力は格段に劣っています。

しかし、GSOMIA破棄に関して、最も恐れるべきは、今回の行動は明らかに北朝鮮や中国に利する行動であり、そのような行動をとった韓国は信用することなどできません。

韓国から米国への情報に意図的な偽情報が流され米国の国益が直接脅かされる事態となることも考えられます。さらに、その偽情報が米国から日本にもたらされる可能性も否定できません。今後、日米韓連携に加え米韓同盟も弱体化するなどの甚大な影響が出るのは確実です。

北朝鮮のミサイル情報をめぐっては、2014年に締結された日米韓の「情報共有に関する取り決め」(TISA)に基づき、日本と韓国が保有する情報を米国を介して共有する枠組みがあります。

しかし、明らかに北朝鮮や中国に利するような行動をした韓国に関しては、日米ともいつ寝首を搔かれることになるかわからないと考えるのは当然のことです。特に在韓米軍にはそのような危機があるということです。

だからこそ、トランプ政権も安倍政権もこの事態に激怒しているのです。問題は、韓国から情報が入らなくなるなるという程度の些細な問題ではなく、はるかに大きなものなのです。

このブログでは、過去に何度か指摘してきたように、日米、中露、北朝鮮のいずれの国も、朝鮮半島の現状を維持を望んでいます。

日米にとって朝鮮半島に起こり得る最悪の事態は、中国の影響力が朝鮮半島全体に及ぶことです。中露にとっての朝鮮半島の最悪の事態は、韓国ベースで朝鮮半島が統一されてしまうことです。

日本のメディアなどは、韓国を他国が欲しがると言う前提で論じていますが、北朝鮮ですら欲しがらないという現実があります。周辺国が皆要らないと言う視点を持って考える方が現実的です。

金正恩は、南北統一 をしたいなどと望んでいません。金正恩にとっての最優先課題は金王朝の継続なのです。それを前提に考えれば、北は南北統一を望んでいないわけです。北朝鮮は歴代の大統領の末路を良く知っています。南北統一後の朝鮮の大統領になるというのは自分の死刑執行にサインするのと同じようなものです。

それでなくても、南北を統一すれば、幼い頃からチュチェ思想を叩き込まれ、金王朝を尊敬するように仕向けられた北朝鮮人民のほかに、チュチェ思想とは無縁で、金王朝に対する尊敬心など全くない韓国人が北朝鮮領内にも大量に入ってくることになります。

そんなことは、金正恩は、許容できません。さらに、文在寅をはじめ朴槿恵等、朝鮮半島から数十年を経た韓国では、中国に従属しようという行動が目立ちました。これも金正恩には耐え難いことです。

金正恩は、中国の干渉を蛇蝎のごとく嫌っています。それは、中国に近いといわれていた金正恩の叔父であった、張 成沢(チャン・ソンテク)を処刑したことでも、はっきりしています。

さらに、中国に近いとされた、実の兄の、金正男氏を暗殺したことでも、明白です。両者の殺害、ならびにその後の北朝鮮内の中国に近い筋の幹部などの処刑は、北朝鮮内の親中派を震え上がらせたことでしょう。

このように、金正恩が中国を蛇蝎のごとくに嫌っているという事実と、北の核が結果として、中国が朝鮮半島全体に浸透することを防いでいます。

だからこそ、トランプ大統領は北が短距離ミサイルを発射してもほとんど苦言を呈することはありません。北朝鮮の短距離ミサイルは、米国にとっては脅威ではなく、北朝鮮と国境を直接接している中露にとっては脅威だからです。

にもかかわらず、金正恩が文在寅の南北統一等呼びかけに、快く応じてみせたのは、当初は米国への橋渡しを期待したのと、制裁破りや、制裁の緩和を望んでいたからでした。

しかし、鈍感な文在寅は、文在寅への呼びかけに快く応じたので、すっかり舞い上がってしまったのです。しかし、米国との応対が自らできるようになった現在では、文在寅への対応は厳しいものに変わってしまいました。

金正恩と文在寅

南北統一など文在寅の妄想に過ぎないのです。しかし、その妄想に浸りきった文在寅は、今でもその妄想から冷めることができず、北朝鮮や中国に秋波を贈り続け、挙げ句のはてに、GSOMIAを破棄してしまつたのです。

政策研究機関「新米国安全保障センター」(CNAS)のエリック・セイヤーズ非常勤上級研究員は米軍系軍事誌ディフェンス・ニューズに対し、協定は日米韓が今後、ミサイル防衛や対潜水艦作戦など幅広い分野で連携を進めていくための基盤に位置づけられていたと指摘し、韓国による破棄決定で同盟強化の取り組みは「元のもくあみとなった」と批判しています。

こうなると、韓国は文在寅を放逐するか、いまのまま文在寅によって、日米をないがしろにしつつ、北朝鮮や中国にまともに相手にされていないにも関わらす、秋波を送り続けることになるだけです。それは、韓国に何の利益ももたらしません。

そうなれば、在韓米軍の撤退ということになます。その時には、このブログでも何度か掲載したように、米国ならび日本を含む同盟国が、韓国から人や資産を引き上げたり、韓国に築いた様々なシステム(金融その他)や組織等を破壊、すなわち経済的焦土化をして韓国から引き上げることになります。米国は、習近平や金正恩の敵に塩を送るような真似はしません。

その時になっても、北朝鮮が韓国に手を差しのべることはありません。それは、中国もロシアも同じことです。この三国は、経済的にも余裕はないし、韓国に対して何の恩義も感じていません。むしろ、北朝鮮は韓国人難民が押し寄せないように38度線の守りを強化するでしょう。

中国も、ロシアも、船や航空機で押し寄せる難民を受付ないでしょう。無論日本だって受け付ける必要はないのです。ただし、領海の警備を強化することになるでしょう。日本に漂着した難民はすべて韓国に強制相関すようにすべきでしょう。

今年とはいいませんが、いよいよになれば、米国と協調しつつ、10月から12月頃に韓国の経済焦土化をするべきです。冬の日本海は一番厳しいので、1番の防護壁になります。そうして、次の年の春までに領海の警備を強化するようにすれば良いのです。

これには、在日米軍も多数の難民が日本に押し寄せれば、身動きがとれなくなるし、中には武装難民もいるかもしれないので、日本に協力することになるでしょう。

ただし、韓国が経済焦土化されず在韓米軍のほとんどが撤退するという道もあります。それは、韓国が米国中短距離核ミサイルの発射上になるという条件を飲めば、そうなります。

無論、発射を担当するのは米国です。そうなれば、朝鮮半島の軍事バランスは崩れます。北朝鮮の核の脅威は半減することになります。ただし、韓国が通常兵力で攻撃された場合は、核ミサイルではなかなか対応できず、日本からの在日米軍が日本からの許可を受けて韓国を助けることになります。そうなると、対応は後手にまわるしかありません。

これらはワーストシナリオですが、文在寅を今のまま放置しておけば、このような結果になる可能性がかなり高まります。韓国国民の賢明な判断に期待したいところです。

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2019年8月31日土曜日

通貨戦争へも波及する米中対立―【私の論評】中国「為替操作国」の認定の裏には、米国の凄まじい戦略が隠されている(゚д゚)!

通貨戦争へも波及する米中対立

岡崎研究所

 米中間の貿易戦争は、今や通貨戦争にも拡大しつつある。これは、世界的な経済成長に新たなリスクをもたらし、世界経済にも米国自身の経済にも悪影響を及ぼし得る。


 8月5日、トランプは3000億ドルの中国からの輸入品に10%の追加関税をかけると発表した。これを受けて、中国は同日、人民元の対ドルレートを2008年以来最低となる1ドル7元以上にすると決定した。これに対し米国は中国を「為替操作国」と認定、さらなる関税措置を取り得ることを明らかにした。

 中国人民銀行は5日の声明で今の人民元のレートは「合理的で均衡のとれた水準」であり、為替操作ではないと述べた。元安は、米国による関税で対米輸出が減り、中国経済が減速し、元に対する需要が減るために起こる面があるので、人民銀行の声明は、あながちこじつけとは言えない。トランプは関税によって、彼が望まないと主張する弱い人民元を作り出しているとも言える。もっとも中国が元安を容認することには、米国による関税をカバーし、輸出企業を支援して対米輸出の減少を減らそうとする側面のあることも否定できない。

 ただ、元安は中国からの資本逃避を招きかねない。中国には資本逃避を防ぐため、これ以上の切り下げを防ぐインセンティブがある。中国は多額のドル負債を抱えており、元安はこれらの負債の人民元ベースでの増額を意味する。国際金融研究所によると、非金融企業は8000億ドル(GDPの6%)のドル負債を抱えており、中国の銀行のドル債務は6700億ドル(GDPの5%)に上るという。中国としては、大幅な元安は対外債務不履行を招く恐れがあるので、何としてでも避けなければならない。2015-16年に起きた資本逃避の際、中国政府は人民元を守るために4兆ドルの外貨準備のうち、1兆ドルを費消した。あまりに元安になると、中国の借り手が切り下げられた人民元で外貨債務を返済するのに苦労し、債務危機を引き起こす可能性もある。従って、いざとなれば2016年に実施したような海外送金の規制を含め必要な措置を取るだろう。

 しかし、通貨安は元にとどまらない。米中の貿易戦争を契機とする世界経済の減速の中、南アフリカの通貨ランドは7月末から5%、韓国のウォンも直近で1.8%下落した。7月31日に米連邦準備理事会(FRB)が10年半ぶりの利下げを行ったにもかかわらず、世界的な金融緩和で世界中に行き渡ったドルが逆流している。国際金融協会(IIF)の調べでは、8月1日から6日までに新興国から流出した資金は64億ドルに上ったと言う。逆に、日本円については、人民元の下落が、投資家が安全を求め、円高につながっている。これは、日本経済にマイナスの影響を与え得る。

 トランプの関税攻勢と元安の波及により世界経済は減速の傾向を示しているが、実は米国にも景気減速の兆候が見られる。米国経済はトランプ政権の減税と規制緩和で絶好調といわれてきたが、ここにきてGDPの成長率が3%から2%に落ち、投資も減少している。世界経済のみならず米国経済自身にも悪影響を及ぼしつつあるとなると、トランプにとっても問題である。特に来年の大統領選挙を控え、トランプは何としてでも米国経済の好況は維持したいところであろう。一時的であれ、トランプが対中強硬姿勢の軌道修正を余儀なくされる可能性はある。9月1日に新たに追加関税の対象となる商品のうち、パソコンや携帯電話など一部の品目への追加関税を12月15日まで延期、「クリスマス商戦で米国の消費者に影響が及ばないように」という説明をしている。

 ただ、米国の中国に対する貿易戦争は、単に貿易赤字の問題にとどまらず、ハイテク分野における覇権争いが絡んでいるため、米中対立の構図自体に変化があるとは考え難い。トランプがすんなり矛を収めそうにはない。通貨戦争にまで拡大した米中経済対立が、今後とも世界経済に様々な波紋を広げていくことを覚悟する必要がある。

【私の論評】中国「為替操作国」の認定の裏には、米国の凄まじい戦略が隠されている(゚д゚)!

トランプ政権は中国を「為替操作国」に認定し、米中貿易戦争の段階がモノからカネに移ったようにみえます。しかし、米国の意図はそれだけなのでしょうか。

米国は、為替自由化や資本取引の自由化をてこに、中国の共産党体制を揺さぶろうという戦略が隠されているのではないでしょうか。



「為替操作国」とは、米国財務省が議会に提出する「為替政策報告書」に基づき、為替相場を不当に操作していると認定された国を指します。

1980年代から90年代には台湾や韓国も為替操作国に認定されましたが、1994年7月に中国が為替操作国として認定されて以降、為替操作国に指定された国は1つもありませんでした。

「為替操作国」の認定の基準は次の通りです。
(1)米貿易黒字が年200億ドル以上あること
(2)経常黒字がGDP(国内総生産)の2%以上あること
(3)為替介入による外貨購入額がGDP比2%以上になること
この3つに該当すれば、原則的に為替操作国として認定され、米国政府との2国間協議で為替引き上げを要求されたり、必要に応じて関税を引き上げたりされることになります。

 今年5月に提出された米財務省の報告書では、中国、韓国、日本、ドイツ、アイルランド、イタリア、ベトナム、シンガポール、マレーシアの9ヵ国が3条件のうち2つを満たすとして、「為替監視国」としてリストアップされていた。
 ただし、「為替操作国」の要件は形式的に決められていても、実際にはアメリカ大統領のさじ加減だ。
 世界の国の為替制度はどうなっているのかを見てみよう。
 IMF(国際通貨基金)では、各国の為替制度を分類しており、2018年時点で、「厳格な国定相場制」が12.5%、「緩やかな固定相場制」が46.4%、「変動相場制」が34.4%、「その他」が6.8%となっている。
 この分類によれば、米国の為替監視国リストに入っている国のうち、中国、ベトナム、シンガポール以外の国は変動相場制とされているので、よほど大規模な為替介入をしない限り、為替操作国として認定されることはないだろう。
 一方で中国の場合は「緩やかな固定相場制」だ。IMFも中国政府が為替介入していると判断しているので、中国が米国に「為替操作国」とされても文句は言えない面がある。
今年5月に提出された米財務省の報告書では、中国、韓国、日本、ドイツ、アイルランド、イタリア、ベトナム、シンガポール、マレーシアの9ヵ国が3条件のうち2つを満たすとして、「為替監視国」としてリストアップされていました。

ただし、「為替操作国」の要件は形式的に決められていても、実際には米国大統領のさじ加減です。

世界の国の為替制度はどうなっているのかを見てみます。

IMF(国際通貨基金)では、各国の為替制度を分類しており、2018年時点で、「厳格な国定相場制」が12.5%、「緩やかな固定相場制」が46.4%、「変動相場制」が34.4%、「その他」が6.8%となっています。

この分類によれば、米国の為替監視国リストに入っている国のうち、中国、ベトナム、シンガポール以外の国は変動相場制とされているので、よほど大規模な為替介入をしない限り、為替操作国として認定されることはないでしょう。

一方で中国の場合は「緩やかな固定相場制」です。IMFも中国政府が為替介入していると判断しているので、中国が米国に「為替操作国」とされても文句は言えない面があります。

中国の言い分は、為替介入はしているますが、市場で決まる水準より人民元の水準を高めに設定しているということでしょう。

最近5年間で、中国が公式に発表している外貨準備は1兆ドル程度減少しています。人民元の価値を高めるためには、ドルを売って人民元を買う必要があるので、外貨準備が減っていることは、中国政府が人民元高に誘導しているという根拠にはなり得ます。

ところが、中国の場合、そもそも外貨準備の統計数字が怪しいので、中国政府の言い分をうのみにするわけにはいかないです。

国際収支は複式簿記なので、毎年の経常収支の黒字の累計は、対外資産(資本収支と外資準備)に等しくなります。また、資本取引の主体は民間であり、他方、外貨準備は政府の勘定です。

日本をはじめとする先進国では公的セクターと民間セクターが区別できるので外資準備の統計数字に疑義はないです。しかし、中国の場合は、国営企業が多く、公的セクターと民間セクターの判別が困難で、外資準備の減少だけで人民元高への誘導を信じるのは難しいです。

そもそも、外資準備などを算出するベースの国際収支統計での誤差脱漏が中国は大きすぎます。経常収支に対する誤差脱漏の比率を見ると、中国は日本の4倍程度もあります。

ただ 仮にきちんとした統計が整備されていたとしても、そもそも、為替の自由化は、資本取引が自由化されていないと、実現は難しいです。中国のアキレス腱はまさにこの点にあります。

私は、米国が中国を為替操作国に認定したのは、資本自由化をてこに中国に本格的な構造改革を迫ろうという思惑からだと思います。

その鍵は、「国際金融のトリレンマ」です。

これは、(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)一国で独立した金融政策の3つを同時に実行することはできず、せいぜい2つしか選べないということです。


先進国の場合、2つのタイプになります。1つは日本や米国のように、(1)と(3)を優先し、為替は変動相場制を採用する国です。もう1つはEUのようにユーロ圏内は固定相場制だが、域外に対しては変動相場制をとるやり方です。

いずれにしても、自由主義経済体制では、(1)自由な資本移動は必須なので、(2)固定相場制をとるか、(3)独立した金融政策をとるかの選択になり、旧西側諸国をはじめとする先進国は、固定相場制を放棄し、変動相場制を採用しています。

これに対して、中国は共産党による社会主義経済体制なので、(1)自由な資本移動は基本的に採用できません。

もちろん実際には市場経済を導入している部分はあるのですが、基本理念は、生産手段の国有化であり、土地の公有化です。

外資系企業が中国国内に完全な企業を持つこと(直接投資)は許されません。必ず中国の企業と合弁会社を設立し、さらに企業内に共産党組織の設置を求められます。

中国で自由な資本移動を許すことは、国内の土地を外国資本が買うことを容認することになり、土地の私有化を許すことにもつながります。

中国共産党にとっては許容できないことであり、そうした背景があるので、中国は必然的に、(1)自由な資本移動を否定し、(2)固定相場制と、(3)独立した金融政策になる。

米国はこうした中国を「為替操作国」というレッテルを貼り、事実上、固定相場制を放棄せよと求めるつもりなのでしょう。これは中国に、自由主義経済体制の旧西側諸国と同じ先進国タイプになれと言うのに等しいです。

中国が「為替操作国」の認定から逃れたければ、為替の自由化、資本取引の自由化を進めよというわけですが、為替の自由化と資本移動の自由化は、中国共産党による一党独裁体制の崩壊を迫ることと同義です。

今回の措置は、ファーウェイ制裁のように、米国市場から中国企業を締め出すための措置だと見る向きもありますが、それだけにとどまらない深謀遠慮が米国にはあるのでしょう。


資本の自由化が実現すれば、今でも逃げ出しつつあるのですが、中国からさらにかなりの富裕層が国外に逃げ出し、資産を移す可能性があります。中国にとっては、共産党独裁体制の崩壊につながりかねないです。

かつて日本は米国に迫られ、資本や金融の自由化を受け入れました。日本が安全保障を米国に委ねていたので、米国と決定的に対立することはできなかったし、自由化を受け入れれば国内の体制は守られました。

しかし、米国との覇権争いを繰り広げる中国にとってはこの話を絶対にのむことはできないもでしょう。

もっとも「取引(ディール)」が大好きなトランプ大統領は、中国の国家体制をつぶすつもりはないでしょう。来年の大統領選に有利になるように、中国問題を使えればいいということだと考えられます。

「為替操作国認定」という高すぎるハードルを突き付け、徐々に条件を緩めながら、貿易や安全保障などの交渉で譲歩を迫っていこうとしているのでしょう。

北朝鮮との非核化交渉で、金正恩体制の維持をカードとして使ってきたように、中国に対しても「国家体制の保証」をカードに使うことも考えているのかもしれないです。

中国の「為替操作国」の認定の裏には、こうした凄まじい戦略が隠れているとみるべきと思います。

そうして、議会はそれ以上のことを考えているでしょう。すでに、米国議会は超党派で、中国と対峙しています。彼らにとっては、中国の「為替操作国認定」は、願ってもないほどの強力な武器になります。

私は、今回のこの措置は、トランプ大統領の選挙などと言う次元を超えて、米国の中国に対するかなりの圧力になることは間違いないと思います。トランプ氏の意図などをはるかに超えて、中国を揺り動かすことになると思います。

どのように中国が対抗してくるのか見物です。

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2019年8月30日金曜日

日本のメディアは日韓関係悪化ばかり報じている場合なのか―【私の論評】増税で7年間に及ぶアベノミクスは帳消しになる。特に雇用は最悪に(゚д゚)!

日本のメディアは日韓関係悪化ばかり報じている場合なのか
消費増税の悪影響が断然大きい




8月22日に韓国大統領府が日韓軍事包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定したことで、歴史問題などをめぐり悪化していた日韓関係はさらに深刻になり、安全保障分野に影響が及ぶことになりました。

この韓国政府の判断が米中を含めアジア地域の地政学動向に将来どのような影響をもたらすかが筆者の最大の関心ですが、これは門外漢の筆者の力量を超えるテーマです。以下では、両国の金融市場、そして経済活動への影響について考えてみます。

日韓関係悪化の市場への影響

金融市場では、通貨ウォン(対ドル)は年初来で約8%安と下落。韓国の株価指数も年初から▲5%と、日本を含めた多くの主要国対比でアンダーパフォームしています。

日韓関係悪化などの韓国における政治リスクは、金融市場である程度反映されているといえます。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、将来の北朝鮮との経済統合を目指すことを見据えるなど、北朝鮮に融和的な外交姿勢を示しており、経済への悪影響だけではなく、朝鮮半島を取り巻く地政学情勢が変わることに伴うリスクが市場で意識されているかもしれません。

それでは、最近の日韓関係悪化によって、日本や韓国経済にどの程度、悪影響が及ぶでしょうか。まず日本は、7月に半導体の材料の一部品目の韓国への輸出に関して審査ルールを変更しました。

これについて、韓国に対して禁輸あるいは輸出規制強化を日本政府が行ったなどと報じられ、日本の対応が韓国政府の軋轢を強めたなどとの見方も散見されます。日韓という微妙な2国間の関係ゆえに、メディアもこれをセンセーショナルに報じたり、さまざまな立場の論者の声も大きくなっているようにみえます。

企業活動に及ぼす悪影響は限定的

実際には、韓国への輸出の取り扱い変更は、安全保障に関わる一部の材料のみが対象です。それらの輸出ができなくなるわけではなく、審査に関するこれまでの優遇措置が取りやめとなり、輸出する際の審査・許可を通常のルールに戻すのが、日本政府の対応です。特別な優遇措置を、他国同様の原則のルールに戻したということです。

輸出品が三国などを経由して問題国へ輸出されるのをしっかり管理することは、安全保障の観点から、どの国も責任を持ってやる必要があります。今回の日本の対応は、安全保障の理由で、どの国も自国の裁量で行うことができる対応です。

また、今回通常の管理対象になったのは半導体の材料になる3品目ですが、管理変更の対象になるのは試作段階のものに限られ、すでに量産されている半導体分の材料については対象外になる、との専門家による指摘もあります。

これらを踏まえれば、今回の韓国への輸出規制変更が、韓国の半導体セクターの生産活動を含めて、日韓の貿易など企業の活動に及ぼす悪影響は限定的といえます。

観光面へのインパクトは大きいが…

一方、政治的な日韓関係の悪化は、観光面については無視できない影響が及ぶでしょう。韓国からの訪日客の2割を占め、すでに7月時点で訪日客数は前年比▲7.6%と減少に転じています。一方、中国などからの訪日客が引き続き大きく伸びているため、訪日客全体は同+5.6%と底堅い伸びが続いています。

韓国からの訪日客は8月からさらに落ち込むとみられ、このまま関係悪化が長期化すれば、前年対比で半分程度まで落ち込む可能性もありえるでしょう。2018年のインバウンド消費は約4.5兆円ですが、約2割の韓国人訪日客が半減すると大胆に仮定すると、約1割訪日客数全体が減るため、単純計算で0.4兆~0.5兆円のインバウンド消費が減る可能性があります。

実際には韓国からの訪日客が減った分は、中国、台湾など他のアジアからの訪日客が増える可能性があるため、これはインパクトを最大限見積もるための仮定ですが、それでも日本のGDP(国内総生産)の0.1%の規模で経済全体への影響ではほぼ誤差といえます。

これまで判明している日韓関係悪化の、日本経済への影響はほぼありません。そして、日本から韓国への観光客も大きく減るため、韓国経済も悪影響を受けるでしょうが、同様に誤差程度の悪影響しか想定されないでしょう。

消費増税は失政になる可能性が高い

むしろ、日本経済全体に影響を及ぼすのは、10月から行われる消費増税です。2014年の消費増税は判断ミスだったと安倍首相は後悔していた、とメディアで報じられました。今回も同様に、失政だったと振り返られる可能性が高い、と筆者は考えています。

消費増税による家計負担増の金額を確認すると、消費増税にともない約4.6兆円の税収負担が増えます。増税によって、幼児教育と高等教育の無償化などの制度が始まりますが、これらによって約2.4兆円が政府から家計に支給されます。このため、今回の増税によって、恒久的な家計負担は約2.2兆円増えます。

この家計負担に対して、政府は平成31年度予算として2兆円規模の臨時の景気対策を行いますが、このうち1.35兆円は防災、国土強靭化政策で、家計の所得負担を直接軽減させることになりません。時限的な対策として、いわゆるポイント還元制度などがありますが、これらは0.66兆円となっています。

これらの予算が実際にすべて政府支出として家計に給付されるかは不明なので、先に挙げた2.2兆円の恒久的な家計負担のごく一部しか相殺されないことになります。

なお、2兆円は家計の可処分所得300兆円の約0.7%に相当します。今回の増税で個人消費がどの程度落ち込むかは見方が分かれますが、名目賃金が1%程度しか伸びていない中で、家計所得に無視できない規模の負担が生じれば、少なくとも個人消費はほぼゼロに失速すると筆者は予想します。消費増税以降、日本経済の成長率はほぼゼロ成長に減速するリスクが大きいと考えています。

日韓関係の悪化が大きなニュースになっていますが、それよりも日本人の生活に直結する問題として、消費増税の影響のほうがかなり大きいことは明らかです。最近の日本の報道では、こうした冷静な視点が欠けていると筆者は感じています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

【私の論評】増税で7年間に及ぶアベノミクスは帳消しになる。特に雇用は最悪に(゚д゚)!

日本の昭和末期から平成に至る政治史を振り返ったとき、消費税の導入や消費税の税率引き上げにまつわる動きは「呪われた歴史」といってもいいほど政権を潰し、苦境に追い込んできた。さらにはその都度、景気回復の兆しを迎える日本経済をどん底に突き落とすなど、悲劇的な状況を数々もたらす結果となった。

本来、消費税というのは優れた税制です。脱税がしにくく、徴税コストが安く、安定財源となる税制です。その優れた税制を正しく運営すべきでした。

しかし、その導入において、国民や野党の反対をかわすためだけにあまりにも誤った論理をふりかざし、嘘に嘘を重ね、しかもインボイス制度(適格請求書等保存方式)がない不完全な形で導入してしまいました。
そしてそれ以後、税理論や社会保障理論を歪めてまで、ひたすら消費税の増税こそが正義であるかのように志向してきた歴史が日本にはあります。
このような思惑で消費税の制度が歪めば歪むほど、無理が生じて、呪いにかかったかのように政権が潰され、日本経済にも悪影響を与えてきました。現在の消費増税議論がいかに歪んだものであるかを知るためにも、日本における消費税の歴史を振りかえってみます。

中根蘇康弘氏 首相当時

中曽根康弘首相は1986年7月に大方の意表を突くかたちで解散し(死んだふり解散)、衆参同日選挙に打って出ます。この折には、「国民や自民党員が反対する大型間接税はやりません」「この顔が嘘をつく顔に見えますか」と発言をし、衆院で300議席以上を獲得する大勝利を収めていました。
しかし、同年12月に政府税制調査会と自民党税制調査会が「売上税」を提案し、中曽根内閣は翌1987年2月に「売上税法案」を国会に提出したのです。

売上税はもちろん「大型間接税」ですから、「嘘つき」という批判が満ち満ちることになりました。結局、1987年の地方選挙で敗北をし、売上税は撤回に追い込まれました。大平内閣の挫折と、中曽根内閣の「嘘つき」で、消費税には決定的に悪いイメージが付くことになってしまいました。

1993年6月、野党が当時の宮沢喜一内閣の不信任案を出し、小沢一郎氏たちが造反して野党に賛成した結果、内閣不信任案は成立し、衆院選が行われることになりました。

ここで自民党は衆院での過半数を失い、逆に自民党を飛び出して新生党を結党した小沢氏たちは「非自民」勢力を糾合。かくして、自民党が下野し、八党派連立(日本新党、日本社会党、新生党、公明党、民社党、新党さきがけ、社会民主連合、民主改革連合)の細川護熙内閣が成立しました。



その細川首相が1994年2月3日未明に突然、記者会見を開いて「国民福祉税」構想を打ち出しました。税率3%の消費税を廃止して税率7%の福祉目的税にする、というものです。

細川内閣は、赤字国債を発行しないことを公約の一つにしていました。しかも当時、米国が日本の内需拡大を促すために、日本の所得減税を求めていました。

赤字国債を発行せず、所得減税も行うとなれば、消費税を増税するしかない状況でした。ところが、消費増税は、消費税反対を訴えて支持層を広げてきた社会党から受け容れられないことは目に見えていました。

ならば、いっそのこと「消費税」を廃止してしまい、「新税」の衣をまとわせようと考えたのでしょう。袋小路に陥った状況を活かそうと考えた大蔵省と小沢氏が、よく事情をわかっていない細川首相を抱き込み、一気に税制改革も進めてしまおうとしたのではないかと思います。

ところが、これが見事に頓挫します。政治家が目論む「新税」などすぐに見透かされるのであって、大蔵省とすれば、細川首相をうまく取り込んだつもりだったのかもしれませんが、連立政権内でも話し合われておらず、根回しがまったく不十分だったこともあって社会党などは猛反発しました。

たちまち翌4日の連立与党代表者会議で撤回されるに至りました。政権の求心力は急速に失われて、細川内閣は同年4月25日に総辞職しました。

そうして時代は下り、2012年12月の総選挙で、単独過半数を大きく超える294議席を獲得して圧勝した自民党が政権に返り咲き、第二次安倍晋三内閣が誕生しました。

それに先立つ2012年9月の自民党総裁選の際、安倍首相は消費税を上げる前にデフレ解消をする、といいました。安倍首相は消費税の増税には消極的でしたが、法律になったものを無視することはできず、「法律どおり」2014年4月、消費税率が5%から8%に引き上げられました。

せっかくアベノミクスによってデフレ対策が打たれ、2014年4月時点ではインフレ目標達成にかなり近いところまで行っていたのですが、消費税率を上げたことで景気は逆戻り。離陸し始めた状態で安定飛行に入っていなかった景気は、消費税の増税によって急失速してしまいました。

こうした状況を受けて、2015年10月の増税予定は一年半先送りされ、2017年4月の増税予定がさらに2年半先送りに。安倍首相が財務省の意向を退け、かろうじて踏みとどまったかたちでした。

現在、デフレは解消されつつありますが、脱却には至っていません。企業で人手不足の状況が生まれ、雇用回復に次いで当初の狙いである「賃金上昇」がようやく始まる、と思ったところで、政府は事実上の「移民」緩和政策を決めてしまいました。

過去3回の消費増税のうち、3%の税率で導入した1回目(1989年)は、バブル期で景気がよい状況でした。しかも物品税の減税と同時に行なったので、タイミングとしては悪くありませんでした。

しかし、税率が3%から5%に引き上げられた2回目(1997年)、5%から8%に引き上げられた3回目(2014年)の消費増税は最悪でした。いずれもデフレのときに行なったため、景気を大きく冷え込ませる結果となりました。

外国人労働者の流入が日本の賃金を押し下げていることは、このブロクでも過去に説明してきたように、はっきりしています。あまりにもタイミングが悪く、さらに2019年10月に消費増税を実行してしまえば、2012年以降、7年に及ぶアベノミクスの努力はすべて水の泡でしょう。

現在のマスコミは、このようなことを知ってか知らずか、増税のことなど忘れてしまったかのように、韓国問題ばかり報道しています。財務省の発表を鵜呑みにした報道ばかりで、おそらく知らないのでしょう。

2012年以降、7年に及ぶアベノミクスの努力が水の泡になるとはどういうことでしょう。結局、またデフレ円高に戻るということです。さらに、アベノミクスの大成果でもあった、雇用の改善もまた元に戻ってしまうということです。

再び、就活が最悪の状況に戻るということです。そうしてそれは、何をいみするのでしょうか。人は喉元すぎれば熱さを忘れ、という具合にわずか数年前のことでも忘れてしまいます。以下の動画は2013年に放映されていた東京ガスのCMです。

あまりにもリアルで、生々しい就活の悲惨さが批判の的になって、このCMは放送中止になりました。


以下の動画は、就活狂想曲」animation "Recruit Rhapsody"というタイトルです。

ごく普通の大学生として何となく過ごしてきた主人公。ところが近頃友人たちの様子がおかしい。聞けば、彼らは噂の"就活"に躍起になっているらしい。それが一体どのようなものなのか見極められぬまま、主人公もまた「ニッポン式就活」の渦中へと引きずり込まれて行くさまを描いています。 

作成は、「吉田まほ」さんです。2012年度の作品です。


この時代の就活ではいわゆる「コミュニケーション」を重視していました。

デフレの時期にはモノやサービスが売れないので、企業としてはなるべく新規採用を控えて、採用するにしても、デフレ対応型の無難な人材を採用する傾向が強かったものです。

デフレ対応型の無難な人材とは、どういう人材かといえば、「コミュニケーション能力に長けた人材」です。だから、採用の面談においても突飛な質問をするにしても、過去のデフレ期には「コミュニケーション能力」に関するものが多かったものです。

結局のところ、デフレという厳しい環境の中で、顧客や、会社や会社の中で働く人やに共感でき、苦難をともに乗り越えて行く人材が重視されたのです。創造性などは、あったほうが良いということで、最優先の資質ではありませんでした。

いずれかの方面に優れた才能や能力があったとしても、それはデフレの世の中ではなかなか役に立たず、結局そのような才能がなくても、コミュニーけション能力にたけた人間が一番無難だったのです。

デフレはモノ・サービスが売れず、創造性のある人材も登用されなくなるということで、想像以上に企業をかなり毀損してしまうのです。

以下は当時の就職面接を描いた動画です。声の詰まり方とかリアル過ぎてこちらがハラハラする。それにしても、このような面接現在なら考えられません。まさに、買い手市場だったからこそこのような面接になっていたのです。


そうして、このような面接が行われたのは、何も本人が悪いとか、面接官が悪いということではないのです。結局デフレのため、採用側は採用に慎重だったのが理由です。

企業その中でも、まともな企業であれは、デフレだからとっいって、一定期間に極端に採用を減らしていては、将来の管理職や幹部候補を選ぶ段になったときに、候補者がいないという状況になりかねたいため、無理をしてでも採用をしていたのです。

今年の新卒のある男性新入社員に綺譚のないところを聞いてみたところ、なかなか思った就職先に就職できなかったので、「就職浪人したい」との旨を就職担当の先生に伝えたところ、「就職状況は今は良いがいつ悪くなるかわかったものではないから、今からでも頑張って、とにかく就職しろ」と言われ、そこから就活を再開し就職したそうです。

この先生は正しかったようです。今後増税でこのようなことになるのは目に見えています。今後、就職面接でコミュニケーションが重視されることになるでしょう。

私は、安倍政権には、柔軟になっていただきたいと思います。今後、増税によって悪影響が出た場合には、柔軟に対応して、減税も実施していただきたいものです。いよいよになれば、機動的な財政政策と、金融政策を実行して、デフレから完璧脱却していただきいものです。

令和年間は、平成年間のように経済政策を間違い続け、ほとんどの期間がデフレスパイラルの底に沈んでいたというようなことは繰り返さないで欲しいです。

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2019年8月29日木曜日

豚肉を食べさせろ! パニック状態になる中国庶民―【私の論評】貿易戦争、豚コレラ、害虫発生、中国はこの三重苦を乗り越えられるか?

高騰が続く食品物価、庶民の不満はいつ爆発するのか

中華料理の定番豚肉料理「トンポーロー」

 中国で豚肉を中心とした食品物価の高騰が著しく、一部では“豚肉パニック”といった様相になっているらしい。

「中国では今、豚肉を買うのに身分証明書がいる」「豚肉制限令が出て、1日2キロまでしか豚肉を売ってもらえない」・・台湾の報道バラエティ番組が、中国の“豚肉パニック”をこんな風に報じていた。さすがにこれは、誇張のし過ぎだ、でたらめだ、と中国のネットユーザーが一斉に反論していたが、一部で豚肉購入制限が出ているのは事実で、豚肉不足と高騰が各地で確かに深刻だ。

購入量制限で庶民はパニックに

 今年(2019年)4月以降、湖北、安徽、四川、福建などの29省の一部地域で豚肉価格補填制度が導入されており、その中には、買い占め防止のために豚肉購入量の制限と身分証明書の提示が決められている地域もある。

 福建省三明、莆田の両県では豚肉の品不足と高騰があまりにもひどいことから、中秋節、国慶節にむけて、豚肉に対する補助金制度や購入制限措置を導入すると発表した。

 三明市の明渓県では、8月17日から10月7日までの週末と中秋節、国慶節には豚肉価格を平時価格に戻して発売するという。また莆田県荔城区では9月6日から豚肉4種(リブ肉、赤身肉、もも肉、ヒレ)に関してキロ当たり4元の補填金をつけるという。ただし両地では豚肉補助をつける代わりに、購入量を1人2キロまでに制限。この補助と制限を受けるためには、購入時に身分証明書が必要、という。補填最高額は1人当たり月額31元を限度とした。

 この措置が発表されたとたん、地元の庶民はパニックに陥り、スーパーにつめかけたり、電話が殺到したりしているらしい。このあたりを、台湾のバラエティ番組が面白おかしく報じたら、中国ネット民たちが激怒した、というわけだ。

庶民の不安はかなり深刻

 福建省の一部地域の対応に話を戻すと、明渓県は物価調整資金として県の4社のスーパーに対して20万元の豚肉用補助金を捻出したという。

 明渓県ではどのスーパーも1日の豚肉4種の販売量を計600キロ(ヒレ、もも肉それぞれ200キロ、リブ肉、赤身それぞれ100キロ)に制限している。消費者は1日の購入量を1人あたり2種類の肉をそれぞれ1キロまでに制限される。

 肉の販売の身分証提示や購入量制限については、安くなった肉の買い占め防止になるとして肯定的に受け入れられており、現地紙は「この政策に感謝している」という庶民の声を報道している。でも、豚肉を自由に買えないこの政策を「豚肉配給制か」と思う人もいるだろう。まあ、日本のスーパーの、お買い得品を「1人2個まで」に制限するキャンペーンと同じと言えば同じかもしれないが。

 浙江省、江西省、江蘇省、広東省はまた違う政策を立てており、養豚家への補助金などを打ち出している。浙江省は7月1日から12月31日までの期限をきって、養豚農家に対して豚1頭あたり500元を支払うという。

 また先日の国務院常務委員会では、アフリカ豚コレラ問題が完全に収束していない中で各省に養豚ノルマを課す形の養豚業強化政策を打ち出した。こうした政府側の対応をみても、中国の豚肉をめぐる庶民の不安がかなり深刻であるということは間違いない。

完全に制圧できていないアフリカ豚コレラ

 背景には、アフリカ豚コレラ、米中貿易戦争、中国のもともとの畜産と食肉流通システムの矛盾などの複合的要因がある。

 アフリカ豚コレラは昨年8月に発生して以降、あっという間に中国で広範囲に蔓延し、今も完全には制圧できていない状況だ。中国の報道ベースでいえば、昨年8月初めから2019年7月3日までに、中国でのアフリカ豚コレラの発生は143カ所で、116万頭以上が殺処分された。

 国家統計局のデータでは、2019年1~6月、全国の生きた豚の出荷数は3億1346万頭、前年同期比で6.2%下降した。養豚場にいる生きた豚の数は3億4761万頭で、前年同期比で15%減少。ちなみに中国市場の年間の豚肉生産量は5340万トン規模、輸入量が120万トン(2017年)だ。中国の豚肉消費の全体規模が大きすぎてピンとこないかもしれないが、国際貿易における豚肉取引量が年800万トンというから、たとえば中国で豚肉生産量が15%減った場合、中国人が豚肉を食べ続けようと思うと、国際市場に流通する全豚肉を中国が買い占めてもその不足分を補えない、という話になる。

 末端の豚肉価格でいえば、中国農業部が公表したところによると、8月16~22日の豚肉卸値はキロ当たり平均29.94元で、その1週間前と比べると11%上昇、前年同期比より52.3%上昇した。4、5、6、7月の上昇率は前年同期比で、それぞれ18.2%、14.4%、21.1%、27%という。去年20元だったトンカツ弁当が今年は30元以上するような感じだ。

 しかもアフリカ豚コレラが完全には制圧できていないのであれば、いつぶり返してもおかしくない。中国当局は、アフリカ豚コレラのワクチン開発が実験段階に入っている、としているが、しかし実用化までには8~10年かかるとしている。今は、アフリカ豚コレラ罹患豚を見つけたら、ただ安全に処分し完全に流通を封鎖するしかない。

 2018年のアフリカ豚コレラの影響は、単に養豚数や出荷数が減少するだけでなく、養豚家・養豚企業の激減を引き起こしており、中国の養豚産業全体を揺さぶっている。

 今年3月までに供給量が減ったため、生きた豚肉価格が急上昇した。だが4月に入ると、アフリカ豚コレラの感染地域が気温の上昇にともない北上してきたため、北部の養豚企業が、感染域が来る前に手持ちの豚を売り切ってしまおうと投げ売りを始めた。同時に、その地域の消費者は、コレラにかかった豚肉は食べたくないという心理から豚肉を敬遠するようになり、豚の需要が下落、今度は生きた豚の価格が暴落した。6月に入って、生きた豚の繁殖率の低下とともに出荷量が減少し、全国でまたまた豚肉価格が高騰。8月、豚肉の値段はピークを迎えた。

 養豚の繁殖と出荷は少なくとも半年前後の周期があり、短期間で供給量の不足を緩和するのはかなり難しい。豚コレラを恐れるあまり、母豚から子豚まで投げ売りして、養豚を廃業する企業や農家も続出した。豚肉価格は9月さらに上昇し、高止まりの状態でしばらく継続するとみられている。

 こうした豚肉価格の激しい変動によって、弱小な養豚農家は淘汰されていく。一方、いわゆる「養豚株」と呼ばれる畜産・農業企業の株は、政府がテコ入れするとの期待もあって2019年から高騰を続けている。ただ、かつて「第一豚肉株」と呼ばれた雛鷹農牧は2018年に不正会計問題が発覚し、さらにアフリカ豚コレラが重なり、30億元以上の赤字のために豚の飼料が買えずに大量の豚を餓死させたとも報じられ、上場廃止が決まっている。

 豚肉高騰のもう1つの要因として、当然、米中の貿易戦争がある。英BBCが報じているのだが、米国農業省によれば中国は8月2日から1週間の間、米国産豚肉1万トンを購入。これで中国は8週連続で米国から豚肉を大量購入したということになる。米国は8月1日に、1カ月後に3000億ドルの中国製品に10%の追加関税を1カ月後に実施するとアナウンスした。中国側はその対抗措置として、豚肉を含む米国の農産品に10%の追加関税をかけると発表している。追加関税がかかる前の駆け込み豚肉購入、というわけだ。

中国庶民の不満はどんな形で弾けるのか

 こうした状況に 中国国内メディアは「養猪喫鶏」(養豚しながら鶏肉食べよう)などという意見で、今年上半期の鶏の出荷が前年同期比15.8%増の42億羽、鶏肉生産量に換算すると6637万トン(同13.5%増)となったことなどを報じている。
 「豚肉が高いのなら鶏肉をたべれば?」という、まるでマリー・アントワネットが「パンがないならケーキをたべれば?」と言ったみたいな話なのだが、そうは簡単にいかない。もしもそのとおりに豚肉から鶏肉に切り替える人が増え続ければ、鶏肉と卵も値上がり続ける。養鶏企業、養鶏農家にとっては儲けのチャンスということで「養鶏株」も値上がりしているが、養鶏には養鶏で、鳥インフルエンザリスクの流行という極めて高いリスクもある。2018年1~8月は全国で鳥インフルエンザが流行し、鶏肉価格が暴落したことがあった。

 豚肉上昇を揶揄するような、こんな小話が中国の微博で流れているそうだ。

「早朝に油条(揚げパン)を買いに行くと1本2.5元という。昨日2元だったじゃないか?というと、おばさんは、豚肉が高騰したからね、と言った。豚肉の高騰と油条の値上げとどんな関係があるの? というと、おばさんは、私が豚肉を食べたいからだよ、という」

 豚肉高騰は豚肉だけの高騰ではなく、生活物価全体を引き上げる。中国統計局によれば、豚肉価格の上昇が他の食品価格を吊り上げる効果によって、7月の消費者価格指数(CPI)は前年同期比2.8%上昇。このうち豚肉価格が27%上昇したことがCPI全体を0.59ポイント分引き上げたという。

 ここに人民元の急落が重なっていけば、中国で急激なインフレがおきるという予測もある。経済官僚たち恐れているものの1つは、言うまでもなく中国のハイパーインフレだ。

 ちょうど30年前の1989年、学生の民主化運動が大規模化したことの背景には、1986年から89年にかけてのハイパーインフレによる庶民の生活苦や不満があった。ひどいインフレは、デモやときには暴動を引き起こす。

 しかも、今の中国のインフレは食品領域に限定されていて、その他の分野はむしろデフレ。つまり給与が上がらないのに食品代がかさむという、庶民にとっては最も苦しいスタグフレーションに陥りかけている。

 目下の中国当局サイドの反応を見るに、米中貿易戦争が今後うまくいく見込みはほとんどない。中国国内でデモや暴動の公式報道はほとんどないが、香港では反送中デモが日に日に激しくなり、これが中国にどのような影響を与えるのか、世界は固唾をのんで見守っている。香港議会では、親中派議員が香港法令にのっとった「緊急情況規例條例」(緊急法)を制定してデモを制圧すべきだという主張まででてきた。これは事実上の「戒厳令」と同じという批判が出ている。

 いたるところで緊張が極限まで張りつめている中で、中国庶民の生活物価高に対する不満がどういう形で弾けるのか、弾けないのか。チャイナウォッチャーとしては目が離せないのである。

【私の論評】貿易戦争、豚コレラ、害虫発生、中国はこの三重苦を乗り越えられるか?

豚コレラは人には感染しないが、豚が感染した場合致死率は100%

中国は激化している貿易戦争よりも、遥かに多くの政治的安定と経済への損害をもたらしかねない農業への脅威に直面しています。昨年8月、最初に発見された時以来、ここ数カ月、世界最大の豚生産国の豚頭数を脅かすアフリカ豚コレラ(ASF)問題により、中国は豚頭数を徹底的に削減せざるを得ない状況に追い込まれました。

さらに、最近、中国の穀物生産者はトウモロコシや米や他の穀物農作物に壊滅的打撃を与える「ツマジロクサヨトウ」と呼ばれる危険な害虫の大発生と呼ばれるものに出くわしています。指導部はエスカレートする米国との大きな貿易戦争のさなかにあり、中国に打撃を与えるこの組み合わせは、ほとんど想像できない形で、世界の地政学地図に影響を与えかねないです。

中国政府は、公式に、致命的なアフリカ豚コレラ(ASF)発生を根絶するのに必要な措置をとることでしょう。北京当局は、今日までに百万頭以上の豚が屠殺したといます。しかしながら、豚汚染が中国の全ての州、更に国外にさえ広がるのを阻止できませんでした。

現在、中国の食事では、豚肉はタンパク源てす。中国は世界最大の数、5億、あるいは約7億頭の豚がいます。問題はアフリカ豚コレラは豚にとってほぼ100%致命的であることです。この病気は伝染性が強く治療法もないので、群れを丸ごと即座に屠殺しなければならないのです。やっかいなことに、ウイルスは何日も何週間も行きている豚はもとより、死んだ豚の体の表面や肉で生存可能です。

米国農務省は4月の報告書で、中国はアメリカ豚の総生産高と等しい1億3400万頭の豚を殺さなければならないだろうと予想しました。米国農務省が1970年代半ばに監視を始めて以来、それは記録上、最悪の屠殺数になるはずです。

2019年4月の世界の主要農業金融機関、オランダのラボバンクによる研究報告は、中国の、実際のアフリカ豚コレラのための屠殺は、報告された百万頭よりずっと多いと推定しています。彼らは、2018年8月の最初の発生以来、致命的なアフリカ豚コレラは公式の数より約100倍酷く、中国豚の1.5億から2億頭の範囲が感染し、中国本土の全ての省に広がったと推測しています。

報告書は「2019年、アフリカ豚コレラのために、25%から35%の中国の豚肉生産損失を予想している。(50%以上の)極端な損失に関する報告は限られた地域に限定されている。」 報告書は「これらの損失は他のタンパク質(トリ、カモ、魚、牛肉や羊肉)によっては容易に代替できず、同様に大規模輸入でも完全には損失を相殺できず、これは2019年の全動物性タンパク質供給で、ほぼ1000万トンの需給ギャップをもたらすだろう」と補足しています。

それは公式データが示唆するより遥かに大きく、もし本当なら、豚の価格のみならず、損失から生き残れない何百万という中国の小農民に壊滅的打撃を与えかねないです。中国の豚生産は、健康管理対策がより緩く、接触感染がより多い、小規模農家に独占されているため、正確なデータが不足しています。

不幸にも、状態を静めるための明らかな取り組みとして、24の省で病気が蔓延していたにもかかわらず、一月に中国農業省は「アフリカ豚コレラ流行」はなく、この状況を収拾するため政府が適切な措置をとっているという声明を発表しました。

この声明が出されたタイミングは、中国旧正月の祝日の春節、一年で最大の豚消費時期の二週間前でした。皮肉にも今年は中国では豚年です。ちなみに、韓国、香港、台湾も豚年です。猪年は日本だけです。

豚の致命的な病気は隣接する主要豚生産国のベトナムにも広がり、ラボバンクは、少なくとも、この国の豚の10%が死亡しました。これはさらに、カンボジアに広がると予想されています。香港や台湾やモンゴルにも広がっています。問題は再感染のリスクが大きく、中国が豚を元通りに再生産できるようにするには何年も要すると専門家が推定しています。

雲南省で外来昆虫「ツマジロクサヨトウ」食害 被害面積93万ムー(621平方キロ)

 中国の豚生産が、数十年で最もひどい状況に陥っているこの時に、穀物も、同じく困難な状況に直面しています。なんと、穀物にとっは害虫である、蛾Spodoptera frugiperda種幼虫である
ツマジロクサヨトウの大発生に直面したのです。

米国農務省(USDA)の最近の報告によれば、この壊滅的な害虫はミャンマーから入って、1月29日、最初に雲南省で発見され、既に雲南、広西、広東、貴州、湖南や海南島を含む広範囲の南中国の省に広がった可能性があります。

米国農務省は、一晩で100キロも移動可能であるという、驚異的な移動能力をもつツマジロクサヨトウは、今後数カ月で中国の穀物生産地域の全てに広がると推定しています。典型的なツマジロクサヨトウ蛾は、1頭で1,000から1,500の卵を産み、生存期間中に500キロもの距離を移動するといわれています。卵は数日で、幼虫にふ化します。

「中国農業輸出」は、予想よりずっと速く虫が広がったと報じています。この害虫は絶滅させることが極めて難しいとされています。米国農務省は「ツマジロクサヨトウは中国に天敵がおらず、その存在により、換金作物の中でも、トウモロコシ、米、小麦、ソルガム、サトウキビ、綿、大豆やピーナッツの生産が減少し、品質が低下するかもしれない」と指摘しています。

報告書は「中国の大半の農民に、ツマジロクサヨトウに効果的に対処するのに必要な財源がなく、訓練をもけていない。たとえ緩和対策が実施されたとしても、高価な駆除対策(主に薬剤散布)は、被害を受ける大半の作物をつくる農民の生産者利益を赤字にさせるだろう」と補足しています。

米国農務省によれば、中国は2018-19年で2億5700万トンのトウモロコシを生産すると予測され、米国に続き、世界で二番目に大きいトウモロコシ生産国です。これまでの3年で、北米固有だったツマジロクサヨトウは、アフリカや南アジアや東南アジア全体で大規模経済損害を引き起こしました。イギリスに本拠をおくCentre for Agriculture and Biosciences International(CABI)によれば、ツマジロクサヨトウは、わずか2年で、アフリカの4分の3に定着したとされています。

一方トランプ政権に課された米国貿易関税に応えて、北京は米国の大豆の購入を制限し、国内大豆や他の穀物農作物をますます中国農業にとって重要なものにしました。悪天候の干ばつと異常に寒い天気が、中国の大豆とトウモロコシ生産に悪影響を与えています。

中国の経済全般が際立って停滞兆しをみせている中、アフリカ豚コレラとツマジロクサヨトウによる二重の打撃と、中国からの輸入品に対するアメリカ関税の最近のエスカレーションと組み合わさって、何十万という中国の小規模農家がおそらく経済的に破綻する可能性があり、冒頭の記事にもあるように、中国の国内食品価格インフレーションが急激に進む危険な状況を生み出しかねないです。

今や中国は世界最大の食糧輸入国であり、従来はその多くを米国から輸入していたのですが、米中貿易戦争によりその買い入れ先の変更を余儀なくされています。

米国は世界最大の食料輸出国であり、中国は世界最大の食料輸入国である

米国に対中国冷戦を挑まれた上、アフリカ豚コレラに苦しんでいるところにツマジロクサヨトウが加わって、中国は厳しい試練に晒されています。

こうした状況を日本語では「泣き面に蜂」あるいは「弱り目に祟り目」と言いますが、このような災難が重なることを中国語では“雪上加霜(雪の上に霜が降りる)”と言います。果たして中国政府はこの“雪上加霜”の試練を乗り越えることができるのでしょうか。

米国は世界最大の食料輸出国であり、中国は世界最大の食料輸入国であることを考えると、米中冷戦は中国が圧倒的に不利であるといえます。

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