2021年12月2日木曜日

ウイグル弾圧、習主席らの関与示す「新疆文書」が流出―【私の論評】 習近平来日に賛成する政治家や官僚、識者、マスコミ関係者等がいれば、それはまさしく「国賊」!日本は三度目の間違いを繰り返すな(゚д゚)!

ウイグル弾圧、習主席らの関与示す「新疆文書」が流出


習近平と李克強

習近平国家主席をはじめとする中国の指導者たちが、同国の少数民族ウイグル族の弾圧に関与していることを示す文書の写しが、このほど新たに公表された。

 この文書は、ウイグル族に対する人権侵害を調べているイギリスの独立民衆法廷「ウイグル法廷」に9月に提出されたもの。これまで一部が明らかになっていたが、今回のリークで今まで確認されていなかった情報が表面化した。 複数のアナリストは、この文書の中に中国政府高官がウイグル族の大量収容や強制労働につながる措置を求めたことを証明する発言記録が含まれていると指摘する。

 中国はウイグル族に対するジェノサイド(集団虐殺)を一貫して否定している。 ウイグル法廷はウイグル問題が専門の学者3人、エイドリアン・ゼンツ博士、デイヴィッド・トビン博士、ジェイムズ・ルワード博士に対し、文書が本物であるか確認するよう依頼した。

このニュースの詳細は以下のリンクからご覧になってください。
https://news.yahoo.co.jp/articles/6b116ad23fcbd15ecab628287747bb20d7e39937

【私の論評】 習近平来日に賛成する政治家や官僚、識者、マスコミ関係者等がいれば、それはまさしく「国賊」!日本は三度目の間違いを繰り返すな(゚д゚)!

この記事を見たときに、最初に「新疆文書」という文言が目に入り、7月ごろの出来事を思いまだしました。

それは、何かというと、バイデン米政権は7月13日、産業界に対し、中国の新疆ウイグル自治区での人権侵害に関与しないよう警告する文書を発表したという報道です。この文書のことを一部の報道機関は、「新疆文書」と報じていました。以下にこれに関する動画を掲載します。


米政府の諮問機関は文書で、ウイグルのサプライチェーン(供給網)に関わると「米国の法律に違反する高いリスク」を伴うと指摘しました。人権侵害に加担した企業だけでなく、融資した金融機関も制裁対象になり得ると強調しました。

ウイグル供給網を関係省庁横断で調査する諮問機関はバイデン政権で初めて警告文書を発表し、「中国はジェノサイド(集団虐殺)と人道に対する罪を犯している」と明記。問題のある中国企業との直接取引に加え、製造段階での強制労働や、民族監視に使われるIT機器の提供など「間接的な取引」を含めて即時停止を求めた。対中投資や金融支援を制限する措置を「厳しく適用する」としました。

今回のBBCによる「新疆文書」はこれとは違い、習近平国家主席をはじめとする中国の指導者たちが、同国の少数民族ウイグル族の弾圧に関与していることを示す文書の写しです。

しかし、今回の「新疆文書」はバイデン政権のそれのうち、中国の新疆ウイグル自治区での人権侵害に関して明確にその事実があることと、それに習近平など中国の指導者が絡んでいることまで明らかにするもののようです。

現在その真偽が明らかにされようとしているそうですが、はやくして欲しいものです。

米国は、従来から中国の人権侵害を非難してきましたが、米国の情報収集能力はかなり高いですから、故なく中国を批判することはないでしょうに、それに対して中国はことごとく反論してきました。

しかし、今回の「新疆文書」のような証拠がこれからも次から次へと表に出てきて、中国は言い訳をすればするほど国際社会から非難され続けることになるでしょう。中国がいつまでも人権侵害をやめなければ、世界は中国を経済的にも政治的にも遮断して、中国は孤立することになるでしょう。

その中国を日本は二度も救っています。

ベルリンの壁が崩壊した後、東側諸国が次々とソ連の軛から解かれ、ソ連共産党の一党独裁が終焉を迎えてから今年で30年たちました。

天安門事件を引き金として中国共産党による一党独裁体制が崩れていたとしても、何の不思議もなかったはずです。ところが、そのような瀕死の状態であった中国共産党を救ったのが、日本でした。当時の日本政府は、天皇陛下に中国を訪問していただき、さらに世界に先駆けて、経済支援を再開しました。

天皇皇后両陛下(現上皇皇后陛下)の中国訪問を伝える中国の雑誌の日本語版

この日本の経済支援をきっかけにして、米国やEUなどの国々も支援を再開し始めました。このときは、中国共産党を崩壊させるのにはまたとない好機だった思いますが、日本はそのチャンスを自ら棒に振るどころか、中国共産党を支援したのです。

これは、このブログにも以前掲載しましたが、日本は戦時中も中国共産党を救っています。

1994年に中央文献出版社&世界知識出版社から出版された『毛沢東外交文選』によれば、
毛沢東は1960年6月21日に日本の左派文学者・野間宏らに会った時、日本の皇軍に感謝する話をしました(省略)。


1964年7月10日に、日本の社会党の佐々木らと会った時も、佐々木が謝罪するので「謝罪などする必要はありませんよ。もし日本の皇軍が中国の大半を占領していなかったら、われわれは政権を奪取することはできませんでした」「皇軍が来たからこそ、われわれは国共合作をすることができて、だからこそ2万5千まで減っていた(中共の)軍隊は、8年間の抗日戦争の間に、なんと120万人の軍隊に発展することができたのです。皇軍に感謝しないでいいと思いますか?」などと回答しています。

1972年に日本の首相・田中角栄がやって来たときにも、毛沢東は「日本が中共を助けてくれたことを感謝します。もし抗日戦争がなかったら、中共は政権を掌握することはできませんでした」と語っています。


中国を訪問した田中角栄(右)と毛沢東(左)

日本が、中国の満州等に軍隊を派遣する真の目的は、当時のソ連と対峙するためでした。中国の国民党軍と戦ったのは、本来はこの目的を完遂するためでした。ところが、日本軍は本来の目的を忘れ、国民党軍との戦いを本格化し、泥沼にはまり込んでしまいました。

国民党軍との戦いなどは、ほどほどにしておき、ソ連との対峙に主に専念していれば、当時の国際社会も日本を理解したかもしません。日本は、ソ連の防波堤としての評価を受けたかもしれません。しかし、中国大陸の広い地域に戦線を拡大して、結局中国共産党に塩を送ったのです。

さて、現在に話を戻すと、新型コロナウイルスによって世界は一変したのですが、中国・武漢で最初の感染爆発が起きた際、中国共産党当局による情報隠蔽が、パンデミックの引き金になったことを忘れるべきではありません。

さらに中国共産党は、すべての個人情報を国家が管理し、自由を求める人たちを「危険人物」として容赦なく監獄や収容所にぶち込み、チベットやウイグルでの弾圧が、香港でも公然と行われ一国二制度を自ら潰したにもかかわらず、現実から日本政府も国会も目を背けているようです。岸田政権になってから、その傾向がさらに強くなったようにみえます。

昨日も述べたように、台湾侵攻を諦めざるをおえない中国共産党は西側諸国の「反中同盟」を切り崩そうと日本を懐柔しようとしています。手始めが、習近平国家主席の国賓来日実現です。これが実現すれば、日本はまた過去の二度の過ちを繰り返すことになります。ただ、過去とは違い、国際社会は日本のこの動き同調することはないでしょう。日本は中国とともに世界から孤立する道を選ぶことになりかねません。これを未だ林外務大臣ははっきりと否定していません。

日本は、瀕死の中国共産党を2度助けました。3度目は、絶対にあってはならないです。いまはなりを潜めているようですが、今後習近平来日に賛成する政治家や官僚が、識者、マスコミ関係者等がいれば、それはまさしく「国賊」以外の何者でもありません。

私自身としては、台湾有事などよりも、こちらのほうが余程心配です。

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2021年12月1日水曜日

安倍元首相、台湾のTPP参加を支持 中国へは自制ある行動呼び掛け―【私の論評】中国が台湾に侵攻すると考える人は、兵站のことを考えていない(゚д゚)!

安倍元首相、台湾のTPP参加を支持 中国へは自制ある行動呼び掛け

安倍元総理

(台北中央社)安倍晋三元首相は1日、台北市内で開催されたフォーラムにリモートで登壇し、「台湾のTPP(環太平洋経済連携協定)参加を支持します」と語った。中国との関係については「習近平主席と中国共産党のリーダーたちに、繰り返し、誤った道に踏み込むなと訴え続ける必要がある」との認識を示した。

フォーラムは台湾の民間研究機関、国策研究院文教基金会が主催。安倍氏は「新時代の台日関係」と題した講演を行った。台北の会場には鄭文燦(ていぶんさん)桃園市長や林智堅(りんちけん)新竹市長などが出席した。

安倍氏は「日本と台湾がこれから直面する環境は、緊張をはらんだものとなる」と指摘。「自由で開かれた、民主主義の枠組みに、自分たちをしっかりと結び付ける努力を続けることが肝心」との考えを示した。

TPPの参加については、「台湾には参加資格が十二分に備わっている」と強調。「WHO(世界保健機関)のオブザーバー資格など、可能な分野からふさわしい発言権を手にしていくべき」とした上で、「実現に向け、支援を惜しまぬつもり」と述べた。

一方で中国との関係については「自由と民主主義、人権、法の支配という普遍的価値の旗を高く掲げて世界中の人から見えるよう、その旗をはためかせる必要がある」と語った。

また台湾の有事は日本の有事だとし、「日米同盟の有事でもある」と主張。中国に対して「自国の国益を第一に考えるなら、両岸(台湾と中国)関係には、平和しかないということを、繰り返し説いていかねばならない」とした。

安倍氏は、「普遍的価値を重視する私たちにとって台湾こそはキーストーンである」と強調。「まずはWHOへの参加など、台湾の国際的地位を、一歩一歩、向上させるお手伝いをしたい」と述べ、「自由で、人々に人権を保障する台湾は、日本の利益」とし、「世界全体の利益でもある」と語気を強めた。


【私の論評】中国が台湾に侵攻すると考える人は、兵站のことを考えていない(゚д゚)!

安倍総理は、中国に対して以下のような警告もしていました。

「軍事的冒険は経済的自殺への道でもある」と述べ、「中国が台湾に侵攻した場合、世界経済に重大な影響を及ぼし中国が深手を負うことになる」とも指摘したのです。

これについては、このブログで何度か述べてきたようなことを意味しているものと思います。そうです、中国の台湾侵攻は軍事力的にいって無理なのです。侵攻すれば、中国海軍は崩壊し、地上部隊は補給がされなくなりお手上げ状況になるだけです。そうして、大きな損害を蒙るだけではなく、諸外国から経済的にも政治的にも切り離されことになります。

中国側にはおびただしい数の死傷者がでることになります。無論、台湾側にもそれなりの犠牲者がでるでしょうが、それにしても中国側と比較すれば、かなり少ないでしょう。特に中国海軍の犠牲はおびただしいでしょう。

中国海軍は、日米英などの海軍から比較すれば、海戦能力に著しく劣りますが、それでもある程度の時間をかけて養成してきたものが、灰燼に帰し、再建するには途方もない時間と経費を必要とすることになるでしょう。

軍事アナリストの小川和久氏も、中国による台湾侵攻は無理であると断じています。その根拠については、以下のように述べています。
 台湾有事論の高まりを前に、1970年代後半の北方脅威論の時代を思い出している。

 激しさを増す米ソ冷戦のさなか、日本国内では何十個師団ものソ連軍が北海道に上陸侵攻してくるとの危機感が高まり、マスコミでもそれをあおるような報道が相次いだ。

 しかし、現実には海上輸送能力の限界から、北海道に投入できるのは3個自動車化狙撃師団(機械化歩兵師団)、1個空挺(くうてい)師団、1個海軍歩兵旅団、1個空中機動旅団にすぎず、全滅を覚悟しない限り、作戦が発動される可能性はなかった。

 意外かもしれないが、そういう角度から軍事を科学的にとらえることを教えてくれたのは、1等陸佐になったばかりのころの、防衛大学校1期生たちだった。

 つまるところ、このときの騒ぎはワシントン発、そして永田町発の政治的な北方脅威論にすぎなかった。空騒ぎからさめたあと、国民の防衛意識が高まるには長い年月を必要とした。今回の台湾有事論の高まりには同じ側面がある。

当時のソ連軍と同じような輸送力の限界は現代の中国にもあります。 これについては、以前このブログでも述べました。その記事から引用します。

台湾有事を気楽に語っている軍事評論家も忘れているようですが、旧ソ連軍の1個自動車化狙撃師団(定員1万3000人、車両3000両、戦車200両)と1週間分の弾薬、燃料、食料を船積みする場合、30万~50万トンの船腹量が必要だとされています。
旧ソ連軍の演習
舶輸送は重量トンではなく容積トンで計算するからです。それをもとに概算すると、どんなに詰め込んでも、3000万トンの船舶が必要になります。

この海上輸送の計算式は、世界に共通するもので、中国も例外ではありません。むろん、来援する米軍機を加えると、中国側には上陸作戦に不可欠な台湾海峡上空の航空優勢を確保する能力もありません。

このようなことを考えると、中国が台湾に侵攻するのは無理ということになります。輸送力に欠ける中国は、戦力を小出しにせざるを得なく、台湾に兵を送れば、小出しの兵力ではすぐに台湾軍に撃破されてしまいます。

いくら、中国軍が相対的に巨大であるからといって、小出しにしか兵を送れないなら、台湾軍のほうが数的にも圧倒的に有利になり、個別撃破されるだけになります。

しかも、米国は当然のことながら、台湾を攻撃型原潜で包囲するでしょうから、そうなるとただでさえ少ない輸送力が、さらに破壊され小さくなってしまいます。これでは、十分な人員も武器弾薬も送れず、小出しに展開した兵は、逐次台湾軍に個別撃破されることになります。

それに潜水艦で包囲されてしまえば、中国側はこの包囲網を破ることはできません。それでも、強行突破しようとすれば、多くの艦艇は海の藻屑と消えることになります。

以上に関して、詳細については下の【関連記事】のところに、リンクを掲載しておきますので、そちらをご覧になってください。

戦史家のマーチン・ファン・クレフェルトは、その著作『補給戦――何が勝敗を決定するのか』(中央公論新社)の中で、「戦争という仕事の10分の9までは兵站だ」と言い切っています。

マーチン・ファン・クレフェルト

実は第2次世界大戦よりもはるか昔から、戦争のあり方を規定し、その勝敗を分けてきたのは、戦略よりもむしろ兵站だったのです。極限すれば兵士1人当たり1日3000kcalの食糧をどれだけ前線に送り込めるかという補給の限界が、戦争の形を規定してきました。そう同著は伝えています。

エリート中のエリートたちがその優秀な頭脳を使って立案した壮大な作戦計画も、多くは机上の空論に過ぎません。

現実の戦いは常に不確実であり、作戦計画通りになど行きません。計画の実行を阻む予測不可能な障害や過失、偶発的出来事に充ち満ちているのです。

史上最高の戦略家とされるカール・フォン・クラウゼビッツはそれを「摩擦」と呼び、その対応いかんによって最終的な勝敗まで逆転することもあると指摘しています。

そのことを身を持って知る軍人や戦史家たちの多くは、「戦争のプロは兵站を語り、素人は戦略を語る」と口にします。

米陸軍の「寒冷地用」戦闘糧食 

中国は何のために、台湾に侵攻するかといえば、台湾を中国に併合して、台湾を中国の省とするか、対岸の福建省に組み入れることです。台湾を中国の一部として、統治するのが目的です。

台湾を破壊するだけでは意味がないのです。破壊するだけなら、艦艇や航空機を派遣して、攻撃して引き上げれば良いだけです。あるいは、中国本土からミサイルを撃ちまくれば良いです。破壊が足りなければ、何度でも繰り返せば良いだけです。最も簡単な方法は、核ミサイルを数発打ち込めば良いです。しかし、それでは統治はできません。

しかも台湾人は中国に統治されることを拒否していますし、さらには、優れた対艦ミサイルも備えた軍隊を有しています。その他様々な兵器も有しています。このような軍隊に対して、小出しの展開しかできなければ、負けるに決まっています。

中国が勝つと考える人は、兵站のこと、特に陸続きではない海洋を隔てた戦闘地域に対するそれが頭にないのではないかと思います。兵站に考えがいたらない人は、軍事を語るべきではありません。

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2021年11月30日火曜日

米潜水艦母艦「フランク・ケーブル」 佐世保に入港 原潜運用に変化か―【私の論評】米軍は攻撃型原潜を台湾近海、南シナ海に常時潜航させている(゚д゚)!

米潜水艦母艦「フランク・ケーブル」 佐世保に入港 原潜運用に変化か

佐世保港に入った「フランク・ケーブル」

 米海軍の潜水艦母艦「フランク・ケーブル」が29日、佐世保港(長崎県)へ入っているのが確認された。同艦は全長198メートル、2万2826トン。潜水艦への補給や乗組員の休養、修理の支援などを担う。

 海上自衛隊呉地方総監部によると、同艦はグアムを母港としている。休養や物資の補給を目的に23日、海自呉基地に寄港し、数日間滞在したという。

 佐世保市によると、原子力潜水艦は2020年3月を最後に佐世保に入港していない。米軍の動向を追うリムピース編集委員の篠崎正人氏は「原潜の運用が変わってきている」と指摘。従来は原潜が港に入って補給や休養をしていたが、潜水艦母艦を用い洋上で補給や休養を取るようになってきているという。

 理由について篠崎氏は「新型コロナウイルス感染防止や、(原潜の)姿を見せないことで海洋進出を強める中国に圧力をかけるためではないか」と分析している。

【私の論評】米軍は空母なみの破壊力を持つ攻撃型原潜を台湾近海、南シナ海に常時潜航させている(゚д゚)!

潜水艦母艦とは別名「潜水母艦」ともいい、旧日本海軍も保有していました。おもな任務は、潜水艦に洋上で魚雷や燃料、食料などの消耗品を補充し、潜水艦乗員の休養や交代要員を用意し、さらには整備や応急修理なども行う、いわば洋上の潜水艦基地ともいえる艦です。

また第2次世界大戦ごろまでの潜水艦は通信能力が低かったため、当時は遠洋において通信連絡の肩代わりを担うことも想定されていました。

このように様々な任務を有するため、「母艦」と称されます。補給のみを担う艦は「母艦」ではなく、単なる「補給艦」や「支援艦」と呼ばれます。

海上自衛隊が過去に運用していたなかに潜水艦救難母艦「ちよだ」という艦がありましたが、こちらは「救難」という言葉が入っているように、潜水艦の救難任務も担っていました。

「ちよだ」は船体中央に搭載した深海救難艇(DSRV)での救難任務以外に、潜水艦への補給用として魚雷やミサイル、燃料、食料、真水を搭載でき、さらに潜水艦への電力供給や潜水艦乗組員80名分(約1隻分)の休養設備を有していました。

潜水艦母艦としての機能も有していたからこそ、「ちよだ」は潜水艦救難母艦と呼ばれたのですが、海上自衛隊の方針で、その後建造された同種の艦は、母艦機能をなくし、より救難機能を充実させた内容になったことから、潜水艦救難母艦ではなく「潜水艦救難艦」と名称を改めています。

一方、米海軍は、攻撃型原子力潜水艦(攻撃原潜)と戦略ミサイル搭載原子力潜水艦(戦略ミサイル原潜)を合計で75隻、保有しているためもあり、補給艦的存在の「潜水艦母艦」と、救難艦の「潜水艦救難艦」をあえて別々に保有しています。

航空母艦(空母)や掃海母艦の「母艦」という語句にも同じ意味があります。前者は航空機の補給や整備、パイロットの交代休養、後者は掃海艇の補給や整備、掃海作業員の交代休養にあたるからこそ、「母艦」と付いています。

ちなみに民間船舶である捕鯨母船の「母船」も同じ意味あいです。こちらは捕鯨船団の指揮や補給、乗組員の各種支援にあたる船です。

上の記事では、リムピース編集委員の篠崎正人氏は「原潜の運用が変わってきている」と指摘していますが、それは当然です。

すでにこのブログも過去に何度か掲載したように、昨年の5月より、米軍は潜水艦を少なくと7隻を派遣していることを公表しています。詳細は以下のリンクから御覧ください。

この記事は昨年11月のものであり、筆者は古森義久氏です。
アメリカ海軍の潜水艦が中国への抑止誇示
古森義久氏

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 この潜水艦群の動きは太平洋艦隊司令部のあるハワイ州ホノルルの新聞が同司令部からの非公式な通告を受けて5月下旬に報道した。アメリカ海軍は通常は潜水艦の動向を具体的には明らかにしていない。だが今回は太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中であることが同司令部から明らかにされた。

 その任務は「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿っての「有事対応作戦」とされている。この構想の主眼は中国のインド太平洋での軍事膨張を抑えることだとされるため、今回の潜水艦出動も中国が覇権を目指す南シナ海や東シナ海での展開が主目的とみられる。 
 同報道によると、太平洋艦隊所属でグアム島基地を拠点とする攻撃型潜水艦(SSN)4隻をはじめ、サンディエゴ基地、ハワイ基地を拠点とする戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)など少なくとも合計7隻の潜水艦が5月下旬の時点で西太平洋に展開して、臨戦態勢の航海や訓練を実施している。
この記事にもあるように、米軍は新型コロナウイルスの感染がアメリカ海軍にまで及び、空母「セオドア・ルーズベルト」の乗組員の半数ほどの感染だけでなく、他の艦艇にも同様の感染が広がることから起きるアメリカ海軍全体の危機対応能力への懐疑を抑えることも、目的に潜水艦を派遣しているという側面はあると思います。

ただし、米軍が攻撃型潜水艦が抑止力となると考えているのも事実でしょう。何しろ、米攻撃型原潜は、トマホークを百発以上も発射できるような化け物のような代物で、かつてトランプ大統領か「海の下に沈む空母」と形容したくらい、攻撃能力が高いです。

コロナウイルス感染だけが潜水艦派遣の原因であれば、すでに潜水艦を引き上げでも良いはずですが、そうではないことがわかっています。

それは、米攻撃型原潜「コネティカット」が10月2日に、何かの物体に衝突したことが公表されたことで明らかになりました。

米軍は昨年5月あたりから、西太平洋で潜水艦の動きを活発化させており、それは今も継続されているものとみられます。

そうして、共産党のサイトでは、昨年は米原潜の日本への寄港が半減して、82年以降最少であったことがレポートされています。以下にそのサイトに掲載されていたグラフを掲載します。


確かに、寄港回数は減っています。西太平洋に潜水艦を派遣すれば、日本への寄港回数が増えるというのが普通でしょうが、そうではなく、寄港回数が減っているのです。

攻撃型原潜も原潜であることには変わりありません、原潜なら2年間潜航することはできますし、大規模整備も2年間隔くらいで十分です。しかし乗組員中が持ちません。やはり数ヶ月単位(通常は3ヶ月)で帰港してクルーを交代する必要があります。

クルーはいずれかの港に寄港すると別のチームと交代して静養します。当然、この時に食糧などの補給と整備を行います。

だから、日本への寄港回数が減るというのは不思議です。これは、辻褄が合いません。ただ、一つこの齟齬を解く鍵は、やはり台湾情勢や南シナ海情勢に関係しているのだと思います。

米国はすでにこのブログで掲載して説明したように、緊迫している台湾近海に攻撃型原潜を複数隻派遣している可能性が大です。さらに、南シナ海にも要所要所に原潜を潜ませていることでしょう。

メンテナンス中のシーウルフ級攻撃型原潜(コネティカットと同級) 巨大さがよくわかる

台湾近海や南シナ海に常時潜水艦を配置するということになれば、さすがに米国でも、潜水艦の数には限りがあり、交代のために時間をかけて日本等に寄港するのはやめて潜水母艦で潜水艦に対する物資補給と乗組員休息に切り替え効率的に運用するように切り替えたのでしょう。

ただ、潜水母艦での原潜の交代要員の休憩も長い期間は続けられません。さらに潜水母艦自体の物資補給や乗組員の休息も必要です。そのため、攻撃型原潜や潜水母艦も日本等にも寄港するのでしょうが、それにしても特に原潜の寄港回数は減っていると解釈できます。

このブログでは、何度か述べましたが、米軍は中国に比較すると圧倒的にASW(対潜水艦戦闘力)が優れており、米攻撃原潜が、台湾近海、南シナ海に常時潜んでいれば、中国側は迂闊なことはできません。これは、かなりの抑止力になります。

潜水艦の行動は通常公表しないのが普通です。しかし、リムピースや共産党など、我々と目的は違いますが、上記のような情報を提供するので、様々な軍事的な分析をするのに役立ちます。特に、数値情報は役立ちます。

そういう意味では、朝日新聞でさえも役立つことがあります。結局どのような情報であれ、使う人次第であり、良くも悪くもなるということだと思います。

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2021年11月29日月曜日

入国禁止、全世界に拡大 オミクロン株で水際強化―30日から適用・政府―【私の論評】感染症対策の順番を間違えなかった岸田総理に、期待すること(゚д゚)!

入国禁止、全世界に拡大 オミクロン株で水際強化―30日から適用・政府

新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」への対応について、記者団の質問に答える岸田文雄首相=29日午前、首相官邸

 岸田文雄首相は29日、新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染が広がっていることを受け、アフリカ9カ国に限定している外国人の入国禁止を全世界に拡大すると発表した。30日午前0時から適用する。

オミクロン株、欧州・豪で確認相次ぐ 感染拡大受け規制復活―入国、全面禁止も

 岸田首相は首相官邸で記者団の取材に応じ、「最悪の事態を避けるために緊急避難的な予防措置として、外国人の新規入国は30日午前0時より全世界を対象に禁止する」と説明。オミクロン株感染が確認された14カ国・地域からの帰国者に対し、厳格な隔離措置を行うことも明らかにした。

 外国人の新規入国を原則停止している日本政府は、外国人ビジネス関係者や留学生、技能実習生の新規入国を11月8日から例外的に解禁。しかし、オミクロン株の発生を受け、南アフリカなど9カ国にはこの例外を認めないことにしている。政府はこの措置を全世界に広げる。

【私の論評】感染症対策の順番を間違えなかった岸田総理に、期待すること(゚д゚)!

岸田政権、国民のため、全世界を対象に、例外的に認めていたビジネス目的の短期滞在者、留学生、技能実習生などの日本への入国を当面の間、停止することを決定しました。とても評価しますが、進言して説得した政治家、官僚も同様に評価したいです。

家族が日本に滞在しているなど「特段の事情」がない限り、外国人の新規入国は認められなくなる。さらに岸田総理はオミクロン株の感染が確認された国や地域からの日本人らの帰国者に対しても、厳格な隔離措置を実施すると表明しました。

また岸田総理は今回の措置について、「オミクロン株がある程度明らかになるまでの念のための臨時異例の措置だ」と強調しました。

一方、「ナミビアから入国した1名に新型コロナ陽性の疑いがあると報告を受けており、ただちにゲノム解析を行っている」と述べた。解析結果が出るのは4、5日かかることも明らかにしました。

この措置は、さっそく様々なことに影響を及ぼしています。日本で開催するフィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナル(12月9日開幕、大阪)に暗雲が垂れ込めてきました。 SNSでは「GPファイナルどうなるの?」「日本人だけ出場? 中止?」とザワついています。 

GPファイナルには世界王者のネーサン・チェン(米国)、女子では世界最高得点を連発する15歳の〝怪物ルーキー〟カミラ・ワリエワ(ロシア)が出場予定。例外なく入国禁止となれば、開催に大きな影響を及ぼすことになります。日本スケート連盟は「現段階ではまだお答えできるレベルのことが決まっていないので」としています。 ようやくコロナが終息しかけた中での緊急事態。果たしてフィギュア界最高峰の大会はどうなるか。

カミラ・ワリエワ

新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」が最初に確認された南アフリカの医師が28日、患者の症状について、「今のところ軽症だ」と述べました。

南アフリカ医師会・コエツィ医師「症状としては、1日2日続く強い倦怠感(けんたいかん)の後に頭痛や体の痛みがある。せきもあるが、ずっと続くものではなくやがてなくなる」

南アフリカの医師会の会長でオミクロン株の患者を診察した医師は、「今のところ重症患者はおらず、自宅での治療も可能だ」と話しました。また、患者に味覚や嗅覚障害は見られず、酸素濃度の低下なども確認されていないということです。

オミクロン株にワクチンが効かない可能性について、医師は「分からない」としつつも、患者の症状は軽いとして、「パニックになる理由はない」と話しています。

オミクロン株は人間の細胞に結合するウイルス表面の突起部分だけで32か所もの変異があります。慶応大の解析によると、世界中で流行した英国由来のアルファ株、インド由来のデルタ株と共通の変異はありますが、両者や南アフリカ由来のベータ株とも違う、別の系統で変異した新型コロナウイルスと考えられるといいます。


分析した小崎健次郎教授(臨床遺伝学)は「過去の流行株と系統が違うため、アフリカで監視の目をくぐり抜けて変異が蓄積したのではないか」と指摘しています。

感染力や重症度は不明だが、変異は細胞への侵入のしやすさや、免疫の攻撃の回避に関係する部位にもありました。東京医科大の浜田篤郎特任教授(渡航医学)は「南アフリカの一部地域では感染力が強いデルタ株を 凌駕しオミクロン株に置き替わっている。変異部位も多く、感染力が増している可能性がある」と懸念しています。

日本のメディアは大騒ぎしているようですが、個人レベルではマスクをする、手洗いをする、三密を避けるなどを励行しつつ、この変異株の正体が明らかになるのを待つべきと思います。

ただしこの変異株の正体は分かつていないということは、予想以上に危険な場合もあり得るということで、後でそれがわかってから慌てるよりは、今回の政府の措置は評価したいです。

後でさほど危険性がないということがわかれば、制限を緩めれば良いだけです。逆をやると大変なことになります。大勢の犠牲者から出てから、入国制限をするということでは、取り返しがつきません。

岸田総理、今回はコロナ感染症対策に対して正しい対応をしたと思います。このようなことができるのであれば、他の外交、安全保証や、経済政策なども、まともに実施していただきたいです。

政策は順番を間違えるととんでもないことに・・・・・・

外交でも、安保でも、経済対策でも順番を間違えると、感染症対策と同じく破滅的な結果を招くこともあります。

外交、安保で現在最も重要なのは、中国対策です。世界の趨勢に逆らい、新中国敵な政策をとれば、米国をはじめとする先進国から爪弾きにされかねません。

経済対策においても、金融緩和をしないで、経済を良くしようとしても、できません。韓国のように雇用が激減して、とんてもないことになるだけです。それに、経済が良くなる前に、増税するなどももっての他です。

昨日もこのブログで述べたように、移民政策の前に、まずは国民の賃金を上昇させる政策を実施べきです。賃金があがってもそれでも、人手不足なら、まともな制度設計をして、外国人労働者も受け付けるようにすべきです。そうしないと、政府も産業界も取り返しのつかないことになります。すべての政策において、順番を違えることのつけは大きいです。政策の失敗は、順序を間違える場合がほとんどです。

衰弱した猫に、死んだ後て水や餌を与えても無意味です。生きているうちに、水や餌を与えるべきことは誰にでも理解できます。ところが、政治の世界では、このような過ちを平然として行う政治家が多いのにはしばしば驚かされます。

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2021年11月28日日曜日

政府「特定技能2号」拡大検討 在留期限なし―【私の論評】政府も産業界も実質的な移民政策を実行することで、自分たちの首を絞めることに(゚д゚)!

政府「特定技能2号」拡大検討 在留期限なし


 政府は人手不足に対応するため、外国人労働者の在留資格を緩和する方向で検討に入った。事実上、在留期限がなく、家族帯同も認められる在留資格「特定技能2号」について、現在の建設と造船・舶用工業の2業種だけでなく、人材確保が困難な農業や宿泊業、飲食料品製造業、外食業などにも拡大する考えだ。関係省庁と調整し、来春の正式決定を目指す。

 特定技能は外国人労働者の受け入れ拡大を目的に平成31年4月に新設された。人手不足が顕著な介護や建設、農業など14業種を対象とし、技能水準や日本語能力などによって「1号」と「2号」に分類した。

 「1号」は「相当程度の知識または経験を必要とする技能」が求められる。在留期間は最長5年で、基本的に家族の帯同は認めない。一方、「2号」は「熟練した技能」を持つ外国人労働者が対象で、定められた期間ごとの更新は必要になるが、在留期間の上限はない。家族(配偶者と子供)の帯同も可能だ。

 松野博一官房長官は特定技能制度の意義について「生産性向上や国内人材確保のための取り組みを行った上で、人材確保は困難な状況にあるため、外国人により、不足する人材の確保を図る」と説明。「2号」認定については「無条件に永住を可能とするものではない」と語る。

 出入国在留管理庁によると、9月末(速報値)の「1号」の在留資格者数は3万8337人で、2号はいない。政府は「2号」の業種を拡大することで、労働力不足の解消につなげることを検討している。

 ただ、日本では原則10年以上在留していることなどを条件に永住権が認められ、その後の職種は問われないことから、「2号」の拡大は事実上の「移民解禁」との指摘もある。

【私の論評】政府も産業界も実質的な移民政策を実行することで、自分たちの首を絞めることに(゚д゚)!

「特定技能2号」拡大に関しては、来夏の参院選を控え、支援を受ける業界団体への配慮から前向きな議員もいる一方、自民党には対象拡大に否定的な意見も根強いです。

そもそも、岸田首相は26日の「新しい資本主義実現会議」で、経済界に「3%超の賃上げ」実現を強く求めました。一般的に低賃金と指摘される外国人労働者の受け入れ拡大は賃金上昇にマイナスの影響を与え、首相の経済政策に矛盾します。



松野博一官房長官は26日の記者会見で「国民の人口に比して一定の規模の外国人・家族を、期限を設けずに受け入れて国家を維持する政策を取る考えはない」と明言した。「いわゆる移民政策は取らない」との政府方針を変更したわけではないと強調しました。

「特定技能」は安倍晋三政権の平成30年に成立した改正出入国管理法に基づく制度。安倍氏は当初、保守層の反発を考慮し慎重でしたが、介護や建設、宿泊業などの業界団体の窮状を熟知する菅義偉官房長官(当時)の強い説得もあり、受け入れの方向へかじを切りました。安倍氏は「優秀な外国人材にもっと日本で活躍してもらうために必要だ」と説明し、「移民政策」との批判をかわしてきました。

ただ、自民党には対象拡大に否定的な意見も根強い。来夏の参院選を控え、支援を受ける業界団体への配慮から前向きな議員もいるが、9月の党総裁選で高市早苗政調会長を支持した若手参院議員は「絶対に認めない。党部会などで制度が抱える問題点を徹底的にあぶり出す」と語る。

永住に道を開くことにもなり得る重大な政策転換に際し、十分な国会論議と政府の丁寧で透明性のある説明が求められのは当然です。

高橋洋一氏は、この措置について、「特定技能2号」の全業種への拡大は、自民の公約に見当たらないことが不味いし、これは賃金が下がるということで、経営側は歓迎ですが労働側は不満を持つことになるし、重要な争点なので選挙前に議論すべきであったとしています。詳細は、以下の動画を御覧ください。


上の動画で高橋洋一氏が、語っているように、自民党の「政策BANK」を見ると、「外国人の適正な出入国・在留管理を徹底しつつ、一元的相談窓口の設置など、多文化共生の実現に向けた受け入れ環境を整備するとともに、技能実習制度及び特定技能制度の活用を促進し、中小企業・小規模事業者等の人手不足に対応します」と、最後のページに小さな文字で記されています。

ちなみに「政策BANK」は、以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.jimin.jp/policy/pamphlet/
 極めて分かりにくい文章ですが、これで「国民の支持を得た」と言い張るつもりなのでしょうか。そもそも、特定技能は、日本で学んだ技術を母国で還元してもらうことが目的の制度であるはずですが、報道が本当なら、事実上の「移民受け入れ政策」になります。

移民の受け入れは、欧州諸国でかなりの大問題になっているのに信じがたいです。それに高橋洋一氏が語っているように、賃金が下がるということで、経営側は歓迎ですが労働側は不満を持つことになります。

日本の賃金については以前このブログにも掲載したことがあります。
【日本の解き方】日本の賃金はなぜ上がらない? 原因は「生産性」や「非正規」でなく、ここ30年のマネーの伸び率だ!!―【私の論評】日本人の賃金が低いのはすべて日銀だけのせい、他は関係ない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事からグラフを引用します。

このグラフをみると、日本では30年間賃金があがっていません。これは、一重に日銀の金融政策が間違っていたからであると、この記事では結論づけました。

そうて、最後の結論部分を以下に引用します。
勘違いすれば、とんでもないことになります。たとえば、お隣韓国では、雇用状況がわるいというのに、あまり金融緩和をしないで最低賃金を機械的にあげましたが、どうなったでしょうか。雇用が激減してとんでもないことになりました。今日もテレビで、韓国の悲惨な現状が報道されていました。

日銀が大規模な金融緩和をしないうちに、「非正規雇用」が多いからなどとして、非正規雇用を機械的に減らしてみたり、「企業の内部留保」を機械的に減らすようなことをすれば、がん患者に、突然激しい運動をさせてみたり、厳しいダイエットをするようなものであり、無論賃金が上がるということもなく、韓国のようにとんでもないことになります。

立憲民主党のように「分配なくして成長なし」というのも、これと同じようにとんでもないことになります。成長する前に分配をしてしまえば、韓国のように雇用が激減するだけになります。

考えてみれば、「失われた30年」は、日銀による実体経済にお構いなしに、金融引締を実施し続けたことによるデフレ、政府によるこれも実体経済にお構いなしに増税など緊縮財政を長い間にわたって続けてデフレに拍車をかけてきたことが原因です。

もう、いい加減このような愚かな政策はやめるべきです。

岸田政権には、賃金をあげようという考えは全くないようです。勘違いどころか、意図して意識して、賃金を下げる政策をしようというのですから、お話になりません。

このようなことでは、岸田政権は来年夏の参院選ではボロ負けして、退陣ということになりそうです。

産業界の人たちも良く考えるべきです。日本人の賃金が上がらないということは、これから消費も伸びないということです。消費が伸びなければ、自社製品の売上も伸びないということです。

輸出すれば良いという考えもあるかもしれませんが、まだ十分にコロナから回復していない諸外国への輸出が急激に伸びるとは考えられません。

それに、コロナから回復したにしても、輸入を増やせるのは、賃金の高い先進国であり、現状でも賃金が低い日本がさらに賃金が低いままかさらに低くなるようでは、賃金の高い国々の非人々のニーズやウォンツを把握し、それに対応する製品等の開発は困難になるはずです。

食糧不足が深刻な北朝鮮でトウモロコシ農場を視察する金正恩総書記

なぜなら、賃金の高い人たちには、その人たちなりのニーズやウォンツがあり、それは賃金の低い人たちにはなかなか理解できないからです。たとえば、北朝鮮の人々は、十分に食べることができれば、幸福かもしれませんが、先進国の人はそうではありません。

日本人の賃金が他の先進国より、低くない時代には光り輝いていたソニーが今は見る影もないのは、そのような背景があるからかもしれません。

結局、政府も産業界も実質的な移民政策を実行することで、自分たちのくびを締めることになるのです。そのことを岸田総理は自覚すべきです。

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2021年11月27日土曜日

中国軍、台湾海峡で「戦闘準備パトロール」 米議員団の訪台受け―【私の論評】軍事力以外で台湾併合を目指さざるを得ない中国の道のりは、果てしなく遠く険しい(゚д゚)!

中国軍、台湾海峡で「戦闘準備パトロール」 米議員団の訪台受け


米下院議員5人が25日に台湾を訪問したことを受け、中国軍が26日、台湾海峡周辺で「戦闘準備」に向けたパトロールを実施したと発表した。

「台湾海峡の現在の状況に対応するために関連する行動が必要だ。台湾は中国の領土の一部であり、国家主権と領土を守ることはわが軍の神聖な使命である」とした。ただ詳細は明らかにされていない。

台湾国防部(国防省)は同日、核兵器の搭載が可能なH6爆撃機2機を含む中国軍の戦闘機8機が台湾の防空圏を飛行したと発表した。

マーク・タカノ退役軍人委員長

台湾を訪問した米下院議員団を率いるマーク・タカノ退役軍人委員長は26日、蔡英文総統と会談し、台湾は世界において「善に向けた力」だと称賛し、蔡総統の下で米台関係は過去数十年で最も生産的だと述べた。

【私の論評】軍事力以外で台湾併合を目指さざるを得ない中国の道のりは、果てしなく遠く険しい(゚д゚)!

この報道に関して、一部マスコミは中国の台湾侵攻の脅威を煽っていますが、これは昨日と一昨日もこのブログで述べたようにありえないです。もし、中国が台湾に侵攻したとすれば、台湾と単独と戦ったとしても、中国軍は甚大な被害を受けます。

もし米軍が加勢したとすれば、中国海軍はさらに甚大な被害を受け、事実上壊滅します。どうしてそうなるかについては、昨日と一昨日のこのブログの記事を御覧ください。

壊滅すれば、習近平の権威は地に堕ちます。そのようなことを習近平がするはずもありません。

中国は本音では、軍事的圧力などしても、米国への牽制にもならないと思っているでしょう。さらに、自由主義陣営による北京冬季五輪の『外交的ボイコット』も覚悟しているでしょう。

ただし、そのままにしておけば、習近平国家主席の面子が潰れるため、八つ当たりで台湾へ戦闘機などを台湾防空圏内を飛行させたのでしょう。

中国の王毅(おう・き)国務委員兼外相は26日、バイデン米政権が来月にオンライン形式で開く「民主主義サミット」について、「一つの国の基準に基づいて線引きを行い、分裂と対立を作り出す」と非難した。中国を念頭に置いた新たな連携の枠組みになることを警戒しているようです。


さて、台湾に軍事的に侵攻できない中国はそれでも、台湾を併合しようとしています。

習近平政権は2018年ごろまで、台湾社会にそれなりにうまく浸透していました。例えば「恵台31条」です。景気が悪かった台湾の人々に、中国での雇用を提供するなどの施策を盛り込んだ台湾融和策です。

この取り組みはある程度効果を発揮し、台湾の人々の間で対中感情が向上。蔡英文政権がこの年の地方選で惨敗したことと、中国が進めたこの融和策に台湾の人々が応じたこととの間には関係性があったと考えられます。

しかし、2018年あたりからは、雲行きが危うくなりはじめました。2119年1月の総統選で蔡英文総統陣営をけん制するため、中国は2018年8月から中国大陸から台湾への個人旅行を停止しました。中国大陸から台湾には2017年には100万人を超える個人観光客が訪れたのですが、中国からの旅行客に頼る台湾の観光業に大打撃となりました。

しかし、このことが台湾に大いに幸いしました。最近の研究では、中国では2018年12月あたりの時期からコロナの感染があったのではないかとされています。その時期よりずっと前の8月から台湾には中国から個人客はいませんでした。

台湾のコロナ対策は世界でもトップクラスであり、感染者、死者数とも桁違いに少ない状況でしたが、このように中国からの旅行客がいなかったこともプラスに働いたのは間違いありません。

そうして、流れを完璧に変えてしまったのが、2019年1月に発表した習5点でした。中国の対台湾政策をまとめたものです。

習5点の骨子は以下のようなものです。
第一:統一促進と中国の夢
第二:一国二制度と民主協商の呼びかけ
第三:一つの中国原則と台湾独立反対
第四:両岸融合と同等待遇
第五:中華民族アイデンティティ
この中にある「外部の干渉や台湾独立勢力に対して武力行使を放棄することはしない」という文言を、台湾の人々が「台湾への軍事侵攻を妨げない」と理解して猛反発し、それが蔡英文総統への支持拡大にもつながりました。

中国はその後、香港で民主派を弾圧。これが蔡英文政権への支持をさらに拡大させ、同政権を2020年に再選させました。それと同時に、コロナ下でのチャーター機問題などで台湾の人々が抱く反中感情は悪化の一途をたどりました。

この状況を改善すべく、中国は「愛国統一力量」を養成する取り組みを進めています。台湾の若者、社会、企業の中に中国のシンパを増やしていくと、同時に台湾の対岸に位置する福建省と台湾の一体化を進める考えです。ただし、これは容易なことではありません。台湾が抱く対中不信感は非常に強いものがあります。

中国はこれまで台湾の国民党との協力、すなわち「第3次国共合作」を進めて統一に至るシナリオを描いていました。しかし、国民党があまりに弱くなりすぎました。

そのため現在は、国民党への働きかけよりも、台湾の社会全体に訴えることを重視しています。それが愛国統一力量の養成なのです。台湾で「愛国者」を育て、彼らと一緒に統一を目指す。しかしこれは長期になるでしょうし、容易ではありません。


したがって、2024年の次期総統選にも中国は確実に介入するでしょうが、工作対象としての重要度は以前と比較すれば薄れてきたといえるでしょう。

中国に台湾に侵攻できるだけの軍事力があれば、このような回り道などせず、もうとうにチベットやウィグルがそうであったように、台湾も侵攻されて、中国の一つの省か、福建省の一部になっていたことでしょう。

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2021年11月26日金曜日

中国軍改革で「統合作戦」態勢整う 防衛研報告―【私の論評】台湾に侵攻できない中国軍に、統合作戦は遂行できない(゚д゚)!

中国軍改革で「統合作戦」態勢整う 防衛研報告


 防衛省のシンクタンク、防衛研究所は26日、中国の安全保障に関する動向を分析した年次報告書「中国安全保障レポート2022」を公表した。中国は習近平国家主席が主導した軍改革により、伝統的な陸海空の軍隊に加え、宇宙やサイバーなどの新たな領域を加えた「一体化統合作戦」が遂行できる軍体制を整えたと指摘した。ただ、残された課題も多く、今後の動向に注視が必要と訴えた。

 報告書のテーマは「人民解放軍の統合作戦能力がどこまで深化したのか」。2012年に発足した習体制のもとで断行した建国以来最大規模の軍改革について、一体化統合作戦が実現可能な態勢を整えたと評価した。

 習体制の軍改革では、全土を5つの「戦区」に再編し、陸海空各部隊の指揮権限を付与している。レポートでは、中央と各戦区にそれぞれ作戦指揮システムを導入し、台湾周辺や南シナ海での訓練を活発化させていると分析した。

 一方、レポートでは指揮系統や人材育成制度など細部にわたり分析を加え、課題もあぶり出した。陸海空司令部と戦区の間の権限調整や、各戦区に配置された政治委員の指揮権限などが残されており、「その克服には時間がかかると目される」とした。

 また、中国軍が各レベルで人材育成に力を入れているとも指摘した。各戦区の政治委員が作戦指揮や科学技術も学び、統合作戦の指揮を可能にすることで、共産党体制との両立を模索しているとした。

【私の論評】台湾に侵攻できない中国軍に、統合作戦は遂行できない(゚д゚)!

このレポートは以下のリンクからご覧いただけます。
http://www.nids.mod.go.jp/publication/chinareport/pdf/china_report_JP_web_2021_A01.pdf
今年のレポートは、1991年の湾岸戦争以降に中国が本格的に研究を始め、2000年代半ばから提唱した「統合作戦構想」に焦点を当てています。

統合作戦そのものは、中国独自のものではなく、同じ軍隊における異なる軍種・部隊間が連携して行う軍事作戦であり、第二次世界大戦の頃から重要性が認識されるようになってきました。その必要性としては軍事技術特に航空機、電子戦、ミサイルの発達によって作戦地域における前線、後方、地上、空中などに限定されることなく戦力が複雑に交錯することになったことが挙げられます。

また、集団安全保障体制の重要性が高まり、軍隊内の意思疎通を万全にして連合作戦を実施する必要性が出てきたことがあります。また軍隊に対する政治統制の希求、徹底した合理化、効率性と経済性の追求なども理由として大きいです。

中国の「統合作戦構想」とは、簡単に言ってしまうと、陸海空の「伝統的安全保障領域」に、宇宙やサイバー電磁波、認知領域など「新型安全保障領域」を連動させるものです。レポートでは、習近平指導部が建国以来最大の軍改革を断行し、習氏の統制力・指揮権限が強化され、統合化を重視した軍上層部の人事が行われたことなどを挙げ、「構想を実現し得る体制を整備した」と記述しています。

また中国軍が台湾周辺や南シナ海での訓練を活発化させていることについて、「一連の訓練を通じて、各軍種間で情報共有体制と指揮体制システムの相互接続などを強化している」と指摘しました。

さらに人材育成面では、軍の学校やオンライン教育によって統合作戦人材の育成に力を入れていることを紹介する一方、課題として、軍と民間との給与面の差が大きく、高度な科学技術知識に優れた人材の確保、維持、育成が難しいことなどを挙げています。

著者の防衛研究所・杉浦康之主席研究官は、今年のテーマについて「中国の軍改革は2020年に完成することになっていた。一体、中国はどこまで能力を強化できたのか、この時点で評価するのは重要と考えた」と語りました。

「統合作戦構想」自体は、いずれの軍隊でも考えておくべきことであり、いずれ将来の戦争はこのような作戦に基づき実行されるようになるのは間違いないでしょう。しかし、それと現状の差異はまだまだあります。

昨日も述べたように、中国には台湾に侵攻できるだけの力はありません。それについては、機能はある記事を引用しましたが、本日は再度別の角度から述べてみます。

中国が台湾を武力統一しようとする場合、最終的には上陸侵攻し、台湾軍を撃破して占領する必要があります。来援する米軍とも戦わなければならないです。

国防関係の展示会で展示された対艦ミサイル「雄風3」とキャニスターの模型(手前)=2015年8月、台北市内

その場合、中国は100万人規模の陸上兵力を発進させる必要があります。なぜなら台湾軍の突出した対艦戦闘能力を前に、上陸部隊の半分ほどが海の藻くずとなる可能性があるからです。

それに、昨日も述べたように、日米の潜水艦隊が台湾に加勢すると、上陸部隊のさらに半分が海の藻屑となります。これでは、台湾に到達する前に、全部隊が撃破されることになります。

日米が加勢しないとしても、100万人規模の陸上兵力を投入するためだけにでも5000万トンほどの海上輸送能力が必要となります。これは中国が持つ全船舶6000万トンに近い数字です。

台湾有事を気楽に語っている軍事評論家も忘れているようですが、旧ソ連軍の1個自動車化狙撃師団(定員1万3000人、車両3000両、戦車200両)と1週間分の弾薬、燃料、食料を船積みする場合、30万~50万トンの船腹量が必要だとされています。

旧ソ連軍の演習

船舶輸送は重量トンではなく容積トンで計算するからです。それをもとに概算すると、どんなに詰め込んでも、3000万トンの船舶が必要になります。

この海上輸送の計算式は、世界に共通するもので、中国も例外ではありません。むろん、来援する米軍機を加えると、中国側には上陸作戦に不可欠な台湾海峡上空の航空優勢を確保する能力もありません。

それだけではありません。軍事力が近代化するほど、それを支える軍事インフラが不可欠です、中国側にはデータ中継用の衛星や偵察衛星が決定的に不足しています。

その不足したインフラも、昨日も述べたように米軍が台湾に加勢することになれば、米国は真っ先に攻撃型原潜を派遣し、それをもって中国軍の偵察衛星の地上施設やレーダーなどを破壊するでしょう。そうなると、中国は目を塞がれた状態で戦わざるを得ないです。

しばしば脅威が喧伝される空母キラーと呼ばれる対艦弾道ミサイルも、移動する空母を追跡して直撃する能力には至っていません。さらに、これが機能したにしても、海に潜航する米国の攻撃型原潜を沈めることはできません。そういう中国側が、サイバー攻撃を仕掛けたにしても、上陸作戦の成功がおぼつかないのは明らかです。

それよりも何よりも、昨日も掲載したように、初戦において米攻撃型原潜が3隻くらいででも、台湾を包囲すれば、最初から中国の艦艇も、航空機も台湾に近づくことすらできません。近づけば破壊されます。こうすれば、米軍も台湾軍もほとんど犠牲が出ません。中国軍が無駄に犠牲を増やすだけになります。

中国軍が素早く行動して、運良く台湾に上陸部隊を揚陸できたとしても、その後に米攻撃型原潜に台湾を包囲されてしまえば、上陸部隊に対して補給ができなくなりお手上げになります。

そんなことよりも、注意すべきなのは、台湾国内で親中国的な世論が生まれ、内乱のような混乱に乗じて、傀儡(かいらい)政権が登場することでしょう。中国によるあらゆる手段を駆使するハイブリッド戦こそ警戒すべきです。

米軍トップのミリー統合参謀本部議長

6月17日、米軍トップのミリー統合参謀本部議長は上院で「中国が台湾への侵攻能力を備えるには長い時間がかかり、その意図もない」と述べ、3月の米国のデービッドソン・インド太平洋軍司令官(当時)の「中国の台湾への脅威は6年ほどで現実のものとなる」との発言を否定しましたが、上記のようなリアリズムに基づいていることを知っておくべきです。

先に述べたように、「統合作戦構想」自体は、中国に限らずいずれの国も持っていてしかるべきであり、そこに向けて努力すべきものだとは思います。

しかし、台湾に侵攻できない中国軍が、組織改編等したからといって、すぐに精緻な統合作戦ができるというわけではありません。その前にすべきことが多くあります。その道のりはまだまだ遠いとみるべきでしょう。

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2021年11月25日木曜日

「民主主義サミット」米が台湾招待、事実上の“国家承認”か 中国は反発「火遊びすれば、自ら身を滅ぼす」 識者「岸田政権はあらゆる対策を」―【私の論評】サミットに台湾を招いても何もできない中国の実体を国内外に見せつけるバイデンの腹の中(゚д゚)!

 「民主主義サミット」米が台湾招待、事実上の“国家承認”か 中国は反発「火遊びすれば、自ら身を滅ぼす」 識者「岸田政権はあらゆる対策を」


 ジョー・バイデン米政権が12月9、10日、民主主義国の首脳らを集めてオンライン形式で開催する「民主主義サミット」に、蔡英文総統=顔写真=率いる台湾が招待された。米国としては、台湾が「自由」「民主」「人権」「法の支配」など、共通の価値観を持つ自由主義陣営の一員だと世界に示し、中国などの専制主義勢力に対峙(たいじ)する姿勢を明確にする。事実上、「台湾の国家承認の場」となるという見方もある。

 民主主義サミットは、バイデン大統領が2月初め、就任後初となる外交政策演説で明言していた。国務省によると、(1)権威主義からの防衛(2)腐敗との闘い(3)人権の尊重-をテーマに議論を深め合うという。

 国務省が23日までに公表した招待リストには、計約110の国・地域の名前が並んだ。日本と欧州地域の同盟・友邦諸国、オーストラリア、インド、台湾は入っていたが、中国やロシアは招かれなかった。

 これを受け、台湾総統府は24日、サミットに台北駐米経済文化代表処の蕭美琴代表(駐米大使に相当)と、デジタル担当政務委員(閣僚)のオードリー・タン(唐鳳)氏が出席すると発表した。

 総統府の張惇涵報道官は「台湾での民主主義の成功経験を共有し、自由と民主主義の価値観を守っていきたい」と強調した。

 これに対し、中国は反発してきた。

 中国外務省の趙立堅副報道局長は24日の記者会見で、「米国が台湾独立勢力と一緒に火遊びすれば、自ら身を滅ぼすだろう」と述べ、米国を牽制(けんせい)した。

 来年2月の北京冬季五輪を見据えて、自由主義陣営は、習近平国家主席率いる中国共産党政権と向き合うことになる。

 拓殖大学海外事情研究所の川上高司教授は「民主主義サミットは事実上、台湾を『国家として承認する場』になりそうだ。中国が台湾侵攻を見据えた軍事的圧力を強めるなか、米国が堂々と向かい合ったことで、一触即発の危機が増した。『台湾有事』は『沖縄有事』『日本有事』に直結する。岸田文雄政権は台湾有事に備えて『日米同盟を強化』するとともに、『邦人退避の計画・準備』『南西諸島の離島防衛の強化』『中国のミサイル攻撃を想定した避難訓練の実施』など、考え得るあらゆる対策を、本気になり、覚悟を持って講じるべきだ」と語っている。

【私の論評】サミットに台湾を招いても何もできない中国の実体を国内外に見せつけるバイデンの腹の中(゚д゚)!

民主主義サミットについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
民主主義サミットに向けてバイデンが抱えるジレンマ―【私の論評】バイデンは「民主化」こそ、経済発展して国の富を増やし、先進国になる唯一の道であることを示すべき(゚д゚)!

詳細は、この記事を是非ご覧になってください。この記事は、11月10日のものです。この時点では、このサミットは「権威主義からの防衛」「汚職との戦い」「人権尊重の推進」の3つをテーマに、各国が民主主義を活性化させる具体的な方策を協議するとされていました。

そうして、参加国の中には、ボーランド、メキシコ、フィリピンなどの民主的とは言いきれない、国も招待されているとされていました。

これでは、ピンポケしたサミットになるのではないかとも思いました。そのため、一人あたりのGDPで比較すれば、民主化されている国のほうが、経済発展していると言う事実を根拠に、バイデンは「民主化」こそ、経済発展して国の富を増やし、先進国になる唯一の道であることを示すべきであると主張しました。

なぜなら、これを主張することによって、民主化されていない国々がこのサミットに参加することの意味や意義がでてくると考えたからです。

ただ、このサミットに台湾を招待するということになれば、話が違ってきます。民主化された台湾を参加させることにより、このサミットは大きな意味を持つことになります。

昨日もこのブログで示したように、2018年時点で世界第2位の経済大国とれさる中国は一人あたりのGDPでは約9,600ドルで世界第72位に過ぎません。台湾の一人当たりGDPは、同年25,026ドルを記録しました。以下に台湾の一人あたりGDPの推移を示すグラフを掲載します。


中国のGDP統計は、全くのデタラメなので、掲載しませんが、公表されているデタラメのGDPですら2018年時点では、9,600ドルです。やはり、明らかに民主台湾は大陸中国よりも一人あたりのGDPではまさっています。

無論経済だけが、国民一人ひとりの幸福に直接つながるわけではありませんが、経済は健全で豊かな社会を築く大きな要素であることは間違いありません。

昨日のブログにも掲載しましたが、そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

このことは、台湾と中国の間でもあてはまります。民主主義サミットでは、これを強調すべきです。これで、この民主主義サミットは大きな意義をもつことになるでしょう。

上の記事では、もう一つ気になることがあります。上の記事の結論部分には「中国が台湾侵攻を見据えた軍事的圧力を強めるなか、米国が堂々と向かい合ったことで、一触即発の危機が増した」とあります。

しかし、私はバイデンは一触即発の危機などないし、中国が台湾に侵攻することなどありえないし、あれば中国が惨敗するだろうとみているからこそ、台湾を民主主義サミットに招くのだと思います。

平和ボケが続いた日本では、台湾侵攻がいかに困難なことであるかについて認識する人は少ないです。これについては、たとえば下の記事が参考になります。
【兵力想定】中国最大の「台湾上陸作戦」
台湾の海軍兵

この記事は4月のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の出だしの部分を引用します。
2021年1月に米バイデン政権が発足して3カ月、米中対立はますます激化し、今や「新冷戦」と呼ばれるほどになっている。この余波というべきか、中国が悲願の国家統一を果たそうと近々台湾に一大上陸侵攻作戦を展開するのでは、との観測がにわかに高まっている。しかし、それが成功する可能性はほぼゼロ。理由は簡単、今の中国軍の実力では無理なのだ。

さらに、以下に一部を引用します。

中国軍の上陸作戦能力を分析すると、揚陸艦艇の総数は約370隻で、うち上陸部隊を満載し130~180kmの台湾海峡をムリなく渡航できる艦艇(大体満載排水量500トン以上)は70隻程度、輸送可能兵員数は2万数千人。これに民間フェリーの徴用やヘリコプター、落下傘降下で展開できる兵員数千人を加え、上陸作戦第1陣の投入兵力はざっと3万人程度だろう。

だが実際は待ち構える台湾軍が雨あられのごとく銃弾と砲爆撃を浴びせるなかでの強行上陸となるので、最低でも全体の20~30%が死傷、実働戦力は2万人前半レベルまで落ちると考えるべきだろう。

片や台湾軍の動員兵力は約180万人。上陸が予想される西海岸(台湾海峡を臨み上陸作戦に最適な遠浅海岸のため地理的にここ以外ありえない)を、例えば「北・中・南」の3戦域に分け各戦域に50万人ずつ配置(残り30万人は他地域の防備や予備部隊)したとすれば、上陸地点における中国軍上陸部隊と台湾守備部隊の兵力差は「3(実質2)対50」となる。これでは中国軍側が一方的に大打撃を被るだけで短期間のうちに全滅または全面降伏するしかない。
それでもなお楽観的な観測で、中国軍は数十万人規模の上陸を成功させ、いよいよ台湾全土の完全占領に臨むとしても、今度は3000m級の山岳地帯と周辺に広がる密林地帯。さらには2400万人の台湾市民が待ち構えている。

占領作戦は敵地の制圧よりもその地の治安を確保・維持するほうがはるかに大変で、日中戦争で中国大陸に進出した日本軍や、イラク戦争、アフガン戦争(2001年~)のアメリカ軍、アフガン紛争(1978年~)の旧ソ連軍など過去に苦戦した例は枚挙にいとまがない。いずれも占領軍はテロ・ゲリラ活動で出血を強いられ、敵が誰だかわからない状況で占領軍将兵のモチベーションは大きく低下、犠牲や戦費も膨大となりやがて国家財政にとっても重圧になってくる。

そうして、この記事には、このブログでは頻繁に述べている対潜戦闘力(ASW)に優れた日米の潜水艦隊のことが一切触れられていません。ASWでは日米にはるかに遅れをとっていることがね中国の台湾侵攻をためらわせる大きな原因の一つになっています。

米国が攻撃力では空母に匹敵する巨大攻撃型原潜を三隻も台湾海域に派遣して、台湾を包囲してしまえば、中国にはこの包囲網をかいくぐることはできません。

なぜなら、中国は対潜哨戒力では米国に及ばず、米国は中国の潜水艦を含め多くの艦艇を、中国に妨害されることなく撃沈できるからです。攻撃力にすぐれた米潜水艦は、初戦で中国のレーダー基地や、監視衛星の地上施設等をことごとく破壊し、中国海軍の目を塞ぐことでしょう。その後に中国の潜水艦、その後に他の揚陸艦などの艦艇を撃沈することでしょう。

日本も同じく、中国には日本の潜水艦隊の位置を捉えることができないので、日本は中国の潜水艦や他の艦艇を中国に妨害されることなく撃沈できます。また、静寂性(ステルス性)利用して、台湾近海を中国に妨害されることなく潜航し、情報収集できます。

日米が台湾に加勢した場合、中国の大半の艦艇は台湾に到達することなく撃沈され、残りはいのちからがら母港に引き上げることになります。

運良く人民解放軍が台湾に上陸したとしても、米軍や日本の、あるいは両方の潜水艦隊に台湾を包囲されてしまえば、補給が途絶えて上陸部隊はお手上げになってしまいます。

こういうことをいうと、ドローンがどうのこうのとか、核兵器や宇宙兵器や超音速ミサイルががどうのこうのという人もいますが、そういう人には良く考えていただきたいです。そもそも、発見できない敵に対しては、何をもってしても攻撃はできないのです。

核攻撃をすれば良いなどという人もいるかもしれませんが、台湾を核攻撃しても無意味です。なぜなら、中国の最終目的は台湾を併合することであって、台湾を破滅させることではないからです。

そうして、どこにいるかもわからない海域の潜水艦に向けて核兵器を打ち放つことも無意味です。そもそも、深海に潜んでいれば、破壊できるかどうかも覚束ないですし、仮に破壊できたとしても、その確認すらできないのです。まさか、関連する全海域に同時に核兵器を放つことなどとうていできないです。

台湾を武力侵攻するのはこれだけ困難なことなのです。であれば、中国は台湾を併合するにしても、武力以外の方法でやろうとすると見るべきです。

バイデンとしては、このようなことは知り抜いた上で、中国が台湾を侵攻すれば、中国海軍を破滅させ、中国を追い込むでしょう。そうなれば、習近平の権威は雲散霧消し、バイデンの国内での支持率は上向くことになります。しかしその可能性は低いでしょう。

もう一つの可能性としては、民主主義サミットに台湾を招けば、中国は猛烈に抗議することでしょう。しかし、台湾には侵攻できません。結局軍事的には何もできない中国の実体を国内外に見せつけることにより、米国の威信をたかめ、国内では支持率向上が期待できます。

岸田政権にも、以上のようなことを理解して、今後の中国対応を見直す機会とすべきです。

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2021年11月24日水曜日

中東欧が台湾への接近を推し進める―【私の論評】中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は、徐々に終わりを告げようとしている(゚д゚)!

中東欧が台湾への接近を推し進める

 10月26日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、最近、中東欧諸国が台湾に接近し、中国はこれに激怒している、との解説記事を書いている。中東欧諸国がなぜ台湾に接近することになったのか、その原因として、WSJが指摘する主たる点は次の二点である。


  第一は、中国との貿易や中国からの投資が当初期待されていたほどには効果を挙げていないことである。「一帯一路」の対象地域になるなどと宣伝されていたが、その実態は明確ではなく、中東欧諸国に経済的実利をもたらしていない。さらには、もし中国からの債務が増えれば、それがどのような中国の対応を生み出すかよくわからないことへの恐怖心も手伝っているようだ。

  第二に、覇権主義を強めつつある専制独裁国家としての中国は、 とくに冷戦期にソ連から属国扱いをされた東欧諸国にとっては、その当時の悪い記憶をよびさます存在となってきた。

 台湾と中東欧諸国の接近ぶりを示す一好例は、昨年チェコの上院議長一行が台湾を訪問した際、台湾議会で演説し、「私は台湾人である」と述べたことであり、この言葉は台湾において大きな反響を呼び興した。最近、呉釗燮外交部長(外相)がチェコやスロバキアへの訪問を行ったことは、このチェコ上院議長の台湾訪問への返礼と見ることもできよう。

  リトアニアは、台湾との間で事実上の大使館連絡事務所を開設することに合意し、このことは、中国のきわめて強い報復的反発を引き起こした。リトアニアは台湾との間の代表所の名称を、通常の 「台北経済文化代表所」にかえて実態に即して、「台湾代表所」へ変更しようとしている。これが中国を激怒させ、中国は駐リトアニ ア中国大使の召還と駐北京リトアニア大使の追放という措置に出た。

  さらに、本年11月に入ってから、欧州連合(EU)欧州議会代表団が台湾を訪問し、フランス人団長(グリュックスマン)は、「台湾は決して孤立無援ではない(Taiwan is not alone)。ヨーロッパの長期的利益にとって、台湾の民主主義は決定的に重要」などと発言した。

 この発言に対し、中国側報道官は「欧州諸国は直ちに過ちを正し、 台湾独立分裂勢力に間違ったシグナルを発するな」などと猛反発した。

インド・太平洋地域への関心も高まる

 ごく最近、中国はEU諸国が台湾の「分裂主義者」たちと誤った方向に協力し合っているとして、台湾の蘇行政院長(首相に相当)、游立法院長(国会議長)、呉外相の三人を「台湾分裂主義者」として刑事責任がある、と指名の上、「生涯追求」のリストに載せ、 今後、中国大陸、香港、マカオなどへの入境を禁止する、との新しい措置を打ち出した。

  このような措置が、台湾当局の指導幹部を「制裁」する上でどの程度の効果があるのかわからないが、今日の習近平指導体制の対台湾強硬姿勢から見れば、このような形を取りたいのであろう。多分に、中国国内向けの措置のようである。

  台湾海峡の緊張増大に呼応した形で、中東欧のみならず欧州全体のインド・太平洋地域への安全保障上の関心が高まりつつある。 本年に入ってから、英国の空母打撃軍をはじめとして、フランス、 ドイツ、カナダの艦隊が覇権主義的動きを強める中国を牽制するために台湾海峡を含むインド・太平洋地域に回遊した。これら艦隊のいくつかは、日本の港湾に寄港し、自衛隊との間で共同訓練を実施したりした。

  これら東欧を含む欧州全体の動きを見れば、安全保障上の理由や人権問題への考慮から、台湾に対する親近感を抱く国々が、徐々にではあるが着実に増大しつつあることが明白に見て取れる。

岡崎研究所

【私の論評】中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は、徐々に終わりを告げようとしている(゚д゚)!

最近中東欧諸国が台湾に接近するのは、当然といえば当然でしょう。中東欧諸国は、ソ連、中国、北朝鮮と並んで冷戦の敗戦国であり、しかも無理やりソ連に引き込まれ、東側陣営に組み込まざるを得なくなり、その挙げ句の果にソ連崩壊で、冷戦の敗戦国にされてしまったのです。

そうして、米ソ冷戦終結後にEU加盟を果たした中東欧諸国は、旧西側陣営の資本を取り入れることで、ドイツやフランスの半分から3分の1程度まで発展できた国が多く、EUに加盟した恩恵は大きかったと言えます。

ただ、その中東欧諸国の中でも、補助金や多国籍企業に依存した経済体質から十分に脱却できていないという問題を抱えており、経済発展の持続性には疑問符を付けざるを得ないところがあります。

一方、旧東側陣営の盟主だったロシアは中東欧諸国に後塵を拝しており、2018年時点の一人当たりGDPは11,289ドルに留まっています。

そのロシアでは、ユーコス事件の起きた2006年ごろから民主主義が後退して強権化し、国家資本主義的な経済運営に転換し動き始めました。そして、2014年のクリミア危機に伴い旧西側陣営の諸国から経済制裁を受けたことを背景に、それが本格化してきています。

米ソ冷戦終結後の民主主義指数(Index of Democracy)と一人当たりGDPの伸びの関係を見ると(下図)、旧東側陣営で一人当たりGDPの伸びが最も高かったのは、共産党による一党独裁の政治体制の下で1986年に「ドイモイ(刷新)路線」を宣言し、市場経済を導入したベトナムでした。


ソ連崩壊とほぼ同時に共産党政権が崩壊し民主化を進めた中東欧諸国の一人当たりGDPを見ると、水準という観点では民主化が後退したロシアやCIS諸国を上回っている国が多いものの、伸び率という観点では大きな差異が見られません。

そして、CISを中途脱退し民主化を進めたウクライナ(2004年にオレンジ革命、2018年にCIS脱退)やジョージア(2003年にバラ革命、2009年にCIS脱退)の伸びは低迷しています。

ただ、一般にいえるのは、民主化が進んでいる国のほうが、一人当たりGDPが高いというのは事実です。これは高橋洋一氏がグラフにまとめており、これは当ブログにも掲載したことがあります。下に再掲します。

一人あたりGDP 1万ドル超と民主主義指数の相関係数は0.71 。これは社会現象の統計としてはかななり相関関係が強い

世界各国地域の一人当たりGDPのトップ30を見ると、米国は約6.3万ドルで世界第9位、西側に属した日本は約3.9万ドルで第26位、同じくドイツは第18位、フランスは第21位、英国は第22位、イタリアは第27位、カナダも第20位と、米ソ冷戦で資本主義陣営(西側)に属した主要先進国(G7)はすべて30位以内にランクインしています。

一方、米ソ冷戦で共産主義陣営(東側)の盟主だったロシアは約1.1万ドルで第65位、東側に属していたハンガリーは約1.6万ドルで第54位、ポーランドは約1.5万ドルで第59位とランク外に甘んじている。また、世界第2位の経済大国である中国は約9,600ドルで第72位に位置しており、人口が13億人を超える巨大なインドも約2,000ドルで第144位に留まっています。

中国は人口が多いので、国全体ではGDPは世界第二位ですが、一人あたりということになると未だこの程度なのです。このような国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無でしょう。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

「16+1」は、中国と中東欧の16ヵ国の対話・協調を促進するための枠組みであり、年に1度の首脳会合を通じて様々な合意を生み出すものとされていました。元々は「17+1」でした。ギリシャは遅れて入ったので、「+1」されています。後にチェコが離脱したので現在は「16+1」とされています。


しかし「16+1」を通じた中国の対中・東欧投資は、多額のコミットがなされたものの、その多くが実現されず、実現されても大幅に遅れたり、当初の想定を遙かに超える莫大な費用がかかることが明らかとなったりしてきました。

インフラ工事のための労働力も全て中国から調達したため、中・東欧現地の雇用も促進されませんでした。「16+1」の枠組みを用いて中国と協議を行い、中国の市場開放を促すことを試みていたバルト諸国なども、頑なに市場開放に応じない中国の態度に失望を隠さなくなりました。

このため、中国からの投資に対する中・東欧の期待は大きく損なわれていきました。米トランプ政権が中・東欧諸国に対して、HUAWEI製品の不使用等を含め、対中アプローチの見直しを粘り強く働きかけたことも奏功し、複数の中・東欧諸国はHUAWEI製品排除を表明しています。

「16+1」の大きなメリットと思われてきた中国執行部との協議も、中国からの大型投資が期待できない以上、もはや魅力ではなくなったと見られます。2021年2月にオンライン実施された「16+1」の首脳会議には、習近平自らが出席したにもかかわらず、「16+1」側からは6カ国もの参加国が首脳の出席を見合わせたことが、これを雄弁に物語っていまし 。2021年5月にはリトアニアが、「『16+1』からは得られるものがなにもなかった」として、「16+1」からの離脱を表明しました。

これらを総合的に勘案すると、中・東欧で中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は、徐々に終わりを告げようとしているとみるのが妥当でしょう。そうして、それは中東欧だけではなく、他の地域にも広がっていくことでしょう。

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2021年11月23日火曜日

「GoToイート」食事券 年末年始の販売自粛呼びかけ―【私の論評】役人にまかせていれば浮世離れするだけ、岸政権は政権維持のために大規模経済対策を実施せよ(゚д゚)!

「GoToイート」食事券 年末年始の販売自粛呼びかけ


 飲食業界への支援策「GoToイート」のプレミアム食事券について、農林水産省は35の都道府県に対して年末年始は販売を控えるように呼び掛けました。

  「GoToイート」は新型コロナの感染拡大でプレミアム食事券の販売を停止していましたが、19日に閣議決定した政府の追加経済対策に盛り込まれました。

  ところが、年末年始は需要の高まる時期であることから、農水省は食事券の販売を終えていない35の都道府県に対して最大1カ月の販売停止期間を設けるよう呼び掛けました。

  食事券の販売や利用期限は各都道府県の判断で決まり、地域によっては期間が来年のゴールデンウィーク前後まで延長されることになります。

【私の論評】役人にまかせていれば浮世離れするだけ、岸政権は政権維持のために大規模経済対策を実施せよ(゚д゚)!

この販売自粛について、高橋洋一氏は以下のようにツイートしています。


まあ、年末年始は需要がただでも高まるので、それはそれとして、他のシーズンの売上をあげてトータルで売上をあげようという考えもなきにしもあらずです。

もう一つの考え方として、下のグラフでみてもわかるように最近は失業率が低下しています。ひといきついていた人手不足がまた深刻になりそうです。


そうであれば、年末年始に人手が欲しくてもままならない可能性もあります。であれば、年末年はあえてあまり販促をせず、それ以外のシーズンに販促をして、売上を平準化して、少ない人員で最大の成果をあげるという考え方もあります。

経営者であれば、それぐらいのことは考えます。ただ、そこまでは役人は考えていないでしょう。

やはり、コロナを心配しているのかもしれません。ただ、コロナ感染は最近は下火です。

東京都内の23日の感染確認は17人で、12日連続で30人を下回りました。東京都は23日、都内で新たに10歳未満から60代までの男女合わせて17人が新型コロナウイルスに感染していることを確認したと発表しました。1週間前の火曜日より2人増えました。

都内の一日の感染確認が50人を下回るのは38日連続、30人を下回るのは12日連続です。23日までの7日間平均は17.4人で前の週の83.3%です。一方、都の基準で集計した23日時点の重症の患者は22日と同じ8人でした。また死亡した人の発表はありませんでした。

この状況では、例年のインフルエンザよりもさらに低い感染者数ですし、死者もいないのですから、上であげた二つの理由以外に、飲食業者側からみてわざわざ年末年始の販売を自粛する必要はないようです。

全く、役人は浮世離れしていると言わざるを得ません。

私は、昔はイタリアンレストランのマネジメントをしていたこともありますから、その経験からいうと、人手不足などが深刻でない限りは、年末年始に一時的に人手を増やしても、年末年始の売上を上げるべきと思います。さらに、この時期は予約が多く、予想もたちます。多めにやとった人員を無駄にすることもあまりないです。

先がどうなるかなど、正確には予想できないですし、予測しないことも起こりがちですから、まずは目の前の売上を確実にとるというのが健全な経営者のあり方だと思います。それは、国の経済にも相通じるところがあると思います。

内閣府が15日に公表した7~9月期国内総生産(GDP)の1次速報は、年率換算で民間消費が4・5%減、住宅投資が10・1%減、設備投資が14・4%減、公共投資が5・8%減、輸出が8・3%減、輸入が10・5%減と、マイナスのオンパレードでした。

消費は4~6月期に3・4%増だったのがマイナスに転じ、住宅投資は1~3月期に4・3%増、4~6月期には8・3%増と2期連続プラスだったが、これもマイナスとなりました。設備投資も4~6月期の9・1%増からマイナスに落ち込んでしまいました。


新型コロナの緊急事態宣言などで個人消費が低迷し、輸入も国内消費と連動しマイナスでした。自動車の減産で輸出も落ち込んだ。GDP全体としてもマイナス成長は2四半期ぶりです。

これに対して政府は、財政支出55.7兆円規模の経済対策を19日の臨時閣議で決定しました。これに対しては、政府はGDP5.6%押し上げ効果があると試算していますが、これは疑わしいとする識者もいます。

この識者は以下のような発言もしています。
今まで実施されてきた巨額の経済対策の効果が薄れる中で、成長率は押し下げられるはずだ。いわゆる「財政の崖(フィスカル・クリフ)」が生じるのである。今回の経済対策は、それがなければ相応に落ち込むはずだった成長率を支える効果を持つのであって、成長率を大きく押し上げる効果を発揮するものではないだろう。
一方米国では米国は約200兆円の米国救済計画に加え、114兆円のインフラ投資法案を成立させました。約200兆円のビルドバックベター法案も控えています。

米国下院は11月19日、「ビルド・バック・ベター」法案(H.R.5376)を賛成220、反対213で可決した。共和党は全員が反対に回り、民主党からは1人が反対した。通過した法案は上院に送付され、同法案をベースにさらに審議されます。

日本の人口は1億二千万人です。一方米国の人口は3億3千万人です。大雑把にみて日本の3倍はあるということです。当然のことながら財政規模が大きくなるのは当然のことです。しかし、日本は米国の1/3 程度の規模であってしかるべきです。

「ビルド・バック・ベター」法案は、どうなるかはまだわかりませんが、それにしても、米国と比較すると日本の財政政策はあまりに、みすぼらしいです。

普通の経営者サイドからみれば、年末年始に売上をできればとれるだけとっておく、それも人手をある程度厚くし、予約などを通じて無理なくあげておくというのが普通だと思います。

経済対策もやはり、直近(ここ1〜2年:直近というと3秒と考える人もいるようなので念の為)で経済をできるだけ良くしておくというのが健全な行き方ではないかと思います。

直近でできるものはどんどん実施して、後でまずいことがおこれば、様々な修正をするというのは王道だと思います。そうして、それは意外に簡単にできることだと思います。それこそ、緊縮財政、金融引締などです。だからこそ、バイデン政権も大きな予算を組んでいるのだと思います。

支持率の低下に苦慮するバイデン

直近で出し渋って、後でデフレの悪影響が出て、それに対処するというのでは大変なことになります。たとえば、失業者が大量に出てから手当をするなどのことをするよりは、最初に失業者が出ないように手を打っておけば、インフレなどの悪影響が出ても容易に手をうつことができます。

その逆は大変なことです。日本がとてつもない貧乏国でそもそもやりようがないとか、中国のように国際金融のトリレンマにはまって金融緩和できないというのなら別ですが、日米などには十分にできるだけの余裕があります。ましてや、日本は未だに物価目標2%すら達成できないのですから、余裕は十分すぎるほどです。

日本も、やる気になれば、できるはずです。役人にまかせておけば、浮世離れした政策しかできません。今年が駄目なら、来年春には是非とも大型補正予算を組んでいただきたいものです。そうでないと、来年の夏頃にはかなり経済が悪化し、失業率の上がりその状態で岸田政権は参院選に突入し大敗することになるでしょう。

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