2023年2月15日水曜日

中国船がフィリピン船に“レーザー照射” 日米・フィリピンの安保連携を牽制か―【私の論評】中国外交部と軍の齟齬は、さらに拡大して激烈な闘争や内戦に発展する可能性も(゚д゚)!

中国船がフィリピン船に“レーザー照射” 日米・フィリピンの安保連携を牽制か


 フィリピンの沿岸警備隊は巡視船が中国海警局の船からレーザー照射を受ける瞬間の映像を公開しました。中国側が安全保障分野で連携を深める日米やフィリピンを牽制(けんせい)した可能性があります。

 フィリピン沿岸警備隊が6日に撮影した映像。映っているのは中国海警局の船で、画面手前のフィリピンの巡視船に向けて2度、軍用級のレーザー照射があったと説明しています。AP通信によりますと、フィリピン側は乗組員がレーザーによって一時的に見えなくなるなど身体的な影響があったと伝えました。

 中国外務省・汪文斌副報道局長:「中国海警の現場対応は専門的かつ冷静でした。フィリピン側が主張するような事は起きていません。現在、この海域は安定しています」

 レーザー照射が撮影されたのは南シナ海にある南沙諸島の近海で、中国が一方的に海域の領有を宣言して以降、フィリピンや他国と海洋権益などで係争中の場所です。マルコス大統領は中国大使を呼び出し、妨害行為に「深刻な懸念」を表明。

 軍事ジャーナリストの小原さんはレーザー照射の危険性について、こう指摘します。

 笹川平和財団・小原凡司上席研究員:「レーザーポインターでも人の目に当てれば、しばらく見えなくなる。まぶしくてその場で見えないだけでなく、しばらく見えなくなることもあるので、出力をより上げているものであればその期間が長くなるかもしれないし、実際に失明の可能性もある危険な行為」

 去年6月に就任したマルコス大統領は前任だったドゥテルテ氏の『親中国路線』から修正する姿勢を見せるなか、今回のレーザー照射が起きた3日後の今月9日、日本を訪問。

 浜田靖一防衛大臣:「共同訓練等の一層の促進が期待でき、心より歓迎致します」

 中国の海洋進出を念頭に、インド太平洋地域での安全保障面の連携強化を確認しました。

 また、今月に入ってアメリカのオースティン国防長官がフィリピンに渡り、アメリカ軍の駐留拠点を増やすことで合意。フィリピンとアメリカの「相互防衛条約」が南シナ海にも適用されることなどを確認しました。

 中国外務省・汪文斌副報道局長:「アメリカ側が『相互防衛条約』を用いて中国に対し不当な圧力を掛けてきました。だが、そうしたことで我々の権益を守る決心と意志を揺るがすことは決してできない」

 フィリピンによる日本やアメリカとの連携に反発の姿勢をあらわにする中国。

 笹川平和財団・小原凡司上席研究員:「今、他国を敵に回すような行動を取り始めたわけではないと思う。反対に今まで中国の行動を公にしなかった国々がしっかり公にし、対応するようになったという方が正しい。ドゥテルテ政権下では少し『中国寄り』の姿勢を示してきたが、『こうした行為は許さない』ことを改めて公にし、抗議する姿勢を示した。それにより『中国は何をやってきたか』が改めて明らかになったということ」

 マルコス大統領と習国家主席は先月上旬に会談し、南シナ海問題の外交的な解決で合意したばかりでした。中国を巡っては「偵察用」とみられる気球でアメリカと応酬が続くなか、今度はレーザー照射で別の国とも外交問題に発展し、緊張が高まっています。

【私の論評】中国外交部と軍の齟齬は、さらに拡大して激烈な闘争や内戦に発展する可能性も(゚д゚)!

さて今回のレーザー照射といい、先日の気球騒ぎといい、中国はなぜこのタイミングでこのようなことをするのでしょうか。

習近平主席は昨年10月下旬の党大会で個人独裁体制を固めて政権の3期目をスタートさせてからは、国内経済の立て直しと国際的孤立からの脱出のため、悪化している対米関係の改善に乗り出していました。

バリ島で会談した習近平とバイデン

昨年11月14日、には習近平は、バリ島で国際会議参加の機会を利用してバイデン大統領と3時間にわたる首脳会談を行いました。会談の中で習主席は「共に両国関係を健全で安定した発展軌道に戻す努力をしたい」と語り、関係改善と対話継続の意欲を示しました。

そして昨年12月30日、習主席は今年3月開催予定の全人代を待たずにして異例の「閣僚人事」を行い、前駐米大使の秦剛氏を外務大臣に任命しました。

外相に就任した2日後の今年元旦、秦剛氏はさっそく米国のブリンケン国務長官と電話会談を行い、新年の挨拶を交わしたと同時に、「米中関係の改善・発展させていきたい」と語りました。

米国務長官との電話会談の9日後、秦外相は本来一番の友好国であるはずのロシア外相との電話会談を行ったのですが、その中でロシア側に対し、今後の中露関係の「原則」として「同盟しない、対抗しない、第三国をターゲットとしない」という「三つのしない」方針を提示しました。

それは明らかに、米国を中心とした西側に配慮してロシアと関係見直しに出た挙動であって、習政権の対米改善外交の一環であろうとも思われます。

こうした中で、ブリンケン米国務長官の2月訪中が双方の間で決定され、長官は2月5日、6日の日程で北京を訪問する予定でした。 ところが「ブリンケン訪中」の直前になって、中国の放った偵察気球一つでそれが延期されることとなりました。その後も、全部が中国の気球かは、まだわからないものの、カナダやアラスカでも行われことが報じられ、さらに止めの一発のように、今回のレーザー照射です。

中国スパイ気球撃墜の瞬間

偵察気球が米国側によって撃墜されたことによって、米国朝野の対米姿勢はさらに厳しくなる一方、習近平主席のメンツが丸潰れとなり、米中関係はより一層悪化することになりました。

この一連の出来事から、中国内の事情がすけてみえてきます。それは、何かといえば、政権内のいずれかの勢力が最高のタイミングで習近平の対米改善外交を潰しに取りかかった可能性です。

偵察気球を放ったのは中国軍である可能性が高いですし、今回のレーザー照射は海警局によるものであり、習主席の対米改善の潰しに暗躍したのは人民解放軍ではないかという推測も成り立ちます。

2021年2月1日に改正された法律により、中国海警局は中国の人民解放軍の最高意思決定機関である中央軍事委員会の指揮のもとで「防衛作戦の任務を遂行する」ことが明確になりました。

海警局の母体はもともと中国国務院(政府)の国家海洋局で、行政組織でした。非軍事色を出して米国や周辺国との軍事的衝突を避けながら南シナ海など実効支配海域を広げる狙いがあっりました。しかし、この時から中国海警局は「準軍事組織」となり、中央軍事委員会の指揮のもとに行動するようになったのです。

これは、気球、レーザー光線照射ともに、軍が意図的に行った可能性があります。

レーザー光線に関してはまだ発生したばかりなので、何ともいえませんが、「気球事件」への対応において外交部門は一貫として柔軟に対応し、対米改善路線を継続させたい思惑のようですが、、それに対して、国防省は外交部とは異なる対応をとっています。 

2月5日、米国による気球撃墜の事態を受け、中国国防省報道官は「談話」を発表して「厳重なる抗議」を行いました。さらに「類似する事態に対して必要な手段で処置する権利を保留する」とも発言しましたが、この発言は明らかに、もし米国側の気球などが中国に飛んでくるという「類似する事態」が発生した場合、中国軍はそれを撃墜するという「必要な手段による処置」をとる用意があるという意味です。 

中国の国防省はここで、軍事手段による対米報復を強く示唆していますが、これは、中国外務省の「反応する権利の保留」よりは一歩進んだ強い表現でした。しかも、この発言は理解するようによっては、「誤って入った気球の撃墜は不当である」という中国外務省の主張を事実上否定したものと受け取れます。

同じ習近平政権の下で、外務省と国防省の姿勢の違いが明確になっていて、「政権内不一致」がが明確になっているのです。

2月7日、米国国防総省報道官は、気球撃墜の直後に米国側が中国国防相との電話会談を申し込んだが断られたと発表しました。今の時点では、習近平指導部の意思としてそれを断ったのか、あるいは国防相もしくは軍が自らの判断で断ったのかは判然としません。

しかし、この態度は、中国外務省が一貫として主張している「意思疎通」とは明らかに矛盾しています。またもや、政権内での乱れを露呈しています。そうして、もし電話会談の拒否が軍の意思であるというなり、ブリンケン米国務長官訪中直前のタイミングで偵察気球を放って米中対立を作り出して、習主席の対米改善潰しをしたのは、まさに中国軍の意図である可能性はさらに高まったといえます。

さらに、2月8日、外務省毛寧報道官は定例の記者会見で、「どうして中国国防相は米国側との電話会談を拒否したのか」と問われると、「それは国防省に聞いてください」と即答で突き放しています。

国防省と外務省との間に齟齬のあることは明々白々です。さらに9日、国防省報道官は「談話」を発表し、「対話の雰囲気にない」との理由で電話会談拒否の姿勢を説明しました。そうして同時に「類似する事態に対して必要な手段で処置する権利を保留する」と対米報復を再び示唆したのです。

 しかし、国防省=軍が「対話の雰囲気にない」と明言した以上、外務省としても当面は米国側との対話を模索し難くなります。捉えようによっては国防省=軍はこの「談話発表」を持って、外交ラインが依然として希望している対米改善の道を封じ込めようとしているように見えます。 

このような政権内不一致と国防省の強行姿勢の背後には、習近平主席が秦剛新外相を使って進めている対米改善に対し、不満と反発を持った中国軍の暗躍があるようです。

したがって例の「気球事件」は、対米改善を妨害しようとする中国軍によって引き起こされた可能性は否めないところにもってきて、今回のレーダ照射です。もしそうであれば、軍を含めた習近平政権全体は今後、ますます危険な方向へと走っていく可能性も出てきました。

先日もこのブログで述べたように、中国海軍の潜水艦を含めて艦艇のすべては渤海で製造したり、大掛かりなメンテを行うという不合理なことを未だに行っています。これについては、このブログでも述べたばかりです。その記事のリンクを以下に掲載します。
米韓、黄海上空で再び戦闘機訓練 中国けん制も狙いか―【私の論評】米軍が黄海で演習するのは、中国の潜水艦の建造・メンテは渤海で行うという大きな弱点があるから(゚д゚)!
中国の潜水艦を含む艦艇のメンテは潜水艦も含めて、大掛かりなものは、すべて渤海湾内の造船所で行わなければなりません。

そうなると、水上艦艇はまだしも、すべての潜水艦は黄海を通り、渤海にでなければメンテはできないことになります。渤海に行くためには、必ず水深浅い黄海をとおらなければなりません。

中共は、なぜこのような不合理なことを未だに続けているのでしょうか。それには、いろいろな観測がありますが、その中で最も合理的と思われるのが、様々な艦艇、特に潜水艦は、中国共産党にとって脅威になるからというものです。

中国の人民解放軍は、普通の国の軍隊とは違い、中国共産党の下に位置し、いってみれば共産党の私兵であり、いくつかの軍(戦区)にわかれており、その軍が、戦車や航空機、艦艇を持ち、核兵器も持っている軍もあるという異様な形態をしています。しかも、この軍はそれぞれ自ら事業も展開しており、これが不正の温床ともなっています。
それぞれの軍自体が、共産党の私兵であり、事業も展開しているのです。日本でたとえると、商社が武装しているようなものです。

そうして、共産党は決して一枚岩ではなく、派閥争いが絶えません。最近は、習近平が掌握しつつあるとはいっても未だ完璧ではありません。いつ派閥争いが激化し、軍隊もそれに呼応して、いつ中国共産党中央政府にたてをつくかわかったものではありません。

だからこそ、中国共産党は今でも北京の直接の勢力下にある渤海でだけ、潜水艦のメンテを行わせているのでしょう。

もし、自らの勢力下にないところの造船所で、潜水艦のメンテを行えば、造反しやすくなり、造反されれば、北京にミサイルを打ち込まれ、中国共産党中央政府は崩壊するかもしれません。それも核を打ち込まれれば、とんでないことになります。そんなことを避けるためにも、今でも渤海でしかメンテをさせないのでしょう。 

もともと、このような状態にあるので、習近平の腐敗撲滅などで、軍には不満が蓄積されており、習近平とそれに連なる外交部に対して意趣返しをしているという可能性もあります。

しかし、こうしたことがエスカレートしていけば、最初は偵察気球を飛ばしたり、海警局の船がフィリピン船に向けてレーザーを照射するだけではなく、 軍事行動に打って出るという可能性もなきにしもあらずです。

昔は、いずれの国でも、軍や軍の一部の造反が、権力者の最も大きな脅威でした。中露北やミャンマーでは、いまでもそうなのです。

憲法も、法律も共産党の下に位置づけられる中国においては、共産党の中で造反が起これば、これはとんでもないことになるわけです。なぜなら、共産党造反派は被造反派に対して、理屈上は、憲法や法律に縛られずなんでもできるからです。

中国共産党の下に憲法や法律が位置するということは、習近平のような独裁者が統治するのには都合が良いようにもみえますが、共産党内部で造反が起これば、これから自分を守るのは、憲法でも法律でもなく、むき出しの権力であり、武力であり、知略以外にありません。均衡していれば、良いのですが、これが崩れれば、大闘争、内乱・内戦などに発展することは、十分にあり得るのです。

このこともあるため、中共は海外より、自分の国の内部の都合で動かざるをえないのです。他国の脅威と同じか、時と場合によっては、中共内部の造反のほうが、より脅威になりえるのです。

さて、今回の異変は、単なる意趣返しなのか、あるいは激烈な闘争や、内戦にまで発展するかは、まだみえてきません。何か変化があれば、また報告させていただきたいと思います。



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2023年2月14日火曜日

成田悠輔「高齢者は集団自決した方がいい」NYタイムズが発言報じて世界的大炎上「この上ないほど過激」―【私の論評】成田悠輔氏のような学者に、徹底的に欠ける統合的な思考方法とは(゚д゚)!

成田悠輔「高齢者は集団自決した方がいい」NYタイムズが発言報じて世界的大炎上「この上ないほど過激」

成田悠輔氏

 「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」といった主張が物議を醸している。発言者は、経済学者で米イェール大学のアシスタント・プロフェッサー・成田悠輔氏だ。

 各界の重要ポストを高齢者が占めている日本の現状に対し、成田氏は、2022年2月1日、堀江貴文氏と対談したYouTube動画『【成田悠輔×堀江貴文】高齢者は老害化する前に集団切腹すればいい?成田氏の衝撃発言の真意とは』で、世代交代を本気で考えようとして、次のように述べている。

【関連記事:「関東連合リーダー」2カ月間を苦しみ抜いて死去…コロナ重篤化、脳梗塞、体中に自傷行為の痕】

 「(高齢の偉い人々を)1ミリも尊敬していないかのような雰囲気をみんなが醸し出すようになると、やっぱり誰しも周りに必要とされていない感をガンガン出されるとつらいと思うんで、少し世代交代につながるんじゃないか」

 その後、高齢化が進む日本社会の解決策として、「安楽死の解禁・強制」などにも触れている。

 「成田氏の発言は、2021年12月17日の『少子化ってダメなこと?人口減少で60代が労働力の中心に?ひろゆき×成田悠輔』(ABEMA)などでも触れられており、持論なのは間違いないでしょう。この意見に対し、侃々諤々の議論が巻き起こっています」(週刊誌記者)

 実際、SNSでは、

 《「集団自決」発言も知ってるけど、これ「年寄りは死ね」って意味じゃなくて70代80代にもなって重要ポストにしがみつき若者の成長の芽を摘むような社会に将来はない、世代交代が必要ってことでしょ。》

 といった肯定派もいれば、

 『#成田悠輔をテレビに出すな』とのハッシュタグをつけ、《こういう乱暴で非常識なことを言う人は、まず自分が高齢になったら率先してやりますという約束してから言うべきですね》などと批判する意見も多数投稿されている。

 そして、この問題がついに海外へも飛び火。2月12日付の米紙『ニューヨーク・タイムズ』が、成田氏の「集団自決」「切腹」発言について「この上ないほど過激」と報道したのだ。

 同紙は、成田氏がアメリカの学会で無名である一方、「彼の極端な主張は、高齢化による経済停滞に不満を持つ何十万もの若者のフォロワーを獲得している」と紹介。

 さらに、丸と四角のレンズの眼鏡をかけ、Tシャツやパーカーのカジュアルな姿でメディアに登場する成田氏は、「アイビーリーグ(米名門私立大学の総称)のブランドを利用している」とも述べている。

 同記事を受け、東大名誉教授のロバート・キャンベル氏は、成田氏の発言への批判とともに、国内メディアがまともに取り上げていないことへの疑問をこうツイートした。

 《高齢者に集団自決とはあくまで問題提起であり「抽象的な比喩」とする成田悠輔氏。太平洋戦争、優生保護法、やまゆり園の大量殺人事件もメタファーとでも言うのでしょうか。国内メディアより先に米国NYTが深掘りして「提起」を問うこと自体、日本の、メディアの問題です》

 ニューヨーク・タイムズの報道を受け、イギリスの『デイリー・メール』『テレグラフ』、ドイツの週刊誌『シュピーゲル』なども、次々に後追いし、世界的に炎上状態となっている。ちなみに、当該記事を紹介したニューヨーク・タイムズのツイートは、2187万ビューを超えている。

 「seppuku」という言葉とともに、世界の耳目を集めることになった成田氏の発言。だが、日本の高齢化社会が待ったなしで、早急な対策が必要なのも事実。はたしてこの騒動、着地点はどこになるのだろうか――。

【私の論評】成田悠輔氏のような学者に、徹底的に欠ける統合的な思考方法とは(゚д゚)!

私自身も、自分もそうならないためにも、自戒をこめて、「老害」について、このブログにも語ることはあります。しかし、成田氏のように過激なことを言ったこともありませんし、そもそも言えないです。

確かに、この世の中に老害という現実は存在しています。それについては、このブログでも述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
国葬やアフリカへの4兆円支援、本当に税金の無駄遣いなのか 反対派の批判は的外ればかり―【私の論評】私達保守派は、老害から若者と自分自身、社会を守らなければならない(゚д゚)!

写真でみる限り、集会に参加している若者はいない

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分を掲載します。

今、社会全体に“老害”がはびこっているのです。 Q. 身の回りに「老害だなぁ」と感じる人はいますか? YES…66.7% NO…33.3% ※20~40代の男女2000人にアンケートを実施。回答期間:2022年6月8日(水)~6月14日(火)

もちろん、高齢者が全員老害化するわけではありません。ですが、会社員時代に得た地位やプライドを引退後も捨てきれない人や、脳機能の衰えによって感情のコントロールが利かなくなった人が一定数いるのは事実です。

高齢者の数が右肩上がりで増えているため、そのぶん必然的に老害化による傍若無人ぶりも目立っているのかもしれません。 

世界保健機関の定義によると、高齢者とは65歳以上を指します。この定義に鑑みれば、日本では総人口の29.1%が高齢者ということになります(’21年時点。総務省統計局の発表より)。

迷惑行為のみならず、日本は高齢者優遇の政策に偏る「シルバー民主主義」に陥っているとの指摘もあり、政治や企業の中枢ではいまだに高齢者が幅を利かせているのが実情です。

写真はイメージです
こうした状況を放置すれば、老害と呼ばれる高齢者が増えるのも当然で、社会全体が老害に蝕まれる前に対処法を学ばなければいけないです。 老害(ろうがい)とは、組織や社会で幅を利かせすぎて言動が疎まれる高齢者、また、傍若無人な振る舞いによって他人に必要以上の負担や迷惑をかけている高齢者などを指す表現です。

そうして、誰もが年を重ねれば、老害となる可能性もあるのです。自分自身が老害にならないために、周りのご老人たちが老害とならないようようにする方法はあるはずです。老害によって、若者だけではなく、日本社会が蝕まれていくことは避けなければなりません。今後、このブログではその方面にも踏み入っていこうと思います。
このようなことを掲載すると、私は老人に対して、マイナスのイメージだけを抱いているように思われるかもしれません。後で述べますが、決してそうではないです。ただ、一部の老人に対して、マイナスのイメージも否定はできません。多くの老人がテレビのワイドショーを鵜呑みにしている様をみると、本当に「老害」はとんでもないと思うことがあります。

特に、老人たちの「アベガー」の発言にはうんざりしたことがあります。居酒屋に行くと、老人たちの「森友がー、加計がー、安倍がー」などという声を一度ならず、何度も聞いたことがあります。それも大した根拠もなく、テレビの受け売りを話しているだけです。

スーパーに買い物に行くと、高齢の御婦人が「アベ政治を許さない」と記したストラップをハンドバッグや財布につけているのを何度か見たことがあります。私は、そもそも政治とは、政策を是々非々で論議するものであり、特定の個人が良いとか、悪いとかの考えで論じたことなどありません。それは、明らかな間違いです。政府が悪い、特定の個人が悪いという考え方では、最初から自らの思考に枠をはめているようなものです。


だからこういう人たちをみるとうんざりしてしまうのです。同じ高齢者であっても生涯学習、百名山めぐり、軽度なスポーツ、孫の世話、休日にはこんなごく普通の何気ない日常が待っている人もいます。その一方で、反アベ高齢者たちの休日の選択肢が「政治デモ」という現実でした。

しかも、安倍晋三という存在によって、皮肉なことに彼らは活力と居場所が与えられてきたのです。しかし、安倍元総理が暗殺されてしまった現在でも、反アベの高齢者たちに安らぎや癒しなどあるはずもありません。彼らは、「アベ政治を許さない」「アベは今すぐやめろ」こう絶叫しているうちが実は至福の時であったことを心の片隅に留めた方が良いです。

では私が高齢者すべてを、「老害」として退けるのかといえば、そのようなことはありません。特に私は、ご老人の中には、いわゆる統合的思考に優れている人がいることに従来から注目してきました。

実は、人間による思考方法は、一つではなく、大きく3つあります。その中の一つが統合的思考です。これについては、このブログにも随分前に掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
BOOK REVIEW 『これからの思考の教科書』- ビジネススキルとしての思考法を順を追って学べる良書―【私の論評】常に革新的であるために、一つの思考方法に凝り固まるな!!アインシュタインと菅総理大臣から真摯に学ぼう!!

アインシュタインと菅総理

この記事の元記事の、ブックレビューのリンクは切れているので、以下にまだ生きているリンクを以下に掲載します。

これからの思考の教科書 ~論理、直感、統合ー現場に必要な3つの考え方~ 単行本(ソフトカバー) – 2010/9/28
この記事は、2010年11月16日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、このきじより、3つの思考方法についてのまとめを以下に掲載します。

ロジカル・シンキング(理論的思考)
物事を広く深く考え、分析し、相手にわかりやすく伝えるために、問題を構造化する思考法のこと。これは、ビジネスの基本です。最低限、この思考法ができない人は、ビジネス・マンとはいえません。特に、新人では、こうした思考法ができない人が多いです。 しかし、こうした思考方法ばかりして、そこから、一歩もはみ出さない人は、発展性がないですし、人間的魅力も感じられませんね。

しかし、まずは、こうした思考法を身につけるべきです。また、ロジカル・シンキングは、より上位の思考法である、水平思考や、統合思考の基礎なるものです。これができない人に、より上の思考をすることはできません。
ラテラル・シンキング(水平的思考)
ある問題に対し、今まで行われてきた理論や枠にとらわれずに、全く異なった角度から新しいアイデアを生もうとする思考法のこと。英国のデボノが1967年ころ唱えたものです。ロジカル・シンキングだけでは、出てくるアイディアは、確実にできるものではあるものの、どうしても月並みなものになってしまいがちです。 
そんなときに、全く見方を変えて、新たなアィデアを出すのがこの考え方です。会社であれば、部長までのクラスの人は、この考え方ができなければ、今の時代は務まりません。
インテグレーティブ・シンキング(統合的思考)
相克するアイデアや問題事項の対立点を解消することにより、より高次の第三の解答を見つけ出す思考法のこと。理論的思考や、水平思考によって、いろいろなアイディアが浮かんできます。ただし、アイディアがたくさんあるだけでは、実行に移すことはできません。 
それどころか、混乱するだけです。ここで、数多くのアイデアを取捨選択、統合するとともに、実施すべき順番を考える必要があります。また、数多くのアイデアを束ねるだけではなく、一言で言い表したりして、誰にも理解できるようにして、さらに高次元にする必要があります。それが、統合思考です。経営者クラスはここまでできなければなりません。
理論的思考については、役人や学者に優れた人が多いです。そうして、彼らの職責からいって、彼らは理論的思考一本槍で十分につとまります。

民間企業となると、理論的思考一本槍では、月並みなイノベーションしかできませんから、水平的思考も必要になります。

ただ、理論的思考と水平的思考だけでは、いかなる組織でも、混乱を招くことになります。そこで、統合的な思考が必要になってくるのです。 安倍元首相を例にすると、第一次安倍政権までの安倍氏の思考方法、は論理的思考と、水平的思考にとどまっていたものと思います。しかし、総理を辞任し、自民党が下野していた期間を安倍氏は無駄にしませんでした。

様々な情報を吸収し勉強しただけではなく、思考法を変化させ、統合的思考を身につけたようです。そうして、これこそが政治家にとって、一番重要な思考方法です。政治家の中には、現場が重要などと語って現場を重視する政治家もいます。確かに現場を見なければなりませんが、統合的な思考ができることが、その前提です。それができずに、ただ現場ばかりみている政治家は、無意味どころか害をなします。政治家などやめて、社会事業活動などして、直接困った人たちを助けるべきです。

論理的思考を身に着け総裁に返り咲き、衆院選で選挙に勝ち、総理に返り咲くことが決まった時期に、安倍元総理は「安全保障のダイヤモンド」を公表しています。

まさに、安倍元総理の統合的思考方法が、花開いたのがこの論文だと思います。

この論文は、外交や安保の土台になっていたものと考えられます。安倍総理は、これをさらに発展させ、インド太平洋戦略を提唱しました。これこそ、安倍元総理の統合的思考の真骨頂です。

今考えると、安倍元総理は、こうした戦略の枠組みがあって、その上で、日々の外交や安全保障や、憲法改正や経済について考え、行動していたのだと思います。

第一次安倍政権までの、安倍氏は、保守を全面に打ち出していましたが、こうした統合的思考は芽生えていなかったのだと思います。私自身も、実は第一次安倍政権までの安倍氏については、あまり評価はしていませんでした。高く評価するようになったのは、第二次安倍政権になってからです。

統合的思考は、若いうちからそれができる人は稀です。ある程度の年齢がいってから、できるようになる人が多いです。安倍元総理も例外ではなかったのだと思います。それは、なぜかというと、統合的思考ができるようになるためには、様々な経験を積まないとなかなかできないからです。中には例外的な人も存在し、子供の頃から様々な経験をつみ、早熟で大人になってすぐにそれができる人もいますが、それは例外中の例外であり、そういう人は天才と呼ばれるのです。

そうして、多くの人は、会社の中で統合的な思考を身につける前に、定年を迎えます。これができるようになる人は、少ないです。これができるようになれば、民間会社であれば、役員になれる確率が高まり、いずれ役員になる人もでてきます。

しかし、多くの人は役員になることはできません。なぜ多くの人が役員になれないかといえば、まずは人数的な問題もあるでしょう。一部の人だけではなく、多数の人が役員になれば、企業は維持存続が難しくなるからです。

そうして統合的思考法ができない人は、日本社会や国際社会まで視野に入れるこもかなわず、このような思考法をする人をなかなか理解できなかったりします。自分の思考の枠組みの中でだけ考えて、そのような考え方をする人を冷酷だとみなしたり、凡庸だとみてみたり、時代遅れであると勝手に判断したりします。

挙げ句の果てに、統合的な考え方に基づいて行動する企業の一面だけをみて、その企業やその企業を統治している役員を、悪の権化のように考える人もいます。これは、政治家も同じようなもので、統合的思考にもとづき、国や社会のために誠実に行動している政治家を、自分の思考方法や価値判断だけで判断して、短絡的に悪の権化のように思い込む人もいます。

個々の企業による特殊な事情もありますが、まともな企業に限った場合、その時々の利益や売上だけではなく、企業の存続や社会との調和まで含めた、統合的思考ができるできないは大きな分かれ道となります。統合的思考ができる人が、いずれ役員になり、そうではない人は定年を迎えるのです。日本では、年齢に伴い強制的にそうなりますが、米国などでは、多くの州で自己判断でそうなります。

理論的思考や水平的思考は、若い人のほうが相対的にすぐれていますから、統合的思考ができない人は、相対的に若い人より仕事ができなくなり、それを自ら悟り退職するのです。一方統合的思考ができる人は、年齢を重ねてもさらに円熟味を増し、役員としてスカウトされたりするのです。

しかし、統合的な考え方ができる人は少ないので、まともな会社では、外部からも役員を導入することもあります。

日米に限らずまともな企業においては、いかに社員として優秀だったにしても、統合的思考を欠いた人を民間企業は役員にすることはできません。そんなことをして、統合的思考を欠いた多くの人が役員になれば、役員が理論的思考と水平的思考の持ち主だけで構成されていれば、混乱を招くだけであり、企業は崩壊します。多くの企業の破綻の原因はこのようなところにもあります。

ただし、特定の企業の中では統合的な考え方ができなくても、社会の中でそれができる人はいます。そういう人が、いわゆる世話役になったり、まとめ役になったりしたり、そこまでいかなくても、仲間をつくったりで、生涯学習、百名山めぐり、軽度なスポーツ、孫の世話、休日には何気ない普通の日常を過ごしているのだと思います。

このような人は、たとえ定年になったとしても、今までの知見を活かして、社会のなかで、有益で有意義な生活を続けられるのだと思います。そうして、自分の能力や経験を活かして、身の丈に合った統合的な思考をしつつ、子供や孫の行く末を見守ったり、ときには助けたり、あるいは地域の繁栄や発展などに知らずしらずのうちに寄与しているのだと思います。こういう人を私達は、昔から「知恵者」や「知恵のある人」などと呼んで尊敬してきたのだと思います。

一方、テレビのワイドショーなどに踊らされる「老害」老人たちには、そのような考え方はできないのでしょう。身の丈にあった統合的な思考法ができないからこそ、特定の信条や、モノの考えかたに偏り、中途半端な理論的思考と、水平思考に煽られ、自分の考えはどんなときでも正しく、それ以外は悪であると思い込み、さらに煽られた自分に酔い、突飛な発言、行動などをして「老害」ぶりを発揮するのだと思います。

学者の中にもそれに近い人も大勢います。まずは、学術会議の学者、特に理事会のメンバーもそうでしょうし、個人の典型例は山口二郎氏だと思います。


先に述べたように、学者は分析的思考だけで、職責を全うすることはできます。そういう人たちがいて、専門的に物事を考察し、論理的に物事を記載し、論文に残すことは、それだけでも勝ちがあります。ただ、学者としても、自分の研究が社会の中でどのような部分を占めているのか、何をすることが社会を豊にしたり発展させるのかなどについては、日頃から考えなければならないと思います。

自分の専門だけではなく、そのような考えも持って日頃努力していれば、学問の幅も広まり、いずれ統合的な考え方もできるようになり、学者としての職責を果たすだけではなく、学者として社会に貢献できるようになるのでしょう。実際、私はそのような学者の方々にお目にかかったこともありますし、定年後に大活躍している方も大勢知っています。

「高齢者は集団自決した方がいい」と語る、成田悠輔氏は、統合的思考ができない人なのでしょう。そうして、実際成田氏は、現在はそのような思考方法だけで十分生きていけるし、自分だけは「老害」とは無縁だと考えていられるのでしょう。だから、高齢者は全部切って捨てたほうが良いという極端な考え方になるのでしょうし、安倍元総理の思考も理解できなかったのでしょう。

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2023年2月13日月曜日

米下院に新設された「中国委員会」 米中関係はどこへ向かうか―【私の論評】10年以内に中共を潰す勢いの米下院「中国委員会」の設置で、日本も確実に近日中に対応を迫られる(゚д゚)!

米下院に新設された「中国委員会」 米中関係はどこへ向かうか

岡崎研究所


 1月25日付のワシントン・ポスト紙(WP)で、同紙コラムニストのジョージ・ウィルが、下院に新設された中国委員会のギャラガー委員長を紹介しながら、米中戦略的競争において米国が勝利する重要性を論じている。

 マイク・ギャラガー下院議員は、プリンストン大学卒業後、ジョージタウン大学で博士号を取得する前の7年間、海兵隊に籍を置き、2年間のイラク派兵の間に、意図は良くとも戦略思考が混乱していることが招くコストの高さを学んだ。38歳で、下院議員4期目にして、新設の中国特別委員会の委員長に就任した。

 ウクライナで抑止に失敗し、膨大な人命と資産が失われた。同じような失敗が台湾を巡って起これば、より悲惨な状況を生む。ギャラガーの考えは、ハル・ブランズ、マイケル・ベックリー両教授の「危険区間:来るべき中国との戦い」に記されたものと類似する。

 両教授は、人口が中国の運命を決めるが、危険区間は今世紀という長期でなく、この10年という短期であるとする。その間、中国は「凋落する勢力」で、侵略の機会を強引に捕らえようとするかもしれない。長期的には米国が有利である。だからこそ「長期戦に持ち込むのは容易ではない」。

 ギャラガーは、中国の無謀さは活力を失うにつけ増すと信じている。そこで委員会では次のような質問が出て来る。何故中国は米国の農地を買い占めるのか、何故議会はグアムのミサイル防衛システムの改良予算をつけないのかなどである。

 下院中国特別委員会は365対65と超党派で設置された。反対したのは民主党議員である。理由は恐らく中国の脅威が進歩的課題への予算を減らすからだろう。緊縮派の共和党議員の中にも軍の装備を必要以下にしようとする者もいるだろう。ギャラガーは、この両者に対し、ジム・マティス元国防長官の言葉を引用している。「米国は生き残りにかける余裕はある」。

*    *    *

 ジョージ・ウィルは、1974年以来WPに論説を掲載している知性派論説委員である。保守派だが、2016年6月にトランプ氏が共和党の大統領候補に選出されると、無党派に政党登録を変更し大きな話題を呼んだ。

 このウィルが下院議会に設置された中国委員会(正式名は「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会」)の委員長に選出されたマイク・ギャラガー議員の考えを紹介している。ギャラガーは、元海兵隊員でイラクの経験があり、安全保障と戦略情報の2つの修士と国際関係の博士号を持ち、筆が立つ。

 ギャラガーは、米中の戦略的競争において長期的には米国が有利だが、10年の短期では危険な状態にあると述べる。中国は人口減少が生む経済問題などから「無謀さを増す」とし、中国に対し米国は対策を誤っていると具体的指摘もしている。

 台湾有事やインド太平洋戦略で最も重要な海軍の近代化は時間がかかり、その間、防衛線上のサモアやグアムなどの防衛体制や海兵隊の基地の準備が不十分であると指摘する。

 そして将来の技術を待つのでなく、既存の法や技術、装備の活用を推す。例えば、日本の防空体制強化のために退役予定の弾道弾ミサイル防衛機能を有す米海軍の巡洋艦シャイロー、ヴェラ・ガルフなどに改善を加え日本に残すことである。

 ギャラガーは、新委員会の委員長として次のような課題を挙げている。供給網の問題、抗生物質やレアアースなどの過剰な中国依存、中国の殺戮や軍拡への州の年金基金の流用、台湾の防衛強化やインド太平洋諸国との関係強化、共産党中央統一戦線工作部の介入、ロビイング法の甘さや米国の学術組織への影響力、米国の領土や経済安全保障を脅かす土地買収などである。

 ギャラガーの基本姿勢は超党派である。早くから台湾防衛への戦略的曖昧さ政策の転換を主張し、バイデンが転換を示唆する発言をするとすぐに評価した。また同盟国や友好国との協力が不可欠なことも強調している。
民主・共和両党に国防費増額反対の議員も

 435名中365名の賛同を得て同委員会が設置されたように対中強硬姿勢は超党派だが、両党とも国防費増額に反対する議員がいる。ギャラガーは、もし中国が台湾を支配するようになれば、日本やフィリピンを含む第一列島線が破られ、ハワイやグアムも脅かされる、中国は半導体という新たな武器を得る、そしてインド太平洋地域の国々は中国の臣下になると警告する。

 こうした事態を防ぐには、米中戦争になっても米軍が決定的な利を得ると信じ、また平時においては、威圧を加えるのは無駄であると中国に思わせるほど米軍は強力でなくてはならないとする。それだけの軍事力を得るのは安くないが、ギャラガーはマティス将軍を引用し、米国には生き残りにかけるだけの経済力はあると、米中戦略的競争に勝利することの米国と国際社会にとっての重要性を強調している。

 中国委員会はバイデン政権の政策に影響を及ぼすのは間違いない。ギャラガーの戦略的思考は注目に値する。

【私の論評】10年以内に中共を潰す勢いの米下院「中国委員会」の設置で、日本も確実に近日中に対応を迫られる(゚д゚)!

上の記事にもあるように、「中国委員会」民主党議員も多くが支持し、設置賛成が365票、反対が65票でした。反対は全て民主党議員です。ただし、民主党側の賛同を得るため、証人喚問の権限は付与しない形で発足しました。議事運営で主導権を握る多数派の共和党が、バイデン政権の関係者を次々喚問し、つるし上げる事態を民主党側が懸念し、そうした特別委員会なら賛成しないとの意向を示したためです。

ケビン・マッカーシー下院議長

ケビン・マッカーシー下院議長は、この委員会については超党派で中国に対峙する形が重要との認識から、民主党の要求を容れました。対決案件は既存の委員会で、あるいは別の特別委員会を設置して、との姿勢です。

例えば中国の投資会社とバイデン大統領の次男ハンター氏の不透明な関係などバイデン家疑惑については、司法委員会(保守強硬派のジム・ジョーダン委員長)で徹底追及する構えです。また、台湾に供給する兵器の選定や優先順位付けなどのテーマは外交委員会(マイケル・マッコール委員長)で扱う予定とされています。

中国問題特別委員会の委員長のマイク・ギャラガー氏は、マッカーシー議長に近いく、まだ38歳と若いですが、元海兵隊の情報将校で、数年来、対中強硬派として鳴らした存在です。

マイク・ギャラガー委員長

ギャラガー委員長は、個々の議員が毎年大量に出し、そうして多くは埋もれていく中国関連法案から重要部分をピックアップして取りまとめ、速やかに法制化していくことが委員会の仕事になると述べています。

ギャラガー委員長は当面取り組むべきテーマとして、最先端テクノロジーの対中移転の阻止など経済安全保障分野の諸課題および米側におけるデータ管理の徹底、中国政府による「検閲」排除、スパイ行為や電波妨害に使われるのを阻止するために、米軍基地周辺の土地取得阻止などを挙げています。

検閲に関しては、相互主義および公正をキーワードに追及を強めるといいます。例えばギャラガー委員長は、中国政府が一般国民にツイッターを使わせない一方、外務省報道官などが連日、ツイッターを用いてアメリカ政府を誹謗中傷している状態は不公正の極みと批判しており、SNS事業体の幹部を参考人として招致する意向を示しています。

中国ビジネスを人質に取られる形で検閲に屈してきた米国のプロバスケット協会(NBA)、ハリウッド映画界、ディズニー社の幹部らも追及(事情聴取)の対象になるとしています。

11日(現地時間)の米政治専門紙「ザ・ヒル」によると、共和党所属のマイク・ギャラガー中国特別委委員長はインタビューで、「委員会がボブ・アイガー・ディズニー最高経営責任者(CEO)とアダム・シルバー米プロバスケット(NBA)総裁を聴聞会の証人として呼ぶのか」という質問に「そうだ」と答えました。


ディズニーは2020年に公開された映画『ムーラン』を中国政府の人権侵害で問題になった新疆ウイグル自治区の近隣で撮影し、論議を呼んだ。 上の写真は、実写版映画『ムーラン』のポスターです。

NBAに関しては、米プロバスケットチーム、ヒューストン・ロケッツのGMダリル・モリー氏が「自由のために戦う香港デモ隊と共にする」というコメントをツイッターに載せたのが発端でした。中国バスケットスターのヤオミンがプレーしたロケッツを好む中国人はこのコメントに反発した。モリー氏がすぐにコメントを削除して謝ったが、中国の怒りは激しいものでした。

中国内の独占中継権を持つCCTVが1年近くNBAの試合を放送せず、中国企業がNBAの後援を中断すると、結局、モリー氏はGMから退きました。

ギャラガー委員長は「中国共産党が技術、経済部門を統制するように放置すれば、米国の残りの産業にどのようなことが起きるかを見せた」とし「ハリウッドやNBAの貪欲な経営陣に限られた問題でない」と主張した。ギャラガー委員長はビッグテック(巨大技術企業)と中国の関係にも注目するとし、「米国が中国との競争で勝利する案についてビッグテックと議論することを望む」と話した。

特別委員会の動きは日本にも様々に波及してくるでしょう。

世界で中国の偵察気球が波紋を広げる中、バイデン米政権と議会で対中直接投資に対する警戒感が一段と高まっています。ハイテク技術の軍事転用を阻止するため、先端半導体や人工知能(AI)、監視技術などの投資を制限する大統領令の準備を加
速。米国は、同盟国を巻き込んだ「対中包囲網」の形成を目指しています。

大統領令は経済安全保障上重要なハイテク分野に限定し、米国企業による中国企業の合併・買収(M&A)やサプライチェーン(供給網)などを監視する「対外投資審査」の導入を宣言する予定です。トランプ前政権時から検討が進められ、投資禁止も視野に入れます。米国に拠点を置く日本企業が中国で事業展開する際も審査対象になるでしょう。

米政府はこれまで、中国企業による米国企業の買収を制限するために「対内投資審査」を厳格化。先端半導体の輸出禁止や輸入関税引き上げなどの貿易制裁も発動しました。ところが、米軍が撃墜した中国の気球に通信傍受機能や米欧製部品が含まれていた疑いが浮上。米国の技術が中国の軍事力向上に使われているとの懸念が強まっています。


特定の中国企業や品目だけでなく、中国でのモノやカネの流れにまで監視の目を光らせるようになれば、米国の経済安保政策は集大成の段階に入ります。米調査会社ロジウム・グループによると、過去20年間の米国の対中直接投資に当てはめると最大43%が審査対象になり、産業界には痛手です。

中国特別委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和)は、対中投資制限について「同盟国との協調」を訴えています。台湾、韓国は政府が対外投資審査を行う一定の権限を持ちます。欧州連合(EU)やドイツも審査導入を検討する方向で、日本も確実に対応を迫られるでしょう。

しかも、10年以内に中共を潰す勢いのギャラガー氏の戦略なのですから、日本も確実に近日中に対応を迫られるでしょう。

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2023年2月12日日曜日

中国測量艦がいつも領海侵入を繰り返す「鹿児島・屋久島沖」の理由―【私の論評】中国測量船の目的は、潜水艦の航路を探すこと!これに日本は十分対抗できる能力がある(゚д゚)!

中国測量艦がいつも領海侵入を繰り返す「鹿児島・屋久島沖」の理由

シュパン級中国測量艦


■今年初12日未明に侵入 去年は1年間で5回も屋久島沖に なぜいつもこの海域?


日本周辺で活動を活発化させる中国軍。きょう未明、鹿児島・屋久島沖の領海に中国測量艦が侵入しました。防衛省によると、12日午前2時半ごろ、中国海軍のシュパン級測量艦1隻が、屋久島南西の日本の領海に侵入。中国測量艦はその後、北西方向に進み、午前4時10分ごろ十島村・口之島の北東から領海を出て、西に航行しました。

2022年、全国で中国海軍の艦艇が領海侵入したケースは、いずれも屋久島沖で、4月、7月、9月、11月、12月と、あわせて5回でした。

なぜ屋久島沖ばかり相次いでいるのか?謎を解くカギは「潜水艦」と「水温」、そしてもうひとつのキーワードでした。

■1年で5回も領海侵入「庭先を荒らされている気持ち」

国際法では、外国船が領海に入っても、沿岸国の平和や秩序に害を与えなければ航行できる「無害通航」が認められていますが、防衛省は「中国海軍が日本周辺で活動を活発化させている」として、相次ぐ侵入に警戒を強めています。

鹿児島県の屋久島から南西に10キロ、口永良部島から南に20キロ余り離れた日本の領海内付近が、中国測量艦が頻繁に領海侵入を繰り返す海域です。

現場の海域は世界自然遺産の島・屋久島の近くで、黒潮の恵みを受け、トビウオなどが獲れる豊かな海です。祖父の代から続く地元漁師は中国測量艦の侵入に不安を覚えると話します。

(屋久島の漁師・瀬山哲矢さん)
「測量艦が入って来るとやっぱり不安。自分たちの庭先を荒らされるような気持ち」


■潜水艦の太平洋ルートを開拓? 対潜拠点の鹿屋に近いのに?

屋久島沖は対潜能力を持つP-1やヘリコプターの拠点に近い。より離れたルートを選びそうだが…

元海上自衛官で、中国の軍事動向に詳しい笹川平和財団 小原凡司・上席研究員は、海洋進出を強める中国が日本沖の海の状況を調べ、「潜水艦を太平洋へ行き来させるルートを開拓しようとしている」と分析します。

(笹川平和財団 小原凡司・上席研究員)
「測量艦はおもに海図などを作成するために使われる船。屋久島周辺が、中国海軍の潜水艦が探知されずに太平洋に出入りするのに適していると判断し、調査している可能性がある」


■対潜水艦能力を持った鹿屋に近いのにわざわざ?

屋久島沖の近くには鹿屋基地があり、潜水艦の探知や対応にあたるP-1哨戒機が配備されています。仮に中国が太平洋に出入りしようと考えるなら、鹿屋から離れたルートを選びそうですが、なぜ屋久島沖なのでしょうか?

■海上自衛隊 元潜水艦隊司令に聞くと

潜水艦の探知や対応にあたる鹿屋基地のP-1哨戒機や護衛艦は、敵の潜水艦が出す音を探知するなどしてその位置を特定します。

音波で位置を割り出す上で、重要なのが水温です。水温が変わると、水中の音の速度が変わります。水中に伝わる音の速さが変わると、実際と異なった記録になるといいます。

海自の潜水艦隊司令を務めた専門家に聞くと、中国軍が屋久島沖にこだわる「キーワード」が浮かび上がってきました。

■中国軍の意図を分析 潜水艦と水温と「もうひとつのキーワード」

かつて海上自衛隊で潜水艦隊司令官を務めた矢野一樹さんです。敵の潜水艦の探知が特に難しいのが、屋久島沖などで見られる、海水温が急激に下がる「変温層」と呼ばれる深い水域です。


(元海自・潜水艦隊司令官 矢野一樹さん)
「潜水艦の音波は変温層に当たって屈折する。変温層に入った潜水艦は探知できない」


そして浮かび上がったもう一つのキーワード「黒潮」

変温層に加え、屋久島沖ではさらに中国の潜水艦が侵入しやすい条件があります。それが黒潮です。黒潮は水温の変化が激しいため、音波を使った水中の状況把握が、通常より難しくなるのです。

元潜水艦隊司令官の矢野一樹さんは、屋久島沖は変温層に加えて黒潮が流れるため、「中国海軍にとっては潜水艦が探知されにくい海域」だといいます。


(元海自・潜水艦隊司令官 矢野一樹さん)
「黒潮は非常に流れが速いので、非常に複雑な音の伝播=伝わり方になる。その音の反射が、潜水艦と間違われることもある」


屋久島の南側を流れる黒潮の場所と、中国測量艦が侵入を繰り返す海域はピタリと一致します。測量艦は一般的に、海水の温度や流れ、海底の深さや地形などを調べる能力があります。

かつて海上自衛隊の自衛艦隊司令官だった香田洋二さんは、中国海軍の測量艦が屋久島沖に相次いで侵入する理由について、「季節ごとの水温変化や黒潮の流れを何度も調べることで、将来的に海の状況を予測できる体制をつくろうとしている」と分析します。

(元海自・自衛艦隊司令官 香田洋二さん)「中国軍は、いつ潜水艦が通れば何パーセント音が伝わるのか、つかむ必要がある。領海侵入は減ることはないと考えていい」

■地元漁師「今まで尖閣とかの問題と思っていたが…」

(屋久島の漁師・瀬山哲矢さん)「今まで尖閣諸島とかの問題と思っていたが、それがいざ自分の身近で起きると不安。平和が一番」

続く中国測量艦の領海侵入。屋久島の海では、不安ととなりあわせの日々が続いています。

【私の論評】中国測量船の目的は、潜水艦の航路を探すこと!これに日本は十分対抗できる能力がある(゚д゚)!

中国海軍測量艦の日本の領海侵入は今年初めてです。去年、全国で中国海軍の艦艇が領海侵入したケースは、いずれも屋久島沖のあわせて5回で、今回は去年12月19日以来55日ぶりです。


日本政府は、中国海軍のこれまでの動向を踏まえ、「外交ルートを通じて中国側に強い懸念を伝えた」ということです。これは、日本としては当然のことでしょう。

上の記事、事実は伝えているのですが、いわゆる専門家の方の話しは、すべて中途半端であり、これは専門家の方が中途半端な話しかしなかったというよりは、この番組の製作者の意図によるもののようであり、作為を感じます。

軍事に疎い人がこれをみれば、日本は中国の潜水艦に対して何もできないような印象を与えるだけであり、結果として中国の脅威を煽っているだけです。

たとえば、海水温が急激に下がる「変温層」と呼ばれる深い水域に潜水艦が入ると発見できないとしていますが、これ自体は事実ですが、これに対応する術はあります。

まずは、変温層に関しては、日本の海自も知っているどころか、中国海軍よりも知り抜いており、当然中国の潜水艦が、ここに入ることは予め予想しており、対処法としては最も簡単なのは、この変温層に日本の潜水艦を潜ませておくことです。その他にも航空機からセンサーを投下したり、予めこの海域にセンサーを設置しておくこともできます。対処方法はいくらでもあるのです。

屋久島沖は変温層に加えて黒潮が流れるため、「中国海軍にとっては潜水艦が探知されにくい海域」としていますが、これへの対処も述べていません。これに対する対処は、無論潜水艦が探知しにくい海域に日本の潜水艦を配置しておくことです。

そうして、そのような海域は、日本も中国の観測船よりもはるかに能力が上の観測船で観測しており、そこにも日本の潜水艦を予め設置しておくことも可能ですし、実際にそうしているでしょう。

日本は、現在潜水艦22隻体制で運用しており、日本列島周辺の変温層や、黒潮対策は十分にできる体制です。というより、それを十分にできるようにするため、多大な時間と労力をかけて、わざわざ22隻体制にしているのです。

そうして、その潜水艦のすべてが、中国のどの潜水艦と比較してもステルス性(静寂性)に優れており、中国海軍がこれを予め、発見するのは難しいです。

このようなことも含めて、日米のASW(対潜水艦戦:Anti Submarine warefare)の能力は、中国をはるかに凌駕しており、この能力が中国海軍を上回っているため、中国海軍は日米には、海戦において勝利することはできません。なぜなら、現在の海戦においては、水上艦艇は大きなミサイルの標的にしか過ぎないですが、潜水艦はそうではないからです。

潜水艦こそが、現代海戦の主役であり、ASWの巧拙が、海戦での勝利を決めるからです。

上記事では、このへんのところを専門家に意図的に聞かないようにしているか、話をしていても意図的にカットしているようです。印象操作しているとしか思えません。

先日は、このブログで中国海軍の弱点を掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
米韓、黄海上空で再び戦闘機訓練 中国けん制も狙いか―【私の論評】米軍が黄海で演習するのは、中国の潜水艦の建造・メンテは渤海で行うという大きな弱点があるから(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、中国海軍の弱点は、潜水艦を含めた艦艇の建造や、大規模なメンテを受けるのは、渤海であり、渤海に至るには黄海を通らないければならないことです。そのあたりを解説した部分を以下に掲載します。

この黄海は、中国海軍にとって、ネックでもあります。その主たる原因は、黄海・渤海は、平均水深は46m、最深部でも200m以下と浅いということです。

ところが、中国原子力潜水艦の建造は、黄海に続く渤海湾内の遼寧省葫芦島市葫蘆島造船所に集中しています。 ここに造船所があるのは、維持整備上のやりやすさというのが大きな理由の一つであると考えられます。
葫蘆島造船所に停泊する潜水艦(赤丸) クリックすると拡大します
現実に 中国は、渤海湾にある中国唯一の原子力潜水艦建造所の拡張を図っています、ただ、必 要であれば渤海湾以外での原子力潜水艦の建造もできるようにするでしょう。

ただ、その動きは全くありません。中国近海は、渤海・黄海はもとより東シナ海を含めて水深が浅く、潜水艦の行動には適していません。今や水深の深い南シナ海こそ、中国にとっては原潜の聖域と言っても良い状況で、私としてはなぜ中国が環礁を埋め立てて作った基地に、潜水艦の建造や本格的メンテができる造船所をつくらないのか不思議です。

中国の潜水艦を含む艦艇のメンテは潜水艦も含めて、大掛かりなものは、すべて渤海湾内の造船所で行わなければなりません。

そうなると、水上艦艇はまだしも、すべての潜水艦は黄海を通り、渤海にでなければメンテはできないことになります。渤海に行くためには、必ず水深浅い黄海をとおらなければなりません。

中共は、なぜこのような不合理なことを未だに続けているのでしょうか。それには、いろいろな観測がありますが、その中で最も合理的と思われるのが、様々な艦艇、特に潜水艦は、中国共産党にとって脅威になるからというものです。

結局のところ、中国海軍の潜水艦や水上艦艇も北京の勢力下である、渤海で建造されたり、メンテをする体制は今でも変わっていません。海南島に空母をメンテできる乾ドックという報道もありましたが、どうもこれも事実ではないようです。

日米が、黄海を封鎖すれば、中国海軍はたちまち機能不全になります。その一方で、中国は、測量艦を日本の領海侵入させ、中国の潜水艦の通路を探し出そうとしているわけです。

なにやら、全体主義国家の歪さを感じます。宇宙でも似たようなことがあります。宇宙関連企業の中国国内での分布は、研究、人材、政策などが総合的に優れた地域とされる北京に最も多く、全体の40.8%を占めているともいわれています。それに江蘇省(11.2%)と広東省(7.9%)が続くとされています。

北京に集中させるのは、やはり宇宙軍の造反が脅威なのでしょう。そのため、中核となる部分はやはり北京共産党の勢力圏である、北京周辺で実行させ、その他の部分を江蘇省や広東省で実施させているのでしょう。

昔は、いずれの国でも、軍や軍の一部の造反が、権力者の最も大きな脅威でした。中露北やミャンマーでは、いまでもそうなのです。

憲法も、法律も共産党の下に位置づけられる中国においては、共産党の中で造反が起これば、これはとんでもないことになるわけです。なぜなら、共産党造反派は被造反派に対して、理屈上は、憲法や法律に縛られずなんでもできるからです。

このこともあるため、中共は海外より、自分の国の内部の都合で動かざるをえないのです。他国の脅威と同じか、時と場合によっては、中共内部の造反のほうが、より脅威になりえるのです。

こんな、おかしな中国ですが、破壊力だけは超一流です。海戦になれば、日米に負けるでしょうが、ミサイルを発射して、日本の国土や、米軍基地を破壊することもできます。

このようなこともあるので、先にも述べたように「外交ルートを通じて中国側に強い懸念を伝えた」ということです。これは、日本としては当然のことでしょう。

ただ、これだけでは十分ではないです。日本としては、屋久島付近や、尖閣付近でも良いので、日本の対潜水艦戦能力を中国側に見せつける訓練をすべきです。

潜水艦や、空母などにみたてた艦艇を潜水艦や、航空機や護衛艦などで撃沈する訓練等、中国の艦艇や潜水艦が監視する中で実施するなどのことをすべきです。

また敵基地攻撃能力の力も見せつけるべきでしょう。日本は南北に長いですから、南の端から、北の端にある中国の監視衛星地上施設に見たてた標的や、レーダー基地などをピンポイントで破壊してみせるなどのことをすべきです。

中国が、日本の領土や、米軍基地を破壊すれば、強力な報復があることを知らしめるべきです。現状では、日本の潜水艦から長距離ミサイルが発射できるようにすることが、中国に対して最強の抑止力になります。

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2023年2月11日土曜日

2月11日は建国記念の日 宮崎神宮で紀元祭―【私の論評】天皇彌榮!先達の努力と苦労に思いを馳せ日本の悠久の発展を祈ろう(゚д゚)!

2月11日は建国記念の日 宮崎神宮で紀元祭





2月11日は建国記念の日です。宮崎市の宮崎神宮では、日本と皇室の繁栄を祈る「紀元祭」が行われました。

建国記念の日は、初代天皇の神武天皇が即位した日とされています。神武天皇が祀られている宮崎神宮では11日、建国記念の日を祝う紀元祭が行われ、朝から大勢の人が参列に訪れていました。

紀元祭では、日本と皇室の繁栄を願って祝詞が奏上されたあと、巫女2人による「悠久の舞」が奉納されました。

続いて参列者は、日本の幾久しい繁栄と平和への願いを込め、玉串を捧げていました。

【私の論評】天皇彌榮!先達の努力と苦労に思いを馳せ日本の悠久の発展を祈ろう(゚д゚)!

「建国記念の日」は、「建国をしのび、国を愛する心を養う」という趣旨により、法律によって設けられた国民の祝日です。

神武天皇が橿原の宮に即位された日について日本書紀には以下の内容が記されています。

日本国の誕生日は、国史『日本書紀』に、「辛酉(かのととり)の年春正月、庚辰(かのえたつ)の朔(ついたち)、天皇橿原(かしはら)の宮に即帝位(あまつひつぎしろしめす)。是(こ)の歳)(とし)を天皇の元年と為(な)す」と記されています。

これを太陽暦に換算し、建国を祝う日と定め、明治6年に「紀元節」として祝日になりました。
神武天皇

戦後はGHQの占領政策により紀元節は廃止されましたが、多くの国民の声により昭和41年に改めて国民の祝日に加えられ現在に至ります。

古来、我が国は「瑞穂の国」と呼ばれてきました。

日本人には、田畑をともに耕し、水を分かち合い、乏しきは補いあって、五穀豊穣を祈り、美しい田園と麗しい社会を築いてきた豊かな伝統があります。また、我が国は四季のある美しい自然に恵まれ、それらを生かした諸外国に誇れる素晴らしい文化を育ててきました。
 
建国記念の日は、国民一人一人が我が国の今日の繁栄の礎を営々と築き上げた古からの先人の努力に思いをはせ、さらなる国の発展を祈る、意義深い日です。

以下に唱歌『紀元節』の動画と、その歌詞と歌詞の意味を掲載させていただきます。



歌詞(現代表記)
一、
雲に聳(そび)ゆる 高千穂(たかちほ)の
高根おろしに 草も木も
なびきふしけん 大御世(おおみよ)を
仰ぐ今日こそ たのしけれ
二、
海原なせる 埴安(はにやす)の
池のおもより 猶ひろき
めぐみの波に 浴(あ)みし世を
仰ぐ今日こそ たのしけれ
三、
天(あま)つひつぎの 高みくら
千代よろずよに 動きなき
もとい定めし そのかみを
仰ぐ今日こそ たのしけれ
四、
空にかがやく 日のもとの
よろずの国に たぐいなき
国のみはしら たてし世を
仰ぐ今日こそ たのしけれ

 

高千穂峰と神武天皇

「高千穂(たかちほ)」とは、宮崎県と鹿児島県の県境に位置する霧島連峰の火山「高千穂峰(たかちほのみね)」。標高は1,574メートル。

高千穂峰は、天照大神(あまてらすおおかみ)の孫であるニニギノミコト(瓊瓊杵尊)が降臨(天孫降臨)した山とされる。

天照大神は葦原中国(あしはらのなかつくに)を治めよという神勅をニニギとその子孫に下し、ニニギの曾孫である磐余彦(いわれびこ)が初代の天皇・神武天皇として即位した。

一番の歌詞の意味
「高根おろし」とは、高い山の上から吹きおろしてくる風のこと。プロ野球・阪神タイガース応援歌『六甲おろし』も同様。

「なびきふしけん」とは、草木が風になびき、地面に臥(ふ)すこと。最後の「けむ」は過去推量の助動詞。

「大御世(おおみよ)」とは、天皇の治める時代、天皇の治世を意味する。

「仰ぐ(あおぐ)」は、尊敬すべきものとして見ること。卒業ソング『仰げば尊し』と同じ。
二番の歌詞の意味
「埴安の池(はにやすのいけ)」とは、 奈良県橿原(かしはら)市の天香久山(あまのかぐやま)の西麓にあった池。 
天香久山(あまのかぐやま)の南麓には、天照大神(あまてらすおおかみ)の「岩戸隠れ」の伝承地とされる岩穴や巨石を神体とした天岩戸(あまのいわと)神社がある。
天香具山

三番の歌詞の意味
「あまつひつぎ」とは、皇位を継承すること、皇位。「あまのひつぎ」、「天津日継」「天つ日嗣」、「天乃日嗣」、「天乃日継」とも。

「たかみくら(高御座)」とは、大極殿や紫宸殿などに設けられた天皇の御座。転じて、天皇の皇位をも指す。即位・朝賀などの大礼の際、天皇は高御座に着くのを例とした。

「千代よろずよ」とは、「千代・万代(万世)」。「千代(ちよ)」は、大変長い年月のこと。「万代(万世/よろずよ)」は、限りなく長く続く世の意味。

「もとい(基)」とは、土台や基礎のこと。「国のもとい」で、国家を維持していく根本となるものを指す。国家の基礎。国基(こっき)。
四番の歌詞の意味
「日のもと」は、「日本」のこと。

「よろずの国に たぐいなき」は、世界に比類ないこと。

「国のみはしら(御柱)」とは、国家の柱となるべき存在のこと。

初代神武天皇より、2000年以上、一貫して男系で継承されてきた皇統の重みと共に歩んできた我が国の歴史があります。

その長い歴史と伝統のなかで日本独自の文化を育んできました。

この世界に類のない日本の国柄を私たちも大切にしてゆきたいものです。

2月11日には、神武天皇を祀る橿原神宮を始め全国の神社で日本国悠久の繁栄を祈って紀元祭が執行され、国旗を掲揚し氏子有志による奉祝行事が行われています。是非参加して国民としてのアイデンティティ確立につとめましょう。参加できなかった人たちも、この日の意味を噛み締め日本の悠久の発展を祈ろうではありませんか。

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2023年2月10日金曜日

日銀新総裁起用の植田和男氏 量的緩和導入の理論的支え―【私の論評】植田氏の金融緩和の目的は黒田氏と異なり、金融機関重視(゚д゚)!

日銀新総裁起用の植田和男氏 量的緩和導入の理論的支え

2016年5月、G7財務相・中央銀行総裁会議の開幕に先立ち開かれたシンポジウムに臨む植田和男氏(右)。左は日銀の黒田総裁=仙台市

 政府が日本銀行の黒田東彦総裁の後任に起用する方針を固めた経済学者の植田和男氏は、成10年4月に東大教授から日銀審議委員に就任し、17年4月まで務めた人物だ。

 バブル経済が崩壊しデフレが進んでいた13年、日銀が市場へ供給する資金の量を増やして景気を下支えする異例の金融政策「量的緩和策」を初めて導入したときなどの理論的な支えとなった。

 量的緩和策の導入を実務面で主導したのは、当時、日銀の企画室企画第1課長だった現在の雨宮正佳副総裁。植田氏と雨宮氏は〝タッグ〟を組んで量的緩和策を実現したことになる。雨宮氏は、黒田氏の後任総裁の有力候補としても名前が挙がっていた。

 黒田氏率いる日銀が導入した足元の大規模な金融緩和策から脱却するかどうかが課題となっているが、植田氏が新総裁として、どのようなかじ取りをするか注目される。

【私の論評】植田氏の金融緩和の目的は黒田氏と異なり、金融機関重視(゚д゚)!

岸田首相は、財務省に配慮して、とんでもない総裁を選ぶのではないかと思い、コテコテの金融引締派が次期日銀総裁になるのではと、戦々恐々としていましたが、そうではないようなので、少し安心しましたが、まだ安心しきることはできないようです。

これについては、経済学者の田中秀臣氏が、動画で解説していますので、その動画を掲載します。


詳細は、この動画をご覧いただくものとして、この動画より気になるところをピックアップしします。

簡単に言ってしまうと、植田氏は、日銀(日本の中央銀行)が担うマネタリーと、プルーデンスのうち後者を重視する方のようです。

日銀は、中央銀行として、金融政策を行う主体であるとともに、金融機関の監督という準行政的な機能もあります。前者をマネタリー、後者をプルーデンスといいます。

実は、日銀内の仕事としてはマネタリーの部分はごくわずかで、多くは「銀行の中の銀行」として金融機関との各種取引を通じたプルーデンスが大部分です。プルーデンスは「日銀官僚」が天下るときにも有用であるため、日銀マンの行動に金融機関重視がビルトインされているとみたほうが良いでしょう。


植田氏は、消費税増税についての有識者会議(14年)のときは、消費増税については判断を保留しています。また金融緩和の目的が、彼の場合は金融システム、つまり銀行業界などの安定であり、そこが期待インフレのコントロールを重視し雇用増から経済安定を目指すリフレ派とは決定的に異なるところです。

植田氏は、プルーデンスを重視するということでは、日銀官僚には受けが良いでしょう。金融政策≒雇用政策 重視のリフレ派とはスタンスが違います。2%物価目標に関して、なるべく早く達成しようとするのではなく長期の目標とする可能性もあります。

植田氏は金融緩和を支持しているように見えますが、黒田現日銀総裁とは明らかに異なります。特に目的において両者はかなり異なります。植田氏は、日銀を中心とした金融システムの安定性が金融緩和の主目的です。それに対して、黒田日銀現総裁のその主目標は雇用の最大化と経済成長です。両者は同じく金融緩和をしたとしても、その目的は大きく異なるのです。

日銀黒田総裁

植田和男氏は2000年のゼロ金利解除に反対するなど学者として一流です。しかし日銀新総裁として日銀の官僚組織の言いなりになる可能性もあります。特に政府との共同宣言で2%インフレ目標を棚上げ改悪してしまうようなことなく戦い続ける気力があるのか、十分注目していきたいところです。

四月になれば、岸田政権と日銀が共同声明を出すのでしょうから、そこが田日銀新総裁を判断する目安となるでしょう。ただし結局は、岸田政権の意図通りに動くとみて良いでしょう。さて、岸田氏は今後の金融政策をどうするつもりなのか、そこが焦点になりそうです。

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2023年2月9日木曜日

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「安倍晋三 回顧録」出版は間違いあれば正すため インタビュアー「違うなら言って」


 8日に発売され、大きな話題となっている「安倍晋三 回顧録」で安倍晋三元首相の話の聞き手を務めた、読売新聞特別編集委員の橋本五郎氏が9日、日本テレビ系「情報ライブ ミヤネ屋」に出演し、出版の裏話を披露した。同書は安倍氏が首相を退任した2020年10月から計18回、36時間にわたって行われたインタビューを書籍化したものだ。

 橋本氏は出版について「ご本人が『きちんと歴史に残さなければいけない』と思っていたんでしょう」と安倍氏の心境を代弁した。森友学園問題について、同書で安倍氏は「私の足を掬うための財務省の策略の可能性がゼロではない」「私の元には、土地取引の交渉記録など資料は届けられませんでした」などと語っている。これに橋本氏は「(森友問題で)初めて『策略』って言葉は聞きましたけどね。その前から『自分は一切知らされていない』と。『それなのに、なぜ“関与している”って言われるんだ』というのはずっとありました」と安倍氏が疑問を持ち続けていたことを明かした。

 司会の宮根誠司は「(インタビュー当時)総理はお辞めになったとはいえ、現役の国会議員、安倍派の会長ですよ。その方がここまでしゃべっていいのかとちょっと思った」とあまりに赤裸々な内容に驚いたとコメント。橋本氏は「だから、去年の1月にまとまってたんですけど『ちょっと待ってくれ』と言われたんです。あまりに差し障りがあるから」とストップがかかっていたと説明した。

 一方で「理解してほしいのは、いかに戦略的に外交をやり、周到な準備に基づいて、いろんなことをやったか」と外交面での苦労を公にする意向もあったとした。さらに「それから、自分の理想、こうやりたいっていう目標はあるんだけどその時々に非常に妥協したり」と柔軟な対応力もあったことを強調した。

 宮根は「どうぼくらは読んでいいのか。どこまでが真実で」と安倍氏が自身をいいように取り繕って語っている可能性にも言及。橋本氏は「なんで出したかっていうと、ここに書いてあることが『違う』ということなら『違う』と言ってくださいと。そのためにも早く出さないといけない。必ず正当化するんですから、政治家は」と真偽を追求するための出版であることも語った。

【私の論評】「安倍晋三 回顧録」をまず最初に精読すべきは、岸田総理その人か(゚д゚)!


この回顧録、私もさっそくアマゾンからkindle本を購入して、読んでいます。ただし、これから読む人もおおいでしょうから、内容について触れるのはネタバレになりますので、ここでは控えようと思います。ただし、どうしても一部はありますので、それはご承知おき下さい。

政治家の最後の責任とはなんなのでしょうか。私は、それは回顧録を残すことであると思います。彼らの決断は後世の人々に対し恥ずかしくないものだったのかを、判断できる内容の回顧録を残すことです。安倍氏の回顧録は、無論これを判断できるものだと思います。

回顧録は自叙伝の一種ですが、一般的な区別としては、自叙伝が作者の精神的・内面的発展を重視するのに対して、回顧録はむしろ自分が生きた時代や社会とのかかわりに中心を置きます。前者が主観的であるとすれば、後者はむしろ客観的であることを標榜します。

ウインストン・チャーチルの『第二次大戦回顧録』の背表紙

自叙伝は作者が生まれてからある一定の年齢にいたるまでの人生を連続的に語りますが、回想録は特定の時期に経験したできごとだけ、あるいは一定の地位に就いていたときの見聞だけを記述するというケースがあり得ます。「安倍晋三 回顧録」は後者の部類です。

私が安倍元首相の訃報を聴いたときは無論大ショックで、すぐに信じられなかったというのが、実態でした。今でも、テレビなどに笑顔で出ていらっしゃるのではと思ってしまうくらです。そうして、しばらくして、心配なことがありました。それは、安倍元首相が、突然亡くなったことで、安倍首相は「回顧録」などを記す、暇もなかったのではないかということです。

実際ご自身で書かれる暇はなかったのですが、インタビューという形で、残されたものがあったということで、それが今回出版されたということで、その面では安心しました。

岸田首相は、読書をされるそうですから、是非ともこの回顧録をご覧になって、安倍元首相の政治への取組姿勢を学んでいただきたいです。

書店から出る岸田首相2022年12月31日

安倍元総理大臣が、財務省がいわゆる「安倍おろし」を行った可能性を示唆していたことについて、岸田総理大臣はそうした「動きを感じたことはない」と否定しました。

立憲民主党・大西健介衆院議員:「本日発売の安倍晋三回顧録というのを持って参りました。財務省と党の財政再建派議員がタッグを組んで安倍おろしを仕掛けることを常に警戒してということが書かれています。財務省の安倍おろしっていうのを感じることがあったか」

岸田総理大臣:「財務省による『安倍おろし』の動きを感じたことがあるかという質問については、感じたことはありません」


立憲民主党の大西衆議院議員はまた、財務省が森友学園問題で「安倍元総理に土地取引の交渉記録などを故意に届けなかったのか」と質問しました。

鈴木財務大臣は「故意か故意ではないか別として、その資料は届けていなかった」と応じました。

そのうえで、財務省に安倍おろしの意図があったかについては「コメントのしようがない」としました。

私は、回顧録を読むまでもなく、「安倍おろし」はあったものと確信しています。安倍氏は総理在任中に、2度も消費税延期を行い、その度に解散総選挙をして、国民の信を問い、財務省の圧力を跳ね除けました。また、安倍・菅両政権のときに合計で増税なしで100兆円の補正予算を組み、コロナ対策を実施しました。

これは、両方とも財務省が嫌がることです。

安倍・菅両政権では、補正予算を活用するとともに、雇用調整助成金制度を活用して、雇用対策を行ったため、他国では失業率がかなり上がったのに対して、日本では2%台で推移しました。これは、大偉業と言って良いです。残念ながら、これはマスコミがほとんど報道しないので、多くの国民は普通のことと思っているようですが、特に若年層にはかなり訴求効果があったものと考えられます。岸田首相は、これを大いに参考にすべきです。

安倍首相がこのような姿勢を在任中にも貫いたからこそ、残念ながら、GDPは2度の消費税増税によって伸びませんでしたが、日銀が金融緩和を継続したので、雇用は劇的に良くなりました。これを否定する人もいますが、そういう人たには、数字やグラフが読めないのかと言いたいです。特に、若年層、高校生・大学生・院政の就職率は格段に上がりました。これが、政権の維持に寄与したのは間違いないです。

この時の安倍元総理の行動など仔細に分析して、財務省への対処法を原理原則としてまとめておくと良いと思います。そうして、財務省対策としては、安倍総理を超えるくらいの、力量を身に着けていただきたいです。財務省に左右されない政治を実施すべきです。

外交でも、安保でもそうしていただきたいですが、特に国内政治で、何もかも財務省の言うとおりでは、結局財務省のいいようにされ、利用されるだけ利用され尽くして、挙げ句の果てに必要がなくなれば、ポイ捨てされるだけだと思います。過去の日本では、財務省の思い通りになった期間は、政権がかなり不安定になっています。

財務省は、財務省の増税・緊縮教義が第一であり、その時々の政権や国民経済のことなどどうでも良く、とににかく増税・緊縮ができれば、自らの差配力が増し、天下り先も増えるので、それだけで良いのです。彼らには、すでに理念・矜持も何もなく、増税・緊縮の教義に従って、盲目的に突っ走るだけです。

日本国民の賃金が下がっても、日本より人口の少ないドイツにGDPで追い抜かれたとしても、増税・緊縮さえできればそれだけで良いのです。だからこそ、安倍元総理はこれに対峙したのです。

岸田総理には、はやくそのことに気づいていただきたいです。財務省は、決して岸田総理の味方でも、自民党の味方ではないのです。

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2023年2月8日水曜日

中国式現代化は西洋化にあらず、共産党の指導堅持が中核と習総書記―【私の論評】習近平は、袁世凱と同じく滅びの道を歩むか(゚д゚)!

中国式現代化は西洋化にあらず、共産党の指導堅持が中核と習総書記

習氏は党幹部や地方政府首脳、閣僚らに向け演説-新華社
短期的には今年の経済活動の全体的な改善を達成する努力必要

習近平

 中国共産党の習近平総書記(国家主席)は7日、資本主義よりも効率的で社会正義をより適切に守る現代化の道を生み出すよう中国は取り組まなければならないと述べた。

 国営新華社通信によると、習氏は党中央政治局常務委員や中央委員、地方政府首脳、閣僚らに向けた演説で、国家の発展全体ではイノベーションを重視すべきで、社会の公平性をより効果的に維持しながら、資本主義よりも高度な効率性を達成する必要があると語った。

 「中国式の現代化は『現代化は西洋化』との通念を打破」するとともに、「より良い社会制度を模索する人類に中国の解決策を提供する」と述べ、「中国式の現代化が実現可能で安定していることを経験が立証しており、これが強い国を築き、民族を復興させるの唯一の正しい道だ」と論じた。

 この目標を達成する中核は共産党の指導力堅持であり、これが発展に向けた中国の取り組みの「最終的な成功または失敗」を決めると主張。短期的には、今年の経済活動の全体的な改善を達成するよう努力し、自信を強め社会の期待を安定させるため事業体の指導に一段と取り組むべきだと指摘した。

原題:Xi Calls For China’s Modernization Path to Surpass Capitalism(抜粋)

【私の論評】習近平は、袁世凱と同じく滅びの道を歩むか(゚д゚)!

習近平は、中国を西欧化するつもがないというのなら、日本を大いに参考にすべきです。なぜなら、経営学の大家ドラッカー氏は、日本は西欧化したからではなく、西欧を日本化したからこそ、成功したとしているからです。

経営学の大家ドラッカー氏は、以下のように述べています。

日本は、外国からの影響を自らの経験の一部とする。外国の影響のなかから自らの価値、信条、伝統、目的、関係を強化するものだけを抽出する。その結果は混合ではない。15世紀や18世紀の日本画が示すように、一体化である。これこそが、真に日本に固有の特性である」(『日本 成功の代償』)

ドラッカーは、日本は導入した文物を急速に消化し、改善するといいます。筆づかいの巧みさにおいて、15世紀の山水画家・雪舟に肩を並べる者は、中国にはほとんどいません。企業組織と経営技術において、日本の大商社に肩を並べうる企業も、欧米にはほとんどありません。

その日本が、仏教と中国の文物が洪水となって入ってきた6世紀、世界に門戸を開いた19世紀を超えるスケールで、外の世界と一体化しつつあります。

ドラッカー氏は、日本が今後とも、外国の非日本的な文化、行動、倫理、美意識を吸収し、日本的なものに変えていくことを期待していました。

歴史上、ほとんどあらゆる非西洋の国が、自らの西洋化を試みて失敗しました。インドもそうでした。ところが日本は、明治維新では、西洋化を試みませんでした。ドラッカーは「日本が行なったのは西洋の日本化だった」と言います。だから成功したのです。

私は、日本が歴史上繰り返し行ってきたことを再び行うよう望む。今日世界は、近代的であると同時に際立って非西洋的な文化を必要とする。世界は、ニューヨークまがいやロサンゼルスまがい、あるいはフランクフルトまがいの日本ではなく、日本的な日本を必要とする。(『日本 成功の代償』)

日本では、明治維新という無血革命も成功させました。しかし、中国はそうではありませんでした。これについては、以前ブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下2掲載します。

石平手記「天皇陛下は無私だからこそ無敵」―【私の論評】知っておくべき、これからも私達が天皇とともに歩み、「世界史の奇跡」を更新し続けるワケ(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。
9世紀末から20世紀初頭、中国では近代化の方法を巡り、立憲派(皇室を残す)と革命派(皇室を残さない)が争いました。
立憲派の代表は康有為や梁啓超ら清王朝の官僚たちで、彼らは当時の中国で、共和制や民主主義を行えば大混乱に陥り、列強の餌食となってしまうので、皇帝制を維持しながら改革を進めていくことを主張しました。彼らは日本やヨーロッパのように、中国にも立憲君主制を根付かせようとしたのです。

一方、革命派の代表は孫文と黄興です。彼らは、清王朝の体制のなかから近代化を行うことは不可能と考え、清を打倒しなければならないと考えました。孫文ら革命派は民族資本家と呼ばれるブルジョワ階級を主な勢力基盤としていました。
孫文と黄興
20世紀に入ると中国でも工業化が進み、ブルジョワ階級が育ちます。孫文は国内の民族資本家や華僑(外国で成功していた民族資本家)の勢力を結集し、革命運動の原動力とします。

民族資本家たちは、清王朝から特権を保証されていた封建諸侯と、利害関係において激しく対立しました。封建諸侯は領土を独占し、民族資本家の商工業にも不当に介入し、税などを巻き上げていました。封建諸侯によって支えられていたのが清王朝であったので、孫文ら革命派・民族資本の勢力にとって、清を倒すことは商工業の自由を獲得するために欠かせないことでした。 
清は末期症状のなか、極端な財政難に耐えられず、1911年、幹線鉄道を国有化し、鉄道を保有する民族資本家からこれを没収して財政不足に充てるという強硬手段に出ます。民族資本家は清に怒りを爆発させ、四川で暴動、武昌で蜂起し、辛亥革命となります。彼らは南部地域一帯で、清からの独立を宣言し、南京で孫文を臨時大総統に選出して、中華民国を建国しました。

しかし、清王朝は袁世凱を内閣総理大臣に任命し、革命の鎮圧を命じます。中国北部で軍事力を有していた地方豪族の軍閥という勢力があり、袁世凱はこの軍閥の領袖でした。彼は大軍を率いて、南京にやってきます。

袁世凱は清の体制内部の要人でありながら、清の命運は長く持たないと考え、新しい中華民国の総統になるほうが得策と判断し、革命派と取引します。袁世凱は「私が清の皇帝を退位させることを条件に、私を中華民国の大総統にせよ」と要請しました。

孫文ら革命派は袁世凱の強大な軍を前に、この要請を受け入れざるをえませんでした。しかし、皇帝を退位させ、清王朝を名実ともに終わらせることができるのは大きな前進と捉えました。

大総統になった袁世凱は宣統帝溥儀を退位させ、1912年、清は滅亡しました。こうして、彼ら中国人は秦の始皇帝から約2100年続いた皇帝制と訣別したのです。
しかし、その結果結局中国では、共産党が勢いを増し、大東亜戦争が終了してから、1948年に共産党政権が樹立され今日に至っています。
1912年、辛亥革命で清が倒れたとき、牽引者不在のなかで中国は方向性を失います。秩序がもろくも崩壊し、共産主義が圧倒的多数の貧民の支持を得て勢力を拡大します。つまり、皇帝制崩壊により、中国では共産主義国家の誕生が避けられない事態となっていたのです。
以下のこの記事の結論部分を引用します。
日本には、鎌倉幕府から江戸幕府に至るまで、将軍という世俗の権力者の上に、天皇という超越的な存在がありました。この二重権力構造が続き、天皇制が維持されたことが近代日本に幸いしました。日本が過激に社会秩序を崩壊させることなく、緩やかな変革を実現することができた最大の理由がここにあります。

中国は王朝がコロコロ変わる易姓革命を繰り返したため、天皇のような国家の中核存在を持つことができませんでした。維新の革命者が孫文のように共和主義を掲げ、天皇制を廃止していたならば、日本も中国と同じように、無秩序と混乱に陥っていたことでしょう。

われわれの父祖たちは、つねに天皇と共に歴史を歩んできました。これからも、私達は天皇とともに歩み「世界史の奇跡」を更新し続けることになるのです。

 中国には、もはや肯定は存在しません。習近平は自ら皇帝になろうとしていますが、これは袁世凱の運命ともかぶるところがあります。

袁世凱は野心をあらわにします。1915年、皇帝に即位し、国号を中華民国から中華帝国に改めます。年号を洪憲と定め、洪憲皇帝を名乗ります。

何の血統の正統性もない者が突如、皇帝になったことに当時の日本をはじめ、世界各国は驚きましたが、中国では易姓革命の伝統があり、血筋に関係なく実力者が皇帝になってきたので、袁世凱自身、自分が皇帝になるのは当たり前だと考えていました。しかし、袁世凱に対する中国国内から反発は強く、彼はわずか3カ月で退位しました。そして、間もなく、失意のうちに病死します。

異例の3期目入りをもぎとった習近平国家主席は、これから先、何を狙うのでしょうか。それは1つしかありません。今回、逃した「終身制」の実現です。モデルとなるのは建国の父、毛沢東です。彼はすでに廃止された共産党中央委員会主席(党主席)という終身トップの地位にありました。これは、事実上の中国の皇帝です。

執務中の毛沢東中国共産党中央委員会主席(1966年)

袁世凱も、習近平も皇帝になるには、あまりに無理があります。結局習近平も党主席となれば、袁世凱と同じく、統治の正当性を主張することができずに、いずれ滅びの道を歩むものと思います。

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2023年2月7日火曜日

四島「不法占拠」を5年ぶりに明記 北方領土返還アピール―【私の論評】ウクライナ侵攻によるロシア弱体化で、北方領土返還の可能性が巡ってきた(゚д゚)!

四島「不法占拠」を5年ぶりに明記 北方領土返還アピール


 「北方領土の日」の7日、政府や関係団体は「北方領土返還要求全国大会」を東京都内で開き、北方四島について「77年前、ソ連によって不法占拠されたまま今日に至っていることは決して許されるものではない」と非難するアピールを採択した。アピールに「不法占拠」の表現が復活したのは平成30年大会以来。昨年2月以降、ロシアがウクライナ侵攻を続けているのを踏まえ、厳しい対露姿勢を打ち出した。

 大会に出席した岸田文雄首相は、「ロシアによるウクライナ侵略によって日露関係は厳しい状況にある」と指摘したうえで「領土問題を解決し、平和条約を締結する方針を堅持する」と強調した。

 また、ロシア側が北方領土の元島民らに墓参のためのビザなし渡航を認める「北方墓参」など、四島交流事業の再開が「今後の日露関係の中で最優先事項の一つ」として事業の早期再開の必要性を訴えた。「北方領土問題は国民全体の問題だ」とも述べ、問題解決に向けて全力をあげる考えを示した。

 アピールは安倍晋三元首相とプーチン露大統領との間で進めていた返還交渉に配慮し、平成31年から2年連続で四島に関し、「不法占拠」との表現を使わなかった。令和3、4年も「法的根拠のないまま占拠」との表現にとどめていた。

 今回の大会は、新型コロナウイルスの感染拡大以降、3年ぶりに参加者を制限しない形式で行われた。

 北方四島を巡っては、昭和20(1945)年、旧ソ連が日ソ中立条約を一方的に破棄して対日参戦し、不法占拠されて以降、日本人が自由に行き来できない状態が続いている。

【私の論評】ウクライナ侵攻によるロシア弱体化で、北方領土返還の可能性が巡ってきた(゚д゚)!

ロシアは2020年の憲法改正で唐突に「領土の割譲禁止」を明記しました。「割譲行為は最大禁錮10年、割譲を呼び掛けても最大4年」とする改正刑法も成立しました。露メディアは2021年3月1日、国家安全保障会議の副議長を務めるメドベージェフ元大統領・首相が、憲法改正で日本と北方領土問題を協議するのは不可能になった、との認識を示し、「ロシアには自国領の主権の引き渡しに関わる交渉を行う権利がない」と述べたと報じました。日本側に一方的に「領土断念」を促す無礼千万な発言でした。


「四島返還」という国家主権に関わる歴史的正義の旗を自ら降ろし、全体面積の7%にすぎない歯舞、色丹の2島返還をうたった1956年の日ソ共同宣言に基づいて平和条約交渉を加速させる-との安倍晋三政権時代の日露合意(2018年11月)は、日本側の全くの幻想にすぎなかったことがこれで明白になりました。

プーチン政権は反体制派は容赦なく弾圧し、自らの出身母体の巨大な秘密警察・旧KGB(国家保安委員会)や軍の特権層の利益を最大限重視します。当時猛毒の神経剤で殺されかけた反体制指導者ナワリヌイ氏を強引に拘束、全土での大規模な抗議デモに見舞われていました。そのナワリヌイ氏に暴露された「プーチンの秘密大宮殿」は世界中の顰蹙(ひんしゅく)を買いました。対外的にはサイバー攻撃などで各国を揺さぶる。その謀略と強権ぶりはソ連共産党政権も顔負けです。


ソ連崩壊時の日本の対露外交の不首尾のツケはあまりに重いです。しかし、全土の抗議運動の大波に洗われ、20年超のプーチン長期政権の足元も揺れ始めました。さらに、昨年はロシアのウクライナ侵略がなされました。

岸田首相は1月の米国での演説で、「私は外交・安全保障政策で2つの大きな決断をした。1つはロシアのウクライナ侵略に際しての対露政策の転換だ。厳しい対露制裁を導入し、ウクライナ人道支援でも先陣を切った。もう1つは安保3文書の策定による戦後の日本の安保政策の転換だ」と述べました。

欧米の経済制裁の隊列に加わったことは評価できます。であれば、ウクライナ侵略が自由・民主主義陣営の存亡を懸けた国際問題であるのと同様、北方領土の不法占領問題も日露2国間の問題にとどめておくべきではありません。首相が対露政策の転換を語るなら、北方領土問題を世界が共有すべきこととして「国際化」するための戦略転換も説くべきです。

四島の不法占拠は、スターリンが日ソ中立条約を一方的に破り、「領土不拡大」をうたった大西洋憲章(41年)とカイロ宣言(43年)にも違反した国際犯罪です。

日本外交には、ソ連崩壊前後だった90年からの3年間、ヒューストン、ロンドン、ミュンヘンと続いたG7サミットで、北方領土問題の解決を支持する議長声明や政治宣言を採択させた実績があります。しかし、その後はこの問題を国際化する戦略がみえません。

ウクライナのゼレンスキー大統領はこの1年間、無辜(むこ)の国民に多くの犠牲をもたらしたロシアの暴虐を耐え抜くとともに、9年前に強制併合されたクリミア半島を含む「全領土の奪還」に不退転の覚悟を示しています。

ゼレンスキー氏が北方領土問題にも目を向けていることを忘れるべきではありません。この北方領土には、ソ連当時にロシア人とともにウクライナ人も移住し、北方領土の4割はウクライナがルーツです。昨年10月には「北方領土はロシアの占領下に置かれているが、ロシアには何の権利もない。私たちはもはや行動すべきだ」との大統領令に署名しました。


日本はこの心強い援軍に全く応えていません。ゼレンスキー政権は昨年8月、クリミア奪還をテーマとするオンラインの国際会議を開き、約60カ国・機関の代表が参加しました。ここで演説した岸田首相は北方領土問題にひと言も触れず、世界に共闘を働きかける絶好の機会を逃してしまいしまた。不作為による失態です。

岸田政権には四島返還をテーマとする国際会議やシンポジウムなど具体的な行動を起こすべきです。

先にも述べたように現在のプーチン政権は憲法改正で「領土割譲禁止」をうたっています。ウクライナ侵攻後は日本との平和条約交渉を一方的に中断してビザなし交流も打ち切り、国後、択捉では大規模軍事演習を行うなど強硬姿勢をとっています。

一方で長引くウクライナ侵略はロシアの国際的孤立を深め、国内の経済・社会を疲弊させました。ソ連が崩壊したときのように国家的な衰退へと向かうことは十分にあり得ます。「そのとき」にどう備えるかが重要です。日本はあらゆる事態を想定し、領土を取り戻す戦略を練り上げなくてはならないです。ソ連崩壊時の日本の対露外交の不首尾を繰り返すべきではありません。

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