[スキャナー]ロシア産業界にじわり打撃、制裁で機械も原材料も不足…「一番怖いのは機械の故障」
ロシア銀行大手ズベルバンクから預金を引き出すために列をつくる人々=2月25日、チェコ・プラハ
ロシアがウクライナ侵略を始めてから24日で5か月となる。プーチン露大統領は、侵略に伴って米欧や日本が科してきた対露制裁を、ロシア経済を発展させる機会にすると強弁してきたものの、産業界の基礎体力はじわじわと奪われている。
「一番怖いのは機械の故障だ。ここの製本機はドイツ製で、企業が撤退したので保守サービスが受けられない。いざとなったら自力での修理も考えている」
モスクワ北東部で印刷工場を経営するアルチョム・ジュジャコフさん(51)は深いため息をついた。工場にある印刷機器はすべて外国製だ。今年4月に欧州連合(EU)が発動した、精密機器の輸出を禁じる制裁の直撃を受けた。
ジュジャコフさんの工場では、ほぼ全量を欧州製に頼っていたインクも輸入できなくなった。侵略前からロシアでは製造していなかった厚手の上質紙も手に入らない。それ以外の紙やインクは中国製などで代替しているが、調達コストは2割ほど上がり、最近はロシア製の紙も品薄だという。
対応に奇策次々 プーチン政権は制裁の打撃を緩和し、自国経済の機能を維持するため、国際ルールも無視して様々な奇策を繰り出している。
最も制裁の影響が顕著だとされる自動車産業の「生産を維持し、雇用を守る」(副首相)ため、政府は5月、新車を認可する際の安全基準などを引き下げた。
ロシアの自動車大手アフトバスが6月に発表した「新型モデル」は、ブレーキ時にタイヤがロックしないようにするアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)やエアバッグといった装備が付いておらず、排ガス性能も最新の基準には適合しない。アフトバスを傘下に置いていたフランスのルノーが保有株を売却して撤退したため、いずれも自前の技術では調達できなくなったのだ。
露政府は3月には、対露制裁で輸入が禁止された品目について、商標権者の許可なく輸入して流通させても合法とみなす「並行輸入」制度を導入した。産業貿易省が、スマートフォンや自動車、精密機器から医療品まで広範なリストを発表しており、国が率先して違法行為を推奨している格好だ。 外国のリース会社から借りている航空機を返却せず、所有権をロシアの航空会社に移すことを認める法律も発効している。
物流混乱 制裁対象の品目以外でも原材料の調達は課題になっている。モスクワでクラフトビールの醸造会社を経営するアレクサンドル・グロモフさん(32)は、欧州の仲介業者から輸入しているモルト(麦芽)やホップの供給が途絶える事態を心配し、精神安定剤を服用している。侵略の影響で物流が混乱したため、国境の税関も大混雑しており、原料を運ぶトラックの通関に1週間以上かかることもあるという。 人材流出も加速している模様だ。米紙ニューヨーク・タイムズは、侵略開始から1か月で5万~7万人のIT技術者がロシアから出国したとの推計を伝えた。周辺国などで人材の囲い込みが起きており、侵略は長期的にもロシア経済に深い傷を残しそうだ。
【私の論評】対露経済制裁は確実に効いており、3年後くらいにはソ連崩壊時並になるのは間違いない(゚д゚)!
ロシア制裁については、すぐには効果がないとか、抜け穴があるので効かないなどの意見もありますが、どの意見も明確な定量的な裏付けがないままになさてれいます。
ただ、わかっていることもあります。ロシア経済発展省は24日までに、今年上半期に破産宣告あるいは債務返済のための資産整理を申告した同国国民の人数は前年同期比で37.8%増を記録したとの報告書を公表しました。 これらロシア国民の総数は12万1313人で、破産宣告が最多の地域は首都モスクワの6000人以上でしたた。首都近辺の地域がこれに続き5600人以上となりました。 同省当局者は今年上半期の数字に触れ、破産に見舞われた国民の人数は既に相当な高水準に達していると認めました。 報告書によると、個人の破産は2019年には6万8980人だったが、21年には19万2833人とほぼ3倍に膨れ上がっていました。 個人的な破産宣告の件数とロシアによるウクライナ侵攻との明白な因果関係を示す材料はないが、ロシアは侵攻以降、多数の国際的企業が同国市場から撤収するなどの影響を受けています。ロシアは日米欧やほかの諸国から資産凍結などの制裁も科されました。これは、やはり制裁の強化によるものとみるべきでしょう。
さらに、米ソ冷戦も参考になります。第二次世界大戦の終結直前の1945年2月から1989年12月までの44年間続き、連合国としては味方同士であったアメリカ合衆国とソビエト連邦が軍事力で直接戦う戦争は起こらなかったので、軍事力(火力)で直接戦う「熱戦」「熱い戦争」に対して、「冷戦」「冷たい戦争」と呼ばれました。
ソビエト連邦の崩壊(1988年 - 1991年)とは、
ソビエト連邦 (USSR)が内部分裂を起こし、主権国家としての存続を断念した出来事です。
冷戦が始まってから、ソビエトが崩壊するまでは、 45年もかっているのです。ソ連は崩壊しましたが、新たにできたロシア連邦が、ソ連の軍事技術、宇宙開発技術、核兵器などを継承しました。
ただ、経済は著しく低迷しており、その窮状は、想像を超えており、当時のロシア連邦空軍は燃料すら十分ではなく、国内のパトロールさえままならぬ状態で、見るに見かねた米空軍がロシア連邦空軍がパトロールできるように燃料などの支援を行ったとの記録があります。
このような状態にあってもロシア連邦は、核兵器や軍事技術を継承し維持したのてす。1991年ウクライナは独立しましたが、ウクライナはこのとき世界第三位の核保有国となりましたが、核兵器を廃棄することを決めました。もし、ウクライナが核兵器を廃棄しなければ、今日ロシアに侵攻されることはなかったかもしれません。
ジェフリー・ショット氏
分析を担ったPIIEのジェフリー・ショット氏(73)は、「中でも軍事行動に対する制裁の成功ケースは約20%にとどまった。いまのロシアに対する輸出制裁は武器を製造できなくし、徐々に兵力を弱めるだろうが、制裁でただちに軍事行動を止めることはできない」と説明しています。 だからといって、「さらに厳しい制裁を科して対象国を追い込むことは、激しい対抗行動を引き起こす」として、ショット氏は太平洋戦争前の日本に対する米国の制裁を例にあげています。1941年夏に米国が打ち出した石油輸出禁止によって追い込まれた日本は、真珠湾を攻撃し対米開戦に踏み切りました。「石油禁輸が日本に多大な圧力となり、不幸な結果を招いた」 ショット氏によると、最古の経済制裁は紀元前432年の古代アテネによる経済封鎖にさかのぼります。それがスパルタとの「ペロポネソス戦争」につながったといい、制裁が戦争の理由の一つになるのは昔から変わらないようです。 制裁が失敗に終わる原因について、ショット氏は「抜け穴」となる支援国の存在をあげる。「21世紀に入りグローバル化が加速し、モノやサービスを供給するさまざまな経路ができたため、制裁対象国を支援する国がでてくる」。実際、制裁を科せられたロシアも中国やインドに原油などを輸出することで、経済が下支えされています。 ショット氏は、ロシアの軍事行動に武力ではなく経済制裁で対抗するのは「やむをえない」といいますが、「歴史からの教訓の一つは、制裁は始めるよりやめるのが難しいことだ」と長期化を予測しています。 制裁には別の意味合いもあります。「制裁側が同盟関係を広げて、包囲網をつくることが重要だ。一致して制裁を科すことは、ロシアに対してだけでなく、他の国が将来とる可能性のある行動、たとえば中国が台湾に対して軍事行動をとることを牽する効果もある」
としています。
ただ、以上は具体的数値に基づくものですが、実際にロシア経済が戦争継続が不可能になるまで、どのくらいの年月を必要とするかの答えにはなっていません。
それに対する答え出した人もいます。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
対露経済制裁は効果出ている 3年続けばソ連崩壊級の打撃も…短期的な戦争遂行不能は期待薄―【私の論評】制裁でロシア経済がソ連崩壊時並みになるのは3年後だが、経済的尺度からいえばこれは長い期間ではない(゚д゚)! 販売できる商品が何もない魚介類専門店で店員に詰め寄る市民たち(1990年11月22日、モスクワ)
この記事の元記事で、高橋洋一氏はロシア経済について具体的に数字を出しながら推測しています。その部分を以下に引用します。
5月13日の英エコノミスト誌によれば、ウクライナ侵攻以降、ロシアの輸入は44%減少、輸出は8%減少した。輸出の減少が抑えられているのは、エネルギー価格の上昇にも支えられているという。 これらからロシアの国内総生産(GDP)の動きを推計すると、年率10%程度の減少になるだろう。これは、リーマン・ショック並みの影響だといえ、これが3年間程度継続すると、ソ連邦崩壊並みになる。 ロシアが公表するGDPなどの資料は、昔から信用できないことが多く、だから髙橋洋一氏は輸入、輸出に着目したのだと思います。GDPに関しては、ロシア政府が公表するものですが、輸出入に関しては、相手国があることですし、あまりごまかすことはできません。
GDPと、輸出入に関してはある程度の相関関係があります。経済が良くなると、輸入が増える傾向にあります。輸出は、GDPに直接影響を与えます。これらから推測すると、ロシアのGDPの事実額までは推定できないかもしれませんが、GDP伸び率などは、当たらずとも遠からずの予測はできます。
これらの推測から、現状の制裁が3年続けば、ソ連邦崩壊時並の経済状況になると高橋洋一氏は予測しているのです。
経済制裁だけで、こうなるのですから、ロシアのへの経済制裁は相当効いているといえます。冷戦が始まってから、ソ連邦が崩壊するまでには45年もかかっていることを考えると、3年でこれほどの成果を出せる現状の経済制裁はかなり有効だということがいえると思います。
第二次世界大戦後、ソビエト連邦のGDPは米国についで世界第二位だったこともあります。その後日本に追いつかれて、世界第三位に落ちましたが、その後は冷戦を経て、ソ連が崩壊し、ロシア連邦がその後を引き継いだのですが、経済は落ちる一方でしたが、プーチンになってからエネルギー戦略でいっとき多少持ち直したものの、また落ち始め、現在のGDPは韓国を若干下回るまでに落ち込んでいます。
そうして、韓国の人口は、5千万人であり、ロシアの人口は1億4千万人ですから、一人あたりのGDPではロシアは1万ドル(日本円で100万円くらい)に過ぎず、これは途上国並です。一人あたりのGDPは、一人あたりの年収に近似できますから、いかに低いかが理解できます。
もともとの水準低いからこそ、3年間現在の水準の経済制裁が続けば、ソ連崩壊並になるのでしょう。
これを期間が長いとか、効き目がないという人は、一体何をを標準としているのか、聞きたいです。
先にあげた、ブログ記事にも述べましたが、もし戦争がエスカレートして、NATOとロシアとの直接戦争になってしまったとしたら、ロシアは核兵器数だけは世界一 ですから、これは大変なことになります。
通常兵力では、現在のロシア連邦軍は米国を抜いたNATO軍よりも遥かに脆弱であり、まともに対峙することもできません。
核兵器についても、数は多いものの、旧式なものが多く、新型を開発しているとはいっても実数は多くはないです。さらに、防空能力でも米EUにはとても及びません。核兵器を用いても何をしてもロシアには全く勝ち目はありません。
ただ、両陣営が本格的に武力で対立して、核ミサイルを打ち合えば、世界は第二次世界大戦よりもはるかに甚大な被害を被ることになります。そこから、復興するには数十年の年月を要することでしょう。
これと、経済制裁の3年とどちらが良いかということになれば、経済制裁のほうが良いに決まっています。
ただ、これは思ったよりは長いと感じてしまうのかもしれません。それに、たしかに直接被害を被っているいるウクライナの人にとっては、大変なことです。
経済制裁でロシアの国力を削ぎ、軍事的にも弱体化させ、3年間でロシア連邦の戦力を削いで戦争継続を不能にするには、現在はない新たな手立てが必要だと思います。
現状では、NATOはウクライナ軍がロシア領内に侵攻することがないように、兵器も制限をつけているようですが、これはそのままでも良いのですが、ウクライナの都市などが、ロシア軍のミサイルによって徹底的に破壊されている状況にあります。
この状況を変えるために、防御型の兵器を強化すべきです。特に、ロシアからのミサイルを迎え撃つ兵器が必要です。たとえば、イスラエルのアイアンフィストのようなミサイル兵器です。
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この装置は、RADAエレクトリック・インダストリーズが開発した固定式の
レーダー センサー、およびエルビット・システムズ(
英語版 )の子会社であるエリスラ(
英語版 )社が開発した付属の受動型赤外線検知器により、飛来する脅威を探知します。脅威が差し迫っている際には、炸裂する投射迎撃体がその前方へ撃ち出されます。
迎撃体は脅威となるものの非常に近くで炸裂し、破壊もしくはこれを逸らして、弾頭を起爆させることなしに安定を失わせます。このためには炸裂の爆風効果のみが用いられます。迎撃体のケーシングは可燃性の素材で製造されており、そこで炸裂によって生成される破片は存在せず、副次的な損害を最低限にする助けとなっています。
このような防空システムは様々なものがあります。有効なものを配備して、ロシアからのミサイル攻撃による被害をなるべく減らしつつ、経済政策を継続するという方式が良いと思います。 そうすれば、ロシアからのミサイル攻撃を受けつつも、ウクライナの復興ができるでしょうし、現在国外に退去していた人たちが、ウクライナに戻ることも増えているといいます。防御兵器が充実すれば、これも加速すると思います。
いずれにしても、ロシアへの経済制裁が効いていないということはありません。そうして、私自身は3年間という期間は長いとは思いません。
近づきつつある民主主義国ウクライナのEU加盟―【私の論評】プーチンのウクライナ侵攻は、結局ウクライナの台頭を招くことに(゚д゚)!