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2026年10月12日月曜日

高市首相の十勝AI農業特区――北海道を強く豊かにし、何を未来へ残すのか


 まとめ

  • 十勝AI農業特区は、人口減少時代の新しい地方創生を示している。 AIやロボットによって生産性を高め、少ない労働力でも産業と暮らしを維持する取り組みである。人口減少を嘆くだけでなく、技術革新によって豊かさを生み出す発想が重要だ。
  • 北海道の潜在力は、郷土の暮らしを守るために生かすべきである。 農業、半導体、宇宙、エネルギーなどの産業を育て、所得と雇用を生み出すことは重要だ。しかし、産業の成長そのものが地方創生の最終目的ではない。
  • 八百万の神に通じる霊性の精神を失えば、真の地方創生にはならない。 北海道の多様な歴史や文化を互いに排除せず、郷土全体の財産として受け継ぐことが重要である。新しい技術で未来を切り開きながら、先人への感謝と郷土への矜持を忘れず、土地の魂を未来へ渡すことこそ、地方創生の本質である。

10月10日、高市早苗首相は自身のXで「日本列島を、強く豊かに。:十勝編」と題する投稿を行った。取り上げたのは、北海道十勝地方の19市町村が9月30日に指定を受けた「十勝AI農業特区」である。

高市首相の投稿には、「十勝で実証。十勝で成功。全国へ展開。」という言葉が掲げられている。ロボットトラクタやドローン、AIを活用した農業技術の開発・実証を進め、十勝から全国へ広げようという構想だ。

私は、この方向性に異論はない。人口減少が進む北海道だからこそ、AIやロボット技術を活用し、生産性を高める必要がある。北海道には農業、半導体、宇宙、エネルギーなど、大きな経済的潜在力がある。

しかし、ここで根本的な問いが生じる。

私たちは、何のために北海道を強く豊かにするのか。

所得が増え、工場が建ち、生活が便利になれば、それだけで地方創生は完成するのだろうか。経済的には豊かになっても、先人への感謝を忘れ、郷土への誇りを失ってしまえば、それを真の地方創生と呼べるのだろうか。

私は以前、「人口減少の北海道を救うもの――上士幌が示すAI・エネルギー・神社という地方創生」という記事で、今回の特区にも含まれる上士幌町を取り上げた。

この町では、自動運転やバイオガス発電など、新しい技術を活用した地域づくりが進んでいる。一方、上士幌神社には、開拓者たちが故郷の歴史と信仰を新天地へ受け継いだ物語が残されている。

一見異なるこの二つは、実は深く結び付いている。

新しい技術で未来を切り開くことと、先人から受け継いだものを守ること。この両方を実現してこそ、真の地方創生になるのではないか。

1️⃣人口が減っても豊かに暮らせる町をつくる

十勝は、日本を代表する大規模農業地域である。帯広市の公式資料によれば、地域の食料生産量を地域人口の必要量と比較した食料自給率は約1,300%と推計されている。しかし、その十勝も農業従事者の減少と高齢化に直面している。

そこで期待されるのが、AIやロボットによる生産性の向上だ。今回の特区では、ロボットトラクタの公道走行やドローンの活用を進めるため、規制・制度改革と実証に取り組む。政府は農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の北海道農業研究センター芽室研究拠点についても、AI農業の研究体制を強化する方針を示している。

十勝AI農業特区が目指す未来。機械化が進む十勝農業にAIや自動化技術を取り入れ、省力化と生産性向上を図る。実現には技術実証と制度整備が必要である。(AI生成画像・クリックすれば拡大します)
十勝を、食料を生産するだけでなく、新しい農業技術も生み出す地域へ発展させる。 ここに今回の政策の重要な意味がある。ただし、特区指定によって農業の自動化が完成したわけではない。今後の実証と制度改革を、農家の所得向上や労働負担の軽減につなげることが必要だ。

この発想は、上士幌町の取り組みとも重なる。同町では2017年から自動運転の実証を重ね、2022年には自動運転バスの定期運行を開始した。2024年には公道でレベル4自動運転の実証も行っている。

農業と公共交通では分野が異なるが、人手不足を技術によって補い、地域の暮らしを維持しようとする点は同じである。人口が減少しても、AIやロボットによって一人当たりの生産性を高めれば、地域の供給力と生活水準を維持できる可能性が広がる。

地方創生とは、人口減少を嘆くことではない。人口が減少しても、人々が豊かに暮らせる地域をつくることだ。

十勝AI農業特区と上士幌町の挑戦は、その可能性を示している。

2️⃣北海道の潜在力を、郷土を守る力に変える

上士幌町には、もう一つ注目すべき取り組みがある。牛のふん尿を利用したバイオガス発電である。

以前の記事で紹介した資料によれば、町内のバイオガスプラント7基の年間想定発電量は約1,810万キロワット時。町内の主要施設、畜産農家、一般世帯の年間想定電力消費量約1,800万キロワット時に相当する規模である。常時完全な電力自給を意味するものではないが、地域の資源を活用し、供給力を高める取り組みとして注目される。

上士幌町の酪農とバイオガス発電。家畜糞尿をエネルギーに変え、地域の資源を生かす地方創生の取り組み。(AI生成画像)
北海道全体にも同様の可能性がある。千歳では先端半導体の製造拠点整備が進み、札幌にはIT関連企業や研究機関が集積する。石狩市と苫小牧市は9月、データセンター集積型のGX戦略地域に認定された。大樹町では北海道スペースポートの新しい民間運営体制が始まった。

農業、半導体、AI、宇宙、エネルギー。これらを結び付ければ、北海道は日本の食料・経済・エネルギー安全保障を支える成長拠点となり得る。

ただし、産業の成長そのものが地方創生の目的ではない。

重要なのは、北海道にどれほど大きな工場が建つかではない。その成長によって、人々が郷土で豊かに暮らし続けられるかどうかである。

仕事と所得が生まれ、若い世代が故郷に将来を見いだせる。地域社会が維持されれば、神社や祭り、先人の記憶を受け継ぐ人々も残りやすくなる。

経済的な豊かさは、郷土を守るための重要な基盤である。しかし、豊かになれば、それだけで歴史や文化が守られるわけではない。

技術は地域の未来を切り開く。だが、何を未来へ残すのかを決めるのは、人間である。

3️⃣八百万の神の精神を忘れた地方創生は「仏作って魂入れず」

AIは生産性を高め、エネルギー技術は供給力を増やし、産業政策は仕事を生み出す。しかし、それらはすべて手段でもある。

「なぜ、この土地を残すのか」「何を次の世代へ渡すのか」という問いには、技術や経済政策だけでは答えられない。

その意味を、上士幌神社の由緒は鮮やかに物語っている。

北海道神社庁の上士幌神社の由緒によれば、上士幌開拓の祖とされる安村治高丸は1907年、富山県早星村から小作農家10余戸とともに移住した。1913年には高木太助を郷里へ遣わし、早星神社の御分霊を迎えて奉斎した。これが上士幌神社の創祀とされている。

神社の由緒によれば、高木太助は御霊代を背中にくくりつけ、山を越え、海を渡り、船中でも眠らずに守り通したという。

開拓者たちは、厳しい自然の中で新しい生活を築こうとしていた。家を建て、農地を拓き、生きるために必要なものはいくらでもあったはずだ。

それでも、遠く離れた故郷から神を迎えた。

なぜだろうか。

新しい土地で生きるために暮らしを変えても、自分たちがどこから来たのか、何を大切にしてきたのかまで忘れる必要はなかったからではないか。

彼らは未来を切り開きながら、過去から受け継いだものを新天地へ運んだのである。

ここに、地方創生に欠かせない「霊性の精神」がある。

1913年、故郷から御霊代を背負って運んだ高木太助。先人の信仰と郷土への思いを伝える。(AI生成画像・上士幌神社の由緒に基づくイメージ)
八百万の神が示す、多様な文化を受け入れる精神

日本には古くから、山や川、海や森などの自然に神々の働きを見いだし、多くの神々を敬う「八百万の神」という考え方がある。神社本庁の解説にもあるように、神道は特定の一柱の神だけを信仰するものではなく、さまざまな神々を敬ってきた。

八百万の神の精神とは、違いを一律に排除するのではなく、多様な存在に敬意を払うという日本の精神文化の一つである。

私は、ここに北海道の歴史と文化を未来へ受け継ぐための重要な手掛かりがあると考える。

北海道には、アイヌ文化が成立する以前から縄文、続縄文、擦文、オホーツクなどの文化が存在し、本州や北方の世界との交流があった。その後、アイヌ文化が形成され、近世・近代には移住者たちが新しい地域社会を築いてきた。

2019年のアイヌ施策推進法は、アイヌの人々を先住民族と明記し、独自の文化振興制度を設けている。ここでは、その法律上の位置付けと、北海道全体の歴史や文化をどう継承するかという問題を区別して考える必要がある。

アイヌ文化を尊重することに異論はない。ただし、特定の文化を独立した法律によって保護・振興する制度が、北海道全体の文化継承とどう調和するのかは問われるべきだ。

北海道には、古代からの文化も、近世・近代の移住者が持ち込んだ神社や祭り、郷土芸能もある。それぞれに固有の歴史があり、尊重されるべきものである。

八百万の神の精神に学ぶならば、異なる歴史や文化を民族や時代によって分断するのではなく、それぞれを尊重しながら、北海道という共通の郷土の財産として受け継ぐことができるはずだ。

もちろん、これは個々の文化の違いをなくし、一つに同化させることではない。異なる文化がそれぞれの姿を保ちながら、同じ土地に暮らす人々の誇りとなることである。

霊性の精神とは、自分たちの歴史だけを大切にすることではない。自然を敬い、先人に感謝し、異なる歴史や文化を尊重しながら、土地の記憶を未来へ渡そうとする精神でもある。

ここに、経済効率を絶対視する悪しきグローバリズムや、人々を属性によって分断するアイデンティティー政治とは異なる、地域社会のあり方が見えてくる。

世界の技術や資本を取り入れることは必要だ。しかし、そのために郷土の固有性を失ってはならない。また、それぞれの文化を尊重することが、地域社会を分断する理由になってはならない。

多様なものを尊重しながら、一つの郷土をともに守る。八百万の神の精神に通じるこの姿勢こそ、北海道の地方創生に必要なのではないか。

豊かになっても、土地の魂を失ってはならない

北海道百年記念塔の問題も、同じ問いを投げ掛けている。

北海道命名100年を記念して建設された百年記念塔は、老朽化や安全確保などを理由に北海道が解体を決定した。私は解体に反対してきたが、ここで問いたいのは、記念塔に込められた先人の思いを、私たちは十分に次の世代へ伝えてきたのかということだ。

建造物も、そこに込められた歴史が忘れられれば、単なる構造物になってしまう。地方創生にも同じことがいえる。

工場を建て、AIやロボットを導入することは重要だ。しかし、経済的に豊かになっても、歴史や文化を失い、郷土への誇りが消えてしまえば、本末転倒ではないか。

だからといって、伝統を守るために技術革新を拒む必要はない。むしろ、新しい技術によって地域の暮らしを支えることは、歴史や文化を受け継ぐ共同体を守ることにもつながる。

AIは農地を耕せるかもしれない。しかし、その土地を耕してきた先人への感謝まで、AIに委ねることはできない。

経済成長は地域を維持するために必要だ。しかし、それ自体を最終目的にし、霊性の精神を置き去りにすれば、「仏作って魂入れず」になってしまう。

強く豊かな北海道を実現することには意義がある。しかし、土地の魂を失えば、経済的に豊かな地域にはなれても、誇りある郷土を未来へ渡すことはできない。

結語 強く豊かな北海道に、土地の魂を宿す

高市早苗首相が紹介した十勝AI農業特区は、北海道の新しい可能性を示している。

AIやロボットによって農業の生産性を高め、上士幌町では自動運転やバイオガス発電に取り組む。北海道各地でも半導体、宇宙、エネルギーなどの産業が育ちつつある。

私は、こうした取り組みに異論はない。北海道の潜在力は、積極的な投資と技術革新によって十分に引き出すべきだ。

しかし、何のために北海道を強く豊かにするのか。その問いを忘れてはならない。

経済的な豊かさは、地域を支える力である。霊性の精神は、その力を何のために使い、何を未来へ残すのかを示すものである。

日本には、八百万の神々を敬ってきた精神文化がある。異なるものを一律に排除するのではなく、それぞれの存在を尊重する。この精神に学べば、北海道の多様な歴史や文化を、互いに対立するものではなく、共通の郷土を豊かにするものとして受け継ぐことができるはずだ。

そして、その精神を象徴するのが上士幌の開拓者たちの物語である。

彼らは故郷を離れ、新しい土地で未来を切り開いた。それでも、歴史と信仰を忘れなかった。御霊代を背負い、山を越え、海を渡ってまで、新天地へ受け継ごうとしたものがあった。

彼らが運んだものは、御霊代だけではなかった。故郷の記憶であり、先人への敬意であり、新しい土地で生きていこうとする人々の心のよりどころでもあった。

現代の私たちは、先人たちが想像もしなかった技術を手にしている。しかし、どれほど技術が進歩しても、自分たちが何者であり、何を次の世代へ渡すのかという問いを忘れてよいはずがない。

北海道を強く豊かにすることと、その歴史や文化を未来へ渡すこと。この二つを切り離してはならない。

経済的な豊かさを実現するだけでは足りない。その土地で生きてきた人々の歴史に敬意を払い、多様な文化を受け入れ、郷土への誇りを育むことが必要なのである。

新しい技術で未来を切り開きながら、自分たちは何者であるかを忘れず、郷土への矜持を持って土地の魂を未来へ渡す。

地方創生の本質は、そこにあるのではないか。


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2026年9月24日木曜日

名古屋アジア大会で何が起きたのか――失われる日本の大会運営力

まとめ

  • 愛知・名古屋アジア大会では、個々のミスではなく運営体制そのものを検証する必要がある。 分散型宿泊への転換に加え、GL eventsへの大規模な一体委託、総合プロデュース企業を置かない体制などを含め、誰が大会全体を統括していたのかを大会後に検証すべきである。
  • 外国企業の起用自体が問題なのではない。 問われるのは、外国企業を活用しながら日本側が品質管理と司令塔機能を保持し、大規模イベントを運営する人材とノウハウを我が国に蓄積できたかである。巨大イベントの運営能力も供給力であり、国家資産である。
  • 国益は中央政府だけが守るものではない。 札幌、釧路、北海道の事例が示すように、地方行政の判断は日本の信用、環境、国土、供給力と深く関わっている。自治体の政策と実績を住民が継続的に検証することが、地方自治を機能させる前提なのである。

愛知・名古屋で開催中のアジア競技大会で、運営をめぐる問題が相次いでいる。宿泊施設、送迎バス、資格認定などをめぐる混乱に加え、韓国男子ホッケー代表の試合では韓国国歌ではなく北朝鮮国歌が流れ、組織委員会が謝罪する事態となった。韓国選手団からは宿泊や輸送への批判も出ており、組織委員会は改善を進めている。

一つ一つなら、大規模な国際大会につきもののトラブルと片付けることもできる。しかし、宿泊、輸送、資格認定、国際儀礼という大会運営の基本部分で問題が重なれば話は違う。日本が長い時間をかけて築いてきた最大の無形資産の一つは、「日本なら大丈夫」という信用だからである。時間を守る。安全で清潔である。複雑な仕事でも正確に動かす。この信用は日本企業だけではなく、交通、観光、行政、地域社会まで含めた我が国全体が積み上げてきた国家資産である。

外国人選手や海外メディアから見れば、愛知県、名古屋市、大会組織委員会の法的・行政的な境界は、日本国内ほど重要ではない。そこで経験したものが「日本で開かれた大会」の印象になる。だから今回問われているのは、大会の成否だけではない。地方行政や大会組織が、自らの仕事も日本全体の信用、ひいては国益につながっていると認識しているかという問題なのである。

1️⃣運営不備の背後で何が起きていたのか

今回の大会では、当初想定された大規模な選手村の整備を取りやめ、ホテル、クルーズ船、仮設宿泊施設などを組み合わせて選手・役員を受け入れる方式が採用された。大会後に利用先の乏しい巨大施設を残さず、経費を抑えるという判断自体には合理性がある。しかし、宿泊を分散すれば、競技場、練習場、食事、警備、資格認定、輸送などを結ぶ仕事はむしろ複雑になる。施設を造らないなら、その分だけ運営を強くしなければならない。

しかも大会直前の8月29日、アジア・オリンピック評議会(OCA)と大会組織委員会は、選手・役員の宿泊施設を確保し、最終準備も予定通り進んでいるとの認識を示していた。それだけに、開幕後に基本的な運営問題が表面化したことは重い。「順調」と判断していた管理体制が、なぜ実際の運用段階で十分に機能しなかったのか。この検証が必要である。

そして今回、もう一つ見逃してはならないのが、大会全体を誰がどのように束ねていたのかという問題だ。

愛知県議会での県側の説明によると、競技会場の仮設整備や運営などを担う「ベニューオペレーション」は、フランス・リヨンに本拠を置くGL events系企業へ一体的に委託され、その規模は約630億円である。個別に発注した場合の試算約700億円より費用を抑えられたと説明されている。愛知県議会「アジア・アジアパラ競技大会推進特別委員会審査状況」

大会運営を支える司令塔機能のイメージ AI生成画像
GL eventsは国際的な大型イベントの経験を持つ企業であり、外国企業を起用したこと自体を問題視する理由はない。大会公式資料でも、同社はイベントデリバリーサービスを担う最上位のプレステージパートナーと位置付けられている。また県議会では、GL events SAがプレステージパートナーであることから、その日本法人が組織委員会の契約規則に基づく随意契約の候補者として選ばれ、理事会承認を経て契約したと説明されている。愛知県議会「教育・スポーツ委員会審査状況」

より重要なのは、今回の大会には、従来の大型国際イベントで見られたような「大会全体の総合プロデュースを担う企業」が存在しないことである。2025年12月の愛知県議会で県側は、今回の愛知・名古屋大会について「総合プロデュースをする企業に該当する企業はない」と明言した。県議会では、過去の大規模イベントでは電通や博報堂などが企画、演出、PR、企業調整などを総合的に担ってきたのに対し、今回はそうした司令塔がないのではないかとの指摘も出ている。県側は、県・名古屋市職員だけでなく、国際スポーツ大会や大規模イベントの経験者、ITや出入国管理などの専門人材も加えて準備していると答弁している。愛知県議会「教育・スポーツ委員会審査状況(2025年12月11日)」

ここは慎重に見る必要がある。「経験ある日本企業を排除したから失敗した」と単純化することはできない。東京五輪をめぐる汚職・談合事件への反省は当然必要であり、従来の仕組みを無条件で復活させればよいという話でもない。

しかし、不祥事を起こした仕組みを改めることと、我が国が長年蓄積してきた巨大イベントを束ねる能力まで失うことは別問題である。数万人の選手・関係者を動かし、自治体、交通機関、宿泊施設、警備、医療、スポンサー、各国代表団を同時に調整する能力は、一朝一夕には作れない。それは我が国の「供給力」の一部であり、蓄積すべき無形の国家資産でもある。

中国企業の関与もある。中国浙江省に本社を置くZhejiang Dafeng Industryは、アジア大会の開閉会式について、企画・制作・運営やデジタルコンテンツ、聖火台などを含む分野を担当するパートナーとなっている。愛知県議会でも、組織委員会が同社と2025年8月に開閉会式の運営計画作成などに関する委託契約を締結したことが説明されている。大会公式のスポンサー一覧では、中国企業Shanghai Yude Energyも大会運営に関する臨時電源供給のパートナーとして掲載されている。大会組織委員会「スポンサー一覧」

これも、中国企業だから問題だという話ではない。国際大会なのだから、優れた外国企業を活用することはあってよい。問われるべきは、何を外部へ委ねても、日本側が全体を統括し、品質を管理し、問題が起きれば即座に修正できる能力を保持していたのかということである。

公金を使う以上、経費節減は必要だ。だが、安くすることと、我が国自身の運営能力を失うことを混同してはならない。大会終了後には、個々のミスだけでなく、委託契約の設計、指揮命令系統、情報共有、そして「誰が大会全体を見るのか」という司令塔機能まで検証すべきである。

2️⃣名古屋だけではない――札幌と釧路が示した地方行政の課題

今回の問題を愛知県と名古屋市だけの特殊事情として片付ければ、本質を見誤る。北海道にも地方行政の統治能力を考えさせる事例がある。札幌市は冬季オリンピック・パラリンピック招致を進めたものの、最終的に活動を停止した。その後、市は「なぜ大会招致への理解が広まらなかったのか」という観点から招致活動そのものを総括・検証している。札幌市「冬季オリンピック・パラリンピックに係る招致活動の総括・検証」

冬の札幌・大通公園周辺に見る地方行政の現場 AI生成画像
ここで重要なのは、五輪招致への賛否ではない。巨額の公金と都市の信用を背負う事業を進める以上、自治体は費用、利益、リスクを住民に説明し、その結果を検証する責任を負うということである。愛知・名古屋大会でも、終了後に「成功した」で終わらせるのではなく、宿泊、輸送、契約、情報伝達、責任分担のどこに問題があったのかを明らかにしなければならない。

釧路市のメガソーラー問題も、分野は違うが地方行政の役割を示している。釧路市は自然環境への懸念や一部事業者の法令違反などを受け、2025年に「ノーモア メガソーラー宣言」を出し、条例を施行して一定の太陽光発電施設を許可制とした。なお、問題となっている施設が釧路湿原国立公園の区域内にあるわけではない。この点は釧路市自身が明確に説明している。釧路市「ノーモア メガソーラー宣言」

重要なのは再生可能エネルギーへの賛否ではない。国が大きな政策を決めても、土地利用、自然環境、住民生活との調整は地方の現場で行われる。そして問題が生じれば、自治体には制度を修正する力もある。地方自治とは、中央政府の方針を機械的に実行することではなく、地域の現実を把握し、自ら判断する仕組みなのである。

札幌と釧路の例に共通するのは、地方行政は一度決めたことを進め続けるだけでは駄目だということである。問題があれば立ち止まり、検証し、必要なら政策を変える。この当たり前の能力こそ、愛知・名古屋大会にも求められている。

3️⃣国益は霞が関だけが守るものではない

我が国では近年、経済安全保障、重要インフラ、重要土地、半導体、エネルギーなど、国益を意識した制度整備が進んできた。しかし、国益を守る仕事を中央政府だけに委ねることはできない。外交や防衛そのものは国の権限だが、都市計画、土地利用、環境、水資源、観光、地域インフラ、国際イベントなど、日本の安全と信用を現場で支える仕事には地方自治体が深く関わっている。

北海道が2026年9月に公表した調査では、2025年末時点で、外国法人や海外居住外国人、国内の外資系企業・外国人などによる道内森林の所有は、確認された範囲で4,430ヘクタール、370所有者となっている。もちろん、外国人や外国法人が土地を所有しているというだけで、安全保障上の問題と決めつけるべきではない。重要なのは、その土地がどこにあり、何に利用され、重要施設や水源などとどのような関係にあるのかを行政が把握できているかである。北海道「外国法人等による森林取得状況」

例えば札幌市の丘珠駐屯地周辺は、重要土地等調査法に基づく注視区域に指定されている。これは札幌市ではなく国が所管する制度である。一方、北海道には水資源保全地域における土地取引の事前届出制度がある。安全保障は国、水資源や地域の土地利用には地方も関わる。それぞれの権限は違っても、国土を守るには双方が機能しなければならない。内閣府「北海道内の注視区域・特別注視区域」

森林・水資源・インフラが支える地域と国土 ※AI生成画像
そして、ここで愛知・名古屋アジア大会に戻る。外国人選手にとって、送迎バスを誰が発注したのか、会場運営をどの企業に委託したのかは、責任を検証する日本側には重要でも、日本への印象という意味では二次的である。「日本で開かれた大会で何が起きたか」が記憶されるからだ。自治体や組織委員会の失敗であっても、日本の信用は自治体の境界線で切り分けられない。

国益とは霞が関だけで守るものではない。地方自治体の日々の判断も、日本の信用、安全、供給力、自然環境、国家資産を積み上げもすれば、損ないもするのである。

特に今回考えるべきなのは「供給力」である。半導体やエネルギーだけが供給力ではない。大規模な国際イベントを設計し、何万人もの人間を安全かつ正確に動かす能力もまた、社会を支える供給力である。外部企業の力を借りること自体は悪くはない。しかし、外注を重ねた末に、日本側から「全体を動かせる人」と「全体を動かせる組織」が消えてしまえば、次の大会ではさらに外国企業への依存が深まる。それでは国家資産の形成ではなく、ノウハウの空洞化になりかねない。

地方自治体にも、「地域にとってどうか」だけではなく、「この判断が我が国全体に何を残すのか」という視点が必要である。それは自治体を中央政府の下請けにすることではない。地域を最もよく知る自治体だからこそ、地域の利益と国益を両立させ、そこで得た人材とノウハウを次代へ残す責任があるということだ。

結論 「日本なら大丈夫」を守るのは私たちでもある

愛知・名古屋アジア大会で最も心配すべきなのは、ベッドが短かったことでも、バスが遅れたことでもない。それらが積み重なり、日本が長年築いてきた「日本なら大丈夫」という信用が傷つくことである。この信用は、予算を付ければ来年度に買い戻せるものではない。日本製品が選ばれ、日本の交通が評価され、日本への旅行が好まれ、日本企業との取引が信頼される。その根底には、我が国の社会は最後にはきちんと動くという評価がある。

今回の大会では、フランス系企業が大規模な会場運営業務を担い、中国企業も開閉会式などに関与している。しかし、それ自体を問題視するのは筋違いだ。世界の優れた企業を使えばよい。問題は、外国企業を使いながら、日本側が全体を統括し、技術とノウハウを吸収し、次の世代へ蓄積する仕組みを持っていたのかということである。

東京五輪をめぐる不祥事を受け、従来の大会運営の在り方を改める必要はあった。しかし、腐敗をなくすことと、能力をなくすことは違う。透明性を高めながら、大規模イベントを束ねる日本自身の能力を再構築しなければならない。それもまた供給力再建であり、国家資産形成なのである。

そして、その責任は総理大臣や中央省庁だけにあるのではない。知事、市長、地方議会、行政組織にもある。それを検証するのは住民である。公金を何に使ったのか。誰に委託したのか。なぜその契約方式を選んだのか。リスクを想定していたのか。問題が起きたとき原因を明らかにし、制度を改めたのか。議会、情報公開、監査、報道、そして選挙は、そのためにある。

国政レベルで国益を重視する制度が整っても、47都道府県と市区町村の現場が変わらなければ、我が国全体は強くならない。愛知・名古屋アジア大会の混乱を、一過性の「大会運営の不手際」で終わらせてはならない。大会終了後には、現場のミスだけでなく、契約、外注、司令塔、責任分担、そして日本に何のノウハウが残ったのかまで検証すべきである。

「日本なら大丈夫」。その信用を守れるかどうかは、霞が関だけではなく、私たちが暮らす一つ一つの地域にかかっているのである。

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2026年8月9日日曜日

実質賃金が上がった今、なぜ利上げなのか――景気を冷やす「貧乏神」たち

まとめ
  • 実質賃金はようやく上向いた。いま利上げで需要を冷やせば、30年の停滞から抜け出す芽をまた摘みかねない。
  • 米国では失業率が歴史的低水準まで下がってもインフレは暴走せず、低賃金層や弱い立場の人々にまで雇用の恩恵が広がった。日本も高圧経済を続けるべきだ。
  • 利上げと減税反対の負担を最も重く受けるのは、十分な資産を持たず、毎月の給料で暮らす人々である。なぜ、そこまでして景気を冷やすのか。

日本経済に、ようやく明るい兆しが見え始めている。2026年6月の実質賃金は前年同月比1.6%増となり、6か月連続で前年を上回った。長く物価上昇に賃金が追いつかない状況に苦しんできた我が国にとって、これは歓迎すべき変化である。

しかし、実質賃金が上がったから「これで日銀はさらに利上げできる」と考えるのは逆だ。「改善している」ことと「過熱している」ことは同じではない。6月のコアCPIは前年同月比1.6%であり、家計消費にもなお弱さが残る。日銀はすでに政策金利を1.0%程度まで引き上げているが、今の日本経済に必要なのは、さらに需要を冷やすことではない。

30年余りにわたって失われた賃金、投資、成長期待、供給力は、実質賃金が数か月改善した程度で取り戻せるものではない。今こそ需要を強い状態に保ち、賃金上昇を設備投資、人材投資、省力化、研究開発へつなげ、我が国の供給力を再建するべきである。

そのために必要なのが「高圧経済」だ。

1️⃣実質賃金の改善を「利上げの合図」にしてはならない

日本経済は長年、需要不足に苦しんできた。需要が弱ければ企業は投資を控え、投資が弱ければ生産性は伸びず、賃金も上がりにくい。賃金が伸びなければ家計は消費を抑え、さらに需要が弱くなる。この悪循環が30年近く続いた。

だから実質賃金の改善は、冷やすべき異常ではない。ようやく正常化が始まったということだ。企業が人材を確保するために賃金を上げ、その所得が消費に回り、売上増加を見た企業が設備や人材へ投資する。この循環を十分に続けなければならない。

過去の日銀の経験も、そのことを示唆する。2000年8月、日銀は「デフレ懸念の払拭が展望できる」としてゼロ金利政策を解除した。政府側は時期尚早として議決延期を求めたが、日銀はこれを退けた。その後、内閣府の景気基準日付では、わずか3か月後の2000年11月に景気の山を迎えている。2000年8月11日の金融政策決定会合議事要旨と内閣府の景気基準日付で確認できる。

日銀本店 AI生成画像

もちろん、景気後退を日銀の利上げだけで説明することはできない。ITバブル崩壊という大きな外部要因があったからだ。しかし、回復がまだ十分に強くない段階で金融緩和を外せば、外部ショックへの耐久力を弱めかねない。実際、日銀は翌2001年には再び強力な金融緩和へ戻った。2001年3月の日銀の金融政策変更にも、その転換は明記されている。

2006~07年にも日銀は量的緩和解除、ゼロ金利解除、追加利上げと正常化を進めた。その後には世界金融危機が襲った。ここでも重要なのは、「金利を正常な水準へ戻すこと」そのものを目的にしてはならないということである。

金利は目的ではない。経済を成長させ、雇用と賃金を強くし、物価を安定させるための手段である。

2️⃣高圧経済は実際に機能した――米国が示した教訓

高圧経済とは、ただ物価を上げる政策ではない。需要を十分に強く維持し、人手不足を通じて企業に賃上げ、設備投資、省力化、人材育成を促し、最終的に経済の供給力そのものを高める考え方である。

この発想を広く知らしめたのが、FRB議長だったジャネット・イエレンである。2016年、イエレンは強い総需要と逼迫した労働市場を一定期間維持すれば、不況で傷んだ労働参加や設備投資、生産性を回復させられる可能性を指摘した。イエレンFRB議長の2016年講演で確認できる。

重要なのは、その後である。米国ではイエレン退任後のパウエル期にも労働市場の引き締まりが続き、2019年9月には失業率が3.5%まで低下した。約50年ぶりの低水準である。米労働統計局の2019年9月雇用統計にも記録されている。それでもインフレは暴走しなかった。

むしろ強い雇用環境の恩恵は、それまで景気回復から取り残されがちだった人々へ広がった。黒人やヒスパニックなどの失業率は歴史的低水準となり、賃金上昇も低賃金層で強まった。企業は人手不足のため、従来なら採用しなかった人を雇い、訓練し、働き方を柔軟にするようになった。パウエル自身も、強い労働市場の恩恵が低・中所得層へ広がっていることを2019年8月の講演で指摘している。

しかもFRBは2019年、失業率が歴史的低水準にある中で3回、合計0.75%の利下げを行った。強い雇用を「過熱だから冷やすべきだ」と機械的に判断せず、景気拡大を長く続ける価値を認めたのである。FRBの2019年金融政策年次報告でも、この政策転換を確認できる。

これは現在の日本にとって重要な教訓である。

完全雇用だと思った地点が、本当の完全雇用とは限らない。

失業率が低くても、その外側には仕事を諦めていた人がいる。低賃金の仕事から抜け出せない人がいる。育児や介護の事情で働きにくかった人もいる。企業が本当に人手不足になって初めて、より高い賃金や柔軟な働き方を提示し、そうした人々を労働市場へ呼び戻すようになる。

高圧経済とは、景気を良くするだけではない。需要を、人材、設備、技術という供給力へ変える政策である。

需要増加 → 人手不足 → 賃上げ → 設備・人材・省力化投資 → 生産性向上 → さらなる賃上げ。

我が国に必要なのは、この循環である。

そして高圧経済の恩恵を特に必要とするのが、十分な預貯金、株式、不動産などのストックを持たず、毎月の労働所得というフローに生活を依存している人々だ。景気が悪化して残業、賞与、雇用が削られれば、資産の乏しい人ほど直ちに生活へ打撃を受ける。とりわけ非正規雇用など景気変動の影響を受けやすい働き方には女性も多い。

以前のブログにも書いたが、今の局面でなお利上げを唱え、消費税減税にも反対する人々を見ていると、私には「貧乏神」のように見えることがある。

なぜ、そこまでして景気を冷やしたいのか。米国では強い雇用を長く維持したことで、それまで取り残されていた人々にまで景気回復の恩恵が届いた。それなのに我が国では、実質賃金がようやく上向き始めたところで、もうブレーキを踏めという。

「貧乏神」という言葉は強い。しかし、私は単なる罵倒として使っているのではない。景気を冷やす政策が何をもたらすかを考えれば、そう見えてしまうのである。経済学では「総需要を抑制する」と数文字で済むが、現実には採用が減り、残業が削られ、賞与が減り、契約更新が見送られる。その向こうには、給料が減る人、仕事を失う人、結婚や出産を先延ばしする人がいる。

せっかく賃金が上がり始めたところで景気を冷やし、消費税減税にも反対して家計の負担軽減まで拒む。結果として人々を再び貧しくする方向へ政策を押し戻すのであれば、私には「貧乏神」と呼びたくなるのである。

3️⃣追加利上げではない――必要なら利下げを選択肢に入れよ

現在の日銀の政策金利は1.0%程度である。これが高すぎるか低すぎるかは、単純な歴史比較では決められない。期待インフレ率、自然利子率、投資、消費、雇用などを総合して判断すべきである。

足元では実質賃金がようやく改善し始めた一方、コアCPIは1.6%で、家計消費にも弱さが残る。この状況で追加利上げを急ぐ合理性は乏しい。

むしろ1.0%の政策金利が住宅投資、中小企業の設備投資、新規事業、研究開発、AI・ロボットなどの省力化投資を不必要に抑制しているのであれば、日銀は利下げを選択肢に入れるべきである。


もちろん、利下げには円安や輸入物価上昇、資産価格の過熱といった副作用もある。だから永久に低金利を続けろという話ではない。本当に需要が過熱し、基調的な物価上昇が持続的に加速するなら、その時点で利上げすればよい。

だが、今はその局面ではない。

消費税減税も同じ方向で考えるべきだ。消費時の税負担を軽くすれば、家計の実質的な購買力を高め、需要を下支えできる。その需要が企業の売上、雇用、賃上げ、設備投資へ向かえば、高圧経済をさらに強くできる。

もちろん、税制と金融政策の決定主体は異なる。消費税率を変えるには国会での法改正が必要であり、金融政策を決めるのは日銀政策委員会である。しかし、決定主体が別だからといって、マクロ経済全体で政策の組み合わせを考えなくてよいわけではない。

政府が需要と供給力を高めようとしている一方で、日銀が需要を強く抑えれば、政策効果は互いに打ち消し合う。

政府がアクセルを踏み、日銀がブレーキを踏む。それでは、我が国はいつまでたっても本格的な成長軌道へ戻れない。

結論――回復を育て切るまで、ブレーキを踏むな

日本経済が30年余りかけて失ったものは大きい。企業は投資を控えることに慣れ、家計は賃金が上がらないことに慣れ、若い世代は親の世代より豊かになるという感覚を持ちにくくなった。この傷は、実質賃金が6か月上昇しただけで癒えるものではない。

米国の経験は、重要なことを教えている。完全雇用と思われた地点を越えても経済を走らせることで、低賃金層や、それまで景気回復から取り残されていた人々にも雇用の恩恵を届けることができた。そして、その間にインフレが直ちに暴走したわけではない。

だから日本も、人手不足や賃金上昇を見た瞬間に「利上げだ」と考えるべきではない。

人手不足を賃上げへつなげる。賃上げを消費へつなげる。人手不足を設備投資、省力化、AI活用へつなげる。その投資を生産性向上へつなげ、さらに高い賃金を可能にする。

その循環を十分に育てることこそ、今の日本に必要な経済政策である。

金利を上げること自体が「正常化」なのではない。国民所得が増え、企業が投資し、若い世代が生活設計を描けるようになり、我が国の供給力が高まることこそ本当の正常化である。

私は永久に低金利を続けろと言っているのではない。

だが、今はまだ早い。

実質賃金が上がったから利上げするのではない。実質賃金がようやく上がり始めたからこそ、その流れを消費、賃上げ、設備投資、生産性向上へ定着させるのである。

日銀が今恐れるべきなのは、景気が少し熱くなることではない。30年の停滞からようやく抜け出そうとしている我が国の回復を、早すぎる引き締めによって再び弱めてしまうことである。

追加利上げではない。今、日本に必要なのは高圧経済だ。そして政策金利1.0%が我が国の供給力再建を妨げているのであれば、日銀は利下げさえためらうべきではない。

景気が良くなりかけるたびに、それを冷やそうとする「貧乏神」に日本経済を任せてはならない。

今度こそ、「少し良くなれば、すぐ冷やす」という30年間の発想から脱却しなければならない。

【関連記事】

飲食料品の消費税減税をめぐり、誰が実行を求め、誰が阻もうとしているのかを検証した記事。今回の「利上げと減税反対は誰を苦しめるのか」という問題意識につながる。

高市政権が成長投資を進める一方、日銀の利上げが民間投資を冷やす政策の矛盾を論じた記事。供給力再建と金融政策の関係を考える上で今回の記事と直結する。

政策金利1.0%への引き上げを、物価、雇用、企業投資、国民生活の側から検証した記事。なぜ現在の日銀がさらに景気を冷やすべきではないのかを理解する前提になる。

景気や家計より「金利正常化」を優先する日銀の姿勢を批判した記事。今回取り上げた「正常化そのものを目的にしてはならない」という論点につながる。

米国では金融政策を雇用の問題として捉えるのに対し、日本では物価ばかりが前面に出る。その違いを論じた記事で、今回の高圧経済と利下げ論を読む上で最も重要な関連記事の一つ。

2026年7月12日日曜日

高市政権のAI国家戦略――熟練工の技を次代へつなぐ「常若」で、日本は再び強くなる

高市政権のAI国家戦略――常若で、日本は再び強くなる

まとめ
  • 高市政権のAI戦略は、米中の巨大AIをまねる話ではない。日本の工場に眠る現場力を国力へ変える戦略である。
  • 熟練工の勘、音や振動から異常を見抜く技、すり合わせとカイゼンは、AI時代にこそ世界へ売り出せる日本の資産になる。
  • 常若とは、古い形を守ることではない。技と精神を次世代へ渡しながら新しくすることだ。AIは日本のものづくりを再び強くする相棒になる。

7月10日、政府は第5回人工知能戦略本部を開催した。AI競争は、対話型の汎用AIだけを比べる段階ではない。工場、病院、農地、社会インフラ、防災、防衛の現場にAIを実装し、現実の課題を解く能力が、経済力、技術力、安全保障を左右する時代に入った。

政府が6月に公表した人工知能基本計画の素案は、特定領域に深く入り込む「バーティカルAI」と、機械やロボットを動かす「フィジカルAI」を重点に掲げる。これは、米国や中国と巨大な汎用AIの規模だけを競う話ではない。我が国の製造業が長年培ってきた現場力を、AI時代の競争力へ変える構想である。

その根底には、守るべき本質を受け継ぐために、形や技術を絶えず更新する「常若(とこわか)」の精神がある。常若は、古いものを凍結保存することではない。伊勢神宮の式年遷宮が象徴するように、造り替えを通じて技と精神を次世代へ渡す営みである。バーティカルAIもまた、すり合わせ、現地現物、カイゼン、暗黙知、技能継承という我が国の強みを、AIという新しい器に移し、次代へつなぐ戦略と捉えるべきである。

1️⃣「縦に深掘りする」バーティカルAIとは何か

医療、農業、防災、物流の専門データを分析するバーティカルAI
複数の専門領域を深く分析するバーティカルAIのイメージ AI生成画像

バーティカルは英語で「vertical」と書き、「垂直の」「縦方向の」を意味する。ITや産業の分野では、幅広い用途を横断的に扱う「horizontal=水平型」と対比して、特定の業界や専門領域を縦に深く掘り下げることを指す。

ChatGPTのような汎用AIは、文章、画像、音声、プログラムなどを幅広く扱える。しかし、個々の工場や病院に固有の事情を、初めから深く理解しているわけではない。

例えば、工場の特定ラインで不良品が増える原因を突き止めるには、設備の温度や振動、原材料のロット、工具の摩耗、工程の遅れなどを組み合わせて分析する必要がある。現場を縦に深く掘り下げてこそ、AIは一般論ではなく、実行可能な答えを出せる。

基本計画素案は、現場の経験や知識を集積するバーティカルAIと、ロボット、工作機械、無人機などを動かすフィジカルAIを重視する。前者が現場の「頭脳」となり、後者が「目」「耳」「手足」となる。

AIは、画面の中で文章を作るだけの道具ではない。計画、実行、検証、修正を繰り返す自律行動型AIへ進みつつある。その主戦場は、工場、病院、農地、災害現場、防衛の現場へ広がっていく。そして、現実世界で正確に動く機械をつくることは、我が国が長年得意としてきた分野である。

2️⃣日本の製造業は、もともとバーティカルだった

熟練技術者から若手技術者へ受け継がれる日本の製造技術
精密部品を確認しながら技能を受け継ぐ技術者 AI生成画像

バーティカルという言葉は新しい。しかし、その発想は日本の製造業にとって新しいものではない。我が国のものづくりは、設計、材料、部品、生産技術、品質管理、保守を細かく調整する「すり合わせ型」を発展させてきた。

自動車なら、エンジン、車体、電子制御、タイヤなどを個別に最適化するだけでは、燃費、安全性、耐久性、乗り心地を高い水準で両立できない。部品、材料、工程を一体として調整する必要がある。

トヨタ生産方式の自働化とカイゼンも、この文脈で重要だ。異常を検知して設備や工程を止め、不良の流出を防ぎ、再発防止につなげる。人間の知恵と工夫で工程を改善し続ける。詳細はトヨタ生産方式の公式説明に示されている。

日本の製造現場には、言葉やマニュアルだけでは伝えきれない暗黙知がある。熟練技術者は、音、振動、色、温度、手応えの変化から、設備や製品の異常を察知する。これは神秘的な職人芸ではない。長年の経験を通じて蓄積された高度な判断である。

経済産業省も、デジタル時代の現場力として、現場データを資産化する力、職人技を体系化する力、暗黙知を形式知化する力を挙げている。詳しくは2018年版ものづくり白書の関連資料を参照されたい。

すでに実例もある。ファナックのFIELD system Basic Packageは、工作機械や産業ロボットのデータを可視化、分析し、異常予兆の検知や停止時間の削減を支援する。日立のLumadaの事例も、工場内の設備データと生産管理データを結び付け、生産業務の改善や最適化を支援している。

我が国の製造業は、現場固有の知識をAIで生かすバーティカルAIへの入口に、すでに立っている。米国が汎用AIの巨大な「横」を押さえているなら、日本は現場の「縦」を深く掘ればよい。汎用AIや基盤モデルも活用しつつ、日本固有の現場データと実装力を重ね、容易に模倣できない価値をつくるべきである。

3️⃣バーティカルAIは製造業における「現代の常若」である

宮大工から若い職人へ受け継がれる木組みの技術と常若
木組みの技を次世代へ伝える職人――常若のイメージ AI生成画像

バーティカルAIを、単なる生産性向上や省人化として捉えてはならない。熟練技術者をAIに置き換え、現場から退場させるための技術でもない。

経験、判断、失敗、勘所をデータとして残し、AIを通じて次の世代へ渡す。その知識を若い技術者が新しい設備、材料、市場に合わせて発展させる。これこそ製造業における常若である。

私は以前、「AIは仕事を奪うだけではない――日本の現場力を広げる『相棒』になる」で、AIは現場を知る人間にとって、代替者ではなく能力を広げる相棒になると論じた。

現場を知る技術者がAIを使えば、データ整理、故障原因の推定、作業計画の立案、設計案の比較を迅速に進められる。1人の熟練技術者が、より多くの設備、工程、若手技術者を支援できるようになる。人手不足が深刻な地方や中小企業にとって、これは単なる省人化ではない。個人の頭の中に閉じ込められていた知識を、組織の資産へ変える手段である。

ただし、AIが現場を自動的に理解するわけではない。設備の限界、人間の疲労、安全上の危険、地域の事情を無視すれば、もっともらしい机上の空論を高速で作るだけになる。何を守り、何を変えるのかを判断するのは人間である。

品質、安全、使用者への責任、現場への敬意を失い、効率と利益だけを追えば、それは常若ではない。単なる破壊である。保守とは、古い形を無条件に残すことではない。守るべきものを守るために必要な改革を行うことである。

現場データは、我が国の重要な知的資産でもある。基本計画素案は、特定の国や企業への過度な依存を避け、行政、防衛、重要インフラでは、計算資源、データ基盤、アプリケーションの自律性を強化する方向を示している。すべてを国産だけで閉じるのではなく、海外技術と同志国連携を活用しながら、必要な領域では主体的に選択し、運用できる能力を確保すべきである。

内閣府が整理した令和8年度のAI関連予算は5027億円で、令和7年度の1969億円から増えた。このうち「AI開発力の戦略的強化」に分類された施策は4559億円であり、AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデルの開発には3873億円が計上されている。詳細は令和8年度AI関連予算資料にある。

方向性は正しい。しかし、予算を並べるだけでは足りない。現場データを安全に利用できる制度、安定電源、半導体、通信網、センサー、工作機械、そして現場へAIを実装できる人材が要る。

原発再稼働、次世代原子炉、送電網増強を含むエネルギー政策なしに、AI戦略は成立しない。AI、半導体、データセンター、電力網、人材育成には、国債発行を当然の前提として十分な投資を行うべきである。これは単なる政府経費ではない。将来の生産力、技術力、防衛力をつくる国家資産形成である。

結論 常若の国は、AIによって再び立ち上がる

日本の製造業は、もともとバーティカル的な強みを持っている。設計から製造、品質管理、保守までを深く結び付け、現場で現物を確認し、カイゼンを積み重ね、熟練者の経験を製品の品質へ変えてきた。

その根底にあるのは、守るべき本質を受け継ぐために、形を絶えず更新する常若の精神である。

バーティカルAIとフィジカルAIを結び付ければ、人手不足を補うだけでなく、日本の生産性を高め、新しい輸出産業を生み、防災力と防衛力を強化できる。AIは日本の製造現場を消すための技術ではない。熟練者の経験を受け継ぎ、若い世代の能力を広げ、ものづくりを新しい時代へつなぐ相棒である。

高市政権のAI戦略に求められるのは、日本に新しい強みを無理に植え付けることではない。我が国がすでに持つ、すり合わせ、現地現物、カイゼン、暗黙知、技能継承という力を、AI時代の国家資産へ変えることである。

建物を新しくしながら、技と精神を千年先へ伝える。それが常若である。AIという新しい器に現場の知恵を移し、次の世代がさらに磨き上げる。これこそ、日本が進むべきAI革命である。

【関連記事】

AIは仕事を奪うだけではない――日本の現場力を広げる「相棒」になる 2026年5月13日
AIを現場の人間を置き換える道具ではなく、技術者の思考と実装力を広げる相棒として捉え直す。本稿の「常若」と技能継承を考える土台となる記事である。

日本は静かに「賃上げと投資の国」へ戻り始めた――マスコミが報じない供給力再建の明るい兆し 2026年5月12日
AI、半導体、電力、製造基盤を支える国内投資こそ、賃上げと供給力再建の条件であることを論じる。

AIを使う国か、AIに使われる国か――ソブリンAIが問う我が国の「知能の主権」 2026年5月11日
行政、防衛、医療、産業の重要データを誰が扱い、誰が運用を握るのか。AI主権を国家安全保障の問題として考察する。

資源小国という思い込みを捨てよ――我が国の本当の資源は現場のテクノロジストだ 2026年5月10日
我が国の真の資源は地下資源だけではなく、技術を現場へ落とし込み、結果に責任を持つ人材にあることを示す。

理念では国家は動かない──テクノロジスト国家・日本再設計論 2026年2月12日
設計し、実装し、検証し、修正する力こそが国家を動かす。AI時代に必要な保守と改革の姿勢を論じた記事である。

2026年6月19日金曜日

FIFAが見た日本の底力――日本人のゴミ拾いを貶めるな


まとめ

  • FIFAで称賛された日本人サポーターのゴミ拾いは、今回だけの偶然ではない。2018年、2022年、そして2026年と繰り返されてきた、日本人の生活文化の表れである。

  • 日本人がゴミを拾うのは、単に「人に迷惑をかけないため」だけではない。公共の場が汚れたまま残ること自体をよしとしない、場所への敬意と「場を清める」感覚がある。

  • その美徳を「偽善」「パフォーマンス」と貶める言説には警戒が必要だ。日本人の公共心と霊性の文化は、我が国の無形の国力であり、守るべき安全保障の対象でもある。

FIFAワールドカップで、日本人サポーターのゴミ拾いが再び世界の注目を集めた。

「再び」と書いたのは、これが今回だけの出来事ではないからである。FIFAは2022年カタール大会でも、日本人サポーターがスタジアムでゴミを拾う姿を「Japan fans keeping it clean in the stands」として紹介している。また、海外メディアも、2018年ロシア大会、2022年カタール大会、そして今回の2026年大会へと続く日本人サポーターの清掃文化を報じている。

今回も、日本代表がオランダと引き分けた試合の後、日本人サポーターはスタジアムに残り、座席周辺のゴミを拾って帰った。FOX 4は、日本代表のロッカールームが整然と片付けられていたことと、日本人サポーターがスタンドで清掃したことを報じている。さらに、米NFLのジェイミス・ウィンストン氏が日本人サポーターと一緒にゴミ拾いをしたことも、PeopleやNew York Postで報じられている。

これは、単なる美談ではない。

日本人の公共心、共同体意識、そして場所を汚したままにしない感覚が、国際社会の中で形になって現れた瞬間である。

だが、こうした日本人の行動が世界で称賛されると、必ずそれを冷笑し、貶め、相対化しようとする声も出てくる。

2️⃣日本人のゴミ拾いは「見せかけ」ではない

一部のSNSでは、日本人サポーターのゴミ拾いに対して、「海外向けのパフォーマンスだ」「称賛されたいだけだ」「偽善だ」といった批判があるという。

しかし、これは今回だけの突発的な行動ではない。少なくとも近年のワールドカップでは、何度も繰り返されてきた。FIFA自身も2022年大会で、日本人サポーターの清掃には以前からの歴史があると紹介している。見せかけなら、ここまで長く続かない。パフォーマンスなら、毎回ここまで自然にはならない。

この行動は、急にワールドカップの会場で始まったものではない。

学校で教室を掃除する。地域の行事で後片付けをする。家庭で「使った場所は元に戻しなさい」と教えられる。そういう日常の延長線上にある。

写真はAI生成画像 以下同じ

実際、AFP系の記事では、日本人ファンが「これは私たちの文化だ」と語り、こうした習慣は小学校で学ぶものだと説明している。記事では、観客が試合後に「来た時と同じ状態にして帰る」ためにゴミを拾ったとも報じられている。(Japan Today / AFP)

また、CBS Texasも、日本人の清掃行為について、日本では子供たちが学校で廊下やトイレを自分たちで掃除する習慣があることを紹介している。

日本人にとって、公共空間は「誰かが掃除する場所」ではない。自分たちも使っている場所であり、だからこそ汚したまま帰ることに違和感を覚える。

もちろん、日本国内にもマナーの悪い例はある。街にゴミが落ちている場所もある。すべての日本人が常に立派に振る舞っているわけではない。

だが、それを理由に、ワールドカップでの日本人サポーターの行動まで「偽善」と切り捨てるのは間違いである。

完全でなければ称賛してはならない、という理屈はおかしい。むしろ、日本社会に今なお残る良い習慣を、きちんと評価し、守り、次世代へつなぐべきである。

2️⃣称賛を貶める言説に潜む「日本悪魔化」

問題なのは、この日本人のゴミ拾いをめぐって、中国ネット上でも批判的な反応が出ていることである。

Record Chinaは、中国ネット上で、日本人サポーターの清掃を称賛する声がある一方、「日本人は海外でパフォーマンスをしている」「偽善だ」といった批判や、福島処理水問題に結びつけた批判が出ていることを紹介している。

ここに、単なるサッカーの話では済まない問題がある。

スタジアムでゴミを拾った日本人サポーターと、福島処理水の問題は本来まったく別の話である。にもかかわらず、日本人の公共心が世界で称賛されると、そこに「処理水」という別の論点を持ち込み、日本全体を悪く見せようとする。

これは典型的な論点のすり替えである。

もちろん、今回のSNS批判全体が中国の組織的工作であると断定することはできない。公開情報だけで、ボット網や指揮系統まで確認されているわけではない。そこは冷静であるべきだ。

しかし、中国系メディアが日本国内の一部の批判的SNS投稿を拾い上げ、「日本人自身も疑問視している」という形で紹介していることは見逃せない。Global Timesも、日本人サポーターの清掃をめぐる日本国内の批判的投稿を取り上げる形で報じている。日本国内の冷笑的な声が、中国側の日本批判の材料として使われているのである。

これは、私がこれまで述べてきた「日本悪魔化」と同じ構図である。

日本人が良い行動をしても、それは偽善だと言う。日本が国際貢献をしても、軍国主義の復活だと言う。日本が防衛力を強化しても、周辺国への脅威だと言う。日本が科学的根拠に基づいて処理水を放出しても、「核汚染水」と呼んで恐怖を煽る。

この背景には、中国による対日情報戦の文脈もある。DFRLabは、福島処理水をめぐる中国の影響工作が確認されていると分析している。また、ASPIとJapan Nexus Intelligenceは、中国の国営メディアや外交アカウントが、日本の国際的立場を損なうための発信を強めていると指摘している。

今回のゴミ拾い批判を、直ちに組織的工作と断定する必要はない。しかし、日本人の美徳が世界で称賛された時、それを「偽善」「演出」「処理水」などの言葉で汚し、別の反日ナラティブに接続しようとする動きには、十分に警戒すべきである。

3️⃣日本人の行為は、失われた霊性を思い出させたのではないか

私は、日本人サポーターのゴミ拾いの奥には、日本の「霊性の文化」があるのではないかと思う。

多くの日本人は、それを宗教的な言葉で意識しているわけではない。スタジアムでゴミを拾う人たちも、「自分はいま日本の霊性を表現している」などとは考えていないだろう。

しかし、意識していないから存在しない、ということにはならない。

日本人の心の奥には、場所をただの物理的空間として見ない感覚がある。家には家の気配がある。学校には学校の空気がある。神社には神社の静けさがある。山や川や森にも、何かしらの霊性を感じる。

CBS Texasは、日本人の清掃行為を紹介する中で、学校での清掃教育だけでなく、木や石など自然物にも霊性を感じる神道的な感覚にも触れている。これは、まさに日本人が場所や物を粗末に扱わない感覚とつながる。

日本人は古くから、山にも、川にも、木にも、石にも、道具にも、場所にも、ある種の霊性を感じてきた。いわゆる八百万の神という感覚である。そこでは、世界は単なる物質の集合ではない。人間が勝手に使い捨ててよい対象でもない。

こうした霊性の文化は、かつては世界中の多くの地域に存在していたはずである。人々は森を畏れ、山を敬い、川を神聖なものと考え、祖先や土地に宿る力を感じてきた。

しかし、制度化された宗教、巨大な教会組織、近代合理主義、都市化、消費社会の中で、そうした土着の霊性はしばしば周縁化された。迷信、異端、アニミズム、シャーマニズムとして低く見られ、排斥された地域も少なくない。

その点で、日本は特異である。

日本にも仏教、儒教、キリスト教、近代思想など、外来の宗教や思想は入ってきた。しかし、日本はそれらを受け入れながら、古来の霊性を完全には捨てなかった。神仏習合に見られるように、外から来たものを重ね合わせ、昇華してきた。

だから日本では、現代でも神社の境内を清める感覚が残っている。山や森に畏れを感じる感覚が残っている。物を粗末にしない感覚が残っている。場所を汚したままにしておくことへの違和感が残っている。

日本人がゴミを拾ったのは、単に誰かに迷惑をかけないためだけではない。

もちろん、スタジアムには清掃を担当する人がいる。だから理屈だけで言えば、観客が自分でゴミを拾わなくても、最終的には誰かが片付けるだろう。

しかし、日本人の感覚はそこではない。

公共の場が汚れたまま残されること自体を、よしとしないのである。自分たちが座っていた場所、応援していた場所、楽しませてもらった場所が、ゴミで汚れたままになる。その状態そのものに、どこか落ち着かなさを覚える。

これは「清掃員の仕事を奪う」という話でも、「善人ぶる」という話でもない。汚れた場を、そのままにして去ることへの違和感である。

そこに、日本人の場所への敬意と、場を清める文化が表れている。

そして、海外からの称賛も、単に「日本人はマナーが良い」という驚きだけではなかったのではないか。

日本人サポーターの行為は、海外の人々に、自分たちの社会にもかつて存在した霊性や共同体感覚を思い出させたのではないか。公共の場所を粗末に扱わない。使った場所を整える。自然や建物や広場に、単なる物体以上の何かを感じる。そうした感覚は、日本だけにあったものではないはずだ。

近代化の中で薄れてしまったものを、日本人の行為の中に見た。だからこそ、称賛は広がったのではないか。

日本人のゴミ拾いは、他国に対して「日本人は優れている」と誇示した行為ではない。むしろ、人間社会が本来持っていたはずの霊性や共同体感覚を、静かに思い出させる行為だったのではないか。

結語 日本の美徳を守ることも、安全保障である

FIFAが称賛した日本人のゴミ拾いは、単なる心温まるニュースではない。

それは、我が国の教育、家庭、地域社会が育ててきた公共心の表れである。しかも、これは今回だけの出来事ではない。2018年、2022年、そして2026年と、ワールドカップの舞台で繰り返し現れてきた日本人の行動である。一度なら偶然かもしれない。しかし、何度も繰り返されるなら、それは文化である。

その奥には、単なるマナー教育だけでは説明しきれないものがある。場所を清める。使わせてもらった空間を整える。そこに目に見えない気配や霊性を感じる。多くの日本人はそれを明確に意識しているわけではないが、我が国の潜在意識の深いところには、そうした感覚が今なお息づいている。

日本人がゴミを拾ったのは、単に誰かに迷惑をかけないためだけではない。公共の場が汚れたまま残されること自体を、よしとしない感覚があったからである。そこに、日本人の場所への敬意と、場を清める文化が表れている。

一方で、その日本人の美徳を冷笑し、貶め、別の反日ナラティブに接続しようとする動きもある。今回の批判を組織的工作と断定することはできない。しかし、中国系メディアが批判的な声を拾い上げ、日本人の美徳を相対化する形で拡散していることは、決して軽く見てよいものではない。

我が国を守るとは、領土や海だけを守ることではない。日本人が長い時間をかけて育ててきた美徳、信用、共同体意識、そして霊性の文化を守ることでもある。

日本人サポーターのゴミ拾いは、世界に向けた小さな行動だったかもしれない。

しかし、その小さな行動の中に、我が国の大きな力が表れている。

日本の美徳を守ることも、安全保障である。

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2025年12月19日金曜日

「我が国は衰退している」という物語は、誰にとって都合がいいのか


まとめ

  • 今回のポイントは、「我が国は衰退している」という決まり文句が、実は緊縮財政や利上げを正当化するために“便利に使われてきた物語”であることを明らかにしたことだ。
  • 日本は、衰退どころか海外に積み上がる資産やさらに特別会計に積み上がる資金がある以上、手当て次第で国内経済を立て直せる余地がまだ大きい。
  • 次に備えるべきは、話題の「日本版DOGE」がなぜ必要で、どうすれば骨抜きにされずに動くのかということだ。来週は核心に迫ることも予告もした。

1️⃣「我が国は衰退している」と誰が言わせたいのか

我が国は総体としては衰退していない

「我が国は衰退している」。
この言葉は、いつの間にか疑われることなく語られるようになった。人口減少、少子高齢化、低成長。いずれも事実である。しかし、それらを一つに束ね、「だから我が国はもう駄目だ」と断じる語り方には、明確な方向性がある。

この物語が最も都合よく作用する相手は誰か。
第一に挙がるのは、財務省を中核とする緊縮財政の官僚機構だ。

「国は衰退している」「財政は限界だ」という前提が共有されれば、増税も歳出削減も正当化される。補正予算は危険視され、需要を生む政策は「将来世代へのツケ」として退けられる。これは経済運営ではない。統治のための物語である。

この語りは、日本銀行の金融政策とも整合的だ。成長できない国、衰退する国という前提に立てば、利上げや引き締めは「正常化」「健全化」として説明しやすい。しかし、需要が弱いままの国で金融を締めれば、企業は投資を控え、家計は慎重になり、経済はさらに冷える。

だが、ここには見過ごせない矛盾がある。
我が国は「衰退国」と言われながら、対外純資産、特に対外金融資産の蓄積という点で世界有数の規模を維持している。海外から得られる利子や配当は積み上がり、日本は依然として大きな債権国だ。

政府部門を見れば、特別会計や各種基金に多額の資金が滞留している。使途が不明確、あるいは過剰と見られる資金は、規模感として数十兆円、広く見れば百兆円単位に達していると見られている。

富は消えていない。国内で十分に回っていないだけだ。

この状況は、外部の戦略とも重なり合う。
近隣の全体主義国家、特に中国にとって、「我が国は衰退している」という自己否定の物語が広がることは好都合である。相手国を内向きにし、挑戦する意欲を削げば、正面から競う必要はない。認知戦とは、そうした積み重ねで進む。

重要なのは、これが陰謀論ではないという点だ。
国内の緊縮志向、責任回避、現状維持の心理と、外部の戦略的利益が自然に重なった結果として、この物語は定着してきた。

2️⃣官僚・走狗・公金──国家を食い物にする生態系

財務省

では、なぜ財務省や日銀の官僚は、この構図を維持し続けるのか。
理由は単純だ。天下国家のためではない。退官後の人生を見据えているからである。

我が国の官僚機構では、評価基準がはっきりしている。
前例を崩さない。
波風を立てない。
政治判断の責任を負わない。

これを守った者ほど、退官後の居場所が用意されやすい。

幹部官僚の多くは、退官後に大手金融機関、政府系金融機関、保険会社、巨大企業、シンクタンクなどに再就職する。一度で終わらず、退職と再就職を繰り返す例も少なくない。その過程で、一般国民とは異なる収入水準に至る。

この構造に、国民経済の回復はほとんど影響しない。
彼らにとっての最大の関心事は、国を立て直す政策よりも、自らの評価が揺らがないことである。

さらに、この構造を下支えする存在がいる。
いわゆる「走狗」だ。

官僚、政治家、業界が結びつく「鉄の三角形」は以前から存在していた。近年は、コンサルティング会社や補助金に依存する団体などを含み、形を変えて広がっている。いわゆる「公金チューチュー」と呼ばれる構造である。

会計検査では、事業効果の検証不足や再委託の多重化が指摘されてきた。それでも、規模の大きな事業は継続されることが多い。そこに関わる者たちが、結果として官僚の立場を支える側に回るからだ。

彼らは「専門家」として登場し、緊縮や引き締めを合理的判断として説明する。政策の結果が芳しくなくても、「時代の制約」「国民意識」といった言葉に置き換えられる。
こうして、「我が国は衰退している」という物語は、静かに補強されていく。

3️⃣米国DOGEの経験、日本の可能性──日本版DOGEという現実解

ホワイト・ハウス

この病理は、日本固有のものではない。
米国でも、より露骨な形で同様の問題が意識された。

米国で試みられたのが、DOGE(Department of Government Efficiency)である。
日本語にすれば、「政府効率化局」「政府支出効率化組織」といった意味合いになる。

DOGEは、肥大化した政府支出を点検するため、IT・データ分析の専門家を中心に据え、「どこに、いくらの税金が流れているのか」を可視化しようとした。契約情報や予算データを横断的に分析し、従来は見えにくかった資金の流れを明らかにした点では一定の成果を上げた。

しかし、DOGEは制度として定着するには至らなかった。
技術とデータには強みがあったが、政治や制度の文脈に深く踏み込むことは難しかった。

なぜその予算が存在するのか。
誰が最終責任を負っているのか。
どの制度が、同じ構造を繰り返し生み出しているのか。

これらは、数字の提示だけでは解けない問題である。結果として、DOGEの取り組みは限定的な範囲にとどまった。

この経験が示す教訓は明確だ。
技術だけでは構造は変わらない。

だからこそ、日本版DOGEは、派手さを競う組織である必要はない。小さく、的確で、継続的に機能する仕組みであることが重要だ。

対象は、特別会計、基金、補助金や委託事業のうち、金額が大きく成果が曖昧なものに絞る。
権限は、勧告にとどまらず、予算執行を止める、あるいは縮減させる実効性を持たせる。
人材は、ITに加え、財政制度、金融、行政、政治過程を理解する者を組み合わせる。
結果は、国民に分かる形で公開する。

これは空想ではない。
行政事業レビュー、会計検査、データ統合、政策評価といった仕組みは、すでに存在する。足りないのは、それらを一つの意思で束ねることだけである。

我が国は衰退していない。
衰退しているように語られてきただけだ。
予告──来週の金曜日に、さらに踏み込む

来週のブログでは、次の三点を金曜日のテーマとして扱う。

なぜ、これまで制度は十分に機能しなかったのか。
日本版DOGEが形骸化する典型的な要因は何か。
そして、市場が最も警戒するポイントはどこにあるのか。

次回は、制度論を一歩進め、国債、市場、金利、金融機関という現実の数字を通して、この問題を掘り下げる。
議論は、いよいよ核心に迫る。

【関連記事】

補正予算は正しい──需給ギャップ・高圧経済・歴史、そして越えてはならない一線 2025年12月17日 
需給ギャップと高圧経済の観点から、補正予算を「国力を守るための正解」と位置づけ、拙速な引き締めが賃上げと投資を折る危険を示した一本だ。今回の「衰退神話」批判の土台として、そのまま噛み合う。 

「政府も利上げ容認」という観測気球を叩き潰せ──国民経済を無視した“悪手”を許してはならない 2025年12月10日 
利上げが「既成事実」化される情報空間の怖さと、金融機関や外圧の利害が混ざる構図を整理し、国民経済の側から利上げ論を退ける。今回記事の「物語の受益者」論に直結する。 

財務省の呪縛を断て──“世界標準”は成長を先に、物価安定はその結果である 2025年11月12日 
「成長と物価安定の両立」という耳障りの良い言葉が、緊縮・引き締めの口実になり得ることをえぐり出し、成長優先の順序を提示する。財務省的ロジックへの反証として強い補強材料になる。 

財務省支配の終焉へ――高市早苗が挑む“自民税調改革” 2025年10月13日 
税調を通じた緊縮・増税の“仕組み”そのものに踏み込み、官僚主導が政治判断を縛る構造を描いた記事だ。「衰退していることにしたい側」の制度的背景を説明するのに使える。 

FRBは利下げ、日銀は利上げに固執か──世界の流れに背を向ける危うさ 2025年9月18日 
米欧が内需厚めへ動く局面で、我が国だけが利上げに寄る危うさを国際比較で示す。今回の「緊縮+利上げが国民経済を削る」という主張に、外からの裏づけを与える。 

2025年10月18日土曜日

OpenAIとOracle提携が示す世界の現実――高市政権が挑むAI安全保障と日本再生の道


まとめ

  • OpenAIとOracleの提携は、AI覇権をめぐる米国主導の戦略的同盟であり、両社の連携は国家インフラ強化とAI安全保障の一環である。
  • 米国はAI技術と半導体を防衛資産と位置づけ、高性能GPUや製造装置の対中輸出を制限し、規制の恒久化を進めている。
  • アメリカは技術・制度・物流監視の三層で「知能封鎖線」を築き、AI覇権の支配構造を同盟国中心に固めつつある。
  • 日本はAI開発で遅れを取ってきたが、富岳、省電力チップ、量子技術など独自の強みを持ち、国家戦略次第で再興可能な基盤を備えている。
  • 高市政権の発足により、AIを防衛・経済・教育の柱とする国家戦略が動き出し、親中派の退潮とスパイ防止法の整備によって情報主権の確立が期待される。

1️⃣米国が仕掛けたAIインフラ戦争


いま、人工知能の世界で新しい同盟が生まれつつある。OpenAIとOracle――一方はChatGPTで世界を席巻したAIの旗手、もう一方は長年企業システムを支えてきた巨大IT企業である。両社の提携は、単なる業務提携ではない。AIをめぐる国際的な覇権競争の中で、演算能力という武器を共有する戦略的同盟である。

OpenAIはこれまで、Microsoftのクラウド基盤「Azure」を主に利用してきた。しかし、ChatGPTや次世代モデルGPT-5の開発に伴い、膨大な演算能力が必要になり、Azureだけでは対応しきれなくなった。そこで選ばれたのがOracleだ。OpenAIは現在、MicrosoftとOracleの両方を活用する「二重クラウド体制」を取り、計算資源を分散させている。

2024年6月、Microsoft・OpenAI・Oracleの三社は「Azure AIをOracle Cloud Infrastructure(OCI)上で運用する協業」を発表した。これにより、世界最大級のAI学習基盤が事実上連携することになった。2025年には、テキサス州で進む巨大データセンター構想「Stargate」計画にOracleが正式参加し、AI用サーバーの共同構築を進めている。NVIDIA製GPUを採用した新拠点が稼働を始めたとの報道もあり、アメリカ国内のAI開発基盤はかつてない規模で強化されつつある。

この流れは、単なる企業の判断ではない。アメリカ政府が推進するAI安全保障政策の一環である。米国はAIを「次世代の核抑止力」に準ずる存在と見なし、AI技術とその運用インフラを米国内と同盟国に限定する構想を進めている。OpenAIとOracleの連携は、その戦略の中心を担う“民間部隊”と言ってよい。
 
2️⃣半導体を封じる知能戦──米中冷戦の新局面

米中間で激化する「技術冷戦」

この動きの背景には、米中間で激化する「技術冷戦」がある。2022年以降、アメリカはAI開発に必要な高性能半導体の中国向け輸出を段階的に制限してきた。NVIDIAのA100やH100などのAI用GPU、さらには性能を落とした代替モデルまで輸出禁止の対象となった。加えて、半導体製造装置を扱うオランダのASMLや日本の東京エレクトロンにも協力を要請し、中国への先端露光装置の供給を事実上封じている。

2025年には、さらに規制が強化された。米商務省は制裁対象企業の子会社や関連会社を自動的に規制下に置く新ルールを導入し、抜け道を塞いだ。また、AIチップの出荷経路を追跡できる仕組みが試験的に導入され、制裁逃れをリアルタイムで監視できる体制が整えられつつある。NVIDIAのCEO、ジェンセン・フアンは「中国市場での売上が激減した」と述べており、規制の実効性はすでに数字に現れている。中国も対抗措置として、アメリカ製チップの通関検査を強化しているが、流れを逆転させることはできていない。

米議会では、これらの輸出規制を国防権限法(NDAA)に恒久的に組み込む動きが進んでいる。つまり、AIと半導体はもはや「貿易品」ではなく、国家防衛の一部として扱われているのだ。アメリカは、技術、制度、物流監視の三層で「知能の封鎖線」を築き上げ、AI覇権を守る構えを明確にしている。OpenAIとOracleの提携は、その中で生まれた「情報の要塞化」政策の象徴である。
 
3️⃣高市政権とAI安全保障──日本が再び立ち上がる時

一方、日本のAI開発は長く遅れを取ってきた。大規模言語モデルの研究は欧米や中国に後れを取り、データセンターの電力、用地、人材のいずれも不足している。だが、我が国にも希望はある。スーパーコンピュータ「富岳」、省電力型AIチップ、量子計算の応用研究など、世界的に評価される分野が少なくない。技術そのものは劣っていない。問題は、国家戦略としての意思が欠けていたことである。


主要パーツやソフトウエアが国内で開発された純国産量子コンピューター

その転機となるのが、高市早苗政権の発足である。高市氏は自民党総裁就任直後から、AIを防衛、経済、教育の柱に据える方針を明言した。AI予算の拡充、電力網の再設計、大学と企業の連携による人材育成、そして防衛技術との統合研究など、省庁横断の政策が動き始めている。高市政権の特徴は、理念ではなく実行である。AIを語る多くの政治家が夢物語を並べるなかで、彼女は国家の生存戦略としてAIを位置づけている。

さらに重要なのは、親中派の退潮である。これまで政治や官界には、中国との関係を優先し、機微な技術情報を軽視する空気があった。しかし、高市政権の誕生によってその流れは変わる。経産省、防衛省、警察庁の連携が再構築され、情報漏洩に対する監視体制が強化されつつある。加えて、国会ではスパイ防止法の制定が現実味を帯びてきた。これが実現すれば、日本はようやく先進国として当然の安全保障体制を整えることになる。

アメリカの半導体規制、OpenAIとOracleの提携、そして日本のAI安全保障構想。これらはいずれも一つの方向を示している。AIはもはや便利な道具ではなく、国家を守る「知能の盾」である。電力を確保し、半導体を守り、情報を制する国だけが次の時代の主権を握る。高市政権が進めるAI戦略は、その第一歩である。我が国が再び技術立国として立ち上がるのか、それとも情報従属国として沈むのか。その答えは、いま始まったAI安全保障の行方にかかっている。

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高市政権が直視する『現実』──“インフレで景気好調”という幻想の裏側 2025年10月15日
高市政権誕生を目前に、現在の経済状態を冷徹に分析。インフレや円安の裏に潜む構造的な歪みを明らかにし、政策の“現実主義”を浮かび上がらせる。

世界標準で挑む円安と物価の舵取り――高市×本田が選ぶ現実的な道 2025年10月10日
円安と物価の動きを世界基準の視点から読み解く。高市政権が直面する経済安全保障の課題と、AI・金融政策の連携を展望する。

高市早苗総裁誕生──メディアに抗う盾、保守派と国民が築く「国民覚醒の環」 2025年10月5日
高市総裁就任により、自民党内外の保守勢力が結集。メディアの偏向報道に抗い、国民覚醒の流れを政治運動として具現化する姿を描く。

高市早苗の登場は国民覚醒の第一歩──常若の国・日本再生への視座 2025年10月6日
理念を軸に立ち上がった高市氏の政治姿勢を考察。派閥を超えた信念の政治が、国民覚醒と日本再生の出発点となることを論じる。

ラピダスに5900億円 半導体で追加支援―経産省 2024年4月1日
経産省が半導体産業に巨額支援を決定。AI・量子技術の基盤強化を狙うこの政策は、OpenAI×Oracle提携にも通じる「技術主権」の潮流を示している。


2025年7月22日火曜日

中国の情報戦は「戦争」だ──七月のSharePoint攻撃が突きつけた日本の脆弱性

まとめ
  • 中国政府系ハッカーによるサイバー攻撃が、MicrosoftのSharePointサーバーを標的に発生し、米欧だけでなく日本の自治体・企業にも被害が及んでいる。
  • 使用されたゼロデイ脆弱性(CVE-2025-53770)は未修正のまま悪用され、機密情報窃取と長期潜伏を可能にする国家的スパイ活動だった。
  • 日本国内では自治体の住民情報や大手企業の業務インフラが影響を受けており、被害はすでに現実のものとなっている。
  • 中国は「超限戦」理論と国家情報法に基づき、民間を装ったサイバー戦を展開しており、日本も通信・監視インフラ依存で同様のリスクに晒されつつある。
  • 「外国勢力」とうやむやにする
    時代は終わった。中国こそが主権とインフラを脅かす現実の脅威であり、日本は国家として明確な対抗姿勢と防衛体制を取るべきである。
     

中国系ハッカーによる国家レベルのサイバー攻撃が発覚
 
2025年7月、Microsoftの業務用サーバー「SharePoint Server(シェアポイント・サーバー)」が、中国政府とつながりのあるサイバー攻撃グループによって、大規模に侵害されていたことが明らかになった。この攻撃はアメリカやドイツをはじめ、複数の国の政府機関、企業、医療機関に深刻な被害をもたらした。日本国内でも、すでに複数の自治体や企業で被害の兆候が確認されている。

この攻撃を仕掛けたとされるのは、「ToolShell」と呼ばれるバックドア型マルウェアを使ったグループである。Google傘下のサイバーセキュリティ企業Mandiantは、初期の分析段階で「中国と関係のある国家支援型ハッカーが関与していた」と断定した。また、米AxiosやReutersも、Google脅威分析部門の情報を基に「中国政府系のアクターによる攻撃の可能性が高い」と報じている。
 
 
この攻撃は、単なる情報盗難を超えた国家的な諜報活動である。標的とされたのは、政府機関、大学、エネルギー関連企業などの重要インフラであり、攻撃の目的は機密情報の窃取だ。使用されたのは、CVE-2025-53770という未公開のゼロデイ脆弱性。SharePointサーバーへの不正アクセスが可能となり、攻撃者は暗号鍵を奪って正規通信を装いながら長期間にわたり潜伏。しかも、使われたインフラの一部は、過去に中国系スパイ集団が使っていたものと一致していた。

日本にもすでに被害──サイバー戦はすでに始まっている
 
日本でもすでに被害が出ている。関東のある自治体では、庁内システムに不正アクセスの痕跡が見つかり、住民情報や行政文書への接触履歴を調査中である。また、大手製造業では、SharePoint経由で社内サーバーが一時使用不能となり、海外子会社との契約調整や業務連携に混乱が生じた。これらは氷山の一角にすぎず、今後さらに被害が広がる可能性が高い。
 
 
忘れてはならないのは、この攻撃が偶然起きたものではないという点だ。中国共産党政権は「超限戦」という理論に基づき、軍事・経済・外交・サイバーとあらゆる手段を用いて国家間の影響力を拡大してきた。とくにサイバー空間では、技術や情報収集の遅れを補うため、他国の先端技術・軍事機密・インフラ構造を標的とした攻撃を繰り返してきた過去がある。

「民間任せでは国家は守れない」──日本が取るべき覚悟
 
さらに、中国の「国家情報法」によって、すべての中国人・中国企業は国家の命令に従って情報提供する義務を負っている。このため、たとえ民間企業が関与していたとしても、その背後に政府の指令があると考えるべきだ。HuaweiやTikTokが世界中で警戒されているのも、まさにこの構造があるからである。
 
 
加えて、中国は「デジタル一帯一路」と称して、アジアやアフリカ諸国に通信・監視インフラを輸出し、自国の情報統制モデルを海外に広げようとしている。日本でも、地方自治体やインフラ企業、教育機関が中国製のサービスに依存すれば、同様のリスクにさらされるのは時間の問題である。

今回のSharePoint攻撃は、ITの問題でも、企業の危機管理の失敗でもない。これは中国という全体主義国家が、日本を含む自由主義諸国の社会基盤にまで干渉し得る現実を突きつけた「警告」である。しかも、これは始まりにすぎない。次に狙われるのは、医療、交通、金融、通信といった、私たちの生活そのものである。

日本が今、取るべき道ははっきりしている。国家として情報インフラを守る覚悟を持ち、制度・技術の両面で防衛体制を整えること。そして、同盟国と連携し、中国のサイバー行動に対して明確な対抗姿勢をとることである。民間任せでは、もはや国家は守れない。

もはや「外国勢力」などと曖昧な言葉でごまかしてはならない。中国こそが、日本の情報インフラと主権に対する最大の脅威である。銃やミサイルではなく、「コード」と「サーバー」を武器にして、国家の内側へと侵入してくる――これが、いま目の前にある現実なのだ。

国を守るとは、サイバー空間を守ることでもある。その覚悟を、私たちは今こそ問われている。


🔍 関連記事:日本の安全保障を脅かす“サイバーの影”

今回のSharePointゼロデイ攻撃は決して孤立した事件ではありません。過去にも中国によるサイバー工作や技術流出事件が繰り返されてきました。以下の記事もあわせてお読みください。

🛡 あなたの一読が、日本を守る一歩に。

2025年4月27日日曜日

中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も—【私の論評】中国の教育崩壊:1222万人の若者が絶望に沈む共産党の失策

中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も

まとめ
  • 中国の若者の間で、過酷な労働環境や経済的圧力から逃れるため、努力を拒み引きこもる「ネズミ人間」が増加。これは「寝そべり族」の進化形で、1日中ネットサーフィンし、デリバリーで食事を済ませる生活が特徴。
  • 背景には、2010年代の中国経済の急成長と「996勤務」による競争激化、賃金停滞、生活費上昇、若年失業率16.5%(2025年3月)があり、若者は「高圧環境」への反抗として社会から離脱。
  • 共産党は「ネズミ人間」が主流化すれば脅威となると警戒し、ワークライフバランス促進や雇用対策を打ち出すが、2025年に過去最高の1222万人の卒業生が見込まれる中、効果は不透明。
ネズミ人間 AI生成画像

中国で、過酷な労働環境や経済的逆風から逃れるため、若者の間で「ネズミ人間」という新たなトレンドがSNSを中心に広がっている。これは、2021年頃に流行した最低限の生活しかしない「寝そべり族」の進化形で、努力や社会参加を拒み、引きこもって1日中ベッドでネットサーフィンし、デリバリーで食事を済ませるライフスタイルを自嘲的に指す。

背景には、2010年代のITブームや「996」(午前9時~午後9時、週6日労働)といった過酷な働き方による競争激化、賃金停滞、生活費高騰、2025年3月の若者(16~24歳)の失業率16.5%(学生除く)など、不安定な社会状況がある。ロンドン大学のスティーブ・ツァン氏は、これを「高圧環境」への若者の反抗と分析。

一部の若者は、親世代の経済成長による貯蓄に支えられ、仕事を完全に放棄する者もいる。中国政府は3月にワークライフバランス促進やインターンシップ拡大、雇用奨励金など経済活性化策を発表したが、2025年に過去最高の1222万人の大学・大学院卒業生が見込まれる中、効果は不透明。ツァン氏は、習近平国家主席の技術大国目標には若者の労働意欲が不可欠だが、「ネズミ人間」が少数派にとどまらず主流化すれば、中国共産党にとって深刻な問題になり得ると警告する。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】中国の教育崩壊:1222万人の若者が絶望に沈む共産党の失策

まとめ
  • 中国の高等教育投資は、若者の夢と経済成長を支えるはずだったが、2025年の1222万人の卒業生に対し、若年失業率17.6%(2024年9月)による「過教育失業」が深刻化し、失敗に終わる。
  • 地方大学の質の低さや暗記偏重の教育が、卒業生の創造性や労働市場ニーズとのミスマッチを招き、米国、EU、日本の成功例(高収入、低失業率、産学連携)に遠く及ばない。
  • 共産党の統制が大学の自由を奪い、人的資本投資の不足や都市・農村の教育格差が問題を悪化させ、「ネズミ人間」のような社会離脱者を生む。
  • 教育の質向上、産学連携、大学自治、公平な機会が必要だが、共産党の独裁下では民主化や法治国家化がなく、政治と経済が不可分に結びついていて改革は不可能。
  • 共産党は若者を切り捨てAIに依存するだろうが、この矛盾は社会の不満と経済停滞を加速させ、党自身の崩壊を招く暗黒の未来へ向かう。
中国伝播大学2024年卒業式

中国の高等教育投資は、若者の夢を花開かせ、経済を世界の頂点に押し上げるはずだった。だが、現実は無残だ。2025年に1222万人の大学・大学院卒業生が世に送り出されるが、2024年9月の若年失業率は17.6%に急騰し、過剰な供給が「過教育失業」の泥沼を広げている。

清華大学や北京大学は世界に名を轟かせるが、地方の新設大学は資金も教員の質も底をついている。卒業生はIT企業や成長産業の要求に追いつけず、サービス業に沈む。河南省の大学を出た若者が都市で低賃金の雑用に追われる姿は、教育の崩壊を突きつける。

教育は暗記に偏り、創造性や問題解決力は育たない。米国の学生に遠く及ばないのだ。「十三五計画」(13次五カ年計画)で金を注ぎ込んだが、人的資本への投資はGDPの3.3%にすぎず、物理的資本の45%に押し潰される。経済的リターンは微々たるものだ。文化大革命で中断された高考(大学入学試験)が1977年に復活した後も、雇用の改善はわずかで、高給の仕事にありつくのは束の間の夢にすぎない。

対して、米国、EU、日本は高等教育投資で輝く成功を収めている。米国では、スタンフォードやMITの卒業生がシリコンバレーで起業し、GoogleやAppleで世界を変える。連邦準備制度の報告によれば、大学卒業生の生涯収入は高校卒の2倍だ。

EUでは、ハイデルベルク大学やエコール・ポリテクニークが産学連携で革新を生み、SAPやシーメンスがAIやIoTで世界を牽引する。欧州委員会のデータでは、大学卒の失業率は非卒の半分以下で、賃金は30~40%高い。

日本では、東京大学や京都大学が半導体やロボティクスで世界をリードし、トヨタのハイブリッド技術を支える。文部科学省の統計によれば、大学卒の年収は高校卒より30~50%高い。これらの国では、労働市場に合った教育、質の高い学び、投資のバランス、大学の自由、公平な機会が富を築く。

中国の大学入学試験(高考)

中国の惨状は、こうした条件が欠けているからだ。数を増やすことに狂奔し、地方大学の質は地に落ちた。経済成長の鈍化と産業の変化が卒業生の需要を減らし、雇用のミスマッチを悪化させた。人的資本への投資は貧弱で、都市と農村の教育格差は広がる。農村の学生は知力も健康も不利だ。

共産党の鉄の統制は大学の自由を絞め殺し、カリキュラムは党の命令に縛られる。創造性は潰され、革新は生まれない。「996勤務」の過酷さと競争の重圧は、若者の心を粉々にし、「ネズミ人間」という逃げ場に追いやる。SNSには、デリバリーで飯を済ませ、引きこもる姿を自嘲する投稿が溢れる。教育が成功への道を開かず、絶望が若者を飲み込むのだ。

この破滅を覆すには、教育の質を高め、産学連携を強め、大学の自由を広げ、公平な機会を確保するしかない。だが、共産党の独裁下では、それは空しい夢だ。一党支配は学問の自由を踏みにじり、経済と政治の癒着は資源を食い潰す。法治国家の不在は公平性を葬る。

民主化、経済と政治の分離、法治国家化がなければ、大学は革新の場にならず、労働市場との調和も教育の質も上がらない。だが、共産党はそんな変革を絶対に許さない。権力の座を死守するため、改革の芽を摘み取る。


現状、共産党は若者を切り捨て、AIや技術開発に突き進むだろう。だが、これは本末転倒だ。教育投資は社会を豊かにするためにある。共産党は自己保身と党の利益のためだけに動く。この矛盾は日々膨らみ、若者の絶望と社会の不満を爆発寸前まで高める。

行き着く先は、経済の停滞と社会の分断だ。「ネズミ人間」の増殖は、希望を捨てた若者が社会から逃げる姿そのものだ。共産党の支配が続く限り、この負の連鎖は止まらない。中国は技術大国への道を閉ざし、閉塞感に沈む。

共産党が若者を切り捨て、AIにすがる愚策は、党自身の首を絞める毒となる。若者の未来を潰し、社会を腐敗させる暗黒の未来が待つだけだ。教育で未来を切り開くはずの若者が、引きこもりに逃げる現実を変えるには、共産党の体制をひっくり返すしかない。だが、それは夢のまた夢だ。共産党の鉄の意志は、変革を殺し、国を内側から蝕む。

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2024年4月11日木曜日

日米首脳共同声明「未来のためのグローバル・パートナー」全文 中国の「危険な行動」に言及―【私の論評】安倍イズムの影響下での日米同盟強化: 岸田政権の課題と展望

日米首脳共同声明「未来のためのグローバル・パートナー」全文 中国の「危険な行動」に言及

まとめ
  • 日米同盟がかつてない強さに高まり、両国が大胆な措置を講じてきたことを確認
  • 防衛・安全保障協力の深化に向け、日本の防衛力強化や日米指揮統制体制の向上などを歓迎
  • 先端技術分野での共同開発・生産、経済安全保障の強化などによる日米の技術的優位性の確保
  • インド太平洋地域の自由で開かれた秩序の維持に向けた地域協力の推進
  • 気候変動対策での両国の連携強化とクリーンエネルギー分野でのリーダーシップ発揮


  日米首脳共同声明は、過去3年間にわたり、両国が勇気ある措置を講じることにより、日米同盟が前例のない高みに到達したことを確認している。この歴史的な展開を踏まえ、両首脳は新たな日米グローバル・パートナーシップの構築に合意した。

  そのための具体的な取組として、まず防衛・安全保障協力の強化が掲げられている。日米両国は、同盟がインド太平洋地域の平和、安全および繁栄の礎であり続けることを確認し、日本の防衛力強化や指揮統制体制の強化など、同盟の新たな時代に対応した取組を支持した。さらに、日米の指揮統制体制の向上や情報協力の深化、ミサイル防衛の強化など、地域の安全保障上の課題に直接対処するための具体的な施策も明記。

 加えて、宇宙開発、イノベーション、経済安全保障、気候変動対策など、幅広い分野で日米が連携して取り組むための新たな戦略的イニシアチブを発表した。特に、次世代技術の共同開発や、経済安全保障の強化に向けた政策協調の強化などが重要な柱となっている。

 一方で、北朝鮮の核・ミサイル問題、ロシアのウクライナ侵略など、地域や世界の安全保障上の重要課題に対しても、関係国と協調して対処していくことを表明。

 さらに、日米両国民の絆を一層深化させるため、人的交流の強化やグラスルーツレベルの地方自治体間連携など、多様な取組についても言及されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】安倍イズムの影響下での日米同盟強化: 岸田政権の課題と展望

まとめ
  • 日米首脳会談の共同声明は、日米同盟の新たな時代を示す戦略的パートナーシップの構築を目指すものであり、防衛、経済、技術、外交など広範な分野に焦点を当てている。
  • 共同声明の注目すべき点は、日本の防衛力の抜本的強化、先端技術分野での日米協力の深化、経済安全保障の強化の3つに集中している。
  • 日本の防衛力の強化は、専守防衛の原則からの転換を意味し、抑止力と対処力の強化につながる。
  • 先端技術分野での協力は、経済安全保障上も重要であり、両国の競争力を高める。
  • 日米関係の強化には、安倍首相のリーダーシップや外交努力が大きく寄与しており、岸田首相もこの路線とともに、日本国内の政策に関しても安倍イズムを継承すべきである。

この共同声明は、21世紀の課題に取り組む日米同盟の新たな時代を切り拓くべく、防衛、経済、技術、外交など、広範な分野における具体的な戦略的パートナーシップの構築を示すものとなっています。

共同声明の中で特に注目すべき点は以下の3つです。

1. 日本の防衛力の抜本的強化
共同声明では、2027年度までに日本の防衛費をGDP比2%まで増額し、反撃能力の保有や統合作戦司令部の新設など、日本の防衛力を大幅に強化することが盛り込まれています。これは注目すべき点です。
なぜなら、これまで日本は専守防衛を旨としてきましたが、今回の防衛力強化は抑止力の大幅な強化につながるものです。地域の安全保障環境が厳しさを増す中で、日米同盟の抑止力と対処力を引き上げる上で、日本の防衛力強化は不可欠な取り組みだと位置づけられているからです。

このような日本の防衛力増強は、同盟国である米国にとっても大きな意義を持ちます。日本の防衛力が強化されることで、米国の同盟国としての負担が軽減され、より効果的な抑止力の発揮が期待できるためです。

2. 先端技術分野での日米協力の深化
共同声明では、AI、量子、半導体、バイオテクノロジーなどの重要・新興技術分野で、日米が協力して研究開発や産業基盤の強化に取り組むことが明記されています。
これは注目に値する点です。先端技術分野でのリーダーシップを確立することは、経済安全保障上も極めて重要です。両国が互いの強みを活かしながら、これら次世代技術の開発や保護に協力することで、技術的な優位性を確保し、経済的な競争力を高めていくことができるためです。

また、こうした技術協力は、日米同盟の絆をより強固なものにする効果も期待できます。先端技術を共に推進していくことで、経済的な利益共同体としての側面が一層強化されるからです。

3. 経済安全保障の強化
共同声明では、日米両国が非市場的な政策や慣行への対処、信頼性のあるサプライチェーンの構築など、経済的側面からの安全保障強化に取り組むことが明記されています。
これは重要な点です。地政学的な競争が激化し、経済的な安全保障の確保が喫緊の課題となる中で、日米が緊密に協調してこの分野に取り組むことは、両国の経済的利益を守る上で不可欠だからです。

特に、先端技術分野での覇権を握ることは、経済安全保障上も極めて重要です。日米が連携して、こうした分野での優位性を確保していく狙いがうかがえます。
 
以上3点は、共同声明の中でも特に注目すべき点だと考えられます。日米同盟を21世紀の安全保障環境に合わせて強化していく上で、これらの取り組みが大きな意味を持つためです。


日米が安全保障面での一体化を模索することは、もはや多数の米国民にとって当然のことです。今回の合意に対する大きな騒ぎは起きていません。日本との同盟強化に反対する声はほとんどなく、ドナルド・トランプ前大統領や共和党支持者を含めても、日米同盟の強化に異議を唱える声はありません。

日本という国が米国にとってより身近な存在になっています。大谷翔平選手やテレビドラマ、アニメなどを通じて、日本文化が米国に浸透しており、日本人に対する親近感が高まっています。これは、中国に対する米国民の嫌悪感とは対照的であり、日本は米国人にとって好意的な国として位置付けられています。

ギャラップ世論調査では、日本が米国人にとって最も好きな国の一つに選ばれています。この好意的な姿勢は、日米関係の強化にも繋がっていると言えます。

しかし、一方で岸田首相に対する米国メディアの関心は薄いです。岸田首相の政治的地位は不安定であり、政権内部や有力派閥のスキャンダルに揺れ動いています。そのため、米国メディアは岸田首相を「影の薄い総理大臣」と見ており取り上げることが少ないです。これは安倍首相とは対照的です。

しかし、日米関係の強化に向けては、両国のまともな官僚や議員らが着実に動いているようです。両国の政治的不安定さにもかかわらず、日米関係の堅固さを確保するために、彼らは日々努力しているようです。そのため、今回の日米首脳会談も、両国の関係強化の一環として注目されています。

官僚レベルにおける日米関係強化に向けた取り組みには以下のようなものがあります。

防衛・外交面では、外務省北米局と米国務省が定期的な政治対話を行っており、北朝鮮問題に関する制裁政策の調整や台湾問題に関する協議などが実施されているほか、自衛隊と米軍の共同訓練を強化することで軍事面での協力関係を深めています。

経済・貿易面では、経済産業省と米通商代表部がIT分野など特定分野の共同研究を進める一方で、農林水産省と米農務省もTIFAにおける農産品の市場開放交渉を行っています。

文化交流面では、文部科学省と米教育省が大学間交流事業の拡大に努めるとともに、外務省と米国務省が語学研修制度を活用した若手研修生の派遣数を増やしています。

テクノロジー面では、総務省と米通信委員会が5G技術の標準化で、経済産業省も半導体技術分野で共同研究を進めることで協力体制を強化しています。

さらに、環境・エネルギー面では再生可能エネルギー分野、科学技術面では宇宙開発分野での国際協力も進められています。

上に述べた具体例は、ごく一部にすぎません。 

なぜ日米関係がこのようになっているかといえば、やはり安倍首相の尽力があったおかげです。

これなくしては、現在の日米同盟の強固な地位と日米協力体制がこの水準に達することは極めて困難であったと思います。

特に、トランプ政権下で米国第一主義が強まる中、安倍首相はトランプ大統領個人との信頼関係を築き、日米同盟の重要性を直接説得しました。加えて、日米同盟を東アジアにおける安定と繁栄の礎と位置づける戦略もトランプ政権のアジア観と合致するものでした。


この結果、トランプ政権下では一時東アジアからの関与が低下した傾向に歯止めが掛かり、日米同盟を軸とする米国の東アジアに対する関与が強化されることになりました。同時に、安倍首相の尽力により日米同盟の重要性が再確認されました。

安倍首相の日米同盟強化への献身的な努力とリーダーシップなくしては、現在の日米同盟の堅実な関係基盤と協力体制を築くことは不可能でした。安倍首相の尽力こそが、今日の日米同盟の地位向上に不可欠な要因だったのではないかと考えます。

そのことを岸田首相は再認識すべきです。岸田文雄首相は昨年2月26日の自民党大会で、2012年の政権交代後からの自公政権10年間について話しをしました。安倍元首相の強力なリーダーシップの下、経済状況は改善し雇用と企業収益が拡大したこと、デフレから脱却できたことなどを指摘しました。外交・安全保障面では「自由で開かれたインド太平洋」の推進、日米同盟の深化、平和安全法制の整備などの実績を挙げました。

10年間を振り返り、民主党政権下で失われた日本の誇りと自信、活力を取り戻すため、皆で力を合わせ国を前進させたとアピールしました。今こそ安倍元首相と菅前首相が築いた10年間の成果の上に、次の10年を創造する時だと強調しました。防衛力を抜本的に強化し、積極的な外交を展開することで、戦後最も複雑な状況の中でも国民を守り抜く考えを表明しました。

岸田首相は、今回の日米首脳会談は、安倍首相が敷いた既定路線に乗った形で、成功を収めたことを理解すべきです。

そうして、米国との関係については、米国政府という相手があることであり、安倍首相が構築した日米関係の方向性を崩すことは最早できません。さらに、日米関係を基軸とした外交・安全保障に関しても、これを崩すことはできません。


問題は、国内であり、もっと有り体にいえば、自民党党内です。これについては、米国はこれに干渉することはできず、ただしLGBT理解増進法案などの例外はありますが、国内の大きな方向性に関しては、もっぱら岸田首相が采配しなければなりません。ここでも岸田首相は、安倍路線を継承するべきなのです。

そのことを強く認識して、経済状況を改善し雇用と企業収益が拡大する路線を継承し、デフレから完全脱却すべきなのです。それとともに、自民党内のリベラル派に対して一定の歯止めをかけなければなりません。外交だけではなく、国内でも安倍イズムを継承することが、自民党政権を安定化させる唯一の道だと認識して、その方向に転換すべきです。

これをないがしろにすれば、岸田政権が崩壊するだけではなく、自民党が崩れ、それだけならまだしも、安倍首相が語っていたような、悪夢の民主党政権のよう暗黒史を自民党政権が自ら招くことになりかねません。そうなれば、いずれ自民党は再び下野することになるでしょうが、それまでの間に悪夢の自民党政権が日本国内を毀損すことになりかねません。さらには、次の政権は安倍イズムとは、逆の政権運営をするかもしれません。

これだけは、絶対に避けるべきです。岸田政権は今後、安倍イズムを定着させるべく、邁進すべきです。

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