2019年6月24日月曜日

中国次官、米側の譲歩求める G20、香港問題は「議論許さぬ」―【私の論評】米国に続いて日本も中共の面子を叩き潰せ(゚д゚)!


G20で香港問題の議論は深まるか。トランプ米大統領(右)と中国の習近平国家主席の対応に注目が集まる

 中国商務省の王受文次官は24日の記者会見で、大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせた米中首脳会談をめぐり、「一方(中国)だけでなく双方が譲歩しなければならない」と述べ、貿易協議の妥結には米国側の譲歩も必要だとの立場を強調した。中国外務省の張軍次官補も同じ記者会見で「G20で香港問題を議論することは許さない」とし、同問題を提起する方針を示したトランプ米大統領を牽(けん)制(せい)した。

 習近平国家主席は27~29日に大阪を訪問。王氏は、米中の交渉団が現在、双方の相違を解決する方法に関し、交渉を続けていると表明した。一方で、トランプ政権を念頭に「一部の国が一国主義や保護主義を実行し、ほしいままに貿易相手国に関税をかけている」と非難し、G20で多国間主義への支持が一層高まることへの期待感を示した。

 習氏は昨年11月末からのアルゼンチンでのG20首脳会議で、米中首脳会談を控えていたため「保護主義」への反対といった米国との対決色を封印した。ただ中国は、5月に貿易協議が事実上決裂した原因は米国にあると国内メディアを通じて宣伝。協議再開に道筋が付いた場合、一方的に譲歩したと受け止められるのを避けるため、今回のG20ではより強い表現で米批判を展開する可能性がある。

 一方で中国当局は、香港の混乱をめぐり各国から批判を浴びる事態を懸念している。中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案について香港政府は作業の完全停止を発表したが、張次官補は条例改正が法律上の欠陥を補うために必要だとの認識を改めて表明。「どのような場面や形式であろうと、いかなる国も中国の内政に干渉することは許さない」と米側にクギを刺した。

【私の論評】米国に続いて日本も中共の面子を叩き潰せ(゚д゚)!

香港のデモに関しては、やはり話し合うべきでしょう。香港の政治的不安定は、世界経済にも影響を与えるから当然議題にすべき筋のものです。私は、中共はこの問題をあまりに安易に考えてると思います。中国がこれについて、全く話し合いをしないというのなら、トランプ大統領は習近平の会談をキャンセルすることもあり得ると思います。

もうオバマ政権時代の数年前とは事情が全く異なってきていることを中共は理解していないようです。トランプ大統領としては、オバマ時代に後退した中国との対決を本気で一気に進めて米国に有利な状況をつくりだそうとしています。

すでに、中国に対する米国による最終兵器が5月15日に炸裂しました。それは華為技術(ファーウェイ)を輸出管理法に基づく輸出規制の対象(エンティティーリスト)に加えたことです。

ファーウェイを標的にしたトランプ大統領

米国の企業がファーウェイに部品やソフトウェアを売ろうとするときには商務省に申請して許可を得なければならなくなりましたが、一般に申請は許可されないといいます。

昨年4月に中興通訊(ZTE)がイランに不正輸出を行ったとして同様の制裁を科され、スマホの工場の稼働が止まるほどの窮地に陥ったことは記憶に新しいです。その時は中国政府が米国政府と交渉して、米国企業との取引禁止から罰金に「減刑」してもらうことで何とか難局を乗り越えました。

とはいいながら、ZTEが米国に対して約束した透明性を確保しなければ、制裁が再発動されることになります。

一方、ファーウェイはZTEを上回る技術力を持つハイテク企業ですが、米国政府も周到にファーウェイを追い詰めようとしています。まず昨年4月にアメリカ連邦通信委員会(FCC)は米政府の補助金を使う通信事業者がファーウェイとZTEの機器を使うことを禁じる措置を決めました。

さらに昨年8月に成立した国防権限法2019(NDAA2019)は、アメリカの政府機関がファーウェイ、ZTEなど中国企業5社の通信機器や監視機器を使用することを禁じ、さらにこれらの企業の機器を利用している企業からの調達まで禁止しました。

そしてこのたびの輸出管理法は米国の企業がファーウェイに対して機器、部品、ソフトウェアなどを輸出することを事実上禁ずる、というだけではなく、他国企業がアメリカ企業の部品やソフトなどを含むものをファーウェイに売ることにも規制の網をかけています。もしこの規制を破れば、今度はその企業が米国企業との取引禁止や罰金などの制裁を受けることになるのです。

つまり、米国企業がファーウェイに何かを売ったり、ファーウェイから何かを買ったりするのを制限するというだけでなく、ファーウェイと取引するような企業は他国の企業であっても米国の政府調達から締め出されたり、米国企業との取引を禁止されるといった制裁が科されるというのです。

もっとわかりやすくいえば、ファーウェイは、インテルやAMDのCPU、チップセットを購入出来なくなったのです。これは小売用だけでなく、社内使用分もです。また、Windows OSもです。ファーウェイは自身で開発した新 OS 何を使って開発するようなことを言っていますが、これを実行したとしても、効率はかなり悪くなることでしょう。

世界中で共通のプラットフォームとして用いられている、OS等には、様々なノウハウが蓄積されており、その豊富なノウハウなどの資源を用いることができるのですが、自社開発のOSということになれば、そういうわけにはいきません。なんでも自前て開発しなければならなくなります。

ただし、禁輸にしても、第三国経由で横流しされるでしょう。米国はそれを追跡し、第三国企業に制裁、見せしめをする事で穴を塞いで行くことになるでしょう。

インテル、nvida、AMD 3社を禁輸にすれば、天網スカイネットも瓦解するでしょう。ウイグル等人権問題が関係するので正当性はあります。NDAA2020では、天網を崩壊させるてだても組み込むことでしょう。

なぜここまでするかといえば、もう米中の貿易戦争は、冷戦の次元にまで高まっているからです。そうして、その背景には「文明の衝突」があるからです。現在の米中の争いは、米国側からすれば、中共の価値観を排除するという意味合いがあるのです。

さらに、米国共和党のルビオ上院議員が「政府の監視対象となっている企業が国内での特許について、特許侵害での提訴も含めた法による救済措置を求めることを禁止する」法案を提出したそうです。 

ルビオ上院議員

これは事実上、アメリカの監視対象となっているヒューウェイを狙い撃ちにしたものです。

ヒューウェイは米国の大手通信会社・Verizonに対し230件を超える特許を巡って10億ドル以上のライセンス料を要求していますが、法案が成立すれば救済措置を求められないどころか「ヒューウェイの特許はいくらでも侵害していい」ということになるわけです。

なお、周知の通りヒューウェイiは現行の4Gおよび次世代産業の中核となる5G技術においてトップクラスの特許を保有。5Gの標準化に大きく貢献するなど名実ともにフロントランナーです。

5Gをめぐる米中覇権争いの中、ターゲットにされている感のあるヒューウェイ。知財保護を訴えていた米国とすれば、ヒューウェイの技術は、元々成熟しかけていた米国等の技術を盗み、中国の政府補助金などで、急速に成熟化したものであると断定しているのです。

だからヒューウェイの技術に関しては、当然のことながら自分たちが金と時間をかけ成熟させるはずだったものを、盗まれたのですから、盗まれたものは取り返すという意味でこのような措置をとるのでしょう。

さらには、日米はすでに6Gの基礎研究に入っていますから、これがある程度までいったときにまた盗まれては、同じことの繰り返しです。この措置は、そんなことは絶対にさせないし、すれば取り返すだけであるという覚悟を中共にみせたのでしょう。

中国も盗まれる痛みを知らなければ、いつまでも窃盗を続けるでしょうから、私はこうした措置を歓迎したいです。

それにしても、米国の要求に折れたら習近平の負けを認めたことになり共産党支配の崩壊が早まることになります。 突っぱねれば、中国経済に大打撃を受けることになります。

トランプ政権は、中国製品に理不尽なまでの制裁関税をかけ、ファーウェイに対するアメリカ製品の輸出を禁止した。トランプに態度軟化の気配は見えず、中国はこれ以上被害が広がらないうちに折れたほうが賢明ではないかと思います。

王受文次官は、G20で香港デモの話をしないとしていますが、もし本当にそうすれば、トランプ大統領は習近平との会談をキャンセルし、さらに何らかの形で具体的に、新たな制裁を実施することになるでしょう。

王受文次官

この米国の行動は、トランプ大統領が辞任した後も続きます。それは、次の選挙でトランプ氏が再び大統領になってもならなくても、超党派で継続されます。

これについては、日本の企業や日本政府が何を言ったとしても、今後しばらくは変わりません。そうして、日本の企業が米国のやり方に違反した場合は、何らかの制裁を受けるだけになります。それは、日本政府も同じことです。

そんなことよりも、今は米国に協力して、中国がまともな国なり、中共が崩壊するか、中国の経済が弱体化して、日本等の周辺諸国に覇権を及ぼすことができなくなるまで、中国を追い詰めるときです。今は、中共の面子を米中協同でたたき潰し、中共の崩壊を推進するべき時なのです。中共が面子を気にして粋がってみせていられるのも今のうちだけです。

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2019年6月23日日曜日

200万人デモ「一国二制度」で共鳴する香港と台湾―【私の論評】中共は香港デモを「超AI監視技術」を駆使して鎮圧するが、その後徐々に衰え崩壊する(゚д゚)!

香港デモのもう1人の勝者は台湾の蔡英文総統

道路を埋め尽くしたデモ隊。2014年の「雨傘運動」の象徴である黄色い傘も目立つ

(文:野嶋剛)

 香港と台湾は繋がっている、ということを実感させられる1週間だった。

 香港で起きた逃亡犯条例改正案(刑事事件の容疑者などを中国などに移送できるようにする)への抗議は、103万人(主催者発表)という返還後最大規模のデモなどに発展し、香港社会からの幅広い反発に抗しきれなくなった香港政府は、法案の審議を一時見送ることを決定した。それでも6月16日には、改正案の廃止を求めて200万人近く(主催者発表)が再びデモに繰り出した。

 前例のない今回の大規模抗議行動のもとをたどれば、台湾で起きた殺人事件の容疑者身柄移送をめぐる香港と台湾の問題に行きつくが、同時に香港のデモは、台湾で現在進行中の総統選挙の展開に対しても、非常に大きな影響を及ぼすことになった。

香港と台湾の法的関係

 15日に改正案の審議見送りを表明した林鄭月娥(キャリー・ラム)香港行政長官の会見では、「台湾」という言葉が何度も繰り返された。逃亡犯条例を香港対中国の文脈で理解していた日本人にとっては、いささか不思議な光景に映ったかもしれない。

 この逃亡犯条例の改正は、台湾旅行中の香港人カップルの間で起きた殺人事件がきっかけだった。殺された女性はトランクに詰められて空き地に放置され、男性は台湾から香港に戻っていた。香港警察は別件でこの男性の身柄を逮捕しているが、殺人事件自体は「属地主義」のため、香港で裁くことはできない。台湾に移送し、殺人事件として裁かれることは、香港社会の官民問わずの希望だっただろう。

しかし、事態を複雑にしたのは、香港と台湾の法的関係だった。香港は法的にも実体的にも中華人民共和国の一部であるが、台湾は中華人民共和国が中国の一部だと主張していても、実体は独立した政治体制である。

 現行の逃亡犯条例には「香港以外の中国には適用しない」との条項があるため、これを削除して台湾も含む「中国」へ容疑者の身柄を引き渡せるようにするのが今回の改正案なのだが、そこには「中央政府の同意のもと、容疑者を移送する」とある。台湾の「中央政府」は果たして台北なのか北京なのか、香港政府の判断はなかなか難しい。

 さらに5月9日の時点で台湾の大陸委員会の報道官が「国民の身柄が大陸に移送されない保証がない限り、改正案が通っても香港との協力には応じない」と明らかにしている。香港政府が当初の改正理由に掲げた「身柄引き渡しにおける法の不備」を解消するという必要性はあるとしても、殺人事件を理由に法改正を急ぐ必然性は失われており、市民の反対の論拠の1つになっていた。

 林鄭行政長官の記者会見でも、審議延期の理由として台湾の協力が得られない点を強調しており、「台湾に責任を押し付けることで事態を切り抜けようとしている」(台湾メディア)と見えなくはない。

もう1人の勝者は蔡英文総統

 香港デモの最大の勝者は、法案の延期を勝ち取った香港市民であるが、もう1人の勝者は紛れもなく台湾の蔡英文総統であった。

 予備選が始まった3月末時点では逆に頼氏に大きく差を開けられていた蔡総統だが、候補者決定の時期を当初予定の4月から6月にずらしていくことで支持率回復の時間稼ぎを試み、頼氏と並ぶか追い抜いたところで、香港デモのタイミングにぶつかった。

 与党・民進党では、総統選の予備選がデモの発生と同時に進んでいた。民進党は世論調査方式を採用しており、香港で103万人デモが行われた翌日の6月10日から12日まで世論調査が実施された。13日発表の結果は、蔡総統が対立候補の頼清徳・前行政院長に7~9ポイントの差をつけての「圧勝」だった。

政治家には運がどうしても必要だ。その意味では、蔡総統は運を味方につけた形になったが、香港デモの追い風はそれだけではない。対中関係の改善を掲げ、「韓流ブーム」を巻き起こした野党・国民党の韓国瑜・高雄市長は、すでに国民党の予備選出馬を事実上表明して運動を始めているが、その勢いは香港デモによって損なわれている。

 韓市長は、3月に香港と中国を訪れ、特に香港では、中国政府の香港代表機関である「中央政府駐香港聯絡弁公室(中聯弁)」を訪問するという異例の行動をとっていた。香港の抗議デモがなければ、この行動は賛否両論の形で終わっていたが、香港政府や中国との密接ぶりを演じたパフォーマンスは、今になって裏目に出た形となっている。

 対中関係については民進党と国民党の中間的なスタンスを取っている第3の有力候補、柯文哲・台北市長も打撃を受けており、この3人を並べて支持を聞いた今回の世論調査では、これまで同様の調査で最下位であった蔡総統が一気にトップに躍り出ていたのだ。

「今日の香港は明日の台湾」

 この背後には、香港情勢をまるで自分のことのように感じている台湾社会の感情がある。香港に適用された「一国二制度」は、もともと台湾のために鄧小平時代に設計されたものだ。香港で「成功」するかどうかが台湾統一の試金石になる。どのような形でも統一にはノーというのが現時点での台湾社会のコンセンサスだが、それでも、香港が中国の約束通り、「高度な自治」「港人治港(香港人による香港統治)」を実現できているかどうか、台湾人はじっと注意深く見守っている。

 香港のデモは連日台湾でも大きく報道され、台湾での一国二制度の「商品価値」はさらに大きく磨り減った。一国二制度に対して厳しい態度を示している民進党は、総統選において有利になる。「今日の香港は明日の台湾」という言葉が語られれば語られるほど、香港は台湾にとって想像したくない未来に映り、その未来を回避してくれる候補者に有権者は一票を託したくなるのだ。

 かつて香港人は、欧米流の制度があり、改革開放を進める中国大陸ともつながる香港の方が台湾より上だという優越感を持っていた。しかし、香港の人権や言論の状況が悪化し始め、特に「雨傘運動」以降、政治難民に近いような形も含めて、台湾に移住する香港人が増え始めている。香港に失望した人々にとって民主と自由があり中国と一線を画している台湾は、親近感を覚える対象になった。

 また、香港では言論や政治で縛りが厳しくなっているため、今年の天安門事件30周年の記念行事でも、かつての学生リーダーを欧米などから招いた大型シンポジウムは、香港ではなく、あえて台湾で開催されていた。

反響しあって大きなうねりを起こす

 香港では皮肉なことに返還後の教育で育った若い世代ほど、英語よりも普通語(台湾では北京語)の能力が高く、台湾と香港との交流の壁は低くなっている。

 一方、台湾からの影響力の拡大を懸念した香港政府は、台湾の民進党関係者や中国に批判的な有識者や活動家に対して、入国許可を出さないケースが相次いでおり、民間レベルでは近づきなから、政治レベルでは距離が広がる形になっている。

 香港の雨傘運動は、台湾の「ひまわり運動」から5カ月後に発生した。タイミングは偶然だったかもしれないが、「中国」という巨大な他者の圧力に飲み込まれまいとする両地にとっては、それぞれの環境が反響しあって大きなうねりを起こすことを、2014年に続いて改めて目撃することになった。

 台湾のアイデンティティが「中国人」から「台湾人」へ大きくシフトし、香港人のアイデンティティも若い世代ほど「中国意識」が薄れてきている。香港・台湾の人々の脱中国という心理の動きは、中国政府の今後の対応如何でさらに進行していくだろう。

 今回の200万人という再度の大規模デモでは、あくまで市民は逃亡犯条例改正案の審議延期では満足せずに撤回を求めており、香港人の怒りはしばらく収まりそうにない。

 台湾の総統選は半年あまり先に迫っている。「一国二制度と中国」を巡って起きている香港・台湾両地の共鳴現象は、今後注目を要する視点になるだろう。


野嶋剛


1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)、「ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち」(講談社)、「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」(明石書店)、「台湾とは何か」(ちくま新書)。訳書に「チャイニーズ・ライフ」(明石書店)。最新刊は「タイワニーズ 故郷喪失者の物語」(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

【私の論評】中共は香港デモを「超AI監視技術」を駆使して鎮圧するが、その後徐々に衰え崩壊する(゚д゚)!

世界が固唾を飲んで見守っている香港の大規模デモは、一定の成果を挙げて一段落しました。

それにしても、6月9日に103万人と発表されたデモの参加者が、1週間後の16日には200万人を超えたというのですから驚きです。主催者発表の動員数ですから鵜呑みにはできないにしても、写真や映像を見る限り、大変な盛り上がりでした。

現在の香港の人口は750万人です。そのうち中国からの移住者150万人、それに高齢者や子どもたちを除いて考えると、未曽有の参加者数といえます。

香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、9日の「103万人デモ」に遭遇しても強硬姿勢を崩しませんでした。そして、そのデモを評して、「法律を顧みない暴動行為」と決めつけました。

1989年、中国・北京を舞台に起きた「天安門事件」を、中国共産党が「動乱」と決めつけたことが事態を急激に悪化させましたが、今回も30年前同様、そうなりました。

ところが、その林鄭長官が「200万人デモ」に至って、態度を大きく変えた。「香港社会に大きな矛盾と紛争を生み、市民に失望と悲しみを与えた」と陳謝したのです。

民衆に対決姿勢で臨んだところ、一週間後にはなんと抵抗勢力が倍増しました。200万人と対峙(たいじ)すれば、デモはいっそう強力になって、手に負えなくなります。そうなれば、警察の力を借りるどころか、戒厳令の発動や人民解放軍の出動にもつながりかねないという判断が透けてみえます。

ただ、こうした高度な政治判断が、林鄭長官に任されているはずはないです。背後にある、中国政府、中国共産党、習近平・中国国家主席が「方針転換」の指示を出したと見るのが妥当でしょう。今月末には、大阪で主要20カ国・地域(G20)サミットで開かれる。そこで、習主席が孤立したり集中砲火を浴びたるすることを恐れたのかもしれないです。

林鄭長官は記者会見で「改正審議は再開できないと認識している」と発言。さらに香港政府は21日、「逃亡犯条例案の改正作業は完全に停止した」との声明を出し、廃案にする構えを示しました。

林鄭月娥行政長官

中国政府、香港政府はなぜ、今回の大規模デモや市民の動向を読み間違えたのでしょうか。おそらく、5年前の「雨傘運動」が意外に容易に沈静化したからでしょう。

ご存知のように、香港政府のトップである行政長官は、民主的な普通選挙によって選ばれているわけではありません。複雑な手続きによって、中国政府に批判的な人は排除される仕組みになっています。これに対して、民主的な選挙制度を求め、学生や市民が立ち上がったのが2014年秋の雨傘運動でした。

「それと比べると、逃亡犯条例改正問題に対する市民の関心は薄い」と当局が判断したとしたら、それは大きな誤算でした。選挙制度は確かに重大な問題ですが、今回の問題は香港人ひとり一人にとって、それ以上にきわめて身近で深刻な問題であるからです。

いつ身に覚えのない疑いを受けて、中国司法の闇の中に放り込まれるかわからなくなるのいです。自分が拘束されなくても、家族の誰かがそうなるかもしれないです。欧米流の民主主義に馴れている香港人は、「自由」という価値の大きさを熟知しています。

今回のデモの中核は、主婦であり、家族連れであるといわれています。天安門事件や雨傘運動のように、スター的な指導者もいないです。このことも、中国政府や香港政府に方針の転換を促したのでしょう。

今回の香港の大規模デモが、天安門事件から30周年、そしてブログ冒頭の記事にもあるように、台湾の総統改選期とも重なったことも、相乗効果として中国政府に方向転換を促したのです。とすれば、この際、中国政府、中国共産党は、1997年の香港返還に際しての国際公約、「一国二制度」と「高度の自治」を前向きに、積極的に果たしていく方向に踏み出すべきなのではないでしょうか。

具体的には、まずは香港の司法制度の独立、行政長官の直接普通選挙を実現すべきです。

デモが撤退する気配は今のところないです。運動はおそらく次の目標に向かって再編され、継続するでしょう。「逃亡条例案改正案」の廃案に続き、今後は行政長官の退陣、そして普通選挙による後任長官の選出へと要求が発展していくに違いないです。

ただし、香港デモに同調して、中国共産党が、「逃亡条例案改正案」の廃案に続き、行政官の退陣、さら普通選挙制を導入するということにでもなれば、習近平の権威はかなり毀損されます。

そうなると、習近平は中国共産党内の権力闘争に負けて、失脚しかつての華国鋒のような運命をたどることになります。

華国鋒の運命を知っている習近平は、現状ではG20も迫っているので、厳しい弾圧は控えていますが、G20が終わり、デモが沈静化した頃を見計らって、厳しい弾圧を行い、デモを粉砕しようとするでしょう。

開幕した中国全人代で、政府活動報告のため席を立つ李克強首相。
       左は習近平国家主席=3月5日、北京の人民大会堂

「天安門事件」や「雨傘運動」と今回のデモが違うのは、香港市民が中国本土の「超AI監視技術」を恐れていることです。今回のデモでは、マスク、ヘルメット、ゴーグルなどで顔を隠している参加者が圧倒的に多いです。顔認証システムで、個人を特定されたくないからです。

いずれ中国は香港でも「超AI監視技術」を導入して、デモで実質的に中核になった人々や、その協力者を一網打尽にすることでしょう。

その時は「超AI監視技術」を用いるので、「天安門事件」のときのような虐殺を伴わずに、洗練されたスマートなやり方で、首謀者・協力者などを発見しデモを鎮圧することでしょう。

現在習近平は、このようなことを実施するため、虎視眈々と機会を狙っていることでしょう。おそらく、実行するには半年から一年はかかることでしょう。

なぜそのようなことがいえるかといえば、それは中国共産党の統治の正当性があまりにも脆弱だからです。脆弱であるからこそ、内部での権力闘争があったり、日本を悪魔化して、人民の憤怒のマグマを日本に向けさせ、自らの統治の正当性を強める必要があるのです。

そもそも、中国共産党の中国統治の正当性が高いものであれば、「天安門事件」はなかったでしょう。

こうなると、香港にとって不幸なのはもちろんですが、なにより中国にとって明るい展望は一切見通せなくなります。香港のデモを無理やり鎮圧すれば、たとえそれか従来とはかなりスマートなやり方であったとしても、さらに香港市民を怒りをかい、国際的にも非難されることになります。

米国は最近米国国務省のキロン・スキナー政策企画局長が、ドナルド・トランプ米政権が、中国を覇権抗争の相手国と見なしていることを明確にしています。その背景として、トランプ政権下で急速に対中国強硬論が高まる中、ついに米中の間の対立についても、「文明の衝突」が参照されるようになってきたのです。

米国は、現在の米中の対立は、すでに貿易戦争などの次元ではなく、米国文明と中国文明の衝突であるとみなしているのです。これは、価値観と価値観のぶつかり合いなのです。

そのような中で、中国が最新のテクノロジーを用いたスマートなやり方であっても、香港のデモを鎮圧すれば、米国の「文明の衝突」という観点からの中国の見方を正当化することになります。

そうなると、米国は抑止力としては武力を使うものの、直接武力は用いることはないでしょうが、中国が先進国なみに社会構造改革をして民主化、政治と経済の分離、法治国家化を求めるようになることでしょう。しかし、中国共産党はこれを実行できません。なぜなら、これを実行してしまえば、完璧に統治の正当性を失い、中国共産党は崩壊するしかないからです。

おそらく、中国共産党は米国の要求など聞く耳をもたず、香港デモを無理やり鎮圧して、滅びの道を選ぶでしょう。そうして、米国は中国共産党が崩壊するまで、冷戦をやめないことでしょう。

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2019年6月22日土曜日

【G20大阪サミット】大阪から世界が動く 米中貿易摩擦で歩み寄り焦点 日本、初の議長国―【私の論評】G20前後の安倍総理の意思決定が、安倍政権と国民の運命を左右することになる(゚д゚)!


G20サミット等開催地

主要国の首脳が一堂に会する20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)が28、29日、大阪市で開かれる。貿易摩擦、海洋プラスチックごみ問題など、さまざまな課題で議論が交わされ、初の議長国を務める日本の手腕が注目される。会場となる大阪では2025年大阪・関西万博の開催やカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致を控えており、G20を契機に世界への魅力発信を目指す。一方、市内は大規模な交通規制が行われ、全国から警察官が集まるなど厳戒態勢を敷き、会議の成功へ万全の態勢を取る。


 ■米中貿易摩擦、歩み寄り焦点 日本、初の議長国

 G20大阪サミットでは、米中貿易摩擦をめぐる議論が注目を集めそうだ。対中貿易赤字を問題視するトランプ米大統領は5月、制裁関税「第4弾」として、中国からのほぼ全ての輸入品に高関税を課す準備を開始。中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)への輸出禁止措置も決めた。トランプ氏は大阪で中国の習近平国家主席と会談することを表明、摩擦が緩和されるか注目される。

 世界経済の成長持続もテーマ。その一環として日本はデータの自由な流通を促すルール作りを提案する。

 安倍晋三首相は、消費者や産業活動が生むビッグデータなどへの規制を各国でそろえて広く活用できれば、新たな富を生むと説く。根底には、外国企業に対し、顧客データの国外持ち出しに厳しい制約を課す中国に圧力をかける思惑もある。米グーグルなど巨大IT企業に対する「デジタル課税」の統一ルールの方向性も確認する。

 自由貿易の維持に向け、世界貿易機関(WTO)改革も取り上げるが、各国の主張は入り乱れている。WTO上級委員会が韓国による福島県産などの水産物禁輸を容認したことも踏まえ、日本は紛争解決機能の向上を主張。欧州連合(EU)も機能強化を求める一方、中国の不公正貿易に対するWTOの態度が甘いと批判する米国は上級委の人事を拒むなど議論はまとまりを欠く。

 また、世界で年間800万トンに上るとされる海洋プラスチックごみ問題も議論する。政府はプラごみ削減に向けた「プラスチック資源循環戦略」を策定し、安倍首相も「途上国の支援や実態把握に取り組む」と明言。海洋プラスチックごみの流出元の多くは中国やインドネシアなどで、議長国として問題解決に取り組む姿勢をアピールする。


【用語解説】G20

 先進国と新興国の20カ国・地域が入る国際会議の枠組み。源流はアジア通貨危機後の1999年に開かれた財務相・中央銀行総裁会議。リーマン・ショックの起きた2008年に初めて首脳会議が開かれ、定例化した。日米欧の先進7カ国(G7)のほか、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、南アフリカ、サウジアラビア、トルコ、欧州連合(EU)で構成している。参加国のGDP合計は世界の8割以上、人口は約6割を占める。

【私の論評】G20前後の安倍総理の意思決定が、安倍政権と国民の運命を左右することになる(゚д゚)!

トランプ米大統領は、28─29日の20カ国・地域(G20)首脳会議(大阪サミット)で中国の習近平国家主席と会談したいとの考えを表明しています。しかし現時点では、万一会談が実現しても貿易摩擦解消に向けた進展があるとの期待は乏しいです。

ワシントンと北京の外交官や政府高官などによると、貿易協議が物別れに終わった先月以来、米中両国の関係がとげとげしさを増す一方となっているため、会談を行うための準備作業すら十分ではないそうです。

逆に会談が不調に終われば、両国の関税合戦は激しさを増し、トランプ氏が中国の通信機器大手華為技術(ファーウェイ)と取引する企業の免許を取り消したり、中国側がレアアースの対米輸出禁止に動く可能性もあります。

ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は19日、20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)に先立ち、中国側の対米首席交渉官、劉鶴副首相と会談する見通しを示しました。

ライトハイザー代表は議会で、一両日中に劉鶴副首相と電話で協議した後、G20サミット開催地の大阪でムニューシン財務長官と共に会うと見通しました。


米中通商協議がいつ再開されるかはまだ分からないとしながらも、米国には中国と取り組んでいく明確な意思があると表明。通商合意を得ることは米中両国の国益にかなうとの考えを示しました。

ただし、米中貿易摩擦に関して、G20で何らか解決策が出て、一気に解決するということにはならないのははっきりしています。
米国は昨年夏から秋にかけて、まず対中制裁の第1弾、第2弾として計500億ドル(約5兆5000億円)分の中国産品に25%の追加関税を発動。第3弾として2000億ドル分に10%の追加関税を上乗せし、この2000億ドル分については5月10日、税率を10%から25%に引き上げました。

13日には「第4弾」の対中制裁措置の詳細を発表。対象となるのは3000億ドル分の輸入品で上乗せする税率は最大25%。最短で6月末にも発動可能な状態になる見込みです。

さらに、15日には、中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)への部品の輸出禁止措置を発動し、関税以外の手段でも締め付けを強化。これに対し、中国は6月1日、米国からの輸入品600億ドル分に対する追加関税率を従来の最大10%から最大25%に引き上げました。

米中互いの対抗措置がエスカレートすれば、短期的には日本企業にもダメージが及びます。

華為の日本企業からの調達額は昨年、66億ドルに達し、今年は80億ドルに増える見通しでした。華為排除の動きが広がる中、同社との取引を停止する日本企業が続出しているほか、第4弾の対中制裁を見据えて中国から生産拠点を移す「脱中国」の動きも出てきた。

「10月時点で海外経済が減速を続けている場合、わが国経済を下押しする影響が大きくなる可能性はある」

日本銀行の桜井真審議委員は5月30日、静岡市での講演で増税の影響をこう分析し、警戒感を示しました。

日本銀行の桜井真審議委員

経済協力開発機構(OECD)は5月21日、世界全体の実質GDP成長率が2018年から縮小し、19年は3.2%、20年は3.4%との経済見通しを発表しました。日本については、19年と20年のGDP成長率をそれぞれ0.7%、0.6%とし、3月の前回予測から0.1ポイントずつ下方修正しました。米中貿易摩擦の影響が大きく、OECDは「持続可能な成長を取り戻すべく、各国政府は共に行動しなければならない」と強調しました。

そのような中、日本が初めて議長国を務めるG20サミットが開かれます。日本は議長国として、機動的な財政政策などを各国に呼びかける可能性が高いです。それにもかかわらず、日本のみが増税すれば、日本発の経済不況が世界を覆うことになる可能性を指摘されることにもなりかねません。

平成28年5月下旬、三重県で開かれた主要国首脳会議(伊勢志摩サミット、G7)で、安倍首相は「リーマン・ショック級」の危機を強調しながら、増税延期の地ならしを進め、直後に延期を正式表明しました。

伊勢志摩サミットで「リーマン・ショック級」の危機を強調した安倍総理

果たして、G20はG7の再来となるのでしょうか。もし今回増税すれば、日本経済は再びデフレスパイラルの底に沈み、内閣支持率がかなり落ちるのは目に見えています。

それでも、増税を実施した場合、安倍政権は憲法改正どころではなくなります。それどころか、野党はもとより与党内からも安倍おろしの嵐が吹き荒れレームダックになりかねません。

まさに、G20前後の安倍総理の意思決定が、安倍政権と国民の運命を左右することになります。

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2019年6月21日金曜日

【瀕死の習中国】チャイナ・セブンも死闘? 中国共産党幹部「利益奪取と権力闘争で、死ぬか生きるかの戦いしている」―【私の論評】中国共産党内の熾烈な権力闘争は、日本にとって対岸の火事ではない(゚д゚)!

【瀕死の習中国】チャイナ・セブンも死闘? 中国共産党幹部「利益奪取と権力闘争で、死ぬか生きるかの戦いしている」


「利益奪取と権力闘争で、死ぬか生きるかの戦いをしている」

 中国共産党のある高級幹部が、米ハーバード大学を訪れた際にこう吐露したことを、同大学のシニアフェロー、ウィリアム・オーバーホルト博士が昨年末、英BBCの番組で明かした。

 オーバーホルト氏は著書『中国・次の超大国』(サイマル出版会)で、1995年にアジア太平洋賞特別賞を受賞するなど長年のチャイナ・ウオッチャーとして知られる。

 米中貿易戦争について、同氏は「中国の指導者が決断をしない」と暗に習近平国家主席を非難している。週刊東洋経済PLUS(ウェブ版・2018年9月15日号)によると、同氏は「中国の成功は続かない」とも語っていたという。

 香港紙「アップルデイリー」も17日、評論家の話として、中国共産党の最高幹部、中央政治局常務委員7人(チャイナ・セブン)と、次に続く中央政治局委員を合わせた25人は、習一派の割合が高いが、習氏の新路線を強く信任しているわけではないと報じた。

 同紙によると、序列3位の栗戦書氏は習氏に近いが、序列2位の李克強首相と、序列4位の汪洋副首相、江沢民派で序列7位の韓正氏は、習氏に対して暗に批判的であるという。序列5位の王滬寧氏と、序列6位の趙楽際氏は、国内外の問題に不自然なほどシラけている、などを報じた。

 李氏と汪氏は共産主義青年団派の背景を持ち、習氏との関係はそもそも遠い。

 一方、プロパガンダを担う王氏は、一時、習氏を皇帝のごとく持ち上げてみせたが、実際のところ習一派の敵、江沢民元国家主席派の下で暗躍しているとの説が有力だ。

 上海の復旦大学で、国際政治分野の教授だった王氏は、別名「江派二号人物」と呼ばれた曽慶紅元国家副主席(元序列5位)に見いだされた。30年前の「天安門事件」以降、王氏は党指導理論のブレーンとなり、中央政策局主任の立場で、江沢民・胡錦濤・習近平の総書記3代に仕えた“頭脳”である。

 別の表現では、共産党の一党独裁体制を強化していく目的で、全国に多数いる教授の中から選ばれ、ロケット出世をしてきたのが王氏である。

 ふと、毛沢東時代の中国最高幹部内で起きていた死闘を思い出す。

 毛主席の後継者だった劉少奇氏は失脚し、獄中死した。その後、林彪氏とその一派は「毛沢東天才論」で持ち上げて懐柔しようと試みた。その裏で、暗殺とクーデターを企てたが失敗。ソ連へ亡命する林氏を乗せた飛行機が、モンゴルに墜落して死亡した。1971年9月13日の「林彪事件」である。

 現チャイナ・セブンも死闘の最中にあるとすれば、近い将来、何が起きてもおかしくはない。

 ■河添恵子(かわそえ・けいこ) ノンフィクション作家。1963年、千葉県生まれ。名古屋市立女子短期大学卒業後、86年より北京外国語学院、遼寧師範大学へ留学。著書・共著に『「歴史戦」はオンナの闘い』(PHP研究所)、『トランプが中国の夢を終わらせる』(ワニブックス)、『中国・中国人の品性』(ワック)、『世界はこれほど日本が好き』(祥伝社黄金文庫)など。

【私の論評】中国共産党内の熾烈な権力闘争は、日本にとって対岸の火事ではない(゚д゚)!

昨日の記事に掲載したように、新華社通信のネット版である新華網は7日、アメリカとの妥協を主張する国内一部の声を「降伏論」だと断罪して激しく攻撃。9日には人民日報が貿易問題に関する「一部の米国政治屋」の発言を羅列して厳しい批判を浴びせました。

もはや対米批判の領域を超えて国内批判に転じています。それらの批判は捉えようによっては、習主席その人に対する批判であるとも聞こえます。

このような傾向は昨年からありました。昨年7月9日付『人民日報』(中国共産党機関紙)の第1面が奇妙だと話題になっていました。習近平主席の文字と写真がまったく掲載されていなかったからです。7月19日現在、同日以外、7月第1面はすべて習主席礼賛のオンパレードでした。

その2日後(同11日)の『人民日報』で、今度は、華国鋒批判が始まりました。これは、毛沢東型個人崇拝を復活させた習近平主席への“あてつけ”だったのではないかとの憶測が広まりました。

江沢民元主席、胡錦濤前主席、朱鎔基元首相等は「元老会」を形成しています。元老達は、習近平主席の個人崇拝志向に対し、不満を持っていると伝えられていました。

「元老会」が、海航集団・王健会長のフランスでの不審死をめぐり、その真相究明に動き出したとされていました。王岐山国家副主席には、海航集団を“私物化”している疑惑があったのです。

仮に、昨年の時点で王副主席が失脚すれば、習近平主席への打撃は計り知れないものになっていたはずです。「元老会」はこの事件を契機として、習主席に対し巻き返そうと試みていたのではないでしょうか。それが『人民日報』の紙面に表出したのかもしれません。

一方、昨年7月4日、不動産会社に勤める董瑶琼という若い女性が、上海の海航ビルに貼ってあった習近平主席のポスターに、墨を塗るという事件が起きました。

董瑶琼とされる女性

董瑶琼は、「共産党独裁に反対」を唱え、習主席を批判しました。実に、大胆な行動でした。ネットでは称賛されました。だが、まなもく董は公安に捕まり、その後、行方不明になりました。

その他にも異変は多くありました。その中でも特筆すべきは、アリババのマー会長の電撃辞任劇です。

マー会長は、昨年9月10日にロシア・ウラジオストクで開かれた「東方経済フォーラム」に参加するためにロシア入していたのですが、「1年後の来年9月10日に会長を辞任する」と電撃的に宣言したのです。

これについては、様々な憶測が飛びましたが、私も推測してみました。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
アリババ創業者突然の引退宣言、中国共産党からの「身の危険」…企業家が次々逮捕・亡命―【私の論評】習近平がすぐに失脚すると見誤った馬会長の悲運(゚д゚)!
昨年「東方経済フォーラム」に参加したプーチン大統領とマー会長

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事では、マー会長の辞任は、習近平失脚の時期を見誤ったこととしました。上でも述べたように、昨年7月9日付『人民日報』(中国共産党機関紙)の第1面に習近平主席の文字と写真がまったくなかったという出来事がありました。

他にも、習近平にまつわる珍事もありました。これをみてマー会長は、習近平の失脚の時期は近いと判断し、行動したのでしょう。ところが、習近平は意外にしぶとく、少なくともここ1年くらいは失脚することはありえないというのが実体だったのでしょう。実際、習近平は現在でも失脚していません。

そのため、習近平側からの報復を恐れて、はやばやと引退する旨を明らかにしたのでしょう。以前はこの変わり身の速さが、馬雲を救ったのでしょうが、今回はこれが災いしたようです。これが、真相ではないかと私は思います。

さて、当時から習近平政権は「自由化」・「民主化」に背を向けていました。そこで、中国共産党による「支配の正当性」は、経済発展しかない状況でした。

しかし、その経済が近年は全く振るいません。それどころか、最近では米国による対中国貿易戦争は、完璧に冷戦の次元に高まりました。

そうなると経済がこれから上向くとことは当面ないでしょう。そうなると、長老や反習近平派の不満は蓄積される一方です。さらに、香港の200万人を集めたデモは、中国本土への刑事事件容疑者の引き渡しを可能とする「逃亡犯条例」の改正案を事実上の廃案に追い込む勢いです。

こうなると、習近平は八方塞がりです。まさに、中国共産党内部では、チャイナセブンと政治局員らが壮絶な権力闘争を展開し「利益奪取と権力闘争で、死ぬか生きるかの戦いをしている」のでしょう。

そうして、気をつけなければならないのは、普通の国だと、米国から冷戦を挑まれたりすれば、挙国一致でこれにあたったりするのですが、中国はそうではないということを認識しておくべきです。これは、トランプ政権と議会が、超党派で中国に挑もうとしている米国とは対照的です。

さらに、忘れてはならないのは、中国は外交でもなんでも中国内部の都合で動く国であることです。中国では、たとえ対外関係であっても、自国の内部の都合で動くのです。普通のまともな国なら、対外関係と内部とは分けて考え、内部の都合により対外関係が動くなどということはありません。

しかし、中国の場合はそうではありません。反習近平派が、尖閣問題を中国内部の権力闘争に利用すること等は十分にありえることです。元々中国は、巨大国家であるがゆえの「内向き」な思考を持っており、しかも古代からの漢民族の「戦略の知恵」を優れたものであると勘違いしており、それを漢民族の「同一文化内」ではなく、「他文化」に過剰に使用することによって信頼を失っています。

孫子の兵法書

このような中国の特性から、習近平を貶めるために、反習近平派が手持ちの人民解放軍や民兵をつかって、尖閣を占領するなどということも十分ありえることです。それらが、日本の自衛隊によって駆逐されれば、習近平の権威は一気に落ち込み、半習近平派は権力闘争で勝利を収めることができるかもしれません。

もし、その確率が高いと判断した場合は、実行することも十分にありえます。その逆に、習近平派が尖閣を占領すれば、権力闘争に有利と判断すれば、これも実行するかもしれません。

熾烈な中国内部闘争ですが、日本としてもそ行方を注意深く見守るべきです。内部の抗争だけであるとみていると、ある時とんでもない飛び火があるかもしれません。まさに日本にとっては対岸の火事ではないのです。

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