2020年6月24日水曜日

傲慢な中国は世界の嫌われ者— 【私の論評】米国による中国への本格的な金融制裁実施は時間の問題になってきた!(◎_◎;)

傲慢な中国は世界の嫌われ者

ブラマ・チェラニ(インド・政策研究センター戦略問題専門家)



<初動ミスへの批判に耳を貸さず、強硬姿勢で国際社会の信頼を失い孤立の道へ。本誌「中国マスク外交」特集より>

このところ世界中で中国批判の大合唱が起きている。新型コロナウイルス発生初期における情報隠しがパンデミック(世界的大流行)を招いたとして中国の責任が問われているのだ。だが中国は批判に耳を貸さず、香港への締め付けを強めるなど強硬姿勢一点張りで、火に油を注いでいる。

他国にマスクや防護服を提供し、暗黙のうちに政治的な見返りを求める、ウイルスの発生源に関する調査をかたくなに拒んだ揚げ句、国際世論の圧力に負けて渋々受け入れる──習近平(シー・チンピン)国家主席率いる中国政府のこうした迷走ぶりは信頼を失墜させ、自国を孤立に追い込むばかりだ。

習に良識があれば、中国はパンデミックで低下したイメージを立て直せたはずだ。破綻寸前に陥った「一帯一路」の参加国に債務の返済を免除するなり、貧困国に見返りを求めずに医療援助を行うなり、大国にふさわしい寛大さを示せばよかった。だが習政権にそんな度量はなかった。

けんか腰の外交姿勢にせよ、周辺地域での拡張主義的な活動にせよ、中国のやり方に世界は警戒を募らせている。にもかかわらず習は今の危機を覇権拡大の好機と見なしている。

実際、中国はパンデミックを最大限利用しようとした。1月時点で防護服などを買い占め、その後に価格をつり上げて暴利を得た。欠陥品のマスクや検査キットを売り付けたことも国際社会の怒りを買った。

習のワンマン支配の危うさ

世界がコロナ禍と闘っている隙に、中国軍は国境地帯でインド軍に小競り合いを仕掛け、尖閣諸島周辺の海域で日本の漁船を追尾するなど挑発行為を繰り返している。南シナ海の島々を管轄する行政区を新たに2つ設定し、この海域の支配を既成事実化する動きも関係国の神経を逆なでした。

オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源に関する調査を呼び掛けると、中国はこれに猛反発。オーストラリア産の大麦に高関税をかけるなど報復措置に出て、両国の関係は急速に悪化した。

中国のかたくなな調査拒否は、2011年の東日本大震災で起きた福島第1原子力発電所の事故に関するIAEA(国際原子力機関)の調査を躊躇なく受け入れた日本とは対照的だ。それでもWHO(世界保健機関)の総会で調査を求める決議案が採択される形勢になると、習はメンツを失うまいとして土壇場で調査受け入れに転じた。

コロナ後の世界は元の姿には戻らない。国際政治の在り方も変わるし、経済も変わる。危機をきっかけに世界は中国頼みのサプライチェーンの危うさに気付き、既に生産拠点の分散化に着手している。

サプライチェーンの一極集中もさることながら、コロナ禍が浮き彫りにしたより根本的な問題は習のワンマン支配の危うさだ。中国は初動対応についての批判をかわそうと事実をごまかし、外交攻勢や情報操作で大国の面目を保とうとした。対外的な隠蔽工作や他国に対する恫喝といった習政権の恥知らずなやり方は今に始まったものではないが、今回ばかりはそれが全て裏目に出たようだ。

アメリカの世論は今、中国とその指導層にかつてなく厳しい見方をしている。日米など主要国は製造業の「脱中国」を促すため、生産拠点を中国から移す企業に補助金を出す意向だ。インドは中国からの直接投資を事前に政府が審査する制度を初めて導入した。

1970年代末の改革開放以降、今ほど中国に対する世界の風当たりが強まったことはない。習の過剰な支配欲はブーメランのように自国に跳ね返ってきた。中国発のパンデミックが国際社会における中国の地位低下を招き、将来の成長を阻む事態はもはや避けられそうにない。

©Project Syndicate

<2020年6月30日号「中国マスク外交」特集より>

【私の論評】米国による中国への本格的な金融制裁実施は時間の問題になってきた!(◎_◎;)

中国の風当たりが強くなるくらいなら、鉄面皮の習近平は何も気にせず、これからも傲慢な態度を改めないでょう。

しかし、米国においては、詰将棋のように対中政策を次から次へと厳しくしています。その際タイルものは、ファーウエイ潰しでしょう。現状では、ファーウエイは、半導体の供給停止で5Gスマホ開発が不可能になっています。



それでも、なんとか新しいスマホを開発をしていますが、現状では基本的にはアンドロイでありながら、Googleからソフトの供給が絶たれ、Googleなしのスマホを開発しています。いずれは、アンドロイドとは一線を画したスマホを開発するつもりなのかもしれません。

現在、半導体生産はファブレスの設計会社とファウンドリ(受託生産会社)による分業が進んでいます。また、設計に関しても、アームなどのCPUの基本回路、半導体版CADに該当するシノプシス、ケイデンス・デザイン・システムズ、メンター・グラフィックスのアメリカ3社の協力なしでは、新規の開発はできません。

また、設計だけでなく、TSMCなどからの半導体の販売を禁止することで製造の部分も押さえているため、ファーウェイは最先端プロセスでの半導体が手に入らなくなりました。これに対応するために、中国は中芯国際集成電路製造(SMIC)にオランダのASMLの半導体製造装置の輸入を画策していたのですが、これも米国に止められています。そのため、現行の14nmプロセスが最新ということになるわけですが、これでは低消費電力と小型化が求められる5G対応の最新スマートフォンなどに使用することはできません。

その上で、米国の規制を破った企業にはドル決済禁止や巨額の罰金などの厳しい制裁が課されることになっており、それは企業の倒産を招くことになります。中国は巨額の報酬で人を集めていますが、これは製品販売だけでなく技術移転の禁止でもあるため、人も制裁対象になります。

そうして、制裁の対象になった人は、得た利益と個人資産を没収され、長期の懲役刑が待っています。外国であっても、犯罪人引き渡し条約があれば米国に身柄が引き渡されることになり、同時に米国ドルは基軸通貨になっていることもあり、米国は世界中の銀行口座を監視できるため、外国資産であっても凍結や没収の対象になります。

さらに、米国の大学内では“スパイ狩り”が始まっています。中国は「千人計画」の名のもとに世界中の研究者に資金援助を行い、技術移転を求めてきたのですが、これは本来、米当局への許可や報告が伴わなくてはならないものです。現状では、最先端分野の研究に関して許可が下りる可能性はないに等しく、多くは無許可無報告で行われていたわけです。これに対して、順次調査が進んでおり、摘発が相次いでいます。

また、米国は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、中国に滞在する約7万人の自国民に帰国命令を出しましたが、そのほとんどがホワイトカラーであり、技術者や研究者です。

通信業界では、NTTが主導する形で2025年に5.5G、30年に6Gの採用が始まる予定になっていて、日本の通信および半導体メーカー復活に向けての希望となっています。そうして、これはインテルやマイクロソフトなど米企業との協力と連携によるものであり、日米両政府が支援するプロジェクトです。必然的に、この枠組みからファーウェイをはじめとする中国企業が外されることは必至です。

米国の一連のファーウェイ対応は、まるで詰将棋を見ているかのようです。

さらに、米国はコロナ以前から、様々な対中国関連の法律を施行させていましが、コロナ禍の最中においても、「ウイグル人権法」を施行しました。

6月17日トランプ大統領は、中国でウイグル族への人権侵害があるとして、これに関わった中国の当局者に制裁を科す「ウイグル人権法案」に署名し、法律が成立しました。

「ウイグル人権法」は、中国の新疆ウイグル自治区で、大勢のウイグル族の人たちが不当に拘束されているとして、アメリカ政府に対しウイグル族の人権侵害に関わった中国の当局者に制裁を科すよう求める内容で、先にアメリカ議会の上下両院で可決されていました。

これは、よりわかりやすくいうと、ウィグルの迫害に関連した、中国の政府高官の資産を凍結したり、米国への入国を禁止するものです。

この動きはますます加速しています。たとえば、

「日本の尖閣諸島への中国の領有権を認めてはならない」「中国の尖閣海域への侵入には制裁を加えるべきだ」

このような強硬な見解が米国議会で超党派の主張として改めて注目され始めたのです

尖閣諸島(沖縄県石垣市)に関して、これまで米国政府は「領有権の争いには中立を保つ」という立場を保ってきました。ところが、中国が米国にとって最大の脅威となったことで、東シナ海での膨張も米国は阻止すべきだとする意見が米国議会で広まってきたのです。

尖閣諸島 手前航空機は海自P3C哨戒機

2019年5月に、ミット・ロムニー(共和党)、マルコ・ルビオ(共和党)、ティム・ケイン(民主党)、ベン・カーディン(民主党)など超党派の14議員が「南シナ海・東シナ海制裁法案」を上院に提出しました。

同年6月には、下院のマイク・ギャラガー議員(共和党)とジミー・パネッタ議員(民主党)が同じ法案を下院本会議に提出しました。今回の下院共和党研究委員会の報告書は、その法案に米国議会の立場が表明されているとして、法案への支持を明確にしました。

なお上院でも下院でも法案は関連の委員会に付託されましたが、まだ本格的な審議は始まっていません。今回、下院共和党研究委員会は改めてこの法案の重要性を提起して、その趣旨への賛同と同法案の可決を促したのです。

今回、新たな光を浴びた「南シナ海・東シナ海制裁法案」の骨子は以下のとおりです。
・中国の南シナ海と東シナ海での軍事攻勢と膨張は、国際的な合意や規範に違反する不当な行動であり、関係諸国を軍事的、経済的、政治的に威嚇している。 
・中国は、日本が施政権を保持する尖閣諸島への領有権を主張して、軍事がらみの侵略的な侵入を続けている。この動きは東シナ海の平和と安定を崩す行動であり、米国は反対する。 
・米国政府は、南シナ海、東シナ海でのこうした不当な活動に加わる中国側の組織や個人に制裁を科す。その制裁は、それら組織や個人の米国内での資産の没収や凍結、さらには米国への入国の禁止を主体とする。
同法案は、中国に対する経済制裁措置の実行を米国政府に義務付けようとしています。つまり、米国は尖閣諸島に対する中国の領有権も施政権も否定するということです。米国政府は、中国当局の東シナ海での行動は、米国の規準でも国際的な基準でも不当だとする見解をとり、従来の「他の諸外国の領有権紛争には立場をとらない」という方針を変更することになります。

「ウイグル人権法案」も「南シナ海・東シナ海制裁法案」もその制裁は、当該法案に抵触した組織や個人の米国内での資産の没収や凍結、さらには米国への入国の禁止を主体としています。

今後米国は、ありとあらゆる中国の個人や、組織を対象にして、資産凍結や入国禁止の措置が取れるようにし、実行していくことになります。

最初は、共産党幹部から始まり、もっと下の層や、地方の幹部にまで制裁が及ぶ可能性があります。

「中国当局者の資産凍結」や「渡航制限」以外にも、「査証の取り消し」「中国人に対する学生査証の発給停止」「米金融機関による中国企業への融資制限」「中国企業の米証券取引所への上場禁止」などもあります。

この制裁に中国は耐えられるのでしょうか。たとえ、耐えたとしても、さらに厳しい制裁もあり得ます。それは、本格的な金融制裁です。

トランプ大統領

トランプ大統領は関税戦争以来、米国と中国の隔離を進めてきたといえます。モノ、人、金の相互依存を引き離すべく、米国企業に中国を去るよう勧めてきました。トランプ大統領は2020 年の大統領選挙への関心のあまり、ニューヨークの株価が気になりすぎていると批判されていますが、関税賦課については、米国経済への悪影響を最小限にしながら、2018 年から、2 年をかけて行ってきたとも言えます。

金融制裁については、大統領も議会も米中間の金融分離が十 分進んで米国への被害が少な区なる状況を待っているようです。大統領は米国企業に中国から離れろと言い続けています。まず、米国の中国への資金貸与を制約するでしょう。さらなる関税賦課も在中米国企業を中国のサプライチェーンから外す効果はあります。あとは時期を待ち、正当な理由を見つけることです。

最近の武官ウイルスにの隠蔽や、ウイグルでの人権非難や香港での弾圧事件、南シナ海や台湾海峡、尖閣諸島での事件は、金融制裁の十分な口実となります。

上の記事でも指摘されているように、最近の傲慢不遜な態度ばかりとる中国は、米国に金融制裁をされても、他国はそれを真っ向から批判するということはないでしょう。

コロナ禍が、全ての国際情勢の変化を促進しています。もう時間の問題でしょう。

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香港の国家安全法は「内政問題」という誤った主張— 【私の論評】2047年問題があっても西側民主主義諸国は団結により、当面の香港の自由を守る価値は十分ある!(◎_◎;)

トランプ大統領「ウイグル人権法案」署名 中国反発必至の情勢— 【私の論評】「ウイグル人権法」は中共が主張するような内政干渉ではないし、国際法に違反でもなく前例もある!(◎_◎;)











2020年6月23日火曜日

香港の国家安全法は「内政問題」という誤った主張— 【私の論評】2047年問題があっても西側民主主義諸国は団結により、当面の香港の自由を守る価値は十分ある!(◎_◎;)

香港の国家安全法は「内政問題」という誤った主張


岡崎研究所

 6月6日号の英Economist誌は、「香港は中国と世界をつなぐ通路であり続けられるのか。金融センターとしてのその将来はこれに掛かっている」との社説を掲載している。


 今のところ、新たな国家安全法を香港に適用するという5月28日の中国共産党の決定以降も、香港の金融市場は比較的落ち着いているが、今後どうなるかを占う基準として、エコノミスト誌の社説は、次の3つを挙げた。

 1つ目の基準は、中国が新しい国家安全法をどのように実施するか、である。たとえば、独立した裁判官によって適用されるのか、中国共産党に同情的な裁判官によって適用されるかである。2つ目は、アメリカが香港のドル支払いシステムを制裁対象とするかどうかである。もし制裁対象となれば、香港の金融市場にとって即時の混乱を引き起こす可能性がある。そして最後は、中国共産党が香港での抗議行動の抑圧や政府批判者への威嚇だけではなく、裁判所、中央銀行、規制当局、会計処理の適正さなど、香港の独立した機関を損なわないかどうかである。香港がこれらのテストに合格しない場合、グローバルな金融センターとしての地位は失うことになるだろう。

 香港情勢が今後どうなるか、まだ不明確な点が多くあるが、はっきりしている点もある。中国の王毅外相は、香港問題は中国の内政問題であり、他国は内政には干渉しないようにとの発言をしている。が、これは間違った主張である。香港の1997年の中国返還を定めた1984 年の「英中共同声明」は、名前が共同声明なので誤解している人もいるが、れっきとした条約で、批准条項もあり、英中間で批准書も交換されている。


 今回、国家安全法を中国の全国人民代表大会(全人代)で作ると言うのは、香港は立法権を持つという条項に違反している。中国が条約という国際法に違反していることは、はっきりしている。そのことに文句をいうのは内政干渉には当たらず、条約は守られるべしとの国際法の大原則に基づく正統な主張である。

 「英中共同声明」については、その違反を公式に咎めうるのは当事国である英国であるが、香港の法的地位は、他国の権益にも関係がある。日米両国も、そういう利害関係国として一定の発言をすることが許されるだろう。

 最近の中国は、新型コロナウイルスを米軍が武漢に持ち込んだとか、中国が武漢で新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込んだことに世界は感謝すべきとか、安倍総理が新型コロナウイルスの発生を中国の責任にしようとしたと非難するなど、ゲッベルス並みの嘘も百回繰り返せば真実になるということに基づく宣伝を行っている。米軍がウイルスを持ち込んだとの陰謀論を最初に打ち出した趙立堅は報道官に取り立てられている。今度の王毅外相の「内政干渉論」も同工異曲である。

 こういう中国の国際法違反や不当な宣伝工作については、厳しく追及していくべきであろう。

 香港の経済の将来については、米国がどのような制裁を課すかにより変わってくる。上記のエコノミスト誌の社説があげている3つのポイントは重要であるが、政治的には反発するが、経済的にはおおむね従来通りという姿勢は良くないと考えている。中国がその国際法違反に何の代償も払わないということにしてはならない。香港人の経済的利益を損ねるのは忍び難いところがあるが、国際法違反に対しては、きちんとした不利益を中国に与えるべきであろう。そうでないと、中国の国際法違反行為は南シナ海でのものを含め、ブレーキがかからず、将来に禍根を残すことになろう。

 レーニンは「資本家は利潤のためには自らを縛り首にする縄でさえ売る」と言ったことがあるが、香港についての政経分離の対応は中国の狙い通りになることであるほか、中国の軽侮を招くと思われる。

 香港問題については、西側民主主義諸国の団結を重視すべきである。それが日本の安全にもつながる。

【私の論評】2047年問題があって西側民主主義諸国は団結により、当面の香港の自由を守る価値は十分ある!(◎_◎;)

冒頭の記事にもあるように、香港の1997年の中国返還を定めた1984 年の「英中共同声明」は、名前が共同声明なので誤解している人もいるが、れっきとした条約で、批准条項もあり、英中間で批准書も交換されています。

しかし、これとは別の問題もあります。「2047年問題」です。今から27年後、2047年は、英国と中国との取り決めによって「一国二制度」が終了する期限です。27年後は遠い先のように感じられますが、多くの人、特に香港若者にとっては「近い将来」でもあります。20歳の若者は、27年後には47歳であり、その頃は十分に生きており社会の中核を占めるような存在になっている可能性がかなり大きいです。

最近香港の若者の中に「独立」を目指す動きが出てきていましたが、私にはこれは、当然の動きのように見えます。むろんそれを中国本土の政府は許さないでしょう。

そもそも一国二制度とは何かについて振り返っておきます。それを可能にしているのは「特別行政区」の制度です。中華人民共和国憲法(1982年以降)第31条は「国家は、必要のある場合は、特別行政区を設置することができる。特別行政区において実施する制度は、具体的状況に照らして、全国人民代表大会が法律でこれを定める」と規定しました。


香港とマカオについて全国人民代表大会が「特別行政区基本法」を制定し、2つの特別行政区を設置したのです。

この「二制度」故に香港の人々はこれまで基本的にはイギリス統治の時とほぼ同じ生活スタイルを保ち、法的権利を享受してきました。そのため日本人が香港に行っても、「自分の国とは違う」とはあまり感じませんでした。親しみが持てました。大陸中国の本土に旅行に行けば、橋(戦略的施設との判断)の写真も許されないのとは全く違います。現在までの中国本土と香港は、実質的に「違う国」のようです。

しかし中国本土政府は、いずれ完全に返還される香港への統治スタイルを徐々に強化・硬化してきました。「いずれ帰ってくる」のだから、その準備を中国としても急がねばならないと考えたのかもしれません。

2014年6月10日に公表された中国国務院(政府)新聞弁公室の白書では、香港特別行政区における一国二制度について「香港固有のものではなく、全て中央政府から与えられたものである」と定義しました。これは、中央政府がいつでも剥奪できると言っているようなものでした。

これに並び、同年8月31日に第12期全国人民代表大会常務委員会が2017年からの香港の普通選挙制度について、事実上の香港親中派優遇、民主派締め出し策を設けることを発表しました。この頃から、香港では中国中央政府の支配力強化に対する強い懸念が表面化していました。

同じような地位にあったマカオが、香港に先行して中国化が進むのを見て、香港の人々の間に警戒感が強まったこともありました。マカオでは返還前の一二・三事件(1966年12月3日にポルトガル領マカオで発生したマカオ史上最大の暴動)から事実上本土との一体化が進みました。今ではマカオは返還後の急成長の原動力となった、中国本土からの観光客に強く依存している状態です。


中国が香港市民に中国本土の人民とは異なる権利(発言の自由、経済的豊かさ、選挙への参加など)を認めてきた一国二制度が、始まったのは1997年です。英国の植民地だった香港が中国に返還されるにあたり「50年間は資本主義を採用し、社会主義の中国と異なる制度を維持する」ことが約束され、外交と国防を除き「高度な自治」が認められたのです。香港の憲法にあたる基本法には、中国本土では制約されている言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由などが明記されています。

問題は2047年以降の香港がどうなるのかです。基本的には「一国一制度」になります。ということは、「言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由」などが香港の人たちから剥奪されることになります。

それを香港の人々、特に若者は恐れています。香港は政治環境としては日本など西側の先進国に近いです。皆それを享受し、当然だと思ってきました。だからこそ、27年後に「そうではなくなる」ということは、香港の人々にとっては深刻な問題なのです。

中国のサイドから見れば、27年後の「もうすぐに、いずれ本土と一緒になるのだから、何を今更」という空気感があります。しかし各種の自由を謳歌してきた香港市民には、その傲慢さが許せないようです。香港市民には、「中国の発展の原動力は我々だった」という誇りもあります。

香港市民にとって「27年後に自分がどこに身を置くべきか」は実に切実で深刻な問題なのです。香港ではすでに、「富裕層は米国や欧州など海外に出るのではないか」「多くの人たちは台湾に行くのではないか」との見方がかなり人々の口の端に上っています。国家安全法の導入は、香港市民の先行き不安を一段と強めたと言えます。中国は香港との境界線近くに軍隊まで派遣しました。香港市民の警戒心が強まるのは当然です。

そうした中で当然出てくるのが独立という発想です。昨年9月26日の日経電子版には『「最終目標は独立だ」 香港、一国二制度に不信』という記事がありました。「中国70年目の試練」という、とても良い特集の一つで、ここには「一国二制度は失敗だった。最終的な目標は中国からの独立だ」と主張する若者の声が載っていました。この声は実は多くの香港人を代表するものではないかと思います。

無論中国は将来の台湾を視座に置きながら、それを一番恐れています。これは「一つの中国」というスローガンの崩壊をも意味するからです。そもそも一国二制度は台湾を想定して作られた制度だと言われでいます。

日本の植民地だった台湾をいかにして中華人民共和国に組み入れるかを討議する中で出てきた発想です。しかしそれが実際に適用されたのは香港とマカオでした。台湾でも「独立派」が強い勢力を持っています。

香港が抱える現時点の経済問題も深刻です。香港市民の大部分は、マンションは高根の花ですし、家賃も非常に高いです。今でも普通の若者が部屋を借りるのに相当苦労するといいいます。加えて物価の高さが大きな問題です。それに加えて貧富の格差の大きさもあります。

香港の家賃・生活費が高い一因は明らかに中国本土から資金と人が香港に流れ込んできているからです。香港の一般市民は、それもあって中国本土の富裕層や、中国政府に対する怒りを増しています。中国本土の人民は、「自分たちより先に豊かになったと言って、我々を馬鹿にしている」と香港の人たちに反感を持つという悪循環になっているようです。本土では「香港嫌い」が増えているとも伝えられています。感情的な対立が激化しているのです。

香港では平均住居価格を平均家庭年収で割った数値が世界一で、東京の3倍以上

香港問題については、西側民主主義諸国の団結により、当面香港の「言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由」が守られる可能性は残ってはいます。

しかし、2047年は、英国と中国との取り決めによって「一国二制度」が終了する期限です。その時には、現在の中国の体制が続いていれば、香港でも「言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由」は失われるのです。

ただ、希望もあります。それは、中国共産党一党独裁政権は、過去のものになっているかもしれないからです。

ご存知のように、従来の米中の対立は、コロナ禍を契機に〈米国+他の先進国等〉と〈中国+イラン等の経済弱小国〉の戦いの様相を見せるようになってきました。

特に、香港問題の当事者である、英国は従来は、立場を鮮明にしていませんでしたが、香港問題を機に、中国と対決する姿勢を固めました。特に、米英加豪は対中国で一致しています。

日本やEUもはっきりしないところがありましたが、これも中国と対決する側に傾いていますし、いずれはっきりと対中国へと踏み切るでしょう。特に、私としては、安倍総理に、日独仏伊をまとめて、米英加豪との橋渡しをしていただきたいと思っています。

そうなれば、世界の国々は対中国でまとまるでしょう。親中国的な国はわずかで、しかも中国の資金をあてにするような経済的弱小国がほとんどです。これでは、中国にはかなり部が悪いです。

そうして、こうした先進国の対中国への結束は、コロナ禍が推進したと思います。今後の世界でも中国の体制が変わらなければ、いつ何時コロナ禍のような禍が再び発生するかもしれない疑念は拭いされないからです。

米国等の国々は、中国が体制を変えることを望むでしょう。ただし、中国が体制を変えれば、中国共産党は統治の正当性を失い、崩壊する可能性が大きいです。

それを嫌い中共が体制を変えることを拒むかもしれません。そうなれば、米国等の国々は、徹底的に中国の経済を弱体化されることになるでしょう。

そうなると、27年後には、確実に中国の体制が変わっているか、香港やウイグル、チベットや台湾に対して、強い影響力を及ぼすには経済が衰退しできなくなっている可能性が大です。

であれば、現在西側民主主義諸国は団結により、当面の香港の「言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由」が守る価値は十分にあります。

中国が永遠に香港を支配し続けることはできないのです。それを中国に知らしめるためにも、先進国は団結して香港の自由を守り抜くべきです。

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2020年6月22日月曜日

中国の太平洋進出の行方を握る小さな島国の選挙―【私の論評】日本も米台と手を携えて、キリバスなど南太平洋の島嶼国を支援すべき(゚д゚)!

中国の太平洋進出の行方を握る小さな島国の選挙

                    ニューズウィーク日本版

初めて北京を訪問したキリバスのマーマウ大統領(2020年1月6日)
<昨年、台湾と断交して中国とサプライズ国交回復をした南太平洋のキリバス。中台のどちらを取るかは今度の選挙の最大の争点だ。もし中国なら、太平洋でアメリカとぶつかる>
南太平洋に浮かぶ島国、キリバスで22日、大統領選挙が行われた。親中派の現職ターネス・マーマウと、台湾との国交回復を訴える野党候補のバヌエラ・ベリナの一騎打ちで、中国の太平洋進出に大きな影響を与える選挙として注目を集めていた。キリバスは人口11万人の小国だが、その排他的経済水域は広大だ。【クリストファー・パラ】


中国にとっては何より、キリバスの東端にあるクリスマス島に進出の足場を築けるかどうかがかかっている。クリスマス島は世界最大級のサンゴ礁の島で、面積は約400平方キロ。ほんの2000キロも北上すれば、アメリカ太平洋軍が本拠を置くハワイのホノルルがある。クリスマス島に建設中の港湾設備は表向き、観光向けとされているが、中国軍の艦艇が利用することも可能だと米軍は神経をとがらせている。

 台湾にとっては、国交回復が実現すれば非常に大きな勝利だ。キリバスは昨年、台湾と断交して中国と国交を樹立。これにより台湾を主権国家として承認している国は世界15カ国になった。 

にもかかわらず、選挙結果の重要性は中国にとって台湾以上に大きいと、ローウィー研究所(オーストラリア)のナターシャ・カサムは指摘する。結果にかかわらず、台湾と国交のある国々にとってキリバスは、「中国へのくら替えがもたらす政治的代償」の大きさを示す反面教師になっているからだとカサムは言う。 

<寝耳に水だった中国へのくら替え>

 昨年9月の台湾との断交に関する発表は、マーマウ大統領の与党関係者にとっても驚きだった。事実、キリバスのテブロロ・シト国連大使兼駐米大使(元大統領)は、国連事務総長のオフィスで台湾が国連主催の会議に出席できるよう働きかけを行っていた時にこのニュースを聞いたという。キリバスが台湾と外交関係を結んだのは2003年のこと。マーマウも2016年の大統領選挙では、台湾との関係維持を公約に掲げて当選した。



 この突然のくら替えは、キリバス国内でも評判が悪かった。抗議デモが行われ、人々は台湾の旗を掲げ、「台湾大好き、中国は大嫌い、欲しいのは平和だ」と叫んだ。民意不在の決定だとして野党指導者のティタブ・タバネは政府を批判した。

 この動きは、党首だったベリナを初めとする一部の与党議員の造反も招いた。これにより、4月の総選挙では与党はかつての安定多数を失い、過半数を下回った。

 キリバス政府関係者などへの取材からは、マーマウの決断にはいくつかの理由があったことが伺える。

 まず第1に、今世紀末には1メートルくらい上昇すると見られている海面水位の問題がある。前政権は数十年のうちに島々が水没してしまうと考えていたのに対し、マーマウ政権は海水面の上昇に合わせて島も隆起するという学説を信奉。そして貧困対策として、野心的な開発計画に乗りだしたのだ。振興の目玉はクリスマス島を中心にした観光業とマグロ漁業だ。

<航空機の購入支援を断られて断交?>

その一環として、政府は首都タラワと3200キロ東方にあるクリスマス島(および世界の国々)を結ぶ長距離旅客機2機の導入を決めた。報道によれば政府は1機目を6000万ドルで購入し、台湾に対して2機目の購入費用を援助するよう求めたという。台湾のキリバスに対する援助予算が年に1000万ドルであることを考えると無茶な要求だ。蔡英文総統は援助で相手国を釣る「小切手外交」には反対の立場を取っており、台湾はキリバスの要求に難色を示した。台湾の呉●燮外相は断交を発表した際、「マーマウは商用機を購入するために多額の財政支援を求めてきた」ので台湾は優遇金利での融資を申し出たが、キリバス側から断わられたと語った。

だがベリナはあるインタビューで、台湾はキリバス政府にこれとは異なる提案をしたと聞いたと語っている。融資というのは表向きで、返済期日が来たら台湾は援助額を上積みして返済金額を相殺するという実質的に援助に相当する内容だったという。この話の真偽は不明だ。

<台湾からの「政治献金」に懸念>

政府関係者によれば、第2の理由は台湾が野党勢力に選挙資金を提供するのではという与党指導部の懸念だ。2003~2016年にかけて、当時野党だった現与党の人々は、台湾から選挙資金の援助を受けているとして当時の与党(現在の野党)をしばしば批判していた。この「関係」が復活するのではないかと心配しているわけだ。キリバスの法律では、政治献金の出所に関する規制がない。

3番目の理由は、台湾寄りの野党によると、中国から賄賂をもらって気がついたら中国に支配されていたという数々の小国と同じパターンだ。南太平洋のソロモン諸島もそうだ。ソロモン諸島はキリバスの4日前に中国と国交を回復した。ソロモン諸島マライタ州のダニエル・スイダニ州長がオーストラリのテレビ取材班に語ったところによると、中国との国交回復を支持するなら100万ドルをくれると言われ、断ったという。だが、政府内には、賄賂を喜んで受け取った腐敗した政治家が多くいたと思うと語った。

太平洋における中国の勢力拡大を取材するため南太平洋に来ていたオーストラリアの取材班は、キリバスのタラワに着いたばかりの時、ホテルで軟禁された。撮影許可を得ていなかったからだと当局は説明したという。だが、取材班が次の飛行機で国外追放される前、キリバスの初代大統領で現在は野党議員のイエレミア・タバイと、野党指導者タバネがホテルを訪ねてきた。二人は取材班の追放を「民主主義にとっての悲劇」と呼び、中国が賄賂で国交回復の支持者を増やしていると語ったという。

<中国がアメリカに取って変わる?>

野党の大統領候補ベリナは、フォーリン・ポリシー誌のインタビューに対し、マーマウが台湾から中国に乗り換えると発表した時、議員数人が抗議した。台湾は人気があるので、乗り換えによって議席を失うことを彼らは恐れたという。その時マーマウは、「選挙資金は中国から出るから心配するな」と言った。「ショックだった」と、ベリナは言う。

政府関係者は中国の援助は数億ドル規模で、全てが贈与であって融資ではないので、返済する必要はないと言っている。返済が滞り、せっかく建設したインフラを中国に奪われてしまう「債務の罠」に陥る危険はないというのだが、詳細は明らかにされていない。マーマウは初めて北京を訪問した時、「一帯一路」に関する覚書に署名している。当時はまだ与党幹部だったベリナによれば、その際に得た資金は全て融資だったという。

<手玉に取られずに済むのか>

22日の選挙の最大の焦点は中国だ。果たして中国は、野党が主張する通り、カネと中国から連れてきた労働者でキリバスを圧倒し、自分たちのための巨大インフラを作ろうとするのだろうか。彼らと共に、新型コロナウイルスも初めて持ち込まれるのか。戦略的に重要なクリスマス島を奪おうとするのだろうか。ソロモン諸島が中国と国交回復してわずか数日後、ツラギ島を丸ごとリースしようとしたように。

あるいは、マーマウ政権が断固とした姿勢を貫いて、近くのハワイからクリスマス島まで旅行者を引き寄せるための観光インフラ建設などに限った援助、それも贈与以外は受け取らず、国を豊かにすることができるだろうか。有権者はどちらを信じるのか。

国連大使兼駐米大使のシトによれば、アメリカはキリバスに援助はしていないが、文化的にも歴史的にも人気がある。1943年に日本の占領から解放したのもアメリカだ。約40年前、イギリスの植民地だったキリバスが独立し、アメリカと友好条約を結んだ時から、アメリカ政府の同意なしには、いかなる国もキリバスに軍事施設を作ってはならないことになっている。しかしこの条約も、6カ月前の通知で破棄できるという。

キリバスの選挙は戦略的にも極めて重要だ。中国が太平洋で支配を拡大してアメリカとその同盟国に取って代わるのか否か、この小さな島国次第で決まってしまうことにもありうる。

From Foreign Policy Magazine

【私の論評】日本も米台と手を携えて、キリバスなど南太平洋の島嶼国を支援すべき(゚д゚)!

6月5日付の産経新聞電子版に共同通信の小さな記事が載っていました。文字数にして200字ほどですから、紙面ではベタ記事でした。だが、とても重要なことを伝えていました。

ポイントは2つある。1つは、国務省が6月4日に「新型コロナウイルス感染症対策を巡り、台湾と連携し太平洋島しょ国への支援を強化すると発表した」こと。2つ目は、この太平洋島嶼国家への支援強化が、国務省と台湾の外交部がテレビ会議で意見交換したことを踏まえて発表されたことです。
◆米、感染対策で台湾と連携 太平洋島しょ国を支援
【産経新聞電子版:2020年6月5日】 
米国務省は4日、新型コロナウイルス感染症対策を巡り、台湾と連携し太平洋島しょ国への支援を強化すると発表した。中国が国際社会で台湾の孤立化を図る中、米国は感染対策支援の連携を通じ、台湾外交を支える狙いがあるとみられる。 
国務省によると、3日に同省や疾病対策センター(CDC)など米国の関係機関、台湾の外交部(外務省)などによるテレビ会議を開催。新型コロナを巡る太平洋島しょ国への支援強化に向けて意見交換した。(共同)
冒頭の記事にもあるように、台湾は蔡英文政権発足時の2016年5月には、ソロモン諸島、キリバス、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルの6つの太平洋島嶼国家と国交を保っていました。ところが、中国が自国の勢力圏に取り込もうとして2019年9月にソロモン諸島とキリバス共和国を台湾と断交させ、残るはマーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルの4カ国となっています。

中国は、2017年6月にはパナマ共和国、2018年4月にはドミニカ共和国、同年8月にはエルサルバドル共和国という中米3カ国と台湾の国交を断絶させています。

米国の裏庭とも呼ばれるこの3カ国との断交は、台湾よりも米国が危機感を募らせ、国務省は2018年9月にドミニカ共和国、エルサルバドル共和国、パナマ共和国に駐在の大使(パナマは代理大使)を召還するという事態にまでなりました。香港に国家安全法導入を決定したのと同様、先に手を出したのは中国です。

その結果、米国連邦議会は下院も上院も全会一致で、台湾に不利となる行動をとった国に対し、外交関係のレベルの引き下げや、軍事的融資などの支援の一時停止または変更などの措置をとる権限を国務省に与える内容の「台湾同盟国際保護強化イニシアチブ2019年法」を可決し、2020年3月26日にトランプ大統領が署名して成立しています。

ちなみに、法律の略称は「台北法(TAIPEI Act)」と言い、法律の名称「Taiwan Allies International Protection and Enhancement Initiative Act」の頭文字から命名されています。

米国はこの法案が上院に提出された2019年5月以降、次々と太平洋島嶼国家への支援を強化し始めました。

トランプ大統領は2019年5月にパラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦の3か国の大統領をホワイトハウスに招いて会談。国防総省が2019年6月1日に発表した「2019年インド太平洋戦略報告書」では、台湾を「国家(country)」と表記し、「インド太平洋地域の民主主義の社会がある地域に、シンガポール、台湾、ニュージーランド、モンゴルは信頼でき、有能で、米国の自然なパートナーである」と記すとともに、太平洋島嶼国家との連携強化が記れました。

トランプ米大統領と蔡英文台湾総統

実は日本も近年は太平洋島嶼国家との関係強化をはかっていて、2019年8月に河野太郎 氏が外務大臣として初めてパラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦の3ヵ国を訪問しています。

フィジー共和国の南太平洋大学で「我々『太平洋人』の AOI(碧い)未来のための3つの取組」と題して講演し、近年、自由で開かれたインド太平洋のビジョンのために太平洋島嶼国が重要な役割を果たすことがますます明白になって来ていると指摘し、日本が太平洋島嶼国に対するコミットメント強化を決定したと表明しています。

河野外務大臣は、防衛大臣に就任してからも太平洋諸島国家との関係強化をはかろうと、今年の4月上旬、軍隊を有するパプアニューギニア、フィジー、トンガの国防大臣や米・豪・英・仏など太平洋島嶼国と関係の深い国の実務者を東京に招き、安全保障上の課題に関する意見交換を行う「日・太平洋島嶼国国防大臣会合」を初めて主催する予定でした。

河野外務大臣(当時)

あいにく武漢肺炎の影響で延期せざるをえなかったのですが、この会合は島嶼国で影響力拡大を狙う中国を牽制することにありました。そこで、習近平・中国国家主席が来日する予定だった4月7日の直前、4月5日にメイン会議を行い、4日に来日した国防大臣とバイ会談や夕食会を開き、6日にも会議などを予定していたといいます。

中国が第一列島線(日本列島~台湾~フィリピン)を突破して西太平洋へ進出しようと狙っている現在、太平洋島嶼国家は、日本が提唱し、米国が戦略として取り入れた「自由で開かれたインド太平洋戦略」にとって重要な国々です。

その意味で、米国の国務省が台湾の外交部とテレビ会議を開いて直接意見を交換しながら、太平洋島嶼国家へ武漢肺炎対策の支援を決めたことは大きな前進だと考えられる。小さな記事だが重要だと述べた理由です。

ちなみに、台湾は4月半ば、国交国のマーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルの4カ国へマスクを2万枚ずつ計8万枚と額式体温計なども提供し、台湾の能力が許す範囲内で支援していくと発表しています。

翻って、実は日本の外務省も太平洋島嶼国家への支援は「島サミット」開催などを通じて強化しています。米国と台湾とともに日米台の枠組みで太平洋島嶼国家への今回の支援に加わってもよいはずです。今後の推移を注視していますが、残念ながら出遅れた感は否めないです。

キリバスなどの南太平洋の国々は、小さな島嶼国が多く、現在の日本人にはあまり馴染みがありません。しかし、この地域は大東亜戦争時代には、日米両軍が多数の犠牲を出しながら、戦ったところです。その後に、現在の国際秩序が形成されました。

そのような歴史を持つ島々が新たな国際秩序を自分に都合の良いように作り変えようとする中国に、飲み込まれるのを黙って見ているわけには行きません。日本も、米台と手を携えて、これらの国々に対して支援をして、中国の魔の手から守るべきです。

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2020年6月21日日曜日

自殺者の大幅減は、ウィズコロナ社会の希望だ!―【私の論評】コロナ後の社会は、意識高い系の人々の予測とは異なるものになる!(◎_◎;)

自殺者の大幅減は、ウィズコロナ社会の希望だ!

逆張りで「コロナはチャンス」と主張する人たち


コロナ禍の自粛ムードの中、どうにも気が滅入ったのは、この非常事態の中でもなお、力強くビジネスチャンスについて語る一部の人たちの存在だった。

「この危機をどう乗り越え、どうビジネスチャンスに変えるか。今はピンチだからこそ、逆にチャンスなのです!」

この人は本気で言っているんだろうか……。しばし、めまいに襲われた。

おそらくビジネスマンとして成功している人なのだろう、プロフィールには転社や起業の経歴がカタカナ満載で記されている。

世界中の人たちが自粛を余儀なくされ、それぞれの生き方や、働く意味について見つめ直しているであろうご時世においても、めざとくチャンスを探し、生き馬の目を抜くがごとく行動する、そんな人がきっとビジネスの分野では成功する。

その志向性を否定しようとは思わない。ただ、個人的には絶対に友達になれそうもないし、めまいとともに吐き気がする。

世の中には、頑張って生きたい人と、できれば頑張らずに生きたい人がいる。ひとりの人生の中にも、頑張りたい時期があれば、頑張りたくない時期もある。

メディアに出てくるタイプの人には、頑張って生きることを正しさと疑わない人が多い。だから、声も大きく響く。

でも、できれば頑張らずに生きていきたい人は、メディアに登場せず、声もほとんど聞こえない。だから注目もされず、時に社会の足を引っ張る害悪のような扱いさえ受ける。

「自殺者減少」が示唆するもの

自殺のニュースに目を向けたい。
<厚生労働省自殺対策推進室は5月12日、毎月発表している自殺者統計の4月末結果を発表した。自殺者は1455人と前年同期比で19.8%減少した。過去5年間では最も大きな減少幅だった。>
[Sustainable Japan/5月14日 https://sustainablejapan.jp/2020/05/14/japan-suicide/49463]
先日、今年4月の自殺者数が前年比で約20パーセントも減少したという、厚生労働省の発表が大きな話題になった。前年同月より359人少ない1455人だったという。

減少の理由は簡単に結論を出せるものではなく、1ヶ月のデータで語るのも危険だろうが、メディアには「テレワークや休校によって、出社や登校の人間関係のストレスが減ったことが原因ではないか」とする専門家の意見が多く掲載されている。

このニュースは、もっともっと、大きく論じられるべきだと思う。

たった1ヶ月で自殺者が359人も減った。大変な数である。まだしばらく統計を注視しないと議論しにくいのは確かだろうし、すぐに前年並みに戻る可能性もある。減った分だけ命が救われたわけではなく、自殺という行為が先延ばしになっただけかも知れない。

それでも現実に、多くの会社で出社を命じられなくなり、多くの学校で登校の必要がなくなったら、命を絶つ人間が大幅に減った。これは新型コロナの特効薬が見つかったのと同じくらい、希望のあふれるビッグニュースのはずだ。もし今後、自殺者数が戻ったとしても、なかったことにできるトピックではない。明るいニュースなのだ、これは。

ぼく自身、対人ストレスのつらさはわかっているつもりの側であり、だから、おひとり達人をめざしている。フリーライターをやっているのも、なるべく人と接しないで生きていくため。生涯独身なのも、ひとりぼっちの時間を守るためだ。

外出自粛令のおかげで何百人が自殺をせずに済んだのだとしたら、その表に出ない喜びや安堵の声を少しでも拡大してあげたい。

自殺者の多さは日本という国の闇である。2010年以降は減少傾向にあるとはいえ、2019年の自殺者は2万169人。新型コロナで亡くなった人より、まだ何十倍も多い。

コロナ対策が結果的に自殺対策として功を奏したのだとしたら、これほど喜ばしい副次効果はない。

しかし、世の中の流れを見ていると、この画期的な特効薬発見を重く受け止め、活かそうとしているようには思えない。

出社、登校。したくない人はしなくていい

テレワークを推し進めた会社がある一方、以前と変わらぬ出勤体制を課す会社は多い。学校もやがて平常スタイルに戻ってしまうだろう。

なぜ、今ここで「会社へ来るのがストレスの人は名乗り出てください。なるべく出社しないで済むようにするから」とか、「学校へ来るのがつらかったら休んでいいよ。来なくても勉強できるように授業のスタイルを変えるから」という動きが、この機会にもっと見えてこないのか。

たくさんの命が救われるかも知れないという希望の光がせっかく差したのに、なぜ急いで元に戻そうとするのか。経済を動かすか、社会不適合者の命を守るかの二択の話をしているわけではない。どっちも両立できる道だ。

対人ストレスの小さい人は以前同様、会社や学校の枠の中で人と接しながら頑張ればいい。

対人ストレスの大きい人はこの機会に、会社や学校の通常枠から外れても生きていけるような、社会の仕組みの再構築を訴えればいい。そんな生き方を認めてもらえばいい。

ある種の人間にとって、毎日の出社や登校は目の前でマスク無しで咳をされる以上の苦痛であり、それが死を選ぶ理由にもなるのだという現実を、もっと社会全体が受け止めて欲しい。


「会社に来たくなかったら、来なくていいよ」
「学校に行きたくなかったら、行かなくていいよ」
「頑張って生きるのがつらかったら、頑張らずに生きてもいいんだよ」

そう言ってあげるだけで救われる命が1ヶ月に300以上もあるのだとしたら、それを無視して以前と同じ業務形態や登校義務を課すのは、ただのヒトデナシのやることだと思う。ビジネスチャンスに目をギラつかせる人間を、誰もが崇拝しているわけではないのだから。

【私の論評】コロナ後の社会は、意識高い系の人々の予測とは異なるものになる!(◎_◎;)

自殺者数については、このブログでも度々掲載してきました。自殺者は、特に平成年間は3万人台を超えていました。しかし、安倍政権が誕生してから低下傾向にありました。低下傾向は、最近も続いていて、昨年はとうとう2万人台を切りました。

このブログでは、増税や金融引き締めなどの経済政策のまずさがその根底にあることを主張してしてきました。安倍政権では、二度も消費税増税がなされため、財政的には平成時代と同じく、緊縮財政が実施され、財政的には大失敗でした。ただし、金融緩和政策だけは、継続してされました。日本ではあまり理解しない人が多いですが、金融緩和政策は、雇用を改善します。

そのため、安倍政権においては、雇用は改善され続け、人手不足の状況になっていたことは事実です。これが、自殺者を減らず大きな一因になってきたことは事実です。ただ、それだけではないことも事実だと思います。

上の記事にも掲載されていたように、実際4月の統計では、前年同期比で19.8%減少しています。私自身は、昨年10月の消費税増税があり、個人消費が落ちみ、1月〜3月のGDPも落ち込み、それに加えコロナ禍もあったことから、自殺者が増える可能性もあるのではとの懸念を抱いていました。

しかし、その懸念は見事に払拭されました。これは、マクロ的には金融緩和政策が継続されてきたことにもよるでしょうが、そのほかにミクロ的には、テレワークや休校によって、出社や登校の人間関係のストレスが減ったことによるものかもしれません。

だとしたら素晴らしいことだと思います。これは、今後も分析してみないとはっきりはしませんが、それにしてもコロナ後の社会のあり方に大きなヒントを提供しているように思えます。

個人的には、あることを思い出してしまいました。それは、ある図書館司書の方のツイートです。

「学校が死ぬほどつらい子は図書館へいらっしゃい」。夏休みが明けるころに子どもの自殺が増える傾向があることから、神奈川県鎌倉市立の図書館の公式ツイッターが26日、こうつぶやいたのです。

つぶやいたのは、市中央図書館司書の河合真帆さん(44)。9月1日に子どもの自殺が突出して多いとの報道を読み、図書館学を学ぶ中で知ったことを思い出したそうです。

「自殺したくなったら図書館へ」。米国の図書館に貼られていたというポスターの文言です。図書館には問題解決のヒントや人生を支える何かがある。そんなメッセージでした。

利用者の秘密を守るのも、図書館の大事な原則です。子どもは学校に通報されると心配しているかもしれない。だから、「一日いても誰も何も言わないよ」と書き添えました。「一日だらだらしていても、誰も何も言わないから気軽においで。ただぼーっとするだけでもいいと伝えたい」

ツイッターは職員が誰でも書き込むことができ、河合さんは郷土史や観光の話題をこまめにつぶやくようにしているといいます。このつぶやきには、「あの頃の私に聞かせてあげたい」「感動した」などと、多くのコメントが寄せらました。

当時のこのツイートを読んだ私は、感動して「何と慈愛に満ちたツイートなのだろう」というコメントとともに、これをリツイートしたのを覚えています。

確かに、どうしても学校や、会社に行きたくない人が、行かなくても勉強できたら、仕事ができれば、素晴らしいことです。

コロナ後の社会は、意外とこのような変化をするかもしれません。ビジネスチャンスに目をギラつかせる人間が、社会の変化を正しく捉えているとは限りません。実際、中国からのインバウンドに目をぎらつかせいた人間の大失敗は、この度のコロナ禍により失敗出会ったことが明らかになったと思います。

私自身は、中国のインバウンドにばかり頼ることの危険性を従来から指摘してきました。中国はコロナ禍に限らず、元々カントリーリスクの高い国でしたし、昨年あたりでも、インバウンドよりも、日本国内では日本人の旅行客のほうがインバウドよりも、日本人旅行者のほうがはるかに多く消費をしていたという事実があります。

日本の観光地を良くしたいなら、まずは日本人の観光客を満足させるようにすべきであるというのが私の持論です。日本人の旅行客が大満足し、何度も訪れるようにすることが、日本の観光地の使命だと思います。その上で、外国の方々が多くいらしていただけるのであれば、それはありがたく受け入れれば良いのです。

それにして、コロナ禍でも、目をぎらつかせて、ビジネスを語る方々のいうように、コロナ後にパラダイムシフトは起こらないと思います。

それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
コロナ後の世界、「スペインかぜ」後に酷似する予感―【私の論評】社会は緩慢に変わるが、今こそ真の意味でのリーダーシップが必要とされる時代に(゚д゚)!

         1918年、ワシントンD.C.のウォルター・リード病院で
         インフルエンザ患者の脈を取る看護婦

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
コロナの後に世界は変わるのでしょうか。結論から言うと、劇的に社会が変わっていく、いわゆるパラダイムシフトは私は、起こらないと思います。

それどころか、人々が思ったいいる以上に元の社会に戻ろうとすると私は考えています。

それはなぜかというと、それが多くの人々のとって一番ラクだからです。社会は変化を求めているようですが、実際に、自分自身を変えていこうと思っている人がどれくらいいるでしょうか。

何か新しい取り組みを始めようと思っている人はそんなに多くはないのではないかと思います。変化を強要されているところは、致し方なく取り組んでいるのが現状だと思います。

コロナの終息後でも私自身も含めて多くの一般的な人たちの考え方は変わらないでしょう。

これを変えようと思う人はかなり意識が高いと思います。意識が高いという言い方は褒めているわけではなく、流行りにのっている部分もかなりあると思うのです。そういう意味です。これは、いわゆる意識高い系の方々には耳が痛いのではないかと思います。ただし、意識高い系とは、本当に意識が高い人という意味ではありません。そうではなく、意識が高いふりをしている人と言ってもよいかもしれません。

つまり、ほとんどの人にとってソーシャルディスタンスを継続させていったり、テレワークなどのデジタルな暮らし方にシフトしていくことは大変なことだと思います。何しろ、今でも家庭でのWIFI普及率は、思いの他低いことをある調査で知り、驚いたばかりです。あるいは、携帯電話は使用しているものの、パソコンの使用率も思いの他低いです。そのため、急激に社会が変化していくパラダイムシフトはおこらないと思います。

では、社会は元どおりになっていくのでしょうか。私自身は、変わらないところがあるように、変わるところがあるとも思っています。それはどこかと言うと、苦しんでも変えざると得ないという人たち。つまり主に経営者達の考え方です。私は、どちらかというとこちらに属しているのでよく分かります。
この内容、少し矛盾していると思われる方もいるかもしれません。しかし、矛盾しているわけではありません。私自身も含めて、多くの人は元の社会に戻るのが楽なのですが、経営者いうか、リーダー的立場の人は、自ら属する組織を変える責務を持つということです。

そうして、リーダーとはいっても、カリスマ性や部署間の調整をすることなどではなく真のリーダージップを発揮しなくてはないらなということです。そうして、リーダーシップの本質をこの記事では掲載しました。関心のある方は、この部分も是非読んでください。

そうして、この傾向はさらに続くということもこのブログで主張しました。その記事のリンクを掲載します。
自給自足型経済で“V字回復”日本の黄金時代到来へ! 高い衛生観念でコロナ感染・死者数抑え込みにも成功―【私の論評】今後も続く人手不足が、日本を根底から変える。普通の人が普通に努力すれば応分に報いられる時代がやってくる(゚д゚)!
     日本は強制力のない自粛要請でも感染拡大を
     抑え込んだ=5月9日、東京・原宿の竹下通り
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、中国で製造していたものを、ある程度日本で製造するようにすれば、過去の日本が自給自足型の経済で成功していように、令和日本は黄金期を迎えることを主張しました。

コロナ禍以前には、人手不足状況だったわけですから、今後日本の経済が回復し、中国で製造していたものを日本でも製造するようになれば、当然の事ながら、さらに人手不足となり、日本は経済的に発展するだけではなく、社会構造も良い方に変わっていくであろうと予測したわけです。

このような変化に気づかず、既存の路線で単にIT化が進んだり、社会的距離を重視する社会になると思うような人には、次の社会など予想できないでしょう。

今後の社会は人手不足があたり前になるのですから、人を単なる人と見るのではなく、個性のある個々人であることに想いが至らないような人は、社会の変化を見通すことなどできないでしょう。

今後の社会は、パラダイムシフトが起こるではなく、やれば良いに決まっているし、既にできることで、できていないことなどがどんどん実施されるようになっていくと思います。

その良い事例が、テレワークやオンライン授業です。さらに、いわゆる「いじめ」もなくす努力がなされていくでしょう。

EUの人々に日米でいう「いじめ,Bullying」とは何なのだと質問を受ける事がよくあります。いろいろ説明するのですが、なかなか理解してもらえません。

国が違っても、彼らのほとんどは「それは犯罪です」と言います。確かに、「いじめ」とは、学校や職場という閉鎖空間で行われているだけであって、その本質は軽い重いはあっても、全て「犯罪」です。

「犯罪」には犯罪に対する対処法が適用されて当然です。ドイツは、日本と全く異なる対象がなされています。例えば、高校の教師は、学校の外、例えば、町の通りで自分の教え子がタバコを吸っていたとしても、それを注意する必要はないそうです。学校の外では親が子供に対する責任を持っているからです。

また、「いじめ」などを執拗に繰り返す子供には、校長が家庭に向けて注意をうながす手紙を書くそうです。その手紙が三通になった場合は、その対象となった子供は自動的に退学になるそうです。

非常にシンプルです。何回も退学になるような子供は終いには、いずれの学校にも行けなくなるそうです。

日本では、学校や職場が場合によっては、まるで治外法権のようになっている場合もあるあります。これは早急に是正しなければならないです。また、米国では暴力が異常なレベルにまでなっています。

日米共に、もっとシンプルな方法で「いじめ」を根絶する必要がありますが、これも今後進めやすくなると思います。

これらのことは、基本的に人手不足であるほうが、変えやすくなります。そもそも、人を大事に扱おうとしない学校や職場には人が集まらなくなります。

こういうことを言うと、「いやAIが出てきて、人を駆逐するようになる」と言う人も居るかもしれません。いわゆるシンギュラリティーが起こって、機械が全部人にとって変わるなどと・・・・・。

そんなことはないことがラッダイト運動でもう私たちは、学んだのではありませんか。そうして、シンギュラリティー信奉者には、こう言いたいです。

「あなたは実際にAIのプログラムを書いたことがありますか?」と。少なくとも私は書いたことがあります。ただし、大昔のことですから、その当時は、今ではあまり使われてない言語で、ほんの初歩的なものでした。人で言えば、赤ちゃんが呟くようなものですが、それでもプログラムはプログラムです。今でも、原理的には変わりません。

ラッダイト運動で機械を打ち壊した労働者たちは、機械が発達した社会は、自分たちの時代の社会とあまり変わりないと考えていました。

しかし、機械やコンピューターが発展した現代は、その頃の社会とは全く異なります。

これからの社会は、中国などの特殊な社会は除き、今とは全く異なる社会となるでしょう。そこでは、今よりも、はるかに個々人のニーズやウォンツが満たされる社会となるでしょう。

そのような社会においては、無限の様々な新しいニーズが生じてくるはずです。その新しい新しいニーズに応えるためには、人間の思考は欠かせません。無論、その模索にもAIは大活躍することになるでしょうが、それにしても肝心要のところは人間が考えます。AIはその補佐をするにすぎません。

既存のニーズには、AIが最適な解を出すでしょう。しかし、新たなニーズに対する解は、人間が模索するしかないのです。模索して、プログラミング化できれば、後は、コンピュータと機械がそれを迅速に満たすことになるでしょう。

そうして、新しいニーズはその時代でもいくらでも出てくるのです。その時代には、自殺者の大幅減は、ウィズコロナ社会の希望かもしれないと気がつくような感性を持った人が、様々な分野で活躍するようになっていると思います。

コロナ禍で目をギラつかせて、「ビジネス、ビジネス」というような人は時代遅れになっているでしょう。本当に心の底から人のために役に立ちたい、人々の暮らしを良い方向に導いていきたいと考える人の時代になるでしょう。

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2020年6月20日土曜日

外国籍潜水艦 奄美大島周辺の接続水域を航行 中国海軍か— 【私の論評】中国潜水艦が発見できるうちは平和、できなくなったり日米潜水艦の行動が中国メディアに報道されるようなったら大変!(◎_◎;)


奄美大島

18日から20日にかけて、鹿児島県の奄美大島の周辺で、外国の潜水艦が、浮上しないまま日本の領海のすぐ外側にある接続水域を航行したのを海上自衛隊が確認しました。防衛省関係者によりますと、収集した情報から中国海軍の潜水艦とみられるということで、防衛省は、航行の目的を分析することにしています。

防衛省によりますと、18日午後、奄美大島の北東の接続水域を、外国の潜水艦1隻が、浮上しないまま西に向けて航行しているのを海上自衛隊の護衛艦と哨戒機が確認し、追尾にあたりました。

潜水艦は、20日午前までに接続水域を出て、東シナ海を西に向かって航行していることが確認されました。領海への侵入はなかったということです。

防衛省関係者によりますと、収集した情報から中国海軍の潜水艦とみられるということです。

外国の潜水艦が浮上しないまま接続水域で航行したのが確認されたのは、18年1月、中国の原子力潜水艦が、沖縄県の宮古島や尖閣諸島の沖合で航行して以来2年ぶりです。

潜水艦がほかの国の沖合を航行する場合、国際法上、領海内では浮上して国旗を掲げなければならないとされていますが、接続水域ではこうした定めはありません。

一方、防衛省関係者によりますと、今回、潜水艦は太平洋から東シナ海に向けて、奄美大島とトカラ列島の間の狭い海域を通過する形で航行していて、防衛省は、特異な動きだとして、航行の目的を分析することにしています。

河野防衛相“情報収集と警戒監視に万全を”

外国の潜水艦が、浮上しないまま日本の領海のすぐ外側にある接続水域を航行したのを海上自衛隊が確認したのを受け、河野防衛大臣は、防衛省、自衛隊に対し、緊張感をもって、情報収集と警戒監視に万全を期すよう指示しました。

おととしは中国海軍の原子力潜水艦

外国の潜水艦が日本の接続水域で浮上しないまま航行しているのが確認されたのは、平成30年1月以来、2年ぶりです。

おととしのケースでは、沖縄県の宮古島と尖閣諸島の沖合で中国海軍の原子力潜水艦が接続水域に入り、海上自衛隊の護衛艦と哨戒機が追尾しました。

また、平成25年と26年、28年にも、外国の潜水艦が接続水域で浮上しないまま航行しているのが確認されていて、防衛省関係者によりますと、収集した情報からいずれも中国海軍の潜水艦とみられています。

このほか、平成16年には、沖縄県の石垣島の周辺で中国の原子力潜水艦が日本の領海に侵入し、自衛隊法にもとづく海上警備行動が発令され、海上自衛隊の護衛艦と哨戒機が公海に出るまで追尾しました。

【私の論評】中国潜水艦が発見できるうちは平和、できなくなったり日米潜水艦の行動が中国メディアに報道されるようなったら大変!(◎_◎;)

今回の中国の潜水艦の行動は、あまり心配する必要はないと思います。なぜなら、その行動が把握されて、報道されているくらいですから、中国の潜水艦の行動は日本の自衛隊や米軍によって把握されているということです。

逆に中国の潜水艦の行動が全く報道されなくなったら、かなり危険と見るべきです。それは、中国の潜水艦が日米には探知できないほど、能力が向上したことを意味するからです。

そうして、日米の潜水艦は、中国付近の海域や南シナ海、東シナ海などで行動しているはずですが、それが全く中国で発表されないのは、中国側がこれを発見する能力がないからです。

今回の中国潜水艦の行動もおそらく、海自などにより詳細が分析されて、いずれ発表されるでしょう。

はっきり言いますが、中国潜水艦が日本の付近で隠密行動できずに、マスコミなどですぐに報道されてしまうということは、無様としか言いようがありません。

上の記事では、一昨年の中国潜水艦の行動について、掲載されていますが、これについて、その後かなり分析されています。

一昨年の2018 年1 月 10 日午後、宮古島東北東の接続水域で探知された潜航中の潜水 艦が北西進し、11 日午前、宮古島北北東の接続海域から出域、東シナ海に進 出、11 日午前再び尖閣諸島大正島の接続水域に進入しました。

11 日午後、潜航中の同潜水艦が大正島の北北東の接続海域から出域、12 日午後、前日、大正島の接続水域で潜航中だった同潜水艦が東シナ海で浮上 し国旗を掲げた、という事件について論評します。

これは、2018 年 1 月に発生した 093B 核潜水艦(SSN)が中国国旗を掲げて日中間で争いのある海域に出現した事件です。この事件で、 最も可能性のあるのは093B は日本に浮上を迫られたのです

093B 核潜水艦(SSN)


 そう解釈しなければ、このような浅い海域で最先進型戦略核動力攻撃潜水艦が 国旗を掲げて軽率に浮上したことの説明ができません。なぜか?どんな理由か? 主権を主張するためならば、国旗を掲げる潜水艦は通常型潜水艦で事足りはずです。 なぜ巡航ミサイルを搭載した SSN を使ったのでしょうか。

戦時であれば、093B はとうに撃沈されていた可能性があります。 この 093B は、出港時から米国の核潜水艦の追跡を受け ていた可能性があります。中国海軍の通常型、核動力型潜水艦は米国陸海空軍の追跡の重点対象 であり基地を出ると直ぐに追跡を開始したでしょう。

米国は日本に通報し、日本は水面下のソナーを使って位置を標定しました。そして潜水艦、水上艦を出動させ米海軍 と一緒に追跡しました。

この、米軍が通報したとの内容は、当時日本のメディアが広く報道しましたた。それでは 093B がなぜ浮上して、国旗を掲揚したのでしょうか。

 まず歴史と海軍作戦の常識を振り返ってみます。1994 年、1 艘の 091 型 SSN が米海軍によって探知されました。中国側の説によると、米軍は膨大なかずのソノブイを散布したそうです。 この種の状況が発生し た場合、潜水艦はエンジンを止めるのが最善の方法です。

そうしないとソナ ーによる情報が徹底的に記録されてしまいます。中国潜水艦の包囲は 3 日間続きました。潜水 艦は浮上しました。最終的に北海艦隊は J-6 戦闘機を派遣し対応しました。

軍事関係者の間周知ですが、平時であっても、海軍の潜水艦作戦は、水上艦の作戦とは異 なります。米ソの潜水艦は冷戦時代何度も水面下で遭遇し、ある時は衝突しました。

水上艦の目標は明確です。平時には、たとえ敵に発見されたとしても、脅威を与えることはあります。単に相互に監視し合うのみです。

潜水艦は異なります。敵意を持った潜水艦が米国海軍艦隊を追跡し、あるいは日本 と係争中の海域に進入した場合、日米はこの潜水艦を密接に追跡し或いは退路 を断ちます。大量のソノブイを散布し、様々な方式で所属国を明らかにして威 嚇します。

そうでなければ撃沈します。海上自衛隊は、かつて日本近海の排他的経 済水域に出現した疑いのある船舶に対して火力を用いました。これは北朝鮮の武装 船でした。

水面下の潜水艦は一旦発見され、敵意があ れば、威嚇され包囲されても合法なのです。これは、実戦でも証明されている事実です。

 1994 年、091 型と米軍空母は 3 日 3 晩対峙していました。もし米軍が水面下及び 水上で包囲、封鎖し、退路を断たなかったとすれば、091 は迅速に離脱できたはずです。理由はただ一つ:逃げられず、浮上するしかなかったのです。

平時に は浮上が最も安全です。浮上して航行することにより、水中の静音性の程度を騙す ことができます。しかしこれは敵にあらかじめ発見されたことであり、潜水艦部隊にとってこの ような状況は、本来最も避けなければならないことです。

戦時においては、潜水艦のいかなる行動においても、敵の面前で浮上するこ とは死を意味します。これは争いの余地はありません。過去においては、中国核潜水艦および通常型潜水艦が幾度か日中間で争いのある海域で、あるいは日本近海で浮上する 事件を起こしたのは、すべて浮上を迫られたからです。

2018 年1 月 の事件では、米軍は中国核潜水艦を威嚇したと見るべきです。

2004 年、091 型核潜水艦が日本の領海に侵入しました。この時は浮上しませんでした。 しかし日本は以下のように公表しました。

これは 091 型核動力潜水艦である。事件発 生後、直接北海艦隊の第一核潜水艦基地に戻った。潜航深度、航路、速度につ いて、日本側はすべて記録を公開しました。潜水艦発見の公表の中でこの種のものはまさに恥辱です。

戦時においては、091 は早期に撃沈されていたことを意味するからです。この事件後、 091 には徹底的な改良が加えられたことが分かっています。

2018 年1月の093Bの事件に戻ります。なぜ日本はこれを撃沈しなかったのでしょうか。軍事専門家によれば、まずは、撃沈の法的根拠が必要だということです。その後日本 は関連法律を整備しました。次に、撃沈した場合、核物質の処理をどうするという問題もありました。

中国が如何なる理由をこじつけようとも、中国の潜水艦は発見されたのです。しかも正確 な位置を確定され、追跡されたのです。これは何を意味するのでしょうか。

093B はなぜ国旗を掲げたのでしょうか。ある説によると、主権を主張するためである とするものもあります。しかし、最新型核潜水艦を浮上させ敵に安易と追跡させるように、国旗を掲げ、”主権を主 張”するようなことがあり得るでしょうか。

軍事常識では、 潜水艦のどのような行動も、絶対に敵に発見されず隠密にすべきです。特に公海上ではそうです。

中国潜水艦が国旗を掲げたのは2018年1月が最初ではありません。2003 年、1 艘の 035 通常型潜水艦が日本の鹿児島近海で国旗を掲げ浮上航行しました。日本の領海から 僅か 18KM しかありませんでした。

P-3C が 2 機、追跡監視しました。中国側は、035の行動 は通 常のパトロールであり主権を宣言するため国旗を掲げた、と堂々と主張しました。 本当にそうだったのでしょうか。中国海軍艦艇条例では、”国旗を掲げる”各種要 件を極めて明確に規定しています。しかし、「中国海軍将校ハンドブック」には、通常艦艇についての規定ありますが、”潜水艦が国旗を掲揚する”許可条件などありません。

これは、035 が国旗を掲揚したのは海軍上層部の直接命令か、あるいは艦長 の独自判断であることを意味しています。事後、艦長は処分されました。これは中国海軍 内部の人は皆知っている事件です。内部に通報した者がいます。

国旗を掲げた093B

これではっきりしたことがあります。国旗を掲げなかった場合、日本は 035 を威 嚇しそれを公表した可能性が極めて高いです。

この事件に関して、航空自衛隊の退役中将である織田邦男 はテレビである種の説明を行いました。以上述べた内容は、ほぼこの説に近いものでした。彼は、093B が浮上させられた、と認識していました。

今回の18日から20日にかけて、鹿児島県の奄美大島の周辺で、外国の潜水艦が、浮上しないまま日本の領海のすぐ外側にある接続水域を航行したという事件も、当然ながら、日本側がこの中国潜水艦の行動を把握していたということです。

発見されても浮上しなかったということでは、2004 年、091 型核潜水艦が日本の領海に侵入した時と同様です。当時は、上でも述べたように、撃沈の法的根拠はありませでした。その後日本 は関連法律を整備しました。ということは、今回は場合によっては、撃沈も可能だったということです。

ただし、撃沈した場合、核物質の処理をどうするという問題もあったのかもしれません。だから、敢えて撃沈はしなかったのかもしれません。

いずれ、この潜水艦が中国のどの潜水艦であるか、発表されることになるでしょう。18日から20日にかけての行動も明らかにされるかもしれません。これは、本当は中国にとっては、屈辱的なことなのです。

このように、中国潜水艦が発見できるうちは日本も平和維持できるでしょう。できなくなれば、日本平和は確実に脅かされることになります。

さらに、中国の潜水艦の行動が日本のメディアで報道されるように、日米の潜水艦の行動が中国メディアに報道されるようなったらこれも大変なことです。これは、中国側が日米の潜水艦が中国側に発見されていることを示すからです。

日米はもとより中国も含めて、世界中の国々の潜水艦は、隠密に行動しています。そのため、日本の潜水艦の行動も公表されることはありません。

しかし、日米の潜水艦は、東シナ海、南シナ海をかなり自由に航行しているのは間違い無いでしょう。当然、台湾海峡やひょっとすると黄海あたりも航行していると思います。

なぜこのようなことができるかといえば、日米が中国の潜水艦の行動を逐一把握できる、対潜哨戒能力を有しているとともに、日米の潜水艦はステルス性能が優れているため、中国の対潜哨戒能力では発見できないからです。

呉の潜水艦基地に向かう日本のそうりゅう型潜水艦

これが何を意味するかといえば、日米の潜水艦は、中国の潜水艦を含めて全ての艦艇を容易に撃沈できるのに対して、中国の潜水艦は日米の潜水艦や艦艇を容易に撃沈できないということです。

したがって、南シナ海や尖閣、台湾海峡で、中国が威嚇程度のことはできても、本格的に侵攻しようとした場合、全ての艦艇か撃沈される恐れがあり、しかもそれを防ぐことはできないということです。南シナ海については、これに反論もあるかもしれませんが、中国は環礁を埋め立て、軍事基地化するのに、サラミ戦術で何十年もかかっているという事実を忘れるべきではありません。

ルトワック氏のいうように、南シナ海の中国の軍事基地は、象徴的な意味しかなく、5分で吹き飛ばせるという発言も、このような背景があるのです。

この中国に対する優位性は、絶対に失うべきではありません。この優位を失えば、中国は海洋進出を本格化し、世界の海を我がものにすることでしょう。

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2020年6月19日金曜日

国家安全法で締め付けられる香港人の受け入れ— 【私の論評】香港市民が観光では日本を頻繁に訪れながら、移住となると豪英加・台湾になるのか、今一度真摯に考えてみるべき!(◎_◎;)

国家安全法で締め付けられる香港人の受け入れ

岡崎研究所

 中国は、香港国家安全法の適用を強行し、香港への締め付けを強化し、国際的約束である香港の一国二制度を葬り去ろうとしている。

 これに対し、トランプ大統領は5月29日、記者団を前にホワイトハウスで「香港には最早十分な自治はなく、返還以来我々が提供して来た特別な待遇に値しない」「中国は約束されていた“一国二制度”の方式を“一国一制度”で置き換えた」と述べ、「香港に異なる特別の待遇を与えている政策上の例外を撤廃するプロセス」を始めると言明した。これは、昨年成立した「香港民主主義・人権法」に基づく措置である。その他、トランプは中国の悪行を列挙し、「(中国寄りの)WHOとの関係を停止する」ことを含め、各種の対応策を講じることを予告した。


 香港に対する特別な待遇の撤廃は、犯罪人引渡、技術移転に対する輸出規制、ビザ、香港を中国とは別個の関税地域として取り扱うことなどに関係するとされるが、トランプは具体的詳細には踏み込まなかった。トランプは敵対的な調子で対中非難を展開したが、例によって、言いたいことを言っておいて、具体的詳細は中国の出方を測りつつ今後の検討に委ねるということのようである。対中輸入に発動している高関税を香港に適用するか否かの問題にも言及しなかった。

 香港に対する特別待遇の撤廃は強い副作用を伴うことになろう。香港住民の生き様を大きく害し、香港の金融センターとしての地位を損ない得る。2000社ある米国企業は撤退するかも知れない。資本も逃避するかも知れない。香港の価値が下がることによって世界は関心を失う。場合によっては、香港は自壊する。そのことは北京の思う壺かも知れない。仮に米国が、香港の自治の侵食に責任のある中国および香港の当局者に対する制裁を発動するとしても、それで中国の行動を抑止できる訳ではない。

 そこで、5月29日付けのウォールストリート・ジャーナルの社説‘Visas for Hong Kong’が提案するのが、希望する香港人を米国へ受け入れ、更には市民権を与えることである。香港国家安全法が施行されるに伴い、香港を脱出することを希望する人達は当然いるであろう。脱出するだけの財力ある人達の数は限られようが、多くは、まずは米国を目指すであろうから、米国は当然受け入れるべきである。

 逃避する香港人の自国受け入れについて、上記ウォールストリート・ジャーナル社説は中国に対する懲罰という捉え方をしているが、むしろ、自由と人権の擁護という理念に基づく行動、あるいは人道上の行動と捉える方が良いのではないか。5月28日、英国のラーブ外相は英国が一定の香港人を受け入れる用意のあることを表明したが、これも英国の旧宗主国としての立場を考慮して香港の人達を守る趣旨によるものと理解すべきであろう。ラーブは「中国が国家安全法を履行するに至るのであれば、香港の英国海外市民旅券(BNO passport)の所持者が英国に入国し、現行の6ヶ月ではなく、12ヶ月(更新可能)就労し就学することを認める、このことは将来的に市民権を得ることを可能にする」との趣旨を述べた。また、5月28日、台湾の蔡英文総統は、香港人を受け入れ支援する仕組みを整備したいと述べるとともに、過去1年香港からの移住者は41%増え5000人を超えていることを指摘している。

 日本への逃避を希望する香港人も、数は多くはないであろうが、出て来る可能性は十分予測できる。その場合、現在の入国管理制度でどうなるのかという問題があるかも知れないが、門前払いだけはすべきでない。むしろ、有能な人材の確保の観点を含め予め検討しておく必要があろう。 


【私の論評】香港市民が観光では日本を頻繁に訪れながら、移住となると豪英加・台湾になるのか、今一度真摯に考えてみるべき!(◎_◎;)

香港人の受け入れの話は、英国では昨年もありました。それについては、このブログでも取り上げたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載しました。
香港人に英国籍付与、英議員の提案は香港問題の流れをどう変えるか?―【私の論評】コモンウェルズの国々は、香港市民に国籍を付与せよ(゚д゚)!
英国国会議員、外交委員会委員長のトム・タジェンダット(Tom Tugendhat)氏

この記事は、2019年8月17日のものです。元記事は、立花 聡氏によるもので、以下のようなことが、掲載されていました。
「 英国国会議員、外交委員会委員長のトム・タジェンダット(Tom Tugendhat)氏は、1997年香港撤退(中国返還)の際に放置されてきた市民の国籍問題の解決を促し、英国籍付与の範囲を香港の中華系市民(ホンコン・チャイニーズ)にも及ぶべきだとし、英国が香港から引き上げた当時そうしなかったのは間違いであって、それを是正すべきだ(wrong that needs correcting)と主張した(8月13日付け英字紙デイリー・メール Online版)」。
なおこの記事には、立花 聡氏自身のコメントが寄せられていたのですが、最近はもっぱらツイッーを用いているので、コメントのほとんどはツイッターで寄せられるで、ブログに直接コメントが寄せられることは滅多になく、立花氏からのコメントがあったことに数ヶ月間も気づかず、比較的最近気づいたので、そのままになています。せっかく寄せていただいたのに、残念なことをしてしまいました。ここにお詫びいたします。(ただし、この記事も読んでいだければということになるとは思いますが・・・・)

この元記事を受けた形で、私自身は【私の論評】において、英国だけではなく、顧問ウェルズの国々も香港市民に国籍を付与すべきだと主張しました。

コモンウェルスの国々とは、イギリスの旧植民地の国々のことです。 地図で示すと以下の国々です。


これらの国々と英国は、今でも関係が深いですし、法体系なども似たところがあり、香港市民も全く縁もゆかりも無い国々よりは、移住しやすいと思います。

元々コモンウエルズとは、コモンウェルス(英: commonwealth)とは、公益を目的として組織された政治的コミュニティーを意味する用語です。歴史的には共和国の同義語として扱われてきましたが、原義としては哲学用語である「共通善 (英: common good)」を意味します。だからこそ、これらの国々が香港の人々を受け入れるべきと思ったのです。

かつてイギリスの植民地だった諸国との緩やかな連合体として「Commonwealth of Nations」が結成されており、その加盟国の中で現在もイギリスの君主を自国の君主元首)として戴く個々の国を「Commonwealth realm」(「レルム(realm)」の記事も参照)と呼びます。

米国でも、コモンウェルスを名乗っていないものの、バーモント州は、その州憲法の4箇所で「The Commonwealth」と自己言及しており、同様にデラウェア州も、州憲法で「当コモンウェルスの安全を脅かし得る手段を以って…」と自己言及しています。

これらコモンウェルズの国々と、米国のパーモント州や、デラウェア州なども香港の人々を受けいれる歴史的な根拠があるわけです。

日本にはこのような歴史的背景はないのですが、コロナ以前の香港人の日本訪問客はかなり多いです

コロナ直前の、2019年の年間訪問者数は、229万700人でした。これまで過去最高だった 2017 年 の223万1568人を超えました。年々、右肩上がりに上昇しており、2013年から約3倍ほど増えています。

香港の人口は、2018年で745.1万人ですから、この訪問客数は、かなりのものです。単純計算では、香港人の4人に1人以上は日本を訪れている計算になります。

もちろん単純に香港人の4人に1人が日本を訪れているというわけではなく、リピーターの数が多いことが見て取れます。日本政府観光局(JNTO)の調べによると、日本を訪れる香港人のうちリピーター率は82.1%でした。

訪日香港人人旅行者の消費額 は、2019年は約3,525億円。2013年時点では1,054億円程度だったため、数年で3倍以上に増加しています。

ちなみに、訪日香港人旅行者の都道府県別訪問率は以下の通りです。
1位:⼤阪府(33.3%)
2位:東京都(30.0%)
3位:千葉県(27.6%)
4位:京都府(20.2%)
5位:福岡県(11.2%)
出典:観光庁『訪日外国人消費動向調査(2018年版)』
最近の訪日香港人旅行者の傾向として、関西地方の人気が高く、大阪、京都、奈良へセットでまわる人が増えています。大阪はグルメやショッピング、京都は金閣寺、銀閣寺、清水寺など写真に収めたくなるような歴史の古いお寺巡りの人が多く訪れています。

リピーターが多いため、定番のスポットを巡るより、観光客があまり多くない穴場スポットへ行きたがる人が増えています。また、香港から日本までのLCCの路線が多く、東京や大阪など大都市だけではなく、九州や四国や中国地方の直行便もあります。

そのため、同じ場所へ旅行するより、いろいろな都市を制覇したがる傾向にあります。また、短期間で多くの観光地に行きたいという願望があります。さらに屋台文化のため、夜遊び好き。夜遅くまで営業している商業施設やドラッグストアの買い物が好きです。朝から夜遅くまで出かけて、時間を存分に使う人も少なくありません。

日本にこれだけ頻繁に訪れる香港の人々ですが、いざ移住ということになると、やはり
は豪英加ということになりそうです。台湾にも関心が高まっているそうです。

豪英加は、香港市民は、無論コモンウェルスの価値観を共有しているという側面があるのでしょう。それに、香港では、広東語と英語が公用語です。英語が公用語という豪英加は、魅力でしょう。

香港の人は広東語を話しますので、本当の中国語、北京語を理解しているか疑問に思う日本人が多いです。

また、台湾のことを違う国と考え、中国語と言ってもたぶん中国の中国語とは違う言葉を話していると思う日本人も少なくないでしょう。

実は北京語は香港でも台湾でも通じます。しかも香港と台湾だけでなく、マカオ、シンガポール、マレーシアでも通じます。香港は1997年に中国に帰還されてからすでに20年以上経ちました。

返還されてから中国語と中国史が必須科目になりましたので、今の香港の若い世代はもちろんのこと、非常に年配の方以外、ほとんどの世代の香港人は中国語を話せます。

ただ家族や友達同士での会話となるとやはり広東語が主流です。

台湾は香港よりもっと前、内戦後国民党が台湾に引っ越ししてから、中国語の普及教育が始まり、すでに70年位の歴史があります。

香港と違って、今はもはや家族、友達同士など身内でも中国語で会話している台湾人はとても多いです。

台湾の友人から聞いた話では、台南ではまだ家族で方言「台語」を使っている家庭はありますが、台北ではほとんどみんな中国語で会話しているとのことでした。

そうなると、台湾は香港人にとっては言葉も通じるし、文化的にも近いということで、魅力でしょう。

香港の人々にとって観光目的で日本に来るのと、日本に住むということでは、やはり隔たりが大きいのでしょう。

ただ、安倍晋三首相は11日の参院予算委員会で、香港の金融センターをはじめとする人材受け入れを推進する考えを表明しています。「香港を含め専門的、技術的分野の外国人材を受け入れてきた。引き続き積極的に推進する」と強調しました。自民党の片山さつき氏への答弁でした。

中国が香港への統制を強める「香港国家安全法」を巡り、片山氏は「香港の金融センターの人材を日本が受け入れるのも選択肢ではないか」と質問しました。

首相は「東京が金融面でも魅力あるビジネスの場であり続け、世界中から人材、情報、資金の集まる国際都市として発展を続けることは重要だ」と述べました。「金融センターとなるためには人材が集まることが不可欠だ」とも語りました。

英国のジョンソン首相は中国が香港国家安全法を撤回しない場合、香港の住民に英国の市民権を取得させる意向を示しています。香港情勢について首相は「日本としても深い憂慮を表明している。関係国とも連携し、適切に対応する」と強調しました。

英国ジョンソン首相

首相は新型コロナウイルスの感染拡大を受けてマスクや防護服などのサプライチェーン(供給網)を見直す意向も示しました。国民生活で必要な製品に関し「保健衛生、安全保障などの観点で、価格競争力だけに左右されない安定的な供給体制を構築する」と述べました。

中国を念頭に過度な依存を避ける考えを示したものです。「多角的な自由貿易体制の維持、発展が前提だ」とも語りました。

新型コロナの感染拡大を踏まえ、首相は「国難とも言える状況の中で様々な課題が浮かび上がった」と指摘しました。主要7カ国首脳会議(G7サミット)などの場を通じ「世界のあるべき姿について日本の考え方を提示し、新たな国際秩序の形成をリードする」と主張しました。

この言葉の通り、日本も新たな国際秩序の形成をリードできるようにしていただきたいものです。そのための指標として、香港の優秀な人材が日本を目指したくなるように、社会経済をレベルを上げていくべきです。経済的には日本は、今後大発展している可能性があることをこのブログでも掲載したとがあります。

香港市民がなぜ、観光では日本を頻繁に訪れながら、移住ということになると豪英加・台湾になるのか、今一度真摯に考えてみる必要がありそうです。これらの国々あって、日本にはない魅力とは何なのかを探る必要がありそうです。


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2020年6月18日木曜日

トランプ大統領「ウイグル人権法案」署名 中国反発必至の情勢— 【私の論評】「ウイグル人権法」は中共が主張するような内政干渉ではないし、国際法に違反でもなく前例もある!(◎_◎;)

トランプ大統領「ウイグル人権法案」署名 中国反発必至の情勢

トランプ米大統領=17日、ホワイトハウス

アメリカのトランプ大統領は、中国でウイグル族への人権侵害があるとして、これに関わった中国の当局者に制裁を科す「ウイグル人権法案」に署名し、法律が成立しました。

「ウイグル人権法」は、中国の新疆ウイグル自治区で、大勢のウイグル族の人たちが不当に拘束されているとして、アメリカ政府に対しウイグル族の人権侵害に関わった中国の当局者に制裁を科すよう求める内容で、先にアメリカ議会の上下両院で可決されていました。

これについて、トランプ大統領は17日、法案に署名し、「ウイグル人権法」が成立しました。

トランプ大統領を巡っては、元側近のボルトン前大統領補佐官が近く出版予定の著書のなかで中国の習近平国家主席に対し、ウイグル族を拘束する施設の建設を容認した疑いがあると記すなど中国国内の人権問題を軽視する姿勢が明らかになり、関心を集めています。

一方、アメリカでは新型コロナウイルスの感染拡大で中国への反発が広がっていて、トランプ大統領は、このところ秋の大統領選挙に向けて強硬姿勢を示しています。

ウイグル人権法について、中国政府は法律が成立すれば対抗措置を取る可能性を示唆していて、反発を強めるのは必至の情勢です。

中国外務省「内政干渉で強い憤慨」

アメリカのトランプ大統領が中国でウイグル族への人権侵害があるとして、これに関わった中国の当局者に制裁を科す「ウイグル人権法案」に署名したことについて、中国外務省は、声明を発表し「このいわゆる法案は、中国政府の新疆ウイグル自治区への政策に悪質な攻撃をし、中国の内政に乱暴に干渉するものだ。中国政府は強い憤慨と断固とした反対を表明する」と激しく反発しました。

そして、「アメリカが直ちに間違いを正すよう再度忠告する。さもなければ中国は必ず反撃し、生じるすべての結果はアメリカが完全に負わなければならない」として対抗措置を取ることも辞さない考えを示しました。


【私の論評】「ウイグル人権法」は中共が主張するような内政干渉ではないし、国際法に違反でもなく前例もある!(◎_◎;)

中国ではウイグルの建物や街が廃墟化され、文化、言語、信仰が破壊され、男性は収容所に送り込まれて労働させ、女性は中国男と強制結婚させらています。

民族浄化した末にウイグル文化園なるものを作り出して「文化の保存に尽力」とプロパガンダを打っています。このような悲惨な状況に終止符を打つためにも、ウイグル人権法の成立が待望されていました。

     両親が投獄され路上生活者となった男の子。寒さで凍死してしまった…
     中国によるウイグル族迫害をなぜマスゴミは報道しないのか?

トランプ氏がウイグル人権法案に署名。これで弾圧に関わった中国当局者の資産凍結やビザ発給停止が可能になります。180日以内に共産党幹部を含む関わった人物リスト作成 入国禁止、資産凍結、世界中の銀行口座廃止されます。習近平によるウイグル族に対する指示文書がリークされているので、習近平も対象になる可能性もあります。

トランプ大統領は、ハワイでの米中外相会議の会議中に、ウイグル人権法に署名成立させました。これは、無論意図的なことと考えられます。

中国外交トップが米国領ハワイへ出向いて会談しにへ行ったのはそもそも、習政権が追い詰められていることの証拠だと言えますが、会談の最中、トランプ大統領がウイグル人権法に署名、G7が香港国家安全法を「懸念」 する声明を出し、さらに中国を追い詰めたと言えます。

習近平の面子も、共産党の面子も丸潰れです。もう米国は中国の面子など気にせず、できるだけ潰して、恥をかかせ、意図的に怒らせ平静さを失わせ、徹底的に中国共産党を追い詰めようとしているようです。

日頃、人種差別や人権を叫ぶ文化人や芸能人が中国相手となると途端に大人しくなるの異常です。野党議員も声を上げるべきです。なぜ彼らは中国の人権弾圧とは闘わないのでしょうか。

もうすでに日本政府得意の「誠に遺憾」がこの世界で通用しないのは明らかになっています。日本もこの問題に関して腹をくくるべき時が来たようです。

中国外務省の華春瑩報道局長は10日の記者会見で、中国による香港への国家安全法導入方針に対して安倍晋三首相が先進7カ国(G7)による共同声明の発表を目指していると述べたことについて、「日本側に重大な懸念を表明した」と語り、日本政府に抗議したと明らかにしました。

中国外務省の華春瑩報道局長
華氏は、国家安全法の導入に関して「完全に中国内政に属し、いかなる外国も干渉する権利はない」と主張し、香港問題をめぐる国際社会の批判に反発しました。

安倍晋三首相は、G7で香港だけではなく、ウイグル問題も含めた、中共の人権侵害についても、G7で共同発表を実現して、日本の存在感を増すべきです。

中共は、人権に関わることで。米国などが何か行動を起こすと、その度に「内政干渉」として退けようとしてきました。しかし、それは中共の思い違いです。

世界には大小190余りの国があります。力の強い国、弱い国、豊かな国、貧しい国と様々です。これらの国が集まっているのが国際社会です。そこでは国同士が守らなければならない「きまり」があります。

それが国際法です。第二次世界大戦後にできた国際連合(国連)では、様々な国であっても、それぞれ独立して、互いに平等であること、自国のことはほかの国に干渉されないでその国が決めることを、すべての国連加盟国が守るべき原則として定めました。

この原則のために国際連合は、はじめのうちは、「内政干渉になる」ということを主張する国があったために、特定の国の人権問題に口出しできませんでした。これが変るきっかけになったのが、南アフリカの人種差別問題とパレスチナでの人権問題でした。

その後、いろいろの国の人権問題の現地調査などが行われるようになるにつれて、「特定の国の人権問題は、その国の内政問題ではあっても、国際社会の関心事でもあり国際連合がこれに関わることをさまたげられない」という考えが広く受け入れられるようになったのです。

この考えは、1993年オーストリアのウィーンで開かれた世界人権会議で採択されたウィーン宣言および行動計画で、「すべての人権の伸長及び保護は国際社会の正当な関心事項である。」と文書で確認されました。

今では特定の国の人権問題について意見を述べたり批判したりすることを「内政干渉である」と主張する国はありません。むしろ、そのような国は、自国に人権問題は存在しない、その国をおとしめるために嘘の情報を流していると、人権問題があるのを否定することにやっきになるのです。

国際連合は現在、世界の人権問題について積極的に討議し、調査し、報告を公表しています。簡潔にいえば、人権侵害の情報が根拠のある確かなものである限り、他国の人権に懸念を表明したり批判することは内政干渉とは考えられません。

さらに、今回のように米国が「ウイグル人権法」を定め、弾圧に関わった中国当局者の資産凍結やビザ発給停止することも、国際法的に見れば合法です。すでにこのようなことは、「ウイグル人権法」に比べれば、規模は遥かに小さいですが、「マグニツキー法」により、ロシアに対して実施されています。

「マグニツキー法」とは、ロシア人弁護士だったセルゲイ・マグニツキー氏が顧問をしていた英国人投資家が、ロシア国営企業の大規模不正を暴露した際に、代理人として逮捕されたマグニツキー氏が投資家に不利な証言を迫られたもののそれを拒否した結果、一年以上拘留されながら暴力を受け続け、結局2009年に獄中死したことに端を発します。

セルゲイ・マグニツキー氏 享年37歳

この事件には、ロシアの官僚たちも多数関わっていました。そのゴロツキ官僚たちが、マグニッキー氏を逮捕させ、勾留したのです。米国投資家らの運動により、「弁護士の死とロシアにおける人権侵害に関わった全ての者に制裁を科す」として2012年に成立したのが同法です。

人権侵害を行なった者への制裁の内容は、ビザ発給禁止や資産凍結などです。同法は、ロシアにとって極めて厄介である一方、自由や民主主義を標榜する米国にとっては、ロシア側に改善が見られない以上、その撤回は国家の威信をかけてできないのです。

当時ロシアは、グアンタナモ湾とアブグレイブに関与した11人のビザ発給を停止して、報復措置に出ました。しかし、ロシアに入国を拒否されても困ることはほとんどないので、これは報復としては弱いものでした。なお、米国人がロシアに資産を蓄えることなどは、滅多にないことなので、無論資産凍結などはやりようもありませんでした。

中共は、中国は「ウイグル人権法」に必ず反撃するとしていますが、「マグニッキー法」に報復したロシアのように、ほとんど何もできない可能性のほうが大きいです。

まずは、米中冷戦たけなわの現在、米国から中国に入国できなくなることは、さほど困ることはありません。いまは、コロナ禍もあり、そもそも行き来はできないし、将来的にも行けなくなること事態に関してさほど困ることないでしょう。

そうして、そもそも米国人大多数が、中国に資産を蓄えるなどの習慣はないし、中国の人民元は、事実上中国のドル保有が信用の裏付けとなっていることからも、中国が米国人の資産凍結などできません。

中共ができることとしては、中国国内にある米国企業や米国人に対する嫌がらせでしょうが、そんなことをすれば、ますます多くの企業が中国から逃げ出すことになるだけで、それは、中国の損失になるだけです。

中共は、ロシアと同じく、米国に報復するための有効な手立てはありません。それどころか、中共がウイグル弾圧をやめなければ、「マグニツキー法」に似たような法律が他の多くの先進国でも作られように、他の先進国でも「ウイグル人権法」に似たように法律が施行されることになるかもしれません。

日本も「誠に遺憾」と表明するばかりではなく、日本版「ウイグル人権法」を検討して、成立させるべきです。

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