2022年9月4日日曜日

国葬やアフリカへの4兆円支援、本当に税金の無駄遣いなのか 反対派の批判は的外ればかり―【私の論評】私達保守派は、老害から若者と自分自身、社会を守らなければならない(゚д゚)!

 国葬やアフリカへの4兆円支援、本当に税金の無駄遣いなのか 反対派の批判は的外ればかり

写真でみる限り、集会に参加している若者はいない

 安倍晋三元首相の国葬やアフリカへの官民合わせて4兆円投資の方針などについて、ネットの一部では「税金の無駄遣い」との声がある。

 税金の無駄遣いかどうかは、どのように判断すべきものなのか。一般論で言えば、財政支出に対して国民の主観的な評価があり、それに見合うかで無駄遣いかどうかとなる。もちろん、主観的な評価は人それぞれであるが、法令に基づく適切な支出でない場合、それが税金の無駄遣いとされるのは、ほとんどの人が納得できるだろう。

 会計検査院の検査では、法令などに違反したら不当事項を含む指摘事項がある。指摘事項のうち不当事項はまさに法令違反なので、指摘事項を税金の無駄遣いと報道されても不思議ではない。

 だが、安倍元首相の国葬やアフリカへの4兆円支援は、それぞれ内閣府設置法や外務省設置法に法的根拠がある。

 国葬に反対する人は、法的根拠がないとして裁判所に対し差し止め請求しているが、裁判所がそのような理由で差し止め請求を認めることはないだろう。

 差し止め請求では、費用の支出を予備費としていることや、国民への弔意の強要になるとの理由も掲げている。しかし、予備費は、予見しがたい支出について、国会の議決で設け、内閣の責任で支出することができる(憲法87条)ものなので、その規定通りである。

 国民への弔意の強要という主張は理解できない。内面の自由があるので、弔う気持ちのない人まで強要しない。一方、国葬の反対は、弔う気持ちのある人を妨害するだけで、むしろ他人の内面の自由の侵害にもなりかねない。

 国葬に反対する人は、しばしば費用が大きいとも指摘する。国葬にかかる費用は2・5億円とされたが、警備費が含まれていないことを問題視し、40億円程度の費用がかかるはずという主張もある。国葬で特別な警備体制になるのは事実であるが、各地から警官の応援があり、それらの警備費は既存の警察予算の範囲内である。要するに、国葬について追加的な警備費用はあまりかからない。費用の二重計上はミスリーディングだ。

 アフリカへの4兆円支援についても誤解がある。現時点で詳細は分からないが、追加的な支出であれば、補正予算などでの対応になり、そのときにはっきり分かる。これまでの例でいえば、4兆円のほとんどは融資であり、税金は原資ではないだろう。

 具体的な仕組みの概略は、国債を発行しそれを原資としてアフリカ諸国へ貸し付ける。国債の償還は国民の税金ではなくアフリカ諸国からの貸し付け返済で行われる。であれば、アフリカへの4兆円支援を税の無駄遣いというのは的外れだ。

 国葬費用の2・5億円は、日本で20カ国・地域(G20)級の国際会議を開催できると考えれば問題ないどころか、日本の立場を世界にアピールできるので、またとないチャンスでもある。これを税金の無駄遣いというのは、結局国葬を阻止したい人たちの単なる口実だろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】私達保守派は、老害から若者と自分自身、社会を守らなければならない(゚д゚)!

アフリカへの4兆円支援についての誤解は、あまりに馬鹿馬鹿しい内容なので、ここでは述べません。ただ、以下のような見解もあることを皆さんにも知っておいていただきたいものです。

【金子恵美の本音】 アフリカ4兆円投資は日本の成長に不可欠

国葬に関しては、いくつかの世論調査をみると、全体では反対が多いようです。しかし、10代~20代は6割くらいが国葬に賛成していますが、70代になると賛成しているのは3割しかおらず、反対は60%以上です。

20歳くらいの人たちからすれば、小学4~5年生くらいのときに総理が安倍さんになり、それ以来ずっと安倍さんでした。「日本の総理イコール安倍総理」という印象も強いのでしょう。。

このことからすれば、若い人は、意外と安倍さんに対して、我々が驚くくらいの思いを持っているのです。ですから閉会中審査で岸田総理の口から、「なぜ国葬を行うのか」をしっかり伝えることが大事だと思います。弔意を強制するようなことは、当然ながらありません。

世代間の違いが何に起因するのでしょうか。もしかすると新聞、テレビの報道、テレビのワイドショーの影響なのかもしれません。確かに10代~20代はほとんどテレビを観ていないし、新聞も読んでいません。

70代などになると、情報の取得先が新聞やテレビにどっぷりの世代ですから。その差が世論の違い、世代間対立の違いに表れてきているのではないかと考えられます。

慶應大学に田中辰雄先生という、計量経済学を専門とする方がいます。その先生が60~70代の新聞・テレビ世代は、新聞やテレビの情報は「だいたい確からしい」と考え、ネットから流れてきた情報も同じように「正しい」と信じ込んでしまうところがあります。そのため陰謀論などにはまりやすいのだと語っておられます。

現在の10代~20代はSNSが子どものころからあるので、嘘も交えてさまざまな情報が流れてくることを前提にしています。意外と極端な情報が入っても、あまり真に受けず、「左右両方の情報を見て考える」という所作が身に付いているのではないかと指摘されていました。

ある意味、この世代は情報リテラシーがあるといえるのです。時代が変化してインターネットが当たり前、SNSが当たり前の時代になればなるほど、もう少しバランスの取れた世論に変わっていくのではないかという期待もあります。

高齢者になるほど「安倍元総理の国葬儀」に反対している傾向が強く。この結果は年代別の政党支持率(下グラフ)に似ています。今の混沌とした日本を作ったのは多くの老害で、これからの日本は期待できるかもしれません。


ただ、まともなご老人を含めた、保守派の我々としては、現在の老人たちが、寿命により亡くなり、現在の若者が、40歳前後の社会の中核になるまで、この日本を守っていかなければなりません。

ちなみに、20~40代の男女2000人にアンケートを実施したところ、「身の回りに『老害だなぁ』と感じる人がいる」と回答したのは66.7%。超高齢化社会と叫ばれて久しい日本ですが、実に多くの人が老害化した高齢者に頭を悩ませていることがわかります。

今、社会全体に“老害”がはびこっているのです。 Q. 身の回りに「老害だなぁ」と感じる人はいますか? YES…66.7% NO…33.3% ※20~40代の男女2000人にアンケートを実施。回答期間:2022年6月8日(水)~6月14日(火)

もちろん、高齢者が全員老害化するわけではありません。ですが、会社員時代に得た地位やプライドを引退後も捨てきれない人や、脳機能の衰えによって感情のコントロールが利かなくなった人が一定数いるのは事実です。

高齢者の数が右肩上がりで増えているため、そのぶん必然的に老害化による傍若無人ぶりも目立っているのかもしれません。 

世界保健機関の定義によると、高齢者とは65歳以上を指します。この定義に鑑みれば、日本では総人口の29.1%が高齢者ということになります(’21年時点。総務省統計局の発表より)。

迷惑行為のみならず、日本は高齢者優遇の政策に偏る「シルバー民主主義」に陥っているとの指摘もあり、政治や企業の中枢ではいまだに高齢者が幅を利かせているのが実情です。

写真はイメージです

こうした状況を放置すれば、老害と呼ばれる高齢者が増えるのも当然で、社会全体が老害に蝕まれる前に対処法を学ばなければいけないです。 老害(ろうがい)とは、組織や社会で幅を利かせすぎて言動が疎まれる高齢者、また、傍若無人な振る舞いによって他人に必要以上の負担や迷惑をかけている高齢者などを指す表現です。

そうして、誰もが年を重ねれば、老害となる可能性もあるのです。自分自身が老害にならないために、周りのご老人たちが老害とならないようようにする方法はあるはずです。老害によって、若者だけではなく、日本社会が蝕まれていくことは避けなければなりません。今後、このブログではその方面にも踏み入っていこうと思います。

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2022年9月3日土曜日

台湾有事が起きた時、日本は主導権をとれるのか―【私の論評】台湾・尖閣有事のシミレーションに潜水艦を登場させれば、全く異なる風景がみえてくる(゚д゚)!

台湾有事が起きた時、日本は主導権をとれるのか

長尾 賢 (米ハドソン研究所 研究員)

 今、台湾情勢の緊張が続いている。そんな中、2022年8月6~7日、日本戦略研究フォーラム主催で、台湾危機に関するシミュレーションが行われた。

 台湾周辺で危機が高まり、尖閣諸島へも武装した漁民などが上陸し、次第に台湾への攻撃が開始されるシナリオに基づいて、首相役、各大臣役の政治家が、どういった対応が可能なのか、検証していく取り組みだ。

 首相役には、小野寺五典元防衛相がつき、各大臣役も現役の名だたる政治家であり、国家安全保障局長には元国家安全保障局にいた専門家が務めるなど、内部事情に詳しい人が行った検証である。そこから問題点を洗い出し、実際の危機において、日本の対応能力を高めることができ、大変有意義な取り組みであった。

シミュレーションには、筆者(中央後ろ)もオブザーバーとして参加した

 筆者もオブザーバーとして入れてもらったので、その意義を感じ、勉強になったところが多い。その上でこのシミュレーションをさらにリアリティーを持たせるため、本稿では、筆者が感じた改善点として次の3つの点を指摘しておきたい。

意思ある人の意向をどう反映させるか

 1点目は本シミュレーションでは、日本の民間人が協力するということがシナリオになかったことである。例えば、台湾有事が迫り、台湾にいる日本人、中国にいる日本人、沖縄の先島諸島や与那国島にいる日本人を避難させようとするときである。

 日本の民間航空会社やフェリー会社などが、攻撃を受けるかもしれず、協力しないことが想定に入る。たしかに、これは問題としてしばしば指摘されている。しかし、危機になって、生命が危うい状況に陥った人がいるとき、本当に日本人は協力を拒否するだろうか。

 例えば、第2次世界大戦初期にダンケルクで起きたことは、日本では起きないのだろうか。当時、フランスに派遣された何万人もの英国軍が、ドイツ軍に追い詰められ、海岸で皆殺しになろうとしていた。

 その時、英国の民間人は自らの船を出して、助けに行ったのである。国が協力を求めて動いた船もあるが、自ら出ていった船もあった。

 英国人だけではない。2020年に中国の襲撃を受けて、インド兵100人近くが死傷した時、インドでも起きた。貧しい子供たちが、国境地域に行って中国と戦う、といいはじめ、集団で家出をして、国境へ行ってしまったのだ。

 親たちが慌て、警察へ行き、警察官らが説得して、家に連れ戻した。戦争という危機に瀕し、何かしなければならないと思った人の、自然な反応をよく示している。

 そういったことは日本でもあるかもしれない。日本人もロシアがウクライナに侵攻して以降、安全保障に関して見方が変わり、ウクライナ人支援を積極的に行っている。東日本大震災の時に、多くの日本人が、被害者のことを思い、協力しようとした時と同じだ。そういう人は珍しいだろうか。

 日本の場合、もし仮に、全人口のたった10%しか、協力しようとしなかったとしても、それは1200万人が協力することを意味する。24万人しかいない自衛隊に、1200万人の意志が支援するのであれば、例え10%にすぎなくても、それは無視しえない力になるはずだ。

 その1200万人をどう使うのか、検討しても良いのかもしれない。やる気のない人をどう説得するか、という視点のみならず、やる気のある人にどう答えるか、である。

柔軟で国際的な発想をもっているか

 2点目は、日本が対策を検討した際に、国際的な見地が十分にあったかどうかだ。台湾にいる日本人、中国にいる日本人、沖縄の先島諸島や与那国島にいる日本人を避難させようとする時、船や飛行機が足りない状態になった。日本の民間航空会社やフェリー会社が協力しないからだ。

 その時、閣僚役の一人から「日米豪印『クアッド』の各国から輸送機を出してもらえないか検討する」という提案が出た。素晴らしい提案だと思う。ただ、この発想は、もっと先に進んだものにしてもいい。

 もし軍用輸送機が必要なら、世界には、民間軍事会社がある。そういったところに依頼して、輸送機と乗員を送ってもらうこともできるのではないか。

 そもそも、日本の船についても、船員の多くには外国人が沢山いるのではないのか。そのリスクに見合う給料を受け取ることができるならば、多少のリスクは覚悟のうえで、船を操縦することに挙手する船員が出てくる可能性がある。

 外国人に、日本のために命を懸けろと要求するような任務は無理かもしれない。しかし、戦争が始まる直前に、避難民を避難させるための乗員だとすれば、よりリスクは低い。もし日本人が、日本人を助けるために、その程度のリスクも負えないのならば、外国人ではどうか。そういった国際的で、柔軟な発想が、もっとあってもいいのではないか。

危機における主導権をとれていたか

 3点目は、中国がすべてを決めて、日本がそれに対応するために奔走するという、受け身の姿勢だったことだ。つまり、戦いなのに、主導権をとれていないのである。これでは、負けるのではないか。

 フォークランド紛争について描いた映画に『マーガレット・サッチャー鉄の女の涙』(2013年)があり、当時の議論を短くまとめている。そこの議論で、「エスカレーションが起きるなら、われわれから起こした方がましだ」という表現が出てくる。

 これはどういう意味だろうか。これは戦いにおいては、主導権をとらないと勝てない、という意味である。

 今回のシミュレーションを見てみると、常に中国が攻撃して、日本は対応に追われる。どのような状況を作り出すかは、中国がすべて決めるのである。これで、いいのだろうか。

 サッカーであれば、防御しかしていないチームは、勝つことができない。攻撃しているチームが、常にどこを攻撃するか、決める。どのような試合運びにするか、も決める。防御だけでは勝てないことは、常に考えておく必要がある。

 そのような状況において、日本側の問題点は何か。それは、法的にも、装備にもあるだろう。

 日本では、自衛隊の行動に関する法律は、「ポジティブリスト」で書かれている。どのような状況で何をしていいか書いてある方式だ。これは逆に言えば、そこに書いていないことは、やってはいけないのである。

 一方、他国では、「ネガティブリスト」で書かれている。軍隊が何をやってはいけないか、書かれており、それ以外は、やっていいのである。これだと政府は、柔軟に軍隊を動かして対応する。柔軟に動ければ、戦いで、より主導権をとれる。

 装備品についても、問題がある。今回のシミュレーションにおける日本は、防御しかしていない。攻撃力がなければ主導権は取れない。

 今、日本は、敵の攻撃に対して反撃する能力の保有を検討している。例えば、長射程で、陸地を攻撃できる、巡航ミサイルの保有を考えている。つまり、防御だけでなく、攻撃を行うことを考えているのだ。

 それは戦いにおいて主導権をとることにつながる。日本に攻撃力があれば、中国は、日本から攻撃を受けるかもしれない、そう想定して、駆け引きを考えるだろう。中国としては、日本が中国のどこを攻撃するか、わからないから、かなり広い範囲を防御せざるを得ず、困るだろう。

 ただ、日本の攻撃力は限定的だ。中国に比べ、予算がないからだ。だから、効率的な方法を考える必要がある。

 巡航ミサイルを水上艦に搭載すれば、中国は、その位置を正確に把握してしまい、日本がどこを攻撃するか、簡単に予測されてしまう。しかし、同じ巡航ミサイルを日本の潜水艦に搭載して運用するならば、中国は、日本がどこを攻撃するか、わからない。

 仕方ないから、中国は広い範囲に防衛線をはり、戦力を分散させるだろう。巡航ミサイルを潜水艦に搭載するほうが、水上艦に搭載するよりも、日本が主導権を握りやすいことになる。

 シミュレーションでも、こうした反撃能力の運用についても検証してほしかった。

「負けない」ために準備を

 今回のシミュレーションは、大変意義あるものであった。しかし、実際に検討してみると、日本が台湾有事に対応できるのか、不安になるものでもあった。戦争が避けたくても避けられない可能性が出てきたとき、日本には、重要な問いがあるはずだ。

 次の戦争も負けたいか……。それだけは、避けたい。

【私の論評】台湾・尖閣有事のシミレーションに潜水艦を登場させれば、全く異なる風景がみえてくる(゚д゚)!

この手の記事を読んでいつもがっかりするのは、必ずといってよいほど、台湾有事のシミレーションに潜水艦が登場しないことです。日本戦略研究フォーラム主催で、台湾危機に関するシミュレーションにも登場していないようです。

これは、米国の国防総省や海軍大学のシミレーションでも同じことです。米海軍は強力な攻撃型原潜を持っているにもかかわらず、彼らのシミレーションにはそれは登場することはありません。

それはなぜなのかについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ペロシ米下院議長、アジア歴訪を発表も訪台は明示せず 割れる賛否―【私の論評】ペロシの台湾訪問は米国による対中国「サラミスライス戦術」の一環(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとし、以下にこれに関わる部分のみを引用します。

米国国防省や米海大の台湾有事のシミレーションでは、なぜか米軍は、攻撃型原潜を用いることはありません。なぜそのようなことをするかといえば、米国の攻撃力に優れた攻撃型原潜をシミレーションに参加させれば、米海軍の中国に対する絶対優位性が証明されることになり、シミレーションの本来の目的が達成されなくなってしまうからです。

本来の目的は何かとえば、米海軍の脆弱な部分を補うための予算を獲得すること、さらに米海軍の脆弱な点に対して、世間の耳目を惹き付けることです。

そのシミレーションの目的は、十分とはいえないものの、ある程度は効果を現しているようです。しかし、そこにたとえば、オハイオ型攻撃型原潜を参加させれば、これは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載でき、これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。
米オハイオ級攻撃型原潜
トマホーク1基では、爆発力の高い弾頭を最大1000ポンド(約450キロ)搭載可能です。さらに、現在の米国の大型原潜は、巡航ミサイル以外にも、対艦ミサイル、対空ミサイル、魚雷等を多数配備し、さながら海中の大型ミサイル基地のようであり、その攻撃力は半端ではありません。

このような大型攻撃型原潜が1隻でも、台湾近海に潜んでいれば、台湾有事には最初の一撃で、多くの艦艇、航空機、中国の防空施設、監視衛星の地上施設を攻撃すれば、中国海軍は壊滅的打撃を受けることになります。

それを覚悟の上で、無理に中国が台湾に上陸部隊を上陸させたにしても、米攻撃型原潜が台湾近海に潜んでいれば、中国海軍の艦艇や航空機が、台湾に近づけばこれがことごとく破壊され、上陸部隊への補給ができず、上陸部隊はお手上げ状態になります。

中国はASW(Anti Submarine Warfarea:対潜戦)においては日米に著しく劣る中国海軍には、これに対抗する術はほとんどありません。中国軍は、米攻撃型原潜が台湾沖に恒常的に潜むことになり、米軍がそれを公表する事態になれば、第三次台湾海峡危機(1995年-1996年)において、米軍の空母に対応できず、軍事恫喝を継続することができなかったときのように、再度米国の攻撃型原潜に屈服することになります。
このことに関しては、米国の著名な戦略家ルトワック氏も語っていますが、他の複数の著名軍事専門家も同じようなことを語っています。

日本でも、台湾有事というと、判で押したように、必ずと言ってよいほど、潜水艦は登場しません。上の記事でもわかるように、日本戦略研究フォーラム主催で、台湾危機に関するシミュレーションにも登場していないようです。

これは、米国防省や海軍大と同じく、潜水艦を登場させてしまえば、圧倒的に日本が有利なるため、それでは海自の脆弱な部分を補うための予算を獲得すること、さらに海自の脆弱な点に対して、世間の耳目を惹き付けることができないからなのでしょうか。

それとも、潜水艦の行動は昔から秘匿するというのが普通なので、その慣例に従っているからだけなのでしょうか。あるいは、単に中国を刺激したくないだけなのでしょうか。

その真偽は定かではありませんが、皆さんも少し調べてみれば、台湾有事や尖閣有事での日本の対応ということになると、ほとんどのメディアや軍事専門家たちの論説には潜水艦が含まれていないことに気づくでしょう。

米国の攻撃型原潜など、攻撃力は高いですが、原潜は構造上どうしてもある程度は騒音が出てしまうので、発見されやすいです。ただ、スクリューの駆動を止めて、深海に潜んだり、潮流に乗っていたりすると、これは発見しにくいです。

ただし、この状態であっても、魚雷やミサイルを発射すると、発射の時点で、さらに発射地点から退避行動をとるためスクリューを駆動させると、発見されやすくなります。ただ、米軍は対潜哨戒能力が中国軍よりはるかに高いので、中国軍に対してはるかに有利に戦うことができます。

それに大型の攻撃型原潜であれば、一度の攻撃でかなりの中国の艦艇、潜水艦、地上施設を破壊してしまうので、攻撃型原潜への攻撃も防ぐことになり、かなり有利に戦闘を進めることができます。

これに対して、日本の通常型潜水艦は、最近はハープーンミサイルも発射できるなど攻撃力も増しましたが、それでも米国の大型攻撃型潜水艦と比較すれば、劣ります。

しかし、利点もあります。先に述べたように、日本の潜水艦はステルス性がかなり高いので、魚雷などを発射するとその瞬間は発見されやすくなりますが、退避行動で全速力で逃避行動をとったにしても対潜哨戒能力の低い中国には、かなり発見しずらいのです。

「おやしお」型潜水艦「まきしお」の発令所。艦尾から艦首方向を見ている。右手の円筒形は潜望鏡

そのため、現在22隻体制になった潜水艦をうまく運用すると、かなりのことができます。

まずは、台湾や尖閣などの島嶼が中国軍に攻撃された場合、これらの島嶼を複数の潜水艦で包囲してしまえば、中国軍はステルス性の高い日本の潜水艦を発見するのが困難であるため、これを恐れ、補給のための艦船等を台湾に近づけることができなくなります。近づけば撃沈されることになります。そのため、中国軍は陸上部隊に補給ができなくなりお手上げ状態になります。いずれ、投降することになります。

次に、上の記事にある、戦争に協力する意思ある人の意向をどう反映するかというところでも、言われていたように、たとえば台湾有事で邦人や、台湾の人々が非難するのを助けるために、民間人が船を出したとき、それを日本の潜水艦が守ると宣言すれば、中国海軍はこれに手を出すことがかなり難しくなります。

このように潜水艦をシミレーションの中に含めるか否かで、現在でも大きな違いがあります。

さらに上の記事では、将来的に潜水艦を利用することも提言しています。それが、いままでの記事とは大きく異なっているといえると思います。その部分に以下に再掲します。
 巡航ミサイルを水上艦に搭載すれば、中国は、その位置を正確に把握してしまい、日本がどこを攻撃するか、簡単に予測されてしまう。しかし、同じ巡航ミサイルを日本の潜水艦に搭載して運用するならば、中国は、日本がどこを攻撃するか、わからない。
 仕方ないから、中国は広い範囲に防衛線をはり、戦力を分散させるだろう。巡航ミサイルを潜水艦に搭載するほうが、水上艦に搭載するよりも、日本が主導権を握りやすいことになる。
これは、かなり有効だと思います。これを装備すれば、日本の潜水艦も米国の攻撃型原潜の攻撃力に近づくことになります。日本は第2次世界大戦中もかなり優秀で航空機を3機搭載できる大型の潜水艦も製造できました。

ただ、その運用方法はあまり上手くはなく、米軍は潜水艦は当時の水準からすると至って凡庸なものだったそうですが、それでも運用方法が優れており、多方面で活躍したとさてれています。たとえば、第2次世界大戦中には米軍潜水艦は、東京湾の深くまで踏み入り、情報収集活動を行っていたそうです。

さらに、米軍は潜水艦を用いて、日本の通商破壊を徹底しましたが、日本海軍の戦争戦略に通商破壊という概念がなく、これをほとんど実施していませんでした。偶発的なものはありましたが、日本海軍がこれを戦略的に実行したことはありません。日本の優れた潜水艦を用い、これを実施していれば、戦況がかなり変わった可能性があります。

上の記事では、「次の戦争も負けたいか……。それだけは、避けたい」と結論づけています。私もそう思います。であれば、日本はせっかくの22隻をどのように使うかを真剣に考える必要があると思います。

そうして、本気でそれを考えれば、かなり日本の潜水艦隊は、専守防衛には有効であることがわかると思います。最近中露海軍は、日本を挑発していますが、実際に海戦ということになれば、日本の潜水艦にかなり痛めつけられることを覚悟していると思います。実際に海戦になれば、日本側は、宗谷海峡、対馬海峡、豊後水道、対馬海峡など主な海峡等々を潜水艦を配置し封鎖するでしょう。また、機雷封鎖もすることになるでしょう。

たとえば、ロシア極東軍はウラジオストックから補給を受けており、宗谷海峡が封鎖されれば、その補給はかなり難しくなります。

ただ、専守防衛だけでは、日本の独立が守れたにしても、日本の国土が攻撃にされてしまい、多くの国民の人名や財産が失われてしまいかねません。それを抑止するためにも、日本の潜水艦もトマホークのような巡航ミサイルを装備できるようにすべきです。

専守防衛だけでは、国民の命や財産は守れないことが、ウクライナ戦争で明らかに・・・・

そうして、台湾有事、尖閣有事のシミレーションには潜水艦を登場させるべきですし、そうすれば、戦況はいままでとは全く異なることになることが理解できるでしょうし、これをさらに強化するには何が必要になるかがはっきり、みえてくると思います。

日米とも台湾有事のシミレーションには潜水艦を参加させ、細かいことは発表しなくてよいですから、その結果が潜水艦なしのときとではどのような変わったかくらいは発表すべきと思います。

その上で、米海軍は米海軍の本当の危機とも言える、米空母などの艦艇や潜水艦の稼働率の低下を招いている工廠の問題などを明確にして、それを是正するための予算獲得に尽力すべきと思います。米国民も台湾有事に米海軍が有効に対応ができないというのなら、さらに大金を投入するのはためらわれると思います。

日本でも、自衛隊が尖閣有事、台湾有事に自衛隊がせっかく長い間かけて巨費を投じて、潜水艦隊を育ててきたにも関わらす、これを参加させずに、その結果現状ではあまり有効な手立てを示すことができなければ、中国と海で戦えば、日本はすぐに負けると思い込む人もでてくるかもしれません。

すぐ負ける自衛隊に大金を投じることは、無意味と感じる人も大勢出てくるかもしれません。そうなれば、中国の思う壺です。そのようなことは避けるべきです。

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2022年9月2日金曜日

オーストラリア海軍要員、英の最新鋭原潜で訓練へ AUKUSで関係深化―【私の論評】豪州は、AUKUSをはじめ国際的枠組みは思惑の異なる国々の集まりであり、必ず離散集合する運命にあることを認識すべき(゚д゚)!

オーストラリア海軍要員、英の最新鋭原潜で訓練へ AUKUSで関係深化

英国の攻撃型原潜「HMSアンソン」

 韓国・ソウル(CNN) 米英豪3カ国による安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」の下で防衛面の関係が深化するなか、オーストラリア海軍の要員が近く英国の原子力潜水艦で訓練を始める見通しとなった。英政府が8月31日に明らかにした。

 ウォレス英国防相は「インド太平洋を始めとする地域で自由民主主義秩序への脅威が高まるなか、今日はこれに対抗する英国とオーストリアの準備作業において重要な節目になった」と述べた。

 英海軍がイングランド北部バロー・イン・ファーネスで最新鋭の攻撃潜水艦「HMSアンソン」を就役させた際の発言。就役式にはオーストラリアのマールズ副首相兼国防相も参加した。

 ウォレス氏は就役式で、国内の造船業や国際的な提携を称賛。国内の造船所で建造されたアンソンは英国産業の粋を示すものであり、「AUKUSに基づき緊密な同盟国であるオーストラリアや米国などとの共同安全保障に貢献する英国の意欲を明確に示している」と述べた。

オーストラリアのマールズ副首相兼国防相

 マールズ氏も「オーストラリアの潜水艦要員がHMSアンソンで訓練を受けるという今日の発表は、AUKUSの協力関係を構築する我々の将来の計画について全てを物語っている」と語った。

 昨年締結されたAUKUS協定に基づき、オーストラリアは2040年までに原子力潜水艦を取得したい考えを示している。

 建造予定のオーストラリアの原潜の設計はまだ不明。英国のアスチュート級潜水艦や米海軍のバージニア級攻撃潜水艦に似たものになる可能性があるが、オーストラリア独自の仕様の新型艦になる可能性もある。

【私の論評】豪州は、AUKUSをはじめ国際的枠組みは、必ず離散集合する運命にあることを認識すべき(゚д゚)!

英国海軍は2021年5月17日(月)、アスチュート級原子力潜水艦の5番艦「アンソン」を、イングランド北部の都市バロー=イン=ファーネスにあるBAEの造船所で進水させていました。

アスチュート級原子力潜水艦は、魚雷や対艦ミサイルなどで敵の水上艦や潜水艦などを攻撃するのが主任務の、いわゆる攻撃型原潜と呼ばれるタイプであり、大陸間弾道弾などを搭載する、いわゆる戦略ミサイル原潜ではありません。

イギリス国防省はアスチュート級を7隻建造する計画で、2007(平成19)年6月に1番艦「アスチュート」が進水、2010(平成22)年8月に就役して以降、これまでに4番艦「オーディシャス」までが同海軍に引き渡されていました。

今回、就役した「アンソン」は2011(平成23)年10月13日に起工。約10年後工期を経て2021年に進水し、今年8月31日に就役し海上公試に入りました。

水中排水量は約7700トン、全長97m、全幅11.3m。乗員数は約100名(最大109名)で、ロールス・ロイス製の加圧水型原子炉「PWR2」を1基搭載し、速力は30ノット(約55.6km/h)。533mm魚雷発射管を6門備え、国産の「スピアフィッシュ」魚雷のほか、アメリカ製の「トマホーク」巡航ミサイルなどを装備しています。

英国のように、原潜を製造する能力があっても、起工してから就役するまで10年以上もの歳月を必要とするのです。そうして、就役したからといってすぐに実戦に参加するわけではありません。

その後に海上公試があります。海上公試は、建造された艦船を海上で実際に運航し、要求通りの機能・性能が発揮できるかを確認するために、建造所から軍への引き渡し前に実施される試験です。

海上公試は、船の性能を調べる艦船公試と搭載兵器の性能を調べる武器公試(軍艦などの場合)に大別されます。試験期間は1泊2日、5泊6日など船の種類によって様々です。

 海自の場合だと、数十回の海上公試を行い、トータルシステムとしての艦船の完成検査を受け、合格して引き渡しを行い、契約の履行が完了という運びになります。

防衛省に引き渡された艦船は、ただちに防衛大臣により自衛艦旗が授与され、自衛艦としての位置付けが確立し、部隊に配属され、任務に就くことになります。

一隻の艦艇を製造するにしても、起工してから、任務につくまではこれだけの期間を要するのです。

オーストラリアには、そもそも自前で潜水艦建造の技術もなく、原子力産業も存在しません。そのオーストラリアが原子力潜水艦を持つということは、文字通り一つの産業を起こすくらいの大事業です。

オーストラリア政府が、原子力潜水艦を2040年までに取得したいとしている理由が、これでおわかりになると思います。それだけ、原潜の開発には、手間と時間がかかるのです。

それを早めるために、潜水艦を最初から建造するのではなく、建造されたものを購入するという手もあります。それにしても、すぐに運用するには、乗組員を訓練しておく必要があります。今回のオーストラリアの潜水艦要員がHMSアンソンで訓練を受けるという発表は、そうしたことも視野に入れている可能性もあります。

ただ、2040年までというとかなり長期です。その期間中誰が首相になろうが、英豪間の強いコミットメントが必要です。さらに、20年後までAUKUS内でオーストラリアを機能させないままにするのかという議論にもなると思います。それは、あり得ないでしょう。

このことから、元トランプ政権高官シュライバー氏は、豪州に原潜は来ないかもしれないと警告しています。それは、多いにありえることです。

これについては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
AUKUSで検討されている新戦略―【私の論評】AUKUS内で豪が、2040年最初の原潜ができるまでの間、何をすべきかという議論は、あってしかるべき(゚д゚)!

2020年2月、蔡英文台湾総統(右)を表敬訪問したシュライバー氏(左)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、シュライバー氏は以下のような提案をしています。

シュライバー氏は「両国の政治指導者の持続的なコミットメントが必要であり、それがなくなれば豪州の原潜展開の可能性は50%以下になる」と述べた上で、①原潜計画が旨く行かない場合に備えプランB(代替案)が必要だ、②B-21(最新長距離爆撃機)の調達を検討すべきだと主張しています。

B-21は高い柔軟性、早い補充性等の利点を有するといいます。しかし、B-21も最新技術を使用しており、米国の技術供与同意は簡単ではないでしょう。

いずれにしても、AUKUSという組織をつくったにしても、その組織の一員である、オーストラリアが2040年に原潜を取得するまで、何もしないというわけにはいかないでしょう。

原潜計画は進めるにしても、2024年まで、オーストラリアが何かに貢献すべきことは明らかです。

現在中国に対抗するため、様々な軍事的あるいは経済的な枠組みが作られています。ただ、これらの枠組みが将来にわたって不変で継続し続けるかどうかなどわかりません。それを考えると、シュライバーの指摘は正しいと思います。

これについても、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

AUKUSを読む上で重要な地政学的視点―【私の論評】同盟は異なった思惑の集合体であり必ず離合集散する。AUKUS、QUAD、CPTPPも例外ではない!我々は序章を見ているに過ぎない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分を掲載します。

インド太平洋には、もう一つ、QUAD(クアッド)という対話の枠組みがあります。日本が主導して始めたもので、米国、オーストラリア、インドが加盟しており、9月には初めての対面形式の首脳会議がホワイトハウスで開催されました。首脳会議は今後、毎年開催される予定です。

AUKUSが今後、発展していくにつれて、QUADとどのように連携していくのかが、大きなテーマになるでしょう。

英国はCPTPPへの加盟を検討していますし、日本も将来、AUKUSへの加盟を検討しなくてはならない時期が来るでしょう。やがて、インド太平洋では、政治はQUAD、安全保障はAUKUS、経済はCPTPPという役割分担が成立するかもしれないです。

歴史を見ればわかるように、同盟は異なった思惑の集合体ですから、必ず離合集散します。これらの枠組みもいつかは統合し、分裂し、さらにNATOや日米同盟もこれらに吸収されることになるかもしれないです。

AUKUS、QUAD、CPTPP、それらはやがて一つにまとまり、作り替えられて、将来、インド太平洋同盟として花開く可能性を秘めています。

今、われわれが目にしているのはその始まりにすぎないのです。

ただ、オーストラリアには潜水艦を所有したいという強い意思があるのも事実です。中国の艦艇がオーストラリアの近くの海域を航行するのは珍しいことではなくなりました。オーストラリア国防省は2月19日、豪州北部沖合の上空を飛行していた哨戒機が海上の中国軍艦艇からレーザー照射を受けたと発表しています。

中国の潜水艦が航行している可能性もあります。こうしたことに備えるためには、中国は対潜哨戒能力がオーストラリアよりも低い(米国より対潜哨戒機P-8等を導入し対潜哨戒能力を高めている)ことを考えると、攻撃力に優れる攻撃型原潜を手に入れることは理にかなっています。

それにしても、同盟は異なった思惑の国々の集合体ですから、必ず離合集散します。現在の国際的な枠組みもいつかは統合し、分裂し、さらにNATOや日米同盟もこれらに吸収されることになるかもしれないです。

オーストラリアも、こうした国際的枠組みの離合集散に備えておくべきと思いますし、現在のAUKUSへの貢献も考えるべきでしょう。

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南シナ海の人工島造成戦略を太平洋諸国に向ける中国―【私の論評】南シナ海の中国軍事基地は、何の富も生まず軍事的にも象徴的な意味しかないのに中国は太平洋でその愚を繰りすのか(゚д゚)!



2022年9月1日木曜日

自民、旧統一教会と決別宣言 守れなければ離党も―茂木幹事長―【私の論評】法律の厳格な適用や新設の検討を飛び越して、旧統一教会との決別を厳命した岸田内閣に明日はない(゚д゚)!

自民、旧統一教会と決別宣言 守れなければ離党も―茂木幹事長

自民党役員会に臨む岸田文雄首相=31日、東京・永田町の同党本部

 自民党は31日の役員会で、党所属国会議員に対し、今後は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を絶つよう徹底するなどとした基本方針を確認した。同党はこれまで教団とは組織ぐるみの関係はないとして、各議員の個別点検による関係適正化の指示にとどめていたが、世論の批判や反発は収まらず、より厳正な対応に踏み込まざるを得なくなった。

 岸田文雄首相(党総裁)は役員会で、党所属議員と教団の関係について「国民の疑念、懸念は自民党に対する信任に直結するもので重く受け止めなければならない」と指摘。「所属議員は過去を真摯(しんし)に反省し、しがらみを捨て当該団体との関係を絶つことを党の基本方針とし、徹底する」と指示した。

 今回、取りまとめた基本方針は(1)党所属議員への点検結果の概要公表(2)旧統一教会や関連団体、社会的に問題が指摘される団体と関係を持たないことをガバナンスコード(統治指針)に明記(3)会合出席の是非など議員側のチェック体制を支援(4)霊感商法など被害者救済対策の検討―の4点。

 茂木敏充幹事長は記者会見で基本方針について「重い決定だ。仮に守ることができない議員がいた場合は同じ党では活動できない」と強調。方針を順守できない議員に離党を求める可能性にも言及した。

 同党は既に祝電送付や会合出席、選挙支援など8項目にわたり教団や関連団体との関係を尋ねるアンケートを所属議員に配布し、9月2日までに回答するよう求めている。

 これに関し茂木氏は会見で、会合で講演したり、資金のやりとりや選挙協力などがあったりした議員については、氏名の公表を検討していると明らかにした。

【私の論評】法律の厳格な適用や新設の検討を飛び越して、旧統一教会との決別を厳命した岸田内閣に明日はない(゚д゚)!

今回の岸田首相の判断、間違っているように思えてなりません。今後は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を絶つとしていますが、そのようなことは本当に可能なのでしょうか。

マスコミは統一教会叩きに余念がないが・・・・

たとえば、今後、選挙運動のボランティアを募集するときに、志望者一人ひとりに、「あなたは、統一教会の信者ですか」と聞くことなどできるでしょうか?

ますば、聞けないと思います。これは、非現実的であり得ないです。私は「統一協会の信者です」と言われたらといって、「じゃあ、あなたは来ないでください」といえるでしょうか。そのようなことをすれば、信教に対する人権侵害になりかねないです。

このブログでも以前掲載したように、憲法20条における政教分離は、国家に対して〝宗教への国家の中立性〟を求めるものであって、国民に対して〝宗教者の政治参加〟を禁じたものではありません。そのため、創価学会のような、宗教団体が政治に関与することは、そもそも違憲ではないし、旧統一教会が選挙運動の応援をすることも違憲ではありません。

日本は法治国家です。私は旧統一教会の教義には全く共感できないですが、公党は、国民の人権にかかわる問題への対応をマスコミが作り出した「空気」で判断してはならないです。党の決定を適正に運用するには、反社会的団体の定義と根拠を規定する法律が不可欠です。

霊感商法に関しては、先日もこのブログで指摘したように、ここ数年でかなりの前進がありました。安倍政権だった頃の、2016年10月から、いわゆる「消費者裁判手続特例法」が施行されました。それまで、消費者が企業(事業者)から何らかの財産的被害を受けた場合、自らその被害回復を図るためには、自力で事業者を相手に交渉するか、訴訟を提起する必要がありました。

しかし、消費者契約に関する共通の原因により相当多数の消費者に生じた財産的被害の集団的な回復を図ることを目的として、本法が制定されました。いわゆる日本版クラスアクションです。これには、霊感商法の被害も含まれます。

さらに、19年6月から、消費者契約法改正が施行されました。その結果、霊感等による知見を用いた告知により締結された消費者契約の取り消しができるようになったのです。

法律の新設や改定によって安倍政権下で霊感商法による被害は1/10に



一方、宗教法人に対する法外な寄附金は、詐欺罪等が明確に成立するときなどには、これを適用できますが、それ以外は適応できません。これについては、新たな対応をすべきです。

それについては、たとえば、このブログにも以前掲載したように、米国のような制度を導入する事が考えられます。

その制度とは、まずは、寄附金をする際には、寄附金額に応じて寄附者が所得税控除を受けられるというものです。米国では、宗教法人を含む公益法人に寄附をすると寄付者が所得控除を受けることができます。

日本では、寄附を受けた宗教法人が税金を払わなくても良いことは、広く知られているようですが、宗教法人に寄附した寄付者は所得控除等が受けられないということはあまり知られていないようです。

さらに、米国では、寄附する人が、宗教法人を含む公益法人に寄附をできるのは、収入の30% 〜50%などと明確な規定があり、これを超えて寄附することは違法です。

寄付者がたとえ、膨大な資産を持っていたとしても、公益法人に寄附をする場合は、ケースバイケースですが、前の年の収入の30%〜50%以上を寄附すると違法になってしまいます。

日本もこのように税法を変えてしまえば、宗教法人に対する法外な寄附を防ぐ事ができます。

出展:内閣府経済社会総合研究所[2008]より作成

※ 表と円グラフのデータは出展が異なるため一致しない。


以上のような「消費者裁判手続特例法」、「改正消費者契約法 」を厳格に適用すれば、いわゆる「霊感商法」は法律に沿った形で正しく解決することができます。

法外な寄附金についても、米国のように、宗教法人への寄附についても、寄付者を所得控除の対象にし、収入による縛りをつけるように税法を改正すれば、法外な寄附金の大部分は違法とななります。

以上のように、既存の法律の適用の厳格化をしたり、税法の改正をすれば、現在の宗教による社会問題のかなりの部分は解消できると思います。さらには、日本には破防法という法律もあります。

破防法は、暴力主義的破壊活動を行った団体に対し、規制措置を定めると共に、その活動に関する刑罰を定めた日本の法律。所管官庁は、法務省です。特別刑法の一種であり、全45条からなっています。

正式名称は「人権及び基本的自由の侵害をもたらすセクト的運動の防止及び取締りを強化するための2001年6月12日法律2001-504号」です。

適用され初めて有罪になったのは1961年三無事件。他に中核派に対する破防法事件に対しても適用されています。

なお、1995年には地下鉄サリン事件など一連のオウム真理教事件を起こしたオウム真理教に対して解散を視野にした団体活動規制処罰の適用が検討され、公安調査庁が処分請求を行ったのですが、公安審査委員会(委員長:堀田勝二)は「将来の危険」という基準を満たさないと判断し、破防法の要件を満たさないとして、適用は見送られることとなりました(オウム真理教破壊活動防止法問題)。

これについては、オウム真理教にすら適用されないのなら、一体何に適用されるのか、実質的に適用できない法律ではないのかという根強い批判もある。オウム真理教に対しては代わりに団体規制法が制定・適用されることになりました。

上記のように、日本では不十分ながら、反社会的とみられる宗教団体を含む団体に対して、規制をする法律はあります。税法を改正すれば、反社会的な宗教法人・団体をとりまるには十分です。これらの法律を無視したり、法律の不十分さをそのままにしたままで、当該団体との関係を絶つことを党の基本方針としてしまうことには、問題がありすぎます

拒否された側が訴える可能性も排除できませんし、宗教法人から支援を受けてきた議員の中でも、それだけが原因で不利益を被った議員が出てくれば、訴える可能性すらあります。 

自民党が、暴力団を排除するなら理解できますが、批判が多いという理由で統一教会を排除した場合、信教の自由を阻害する懸念がありますし、憲法上も法律上も大問題です。岸田政権としては、まず実施すべき事は旧統一教会が法に抵触していれば提訴し、法体系が不備であれば、整備する方向で検討し、実施するということだったはずです。

法律の厳格な適用はすぐにできますが、新設などには時間がかかります。それまでの間は、得意の検討使の技で乗り切っていただきたかっです。それをすぐに、「関係を絶つよう徹底する」などと言ってしまったことはあまりに短慮だったと言わざるを得ません。

これは、結局かなり筋違いな批判に対し毅然とした対応をとらなかった為、結構相手の土俵に上ってしまった最悪のパターンといえるかもしれません。

結局、日本の政権与党が法的根拠もなく特定の宗教団体を排除したということです。これでは、日本はワイドショーとこれにマインド・コントロールされた情弱な人々が支配する人治国家であると謗られても反論できません。岸田政権は、魔女狩りに屈服しまったようです。法治の下の自由と民主主義を愛する人にとって、岸田政権はとても支持できる存在ではなくなってしまったようです。

今後の政局は、私が以前このブログでも主張したように、自民党を毀損しない形で、いかに岸田政権を短期で終わらせるかという方向に急速に向かっていく可能性がでてきたと思います。まともな野党が存在しない現在、自民党は是非そちらの方向に進んでいたたきたいです。

その方向に進んだとして、その過程で、とんでもないことが起こるかもしれません。岸田総理は「現在」を乗り切ることに懸命のようですが、今回の事は後々の自民党に悪影響与えることになるかもしれません。

マスコミなどは、その時々で都合よく動き、前言など平気で取り消したり、二重基準を適用したりします。ワイドショー民などが、「統一教会叩き」や「国葬叩き」に飽きた後は今度は「自民党政権が憲法や法律を無視した」として糾弾することになるかもしれません。

岸田総理がそのときに、今回のことが大きな間違いだったと認識しても手遅れです。

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2022年8月31日水曜日

〝中国経済失速〟でウォン急落の韓国と共倒れ!? 日本企業はサプライチェーン見直しの動き 石平氏「もはや留まる理由は見当たらない」―【私の論評】中国では金融緩和が効かない状況にあり、変動相場制に移行する等の大胆な改革が無い限り停滞し続ける(゚д゚)!

〝中国経済失速〟でウォン急落の韓国と共倒れ!? 日本企業はサプライチェーン見直しの動き 石平氏「もはや留まる理由は見当たらない」


秋の中国共産党大会で3選される見通しの習近平国家主席だが、中国経済は厳しさを増している。中国への依存度が高い韓国経済は巻き添えを食い、ウォンも急落するなど共倒れの危機に直面する。一方、日本は経済安全保障の観点から対中姿勢を見直す構えだが、サプライチェーン(供給網)の面でも「脱中国依存」を進める企業が相次いでいる。

中国の4~6月の国内総生産(GDP)は前年同期比0・4%増だった。日米などと同じ前期比年率換算すると10%程度の大幅なマイナス成長となる。「ゼロコロナ」政策による上海などの封鎖措置や、習指導部の格差解消政策「共同富裕」で、不動産業界やIT企業など規制強化を進めたことが背景にある。

不動産市況も深刻で、開発業者の資金難で建設工事が中断するマンションが全土に広がっている。購入者が、抗議のためにローン返済を拒否する動きが拡大するなど社会問題化し、金融機関の不良債権拡大につながる恐れもある。

7月の鉱工業生産や小売売上高も低調で、雇用も16~24歳の失業率は19・9%。熱波による電力不足で、生産停止する工場も相次いだ。

こうした不安な状況を受けて、今年上半期の家計部門の銀行預金残高は10兆3000億元(約205兆円)と前年同期から13%増えた。一方、7月の個人向け融資は前年同月比63%減と落ち込んでいる。

第一生命経済研究所の西濱徹主席エコノミストは「かつての中国の消費は『見栄』が左右し、家計による借り入れ拡大が消費の牽引(けんいん)役になってきたが、現状は雇用環境が厳しさを増すなかで家計の財布のひもが固くなっている。青年層の失業率の高さは、1000万人強の新卒者が社会に出るタイミングで就職の難しさを意味する。統計は景気の頭打ちを示唆している」と解説する。

中国経済不振の直撃を受けるのが韓国だ。韓国にとって、中国は最大の貿易相手だが、くしくも尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が発足した5月以降、対中貿易赤字が続いている。朝鮮日報は、1992年の国交正常化以来、初めて対中貿易収支が4カ月連続赤字となる見通しだと報じた。

西濱氏は「中国の生産が伸び悩むと韓国は玉突き的に弱くなる。物価高で輸入が減らない一方、輸出だけ悪化する構図だ。『工業化が進んだ経常黒字国』とみられてきた韓国だが、黒字幅はかなり圧縮されている」と分析した。

ウォン安と物価高が進むなか、韓国銀行(中央銀行)は25日、4会合連続の利上げを実施。2022年のGDP成長率見通しを2・7%から2・6%に下方修正した。

日本も「チャイナ・リスク」への対応を迫られる。自動車大手マツダは取引先の部品メーカーに、中国製部品に関して、中国以外の並行生産や在庫積み増しや、日本での在庫保有を要請した。同社メディアリレーション部は「ロックダウンで影響が出て、業績にもかなりインパクトがあった。中国を経由する部品が他社と比べて比較的多いと認識しており、できるだけ早く手元に引き寄せることが必要」と説明している。

産経新聞は、ホンダがサプライチェーンを再編し、中国とその他地域をデカップリング(切り離し)する検討に入ったと報じた。ホンダの生産拠点は二輪、四輪、エンジン工場などが中国や日本のほか、米国、カナダ、メキシコ、タイなど24カ国に及ぶ。中国からの部品供給を東南アジアやインド、北米などにシフトできるか検討する方向とみられる。

政府は今月、経済安全保障推進法の一部を施行した。中国を念頭に置いた経済リスクへの認識も高まっているが、岸田文雄政権はどう動くのか。

評論家の石平氏は「中国経済は構造的に停滞しており、台湾有事の懸念もある。専制国家では海外企業が市場を一夜にして失うリスクがあることは、ロシアの前例が示した。日本企業は産業スパイの危険が指摘されながらも中国依存を続けてきたが、もはや留まる理由は見当たらない」と強調した。

【私の論評】中国では金融緩和が効かない状況にあり、変動相場制に移行する等の大胆な改革が無い限り停滞し続ける(゚д゚)!

上の記事で、ミクロ経済に関する描写などはある程度正しいですが、マクロ経済的な見方は間違いだと思います。

140万円相当の純金嫁入り道具セット

 上の記事で、「かつての中国の消費は『見栄』が左右し、家計による借り入れ拡大が消費の牽引(けんいん)役になってきた」としていますが、見栄で経済が良くなるというのなら、中国人民銀行(中国の中央銀行) が金融緩和をすれば、中国人民にもお金がまわり、中国経済はまた繁栄するはずです。

しかし、現実はそのような、生易しい状況ではないのです。それについては、以前このブログにも掲載しました。その記事のリンクを掲載します。
中国共産党中央政治局、当面の経済情勢と経済活動を分析研究する会議を開催―【私の論評】「流動性の罠」と「国際金融のトリレンマ」で構造的に落ち込む中国経済!(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、簡単にいうと中国はすでに「流動性の罠」にはまっていて、中国人民銀行が、金融緩和政策を打ち出しても、効き目がない状態に陥っています。

流動性のワナ(Liquidity Trap)とは、金融緩和により金利が一定水準以下に低下した場合、投機的動機による貨幣需要が無限大となり、通常の金融政策が効力を失うことを指します。金利水準が異常に低いと、いくら金融緩和を行っても景気刺激策にならない状況に陥ります。

実際、この記事にも掲載した通り、中国では以下のような状態になっています。
中国が何もしていないということはなく、現在金融緩和を実施しています。ところが、中国の銀行システムには十分過ぎるほどの流動性があるものの、借り入れ需要が低調なままで、銀行間の翌日物レポ金利は昨年1月以来の水準まで低下しています。
現在中国では過剰な資金が実体経済に行き渡るのではなく、金融システムに積み上がっているようです。金融緩和で需要を押し上げることができない「流動性のわな」のリスクが高まりつつあり、 コロナ感染が各地で見つかる中、7月の借り入れ需要は前月から鈍化したもようです。

この状況は、その後も改善された兆候はなく、すでに中国経済は、「流動性の罠」にはまっていたと見られます。 

では、何かこの状況を打開する方法があるかといえば、あるにはあります。国際金融には、国際金融のトリレンマという、昔から知られている原則があり、その原則に従って、大規模な改革を行えば、中国経済はまた発展する可能性があります。

最近の中国は、すでに数年前から、国内の金融政策が大幅に制限されることになっていました。現状の中国では金融緩和を実施すれば、投資効率の低下、資産負債比率の上昇という構造問題が深刻化することが見込まれているからです。さらに、資本の海外逃避も加速されることになります。債務の株式化も低調であるため、政府はリスクに配慮した慎重な金融政策をせざるを得ないのです。

為替制度を選択する際、中国も他の国々と同様、為替の安定と独立した金融政策、更には自由な資本移動、この三つを同時に達成することはあり得ないという国際金融のトリレンマに制約されているのです(図)。

つまり、その3つの選択肢からどの2つを選ぶのか、言い換えればどれを放棄するのかという選択に直面しているのです。中国は自由な資本移動を放棄する形で独立した金融政策と為替の安定(固定レート)を選んでいるのですが、今後政策的に資本移動が自由化されてくると、独立した金融政策を維持するためには為替レートの安定をある程度犠牲にしなければならなくります。



図 国際金融のトリレンマ


香港は少し前までは、上の表の状態だったのですが、現在では中国と同じ状況であり、今後香港が世界の金融センターではなくなります。

10年ほど前、中国では人民元改革と称して、変動相場制に移行すると思われた時期もあったのですが、結局資本移動の自由に立ち入ることはできませんでした。そのつけが回って、現在金融緩和しても効き目がない状況担っているのです。

このブログの購読者ならご理解いただけるでしょうが、金融緩和政策ができないということは、雇用が悪化することを意味します。

中国の若者の就職難

中国が独立した金融緩和政策を取り戻すには、固定相場制をやめるか、一昔前の中国のように、自由な資本移動をやめるかいずれかを選ばなければならないのです。ただ、独立した金融政策をしたいがために、自由な資本移動を完璧にやめてしまえば、中国に対する海外からの投資を自ら、絶つことになります。

やはり実用的なのは、固定相場制をやめることです。中途半端をしている限り、中国経済は良くならず、金融緩和したくても効き目がなくなるか、そもそも最初からできなかのいずれかの状態が続きます。

この状況は構造的なものであり、何か抜本的な対策を打たなければ、中国経済が再び発展することはありません。

冒頭の記事で、様々な中国のミクロ経済の停滞が、描写されていますが、その根本原因はやはり国際金融のトリレンマにあるのです。

この状況は、たとえ習近平が失脚して、新たな人物がトップになったとしても、固定相場制をやめるなどの大胆な改革をしなけば、継続することになります。

いまのところ、そのような動きは全く見られません。いまのままなら、中国の経済の停滞はますます深刻化していくばかりです。

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2022年8月30日火曜日

中国軍は張り子の虎 米台日で連合を―【私の論評】中国海軍最大の弱点、黄海を既に2017年から監視活動を続け中国を牽制していた日本(゚д゚)!

中国軍は張り子の虎 米台日で連合を

上岡 龍次  

●ペロシ氏訪台に反発

訪台したペロシ氏(左)と蔡英文台湾総統

 中国は太平洋に進出したいが、そのためには台湾の獲得が必須。アメリカは台湾との関係を強化しており、中国は台湾に対する覇権拡大を阻止されている。中国としては台湾獲得は悲願なのだが夢は遠のくばかり。

 アメリカのペロシ氏が台湾を訪問すると知った中国は反発。メディアを使い威勢良く威嚇したがペロシ氏は台湾を訪問。しかもペロシ氏が台湾を出てから中国は威勢良く軍事演習を開始する。

■米軍艦2隻、台湾海峡通過 ペロシ氏の訪問後初

https://www.afpbb.com/articles/-/3421007?cx_part=top_topstory&cx_position=2

 アメリカは継続的に軍事行動を行い中国に存在感を見せつける。さらに軍艦2隻を台湾海峡を通過させた。これに中国も反発するが、人民解放軍を使った具体的な対応も見えないし、政治と経済で報復を見せていない。

●面子を潰された習近平

 アメリカ海軍の軍艦2隻が台湾海峡を通過すると中国は反発した。覇権とは言葉による指導力だから、中国が脅すことで相手国が従うことが望ましい。脅して従うなら中国の覇権が有効であることを示す。では拒否すればどうなるのか。それは中国の覇権が存在しないことになる。

■中国軍「挑発を挫折させる」 米イージス艦の台湾海峡通過に反発

https://www.sankei.com/article/20220828-6QHYJOZI2JLYNJUKSY5GN32IPU/

 中国としては、目の前を仮想敵国の軍艦が航行することが不満。国際海峡だとしても中国としては自国の庭と見なしている。そこで脅してアメリカを引かせようとした。だがアメリカ海軍は継続的に台湾海峡を航行している。これはアメリカの覇権が台湾海峡に置かれており、中国の覇権を拒否するという意思表示。

 中華思想を持つ中国は強国アメリカが気に入らない。何故なら、理想では中国こそが世界の頂点にいるはずが、現実ではアメリカが世界の頂点にいる。中国は伝統と歴史を否定して共産主義を選んだ。だが中華思想を捨てることはなかった。中国共産党と称しても歴代王朝として君臨することを捨てられないのだ。

 平和とは強国に都合がいいルールだから、今の強国であるアメリカに都合がいいルール。だから今の平和はアメリカの物であり、世界は従うだけ。これが現実なのだが、中国は気に入らない。中国としては、中華思想を土台としたルールの平和にしたいのだ。だから中国は、アメリカの平和が気に入らず現状変更を求めている。

 現実を見ると、人民解放軍ではアメリカ軍との正面戦闘に勝てない。だから軍事力を見せて脅すことで譲歩させたいのだ。中国は戦争を売りつけて譲歩させようとした。だがアメリカは無視して逆に軍事力で対応する。こうなると中国は人民解放軍を引かせて戦争回避を選ぶ。簡単に言えば、アメリカ海軍は習近平の面子を潰したのだ。

●性能低い兵器

行進する中国人民解放軍の三軍(陸・海・空)儀仗隊

 人民解放軍は国家の軍隊ではなく共産党の私兵。しかも外国軍との戦闘が目的ではなく人民の反乱対策が目的。中国共産党を維持するための人民解放軍であり、国家のために人民を守る軍隊ではない。

 解放の裏の言葉は征服。紀元前333年のイッソスの戦いでペルシャのダリウス三世はアレキサンダー大王に対して講和を求めた。アレキサンダー大王は拒絶してペルシャを解放すると宣言。この時から「解放とは征服するための口実用語」が欧米の常識となった。

 これを人民解放軍に適用すると“人民征服軍”が真の意味になる。これは中国共産党の私兵であり人民の反乱対策が目的だから意味と合致する。しかも人民解放軍は国内での運用が基本だから国外で活動することが困難。

 致命的なのは基地の配置。中国共産党から見れば地方の省は仮想敵国。だから地方の省に有力な基地を置けない。仮に有力な基地を置くと乗っ取られて反乱の拠点にされる。だから中国共産党は、生産・整備ができる基地を北京周辺に限定している。このため南シナ海海岸には補給はできても整備できる基地がないのだ。

 人民解放軍海軍は外国が驚く建艦を行うが、水上艦・原子力潜水艦は全て北京付近の基地でなければ大規模整備ができない。しかも必ず黄海を中継しなければ出撃・帰還ができない致命的な欠点を持つ。これが原因で、日米が黄海に機雷散布を行うと人民解放軍海軍は黄海に閉じ込められる。

 中国共産党は、人民解放軍を強化して外国軍と戦闘できる軍隊に変えようとした。原子力潜水艦を保有し戦車・戦闘機を強化した。だがロシアのウクライナ侵攻でロシア製兵器の弱さが明らかになる。人民解放軍が運用する兵器の多くがロシア製。ロシアが外国に売る兵器は性能を低下させたモンキーモデルだから、人民解放軍の兵器の多くがロシア製よりも劣る。しかもロシア製戦車は砲塔が吹き飛ぶビックリ箱。つまり本家ロシア製もモンキーモデルだった。これでは人民解放軍が運用する兵器の多くはアメリカ軍とは戦えない。

 人民解放軍の基地は北京周辺だけであり国境付近の基地は飾り。しかも兵器の多くがモンキーモデル。アメリカと戦争すれば国境付近の基地は損害を回復できない。修理しようとすれば黄海を中継しなければ戻れない。しかも中国共産党は地方の省を仮想敵国と見なしているから、仮にアメリカと戦争すれば地方の省が寝返る可能性がある。

 中国共産党とすればアメリカとの戦争は敗北を意味する。だから原子力潜水艦・弾道ミサイルで武威を示す。飛び道具なら使い捨てだし中国共産党が直接運用できる。これが中国共産党の信用の行き着く先。中国共産党は人民の反乱を恐れ、インフラ整備すら容易には行えない。インフラ整備をすれば中国共産党に挑む財力を生み出してしまう。だから中国共産党は人民を豊かにできないのだ。

●中国の弱点は黄海

 人民解放軍は強化されたが有力な基地は北京周辺にしか存在しない。国境付近の基地は中央から直接配備された人民解放軍しか存在しない。しかも人民解放軍海軍は黄海を中継しなければ出撃・帰還ができない。つまり日米で黄海を封鎖すれば国防として日本を守れることを意味する。

 黄海を封鎖するなら機雷が簡単で確実。さらに射程2000kmの巡航ミサイルを保有すれば、北京周辺の有力な基地を攻撃可能。仮に損害を与えれば、人民解放軍の損害回復能力を低下させられる。成功すれば、人民解放軍が日本に侵攻する能力を奪える。これは同時に台湾侵攻能力を奪うことになる。だからアメリカ・台湾・日本で連合すれば、人民解放軍を封じ込めることができる。人民解放軍の数に惑わされるな。人民解放軍の致命的な弱点を突くべきだ。

【私の論評】中国海軍最大の弱点、黄海を既に2017年から監視し続け中国を牽制していた日本(゚д゚)!

冒頭の記事では、中国の弱点は黄海ということがいわれています。私もそう思います。そうして、なぜ私がそう思うのかといえば、上の記事では述べられていない、もう一つの要因があります。

それは、何かといえば、黄海の深度です。黄海の最大水深は、152 mに過ぎないのです。これが何を意味するかといえば、この程度の推進だと、せっかく中国の潜水艦は300mから400mくらいまで潜れるのですが、黄海内では150m くらいしか潜れないということです。


ちなみに、海上自衛隊が保有する潜水艦の潜航深度は公表されていませんが、潜水艦のトラブル対処などのため海上自衛隊に配備されている潜水艦救難艦「ちはや」には、深度1000m程度においても救助活動が可能なDSRV(深海救難艇)が搭載されているほか、同艦の水中作業員が過去、水圧に体をさらしつつ深く潜っていく飽和潜水という技術で、水深450mへ到達という記録を打ち立てています。

米国のシーウルフ級原子力潜水艦の潜航深度が約500mといわれるため、海上自衛隊の潜水艦も同程度の潜航深度を有している可能性は否定できません。最新鋭艦だと600mという説もあるくらいです。

ちなみに、潜水艦が潜れる深さについては、最重要機密なので、これはあくまで推定すぎません。

しかし、潜水艦が潜れる深度などとは関わりなしに、黄海内においてはいずれの国の潜水艦も最大で150mしか潜れないということになります。

そうして、黄海においては中国のすべての潜水艦の行動が、対潜哨戒能力に優れた日米に知られてしまうことを意味します。そうして、ASW(対潜水艦戦争)能力で中国をはるかに凌駕する日米は、有事にはこれをすぐに撃沈することができます。

潜水艦が深く潜航した後に、スクリューなどの動きを止めて海底に着底するか、あるいは潮流に乗るようすれば、構造上どうしも騒音がでてしまう原潜であっても、これを発見するのは困難です。しかし、150mの深度であれば、すぐに発見できます。

これは、確かに中国にとって致命的な欠陥といわざるをえません。水上艦・原子力潜水艦は全て北京付近の基地でなければ大規模整備ができず、しかも必ず黄海を中継しなければ出撃・帰還ができないという致命的な欠点があるということです。

中国の海南島には潜水艦の基地があるといわれていますが、これはミサイル、魚雷などの装備や食料 (原潜は水や電気は自前で調達でき)等の補給、並びに従業員の交替などに用いられるのであって、大規模なメンテナンスなどはできないのでしょう。

人民解放軍海軍は外国が驚く建艦を行うが、水上艦・原子力潜水艦は全て北京付近の基地でなければ大規模整備ができないとされていますが、正確には基地の近くにある海軍工廠が北京にしかないことを意味しているのだと思います。

そうなると、中国が台湾を軍事侵攻しようとしたときには、多くの艦艇はメンテのために北京付近の工廠に寄港することになります。そうなると、艦艇の集まり具合から、日米に近く中国は大きな軍事作戦を実行するであろうと判断することになります。下手をすると、工廠から出てきて台湾に向かう艦艇・潜水艦はすべて察知され、台湾に行く前に撃沈ということになりかねません。

米国においても、オバマ時代の緊縮で、航空母艦等の稼働率が劇的に低下するという危機的状況に陥りつつあるといわれています。そうして、稼働率の低下の最大の原因は、海軍工廠(こうしょう)と民間造船所を含んだアメリカ国内における造艦・メンテナンス能力の不足にあり、これはすぐに改善されるものではありません。これこそ米海軍の深刻な問題といわれています。

ただ、大規模な工廠が一箇所しかないというようなことはないです。そうして、世界中に米国に協力する工廠もあります。日本の佐世保ベースもその一つです。中国の場合は、そのような協力ができるのはロシアくらいしかありません。

さらに、黄海というと、日本ではすっかり見過ごされた出来事がありました。それについては、このブログに掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。

トランプ政権のアジア担当要職に反中のベテラン―【私の論評】米国で「強い日本」を志向する勢力が主流になった(゚д゚)!

この記事は、2018年1月21日のものです。

米国保守派は、ソ連に変わって共産主義帝国構築を目指すようになった中国に対しても、ブログ冒頭の記事にも掲載されているように、警戒心をもちこれに対抗しようとしています。

この動きは前から共和党保守派の中では顕著なものでした。そうして、今回のランディ・シュライバー氏の起用は、ブログ冒頭の記事にもあるように、トランプ政権の対アジア政策、対中政策が保守本流の方向へ確実に舵を切る動きであり、これによって日本の安全保障もかなりやりやすくなるのは目にみえています。

たとえば、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対する国連安全保障理事会の制裁決議を履行するため、海上自衛隊の護衛艦や哨戒機が昨年(ブログ管理人注:2017年)12月から日本海や朝鮮半島西側の黄海で、外国船から北朝鮮船舶への石油などの移し替えがないか警戒監視活動に当たっています。
黄海・東シナ海などを常時警戒監視しているP3C哨戒機が不審船を発見した場合、護衛艦を現場に派遣します。政府関係者は「監視活動を顕示することで北朝鮮への石油製品の密輸を抑止することにつながる」としています。

ここで、黄海という言葉がでてきますが、黄海での海自による警戒監視活動は戦後はじめのことです。これは、中国側からすれば脅威だと思います。自分たちは尖閣付近の海域で船舶を航行させたり、最近では潜水艦を航行させたりしていたのが、日本の海自が黄海で監視活動を始めたのですから、彼らにとってみれば、驚天動地の日本の振る舞いと写ったかもしれません。

しかし、黄海初の日本の海自による監視活動に関して、日本のマスコミは当たり前のように報道しています。中国側も非難はしていないようです。中国としては、米国側から北への制裁をするようにと圧力をかけている最中に、監視活動にあたる日本を批判すると、さらに米国からの圧力が大きくなることを恐れているのでしょう。

このようなこと、少し前までのオバマ政権あたりであれば、「弱い日本」を志向する人々が多かったので、批判されたかもしれません。というより、そのようなことを日本に最初からさせなかったかもしれません。そうして、中国は無論のこと、大批判をしたかもしれません。そうして、日本国内では野党やマスコミが大批判をしていたかもしれません。

この監視活動は、北朝鮮への制裁が終わらない限りは、現在もそうして将来も継続されることでしょう。この監視活動には、無論米国等も協力しています。それどころか、米国のインド太平洋軍(INDOPACOM)は3月10日、北朝鮮のミサイル実験が「大幅に増加」したことを受け、黄海で情報収集や偵察活動を増やし、弾道ミサイル防衛体制を強化していると明らかにしています。

そうして、これは、北朝鮮監視だけではなく、中国のすべての艦艇・潜水艦の監視もしていることでしょう。日米は、すでに中国の潜水艦の音紋をすべて採取し終わっているでしょう。なにしろ、黄海で待ち受けていれば、どの艦艇もいずはここを通るからです。

自衛隊には瀬取りを取り締まる法的権限はなく、可能な活動は艦艇や艦載ヘリコプターによる監視にとどまります。ただ、政府関係者は「護衛艦やヘリの姿を見せるだけでも抑止効果が見込めるし、現場の写真を撮影して国際社会に公開することもできる」としていました。

一方、防衛省は「自衛隊はさまざまな警戒監視活動を行っているが、その一つ一つについては公表しない」と表向きは警戒監視活動を明らかにしていないとしていました。

日米はすでに、この頃から中国の最大の弱点である黄海を、北朝鮮問題を理由に、監視活動を行い、中国を牽制していたといえます。

中国側としては、これを表沙汰にして、日米を非難すれば、先にあげたように、米国の北朝鮮制裁に反対することになることと、中国の最大の弱点を公にするようなものであり、公表したり非難したりできないのでしょう。




2022年8月29日月曜日

人心掌握から武力統一へ 中国の台湾政策の変化―【私の論評】ペロシ訪台で露呈した、弥縫策を繰り返す中国の不安定化に日本は備えよ(゚д゚)!

人心掌握から武力統一へ 中国の台湾政策の変化

岡崎研究所

 ワシントン・ポスト紙(WP)コラムニストのジョシュ・ロウギンが8月11日のWPに「ペロシの台湾訪問への中国の過剰反応はわれわれに何を教えているのか」との論説を書いている。
 ペロシ下院議長の訪問後の台湾に対する過剰反応と報復措置は、平和統一ではなく、武力によって台湾をとることに北京が焦点を合わせていることを示している。習近平の戦略は台湾の人心を掌握することから、台湾に恐怖と憎悪を起こさせることに変わった。

 中国の激烈な反応は危険な新しい時代の始まりを示している。中国は米国に対し、軍間の対話をやめ、気候変動と麻薬対策に至る諸問題での2国間協力計画を停止した。

 中国の行動の大部分は台湾の政府、経済、人々に向けられたものであった。中国は初めて台湾の都市を超えてミサイルを撃った。台湾周辺での前例のない軍事演習は封鎖または侵攻の予行演習でありうる。

 経済的には中国は100の台湾商品の輸入を制限した。8月3日、中国当局は中国のビジネスマンを「台湾独立論者」として拘束したが、中国でビジネスをしている台湾の会社への明確な脅しである。

 台湾での中国の過剰反応と、新しい危険な現状を作ろうとする努力は世界にとっての警鐘である。台湾支援を増やし、中国が侵攻は成功しないと考えるようにするための時間はなくなってきているが、そうすることが紛争を避ける最善で多分最後の手段であろう。

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 この論説は説得力がある論説である。

 習近平は中華民族の復権を唱え、強国路線を突き進んでおり、台湾政策においても、平和的な両岸間の話し合いを通じた再統一路線は投げ捨ててしまった感がある。

 鄧小平は香港について「一国二制度」を提唱し、香港の中国返還を成し遂げ、台湾に対しても同様のことを考えていたと思われるが、習近平は香港の「一国二制度」を英中共同声明に反して期限前に壊し、中国の愛国者による統治を実現した。西側民主主義諸国は、香港問題について、中国に対してもっと強硬に対応すべきであったが、そうしなかったので、習近平にとって香港の体制転換は成功体験になっているのではないかと考えられる。

 そして、これが台湾問題についての対応にも反映されている気がする。台湾に対する強硬政策で、台湾独立分子を孤立させることが可能であると考えている怖れがある。

必要となる日本と米国の覚悟

 台湾有事の発生を防ぐ為には、米国も日本も相当覚悟を決めてかかる必要がある。脅威は意図と能力の掛け算で決まるが、こちら側も軍事能力で抑止する必要がある。日本は防衛力を強化する必要があるし、米国も台湾支援を強化すべきであろう。

 ここ2年は中国の台湾侵攻はないとの予想や、2026年、27年までに中国は台湾攻撃の準備はできないとの推定で安心するわけにはいかない。これらの期限はすぐにくる期限である。

 日米が協力して中国に対し抑止力を備えること、そのためには何が必要かを具体的に図上演習もして、はっきりさせていくことが必要ではないか。ロウギンが言うように残された時間は少ない。また、日本としては、中国の考え方に影響を与えるために、台湾をめぐり紛争になることは許容できないことをこれまでも表明してきたが、これからも対中外交の中でさらに強調すべきことであろう。

【私の論評】ペロシ訪台で露呈した、弥縫策を繰り返す中国の不安定化に日本は備えよ(゚д゚)!

ロウギン氏の「中国の激烈な反応は危険な新しい時代の始まりを示している」という論説は、説得力のあるものなのでしょうか。

ペロシ氏の訪台での発言では、良く知られているものの他に以下のようなものもあります。

「この地域と世界の民主主義に対する民主主義の防衛を支援し続けているため、米国の台湾国民との連帯はこれまで以上に重要になっている」としているのです。

要するに、米国は民主主義陣営のために闘うというわけです。

米国は、世界各地で民主主義のタネを蒔いてきました。ところが、民主主義国になって経済発展したのは、極東アジアの日本、韓国、台湾くらいです。

ただ、以前もこのブログにも掲載した高橋洋一氏のグラフによれば、民主主義と経済発展とは、ある別の特徴とともに、相関関係があるの事実です。

ある別な特徴とは、いわゆる中進国の罠というものです。途上国が、政府が音頭をとり、投資をすれば、どのような国でも経済発展します。しかし、一人あたりのGDPが1万ドル前後になると、民主化している国はそこからさらに発展するのですが、そうでない国はそこから足踏みして、1万ドル近辺からなかなか成長しなくなるのです。

これは、中進国の罠と呼ばれるものです。1万ドルを超えたあたりから、民主化と経済発展には明確な相関関係があります。

中国は、国全体ではGDPは世界第二位とされていますが、一人当たりの名目GDPでは12,359ドルにすぎません。これは、日本はもとより、韓国や、台湾よりもかなり低いです。

日本、韓国、台湾は、アジアの中にあっては例外的な存在で、戦後に急速に経済発展しました。これは米国の成功例ともいえます。これらの国々を見捨てたなら、米国の存在意義にも関わることにもなります。もちろん防衛は、まず自国が防衛努力することが前提ですが、その上で米国は台湾を助けるつもりであることを明らかにしたのです。

これに対し、中国は猛反発しました。台湾を「海上封鎖」するのかと見間違うくらいの6ヵ所での軍事演習は、ペロシ氏訪台が中国の痛いところをついたことの裏返しでもあります。日本のEEZ(排他的経済水域)に弾道ミサイルを落とすなど暴挙ですが、中国はこうした国際秩序無視を平気で行う国です。中国は、日本のEEZはあり得ないと暴言を吐きました。

中国の弾道ミサイルが日本のEEZ内着弾という中国の暴挙は世界中に知れることとなったので、中国は重大なヘマをしたといっても良いです。実際、日米豪はこれで結束しました。

中国は台湾統一という名目で、民主主義国の台湾への侵攻を野望を隠しません。中国が民主主義を専制主義で蹂躙するのは、香港の例を見てもわかります。民主主義の雄である米国がかなり本気になってきたともいえます。

台湾は戦後共産主義国の中国と別の道で、豊かな民主主義国となりました。しかし、中国は自国の民主主義を潰した上、台湾を自国の一部だと主張しています。この主張に世界のどれだけの人が賛同するでしょうか。

ところが、中国ではペロシ訪台直前に信じられないようなことが起こっていました。これは、以前このブログも述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
台湾と香港の「心をつかめ」、習近平氏が中国共産党に要求―【私の論評】米中の真の戦争は「地政学的戦争」、表のドタバタに惑わされるな(゚д゚)!
中国共産党中央統一戦線工作部についての会合で演説する習近平氏(中央)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、元記事より一部を引用します。
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は2日までに、中国共産党に対して香港、マカオ、台湾の人々の「心をつかむ」ことを強く求めた。それこそが「国家を再生する」取り組みの一環だとの認識を示した。

 習氏の要求は、週末にかけて開かれた高位の当局者が集まる会合でのもの。中国共産党中央統一戦線工作部(統戦部)に向けて提示された多くの重要任務の一つだった。この組織は中国内外で影響力を獲得する任務を担う。

 国営新華社通信によると、習氏は北京での会合で統戦部について、中共が敵を打ち破るための重要な保証になると指摘。国の統治と再生のほか、国内外の全中国人を結集させ、国家再生を実感させることも請け合う組織だと強調した。

 具体的な取り組みとしては、国内において「共通性と多様性の適切なバランスを取り」「香港、マカオ、台湾、さらに海外の中国人の心をつかむ」ことを含むべきだとの見方を示した。

2日というと、ペロシ訪台の3日の前日です。前日に会議で習近平がこのような発言をするその意図はなんなのでしょうか。

それについては、この記事の「私の論評」で述べました。 これも一部を引用します。

習近平が、もし本気でペロシが訪台すれば、軍事的報復に打って出ると考えていれば、いずれの会議においても台湾の人々の「心をつかめ」などと言う必要性など全くありません。

習近平として、恫喝は恫喝、本心は本心と使い分けているのかもしれませんが、これは本当に不自然です。それに、中国外務省の華春瑩報道官は2日、予想されるペロシ米下院議長の台湾訪問について、米国と連絡を取り合っていると述べました。

これは、結局米国のペロシ訪問を受けて、中国はこれに対して反対したり恫喝したりするものの、恫喝は恫喝であり、中国も本気ではないし、米国もそれを重々承知しているとみるのが妥当だと思います。

このうよな事実を見聞きしても、私自身はあまり不思議には感じませんが、これを不思議に感じる人も多いかもしれません。そうい人には、ある情報が欠けているのかもしれません。それは、中国は当然のことながら、米国でもあまり報道されませんので、仕方ないことなのかもしれません。

さらに一部を引用します。

ASW(Anti Submarine Warfarea:対潜戦)においては日米に著しく劣る中国海軍には、これに対抗する術はほとんどありません。中国軍は、米攻撃型原潜が台湾沖に恒常的に潜むことになり、米軍がそれを公表する事態になれば、第三次台湾海峡危機(1995年-1996年)において、米軍の空母に対応できず、軍事恫喝を継続することができなかったときのように、再度米国の攻撃型原潜に屈服することになります。 

中国海軍は現在でも、世界トップ水準の能力を有する日米に対潜哨戒能力でかなり劣っており、台湾を巡って日米などに真っ向から海戦を挑めば、中国海軍は瓦解します。

このあたりは、ここでは詳細に説明していると長くなるので、この記事をご覧になってください。

中国は、米国等と本気で武力で正面衝突するつもりなどないのです。そうして、米中の真の戦いのフィールドは武器を使用しない「地政学的戦争」であり、表のドタバタに惑わされるべきではないのです。

米国としても、中国と武力で真正面から衝突すれば、米国は間違いなく一方的に勝利するでしょうが、それにしても、中国により、台湾や日本も攻撃されるでしょうし、最悪米国本土も核攻撃されかねません。だから、米国も中国との軍事衝突は避けたいのです。

この記事では、解説しませんでしたが、ではなぜペロシ訪問に対して、中国があのような苛烈ともいえるような軍事演習をしたかというと、それは米国や日本などに向けたものではなく、国内向けと考えるのが妥当です。

ペロシ訪台でも、習近平政権が何もしなければ、共産党内の他派閥から糾弾され、国民からも非難され、そうなると、習近平の統治の正当性が毀損されかねません。だからこそ、大演習をして、牽制したのです。中国という国は、元々、対外関係などより、自国の都合で動く国です。

しかし、これは一方では、日米などとの対立の激化をまねきかねません。だからこそ、わざわざ、訪台前日に習近平がわざわざ"台湾と香港の「心をつかめ」"と発言したり、ペロシが台湾を去ってから軍事演習を始めたり、米国の神経を逆撫でしかねない対潜水艦訓練は、演習の最終日に行うなどして、対立をの激化を招かないように配慮しているのです。

これと似たようなことは、経済面でもみられます。ここ数年、習近平が資本主義行き過ぎ一掃のキャンペーンを行っていますが、これも矛盾に満ちています。それについては、以前このブログで解説しました。その記事のリンクを以下に掲載します。

習近平の反資本主義が引き起こす大きな矛盾―【私の論評】習近平の行動は、さらに独裁体制を強め、制度疲労を起こした中共を生きながらえさせる弥縫策(゚д゚)!

詳細は、この記事をごらんいただくものとして、以下に一部を元記事より引用します。

 習近平が展開している反資本主義キャンペーンは習政権の将来を左右するものだが、危険に満ちている、と10月2日付の英Economist誌の社説が論じている。

 習近平が資本主義行き過ぎ一掃のキャンペーンを行っているが、その範囲と野心は壮大だ。2020年、当局がアリババ傘下のアント・グループの新規株式公開を阻んだのが最初で、以来、タクシー配車サービスDiDiは米国で株式を上場して罰せられ、巨額の負債を抱える恒大集団は債務不履行に追いやられつつある。暗号通貨による為替取引も、学習塾も、事実上禁じられた。

どうしてこのようなことを習近平政権がするのかといえば、一番大きいのは、資本の海外逃避を防ぐのが目的でしょう。ただ、そのようなことをしても中国の流動性の罠や、国際金融のトリレンマによる構造的な問題を解決しなければ、抜本的な解決にはなりません。

この構造的な問題を解決するには、変動相場制に移行するとか、市場を閉鎖し、中国と諸外国の資本のやりとりを原則禁じて、政府の管理下におく( 昔の中国に戻る)かどちらかしかありません。中途半端をしていては、 構造的な問題はいつまでも解決しません。

この構造的な問題を簡単に考えていて、かつて日本がやったように不良債権処理をすれば、何とかなると考えている人もいるようですが、中国の構造的な問題は、それだけでは解決しません。

この記事で、以下のような結論を述べました。

中国の路線変更は大きな問題であり、「毛沢東主義への回帰」とか「鄧小平路線の変更」というよりも、もっと細かく見ていく必要があります。ただ、習近平の今のやり方は中国経済にとってはよい結果をもたらさないということと、中国はますます独裁的な国になることは確かです。共産党と独裁には元々強い親和性があります。

しかし、国民の不満は爆発寸前です。私自身は、習近平の一連の行動は、結局のところさらに独裁体制を強め、国民の不満を弾圧して、制度疲労を起こした中国共産党を生きながらえさせるための弥縫策と見るのが正しい見方だと思います。実際は本当は、単純なことなのでしょうが、それを見透かされないように、習近平があがいているだけだと思います。

習近平に戦略や、主義主張、思想などがあり、それに基づいて動いていると思うから、矛盾に満ちていると思えるのですが、習近平が弥縫策を繰り返していると捉えれば単純です。2〜3年前までくらいは、戦略などもあったのでしょうが、現在は弥縫策とみるべきと思います。

今や習近平の戦略や、主義主張、思想などは、弥縫策であることを見破られないようにするためのツールに過ぎないのです。
一つだけ確かなのは、習近平は様々な弥縫策を打ち出し、さらに独裁体制を強め、制度疲労を起こした中共を生きながらえさせようとしているということです。
習近平は、様々な弥縫策を繰り出し、自ら築いた体制、自分の地位の温存をするために、日々邁進しているともいえます。

これは、経済面だけではなく、軍事・外交面でも、顕著になってきたといえます。それが、ペロシ訪台による対応で露わになったともいえます。

日本は、かつて構造改革にばかり着目して、官僚の誤謬により、基本的なマクロ経済政策である、金融・財政政策を間違い続け、「失われた30年」に突入しました。

しかし、中国は違います、国際金融のトリレンマにより、資本の海外逃避が続き、金融・財政政策そのものが有効性を失いつつあり、構造改革をしないと、「失われた100年」を迎えることになるかもしれません。

中国が弥縫策を継続するというのなら、中国は経済・外交・軍事の面で、これから引き続きかなり不安定になります。習近平は、これからも弥縫策を繰り返すでしょう。我が国は、こうした中国の不安定化に備える必要があります。


ペロシ訪台の陰で“敗北”した人民解放軍―【私の論評】海中の戦いでも負けていたとみられる中国海軍(゚д゚)!

米中新冷戦下で見える途上国の「事なかれ」外交―【私の論評】戦後にウクライナが EUに加入し、急速な経済発展を遂げれば、途上国も「事なかれ」主義ではいられなくなる(゚д゚)!

対中同盟の旗印に民主主義を掲げるのは難しい―【私の論評】実は民主化こそが、真の経済発展の鍵であることを中国をはじめとする発展途上国は認識すべき(゚д゚)!

習近平の反資本主義が引き起こす大きな矛盾―【私の論評】習近平の行動は、さらに独裁体制を強め、制度疲労を起こした中共を生きながらえさせる弥縫策(゚д゚)!

狡猾な朝日新聞 政治記者なら百も承知も…報じる「選挙対策 かさむ出費」とを大悪事、合唱し続ける本当の狙い―【私の論評】政治資金問題は、民主主義体制である限り完璧にはなくなることはない

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