「所得倍増と資産所得倍増って違うんですか?」岸田総理、総裁選時の公約「令和版所得倍増」は撤回せず 参院予算委
岸田総理は、2021年の自民党総裁選挙の際に公約として掲げていた「令和版所得倍増」について、現在も撤回していないとの認識を示しました。
国民民主党 舟山康江 参院議員
「所得倍増と資産所得倍増って、これ同じなんですか?違うんですか?」
岸田総理
「所得倍増と資産所得倍増、違うか同じか。まず違います。所得倍増の考え方の中で、あわせて可処分所得を広げるという意味で、資産所得倍増という言葉が出てきたと理解をしております」
岸田総理は「所得倍増という考え方を重要視しているからこそ、今、賃上げに取り組んでいる」「賃上げを行うことの大きな意味は可処分所得を引き上げることだ」などと強調しました。
そのうえで、「所得倍増という看板はおろしていないのか」との野党議員の質問に「そのとおりだ」と答えました。
【私の論評】岸田首相の経済対策のうち「所得倍増政策」のみがアベノミックスとの親和性が(゚д゚)!
岸田総理の所属派閥である「宏池会」は、自民党内のリベラル派として知られており、池田勇人が佐藤栄作と袂を分かって旗揚げしたのが始まりで、2022年8月現在において党内で最古の派閥です。池田勇人氏は、「宏池会」の海の親です。
その池田勇人氏が総理大臣のときに、実現したのが「所得倍増計画」です。
正式には「国民所得倍増計画」です。1960年 12月に池田内閣によって決定された長期経済計画で、61年度から 70年度までの 10年間に実質国民総生産 (実質 GNP) を年率平均 7.2%増、実質国民所得を倍増しようという計画でした。
現在は、GNPは現在では用いられていない指標です。
GNP(Gross National Product)=“国民”総生産です。
一方GNPは“国民”のため、国内に限らず、日本企業の海外支店等の所得も含んでいます。
以前は日本の景気を測る指標として、主としてGNPが用いられていましたが、現在は国内の景気をより正確に反映する指標としてGDPが重視されています。
ただ、GNPを倍増するには、GDPも倍増しなければならず、それができなけばGNPは倍増しません。そのため現在でいえば、GDPをニ倍にする計画であるといって良いです。
この計画では、(1) 社会資本の充実、(2) 産業構造の高度化、(3) 貿易と国際経済協力の促進、(4) 人的能力の向上と科学技術の振興、(5) 二重構造の緩和と社会的安定の確保という5項目が計画の課題として掲げられました。
この「国民所得倍増計画」に先立って日本の経済計画には「経済自立5ヵ年計画」 (1955.12.鳩山内閣) 、「新長期経済計画」 (57.12.岸内閣) の2つの計画が策定されていましたが、所得倍増計画は従来の2計画とは異なって日本経済の成長力を高く評価するとともに、社会資本の充実、産業構造の高度化などを目指した意欲的な計画で、第2次世界大戦後の日本の経済計画策定の歴史に一時代を画しました。
当初は「月給が2倍」といったあいまいな目標だったようですが、池田首相のブレーンだった官僚出身の経済学者、下村治氏らが積極財政政策による景気刺激で実現する道筋を理論化。1970年度のGNP(国民総生産)を1960年度対比で2倍の26兆円に引き上げる目標を設定し、その後の経済運営の基本方針に据えました。
所得倍増計画では、「国民生活水準の顕著な向上」「完全雇用の達成」など前向きなスローガンを掲げ、鉄道や道路など社会資本の整備、重化学工業化、社会福祉の推進などの政策が次々と実行に移されました。1964年の東京五輪も高度成長に大きく貢献しました。結局、所得倍増の目標は超過達成され、日本は1974年の石油危機まで息の長い経済成長を続けることになります。
計画の数値目標は、35年度の国民総生産額である13兆6千億円の2倍、26兆円を10年以内に 達成するというものであった。また、35年度から年間平均9%の経済成長率を達成し、38年度 に17兆6千億円の実現を期することが当初3か年の目標とされました。
金融引締が命のような、日本銀行も池田首相の「低金利路線」に阻まれ
て公定歩合引上げ等の引き締めには踏み込めず、結果としてこの頃の日本の高度成長を阻害することもありませんでした。
そうして、日本経済は予想以上の成長を遂げ、実質国民総生産は約6年で倍増を、国民一人当 り実質国民所得は7年で倍増を達成するという驚異的な経済成長率を記録したのです。
その後、佐藤栄作内閣によって高度成長によるひずみの是正や社会資本整備を目的とする 「中期経済計画」(40年)および「経済社会発展計画」(42年)が策定されていくことになりました。
さて、現在日本人の賃金が他国なみに上がらないのは、過去の日銀の金融政策の失敗によるものです。それについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】日本の賃金はなぜ上がらない? 原因は「生産性」や「非正規」でなく、ここ30年のマネーの伸び率だ!!―【私の論評】日本人の賃金が低いのはすべて日銀だけのせい、他は関係ない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
これまでの筆者の試行錯誤では、マネーの伸び率が最も相関が大きい。マネーの伸び率でも日本は世界の中でほぼビリだ。ちなみに、140カ国で30年程度の名目成長率とマネー伸び率の相関は0・90(1が最大)、大きな異常値と思われる数字を除いた130カ国でも0・73といずれも高い。社会科学ではめったに見られない高い相関だ。
もちろん相関関係は因果関係を意味しないが、マネーの伸び率は政策的に操作可能なので、結果として名目経済成長率の低下を招いた可能性がある。つまり、こうした国際比較分析からいえるのは、日本の賃金が伸びなかったのはマネーの伸び率の低さによるものということだ。
無論、現在日本経済には30兆円程度の、需要ギャップがあるため、これをまず埋める必要がありますが、埋めたにしても、金融緩和を継続しなければ、賃金はあがりません。
所得倍増計画には、実質経済成長率を高めるような政策が必要であり、規制改革がないと実施しにくいです。それとともに、需要を増やすためには、マクロ経済政策でインフレ目標を高めるべきです。
「インフレ目標2%」にこだわり、2%を超えたらすぐに金融引締に転ずるようなことをすれば、仮に年間で1%くらいしか伸びないと、倍増するのに75年程度かかることになります。
これは、「72の法則」として良く知られています。ちなみに、お金が2倍になる期間が簡単にわかる便利な算式がありますこれは、「72÷金利≒お金が2倍になる期間」となる。 たとえば、金利18%でお金を借りた場合、「72÷18=4」となるので、約4年で借りたお金が2倍になることがわかります。
インフレ目標を4%くらいに引き上げて、需要を少し強くすれば、簡単に名目5%くらいにできるのできます。目標を5%にすると倍増が13年~14年になるので、良い目標になります。ちなみに、この手法を
高圧経済と呼びます。
他の効果的な政策も実施すれば、さらに目標達成は早くなります。たとえば、少子高齢化への対応として、経済学上でいうところの装置化を大々的に導入すべきです。
これは、昔なら機械化です。現在であれば、ロボット化のさらなる推進と、AIの積極活用です。無論ロボットのAI化も含みます。これでかなり生産性があがります。この生産性の向上に呼応して、日銀が金融緩和をさらに拡大すれば、経済は順調に伸びます。
これを積極的にすすめていけば、所得倍増は10年間で成し遂げられるかもしれません。
私は、少子化を様々な方法で改善することができるという説は、あまり信用していません。実際、そのような制度がなくても過去の日本では人口が飛躍的に伸びていた時期もあるのです。少子化の原因は何かをつきとめたり、それを解消する方法を見つけるのはかなり難しいと思います。であれば、少子化になっても困らない措置をするのか最上の策だと思います。
NHKの社員の平均賃金は1800万円といわれています。これが事実なのかどうかは、はっきりしません。
ただ、もし日本が平成年間に日銀が金融政策などを間違わなれば、日本も他の先進国と同様に賃金が伸びて、このくらいの水準は当たり前になっていたと考えられます。
岸田首相は、「令和版所得倍増」は、撤回しないというのなら、上で述べたような政策をとる必要があります。
これを実現して、「所得倍増」を是非とも実現していただきたいものです。岸田首相の経済対策はいずれも、岸田首相自身が「進歩の10年」と評価する、安倍・菅政権時の経済対策とは齟齬をきたすものばかりですが、「所得倍増」はそうではありません。
安倍・菅政権の経済政策の継続の上で、「所得倍増」は成り立つものです。この政策だけが、アベノミックスと親和性があります。
人間には、三種類あります。最初のタイプは、先人の遺産を引き継ぎ発展させるタイプ、次のタイプは、先人の遺産を引き継ぎ維持するタイプ、最後は先人の遺産を破壊するタイプです。
岸田総理が、今後増税、金融引締方向に走れば、日本人の賃金がさらに下がることになります。これは安倍・菅政権の遺産を破壊することになります。
「所得倍増」を成し遂げれば、安倍・菅政権の遺産を引き継ぎ発展させることになります。いずれの道を選ぶかは、岸田総理自身です。
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