2024年12月23日月曜日

トランプ氏、プーチン氏との会談示唆-ウクライナ戦争終結に向け―【私の論評】トランプ政権とウクライナ戦争:和平への道筋とバイデン政権の戦略

トランプ氏、プーチン氏との会談示唆-ウクライナ戦争終結に向け

まとめ
  • ウクライナ戦争を「終わらせる必要」とトランプ氏-詳細には触れず
  • トランプ氏、ロシアによるウクライナ領の一部占拠も容認の意向示唆

プーチン露大統領とトランプ米大統領 2019年大阪G20サミット

 トランプ次期米大統領は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻に関する戦争の終結について、プーチン大統領との会談を行う意向を示唆した。プーチン氏は19日の年次会見で、トランプ氏が会いたいと思えば会う準備があると発言したが、具体的な日時については不明であり、彼とは4年以上話していないと語った。

 これを受けて、トランプ氏は22日にアリゾナ州フェニックスで開催された保守派のカンファレンスで、ウクライナでの戦闘によって多くの兵士が命を落としたと強調し、プーチン氏が早期の会談を望んでいると述べた。しかし、具体的な会談の詳細には触れず、明確にコミットすることはなかった。

 さらに、トランプ氏はロシアが占領した地域についてはあまりこだわらず、ウクライナ領の一部占拠を認めるような取引に応じる意向を示唆している。この発言は、11月の米大統領選挙におけるトランプ氏の勝利が、ロシアに対抗して占領地を奪還しようとするウクライナのゼレンスキー大統領の取り組みに対する米国の軍事支援にどのような影響を及ぼすかについて疑問を投げかけるものである。トランプ氏はゼレンスキー大統領に対し、「取引を行う準備をすべきだ」とコメントしており、今後の米国の外交政策に注目が集まっている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】トランプ政権とウクライナ戦争:和平への道筋とバイデン政権の戦略

まとめ
  • トランプ氏の政権移行チームとアメリカ・ファースト政策研究所(AFPI)は、ウクライナ戦争の終結に向けた提言や活動を行っている。
  • トランプ氏は、ロシアとの和平交渉を進める意向を示し、ウクライナへの軍事支援の撤回やNATO加盟の延期も提案している。
  • バイデン大統領はプーチン大統領との直接会談を避け、ウクライナへの支持を強化する戦略を取っていた。
  • ウクライナとロシアの国境はソ連時代に人為的に決められたもので、歴史的な経緯が現在の緊張に影響している。
  • ウクライナとロシアも最終的には朝鮮半島のように妥協が必要であり、トランプ政権はウクライナ和平を早期に進める意図があるのは間違いない。
トランプ氏の政権移行チームと、彼のシンクタンクともいえるアメリカ・ファースト政策研究所(AFPI)は、ウクライナ戦争の終結に向けてさまざまな活動や提言を行っている。トランプ氏の国家安全保障チームは、ホワイトハウスおよびウクライナ当局と協議を重ね、ロシアとの戦争を終結させる方法を模索している。具体的な和平案はまだキーウに提示されていないが、トランプ氏は就任前から戦争を終結させる意向を示しており、ロシアに対する平和的アプローチとウクライナへの軍事支援削減の可能性を示唆している。


一方、AFPIはウクライナへの軍事支援と平和的解決の両立を支持しつつ、追加支援には監視と政策目標との関連付けが必要であると提言している。また、NATOメンバーの貢献増加を求め、米国が和平交渉の条件を整える必要性を強調している。具体的な提案として、AFPIメンバーでありトランプ氏にウクライナ・ロシア担当特使に指名されたキース・ケロッグ氏は、両当事者に交渉を促すため、ウクライナへの軍事支援の撤回と、モスクワが交渉を拒否した場合の武器供給増加を提案している。この計画では、ウクライナのNATO加盟を最長10年間延期し、現在の前線を一時的に受け入れ、失地回復は外交的手段に限定するとされている。

さらに、トランプチームはロシアとの和平交渉を促すため、ウクライナのNATO加盟を無期限に禁止するか、特定期間制限する可能性も示唆している。これらの提案は、ウクライナの主権と安全保障を維持しつつ、ロシアとの交渉の余地を残すことを目指している。

バイデン大統領がウクライナ侵攻の直前にプーチン大統領と直接会談を行わなかったことは広く報じられている事実である。2021年12月、バイデン大統領はプーチン大統領とのオンラインサミットを開催したが、その後は直接的な会談は行われていない。

バイデン大統領がプーチン大統領と会談しなかった理由は、いくつかの要素が考えられる。まず、バイデン政権はロシアの軍事的動きに強い懸念を抱いており、対話よりも抑止力を重視する姿勢があった。プーチン大統領との直接会談が、ロシアの侵攻を正当化する口実を与える恐れがあったため、会談を避ける選択をした可能性がある。

また、バイデン政権はウクライナへの支持を強化し、「オレンジ革命」や「ユーロマイダン」といったウクライナ国内の民主化運動への関与も行っていた。これらの運動は、ウクライナの政治体制の改革や民主主義の確立を目指すものであり、バイデン大統領がプーチン大統領との会談を避けることで、ウクライナに対する支持を明確にし、民主化運動を後押しする姿勢を示すことができたとされている。

さらに、バイデン政権はNATOやEUとの連携を深め、国際的な支持を得ることを優先事項としており、ロシアとの直接的な対話がその戦略に反する可能性があった。このように、バイデン大統領がプーチン大統領との会談を避けた理由には、外交的な戦略やウクライナ国内の民主化運動への関与が背景にあると考えられる。これにより、ウクライナへの支援を強化し、国際的な連携を進めることが可能となったとされている。

ゼレンスキー宇大統領とバイデン米大統領

ウクライナとロシアの国境は、ソ連時代に人為的に決められたものである。ソビエト連邦は、多様な民族と文化を持つ広大な国家であり、各共和国の境界線は歴史的、政治的な要因によって設定された。このため、国境は民族の分布や地理的な要因と必ずしも一致していなかった。

特に、ウクライナとロシアの国境は、ソ連の内部行政区画に基づいて決定された。1922年にソ連が成立した際、ウクライナはウクライナ・ソビエト社会主義共和国として設立され、さまざまな地域が組み込まれた。その後、1930年代から1940年代にかけて、国境の調整や領土の移動が行われ、ウクライナとロシアの境界が形成された。

このように、ウクライナとロシアの国境は、歴史的な経緯やソ連の内部政治によって人為的に決められたものであり、現在の国境問題や民族的な緊張の背景には、このような歴史が影響している。国境が民族や文化の実態を反映していないため、現在でもさまざまな対立や摩擦が生じている。

朝鮮半島の38度線


一方、朝鮮半島は長い歴史の中でさまざまな王朝や勢力によって統治されてきたが、20世紀に入ると日本の植民地支配を経て、第二次世界大戦後に南北に分断された。1945年に日本が降伏した際、連合国は朝鮮半島を北緯38度線を境にソ連とアメリカで分割占領することを決定した。この38度線は、実際には地政学的な理由に基づいて引かれたものであり、民族的・歴史的な境界を反映したものではない。このため、国境が設定された時点では、明確な文化的・民族的な境界が存在せず、曖昧な部分が多かったと言える。

その後、1948年に韓国(大韓民国)と北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)がそれぞれ独立した国として成立し、1950年に朝鮮戦争が勃発した。この戦争の結果、38度線が事実上の国境として固定されたが、もともとの境界設定が曖昧であったため、現在でも南北間には緊張が残り続けている。

ウクライナとロシアもいつまでも戦争を続けられるわけではない。いずれ、朝鮮半島のように両国が妥協しなければならない時がやってくるのは確実である。その端緒をトランプが開こうとしていることは間違いない。トランプ政権としては、中国との対峙に専念できる体制を築くため、ウクライナ和平を早期に進めようとしているのは間違いないだろう。

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トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能性も...「本当に怖い存在」習近平の中国との関係は?

まとめ
  • トランプ次期大統領はNATO加盟国に国防費をGDP比5%に引き上げるよう要求し、ウクライナへの支援は継続すると伝えた。
  • 現在のNATOの国防費目標はGDP比2%であり、クリアしている国は31カ国中23カ国である。
  • トランプ氏は過去の発言でウクライナ支援の打ち切りを示唆していたが、最近の意向では支援を維持する考えを示している。
  • 来年のNATO首脳会議で国防費増額が合意される可能性があり、目標は2.5%から2030年までに3%に引き上げることが計画されている。
  • 日本にも防衛費の引き上げが求められており、トランプ氏は日本の防衛費をGDP比3%にするべきだと主張している。
メルケルとトランプ

 ドナルド・トランプ次期大統領の政権移行チームは、NATO加盟国に対し国防費を国内総生産(GDP)比5%に引き上げるよう要求する一方、ウクライナへの支援は継続する意向を示した。この情報は、英紙フィナンシャル・タイムズの報道によるものである。トランプ氏は大統領選中に「ウクライナ支援を打ち切り、24時間以内にウクライナ戦争を解決する」と発言しており、この発言は欧州各国に不安をもたらした。

 前独首相のアンゲラ・メルケル氏は回顧録において、トランプ氏がビジネスマンの視点から損得勘定で物事を判断していると振り返っている。現在のNATOの国防費目標はGDP比2%であるが、これをクリアしている国は31カ国中23カ国にとどまっている。トランプ氏が主張する5%は、交渉戦術としてのブラフである可能性が高く、最終的には3.5%での妥協が見込まれている。

 トランプ氏は第1次政権時代にメルケル氏を嫌悪しており、彼女の国防費の抑制やロシアとの関係を問題視していたことがある。現在、ロシアの侵攻によってウクライナの戦況が厳しくなっている中、米国の支援が途絶えると、欧州だけでウクライナを支えることは非常に困難であると考えられている。

 さらに、来年6月のNATO首脳会議では国防費の増額が合意される可能性が高まっており、具体的にはGDP比2.5%を目指し、2030年までに3%を達成する計画が進められている。ポーランドの大統領も国防費の引き上げを提案しており、トランプ氏は日本にも防衛費をGDP比3%に引き上げるべきだと主張している。

 トランプ氏にとって本当に脅威なのはプーチンではなく、中国の習近平国家主席である。欧州が自国の防衛を強化することは、日本にとっても利益となる。これにより、米国はインド太平洋地域に軍事資産をより振り向けることが可能となる。その一方で石破茂首相は防衛費拡大、米国の兵器購入、在日米軍駐留経費の負担増の要求を覚悟しなければなるまい。

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【私の論評】発足もしてない政権に対して性急な結論をだすべきではない

まとめ
  • トランプ第二次政権の政権移行チームは、AFPI(米国第一政策研究所)を含む専門家や支持者を中心に構成され、政策の一貫性を重視している。
  • 中国に対する政策は、関税の大幅引き上げや技術移転の制限を含む強硬な姿勢が示されており、米国の製造業を保護する狙いがある。
  • ウクライナ政策においては、具体的な時系列や戦略が不明瞭であり、政権移行後の実際の行動次第といえる。
  • トランプ氏の「アメリカ・ファースト」は、米国の利益を優先しつつ国際社会での役割を再定義しようとする試みであり、単なる排他主義ではない。
  • トランプ氏の政策の実施によって、アメリカは経済復活、外交政策の再構築、安全保障の強化などを通じて新たな時代を迎える可能性がある。
来年のトランプ第二次政権への政権移行チームは、すでに構成されており、さまざまな要素を考慮して活動を進めている。チームのメンバーは、トランプ氏の信任を受けた専門家や支持者が中心となっており、前回の政権での経験を持つ人々や米国第一政策研究所(AFPI)からの人材が参加している。このような構成は、トランプ氏の政策の一貫性を保つために重要である。

トランプ第二次政権の政策方針は、特に中国との対峙において、前政権よりもさらに厳しくなる可能性が高い。トランプ氏は中国に対して強硬な対中姿勢を貫く意向を示しており、関税政策の大幅な強化がその象徴である。彼は中国からの輸入品に対する関税を現在の平均18%から60%に引き上げることを提案しており、さらに全輸入品に対して10%から20%の関税を課す可能性も示唆している。これは中国の「新生産力」戦略に対抗するためであり、米国の製造業と企業を保護する狙いがある。

トランプ氏と政権移行チーム

また、技術移転の制限もトランプ政権の重要な政策の一つである。半導体や製造装置などの先端技術の中国への輸出制限が強化される見込みであり、中国企業による米国の不動産や産業への投資もさらに制限される可能性がある。共和党綱領では、中国による米国の土地や産業の購入を阻止する方針が明記されていることからも、その意図は明らかだ。

サプライチェーンの見直しも重要な課題であり、医薬品や電子機器などの重要分野での中国依存度を完全に排除する計画が掲げられている。これは「リショアリング」アジェンダの一環として推進される見込みであり、米国の自立性を高める重要なステップとなるだろう。

外交政策においても、トランプ政権は独自のアプローチを取る可能性がある。EU諸国や日本に対しては引き続きGDP比2%以上の防衛費支出を要求する見込みであり、台湾への支援も強化されるだろう。しかし、トランプ氏は台湾に対して「米国の保護に対してより多くの支払いを求める」という複雑な姿勢を示しており、そのバランスが問われる。ただ、メルケルドイツ前首相は、移民政策やエネルギー政策によって今日のドイツの弱体化を招いた張本人であり、とても彼女のトランプ批判が正鵠を射たものとはいえない。

ウクライナ政策については、大きな変化が見られる可能性がある。トランプ氏は「24時間以内に戦争を終結させる」と主張しているが、具体的な方法は明らかにしていない。ウクライナへの支援を「ローン」形式に変更する提案も行っており、これは支援の実質的な削減につながる恐れがある。

ただ、トランプ氏の今までのウクライナ政策に関する発言は、総じて具体的な時系列や明確な戦略については述べておらず、彼の政策がどのように具体化されるかは、政権移行後の実際の行動次第であり、その結果が国際情勢にどのように影響を与えるかは注視する必要がある。ただ、マスコミが批判するような極端なことにはならないだろう。彼の中東政策などをみていると、一見極端にみえたこともあったが、総じてまともなものだった。バイデンのアフガン撤退のような無様な真似はせず、アブラハム合意や、選挙公約でもあったシリアからの撤退、イスラエルの支援など現在の中東政策につながる政策を実行していた。

国内政策と国際戦略の連動も重要な特徴である。移民政策の厳格化やスパイ対策の強化が予想され、特に中国人留学生や移民がスパイとして活動する可能性についての懸念から、対策が強化される見込みだ。

アメリカ第一政策研究所(AFPI)の提言は、トランプ第二次政権の政策形成に大きな影響を与えるだろう。AFPIは「アメリカ第一」の中国政策原則を提唱しており、その核心は互恵主義にある。彼らは、中国共産党とそれに関連する者が、アメリカ国内で中国におけるアメリカ人の権利以上の権利を持つべきではないと主張している。


ここで重要なのは、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」が必ずしもネガティブな意味合いを持つものではないという点だ。この政策は、米国がモンロー主義に戻ったり、単に米国の国益だけを考えるものではなく、民主党政権が米国政府の本来の役割をないがしろにしていたことへの批判が含まれている。トランプ氏の「アメリカ・ファースト」政策は、米国の利益を最大化しつつ、国際社会における米国の役割を再定義しようとする試みと捉えることができる。

このように、トランプ氏の政策は、米国の国益を最優先しつつも国際社会における米国の役割を再定義し、より持続可能な形で米国のリーダーシップを維持しようとする試みである。特に中国に対する強硬な政策は、米国の製造業を守るための重要な戦略であり、単なる保護主義ではなく、公平な競争環境の創出を目指すものである。


トランプ第二次政権は、単純な排他主義を超え、米国の利益を守りつつ国際的な責任を果たすという、より複雑で深い戦略を展開する可能性が高い。これは、米国が世界においてどのように振る舞うべきかを再考する契機となるだろう。アメリカの未来は、こうした政策の実施によって大きく変わるかもしれないのだ。

経済の復活、外交政策の再構築、安全保障の強化、さらには国内の社会構造の変化が進むことで、アメリカは新たな時代を迎えることになるだろう。これらの政策が実現すれば、アメリカは再び力強い国としての地位を確立し、国際社会におけるリーダーシップを維持する可能性がある。性急に結論を出すことなく、未来がどのように変わるのか、その行く先を注意深く見守る必要がある。

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2024年12月21日土曜日

経産省が素案公表「エネルギー基本計画」の読み方 欧米と比較、日本の原子力強化は理にかなっている 国際情勢の変化を反映すべき―【私の論評】エネルギー政策は確実性のある技術を基にし、過去の成功事例を参考にしながら進めるべき


まとめ
  • 経済産業省はエネルギー基本計画の素案を公表し、再生可能エネルギーを4割から5割、原子力を2割程度に設定している。
  • 2024年度中の7次計画策定を目指しており、現在は経産省内の審議会レベルで進行中である。
  • 2022年時点での日本のエネルギー構成は、化石燃料由来の火力が72.8%、原子力が5.5%、再生可能エネルギーが21.5%である。
  • 7次計画では再エネへの転換を加速し、原子力の比率を引き上げる必要があるが、国際情勢の変化が十分に考慮されていない懸念がある。
  • 無理をすれば計画は達成できるだろうが、そもそも計画があるべき姿からかけ離れているようだ。


 経済産業省は17日にエネルギー基本計画の素案を公表した。この素案では、再生可能エネルギーの割合を4割から5割程度、原子力を2割程度に設定している。この基本計画は、エネルギーの需給や利用に関する国の政策の基本的な方向性を定めるもので、政府はおおむね3年ごとに改定を行っている。現在、2024年度中の7次計画策定を目指しており、現時点では経産省内の審議会レベルだが、いずれ閣議決定される見込みである。

 2022年時点のエネルギー構成比を見ると、日本は化石燃料由来の火力が72.8%、原子力が5.5%、再生可能エネルギーが21.5%を占めている。これに対して、米国は火力が60.6%、原子力が18.0%、再エネが21.4%であり、欧州連合(EU)は火力が39.6%、原子力が21.8%、再エネが38.7%である。日米を比較すると、日本は火力の比率が高く、原子力が低く、再エネは同程度である。日欧を比較すると、日本は火力の比率が高く、原子力と再エネが低い状況である。

 日欧を比較すると、日本は火力の比率が高く、原子力と再エネが低い。脱原発をして経済成長しなくなったドイツと、日本の原子力は同レベルだ。

 前回の第6次計画では、2030年度における火力41%、原子力20~22%、再エネ36~38%という目標を掲げていた。今回の7次計画では、火力から再生可能エネルギーへの流れを加速させる意向が示されている。政府は、50年に温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を持っており、このために再エネの比率を高める必要があるとされている。

 また、国際情勢の変化も考慮すべきである。米国では、トランプ政権の下で脱炭素化の方針が見直され、シェールガスの増産・輸出が進む可能性がある。日本もエネルギーの中東依存の見直しや日米同盟の強化を考慮し、火力に柔軟性を持たせるべきである。

 しかし、7次計画にはエネルギー技術の進展や国際情勢の変化が十分に反映されていない点が懸念される。経産官僚が世間の目を気にしながら、状況の変化を考慮せずに前回計画を単純に踏襲しているように見える。無理をすれば計画は達成可能だが、そもそも計画があるべき姿からかけ離れているのではないかと考えられる。したがって、今後のエネルギー政策は、より柔軟で現実的なアプローチを必要とするであろう。 

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【私の論評】エネルギー政策は確実性のある技術を基にし、過去の成功事例を参考にしながら進めるべき

まとめ
  • ドイツと日本は異なる政策を進めているが、いずれも経済成長に対する原子力の役割が低下している。
  • エネルギー政策は国家の安全保障や経済の安定に直結するため、実績のある技術に基づく柔軟な運営が求められる。
  • 小型モジュール炉(SMR)や天然ガスの利用拡大、エネルギー調達先の多様化が重要である。
  • エネルギー政策は、実績のある技術を重視し、確実性と安定性をもって進めることが最も重要である。
  • エネルギー効率化技術の導入や、エネルギー供給の多様化を図るための国際的な協力が不可欠である。
ドイツと日本は、原子力発電に対する依存度を下げたが・・・・

上の記事では、「脱原発をして経済成長しなくなったドイツと、日本の原子力は同レベルだ」と述べている。この言葉は、両国が原子力発電に対する依存度を低下させた結果、経済成長に影響を受けていることを指摘している。

まず、ドイツの脱原発政策について考察する。2011年の福島第一原発事故を契機に、ドイツは原子力発電からの脱却を決定し、「エネルギー転換(Energiewende)」と呼ばれる政策を推進した。この政策の下、ドイツは2022年までに全ての原発を停止する方針を掲げ、再生可能エネルギーの導入を促進してきた。

2019年のデータによれば、ドイツの再生可能エネルギーは全体の37%を占め、特に風力と太陽光が大きな割合を占めている。しかし、原子力の停止に伴い、化石燃料、特に石炭の使用が増加し、温暖化ガスの排出量が減少しないという批判が高まっている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書でも、ドイツのエネルギー政策に対する懸念が指摘されており、持続可能なエネルギー供給の確保が課題とされている。

次に、日本の原子力政策について考えると、福島事故以降、日本の原発は多くが運転を停止し、再稼働が進まない状況が続いている。2022年のデータによると、日本のエネルギー構成は化石燃料由来の火力発電が72.8%を占め、原子力は5.5%にとどまる。日本政府は再生可能エネルギーの導入を進めているが、火力発電への依存度が高いことがエネルギー安全保障やコスト面での懸念を生じさせている。

日本の電力料金は上昇傾向にあり、経済成長に対する影響が指摘されている。例えば、経済産業省の報告によれば、2021年の日本の電力コストは国際的に見ても高い水準にあり、企業の競争力に影響を与えている。

さらに、両国の経済成長に与える影響についても考慮する必要がある。ドイツはエネルギーコストの上昇や電力供給の不安定さによって、短期的には経済成長に逆風が吹いている。特に、エネルギー価格が高騰する中、製造業を中心とした企業活動に負担がかかっている。経済協力開発機構(OECD)の報告によれば、ドイツの経済成長率は2022年に1.9%と予測されているが、エネルギーコストの影響で成長が鈍化する可能性が指摘されている。

一方、日本も同様に、原発の停止による火力発電のコスト増加が電力料金を押し上げ、企業の競争力に影響を与えている。エネルギーコストの上昇が成長を鈍化させる要因となっている。

このように、ドイツと日本は原子力政策において異なる道を選んでいるが、いずれも経済成長に対する原子力の役割が低下している点で共通している。「脱原発をして経済成長しなくなったドイツと、日本の原子力は同レベルだ」という表現は、両国の原子力依存度の低下とそれに伴う経済的影響を示しており、持続可能なエネルギー政策の重要性を改めて考えさせるものである。

エネルギー基本計画を素案を公表した経済産業省

上の記事では、結論として「7次計画では、エネルギー技術の進展や国際情勢の変化があまり盛り込まれていない点が気になる」としているが、これは具体的には、エネルギー技術の進展、国際情勢の変化、政策形成のプロセス、そして計画の実効性という観点から十分に検討されていないという疑念を示しているものと考えられる。

エネルギー政策は国家の安全保障や経済の安定に直結する極めて重要な分野である。確実性と信頼性が求められるこの領域において、安直な革新性を取り入れることは、予測不可能なリスクを伴い、深刻な影響をもたらす可能性がある。そのため、エネルギー政策は実績のある技術や手法に基づき、柔軟性を持った運営が必要である。

エネルギー多様化の方策としては、まず7次計画にも記載のある、小型モジュール炉(SMR)の開発が注目される。SMRは、従来の原子力発電所に比べて小型であり、建設コストが低く、柔軟な設置が可能である。特筆すべきは、すでに似たようなものが、原子力空母や潜水艦などで数十年にわたり運用されてきた実績である。この間、大規模な事故は発生していない。アメリカ海軍の原子力潜水艦は、1980年代から運用され、数十年にわたり安全に稼働している。その実績は、SMRの安全性と信頼性を裏付ける重要な要素となる。SMRは小型原子炉の軍事から民間利用への転換ともいえるだろう。

次に、天然ガスの利用拡大も重要な方策である。天然ガスは化石燃料の中でも比較的クリーンなエネルギー源であり、多くの国がその供給を増やしている。米国のシェールガス革命によって、国内の生産量は劇的に増加し、国際市場での価格安定にも寄与している。例えば、米国エネルギー情報局(EIA)のデータによれば、アメリカの天然ガス生産量は2022年に約1,000ビリオン立方フィートを超え、世界最大の生産国となった。日本もLNG(液化天然ガス)の調達先を多様化し、オーストラリアやアメリカ、カタールなどからの輸入を進めている。これにより、エネルギー供給の安定性が高まる。

また、既存のエネルギー調達先の多様化も重要である。特に石油や石炭の供給元を多様化することで、特定の国や地域への依存を減らし、エネルギー供給の安定性を向上させることができる。インドは石炭の輸入先を米国、オーストラリア、インドネシアなどに分散させ、供給の安定性を高めている。さらに、EU諸国もロシアからのエネルギー依存を減らすために、ノルウェーやアメリカからの輸入を増やす取り組みを進めている。

再生可能エネルギーの導入が進められる中で、現状では政府の補助が必要であるため、これは持続可能なエネルギー供給の不安定化を招く要因となる。再生可能エネルギーの導入に関する調査では、政府の補助金がなければ経済的に成り立たないという報告が多く見られる。たとえば、日本の再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)は、再生可能エネルギーの導入を促進する一方で、補助がなければ経済的に持続できない現実がある。

将来的には大きな技術革新が起こり、再生可能エネルギーが自立したエネルギー源となる可能性もあるが、現時点ではその実現には時間がかかる。再生可能エネルギーは大規模実験程度の規模で実施すべきである。これに大きな比重を置くべきではない。

そもそも、過去のエネルギー革命は、たとえば運搬手段が馬や牛から、化石燃料を用いる車輌に変わったように、政府がほとんど何もしなくても、急速に進んだ。百数十年前の最大の都市問題は、馬糞の処理であったことを忘れるべきではない。民間企業は、経済的に有利とみれば、政府の補助金などあてにせず、我先にその分野に飛び込み、先行者利益を目指すものである。補助金をあてにする事業など、そもそも革新ではない。単なる社会実験に過ぎない。

ウクライナ戦争で破壊された集合住宅

国際情勢の変化も考慮する必要がある。特にロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギー供給の安定性やエネルギー安全保障が重要な課題として浮上している。日本も中東依存の見直しや、より多様なエネルギー供給源の確保が求められているが、7次計画にはこれらの国際情勢に対する具体的な対応策が欠けている。

政策形成のプロセスにおいて、日本の経産官僚が外部の圧力や世間の反応を過度に気にするあまり、柔軟な対応ができていないという懸念も存在する。このような状況を踏まえ、エネルギー政策は確実性のある技術を基にし、過去の成功事例を参考にしながら進めるべきである。具体的には、エネルギー効率化技術の導入や、エネルギー供給の多様化を図るための国際的な協力が不可欠である。

以上のように、現実に基づいた政策がなければ、7次計画は理想的なエネルギー政策とは言えない。エネルギー政策は、実績のある技術を重視し、確実性と安定性をもって進めることが最も重要である。エネルギー供給の安定を確保するためには、過去の実績から学び、現実的な取り組みを重視する姿勢が求められる。 

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まとめ

  • 海底インフラの破壊活動が増加しており、特に中国船による意図的な破壊が懸念されている。
  • 2016年の嵐によるイギリスとフランス間の海底送電線の切断事件が、電力供給のリスクを浮き彫りにした。
  • 日本はデータセンターの国内設置が急務であり、安定した電力供給が必要である。
  • アメリカでは原子力発電所近くにデータセンターを設置する計画が進行中で、電力供給の効率化が求められている。
  • 日本の第7次エネルギー基本計画では、2030年度以降の電力需要の増加に対応する必要があり、自由化された市場では将来の電気料金について予見性が失われ巨額な設備投資は実行されない。投資を支援する制度の創出は待ったなしだ。

破壊された海底ケーブル AI生成画像

 近年、海底インフラの破壊活動が増加し、安全保障上のリスクが高まっている。2016年11月20日、ドーバー海峡で発生した猛烈な嵐により、イギリスとフランスを繋ぐ海底送電線の能力が半減した。この嵐の中、錨を下ろした船が流され、英仏間に敷設された海底送電線8本のうち4本が切断された。この結果、フランスからの電力供給に依存するイギリスは、冬の電力需要期において原発1基分に相当する100万キロワットの供給力を失うという深刻な事態に直面した。

 このような海底インフラの切断は時折発生するが、意図的な破壊行為は稀であった。しかし、最近の数年間で状況が変化してきている。例えば、2022年9月にはロシアとドイツを結ぶノルドストリーム1と2のパイプラインが破壊され、その後の調査でウクライナ人に対する逮捕状が発行されるなど、国際的な緊張が高まっている。また、2023年10月にはフィンランドとエストニアを結ぶ海底パイプラインが損傷し、24年11月にはスウェーデン領海での通信ケーブルが破壊される事件が発生した。これらの事件は、中国の船による破壊工作の可能性が報じられ、国際的な安全保障に対する新たな脅威を浮き彫りにしている。

 日本もこのような脅威に直面しており、海底ケーブルが破壊される危険性があるため、データセンターを国内に設置することが急務である。安定的な電力供給がなければ、AIの進展に伴うデータセンター向けの電力需要の急増に対応できず、半導体製造などの重要産業も国内に立地できなくなる。特に、AIの利用が進む中で、データセンターの電力需要は今後急増すると予測されている。

 アメリカでは、データセンターの電力需要が急速に増加しており、特に原子力発電所の近くにデータセンターを設置する計画が進行中である。マイクロソフトは、閉鎖されたスリーマイル島原発1号機からの電力供給を20年間受ける計画を発表しており、アマゾンも小型モジュール炉(SMR)をデータセンターの隣接地に新設する計画を立てている。これにより、発電所からの最短距離の送電が可能となり、安定した電力供給が実現される見込みである。

欧州系石油メジャーの動きは英BPは米東海岸の洋上風力事業から撤退、シェルも、洋上風力発電事業への新規投資を中止し、石油、ガス事業への投資に振り向けると発表し。欧米石油メジャーの方向は異なるが、より収益性の高い事業へシフトしている。

 一方、日本では、経済産業省が12月17日に発表した第7次エネルギー基本計画の素案が、今後の電力需要の増加に対応するための方針を示している。この計画では、2030年度の電力需要が減少から増加に転じ、2040年度には発電量が1.1兆から1.2兆kWhに増加することを目指している。具体的には、原子力発電の比率を20%、火力を30%から40%、再生可能エネルギーを40%から50%に設定している。再生可能エネルギーの導入が進む中で、電気料金の上昇と引き換えに固定価格買取制度を利用することが想定されている。

 しかし、この計画を実現するためには、原子力発電の設備の新設や建て替えが必要である。自由化された電力市場においては、将来の電気料金の予見性が失われているため、巨額の設備投資が行われにくくなっている。したがって、設備新設を支援する制度の創出が急務である。これにより、日本は将来の電力供給の安定性を確保し、経済成長を支えることが可能となる。

 海底インフラの破壊活動の増加は、日本の安全保障や経済成長に新たな脅威をもたらしている。具体的な数値目標を掲げるだけではなく、実現に向けた具体的な施策や道筋を示すことが求められている。これにより、日本は将来的な電力供給の不安定さや安全保障上のリスクに対処することができるだろう。 

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本のエネルギー安保と持続可能性:原子力と省電力半導体の未来

まとめ

  • 日本の電力システムは独立しており、海外からの電力輸入は行っていない。これにより安全保障上のリスクを回避している。
  • フィリピンの電力供給が中国の影響下にあることは、国家安全保障上の懸念を引き起こしている。
  • 再生可能エネルギーは供給チェーンの脆弱性や不安定性などの欠点があり、原子力発電への注力が必要とされる。
  • 小型モジュール炉(SMR)や核融合技術の実用化により、日本のエネルギー供給の安定性が向上する。
  • 原子力の推進と省電力半導体の実用化によって、日本のエネルギー供給は盤石になる。

現在、日本の国際通信は主に光海底ケーブルによって行われているが、海底送電線を用いて海外から直接電力を輸入してはいない。日本の電力システムは独立した状態にあり、他国との接続がない。特に電力を輸入していないことは、日本が島国であることに起因し、外国との間に海底送電線網を構築するには莫大な資金が必要となる。結果として、これは安全保障上正しい判断といえる。

2017年当時。供給余力と特に地方では少ない

フィリピンは海底送電線を用いて中国から直接電力を輸入しているわけではないが、中国は間接的にフィリピンの電力供給に大きな影響力を持っている。中国の国家電網公司がフィリピンの送電企業NGCPの株式の40%を保有しており、NGCPは2009年からフィリピン全土で送電事業を行っている。NGCPはフィリピンの家庭の約78%に電力を供給しているため、中国の影響力は無視できない。この状況には懸念も存在する。フィリピンの電力供給網が中国政府の支配下にある可能性が指摘されており、紛争時に中国が電力網を遮断するリスクがあるという内部報告書も存在する。この状況は、国家安全保障上の懸念事項である。

日本は、フィリピンのようなエネルギー安全保障上の懸念を抱えることなく、独立した電力の確保を継続するために、今後も電力の輸入はせず、外国の事業者を関与させるべきではない。これを実現するためには、特に設備新設を支援する制度の創出が急務である。しかし、再生可能エネルギーには重大な問題が潜んでいる。

現在、日本で使用されている太陽光パネルや風力発電設備の多くは中国から輸入されたものであり、特に太陽光パネルは中国が世界最大の生産国であるため、そのシェアは非常に高い。風力発電設備も多くが中国製であり、コスト面でも競争力がある。この状況はエネルギーの導入促進に寄与しているが、安保上の懸念がある。

日本に設置されている太陽光パネルはほとんどが中国製

具体的には、供給チェーンの脆弱性が問題視されている。特定の国に依存することで、政治的な緊張や貿易摩擦が生じた際に供給が途絶えるリスクがある。また、重要なエネルギーインフラに関わる技術が他国に依存していると、技術的な安全性や信頼性の確保が難しくなる可能性もある。さらに、エネルギーの自給自足を強化することは、国際的な競争力の向上やエネルギー安全保障の確保にもつながる。

環境や労働条件に関する懸念も生じており、持続可能な開発を考慮した場合、地域や国内での生産を促進することが求められている。これらの理由から、日本は再生可能エネルギーの国内生産を強化し、供給チェーンの多様化を図る努力が必要である。

再生可能エネルギーにはいくつかの欠点がある。不安定性があり、太陽光や風力は天候や時間帯に依存するため、発電量が変動しやすい。また、エネルギーの貯蔵が難しく、効率的な貯蔵システムが十分に普及していない。さらに、大規模な発電所は広大な土地を必要とし、土地利用や自然環境への影響が懸念される。初期投資が高く、特定地域では資源が限られることもある。これらの課題を克服するためには、技術の進化や政策の支援が重要であり、再エネを社会のインフラにしてしまうことは大きな間違いである。

こうしたことから、再エネは将来の技術革新を促すために、実験を継続する程度にとどめて、原子力発電に傾注すべきである。特に日本は当面、小型モジュール炉(SMR)の実用化を目指し、将来的には核融合を目指すべきである。

小型モジュール炉は安全性が高く、建設コストが比較的低いため、導入が容易である。従来の大型原子炉に比べて設計がシンプルであり、事故のリスクを低減できる点が評価されている。例えば、米国のWestinghouseが開発したSMRは、冷却システムが自然循環に基づいており、外部電源がなくても冷却が可能である。これにより、重大事故のリスクが大幅に軽減される。

エネルギーの安定供給が求められる中で、SMRは地域分散型の電源としての役割を果たすことができる。特に地方の電力供給において、地域ごとの電力需要に応じた柔軟な対応が可能である。

小型モジール炉のサイズ感 1ユニットだとトレーラーに格納することができる

将来的には核融合技術の実用化を目指すべきである。核融合は地球上のエネルギー需要を持続可能な形で満たす可能性を秘めている。燃料となる重水素やトリチウムは豊富に存在し、核融合による発電は放射性廃棄物が少なく、事故のリスクも極めて低いとされている。国際熱核融合実験炉(ITER)プロジェクトが進行中であり、これにより核融合技術の商業化が現実味を帯びている。

日本がSMRの実用化を進めつつ、核融合技術の研究開発を並行して行うことで、エネルギーの安定供給と持続可能性を両立させる道を確保することができる。これにより、エネルギー政策の多様化と国際的なエネルギー市場における競争力の向上が期待される。

さらに、AIの発展に伴い、電力使用量が増すことが懸念されているが、これには以前似たようなことが指摘されたことがある。たとえば、米Googleは2009年1月11日、「Googleで1回検索すると、やかんでお湯を沸かす半分のエネルギーが必要で、二酸化炭素7グラムを排出している」との指摘に対して反論している。当時はインターネットの発展に伴い電子力消費量が幾何級数的に伸び、とんでもないことになるだろうといわれていた。しかし、現実にはそうならなかった。その理由は、半導体の電力使用量が大幅に減ったからである。

現在の半導体は、20年前の半導体と比較して同じ性能を持つ場合、電力消費量が大幅に減少している。具体的には、一般的に同性能の半導体は、20年前に比べて約50%から70%程度の電力消費量を削減できるとされている。この減少は、製造プロセスの進化や微細化技術の向上、さらには新しい材料や設計手法の導入によるものである。ナノテクノロジーの進展によりトランジスタのサイズが小さくなり、電力効率が向上している。また、低消費電力の設計が求められる中で、様々な省エネ技術が開発されている。

ラピダスの小池淳義社長とテンストレントのジム・ケラー氏

今後も半導体の電力消費量は減っていくであろう。特にAIの普及が進む中で、現在の技術のままでは電力消費が破滅的に増加する可能性がある。これを回避するためには、超省電力半導体の設計と製造が不可欠である。北海道千歳市で工場建設が進んでいるラピダスとカナダのテンストレントの提携は、この課題に取り組む重要なステップである。ラピダスの社長である小池淳義氏は、超省電力半導体の開発を通じて、AIやその他の高度な計算処理が求められるアプリケーションに対応できる技術を推進している。具体的には、低消費電力で高性能を実現する新しい半導体材料や構造の研究が進められている。

この提携によって、ラピダスはテンストレントの先進的な技術を活用し、次世代の半導体市場において競争力を高めることを目指している。AI技術の進化に伴い、半導体の電力効率を向上させることは、持続可能なエネルギー利用に寄与するだけでなく、経済的な成長にもつながる。

小池社長のビジョンは、こうした超省電力半導体の実現を通じて、AIの普及を支えつつ、環境への負荷を軽減し、エネルギー効率の高い社会を築くことである。これにより、技術革新が持続可能な未来を実現するための基盤となることが期待される。

結論として、原子力の推進と省電力半導体の実用化によって、日本のエネルギー供給は盤石になる。小型モジュール炉や核融合技術の開発に注力しつつ、半導体技術の進化を活用することで、持続可能で安全なエネルギー供給体制を確立することが可能である。これにより、日本はエネルギーの自給自足を強化し、国際的な競争力を高めることができる。

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2024年12月19日木曜日

財務省と自民税調の〝悪だくみ〟減税圧縮・穴埋め増税 野党分断で予算修正阻止 足並み乱れた間隙狙い…特定野党に便宜も―【私の論評】これからの日本政治における野党の戦略と国民の役割

 高橋洋一「日本の解き方」

財務省と自民税調の〝悪だくみ〟減税圧縮・穴埋め増税 野党分断で予算修正阻止 足並み乱れた間隙狙い…特定野党に便宜も

  • 年収103万円の壁の引き上げ協議: 自民、公明、国民民主の3党が、国会で「年収103万円の壁」の引き上げ幅を巡り協議中。国民民主党は178万円を求め、自民党は123万円を提案。

  • 合意文書の内容: 3党幹事長は、国民民主党の178万円を目指し、ガソリン税の暫定税率を廃止することに合意。しかし、自民党内では合意内容に対する不満が表明されている。

  • 財務省の戦略: 財務省は、補正予算組み替えによる所得税減税を避け、引き上げ幅を縮小する戦略を持っている。これにより、来年度の税制改正での議論が続く。

  • 増税の計画: 政府内では防衛増税や社会保険料の増加が既定路線となっており、これらは通常国会での法改正を通じて進められる予定。

  • 野党の影響力: 衆院で野党が多数を占めているため、税法や社会保険法の改正は否決される可能性がある。財務省はこの状況を利用し、予算修正を最小限に抑えて増税を行う狙いがある。


年収103万円の壁のイメージ AI生成画像

 自民、公明、国民民主の3党は、「年収103万円の壁」の引き上げについて国会内で協議を行っている。国民民主党は178万円への引き上げを求めているが、自民党は前回の協議で123万円を提案したため、意見の隔たりが大きい。国民民主党の古川税調会長は、協議の打ち切りも考慮する必要があると発言し、自民党の宮沢税調会長の「誠意を見せたつもりだ」という発言はSNSで批判を受けている。元内閣参事官の高橋洋一氏は、財務省や自民党税調が自らの立場を守るために動き出していると指摘している。

 3党の幹事長は合意文書を交わし、103万円の壁の引き上げを国民民主党の主張する178万円を目指すことや、ガソリン税の暫定税率を廃止することを決めた。しかし、自民党の森山幹事長は、1年で178万円への引き上げは困難とし、宮沢税調会長も合意内容に不快感を示している。公明党の赤羽税調会長は、合意が漠然としているため冷静な議論が必要だ。

 現時点で、所得税減税の実施時期は今年度が望ましいとされており、サラリーマンにとっては年末調整や3月の確定申告で減税が適用される可能性がある。ただし、財務省は補正予算の組み替えによる減税を避ける方針で、来年度の税制改正で再度議論される見込みだ。引き上げ幅を75万円から圧縮する狙いもあり、段階的な引き上げが検討されている。

 さらに、他の税目で増税を進める意向があり、防衛増税や社会保険料の増加が来年度の税制改正で順次行われる予定だ。しかし、これらの増税には各種法改正が必要で、来年1月からの通常国会で提出される見込みだ。衆院で野党が多数を占める現状では、これらの改正案が否決される可能性もある。

 このような状況下、各党は参院選を控え、政策実現に向けて足並みを乱す可能性が高い。財務省は、野党間の対立を利用して予算成立を図る狙いがあり、特定の野党に便宜を図ることで、予算修正を最小限にとどめる戦略が取られることが予想される。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】これからの日本政治における野党の戦略と国民の役割

まとめ

  • 国民民主党の注目: 経済政策や社会保障に関する具体的な提案、「国民の手取りを増やす」という公約を掲げ、他の野党と差別化を図った。

  • 財務省の狙い: 政府の財政運営を円滑に行う名目で、「減税圧縮・穴埋め増税、野党分断で予算修正阻止」を狙う行動を強化。

  • 野党の連携: 財務省や自民税調の悪巧みを防ぐため、野党間の連携を強化し、共通の政策目標を掲げることが重要。

  • 国民の声の重要性: SNSを通じて国民の意見を集め、政策決定過程に対する監視を強化し、国民の声を政策に反映させる努力が求められる。

  • 政治への関心: 私たち国民は政治に対する関心を高め、声を届けることで未来を自らの手で切り開く必要がある。


税法や社会保険法の改正は、決して単なる数字のゲームではない。これには必ず予算の修正が伴い、国民生活に直接影響を及ぼす重大な問題だ。日本の政治システムでは、予算は国会で承認されなければならず、その際、各政党は自らの政策を実現させるために強く主張する。しかし、来年の夏には参議院選挙が控えており、各政党は選挙を意識して自党の政策を目立たせようとするため、意見が一致せず、足並みが乱れることが容易に想像できる。

記者会見した国民民主党玉木氏 

この状況の中で、国民民主党が衆議院選挙で注目を集めた要因は何か?それは、特に経済政策や社会保障に関する明確な提案を行い、他の野党と差別化を図ったからだ。具体的には「国民の手取りを増やす」という公約を掲げ、税制改革や社会保障制度の見直しを通じて国民の可処分所得を増やすことを目指した。

このような具体的な政策提案は、物価高騰や生活費の上昇が問題視される中で、国民の関心を引きつけ、強力な支持を得る重要な要素となった。コロナ禍の影響に対する具体的な解決策を提示し、国民の期待に応えようとしたことで、国民民主党は新たな支持層を獲得し、存在感を高めることに成功した。

しかし、国民民主党の存在感が増すことで、他の野党は自党の主張が埋もれてしまうことを懸念し、さらなる対立を生む可能性がある。実際に、最近の選挙結果において国民民主党は議席を増やし、その影響力を強めていることが確認されている。

新川浩嗣財務次官


ここで注目すべきは、財務省がこの状況をどう利用するかだ。財務省は計画を進めるための「狙い目」を見出している。「計画を進める」とは、政府の財政運営を円滑に行うための戦略や政策を実行するという名目のもと、実際には「減税圧縮・穴埋め増税、野党分断で予算修正阻止」を狙っているということだ。財務省は予算の成立を確保し、必要な財源を確保するために、減税の幅を縮小し、新たな増税を進めようとしている。

しかも、財務省は政党間の対立を利用し、野党の分断を図ることで、予算修正を阻止しようとする。特定の野党に対して有利な措置を提供し、その支持を得ることで、他の野党との間に亀裂を生じさせる。特定の地域における公共事業や財政支援を優先的に行うことで、その野党の支持基盤を強化し、他の野党との対立を助長することも可能だ。

ここで重要なのは、財務省と自民税調の行動が「悪だくみ」として機能している点である。自民税調は、財務省の意向を受けながら税制に関する政策を検討し、与党としての立場を守る役割を果たしている。彼らは、財務省が提案する増税案に対して支持したり、修正を求めたりすることで、互いに利益を得る関係を築いている。こうした連携は、財務省が意図する「減税圧縮・穴埋め増税、野党分断で予算修正阻止」を実現するための重要な要素となる。

自民党税調

では、こうした財務省や自民税調の悪巧みを防ぐために、野党はどうすべきか?まず、野党間の連携を強化し、共通の政策目標を掲げて共同戦線を築くことが不可欠だ。これにより、財務省が意図する野党分断を防ぎ、より強力な抵抗を示すことができる。また、具体的な政策提案を通じて国民の支持を得る努力を続け、透明性のある議論を促進することで、財務省や自民税調の動きに対抗する力を高めることができる。さらに、SNSでの発信を通じて国民の意見を集め、政策決定過程に対する監視を強化し、国民の声を政策に反映させる努力も必要だ。

これまでの政治的動向からも、財務省は予算編成において強い影響力を持ってきた。例えば、2021年度の予算案では、コロナ対策や防衛費の増加が優先される一方で、他の社会保障政策が後回しにされる傾向が見られた。このような動きは、政策の優先順位を決定する上での政治的な駆け引きを反映している。

したがって、今後の税法や社会保険法の改正においても、財務省と自民党税調は互いに影響を与え合いながら動くことが予想される。財務省は政党間の対立を巧みに利用し、自らの意向を実現しようとし、一方で自民党税調は与党としての立場を守りつつ、財務省の提案に対して調整を行う。この状況は、単に税制改正の問題にとどまらず、日本の政治全体に影響を与える重要な要素となっている。

これは、国民にとって政治の壁ともいえるものだが、自公が衆院選で惨敗したことにより、この壁は揺らいでいる。私たち国民は、この動きを見逃してはならない。今こそ、政治に対する関心を高め、私たちの声を届ける時だ。現時点では、未来はかろうじて未だ私たちの手の中にある。 

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2024年12月18日水曜日

トランプ氏「シリアでトルコが鍵握る」、強力な軍隊保有―【私の論評】トランプ政権トルコのシリア介入許容:中東地政学の新たな局面

トランプ氏「シリアでトルコが鍵握る」、強力な軍隊保有

まとめ
  • トランプ次期大統領は、アサド政権崩壊後のシリアでトルコが鍵を握るとの見解を示した。
  • トルコの軍事力は「戦争で疲弊していない」とし、エルドアン大統領との良好な関係を強調した。
  • 米国はシリア東部に約900人の部隊を駐留させているが、その将来については明言を避けた。
トランプ次期大統領

トランプ次期米大統領は16日、アサド政権が崩壊したシリアの将来について、「トルコが鍵を握る」との見解を示した。

トランプ氏はフロリダ州パームビーチの私邸「マール・ア・ラーゴ」で行った記者会見で、トルコの軍事力は「戦争で疲弊していない」とした上で、「現在のシリアには多くの不確定要素がある。トルコがシリアの鍵を握るだろう」と述べた。

米国は現在、過激派に対する抑止力としてシリア東部に推定900人の部隊を駐留させている。トランプ氏はこの部隊の将来について明確な回答を避け、代わりにトルコ軍の強さとトルコのエルドアン大統領との良好な関係を強調。「エルドアン氏と良好な関係を構築した。同氏は強力な軍隊を築き上げた」と語った。

独裁政権崩壊後のシリアで、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するトルコが果たす役割についてトランプ氏が発言するのは今回が初めて。

【私の論評】トランプ政権トルコのシリア介入許容:中東地政学の新たな局面

まとめ

  • トランプ第一次政権は2018年12月にシリアからの米軍撤退を決定し、実質的に撤退したが、数百人の米軍は残留した。
  • エルドアン首相はISの掃討とアサド政権との対峙を表明し、トランプ大統領はNATOの同盟国トルコに任せる判断を下した。
  • 米国内でのシェールオイル・ガスの発掘により、シリアの原油の魅力が薄れ、アメリカは中国との対峙にリソースを振り向ける方が得策と考えた。
  • トルコがシリアに新たな親トルコ政権を樹立すれば、エネルギー地政学での地位を強化し、EUへのエネルギー供給の中継地としての役割を果たす可能性がある。
  • 今後のシリア情勢はトルコの動向に大きく影響され、トランプ政権の決断が中東及び世界の地政学を変える可能性を秘めている。

米軍のシリア撤退 2018年

トランプ第一次政権は、2018年12月にシリアからの米軍撤退を回りの反対を押し切って、決定した。現実には、わずか数百人の米軍を残したが、実質的に撤退した。

これについて、このブログにも何度か掲載したことがあるが、その理由は以下に集約される。
エルドアン首相は、トランプ氏に対しISの残存勢力を掃討し、アサド政権と対峙することを表明した。トランプ大統領は、この状況で米国としてはNATOの同盟国であるトルコに任せるべきと判断したと考えられる。これにより、米国はシリアに拘泥されることがなくなり、対中戦略に集中できると見込んだのだ。さらに、トランプ氏はIS壊滅後、早急に米部隊を撤退させる選挙公約を果たすことにもなった。

当時、米国内ではシェールオイル・ガスが発掘され、シリアの原油はトランプにとって魅力を失っていた。米国がシリアに拘る理由が薄れ、莫大なリソースを中国との対峙に振り向ける方が得策だと考えたのだろう。
エルドアン トルコ大統領とトランプ米大統領
こうなると、トランプ政権が今後クルド人勢力に支援してまでシリアで覇権を行使する理由は見当たらない。あくまでトルコに任せる姿勢を維持するだろう。イスラエルも混乱が続くよりは、こちらの方を望むだろう。

当面は混乱が続くかもしれないが、HTSがトルコの支援を受けつつ勢力を拡張し、いずれイラクの大部分を統治する可能性が高い。トルコもその方向で動くことが予想される。以前このブログでも述べたように、シリアに新たな親トルコ政権ができれば、トルコは「エネルギー地政学」での地位をさらに強化できる。現在、シリアとトルコ間には石油・ガスのパイプラインは存在しないが、これが実現すれば、トルコはEUに対するエネルギー源の中継地を押さえることになる。トルコがその機会を逃すはずはない。

米国とは異なり、未だに中東の石油に大きく依存する日本は、今後トルコとの関係をさらに強めていくべきだ。秋篠宮皇嗣同妃両殿下は、令和6年12月3日から8日までの6日間、日本とトルコの外交関係樹立100周年を記念してトルコ共和国を公式にご訪問遊ばされた。このご訪問は、まさに時宜を得たものである。

そうして当時このようにトランプが決断した背景には、米国の戦略家ルトワック氏の分析が影響したか、影響していないとしても、似たような考えがあったものとみられる。これについて以前このブログにも掲載した事があるので以下に再掲する。

ルトワックが2013年にシリアに関する記事をニュヨークタイムズに寄稿をしている。その中に戦略が掲載されている。その記事のリンクを以下に掲載する。

In Syria, America Loses if Either Side Wins

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下のこの記事の邦訳を要約したものを掲載する。
どちらが勝ってもアメリカはシリアで敗北する
2013年 8月24日 byエドワード・ルトワック
先週の水曜日にシリアのダマスカス郊外で化学兵器が使用され、多数の民間人が犠牲になったという報道があった。この状況にもかかわらず、アメリカ政府はシリア内戦への介入を避けるべきだとされている。なぜなら、アサド政権が勝利すればイランの影響力が強まり、シーア派とヘズボラの権力が増すことになるからだ。一方で、反政府勢力が勝利すれば、アルカイダなどの原理主義グループが台頭し、アメリカに対して敵対的な政府が誕生する可能性が高い。

このため、アメリカにとって最も望ましい結果は「勝負のつかない引き分け」であり、アサド政権と反政府勢力が互いに消耗し合う状態を維持することが重要だとされている。これにより、アメリカやその同盟国への攻撃を防ぐことができる。しかし、この戦略はシリアの人々にとっては非常に残酷な結果をもたらす可能性がある。反政府勢力が勝利すれば非スンニ派は排除され、アサド政権が勝てば新たな抑圧が待ち受けている。

アメリカは、アサド側が優勢になれば反政府勢力に武器を供給し、逆に反政府勢力が優勢になればその供給を止めるという戦略を取るべきだ。この戦略はオバマ政権が採用してきたものであり、慎重な姿勢を非難する声もあるが、実際にはアメリカが全面的に介入することは現在の国内情勢では支持されにくい。したがって、今のところは「行き詰まり状態」を維持することがアメリカにとって唯一の実行可能な選択肢である。

米国が望む望まないに限らず、トランプ大統領がシリア撤退を決めた当時の米国のイラク政策はこれに近い政策になっていたとみられる。 いわゆる泥沼の状態に陥っていたのだ。頑固なマティスはこれを理解せず、イラク撤退に最後まで反対し、トランプ大統領に解任されたとみられる。

そこに、トルコのエルドアン首相は、トランプ氏に対しISの残存勢力を掃討し、アサド政権と対峙することを表明した。トランプ大統領は、この状況で米国としてはNATOの同盟国であるトルコに任せるべきと判断したと考えられる。これにより、米国はシリア等の中東情勢に拘泥されることがなくなり、対中戦略に集中できると見込んだのだ。さらに、トランプ氏はIS壊滅後、早急に米部隊を撤退させる選挙公約を果たすことにもなった。

このようなトランプ氏が、アサド政権が崩壊したシリアの将来について、「トルコが鍵を握る」との見解を示すのは当然だし、実際にそのような方向に進むだろう。米国はよほどのことがない限り、シリアに再介入することはないし、余程極端なことをしない限り、トルコがシリアに介入することを許容するだろう。

シリアの首都ダマスカス北部で、イスラエルの夜間攻撃を受けた国防省傘下のバルゼ科学研究センター(2024年12月10日)

イスラエルは、アサド政権崩壊以来、シリア国内に何百回もの爆撃を行ったが、これはアサド政権が崩壊して、力の空白き出来上がり、アサド政権のリソース、特に化学兵器を含む武器が武装組織にわたり、イスラエル脅威になることを避けるために行ったものとみられる。

米国がトルコの介入を許容し、それで武装勢力の活動が抑えられるというのなら、イスラエルにとっても脅威が取り除かれるし、イラク情勢が混乱を極めこちらがわに軍事力が分散されることは避けたいので、これに反対する理由は見当たらない。イランはこの動きを止めるには、現状では弱体化しすぎている。

今後のシリアの将来について、「トルコが鍵を握る」との見解は正しい。アメリカの戦略がどうであれ、シリアの状況はトルコの動向に大きく影響されることは間違いない。トランプ政権の決断は、中東のそうして世界の地政学を変える可能性を秘めている。

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2024年12月17日火曜日

<正論>別姓でなく通称使用法の制定を―【私の論評】夫婦別姓絶対反対!文化・法的背景と国際的事例から見る家族制度の重要性

<正論>別姓でなく通称使用法の制定を 

国士舘大学名誉教授、日本大学名誉教授・百地章

まとめ
  • 選択的夫婦別姓法案の提出: 立憲民主党の野田代表は、来年の通常国会に選択的夫婦別姓法案を提出し、自民党に揺さぶりをかける意向を示している。
  • 国民の意見: 国民の6~7割が同姓支持であり、通称使用を認める意見が多数を占めている。内閣府調査では、同姓維持・通称使用が42.2%を占め、別姓支持は20~30%にとどまる。
  • 親子別姓の懸念: 選択的夫婦別姓制では、子供には親子別姓が強制されることから、69%の国民が子供に悪影響を及ぼすと懸念している。
  • 経団連の提言と家庭視点の欠如: 経団連の提言が夫婦別姓論議を後押ししているが、経済的視点からのみで家庭や家族の視点が欠落していると指摘されている。
  • 通称制度の法的強化: 通称制度を法律上の制度に格上げし、旧姓の法的根拠を明確にする必要がある。住民票に旧姓を併記する改正が提案されている。

百地章氏

 立憲民主党の野田佳彦代表は、来年の通常国会に選択的夫婦別姓法案を提出し、自民党に圧力をかける意向を示している。夫婦別姓法案は平成8年に法制審議会が提案したものであるが、30年近く成立していない。その理由は、国民の多数が同姓を支持しているからである。具体的な調査によると、同姓の維持と通称の使用を支持する声が約70%に達しており、別姓の支持は20~30%にとどまっている。このことは、国民の意見が法案の成立に影響を与える重要な要素である。

 さらに、選択的夫婦別姓制では、子供に親子別姓が強制されるため、国民の69%がこの制度が子供に悪影響を与えると考えている。具体的には、友人から親と名字が異なることを指摘されることや、名字の異なる親との関係に違和感や不安感を覚えることが多いとされている。このような意見は、子供の視点から見ても重要である。

 また、経団連の提言が夫婦別姓論議を後押ししているが、経団連の提言は主に企業の経済的合理性に焦点を当てており、家庭や家族の視点が欠落していると指摘されている。記者会見では、経団連の幹部が子供への影響の重要性を認めながらも、具体的な対策を考えていないと述べている。

 さらに、子供たちの91%が将来同姓を名乗りたいと希望していることも注目すべき点である。これに対して、親の利益が優先され、子供には親子別姓を強制する選択的夫婦別姓制は、児童の権利条約にも反する可能性がある。

 通称制度に関しては、現在の制度の法的根拠を明確にし、使用範囲を拡大することが求められている。現在の通称制度は住民基本台帳法の施行令に基づいているが、法律上の制度に格上げすることで、社会生活上の不便を解消することが可能である。このような法律の目的は、夫婦同姓制度のもとで通称の法的根拠を明確にし、国や自治体、民間企業に対して使用範囲の拡大を促すことである。具体的には、住民票の記載事項を改正し、旧姓を併記できるようにする方法が考えられている。

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【私の論評】夫婦別姓絶対反対!文化・法的背景と国際的事例から見る家族制度の重要性

まとめ
  • 夫婦同姓の重要性: 約70%の人々が同じ姓を名乗ることが家族の一体感を高めると認識しており、特に子供に安定した環境を提供する。
  • 文化的背景: 韓国や中国の文化では姓が家系や血縁を象徴し、夫婦同姓がその象徴と見なされている。
  • 法的課題: 夫婦別姓を導入した場合、子供の姓や親子関係に関する混乱が生じる可能性があり、戸籍制度の複雑化も懸念される。
  • 国際的な失敗事例: スウェーデンやフランスなどで夫婦別姓が導入されているが、社会的な混乱やアイデンティティの問題が報告されている。
  • 結論: 夫婦別姓の議論は単なる姓の選択にとどまらず、家族の絆や伝統、法律上の課題、社会的価値観に深く関わっている。夫婦同姓が家庭や社会における安定を保つための重要な要素であり、「家族の名は、家族の未来そのものである」と言える。
夫婦別姓反対集会

夫婦別姓に反対する立場には、文化的、社会的、法的な理由に加え、戸籍制度や皇族への影響、さらには夫婦別姓が導入された国での失敗事例も重要な要素として位置づけられる。以下に、具体的なエビデンスやエピソードを交えながら、深く掘り下げていくことにする。

まず、夫婦同姓が家族の一体感を強化するという観点がある。日本の調査によれば、約70%の回答者が「同じ姓を名乗ることが家族の一体感を高める」と回答している。これは家族のアイデンティティを強化し、特に子供に安定した環境を提供することに寄与するのだ。

実際、夫婦同姓を選んだカップルの中には、子供が「家族の一員である」と強く感じることができたというエピソードが多く寄せられている。こうした実情は、家族が一つの姓を共有することの重要性を物語っている。

次に、伝統的な家族制度の維持が重要な理由として挙げられる。多くの文化において、姓は家系や血縁を象徴する重要な要素である。特に韓国や中国の儒教文化では、家族名を守ることが非常に重要視され、夫婦同姓はその象徴と見なされている。韓国の家庭では、結婚後に妻が夫の姓を名乗ることで家族の名を継承し、子供たちにとっても誇りとなる。このような文化的背景は、家族の安定性を支える重要な要素であると言える。

法律や制度の整備が不十分であることも反対の理由として挙げられる。選択的夫婦別姓を導入した場合、子供の姓や親子関係の扱いについて混乱が生じる可能性が高い。2017年の研究では、姓が異なることで子供が学校でのアイデンティティに悩むケースが報告されている。姓の違いによる社会的な孤立やいじめのリスクが指摘されており、これは子供の心理的な安定に大きな影響を与えるものだ。

[附録第六号 戸籍の記載のひな型(第33条関係)]

さらに、戸籍の観点からも反対の意見がある。日本の戸籍制度では、夫婦は同じ姓を名乗ることで家族としての一体性が明確に示される。戸籍は家族の法的な身分を示す重要な文書であり、夫婦同姓を通じて家族の構成が明確になる。夫婦別姓が普及すると、戸籍における家族の構成や法的な関係が複雑化し、特に子供の姓や親権に関する問題が生じる可能性がある。このような混乱は、法律的なトラブルを引き起こす要因ともなる。

夫婦別姓が進むことで、社会全体の価値観や家族への認識が変化し、個人主義が強まることに対する不安もある。ある社会学者の研究によれば、家族の一体感が強いほど地域社会における結束力が高まるとされる。地域コミュニティでは、家族が同じ姓を持つことが地域のイベントや協力活動において重要視されており、姓の共有が地域社会の絆を強化している事例が多く存在する。

皇族に関しては、夫婦同姓の制度が特に重要視される。日本の皇族では、血統や家系の継承が極めて重要であり、同じ姓を持つことが家族の一体感や血統の明確さを保つために不可欠である。皇族の婚姻では姓の統一が家系の存続や社会的な安定に寄与すると考えられており、夫婦別姓が普及することで皇族の伝統や家系の継承に悪影響を及ぼす可能性があると懸念されている。

さらに、夫婦別姓を導入した国の中には、制度が期待通りの結果をもたらさなかった事例が数多く存在する。例えば、スウェーデンでは夫婦別姓が一般的だが、姓の選択が家族間での混乱を引き起こすことがある。子供が両親の姓を持たない場合、学校でのアイデンティティの問題や社会的な孤立を経験することがある。また、フランスでも夫婦別姓が認められているが、多くの夫婦が結婚後に夫の姓を選ぶ傾向があり、姓の選択が必ずしも女性の地位向上に繋がるとは限らない。


イタリアやカナダ、オーストラリアでも同様の問題が指摘されている。夫婦別姓が導入されると、家庭内での姓の不一致が問題となり、社会的な混乱を招くことが多い。これらの事例は、夫婦同姓が家庭や社会における安定性を保つための重要な要素であることを示している。

また、中国と韓国の夫婦別姓についても触れておく。中国では、夫婦別姓が法的に認められているが、伝統的には結婚後に女性が夫の姓を名乗ることが一般的である。1950年に施行された「婚姻法」において、夫婦は姓を自由に選ぶことができるとされているが、実際には多くの女性が夫の姓を選ぶ傾向が強い。一方、韓国では、1958年に施行された民法により、結婚後に夫婦が同じ姓を名乗ることが義務付けられており、現在、夫婦別姓を選択することはできない状況にある。

結論として、夫婦別姓の議論は単なる姓の選択にとどまらず、家族の絆や伝統、法律上の課題、社会的価値観に深く関わっている。夫婦同姓が家庭や社会における安定を保つための重要な要素であることを考えると、「家族の名は、家族の未来そのものである」と言える。これこそが、家族の絆を守るための道であり、私たちが未来に向けて選ぶべき選択肢なのだ。

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2024年12月16日月曜日

「178万円玉木案」を否定…”何としてでも減税額をゼロに近づけたい”財政緊縮派の「ラスボス」宮沢洋一・自民党税調会長の正体―【私の論評】宮沢洋一氏の奇妙な振る舞いと自公政権の変化:2024年衆院選後の財政政策の行方

「178万円玉木案」を否定…”何としてでも減税額をゼロに近づけたい”財政緊縮派の「ラスボス」宮沢洋一・自民党税調会長の正体

まとめ
  • 補正予算が通過した後、国民民主党の178万円への年収壁引き上げ案が拒否され、自民党は123万円の提案を行った。
  • 宮沢洋一・自民党税調会長がこの提案の中心人物であり、彼は財務省のイデオロギーを強く支持している。
  • 103万円の年収壁は当時の最低賃金に基づいて設定され、現在の物価状況を考慮すると178万円に引き上げる必要がある。
  • 宮沢氏の123万円案は憲法に反し、国民の生活や権利を軽視するものとして強い批判を受けている。
  • 財務省の緊縮政策に対抗するため、国民が財務省の影響を認識し、財政に関する権利を取り戻す重要性が強調されている。

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国会で補正予算が通過した後、立憲民主党は財務省の意向を受けて減額を求めたが、与党はこれを拒否し、当初の金額案がそのまま通過した。この結果、一つの問題は解決したものの、すぐに新たな問題が浮上した。それは、国民民主党が提案した年収の壁を178万円に引き上げる案が拒否されたことである。代わりに、自民党は123万円までの引き上げを提案した。この提案をまとめたのが、宮沢洋一・自民党税調会長である。

宮沢氏は「ミスター財務省」とも呼ばれる存在であり、財務省出身の政治家として知られている。彼は、かの宮沢喜一元総理の甥であり、東京大学を卒業後、財務省に入省し、その後自民党の政治家に転身した。自民党内では、彼は岸田元総理の従兄弟でもあり、政府の増税政策を推進する重要な役割を担っている。自民党内では、年収の壁の引き上げについて、玉木案の178万円ではなく、物価上昇率に基づく120万円程度を支持する声が根強く存在している。

しかし、103万円という年収の壁は、当時の最低賃金に基づいて設定されており、現在の物価状況を考慮すると178万円に引き上げる必要があると多くの専門家が指摘している。実際、最低賃金は当時の611円から1055円に引き上げられており、103万円という基準は過去の物価水準に基づいているため、現代の生活実態に合わなくなっている。この問題の背景には、国民が憲法で保障されている健康で文化的な最低限の暮らしを営むためには、103万円以上の年収が必要であるという論理がある。したがって、103万円以下の年収の人から税金を徴収することは、憲法で定める生存権を侵害することになる。

宮沢氏の提案する123万円案は、憲法が保障する健康で文化的な生活を維持するための基準を無視したものであり、国民の生活や権利を軽視するものとして批判されている。国民民主党や一般市民からの強い反発を招いており、批判は広がっている。しかし、宮沢氏自身は「誠意を見せた積り」と述べ、批判を浅はかなポピュリズムとして一蹴している。彼は国家のために財政規律を守る責任を強調し、国民の批判に対して無関心な態度を貫いている。このような姿勢は、国民の信頼を失う要因となっていることは間違いない。

宮沢氏は単なる「財務官僚に洗脳された自民党議員」ではなく、財務省のイデオロギーを深く理解し、自民党内にそれを広める役割を果たしている。財務省出身の国会議員は多く存在するが、税調会長にまで上り詰めることができるのは、彼のような純粋に「財務省の工作員」である場合に限られる。宮沢氏はその立場を利用して、税務調査会という組織を通じて自民党内の財務省の影響力を強める活動を行っている。

今回の提案は、財務省の緊縮政策に対する国民の理解を深める重要な機会となり、宮沢氏は「ラスボス」として注目を集めている。ネット上でも彼の名前や顔が広まり、財務省の緊縮派の代表としての悪行が拡散されている。国民は、この機会を通じて財務省の影響を認識し、財政に関する権利を取り戻す重要性を再認識する必要がある。

国民がこの問題を理解し共有することで、財務省に奪われた「財政・税制に関する主権」を取り戻すことが可能になると期待されている。今後の政治において、国民の声がどのように反映されるかが注目される。財務省の緊縮政策が続く限り、国民の生活は困難な状況に置かれる可能性が高い。したがって、この流れが、今後の政治における重要な転機となることを願っている。国民が団結して声を上げ、財務省の政策に対抗することが今求められている。 

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【私の論評】宮沢洋一氏の奇妙な振る舞いと自公政権の変化:2024年衆院選後の財政政策の行方

まとめ
  • 宮沢洋一氏がクローズアップされた背景には、自公政権が2024年の衆院選で大敗し、少数与党に転落したことがある。この結果、自民党と公明党は議席を大幅に減らし、政策決定において野党との協議が不可欠となった。
  • 国民民主党は年収の壁や税制改革に関する提案を行い、特に178万円への引き上げを支持されている。この提案は与党に対する圧力となり、政策議論に新たな視点を提供している。
  • 宮沢氏は自民党の税調会長として財務省の意向を反映させた政策提案を行っているが、自民税調は自民党の内部組織であり、税制は国会で論戦を経て決定されるべきである。彼の振る舞いは、自公が小数野党になった現実を直視せず、慣例をいまだに絶対としているという点で滑稽でさえある。
  • 自公政権が少数与党に転落している中で、宮沢氏の奇妙な振る舞いが目立ち、少数与党の現実を認識しない姿勢が国民の期待にそぐわない。
  • 日本では税制改正の権力が与党税調に集中しており、年に一回の税制改革という異様なルールが根付いている。これを変えるべきである。


最近宮沢洋一氏が奇妙にクローズアップされた背景には、自公政権が2024年の衆院選で大敗し、少数与党に転落したことが大きく影響している。この選挙の結果、自民党と公明党は議席を大幅に減らし、過半数を維持できない状況となった。これにより、政府の政策決定において野党との協議が不可欠となり、自民党単独の意見だけではなく、より多様な意見を取り入れる必要が生じている。

国民民主党は、年収の壁や税制改革に関する提案を通じて、財政政策において重要な役割を果たすようになった。特に、年収壁の引き上げに関する議論では、国民民主党が178万円への引き上げを提案し、多くの国民から支持を受けている。このような提案は、与党に対する圧力となり、政策の議論に新たな視点を提供するものである。

宮沢氏は自民党の税調会長として、財務省の意向を強く反映させた政策提案を行っているが、自民税調はあくまで自民党の内部組織であり、本来は国会での論戦を経て税制が決定されるべきである。これまで実質的に税制が自公与党が圧倒的な多数であったことを背景に自民党内部で決められてきたのは単なる慣例に過ぎず、そのことを理解しない彼の振る舞いは滑稽であり、醜悪さすら感じさせる。

自公政権が少数与党に転落しているにもかかわらず、宮沢氏の奇妙な振る舞いが目立っている。彼は、少数与党という新たな現実を認識せずに、自身の意見が重要視されべきであると信じ込んでいるかのようであり、その姿勢は国民の期待とはかけ離れたものである。国民の関心が高まる中で、彼の提案が注目されるのではなく、むしろその不適切さが一層浮き彫りになっている。

このような状況は、宮沢氏が自身の立場を誇示することが、かえって国民の理解を得ることから遠ざかっていることを示している。彼の振る舞いは、与党が直面している政治的困難を無視し、単なる内部組織の慣例を前提にしたものであり、今後の政策形成において、より広範な議論が求められる。国民が期待するのは、真摯な議論を通じた健全な政策決定であり、宮沢氏のような姿勢ではない。 

現在までの自民党税制調査会が主体となって行われる税制改正のプロセスでは、与党税調で税制改正の要望が審議され、その結果を踏まえて税制改正法案が翌年の通常国会に提出される。以下に過去の年度のプロセスをまとめた表を掲載する。

しかし、税制改正のための法案は、通常国会や臨時国会の会期中に提出して成立させることができないという法律は存在しない。そのような制限は法的にない。現在の税制改正のプロセスは、自民党のルールであって国会のルールではない。

多くの先進国では、税制改正のための法案を通常国会や臨時国会の会期中に提出して成立させることができる。そのため、税制改革の機会は、年に複数回あることが一般的だ。

例えば、米国では、税制改正のための法案は、大統領が国会に提出することができる。また、英国では、財務大臣が税制改正のための法案を国会に提出することができる。

宮沢税調会長 こちらが本当の増税メガネ?

このようなルールの存在は、民間企業では絶対に許されない。例えば、ある企業が、新たな商品やサービスを導入するために、社内会議や役員会で議論を重ね、半年以上かけてようやく導入を決定したとする。しかし、その間に、競合他社が先行して市場に参入してしまい、企業の業績に悪影響を及ぼしてしまったとする。しかし、年一回しか決められないので、これに対処しない等ということなど決して許されるものではない。

このような状況は、民間企業であれば、経営陣の能力不足として厳しく批判されるだろう。 以下に、民間企業でたとえると、どのような状況になるか、具体例をいくつか挙げる。

  • 商品やサービスの価格改定を、年に1回しかできない。
  • 従業員の給与や福利厚生を、年に1回しか改定できない。
  • 新規事業の立ち上げを、半年以上かけて検討しなければならない。
  • 不採算事業の撤退を、役員会で多数決で決めなければならない。

これらのルールは、民間企業であれば、経営効率の低下や競争力の低下を招くため、絶対に許されないというか、外部環境の変化に耐えられず、早期に崩壊し倒産に追い込まるだろう。

日本では、税制改正の権力が与党税調に集中していることが、年に1回の税制改革というルールの原因と考えられる。

自公政権が小数野党になったことを機に、異様な税制改正のプロセスを根本的に改めるべきだ。

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