2024年12月31日火曜日

ウクライナに史上初めてアメリカの液化天然ガスが届いた。ガスの逆流で、ロシアのガスが欧州から消える時―【私の論評】ウクライナのエネルギー政策転換と国際的なエネルギー供給の大転換がロシア経済に与える大打撃

ウクライナに史上初めてアメリカの液化天然ガスが届いた。ガスの逆流で、ロシアのガスが欧州から消える時

まとめ
  • ウクライナは史上初めて米国から液化天然ガス(LNG)を輸入し、ギリシャの再ガス化ターミナルを経由してパイプラインで輸送される。これにより、ロシア産ガス依存からの脱却が進められている。
  • LNG輸送にはギリシャを起点とする「垂直回廊」が使用され、南から北への逆流輸送が可能なパイプライン網が地域のエネルギー供給を支える。年間輸送能力は改良工事により100億立方メートルに拡大予定。
  • ウクライナ経由のロシア産ガス供給停止を見据え、モルドバは非常事態宣言を発令。垂直回廊はモルドバのエネルギー供給安定化に向けて重要な役割を果たす。
  • EUはロシアからの天然ガス輸入を2023年に15%まで削減。アメリカやアゼルバイジャンからの供給多様化を進め、エネルギー安全保障を強化している。
  • プーチン大統領のエネルギー政策は欧州の経済合理性と競争力の前に効果を失い、ロシアの国際的な孤立と影響力低下が進んでいる。
ギリシャのレヴィソーサLNGターミナルまでLNGを運んだとされる船

2023年12月27日、ウクライナは史上初めてアメリカから液化天然ガス(LNG)の供給を受けた。このLNGは、アメリカのルイジアナ州を出発し、地中海を経由してギリシャのレヴィソーサLNGターミナルに到着した。そこで液化されたガスは再ガス化され、ギリシャから始まる複数の国を経由したパイプラインネットワークを通じてウクライナへと輸送される。この供給は、長年ロシア産ガスに依存してきたウクライナが、西側諸国とのエネルギー協力を強化し、ロシアからの脱却を進める象徴的な出来事である。

今回の輸送で活用されたのは、ギリシャを起点とする「垂直回廊」である。この回廊はギリシャ、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、スロバキア、モルドバを経由し、ウクライナへ至るパイプライン網である。この回廊は元々、ロシア産ガスを北から南、東から西へと輸送するために構築されたが、現在は南から北、または東へ逆流輸送が可能な仕組みが取り入れられている。現在の年間輸送能力は20億立方メートルだが、改良工事が進行しており、最終的には100億立方メートルに拡大する予定である。さらに、この回廊の延長計画により、北欧やバルト三国への輸送も可能になる見通しである。



この垂直回廊の意義は、ウクライナに限らず、モルドバを含む地域全体のエネルギー安全保障においても大きな役割を果たす点である。モルドバでは、2025年1月1日に予定されているウクライナ経由のロシア産ガス供給停止を見据え、非常事態宣言が発令されている。ロシアが実質的に無償で供給してきたガスが止まることで、モルドバはエネルギー供給の大きな不安に直面している。この垂直回廊が完成すれば、モルドバへの安定供給が可能となり、地域全体のエネルギー依存構造が大きく変化することが期待されている。

一方で、ロシアの影響力は着実に低下している。かつてEU全体の天然ガス輸入量の約45%を占めていたロシアの供給量は、2023年には全体の15%にまで減少した。EUはロシア産ガスへの依存を完全に断ち切るべく、アメリカやアゼルバイジャン、カタールなど他国からの供給を多角化している。この変化は、エネルギー分野におけるロシアの戦略に大きな影響を与えており、ロシアのエネルギー収益に深刻な打撃を与えている。

ロシアは過去に「サウスストリーム」や「トルコストリーム」など新たなパイプラインを構築し、EU加盟国への影響力を維持しようと試みてきた。しかし、これらのプロジェクトは結果として限定的な成功にとどまった。特に「サウスストリーム」は技術的、規制的、経済的な課題に直面し、進展が停滞した。「トルコストリーム」は一部成功したものの、欧州のエネルギー多角化政策の前ではその影響力は限定的である。

プーチン大統領はエネルギー政策を通じた国際的な支配力を強化しようとしたが、その試みは欧州の経済合理性と競争力の前に敗北を喫している。プーチン氏のエネルギー戦略は、ロシアの国際的な孤立を深める結果を招き、かつての影響力を失わせるものとなっている。加えて、EUは再生可能エネルギーの導入を推進しつつ、LNGなど他のエネルギー供給源を確保することで、ロシア産ガスへの依存度を大幅に減少させている。この動きは、単にエネルギー供給の多角化を目指すだけでなく、ロシアの経済的基盤を揺るがす効果を生んでいる。

今回のアメリカ産LNGの供給は、EUのエネルギー安全保障における新たな基盤を形成する一歩である。ギリシャのLNGターミナルはその中心的役割を果たしており、ブルガリア、ルーマニアを経由してハンガリーやスロバキア、さらにはモルドバやウクライナへと広がるネットワークが構築されている。このネットワークは、EUのエネルギー安全保障を強化するだけでなく、地政学的に重要な地域の安定にも寄与するものである。

また、ロシアが過去に構築した「バルカン横断パイプライン」の逆流計画も注目に値する。このパイプラインはソ連時代に構築され、当時はソ連からのガス供給を目的としていたが、現在は南から北、または東へ逆流させる形で活用されている。この逆流計画はEUの資金援助を受けながら進行しており、将来的にはモルドバやウクライナへの安定供給を実現する重要な役割を果たすと期待されている。

このように、アメリカ産LNGを中心とした新たなエネルギー供給体制の構築は、ロシアの影響力を削ぎ、欧州諸国のエネルギー安全保障を強化するだけでなく、ウクライナやモルドバといった国々に安定したエネルギー供給を提供するものである。これらの動きは、ウクライナがロシアからのエネルギー依存を断ち切り、西側との協力関係を深化させる中で、地域全体に新たな秩序をもたらすものである。

この文章は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ウクライナのエネルギー政策転換と国際的なエネルギー供給の大転換がロシア経済に与える大打撃

まとめ
  • ウクライナがロシアからの天然ガスの供給を止め、アメリカからの液化天然ガス(LNG)を受け入れることで、ロシアの影響力を削減。
  • ロシアの国家予算の約40%が天然ガスと石油の輸出からの収入に依存しており、ウクライナ経由での供給停止により、年間で約65億ドルの直接的な損失が見込まれる。
  • EUはロシアからのエネルギー供給を減少させる計画を進めており、2030年までに完全に排除する目標を掲げている。
  • トルコは中東の天然ガスをEUに供給する中継地として重要な役割を果たし、ロシアへの依存度を低下させる。
  • 日本もLNGの輸入先を多様化しており、これによりロシアからの供給リスクを軽減し、国際的なエネルギー市場におけるロシアの影響力を削ぐ要因となっている。

ウクライナのエネルギー政策が大きく転換しようとしている。この動きは、ロシアにとって致命的な打撃となる可能性が高い。特に、EU向けの天然ガス市場を失うことは、ロシアの経済に深刻な影響を及ぼすだろう。

国際的なエネルギー供給の大転換に悩むプーチン AI生成画像

ウクライナは、ロシアからのエネルギー供給に依存することをやめ、アメリカから液化天然ガス(LNG)を受け入れた。この決断は、ロシアの影響力を大きく削減することにつながる。ロシアはEUに対して年間約1550億m³の天然ガスを供給しており、これはEU全体の約45%を占める。もしウクライナが新たな供給ルートを確保すれば、ロシアのエネルギー市場における地位は揺らぐことは明らかである。

ロシアの経済は、天然ガスと石油の輸出に大きく依存しており、これらの収入が国家予算の約40%を占めている。具体的には、2021年のデータによれば、ロシアの国家予算の収入のうち、石油とガスからの収入は約800億ドルに達している。このように、ロシアの経済はエネルギー輸出に強く依存しているため、ウクライナの新しい供給ルートの確保は、ロシアにとって直接的な収入損失を意味することになる。

2023年のロシアのGDPは約1.7兆ドルと見積もわれており、これを韓国のGDPと同程度と考えると、仮にロシアがEUへの天然ガス供給を失った場合、年間での損失は数百億ドルに達する可能性がある。特に、ウクライナ経由でのガス供給の停止は、年間約65億ドルの収入損失を直接もたらすことになる。これに加え、EU全体でのロシアのエネルギー供給が減少すれば、さらなる損失が予想される。

さらに、ウクライナが新しい供給ルートを確保することで、他のEU諸国もロシアからの依存を減少させる可能性が高まる。この流れは、ロシアの競争力を低下させる要因となり、特にエネルギー市場においてロシアの影響力を減少させる。最近の研究によれば、EUは2030年までにロシアからのエネルギー供給を完全に排除する計画を立てており、これが実現すればロシア経済に大きな影響を及ぼすことが予想される。

地政学的にも、ウクライナのエネルギー政策の転換は重要な意味を持つ。ロシアは過去にエネルギーを政治的な武器として利用してきたが、ウクライナが新しい供給ルートを確保することで、この武器は無効化される。ロシアの影響力が地域的に減少し、EU諸国がより独立したエネルギー政策を展開できるようになるだろう。スロバキアのフィツォ首相がロシアからのガス供給を維持することの重要性を強調しつつも、ウクライナへの電力供給の停止をちらつかせるような脅迫を行ったことは、ロシアのエネルギー政策が依然として地域の政治に影響を及ぼしていることを示しているが、この状況は急速に変化しつつある。

ロシアの天然ガスにEUとウクライナからノーを突きつけられたプーチン AI生成画

ここでトルコの役割にも注目すべきだ。トルコは中東の天然ガスをEUに供給する中継地としての重要な位置を占めている。さらに南ガス回廊プロジェクトを通じて、アゼルバイジャンのシャフ・デニズ油田からの天然ガスをEU市場に供給する役割を果たしており、これによりトルコはEUへのエネルギー供給の多様化を促進し、ロシアからの依存度をさらに低下させる重要なプレーヤーとなることが期待されている。

さらに、日本もすでに天然ガスの輸入先の多様化を進めており、ロシアへの依存度を低めている。原発事故以降、日本はアメリカ、オーストラリア、カタールなどからのLNGの輸入を増加させ、2023年にはアメリカからのLNG輸入が大幅に増えた。これにより、日本はロシアからの供給リスクを軽減し、エネルギーの安定供給を図ることに成功している。この日本の動きも、国際的なエネルギー市場におけるロシアの影響力をさらに削ぐ要因となるはずだ。

以上のように、ウクライナのエネルギー政策の大転換は、ロシアにとって重大な敗北をもたらす要因となる。EU向けの天然ガス市場を失うことは、ロシア経済に具体的かつ深刻な打撃を与えるだろう。特に、年間での損失は数百億ドルに達する可能性があり、これはロシアのGDPに対する影響も大きい。また、トルコの中継地としての役割が強化されることで、EUのエネルギー供給の多様化が進むことが期待される。さらに、日本が輸入先の多様化を進める中で、ロシアのエネルギー市場に対する依存度が低下することも、ロシアにとっての打撃となる。

ウクライナのエネルギー政策の変化は、単なる国内の問題に留まらず、地域全体のエネルギー安全保障や地政学的な状況に大きな影響を与えることが期待されている。これからのエネルギーの流れは、ウクライナ、EU、トルコ、そしてロシアの未来において重要な意味を持つだろう。新たな時代の幕が上がろうとしている。


皆さま、本年も拙ブログを御覧いただきありがとうございます。良いお年をお迎えくださいませ。 

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2024年12月30日月曜日

ロシア、ウクライナ経由のガス輸出停止へ 価格上昇懸念―【私の論評】露天然ガス供給停止よって変わるEUのエネルギー戦略と変わらない日本との違い

ロシア、ウクライナ経由のガス輸出停止へ 価格上昇懸念

まとめ
  • ロシアがウクライナ経由での天然ガス輸出を2024年12月末で停止する見通しであり、ウクライナは契約更新を拒否する方針を決めた。
  • これにより、2025年1月以降の欧州のガス価格が上昇する懸念が高まっている。
  • ウクライナは年間約12億ドルの通過料収入を失うが、ロシアとのつながりを断つ方針を貫く。
  • 残る供給ルートは実質的にトルコストリームのみとなり、ハンガリーやスロバキアは他の調達ルートを模索している。
  • プーチン大統領は、今後の供給についてトルコストリームを利用する意向を示しており、EU内の分断を助長する狙いがある。

ロシアがウクライナ経由で欧州に天然ガスを輸出するパイプラインが2024年12月末で停止する見通しである。ウクライナはロシアの侵略が続く中、契約更新を拒否する方針を決定した。このため、2025年1月以降には欧州のガス価格が上昇する懸念が高まっている。プーチン大統領は契約延長が不可能であると述べ、ガス価格の上昇を示唆した。ウクライナのゼレンスキー大統領もロシア産ガスの輸送契約を延長しない意向を表明し、ロシアの収益源を断つ考えを示している。

ウクライナ経由の天然ガス輸送はロシアの年間ガス輸出の約15%を占めており、EUはロシア産ガスへの依存度を低下させているものの、スロバキアやハンガリーなど一部の加盟国は依然としてウクライナ経由での輸入を続けている。今回の契約延長拒否により、ウクライナは年間12億ドル(約1880億円)の通過料収入を失うことになるが、それでもロシアとのつながりを断つ方針を貫いている。

ロシアにとって、ウクライナ経由のパイプライン停止は残る供給ルートをトルコストリームに依存することを意味する。プーチン氏はトルコストリーム経由での供給を示唆しており、今後ガス価格が上昇すればウクライナへの批判を強める可能性がある。これはEU内の分断を助長する狙いがあると考えられ、ロシアが依然として影響力を保持しようとする姿勢を示している。

このように、ウクライナ経由の停止はロシア、ウクライナ、EUそれぞれに大きな影響を及ぼす重要な問題となっている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】露天然ガス供給停止よって変わるEUのエネルギー戦略と変わらない日本との違い

まとめ
  • ロシアがウクライナ経由の天然ガス供給を2024年12月末に停止する見通しであり、他からの供給が代替可能かが焦点となる。
  • トルコストリームは年間最大310億立方メートルの供給能力を持ち、ウクライナ経由の天然ガスを代替できる可能性がある他、アゼルバイジャンやノルウェー、米国からの供給が期待されている。
  • 他国からの供給を実現するには、新たな契約の締結やトルコ国内のインフラ整備が不可欠であり、EUのエネルギー政策調整も重要な要素となる。
  • 日本は福島第一原発事故以降、LNGの重要性を再認識し、米国やオーストラリア等との長期契約を結ぶことでエネルギー供給の安定化を図っている。
  • エネルギー安全保障政策はEUと日本にとって重要であり、各国はエネルギー供給の多様化と安定性を確保する必要がある。
ロシアがウクライナ経由での天然ガス輸出を2024年12月末に停止する見通しだ。この重大な変化がもたらす影響は計り知れないが、果たしてその供給を他国の天然ガス等で代替することはできるのだろうか?特にロシアやイランを除外した、他の国々からの供給が鍵を握る。


まず、トルコストリームの供給能力に目を向けてみよう。このパイプラインは、ロシアからトルコを経由して欧州に天然ガスを供給する重要なインフラであり、その最大供給能力は年間約310億立方メートルだ。ウクライナ経由のガス輸送が約150億立方メートルであることを考えると、トルコストリームには他の供給源からのガスを受け入れる余裕が十分にある。

ここで重要なのが、ロシアやイラン以外の供給元として、EUは、アゼルバイジャン、ノルウェー、さらには米国からの天然ガス供給が期待できる。アゼルバイジャンのシャフ・デニズ油田は、2022年にトルコ経由で約100億立方メートルのガスを輸出しており、今後の増加が見込まれている。

ノルウェーも負けてはいない。2022年には約120億立方メートルを欧州に供給しており、その安定性はEUのエネルギーセキュリティにとって重要な要素だ。さらに、米国からの液化天然ガス(LNG)も無視できない。2022年には米国からEUへのLNG輸出が約800億立方メートルに達し、EUは他の供給元からのガスを調達する能力を高めている。

さらにトルコを経由した、イラン以外の中東地域の天然ガスの供給も可能である。ただし、これらの供給を実現するためには、新たな契約の締結やインフラの整備が不可欠だ。トルコ国内の接続インフラを強化し、他国からの供給をスムーズに受け入れる体制を整えなければならないだろう。

また、政治的な要因も見逃せない。EU内でのエネルギー政策の調整が求められ、エネルギーの多様化を進める動きが強まっている。ロシアからの依存を減少させるために、他の供給元との関係を強化する意向が見られる。

2018年国連で演説するトランプ大統領(当時)

こうした中、2018年の国連演説でドイツ代表団がトランプ前大統領の警告を笑い飛ばしていたことは、今となっては皮肉な出来事だ。トランプは当時、ドイツがロシアのエネルギーに依存するリスクを指摘し、エネルギーの独立性を保つ必要性を強調した。その警告に対し、ドイツ代表団は笑っていたが、今ではその警告が現実のものとなり、ロシアのウクライナ侵攻に対するエネルギー依存の影響が顕著に現れている。ドイツがロシアに依存したことで、侵略を助長したとも言えるだろう。

一方、日本は、原発の再稼働が遅れたり、再エネに拘泥するなどのドイツに似たようなところがあるものの、エネルギー安保の重要性からの学びを得ている。福島第一原発事故以降、日本はLNGの重要性を再認識し、米国やオーストラリアとの長期契約を結ぶことでエネルギー供給の安定化を図っている。日本の金融機関はLNGプロジェクトへの融資を増やし、国際的なエネルギー市場での影響力を強化している。国際協力銀行(JBIC)はLNG輸出施設に対して大規模な融資を行い、ガス事業の支援を続けている。さらに、日本企業は新興国市場への進出を進め、LNGの需要が高まる中でさらなる成長を目指している。

このように、日本はエネルギーの安定供給に向けた取り組みを安倍政権下から強化しており、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーによる悪影響は比較的軽微である。もちろんエネルギー価格は値上がりはしているが、EU諸国と比較すれば軽微といえる。国際市場での競争力を維持しつつ、他国へのLNGの輸出を促進することで、日本のエネルギー供給の安定性が一層強化される見込みだ。

LNG(液化天然ガスの貯蔵施設)

結論として、ロシアのウクライナ経由の天然ガス供給が停止した場合、トルコ経由の中東からの天然ガスで代替することは技術的に可能で、さらにアゼルバイジャンやノルウェー、米国などからの供給を通じて実現できる。しかし、新たな契約の締結やインフラの整備、政治的な調整が必要であり、実現には時間と努力が求められる。ロシア・イランを除外した他の国々からの天然ガスでの代替は十分に可能性があるが、安定的な供給には計画的なアプローチが不可欠である。

エネルギー安全保障政策の重要性は、EUにとっても日本にとっても決して軽視できない。ロシアの侵略によって世界のエネルギー市場が不安定化する中、各国はエネルギー供給の多様化と安定性を確保する必要がある。日本はLNGの輸入先を多様化し、安定した供給を模索することでエネルギー安全保障を強化しており、EUも同様にロシア依存から脱却するための戦略を進めている。これらの取り組みは、各国が直面する地政学的リスクに対抗するために不可欠であり、エネルギー政策の重要性は今後ますます高まることが予想される。だからこそ、私たちはこの問題を決しておろそかにしてはならないのだ。 

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2024年12月29日日曜日

NATO東京連絡事務所開設の現実味は? 日本含むアジアと関係強化目指す新事務総長…ウクライナ戦争「紛争煽り続けている」と中国・北朝鮮を強く非難―【私の論評】日本はNATOとアジア太平洋地域の架け橋となれ

NATO東京連絡事務所開設の現実味は? 日本含むアジアと関係強化目指す新事務総長…ウクライナ戦争「紛争煽り続けている」と中国・北朝鮮を強く非難

まとめ
  • NATOは2024年に創立75周年を迎え、インド太平洋地域との関係強化を新事務総長ルッテ氏が優先課題として掲げている。
  • ウクライナ戦争における中国や北朝鮮のロシア支援を非難し、IP4(日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド)との連携を強調している。
  • 10月の国防相会合ではIP4が初参加し、ウクライナ戦争が世界に与える影響と地域の安全保障脅威について議論された。
  • 北朝鮮兵のロシア派遣が確認され、ルッテ氏はこれを「歴史的な出来事」と位置づけ、国際的な安全保障情勢の複雑化を警告している。
  • NATOとアジアの連携には限界があり、各国の温度差や資金不足が課題。

NATOの新事務総長のマルク・ルッテ氏

NATO(北大西洋条約機構)は2024年に創立75周年を迎える。特に注目すべきは、インド太平洋地域との関係強化が新事務総長のマルク・ルッテ氏の優先課題に掲げられている点である。ルッテ氏は、ウクライナへの支援やあらゆる脅威に対する防衛力の確保を重要視しており、これに加えて他地域とのパートナーシップの強化を図る方針を示している。

ルッテ氏は、就任初日から前任のイェンス・ストルテンベルグ氏の政策を継承しつつ、特にインド太平洋地域との強固な関係構築への努力を称賛した。彼は、ウクライナ戦争における中国や北朝鮮のロシアへの支援を「第2次世界大戦以来、ヨーロッパで最大の紛争を煽り続けている」と非難している。このような背景から、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドのインド太平洋地域4か国(IP4)との関係強化の重要性を強調している。

特に、10月中旬にブリュッセルで開催されたNATOの国防相会合にはIP4が初めて参加した。これは首脳レベルでは連続して行われているが、国防相レベルでの参加は初めてであり、日本からは石破内閣の中谷元防衛大臣が出席した。この会合では、ウクライナでの戦争がヨーロッパの不安定さが世界に及ぼす影響を示しているとし、イランや中国、北朝鮮が安全保障上の脅威となっていることを認識する必要があると訴えた。

さらに、NATOの国防相会合中に北朝鮮兵がロシア西部に派遣されているとの情報が浮上した。ルッテ氏は、北朝鮮がロシアを多くの面で支援していることは確かであるが、兵士が戦争に直接関与しているという証拠は確認されていないと述べた。NATOが北朝鮮兵の派遣を確認したのは、その11日後であり、この遅れには疑問が残る。

ルッテ氏はこの状況を「北朝鮮兵士のヨーロッパ派遣はターニング・ポイント(転換点)」とし、ロシアが外国軍を招くことは歴史的な意味を持つと強調した。彼は、ロシアが北朝鮮を軍事的に支援することで、国際的な安全保障情勢がさらに複雑化することを警告している。また、彼は中国にも対して、見て見ぬふりをせずに影響力を行使するよう要求している。

NATOとアジアの連携には限界があるとの指摘も存在する。元防衛投資担当事務次長のカミーユ・グラン氏は、資金や人材の不足、アメリカのリーダーシップの欠如、IP4との温度差など、いくつかの理由を挙げている。特に、日本とオーストラリアは積極的である一方、韓国やニュージーランドは消極的な姿勢を見せており、各国のアプローチには違いがある。このような状況の中で、日本は異なる枠組みの中で適切なバランスを取ることが求められている。

最後に、NATOが東京に連絡事務所を設置する計画もあるが、具体的な進展は見られていない。特にフランスのマクロン大統領が反対の意向を示しており、今後の動向は不透明である。それでも、NATOとIP4の連携は進みつつあり、サイバー攻撃対策、防衛産業協力、偽情報対策、AI(人工知能)の活用など、多岐にわたる分野での協力が模索されている。国際情勢が複雑化する中で、安全保障上の連携を強化する取り組みは今後も続くであろう。 

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本はNATOとアジア太平洋地域の架け橋となれ

まとめ
  • 軍事同盟NATOは中国の台頭に対して危機感を抱いている。ロシアのウクライナ侵攻が東欧諸国の対中政策見直しを促進している。
  • かつて西欧諸国(英国、フランス、イタリア、ドイツなど)は中国との関係を強化していたが、すでにこれを方向転換している。
  • 日本はNATO加盟国ではないが、地域の安全保障に寄与する役割を果たし、サイバーセキュリティや共同軍事演習などでの協力が重要である。
  • 中国の軍事力の増強はアジア太平洋地域に新たな脅威をもたらしており、日本は地域の国々との連携を強化する必要がある。
  • 日本はNATOとの関係を強化し、NATO事務所を設置することで、アジア太平洋諸国との架け橋となるべきである。
NATO(北大西洋条約機構)は、軍事同盟であり、最近の中国の台頭に対して強い危機感を抱くようになっている。しかし、アジア諸国の中には中国への危機感ということでは、利害が一致しない国々も存在することは事実である。

ロシアによるウクライナ侵攻は、NATO加盟国にとって大きな警鐘となり、東欧や中欧の国々は中国との経済的な関係を見直す必要に迫られている。ポーランドやハンガリーなどの国々は、当初は中国からの投資を歓迎していたが、最近では中国の影響力の拡大に対する懸念が高まっている。

かつて、英国、フランス、イタリア、ドイツなどの西欧諸国も中国との関係を強化し、一帯一路構想を通じて経済的利益を追求していた。例えば、2015年に英国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加し、フランスやイタリアも中国との共同プロジェクトを進めていた。特にイタリアは2019年に一帯一路構想に参加し、中国との経済関係を深めることを目指していた。しかし、最近ではこれらの国々も中国の人権問題や経済的依存を考慮し、対中政策を見直す傾向にある。

昨年イタリアのメローニ首相は「一帯一路」から撤退することを表明

アジア太平洋地域においても、NATOとの連携を強化することが求められている。日本はNATO加盟国ではないものの、NATOの活動や方針に関心を持ち、地域の安全保障に寄与する役割を果たすべきである。特に、上の記事にもあるように、サイバーセキュリティ、情報共有、共同軍事演習などの分野での協力が重要である。

近年、日本は「AUKUS」に加盟するオーストラリアや米国、オーストラリア、インドとの「QUAD」などの枠組みを通じて地域の安全保障を強化しており、これらのパートナーシップはNATOとの協力を補完する形で地域の安定を図るための重要な要素となっている。

中国の軍事力の増強や南シナ海での行動は、アジア太平洋地域における安全保障環境に新たな脅威をもたらしている。日本は、これらの脅威に対抗するために、アジア太平洋地域の国々との協力を一層強化し、共通の立場を築くことが求められている。特に、インド太平洋地域における中国の影響力を抑制するためには、地域の国々との連携が不可欠である。


NATOは1949年に設立され、当初はソ連の脅威に対抗するために結束した国々によって形成された。加盟国は共通の安全保障上の脅威を認識し、文化的および政治的な統一性を持っていたため、軍事同盟を形成するのが容易であった。この時期、NATOは集団防衛の原則を基に、加盟国の安全を保障する役割を果たしていた。具体的には、NATOの第5条に基づき、加盟国の一国が攻撃を受けた場合、他の加盟国は自動的に反撃することが義務付けられている。この仕組みは、加盟国に対する抑止力を強化し、外部の脅威に対抗するための重要な要素として機能している。

1991年のソ連崩壊後、NATOは一時的に軍事同盟としての性格を薄め、平和維持活動や人道的任務に重きを置くようになった。しかし、2014年以降、ロシアの行動は再び西側諸国に対する脅威を顕在化させ、NATOはその防衛戦略を見直す必要に迫られた。加盟国は集団防衛の重要性を再認識し、特に東欧諸国に対する防衛強化を図るようになった。2016年のワルシャワサミットでは、NATOは東側の防衛を強化するため、ポーランドやバルト三国に多国籍部隊を派遣することを決定し、加盟国の結束を示す重要なステップとなった。

このように、NATOは設立当初から現在に至るまで、外部の脅威に対抗するための軍事同盟としての役割を果たしてきた。ソ連崩壊後の一時期は軍事的性格が薄まったが、ロシアの侵攻や中国の台頭を受けて再びその役割を強化している。NATOの歴史は、外部の脅威に応じて進化する柔軟な同盟の姿を示している。

NATOとアジア太平洋地域の架け橋となる日本 AI生成画像

現在、アジア太平洋地域の国々の中には中国を歓迎する国も存在するが、いずれほとんどの国々が中国に対峙するようになると見込まれる。日本はこの流れを受けて、NATOとの関係を強化し、日本にNATO事務所を設置する方向で尽力すべきである。これにより、日本はNATOとアジア太平洋諸国の架け橋となり、アジア太平洋地域全体の安全保障環境を改善し、未来の安定を確保するための基盤を築くことができるだろう。

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2024年12月28日土曜日

「恐ろしい時代」 留学生に米大学が注意喚起、トランプ氏就任前に入国を―【私の論評】無秩序な留学生増加がもたらす国家の危機:日本と米国の実態と教訓

「恐ろしい時代」 留学生に米大学が注意喚起、トランプ氏就任前に入国を

まとめ
  • ドナルド・トランプ新大統領の就任を控え、外国人留学生の間で再入国禁止措置への不安が広がり、早期の帰国を促す大学が増えている。
  • トランプ氏は強硬な移民政策を公約しており、中国やインドが新たに入国禁止の対象になる可能性がある。
  • 一方で、トランプ氏は米国の大学を卒業した外国人に自動的に永住権を与える公約もしており、これが実現すれば多くの留学生が合法的な永住資格を得る可能性があるが、対象は限定される見込みである。

米コーネル大学

米国でドナルド・トランプ新大統領の就任を控え、外国人留学生の間に不安が広がっている。特に、再入国禁止措置の再実施を懸念する声が多く、米国外に渡航した留学生に対して早めに米国に戻るよう促す大学も存在する。外国人留学生は2023~24年度に110万人以上に達しており、トランプ氏は強硬な移民政策を公約している。これには、過去に入国禁止措置の対象となった国々に加え、中国やインドが新たに含まれる可能性がある。

例えば、ニューヨーク大学では、インドからの留学生が「外国人留学生にとって恐ろしい時代」と述べ、同大学の留学生受け入れ数が昨年度で27,000人以上だったことからも、その懸念がいかに広がっているかが伺える。コーネル大学は、冬休みを利用して米国外に渡航する留学生に対し、1月21日より前に戻るか、渡航計画についてアドバイザーに相談するよう呼びかけている。大学側は、トランプ氏の就任後に入国禁止措置が講じられる可能性が高いと警告しており、これにより留学生の生活や卒業が影響を受ける可能性がある。

また、サザンカリフォルニア大学も、留学生に対してトランプ氏が就任する1週間前までに米国に戻るよう促している。大学側は、大統領令が出される可能性があり、渡航やビザ手続きに影響を及ぼす恐れがあるため、早期の帰国が最も安全であると指摘している。さらに、不法移民の大量強制送還の影響により、冬休みの旅行計画に関係なく学生に支障が出る可能性も懸念されている。

一方で、トランプ氏は米国の大学を卒業した外国人に自動的に永住権を与える公約を掲げており、これが実現すれば数百万人の留学生が合法的な永住資格を得る可能性がある。しかし、この公約の対象は「最もスキルをもつ卒業生」に限られると強調されており、共産主義者やイスラム過激派、アメリカ嫌いの人々は除外されるとされている。トランプ氏がこの公約について公の場で言及していないため、新政権が実際にどのような対応をするのかは不明である。留学生たちは、今後の動向に非常に敏感になっている状況である。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】無秩序な留学生増加がもたらす国家の危機:日本と米国の実態と教訓

まとめ
  • 米国では留学生の急増(過去10年間で80%増)により管理体制が追いつかず、特にF-1ビザの簡素化が無秩序な受け入れを助長している。
  • 中国人留学生が多く(全体の約30%)、スパイ活動や国家安全保障へのリスクが指摘され、特定の事例も報告されている。
  • 日本は「留学生300,000人計画」を掲げ、受け入れ人数を増加させようとしているが、受け入れ体制が不十分であり、米国と比較して周回遅れといえる。
  • 留学生関連のトラブルや労働市場での摩擦、地域社会との対立が社会的不安を引き起こしている。
  • 米国および日本は国家安全保障や社会的統合を考慮した管理体制の強化が必要で、無秩序な受け入れは国家の未来を危うくするリスクがある。

アメリカの留学生受け入れが無秩序に行われているという指摘は、具体的なエビデンスによって裏付けられている。まず、近年の留学生の急増がその主要因である。2023年のデータによれば、米国には約110万人以上の外国人留学生が在籍しており、その数は過去10年間で約80%も増加している。この急増は、教育機関や政府の管理体制が追いついていないことを示している。

留学生ビザ(F-1ビザ)

留学生ビザ(F-1ビザ)の取得プロセスが簡素化されていることも、無秩序な受け入れを助長する要因となっている。オンライン申請や迅速なビザ発給が行われる一方で、申請者の背景調査が不十分であるとの指摘がある。2020年の調査によれば、FBIは外国人留学生の中にテロリズムに関与する可能性のある者が含まれていると警告しており、これは留学生受け入れの管理が甘いことを示している。

特に問題なのは、中国からの留学生が全体の約30%を占めていることだ。この集中は、スパイ活動やテロリズムのリスクを高める要因となり、2020年にはアメリカの大学に在籍する中国人留学生が国家安全保障上の脅威としてFBIに注目される事例もあった。このような状況は、特定の国からの留学生受け入れが無秩序に行われていることを示唆している。

また、アメリカのいくつかの都市では、留学生が多数集まることで地域社会との摩擦が生じている。ニューヨーク市では、外国人留学生が多く住む地区で地元住民との対立が報告され、地域社会の分断が進む可能性がある。大学院でも、研究活動に参加する留学生が多く、特に技術や科学分野においては国家安全保障に関わる重要な情報が扱われることがある。米国の大学院で学ぶ中国人留学生の中には、国家機関からスパイ活動を指示されているケースが報告されており、これによりアメリカの先端技術や研究成果が盗まれるリスクが高まっている。特に2020年には、ハーバード大学の教授が中国のスパイ活動に関与していたとして逮捕される事件が発生し、大学院における研究の脆弱性が露呈した。

ハーバード大学で化学・化学生物学科長を務めていたチャールズ・リーバーはスパイ容疑で逮捕された

アメリカ政府は近年、留学生の受け入れに対する規制を強化する動きを見せているが、依然として多くの留学生が無秩序に入国している状況は続いている。2021年には国土安全保障省が留学生のビザ発給基準を見直す方針を示したが、具体的な実施には時間がかかるとされている。このように、米国の留学生受け入れが無秩序に行われていることは、国家安全保障や社会的統合の観点からも深刻な問題である。

これらの状況を鑑みると、米国にとって、今までの無秩序な留学生受け入れこそが「恐ろしい時代」であったと言える。テロリズムやスパイ活動、社会的対立といったリスクを引き起こす可能性があるため、アメリカはより厳格な管理と規制を必要としている。国益を守るためには、留学生の受け入れに関する政策を見直し、適切な管理体制を整えることが求められる。大学院においても、特に研究活動におけるリスクを考慮し、留学生に対する監視や管理を強化することが重要である。

一方、日本の留学生受け入れに関する政策は、近年、無秩序に行われているとの指摘が多く、支援を拡張する傾向が見られる。これは周回遅れのとんでもない措置であり、厳しく批判されるべきである。文部科学省は「留学生300,000人計画」を掲げ、2020年までに300,000人の留学生を受け入れることを目指しているが、受け入れ体制の整備が追いついていない。

留学生の増加は、日本の大学や専門学校においても顕著で、特にアジア諸国からの学生が増加している。2022年のデータによれば、日本には約31万人の留学生が在籍しており、特に中国、ベトナム、ネパールからの学生が多くを占めている。しかし、この急増に対して、受け入れ体制やサポート体制が整っていないとの指摘がある。言語の壁や文化的な違いから、留学生が日本社会に適応するのが難しいという報告も多く、これが社会的な摩擦や地域コミュニティとの対立を引き起こす原因となっている。

加えて、留学生の受け入れは経済的な側面からも重要視されているが、無秩序な受け入れは労働市場における競争を激化させる可能性がある。特に、留学生が安価な労働力として利用されるケースがあり、これが日本人労働者との摩擦を生むことが懸念されている。外国人労働者が多く働く業種では、賃金の低下や労働条件の悪化が報告されており、社会的不安を引き起こす要因となっている。

さらに、留学生に関連する犯罪やトラブルが増加していることも問題視されている。2021年には、留学生が関与した犯罪事件がメディアで報じられることが増え、地域社会との関係が悪化する事例が見られた。これにより、留学生に対する偏見や差別的な感情が高まることも懸念されている。

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さらに、大学院生による日本の機微な情報が盗まれるリスクにも注意が必要だ。近年、特に中国人留学生が日本の大学院で学ぶ機会が増加しており、彼らが研究する分野は科学技術や情報通信に関わる重要な領域である。これにより、日本の先端技術や研究成果が狙われる可能性が高まっている。具体的には、特定の中国人留学生が日本の大学で扱う研究データを不正に取得し、母国に持ち帰った事例も存在する。このような行為は、国家安全保障に対する深刻な脅威となり得る。

日本は留学生の受け入れに関する政策を根本的に見直す必要がある。特に、留学生が日本社会に適応できるような支援体制を整えるとともに、国家安全保障に対する配慮を強化することが求められる。言語教育や文化交流の促進を図ることに加え、研究機関や大学における情報管理体制の強化が不可欠である。

これらの課題に対処しなければ、日本は留学生受け入れにおいて深刻なリスクを抱え続けることになる。国益を守るためには、包括的な戦略を持ち、留学生の受け入れに伴うリスクを適切に管理することが重要である。無秩序な受け入れを続けることは、国家の未来を危うくする危険な賭けである。日本は、留学生に対する管理を強化し、真の意味での国際交流を実現するために必要な手立てを講じるべきだ。国際的な信頼を築くためにも、留学生受け入れの質を高め、真に社会に貢献する人材を育成する環境を整えることが急務である。

今後、留学生の受け入れ政策を見直し、適切な管理体制と支援を整えることが、国家の未来を守るための第一歩となる。社会全体にとって有益な形での留学生受け入れを目指すことで、国際的な競争力を高め、より良い未来を築くことができるだろう。日本は、留学生受け入れにおいて真剣に取り組む必要があり、その結果として国益を守り、社会の調和を図ることが求められている。

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2024年12月27日金曜日

WHO運営にも支障が…アメリカのトランプ次期大統領が政権発足の日にWHO脱退か 複数メディア報じる―【私の論評】最近のトランプ氏の発言から垣間見る米国流交渉の戦略的アプローチ

WHO運営にも支障が…アメリカのトランプ次期大統領が政権発足の日にWHO脱退か 複数メディア報じる

まとめ
  • トランプ次期大統領が政権発足日にWHOからの脱退を検討していると報じられ、政権移行チームが公衆衛生専門家にその計画を伝えた。
  • アメリカはWHOの最大の資金拠出国であり、脱退がWHOの運営や国際的な感染症対策に影響を及ぼす可能性がある。


 アメリカのトランプ次期大統領が政権発足の日にWHO=世界保健機関からの脱退を検討していると複数のメディアが報じました。

 イギリスの経済紙「フィナンシャル・タイムズ」などによりますと、トランプ氏の政権移行チームが公衆衛生の専門家に対して、1月20日の就任式にもWHOからの脱退を発表する計画を伝えたということです。

 トランプ氏は1期目に新型コロナウイルスの感染拡大をめぐりWHOが「中国寄りだ」と批判して脱退する方針を示していましたが、その後に就任したバイデン大統領が撤回しました。

 アメリカはWHOへの最大の資金拠出国で、脱退した場合、WHOの運営に支障が出る可能性があります。

 また(新型コロナウィルスのような)世界的な感染症が発生した場合、国際的な取り組みに影響が出る恐れもあります。

【私の論評】最近のトランプ氏の発言から垣間見る米国流交渉の戦略的アプローチ

まとめ
  • トランプ氏がWHOからの脱退をほのめかすのは、米国流の交渉手法の一環であり、交渉の余地が残されていると考えられる。
  • トランプ氏がカナダとメキシコに関税をかける意向を示している背景には、アメリカ社会を蝕むフェンタニル問題が関与しており、両国に対する警告として捉えられる。
  • アメリカ流の交渉スタイルでは、高い初期要求を提示し、その後の交渉で妥協点を見つける手法が一般的である。
  • オープンなコミュニケーションが重視される一方で、威嚇や懐柔といった戦術も用いられ、特に中国との交渉ではリスクか顕在化した。
  • トランプ氏の行動を理解することで、国際的な課題へのアプローチが柔軟にできるようになる。日本もこれを理解して、適切な交渉を行うべきである。

米国流交渉術とは・・・・

トランプ氏がWHOからの脱退をほのめかしているのは、米国流の交渉の一過程である可能性が高い。米国の交渉スタイル、特にビジネスにおいては、初めに自分の望ましい条件を強く主張し、その後交渉を進めながら要求水準を下げつつも、譲れないポイントを堅持するという手法が一般的である。トランプ氏もこのような交渉術を用いており、彼とWHOとの間には未だ交渉の余地があると考えるべきだ。

もしトランプ氏が本当にWHOからの脱退を考えているのであれば、彼は上記のような発言をすることはないだろう。第二次トランプ政権が始まった際、淡々と脱退の手続きを進める可能性が高い。

トランプ氏はカナダとメキシコに関税をかける意向を示しているが、その背後にはアメリカ社会を蝕むフェンタニル問題がある。両国には、中国からフェンタニルの原料が輸出され、両国のギャングがこれを加工してアメリカに流入させているという調査内容も存在する。トランプ氏は「両国がフェンタニルを厳しく取り締まらなければ、関税を引き上げる」と語っており、この発言は単なる脅しではなく、実際に両国との交渉を有利に進めるための下準備と捉えられる。

昨日このブログにも掲載した、 トランプ次期米大統領がグリーンランドの「購入」の意図の表明も、デンマーク政府との交渉を有利に導くための交渉の前準備と捉えられる。


アメリカ流の交渉スタイルは、その特性や戦略において非常に興味深い。アメリカの交渉スタイルの基本的な特徴の一つは、「高い初期要求」を提示することである。交渉の初期段階で自分の理想的な条件を強く主張することで、後の交渉での妥協点を見つけやすくなる。著名な交渉家ロジャー・フィッシャーとウィリアム・ユーリーは、著書『Getting to Yes』の中で、最初の要求が高ければ高いほど最終的な合意も有利になる可能性が高いと述べている。この理論は心理学的にも支持されており、初期の要求がその後の交渉に影響を与えることが多いという研究結果もある。

次に、アメリカ流の交渉では「オープンなコミュニケーション」が重視されるが、特に影響力の大きい交渉では、率直さだけでなく、日本でいうところの「腹芸」に近い、威嚇や懐柔といった戦術も用いられる。アメリカのテクノロジー企業が中国企業との契約交渉において、オープンに意見を交換し透明性を持って進めるケースが多く見られるたが、必ずしも成功を収めているわけではない。

具体的な失敗事例として、アメリカのテクノロジー企業IBMが中国の企業と提携した際、重要な技術が流出し競合他社に利用されることとなった。このようなケースは、アメリカ企業が中国側の意図を過小評価し、オープンなコミュニケーションを信じすぎた結果、技術の剽窃に遭う典型的な失敗を示している。また、2015年には中国のハッカーによるサイバー攻撃で、数百万人の顧客データが流出した。この事件は、アメリカ企業が中国市場でビジネスを進める際、情報セキュリティや知的財産権の保護がいかに重要であるかを浮き彫りにした。


さらに、アメリカの自動車メーカーであるフォードが中国の自動車メーカーとの提携を進めた結果、フォードの技術が模倣される事態が発生した。これも、オープンに意見交換を行うことが必ずしも安全であるとは限らないことを示している。

これらの失敗事例は、アメリカ企業がオープンなコミュニケーションを重視するあまり、中国側の意図やリスクを過小評価し、結果的に重要な資産が流出するリスクを冒していることを示している。このような観点を踏まえると、アメリカ流の交渉スタイルは、表面的にはオープンなコミュニケーションを重視しつつも、実際には複雑な心理戦や戦略的な駆け引きが必要であることが理解できる。

トランプ氏の行動は、このスタイルを反映している。彼が最初に高い要求を示し、その後妥協点を探るプロセスは、アメリカ流の交渉術に基づいている。

そうして、以上で述べたような視点を持つことで、トランプ氏の行動をより深く理解し、国際的な公衆衛生問題や他の国際的な課題へのアプローチを柔軟に捉えることが可能になるだろう。 日本に対してもいずれ法外な要求をしてくる可能性もある。しかし、焦ってはならない。その意図するところを正しく理解して、交渉すべきである。

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2024年12月26日木曜日

グリーンランドの防衛費拡大へ トランプ氏の「購入」に反発―【私の論評】中露の北極圏覇権と米国の安全保障: グリーンランドの重要性と未来

グリーンランドの防衛費拡大へ トランプ氏の「購入」に反発

まとめ
  • デンマーク政府はグリーンランドの防衛費を拡大し、予算を少なくとも15億ドルに増やすと発表した。これは長距離ドローンの購入に充てられる予定である。
  • トランプ次期米大統領がグリーンランドの「購入」に意欲を示したが、エーエデ首相は「我々は売り物ではない」と反発した。
  • グリーンランドは地政学的に重要な地域であり、ロシアの軍備増強や資源開発が進む中、米国の安全保障上の関心が高まっている。
北極圏にある世界最大の島グリーンランド

 デンマーク政府は、グリーンランドの防衛費を拡大することを発表した。この発表は、トランプ次期米大統領がグリーンランドの「購入」に意欲を示した後に行われたが、エーエデ首相は「我々は売り物ではない」と反発している。デンマークの国防相であるポールセン氏は、これまで北極圏への投資が不足していたことを認め、グリーンランドの防衛予算を少なくとも15億ドル(約2350億円)に増やすと述べた。この資金は、長距離ドローン(無人機)の購入などに充てられる予定である。

 グリーンランドが近年注目される背景には、その地政学的な重要性がある。米国のニュースサイト「ポリティコ」によると、ロシアが米国に向けて核を搭載した長距離弾道ミサイルを発射した場合、グリーンランド上空を通過する可能性が高いとされている。また、グリーンランド北部には米軍の宇宙軍基地も存在するが、視界が悪い北極圏上空では十分な対抗ができないという懸念もある。

 近年、ロシアは北極圏での軍備を増強しており、中国も資源開発を進めている。トランプ氏はこうした状況を考慮し、「米国はグリーンランドを所有し、管理することが絶対に必要だ」と訴えている。実際、1946年には当時のトルーマン米大統領もグリーンランドの購入をデンマークに打診していたことがある。

 グリーンランドは面積が約217万平方キロメートルと日本の約6倍であり、国土の約80%は氷で覆われている。人口は約5万6000人で、主な産業はエビや魚の輸出である。しかし、地球温暖化の影響で氷が解け始め、地下資源の調査が容易になっている。グリーンランドには豊富なウラン、金、レアアース(希土類)、さらには石油や天然ガスが埋蔵されている可能性が高い。これにより、グリーンランドの地政学的な価値はさらに高まりつつある。 

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【私の論評】中露の北極圏覇権と米国の安全保障: グリーンランドの重要性と未来

まとめ
  •  ロシアと中国は、北極圏の軍事プレゼンスを拡大し、資源の管理を強化している。
  • 中露の活動が米国の警戒レベルを引き上げ、早期警戒能力を制限し、北極圏での軍事的プレゼンスを強化する必要が生じている。
  • トランプ前大統領がグリーンランドの「購入」に意欲を示したのは、北極圏での影響力を高めるための重要な戦略である。
  •  中露が北極圏の資源を独占することで、米国や日本、欧州諸国のエネルギー供給が制限される可能性がある。
  • NATOとロシアの軍事演習の拡大や、通信インフラの損傷事件が、北極圏での監視の困難さを浮き彫りにしている。


中露が北極圏での影響力を強化している今、私たちが目にしているのは単なる地政学的な変化ではない。これは、未来のエネルギー供給や安全保障を左右する大きな潮流である。2022年夏、ロシアのプーチン大統領は「ロシア連邦海洋ドクトリン」を改訂し、北極圏を戦略的優先地域と位置づけた。北方艦隊の防衛体制を強化し、北極海航路沿いでの防衛を強化することで、資源保護だけではなく、NATOに対する警戒も意識している。

一方、中国も「氷上シルクロード」構想の一環として、北極開発に乗り出している。ヤマルLNGプロジェクトへの270億ドルの投資は、その象徴だ。このプロジェクトは、ロシアの天然ガスを欧州やアジアに輸出するための重要なインフラとなり、中国の影響力を一層強化する。中露の連携は軍事演習にも及び、北極圏での戦略的パートナーシップを堅固にしている。

ロシアは旧ソ連時代の軍事基地の再開発や新設を進め、フランツ・ヨーゼフ諸島やノヴァヤゼムリャに新たな軍事インフラを構築している。対空ミサイルシステムや新型レーダーを配備することでその存在感を高め、ノルウェーに近いコラ半島には潜水艦基地を増強している。このような動きは、ロシアが北極圏全体を支配する力を増していることを示している。

これらの活動は、米国にとって多方面での脅威をもたらす。特に、グリーンランド北部にある米国の宇宙軍基地が悪天候や極夜の影響を受けやすいことから、ロシアのミサイル発射に対する早期警戒能力が制限される。これにより、米国はより高い警戒レベルを維持せざるを得ない。新たな監視システムの導入や基地とその人員を増やすことで、迅速な対応を可能にする必要があるのだ。

さらに、中国の影響力も無視できない。グリーンランドやアイスランドでの科学調査やインフラ投資を通じて、北極圏全体における影響力を強化している。グリーンランドでの鉱山開発プロジェクトへの投資は、米国や西側諸国にとって戦略的な懸念材料となっている。アイスランドでは、海底ケーブルの敷設計画が進行中で、中国が通信インフラを通じて地域での影響力を拡大しようとしている。

2022年の事件は、北極圏の状況の深刻さを浮き彫りにしている。ノルウェーのスバールバル(Svalbard:地図上)諸島にある世界最大の人工衛星地上局は、北極海底の光ファイバーケーブルの一部が切断され、バックアップ回線に頼らざるを得なくなった。


この損傷は偶然の事故かもしれないが、ノルウェー軍の司令官はロシアにケーブルを切断する能力があると警告している。さらに、ロシアのウクライナ侵攻によってポスト冷戦期が終わりを告げる中、北極海での軍事演習が拡大していることも見逃せない。

今年も北極圏に接するバルト海で海底ケーブル2本が相次いで破断した問題について、中国の貨物船「伊鵬3」がこれらを意図的に切断した疑いが持たれており、NATOの複数の軍艦が1週間以上にわたって同貨物船を包囲して監視を行っていた。

もし、中露が北極圏の覇権を握ると、豊富な天然資源を独占的に管理することで、エネルギー供給の面で世界的な影響力を強化することになる。特に、ロシアや中国がエネルギー供給の主導権を握ることで、米国や日本、欧州諸国はエネルギーの供給源を制限され、経済的な依存度が高まるリスクがある。また、北極圏での軍事的存在感が高まることで、米国本土への脅威が現実のものとなり、米国は北極圏での軍事的なプレゼンスを強化せざるを得なくなる。

このような状況下で、トランプ前大統領がグリーンランドの「購入」に意欲を示したことは非常に重要である。グリーンランドは北極圏の戦略的な地理的位置にあり、米国にとっては軍事的な拠点を強化するための鍵となる地域である。グリーンランドを米国が管理することで、北極圏での影響力を高め、ロシアや中国の動きに対抗するための戦略的な優位性を確保できる。


さらに、グリーンランドには未開発の資源が豊富に存在し、これを米国が管理することでエネルギー覇権を中露に渡すことを阻止できる。グリーンランドの「購入」は単なる土地の取得にとどまらず、北極圏における安全保障や経済的な利益を守るための重要な戦略と言える。

このように、中露の北極圏での覇権が強化されることに対抗するために、グリーンランドは米国にとって非常に重要な意味を持つのだ。トランプ氏が本気でグリーンランドを購入すべきと考えているか否かは別にして、これは西側諸国と、そうして中露に対しても強烈な政治的メッセージを送ることになったといえる。デンマーク政府と米国政府が折り合いをつけ、北極圏で中露に十分に対抗できる体制を整えてもらいたいものだ。

北極圏を巡る争いは、今後ますます激化するだろう。その行方は、私たちの未来にも大きな影響を及ぼすに違いない。

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2024年12月25日水曜日

来年度予算案、税収70兆円台後半とする方針…6年連続で最高更新の見通し―【私の論評】日本の税収増加と債務管理の実態:財政危機を煽る誤解を解く

来年度予算案、税収70兆円台後半とする方針…6年連続で最高更新の見通し

まとめ
  • 政府は2025年度の一般会計税収見積もりを70兆円台の後半に設定し、2024年度の税収を上回る見通しで、6年連続で過去最高を更新する見込みである。
  • 2024年度の税収は物価高や企業業績の好調により増加しており、2025年度も定額減税の影響がなくなることで税収が増加する。


 政府は2025年度予算案で一般会計の税収見積もりを70兆円台の後半に設定する方針を固めた。この見積もりは、2024年度の税収(73.4兆円)を上回るものであり、これにより6年連続で過去最高を更新する見通しである。2024年度の税収は、物価高や企業業績の好調を背景に、昨年末の当初予算での見積もり(69.6兆円)を3.8兆円上回った。特に、所得税、法人税、消費税といった基幹税が好調に推移している。

 また、2025年度は今年6月に始まった定額減税による減収の影響がなくなるため、税収が増加する要因となる。政府は定額減税による2024年度の減収を2.3兆円と見込んでおり、これが2025年度の税収増に寄与する。

 この記事は、元記事の要約です。詳細はも、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本の税収増加と債務管理の実態:財政危機を煽る誤解を解く

まとめ
  • 日本の税収は急増しており、2024年度には70兆円台後半に達する見込みで、コロナ前と比べて年20兆円近い増加が見込まれている。
  • 増税が進む中、日本の債務対GDP比は他の先進国と比較しても安定しており、新規国債の発行の大半は借り換えであるため、実質的な債務は増加していない。
  • 日本銀行(日銀)は国債を購入し、政府の債務の一部を吸収することで金融市場の安定を保ち、経済全体の負担を軽減している。
  • 個人の借金のような不安を煽ることは財務省の意図的な情報操作であり、国民に対して過剰な危機感を与えることがある。
  • 正しい財政政策を求めるためには、国民や野党が冷静に経済の実態を理解し、政府に対して積極的に働きかけを行う必要がある。
上の要約前の元記事の結論は、「24年度の歳入に占める新たな国債(国の借金)の割合を示す「公債依存度」は33%となる。25年度も税収が伸びても歳出を賄うことはできず、予算案でも巨額の国債発行は避けられない見通しだ」となっている、しかしこれは誤解を招くばかりでなく、薄弱な根拠で、多くの人々の不安を煽るものとなっているため、割愛した。割愛した理由を以下に述べる。


ここ数年、日本の税収は驚異的な伸びを見せている。来年の税収は70兆円台後半に達し、コロナ前と比べて年20兆円近い増加が見込まれている。この背景には、円安による企業業績の向上、インフレによる物価や所得の増加、そして税控除額を上げないことで生じた隠れ増税がある。特に、物価の上昇は消費税を押し上げ、税収を増加させる要因となっている。実際、2023年度の税収は73.4兆円に達し、これは過去最高の水準である。だが、この状況をただの好景気と捉えることはできない。マスメディアは知識不足から批判的視点を欠いており、真実を見逃しているのだ。



増税が進む中、日本の債務対GDP比は急速に改善している。国際通貨基金(IMF)やOECDのデータによれば、日本の債務対GDP比は他の先進国と比較しても相対的に安定している。新規国債の発行の大半は借り換えであり、一般企業が借入金を返すために新たに借入をするのと同じ構造だ。言い換えると、企業は借金返済のために、返済条件の良い借り換えを模索するのである。企業の資金調達手段として、既存の借入を返済するために新たな借入を行うことは珍しくない。このような企業の財務戦略は、政府にも当てはまる。政府が発行する国債の多くは、既存の国債を返済するためのものであり、実質的な債務は増加していない。 さらに、ここで重要なのは日本銀行(日銀)の役割だ。日銀は政府の国債を購入し、市場に流通する国債の量を調整することで金利を安定させている。日銀が国債を買い入れることで、政府の債務の一部は日銀のバランスシートに吸収され、実質的な負担は軽減される。これにより、金融市場の安定が保たれ、経済全体にとっての負担が減少する効果がある。実際、日銀の資産は2023年9月時点で約700兆円に達し、その大半が国債であることからも、政府の債務が日銀によって支えられていることが明らかだ。

しかし、企業と政府の財政は根本的に異なる。企業は利益を上げて返済する必要があるが、政府は税収や日銀の政策を通じて債務を管理することができる。ましてや、個人の借金とは全く異なる。個人は収入に基づいて返済しなければならないが、政府は国民からの税収や日銀の支援を受けて債務を持続的に管理している。これを、個人や、ほとんど個人に近いような小規模事業者の自転車操業のように考えるのは明らかな間違いである。



ここで注意が必要なのは、個人の借金のような不安を煽るのは、財務省の意向が反映されていることが多いということだ。財務省は、国民に対して財政危機を強調し、緊縮政策を正当化するための道具として「債務問題」を利用することがある。例えば、2020年の財務省の報告書では、債務の危機感を煽る内容が多く見受けられ、これが国民の不安を増幅させる要因となっている。


実際、国際的な比較においても、日本の債務はGDP比で安定しており、過剰な危機感を持つ必要はない。さらに、統合政府ベース(政府+中央銀行、中央銀行による債務隠しを防ぐという意味合いで、政府単体の財務指標より信頼できるのでEU加入各国共通の財務指標ともなっている)では、2020年度以降、日本の統合政府の収支は黒字に転じている。



結論として、現在の税収増加と政府の債務管理の仕組みを正しく理解することが重要である。個人の借金のような不安を煽ることは、財務省の意図的な情報操作に他ならない。私たちは冷静に、真実を見極める必要があり、経済の実態を理解した上で、正しい政策を求めていかなければならないのだ。


最近の国民民主党の「103万円」の壁議論は、野党による正しい政策を求める行動の一環であり、その点で評価するが、このようなことは実は他にいくらでも存在する。他の野党もこうした要求をすべきてあるし、何よりもまずは自民党内でこのような議論をして、政府が正しい財政政策ができるように率先して行動すべきである。そうしなければ、来年参院選では惨敗することになるだろう。


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2024年12月24日火曜日

<主張>シー・シェパード 釈放は日本外交の敗北だ―【私の論評】ポール・ワトソン容疑者引き渡しに見る日本の外交的失敗の要因

<主張>シー・シェパード 釈放は日本外交の敗北だ

まとめ
  • ポール・ワトソン容疑者がデンマークで釈放され、日本政府の引き渡し要求が拒否された。ワトソン容疑者は釈放後にフランスへ行き、反捕鯨活動を継続すると表明。
  • シー・シェパードの活動は危険であり、デンマークの釈放は法の正義を否定するものである。
  • 日本政府はフランスに対して強く働きかけ、ワトソン容疑者の拘束と引き渡しを実現すべき。
釈放されたポール・ワトソン容疑者

 日本の調査捕鯨に対する妨害活動を指示したとして、海上保安庁が国際手配していたシー・シェパードの創設者ポール・ワトソン容疑者がデンマークで釈放された。日本政府は彼の引き渡しを求めたが、デンマークはこれを拒否した。ワトソン容疑者は釈放後、フランスに移り、反捕鯨活動を続ける意向を示している。

 シー・シェパードは過去に日本の捕鯨船に対して危険な行動を繰り返しており、デンマーク政府の釈放は法に基づく正義を否定するものであり、日本との友好関係を損なう行動であると批判されている。林芳正官房長官は遺憾の意を表明したが、外交的対応が不十分との意見が強まっている。

 ワトソン容疑者は、今年7月にデンマーク自治領グリーンランドに立ち寄り、その際に拘束された。日本側の引き渡し要求はフランスの反対を受け、勾留は5カ月間に及んだ。海上保安庁の国際手配は正当なものであり、デンマークの釈放はシー・シェパードの暴力を容認することにつながる。

 ワトソン容疑者はパリで「捕鯨船が南極海のサンクチュアリに入ってきたら介入する」と述べているが、日本の捕鯨は合法であり、無法を許してはならない。日本政府はフランスに対して強く働きかけ、ワトソン容疑者の拘束と引き渡しを実現する必要がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ポール・ワトソン容疑者引き渡しに見る日本の外交的失敗の要因

まとめ
  • ポール・ワトソン容疑者はデンマークで約5カ月間拘留された後、釈放されたが、日本への引き渡しはフランスの反捕鯨国からの圧力により難航した。
  • デンマーク側は容疑者の高齢や過去の行為を理由に引き渡しを拒否し、日本の法律も影響して交渉は進展しなかった。
  • 日本政府の及び腰や不作為は外交の失敗を示しており、岸田政権は国際捕鯨委員会からの批判に対して効果的な反論を行わなかった。
  • 石破茂氏は捕鯨を日本の文化として支持する立場を示しているが、身柄引き渡しの問題に対しては政権としてコメントがなかった。
  • 捕鯨に対する国際的な意識の違いが引き渡しの判断に影響を与え、日本政府の無策が他国の判断に悪影響を及ぼした。

ポール・ワトソン容疑者がデンマークで約5カ月間拘留された後、ついに釈放された。海上保安庁は引き渡しの準備を進めていたが、フランスなどの反捕鯨国からの圧力が強まり、マクロン大統領が日本への引き渡しに反対する声明を発表した。このような状況の中、ワトソン容疑者の引き渡しは難航した。

デンマーク側は、容疑者が高齢であることや、容疑の対象となる行為が14年前のものであることを理由に、引き渡しに対して良い返事をしなかった。最終的に、デンマークは「未決勾留」の期間を刑期から差し引く妥協案を日本側に提示したが、日本の法律では海外での未決勾留日数を刑期に算入することが認められておらず、この要求は受け入れられなかった。

ワトソン容疑者は保釈後にフランスに移住する意向を示し、これにより引き渡しの可能性がさらに低くなると見られている。国家間の身柄引き渡しに関しては最近、オーストラリアが米国にオーストラリア国籍の元米国人を引き渡すニュースが報じられた。

オーストラリアのドレイファス司法長官は、23日米海兵隊を退役後に南アフリカで中国軍パイロットに空母の発着艦方法を訓練したとして、武器輸出管理法違反の疑いがあるオーストラリア国籍のダニエル・ダガン容疑者(56)を近く米国に引き渡すことを明らかにした。ダガン容疑者は容疑を否認しており、有罪となれば最高で禁錮65年の可能性がある。彼は米国で生まれ、1989年から2002年にかけて海兵隊パイロットとして勤務した後、南アフリカで無許可で中国軍兵士を訓練し、報酬を得ていた。ダガン容疑者は13年前にオーストラリア国籍を取得し、同国で家族と暮らしていたが、2022年10月に米国の要請で拘束された。

当局提供の写真の元米海兵隊パイロット、ダニエル・ダガン(右)

この二つの出来事は、性質も背景も全く異なる。しかし、日米の対応の差は歴然としている。デンマーク政府によるワトソン容疑者の日本への身柄引き渡しが実現しなかった一方で、オーストラリア国籍のダニエル・ダガン容疑者の米国への引き渡しが決まった背景には、いくつかの要因が存在する。

まず、法的枠組みの違いが大きい。ワトソン容疑者に対する嫌疑は日本の法律に基づくものであり、日本の捕鯨に対する国際的な見解との対立が影響した。デンマーク政府は捕鯨問題における政治的圧力や国際的な批判を考慮し、引き渡しを拒否した。一方、ダガン容疑者のケースは、米国の武器輸出管理法に違反した明確な事例であり、法律の適用がより直接的であるため、引き渡しがスムーズに進んだと考えられる。

次に、政治的背景も重要な要因である。ワトソン容疑者の釈放に対する国際的な反捕鯨の圧力が大きく、フランスのマクロン大統領をはじめとする反捕鯨国からの強い支持があった。これに対し、ダガン容疑者のケースでは、オーストラリアと米国の間の長年にわたる軍事的および戦略的な同盟関係が強固であり、米国がオーストラリアに対して引き渡しを求める際の政治的背景が異なる。この同盟関係は、法律に対する相互の信頼と協力を基盤としているため、ダガン容疑者の引き渡しが実現したのだ。

さらに、日本政府の及び腰や不作為は、日本外交の失敗を如実に示している。岸田政権は、捕鯨問題において国際的な批判を受けつつも強硬な姿勢を貫かず、効果的な外交戦略を欠いていた。特に、岸田政権が国際捕鯨委員会(IWC)からの批判に対して反論を行わず、むしろ国際社会との対話を避ける傾向が見受けられた。このような姿勢は、国際的な孤立を深める結果を招いた。

石破茂氏は、2014年4月4日の自身のブログで、国際司法裁判所が日本の南極海における調査捕鯨を認めない判決を下したことに関して言及しています。この中で、石破氏は「捕鯨は日本の文化であり、食文化の多様性は尊重されるべき」との立場を示している。
(ishiba-shigeru.cocolog-nifty.com)

また、石破氏は農林水産大臣を務めていた2007年にも、商業捕鯨の再開を目指す考えを示しており、捕鯨に対する支持を表明している。にもかかわらず、今回の身柄引き渡しの失敗に関しては、林官房長官の「遺憾」発言があったのみである。


また、社会的・文化的要因も影響を及ぼしている。捕鯨に対する国際的な意識や文化の違いが、ワトソン容疑者の引き渡しに対する慎重な判断をもたらした。彼は反捕鯨活動の象徴的存在であり、引き渡しが日本の捕鯨政策に対する国際的な反発を強める可能性があったため、デンマーク政府はそのリスクを回避した。このように、日本政府の無策が結果として他国の判断に悪影響を及ぼすことになった。

これらの要因が複雑に絡み合い、ワトソン容疑者とダガン容疑者のケースで異なる結果をもたらした。特に、日本政府の外交的アプローチと国際的な圧力の受け止め方が、両国の対応に大きな影響を与える要素となったことは重要である。日本政府の及び腰や不作為は、国際社会における日本の立場を弱め、外交的な失敗を招いたと言わざるを得ない。この状況を打破するためには、より強い外交戦略と国際的な対話が求められる。日本は今こそ、国際社会における信頼を取り戻すために、果敢な行動を起こさなければならない。 

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2024年12月23日月曜日

トランプ氏、プーチン氏との会談示唆-ウクライナ戦争終結に向け―【私の論評】トランプ政権とウクライナ戦争:和平への道筋とバイデン政権の戦略

トランプ氏、プーチン氏との会談示唆-ウクライナ戦争終結に向け

まとめ
  • ウクライナ戦争を「終わらせる必要」とトランプ氏-詳細には触れず
  • トランプ氏、ロシアによるウクライナ領の一部占拠も容認の意向示唆

プーチン露大統領とトランプ米大統領 2019年大阪G20サミット

 トランプ次期米大統領は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻に関する戦争の終結について、プーチン大統領との会談を行う意向を示唆した。プーチン氏は19日の年次会見で、トランプ氏が会いたいと思えば会う準備があると発言したが、具体的な日時については不明であり、彼とは4年以上話していないと語った。

 これを受けて、トランプ氏は22日にアリゾナ州フェニックスで開催された保守派のカンファレンスで、ウクライナでの戦闘によって多くの兵士が命を落としたと強調し、プーチン氏が早期の会談を望んでいると述べた。しかし、具体的な会談の詳細には触れず、明確にコミットすることはなかった。

 さらに、トランプ氏はロシアが占領した地域についてはあまりこだわらず、ウクライナ領の一部占拠を認めるような取引に応じる意向を示唆している。この発言は、11月の米大統領選挙におけるトランプ氏の勝利が、ロシアに対抗して占領地を奪還しようとするウクライナのゼレンスキー大統領の取り組みに対する米国の軍事支援にどのような影響を及ぼすかについて疑問を投げかけるものである。トランプ氏はゼレンスキー大統領に対し、「取引を行う準備をすべきだ」とコメントしており、今後の米国の外交政策に注目が集まっている。

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【私の論評】トランプ政権とウクライナ戦争:和平への道筋とバイデン政権の戦略

まとめ
  • トランプ氏の政権移行チームとアメリカ・ファースト政策研究所(AFPI)は、ウクライナ戦争の終結に向けた提言や活動を行っている。
  • トランプ氏は、ロシアとの和平交渉を進める意向を示し、ウクライナへの軍事支援の撤回やNATO加盟の延期も提案している。
  • バイデン大統領はプーチン大統領との直接会談を避け、ウクライナへの支持を強化する戦略を取っていた。
  • ウクライナとロシアの国境はソ連時代に人為的に決められたもので、歴史的な経緯が現在の緊張に影響している。
  • ウクライナとロシアも最終的には朝鮮半島のように妥協が必要であり、トランプ政権はウクライナ和平を早期に進める意図があるのは間違いない。
トランプ氏の政権移行チームと、彼のシンクタンクともいえるアメリカ・ファースト政策研究所(AFPI)は、ウクライナ戦争の終結に向けてさまざまな活動や提言を行っている。トランプ氏の国家安全保障チームは、ホワイトハウスおよびウクライナ当局と協議を重ね、ロシアとの戦争を終結させる方法を模索している。具体的な和平案はまだキーウに提示されていないが、トランプ氏は就任前から戦争を終結させる意向を示しており、ロシアに対する平和的アプローチとウクライナへの軍事支援削減の可能性を示唆している。


一方、AFPIはウクライナへの軍事支援と平和的解決の両立を支持しつつ、追加支援には監視と政策目標との関連付けが必要であると提言している。また、NATOメンバーの貢献増加を求め、米国が和平交渉の条件を整える必要性を強調している。具体的な提案として、AFPIメンバーでありトランプ氏にウクライナ・ロシア担当特使に指名されたキース・ケロッグ氏は、両当事者に交渉を促すため、ウクライナへの軍事支援の撤回と、モスクワが交渉を拒否した場合の武器供給増加を提案している。この計画では、ウクライナのNATO加盟を最長10年間延期し、現在の前線を一時的に受け入れ、失地回復は外交的手段に限定するとされている。

さらに、トランプチームはロシアとの和平交渉を促すため、ウクライナのNATO加盟を無期限に禁止するか、特定期間制限する可能性も示唆している。これらの提案は、ウクライナの主権と安全保障を維持しつつ、ロシアとの交渉の余地を残すことを目指している。

バイデン大統領がウクライナ侵攻の直前にプーチン大統領と直接会談を行わなかったことは広く報じられている事実である。2021年12月、バイデン大統領はプーチン大統領とのオンラインサミットを開催したが、その後は直接的な会談は行われていない。

バイデン大統領がプーチン大統領と会談しなかった理由は、いくつかの要素が考えられる。まず、バイデン政権はロシアの軍事的動きに強い懸念を抱いており、対話よりも抑止力を重視する姿勢があった。プーチン大統領との直接会談が、ロシアの侵攻を正当化する口実を与える恐れがあったため、会談を避ける選択をした可能性がある。

また、バイデン政権はウクライナへの支持を強化し、「オレンジ革命」や「ユーロマイダン」といったウクライナ国内の民主化運動への関与も行っていた。これらの運動は、ウクライナの政治体制の改革や民主主義の確立を目指すものであり、バイデン大統領がプーチン大統領との会談を避けることで、ウクライナに対する支持を明確にし、民主化運動を後押しする姿勢を示すことができたとされている。

さらに、バイデン政権はNATOやEUとの連携を深め、国際的な支持を得ることを優先事項としており、ロシアとの直接的な対話がその戦略に反する可能性があった。このように、バイデン大統領がプーチン大統領との会談を避けた理由には、外交的な戦略やウクライナ国内の民主化運動への関与が背景にあると考えられる。これにより、ウクライナへの支援を強化し、国際的な連携を進めることが可能となったとされている。

ゼレンスキー宇大統領とバイデン米大統領

ウクライナとロシアの国境は、ソ連時代に人為的に決められたものである。ソビエト連邦は、多様な民族と文化を持つ広大な国家であり、各共和国の境界線は歴史的、政治的な要因によって設定された。このため、国境は民族の分布や地理的な要因と必ずしも一致していなかった。

特に、ウクライナとロシアの国境は、ソ連の内部行政区画に基づいて決定された。1922年にソ連が成立した際、ウクライナはウクライナ・ソビエト社会主義共和国として設立され、さまざまな地域が組み込まれた。その後、1930年代から1940年代にかけて、国境の調整や領土の移動が行われ、ウクライナとロシアの境界が形成された。

このように、ウクライナとロシアの国境は、歴史的な経緯やソ連の内部政治によって人為的に決められたものであり、現在の国境問題や民族的な緊張の背景には、このような歴史が影響している。国境が民族や文化の実態を反映していないため、現在でもさまざまな対立や摩擦が生じている。

朝鮮半島の38度線

一方、朝鮮半島は長い歴史の中でさまざまな王朝や勢力によって統治されてきたが、20世紀に入ると日本の植民地支配を経て、第二次世界大戦後に南北に分断された。1945年に日本が降伏した際、連合国は朝鮮半島を北緯38度線を境にソ連とアメリカで分割占領することを決定した。この38度線は、実際には地政学的な理由に基づいて引かれたものであり、民族的・歴史的な境界を反映したものではない。このため、国境が設定された時点では、明確な文化的・民族的な境界が存在せず、曖昧な部分が多かったと言える。

その後、1948年に韓国(大韓民国)と北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)がそれぞれ独立した国として成立し、1950年に朝鮮戦争が勃発した。この戦争の結果、38度線が事実上の国境として固定されたが、もともとの境界設定が曖昧であったため、現在でも南北間には緊張が残り続けている。

ウクライナとロシアもいつまでも戦争を続けられるわけではない。いずれ、朝鮮半島のように両国が妥協しなければならない時がやってくるのは確実である。その端緒をトランプが開こうとしていることは間違いない。トランプ政権としては、中国との対峙に専念できる体制を築くため、ウクライナ和平を早期に進めようとしているのは間違いないだろう。

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2024年12月22日日曜日

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トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能性も...「本当に怖い存在」習近平の中国との関係は?

まとめ
  • トランプ次期大統領はNATO加盟国に国防費をGDP比5%に引き上げるよう要求し、ウクライナへの支援は継続すると伝えた。
  • 現在のNATOの国防費目標はGDP比2%であり、クリアしている国は31カ国中23カ国である。
  • トランプ氏は過去の発言でウクライナ支援の打ち切りを示唆していたが、最近の意向では支援を維持する考えを示している。
  • 来年のNATO首脳会議で国防費増額が合意される可能性があり、目標は2.5%から2030年までに3%に引き上げることが計画されている。
  • 日本にも防衛費の引き上げが求められており、トランプ氏は日本の防衛費をGDP比3%にするべきだと主張している。
メルケルとトランプ

 ドナルド・トランプ次期大統領の政権移行チームは、NATO加盟国に対し国防費を国内総生産(GDP)比5%に引き上げるよう要求する一方、ウクライナへの支援は継続する意向を示した。この情報は、英紙フィナンシャル・タイムズの報道によるものである。トランプ氏は大統領選中に「ウクライナ支援を打ち切り、24時間以内にウクライナ戦争を解決する」と発言しており、この発言は欧州各国に不安をもたらした。

 前独首相のアンゲラ・メルケル氏は回顧録において、トランプ氏がビジネスマンの視点から損得勘定で物事を判断していると振り返っている。現在のNATOの国防費目標はGDP比2%であるが、これをクリアしている国は31カ国中23カ国にとどまっている。トランプ氏が主張する5%は、交渉戦術としてのブラフである可能性が高く、最終的には3.5%での妥協が見込まれている。

 トランプ氏は第1次政権時代にメルケル氏を嫌悪しており、彼女の国防費の抑制やロシアとの関係を問題視していたことがある。現在、ロシアの侵攻によってウクライナの戦況が厳しくなっている中、米国の支援が途絶えると、欧州だけでウクライナを支えることは非常に困難であると考えられている。

 さらに、来年6月のNATO首脳会議では国防費の増額が合意される可能性が高まっており、具体的にはGDP比2.5%を目指し、2030年までに3%を達成する計画が進められている。ポーランドの大統領も国防費の引き上げを提案しており、トランプ氏は日本にも防衛費をGDP比3%に引き上げるべきだと主張している。

 トランプ氏にとって本当に脅威なのはプーチンではなく、中国の習近平国家主席である。欧州が自国の防衛を強化することは、日本にとっても利益となる。これにより、米国はインド太平洋地域に軍事資産をより振り向けることが可能となる。その一方で石破茂首相は防衛費拡大、米国の兵器購入、在日米軍駐留経費の負担増の要求を覚悟しなければなるまい。

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【私の論評】発足もしてない政権に対して性急な結論をだすべきではない

まとめ
  • トランプ第二次政権の政権移行チームは、AFPI(米国第一政策研究所)を含む専門家や支持者を中心に構成され、政策の一貫性を重視している。
  • 中国に対する政策は、関税の大幅引き上げや技術移転の制限を含む強硬な姿勢が示されており、米国の製造業を保護する狙いがある。
  • ウクライナ政策においては、具体的な時系列や戦略が不明瞭であり、政権移行後の実際の行動次第といえる。
  • トランプ氏の「アメリカ・ファースト」は、米国の利益を優先しつつ国際社会での役割を再定義しようとする試みであり、単なる排他主義ではない。
  • トランプ氏の政策の実施によって、アメリカは経済復活、外交政策の再構築、安全保障の強化などを通じて新たな時代を迎える可能性がある。
来年のトランプ第二次政権への政権移行チームは、すでに構成されており、さまざまな要素を考慮して活動を進めている。チームのメンバーは、トランプ氏の信任を受けた専門家や支持者が中心となっており、前回の政権での経験を持つ人々や米国第一政策研究所(AFPI)からの人材が参加している。このような構成は、トランプ氏の政策の一貫性を保つために重要である。

トランプ第二次政権の政策方針は、特に中国との対峙において、前政権よりもさらに厳しくなる可能性が高い。トランプ氏は中国に対して強硬な対中姿勢を貫く意向を示しており、関税政策の大幅な強化がその象徴である。彼は中国からの輸入品に対する関税を現在の平均18%から60%に引き上げることを提案しており、さらに全輸入品に対して10%から20%の関税を課す可能性も示唆している。これは中国の「新生産力」戦略に対抗するためであり、米国の製造業と企業を保護する狙いがある。

トランプ氏と政権移行チーム

また、技術移転の制限もトランプ政権の重要な政策の一つである。半導体や製造装置などの先端技術の中国への輸出制限が強化される見込みであり、中国企業による米国の不動産や産業への投資もさらに制限される可能性がある。共和党綱領では、中国による米国の土地や産業の購入を阻止する方針が明記されていることからも、その意図は明らかだ。

サプライチェーンの見直しも重要な課題であり、医薬品や電子機器などの重要分野での中国依存度を完全に排除する計画が掲げられている。これは「リショアリング」アジェンダの一環として推進される見込みであり、米国の自立性を高める重要なステップとなるだろう。

外交政策においても、トランプ政権は独自のアプローチを取る可能性がある。EU諸国や日本に対しては引き続きGDP比2%以上の防衛費支出を要求する見込みであり、台湾への支援も強化されるだろう。しかし、トランプ氏は台湾に対して「米国の保護に対してより多くの支払いを求める」という複雑な姿勢を示しており、そのバランスが問われる。ただ、メルケルドイツ前首相は、移民政策やエネルギー政策によって今日のドイツの弱体化を招いた張本人であり、とても彼女のトランプ批判が正鵠を射たものとはいえない。

ウクライナ政策については、大きな変化が見られる可能性がある。トランプ氏は「24時間以内に戦争を終結させる」と主張しているが、具体的な方法は明らかにしていない。ウクライナへの支援を「ローン」形式に変更する提案も行っており、これは支援の実質的な削減につながる恐れがある。

ただ、トランプ氏の今までのウクライナ政策に関する発言は、総じて具体的な時系列や明確な戦略については述べておらず、彼の政策がどのように具体化されるかは、政権移行後の実際の行動次第であり、その結果が国際情勢にどのように影響を与えるかは注視する必要がある。ただ、マスコミが批判するような極端なことにはならないだろう。彼の中東政策などをみていると、一見極端にみえたこともあったが、総じてまともなものだった。バイデンのアフガン撤退のような無様な真似はせず、アブラハム合意や、選挙公約でもあったシリアからの撤退、イスラエルの支援など現在の中東政策につながる政策を実行していた。

国内政策と国際戦略の連動も重要な特徴である。移民政策の厳格化やスパイ対策の強化が予想され、特に中国人留学生や移民がスパイとして活動する可能性についての懸念から、対策が強化される見込みだ。

アメリカ第一政策研究所(AFPI)の提言は、トランプ第二次政権の政策形成に大きな影響を与えるだろう。AFPIは「アメリカ第一」の中国政策原則を提唱しており、その核心は互恵主義にある。彼らは、中国共産党とそれに関連する者が、アメリカ国内で中国におけるアメリカ人の権利以上の権利を持つべきではないと主張している。


ここで重要なのは、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」が必ずしもネガティブな意味合いを持つものではないという点だ。この政策は、米国がモンロー主義に戻ったり、単に米国の国益だけを考えるものではなく、民主党政権が米国政府の本来の役割をないがしろにしていたことへの批判が含まれている。トランプ氏の「アメリカ・ファースト」政策は、米国の利益を最大化しつつ、国際社会における米国の役割を再定義しようとする試みと捉えることができる。

このように、トランプ氏の政策は、米国の国益を最優先しつつも国際社会における米国の役割を再定義し、より持続可能な形で米国のリーダーシップを維持しようとする試みである。特に中国に対する強硬な政策は、米国の製造業を守るための重要な戦略であり、単なる保護主義ではなく、公平な競争環境の創出を目指すものである。


トランプ第二次政権は、単純な排他主義を超え、米国の利益を守りつつ国際的な責任を果たすという、より複雑で深い戦略を展開する可能性が高い。これは、米国が世界においてどのように振る舞うべきかを再考する契機となるだろう。アメリカの未来は、こうした政策の実施によって大きく変わるかもしれないのだ。

経済の復活、外交政策の再構築、安全保障の強化、さらには国内の社会構造の変化が進むことで、アメリカは新たな時代を迎えることになるだろう。これらの政策が実現すれば、アメリカは再び力強い国としての地位を確立し、国際社会におけるリーダーシップを維持する可能性がある。性急に結論を出すことなく、未来がどのように変わるのか、その行く先を注意深く見守る必要がある。

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