2019年2月8日金曜日

いよいよ本格的に走り出したTPP11―【私の論評】いつの間にか、日本は世界の自由貿易をリードする絶好のポジションに(゚д゚)!

いよいよ本格的に走り出したTPP11

岡崎研究所

CPTPP(TPP11)は、昨年12月30日に発効したばかりであるが、時を置かず、1月19日、TPPの参加国11か国は、閣僚級の「TPP委員会」を東京で開催、閣僚声明を発表した。声明の抜粋は以下の通り。


 閣僚は、自由貿易を支持する強いシグナルを発し、21世紀にふさわしい高い水準でバランスの取れたルールを整備し、経済成長を促進し、我々の国の企業、消費者、家族、農業事業者及び労働者に対し利益をもたらす本協定を完全に履行することに対する確固たるコミットメントを表明した。閣僚は、委員会によってなされた決定が、協定の円滑な実施を確実にすることに寄与すること及び長期的な拡大を促進することを確信した。

 閣僚は、アジア太平洋地域において、そしてそれを越えて、自由貿易及び経済統合を力強く推進するにあたり、我々の強固な結束を維持する重要性を再確認した。この文脈で、閣僚は、7の署名国による早期の締結及び実施を歓迎し、本協定が可能な限り早期に全ての署名国について発効することにつき希望を表明した。

 閣僚は、最近の保護主義的傾向への懸念の高まりの中で、効果的で、開かれた、包摂的な、ルールに基づく通商システムという原則を維持し、更に強化していくことが最重要であるということで一致した。

 閣僚は、第1回委員会会合が成功裏に終了したことを祝福し、それが我々の地域のため、及びそれを越えて、高い水準のルールの強固なプラットフォームの創出に向けた重要な出発点となると認識した。

出典:首相官邸ホームページ

 上記声明は、自由貿易を是とし、保護主義に反対し、地域を越えた高い水準のルール作りを目指す、といったTPPの目標を端的に示した内容となっている。安倍総理は、あいさつで「様々な不安や不満があるからこそ、それに正面から向き合い、公正なルールを打ち立てることで、自由貿易を更に進化させていく。TPPは、その先駆けとも呼ぶべきものであります。」と述べている。第1回TPP委員会が日本で開催されたことは、TPP11を日本が主導したこと、日本の自由貿易への強固なコミットメントを国際社会に改めて印象付けるであろう。

 今回のTPP委員会では、TPP11の運用に関する次の4つの文書が採択され、TPP11は、いよいよ本格的に走り出したと言える。

(1)協定の運営:議長のローテーションや、2019年をTPP11全ての参加国の発効に向けた移行期間とすることなど、協定の円滑な運用のために必要な事項についての決定。

(2)新規加入手続:加入希望国・地域との協議の段取り、加入作業部会の立上げ等、実際に加入を調整していくにあたり必要な手続。

(3)国対国の紛争解決(SSDS)手続規則:紛争解決パネルでの審理手続に関する細則及びパネリストが審理を行うに当たって従うべきルール。

(4)投資家対国家の紛争解決(ISDS)仲裁人行動規範:仲裁人が仲裁を行うに当たって従うべきルール。

 新規加入に関しては、インドネシアやタイが関心を示しているほか、英国も加入を希望している。参加国が増えるほど、自由貿易のプラットフォーム、保護主義への反対、通商に関するハイレベルのルール作りといったTPPの価値が高まることになる。さらに、すぐにではないにせよ、米国の復帰を促す誘因にもなるであろう。

 新規加入希望国の中で、特に注目すべきは、昨年11月に参加希望を伝えてきた台湾であろう。台湾がTPPに参加できれば、中国による国際的孤立化の圧力を受けている台湾にとり、大きな助けとなる。地域にとっても経済的にも戦略的にもプラスとなろう。1月17日には、自民党の河井克行総裁特別補佐が訪台し、蔡英文総統と会談、蔡総統は台湾のTPP参加への支援を求めたという。台湾による東日本5県産食品の禁輸という大きなハードルがあるが、台湾のTPP参加は現実味を帯びた話になってきているように思われる。

【私の論評】いつの間にか、日本は世界の自由貿易をリードする絶好のポジションに(゚д゚)!

このブログではすでに過去に何度が説明していますが、TPPとは何なのか、その目的やメリット・デメリットなどについて簡単に以下に解説します。

まずは、現在のTPP11の参加国は、米国を除く、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、 ペルー、シンガポール、ベトナムです。

TPPの目的は、概略的にいうと、各国間のモノの受け渡しについて関税をなくしまおうということです。ただし、厳密にいうと他の知的財産とかビジネスのルールに関しても詳細に定めています。

各国間の物品の受け渡しである、貿易には自由貿易と保護貿易という大きく2種類があります。

自由貿易は、関税をなくして自由に物品の行き来きができるようにしましょうという貿易です。

保護貿易というのは、他国からの輸入品には関税を高くして自国の産業を保護しましょうという貿易です。

米国がTPPを抜けたのは、トランプ大統領は元々その思想が保護貿易主義的だったからです。そのため、米国は現在様々な分野で関税を高くするという施策をとっています。

では、米国が抜けたにもかかわらず、日本がTPPに参加するメリットは何なのかを以下簡単に解説します。

まず、TPP発効後の日本においては、TPP参加国の国に輸出した場合、関税が撤廃されているので、安く輸出することが出来ます。

これによって、様々なものが海外で売りやすくなります。日本だと、たとえば自動車はその筆頭格です。従来よりも多く自動車などの物品が多く売れれば、国内にその分のお金が入ってきます。そうすると、景気が良くなるというメリットがあります。

一方で、デメリットとしては、海外から輸入したものに対しても関税が撤廃されるので、国内の農家の人達が、海外の安い農作物と価格競争を強いられることになります。すると、国内の農作物が売れず、国内の農業が衰退してしまうのではというデメリットもあります。

日本としては、このメリットとデメリットによる影響を天秤にかけて、メリットの方が大きいと判断し、参加したのです。

以上、簡単にTPP11の参加国や、日本のメリット、デメリットを解説してみましたが、これから私たちの暮らしにどのように影響していくのか注意深く見ていく必要があります。

たとえば、スーパーには海外産の安い食品が並ぶことになるかもしれませんし、海外に行ったら日本の車が今まで以上に多く走っているかもしれません。


TPP11は、保護貿易に走ろうとする、米国ならびに、知的財産権を軽んじ、覇権主義的な中国に対して大きな牽制となってもいます。

さて、台湾のTPP参加のハードルとなっている東日本5県産食品の禁輸について解説します。

昨年台湾の国民投票で福島など日本5県産食品の禁輸継続が可決されたことを受け、河野太郎外相が昨年12月7日、台湾の環太平洋経済連携協定(TPP)参加に悪影響が出る可能性を指摘しました。

これについて行政院(内閣)のKolas Yotaka(グラス・ユタカ)報道官は同8日、日本の反応は「理解できる」とした上で、台湾はTPP加盟を目指して法改正などの準備を進めてきたと述べ、引き続き日本と意思疎通を図り、理解を求める姿勢を示しましーた。

謝長廷駐日代表(大使に相当)は同7日夜、日本側の発言について「非常に遺憾だ」と述べました。日本が具体的な報復措置に及ぶ可能性については、日本国内でも他国への影響を懸念する声や台湾に理解を示す声などさまざまな意見があるため「予測はできない」とし、相手に刺激を与えるような言動は慎むべきだと提言しました。

また、このことが日台の友好関係に影響を及ぼさないことを願うと述べ、力を尽くして日本側への説明を続けるとしました。

2011年の福島原発事故以来、台湾は福島など5県、中国は新潟、宮城、福島など10都県で生産・製造された食品の輸入を停止しましたが、中国は先月28日付で新潟産コメの輸入解禁を発表しました。

謝代表は、中国の規制緩和は日本に友好を示すものであるとした上で、台湾のTPP加盟に最も反対するのは中国であると指摘。台湾の国民投票の結果が反対勢力に格好の口実を与えてしまったとの見方を示しました。

日本での、福島などの産地での、検査体制はかなり他国よりも厳しいもので、これをバスした農産物など放射能による危険など考えられません。私自身も福島産の農産物など危険だとは全く思いません。

そのことを日本側はもっと台湾の人々に訴求していくべきでしょう。

一方日本と欧州連合(EU)間の画期的な2つの新協定が2月1日に発効しました。日本・EU経済連携協定(EPA)と戦略的パートナーシップ協定です。EPAはEUにとって市場規模の点で最大の二国間貿易協定であり、これにより世界でも史上最大の自由貿易圏が誕生することになりました。

この協定で日本とEU間の関税は劇的に減り、両者間の貿易をよりシンプルでスピーディーなものにする体制が整う。それに応じて貿易量も増加するだろう。戦略的パートナーシップ協定は、核拡散防止、地域安全保障、国際テロと組織犯罪、サイバーセキュリティ対策、エネルギーと気候の安全保障といった問題で日本とEUの協力体制を確実なものにします。



この2つの協定は、国際貿易とグローバル・ガバナンスの発展において非常に重要なタイミングで発効しました。ブレグジット(イギリスのEU離脱)でイギリスはEUとの関係を見直し、世界の他の国々と独自の貿易政策を構築しようとしているからです。

より重要なのは、日本とEUのこの新たな協定が、ドナルド・トランプ米大統領の「アメリカ第一主義」の貿易政策と正反対の動きを示していることです。2016年にアメリカ大統領に選ばれて以来、トランプは二国間協定を重視し、貿易障壁を保護主義に活用しWTO(世界貿易機関)のような国際機関を弱体化させてきました。

EUと日本の二つの協定に関する交渉が締結に向けた推進力を得たのは、トランプの政策、特に環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱が予想されたからです。大規模な貿易協定の交渉には延々と時間がかかるのが常で、EUと日本の交渉は2013年に開始していました。

日本とEU、そして特にドイツは輸出主導型の経済であり、いずれも開かれた貿易政策を支持する立場にあります。トランプの保護主義的な立ち位置は、こうした国々を不安にさせています。そのためこの新協定は、ルールに基づく国際貿易システムの重要性を強く再確認するものと受け止められています。

日本が農産物に関してEUに譲歩したことは、この封印された市場の開拓を長い間望んでいた米国の農家には打撃でした。日・EU協定は、自由貿易を擁護する日本の姿勢を強調し、アメリカの離脱で頓挫したTPPの残骸から復活した新たな多国間貿易協定「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」に、はずみをつけるものになるでしょう。

EUと日本の経済をあわせると世界のGDPの約3分の1を占めます。したがって、この新しい貿易協定は世界経済を活性化するとともに、世界有数の2つの経済大国(米国・中国)による多国間協調主義に対する強い決意を示すうえで重要なものになるはずです。

米国とEUの貿易交渉が近く始まります。この交渉は、昨年7月、欧州からの自動車の輸入に追加的な関税を課すと脅迫するトランプに欧州委員会委員長のユンケルが訪米して直談判に及び、その結果決まったものです。
その見返りに、交渉が継続する間は双方とも追加的な関税を課すことはしない(米国が欧州の自動車に追加的な関税を課すこともしない)ことで折り合ったものです。
欧州委員会委員長のユンケル氏(左)とトランプ米大統領(右)

1月11日に米通商代表部(USTR)は、米国の交渉目標に関する17ページの文書を公表しています。この文書は共同声明に記された交渉の範囲にはおよそ無頓着で、工業品と農産品の貿易、通信・金融を含むサービスの貿易、衛生と植物防疫の措置、デジタル貿易と越境データ通信、投資、知的財産、政府調達など、果ては為替操作まで、目一杯の要求項目を並べたものです。これらの項目は日本との貿易交渉の目標としてUSTRが掲げるものとほぼ共通です。

マルムストローム貿易担当欧州委員とライトハイザー通商代表との間で事前に交渉したようですが、要するに交渉の範囲についてすら合意に至っていないらしいです。EUは交渉の範囲を絞り込んでおり、マルムストロームは「我々は米国との広範な自由貿易協定交渉を提案しているのではないことを明確にしておきたい」と述べています。

紛糾の種は幾らもあります。例えば農産品を含まない協定を米国議会が承認するかという問題があります。しかし、農産品は共同声明で交渉の対象から除外することに成功したとEUは思っているに違いないです。

渉の見通しは暗いです。しかし、もともとこの交渉は自由貿易の利益を共に享受しようという積極的意図によるものではないのですから、必ずしも交渉が成功裏に終わらなくても貿易戦争を避ける道具になってくれれば十分なのかもしれません。ただ、そういうことで何時までトランプを封じ込め得るかという問題はあります。

ただし、日本を軸として、TPP11・日欧EPAが発効し、米国と中国だけがこの趨勢から出遅れていること、中国は社会構造が遅れているため、自由貿易などそもそもできないのに、米国は可能であることを理解すれば、トランプ氏も考えを変えるかもしれません。トランプ氏は無理かもしれませんが、次の大統領は考えを変えるでしょう。

いつの間にやら、日本は世界の自由貿易をリードする立場になったようです。これは、民主党政権の時代には全く考えられず、やはり安倍政権になってから芽生え、それが今頃成果となって現れているのです。

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2019年2月7日木曜日

統計不正でも「アベノミクスによる経済回復」という評価は覆らず…雇用者報酬は増加―【私の論評】野党は、中国の統計をなぜ批判しないのか?

統計不正でも「アベノミクスによる経済回復」という評価は覆らず…雇用者報酬は増加

根本匠厚労相(右)を追及する立民の長妻昭元厚

各省庁の経済統計の不正が次々と発覚し、こうした統計データに基づき評価されてきた「アベノミクスの成果」自体を疑問視する指摘も出ている。そこで、各種経済統計を見直した場合、「アベノミクスによる経済回復」という評価が覆る可能性はあるのか、もしくは統計不正と「アベノミクスによる経済回復」は無関係なのか、さらには一連の統計不正はなぜ起こったのかについて考えてみたい。

まず、マクロ経済の見方から考えてみよう。マクロ経済政策を評価するには、まずは雇用、次に所得で行うのが基本である。要するに、まず仕事があって、その上で衣食が足りていれば満点である。これを具体的にみるには、以下の評価基準を用いる。

(1)雇用は就業者数、失業率
(2)所得はGDP、雇用者報酬

筆者はアベノミクスに対して、雇用はまずまずであるが、所得の観点からまだ不満があるので、これまで70~80点という評価を下してきた。今回の統計不正により、GDPなどを算出する際の基礎データである毎月勤労統計の数字が変更になった。そのため、雇用者報酬も変更された。2017年の名目雇用者報酬は前年比1.6%増、実質雇用者報酬は同1.2%増。また、18年1~11月の名目雇用者報酬は同3.1%増、実質雇用者報酬は同2.3%増となった。18年1~11月の雇用者報酬は、名目、実質ともに前年より増加している。

その理由は簡単だ。このデータは毎月勤労統計から作成されるが、毎月勤労統計は本来全国200万事業所を対象とするが、実際には3万件程度のサンプル調査となっている。しかし、東京都において1500事業所を調べるところが500事業所しか調べなかったので、実際のサンプル数は全国で2.9万だった。本来の統計処理であれば復元すべきだったのに、それを怠った。例えていえば、2.9万で割り算すべきところ、3万で割り算したため、過小の数字になったというのと同じだ。それが是正されると、数字としては大きくなるだけだ。

とはいうものの、統計不正の前後で数値を比較すると、せいぜい0.3%程度の違いでしかない。これは、グラフにすると線の太さに隠れる程度にもなるので、今回の統計不正によって、これまでの経済分析が一変するというほどのものではない。

西日本新聞に掲載された給与額公表値と再集計地の違い
縦軸が0.5%刻みになっているので、差異が確認できるが、
通常のものであれば確認できないほどに小さなものである

一部野党の批判は“木を見て森を見ず”

雇用者報酬は、概念として人数×賃金である。雇用の増加により、人数が増加しているのは間違いない。問題は賃金である。名目賃金が増加しているのは間違いないが、実質賃金については顕著な増加でない可能性がある。

一部野党とメディアは、この点だけをついている。まさに、木を見て森を見ずである。

そもそも、マクロ経済政策で一番肝心の雇用では、民主党政権時代は最悪の状況だった。雇用が満たされると、次に雇用者報酬がよくなる。その次に名目賃金、最後に実質賃金が上がる。

一部野党やメディアは、雇用、雇用者報酬、名目賃金の改善を無視して、最後の実質賃金の上昇が顕著でなかったという点だけをあげつらっている。いずれにしても、前に述べたマクロ経済の評価について再び見ても、

(1)雇用の回復は確実
(2)雇用者報酬は名目でも実質でも上昇

と確実にいえる。

ただし、報酬を人数×賃金と分解した際、名目賃金の上昇はいえるが、実質賃金については、上昇かどうかは現時点ではわからないという状況だ。もっとも、この状況は統計不正発覚の前から同じである。

今回の統計不正を、試験で例えてみよう。ちなみに筆者のような大学教員は今、学期末の採点で忙しい時期だ。どこの大学でも似たような採点基準であろうが、学生への通知は、S、A、B、C、Dの5段階で通知し、教員が大学に提出するのは100点満点での点数だ。90点以上をS、80点以上90点未満をA、70点以上80点未満をB、60点以上70点未満をC、60点未満をDとし、60点以上で及第である。ちなみに、筆者のクラスの採点は、S19%、A8%、B17%、C25%、D31%という結果。今年は例年よりSが多いが、それでもSはあまりいない。

筆者の試験ではないが、もし出題の一部が不適切だったとしよう。その場合、すべての学生に該当問題では点を与える。すべての学生の点数は上がるが、不適切な出題がごく一部であれば、大学から学生へ通知する5段階評価は変更されることはない。今回の統計不正は、アベノミクスの評価そのものを根底から覆すものではない。筆者のアベノミクスの評点はBであったが、この評価は統計不正後でも変わりはない。

もっとも、このように結果として経済分析においてこれまでの評価が変わらないというのは、単に偶然なだけだ。統計不正は、統計の信頼を根底から揺るがすので許されるべきものではない。

横断的な専門組織の必要性

今回の統計不正について、以下の点が問題である。

(1)04年から、全数調査すべきところを一部抽出調査で行っていたこと
(2)統計的処理として復元すべきところを復元しなかったこと
(3)調査対象事業所数が公表資料よりも概ね1割程度少なかったこと

手続き面から上記は、統計法違反ともいえるものでアウトだ。実害では、(2)のために04~17年の統計データが誤っていたということになり、統計の信頼を著しく損なうとともに、雇用保険の給付額等の算出根拠が異なることとなり、追加支給はのべ1900万人以上、総計537億円程度になる。統計技術から、(1)はルール変更の手続きをすれば正当化できるし、(3)では誤差率への影響はなく、統計数字の問題自体は大きくないのはすでに述べたとおりだ。

今回の統計不正については根深いものがあるので、経緯を考えてみよう。

驚くべきは、統計職員が最近急減していることだ。04年でみると、農林水産省には4674人の統計職員がいたが、農業統計ニーズの減少のため、これまで4000名以上を削減してきた。他の省庁でも若干の減少である。今回問題になった厚生労働省は351人の職員だったが、今や233人に減少している。

日本政府の統計職員数は1940人であるが、これは人口10万人当たり2人である。12年でみると、アメリカ4人、イギリス7人、ドイツ3人、フランス10人、カナダ16人であり、日本の現状は必ずしも十分とはいえない。

どこの世界でも同じだと思うが、統計の世界でも従事人員の不足は間違いを招くという有名な実例がある。1980年代のイギリスだ。政府全体の統計職員約9000人のうち、2500人(全体の約28%)を削減したところ、80年代後半になって国民所得の生産・分配・消費の各部門の所得額が一致せず、経済分析の基礎となる国民所得統計の信頼が失われてしまった。

日本の統計事務は省庁縦割りであり、世界の標準的な省庁横断的組織になっていない。統計職は対象がなんであっても応用が効くので、各省庁ごとに統計職員を抱える必要性はなく、しかも統計の公正性を確保するなら各省から独立した横断的組織のほうが望ましい。

一刻も早く、国会における独立委員会を含めて第三者委員会や捜査機関による徹底した調査を行い、統計に対する国民の信頼を回復しなければいけない。その際、人員・予算の確保、横断的な専門組織の創設が重要だ。
(文=高橋洋一/政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授)

【私の論評】野党は、中国の統計をなぜ批判しないのか?

上の記事では、統計不正の前後で数値を比較すると、せいぜい0.3%程度の違いというのですから、これは極端なことをいうと誤差のようなものです。他の人為的な間違いをしたとしても、この程度の誤差が出ることはあり得ます。

よって、「アベノミクス」の成果、特に雇用上の成果に関する統計の評価に関しては、間違いはなかったということです。

ただし、これは誤差でもないし、意図して意識して行われた不正の結果出た違いであるということが重大な問題であるということです。

だから、国会における独立委員会を含めて第三者委員会や捜査機関による徹底した調査を行い、統計に対する国民の信頼を回復しなければいけない。その際、人員・予算の確保、横断的な専門組織の創設が重要だということです。

ここで中国の統計について振り返ってみます。

中国の「経済統計」については、以前から、中央政府が発表する「全国GDP」と各地方政府が発表する「地方GDP合計」に大きなかい離があるとこのブログでも指摘してきました。2018年1月には、内蒙古、天津が相次いで、経済統計に水増しがあったことを明らかになっています。

全国GDPと地方GDP合計の差異の推移

地方政府のみならず、中央政府も統計をねつ造しているとの疑念が、以前から各方面で出されてきまし。その真偽はともかく、中央が発表する各種統計に必ずしも整合性がなく、また政治的考慮から、ことさら楽観的な面を強調する一方、都合の悪い部分は意図的に無視する傾向があることは事実です。

例えば、国家統計局が1月に発表した17年経済実績や3月全人代政府活動報告(以下、報告)での説明ぶりに関連し、以下のような疑問があります。

昨年3月5日に開幕した全人代で演説した李克強首相(前列)。
汗を拭う姿はCCTV(中央テレビ局)には映らなかった。 

①17年、都市部住民の1人当たり実質可処分所得が6.5%増に対し、農村部住民は7.3%増、この結果、都市部と農村部の収入格差が縮小したとされています。

ところが、全国ベースの1人当たり実質可処分所得も7.3%増とされており、都市部常住人口比率が17年58.5%、また都市部の収入は農村の約2.7倍と高水準であることを考えると、全国の1人当たり可処分所得伸びは、上記6.5%と7.3%の間の6.5%に近い水準になるはずです。

②産業構造の高度化を見る上で、中国当局は以前からハイテク技術製造業の伸びと装備製造業伸びを重視しています。国家統計局は2017年のハイテク技術製造生産3.3兆元(13.4%増)、装備製造9.1兆元(11.3%増)、また、総工業生産伸び6.6%増に対するハイテク技術製造の貢献率23%、装備製造52%と両分野が大きく伸びているとしています。

17年の総工業生産額およびハイテク技術製造と装備製造生産額の対総工業生産シェアは発表されていないため、これら数値から各々のシェアを推計すると、

11.3%(6.6%×23%÷13.4%)、30.4%(6.6%×52%÷11.3%)となるのですが、16年実績として国家統計局から発表されているシェアは各々12.4%、32.9%(図表)。17年いずれの産業も総工業生産伸びを大きく上回る伸びとなっているにもかかわらず、シェアは下がる形となっており、各種数値間の整合性がとれていません。

[図表]工業生産伸び・シェア(%)

(注)国家統計局分類では、ハイテク技術製造は医薬、航空、電子通信、コンピューター、医療・精密計測機器。装備製造は金属製品、通信等各種専門設備、自動車・鉄道・船舶・航空等輸送設備、コンピューター等電子設備、精密計測機器。両概念は重複していると思われるが詳細不明。2017年シェアはハイテク製造の総工業産伸び率貢献度23%、装備製造52%から推計。
(出所)中国国家統計局の統計公報、記者会見議事要旨より筆者作成
消費、投資、輸出がそろって成長に寄与とされるが・・・
③報告は過去5年、消費の成長への貢献率が上がったとし(54.9%→58.8%)、投資・輸出主導から消費、投資、輸出がそろって成長に寄与するパターンが実現したこと、また民間投資が奨励され投資構造が改善したとしています。しかし、17年全国一人当たり消費支出は18322元、実質5.4%増でGDP伸びより1.5%ポイント低い。うち都市部住民は4.1%増でGDP伸びの60%程度、農村も6.8%増でGDP伸びより低いです。

他方、全国固定資産投資は成長率減速に対応して11年以降伸びが鈍化しているが、17年7.2%増と成長率との関係ではなお高水準。投資構造も国有企業(国企)が10.1%増と高い一方、民間投資は6%増とGDP成長率より低いです。また各級政府が行う基礎インフラ投資はGDP伸びの3倍に及ぶ。さらに不動産投資の全投資に占めるシェアは引き続き20%近い高水準で、国企や地方政府中心の製造業・インフラ投資、不動産投資が成長をけん引する構図に大きな変化はないです。

④報告は「政府のミクロ管理、市場や企業への直接関与を減らし、マクロ調整や市場監督に注力した」とし、その根拠として、過去5年、各省庁の許認可事項が44%減少したこと、中央・地方政府が価格を統制している財が各々80%、50%以上減少したこと等を挙げています。

しかし、住宅市場のバブルを抑えるための政府の住宅購入抑制策、政府が企業に強制的削減目標を課す形で進められている鉄鋼、石炭等の過剰生産設備削減、またその過程で大型国企の集中合併が進み、国企が保護される一方、過剰設備整理で相対的に大きな影響を受ける中小民間企業が置き去りにされていることは、習政権が発足以来掲げている「市場機能に十分な役割を発揮させる」との方針やこれまで進められてきた「国退民進」に明らかに逆行しています。

中国の国民経済計算の中で分配国民所得は見当たらないですが、別途、国家統計局は17年企業利潤21%増、中でも国企45.1%増と発表。また財政部統計で全国一般公共財政収入は7.4%増(うち中央7.1%増、地方7.7%増)。報告は「人民中心の発展思想を堅持し、民生の保障・改善に注力し、人々の獲得感(豊かさの実感)が継続的に増強」と主張していますが、統計は発展の果実がむしろ政府と国企に向かったことを示しています。

この他、最近公表されたデータについても、一定規模以上(主要営業収入が2000万元以上)企業の利潤が18年1〜5月2.7兆元、前年同期比16.5%増と発表されたましたが、昨年発表されている17年1〜5月の数値は2.9兆元。国家統計局は発表文の脚注で、①「一定規模以上の企業」に分類されている企業には出入りがあり、また新企業参入、破産もあること、②地域や産業の垣根を越えて活動している企業の統計の重複計上を精査したこと、③「営改増」、つまり営業税の増値税への移行に伴い、一部工業企業で、税負担が軽減されるサービス活動を切り離しサービス業とする動きが出たことを挙げています。

また、18年5月小売販売高前年同期比8.5%増と発表されたが、昨年5月発表された数値を基に計算すると3%増にしかなりません。これについても、脚注で前年数値を精査し改訂したためとしています。いずれも当局から一定の説明はあるものの、必ずしも市場関係者等から十分かつ透明性のある説明とは受け止められておらず、統計の信頼性、比較可能性、連続性に疑問が生じる結果となっています。

ブログ冒頭の記事を書かれた、高橋洋一氏はテレビの番組で中国のGDPの出鱈目ぶりを暴露しています。

以下にその番組の一部を含むツイートがあったので、それを以下に掲載します。


これは、昨年のGDPの伸び率に関するものですが、学者によっては、中国のGDPは未だ日本を超えておらず、ドイツ以下であると結論を出している人もいるくらいです。

いずれにせよ、中国の統計の出鱈目ははっきりしすぎるくらいはっきりしています。これを批判せずに、倒閣のために「アベノミクスによる経済回復」という評価が覆えそうと日本の野党は躍起になっているようですが、これまた政局にするのは無理筋で「もりかけ」騒動よりもさらに小粒なワイドショー民向け劇場パフォーマンスに終わることになるでしょう。

そんなことより、韓国が北朝鮮の手に落ちたり、中国が経済冷戦に負けて経済が弱体化した場合などに、かなり大勢の難民が日本に押し寄せる可能性があります。それにどのように対応すべきか等、今から警戒を強めておくべきです。

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2019年2月6日水曜日

南シナ海問題はもはやグローバルな問題である ―【私の論評】COCの前にASEANは域内での軍事経済的結束を強め、域外の国々の協力も仰ぐべき(゚д゚)!

南シナ海問題はもはやグローバルな問題である

岡崎研究所

1月17、18日にタイのチェンマイでASEAN外相会議が開催され、ミャンマーのロヒンギャ問題、南シナ海問題などが話し合われた。ここでは、南シナ海問題を取り上げる。18日に発出された議長報道声明のうち、南シナ海に関する部分は次の通り。

東南アジア

 我々は、南シナ海における、平和、安全、安定、航行と上空飛行の自由を維持・促進することの重要性を再確認し、南シナ海を平和、安定、繁栄の海とすることの利益を認識した。我々は、2002年の「南シナ海行動宣言(DOC)」が完全かつ実効的な形で実施されることの重要性を強調した。我々は、ASEANと中国との継続的な協力強化を歓迎するとともに、相互に合意したタイムラインに沿って実効性のある「南シナ海行動規範(COC)」の早期策定に向けた中身のある交渉が進展していることに勇気づけられた。我々は、ASEAN加盟国と中国が単一のCOC交渉草案に合意していることに留意し、2018年11月にシンガポールにおける第21回ASEAN首脳会議で発表された通り、2019年中に草案の第一読会を終えることを期待する。この点に関して、我々は、COCの交渉に資する環境を維持する必要性を強調した。我々は、緊張、事故、誤解、誤算のリスクを軽減する具体的措置を歓迎する。我々は、相互の信用と信頼を高めるため、信頼醸成と予防的措置が重要であることを、強調した。

 我々は、南シナ海に関する問題を議論し、地域における埋め立てへの一部の懸念に留意した。我々は、相互の信用と信頼を高め、自制して行動し、事態を複雑化させる行動を避け、国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法に沿って紛争を平和的に解決することの必要性を再確認した。我々は、全ての領有権主張国、あらゆるその他の国による全ての行動において、非軍事と自制が重要であることを強調した。

出典:‘Press Statement by the Chairman of the ASEAN Foreign Ministers’ Retreat’(17-18 January 2019)

南シナ海をめぐっては、2017年11月にフィリピンが議長国を務めたASEAN首脳会議の際に「懸念」の文言が削除されたが、シンガポールが議長国となった昨年に同文言が復活し、タイが議長国を務める今年も維持された。今回の外相会議では、ベトナムとマレーシアが南シナ海への懸念を表明したと報じられている。ベトナムは一貫して対中強硬姿勢を維持してきた国であり、マレーシアは昨年マハティールが首相に復帰して以来、前政権の対中傾斜を大きく強く軌道修正している。「懸念」の文言は、中国による南シナ海の軍事化の加速の前では無力と言わざるを得ないが、こうした国々が、南シナ海問題をめぐりASEANの中でどれだけ声を上げていくのか、行動を示していくのか、今後とも注目される。

 COCについては、早期策定に向けた具体的な日程が示された。声明では「相互に合意したタイムライン」とあるが、中国の李克強首相は昨年11月のASEAN首脳会議に際する関連会議で2021年までに妥結したいと表明している。今回の議長を務めたタイのドン外相は記者会見で、早期妥結が可能である旨、述べている。2021年よりも早く妥結もあり得るという話もある。

 しかし、ASEANと中国との間で昨年8月に合意されたとされるCOC草案は公表されていない。法的拘束力を持たないものになるのではないかとも言われている。中国は軍事活動通告のメカニズムも提案している。域外国と合同軍事演習を実施する場合、関係国に事前通告しなければならず、反対があれば実施できない、という内容である。例えば、ASEAN加盟国が米国と合同演習をしようとしても、中国が反対すれば、実施できないことになる。仮に、こういう内容のCOCになってしまっては、かえって有害と言えるかもしれない。

 南シナ海問題は、もはや地域の問題ではなくグローバルな問題である。航行と上空飛行の自由を確保するための主要各国の取り組みが重要であり、実際に、そのようになってきている。米豪だけでなく英仏など欧州の国も「航行の自由作戦」(あるいはそれに準ずる行動)を実施し始めた。英国のウィリアムソン国防相は、最近、シンガポールあるいはブルネイに基地を置くことについて言及した。南シナ海における英国のプレゼンスを維持するため、補給・維持修理の要員と補給艦を配備するということのようである。また、フランスも、インド太平洋の海洋秩序維持のため、日本との協力を進めつつある。

【私の論評】COCの前にASEANは域内での軍事経済的結束を強め、域外の国々の協力も仰ぐべき(゚д゚)!

まずは、COCについて簡単に説明しておきます。南シナ海の領有権問題をめぐって、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国は紛争を予防するための仕組みとして南シナ海行動規範(COC)の策定を進めています。

2002年にASEANと中国が南シナ海行動宣言(DOC the Declaration on the Conduct)に合意したが、実効性を書きました。このため法的拘束力を持つ「行動規範(COC)」の策定を目指すことになりました。

13年のASEAN拡大国防相会議から4年越しの交渉の末、17年8月の中国・ASEAN外相会議で枠組み合意し、具体的な条文の策定への協議を開始することになりました。しかし、法的拘束力の有無さえ明確にしない骨抜きの内容で、策定交渉が長引き、結局は中国が軍事拠点化を進めるための時間稼ぎに使われてしまいました。

実際この間にも中国は、実効支配している南沙諸島の岩礁や暗礁を埋め立てて人工島の建設を進めており(→「スプラトリー諸島(南沙諸島)の人工島」)、埋め立て面積は16年5月までに13平方キロ以上になりました。

中国により軍事基地化された南シナ海の環礁

16年末までに各島に対空砲や地対空ミサイル等の防空システムを配備、主要な島には3000メートル級の滑走路や大型船が寄港できる港湾施設、通信・偵察システムなども整備して軍事拠点化を進めています。

このような過去の経緯を考えると、COCに期待はできないです。中途半端なことはせずに、現状のまましばらく放置するのがASEAN諸国にとっても得策であると考えます。

とはいいながら、中国を相手にASEAN諸国が一致強力し、様々な要求をつきつけたり批判していくというのはやぶさかではないです。

なお、南シナ海の中国の軍事基地に関しては、多くの人々がどの程度のものか理解していません。これに関しては、産経新聞のインタビューで米国の戦略化ルトワック氏が答えています。その記事の内容を以下に掲載します。
「米中冷戦は中国が負ける」 米歴史学者ルトワック氏

ルトワック氏

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に南シナ海に関連する部分のみ引用します。
 一方、中国が南シナ海の軍事拠点化を進めている問題に関しては、トランプ政権が積極的に推進する「航行の自由」作戦で「中国による主権の主張は全面否定された。中国は面目をつぶされた」と強調。中国の軍事拠点については「無防備な前哨基地にすぎず、軍事衝突になれば5分で吹き飛ばせる。象徴的価値しかない」と指摘した。

 ルトワック氏はまた、中国の覇権的台頭を受けて2008年以降、米国と日本、オーストラリア、ベトナム、インドなどの国々が「自然発生的かつ必然的な『同盟』を形成するに至った」と指摘。これらの国々を総合すれば人口、経済力、技術力で中国を上回っており、「中国の封じ込めは難しくない」とした。 
 ルトワック氏はさらに、これらの国々が中国に対抗するための能力向上を図る必要があると指摘。日本としては例えばインドネシアの群島防衛のために飛行艇を提供したり、モンゴルに装甲戦闘車を供与するなど、「同盟」諸国の防衛力強化のために武器を積極的に輸出すべきだと提言した。
ルトワック氏が語るように、南シナ海の中国の軍事基地は、米国にとっては「無防備な前哨基地にすぎず、軍事衝突になれば5分で吹き飛ばせる。象徴的価値しかない」のです。

さらにASEAN諸国が結束すれば、人口、経済力、技術力で中国を上回っており、「中国の封じ込めは難しくない」としています。

であれば、ASEAN諸国が何をすべきか、自ずと浮かび上がってきます。中国を含めたCOCというよりは、まずはASEAN諸国の結束をはかり、域内を防衛するための軍事協定を結ぶとともに、域内の経済の活性化を図ることです。できれば、共通の軍隊を持つべきです。

さらに、南シナ海問題は、もはや地域の問題ではなくグローバルな問題なのですから、ASEAN諸国だけではなく、日米豪や英国なども含めて、軍事的にも経済的にも他国にも協力を仰ぎ、この地域で中国を囲い込むとともに、徹底して動きを封じ込めることです。

なお、この地域では、米・英・豪などに対しては、警戒心や恨みの感情がのこつています。このあたりは、日本が大きな橋わたしをすることができるでしょう。

昨年東アジアサミット前に、記念撮影する安倍首相(右端)ら

今後の課題は、COCプロセスをどの程度速やかに進める事ができるかという事、さらにはこの新たな文書にどれほど権利主張諸国の行為を抑制する効果があるかという事です。

まずは、こうした中国封じ込め政策をASEAN域内と域外の国々よって実行し、現在米国が挑んでいる対中国冷戦の趨勢を見守ることです。

そうして、中国の体制が変わって、民主化、政治と経済の分離、法治国家がある程度なさるか、あるいは中国が経済的に疲弊し、他国に対する影響力を失った時には、本気でCOCを考えるべきです。

南シナ海の長期的な平和と安定にとって重要なことは、COCが実効性を獲得し、これによって確実に関係国が自制を働かせ、信頼醸成措置を促進させて、配慮が不要な領域での協力活動を実施する事です。

COCを実効力あるものとするには、DOCの欠陥やDOCの実施を遅らせてきたいくつかの要因を克服しなければなりません。

実行的なCOCができた暁には、南シナ海の中国の軍事基地を排除すべきでしょう。できれば、中国に実施させるべきでしょう。中国ができないというなら、COCの内容を中国にとってかなり厳しいものとして、2度と南シナ海等に進出しないように因果を含めた上で、ASEANならびに友好国がこれを担うべきです。

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2019年2月5日火曜日

統計不正も実質賃金も「アベガー」蓮舫さんの妄執に為す術なし?―【私の論評】虚妄に凝り固まる立憲民主党が主張する経済政策を実行すれば、今の韓国のように雇用が激減するだけ(゚д゚)!

統計不正も実質賃金も「アベガー」蓮舫さんの妄執に為す術なし?


田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 厚生労働省の毎月勤労統計を巡る不正問題に関して、ワイドショーなどでは相変わらず「低レベル」と言っていい報道が続いている。

 毎月勤労統計の不正問題自体は、国の基幹統計と言われる賃金水準の実態を正確に捉えることを怠った問題であり、厚労省の官僚たちを法的に厳しく処罰すべき問題であろう。

 また、厚労省が設置した「特別監察委員会」に関するずさんな対応については、これはデータ不正そのものを生み出した厚労省の「自己都合」で、国民の関心をないがしろにする行為として批判すべき問題である。ただし、どの程度のデータ不正かと言えば、報道や野党、そして一部の識者からは、安倍晋三政権批判の思惑が「ダダ漏れ」で、そのため過度に誇張されたものになっている。

 筆者の周囲でも、ワイドショーから情報を仕入れた人が「統計不正は大変な問題ですね。安倍政権の責任は大きいですね」と尋ねてきた。そこで筆者は、統計の全数調査を怠ったことは重大な「犯罪」だが、抽出調査自体は統計的には適切に実施し、法規に従えば特に大きな問題ではないことを説明した。

 その上で、安倍政権のはるか前から続いていた話が、安倍政権で発覚したに過ぎないことを指摘した。ついでに「ワイドショーなどを見て、その報道につられて、安倍政権が悪いように誤解する見識のない人が増えて、テレビに振り回されていて、かわいそうだ」と返したら、やはりご本人に思い当たることがあるのか、顔色を変えてにらまれてしまった。

 この例でも分かるように、安倍政権の長期化に伴い、これまたテレビの影響で「長く続くからダメ」というような、事実に立脚しないイメージ批判が蔓延(まんえん)している。そのせいで、ワイドショーなどの報道を鵜呑みにする人たちや、何でもかんでも安倍政権のせいにする人たちを、私の周りから遠ざけてしまうことになった。ただでさえ「友達」が少ないから、安倍政権の長期化は困ったものである。



厚生労働省が入る東京・霞が関の中央合同庁舎

 統計調査不正を利用して、安倍政権の経済政策の成果を不当に貶(おとし)める発言も実に多い。別に安倍政権を特に持ち上げる必要はない。だが、安倍政権の経済政策が、雇用面で大きな成果を挙げたことは否定できない事実である。

 マスコミや野党、反安倍的な識者には、この成果を否定したい思惑が広がっていて、それは事実の否定さえも伴っている。確かに、統計不正はいわば事実をないがしろにする行為だ。だが、批判している野党やワイドショーなどのマスコミがまさに雇用改善の事実をないがしろにしているとしたら、悲劇を超えて「喜劇」ですらある。

 例えば、立憲民主党の蓮舫副代表はツイッター上で次のように述べている。

 「アベノミクスの成果の根拠として、去年6月に前年比3・3%としていた賃金上昇率の伸び率が、実は1・4%だった。実質賃金の伸び率で比較すると、2%が実は0・6%と推計されました。昨年1月から11月の平均は、マイナス0・5ではないかと推計もされます。野党ヒアリングで厚労省はおおむね認める発言をしました」

 まず、安倍首相自ら国会で説明している通り、アベノミクスはその成果の根拠としても、政策目的としても、実質賃金の伸び率を重視したことはない。蓮舫氏はこの点で事実誤認している。

 さらに、前年比での実質賃金の伸び率がマイナスなのは、単に17年が18年よりも実質賃金の「水準」が高かったからである。しかも、アベノミクス期間中の賃金指数を、不正データと修正データとを比べると、むしろ上昇している。都合の悪いデータを隠すことは十分考えられるが、都合のいいデータを隠す意図は、さすがに政権側にはないと考えるのが常識的だ。

 もちろん、強固な反安倍主義者の中には、それでも政権への「忖度(そんたく)」があった、と考える人がいるが、もはや事実を提示して納得できるようなレベルの人たちではないだろう。悪意か妄執か、あるいは頑なな政治イデオロギーの持ち主か、いずれにせよ経済学による説得では無理である。

 またアベノミクスの開始当初から、なぜか蓮舫氏のように実質賃金とその伸び率を重視する人たちが多い。その多くが反安倍、反アベノミクス論者である。

立憲民主党の蓮舫副代表兼参院幹事長

    だが、そもそもアベノミクス、その中核であるリフレ政策(デフレを脱却して低インフレ状態で経済を安定化させる政策)は、実質賃金の水準や伸び率の動きをただ上げればいいだけの政策のように、単純な見方はしていない。むしろ、長期停滞からの脱出局面(現時点)では、実質賃金の伸び率が低下することも不可避であると主張してきた。

 リフレ政策が効果を与える停滞脱出期においては、実質賃金の切り下げが生じる。なぜなら、雇用が増加することで、新卒や中途採用、退職者の再雇用といった新たに採用された人たちの賃金は、既に長年働いている人たちの賃金よりも低いことが一般的だ。

 すなわち、雇用される人数が増え、失業率が低下することは、同時に平均的な賃金を低下させることになる。これを「ニューカマー効果」という。

 しかしニューカマー効果では、同時に失業率が改善し、雇用状況の改善(有効求人倍率改善、いわゆる「ブラック企業」の淘汰など)も実現していく。さらに、支払い名目賃金の総額も上昇していくだろう。そうして、経済全体の状況は大きく改善されていくのである。

 実際、安倍政権ではこのニューカマー効果による実質賃金低下と、同時に失業率低下、有効求人倍率の上昇、賃金指数の増加、名目国内総生産(GDP)の増加などが見られる。さらに、雇用安定化の成果で、失職などに伴う経済的要因での自殺者数が激減し、不本意な形で就業しなくてはいけない非正規労働者の数も大きく減少した。これらは、単にアベノミクスによって雇用の量的な改善だけでなく、質的な改善も見られたことを証明している。

 そして失業率が低下していくと、いわゆる「構造的失業」という状態に到達する。その過程で名目賃金の増加だけではなく、労働市場の逼迫(ひっぱく)の度合いに応じて、実質賃金も上昇していく。日本経済は、2014年4月の消費税率8%引き上げの悪影響がなければ、このプロセスが実現していた可能性が大きい。

 このように蓮舫議員に代表されるような「実質賃金低下ガー(問題)」論者は、あまりにも問題を単純に捉えていると言わざるを得ない。実は、実質賃金の低下だけを問題視する人たちは、経済が常に完全雇用の水準にあると思い込んでいる新自由主義者的な人に多い。

 新自由主義的な人からすれば、実質賃金の低下など、単に労働の生産性の低下を示すものでしかないからだ。蓮舫議員を含む立憲民主党や国民民主党などの多くの野党は、確か経済問題を適切な政府介入で是正していく「リベラル」のスタンスであるはずなのに、主張が新自由主義者風なのはなぜだろうか。

 おそらく、野党議員の多くは経済政策のアドバイスを受ける相手を間違えているのであろう。例えば、立命館大の松尾匡(ただす)教授が最近、安倍政権の経済政策に対抗するリフレ政策的な政治キャンペーン「薔薇マークキャンペーン」を始めている。なんでも今度の参院選に立候補する議員に、反緊縮に賛同する候補者と対して「薔薇マーク」の認定を与えるというものだそうだ。

2019年1月、毎月勤労統計の不正調査問題で、厚労省の職員らに質問する野党議員(奥)

 認定候補が野党勢力だけかどうか定かではないが、筆者はこのキャンペーンが与野党の対立構図に乗った政治色の強いものだと考えている。リフレ政策はそういう政治的イデオロギーを超えるべきだと考えているので、この運動自体には賛成できない。

 ただ、蓮舫氏のような反安倍主義者たちが、よりまともな経済政策を構築するには、松尾氏のアドバイスに対して、真剣に耳を傾けることを勧めたい。それが日本の政策議論の底上げにもつながるに違いないからだ。

【私の論評】虚妄に凝り固まる立憲民主党が主張する経済政策を実行すれば、今の韓国のように雇用が激減するだけ(゚д゚)!

野党の批判は、結局「実質賃金が下がり、実際に使えるおカネが減って貧しくなった。そのために、個人消費が伸びていない。いまの経済政策は間違っている」ということです。そうして、冒頭の記事で田中秀臣氏が主張するようにこれは明らかに間違いです。

実質賃金とは、皆さんが受け取る賃金(名目賃金)から物価の上昇分を差し引いたものです。

名目賃金が1%しか上がっていない時に物価が2%上がると、実質賃金は1%下がります。あくまで程度の問題ではありますが、「モノやサービスの値段が上がって、以前なら買えていたはずのものが買えなくなった」ことになります。インフレの悪いところです。

一方、名目賃金が2%下がっても、物価が3%下がってくれれば、実質賃金は1%上がります。「給料は減ったけど、以前よりたくさんのモノやサービスが買えるようになった」わけですから、喜ぶ人もいるかもしれません。

この部分だけを切り取って考えると、たしかに「実質賃金を、いますぐ上げろ!下がったのはケシカラン!」という主張は正しいように聞こえます。

しかし、経済は、常に動きつづけている生き物です。短いあいだだけを輪切りにして判断してしまったのでは、一見正しそうな政策が「長期的にはとんでもないこと」を引き起こしかねません。

これから起きるさまざまな変化を、「時間を追って順々に考えていく」というのが経済学的なものの考え方です。俗にいう「風が吹けば桶屋が儲かる」という世界です。

逆にいえば、この思考ができないと経済政策を誤ってしまうことになります。

失業者を減らすことが最優先

少しこみ入った話になるので、経済学でよく使われる需要曲線(赤)と供給曲線(緑)を使ってご説明します。縦軸が実質賃金、横軸が雇用者数です。

<現在>という矢印の指しているところに、いまの日本の雇用市場はあります。

左側の縦軸の「今の実質賃金」というところから水平に線を引く(………)と、「雇いますよ」という需要曲線(赤)とぶつかります。ここから下におろした線の指しているところが、「今、雇用されている人数」です。

先ほどの水平な線をさらに右にいく(………)と、「働きたいです」という供給曲線(緑)とぶつかります。ここから下におろした線が指しているところの人数だけ「今、働きたい人」がいます。

ただ、実際に雇ってもらえるのは、需要曲線(赤)から降りてきたところまでの人数だけです。この差が「失業者」となります。

失業とは、「働きたいのに働けない」ということです。しかも、失業することによって収入がとだえて経済的に困窮するだけでなく、「社会から疎外されている」と感じてしまいがちです。

その結果、非常に残念なことですが、精神的・肉体的に追いつめられて、自殺という手段を選ぶ人が増えてしまいました。日本の失業率と自殺率の相関関係は、OECD諸国の中でも際立って高くなっています。

従って、「失業者をどうやったら減らせるか」「この図の赤い矢印の方向にどうやって進むのか」ということを最も優先して考えなければなりません。

我慢して回り道を

現在の実質賃金の水準で、そのまま点線の上をわたって供給曲線(緑)に到達できれば一番良いのですがそうはいきません。点線の上は、あくまで空間です。右のほうにいきたければ、黄色い矢印が指し示すように「斜め右下方向」に需要曲線(赤)の上を動くことになります。

あくまで「下」ですから、「実質賃金が下がらないと、雇用者数が増える方向には行けない」というのが現実です。これを変えることは、誰にもできません。

では、どうしたら実質賃金は下がるのでしょうか?

先ほどご説明したように、実質賃金は(名目賃金)-(物価の変動)で決まります。

「実質賃金を下げろ」といわれて、まず思いつくのは「名目賃金を下げる」、つまり「賃金カット」でしょう。強欲な経営者が「給料を20%下げることにした!」と叫べば、たちどころに下がって、、、というほど話は簡単ではありません。

名目賃金は、経営者と労働者の交渉で決まります。「交渉」といっても、全員が実際に膝をつきあわせて丁々発止とやる訳ではありません。

「この賃金なら雇いたい」「この賃金なら働こう」という「労働市場での需要と供給から決まる」と考えたほうが自然です。アダム・スミスの「神の見えざる手」は、ちゃんと働いています。

この名目賃金というものは、あまり簡単に上がったり下がったりしません。特に日本では、毎週(週給)や毎日(日給)といった単位で給料が変動する労働者は極めて少数です。大多数の労働者は月給制ですし、しかも年間の支給額が大きく変動することはありません。

「20%下げるぞ」などと宣言したら、翌日の職場はカラになっていることでしょう。

つまり、「名目賃金は、そう簡単には下がらないし下げられない」というのが、本当の話です。

では、「物価を上げる」というのはどうでしょう?

これは何か非常に難しいこと、特に長い間デフレに苦しんだわが国にいると、とんでもなく大変なことのように思えます。

しかし、何らかの政策で「強引に名目賃金を変える」よりも、「金融政策によって物価水準を変えることで、実質賃金を動かす」というほうが世界の経済学や経済政策の世界では一般的です。

たとえば2013年1月に、政府と日銀は「+2%と言う目標を定めて物価を上げる」という共同宣言を発表しました。これは「実質賃金は一時的に下がるものの、まず失業者を減らす政策をとる」ことを示したものであると言い換えることができます。

その後の政策は、よく「異次元の」という形容詞をつけて紹介されますが、「デフレという名の異常事態からの脱却」という局面だったために「異次元の手段」が必要だっただけです。政策そのものは、ごく常識的な経済理論にのっとったものです。

「異次元」ではあっても、「異常」ではありません。

いま「物価が上昇したことで実質賃金が下がっている」のは、この右下がりの黄色い矢印の方向に日本経済が走りだしたということです。実質賃金は下がりましたが、冒頭にご紹介したとおり雇用者数は増加しています。

赤い矢印の方向に動いていることは、間違いありません。

デフレへの逆回転は絶対に阻止

現在の状態を、「実質賃金が下がって貧しくなった」と批判するのは簡単です。しかし、黄色い矢印の方向に行かなければ雇用者数は増加せず、130万もの人が失業したままだった可能性は否定できません。

いまはひとりでも多くの人が働けるようになるために、少し我慢をする時です。

きちんと現在の金融緩和政策をつづけていれば、「完全雇用」と書いた部分を通過し、右側の黄色い矢印が示す「右斜め上」に向かって供給曲線(緑)の上を動いていけるようになります。いよいよステージの転換です。

人手不足により名目賃金が上昇し、実質賃金が上がります。しかも、もらえる給料の額面が増えています。

「もらえる給料は減ったけど、物価はもっと下がっている。だから、実質的に豊かになって幸せだ」などという冷静沈着な計算のできる人が、世の中の多数派だとは思えません。やはり「金額が増えてハッピー」という人のほうが多いですから、消費が増えて経済の好循環が起きます。

しかも右方向に動いていますから、働くことができる人は増えつづけます。もう「社会から疎外された」などと、悲観する必要はありません。

1998年に3万人を超え「世界的にも高水準」と懸念されていた自殺者数は、過去5年連続して減少してきています。大規模な金融緩和に踏み切った2012年以降、減少幅が大きくなっていますが、これがさらに加速していくと期待できます。

実際の経済はこんな簡単な図よりも複雑ですから、まだ「完全雇用」と書いたところに到達しているかどうかはよく分かりません。

しかし、比較的名目賃金が変わりやすい「パートやアルバイトの時給」が、大幅に上がっているのはご存知のとおりです。首都圏のパートやアルバイトの平均時給は1000円を超えました。厚生労働省が先週発表した賃金構造基本統計調査では、女性の賃金が過去40年で最も高くなっています。

さらに総雇用者所得も増えていますから、働いている人全体が受けとる賃金の合計は増えつづけています。

総務省の調査によると、正社員を増やした会社は「人材流出を防ぐため」「採用を優位に進めるため」という理由をあげていました。つまり、「良い待遇を与えないと、働いてもらえなくなった」ということです。これは「完全雇用」状態に近づき、働く人たちの立場のほうが強くなったことに他なりません。

結論は明らかです。「物価が上がったことで実質賃金が下がり、生活が苦しくなった。金融緩和政策をやめて物価を下げろ」と言う主張は、経済政策論的に完全に間違っています。物価が下がったおかげで「実質賃金が上がった」と喜ぶことができるのは、失業する心配のない人達だけです。

もし、そんな経済政策をとってしまうと、この図の青い矢印のように「左斜め上」に動いていくことになります。たしかに実質賃金は上がりますが、多くの人が職を失い苦しむことになります。これこそが、デフレの害悪です。

今の流れを逆回転させるべきではないのです。

なお、上ではニューカマー効果を解説するため、マクロ経済でよく用いられるグラフを使って説明しました。

しかし、このようなグラフを使わなくても常識的に理解できます。

たとえば、ある企業で景気が良くなったので、事業規模を拡大しようとしたとします。事業を拡大するときには、最初は営業店舗や工場などの人員を増やすのが普通です。間違っても、本部の要員や役員などを最初に増やすということはありません。さらに、拡大するとすれば、営業店舗や工場そのものも増やすはずです。

そうなると、営業店舗や工場などには、多くの新人を雇用しなければなりません。新人を多数雇用すればどうなりますか。会社全体としては、事業規模を拡大する前よりも平均賃金は低くなります。さらに、生産性は当初は下がるのが当然です。なにしろ、新人を多く雇い入れれば、最初は新人は普通に仕事ができず、これに対して訓練や教育を施さなければなりません。

これが理解できれば、国単位で実質賃金が下がるということも容易に理解できると思います。さらに時がたつと、事業の規模が拡大し軌道にのれば、本部の人員を増やしたり、給料をあげないとなかなか人を募集できなかったりで、賃金は上昇します。

こんな簡単な理屈も理解できないのか、蓮舫さんをはじめとする野党の議員なのです。

お隣韓国では金融緩和せずに賃金だけあげて大失敗

さらに、野党議員らの考えが間違いであるということはすでに実例があります。お隣韓国では、文大統領が金融緩和をせずに、賃金だげあげる政策をとり、雇用が激減して大失敗しています。

これについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
文在寅大統領誕生に歓喜した韓国の若者、日本へ出稼ぎを検討―【私の論評】枝野理論では駄目!韓国がすぐにやるべきは量的金融緩和!これに尽きる(゚д゚)!
立憲民主党枝野代表

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、枝野氏も、雇用等に関しては蓮舫氏と同じような考えであり、実質賃金ばかりを問題にする傾向があります。以下にそのあたりがわかるような内容の部分のみを引用します。
枝野氏には金融緩和という考えは全くありません。金融緩和をせずに、分配を増やすというのはどういうことかといえば、結局のところ韓国の実施した「金融緩和をせずに最低賃金」をあげるというのと何も変わりません。 
枝野氏をはじめとするリベラルの雇用政策は韓国で実行され、大失敗したということです。 
ブログ冒頭の韓国の若者の悲惨な状況を改善し、日本のように大卒の就職率を良くするには、分配や最低賃金を最初にあげるのではなく、まずは量的金融緩和を実施すべきです。
いずれにせよ、枝野氏も蓮舫氏も虚妄に凝り固まっており、金融緩和などは実施せずに、分配を増やす、最低賃金を増やすなどの破滅的な政策を主張しています。立憲民主党が主張する経済政策を実行すれば、またぞろ大学生の就活が地獄になるのは明らかです。

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2019年2月4日月曜日

【日本は誰と戦ったのか】自由と繁栄を守る 「共産主義」と戦うトランプ大統領 ―【私の論評】トランプ大統領の評判を落とす工作に騙されるな(゚д゚)!


トランプ大統領

 昨年から米中貿易戦争が始まり、あれほど仲が良かった米中関係が一転、米中「新冷戦」へと変わってしまった。北朝鮮の「核・ミサイル開発」に対しても、ドナルド・トランプ政権になった途端、軍事行使をちらつかせながら「絶対に核開発は許さないぞ」と言い始めた。

 なぜ、歴代の米国政権と、トランプ政権はこんなに対応が違うのか。

 キーワードは「共産主義」だ。

 1917年にロシア革命に成功したボルシェビキ(ロシア共産党)の指導者、レーニンは19年、共産主義政党による国際ネットワーク「コミンテルン」を創設した。目的は、世界各国で資本家を打倒して共産革命を起こし、労働者の楽園を作る、というものだ。

 このソ連・コミンテルンの対外秘密工作によって世界各地に「共産党」が創設され、第二次世界大戦後、世界各地に「共産主義国家」が誕生し、東西冷戦が始まった。

 東西冷戦は91年の「ソ連崩壊」によって終結したと言われているが、残念ながらソ連崩壊の後も、アジアには、中国と北朝鮮という2つの共産主義・一党独裁国家が存在し、国民の人権や言論の自由を弾圧しているだけでなく、アジア太平洋の平和と繁栄を脅かしている。

 こうした世界観に立脚しているのがトランプ大統領なのだ。

 マスコミは黙殺したが、トランプ氏は2017年11月7日、共産主義犠牲者の国民的記念日を宣言し、ホワイトハウスの公式サイトに次のような声明文を掲げている。

 《今日の共産主義犠牲者の国家的記念日は、ボルシェビキ革命がロシアで起きて100年にあたる。ボルシェビキ革命は、ソ連と暗黒の数十年にわたる抑圧的共産主義を生み出した。それは、自由と繁栄、人間の尊厳と両立しない政治思想といえる。

 過去1世紀の間に、世界中の共産主義者による全体主義体制は1億人を超える人々を殺害し、搾取、暴力、数え切れない荒廃をもたらした。彼らは、解放のふりをして、罪のない人々から、神が与えた「信仰の自由」や「結社の自由」など、無数の他の権利を奪った。自由を願う人々は、強制、暴力、恐怖によって支配された。

 私たちは、亡くなった方々と、共産主義下で苦しみ続ける人々を忘れはしない。そして、自由を守るために勇敢に戦った世界中の人々の、不屈の精神を尊重する》

 われわれの敵は共産主義であり、現在も続いている共産主義の脅威から自由と繁栄を守る、こうした視点が、トランプ政権の対外政策と米中貿易戦争の背後に存在することは理解しておきたいものである。

 ■江崎道朗(えざき・みちお) 評論家。1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集や、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、現職。安全保障や、インテリジェンス、近現代史研究などに幅広い知見を有する。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞した。他の著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)など多数。

【私の論評】トランプ大統領の評判を落とす工作に騙されるな(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事にもあるとおり、ソ連・コミンテルンの対外工作によって世界各地に「共産党」が創設され、第二次世界大戦後、東欧や中欧、中国、北朝鮮、ベトナムなど世界各地に「共産主義国家」が誕生しました。

かくして第二次大戦後、アメリカを中心とする「自由主義国」と、ソ連を中心とする「共産主義国」によって世界は二分され、「東西冷戦」という名の紛争が各地で起こりました。
スターリン。共産主義運動による死者は1億人を超えます。
ある意味、二十世紀は、ソ連・コミンテルンとの戦いでした。

ソ連・コミンテルンと共産主義を抜きにして二十世紀を語ることはできません。そしてこの「東西冷戦」は1991年のソ連の崩壊によって終結したと言われていますが、それはヨーロッパの話です。

ソ連崩壊で撤去されたレーニン像

残念ながらソ連崩壊のあとも、アジア太平洋には中国共産党政府と北朝鮮という二つの共産主義国家が存在し、国民の人権や言論の自由を弾圧しているだけでなく、アジア太平洋の平和と繁栄を脅かしているからです。

これをなんとかしようというのが、安倍総理による「安全保障のダイヤモンド」であり、「自由で開かれたインド太平洋戦略」であり、これにすぐに乗ってきたのが、米トランプ大統領でもあります。そうして、現在ではこれに乗るどころか、自ら積極的に中国に対して経済冷戦を発動しています。

米国のニュースメディアの偏向ぶりは日本よりもひどく、米国には産経新聞のような保守系の全国紙すらありません。ニューヨーク・タイムズがリベラル左翼系の新聞であることは有名ですが、米国に保守系の全国紙が無いというのは驚きです。

テレビ同様で、ほとんどがリベラル・メディアです。唯一の例外がフォックスニュースです。

米国にはリベラル左翼系の新聞しかない、テレビもほとんどがリベラルということは、トランプ氏が大統領選に出馬したことを報じていた米国のニュースメディアからの情報は、全て偏向した内容だいうことです。

保守系のトランプ氏を擁護するような情報など出てくるはずがないわけで、「泡沫候補」とか「差別主義者」とか、ネガティブな情報ばかりが伝えられていた背景にはそれなりに理由があったというわけです。

日本のメディアには「トランプが大統領になったら世界経済が終わる」などと宣っていたエコノミストもいましたが、この手の人々は米国社会の実像を全く知らないことを自ら自白していたことになります。

オバマの「チェンジ」とは?

現在から振り返ってみるとオバマ元大統領の「チェンジ」は、米国を良くするための「チェンジ」ではなく、米国を社会主義化するための「チェンジ」だったというのも驚きで、我々はその立派な言葉にまんまと騙されていたことになります。

私自身は、オバマが社会主義者であることは知っていたましたが、オバマの両親がバリバリの共産主義者だったというのは知りませんでした。

日本には「ウォー・ギルト(戦争犯罪)」というものがありますが、米国にもオバマ政権がもたらした「ホワイト・ギルト(白人の文化は罪)」というものがあり、学校では「黒人奴隷から搾取した白人は黒人に配慮しなければならない」とする自虐教育が行われていました。


国境を重要視するトランプ大統領であるからこそ、地球の裏側にある日本という同盟国の危機にも注意を払うことができます。これが、国境を軽視するリベラル派のヒラリーであれば、一体どうなっていたのかを考えると実に恐ろしいです。

「世界の警察を辞める」と言った民主党のオバマに続いて民主党のヒラリーが大統領になっていれば、日本は北朝鮮に隷属するだけで何もできず、何も言えない国になっていたかもしれないです。

そういう意味で日本人は、米国にトランプ政権という保守政権が誕生したことを我が事のように喜ばなければいけないのかもしれないです。現状、北朝鮮や中国からの攻撃を止めてくれるのは残念ながらトランプ大統領しかいないからです。

中国や北朝鮮の工作員は、日本は言うに及ばず、米国では無論のこと世界中の国々でトランプ大統領貶めるため、あらゆる手段でトランプ大統領の評判を落とす工作をしていることでしょう。我々は、そのような単純なプロパガンダに騙されるべきではありません。

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2019年2月3日日曜日

2度目の米朝首脳会談と南北融和を優先する韓国―【私の論評】第二回米朝会談では、ICBMの廃棄を優先させ中短距離の弾道ミサイルが後回しにされる可能性が高い(゚д゚)!



岡崎研究所

 北朝鮮をめぐっては2月末に2度目の米朝首脳会談が開催されることが発表されるという大きな動きがあった。他方、南北関係は、韓国の文在寅政権は開城工業団地と金剛山観光の再開のために国連決議迂回の道を探るなど、韓国の対北宥和ぶりが目立つ。ここでは、最近の北朝鮮情勢について、これらの点を中心に紹介する。

 まず、今年の金正恩の新年の辞では、以下の諸点が注目される。

(1)「外部勢力との合同軍事演習をこれ以上許容してはならず、外部からの戦略資産をはじめとする戦争装備搬入も完全に中止」すべき。

(2)停戦協定当事者(注:中国のことか)との緊密な連携の下に朝鮮半島の現停戦体制を平和体制に転換するための多国間協商も積極的に推進していく。

(3)全同胞は「朝鮮半島平和の主は我が民族」という自覚を持って一致団結していくべき(注:文在寅の考えと同じ)。

(4)開城に進出した南側企業人の困難な事情と民族の名山を訪れたいとする南側同胞の願いを察し何の前提条件や対価なしに開城工業地区と金剛山観光を再開する用意がある。

(5)北と南が協力するなら「あらゆる制裁と圧迫」も我々の行く手を妨げることはできない。

(6)我々は「すでにこれ以上、 核兵器を作りも試験もしないし、使用も伝播もしない」(注:現水準は維持すると取れる)。

(7)米国が約束を守らず、一方的に強要し、制裁と圧力に進むのであれば、「新たな道」を模索せざるを得なくなる。

 文在寅政権は、今度は開城団地と金剛山観光の再開(昨年9月の南北首脳会談で合意)を実現しようとしている。康京和外相は1月11日、議員との会合で、多額の現金支払いによらない方法でこの問題を解決することが可能かどうか研究する必要がある、と述べている。これは政府がバルクの現金支払いを禁止している国連制裁回避の方法を探していることを示す。既に企業関係者から近々現地を訪問する申請も出されているようだ。開城団地は北による4回目の核実験を受けて2016年2月に閉鎖されたが、それまでは北にとり重要な外貨獲得の場所となっていた。韓国企業による投資、生産物の輸出の他、北の労働者には毎年総額約1億ドル以上の賃金が支払われていた。

 南北融和を優先する文在寅政権は、国際社会の努力からも外れている。非核化の進展がないにも拘らずここまで前のめりに南北融和を優先する韓国の動きには、引き続き注意が必要だ。対米関係が一層軋む可能性もある。今までの対韓不信に加え、米軍経費負担交渉の難航もあり米韓間の緊張は高まっているようである。

 国際制裁は北朝鮮に効いているものと思われる。金正恩は新年の辞でも「過酷な経済封鎖と制裁」として、それに言及している。昨年訪欧した際、文在寅は独仏英などに制裁解除を働きかけたが、当然ながら欧州首脳は賛同しなかった。

 米朝の非核化交渉は昨年7月以来膠着していた。しかし、これまで延ばされてきた2回目の米朝首脳会談開催の動きは、急速に進んだ。金正恩は1月8、9日に北京で習近平と会談した。この訪中は、今年が中朝国交樹立70周年に当たることもあろうが、核問題や米朝交渉の今後につき協議するために行われたものと思われる。朝鮮中央通信によると習近平は「北朝鮮の主張は当然の要求であり、懸念が解決されなければならない」と理解を示したという(ただし中味の説明はない)。さらに、金英哲副委員長が1月17-19日に訪米した。首脳会談の調整をしたものと見られる。それに先立ち、金正恩宛てのトランプの書簡も届けられたという。そして、2月末に2度目の米朝首脳会談が開催されることが発表されるに至った。

 何らかの進展があったため2度目の首脳会談が開催されることになったのは間違いないだろうが、それが何であるかはまだ分からない。懸念されることは、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることである。

【私の論評】第二回米朝会談では、ICBMの廃棄を優先させ中短距離の弾道ミサイルが後回しにされる可能性が高い(゚д゚)!

冒頭の記事の結論である、「懸念されることは、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることである」は実際に大いにあり得ることです。

私は、トランプ大統領はこのような合意を目指していると思います。なぜなら、このブログでも最近指摘しているように、結果として北朝鮮の核が結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいるからです。

これは、北朝鮮が核開発をしていかなった場合どうなったかを考えてみれば、容易に理解できます。北の核は、米国を標的にしているのは無論ですが、これは当然のことながら中国も標的にし得るのです。もし、北が核開発をしていなかった場合、今頃金一族は中国に滅ぼされ、北には中国の傀儡政権が樹立され、韓国も完璧に中国に従属し、半島全体が中国の覇権の及ぶ範囲内になっていたかもしれません。そうして、将来は朝鮮半島は中国の一省が、自治区になったかもしれません。

2015年5月に、北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行い、2016年1月6日には、「水爆実験」とうたった地下核実験が強行されましたた。また、同1月28日にはミサイル実験の準備が複数箇所で同時に進行中であることが報道されました。そうして、その後実際に長・中・短距離の弾道ミサイルを乱れ打ちされました。

これらの示威行動の目的は何だったのでしょうか、そもそも誰に向けた威嚇だったのでしょうか。さまざまな解説がなされていますが、そのほとんどが、アメリカを対象にしたものだということになっていました。私は、その意味合いは確かにあったと思います。

しかし、これら一連の北朝鮮の行動全体を見た場合、どう解釈すべきなのでしょうか。私は、SLBM実験以降、従来とは質的にまったく別なものになったと考えています。これらは主に中国を対象とした示威行動と見て間違いないのです。

その上で、国際社会、特に米国に対し、「中国離れ」をアピールするという持って回った構図になっています。「中国の覇権主義に反対である。場合によってはこの核は対中国の威嚇にもなる」という意味合いだったのでしょう。

2011年金正日氏がの遺体を載せた車につきそう金正恩氏(一番手前)

2011年に父。金正日総書記の死によって、北朝鮮の最高指導者の地位を継承した金正恩・国防委員会第一委員長、朝鮮労働党第一書記は、当初、父から後見としてつけられていた実力者、高官、側近らの粛清を続け、2016年以降、ほぼ国内に対抗勢力がいない状況になりました。私は、ここで彼は、ようやく中長期的な国自体のテーマに取り組むようになったと見ています。

その課題は、言うまでもなく絶望的な状況にある経済の立て直しです。それまでも、現在も北朝鮮をあらゆる意味で支えているのは中国ですが、その中国にいろいろ求めても、これまではかばかしい結果が返ってきませんでした。

金正恩第一書記は、中国の対北援助の基本方針が「生かさず殺さず」であると見切ったようです。そのため、他から援助を引き出そうとしているのでしょう。

金正恩・第一書記はこの間、側近に対し「中国は100年の敵」と言ってはばかりませんでした。2016年あたりにも、「中国相手でも臆することなく強気に出なければならない。中国がアメリカに同調し、制裁を加えるというなら、北京に核ミサイルを撃ち込むことも辞さない」という内容の話を側近にしたという情報もあります。もちろん、オフレコの内輪話ということだが、当然、中国の耳に入ることは計算の上だったのでしょう。

さらに、金正恩は当時北朝鮮ナンバー2といわれた、叔父の張成沢を処刑しています。これは、張成沢氏が中国と親しい関係があったことが関係しているといわれています。

処刑される直前の張成沢、顔と手に殴られたようにあざがある

北朝鮮がもっている唯一の対外交渉カードは、いうまでもなく核・ミサイル開発です。国際社会は、経済制裁を解き援助を行う条件として、必ずイランのように核開発を放棄することを求めています。

しかし、核を手放せば少なくとも現体制は外からの圧力、特に中国からの圧力で潰されることになります。北朝鮮、もしくは金正恩・第一書記がとりうる手段は、これまで通りの対外恐喝路線しかないのです。

しかし、2016年以降はそれまで通り、米国、そして韓国、日本にだけ向かっているわけではないのです。先の側近へのコメントだけではなく、「水爆」、SLBMを振りかざしたのも、同じ意味があります。

これまで開発した通常核ですらミサイル搭載が不確かであるのに、それよりも重い弾頭を用意しようとしていました。さらに、北朝鮮の通常動力型潜水艦では行動範囲が限られているにもかかわらずSLBMを保持しようとしています。

これらがもし開発に成功したとして、その標的はどこなのでしょうか。米国などはとても無理で、近国しかありえないです。これらの一連の開発は、米国にとってはほとんど影響のないものですが、中国にとっては直接的な脅威になるのです。

中国を標的にする背景には、南シナ海問題で、国際社会、特に米国の中国に対する風当たりが強くなっていることがあり、これに同調する姿勢をとることで少しでも自らの立場に正当性を付加しようとしていること、さらに、経済問題などの内部環境から見て、中国が今、北朝鮮を潰しかねないような厳しい制裁を行うことができない、と見切っていることがあるようです。

中国の対北朝鮮政策は、2016年以降岐路に立つことになったのです。このような「狂犬」に出会って、棍棒で叩きのめすべきか、避けて通るべきか、中国側が思い悩んでいるのは確かです。

中国は、このまま北朝鮮を放置すれば、韓国、台湾、日本と核開発ドミノが起きる可能性を懸念しています。さらに、2016年以降、米国、日本が、対北朝鮮封鎖のために軍事力を朝鮮半島周辺に集中し始めており、このことも、中国の安全保障に悪影響を与えるという理由で、中国国内では北朝鮮に対し強硬に出るべきだという意見が強くなっていました。

しかし、現実には今、北朝鮮は、隣国が大混乱に陥るような強硬手段をとる余地がないほど、足下の経済問題が深刻だとみて良いです。中国は当面、慎重な態度をとり続けなければならないようです。

中国はこれまで北朝鮮の核・ミサイル問題を「対米交渉カード」に利用してきました。ところが今や「飼い犬に手を噛まれる」の格好になっています。中国への核・ミサイル威嚇は北朝鮮の「対米交渉カード」となったのです。

2016年6月、ムスダンとみられる弾道ミサイル発射実験の様子

そうして、昨年米国は本格的に対中国経済冷戦に踏み切りました。この動きは、超党派の米国議会も同調した動きであり、次の大統領トランプであろうが、なかろうが、米国は中国が体制を変えるか、経済的にかなり弱体化するまで、制裁を続ける腹です。

そうして、その後米朝会談が開催され、今年の2月下旬には第二回米帳会談が開催される予定です。

この会談では金正恩は核の即時完全放棄ではなく、「核実験の無期限凍結」という、核カードを決して手放さない形の妥協と引き換えに、中・長期的な経済援助を引き出そうとするでしょう。

しかし、中国まで核恐喝の標的にしたことで、北朝鮮の現体制を取り巻く環境がさらに厳しいものになったことは確かです。

私としては、トランプ政権としては、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、中国や日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることは十分にあり得ることと思います。

米国にとっては、北朝鮮の核によって、中国に従属しようとする韓国を含む朝鮮半島に中国が浸透することを防ぎつつ、対中国冷戦をさらに継続するというのは、危険ではありますが、魅力的なシナリオでもあります。

私は、次回の米朝会談において、トランプ大統領は、金正恩がどれほど本気で中国と対峙するかを見極めた上で、今後の対中国冷戦の戦略を考える腹であるとみます。

日本としては、北の核は確かに日本にとって危機であることには違いないですが、それは中国の核とて危険であり、中国の核は北朝鮮の核よりはるかに日本にとって脅威であるという事実を思い起こすべきだと思います。

日本が周辺国の核に対処すべきことがらについては、昨日のこのブログにも掲載したので、ここでは詳細を記すことはしません。そちらを参照していただきたいと思います。

第二回米朝会談にて、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、中国や日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しされるようなことがあれば、日本としてはそれに対応しなければなりません。

日本としては、日朝首脳会談により、金正恩の腹を探ることがより一層重要になってくるものと思います。

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2019年2月2日土曜日

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トランプ氏、米のみの制限を認めず 「全核保有国の新条約を」INF破棄で

演説前に眉を整えるトランプ大統領=1日,ホワイトハウス

    トランプ米大統領は1日、ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄を同日発表したことに関連し、ホワイトハウスで記者団に対し、「全ての核保有国を集めて新しい条約を結ぶ方が(米露2国間よりも)はるかにましだし、見てみたい」と述べた。

 トランプ氏は一方で、「条約は全ての国が順守しなければならないが、一部の国は条約など存在しないかのような振る舞いをする」と指摘し、ロシアのINF条約違反を批判した。

 同氏はその上で、「全ての国が同意する新条約ができたとしても、他国が条約を守らない一方で米国の行動が制限され、不利な立場に陥るようなことがあってはならない」と強調した。

 一方、トランプ政権高官は1日の電話記者会見で、米国が条約破棄を2日に通告し、6カ月後に失効するまでの期間が「ロシアが条約を順守する唯一にして最後のチャンスだ」と訴えた。ただ、これまでにロシアは条約を順守する意向を示していないとしている。

 同高官はまた、2021年2月に期限を迎える米露の新戦略兵器削減条約(新START)の延長の是非について、関係省庁が検討を始めたことを明らかにした。新STARTは、米露が合意すれば5年間の延長が可能となる。

【私の論評】今回のINF破棄は、日本の安保にも関わる重要な決断(゚д゚)!

トランプ大統領の決定は単なる無謀な核軍拡競争につながり、日本、そして世界にとって迷惑なものなのでしょうか。 

この認識は、はっきりいって間違いです。なぜなら、ソ連時代は極東になかった中距離核ミサイルが、今では北朝鮮と中国に100基以上も存在するようになっているからです。

東アジアの核戦力配置図 クリックすると拡大します

1987年の合意以降、米ソ双方は中距離核ミサイルをかなり撤廃しました。ところがその後、周辺諸国の各配備によりロシアが割を食うことが増えたのです。そして今では日米にとっても、「中国の中距離核ミサイル」という新たな要因が登場しているます。

双方とも相手を表向きは「お前こそ条約に違反して中距離核ミサイルを開発しているではないか」と非難していますが、1987年の合意見直しは、今や米ロ双方にとって必要になったのです。

1987年の合意後、ロシア周辺の諸国が中距離核ミサイルの開発・配備を始めたのです。それは、中国、イラン、北朝鮮による、米国を狙う長距離核ミサイル開発の途上の成果でもあったし、パキスタン、インド(そしておそらくイスラエルのもの)等紛争を抱える隣国を狙ったものでもありました。これは、直接ロシアを狙ったものではありませんが、ロシアにとって脅威になったのはいうまでもありません。

ロシアはこれらの国と紛争になった場合、米国向けの長距離核ミサイルICBMを使うわけにはいかないです。と言うのは、これが発射された瞬間、上空の米国の衛星が探知して、米国はこれを米国向けのものと誤認、対応した行動をとってくるからです。

こうしてロシアは、中国やイランの核ミサイルに対して抑止手段を持たない状況に陥ったのです。中ロは準同盟国同士と言っても、互いに信用はしていません。今でもロシア軍は、極東・シベリア方面での演習では、「国境を越えて押し寄せる大軍」に対して戦術核兵器(小型で都市は破壊できないが、大軍を一度に無力化できる)を使用するシナリオを使っています。

これに加えてブッシュ政権のチェイニー副大統領は、東欧諸国に「イランのミサイルを撃ち落とすため」と称して、ミサイル防御ミサイル(MD)の配備を始める構えを見せました。

これは防御と言いながら、実質的にはかつて廃棄したパーシング2ミサイルの技術を使ったミサイルで、容易にロシアを標的とした中距離核ミサイルとなり得るとロシアは判断したようです。

カリーブルを発射したロシアの駆逐艦

「ロシアが秘密裏にINF開発のための実験をしている」と米国が言い始めたのはこの頃、つまり2000年代初頭のことです。ロシアはそれを否定しつつ、実は開発にはげみ、その成果は中距離巡航ミサイル「カリーブル」等として実りました。

カリーブルは2017年12月、ボルガ河口のロシア軍艦から発射され(1987年のINF全廃条約は「陸上」配備のものしか規制していません。水上から撃てば違反ではない、という理屈)、みごとはるか遠くのシリアに着弾したとされています。

今やロシアは中距離核ミサイルを再び手に入れて、これを極東に配備すれば中国、北朝鮮、韓国、グアム、日本を射程に収めることができるようになったのです。

米オバマ前大統領は国防支出を削減、特に核兵器の近代化を止めました。その間、ロシアは、中距離核兵器だけでなく、長距離核戦力を制限する新START条約の枠内ではありましたが、長距離ICBM、潜水艦発射の長距離SLBMの近代化を着々と進めました。経済力のないロシア(GDPは韓国と同程度)は、核戦力でしか米国との同等性を確保できないからです。

だからトランプは大統領に就任早々、核軍備充実を公約のようにして言及し続けてきました。今回のINF全廃条約脱退は、ボルトン大統領安全保障問題補佐官等、かつてのチェイニー副大統領のラインを受け継ぐ超保守派の進言によるものとも言われています。

しかし、これはトランプ自身の信念を反映していると見られ、たとえこの先ボルトンが更迭されても政策の大元は揺るがないでしょう。

すると、米国の新型中距離核ミサイルはまたドイツ等西欧諸国に配備されることになり、轟然たる反米、反核運動を引き起こすのでしょうか。 

おそらくそうはならないでしょう。と言うのは、中距離の核弾頭つき巡航ミサイルや弾道ミサイルは冷戦時代に米国がそうしていたように、西側原潜に搭載して、北極海に潜航させておけば、ロシアを牽制することができるからです。

だからこそ、昨年10月27年ぶりに、米軍空母が北極海で演習し、力をロシアに誇示したのでしょう。これまでも長距離核ミサイルを搭載した原潜の潜航海域を確保することは、米国、ソ連・ロシア、そして中国(南シナ海がその海域にあたる)にとって重要な問題でしたが、今度は中距離核ミサイル搭載原潜の潜航海域を確保することが必要になっているのです。

昨年北極海で演習した米空母ハリー・S・トルーマン

冷戦時代には、ソ連のINFが極東に配備されなかったことで、ソ連の核の脅威は日本には直接及びことはありませんでした。

しかし現在の最大の問題は、北朝鮮の核は言うに及ばず、中国保有の中距離核ミサイルです。

後者は100発を越えるものと推定されていて、中国軍による台湾武力統合などの有事には、日本が米軍を支援するのを止めるため、中国は中距離核ミサイルで日本の戦略拠点、米軍、自衛隊の基地を狙うことでしょう。

こういう時に、「お前が撃つなら、俺も撃つぞ」と言って中国を思いとどまらせることのできる抑止用の核兵器は、今、西太平洋の米軍にわずかしかありません。

かつてはトマホークという核弾頭つき巡航ミサイルが米国原潜等に配備されていたのだですが、これはブッシュ時代の決定でオバマ政権が廃棄してしまったままになっているのです。

これでは、日本は有事に米国との同盟義務を果たすことはできず、米国は日本を見捨てて裸のままに放置することになるでしょう。中国は日本に中立の地位を認めることなく、政治・経済・軍事、あらゆる面で服属を求めてくるでしょう。

そうなると、日本も核抑止力を強化せざるを得ないです。しかし、日本本土に米国の中距離核ミサイルを配備することは、ドイツ以上に難しいです。それに陸上に核ミサイルを配備することは、敵の先制・報復攻撃を容易にして、危険です。

いま米国が開発しようとしている、トマホーク巡航ミサイル新型は海中の潜水艦、あるいはグアムの爆撃機や戦闘機に装備するのが妥当です。

しかし、米国は日本に開発の費用分担を求めてくるでしょう。それは当然のことです。このままでは日本は、中国の属国になってしまう可能性もあります。

しかし日本を守ることは、米国の利益にもなります。在日の米軍基地は、米軍が西太平洋、そしてインド洋方面に展開するに当たって、不可欠の補修・兵站基地となっていますし、日本や西欧等の同盟国が、中国やロシアの中距離核ミサイルに脅されて次々に同盟関係から「脱退」したら、米国は本当の裸の王様になってしまうからです。日本は費用を分担するが、何か見返りに米国から獲得しておくべきでしょう。

ドイツには、昔から米国が置いている「戦術」核弾頭が今でも数十発あるが、これはDual Keyと言って、実戦に使用する時にはドイツ、米国両国政府の合意が必要になっています。ドイツ政府も、これの使用を積極的に米国に発議できるようになっているのです。そして米政府はドイツ政府の了解なしには、これを使用できないです。日本もこのような権利を得るべきです。

そして将来的には、日本も核兵器を開発する可能性の余地を残すのです。その「可能性」自体が抑止力になります。インドが、核ミサイルを保有していながら米国と原子力協力協定を結んでいることを念頭に置くべきです。

なお、中ロ両国周辺の海域は、米国原潜からの中距離核ミサイル発射拠点として、中ロ両国にとって戦略的意味を増していくことになるでしょう。米空母が北極海でわざわざ演習するのは、そういう意味を持っているのです。

長距離の戦略核兵器については、米ロ双方とも増強・近代化というトレンドは中距離核戦力と同じですが、こちらの方は別の条約が機能しており、長距離とは別の問題となります。2021年には失効するので、更新が必要となります。

いずれにしても、今回のロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄は、トランプがやみくもに核増強に突っ走ろうとしている等という単純な話ではないのです。

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2019年2月1日金曜日

トランプ氏「大きく進展」 米中貿易協議、首脳会談調整へ―【私の論評】「灰色のサイ」がいつ暴れだしてもおかしくない中国(゚д゚)!

トランプ氏「大きく進展」 米中貿易協議、首脳会談調整へ

1月31日、ホワイトハウスで劉鶴副首相(左端)と面会するトランプ大統領

 米国と中国の両政府による閣僚級貿易協議が1月31日、2日間の日程を終えた。トランプ米大統領は同日、中国代表団を率いる劉鶴副首相と会談し、中国の知的財産権侵害問題などをめぐり、「極めて大きな進展があった」と協議成果を評価した。一方で「いくつかの重要な問題」を積み残したとして、妥結に向けて中国の習近平国家主席と会談する意向を表明した。

 トランプ氏は劉氏とホワイトハウスの大統領執務室で面会。中国側が表明した米国産大豆の大規模購入に

 具体的な米中首脳会談の日程や場所は、まだ中国と話し合っていないとした。

 米政府は協議終了後に声明を発表し、「議論が広範な論点に及んだ」と指摘。中国による技術移転の強要や市場開放のほか、米国産品の購入拡大による貿易不均衡の是正を話し合ったことを明らかにした。

 声明で米政府は「あらゆる合意事項は完全に順守されることで両当事者が一致した」とした。トランプ政権内には、通商問題をめぐる過去の米中合意が守られてこなかったとして、合意内容を強制執行する仕組みを最終合意に盛り込むよう要求する意見がある。

 一方、声明には「(昨年12月の)首脳会談で合意した3月1日は厳格な交渉期限だ」と明記。期限延長の可能性を否定した。最終合意までに「さらなる作業が残っている」とも述べた。

 ロイター通信によると、閣僚級協議の米側代表である通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は、中国側から2月中旬に米交渉団が訪中するよう招請を受けたと明らかにした。

 米中は昨年12月の首脳会談で90日間の協議期限を設定。米国は協議中の対中制裁強化を猶予するとした。ただし3月1日までの期限内に合意できない場合、米国は中国からの2千億ドル(約21兆8千億円)相当の輸入品に課した10%の制裁関税を25%に引き上げる。

【私の論評】「灰色のサイ」がいつ暴れだしてもおかしくない中国(゚д゚)!

閣僚級貿易協議に先立ち、米国のトランプ大統領は、3月1日が中国との通商協議の厳格な期限だと述べ、期限までに合意に達しない場合は中国製品への関税を引き上げるとの見解を明らかにし。ホワイトハウスが31日明らかにしました。

トランプ大統領

ホワイトハウスは、現在ワシントンで行われている米中通商協議について「トランプ大統領は、(12月の)ブエノスアイレスにおける両国首脳会談で合意した90日の猶予期間は厳格な期限であり、米中が3月1日までに満足できる結果に達しなければ、米国は中国製品への関税を引き上げると繰り返した」と述べました。

米国の景気は、昨年はまずまずというところで、特に雇用がさらに改善されました。2019年には、景気を良くしたいトランプ陣営の政策と、それを抑制するFRBの政策とのバランス、また、2020年8月の東京オリンピック後の日本の政策や2020年11月のアメリカ大統領選挙の動向によって今後の流れが定まって来るのでしょうが、今のところは小さなものはいくつかはあるものの、大きな懸念材料はありません。

習近平

一方、中国の習近平国家主席は1月21日、甚大な影響をもたらす想定外の事態を意味する「ブラックスワン(黒い白鳥)」に警戒するとともに、顕著であるにもかかわらず看過されているリスクを指す「灰色のサイ」を回避する必要があるとの認識を示しました。国営新華社通信が報じましたた。

中国は昨年の経済成長率が28年ぶりの低水準を記録するなど、景気の失速ぶりが目立っています。

習氏は、経済動向が妥当な範囲内に収まる見通しで、中小企業の金融問題を実利的に解決するほか、雇用の安定を目指し企業支援を強化すると述べました。また多額の負債を抱える「ゾンビ」企業の問題を適切に解消するとしました。

技術上の安全性は国家安全保障の重要部分であり、人工知能(AI)や遺伝子編集、自動運転車(AV)などの分野で法制化を加速すると表明。外部環境が困難かつ複雑となる中で、中国は海外の利益を護るとともに、海外事業やその職員らの安全確保を強化するとしています。

灰色のサイ

本日は中国の「灰色のサイ」について掲載します。

「灰色のサイ」という概念は、米国の学者ミシェル・ウッカー氏が2013年1月にダボス世界経済フォーラムで提起したものです。

『灰色のサイ:発生する確率の高い危機にどう対処するか』は、彼女の著作ですが、それによると、「ブラックスワン」は発生する確率は低いが大きな影響を与える事件のことであり、「灰色のサイ」とは発生する確率が高い上に影響も大きな潜在的リスクのことです。

予兆は目にしていたのに、防ぎきれない

灰色のサイはアフリカの草原で成長し、体が並外れて大きくて重く、反応も遅いです。我々が遠くから見ていても、サイは全く気に留めないです。

しかし、サイは一旦狂ったように走り出すと、一直線に猛突進し、その爆発的な攻撃力の前に、我々はあまりにも突如過ぎて防ぎきれず、吹き飛ばされて地面に転がってしまいます。

そのように、突如やって来る災厄、もしくはあまりにも小さすぎる問題に端を発している危険ではなく、多くの場合は長きにわたってその予兆を目にしてきたにもかかわらず、注意を払わなかっただけという例えなのです。

言い換えると、金融システムの崩壊のような「ブラックスワン」が突如として到来するのに対し、「灰色のサイ」は長きにわたって積み重なったものがようやく姿を現してくるというものです。

10年前も暴走した「灰色のサイ」

「灰色のサイ」は発生する確率の高いリスクであり、社会の各分野で相次いで登場している。多くの経済事件は、「ブラックスワン」というよりも「灰色のサイ」であり、爆発前にすでに前兆が見られているが、無視されてきた。

例えば、2007年から2008年までの金融危機は、一部の人々にとっては「ブラックスワン」的な事件ですが、大多数の人々にとってこの危機は数多くの「灰色のサイ」が集まった結果でした。早くから警告を示す兆候が見られていたのです。

国際通貨基金と国際決済銀行は危機が発生する前に、継続的に警告を発していました。 2008年1月、世界経済フォーラムはリスク報告で、予想されている不動産市場の衰退、流動性資金の緊縮、そして高止まりしているガソリン価格など、どれも実際に発生して経済崩壊のリスクを押し上げていると指摘していました。

現在、不平等という問題も一種の「灰色のサイ」かもしれないです。この問題も、もはや今に始まったことではないですが、これまでずっと重視されてきませんでした。

金融危機勃発後から今日に至るまで、世界経済でも特に先進経済地域の蘇生は力のない状態のままであり、中流及び貧困層の生活は悪化の一途をたどり、貧富の差は拡大しています。最終的に一連の「ブラックスワン」事件を招く要因の一つになるかもしれないです。

中国人民大学・重陽金融研究院の高級研究員である何帆氏は、「未来経済学において最も重要な問題は収入の不平等であり、この問題は世界経済の頭上にある『ダモクレスの剣』である」と指摘しています。

最大の「サイ」は不動産バブル

現在の中国経済において「灰色のサイ」は何なのでしょうか。

中国金融改革研究院の劉勝軍院長は、不動産バブルこそ疑問の余地なく最大の「灰色のサイ」だと表明しました。「一方では中国の住宅価格のバブル化に関してもはや議論はされていないが、他方では住宅価格の調整や管理がかつてないほど効力が失われており、多くの人々が『住宅価格は二度と下がらない』という錯覚に陥っている」と彼は語りました。

2頭目の「灰色のサイ」は通貨、人民元の切り下げです。切り下げによる資金の流出は1997年のアジア金融危機のような大きな動揺を引き起こすことになるでしょう。過去数年、中国内資産価格の高止まりや経済成長の減速、経済モデルチェンジの不確実性などの要素の影響で人民元の切り下げ予想が形成され、外貨準備高が4兆ドルから3兆ドルに減少するという事態を招きました。

最近の外貨準備高はやや安定しているとはいえ、それは主に為替管理を強化した結果であり、人民元切り下げの予想はまだ完全に払拭されていません。

3頭目の「灰色のサイ」は、銀行の不良資産の増加です。現在、政府側が公表した銀行の不良資産率は2%前後で、これは非常に良い数字です。しかし、株式市場の銀行株の株価から見ると、不良率は明らかに低く見積もられています。

多くの銀行株の実勢利回りのPE値(株式の時価と純利益の比)は5倍前後で、今のところA株式市場の株価収益率の中央値の60倍以上。銀行株のP/B値(一株当たりの株価と一株当たりの純資産の比率)は2倍以下です。これは、株価がすでに一株当たりの純資産を下回っていることを意味しています。

米国に似てきた住宅ローン事情

最大の「灰色のサイ」と見なされている不動産バブルについて、天風証券マクロ分析チームは米国の金融危機を鑑に、中国の住宅価格における「セーフティクッションの厚さ」を分析しました。

米国の家庭での住宅ローン支出の平均と世帯収入の比率は、2000年以降急速に上昇し、2000年の時点でこの指標は65%でしたが、2006年にはすでに99%に達しており、住宅ローンによる圧力の限界に限りなく近づいていました。

世帯収入の全てを住宅ローン支出につぎ込むならば、家計が崩壊するのは時間の問題です。2007年に米国の家庭での住宅ローン支出の平均と世帯収入の比率は101%に達し、極限点を超えると同時に危機が発生しまし。

中国の家庭の住宅ローン支出と世帯収入の比率は、2006年から2016年までに33%から67%に上昇しまし。2013年から2016年までの間に、不動産価格も大幅に上昇しました。その様相は、2001年から2004年にかけて、米国の国民が積極的にレバレッジをかけた過程と似ています。

世帯における債務という観点から見れば、2016年の中国は2004年の米国にかなり似ています。2016年下半期に中国は通貨政策の緊縮と住宅購入制限政策を打ち出したのに伴い、中国の世帯においても能動的なレバレッジから受動的なレバレッジに変わりつつありますが、住宅ローン支出と世帯収入の比率は、その後も上昇を続けています。

これについては、以前このブログにも掲載しましたが、中国の蘇寧金融研究院は昨年、家計債務の増加ペースが非常に速いとの見解を示しました。過去10年間において、部門別債務比率をみると、家計等の債務比率は20%から50%以上に膨張しました。一方、米国では、同20%から50%に拡大するまで40年かかりました。

今や中国の家計の債務費比率は、リーマンショック時の米国と同水準になっているのです。
天風証券は、「これは良い兆候ではなく、中国の『灰色のサイ』が動き出したのかもしれない」と見ています。まさらにいつサイが暴走しないとも言い切れない状態になっています。

米国に経済制裁を挑まれている現在、「灰色のサイ」が暴れまくることになれば、習近平はさらに苦しい対応を迫られることになります。

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