北京市内にある無印商品の店舗 |
中国による新疆ウイグル自治区の人権侵害を欧米企業が非難する姿勢をみせ、中国国内では不買運動が広がるなどの騒動になっている。中国に進出している日本企業も無関係ではない。人権かビジネスかで対応に混乱もみられる。
H&Mやナイキ、アディダスなど欧米企業がウイグルの人権侵害を非難する声明を出したところ、中国共産党・政府系メディアらが一斉に批判し、中国国内で不買運動が拡散した。H&Mは通販サイトの商品検索を停止され、ナイキはモデルを務めるタレントが契約を打ち切った。
日本企業では、「無印良品」を展開する良品計画は、中国共産党の機関紙、人民日報系の環球時報に対し、一部製品に使用されている「新疆綿」の使用を継続すると説明したと報じられた。同社の中国版ネットショッピングサイトを確認したところ、4月2日現在、「新疆綿」と記載された製品が販売されている。
同社広報・ESG推進部広報課は、「無印良品を展開する良品計画は、強制労働等いかなる形態の人権侵害も許容せず、国連の『ビジネスと人権に関する指導原則』をはじめとする国際規範に則って人権の尊重に努めています」とコメント。
新疆綿を使った製品が日本国内で販売されているかという質問には「全ての綿花および糸は、国際労働機関(ILO)が定める強制労働禁止を含む労働基準の遵守を条件とするオーガニック国際認証を取得したもの」とし、現時点で「重大な問題点は確認できていない」と回答した。
スポーツ用品大手のアシックスの中国法人は、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」の公式アカウントで、今後も新疆ウイグル自治区産の綿花を購入することを発表したが、その後、投稿は削除された。同社は、「中国法人のアカウントは、商品やサービスについて発信することが目的であるため、弊社が承認したものではない」と削除した理由を説明した。
一方、新疆ウイグル自治区に関する製品を使用しているかという点については「弊社のCSR(企業の社会的責任)の方針に基づき、材料の調達ポリシーに合致していると確認している。材料選定のガイドラインに基づいて配慮された材料調達を行うようサプライヤーに指導を強化している」と回答した。
いずれも旗幟(きし)鮮明とまではいかないようだ。
ファッションジャーナリストの南充浩氏は、「中国市場はそもそも、現地でライバル企業との競争が激しい。企業にとっては人権問題についてどれだけ信念があったとしても、売上高に占める中国のウエートが態度を左右することになるだろう」と指摘した。
26日の日本株市場で、良品計画株は一時前日比6.8%安の2494円まで売り込まれ、下落率は昨年7月10日以来の大きさとなりました。
良品計画株式会社の株価の推移(一ヶ月) |
良品計画は25日、ブルームバーグの取材に対し、中国・新疆ウイグル自治区の強制労働および少数民族差別に関する各種報告書や報道を注視しており、深い懸念を抱いていると表明しました。
新疆綿については「当社の行動規範に沿って生産した商品を販売している」と書面で回答。その上で、「製造委託先工場が強制労働など深刻な人権侵害に加担していると判明し、良品計画が影響力を行使しても是正が期待できない場合には取引関係の解消も選択肢として検討する」とした。
ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリストのキャサリン・リム氏は、良品計画が懸念を表明したことでH&Mと同様の位置づけに置かれる可能性があると指摘し、不買運動の対象になり得るとの見方を示した。
中国では、H&Мの商品が24日夕時点でアリババグループの通販サイト「淘宝(タオバオ)」において購入できなくなりました。25日のストックホルム市場でH&M株は一時4.6%安と続落しました。対照的に、中国本土のブランドで「新疆綿」の支持を表明したスポーツウェアブランドの李寧(LI-NING)の株価は26日の取引で一時9%高と続伸しました。
ジェフリーズ証券の25日付のリポートによると、中国のスポーツウエアセクターは株の売買のボラティリティが顕著に上昇したといいます。
岩井コスモ証券投資調査部の有沢正一部長は、良品計画株について会社側、経営側が何か踏み込んだことをしなければ、売りはきょうで収まる可能性があると分析。「結局中国の動きをみるしかない」と述べました。26日午後時点で、タオバオのサイト上では無印良品の「新疆綿」関連製品が購入できる状態にあります。
このほか、ファーストリテイリングも不買運動の対象になる懸念が出ています。中国共産主義青年団北京市委員会の機関紙、北京青年報は微博(ウェイボ)公式ページ上に掲載した25日付の記事で、ナイキやギャップなど他のブランドと並んでファストリ傘下の「ユニクロ」ブランドについても名指しで批判していました。
ウイグル人の小さな子どもが綿摘みをしている動画より |
無印をはじめとする「新疆綿」を使い続ける企業は、米国のセカンダリーボイコットの対象になることを恐れていないのでしょうか。
セカンダリーボイコットとはたとえば、中国等の ボイコットの相手方に対する不買・拒否・排斥運動などを、第三者に呼びかけ、行わせることで、相手方に圧力や打撃を加えることです。
米国が明らかにしているセカンダリーボイコットの内容は大きく3つあります。まず制裁対象国(中国など)と金融取引をする第3国のいかなる金融機関も米国金融網への接近が遮断される可能性があります。
また相当な水準の商品やサービス、技術を取引した個人や機関も制裁対象となります。対象国(中国など)と取引するだけで制裁が可能な史上最高レベルです。
米国の金融網への接近が遮断されるということは、何を意味するのかといえば、国債決済ができなくなり、貿易もができなくなるということです。
米国はすでにセカンダリーボイコットを発動したことがあります。
昨年8月中国の通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に対する新たな規制を、アメリカが発表しました。また、米国は既存の規制に関しても強化しており、ファーウェイの存続に危険信号が灯りはじめました。
昨年5月、アメリカはファーウェイが設計に関与し、製造に米国の技術が使用される半導体の輸出禁止を発表しましたが、その禁輸の対象を米国の技術が関与するすべての半導体に拡大したのです。
これにより、ファーウェイは半導体生産に関する新たな発注ができなくなりました。内製化したいのはやまやまでしょうが、中芯国際集成電路製造(SMIC)に対するオランダ・ASMLの半導体製造装置の輸出が規制されており、2~3世代前の技術しか使うことができないのです。そのため、小型化が必要なSoC(複合CPU)をつくれず、スマートフォン事業の展開ができなくなったのです。
ファーウェイは子会社であるハイシリコンのSoC・Kirinを製造できなくなったため、クアルコムなどのSoCを利用してスマホをつくろうとしていました。しかし、今後はクアルコムのSoCをファーウェイに販売した企業や台湾積体電路製造(TSMC)なども制裁対象になってしまうことになったのです。また、ファーウェイがサーバー用にインテルなど他社のCPUやチップを購入した場合も同様に、川上から川下まですべてが制裁対象になってしまうことになりました。
この状況では、汎用品を含むすべての半導体製品をファーウェイに売ることはできなりました。唯一例外があるとすれば、米国原産の技術をまったく使っていない製品や半導体ということになりますが、それをつくるのは不可能です。
また、中国企業などでファーウェイに半導体やサーバーを不正に販売する企業も出てくると思われますが、関与した企業はセカンダリーボイコット(二次的制裁)の対象になることになったのです。さらに、不正な製品や技術を利用してつくられたモノやサービスを販売、輸出できるのかという問題も出てくるわけです。
また、米国は事実上の禁輸リストである「エンティティー・リスト」にファーウェイの関連会社38社を追加しました。さらに、8月13日が期限となっていた禁輸の例外措置も打ち切ることを発表しており、以降ファーウェイのスマホや携帯電話の保守にかかわる取引も禁止されました。
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