2021年9月9日木曜日

かつてテロ組織が無視していた中国が、いまやアメリカに変わる攻撃対象に―【私の論評】中国がアフガンで英国、旧ソ連、米国と同様の失敗を繰り返すのは時間の問題(゚д゚)!

かつてテロ組織が無視していた中国が、いまやアメリカに変わる攻撃対象に


<中国人を標的にした襲撃が相次いでいる。大国の地位と新植民地主義への反発以外にも、テロ組織には中国を狙う別の目的が>

2018年11月にはパキスタン最大の都市カラチにある中国総領事館が襲撃を受けた


スーパーヒーローの責任はスーパーに重い。かの「スパイダーマン」はそう言っていた。そのとおり。だがスーパー大国には、スーパーな敵意や憎悪も向けられる。

  アメリカ人なら痛いほど知っているこの教訓を、今度は中国が学ぶ番だ。数年前から、パキスタンでは中国人や中国の権益が絡む施設に対するテロ攻撃が繰り返されている。パキスタン・タリバン運動(TTP)のようなイスラム過激派や、バルチスタン州やシンド州の分離独立派の犯行とみられる。

 この8月20日にも、バルチスタン解放軍(BLA)が南西部グワダルで中国人の乗る車両を攻撃する事件が起きた。BLAは2018年11月に最大都市カラチの中国総領事館を襲撃したことで知られる。

中国が今後、世界中で直面するであろう現実の縮図。それが今のパキスタンだ。中国が国際社会での存在感を増せば増すほど、テロ組織の標的となりやすい。中国がアフガニスタンのタリバンに急接近しているのも、あの国が再びテロの温床となるのを防ぎたいからだろう。しかし歴史を振り返れば、中国の思惑どおりにいく保証はない。

2001年9月11日のアメリカ本土同時多発テロ以前にも、中国は当時のタリバン政権と協議し、アフガニスタンに潜むウイグル系の反体制グループへの対処を求めたが、タリバン側が何らかの手を打った形跡はない。 

中国政府が最近タリバンと結んだとされる新たな合意の内容は不明だが、イスラム教徒のウイグル人をタリバンが摘発するとは考えにくい。むしろ、この地域における中国の権益の保護を求めた可能性が高い。

■中国人労働者はイスラム法を守るか

首都カブールだけでなく、今のアフガニスタンには大勢の中国人労働者や商人がいる。しかし彼らが厳格なイスラム法(シャリーア)を理解し、順守するとは思えない。その場合、タリバンは中国人の命を守ってくれるだろうか。今や超大国となった中国を敵視するテロリストの脅威を封じてくれるだろうか。 

グワダルでの8月20日の襲撃の前月にも、カイバル・パクトゥンクワ州のダス水力発電所で中国人技術者9人が襲撃され、死亡する事件が起きている。直後にはカラチで中国人2人が別のバルチスタン分離独立派に銃撃された。

 3月にはシンド州の分離主義組織に中国人1人が銃撃されて負傷。昨年12月にも同様の事件が2件起きている。さらに今年4月には、バルチスタン州で駐パキスタン中国大使がTTPに襲撃され、間一髪で難を逃れる事件も起きた。

■大国化したことで目立つ存在に

こうした襲撃で犯行声明を出す集団の主張は多岐にわたり、この地域で中国の置かれた立場の複雑さを浮き彫りにしている。

 一連の攻撃で最も衝撃的だったのはダスでの襲撃事件だ。中国筋は、攻撃したのはTTPの協力を得た東トルキスタンイスラム運動(ETIM)との見方を示している。 

ETIMの実体は定かでないが、トルキスタンイスラム党(TIP)を自称する組織と重なっていると推定される。パキスタンと中国はインドを非難する声明も出したが、これは毎度のこと。パキスタンで何かが起きれば必ずインドが悪者にされる。

 中国政府はアフガニスタンのタリバンにもクギを刺したようだ。7月に中国を訪問したタリバン幹部に対し、王毅(ワン・イー)国務委員兼外相はETIM/TIPと完全に手を切り、「中国の国家安全保障に対する直接的な脅威」である同組織に対処するよう求めている。

 中国側は詳細を明らかにしていないが、アフガニスタンでタリバンが政権を握る事態を想定し、タリバン政権承認の交換条件としてテロリスト排除を求めたとみられる。

 中国政府は、タリバン政権成立後にアフガニスタンの国内情勢が不安定化し、その隙を突いてETIMが台頭することを強く懸念している。その脅威は国境を接する新疆ウイグル自治区に直結するからだ。タリバン側はETIMの脅威を抑制すると中国側に約束したようだが、中国政府がその言葉をどこまで信用しているかは分からない。

 いずれにせよ、パキスタンで中国人や中国の投資案件を狙ったテロが急増している事態は、米軍のアフガニスタン撤退を背景に、あの地域で中国を敵視する武装勢力が勢いづいてきた証拠だ。 

中国としては、タリバン新政権と良好な関係を築くことにより、テロの脅威を少しでも減らしたいところだ。しかし問題の根は深く、とてもタリバン指導部の手には負えないだろう。

 かつてのイスラム過激派は中国の存在を大して意識していなかった。あの国際テロ組織「アルカイダ」の創設者ウサマ・ビンラディンでさえ9.11テロ以前の段階では、アメリカに対する敵意という共通項を持つ中国は自分たちにとって戦略的な同盟国になり得ると発言していた。当時はまだ、中国も途上国の仲間とみられていた。

 だが今の中国は世界第2位の経済大国で、アフガニスタン周辺地域で最も目立つ存在になりつつある。当然、中国に対する認識は変わり、緊張も高まる。 それが最も顕著に見られるのがパキスタンだ。中国とパキスタンは友好関係にあり、戦略的なパートナーでもあるが、パキスタンで発生する中国人に対するテロ攻撃は、どの国よりも突出して多い。

■高まるウイグルへの注目

状況は今後、もっと深刻になるだろう。アフガニスタンからのテロ輸出を防いでいた米軍が撤退した以上、中国は自力で自国民の命と自国の利権を守らねばならない。 

中国は従来も、アフガニスタンの南北に位置するパキスタンやタジキスタンで、軍事基地の建設や兵力増強を支援してきた。タジキスタンには中国軍の基地も置いた。アフガニスタン北部のバダフシャン州でも政府軍の基地を建設したが、これはタリバンに乗っ取られたものと思われる。

 決して大規模な活動ではないが、全ては米軍の駐留下で行われた。米軍が治安を守り、武装勢力を抑止し、必要とあれば中国人を標的とする攻撃を防いでもきた。18年2月にはバダフシャン州で米軍が、タリバンやETIMのものとされる複数の軍事施設を攻撃している。

今後は、そうはいかない。イスラム過激派の怒りを一身に引き受けてきたアメリカはもういない。これからはイスラム過激派とも民族主義的な反政府勢力とも、直接に対峙しなければならない。 

パキスタンのシンド州やバルチスタン州で分離独立を目指す少数民族系の武装勢力は、中国を21世紀の「新植民地主義国」と見なしている。中央政府と組んで自分たちの資源を奪い、今でさえ悲惨な社会・経済状況をさらに悪化させている元凶、それが中国だと考えている。 

カラチでの中国人襲撃について名乗りを上げたバルチスタン解放戦線は犯行声明で、「中国は開発の名の下にパキスタンと結託し、われらの資源を奪い、われらを抹殺しようとしている」と糾弾した。

ジハード(聖戦)の旗を掲げるイスラム過激派は従来、アメリカと西欧諸国を主たる敵対勢力と見なしてきた。中国の存在は、あまり気にしていなかった。しかし新疆ウイグル自治区におけるウイグル人(基本的にイスラム教徒だ)に対する迫害が伝えられるにつれ、彼らの論調にも中国非難が増え始めた。

そうした論客の代表格が、例えばミャンマー系のイスラム法学者アブザル・アルブルミだ。

激烈にして巧みな説教者として知られるアルブルミは15年以降、米軍のアフガニスタン撤退後には中国が新たな植民地主義勢力として台頭すると警告してきた。支持者向けのある声明では「イスラム戦士よ、次なる敵は中国だ。あの国は日々、イスラム教徒と戦うための武器を開発している」と主張していた。

 別のビデオでも、「アフガニスタンではタリバンが勝利した......次なる標的は中国になる」と言い放っている。

■中国人の資産は格好のソフトターゲット

中国による少数民族弾圧を許すなというアルブルミの主張は、ミャンマーの仏教徒系軍事政権によるイスラム教徒(ロヒンギャ)弾圧などの事例と合わせ、アジア各地に潜むイスラム聖戦士の目を中国に向けさせている。 

もちろん、新疆ウイグル自治区におけるイスラム教徒弾圧の問題は以前から知られていた。しかし、特にイスラム過激派の目を引くことはなかった。目の前にいるアメリカという「悪魔」をたたくほうが先決だったからだ。 

その状況が今、どう変わったかは定かでない。しかしウイグル人の状況に対する注目度は確実に上がっている。イスラム聖戦派のウェブサイトでも、最近はウイグル人による抵抗の「大義」が頻繁に取り上げられている。 

当然、国境を接するパキスタン政府も神経をとがらせている。中国と友好的な関係にある同国のイムラン・カーン首相は、中国の政策を支持せざるを得ない。しかしパキスタン国内にいるイスラム過激派の思いは違う。 

彼らが中国の領土内に侵入し、そこでテロ攻撃を実行することは難しいだろう。だがパキスタン国内では、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)と呼ばれる大規模な道路建設事業が進んでいる。中国政府の掲げる「一帯一路」構想の一環だが、これはテロリストの格好の標的となる。

 CPECは中国の新疆ウイグル自治区からパキスタン南西部のグワダル港を結ぶものだが、ほかにも中国主導の大規模インフラ建設計画はある。当然、パキスタンにやって来る中国人のビジネスマンも増える。テロリストから見れば、願ってもないチャンスだ。

パキスタンにいるテロ集団の思想は、必ずしも同じではない。だが敵はいる。今まではアメリカだったが、これからは中国だ。中国政府の好むと好まざるを問わず、パキスタン国内や周辺諸国で暮らす中国人や中国系の資産は、テロリストにとって格好のソフトターゲットになる。

 中国は本気で21世紀版のシルクロードを建設するつもりだ。そうなればパキスタンだけでなく、アフガニスタンを含む周辺諸国でも中国企業の存在感が増し、現地で働く人を対象にする中国系の商人も増える。そして、その全てがテロの対象となる。 

テロリストが目指すのは、自分の命と引き換えに自分の政治的なメッセージを拡散することだ。自爆という派手なパフォーマンスは、そのための手段。派手にやれば、それだけ新たな仲間も増えるし、資金も入ってくる。 

アメリカが尻尾を巻いて逃げ出した今、権力の空白を利用して利権の拡大を図る中国に、テロリストが目を向けるのは当然のことだ。世界で2番目のスーパーリッチな国となった以上、中国はそのスーパーな責任を引き受けるしかない。そこに含まれる壮絶なリスクも含めて。

【私の論評】中国がアフガンで英国、旧ソ連、米国と同様の失敗を繰り返すのは時間の問題(゚д゚)!

CNNは4日、「中国がタリバンに向け求愛しアフガン内のウイグル人が命の脅威を感じている」と伝えました。BBCによると、シルクロードを通じてアフガンにやってきた「中国難民」とその2世は2000人と推定されます。主に宗教迫害を避けてきたウイグル族とムスリム少数民族、そしてその子孫です。

中国の王毅外相(右)と、タリバン幹部のバラダル師=7月28日、中国天津市)


中国は自国西部新疆地域に集まって住むウイグル人を弾圧しています。中国にいるウイグル人は1200万人ほどですが、米国務省によるとこのうち最大200万人が中国の「再教育」拘禁施設に入った経験があったり、現在も閉じ込められています。

今年初めにBBCが伝えたところによると、元収監者は「施設で政治的洗脳、強制労働、拷問、深刻な性的虐待を経験または目撃した」と暴露しました。中国は「ウイグル収容所」と関連し、極端主義とテロリズムを根絶するために設計された「職業訓練センター」だとして人権侵害容疑を強く否定してきました。

CNNは「中国はこの数年間に海外のウイグル人を新疆に送還しようと努力していてタリバンと中国政府の密着がウイグル人の懸念をもたらしている」と伝えました。6月に発表されたウイグル人権プロジェクト報告書によると、1997年以降に各国からウイグル人が中国に送還された事例は少なくとも395件に達するといいます。

BBCもアフガン内ウイグル人の恐れは根拠がないものではないと伝えました。マザリシャリフに住むあるウイグル人家族の家長は「私たちの身分証にはウイグル人と明確に記載されている」として10日にわたり家にとどまっている理由を説明しました。アフガン内ウイグル人の多くは数十年前に親が中国を離れた移民第2世代ですが、身分証には依然として「ウイグル」または「中国難民」と書かれているといいます。

日本のテレビに中国による弾圧を証言するウイグル人女性

政治的に大きな代償を払うことを覚悟してでもアフガニスタンという長年の不良資産を「損切り」したのは、米国政府がインド太平洋地域に本格的に関与しようとする意思の表れです。米軍が長年アフガニスタンの治安を担ってきたことで、中国をはじめ近隣諸国はその恩恵に浴してきたのですが、その安全装置が突然なくなってしまったのです。

アフガニスタンの隣国である中国にとって、将来の戦略的利益よりも、タリバンの突然の復権による安全保障上の課題のほうがはるかに大きいのではないでしょうか。

中国国内の世論は当初「米国の敗走」を嘲笑するムードが支配していましたが、その後「タリバン警戒論」が噴出し始めています。中国政府は7月28日、タリバンのナンバー2であるバラダル氏を招き、その関係の良好さをアピールしていますが、アフガニスタンに潜在する東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)を名乗る武装グループの動向に神経を尖らせていることは間違いないです。

国内の弾圧を逃れてタリバンの下にやってきた中国新疆ウイグル自治区の若者の数は約3500人、内戦が続くシリアなどでも実戦経験を磨いているといわれています。米国政府は2002年にETIMをテロ組織に指定しましたが、昨年その指定を解除しています。

ETIMのメンバーがアフガニスタンとの国境をくぐり抜けて国内でテロを行うことを恐れる中国政府は、タリバンから「ETIMとの関係を絶ち、同勢力が新疆ウイグル自治区に戻ることを阻止する」との言質を取っていますが、タリバンがその約束を守ることができるとは思えません。

タリバンは当初強硬姿勢を控え、より穏健なイメージの構築に努めていましたが、徐々にその本性をあらわし始めています。タリバンにとって誤算だったのは、アフガニスタン政府の約90億ドルの外貨準備を手に入れることができなかったことです。同国の外貨準備の大半は海外の口座に預託されており、タリバンがアクセスできるのは全体の0.2パーセント以下にすぎないといいます。

勝利に貢献した兵士への恩賞に事欠くばかりか、政府が銀行に十分なドルを供給できないことから、通貨アフガニが急落、食品価格などが高騰する事態になりつつあります。資金不足のなかでタリバン兵が、麻薬の原料であるケシの栽培に走り、住民への略奪や暴行を本格化させれば、再び国際社会から見放されてしまうでしょう。

そもそもアフガニスタンには近代的な意味での「国」が成立する政治風土がありません。戦国時代の日本のように諸勢力が分立する状態にあり、外部から強力に支援して中央政府をつくったとしても国全体を統治できないことは米国の20年に及ぶ統治が教えてくれています。

「テロリストにとって反米というスローガンはもはや時代後れである」との指摘もあります。アラブ首長国連邦(UAE)などのアラブ諸国とイスラエルとの間で国交が樹立した現在、「反米」はアラブの富豪からテロ活動資金を引き出せる「錦の御旗」ではなくなっています。

かつてのようにタリバンがアフガニスタンを制圧したからといって、ただちにテロリストが米国に押し寄せるわけではないのです。

面子を捨て実をとるであろう米国がタリバンと秘密裏に和解するようなことになれば、アフガニスタンに潜在するテロリストを恐れなければならないのは中国
ということになります。

タリバンの首脳部は中国の意向に従うそぶりを示していますが、中国で生活するウイグル人たちへの圧政を看過すれば、イスラム原理主義を標榜する存在意義があやうくなります。イスラム教の教義には、イスラム教の教えを世界に広めよというものがあります。世界と無論中国も含んでいます。

そうして、烏合の衆であるタリバンの中央の指令が末端まで徹底されるという保証もありません。

ETIMの旗

米ホワイトハウスは17日、アフガニスタン政府に支援した武器などの相当数がタリバンの手に渡ったことを認めました。カネに困ったタリバン兵が最新鋭の米国製兵器をETIMのメンバーに横流しすれば、中国にとって最凶のテロリストが誕生することになるでしょう。

中国人民解放軍は18日から、タジキスタン領内で同国軍と共にアフガニスタンからのテロリスト潜入を防ぐための軍事演習を開始しました。タジキスタンにはロシア軍が駐留しており、中国の軍隊が同国内で演習を行うのは極めて異例のことです。中国が「混乱の矢面に立たされている」という危機意識を持っていることの証左でしょう。

「サイゴン陥落は米国時代の終わり」と嘯いていた旧ソ連でしたが、15年後に崩壊したのは自らでした。「『大国の墓場』であるアフガニスタンに派兵しない」とする中国ですが、中国が新疆ウイグル自治区において、ウイグル人への弾圧をやめない限り、英国、旧ソ連、米国と同様の失敗を繰り返すのは時間の問題でしょう。


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2021年9月8日水曜日

中国によるアフガン進出を左右するパキスタン情勢―【私の論評】米軍のアフガン撤退は、米国の東アジアへの関与を強めることになり、日本は大歓迎すべき(゚д゚)!

中国によるアフガン進出を左右するパキスタン情勢

岡崎研究所

 8月30日(日本時間31日)、米中央軍のマッケンジー司令官は、米軍のアフガニスタンからの撤退が完了した旨を述べた。2001年9月11日の米国同時多発テロをきっかけに、アフガニスタンに介入した米軍及びNATO諸国軍だったが、20年にわたる軍事行動や民主化運動が正式に幕を閉じることになった。

 8月15日のタリバンによるカブール陥落前後から、米軍始めNATO諸国は、自国民及び協力アフガン人を退避させる行動をしてきたが、その間も、カブールが混乱状況にあったのみならず、26日にはカブール国際空港周辺で大規模な自爆テロが発生した。「IS-K」と名乗るISの一派が犯行声明を出した。

 今後、タリバン政権が支配するアフガニスタンは再びテロの温床になってしまうのだろうか。


 この8月の国連安全保障理事会では、今年4月からの間にタリバン、アルカイダやISILなど20のグループによってアフガニスタンの34の内31の地区で計5500回にわたる攻撃が行われていたことが報告された。

 今年初めの米国議会では、バーンズCIA長官が、現在はアルカイダやISILは米国本土を攻撃する力はないが、米軍が撤退すると、情報を収集し、必要な対応策をとるのが難しくなるのは事実であると警告した。今後、いかに正確な情報を早く収集し、危険を察知した場合にいかに早急に行動を起こせるかの体制をどのように築けるかが課題となる。トランプの合意、バイデンの撤退は、この体制を築くのをより困難にしたかもしれない。

 アフガニスタンは、6か国(中国、イラン、パキスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)と国境を接している。既に、タリバンに積極的にアプローチしている中国は、米軍撤退後、アフガニスタンにさらなる影響力を行使するのだろうか。

 米軍のアフガニスタンからの撤退は、中国対策に集中するためという目的もある。しかし、中東でも米軍の縮小が中国の存在感を増しているように、アフガニスタンからの米軍撤退が逆にアフガニスタンから中東にいたるまで中国が勢力を伸ばす結果になることも懸念されている。

 中国は米軍の存在がアフガニスタンにもたらしていた一定の治安を利用し、着々と投資機会を探り、タリバンとの関係を築いてきた。すでに石油や天然ガス開発に投資してきたが、米軍撤退後は経済支援の代償にリチウムやコバルトなど産業資源の開拓権利を狙っている。

 また、アフガニスタンは、中国が主導する「一帯一路構想(BRI)」で、中央アジアから中東、欧州を結ぶ要所である。BRI最大のプロジェクトである中国・パキスタン経済回路とカブールをつなぐ道路建設計画もあり、資源開発やインフラ整備が実現すれば中国の覇権の動脈となるBRIは大きく前進する。

 中国が米軍撤退の恩恵をうけるかは、ウイグル分離派組織である東トルキスタン・イスラム運動が活性化するか、そしてアフガニスタンやパキスタン内の治安にかかっているといえる。

パキスタンの動きにも注視を

 アフガニスタンと南の国境を接するのがパキスタンである。2011年にウサマビン・ラディンは、パキスタンに隠れていたところを米軍の特殊部隊によって殺害された。かつて米国がテロ対策を「AFPAK政策」と呼び、アフガニスタンとパキスタンを重視したのは、両国がテロの温床にならないように安定した国家になってほしいとの願望からだった。

 実は、そのパキスタンは、アフガニスタン以上に将来の不安を抱えていると見ることも出来る。Chayesらアフガニスタンの専門家によれば、タリバンはそもそもパキスタンの軍と軍統合情報局(ISI)が作ったものである。

 ソ連のアフガニスタン撤退後、西側からの豊富な武器を持った部族間の衝突が続きアフガニスタンは内戦状態だった。パキスタンはパシュトゥンの中でもイスラム原理主義者を支援し、アフガニスタンの内戦、特に国境沿いを鎮静化することで、パキスタン軍がカシミールでのインドとの戦いに専念することが可能になると計算した。

 パキスタン政府や軍、ISIはこれまでアフガニスタン・タリバンとパキスタン・タリバンを分けるような発言をしてきたが、両者は同じコインの表裏であるとされ、米国のアフガニスタン撤退でタリバンがアフガニスタンで勢力を得れば、パキスタン・タリバンも勢いを復活させ、再び北西部を中心にパキスタン情勢をさらに不安定にする危険がある。

 米国がアフガニスタンから撤退した後、タリバンやイスラム組織が再びアメリカ国内でテロを起こす可能性はゼロとは言えない。しかし、アフガニスタンやイラクでの「永遠の戦争」を忘れたく、新型コロナウイルスで精神的・経済的に疲弊し、分断が改善されないアメリカでは、首都ワシントン以外では、撤退騒動もアフガニスタンも比較的早く忘れられるかもしれない。それは、最近のバイデン政権への支持率低下の理由が、アフガニスタン撤退以上に、コロナや経済政策に向けられている点からもわかる。

【私の論評】米軍のアフガン撤退は、米国の東アジアへの関与を強めることになり、日本は大歓迎すべき(゚д゚)!

米軍によるアフガニスタン撤退に関しては、日本ではマイナス面ばかりが報道されていますが、本当にそれだけなのでしょうか。私自身はそうは、思いません。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します

米軍アフガン撤収 タリバン攻勢に歯止めを―【私の論評】米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直しつつある(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分を少し長いですが、以下に引用します。

ソ連のアフガニスタン侵攻に米国など西側諸国が反発し、70年代の緊張緩和(デタント)が終わって新冷戦といわれる対立に戻りました。これを機にソ連の権威が大きく揺らいで、ソ連崩壊の基点となりました。 

当時はソ連のアフガニスタン侵攻の理由は明確にはされず、諸説あったが、現在では次の2点とされています。

まず第一は、共産政権の維持のためです。アフガニスタンのアミン軍事政権が独裁化し、ソ連系の共産主義者排除を図ったことへの危機感をもちました。ソ連が直接介入に踏み切った口実は、1978年に締結した両国の善隣友好条約であり、またかつてチェコ事件(1968年)に介入したときに打ち出したブレジネフ=ドクトリン(制限主権論)でした。

第二位は、イスラーム民族運動の抑圧のためです。同年、隣国イランでイラン革命が勃発、イスラーム民族運動が活発になっており、イスラーム政権が成立すると、他のソ連邦内のイスラーム系諸民族にソ連からの離脱運動が強まる恐れがありました。

現在の中国も似たような状況に追い込まれることは、十分に考えられます。アフガニスタンのイスラーム過激派などに呼応して新疆ウイグル自治区の独立運動が起きる可能性もあります。

それに影響されて、チベット自治区、モンゴル自治区も独立運動が起きる可能性もあります。そうなると、中国はかつてのソ連や、米国のようにアフガニスタンに軍事介入をすることも予想されます。そうなれば、かつてのソ連や米国のように、中国の介入も泥沼化して、軍事的にも経済的にも衰退し、体制崩壊につながる可能性もあります。

意外と、トランプ氏はそのことを見越していたのかもしれません。米軍がこれ以上アフガニスタンに駐留をし続けていても、勝利を得られる確証は全くないのは確実ですし、そのために米軍将兵を犠牲にし続けることは得策ではないと考えたのでしょう。

さら、米軍アフガニスタン撤退を決めたトランプ氏は、中国と対峙を最優先にすべきであると考え、米軍のアフガニスタン撤退後には、その時々で中国に敵対し、中国を衰退させる方向に向かわせる勢力に支援をすることに切り替えたのでしょう。バイデン氏もそれを引き継いだのでしょう。誰が考えても、米軍がアフガニスタンに駐留し続けることは得策ではありません。

今後米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直すことになると思います。その先駆けが、米軍のアフガニスタン撤退です。

まさに、このようなことが起きようとしています。そもそも、米国内では、中国に対する関心や、敵愾心は高まりつつありますが、アフガンほの関心は薄れています。

2001年9月11日、米同時多発テロが起きた直後、米国には感情があふれていました。怒り、恐怖、悲しみが渦巻き、報道番組でニュースキャスターが「テロリストの反米憎悪の根深さ」を語るうちに泣き崩れる場面もありました。

米国同時多発テロ

それが合図のようにむき出しの感情というブームが世界に広がりました。その頃を境に控えめさや上品は死語となり、人々はネット、SNSで聞くに耐えない言葉で互いを非難するのが日常となりました。

それから20年、米国人は「感情」をどこかに置き忘れたのか、すっかり冷めきっています。アフガニスタンからの米軍撤退を歓迎も批判もせず、「まだいたのか」と無関心のままの人が少なくないです。

これは、徐々に冷めていったようです。米ギャラップ社の世論調査によると、2002年には93%がアフガンへの軍事介入は失敗ではなかったと答えています。介入直後、「イスラム世界の民主化」といったスローガンが語られた頃のことです。

ところが、介入への支持率は年々下がり、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンが米軍の手で殺害されてから1年後の2012年には、66%がアフガンでの軍事介入に反対しまし。そして、トランプ前大統領による「アメリカ・ファースト」政策で、アフガン内政への関心がますます遠のき、バイデン政権も特段の抵抗もなく撤退政策を引き継ぎました。

「世界に民主主義を」という大義も「テロの温床を叩く」という実利もアフガン介入で叶うことはありませんでした。USAトゥデイの8月下旬の調査では、「アフガンが再びテロリストのベースになるか」との問いに、米国人の73%がとイエスと答えています。

20年前にすでに、この戦争が米国の屈辱的な敗北に終わり、いずれタリバンが復権すると見る人は結構いました。言えるのは、この失敗、災難から米国人が何かを学んだとはとても思えないことです。

米国は今、かつての英国やソ連と同じ『帝国の末路』というシナリオに乗り、悲惨な状態へと向かいました。軍による海外での愚行は国民の分断をあおり続けるでしょう。過去20年の失策で唯一利を得たのは、軍産複合体だけです。この国でも外国でも庶民は何も得ていないです。

国の失敗に落胆もせず、感情的にもなれない状態に今の米国はあるのでしょうか。だとすれば、アフガンはほどなく話題にもならず、忘れられていくでしょう。アフガン撤退は、ベトナム戦争での敗退のように、米国を悩ますこともなく、ただ忘れ去られることになるでしょう。

米軍が置いて行った武器・装備で重武装したタリバン部隊の兵士ら

今後、主要国では中国が最も早くタリバン政権を承認する可能性が高く、おそらくロシアもほぼ同時に承認に踏み切るでしょう。

米国は、地下深くの岩石層から天然ガスを採取することに成功した「シェール革命」によって、中東原油に依存する必要がなくなったこともあり、同エリアからの撤退を加速し、その資源を対中競争につぎ込む戦略に転換しました。

中国はその後、米国撤退後の空白を埋める形で、中東での影響力を急速に拡大しています。

アフガン再建で今後注目されるのは、中ロ主導の上海協力機構(SCO)の役割です。

SCOには中央アジア諸国に加え、インドとパキスタンも加わり、アフガニスタンもオブザーバー参加しています。テロを封じ込め、地域の安定化を図る本来の機能が発揮できるかどうかが問われます。

SCOは大まかに言って、以下のような3つの課題を抱えています。
  • ソ連崩壊後の新たな国境管理
  • テロリズム・分離主義・過激主義(三悪)への共同対処
  • 石油・天然ガスなど資源協力
SCOはアフガン情勢をめぐり、7月14日の外相会議に続いて、9月10日にタジキスタンで首脳会議を開く予定です。

インドのモディ政権がこの首脳会議で、アフガン問題で主導権を握りつつある中ロにどう対応するかも注目されます。日米主導のインド太平洋戦略の中核を担う日米豪印4カ国首脳会合(Quad、クアッド)の命運を握るのもインドだからです。

中国やロシアが米国撤退後の空白を埋める形でアフガンに関与を強めたとしても、何も得ることはなく、経済的にも得られるものはほとんどなく、常にテロなどの脅威にさらされることになるでしょう。

それでも、ロシアはアフガン侵攻の失敗からアフガンへの深入りはしないでしょうが、そのような経験のない中国は今後深入りし、米国が経験した様々な苦い体験をすることになるでしょう。

いずれにしても、これを契機に、中露は中東に深入りしていく可能性が高いです。そうして、米国はアジアへの関与を強めていくことでしょう。

以下は、米国のリムランドの3大戦略地域を示すものです。


オバマまでの米国は、リムランド対応として、西ヨーロッパ:中東:東アジアに3:5:2の割合で、力を注いできました。アフガニスタン撤退を機に、この割合を最終的には3:2:5の割合にもっていくことでしょう。

そのほうが米国にとって良いことです。なぜなら、石油産油国になった米国にとって中東はさほど重要ではないですし、中国と対峙する現在の米国にとっては、東アジアに注力するのは、当然のことです。

そもそも、経済的にも西ヨーロッパはある程度大きな部分を占めますし、東アジア中国と日本が存在し、経済的にも大きな部分を占めています。

中東は、GDPでみれは、ほんとうにとるに足らない地域です。サウジアラビアを富裕な国とみなす人も多いですが、実態はどうなのかといえば、日本の福岡県のGDPとあまり変わりありません。中東全域をあわせても、GDPはさほどではないのです。

アフガニスタンに至っては、タリバンは無論のこと、他の勢力がとって変わったとしても、まともな経済対策などできる見込みはなく、今後数十年にわたって、取るに足らないものになるでしょう。

それでも、従来は石油という資源により、中東は重要拠点とみなされてきたのですが、石油産油国となった現在の米国はそうではありません。

このようなことから、米国のアフガン撤退も必然的なものだったといえます。ここに割いてきた注力を東アジアに振り向けるのは当然のことです。

ただ、米国としてはアフガンの失敗の経験をネガティブにだけ捉えるのではなく、今後の対中国戦略に役立てるべきです。アフガニスタンの泥沼に中国がはまり込み、なかなか抜け出せない状況にもっていくべきです。これにより、米国にとってアフガン撤退は一挙両得になる可能性もあります。

そうして、このような見方をすれば、日本にとっては、米国のアフガン撤退はネガティブなものではなく、大歓迎すべきものです。東アジアに米国が注力でき、米国撤退後の空白を埋める形で、中国がアフガンに介入すれば、中国の力が分散されるからです。

日本にとっては、中東の石油は未だ生命線であり、中東をおろそかにすることはできませんが、米国が東アジアに注力することは、大歓迎です。

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2021年9月7日火曜日

【日本の解き方】ワクチンで成果残した菅首相、不出馬意向表明で総裁選の状況も一変…衆院選自民勝利への最善手に ―【私の論評】派閥の力学だけでは説明できない、菅総理の総裁選不出馬の深慮遠謀(゚д゚)!

【日本の解き方】ワクチンで成果残した菅首相、不出馬意向表明で総裁選の状況も一変…衆院選自民勝利への最善手に 
菅新政権誕生!
菅総理

 菅義偉首相は3日の自民党役員会で、総裁選(17日告示、29日投開票)に出馬しない意向を表明した。

 政治評論家は、解散権も封じられて手詰まりになったと論評している。筆者は菅首相が出馬しない可能性を指摘していたが、このタイミングはやや意外だった。ワクチン接種など菅政権でやったことがそろそろ実を結ぶので、それを見届けるのかと思っていた。

 しかし、菅首相は自身を安倍晋三前首相の急な退陣を受けての緊急リリーフとしていた節もある。もともと首相への執着は少なかった。コロナ対応に専念したいという菅首相の不出馬の弁が、仕事師としての偽らざる本音ではないか。

 これまで衆院の9月解散や自民党総裁選スキップなど、さまざまなスケジュールが噂されていたが、今後の可能性はかなり整理された。

 理論的な可能性としては(1)任期満了による総選挙(補正予算なし、投開票は10月17日まで)(2)解散総選挙(補正予算あり、投開票は11月28日まで)(3)解散総選挙(補正予算なし、投開票は10月下旬から11月上旬)の三択だった。

 (1)は菅政権で閣議決定する必要があるが、それは次期総裁に委ねるだろうから、まずなくなったとみていい。

 となると、次期総裁による解散総選挙になるだろう。首相指名で臨時国会が召集され、そこで衆院解散となる可能性が高いだろう。補正予算を審議することも可能だが、新内閣で国会審議するのは答弁ミスなどのリスクが大きい。新内閣への「ご祝儀」がある状態で総選挙に突入したほうが得策だろう。

 ということは、(3)の補正予算なしで投開票は10月下旬から11月上旬というのがメインシナリオになる。

 見通しが分からないのは、自民党総裁選だ。菅首相が不出馬となると、今のところ岸田文雄前政調会長が主役だが、河野太郎行革担当相、高市早苗前総務相も意欲を見せている。状況が変わったので、われこそはと次々に出馬表明が出てくるかもしれない。いずれにしても総裁選が盛り上がるのは間違いないだろう。

 自民党としては、総裁選が誰が勝つのか分からない中で行われ、国民の注目を浴びる形となるのがベストだ。そして、その熱気の冷めぬうちに、解散総選挙へ突入した方が、新政権へのご祝儀相場も加わり、勝つ公算が高まる。自民党総裁選は、総選挙を勝利するための顔選びとなるだろう。

 菅首相の新型コロナ対応は世界から見れば、結果としては死者数の少なさなどで及第点だ。ワクチン接種も間もなく欧米に肩を並べるまでになった。しかし、国民へのアピールの点では総選挙向けでなかった。

 そうした新型コロナ対応の実績を生かしつつ、総選挙に勝つための自民党の最善手のために、今回、菅首相が不出馬を表明したと捉えたほうがいい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】派閥の力学だけでは説明できない、菅総理の総裁選不出馬の深慮遠謀(゚д゚)!

菅総理の総裁選不出場については、様々な評論家が様々な論評をしています。そのほとんどが、派閥の力学によって説明しています。

私自身は、今回の不出馬表明は、無論派閥の力学もありますが、高橋洋一氏の主張するように総選挙に勝つための自民党の最善手のために、菅首相が不出馬を表明したと捉えるのが、最も妥当だと思います。この点を論じないで、派閥の力学だけで説明するには無理があると思います。

派閥の力学だけで菅総理総裁選不出馬を説明するには無理がある

これを考えると、安倍前総理の総理辞任も総選挙に勝つための自民党の最善手のために辞任したのではないかと私は思ってしまいます。

無論、病気のことはありますが、現在の安倍元総理の行動をなどをみていれば、体調もかなり回復しているようで、総理大臣をやめなくても、しばらく休んでその間は麻生副総理が代行するという手もあったと思います。しかし、それをしないで、辞任の道を選んだのは、やはり総選挙に勝つための自民党の最善手のために、辞任したのではないでしょうか。

その結果、総裁選挙が行われ、菅総理が誕生したわけです。菅氏自身は、自民党総裁・総理大臣に元々なるつもりはなかったし、なれるとも思っていなかったでしょう。

それが、派閥の力学などにより、自民党総裁になったわけです。そうして、まさに総裁選が誰が勝つのか分からない中で行われ、国民の注目を浴びる形となり、派閥に属していない菅氏が総裁になったわけてす。派閥に属していない総裁、それに安倍政権を守り抜いた官房長官という実直な人柄ということで、菅氏は脚光を浴びました。

安倍総理の辞任も深慮遠謀だった・・・

そうして、総裁選直後には、菅政権の支持率はかなり高いものでした。菅総理自身も、多くの自民党議員も、この人気を維持したまま、今年の総選挙に挑むことができると考えていたことでしょう。これは、安倍元総理がそのまま総理大臣を継続していては起こり得ないことだったと思います。

安倍元総理が総理大臣を継続していれば、安倍一次内閣のように、崩壊していたかもしれないですし、最悪は、麻生内閣のように、総選挙で負けて、政権交代という最悪のシナリオになったかもしれません。

それを防いだということで、菅総裁誕生は自民党にとって良いことでしたが、その菅政権の支持率が最近ではかなり落ちていました。このまま、総選挙に突入すれば、自民党大敗北ということにもなりかねない情勢でした。

それどころか、最悪自民党の中で、菅おろしが置きかねない状況になっていました。しかし、菅総理をはじめ、安倍元総理、麻生副総理も、自民党の「数の力を知る」というDNAが深く刻まれています。これが、自民党と他の野党との決定的な違いです。どこかで、自民党が一致団結して、総選挙にあたることができなければ、大変なことになるという思いは一致していると思います。

このままでは、自民党は総裁選で大敗北をして、その後はそのまま凋落していく可能性もあるとみたのでしょう。特に、安倍元総理や麻生副総理は、そのことに誰よりも危機感を感じていたのではないでしょうか。何しろ、両者とも自らの政権の崩壊を経験しています。そうして、無論安倍総理を支えてきた菅氏も大きな危機感を感じていたことでしょう。

結局、元々総理大臣にもなるつもりもなく、なれるとも思っておらず、安倍晋三前首相の急な退陣を受けての緊急リリーフと考えていた菅総理が、今後の自民党の行末を考えた上での深慮遠謀で、総裁選不出馬を決めたのではないかと思います。

菅総理は、総裁選に出馬はしませんが、任期を全うした上でやめるということで、安倍元総理への義理は果たしたといえます。もし、総裁選に出馬して総裁になれたとしても、任期途中で菅おろしにあって辞めてしまえば、義理を欠くという思いもあったかもしれません。

政治の世界では義理欠くような人間は、相手にされなくなります。特に重要な局面では、そうです。それは、石破氏をみていれば、よくわかります。


そうして、菅総理は安倍前総理や麻生副総理にも総裁選不出馬の意向を伝えたと思います。これを安倍前総理も、麻生副総理も容認したのだと思います。無論、菅総理が派閥に属していないという、派閥の政治力学もあったでしょうが、これが今回の菅総理、総裁選不出馬の真相ではないかと思います。

高橋洋一氏は上の記事で、「総裁選が誰が勝つのか分からない中で行われ、国民の注目を浴びる形となるのがベストだ。そして、その熱気の冷めぬうちに、解散総選挙へ突入した方が、新政権へのご祝儀相場も加わり、勝つ公算が高まる。自民党総裁選は、総選挙を勝利するための顔選びとなるだろう」と述べています。

現在まさに、総裁選が誰が勝つのかわからない中で行われようとしています。そうして、テレビ報道などは、菅総理が総裁選不出馬を決める前までは、コロナ感染症煽りや、ワクチン煽り、菅政権批判や印象操作ばかりしていましたが、現在は総裁選に集中しています。まさに、菅、安倍、麻生氏の目論見はいまのところ的中していると思います。

選挙が行われると、その後に選ばれた新総裁はだれであっても、当初は人気がでます。これを称して「ご祝儀相場」ということもあります。このご祝儀相場が最も高い人が、総裁になることが望ましいです。

このご祝儀相場が最も高いと考えられるのが、高市早苗氏です。まずは、高市早苗氏は、はやばやと「物価目標2%を達成するまでは、財政出動を優先する」とはっきり主張しています。

これは、市場関係者には受けが良いです。財務省などには受けは良くないでしょうが、債権村などのごく一部の市場関係者をのぞく、多くの市場関係者が、この政策には期待するでしょう。さらには、大多数のまともな経済感覚を持ち合わせた人も期待するでしょう。

岸田氏や河野氏は、財務省にかなり近いので、市場関係者は好感を持って迎えることはないでしょう。それどころか、コロナ収束後には消費税増税を言い出すのではと、危惧していることでしょう。他の候補似たり寄ったで、経済対策ではあまり期待できそうにもありません。

民主党から自民党への政権交代があったとき、安倍氏が総理大臣になる前から、市場に期待感から株価があがり、株価は景気の先行きの指標であるという言葉どおり、景気が回復していったことを思い起こしてください。財政政策については、安倍総理は在任中に二度も増税せざるを得なくなったしまったのですが、日銀は最近は手控えぎみではあるものの、現状でも金融緩和を継続しており、それもあって雇用は劇的に改善しました。

高市氏は、日銀の金融政策に関しても、安倍総理と近い考え方を持っています。この面でも期待できそうです。他の候補は、そうではありません。

高市氏の経済対策は、アベノミックスを踏襲するだけではなく、それをさらに高市流に拡張したものです。これは、多くの人々に好感を持って迎えられるでしょう。おそらく、高市氏が総理大臣になれば、また日本経済は成長軌道に乗ると期待感を持つ人は多いでしょう。

さらに、高市氏はまともな国家観を持っています。特に、中国に対してはかなり厳しい認識をしています。政治家の中には真鍮派も多いですが、米国のピュー・リサーチ・センターという信用のおける調査機関によれば、日本国民の9割近くもの人々が中国に対して厳しい見方をしている現状では、これも多くの国民の期待感につながります。また、皇統に関しても、男系を支持しており、これは保守層に受けが良いです。

そうして、これもかなり大きいのですが、もし高市氏が総裁になれば、日本で最初の女性総理大臣ということになります。嫌がおうでも多くの人々の期待感は高まります。

総合的に考えると、高市氏がいわゆる「ご祝儀相場」が最も高くなると考えられます。

「ご祝儀相場」が最も高いということは、来たるべき総選挙で、最も良い結果を出せるのが、高市早苗氏ということになります。マスコミは、このあたりは全く無視して、派閥の力学のみで、総裁選を報道していますが、これでは、かつて安倍総理の復活を予想できなかったように、政局を見誤ることになるでしょう。

次の選挙で絶対に勝ちたいとか、勝たせたいと考える自民党関係者は、高市氏を総裁にすべきです。

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2021年9月6日月曜日

中国軍機19機、台湾の防空圏に侵入 台湾が発表―【私の論評】中国の台湾武力侵攻は、少なくとも今後数十年は不可能(゚д゚)!

中国軍機19機、台湾の防空圏に侵入 台湾が発表

BBC News


台湾国防部(国防省)は5日、中国空軍機19機が、台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入したと発表した。

国防部によると、侵入したのはJ‐16戦闘機10機、Su-30戦闘機4機、 H-6爆撃機4機、 対潜哨戒機1機。

台湾はミサイルシステムを展開させるとともに、中国軍機に遠ざかるよう警告するため、戦闘機を発進させたという。

国防部は、中国軍機が台湾沿岸より中国沿岸に近い東沙諸島の北東を通過したとする、飛行ルートを示した地図を公表した。

中国はこの件について、まだ公式なコメントは出していない。

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繰り返される飛行

台湾はここ1年以上、中国空軍機が繰り返し台湾付近を飛行しているとして、抗議を続けている。

中国は台湾を自国の一部と考えている。一方、台湾は自らを主権国家とみなしている。

中国は台湾側の発信に対する不満を示すため、しばしば軍機を台湾の近くで飛行させている。

6月には、中国軍機28機をADIZ内で飛行させた。台湾がそれまでに公表した中で、最大規模の侵入だった。

今回の飛行の背景は不明。

ただ、台湾国防部は先週、中国軍に関する分析で、台湾の防衛能力を「無力化する」能力があるとし、中国の脅威は強まっていると警告していた。

(英語記事 Nineteen China planes entered defence zone: Taiwan

提供元:https://www.bbc.com/japanese/58459780

【私の論評】中国の台湾武力侵攻は、少なくとも今後数十年は不可能(゚д゚)!

今回の記事で注目したのは、台湾の防空圏に侵入した19機のうち1機が対潜哨戒機だったということです。

中国は以前から、対潜哨戒機を台方面に頻繁に派遣しています。

台湾国防省のホームページ「中華民国国防省即時軍事動態」には、台湾防空識別圏南西空域への中国空軍機侵入の情報があります。

台湾国防部(国防省)の建物

調査期間は、2020年9月9日〜2021年6月30日までの約10か月293日間です。

中国空軍機が台湾の防空識別圏に侵入した日数は183日で、調査した総日数の6割を超えています。3日に2日侵入されていることになります。

日本の場合、接近飛行が多かった2か年でも、2017年に18日、2018年に17日です。

日本の場合は、東シナ海の中間線を越えた日数ですが、台湾の場合は、台湾が設定している防空識別圏のすべてではなく、台湾海峡の中間線とこの延長線を越えた場合のようです。

台湾海峡の南西部では、中間線まで約100キロで、東シナ海の沖縄と中国大陸の中間線は約300キロであり、距離感がかなり異なることを踏まえても、台湾への接近日数が日本の10倍以上であることは、注目しなければならないです。

中国の軍事的威嚇は、この10か月間、ずっと続いていたのです。

これら、空軍機の侵入を見ただけでも、台湾海峡の軍事的緊張度はかなり高いものと感じます。

中国空軍機による軍事的威嚇の詳細を明らかにするために、2020年、機種ごとに侵入する機数が多い順に、侵入の日数と機数を列挙します。

①相手国に最も脅威を与える戦闘機の侵入日数は32日で、他の機種と比べて少ない方ですが、機数は237機で最も多い。

②潜水艦の行動を探知する対潜哨戒機の侵入日数が最も多く、123日で、機数136機です。

③艦艇・空軍機・防空兵器のレーダーなどの電子情報を収集する電子戦機は、56日で、機数62機です。

④軍各部隊が発信する電波(通信)情報を収集して、軍の行動、組織を解明する情報収集機は、50日で、機数52機です。

⑤敵空軍機の飛行情報を収集して、友軍の戦闘機などにリアルタイムに情報提供する早期警戒管制機(AWACS)は、16日で、機数18機です。

⑥爆撃機の台湾周辺飛行は、7日で26機である。侵入機種の中では最も少ない。

この中で、最も注目すべきは、対潜哨戒機の刺入日数が最も多いことです今回も台湾の防空券に侵入した中国軍機19機のうち一機は、対潜哨戒機です。

中国の対潜哨戒機Y-8Q

台湾に接近した中国空軍機の機種は、対潜哨戒機、情報収集機、電子戦機、早期警戒管制機、爆撃機および戦闘機の6機種です。

これらの機種で最も活動日数が多かったのは、上にも掲載したように対潜哨戒機で、123日でした。台湾の潜水艦は、1945年と1985年前後に建造された旧式の潜水艦の4隻と100トンクラスの特殊潜航艇2隻だけです。

中国海軍は、たった6隻の潜水艦・艇の情報を収集するために、最も頻繁に活動しているのでしょうか。中国軍は、台湾海域の潜水艦の動きに、かなり神経質になっていることが分かります。

これは、当然のことながら、台湾の潜水艦にだけ神経質になっているわてけではないでしょう。潜水艦は、水中を潜って行動するので、なかなか発見しづらく、昔から潜水艦によって様々な情報収取活動や、待ち伏せなどで使用されてきました。台湾周辺の海域では、中国はもとより、日米やロシアや日米の同盟国の潜水艦も当然のことながら、潜んでいます。これは、断言できます。

中国としては、台湾の潜水艦というよりは、これらの潜水艦の動向に神経を尖らせているとみるべきです。特に、日米やその同盟国の潜水艦には、神経を尖らせているでしょう。

なぜなら、中国が台湾への侵攻を企てれば、当然これらの潜水艦に察知され、妨害されるのは必定だからです。

中国は中距離ミサイルの配備などで(沖縄、台湾、フィリピンなど結ぶ軍事戦略上の防衛ライン)第1列島線内で米空母が活動できない体制を実現しようとしていますが、沖縄や台湾など全てを中国のものにしない限りその実現は不可能です。

仮に中国のミサイルなどにより米空母が近づけなくなるとしても、米軍には「見えない空母」と言われる巡航ミサイル原子力潜水艦(SSGN)が4隻あります。1隻でトマホークを154発積むことができます。

中国の最大の弱点は対潜能力で、潜水艦を見つけ出す能力が低いです。台湾有事が想定された場合、600発の巡航ミサイルを積んだ「見えない空母」が、第1列島線の内側に入り込み、ピンポイントで中国のレーダーや宇宙監視の地上施設を攻撃して、まず「目」を奪うでしょう。そうなれば、中国は米空母などがどこにいるか把握できず、ミサイルを当てようがないです。

そもそも中国の空母キラーと呼ばれる弾道ミサイル「DF21D」は米空母には当たらないとみられています。弾道ミサイルはスピードがありすぎてコントロールが難しく、自由に動く対象に簡単には当てられないからです。

中国の弾道ミサイル「DF21D」

さらに、日本の潜水艦の動向にも神経を尖らせているのは明らかです。このブログには、何度か掲載したように、日本の海上自衛隊はすでに潜水艦22隻体制を構築しています。いずれの潜水艦も中国の対潜哨戒能力では発見するのは難しいです。

これらの潜水艦が、台湾近くの海域に潜み、中国軍が台湾に武力侵攻しようとして、台湾に艦艇を差し向ければ、それらの艦艇はことごとく日本の潜水艦に撃沈される可能性があります。

もっと恐ろしいのは、日米の潜水艦隊が協同した場合です。日本の潜水艦は、ステルス性が高く台湾周辺の海域や中国の海域で、自由自在に情報収集活動ができます。その情報を米軍の攻撃力の高い原潜と共有すれば、かなり効果的な攻撃ができます。

日米潜水艦隊が協同で海戦を行えば、世界最強の潜水艦打撃群になるでしょう。これでは、中国一国では、とても歯が立ちません。中国の艦艇は潜水艦も含めて、ことごとく撃沈され、航空機はもとより、レーダーや宇宙監視の地上施設はことごとく破壊されることになります。

これを中国は恐れているのでしょう。ただし、恐れているだけでは、無意味です。何か対抗手段を生み出したいでしょうが、少なくとも今後数十年は無理でしょう。それでも、台湾に侵攻しようとすれば、中国は多くの艦艇、航空機、人員を失うことになります。だからこそ、中国は超限戦などに力をいれるです。こちらのほうも警戒を怠るべきではありません。

台湾は現在最新鋭の潜水艦を開発中です。5隻で台湾を守る体制を目指しています。これに台湾が成功すれば、それ以降台湾は数十年にわたって、中国の侵攻を独力で阻止することができるようになります。

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2021年9月5日日曜日

高市早苗氏は中国が最も恐れる総理候補?―【私の論評】細田派や、麻生派全員が高市氏を支援となれば、高市氏こそ最有力候補(゚д゚)!

高市早苗氏は中国が最も恐れる総理候補?

靖国神社を参拝した高市早苗前総務相(2020年8月15日東京)

 菅義偉総理の突然の退陣表明は、中国でも速報され大きく扱われたが、それは隣国日本の次のトップが誰になるかによって、両国関係に少なからぬ影響を与え得るからでもある。中でも、早くから自民党総裁戦へ出馬の意向を示している高市早苗前総務相に、警戒を強めているようだ。

日本初の女性首相が対中強硬派の悪夢?

「中国に強硬な彼女が、日本で初の女性首相になるのか?」

 菅総理が総裁選への不出馬を表明した3日の午後、こう題する評論を載せたのは中国の新聞「参考消息」ネット版。「参考消息」とは、中国国営通信「新華社」が発行する新聞で国際問題を扱う。

「中国に強硬な彼女」とは、高市早苗前総務相を指す。

 記事は、高市氏の経歴について、大学時代に軽音楽部でヘビーメタルのドラムを叩いていた過去から始まり、政界での遍歴、政治の世界での安倍晋三前総理との良好な関係も紹介した。

 政治的な立場としては「政策の主張は保守に偏向」。

 高市氏が「自衛隊法を改正し自衛隊により大きな権限を与えるよう主張」しており、「侵略の歴史に対する反省が足りず、従軍慰安婦の強制連行の存在を認めていない」人物であると警戒を強める。

靖国参拝も指摘

 高市氏が「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」のメンバーで、8月15日の終戦記念日に何度も参拝した事実も指摘した。

 更に、高市氏を評価する日本のネット上で声も紹介している。

 高市氏が日本の新総理になった場合の“危険性”を、そこはかとなく示唆したいようである。

 中国共産党の青年組織「共青団」の機関紙「中国青年報」も、アプリ版が配信した記事をこう題した。

「女性“新右翼”の人物が、就任する可能性がある」

 “新右翼”の女性とは、もちろん高市氏。

「彼女は言動から“新右翼”と見做されている」

 具体例としては、度重なる靖国神社への参拝に加え、高市氏は「日本の対外侵略戦争は、“自衛戦争”だと主張しており、他国が日本の教科書の内容に干渉することに反対」と紹介した。

自民党が初の女性総理の奇策に出れば…

 高市氏の次期総裁選での当選の可能性を高いとみているわけでもないが、やはり一定の警戒感を抱いているのは、国際問題を扱う中国共産党系の「環球時報」紙も同じ。公式アカウント上で、国内の複数の専門家の見解を伝える記事を配信した。

 資質や政策の継続性を重視すれば、岸田文雄前政調会長が優勢と見た上で、「自民党が突然奇策を打ち出す可能性もある」と分析したのは、外交学院の周永生氏(国際関係研究所教授)。

「初の女性総裁、女性首相を推そうとする、或いは右翼路線に傾こうとするならば、高市早苗にも可能性がある」

 日中関係に関して、周氏は、岸田氏が総理になれば「比較的温和で、日中関係が緩和する可能性がある」と述べてはいるものの、実はあまり期待はしていない。

 岸田氏が、日中関係を積極的に改善する政策は進められず、菅政権の政策を引き継ぐだろうからだ。

新総理の“反中”姿勢は折り込み済み?

「“嫌中”、“反中”が日本国内のある種の政治的な正しさ」

 同じ記事の中で、こう指摘したのは中国社会科学院の呉懐中氏(日本研究所副所長)。

 新首相が誕生した後は、政権基盤が弱いので、保守的な右派や国民に迎合して政権を守ろうとするだろうと分析する。

 さらに、総裁の候補者たちは、生まれが60年代前後。日本の政界では若手層に属し、現実主義だとして、そのスタンスをこう見る。

「対中政策への強硬度は同じではないが、総体的に言えば、“反中制中”を支持する一派に属している」

日本の総理は誰でもいい?

「環球時報」が4日付の紙面に載せたのは「日本の誰が菅義偉に替わろうとも、中国は対応できる」と題する社説。

「菅政権のこの1年の日中関係は酷かった」と評価した上で、誰が総理になろうとも、日中関係が良好に大転換するようなことが起きるのは「現実的ではない」。

 その理由を、日本国内で中国に対する悪いムードが日増し濃くなっていることに加え、中国を抑制しようとするアメリカの戦略の影響を日本は大きく受けるため、国内的にも国際的にも、新しい対中路線を進める条件がないと示している。

実は余裕の中国?

 同時に、こうした環境にありながらも、中国側は対日関係を冷静に対処すべきだと指摘する。

 なぜなら、中国の経済規模はすでに日本を大きく上回っており、長期的に見れば、日本の地位と役割はアメリカの共犯者ではあれ、日本が再び中国の根本的な脅威とは成り難いからだ。

 その上、日中の経済・貿易関係の規模や互恵性を考えれば、例え日本で対中強硬の声が多くなったとしても、衝突する可能性は大きくない。

 中国にとっては、もし高市氏が次期総理となれば、多少、日中関係が悪化する可能性もあるが、すでに国力で決着をつけた今、大勢には影響がない、といったところだろうか。

「環球時報」の社説はこう結んでいる。

「日本の次の総理が対中強硬路線に進んだとしても、中国は挑戦に対応できる。中国は、ますます日本より強くなり、両国関係の悪化で損害をより多く受けるのは日本である」

【私の論評】細田派や、麻生派全員が高市氏を支援となれば、高市氏こそ最有力候補(゚д゚)!

中国のメディアがこのように、一女性の閣僚経験者に対して警戒心を露わにするのは異例だと思います。これは、いくつかの原因があると思います。

高市早苗氏

まずは、高市氏が保守派であり、反中派それもかなりきつい反中派であることです。しかし、これだけなら、中国メディアがこれほどまでに警戒心を露わにすることはないはずです。

そうして、もう一つは、高市氏が自民党総裁になる可能性は、低くはなく高いとみているということです。

「環球時報」などのメディアが何の根拠もなく、このような報道をするはずはありません。以下、高市氏が総裁になる可能性は決して低くはない根拠を示します。

高市前総務大臣をめぐっては、安倍前総理大臣が3日、出身派閥の細田派の幹部に対し、高市氏を支援する考えを伝えたことが分かりました。

NHKは4日朝、総裁選に影響を与えそうな、以下のような報道をしました。
高市氏はインターネット番組「真相深入り!虎ノ門ニュース」に生出演した際(2日)に、安倍氏と今年2月以降、「2人だけの勉強会」を開いていたことを明かし、コロナ患者を早期に治療でき、重症者や死亡者を極小化する自らのコロナ対策や、自身の経済政策「ニューアベノミクス」について披露していた。
NHKが「虎ノ門ニュース」に言及した事自体も驚きです。このようなことは、滅多にありません。

さらに、細田派幹部は4日朝、「安倍氏は、今回の総裁選について、『派閥で行動は縛らない方がいい』『複数の総裁選とすべきだ』という意見とともに、『私は、女性でビジョンがしっかりした高市さんを支持するつもりだ』と語っていた」と夕刊フジに明かしています。

高市氏は、安倍氏の出身派閥である細田派に所属していました。

今は無派閥ですが、安倍氏と高市氏は共に保守系グループ「保守団結の会」で顧問を務めるなど、政治信条が近い関係にあります。 

安倍氏が支援すれば、高市氏は細田派の支持も一定程度得られることになりそうです。 

また、麻生副総理も自身の派閥に所属する河野行革担当大臣を支持せず、高市氏の支持に回る可能性があります。

そうなれば、総裁選出馬に必要な推薦人20人以上の獲得はほぼ間違いないでしょう。

安倍氏と麻生太郎氏が連携し高市氏を推すことになれば、総裁選の勢力図は一変ます。背景には“安倍路線継承”の狙いがあるようです。

高市氏は菅内閣の支持率低下などを受け、頻繁に安倍氏の元を訪れ“首相の再登板”を要請。さらに安倍氏の経済政策を発展させた「ニュー・アベノミクス」を目玉とする自身の政策をまとめた著書を近く出版予定で、総裁選に向け“安倍色”を強くアピールしていますし、 

安倍、麻生両氏と親密で、いわゆる「3A」の甘利明税調会長(72)を幹事長に据えることは安倍氏と麻生氏かねての希望のようであり、高市新総裁が誕生すればその現実味も増すことになります。

ただ、安倍氏が幹事長ということもありえます。そうなれば、党対党の外交はいくらでもできます。蔡英文さんと安倍さんが党対党で公式会談できる可能性があります。インドのモディ首相を呼んで三者会談というのも夢ではなくなります。


細田派や、麻生派全員が高市氏を支援するとは限らないですが、もしそうなれば、当初両氏からの支援が予想されていた岸田氏にとって分が悪くなることは間違いないです。

唯一出馬を正式表明している岸田文雄前政調会長(64)に加え、有力候補として名前が挙がる河野太郎行政改革担当相(58)や石破茂元幹事長(64)も早ければ週明けにも出馬可否を判断するとみられます。 

その他の候補としては、河野氏を神奈川を地盤とする菅首相や小泉進次郎環境相(40)らが後押しし、二階俊博幹事長(82)は、自身の下で幹事長代行を務める野田聖子氏(61)支援することになるかもしれません。

茂木敏充外相(65)は竹下派が支援することから推薦人確保はクリアする一方、下村博文政調会長(67)の出馬は難しいのではないかとみられます。


総裁選は、岸田前政調会長が立候補を表明しているほか、河野行革担当大臣が立候補の意思を固めたことが分かっています。

細田派や、麻生派全員が高市氏を支援ということになれば、総裁選において高市早苗氏は最有力候補ということになるでしょう。今後の動向に注目です。

自民党細田派(清和政策研究会)、竹下派(平成研究会)、二階派(志帥会)の3派は18日、東京都に発令中の新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言の期限が9月12日まで延長されることを受け、9月上旬に都内で開催予定だった政治資金パーティーを再び延期すると決めた。細田派は6日、竹下派は7日、二階派は9日に予定していました。新たな日程は改めて調整するそうです。

岸田派は、パーティーを開催ずみですが岸田さん、総裁選で党員票で勝つためには、議員票を集める必要があったのですが、二階さんに喧嘩売って50を減らし、代わりに反二階票を取りに行ったと思いきや、安倍麻生に喧嘩売って150を失っています。今回の総裁選はかなり不利です。

そうなると、今回の総裁選はかなりクリーンなものになりそうです。今回は、自民党の党員投票も含めたフルスペックの総裁選となるだけに、国民的人気が高い河野氏が出馬すれば、当院票に強いとされる石破氏にはかなり不利になります。石破氏は、そもそも20人以上の推薦人を集められかどうかにさえ疑問符がつきます。そうなると、ますます高市氏に有利となってきたと思います。

多くのマスコミは高市氏を泡沫候補扱いをし続けるかもしれませんが、どう考えても高市氏は総裁選で台風の目になることは確かです。

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2021年9月4日土曜日

ある意味“超法規的措置”アフガンへの自衛隊派遣と新型コロナ対応で露呈した日本の法整備の限界 有事対応は“憲法改正”が必要だ ―【私の論評】平時に、憲法の緊急事態条項を制定し、それに基づく実定法を定めておくべき(゚д゚)!

高橋洋一 日本の解き方

アフガニスタンで邦人を移送させる準備のためC-2輸送機に乗り込む自衛隊員ら=24日午前0時38分、鳥取県境港市の航空自衛隊美保基地

 新型コロナウイルス対策としての罰則を伴う行動制限や、アフガニスタンでの自衛隊の活動など、国の法整備に関する問題が相次いで浮上している。

 前者の行動制限について簡単に言えば、一般人への罰則を伴う行動制限は、憲法上で規定されている移動の自由との兼ね合いで、公共の福祉で読み込むのは無理があり、憲法上に非常事態条項のような、非常時には私権制限できるとの規定が必要というものだ。

 しばしば憲法を改正したくない人々は、公共の福祉で対応できるため改正不要だというが、その立場では、民主党政権時代に制定されたインフルエンザ特措法程度の私権制限しかできない。今の新型コロナ対策は、基本的にはそのインフルエンザ特措法の改正法に基づくので、私権制限は他の先進国と比べて極めて不十分だ。

 また、今回のアフガニスタンへの自衛隊派遣については、自衛隊法84条の4(在外邦人輸送)に基づくものだ。この条文は「当該輸送を安全に実施することができると認めるときは、当該邦人の輸送を行うことができる」と定めている。救出に行かなければならないところが安全であるはずがないのに、安全であるとごまかして行くのは、かなり辛いと言わざるを得ない。

 しかも、セットになっている84条の3(在外邦人等保護措置)では、要件として(1)当該地域が安全なこと(2)相手国の同意(3)相手国と当方との連携-が求められている。今のアフガニスタンではこれらの要件を満たしていないのは明らかだ。

 それでもカブール空港に自衛隊機を派遣したのは、ある意味で超法規的な措置かもしれないが、菅義偉政権として立派な判断だった。しかし、8月26日にはカブール空港周辺でIS(イスラム国)系による自爆テロが発生し多くの死傷者が出るなど、極めて危険だ。空港までたどり着けなかった日本の関係者も多いという。

 今の憲法では、自衛隊は行政機関なので、基本として国内法での規定が必要になってくる。しかし、在外邦人保護・輸送については、国際法に則って行えば足りるので、国内法で規定しなくても構わない。そのためには、憲法に非常事態条項を新設し、自衛隊の在外邦人保護・輸送については今の日本のように自国法で限定列挙で対処できる場合を規定するのではなく、他の先進国のように国際法にのっとり対処するとすべきだ。

 なお、在外邦人保護・輸送について、国際法では、領域国による保護が期待できない場合、限定的な期間および目的で実施されるのであれば、国連憲章2条4項で禁じられている武力の行使にはあたらないとされている。

 アフガン対応では、同月15日の首都陥落直後から、他の先進国は一刻を争って自国軍用機をカブールに向かわせ自国民を救出していた。

 新型コロナ対応もアフガン対応も、その根本には有事に対応できない日本の憲法の問題がある。憲法改正しないと有事対応はできないのが実情だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】平時に、憲法の緊急事態条項を制定し、それに基づく実定法を定めておくべき(゚д゚)!

憲法記念日の5月3日に際し、各紙が世論調査結果をまとめていましたが、新型コロナウイルスなどの感染症や大規模災害に対応するため、緊急事態条項を新設する憲法改正を「必要とする」と答えた人が多く、内閣権限強化や私権制限が想定される緊急事態条項新設を容認する声が反対意見を上回っています。

緊急事態宣言をしても私権制限できないという国は、世界では日本くらいしかありません。なぜそうなるかといえば、憲法上の戒厳令や非常事態宣言などという規定がないから、私権制限ができないのです。

そもそも日本では厳密には私権制限はできない

私権制限ができないと、様々なところで歪みが起きることが国民も理解しつつあるのではないでしょうか。コロナ感染が猛威をふるった昨年の4月~5月は、ほとんどの国が私権制限を最大の100くらいにしていました。それに比較して、日本では50でした。世界でほぼ最低でした。

日本には、緊急事態、非常事態宣言、あるいは、それに規定するような憲法の規定もないし、法律もないのです。 多くの人は、「入国制限が甘い」と政府を批判していましたが、憲法上の規定がないと国内法がそれに連動して緩くなるのです。そうすると入国制限もあまり厳しいことはできなくなります。完全に渡航制限するとか、なにかに違反した場合「罰金を取る」などというようなことが実施しにくいのです。

「入国制限が甘い」と政府を批判するひとたちは、それだけではなく、日本には憲法に緊急事態条項がないことも批判していただきたいです。

日本人が海外から帰って来るときも、全部一律に止めるというのは難しいです。外国人であればできるはずだと批判する人もいますが、日本人だとできません。そのため防疫の水際対策も実施しずらくなります。

昨年2月の各国の入国制限

上の高橋洋一氏の記事には、「カブール空港に自衛隊機を派遣したのは、ある意味で超法規的な措置かもしれない」とありますが、自衛隊が職務で駆けつけ警護で武器使用をした場合殺人罪に問われる場合もありえるのです。

自衛隊が駆けつけ警護をする場合、自衛隊の武器使用は「警察官職務執行法7条に準じる」とあり、このなかでは「武器使用は合理的に必要と判断される限度において」とされています。つまり、防衛出動以外の職務で武器を使用したときには、殺人罪で告発される場合もあるということです。この原則は自衛隊のみならず海上保安庁、警察も同様の武器使用規則で運用されており、告発されるリスクは存在しているのです。

刑法上の違法性を阻却しうる事由として、刑法35・37条があります。「35条:正当行為」そして、公安職の公務員の皆さんがよくご存知の「36条:正当防衛」、「37条:緊急避難」です。防衛出動や治安出動以外の自衛隊員の活動においても、武器使用を「35条の正当行為」として位置付ける必要があるのではないかと考えます。もちろん、海上保安庁や警察の正当な法執行活動でも同様の措置が必要です。

憲法上に規定がないと、様々なところに影響がでてきます。憲法に規定がないということは、国内の法律は憲法を超えられないわけですから、当然法律で規制することはできなくなります。 憲法を超えるような法律をつくろうとすれば、最終的に違憲立法審査にかかってしまうことになります。それでも何とかしようとすれば、超法規的措置や、倫理観に訴えるなどの空気で縛るというようなことになります。

菅政権は、ワクチンの打ち手が集まらないという危機に見舞われたとき、医師・看護師以外の歯科医なども打てることにするという、超法規的措置をとりました。これは、ほとんど報道されませんでしたが、日本赤軍事件以来初の、超法規的措置です。




このようなことをするのは、大変です。かなりの勇気が要ります。しかし、このようなことも憲法上の規定があれば、それに基づく実定法がすぐできます。本来はそのように用意すべきものです。

平時において、予め憲法の規定をつくっておいて、それに基づく実定法のときには、どのような歯止めをするかという議論もできるはずです。そのようなことがなく、いざというときに超法規的措置を連発すれば、そちらの方がよほど危険です。 

現状では、結果的に、超法規的措置に対してどう歯止めが効かせるのかという議論はありません。そのため「仕方なく超法規的措置でやる」というレベルです。これは、本来はあまり良いことではありません。

やはり、平時のときに、憲法の緊急事態条項をつくっておき、それに基づく実定法をつくっておくべきです。

そうでないと、これからも様々な矛盾が生じてくることになります。

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2021年9月3日金曜日

リトアニアでも動き出した台湾の国際的地位向上―【私の論評】国際社会からの共感とNATOによる兵力配備がリトアニアの安全保障の根幹(゚д゚)!

リトアニアでも動き出した台湾の国際的地位向上

岡崎研究所



 8月12日付のTaipei Timesの社説が、リトアニアによる台湾代表処設置について、「一つの中国」原則への痛手を与え得る、と指摘している。

 中国外交部は、バルト三国の一国であるリトアニアが、「台湾」の名称を使用して代表処を開設することに決定したことを激しく非難した。そして、駐リトアニア中国大使を直ちに召喚するとともに、中国に駐在するリトアニア大使に対して北京を直ちに離れるよう要求した。

 Taipei Timesの社説は、今回のリトアニアの行動を「大胆かつ勇気ある」ものとして歓迎しているが、中国が今後リトアニアに対し、如何なる報復的措置を取ることになるか、大いに注目されるところである。

 中国政府のメディアと呼んでよい「環球時報」は、リトアニアを「狂った、小さな国」と蔑視し、こんな小さな国が大きな国との関係を悪化させようとするのはまれなことだ、と書いた。中国によれば、リトアニアの行動は「一つの中国」の原則に反し、蔡英文政権下の台湾当局の目指す事実上の「台湾独立」への道を支持するものであり、それは滅亡への道である、ということになる。

 リトアニア政府が「台北」ではなく、「台湾」の名称を使った代表処を開設するというのは、ちょうど、東京にある台湾の代表処の名称を、今日の呼び名である駐東京「台北経済文化代表処」ではなく、駐日本「台湾代表処」へと切り替えることに等しい。

 昨年4月、約200人のリトアニアの政治家と公的立場にある人々が、ナウセーダ大統領に対し、公開書簡を出し、台湾が WHO(世界保健機構)に参加することを支持するようにと訴えた。その時、同大統領は動かなかったが、ランズベルギス外相は台湾が WHOにオブザーバーとして参加することを公然と支持した。そして、今年 6月には、リトアニア政府は台湾に対し、二万回分のワクチンを供与した。

 リトアニアとしては、このような行動が中国の怒りを買うであろうことは重々承知の上であったと思われる。それでも、リトアニアがこのような行動に出た理由については必ずしも明確ではない点もあるが、Taipei Timesの言うように、最近の中国との貿易関係の減少、歴史的・地政学的に見たリトアニアとロシアとの関係、そしてますます威圧的かつ覇権主義的になる中国共産党への警戒心などが、今回のリトアニアの対台湾政策のなかに反映されているように思われる。

 シャーマン米国務副長官はリトアニア外相と電話で会談し、台湾との関係をめぐって中国から圧力を受けているリトアニアに対する支援を強調したと報道されている。同副長官は北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)の加盟国であるリトアニアと「固く結束している」と述べた、という。

 近年、東欧諸国と台湾との関係の緊密化が伝えられることが多くなっている。チェコ国会議長一行が台湾を訪問し、台湾議会において「私は台湾人である」と発言し話題になったことは、記憶に新しい。

 なお、本年春のG7外相会談のコミュニケでは、7か国が一致して、WHOへの台湾の意義ある参加を支持すると表明し、台湾海峡の平和と安定の重要性にも言及した。

 この台湾をめぐる流れの中で、特筆しておきたいのは、東京オリンピック2020の開会式での各国選手団の入場の場面だった。2021年7月23日、Covid-19の影響で一年延期された東京オリンピックの開幕。IOC(国際オリンピック委員会)の公用語であるフランス語や英語のアルファベットの順番ではなく、日本語の五十音(あいうえお)順での入場だった。

 その際、「チャイニーズ・タイペイ」の所で、中継のNHKのアナウンサーは、日本語でお馴染みの「台湾の選手団です。」と紹介し、これが台湾では大きな話題になった。中国は不快感を示しはしたが、それ以上の抗議やボイコット等の行動はなく、東京オリンピックの競技に影響することはなかった。もはや台北が台湾の一都市(首都)の名称に過ぎず、台北の他に台南や台中が存在するように、台湾が台湾であることは、誰の目にも明らかになっている。

【私の論評】国際社会からの共感とNATOによる兵力配備がリトアニアの安全保障の根幹(゚д゚)!

リトアニアとはどのような国なのか、あまり知らない人も多いでしょう。グルメや観光などのことは、他のサイトをあたってください。ここでは述べません。ここでは、安全保障の観点から述べます。

リトアニアは、バルト三国の一つです。バルト三国、即ちリトアニア、ラトビアとエストニアは、ウクライナやジョージアと同じく旧ソ連構成国であり、人口はそれぞれ、約280万人、200万人、130万人です。

バルト三国

三国合わせても、その人口はウクライナの七分の一、面積は四分の一しかありません。また、個別に計算すれば、いずれの国もジョージアより小さいです。しかも、ラトビアとエストニアはロシアと陸続きで国境を接しており、両国の人口の四分の一はロシア民族です。そのロシア民族は当然バルト三国がロシアの支配下に入って欲しいし、何かあれば必ずロシアに全面的に協力するでしょう。

当然、ロシア自身もバルト三国を支配したいという強い願望を持っています。このような状況では、圧倒的な力の差やロシア系住民の存在を考えれば、ロシアのような軍事大国にとって、バルト三国を制圧するのは容易にみえます。

しかしロシアはバルト三国へ侵略できません。なぜなら、バルト三国はNATO加盟国だからです。NATOに入っていれば、どのような小さい国でも安全になります。

なぜならその国が武力攻撃を受けた場合は、アメリカ合衆国やイギリス、フランスなどの軍事大国かつ核保有国が反撃することになるからです。その反撃の恐れは最も効果的な抑止力となり、ロシアのような凶暴的な軍事大国であっても、簡単に手を出せないのです。

バルト三国とウクライナ、ジョージアの違いとは、正に集団安全保障の枠に入っている国と入っていない国の違いです。

集団安全保障の組織に入っておけば、どんなに小さい国でも安全でいられます。しかし入らなければ、自国を自分だけで守らなければならないです。もし攻撃してきた敵の方が強かったら、どうしようもないのです。

だかこそ2008年にウクライナとジョージアのNATO加盟のための行動計画への参加申請が承認され、その後両国がNATOに加盟できていたら、きっとウクライナもジョージアもロシアに侵略されず、領土や何千人の尊い命も奪われずに済んだでしょう。

リトアニアによる台湾代表処設置については、リトアニアが小国でありながらも、NATOの加盟国であるという背景があるのは間違いないでしょう。もし、NATO加盟国でなければ、大国の脅威におびえて、このようなことはできなかったでしょう。

リトアニアに対して中国が露骨に圧力をかけたり、軍事的脅威を煽れば、NATOは何らかの対象をするでしょう。リトアニアの背後にNATOがあるので、中露ともリトアニアに露骨な脅しをかけたりすることはできません。もしするのなら、制裁を受けるなど、それなりの覚悟が必要です。

リトアニアと中国とはリトアニア独立直後の1991年9月14日に国交を結び、「両国関係はおおむね順調に進展し、両国首脳は連絡を取り合っている」(中国外務省)という状況でしたた。だが近年、中国は「戦狼外交」を進め、米国との対立も激化。人権問題で西側諸国の中国批判が強まるにつれ、リトアニアも対中強硬姿勢を取るようになりましたた。

それが顕著になったのが今年5月20日。リトアニアの議会が、中国に向けた決議を議員の5分の3の支持によって採択しました。決議では、中国の少数民族ウイグル人に対する扱いを「民族大量虐殺(ジェノサイド)」と表現し、中国が「職業訓練目的」と主張する新疆ウイグル自治区の収容施設に関する国連の調査を要求。欧州委員会による対中関係の見直しも主張しました。

また、香港国家安全維持法の撤廃や、チベット自治区への監視団の受け入れも求めています。ただ決議に拘束力はなく、シモニテ首相やランズベルギス外相は投票に参加していません。

サカリエネ議員

決議案を提出したサカリエネ議員は「(リトアニアは)50年間、(ソ連の)共産党政権に占領されてきた。この残酷な教訓を決して忘れないためにも、われわれは民主主義を支持する」と話していました。

ちなみに、サカリエネ氏は、日米英など18カ国とEUの議員らで構成する「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」の所属です。IPACは昨年6月、中国による香港への統制強化などを機に発足した組織。民主主義国が連携して中国の人権問題に厳しく向き合うべきだと主張しています。

さらに、決議翌日にも、米政治サイト「ポリティコ」が、ランズベルギス外相の発言として「中国と旧共産圏など17カ国の経済協力枠組み(17+1)からの離脱を宣言し、EUに対しても中国との関係見直しも求めている」と伝えました。「17+1」は2012年に始まり、中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」に関する経済協力などを推進してきたものです。

このように、中国に厳しいバイデン米政権に同調するような振る舞いを見せることから「リトアニアはEUと中国の関係悪化をリードする国の一つだ」(露紙イズベスチヤ)と指摘されるようになりました。

その後、リトアニアは台湾との関係重視を鮮明にして代表機関設置の流れとなり、7月には新型コロナウイルスのワクチンを台湾に送って友好ムードを前面に押し出しました。

中国は、台湾の国際的存在感を低下させることを目的として、主として経済を梃に台湾と国交のある国の切り崩しを図っています。2016年5月に蔡英文総統が就任して以来、7か国(サントメ・プリンシペ、パナマ、ドミニカ共和国、ブルキナファソ、エルサルバドル、ソロモン諸島及びキリバス)が台湾と断交、中国と国交を結んでいます。

現在台湾と外交関係のある国は15か国です。しかしながら、最近、経済を梃とする中国の影響力拡大は、「新植民地主義」、「債務の罠」との批判が高まっています。更には、新疆ウィグル族の人権問題に関連して中国とEUが対立、2020年12月にEUと中国で合意された「包括的投資協定」の批准に向けた欧州議会での討議は停止しています。

このような状況下で、EUの一員でもあるリトアニアの台湾との関係強化が「包括的投資協定」批准の阻害要因となりかねないことを危惧し、リトアニアの動きが他のEU諸国に広がらないように強い態度に出ていると考えられます。

2017年ドイツ連邦軍の装甲車がリトアニアに到着。バルト三国ではドイツ軍の武器が増えている。これは第二次大戦後としては、初の光景だった。

リトアニアは先にも掲載したように、2012年に開始された「中・東欧サミット」、いわゆる「17+1」の参加国でした。同サミットは、EU加盟国のポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、クロアチア、スロベニア、リトアニア、ラトビア、エストニアの11か国とEU非加盟国のセルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、アルバニア、モンテネグロの5か国の合計16か国でスタートし、2019年にギリシアが加わり17か国となりました。

中国が一帯一路の一環として、これら諸国との貿易、投資を増大させることが期待されていました。しかしながら、今年5月にリトアニアは、「期待していたほどの経済的メリットを得られない」として、「17+1」の枠組みからの離脱を明らかにしました。台湾代表処の設置は、これに引き続くものであり、単純に、台湾からの経済メリットのほうが中国より大きいと判断したかのように見えますがそうではありません。

リトアニア国防省は、今後10年間を対象とする「脅威評価2019」という文書を公表しています。旧ソビエト連邦の共和国として、長年独立運動を実施していた歴史から、脅威評価のほとんどはロシアで占められています。

しかしながら、脅威として名指しされていた国は、ロシアの他は中国のみです。ロシアの脅威が政治、経済、軍事と幅広く述べられているのに対し、中国からの脅威は、情報活動の拡大ででした。中国は、香港や台湾に対する中国の主張を正当化する勢力の拡大を図っており、今後このような活動がリトアニアを含むEU諸国で広がってくるであろうという評価です。

「17+1」が経済的繁栄を目指すものではなく、中国の影響力拡大に使われているというのがリトアニアの見方です。今年5月リトアニア議会は中国のウィグル人に対する扱いを「ジェノサイド」として、国連の調査を要求する決議を行いました。リトアニアでは1990年の独立に際し、ソ連軍により市民が虐殺されるという事件が起こっており、共産党に対する嫌悪感も相まって、反中国に傾いたという事ができます。

リトアニアが今回台湾の代表処設置を認め、更には「台湾」という名称の使用を許可したことは、国家として強い意志の表れと見ることができます。太平洋諸島国家の中には、支援額が中国のほうが多かったという理由で、台湾と断交し、中国と国交を結んだと伝えられる国家もあります。

「17+1」からの離脱は経済的メリットが少ないからと説明されていますが、今後中国が経済を梃に関係修復を図ったとしても、中国への不信感が根底にある以上、リトアニアの今回の決定を覆す可能性は低いです。ましてロシアと協力してリトアニアを罰するというような方法は、リトアニアの態度を硬化させるだけでしょう。

リトアニアは帝政ロシア、その後継であるソ連、そしてナチスドイツに国土を蹂躙され、国家の名前すら失った時期があります。しかしながら、粘り強く独立運動を継続し、1990年に旧ソ連邦共和国の中で最初の独立国となりました。

今回のリトアニアの決断には、中国から直接軍事的脅威を受けていないことが大きく影響していることは間違いないでしょう。しかしながら、中国の強圧的な姿勢に対し、毅然と対処することこそが、国際社会の注目と共感を呼び、そしてその共感が、ロシアという大国から直接脅威を受けている小国リトアニアの安全保障を担保するとの考えがあると考えられます。

リトアニアは先にも述べたように、NATOの一員であり、実質的な安全保障はNATOが担保します。NATOの対ロシア戦略の一環として、2019年以降、NATO軍1個大隊(兵士約500人)が、リトアニアにローテーション配備されています。国際社会からの共感とNATOによる兵力配備がリトアニアの安全保障の根幹となっています。

中国は大使の召還を行いましたが、リトアニアとの断交までには至っていません。今後中国がどのように振り上げたこぶしを下すのか注目されます。




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2021年9月2日木曜日

【日本復喝】中国が狙う地方の廃校 「心温まる交流」かと思いきや…日本での“進出基地”に すでに転居した周辺住民も―【私の論評】想定される危機に関しては、あらかじめ対応しておくのが、安全保障の基本(゚д゚)!

【日本復喝】中国が狙う地方の廃校 「心温まる交流」かと思いきや…日本での“進出基地”に すでに転居した周辺住民も

反対運動に使われた看板

 これも少子高齢化が進む日本の弱点か。子供の減少で学校の統廃合が進むなか、中国が何と、日本の地方の廃校に目を付けている。

 北京市にある中国共産党の子弟が通うエリート校「北京海淀外国語実験学校(海淀学校)」だ。1999年創立で、幼稚園から小・中・高校生の約6000人が、学校内で寮生活をしている。

 IT(情報技術)、語学、芸術、スポーツ分野で英才教育に力を入れており、人民解放軍さながらに軍服や銃を使った軍事訓練を行っている。

 そんな海淀学校と交流話が持ち上がり、地元住民を巻き込む大騒動となったのが、瀬戸内海に面し、香川県東部に位置する東かがわ市だ。

 市と海淀学校が交流を始めたのは2017年のことだ。心温まる交流が続くと思われた矢先、19年12月の市議会定例会で、宮脇美智子市議(幸福実現党)がこの問題を取り上げ、市を二分する大問題に発展した。

 海淀学校と市の交流について、市民にきちんと説明されないまま進められたためだ。住民が猛反発したのは当然だ。海淀学校側は、昨年3月に廃校となった市内の旧福栄小を借り上げ、「日本での進出基地としたい」と要請し、市が容認に傾いた。50人規模の児童や生徒が1週間ほど滞在するため、海淀学校が宿泊施設に改造するという。

 反対派住民は、旧福栄小学校が海淀学校に拠点化されれば、トラブルに巻き込まれるのではないかと反対した。周辺住民の一部はすでに引っ越してしまったという。

 実際、瀬戸内海の小豆島を望む市北部の海岸では、海淀学校がヨット訓練施設として空き家を買収する動きを見せ、これを察した地元住民が、先回りして買収を阻止した経緯がある。

 この騒ぎに上村一郎市長は今年3月、拠点化の中止に加え、安全面の不安を理由に海淀学校との交流中止を発表した。だが、反対派住民は、安全が確保されると市が判断すれば、交流が再開されるかもしれないと疑心暗鬼になっている。

 中国共産党の強い影響下にある海淀学校との交流は即、中国共産党との交流を意味する。ましてや日本側は年端もいかぬ義務教育の児童や生徒である。自由や民主主義という普遍的な価値観を共有できない相手との交流には、教育上もリスクが伴う。彼らと天安門事件や香港、ウイグル人弾圧をどう語るのか。

 7月19日、筆者は市長室に上村市長を訪ねた。

 上村市長は「国際情勢に鑑み、このまま中止もあるし(再開も)あり得る」と述べた。

 異文化を知り、相互理解を深めることは大切である。人口減少に悩み地域の活性化を図る自治体が、主体的に国際交流を図るのを頭から否定するものではない。ただ、国際交流には地元住民の理解が欠かせない。市は頭を冷やし、海淀学校との交流をきっぱり諦めるのも見識である。

 ■佐々木類(ささき・るい) 1964年、東京都生まれ。89年、産経新聞入社。警視庁で汚職事件などを担当後、政治部で首相官邸、自民党など各キャップを歴任。この間、米バンダービルト大学公共政策研究所で客員研究員。2010年にワシントン支局長、九州総局長を経て、現在、論説副委員長。沖縄・尖閣諸島への上陸や、2度の訪朝など現場主義を貫く。主な著書に『静かなる日本侵略』(ハート出版)、『日本が消える日』(同)、『日本復喝!』(同)など。

【私の論評】想定される危機に関しては、あらかじめ対応しておくのが、安全保障の基本(゚д゚)!

北海道でも、このブログにも過去にのべていますが、あいかわらず中国等による土地や森林等の買収が進んでいます。

農林水産省は、昨年5月外国資本による森林買収に関する調査を実施した結果、北海道で合計20haの森林買収が行われていたことを明らかにしました。

日本の農林水産省は、令和2年における外国資本による森林買収の事例について、森林法に基づく届出情報などの行政が保有する情報を参考に、都道府県を通じて調査を行い、結果を取りまとめました。

なお、行政が保有する情報は、「森林法に基づく届出情報(面積にかかわらず、森林の土地の所有者となった場合に市町村へ提出されたもの)」、「国土利用計画法に基づく届出情報(一定面積以上の土地について、売買等の契約を締結した場合に市町村へ提出されたもの)」、「不動産登記法に基づく届出情報(第三者への対抗要件として登記所に登記されたもの)」となります。

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北海道では、蘭越町において、2haが資産保有の利用目的で買収されていました。ニセコ町では合計3.7haが買収され、真狩村では合計10ha、留寿都村では3.4ha、喜茂別町では0.8haとなります。北海道では合計20haが買収されていました。

また、神奈川県では、箱根町において合計0.6haが買収されていました。京都府では、京都市において合計1.2haが買収されていました。

国内の外資系企業と思われる者による森林買収の事例として都道府県から報告があった事例は、26件あり、森林面積は404haとなっています。

なお、居住地が海外にある外国法人又は外国人と思われる者による森林買収の事例の集計(平成18年~令和2年における森林取得の事例)では、北海道が1,804ha、福島県が90ha、群馬県が44ha、神奈川県が13ha、長野県が12ha、兵庫県が260ha、岡山県が48ha、福岡県が60ha、沖縄県が10haとなっています。

なお、北海道に関しては、2019年10月に中国王岐山国家副主席が、習近平国家主席の特使として天皇陛下の「即位礼正殿の儀」に参列後、北海道に訪問しており、有珠山などを視察していました。

この中国王岐山国家副主席を歓迎するために開催された昼食会には、日本側からは、鈴木直道北海道知事、北海道議会議長、札幌市長などが参加していました。2019年9月に開催された中華人民共和国成立70周年祝賀レセプションの際には、鈴木直道知事は、北海道では、今後とも中国との友好関係の発展に向け、経済や文化、教育をはじめ多方面で取組を進めていく方針を表明していました。

中国では、10年2月、国防動員法なる法律が採択、公布され、同年7月に施行されました。全14章72の条文からなり、一言でいうと、中国国内で戦争や武力衝突が起きた場合、金融機関や交通輸送手段、港湾施設、報道やインターネット、医療機関、建設、貿易、食糧など、民間資源をすべて政府の管理下に置くことができるというものです。

さらに、動員命令が出されると18~60歳の男性と、18~55歳の女性が国防義務を負うことになります。免除条件に「外国に居住する者」とは書かれていないため、日本にいる中国人も有事の際は中国軍に動員され、日本にいながら破壊活動や軍事活動を展開する要員にすることができます。

11年3月11日の東日本大震災時、新潟の中国総領事館が5日後の16~21日に、東北地方に住む中国人1万人以上を新潟市体育館など3カ所に集め、5711人を新潟空港から30便の臨時便で上海とハルピンに向けて出国させました。

ところが、この3カ所には日本人は立ち入れませんでした。ある県議会関係者は「総領事館は治外法権になるが、市の施設を貸しただけなのに、体育館なども治外法権になった」と語りました。

もし、国防動員法が発令され、動員された在日の中国人が買収された森林や農地などに集結するとどういう事態になるのでしょうか。新潟のケースを当てはめると背筋が凍る思いがします。

冒頭の記事にあるように、中国資本の進出は北海道に限らないです。「経済振興」を目指す各自治体に「経済侵攻」を続ける中国資本。自衛隊施設の周辺が買収されると、安全保障上重大な事態になるという声が噴出します。しかし、安全保障は、軍事面だけではありません。

エネルギー、食糧、水源、教育と範囲は広いです。中国資本や中国の姿が背後に見え隠れする資本による国土買収は、治外法権地域の拡大、教育、政治への介入、そして主権までも脅かされることを忘れるべきではありません。

出所)平野秀樹・姫路大学特任教授作成

世界各国の外国資本による土地買収に対する法整備を見ると、取得や利用方法を制限していたり所有者や利用者を厳格に管理していたりしています。何ら法整備もルールも持たないのは日本だけともいえる。いわば、中国資本による〝草刈り場〟状態です。

とはいえ、中国資本の脅威ばかり唱えていてもこの問題は解決しません。現時点ではそれが〝合法〟であるからです。むしろ、問題は現状を放置している日本人の危機意識の欠如にあるともいえます。

このブログにたひたび掲載しているように、日本の海戦能力は中国をはるかに凌いでおり、特に日本の対潜哨戒能力や潜水艦隊のステルス性などは、中国のそれをはるかに凌いでおり、海戦において日本は中国に対して圧倒的に有利です。

そのため、軍事力では、中国は尖閣諸島など奪うことはとうていできません。そのため、中国は軍事力ではなく、日本に対して経済的侵攻を強めているのではないかと思います。

私はこれを「武器を持たない戦争」と位置づけています。それに耐えうる法整備や国づくりが求められています。これはもう以前からいわれていますが、本当に〝待ったなし〟の課題です。


ただ、日本には現在優秀な22隻の潜水艦隊があり、これで24時間交代で常時日本列島をカバーすることができます。たとえ国防動員法が発令され、日本各地で、動員された在日の中国人が買収された森林や農地などに集結して軍事行動をしたとしても、日本側は潜水艦隊によって、日本に近づく中国の艦船や、航空機を遮断すれば、中国人たちは食糧・弾薬などの補給を絶たれてお手上げになるのは必定です。

中国と日本が軍事衝突になれば、日本はすぐに負けてしまうと考える方は、中国のプロパガンダにかなりやられていると思います。それは、中国共産党の思うつぼです。

最終的に日本が中国に占領されることはないですが、それにしても、中国人が、日本国内に武器や食糧を備蓄しておけば、長期にわたってゲリラ活動などは可能です。それでも、いずれ陸自などによって掃討されるでしょうが、それまでの間は大変なことになります。

このようなことをいうと中国人差別だと思われるかもしれませんが、世界に類をみない「国防動員法」が存在する国の人間が中国人です。それを考えれば、中国人をそのようにみるのが当たり前であって、もはや個々人が良い人、悪い人などの次元ではなく、中国国籍を持つ人はすべて脅威になりえるのです。中国共産党がそれを望まないというのであれば、「国防動員法」は廃案にすべきでしょう。

想定される危機に関しては、あらかじめ対応しておくのが、安全保障の基本です。

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2021年9月1日水曜日

【日本の解き方】ワクチン接種者にも外出自粛、いつまで押しつけ続けるのか…国会こそオンラインで開催を―【私の論評】コロナ感染症対策は変更すべき!まずはワクチン接種者の自粛を緩和をせよ(゚д゚)!

【日本の解き方】ワクチン接種者にも外出自粛、いつまで押しつけ続けるのか…国会こそオンラインで開催を 

IOCバッハ会長

 緊急事態宣言が21都道府県に拡大し、改めてテレワークの強化や学校でのオンライン授業の導入が促されている。

 8月25日の衆院厚生労働委員会で興味深いやりとりがあった。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が、立憲民主党の尾辻かな子氏の質問に答える形で、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長について「人々にテレワークを要請してるときに、また来るんです。バッハ会長の挨拶が必要なら、なぜオンラインでできないのか」と批判した。同日午後の衆院議院運営委員会では西村康稔経済再生相も「国民感情に配慮すべき」と尾身氏と同様に感情的な発言をした。

 バッハ会長は既にワクチンを2回接種している。ワクチン接種者にも感染リスクはあるが、未接種者と比べるとはるかに低いので、そういう人は、世界どこでも行動は原則として自由だ。

 尾身氏らはここ1年半くらい感染者の拡大を防ぐために行動制限一本やりだった。1年以上前から医療体制強化のための緊急包括支援交付金や新型コロナ患者入院確保のための緊急支援事業などの予算は確保されていたが、未消化であったり、補助金を受けていても実際に患者受け入れを怠ったりして、医療の供給体制は強化されていない。

 この点について言及せずに、今頃になって「臨時のプレハブ施設でもいい」というのは無責任だと言わざるを得ない。

 日本のワクチン接種はかなり進んできた。8月27日公表時点で、少なくとも1回接種したのは国民の54%、2回接種も43%になった。もう1、2カ月すると、欧米先進国の状況に追いつく。となると、ワクチン接種者をどのように社会の中で活用すべきかを考えたほうがいい。

 民間のソフトバンクは、プロ野球の一部の試合について2回接種者らを対象にチケットを販売すると発表した。

 国は今後もワクチン接種者を不要不急の外出の自粛対象にし続けたいのだろうか。ワクチン接種者のバッハ会長に「挨拶をオンラインでして来日するな」と言うのは、ウイルス保有者扱いのような言い方だ。世界でワクチンパスポートが導入される中で、今後のビジネス来日者への悪影響も懸念される。

 もちろんテレワークを推進するのは当然のことだが、ワクチン接種者に外出の自粛を押しつけることとは別問題だ。国会や政府分科会こそ、オンライン会議を積極的に導入したらどうだろうか。

 筆者はワクチン接種済みなので、大学の講義などについてはオンラインでも対面でもどちらでも可能で、それぞれのいいとこ取りをしている。講義以外の事務打ち合わせも、状況に応じて使い分けている。

 オンライン導入の前提となるのは一定の設備だが、一部で公費による負担もあり、対応はしやすくなった。かつては新型コロナ対応で大変だったが、今では良い環境が整ったのではないかと思っている。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】コロナ感染症対策は変更すべき!まずはワクチン接種者の自粛を緩和をせよ(゚д゚)!

ワクチン接種者にまで、自粛を要請するの本当にもうやめたほうが良いです。このようなことをするので、多くの人に生活への不満が相当溜まっています。

内閣府は1日、「満足度・生活の質に関する調査」の結果を発表しました。それによりますと、回答者全体の平均満足度は10点満点中5.74点で、昨年と比べ0.09ポイント減少。調査を始めた2019年以降で最低だった。担当者は、新型コロナウイルス感染拡大が影響したと見ています。

男性の0.06ポイント減に対し、女性は0.12ポイントの減少。減少幅は男性の2倍でした。コロナ感染への不安やストレスが生じて困っているとの回答の割合も女性は59.0%で、男性は49.1%でした。

今回特徴的だったのは、東京圏の生活満足度が初めて地方を下回ったことです。 地域別では東京圏に住む人の生活満足度の低下幅が大きく、地方圏を下回りました。

 「新型コロナに感染する不安やストレスに困っている」という回答が東京圏の方が地方圏より多く、感染者数の多さや緊急事態宣言などによる生活の制限が影響したとみられます。

調査は3月、モニター登録した15~89歳の男女を対象に実施。5234人が回答しました。 生活の満足度を10点満点で評価してもらい、それを報告書にまとめました。

内閣府

もう、ワクチンを接種した人にまで、自粛を求めるのは限界に来たといえます。

しかし、こうした生活への不満は、マスコミが増長しているところがあります。特に最近では、「新型コロナ陽性になって自宅療養の場合、医療機関にかかることもできず、ひたすらじっと耐えるしかない」という誤解です。

このようなことが、日々テレビで報道されるので、多くの人が、信じ込んでしまい、このようなことか生活への不満に繋がつているところがあると思います。

結論からいいますが、新型コロナ陽性、あるいは、発熱などの症状がある場合、保健所の連絡を待たずに、診療所の治療を受けることができます。

検査で新型コロナ陽性の結果が出た場合、検査機関(医療機関や民間の検査機関)から「陽性のため、居住地の保健所から連絡が行くので、その指示に従ってください。」と言われることが報道されています。

そして、保健所から連絡が来るまで数日を要する、あるいは、保健所から連絡が来ても、ただ自宅にいて、体温や血中酸素濃度を保健所に報告するだけで(逼迫している地域では、保健所とのやり取りがないこともあります)、医療機関の治療が受けられない、という報道がなされています。

 あるいは、熱が出たため、心配になって近所の診療所に電話しても、「うちは新型コロナに対応していない」と言われて困った、とか、自治体の相談センターに電話してもなかなかつながらない、というお話も報道されています。

 しかし、新型コロナ陽性や疑いのある方が、「保健所の指示が無いと、医療機関の治療を受けられない」ということでは全くありません。陽性者や疑いのある方が、外出の自粛を求められるのは、「感染を広げないようにするため」であり、そこに気を付けていただいた上で、必要な治療はきちんと受けるべきです。

 具合が悪い中で、悪化するかもしれない不安を抱えながら、ただただ自宅にいるというのはとてもつらいことですし、万が一、容態が急変して亡くなるといった事態は、なんとしても防がねばなりません。そのためにも、適時に適切な治療を受けることが必要です。

 陽性が判明したら、あるいは、具合が悪いなコロナかなと思ったら、まずは、かかりつけ医(地域の診療所)などに連絡すべきです。かかりつけ医が新型コロナに対応できない場合、あるいは、かかりつけ医がいない方は、各都道府県で、新型コロナ患者に対応できる医療機関のリスト等(下記は、各県のリンク先の載った厚労省HPです。なお、各自治体のHPを見ると、自治体ごとに「親切度」が違うのが気になります。)がありますので、電話で連絡してください。

そうして予約をして、医療機関を受診することができます。状況によっては、患者が医療機関に出かけていくのではなく、電話やスマートフォンを使ったオンライン診療、そして、自宅に医師に来ていただく往診といった方法が可能な場合もあります。

 制度的にも、実態的にも、最近よく言われる、「新型コロナが感染症法の『2類相当』であるために、すべてを保健所がコントロールしていて、患者側が直接医療機関とつながることができない」ということではありません。

地域によって、新型コロナに対応できる診療所が十分ではない、という問題はありますが、それは法律や制度の問題とは違います。このようなことは、2021年8月13日の厚労省通知「感染拡大地域における陽性者の家族等への検査について」において、「診療所の医師は、検査陽性者を確認した際には、保健所の判断が無くとも、さらにその家族等の濃厚な接触の可能性のある者に検査を促すこと。さらに保健所の連絡を待たず、必要な治療や保健指導を行うこと」という「期間限定の緊急事態措置の更なる強化に関する提言」(新型コロナウイルス感染症対策分科会)(令和3年8月12日)を引用する形で、示されています。

テレビではこのようなシーンが報道され不安を煽っていた

抗体カクテル療法についても、誤解があるようです。早期(発症から7日以内)に投与することで、重症化を防ぐ効果を期待されている抗体カクテル療法は、現時点では、地域の入院設備のない診療所では投与できません。

厚労省の通知(2021年8月25日)により、抗体カクテル療法は、入院だけではなく、「外来でも投与可能」と変更されましたが、この「外来」というのは、入院機能を持ち、24時間救急対応できる病院の外来部門、ということであり、少なくとも現時点において、診療所で投与が可能となったわけではありません。

これは、投与後のアナフィラキシーショックなどに対応する必要があり、そうした機能を有した医療機関での取扱いに限定するという趣旨です。

新型コロナが日本で感染をしはじめて、もう一年を超えました。昨年は、ワクチンもなく接種に関するデータもありませんでしたが、それも除々に整いつつあります。

感染した人のワクチンの接種状況を厚生労働省が調べたところ、2回接種した人の感染は接種していない人に比べておよそ17分の1と大幅に少なくなっていることが分かりました。



さらに、ワクチンを2回接種した65歳以上の高齢者は、未接種の高齢者に比べ、感染後の死亡率が5分の1程度にとどまることが11日、厚生労働省の分析で分かっています。

感染者のデータを一元管理する情報システム「 HER―SYSハーシス 」のデータをもとに、今年6月に感染が判明した高齢者について、ワクチンの接種回数別の死亡者数と死亡率を調べたところ。死亡率は未接種者が4・31%だったのに対し、1回接種者が3・03%、2回接種者が0・89%でした。

ワクチンは間違いなく効いているようです。今後、毎年定期的にワクチンを接種する必要性がでてくるかもしれませんが、特に最近二度ワクチン接種済みの人は、今年から来年の冬あたりまでは、感染率も、重症化率も少ないとみて間違いないようで。

それにしても、国内だけみていては、比較の対象は難しいです。米国の例を以下にあげます。

新型コロナウイルスの再拡大に直面する米国では、ワクチン接種の進んだ州と遅れた州の明暗が分かれています。インド型(デルタ型)のまん延により、ワクチン拒否層が多い州では感染や入院者数が昨冬のピークを上回りましたが、先行州はマスク着用の推奨などを組み合わせ、抑えこみに成功しています。

現在、全米の新規感染者のほとんどをワクチン未接種者が占めています。米疾病対策センター(CDC)が24日発表した研究によると、未接種者が感染する確率は接種完了者に比べて5倍、入院する確率は29倍にのぼります。

CDCのデータによると、ワクチンの接種完了率が全人口の38%にとどまる南部ミシシッピ州では、8月中旬に1日の100万人あたり新規感染者数(7日移動平均)が一時1200人を超えるなど感染が急拡大しました。同州に隣接するアラバマ、ルイジアナ両州とともに接種完了率は全米最低水準で、8月に入って新規感染者数が昨冬のピークを超え過去最多を更新する州が増えています。


深刻な医療逼迫に直面するミシシッピ州保健当局は8月中旬、大学病院の駐車場に2つの「野戦病院」を開設したほか、州外から看護師や呼吸療法士など1000人超の医療従事者の派遣を求める入札を実施。24日から州内50カ所超の病院への派遣が始まりました。

一方、ワクチン接種完了率が65%超と高い東部マサチューセッツ州の新規感染者数は100万人あたり200人程度と、昨冬のピーク時に比べ5分の1程度にとどまります。同州を含む北東部6州の新規入院者数は27日時点で100万人あたり12.6人でした。ミシシッピやアラバマなどを含む南東部8州は72.9人と6倍近い格差があります。

接種完了率が5割台と全米平均並みながら、感染や医療逼迫が最悪レベルなのが南部フロリダ州です。27日の100万人あたり新規感染者数は1000人を超えミシシッピ州を上回りました。共和党のデサンティス知事はマスク着用を義務づけたりワクチン接種証明の提示を求めたりすることを禁じてきました。温暖な気候に引かれ旅行者や退職者が多く集まる土地柄だが、感染対策はほとんど取られていませんでした。

米国の状況などをみても、ワクチン2回摂取者に関しては、マスク、手洗い、三密回避などを行いつつ、自粛はしなくても良い方向にもっていくべきです。

このブログでは、以前から、コロナ感染症を現在の2類から5類に引き下げて、インフルエンザ相当の扱いをし、感染者が増えても重傷者、死者を増やさないようにして、強靭な社会を構築することを主張してきましたが、これを実施する前に、まずはワクチン摂取者の自粛緩和を実行すべきと思います。とにかく、なにかといば「自粛」一本やりの政策は、もうやめるべきです。

自粛緩和の内容としては、ワクチン2回摂取者を対象に飲食店の利用や、GOTOトラベルも含むべきです。ワクチン非摂取者に対して差別することは良くないとは思いますが、区別という考え方で、接種者の自粛は緩和の方向ですすめていくべきです。

特に、ワクチン接種希望者の全員が打ち終わったころには、必ずそうすべきです。ある程度打ち終わったら全員でなくても、様子をみながらその前にしても良いと思います。現在、日本はとてつもない速度でワクチン接種が行われています。10月から11月には希望者全員が家終わることにそうなりそうです。

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