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財務省は「国の借金」を強調するが… |
18歳以下への10万円の給付や予算規模が107兆円と過去最大になったことなどが報じられるたびに、「子供たちの将来にツケが回る」などと懸念する論調がある。これは事実なのか。
ファイナンス論や会計学からいえば、そもそも借金のみで考えることがおかしい。個人での相続を考えても、借金だけが相続されるわけでなく、資産も相続される。政府が永続的な主体として借金があるとしても、それに相応の資産があれば、ファイナンス論から見れば破綻しないが、それであれば、子孫に対してもツケだけを強調するのはおかしいとなる。つまり、グロス債務ではなく資産を考慮したネット債務を見なければ、きちんとした議論はできない。
財務省は借金のみを強調するので、財政状況に対して、マスコミや学会を含めまともな議論ができなくなっている。結論を言えば、企業でグループでのバランスシート(貸借対照表)が決定的であるのと同じく、政府でも中央銀行を含めた統合政府のバランスシートでみて、そのネット債務額がポイントだ。
しかし、今は政府の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)で財政をみている。もちろんPBは財政状況の一部を表している。数式で恐縮だが、グロス債務対国内総生産(GDP)比の変化は、「PB赤字対GDP比」と、「『前期のグロス債務対GDP比の数値』に『金利から成長率を引いたもの』を掛けたもの」の和になる。今の状況では、成長率が金利より大きいので、多少のPB赤字でも、グロス債務対GDP比は上昇しない。
筆者は15年ほど前にこの数式を経済財政諮問会議の資料として提出したこともある。この意味で、PBはグロス債務の動きを記述するための道具だ。
ネット債務対GDP比はどう決まるか。結論を簡単に言えば、上の式から、中央銀行によるマネー増加対GDP比を引けばいい。中央銀行の保有する国債は、統合政府でみると、会計的にはグロス国債から相殺できるからだ。
今のネット債務はほぼゼロである。その変化も、当分の間、その算式から考えるとマイナス傾向である。となると、狭義の政府で積極財政策をとっても、ネット債務対GDP比を大きく増加させなければ、財政健全化に資するともいえる。
今、国債発行による積極財政をすれば、より将来の付け回しを減らせる可能性もある。一つは、将来投資をして、しっかりとした資産を残すことだ。であればネット債務は増えないし、資産が将来の社会収益を生み出す。もう一つが、中央銀行がインフレ目標の範囲内で国債を購入し、ネット債務を増やさないようにすればいい。
残念ながら、今の財務省のグロス債務だけ見る方法では、正しい財政状況を見ることができないので、正しい財政健全化の議論もできない。まして、正しい積極財政も理解できない。まともな財政議論をするために、ネット債務からの議論をすべきであろう。でないと、財務省は国民に無益どころか有害になる。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ コロナ追加経済対策、批判的な報道は「まともだという証明」―【私の論評】ノーベル経済学賞受賞サミュエルソンが理論で示し、トランプが実証してみせた 「財政赤字=将来世代へのつけ」の大嘘(゚д゚)!これは、2020年12月15日詳細は、この記事をご覧いただくものとして以下に一部を引用します。
20世紀を代表する経済学者の一人であるポール・サミュエルソン(ノーベル・経済学賞受賞)は、たとえば戦時費用のすべてが増税ではなく赤字国債の発行によって賄われるという極端なケースにおいてさえ、その負担は基本的に将来世代ではなく現世代が負うしかないことを指摘しています。なぜかといえば、戦争のためには大砲や弾薬が必要なのですが、それを将来世代に生産させてタイムマシーンで現在に持ってくることはできないからです。その大砲や弾薬を得るためには、現世代が消費を削減し、消費財の生産に用いられていた資源を大砲や弾薬の生産に転用する以外にはありません。将来世代への負担転嫁が可能なのは、大砲や弾薬の生産が消費の削減によってではなく「資本ストックの食い潰し」によって可能な場合に限られるのです。
このサミュエルソンの議論は、感染拡大防止にかかわる政府の支援策に関しても、まったく同様に当てはまります。政府が休業補償や定額給付のすべてを赤字財政のみによって行ったとしても、それが資本市場を逼迫させ、金利を上昇させ、民間投資をクラウド・アウトさせない限り、赤字財政そのものによって将来負担が生じることはありません。
ノーベル賞を受賞した経済学者ポール・サミュエルソン氏 |
そして、世界的な金利の低下が進む現状は、資本市場の逼迫や金利の高騰といった経済状況のまさに対極にあるといってもよいです。それは、政府が感染拡大防止のために実施した経済的規制措置によって生じている負担の多くは、将来の世代ではなく、今それによって大きく所得を減らしている人々が背負っていることを意味します。そうした人々に対する政府の支援は、まさしくその負担を社会全体で分かち合うための方策なのです。
これについては、他の記事でさらに解説を加えました。
しかし、サミュエルソンのこの主張も、当たり前といえば当たり前です。サミュエルソンは、あまりにも当たり前のことをわからない人が多いので、このような主張をしたのでしょう。国債は政府の借金です。政府はどこから借金をしているかといえば、国債を購入する機関投資家や個人投資家からなどです。
誰が当面のつけを払っているかといえば、これらの投資家が払っているのです。これら投資家は、国債に支払った資金が手元にあれば、事業をしたり投資したりできますが、それで国債を購入してしまえば、それができなくなるのです。そうして、その投資家は現在の様々な取引によって得た資金を用いて国債を購入しています。結局、現世代が負担しているのです。
しかし、国債の償還によって、投資家は元金と金利を受け取ることができるのです。愚かな人は、これが将来世代への付けになると考えているのでしょうが、それは完璧な間違いです。
政府がよほど無意味な投資でもしない限り、公共工事や他の事業が行われ、それが富を生み出し、税金として政府に戻ってくることになります。
公共工事で堤防をつくったら、何にも富を生み出すことはないではないかと言う人もいるかもしれません。そうでしょうか。堤防をつくって安全になれば、そこには住人が増えます。住人が増えれば、商店や病院ができます。工場ができたり、住民サービスの様々な施設ができて、税収が増えることになります。
無論、そうなるまではかなりの時間がかかり、個人や一企業がそのようなことをしても損失だけで、何も富を生み出すことはできないかもしれません。しかし、政府は長い間待つことができます。しかも、個人や企業と違って、税金収入を得られます。そうして、出来上がった堤防は将来世代も使うことができるのです。
それにあまりにも当たり前すぎて、わざわざ述べるべきかどうか迷うところですが、堤防をつくるために、政府が支出して土木会社などにお金を払い工事を実施すれば、その工事に携わる人たちは、それで収入を得て消費や投資をしたり、さらには税金を払うことになります。政府は、税収を得ることできます。これが、家計や個人とは大きな違いです。政府が何かつくったり消費すれば、そのお金が家計のようにそっくり消えてしまうわけではないのです。
そうして政府は国が崩壊することでもない限り、不死身と言っても良い存在です。これは、個人や企業などとは大きな違いです。個人の寿命は数十年、企業の寿命は日経が昔調べた資料によれば、30年です。これは、今から考えると、会社というより、一事業の寿命は30年というほうが正しいかもしれません。しかし、現在のコーポレート化された組織であっても、不死身ではありません。
だから、国債を発行して政府は様々な事業を行うことができるのです。というより、国民のためにそうしなければならないのです。黒字を積み立てるだけで、何もしない政府は、存在意義がありません。ただ、もちろん無制限にそのような事はできないです。もし、無制限にそのようなことをして不都合が生じた場合、過度のインフレになります。
この場合は、心配する必要はありますが、財政赤字自体を心配する必要はありません。過度のインフレにさえならなければ、政府は財政破綻の心配などせずとも、財政赤字状態を100年でも200年でも、継続することできます。
このようなことをいうと、インフレを過度に心配する人もでてくるでしょうが、現状の日本では2%くらいのインフレであれば、全くは心配ありません。むしろ賃金が上昇するなどのメリットのほうが多いです。
そうして、今の世界は、よほどのことがない限り過度なインフレになりにくい状況になっています。これについても、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!
野口旭氏 2021年4月1日、日本銀行政策委員会審議委員 |
詳細はこの記事をご覧いただものとして、この記事において、野口旭氏は、現在世界がインフレになりにくい状況を以下のように述べています。
一つの仮説は、筆者が秘かに「世界的貯蓄過剰2.0」と名付けているものである。世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。
この「長期需要不足」の世界は、ローレンス・サマーズが「長期停滞論」で描き出した世界にきわめて近い。その世界では、財政拡張や金融緩和を相当に大胆に行っても、景気過熱やインフレは起きにくい。というよりもむしろ、財政や金融の支えがない限り、十分な経済成長を維持することができない。ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥ってしまうからである。それが、供給の天井が低かった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなり、逆に、その担い手が右派であれ左派であれ、世界各国で反緊縮が必要とされる理由なのである。
インフレになりにくい現在の世界では、財政赤字を恐れて、投資をしないことのほうが、経済運営においてはるかに危険なことなのです。
ノーベル経済学賞を受賞した、ジョセフ・スティグリッツ教授は、EUがパンデミック前のルールに立ち戻ることは間違いであり、公的債務のGDP比を減らすには投資で分母を増やすべきだとして、より柔軟で思慮深い財政運営を求めていますが、これは全く正しいです。
ジョセフ・スティグリッツ氏 |
感染症対策の一環として、国債を増発し、それで給付金を支給したとして、それがすぐに将来世代=子どもたちのつけになるというのは全くの間違いです。サミュエルソンが語るように、将来世代が、給付金を未来から現在にタイムマシンで送ることができれば、将来世代のつけになりますが、タイムマシンがなければやりたくても、それはできません。
財務省の(矢野康治)事務次官が、このまま日本が借金まみれだと、タイタニック号のように氷山にぶつかって沈没してしまうという趣旨の与太論文を(月刊誌「文芸春秋」に)掲載しました。しかし、安倍元首相は昨年暮の公演で「日本は決してタイタニック号ではない。日本がタイタニック号だったら、タイタニック号が出す国債を買う人はいない。ちゃんと売れている」と主張しました。これは、全く正しいです。そうして、以下のように続けました。
「新型コロナ禍での巨額の補正予算は、国債でまかない、そのほとんどは市場を通じて日本銀行に購入している。決して孫の代に(借金を)背負わせているわけではなく、借金を全部背負っているのは日本銀行だ。
「子供たちの将来にツケが回る」と語る人たちは、空想科学小説、それもあり得ない与太話をしているに過ぎないのです。
このような政治家や官僚の与太話等に惑わされて、不安を感じる必要性などまったくありません。
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