2024年1月4日木曜日

インフレリスク減退、過度に制約的な政策に懸念=FOMC議事要旨―【私の論評】利上げを急ぐとデフレに逆戻り! 日本はコアコアCPI4%を超えるまで金融緩和を続けるべき

インフレリスク減退、過度に制約的な政策に懸念=FOMC議事要旨

まとめ
  • FRB当局者は、インフレ「上振れリスク」が減退したという見解を確認した。
  • 「過度に制約的な」金融政策が経済に与える影響への懸念も示した。
  • 「ほぼ全ての参加者が、2024年末までにフェデラルファンド(FF)金利の目標レンジ引き下げが適切であるとの見解を示した」とした。
  • 参加者は「インフレ率が委員会の目標に向けて持続的に低下することが明らかになるまで、しばらくは政策を制約的なスタンスにとどめることが適切だ」と強調した。
連邦公開市場委員会(FOMC)

 米連邦準備理事会(FRB)が公表した2023年12月12-13日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨によると、当局者はインフレ「上振れリスク」が減退したという見解を確認した。

 また、「過度に制約的な」金融政策が経済に与える影響への懸念も示した。議事要旨によると「ほぼ全ての参加者が、2024年末までにフェデラルファンド(FF)金利の目標レンジ引き下げが適切であるとの見解を示した」とした。

 一方、インフレ率が引き続き鈍化する中、いかにして経済を守るかに関して議論されたことも示された。参加者は「インフレ率が委員会の目標に向けて持続的に低下することが明らかになるまで、しばらくは政策を制約的なスタンスにとどめることが適切だ」と強調した。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】利上げを急ぐとデフレに逆戻り! 日本はコアコアCPI4%を超えるまで金融緩和を続けるべき

まとめ
  • 米国やEUは、一昨年コアコアCPIが6%や5%と高水準にあったため、利上げを行った。
  • 日本は、一昨年ですらコアコアCPIが2.7%にとどまっており、利上げの必要はない。
  • 利上げをすると、景気が悪化し、デフレに陥る可能性がある。
  • インフレ率が4%を超えるような状況になれば、欧米のように金融引き締めを検討すべきである。
  • 金融緩和解除が早すぎると、低い失業率を確保できず、賃上げにつながらなくなってしまう。
上の記事の内容煎じ詰めると「FRBは、物価の上昇を抑制することに成功していますが、経済への影響を慎重に判断しながら、利上げのペースを調整していく」ということです。

こういう記事をみて、日本は利上げすらしていないし、ゼロ金利政策をやめてすらいない、すぐにするべきだと思いますか。マスコミにはそのようなことを平気で言う人もいます。しかし、これは正しいでしょうか。そうして、正しい、正しくないの判断をするにはどうすれば、良いでしょうか。

そのための判断材料を以下に掲載します。以下の表をご覧いただければ、一目瞭然です。これは、コアコアCPIの推移の国際比較です。 
日本米国EU
2022年2.70%6.10%5.30%
2023年2.30%4.10%4.30%
2024年(予測)2.00%3.00%3.70%

この表は以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

マイナス金利は早期解除へ 欧米と異なる「金融正常化」 政治情勢ガタガタ〝火事場泥棒〟避けた? 来年1月にも決断する公算―【私の論評】金融引き締めでデフレ再来?日本はマイナス金利解除に慎重に

日銀植田総裁 

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの表に関連した部分のみを以下に引用します。
来年は、エネルギー・資源価格の価格高騰が、沈静化し下がる傾向にあります。これは、常識的に考えても理解できます。エネルギーや資源は、多くの国々が生産しているので、資源価格が上がれは、増産するなどのことをします。そうなると、価格が安定し、落ち着くのが普通です。資源価格も同じことがいえます。

無論、中東情勢の悪化などもあり、依然として上がる要素はありますが、それでも大勢としては、下がる傾向にあります。

そのようなときに、利上げをすれば、景気が落ち込むのは明らかです。特に、長い間デフレが続いてきた日本は、元々デフレではなかった米国やEUに比較すれば、物価の上昇はさほどでもありません。以下に、日本、米国、EUのコアコアCPI(食料及びエネルギーを除いた物価指数)の推移の比較の表を掲載します。(ブログ管理人 作成)

日本米国EU
2022年2.70%6.10%5.30%
2023年2.30%4.10%4.30%
2024年(予測)2.00%3.00%3.70%
                       注)先の表と同じ内容
この表をご覧いただければ、髙橋洋一氏の主張はもっともであるとご理解いただけるものと思います。米国やEUは、コアコアCPI6%、5%で利上げをしています。この水準でようやっと、利上げをしたのは、やはり経済の悪化をおもんばかったからでしょう。正しい判断です。

日本は、2022年には、2.7%に過ぎません。来年は、2.0%になることが予想されています。無論、この予想は、日銀の金融政策が現状のままだと想定したものです。このようなときには、推移を見守り、金融政策は変えるべきではありません。

1月にマイナス金利の解除をしてしまえば、さらに物価が下がり、デフレ傾向になるでしょう。そのようなことをする必要性は全くありません。早急にゼロ金利政策を排除し、利上げすべきなどと言う人は、こうした数字をみていないのではいなかと思います。

ただし、予想できない何かが起こる可能性は否定できません。しかし、その時にも、すぐにゼロ金利解除とか、利上げなどに走るべきではありません。あくまで、コアコアCPIが4%を超えるなどの事態でも無い限り、ゼロ金利解除や、利上げなどするべきでありません。

こうしたことを無視して、日銀が来年早々にゼロ金利を解除し、利上げして、金融引き締めに走ってしまえば、また日本は、デフレにまい戻り、雇用がかなり悪化し、賃金も上がらすーず、それに政府が増税などの緊縮路線に走れば、日本は再びデフレの底に沈み、日本人の賃金は上がることなく、また失われた30年を繰り返すことになるでしょう。そうなれば、日本の実体経済は、現状のドイツのように酷いものになるかもしれません。
コアコアCPIを見ている限りでは、日本では、一昨年、昨年、今年ともに、日銀が金融政策を変える必要性など全くありません。今年日銀が、ゼロ金利政策をやめれば、物価は2.0%よりもさらに下がり、デフレ傾向になってしまいます。

利上げをすれば、完璧にデフレになります。正しい日銀の金融政策は、金融緩和をしつつ、資源・エネルギー価格による悪影響を受けている中小企業や個人に対して支援策をすることです。ゼロ金利政策をやめたり、利上げをすることではありません。

確かに日本でも、エネルギー価格や、資源価格などは上がっていますが、これはほとんど外国から輸入しているエネルギー価格が上昇しているからです。エネルギー価格が上昇すれば、これもほとんど輸入している、小麦などの値段が上に、日本国内で生産加工している食料品を生産したり、輸送したりする費用が上昇し、食料品も値上がりします。ガソリンや電気代などが値上がりし、それが資源価格にも影響を及ぼしているのです。


原油価格の推移

確かに日本でも、エネルギー価格や、資源価格などは上がっていますが、これはほとんど外国から輸入しているエネルギー価格が上昇しているからです。エネルギー価格が上昇すれば、これもほとんど輸入している、小麦などの値段が上に、日本国内で生産加工している食料品を生産したり、輸送したりする費用が上昇し、食料品も値上がりします。ガソリンや電気代などが値上がりし、それが資源価格にも影響を及ぼしているのです。

これらの値上がりは、外国から輸入しているエネルギーや資源価格が変わらない限り、日銀がどのような金融政策をしても変わりません。

このようなときに、日銀が利上げなどしてしまえば、日本は再びデフレの底に沈んでしまいます。無論、賃金もあがりません。無理に賃金をあげると、雇用を悪化させ、失業率をあげることになります。これは、韓国が在文寅政権だったときに、金融緩和せずに、機械的に賃金をあげたがために、雇用がかなり悪化したことでも、証明ずみの事実です。

文在寅

インフレ目標政策では、目標の数値プラスマイナス1ポイントは許容範囲です。その上で金融引き締めは遅れてやるべきなのです。

その理由は、インフレ率(物価上昇率)が2%でも4%でも社会的コストはあまり違わないですが、金融引き締めを急いだ場合、景気への悪影響、とりわけ失業率上昇の社会的コストが大きいからです。

こうした金融政策の運営は、「ビハインド・ザ・カーブ」と呼ばれていますが、欧米での最近の金融引き締め局面でも実際に行われ、インフレ率が現実に4%程度より高くなるまで金融引き締めは基本的に実施しませんでした。米英は物価上昇率が4%を超えた時点の米国は6.10%、EUは5.30%の時点で、はじめて利上げをしたのです。

インフレ目標が2%なら、現状では日銀は、ゼロ金利政策をやめたり、利上げなどする必要性はないのです。ただしインフレ率が4%を超えるような状況になれば、欧米のように金融引き締めを検討すべきなのです。ただ、金融引き締めをやりすぎてしまえば、今度は悪影響がでてくるので、それを防ぐためにこそ、インフレ目標2%があるのです。これを下回れば、デフレになります。

そうして、金融緩和解除が早すぎれば、低い失業率を確保できず、結果として賃上げにつながらなくなってしまうのです。

今年の日銀の金融政策決定会合の予定は、1月22、23日、3月18、19日、4月25、26日です。このうち「経済・物価情勢の展望(基本的見解)」は、1月23日、4月26日に公表されることになっています。

政策変更には「基本的見解」があったほうがよく、3月は国会予算審議があり、4月は遅すぎることを考えると、今年の1月に日銀はゼロ金利解除を公表し、その後年内に利上げを公表することになるかもしれません。

そうなると、とんでもないことになります。今後、財務省はさらに緊縮財政に走り、日銀も金融引き締めに走ることになれば、失われた30年の再来は確実です。

安倍政権のときには、結果として二度の消費税増税に踏み切らざるを得ませんでしたが、それでも、安倍菅両政権計で、100兆円の補正予算を組み、コロナ対策を実施し、日銀は金融緩和政策を続けていたため、失業率を低く抑え、岸田政権になってからも、景気の良い状態が続いたのですが、今年日銀が金融引き締めに転ずれば、日本は失われた30年を繰り返すことになるでしょう。

私達にできることは、緊縮財政と金融引き締めに反対する世論を形成するしかありません。こうした世論が強ければ、日銀は金融引き締めに消極的になる可能性もあります。また、引き締めを実行して失敗したときも、構造改革などの的外れな議論をせずに、金融緩和政策に戻すという道を選ぶ可能性が高まります。


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2024年1月3日水曜日

米英メディア、乗客全員の脱出「奇跡」 航空機衝突事故で―【私の論評】羽田空港 衝突事故 乗客全員脱出 訓練・規律・準備が功を奏す 今後の安全対策に課題も

米英メディア、乗客全員の脱出「奇跡」 航空機衝突事故で

まとめ
  • 2024年1月2日、羽田空港で日航機と海上保安庁の航空機が衝突、炎上した。
  • 日航機の乗客367人全員が脱出した。
  • 米英主要メディアは、このことを「奇跡」と称賛した。
  • 乗員らの迅速かつ的確な避難誘導が、乗客の全員脱出に大きく貢献したことが評価された。
  • この事故は、日本の航空安全の水準の高さを示すものとして、世界中から注目を集めた。

乗客が撮影した脱出直後の写真

 羽田空港での航空事故で、日航機の乗客367人全員が脱出したことは、米英主要メディアからも「奇跡」と驚きを持って伝えられた。乗員らの迅速かつ的確な避難誘導が、乗客の全員脱出に大きく貢献したことが評価された。

 具体的には、米ニューヨーク・タイムズ紙は、航空専門家の話として、「乗員が乗客全員を脱出させたのはまさに奇跡だ」と指摘。乗客と乗員の協力が成功の要因だとした。米CNNテレビは、衝突時や、煙に包まれる日航機内の様子を繰り返し放送。女性キャスターは、乗客に犠牲者がいなかったことについて「驚くべきことだ」と伝えた。専門家は、乗客が荷物を持たずに脱出シューターから機外に出ていたことなどを挙げ、「お手本のような対応」だったと語った。

 英BBC放送でも、キャスターや有識者が乗客の全員脱出は「奇跡的」と表現。避難誘導した乗員を「極めて効率的だった」「素晴らしい仕事をした」と褒めたたえた。

 この事故は、日本の航空安全の水準の高さを示すものとして、世界中から注目を集めた。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】羽田空港 衝突事故 乗客全員脱出 訓練・規律・準備が功を奏す 今後の安全対策に課題も

まとめ

  • 2024年1月2日、羽田空港でJAL機と海上保安庁機が滑走路上で衝突した。
  • 乗客367人全員と乗務員12人が脱出したが、海上保安庁機の乗員5人が死亡した。
  • 海外メディアは「奇跡」と称賛したが、これは「訓練と規律の勝利」といえよう。
  • 日本の文化には、緊急事態における迅速かつ協調した行動の重要性が深く根付いている。
  • 今後も、このような悲劇が繰り返されないよう、さらなる安全対策の強化が求められる。

今回の事故と似たような空港の滑走路内の衝突事故には以下のような事例があります。

テネリフェ空港ジャンボ機衝突事故 横たわるKLM機

このような事例があるからこそ、米英主要メディアは、今回の事故で死者がいなかったことを「奇跡」と称賛したのでしょう。

英米以外の報道は以下のようなものです。

中国国営新華社通信
日航機の乗客367人全員が脱出したことは、航空安全の面で大きな成果であり、日本の航空安全の水準の高さを示すものである。

この報道は、日航機の乗客全員が脱出したことを「航空安全の面で大きな成果」と評価し、日本の航空安全の水準の高さを示しているとしています。
インドのテレビ局「NDTV」
日本の航空安全の水準の高さを示す、驚くべき出来事である。

この報道は、日航機の乗客全員が脱出したことを「日本の航空安全の水準の高さを示す、驚くべき出来事」と評価しています。
フランスのテレビ局「TF1」
乗客全員が脱出したことは、奇跡に近い。日本の航空安全の水準の高さが、この事故を未然に防いだと言えるだろう。

この報道は、日航機の乗客全員が脱出したことを「奇跡に近い」と評価し、日本の航空安全の水準の高さが、この事故を未然に防いだと述べています。
なお、他にも、ドイツのメディア「デア・シュピーゲル」や韓国のメディア「中央日報」なども、乗客全員の脱出を「奇跡」と称賛する報道をしています。

あの出来事は、不幸中の幸いであったことは間違いないです。しかし、私自身はこれを「奇跡」と単純に片付けるのには躊躇します。

むしろ、私は、訓練、規律、準備への揺るぎない決意が、日本の文化に深く根付いていることの証だと信じます。私自身、大きな被災の経験はないのですが、2018年6月6日の北海道胆振東部地震のときには、北海道ほぼ全域が停電になったときには、札幌におり、そのときに近所のコンビニに行ったのですが、そのコンビニの前では、行列ができており、多くの人達が店に入る順番を待っていました。下の写真がそのときの写真です。

2018年9月6日北海道胆振東部地震で停電になった直後、札幌のコンビニの前で行列をつくり並ぶ人々(筆者撮影)


コンビ二では、お客が一度に入れる数を制限していました。しかし全員が、慌てることもなく、落ち着いて順番を待っていました。東日本大震災においては、やはり行列ができていたという話を聞いていたので、これは札幌でもそうなのだと、思い感心しました。

他国だとこういうときには、我先に店に入ろうとしたり、挙句の果てに略奪に走るものもいると聴きますが、そのようなことは一切ありませんでした。

今回の事故でも、航空機の脱出はこのように沈着冷静に行われたのだと思います。他国だと、我先に出ようとしたり、荷物を持って出ようとする人もいるのかもしれません。

日航の脱出訓練

乗務員の明らかに効果的な避難手順と、乗客の緊急事態手順の遵守こそが、この出来事の本当の主人公なのだと思います。この両方がなければ、今回も犠牲者が出ていた可能性が高いと思います。

自然災害の多い日本列島に住むことは、間違いなく、緊急事態における迅速かつ協調した行動の重要性を、日本人に深く認識させていえると思います。

したがって、この出来事は、神の介入による「奇跡」というよりは、綿密な準備と集団責任の勝利の輝かしい例といえると思います。

おそらく、これらの重要な側面に焦点を当てることで、奇跡のような説明を求めるのではなく、将来、このような肯定的な結果を理解し、再現するのに役立つことでしょう。

一方、海上保安庁の方々は機長一人だけが生存しつつも重症で、他の五人は亡くなったいうこ大変残念な結果となりました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りさせていただくとともに、機長の早期の回復を願いたいものです。

この出来事は、日本の航空業界や社会全体にとって、貴重な教訓となりました。今後も、このような悲劇が繰り返されないよう、さらなる安全対策の強化が求められるでしょう。

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〝世襲政治〟が日本をダメに 日本保守党・百田尚樹氏、有本香氏 無税で相続できる「政治資金管理団体」の世襲の見直しにも言及―【私の論評】日本保守党の理念と日本政治改革:統治と実行の分離がもたらす可能性と挑戦

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2024年1月2日火曜日

〝世襲政治〟が日本をダメに 日本保守党・百田尚樹氏、有本香氏 無税で相続できる「政治資金管理団体」の世襲の見直しにも言及―【私の論評】日本保守党の理念と日本政治改革:統治と実行の分離がもたらす可能性と挑戦

〝世襲政治〟が日本をダメに 日本保守党・百田尚樹氏、有本香氏 無税で相続できる「政治資金管理団体」の世襲の見直しにも言及

まとめ
  • 自民党派閥の収入不記載事件に対する怒りと新党結成の動機
  • 日本政治の凋落と「家業政治」への批判
  • 岸田文雄首相への違和感と日本保守党の新たな挑戦
  • 政治家の世襲化や金権政治への反対とその是正方法についての提案
  • 日本保守党の活動方針や公募に関する展望

 百田尚樹氏が率いる日本保守党は、2023年10月に結成されたばかりの政党である。同党は、自民党派閥の政治資金パーティー収入不記載事件や、LGBT法の成立をきっかけに結成された。

 百田氏は、自民党の腐敗と世襲政治に強い怒りを抱いており、日本保守党を「世襲・金権政治」を打倒するための新たな選択肢として位置づけている。

 百田氏は、自民党派閥の政治資金パーティー収入不記載事件について、「国民を馬鹿にしている」「腐っている」「笑えた」と厳しく批判した。同氏は、この事件を「政治の裏金問題」と位置づけ、徹底的な捜査と処罰が必要であると訴えている。

 また、百田氏は、LGBT法の成立について、「日本社会の伝統や文化を否定するものだ」と批判した。同氏は、LGBT法は「同性婚を推進するためのもの」であり、「日本を同性愛国家にしようとするもの」であると主張している。

 日本保守党は、これまで名古屋、東京、大阪などで街頭演説を行い、一般市民からの支持を集めている。同党の街頭演説では、「世襲政治を打倒する」「日本を守る」といったスローガンが唱えられ、聴衆からは大きな拍手が送られている。

 百田氏は、岸田文雄首相の鈍感力や、内閣支持率の低下にも疑問を呈している。同氏は、岸田首相が「国民の声に耳を傾けず、日本を衰退させている」と批判した。

 日本保守党は、今後も街頭演説や集会などを通じて、世論を喚起して、政治を国民の手に取り戻すことを目指していく。同党が、自民党の牙城を崩すことができるのか、注目が集まっている。

この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日本保守党の理念と日本政治改革:統治と実行の分離がもたらす可能性と挑戦

まとめ
  • 日本保守党の理念は、国民の利益を守り、日本を豊かに強くすることである。
  • そのためには、政府は統治に専念し、実行は民間企業や地方自治体に委ねるべきである。
  • 政府は、社会の方向性を定め、実行の邪魔にならないようにすべきである。
  • 政府は、民間組織、地域コミュニティ、個人に力を与えることで、社会と経済を活性化することができる。


日本保守党の理念は、(党規約と綱領)に以下のように掲載されています。
結党宣言(別紙)に基づき、日本の国民と、領土・領海、国体を守る。日本を豊かに、強くすることにより、国民福祉の向上と世界平和への貢献を企図する。

私は、この理念には大賛成であり、日本保守党には多いに期待しています。本当に頑張っていただきたいです。百田氏の指摘は正しく、これを是正すれば、日本はかなり良くなることでしょう。

ただ、このブログにも書いたように、チマチマしたことが嫌いで、大きな括りで、物事を考えるのが好きだった故安倍晋三氏に倣って考えてみると、「日本を豊か、強く」するために、特に政治の世界では絶対に実行しなければならないことがあります。

それは、このブログでも過去に何度か掲載してきたこともある、政府は統治(ガバナンス)に集中し、その他は政府の外に出してしまうということです。これなしに、たとえ「世襲・金権政治」を打破したとしても、現在の政治体制のままでは、また「世襲・金権政治」が復活するか、あるいは特定の集団の特定の利益を生み出そうとする集団が、新たなスキームを作り出し、同じようなことを繰り返すことになりかねません。

無論、日本保守党にはそのようなことも視野に入れているとは、思います。ただ物事には順番があって、最初に統治(ガパナンス)などということを言い出すと、日本ではこれが良く理解されていないため、混乱を招くためと、現在はわかりやすく「世襲・金権政治」打破ということを主張しているだけなのかもしれません。

政府を統治にのみに集中させる体制を築けば、世論・金権政治のようなことはなくなります。そうして、これはすでに民間企業では実施されています。いくつかの仕組みはありますが、本社と事業会社を分離して、本社は統治に専念するという方式です。このような大企業においては、世襲や金でものごとが決まるということは、ほとんどありません。

このような方式にすると、たとえば決算は、事業会社単体のものと同時に連結決算を行うことになり、不正はおこりにくくなります。また、本社が統治を行うことにより、資源を有効に使えるというメリットもあります。余剰人員を他の事業会社に回すということが簡単にできるからです。

このようなことを言うと多くの人は「小さな政府」という言葉を思い出すかもしれません「小さな政府」とは、日本では主に以下のように定義されています。

政府による経済活動への介入を可能なかぎり減らし、市場原理による自由な競争を促すことで経済成長を図る思想・政策。 具体的には公務員、政府組織、政府予算の規模を縮小し、規制を緩和して民間企業にできることは民間企業へ移管する。 税などの国民負担は少なくてすむが、公的サービスの水準も低くなる(低福祉低負担)。

しかし、政府を統治のみに集中させるということは、決してこの「小さな政府」だけを意味するものではありません。

そもそも統治(ガバナンス)という言葉は、かなり曖昧に使われています。様々なガバナンスに関連する文書を読むと、色々と書かれていますが、結局何なのかが理解しにくいものがほとんどです。その定義を以下に掲載します。これは経営学の大家ドラッカー氏による定義です。

晩年のドラッカー氏

経営学の大家ドラッカー氏は政府の役割について以下のように語っています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないとしました。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。

 といいます。

昔の政府は、「小さな政府」であり、小さいが故に、統治に専念せざるを得ませんでした。リンカーン政権は、閣僚と通信士をあわせて7人だったと言われています。この小さな政府で、リンカーンは統治に専念し、実行は他の組織にまかせて、多くのことをやと遂げたのです。

これだけ政府が小さいと、不正が割り込む隙はかなり小さいことが理解できるというものです。

このように、一昔前の政府は小さく、それが理由で統治に専念していました。それで多くのこと成し遂げることができのです。そうした政府の効率の良さを民間企業も取り入れはじめました。最初に取り入れたのは、オランダの東インド株式会社でした。

多くの国々で、植民地経営は失敗しましたが、オランダだけは例外でした。ただ、後にオランダも東インド株式会社を政府に取り込んでしまい、オランダの植民地経営も失敗することになりました。

ただ、その後も民間巨大企業は、本社・本部などの統治機構を作り出すことにより、成功しています。

ただ、その後政府は肥大化していって今日のような姿になっています。今日、政府のほうが、民間会社を見習い、政府は統治に専念する体制を作り出すべきなのです。

ドラッカーの語るように、現在の政府は、統治と実行を両立させようとして、統治の能力が麻痺しているのです。しかも、各省庁などの決定のための機関に、実行をさせているが故に、貧弱な実行しかできないのです。各省庁などの機関は、実行に焦点を合わせていないのです。体制がそうなっていないのです。そもそも関心が薄いのです。

であれば、各省庁の統治をする部分のみを政府に含め、政府にある実行の部分を各省庁に振り分け、さらにこれら各省庁を政府の下部機関とするのではなく、外に出すべきなのです。そうして、民営化すべきなのです。そうして、これは突飛な考えとは言えないと思います。

明治政府の人員は、政権が固まった1871年(明治4年)には、約2,000人程度と推定されています。

当時の日本の人口は約3,500万人とすると、人員対人口の比率は約0.055となります。

現在の日本の中央政府の人員は、約25万人です。現在の日本の人口は約1億2,700万人とすると、人員対人口の比率は約0.02%となります。

このように、明治政府の人員対人口の比率は、現在の政府の人員対人口の比率と比べると、約40倍も高いことがわかります。

ただ、人口比だけで比較するとそうはなりますが、それにしても、当時はコンピュータもなく、通信も発達しておらず、機械化も進んでおらず、ITもAIもない状況を考えると、わずか2000人で日本全土を統治していたのは驚きです。

『憲法発布式之図』

明治政府の役割は主に政治や軍事、行政の整備に限られており、また、民間企業や地方自治体に多くの業務を委任していました。明治政府は、統治に専念していたといえます。

単純比較はできませんが、明治維新の最中にあった当時は現在よりもはるかに、多くの決定事項があったと思います。しかし、政府は統治に専念していたのでしょう。だからこそ、現在よりは統治と実行もうまくいっていたと言えると思います。そもそも、明治政府はどの政府よも、改革を成し遂げたといえます。

現在の政府の縮小と分散化により、 民間組織、地域コミュニティ、個人に力を与えることで、社会と経済が活性化します。 政府は方向性を定め、実行の邪魔にならないようにすべきなのです。 その役割は、制御したり細かく管理したりすることではなく、日本を豊かにし、強くすることを促進することなのです。

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2024年1月1日月曜日

石川で震度7 津波警報が山形~兵庫北部に発表 安全な場所へ―【私の論評】石川県能登地方を震源とする地震、南海トラフ巨大地震の前兆か?

石川で震度7 津波警報が山形~兵庫北部に発表 安全な場所へ

2024年1月1日 20時41分 令和6年能登半島地震

まとめ
  • 石川県能登地方で震度7、七尾市、輪島市、珠洲市、穴水町、中能登町、能登町、新潟県長岡市で震度6強から6弱、日本海側の広い地域で震度4から1の揺れを観測。
  • 石川県能登地方で多くの建物が倒壊、道路や鉄道などのライフラインにも大きな被害。
  • 沿岸部では津波警報が発表され、津波により家屋や車が流されるなどの被害が発生。
  • 政府は被災地への救援活動を進め、今後の被害拡大を防ぐため、地震や津波への備えを呼びかけ。

2024年1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の地震が発生しました。この地震は、日本海溝のプレート境界で発生したと考えられています。

この地震で、石川県能登地方の志賀町で震度7の激しい揺れを観測しました。また、石川県の七尾市、輪島市、珠洲市、穴水町、中能登町、能登町、新潟県長岡市で震度6強から6弱、新潟県、富山県、福井県、長野県、岐阜県で震度5強から5弱、北海道から九州までの広い範囲で震度4から1の揺れを観測しました。

石川県能登地方では、多くの建物が倒壊し、道路や鉄道などのライフラインにも大きな被害が出ました。また、津波警報が発表され、沿岸部では津波により家屋や車が流されるなどの被害が発生しました。

この地震は、日本海側の広い地域に大きな被害をもたらしました。特に、石川県能登地方では、震度7の激しい揺れにより、多くの建物が倒壊し、多くの人が被災しました。また、津波警報が発表され、沿岸部では津波による被害も大きく、多くの人が避難を余儀なくされました。

この地震を受けて、政府は、被災地への救援活動を進めています。また、今後の被害拡大を防ぐため、地震や津波への備えを呼びかけています。

【私の論評】石川県能登地方を震源とする地震、南海トラフ巨大地震の前兆か?

まとめ
  • 2022年6月19日、石川県能登半島でマグニチュード5.4の地震が発生。
  • 2020年12月から2023年12月にかけて、能登地方で震度1以上の地震が506回発生。
  • 能登地方で群発地震が活発化しており、大きな地震が発生する可能性がある。
  • 南海トラフ巨大地震の前兆である可能性も指摘されている。
  • 日頃から地震への備えをしておくことが重要。
この地震により、多くの方が被災されたことと思います。被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。

また、この地震は、日本海側の広い地域に大きな被害をもたらしました。特に、沿岸部にお住まいの方は、津波による二次災害に十分注意が必要です。

津波は、予想の高さを超えることがあります。斜面を駆け上がり、内陸深くまで流れ込みます。何度も押し寄せ、急に高くなります。

津波警報や注意報が出ている地域にお住まいの方は、ただちに安全な場所へ避難してください。高台やビルの上、海岸から遠い場所へ避難しましょう。

また、避難する際には、以下の点に注意してください。
  • ラジオやテレビで最新情報を確認する。
  • 家族や周囲の人と連絡を取り合い、避難場所を決める。
  • 必要な持ち物を用意する。
地震や津波は、いつどこで発生するかわかりません。日頃から、地震や津波への備えをしておくことが大切です。

2022年6月19日15時08分に石川県能登半島の北東部でマグニチュード5.4の地震が発生しました。この地震の最大震度は6弱でした。

石川県能登地方では2020年12月から2023年12月にかけて、震度1以上の地震が506回観測されるなど、地震活動が活発になっていました。2023年5月5日にもマグニチュード6.5の地震が発生しており、最大震度は6強でした。この地震は石川県が「令和5年奥能登地震」と命名しています。(写真下)

以上は、能登地方の日本海側で、地殻変動が活発に起こっていることを示しています。群発地震は、地殻変動によって引き起こされると考えられています。このことから、能登地方の日本海側で、また大きな地震が発生する可能性があると考えられています。これらの地震は、いずれも能登地方の日本海側を震源としており、地震学者の間では、南海トラフ巨大地震の前兆である可能性があるとの指摘があります。

南海トラフ巨大地震は、日本海側の鳥取から紀伊半島にかけての太平洋側で発生する可能性がある巨大地震です。過去には、1944年に昭和東南海地震、1946年に昭和南海地震が発生しており、いずれもマグニチュード8クラスの巨大地震でした。
南海トラフ巨大地震の発生間隔は、約100年から150年程度と推定されています。現在、南海トラフの断層は、1944年の昭和東南海地震以降、約80年が経過しており、再び大きな地震が発生する可能性があると考えられています。


能登地方の群発地震と南海トラフ巨大地震の関連性を示す具体的な事例としては、以下のようなものが挙げられます。1943年、日本海側の鳥取平野を震源とするマグニチュード7.2の直下型地震「鳥取地震」が発生しました。この地震の翌年と翌々年に、太平洋側でマグニチュード7.9の東南海地震、マグニチュード8.0の南海地震が発生しました。

1964年、北海道南西沖を震源とするマグニチュード9.5の巨大地震が発生しました。この地震の約2年前に、北海道の日本海側を震源とするマグニチュード6.9の羅臼群発地震が発生していました。

これらの事例から、日本海側の群発地震が、太平洋側の巨大地震の前兆となる可能性があると考えられています。

ただし、地震はいつどこで発生するかわからない自然現象であり、必ずしも前兆地震が発生するとは限らないです。また、前兆地震が発生した場合でも、その規模や発生時期などは予測できません

そのため、南海トラフ巨大地震の発生に備えて、日頃から地震への備えをしておくことが重要です。


具体的な備えとしては、以下のようなものが挙げられます。
  • 地震の際に避難する場所を決める。
  • 非常食や飲料水、懐中電灯などの備蓄をする。
  • 避難時に必要なものをまとめておけるリュックサックやバックパックを用意しておく。
  • 地震の避難場所や避難方法を家族で話し合っておく。
  • 地震保険に加入しておく。
地震は、いつどこで発生するかわからない自然災害です。日頃から地震への備えをしておくことにより、被害を最小限に抑えることができます。そうして、政府は日頃から減災のために、できることをすべきです。財源ないからできない、などと言う言い訳は通用しません。現在の日本は、増税しなくても減災のために潤沢な資金を得ることは簡単です。

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2023年12月31日日曜日

NATO、スウェーデンが加盟すれば「ソ連の海」で優位…潜水艦隊に自信―【私の論評】忘れてはならない! 冷戦期の日本の対潜活動が、現代のインド太平洋の安全保障に与えた影響

NATO、スウェーデンが加盟すれば「ソ連の海」で優位…潜水艦隊に自信

まとめ
  • スウェーデンのNATO加盟により、欧州の安全保障は新たな時代を迎える。
  • バルト海は、NATO優位の構図が固まる。
  • スウェーデンの潜水艦隊は、バルト海で120年にわたる経験を有し、NATO加盟後は偵察・監視の役割を担う。
  • NATO軍は、スウェーデンの加盟により、北欧とバルト海全域をその防衛計画に組み込むことが可能になる。
  • ロシアにとって、バルト3国への軍事侵攻の難易度が飛躍的に高まる。


 スウェーデンが200年の中立・非同盟政策を転換し、北大西洋条約機構(NATO)に加盟すれば、欧州の安全保障は新たな時代を迎える。スウェーデン海軍はかつて「ソ連の海」と呼ばれた、バルト海で120年以上にわたり潜水艦を運用してきた経験とデータを持っている。

 これらはNATO加盟後、ロシア海軍バルト海艦隊の動きを偵察・監視する役割を果たすことになる。スウェーデンの加盟により、NATO軍は北欧とバルト海全域を防衛計画に組み込むことが可能になり、特に旧ソ連バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)が恩恵を受ける。

 有事の際、スウェーデン潜水艦はバルト3国沖合に潜み、ロシア軍艦船の接近を阻む任務につくと予想されている。これにより、ロシアから見れば、バルト3国への軍事侵攻の難易度が飛躍的に高まる。

 その結果、ロシアが侵攻を思いとどまるなら、NATO側の狙い通りとなります。スウェーデンがNATOに加わる意義を強調するワンレンブルグ司令官は、「高度な潜水艦は敵に頭痛の種を与え、抑止力を生む。それがNATO軍の潜水艦となればなおさらだ」と述べている。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】忘れてはならない! 冷戦期の日本の対潜活動が、現代のインド太平洋の安全保障に与えた影響

まとめ
  • 冷戦期の日本の対潜活動は、ソ連の太平洋艦隊の封じ込めに貢献し、西側の安全保障に大きな役割を果たした。
  • 今日の日本の対潜水艦戦能力は世界トップクラスであり、アジアにおける中国やロシアの侵略を抑止するのに役立っている。
  • 日本の海軍力と経験は、アジアの平和と安定にとって重要であるにもかかわらず、過小評価されている。
  • もし冷戦期に日本が対潜能力や作戦を強化していなかったら、今日の世界は大きく異なっていたかもしれない。
  • 日本の貢献は、もっと評価されるべきである。

もう一つの「ソ連の海」があります。それは、オホーツク海です。冷戦時代にオホーツク海は、ソ連の原潜の聖域とされました。日本は米国の依頼により、対潜哨戒能力を高め、オホーツク海で対潜哨戒作戦にあたり、ソ連原潜の囲い込みに成功し西側諸国に貢献しました。

今日、この時の経験が積み重ねられ、日本の対潜水艦戦争(ASW)は米国と並び世界のトップクラスになっています。両国のASWは、他国をはるかに凌駕する水準にあります。

また、日本もこれを意識して高めてきました。今日日本は、20隻以上の高性能の潜水艦隊を擁するとともに、世界でも有数の海軍力を持つに至っています。そのため、今日中国ロシアからみれば、インド太平洋地域での軍事行動の難易度が飛躍的に高まる結果となっています。

日本のマスコミはこのことをほとんど伝えませんが、以上のことはもっと高く評価されて良いと思います。

日本は冷戦時代、ソ連の太平洋艦隊を封じ込めるのに必要不可欠な存在でした。オホーツク海での対潜哨戒と監視は、ソ連の潜水艦活動を制限する上で極めて重要でした。

ソ連はオホーツク海を原子力潜水艦の砦(聖域)と考えていたため、そこで潜水艦を封じ込めた日本の成功は、西側の安全保障上の利益を助ける大きな成果となりました。

旧ソ連のオスカー型原潜

今日、日本の海軍力、特に対潜水艦・対潜水艦戦能力は依然として世界トップクラスであり、アジアにおける中国やロシアの侵略を抑止するのに役立っています。

特に日本の潜水艦隊は、先進的なソナー、航空機、水上艦艇と相まって、この地域における中国やロシアの潜水艦作戦を非常に困難なものにしています。

このことは、中国やロシアがインド太平洋で力を行使しようとする計画を著しく複雑にします。日本の海軍力と経験は、アジアの平和と安定にとって重要であるにもかかわらす、過小評価されています。特に、マスコミはこれをほとんど報道しません。

日本は、中国やロシアに近接し、技術的・戦術的に優れているため、米国や他の同盟国が直接対処することが困難な脅威に対抗することができます。日本は、地域のライバルに対抗するために意図的に海軍力を鍛えてきたのであり、自由世界はその努力から利益を得ているのは間違いありません。

もし冷戦期に日本が対潜能力や作戦を強化していなかったら、今日の世界は大きく異なっていたかもしれないです。

ソ連の核ミサイル潜水艦の活動範囲が拡大していたでしょう。 東アジアにおいて、ソ連の核ミサイル潜水艦はより自由に活動できるようになっていたでしょう。これにより、ソ連はより攻撃的な行動に踏み切った可能性があり、第2撃能力が強固になることで冷戦全体で緊張が高まり、代理戦争が増加していたかもしれないです。

 日本が周辺海域の支配権を争わなければ、中国は潜水艦部隊と作戦の拡大に際してほとんど抵抗に遭わなかったでしょう。東シナ海・南シナ海の領土問題に大きな影響を与える可能性のある、地域レベルでの海軍覇権をすでに達成していたかもしれないです。

日本の対潜障壁は北朝鮮の潜水艦活動を抑え、弾道ミサイル搭載潜水艦の配備や隠密な挑発行為を制限してきました。日本海軍がいなければ、北朝鮮はより強力な海洋核抑止力を獲得していたかもしれないです。

米国は太平洋地域にさらなる軍事資源を投入することを余儀なくされていたでしょう。 日本との補完なしに、米国はヨーロッパにおけるNATOへの関与を弱め、全体として世界レベルでのアメリカの軍事プレゼンスを薄めることになったでしょう。中国やロシアの封じ込めのコストはより高くなっていたでしょう。

地域の安定と安全保障同盟が弱体化していたことでしょう。 中国やロシアといった、より強圧的で権威主義的な勢力に有利な方向で、インド太平洋地域の勢力均衡が崩れていたかもしれないです。米国のパートナーとしての日本の信頼も低下していたかもしれないです。

 日本の海上自衛隊は、ソナー、消音技術、水中センサーなどの分野で進歩を牽引しており、これらの技術は西側諸国の海軍にも波及していました。日本の対潜技術需要がなければ、今日の世界における西側諸国の対潜技術と潜水艦技術は、全体として今より洗練されていなかったかもしれないです。


このように、冷戦期の日本の対潜活動なしでは、今日の地政学的秩序ははるかに悪いものになっていた可能性は高いです。重要な敵対勢力に対抗し、地球上の重要な地域で安定を維持するという点で、日本の海軍力は過去も現在も極めて重要です。

当時の日本が哨戒・監視能力を強化する上で示した積極性は、今もなお世界に利益をもたらしています。戦略的に重大な意義を持った貢献の一つだと言えます。

日本の貢献は、もっと評価されるべきです。日本は、インド太平洋地域の安全保障と主権を脅かすような大国の野心を抑えるために、地理的な位置と海軍の技術を活用してきたのです。特に対潜水艦戦能力は、潜在的な敵対勢力に抑止力と困難をもたらすものであることついては、重ねて強調しておきたいです。

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2023年12月30日土曜日

中国、新国防相に海軍出身の董軍氏-米国との協議再開に向かうか―【私の論評】中国の軍事指導部変更と地政学的影響:軍事優先事項の変化と対抗策に迫る

中国、新国防相に海軍出身の董軍氏-米国との協議再開に向かうか

まとめ
  • 海軍出身の国防相は初、対米戦略で南シナ海が新たな優先分野か
  • 粛清に揺れる中国軍、ロケット軍や調達部門で調査継続

董軍氏

中国は、2023年12月29日、海軍出身の董軍氏を国防相に任命した。これは、中国史上初の海軍出身の国防相となる。

董氏は、1979年に中国人民解放軍に入隊し、海軍でキャリアを積んできた。東海艦隊副司令官や南部戦区副司令官を歴任し、2021年から海軍司令官を務めていた。

董氏の任命は、中国軍内部の粛清が続く中、注目を集めた。李尚福前国防相は、2023年10月に解任され、軍事調達部門やロケット軍の幹部らも相次いで粛清されている。

董氏の昇進は、中国が米国との地政学的争いの新たな優先分野として、南シナ海を重視していることの表れとみられる。董氏は、海軍司令官として、南シナ海での軍事力増強を推進してきた。

また、董氏の任命は、習近平総書記(国家主席)が、軍の政治的忠誠を重視していることの表れともいえる。董氏は、習政権の下で、海軍司令官として、習近平総書記の指示を忠実に実行してきた。

董氏の任命は、中国軍の今後の方向性を示すものとして、注目される。董氏は、海軍出身ということもあり、海軍の強化をさらに進め、南シナ海での軍事力増強を推進するとともに、軍の政治的忠誠を強めていくものとみられる。

【私の論評】中国の軍事指導部変更と地政学的影響:軍事優先事項の変化と対抗策に迫る

まとめ
  • ロケット軍指導者の代表職解任が発表され、汚職疑惑が背景にある可能性が指摘されている。
  • 中国は、地政学的状況や脅威への認識により、軍の優先事項や指導力が変化している可能性があり、南シナ海や技術分野での重点が明らかになっている。
  • 習近平は権力を強化し、イデオロギーに忠実な軍隊を望んでおり、政治的忠誠心が専門知識よりも重要視される傾向がある。
  • 中国の台頭に対抗するために、軍事同盟の強化、新技術への投資、領土拡張への対応策、経済制裁、技術移転制限など、多角的な対応策が必要。
  • 中国との戦略的競争に勝つためには、強硬な対応と同時に開かれたコミュニケーションと抑止力を組み合わせたバランスが重要。
先の薫氏の国防大臣就任の一方、中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)常務委員会は29日、中国人民解放軍で核兵器やミサイルの運用を担当するロケット軍の前司令官、李玉超氏と元司令官、周亜寧氏の全人代の代表職を解く決定が行われたと発表しました。国営新華社通信が伝えました。

李玉超

理由については説明していません。ロケット軍を巡っては汚職疑惑が伝えられており、それと関係している可能性があります。ロケット軍のほか、中央軍事委員会装備発展部の元幹部らも代表職を解かれました。

李氏は今夏、ロケット軍司令官を退任したことが判明。香港紙は、李氏ら3人が汚職で調査対象になっているとする軍関係者の情報を伝えていました。

中国軍指導部内で大きな揺り戻しが起きているのは確かなようです。これは日米にとって好機かもしれません。共産主義の中国政府は冷酷で腐敗しているため、上層部の不安定さや権力闘争の兆候は利用すべきです。

習近平は権力と忠誠心を固め、自分の言いなりになる人物を問答無用で登用しているようです。この新しい海軍大臣、董は、南シナ海における中国の軍事的プレゼンスを積極的に拡大する構えのようです。

ただ、これを習近平の権力闘争の一環だけであると見るのは、実像を見失う恐れもあります。こうした動きの背後には、地政学的状況の変化と脅威の認識が、中国の軍事的優先順位と指導力の変化を促している可能性もあります。

習近平

地政学的状況の変化としては、貿易、技術、地域安全保障などさまざまな領域で米中間の対立が激化しているため、中国はア米国のパワーと影響力に対抗できる軍事力を優先するようになったと考えられます。これには、米国の地域紛争への潜在的な介入を抑止するための先端兵器の開発とともに、南シナ海とそれ以外での優位性を主張するための海軍と海上部隊の強化が含まれる可能性があります。

脅威の認識に関しては以下のようなことが考えられます。

 社会不安、経済減速、環境問題などの国内的な課題によって、国内の安定を維持するために軍がより重要な役割を果たす必要が生じる可能性があります。そのため、国内治安部隊や群衆統制・監視能力に重点が移される可能性があります。

朝鮮半島や台湾など近隣地域での紛争や不確実性は、こうした差し迫った脅威に対処するため、軍事的優先順位の調整を必要とする可能性があります。そのためには、地域配備の強化や迅速な対応能力への投資が必要になるかもしれないです。

南シナ海や東シナ海におけるさまざまな国との領土紛争は、中国にとって継続的な安全保障上の懸念となっています。このため、紛争地域を確保するために、海軍の近代化、水陸両用上陸能力、防空システムに重点が置かれる可能性があります。

中国は、アジア太平洋地域における米国の同盟とパートナーシップによって包囲される可能性があると認識しています。この懸念は、潜在的な軍事介入を抑止するための長距離攻撃能力、対衛星技術、対スパイ活動への投資拡大につながる可能性があります。

中国は、極超音速兵器や人工知能など、特定の軍事分野において米国の技術的優位性を認めています。このため、この差を縮め、長期的に中国の軍事的競争力を確保するための研究開発努力が活発化する可能性があります。

中国の軍事的優先順位と指導力の変化については、以下のような事が考えられます。

 習近平が権力を強化し、軍を一元管理することに重点を置いているのは、習近平の戦略的ビジョンに沿った、より規律正しくイデオロギーに沿った軍隊を持ちたいという願望を反映しています。これは、たとえ実力に基づく昇進を犠牲にしてでも、忠実で従順な将校を要職に任命することにつながる可能性があります。

軍内の専門知識と政治的忠誠心のバランスは、現指導部のもとでは後者にシフトするかもしれないです。このことは、戦略的意思決定や、複雑で進化する安全保障上の課題に対する軍の適応性に懸念を生じさせる可能性があります。

変化する地政学的状況と認識される脅威が、中国の軍事的優先順位と指導者の決断を形作っていると思われる。具体的な詳細はまだ掴みどころがないですが、中国がその戦略的地位を高め、利益を確保し、複雑で競争の激しいグローバル環境において認識されている脅威に対抗するために、軍事態勢を適応させようとしているのは確かなようです。

中国の軍再編が、習近平の支配欲と、米国への対抗、領土の確保、脅威への対処といった地政学的要因によって進められているのは明らかなようです。これに対して、日米とその同盟国は、次のことをしなければならないです。


1. アジアにおける軍事同盟とパートナーシップを強化する。インド、ベトナム、フィリピン、台湾との協力を強化する。合同演習、武器売却、情報共有は中国を抑止することができます。

2.中国の進歩に対抗するため、新しい軍事技術に投資する。これには極超音速兵器、宇宙、サイバー能力、人工知能、自律システムなどが含まれます。わたしたちは優位性を維持しなければならないのです。

3.中国の領土拡張に対抗する。南シナ海での海軍のパトロールを増やし、日本と台湾に多くの軍隊を派遣し、インドやベトナムの領土への侵略に対して中国に警告すべきです。同盟国を守る姿勢を示すのです。

4.必要に応じて、中国に的を絞った経済制裁を行う。中国が台湾を脅かしたり、香港の自由を取り締まったりする場合、制裁措置は、明白な戦争のリスクを冒すことなく、結果を示すことができます。わたしたちには経済的影響力があります。

5.戦略的産業への中国の投資を制限し、技術移転を制限する。わたしたちは技術革新における優位性を守り、中国の技術・軍事的野心を許さないようにしなければならないです。ある程度の「デカップリング」は賢明でといえます。

6.中国のプロパガンダと偽情報キャンペーンに対抗する。中国の人権侵害、帝国主義、世界の民主主義を弱体化させる悪質な行動を暴露すべきです。世界的な思想の戦いに勝利すべきです。

7.オープンなコミュニケーションラインを維持する。中国と日米とその同盟国が競争し、衝突しているときでも、指導者同士が直接話し合うことは、致命的な誤算を防ぐために重要です。わたしたちは、強者の立場から関与しなければならないです。つまり、中国の野心を牽制するためには、軍事、経済、外交的圧力の協調戦略が必要なのです。

しかし、抑止力と開かれたコミュニケーションを通じて、直接的な戦争は避けなければならないです。民主的同盟の精神を新たにすれば、米国と日本のようなパートナーは、習近平の権威主義的な中国との戦略的競争に勝つことができます。

私たちはまずは、勝つ意志を持たなければならないのです。強硬でありながらも、現実的なスタンスを取るべきなのです。

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2023年12月29日金曜日

世界が揺れた2023年への5つの希望―【私の論評】日米の「縮み志向」:文化、地政学、そして来年への展望

世界が揺れた2023年への5つの希望

岡崎研究所

まとめ
  • ウォルトの論説の要点は以下、大国間の戦争は回避された、米国は地政学的および経済的に恵まれている、人道活動家たちの努力に感謝する、リベラルな民主主義にとって希望の光が見える、表現の自由が守られている。
  • ウォルトは、暗いニュースが多い中にも、感謝すべき事柄はたくさんあると主張している。しかし、同時に、これらの事柄の中には、逆に深刻な課題が透けて見えるものもあることもある。

スティーヴン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)

 2023年11月23日付Foreign Policy誌は、スティーヴン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)による「2023年に感謝を捧げるべき世界における5つの事柄」と題する論説を掲載している。
  1. 大国間の戦争がなかったこと:大国間の全面戦争は弱小国間の紛争よりも多くの人的損害をもたらすため、その回避は感謝すべき事柄である。しかし、大国間の戦争がないことは、大国から小国への武力行使が行われやすくなる可能性を示唆している。
  2. 地政学上および経済面での幸運:米国は地政学的に恵まれており、外国の侵略の脅威にさらされていない。また、世界で最も豊かな社会である。しかし、米国が国内の問題が増え、国外への視線が向きにくくなる兆候があるという事実は、日本にとって危険信号である。
  3. 人道活動家、平和に向けて努力する人たち、正義に向けて抗議する人たちの存在:彼らは世界の困難に対抗し、重荷を軽くし、苦しみを軽減し、分断を橋渡しするために毎日努力を払っている。彼らの存在は、世界がもっと悲惨な場所となることを防いでいる。
  4. 希望の光:暗い年の中でも、良い判断が恐れや疑いを煽る勢力に打ち勝つ瞬間がある。例えば、ポーランドの総選挙で「法と正義」党が敗北したことは、民主主義に前向きな一歩である。しかし、各国の選挙では、「非リベラルな民主主義」を志向する党の勝利の方が上回っているのが現状である。
  5. 表現の自由:学術における自由は攻撃にさらされているが、依然として自由に考え、執筆することができる。しかし、表現の自由が脅かされつつあることは、来年の大統領選挙の結果次第で、その状況がさらに悪化する可能性を示している。
 これらの事柄は、ウォルトが感謝の対象として挙げているものですが、それぞれには逆に深刻な課題が透けて見える。これらの懸念は、ますます危険な状況となりつつある世界において、日本にとって小さくない影響を及ぼす可能性がある。

 この論説は、米国の「縮み志向」を示しているとも解釈できる。ウォルトの論説は、暗いニュースが多い中にも明るい要素を見いだそうとしたが、その中には深刻な課題が透けて見えるという視点から、現代の国際情勢を独自の視点で捉えている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日米の「縮み志向」:文化、地政学、そして来年への展望

まとめ
  • 「縮み志向」は日本文化の特性を理解する視点で、日本人が小さいものに美を認め、あらゆるものを「縮める」という特性を指摘している。
  • 「縮み志向」にはマイナスの面もあり、自粛文化、国際社会との協調性の欠如、健康不安などが挙げられ。
  • スティーブン・ウォルト氏は現在の米国人が「縮み志向」にあると指摘し、トランプ大統領が登場すれば、その傾向が強まると懸念しているようだ。
  • しかし、保守派の視点からは、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策は米国の利益を優先させるものであり、孤立主義や「縮小」を意味するものではない。
  • 日米両国とその同盟国は、共通の利益と価値観に対する脅威に直面したとき、「縮み志向」ではなく、強固な決意を固めることでのみ利益を得て、前に進むことができる。
上のスティーヴン・ウォルト氏の論説は、リベラル派の視点です。この見方には保守派は賛同できません。

上の記事にでてくる岡崎研究所による「日本人の縮み志向」とは、韓国の文芸評論家である李御寧氏が提唱した日本人論の一つです。彼は、日本人が小さいものに美を認め、あらゆるものを「縮める」ところに日本文化の特徴があると述べています。



例えば、世界中に送り出された扇子やエレクトロニクスの先駆けとなったトランジスタなどは、この「縮み志向」が創り出したオリジナル商品であるとされています。

また、入れ子型、折詰め弁当型、能面型など「縮み」の類型に拠って日本文化の特質を分析し、その結果をもとに「日本人論中の最高傑作」とも評される著書「縮み志向の日本人」を発表しました¹²。このように、「日本人の縮み志向」は日本文化と日本人の特性を理解するための一つの視点となっています。

「縮み志向」にはマイナスの面も存在します。以下にいくつかの例を挙げます。
  1. 自粛文化: 「縮み志向」は日本社会の様々な面に現れ、その典型が“自粛文化”であり、「臭い物には蓋をする」もその一例とされています。これは、問題を解決するために直接対処するのではなく、問題を隠蔽しようとする傾向を指します。
  2. 国際社会との協調性: 「縮み志向」の日本人は「拡がり」に弱いとされ、国際社会という外の社会の中で協調、共存しながら生きていくには「縮み」志向の限界をよく認識し対応していかなければならないと指摘されています。
  3.  健康不安: 世界一の長寿国でありながら、健康不安が高い日本人に対して、健康診断の厳しすぎる基準値によって「病人」に仕分けられる人が多いという問題も指摘されています。
スティーブン・ウォルト氏は現在米国人はマイナスの「縮み志向」にあり、来年トランプ大統領が登場すれば、米国人の「縮み志向」がますます強まるように懸念していると岡崎研究所は分析してますが、私はそれは逆ではないかと思っています。

そうではなくて、民主党政権こそがポリティカル・コレクトネス、キャンセル・カルチャーなどで「縮み志向」にあり、トランプ氏は、この「縮み志向」をただそうとしているのです。


トランプ氏

われわれ保守派は、ウォルト教授とは少し違った世界を見ています。トランプ政権下の米国の「縮み志向」については、ウォルト教授の懸念には同意できないです。トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策は、単に米国の利益をグローバリズムよりも優先させるということであり、米国が孤立主義になるとか、世界の舞台から「縮小」するということではありません。

そのことはトランプ政権下で実証されたと思います。当時、米国は支配的な超大国としての地位を再確立しようとし、中国、ロシア、イランの脅威に対抗し、悪い貿易協定を再交渉し、同盟国が相互防衛に公平に貢献するようにしようとしたのです。トランプ氏は、米国が世界的な挑戦に直面して受け身でいる余裕はなく、自信と強さを誇示しなければならないことを理解していました。米国が表に出ず、後ろからリードする時代は終わったのです。

日本にとっても、強くて自信に満ちた米国は、安全保障と貿易で日本に依存している同盟国にとっても好都合です。日本の「縮み志向」は、文化的な文脈では役に立つかもしれないですが、地政学においては、各国が自国の利益のために立ち上がることが不可欠です。無論、自由で公正・公平な自由貿易などを目指すのは当然のこととして、危険な時代には、グローバリズム礼賛は強さではなく弱さを示すことになります。


全体として、ウォルト教授の分析には説得力がありません。保守派として私たちは、平和は希望的観測ではなく、強さによってもたらされると認識しています。そして、自国を第一に考えることは美徳であり、これは恥ずべきことでも、謝罪すべきことでもありません。むしろ、他国の利益を第一に考えるなどと語る政府や指導者は、偽善者であるとの誹りを受けても仕方ないです。

各国とも、自国の利益を第一に考えた上で、外交、安全保証をすすめるべきですが、それだけでは、他国との摩擦も増えるので、互いに譲れるとことは譲り、譲れないところは譲らないということで、秩序が形成されていくのです。その中にあってある国の政府や指導者が、自国をないがしろにしてまで、他国の利益を優先するなどということなどあり得ないです。

それでは、強い国だけが、栄えることになるではないかと考えるのも間違いです。弱い国を強い国が蔑ろにすれば、他の強い国はそれに危機を抱いて、弱い国を助けようとします。そのようなことで、秩序が形成されていきますし、さらに現在では国際法が戦争のありかたや、戦争行為のあるべき姿を示し、国際関係がカオス状態にならないように存在しているのです。

日米両国とその同盟国は、共通の利益と価値観に対する脅威に直面したとき、「縮み志向」ではなく、強固な決意を固めることでのみ利益を得て、前に進むことができます。そうでなければ、後退するだけです。これは、来年ますます明らかになっていくことでしよう。

皆様今年は、大変お世話になりました。来年もよろしくお願いします。

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2023年12月28日木曜日

イスラエル国防相「多方面で戦争状態」 イラン念頭に警告―【私の論評】中東の安全と安定を脅かす「抵抗の枢軸」の挑戦とその対抗策

イスラエル国防相「多方面で戦争状態」 イラン念頭に警告

まとめ
  • イスラエルのガラント国防相は、イスラエルが「多方面で戦争状態にある」と認識を示し、イランを含む敵対するものは誰であろうと標的になると警告した。
  • イスラエルを敵視するイランが武装組織などを支援し、「抵抗の枢軸」と呼ばれるネットワークを築いている。これにより、イスラエルや中東の駐留米軍を標的にした攻撃が繰り返されている。
  • レバノンのヒズボラとイエメンのフーシ派がイスラエルを攻撃し、イスラエルは報復攻撃を行っている。これにより、中東の緊張が高まる恐れがある。
  • ガザ地区での戦闘は続いており、イスラエル軍はハマスの部隊の破壊に近づいていると述べ、戦闘がさらに数カ月続くとの見通しを示した。
  • 世界保健機関(WHO)は、空爆で約100人の死傷者が病院に搬送されたと報告。

イスラエルのガラント国防相

 イスラエルのガラント国防相は、イスラエルが「多方面で戦争状態にある」と認識を示した。これは、イスラエルが現在、ガザ地区、レバノン、シリア、ヨルダン川西岸、イラク、イエメン、イランの7カ所で攻撃を受けていることを指している。これらの攻撃は、イスラエルを敵視するイランやその支援を受ける武装組織によるもので、中東各国で「抵抗の枢軸」と呼ばれるネットワークを形成している。

 26日には、レバノンのヒズボラがイスラエル北部の教会を砲撃し、民間人1人とイスラエル兵9人が負傷した。また、イエメンのフーシ派も同日、紅海を航行中の民間の商船やイスラエル南部を標的にミサイルやドローンによる攻撃を実施した。これらの攻撃は、イスラエルと中東の駐留米軍を標的にしたもので、中東地域全体の緊張を高めている。

 イスラエルはこれらの攻撃に対して報復措置を取っている。ヒズボラの拠点に対する報復攻撃を続けており、25日にはシリアでイラン革命防衛隊幹部を空爆で殺害したとされている。これらの攻撃が拡大し、イスラエルが報復を激化させれば、「抵抗の枢軸」が活発化し、中東の緊張がさらに高まる恐れがある。

 ガザ地区での戦闘は、北部から中部や南部に焦点が移っており、戦闘が「さらに数カ月続く」との見通しを示している。一方、世界保健機関(WHO)は、24日に中部マガジ難民キャンプで起きた空爆で約100人の死傷者が近くの病院に搬送されたと明らかにした。また、パレスチナ赤新月社は26日、ハンユニスで赤新月社の本部が砲撃され、建物内には数千人が避難しており、負傷者も出たと発表した。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中東の安全と安定を脅かす「抵抗の枢軸」の挑戦へとその対抗策

まとめ

  • 「抵抗の枢軸」は、イラン、シリア(アサド政権下)、レバノンのヒズボラ、ガザのハマスを含む。
  • イランは「抵抗の枢軸」の主要な支援者であり、ヒズボラやハマスのようなグループに資金、武器、訓練を提供し、不安定を広め、イスラエルを脅かしながら、イランの革命を推進している。
  • 「抵抗の枢軸」は、サウジアラビアの石油施設への攻撃、シリアやイラクでの紛争への関与、レバノン、クウェート、アルゼンチンでの爆弾テロ、ハマスによるイスラエルへのロケット攻撃など、世界各地で民間人を標的にしている。
  • 「抵抗の枢軸」は、中東の平和、民主主義、安定に対する直接的な脅威であり、文明世界に存在するイデオロギーを欠いている。
  • 欧米諸国がイランと抵抗勢力に対抗するためには、厳しい制裁措置の発動、同盟国への防衛システム支援、主要指導者の標的化、代理グループへの武器流入の制限などがある。

赤い部分がイスラエル

上の文章にでてくる「抵抗の枢軸」は、イラン、シリア、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマスなど、中東におけるならず者国家とテロリスト集団の反欧米同盟を指します。これらの過激勢力はイスラエルと米国に反対し、過激なシーア派イスラム主義イデオロギーを広めようとしています。

イランはこの邪悪な同盟の主要な支援者です。専制的なイラン政権は、ヒズボラやハマスのようなグループに資金、武器、訓練を提供し、地域を不安定化させ、イスラエルを脅かし、イランの革命を広めています。

イランの傀儡であるシリアのアサド政権は、イランが悪意ある影響力を行使するための領土と資源を提供しています。

ヒズボラはレバノン南部を支配し、イランのテロリストの代理人として活動しています。彼らは何百人もの米国人やイスラエル人を殺害し、レバノンの主権を脅かしています。

ガザを支配するイスラム過激派組織ハマスもまた、イランのロケット弾と資金を受け取り、イスラエルの民間人を攻撃しています。

これらの抑圧と恐怖の勢力が「抵抗の枢軸」を構成しています。彼らは中東の平和と民主主義に対する重大な脅威であり、彼らの過激なイデオロギーは文明世界には存在しません。

「抵抗の枢軸」はイスラエルだけでなく、彼らの過激な主張を邪魔をする者すべてを標的にしています。最近の例をいくつか挙げます。

イランとその代理勢力は、過去1年間に何度もサウジの石油施設を攻撃し、世界の石油供給を混乱させています。イランは、サウジアラビアを自らの地域的野望の障害とみなしています。

ヒズボラはシリアでアサド政権を支えるために戦い、その過程で何千人もの罪のないシリア人を殺害しています。ヒズボラ勢力は米軍とも衝突しており、昨年のバグダッドのアメリカ大使館襲撃の背後にいた可能性が高いです。

人民動員軍として知られるイラクのイラン支援民兵組織は、米軍基地へのミサイル攻撃を含め、イラクの米軍と連合軍を何度も攻撃してきました。彼らは米国をイラクから追い出し、イラクをイランに依存する国家にしようとしています。

ヒズボラは、レバノン、クウェート、アルゼンチンでの爆弾テロなど、世界中で民間人に対するテロ攻撃を行っています。彼らは、自分たちの過激な思想に反対する者は誰でも標的だと考えています。

ハマスはパレスチナ自治政府からガザを暴力的に掌握し、何千発ものロケット弾をイスラエルに打ち込み、民間人を標的にしています。ハマスは、ガザ内の反対派や異論を取り締まり、仲間のパレスチナ人を殺害したり拷問したりさえしています。

ガザを行進するハマスの民兵

イランの同盟国であるシリアのアサド大統領は、民間人に化学兵器を使用し、何十万人もの自国民を虐殺し、何百万人もの人々を亡命に追いやりました。シリアでの流血は、「抵抗の枢軸」が反対意見を粉砕するためにどこまでやるかを示しています。この地域における暴力、テロリズム、抑圧の数々は、抵抗枢軸がイスラエルだけでなく、あらゆる場所の安定、民主主義、人間生活に対する脅威であることを証明している。彼らを阻止しなければならないです。

紅海とインド洋で最近起きた商業船への攻撃は、イランとその抵抗勢力によるものである可能性が高いです。イランには、圧力をかけ支配を拡大するために、この地域の航路や石油供給を脅かしてきた歴史があります。

イランはこの種の代理攻撃や船舶拿捕を利用して、不安定を煽り、石油貿易ルートを狭め、サウジアラビアや欧米のような敵対国に経済的ダメージを与え、戦略的水路の支配を拡大しようとしています。

「抵抗の枢軸」によって、イランはこの「ゲリラ的な海上戦」を、自らの関係性を否定しつつ行うことができます。しかし、国際社会は、このような無謀な行動に対して強い態度で臨まなければならないです。最大限の圧力こそが、イランの地域支配の野望を阻止する唯一の手段といえます。

イスラム革命防衛隊

イランと抵抗勢力に対抗するために、西側諸国がとるべき具体的な手段は以下の通りです。
  • イランの石油、銀行、海運部門に壊滅的な制裁を課す。イランの経済的ライフラインと代理人への資金供給能力を断つ。イランと取引のある企業に対する二次的制裁を実施する。
  • サウジアラビアのような湾岸諸国の同盟国に対し、イランの攻撃から自国を守るための高度なミサイルシステムと軍事力を提供する。同盟国の国境、海岸線、重要インフラの安全確保を支援する。特殊部隊を提供し、パートナーを訓練する。
  • イランの兵器施設、ミサイル基地、海運を脅かすイスラム革命防衛隊(IRGC)海軍のような海軍部隊に対して、秘密裏に破壊工作やサイバー作戦を行う。
  • イランの代理人を武装・配備する能力を妨害する。
  • 制裁、渡航禁止、逮捕、無人爆撃機による攻撃で、イランの主要指導者や代理司令官を標的にする。残虐行為や攻撃の責任者を排除する。個人的な代償を払わせる。
  • テロの資金源となる武器や石油の流入を阻止するため、イランに関連する海運を取り締まり、検査する。
  • フーシ派とヒズボラへの武器輸送に対する国連の制限を実施する。船舶に乗り込み、不法な貨物を没収する。
  • イランの人権侵害、検閲、抑圧、テロ支援を機会あるごとに訴えること。イランの悪質な活動に光を当て、世論の法廷で責任を追及する。
  •  ペルシャ湾に空母打撃群、駆逐艦、ミサイル防衛を駐留させ、同盟国に海上パトロールに参加するよう働きかける。水路とエネルギー資源の流れを守る決意を示す。海軍の優位性を維持する。
  • イランの反体制派に通信と後方支援を提供する。イラン国内の過激主義に対抗しようとする反対派、抗議者、改革派に力を与える。反対派の情報源から情報を収集する。
  • イランが代理戦争、テロ資金、核の拡大、人権侵害をやめるまで、交渉や制裁緩和を拒否すること。無条件で最大限の圧力をかけること。宥和してはならない。
  • 米国の要員や同盟国を攻撃した直接の原因であるイランの軍や代理勢力に対する限定的な攻撃の実施を検討する。イランの行動には結果が伴うことを示すことで、今後の攻撃を抑止する。
しかし、全面戦争は避けるべきです。西側諸国には、イランに対抗するための多くの選択肢があり、全面的な軍事衝突には至らないでしょう。しかし、「抵抗の枢軸」のような断固とした敵に対抗できるのは、断固として妥協のない行動だけです。中途半端な手段では、彼らの邪悪な野望を変えることはできないです。今こそ行動の時なのです。

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2023年12月27日水曜日

シンガポール、インドネシアで政権交代へ  変革と混乱【2024年を占う!】国際:東南アジア―【私の論評】日米の中国対策と東南アジアの政治改革:安倍首相の遺産と日本の戦略的役割

シンガポール、インドネシアで政権交代へ  変革と混乱【2024年を占う!】国際:東南アジア

まとめ
  • シンガポール、インドネシアで政権交代へ。ベトナムの経済成長見通しは下方修正。
  • 南シナ海での各国と中国との領有権争い続く。米の関与で中国の行動に影響か。
  • ミャンマーで少数民族武装勢力と民主派組織が共闘し大規模反攻。国軍最高司令官の中国亡命の可能性も。

2024年の東南アジアは、大きく次の3つのトピックで動きを見せると考えられます。

1.政治的な変革

シンガポールでは、リー・シェンロン首相が20年近くにわたる長期政権を終え、後継者のローレンス・ウォン副首相が政権を担います。インドネシアでは、2期10年務めたジョコ・ウィドド大統領の後任を決める大統領選挙が行われ、プラボウォ・スビアント氏が優勢に立っています。ミャンマーでは、国軍によるクーデターから2年が経過し、反政府勢力による大規模な反撃が始まり、国軍側が窮地に追い込まれています。

2.経済の不確実性

世界的にインフレや金利上昇が進む中、東南アジアの経済もその影響を受けています。アジア開発銀行(ADB)は、ベトナムの2024年のGDP成長率を6%と予想していますが、これは2023年の5.2%から下方修正されたものです。また、エルニーニョの天候パターンやロシア・ウクライナ戦争による供給障害も、東南アジア経済にマイナスの影響を与える可能性があります。

3.南シナ海の緊張

中国が南シナ海の90%を自国の領海と主張する中、フィリピンやベトナムなど周辺国との間で領有権をめぐる緊張が高まっています。2023年には、中国海警局の船がフィリピンの船に放水銃で攻撃するなど、両国間の衝突も発生しています。2024年も、南シナ海は各国の思惑が入り乱れる海域となりそうです。

以上のトピックを踏まえると、2024年の東南アジアは、変革と混乱の年になると予想されます。政治的な変革の行方、経済の不確実性、南シナ海の緊張など、今後の動向に注目が集まります。

【私の論評】日米の中国対策と東南アジアの政治改革:安倍首相の遺産と日本の戦略的役割

まとめ

  •  日米両国は中国の領土的野心に対抗するために、南シナ海での同盟国との合同軍事演習を増やし、東南アジアの同盟国に対する軍事援助と訓練を提供し、中国が好戦的な行動を続けるなら経済制裁や関税を通じて圧力をかけるべき。
  • 地域の民主改革と政治的安定を支援し、中国が近隣諸国を利用する不公正な貿易取引を再交渉で是正すべき。
  •  東南アジアでは、シンガポールとインドネシアにおける政権移譲が安定と中道主義を望んでいることを示し、ミャンマーの軍事クーデターが権威主義的であることなど、安定と伝統への流れが見られが、地域は政治的に分断され、中国の権威主義と民主改革との間で引き裂かれている。
  • 日本は東南アジアとの経済的・安全保障的結びつきを強化し、中国の野心に対抗しつつ直接対決を避けつつ、安倍首相が築き上げた信頼の遺産を存続させるべき。
  • 日本は民主的改革を支持することと、この地域のガバナンスの多様性を尊重することのバランスを見つけるべき。強引な価値観の押し付けは、この地域の欧米の植民地政策を想起させることにつながりかねない。
日米両国は中国の侵略に断固とした態度で対抗すべきです。中国の領土的野心を前にして、弱さを見せるわけにはいきません。

 1. 南シナ海でのフィリピンやベトナムなどの同盟国との合同軍事演習を増やすこと。中国を抑止するためには、力の誇示が重要です。

2. 東南アジアの同盟国に対し、防衛力を高めるための追加的な軍事援助と訓練を提供すべきです。中国の脅威を止める唯一の方法は力です。

3. 中国が好戦的な行動を続けるなら、経済制裁や関税を通じて外交的圧力をかけるべきです。我々は中国の2倍のパンチを返す必要があります。

4. 地域の民主改革と政治的安定を支援すべきです。中国が代理人や政治的混乱を通じて悪質な影響力を拡大するのを放置することはできません。民主主義と自由が勝利しなければならないです。

5. 中国が近隣諸国を利用することを許してきた不公正な貿易取引を再交渉で是正すべきです。東南アジアと、米国と同盟国の両方に利益をもたらす公正な貿易を優先すべきです。

要するに、力による平和の戦略を採用する必要があります。アジアの自由と主権を守るためには、中国の野心を封じ込めることが最も重要です。弱さは侵略を招くことになるのです。日米両国は、この地域で共有する民主的価値を高めるために、中国に対抗するリーダーシップを発揮しなければならないです。これは、譲ることのできない前提条件です。

2021年米国はカナダ、ドイツ、オーストラリア海軍と日本沖で演習を実施

この地域でもう一つ注目すべきは、政治改革です。これは、EUや米国にみられる保守主義の拡大とリベラリズムの後退の潮流と共通する部分はあるのでしょうか。また、こうした政治的変革は、東南アジア全体にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

私は、西洋における保守主義の台頭と類似している部分もありますが、東南アジアの状況は独特だと思います。重要なポイントをいくつか挙げます。

 1. シンガポールとインドネシアにおける政権移譲は、急進的な変化よりも安定と中道主義を望んでいることを示唆している。これは保守的な価値観と一致する。しかし、新指導者たちは必ずしも右派ではなく、継続性を重視しているようです。

2. ミャンマーの軍事クーデターは、伝統的な保守主義よりも権威主義的である。彼らは「ナショナリスト」の価値観を支持すると主張しているが、彼らの行動は欧米の保守派が一般的に支持する自由と民主主義の原則を損なっています。

3. 特にミャンマーにおける中国の影響力の拡大は、これらの国々の主権と独立に対する脅威である。このことは、イデオロギーの違いにかかわらず、自由を重視するすべての人々にとって懸念すべきことです。

東南アジアの一部では安定と伝統への流れが見られますが、そこで起きている出来事を形成している力は複雑です。この地域は政治的に分断され、中国の権威主義と民主改革との間で引き裂かれたままでしょう。

米国とその同盟国は、中国の野心に対抗し、民主主義と主権を奨励する一方で、各国の独自の政治的発展を尊重するよう努めなければならないでしょう。欧米の保守派は、自分たちの理想を東南アジアに投影せず、中国のような悪質な影響力に対抗することに共通の大義を見出すのが賢明でしょう。

真の民主的改革の広がりは遅いかもしれないですが、米国のリーダーシップがあれば、力、外交、民主的価値観の共有を通じて、時間をかけて着実に前進することができます。これが東南アジアにとって最善の道でしょう。ただ、米国が表に出て東南アジア地域で主体的に動くには難があります。この地域での米国嫌いは、日本人が想像するよりもはるかに大きいです。

大東亜戦争直前のアジアの地図

そこで、昔から東南アジアと関係を強化してきた日本、特に安倍元総理が果たしてきた役割は大きく、そのような日本には、日本独自の役割があると考えられます。

 1. 日本は、貿易から海洋安全保障に至るまで、東南アジアに大きな経済的・戦略的利益をもたらしています。このことは、単純なイデオロギー的関心を超えて、この地域と密接に関わるための特別な動機を与えています。

2. 日本と中国の関係は複雑です。中国の侵略を懸念する一方で、経済的には中国に依存しているところがあります。このバランスから、中国に対抗するためには、紛争を引き起こさない現実的なアプローチが必要です。

3. この地域における日本の欧米による植民地支配の排除の歴史は、シンガポールやインドネシアのような国々との関係にいまだに色濃く反映されています。日本の動きは、こうした欧米による歴史的背景を和らげる効果を発揮することでしょう。これは、日本ではマスコミがほとんど報道しないので、日本人にはあまり知られていませんが、安倍元首相はこれを強く意識していたと考えられます。

4. 安倍首相は東南アジア諸国、特にベトナムやフィリピンのような中国を懸念する国々の指導者たちと緊密な個人的関係を築いてきました。しかし、こうした結びつきは安倍首相の後継者たちとはそれほど強固なものにはならないかもしれず、その維持には努力が必要です。


日本と安倍首相は東南アジアの民主主義と主権を強化するために努力はしてきましたが、その動機は政治的イデオロギーだけに基づくものではなく、より複雑で戦略的なものでした。




安倍首相の退任、死去に伴い、日本は以下のことをすべきです。

1. 影響力を維持するために、東南アジアとの経済的・安全保障的結びつきを強化すべきです。

2. 中国の野心に対抗し続けるが、経済関係を危うくしかねない直接対決は避けるべきです。

3. 安倍首相が築き上げた親善の遺産を存続させるため、将来の指導者に東南アジア諸国との緊密な関わりを持たせるべきです。

4. 民主的改革を支持することと、この地域のガバナンスの多様性を尊重することのバランスを見つけるべきです。強引な価値観の押し付けは、この地域の欧米の植民地政策を想起させることにつながりかねません。

東南アジアにおける日本の前途は微妙ですが、安倍首相の現実的かつ個人的な関与へのアプローチを継続し、安倍首相が残したリーダーシップの空白を埋めることで、日本はこの地域のバランスと民主主義にプラスの影響を与え続けることができますし、米国の戦略などを橋渡しすることもできます。

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