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2022年3月24日木曜日

ロシア軍の揚陸艦を破壊とウクライナ国防省 南東部ベルジャンシクの港で―【私の論評】またしても恥ずかしい敗北を喫した、プーチンの苦悩する軍隊(゚д゚)!

ロシア軍の揚陸艦を破壊とウクライナ国防省 南東部ベルジャンシクの港で

 ウクライナの国防省は、南東部のベルジャンシクの港で、ウクライナ海軍がロシア軍の揚陸艦を破壊したと明らかにした。CNNは映像を見る限り、二次的な爆発が起き、大きな火災が発生しているように見えると報じている。

 ベルジャンシクはマリウポリの西側に位置し、ロシア軍が侵攻し、制圧したとされている。(ANNニュース)

【私の論評】またしても恥ずかしい敗北を喫した、プーチンの苦悩する軍隊(゚д゚)!

ザポリージャ州の港湾都市ベルジャーンシクはロシア軍の占領下にあり、ここ何らかの手段で攻撃したウクライナ軍はロシア海軍の大型揚陸艦(プロジェクト1171/西側でいうところの戦車揚陸艦)オルスクを破壊したと24日に発表して注目を集めています。

オルクス攻撃による爆発炎上の画面 twitterより

この攻撃で同港に停泊していた他の艦艇2隻も損傷、さらに3,000トンの燃料タンクや弾薬庫にも引火したと報じられているが、ウクライナ軍参謀本部の発表は今のところ「オルスク」の破壊のみで攻撃方法やロシア軍に与えた損害の詳細を明かしていません。

ツイッターの情報では、アリゲーター級戦車揚陸艦オルスクの他にサラトフが大破。ロプーチャ級戦車揚陸艦ツェサール・クニコフ、ノヴォチェルカスクは損傷したとされといます。

アリゲーター級は艦暦は古いですが戦車20両、兵員450名を運べる大型揚陸艦です。 ロプーチャ級は最大10両の戦車、340人の兵員を運べます。 黒海に展開しているロシア揚陸艦隊は13隻なので一度に4隻の損傷はかなり痛いはずです。

これが事実とし、この攻撃が揚陸中だったとすれば、黒海艦隊第197揚陸艦旅団はかなりのダメージを受けたことになります。

ただ、これで思い出すのは、16日にロシアの大型揚陸艦が津軽海峡を抜けたことです。

防衛省は16日、ロシア海軍の戦車揚陸艦が津軽海峡を日本海に向けて通過したと発表していす。

防衛省によると、15日午後8時頃、青森県の下北半島・尻屋崎の東北東約70キロで、戦車揚陸艦2隻を確認。そのうちの1隻は、アリゲーター型でした(写真上)。

さらに16日午前7時頃、尻屋崎の東北東220キロの海域でも、別の戦車揚陸艦2隻を確認した。その後、これらの艦艇が津軽海峡を日本海に向けて航行したことを確認しました。

まさか、この揚陸艦がそのまま、ベルジャーンシクに行ったということはないとは思います。津軽海峡を抜けていくと最短距離でまさにウラジオストクに着きます。ここから鉄道でウクライナまで戦車や燃料・弾薬となどを運んだと思われます。

極東ロシア地上軍(東部軍管区)はソ連邦崩壊前では、40数個師団あったものが、現在では、半数以下の12個旅団(師団の半分から2/3の規模)と2個師団であり合計8万人です。これは、4分の1以下になったということになります。軍の地位も下がり、予算も多く削減され、兵員の士気は下がっています。

この極東からも、戦車揚陸艦で戦車や弾薬、もしかすると人員等を運ぶというのですから、以下にウクライナに侵攻したロシア軍が物資不足や人員不足に悩まされているのかがうかがえます。

その揚陸艦を破壊されたのですから、ロシアにとってはまさに泣き面に蜂というところです。ロシア国営メディアは3日前、港で装甲車を下すオルスク号の様子を映していました(写真下)。これが、今回の攻撃を招いたとすれば、随分間抜けな話です。


英ミラー紙は24に(現地時間)、アリゲーター級船舶は、ウクライナ軍がこれまでに攻撃した最大のロシア船であり、「ウラジーミル・プーチンの苦悩する軍隊にとって、またしても恥ずかしい敗北を意味するものである」と伝えています。

ただ、現地時間の正午に発表された最新の戦況報告でもオルスクの破壊のみにしか言及しておらず、米CNNも攻撃手段は不明と報じていますが、ウクライナ軍参謀本部、陸軍、海軍の公式Facebookには短距離弾道ミサイル「トーチカU」に関連した動画(オルスク攻撃を行う内容ではない)が一斉に投稿されているためオルスクの破壊=トーチカUを匂わせるものと受け取ることも可能ですが、オルスクから煙が上がり火柱が上がるまで時間がかかっているため「弾薬取り扱いの不手際での事故」を主張する専門家もいます。

ウクライナ軍のトーチカU

これが、本当だとすれば、おそらく弾道ミサイルによる世界初の対艦攻撃の戦果かもしれません。

ロシア海軍が損失を被ったことに違いはないので攻撃手段に余りこだわる必要がないかもしれないですが、ウクライナ軍はヘルソン地域に配備されたトーチカUを使用して敵水陸両用艦艇が配備される地点への攻撃演習を2021年4月に実施しており、何らかの方法でトーチカUの平均誤差半径(CEP)を向上させる準備をしていたのかもしれないです。

昨日は、このブログで、以下のようなことを述べました。
数十年前から言われてきたことですが、艦船には二種類しかありません。水上艦艇と水中の潜水艦の2つです。現在では、空母やイージス艦などの水上艦艇は、魚雷やミサイルの標的に過ぎません。これらは、海戦においては、いずれ撃沈されてしまいます。

もう一つの艦艇である潜水艦は、水中に深く潜み、簡単には撃沈されません。こうしたことから、現在の海戦における本当の戦力は潜水艦なのです。
トーチカUを用いたかどうかは、未だわかりませんが、それにしても何らかの誘導弾を使用したのは明らかだと思います。まさに、現在の水上艦船は、魚雷やミサイルの標的にしか過ぎないのです。潜水艦こそが、現代海戦の真の戦力であり、主役なのです。今回の出来事は、これを雄弁に語っていると思います。

ウクライナ軍は残念ながら、現在は潜水艦を所有していません。同国海軍が保有する唯一の潜水艦「ザポリージャ」2014年にロシア軍に接収されています。

ウクライナ軍が潜水艦を持っていれば、今回もかなり活躍したと思います。ただ、大型揚陸艦を破壊するなど、様々な相違工夫をしながら戦っている姿には感服させられます。ただ、こうして勝利を収めるウクライナ軍に手を焼くプーチンは、化学兵器や核兵器を使用するかもしれません。本当に、恐ろしいです。そんなことをまかり間違ってすれば、ロシアは世界から完全に遮断され、経済や生活水準が帝政ロシアの頃に戻ってしまうと思います。

一方日本は、ウクライナ軍から比較すれば、自衛隊は22隻の高性能潜水艦隊などをはじめ、かなりの軍事力を持っていますが、それを有効に使える術を自ら放棄しています。さらには、軍事費もロシア、中国、北朝鮮などの脅威にさらされているにも関わらず、GDP1%なる根拠のない枠に縛られて増やそうとしません。

ロシアのウクライナ侵攻という、現代では考えられないようの蛮行が行われるということが実施されてしまった現在、日本も安全保証を見直すべきです。

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2022年6月10日金曜日

台湾問題で米中激突!国防相が初の対面会談  バイデン政権、新たな武器売却で強い姿勢も…「習氏の“3期目”見据え問題起こしたくない」中国―【私の論評】地経学的臨戦態勢にある米中で実は、軍事トップ同士の会談は大きな意味はない(゚д゚)!

台湾問題で米中激突!国防相が初の対面会談  バイデン政権、新たな武器売却で強い姿勢も…「習氏の“3期目”見据え問題起こしたくない」中国

ロイド・オースティン米国防長官

 ロイド・オースティン米国防長官と、中国の魏鳳和国務委員兼国防相が、シンガポールで開幕するアジア安全保障会議(10~12日)に合わせて、初めての対面会談を行う。世界の安全保障環境が複雑さを増すなか、最大の焦点は「台湾問題」とみられる。軍事的覇権拡大を進める中国に対し、ジョー・バイデン政権は会談直前、台湾に新たな武器売却を通知して強い姿勢を見せた。

 「遠くない将来に会うことを楽しみにしている」

 オースティン氏は5月の議会証言で、魏氏との会談にこう意欲を見せていた。会談では、米中対立や台湾問題、南シナ海の緊張、ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮による核・ミサイル開発など、多くの論点で応酬が激化しそうだ。

魏鳳和国務委員兼国防相

 米政府高官は「われわれの立場からすれば、会談は地域的、世界的な問題における競争の管理に焦点が当てられると見込んでいる」と述べた。ロイター通信が報じた。

 台湾問題では、バイデン大統領は5月の来日時、台湾への軍事的関与について記者に聞かれて、「イエス(当然だ)」「それが、われわれのコミットメント(約束)だ」と語っている。米国の「あいまい戦略」の転換とも受け止められた。

 さらに、台湾外交部(外務省)は9日、米政府が海軍艦船の付属部品と関連する技術支援など、総額1億2000万ドル(約160億円)相当分を売却すると台湾政府側に通知したと発表した。バイデン政権下での武器売却は4度目となる。

 今回の米中国防相会談をどう見るか。

 中国事情に詳しい評論家の石平氏は「中国はこれまで通り、強い言葉で米国を牽制(けんせい)するだろうが、実際は何もできない。(ロシアのウクライナ侵攻を受けて)中国の台湾統一(台湾侵攻)に国際社会の同意が得られるはずがない。自由主義陣営は着々と連携を強めている。中国の習近平国家主席も『3期目政権』を見据えて、秋の党大会まで問題を起こしたくないというのが本音だろう」と指摘した。

【私の論評】地経学的臨戦態勢にある米中で実は、軍事トップ同士の会談は大きな意味はない(゚д゚)!

上の記事にもある通り、台湾国防部(国防省)は9日、米政府が台湾に対し海軍艦艇の部品などの売却を決めたと報道資料で明らかにしました。売却額は1億2000万米ドル(約160億6600万円)。中国軍の航空機や艦艇が台湾周辺での活動を活発化させていることから、米国が売却に同意したといいます。

同部によると、売却計画は米議会に通知され、1カ月後に発効する見通しです。

総統府の張惇涵(ちょうじゅんかん)報道官は9日、報道資料で心からの謝意を表明。バイデン米政権発足以来4度目で、今年に入ってからは3度目の武器売却の発表となったことに言及し、米政府の台湾の国防における需要に対する重視の表れである上、台米間の強い協力関係を示し、台湾の自衛力向上に寄与すると歓迎しました。

国防部(国防省)は9日、米政府が台湾に対し海軍艦艇の部品などの売却を決めたと報道資料で明らかにした。売却額は1億2000万米ドル(約160億6600万円)。中国軍の航空機や艦艇が台湾周辺での活動を活発化させていることから、米国が売却に同意したといいます。

同部によると、売却計画は米議会に通知され、1カ月後に発効する見通しです。

総統府の張惇涵(ちょうじゅんかん)報道官は9日、報道資料で心からの謝意を表明。バイデン米政権発足以来4度目で、今年に入ってからは3度目の武器売却の発表となったことに言及し、米政府の台湾の国防における需要に対する重視の表れである上、台米間の強い協力関係を示し、台湾の自衛力向上に寄与すると歓迎しました。

総統府の張惇涵(ちょうじゅんかん)報道官

オースティン米国防長官は10日、アジア安全保障会議(シャングリラ対話)出席のため訪れたシンガポールで、中国の魏鳳和(ぎ・ほうわ)国務委員兼国防相と会談しました。台湾問題やロシアのウクライナ侵攻などについて協議。ロイター通信によると、オースティン氏は台湾を不安定化させる行動を控え、ロシアを支援しないよう魏氏に要求しました。

中国メディアによると、魏氏は「『一つの中国』原則は中国と米国の関係の政治的な基礎」と強調。米国が進めている台湾への武器売却が「中国の主権と安全の利益を深刻に損なう」と非難しました。

両者の対面での会談は、昨年1月のバイデン米政権発足以来初めてです。米側によると、中国が会談を申し入れたもようです。

米国は中国を「国際秩序を作り替える意思を持つ」(ブリンケン国務長官)と警戒する一方、対話も重視。中国は米主導で「対中包囲網」構築が進んでいることにいらだちを見せますが、緊張が高まることも望んでいません。会談では偶発的衝突を回避する方策も議論された可能性があります。

3年ぶり開催のアジア安保会議では、オースティン氏が11日、魏氏が12日に演説する予定。会期中に開かれる日米韓3カ国の防衛相会談では、7回目の核実験に踏み切る可能性が指摘される北朝鮮情勢について協議される見通しです。

実は米国と中国の真の戦場は、軍事力ではなく、経済とテクノロジーの領域にあります。なぜなら、軍事的には中国はいまだ米国に対抗できる力がなく、外交戦略においては、中国に対峙しているのは、米国一国ではなく、すでにより広範な反中国同盟だからです。

軍事的には、米軍が攻撃型原潜を3隻程度台湾海峡に常駐させれば、中国は台湾に侵攻できません。なぜなら強力な米攻撃型原潜によって、台湾海峡の中国の艦艇をすべて撃沈できるからです。それは、米攻撃型原潜が桁違いに攻撃力が強いこと、さらに米軍はASW(Anti Submarine Warefare :対潜水艦戦闘)において、中国海軍に対して比較にならないほど強いからです。

メンテナンス中のシーウルフ級攻撃型原潜巨大さがよくわかる

米海大などがシミュレーションを行うときは、原潜を考慮に入れることはないです。これを入れてしまうと、ゲームそのものの目的(予算獲得など)を潰してしまうことになるからです。原潜だけでなく、総合的な海軍力でいえば、米国が圧倒的であることは疑いがないです。

このような事実を言ってしまえば、中国は台湾に軍事侵攻できないのは明白です。また、米海軍も予算を獲得しにくくなります。それに米国では未だ、空母打撃群信奉者が多いです。米海軍は正しく情報を開示しつつも、オバマ時代の緊縮で、航空母艦等の稼働率が劇的に低下するという危機的状況に陥りつつあるということを主張すべきでしょう。

稼働率の低下の最大の原因は、海軍工廠(こうしょう)と民間造船所を含んだアメリカ国内における造艦・メンテナンス能力の不足にあり、これはすぐに改善されるものではありません。これこそ米海軍の深刻な問題です。

ただこうした地味な内容よりも、原潜抜きで米中が戦うことを想定すれば、中国にもかなり勝てる見込みがでてきて、白いので耳目を惹きつけることができ、なんと言っても予算獲得のためには、効果的です。

ただし原潜が闘うことを前提とすれば、中国軍が台湾に多数の人民解放軍を上陸させることができたにしても、米国が台湾を攻撃型原潜で包囲すれば、人民解放軍はこの包囲を解くことができず、上陸した部隊は補給が途切れてお手上げ状態になります。

それに現在では海中の巨大武器庫と化した、米攻撃型原潜は、魚雷はもとより巡航・対艦・対空ミサイルを多数搭載し、ありとあらゆる強力な攻撃が可能です。ある意味では、水中の空母のようものです。

そんなことは、米中双方ともわかっていることですが、米国としては最近ではプーチンが常軌を逸して、最初から不可能に近いウクライナ侵攻に踏み切ったということもあり、牽制のために台湾に武器を供与したりしているわけですが、海軍力で米軍が中国軍よりも圧倒的に強いという事実は変わりません。

プーチンとしては、GDPが中国の1/10であり、今や韓国を若干下回るような規模では、中国のように米国やEUに対して「地政学的戦い」を挑むことはできないので、無謀な軍事的侵攻をせざるを得なかったかもしれません。それにしても、あまりに無鉄砲でした。

それに中国側からみれば、米軍が偶発的にでも中国を攻撃すれば、通常兵器では中国軍には太刀打ちできないことは最初からわきりきっていますし、それを挽回するには中国は核兵器に頼らざるを得なくなることが予め予想され、それこそ核戦争にエスカレートしかねないので、それは避けたいのです。

だからこそ、米国と中国の真の戦場は、軍事力ではなく、経済とテクノロジーの領域であり地政学的な戦いになるのです。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえばイギリスがアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

中国企業がスパイ行為などにより技術の窃盗を繰り返したり、貿易のルールを平然と破ったりするのは、それがビジネスであると同時に、国家による戦争だからです。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎(とが)め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

トランプは2018年3月に鉄鋼25%、アルミニウム10%、さらに中国からの輸入品600億ドル分にも追加関税をかけると発表した。そして7月から9月にかけて2500億ドル分の中国製品に追加関税をかけたのです。

これらの措置は中国経済に大きなダメージを与えました。この関税戦争は、2020年1月に、トランプ大統領と中国の劉鶴(りゅうかく)副首相が合意書を交わすことで一応の収束をみたのですが、地経学的臨戦態勢は続いています。バイデン政権になっても、トランプ時代におこなった中国への追加関税は維持されたままなのです。

そうして、今回の米中の軍トップの会談は、米中の地政学的戦争にはあまり関係はありません。せいぜい、米国も中国も勘違いして、偶発的衝突を回避するための話し合いということではは意味があったとは思いますか。

米中軍事トップの会談など、地政学的戦いには大きな意味はもちません。

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2022年3月29日火曜日

米、ロシアより中国対応優先 新国家防衛戦略の概要発表―【私の論評】米国がロシアよりも中国への対峙を優先するのは、正しい(゚д゚)!

米、ロシアより中国対応優先 新国家防衛戦略の概要発表

米国防総省(通称ペンタゴン)

 米国防総省は28日、バイデン政権で初となる国家防衛戦略(NDS)の概要を発表した。戦域としてまずインド太平洋における中国への対応を優先し、続いてウクライナに侵攻したロシアの挑戦に対処する姿勢を明確にした。必要に迫られた紛争で勝利する備えをしつつも、米国や同盟国への戦略的攻撃や侵略行為の抑止を最重視するとした。

 国防総省は同日、機密扱いの国家防衛戦略を議会に送達した。今回初めて「核態勢見直し」(NPR)と「ミサイル防衛見直し」(MDR)を組み込む形で戦略見直しを総合的に実施。機密扱いではない国家防衛戦略は近く公表する。

 戦略は、中国が軍事・経済・科学技術など複数の領域で突きつける脅威に対処し、国土を防衛することを最優先事項とした。

 一方、ロシアも「重大な脅威」とし、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国と協力して頑強な抑止を敷く。北朝鮮、イラン、他の過激派組織を含む脅威に対処する能力も維持するとしている。

  トランプ前政権の2018年国家防衛戦略では、中露2大国との紛争に同時に対処する従来の「二正面作戦」から、各地における脅威を抑止しつつ一大国の侵略に打ち勝つ構想へと修正したが、ヒックス国防副長官は同日の記者会見で、この路線を「本質的に継続する」と語った。

【私の論評】米国がロシアよりも中国への対峙を優先するのは、正しい(゚д゚)!

ロシアより中国対応優先というバイデン政権の姿勢については、すでに予兆がありました。それは、このブログでも何度か述べたように、バイデン政権初の「アジア太平洋戦略」においてはっきりしていました。それについては、このブログにも述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
ロシア艦艇24隻を確認 日本海・オホーツク海―【私の論評】バイデン政権に完璧に無視されたロシア太平洋艦隊(゚д゚)!

極東に新しく配属されたボレイ型原子力潜水艦「ウラジーミル・モノマフ

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分のみを引用します。

最新の「インド太平洋戦略」にロシアという文言が一言もないというのが、現在のバイデン政権の考えを雄弁に語っていると思います。いくらプーチンが去勢をはってみたところで、いまや一人あたりのGDPが韓国に大幅に下回るロシアにできることは限られています。インド太平洋地域におけるバイデン政権の最優先課題はやはり、中国なのです。

そうして、この戦略には「日本」という言葉は2度でてきます。以下にその部分だけを引用します。
  • オーストラリア、日本、韓国、フィリピン、およびタイとの 5 つの地域条約同盟をさらに深める。
  • 拡大抑止と韓国・日本の同盟国との連携の強化、朝鮮半島の完全な非核化の追求 
バイデン政権としては、日本をはじめとする同盟国等も米国が中国と対峙するための支援を惜しまないでほしいと願っているのでしょう。

こうした中で、ロシアを囲い込みに協力している日本は、米国に対してかなり貢献しているといえるでしょう。その安心感もあって、戦略のなかに「ロシア」という文言は一言も出さなかったのでしょう。冷戦時と比べれば、隔世の感があります。 

ロシア囲い込みとは、日本の対潜哨戒等によるロシア原潜の実質上の囲い込みです。潜水艦の行動は昔から、各国とも公表しないのが通例であり、海自もこれをあまり公表しないので、日本国内でもあまり知られていないようです。

日本は、冷戦中に米国の要請を受け、対潜哨戒機を大量に購入して、オホーツク海におけるロシア原潜の行動の監視を強化しました。これで、実質的にロシア原潜の囲い込みに成功し、米国の冷戦勝利に大きく貢献したとともに、日本の対潜哨戒能力は米国と並び世界のトップクラスへと飛躍的に向上しました。

この哨戒活動は今でも続いています。これは、さらに強化され、日本は現在潜水艦22隻体制をを構築し、オホーツク海方面での、ロシア原潜の動きに目を光らせいることでしょう。

バイデン政権初の「アジア太平洋戦略」は2月11日に公表されています。2月22日、バイデン大統領は、プーチンがウクライナ東部への派兵の意向を表明したことを受け、「これはロシアのウクライナ侵攻の始まりだ」と述べ、ロシアに対する制裁を発表しています。

2月11日にはすでにロシアがウクライナに侵攻する兆候を掴んでいたと思います。にもかかわらず、「アジア太平洋戦略」には、「ロシア」という文言が一つもないのです。

これは、バイデン政権の中国への対峙を優先するという意思の現れであり、それは妥当であると考えられます。

名目GDPを見ると、10年時点で中国は6兆338億ドル、ロシアは1兆6331億ドル。その後、中国は右肩上がりで成長線を歩んでいますが、ロシアは停滞し、成長さえ果たしていません。

 20年には中国が14兆8867億ドル、ロシアは1兆4785億ドルと、その差は4倍から10倍にまで膨らんでいます。コロナ禍の20年には1人当たりGDPでもロシアは中国にとうとう抜かれてしまい、どちらがシニアパートナーで、どちらがジュニアパートナーかは火を見るより明らかだからです。

ちなみに、現在一人あたりのGDPは中国がロシアを追い越したとはいえ、さほど変わりはありません。そうして、人口はロシアは1億4千万人、中国は14億人であり、丁度ロシアの10倍です。人口比で10倍であり、GDPも10倍ということなのです。それを考えると、中国も人口が多いだけで、経済的に恵まれているとは言い難いです。


ロシアの経済規模は約150兆円で世界10位前後に位置しますが、中国の10分の1、日本の3分の1。国民1人当たりGDPは約120万円で、中国やマレーシアと同水準です。また、経済制裁により、今後のロシア経済は2桁以上のマイナス成長は避けられないとみられます。

ただ、中国共産党はそれでも軍事や他国に介入するなどの資金は、ロシア政府に比較すれは潤沢に得ることができます。

両国ともランドパワー国であり、中露の海軍力は一般に考えられているよりも、はるかに能力が低いです。特に、ASW(対潜戦)においては、日米をかなり下回り、海戦においては勝つことはできません。

しかし、だからといって安心できるわけではありません。特に、中国は豊富な資金力をもって、貧しい国や市民社会が不安定な社会に対して介入することができます。これと軍事力やその他をあわせたハイブリッド戦を展開することができます。これは、現在のロシアにはあまりできないことです。

ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアとウクライナの関係だけの問題ではありません。これは、ロシアによる戦後秩序の破壊行為の一環とみるべきなのです。

世界は第2次世界大戦の終結から現在まで、基本的には「自由主義的世界秩序」に支えられてきました。この秩序は民主主義、自由、人権、法の統治、自由経済などを基盤とし、米国の主導で構築され運営されてきました。

ところが、この世界秩序は、ソ連崩壊から30年経った今、中国とロシアの挑戦により崩壊の危機を迎えるにいたったのです。

中国は南シナ海、東シナ海へと膨張し、東アジア全体に覇権を確立して、同地域の他の諸国を隷属化しようしています。ロシアはクリミア併合に続くウクライナ侵攻に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっています。両国はその目的のために軍事力の行使を選択肢に入れています。

中国とロシアの軍事的な脅威や攻撃を防いできたのは、米国と同盟諸国が一体化した強大な軍事力による抑止でした。

ところが、近年は米国の抑止力が弱くなってきました。とくにオバマ政権は対外的な力を行使しないと宣言し、国防費の大幅削減で米軍の規模や能力はすっかり縮小してしまいました。それが、米国の降参ともいえるような、アフガン撤退や、今回のロシア軍によるウクライナ侵攻に結びついた面は否めません。

犬を抱くウクライナ女性兵士

その結果、いまの世界は中国やロシアが軍事力を行使する危険性がかつてなく高まってきたといえます。そうして現実にロシアのウクライナ侵攻が起こってしまったのです。武力行使による膨張や現状破壊を止めるには、軍事的対応で抑止することを事前に宣言するしかないのです。

そうして、ロシアより中国のほうがはるかに強大であり、ロシアを制裁して、経済を弱らせて何もできないようにしたとしても、中国が今のままであれば、何も問題は解決しません。中国との対峙こそが、最優先課題なのです。

これは、米国にとってもそうですが、日本にとってもそうです。その意味では、米国がロシアより中国対応優先するのは正しいです。優先順位を間違えるべきではありません。日本も優先順位を間違えるべきではありません。

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2022年9月2日金曜日

オーストラリア海軍要員、英の最新鋭原潜で訓練へ AUKUSで関係深化―【私の論評】豪州は、AUKUSをはじめ国際的枠組みは思惑の異なる国々の集まりであり、必ず離散集合する運命にあることを認識すべき(゚д゚)!

オーストラリア海軍要員、英の最新鋭原潜で訓練へ AUKUSで関係深化

英国の攻撃型原潜「HMSアンソン」

 韓国・ソウル(CNN) 米英豪3カ国による安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」の下で防衛面の関係が深化するなか、オーストラリア海軍の要員が近く英国の原子力潜水艦で訓練を始める見通しとなった。英政府が8月31日に明らかにした。

 ウォレス英国防相は「インド太平洋を始めとする地域で自由民主主義秩序への脅威が高まるなか、今日はこれに対抗する英国とオーストリアの準備作業において重要な節目になった」と述べた。

 英海軍がイングランド北部バロー・イン・ファーネスで最新鋭の攻撃潜水艦「HMSアンソン」を就役させた際の発言。就役式にはオーストラリアのマールズ副首相兼国防相も参加した。

 ウォレス氏は就役式で、国内の造船業や国際的な提携を称賛。国内の造船所で建造されたアンソンは英国産業の粋を示すものであり、「AUKUSに基づき緊密な同盟国であるオーストラリアや米国などとの共同安全保障に貢献する英国の意欲を明確に示している」と述べた。

オーストラリアのマールズ副首相兼国防相

 マールズ氏も「オーストラリアの潜水艦要員がHMSアンソンで訓練を受けるという今日の発表は、AUKUSの協力関係を構築する我々の将来の計画について全てを物語っている」と語った。

 昨年締結されたAUKUS協定に基づき、オーストラリアは2040年までに原子力潜水艦を取得したい考えを示している。

 建造予定のオーストラリアの原潜の設計はまだ不明。英国のアスチュート級潜水艦や米海軍のバージニア級攻撃潜水艦に似たものになる可能性があるが、オーストラリア独自の仕様の新型艦になる可能性もある。

【私の論評】豪州は、AUKUSをはじめ国際的枠組みは、必ず離散集合する運命にあることを認識すべき(゚д゚)!

英国海軍は2021年5月17日(月)、アスチュート級原子力潜水艦の5番艦「アンソン」を、イングランド北部の都市バロー=イン=ファーネスにあるBAEの造船所で進水させていました。

アスチュート級原子力潜水艦は、魚雷や対艦ミサイルなどで敵の水上艦や潜水艦などを攻撃するのが主任務の、いわゆる攻撃型原潜と呼ばれるタイプであり、大陸間弾道弾などを搭載する、いわゆる戦略ミサイル原潜ではありません。

イギリス国防省はアスチュート級を7隻建造する計画で、2007(平成19)年6月に1番艦「アスチュート」が進水、2010(平成22)年8月に就役して以降、これまでに4番艦「オーディシャス」までが同海軍に引き渡されていました。

今回、就役した「アンソン」は2011(平成23)年10月13日に起工。約10年後工期を経て2021年に進水し、今年8月31日に就役し海上公試に入りました。

水中排水量は約7700トン、全長97m、全幅11.3m。乗員数は約100名(最大109名)で、ロールス・ロイス製の加圧水型原子炉「PWR2」を1基搭載し、速力は30ノット(約55.6km/h)。533mm魚雷発射管を6門備え、国産の「スピアフィッシュ」魚雷のほか、アメリカ製の「トマホーク」巡航ミサイルなどを装備しています。

英国のように、原潜を製造する能力があっても、起工してから就役するまで10年以上もの歳月を必要とするのです。そうして、就役したからといってすぐに実戦に参加するわけではありません。

その後に海上公試があります。海上公試は、建造された艦船を海上で実際に運航し、要求通りの機能・性能が発揮できるかを確認するために、建造所から軍への引き渡し前に実施される試験です。

海上公試は、船の性能を調べる艦船公試と搭載兵器の性能を調べる武器公試(軍艦などの場合)に大別されます。試験期間は1泊2日、5泊6日など船の種類によって様々です。

 海自の場合だと、数十回の海上公試を行い、トータルシステムとしての艦船の完成検査を受け、合格して引き渡しを行い、契約の履行が完了という運びになります。

防衛省に引き渡された艦船は、ただちに防衛大臣により自衛艦旗が授与され、自衛艦としての位置付けが確立し、部隊に配属され、任務に就くことになります。

一隻の艦艇を製造するにしても、起工してから、任務につくまではこれだけの期間を要するのです。

オーストラリアには、そもそも自前で潜水艦建造の技術もなく、原子力産業も存在しません。そのオーストラリアが原子力潜水艦を持つということは、文字通り一つの産業を起こすくらいの大事業です。

オーストラリア政府が、原子力潜水艦を2040年までに取得したいとしている理由が、これでおわかりになると思います。それだけ、原潜の開発には、手間と時間がかかるのです。

それを早めるために、潜水艦を最初から建造するのではなく、建造されたものを購入するという手もあります。それにしても、すぐに運用するには、乗組員を訓練しておく必要があります。今回のオーストラリアの潜水艦要員がHMSアンソンで訓練を受けるという発表は、そうしたことも視野に入れている可能性もあります。

ただ、2040年までというとかなり長期です。その期間中誰が首相になろうが、英豪間の強いコミットメントが必要です。さらに、20年後までAUKUS内でオーストラリアを機能させないままにするのかという議論にもなると思います。それは、あり得ないでしょう。

このことから、元トランプ政権高官シュライバー氏は、豪州に原潜は来ないかもしれないと警告しています。それは、多いにありえることです。

これについては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
AUKUSで検討されている新戦略―【私の論評】AUKUS内で豪が、2040年最初の原潜ができるまでの間、何をすべきかという議論は、あってしかるべき(゚д゚)!

2020年2月、蔡英文台湾総統(右)を表敬訪問したシュライバー氏(左)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、シュライバー氏は以下のような提案をしています。

シュライバー氏は「両国の政治指導者の持続的なコミットメントが必要であり、それがなくなれば豪州の原潜展開の可能性は50%以下になる」と述べた上で、①原潜計画が旨く行かない場合に備えプランB(代替案)が必要だ、②B-21(最新長距離爆撃機)の調達を検討すべきだと主張しています。

B-21は高い柔軟性、早い補充性等の利点を有するといいます。しかし、B-21も最新技術を使用しており、米国の技術供与同意は簡単ではないでしょう。

いずれにしても、AUKUSという組織をつくったにしても、その組織の一員である、オーストラリアが2040年に原潜を取得するまで、何もしないというわけにはいかないでしょう。

原潜計画は進めるにしても、2024年まで、オーストラリアが何かに貢献すべきことは明らかです。

現在中国に対抗するため、様々な軍事的あるいは経済的な枠組みが作られています。ただ、これらの枠組みが将来にわたって不変で継続し続けるかどうかなどわかりません。それを考えると、シュライバーの指摘は正しいと思います。

これについても、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

AUKUSを読む上で重要な地政学的視点―【私の論評】同盟は異なった思惑の集合体であり必ず離合集散する。AUKUS、QUAD、CPTPPも例外ではない!我々は序章を見ているに過ぎない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分を掲載します。

インド太平洋には、もう一つ、QUAD(クアッド)という対話の枠組みがあります。日本が主導して始めたもので、米国、オーストラリア、インドが加盟しており、9月には初めての対面形式の首脳会議がホワイトハウスで開催されました。首脳会議は今後、毎年開催される予定です。

AUKUSが今後、発展していくにつれて、QUADとどのように連携していくのかが、大きなテーマになるでしょう。

英国はCPTPPへの加盟を検討していますし、日本も将来、AUKUSへの加盟を検討しなくてはならない時期が来るでしょう。やがて、インド太平洋では、政治はQUAD、安全保障はAUKUS、経済はCPTPPという役割分担が成立するかもしれないです。

歴史を見ればわかるように、同盟は異なった思惑の集合体ですから、必ず離合集散します。これらの枠組みもいつかは統合し、分裂し、さらにNATOや日米同盟もこれらに吸収されることになるかもしれないです。

AUKUS、QUAD、CPTPP、それらはやがて一つにまとまり、作り替えられて、将来、インド太平洋同盟として花開く可能性を秘めています。

今、われわれが目にしているのはその始まりにすぎないのです。

ただ、オーストラリアには潜水艦を所有したいという強い意思があるのも事実です。中国の艦艇がオーストラリアの近くの海域を航行するのは珍しいことではなくなりました。オーストラリア国防省は2月19日、豪州北部沖合の上空を飛行していた哨戒機が海上の中国軍艦艇からレーザー照射を受けたと発表しています。

中国の潜水艦が航行している可能性もあります。こうしたことに備えるためには、中国は対潜哨戒能力がオーストラリアよりも低い(米国より対潜哨戒機P-8等を導入し対潜哨戒能力を高めている)ことを考えると、攻撃力に優れる攻撃型原潜を手に入れることは理にかなっています。

それにしても、同盟は異なった思惑の国々の集合体ですから、必ず離合集散します。現在の国際的な枠組みもいつかは統合し、分裂し、さらにNATOや日米同盟もこれらに吸収されることになるかもしれないです。

オーストラリアも、こうした国際的枠組みの離合集散に備えておくべきと思いますし、現在のAUKUSへの貢献も考えるべきでしょう。

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2017年7月8日土曜日

北を抑えられない中国…トランプ氏の切り札は“超メガバンク”制裁―【私の論評】手始めに金融制裁。次は食料制裁!いずれ中国本格制裁の前兆だ(゚д゚)!



 核・ミサイル開発で挑発を繰り返す北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長。トランプ米大統領は4日の弾道ミサイル発射について、大統領得意のツイッターでも「たぶん中国が重く動いてこのばかげた行動を終わらせるだろう」と発信した。トランプ氏は中国の習近平国家主席からは裏切られっ放しなのだが、今度ばかりは何やら確信ありげである。本当にそうなるのか。

 伏線は、6月末に米財務省が発表した中国の丹東銀行への金融制裁である。中朝国境の遼寧省丹東市にあるこの銀行は北の核・ミサイル開発を金融面で手助けしたという。ドル取引が禁じられ、国際金融市場から締め出される。

 米国が北朝鮮関連で中国の金融機関を制裁対象にしたのは初めてだが、中国側の反応は抑制気味だ。「他国が自身の国内法に基づき、中国の企業や個人を統制することに反対する。米国側が直ちに誤りを是正するように求める」(6月30日、中国外務省の陸慷報道官)と、反発も紋切り型だ。

 ワシントン筋から聞いたのだが、米側は丹東銀行について、事前に中国側と打ち合わせしたうえで「制裁」を発表した。当然、丹東銀行が米側の容疑対象であることを中国側は事前に察知しており、米側制裁に伴う混乱を回避する対応措置を取っている。

 混乱とは、丹東銀行への信用不安から預金者による取り付け騒ぎが起きることなどだ。もとより、丹東銀行のような地域に限定された小規模な金融機関なら、カネを支配する党の手で信用パニックの防止は容易だ。丹東銀行制裁は米中の出来レースなのだろう。

そんな現実なのに、中国がトランプ氏のつぶやき通り「重く動く」だろうか。トランプ政権は制裁の切り札を温存している。中国の4大国有商業銀行の一角を占める中国銀行である。

 米ウォールストリート・ジャーナル紙によれば、国連の専門家会議も、中国銀行のシンガポール支店が北朝鮮の複数団体向けに605件の決済を処理していたことを把握している。今年2月には米上院議員有志が、中国銀行が北の大量破壊兵器開発に資金協力してきたと、ムニューシン財務長官に制裁を求めた。

 米財務省は言われるまでもなく、オバマ前政権の時代から中国銀行の北朝鮮関連の資金洗浄を調べ上げてきたが、何しろ相手は資産規模で世界第4位、三菱東京UFJ銀行の1・5倍、米シティバンクの2倍もある超メガバンクで、国際金融市場で中国を代表する。

 制裁対象になれば、米金融機関ばかりでなく外国の金融機関とのドル取引が禁じられる。中国側の反発の激しさはもちろん、国際金融市場への波乱は丹東銀行の比どころではない。

 米外交専門誌「フォーリン・ポリシー」によれば、オバマ前政権時代でも中国銀行は俎上にのぼったが、金融市場への影響や中国との関係悪化などの事態に対応準備ができない、ということで、おとがめなし。ビビったのだ。トランプ政権はどうするか。(産経新聞特別記者・田村秀男)

【私の論評】手始めに金融制裁。次は食糧制裁!いずれ中国本格制裁の前兆だ(゚д゚)!

トランプ政権は、金融市場への影響や中国との関係悪化などおそれずに、中国への金融制裁を実行することでしょう。そもそも、中国からキャピタルフライト並の外貨の流出が数年まえから続いている現状では、米国が中国に対して金融制裁をしようがしまいが、あまり変わりない状況になってきています。

それに、トランプ大統領は中国が南シナ海に進出した本当の理由である、南シナ海の深い海を中国原潜の聖域にするという試みは絶対に阻止することでしょう。

北のICBMと中国の南シナ海の原潜聖域化は、絶対に阻止するでしょう。そうなると、トランプ大統領は、中国が本格的に北への制裁に踏み切らないならば、中国銀行への本格的な金融制裁に踏み切ることでしょう。

まずは、北を筋合いにして、中国が今後も傍若無人な海洋進出をやめなければ、さらに厳しい金融制裁に踏み切ることを中国に周知させることを目的に、実行することでしょう。

米国のムニューシン財務長官は会見で、今回の措置に関して「われわれはこれら行動で決して中国を標的にしていない」と説明。「われわれは外部の北朝鮮支援者をターゲットとすることにコミットしている」と語り、北朝鮮が核兵器と弾道ミサイルの開発プログラムを断念するまで圧力を強める考えを示しました。

米国ムニューシン財務長官
米政府は中国の丹東銀行を国際金融システムから遮断しました。財務省は発表資料で、同行は「北朝鮮が米国および国際金融システムにアクセスする経路」となっており、北朝鮮の武器開発プログラムに関与する企業の取引を手助けしているとしました。

ムニューシン長官は、資金の流れを断つことがイランを交渉のテーブルに引き出すのに「極めて効果的」だったと指摘。北朝鮮についても同じ効果を求めているとしました。丹東銀行だけでは効果がなければ、いずれ超メガバンクにも同じ制裁をすることでしょう。

このようなことは、最初からわかっていたことです。これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【スクープ最前線】トランプ氏「中国敵対」決断 台湾に急接近、習近平氏は大恥かかされ…―【私の論評】トランプ新大統領が中国を屈服させるのはこんなに簡単(゚д゚)!
台湾の蔡英文総統との電話会談で中国を牽制したトランプ次期米大統領
写真はブログ管理人挿入 以下同じ
現在の米国は、軍事的にはオバマ政権時代に軍事予算を大幅に減らしたので、従来よりはその力は低下しています。これをトランプ氏は補おうとはしていますが、さりとてすぐにそれが成就するわけではありません。人員を増やすにしても、訓練をしなくてはなりません。軍艦や航空機を増加させるにしても、今すぐにつくってそれを現場に投入するとうわけにもいかず、実際に軍備を増強するまでには時間がかかります。

しかし、アメリカには他にも大きな強みが2つあります。それは、金融と食料です。この記事より、これに関する部分を以下に引用します。
超大国といわれるアメリカの一番の強さは、軍事力でもなく、イノベーション力でもありません。それは、米国による世界の金融支配にあります。現在の世界の金融体制は、ブレトン・ウッズ体制に端を発しています。これは、第二次世界大戦末期の1944年にアメリカのブレトン・ウッズで連合国通貨金融会議が開かれ、国際通貨基金(IMF)や国際復興開発銀行(IBRD)の設立が決定されたものです。 
当時、世界の金の80%近くがアメリカに集中しており、アメリカは膨大な金保有国でした。その金と交換できるドルを基軸通貨とし、他国の通貨価値をドルと連動させるという仕組みで、金・ドル本位制ともいわれます。
さらに、現在の中国の食料自給率が85%以下という状況もあります。
世界各国、特に先進国の中で、食料や資源を100%自給できている国は少ないです。中国の食料自給率は85%以下といわれており、アメリカから穀物を買えない事態になれば、13億の人民は飢餓に苦しむことになります。

これに関しては、一昔前にある中国の高官が穀物の需要が増えたり、減ったりする中国の状況を「中国人の胃はゴムボールのようである」と語っていたことがあります。要するに、穀物需要がかなり減ったり、増えたりしても、中国は何とかなることを強調したかったのでしょう。

現実には、そんな馬鹿な話があるはずもなく、貧困層は穀物が手に入らず飢え死にしていたというのが実情でしょう。しかし、それは今から数十年も前のことで、今ではそのようなことはあり得ないでしょう。現状では、中国の貧困層でも何とか食欲を満たす穀物は手に入れられる状態になっていることでしょう。
実際最近では中国が突如、近年世界の穀物輸入国上位に躍り出てきました。2013年~14年期、中国の穀物輸入量は2,200万トンという膨大な量になりました。2006年の時点では、ま中国では穀物が余り、1,000万トンが輸出されていたというのに、何がこの激変をもたらしたのでしょうか?

2006年以来、中国の穀物消費量は年間1,700万トンの勢いで増大し続けている年間1,700万トンというと、大局的に見れば、オーストラリアの小麦年間収穫量2,400万トンに匹敵します。 
人口増加は鈍化しているにもかかわらず、穀物の消費量がこれほど増加しているのは、主に、膨大な数の中国人の食生活レベルが向上し、より多くの穀物が飼料として必要な肉や牛乳、卵を消費しているからです。

2013年、世界全体で推定1億700万トンの豚肉が消費されました。そのうちの半分を消費したのが中国でした。人口14億人の中国は現在、米国全体で消費される豚肉の6倍を消費しています。 
とはいえ、中国で近年、豚肉消費量が急増しているものの、中国人一人当たりの食肉全体の消費量は年間合計54キロ程度で、米国の約107キロの半分にすぎません。しかしながら、中国人も世界中の多くの人々と同じように、米国人のようなライフスタイルに憧れています。

中国人が米国人と同量の肉を消費するには、食肉の供給量を年間約8,000万トンから1億6,000万トンへとほぼ倍増させる必要があります。1キロの豚肉を作るにはその3倍から4倍の穀物が必要なので、豚肉をさらに8,000万トン供給するとなると、少なくとも2億4,000万トンの飼料用穀物が必要になります。 
それだけの穀物がどこから来るのでしょうか。中国では、帯水層が枯渇するにつれて、農業用の灌漑用水が失われつつあります。たとえば、中国の小麦生産量の半分とトウモロコシ生産量の1/3を産出する華北平原では、地下水の水位が急激に低下しており、年間約3メートル低下する地域もあるほどです。 
その一方で水は農業以外の目的に利用されるようになり、農耕地は減少して住宅用地や工業用地に姿を変えています。穀物生産高はすでに世界有数レベルに達しており、中国が国内生産高をこれ以上増やす潜在能力は限られています。 
2013年に中国のコングロマリットが世界最大の養豚・豚肉加工企業、米国のスミスフィールド・フーズ社を買収したのは、まさに豚肉を確保する手段の一つでした。 
また、中国政府がトウモロコシと引き換えに30億ドル(約3,090億円)の融資契約をウクライナ政府と結んだのも、ウクライナ企業と土地利用の交渉を行ったのも、その一環です。こうした中国の動きは、私たち人類すべてに影響を与える食糧不足がもたらした新たな地政学を実証したものです。 
このようなときに、米国に金融制裁を実施されたら、食料事情は逼迫するでしょうし、食料以外にも様々な物資の供給に支障をきたすことになります。
米国が中国を制裁する方法は、まずは金融制裁、それでも駄目なら食料制裁、それでも駄目なら軍事制裁と、この三段階があります。この制裁、少し前だと実施しにくい面もありましたが、現在では、あのオットー・ワームビア氏の悲惨な死によって、超党派で制裁を実行する機運が高まっています。

トランプ大統領は「北朝鮮当局の残虐な行為を非難する」という声明を出しました。議会でも超党派で「北朝鮮の非人道的行為を許してはならない」(共和党のジョン・マケイン上院議員)という糾弾が表明されました。

米国が本格的に金融制裁、食料制裁をやりはじめれば、中国はひとたまりもないでしょう。海洋進出どころか、人民が食べるのに困るということになります。そうなれば、現中国の体制は崩壊するしかありません。崩壊するか、崩壊する前に音を上げて降参するしかありません。

これをトランプ大統領は様子を見ながら逐次実行していくことでしょう。ここまで、問題が複雑化してしまったのは、オバマ大統領が及び腰で、金融制裁や食料制裁に踏み切らなかったからです。オバマ時代にこれを実行していれば、今の世界は随分と変わっていたことでしょう。

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2022年6月23日木曜日

すでに米国にも勝る?中国海軍の大躍進―【私の論評】中国海軍は、日米海軍に勝てない!主戦場は経済とテクノロジーの領域(゚д゚)!

すでに米国にも勝る?中国海軍の大躍進

岡崎研究所

 6月7日付のウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、「中国海軍の大躍進:カンボジアでの基地は北京の世界的軍事野望の最新のしるしである」との社説を掲載し、警鐘を鳴らしている。


 このWSJの社説は、時宜を得た問題提起をしているいい社説である。中国海軍が大躍進しているというのはその通りである。東シナ海、南シナ海での中国海軍の活動に加え、世界的に中国海軍が基地のネットワークを作ろうとしている。大西洋に接する西アフリカにまで軍事基地を作ろうとしている。

 WSJの社説が特に警笛を鳴らすのは、米中の海軍力の戦略バランスが、中国に優位に働いている点と、中国が世界的に基地のネットワークを秘密裡に、段階的に構築している点である。前者については、中国が現在の355隻から2030年までに460隻に増強する計画があるのに対して、米海軍は、現在の297隻から27年には280隻にまで減少すると言われている。日本がそれを補填する海軍力を増強できるかは、今後の動きに関わってくる。

 中国の海のネットワーク化は、着実に進んでいる。まずは主要な港湾を、スリランカやギリシャ、イタリア等でおさえ、中東のアラブ首長国連邦(UAE)等とも関係を深め、さらにはアフリカのジブチやケニア、モーリタニアにまで及んでいる。

 最近では、ソロモン諸島と安全保障協定を結び、その他の南太平洋の島嶼諸国とも同様の協定を締結しようとしている。中国は、最初は、民間経済やインフラ整備から各国に介入し、次第に警察の治安部隊、軍事的関与にまで触手を伸ばす。

 中国が何を目的としているかについては、政治的影響力の強化、軍事的影響力の強化、及び制裁を課された場合の資源確保などであろう。中国のこの動きには十分注意していく必要がある。太平洋諸国については、日本も、豪州や米国と協力して、中国に対抗していく必要があろう。

日本にも求められる海軍力の増強

 タイ湾の海域については、カンボジアでの基地建設について関心国と意見交換をしていく必要もある。タイやベトナムがカンボジアでの中国海軍基地を歓迎しないことはほぼ明らかであり、実りのある話し合いになる可能性がある。

 タイ湾からインドに向かう海域については、ミャンマーがあり、中国が進出してくる可能性が高い。中国は、既にミャンマーの軍事政権に対しては、相当の武器供与をしている。日本は、自由で開かれたインド・太平洋構想の推進の観点から、インドともこの問題で協力の余地がないか、考えたらよい。

 この問題については、外交面でやれることも案外あるのではないかと思われるが、より大きい問題は、海軍力の増強である。米海軍が相対的に力を落とす中、日本の海軍力も強化すべきであろう。日本の防衛予算は増額が必須であるが、それをどこに振り向けていくかについて、このWSJ社説の問題提起を考慮すべきであろう。

【私の論評】中国海軍は、日米海軍に勝てない、主戦場は経済とテクノロジーの領域(゚д゚)!

上のような記事を読むと、またかという感じがします。

2020年9月に米国防総省は「中国の軍事力についての年次報告書」を公開し、中国の海軍力はアメリカを凌駕し、「世界最大の海軍を保有している」と発表しています。

また米海軍大学校やランド研究所などのシミュレーションでも、中国が台湾に侵攻した場合、中国海軍が勝つという結果が出たことが、ニュースとして報じられました。

それ以来、米海軍が中国軍に負けるという記事がマスコミ等でいくつも掲載されるようになりました。上の記事もこのような背景から掲載されたものと考えられます。

しかし、ここで考えなくてはならないのは、国防総省等がなぜこうした発表を行うのかということです。

彼らがやっている戦力分析やシミュレーションの目的はただひとつ、連邦議会に対してもっと艦船を購入してくれるように説得することにあるのです。


国防総省のいう「世界一の海軍」とは艦船の数などを指しているのです。しかし、実際には2020年おいても、上の表の通り、米軍の艦艇数は、中国のそれを上回っています。ただ国防省は、米軍は艦艇を世界中に振り向けなければならないのに対して、中国はインド太平洋地域にだけ配置すれば良く、そうすると中国のほうが米国を上回るというのです。

しかも、中国の艦艇製造速度は早く、いずれ全体の艦艇数でも中国が米国を上回るとしています。ただし、最近は中国の艦艇製造数もひところよりはかなり減りましたし、米国はトランプが大統領の時代に艦艇数を増やすことを決めました。

しかし、もうすでに何十年も前から、海軍力の意味は変わってきています。昔から、「艦艇には2種類しかない、水上艦艇と潜水艦である。水上艦艇はそれが空母であれ、何であれ、ミサイルや魚雷などの標的に過ぎない。しかし潜水艦は違う。現代の本当の海軍の戦力は潜水艦である」と言われています。

実際、1982年のフォークランド紛争において、イギリスは1隻の原潜を南大西洋で潜航させていたのですが、このたった1隻によってアルゼンチン海軍は敗北しました。原潜からの魚雷が、アルゼンチン海軍最大の軍艦「へネラル・ベルグラノ」を沈めたのです。

ところが米国防省などがシミュレーションを行うときは、原潜を考慮に入れることはありません。これを入れてしまうと、ゲームそのものの目的を潰してしまうことになるからです。原潜だけでなく、総合的な海軍力でいえば、米国が圧倒的であることは疑いがないです。

特にその中でも、米海軍はASW(対潜水艦戦闘力)が中国海軍をはるかに凌駕しており、その中でも対潜哨戒力は、中国を圧倒しています。さらに、米軍の攻撃型原潜は、いまや水中の武器庫と化しており、巡航ミサイル、対空ミサイル、対艦ミサイル、魚雷などありとあらゆる武装を格納しています。

たとえば、攻撃型原潜オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

その中国海軍と米海軍が戦えば、米軍が圧倒するのは疑いがないです。よって、台湾有事においては、米海軍攻撃型原潜で台湾を包囲すれば、それで解決できます。大型のものを3隻派遣して、交代制で24時間常時台湾近海に1隻を潜ませ、中国海軍が台湾に侵攻しようとすれば、魚雷、ミサイルですべての艦艇、多くの航空機を撃沈することができます。

それどころか、巡航ミサイルで中国のレーダー基地、監視衛生の地上施設なども叩くことができます。

それでも仮に、中国軍が陸上部隊を台湾に上陸させることができたにしても、攻撃型原潜で陸上部隊への補給を絶てば、陸上部隊はお手上げになります。

中国海軍が多くの艦艇を持ち、さらに世界中に基地のネットワークを作ろうと、いざ米海軍と海戦ということになれば、米軍は圧倒的に勝利しかつほとんど被害を被ることはないでしょう。一方中国海軍は壊滅的な打撃を受けることになります。

ただ、このようなストーリーでは面白みもないですし、米海軍も艦艇の予算を得ることもしにくくなります。だからこそ、攻撃型原潜抜きで戦えは、艦艇数の多い中国海軍に、米海軍はまけてしまうというストーリーで耳目を惹きつけ、さらにドローンの脅威などで味付けすれば、多くの人々の耳目を惹きつけ予算を獲得しやすくなります。

ドローンであろうと、偵察衛星であろうと、水中に潜む潜水艦を発見できなければ無意味です。潜水艦への攻撃は潜水艦が発見できてはじめて可能になります。その能力が日米は中露をはるかに凌駕しているのです。これにより、日米と中露が海戦を行えば、中露にはまったく勝ち目がありません。中露は日本の海上自衛隊と単独と戦っても勝ち目はないでしょう。

現在の技術では監視衛生で水中の潜水艦は発見できないし、中露のドローンも対潜哨戒力は低い

米国防省の報告書や、さらにこれらを根拠とするマスコミ報道を真に受ける必要はありませんが、ただそうはいっても米国防総省としては、中国海軍への対抗措置として新たな試みに挑戦し続けるべきです。新たに攻撃型原潜を増やすとか、水上艦艇でも必要なものを増やすとか、メンテナンスのための工廠を増やすなど、現実的な予算の要求をすべきと思います。

日本も米国並にASW(対潜水艦戦闘力)が強く、特に対潜哨戒能力は米軍とならび世界トップクラスです。これは、冷戦中に米国の要請によって、オホーツク海のロシア原潜の行動を監視することによって得た能力です。

日本の場合は、米国のように攻撃力の強い、攻撃型原潜はありませんが、ステルス性に優れた通常型潜水艦があります。この潜水艦も米国の攻撃型原潜には及ばないものの、通常型としては十分な攻撃力があります。現在22体制で運用されており、日本は専守防衛はできます。

中国海軍が日本に侵入しようとして、陸上部隊を送ってきた場合などは、これらを撃沈できますし、たとえ陸上部隊が上陸したとしても、潜水艦隊で包囲して補給を絶てば、陸上部隊はお手上げになります。そのため、中露や北などが、日本に上陸しようとしても、なかなかできません。よって、日本は独立を維持することはできます。

マスコミで喧伝されてはいますが、中国にとっては台湾や尖閣諸島に武力で侵攻して、略奪するようなことは、簡単なことではないのです。

ただ、日本でもなぜか米国のように、日本防衛といういうと、水上艦艇、航空機、陸上兵力による防衛ばかりが議論され、潜水艦はでてきません。日本も潜水艦なしで、中国と対峙するとなると、かなり分が悪いです。これは、日米というか、いずれの国でも、昔から潜水艦の行動は隠密にされるのが普通だからかもしれません。

日米ともに、自国のASWの能力や、潜水艦隊の実力を国民に正しく啓蒙すべきでしょう。特に日本では、中国の軍事力の拡大の脅威を盲目的に信じて、中国には到底勝てないと思い込む人も多く、「中国に頭を下げるべき」とか「攻め込まれたら、戦え戦え正義のために戦えだけではだめだ」などという言葉を真に受ける人もいるようです。これでは、いたずらに中国のプロパガンダに加担することになってしまいかねません。

尖閣危機、台湾危機を一方的に煽る人もいますが、一方的に煽るのではかえって中国のプロパガンダに加担することにもなりかねません。なぜなら、それによって尖閣も台湾もすぐに簡単に中国によって侵略されしまうと信じ込む人が増えるからです。

実際、台湾も尖閣もいつ中国に奪取されてもおかしくないと考える人は多いです。しかし、あれだけ何回も長期間わたって尖閣や台湾を脅しているのはどうしてでしょうか。中国が台湾や尖閣を奪取できるだけの軍事力があるなら遠の昔に奪取しているはずです。

それどころか、中国海軍のロードマップでは、2020年には、第二列島線まで、確保する予定だったはずですが、現状では第一列島線すら確保はできていません。なぜできないのでしょうか。

かといって、日本の海自の海軍力はアジア最強であって、中国など全く脅威ではないと主張するのも問題です。バランスが重要だと思います。

そうして、最近のこのブログで述べたように、日本の潜水艦隊の運用は専守防衛にかなり傾いており、ロシアがウクライナにしたように中国が日本の国土にミサイルなどを直接打ち込めば、国土は破壊され、多くの国民の生命や財産が失われる可能性は否定できません。独立が維持できても、国土が破壊されてしまえば、悲惨なことになります。できることなら、こうしたことも防ぐべきです。

これを防ぐためには、先日もこのブログに掲載したように、日本も攻撃型原潜を持つことも検討すべきです。ある程度大型で、巡航ミサイルなども多数搭載できる攻撃型原潜があれば、敵基地攻撃もできます。

さらに、日本がタイやカンボジアなどを含む、アジア太平洋地域全体の安全保障に関与したり、日本のシーレーン全体の安全保障も関与するというのなら、攻撃型原潜の保有も必須となるでしょう。なぜなら、これらも日本の安全保障のテリトリーに加えるというのなら、長時間潜水でき、かつ大量の兵器を格納できる原潜が必要になるからです。

それとともに、日本はいたずらに中国の軍事的脅威だけに注目することなく、地政学的戦いにも注力すべきです。

米国と中国の真の戦場は、経済とテクノロジーの領域にあります。なぜなら、軍事的には中国はいまだ米国に対抗できる力がなく、外交戦略においては、中国に対峙しているのは、米国一国ではなく、すでにより広範な反中国同盟だからです。

さらに、米国も中国を武力で追い詰めれば、中国の核兵器の使用を誘発し、中国が核を使えば米国もそれに報復することになり、エスカレートして終末戦争になることは避けたいと考えているからです。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

「中国製造2025」の段階を示すダイアグラム

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえば過去に英国がアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

現状では台湾にすら武力侵攻は難しい中国です。中国としては、軍事力ではない他の分野で日本に対抗しようとするのは、当然です。そうした日本が中国と対峙するのは米国と同じく「地政学的戦争」になるのは明らかです。

日本では、岸田文雄政権が看板政策に掲げる経済安全保障推進法が先月11日の参院本会議で可決、成立しました。半導体など戦略的に重要性が増す物資で供給網を強化し、基幹インフラの防護に取り組む体制を整える。2023年から段階的に施行します。

どの程度実効的な措置がとれるのかが課題です。

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2017年4月11日火曜日

米トランプ政権が中国企業“制裁強化” 北の核兵器開発への関与、「単独行動」で資産凍結なども―【私の論評】これは、その後続く一連の中国制裁の序盤に過ぎない(゚д゚)!

米トランプ政権が中国企業“制裁強化” 北の核兵器開発への関与、「単独行動」で資産凍結なども

シリア攻撃の後、演壇に立つトランプ米大統領=6日、米フロリダ州パームビーチ
 米政府が日本政府に対し、北朝鮮の核兵器開発に関与する中国企業への制裁強化を検討していることを伝えていたことが10日、分かった。複数の日米外交筋が明らかにした。トランプ米政権は、北朝鮮に影響力がある中国に圧力を強めるよう求めており、中国が具体的な行動に出なければ「単独行動」として米国内の中国企業資産凍結などを行う意志を示したという。

 日米両首脳は2月に安倍晋三首相が訪米して以降、3回にわたり電話会談を実施。トランプ氏は対北朝鮮政策の見直しについても説明しており、中国企業を対象とした独自制裁の事前通告も、対北圧力を強める上で日米間の連携を確認する狙いがあるとみられる。

 日米外交筋によると、米側は対中国企業制裁について、北朝鮮と取引する第三国の企業などを制裁対象とする「セカンダリー・サンクション(二次的制裁)」の一環として説明。具体的な企業名は伝えなかったが、すでに実施している資産凍結などの対象企業を拡大する形で検討している。対象となるのは、核兵器開発関連物資の輸出元や、金融取引の相手企業などとなる見通し。

 トランプ氏は6、7両日に米南部フロリダ州パームビーチで中国の習近平国家主席と会談した際、北朝鮮の核開発阻止への取り組みを強化し、国連安全保障理事会決議の完全な履行を確認した。だが、2日付の英紙とのインタビューでは、中国が役割を果たさない場合は単独での対処行動に出る考えを表明している。

 米政府は昨年2月、北朝鮮の核・ミサイル開発や拡散などに関わった第三国を含む個人や団体に制裁を科す米独自の制裁強化法を制定。同年9月には米財務省が中国・遼寧省の貿易会社と個人4人を制裁対象に加え、米司法省は初めて経済制裁違反などで同社などを刑事訴追した。

 中国企業は北朝鮮の貿易総額の9割を占めているとされる。国連安保理・北朝鮮制裁委員会の専門家パネルは、北朝鮮の銀行が中国の大連、丹東、瀋陽で営業を継続していたケースなどを指摘している。

【私の論評】これは、その後続く一連の中国制裁の序盤に過ぎない(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事の一番最後の部分が、非常に重要です。

中国企業は北朝鮮の貿易総額の9割を占めている。これらの企業は輸出入にかかわっている企業であり、当然のことながら、米国とも取引をしている可能性も高いわけです。であれば、これらの企業の資産凍結をすれば、北朝鮮への制裁ということにもなり、さらには北朝鮮への制裁という大義名分で中国に対しても制裁をはじめるということで、中国に対しても制裁になります。

さらに、中国に対しては、北朝鮮に限らず、南シナ海やその他のことでも、米国の言い分を聞かなければさらなる中国に対する制裁も辞さないという、トランプ氏の硬い決意をみせつけることになります。

これは中国にとってはかなり、効き目があるものと思います。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【スクープ最前線】トランプ氏「中国敵対」決断 台湾に急接近、習近平氏は大恥かかされ…―【私の論評】トランプ新大統領が中国を屈服させるのはこんなに簡単(゚д゚)!
台湾の蔡英文総統との電話会談で中国を牽制したトランプ次期米大統領
写真はブログ管理人挿入 以下同じ
現在の米国は、軍事的にはオバマ政権時代に軍事予算を大幅に減らしたので、従来よりはその力は低下しています。これをトランプ氏は補おうとはしていますが、さりとてすぐにそれが成就するわけではありません。人員を増やすにしても、訓練をしなくてはなりません。軍艦や航空機を増加させるにしても、今すぐにつくってそれを現場に投入するとうわけにもいかず、実際に軍備を増強するまでには時間がかかります。

しかし、アメリカには他にも大きな強みが2つあります。それは、金融と食料です。この記事より、これに関する部分を以下に引用します。
超大国といわれるアメリカの一番の強さは、軍事力でもなく、イノベーション力でもありません。それは、米国による世界の金融支配にあります。現在の世界の金融体制は、ブレトン・ウッズ体制に端を発しています。これは、第二次世界大戦末期の1944年にアメリカのブレトン・ウッズで連合国通貨金融会議が開かれ、国際通貨基金(IMF)や国際復興開発銀行(IBRD)の設立が決定されたものです。 
当時、世界の金の80%近くがアメリカに集中しており、アメリカは膨大な金保有国でした。その金と交換できるドルを基軸通貨とし、他国の通貨価値をドルと連動させるという仕組みで、金・ドル本位制ともいわれます。
さらに、現在の中国の食料自給率が85%以下という状況もあります。
世界各国、特に先進国の中で、食料や資源を100%自給できている国は少ないです。中国の食料自給率は85%以下といわれており、アメリカから穀物を買えない事態になれば、13億の人民は飢餓に苦しむことになります。

これに関しては、一昔前にある中国の高官が穀物の需要が増えたり、減ったりする中国の状況を「中国人の胃はゴムボールのようである」と語っていたことがあります。要するに、穀物需要がかなり減ったり、増えたりしても、中国は何とかなることを強調したかったのでしょう。

現実には、そんな馬鹿な話があるはずもなく、貧困層は穀物が手に入らず飢え死にしていたというのが実情でしょう。しかし、それは今から数十年も前のことで、今ではそのようなことはあり得ないでしょう。現状では、中国の貧困層でも何とか食欲を満たす穀物は手に入れられる状態になっていることでしょう。
実際最近では中国が突如、近年世界の穀物輸入国上位に躍り出てきました。2013年~14年期、中国の穀物輸入量は2,200万トンという膨大な量になりました。2006年の時点では、ま中国では穀物が余り、1,000万トンが輸出されていたというのに、何がこの激変をもたらしたのでしょうか?

2006年以来、中国の穀物消費量は年間1,700万トンの勢いで増大し続けている年間1,700万トンというと、大局的に見れば、オーストラリアの小麦年間収穫量2,400万トンに匹敵します。 
人口増加は鈍化しているにもかかわらず、穀物の消費量がこれほど増加しているのは、主に、膨大な数の中国人の食生活レベルが向上し、より多くの穀物が飼料として必要な肉や牛乳、卵を消費しているからです。

2013年、世界全体で推定1億700万トンの豚肉が消費されました。そのうちの半分を消費したのが中国でした。人口14億人の中国は現在、米国全体で消費される豚肉の6倍を消費しています。 
とはいえ、中国で近年、豚肉消費量が急増しているものの、中国人一人当たりの食肉全体の消費量は年間合計54キロ程度で、米国の約107キロの半分にすぎません。しかしながら、中国人も世界中の多くの人々と同じように、米国人のようなライフスタイルに憧れています。

中国人が米国人と同量の肉を消費するには、食肉の供給量を年間約8,000万トンから1億6,000万トンへとほぼ倍増させる必要があります。1キロの豚肉を作るにはその3倍から4倍の穀物が必要なので、豚肉をさらに8,000万トン供給するとなると、少なくとも2億4,000万トンの飼料用穀物が必要になります。 
それだけの穀物がどこから来るのでしょうか。中国では、帯水層が枯渇するにつれて、農業用の灌漑用水が失われつつあります。たとえば、中国の小麦生産量の半分とトウモロコシ生産量の1/3を産出する華北平原では、地下水の水位が急激に低下しており、年間約3メートル低下する地域もあるほどです。 
その一方で水は農業以外の目的に利用されるようになり、農耕地は減少して住宅用地や工業用地に姿を変えています。穀物生産高はすでに世界有数レベルに達しており、中国が国内生産高をこれ以上増やす潜在能力は限られています。
2013年に中国のコングロマリットが世界最大の養豚・豚肉加工企業、米国のスミスフィールド・フーズ社を買収したのは、まさに豚肉を確保する手段の一つでした。 
また、中国政府がトウモロコシと引き換えに30億ドル(約3,090億円)の融資契約をウクライナ政府と結んだのも、ウクライナ企業と土地利用の交渉を行ったのも、その一環です。こうした中国の動きは、私たち人類すべてに影響を与える食糧不足がもたらした新たな地政学を実証したものです。 
このようなときに、米国に金融制裁を実施されたら、食料事情は逼迫するでしょうし、食料以外にも様々な物資の供給に支障をきたすことになります。
そもそも、中国の人民元の信用は、中国がドルをかなり保有しているということで、保たれてきたものです。しかし、中国からは大量のドルが国外逃避 していましたし、これからもさらに逃避をすることになります。そうなると、元の信用は落ちます。

そのような中で、トランプ大統領により米国内の中国企業や中国企業の出先機関などに対して、金融制裁を課せられると、中国はとんでもない状況に陥ります。

それと、この記事では掲載しなかったのですが、何と中国の最大の農産物の輸入先は、米国であるという現実もあります。それは、以下のグラフをご覧いただければ、ご理解いただけるものと思います。

中国の食料品輸入先のシェア

米国は中国最大の農産物輸入先  中国の農産物(食料品)輸入額は1992年の 41.3億ドルから2001年の97.6億ドルへと倍 近く拡大しました。拡大した輸入食料品のうち では、大豆、植物油、トウモロコシ(94~95 年)など土地集約的なものが多いです。

こうした 食料品は米国が比較優位を 持つこともあり、中国の対 米輸入依存は高まってき ました。中国の対米食料品の輸 入額は97年の15.1億ド ルか ら2001年の22.9億ド ルへ、 全食料品輸入額に占める割 合は同20.2%から23.4%へ とトップシェアを占めています。

中国がまともに北朝鮮に対する制裁をしなければ、早急に北朝鮮と交易などをしている中国企業に対して資産凍結などの制裁措置を課すことでしょう。

それでも、中国がまともに動かなければ、次の段階では北朝鮮に対して軍事行動を起こすでしょう。具体的には、核施設の破壊ならびに金正恩斬首作戦です。

その後あるいは同時に、中国が南シナ海を中国戦略原潜の聖域にするという試みをやめなければ、中国企業に対して金融制裁を課すことになります。

制裁を課しても中国が南シナ海での活動をやめなければ、今度は米国は、中国に対する食料輸出をやめることになるでしょう。これに対してはすぐに実施すれば、トランプ大統領支持の保守派も多い米国の農家からの反発もまねく恐れもあるので、輸出代替地を探してそちらへの輸出を増やすか、あるいは政府が買い上げて、発展途上国への食料援助にまわすということも考えられます。この過程で、他国も中国に食料品を輸出することをとりやめるように協力を要請するかもしれません。

金融と、食料品で徹底的に制裁を課せられた、中国はかなり疲弊することになります。この時点で、習近平体制は完全に崩れるでしょう。ひよっとすると、それだけでは済まなくなるかもしれません。場合によっては、中国の現体制そのものが瓦解するかもしれません。

習近平体制は崩壊する?
それにしても、米軍によるシリア攻撃も、中国に対する牽制となったと思いますが、トランプ氏には、その後もこれだけ、打てる手があります。

これに対して、中国も決して手をこまねいて米国のなすがままにさせまいとは思うでしょうが、中国が米国に対してできることはかなり限られています。まずは、中国内の米国企業などに対して金融制裁を課することになるでしょう。

しかし、それは米国の中国に対する金融制裁と比較すれば、比較にならないほど、微々たるものでしょう。確かに、それで制裁を受ける米国企業にとっては、大変なことでしょうが、さりとてそれが、米国の経済においてどれほどの部分を占めるかといえば、微々たるものです。

さらに、中国は当然、米国に対して輸出入規制もするかもしれません。そうなれば、米国も多少は痛手を被るかもしれません。しかし、もともと米国のGDPに占める輸入も輸出も微々たるものです。そもそも、米国のGDPに占める輸出の割合は7%程度であり、その中に占める中国の割合はさらに低いです。

中国からの輸入がストップしたとしても、米国で困るようなことは一切ありません。自国で製造するか、他国から輸入すればそれですみます。

要するに、米国が中国に対して金融制裁や、輸出入規制をすれば、中国にとっては大打撃ですが、中国が米国に対してそれと同じ措置をとったにしても、米国にとっては全く打撃はないとはいえないものの、微々たるものです。

それでも、中国が南シナ海での活動をとりやめなければ、最終的に軍事的な手段を講じるかもしれません。しかし、その頃には、中国はかなり疲弊していて、米国と事を構えるななどできないかもしれません。それでも、事を構えるということになれば、米国は徹底的にこれを粉砕することになります。

要するに、中国には全く最初から勝ち目はないわけです。今回の米中首脳会談中での、米軍によるシリア攻撃は、その後に続くトランプ大統領の制裁の幕開けです。

トランプ大統領は、当然このような行動をとることでしょう。しかし、本来はこれはオバマ政権のときにでも実行すべきだったのです。そうすれば、北朝鮮や中国が今日のように身の程知らずに増長することはなかったはずです。

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2022年1月30日日曜日

米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ―【私の論評】ベトナム戦争以降、インド太平洋地域に最大数の空母を集結させた米軍は、中露北の不穏な動きに十分に対応している(゚д゚)!

米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ

昨年12月1日に開いた党中央委員会政治局会議に参加した金正恩

 バイデン米政権がウクライナ危機の対応に集中する中、北朝鮮が今年7回目のミサイル発射を行った。対話の門戸を開き続けるだけの対北政策の行き詰まりは明白だ。核・ミサイルの脅威に対する優先度の低さを金正恩(キム・ジョンウン)政権に印象付け、開発を進める時間を与えている。

 「われわれの皿の上にはたくさん(の課題や脅威が)のっていて、その一つ一つに集中している」

 国防総省のカービー報道官は今月27日の記者会見でこう語った。ロシアによるウクライナ侵攻危機、中国による台湾への統一圧力と同時に、北朝鮮の挑発にどのように対処するのか-という質問に対する釈明は、米国が陥ったジレンマを浮き彫りにしている。

 バイデン政権は昨年、「現実的アプローチ」という対北政策を打ち出した。「最大限の圧力」を使い首脳間対話を実施したトランプ政権と、「戦略的忍耐」というオバマ政権の中間といわれてきたが、実情は個別の発射実験に声明で非難と対話呼びかけを繰り返すのみだった。

 米国が中国とロシアとの二正面の対処に追われていく過程で、北朝鮮の弾道ミサイル発射は頻度を増し、受け身の対北政策は「もはや機能しないという結論」(米誌フォーリン・ポリシー)が出たといえる。

 ヘリテージ財団のブルース・クリングナー上級研究員は本紙取材に「北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したり、金正恩氏が首脳会談を提案したりすれば、バイデン大統領は北朝鮮に集中するだろう」と語る。そうした優先度の低い姿勢が、同国がICBMや核実験に踏み切るまで「傍観する」というシグナルを与えてしまった。

 その間に、北朝鮮は極超音速や多弾頭のミサイル開発など「米国と同盟国のミサイル防衛網を突破する」(米議会調査局の報告書)目標に着実に進んでいる。

 バイデン氏が今、プーチン露大統領に毅然(きぜん)と対処できなければ、金氏や中国の習近平国家主席を喜ばせるだけだ。米主導の世界秩序に挑戦する複数の脅威に対峙(たいじ)しつつ、対北圧力強化へ早急な転換が迫られる。

【私の論評】ベトナム戦争以降、インド太平洋地域に最大数の空母を集結させた米軍は、中露北の不穏な動きに十分対応している(゚д゚)!

北朝鮮はこのところ、なぜミサイルを発射し続けるのかということについて、様々な憶測が流れていますが、私はマスコミが報道するようなことはほとんど根拠がないと思います。

これには、北朝鮮が今年大きな節目を迎えることが関係していると思います。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は4日付の記事で、2022年は「わが党と人民にとって特別に重要で意義深い年」だと伝えましたた。

今年が故金日成キム・イルソン)主席の生誕110年、故金正日キム・ジョンイル)総書記の生誕80年に当たることを踏まえ、「意義深い今年を革命的大慶事の年として輝かせることは、偉大なる首領様の子孫、偉大なる将軍様の戦士、弟子たちであるわが人民の本分だ」と指摘しました。

北朝鮮では5年、10年の節目の記念日が特に重視されるため、今年は金日成主席の生誕110年(4月15日)、金正日総書記の生誕80年(2月16日)に合わせて例年よりも大規模な記念行事を行う可能性もあります。

2018年に開催された〝太陽節〟金日成主席の生誕祭

北朝鮮が金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)について金日成主席から3代続く「白頭血統」の正当性を連日強調し、結束を図っていることからも、先代の節目の生誕記念日を一段と際立たせるとみられます。

しかし、金正恩は体調不良説が噂されているとともに、この節目に相応しい成果をほとんど何も上げていません。コロナ対策は無論のこと、食糧増産、経済強国を目指したリゾート開発でも何も成果を上げられませんでした。

ただ、一つだけ例外があります。それが、核開発やミサイル開発です。党指導部は、その優れた技術力、特にそれが韓国に先んじているということを喧伝し、「国内における政権の正当性」を強化したいと考えているのでしょう。これは同時に日米韓への国外へのメッセージにもなっていると、国内に向けての大きなメッセージになります。

北朝鮮は今年から、新たな経済5カ年計画を始めました。正恩氏は昨年12月1日に開いた党中央委員会政治局会議で「国家経済が安定的に管理され、わが党が重視する農業部門と建設部門で大きな成果を収めた」と語りました。

しかし、金正恩は「制裁が続く限り、生産設備の保守・更新に必要な資材が入ってこない。自力更生路線だけでは、徐々に生産量は落ちていくだろう。このままなら、新たな5カ年計画も失敗に終わるだろう」とも語っています。

そうして、それは現実のものになりつつあります。そうなると、今年大きな節目に成果を誇れるものは何もないということになってしまいます。それを打開する窮余の策が、新技術を用いた核ミサイルの発射なのでしょう。

そのため、ミサイル発射は北京五輪の前には終了し、五輪開催中は実施しないでしょう。五輪が終わってからは、また再開するかもしれません。

そのあたりは、米国も見抜いているのでしょう。それにしても、万一に備えて、米国はそれに対して手を打っています。

このブログにも以前掲載したように、一つはトライデント弾道ミサイル20基と核弾頭数十発を搭載するネバダは15日、グアムにある海軍基地に入港しました。弾道ミサイル原潜がグアムに寄港するのは2016年以来で、寄港が発表されるのは1980年代以降でわずか2度目です。

もう一つは、23日、日本の海自と米海軍と沖縄南方で17~22日に大規模な共同戦術訓練を実施したことです。欧米諸国がロシアのウクライナ侵攻に警戒心を募らせるなか、北朝鮮は今年に入って極超音速ミサイルや弾道ミサイルの発射を繰り返している。中国が台湾への軍事的圧力を強める可能性も指摘される。日米共同訓練は、これらに対して牽制をする意味もあります。

海上自衛隊が米海軍と実施した共同戦術訓練。右端は米原子力空母、エーブラハム・リンカーン

北朝鮮もこうした米国の動きに抗って、わざわざ核ミサイルを日本や韓国などに打ち込むつもりなど、全くないでしょう。

このブログにも述べたように、イランとロシアによる関係強化により、世界の対立軸はこの2カ国に中国を加えた「反米枢軸」と「米国連合」という図式に収れんしつつあります。

とりわけ、米国の制裁に対抗しようとするイランの動きが目立ちます。イランは昨年9月、ライシ師がタジキスタンで開催された「上海協力機構(SCO)」首脳会議に出席、機構への正式加盟が承認されたのですが、これもそうした動きの一環です。

このSCOに北朝鮮は参加していません。ちなみに、SCO参加国は、中華人民共和国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタン・インド・パキスタン・イランの9か国にです。

これらの国々による多国間協力組織、もしくは国家連合です。中国の上海で設立されたために「上海」の名を冠するが、本部(事務局)は北京です。加盟8か国の人口は世界の4割、国内総生産は世界の2割、面積はユーラシア大陸の6割を占める。アメリカ一極集中への対抗軸としての性格が濃いうえ、紛争地帯を域内や隣接地帯に抱えるという地政学的意味合いもあり、国際的に存在感を強めています。

北朝鮮はSCOに加入するどころではないのでしょう。あるいは、SCO加盟国、特に中露イランなどからは、戦力外とみられているのでしょう。実際、北朝鮮にはミサイル発射実験くらいしかできないです。

だからといって、危険であることには変わりはなく、これに対する対処は考えなくてはなりません。特に日本はそうです。

それにしても、上の記事のように米の対北政策行き詰まりなどというこはないです。通常潜水艦の行動は、いずれの国も表に出さないのが普通ですが、上で述べたように、ネバダがグァムに寄港したことを公表し、さらに2つの空母打撃群が日本と共同訓練をしていますが、現状では海外で作戦中の米海軍の原子力空母は計4隻ですが。このうち地中海で中東関連の任務を担当する「ハリー・トルーマン」(CVN75)を除いた残り3隻がインド・太平洋で集結しています。

このように空母3隻だけではなく、強襲揚陸艦「アメリカ」「エセックス」2隻が同じ時期にインド太平洋地域に出現しており、これは異例中の異例です。まさに、ベトナム戦争以降、この地域での最大の空母集結と言っても良いです。そうして、日本の海上自衛隊も現在も米海軍と行動をともにしていると考えられます。

ワスプ型強襲揚陸艦「エセックス」

2017年11月の北朝鮮の核・ミサイル危機当時、米空母3隻が韓半島近隣で訓練しました。このため北朝鮮に対する警告性のメッセージだという解釈が出ていました。

米海軍勢力が2017年当時と異なるのは最新ステルス戦闘機F35を搭載している点です。「カール・ビンソン」「エイブラハム・リンカーン」はF35C(空母搭載型)を、「アメリカ」「エセックス」はF35B(垂直離着陸型)をそれぞれ搭載しています。

ウクライナ情勢に関しては、以前このブログにも述べたように、現在のロシアは一人あたりのGDPが韓国を大幅に下回り、米国を除いたNATOと正面から対峙するのは困難です。それに、ロシア地上軍は今や20数万人の規模であり、ウクライナ全土を掌握することはできません。

米国としては、ウクライナ情勢に関しては、無論米国も関与するつもりでしょうが、それにしても大部分はウクライナに任せいざというときは、NATOにかなりの部分を任せるつもりなのでしょう。

それよりも、中国・北の脅威に対処するとともに、ロシアに対して東側から圧力を加えることによって、ロシアの軍事力を分散させることを狙っているのでしょう。実際、ロシアは戦車や歩兵戦闘車、ロケット弾発射機などの軍事装備を極東の基地から西方へ移動し始めています。米当局者やソーシャルメディアの情報で明らかになっています。

装備はなお移動中ですが、当局者や専門家は、ロシアによる軍備増強の次の段階なのか否かを見極めようとしています。

以上のような事実から、米国が対北政策行き詰まりと見るのは明らかに筋違いです。米軍は、中露北の不穏な動きに対して十分に対応しているといえます。

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