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2023年2月2日木曜日

チェコ下院議長、3月末に台湾訪問へ 呉外交部長、協力の推進に意欲―【私の論評】チェコがとうとう挙国一致で、台湾を応援できる日がきた(゚д゚)!

チェコ下院議長、3月末に台湾訪問へ 呉外交部長、協力の推進に意欲


呉釗燮(ごしょうしょう)外交部長(外相)は1日、チェコのマルケタ・ペカロワ・アダモワ下院議長とテレビ会談を行い、台湾とチェコの友好関係を確認した。外交部(外務省)によるとアダモワ氏は3月末に台湾を訪問する予定で、呉氏は歓迎の意を伝えたという。

外交部によれば、会談は約20分間行われ、国立故宮博物院とチェコ国立博物館との協力や産業面での連携、権威主義の脅威への対応など幅広い分野で意見交換した。呉氏はチェコが台湾と同じ価値観と理念を分かち合い、ウクライナを支持・支援していることに感謝を示し、台湾は今後も民主主義の価値を堅持するとした上で、チェコとの協力推進の継続に意欲を示した。

アダモワ氏は訪台について強い期待を表明した他、蔡英文(さいえいぶん)総統が先月30日、チェコ大統領選で当選したペトル・パベル元北大西洋条約機構(NATO)高官と電話会談したことに触れ、チェコの台湾に対する支持と民主主義陣営団結の力を際立たせたと強調。台湾との友好関係のさらなる推進と深化に期待を寄せ、ウクライナの戦後復興でも協力の機会などがあると信じると述べた。

【私の論評】チェコがとうとう挙国一致で、台湾を応援できる日がきた(゚д゚)!

上の記事にもあるように、チェコでは1月、現職のゼマン氏の任期満了に伴う大統領選挙が行われ、NATO=北大西洋条約機構の元高官のパベル氏が当選しました。

日本のメディアでは、この事実が淡々と報じられるだけで、この新大統領の登場が何を意味するのか、とりわけチェコと台湾に関係にとってどのような意味を持つのか報道されません。そのため、本日にこれに関して掲載します。

チェコ・台湾関係というと、コロナが猛威を振るっていた2020年8月にチェコは台湾に90人の代表団を送っています。これについては、このブログでもその内容を紹介したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
チェコ上院議長が台湾到着 90人の代表団、中国の反発必至―【私の論評】チェコは国をあげて「全体主義の防波堤」を目指すべき(゚д゚)!

   台湾北部の桃園国際空港に到着したチェコのビストルチル上院議長(中央)と
   出迎えた呉●(=刊の干を金に)燮外交部長(右)=30日

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。

まずは、元記事から引用します。
 東欧チェコのビストルチル上院議長(ブログ管理人注:現在も現職)を団長とし、地方首長や企業家、メディア関係者ら約90人で構成される訪問団が30日、政府専用機で台湾に到着した。台湾と外交関係を持たないチェコが中国の反対を押し切り、準国家元首級の要人が率いる代表団を台湾に派遣したのは初めて。国際社会での存在感を高めたい台湾にとっては大きな外交上の勝利といえるが、中国が反発するのは必至だ。

 チェコ上院議長の訪台をめぐっては、ビストルチル氏の前任のクベラ氏が昨年に訪台を約束したが、中国大使館から脅迫され1月に急死した。ビストルチル氏は上院議長就任後、何度も「クベラ氏の遺志を引き継ぐ」と表明していた。
この記事の【私の論評】から引用します。

親中的な現職ゼマン大統領
チェコ側も2013年に親露的でもある、ゼマン氏が大統領に就任して以後、対中関係の強化を図ってきました。ゼマン氏は訪中を繰り返し、2015年に中国が戦争勝利70周年記念の軍事パレードを実施した際も、欧米諸国のほとんどが国家元首出席を見送る中、北京に赴いて、中国との親密ぶりをアピールしました。
簡単に言ってしまうと、元々はチェコ政府は、親中的だったのですが、中国に反対する勢力が増大し、2020年にはチェコの憲法で大統領に次ぐ地位とされる上院議長のビストルチル氏をはじめとするチェコの議員団が90人も台湾を訪問したわけです。

そうして、大統領が新台派のペトル氏に変わることが決まってから、今度は下院議長のアダモワ氏は3月末に台湾を訪問する意向を表明したのです。おそらく、20年当時のように、下院の議員団も訪問するのではないかと考えられます。

台湾総統府によりますと、パベル次期大統領と蔡総統が先月30日夜、電話会談を行いました。

蔡総統はパベル氏の当選を祝福したうえで「台湾は、半導体設計や先端科学技術の人材育成、世界的なサプライチェーンの再構築などの分野で、チェコと協力を深めたい」と述べたということです。

次期大統領ペトル・パベル元北大西洋条約機構(NATO)高官

パベル次期大統領は会談後、ツイッターに「台湾とチェコは自由と民主主義と人権の価値観を共有していることや、将来、蔡総統と対面する機会を持ちたいことを伝えた」と投稿しました。

チェコは中国と国交を結び、台湾とは外交関係がありません。

こうした国の次期大統領が台湾の総統と電話会談するのは異例です。

ヨーロッパでは、中国の人権問題に対する懸念や、当初期待したほどの投資効果が得られないことなどを理由に、中国と距離をとり、代わりに半導体など先端技術で存在感を増す台湾との関係を深める動きが出ています。EUでも西側の諸国では、はやくからそのような動きをしていましたが、チェコを含む東欧諸国が当初中国の一帯一路による投資を歓迎しましたが、ここ数年はこれに離反するようになりました。

大統領がペトル氏に変わることで、チェコは国をあげて台湾を応援する国になったといえます。2020年当時のこのブログで、私が主張した通りになったということで、本当に良かったです。

先日、このブログにも掲載したように、最近では中国の南太平洋における動きが活発になっています。

中国の台湾侵攻は、現実にはかなり難しいです。実際、最近米国でシミレーションシした結果では、中国の報復によって、日本と日本にある米軍基地などは甚大な被害を受けますが、それでも中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。そうして、無論中国海軍も壊滅的な打撃を受けることになります。

であれば、中国としては、台湾侵攻はいずれ実施するということで、まずは南アジアの島嶼国をなるべく味方に引き入れるという現実的な路線を歩もうとするでしょう。これによって台湾と断交する国をなるべく増やし、台湾を世界で孤立させるとともに、これら島嶼国のいずれかに、中国海軍基地を建設するなどして、この地域での覇権を拡大しようとするでしょう。

実は、中国はチェコも含む一帯一路による投資などで、東欧で似たよう動きをしていました。しかし、今では多くの国々が離反しています。

どうしてこのような動きになるかといえば、やはり経済に着目すべきと思います。特に一人あたりのGDPに着目すへきです。

上のグラフをご覧いただけると、2021年のチェコの一人あたりのGDPは2万ドル台です。これは、先進国から比較すれば、低いですが、それでも中国の1万2千ドルの倍以上です。

しかも、中国の経済統計はデタラメで、本当は1万ドル以下とみたほうが妥当です。このような国が、チェコなどに投資して成功する見込みはほとんどありません。

なぜなら、チェコ政府が中国の一帯一路などを当初歓迎したのは、それによって国民一人ひとりが豊になることを期待したのでしょうが、一人あたりGDPが低い中国には元々そのようなノウハウはありません。幹部とそれに連なる幹部が豊になるノウハウを持っているだけです。

チェコの一人あたりのGDPは2000年代頭までは、1万ドルを切っていましたが、現状では2万ドルを上回っています。1万ドルだった時代には、中国の投資は魅力的にみえたのでしょうが、自力で2万ドルを越してしまった後では、魅力も薄れたのでしょう。

それと第二次世界大戦前までは、チェコは議会制民主主義が機能しており、工業化も進んでおり、米国と並ぶくらい豊な国だったのが、英仏などが当時のナチス・ドイツに対して宥和政策を取ったがゆえに、ドイツに蹂躙され、占領され、戦後はソ連の衛星国となり、全体主義に翻弄された悲惨な経験があるということもあるでしょう。

一方、南太平洋の島嶼国は、未だ一人あたりのGDPが1万ドル以下の国が多く、中国の投資を魅力的に感じる国も多いことでしょう。東欧で一帯一路に失敗した中国は、ここしばらくは、軍事的にも重要な、南太平洋に注力することでしょう。

それにしても、今回チェコが挙国一致で、台湾を応援できる体制になったことは、まことに喜ばしい限りです。いずれ、チェコ大統領が台湾を訪問するというような、歴史の1ページを飾るようなイベントが催されるかもしれません。今から楽しみです。

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2023年1月22日日曜日

フランス国防費、3割以上増額へ…中国念頭に南太平洋の海軍力も強化―【私の論評】米中の争いは台湾から南太平洋に移り、フランスもこれに参戦(゚д゚)!

フランス国防費、3割以上増額へ…中国念頭に南太平洋の海軍力も強化

フランスのマクロン大統領は20日、仏南西部モン・ド・マルサンの空軍基地で演説し、2024~30年の7年間で計4000億ユーロ(約55兆5000億円)を国防費に充てる方針を示した。19~25年の2950億ユーロ(約41兆円)と比べて、3割以上の増額となる。

20日、仏南西部の空軍基地でドローンを見学するマクロン仏大統領(手前左)

 20日、仏南西部の空軍基地でドローンを見学するマクロン仏大統領(手前左)=ロイター

 マクロン氏は演説で国防費増額の背景について、ロシアによるウクライナ侵略などを挙げ、「危機に見合ったものとなる。軍を変革する」と述べた。

 情報収集活動予算を6割増額するほか、核抑止力の強化や無人機(ドローン)の開発促進などに充てる。中国の海洋進出を念頭に、領土がある南太平洋の海軍力も強化する。近く関連法案を議会に提出する予定だ。

 マクロン政権は現行計画で、25年までに、北大西洋条約機構(NATO)が加盟国に求める国内総生産(GDP)比2%の水準に国防費を引き上げる方針を示していた。

 マクロン氏は、昨年11月に発表した「国家戦略レビュー」で、「フランスの核戦力は欧州の安全保障に貢献している」として、核抑止力を重視するとともに、中国に対抗する姿勢を打ち出していた。

【私の論評】米中の争いは台湾から南太平洋に移り、仏もこれに参戦(゚д゚)!

上の記事で「中国の海洋進出を念頭に、領土がある南太平洋の海軍力も強化する」という下りがありますが、これだけですませるというのが、さすが「読売クオリティー」というところであり、大手新聞だけを読んでいると、世界がわからなくなるということの典型例だと思います。

これについては、すでにこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
米中対立の最前線たる南太平洋 日米豪仏の連携を―【私の論評】米中対立の最前線は、すでに台湾から南太平洋に移った(゚д゚)!
日米豪などが参加する太平洋パートナシップ2022(PP22)で演説するソロモン副首相

これは12日の記事です。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、まずは、元記事の結論部分を以下に掲載します。
 そのため(ブログ管理人注:中国に伍して、南太平洋の島嶼国の国々に対してこちらから付け入る余地は十分ある)には、同じ目線で相手の共感を得ることに加え、「こちら側」の陣容の拡充も必要ではないか。それはフランスとの一層の連携だ。仏領ポリネシアは南太平洋におけるフランスの拠点だ。
 元々PIF(太平洋諸国フォーラム:ブログ管理人注)とその前身はフランスの核実験などに反対して結成されたという歴史的経緯はあるが、今や仏領ポリネシアは準メンバーであるし、フランスもパートナー国になっている。我々にはあまり余裕はないはずだ。先の米・島嶼国サミットにもオブザーバーで豪・ニュージーランドは参加する一方、フランスが参加していない点が気になる。

 しかし、島嶼国との関係についても昔から努力しているのは日本だ。日本が太平洋・島サミット(PALM)を始めたのは1997年で、中国より10年近く早い。同じ目線で「共感」を得るアプローチは日本のお家芸だ。上記の論説で取り上げられている不発弾処理についても、既に日本は、ソロモン国家警察爆発物処理部隊に対する支援を開始している。今後これを日米豪(または日米豪仏)のプロジェクトとして進めると言うことも一案だろう。ちなみにPALMには仏領ポリネシアも入っている。
次にこの記事の【私の論評】の部分から引用します。
現在、台湾と外交関係を維持する国は世界でたった14か国です。うち4か国が太平洋の小さな島国です。最近ではソロモン諸島、それにキリバスが台湾から中国へスイッチしました。中国が国交を結んだ国々では中国主導でインフラ整備を進めています。

それは、対象国のためであるとともに、中国自身が共同利用しようという狙いもあるとみられます。台湾問題に行き詰まった中国は、今後も南太平洋でさまざまな活動を行い、活路を見出すつもりでしょう。このままの中国有利な情勢が続けば、断交ドミノ現象はいっそう勢いを増す恐れがあります。米豪日は、今後のマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルへ政治的なテコ入れを強化していくでしょう。

その意味では、米中対立の最前線は、台湾そのものではなく、すでに南太平洋に移っていると認識を改めるべきです。そうして、南太平洋でも軍事力の衝突というよりは、経済支援や、外交的な駆け引きが主であり、米国とその同盟国と、中国との間の戦いということになるでしょう。特に同盟国がほとんどない中国にとっては、南太平洋の島嶼国を味方につけることは重要です。国連の会議などでは、どのような小さな国でも、一票は一票です。
・・・・・・・・・〈一部略〉・・・・・・・・・
現在、台湾と外交関係を維持する国は世界でたった14か国です。うち4か国が太平洋の小さな島国です。最近ではソロモン諸島、それにキリバスが台湾から中国へスイッチしました。中国が国交を結んだ国々では中国主導でインフラ整備を進めています。

それは、対象国のためであるとともに、中国自身が共同利用しようという狙いもあるとみられます。台湾問題に行き詰まった中国は、今後も南太平洋でさまざまな活動を行い、活路を見出すつもりでしょう。このままの中国有利な情勢が続けば、断交ドミノ現象はいっそう勢いを増す恐れがあります。米豪日は、今後のマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルへ政治的なテコ入れを強化していくでしょう。

その意味では、米中対立の最前線は、台湾そのものではなく、すでに南太平洋に移っていると認識を改めるべきです。そうして、南太平洋でも軍事力の衝突というよりは、経済支援や、外交的な駆け引きが主であり、米国とその同盟国と、中国との間の戦いということになるでしょう。特に同盟国がほとんどない中国にとっては、南太平洋の島嶼国を味方につけることは重要です。国連の会議などでは、どのような小さな国でも、一票は一票です。

中国の台湾侵攻は、現実にはかなり難しいです。実際、最近米国でシミレーションシした結果では、中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。中国の報復によって、日本と日本にある米軍基地などは甚大な被害を受けますが、それでも中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。そうして、無論中国海軍も壊滅的な打撃を受けることになります。

であれば、中国としては、台湾侵攻はいずれ実施するということで、まずは南太平洋の島嶼国をなるべく味方に引き入れるという現実的な路線を歩もうとするでしょう。これによって台湾と断交する国をなるべく増やし、台湾を世界で孤立させるとともに、これら島嶼国のいずれかに、中国海軍基地を建設するなどして、この地域での覇権を拡大しようとするでしょう。

南太平洋の島嶼国といっても、ニューカレドニアは仏領であり続けることを選びましたし、そもそも一人あたりのGDPは34,942ドルであり仏本国を若干下回る程度です。ただ、南太平洋の島嶼国のほとんどは一万ドルを下回る貧困国です。

現代的な軍隊を持った、台湾や日本、韓国、NATO加盟国などの領海近くを中国の空母が通ったにしても、それに対する対艦ミサイル、魚雷など対抗手段は十分にあるので、これを警戒はするものの、大きな脅威とはなりませんが、南太平洋の島嶼国は、貧乏で小さな国が多く、これは大きな脅威になります。

そのときに、日米豪などだけでもこれに対処はできるでしょうが、これに南太平洋に海軍基地を持つフランスもこれに対処できれば、それこそ百人力になります。

フランスとしては、こうした南太平洋の中国の脅威に自ら対抗し、さらに日米豪とも連携し強化するためにも、国防費を増やすのでしょう。

現状では、以下の表でもわかる通り、日本の軍事費はフランスよりも下です。


倍増なら防衛費は世界3位となります。ただ、対GDP比でみれば、また違った見方もできます。


フランスの軍事費は2020年時点ですでにGDP比で2%を超えています。ドイツも2%超を目指しています。日本としては、2%は当然ともいえるかもしれません。

ただ、防衛費増を増税で賄うという岸田政権の方針には、あきれてしまいます。フランスも防衛費を増税では賄うことはないのでしょう。もし、増税で賄うとすれば、多くのメディアはそれを報道するでしょう。フランス財務省としては、そのようなことは考えも及ばず、当然のことながら、長期国債でこれを賄うのでしょう。

これは、あまりにも当たり前のど真ん中で、ニュースバリューもなく、報道もされないのでしょう。もし増税ということになれば、とんでもないことになるでしょう。

フランス政府は最近年金の支給を開始する年齢を64歳に引き上げる年金制度改革案を示しています。これに反対するデモが各地で行われ、参加者は100万人を超えました。もし、増税で防衛費増を賄うなどとすれば、フランス各地で大暴動がおこり、それこそ、2018年から行われている、黄色いベスト運動が苛烈となり、マクロンの政治生命が危ぶまれることになるでしょう。

マクロンが防衛増税をすれば黄色いベスト運動は苛烈となり政治生命が危ぶまれることに(AI画像)

岸田政権も同じです。もし、増税を強行すれば、とんでもないことになるでしょうし、岸田政権は崩壊するでしょう。しかし、増税されれば、日本の財政基盤は脆弱となり、将来安定的に防衛費を賄うことはできなくなるでしょう。

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2022年12月24日土曜日

今こそ民主主義の「強さ」について語ろう―【私の論評】全体主義国家が、政府の一声で何でも短期間に成し遂げられると思い込むのは幻想に過ぎない(゚д゚)!

今こそ民主主義の「強さ」について語ろう

岡崎研究所


 12月1日付のワシントン・ポスト紙に、同紙コラムニストのファリード・ザカリアが、「民主主義の弱さについては、もう十分だ。その強さについて語ろう」と題する論説を書いている。

 過去2~3 カ月、我々は民主主義の脆さを心配してきた。米国、ブラジルからスウェーデン、イタリアまで、民主主義は挑戦に直面していると思えた。しかし事実はこれらのすべての事例で、選挙は最も非リベラルな勢力の多くをおとなしくさせる効果を持ち、少なくとも今は中道が勢力を維持した。一方、我々は、その間、世界最強の独裁国で、深い構造的弱さの証を見ている。

 最も衝撃的な例は中国である。抗議の異常な波が権力に対決している。問題の中心にはコロナ政策を変えようとしない中央政府がある。これは政策決定が閉鎖的で上意下達で説明責任がない独裁制に固有の問題である。

 ロシアでは、同じように閉鎖的で無反応な政策決定がどう破局につながるかを見た。プーチンの戦争の結果、ロシアは孤立し、貧乏になっている。プーチンは最近、予備役30万人を召集した。数十万のロシア人は祖国を離れた。目標もなくコストの高い戦争なので、常に反対がある。

 イランでは、国をイデオロギーで支配する神権専制政治が見られる。イランの統治エリートは、イスラムの原理的信条は執行されなければならないと信じている。    

 対称的に、自由民主主義は国民にイデオロギーを押し付けない。人間は自分自身の幸福のあり方を選択する自由を持ち、他の人もそうであるとの深い信条がある。

 米国は、個人の権利を保護し、指導部の定期的変更を可能にし、宗教的ヘゲモニー(覇権)を防止し、大きな変化に適応できるために十分に柔軟な構造を作り上げた。

 民主主義はそれなりに壊れやすいが、今はその強さを考えるいい時である。第二次世界大戦時の英国の首相チャーチルは、民主主義は最悪の政府の形態である、ただし他のすべての形態を除外すればとの信条を持っていたが、彼の正しさは証明済みである。

*   *   *

 このザカリアの論説は時宜を得た良い論説である。

 最近、論説が指摘するように独裁制(専制政治)と民主主義のどちらがより良いのかとの問題が論じられている。しかし、ザカリアは明確に民主主義の優れた点を指摘している。彼の論に賛成である。

 プラトンは哲人政治を理想とする考え方を打ち出したが、独裁者が哲人であれば、独裁もその効率性などを考えればメリットがある。が、独裁者が哲人や賢人である可能性は大きくはない。また、権力は腐敗するのも事実である。

 プーチンは、ウクライナへの侵略で誤算につぐ誤算を重ね、ロシアをダメな国にしているが、選挙を通じて彼を退陣させることは、操作可能なインターネット投票の活用などで選挙結果を歪めて平気なので、不可能であろう。プーチンは哲人や賢人からはほど遠い。

「中国式民主主義」は民主主義ではない

 習近平は今の中国には中国式の民主主義があると米中首脳会談で言ったようであるが、共産党支配の堅持が彼の政策の中で核心中の核心である。共産党員数は中国の人口の 1 割にも満たない。こういう支配を民主主義とは言わない。習近平は宣伝で自分への個人崇拝を進めているが、同時に中国にも民主主義があるなど、よくわからない言説である。米ソ冷戦の時代に、ソ連は共産党支配の国であったが、新民主主義、参加型民主主義を唱えていた。それを思い出す。

 イランについては、ヒジャブをかぶらずに韓国でのボルダリング競技に参加した女子選手の家を破壊するなど、そのやり方は常軌を逸している。

 プーチンや習近平やハメネイの独裁制が、米国によって作り出された人権を尊重し、平和的政権交代を組み込んだ民主主義よりも体制として劣ることに疑問の余地はない。この民主主義を時代の進展に合わせて、さらに改善することが重要であると思われる。

【私の論評】全体主義国家が、政府の一声で何でも短期間に成し遂げられると思い込むのは幻想に過ぎない(゚д゚)!

民主主義が全体主義より優れていることは、このブログでも何度か主張してきました。特に、高橋洋一氏の経済発展の度合いと民主主義の度合いとの間には、高い相関関係があることは、何度かこのブログで掲載してきました。

その記事の典型的なものの、リンクを以下に掲載します。
米中「新冷戦」が始まった…孤立した中国が「やがて没落する」と言える理由―【私の論評】中国政府の発表する昨年のGDP2.3%成長はファンタジー、絶対に信じてはならない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
開発経済学では「中所得国の罠」というのがしばしば話題になる。一種の経験則であるが、発展途上国が一定の中所得までは経済発展するが、その後は成長が鈍化し、なかなか高所得になれないのだ。ここで、中所得の国とは、一人あたりGDPが3000~10000ドルあたりの国をいうことが多い。

要するに、発展途上国が経済発展を目指し、政府主導て産業の近代化等をすすめると、確かに経済発展をするのですが、一人当たりのGDPが10000ドル前後に達するとそこから先はなかなか伸びないというのが「中所得国の罠」という経験則です。

例外はあります。たとえば、日本です。日本は、発展途上国から先進国に仲間入りしました。無論、随分前に一人あたりのGDPは10000ドルを超えています。

もう一つの例外はアルゼンチンです。アルゼンチンはかつて、先進国でした。「母を訪ねて3000里」という物語は、ご存知と思いますが、これはその当時先進国だったアルゼンチンに、イタリアの少年マルコが母を訪ねに行く物語です。


「母をたずねて三千里」は時代が1882年(明治15年)という設定です。 1882年、つまり19世紀後半のアルゼンチンがどんな様子だったかというと、スペインから独立を果たし、農業と畜産業で大いに栄え、ラテンアメリカ地域で最も繁栄した国になっていました。

当時のアルゼンチンは、一人あたりのGDPは現在価値に直せば10000ドルを超えており、先進国でした。

19世紀の欧州各国は、産業革命による工業化が進み急速に経済成長を遂げました。ところが、欧州においても経済成長の恩恵が行きわたらない地域が少なくなく、貧しさを克服できない人たちにとって産業革命は、新天地を求める動きをつくり出す「移民の時代」でもあったのです。

人口密度が高いヨーロッパで賃金があまり上昇しなかったのに対し、人口密度が低い新大陸では賃金が上昇しやすい傾向がありました。

マルコの父親は診療所を経営していたのですが、貧しい人を無料で診るなどしていたため借金がかさみました。そこで母親が高賃金を求めてアルゼンチンに渡ったというわけです。

産業革命そのものも「移民の時代」を後押ししました。航海の手段が、それまでの帆船から蒸気船にとって代わったからです。当時まだすべての面で蒸気船が帆船より優れていたわけはないですが、航行の確実性が間違いなく増し、人々の移動も貨物の運搬も飛躍的に進歩することになったのです。

ただ、このアルゼンチンは様々な不運が重なり、後に先進国から発展途上国になってしまいました。

そうして、発展途上国から先進国になったのは、世界で日本だけです。先進国から、発展途上国になった国はアルゼンチンだけです。

先進国になるのはそれだけ難しいことなのです。世界から先進国として認められるには、経済がある程度の規模がなければなりませんが、もう一つの条件は、民主化です。

さて、先の記事からまた引用します。
以上のG20の状況をまとめると、高所得国はもともとG7諸国とオーストラリアであった。それに1万ドルの壁を破った韓国、サウジ。残りは中所得国で、1万ドルの壁に跳ね返されたアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの6ヶ国、まだそれに至らないインドとインドネシア。それに1万ドルになったと思われる中国だ。

さらに、世界銀行のデータにより2000年以降20年間の一人当たりGDPの平均を算出し、上の民主主義指数を組み合わせてみると、面白い。中所得国の罠がきちんとデータにでている。

民主主義指数が6程度以下の国・地域は、一人当たりGDPは1万ドルにほとんど達しない。ただし、その例外が10ヶ国ある。その内訳は、カタール、UAEなどの産油国8ヶ国と、シンガポールと香港だ。

ここでシンガポールと香港の民主主義指数はそれぞれ、6.03と5.57だ。民主主義指数6というのは、メキシコなどと同じ程度で、民主主義国としてはギリギリだ。

もっとも、民主主義指数6を超えると、一人当たりGDPは民主主義度に応じて伸びる。一人当たりGDPが1万ドル超の国で、一人当たりGDPと民主主義指数の相関係数は0.71と高い。

さて、中国の一人当たりGDPはようやく1万ドル程度になったので、これからどうなるか。中国の民主主義指数は2.27なので、6にはほど遠く、今の程度のGDPを20年間も維持できる確率はかなり低い。
「民主主義指数」と「一人あたりのGDP」には明らかな相関関係があり、しかも相関係数は0.71であり、これは様々な条件が複雑らからみあっている社会現象の相関係数としてはかなり高い方の部類に入ります。

これをみると、民主化とは経済発展の前提条件であり、民主主義の強さを示すものといえます。なぜそうなるかといえば、民主化により星の数ほどの中間層が輩出され、それらが、自由に社会経済活動を実施して、あらゆる地域、あらゆる階層において、イノベーションを継続的に生み出すことができるからです。

そうして、民主主義の強さといえば、最近の中国のコロナ対策のあり方がそれを、さらに裏付けています。

中国で今、かつて低評価だった「日本のコロナ対策」の評価が高まっています。

厳しい「ゼロコロナ対策」が行われていた頃、中国の国民は政府の言う通りにせざるを得ない状況でしたし、そしてそれは、成功していたように見えました。中国は都市ロックダウンなど強固な措置を講じていったんコロナを抑えこみ、それによって経済活動が順調に再開できました。

当時、日本や欧米諸国が感染防止と経済活動のバランスに頭を抱えている姿を、中国は、「政府は寝そべって国民を見捨てている」とか「我々の宿題を丸写しさえできないのだ」などと冷ややかな目で見ていました。

「アメリカは高齢者を見殺した」「日本の第7波は医療崩壊、地獄」などの報道もたびたびありました。また、今年の8月には岸田首相が感染したことが中国で大々的に報道され、「一国の首相まで感染したのか?」と話題になりました。習近平国家主席からお見舞いの電報を送られたことも報じられました。

日本でも、中国のコロナ対策を評価する声もあちこちであがっていたことは、記憶に新しいです。

ところが、ここにきて中国政府は、一気に制限を緩和。現在の中国の人々は、ハーネスをつけられた犬の状態から、突然、ハーネスを外されたようなものです。「政府の方針」というハーネスに頼って行動していれば良かった状態から、急にハーネスなしで行動する、つまり「自らの判断」で行動しなければならない状態になってしまったのです。

そこで今、中国で改めて注目され、関心が高まっているのが日本のコロナ対策です。日本のコロナ対策を紹介する中国語の記事のアクセス数が急上昇している。

民主主義国である日本は、全体主義の中国政府のように厳しいコロナ対策ができません。その中で、「自由」と「感染予防」のバランスを考えながら、政府も国民も苦労しながらコロナ対策を実施してきました。

中国人からみれば、日本のコロナ政策はゆるい、事実上の放棄だとみえていたようです。しかし実際には、日本は経済活動を中止せず、国民には自由もあり、その間、国が緊急ベッドの確保や医療設備の増加など、医療崩壊しないようにいろいろな措置を取っていました。

これに加えて、特筆すべきは、安倍・菅両政権において日本政府は、合計100兆円の補正予算を組み、様々なコロナ対策を実施したことです。その中でも、雇用調整助成金という制度も用いて、コロナ蔓延中であっても、失業率が2%台で推移したことです。これは、まさに平時の失業率と言ってもよく、他国の失業率が同時期には鰻上り上がったことを考えれば、大成果といえます。

日本では、若年層の失業率も、コロナ蔓延期だけが特に上がったということもありませんでした。

以下に、中国の都市部の失業率のグラフをあげます。


中国では、特に若年の失業率が高いことがわかります。失業率は典型的な遅行指標であり、現状の失業率は半年前の経済政策による悪影響とみるべきです。5月の失業率は、昨年11月の経済対策によるものです。ということは、昨年11月の中国政府による経済対策は妥当なものではなかったということです。

菅政権においては、コロナワクチンの接種スピードを飛躍的にあげ、医療村の反発にあって、コロナ病床の増床はあまりできなかったものの、それでも結果的には医療崩壊を起こすことなく、収束することに成功しました。これは、大成果といえます。これが、今中国から評価されつつあるのです。評価しないのは、日本のマスコミと一部の野党です。

しかし同じ期間で中国が何をしたかといえば、ひたすら「ロックダウン」や、街ぐるみで数千万人ものPCR検査を行うことに財力や人力を費やしていました。もし、これらの予算で医療資源を充実させたり、医薬品を開発したりしていたら、今の状況にはならなかったでしょう。

結局、準備がまったくできていないのに政策を転換したこと、しかも段階的でなく、一気に転換したことが大きな問題です。中国でこれから重症者や死者が爆発的に増えていったとしても、それは無理のないことです。

中国では、今になって、日本のコロナ政策は悪いものではないと認識されたようです。中国人のほとんどは、政府の言う通りに従っていただけだったといえます。しかし、自由と感染リスクの兼ね合いがいかに難しいかを今頃思い知らされたようです。

日本のコロナ対策の中でも関心が高いのが高齢者への感染対策で、現在中国の政府関係者らや介護業界からの質問が集中しています。特に、日本の高齢者へのワクチン接種率の高さが注目されているようです。

結局のところ、民主主義体制においては、全体主義国家のように人々の自由を制限することはできないものの、「自由」と「感染予防」のバランスを考えながら、政府も国民も苦労しながらコロナ対策を実施し、中国のような全体主義よりは成果をあげているのです。

民主主義には自由の確保という前提があり、これは感染症対策には障害とみられていたのですが、「感染予防」のバランスを考えながら、政府も国民も苦労しながらコロナ対策を実施してきました。それが、結果として中国という全体主義の国家のコロナ対策よりも良い結果をもたらしているのです。

これは、民主主義の強さによるものと評価すべきです。そうして、この強さは、感染症対策だけではなく、先に述べたように経済の分野でも発揮されるでしょうし、社会のありとあらゆる面で発揮されると考えられます。

多くの社会問題なども、中国などの全体主義国家では、政府が号令をかけて、資金を提供して何かの方策を実施すれば、一見すぐに解決されてしまったようにみえても、時が経つと綻びがでてきて、どうしようもなくなり、実施をとりやめるか有名無実になり、その後大混乱に至るということになるのでしょう。

中国では、建国以来毎年数万、2012年あたりからは、10万件を超える暴動が起こっているともいわれているということがそれを示しています。これを中国は、ことごとく弾圧してきました。

ただ、中国のという国は、民族、言語、社会習慣も地域ごとに異なり、地域地域による特殊事情があるため、暴動は単発で起こることが多かったので、中国はこれを今までは弾圧することができました。 

しかし、先日の「白紙革命」は、バラバラだった中国国民がはじめ中共の「ゼロコロナ政策」に対する、恐怖と憎悪という念で一つにまとまって起こされた全国同時デモであり、これには中共も弾圧はできないと判断したのでしょう。だからこそ、今回は「ゼロコロナ政策」を緩和したとみられます。

一方民主主義の国々においては、社会問題の解決もいわゆる営利・非営利の組織である民間組織が実施し、最初はその解決は困難にみえ、いつまでたっても解消しないようにみえながら、ある民間組織が何とかそれに成功し、それが最適なものであると確認されれば、同じ社会問題を抱えている他の地域の民間組織がそれを参考にして、同じような社会問題を解決したり、大きな民間組織が全国的にそれを実施したり、場合によっては政府がそうした活動に資金を割り当てたりして、加速度的に進んでいくのです。これは、全体主義国家にはできないことです。

結局、国民一人ひとりの幸福を考えた場合、経済的にも社会的にも民主主義は全体主義に勝っているし、はるかに柔軟に対応できるのです。

これこそが民主主義の強みです。全体主義国家が、政府の一声でなんでも短期間に成し遂げるられると思い込むのは幻想に過ぎないのです。

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2022年10月26日水曜日

中国に戦闘機発注 ミャンマー弾圧強化―【私の論評】岸田政権は、まずはミャンマー軍事政権への姿勢を改めよ(゚д゚)!

中国に戦闘機発注 ミャンマー弾圧強化

航空ショーに登場したFTC2000G練習機兼戦闘機(2006年11月1 日、中国・広東省・珠海)

【まとめ】

・ミャンマー空軍は近代化と戦闘能力向上を目的としてFTC2000G練習機兼戦闘機を中国に発注。

・ミャンマーは国土の51%を反軍政勢力が支配下に置いているとの情報があるほど「苦戦」している。

・中国がミャンマー軍の軍備の増強や近代化に深く関わっていることで「内戦状態」は長期化して人権侵害が全土で深刻化。

ミャンマー空軍が中国に対して戦闘機を新たに発注したことが地元の独立系メディアの報道で明らかになった。ミャンマーでは2021年2月の軍によるクーデターでアウン・サン・スー・チーさん率いる民主政権が打倒し、ミン・アウン・フライン国軍司令官をトップとする軍事政権が政権を奪取して治安維持を担っている

しかし民主政権の復活を願う武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」や少数民族武装勢力と軍との衝突が激化し、治安は極端に悪化して実質的な「内戦状態」にある。

こうした中、ミャンマー空軍は旧式となってきた中国製F7迎撃機やA5攻撃機などの近代化と戦闘能力向上を目的としてFTC2000G練習機兼戦闘機を中国に発注したという。

反軍政の立場から報道を続ける独立系メディア「イラワジ」は10月18日、情報筋などからの話としてFTC2000G練習機兼戦闘機を中国に発注したと伝えた。

FTC2000は中国の国有航空宇宙国防企業である「中国航空工業公司」の監督下で「貴州航空工業公司」が設計、製造した2量練習機兼戦闘機「JL-9」の輸出型機で1機約850万ドルとされている。「FTC2000」の改良型が「2000G」で2人乗り。2018年に初飛行に成功した軽戦闘攻撃機といわれている。

発注した時期や機数などは明らかではないが2020年に中国とカンボジアのメディアが東南アジアの国に対して中国が戦闘機を売却する計画があり、2020年1月に契約は調印され納入は2021年に開始され2年後には完了することを報じた。

その後のコロナ禍でこの計画が遅延していたものが再始動したとの見方がでているが、明確なことは軍政が秘密主義なため明らかではない。

もしそれが事実とすれば2003年に初飛行、その後量産態勢に入ったとされるFTC2000の発注・契約はスー・チーさんの民主政権時代のもので、遅れていた導入計画を軍政が改めて発注し直し、最新型の「2000G」を導入する計画となった可能性が高いとみられている。「イラワジ」は今年6月空軍パイロット8人、技術者8人、軍の将校2人がミャンマーと国境を接する雲南省昆明経由で中国に渡ったと報じており、空軍機発注との関連を示唆している。

FTC2000G」の導入後は北東部シャン州の空軍基地への配備が検討されているという。

■ 抵抗勢力への空爆、攻撃を激化

軍政はクーデターから1年半以上が経過してもPDFや少数民族武装勢力による抵抗が激しく、一部では国土の51%を反軍政勢力が支配下に置いているとの情報があるほど「苦戦」しているという現状がある

軍は地上部隊が抵抗勢力による待ち伏せ攻撃やドローンによる爆弾投下、爆弾爆発などで兵士の犠牲者が増えていることもあり、空軍の戦闘機などによる爆撃といった空からの攻撃で支配地域拡大を狙っている。

抵抗勢力側は戦闘用の航空戦力を保持していないため空軍の制空権は確保されているという。

10月23日夜8時半ごろ北部カチン州ハパカント近郊のギンシ村で地元少数民族武装勢力「カチン独立機構KIO)」の創立62周年を祝う記念音楽コンサート会場が軍政の空軍機3機による空爆を受けた。この攻撃でコンサートに集まった一般市民やKIOとその武装部門である「カチン独立軍(KIA)」の幹部ら約60人が死亡、約100人が負傷する事件が起きた。

投下された爆弾の1発はコンサートのステージ近くで爆発、近くにいたカチン族の著名歌手らが即死したという。SNS上などには爆撃でばらばらになった木造のステージとみられる建物や観客席の写真がアップされ、死亡した歌手らへの追悼の言葉が並んでいる。

KIOとKIAのスポークスマンであるナウ・ブー大佐は「軍は敵ではなく一般の住民を狙って攻撃した。これは邪悪な行為であり戦争犯罪である。国民の死を悼んでいる」と「イラワジ」に述べて軍の空爆を非難した。

■ 空軍力で戦況打開を企図か

ミャンマー空軍機によるこうした軍事拠点ではない集落などへの空爆は全土で行われており、無抵抗、無実、非武装の住民の犠牲が増えている

軍政は空軍力の近代化、増強で戦況の打開を図り全土での治安回復を狙っているのは間違いないとみられている。

ミャンマー軍政にとってロシアと並んで国際社会で数少ない後ろ盾である中国がミャンマー軍の軍備の増強や近代化に深く関わっていることで「内戦状態」は長期化し、教師などの斬首や女性へのレイプその後の殺害・遺体放棄、逃げ遅れた一般住民らを生きたままで焼殺するなどといった残忍な人権侵害が全土で深刻化している

こうしたミャンマーの現状に対する新体制となった習近平体制の中国による責任は重いと言わざるを得ないだろう。

【私の論評】岸田政権は、まずはミャンマー軍事政権への姿勢を改めよ(゚д゚)!

東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国のカンボジアは、ミャンマーでの暴力の激化に警鐘を鳴らし、自制と戦闘の即時停止を呼びかけました。

カンボジアは声明でミャンマー最大の刑務所への爆撃、カレン州での紛争、23日にカチン州で発生し少なくとも50人の死亡が報告されている空爆を例として指摘。

「犠牲者の増加、そしてミャンマーの一般の人々が耐えてきた計り知れない苦しみに深い悲しみを覚える」としました。

さらに、紛争は人道状況を悪化させるだけでなく、昨年ASEANと合意した和平「コンセンサス」実現に向けた努力も台無しにしていると批判しました。

暴力の最大限の自制と即時停止を強く求め、全ての当事者が対話を追求するよう求めました。


ミャンマーでは2021年2月1日のクーデターから現在まで混乱が続いています。ただ、どの程度の混乱なのかについては見定めることが難しいです。一部では破綻国家になる懸念すら示されています。果たしてミャンマーは破綻国家になってしまうのか。

当初は平和的だった国軍への抵抗運動が、弾圧を受けることでいかに「自衛のための戦い」(Self-Defensive War)という武力闘争を容認する運動に発展してしまいました。この抵抗勢力
の動きがミャンマーという国を破綻国家にするのでしょうか。

結論は2つあります。抵抗勢力の武力闘争が激しくなっていることは確かであるものの、国軍の実効支配を崩すことは難しく、紛争によって国家が破綻する可能性は極めて低いです。

もう一つは、国軍の実効支配が続くとしても、この国が政変前の状況に戻ることはなく、不安定な脆弱国家として継続することになりそうであることです。

ただ、政変 前の状態にこの国が戻ることもないです。危機国家の状態に陥る可能性を常に秘めた脆弱国家と して国軍の実効支配が続くことになりそうです。

ミン・アウン・フライン・ミャンマー国軍司令官

 危機に陥るきっかけは、民主化勢力の抵抗だけでなく、経済や外交面 でも生じ得ます。ミャンマーの2021年の経済成長率をマイナス18%であり、なかでも新型コロナウイルスと政情不安で工業とサービス業の落ち込みは20%を超 えています。

外国直接投資はすでに半減しています。ミャンマー・チャットの大幅 な下落や、外貨準備の不足、現金供給の制限など、金融面での不安も大きいです。 

しかし、経済が落ち込んでも国軍は自らの任務と自認する国家安全保障を優先し、その「脅 威」の殲滅を目指すため、国民生活を後回しにするでしょう。

国民生活どころか、紛争を逃れ た避難民(すでに20万人以上発生)に対する人道支援の受け入れすら国軍は消極的である。新 型コロナウイルスの感染対策で国境管理を各国が強化するなか、難民たちも国内にとどまる しかなくなるため、危機はより深刻でみえにくくなりました。 

国際社会の関与が不可欠の情勢ではあるのですが、クーデター以来明らかになったのは、国 際社会の無力です。唯一、わずかながら国軍から譲歩(「5つのコンセンサス」)を引き出せ ているようにみえたASEANの働きかけもいまや手詰まり状態です。

特使の任命 に手間取ったうえに、焦点であった特使とアウンサンスーチーとの面会を国軍が受け入れな かったため、昨年10月末のASEAN首脳会議へのミンアウンフライン将軍の出席を認めないこと が直前のASEAN外相会議で決定されました。

「コンセンサスによる意思決定」と「内政不干渉」 というASEANの基本原則に反する決定だと国軍は反発しています。こうした決定でミャンマ ー軍の行動が変えられないことはASEAN諸国も十分に知っているため、ミャンマー情勢よ りもASEANに対する信頼が低下することを懸念しての決定だとみらます。

こういうことからも再び 国軍との対話を前進させることは相当に困難だと思われます。 欧米の圧力外交には批判的な中国も、現在のミャンマーの情勢を楽観視している わけでありません。国境を接する中国にとっては、国軍を支えることで受ける国際的な非難 とミャンマーでの反中感情の高まりを懸念しつつ、同時に、国軍による実効支配が危機に陥 る事態は避けたいはずです。

日本もまた、自由主義圏の国として国軍の政治介入には批判 的ですが、ここでミャンマーを孤立させてしまえば、自国の国益が脅かされるばかりか、 ミャンマー市民の生活や人権にも深刻な被害が生じ、さらには、東南アジアの地政学的な要 衝であるミャンマーが中国の影響下に入るという地域安全保障上の懸念もあります。

 各国ともに難しいバランスのなかで、ミャンマーという脆弱国家に対処していかねばなら ないです。たとえ万が一であっても、この国が今後、危機から破綻国家状態になるというシナリ オは多くの関係者が望むものではないでしょう。必要とされているのは、現状の手詰まりを打 開する次の一手を構想することです。日本にもできることがあります。

たとえば、日本にとって最大の外交カードは、ミャンマーへのODA=政府開発援助です。支援額を公表していない中国を除いて、日本はミャンマーに対する最大の支援国で、2019年度だけでおよそ1900億円に上っています。

政府は、ODAの新規の供与を当面見送る方針ですが、継続案件も含めた全面的な停止など、より厳しい対応を求める声も出ています。

これに対し、政府は、「事態の推移や関係国の対応を注視しながら、どういった対応が効果的か、よく考えていきたい」としていました。

軍の変化を促すため、ODAカードを効果的に切ることが出来るのか、日本の外交の力が試されているといえます。

経済面での圧力の強化を求める声も強まっています。ミャンマーには、軍と関係する2つの大手複合企業があります。

傘下に不動産や建設、金融など幅広い業種を手掛ける100社以上の企業があり、その収益が軍の資金源になってきたと指摘されています。

米国は昨年この2社に、資産凍結などの制裁を科し、ブリンケン国務長官は、先週、各国の政府や企業に、軍の資金源を断つため、ミャンマーへの投資を見直すよう訴えました。

日本企業も無関係ではありません。大手ビールメーカーの「キリンホールディングス」は、制裁対象の企業と合弁でビール事業を行っています。クーデターのあと、キリンは提携を解消する方針を発表しました。

また、日本のODAで、ヤンゴンに建設されている橋の工事では、元請けの日本企業が制裁対象の企業に橋げたの製造を発注しています。

この元請け企業は、「制裁を受け、今後の対応を検討中だ」と話しています。

さらに、日本の官民ファンドやゼネコンが関わっているヤンゴンの商業施設の開発事業は、事業用地の賃料が国防省に支払われています。

軍の資金源になっているという批判に対し、官民ファンドは、「最終的な受益者は、軍ではなくミャンマー政府だと認識している」と話しています。

軍系企業の活動内容は公表されていない部分が多く、ミャンマーで事業を続ける進出企業は、ビジネスが本当に軍の利益になっていないか、細心の注意を払う必要があります。

経済制裁は、市民の生活にも大きな影響を与えるおそれがあります。それでも、常軌を逸したともいえる軍の弾圧を止めるには、制裁の強化しかないという声は、そのミャンマーの市民の間からも強まっています。

日本を含む国際社会には、こうした声をどう受け止め、どう対応するのか、判断が迫られています。

ただ、岸田政権においては、こういうことを検討する前にすべきことがあります。

日本政府は国際社会と一丸になるどころか、効果のない「独自路線」を取ってきました。成果が全く出ていないのにも関わらず軌道修正を頑なにしません。

また、岸田首相はミャンマーの「軍事政権」を「ミャンマー政府」と表現。こうした答弁自体が国軍にお墨付きを与えることになってしまうのです。

ミャンマー駐日大使 ソー・ハン氏

さらに、安倍元総理の国葬儀にミャンマーの駐日大使を招いたということについて、民主化運動を弾圧するような軍事政権に、お墨付きを与えるに等しいのではないでしょうか。

国会で岸田首相はミャンマー軍事政権の駐日大使を国葬儀に招いた件について、関係を断たないようにために必要だったとの旨の答弁をしました。民主主義をないがしろにして人権侵害をしている国を国葬儀に招かずとも、国交はあるわけですし、事務方レベルで調整できているので、参列者を増やすために手段を選ばなかっただけだと考えられます。

まずは、岸田政権は、ミャンマーの軍事政権に対する姿勢を改めことからはじめるべきです。

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2022年9月18日日曜日

ポーランド、ロシア領迂回の運河開通―【私の論評】NATO艦隊がヴィスワ潟湖を利用できることになれば、ロシアとしては心穏やかではない(゚д゚)!

ポーランド、ロシア領迂回の運河開通

ポーランドのグダニスクから見たバルト海

 ポーランドは17日、バルト海(Baltic Sea)から同国北部のエルブロンク(Elblag)港まで、ロシアの領海を迂回(うかい)して入港できる運河を開通させた。

 エルブロンクは、地峡と呼ばれる細長い陸地によってバルト海と隔てられている。これまではロシアのカリーニングラード湾(Kaliningrad Bay)にあるバルティスク(Baltiisk)の近くを航行するほかなく、ロシア当局の許可を要した。新たな運河は、ポーランドの町クリニツァモルスカ(Krynica Morska)の西方約5キロの同国領内を通っている。

   17日の開通式に出席したアンジェイ・ドゥダ(Andrzej Duda)大統領は「わが国に対して友好的でない国の認可をこれ以上求めずに済むよう、このルートを開通させたかった」と述べた。

 当面、新運河を航行できるのは小型船のみだが、ポーランド当局によると来年9月までに全長100メートル、幅20メートルまでの船舶の航行を可能にするため引き続き、総額20億ズロチ(約610億円)規模の工事が行われている。

 一方、環境保護活動家などからは、運河の建設によってビスラニー湾(Wislany Bay)の塩分濃度が変化し、生態系が脅かされるとの批判が上がっている。

【私の論評】NATO艦隊がヴィスワ潟湖を利用できれば、ロシアとしては心穏やかではない(゚д゚)!

上の記事では、地図がないので、何を言っているのかよくわからない人も多かったのではないかと思います。下に掲載した地図をご覧いただければ、良くご理解いただけるのではないかと思います。


従来の航路では、ポーランドの船は、ロシアの飛び地であるカリーニングラードの領海および内水の通過航行許可を取得してポーランドのエルブ ロング港まで航行しなければならなかったが、ヴィスワ砂州横断運河が完成し、ロシア領海および内水の通 過航行許可は必要なくなるということです。

ヴィスワ砂州横断運河建設計画では、35,000DWT級貨物船(最大載貨重量35,000t)、許容喫水12m、最大全長200mの船舶が航行できるようになります。完成すると大型船舶の航行が可能になり、エルブロンクの港湾・コンテナターミナル整備による物流活性化、グダンスク、グディニャ、ソポットの港湾の混雑緩和、エルブロンクの観光業振興、NATOの軍事面での東方防衛強化が図れると期待されています。

下は、ヴィスワ砂州横断運河の予想図です。予想図の奥がバルト海、手前がヴィスワ潟湖。2つの旋回橋で交通が制御、水門で水位が調整さ れます。


バルト海からポーランド領域内でのヴィスワ潟湖へのアクセスを実現するプランは、第二次世界大戦後の早い時期から存在していました。1945年には、戦前に商工省大臣、副首相兼財務大臣を歴任しグディニャ港の建設を主導したエウゲニウシュ・クファトコフスキがヴィスワ砂州横断運河建設を計画したが、実現には至りませんでした。

現在でも、この計画には、バルト海からヴィスワ潟湖への唯一の海峡を有しその航行の既得権を持つロシア側からの強い反発があります。また、ヴィスワ潟湖の生態系を破壊し、自然環境が悪化するという内外の反発も強いです。

世界で唯一のエロブロンク運河の水陸両用挺

しかしながら、ポーランド政府は、2022年頃の完成を目指して、着々と準備を進めてきました。ヴィスワ砂州横断運河が完成し、エルブロンク港が整備されたとして、それが経済的にどのくらい波及効果を持つかという問題もありますが、少なくとも、ポーランドとロシア(カリーニングラード)をまたぐ潟湖へのバルト海からの進入のコントロール権は、ロシアの独占が崩れることになります。特に、NATOの艦隊がここを利用できることになれば、ロシアとしては心穏やかでなないでしょう。

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2022年8月24日水曜日

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バイデン政権はロシアにもっと強硬に

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」



【まとめ】

・今まで一定以上のウクライナ支援を抑制してきたバイデン政権だが、ロシアへの姿勢が軟弱すぎるとの批判が高まっている。

・バイデン政権は、アメリカが強硬な軍事措置をとれば、ロシアは全面戦争も辞さない反撃措置に出る可能性があると説明してきた。

・しかし戦略研究家マックス・ブート氏は、プーチン氏は自滅的ではなく合理的な判断をしており、バイデン政権は必要のない譲歩や後退をしていると批判した。

 ロシアのウクライナ侵略もこの8月ですでに半年が過ぎた。戦況は膠着状態とも、消耗戦とも評される。ウクライナ側の善戦にもかかわらず、ロシアの侵攻は止まらない。そのウクライナを支援するアメリカ国内ではバイデン政権のロシアへの姿勢が軟弱に過ぎるという批判が高まってきた。バイデン政権がロシアのプーチン大統領の爆発的な反撃を恐れて、抑止のための強固な措置がとれないというのだ。

 だがそのバイデン政権のプーチン大統領に対する「なにをするかわからない危険な人物」という認識はまちがいだとする意見がアメリカ側の著名な戦略研究家から発せられた。この意見はプーチン大統領もアメリカの戦力の強大さを知る現実的で合理的な指導者だから、バイデン政権がもっと強く出れば、自制を効かす、と強調している。

 バイデン政権ではロシアのウクライナ侵略に強い反対を表明しながらも、一定以上のウクライナ支援には一貫して慎重な抑制を示してきた。アメリカ軍を直接にウクライナに投入するなどという案は最初から「飛んでもない暴挙」として排除された。

 アメリカと同盟を結ぶNATO(北大西洋条約機構)の加盟国が軍隊を送ってロシア軍と戦うという案にも、バイデン政権はもちろん大反対だった。バイデン政権はNATO側のポーランドが自前の戦闘機を隣国のウクライナに送って支援することも明確に反対した。

 バイデン政権のこうした姿勢の説明としては大統領国家安全保障担当のジェイク・サリバン補佐官の「ロシアとの第三次世界大戦を引き起こすわけにはいかないから」という言葉がいつも引用されてきた。つまりアメリカ側がある程度以上に強硬な軍事措置をとると、ロシアのプーチン大統領はアメリカ側との全面戦争をも辞さない反撃措置に出るだろう、という示唆だった。その背景にはプーチンというロシアの最高指導者は大規模で破滅的な戦争をも仕掛けてくる爆発的、破滅的な傾向を有する人物だ、という推定があるわけだ。

 さてこうした背景のなかで、バイデン政権の対プーチン観、対ロシア観に正面から反対する見解がアメリカの戦略研究でも著名な学者から発表された。外交関係評議会の上級研究員でワシントン・ポストなどの主要メディアに国際問題についての寄稿論文を定期的に発表しているマックス・ブート氏である。ロシア生まれで幼い時期に家族に連れられてアメリカに移住したブート氏は教育はすべてアメリカで受けて、1990年代から保守派の論客として活躍するようになった。ただしトランプ前大統領に対しては批判を表明してきた。

 ブート氏のワシントン・ポスト7月28日付に掲載された論文は「アメリカはロシアよりずっと強い。われわれはそのように行動すべきだ」という見出しで、バイデン政権のロシアへの姿勢を軟弱に過ぎると批判していた。そのブート論文の骨子は以下のようだった。

〇バイデン政権はロシアのウクライナ侵略に対して一定以上に強硬な対策をとると、プーチン大統領が無謀で非合理な行動で反撃し、核兵器までを使用しかねないと恐れている。だがプーチン氏はこれまで5ヵ月にわたるウクライナでの戦争で冷酷かつ残虐的であることを示したが、自滅的ではなく、合理的な判断を下していることが明確になった。

〇プーチン氏はウクライナの首都キーウの攻略を当初、目指したが、その実現が難しいとわかるとすぐにその作戦を撤回した。ウクライナ軍が一時、ロシア領内の標的にまでミサイル攻撃を加えたが、冷静に対応して、報復としての戦線拡大はしなかった。プーチン大統領はウクライナの兵器や弾薬の供給発信地となっているポーランドにも攻撃はかけず、NATOへの加盟の動きをとったスウェーデンとフィンランドに対しても威嚇の言葉を述べても、実際の行動はなにもとっていない。

〇プーチン氏はこうした実際の言動から弱いとみなす相手(たとえばジョージア、ウクライナ、シリアの反政府勢力など)には容赦のない威嚇と実際の攻撃をためらわないが、アメリカやその他のNATO加盟国との直接の軍事対決はあくまで避けるという合理的かつ計算高い行動様式が明確となった。実際の戦闘でもウクライナ軍を相手にしてすでにこれだけ苦労するのだからNATO軍との衝突はあくまで避けるという合理性を有することは確実だといえる。

〇アメリカは核戦力ではロシアと互角の水準にある。非核の通常戦力ではアメリカはロシアよりはるかに優位にある。しかしバイデン政権はあたかもアメリカ側の軍事能力がロシアよりも弱いかのようにふるまっている。その結果、プーチン大統領はアメリカがウクライナにより強力な軍事支援を供することを抑止することに成功してきた。

〇ウクライナでの戦闘ではロシア軍はすでに戦車1000台以上を失い、6万人以上の戦傷者を出した。今後ウクライナ軍がこれまでよりも強力な戦術ミサイル・システムなどをアメリカから得れば、ロシア側の敗北は確実となる。だがバイデン政権はなおロシア側の自暴自棄的な反撃を恐れて、その種の兵器のウクライナへの供与をためらっている。このロシア認識は変えるべきだ。

 以上、要するにプーチン大統領はいざとなればアメリカとの全面戦争をも辞さないような強気の言動をみせてはいるが、それはたぶんに演技あるいは、はったりであり、実際にはアメリカの軍事能力の優位を認め、自国の安全保障保持のためには合理的な判断を下して、アメリカやNATOと全面衝突するような方途は選ばない――という分析だといえる。だからその分析はバイデン政権がプーチン大統領のその真の姿を読みとれず、必要のない譲歩や後退をしているのだ、という批判につながるわけである。

☆この記事は日本戦略研究フォーラムの評論サイトに掲載された古森義久氏の寄稿論文の転載です。

【私の論評】バイデン政権は、これから段階的にいくつも強硬策のカードを切ることができる(゚д゚)!

今から振り返ると、開戦前から、ロシアの「強気」な姿勢に対し、アメリカ及びNATOの動きは弱いうえに遅いのが目立っていました。

バイデン大統領は、1月19日、就任1年を迎えたスピーチにおいて、ロシアはウクライナに侵攻するとの見解を示した上で、「深刻で高い代償を払うことになる」との警告を発していましたが、同時にロシアがウクライナを侵攻する脅威について問われた際、「小規模な」攻撃ならアメリカやその同盟国の対応はより小さくなるかもしれないと示唆していました。

トランプの大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)だったキャスリーン・マクファーランドはFOXニュースに対して、バイデンの発言はプーチンにとって、ウクライナ侵攻の「ゴーサイン」を意味したと主張しました。

「バイデン大統領が先週、プーチンにゴーサインを出すような発言をしたことで、今やプーチンがどんな行動に出る可能性もあると思う。ウクライナ侵攻の可能性もあるし、ハイブリッド戦争を仕掛ける可能性もある。今すぐ、もしくは今後1年の間に、彼は何らかの方法で自分の目的を達するだろう」

ホワイトハウスのジェン・サキ報道官はその後、ロシア軍がウクライナとの国境を越える動きがあれば、それは全て「新たな侵攻」であり、「アメリカと同盟諸国は迅速に厳しく、一致団結して」対応すると説明。バイデンの発言を事実上修正しました。

昨年12月の段階ではウクライナへの米軍の派遣は明確に否定していました。それどころか、1月23日、米国務省は、ウクライナの首都キエフにある米大使館職員家族に退避命令を出したことを明らかにしていました。

バイデン氏は、昨年8月の米軍のアフガニスタン撤退でも、米軍幹部の反対にもかかわらず、早い段階から「8月撤退」を公言し、発言を撤回しませんでした。撤退時期を事前に言ってしまえば、武装派勢力がそれに合わせて攻撃計画を練るのは当然だ。結果として、撤退直前にテロ攻撃され、米兵13人の命が失われてしまった。重大局面での大統領の失言、妄言は、いまや定番です。

米軍のアフガニスタン撤退

NATOは、1月12日の「NATO・ロシア理事会」終了後、ロシアが求めるNATO東方不拡大の法的保証を拒否したことを伝えていましたが、次回会合に望みをつなげること以外、具体的方針は示していませんでした。むしろ、米国がウクライナへ武器供与を承認したのに対し、ドイツがウクライナからの武器供与の要請を拒否したことが伝えられており、NATO内での不協和音も認められました。

1月24日、NATOのストルテンベルグ事務総長は、NATO諸国が東欧の防衛力増強のため部隊の派遣を進めていることを発表し、米国防省も、8,500人規模の部隊に派遣に備えるように指示を出したことを明らかにしました。NATO諸国がロシアの強硬姿勢に、遅ればせながら力による対応措置を講じ始めました。

チキンゲームの観点からは、ウクライナに対するロシアの「強気」に対し、NATOの「強気」の範囲はNATO域内にとどまっていました。これにより、ロシアのウクライナに対する「強気」を、アメリカを含むNATOが是認する可能性が高くなったいえます。

ウクライナはNATOへの加盟を希望しているものの、現時点では加盟国ではなく、NATOとしても集団防衛の義務は負ってはいません。また、バイデン大統領は8月のアフガニスタン撤退に関し、国内外から批判を浴びたことから、海外への米軍派遣には消極的と見られています。

これらのことから、ロシアのウクライナに対する軍事力行使という「強気」に対し、NATOが軍事力行使という「強気」に出て、両者が直接軍事衝突する可能性は低いと見積もられていました。

これらが、プーチンのウクライナ侵攻を後押ししたことは間違いないでしょう。

それもそうですが、実際に侵略が起こった時点でも、即時にHIMARSのような武器が使えるように早めに支援を行い、ロシア側にもその事実を知らせるとか、場合によっては、NATOがロシア国内を攻撃するなどのことを告知していれば、ロシアのウクライナ侵攻を事前に防げたかもしれません。

そういうと、後知恵のように思われるかもしれませんが、私自身は、ロシアのウクライナ侵攻は無理であると当初から考えていて、その根拠の一つとして、いくらロシアがソ連の核兵器や軍事技術を継承した国であり、決して侮ることはできないものの、現在のロシアのGDPは韓国を若干下回る程度あり、東京都と同程度であり、とても NATOと対峙できる状態ではないということがありました。

しかも一人あたりのGDPでは、韓国を大幅に下回る状況です。にもかかわらず、広大な領土を抱えており、ロシア連邦軍の守備範囲も広く、現在のロシアには、ウクライナに攻め込むような大戦争は到底できないと考えたからです。

しかし、結局バイデンの弱気発言などが、ロシアのウクライナ侵攻を後押ししてしまいました。

ただ、プーチンは驕りから失敗しました。しかし、バイデンは駆け引きがあまりに下手すぎです。トランプだったら脅してすかしていなして、最後には「わが友、プーチン」くらいは言って侵攻を止めさせたかもしれません。それがビジネスマンです。

【G7サミット】膝詰めで議論を重ねる安倍晋三首相(中央)トランプ米大統領(手前右)ら

バイデン大統領の外交については、当初から危惧されていました。バイデンが副大統領をつとめたオバマ大統領は外交経験に乏しく、外交の中心はバイデンが担っていました。ところが、オバマ政権で国防長官だったロバート・ゲイツはバイデンについて「過去40年、ほぼ全ての主要な外交、国家安全保障問題で間違っていた」と回顧録で切り捨てています。

「誤り」として挙げられるのはイラク戦争への対応のほか、国連決議に基づいていた1991年の湾岸戦争への反対、2011年のイラク撤退でテロ組織の台頭を許したと批判されていること、アフガニスタンへの増派反対などがあります

米企業公共政策研究所の外交政策専門家コリ・シェイクも、バイデン外交について「軍事力をいつどのように使うかという一貫した哲学に欠けている」と米誌アトランティックへの寄稿で批判しています。

シェイクは、トランプの外交よりは良いとしながらも「バイデンが混乱し、誤った外交政策を唱え続けていることは見落とされるべきではない」と警告していました。

擁護の声もあります。プリンストン大教授アーロン・フリードバーグは「湾岸戦争への反対もイラク戦争への賛成も、同じ投票をした民主党議員はほかにもいた。バイデンは基本的には海外での軍事介入に熱心でなく、党内でもリベラル寄りだ」と語つてまいす。

バイデンはトランプが「同盟国との関係を損ない、北朝鮮など独裁国家の首脳との関係を重視してきた」と非難しました。民主主義国との同盟を再構築すると訴えました。

ただ、フリードバーグは、バイデン外交について「対中国を含め自身は強い信念を持っていない。そのため、政策は周囲の助言に左右される」とその不確実性を指摘しています。

一方、米国は昨年にアフガニスタンからの撤退を完了させ、今回のロシアのウクライナ侵攻にも、軍の直接介入を行わず、兵力を温存しています。これによりバイデン政権は国内政治的なリスクも回避したことも事実です。

しかも、今回のウクライナ軍のロシアの侵攻への善戦の背景に、米国の武器供与、財政支援、インテリジェンス情報共有、サイバー空間での協力などがあることは明らかです。バイデン政権は、米国との同盟国でなくとも、米国の支援を得ることできれば、大国を相手に自国を守ることができるという構図を世界に印象付けつつあります。

過去に米国民に多大な犠牲をもたらし、国内外からの批判に晒されたベトナム戦争やイラク戦争などと異なり、米国の負担を最小にして、世界からは支援と賛同も得られる効果的な協力を行っています。

1960年代フロリダ大学の学生による反戦運動

今後、ロシアがウクライナの戦争の継続あるいは停戦のカギは、ロシアのパートナー国である中国の動き次第です。ウクライナ侵攻前の2月4日、中ロ共同声明において、両国の友情には「限界はない」と宣言しましたが、中国は必ずしもロシアに全面的な支援を与えてはいません。

もし中国が、バイデン政権が再三警告する対ロシア軍事支援に踏み切れば、ウクライナでの戦争はさらに長期化するでしょう。一方で、中国がロシアの長期化する軍事作戦を支えることは、中国の体力も奪うことになり、米国にとって中国との長期的な競争には、米国が優位に展開することになるでしょう。米国にとって中国へのけん制は、いわば「王手飛車取り」です。中国が軽々にロシア支援に動けない理由がそこにあります。

ロシア・ウクライナ戦争は、軍事介入への高いハードルという米国のおかれた状況を考えると、インテリジェンスの先制的な開示という非常手段をとっても、抑止できませんでした。また、結果として、バイデン政権の軟弱な対応が、プーチンを後押ししたという面は否めません。

しかし、この戦争がどのように終結するかどうかで、その帰結は変わってくるため、軽々に結論づけることはできないですが、一方で、軍事介入への制約ゆえに、黒子に徹することしかできない米国に、あらたな戦略と優位性を与える可能性は十分あります。

その優位性を与える一つの方法として、バイデン政権は時にはロシアに対してもっと強硬に出るという方法もあるのではないかと思います。現在まで、バイデン大統領は強気な発言をしたことはありますが、それを実行したことはありません。しかし、そのせいで、バイデン大統領には、さまざまなカードか残されているということができます。

たとえば、NATO軍や米軍のウクライナへの派遣、派遣でも様々な段階があります。軍事訓練から、実際の戦闘に加わることか、戦略の一翼を担うまで、様々な段階があります。さらに強力な武器の供与、これも通常兵器から核兵器に至るまで様々な段階があります。

「飛行禁止空域」の設定も様々な段階があります。ウクライナの一部の空域から、ウクライナ全土まで様々な段階があります。

いきなり、過激な段階ではなく、米国側が何らかの条件を出し、その条件をロシアが満たさなかった場合、段階的なさまざまなカードを切れば良いのです。それも、はっきり目にわかるかたちで切れば良いのです。

この方針の転換が、プーチンを恐慌状態に陥れ、さら追い詰めることになります。今からでも遅くありません。十分できます。それに、ロシアが残虐なやり方をしてきたから今だからこそ、強硬な手段をとっても、国内外から非難を受けることもありません。それどころか、称賛の声が沸き起こるかもしれません。

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2022年8月12日金曜日

エストニアとラトビア、中国との経済枠組みを離脱 リトアニアに続く―【私の論評】国内投資で失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきっていた(゚д゚)!

エストニアとラトビア、中国との経済枠組みを離脱 リトアニアに続く

バルト三国

バルト3国のエストニアとラトビアは11日、中国との経済的な協力枠組みからの離脱を決めたと発表した。枠組みにはかつて中東欧などの17カ国と中国が参加していたが、リトアニアが昨年離脱を宣言しており、これでバルト3国全てが離脱することになった。

 枠組みは2012年に始まり、巨大経済圏構想に関する経済協力などを掲げていた。エストニアとラトビアの外務省は「中国とは今後、国際ルールに基づく秩序と人権を尊重した協力を通じ、建設的で実利的な関係を築く努力を続ける」との声明を出した。ラトビアは「現在の外交、通商政策の優先順位を考慮して決定した」としている。

【私の論評】国内投資で失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきっていた(゚д゚)!

昨年リトアニアが、中国との経済枠組から離脱したことは、このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
リトアニアでも動き出した台湾の国際的地位向上―【私の論評】国際社会からの共感とNATOによる兵力配備がリトアニアの安全保障の根幹(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事からリトアニアが離脱した経緯に関わる部分を引用します。

リトアニアは先にも掲載したように、2012年に開始された「中・東欧サミット」、いわゆる「17+1」の参加国でした。同サミットは、EU加盟国のポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、クロアチア、スロベニア、リトアニア、ラトビア、エストニアの11か国とEU非加盟国のセルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、アルバニア、モンテネグロの5か国の合計16か国でスタートし、2019年にギリシアが加わり17か国となりました。

中国が一帯一路の一環として、これら諸国との貿易、投資を増大させることが期待されていました。しかしながら、今年5月にリトアニアは、「期待していたほどの経済的メリットを得られない」として、「17+1」の枠組みからの離脱を明らかにしました。台湾代表処の設置は、これに引き続くものであり、単純に、台湾からの経済メリットのほうが中国より大きいと判断したかのように見えますがそうではありません。

リトアニア国防省は、今後10年間を対象とする「脅威評価2019」という文書を公表しています。旧ソビエト連邦の共和国として、長年独立運動を実施していた歴史から、脅威評価のほとんどはロシアで占められています。

しかしながら、脅威として名指しされていた国は、ロシアの他は中国のみです。ロシアの脅威が政治、経済、軍事と幅広く述べられているのに対し、中国からの脅威は、情報活動の拡大ででした。中国は、香港や台湾に対する中国の主張を正当化する勢力の拡大を図っており、今後このような活動がリトアニアを含むEU諸国で広がってくるであろうという評価です。

「17+1」が経済的繁栄を目指すものではなく、中国の影響力拡大に使われているというのがリトアニアの見方です。今年5月リトアニア議会は中国のウィグル人に対する扱いを「ジェノサイド」として、国連の調査を要求する決議を行いました。リトアニアでは1990年の独立に際し、ソ連軍により市民が虐殺されるという事件が起こっており、共産党に対する嫌悪感も相まって、反中国に傾いたという事ができます。
今回は、リトアニアに続き、エストニアとラトビアも離脱ということで、全バルト三国が離脱したのです。

リトアニアの首都ヴィリニュス ゴシック建築と近代的ビルが混在して立ち並ぶ

こうした背景には、上で述べたようなものもありますが、それ以外にもやはり経済的な背景もあると考えられます。それについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中東欧が台湾への接近を推し進める―【私の論評】中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は、徐々に終わりを告げようとしている(゚д゚)!
世界各国地域の一人当たりGDPのトップ30を見ると、米国は約6.3万ドルで世界第9位、西側に属した日本は約3.9万ドルで第26位、同じくドイツは第18位、フランスは第21位、英国は第22位、イタリアは第27位、カナダも第20位と、米ソ冷戦で資本主義陣営(西側)に属した主要先進国(G7)はすべて30位以内にランクインしています。

一方、米ソ冷戦で共産主義陣営(東側)の盟主だったロシアは約1.1万ドルで第65位、東側に属していたハンガリーは約1.6万ドルで第54位、ポーランドは約1.5万ドルで第59位とランク外に甘んじている。また、世界第2位の経済大国である中国は約9,600ドルで第72位に位置しており、人口が13億人を超える巨大なインドも約2,000ドルで第144位に留まっています。

中国は人口が多いので、国全体ではGDPは世界第二位ですが、一人あたりということになると未だこの程度なのです。このような国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無でしょう。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

「16+1」は、中国と中東欧の16ヵ国の対話・協調を促進するための枠組みであり、年に1度の首脳会合を通じて様々な合意を生み出すものとされていました。元々は「17+1」でした。ギリシャは遅れて入ったので、「+1」されています。後にチェコが離脱したので現在は「16+1」とされています。
しかし「16+1」を通じた中国の対中・東欧投資は、多額のコミットがなされたものの、その多くが実現されず、実現されても大幅に遅れたり、当初の想定を遙かに超える莫大な費用がかかることが明らかとなったりしてきました。

インフラ工事のための労働力も全て中国から調達したため、中・東欧現地の雇用も促進されませんでした。「16+1」の枠組みを用いて中国と協議を行い、中国の市場開放を促すことを試みていたバルト諸国なども、頑なに市場開放に応じない中国の態度に失望を隠さなくなりました。
そもそも、一人あたりのGDPの低く国際投資のノウハウに乏しい中国が、中国よりは一人あたりのGDPが高いバルト三国に投資したとしても、バルト三国の国民が豊になることなどありません。

ちなみに、以下に中国とバルト三国の一人あたりのGDP の比較を掲載します。単位はドルです。
中国 12,359 ラトビア 20,581 エストニア 27,282     リトアニア 23,473
中国というと経済大国というイメージが強いですが、一人あたりのGDPではこの程度(世界65位)なのです。人口が 14億人もいるので、国単位としては、大きい経済であるというだけです。

中央東欧諸国では、一人あたりのGDPでは、中国を凌ぐ国も多くあります。このような国々では、  今後もバルト三国のように枠組みから抜ける国も続くでしょう。

今後は、中東欧だけではなく、世界中の中国から投資を受けている国のうち、まずは一人あたりのGDPが中国との経済枠組みから抜け出ていくことでしょう。

そうなると、いわゆる貧乏国だけが、一帯一路などの枠組みに残ることになります。そうなると、中国は投資をしても、元をとることすらできなくなる可能性があります。

中国は、国内投資でも失敗続きです。不動産バブルの崩壊はすでに報じられているところですが、高速鉄道の投資においても、大失敗しています。

2月に開かれた北京冬季五輪のために中国が整備した高速鉄道(中国版新幹線)の新路線が、需要不足で1日1往復だけの運行になっています。駅前の商業施設は閉鎖中。国家の威信をかけたプロジェクトが有効活用されていません。

 中国は北京と河北省張家口に分散する五輪会場を約1時間で結ぶ新路線を建設。中国メディアによると総投資額は580億元(約1兆2千億円)。「万里の長城」の地下深くを通る全長約12キロのトンネルを貫通させ、「ハイテク五輪」の象徴として自動運転システムも導入しました。

 大会中は1日17往復ほど運行。最高時速350キロで大会関係者や報道陣を運び、国際的に注目されました。

中国版新幹線「高速鉄道」を運営する国有企業、中国国家鉄路集団の路線延伸がとまりません。景気底上げを目指す政府の意向をくみ、2035年に路線を現在より7割増やす方針だというのです。

ただ、無軌道な拡大で不採算路線が増え、足元の負債総額は120兆円の大台に達しました。今後さらに70兆円超の建設費がかかるとみられます。

中国の高速鉄道の借金が120兆円を超える!事業は赤字続き

さらに恐ろしいのは、これが高速鉄道ばかりでなく、高速道路や国際空港でも同じように債務を増やしていることです。
 
中国の道路は、一般道はもちろん高速道路が実に立派です。貧困地域である河南、貴州や、人より羊が圧倒的に多いウイグルであっても片側3車線という立派さです。

また、発着が1日に1便のみだったり、人影さえ見ない国際空港が300を超えるとも言われています。その1つは、江沢民元国家主席が妾に会うために建設させたと噂になっているものまであります。それぐらい、中国は“隠れ不良債権”が山となっているのが実情です。

中国の「過剰債務」が表ざたになれば、世界経済はパニックを起こしかねないです。

巨大国有企業が抱える「国の隠れ債務」が、中国経済のリスク要因となる懸念があります。

国内投資でも失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきったことだったといえると思います。


巨額貸し倒れリスクに怯える中国、これが「第二のスリランカ候補国リスト」だ―【私の論評】中国は民主化しなければ、閉塞感に苛まされるだけになる(゚д゚)!


時代遅れの偵察衛星システムで日本は隣国からのミサイル攻撃を防げるのか?―【私の論評】シギント(信号諜報)の重要性と日米台の宇宙からの監視能力 - 中国の脅威に備えるべき課題

時代遅れの偵察衛星システムで日本は隣国からのミサイル攻撃を防げるのか? ■ 江崎 道朗   茂田 忠良 書籍『シギント 最強のインテリジェンス』より まとめ 日本が「反撃能力」の保有を決定したが、具体的にどの武器をどう使うかが曖昧 トマホーク巡航ミサイル購入、国産ミサイル射程延伸...