2019年3月5日火曜日

中国・ファーウェイvs.米国、全面抗争へ…世界中の通信で支障発生の可能性―【私の論評】ファーウェイは生き残れるかもしれないが、中国共産党はいずれ崩壊することに(゚д゚)!

中国・ファーウェイvs.米国、全面抗争へ…世界中の通信で支障発生の可能性



中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)がアメリカ政府を提訴する方針であることが明らかになった。アメリカ政府は国防権限法で政府機関に対してファーウェイや同じく中国企業の中興通訊(ZTE)のサービスおよび製品の利用を禁じており、それに対してファーウェイは「裁判もなく特定の企業に制裁を科すのはアメリカ憲法違反にあたる」と主張する見込みだという。

 ファーウェイはアメリカ本社のあるテキサス州の裁判所に提訴するようだが、確かにファーウェイは中国企業であるものの、アメリカ本社はアメリカ企業であり、アメリカの国内法で守られるべき存在になる。判例としては非常におもしろい裁判になる可能性があるが、国防権限法は議会が定めた法律であり、政府はそれに従い行政を行っているにすぎない。そのため、ファーウェイの動きはアメリカ政府と議会のさらなる反発を招く可能性が高い。

 また、国防権限法は安全保障に関する法律であり、国民の安全を守るという国家の最大の責務と主権に関する法律である。世界貿易機関(WTO)でも安全保障に関する問題は例外条項とされており、安全保障を理由に国際貿易などを制限することが許されている。

 この問題を考える上では、法原則としての「統治行為論」が大きな意味を持つことになるだろう。これは「国家の重要な政治的判断は司法による法解釈の枠外である」という考え方で、簡単に言えば「国がなくなればその国の法律は無意味になるので、司法の判断の枠外である」というものだ。日本でも、過去に自衛隊違憲訴訟などで適用されている。

ファーウェイをいつでも潰すことができる米国

 ファーウェイといえば、副会長兼最高財務責任者(CFO)の孟晩舟被告がカナダで拘束されており、アメリカは身柄の引き渡しを求めている。カナダ司法省は3月1日に身柄引き渡しの審理開始を決定しており、6日には孟被告が出廷する予定だ。

 孟被告と法人としてのファーウェイは1月にアメリカ司法省に起訴されているが、その理由はイランへの金融制裁違反と銀行詐欺(銀行を騙しての不正な送金)、さらにTモバイルに関する産業スパイの容疑であり、問題はそれらが誰の指示で行われたのかである。

 孟被告単独の可能性は低く、中国人民解放軍出身の創業者で孟被告の父でもある任正非最高経営責任者(CEO)や中国政府および軍の関与も指摘されている。アメリカとしては、事実上の終身刑もあり得る刑罰の軽減または免責と証人保護プログラムの適用を引き換えに、孟被告にすべてを吐き出させたいはずだ。そして、仮に孟被告が任CEOや軍の関与を認めれば、ファーウェイ問題は次のステージに移ることになるだろう。

 ちなみに、今回の容疑は金融制裁違反であるため、アメリカとしては大統領令でファーウェイをセカンダリーボイコット(二次的制裁)の対象として「SDNリスト」(アメリカの経済制裁の対象となる人や国、法人のリスト)に入れることができる。そうなれば、ファーウェイはアメリカとの取引がある世界中の銀行の口座が凍結され、一切の金融取引が禁じられる可能性もあるわけだ。いわば、アメリカはドナルド・トランプ大統領の判断ひとつでファーウェイをいつでも潰すことができるといっても過言ではない。

 ただ、現在のファーウェイのシェアを考えた場合、そうなれば世界中で通信に支障が出る可能性があり、同時にアメリカが悪者扱いされることも考えられる。そのため、通信規格の世代が変わるタイミングで、まずは「5G」市場から排除し、影響が緩和されたところで一気に締め付けるという方策が現実的だ。

 任CEOはすでにBBC(英国放送協会)のインタビューで「アメリカに押し潰されるなどあり得ない」などと語っており、アメリカに対して徹底抗戦の構えを隠していない。いずれにせよ、一連の動きによって、ファーウェイとアメリカは全面対決の様相を呈してきた。

 一方で、中国は拘束中のカナダ人2人について「国家機密情報の窃取に関与していた」との見方を示すなどカナダへの圧力を強めており、今後も中国およびファーウェイとアメリカの対立はエスカレートしていくだろう。そして、それは米中の貿易協議にも大きな影響を与えると思われる。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

【私の論評】ファーウェイは生き残れるかもしれないが、中国共産党はいずれ崩壊することに(゚д゚)!

18年にファーウェイ問題が騒動になってから、それまでメディアにあまり登場していなかった創業者の任正非CEO(最高経営責任者)や同社幹部などがたびたびメディアの取材に応じています。その中で、ファーウェイ側は米政府による指摘について、ことごとく否定していました。

しかし、彼らの疑惑に対する回答は「玉虫色」だと言わざるを得ないです。例えば、梁華会長は2月12日、カナダのトロントで記者の質問に応じ、「中国政府から外国の通信網へのバックドア(裏口)設置を要請されたとしても、法的に義務がないことを理由に拒否する意向を示した」といいます。また、「そうした要請をこれまで受けたことはないが、要請があったとしても拒否するだろうと話した」と報じられています(ブルームバーグ、2019年2月22日付)。

ちなみにバックドア(裏口)とは、攻撃者が自由に不正アクセスできる、システムの“裏口”を指します。

ただこの話はバックドアに限定した話であり、政府からの情報提供の要請に応じないとは言っていません。というより、中国企業には応じないという選択肢はありません。

中国には、17年に施行された「国家情報法」という法律が存在します。この法律は、民間企業も個人も政府が行う情報活動に協力しなければならないというものです。中国政府からの「バックドア設置の要請」は断れば、情報提供を断ったことになり、法律違反になるのです。

さらに言えば、サイバー空間のスパイ工作で情報を盗むのは、バックドアを設置しなくてもできます。情報を盗む術はいろいろと考えられるのです。任正非CEOは、「良い製品を作れば売り上げの心配をする必要などない……買わないなら向こうが損するだけだ」と自社の技術力に自信を見せていますが、その技術力をもってすれば、情報を抜く手段はバックドアを設置せずとも十分に可能です。



もっとも、過去には実際に、ファーウェイ製品から情報が抜かれていた話も出ています。17年には、エチオピアに拠点を置くアフリカ連合(AU)本部のコンピュータシステムから、過去5年にわたって、毎晩、真夜中の0時から2時の間に機密情報が上海に送信されていることが判明しました。このシステムは、中国政府がファーウェイ製の機器やケーブルなどを使って設置したものでした。

また14年には、オーストラリアの大手企業が、会社のネットワークからファーウェイ製品を介して不正にデータが中国に送られていることに気が付いたという事件がありました。それ以降、オーストラリアでは政府関係機関や大手企業などでファーウェイ機器を使わないよう情報を通達しました。

こうしたスパイ工作についても、ファーウェイの任正非CEOや幹部たちは反論しています。そして、ファーウェイが中国政府のスパイ工作に加担しているという指摘について、米国は何ら証拠を示していないと主張しています。「盗んでいる証拠を見せろ」ということです。

ファーウェイの任正非CEO

この点について、米国側の見方はどうなのでしょうか。実のところ、米国はスパイ行為を証明する必要はないと考えていいます。

そもそも必要とあれば、国民の代表である議会議員らが連邦議会の委員会できちんとした捜査を行うことになります。現状、米国内では、その必要性すら議論されていません。過去にファーウェイが米国のメーカーなどから機密情報を盗んできた証拠もあるし、それはファーウェイ側も否定しないはずです。そんな背景からも、米国側に言わせれば、今のところスパイ工作や中国政府とのつながりを証明するまでもないのです。

さらに付け加えれば、もし米国が新たにファーウェイによるスパイ工作などのハードエビデンス(動かぬ証拠)を持っていたとしても、それが米国側から中国に対するサイバー攻撃やハッキングなどで得たものならば、公表はできるはずがないです。それ自体が、機密作戦だからです。

そもそもサイバー攻撃は、それが行われた事実を具体的かつ決定的に証明するのが難しいです。真実はどうであれ、中国政府は自らの関与を否定することができるのです。また、米国が公の場で中国の責任を問い詰めるためには、自国政府の機密やサイバー上の能力を露呈しなければならなくなります。その犠牲を払ってまでアメリカが中国政府を責めたてるとは考えられないです。


一方で、こんな声もあります。ファーウェイ自身が、同社製品には何ら怪しいことはないと証明すべきではないか、と。

例えば、16年に韓国サムスン電子製スマホである「Galaxy Note 7」が火を噴いた事件を覚えているでしょうか。当時サムスンは、その大打撃から挽回するために、客観的に調査を行う外部の専門家を雇い、徹底した内部調査を開始。その結果を広く公表することで、自社製品の安全性を訴えました。さらに、欧米などのさまざまなメディアをバッテリー工場に招き、取材もさせました。そうすることで、安全性と再発防止に向けた意思を対外的にアピールしました。

ファーウェイも本部で開催する記者会見にメディアを呼ぶだけでなく、きちんと情報を開示するなどして「後ろめたいことはない」ということをアピールすべきでしょうか。

通信機器を販売する米シスコも、機器にスパイ工作用のチップが埋め込まれているという疑惑が出たことがありましたが、シスコ側は、消費者にシスコ製品を購入して徹底的に調べてほしいと訴えました。しかも調べるために購入した代金は、シスコが負担するとまで言ったのです。ファーウェイもここまでコケにされたら、口だけでなく、疑いを晴らすべく行動すべきです。


こうしたさまざまな議論が交わされている中、トランプ大統領がまた予想外の動きを見せているとして話題になっています。トランプは、ファーウェイ排除について「見直し」を示唆しているとも報じられています。協議中である米中の貿易交渉を意識してのことのようです。

そもそも、米国がファーウェイを排除することは何ら「異常なこと」ではありません。というのも、中国政府も米IT大手のFacebookやTwitterなどを利用できないようにして米大手企業を実質的に中国市場から排除しています。ファーウェイ排除も、要はお互いさまなのです。

ではトランプは「見直し」をする可能性があるのでしょうか。そのヒントは、中国通信機器大手・中興通訊(ZTE)のケースにあるかもしれません。

米政府は18年4月、対イラン・対北朝鮮の制裁に関連する合意にZTEが違反したとして、米国企業にZTEとの取引禁止措置をとりました。これによって、半導体など基幹部品を調達できなくなったZTEは、スマホなどの生産ができなくなってしまいました。

追い詰められたZTEは、習近平国家主席に泣きつき、トランプへの口利きを要請。結局、ZTEはトランプに屈して、10億ドルの罰金を支払った上で、今後10年間、米国の内部監視チームを入れることにも合意しました。

おそらく、ファーウェイもこのくらいまでしなければ、トランプに排除を撤回させることは難しいのではないでしょうか。


ここまで見てきたような動きに加え、メディアでは、中国がニュージーランドとの貿易などで輸出を遅延させているという話が浮上したり、中国がオーストラリアからの石炭輸入を禁止にするという話も出てきたりしています。

ニュージーランドもオーストラリアも5G(第5世代移動通信システム)でファーウェイ製品を排除する方向で動いており、中国による報復措置だとする向きがあるのです。事実なら、やはり中国政府はファーウェイの後ろ盾になっていると示しているようなものです。

ちなみに英国でも、情報機関がファーウェイ製品について「リスクは管理可能」だと述べていることが話題になっています。ただし、英政府はファーウェイ製のスマホなどは禁止にしないかもしれないですが、通信機器やルーターなどインフラに絡むものは禁止していくことになるでしょう。

そもそも、英国のHSBCが 窓口となった資金洗浄とイランへの不正輸出のかどで、ファーウェイの孟晩舟副社長がカナダで拘束され、取り調 べが済み次第、米国へ移送される手筈、米国で訴訟が待っているわけです。これまでに判明している事実経過は、送金に利用された HSBCが司法取引に応じて、確固たる資料を提供していたことです。

孟晩舟は「わたしは関与していない。無罪である」と主張を繰り返していますが、HSBCでファーウェイが架空取引の口座 として使用していたのが「スカイコム」と「カニュキラ・ホールディング」という二つのペーパーカンパニーでした。

ファーウェイが1590万ドルを「カニキュラ」に貸与して、一年後に返金されている事なども口座取引の記録から判明して います。

両口座はHSBCにより閉鎖され、その残金がファーウェイに戻されていました。「スカイコム」は、イランのパートナーを通 じて、HP(ヒューレット・パッカード)のコンピュータを1500万ドルで売却していました。

こうした不正行為が発覚したのが2010年で、HSBCは司法取引に応じて19億2000万ドルを米司法省に罰金とし て 支払い、同時にファーウェイとの銀行取引をやめ、口座を閉鎖しました。

1500万ドルの不正送金で、19億ドル余の罰金とは、なんと間尺に合わないことなのでしょう。おそらく水面下の余罪は、巨 額にのぼるでしょうが、米国の裁判で、そのような機密口座の資料が公開される可能性があります。

HSBCの内部調査資料では、ファーウェイとスカイコム、さらにはファーウェイが2007年にスカイコムを売却したとする相手企業のカニキュラ・ホールディングスとの関係について新たな情報を提供しています。3社ともかつてHSBCに口座を保有していました。

資料によると、スカイコム株売却を報告してからかなり後も、ファーウェイがスカイコムとカニキュラ両社の経営権を握っていたと示唆するような関係性があったことが調査で明らかになっています。また、カニキュラによるスカイコム買収に対してファーウェイが資金を融通したことも発覚しました。

こういった関係があったにもかかわらず、孟CFOはHSBCの幹部に対するプレゼンテーションで、スカイコムはイランでの「ビジネスパートナー」だと説明。司法省起訴状では、このプレゼンテーションは「多くの事実を曲げて伝えていた」とされています。

ファーウェイは、今後も米国を批判し、安全だと主張し続けて潰れる道を選ぶのでしょうか、もしくは透明性を高め安全性を客観的に証明して生き残りの道を選ぶのかいずれかの道を選ばなければならないのは間違いないです。


ファーウェイは生き残りを模索できるかもしれませんが、中国共産党はそうではないかもしれません。

孟晩舟被告が米国で、司法取引に応じて、中国政府の関与について証言することになれば、中国のメンツは丸つぶれになり、米国と中国の対立はさらにエスカレートすることになります。

私は、トランプ大統領のファーウェイ排除について「見直し」を示唆したことは、孟晩舟被告の司法取引に関係していると考えています。ファーウェイを完璧に排除ということになれば、孟晩舟被告は司法取引に応じない可能性もあります。

トランプ大統領というか、今や米国の考えでは、一企業であるファーウェイを潰すことに大きな意味はないです。それよりも、その背後にあり、ファーウェイを操っている中国共産党をどうにかしたいのです。

米国は、孟晩舟被告の司法取引を機に、中共の卑劣な情報技術の窃盗の実態を明確化し、その後に中国に対する制裁を強化しようとしているのです。

米政府は中国が本格的に構造改革を実行して民主化、政治と経済の分離、法治国化を推進するか、中国がそれを拒否すれば、中国に対しても北朝鮮に実行しているような本格的な制裁を課すことになるでしょう。

それは、中国経済が弱体化して、他国に対して影響力が行使できなくなるまで続くでしょう。その過程において、無論中国共産党一党独裁体制は崩壊することになります。


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2019年3月4日月曜日

米中貿易戦争は中国経済低迷の主因ではない―【私の論評】主因は政府による経済活動への関与の強化によるもの(゚д゚)!

米中貿易戦争は中国経済低迷の主因ではない

岡崎研究所

トランプ大統領


トランプ大統領の貿易・通商政策が経済学のイロハでは推し量れないことが多いことは、エコノミストたちから指摘されてきたことである。

 1月28日付のニューヨーク・タイムズ紙には、アラン・ラップポート記者の記事で、『トランプ大統領は、最近の 中国経済の景気が悪いのは自分(トランプ)が仕掛けた対中貿易戦争によるも のであると認識している』、と書かれている。

中国専門家の中にも、同様に、米中対立によって中国経済は減速している、と考える人がいる。このような見方に対して、米国経済政策研究センターのシニア・エコノミストであるディーン・ベーカー氏は、1月29日付の同センターのサイトで、反論している。

彼が強調したのは、最近の中国の景気低迷の主因はトランプが仕掛けた貿易戦争にあるのではないという点である。その根拠として次の4 点を挙げている。

ディーン・ベーカー氏

 第1は、中国の対米輸出が減っていない事実である。例えば、米国の対中国貿易収支赤字は 2018 年(10月まで)は前年同期比で 350 憶ドル増加している。

  第2は、仮に減ったとしても中国の対米輸出は、対GDP 比率で高々4%弱であることである。

  第3に、付加価値連鎖を考えれば、対米輸出の増加は輸入となって漏れる割合が大きいから、GDPを低下させる効果は小さいことが挙げられている。

  例えば、中国の対米輸出の主な品目は「電話機(携帯電話等)」、「自動データ処理機械(PC 等)」、「TV、モニタ ー等」であり、これら製品はサプライチェーンによって外国から輸入した集積回路などの基幹部品を基に 中国で組み立てた完成品である。ちなみに、iPhone の部品サプライヤー200 社の中で中国企業はわずか36社であり、ほとんどは米国企業、台湾企業、日本企業となっているとの報道もある。

   そして、第4に、米国からみると対中国輸入が減少した場合には、対第三国からの輸入が増えるという貿易転換効果が働く結果、中国から第三国への輸出は増加するという面もあること等である。

常日頃のマスコミ報道をみても、中国経済低迷の主因は米中貿易戦争にあるというのが主流になっているようであるが、こうした報道に違和感を抱いていた者にとって、今回のベーカーの主張は納得の行くものである。


 それでは、中国経済低迷の主因は何か。ここでは3つだけ指摘しておこう。

 第1に、現在の中国経済は過大債務、過大資本ストックによって資本の収益率は極めて低くなっている。あるいはマイナスになっている。

 第2に、それ故に設備投資の大きな下方屈折は避けらない。既に、そのことは、日本との貿易にも表れている。

 第3に、こうした設備投資の下方屈折を最小限にするためには、消費の持続的な上昇、すなわち家計の貯蓄率の低下が必須条件であるが、それが実現していない。

 要するに、(a)投資から消費へのバトンタッチがスムーズに行われていないこと、(b)このバトンタッチには時間がかかること、(c)そしてその間は中国経済の走行速度は減速するということである。

 事実、乗用車、工作機械、スマホ、工業用ロボットなど主要工業品の昨年第4四半期の出荷は前年比で約2割前後低下している。さらに言うと、国有企業優先路線への回帰や資本集約産業の保護に繋がる「一帯一路」戦略も最近の中国経済の低迷の根底にあると見る向きもある。


 ところで、関税の影響に関してのトランプ大統領のもう一つの誤解は、米国の追加関税を負担しているのは中国などの外国であるという認識である。なるほど米国の最近の関税収入は急増している。

 例えば、2018年11月の関税収入は前年同月比で 2倍増の63億ドルである。ただ、これを負担しているのは中国人ではなく、米国人である。例えば、米国が輸入鉄鋼にかかる関税を引き上げた場合についてみておこう。

 教科書的にいえば次のとおりである。まず、(a)輸入鉄鋼の関税引き上げによって、この鉄鋼を生産する鉄鋼部門は得をする(生産者余剰の増大)。(b)次に鉄鋼を使用している自動車等の産業は必ず損をする(使用者余剰の減少)。(c)ここで重要なことは使用者余剰の減少分は生産者余剰の増加分より必ず大きくなることである。

 より厳密に言うと、政府の関税収入は増加するが、このプラス分を加えても、国の全体の余剰は必ず減少するのである。


 以上の点は経済学の教科書に登場する架空の話ではない。ここではトランプ政権によって昨年3月に発動された鉄鋼への25%の関税による影響を計算したピーターソン国際経済研究所(PIIE)の分析結果をみておこう。

 昨年12月20日付の同報告によると、(a)まず国内の鉄鋼価格は追加関税によってこの10月までに9%上昇した。

 (b)その結果、鉄鋼産業の2018年の利潤は 24億ドル増加し、雇用は8700人増加すると見込まれる。すなわち、新規雇用者一人当たりの企業利潤増加額は27万ドルとなる。

 (c)一方、自動車などの鉄鋼使用産業のコストは56億ドル増加する。すなわち、鉄鋼業の一人当たり新規雇用者のために鉄鋼使用産業は65万ドルの追加負担をしていることになる。

 しばしば言われていることではあるが、川上産業での輸入関税は川下産業のコストアップを通じて、国全体としては便益よりも大きなコストをもたらす。その典型例が今回の鉄鋼への関税である。また、昨年11月に発表されたGM社のリストラ計画や建設機械大手企業の決算が振わないのは、今回の鉄鋼の追加関税措置と無縁ではあるまい。


 いずれにしても、以上述べたような関税を巡る「誤解」に基づいて貿易相手目の輸入政策と産業政策の大きな転換を迫るトランプ政権のディールはどのような「勝利」を得られるのか、いましばらく注目したい。

(ブログ管理人注:原文ではあまりに各段落が長く、読みにくいため、適宜改行して読みやすくしました。元の段落を示すため、段落毎に二行文改行しています。)

【私の論評】主因は政府による経済活動への関与の強化によるもの(゚д゚)!

中国経済はなぜ低迷するようになったか、という設問に答える前に、まず、中国経済がなぜ成長できたか、という設問に答えなければなりません。

毛沢東の時代(1949-76年)、中国経済はほとんど成長しませんでした。その原因は端的にいえば、政府による統制が強すぎたので、活力が完全に消されたためです。鄧小平は「改革・開放」政策を推し進め、経済が自由化されたために、中国経済は遅れを取り戻すことができたのです。

毛沢東

振り返れば、1970年代、農産物や消費財などの生活必需品が極端に不足していたにもかかわらず、農民は自分の庭で作った野菜を都市部へ持ち込んで売ると、資本主義といって拘束され、野菜なども没収されました。

自由がなければ、経済は活性化しません。鄧小平は中国の人民にある程度の自由を認めました。むろん、その自由は限られたものでした。すなわち、鄧小平は中国の人民に、政治に関する自由は与えなかったのです。

中国経済の特異なところは、自由な市場経済と専制政治が共存できたところにあります。本来なら、自由を前提とする市場経済は必ずや民主主義の政治体制とペアとなってはじめて機能するものとされています。

鄧小平

しかし、完全に束縛されていた経済が限定的な自由を得るだけで短期的にエネルギーを発揮することがあります。しかも、経済をどん底にまで陥れた政府は短期的に経済を発展させることで目的が一致します。

問題なのは、経済が遅れをとりもどし、富がかなり蓄積されてから、政府の本心が現れてくることです。すなわち、富の分配において政府は市場メカニズムに任せることを考えないのです。

市場経済の原則は働く者が報われることです。しかし、中国において富の分配は権力を軸にして行われています。権力の中心に近いものほどたくさんの富を得ることができます。これは腐敗とも関連する動きです。

専制政治は経済の自由化を必ず妨げることになります。専制政治は独断的に政治権力を分配します。権力者はより多くの富を勝ち取ることができます。自由が束縛されれば、経済はおのずと活力を失ってしまいます。実は、経済が持続的に発展するかどうかは資源の配置が公平に行われているかどうかにかかっているのです。


中国では、国有銀行と国有企業が大半の資源を支配しています。それに対して、民営企業はもっとも多くの雇用を創出し、GDPへの寄与度も国有セクターを凌駕しているのですが、勝ち取る資源は3分の1程度にとどまります。中国経済は鄧小平がグランドデザインした自由化の路線を歩み続けるか、統制経済に逆戻りするかの選択を迫られているのです。

2013年11月、共産党中央三中全会で市場経済改革を深化させることが決定されました。しかし、中国経済の実態は市場経済とは逆の方向へ向かっています。李克強首相が就任当初から唱えたのは「規制緩和」(deregulation)と「地方分権」(decentralization)でした。

ところが、政府によるコントロールと国有企業の力は強まる一方です。しかし、地方政府は規制緩和に協力的ではありません。政府部門による経済への関与はさらに強化されています。これこそ中国経済が減速した真の原因なのです。


資源の配置と富の分配はいずれも政府に依存する状況下で合理化する見込みはほとんどありません。中国経済の減速はファンダメンタルズの悪化によるものではなく、政府による経済活動への関与の活発化によるものです。

中国は持続的な経済発展を実現するには、時間がかかるにしても、国有セクターの民営化を目標に掲げるべきです。政府機能は、経済を管理する役割から行政サービスを提供する役割に変身する必要があります。こうしてみれば、中国の市場経済化の改革は今までの40年間、ほんの一歩しか踏み出していないことが分かります。

中国経済の現在の低迷は、政府による経済活動への関与の活発化によるものです。本来ならば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進して、多数の中間層を輩出して、これらに自由に社会経済活動ができる仕組みを構築すれば、中国経済さらに活発化するはすです。


しかし、現実には、中国では政治と経済が不可分に結びついています。これでは、限界が来るのは当然です。現在の状況は、中国経済の発展に限界がきたときに、米国が中国に対して貿易戦争を挑んだということです。

ただし、米国の対中国冷戦は貿易にとどまるものではありません。覇権争いの部分もありますが、それだけにとどまるものでもありません。国際秩序を中国の都合の良いように変えてしまうことを防止するという意義があります。

民主化も、政治と経済の分離も、法治国家化もされていない中国にとって都合の良い国際秩序なるものはどのようなものになるのでしょうか。一言でいえば、暗黒世界です。

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2019年3月3日日曜日

信念なく、バランス感覚悪く、支離滅裂な「韓国文大統領」ブレーンは無能か!―【私の論評】文大統領が誕生したときに予想したとおり、近いうち文政権は崩壊する(゚д゚)!

信念なく、バランス感覚悪く、支離滅裂な「韓国文大統領」ブレーンは無能か!

韓国ソウル明洞

2019年3月3日、支持率が落ちている韓国文大統領への逆風が止まらない。米朝首脳会談もなんらしかの合意が出来るのではないかとの予想も外れてしまった。トランプ大統領への影響度は、安倍首相の足元にも及ばないレベル。それは信頼関係が構築されていないためだ。トランプ大統領から見れば、金委員長のメッセンジャー程度にしか文大統領は認知されていないと言われている。それが文大統領の実力なので仕方がない。国を維持するのに経済が重要であるとの基本が欠如している。南北融和・統一だけでは国のリーダーは務まらない。バランス感覚に優れた安倍首相を見習ってもらいたいものだ。

 専門家は『やっと日本の重要性を理解した文大統領だが、気がつくのが遅すぎた。日本に対する無礼な振る舞いの数々を多少は後悔しているのかもしれないが、3月1日の『三・一独立運動百年演説』で、日本が7,500人殺害したと主張してしまった。諸説あり100年前の事実関係は不明だ。こんな文大統領に日本が協力できるわけがない事の理解が乏しい。演説はフリートークではなく、原稿を読むだけなので、まともなブレーンがいれば止めることが出来るが、無能なブレーンばかりだと思える。

 無能と言えば、韓国文議長だが、天皇陛下から韓国訪問の調整を頼まれたと嘘をついていた。韓国では、寸借嘘名人でも、運が良ければ国会の議長にはなれるらしい。在日韓国大使に就任しなかったのがせめてもの救いだ。

 韓国は恨みの応酬の国なので、いつまでたっても被害者意識が消えない。1965年の日韓基本条約で徴用工問題も、慰安婦問題も含めて解決済み。日本が支払った金額は8億ドル(無償で3億ドル、有償で2億ドル、民間借款で3億ドル)当時の韓国の国家予算の2倍以上で、この資金の大部分をインフラ整備に充てることで韓国は飛躍的に発展した。徴用工への支払いについては韓国政府の問題で、日本には無関係だ。

 韓国文大統領の屁理屈は通用しない。国と国との約束が守らなければ、国際社会では信用されないことをそろそろ学んでほしいものだ。

【私の論評】文大統領が誕生したときに予想したとおり、近いうち文政権は崩壊する(゚д゚)!

最近の文政権の政治スタイルは、弾劾によって倒れ、国民から嫌われていた朴政権によく似てきています。
朴槿恵前大統領も反日だった

朝鮮日報は、「文在寅大統領の(一人)ぼっち飯」というコラムを載せていますが、その中で保守系野党である自由韓国党のシンクタンク「汝矣島研究所」が、文大統領就任から600日間に公表された全スケジュールを分析したことを紹介しています。

それによると大統領主催の食事会は1800回の食事のうち100回でした。また、2144の全スケジュールのうち、議員などとの面会は4%に当たる86回しかなく、うち野党議員は26回しかありませんでした。
これでは、朴前大統領が公邸に引きこもり、1人で食事をしながら書類を読んでいたため国民との意思疎通に欠けているとして、国民の間で不人気だったのと同じではありませんか。
また、文大統領は学生運動を共にしていた者を政権の要所に配し、自分たちのやりたいようにやっており、国益が何なのか分かっていないとさえ思えます。与党は、こうした批判に対し反発していますが、それだけ痛いところを突かれていたということでしょう。
昨年12月27日の朝鮮日報は、大統領府が政府系企業や各官庁の傘下機関の役員の政治的傾向を分析したいわゆる「ブラックリスト」を作成し、特別監察班を通じて監察を行ってきた疑惑が指摘されたと報じています。
特別監察班は、公共機関300ヵ所の幹部のうち“親野党”性向のある100人を選び出して監察、大統領府上層部に報告していたといいます。これは、現政権関係者のためのポストを多数作ることが目的だったといいます。

昨年、鉄道の脱線事故があった際、鉄道公社の社長が「寒さで線路に異常をきたしたことが脱線を招いた」と言い訳し、専門家の失笑を招きました。この社長はいわゆる政治活動家で、鉄道事業の素人だったといいます。その社長の初仕事は、組合運動で失職した人を復職させることであり、任命した鉄道公社と下部機関の役員の3分の2は政治活動家だそうです。
文政権は、政治活動家たちが甘い汁を吸う政権なのでしょうか。こんな政権で今後、大規模な事故や事件が発生すれば、大変な事態に陥る可能性も懸念されます。

思えば朴前政権時代に、政権に批判的と見られる芸能人や文化人ら9400人を掲載した「ブラックリスト」を作成したとして、当時の金淇春(キム・ギチュン)大統領秘書室長や趙允旋(チョ・ユソン)文化体育観光部長官が逮捕されており、それが大統領自身の指示によるものか注目を集めました。

このように、政権が自分たちに反対する人々のリストを作り、不利益を与えるという歴史を繰り返していることが、韓国の歴代政権の不幸な末路を物語っているのかもしれないです。

こうしたスキャンダル噴出の背景には、韓国国内で“文政権たたき”が既に始まっていること示しているのではないでしょうか。

対北朝鮮政策は一見すると国民受けしているようですが、北朝鮮の実情を知る者にとっては極めて危険なものに映っているはずです。また、韓国経済の急激な停滞、人件費高騰に伴う廃業や失業の増加が国民生活を直撃しています。しかし、文在寅政権は一向にこれまでの政策の非を省みることなく、ますます殻に閉じこもり、政治活動家の意に沿った政策を遂行する傾向にあります。

そうして、国連安保理の対北朝鮮制裁委員会の専門家パネルは近く提出する報告書に、「韓国の国連制裁違反の事実が明記されるとみられる」と日本の共同通信が報じています。文政権の北朝鮮に対する制裁破りは、これまでもたびたび行われていたとのうわさが絶えないです。

中央日報によれば、韓国政府が発表する景気指標は、毎月のように歴代最悪を更新しているようだ。現在と今後の景気を示す「一致・先行指数循環変動値」は、歴代最長で下落傾向を示しています。

このほか18年の「年間産業活動動向」「設備投資」など主要な指標も下落を続けており、中小零細企業は最低賃金の上昇を賄いきれずに雇用を縮小したり、倒産したりしています。それでも文政権は、所得主導の経済成長を目指す基本路線を変えようとしていないです。

なぜこのようになってしまったかといえば、簡単なことで、雇用の改善策でもある金融緩和を実施せずに、最低賃金だけあげるというとんでもない政策をとってしまったからです。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。いくつかありますが、その代表的なもののリンクを掲載します。
南北首脳会談(昨年5月26日)
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、立憲民主党の枝野代表は、金融緩和などには目もくれず、とくにかく最低賃金をあげるなどして、再配分を強化することによることを提唱していますが、まさに文在寅はこの理論を実行して大失敗したわけです。

枝野氏と同じように、文在寅も雇用の創出=金融緩和という、経済上の常識を知らないようです。これに関しては、前大統領朴槿恵も知らないようではありましたが、ただし最低賃金を単純に上げるという、破滅的な政策だけは実行しなかったので、その点では文在寅や、枝野氏よりはましだったといえます。

現状ではあいかわらず、金融緩和はせずに、政府支出の拡大で景気の悪化を抑えていますが、実体経済の低迷は避けようがないです。サムスンの18年10~12月期の営業利益は29%減であり、現代自動車に至っては第1次下請けのいくつかが廃業に追い込まれ、自動車産業の見通しを暗くしています。

なぜ文在寅は金融緩和をしないことにこだわるのか全く理解に苦しみます。分在寅は、反日的であり、日本の批判はしますが、日本の失敗を正しく指摘することもできず、よって日本の失敗に学ぶこともできていません。

日本の平成年間では、ほとんどが金融を引き締めていました。財政も緊縮財政だったため、ほとんどの期間にわたってデフレでした。

しかし、平成の末期に近い2013年に安倍政権が成立し、金融緩和と積極財政に転じたため、日本はデフレから脱却寸前まで行ったのですが、2014年には経済政策としては、悪手中の悪手であるデフレから脱却しきっていない時期に消費税の増税をしてしまったため、再びデフレ基調にはなってしまいましたが、金融緩和策は継続したので、最近は雇用はかなり改善されました。

このような日本の失敗の状況を真摯にみていれば、最低賃金だけあげて、雇用を激減するという失敗は防げたはずです。やはり、文在寅もマクロ経済には疎いし、ブレーンは無能なのでしょう。未だに金融緩和には目もくれません。

私は、2017年文在寅が登場した5月の時点(5月10日)で、雇用を創出できない文在寅は、スキャンダルにまみれて、自滅するとこのブログで予言していました。その記事のリンクを以下に掲載します。
【韓国新政権】文在寅政権の最重要課題は経済や外交 韓国メディア「対日政策、全般的に見直し」と展望―【私の論評】雇用を創出できない文在寅もスキャンダルに塗れて自滅する(゚д゚)!
大統領になったばかりの頃の文在寅

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分のみ以下に掲載します。
文在寅大統領が、反日や親北に地道をあげて、金融緩和策を実行せず、韓国の雇用を改善できない場合、韓国民は最初のうちは大人しいかもしれませんが、いずれ朴槿恵元大統領を退陣に追い込んだような、嵐が吹き荒れることになります。そうして、任期は全うできず、様々なスキャンダルが暴かれ、文在寅もスキャンダルに塗れて自滅することになるでしょう。
なぜこのようなことを予測したかといえば、簡単なことです。どの国でも、雇用が良ければ、他の政策が良くなかったにしても、政府の経済政策はまずまずとみなすべきだからです。逆に他のいかなる経済政策が良くても、雇用が良くなければ、政府の経済対策は失敗であるとみなすべきだからです。それほど雇用は政府の政策として重要なことだからです。

雇用を安定的に保ったり、改善できない政府は、たとえ他政策が良かったり、国民の人気があったにしてもやがて崩壊するからです。雇用を安定させることができない韓国政府は、たとえ誰が大統領になって、国民の関心を政策のまずさなどを国民の目からそらすたに、いくら過激に反日活動をしたとしても、崩壊するか短期で終わることになるのです。

文政権ではいまのところ、構造改革等にばかり執着して、金融政策に関しては文大統領はもとより、そのブレーンたちも思いもよらないようです。今の状況が変わらない限り、私の予言通り文政権は、今年いっぱいくらいはなんとか持つでしょうが、来年あたりには文大統領は任期を全うすることなく文政権は崩壊することでしょう。

これまで、文大統領に対する支持率は経済の停滞で下落が続いてきましたが、今後、スキャンダルも相まってさらに下落する可能性が高いです。そのとき、文政権がどう体制を立て直すのか、慎重に見定めていく必要があります。日本の対韓政策も、それによって変わってくるかもしれないです。

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2019年3月2日土曜日

韓国・文大統領大誤算!米朝決裂で韓国『三・一』に冷や水で… 政権の求心力低下は確実 識者「米は韓国にも締め付け強める」 ―【私の論評】米国にとって現状維持は、中国と対峙するには好都合(゚д゚)!

韓国・文大統領大誤算!米朝決裂で韓国『三・一』に冷や水で… 政権の求心力低下は確実 識者「米は韓国にも締め付け強める」 

米朝決裂であてのはずれた文在寅

 米朝首脳会談の決裂を受け、北朝鮮と韓国が窮地に追い込まれた。ドナルド・トランプ米大統領が、北朝鮮の「見せかけの非核化」方針を見透かして席を蹴ったため、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が熱望した経済制裁解除や、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「三・一運動」100周年に合わせて期待した南北共同事業の再開は水泡に帰したのだ。正恩氏の国内権威は失墜し、「米朝の仲介役」を自任した文氏の求心力も低下する。危機を脱して、好機を得たともいえる日米両国。今後の展開次第では、南北朝鮮は「地獄」を見ることになりかねない。

 「国連安全保障理事会決議に基づく制裁の一部を解除すれば、寧辺(ニョンビョン)の核施設を永久に廃棄すると提案したが、米側が応じなかった」

 北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は1日未明、ベトナムの首都ハノイで緊急記者会見し、こう説明した。



 北朝鮮の閣僚による異例の記者会見は、決裂した米朝首脳会談後、トランプ氏が「北朝鮮は経済制裁の全面解除を要求してきた」と明かしたことへの反論だった。会談失敗の責任を、正恩氏からトランプ政権になすりつけようとしていることがうかがえた。

 会見に同席した崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官は「部分的な解除さえ難しいとする米側の反応をみて、(正恩氏が)交渉への意欲を少し失ったのではないかと感じた」と語り、国内外に向けて、最高権力者の威信を守ろうと必死の様子だった。

 今回の米朝首脳会談で、北朝鮮は「米国と合意可能」とみていた。

 正恩氏のベトナム訪問を、同国メディアに出発時点から報じさせていたうえ、朝鮮中央通信は2月28日、正恩氏が「今回の会談でみんなが喜ぶ立派な結果が出るだろう、最善を尽くすという意義深い言葉を述べた」と伝えていた。

 ところが、その期待はあえなく消えた。

 トランプ氏が非核化に向けた具体的措置を求めたのに対し、正恩氏が経済制裁の全面解除を迫ったため、トランプ氏は当初予定していた共同合意文書への署名を見送り、会談を終了した。

 首脳会談の決裂に伴い、正恩氏は何の見返りも得られないまま、帰国することになった。

 国際社会による制裁で、北朝鮮は相当追い詰められている。2月には国連に食糧支援を要請するほどの困窮ぶりだ。国内で正恩氏への不満が高まっているとの情報もある。

 正恩氏の外交的失敗で制裁が維持されたため、最高権力者としての権威失墜は避けられそうにないのだ。

 今回の会談結果に、米朝の「仲介役」を自任していた韓国・文政権も狼狽(ろうばい)している。

 韓国・聯合ニュースが2月28日に《朝鮮半島情勢「視界ゼロ」 米朝首脳会談が「制裁」問題で決裂》という見出しで伝えたことからも、韓国政府の焦りが感じられる。

 同ニュースは別の記事で、「韓国政府の当局者は戸惑いを隠せずにいる。今回の会談が成功すれば、合意に対北朝鮮制裁緩和に関する内容が盛り込まれ、制裁が足かせとなっている南北経済協力に転機が訪れると期待していたためだ」と指摘した。

そもそも、米朝首脳会談は、文大統領が「北朝鮮には非核化の意思がある」と確約したため、米国も乗り出した。

 トランプ政権は、文政権の異常な「反日行動」や、左翼主義的な態度に不信感を抱えていたが、北朝鮮とのパイプ役として一定の節度を保ちながら対応してきた。

 今回の首脳会談決裂を受け、仲介役である文政権の責任も問われかねない。国内的にも、北朝鮮問題で支持率を保っていたため、求心力低下は確実だ。

 対照的に、日本は土壇場で危機を脱する結果となった。

 トランプ政権は当初、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の廃棄で妥協するとの見方があり、その場合、日本を射程におさめる中距離弾道ミサイル「ノドン」などが残るとみられていたからだ。

 日本政府としては「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という方向で米国と調整してきた。会談決裂で「御の字」なのだ。

 日本の悲願である拉致問題についても、トランプ氏は今回、正恩氏に2回提起したという。安倍晋三首相は今回の結果を評価し、「トランプ氏の決断を全面的に支持する」と述べた。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「今回のトランプ氏の決断は、米国の保守派からも評価され始めている。一方、正恩氏は、トランプ氏をうまくだませると思っていたようだが、土壇場での逆転で、手ぶらで帰ることになった。トランプ政権は『制裁の抜け穴をふさぐ』という意味で、北朝鮮への圧力を強化し、同時に文政権にも締め付けを強めていくだろう」と話した。

【私の論評】米国にとって現状維持は、中国と対峙するには好都合(゚д゚)!

冒頭の記事では、"日本政府としては「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という方向で米国と調整してきた。会談決裂で「御の字」なのだ"とありますが、これは米政府としても「御の字」であったと思います。


No deal is better than a bad deal

北朝鮮は、外見は中国を後ろ盾にしてはいますが、その実中国の干渉されることをかなり嫌っています。金正男の暗殺や、叔父で後見役、張成沢氏の粛清はその現れです。

韓国は、中国に従属する姿勢を前からみせていましたが、米国が中国に冷戦を挑んでいる現在もその姿勢は変えていません。

この状態で、北朝鮮が核をあっさり全部手放ばなすことになれば、朝鮮半島全体が中国の覇権の及ぶ地域となることは明らかです。これは、米国にとってみれば、最悪です。そうして、38度線が、対馬になる日本にとっても最悪です。

もし今回北朝鮮が米国の言うとおりに、全面的な核廃棄を合意した場合、米国は、米国の管理のもとに北朝鮮手放させるつもりだった思います。まずは、米国に到達するICBMを廃棄させ、冷戦で中国が弱った頃合いをみはからい、中距離を廃棄させ、最終的に中国が体制を変えるか、他国に影響を及ぼせないくらいに経済が弱体化すれば、短距離も廃棄させたかもしれません。

しかし、これを米国が北朝鮮に実施させた場合、多くの国々から非難されることになったことでしょう。特に、日本は危機にさらされ続けるということで日米関係は悪くなったかもしれません。さらに、多くの先進国から米国が北朝鮮の言いなりになっていると印象を持たれかなり非難されることになったかもしれません。

しかし、今回の交渉決裂により、悪いのは北朝鮮ということになりました。米国は、他国から非難されることなく、北朝鮮の意思で北の核を温存させ、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐことに成功したのです。まさに、「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という結果になったのです。

しかし、今回の会議にボルトンが同行したということ自体が、今回の交渉が最初からノー・ディールになる可能性が高かったと見るべきです。

ボルトンはトランプ政権に参加する以前の昨年2月、米ウォールストリート・ジャーナル紙に「北朝鮮への先制攻撃に関する法的検証」という意見記事を投稿しました。「bomb them(爆撃しろ)」の異名を取るボルトンが交渉テーブルに着いた以上、トランプがより強硬になったとしても不思議ではないです。

ハノイでの米朝会談2日目、突然ボルトン(左端)が
着席したときから、外交専門家たちは不安を募らせていた

第2回米朝会談の結果に一部の専門家たちはひどく失望しているようですが、あまり悲観的な見方に傾くことはないと思います。トランプと金正恩は交渉テーブルからは去りましたが、両国の交渉をつなぐ橋を完璧に壊したわけではありません。

米朝両国にとってもこの交渉を崩壊させない方が有益です。今後数週間~数カ月の焦点は、米朝両国が過去8カ月間維持してきた均衡を引き続き維持できるか、そして今後の交渉で米朝間の溝を埋めて非核化を進展させることができるかです。

米国にとってはこの均衡を維持できれば、中国に対峙している現状では、悪くはない状況です。中国にとっては最悪でしょう。米国の最大の課題は中国つぶし、北朝鮮はその従属関数でしかないのです。

米国にとっては、韓国も従属関数でしかありません。韓国が、今後中国に従属する姿勢を強めなければ、放置するでしょうし、そうでなければ、締め付けることになるでしょう。

そうして、そもそも米国の対中冷戦によって、中国が体制を変えたり、あるいは、他国に影響を及ぼせないほど弱体化すれば、北朝鮮問題というより朝鮮半島問題はだまっていても自ずと解決することになるでしょう。ただし、それには少なくとも10年、長ければ20年くらいかかるかもしれません。

その間北朝鮮が、制裁に耐え続けることができれば、今のまま均衡が保たれるでしょうが、それはかなりあやしいです。

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2019年3月1日金曜日

決裂すべくして決裂した米朝首脳会談だが・・・―【私の論評】今回の正恩の大敗北は、トランプ大統領を見くびりすぎたこと(゚д゚)!

決裂すべくして決裂した米朝首脳会談だが・・・

日本は過度の対米依存から脱却して自立すべし

ベトナム・ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談で、休憩中に散歩するトランプ大統領(右)と
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(左、2019年2月28日撮影)

2月27日・28日に米首脳会談が行われましたが、結果はドナルド・トランプ大統領が適切な決断を行ったと評価したいと思います。

首脳会談前には、トランプ大統領が成果を急ぐあまり、北朝鮮に過度の譲歩をするのではないかと多くの関係者が懸念を抱いていました。

しかし、トランプ大統領が金正恩労働党委員長の要求する「経済制裁の完全解除」を拒絶して、会談は破談となりました。

トランプ大統領は、合意に至らなかった理由について、次のように説明していますが、極めてまともな理由づけです。

「北朝鮮は制裁の完全な解除を求めたが、納得できない」

「北朝鮮は寧辺の核施設について非核化措置を打ち出したが、その施設だけでは十分ではない」

「国連との連携、ロシア、中国、その他の国々との関係もある。韓国も日本も非常に重要だ。我々が築いた信頼を壊したくない」

今回の結果を受けて一番失望しているのは金正恩委員長でしょう。彼は最小限の譲歩(寧辺の核施設について非核化措置、ミサイルの発射はしない)を提示し、最大限の成果(制裁の完全な解除)を求めすぎました。

金委員長は、トランプ大統領を甘く見過ぎて、理不尽な「経済制裁の完全解除」を要求したのは愚かな行為であり、世界の舞台で取り返しのつかない恥をかいてしまいました。

私は、今回の首脳会談の決裂は日本にとって最悪の状況が回避されて良かったと思います。一方で、朝鮮半島をめぐる環境は依然として予断を許しません。

朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、首脳会談開始日である27日に「日本がやるべきことは、徹底した謝罪と賠償をすることだけだ」と非常に無礼な反日的な主張をしています。

また、韓国は朝鮮半島の諸問題の交渉から日本を廃除し、朝鮮半島に反日の南北連邦国家を目指しています。我が国は自らを取り巻く厳しい状況を深刻に認識することが大切です。

そして、過度に米国に依存する姿勢を改め、自らの問題は自らが解決していくという当たり前の独立国家になるために、国を挙げて全力で取り組む必要があります。

トランプ大統領の発言に多くが懸念表明

27日の首脳会談の滑り出しをみて、「非核化交渉ではなく、単なる政治ショーに終わるのではないか」と懸念する人は多かったと思います。

27日会談当初のトランプ大統領と金正恩労働党委員長の発言には危いものを感じました。

トランプ大統領は「1回目の首脳会談は大成功だった。今回も1回目と同等以上に素晴らしいものになることを期待している」と発言し、金委員長は、「誰もが歓迎する素晴らしい結果が得られる自信があるし、そのために最善を尽くす」と述べました。

しかし、トランプ政権内のスタッフを含めて多くの専門家は、「1回目の首脳会談は失敗だった」と認めていて、トランプ大統領の自己評価の高さが際立っていました。

また、金委員長が発言した「誰もが歓迎する素晴らしい結果」など存在しません。 例えば、日本が歓迎する素晴らしい結果とは、北朝鮮が即座に核ミサイル・化学生物兵器及びその関連施設を廃棄し、拉致問題が解決されることです。

金委員長が日本が歓迎するような結果をもたらすわけがありません。

北朝鮮は核ミサイルを放棄しない

まず金委員長が核ミサイルを放棄することはないことを再認識すべきです。

金委員長は、核ミサイルの保有が自らの体制を維持する最も有効な手段であると確信しています。北朝鮮にとって核ミサイルの保有は国家戦略の骨幹であり、それを放棄すると北朝鮮の戦略は崩壊すると思っています。

一部のメディアは、金委員長の年頭の辞を引用し、「北朝鮮は核開発と経済建設の並進路線から経済建設一本の路線に移行した」と報道していますが、それを信じることはできません。

北朝鮮は、あくまでも核開発と経済建設の並進路線を今後も追求していくと認識し、対処すべきなのです。

一方で、トランプ大統領が自国のインテリジェンスを重視しない姿勢は問題だと思います。

トランプ氏は、「北朝鮮は脅威でない」と発言しましたが、米国の情報関係者や第一線指揮官の認識は正反対です。

彼らは、北朝鮮の核は脅威であり、その非核化に疑問を表明しています。

例えば、米国のインテリジェンス・コミュニティを統括するダニエル・コーツ国家情報長官は1月29日、上院の公聴会で次のように指摘しています。

「北朝鮮は、核兵器やその生産能力を完全には放棄しないであろう。北朝鮮の指導者たちは、体制存続のために核兵器が重要だと認識しているからだ。北朝鮮では非核化とは矛盾する活動が観測されている」

また、米インド太平洋軍司令官フィリップ・デイビッドソン海軍大将は2月12日、上院軍事委員会で次のように指摘しています。

「北朝鮮が、すべての核兵器とその製造能力を放棄する可能性は低いと考えている。北朝鮮が現在も米国と国際社会に与えている脅威を警戒し続けなければいけない」

25年間騙し続けてきた北朝鮮

北朝鮮は、核と弾道ミサイルの開発に関して、25年以上にわたって西側諸国を騙し続けてきました。北朝鮮は、核兵器の開発中止を約束しても、その合意をすべて反故にしてきました。

北朝鮮にとって核兵器と弾道ミサイルは、体制を維持していくために不可欠なものと認識しています。

北朝鮮と長年交渉してきた外交官によりますと、「北朝鮮と締結する合意文書に関しては一点の疑義もないように細心の注意を払わなければいけない。そうしないと、核放棄の約束は簡単に反故にされる」そうです。

2018年6月12日に実施された第1回米朝首脳会談の大きな問題点は、首脳会談までに両国で徹底的に詰めるべき核およびミサイル関連施設のリストや非核化のための具体的な工程表などを詰めていなかったことです。

第2回米朝首脳会談も同じ状況になっていました。米朝間においていまだに、「何をもって非核化というか」についてのコンセンサスができていないという驚くべき報道さえあります。

第2回の首脳会談も担当者間での調整不足は明らかでした。今回の会談では、金委員長が「制裁の完全な解除」という愚かな主張をしたために、米国からの譲歩は回避できたとも言えます。

北朝鮮は、今後とも「北朝鮮の非核化ではなく朝鮮半島の非核化」「段階的な非核化」を主張し続けていくことでしょう。

これらは、過去25年間の北朝鮮の常套句であり、米国などが騙されてきた主張です。

今後の米朝交渉では担当者レベルで徹底した議論と合意の形成に努力すべきです。それをしないで、首脳会談に任せるというのは避けるべきでしょう。

変化するトランプ政権の交渉姿勢

27日、記者団に「朝鮮半島の非核化を求める姿勢を後退させるのか」と問われると、トランプ氏は短く「ノー」とだけ答えました。

しかし、トランプ政権の北朝鮮に対する交渉姿勢はどんどん後退していました。かつては、「すべての選択肢はテーブルの上にある」「最大限の圧力」を合言葉にしていました。

北朝鮮に対しては、この「力を背景とした交渉しか効果がない」という経験則から判断して妥当な交渉姿勢でした。

ところが、この交渉姿勢はどんどん後退していきました。

2018年6月12日以前にトランプ政権が使用していた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID: Complete Verifiable Irreversible Denuclearization)」というキャッチフレーズは死語になりました。

その後にCVIDを放棄し、CVIDの「完全と不可逆的」の部分を削除し、グレードを下げたFFVD(Final Fully Verified Denuclearization)という用語を昨年後半から使い始めました。

FFVDは「最終的かつ十分に検証された非核化」という意味ですが、このFFVDは昨年までは使われていましたが、第2回米朝首脳会談を前にしてあまり使われなくなっていました。

そして、トランプ大統領やマイク・ポンペイオ国務長官は、「米国民が安全であればよい、核実験や弾道ミサイルの発射がなければ、北朝鮮の非核化を急がない」とまで発言するようになりました。

米国の対北朝鮮対応の変化が結果として、金正恩委員長の「制裁の完全排除」という過剰な要求の原因になったのかもしれません。

北朝鮮への対処法では、韓国の金大中元大統領の太陽政策は有名です。この太陽政策の起源は、旅人の外套を脱がせるのに北風が有効か太陽が有効かをテーマとしたイソップ物語です。

金大中の太陽政策は北朝鮮には通用しませんでした。

トランプ政権の交渉姿勢の後退は、北風から太陽への変化と比喩する人がいますが、太陽政策の失敗は「北朝鮮との交渉においては太陽政策による融和は通用しない」ことを明示しています。

米国の北朝鮮への対応は、「すべての選択肢がテーブルの上にある」に戻るべきではないでしょうか。

トランプ大統領が主張していた「北朝鮮に対する最大限の圧力」は、2017年12月がピークでした。日本の軍事専門家の一部も「2017年12月、米軍の北朝鮮攻撃」説を唱えていました。

しかし、2018年に入りトランプ大統領は「北朝鮮に対する最大限の圧力という言葉を使いたくない」とまで発言するようになり、第1回の米朝首脳会談後の記者会見では「米韓共同訓練の中止や在韓米軍の撤退」にまで言及しました。

我が国の保守の一部には、「第2回米朝首脳会談で北朝鮮が非核化を確約しなければ、トランプ大統領は躊躇なく北朝鮮を攻撃する」と主張する人がいますが、どうでしょうか。

戦争を開始するためには大統領の強烈な意志と周到な軍事作戦準備が必要です。現在の米国には両方とも欠けています。トランプ大統領には、今後とも冷静な判断を継続してもらいたいと思います。

日本にとって厳しい状況は続く

第1回の米朝首脳会談では、「核を含む大量破壊兵器とミサイル開発に関する完全で正確なリストを提出すること」が米朝間で合意されましたが、北朝鮮はそれを実行しませんでした。

この北朝鮮の頑なな姿勢が今後も変わることはないでしょう。北朝鮮は、核ミサイルの全廃を拒否し、その大部分の温存を追求するでしょう。

トランプ大統領の「米国民が安全であればよい、核実験や弾道ミサイルの発射がなければ、北朝鮮の非核化を急がない」と発言することは、米国の国益を考えればむげに非難できません。まさに、アメリカ・ファーストの考えに則った主張です。

しかし、この米国中心の発想は、日本の国益に真っ向から対立します。

なぜなら、北朝鮮の核兵器や短距離・中距離弾道ミサイルは温存されることになり、日本にとっての脅威はなくなりません。

米国の国益は日本の国益とは違うという当たり前のことを再認識すべきです。トランプ大統領が日本のために特段のことをしてくれると期待する方が甘いのです。


結言

私は、安全保障を専門としていますが、重要なことは「最悪の事態を想定し、それに十分に備え対応すること」だと思っています。

今回の首脳会談の結末は、日本にとって厳しいもので、「北朝鮮の核兵器、弾道ミサイル、化学兵器、生物兵器が残ったままになり、拉致問題も解決しない」状態です。真剣に、この厳しい事態に対処しなければいけません。

また、我が国では2020年に東京オリンピックがあり、サイバー攻撃、テロ攻撃、首都直下地震などの自然災害が予想される複合事態にも備えなければいけません。

一方、トランプ大統領にとって、米朝首脳会談後、米中の貿易戦争(覇権争い)をいかなる形で収めていくのかが最大の課題です。

この件でも米中首脳会談で決着を図ろうとしています。今回の米朝首脳会談による決着の問題点を踏まえた、適切な対応を期待したいと思います。

また、米国では2020年に大統領選挙があり、トランプ大統領の再選が取り沙汰されていますが、彼は現在、米国内において難しい状況にあります。

2018年の中間選挙において民主党が下院の過半数を確保したことにより、予算の決定権を民主党に握られ、下院の全委員会の委員長を民主党が握ることにより、厳しい政権運営を余儀なくされています。

また、トランプ大統領は複数の疑惑を追及されています。2016年大統領選挙を巡るロシアとの共謀疑惑(いわゆるロシアゲート)、その疑惑を捜査するFBIなどに対する大統領の捜査妨害疑惑、その他のスキャンダルです。

この疑惑の捜査結果いかんによっては2020年の大統領選挙における再選が危うくなることもあるでしょう。

いずれにしろ、民主主義国家において選挙は不可避です。その選挙に勝利するために対外政策への対応を誤るケースが過去に多々ありましたから、適切に対応してもらいたいと思います。

【私の論評】今回の正恩の大敗北は、トランプ大統領を見くびりすぎたこと(゚д゚)!

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は「制裁解除」ありきでトランプ米大統領とのハノイでの2回目の会談に臨んだようです。

しかも十分な実務者協議なしにトランプ氏の決断に全てを委ねる賭けに出たことが裏目に出ました。今回の会談失敗は、金氏にとって最高指導者就任以来の重大危機ともいえそうです。

「非核化の準備ができているのか」。28日の会談の合間、米記者団からこう問われると、金氏は「そのような意思がなければここに来なかった」と答えました。

「具体的措置を取る決心は」との質問には「今、話している」と応じました。これに対し、トランプ氏が下したのは「北朝鮮は準備ができていなかった」として合意を見送る結論でした。

北は、ヨンビョンだけではなく、いろいろな地点に核施設(プルトニウム工場や濃縮ウラニウム工場、加えて核弾頭作りの工場など)を保有しています。米は衛星写真などを通して、かなりの率で把握している模様です。


28日の会談でも、トランプがヨンビョン以外での濃縮ウラニウムのことを少し話しただけで金正恩が腰を抜かすほど驚いたともいわれています。米国はここ数年で北朝鮮内部の状況をかなり把握しているものとみられます。

これに加えて連邦捜査局(FBI)や中央情報局(CIA)の監視網を背景にした米国の「金融支配」により、独裁者の隠し資産は丸裸にできます。

そうして、北朝鮮や中国など、米国と敵対している国々のほとんどが、汚職で蓄財した個人資産を自国に保管しておくには適さないです。いつ国家が転覆するかわからないためで、米国やその同盟国・親密国の口座に保管をするしかありません。

米国と敵対する国々の指導者の目的は、国民の幸福ではなく、個人の蓄財と権力の拡大であるから、彼らの(海外口座の)個人資産を締め上げれば簡単に米国にひれ伏すことになります。

中央日報の報道によると、金正恩氏の海外資産は約30億〜50億ドル(約3300億〜5500億円)と言われています。

金正恩の外交力はどの国の誰にもまして素晴らしいものを持っていると考えられてもいたようですが、今回の結果を見て、あまりにも相手方を十分に値踏みできていないことが明らかになったと思います。

今後どうなっていくのでしょうか。金正恩にとっては、前が何も見えなくなったような状態にあるのではないかと思います。正恩は相当の自信をもってハノイにやってきたはずです。65時間も列車に乗ってやってきたのです。しかもその一挙手一投足を北の住民に知らせる格好でした。

今回こそ、ビッグディールに成功して、北の制裁を解き、お前たちにも楽をさせてやるぞとかなり意気込んでハノイにやってきたはずです。金氏は2月27日のトランプ氏との再会直後には「不信と誤解の敵対的な古い慣行が行く道を阻もうとしたが、それらを打ち壊してハノイに来た」と強調しました。金氏が「古い」と切り捨てたのが、北朝鮮による全ての核物質や核兵器、核施設のリスト申告に基づく非核化から進めるという本来、米側が描いていた方式です。

金氏は1月の新年の辞で「米国が一方的に何かを強要しようとし、制裁と圧迫に出るなら新たな道を模索せざるを得なくなる」と警告し、あくまで制裁解除ありきの交渉を米側に迫りました。同時に「人民生活の向上」を第一目標に掲げており、経済を圧迫する制裁は体制の将来を左右しかねない死活問題でした。

一方で、米側が求める実務者協議には応じようとせず、議題の本格協議に入ったときには会談まで1週間を切っていました。金氏はその2日後の2月23日に専用列車で平壌をたたちました。非核化と制裁に関わる重大事項はトップ同士の直談判で決めるとのメッセージでしたた。ところが、トランプ氏は会談本番で首を縦に振らなったのです。

北朝鮮は金氏の今回の長期外遊を政権高官の寄稿文などで「大長征」と持ち上げて国内向けにも大宣伝し、成果に対する住民らの期待をあおりました。28日には、両首脳の初日の会談で「全世界の関心と期待に即して包括的で画期的な結果を導き出すため、意見が交わされた」とメディアで大々的に報じていました。

米側に制裁の撤回を突き付けた新年の辞は最高指導者の公約といえ、金氏にとって制裁問題での譲歩は難しいです。金氏は退路を断つ交渉戦術で自らを窮地に追い込んだ形となりました。

金正恩体制は、恐怖政治で国民の動向を統制し、社会主義の体裁を取り繕っています。しかし実のところ、同国の計画経済はすでに崩壊しており、なし崩し的な資本主義化が進行しています。貧富の差が拡大し、良い意味でも悪い意味でも「自由」の拡大が始まっています。

それを後押ししてきたのは、実は金正恩氏自身でもあるのです。市場に対する統制を緩めたり強めたりを繰り返した父の故金正日総書記と異なり、金正恩氏は放任主義を続けてきました。この間、「トンジュ(金主)」と呼ばれる新興富裕層の存在感はいっそう大きなものとなり、彼らなしでは北朝鮮の経済は成り立たなくなっているのです。

平壌市内のトンジュ向けのカフェで

北朝鮮で民主化が起きるなら、虐げられた民衆が暴政を倒す「革命」として実現する可能性が高いと多く人がしんじてきたようです。政治犯収容所などにおける現在進行形の人権侵害を止めるには、それしか方法がないからです。

しかし、北朝鮮の体制はそれほどやわではありません。民衆が本気で権力に歯向かう兆候を見せたら、当局はすぐさま残忍に弾圧してしまうだろうことを、歴史が証明しています。

その一方、北朝鮮の体制は「利権」の浸食にめっぽう弱いです。北朝鮮社会では、当局の各部門が持つ大小様々な権限が利権化しています。北朝鮮経済は、利権の集合体であると言っても過言ではないほどで、その仕組みは「ワイロ」という名の潤滑油で回っています。軍隊の中にすら、同じような仕組みが存在するほどです。

ただ、国際社会による経済制裁に頭を抑えられているため、その仕組みはなかなか大きく成長することができませんでした。しかし、ここで制裁が緩和されたらどうなるでしょうか。

韓国や中国から流れ込む投資は、北朝鮮の経済の成長を促し、同国の人々が見たこともないような巨大な利権を生み出すでしょう。また、利権の数自体も爆発的に増え、利害関係の錯綜も複雑さを増します。もはや、ひとりの独裁者の権力の下に、すべての利害を従えることなど不可能になるのです。

そして、無数の利害関係を最大公約数的に調整する多数決の仕組み、つまりは民主主義が必要になるわけです。

いずれにしても、北朝鮮経済のなし崩し的な資本主義化の流れは止まらないです。あの国は遅かれ早かれ、上述したような道を辿ることになります。

北朝鮮の経済・社会はかわりつつあるということです。今回の首脳会談の失敗により、制裁がさらに継続されることは明らかになりました。これから、経済がさら先細りしていけば、トンジュたちの中にも不満を持つものが現れることでしょう。

2017年2月にマレーシアで殺害された北朝鮮の金正男(キム・ジョンナム)氏の息子・ハンソル氏ら家族3人をマカオから安全な場所に移したとする団体「千里馬民防衛(チョンリマミンバンウィ)」は1日、同国の金正恩体制を転覆させるため、「臨時政府」の発足をウェブサイトで表明し、北朝鮮を脱出した人々や世界各国に共闘を呼び掛けました。同時に、団体名を「自由朝鮮(チャユチョソン)」に変更しました。

同団体がウェブサイトで発表した「自由朝鮮のための宣言文」の全文は以下のリンクからご覧になれます。



さて、このような動きが活発になれば、金正恩とて安穏とはしておられません。今や、金正恩でさえ、これらトンジュを完璧に自分の意のままにあつかうことはできなくなっています。

今回の首脳会談の失敗は、トランプ大統領にはほとんど悪影響はないでしょうが、金正恩にとっては、かなり悪影響がでる可能性が大きいです。またしばらく粛清の嵐が吹き荒れるかもしれないです。そうなると、ますます制裁がエスカレートするというような悪循環に至る可能性も十分にあります。

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2019年2月28日木曜日

中国の大誤算。台湾を脅すつもりが世界を敵に回した習近平の失態―【私の論評】次の選挙の勝利を確かなものにし、長期政権を狙うには蔡英文はまともなマクロ経済政策を打ち出せ(゚д゚)!




2018年に行われた台湾統一地方選挙で惨敗を喫し、支持率を10%台まで下落させてしまった蔡英文総統。次期総統選出馬は絶望的と思われていましたが、習近平中国国家主席の台湾に対する恫喝発言がきっかけとなり支持率は一気に30%台まで回復、完全に旗色は変わったようです。台湾出身の評論家・黄文雄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、「中国の台湾に対する脅迫はたいてい逆効果を生む」とし、さらに2020年の台湾総統選の重要性を論じています。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【台湾】習近平の失態で支持率回復した蔡英文と台湾の行方

蔡総統、台湾いじめを拒否 自身への中傷に反論 中国との差アピールも

台湾の女性タレント張瑞竹が、蔡英文総統を侮辱するようなコメントをフェイスブックで投稿したことが話題になっています。

その内容は、蔡総統は「見た目も残念、スタイルも残念な女。彼女は毎日何もせず、ただ向かいに住んでいるイケメンに犯されると毎日叫んでいる」というもの。この中に出てくる「向かいに住んでいるイケメン」とは習近平を指しているそうです。習近平を暗示するなら、「イケメン(帥哥)」ではなく「アニキ(大哥)」だと思いますが…。そして極めつけは、批判文の最後についた女性差別の文字でした。

これに対して、蔡総統は自身のフェイスブックで反論しています。
CNNの独占インタビューでも言ったように、私は数千年来の華人社会において、最初に民主的に選出された女性の総統です。これにはとても大きな意義があり、この事実は女性は性別で差別されることなく、無限の可能性を秘めていることを証明しています。 
台湾の最初の女性総統として、私はあらゆる挑戦を受けますが、私は性別、見た目、スタイルといった生まれ持ったもので能力を判断することには意味がないし、主観的だし、焦点がぼやけるだけだと思います。台湾の総統が誰であれ、中国からの脅しや威嚇に対して我々台湾は絶対に屈しないということを、大声で世界にアピールするべきです。 
この点において、性別は関係ありません。士気あるのみです。
そもそも、今回の騒ぎを引き起こした張瑞竹というタレントはどういう人物なのかをちょっとご紹介しましょう。台湾の新竹市出身の50歳、2015年に中国の宝石商と結婚し上海に住んでいます。芸能活動は中国と台湾の両方で行っている中堅タレントといったところです。

台湾の芸能界は中国市場と強い結びつきがあるため、中国で活動できなくなると困る人も多くいます。そのため、張瑞竹も含め、中国で活動しているタレントは、往々にして中国を刺激するような発言をする台湾の政治家を嫌う傾向にあります。

少し以前の話ですが、2015年、蔡英文が総統選挙で当選するきっかけとなった騒動「周子瑜謝罪事件」を起こした台湾のタレント黄安も中国在住の媚中派でした。台湾人が中国で芸能活動をするには、常に中国人であることを求められるのかもしれません。今回、張瑞竹は「台湾人だって中国人だ」という発言もしています。中国に同化したほうが、彼らにとってはメリットがあるということでしょう。

しかし、蔡英文はそんなくだらないことでブレる人ではありません。彼女の批判を一蹴しただけでなく、それと前後して、蔡総統はCNNの独占インタビューやツイッターで、2020の総統選挙に再出馬することを公言しました。民進党内の派閥も、蔡派が主流となりつつあり、民進党一丸となって蔡英文支援に動きそうです。それもあってか、蔡氏は2020の総統選に向けて「自信がある」とも述べています。

台湾総統選 蔡総統、出馬の意向表明

台湾は、蔡政権になって確実に変わっています。例えば、このメルマガでも書きましたが、議会では「中華台北」という名称についての議論が公になされるようになりました。また、最近のニュースでは、米映画評論サイトがアジア・中国で最も美しい顔を選ぶ投票イベントで、台湾出身の有名人の国籍を示すアイコンに中国の五星紅旗が表示されたことで、台湾の外交部が同サイトに訂正を求めたというのです。

台湾のスターに中国・五星紅旗 外交部、「美しい顔」投票に訂正要求

「世界で最も美しい顔」というイベントだそうで、そこには台湾のタレントのリン・チーリンやジェイチョウなどが名を連ねたそうです。ひと昔前の台湾だったら、そこに「五星紅旗」が表示されても何も言わないどころか、疑問にも思わなかったかもしれません。それが、今では抗議をするまでになりました。

こうした台湾が台湾としての存在をアピールする地道な活動が国際的に認知されると同時に、正月の習近平による「台湾への武力行使も辞さない」というスピーチに危機感を覚えた欧州議会は、台湾を支援するとの内容の声明文と、議員155名の署名を、蔡英文総統に渡しました。

欧州議会が台湾支持の声明文 蔡総統が感謝 今後の協力に期待

蔡政権はまたひとつ心強い後ろ盾を得たことになります。2020年の総統選挙ですが、国民党はまだ候補者を絞れていないようで、党内調整にまだ少し時間がかかりそうです。

蔡英文総統は、2018年11月の「九合一」地方選挙で惨敗した後、党主席を辞任し、支持率は10%台まで下落したことから、2020年の総統選挙はかなり厳しいとみられ、彭明敏や李遠哲ら台独派の長老たちに再出馬を止められていました。ずっと蔡英文の再出馬を支持していたのは100歳近い史明くらいでした。

しかし、正月の習近平の演説がその状況を劇的に変えました。習近平は、台湾に「一国二制度」「武力行使」を放棄しないと脅しをかけ、蔡英文はすぐさまそれに対して反論したのです。このことが蔡英文の支持率を30%台まで引き上げました。米中経済貿易戦争で追い込まれた習近平は、台湾を脅したつもりが、敵に塩を送る結果となったわけです。

今回だけに限らず、中国の脅迫はたいてい逆効果を生むことが多くあります。それでも懲りないのは、中国の習性でしょう。中国が台湾に圧力をかければかけるほど、台湾住民の反発力も強くなります。この現象に最も困惑しているのは、国民党を中心とする台湾内の「統一派」でしょう。国民党が、フェイクニュースまで使って選挙で大勝を果たし、民進党を退けることに成功したのに、習近平のスピーチひとつで蔡英文の人気があっという間に戻ってしまったのですから。

2020年の国政選挙は、今の台湾にとって最大の課題です。台湾人にとっては、「国家」を選ぶ真剣な選択となります。2018年の「九合一」選挙では民進党が大敗し、予想外に国民党が躍進しました。中国は、この勢いに乗って台湾を併合したいとの焦りがあったから、正月の習近平のスピーチがあったのではないでしょうか。

民進党は、この選挙結果をよく分析し、政権党として今後の進路を探る必要があります。台湾が中国との統一を拒否し続けているのは、民主と独裁という体制の違いを維持したいからです。自由民主vs独裁専制の戦いです。

もしも中国が台湾に武力行使をすれば、日米もそれなりに大義名分を持って介入せざるを得ないでしょう。日米も、2020年の国政選挙の行方を見守っているはずです。目下昂進中の米中経済貿易戦争の動向も、2020年の選挙に関わる大きな外因となります。チベット、ウイグル、香港の実例も、台湾に対する影響は極めて大きく、中国の台湾に対する恫喝はどこまで台湾の存在に影響を及ぼすのか、世界も注視しています。

2020年の選挙は、人類史にとっても世紀の選択となるでしょう。

【私の論評】次の選挙の勝利を確かなものにし、長期政権を狙うには蔡英文はまともなマクロ経済政策を打ち出せ(゚д゚)!

ブログ冒頭の黄文雄紙の記事では、たいてい逆効果を生む中国の脅迫について掲載されていますが、これは戦略の大家ルトワック氏が主張する「パラドックス」によりその背景を説明することができます。

そもそも中国は「大国は小国に勝てない」という「戦略の論理」を十分に理解していません。

ある大国がはるかに国力に乏しい小国に対して攻撃的な態度に出たとします。その次に起こることは何でしょうか。

周辺の国々が、大国の「次の標的」となることを恐れ、また地域のパワーバランスが崩れるのを警戒して、その小国を助けに回るという現象があらわれるのです。その理由は、小国は他の国にとっては脅威とはならないのですが、大国はつねに潜在的な脅威だからです。
米国は、ベトナム戦争に負けましたが、ベトナムは小国だったがために中国とソ連の支援を受けることができたのです。ベトナムは小国だったゆえに、中国やソ連の脅威とはならなかったからです。

しかも共産国だけではなく資本主義国からも間接的に支援を受けていました。たとえばイギリスは朝鮮戦争で米国側を支援しましたが、ベトナム戦争での参戦を拒否しています。米国が小さな村をナパーム弾で空爆する状況を見て、小国をいじめているというイメージが生まれ、最終的には米国民でさえ、戦争を拒絶するようになってしまったからです。

つまり強くなったら弱くなるのです。戦略の世界は、普通の生活とは違ったメカニズムが働いているのです。

近年、中国は香港で民主化運動に弾圧を加え続け、さらには激しい言論統制を行っています。

北京側が香港で誘拐したり投獄したりと極めて乱暴に振舞ったことで台湾国内の親北京派の力を削いでしまったのです。

そうして、香港に限らず世界中に強い態度でのぞんだことが、世界中から警戒されるようになり、裏目にでて、トランプ大統領から貿易戦争を挑まれるという事態も招いてしまったのです。

中国指導層にとって、香港は攻撃可能な「弱い」相手でもありました。それが台湾という「周辺国」の反発を生んだのです。

中国は過去の一時期から大国戦略をとりはじめて、強く外にでたのですが、抵抗にあうことで立場が弱くなってしまったのです。

このような国際政治において発生する「逆説的」なメカニズムを、ルトワックは「パラドックス」と名づけているのです。

今回は、台湾に対して強くでたのですが、そのことがかえって台湾国内の親中派の力を弱め、世界中から反発をかってしまったのです。

2018年に行われた台湾統一地方選挙での惨敗については、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
台湾、選挙で与党敗北 習近平指導部は圧力路線に自信―【私の論評】大敗の要因は、大陸中国の暗躍だけでなく蔡総統がマクロ経済対策に無知・無関心だったこと(゚д゚)
台湾地方統一戦を終え記者の質問に答える蔡英文総統=11月24日、新北市
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事で惨敗の原因としてあげたのは、大陸中国の暗躍もあったのは確かですが、それに次いで、蔡英文総統のマクロ経済政策への無知・無関心をあげました。

その理由としては、蔡英文政権があげている経済政策は、「新南向政策」であり、要するに台湾の南の国々、すなわちASEAN諸国等との交流を活発化させるというものです。しかし、これは経済性ではなく外交政策です。

一国の経済政策においては、やはり自国のマクロ経済政策が最も重要であり、それをおろそかにして、貿易を盛んにしたとしても、国内経済は必ずしも良くなるわけではありません。

実際、台湾人々は何を気にしているのかといえば、当然のこと自分たちの生活の改善である。 その意味で蔡英文総統が誕生した当初には、民進党政権に大きな期待が寄せられました。 

しかし、結果的に民進党は人々の期待に応えられなかったといってもよいでしょう。

焦った民進党は選挙を前に慌てて基本月給や時給を引き上げる政策を打ち出したが、効果はありませんでした。

台湾住民の貯蓄率はずっと下降傾向にあるが、昨年は過去5年間で最低になるなど、家計の厳しさを示す数字は枚挙に暇がありません。

だから、私自身は、やはりマクロ政策のまずさに原因ありとみたのです。

以下にさらにデータを列挙します。以下は、インフレ率の推移(1980~2018年)を台湾と日本で比較したものです。

グラフで比較していいただけると、よくわかりますが、1982年くらいから日本と同じような動きをしています。

これは、日本が平成時代のほとんどがデフレ状況であったことさらに、最近では物価目標がなかなか達成できていないことを考慮すると、台湾も金融緩和をする余地がかなりあるといえます。台湾は金利は、長期にわたって据え置かれているのですが、それだけではなく、さらに金利を低くするかゼロ金利にして、量的緩和も実行すべきと思います。私は台湾ならば、インフレ率は3%〜4%くらいでも良いのではないかと思います。

以下は、経済成長率の推移の比較です。


過去においては、5%程度の成長をしていたものが、近年で日本とあまり変わりないようです。日本は近年では消費増税をしたので、成長率は低いです。台湾はもっと経済成長をさせ、少なくとも毎年5%くらいは維持すべきです。

やはり、台湾は量的金融緩和をし、積極財政も実行すべきです。蔡英文政権は、台湾の経済を一段高い段階にもっていくべきです。これによって、さらに台湾の経済を数年間で一段高い段階にもってくことを国民に約束し実行するのです。それも、大陸中国などに頼らなくても、台湾が自力でそれをなしとげることを国民に誓うのです。

先に述べたように、中国によるパラドックスがあるので、それに脅威を感じる国民が増えたので、次の選挙で蔡英文政権は勝てるとは思いますが、それをさらに確かなものとするとともに、長期政権を狙うためには、まずはまともな経済対策を打つことを表明すべきです。

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2019年2月27日水曜日

北朝鮮とベトナムの友情の秘密―【私の論評】友情の背景には中国の覇権主義が(゚д゚)!

北朝鮮とベトナムの友情の秘密

パスカル・ヤン (著述家)

 フレデリック・フォーサイスの『戦争の犬たち』が映画化されたのは、1980年のことだった。小説が素晴らしいので楽しみにしていると、ベルギーで友達になった米国人女性が既に観たが、がっかりでむしろ同種の傭兵映画『ワイルド・ギース』を激賞し、小説『リンガラ・コード』もいいが、『戦争の犬たち』の映画を酷評していた。

 彼女は、ザイールのキンシャサ駐在員の妻で、健康診断と休暇をかねてベルギーのブリュセルに数週間滞在しているようだった。

 彼女のお陰で、立て続けにアフリカを舞台にした映画を見ると、ソ連邦の影響なのか、キューバ兵が必ず登場する。米国の世界戦略に対して、ソ連も当時は元気いっぱいで、世界を手中に収めるべく、たとえば、イスラエルとの中東戦争では、操縦士を東ドイツからエジプトに派遣し、現地の操縦士の苦手な夜間の空中戦に備え国際化していたのだ。今で言えば中国のアフリカ進出と同じであろうか。

ソビエト社会主義共和国連邦大使館広報部が日本人向けに刊行していた月刊広報誌
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 歩兵軍団としては、ソ連の代わりにキューバ兵が共産化したアフリカ中央部に多数派遣され、上記の映画では、『怪傑ゾロ』のスペイン兵のように必ず登場し、死んでも死んでも登場していたと記憶する。

ソ連への旅

 そんな折、留学中のベルギーの大学にビラが貼られ、真冬のモスクワとレニングラード(現在のサンクトペテルスブルグ)に15日間現在の貨幣価値でも5万円程度で行けると出ていた。

 試験も終わり、真冬ではあるが、ソ連をみる絶好のチャンスだと思い参加をきめた。その間、二回ほど事前の集合があったが、手続き的な説明でビザや通貨の問題であり、洗脳教育はなかったのか、あったのか、眠っていたので不明だ。

 パスポートは、白紙でできたものをソ連の国営インツリーストが用意してくれ、旅の最後に回収とのことであった。「ソ連の入国スタンプがあると就職にも困るだろう」だと、よく知っている。

 既に、冷戦も末期になっており、軋みが生まれ始めるなか、ソ連は必死に軍備拡張と人気取りをしながら、厳しいアフガン戦争の最中であったのだ。

 1月も半ばに成り、凍え死ぬようなベルギーからアエロフロートのイリューシン62に乗って、更に極寒地モスクワのシュレメチボ第二空港に到着した。そこからは、インツリーストの手配に乗り、コンベアーに乗って盛りだくさんな旅がはじまった。

 時々、洗脳教育の時間があったが、講師はすべてフランス語が完璧に話すロシア人であり、フランス語系ベルギー大学生なので、ヒートアップした議論が展開されることになる。メンバーで外国人は、僕のほか米国人が数名いたが、「SS20配置」問題やシベリアガスパイプライン問題、アフガン問題に関する議論には、僕らは聞くだけであった。白熱して入ることはできなったと言うべきだろう。

 しかし、ロシア人はフランス語を使いながら、極めて丁寧に防戦し、社会主義がいかに素晴らしいかを教えているのだが、ハンガリー動乱やプラハの春についての話になると、さらに防戦一方になっていたようだ。

1989年 全ソビエト労働組合の水着コンペティション作品

 不思議なことに、米国人学生の一人は、三沢にとても詳しくその後、彼とは音信不通になって現在に至っている。

 そんなチームとの珍道中で、有名な大学のキャンパスや星の町も訪問し、レニングラードではコンサート三昧や食事三昧であった。食糧難のソビエト連邦で、僕らに対する見栄なのか、後半は食べ疲れてしまい、半分以上は手つかずで、残るのを見計らったかのように、ウエーターが別の容器に回収していた。その手際の良さは、神の手のようであり、バナナなど南方の果物は金貨を扱うように回収していたのを思い出す。

 米国人は、ソ連の崩壊をいっていたが、確かにその後10年は持たなかったのだ。アンドロポフ、チェルネンコ時代であり、モスクワもレニングラードにも笑いは全く存在していなかった。地下鉄の過度な美しさやシステムに驚いたが、逆に国内便の旅客機は、飛ぶのが不思議な代物で、当時禁止されていた、『ドクトル・ジバゴ』の映画、ララのテーマが何度も機内でながれていて、ちぐはぐさに全員で大笑いした。

 中でも、世界から青年を集めたパトリス・ルムンバ大学で、別のちぐはぐさを目撃した。平等のはずの社会主義で、肌の色による差別が隠然と存在していることを知り、その後、たまたまタクシーを待つことになり、僕と黒人の仲間を少し離れて待つように先方の学生からアドバイスをうけた。後で聞くと、ソ連は人種のカーストがあり、黒人、アジア人、アラブ人は、差別されてしまうとのこと。それもあからさまだそうだ。

ソ連での北朝鮮人とベトナム人の出会い

 そういえば、アフリカからの留学生も多いし、アジア人も多数いたが、フランスやベルギーの大学でよく見る、黒人と白人のカップルは皆無であったのだ。

 聞いてみると、はやりアジア人同士の結束や、ラテンアメリカ人同士のコミニティーはあるが、人種を超えての結束は皆無だとのこと。かといって同国人の結束が強いかというと違うようだ。

 各国の共産主義の度合いに応じてもカーストがあるようで、キューバは圧倒的に高いようだが、役割としては兵士をアフリカに提供することのようであった。

 そして、北朝鮮からの学生は原典を徹底して勉強し、ベトナムの学生と成績を争っているとのこと。

 当時パリの日本館や国際学生村を思い出したが、そこでも台湾からの学生と日本からの学生は旧知のようなつきあいがすぐに始り、その後終生続く場合も多い。

 ベトナムからの留学生と北朝鮮からの留学生は今でもひとたびロシア語になれば、時空を超えて、モスクワでも学生時代に戻るに違いないのだ。

 ベトナムも北朝鮮もソ連邦のお陰で、そんな財産をもっていることを,トランプ大統領は知ってのだろうか。

【私の論評】友情の背景には中国の覇権主義が(゚д゚)!
冒頭の記事では、

「ベトナムからの留学生と北朝鮮からの留学生は今でもひとたびロシア語になれば、時空を超えて、モスクワでも学生時代に戻るに違いないのだ。

ベトナムも北朝鮮もソ連邦のお陰で、そんな財産をもっている」

などとしていますが、北朝鮮とベトナムの友情の背後には、無論そういう側面もあることは否定しませんが、そのようなことよりももっと大きな背景があると思います。本日はそれについて解説します。ただし、上の記事を書いた人は、そのことは当然であり、その上でソ連のとりもつ縁を語っているのかもしれません。

トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩党委員長は2月27~28日に、ベトナムの首都ハノイで2度目の首脳会談を開催中です。

握手するトランプ米大統領と金正恩労働党委員長=27日、ハノイ

昨年6月のシンガポール会談は華やかなイベントにすぎず、「取りあえず世界から脚光を浴びよう」と両首脳とも思ったのでしょうが、今回は違うはずです。米朝両国にとって、ベトナムは特別な国です。この因縁の地で長い対立に終止符を打ち、一歩前へ踏み出そうとしているのではないでしょうか。

かつてベトナムは泥沼の戦争に耐えて、米国を敗走させました。ベトナム戦争終結から20年余り後の95年に国交正常化を実現。その間、ベトナムは86年からドイモイ(刷新)政策を進めて経済発展を遂げ、国際的な孤立状態から脱出していました。米国からすれば、ベトナムは対立から和解へと移行できた建設的なパートナーといえます。

一方、朝鮮戦争で戦った北朝鮮とは53年に休戦協定を結んだ後も国交樹立には程遠く、朝鮮半島は「冷戦最後の地」と言われています。国民を飢餓に追い込みながら軍事優先で核ミサイル開発に突き進んできた北朝鮮の歴代指導者も経済発展の重要性は認識していただでしょうが、本格的な改革開放に踏み切れないでいました。実際、金が中国を訪問するたびに先端科学技術を誇る同国の工場や研究所を見学するのは、

「自国を豊かにしたい」という気持ちの表れでしょう。問題はどこを経済発展のモデルとするかです。「ベトナムに見習え」と、トランプは金に言い聞かせるかもしれないです。もはや行き詰まりを見せつつある中国流社会主義市場経済の「成功物語」よりも、対米関係において同じような歴史問題を見事に解決してきたベトナムのほうが身近な模範になりそうです。

金にとっても、ベトナムは親しみを覚える相手です。昨年12月3日、在ハノイ北朝鮮大使館は、「建国の父」金日成(キム・イルソン)国家主席のベトナム訪問60周年を記念する行事を開催して、両国の厚情を温めました。

中国の覇権主義に対抗

容姿から歩き方まで祖父そっくりの正恩にとって、ベトナム訪問を実現すれば対内的に二重の宣伝になります。祖父の「偉大な足跡」をたどっていることと、祖父でさえ解決できなかった「米帝との戦後処理」を清算した、と誇示できるからです。

ベトナムと北朝鮮の対米関係を考える場合、陰の存在となってきた大国、中国を忘れるべきではありません。

中国は「抗米援朝/援越」という歴史ドラマの主人公でした。朝鮮戦争では50年から最終的に撤退する58年まで、中国は約135万人以上の「志願軍(義勇軍)」を投入しました。犠牲者の中には最高指導者・毛沢東の息子も含まれています。中国と文字どおり「鮮血で固められた友情」を構築したことで、北朝鮮は国家の命脈を保てました。

ベトナムに対しても、中国は志願軍としての派遣こそなかったものの、数十万人規模に上る軍事技術者と労働者を送り込み、武器弾薬の提供を惜しみませんでした。社会主義体制を守るために共同戦線を組んでいました。

しかし、大国米国に勝った小国ベトナムは、温情を装った中国の覇権主義的内政干渉に果敢に異議を唱えました。中国が「恩知らずを懲罰」しようとして起きたのが79年の中越戦争です。ベトナムと同じく、歴史的に長らく陸続きの中国による支配下に置かれてきた北朝鮮はこの懲罰戦争を苦々しく傍観し、心情的にはベトナムを支援したことでしょう。

結局、中越戦争は社会主義国同士が交戦することで、冷戦体制の崩壊を促しました。イデオロギー的な対立以上に中国の覇権主義こそが脅威、という現実を国際社会に認識させたからです。

1979年に中国・ベトナム間で勃発した戦争。ポル・ポト政権を崩壊させたベトナムへの懲罰として
中国は解放軍10万人を派遣。しかし、装備・練度共に優越するベトナム軍に解放軍は
大損害を被り、1ヶ月足らずで撤退を余儀無くされた。

ベトナムも北朝鮮も中国と直接国境を接しています。ベトナムは中越戦争に勝利して中国を屈服させました。これは、同じく中国と国境を接している北朝鮮は大いに勇気づけられたでしょう。

一方の北朝鮮は、中国と戦争をしたことはありませんが、やはり中国と国境を接しており、中国に何かと干渉されていました。ところが、北朝鮮が核とミサイルを開発してからこれはずいぶんと変わりました。

北朝鮮と中国は国境を接していることから、短距離ミサイルでも中国を攻撃できます。国境付近で中国が不穏な動きをみせた場合は、短距離核ミサイルでこれを撃破することができます。

さらに、中距離核ミサイルでも、北京や上海などの大都市を攻撃することができます。ICBMでなくても、中国の要衝を叩くことができます。

これは、米国よりも中国のほうが脅威を感じていると言っても過言ではないでしょう。もし、北朝鮮が核を有していなければ、金正恩は叔父である張成沢を粛清したり、兄である金正男を暗殺することはできなかったでしょう。それを実行すれば、ただちに中国が何らかの行動に出た可能性が大です。

しかし、核を持つ北朝鮮に対して、中国はそれはできませんでした。そうして、現状をみまわしていると、北朝鮮は中国に従属しようとする韓国にかわって、今や朝鮮半島が中国に侵食されないように防波堤の役割を担っているのです。

ただし、無論私はこの金正恩の決断を支持するわけではありません。それはまた世界がより危険になることを意味するからです。混み合う空港で異母兄の殺害を命じる男ならば(韓国の情報当局が正しければ)、より多くの人々を死滅させることが自身の存続を保証すると思えば、あるいはもう失うものは何もないと感じれば、ためらうことは何もないことでしょう。

しかし、もし北朝鮮が核を有していなければ、今日米国と首脳会談を開催することなどできなかったでしょう。それどころか、金王朝は滅ぼされ、北には中国の傀儡政権が樹立され、今頃韓国を最終的に組み込もうとしていたに違いありません。

これに関しては、ベトナムを多いに勇気づけたことでしょう。北の核は、中国の注意をそれにひきつけるということで、ベトナムにとっても、安全保障上のメリットがあることはいうまでもありません。実行するしないは別にして、ベトナムも核を持つという選択肢もあり得ることを認識しているに違いありません。

2月のハノイには中国の習近平(シー・チンピン)国家主席も晴れ舞台に登場したいに違いないですが、今のところ誰からも招待されていないようです。ただ米朝会談後、金が帰途に北京詣でをするならば、習は金を「礼儀正しい、儒教精神の長幼の序をわきまえた好青年」と評価することでしょう。

ただし、核を持つ北朝鮮に対しては、習近平といえども好き勝手に干渉することはできません。その北朝鮮が米国側につくことになれば、中国の安全保障政策も大きく変わるに違いありません。

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2019年2月26日火曜日

米朝首脳会談…同じ船に乗るトランプ氏と正恩氏 キーワードは北朝鮮に眠る「驚くべき資源」―【私の論評】米朝首脳会談次第で北はどうする?あらゆる可能性を視野に(゚д゚)!

米朝首脳会談…同じ船に乗るトランプ氏と正恩氏 キーワードは北朝鮮に眠る「驚くべき資源」

金正恩(左)とトランプ(右)

ドナルド・トランプ米大統領と、北朝鮮の金 正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は27、28日、ベトナムの首都ハノイで2回目の首脳会談を行う。

 世上では、米朝首脳会談はトランプ氏が前のめりで、正恩氏のペースで進められるのではないか-と懸念する向きが多い。

 果たして、この指摘は正しいのか、検証してみる。

 注視すべきは、同首脳会談実現に向けて繰り返された、米朝実務者協議の米側代表であるスティーブン・ビーガン北朝鮮政策特別代表が1月31日、米スタンフォード大学で行った講演(全文3800語)である。

 注目すべき箇所は、次のフレーズだ。

 「トランプ大統領が、金正恩委員長に(シンガポールで)会ったとき、堅固な経済開発が北朝鮮にどのような意味を付与するかについてビジョンを示しました。それは、朝鮮半島の驚くべき資源を利用して構築される投資、外部との交流、そして貿易などの明るい未来と、計画の成功のためのわれわれの戦略の一部です」

 キーワードは「驚くべき資源」である。

 トランプ氏は2月8日のツイッターで、首脳会談の開催地がハノイに決まったと明らかにした。

 と同時に、かつてミサイル実験を繰り返す正恩氏を「ロケットマン」と揶揄(やゆ)したが、このツイッターでは「北朝鮮は違うロケットに、すなわち経済のロケットになるだろう」と、ヨイショしたのだ。

 では、困窮する北朝鮮経済を「経済のロケット」にする「驚くべき資源」とは、いったい何なのか。

 米地質調査所(USGS)や、日本貿易振興機構(JETRO)などの「資料」によると、半端ない量のマグネサイト、タングステン、モリブデン、レアアースなどのレアメタル(希少金属)が埋蔵されているという。

 さらに、石油の埋蔵量も有望とされる。だが、「千三つ」(=試掘井を1000カ所掘削しても3カ所出るかどうかの確率)と言われるほど投資リスクが高く、高度の掘削技術が必要である。米国が構想しているのは、エクソン・モービルなど米石油メジャーとの共同開発なのだ。

 一方のレアメタルについても、中国の習近平国家主席が進める「宇宙強国」構想に負けないためにも、宇宙・航空産業が喉から手が出るほど欲しい。

 遠くない将来、かの地で採掘・精製施設建設まで実現できれば、計り知れない「利」が期待できる。地政学的に採算ベースに合うのだ。

 トランプ、正恩両氏は同床異夢であれ、取りあえず同じ船に乗ろうとしているのだ。(ジャーナリスト・歳川隆雄)

【私の論評】米朝首脳会談次第で北はどうする?あらゆる可能性を視野に(゚д゚)!

金正恩氏を乗せた特別列車=2019年2月26日午前、広西チワン族自治区憑祥

「朝は輝けこの山河 金銀の資源も満ち 三千里美しきわが祖国」

北朝鮮の朝鮮中央放送は、放送開始と終了時に、北の国歌「愛国歌」を流します。その歌詞にあるように、この国の地下資源は豊富です。冒頭の記事にもあるように、鉄鉱石や石炭、燐灰石、マグネサイト、ウランなど、2百種類を超える有用鉱物が確認されており、経済的な価値がある鉱物資源も40種を超えます。

近年とみに価値が高まっている希少金属のタングステン、ニッケル、モリブデン、マンガン、コバルト、チタニウムなども豊富とされています。

これらの「価値」の評価は、国際的な価格の変動や調査機関によって異なります。韓国の大韓鉱業振興公社は2008年月に総額2千2百87兆ウォン(約176兆円)と推定しましたが、韓国の統一省は09年10月に国会に提出した資料で6千9百84兆ウォン(08年基準=約5百37兆円)とまで見積もりました。評価額に差があっても鉱物資源が「宝の山」であることに変わりはありません。

米国の資源探査衛星による調査で、軍需産業などには欠かせないタングステンも世界の埋蔵量のほぼ半分がある可能性が報告されました。
さらに、ウランも約4百万トンの埋蔵量があるとされます。これは北を除く世界の採取可能な推定埋蔵量とほぼ同じ量との見方もあります。北が自前の原子力発電や核に固執する理由のひとつは、その燃料を豊富に持っていることです。原子力発電を実現できれば北のエネルギー不足は大きく改善されます。

無論石炭の埋蔵量も多く、韓国の研究者の推計によれば、北朝鮮全体の石炭埋蔵量は90億であり、そのうち61億トンが採掘可能と見られる。後者の内訳は無煙炭が16億トン、褐炭が34億トン、超無煙炭が11億トンである。なお、瀝青炭は産出されないため、鉄鋼生産などに使用する分は全量を輸入に頼っています。

日本の統治時代には、石炭は様々な産業の基盤だったこともあり、北朝鮮のほうが南よりも産業基盤が整っていました。南にはほとんど産業基盤がなく、農業が主体でした。そのため大東亜戦争終戦直後からしばらくは、北朝鮮のほうがGDPも南より大きく、韓国が北朝鮮のGDPを追い抜いたのは1970年代に入ってからことです。

ところが、現時点で北朝鮮の鉱物資源は「宝の持ち腐れ」に近いです。施設の老朽化や、機材や技術、エネルギー不足などの理由から、生産性が上がらないためです。たとえば、鉄鉱石の生産は1985年の9百80万トンをピークに減少に転じ、98年には2百89万トンまで減りました。その後の経済回復で08年には5百31万トンまで戻ったのですが、状況は他の鉱物資源も同様であり、国民は「金の山」の上で暮らしながら飢餓と闘っているのが現実です。

鉱物資源協力は資源の「貿易」以上の経済的便益を南北の両側にもたらす可能性があります。朝鮮半島は面積は狭いですが南と北の地下資源の賦存環境が大きく異なります。韓国は世界5位の鉱物資源の輸入国で鉱物自給率が極めて低く、全体鉱物の輸入依存度は88.4%にのぼります。



政治的緊張がなければ、隣接した両地域の格段の鉱物資源分布の差が経済的側面で自然と相互に鉱物資源貿易・投資をもたらした可能性もあります。

北朝鮮の鉱物資源開発の過程でまず必要なのは、鉱山開発に使われる莫大な量の電力供給を解決することです。文大統領が金委員長に渡した新経済構想の資料に「発電所」が含まれていたのは、これと無関係ではないと見られています。2007年、鉱物資源公社が端川地域の鉱山開発の妥当性の検討に乗り出すときも、北朝鮮の水力発電設備を改・補修して電力を供給する案を検討したことがありました。

経済を対外開放した国の大部分は、地下資源の採掘権を海外に与えて、国富を蓄積してきた。ミャンマーやカンボジアのように、比較的最近に民主化した国家も、中国などに鉱山開発を任せ、一定の収益を受け取ってきました。

北朝鮮が次なる経済協力案件として地下資源を本格化させれば、北朝鮮の経済成長に大きく寄与できるのは明らかです。韓国のエネルギー経済研究院によれば、北朝鮮のGDPにおいて鉱業は全体の13.4%であり、北朝鮮の輸出額の70%を鉱物が占めます。

鉱山を開発すれば、製鉄や精錬のような加工産業に対する投資が行われ、雇用拡大と付加価値創出にもつながります。南北鉱物資源開発協力がスムーズに行われれば、北朝鮮に対する財政的支援という負担がなくても、北朝鮮の経済開発と経済協力事業を同時に推進できます。

米朝首脳会談の行方を見守る必要がありますが、現在は国連による経済制裁で北朝鮮の物資を韓国へ持ち込めません。経済制裁が解除されない状況では、当然協力もないです。米朝会談ではこれも話し合われることになるでしょう。

制裁解除は北朝鮮への米国の意思が重要です。現実的な問題もあります。韓国政府は2007年に8000万ドルを借款形式で北朝鮮に提供したのですが、2010年以降、南北経済協力はほかの協力事業とともに、中断したままです。

2012年にこの借款を提供した韓国の輸出入銀行が、5年の返済猶予が終了した後に償還の開始を北朝鮮側に要求したのですが、なしのつぶてだといいます。南北経済協力事業を経験した韓国政府側関係者は「経済協力を始めるなら、まず北朝鮮が8000万ドルの借款を償還すべきだ。南北合弁で開発した鉱山の契約も履行すべき」と言います。

この関係者は「ただ今回の首脳会談が関係回復に優先順位を置いていたので、経済協力が再開されたとしても、問題が経済的な論理で解決されるとは思えない」と打ち明けます。

資源を共同開発しても、その果実を収穫できるインフラ建設と、投資への安全性保障も必要です。しかし、開城(ケソン)工業団地が突然閉鎖されたように、投資家が人質のような形に追いやられる余地が残っているのなら、経済協力の軸となる民間企業が資源開発投資を行うことはできなです。

現在、北朝鮮の地下資源投資に関する法律は、北南経済協力法と外国人投資関連法、地下資源法があります。北南経済協力法は宣言的な内容にすぎないため、投資への安全を保障することはできないです。

地下資源法によれば、廃鉱も許可制とされています。経済性がなくても投資家が自律的に廃鉱を決定できないことになります。開発主体も北朝鮮国内機関に限定されています。外国人投資法でも資源輸出を目的とする外国人企業の投資は禁止されています。北朝鮮の法意識上、最高統治者と朝鮮労働党、政府との関係が複雑であることや既存の関連法が存在するだけに、特別法やこれに準ずる具体的な協議が必要とされるでしょう。

実は北朝鮮の資源をめぐる争奪戦は、すでに始まって久しいです。2004年から11年の間に北朝鮮で合弁事業を開始した世界の企業は350社を超します。中国以外ではドイツ、イタリア、スイス、エジプト、シンガポール、台湾、香港、タイが積極的ですが、そうした国々よりはるかに先行しているのは、意外にも英国です。

英国は01年に北朝鮮と国交を回復し、平壌に大使館を開設。06年には、金融監督庁(FSA)が北朝鮮向けの開発投資ファンドに認可を与えたため、英国系投資ファンドの多くが動き出しました。

具体的には、アングロ・シノ・キャピタル社が5000万ドル規模の朝鮮開発投資ファンドを設立し、鉱山開発に名乗りを上げました。北朝鮮に眠る地下資源の価値は6兆ドルとも見積もられています。そのため、投資家からの関心は非常に高く、瞬く間に1億ドルを超える資金の調達に成功しました。また、英国の石油開発会社アミネックス社は、北朝鮮政府と石油の独占探査契約を結び、1000万ドルを投資して、西海岸地域の海と陸の両方で油田探査を行う計画を進めています。

一方、ロシアは冷戦時代に開発した超深度の掘削技術を武器に、北朝鮮に対し油田の共同探査と採掘を持ちかけています。この技術は欧米の石油メジャーでも持たない高度なものであり、ベトナムのホーチミン沖で新たな油田が発見されたのも、ロシアの技術協力の賜物といわれています。15年4月には、ロシアと北朝鮮は宇宙開発でも合意しています。両国の関係は近年急速に進化しており、ロシアは新たに北朝鮮の鉄道整備のために250億ドルの資金提供を約束しています。

韓国の現代グループは、1998年から独占的に金剛山の観光事業を行っていますが、数百億円に及ぶ赤字を出しながらも撤退しないのは、金剛山周辺に眠っているタングステン開発への足がかりを残しておきたいからでしよう。

米国からは、超党派の議員団がしばしば平壌を訪問していますが、核開発疑惑が表沙汰になる前の98年6月には、全米鉱山協会がロックフェラー財団の資金提供を受け、現地調査を行いました。その上で、5億ドルを支払い北朝鮮の鉱山の試掘権を入手しています。当面の核問題が決着すれば、すぐにでも試掘を始めたいといいます。

韓国はじめ、中国、ロシアといった周辺国や米国、英国の支援を得ることで、豊富な地下資源を開発することに成功すれば、北朝鮮は現在の中国のように急成長することが期待されます。今が安く先物買いをする絶好のチャンスだと宣伝しているのです。実は、2015年4月、北朝鮮のリスユン外相はインドを訪問し、スワラジ外相との間で北朝鮮の地下資源開発と輸出契約の基本合意に達しています。

インドにとっては、中国と北朝鮮の関係が変化するなか、北朝鮮との資源外交を強化しようとの思惑が見え隠れします。要は、国境紛争やインド洋への影響力を強めつつある中国をけん制するためにも、北朝鮮を懐柔しようとするのがインドの狙いと思われます。

日本人の大半はそのような動きにはついていけず、発想そのものに抵抗を感じるでしょうし、金儲けを最優先する投資ファンドの動きには嫌悪感すら抱くに違いないでしょう。しかし、これが世界の現実なのです。

文在寅(左)と習近平(右)

さらに、これは以前からこのブログに掲載していることですから、米国側からみると、北朝鮮の核は結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいます。以前からこのブログに掲載しているように、北朝鮮は中国からの完全独立を希求しています。韓国は、以前から中国に従属しようとしている国です。

北朝鮮の核は、日米だけではなく、中国にとっても大きな脅威なのです。もし、北に核がなければ、はやい時期に朝鮮半島は中国のものになっていたか、傀儡政権によって南北統一がなされていたかもしれません。これは、最悪の事態です。

であれば、現在中国と対立している米国からすれば、米国に到達するICBMは別にして、北朝鮮に現在ある中短距離核ミサイルは中国に対する牽制になります。

そのため、今回の米朝首脳会談では、ICBMの撤去を最初に行い、中短距離は後でということになる可能性が高いです。

日本人の大半は金儲けを最優先する投資ファンドの動きについていけないのと同様に、軍事戦略的そのものに抵抗を感じるでしょうし、このような米国や北朝鮮の動きには嫌悪感すら抱くに違いないでしょう。しかし、これも世界の現実なのです。

21日には、トランプ大統領がTwitterで「第3回目の会談開催の可能性」を示唆しました。これは、第3回目の可能性をテーブルに挙げておくことで、米国が満足する結果が得られるまで、延々と会談は続けられ、それまでは対北朝鮮制裁の締め付けは緩めないというメッセージであると考えられます。

そして、報道されない現状として、米軍の攻撃部隊がアジアに集結してきているという事実もあります。これは、第2回首脳会談の結果次第では、米国は対北朝鮮攻撃に踏み切るという無言のプレッシャーでしょう。つまり、表向きに伝えられているよりも、米朝間の関係をめぐる緊張感は思いのほか高まっているのです。

そして、その緊張感は、北朝鮮側に立っている中国やロシアの動きを封じ込める役割も果たしています。両国とも米国が北朝鮮を攻撃するという事態は最悪のシナリオとなり、さらに朝鮮戦争時と違い、とても迎え撃つことはできないため、27日までは両国とも沈黙を保っています。同時に考え得る混乱に備え、すでに中朝国境やロシア・北朝鮮国境付近には、北朝鮮からの難民の流入を阻止するために軍隊が配備されています。つまり、北朝鮮は実際には孤立しているとも言えます。

しかし、その孤立を和らげているのが、文大統領率いる韓国政府です。国連安全保障理事会で合意された対北朝鮮制裁の内容に公然と違反して、包囲網を破っていますし、同盟国であるはずの日米両国をあの手この手で激怒させて、意図的に長年の友人を遠ざける戦略を取っています。その反面、北朝鮮との融和をどんどん進め、もしかしたら朝鮮半島の統一は近いのではないか、との幻覚を抱かせる効果も出ています。

それを演出しているのは、中国でしょう。日米韓の同盟は長年、中国にとってはとても目障りな存在でしたが、このところ韓国が日米に反抗するようになり、同盟の基盤が崩れ去る中、中国にとっては国家安全保障上の懸念が薄まってきています。北東アジア地域における覇権を握るために、北朝鮮を通じて韓国に働きかけを行い、日米の影響力を削ごうとする願いが見え隠れしているように思います。

もし、米国が従来通りに北朝鮮への攻撃をためらってくれるのであれば、中国の思惑通りに進みますが、仮にトランプ大統領が攻撃にゴーサインを出してしまったら、中国は究極の選択を迫られることになります。それは、あくまでも北朝鮮の後ろ盾として米国への対抗姿勢を貫くか、もしくは、北朝鮮・韓国を見捨てて自らの安全保障・存続を選ぶかの2択です。普通に考えると後者を選択するでしょうが、今、それが許されるための手はずを整えているように思います。

では、そのような際に日本はどうでしょうか?まず拉致問題については、直接的かつ迅速な解決は望めないと思いますが、第1回首脳会談と同じく、トランプ大統領が拉致問題の解決の重要性を強調することには変わりないと思われるため、何らかのブレイクスルーが起こるかもしれません。

また、メディアでは悲観的かつ絶望的な見方が多数を占めていますが、実際には水面下で日朝首脳会談に向けた調整も行われており、北朝鮮の経済的な発展へのサポートの見返りに、拉致問題に関わる様々な問題に対する“答え”を得るという折衝も続けられていますので、第2回米朝首脳会談に対しては大いに期待していることと思います。

そして第2回米朝首脳会談が終わる2月28日は、いみじくも米中貿易戦争における報復関税猶予期間の最終日ですので、第2回米朝首脳会談の結果は、米中が様々な局面で争う新冷戦時代に大きな影響力を与えることにもなりかねません。

明日から運命の会談は開催されますが、どのような結果になるのか、固唾を飲んで見守りたいと思います。

この首脳会談の結果が出次第、日本としては国際政治経済ならびに安全保証の動きを冷静にとらえ、北朝鮮に対する戦略を練り直す必要があるでしょう。

仲が良いと思っていた金委員長と韓国の文在寅大統領がある日突然離反し、北と米国が、中国に対峙するという観点から急接近するかもしれません。あるいは、大方の予想を裏切り米国が最終的に北に対して軍事攻撃をするかもしれません。そうなれば、朝鮮戦争当時とは違い今ややり返す力のない中国やロシアは仰天することでしょう。

特に、中国にはかなりの見せしめになります。習近平は、金正恩や金正日と同じ恐怖を味わうことになります。ありとあらゆる状況を視野に入れておくべきです。「想定外」では済まされないです。

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