2019年9月15日日曜日

「国にカネがない」報道は真っ赤なウソ~「国債費」を見ればわかる―【私の論評】財務官僚は、必要以上に国債発行額を膨らませて、財政危機を煽っている(゚д゚)!


きな臭い理由を解説しよう

同じ財布でカネを借りて返す

8月末といえば、霞が関の各省庁にとって次年度の概算要求を行う時期だ。全体では6年連続の100兆円超えとなる、過去最大の105兆円規模とみられている。

本コラムで注目してみたいのは、国債の利払いや償還に充てられる「国債費」についてだ。財務省は8月26日、この国債費を前年度要求額より3872億円(1・6%)多い24兆9746億円とする方針を固めた。要求段階での増額は2年連続となる。


国債費は一般会計歳出の実に23.2%を占める 詳細はこちらから

そもそも国債費は、財務省の理財局が財務省の主計局に対して概算要求を行うものだ。来年度の国債費要求額24兆9746億円は、本年度予算額23兆5082億円より1兆4664億円多い。その内訳は、債務償還費が16兆1112億円、利子及割引料8兆8259億円、国債事務取扱費375億円となっている。

あまり聞きなれない用語かもしれないが、債務償還費とは文字どおり、償還する国債に対して充てられるものだ。また、これについて「減債基金」という概念も理解しておこう。国債を漸次償還し、その残高を減らすために積み立てる基金のことだ。

減債基金は、非常に簡単に言ってしまえば、「国債を返すために要求される借金」ということになる。ここで考えてみてほしい。民間で社債を発行する企業はあるが、償還をする場合は借り換えをして余裕が出た時に償還する、というのが一般的だ。借金をしながら同じ財布で借金を返すというのが、おかしい状況ということはわかるだろう。

だから、海外の先進国では現在、減債基金は予算に組み込まれていない。大学の財政学のテキストにも、国債の減債基金の制度やその重要性が説明されている。ただ、諸外国では存在していないこと、減債基金がなぜ必要なのかはあまり言及されない。もし学生がそうした質問をしたら、大学教員は説明に困ってしまうはずだ。減債基金を廃止すれば、それに繰り入れる債務償還費もなくなり、国債発行額を減らせる。

次に利子及割引料だが、これがきな臭い。「債務残高1000兆円」が騒がれて久しいが、単純計算で利子は0・8%ということになる。果たして国債金利はそんなに高かっただろうか。過去に発行した国債の利払いも必要と考えて、過去10年間の10年国債金利を見てみても、平均で0・5%。これから考えるとせいぜい利子及割引料は5兆円程度あれば十分だ。

財務省は国債発行額の嵩を増やして財政危機を煽りたい?

それなのに、なぜ多額の概算要求になるかといえば、やはり国債発行額の嵩を増やし財政危機を煽りたいという財務省の意向が組み込まれているのだろう。

利子及割引料の水増しは、年度途中で補正予算を作るときに財源となる。このため、査定すべき財務省主計局は要求する財務省理財局に対し、概算要求を水増ししてするように言っているようだ。省内の力関係上、理財局は従うほかないが、側から見れば馴れ合いだ。

そうして、こうした国際標準からずれた国債費が予算に盛り込まれる。報道では「歳出が過去最高になった」「国債費が予算の4分の1を占め、財政が硬直化している」などと並ぶが、これでは財務省の走狗となって財政危機を煽っているばかりだ。日本の国債の本質的な問題は別のところにある。

【私の論評】財務官僚は、必要以上に国債発行額を膨らませて、財政危機を煽っている(゚д゚)!

さて、日本の国債の本質的な問題とは何でしょうか。以下に日本の統合政府のバランスシートを掲載します。

政府の連結(政府と日銀)バランスシート(単位:兆)
経済学では、政府と中央銀行を会計的に合算した「統合政府」という考え方があります。もちろん、行動として中央銀行は、政策手段の独立性があるのですが、あくまで法的には政府の「子会社」なので、会計的には「連結」するのです。
この場合、財政の健全化を考える着目点は、統合政府BS(バランスシート)のネット債務ということになります。上のバランスシートは、昨年財務省ホームページにある連結政府BSに日銀BSを合算し、「統合政府BS」として、高橋洋一氏が作成したものです。

統合政府BSの資産は1350兆円。統合政府BSの負債は、国債1350兆円、日銀発行の銀行券450兆円になる。

ここで、銀行券は、統合政府にとって利子を支払う必要もないし、償還負担なしなので、実質的に債務でないと考えて良いです。

また国債1350兆円に見合う形で、資産には、政府の資産と日銀保有国債があります。

これらが意味しているのは、統合政府BSのネット債務はほぼゼロという状況です。

このBSを見て、財政危機だと言う人はいないでしょう。実際は統合政府ベースでは日本政府の借金は昨年の時点でゼロと言って良い状況だったのです。統合政府ベースでみて、日本は欧米の国々と比較して、財務状況がとりたて悪いとはいえないです。

ただし、財務省は、負債の国債1350兆のみをいい、資産の方はふせて、日本国は借金漬だと言い募っているわけです。

債券関係の用語で「減債基金」というものがあります。地方行政関係者ならご存じでしょう。辞書には「国債を漸次償還し、その残高を減らすために積み立てる基金」とありますが、国債に限らず地方債にもあります。国債の減債基金は「国債整理基金」といいます。

財務官僚は、日本では減債基金があるので国債が信用されている等と言いたいのでしょうが、海外の先進国にはそのようなものはありません。その海外からすれば、借金しながら減債基金への繰入のためにさらに借金するのはいかがなものかと反論されるだけではないでしょうか。

よく考えてみれば、日本でも民間会社が社債を発行していますが、減債基金という話は聞聞いたことがありません。減債基金の積立のために、さらに借金をするのはおかしいというのは誰でも理解できることだと思います。

民間の社債では、借り換えをして、余裕が出たときに償還するというのが一般的です。これは、海外の国債でも同じなので、海外の先進国でも、かつては国債の減債基金は存在していたのですが、今ではなくなっています。

しかし、日本では、国債・地方債の減債基金はまだ存在しています。そうして、大学の財政学のテキストにも、国債・地方債の減債基金の制度やその重要性が説明されています。

ただ、海外では存在していないことや、減債基金がなぜ必要なのかについてはあまり言及されません。上の記事にもあるとおり、もし学生がそうした質問をしたら、大学教員は困惑するでしょう。

それではなぜ、日本では減債基金が存在しているのでしょうか。地方は「国の国債整理基金があるから」というでしょう。では国の国債整理基金はなぜあるのでしょうか。

大阪府の減債基金の復元額

建前としては、「国債の償還を円滑に行うため」と言うでしょうが、本音でいえば、国の予算作りのために便利な道具だからでしょう。

まず、国債整理基金への繰入といって、毎年10兆円程度の予算の水増しが可能になります。本来であれば、繰入は不要なので、その分、国債発行額を減らすことができます。

少なくとも先進国ではそうです。また、国債金利はせいぜい0・5%と低水準であるにもかかわらず、予算上の積算金利は1・8%等として、予算の利払費を水増ししています。

こうした水増しは、年度途中で補正予算を作るときに財源となります。補正予算の財源になるのであれば、水増しは国民に実害がなく、そう目くじらをたてることもないのですが、上の記事にもあるとおり、必要以上に国債発行額を膨らませて、財政危機を煽(あお)るという悪い面が目立っています。

総務省は、減債基金を金科玉条にして、諸規制によって地方自治体に起債などを統制しようとします。2007年頃、公募地方債金利を自由化されましたが、総務省官僚は猛烈に抵抗しました。その理由は市場によるコントロールではなく自分たちが統制したいというものです。そうした主張に減債基金がしばしば使われるのですが、それは筋が違うでしょう。

とにかく、財務省の刷り込みにより、負債1350兆円だけが、多くの人頭に残っており、世界有数の政府資産については、全く考えていない人が多いです。

また、資産が多いことを知っている人でも、「すぐに売れることのない資産も多数あるはずだ」などとしていますが、日本政府の資産は現金もしくはそれにすぐに変えられるものが、7割を占めています、その他の資産も、たとえば都内の一等地の土地や建物等であり、
そのほとんどが即売却可能です。

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2019年9月14日土曜日

【日本の解き方】安倍首相「最後の戦い」へ動く改造人事! 「お友達人事」と揶揄する勢力の“支離滅裂”ぶり…“ポスト安倍”と「次の次」が浮上?―【私の論評】総理は、経済で思いきった手を打たないと憲法改正は不可能に(゚д゚)!

【日本の解き方】安倍首相「最後の戦い」へ動く改造人事! 「お友達人事」と揶揄する勢力の“支離滅裂”ぶり…“ポスト安倍”と「次の次」が浮上?

安倍改造内閣

安倍晋三首相(自民党総裁)は11日、内閣改造・党役員人事を行った。その顔ぶれから安倍首相の狙いを読み解いてみたい。

 首相は内閣改造について「安定と挑戦」と述べたが、「安定」とは、全19閣僚のうち麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官を留任させたことで、「挑戦」とは残り17閣僚を入れ替えたことだ。初入閣は安倍内閣で最多の13人にのぼる。

 目玉は、小泉進次郎衆院議員の環境相就任だ。38歳での入閣は戦後3番目の若さとなる。妻の滝川クリステル氏も環境に関心があり、夫妻での政策発信力は十分だ。

 ただし、小泉氏の育休発言には賛否両論がある。一般企業では、とても育休をとれる状況でなく、国会議員は「上級国民」だと批判もされるなか、どのように対応するかは、小泉氏の最初の試練になるだろう。

 いずれにしても閣僚のほとんどは安倍首相と近い人で、首相がやりたい人事をやったという印象だ。これを「お友達人事」と揶揄(やゆ)する向きもあるが、考え方が同じ人が組んで仕事をするのは当たり前だ。そうした批判をする人ほど、いざ閣内で意見が割れると「問題だ」と支離滅裂なことを言いがちだ。

 今回の人事で、安倍首相がやりたい憲法改正に弾みをつける狙いだろう。

 党役員は、二階派会長の二階俊博幹事長と岸田派会長の岸田文雄政調会長を留任させ、総務会長に麻生派の鈴木俊一氏、選対委員長に細田派の下村博文氏と、派閥均衡の安定だ。

 ここで見えてきたのが、次期首相と総裁候補だ。先の参院選では、菅官房長官が選挙での強さをみせ、岸田政調会長は後塵(こうじん)を拝した。しかし、安倍首相はあくまで2人を互角で競わせている。憲法改正がポイントとなるだろう。

次期自民党総裁候補とみられる、菅氏(左)と岸田氏(右)

 安倍政権にとって最善のスケジュールは、来年の通常国会で衆参ともに3分の2以上で憲法改正を発議し、東京五輪後、年内に国民投票実施というものだ。そのときには、衆院解散・総選挙とのダブル選となる可能性が高い。

 憲法改正で第1のハードルは参院だ。現状では、発議に必要な3分の2はないので、参院幹事長に回った世耕弘成氏がカギを握っている。

 憲法改正に向けて、より重要な貢献をした人が次期首相・総裁の最有力候補になるだろう。安倍首相が「自民党総裁4選はない」としている中、菅官房長官と岸田政調会長のレースが続くだろう。

 そして、「次の次」の首相・総裁候補もうっすらながら浮かび上がってきた。

次次総裁候補 加藤氏(左)、河野氏(中央)、茂木氏(右)

 厚生労働相で再び起用された加藤勝信氏、防衛相に転じた河野太郎氏、その後任の外相に横滑りした茂木敏充氏が横一線で並んでいる。これらの中から誰が飛び出るのか、それとも他のダークホースが出てくるのか。

 解散を行うほど首相の権力は高まり、改造を行うほど首相の権力は低くなるともいわれる。安倍政権は、憲法改正の国民投票と衆院解散・総選挙という「最後の戦い」に向けて動き出した。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】総理は、経済で思いきった手を打たないと憲法改正は不可能に(゚д゚)!

麻生氏が、変わらず財務大臣であることなどから、経済政策運営はほとんど変わらず、今回の内閣改造が経済や金融市場に及ぼすインパクトはほぼ皆無でしょう。今後、次期首相ポストを意識しながら、閣僚や重要ポストの政治家が競い合いながら成果を出そうとするでしょう。そうした中で、安倍政権のレガシーとして、東京オリンピックの成功、そして憲法改正の実現に重点が置かれそうです。



2013年からの金融・財政政策の転換によって日本経済の安定成長と脱デフレが始まり、それがこれまでの長期政権を支える土台になってきました。ただ私自身は、この土台が揺らぎかねないと危惧しています。

現状、安倍政権は経済成長を最優先させることに力点を置いていないようです。これにより、経済情勢の変化が政権の地盤を揺るがしかねないです。このリスクは、すでに金融市場の価格形成に反映されています。

日本株の日々の値動きは、米国株市場にほぼ連動して動いています。ただ、2018年から米国と比べて日本株は運用成果が下がり、2018年初をピークに日本株(TOPIX、東証株価指数)が緩やかな下落基調にあります。日本の経済政策がうまく作用せず、経済が冴えない状況が続いていることが最大の背景です。

経済最優先を掲げていた安倍政権の政策が2018年からはっきり転換したことの象徴は、今年10月の消費増税を決断し、財政政策が明確に緊縮方向に転じたことです。2%インフレという経済正常化を実現する前に財政政策を逆噴射させるのは、2014年の消費増税と同様で、成長率を押し下げてデフレ圧力を高める政策対応といえます。

無論、消費増税への対応政策として補正予算策定などが検討されています。3兆~5兆円規模の補正予算などの手当てが想定されますが、可処分所得の伸びが極めて低い中で、2兆円を上回る家計に対する正味の増税負担への手当てとして十分な対応はほとんど見当たりません。

このため、2020年にかけて個人消費を中心に成長率は大きく減速するでしょう。

増税する前から、個人消費が落ち込んでいるが、実際に増税するとどうなるのか?

また、安倍首相は新設する検討会議において、「全世代社会保障改革」に全力で取り組む、としています。新たな検討会議での議論は、社会保障制度や税制の将来の姿につながるという意味では重要でしょうが、長期的な政策枠組みの話がメインとなり、予想される景気減速への対応には直結しません。

他国に目を転じると、米国や欧州などほとんどの国で、経済成長の下振れリスクが高まりインフレが停滞する中、経済成長率を押し上げる拡張的な経済政策を行っています。

米国では、ドナルド・トランプ大統領が議会と財政合意にこぎ着け、2020年までの歳出の上限を引き上げました。フランスは4月に減税などを行い、EU離脱を控えた英国ではボリス・ジョンソン首相が政府債務を拡大させる大規模な財政政策を表明しています。そしてドイツでも、景気低迷を受けて、減税などの財政政策についての議論が活発になっています。

マクロ安定化政策が各国の経済成長率を左右し、それが株式市場のパフォーマンスにも影響します。デフレ脱却の途上にあり、各国と比べても成長率を押し上げる経済政策が必要である日本だけが緊縮的な経済政策を行っていることへの、投資家の不信感はかなり大きいと思われます。今後景気が減速する中で、この不信感は強まるでしょう。

緊縮的な経済政策は、財政政策だけではなく、日本銀行の金融政策についても同様です。

現状、米連邦準備制度理事会(FRB)が2019年7月から利下げに転じる中で、新興国を含めたほとんどの中央銀行が金融緩和を強めています。こうした状況下、インフレ目標の実現が先送りされる中で日銀が金融政策の現状維持を続けていることは、円高を引き起こし、金融引き締め的に作用しています。

2%インフレ目標の達成可能性が低下する中で日銀が同じ政策を続けているのは、安倍政権と足並みをそろえ、経済軽視の政策を行っているからかもしれません。いわゆる「金融緩和の副作用」というのが具体的に何であるのか、全く理解不能ですが、最近はこの副作用という声が小さくなってきたように、みえます。

これからも、マイナス金利政策を続けることで政府による国債発行を増やして、財政政策を拡張することをサポートしているともいえますが、その必要性を政府に強く訴えることはできるでしょう。そして金融政策についても、円高リスクを低下させるために、マイナス金利の深掘りが有力な金融緩和のオプションが必要になるでしょう。さらなる量的緩和もすべきです。

いずれにしても、このまま緊縮財政、引き締め傾向の金融政策を続けることになると、先程述べたように、2020年にかけて個人消費を中心に成長率は大きく減速することは確実です。

冒頭の記事の高橋洋一氏の記事には、「安倍政権にとって最善のスケジュールは、来年の通常国会で衆参ともに3分の2以上で憲法改正を発議し、東京五輪後、年内に国民投票実施というものだ。そのときには、衆院解散・総選挙とのダブル選となる可能性が高い」としています。

現状のままだと、まさに、衆院解散・総選挙とのダブル選挙のときに、経済が悪化しているということになる可能性が非常に高いです。そうなると、衆院でも参院でも、改憲勢力が2/3を割る可能性も十分にあります。

そうなれば、国民投票の実施も困難になる可能性があります。安倍新内閣は、どうすれば、このような事態を防ぐことができるでしょうか。

それは、選挙の公約として、米国や欧州などほとんどの国で、経済成長の下振れリスクが高まりインフレが停滞する中、経済成長率を押し上げる拡張的な経済政策を行っているように、日本もそれを実行することです。

具体的には、減税や給付金による積極財政を行い、日銀は再び、大規模な量的緩和に転じることです。

そうなると、経済が回復するという期待感から、市場は好感し株価も上昇します。国民も、減税や、量的緩和には好感を抱くことでしょう。

それを、選挙の公約として、ダブル選挙を行えば、衆参両院の改憲勢力が2/3以上になる可能性はかなり高くなります。

そうして、その後の内閣改造では、当然のことながら、麻生氏は財務大臣ではなく、他の閣僚になっていなければなりません。

なぜなら、財務省は麻生大臣を要として、各方面に働きかけ、財務省悲願の10%増税を実行を確実なものにしましたが、財務省は減税どころか、さらなる増税と緊縮財政を目指しているからです。

これに失敗すれば、選挙で大勝利したとしても、安倍総理は、減税をすることはできず、憲法改正も難しくなるでしょう。

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2019年9月13日金曜日

韓国のタリバン、文大統領を一刀両断―【私の論評】経済的に無意味になり、安全保障上では空き地になる韓国、対処法は簡単!無視(゚д゚)!

韓国のタリバン、文大統領を一刀両断

イェン・ア・ジョ氏


曺国氏を法務長官にしたいわけ

「韓国のタリバン」とまで言われている反日原理主義者、文在寅大統領が不正疑惑だらけの腹心曺国(チョ・グク)前民情首席補佐官*1を予定通り、法務長官に任命した。

*1=民情首席補佐官とは、大統領の側近中の側近が就くポスト。国内の情報・世論対策、国政全般の情報活動総括、政府高官の監督・司法警察組織の統括で大統領を直接補佐する。文在寅氏もかって廬武鉉大統領の民情首席補佐官だった。

 米国で言えば、不正疑惑の大統領首席補佐官だった人物を「司法の番人」にしたようなものだ。

 不正疑惑だらけのドナルド・トランプ大統領には慣れっこになっている米国民にとっても「文在寅とかいう容共大統領は何を考えているのか」という反応だ。

 ワシントンの「コリア・ハンド」(韓国通)はこう見ている。

 「この人事は文在寅氏にとっては最大の賭けだ。失敗すれば政権は崩壊する。政権の終わりの始まりになるかもしれない」

 なぜ、文在寅大統領が曺国氏の任命に固執したか。この韓国通は続ける。
曺国(チョゴク)氏

 「歴代大統領は、絶対的権限を持った検察を使って反対政党の前任者を刑務所に送り込んできた。汚職や収賄は韓国社会ではつきもの。誰でも叩けば埃は出る」

  「現職大統領が検察に目配りすれば、大統領経験者でも刑務所送りにできる」

 「文在寅政権の後に保守政権が出てくれば、文在寅氏も同じような目に遭うのは必至。それを防ぐには法律で絶対的権限を持つ検察当局の権限を弱める司法改革が必要になってくる」

 「司法改革を実現するキーパーソンが腹心の曺国氏。不正疑惑に遭おうが遭うまいがどうしても法務長官につかせたかったのだろう」

 「文在寅大統領は、この賭けに勝っても負けてもそう長くはなくなった」

文氏と共に一掃される「386世代」

 かってハーバード大学客員研究員だったこともある朝鮮情勢に詳しい研究者は筆者にこう指摘している。
 「文在寅政権は、左翼・反日・反米の『386世代』*2が牛耳る政権だということを忘れてはならない。彼らは青瓦台で文大統領、李洛淵・国務総理、蘆英敏・大統領秘書室長の周囲を固めている」

 「南北に分かれた民族同胞が一つになる、つまり南北朝鮮統一こそが最優先課題だと考えている」
 「北朝鮮の核廃絶には熱心ではない。文大統領が北朝鮮の非核化よりも南北の関係改善に重きを置いているのはそのためだ」

 「南北朝鮮統一が実現できるのであれば、北の核の存続も厭わない。それどころか『核つき南北統一朝鮮』をも目論んでいるかもしれない」

*2=全斗煥政権を倒す原動力となった民主化運動若年層。1960年代生まれで当時30代、80年代には大学生だった世代のこと。90年代にできた造語。当時売れていたインテルの32ビットマイクロプロセッサー「Intel 386」をもじっている。

https://www.straitstimes.com/asia/east-asia/moon-jae-in-should-listen-to-the-2030-generation-the-korea-herald-columnist

http://www.koreatimes.co.kr/www/opinion/2019/07/164_272924.html

 裏を返せば、この「386世代」が去らない限り、ここまで拗れた日韓関係の改善はあり得ないということだ。反日のみならず反米志向は今後ますます強まっていくだろう。

次期政権で美人学者が中枢を担う?

 そうした中で今米国のアジア問題専門家の間で注目されている論文がある。

 この論文を読んだ元米外交官の一人は、「彼女は文在寅が政権を去った後には韓国政府の中枢で働く存在になる」とまで褒めちぎっている。

 論文のタイトルは『Moon's Failed Balancing Act』(失敗した文在寅のバランス政策)

http://www.theasanforum.org/moons-failed-balancing-act/

 執筆者は在米のイエン・ア・ジョ氏。現在コーネル大学博士号課程にいる若手女性国際政治学者だ。

 写真をご覧になればお分かりの通り、なかなかチャーミングな女性だ。

 オランダの名門ユトレッチ大学を経て、オックスフォード大学院で国際政治学で修士号を取得、コーネル大学大学院に進んでいる。

 これまで韓国国連代表部軍縮担当顧問などを歴任。現在は峨山政策研究所*3発行の英文『峨山フォーラム』副編集長を兼務している。英語が堪能なイエン氏は編集責任を任される一方、随時健筆を振るっている。

*3=2008年に韓国の現代財閥を築いた鄭周英氏の6男で現代重工業の大株主、鄭夢準氏が設立した韓国有数の超党派シンクタンク。鄭夢準氏は元国会議員。ジョンズ・ホプキンズ大学で国際政治学博士号を取得。

 イエン氏は韓国生まれだが、韓国では高等教育を受けていないようだ。略歴には英語と朝鮮語のバイリンガル、フランス語は日常会話ができると記されている。

 この論文は6600字。公表されたのは8月28日だ。

 韓国情報と米国情報を読み解き、しかもソウルではなく、ニューヨーク・イサカ(コーネル大学所在地)で米研究者たちの助言を得て書き上げた論文は「岡目八目的」視点に満ちあふれている。

 文在寅大統領の二国間、多国間外交の現状を記述する中で、韓国が外交的チャレンジにどう対処するか――進歩派(与党)と保守派(野党)との分裂が拡大している点を強調している。

 与党と野党は、米朝関係、日韓関係、米中貿易戦争でことごとく対立している。イエン氏は、日韓関係を巡る韓国内分裂についてこう分析している。

 「今韓国内で起こっている論争は、なぜ日韓関係はここまでこじれてしまったのか、誰の責任なのか、そしていかに対処するかを巡っての論争だ。保守派の主張はこうだ」

 「日韓関係の亀裂を生じさせた責任は、状況に効果的に対処できず、日本に貿易面で攻勢を仕かける引き金を引かせた文政権にある」

 「その理由ははっきりした計略も計画もないままに、警戒すべき兆候を無視し、戦略的には何らの対処策も講じなかった」

 「一方、進歩派の主張はこうだ」

 「文政権が非論理的で非生産的だったからこうした現状を招いたという批判は全く当たらない。悪いのは日本だ」

 「韓国の最高裁判決をタテに貿易面で報復措置に出た。日本の報復措置は分別ある外交においては非民主的戦術以外の何物でもない」

 現状打開に向けて韓国はどう行動すべきか。イエン氏はここでも韓国内は分裂していると指摘している。

 「保守派は『目には目を的な報復行為は避け、米国が仲介する外交的決着を進めるべきだ』と主張している。一方、進歩派は米国の仲介には難色を示している」

 「米国の仲介は韓国にとっては好ましい結果を生みそうにないという理由からだ」

 「進歩派はこう見ている」

 「日米は今や戦略的諸問題では米韓とは比較にならないほど近い関係にある。米国が打ち出しているインド太平洋戦略構想、対北朝鮮制裁、中国大企業ファーウェイ問題でも日米は完全に一致している」

「それに比べて韓国はこの3点では米国の主張を受け入れるのには消極的だ」

脱線した「ツートラック戦略」

 イエン氏は文在寅大統領がなぜ反日スタンスをとり続けているかについてこう指摘している。

 「文在寅大統領は当初、対日政策では『ツートラック戦略』の実施を考えていた。つまり、歴史認識問題と通商・安全保障問題とを分けて行おうとした」

 「だが前政権が日本政府との間に交わした慰安婦合意を精査するよう命じたところからおかしくなってきた」

 「合意には瑕疵があると結論づけた。同合意の修正や日本との再交渉には言及しなかったが、結局同合意で設置された半官半民の『和解・いやし財団』は解散させてしまった」

 「それに加えて文在寅大統領は徴用工問題の再検討を言い出した。安倍晋三政権はすべて解決済みの問題だと反発。その結果、歴史認識問題は貿易問題と絡み合ってしまった」

 「文在寅大統領の刺々しいトリックは、植民地時代の行動を悔い改めようとしない日本の強情さに対する韓国民の反発に火をつけてしまった」

 「世論調査では韓国民の50%が日本は友好国ではないと答え、80%が安倍首相を嫌いだと言い、75%が日本人は信用できないと答えた。82%が日韓関係は悪いと答えた」

 イエン氏はこうした韓国内の状況を詳細に記述。これを受けて韓国政府がどう対応したかに触れている。

 「文在寅政権は日本の動きに対抗するため国力を総動員した。だが世界貿易機関(WTO)や東南アジア諸国連合(ASEAN)拡大首脳会議などの場で対日批判をしたが他の国々は韓国の主張を支持しなかった」

 「米国に仲介役を要請したが米国は日韓のいざこざには関心を示そうとしなかった」

米中を天秤にかけた外交

 イエン氏によれば、文在寅大統領の外交方針は、「Balanced Diplomacy」(均衡の取れた外交)だ。米国との同盟関係を堅持しつつ、中国に接近する外交である。

 「文在寅大統領は2017年にこう発言している」

 「韓国にとって中国との関係は、ただ単に経済協力面だけではなく、戦略的協力面でもより重要になってきた。北朝鮮の核を平和裏に廃棄するうえで中国との関係は重要だからだ。そのため我が政権は米中との均衡のとれた外交関係を追求するのだ」

 「ところが2019年の6月から8月にかけての2か月間は、韓国にとっては全身麻痺の混乱状態に陥った」

 「中国の習近平国家主席は北朝鮮の平壌を訪問し、金正日朝鮮労働党委員長が喉から手が出るほど欲しがっていた外交的お墨付きを与えた。文在寅大統領の再度の訪韓要請は断っているにもかかわらずだ」

 「トランプ大統領は板門店で第3回目の会談を行ったが、両首脳はそこにいた文在寅大統領を無視、その後、金正恩委員長は文大統領を公然と非難している」

 「安倍首相は大阪で開かれたG20(金融・世界経済に関する首脳会合)出席のため訪日した文大統領との首脳会談を拒否。日本は韓国の半導体製造に不可欠な3品目の対韓輸出管理体制を強化した」

 「折からの米中貿易戦争のあおりを受けて米中からの対韓プレッシャーは強まり、米中は韓国にどちらにつくかと迫ってきている」

 「まさに文在寅大統領を取り巻く国際環境は、日韓関係のみならず、米中との関係でも厳しさを増している」

 「文在寅大統領の「均衡のとれた外交」が言うは易く、行うは難しであることを実証してしまった」

 「警戒警報を見落としていた」

 だが、文在寅大統領が辞めるとすれば、この「均衡のとれた外交」が失敗したからではない。曺国人事への国民世論に火がつき、反文在寅機運が燎原の火のように韓国全土に広がった時だろう。

 それを受けて来年4月の議会選挙で与党が惨敗した時かもしれない。弾劾の動きも出てくるかもしれない。

 その時、政権の座に返り咲いた保守党は「均衡のとれた外交」に代わるどのような外交を展開するのか。

 イエン氏は新政権の出方に直接、言及してはいない。しかし、現状を保守派の政治家や識者がどう見ているかを指摘することで文在寅大統領政権に取って代わる保守党がどのような外交を展開するかを示唆している。

 「保守派もまた日本政府の対応が均衡を欠く(Disproportionate)であるとは見ている。だが保守派は、文政権は日本に貿易面で引き金を引くのを止めさせるだけの効果的措置を採るのを怠った、と指摘している」

 「対日関係の悪化状況を示す警戒警報を無視、状況が悪化し、取り返しのつかない事態になるのを放置していたわけだ」

 日韓関係を正常に戻すために保守派はどうするか。

 「保守派はいかなる形式による日韓同士の『売り言葉に買い言葉』(Tit-for-tat)には反対だ。やはり米国に仲介役を演じてもらう外交的解決しかないと見ている」

 「保守派は米国の仲介が韓国にとって都合の良いものではないかもしれない。今や日本と米国との距離は韓国とは比べ物にならないほど親密だからだ」

 「米国に(公正な)仲介役を頼むうえで韓国に必要なことは、例えば今注目を集めているホルムズ海峡を航行する船舶を守る有志連合に参加し、米国の同盟国であることを強調することだ」

 日韓関係を正常化させるにはやはり米国の仲介役、つまり助けが必要。そのためには米国との同盟国をここで明確に示せ――が保守党の外交方針というわけだ。

 つまり「均衡のとれた外交」から「米韓同盟強化」への転換ということになる。

 だが、米中を天秤にかける文在寅大統領の「均衡の取れた外交」「朝鮮民族第一主義」の熱に酔いしれてきた韓国の「衆愚」がおいそれと米韓同盟強化についていけるかどうか。米韓日三角同盟に回帰できるかどうか。

 このあたりは予見しがたい。いずれにせよ、イエン氏の論文が米国のアジア通に注目されている理由が分かるような気がする。


筆者:高濱 賛
特に、戦略的な分析という点からは、物足りない感じがしました。なぜそのように私が感じるのかといえば、世界屈指の戦略家であるルトワック氏の著書『自滅する中国』(2012年出版)を読んでいたからだと思います。

エドワード・ルトワック氏
●国家は普通は独立を尊ぶものだが、従属したがる国もある。それが韓国だ。 
●彼らは中国と中国人にたいして、文化面で深い敬意を持っている。中国の「マーケットの将来性」にもその原因がある。 
●韓国における中国と中国人への尊敬の念は明の時代にまでさかのぼることができる。その一番の担い手は、知的エリートとしての官僚である両班だ。 
●面白いことに、中国文化の影響が非難されるのは北朝鮮。北では漢字は事実上禁止され、ハングルの使用だけが許されているほど。 
●韓国では教育水準が高ければ高いほど反米の傾向が強まる。しかも最近はアメリカが衰退していると考えられているために、中国の重要性のほうが相対的に高まっている。個人で中国でビジネスを行っている人が多いという事情もある。 
●極めて奇妙なことに、韓国は大規模な北朝鮮の攻撃を抑止するのは、グローバル規模の軍事力を持つアメリカの役目だと考えられており、実際に天安沈没事件や延坪島の砲撃事件にたいしても(死者が出たにもかかわらず)ほとんど報復は行っていない。 
●つまり実際のところ、韓国政府は米国と中国に依存する従属者となってしまっている。米国には全面戦争への抑止力、そして中国には一時的な攻撃にたいする抑止力を依存しているのだ。 
●ところがこれは、米国にとって満足できる状況ではない。韓国を北朝鮮から庇護するコストとリスクを、米国は独力で背負わなければならないからだ。 
●その上、韓国への影響力は中国と折半しなければならない。中国は北朝鮮への統制を中止すると脅かすことで、常に韓国政府を締め上げることができるからだ。今のところ韓国が中国に声を上げることはない。 
●米韓同盟を形成しているものが何であれ、そこには共通の「価値観」は含まれていない。なぜなら韓国はダライラマの入国を中国に気兼ねして堂々とビザ発給を拒否しているからだ。 
●現在のような政策を保ったままの韓国は、いわゆる「小中華」の属国として、しかも米韓同盟を続けたまま、中国による「天下」体制の一員となることを模索しているのかもしれない。韓国が自国の安全保障のコストとリスクを受け入れず、かわりに従属者になろうとしているのは明らかだ。 
●このような韓国の安全保障の責任を逃れようとする姿勢は、「日本との争いを欲する熱意」という歪んだ形であらわれている。ところが日本との争いには戦略的に何の意味もないし、日本へ無理矢理懲罰を加えても、韓国側はリスクを背負わなくてすむのだ。
いかがでしょう。このルトワックの分析の要点をさらに簡潔にまとめれば、 
1.米国に従属している韓国は、同時に中国にもすり寄っていこうとしている。 
2.その大きな理由は二つ:歴史的・文化的な面での尊敬と、ビジネスのチャンスだ。 
3.安全保障面では、北のコントロールを中国に、そして全面戦争の抑止は米国に依存。 
4.その責任逃れの憂さ晴らしとして、日本にたいする情熱的な敵対心を展開。

まず、非核化した北朝鮮がアメリカの戦略的な保護の下で、経済的に発展するというシナリオ、いわゆる「ベトナム・モデル」です。この「北朝鮮のベトナム化」は、日本にとっても最善の選択肢といえます。

次の選択肢は、意外にも「現状維持」だといいます。金正恩の独裁体制が続き、もし米国による先制攻撃などによって強制的な非核化が実現しても、ダメージを受けた北朝鮮の政権が生き残る可能性はあります。それでも、第三の道、北朝鮮が非核化し、朝鮮半島が中国の支配下に入るよりは遥かにマシなのです。

北朝鮮の核兵器は、日本の安全保障にとって最大の脅威です。ところが、戦略面では日本にとってポジティブな要素なのです。なぜなら、それが北朝鮮の中国からの戦略的な独立を保障し、中国による朝鮮半島の支配を防いでいるからです。北京が平壌を制御できる状態になれば、韓国も支配下にされる可能性があります。

なぜなら韓国内には中国の冊封体制を受け入れたい勢力があるからです。換言すれば、平壌は中国から朝鮮半島の独立を実際に保障しているのですが、韓国政府、文在寅はその独立にまったく貢献していません。日本にとって核武装した北朝鮮は最悪ですが、中国に支配された朝鮮半島は、さらに最悪の安全保障上の脅威となります。

ソウルは一度敵の手に落ちたのだか、米国再三の要求にもかかわらす、未だに移転していない

ここで問題となるのは、韓国という国の戦略的な脆弱さです。ソウルは北との国境線である非武装地帯から近く、対空防衛システムや防空シェルターなども十分ではないという脆弱性を晒しており、韓国の軍隊は自国をまったく守れない状態にありました。というのが40年前の状況でしたが、実は今も全く同じなのです。

政府機能や民間企業の本社などを、ソウルから遠くに分散するなどの対策を一切実行していません。空襲に対応するシェルターも不十分です。40年前と違うのは、北朝鮮が核兵器や長距離ミサイルを開発したことだけです。もし戦争が起きれば、北朝鮮は最初の一撃で韓国の指揮所や対戦車兵器などを潰せます。

40年前にアメリカが提案した、首都機能を南に移すことや、企業の光州への移動や、軍事面での72項目にものぼる細かい変更など、ほとんどなされていません。半島有事の際に作戦を指揮する権限は、いまだに韓国軍ではなく在韓米軍司令官にあります。米国側が長年、返還を示唆しても逃げ口上を駆使して延期し続けています。さらに韓国は、北朝鮮の核開発を阻止する動きは全く見せていません。

ルトワック氏は韓国を強く批判し、次のように述べています。
韓国は北朝鮮の非核化には殆ど興味がなく、金正恩体制の崩壊は望んでいない。日米が直面しているのは「朝鮮半島問題」で、二つの国で構成されている。一つは北朝鮮であり、どんな手段でも核武装解除を進めるべき国である。そしてもう一つは、韓国という無視すべき国である。
もう、韓国の未来などはっきりしすぎています。韓国は元々の基本方針である、「小中華」の属国として、しかも米韓同盟を続けたまま、中国による「天下」体制の一員となることを模索しつづけるのでしょうが、それは大失敗に終わります。これは、文在寅の失敗というよりは、韓国の失敗とみるべきでしょう。

そうして、韓国のこの基本的なスタンスは、文在寅が大統領を辞任したとしても、ほとんど変わらないでしょう。無論、実際韓国という国は、朝鮮戦争終了時の時から何も変わっていません。その国が政権が変わったからといって突然変わるということはありません。

最悪のシナリオとしては、このブログにも過去に何度か掲載したように在韓米軍が撤退する間際に、米国とその同盟国による韓国の経済焦土化が実施され、韓国は経済的にも安全保障的にも無意味な存在となりでしょう。

そうなると、いきなり軍事バランスが崩れると考える人もいるでしょう。ただ、そうはならないでしょう。韓国は日米の信頼を失っているわけですが、それでは中国や北朝鮮の信頼を得られかといえば、そんなことはないからです。

将来の韓国は、経済的には取るに足らない国となり、安全保障的には空き地のような存在になるでしょう。北朝鮮は38度線の防備を固め、韓国人難民などが越境させないようにするでしょう。

金王朝を継続させることを最大の任務と考える、金正恩はチュチェ思想とは無縁の韓国人が北朝鮮領内に入ることは到底許容できません。彼の頭の中には、当面南北統一などの考えはないのです。

それでは、一時でも、文在寅の南北統一呼びかけに関心を示したかのように振る舞ったかといえば、まずは、米国との間をとりもってほしかったのと、継続する制裁をなんとか終わりにするか、韓国による制裁破りを期待したからです。

しかし、金正恩は自ら、米国と直接交渉できるようになったので、米国交渉して、金王朝の継続をトランプに認めさせ、そのひきかえとして、制裁をやめてもらうなどのことは自分で直接交渉できるわけで、韓国に頼る必要など全くなくなったのです。

こうなると、中国に有利で、中国はすぐに朝鮮半島一帯を傘下におさめてしまうという人もいるかもしれません。

しかし、そうはならないでしょう。なぜなら金正恩は、中国の干渉を極度に嫌っているからです。結果として、北朝鮮ならびにその核は、中国が朝鮮半島全体に浸透することを防いできましたし、韓国から在韓米軍が撤退したとしても、すぐ近くの日本で、在日米軍が目を光らせています。

さらに、金正恩は金王朝に何の敬意ももたない韓国人が北朝鮮領内に入るのを拒み続けるでしょう。この状況は変わらず、結局韓国は周辺国にとって、安全保障上の空き地のような存在になるでしょう。

最悪のシナリオになったにしても、現在の状況は変わらず、結局韓国だけが、経済的に取るに足りない国になり、安全保障的には空き地のような存在になってしまうでしょう。

だかこそ、日本にとって韓国はルトワック氏のいうように、無視すべき国なのです。

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韓国で「恐怖のスタグフレーション」進行中か 消費者物価上昇率が8カ月連続0%台、新「漢江の奇跡」に疑問―【私の論評】韓国経済の悪化の根本原因は、誤った金融政策にあり(゚д゚)!

2019年9月12日木曜日

韓国で「恐怖のスタグフレーション」進行中か 消費者物価上昇率が8カ月連続0%台、新「漢江の奇跡」に疑問―【私の論評】韓国経済の悪化の根本原因は、誤った金融政策にあり(゚д゚)!

韓国で「恐怖のスタグフレーション」進行中か 消費者物価上昇率が8カ月連続0%台、新「漢江の奇跡」に疑問

現在韓国では若者が「ヘル朝鮮」と呼ぶ状況が続いている

韓国の8月の消費者物価指数が、対前年同月比でマイナス実数値(マイナス0・04%)を記録した。1965年に統計を取り始めてから初めてのマイナスだ。8月は気候によって農水産物が変動しやすいが、2019年1月から連続して0%台なのだから、これはすごい。

 輸入依存度が高い国で、その通貨はこの1年間、対ドルでも、対円でも下落してきた。それなのに消費者物価上昇率が8カ月連続して0%台とは、新「漢江(ハンガン)の奇跡」と呼ぶべきかもしれない。

 ところが、この1年間の物価関連ニュースをチェックすると、「奇跡」への疑問は広がる一方になる。

 韓国の場合、最低賃金引き上げで、賃金は上昇しているが、税金や年金支払いの増額で、世帯当たりの可処分所得は減っている。

 さらに、生計費に占める外食費の比率がとても高い。外食費比率(17年)は日本が4・8%なのに対して、韓国は13・3%にも達する。自炊をしない単身世帯が多いことが背景にある。

 そういう構造的要因を抱えるなかで、韓国の喫茶店、ハンバーガーショップなど軽食店は今年1月、5~20%の値上げに踏み切った。法定最低賃金の大幅引き上げに伴う措置だった。が、消費者物価指数は対前年同月比0%台。

 3月には、市外バス運賃が平均11%値上げした。タクシーも27%値上げした。しかし、0%台行進は続いた。

 今年1-3月期の消費者物価動向を、中央日報(19年4月30日)が以下のように総括していた。

 「上昇率は前年同期比0・5%だが、同じ期間に必須消費品目の価格は大きく上昇した。穀物価格が急騰してコメが18・5%、玄米が23・1%、もち米が24・7%、大豆が21・4%上がり、牛肉は国産が2・2%、輸入が2・8%、鶏肉が10・9%上昇した。水産物もスルメが15・6%、タコが21・1%、練り製品が9・9%、塩辛が4・2%など大幅な上昇を示した。牛乳が5・4%、醗酵乳が4・2%上がった。ここにリンゴが6・9%、ナシが41・1%、モモが22・6%など主要果物価格も上昇した」

 それでも0%台行進の理由を、同紙はこう書いている。

 「(物価指数の計算を)構成する項目の中にはマイナス上昇率を示し価格が下がった品目もあるが、高いプラス上昇率を示したものもある。ところが価格が下がったのは、たいてい消費者が買わなかった結果の可能性が大きい。購入していない品目の低い価格は体感できない」

 おかしな日本語訳文だが、要は国民の日常生活とはほとんど関係ない物品が消費者物価指数の計算項目に入っていて、それらの物品の値下がりが、全体の指数を0%台に抑えているということだ。

 となると、韓国は何のために消費者物価統計を取っているのだろうか。

 最近は安い居酒屋も値上げしている。焼酎シェア1位の「チャミスル」の出庫価格が6・45%上がったことがきっかけだ。ソウルの冷麺は、盛岡冷麺の名店よりも高くなった。

 韓国の民間シンクタンクは9月8日、19年の予測成長率を2・1%から1・9%に引き下げた。「スタグフレーション」進行中と思われるが、韓国の国営放送は、おかしな消費者物価指数を根拠に「デフレへの憂慮が広がる」と報じている。

 ■スタグフレーション 景気後退と物価上昇が同時に発生する現象。賃金が上がらないのに物価が上昇し、資産価値が減っていく。国民生活は困窮し、「最悪の経済状態」と言われている。

 ■室谷克実(むろたに・かつみ) 1949年、東京都生まれ。慶応大学法学部卒。時事通信入社、政治部記者、ソウル特派員、「時事解説」編集長、外交知識普及会常務理事などを経て、評論活動に。著書・共著に『悪韓論』(新潮新書)、『崩韓論』(飛鳥新社)、『韓国リスク』(産経新聞出版)など多数。

【私の論評】韓国経済の悪化の根本原因は、誤った金融政策にあり(゚д゚)!

確かに、室谷氏の語るように、価格の0%台行進についての、中央日報の記事は、何を書いているのか全く意味不明です。しかし、これについては、日本の報道機関も似たりよったりです。

このようなことは、新聞記者の経済知識があまりに乏しい(室谷氏も含めて、ただし室谷氏は、経済記者ではないので致し方ないか???)ため、「個別価格」と全体の「一般物価」がしばしば混同されていることに起因しています。つまり、雇用改善などを受けた値上げや消費の伸び悩みを受けた戦略としての値下げなど個別企業の動きと、マクロ経済を反映した物価全体の動きについて、区別されていないのです。

個別価格は、それぞれの商品に付けられている価格であり、誰でもイメージできるできるでしょう。

一般物価については、例えば消費者物価指数が典型例ですが、イメージが難しいです。それぞれの個別物価を指数化して、各商品の加重平均ウエートで平均を取るという作り方です。これは、韓国でも同じような方法で計算されています。韓国の統計がおかしいということではありません。

この手法だけを見れば、各商品の積み上げによって一般物価が算出されるので、ある商品の個別価格の上昇がそのまま一般物価に反映されると思ってしまうかもしれません。しかし、そうならないところが、マクロ経済学のポイントです。

これは、ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマン氏が指摘した「スイッチ効果」と呼ばれます。ある財の個別価格が上昇すると他の財を節約し、その消費が減少することでその財の個別価格が低下するので、結果として一般物価には変化がないというものです。

ミルトン・フリードマン氏

もっとも、現実にはある個別価格の変化がただちに他の個別価格の変化をもたらすような価格伸縮性があるわけでありません。このため、短期的には大きな個別価格の変化があった場合、それは一般物価の変化にも影響しますが、数年単位でみれば、価格は伸縮的になるので、スイッチ効果が認められます。

いずれにしても、こうした事情を踏まえると、長期的な視点を含む政策論で考えるときには、個別価格と一般物価は区別したほうが良いです。

個別価格は各財の競争状態で決まります。つまり、ニーズが高かったり、供給が少ないと個別価格は上昇します。

一般物価はどうかといえば、スイッチ効果で説明したように、所得が一定であれば、高いものを買うときは他のものを控えるのですが、所得が大きくなれば、他の財の節約は必要なくなります。ということは、所得に応じて一般物価が決まってくるわけです。

これをマクロ経済の言葉で言えば、有効需要によって基本的には一般物価が決まります。このため、GDPギャップ(潜在GDPと実際のGDPの差)によって、インフレ率(一般物価の変化率)が決まるのです。

その際、インフレ率のみならず失業率も決まります。ここがマクロ経済学のキモです。有効需要をコントロールするために、金融政策と財政政策があるので、それらの即効性や遅効性を考慮しながら、マクロ経済管理をするわけです。
こうしてみても、個別物価の動きと中期的なインフレ目標の関連は薄いです。

韓国の場合は、2019年1月から連続して物価上昇率が0%台というのですから、これはもうすぐに量的緩和策をとるべきです。

韓国消費者物価指数の推移 2019年 1月-9月

さらに、マクロ経済的には、インフレ率のみならず失業率もきまるわけですから、失業率を減らすためにも、何をさておいてもまずは、金融緩和しなければならないはずです。

ちなみに、韓国では昨年金融緩和をせずに、最低賃金だけをあげるという、立憲民主党の枝野代表の主張する経済政策を実行して、雇用が激減しました。


韓国は7月12日、2020年の最低賃金を前年比2.9%増の8590ウォン(約790円、時給ベース)とすることを決めました。1988年の制度開始以来3番目に低い伸び率となります。文在寅(ムン・ジェイン)政権は「所得主導」の成長を掲げ、18年(16.4%)、19年(10.9%)と2桁上昇が続いたのですが、賃上げが雇用減を招いているため一転して抑制に転じことになったのです。

では、韓国銀行(韓国の中央銀行)はどのような政策を採用しようとしているのでしょうか。

韓国銀行(中央銀行)は7月18日、市場の据え置き予想に反して政策金利を1.75%から1.50%に25ベーシスポイント(bp)引き下げました。利下げは2016年6月以来、3年ぶりです。

しかし、その後の動きはありません。最低賃金の引き上げで雇用が激減、物価の上昇率がo%台の状況が1月から続いているというのですから、利下げは当然のこととして、量的緩和もすぐに実施すべきです。

なぜ実行しないのか、本当に不思議です。この状況に陥っても、なお金融緩和しないことこそ、私は"新「漢江の奇跡」"の奇跡と呼びたいです。

文在寅大統領は、金融緩和せずに最低賃金だけ上げて、雇用を激減させるという愚かな政策をしたということからも、経済、特にマクロ経済がわからないのははっきりしていますが、誰か取り巻きで理解している人はいないのでしょうか。

韓国が金融緩和するとすぐに、キャピタルフライトするなどという人もいますが、これはこのブログの過去の記事にそうでないことを示しました。韓国自体が外国から多額の借金をしていれば、その可能性はありますが、実体はそうではありません。あれから多少時がたっていますが、現状ではこれはまだあてはまると思います。

最近では、日本との関係悪化が、韓国経済を悪化させているという人も多いですが、私はそれ以前に文在寅大統領の、金融緩和をしないで、最低賃金だけあげるという、マクロ経済政策に反した政策が大失敗し雇用が悪化し、なおかつ物価上昇率が0%台であっても量的緩和をしないということが、根本の原因であると思います。

これなしに、たとえ日本との関係を良好にしたとしても、それだけで韓国経済は良くならないです。無論、日韓関係を良くすれば、経済の伸びしろを増やすことはできるでしょうが、それだけでは根本原因が除去されるわけではありません。

何があっても、量的緩和を行わない韓国銀行は、まるで白川総裁までの日銀のようです。そうして、最近の日銀は、イールドカーブコントロールを採用してから、引き締め気味です。そのため、消費税増税ともあいまつて、日本でも物価目標がなかなか達成できていまん。とはいいながら、緩和はしているので、韓国よりはましです。特に、雇用状況は良いです。

いまのままでは、韓国では雇用は改善されず、物価上昇も、賃金上昇も見込めず若者にとってはヘル朝鮮の状況はまだまだ続くことでしょう。

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2019年9月11日水曜日

進行する中国の南シナ海での「嫌がらせ戦術」―【私の論評】米国の戦略に組み込まれるだけではなく、日本も独自の戦略を持て(゚д゚)!


岡崎研究所

 中国は、南シナ海で領有権を争っている国々の石油・ガス探査への嫌がらせを強めている。5月以降、中国の海警局の艦船が、ベトナム、マレーシアのEEZ内での掘削活動に威圧的な妨害を加えている。さらに、7月以降、中国の海洋調査船がベトナムのEEZ内で調査を続けている。調査船は、海警の艦船、準軍事組織「人民武装海上民兵」が乗り組む漁船に護衛されているという。ベトナム側は沿岸警備艇を派遣し、衝突のリスクが高まっている。



 この問題について米国は、8月22日に国務省が、8月26日には国防総省が強い懸念を表明する声明を相次いで発表している。このうち、国防総省の緊急声明の要旨は次の通り。

 国防総省は、中国によるインド太平洋におけるルールに基づく国際社会を破壊する努力が続いていることを強く懸念している。最近、中国はベトナムの石油・ガス探査活動への威圧的干渉を再開した。これは、シャングリラ会議での魏鳳和・中国国防部長の「平和的な発展の道を堅持する」との発言と全く矛盾する。中国の行動は、『受け入れられている国際的ルールと規範に沿ってすべての国が大小を問わず主権を保障され、威圧されず経済的成長を追求し得るとする自由で開かれたインド太平洋地域』という米国のビジョンとは対照的である。

 中国が「嫌がらせ戦術」を続けることで、近隣諸国の信頼も国際社会の尊敬も勝ち得ることはないだろう。ASEANの領有権主張国を威圧する行動、攻撃的武器の配備、海洋についての違法な主張の執行は、中国の信頼性への深刻な疑いを提起している。米国は、同盟国、パートナー国による、インド太平洋全体における航行の自由と経済的機会を確かなものとする努力を支援し続ける。

出典:‘China Escalates Coercion Against Vietnam’s Longstanding Oil and Gas Activity in the South China Sea’(U.S. Department of Defense, August 26, 2019)

 中国の「嫌がらせ戦術」に対して、関係諸国は連携を密にしようとしている。例えば、8月23日にはベトナムのハノイで豪越首脳会談が行われたが、その際の共同声明で、南シナ海の資源に関する「妨害的活動」に懸念が示された。豪州とベトナムは、5月にベトナムのカムラン湾に豪海軍の艦船2隻が寄港するなど、関係を緊密化させている。また、8月27日のベトナム・マレーシア首脳会談でも、中国の調査船による活動について話し合われたと見られる。

 ただ、関係諸国、ひいては国際社会の連携のカギとなるのは、やはり何と言っても米国の動向である。この点、米国が上述の通り相次いで2つの声明を発表したことは、南シナ海における中国の傍若無人な振る舞いを米国が深刻に受け止めているというメッセージを強く発するものであり、歓迎される。上記の国防総省の声明の内容は、米国の立場、国際秩序の原則を明確に示している。定期的に繰り返されている米国主導の「航行の自由作戦」(8月末にも実施)も、本件への直接の対応ではないとしても、米国の南シナ海におけるプレゼンス維持が本気であることを示すものである。

 今後の注目点は、まず第一には、国際社会の連携をどれだけ拡大できるかである。それには、中国に対し、ルールに基づいた国際秩序の原則を繰り返し言っていくということであろう。その次に、さらに実効的な措置が模索される必要があると思われる。しかし、準軍事組織を用いた中国の「嫌がらせ戦術」に対抗するのは、言うは易く行うは難し、である。潜在的には、米議会に提出されている「南シナ海・東シナ海制裁法案」などが対抗手段となり得るかもしれない。同法は、ASEAN加盟国が領有権を主張する海域において、平和、安全保障、安定を脅かす行為をした個人に対して制裁を科すとしている。実現性は全く不透明ではあるが、興味深い試みであると言えよう。

【私の論評】米国の戦略に組み込まれるだけではなく、日本も独自の戦略を持て(゚д゚)!

尖閣に迫りくる危機

冒頭の記事にあるように、南シナ海で領有権を争っている国々の石油・ガス探査への嫌がらせを強めています。

その一方で、中国の武装艦艇による尖閣諸島周辺の日本の領海や接続水域への侵入が一段と頻繁になってきています。

この状況に対して、米国の首都ワシントンの大手研究機関からこのままだと日本は尖閣諸島の施政権を失うことになる、という警告が発せられました。米国側では、中国が尖閣奪取を計画し、さらに東シナ海全体の覇権を制しようとするとみて、警戒を強めているといいます。

中国艦艇による尖閣諸島の日本領海への侵入はあまりに頻繁すぎるためか、日本側の警戒が減ってきました。主要新聞の報道も、外国の武装艦艇による重大な領海侵犯なのに雑報扱いとなっている状況です。

多くの国民も、あまりに頻繁なので、ニュースで報じられたのを見たり聞いたりしても、危機感を感じるどころは、「あー。またか」という程度で、ほとんど興味を失っているというのが現状ではないでしょうか。

中国に実効支配された尖閣諸島の想像図
滑走路、港、レーダーサイトが設置されている

しかし、日本の領海のすぐ外にあって日本の法律がその域内で適用される接続水域への中国艦艇の侵入はさらに増えています。しかも頻繁に侵入してくる船は 中国人民解放軍の直接の指揮下にある人民武装警察に所属する中国海警の艦艇です。それらの船はみな武装しています。なかには中国海軍の正式な武装艦がそのまま海警に所属変えとなった艦艇もあります。

尖閣の現状は、より厳しいものになっています。尖閣の現状に対して米国の大手研究機関から警告を発しました。このままだと中国は尖閣の施政権を日本と共有した形となり、尖閣の奪取から東シナ海全体の覇権確保へと進むことになる、というのです。

この警告は、ワシントンの安全保障研究機関「戦略予算評価センター(CSBA)」が2019年8月に作成した「インド太平洋における中国の多様な闘争」と題する調査報告書に明記されていました。

ヨシハラ氏は中国の対尖閣戦略を「威圧態勢」と呼んでいます。同報告書の、主に「尖閣諸島への中国の威圧態勢」というパートの中で、その特徴を次のように述べています。
・中国は軍事、非軍事の多様な手段で尖閣の主権を主張し、最近では日本の領海へ1年間に60回、接続水域に1カ月に22回という頻度で侵入し、ほぼ恒常的な侵入によって事実上の施政権保持を誇示するようになった。
・中国は海軍、海警、民兵、漁船の4組織で尖閣への攻勢を進め、その侵入のたびに自国の領海領土の正当な管理行動として政府機関のサイトや官営ディアの報道で記録を公表し、支配の実績の誇示を重ねている。
・中国は尖閣侵入の主体を准軍事組織の海警としながらも、海軍艦艇を付近に待機させ、ときには原子力潜水艦やフリゲート艦などを接続水域に送りこんでいる。また、日本の自衛隊の艦艇やヘリに、実弾発射の予備となるレーダー照射を2回実行した。
・中国は近年、尖閣から300~400キロの浙江省の温州、南麂島、福建省の霞浦に、それぞれ新たな軍事基地や兵站施設を建設した。いずれも尖閣への本格的な軍事攻撃の能力を画期的に高める効果がある。
ヨシハラ氏の報告は、以上のような情勢によって、日本が尖閣諸島を喪失するだけでなく、中国が東シナ海全域の覇権を獲得しかねない重大な恐れが生じていることを強調している。同時に、中国の尖閣への「威圧態勢」は、米国の日本防衛の実効性を探るとともに、日米離反をも意図しているという。

同報告は日本にとって今後の最悪シナリオといえる可能性を、次のように指摘していました。
・中国は当面、消耗戦を続け、日本の尖閣への施政権否定を試みる。日本の反撃が弱いと判断すれば、「短期の鋭利な戦争」という形で尖閣の軍事占領に出る可能性もある。
・中国がその戦闘に勝ち、米国が介入できなかった場合、東アジアの安全保障秩序は根柢から変わってしまう。日本もその可能性を認識し、本格的な対応を考慮すべきである。
このままだと中国は、尖閣周辺での自国艦艇の活動実績を基に、尖閣への施政権保持を公式に宣言する見通しが強いといいます。日本はまさに領土喪失という国難に迫られているのです。

ヨシハラ氏の報告は、こうした深刻な事態に対して日米両国が協力し合って中国の海洋脅威をはね返すことを訴えていた。

では、これに対する備えはないのかといえば、日本はどうなのかといえば、はっきりしないところがありますが、米国の有力シンクタンクがこれに対する答えともいえる、提言を出していました。それを以下に要約して引用します。


"
中国の台湾や尖閣攻撃に対処する米最新戦略
米国有名シンクタンクCSBAが新戦略「海洋プレッシャー戦略」発表

ワシントンDCに所在の有名なシンクタンク「戦略予算評価センター(CSBA)」が米国のアジア太平洋地域における戦略として「海洋プレッシャー(Maritime Pressure)」 (注:海洋圧力ではなく、海洋プレッシャーを採用する) 戦略とその戦略の骨幹をなす作戦構想「インサイド・アウト防衛(Inside-Out Defense)」を提言している*1。

(*1=CSBA, “TIGHTENING THE CHAIN IMPLEMENTING A STRATEGY OF MARITIME PRESSURE IN THE WESTERN PACIFIC”)

この戦略は、強大化する中国の脅威に対抗するために案出された画期的な戦略で、日本の南西諸島防衛をバックアップする戦略であり、「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」とも密接な関係がある。

海洋プレッシャー戦略の背景

海洋プレッシャー戦略が発表される以前に、これと関係の深い戦略や作戦構想が発表されてきた。例えば、CSBAが米海軍や空軍と共同して発表したエアシーバトル(ASB)は特に有名だ。

そのほかに、CSBAセンター長であったアンドリュー・クレピネヴッチの「列島防衛(Archipelagic Defense)」、米海軍大学教授トシ・ヨシハラとジェームス・ホームズの「米国式非対称戦*2」、海兵隊将校ジョセフ・ハナチェクの「島嶼要塞(Island Forts)」などだ。

(*2=Toshi Yoshihara and James R. Holmes “Asymmetric Warfare, American Style”)

ASBと密接な関係のある列島防衛戦略としての海洋プレッシャー戦略がトランプ時代に復活したことには大きな意義がある。米中覇権争いにおいて米国が真剣に中国の脅威に対処しようという決意の表れであるからだ。

既成事実化(fait accompli)をいかに克服するか?

この戦略のキーワードの一つは「既成事実化」だ。

これは、「相手が迅速に反応できる前に、状況を迅速・決定的に転換させること」を意味し、ロシアが2014年、ウクライナから大きな抵抗や反撃を受けることなくクリミアを併合した事例がこの「既成事実化」に相当する。

台湾紛争を例にとると、中国が台湾を攻撃し、米軍が効果的な対応をする前に台湾を占領してしまうシナリオを米国は危惧している。この場合、台湾占領が既成事実となり、これを覆すことは難しくなるからだ。

広大な太平洋を横断して軍事力を展開することは、米軍にとっても決して容易なことではない。

紛争地域外にいる米軍は、紛争現場に到着するために、中国の接近阻止/領域拒否(A2/AD)ネットワークを突破しなければならない。米海兵隊司令官ロバート・ネラー大将は「我々は戦場に到達するための戦いをしなければならない」と述べている*3。

(*3=ロバート・B・ネラー、下院歳出委員会・国防会議での証言、2018年3月7日)

海洋プレッシャー(Maritime Pressure)戦略

海洋プレッシャー戦略の目的は、西太平洋での軍事的侵略の試みは失敗することを中国指導者に分からせることだ。

海洋プレッシャー戦略は、防御的な拒否戦略で、従来提唱されていた封鎖作戦(blockade operations)や中国本土に対する懲罰的打撃を補完または代替する作戦構想である。

海洋プレッシャー戦略は、第1列島線沿いに高い残存能力のある精密打撃ネットワークを確立する。

米国および同盟国の地上発射の対艦ミサイルや対空ミサイルの大量配備とこれを支援する海・空・電子戦能力で構成されるネットワークは、作戦上は非集権的で、配置は西太平洋の列島線沿いに地理的に分散されている。

海洋プレッシャー戦略は、国防戦略委員会の要請に対する回答で、インド太平洋地域における中国の侵略を抑止するために前方展開し縦深防衛態勢を確立するなどの利点を追求すること、そして米国のINF条約からの離脱などの政策決定を勘案した案を案出することが求められた。

インサイド・アウト防衛(Inside-Out Defense)

海洋プレッシャー戦略ではまず、距離と時間の制約を克服し、米軍の介入に対する中国の試みを挫折させ、既成事実化を防ぐという作戦構想「インサイド・アウト防衛」を採用する。

インサイド・アウト防衛とは、インサイド部隊とアウトサイド部隊による防衛だ。

インサイド部隊は第1列島線の内側(インサイド)に配置された部隊(例えば陸上自衛隊)のことで陸軍や海兵隊が中心だ。

アウトサイド部隊は第1列島線の外側(アウトサイド)に存在する部隊で海軍や空軍の部隊が主体だ。

「インサイド・アウト防衛」

インサイド・アウト防衛は、中国が米国とその同盟国に対して行っているA2/ADを逆に中国に対して行うことなのだ。

すなわち、西太平洋の地形を利用して、中国の軍事力を弱体化させ、遅延させ、否定するA2/ADシステムを構築しようということだ。

インサイド部隊は、厳しい作戦環境で戦うことのできる攻撃力と敵の攻撃に対して生き残る強靭さを持った部隊だ。

アウトサイド部隊は、機敏で長距離からのスタンドオフ攻撃が可能で、中国のA2/ADネットワークに侵入して戦うことのできる部隊だ。

これらの内と外の部隊が協力して、人民解放軍の攻撃に生き残り、作戦する前方縦深防衛網を西太平洋に構築し、紛争初期において人民解放軍の攻撃を急速に鈍らせる。

米国が中国との紛争に勝利するためには、インサイド・アウト防衛だけでは十分ではないかもしれないが、既成事実化を回避することはできる。

また、懲罰的攻撃や遠距離からの封鎖といった他の作戦が効果を発揮するために必要な時間を提供することもできる。

インサイド・アウト防衛がより手ごわい防衛態勢を中国に提示することによって、危機において中国が大規模でコストのかかる紛争のエスカレーションを避け、緊張の緩和を選択するように導くことを目指している。

「インサイド・アウト防衛」の4つの作戦

「インサイド・アウト防衛」は、次の4つの主要な作戦で構成される。

・海上拒否作戦:中国の海上統制に対抗し、中国の海上戦力投射部隊を撃破するための第1列島線での作戦

・航空拒否作戦:中国の航空優勢に対抗し、中国の航空宇宙戦力投射部隊に勝利するための第1列島線における作戦

・情報拒否作戦:中国の情報支配に対抗し、米国の情報優位を可能にする作戦

・陸上攻撃作戦:中国の地上配備のA2/ADシステムを破壊し、中国の戦力投射部隊を味方またはパートナーの領土に引き寄せるための作戦

次の3つのサポート・ラインにより、上記4つの作戦が可能になる。

・競合が激しくパフォーマンスが低下する環境においてC4ISRシステムを確保し、米国の情報の優位性を可能にする

・中国のマルチドメイン攻撃から友軍と基地を防御する

・攻撃されている間、分散した戦力を維持する

海洋プレッシャー戦略に対する評価

・米中覇権争いの様相が濃くなり、米中のアジア太平洋における衝突の可能性が取り沙汰されている。

中国が目論む台湾占領などの既成事実化を許さない海洋プレッシャー戦略は、米中紛争を抑止する戦略、日本の防衛をバックアップする戦略として評価したい。

・海洋プレッシャー戦略を成立させるためには、第1列島線を形成する日本をはじめとする諸国(台湾、フィリピン、インドネシアなど)と米国との密接な関係が不可欠である。

国防省や国務省はその重要性を深く認識しているだろうが、唯一不安な存在は、アメリカ・ファーストを主張し世界中の米国同盟国や友好国に緊張をもたらしているドナルド・トランプ大統領だ。

アメリカ・ファーストを貫くと、関係諸国との関係がより親密になるとは思えない。

・自由で開かれたアジア太平洋戦略や海洋プレッシャー戦略のためには米軍のさらなる前方展開が必要だが、米国内にはこれに抵抗するグループがいる。

米中覇権争いにおいて、米国は本当に中国の脅威の増大に真剣に対処しようとしているのか否か、その本気度が試される。

・我が国は、この海洋プレッシャー戦略を前向きに評価しつつも、これに過度に頼ることなく、わが国独自に進めている南西防衛態勢の確立を粛々と推進すべきだ。

いずれにしても、中国の増大する脅威に日本単独で対処することは難しい。常に日米同盟の強化、第1列島線を構成する諸国との連携を今後さらに推進すべきであろう。

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日本としては、この他にも独自の戦略を持っておくべきと考えます。それに関しては、以前にもこのブログにも掲載した方法もあります。その記事のリンクを掲載します。
日本単独で「核武装国」中国を壊滅させる秘策は機雷―【私の論評】戦争になれぱ中国海軍は、日本の機雷戦に太刀打ち出来ず崩壊する(゚д゚)!
平成20年6月12日、海上自衛隊による機雷の爆破処理で
海面に噴き上がる水柱。後方は神戸市街=神戸市沖
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、まずは日本の掃海能力は世界一であること、それに比較すると中国の掃海能力はかなり劣るから、機雷を最大限に活用した封じ込め戦略をすべきことを掲載しました。

確かに、中国海軍は機雷をばらまかれると何もできなくなるでしょう。主要港湾を機雷封鎖すれば中国は海洋進出無理などころか石油が枯渇することになります。

そこまで行く前に、まずは、尖閣周辺にばらまくという方法もあると思います。一度ばらまくと、日本としてはそれに対する対処方法もありますが、中国はできません。これで、尖閣付近に中国の武装船、漁船、潜水艦その他の公船などか侵入することを防ぐことができます。

さらに、中国が報復としてし、自分たちも機雷を設置するようなことをすると、中国には撒いた機雷の位置を精密に記録するという訓練も装備もありません。しかも中国製機雷には時限無効化機構もついてない。

自分たちで撒いた機雷により、シナ沿岸は半永久に誰も航行ができない海域と化すことになるでしょう。中共に投資しようという外国投資家も半永久にいなくなる。なにしろ、商品を船で送り出せなくなるのです。

いずれ、南シナ海の中国が環礁埋め立てて作った島々などの付近を米国と共同で機雷を投下すれば、中国の船は近づけなくなり、補給を絶つことができます。

機雷のほかにも、F16(できれば最新型F16V)と99式空対空誘導弾 もしくは、 AMRAAMがあったら余裕で制空権をとることもできるでしょう。

「海洋プレッシャー戦略」に組み込まれるというだけではなく、日本でも可能な独自戦略を考え出し、尖閣への侵入があった場合には、すぐに対応できるように準備すべきです。

米国手動の大掛かりな戦略等は、それができるようになるまでは時間と、多大な経費が必要になるでしょう。また、それまでの間には、対応できない部分もあることでしょう。当然日本も応分の貢献が求められるようになるでしょう。

これが完璧になるのを待っていては、それこそ中国が既成事実をつくりあげ、尖閣等を実行支配するようになるかもしれません。それは、断固として阻止しなければなりません。

日本は、そろそろ、尖閣付近に海保だけではなく、海上自衛隊を派遣すべきでしょう。その覚悟がなければ、せっかくの機雷による封鎖能力などは宝の持ち腐れになるでしょう。

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