2022年9月24日土曜日

マスコミ大騒ぎも...円買い介入の効果は「限定的」 本当に切り込むべき仕組み―【私の論評】この秋の補正でみすぼらしい予算しか組まないのなら、岸田首相には来年5月のG7広島サミット後にご勇退いただくべき(゚д゚)!

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
マスコミ大騒ぎも...円買い介入の効果は「限定的」 本当に切り込むべき仕組み



政府は2022年9月22日、為替介入を行った。同日、日本銀行は金融政策決定会合を開いて、大規模緩和の継続を発表した。

22日の動きを時間を追ってみてみよう。12時少し前に、日銀の金融政策決定会合で大規模な金融緩和を維持というニュースが流れた。為替は二国間の金融政策の差でほとんど決まるので、この日銀の決定は事前の予想通りとしても、円安要因だ。1ドル144円前半で推移していたが、17時少し前には145円後半まで円安にふれた。

そこで、政府(財務省)による為替介入が行われた。一挙に円高方向に動き、一時140円後半まで円高になった。その後、すこしずつ円安に戻り、日付が変わるころには142円前半になっている。要するに、日銀の金融政策決定会合で1円円安になり、介入で3円円高になったわけだ。

フローの為替売買のごく一部でしかない為替介入

もっとも、この介入の効果は、これまでの事例では数日するとなくなるともいわれている。今回の介入は、日本単独で世界各国との協調でもないので、効果はそのうち消えるだろう。というのは、今の為替相場は、大量の資金取引が行われており、フローの為替売買のごく一部でしかない為替介入では効果は自ずと限定的だ。

このような介入に、マスコミは24年ぶりと大騒ぎだ。そもそも介入といっても、具体的には外国為替資金特別会計(外為特会)における外貨証券の売買である。円安是正には保有している外貨証券を売却する。

筆者は、為替介入で大騒ぎするより、この外為特会の仕組みそのものに切り込むべきだと思う。

政府は外為特会で外貨証券を120兆円ほど保有しているが、2021年3月末でのその円貨換算レートは1ドル104円程度だ。となると、単純計算では今の為替レートでは4割程度の数十兆円程度となる評価益がでている。

為替介入が為替相場に与える影響は一時的であるが、円安是正介入による外貨証券売却で巨額の売却益が期待できるので、その財源化には大きな意味がある。

為替市場への影響を避けるために、市中への売却ではなく、対日銀や他の特別会計などの広義の政府内へ売却する方法もあり得る。

外貨証券を売却し、名実ともに正々堂々と変動相場制の国になったほうがいい

そもそも、先進国つまり変動相場制国で日本ほど外貨証券を保有している国はない。恒常的に外貨証券を保有していることで、常に外貨証券購入との「為替操作」をしているとみなされても反論出来ず仕方がない。

あらぬ誤解を招かないように、この際、外貨証券を売却し、名実ともに正々堂々と変動相場制の国になったほうがいい。そして、二国間の金融政策の差で自ずと為替が決まるようにしたほうがいい。

そもそも円安は国全体としてはGDP増加要因だ。これは古今東西、自国通貨安は近隣窮乏化政策として知られて事実だ。その一方、輸入業者等にはマイナスである。しかし、政府が一番利益を享受しているのは知られていない。であれば、政府の利益を困った人に還元するのは当然だ。

2022年9月23日金曜日

岸田首相「万事休す」…物価高騰、国葬、旧統一教会問題「八方ふさがり状態」が10月にいよいよヤバくなる―【私の論評】岸田政権が長期政権になる道は絶たれた、最長でも来年5月のサミットまでか(゚д゚)!

岸田首相「万事休す」…物価高騰、国葬、旧統一教会問題「八方ふさがり状態」が10月にいよいよヤバくなる


「火だるま」の岸田首相

 10月4日、岸田文雄首相は第100代内閣総理大臣に就任してから1年の節目を迎える。

 従来であれば、番記者たちが、朝、官邸入口で岸田首相を待ち構え、「総理、就任1年の感想は?」と質問を浴びせ、岸田首相も気軽に応じるはずが、「国民の声に耳を傾けながら、1つ1つ結果を出してまいりたい」と、9月20日、報道陣の前で述べたフレーズを眉間にしわを寄せながら繰り返すしかないのではないか。

 参議院選挙での圧勝からわずか3ヵ月足らず。岸田首相は今、安倍晋三元首相の国葬問題、次から次へと新たな関係が明らかになる旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題で、「10月を乗り切れるのか」(自民党菅グループ中堅議員)と危惧される状況下にある。

 おまけに10月は、食料品や生活必需品など約6500品目で値上げが想定されている。これに、1ドル=150円近くまで下落するとの予測もある円安、OPECプラス(石油輸出国機構加盟国とロシアなど産油国の枠組み)で合意された原油の減産が追い討ちをかける。

 新型コロナウイルスこそ、新規感染者の数が頭打ち傾向にあるが、10月から水際対策を大幅に緩和し、入国の上限撤廃を撤廃したり、個人旅行を解禁したりすれば、第8波を招く可能性も否定できない。

 そうした中、国会では臨時国会が始まり、岸田首相は、野党からの厳しい追及に防戦一方となることを余儀なくされる。

 そこで説得力のある答弁ができなければ、NHKや全国紙などが毎月中旬に公表する世論調査では、内閣支持率が、9月の毎日新聞調査(9月17日、18日実施で内閣支持率29%)と同程度の水準にまで下落することも予想される。そうなれば、危険水域だ。

内閣支持率が上昇する材料はゼロ

 問題なのは、この先、岸田内閣への支持率が上昇する材料が見当たらないことだ。

 岸田首相は、国連総会での一般演説で、ウクライナ問題をめぐって国連改革を強く訴え、ロシアを名指しで批判してみせた。また、英国のトラス首相と会談するなど、外交日程も予定どおりこなしているが、支持率を回復させるような材料にはならない。

 それ以上の課題が山積しているからである。改めて整理しておこう。

■国葬に伴う弔問外交は極めて短時間
 ・9月27日に開催される安倍元首相の国葬。国葬にした根拠、約16億6000万円もかかる費用の問題に、二階俊博元幹事長の「国葬やらなかったらバカ」「黙って手を合わせて見送れ」発言が火に油を注ぎ、東京では当日まで大規模な抗議集会が続く。

 ・安倍元首相の業績に懐疑的な村上誠一郎元行革相が欠席を決め、「国民の半数以上が反対している国葬を強行したら国民の分断を助長する」と述べたことは、自民党内にも波紋を拡げている。

 ・海外からは、アメリカのハリス副大統領、カナダのトルドー首相、インドのモディ首相、オーストラリアのアルバニージー首相、それに韓国の韓悳洙首相など現職の首脳級700人が来日する予定で、岸田首相は50か国の首脳級とそれぞれ短時間でマラソン会談を実施する。ただ、1か国当たり10分~15分程度の会談で、成果が上がるかは微妙。第一、巨額の国費投入への批判は、弔問外交の成否に関わらず当面続く。

■旧統一教会問題での相次ぐ“報告漏れ“
 ・自民党が9月8日に発表した党所属国会議員の調査結果で氏名が公表されなかった木原誠二官房副長官らの関わりが新たに浮上。山際大志郎経済再生相も旧統一教会のイベントに出席していたことを認めた。

 ・相次ぐ“報告漏れ“には、筆者も含め、国民の不信感が募る。茂木敏充幹事長が再度、調査結果を公表したとしても焼け石に水。

■物価高対策は付け焼刃
 ・政府は低所得者層への5万円給付を決定。しかし、対象となるのは住民税非課税世帯の約1600万世帯のみで全体の3割程度。値上げが相次ぐ10月に大胆な対策が打てるのか疑問。

■観光支援策は両刃の剣
 ・円安のメリットとなる部分を活かし、海外旅行客の増大を図ったり、「全国旅行支援」を実施すれば、観光業にはのプラスになるが、新型コロナウイルスの感染拡大を招く恐れも。また「全国旅行支援」は、都道府県判断のため、コロナ患者の全数把握同様、混乱する可能性もある。

■衆議院選挙区の「10増10減」で与党内は泥仕合
 ・140選挙区で区割りが見直しになる。自民党は、選挙区が大幅に増える東京や神奈川などでは新たな支部長を決め、「この区は自民、ここは公明」と割り振る必要性が生じる。区割り変更は議員にとって政治生命に直結するため、大もめになる。言葉は悪いが、泥棒に刑法をいじらせるようなもの。合意形成には骨が折れる。

 ・とはいえ、これらを解決しなければ、岸田首相は解散もできない。調整に失敗すれば、その不満や怒りは総裁の岸田首相や茂木幹事長に向けられる。

思い起こされる「青木率」

 こうした中、思い起こされるのが「青木率」だ。「青木率」とは、かつて「参議院のドン」と呼ばれた元自民党参議院議員会長、青木幹雄氏が唱えた方程式で、「内閣支持率と政党支持率の合計が60%を切ると黄信号が灯り、50%を切ると政権運営がおぼつかなくなる」というものだ。

 その点からすれば、岸田内閣の場合、どの世論調査を見ても、「内閣支持率+自民党政党支持率=70%以上」という状況であるため、行き詰まるまでには至っていない。

 ただ、筆者は別の見方をしている。

 「内閣支持率+自民党内での岸田首相支持率<50%」になれば、岸田首相は極めて厳しい状態に追い込まれると見ている。

 それは、岸田首相の党内基盤がぜい弱だからである。

 総理・総裁派閥の岸田派は、衆参合わせて43人の党内第4派閥だ。安倍派(97人)、茂木派(54人)、麻生派(51人)には数の上で及ばず、自民党所属国会議員(衆参議長含め381人)の中で言えば、その割合は11%にすぎない。

 つまり、他派閥から見放され、岸田交代論が強まれば、急降下している内閣支持率との足し算で、比較的早い時期に50%を切る可能性があるということだ。

何しても首筋寒し秋の風

 「このまま行けば、来年春の統一地方選挙はボロ負けになる。そうなると我々は、地元で市議会議員や県議会議員を失うので次の国政選挙への打撃も大きい。来年5月の広島サミットで花道を…では間に合わない」(自民党安倍派若手議員)

 「岸田さんは『聞く力』を、国民ではなく安倍派に向けて発揮してしまった。安倍派に配慮して国葬実施に走り、旧統一教会問題に関しても、安倍派の重鎮、細田博之氏を衆議院議長だからという理由で調査対象にしなかった。この先、東京五輪汚職事件で、事実上、安倍派をとりまとめてきた森さん(森喜朗大会組織委員会元会長)にまで捜査の手が及べばアウトだ」(前出の自民党菅グループ中堅議員)

 自民党内からはこのような声が聞こえてくる。「物言えば唇寒し秋の風」(松尾芭蕉の句)などと言われるが、岸田首相にとっては、「何しても首筋寒し秋の風」といったところだろうか。

清水 克彦(政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師)

【私の論評】岸田政権が長期政権になる道は絶たれた、最長でも来年5月のサミットまでか(゚д゚)!

上の記事、間違いもあり、掲載するかどうかは迷いましたが、現在の政局を表しているという点では、わかりやすいのであえて掲載しました。

旧統一教会問題に関しては、そもそも発端は、安倍派潰しだったと考えられます。今から振り返ってみると旧統一教会と関係が深い閣僚などを排除するという趣旨のことをあらかじめ発言した上での内閣改造でした。

その結果をみると、岸防衛大臣を外すなどの、安倍派外しの人事が目立ちました。これに、統一教会問題を利用したようですが、なんと蓋をあけてみると、岸田派閣僚にも統一教会と関係があることが明らかになったものも存在しており、特に安倍派だけが、統一教会との関係のある議員が多いということもありませんでした。

岸田派も含め、多くの自民党派閥に統一教会との関係ある議員が存在したことが明らかとなりました。

特に、旧統一教会との「関係」というあいまいなところで線を引こうとしたことに無理があり、新閣僚にも統一教会との「関係」がある人が出てしまったのです。

統一教会問題については、霊感商法などについては、安倍政権時代に法律が整備されて、かなり減っていることが明らかになっています。寄付金に関しては、たしかに問題にあるケースもあるのですか、これに対しては新たな立法で対処する旨を丁寧に説明すべきでした。

いかにマスコミや、野党から批判されようとも、岸田総理の得意な「検討中」であると言っておけば急場しのぎができて、しかも後で本当に寄付金を防ぐための、税法等の改正をすれば、批判も収まった可能性も十分あります。

ただ、機械的に統一教会と関係のあった議員を事実上、排除するとい発言をしてしまったことが、本当に不味かったです。そうなると、多くの議員が、関係者に対して「あなたは統一教会と関係がありますか」と質問しなければならなくなり、これは憲法にも保証されている「信教の自由」を侵害することになり、それこそ人権侵害になるからです。

労働局などでは、就職差別になるので以下のような質問を面接時にしてはならないとしています。

就職差別につながるおそれのある不適切な質問の例
  1. 本籍に関する質問 あなたの本籍地はどこですか。 ...
  2. 住居とその環境に関する質問 ...
  3. 家族構成や家族の職業・地位・収入に関する質問 ...
  4. 資産に関する質問 ...
  5. 思想・信条、宗教、尊敬する人物、支持政党に関する質問 ...
  6. 男女雇用機会均等法に抵触する質問
企業などの就職の面接では宗教や尊敬する人物を質問してはいけないのです。面接でこのようなことをしてはいけないのですから、議員が自らの関係者にそのような質問をすることも、かなり問題があることは明らかです。魔女狩りといわれても仕方ありません。

このようなことを自民党の議員に要求したわけですから、これはある意味、野党やマスコミ等の挑発に見事に乗ってしまい、相手の土俵にあがった形になってしまいました。そのせいか、いつの間にか、安倍元総理の国葬儀と統一教会問題が関連づけられて、マスコミや野党が語るようになってしまいました。そうして、岸田政権はそのブーメランで、支持率がかなり下がってしまいました。

現在日本においては、国葬と国葬儀も混乱して語られています。日本に於いての国葬は、憲法7条と皇室典範25条による天皇の国事行為である大喪の礼だけです。当然ですが安倍元総理は対象になりません。内閣府設置法により国家に貢献した人を弔う儀式が国葬儀で別のものです。私は、このような混乱はいずれ収まるものとみています。

上の記事で、村上誠一郎元行革相が、国葬儀に参加しないことを表明したり、安倍氏を批判してみせたようなことは、全くの問題外です。これは、自民党としては何らかの処分をすべきです。

安倍派幹部の萩生田光一政調会長と世耕弘成参院幹事長は21日、総務会メンバーの発言との理由で遠藤利明総務会長に事実確認と「けじめ」を要求。萩生田氏は茂木敏充幹事長とも意見交換しました。

岸田総理は信じがたいことに、魔女狩り発言中に中国のミサイルが日本のEEZ 内に着弾してもすぐに国家安全保証会議(NSC)を開催しないなど、危機管理能力がないことがはっきりしました。おそらく、この時岸田総理の頭の中は、内閣改造でパンパンになっており、会議を開催するという考えも及ばなかったように見えます。


岸田内閣は、危機管理能力が全くないということがこれで暴露されてしまったといえます。

岸田政権と菅政権を比較すると、菅政権はかなりまともだったと思います。少なとも、岸田政権よりは、はるかに危機管理能力は高かったと思います。

菅首相の所信表明演説をあらためて見返してみると、こと新型コロナワクチンに関してはすべて達成していることが分かります。菅前首相は、ワクチン接種のペースに関して「1日100万回」と発言し、テレビや雑誌で「非現実的だ」などと叩かれに叩かれたましたが、結局これも実行しました。

「明かりは見え始めている」発言もなぜか非難囂々でしたが、その後の感染者数の激減をみると菅前首相の認識は間違ってはいませんでした。菅政権に関しては、少なくとも新型コロナワクチンに関しての結果だけは認めるべきです。


病床確保については、尾身会長も抗えない、いわゆる医療村に阻まれて、失敗はしたものの、それでも医療崩壊を起こすこともなく、コロナをかなり収拾させたというのは、間違いなく大きな成果です。

新型コロナワクチンで大きな成果を上げた菅政権でしたが、在職日数384日で成し遂げた仕事はそれだけにとどまらないです。東京オリンピック・パラリンピックの開催、デジタル庁の創設や携帯電話料金の値下げ、不妊治療の保険適用、福島第一原発の処理水の海洋放出、2050年カーボンニュートラル宣言など、主に安倍元首相時代に積み残してきた問題や課題に次々とケリをつけています。

さらに、安倍・菅政権ともに、コロナが蔓延していた時期には、両政権あわせて100兆円の補正予算を組んだことと、日本には他国にはない「雇用調整助成金」という制度もあり、これも活用したことで、コロナが蔓延して、様々な規制が行われたときでさえ、失業率は2%台を維持していました。

そのせいですか、無論コロナで職を失った人もいましたが、だからといって、それが深刻な社会問題にまで発展したということはありませんでした。両政権のコロナ感染が続いていた期間においては、日本は世界で一番失業率が抑えられていました。これについては、マスコミなどはほとんど触れることもありませんが、安倍・菅政権の大きな成果です。

岸田政権においても、失業率の大きな変動はありませんが、これは岸田政権の成果でなく、安倍・菅政権によるものです。岸田政権は、これを引き継いだので、経済的にも安定しており、かなりやりやすかったと思います。ただ、岸田政権の決めた、補正予算は数兆円レベルであり、この秋にまともな補正予算を組んで、様々な経済対策をしなければ、今後は失業率も上がることになります。

確かに、菅前首相はやり方が強引に見えるところがあり、口下手で発信能力にも欠けいるとも批判されました。ただ、いまから考えると、こうした批判は、仕事師と異名をとる菅氏に対しては、総理としての仕事そのものには批判ができなかったので、このような批判をするしかなかったとも考えられます。

国会や記者会見での木で鼻を括ったような受けも批判されましたが、これも今から考えると、全く筋違いで見当違いな馬鹿げた、低レベルの野党議員や記者の質問に対して、このような態度をとったまでで、相手の土俵に乗ってしまう、岸田現総理と比べれば、至ってまともだったと思います。こうした点に不満を覚えて不支持に回った人も少なくないようですが、今一度菅前総理の仕事ぶりの、結果だけを見てみると、近年まれにみる「国民のために働いた内閣」と言っても良いです。

昨年26日、BSフジのプライムニュースに出演した菅前首相は以下のように語っていました。
(衆議院選挙の応援に行った時のことを聞かれ)私自身は、総理を辞めての選挙でしたし、街頭遊説は非常に怖かったですよね。行っても非難されるんじゃないか、批判されるんじゃないかと。しかし、行く先々で見たこともないような光景が続きましたね。本当に多くの人に足を運んでいただいて、あるいは通りすがりの人のほとんどが足を止めていただいて、『ワクチンありがとう』って声がかかったんですね。政治家冥利に尽きましたよね。

結局自民党は、マスコミや野党の挑発に乗ってしまい、このような仕事師内閣とも呼べるような、菅内閣を一年で終わらせてしまいました。現在仮に、菅政権が今も続いていれば、良かったと思います。 

それが、結局派閥の力学などで、菅政権は一年あまりで終わってしまいました。以下に、菅政権と岸田内閣の支持率の推移を掲載します。菅内閣の支持率も高くはありませんが、政権末期には、菅内閣の仕事ぶりが評価されたのが、上昇しつつありました。

岸田内閣の現在の支持率は29%であり、不支持率は64%です。これは、毎日新聞の調査です。他の調査も似たりよったりです。


私は、岸田政権は危機管理能力が欠如しており、短期政権で終わらせるべきだと思います。ただ、現在は安保・外交・補正予算などの懸案事項が多数あります。岸田政権でこれが、できるなら、今年あたりには岸田政権を継続し、これらの懸案事項を片付け、来年に入ってから、派閥の話し合いなどを行い、5月のサミットを終了した段階で、総裁選などのスケジュールにスべきと思います。

自民党は、菅内閣という仕事師であり、安倍路線を忠実に継承する内閣を短期政権で終わらせたという、前科があります。

今年あわてて、来年4月の統一地方選のためだけに、解散などに踏み切れば、混乱する可能性が大きいです。ここは、自民党自体をなるべく毀損しない方向で、来年5月のサミット終了時に花道解散という形にすべきと思います。

解散後には総裁選を行い、候補者には菅氏も含めるべきだと思います。これが、当面安倍路線を継承できる最上の策だと思います。

どのみち、岸田政権が長期政権になる道は絶たれたとみるべきでしょう。次の自民党総裁として、高市氏や安倍派の議員を待望する人たちも多いようですが、未だ残念ながら政治家としては、力不足です。仮に総理になれたとしても、何も成就できず漂流し、かつての民主党政権や岸田政権のようになってしまうでしょう。

当面は、菅前総理のような人が、総理として安倍路線を引き継いだ上で、自民党の中の誰か有力な人がメンター的な役割も果たし、次の総理候補者を育てていただきたいものです。

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2022年9月22日木曜日

ロシア予備役招集始まる 抗議デモの1400人拘束―【私の論評】ロシアは第2の「ロシア革命」前夜か(゚д゚)!

ロシア予備役招集始まる 抗議デモの1400人拘束

治安部隊に拘束された抗議デモ参加者(21日、モスクワ)

ロシアで21日、プーチン大統領が同日発令した部分動員令にもとづき、予備役らの招集が始まった。人権団体OVDインフォによると、モスクワ時間22日未明(日本時間22日朝)時点で、国内38都市で抗議デモに参加した約1400人が治安当局に拘束された。招集を逃れようと、周辺国へ向かう航空便への予約・購入が殺到している。

プーチン氏が21日の演説で部分動員を発表してから間もなく、SNS(交流サイト)上には、兵役義務者に届いたという出頭命令書の写真が相次ぎ投稿された。

ロシアは18~27歳の男性に通常1年間の兵役義務を課している。学生や健康状態によっては免除される。今回の部分動員は侵攻するウクライナで不足する兵員を補うためで、特別な軍事技術・経験などを持つ予備役が対象となる見通し。

ロシアの有力紙RBKによると、トルコやアゼルバイジャン、アルメニアなど近隣諸国に向かう21日と22日発の航空便のチケットが瞬く間に売り切れた。23日以降の価格も急上昇しているという。

プーチン氏は21日の演説で、ウクライナの占領地域のロシア編入の是非を問う住民投票実施への支持も表明した。

主要7カ国(G7)は21日、国連総会開催中の米ニューヨークで外相会合を開き、「いかさまの住民投票」と糾弾した。各国に対して住民投票を非難し、結果を承認しないよう呼びかけた。ロシアに対する追加制裁も検討する。

ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、国連総会の一般討論演説で対ロ制裁強化と国連安全保障理事会でのロシアの拒否権剝奪を求めた。

【私の論評】ロシアは第2の「ロシア革命」前夜か(゚д゚)!

下の写真は、モスクワの男性に届いた予備役招集の「赤紙」と思われる召喚状。9月23日午前10時までにモスクワ市内の徴兵司令部に来るように指示されています。ジャーナリストのパルハメンコ氏が公表したものです。不思議ですが、一昨日届いてたとのことです。さらにロシア各地で反対集会が開かれ、次々にデモ隊メンバーが拘束されています。


下は、今回の予備役徴集に反対する人々のデモです。
予備役招集にまで至り、とうとう反戦活動が本格化してきたようです。

これまでロシアが実際に実施こととがある予備役動員訓練で最大だったのは昨年のBARS-2021(国家陸軍戦闘予備2021)で5万人くらいです。過去の軍管区大演習は多くても5000-1万人くらいですが、これは「指標」なので実際にはその10倍くらいを招集する想定でロシア側は、動いてはいたのでしょう。ショイグ国防相いわく、2500万人の予備役うち30万人なので部分的動員としています。

ただ、「2500万人の予備役」というと、下の人口ビラミッドをご覧いただければわかりますが、これはロシアの20-45歳の男性人口とほぼ同等なので、これを順次動員した場合、ロシアの社会機能をどんどん削っていくに等しいです。補給能力その他を考慮すれば「30万人は第1波」というよりそれ以上を同時動員するのは困難とみるのが妥当だと思います。


ロシア軍がいま直面しているのはマンパワーの問題かもしれないですが、そもそもロシア軍がマンパワーで問題を抱えるに至った原因は別にあって、それはいくら予備役を追加招集したとしてみも簡単に解決するようなものではないので、30万人動員したところで、すぐに戦局がひっくり返せるとは考えられません。

ソ連時代と違って現在のロシア軍には素人を兵隊に仕立てることを含めた戦時総動員システムと呼べるものが整備されていないですから、短期的には予備役動員しかできないし、規模も限定的です。しかも、悪いことには、予備役を訓練するはずだった、職業軍人、しかも経験を積んだ将兵がすでに、戦死したか、負傷しています。

それに、そもそも30万人の動員計画がどのようなものかわからないです。どのくらいの期間で人員を投入する予定なのかも示されていません。

おそらく、今回の予備役招集の人数が多すぎると批判が出ますが、少なすぎると役に立たず、反発が出ないギリギリの数にしたのではないかと考えられます。

今後、これら予備役をロシアに編入した地域の防衛に使うのか、未制圧市域に使うのか、予備役の使い方で今後の“戦闘の出口”の考え方がみえてくることになりそうです。

今後部分動員による予備役招集・再訓練・戦力化のサイクルが回るようになれば、段階的に規模を拡大して事実上の総動員への道を開き、30万人徴集して1年程度戦わせ、それが終了すれば、次の30万を戦わせるというなサイクルを考えているのかもしれません。先の30万人の一部は、新兵の訓練にあたるなどのことを考えているのかもしれません。

そのサイクルが出来上がれば、理屈の上では、 計算上は、2500万÷30万=83年戦争ができることにはなり、今回のウクライナ侵略には、十分とも考えられますが、そのようなことは不可能ではないかもしれないですが、ロシアの経済と社会インフラがそこまで持つかはかなり疑わしいです。

そもそも、この30万人は戦争にだけ従事するわけで、これらに人々一人ひとりに日々3千カロリーの食料を提供し、その他水や、武器・弾薬を提供し、一時的な住居を提供し、車両のガソリンや、冬季の暖房なども提供しなければなりません。しかもこれらをウクライナに運ばなければなりません。このような、兵站をロシア軍はまともに考えてるのでしようか。過去の戦いを見る限りそうではないようです。

兵站というと、以前にもこのブログで解説したように、ロシア軍の兵站はほぼ鉄道に頼っています。そうして、ロシアの鉄道はモスクワを中心として路線が走っています。すべての乗客や、物資はモスクワに集まり、それが全国に運ばれることになります。

ウクライナに送る兵隊や物資かなり大きな部分が全国からモスクワに集められ、そこから運ばれるわけです。そうなると、予備役の多くは、一度モスクワに集まり、そこで訓練を受け、ウクライナに送られるというのが、最も効率的ということになります。

モスクワに多数の予備役が、集まればどういうことになるでしょうか。過去にも同じようなことがありました。ロシアでは過去においても、予備役を多数集めた時期がありました。それはロシア革命の頃です。

当時も、不満を持った予備役が多数モスクワに結集し、しかも武器・弾薬までがモスクワに結集していたわけですから、それが多くの革命家に焚きつけられれば、どういうことになるか。言わずと知れた「ロシア革命」です。実際、ロシア革命には多くの予備役が参加したとされています。

現状のロシアは、そのような状況になりつつあります。

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2022年9月21日水曜日

EU商工会議所「中国の魅力低下」中国は反論―【私の論評】中国の不況は構造的であり「変動相場制」に移行しなければ低迷し続ける(゚д゚)!



 EU=ヨーロッパ連合の商工会議所は投資先としての中国の魅力が低下したとする報告書を発表しました。中国側は対中投資が増加したヨーロッパの国もあると反論しています。

 ロイター通信によりますと、EUの商工会議所は21日、会員企業1800社の回答をまとめた報告書を発表しました。

 報告書では、企業が中国への信頼を失いつつあり投資先としての魅力が低下したと指摘したうえで、新型コロナ対策における「柔軟性の欠如と一貫性のなさ」が主な原因だと説明しています。

 これに対し、中国外務省は21日の会見で「今年、対中投資が最も伸びた国のなかにはヨーロッパの国も含まれている」と反論しました。

 そのうえで、「中国のコロナ対策は最も経済的で効果的だ」と主張し、各国の企業に対しより大きな発展のチャンスを提供していると述べました。

【私の論評】中国の不況は構造的であり「変動相場制」に移行しなければ低迷し続ける(゚д゚)!

このブログでは、国際金融のトリレンマを解説したことがあります。その内容は、国際金融において、「資本の自由な移動」、「固定相場制」、「独立した金融緩和政策」のうち、実現できるのは2つのみであり、3つとも実現することは不可能であることが知られていることを掲載しました。

中国としては今更「自由な資本移動」を捨て去ることはできないでしょう。上の記事にもある通り、中国は各国の企業に対して発展のチャンスを提供していると述べ、海外からの投資を制限しようとする考えはないようです。無論そうでしょう、中国の過去の発展は海外からの投資によるところもかなり大きいです。これが自由にできなくなれば、中国の発展はありません。

無論現状では、中途半端に制限している状況ですが、かといって完璧に遮断するということは今更できません。

「独立した金融緩和政策」も捨てられないでしょう。これができなければ、とんでもないことになります。しかし、現状の中国では、金融緩和政策そのものが効かなくなりつつあります。これは、一大事です。失業率が上がれば、金融緩和をすれば、失業率が下がるという経験則はいずれの国でもあてはまります。しかし、金融緩和しようにも、これが効かなくなりつあるのですから、失業率を下げることもままなりません。

であれば、最後に残されたのは、「固定相場制」を捨てることです。これにいつまでもこだわっていれば、中国の今後の経済の発展はありません。



しかし、そのような動きは見られないので、今後中国が経済発展する見込みはありません。

このようなことは、国際金融を少し齧った人間なら誰でもわかることです。このブログでも何度か掲載してきたことです。

このようなことが中国では顕在化しています。いつまでも「固定相場制」を捨てそうもない中国の様子をみて、EU=ヨーロッパ連合の商工会議所は投資先としての中国の魅力が低下したとする報告書を発表したのです。

そうして、「固定相場制」をやめそうもない習近平氏は、経済に関してはその都度弥縫策を取っているだけとみるのが正しい見方でしょう。何かを考えていると、見るからその真意がみえなくなるだけなのです。

中国経済は、過去には、普通の国のように、好景気、不景気を繰り返すという循環してきましたが、ここ数年はそうではありません。すでに構造的に不景気になっているのです、この不景気から抜けたすには、先に述べたように「固定相場制」をやめて「変動相場制」に移行するというような抜本的な改革をするしかないのですが、それを実施しない限り、中国経済がこれからも低迷し続けます。

アイリスオーヤマ本社

生活用品大手のアイリスオーヤマが、約50種類の製品の生産を中国・大連から国内の工場に移すことを決めたことが9月14日に報じられています。

このことについて、マスコミのほとんどは、「円安」ばかりに注目して報道しています。無論、これもその要因の一つでしょう。

ただ、それだけではないということを、マスコミも報道すべきです。中国の不況は構造的なものであり、「変動相場制」に移行するなどの改革なければ、低迷し続けるのてす。ゼロコロナ政策をやめたり、従来のように政府が巨額の投資をしたとしても回復しません。

中国の不況は、現象面だけみると複雑にも見えますが、その原因は至って単純なものなのです。

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2022年9月20日火曜日

ウクライナ戦争で起きたEU分断と力学変動―【私の論評】日本のエネルギー政策の転換は、世界でのロシアの影響力排除につながり、池田首相の「所得倍増計画」に匹敵する大偉業に(゚д゚)!

ウクライナ戦争で起きたEU分断と力学変動

岡崎研究所

 仏ル・モンド紙コラムニストのシルヴィ・カウフマンが、ロシアのウクライナ侵攻で、欧州連合(EU)内の力学が変化している旨を、2022年8月30日の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で書いている。


 ロシアのウクライナ侵攻の結果、EU内の力学は変わりつつある。ソ連の占領下にあった加盟国及びウクライナとロシアに地理的に近い加盟国の見解は、今日、従来以上に真剣に受け取られている。

 この傾向はロシア人に対する入国ビザの禁止を巡る議論に明瞭である。ポーランド、フィンランド、チェコおよびバルト三国は、禁止を支持した。ドイツはこの禁止に反対した。リトアニアは、合意が得られなければ、地域的な合意を作ると脅かし、結局、独仏両国は妥協に向けて動くこととなった。ポーランドとバルト三国は今やフィンランドやスウェーデンのような北欧諸国を当てにすることが可能で、独仏両国は守勢に回っている。

 今年になって、独仏首脳は共に厳しい批判に直面した。ドイツはウクライナへの武器送達を躊躇したこと、フランスはプーチンとの電話会談を続けることに固執したことである。両者とも、とりあえず、ウクライナを軍事的に支持するとのコミットメントを再確認する必要を感じた。

 しかし、EUがウクライナを含む新たな加盟国を統合するという仕事に取り組んでいる折、ドイツのショルツ首相は、プラハで、EUの多数決への「漸進的な移行」を呼び掛けた。独仏両首脳は、これに反対するポーランドに抵抗する十分な力はあると思っている。

 もう一つ潜在的な不確定要素がある。9月25日のイタリアの選挙で極右が勝てば、欧州の変動する力学は更なる変化を見ることとなろう。

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 8月31日にプラハで開催された非公式EU外相理事会は、ロシアとの間の2007年のビザ発給円滑化協定を停止することを決定した。ロシアのウクライナ侵攻以降、EUに流入したロシア人旅行者は100万人に達するが、大多数はフィンランド(33万3000人)、エストニア(23万4000人)、リトアニア(13万2000人)経由でEUに流入した。ロシアとの間の空路は閉ざされているとされているのも、その所以であろう。

 ウクライナ国民が苦境にある中で、ロシア人観光客の流入が通常通りであるべきではないとして、ポーランド、フィンランド、チェコおよびバルト三国は、EUが全面的なビザ発給禁止に踏み切ることを要求し、プーチン政権とロシア市民一般は区別すべきことを主張して全面的な禁止に反対する加盟国と対立した。ビザ発給円滑化協定の停止は、妥協の産物である。

 ただ、妥協ではあるが、これら諸国の勝利である。この結果、全面的な禁止ではないが、ロシア市民に対するビザ発給は困難を増し、時間を要し、発給件数は顕著に低下するとされている。EU加盟国が独自の制限措置を講ずる余地も排除されていない。
プーチンの揺さぶりにEUは耐えられるか

 このような事態は、ロシアのウクライナ侵攻の結果生じたEU内の力学の変動の象徴的な事例である。この他にも、ハンガリーのオルバン首相がプーチン大統領と近い関係を頑強に維持していることが、ヴィシェグラード・グループ(ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロヴァキア)を麻痺させ、ポーランドを含むその他EU加盟国との分断を招いた状況もある。

 このような力学の変動――それに加えて従来からの東西あるいは南北の潜在的な対立もある――が重要視されねばならないのは、ガス供給を絞り込んで揺さぶりをかけ、EUを分断と不決断の冬に追い込み、出来ればEUを破壊するのが、プーチンの戦略だと思われるからである。

 エネルギー価格の急騰、インフレの昂進、迫る不況が喫緊の問題に浮上し、加盟国は国内問題に注意を削がれ、それぞれの事情を抱えてEUとしての結束した行動の困難性が増しているように思われる。その困難性は、去る7月、ガス需要が高まる冬を前に、EUがガス消費の15%削減に合意するに至る過程で既に顕在化したところである。

 EUはロシアへの対抗とウクライナに対する支援、更にはプーチンの計略を挫くためのガスのロシア依存からの脱却について、その結束を引き続き試されることになろう。ウクライナ戦争は、EU内の力学を揺さぶり、仏独連携は挑戦を受けているようにこの論説は書いているが、EUを率いる力は依然としてドイツとフランスにあると言うべきであろう。

 望むならば、イタリアがドラギの路線を踏襲することであるが、予想される右派連立政権の外交政策あるいは財政政策は攪乱要因となる恐れがあろう。

【私の論評】日本のエネルギー政策の転換は、世界でのロシアの影響力排除につながり、池田首相の「所得倍増計画」に匹敵する大偉業に(゚д゚)!

実は、ロシアによる分断、正確にはソ連よる分断を防いだ国があります。それは他ならぬ日本です。

元々の自民党は、富の公正配分を実現する党でした。池田勇人が総理大臣だった頃、池田政権は、絶対に日本人を餓死させないようにするため、金持ちにはなれないかもしれないものの、真面目に働いてさえすれば失業することもなく、一生安泰でいられる社会を作りました。

池田政権が当時騒然とした世の中で解散総選挙で所得倍増計画などを訴えて、圧倒的多数を取って安定政権の基盤を作って高度経済成長を実現するとともに、所得倍増計画を実現しました。そうして、これこそが日本の安全保障の中核となりました。

池田勇人氏

高度経済成長によってソ連の影響下で日本で革命を起こそうなどと本気で考えていた人達は労働組合の運動に加わるよりも地道に働く方が、安定した生活ができることに気づき、ソ連の間接侵略の芽は潰えたのです。そうして、強い経済を実現した、池田政権は日本で、初めて米国以外の国とも良い関係を築くという、対米一辺倒でない政策を実現しました。

ちなみに、岸田総理が属している、派閥である宏池会は池田勇人が佐藤栄作と袂を分かって旗揚げしたのが始まりです。宏池会の大先輩は、このような素晴らしい政策を実現したのです。現在の宏池会もこうした大先輩の業績を思い起こすべきです。

池田政権の当時の政策は、現在のEUでも当てはまると思います。ただし、所得倍増計画以前の日本と現在のEUとでは、所得水準がかなり異なります。無論現在のEUのほうが、所得水準はかなり高いです。

ただし、現状のEUで、人々を一番不安に落としいれているのは、所得以前にエネルギーです。エネルギーの安定供給こそ、EUの分断を防ぐ特効薬になります。ただし、エネルギーの安定供給をせずに放置しておけば、所得も下がり、人々をさらに不安に陥れ、ロシアに付け入る大きな隙を与えることになります。

一方、アジアでも同じく、エネルギーの安定供給ができなければ、これもロシアに大きく付け入る隙きを与えることになります。

これに対して、日本ができることがあります。

まず第一に、日本では東日本大震災以来、原発の再稼働が遅々として進んでいませんが、仮に現在再稼働している11基の原発(22年度再稼働予定の1基を含む)に加え、新基準規制適合性審査を申請している残り16基の原発がすべて再稼働したとすると、日本のLNG輸入量を現状より1620万トン(220.3億㎥)も節約することができます(日本エネルギー経済研究所の試算による)。

先日もこのブログに掲載したように、検査中も含めた稼働予定の原発と廃炉予定の原発を除いて、現在日本には残りの16基の原発があり、トータル33基動かせる可能性がある原発があるのです。この33基を全部稼働させれば、日本のLNG輸入量を現状より1620万トン(220.3億㎥)も節約できるというのです。

これが輸入に依存する日本のエネルギー安全保障の強化と、電気料金の高騰抑制につながることは勿論ですが、原発活用による日本のLNG輸入削減量は、EUがロシア産から代替しようという天然ガス1550億㎥の約14%を賄うことができます。

つまり日本の原発再稼働は、日本のエネルギー安全保障の改善効果だけではなく、世界の天然ガス需給ひっ迫の緩和に貢献することで、EU、アジア諸国を含むガス価格高騰を抑制する効果も期待できるのです。

日本はウクライナ危機という非常事態の中、安全審査が完了した原発の再稼働を遅滞なく進めることで、ウクライナ危機後に待っている世界のエネルギー危機の緩和に貢献することが出来るのです。

二点目として、従来から化石燃料の輸入にエネルギー供給を依存してきた日本は、省エネ技術の開発・普及が進み、石油、天然ガス、石炭を含めた化石燃料の効率的な利用技術をもっています。

昨年末のCOP26では、パリ協定第6条に基づいた、技術移転による国家間の削減協力と排出削減量移転の国際ルールに合意しました。それを受けて日本政府は、従来から進めてきた2国間クレジット制度(JCM)により、国際的な削減技術移転を加速し、日本が掲げる2030年46%排出削減目標に達成に向けて、1億トンのJCMクレジットを獲得することを見込んでいます。

昨年末のCOP26で演説する岸田総理

勿論日本の進んだ省エネ技術によるこうした海外技術協力が、世界のCO2削減に貢献できることは、それ自体大いに結構なことですが、実はこうした技術には、高効率のコンバインドサイクル発電設備や廃熱回収技術、熱電併給技術など、より少ない化石燃料の使用で、最大限のエネルギーを有効に取り出す技術が多く含まれています。

こうした技術をJCM締約国のみならず、エネルギー需要が高まるアジア地域の新興・途上国に提供することで、そうした地域の天然ガスを含む化石燃料の使用量を抑制することが期待でき、それによって温暖化対策のみならず、天然ガス需要そのものの抑制による価格高騰抑制効果も期待できます。

COP26では石炭火力発電に対する風当たりが強く、公的資金供与の禁止や、民間ESG資金の石炭火力からの引上げが打ち出されていますが、その後のウクライナ危機を受けた世界のエネルギー需給のひっ迫への対策と温暖化対策の両立を目指すためには、天然ガスの効率的な利用のに注目が集まることになるでしょう。

さらに、日本の世界トップクラスの高効率を誇る石炭火力発電技術やアンモニア混焼技術などは、エネルギー需要が伸びるアジア諸国のエネルギーインフレを抑制する技術公共材として、エネルギー安全保障と安定供給確保の観点から期待が高まってくるのは間違いありません。

ウクライナ危機は世界にとってエネルギー危機でもあります。日本は既存の原発の最大限の活用と、保有する省エネ・高効率エネルギー技術を活用することで、その世界的な影響を緩和することができます。

ウクライナへの軍事的直接協力ができない日本ですが、自国の持つ技術を武器にエネルギー分野でこうした対策を打ち出すことで、自国のエネルギー安全保障の確保と同時に、世界のエネルギー危機の緩和に貢献できるのであれば、大いに進めるべきでしょう。

米国バイデン政権もこのような取り組みを行うべきです。そうでないと、エネルギー価格の高騰が続き、中間選挙において、敗北は濃厚になるでしょう。

自民党の党の政綱(綱領のこと)には次の項目があります。
平和主義、民主主義及び基本的人権尊重の原則を堅持しつつ、現行憲法の自主的改正をはかり、また占領諸法制を再検討し、国情に即してこれが改廃を行う。
自民党は、結党の精神として、憲法改正をすることをあげているのです。

この結党の精神を忘れることなく、安倍元総理は憲法改正に邁進しました。存命中には憲法改正はできなかったものの、困難を極めた安保法制の改正に邁進し、部分的ではありながら、集団的自衛権行使ができる体制をつくりあげました。これがなければ、今日米国やその他の国々とも安全保障の枠組みを構築することもできず、日本は困難を極める状況に追い込まれていたことでしょう。

「今こそ憲法改正を!1万人大会」に安倍首相はビデオメッセージをよせた2015年11月10日午後、日本武道館

その他、安倍氏はアベノミックスで、特に金融緩和によって、雇用を劇的に改善したり、インド太平洋戦略やQUADなどの枠組みを構築し、インド太平洋地域の安定に寄与しました。

先程も述べたように、岸田首相の出身派閥である宏池会は池田勇人が佐藤栄作と袂を分かって旗揚げしたのが始まりです。その池田隼人氏は、総理大臣だったときに、ソ連の日本での影響力をなくすという偉業を達成しました。

岸田総理はこうした大先輩の偉業を、再び実現してロシアのエネルギー分野での台頭を防ぎ、世界のエネルギー危機の緩和に貢献すべきです。そのことが、日本に対するロシアの影響を再び防ぐという大偉業につながることになります。

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2022年9月19日月曜日

バイデン氏、米軍は台湾防衛と表明-「前例のない攻撃」あれば―【私の論評】安倍晋三氏の提唱した様々な原理原則を、私達は忘れてはならない(゚д゚)!

バイデン氏、米軍は台湾防衛と表明-「前例のない攻撃」あれば

CBS番組「60ミニッツ」で発言-台湾独立巡る質問には距離置く
ウクライナに「必要な期間」支援継続-「戦争には負けていない」

9月、台湾南部の屏東県で行われた実弾演習で、大砲を発射する戦車

  バイデン米大統領は、「前例のない攻撃」があれば米軍は台湾を防衛すると表明した。中国による圧力が強まる中で、台湾に対する米国のコミットメントを強調した。

  バイデン氏は18日放映のCBS番組「60ミニッツ」で、台湾は独立している、あるいは独立すべきかとの質問には距離を置きつつ、米軍が「台湾を防衛」するのかとの問いには「実際に前例のない攻撃があればイエスだ」と回答。CBSがトランスクリプトを提供した。一方で、米国の「一つの中国政策」は変わっていないともインタビューの前半で改めて指摘した。

  「われわれは以前に署名したことに同意する。そして一つの中国政策がある。台湾は独立に関して自ら判断する。われわれは独立を促してはいない」とし、「それは彼らの判断だ」と述べた。

米大統領、台湾防衛にイエス-「一つの中国」に同意は変わらず

  バイデン氏はこれまでにも類似の発言をしたことがある。5月の訪日時には、台湾の防衛に必要な場合には「軍事的に関与」する用意があるかとの質問に対し、「イエス」と答え、「それはわが国が行った約束だ」と語った。ホワイトハウスの当局者はその後、火消しに回ったが、中国側から強い反発を招いた経緯がある。

  米当局者は18日、バイデン大統領は以前と同じ点を指摘したとした上で、米国の政策は変わっていないと強調した。匿名を条件に今回のインタビューについて反応を示した。

  また、バイデン氏はウクライナに対する米国の財政面でのコミットメントを重ねて示し、「必要な期間にわたり」支援を続けると表明した。ウクライナが勝利しつつあるのかとの質問には、殺りくや破壊が起きており、「勝利として見なすことは難しい」としながらも「戦争に負けてはいない」と答えた。

原題:Biden Says US Would Defend Taiwan in ‘Unprecedented Attack’ (1)(抜粋)
(バイデン大統領の発言を追加し更新します)

【私の論評】安倍晋三氏の提唱した様々な原理原則を、私達は忘れてはならない(゚д゚)!

バイデン氏のこのような発言は、もう4回目なので失言扱いできないです。安倍元首相の言っていたように曖昧戦略がそろそろ転換したとみられます。

安倍元首相の発言に関しては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
習主席が墓穴!空母威嚇が裏目に バイデン大統領「台湾防衛」を明言 「『第2のウクライナにはさせない』決意の現れ」識者―【私の論評】バイデン大統領の意図的発言は、安倍論文にも配慮した可能性が高いことを報道しないあきれた日本メディア(゚д゚)!
安倍元首相

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
バイデン氏は、中国に対して融和的発言はできないのでしょう。米国内では、そうしてしまえば、共和党やトランプ元大統領から徹底的に批判されるでしょうし、それどころか党内からも突き上げを食うことになるのでしょう。

米国においては、もはや中国に対峙する姿勢は、上下左右から支持され、米国の意思となったといって過言ではありません。現在米国では中国に融和的発言をすれば、米国に対する裏切り行為だと指弾されかねません。

台湾を巡っても、中国に融和的な発言をすれば、ウクライナ侵攻直前にロシアのウクライナ侵攻に米軍を派遣することはないと名言したときのように、大反発をくらい、それこそ中間選挙では大敗確実になるのでしょう。

そうしてこれには、4月12日にチェコ・プラハに所在地がある言論サイト「ブロジェクト・シンジケート」に安倍元総理が発表した、米国は台湾防衛に曖昧戦略はやめよと主張した英語論文の影響もあることでしょう。


同論文は瞬く間に反響を呼び、「ロサンゼルス・タイムズ」や仏紙「ルモンド」など、米国をはじめ30カ国・地域近くのメディアで掲載されました。

同論文では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を台湾有事と重ねたうえで、米国がこれまで続けてきた「曖昧戦略」を改め、中国が台湾を侵攻した場合に防衛の意思を明確にすべきだと主張しています。

1979年、米国は中国と国交を結んで台湾と断交し、台湾に防御兵器を提供することを定めた「台湾関係法」を制定しました。しかし、中国が台湾へ軍事侵攻した場合、米国が軍事介入するかどうかについては明らかになっていません。安倍氏は、この「曖昧戦略」を見直すべきだと主張しています。

安倍氏はかねてより「台湾有事は日本有事」だと主張してきました。

ロシアによるウクライナ侵攻において、バイデン米大統領は早い段階から「米軍は軍事介入しない」と明言しました。それがロシア軍の侵攻を加速させたことは間違いないです。台湾に関しても、米国が防衛の意思を明確にしなければ中国が実際に台湾へ侵攻することは容易に想像できます。
安倍晋三元首相が今年4月12日、世界の経済、政治、科学、文化に影響力のある有力者の論評・分析を配信するウェブサイト「プロジェクト・シンジケート」に投稿したこの論考は、世界中で話題となりました。投稿して2日余りで米国、フランス、ドイツ、ウクライナ、インド、香港…と30カ国・地域近くのメディアで掲載されたというのですから、反響の大きさがうかがえます。

安倍氏は論考で、ロシアの侵略を受けるウクライナを台湾に重ね、米国が長く台湾について取ってきた「曖昧戦略」を改め、台湾防衛の意思を明確にすべきだと主張しています。

米国は40年以上前の1979年の台湾関係法に基づき、台湾自衛に必要な武器供与などの支援を行う一方、台湾と中国が武力衝突した場合、軍事介入して台湾を防衛するかどうかは言及しない曖昧戦略をとってきました。安倍氏はこれにこう異を唱えたのです。

「時代は変化している。曖昧政策は、インド太平洋の不安要因になっている」

ロシアのウクライナ侵略をめぐっては、バイデン米政権が早々に軍事介入の選択肢を否定したことが、ロシア抑止の失敗を招いたと指摘される。台湾に関しても、米国が防衛意思をはっきりさせないと、中国が米国は介入しないとたかをくくって行動に移る危険があるということでしょう。

そしてその事態は、ほぼ確実に日本に飛び火します。

安倍氏は、ウクライナ侵略が起きる以前の昨年12月1日の台湾のシンクタンク主催のオンライン講演で、すでにこう訴えていました。

「(中国による)台湾への武力侵攻は、必ず日本の国土に対する重大な危険を引き起こす。台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」

そして、同月19日の九州「正論」懇話会での講演ではこの発言の意図を説明しています。

「中国が台湾に侵攻すれば、日本の『存立危機事態』に発展する可能性がある。大変なことになるということを、あらかじめ明確に示しておく必要がある」

存立危機事態とは、安倍政権下の平成27年に成立した安全保障関連法が定めた日本が限定的に集団的自衛権を行使できる要件の一つである。密接な関係にある他国に対する武力攻撃により、日本の存立が脅かされる状態をいいますが、台湾有事もそうなりかねないです。

さて、安倍氏のこの論文、以下に英語の本文と、それを翻訳したものを掲載します。

なぜ、このようなことをするかといえば、最近元TBS記者の山口敬之氏が「NHKの方針は、安倍晋三氏の発言をこの世から消すこと」と発言していたことです。

それが事実なのかいなかは、確認のしようもありませんが、上で述べたように、生前の発言でも、多くのマスコミが無視したのですから、この発言はまったく故のないものとは、いえないと思います。

私は、このブログで、良く経営学の大家である、ドラッカー氏のマネジメントの原理・原則を掲載することがあります。それは、ドラッカー氏のマネジメントに関する原理・原則は、原理原則であるがゆえに、ドラッカー氏が2005年になくなった後でも、今でもあらゆる組織にあてはまります。

多くの人は、職場や組織の中で、マネジメン上の困難をかかえています。悩みに悩んだ末に、時には正しい判断を、時には間違った判断をします。

しかし、これらのほとんどの問題はすでに、ドラッカー氏がマネジメンと原理原則としてまとめており、その解決の緒についても、様々なな示唆をしているものです。

ドラッカー氏 クリックすると拡大します

今日の私達のほとんどは何らかの組織の中で働き、日々マネジメント上の問題を抱えています。そうして、ドラッカー氏のマネジメントに関わる原理原則を知れば、それを知らないよりは、はるかに迅速で確かな意思決定ができます。

無論、原理原則という性質上、たとえばノウハウ本のように、すぐに効果がもたらされることはありません。しかし、様々な問題を根本から正しく考えるためには非常に役立ちます。これは、自分で実際に経験した上で、多くの人に知ってもらいたいと願うからこそ、折に触れてこのブログにも掲載しています。

そのドラッカーのマネジメントの原理原則は、現在米国ではほとんど顧みられていないといいます。その原因は、最近の米国の経営学会においては、因果関係ばかりが重んじられていて、ドラッカー氏のマネジメント上の原理原則はほとんど顧みられないからということが原因のようです。

これは、非常に残念なことです。私は、米国人が、もっとドラッカー流のマネジメントを学べば、そうしないよりは、はるかに良い社会を構築できると思います。そうして、原理原則という性質上これからかなり長い期間その原理原則は現実に適用できると思います。

私は、安倍元総理の、経済、外交、安全保証などに関する原理原則もドラッカー氏の原理原則と同じように長きにわたって、現実に適用できるものであると信じます。

こうした、安倍氏の原理原則が、米国でドラッカー氏のマネジメントの原理原則が顧みられなくなくなったのと同じく、日本で顧みられなくなることは残念至極といわざるをえません。

そのようなことがないように、このブログでは、安倍晋三氏の原理原則について、折をみて掲載し続けます。まずは、下に安倍氏の写真と、英語の論文とその翻訳を掲載します。

故郷の山口へ墓参りに帰った安倍氏 クリックすると拡大します


US Strategic Ambiguity Over Taiwan Must End
Apr 12, 2022
ABE SHINZŌ

For 40 years, the United States has made a point of not saying whether it would defend Taiwan against a Chinese invasion, an approach that proved effective in deterring rash action by China and by pro-independence Taiwanese. But now that circumstances have changed, so, too, must America's strategy.

TOKYO – Russia’s invasion of Ukraine has reminded many people of the fraught relationship between China and Taiwan. But while there are three similarities between the situation in Ukraine and Taiwan, there are also significant differences.

The first similarity is that there is a very large military power gap between Taiwan and China, just as there was between Ukraine and Russia. Moreover, that gap is growing larger every year.

Second, neither Ukraine nor Taiwan has formal military allies. Both countries are forced to confront threats or attacks alone.

Third, because both Russia and China are permanent, veto-wielding members of the United Nations Security Council, the UN’s mediation function cannot be relied upon for conflicts in which they are involved. This has been the case with the current Russian attack on Ukraine, and it would also be the case in any crisis over Taiwan.

But the situation surrounding Taiwan is even more uneasy. While Taiwan has no allies, it does have the Taiwan Relations Act, a 1979 US law requiring the United States to provide Taiwan with the military equipment and supplies “necessary to enable Taiwan to maintain a sufficient self-defense capacity.” This law has functioned as a form of compensation for America’s unwillingness to say explicitly that it will “defend Taiwan” should it be attacked. This arrangement should now change.

In response to Russia’s aggression against Ukraine, the US stated early on that it would not deploy its troops in Ukraine’s defense. But when it comes to Taiwan, the US has adopted a policy of strategic ambiguity. This is the second point of difference: it remains unclear whether the US would intervene by force in a crisis involving Taiwan.

Don't miss what David Miliband, Laura Chinchilla, Bill McKibben, Mohamed Nasheed, and more had to say at our latest virtual event, Forsaken Futures.

Because the US prefers to leave undefined its position on how it would respond to an assault on Taiwan, China has (at least up to now) been discouraged from military adventurism. This is so because China’s rulers must account for the possibility that the US would indeed intervene militarily. At the same time, US ambiguity has forced Taiwan to consider the possibility that the US will not intervene militarily, and this has deterred radical pro-independence groups on the island.

The US has maintained its Janus-faced policy for decades. But the third, most important difference between Ukraine and Taiwan suggests strongly that it is time for the US to reconsider its approach. Simply put, whereas Ukraine is an independent state beyond any doubt, Taiwan is not.

Russia’s invasion is not only an armed violation of Ukraine’s territorial sovereignty, but also an attempt to overthrow the government of a sovereign state with missiles and shells. On this point, there is no controversy in the international community over the interpretation of international law and the UN Charter. While the extent to which countries participate in sanctions against Russia has differed, no country has claimed that Russia is not in serious violation of international law.

By contrast, China claims that Taiwan is “part of its own country,” and the US and Japanese position is to respect this claim. Neither Japan nor the US has official diplomatic relations with Taiwan, and most countries around the world do not recognize Taiwan as a sovereign state. Unlike in Ukraine, Chinese leaders could claim that any invasion of Taiwan that China launches is necessary to suppress anti-government activities in one of its own regions, and that such acts therefore would not violate international law.

When Russia annexed Crimea, the international community ultimately acquiesced, even though Russia had violated Ukrainian sovereignty. Given this precedent, it is not surprising that Chinese leaders may very well expect the world to be more tolerant should they, too, adopt the logic of “regional” – rather than national – subjugation.

This logic has made strategic ambiguity untenable. The policy of ambiguity worked extremely well as long as the US was strong enough to maintain it, and as long as China was far inferior to the US in military power. But those days are over. The US policy of ambiguity toward Taiwan is now fostering instability in the Indo-Pacific region, by encouraging China to underestimate US resolve, while making the government in Taipei unnecessarily anxious.

Given the change in circumstances since the policy of strategic ambiguity was adopted, the US should issue a statement that is not open to misinterpretation or multiple interpretations. The time has come for the US to make clear that it will defend Taiwan against any attempted Chinese invasion.

Whenever I met President Xi Jinping during my time as prime minister, I always made it a rule to convey clearly to him that he should not misjudge Japan’s intention to defend the Senkaku Islands, and that Japan’s intentions were unwavering. The human tragedy that has befallen Ukraine has taught us a bitter lesson. There must no longer be any room for doubt in our resolve concerning Taiwan, and in our determination to defend freedom, democracy, human rights, and the rule of law.



台湾をめぐる米国の戦略的曖昧さは解消されなければならない

米国は40年来、中国の侵攻に対して台湾を防衛するかどうかを明言せず、中国や台湾独立派の軽率な行動を抑止するのに有効な方法をとってきた。しかし、状況が変わった今、アメリカの戦略もまた変化しなければならない。

東京 - ロシアのウクライナ侵攻は、多くの人々に中国と台湾の不安定な関係を思い起こさせている。しかし、ウクライナと台湾の状況には3つの類似点がある一方で、大きな相違点もある。

第一の共通点は、ウクライナとロシアがそうであったように、台湾と中国の間には非常に大きな軍事力の差があることである。しかも、その差は年々大きくなっている。

第二に、ウクライナも台湾も正式な軍事同盟を結んでいない。両国とも単独で脅威や攻撃に立ち向かわざるを得ない。

第三に、ロシアも中国も国連安保理の常任理事国であり、拒否権を持っているため、両者が関与する紛争では国連の調停機能が頼りにならない。今回のロシアのウクライナ攻撃もそうだったし、台湾をめぐる危機もそうだろう。

しかし、台湾をめぐる状況はさらに不安である。台湾には同盟国はないが、台湾関係法という1979年に米国が制定した法律があり、「台湾が十分な自衛能力を維持するために必要な」軍備や物資を台湾に提供することを義務付けている。この法律は、台湾が攻撃された場合、アメリカが「台湾を守る」と明言しないことに対する補償として機能してきた。今こそ、この仕組みを変えるべきだろう。

ロシアのウクライナ侵略に対して、アメリカは早くから「ウクライナ防衛のために軍隊を派遣しない」と表明してきた。しかし、台湾に関しては、米国は戦略的曖昧さの政策をとっている。これが第二の相違点であり、米国が台湾の危機に武力介入するかどうかは依然として不明である。

米国は台湾への攻撃にどう対応するかという立場を未確定にしたがるので、中国は(少なくともこれまでは)軍事的冒険主義を思いとどまることができた。これは、中国の統治者が、米国が本当に軍事介入してくる可能性を考慮しなければならないからである。一方、台湾は米国の曖昧さによって、米国が軍事介入しない可能性を考慮せざるを得なくなり、台湾の過激な独立派を抑止することができた。

米国は何十年もの間、ヤヌス顔負けの政策を維持してきた。しかし、ウクライナと台湾の第三の、最も重要な違いは、米国がそのアプローチを再考する時期に来ていることを強く示唆している。簡単に言えば、ウクライナは疑いようのない独立国家であるのに対し、台湾はそうではないのだ。

ロシアの侵攻は、ウクライナの領土主権に対する武力侵害であるだけでなく、ミサイルと砲弾で主権国家の政府を転覆させようとするものである。この点については、国際法や国連憲章の解釈をめぐって、国際社会で論争が起こることはない。ロシアに対する制裁に参加する国の程度は異なるが、ロシアが重大な国際法違反をしていないと主張する国はない。

これに対し、中国は台湾を「自国の一部」と主張し、日米はこれを尊重する立場である。日本も米国も台湾と正式な外交関係を結んでおらず、世界のほとんどの国が台湾を主権国家として認めていない。ウクライナと異なり、中国が台湾に侵攻しても、自国の一地域の反政府活動を抑えるために必要なことであり、国際法には違反しないと主張することも可能である。

ロシアがクリミアを併合したとき、国際社会は結局、ロシアがウクライナの主権を侵害しているにもかかわらず、これを容認してしまった。このような前例がある以上、中国の指導者たちが、自分たちも国家ではなく「地域」を従属させる論理を採用すれば、世界がもっと寛容になってくれると期待してもおかしくはないだろう。

この論理によって、戦略的な曖昧さは通用しなくなった。米国がそれを維持するだけの力を持ち、中国が軍事力で米国にはるかに劣る間は、曖昧さの政策は非常にうまく機能していた。しかし、そのような時代は終わったのである。米国の台湾に対する曖昧さ政策は、中国に米国の決意を過小評価させ、台北政府を不必要に不安にさせることによって、インド太平洋地域の不安定さを助長しているのである。

戦略的曖昧さ政策が採用された後の状況の変化を考慮し、米国は誤解や複数の解釈ができないような声明を出すべきである。米国は、中国によるいかなる侵略の試みに対しても、台湾を防衛することを明確にする時が来たのである。

私は首相時代に習近平国家主席に会うたびに、尖閣諸島を守るという日本の意思を見誤ってはいけない、日本の意思は揺るがないということを明確に伝えるようにしてきた。ウクライナに降りかかった人間の悲劇は、私たちに苦い教訓を与えてくれた。台湾に関する我々の決意、そして自由、民主主義、人権、法の支配を守るという我々の決意に、もはや疑いの余地はないはずである。

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2022年9月18日日曜日

ポーランド、ロシア領迂回の運河開通―【私の論評】NATO艦隊がヴィスワ潟湖を利用できることになれば、ロシアとしては心穏やかではない(゚д゚)!

ポーランド、ロシア領迂回の運河開通

ポーランドのグダニスクから見たバルト海

 ポーランドは17日、バルト海(Baltic Sea)から同国北部のエルブロンク(Elblag)港まで、ロシアの領海を迂回(うかい)して入港できる運河を開通させた。

 エルブロンクは、地峡と呼ばれる細長い陸地によってバルト海と隔てられている。これまではロシアのカリーニングラード湾(Kaliningrad Bay)にあるバルティスク(Baltiisk)の近くを航行するほかなく、ロシア当局の許可を要した。新たな運河は、ポーランドの町クリニツァモルスカ(Krynica Morska)の西方約5キロの同国領内を通っている。

   17日の開通式に出席したアンジェイ・ドゥダ(Andrzej Duda)大統領は「わが国に対して友好的でない国の認可をこれ以上求めずに済むよう、このルートを開通させたかった」と述べた。

 当面、新運河を航行できるのは小型船のみだが、ポーランド当局によると来年9月までに全長100メートル、幅20メートルまでの船舶の航行を可能にするため引き続き、総額20億ズロチ(約610億円)規模の工事が行われている。

 一方、環境保護活動家などからは、運河の建設によってビスラニー湾(Wislany Bay)の塩分濃度が変化し、生態系が脅かされるとの批判が上がっている。

【私の論評】NATO艦隊がヴィスワ潟湖を利用できれば、ロシアとしては心穏やかではない(゚д゚)!

上の記事では、地図がないので、何を言っているのかよくわからない人も多かったのではないかと思います。下に掲載した地図をご覧いただければ、良くご理解いただけるのではないかと思います。


従来の航路では、ポーランドの船は、ロシアの飛び地であるカリーニングラードの領海および内水の通過航行許可を取得してポーランドのエルブ ロング港まで航行しなければならなかったが、ヴィスワ砂州横断運河が完成し、ロシア領海および内水の通 過航行許可は必要なくなるということです。

ヴィスワ砂州横断運河建設計画では、35,000DWT級貨物船(最大載貨重量35,000t)、許容喫水12m、最大全長200mの船舶が航行できるようになります。完成すると大型船舶の航行が可能になり、エルブロンクの港湾・コンテナターミナル整備による物流活性化、グダンスク、グディニャ、ソポットの港湾の混雑緩和、エルブロンクの観光業振興、NATOの軍事面での東方防衛強化が図れると期待されています。

下は、ヴィスワ砂州横断運河の予想図です。予想図の奥がバルト海、手前がヴィスワ潟湖。2つの旋回橋で交通が制御、水門で水位が調整さ れます。


バルト海からポーランド領域内でのヴィスワ潟湖へのアクセスを実現するプランは、第二次世界大戦後の早い時期から存在していました。1945年には、戦前に商工省大臣、副首相兼財務大臣を歴任しグディニャ港の建設を主導したエウゲニウシュ・クファトコフスキがヴィスワ砂州横断運河建設を計画したが、実現には至りませんでした。

現在でも、この計画には、バルト海からヴィスワ潟湖への唯一の海峡を有しその航行の既得権を持つロシア側からの強い反発があります。また、ヴィスワ潟湖の生態系を破壊し、自然環境が悪化するという内外の反発も強いです。

世界で唯一のエロブロンク運河の水陸両用挺

しかしながら、ポーランド政府は、2022年頃の完成を目指して、着々と準備を進めてきました。ヴィスワ砂州横断運河が完成し、エルブロンク港が整備されたとして、それが経済的にどのくらい波及効果を持つかという問題もありますが、少なくとも、ポーランドとロシア(カリーニングラード)をまたぐ潟湖へのバルト海からの進入のコントロール権は、ロシアの独占が崩れることになります。特に、NATOの艦隊がここを利用できることになれば、ロシアとしては心穏やかでなないでしょう。

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2022年9月17日土曜日

比の潜水艦導入に仏が前向き―【私の論評】国軍近代化を目指している、フィリピンのマルコス政権に日本も協力すべき(゚д゚)!

比の潜水艦導入に仏が前向き

フランスとスペインが共同開発したスコルペヌ型潜水艦


【まとめ】

・フィリピンがフランスから潜水艦2隻を導入することについて、両国政府間で協議が開始。

・米がフィリピンへの通常型潜水艦供与に乗り出せば、フランスはまたもや米との潜水艦導入競争に直面する可能性も。

・南シナ海の海洋権益を主張してフィリピンと領有権問題が生じている中国からは、潜水艦導入への猛反発が予想される。

 フィリピン海軍の長年の夢である潜水艦の保有に関してフランスが前向きであることが明らかになった。東南アジアではインドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナム、ミャンマーの5カ国が潜水艦を導入し実際に運用している。

 このように東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国のうちすでに半数の国が潜水艦を導入しており、フィリピンはかねてから潜水艦取得に意欲をみせていたが、なかなか実現していなかった。

 9月13日にフランスは「フィリピン海軍の潜水艦を艦隊に含めた近代化計画に関してフィリピンを支援しかつ協力する準備が整っている」と前向きの姿勢を示し、フランスからの潜水艦導入が本格的に動き出す可能性が出てきた。

 フィリピンは南シナ海で中国との間で領有権問題を抱え、中国海軍艦艇や海警局船舶などによる領海侵犯や排他的経済水域(EEZ)内での違法操業などに長年悩まされているという問題がある。

 またフランス側にも2021年9月16日にオーストラリアがすでにフランスと契約していた潜水艦12隻の導入計画を破棄した。

 この時フランス政府は「我々は裏切られた」と怒りを爆発させた経緯がある。オーストラリアはその後米に原子力潜水艦を発注する事態に直面し、フランスとしては新たな契約先を模索しているという事情があり、フランスとフィリピン双方の思惑が一致した結果となったとの見方が有力だ。

★在比フランス大使が言及

 フィリピンの現地報道などによると、9月13日に在フィリピン・フランス大使館のミシェル・ボッゴズ大使がフィリピン海軍記念日の記念式典後の記者会見で「フランスはフィリピンと緊密に協力して戦略的な関係を構築することにコミットしているので準備はできている」として両国政府間ですでに潜水艦2隻の導入に関して協議を始めていることを明らかにした。

 具体的にはフランスの造船会社「ネイバル・グループ」との間で潜水艦とその関連施設を設計・建造することで協議が進んでいるという。

 さらにフランス側は「要員を派遣して潜水艦乗組員の教育、訓練、技術移転をすることも検討している」として全面的に支援する姿勢を示している。

 フィリピン政府はまだ潜水艦導入に関してフランス政府となんら合意、調印、契約には至っていないが、フランス側の積極的な「売り込み」に具体的な検討に着手する可能性が高いとみられている。

 フィリピンは2018年にロシアとの間で潜水艦導入を検討したことがあり2021年にも韓国との間で検討されたものの、いずれも正式な契約には至らなかった経緯があるという。

★米と競争か フランスの通常型潜水艦

 フランスがオーストラリアに総額500億ドルともいわれる潜水艦12隻の導入計画をキャンセルされた背景には、フランスの潜水艦は通常型潜水艦で原潜に比較すると潜水時間が限定的で長期間の潜航はできないことがあるのは間違いない。

 さらに米英豪による軍事同盟である「AUKUS」が2021年9月15日に設立が発表され、その直後にオーストラリアはフランスとの契約を破棄し、その後米原潜の導入を決めた。

 これは、南シナ海や太平洋での潜水艦作戦には長期潜航可能な原潜が必要との判断によるものとされている。

 もっともその理由以外に、遥か彼方のフランスより太平洋や南シナ海で共同訓練や作戦行動を共にする米海軍との関係を重視した結果の選択といわれている。

 フィリピン海軍が原潜を運用することはかなり非現実的だが、今後の進展次第では米がフィリピン海軍の近代化を含めて通常型潜水艦供与に乗り出してくる可能性も否定できず、フランスはオーストラリアに続いてフィリピンでも米との潜水艦導入競争に直面する可能性も予想されている。

★ASEANの潜水艦事情

 ASEAN各国ではシンガポールが6隻のスウェーデン製潜水艦を有用しているほか、インドネシアが韓国、西ドイツ、自国製の5隻を保有、マレーシアがフランスから2隻を導入、ベトナムは6隻をロシアから導入しているとされ、ミャンマーも2021年に中国製1隻を導入したとされている。

 このようにASEAN各国海軍の潜水艦戦力はその多くが旧式の通常型潜水艦とはいえ一定の能力を維持している。

 今後フィリピンがフランスから潜水艦を導入すればASEANでは最新鋭の潜水艦となる可能性が高く、南シナ海で一方的に広大な海域での海洋権益を主張してベトナム、マレーシア、ブルネイ、フィリピンとの間で領有権問題が生じ、一部の島嶼や環礁に港湾施設や空港、レーダーサイトなどの軍事施設を建設している中国が、フィリピンの潜水艦導入計画に対して猛反発してくることが予想されている。

【私の論評】国軍近代化を目指している、フィリピンのマルコス政権に日本も協力すべき(゚д゚)!

フィリピンは群島国家であり同時に海洋国家であり、特に南シナ海では中国との間で領有権を巡る争いを抱えており、海軍力の近代化、整備がドゥテルテ政権の喫緊の課題となっていました。

ドゥテルテ・フィリピン大統領と安倍総理

2018年にはフィリピンの国防相が「ロシアあるいは韓国」を念頭にして潜水艦導入計画があることを示唆したものの、その後計画は一向に具体化していませんでした。今回フランス製潜水艦導入が実現すればフィリピン海軍としては史上初の潜水艦保有となります。

フィリピンやインドネシアという群島国家、さらにマレー半島とボルネオ島に領土を持つマレーシア、南シナ海に面したベトナムなど東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国には海洋権益保護や海上警戒警備のために海軍力の整備近代化、多角的な運用が求められている国が存在します。

しかし潜水艦となるとシンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナムがそれぞれ新造艦や中古艦を保有しているものの、フィリピンはこれまで保有していなかったという経緯があります。

ASEANの潜水艦保有国の中でシンガポール以外のマレーシア、ベトナムは南シナ海で中国と直接領有権問題を抱え、インドネシアは南シナ海南端のインドネシア領ナツナ諸島の北方海域に広がる排他的経済水域(EEZ)への中国漁船の侵入、不法操業という問題に直面しています。

こうしたことから東で太平洋に面し、西で南シナ海に面しながら唯一潜水艦を持たないフィリピン政府や海軍にとって「潜水艦保有」は長年の宿願でした。

2018年6月にはフィリピンのデルフィン・ロレンザーナ国防相が潜水艦導入計画で「ロシアと韓国を視野に入れている」と発言したことが地元紙に報じられました。

ロレンザーナ国防相は「海軍近代化プログラムの中で潜水艦を導入する方針を決めた」と改めて強調し「ロシア、韓国そしてそれ以外の国も視野に入れている。潜水艦の建造には5~8年かかるため、なるべく早く発注したい」との意向を明らかにしました。

この時もロレンザーナ国防相は「隣国であるマレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナムは潜水艦を保有しているのに、フィリピンだけが持っていない。フィリピンの安全保障のためにも潜水艦は必要だ」として、潜水艦保有への熱い思いを語っていました。

フランスの造船会社「ネイバル・グループ」関係者は潜水艦導入計画が今後具体化すれば「乗組員の教育訓練に加えて潜水艦の運用、修理点検整備など全ての面でフィリピン海軍と協力関係を築くことができる」として全面的にサポートする姿勢を強調していました。

ただ、ドゥテルテ政権は他の主要ASEAN加盟国と同様に深刻なコロナ禍とそれに伴う経済不況に直面していました。新型コロナウイルスの感染者数、感染死者数ではフィリピンは域内でインドネシアに次ぐワースト2を記録し続けていました。

こうした未曾有の事態で一般国民がコロナ感染とそれに伴う失業や生活困窮などに喘ぐなか「いくら国防のためとはいえ潜水艦導入を今積極的に進める必要が本当にあるのか」との意見も根強く、結局はドゥテルテ政権では実現しませんでした。

自国の防衛力強化に関して、新マルコス政権は、ラモス政権期に制定されながら予算不足により空文化していた国軍近代化法を更新、空軍力と海軍力の強化に力点を置いた国軍近代化を目指すことになりました。

この海軍力の強化の一環として行われるのが、今回のフィリピンにおける潜水艦導入のフランスとの協議ということができます。


フィリピンの安全保証は、我が国にとっても重要です。日本のシーレンはフィリピンと台湾の間に位置します。日本では、台湾有事は日本の有事ということがいわれていますが、フィリピン有事も我が国に深刻な悪影響を及ぼすのは確実です。

そのため、フィリピンが潜水艦を保有するということは、我が国の安全保証にも寄与することとなり、我が国にとっても歓迎すべきことです。

フィリピと日本との間でも安全保障協力を進めています。2014年のシャングリラ・ダイアログにおける当時の安倍首相の演説は、海洋における法の支配を強調する内容であり、中国を名指しこそしないものの、南シナ海における中国の行動に焦点を当てる内容であり、当時のアキノ政権の立場と共鳴するものでありました。

2014年のシャングリラ・ダイアログにおける当時の安倍首相の演説

これ以降は、海上法執行機関に対する巡視船供与や専門家派遣に加え、防衛装備品移転や輸出が実現するなど、日比間の安全保障協力が強化されてきました。また、2012年の巨大台風ハイエンからの復興支援においては、自衛隊の艦艇が、第二次世界大戦の激戦地レイテに寄港し、復興支援に従事するなど、災害援助においても自衛隊の役割が拡大したといえます。

そうして、今年4月には、日本とフィリピンの初めての「2プラス2」が開催されました。日本側から林外務大臣と岸防衛大臣が、フィリピン側からロクシン外相とロレンザーナ国防相が出席し、東京都内で行われました。

冒頭、林大臣は「中国による力を背景とした一方的な現状変更の試みは東シナ海や南シナ海でも継続しており、われわれは国際秩序に対する多くの挑戦に直面している」と述べました。

協議で取りまとめられた共同声明では、海洋進出を強める中国を念頭に、東シナ海や南シナ海の状況に深刻な懸念を表明し、緊張を高める行為に強く反対しました。

そして、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、悲惨な人道上の影響が出ていると非難するとともに、こうした侵攻は、力による一方的な現状変更を認めない国際秩序の根幹を危うくし、ヨーロッパにとどまらずアジアにも影響を及ぼすという認識を共有しました。

また、日本・フィリピン両国の間で防衛装備品や技術の移転を進めるとともに、自衛隊とフィリピン軍との間で物品などの相互提供を円滑にするための枠組みについて検討を始めるなど、防衛協力を強化していくことで一致しました。

日本は、今後もフィリピンのマルコス政権と安全保障面で協力し、 インド太平洋地域の安定に寄与していくべきです。

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2022年9月16日金曜日

同盟国のカザフスタン元首相がプーチン政権を批判―【私の論評】米中露の中央アジアでの覇権争いを理解しなければ、中央アジアの動きや、ウクライナとの関連を理解できない(゚д゚)!

同盟国のカザフスタン元首相がプーチン政権を批判

カザフスタンのアケジャン・カジェゲリディン元首相

 ロシアのウクライナ侵攻を巡り、ロシアの同盟国である中央アジアのカザフスタンの元首相がプーチン政権を批判し、ソ連崩壊を繰り返すことになると警告しました。

 カザフスタンのアケジャン・カジェゲリディン元首相は、ドイツメディアのインタビューに答え、ロシアのウクライナ侵攻を巡るロシア側の主張を「理解できない要求」だと批判しました。

 また、ロシア国内で中央政府に対する地方の不満が高まっていて、ソ連邦崩壊時と同じ状況に陥っているとし、ロシアが連邦制を維持できず政治的に分裂する可能性があると指摘しました。

 カザフスタンは、石油や天然ガスなど豊富な資源を有していて、ロシアにとって重要な同盟国です。

 先月には、カザフスタンだけでなくキルギス、タジキスタンもアメリカなどと共同軍事演習をするなど、中央アジアの国々のロシア離れが進んでいます。

【私の論評】米中露の中央アジアでの覇権争いを理解しなければ、中央アジアの動きや、ウクライナとの関連を理解できない(゚д゚)!

カザフスタンについては、今年の1月トカエフ大統領は11日、抗議デモを鎮圧するため先週派遣を要請したロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」の部隊が2日後に撤退を開始すると表明したことをこのブログに掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
カザフ、ロシア主導部隊が2日後に撤退開始 新首相選出―【私の論評】中露ともにカザフの安定を望む本当の理由はこれだ(゚д゚)!
カザフスタン トカエフ大統領

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より結論部分を引用します。
中露としては、大統領がトカエフだろうが、誰だろうが、とにかく安定していて欲しいというのが本音でしょう。トカエフ政権が崩壊するようなことでもあれば、力の真空が生まれます。そこに乗じて米国が暗躍し、中露の両方に国境を接するカザフスタンに親米政権でも樹立されNATO軍が進駐することにでもなれば、それこそ中露にとって最大の悪夢です。

米国にとっては、アフガニスタンでの失地を大きく回復することになります。失地回復どころか、アフガニスタンは現状では、中国とは一部国境を接していますが、ロシアは国境を接しているわけではないのですが、カザフスタンは両国と長い国境線をはさんで隣接しています。

中露にとっては、かつての米国にとってのキューバ危機のように、裏庭に米軍基地ができあがることになります。それ以上かもしれません。冷戦中にカナダやメキシコに、親中露政権が樹立され、中露軍基地ができるような感じだと思います。そこに長距離ミサイル等を多数配備されることになれば、中露は戦略を根底から見直さなければならなくなります。ロシアはウクライナどころではなくなります。中国は海洋進出どころでなくなるかもしれません。
カザフスタン情勢は、プーチンや習近平にとって、鬼門ともいって良いような、恐るべき地政学上の脅威です。
バイデン氏が副大統領だった2013年11月、ウクライナのヤヌコーヴィチ大統領が率いる親露政権を転覆させようと、当時のバイデン副大統領やヌーランド国務次官補などマイダン革命を起こし、遂にヤヌコーヴィチをウクライナから追い出すことに成功しました。

こうして2014年6月に、バイデン氏は、米国の傀儡政権であるようなポロシェンコ政権を樹立させました。ただ、米国も予想していなかったようですが、ポロシェンコ政権はあまりに腐敗が酷すぎ、結局その後コメディアンであるゼレンスキーにとって変わられたのです。

ウクライナ大統領選におけるポロシェンコ(左)とゼレンスキー(右)

そうして、バイデンの画策というか、大括りでいえばオバマ政権の画策は、実はこれに留まりませんでした。その中の一つに、2015年11月に設立された「C5+1」があります。

これは米国が、プーチンが自らの「縄張り」と考える「中央アジア5ヵ国」に入り込んで、「5ヵ国」に支援をして、米国寄りにしていこうという目論見に基づき設立されたもので、「中央アジア5ヵ国+米国」外相会談を意味します。

バイデンとしてはウクライナをコントロールできるようにしたことだけでは不安を感じたのでしょう。プーチンの周りにはCSTOという軍事同盟もあるので、「中央アジア5ヵ国」を切り崩しておかないと不安だという思いがあったにちがいないです。


米シンクタンク、戦争研究所は今月15日の戦況分析で、ロシアがウクライナ侵攻に伴い旧ソ連諸国の基地に駐留する部隊を動員したことで、同諸国でロシアの影響力が弱まり、地域情勢が不安定化している可能性を指摘しました。

ウクライナ侵攻後に中央アジアのタジキスタンとキルギスの国境での軍事衝突や、アルメニアとアゼルバイジャンとの間で係争地ナゴルノカラバフを巡る争いが再燃しています。

戦争研究所は欧米メディアを引用し、タジキスタンのロシア軍基地からは約1500人がウクライナに派遣され、さらに600人が動員される予定としました。

米中露は、元々中央アジアで熾烈な争いをしていたのです。そうして、カザフスタンは中央アジアでは人口は最大であり、経済も一人あたりGDPでは1万ドルを少し超えたロシアよりは、低い9千ドル台にすぎないのですが、それにしても国全体では中央アジアで一番経済規模が大きいです。この国の動きは、中央アジア諸国に大きな影響を与えることになります。

現状では、プーチンはウクライナ戦争で手一杯ですし、ウクライナ戦争の本当の相手は、米国であることは十分に承知しているでしょう。最近もこのブログで示したように、こうした米国の存在がなければ、プーチンと習近平は、ユーラシア大陸の覇権を巡って戦うことになるでしょうが、今はそれどころではありません。

プーチンは、中央アジア5ヵ国の心が「バイデン」になびきさえしなければ、習近平にどんなことでも譲歩しようと考えているに違いありません。

日本では、米国の野心である、中央アジアでの「C5+1」のことがあまり報道されておらず、中央アジアの今日の動きや、ウクライナとの関連がが理解されていないようです。

これを理解しないと中央アジアの国々のロシア離れがなぜ進んでいるのか、その本質は理解できないです。なんの背景も説明せずに、カザフスタンの元首相がプーチン批判をしたことや、旧ソ連諸国の基地に駐留する部隊を動員したことで、同諸国でロシアの影響力が弱まり、地域情勢が不安定化ことだけを個別に報道したとしても、ほとんど無意味です。

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