2023年4月24日月曜日

『安倍晋三回顧録』を批判した「大物」大蔵次官の文春インタビュー記事に反論しよう―【私の論評】需要の低迷に対処せず、緊縮に走るのは、氷風呂で風邪を直そうするようなもの。全く馬鹿げている(゚д゚)!

『安倍晋三回顧録』を批判した「大物」大蔵次官の文春インタビュー記事に反論しよう

財務省のメディア工作の一環では

 10年に一度の大物大蔵次官といわれた齋藤次郎氏の、最初で最後というインタビュー記事が月刊文藝春秋5月号に掲載された。

 『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)を読むと、財務省がどれほど日本の政治・経済の足かせとなっているかがよくわかる。私が数えたところ、財務省に言及している部分は、なんと71ヵ所もあった。たとえば安倍さんが消費税の10%への引き上げを延期しようとした際、財務省は「安倍政権批判を展開し、私を引きずり下ろそうと画策した。彼らは省益のためなら政権を倒すことも辞さない」とまで書いている。

斎藤治郎

 齋藤氏は、「安倍晋三回顧録」を読んで、あまりに財務省が悪者に扱われていることに我慢ならなかったようだ。そこに書かれていることは単純で、債務を減らそうと一生懸命やっているのに、安倍さんから「省益」を追及し政権をも倒そうとしているといわれて財務官僚は困っているということだ。

「国の借金が大変だから」ロジックの罠

 齋藤氏のインタビュー記事の読みどころは、

「大幅な赤字財政が続いている日本では、財政健全化のために増税は避けられず、そのため財務省はことあるごとに政治に対して増税を求めてきました」

 と述べている部分だ。

 「国の借金(総債務残高や国債残高)が大変だから増税する」というのは財務省の決まり文句だ。齋藤氏はつづけて、

 「それは国家の将来を思えばこその行動です。税収を増やしても、歳出をカットしても、財務省は何一つ得をしない。むしろ増税を強く訴えれば国民に叩かれるわけですから、“省損”になることのほうが多い」

という。

 この財務省の「国の借金が大変だから増税する」というロジックだが、筆者は大蔵省入省当時から疑問だった。借金があるのなら、増税ではなく「資産」を売ればいい。このロジックを会社で例えるなら、経営不振に陥り倒産間際の会社が、資産を売らずに営業利益だけで借金を返そうと四苦八苦するようなものだ。

 そこで、筆者は、大蔵官僚時代の1990年代前半に政府のBS(バランスシート)を作った。それは政府の金融活動ともいえる財政投融資が危機的状況だったからだ。その際、政府のBSも作った。


 政府の財政状況を見るには、BSの借金残高だけでは不十分で、左側の資産も考慮し具体的には資産を控除したネット借金残高で見なければいけない。これはファイナンス論・会計論のイロハである。しかし、当時の大蔵省は資産を対外的に明らかにすることには恐ろしく消去的で、ある幹部から筆者はBSを口外するなと厳命を受けた。それが事実上解けたのは小泉政権になってからだ。

 筆者はこの齋藤氏のインタビュー記事を見た瞬間、「『文藝春秋』はまんまと財務省に利用されているな」と思った。財務省は選挙が近づくとメディア工作を行い、世論を「増税」に誘導しようと画策する。

 財務省と『文藝春秋』といえば、2021年11月号に当時現役の矢野康治財務次官が寄稿し、自民党総裁選や衆院選をめぐる政策論争を「バラマキ合戦」と批判して話題を呼んだ。今回の齋藤氏のインタビュー記事も、G7広島サミット後の解散を睨んで出されたものだろう。

 もっとも、筆者から見れば、齋藤氏ほど財務省の増税指向と天下り指向を体現している人はいない。その意味で、もっともわかりやすい人が出てきた。

天下り官僚に好都合な論理

 小泉政権では、筆者は郵政民営化準備室・総務大臣補佐官として郵政民営化法の企画立案に携わった。一方、齋藤氏は、当時民主党の小沢一郎氏と深い関係だったので、民営化阻止・国営化の立場だった。その後、自公政権から民主党政権への政権交代があり、郵政民営化法は改正され、株式を一定程度保有する事実上の国営化になった。そこで、齋藤氏は日本郵政社長に天下った。

 これは、財政の見方と大いに関係している。というのは、筆者のようにBSで借金とともに資産を考えると、借金は返済しなければいけないが、その財源として資産売却になる。しかし、齋藤氏のように借金だけに着目すると、増税で借金返済となる。

 はっきりいえば、資産の中には天下り先の米櫃である出資金や貸付金が多く含まれているので、増税は資産温存で天下りに支障がないので天下り官僚には好都合だ。逆にいえば、借金は返済せざるを得ないから資産売却となれば、天下りもできなくなる。民営化は資産売却の典型例なので、官僚が民営化を否定するのは天下りを維持したいことがしばしばだ。

 斎藤氏は、郵政民営化から事実上の国営化に乗じて政府が株主であることに乗じて天下りをしたわけだ。最近、東京メトロへの国交省からの天下りが問題になったが、それも上場を延期するなど政府が株を手放さないことからおこる。財務省も、JTの大株主であることを利用して天下りをいまだに続けている。

 安倍さんが、財務省が「省益」を追及しているというのは、例えば借金返済のために増税を主張するが一方で資産売却を渋り天下りに拘泥することをいっている。

 これで、齋藤氏ほど財務省の増税指向と天下り指向を体現している人はいないという意味がわかるだろう。ちなみに、齋藤氏は民主党政権が終わると、自分は退任し次の社長に再び財務省からの天下りをすえようと画策したが、安倍政権に見つかり失敗した。

 もちろん、増税すれば財務官僚の差配するカネが増えるのも財務省の「省益」だ。

【私の論評】需要の低迷に対処せず、緊縮に走るのは氷風呂で風邪を直そうとするに等しい。全く馬鹿げている(゚д゚)!

「ああ、日本における"緊縮財政マニア"の典型的なケースだ!風邪を氷風呂で治そうとするようなものだ」と昨年ノーベル経済学賞を受賞した、バーナンキ氏の苦笑が聞こえてきそうです。

バーナンキ氏

デフレ等で経済が停滞しているときや需要ギャップが生じているときに、政府支出を削り、消費税を上げるのは、火に油を注ぐようなものです。手足を切って体重を減らすようなものです。確かに体重は減るかもしれないてですが、持続可能で賢明な解決策とは言いがたいです。

バーナンキ氏は、デフレの時や需要ギャップが生じているときには、需要を刺激して経済活動を活性化させるために、政府支出を増やしたり減税したりする拡張的な財政政策を実施すべきだと主張しています。消費税増税のような緊縮財政は、個人消費を減退させ、デフレ圧力を悪化させ、経済をマンネリ化させるだけです。

しかし、財政再建の熱にうなされれば、常識など必要ないのでしょう。これでは、経済的な不調は治らないでしょう。岸田政権は、バーナンキ氏のノーベル賞受賞の経済学上の知恵を借りて、経済政策を軌道に乗せ、日本経済に笑いを取り戻すべきです。

しかし、高橋洋一氏が指摘するように、財務省にはその気は全くないようです。なぜなら、財務省は省益優先であり、その省益とは、財務官僚が天下りをして天下り先で、優雅な生活をしたいからです。

不況や、デフレからの脱却、需要ギャップがあるときには、政府が有効需要を喚起すべきというのは、世界の常識です。日本だけが、これが常識ではありません。

有効需要を喚起するためには、経済全体にお金を投じ、雇用創出や経済活動の増加を促し、人々の消費や投資を刺激することが重要です。要するに何に投資しても良いのです。ただ、速やかに投資すべきです。あれこれと悩んでいるくらいなら、それこそ、バーナンキ氏がかつて語ったように「日銀はトマトケチャップを買えばよい」のです。そうして、さっさと投資すれば良いのです。

バーナンキ氏によれば、有効需要とは、ハンバーガーにトマトケチャップをかけたい衝動に駆られるようなものだといいます。ハンバーガーにトマトケチャップが欠かせないように、商品とサービスに対する十分な需要がなければ健全な経済は成り立たちません。


これは当たり前のことなのです。不況やデフレというのは、人々が買いたいものと実際に買っているものにギャップがあるということです。ジューシーなハンバーガーが食べたいのに、ケチャップのボトルが空っぽなのと同じで、悲しくて物足りない状況なのです。

財務省は省益のために、曲がったことを言うのでしょうが、政治家やマスコミ、財界などにも、この簡単明瞭な話を理解できない人がいるのは不可解です!トマトケチャップを食べたことのない人に、その概念を説明しようとするようなものです。しかし、政治家や経済学者の中には、いまだに頭を悩ませて、複雑な理論や的外れな政策を考え出し、完全に的外れなことを言う人がいます。

日本では多くの人が、未だ需要の低迷という真の問題に対処する代わりに、支出削減等の締め付けや増税に焦点を当てるかもしれません。これは、ハンバーガーが食べたくなったら、ケチャップを禁止したり、トマトの値段を上げたりするようなもので、まったくもって馬鹿げています!

だから、多くの政治家が目を覚まし、不況やデフレから脱却するためには、有効需要を刺激することが重要であることを理解することを期待したいです。ハンバーガーにケチャップが必要なように、経済が発展するためには旺盛な需要が必要なのです。

今こそ、バーナンキ氏のケチャップの例えの知恵を受け入れ、たっぷり投資して有効需要を喚起し、満足のいく、食欲をそそる景気回復を実現する時なのです!

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2023年4月23日日曜日

中国、TPP加盟「支持を期待」 日本は慎重な立場―【私の論評】日本は経済・軍事的にも強くなるであろうウクライナにTPPだけでなく、いずれ安保でも協調すべき(゚д゚)!

中国、TPP加盟「支持を期待」 日本は慎重な立場


 中国商務省の王受文次官は23日の記者会見で、中国が申請したTPPについて「中国には参加の能力があり、メンバー11カ国の支持を期待する」と述べた。3月に11カ国が英国の加盟で合意したことを受け、支持獲得への働きかけを強めるとみられる。 

 加盟には全会一致の承認が必要で、日本が慎重な立場を取っており中国は交渉入りも見通せていない。王氏は中国が加われば、域内の消費者とGDPの総額の規模が大幅に拡大すると述べ、巨大市場の魅力をアピールした。 
 
 王氏は、中国の加盟は「地域の供給網の安定にとっても重要だ」と主張した。ハイテクで中国排除を狙う米国に対抗する思惑もうかがえる。

【私の論評】日本は経済・軍事的にも強くなるであろうウクライナにTPPだけでなく、いずれ安保でも協調すべき(゚д゚)!

TPPには、自由貿易を維持するため、さまざまな規制があり、現状では中国は加盟できません。そのような規制がありながらも、中国がこのような規制をいずれ守るようになるだろうと期待して、当初は守らなくても、10年くらい年月をかけて守るようになれば良いと信じて、加入させるようなことはすべきではありません。

いかなる国も、最初からTPPの規制を満たしていないければ、それを満たすようになってから加入させるべきです。

過去を振り返れば、先進国の「経済的に豊かになれば共産主義中国も『普通の国』として仲間入りができる」という誤った妄想が、中国の肥大化を招き傲慢な「人類の敵」にしてしまったという現実があります。

その代表例が、2001年の中国のWTO加盟です。1978年の改革・解放以来、鄧小平の活躍によって、1997年の香港再譲渡・返還にこぎつけた共産主義中国が、「繁栄への切符」を手に入れたのです。

中国のWTO加盟調印式

この時にも、共産主義中国は「WTOの公正なルール」に合致するような状態ではありませんでした。 ところが、米国を始めとする先進国は「今は基準を満たしていないが、貿易によって豊かになれば『公正なルール』を守るようになるだろう」と考え、共産主義中国も「将来はルールを守る」という「約束」をしたことで加盟が認められたのです。

ところが、加盟後20年以上経っても、共産主義中国は自国の(国営)企業を優遇し、外資系いじめを連発するだけではなく、貿易の基本的ルールさえまともに守る気があるのかどうか不明です。しかも、先進国の技術を平気で剽窃してきました。

TPPも同じことです。WTOの時の違いは、TPPに加入する中国は今後経済成長ができないことです。このブログで述べてきたように、中国は現状ては国際金融のトリレンマにより、独立した
金融政策ができない状況に落ち込んでいます。

中共はこれを資本移動の自由化をするか、人民元の変動相場制への移行などをすれば、是正できますが、是正をすれば、統治の正当性が揺らぐため、是正するつまりはありません。そのため、これから経済発展する見込みはありません。

貿易ルールを守れない、経済発展する見込みもない中国をわざわざTPPに入れるような真似は、すべきではありません。

一方、ウクライナ政府は近く、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)へ加盟申請する方針を決めています。インタファクス・ウクライナ通信が20日、報じました。実現すれば、今年3月に加盟が認められた英国に続き、欧州で2国目となります。

タラス・カチカ副経済相兼通商代表が4月中旬、米ワシントンで開催された米商工会議所主催の経済関連イベントでウクライナメディアに語りました。申請が受理されれば、夏にも加盟国から交渉開始の通知を受け取る可能性があるといいます。

ウクライナは4月中旬、カナダと自由貿易協定(FTA)の拡大で合意しており、カチカ氏はカナダとの経済関係強化がTPP加盟に向けた「大きな助けになる」と述べました。カチカ氏は3月に英国の加盟が認められたことに言及し、「英国は申請表明から加盟まで2年半かかったが、ウクライナはカナダとの合意の恩恵で、より早く加盟できることを期待する」と語りました。

ウクライナはTPP加盟で貿易を拡大し、ロシアによる侵攻で打撃を受けた経済の復興を促したい考えです。

TPPは2016年2月に米国、日本など12カ国が署名。米国が17年に離脱を表明し、18年に7カ国で発効した。中国、台湾、エクアドルなどが加盟を申請しています。

ウクライナについては、他の発展途上国とは異なり、航空産業、宇宙産業、軍事産業、IT産業などの産業基盤があるので、戦争が終わり復興に転ずれば、かなり経済発展する可能性があることは、このブログでも述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる―【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

人口4400万人のウクライナの一人あたりのGDP(4,828ドル、ロシアは約1万ドル) を引き上げ、人口1億4千万人のロシアよりGDPを遥かに大きくすることです。現在ロシアのGDPは韓国を若干下回る程度です。

韓国の人口は、5178万ですから、一人あたりのGDPで韓国を多少上回ることで、ウクライナのGDPはロシアを上回ることになります。 

ウクライナは戦争前のロシアのGDPを上回る可能性が十分あります。そうして、もしそうなったとすれば、これはとてつもないことになります。ウクライナは軍事にも力をいれるでしょうから、軍事費でも、経済的にもロシアを上回る大国が東ヨーロッパのロシアのすぐ隣にできあがることになります。 

ウクライナは、従来はソ連邦に組み込まれ、自由が失われ、独立後は汚職が横行し、経済発展することができませんでしたが、EUもしくはTPP、あるいはこの両方に加入することができれば、経済発展の前提条件ともいえる民主化がさらにすすみ、汚職塗れの体質も改善され、経済がかなり伸びることが期待できます。

TPP、EUにウクライナが入ることにより、自由貿易の促進だけではなく、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がさらに進み、ウクライナの内需が飛躍的に伸びることになります。

ウクライナでは、戦争が終了すれば、まずは国内の内需が劇的伸びることになります。その余勢をかって、さらに経済の高度成長を遂げれば、日本の60年代のように発展する可能性があります。そうして、長い時間をかけて醸成されてきた、EUやTPPの規約に基づくことにより、高度成長による社会の歪などもあまり経験せずに、成長できるかもしれません。

ウクライナは、日米のように内需(輸出対GDP比率が低い)のほうが外需(同高い)より圧倒的に強い国を目指すべきでしょう。韓国や中国、ドイツのように外需比率が高い国は、世界経済の調子が良いときには、国際競争力の強い国などと持て囃されて良いようにみ見えますが、世界経済が悪くなるとその影響を直接受けることになります。まずは内需を伸ばし切ることにより、足腰の強い経済を目指すべきです。

日本は、ウクライナをTPPに加盟によって、ロシアの西隣に経済発展する国、軍事的にも強いウクライナができあがることにより、日本の安全保障にとっても良い結果を得ることができます。

特に、ウクライナはロシアと国境を接しているということで、この国の軍事力が強まれば、これはEUにとっても良いことです。東側でロシアと国境を接する国日本としては、ウクライナと安保上でも協力をすすめるべきでしょう。

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 ドイツの脱原発政策の「欺瞞」 欧州のなかでは異質の存在 価格高騰し脱炭素は進まず…日本は〝反面教師〟とすべきだ


廃炉に向かうドイツの原発

 ドイツのエネルギー政策はひどい。2021年12月23日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル社説で「ドイツの自滅的なエネルギー敗戦」と酷評された。書かれていることは、10年前のエネルギー政策転換の時からいわれていたことだ。11年の福島第1原発事故を受けて、アンゲラ・メルケル前首相は原発の段階的廃止を打ち出し、それが完遂された。

 その結果、太陽光・風力発電政策に翻弄される状態を自ら作り出した。しかも、自国では原発を廃止するが、隣国の原発大国、フランスから電力を輸入する欺瞞(ぎまん)もある。さらに、電力供給維持のためロシア産天然ガスへの依存が、ウクライナ侵攻で裏目に出た。

 ここまで脱原発をしても脱炭素は進展していない。21年のエネルギー別発電割合をみると、石炭・褐炭が27・9%、再生可能エネルギーが40・9%、原子力が11・8%、天然ガスが15・3%などとなっている。

 世界的な脱炭素の動きもあり、さらにはロシアのウクライナ侵攻でロシア以外に天然ガスを求めざるを得ないこともあり、天然ガスやその他のエネルギー価格の上昇にもドイツはさらされているのが実情だ。

 そして、ドイツの電力料金は日本の2倍以上になっている。こうしたドイツにおけるエネルギー構成のゆがみや価格の高騰は、エネルギー問題ではあらゆる供給手段を用意しておくという「エネルギー安全保障」を完全に無視した結果だ。

 せめて原発を廃止しなければ、今のエネルギー価格の高騰の一部を抑えられただろう。さらに、天然ガスも段階的にゼロにするというのは、まともなエネルギー政策とはいえない。

 脱炭素については、いろいろな議論があるものの、世界の流れであるのは誰も否定できない。その脱炭素の流れの中では、二酸化炭素(CO2)を出さず、風力や太陽光と異なり天候にも左右されない原発は、もってこいの手段だ。

 ドイツとは正反対であるが、フランスや英国が主導し、欧州で再び原発を活用する動きが活発になっている。脱炭素を進めるためには、原発は欠かせない要素だからだ。ちなみに、オランダやフィンランドでは原発新設などの動きもある。ドイツだけが欧州のなかでは異質の存在だ。

 また、世界中で小型モジュール式原子炉は有望だ。そのシンプルな設計は安全性を高めるとともに、コスト削減や建設期間短縮化になる。

 日本国内では、ドイツを見習い脱原発を主張する向きもあるが、やめるべきだ。そもそも欧州連合(EU)は、石炭というエネルギー問題を多国間で解決するため1952年の欧州石炭鉄鋼共同体から発展してきた。

 ドイツが変なエネルギー政策をとっても民主主義の陸続きの欧州他国からの助けもあるが、日本は周りを海で囲まれ、隣国は専制国家である。ドイツのようなことは期待できない。

 むしろ、エネルギー政策において欧州の中で異質なドイツを反面教師とした方がいい。

(元内閣参事官・ 嘉悦大教授、高橋洋一)

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ドイツでは、さらにエネルギー問題に追い打ちをかけるように、ハーベック経済相が19日、石油・ガスを使用した暖房設備の大半を2004年から禁止する法案を政府が承認したと明らかにしました。

ハーベック独経済相

 連立与党は先月、24年以降新設される暖房設備の大半について、稼働エネルギー源の65%を再生可能エネルギーにすることで合意しました。 ドイツは45年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指しており、法案はこの目標達成に向けた計画の一環となります。

建設部門が昨年排出した温暖化ガスは全体の約15%を占めていました。 法案関連資料によると、化石燃料の代替として再生可能電気で稼働するヒートポンプや地域暖房、電気暖房、太陽熱システムなどを家庭用暖房として使用できます。 ただ、この計画を巡ってはコストが高く、低・中所得世帯や賃貸物件利用者への負担が大きいとの批判が政権内からも出ています。

ドイツの産業用電力、ロシアからの天然ガスを用いて発電してきたのですが、ロシアからの天然ガスの供給が止まり電気代35倍になりました。すでに企業はドイツを捨て始めています。家庭用の石油ガス暖房禁止した場合、暮らしていけない人だらけになるでしょう。

上の記事で、高橋洋一氏は、ドイツが変なエネルギー政策をとっても民主主義の陸続きの欧州他国からの助けもあるとしていますが、これは逆にいえば、産業用電気代が35倍になれば、多くの企業がドイツを離れ、それにともないドイツ人がドイツを離れ、家庭用の石油ガス暖房を禁止すれば、さらに多くのドイツ人がドイツを離れることになるのではないでしょうか。

世界には、スイスやイタリアなどようにドイツ語圏内の地方を有する国々が存在しており、そのような国では、ドイツ人は言語も生活習慣もほとんど変えないで移住することができます。そこまで行かなくても、生活習慣の似ている国も多くあります。しかも、近隣諸国は陸続きです。
ドイツ語圏とドイツ語が通じる国


おそらく、ドイツはこのような馬鹿げた政策をいつまでも続けることはできないでしょう。問題はいつやめるかです。ドイツ産業が流入してくる国々は大喜びです。一旦流出すれば、また元に戻すのは大変です。

ドイツの脱原発は、このブログにも以前掲載したように、首相辞任直後にロシアエネルギー企業の役員になり、多数のロシアエネルギー企業の役員を務めたプーチンの友人シュレーダーが始めたもので、彼は反原発、脱石炭をうたう環境団体のスポンサーでもあります。

再生可能エネルギーの推進派は、太陽光エネルギーが石油を置き換える存在になるとアピールします。そうして、ドイツでは、かつてエネルギーの80%を太陽光パネルで得ていたと主張する人もいます。

しかし、2019年時点で、太陽光や風力で満たされたのはドイツの電力エネルギー全体の34%でしかありませんでした。上の記事では、21年時点でも再生可能エネルギー40.9%に過ぎません。ドイツのエネルギーの大半は今でも、天然ガスや石油、トウモロコシ由来のバイオガスから生み出されています。

さらに、太陽光パネルの製造には膨大な種類の素材が必要になります。ソーラーパネルの製造には原子力発電プラントの16倍にも及ぶ、セメントやガラス、コンクリートや鉄が必要で、排出されるゴミの量は300倍にも達するといいます。

米国では、太陽光パネルの製造や、ソーラー発電所の建設に必要な資材の多くは、米国最大のコングロマリットの1社として知られるコーク・インダストリーズが製造しています。石油や石炭、天然ガスなどのエネルギー産業を操るコーク・インダストリーズは、環境保護活動家が目の敵にする企業です。

これは全く皮肉な話としか言えないです。環境に優しいはずの太陽光パネルが、環境問題の元凶となる企業の部品で作られているのです。

太陽光発電等CO2の排出を減らし、人類を未来に連れて行ってくれると信じ込んでいる人々は多いです。けれどもそれは、人間を含めすべての生き物が生存している限りは、呼気でCO2を排出し続けるし、特に人間が生存だけではなく、意義や意味のある生活していく上では、さらにCO2を排出することになります。

このことからもわかるように、CO2の排出を極端に減らすことはできません。電気自動車を製造するにしても、太陽光発電パネルを製造するにしても、現在は結局大量のCO2を排出します。

私自身は、 エネルギーミックスの多様性を確保するために、再生可能エネルギーの研究を維持するのは悪くはないと思います。なぜなら、現状では不可能と思われていることでも、将来は技術革新によって可能になることもあり得るからです。


しかし、現状では、まずはすでに過去に確かめられた方法によりエネルギーを供給すべきと思います。小型モジュール式原子炉は、冷却を行うのに多量の水を必要とせず、より安全で全く新しいものにもみえますが、すでに似たものは原子力空母、原子力潜水艦で何十年も前から使われています。その本質は、これらを民生用等多用途に使えるようにすることです。

そうして、再生可能エネルギーを研究しつつも、原発を含めた様々なエネルギー源を活用するべきと思います。

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2023年4月21日金曜日

フォンデアライエンが語ったEUの中国リスク回避政策―【私の論評】中国が人権無視、貿易ルール無視、技術の剽窃等をやめない限り、日米欧の対抗策は継続される(゚д゚)!

フォンデアライエンが語ったEUの中国リスク回避政策

岡崎研究所

欧州委員会のフォンデアライエン委員長

 3月31日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙グローバルチャイナ・エディターのジェイムズ・キングが、欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長の対中ディリスキング(リスク低減)政策が一層強硬になっていると、同氏の3月30日の講演について論評している。

 EU委員長のフォンデアライエンは、3月30日、ベルギーの首都ブリュッセルで、悪化する対中関係の現状について講演した。EUが欧州最大の貿易相手国である中国と同国の対ロシア枢軸に対する姿勢を強硬にしていることが明らかになった。

 2021年にEUは、新疆人権侵害容疑で中国官憲4人に対して制裁を発動したが、中国は4の欧州機関と10の個人に対抗措置を取った。

 フォンデアライエンは、講演冒頭に、中国のロシア支持とともに習近平個人に対する批判をした。彼女は「ウクライナに対する残虐で、不法な侵略に距離を置くどころか、習近平はプーチンとの『無限の』友情を維持した」と述べた。

 フォンデアライエンは、主としてハイテク分野について EUの対中関係をディリスキングすべきだと述べた。それは米国のデカップリング(分断)政策とはレトリック上は一線を画する。

 EUのディリスキング政策とは、機微な技術について軍事使用が断絶されない場合やそれが人権問題に関係する場合には、その貿易を規制することを意味する。またEU 委員会は、相手国の軍事力を向上させる可能性のある機微な技術につき欧州企業の対外投資を審査する制度の導入を検討してきた。

 彼女は、中国との包括投資協定(CAI、未批准で2021年に凍結)につき「再評価」せねばならないと述べた。この講演をEUの対中関係の大変曲点となるものだと見る者もいる。

*    *    *

 フォンデアライエンEU委員長は、3月30日、ブリュッセルで対中関係について講演した。

 EUが現実的な対中観を持つことは、歓迎される。10年遅すぎた感もする。2013年に中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)を提唱した頃、問題は既に明らかになりつつあったが、欧州は雪崩を打つように経済機会を求めて中国に向かった。日本は、中国について、欧州との対話を一層強化することが重要である。

 フォンデアライエンEU委員長の演説は、極めて厳しい。訪中(4月4~7日)に悪影響を与えるのではないかと思うほどだ。堰を切るように中国のウクライナにかかわるロシアとの連携や習近平の権力集中、中国の振る舞いなどを批判した。

 フォンデアライエンは、「中国の考えと行動」を問題視する。何とか中国の世界観と振る舞いをもう少し変えねばならない。必要なのは、まず中国の協調的な振る舞いと世界観である。しかし、それは共産党支配とイデオロギーに突き当たる。それでも世界は、競争と協力でうまく管理していかねばならない。

 問題は、国家権力と結びついた経済、西側から合法、非合法で入手する技術の軍事力転用、増大した軍事力による高圧外交などである。西側の善意を利用して発展してきた中国は、今や独善的な大国化の道を歩んでいる。

 EUの対中ディリスキング政策は、外交術としては巧妙だ。米国のデカップリング政策とは違うものだと中国に言い得る余地を残している。既に中国のEU大使は、講演は一貫性がないと言いつつも、この政策は評価している。
米国と日欧の分離を図る中国

 林外相が3月1~2日に訪中した。秦剛(外相)、李強(首相)、王毅(国務委員)と会談した。秦剛とは会食を含めて4時間会談した。異例な厚い対応のように見える。中国は辛抱強かったようにも見える。対話、関与は良いことだ。「それなりの『厚遇』」の理由につき、日本経済新聞の中沢克二編集委員は、中国経済の不振にあるとする。確かにそうだろう。

 しかし中国には、もうひとつ重要な意図があるのではないか。中国は、日欧を米国から引き離し、米国を孤立させる戦略に出ているのかもしれない。ドイツのショルツ首相、スペインのサンチェス首相、林外相の後、フランスのマクロン大統領とフォンンデアライエンも訪中した。しかしバイデン大統領が求めている会談はその後も動いていない。

 今、中国は日米欧の連携を最も厄介に思っている。3月2日、王毅は、林外相に「日本の一部の勢力が米国の誤った対中政策にわざと追随している」と述べた。日欧は、分断されないように対米関係を強固にすると共に、対中対話を進めていくべきだ。日欧の対中レバレッジは今増えているかもしれない。

【私の論評】中国が人権無視、貿易ルール無視、技術の剽窃等をやめない限り、日米欧の対抗策は継続される(゚д゚)!

フランスのマクロン大統領は5日、中国を訪問しました。6日には欧州連合(EU)のフォン・デル・ライエン(上の記事では、フォンデアラインとしていますが、以降はより実際の発音と表記に近いフォン・デル・ライエンと表記します)欧州委員長とともに習近平(シーチンピン)国家主席と会談し、ロシアによるウクライナ侵攻の終結に向けて協力を求めました。

このブログにも掲載したように、マクロン氏は訪中した際に仏紙レゼコーとポリティコとのインタビューに応じ「最悪の事態は、この(台湾を巡る)話題でわれわれ欧州が追随者となり、米国のリズムや中国の過剰反応に合わせなければならないと考えることだ」と述べ、かなり批判を受けていました。


一方、フォン・デル・ライエン欧州委員長は習近平に対して厳しい態度で臨んだようです。

中国を訪問した欧州連合(EU)のフォン・デル・ライエン欧州委員長は6日、北京で習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談し、台湾問題を巡り応酬しました。フォン・デル・ライエン氏は会談後に記者会見し「一方的な力による現状変更はすべきではない」と述べました。台湾に圧力を強める中国をけん制しました。

同氏は「台湾海峡の安定が何より重要だ。平和と現状維持が我々の明確な関心事だ」と語った。「緊張が生じた場合は対話を通じて解決するのが重要だ」とも話し、武力行使の可能性を放棄しない中国にクギを刺しました。

中国外務省の発表によると、習氏は会談で「台湾問題は中国の核心的利益の核心だ」と強調しました。台湾が中国の一部だという「一つの中国」原則に関し「言いがかりをつけるなら中国政府と中国人民は絶対に許さない」と言明しました。

「中国が台湾問題で妥協すると期待するのは妄想にすぎない。他人を傷つけようとした結果、自分自身を傷つけることになる」とも話しました。

フォン・デル・ライエン氏は会談で一つの中国政策について「EUは変更する意図はない」と説明しました。「中華人民共和国政府が中国全体を代表する唯一の合法的な政府として認め、台湾海峡が平和と安定を維持することを望む」と発言しました。

フォン・デル・ライエン氏は記者会見で習氏と人権問題に関しても話し合ったと明かしました。「中国の人権状況の悪化について深い懸念」を伝えました。記者会見では強制労働の問題などが指摘される新疆ウイグル自治区を「特に懸念する」と述べ「この問題に関して議論を続けるのが大事だ」と提起しました。

米国の中国とのデカップリング政策とEUのフォン・デル・ライエン委員長の中国リスク回避政策は、米国とEUがそれぞれ中国との関係に対してとった異なるアプローチです。両者には共通点がある一方で、顕著な相違点もあります。

焦点 :米国の脱中国政策は、国家安全保障、知的財産の盗難、不公正な貿易慣行に対する懸念から、中国との経済的相互依存を減らすことに主眼を置いています。重要な技術や市場への中国のアクセスを制限し、中国からの投資を制限し、中国へのサプライチェーンの依存度を下げることを目的としています。

一方、EU委員会のフォン・デル・ライエン委員長の「中国のリスク軽減」政策は、市場アクセス、投資審査、欧州の戦略的利益の保護といった問題を含め、経済・技術大国としての中国の台頭に伴うリスクの軽減に主眼を置いています。

範囲: 米国の中国からの切り離し政策は、より広範囲で、貿易、技術、金融、国家安全保障など、さまざまな分野を包含しています。中国の企業や個人を対象とした関税、輸出規制、投資制限、制裁などの措置が含まれます。

一方、EU委員会のフォン・デル・ライエン委員長の対中デリスク政策は、主に経済・貿易関連の問題に焦点を当て、関税や輸出規制といった措置は含まれていません。

アプローチ: 米国の中国とのデカップリング政策は、競争と封じ込めに重点を置き、中国に対してより対決的なアプローチをとっています。貿易紛争、技術輸出規制、中国企業を対象とした制裁など、一連の一方的な行動によって特徴づけられています。

一方、EU委員会のフォン・デル・ライエン委員長の「脱中国」政策は、より協力的なアプローチで、中国との関わりを模索しながら、対話、交渉、多国間メカニズムを通じて市場アクセス、投資審査、知的財産保護に関する懸念に対処しています。

協調: 米国の中国とのデカップリング政策は、米国政府主導によるところが大きく、他国や国際機関との連携は限定的です。

これに対し、EUのフォン・デル・ライエン委員長の対中デリスク政策は、欧州委員会がEU加盟国と協調して策定・実施しており、EUブロックとしてのより統一的なアプローチを反映しています。

目的: 米国のデカップリング政策とEUのフォン・デル・ライエン委員長の対中リスク政策は、ともに中国の台頭に伴うリスクを管理することを目的としていますが、その根本的な目的は異なっています。

米国のデカップリング政策は、主に米国の国家安全保障と経済的利益の保護に重点を置いておいますが、EUのフォン・デル・ライエン委員長の対中デリスク政策は、欧州の経済的利益を保護すること、中国との公平な競争環境を確保することを目的としています。


このような違いはあるものの、米国とEUはともに中国の経済慣行、知的財産権保護、市場アクセス問題に対する懸念を共有し、それらに対処するための措置を講じています。しかし、それぞれの優先順位、利益、地政学的な考慮に基づいて、アプローチや戦略は異なっています。

中国における人権問題について、経済とはあまり関係ないと考える人もいるようですが、私はそうではないと考えています。中国における人権問題と経済との相関を示唆する証拠がいくつかあります、それを以下に掲載します。

労働者の権利: 中国は、劣悪な労働環境、低賃金、長時間労働、結社の自由の欠如、労働組合の制限など、その労働権慣行に対する批判に直面しています。こうした労働権の問題は、労働不安やストライキ、生産の中断につながり、中国で活動する企業の安定性や生産性に影響を及ぼす可能性があるため、経済にも影響を及ぼします。

中国内で、ウィグル人などを強制労働させ、しかも先進国から技術を剽窃してできた低価格でできた製品などを中国が他国に輸出することになれば、労働者の権利を守る国においては、価格競争が不利になり、本来労働者が得られる賃金が得られなくなるばかりか、解雇されることもあり得ます。

知的財産権(IPR): 知的財産権の保護は、経済成長の不可欠な原動力である技術革新と技術移転にとって極めて重要です。中国は、強制的な技術移転、知的財産の盗難、偽造などの問題を含め、知的財産権に関する法律の施行が緩いという批判を受けています。このことは、外国投資の抑止、技術移転の妨げ、イノベーションの阻害につながり、長期的には中国経済のみならず世界経済に悪影響を及ぼす可能性があります。

ビジネス環境: 中国のビジネス環境は、汚職、透明性の欠如、一貫性のない法律の施行などの問題を含み、中国で活動する外国企業によって懸念事項として挙げられています。これらの問題は不確実性を生み、リスクを増大させ、事業運営に影響を与え、中国への外国投資や経済成長に影響を与える可能性があります。

世界的な評価: 言論・報道・集会の自由の制限、少数民族や宗教の迫害、市民権・政治権の侵害などの問題を含む中国の人権記録は、中国のグローバルな評価に影響を与える可能性があります。中国の人権慣行に対する否定的な認識は、風評リスク、ボイコット、制裁、および貿易、投資、観光の減少などの経済的反響につながり、中国経済に経済的影響を与える可能性があります。

国際関係: 人権に関する懸念は、中国の他国との外交関係にも影響を与える可能性があります。一部の国や国際機関は、人権問題を中国との二国間関係の要因として取り上げ、人権問題に基づいて制裁や貿易制限などの行動をとっています。こうした外交的緊張は、中国と他国との貿易、投資、経済協力に影響を及ぼし、経済的な影響を与える可能性があります。

全体として、人権問題と経済との関係は直接的ではないかもしれないですが、人権問題が労働権、知的財産権、ビジネス環境、世界的評価、国際関係など様々な形で世界経済に影響を与えることを示唆する証拠が存在します。人権問題に対処することは、経済成長、投資、国際協力のための良好な環境づくりに貢献することができます。

上の記事では、中国は日欧を米国から引き離し、米国を孤立させる戦略に出ているのかもしれないとありますが、米国と日欧には中国に対して譲れない点があります。
  • 不公正な貿易慣行、知的財産の窃盗、市場アクセスの障壁など、中国の経済慣行に対する懸念
  • 中国の技術進歩、技術移転、知的財産保護に対する懸念
  • 人権に関する懸念
  • 南シナ海における中国の主張的な行動、サイバー諜報活動、軍事的近代化に関する懸念など、戦略的・安全保障的な脅威
などです。

これらの懸念が解消されない限り、いくら中国が米国と日欧を離反させようと画策したとしてもできないでしょう。もはや現状では、いくつかの国に対して、中国が工作活動を執拗に行ってきたことが、明るみででており、これは多かれ少なかれすべての先進国においてなされていると喝破され効力を失いつつあります。

日本でも、岸田総理の習近平がロシアを訪問中の、キーフ電撃訪問以来、親・媚中派の大物議員たちの影響力は減少しつつあります。

両者は、対話、首脳会談、協議、多国間関与を通じて、中国に関連する懸念に対処するための調整と協力を続けていくことでしょう。

共通の課題がある限り、これに対処し、共通の基盤を見出すために、さまざまな形で多国間フォーラムや外交チャンネルを通じて中国に関与し続けるでしょう。


日米蘭は、先端半導体の台中輸出規制を発動しました。特にこの中で、半導体製造装置に関しては、日米蘭をあわせると世界で、95%ものシェアを占めています。日米蘭は、技術者も引きあげさせています。これで、中国では先端半導体の製造はできなくなりました。

中国が人権問題を解決しない、貿易ルールを守らない、技術の剽窃をやめない限り、このような多国間による試みがさまざまな形でこれからも継続されるでしょう。

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2023年4月20日木曜日

中国の本当のGDPは当局発表の6割しかない…人工衛星で光の量を測定してわかった中国経済の真の実力―【私の論評】あと10年で中国の弱体化は目に見えてはっきりする、その時に束の間の平和が訪れるよう日米は警戒を強めよ(゚д゚)!

中国の本当のGDPは当局発表の6割しかない…人工衛星で光の量を測定してわかった中国経済の真の実力


 中国の本当のGDPは当局発表の6割しかない…人工衛星で光の量を測定してわかった中国経済の真の実力

 中国のGDPが米国を超える日は来るのだろうか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「独裁専制国家のGDPは実態と大きく乖離する。中国の本当のGDPは、中国政府当局の発表の6割程度しかないという研究結果もある。中国経済は10年後には弱体化しているのではないか」という――。(第1回)

 ※本稿は、エミン・ユルマズ『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

■香港株は2018年の高値から56%も下落

 近年、中国の経済成長のほとんどは不動産投資、インフラ投資によるものであった。しかし昨今、投下された資本効率が低くなっていた。アウトプットを出すためには、さらにインプットをしなければ成長は望めない。それが叶わなくなっていた。

 不動産バブルが崩壊し、中国の景気が悪くなるということは、世界のマーケット関係者には周知の事実である。だから、香港株は2018年の高値から56%も下落しているのだ。

 金融危機の定義を数字で表すならば、指数が高値の半値になるレベルということができる。すでに香港株は半値以下になっているので、金融危機に突入していると言っても過言ではないのである。

■ライトの使用量と経済発展レベルに齟齬

 もう一つ、経済の実態について紹介したい。中国の本当のGDPは、中国政府当局の発表の6割程度に留まるということを、皆さんはご存じだろうか。

 その見方を示したのは、シカゴ大学の研究だ。

 最近IMF(国際通貨基金)や世界銀行も似たようなアプローチをとり始めているが、各国の経済成長を人工衛星から入手した夜のライト(明かり)量で比べて抽出したもので、過去の映像と当時の各国の経済力を比較した研究結果が2022年11月、『TIME』誌に掲載された。

 中国のような独裁国家は、ライトの使用量のレベルと経済発展のレベルに大きな齟齬(そご)が見られることが判明した。

 研究結果として得られた結論は、中国のGDPについては政府当局発表の6割でしかないとする衝撃的なものだった。

■独裁専制国家のGDPは実態と大きく乖離

 この研究結果を見ると、きわめて興味深い事実が浮かび上がってくる。

 欧米日などいわゆる先進国、あるいは自由主義国家の数字を見ると、「夜のライト量で割り出したGDP」と「当局から報告されたGDP」はほとんど乖離(かいり)していない。

 これが、部分的にしか自由がない国々、民主主義を敷いてはいるがさまざまな問題を孕(はら)む国々になるとどうなるか。

 レバノン、メキシコ、コロンビア、ナイジェリア、フィリピン等々は、「夜のライト量で割り出したGDP」よりも「当局から報告されたGDP」のほうが高い数値になっている。

 さらに完璧なる独裁専制国家を見てみると、その乖離がひどくなっており、中国、エチオピアなどはその最たるものであることがわかった。

■「中国がGDPで米国を抜く」は空論

 この事実を鑑(かんが)みると、中国がGDPで米国を抜く、凌駕(りょうが)するという説は空論であると考えるほかない。

 中国経済はあと10年、15年後には弱体化することを、中国自身もわかっているのだろう。

 バブル崩壊後の日本のように、活力を失い、国力も沈んでいくと意識しているのかもしれない。

 次に社会問題である。深刻なのは食料に関わることである。

 一般的な中国人の食生活に不可欠な食材は、大豆とトウモロコシと豚肉と言われている。

 大豆とトウモロコシは豚の飼料になるので、大げさに言えば、中国人とは三位一体の関係を成す。

 こうした食料はコモディティ相場と切っても切れないものなのだけれど、大変興味深い現象が見られる。トウモロコシ価格が上がった年には、肉の価格が下がることが多いのである。

 特に牛肉の場合は顕著なのだ。

■2023年の牛肉価格は上昇

 なぜか。本当は来年まで育てて大きくしてから売るつもりであった牛まで、と殺(さつ)して売ってしまう傾向が強くなるからである。

 だから、トウモロコシ価格の高かった年には牛肉価格は下落し、その翌年は市場に出回る牛肉自体が減るため、価格は急騰することになる。

 2022年夏のトウモロコシ価格はかなり高かったことから、おそらく2023年の牛肉価格は上昇するものと私は予測している。

 牛肉市場をウォッチするには、米国シカゴ市場の素牛(フィーダーキャトル)先物市場が適していると思う。

■「もっと自由を!」「飯を食わせろ!」

 これらは牛肉市場の話だが、流れ的には豚肉も大差がない。

 こういうサイクルは、農作物についてもよくあることで、その年の価格が上がっていたら、翌年はまったく振るわない。

 と思ったら、その翌年は急騰したりする。

 要は、農業従事者が相場を見ながら“生産調整”するわけである。

 その意味で、中国は豚肉、大豆、その他もろもろの作物が不作となり、食料危機に発展する火種を常時秘めている。

 すでに一部の作物については価格が急騰しているので、その不満が各地で発生するデモの要因になっている可能性もある。

 2022年12月に起きた「白紙デモ」のとき、掲げられたのは白紙だけではなかった。

 白紙に紛れて「もっと自由を!」、そして「飯を食わせろ!」と書かれたものもあったのだ。

■中国・ロシア・イランを苦しめる食料インフレ

 余談になるが、他国に目を転じると、ここのところスリランカ、イランなどでも大型デモが起きている。その要因は当然ながら、食料インフレがあまりにも厳しいからだろう。

 権威主義陣営である中国、ロシア、イランなどでは早くも食料危機が訪れているのではないか。そんな印象を私は抱いている。

 ここをどう乗り越えるのか。いまのところ、中国を初めとした権威主義国家は、国民の怒りをガス抜きする政策によって乗り越えようとしているように映る。

 だが、これは本来の権威主義陣営の“流儀”ではない。逆だ。

 イランなどは拒否しているけれど、権威主義陣営ではモラル警察を廃止することをチラつかせたりしており、行き詰まり感を垣間見せている。

 それらの原因をつくったメインは、やはり食料インフレだと思う。

 国民にとって、食えなくなること以上の苦しみはない。

 他の自由や人権については我慢できるけれど、飢えだけはどうもならない。

 今後、中国などでは社会不安が高まっていく可能性がある。

■中国は米国に弱みを握られている

 そしてこの食料問題に関し、中国は米国に弱みを握られている。

 中国は農産物を毎年、米国から相当量輸入している。

 中国は経済安保上、相手陣営に強く依存したくないはずで、本音では米国からはあまり買いたくないだろう。しかし、背に腹は代えられない状況になっている。

■米中関税合戦は中国国民を苦しめる

 米国は中国からアパレル、家電、雑貨、家具、アセンブリー部品などを輸入している。

 その逆の、中国が米国から輸入する品目のほとんどは、食料(農作物、肉類、酒類)なのである。

 そして、トランプ政権時代から米国は中国製品や品目に対して高関税をかけるようになった。そこで、中国も米国の高関税に対抗して、同程度の関税を輸入品にかけると宣言し、実行した。

 しかし、両国の事情は大きく異なっていた。

 先に述べたように、中国が米国から輸入する品目のほとんどは食料である。これに高関税をかけてしまい、最終的には消費者である中国国民を苦しめることになったのである。

 ただ、米国民も高関税分のコストを引き受けなければならないので、お互い様と言えないこともない。

 そこで米国は輸入物価を下げるため、意図的に“ドル高”に持っていった。中国が20%の追加関税分を20%のドル高で“相殺”したわけである。

 だが、中国は米国と同様の手は使えない。

 知ってのとおり、このところどんどん人民元レートが下落している。輸入はできるものの、輸入価格はドルベースで高くなったし、さらに米国への報復措置としてかけた追加関税分が上乗せされている。

 中国国民からすれば、報復関税が痛みとなって刺さってきたのだ。

 こうした措置を、バイデン政権が撤廃するかもしれないと、中国側は期待を抱いていた。だが、それは見事に裏切られ、今日に至っている。

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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。著書に『新キャッシュレス時代 日本経済が再び世界をリードする 世界はグロースからクオリティへ』(コスミック出版)、『コロナ後の世界経済 米中新冷戦と日本経済の復活!』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)、『それでも強い日本経済!』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)などがある。

【私の論評】あと10年で中国の弱体化は目に見えてはっきりする、その時に束の間の平和が訪れるよう日米は警戒を強めよ(゚д゚)!

上の記事で、エミン・ユルマズ氏が中国経済について書いていることは、このブログでも以前から掲載しています。ただ、このようにまとまった形で、包括的には掲載したことはなかったので、本日掲載させていただきました。

エミン・ユズマル氏

こうした記事が、Yahooニュースに掲載されるということも時代の流れを感じさせます。結論からいうと、現象面に関してはかなり良く包括的に記載はされているものの、根本的な要因については記載されていないので、これだけだと、また中国経済は復活して伸びるのではないかと期待を持つ人も現れるのではないかと思います。ただ、投資レベルの話であれば、これで十分なのだと思います。投資家レベルとしては、中国投資はしばらく控えたほうが、良いということは十分に伝わっています。

このブログでは、以前から指摘してきたように、中国は国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策ができない状況になっています。これが除去されない限り、中国経済がこれから大きく発展することはありません。これに関する過去の記事は、下の【関連記事】に掲載してあります。興味のある方は、是非こちらもご覧になってください。

国際金融のトリレンマ(Mundell-Fleming trilemma)とは、国際経済学の概念で、ある国が(1)固定為替レート、(2)自由な資本フロー(資本移動)の維持、(3)独立した金融政策、という3つの目的を同時に達成できないことを示唆するものである。トリレンマによれば、3つの目標のうち2つしか達成できず、3つ目を犠牲にしなければならないのです。

これに関しては、経験的に知られていますし、数学的にも確かめられています。だだ、大学の経済学部あたりでは、理解するのは難しいです。よつて、これはそのようなものと理解していただきたいです。疑問を感じる方は、ご自分で他のサイト等に当たってみてください。


中国が国際金融のトリレンマを克服しなければ、どのような不都合が起こることが想定されるか以下に述べます。

金融政策の柔軟性が制限される: 中国の固定為替相場制と資本規制は、独立した金融政策を行う能力を制約することになります。これは、インフレ、デフレ、資産バブルなどの国内経済の課題に対処するための金融政策ツールの有効性を制限することになります。適切な金融政策手段を実施する能力がなければ、中国は、経済を効果的に管理し、持続可能な経済成長を達成する上で困難に直面することになります。

外的ショックへの対応力の低下: 固定相場制と資本規制は、世界経済情勢の変化や資本フローの変化といった外部からの衝撃に対応する中国の能力を制限することになります。為替レートや資本フローの柔軟性の欠如は、中国の外部環境の変化に対する調整能力を制限し、潜在的に経済的不均衡や脆弱性につながります。

通貨誤配のリスク: 固定相場制のもと、中国の通貨である人民元は、他の通貨との相対的な価値を定めてペッグされています。しかし、国内の経済状況は必ずしもペッグされた為替レートと一致しない場合があり、潜在的な通貨のズレにつながります。これは、貿易競争力を歪め、輸出入に影響を与え、中国の経済成長の見通しに影響を与える可能性があります。

外国投資に対する魅力の低下: 資本規制は、中国への資金の出入りを制限し、外国投資の流れに影響を与えます。中国が資本の流動性を制限されていると認識されれば、外国人投資家にとって魅力が低下し、より柔軟な資本フローのある経済を求めるようになるでしょう。外国投資の減少は、中国の経済発展や成長にとって重要な外部資本や技術へのアクセスを制限する可能性があります。

金融市場の発展の妨げ: 固定為替相場制と資本規制は、中国の金融市場の発展と世界市場との統合を制限する可能性があります。これは、中国の金融セクターの成長を妨げ、投資の多様化の機会を制限し、人民元の国際化を阻害する可能性がある。これは、中国が世界的な金融ハブとなり、金融市場改革を推進するための取り組みに影響を与える可能性があります。

経済的不均衡のリスク: 国際金融のトリレンマの制約により、国内経済の課題に十分に対処できない場合、インフレ、デフレ、資産バブルなどの経済的不均衡が生じる可能性があります。これらの不均衡は、中国の経済成長の軌道を乱し、長期的には中国経済の安定性と持続可能性にリスクをもたらす可能性があります。

国際金融のトリレンマを克服することは、中国に経済管理のためのより多くの政策手段を提供し、長期的に中国の経済成長を支えることになるはずです。

しかし、中国共産党が、こうした改革をする様子はありません。これは一体なぜなのでしょうか。これには、いつかの可能性がありますが、大きくは以下に集約されると思います。

経済的安定への懸念: 中国の固定為替レート制と資本規制は、経済と金融システムの安定を維持することを目的としている可能性があります。変動相場制や自由な資本移動への突然の移行は、為替レートの変動、資本流出、中国の金融市場の混乱につながる可能性があります。中国政府は、自国経済への潜在的な悪影響を避けるため、安定性を優先しているとみられます。

輸出競争力: 中国は歴史的に、経済成長の主要な原動力として輸出に依存してきました。為替レートの柔軟性が高まれば、人民元が高くなったり、変動が大きくなったりする可能性があり、国際市場で中国の商品がより高価になることで、中国の輸出競争力を低下させる可能性があります。中国政府は、輸出志向の経済を支えるために、安定的で競争力のある為替レートを維持していると考えられます。

金融リスク: 資本移動の自由化は、中国を投機的な資本移動、通貨投機、潜在的な金融危機によるリスクの増加にさらす可能性があります。中国政府は、資本勘定の開放に伴う潜在的なリスクについて懸念を持ち、そうしたリスクを管理するために資本フローをある程度コントロールしようと考えている可能性があります。

政治的な考慮: 中国共産党を含む中国政府には、為替レートと資本フローの管理を維持する政治的動機があるかもしれません。これには、安定性の維持、金融システムの管理、国家主権の保護などが含まれます。中国共産党の政治的優先順位と目的は、経済政策の決定に影響を与えている可能性があります。

特に、中国共産党としては、国家主権の保護という観点から、なかなか人民元の変動相場制への移行や、資本の自由な移動に踏み切れないのだと考えられます。

これらを実現すれば、中国共産党は統治の正当性を失い、崩壊して中国は体制を変換せざるをえなくなると考えているのでしょう。

体制を維持することと、独立した金融政策ができることの2つを計りにかければ、中国共産党としては、前者の方がはるかに重要だと考えているのでしょう。

であれば、中国共産党が崩壊しない限り、中国経済が発展する見込みはまったくないとみるべきでしょう。

習近平は、今のままだと経済発展することはできず、それこそ、10年後あたりには、中国経済は毛沢東時代の中国に戻ることがはっきりすることを予見しているのではないかと思います。

中国政府が昨年11月集合住宅地域に食堂を整備するよう求める通達を出したことに対し、毛沢東時代に整備された「公共食堂」が復活するのでは、との見方が中国のインターネット上で広がりました。

中国国内では、毛時代の印象が強い「供銷(きょうしょう)合作社」と呼ばれる農業関連の公営組織を拡大させる動きもあります。長期政権化する習近平国家主席が社会主義色の濃い政策を相次ぎ掲げる中、経済でも毛時代への回帰が進むとの警戒感が出ています。

そのような中国の実情を見透かしたのか、米国下院「中国委員会」の委員長マイク・ギャラガー氏は、長期的には米国が圧倒的に有利であるという主張しています。これは、決して根拠のないものではありません。米国は依然として世界最大の経済大国であり、イノベーションとテクノロジーのリーダーであり、世界で最も影響力のある多くの企業や金融機関の本拠地です。さらに、米国は世界的な同盟とパートナーシップの強力なネットワークを持ち、政治的・経済的に大きな影響力を有しています。

台湾を訪問したマイク・ギャラガー氏

しかし、ギャラガー氏の中国が最終的な弱体化を認識し、短期的に攻撃的になる可能性があるという議論も考慮に値します。中国は近年、世界中で経済的・政治的影響力を急速に拡大しており、人工知能や5Gなどの最先端技術に多額の投資を行っています。また、中国は南シナ海での軍事的プレゼンスを高め、「一帯一路構想」のような野心的なプロジェクトを推進しています。

短期的には、中国の経済的・地政学的野心は、米国とその同盟国にとって挑戦となるでしょう。米国と中国は貿易戦争を繰り広げており、香港や新疆ウイグル自治区を含む中国の人権侵害が懸念されています。さらに、南シナ海での中国の主張が地域の緊張を高めています。

全体として、米国は長期的には中国に対して大きな優位性を持つかもしれないですが、中国が影響力を拡大しようとし、両国がその複雑な関係をうまく調整する中で、次の10年は難しいものになるかもしれないです。中国は弱体化が目に見えるようになる前に、冒険に打って出る可能性は十分にあります。

米国はその強みを生かし、同盟国と協力しながら、世界のリーダーとしての地位を維持しつつ、この10年間は警戒を強めるべきでしょう。それは、日本も同じです。

この10年を乗り切れば、ロシアのウクライナ侵略は終了し、中国は著しく弱体化するのが目に見えるようになるか、体制転換が行われ、世界に束の間の平和が訪れることになるでしょう。

経営学の大家ドラッカー氏は以下のように語っています。
われわれが平和を手にする日は、旅を終える日でも始める日でもない。それは馬を替える日にすぎない。(『産業人の未来』)
馬の乗り替えとは、世界秩序の変化を意味すると思います。どのような国でも体制でも、栄枯盛衰は常であり、世の中は常に変わり続けていきます。ただ、私としては、馬の乗り替えが、武力の行使ではなく、平和的な手段によって行われる世界になって欲しいと願うばかりです。

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2023年4月19日水曜日

安倍元首相の「暗殺成功して良かった」で大炎上、作家で法大教授の島田雅彦氏 発言翌日に岸田首相襲撃 夕刊フジに寄せた全文を掲載―【私の論評】島田氏は非常識発言だけは控えこれからも活動を続け、愚劣なサヨクの人間性の退廃の極みの見本であり続けよ(゚д゚)!

安倍元首相の「暗殺成功して良かった」で大炎上、作家で法大教授の島田雅彦氏 発言翌日に岸田首相襲撃 夕刊フジに寄せた全文を掲載



 作家で、法政大学国際文化学部教授の島田雅彦氏(62)の発言が大炎上している。14日に生配信した自身のインターネット番組「エアレボリューション」で、昨年7月の安倍晋三元首相暗殺事件を念頭に、「暗殺が成功して良かった」などと発言したのだ。テロや殺人を容認したと受け取れるうえ、新たなテロを誘発しかねないだけに、ネット上だけでなく言論界からも「とんでもない発言」「リベラリズムからもかけ離れている」などと激しい批判が相次いでいる。発言翌日には、岸田文雄首相の選挙応援演説会場に爆発物が投げ込まれる事件も発生した。夕刊フジの取材に対し、島田氏は「公的な発言として軽率であった」などと長文の回答を寄せた。


 大炎上している発言は、島田氏が、政治学者で京都精華大学准教授の白井聡氏とレギュラー出演するネット番組「エアレボリューション」で飛び出した。ゲストは、ジャーナリストの青木理氏だった。

望月衣塑子氏と島田雅彦氏 類は友を呼ぶ?

 統一地方選・前半戦(9日投開票)の結果を踏まえて、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の問題や、自民党の批判、立憲民主党の惨状などが話題に上がるなか、島田氏は次のように語った。

 「こんなことを言うと、また顰蹙(ひんしゅく)を買うかもしれないけど、いままで何ら一矢報いることができなかったリベラル市民として言えばね、せめて『暗殺が成功して良かったな』と。まあそれしか言えない」

 前後の文脈から、昨年7月の安倍元首相の暗殺事件を指すことは明白だった。笑顔を浮かべた島田氏は、続けて23日投開票の衆院山口4区補選に言及した。

 「(自民党は)うまいこと、この暗殺による被害者側の立場に立った」「(立憲民主党の元参院議員)有田(芳生)さん、頑張ってほしいですけどね」「(自民党は)『亡くなった安倍元首相の魂を受け継ぎ』みたいなことを言っている。『弔い合戦』に持ち込んだ者が何か〝坊主丸儲け〟した感じが否めない」

 島田氏は1961年、東京都生まれ。東京外国語大学卒。83年に『優しいサヨクのための嬉遊曲』を発表して注目される。84年に『夢遊王国のための音楽』で野間文芸新人賞、92年に『彼岸先生』で泉鏡花文学賞を受賞。2003年から法政大学国際文化学部教授。昨年4月に紫綬褒章を受章している。

 島田氏による発言に対し、ネット上では「暗殺を是とする発想は非常に危険」「暗殺を良かったと思うのがリベラル市民なのか」「残されたご遺族の気持ちを思うと…」「思想関係なく暴力に訴えた時点で終わり」「法政大学は(中略)彼を通じて学生に何を教えるつもりだろう」「さすがにアウト」などの批判が噴出した。

 政治評論家の屋山太郎氏も「とんでもなく、ひどい発言。教育者という自分の立場も考えるべきだ。極めて非常識であり、公の場で話す資格はない」「世界中どこにも『暗殺がいい』という常識はない」と怒りをあらわにした。

 ジャーナリストの有本香氏も「恐ろしい発言だ。リベラリズムから最もかけ離れている」と指摘した。

 批判が噴出するなか、島田氏は17日、自身のツイッターに「暴力装置としての国家を監視すべきメディアが国家と一丸となって民を抑圧するようでは私達の居場所はさらに狭まる」と投稿した。

 島田氏は一体、自身の発言をどう考えているのか。

 夕刊フジは17日夕、法政大学を通じて、島田氏に対し、「暗殺が成功して良かった」という発言の真意や、暴力による言論封殺への考えなど、4つの質問を送った=別表。翌18日午後3時に、島田氏から長文の回答が届いた。

有本氏「世直しのためならテロ容認かと問いたい」

 島田氏はまず、「テロの成功に肯定的な評価を与えたことは公的な発言として軽率であったことを認めます。殺人を容認する意図は全くありませんが、そのように誤解される恐れは充分にあったので、批判は謙虚に受け止め、今後は慎重に発言するよう努めます」と反省を記していた。

 次に、安倍元首相暗殺事件で、殺人罪などで起訴された山上徹也被告(42)に触れ、「安倍元首相襲撃事件には悪政へ抵抗、復讐(ふくしゅう)という背景も感じられ、心情的に共感を覚える点があったのは事実です」「山上容疑者への同情からつい口に出てしまったことは申し添えておきます」と続けた。

 大学教授としての立場からは、「大学の講義で殺人やテロリズムを容認するような発言をしたことはありません。テロ容認。言論に対する暴力的封殺に抵抗を覚えるのは一言論人として当然」などと説明した。

 島田氏の独自の主張は、「回答全文」をご覧いただきたい。

 識者は、問題発言と回答全文をどう見るか。

 前出の有本氏は「島田氏は『殺人を容認する意図は全くありませんが、そのように誤解される恐れは充分にあった』と述べているが、それは『誤解』なのでしょうか? 冒頭で『テロの成功に肯定的な評価を与えたことは公的な発言として軽率であった』と明確に認めている。論旨が一貫しておらず、作家が書く文章とはとても思えない」と指摘した。

 有本氏は、島田氏が「(安倍元首相暗殺事件には)悪政へ抵抗、復讐という背景も感じられ」と述べた箇所にも触れ、続けた。

 「山上被告は、安倍元首相を逆恨みしたのであって、事実誤認も甚だしい。情報を取る力にも疑問を感じる」と語った。

 島田氏が「テロリズムが世直しのきっかけになったケースはほとんどない」と述べている点についても、有本氏は「世直しのきっかけになるのだったら、テロを容認するのかと問いたい」と指摘した。

 有本氏は最後に、「バカげた発言には徹底的に批判・反論するが、どんなに考えが違う意見であっても、『自由に発言できる権利』は必要。私は『ひどい発言は言わせるな』とか、『大学からたたき出せ』とは思わない」と強調した。

 法政大学は、教授である島田氏の「暗殺が成功して良かった」といった発言を、どう受け止めているのか。

 大学の広報担当者は夕刊フジの取材に対し、当該の発言を動画で確認したと認めたうえで、「個人の発言であり、個々の教員がメディア、マスコミなどで行う発言については大学としては関知しない」という見解を示した。

 【島田雅彦氏への質問事項】

 ①「あの暗殺が成功して良かった」という発言の意味・真意は

 ②暴力で言論が封じられることを、時と場合によっては良いと考えるのか

 ③法政大学教授として「テロ行為の容認」という教育をしているのか

 ④放送翌日、岸田首相に爆発物が投げつけられる事件が発生した。感想を

 【島田雅彦氏の回答全文】

 テロの成功に肯定的な評価を与えたことは公的な発言として軽率であったことを認めます。殺人を容認する意図は全くありませんが、そのように誤解される恐れは充分にあったので、批判は謙虚に受け止め、今後は慎重に発言するよう努めます。

 ただ、安倍元首相襲撃事件には悪政へ抵抗、復讐(ふくしゅう)という背景も感じられ、心情的に共感を覚える点があったのは事実です。山上容疑者が抱えていた旧統一教会に対する怨恨(えんこん)には同情の余地もあり、そのことを隠すつもりはありません。

 さらに政権と旧統一教会の癒着を暴露する結果になったのも事実です。今回の「エアレボリューション」での発言はそうしたことを踏まえ、かつ山上容疑者への同情からつい口に出てしまったことは申し添えておきます。

 また大学の講義で殺人やテロリズムを容認するような発言をしたことはありません。テロ容認。言論に対する暴力的封殺に抵抗を覚えるのは一言論人として当然であるし、また暴力に対する暴力的報復も否定する立場から、先制攻撃や敵基地攻撃など専守防衛を逸脱する戦争行為にも反対します。

 戦争はしばしば、言論の弾圧という事態を伴ってきたという歴史を振り返り、テロリズムと同様に戦争にも反対の立場であることを明言しておきます。

 一方で、安倍元首相暗殺事件や岸田首相襲撃事件を言論に対する暴力と捉える場合、これまで政権が行ってきた言論、報道への介入、文書改竄(かいざん)、説明責任の放棄といった負の側面が目立たなくなるということもありました。

 また民主主義への暴力的挑戦と捉えると、国会軽視や安保三法案の閣議決定など民主主義の原則を踏み躙るような行為を公然と行ってきた政権があたかも民主主義の守護者であったかのような錯覚を与えるという面もあります。

 テロは政権に反省を促すよりは、政府の治安維持機能を強化し、時に真実を隠蔽することに繋がることもあるがゆえ、肯定的評価を与えることはできません。そのことはテロリズムを描いた拙著『パンとサーカス』でも明らかにしています。

 放送の翌日に岸田首相に爆発物が投げつけられる事件が起きましたが、歴史を振り返ると、テロリズムが世直しのきっかけになったケースはほとんどないし、連鎖反応や模倣犯を呼び込む可能性もあると改めて思いました。

 ※長文のため、編集局で改行だけしました。

【私の論評】島田氏にはこれからも活動を続け、愚劣なサヨクの人間性の退廃の極みの見本であり続けよ(゚д゚)!

冒頭の動画を視聴して、思わず「この動画を視聴して絶句しました。末恐ろしいです」ツイートしました。もう、そのくらいしか言いようがありませんでした。

テロというと、赤報隊事件(せきほうたいじけん)を思い出します。これは、1987年(昭和62年)から1990年(平成2年)にかけて「赤報隊」を名乗る犯人が起こしたテロ事件です。

警察庁広域重要指定番号から、「広域重要指定116号事件」とも呼ばれました。

記者が政治的テロによって殺害された日本国内唯一の事例とされれますが、2003年(平成15年)に全ての事件が公訴時効を迎え、2022年現在に至るまで犯人の特定がされていない未解決事件となっています。以下にその概要を掲載します。
1987年(昭和62年)1月24日(土曜日) - 朝日新聞東京本社銃撃事件
5月3日(日曜日) - 朝日新聞阪神支局襲撃事件
9月24日(木曜日) - 朝日新聞名古屋本社社員寮襲撃事件
1988年(昭和63年)3月11日(金曜日) - 朝日新聞静岡支局爆破未遂事件
3月11日(金曜日)消印 - 中曽根康弘・竹下登両元首相脅迫事件
8月10日(水曜日) - 江副浩正リクルート会長宅銃撃事件
1990年(平成2年)5月17日(木曜日) - 愛知韓国人会館放火事件
特に朝日新聞阪神支局襲撃事件では執務中だった記者2人が殺傷され、言論弾圧事件として大きな注目を集めました。

私自身は、朝日新聞は好きではありませんが、だからとってこのようなテロ事件を肯定するような発言などしませんし、そもそもできません。目の前でそのような発言をする人がいたら、諌めることでしょう。

赤報隊事件を伝える当時の朝日新聞

民主党政権のときは、かなり政権批判をしましたが、批判するとときは、無論是々非々で批判する姿勢を貫いているのですが、民衆党には結果としてほんど批判ばかりになってしまいましたが、それでも民主党政権の要人が暗殺されれば良いなどのことは、考えたことすらありません。

島田雅彦氏が安倍元首相の暗殺に関して「あの暗殺が成功して良かった」と発言したことは、極めて遺憾であり、社会的に非難されるべき発言です。

暴力や暗殺は、法律に違反するだけでなく、人権や民主主義の原則にも反する行為です。政治的な対立や意見の相違は、平和的な方法で解決するべきであり、暴力や暗殺を支持するような発言は社会的に許容されるべきではありません。

政治家や公人に対する暴力や脅迫は、社会的な混乱を引き起こし、民主主義や法治主義を損なう可能性があります。政治的な意見の表明は言論の自由によって保障されていますが、他人の権利や安全を尊重し、平和的な方法で意見を述べるべきです。

島田雅彦氏の発言は、倫理的、社会的な問題を引き起こす可能性があります。政治的な対立や意見の相違は、平和的な方法で解決する必要があります。

次に、上の記事の島田氏の回答文に関する分析を以下に述べます。
まず、島田氏は自身の発言が軽率であったことを認め、テロの成功に肯定的な評価を与えたことを否定しています。また、殺人を容認する意図は全くないと述べています。

しかし、島田氏は安倍元首相襲撃事件に対して、背景に悪政への抵抗や復讐の要素があることを指摘し、山上容疑者が抱えていた旧統一教会に対する怨恨に同情の余地があると述べています。また、政権と旧統一教会の癒着を暴露する結果になったことを事実と認めています。

さらに、島田氏は自身が大学の講義で殺人やテロリズムを容認するような発言をしたことはないと明言し、テロ容認や言論に対する暴力的封殺に反対する立場を取っています。また、先制攻撃や敵基地攻撃など専守防衛を逸脱する戦争行為にも反対する立場を述べています。

一方で、島田氏は安倍元首相暗殺事件や岸田首相襲撃事件を言論に対する暴力と捉える場合、政権の負の側面が目立たなくなることを指摘し、政権の民主主義への挑戦を暴露するという観点もあると述べています。

このように、島田氏の回答には、テロの容認や言論に対する暴力を肯定する意図はないという一方で、事件の背後にある政治的な背景や民主主義への挑戦を考慮する見解が含まれており、賛否両論があるとみられます。島田氏は今後は慎重に発言することを努めると述べています。そう願いたいです。
欧米諸国では、言論人が暴力や暴力行為を容認するような発言をすることは、しばしば大きな批判を浴びることがあります。ただし、表現の自由の保護にも配慮がなされており、法的な制裁があるわけではありません。ただし、そのような発言によって人々が危険にさらされた場合や、社会的な混乱を引き起こした場合は、警察や検察当局によって捜査されることがあります。

例えば、米国では、2017年のバージニア州シャーロッツビルでの白人至上主義者による抗議活動中に起きた暴力事件の後、アルタイト(alt-right)と呼ばれる運動の指導者であるリチャード・スペンサーが、白人至上主義者に対する暴力行為を容認するような発言をしたことで、批判を浴びました。また、同様の理由で、YouTubeなどのソーシャルメディアプラットフォームから追放されるなど、スペンサー自身の影響力も減少しています。

リチャード・スペンサー

また、英国でも、2010年には、カトリック系新聞の編集者であるバーナード・ゴールドバーグが、同性愛者に対して暴力を容認するような発言を行ったことで、大きな批判を浴びました。ゴールドバーグは、その後、自身の発言が誤解を招いたと釈明し、謝罪することで事態を収拾することができました。

以上のように、欧米では、表現の自由と社会秩序のバランスを取りながら、言論人の発言を取り扱っています。暴力を容認するような発言は、暴力を伴う場合は別にして、発言自体はしばしば批判を浴びることがありますが、法的な制裁があるわけではありません。

上の記事で有森香氏が、作家が書いた文書とは思えないと評していますが、私は島田氏の書籍を読んだことは一度もないですし読むつもりもないですが、回答文だけを読んでいると、島田雅彦氏は本当に作家なのかと思えてきます。これだけ短い文書で、論旨が一貫していないのですから、本当に本など書けるのかと思ってしまいます。

しかも、反省文で自著『パンとサーカス』宣伝までしており本気で謝るつもりがないと見えます。今後、このような発言は謹んでいただきたいとは思いますが、大学をやめろとか、作家活動をやめろ、テレビに出すな等とはいいません。そんなことをしてしまえば、リベラル左翼の十八番のキャンセルカルチャーと同じことになってしまいます。

島田氏には、非常識な発言だけは控えていただき、このまま偏向メディアに出続けたり、書籍を書いたり、大学で教育活動を続け、醜い姿(容姿を言っているわけではない)を晒し続け愚劣なサヨクの人間性の退廃の見本であり続けて欲しいです。それが、彼にできる唯一の社会貢献だと思います。

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2023年4月18日火曜日

FBI、中国人工作員とみられる2人逮捕 司法省は中国人34人を訴追―【私の論評】法的根拠がない日本でもスパイから身を守る方法はあるが、やはりスパイ防止法は必要(゚д゚)!

FBI、中国人工作員とみられる2人逮捕 司法省は中国人34人を訴追


 米連邦捜査局(FBI)が中国人工作員と疑われる2人を逮捕したことが分かった。また米司法省は、米国在住の反体制派の発言封じや嫌がらせを試みたとして、中国人34人を訴追した。

 逮捕された盧建旺容疑者と陳金平容疑者は、ニューヨークのチャイナタウンでひそかに「警察署」を運営していた疑いが持たれている。両容疑者は米国籍の保有者。共謀して中国政府の代理人として活動し、司法妨害を試みた疑いで訴追された。

中国の警察機能を担う出先機関が入っていたとされるビル(中央)=2023年4月17日、米ニューヨーク

 ニューヨーク州東部地区連邦地検の報道官によると、2人は17日、ニューヨークの連邦裁判所に出廷した。「警察署」は昨年秋に捜索令状が執行された後、閉鎖されたという。

 盧容疑者は25万ドル、陳容疑者は40万ドルの保釈金を支払い釈放された。中国領事館から半マイル(約800メートル)を超える移動や共謀者との連絡は禁止されている。両容疑者とも答弁をしていない。

 司法省はまた、中国政府に批判的な米国在住の中国人に嫌がらせを行ったとして、中国国家警察の警官34人を訴追すると発表した。

 司法省によると、34人はいずれも中国在住で、身柄は拘束されていない。34人は中国に対する世界の見方に影響を与えることを目的とした特別プロジェクトの取り組みに参加していたとされる。

 司法省によると、工作員2人はSNSを使って中国に好意的な内容を投稿したり、米国や中国人の民主化活動家を含む「敵とみなした」存在を攻撃したりした疑いがある。違法運営されていた警察署は「初めて確認された米国内の海外警察署」で、中国公安部のために設置されたものだという。

 工作員2人は中国公安部の指示で、米国民が運営しているように見せかけたアカウントを創設、維持していたとされる。プロパガンダの話題としては、米国外交や香港の人権問題、ロシアのウクライナ侵攻、新型コロナウイルス、ジョージ・フロイドさん殺害事件をきっかけに起きた人種的公正を求めるデモなどがあったという。

 オルセン司法次官補は声明で、「中国は抑圧的な治安機関を通じ、反体制派や政府に批判的な人を監視、威嚇するための秘密拠点をニューヨークに設けた」と指摘。「中国の行動は許容される国家の行動の限度をはるかに超えている。我々は断固として、米国に住む全ての人の自由を専制体制の抑圧の脅威から守る」と述べた。

【私の論評】法的根拠がない日本でもスパイから身を守る方法はあるが、やはりスパイ防止法は必要(゚д゚)!

松野博一官房長官は18日午後の会見で、米当局が中国の「秘密警察署」を運営した疑いで男2人を逮捕したことに関連し、日本国内でも主権を侵害する行為が行われているのであれば、断じて認められないと外交ルートを通じて中国側に申し入れを行ったと述べました。


松野官房長官は、米当局による逮捕に関し「他国の内政に関することである」としてコメントを控えました。

しかし、中国による日本国内での同様の活動に対しては「中国側に対し、外交ルートを通じわが国の主権を侵害するような活動が行われているのであれば、断じて認められない旨の申し入れを行っている」と説明しました。

その上で「関係国とも適切な形で情報共有を行ってきており、引き続き緊密に連携しつつ、各種情報の収集・分析に努めてきている」と指摘。「いずれにせよわが国での(中国による)活動の実態解明を進めているところであり、その結果に応じて適切な措置を講じる考えである」と述べました。

スペインの人権団体「セーフガード・ディフェンダーズ(Safeguard Defenders)」が発表した報告書によると、中国政府が海外に在住する中国人を監視し、場合によっては強制帰国させるため、日本を含む欧米諸国など53ヵ国102ヵ所に「中国警察署」を設置しているといいます。

これは、単に海外に居住する中国人の人権侵害に留まらず、国際法の原則に違反し、第三国の主権を侵害している行為です。すでに、米国やカナダ、ドイツ、オランダなど欧米各国で設立され、日本でも東京など2ヵ所に拠点があるとされています。

2014年以降、中国政府は、政権批判を続けたなどとして在外中国人1万人あまりを強制的な手段で帰国させました。さらに対象となる中国人の親族などが中国国内で不当な嫌がらせにあったとされます。

それにしても、中国はなぜこうしたことを行うのでしょう。通常常識的に考えられる日本に在住あるいは滞在する中国人に対する通常の行政サービスであれば、在外公館があるから、そこが対象すべきですし。そもそも在外公館でなければできません。それ以外の組織がそれを実行すれば、それだけで犯罪です。

それには、背景があります。中国は現在、大量の資金と人材が海外に流出しているので、それを取り戻したいというのが本来の狙いとみられます。

日本は中国にとって外国ですから、さすがに強制送還はできません。だから圧迫して、自分で帰るように仕向けているということもあるようです。

無論対象は、対象者が犯罪者の場合もあるかも知れませんが、そうではない人たちに対しても働きかけているようです。

さらに、いまのところ、日本国内の秘密警察署は在日中国人の人間と関係で語られていますが、中国の法律には域外適用という考え方があるので、我々日本人も関係する可能性はありえます。

反中的な発言をする言論人などは、「日本国内にいれば安全だ」と思っているかもしれませんが、域外適用でそのような人ががある日、拉致されてしまう可能性もあり得ます。

さらに、在外中国人の情報入手にもTikTokが使用されている可能性があります。むしろ関係がないと考えるほうが不自然でしょう。中国には「国家情報法」という法律があり、その第7条では「中国の国民や組織は中国政府の情報(諜報)活動に協力する義務がある」と明記されているからです。TikTokの運営会社が中国企業である以上、この法律に従うのは当然のことなのです。

TikTokは犯罪に用いられることもある スパイには格好のツールにになり得る

そうしてこの情報収集は、在外中国人だけに留まらないのは言うまでもありません。各国に展開している中国警察の拠点とTikTokからの情報で、場合によっては日本の警察以上に、中国警察が日本人各個人の動向を把握している可能性すらあります。

TikTokは撮影者などの顔から撮影場所、周辺の風景などの情報が認識可能です。膨大な数の動画をデータ化すれば、日本各地のさまざまな人物や場所の情報を得ることができます。もちろん、撮影ではなく見る側についても、地域の年齢構成から動画の好み、思想性までも把握されてしまう恐れがあります。

相手の好みがわかれば、親しく近づくことも容易ですし、さらに深くスパイ活動を行うことも簡単にできてしまいます。親中的な日本人、反中的な日本人を分別したり、在日スパイによって罠にはめる、意のままに動くように脅迫する、といったことも簡単でしょう。

米国としては、放置しておけばやがでそのようなことになりかねないことも懸念して、「警察署」を運営していたとみられる、2人を逮捕したのでしょうし、TikTokの使用制限がなされつつあるのでしょう。

米下院外交委員会は1日、米国で中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を全面禁止する権限をバイデン大統領に付与する法案を賛成24反対16の賛成多数で可決しました。

法案は今後、上下両院の本会議を通過し、バイデン大統領の署名が必要で、成立までの道のりは依然不透明だ。しかし成立すれば、1億人超とされるTikTok利用者に影響が及ぶ可能性があります。TikTokに限らず、中華アプリにはその危険性があることは認識すべきです。

日本には現在スパイ防止法がないため、警察は表立った犯罪事実がないと動きようがないということは良く言われていますし、多くの人が知っている事実です。そのため、日本においてはスパイ防止法の制定は必須です。

しかし、犯罪事実がないと動きようがないというのは、スパイ活動そのものをしていることが明白であっても、それだけでは逮捕したりできないということですが、犯罪事実があれば、逮捕できるということです。

たとえば、あなたが中国側に弱みを握られて、中国スパイから情報を求められたり、何かの違法行為をそそのかされたとして、それだけでは警察も動かないですが、それを放置すれば、いずれ脅しなどをかけてくる可能性があります。

中国スパイもいきなり、拉致や殺傷などの挙には出る前にまずは何らかの方法で嫌がらせや脅しに出でくる可能性が高いです。そうなれば、警察が動く可能性がありますし、脅しなどの現行犯等では逮捕できます。

これにうまく対処するには、恐喝などを受ける前に、警察などに相談し、予め恐喝等に備えるなどのことをしておけば、警察はこれを逮捕する等こともできます。

犯罪に手を染めたり、気密情報を漏らしたり、暴力被害にあったり、拉致されるなどのことを避けるためにも、もし中国スパイからの接触があった場合などには、このようなことを頭に入れておいて、行動すべきでしょう。このようなことで、人生を詰んでしまったり、被害を受けたりすることは避けるべきです。

それにしても、スパイ防止法があるにこしたことはないのは確かです。早く成立させて欲しいものです。成立すれば、政界、財界、学界、マスコミなどかなりスパイに浸透されていることが暴露されることになるでしょう。それを嫌がる人が大勢いるので、なかなかスパイ防止法が成立しないのでしょう。そのような圧力に負けず、是非成立させていただきたいものです。

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2023年4月17日月曜日

北方領土で演習のロシア太平洋艦隊は日本を脅かせるほど強くない──米ISW―【私の論評】ロシアが北方領土で軍事演習を行っても日本に全く影響なし(゚д゚)!

北方領土で演習のロシア太平洋艦隊は日本を脅かせるほど強くない──米ISW

 <ロシアの太平洋艦隊は、日本のウクライナ追加支援を牽制するため北方領土でミサイル発射訓練などを行っただが、日本を脅すほどの戦闘力はない、と米シンクタンクが分析した>

 ロシア海軍がアジア太平洋地域で軍事・安全保障任務を遂行するためにある太平洋艦隊は、他国から脅威とみなされるには「戦闘力」不足の可能性が高いと、米シンクタンクが指摘した。



 アメリカのシンクタンク戦争研究所(ISW)は、4月14日にウクライナ戦争に関する最新の分析を発表。ロシア軍が太平洋艦隊の抜き打ち検査の一環としてミサイル発射と魚雷のテストを実施したことについてコメントした。

 ロシア政府は目前に迫った5月のG7サミットにおいて日本のさらなるウクライナ支援を抑止する材料として、太平洋艦隊の戦闘点検で威嚇しようとしたのだろう、とISWは述べている。

 ドイツのキール世界経済研究所が4月4日に発表したデータによると、この戦争が始まってから、日本がウクライナに提供した援助の総額は、2月24日の時点で56億6000万ユーロ(62億ドル)に達している。

 ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は14日、今回の抜き打ち検査の目的は 「海洋における敵の攻撃を撃退するために、軍隊の能力を高めることだ」と、国営テレビで発表した。

 この検査は「あらゆる戦略的方向で任務を遂行するための軍司令部や各部隊の状態を評価し、準備態勢を高めること」をめざすものだ、とショイグは述べ、それには千島列島南部とサハリン島に上陸する敵を撃退する能力も含まれる、と付け加えた。

対ウクライナ追加支援を警戒

 千島列島の国後、択捉、色丹、歯舞の4島は、第二次世界大戦の終結時にソ連が占領し、自国領に「編入」した島々だ。日本はこの4島を日本固有の「北方領土」と主張しており、この問題で日露関係は何十年にもわたって緊張している。第二次大戦を正式に終結させる平和条約が日露間で締結されなかったのは、日本が領有権を主張し、ロシアが占領している島々をめぐる紛争が主な理由となっている。

 この4島は日本の北海道とロシアのカムチャッカ半島の間に位置するため、多くの軍事的、政治的な利点がある。

 5月19日から21日にかけて開催されるG7サミットで議長を務める予定の岸田文雄首相は、3月にウクライナの首都キーウをサプライズ訪問。議長国を務める日本として「ウクライナ侵略への対応を主導する決意を示すことができた」と語った。

 「ロシアの東部を管轄する東部軍管区(EMD)は最近、日本の千島列島の北に位置する幌筵島(パラムシル島)に、ロシアが開発した沿岸防衛用地対艦ミサイルシステムの砲台を配備した。これは日本がウクライナへの追加支援を行うことに対する警告であろうと当研究所は評価した」とISWは報告している。


 ISWは、広島で開催されるG7で日本がウクライナへの支援を増やさないように、ロシアは北太平洋で「軍事態勢」をとり、日本の鼻先で軍備増強をしてみせようとしている可能性が高いと述べた。

 だがISWの評価によれば、ロシア軍は「現時点で日本を脅かす立場にない」という。そして、太平洋艦隊の第40海軍歩兵旅団と第155海軍歩兵旅団の部隊が、昨年末と今年初めにウクライナ東部ドネツク州のヴフレダール付近の戦闘で、大きな損害を被ったことを指摘した。

 「太平洋艦隊は、太平洋地域におけるロシアのパワー・プロジェクション(戦力投射)能力に必要な戦闘力が不足しているようだ。そうであれば、日本にとっての真の脅威となるような姿勢を見せたり、対等な軍事大国であることを中国に確信させたりすることは難しい」と、ISWは主張している。

【私の論評】ロシアが北方領土で軍事演習を行っても日本に全く影響なし(゚д゚)!

ロシア軍の北方領土の演習は、日本でも報道されましたが、ほとんどの番組では、淡々と事実を述べるのみで、それがどのような意味を持つのか、この演習そのものは、日本にとって脅威なのか、伝えないため、多くの人にとっては無意味なものになっています。

ロシアは北方艦隊を含めて5つの軍管区に分かれているのですが、このうち北方艦隊を除いて4つの軍管区の地上部隊をドンバスの戦いに参加させていました。

4つの軍管区からの部隊をウクライナ侵攻では、南、中央、東、西という4つの方面軍に分けていることが確認され、プーチン大統領はそれぞれに信頼する将軍を司令官に任命していました。

北方領土に展開するロシア軍は、上の記事にもあるように、極東ロシア地上軍(東部軍管区)です。極東ロシア地上軍は、ソ連邦崩壊前では、40数個師団でした。現在では、半数以下の12個旅団(師団の半分から2/3の規模)と2個師団合計8万人です。

これは、最盛期の4分の1以下になったということになります。軍の地位も下がり、予算も多く削減され、兵員の士気は下がっていました。一時増やしはじめたこともあったのですが、これはウクライナ戦争で頓挫したよゔてす。

この極東からも、ロシア軍はウクライナに戦車揚陸艦で戦車や弾薬、人員等を運んだというのですから、いかにウクライナに侵攻したロシア軍が物資不足や人員不足に悩まされているのかがうかがえます。

東部管区には、太平洋艦隊が配置されていますが、太平洋艦隊の第40海軍歩兵旅団と第155海軍歩兵旅団の部隊が、昨年末と今年初めにウクライナ東部ドネツク州のヴフレダール付近の戦闘で、大きな損害を被ったと上の記事では指摘されています。

今年2月には、精鋭5000人で構成されるとされていた、極東・太平洋艦隊第155海軍歩兵旅団が、東部の戦闘で壊滅した可能性が浮上していました。

太平洋艦隊第155海軍歩兵旅団の上陸訓練 ウラジオストック(2020年)

現在のロシア軍による日本への挑発行為は、今の極東ロシア軍にできる精一杯の虚勢に過ぎず、わが国に脅威を与えるような活動とは程遠いです。

ある程度の準備期間を経て、満を持してウクライナに侵攻したロシア軍でさえ、あの体たらくです。ましてや、日米に比して貧弱で駆逐艦以上の戦闘艦艇は7隻程度しかなく海上自衛隊の10分の1程度の太平洋艦隊です。

ロシア太平洋艦隊旗艦「ワリャーグ」、ウクライナで撃沈された「モスクワ」と同型艦

ロシア空軍は、日常の活動などを見ても航空機の稼働率がおそらく30%に満たず、パイロットの操縦訓練(飛行時間は空自の半分以下)も全く航空自衛隊とは比較にならないような低練度の空軍の飛行部隊や海軍航空部隊の現状で、通常戦力ではとても日米の軍事力に太刀打ちできるはずはないです。

仮に日露が有事になったとするとロシアの艦船は、日本の潜水艦が潜む宗谷海峡と津軽海峡は危なくて通れなくなるので、太平洋方面での作戦やウラジオストクから補給を受けるカムチャツカの基地の維持も難しくなります。

海戦では、対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Warfare)能力が圧倒的に優れた日本はロシアを圧倒することになるでしょう。、実際もし第二次日露戦争が勃発したら「日本が海戦を制する」とロシアメディアが断言しています。

それでも、台湾有事などで中国の艦隊と連携行動を取られると、ロシア海軍も日米にとって煩わしい存在になるでしょうが、それも大したものにはならないでしょう。

なぜ、このようなことになるかといえば、現在のロシアはウクライナ戦争前であってすら、GDPは韓国を若干下回る程度でした。一人あたりのGDPに至っては、1万ドル(日本円で100万円)を若干上回る程度てす。ちなみに、中国も一人あたりGDPではロシアとあまり変わりありませんが、人口が14億人なので、中国のGDPはロシアの10倍です。

ロシアというと軍事大国というイメージが強いですが、軍事費に関していうと、実はそうでもありません。以下に

世界各国の軍事費をみていくと、やはり米国が世界一の軍事大国で、2位の中国の2.7倍。ただし中国はこの10年で2倍以上、20年では10倍以上も軍事費を増やしており、存在感を増していることがわかります。

世界各国の軍事費をみていくと、やはり米国が世界一の軍事大国で、2位の中国の2.7倍。ただし中国はこの10年で2倍以上、20年では10倍以上も軍事費を増やしており、存在感を増していることがわかります。
世界各国の軍事費をみていくと、やはり米国が世界一の軍事大国で、2位の中国の2.7倍。ただし中国はこの10年で2倍以上、20年では10倍以上も軍事費を増やしており、存在感を増していることがわかります。 【世界の軍事費 トップ10】 1「米国」80,067,200万米ドル 2「中国」29,335,200万米ドル 3「インド」7,659,800万米ドル 4「イギリス」6,836,600万米ドル 5「ロシア」6,590,800万米ドル 6「フランス」5,601,700万米ドル 7「ドイツ」5,556,400万米ドル 8「サウジアラビア」5,412,400万米ドル 9「日本」5,412,400万米ドル 10「韓国」5,022,700万米ドル ーーーーーーーーーーーーーーー 36位「ウクライナ」594,300万米ドル 出所:世界銀行 資料:GLOBAL NOTE ※データは2021年 ※中国は政府公式予算に含まれない軍事支出の推計を含む、日本は軍人恩給を含まない
ロシアは世界第2の軍事大国だとされてきましたが、軍事費でいうと、現在ではイギリスを下回ります。日本は、防衛費を倍増すると、ロシアの軍事費を大幅に上回ることになります。

これで、なぜ世界第2 の軍事大国といわれきたかというと、それはロシアはソ連の核や兵器及び軍事技術を継承した国であるため、それを加味して、世界第2と言われてきたと思います。そのため、決して侮ることはできないです。実際、中距離弾道弾も多数配備しており、この点では軽視すべき相手ではありません。

ただ今や、ロシアにはウクライナと北方領土の2正面で戦争をできるだけの力がないことは明らかです。現状では、米国抜きのNATOとも正面から対峙するのは不可能でしょう。

ウクライナ戦争が始まった直後、私はこのブログで、ロシアがウクライナ戦争でできることは、兵站の脆弱さを根拠に、東部のいくつかの州の全部もしくは一部を占領できるのが関の山だろうと予測しましたが、現在戦況は実際にそうなりつつあります。

マスコミはこのようなことは報道せず、ただロシアが北方領土で演習という事実を淡々と報道するだけです。それは、結果として単純にロシアの脅威を煽ることになりかねませんし、北方領土交渉を間違った方向に誘導しかねません。

米軍は、台湾有事などのシミレーションで、米軍が負ける場合を想定する事が多いです。それを米国は、軍の改善や改革に結びつけています。日本もそのような姿勢を堅持すべきです。中国は、負ける場合を指摘した将軍に「執行猶予付き死刑判決」を出しています。どちらが、軍を強くするかといえば、無論米国の方です。

ただ、私達は、あくまでロシアを等身大に見ていくべきです。今回ロシアが北方領土で演習を行ったとしても、上の記事にあるようにロシア軍は「現時点で日本を脅かす立場にない」です。

日本政府がこれによって、ウクライナ政策を変えたり、その他の政策や防衛・外交政策を変えざるを得ないような影響を受けることは、全くありません。

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