2024年4月28日日曜日

比、中国との合意否定 「大統領承認せず無効」―【私の論評】国家間の密約 - 歴史的事例と外交上の難しさ

比、中国との合意否定 「大統領承認せず無効」

まとめ
  • フィリピンと中国の間で、南シナ海のアユンギン礁をめぐる密約の存在をめぐって対立が深まっている。
  • 中国側は密約の存在を主張、フィリピン側は否定。真相は不明確で、両国の関係悪化が懸念されてる
フイリピン マルコス大統領

 フィリピン国家安全保障会議のマラヤ次長は27日の声明で、中国との間で南シナ海アユンギン礁の緊張激化を防ぐための取り決めがあったとする中国側の主張を否定した。

 「どんな了解事項も大統領の承認がなければ効力を持たない」と強調。合意は存在せず、フィリピンが合意を破棄したとの中国側の主張は不当だと反論した。

  フィリピンのドゥテルテ前大統領は、同礁の軍拠点の老朽艦に補修資材を持ち込まず現状を維持するとの密約の存在を示唆。在フィリピン中国大使館はマルコス現政権下でも「今年初めに双方が『新たなモデル』で合意していた」と発表していた。

【私の論評】国家間の密約 - 歴史的事例と外交上の難しさ

まとめ
  • 中国が一方的に密約内容を暴露したり、新政権発足後も従来の取り決めを主張するのは外交の基本的なルールから逸脱しており、大きな問題がある。
  • 歴史上、国家間で密約が結ばれた可能性のある有名な事例が複数存在する。公文書や証言から密約の存在が確実視されている。
  • 日本でも、米国との間で領土問題など重要案件について密約があった疑惑がある。
  • 原則として密約は避けるべきだが、安全保障上の理由や一時的な政治的配慮があれば、密約が存在する余地はある。ただし条件があり、濫用は危険。
  • 左翼メディアは密約問題をセンセーショナルに報じ、自らを正義の旗手と振る舞うが、外交には不快な妥協も伴う。強迫観念は交渉を損なう恐れがある。
中国の言動には大きな問題があると指摘せざるを得ません。まず、密約がある場合、それを一方的に公表すべきではありません。相手国の同意なしに密約内容を暴露することは、信頼関係を損ない、外交上の大問題となります。

仮に過去に密約があったとしても、新政権発足後は従来の取り決めを一方的に主張するのは不適切です。新政権との間で改めて協議を行い、合意内容を再確認するプロセスが必要です。

さらに、領有権問題をめぐり、中国が自国の主張を一方的に押し付ける姿勢は、平和的解決を阻害します。建設的な対話と、互いの立場を尊重する姿勢が欠かせません。

つまり、密約の有無に関わらず、中国の一連の言動は外交の基本的なルールから逸脱しており、非常識な面があります。情報が限られる中で明確には言えませんが、少なくとも中国の対応には大きな問題があると考えられます。

外交上の密約 AI生成画像

歴史上、国家間で密約が結ばれた可能性のある例はいくつか存在します。以下にいくつか事例を挙げます。これは、公文書や複数の人による証言などによって、密約の存在が確実視されたものです。

1. イギリスとエジプトのシュエル・シャイク協定(1954年):
   イギリスとエジプトの間で、エジプトの独立を認める代わりに、スエズ運河の管理権をイギリスからエジプトに移譲することが合意されました。この協定はエジプトの主権回復に重要な役割を果たしました。
2. ソ連とキューバの秘密的な軍事協力(1960年代):
   キューバ革命後、ソ連とキューバは軍事的な協力を行い、キューバに対するアメリカの脅威に対抗しました。この密約は冷戦時代の緊張関係の一環であり、世界的な注目を浴びました。
3. フランスとイスラエルのシナイ半島占領密約(1956年):
   スエズ危機の際、フランスとイスラエルは共同でエジプトのシナイ半島を占領しました。この密約は、エジプトとの戦争において両国の協力を確保するために結ばれました。
これらの事例は、国家間の密約が歴史的な文脈でどのように影響を及ぼしたかを示しています。

以上は外国の事例ですが、日本の例も以下に挙げておきます。これも、後に公文書や複数人の証言によって密約の存在が確実視されたものです。

1. 吉田茂による占領の終結指揮権密約(1952年と1954年):
 吉田茂首相は、日本の占領終結に向けてアメリカとの交渉を行いました。この密約により、日本は占領終結の指揮権をアメリカに委譲しました。
2. 岸信介による親米体制の確立密約(1960年):
 岸信介首相は、日米同盟を強化するためにアメリカとの合意を結びました。この密約により、日本はアメリカの軍事的指導を受けることを約束しました。
3. 佐藤栄作による沖縄返還密約(1969年):
佐藤栄作首相は、沖縄の返還に向けてアメリカと交渉しました。この密約により、沖縄の返還と引き換えに日本はアメリカの核兵器を受け入れることを了承しました。
これらの事例は、日本とアメリカの外交関係において、公には明らかにされていなかった合意や密約が存在したことを示しています。

国家間で法的拘束力のある正式な合意以外に、秘密の"密約"を結ぶことは一般的ではありません。ただし、一概に合法/違法と判断するのは適切ではありません。状況によってはグレーな部分も存在するからです。

確かに透明性の観点から、原則として密約は避けるべきでしょう。公開された正式の合意が

望ましい形です。しかし、以下のような例外的な状況が考えられます。
  • 機密保持が求められる安全保障上の理由がある場合
  • 合意内容を一時的に秘匿する必要がある政治的配慮から
  • 交渉の過程で一時的に密約し、後に正式な合意に置き換える場合
つまり、完全な透明性が困難な一時的段階において、密約が存在する余地はあり得るということです。

ただし、そうした密約であっても、以下の条件は満たす必要があります。
  • 法的根拠や正当な理由がある
  •  一方的でなく相互の同意が前提
  •  一定期間後には公開し説明責任を果たす
極秘の密約は濫用の危険性がありますが、状況次第では必要不可欠なケースもあり得ます。そのため、一括りにすべてを退けるべきではなく、個別の事例ごとに判断することが賢明です。

佐藤栄作総理大臣

一方、当時毎日新聞記者西山太吉は、日米間の「密約」を報道し、1972年の外務省機密漏洩事件で有罪が確定しました。彼は沖縄返還協定に際し、公式発表ではアメリカ合衆国が地権者に対する土地原状回復費400万米ドルを支払うとされていましたが、実際には日本国政府が肩代わりしてアメリカ合衆国に支払うという密約を報じました。

この報道により、日米間の秘密的な合意が明るみに出たことで、社会的な議論が巻き起こりました。西山太吉は今年2月24日に心不全のため亡くなり、享年91歳でした。ただし西山氏を巡っては、同省の女性事務官と男女関係を持った上で機密文書を漏洩させたとして、東京高裁が「正当な取材活動の範囲を逸脱する」と断じた経緯もあります。にもかかわらず、これを日本の報道機関は、英雄のように持て囃す傾向がみられました。


秘密主義と透明性は、国際外交において密接に関連しています。政府は国民や同盟国に対して透明性を保つことが大切ですが、国益や安全保障を守るためには、慎重さや情報の秘匿も必要です。

ここでは、秘密取引の倫理について議論するつもりはありません。私は、保守派として、世界は複雑な場所であり、指導者が国の利益を守るために厳しい選択を迫られることもあることを理解しています。

しかし、言いたいのは、左派メディアや彼らのヒーローたちは、このような事件をセンセーショナルに報じ、自分たちを真実と正義の闘士として描くのが好きだということです。外交には、しばしば不愉快な相手との交渉や妥協が含まれることを忘れてはなりません。

左派メディアの強迫観念は、交渉の立場を損ない、国際舞台での我々の立場を弱める可能性があります。したがって、透明性の原則を尊重すると同時に、慎重さが必要な場合もあることを認識しなければなりません。

理想的な世界では、すべての合意が公開できるし、そうしなければならないかもしれませんが、現実の世界では、国際関係の複雑さに対処し、国の安全を確保するためには、時には秘密主義も必要です。

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2024年4月27日土曜日

米、反イスラエル学生デモ拡大 バイデン氏、再選へ影響懸念―【私の論評】日本への警鐘:アイデンティティ政治とビバリーヒルズ左翼の台頭に見る危機

 米、反イスラエル学生デモ拡大 バイデン氏、再選へ影響懸念

まとめ

  • 全米の大学で、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ攻撃を非難するデモが拡大している。
  • デモはニューヨークのコロンビア大から始まり、ワシントンにも波及しており、バイデン大統領の支持基盤である若者の離反が懸念される。
  • コロンビア大では、学生らが大学にイスラエル関連企業とのつながりを断つことなどを要求し、抗議活動が行われている。
  • 全米の大学では、抗議活動に参加した数百人が拘束され、一部で授業中止や卒業式の主要式典の中止などの影響が出ている。
  • バイデン大統領は、反ユダヤ主義的な活動を非難しつつも、イスラエルへの軍事支援とガザの人道状況改善の両立に苦慮している。

イェール大学学生の親パレスチナデモ

 全米の大学で、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ攻撃を非難するデモが広がっている。これは、ニューヨークの名門コロンビア大学から火が付き、首都ワシントンにも波及している。このようなデモの拡大は、バイデン大統領にとって深刻な問題となっている。なぜなら、これらのデモは民主党支持の傾向が強い若者の離反を意味し、バイデン大統領の再選に影響を与えかねないからだ。特に、コロンビア大学では抗議活動が活発化し、学生らは大学に対しイスラエル関連企業とのつながりを断つことなどを要求している。

 全米の大学では、抗議に参加した数百人が拘束されるなどの影響が出ている。例えば、南カリフォルニア大学(ロサンゼルス市)では保安上の理由から卒業式の主要式典を中止し、エマーソン大学(ボストン市)では授業を取りやめるなどの措置が取られている。しかしながら、一部の抗議活動には反ユダヤ主義的な要素も混じっており、大学側は表現の自由と差別助長の阻止との間で難しい判断を迫られている。

 さらに、抗議活動の影響は学内にとどまらず、ホワイトハウスから数ブロック西のジョージワシントン大学で、イスラエルへの対外支援法を成立させた政権に抗議する声も上がっている。バイデン大統領は、これらのデモについて「反ユダヤ主義の抗議活動を非難する。同時に、パレスチナ人の状況を理解しない人々も非難する」との立場を示しているが、イスラエルへの軍事支援とガザの人道状況改善の両立は容易ではなく、混乱収束に向けた妙案は見えていない。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本への警鐘:アイデンティティ政治とビバリーヒルズ左翼の台頭に見る危機

まとめ
  • 米国での出来事は、日本が陥りかねない危険信号が現れており、これに目を向ける必要がある。
  • かつての労働者階級の代表とされた「左翼」がエリート層の価値観に同化し、"ビバリーヒルズ左翼"と呼ばれる存在になりその支持基盤から離れている。
  • アイデンティティ政治といわれる、個々のアイデンティティに基づく政治的主張が対立や分断を助長し、偏見や敵対心を増大させる恐れがある。
  • 米国では難関とされる、カリフォルニア大学アーバイン校やコロンビア大学での抗議行動や反ユダヤ主義的な行動が報告されている。
  • 日本でも米国と同様の兆候が見られ、伝統的な価値観や勤労精神を守り、エリート主義に囚われた考え方を排除する必要がある。
米国で起こっている出来事に目を向ける必要があります。なぜなら、そこには日本が陥りかねない危険信号が現れているからです。

日本が陥りかねない危険信号 AI生成画

米国では、かつて労働者階級の代表として位置づけられていた「左翼」と呼ばれる勢力が、今やその本来の支持基盤から離れ、いわゆるエリート層の価値観に同化しつつあります。

これを私は「ビバリーヒルズ左翼」と呼んでいます。これはもちろん、日本でも人気のあった米国のドラマ「ビバリーヒルズ高校白書/ビバリーヒルズ青春白書」を念頭においたものです。

この「ビバリーヒルズ左翼」は、裕福な環境で育った人々の集まりであり、勤労者の現実的な課題から目を背け、知的エリートの関心事にのみ熱心です。以前は労働組合の集会に参加していた彼らが、今やアイビーリーグの大学キャンパスに集まるようになりました。

このグループは、安全保障、国民の食の確保や雇用創出などの現実的な問題よりも、リベラルな価値観の推進やアイデンティティ政治に熱心です。彼らが関心を寄せるのは、移民問題やLGBT、マイノリティの権利など、アイデンティティに関する課題が多いです。

ビバリーヒルズ青春白書

最近の一部の名門大学での反イスラエルデモの過激化は、まさにこの「ビバリーヒルズ左翼」の影響が学生運動に及んでいる例です。デモは時に反ユダヤ的な言動に走り、大学側を危機に追いやっています。特に優秀な学生ほど、反ユダヤ主義的なプロパガンダに洗脳されやすい傾向にあると指摘されています。

米国で有名校とされる、カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)では、イスラエル関連のイベントに対する抗議行動や反ユダヤ主義的な行動が報告されています。

同じく有名校とされるコロンビア大学(Columbia University)でも、イスラエル関連の講演会やイベントに対する抗議行動や妨害が発生し、反ユダヤ主義的な言動が報告されています。

反イスラエルの姿勢が問題なのは、それが極端な反ユダヤ主義につながる危険性があるからです。イスラエルに対する批判が一線を越えれば、ユダヤ人への差別的な言動や憎悪犯罪に直結します。これは絶対に許されません。

このような状況に対して、大学側は厳しい対応を迫られています。大学は多様な価値観を受け入れる場であると同時に、学生に安全な環境を提供する責任があります。反ユダヤ的な言動は構内の治安を脅かし、大学の中立性や知的開放性を損なうおそれがあります。そのため、大学はデモの過激化を放置することはできません。

アイデンティティ政治への過度の焦点は、米国民の分断と対立を助長します。"ビバリーヒルズ左翼"は、米国民を"違い"で定義し、"被害者"意識を植え付けようとしています。

アイデンティティ政治とは、個々の人々や集団が自らのアイデンティティ(身元や所属、属性)に基づいて政治的主張や行動を展開することを指します。これは、性別、人種、民族、宗教、性的指向、身体的能力など、さまざまな身元や属性に関連しています。

アイデンティティ政治の負の側面は、しばしば社会の対立や分断を深め、個々のアイデンティティに基づいた偏見や敵対心を助長することです。

例えば、アイデンティティ政治が進むと、特定のアイデンティティグループが自らの権利や利益を強調し、他のグループとの摩擦が生じます。これにより、社会全体が対立状態に陥り、対話や協力が阻害される可能性があります。

また、アイデンティティ政治はしばしば単純化や過剰な一般化を招きます。特定のアイデンティティに基づいて個人やグループをラベリングし、その属性に応じて全ての行動や意見を決定付けようとする傾向があります。これにより、個々の多様性や複雑さが無視され、個人の自由や多様性が制限されるおそれがあります。

さらに、アイデンティティ政治はしばしば感情的な反応や怒りを引き起こし、合理的な討論や協力を難しくします。このような感情的な偏見や敵対心は、社会の結束や共存を脅かす要因となります。

アイデンティティ政治が過度に強調されると、社会は分断され、対立が激化する可能性があります。その結果、個々のアイデンティティが優先されることで、全体の共通の利益や社会の結束が犠牲にされるおそれがあります。

ビバリーヒルズ左翼はアイデンティ政治等のリベラルな理想論に惑わされ、現実から遠ざかった考えに走っています。多くの国民が直面する生活の困難や雇用の不安を見過ごしているのが現状です。"進歩"を掲げながらも、彼らの本当の狙いは、エリート主義的な価値観を押し付けることにあるかもしれません。

滑稽なアイデンティティ政治  AI生成画

残念ながら、日本でも同様の兆候が見られます。いわゆる「リベラル」と呼ばれる一部の層が、多くの国民の実態から遊離した理想論や表面的な正義を追求しています。例えば、最近の「LGBT理解増進法」成立をめぐっては、自民党内の保守派からも国民の生活への影響を十分に考慮せずに急いで成立させたとの批判がありました。

安倍政権は例外的であり、1990年代以降の自民党はリベラル政党とみなすことができます。自民党は結党時の保守的な価値観に立ち返り、国民の生活を最優先に考える政党に再びなるべきです。

このままでは、米国と同じ道を歩むことになりかねません。日本の伝統的な価値観、すなわち勤労を尊重し、個人の自立を重視し、国民全員が平等に自由に恵まれる社会を大切にしなければなりません。

私たち日本人は、祖先から受け継いできた誇り高い文化や価値観を決して忘れてはいけません。自由という尊い価値は、努力と責任を尊重することなくしては守られません。これを守り、次世代に継承することが、私たちの責務です。

エリート主義にとらわれた考え方が、日本に蔓延することを許してはいけません。日本の伝統的な勤労精神と自立の志こそが、国の繁栄につながる道です。

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2024年4月26日金曜日

南シナ海、米比合同演習の周囲を埋め尽くす中国船が見えた―【私の論評】鈍い中国の対応、日米比の大演習に対抗する演習をしない中国の背後に何が?

南シナ海、米比合同演習の周囲を埋め尽くす中国船が見えた

まとめ
  • 南シナ海の係争海域に多数の中国船舶(海警局艦船と武装した漁船)が集結している。これは米比合同演習への対抗と見られる。
  • 中国船舶は特にフィリピンのEEZ内の環礁周辺に集中しており、中国はこの海域への実効支配を強化しようとしている。
  • 米比は中国の挑発に対し、合同演習の規模を過去最大に拡大し、日本などの参加も得て対応を強化した。
  • バイデン大統領は米比相互防衛条約が南シナ海防衛にも適用されると明言し、日本とも連携を確認した。
  • 中国は表向きは「友好的協議」で解決を目指すと主張しつつも、実効支配の強化と威嚇姿勢も併せ持っている。

 南シナ海の係争海域において、中国船舶の大規模な集結が確認されている。これは、同海域でアメリカとフィリピンが行っている年次合同軍事演習「バリカタン」への対抗措置とみられており、中国政府が自国の海軍力を誇示する意図がある。

 集結船舶には、中国海警局の公船に加え、武装した中国漁船の「海上民兵」も多数含まれていることが確認された。特に船舶の集中が著しいのは、国際的にフィリピンの排他的経済水域(EEZ)と認められている南沙諸島の環礁周辺である。中国はこれらの環礁を不法に占拠・軍事基地化しており、セカンド・トーマス礁やミスチーフ礁周辺では、フィリピン船の航行妨害を繰り返してきた経緯がある。今回の船舶集結は、こうした中国の実効支配強化の動きの一環とみられている。

 こうした中国の挑発的な行動に対し、今年のバリカタン合同演習では過去最大規模の1万7000人近い部隊が投入されている。参加国はアメリカとフィリピンが主体だが、日本やオーストラリア、フランスなども加わり、14カ国がオブザーバー参加している。先月にはバイデン米大統領が、マルコス・フィリピン大統領、岸田日本首相と会談し、南シナ海防衛での連携強化を確認した。バイデン大統領はマルコス大統領に対し、米比相互防衛条約が南シナ海の防衛にも適用されることを保証した。

 一方の中国側は、表向きは「海洋紛争は直接関係国と友好的な協議を通じて解決する」と主張している。しかし、南シナ海での権益侵害を許さないとも強く警告しており、協議による解決と実効支配の強化を並行して行う姿勢をみせている。また、バリカタン演習開始の前日には西太平洋海軍シンポジウムが中国で開催され、この場でも中国制服組トップの張又侠・中央軍事委員会副主席が「自国の信義誠実につけ込む悪辣な行為は断じて許さない」と釘を刺した。

 こうした緊張が高まる中、専門家は中国が近年、フィリピンの進める南シナ海での水路測量プロジェクトにも高い警戒感を示していると指摘する。南シナ海をめぐる対立は一層深刻化しており、米比日が軍事的対応を強化する中で、中国も実効支配の強化と威嚇姿勢を併せ持っている状況にある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】鈍い中国の対応、日米比の大演習に対抗する演習をしない中国の背後に何が?

まとめ
  • 米軍がフィリピンにMRC(中距離ミサイル発射装置)を配備し、中国への牽制を図っている。
  • MRCの射程は南シナ海や台湾海峡周辺に及び、軍事的抑止力の向上が目的。
  • フィリピンへのMRC配備により、米国の軍事的プレゼンスが強化される見通し。
  • 米軍の演習に日本の自衛隊も参加し、日米比3か国の連携を強化する。
  • 中国は南シナ海での米比日本等の演習に対抗しつつも、大規模演習は行わず経済的制約や緊張緩和の観点から控えめにしている可能性が高い。
地上配備型の中距離ミサイル発射装置「MRC」

米軍は25日「バリカタン演習」の一環として、フィリピンに地上配備型の中距離ミサイル発射装置「MRC」を配備しています。これは、主に中国への牽制を狙ったものと見られます。MRCの射程圏内には南シナ海の中国拠点や中国南部沿岸部、台湾海峡沿いが含まれることから、これらの地域への軍事的抑止力の向上が目的とみられています。

近年、米中間では南シナ海を巡る対立が深刻化しており、中国は同海域での実効支配強化を進めてきました。一方で、同地域での中国のミサイル戦力の優位性が指摘されていました。今回のMRC配備は、こうした中国の軍事的影響力の拡大に対する、米国からの意思表示の一環とみられます。

MRCからは射程約1600kmの巡航ミサイル「トマホーク」などの発射が可能で、南シナ海や台湾海峡周辺に対する米軍の射程を大幅に延長することになります。中国はフィリピンへのMRC配備に反発していますが、米国は同地域における軍事的プレゼンスの強化を志向していると見られます。

軍事専門家らは、米軍のフィリピンへのMRC配備は恒久的な措置ではなく、一時的な配備と見なしています。この配備により、危機発生時に即応できる能力が高まり、危機を乗り切る可能性が強まるとの指摘があります。

また、中国側のミサイル戦略において、情報収集や標的特定の能力など、比較的新しい分野に対して試練を与えるものと分析されている。つまり、米軍のMRC配備は、中国の新しいミサイル戦略の実効性を試す側面もあると専門家は読み解いています。

今年の演習では、日本の自衛隊がバリカタン演習に本格的に参加する方向で調整されています。これにより、日米比3か国の連携を強化し、中国の威圧的な行動に対抗する意図があります。

また、今回の演習では対潜水艦戦訓練にも焦点を当てています。具体的には、ソナー訓練、対潜哨戒機の運用、対潜兵器の運用、情報共有と連携などが行われます。これにより、潜水艦を探知し、追跡し、攻撃する能力を向上させることを目指しています。

哨戒ヘリを用いた一般的な対潜戦訓練の模式図

2020年中国人民解放軍は、南シナ海と東シナ海、黄海、渤海の4海域で軍事演習などを同時実施していました。これは、主に台湾に向けたものと考えられます。

今回、中国が南シナ海での米比日本などの動きに危機を感じているのなら、南シナ海の係争海域に多数の中国船舶(海警局艦船と武装した漁船)が集結させるだけではなく、「バリカタン演習」に匹敵するか、それを上回るような演習を「バリカタん演習」の前後にするはずですが、それに関する発表はいまのところ、中国側からありません。

中国が今回、南シナ海での米比合同演習に対抗する形で、同規模の大がかりな軍事演習を行っていない背景には、以下のような要因が考えられます。

1. 軍事的緊張のコントロールと実効支配の手段の選好

過度の軍事演習は緊張を高め、思わぬ軍事衝突のリスクもあります。そのため、威嚇的な船舶の集結などのグレーゾーン活動を通じて実効支配を強化する方が望ましいと判断している可能性がある。

2. 主張の正当性の確保

環礁でのミサイル基地建設を進めつつ、大規模演習を行えば、その正当性が損なわれるリスクがある。

3. 軍事的能力の限界

長距離への投射能力などで米軍に及ばず、さらには兵站能力でも米軍等には及ばず、大規模演習の実効性に中国側の疑問がある可能性があります。

4. 経済的負担の観点

大規模な実戦的な軍事演習を行うには、実戦と同様の多額の弾薬、燃料、食料など物資の手配が必要となる。現在の経済情勢の中で、そうしたコストを負担するのは困難と判断している可能性がある。

特に経済面での制約は大きいと考えられます。実戦と同様に、膨大な量の弾薬、燃料、さらには1人一日当たり3000キロカロリー相当の食料を演習現場に投入する必要があります。こうした巨額の経費をかけての大規模演習は、中国の現在の経済状況では負担が大きすぎるのかもしれません。

軍事的、政治的配慮に加え、経済的な制約から、中国は威嚇的な活動に重きを置きつつも、実際の大規模演習は控えめにしている可能性が高いと言えます。

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2024年4月25日木曜日

中国が優勢、南シナ海でのエネルギー争奪戦-米国には不愉快な実態―【私の論評】中国の南シナ海進出 - エネルギー・ドミナンス確立が狙い

中国が優勢、南シナ海でのエネルギー争奪戦-米国には不愉快な実態

まとめ
  • ベトナム、フィリピンは国内の天然資源開発を計画していたが、中国の南シナ海における一方的な領有権主張と強硬な行動により妨げられている。
  • 中国は法的根拠が不明確な「九段線」「十段線」に基づき、南シナ海のほぼ全域に対する領有権を主張し続けている。
  • その結果、ベトナム、フィリピンはエネルギーの輸入に頼らざるを得なくなり、フィリピンではエネルギー危機が深刻化している。
  • 中国船舶がフィリピン領海で放水砲を使うなど強硬な行為に出ており、米国を含む関係国との緊張が高まっている。
  • 米国はフィリピンを全面支持し、合同軍事演習の規模を拡大。中国との緊張緩和は見込めない状況が続いている。

 ベトナムとフィリピンは、それぞれ国内で発見された大規模な天然ガス田やガス・石油埋蔵地から、エネルギー確保を図る計画を立てていた。しかし、南シナ海における中国の一方的な領有権主張と強硬な行動によって、その計画が大きく妨げられている。

 中国は、法的根拠が不明確な「九段線」の地図に基づき、南シナ海のほぼ全域に対する領有権を主張してきた。2016年にはオランダの仲裁裁判所がこの主張を退けたが、習近平国家主席はその判断を無視し、さらに2023年には「十段線」と呼ばれる新たな領有範囲の地図を発表するなど、自国の主張を強めている。

 こうした中国の一方的な行動により、ベトナムのブルーホエール天然ガス田プロジェクトは遅れ、フィリピンでは独占権があるはずのリード堆周辺での資源開発もできずにいる。結果的に両国とも、液化天然ガス(LNG)など燃料の輸入に頼らざるを得なくなっている。

 特にフィリピンではエネルギー供給が危機的状況に陥りつつある。マランパヤガス田の枯渇が予測されており、先月には猛暑で複数の発電所が停止し、ルソン島で一時的な停電にも見舞われた。有力者は、マランパヤが止まれば経済は崩壊すると警告している。

 一方、中国の船舶はフィリピン領海内で相手船舶に放水砲を使うなど強硬な行為に出ており、緊張が高まっている。米国はフィリピンを全面的に支持する構えで、合同軍事演習の規模も年々大きくなっている。バイデン大統領は岸田首相、マルコス大統領と会談し、中国との緊張関係を論じ、相互防衛条約の発動に言及するなど、東南アジア諸国を支える姿勢を鮮明にした。

【私の論評】中国の南シナ海進出 - エネルギー・ドミナンス確立が狙い

まとめ
  • 中国は南シナ海に埋蔵される豊富なエネルギー資源を確保し、同地域でのエネルギー面での優位(ドミナンス)を獲得しようとしている。
  • そのため中国は「九段線」を根拠に、人工島建設や軍事拠点化、周辺国への妨害行為などで実効支配を強めてきた。
  • 中国が、南シナ海支配権の獲得でエネルギー資源の独占と供給ルート確保を狙っているのは明らかである。
  • 中国の南シナ海進出を事実上許した要因は、米国を始めとする関係国の当初の対応の遅れや連携不足にあった。
  • しかしバイデン政権も南シナ海問題への対応が不十分で、中国のエネルギー獲得・ドミナンス確立を容認する形となっている。今こそ、ホワイトハウスが、米国の力と決意を示す強力で断固たるリーダーシップを発揮すべき時なのだ。
中国の南シナ海における一方的な現状変更の試みには、同海域に存在すると見られる豊富なエネルギー資源を確保し、エネルギー面での優位を獲得しようという狙いがあると考えられます。南シナ海には石油・天然ガスが大規模に埋蔵されていると期待されており、中国のエネルギー安全保障上、極めて重要な戦略的価値を持っています。

そのため中国は、「九段線」に基づく広範な領有権主張を根拠に、この海域における実効支配を着実に強めてきました。環礁への人工島建設と軍事拠点化、周辺国の資源開発事業への妨害行為などを通じて、石油・ガス田開発における主導権を握ろうとしているのです。

中国共産党が主張してきた九段線

エネルギー資源の独占的な活用権を得られれば、アジア有数のエネルギー消費国である中国は、同地域におけるエネルギー面でのドミナンス(支配力)を手にすることができます。また、この地政学的要衝の支配権を獲得することで、中国はエネルギー供給ルートの安全も確保できます。

近年の中国の海洋進出は、資源・エネルギーの獲得はもちろん、それらを安全に運ぶ海上交通路の確保が大きな目的との指摘もあります。このように、南シナ海の実効支配を強化する中国の行動の背景には、同海域のエネルギー資源の確保とそれに基づくエネルギー面でのプレゼンス向上への強い意欲があると考えられます。

中国の南シナ海における一方的な現状変更を事実上許してしまった要因は複雑で、米国の対応だけでなく、関係国全体の対応にも問題があったと指摘されています。

確かに、オバマ政権時に南シナ海問題への対応が手遅れになったとの批判があります。しかし、その後のトランプ政権、バイデン政権と、米国は次第に強硬な姿勢を取るようになりました。合同軍事演習の規模拡大や、フリーダムオブナビゲーション(航行の自由)作戦の実施、マルコス政権への支持表明など、中国に対する牽制を強めています。


他方で、東南アジア諸国連合(ASEAN)が一致した対応を取れなかったことも大きな要因と言えます。ASEANには中国に配慮せざるを得ない国々があり、団結した姿勢が示せませんでした。また、関係国が早期からより強硬に対応すべきだったという意見もあります。

米国のみならず、ASEAN、そして関係国全体の当初の対応の遅れや、足並みの乱れが、現状を生み出した一因と考えられます。米国単独で状況を抑え込むのは難しく、関係国の連携強化が課題と言えるでしょう。

ただし、中国の南シナ海における一方的で過激な動きが過去数年間で一層目立つようになったことは確かです。そしてこの背景には、バイデン政権の対応の遅れや、強硬姿勢の不足があったことは否めません。

バイデン政権が国際社会で力強いリーダーシップを発揮できていないことは広く知れ渡っており、特に中国への対応は極めて不十分でした。南シナ海における中国の攻撃的な行動は、バイデン政権から発せられる弱々しく一貫性を欠いた外交方針の直接的な結果といえます。

バイデン大統領と民主党幹部は、矛盾した複雑な姿勢を示すことで、米国の脆弱なイメージを世界に植え付け、ライバル国や敵対国からの侵害を招いてしまいました。バイデン大統領は当初から、中国が世界の平和と米国の利益を脅かす存在であることを軽視し、中国に対して穏健な対応姿勢をとっていました。トランプ前政権が行ってきた中国への強硬姿勢は大きく後退させられました。
 

特に、バイデン政権は南シナ海に埋蔵される豊富なエネルギー資源をめぐる中国の実効支配強化に対し、何ら有効な対抗策を講じていません。この海域のエネルギー支配権の獲得が中国の最大の狙いであるにもかかわらず、バイデン政権はその重大性を軽視し続けています。中国のエネルギー・ドミナンス獲得を防ぐ具体的な取り組みが全くなされていないのが実情です。

バイデン政権が発足当初に中国共産党政権と示した協調路線は、お互いを理解し協力するという誤った前提に基づくものであり、結果的に習近平政権を追認し、強化することにつながりました。特に南シナ海問題については、バイデン政権は中国の違法な人工島建設や軍事拠点化に何ら反発の姿勢を示さず、米国の力を行使し同盟国を守る決然たる行動もありませんでした。

いまこそホワイトハウスが、エネルギー安全保障にも真剣に取り組み、中国共産党に立ち向かい、米国の力と決意を示す強力で断固たるリーダーシップを発揮すべき時なのです。

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2024年4月24日水曜日

井俣憲治町長によるハラスメント事案について―【私の論評】自治労の影響力低下と保守化の潮流:日本の政治に与える影響と自民党の凋落

井俣憲治町長によるハラスメント事案について

井俣憲治町長
  • 町長によるパワハラ・セクハラの被害を受けた、または目撃したとする町職員によるアンケート調査結果を重く受け止め、事案の全容解明のため、町および町長から独立した第三者委員会を設置し、調査を進める。
  • 10月下旬に職員がアンケートを実施し、11月中旬に結果を公表。町長は職員に説明し、記者会見を開いた。一部議員から不信任決議案が提出されたが否決された。
  • 12月に第三者委員会が発足し、翌4月に調査報告書が提出された。
  • 町議会では、ハラスメント事案検証特別委員会を設置し、町長への給与減額条例案が提出されたが否決された。

主な経緯として、アンケート実施、町長の説明と記者会見、不信任案の提出と否決、第三者委員会の設置と調査報告、議会での特別委員会設置と給与減額条例案の審議が行われた。第三者委員会の調査結果を受け、事案の全容解明と被害者保護に取り組む構えを示している。

調査報告書(PDFファイル:2.2MB)

この記事に関するお問い合わせ先

人事秘書課
電話番号:0561-56-0715
ファックス:0561-38-0001

この記事は、東郷町のサイトに掲載されたハラスメント事案に関する掲示を要約したものです。詳細をご覧になりたい方は、このサイトを御覧ください。

【私の論評】自治労の影響力低下と保守化の潮流:日本の政治に与える影響と自民党の凋落

まとめ
  • 東郷町長と長谷川岳議員のパワハラ問題は、社会の変化を象徴している。
  • 自治労の組織率が低下し、その影響力が減少している。
  • 過去の自治労の影響力の強さは、人事への介入、不適切な労働条件の護持、予算編成への介入、不正の隠蔽、左翼的政策の導入などの弊害を引き起こした。
  • 自治労の影響力低下は、保守的価値観の回帰を示唆している。
  • 自民党の低迷は、保守的な価値観の変化への適切な対応がなされていないことに起因している可能性がある。
長谷川岳氏

東郷町長、長谷川岳議員のパワハラが問題になっています。これらは、決して良いことではありませんし、これを支持するものではなく、改善改革すべきと思うのですが、別の側面からみると世の中が確実に変わってきていることを示しているのではないかと思います。

近年、自治体職員の組合である自治労の組織率が低下し、その影響力が相対的に弱まってきました。

過去の推移を見ると、自治労の組織率は1990年代後半には70%前後と非常に高い水準でしたが、その後徐々に低下してきています。

現在の自治労の組織率は60%前後と推定されます。労働組合全国平均組織率を大きく上回る水準ではあるものの、長期的に見ると確実に低下傾向にあるとみられます。

自治労は高い組織率と政治的影響力を背景に、地方自治体の政策形成にも大きな影響力を及ぼしてきたといえます。

かつては自治体の長やその幹部はその意向を無視できず、組合との協調路線を取る必要がありました。それは、国政に携わる国会議員もそのようなところがありました。そうして、その結果左翼リベラル的な政策が取り入れられることもありました。

しかし、今では組織率の低下を背景に、住民の意識の変化やマスコミによる監視の目が厳しくなり、そうした組合への遠慮は次第に薄れてきています。今回の東郷町長や長谷川岳議員のパワハラ問題が表面化したのは、まさにその現れだと言えます。

従来のように、自治労に絶大な力があれば、もし自治労と良好な関係を保っている自治体の長や、国会議員などのパワハラ的な言動は組合によって封じ込められていた可能性が高かったでしょう。その反対に自治労との関係が悪るければ、もっと以前にかなり厳しく糾弾されていたことでしょう。いずれにしても、ここまでこじれることはなかったと思われます。

悪い方向にでたとはいえ、長谷川岳氏や、井俣憲治町長などの行為や行動は、自治労など全く意に介していなかったようにみえます。

つまり、今回の一連の出来事は。自治体行政における旧来の力学から新しい力学への移行を、象徴的に示しているのだと考えられます。たまたま今回は、悪い面が際立ったといえると思います。

他の例でいうと、安芸高田市の石丸市長が市議から「恫喝」されたとSNSに投稿したことをめぐり一審で市側が敗訴した裁判の控訴審が始まったという事例もあります。安芸高田市は改めて訴えを退けるよう求めています。この背後に、自治労はどのように関与しているでしょうか。

自治労は、全国の自治体職員で構成される労働組合です。市長や市の立場と、組合員である職員の利益を代表する自治労の立場が対立することがあります。

具体的にこの事案では、以下のような自治労の関与が考えられます。
  • 市長を批判した市議が自治労の組合員である可能性があり、自治労が市議を支持している。
  • 自治労が市長の対応を問題視し、組合員に市長への批判を働きかけている。
  • 市側の主張を後押しするため、自治労が控訴審で補助参加している可能性。
しかし、自治労の具体的な関与の有無は分かりません。自治体と労働組合の対立は一般的にあり得るものの、この事案で自治労がどのような関与をしているのははっきりしていません。今後の審理で明らかになるかもしれません。自治労の力が小さくない自治体では、その影響力は無視できない面があります。

自治労が強大な影響力を持ち過ぎていた時代の具体的な弊害について、事例を挙げて説明します。

  • 人事への過度な介入 特定の人事異動や昇進に、組合が強く介入することがありました。組合員の利益を最優先するあまり、能力本位の人事が歪められる恐れがあったのです。例えば、不人気の職場への人事が組合の反対により難しくなったり、無能な組合員の昇進が強行されるケースもありました。
  • 労働条件の護持 組合は労働条件の過度な改善を求める一方、業務の効率化や生産性向上の要請には強く反発することがありました。東京都の夏季冷房問題がその一例です。組合は職員の 健康的配慮から冷房使用を全面的に要求し、省エネを後手に回しました。
  • 予算編成への過剰な介入 自治体の予算編成の際に、組合は職員の人件費増額を最優先事項とすることがよくありました。その結果、住民サービスや公共事業への予算配分が手薄になるケースも出てきました。
  • 不正の隠蔽 先にも述べましたが、職員の不正行為やパワハラなどが起きても、組合の圧力で事実が覆い隠されがちでした。組合は自らを守ることに終始し、適正な処分がなされない事例が多発したのです。
  • 左翼的政策の導入 たとえば自治基本条例は「自治体の憲法」とも言われ住民自治に基づく自治体運営の基本原則を定めた条例とされ、この条例は、各自治体ごとに異なる名称で制定されており、「まちづくり条例」、「まちづくり基本条例」、「行政基本条例」、「市民基本条例」などと呼ばれています。 「市民自治」や「市民参加」を大義名分として制定されていますが、その過程で過激派やカルト団体も「市民」として参加する可能性があります。これにより、過激派の影響力が強まり、健全な地方自治体運営に悪影響を及ぼす可能性があります。これはごく一例に過ぎません。
こうした具体例が示すように、旧来の自治労の力が強すぎると、能力主義が損なわれ、非効率の温存、住民サービスの軽視、不正の隠蔽、左翼的政策の導入など、極めて大きな弊害があったと言えます。

こうした弊害を是正するには、自治労の復活を図るのではなく、内外の第三者による常設の監視体制と、通報しやすい環境作り、加害者処罰と再発防止の法制化など、不祥事を未然に防ぐシステムの構築が何より重要だと考えられます。

自治労など旧来の労働組合の影響力低下は、世界的な傾向であり、これは保守的な価値観への回帰を意味している可能性が高いと考えられます。

先進国を中心に、組合運動の勢力が目減りしている実態があります。この流れは、従来の左翼的な運動勢力の衰退を象徴するものです。

そして同時に、この組合勢力の後退は、より保守的な考え方が社会に浸透しつつあることの表れとも捉えられ、保守的価値観の高まりと無縁ではないようです。

特に先進国では、このことは、移民の推進、ポリティカル・コレクトネス、キャンセルカルチャーなど左翼・リベラルの行き過ぎに反発し、社会の価値観が徐々に右肩上がりの保守化に向かっている可能性を示唆しているのではないでしょうか。

つまり、自治労などの影響力低下は、単なる組合運動の弱体化にとどまらず、リベラル・左翼的価値観からの後退、保守化の潮流という、より広範な価値観の変容を象徴する現象なのかもしれません。世界的な保守化傾向の一端を映し出しているとも言えるでしょう。

自民党の最近の低迷には、そうした世界的な保守化の潮流や価値観の変容を十分に認識できていない面がある可能性があります。
 

自民党は伝統的に保守的な価値観を体現する政党と見なされてきましたが、安倍政権の時は、例外中の例外であり、近年は必ずしも、そうした保守本流の位置を占めておらず、その実態は保守を内包しつつも、リベラル・左派政党といっても良い状態でした。

一方で、世界的な潮流として、リベラル的価値観からの後退、保守化への回帰が起きつつあることは確かです。

自民党は旧来の保守本流としてのアイデンティティを失いつつある一方、新たな保守化の波に乗り遅れているという、二重の問題に直面しているようです。

伝統的な支持層からは過去の延長線上にない、という批判を受け、一方で新たな保守的潮流への対応が遅れているため、両陣営から距離を置かれてしまっているようです。そうした状況が低迷に拍車をかけている可能性は高いと思われます。

自民党が支持率をあげたければ、両陣営との距離を近くするべきです。安倍元首相はそのような方向性を追求していたといえます。だからこそ、長期政権になり得たのです。

これは、今回の東京15区の補選でもうかがい知ることができると思います。飯山陽氏が当選するか善戦すれば、この潮流が高まっていることを示すことになると思います。



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2024年4月23日火曜日

「F-35戦闘機で核使用OKに」それが意味する重大な転換点 日本には“有益”といえる理由―【私の論評】日本の核抑止力強化と地域安全保障への貢献:F-35A戦闘機の核搭載がもたらす可能性

「F-35戦闘機で核使用OKに」それが意味する重大な転換点 日本には“有益”といえる理由

まとめ
  • 2024年3月、F-35AがNATOでB61-12戦術核運用が認証された
  • これでNATO加盟国がF-35AによるB61-12の核攻撃能力を獲得
  • B61-12は出力調整可能で精密誘導される使いやすい核兵器
  • 日本は非核三原則だが実質的にはアメリカの核の傘に守られている
  • 仮に核武装すれば自衛隊F-35AへのB61-12搭載が現実的選択肢となり、核抑止力になり得る
上昇するF-35A

 2024年3月、米国製ステルス戦闘機F-35Aが戦術核弾頭B61-12の運用が認証されたことが報じられた。これによりF-35AはNATO加盟国において、通常兵器と核兵器の両方を搭載できる「複合対応航空機(DCA)」としての役割を担うことになった。

 NATOでは、アメリカから核爆弾を借り受ける「ニュークリア・シェアリング」を行っており、F-35Aを保有または導入予定の米国、オランダ、イタリア、ベルギー、ドイツの各空軍がB61-12の運用能力を順次獲得することになる。従来の運用機種に加えてF-35Aが加わり、将来的にはF-15EとF-35Aの2機種でNATOの核抑止力を支えていく。

 B61-12は出力を0.3~50キロトンまで調整可能で、GPS誘導による精密な投下も可能なため、比較的使いやすい核兵器とされる。一方で広島・長崎の原爆並みの破壊力を持つ。

 日本は非核三原則を掲げつつ、実際にはアメリカの核の傘に守られている。仮に将来的に核武装を決断した場合、現実的な選択肢は「ニュークリア・シェアリング」を通じてB61-12を航空自衛隊のF-35Aに搭載することだろう。

 F-35Aは同盟国で共通の機体なので、自衛隊機をDCA化するのは比較的容易だ。したがって、自衛隊のF-35A増強は、核武装の意思はなくとも、潜在的な核攻撃能力の保持を対外的にアピールし、結果として核抑止力となり得る。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本の核抑止力強化と地域安全保障への貢献:F-35A戦闘機の核搭載がもたらす可能性

まとめ
  • 米国製ステルス戦闘機F-35Aが核兵器B61-12の運用が認証され、核兵器を搭載・運用可能に。
  • これにより、日本の自衛隊F-35Aが通常兵器と核兵器の両方に対応可能な複合対応航空機となり、NATOや米国の核の傘の中核戦力となる可能性がある。
  • 日本は非核三原則を掲げているが、米国の同盟国として「核の傘」の下にあり、有事の際には米国の核兵器による抑止力を受けられる。
  • 日本が将来的に核武装を決断した場合、航空自衛隊のF-35AにB61-12を搭載することが現実的な選択肢となる。
  • 日本が核抑止力を保持することにより、インド太平洋地域の安全保障環境に新たな核の均衡が生まれ、地域の平和と安定に資する可能性がある。

B61-12戦術核爆弾

「米国製ステルス戦闘機F-35Aが戦術核弾頭B61-12の運用が認証された」ということは、簡単に言えば、F-35A戦闘機が核兵器B61-12を搭載して運用(投下)できるようになったということです。

上の記事の"DCA((Dual-Capable Aircraft)化"とは、従来の対地・対空攻撃能力に加えて、核兵器運用能力をF-35Aに持たせることを意味しています。これにより自衛隊のF-35Aが通常・核の"複合対応航空機"となるわけです。  NATOや米国にとって、F-35Aが核の傘の中核を担う戦力となり得ることを意味しています。


日本には過去には、核兵器を搭載して運用(投下)できる航空機は存在していませんでした。

日本は、唯一の戦争被爆国として「非核三原則」(核兵器の保有・製造・持ち込みを行わない)を掲げており、核兵器を搭載・運用できる航空機を保有することは非核三原則に反するためです。

ただし、本文中にも記載がありましたが、日本はアメリカの同盟国であり、実質的には米国の「核の傘」の下に入っています。そのため、有事の際には米国の核兵器による抑止力を受けられる立場にあります。

上の記事では、仮に日本が将来的に核武装を決断した場合、現実的な選択肢は航空自衛隊のF-35Aにアメリカ製の戦術核弾頭B61-12を搭載することだと指摘されています。

日本の航空自衛隊にはF-35Aが導入されています。具体的には、以下のように導入が進められています。

  • 2012年に42機の調達が決定
  • 2017年12月に最初の4機がアメリカから搬入
  • 2019年3月に三沢基地に初期運用能力を発令
  • 2023年3月時点で38機が既に配備済み
  • 2020年代後半までに最終的に147機を導入する予定

このように、航空自衛隊はすでにF-35Aの運用を開始しており、今後さらに導入を加速させる計画になっています。F-35Aは国産の次期主力戦闘機となることが期待されています。

2012年の時点で、日本政府がF-35Aを将来的にB61-12戦術核弾頭の運用が認証される航空機として認識していたとは考えにくいです。F-35計画は1990年代から開始された長期的な開発プロジェクトであり、当初からの目的は主に通常戦闘機としての運用でした。

核兵器運用能力は初期の要求事項にはなかったはずです。また、B61-12戦術核弾頭そのものも、2012年時点では開発中の段階でした。実際に運用が認証されたのは2024年となっています。

さらに、日本は非核三原則を掲げており、F-35Aを核兵器運用機として検討する必要性はそもそもありませんでした。上の記事の元記事本文中でも、F-35AがB61-12運用が認証されたことは「2024年3月」の出来事として報じられています。

したがって、2012年の時点で日本側がF-35Aの核兵器運用能力の付与を予見していたとは考えにくく、通常戦力の現代化が主な調達目的だったと推測されます。核運用能力は後付けで付与されたものと見られます。

日本は、期せずして核を搭載できる航空機を持つことになったのです。

これにより、日本の安全保障体制は飛躍的に強化され、インド太平洋地域における日本のプレゼンスが著しく高まることでしょう。核抑止力の保持により、日本は北朝鮮、中国、ロシアといった潜在的な敵対国家からの脅威に対して確実な抑止力を発揮できるようになります。これにより、日本は同盟国の米国に過度に依存することなく、独自の安全保障政策を推進する余地が生まれます。

インド太平洋地域

加えて、核シェアリングにより、日本が事実上の核保有国となれば、インド太平洋地域の安全保障環境に新たな核の均衡が生まれ、地政学的な緊張緩和につながる可能性があります。

日本が事実上の核保有国となり、地域の核バランス(核抑止力のバランス)が生まれた場合、他の国々のインセンティブ(動機づけ)が変わることになるからです。

具体的には、例えば中露北といった他の核保有国は、日本にも核抑止力があることを認識すれば、これらの国が無秩序に核兵器や通常兵器を増強しても、日本の核抑止力によってある程度抑えられてしまうため、そのようなコストのかかる軍拡競争を起こすインセンティブ(動機)が低下するということです。結果として、インド太平洋地域全体の平和と安定に資することでしょう。

一般的には、ある国が核兵器を保有すれば、他国も対抗して核兵器や通常兵器の増強に走り、地域の軍拡競争が過熱するものと考えられがちです。しかし実は、日本が核抑止力を備えることで、地域の核の均衡が生まれ、かえって各国の無秩序な軍拡を抑制するパラドクシカル(逆説的)な効果が期待できるのです。

なぜなら、核の均衡状態下では、いずれの国も他国の核による確実な報復能力を認識せざるを得ません。ですから、一方的な軍備増強による優位の追求は、かえって自国の安全を脅かしかねません。このジレンマは、各国に過剰な軍拡を自制させ、地域の軍縮と緊張緩和につながる可能性があるからです。

要するに、日本の核武装は地域の軍拡競争を 逆説的に抑制する効果があるということです。現状では、確かに日本は米国の核の傘の下にあり、均衡は保たれているようにもみえますが、現実に中露北が核を含む武力行使をして日本を攻撃した場合、米国が核による報復に踏みきるかどうかは定かではありません。

核シェアリングの議論を主張していた安倍元首相

しかし、日本が自国の意思でこれを実行できるようになれば、新たな核の均衡が生まれることになるのです。

もちろん、核不拡散体制への影響など懸念材料もないわけではありませんが、日本がこれまで掲げてきた平和主義的理念の下で核武装を厳格に管理すれば、同盟国を含む国際社会からの理解と支持が得られると考えられます。むしろ国内の反対勢力のほうがこれに対する大きなさまたげになることでしょう。

核搭載F-35Aの保有は、日本の新たな抑止力の獲得につながり、地域の安全保障と平和に貢献する大きな可能性を秘めています。

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2024年4月22日月曜日

「バイデンはウクライナを邪魔するな」ロシア製油所へのドローン攻撃に対する停止要求は不当―【私の論評】バイデン路線の致命的失敗 、ウクライナ放置とエネルギー政策の無策で同盟国は大混乱

 「バイデンはウクライナを邪魔するな」ロシア製油所へのドローン攻撃に対する停止要求は不当

岡崎研究所

まとめ
  • ウクライナがロシアの主要な製油所を自国のドローンで攻撃し、ロシアの戦争遂行能力を10~14%破壊した。
  • バイデン政権がウクライナにこうした製油所攻撃の停止を求め、石油価格上昇やロシアの報復を危惧しているようだ。
  • 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙の社説がこうした要求を批判し、ウクライナの選択肢が限られる中で製油所攻撃の重要性を主張している。
  • ゼレンスキー大統領自身もウクライナの反撃権を主張し、バイデン政権に疑問を呈している。
  • WSJの社説は、バイデン政権に対し、少なくともウクライナの邪魔をしないよう、武器使用の自由を認めるべきと提言している。

WSJの紙面

 ウォールストリート・ジャーナル紙は4月5日付けの社説で、バイデン政権がウクライナによるロシアの製油所に対するドローン攻撃の停止を求めたことを批判的に論じている。同紙によれば、ウクライナはこれまでロシアの主要な製油所のうち少なくとも15か所を自国のドローンで攻撃し、ロシアの戦争遂行能力の10~14%を破壊したという。これらの攻撃は国境から750マイル以上離れた深く砂地に入ったところでも行われ、ウクライナの軍事的なイノベーションを示すものである。

 しかし、フィナンシャル・タイムズ紙の報道では、バイデン政権がウクライナにこうした作戦の停止を求め、「ドローン攻撃は石油価格を押し上げ、ロシアの報復を招くリスクがある」と警告したとされる。実際に米国のNATO大使も「ロシア領内の標的を攻撃することは米国が特段支持するものではない」と語っている。

 社説はこうした態度を批判し、ウクライナがロシアの侵略に対して自国の領土防衛以外に取り得る選択肢は限られている中で、製油所攻撃によりロシアの戦争資金源を遮断し、プーチン政権に打撃を与える重要性を指摘している。さらに、ゼレンスキー大統領自身も「なぜウクライナが反撃できないのか」と不満を示しており、バイデン政権の対応に疑問を投げかけている。

 結論として社説は、下院共和党の妨害でウクライナ支援が滞る中、バイデン政権が最低限すべきことは「ウクライナの邪魔をしないこと」であり、むしろウクライナの武器使用の自由を確保すべきだと提言している。

【私の論評】バイデン路線の致命的失敗 、ウクライナ放置とエネルギー政策の無策で同盟国は大混乱

まとめ
  • ウクライナにはロシアの侵略から身を守る固有の権利があり、西側諸国はウクライナの主権と自由を断固として支持しなければならない。
  • ウクライナは製油所などの重要目標への攻撃を行う権利があり、WSJの社説のこうした主張は正しい。経済的考慮によってウクライナの反撃を制限してはならない。
  • バイデン政権の弱腰な対応はウクライナに降伏と宥和の圧力をかけるものであり、歴史の教訓と自由・民主主義への断固たる取り組みから得られる強さを忘れたようなものだ。
  • バイデン政権の外交政策は全般的に弱腰であり、アフガニスタンからの撤退の失敗、ウクライナ侵攻に向けた誤解を招く発言、イラン核合意への譲歩的姿勢、エネルギー政策の失敗は世界に混乱をもたらした。
  • このようなバイデン政権の弱腰な外交政策は、敵国とその協力者を勇気づけ、同盟国を弱体化させ、世界をより危険な場所にしている。強力で断固としたリーダーシップが必要である。
ゼレンスキー ウクライナ大統領

ウクライナにはロシアの侵略から身を守る固有の権利があり、日本を含む西側諸国は彼らの主権と自由を断固として支持しなければならないです。 バイデン政権の弱気な姿勢は、ウクライナに対し、製油所などの重要目標への攻撃、降伏と宥和の圧力を控えるよう求めています。

それはあたかもバイデン政権が歴史の教訓と、自由と民主主義への断固とした取り組みから得られる強さを忘れたかのようです。 

今回の戦争は、ウラジーミル・プーチンの専制的で拡張主義的な野望によって強制された戦争です。このような紛争において、ウクライナは敵の戦争遂行能力を無力化するために必要なあらゆる手段を講じるあらゆる権利を有しており、それには製油所などの戦略的資産を標的にすることも含まれます。 

WSJの社説の主張は完全に正しいです。 ウクライナの反撃は合法であるだけでなく、道徳的にも正当化されます。 国際法は自衛権を認めており、特に戦時規則に違反し凶悪な残虐行為を繰り返してきた相手と対峙した場合、ウクライナは侵略者に対して戦いを挑む権利を有しています。

バイデン大統領

 原油価格の高騰とロシアの報復に対するバイデン氏の懸念は見当違いで短絡的です。 私たちは、侵略に対する対応が経済的考慮によって決定されることを許すべきではありません。 自由世界は明確なメッセージを送らなければなりません。

私たちはそのような行為を容認せず、私たちの価値観とそれを共有する人々を守るために団結すべきです。西側諸国の人々は、 ゼレンスキー大統領の勇気と決意にもとづく呼びかけに耳を傾け、武器であれ、諜報であれ、あるいは自国の資源を必要に応じて活用する自由であれ、ウクライナが勝利するために必要な支援をウクライナに提供すべきです。

 バイデン政権の外交政策は、弱腰でありこれが敵を刺激し、米国の立場を弱体化させたことは、明らかです。 

何よりもまず、アフガニスタンからの悲惨な撤退がそれを示しています。 バイデン氏の性急かつ無計画な撤退により、米国民とそのパートナーは立ち往生し、脆弱な立場に置かれてしまいました。

バイデンはアフガニスタンのパートナーに背を向け、彼らをタリバンのなすがままにし、決意と強さの欠如を示して敵を勇気づけることになりました。 その後、ロシアのウクライナ侵攻に向けて、バイデンの発言は弱々しく、一貫性がありませんでした。

バイデン大統領は2022年1月19日の記者会見で、「小規模な侵攻」という表現は使用しませんでした。しかし、「ロシアによるウクライナ侵攻」について問われた際、NATO加盟国間で対応が分かれる可能性があることを示唆しました。

一部メディアがバイデン発言を「小規模な侵攻なら対応が分かれる」と誤報したことから、この「小規模な侵攻」発言があったかのように広まってしまいました。

このような誤解を招いた発言は、ロシアにウクライナ侵攻のコストを過小評価させてしまった可能性があります。これは事後的に大きな非難を浴びました。

ただし、バイデン政権の当初の意図は、あくまでも本格的なウクライナ侵攻には断固たる対応をすると示唆することだったようです。しかし、発言を誤って受け止められてしまったことは間違いありません。バイデン氏が当初から徹底抗戦を主張するなどの発言をしていれば、このような間違いは起こらなかったでしょう。こればプーチンに積極的な行動を取るよう促す結果となりました。 

イラン核合意(JCPOA)もバイデン氏の弱点を示す一例です。 同政権は、テロを支援し地域の不安定化を図る政権に対して譲歩し、制裁を緩和することで、この欠陥のある協定を復活させようと躍起になっています。 

このアプローチは宥和的なメッセージを送り、ならず者国家が処罰されずに行動することを奨促す結果となっています。 中東では、バイデンは敵に立ち向かい、同盟国を支援することができませんでした。 バイデンはイランに対しては弱腰であり、シリアなどにおけるロシアの影響力に適切に対抗することもできていません。

 バイデン政権は同盟国イスラエルにも批判的で、エルサレムの首都認定を取り消すなど、イスラエルの安全を損なう政策を推進してきました。

バイデン政権の外交面での弱腰な態度や失策は、エネルギー政策の失敗にも起因しています。就任直後のキストンXLパイプライン計画の中止や、フラッキング規制の強化などにより、米国のエネルギー自給能力が低下しました。

ロシアのウクライナ侵攻に伴う制裁でロシア産原油の供給が減少する中、バイデン政権は代替調達に遅れをとり、OPECなどに原油増産を要請しましたが、応じてもらえませんでした。

こうしてエネルギーコストが高騰し、家計を直撃し、インフレ高進に拍車をかけました。エネルギーの安全保障を軽視したことで、ロシアや産油国に弱腰を強いられる結果となったと言えます。このようなエネルギー政策の失策が、バイデン政権の弱腰外交の一因ともなっているのです。

習近平とバイデン

中国に関してはバイデン氏はほとんど無力です。 新疆ウイグル自治区での人権侵害や香港での弾圧には適切に対処していません。 同政権の貿易に対するアプローチも弱く、不公正な行為や知的財産の窃盗に対する中国の責任を追及することに失敗しています。 

そして北朝鮮のことも忘れてはいけません。 バイデン氏は、核兵器と弾道ミサイル計画の継続的な開発に対して空虚なレトリックを発するばかりです。 同氏にはこの脅威に対処する明確な戦略がなく、行動の欠如が金正恩氏の攻撃性を高める結果になっています。 以上は、バイデンの弱気な外交の一部にすぎません。 

バイデンは、LGBT外交も推進しました。これは米国の国益を促進するどころか、途上国の反米感情を助長する可能性の方が高いです。中国との覇権争いが最重要課題である時に、そのような取り組みをする余裕があるのでしょうか。

 「米中新冷戦」の激化に伴い、各国は米国と中国のどちらの陣営につくべきか選択を迫られています。歪んだ価値観外交は途上国を米国から遠ざけ、中国の陣営に追いやる一因になりかねないです。

バイデンは我々西側諸国の敵を勇気づけ、同盟国を弱体化し、世界をより危険な場所にしたといえます。 バイデン政権の外交政策は西側諸国のとって災厄であり、 米国は、米国国と同盟国を危険にさらす無謀で不器用なアプローチではなく、米国の利益と価値観を守る強力で断固としたリーダーシップが必要です。

それが、同盟国にとっても良い結果をもたらすことになります。米国の軸がブレることは、中露北とその協力者たちを勇気づけることになるだけです。

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2024年4月21日日曜日

海上幕僚長「付近に他国の船舶などなく、関与ないと考えるのが適当」 海自ヘリ2機墜落か 7人行方不明、1人発見―【私の論評】事故で浮かびあがった、対潜水艦戦訓練の重要な意義とその危険性

海上幕僚長「付近に他国の船舶などなく、関与ないと考えるのが適当」 海自ヘリ2機墜落か 7人行方不明、1人発見

まとめ
  • 伊豆諸島の鳥島東方海域で海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が対潜水艦戦の訓練中に連絡が取れなくなり、機体の一部が発見された。
  • 計8人が搭乗しており、1人が救助されたが残り7人の捜索が続いている。
  • 海上自衛隊は護衛艦や航空機を投入して捜索を行っており、人命救助に全力を尽くすとしている。
  • 他国の関与はないと見られている。
  • 自衛隊のヘリ墜落事故は過去にも発生しており、2017年や2023年4月にも起きている。
H60K哨戒ヘリコプター

 伊豆諸島の鳥島東方海域で対潜水艦戦の訓練中、海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機が行方不明になり、機体の一部が発見された。乗員8人のうち1人が救助されたが、残り7人の捜索が続いている。防衛相は人命救助に全力を尽くすと述べ、他国の関与は否定した。自衛隊のヘリ墜落事故は過去にも起きており、原因究明と再発防止が課題となっている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】事故で浮かびあがった、対潜水艦戦訓練の重要な意義とその危険性

まとめ
  • 海上自衛隊のヘリコプター2機が対潜水艦戦の訓練中に行方不明になり、乗員7人の安否が確認できていない。
  • 対潜水艦戦の訓練は低空飛行、近接運航、実弾使用などの高リスクが伴う。
  • 事故原因は不明だが、詳細は軍事機密のため公表されない可能性が高い。
  • 現代海戦においては、水上艦艇は脆弱化しており、潜水艦と対潜能力の重要性が高まっている。
  • 訓練の危険性と重要な意義を認識し、国民一人ひとりが防衛を支える姿勢が大切。
この度の伊豆諸島周辺における海上自衛隊哨戒ヘリコプター行方不明事故は誠に痛ましい出来事です。現在も7人の隊員の安否が確認できていない状況が続いています。一日も早く全員が無事発見され、家族の元に帰れることを心より願っております。

二度とこのよう事態が起こることのないよう、原因の徹底した究明と再発防止に向けた取り組みが行われることを期待しています。

今回の対潜水艦戦(Anti Submarine Warefare:ASW)の訓練は、具体的に何をしていたのかわかりませんが、この訓練は一般的に非常に高度な技術と集中力が求められ、危険性も高いです。

低空飛行リスク 
ヘリは潜水艦を探索するため、時に波高5mを超える荒天下でも10m前後の低空飛行を強いられます。 地形の影響で気流が乱れたり、視界が制限される可能性があります。 夜間や悪天候時の飛行ではリスクが高まります。
近接運航の危険性 
ヘリは潜水艦の直上まで接近し、対潜水艦兵器を投下する必要があります。 投下の際、ヘリ自体が艦船に接触する危険があります。 潜水艦の急浮上時にヘリが巻き込まれるリスクもあります。
兵器のリスク
音響対潜水艦機雷や深水爆雷などの実弾が使用されます。 誤投射や誘爆の可能性があり、ヘリ自体が被弾する危険もあります。
今回の事故内容の会見に同席した海自トップの酒井良海上幕僚長は「付近に他国の船舶などはなく、関与はないと考えるのが適当だ」と話しています。この発言から、事故についてその理由はや原因は今の段階でもある程度特定されいると思われます。

しかし、海上幕僚長はそれ以上の語っていません。これは、現時点で話せないだけではなく、今後も詳細は公表されない可能性があります。

海自トップの酒井良海上幕僚長

そもそも、日本に限らず世界中の海軍では、潜水艦に関する詳細な情報や、対潜水艦戦の訓練における具体的な事故事例については、一般に公開されていないケースが多いです。

軍事面での機密保護の観点から、以下のような情報は極秘に扱われる可能性が高いです。
  • 潜水艦の詳細な性能や装備
  • 潜水艦の行動パターンや運用方法
  • 対潜水艦戦で使用される最新の兵器や探知システムの詳細
  • 事故の原因となった具体的な手順や人的ミスなどの情報
  • 自国の能力の空白部分が露呈する恐れのある情報
このように、敵対国に有利な情報が渡ることを防ぐため、対潜水艦戦の訓練における事故の詳細については一般に公開が控えられがちです。

たとえば、新鋭潜水艦のハッチなどは、報道陣の写真撮影等許可されない場合が多いです。潜水艦のハッチにより、その潜水艦の潜水できる深度等が予測可能になってしまう危険性があるからです。

一方で、訓練における安全対策の重要性を国民に呼びかけるという観点から、一般論として危険性が公表されることはあります。

つまり、事故の危険性自体は認識されつつも、具体的な事例は機密扱いとされる傾向にあると言えるでしょう。

レーダーや監視衛星、哨戒艦や哨戒機の水上艦艇発見能力が高まった現在では、精密なミサイル誘導システムやドローン等の無人兵器の発達により、大型の水上艦船は簡単に標的となり、撃沈されてしまう可能性が高くなっています。

海自の対潜哨戒機P3Cと、女性機長

そうした状況下で、潜水艦の重要性が一層高まりました。潜水艦は水中に潜伏することで探知が難しく、機動性と隠密性に優れているためです。現代技術の粋を結集した監視衛星ですら、未だに水中の潜水艦を特定するに至っていません。潜水艦は、敵の艦隊に対する偵察や威嚇、さらには重要な標的への突破などの役割が期待できます。

そのため、実戦が始まれば先手を打つのは潜水艦となり、水上艦艇は潜水艦からの脅威にさらされ、行動が制限されることになります。対潜水艦戦(ASW)の能力が十分でなければ、水上艦隊は機能不全に陥ってしまう可能性が高いです。

つまり、現代の本格的な海戦においては、潜水艦の能力と対潜水艦戦能力の確保こそが最重要課題となります。潜水艦を効果的に運用し、敵潜水艦を事前に排除できるかどうかが戦況を左右する鍵を握ると言えるます。したがって、ASWこそが本当の現代海戦の主役といえるのです。

ASWにはソナー等の探知能力の高さ、潜水艦の能力の高さなどハード面の能力の高さが重要ですが、このハード面を使いこなす人間の能力の高さも重要です。

それは、たとえば、現代の高度な脳外科手術において、様々な最新鋭の機器等を備えたにしても、それ使いこなす脳外科医の能力が高くないと手術はうまくいかないのと同じです。

現代の高度な脳外科手術でも脳外科医の腕は欠かせない

日米ともに、ASWは世界トップクラスであり、中露をはるかに凌駕しています。最近は、ハード面では中国の猛追がはじまっていますが、それでも日米と中国の間にはかなりの開きがありますし、当面追いつけそうにありません。それは、日米にはハード面だけではなく、長い間のソフト面での大量の蓄積があるからです。

こうしたソフト面の蓄積には、日々の厳しい訓練が必要です。その訓練のさなかに今回の事故が発生してしまったのです。

今回の事故は、対潜水艦戦訓練がいかに危険を伴うものであるかを物語っています。しかし、同時にその訓練の重要性を改めて認識する機会ともなりました。

 現代の海戦においては、潜水艦の活躍と対潜能力の重要性が高まる一方です。隊員の方々は、国民の命と平和を守るため、過酷な訓練に臨んでこられました。

この事態を機に、国民一人ひとりが防衛の現場を思い、訓練の意義を再確認し、支える心構えを持つことが何より大切なのではないでしょうか。

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2024年4月20日土曜日

「血を流す場合もある」国民に説得を 岸田首相「グローバル・パートナー」の責任 集団的自衛権のフルスペック行使、憲法改正が必要―【私の論評】憲法改正をすべき決断の時が迫ってきた!日本国民は覚悟をもってこれに臨め

八木秀次「突破する日本」

まとめ
  • 岸田首相は米国訪問後、日米関係を「かつてなく強固な信頼関係に基づくグローバル・パートナー」と位置づけ、安倍元首相の憲法改正の志を引き継ぐ決意を示した。
  • 「グローバル・パートナー」と称したからには、集団的自衛権の制約を外し、同盟国と連携して権威主義国家に立ち向かうため、憲法改正が求められる。
  • 安倍元首相は「血の同盟」と表現し、日米同盟の本質は互いに血を流す覚悟が求められると説明していた。
  • 岸田政権は安倍政権の遺産を継承し、安全保障政策を推進してきた。「グローバル・パートナー」発言はその延長線上にある。
  • しかし、「グローバル・パートナー」として日本に犠牲や負担が求められる可能性があり、政府は国民にその覚悟を真剣に訴える必要がある。
 岸田首相は米国訪問後、日米関係を「かつてなく強固な信頼関係に基づくグローバル・パートナー」と位置づけ、安倍元首相の憲法改正の志を引き継ぐ決意を示した。

 「グローバル・パートナー」と称したからには、集団的自衛権の制約を外し、同盟国と連携して権威主義国家に立ち向かうため、憲法改正が求められる。

 安倍元首相は「血の同盟」と表現し、日米同盟の本質は互いに血を流す覚悟が求められると説明していた。

中国を訪問した安倍首相

 岸田政権は安倍政権の遺産を継承し、安全保障政策を推進してきた。「グローバル・パートナー」発言はその延長線上にある。

 しかし、「グローバル・パートナー」として日本に犠牲や負担が求められる可能性があり、政府は国民にその覚悟を真剣に訴える必要がある。

 岸田首相は米国訪問から帰国後、国会で米国とのグローバル・パートナーシップを強調した。これは安倍元首相が目指した「血の同盟」、つまり米国と共に自由や民主主義、法の支配を守るために必要ならば犠牲をいとわない決意を示したものと解釈された。

 「グローバル・パートナー」と位置づけた以上、日本には集団的自衛権の行使制限を外し、同盟国・同志国と連携して中国・ロシア・北朝鮮などの権威主義国家に対処できるようにすることが求められる。そのためには、憲法改正を含む国内法整備が不可欠となる。

 安倍元首相は過去に「血の同盟」という言葉で、日米同盟の本質を説明していた。米国が攻撃を受ければ米兵が血を流すが、当時の憲法解釈下では自衛隊はそうできず、完全なパートナーと言えないと指摘した。その後、安倍政権で集団的自衛権の行使が一部可能となり、現在では米軍が攻撃された場合、自衛隊員も戦闘に加わり血を流す可能性がある。

 岸田政権は安倍政権の遺産を継承し、国家安全保障戦略の改定、防衛費増額、反撃能力保有など安全保障政策を推進してきた。「グローバル・パートナー」発言はその延長線上にある。日本の抑止力を高め、国際的地位を格段に上げたと評価できる。

 しかし同時に、「グローバル・パートナー」としての日本には、場合によっては自衛隊員や国民に犠牲や負担が強いられる可能性もある。自由社会を守る役割の増大に伴い、そうした覚悟を政府から国民に真剣に訴える必要がある。権威主義国家の脅威に対し、日本は相応の役割を果たさなければならない。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。
 
【私の論評】憲法改正をすべき決断の時が迫ってきた!日本国民は覚悟をもってこれに臨め

まとめ
  • 岸田首相の「グローバル・パートナー」発言には、日米間の軍事、価値観、地政学、経済など多面的な協力関係が含意されている。
  • 軍事面では日米同盟の強化が期待されるが、安倍元首相の「血の同盟」発言のように、現行憲法下では対等とは言えない。
  • バイデン政権は自由・民主主義の価値観を共有する日本を重要パートナーと位置付け、中国の対抗上、日本の地政学的役割を期待している。
  • 経済面でも、重要技術分野などで日米協力が経済安全保障の観点から求められている。
  • こうした協力関係を実現するには、日本の憲法改正が不可欠であり、トランプ前大統領がこれを支持する可能性もあるが、結局のところは民意であり、政府も国民にも決断の時が迫っている。

米国にとって、岸田首相が米連邦議会の演説で「グローバル・パートナー」と呼んだ日米関係には、軍事、価値観、地政学、経済など、多面的な側面が含まれていると考えるでしょう。

軍事面では、安倍元首相が「血の同盟」と表現したように、同盟国同士として緊密に連携することが期待するでしょう。ただし安倍氏の発言は、当時の日本の憲法解釈では米国と同等の関係とはいえないと批判的に指摘したものです。それでも、岸田首相の「グローバル・パートナー」発言は、日米同盟の軍事的協力関係を再確認したと受け止められたでしょう。

また、バイデン政権は「民主主義対権威主義」の構図を重視しており、自由・民主主義の価値観を共有する日本を重要なパートナーと位置づけています。「グローバル・パートナー」という表現には、こうした価値観の共有関係が込められているとみられます。

さらに、中国の台頭に対抗するため、日米はインド太平洋地域におけるルール作りなどで協力する地政学的な戦略的パートナーとしての機能が期待されています。アジア重視を掲げるバイデン政権にとって、日本はこの地域での軸足となる存在です。

加えて経済面でも、日米は貿易、投資、金融をはじめ幅広い分野で協力関係にあります。特に重要技術分野での連携が経済安全保障の観点から求められており、「グローバル・パートナー」にはそうした経済面での協力も含意されていると考えらます。

このように「グローバル・パートナー」という言葉には、多岐にわたる分野での緊密な協力関係が内包されています。米国は日本が同盟国であり、価値観を共有するパートナーであり、地政学的・経済的に重要な役割を果たすことを期待しているといえます。

これらを実現するためには、特に日本が米国との地政学的パートナーであるためには、日本国憲法の改正が必須です。

米国の保守派からみても、日米関係が最も重要であることは明らかです。米保守派は、第二次世界大戦後、左派勢力によって押しつけられた日本国憲法の平和主義的性質が、日本が世界舞台で対等なパートナーとなる能力を妨げてきたとみているでしょう。

日本は自国の憲法をよく見直し、より積極的で貢献的な同盟国となるために必要な改正を行う時期が来ていると認識しているでしょう。

自民党の麻生副総裁は、来週、アメリカを訪問する方向で調整しています。関係者によりますと、トランプ前大統領との面会を模索しているということで、秋に大統領選挙を控える中、幅広く人脈を構築するねらいがあるものと見られます。

自民党麻生副総裁

これが実現したとして、麻生・トランプ会談では、当然日米の「グローバルパートナー」としての関係を強めることも話題になると考えられると思います。

米国の保守派は、トランプ氏は、日本の憲法改正を支持すると思います。それが、日本の憲法改正を支持する可能性もあると考えているでしょう。

日本の左派は、他の西側諸国の左派と同様に、現状維持を好む傾向があり、特に軍事面での新たな動きに対しては警戒感を持つ傾向があり、進化する安全保障上の課題を認識することに消極的であることが多いです。 彼らは、自国を守り、地域の安定に貢献できる強い日本が日本国民の最大の利益であることを理解していません。 

しかし、トランプ大統領の潜在的な支持と適切なメッセージがあれば、麻生副大統領と自民党は日本国民に説得力のある主張をすることができるかもしれません。 強固な日米同盟の重要性を強調し、民主主義と自由という共通の価値観を強調し、安全で繁栄したインド太平洋地域のビジョンを提示すれば、憲法改正を支持する世論を揺るがす可能性があります。 

私は麻生副大統領とトランプ大統領の会談は確かに日本の憲法改正への足掛かりとなる可能性があると思います。 トランプ大統領の支持と正しい戦略的アプローチがあれば、自民党は日本国民に説得力のある主張をし、反対を克服し、日本を世界でより自信を持って積極的な役割を果たす方向に導くことができるかもしれません。

2021年の憲法改正毎日新聞世論調査では「賛成」48%、「反対」31%です。 憲法改正は全く不可能という状況ではないと考えられます。現在では、「賛成」の比率がもっと高くなっているかもしれません。

もし、そうであり、さらにトランプ氏が大統領に返り咲き、日本の憲法を改正を支持する旨をはっきりさせれば、憲法改正の後押しになるのは間違い有りません。

トランプ氏

ただ、現状では岸田政権の支持率が低く、仮に岸田政権が崩壊して総理大臣が変わったにしても、自民党政権が続く可能性が高いですが、ポスト岸田は、岸田氏と同等か、それ以上のリベラル派である可能性が高いです。そうなると、憲法改正は遠のく可能性があります。

これを防ぐためにも、日本でも与野党に限らず、保守派の台頭が望まれるところです。ただ、最終的には国民の民意が憲法改正の実現を左右する最大の要因になると考えられます。

憲法は国民主権の理念に基づく最高規範であり、改正には国民投票による過半数の賛成が必要不可欠です。保守派の台頭や政権与党、米国政府の後押しは一定の影響力を持ちますが、それだけでは改正を実現するには不十分です。

中国、ロシア、北朝鮮など、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しており、それに伴い日本の防衛力強化の必要性が高まっています。現行憲法の縛りのため、自衛隊の活動には一定の制約があることも事実です。

そうした中で、憲法改正に向けた動きが過度に遅れれば、日本の安全が脅かされかねません。時間をかけすぎて機を逸してしまっては本末転倒です。国民的議論を尽くしつつも、スピード感を持って対応すべきです。

仮に結局国民議論が十分に尽くされず、国内が分断したとしても、他国に占領されたり、そこまでいかなくても、他国に蹂躙されるよりはましです。憲法改正によって国民が、分断しても、その後議論を尽くすことはできます。しかし、日本が独立を失ったり、他国に蹂躙されて、従属するようになれば、それはできません。

政府も、国民も、場合によっては自衛隊員や国民に犠牲や負担が強いられるかもしれないことを覚悟したうえで、憲法改正をすべき決断の時が迫ってきたといえます。

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