2022年1月8日土曜日

「強力な措置」習主席が称賛 カザフスタンの抗議デモ鎮圧に―【私の論評】カザフスタン情勢が中露に与えるインパクト(゚д゚)!

「強力な措置」習主席が称賛 カザフスタンの抗議デモ鎮圧に


 中国の習近平国家主席はカザフスタンのトカエフ大統領にメッセージを送り、抗議デモの鎮圧について「思い切って強力な措置を取った」と称賛しました。

  習主席は7日、トカエフ大統領へのメッセージで、「大統領は重要な時に思い切って強力な措置を取り事態を速やかに沈静化させた」と評価したうえで、「政治家としての責任を示した」と強調しました。

  また、「外部勢力が意図的にカザフスタンに動揺をもたらすことに断固反対する」とし、トカエフ大統領やロシア政府と同様に、外国が抗議デモを扇動したとの主張を展開しました。

  カザフスタン最大都市アルマトイでは6日、治安当局が発砲しデモの参加者少なくとも30人が死亡しています。

【私の論評】カザフスタン情勢が中露に与えるインパクト(゚д゚)!

下にカザフスタンの地図を掲載します。ご覧いただくと、カザフスタンは中露と国境を接していることがわかります。また、カザフスタンはロシア領をはさみつつもウクライナと近接した地域にあります。


中国としては、カザフスタンの抗議デモなどが、中国に飛び火することを懸念し、カザフスタンが強力な措置をとり沈静化したことを歓迎しているのでしょう。

何しろ、中国の新疆ウイグル地区は、カザフスタンと国境を接しています。カザフスタンが不安定になれば、中国も影響を受けることになります。

中央アジアのカザフスタンは世界有数の資源国であり、元々はロシアと関係が深い一方、近年は中国とも関係を強めてきました。ナザルバエフ前大統領は2019年に退任しましがも、その後も事実上の指導者として影響力を残してきました。

他方、昨年来の新型コロナ禍で経済は悪影響を受け、足下では国際原油価格の上昇や通貨テンゲ相場の下落も重なりインフレが加速感を強めるなど、景気に悪影響を与えつつあります。

カザフスタン政府は今月から天然ガス価格の大幅引き上げを実施しましたが、デモの動きが全土に広がる事態となり、内閣総辞職に追い込まれるとともに、トカエフ大統領は全土に非常事態宣言を発令しました。

また、デモの一部がナザルバエフ氏を批判したなか、トカエフ氏はナザルバエフ氏の事実上の失脚を決定するなど「政変」に発展しています。さらに、事態鎮静化に向けて生活必需品の価格統制に動くとともに、ロシアが主導するCSTOに部隊派遣を要請しました。

CSTO(集団安全保障条約機構)旧ソ連諸国から成る独立国家共同体(CIS)の中で、集団安全保障条約の加盟国が構成する軍事機構です。現在の加盟国はロシア、ベラルーシ、アルメニア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6カ国です。2007年の首脳会議で平和維持部隊の創設がきまりました。

今回、各国がカザフに派遣する平和維持部隊は2500人程度の見通しで、状況に応じて増派される可能性もあります。

6日、ロシア中部イワノボで、カザフスタン行きの輸送機に載せられるのを待つ軍用車両=ロシア国防省提供

タス通信によると、CSTOの平和維持部隊が訓練ではなく、実際に任務を遂行するのは初めてです。ロシアは精鋭の空挺(くうてい)部隊などを投入。国営テレビは軍用車両が走行したり、兵士らが軍用機に乗り込んだりする様子を繰り返し放映しました。

ブリンケン米国務長官は7日に国務省で記者会見し、カザフスタン政府がロシア軍部隊の派遣を要請したことについて「なぜ外部の支援を必要と感じたのか分からない」と述べ、カザフ当局の対応に疑問を呈した。その上で、詳細を調べていると明らかにした。

ブリンケン氏は会見で「法や秩序を維持し、人権を尊重した形でデモ隊に適切に対応する能力をカザフ当局は確実に持っている」と説明。「最近の歴史の教訓では、ロシア人がひとたび家に居座れば、立ち退かせるのは非常に難しい」と指摘し、ロシア軍の動向に警戒感を示しました。

また、カザフのトカエフ大統領が、デモ鎮圧のため治安当局や軍に警告なしの射殺を認めたことに関し、ジャンピエール米大統領副報道官は7日、記者団に「治安維持における軍の自制を求める。国際社会は人権侵害などを注視している」とくぎを刺しました。

ロシアのプーチン大統領は昨年12月23日、年末恒例の記者会見を開き、北大西洋条約機構(NATO)がさらなる東方拡大をしないよう米国とNATOに確約を要求していることをめぐり、「ボールはNATO側にある。即座に(ロシアの安全を)保証せねばならない」と述べ、対応を迫っていました。

ロシア側はNATOの東方不拡大など自国の安全保障に関し、米国とNATOに条約などを締結するよう要求しており、それぞれと来年1月初めに交渉が始まる見通しだとしていました。

プーチン氏は会見で、米国やNATOが交渉に応じる姿勢を見せているとし、「肯定的な反応だ」と語りました。一方で、東西冷戦終結後に東欧諸国がNATOに加盟し、ポーランドやバルト三国などにNATOの部隊が駐留している状況を踏まえ、NATOがロシアを「だました」と一方的に非難しました。


プーチン大統領は、NATOの東方拡大をおそれているようです。ロシアはウクライナ国境付近で兵力を増強し、欧米は露軍によるウクライナ侵攻を警戒していますが、露専門家の間では、緊張を高めてNATO側を交渉に引き込むプーチン政権の戦略の一環との見方も強いです。

プーチン氏は会見でウクライナへの対応について、「交渉とは無関係」とする一方、「ロシアの行動は自国の安全保障にのみ左右される」と述べ、露側の要求を受け入れるよう圧力をかけました。

今回、ロシアがカザフスタンに、CSTOに部隊をはじめて派遣したのは、NATOの東方拡大を牽制するという意味あいもあるでしょう。中国にとっても、ウクライナがNATOに加入し、さらにカザフスタンに新米政権ができることにでもなれば、従来は西からの脅威をほとんど考慮しなくても良かったものが、考慮せざるを得なくなり、東西から挟まれる状態になります。これは、中国としては、なんとしてでも避けたいでしょう。

今後は同国が米ロ対立の「代理戦争」の舞台になる可能性もあります。さらに、中国が関与を強めるなど地政学リスクに発展していく可能性もあります。そうなると、米中露対立の代理戦争になる可能性もあります。

カザフスタンの治安回復のため展開した部隊に死傷者が発生すれば、プーチンのウクライナ作戦展開には大きなプレッシャーとなるでしょう。ウクライナでは戦死多数の発生は避けられないです。

ウクライナ軍はロシア軍の比ではないとはいえ、カザフスタン住民よりは手ごわい敵だからです。それに、ロシアの一人あたりのGDPはいまや、韓国を大幅に下回っている上に、現状のロシア軍の兵站は多くを鉄道に頼っており脆弱なこともあり、ウクライナ、カザフスタンの両面作戦を実行するのは難しいです。

Atlantic Councilに寄稿したウクライナ、ウズベキスタンで米大使だったジョン・ハーブストJohn Herbstは「当初のCSTO配備が失敗に終われば、プーチンはジレンマに直面する。軍備増強前のウクライナ情勢は手詰まり状態だった。カザフスタンで国民の反対運動で改革志向の新政権が誕生したり、トカイエフが中国や上海協力機構に政権維持の支援をもとめればはロシアの中央アジアでの立場が悪化する。

そうなるとプーチンがウクライナ国境地帯から部隊を撤収しカザフスタン騒擾状態の制圧に当たらせ、中央アジアでのロシアの立場を強めるべきなのか。これを実行すれば、ウクライナでの大規模軍事攻勢よりもリスクは低くなる」と語っています。

1月9日から10日にかけて米ロがウクライナ情勢についてジュネーブで会談する予定で、今のところカザフスタンの不安定状況の影響は出ていないようです。ただし、ウクライナではロシアは、今はカザフスタン情勢のため行動に移れないとの見方が強いです。

米国は、トカイエフ政権の崩壊すれば力の真空が生まれ、これに対して何らかの動きをするでしょう。この場合、プーチンはウクライナに専念できなくなるだけでなく、自身の権力基盤にも揺らぎかねません。これについては、当然のことなが中国も懸念していることでしょう。

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2022年1月7日金曜日

北朝鮮 北京五輪・パラ不参加 「敵対勢力の策動」とコロナが原因―【私の論評】今年の世界は、「ゼロコロナ」に拘泥せざるをえない国と、そうではない国との間で大きな違いがでる(゚д゚)!

 北朝鮮 北京五輪・パラ不参加 「敵対勢力の策動」とコロナが原因


北朝鮮が、北京オリンピック・パラリンピックに参加しないことを明らかにした。

これは、朝鮮中央通信が7日朝に報じたもので、北朝鮮当局は、中国側に渡した書簡で、北京大会に「参加できなくなった」と伝えた。

理由として、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と、「敵対勢力の策動」を挙げている。

書簡ではまた、アメリカなどの外交的ボイコットを念頭に、「中国への陰謀が悪質になっている」と非難したうえで、大会の成功に向け、中国への全面的な支持を強調した。

IOC(国際オリンピック委員会)は、東京大会に参加しなかった北朝鮮の資格を停止しているが、北京オリンピックには、個人参加を検討するとしていた。

【私の論評】今年の世界は、「ゼロコロナ」に拘泥せざるをえない国と、そうではない国との間で大きな違いがでる(゚д゚)!

北朝鮮で年明けに放送されたミュージカルです。

巨大な頭部を持つ着ぐるみが、コロナ対策を指南…。消毒の次は検温。体温計は最新式です。

実は、北朝鮮の感染状況、全く情報がありません。今年はコロナ対策を最優先とする、そんな方針を明らかにした金正恩総書記ですが、果たして、どうなっているのでしょうか。

コリア・レポート、辺真一編集長は上の動画で、「コロナの感染者はゼロと、いまだかつて1人も感染者・陽性者が出ていないと言っている」「誰もワクチンを接種していないと…、中国もロシアもワクチンの提供を申し入れているが、北朝鮮が応じたという報道もない」と語っています。

さらに、辺氏は、「北朝鮮の映像をチェックすると信じ難いことが多々ある。金正恩総書記が出席する会議。全国から6000人が一堂に集まって、室内で集会を開いている、2時間も3時間も。誰もマスクを着用していないんですね。ちょっと今のご時世ではありえないようなことが北朝鮮では垣間見られている、ということはもしかすると、平壌には一人も感染者がいないのではないか、そういう見方も成り立つ」

しかし、一方で。

「人口の半分近く48%が栄養失調の状況にある。抵抗力が強くない。むしろ不安材料はいっぱいだと思う」

公式発表による感染者ゼロ。しかし、それを裏付けるデータはありません。

「(感染者が)いるのかいないのかを検証しようがないと言いましょうか、客観的に裏付けになるようなものはないということですよね」とも語っています。

ただ、北朝鮮は感染者の発生を認めたこともありました。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は昨年4月17日、北朝鮮当局者が一般国民を対象にした講演で、国内3カ所で新型コロナウイルスの感染者が発生したことを認めたと伝えました。

北朝鮮は現在まで、対外的には「国内の感染者はゼロ」であるとする立場を取り続けていましすが。RFAの報道が事実なら、北朝鮮は近く、対外的にも感染者の発生を認めるかもしれないとされていました。そうすれば、すでに感染症対策での助力を申し出ている米国など国際社会から、支援を受け取ることができたかもしれなかったからです。

北朝鮮の北部・両江道(リャンガンド)の住民はRFAに対し、3月末に各職場や人民班(町内会)ごとに「元帥様の方針貫徹のために新型コロナ防疫事業にひとつになって取り組もう」と題した講演会が行われ、講師を務めた当局者が「朝鮮は最もすぐれた社会主義医療保健制度のおかげで、全世界的に感染者が最も少ない」としつつ、「感染者が発生したのは平壌市と黄海南道(ファンヘナムド)、咸鏡北道(ハムギョンブクト)3カ所だけだ」と強調したと伝えました。

また、平壌の住民も同様に「当局は住民講演会で、平壌市、黄海南道、咸鏡北道の3カ所で新型コロナウイルス感染者が発生したと明らかにした」と証言したといいます。

両江道の住民の証言によれば、講師はまた「住民たちが新型コロナウイルスに対する党の防疫指針をまともに守らず、人民経済に甚大なダメージをもたらした」と述べたといいます。

北朝鮮は新型コロナウイルス対策として最も過激な行動制限を行っており、規則違反が発覚した感染者が処刑されたとの情報もあります。実際、北朝鮮は体制の危機を迎えるたびに恐怖政治を強化し、国民の反発をけん制してきた。

「会場に集まった人々は、感染者が発生したという講師の言葉に、しばらくザワついたとされています。新型コロナウイルスによって南朝鮮(韓国)をはじめ全世界で人々が大量に死にゆく状況下でも、わが国は党の徹底した非常防疫対策でひとりの犠牲者も出ていないと強弁していた当局が、どんな理由から感染者の存在を認めたのかを皆が興味深く思っている」(両江道の住民)と発言しました。

またこの住民は、「わが国の地図で見ると、咸鏡北道はいちばん上に、黄海南道はいちばん下の方にあり、平壌はちょうどその中間だ。それなのに、これら3カ所でだけ感染者が出たという話を信じられるか。北端から南端までウイルスが広がったなら、すでに全国に拡散しているのだろう」との見方を騙ったとされています。

外務省海外安全ホームページの北朝鮮の地図、すべてレベル2「不要不急の渡航中止(感染症)」と表示されている。クリックすると拡大します。

韓国の情報機関・国家情報院は昨年11月3日の国政監査で、北朝鮮が新型コロナウイルス対策を怠った幹部を最高刑で死刑とする「コロナ怠慢罪」を新設したことなどを報告しました。北朝鮮は自国の防疫体制の脆弱ぜいじゃくさを認め、新型コロナで「30万人死ぬか、50万人死ぬかわからない」とする文書も作成していたといいます。

今回、北朝鮮が北京五輪、パラリピックに参加しない旨を公表したのは、やはりコロナが万円しているか、蔓延することを極度に恐れていることの証だと思います。さらに、コロナに対する備えもほとんどできていないというのが、実体なのだと思います。

北朝鮮の朝鮮中央放送は5日、新年に入り、新型コロナウイルスの流入と感染を徹底的に遮断するための「非常防疫戦」が一層強化されていると伝えました。世界中で新型コロナとの闘いが3年目に入った今も北朝鮮は「感染者数ゼロ」を主張していますが、ウイルスの流入と万が一の感染拡大の可能性に神経をとがらせている様子がうかがえます。 

北朝鮮の防疫活動(労働新聞)

朝鮮労働党中央委員会は昨年12月27~31日に第8期第4回総会を開き、新型コロナ対応を「国家事業の第一順位」に据え、「ささいな緩みや抜かりもなく強力に展開していかなければならない最重大事業」に掲げました。

手洗いやマスク着用、消毒などの基本的な対策は昨年と変わりないですが、防疫の重要性が強調されただけに、さらに警戒を強めているようです。 

中央放送はこの日、「平壌市と沿線、沿岸地域の主要地点と周辺地域で非常防疫の実態を具体的に把握し、わずかなすきも発生しないよう先んじて関心を向けている」と伝えました。

北朝鮮では、中国の「社会面清零政策」のような政策がすでに行われているか、さらに大掛かりに実施されているか、実施されようとしているのではないでしょうか。

中国の「社会面清零政策」は、先進国などでいう「ゼロコロナ政策」とは似て非なるものであり、数字上コロナ感染者がゼロになれば、住民の生活や命はどうなっても構わないという政策です。

例えば、平城などの重点地区とそうではない部分を明確に分離して、平城などで感染者が発生した場合は、感染者とその接触者とみられる人を、感染も有無なども確かめず、平城市内に追い出し、平城市街からの交通を絶ち、境界線で必要物資を受け取るとか、感染者や接触者の住居などは焼き討ちするなどして、とにかく平城市内等は感染者ゼロを保つということが行われているのではないでしょうか。

昨日は、中国がゼロコロナ政策に失敗し、国内サプライチェーンが毀損され、それが世界経済にも悪影響を与えることが、世界最大のリスクになる得ることをこのブログに掲載しました。北朝鮮でもゼロコロナ政策に失敗して、国内が大混乱するという可能性もあります。

最近の北朝鮮によるミサイル発射も、コロナによる疲弊を見透かされないようにするための、デモンストレーションなのかもしれません。

日本でもマスコミはオミクロン株の報道を盛んにしていますが、確かに感染力は、強いようですが、死者はほとんど出ていません。以下に死者数の推移のグラフを掲載します。


最近ではコロナワクチンの他にも飲薬が普及しつつあります。日本では、ワクチン+飲薬という対処法でもう少しで、コロナ感染症を普通の風邪のように扱える日がくると思います。日本も、「ゼロコロナ」にいつまでも拘泥していると、中国や北朝鮮のようにとんでもないことになりかねません。

とはいいながら、日本では人権が中国や北朝鮮よりは尊重されているので、とんでもないことにはならないでしょうが、そうはいっても、たとえば医療崩壊などが起こってしまえば、とんでもないことになり、人権無視ということになりかねません。

北朝鮮は、ワクチンも飲薬もない状況です。中国はワクチンはありますが、中国製ワクチンはオミクロン株にはあまり効き目がないようです。両国とも「ウィズコロナ」政策をしたくてもできない状況です。

しかし、日本は違います。日本はワクチンと飲薬などで、コロナ感染症を風邪のように扱える目処がたてば、すぐにコロロな感染症を二類から五類に分類し直すべきでしょう。感染症に強い強靭な社会を目指すべきです。

今年の世界は、「ゼロコロナ」に拘泥せざるをえない国と、そうではない国との間で大きな違いがでることになるでしょう。

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2022年1月6日木曜日

新型コロナ、中国本土で新たに189人感染確認―【私の論評】先進国の「ゼロコロナ政策」とは似て非なる中国の「社会面清零政策」の末恐ろしさ(゚д゚)!

新型コロナ、中国本土で新たに189人感染確認


【新華社北京1月6日】中国国家衛生健康委員会は6日、31省・自治区・直轄市と新疆生産建設兵団から5日に報告を受けた新型コロナウイルスの新規感染者(無症状感染者除く)が189人だったと発表した。

【私の論評】先進国の「ゼロコロナ政策」とは似て非なる中国の「社会面清零政策」の末恐ろしさ(゚д゚)!

上の記事は、中国メディア新華社の記事をそのまま、転載しました。新華社(しんかしゃ)は、中華人民共和国の国営通信社です。正式名称は新華通訊社。日本では新華社通信(しんかしゃつうしん)として知られています。

この報道からみると、最新の中国のコロナ感染者数は、189人であり、死亡者は0人です。人口が約14臆人の中国では、この数字は両方ともほぼ0に近く、この数字が本当であれば、中国のコロナ感染症はほぼ収束したと言っても良いようです。

しかし、実際には北京オリンピックを1ヵ月後に控えた中国のコロナ対応に国内で不満の声があがっています。

米国・CNNによると、中国のゼロコロナ政策は大規模検査、長期間の隔離、感染確認後即座にロックダウンなどが行われているそうです。

中国中部の大都市で人口約1300万人の西安市では去年12月9日~23日、新型コロナの234人の市中感染が確認され、23日午前0時からロックダウンに入りました。

各家庭1人だけ2日に1回、食料品など購入の外出のみ可能だそうです。

感染対策のため封鎖された居住区の出入り口=5日、中国陝西省西安市

その後も感染拡大が収まらず、食料品などの買い物も禁止され、住民の自動車の運転も禁止。西安市在住の男性は「外出禁止後、政府から1度野菜だけが届いた。お米だけ、ヨーグルトだけ届いたという人もいる。隔離中の人がいる家には封印のお札のようなものが貼られる」と語ったそうです。

中国メディアの報道では粛々と検査を受ける市民や食料の配給が行わえる様子が報じられました。

中国のSNSでは食糧難を訴える人が急増。西安での食材の買い出し困難についても拡散され、きょう時点で4.3億回以上閲覧されましたが、検閲により現在は削除されています。

1月1日に行われた西安市のコロナ感染防止コントロール指揮部のビデオ会議で、1月4日までに西安市の新規コロナ感染者をゼロに抑えるゼロコロナ政策目標が打ち出されました。2日には陝西省の書記、劉国中が、社会面清零(ゼロコロナ)目標をできるだけ早く実現せよ、と通達しました。

ところが1月2日、陝西省で新たに92人の新型コロナ感染者が出ています。うち90人が西安市の住人です。3日には西安市だけで95人の感染者が出ました。

西安市では12月23日に都市封鎖(ロックダウン)が始まり、8日ぶりに新規感染者が100人を切ったという意味では徐々に落ち着いてきているにもかかわらず、1月4日までに新規感染者をゼロにするなど、あまりに非科学的・非現実的に思われます。

ところが、インターネット上に流れた西安市の「強制隔離」風景の動画を見たとき、多くの市民たちは気づくことになりました。「ゼロコロナ」とはコロナウイルスを徹底排除せよ、ということではなく、コロナ感染者を社会から徹底排除し、「ゼロ」とすることだったのです。

実際、感染拡大の可能性のある「小区」(集合住宅の集まる住宅区、団地)の住民が、数万人単位で「社会」と隔絶された僻地の「収容施設」に収容されていました。

ここで問題の本質は、中国でコロナ対策としての「社会面清零」モデルの概念が固まったことでしょう。在カナダ華人の人気YouTuber文昭が、こうした「社会面清零」措置の例の動画などを挙げて、こう解説していました。

「社会面清零の概念は、人と社会を分離して、強制収容キャンプモデルで管理するということだ」

市内の居住区に住民がおらず、空っぽであれば、そもそも人がいないのですから、ゼロコロナが達成されたことになります。仮に隔離施設内で新規感染者が発生しても、それは新規感染者にカウントされません。なぜなら、彼らは社会から隔絶されたところにいるからです。

中国の「社会面清零政策」は、先進国などでいう「ゼロコロナ政策」とは似て非なるものであり、数字上コロナ感染者がゼロになれば、住民の生活や命はどうなっても構わないという政策です。

そうして、重要なのは、政策として打ち出された「社会面清零」が、中央からの無茶な指示を受けた現場官僚たちが、何とか帳尻を合わせるために人民を欺く論理として確立したことです。そうして、この論理は中国内の他の地域でも感染者が発生すれば、適用されることになるでしょう。

「社会面清零」に関する報道をする中国CCTVの画面

中国は2020年、厳格なロックダウンと国産ワクチンの普及によって新型コロナウイルスの封じ込めに成功したとしていました。全体主義が成功を大成功を収めたようにもみえました。

そうして、先日もこのブログで述べたように、中国では国家が国民を信用していないので、国民にすべての情報を知らせ、国民の判断を尊重するという仕組みが機能していません。そのため政府は失敗が許されません。権力者は常に全知全能、無謬の存在を演じ続ける以外にないのです。

ウイルスにはこの世界から駆逐できるタイプのものとそれが不可能で共存以外の道がないタイプのものがありますが、新型コロナは明らかに後者です。初期の段階で前者だと信じたが故のゼロコロナ政策であり、それで大成功してしまったため、今更やめるわけにはいかないのでしょう。

先進国においては、すでに「ゼロコロナ政策」はやめているか、いずれやめて「ウィズコロナ政策」に柔軟に転換するでしょう。しかし、中国はできない可能性が高いです。

自らの手段が功を奏し、それを国威発揚にまで用いてしまったため、その後は他の選択肢が取り得なくなるというパターンは、今回のコロナ対策に限った話ではありません。「一党専制」という一見、強力な仕組みの最大の弱点はここにあります。

中国製コロナワクチン

しかしながら今日では、オミクロン株のように感染力の高い変異株が登場しています。先日もこのブログでも掲載したように、中国の「ゼロコロナ政策」が世界のリスクになると予測した、ユーラシアグループは、中国の国産ワクチンの効果は限定的であり、変異株への対応力は不十分であると指摘しました。

同グループは、中国がこれまで貫いてきたゼロコロナ政策は失敗し、より大規模な感染症拡大と、それに伴う厳しい封鎖や措置を引き起こすと分析しています。そして、これは中国のサプライチェーンの混乱、世界的な経済不安リスクにつながるということになりそうです。

感染者零を目指すために、感染者や感染者とみられる人々の人権を無視して、強制隔離し、挙げ句の果に作り手、運び手まで隔離して、国内のサプライチェーンを破壊し、それが世界を不安に陥れかねないというのですから、本当に末恐ろしいです。

世界は、中国のどの部門が脆弱なのか見極めて、それがどのくらいの悪影響を自身にもたらすのか、前もって準備するしかないようです。ただ、相手が感染症ですから、それがどの程度サプライチェーンを毀損するのか、予め予想するのは難しいです。ただ、この危機が起こり得ることを予め認識しておくべきことは言うまでもありません。

オミクロン株が中国でも、重症者・死者数が少なくなり、中共が頑な「社会面清零政策」から柔軟に「ウィズコロナ政策」に転換することを願うのみです。

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2022年1月5日水曜日

空軍、F16Vの「エレファントウォーク」初公開 戦力を誇示/台湾―【私の論評】ハイコストパフォーマンの軍備をすすめる台湾軍(゚д゚)!

空軍、F16Vの「エレファントウォーク」初公開 戦力を誇示/台湾

F-16Vのエレファントウォーク

中国の軍用機の台湾防空識別圏進入が相次ぐ中、空軍は5日、嘉義基地で戦闘機「F16V」12機を用いた「エレファントウォーク」の訓練を実施し、戦力を誇示した。F16V(ブロック20)によるこの種の訓練を外部に公開するのは初めて。

国防部(国防省)の統計によれば、台湾の防空識別圏に昨年進入した中国軍機は延べ約960機に上る。台湾海峡の中間線越えや台湾の南東海域への進入も複数回あった。

「エレファントウォーク」とは、多数の航空機を滑走路に集結させ、矢継ぎ早に地上滑走させる訓練。多数機運用能力や即応態勢を誇示する狙いがある。

また、この日はF16Vの緊急発進(スクランブル)の訓練のほか、昨年11月のF16V部隊発足式で初公開されたヘルメット装着式統合目標指定システム(JHMCS)も再度お披露目された。

ヘルメット装着式統合目標指定システム(JHMCS)

【私の論評】ハイコストパフォーマンの軍備をすすめる台湾軍(゚д゚)!

米国が台湾に「F-16V」の売却を決めたのは、トランプ政権のときです。トランプ米政権が2019年11月20日、台湾に対し米国製戦闘機「F-16V」の最新型を66機売却することを決めました。

当時、中国は「断固として反対する」「内政干渉だ」(外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道局長)と強く反発しましたが、裏を返すとF-16Vの高性能に対する警戒の現れでもあります。

中華民国(台湾)国防部は昨年11月18日(木)、性能が大幅に向上したF-16V戦闘機が台湾南西部にある嘉義市の空軍基地に配備されたと発表しました。

昨年11月18日、台湾・嘉義県の空軍基地で行われた、F-16V戦闘機部隊の発足式

F-16Vは、台湾空軍が運用する既存のF-16A/B戦闘機と外見的には似ているものの、桁違いの性能を持つ新型機で、レーダーやアビオニクス、コックピット周りなども一新され、エンジンもより出力の向上した新型を搭載しています。

特に搭載されているAESAレーダー「APG-83」は、旧型(APG-66)に対し総合的な能力は2倍に向上しているといいます。電子機器の性能向上により、軽く小さなレーダーとなっています。

実戦で最も際立つ結果を残した現代ジェット戦闘機といえば、F-15「イーグル」です。F-15は1979(昭和54)年に最初の撃墜を記録して以降、現在に至るまで100機以上を撃墜し、なおかつ空中戦で撃墜された機数はゼロという、100対0のキルレシオ(撃墜、被撃墜比)を達成しています。これまで一度も負けたことがない圧倒的な戦歴から、F-15は(少なくともF-22やF-35が登場するまでは)強い戦闘機の代表格として知られています。

しかしF-15は高性能と引き換えに、あまりに高価すぎるという欠点がありました。開発国であるアメリカ空軍さえ十分な数を揃えることが困難であり、F-15はとっておきの切り札としつつ、同時に数的な主力を担う安価な戦闘機が必要となりました。こうした経緯から、安価で軽量なF-16「ファイティングファルコン」が開発されました。

F-16とF-15のエンジンは同一のものです。したがってエンジン1基を備えるF-16のエンジンパワーは、2基を備えるF-15の半分しかありません。F-16は劣化F-15であるという認識は古くからあり、F-16の開発計画名「LCF」は「ローコストファイター(低価格戦闘機)」の頭文字ではなく「ローケイパビリティファイター(低性能戦闘機)」である、などと陰口を叩かれたことさえありました。

ところがF-16は実戦へ投入されると、安さだけが取り柄の低性能機ではないことがすぐに証明されました。1982(昭和57)年、イスラエル空軍へ供与されたF-16は「ベッカー高原上空戦」において、たった1週間で44機のシリア空軍機を撃墜し損害ゼロという圧倒的な戦果を挙げます。これは同航空戦におけるF-15の40機撃墜損害ゼロを上回る戦果であり、F-15に比肩しうる強い戦闘機であることを実証しました。

「ベッカー高原上空戦」のイスラエル軍F-16ガンカメラによる画像

ちなみに、F-16のキルレシオは実に80対2に達し、撃墜された事例も事故であることを考慮すると、100対0のF-15にほぼ比肩しうる実績を残しました。

F-16の強さの秘訣は、意図的に安定性を落とし機動性を高める「静安定緩和」など、新技術を惜しみなく投じた点にありました。F-15は強い戦闘機ですが、その設計思想は極めて保守的であり、どちらかというと「高性能なF-4」といえる古い部類の飛行機です。両機は同じエンジンを搭載した兄弟でありながら、実に対照的であり、弟分のF-16はエンジンパワーのハンデを技術で克服しました。

F-15と同等の高性能機でありながら、F-15より安価なF-16が売れない筈はなく、2020年現在までに29か国が導入し、生産数は約4588機を数えるに至りました。いまなお政治的な事情からF-35を導入できない国にとっては魅力的な選択肢です。さらに、現在でも様々な改造が繰り返されています。このようなF-16を母体として、改造されたF-16Vです。台湾が中国と戦うには、十分な性能を有しているといえます。

一部報道によると、性能が陳腐化している既存のF-16A/Bについても、保有する141機すべてについて、1100億台湾ドル(約4500億円)を投じて改良する方針だそうで、これまでに64機の改良が行われたといいます。

これらF-16Vの新規導入と、F-16A/Bのアップデートによって、旧式化したF-5E/F戦闘機は退役させる計画のようです。

台湾は、このブログにも以前掲載したように、対潜哨戒機P3Cを備え、潜水艦の開発にも着手しています。強力な地対艦ミサイルや、地対空ミサイル、長距離巡航ミサイルも装備しています。

そうして、概していえると思うのですが、非常にコストパフォーマンスの高い軍備をしていることがうかがわれます。特に中国軍対するコストパフォーマンスが高いです。このあたりは、徹底的に検討してから、配備しているのでしょう。まさにF-16Vの配備はその象徴であると思います。

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2022年1月4日火曜日

世界「10大リスク」1位は中国の「ゼロコロナ政策」失敗…各国の政情不安定化も―【私の論評】今年最大の地政学的リスクは、中国の対外関係ではなく国内問題(゚д゚)!

世界「10大リスク」1位は中国の「ゼロコロナ政策」失敗…各国の政情不安定化も

米政治リスクの調査会社ユーラシア・グループは3日、2022年の世界の「10大リスク」を発表した。1位に「No zero Covid」(ゼロコロナ政策の失敗)を挙げた。中国が新型コロナウイルスの変異型を完全に封じ込められず、経済の混乱が世界に広がる可能性を指摘した。


報告書は冒頭で、米中という2つの大国がそれぞれの内政事情から内向き志向を一段と強めると予測。戦争の可能性は低下する一方で、世界の課題対処への指導力や協調の欠如につながると指摘した。

国際政治学者のイアン・ブレマー氏が率いる同社は年頭に政治や経済に大きな影響を与えそうな事象を予測している。21年の首位にはバイデン米大統領を意味する「第46代」を選び、米国民の半数が大統領選の結果を非合法とみなす状況に警鐘を鳴らした。予測公表の2日後、トランプ前大統領の支持者らが選挙結果を覆そうと米連邦議会議事堂に乱入した。

22年のトップリスクには新型コロナとの戦いを挙げた。先進国はワクチン接種や治療薬の普及でパンデミック(感染大流行)の終わりが見えてくる一方、中国はそこに到達できないと予想する。中国政府は「ゼロコロナ」政策を志向するが、感染力の強い変異型に対して、効果の低い国産ワクチンでは太刀打ちできないとみる。ロックダウン(都市封鎖)によって経済の混乱が世界に広がりかねないと指摘する。

先進国はワクチンの追加接種(ブースター接種)を進めている。ブースター需要が世界的なワクチンの普及を妨げ、格差を生み出す。ユーラシア・グループは「発展途上国が最も大きな打撃を受け、現職の政治家が国民の怒りの矛先を向けられる」と指摘し、貧困国はさらなる負債を抱えると警告する。

2番目に大きいリスクとして挙げたのは、巨大ハイテク企業による経済・社会の支配(テクノポーラーの世界)だ。米国や欧州、中国の各政府は規制強化に動くが、ハイテク企業の投資を止めることはできないとみる。人工知能(AI)などテクノロジーの安全で倫理的な利用方法を巡って、企業と政府が合意できていないため、米中間、または米欧間の緊張を高めるおそれがあるという。

米議会の中間選挙後の混乱もリスクに入れた。11月の同選挙では野党・共和党による上下院の過半数奪還が「ほぼ確実視されている」と指摘する。与党・民主党は共和党系州知事が主導した投票制限法に批判の矛先を向ける一方、共和党は20年の大統領選で不正があったとの主張を強めると予想する。共和党がバイデン大統領の弾劾に動き、政治に対する国民の信頼が一段と低下する可能性にも言及した。

【私の論評】今年最大の地政学的リスクは、中国の対外関係ではなく国内問題(゚д゚)!

昨年暮れに、日本では、中国の台湾侵攻がまことしやかに囁かれていました。このブログでは、それはあり得ないことをいくつかのデータをもとに解説しました。

ユーラシア・グループの今年の予測でも、中国の台湾侵攻に関するリスクについては掲載されていません。地政学的危機の分析に定評のある、ユーラシア・グループも、それはあり得ないと分析しているのでしょう。

ユーラシア・グループによる昨年2021年の10大リスクは、以下のリンクからご覧いただけます。興味のある方は、是非ごらんになってください。


今年の最大のリスクは、UG(ユーラシア・グループの略、以下同じ)によれば、何と中国のゼロコロナ政策の失敗です。

確かに、UGは中国のゼロコロナ政策は20年には非常に大きな成功を収めたのですが、今は「はるかに感染力の強い変異株に対し、より広範囲のロックダウンと効果の限られるワクチンといった手段で闘う」状況にあると説明。

「オミクロン株に対する人々の抗体は実質的にゼロだ。ロックダウンを2年続けたことで、再開するリスクが一層大きくなった」と分析しました。コロナ対策の当初の成功とそれへの習近平国家主席の執着が「方向転換を不可能にしている」というのです。

ユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「極めて容易に感染し得るが命を脅かすことがそれほどないウイルスと共生する力は、中国のゼロコロナ政策とは正反対に位置している。ゼロコロナ政策はこうしたウイルスに対して機能しないだろうが、中国はそれを堅持するだろう」と述べ、「これは主としてウイルスが招いている課題ではなく、中国政府が自国のやり方から抜け出せないという問題だ」と論じました。

中国のコロナ発生状況のグラフを以下に掲載します。

クリックすると拡大します

昨年から、かなり少ないです。今年1月1日の7日間の平均でも、204人です。中国の人口は、14臆人ですから、これは収束したようにもみえます。

私自身は、この統計自体は信用はしていません。以前GDPに関しても、このブログでは中国のそれは信用できないことをその根拠をもとに主張したことがあります。中国の経済統計は、「政治的メッーセージ(ブロパガンダ)」に過ぎない、断じました。

ですから、コロナ感染者数もプロパガンダに近いものなのだと思います。ただ、それは別にしても、習近平中国指導部は、「ゼロコロナ」であらねばならないと考えているのでしょう。

中国社会は、すべてを国家が決め、国民はそれに従います。国民の間には上から知らされた「とにかくウイルスは怖い」という観念が強く刻まれたままになっています。そうであるからこそ、ゼロコロナの政策を変えられないのです

ゼロコロナの維持は、中国の閉鎖性をさらに高める政策が継続されることで、中国国内の人々とその他世界の人々の意識との落差がいま以上に大きくなり、中国をめぐる国際環境はますます悪化することになります。

ありていにいえば、中国では国家が国民を信用していないのてで、国民にすべての情報を知らせ、国民の判断を尊重するという仕組みが機能していません。そのため政府は失敗が許されなません。権力者は常に全知全能、無謬の存在を演じ続ける以外にないのです。

自らの手段が功を奏したがために、それを国威発揚に利用してしまったがため、その後は他の選択肢が取り得なくなるというパターンは、今回のコロナ対策に限った話ではありません。「一党専制」という一見、強力な仕組みの最大の弱点はここにあります。

これが地政学的な危機をもたらすのは間違いないようです。中国各地でロックダウンが行われれば、昨年あったマスク騒動のようなことが、日本でもおこる可能性があります。それも、大規模に起こる可能性もあるでしょう。生活必需品で中国に頼っているようなものは、要注意です。

昨年までは、中国といえば、中国による外国への介入や干渉が大きな地政学的脅威だったのですが、今年は中国の国内問題がそうなりそうです。

コロナ対策といえば、日本も中国と同じ間違いを犯す可能性は十分にあります。「ゼロコロナ」に拘泥して、しかも病床を増やさないなどの状況が続けば、最近はオミクロン株の感染が増える傾向があり、感染者が増えた場合、しなくても良いというか、本来日本では死者がかなり少ないので、起こりようもない医療崩壊が起こる可能性もゼロとはいえません。

岸田首相

幸いなことに、岸田文雄首相は4日、三重県伊勢市での記者会見で、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の対応について、「自治体の判断で、陽性者を全員入院、濃厚接触者を全員宿泊施設待機としている現在の取り組みを見直す」と述べています。

習近平政権よりは、柔軟な対応ができそうです。ただし、現状ではまだそうでもないですが、感染者が本格的に増えた場合、保健所が対応できない事態は起こりえます。それをなくす意味でも、コロナ感染症を現在の感染症分類の2類から5類に変えるべきです。

5類に分類を変えてしまえば、コロナ感染症もインフルエンザや普通の風邪と同じ扱いができるようになり、保健所がパンクすることも、病床が不足することもなくなります。

2番目、3番目の予測もありそうです。4番目はこれまた、中国の内政に関するものですが、習近平政権は、昨年は中国企業に対する規制を強化したばかりです。この傾向は今年も続くとみられます。これにより、中国経済停滞のリスクはますます強くなるでしょう。

5番目の、ロシアのウクライナ侵攻については、このブログでは、年末にその確率は低いと予測しました。その根拠は、ロシアはいまや一人あたりのGDPが韓国よりも大幅に劣ることと、兵站の大きな部分を鉄道に頼るという致命的な欠陥があることです。

ただ、ロシアはウクライナの侵攻をちらつかせ、米国に対して制裁を弱めることを期待してると私は睨んでおり、実際プーチンはバイデンとの電話会談をする機会を得ました。ウクライナ問題がなければ、このようなことはなかったかもしれません。

バイデンが煮えきらない態度をとったり、譲歩をしてしまえば、地政学的な危機を生み出すのは間違いないです。

ロシアがウクライナに侵攻するしないは別にしても、地政学的なリスクが高まるのは間違いないです。

前線のウクライナ軍を視察するゼレンスキー、ウクライナ大統領

6番目の、イランによる地政学的な危機も理解できるものです。

7番目の、「脱炭素政策とエネルギー政策」も納得できます。脱炭素政策の内容を知れば知るほど、脱炭素と安易に語るべきではないことが、誰にでも納得できると思います。

8番目の、アフガニスタンなどの力の空白も理解できます。アフガニスタン情勢に、中露などが中途半端に介入すれば、泥沼にはまるのは必定です。

9番目の「価値観の衝突に敗れる多国籍企業」にも納得です。米中の対立などにより、中国に進出したり拠点を置いている企業、米中双方からデカップリングされることになりかねません。

10番目のトルコについても、納得です。トルコ統計局が3日発表した2021年12月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比36%でした。単月では19年ぶりの高さで、前月の21%から跳ね上がりました。通貨リラ安による輸出増がけん引して国内総生産(GDP)は膨らむが、賃金上昇が物価高に追いつかず、市民生活は圧迫されています。

今年も、さまざまリスクがありますが、今年最大の地政学的リスクは、中国の国内問題になりそうです。当ブログでも、これに注目し、何か新しい動きがありましたらお伝えします。今年もよろしくお願いします。

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2022年1月3日月曜日

台湾煙酒がリトアニア産ラム酒2万本買い取り=中国の足止めで行き場失う―【私の論評】今後中国に接近するのは、独裁者とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを欲するような国ばかりになる(゚д゚)!

台湾煙酒がリトアニア産ラム酒2万本買い取り=中国の足止めで行き場失う


台湾煙酒は3日、中国の港で足止めされて行き場を失っていたリトアニア産のラム酒約2万400本を買い取ったと発表した。台湾の消費者に対し、リトアニアへの応援を呼び掛けている。

リトアニアは台湾への代表機関設置を発表して以降、中国から圧力を受けている。昨年11月には、台湾の代表機関「駐リトアニア台湾代表処」が首都ビリニュスに設置され、業務を開始した。リトアニア側の代表機関は今年初頭に台湾に設置される見通し。

台湾煙酒によれば、昨年12月初旬、中国税関の電子通関手続きシステムの「原産地」リストからリトアニアが削除され、リトアニアから輸出した貨物が中国の港で足止めされた。中国は後にリトアニアをリストに再度加えたものの、すでに足止めされていた貨物は依然として受け入れが認められなかった。

同社は同18日、駐リトアニア代表や財政部(財務省)からの相談を受け、中国に輸出するはずだったリトアニアメーカーのラム酒が行き場を失っていることを知ると、関係先に連絡を取り、ラム酒を買い付けたという。

ラム酒は今月上旬に台湾に到着する予定。ラベルを新しく貼り替えた後で販売するとしている。

【私の論評】今後中国に接近するのは、独裁者とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを欲するような国ばかりになる(゚д゚)!


昨年は、中国が台湾に意地悪をして、台湾産パイナップルを輸入しませんでしたが、日本が買い付けました。日本の買付高は、従来の中国の買付高を上回ったそうです。

私も購入しました。美味しかったです。私は、それ以外にも、台湾産パイナップルケーキも購入しました。これも良かったです。また、機会があれば、購入したいです。

台湾のパイナップルケーキ

さて、人口約280万人のヨーロッパの小国バルト三国に一つリトアニアは、昨年は大国・中国相手に大立ち回りを演じて、世界の注目を集めました。かつてはちょうど30年前に消滅したソ連邦の構成国のひとつで、現在はEU加盟国です。日本との関係で言えば、第二次世界大戦中にこの地に赴任していた日本人外交官・杉原千畝氏がユダヤ人に発給した「命のビザ」が有名です。

昨年5月、リトアニア議会が中国の新疆ウイグル自治区での人権問題について「ジェノサイド(大量虐殺)である」と決議しました。さらに中国が中・東欧で進める経済構想圏から離脱しました。

昨年7月には台湾がリトアニアに事実上の大使館に相当する機関を設置することを発表、リトアニアも台湾に同様の機関を置くと発表しました。蔡英文総統が就任して以来、ここ5年間で台湾は中国の戦狼外交によって7ヵ国との外交関係を失っていました。

台湾がヨーロッパに代表機関を置くのは18年ぶりといいます。蔡総統の右腕である陳建仁・前副総統はリトアニアを訪問して「リトアニアは自由と民主主義の先駆者だ」と称賛しました。

中国は、この動きに反発を強めました。まずは駐リトアニア大使を召還し、中国にあるリトアニア大使館の名称を変更して外交上の「格下げ」にしました。

さらに12月21日のロイター電によれば、多国籍企業に対してリトアニアとの関係を絶たなければ中国市場から閉め出すと圧力を掛けました。

リトアニアがこれほど中国と対決姿勢をとるのは、中国がロシアと接近していることの警戒感があるとされています。両国とも強権主義の国であり、リトアニアはかつてソ連に併合された歴史もあります。そのため、30年前のソ連解体の過程でもっとも早く独立宣言をしたのはリトアニアでした。

リトアリアに限らす、中東欧諸国では中国に限らず、中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は終わりつつあります。これについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事の、リンクを以下に掲載します。
中東欧が台湾への接近を推し進める―【私の論評】中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は、徐々に終わりを告げようとしている(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくもとして、以下に一部を引用します。
中国は人口が多いので、国全体ではGDPは世界第二位ですが、一人あたりということになると未だこの程度(1万ドル前後)なのです。このような国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無でしょう。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

ちなみに、日本、台湾、中国、リトアニアのGDPの推移のグラフを以下に掲載します。

一人あたりの名目GDPということでは、リトアニアも中国を上回っています。リトアニアも中国とあまり違いがない時代もありましたが、それはやはり冷戦の悪影響を受けたためでしょう。

台湾は、中国やリトアニアよりも高いです。これらの国々は日本をはじめ、中国よりは民主化がすすんでいます。民主化と経済発展には相関関係があります。民主化が進んでいる国のほうが、経済発展する可能性が高いです。それは、この引用記事に掲載した高橋洋一が作成したグラフでもわかります。

点の一つ一つが各国の一人あたりのGDPを示します

このグラフからもわかるように、民主化されていない発展途上国が、経済発展をしても、民主化しないと1万ドル前後で成長か止まってしまうのです。これを中進国の罠といいます。例外産油国などの特殊な例外をのぞいてはほとんどありません。

リトアニアとしては、最初は経済が発展しているようにみえる中国に期待したのでしょうが、実際蓋をあけてみると、失望することばかりだったのでしょう。

これは、当然といえば当然です。リトアニアは一人ひとりの国民を豊かにしたいと期待してたのでしょうが、中国にはそのようなノウハウは全くなく、世界をみまわしてみると、台湾という民主国があり、人口はリトアニアよりは、多いですが、中国(人口約14臆人)と比較すれば、小さな国です。

しかし、台湾のほうが一人あたりのGDPは高いです。そうであれば、リトアニアにとっては、台湾のほうがより参考になると考えたのでしょう。しかも、台湾は半導体などで、先端分野を切り開いている国です。何よりも、中国よりもはるかに民主的ということで、リトアニアは、台湾と親交を深めることに決めたのでしょう。

リトアニアや他の中東欧諸国等の行動をみていると、今後中国に接近する国は、非民主国であり、独裁者とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを欲するような国ばかりになるのではないかと思います。

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2022年1月2日日曜日

ロシアのコロナ死者、公式発表の2倍超…最多の米に次ぐ65万人とロイター報道―【私の論評】今年は、マスコミに煽られて人生を諦めるようなことがあってはならない(゚д゚)!

ロシアのコロナ死者、公式発表の2倍超…最多の米に次ぐ65万人とロイター報道

モスクワ市内で新年を祝う人たち(1日)

 ロイター通信は、ロシアの新型コロナウイルスによる死者数が約65万9000人に上り、米国の約82万人に次いで世界で2番目の多さになっていると報じた。国際的な集計に使われている露政府対策本部のデータで死者数は30万人超で、2倍以上の差があることになる。

 露政府は新型コロナによる死者を、ウイルスが死亡の「根本的な原因」だったと診断した場合のみ認定している。既往症の悪化などで死亡した関連死は含んでいない。これまでも「過少申告」を指摘されてきた。

 ロイター通信は昨年末、露統計局と独自の集計をベースに、2020年4月以降の新型コロナの死者数を算出。世界2位のブラジル(約62万人)を上回る数字となった。露有力紙RBCも昨年末、死者数が約63万人に達したと伝えている。

【私の論評】今年は、マスコミに煽られて人生を諦めるようなことがあってはならない(゚д゚)!

新年早々なので、穏やかでありたいとは願ってはいるのですが、上の読売新聞の記事をみていると、私はイライラします。

なぜなら、実数だけを比較しているので、実体が全く見えてこないてのです。そもそも、米国、ロシア、ブラジルでは人口が違います。2020年の統計では、米国3.295億人、ロシアは1.441億人、ブラジルは2.126億人です。人口を無視して、実数だけあげられても、深刻度合いがどの程度なのか、比較などできません。

そこで、実体はどうなのか知りたいと思い、読売新聞社オンラインの提供する「主な国の新規感染・死亡者数」というサイトから100万人あたりの新規死亡者数のグラフをみてみました。

そのグラフが以下です。


クリックすると拡大します

100万人あたりで、比較すると、ロシア政府が公表する数字であっても、ロシアが10月4日あたりから、ロシア、アメリカ、ブラジルでは一番死者が多いです。これをみただけでも、ロシアは一番数が多いということがわかります。さらに、ロイターによれば、本当はこの倍くらいは死者がいるということですから、これは米・ブラジルよりはかなり多いということになります。

ただし、100万人あたりで、数人とか、十数人という数自体は、さほど深刻でもないと思います。なぜ、上の記事ように大騒ぎするのか良くわかりません。無論、亡くなった方はお気の毒ですが、インフルエンザや他の病気で死亡する人の数のほうがもっと多いはずです。交通事故の死亡者のほうがはるかに多いです。最近の統計では、ロシアの道路では、毎日平均で約50人が死亡しているのです。

上のグラフに日本を付け加えると、以下のようになります。

クリックすると拡大します

日本では、ゼロ近傍の日が続いています。そのような日本では、全国て初詣が行われおり、大勢の人が集まっています。

明治神宮

ロシアでは確かに、100万人あたりの死者は多いですが、それにしても一番上の写真は、モスクワ市内で新年を祝う人たちですが、ほとんど人がマスクをせず、屈託なく陽気に笑っています。この人達は、本当に人生を楽しんでいるように見えます。

冒頭の記事を書いた記者は、この写真をみても何も感じないのでしょうか。私は感染症に関して、感染者数や死者数の実数だけで報道しても本当の深刻さなどはわからないということは、昨年コロナ禍がはじまった頃から、主張してきました。

マスコミは、ロシアのコロナによる死者数を煽る一方で、ロシアのウクライナと侵攻も煽っています。本当にコロナで死者数が増えて、深刻な状態になっているのなら、ロシアはウクライナ侵攻どころではないはずです。こうした矛盾にも気づかないのでしょうか。

マスコミの姿勢は未だ変わらないようです。最近は、オミクロン株など感染力は強いものの、死者が少ないことから、やはり弱毒性であることは明らかになりつつあります。さらに、ワクチンだけではなく、治療薬も出回るようになってきました。コロナは普通の風邪やインフルエンザに近づきつつあるようです。

ほとんど死者が増えない日本では、他の国々から比較すれば、もはやコロナは収束したとみなして良いかもしれません。

それでも、特に冬期はコロナだけではなく、インフルエンザもありますから、マスクや手洗いなども励行し、三密も避けるようにはしつつも、私達もロシアの人たちのように人生を素直に楽しもうではありませんか。マスコミに煽られて、人生を諦めることや、歪んだ認識を持つことがあってはならないと思います。

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2022年1月1日土曜日

蔡総統、中国をけん制「情勢を見誤るべきでない」=元日の談話/台湾―【私の論評】現在の蔡英文政権に唯一心配な点は、過去の日本のように失われた20年を招いてしまう可能性(゚д゚)!

蔡総統、中国をけん制「情勢を見誤るべきでない」=元日の談話/台湾

新年の談話を発表する蔡総統

蔡英文(さいえいぶん)総統は1日、総統府で新年の談話を発表し、台湾と中国は地域の平和と安定を維持する責任を共同で背負うと強調。中国に対し「情勢を見誤るべきでない」とけん制した。

蔡氏は、今年は多くの課題に向き合わなければならないとした上で、台湾の国際参加▽経済発展パワーの維持▽社会安全システムの強化▽国家主権の防衛―を「堅実な政権運営」のための柱だと強調した。

国際参加については東南アジア諸国などとの関係を深化させるほか、自由貿易協定(FTA)締結に向けた米国との貿易投資枠組み協定(TIFA)協議、環太平洋経済連携協定(TPP)への加入などに注力する考えを示した。

経済面では、台湾産業の影響力と競争力を高めなくてはならないと指摘。インフレや住宅価格の高騰に対応し、実質所得の増加や生活水準の向上を図るとした。

また「香港の情勢を引き続き注視する」と表明。投票率がわずか3割にとどまった昨年12月の立法会選挙や多くのメディア関係者が逮捕されたことに触れ、香港の民主主義の発展と人権や言論の自由に対する懸念を示した。

蔡氏は民主主義と自由を追い求めることは犯罪ではないとし、台湾が香港を支持する立場は変わらないと語った。

中国との関係については、「圧力に屈せず、支持を得ても冒険はしない」とする台湾の立場を改めて説明。双方が努力して人民の生活に関心を払い、社会や国民感情を安定させてこそ、平和的な方法で問題に向き合い、解決策を見いだせると呼び掛けた。

【私の論評】現在の蔡英文政権に唯一心配な点は、過去の日本のように失われた20年を招いてしまう可能性(゚д゚)!

皆様、明けましておめでとうございます。昨年中はお世話になりました。今年もよろしくおねがいします。今年の当ブログは台湾の話題から始めようと思います。

蔡英文総統が、中国に対し「情勢を見誤るべきでない」とけん制したのには、それなりの背景があります。

「台湾有事」が切迫しているというシナリオがまことしやかに論じられ、中には尖閣諸島(中国名:釣魚島)奪取と同時に展開するとの主張すら出ています。「台湾有事論」の大半は中国の台湾「侵攻」を前提に組み立てられていますが、その主張が見落としているのは、中国軍の海上輸送力です。

これについては、昨年末も述べたばかりです。それを以下に要約すると以下のようになります。
中国が台湾を武力統一しようとする場合、最終的には上陸侵攻し、台湾軍を撃破して占領する必要があります。来援する米軍とも戦わなければならないです。

その場合、中国は100万人規模の陸上兵力を発進させる必要があります。なぜなら台湾軍の突出した対艦戦闘能力を前に、上陸部隊の半分ほどが海の藻くずとなる可能性があるからです。

100万人規模の陸上兵力を投入するためだけにでも5000万トンほどの海上輸送能力が必要となります。これは中国が持つ全船舶6000万トンに近い数字です。

中国側には台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる能力がなく、1度に100万人規模の上陸部隊が必要な台湾への上陸侵攻作戦についても、輸送する船舶が決定的に不足しており、1度に1万人しか出せないのです。そしてなによりも、データ中継用の人工衛星などの軍事インフラが未整備のままなのです。
以上の理由のため中国が、台湾に数年以内に軍事力を用いて侵攻するとは考えられません。まずは海上輸送力を増強し、一度の100万人程度の陸上兵力を発進させる能力をつける必要があります。

ただし、軍事的以外の方法での台湾浸透というやりかたもあります。国際社会から台湾を孤立させ、中国に頼る以外の選択肢をなくすとか、台湾社会に工作員を深く浸透させて、中国側に寝返らせ、最終的に台湾を傘下におさめてしまうななどのやり方もあります。

ただし、そもそも「危機管理」や「安全保障」とは、「事を起こさないようにどう備えるか」、また、「もし起こった時にどうするか」を考え、事前に準備することです。そうして、事が起こったら即座に対応する事が常道です。

その観点から台湾はさらに軍事力を増強するとともに、軍事力以外での中国浸透にも備えていくべきであるのは言うまでもありません。これに対して、日本が台湾有事にどのように行動すべきかを備えるべきであることも言うまでもありません。

ただ、少なくとも当面の軍事的侵攻は確率的にかなり低いことから、蔡英文総統は「情勢を見誤るべきでない」とけん制することができたのでしょう。さらに、日本ではあまり報道されないものの、上記のような内容は、詳細に台湾でも多くの国民に共有されていると思います。

もし、軍事的脅威が身近に迫っていれば、蔡英文総統は、もっと穏やかな表現を選んだと考えられます。それに、今頃台湾から脱出する人も大勢いて、ニュースになっているはずです。日本にも帰化を望む人など、大勢が来ているはずです。

それに台湾在住邦人も有事に備えて、台湾から脱出し日本に帰ってきているはずです。そのようなニュースは台湾でも、日本でも報道されていません。

2020年に一国二制度が踏みにじられた香港からはかなりの人が脱出しました。昨年はパンデミックのまっただ中にあったにもかかわらず、台湾だけで1万800人余りの香港市民が居住許可を取得しました。この数は前年のほぼ2倍です。

今年1月末に英国が海外市民(BNO)旅券の受け付けを開始すると、2カ月間で3万4300件の申請がありました。議会に提出された公的な見積もりによると、通年では約12万件と、1990年代前半に香港から移住した年間人数の2倍になりました。これは年金の脱退や、多くの移住プログラムで必要とされる犯罪歴の照会申請増加などでも裏付けられています。

このような動きは台湾ではみられません。もし本当に中国の脅威が身近に迫っているというのなら、昨年あたりからそのような動きがみられるはずですが、そのようなことはありません。

さて、蔡英文総統の、「新年の談話」では、ほとんどの話が同意できるのですが、一つ気になることもあります。

それは、経済面では、特に国内で、インフレや住宅価格の高騰に対応し、実質所得の増加や生活水準の向上を図るとした点です。実際にインフレ率はどうなのか、以下に日本・米国・台湾のインフレ率の推移を示すグラフを掲載します。

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インフレ率に関しては、日台は米国と比較して低めです。米国は昨年は単月では、6%を超えたこともあります。台湾では、2021年の推計値では、1.6%です。これは、日本の-0.17%と比較すれば、まともですが、それでも高いとはいえません。失業率は、2021年の推計値は台湾は4%近いです。日本は、2%半ばです。

日本を筆頭に、韓国、台湾などの国々はなぜか、あまり金融緩和をしない傾向があります。それでも、日本では安倍内閣が成立した、2013年4月より金融緩和に踏切、その後はイールドカーブ・コントロールで控えめながらも、現在でも緩和を続けており、失業率は比較的低い状況を維持しています。それ以前は、金融引締を継続していました。

米国はもともと失業率が高いですが、それでも2021年の推計では、 5%台であり、若干高めの水準ではありますが、昨年末では4.2%(前月:4.6%、市場予想:4.5%)と前月から▲0.4%ポイント低下し、市場予想を上回る改善を示しました。(3%〜4%は米国では普通)

日台と米国とでは、明らかに政策の違いがあります。米国は一時高いインフレ率を許容し、中央銀行が量的緩和を拡大し、さらに政府もこれに呼応して積極財政を実施しました。これは、「高圧経済」といっても良い政策です。

「高圧経済論」とは潜在成長率を超える経済成長や完全雇用を下回る失業率といった経済の過熱状態を暫く容認することで、格差問題の改善も含めて量・質ともに雇用の本格改善を目指すというものです。

米国はこの高圧経済政策はコロナ禍に見舞われた後のトランプ政権時代から、さらにバイデン政権でも継続されました。バイデンはインフラ投資法案を成立させ、さらに大型予算「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)」を組もうとしましたが、議会に阻止されてしまいました。ただ、今年はまたこれに取り組むことでしょう。

日本や米国との対比からみると、台湾は失業率が3%台もしくはそれ以下になるまでは、金融緩和の余地が十分にあると思います。このあたりは、まともな台湾経済の専門家の意見を聞きたいものです。ただ、余地はあるとはいえると思います。

蔡英文総統の発言には気になるところがあります。それは、「インフレや住宅価格の高騰に対応し、実質所得の増加や生活水準の向上を図る」としている点です。

インフレは一般物価でみるものであり、住宅価格は個別物価であり、一般物価と個別物価を同一次元でみるべきではありません。インフレ・デフレの問題はあくまで一般物価をものさしにしなければなりません。実際現在の台湾のインフレ率は高いとはいえません。

日本では、一般物価をみないで、○○の物価が上がった、□□の物価が上がった、△△の物価も上がったなどと大騒ぎして、挙げ句の果に「スタグフレーションになる」と騒ぐ、マスコミや識者までいます。愚かとしか言いようがありません。

日本では、どちらかというと、デフレ気味ですか、住宅価格は人手不足で上がり続けています。住宅価格が高騰すると、家を購入することを諦めた人は、それを他の消費に振り向けるける傾向がみられようになります。そうなると、他の物価が上がりやすい傾向になります。

個別の物価だけ注目しても全体は見えてきません。だから、住宅価格だけで物価の全体の動向をみるのではなく、一般物価でみるべきなのです。台湾が現在の状況で金融引締などすると、景気が落ち込むことになるでしょう。

日本では、1990年代のバブル時代に日銀が土地・株価が高騰していることを理由に金融引締に転じてしまいました。そもそも、土地・株価は一般物価とは別ものです。しかも、その当時の一般物価をみてみると、決してバブルではなく、適正範囲内に収まっていました。

日銀があの時期に必要のない金融引締に転じたため、その後バブルは崩壊し、失われた20年という、日本はデフレから抜け出せない時代が続いたのです。日本国内では、なぜかあまり、そのことがあま理解されていませんが、台湾ではどうなのかと心配になってしまいます。

台湾にも、このような日本の過去の間違いを繰り返してほしくありません。韓国では、近年金融緩和をせずに、機械的に最低賃金だけをあげ、雇用が激減するという、考えられないような致命的なミスをし、その余波はまだ続いています。

台湾は、今後しばらくは、「高圧経済」を目指すべきです。その上で、失業率が下がらない状態が続けば、高圧経済をやめれば良いのです。それが、実質所得の増加や生活水準の向上を図る最大の近道です。今の段階で、金利を上げるとか、量的緩和をやめるとか、金融引締に転じるというようなことはすべきではありません。

経済が悪化すれば、国民の不満が鬱積しそれこそ中国に浸透されやすくなります。国民党が勢いを盛り返すことにもなりかねません。国内の経済の安定も安全保証上重要なのです。蔡英文政権で唯一懸念することといえば、このことです。もちろん、これは私が老婆心から言っているだけで、これが外れている可能性は高いかもしれません。

ただ、やはり蔡英文政権には、正しい経済政策をとって欲しいです。そうして、経済政策では煮えきらない、日本の岸田政権に手本を見せてほしいものです。そうして、日台首脳会談が開催されることにでもなれば、その手本について、人の話を聞く耳を持つ岸田総理に話していただきたいものです。無論、対中国政策についても然りです。

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2021年12月31日金曜日

バイデン氏正念場 ウクライナ侵攻許せば台湾は…―【私の論評】来年中国の台湾侵攻はなし、ロシアのウクライナ侵攻もその確率は低い(゚д゚)!

バイデン氏正念場 ウクライナ侵攻許せば台湾は…

12月30日、米デラウェア州の自宅で、ロシアのプーチン大統領と電話会談するバイデン米大統

 外交努力による緊張緩和か、重い代償を払う制裁か。12月30日の米露首脳会談で、バイデン米大統領はプーチン露大統領に〝二者択一〟を迫った。中国が威圧を強める台湾海峡と二正面の抑止作戦を強いられた超大国の苦悩は、2022年の不穏な世界の幕開けを印象付けた。

 「バイデン氏は2つの方向をプーチン氏に明示した」と米政府高官は語る。

 ウクライナ情勢の緊張緩和に導く外交の道筋。もうひとつは、ウクライナに軍を進めることでプーチン氏自らが選択する「深刻な代償と結果」を伴う制裁だ。いずれも「この先のロシアの行動次第」と高官は語るが、バイデン氏にも賭けであるのは間違いない。

 制裁は国際金融決済システムからロシアを締め出すもので、石油・天然ガス輸出に頼る露経済への打撃は甚大だ。「両国関係を完全な決裂に導く」と露側が反発したのは制裁を脅威と受け止めた証左とする見方も米側にはある。

 だが、現実にウクライナ侵攻を抑止できなければ、プーチン氏との神経戦は敗北に等しい。

 もうひとつの〝最前線〟で、中国の習近平政権はロシアの後を追うように、サイバー攻撃や世論工作などを駆使した〝ハイブリッド戦争〟と軍事侵攻の二段構えで台湾統一の機会を狙っている。ウクライナ情勢をめぐり1月に持ち越された米露高官協議の行方は、2月の北京冬季五輪以降の中国の出方にも影響を与える。昨年のアフガニスタンの混乱で傷ついたままの米国の威信が、決定的に試されるときが近づいている。

【私の論評】来年中国の台湾侵攻はなし、ロシアのウクライナ侵攻もその確率は低い(゚д゚)!

このブログでは、何度か述べてきたように、中国が台湾に武力進行するおそれはないでしょう。その理由の一つは、冷戦中にソ連が北海道に侵攻するなどと言われていましたが、それはありえないかったのと同じ理由です。

自衛隊は冷戦時代、音威子府(おといねっぷ)がソ連軍との決戦場になると思い定めていた

ソ連が崩壊してから今年で30年です。ソ連軍の戦略は以下のようものでした。
・戦略核兵器により、アメリカ、イギリスなどと対峙し、
・ソ連軍は、ワルシャワ条約機構軍を頼みとして、NATOと対峙する。
・太平洋と大西洋では、潜水艦隊が、アメリカの空母を狙い、アメリカの対潜部隊を、ソ連の対艦ミサイルが狙うというものでした。
そんな中、極東地域では、ソ連軍の、日本侵攻も噂されていました。というより、マスコミが煽りまくっていました。

さてソ連が北海道に侵攻するとなると、揚陸艦艇が必要になります。

当時のソ連海軍において、揚陸艦は、約90隻、192000トンでした。海上自衛隊の6隻、約10000トンの輸送艦で、陸自1個師団の半数の輸送能力しかないですから、これをもとに掲載んしてみるとどう見ても当時のソ連では、10万人の輸送能力しかなかったのです。

しかも、それが海軍の全力であるから、極東地域は、4万人が限度だったことでしょう。また、陸自の場合は、部隊の移動だけが輸送艦定数の計算対象で、その後の補給は別です。

しかしながら、敵地に侵攻する部隊は、補給線の確保は、必須課題です。そうして、敵前上陸に際しては、激しい抵抗線があります。

ミサイル艇や対艦ミサイル、空対艦ミサイルによる、反撃により、2割程度の犠牲は覚悟せねばなるないでしょう。また、冷戦時代から日本は米国の依頼もあって、オホーツク海において、対潜哨戒活動を行い、日米の潜水艦はソ連の潜水艦などの情報をつかみ、この封じ込めに成功していました。

そうなると、ソ連が日本に侵攻ということになれば、ソ連の艦艇は日米の攻撃を受けて、2割の程度の犠牲どころか、半分以上が撃沈されるおそれもありました。

ただ、当時のソ連軍には、空挺師団があり、戦車をも空挺できる事は考慮する必要が有るかもしれませんが、それでも海上輸送と比較すれば、さほど多くの兵員を送れるわけではありません。

空挺師団の役割は、後続の陸上部隊が到着することを前提として、ピンポイントで、橋頭堡を構築することなどが主任務です。後続部隊が来なければ、限られた戦力では持ちこたえられません。

当時一部でいわれた、カーフェリー揚陸艦論ですが、カーフェリーは、甲板強度を確保してあれば、戦車などの重量物の運搬は可能です。しかしながら、敵前揚陸は、本船から直接揚陸させる事が必要で、一般船舶のような船首では、上陸地点への進出は「座礁」であり、とても、貨物を戦力投入しうる物ではありません。

ただ、既に接岸揚陸中の艦艇に、ポンツーン(浮橋架設用の船)などを介して接舷するのであれば、不可能ではありません。但し、この作戦は、橋頭堡確保以降の後詰めであり、交戦中にその様な事をしていれば、直ちに敵に攻撃されることになります。

さて、このようにして、上陸を達成しうる部隊は、およそ5万人です。対する陸自は、北海道、北部方面隊と4個師団をあわせて、4万人。また、有事には、本土から1個師団が北方機動するので、更に増強が可能でした。

但し、この場合は、十分な準備期間が必要で、約2週間前に、察知している事が必要でしょうが、無論ソ連が北海道侵攻を目指すような大戦争を行うということになれば、それは、事前に必ず日本や米国に知られることになります。当時から監視衛星や、偵察機がありましたから、大きな動きはすぐに日米に察知されます。

当時のソ連軍が北海道に侵攻となると、日米が十分に準備を整えているところに侵攻することになります。第二次大戦中のような奇襲は不可能です。

地上軍の攻撃には、「攻者3倍の法側」と言うものがあります。これは、2対1で、完全相殺し、残る1で占領維持するということを意味します、

5万の攻撃部隊と、4万の守備隊。この辺でお分かり頂けると思いますが、国土の損害や、犠牲を別にしても、攻撃に踏み切るだけの兵力投入が、ソ連軍には出来なかったのです。

と言う図式から、北海道侵攻の脅威は、幻に過ぎなかったのです。そのようなことは当時からわかっていましたが、無論それでも当時は北海道にソ連の脅威にそなえて陸自、海自、空自ともに駐屯していました。これは、無論正規の軍隊が攻めてこれないにしても、決死覚悟のゲリラ部隊などが侵入してきた場合に備えるという意味合いもありました。

これと同じようなことが、現在の中国による台湾侵攻にもいえます。このあたりは、以前もこのブログに掲載したことがあるので、その記事のリンクを以下に掲載します。
中国軍改革で「統合作戦」態勢整う 防衛研報告―【私の論評】台湾に侵攻できない中国軍に、統合作戦は遂行できない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。
中国が台湾を武力統一しようとする場合、最終的には上陸侵攻し、台湾軍を撃破して占領する必要があります。来援する米軍とも戦わなければならないです。

その場合、中国は100万人規模の陸上兵力を発進させる必要があります。なぜなら台湾軍の突出した対艦戦闘能力を前に、上陸部隊の半分ほどが海の藻くずとなる可能性があるからです。

それに、昨日も述べたように、日米の潜水艦隊が台湾に加勢すると、上陸部隊のさらに半分が海の藻屑となります。これでは、台湾に到達する前に、全部隊が撃破されることになります。

日米が加勢しないとしても、100万人規模の陸上兵力を投入するためだけにでも5000万トンほどの海上輸送能力が必要となります。これは中国が持つ全船舶6000万トンに近い数字です。

台湾有事を気楽に語っている軍事評論家も忘れているようですが、旧ソ連軍の1個自動車化狙撃師団(定員1万3000人、車両3000両、戦車200両)と1週間分の弾薬、燃料、食料を船積みする場合、30万~50万トンの船腹量が必要だとされています。
旧ソ連軍の演習
船舶輸送は重量トンではなく容積トンで計算するからです。それをもとに概算すると、どんなに詰め込んでも、3000万トンの船舶が必要になります。

この海上輸送の計算式は、世界に共通するもので、中国も例外ではありません。むろん、来援する米軍機を加えると、中国側には上陸作戦に不可欠な台湾海峡上空の航空優勢を確保する能力もありません。

それだけではありません。軍事力が近代化するほど、それを支える軍事インフラが不可欠です、中国側にはデータ中継用の衛星や偵察衛星が決定的に不足しています。
中国側には台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる能力がなく、1度に100万人規模の上陸部隊が必要な台湾への上陸侵攻作戦についても、輸送する船舶が決定的に不足しており、1度に1万人しか出せないのです。そしてなによりも、データ中継用の人工衛星などの軍事インフラが未整備のままなのです。

こうした現実があることと、さらに米軍の強力な攻撃型原潜が台湾を包囲してしまえば、対潜戦闘能力(ASW)が劣る中国には、この包囲を突破できなくなります。仮に突破して、陸上部隊を上陸させたにしても、補給船や、航空機が攻撃型原潜に破壊され、補給ができなくなり、陸上部隊はお手上げになってしまいます。

このようなことを考えると、中国が台湾に侵攻することはないでしょう。侵攻すれば、侵攻部隊は大被害を受けて、しりぞかざるを得なくなり、人民解放軍の能力がどの程度のものなのか、世界中に知られてしまい、習近平は物笑いの種になり、当地の正当性を失うだけです。 

一方、現在のロシアにも、兵站に問題があり、ウクライナに侵攻するのは、かなり難しいです。現在も、それに将来もロシア人の多いウクライナのいくつかの州に侵攻できるだけです。ウクライナに侵攻して、ウクライナを併合するようなことはできません。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

ロシア軍、1万人以上撤収 南部のウクライナ国境―【私の論評】一人あたりGDPで韓国を大幅に下回り、兵站を鉄道に頼る現ロシアがウクライナを屈服させ、従わせるのは至難の業(゚д゚)!
7日、ウクライナ東部ドネツク州で、親ロシア派武装勢力との境界線付近を歩くウクライナ軍兵士


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、結局一人あたりGDPでは、韓国を大幅に下回る現在のロシアでは、そもそもウクライナ全土を併合するような大戦争はできません。それに、ロシア軍の兵站は鉄道に頼っているため、鉄道網が破壊されると、補給ができなくなるという致命的な欠陥があります。

それに、現在のロシアは、インフレの加速したため、中銀は金融引き締めの度合いを強めているほか、感染再拡大による影響も顕在化するなど、足下では幅広く企業マインドが下押しされるなど景気の悪化が懸念されています。

ロシアはワクチン開発国ながら国民の間に疑念がくすぶるなかでワクチン接種が進んでいません。プーチン大統領は国民にワクチン接種を呼び掛けるほか、事実上の接種義務化などの動きもみられますが、政府の旗振りにも国民は踊らされることはありませんでした。総選挙で与党は政権基盤を維持出来ましたが、国民の間には着実に政府に対する不満のマグマは溜まっているのは間違いないです。

この状況で、ウクライナに攻め込んでも、さらに経済が悪化するだけですし、クリミアのときのように国民からの支持が大きく伸びるということもないでしょう。私としては、プーチンは、米国の厳しい制裁を逃れたいので、その取引材料として、ウクライナを利用しているのではないかと思います。

実際プーチンは、バイデンと電話会談する機会を得ることができました。ウクライナ問題がなけば、このようなことはなかったでしょう。

以上中国の台湾への侵攻は、来年もないでしょう。現状に大きな変化がない限り、来年以降もないでしょう。

ロシアによるウクライナ侵攻もかなり確率が低いと思います。ただ、状況が悪化した場合、来年はドネツク州への侵攻はあるかもしれませんが、年明けすぐということはないでしょう。ただ、確率は低いです。

来年は、平和な年になっていただきたいものです。皆様本年中は、お世話になりました。良いお年をお迎えくださいませ。

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2021年12月30日木曜日

【独自】海自潜水艦に1000キロ射程ミサイル…敵基地攻撃能力の具体化で検討―【私の論評】日本の潜水艦隊は、長射程巡航ミサイルを搭載し、さらに戦略的要素を強めることになる(゚д゚)!

【独自】海自潜水艦に1000キロ射程ミサイル…敵基地攻撃能力の具体化で検討


 政府は、海上自衛隊の潜水艦に、地上の目標も攻撃可能な国産の長射程巡航ミサイルを搭載する方向で検討に入った。ミサイルは海中発射型とし、自衛目的で敵のミサイル発射基地などを破壊する「敵基地攻撃能力」を具体化する装備に位置づけられる見込みだ。

 複数の政府関係者が明らかにした。相手に発見されにくい潜水艦からの反撃能力を備えることで、日本への攻撃を思いとどまらせる抑止力の強化につなげる狙いがある。配備は2020年代後半以降の見通しだ。

 岸田首相は22年末に改定する安全保障政策の基本指針「国家安全保障戦略」に、「敵基地攻撃能力」の保有について明記することを目指している。保有に踏み切る場合、潜水艦発射型ミサイルは有力な反撃手段の一つとなる。

 搭載を検討しているのは、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」を基に新たに開発する長射程巡航ミサイル「スタンド・オフ・ミサイル」。射程は約1000キロ・メートルに及び、敵艦艇などに相手のミサイル射程圏外から反撃することを想定する。将来的には敵基地攻撃への活用も可能とみられている。

 スタンド・オフ・ミサイルは現在、航空機や水上艦からの発射を前提にしている。防衛省は22年度予算案に開発費393億円を盛り込んだ。

 潜水艦に搭載する場合、浮上せずに発射できるよう、垂直発射装置(VLS)を潜水艦に増設する方式や、既存の魚雷発射管から発射する方式などが検討されている。自衛隊は、スタンド・オフ・ミサイルより射程は短いが、魚雷発射管から発射する対艦ミサイルは既に保有している。

 中国は日本を射程に収める弾道ミサイルを多数保有するほか、近年、日本周辺海域や南・東シナ海で空母を含む艦隊の活動を活発化させ、軍事的挑発を強めている。北朝鮮も核・ミサイル開発を進めている。

 日本を侵略しようとする国にとっては、先制攻撃で自衛隊の航空機や水上艦隊に大打撃を与えても、どこに潜むか分からない潜水艦から反撃される可能性が残るのであれば、日本を攻撃しにくくなる。

 自衛隊の潜水艦は現在21隻体制で、航続性能や敵に気付かれずに潜航する静粛性などに優れ、世界最高水準の技術を誇る。

 政府はこの潜水艦の能力を生かし、弾道ミサイルによる攻撃や、艦隊などによる日本の島嶼(とうしょ)部への侵略を防ぎたい考えだ。

【私の論評】日本の潜水艦隊は、長射程巡航ミサイルを搭載し、さらに戦略的要素を強めることになる(゚д゚)!

このニュースを、ロシアのメディア「スプートニク」は、素早く報道しています。
日本政府、海自潜水艦に国産の長距離巡航ミサイルを搭載する方向で検討=読売新聞

やはり、このニュースはロシアも相当気になるということなのでしょう。無論中国も気にしていることでしょう。北朝鮮も気にしているでしょう。

上の記事でも「自衛隊の潜水艦は現在21隻体制で、航続性能や敵に気付かれずに潜航する静粛性などに優れ、世界最高水準の技術を誇る」と記載されてますが、これはこのブログでも過去に何度か掲載してきたように事実です。

航続性能については、軍事秘密なのではっきりしたことは公表されていませんが、最新鋭潜水艦では最長で2週間をはるかに超える潜水が可能とされています。

特に静寂性(ステルス性)については、最新型のリチウムイオンバッテリーを駆動力に用いる潜水艦では、ほとんど無音に近いです。ただ、古い型の潜水艦でも日本の現役の潜水艦はすべて静寂性にはかなり優れています。これを中露海軍が探知するのは難しいです。

さらに、日本の自衛隊の潜水艦探知能力は、米国とならんでトップクラスであり、中露をはるかにしのぎます。

その日本の潜水艦が、米国の攻撃型原潜に劣るのは、航続性能や攻撃力ですが、その攻撃力が「スタンド・オフ・ミサイル」を装備したとなると、これは米国の攻撃型原潜に近い性能を有することになります。

新型巡航ミサイルの原型となる地対艦誘導弾システム:12式地対艦誘導弾(12SSM)

日本は、米中露のように、戦略原潜のような戦略兵器は持っていませんが、日本の潜水艦が「スタンド・オフ・ミサイル」を装備すれば、今までも戦略的だったのですが、より戦略兵器に近づくことになります。

日本では、三菱重工が地上、戦闘機、艦艇のいずれからも発射できる射程距離1000キロを(1000〜1500km)超える巡航ミサイルを開発中で。開発費は約1000億円で、地上配備型は2025年、艦艇搭載型は2026年、戦闘機搭載型は2028年までに配備を完了する計画だとされています。

そうして、今回はさらに、潜水艦に、地上の目標も攻撃可能な国産の長射程巡航ミサイルを搭載することを検討し始めたのですから、中露・北朝鮮なども心穏やかではないでしょう。

ちなみに1000キロとはどの程度の距離なのか、以下に地図を掲載します。


この地図をご覧になれば、わかるように1000キロだと、東京から打っても、北朝鮮には届きませんが、日本の潜水艦は北や中国には探知できないので、潜水艦で近づいて発射すれば、日本の領海内からでも、北京や平壌に届きます。

いまのところ、目立った反論などはありませんが、この計画が進行するにつれて、中露・北朝鮮の反発が強まることになることでしょう。どの程度の反発を示すのか今から楽しみです。反発が激しければ、激しいほど日本の戦略を恐れているということなると思います。

そうして、これは無論、日本にとっては良いことだと思います。運用の仕方によっては、東アジアの軍事バランスに大きな影響を与えることになるでしょう。無論、日本にとって良い方向にです。

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