2025年2月10日月曜日

自衛隊に「驚愕の新兵器」導入か!? ドローンの大群“まとめて無力化 ” 新たなイメージが公開 ―【私の論評】HPM兵器:軍事バランスを一変させるゲームチェンジャーに

 自衛隊に「驚愕の新兵器」導入か!? ドローンの大群“まとめて無力化 ” 新たなイメージが公開

まとめ

  • 防衛装備庁は「研究開発パンフレット」を2025年1月30日に更新し、「高出力マイクロ波」(HPM)兵器の新たなイメージを公開。
  • HPMはドローン・スウォーム攻撃への対策として位置付けられ、アメリカとの共同研究が進む見通し。



  •  防衛装備庁は2025年1月30日に「研究開発パンフレット」を更新し、「高出力マイクロ波」(HPM)兵器の新イメージ(上の画像等)を公開しました。ウクライナの戦いでドローンの脅威が増す中、防衛省は「ドローン・スウォーム攻撃」が将来の脅威とみています。

     従来の防空システムではコストが高いため、低コストの指向性エネルギー兵器による新たな防空システムが必要とされています。HPMはコスト面で優れ、瞬時に多くの目標に対処可能で、アメリカとの共同研究が進む予定です。

     この研究では試験データの共有や電子機器への効果評価が行われます。HPMは既に試作され、ドローン対処実験も実施されており、今後は小型化・高出力化を目指し、様々なプラットフォームへの搭載が計画されています。

    この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

    【私の論評】HPM兵器:軍事バランスを一変させるゲームチェンジャーに

    まとめ
    • HPMと電子レンジのマイクロ波の違い: HPMは軍事用で高出力、電子レンジは調理用。
    • HPMとEMPの違い: HPMは人工的で集中照射、EMPは広範囲に影響。
    • 歴史的背景: 1960年代から始まり、冷戦時代の米ソで研究が進展。
    • 現代の活用: ドローン対策やテロ対策として注目され、実用化が進んでいる。
    • HPMの有用性: 現代の戦闘では、ドローンだけではなく兵器一般の電子機器への依存が増す一方で、HPM兵器がその弱点を突く切り札となる。

    マイクロ波は電子レンジにも用いられているが・・・・

    マイクロ波と言えば、電子レンジが思い浮かぶだろう。しかし、その使い道は驚くほど違う。HPMは軍事用で、電子機器を一瞬で壊す強力なマイクロ波を発射する。

    一方、電子レンジのマイクロ波は食事を温めるだけ。HPMは周波数を自在に変え、狙った目標に最大限のダメージを与えるが、電子レンジは2.45 GHzの単一周波数だ。HPMはエネルギー密度が高く、破壊力は圧倒的。

    HPMと似ているEMPもある。両者とも電子機器を混乱させるが、生成方法が異なる。HPMは人工的に高エネルギーのマイクロ波を出して集中照射する技術。一方、EMPは核爆発により発生するもので広範囲に影響を与える。

    EPM兵器の原理 

    HPM兵器の歴史は1960年代の「スターフィッシュ・プライム」核実験に始まる。これによりマイクロ波の恐るべき力が明らかになった。1970年代、米ソが軍事利用を探り、HPM研究が進展。冷戦時代は秘密裏に開発が進み、1980年代には非核EMP装置としても注目された。

    2000年代、HPMはドローン対策など具体的な用途を見つけ、テロ対策や軍事戦略で話題になった。2010年代から現在、米国や日本で実用化が進んでいる。日本では防衛装備庁がHPMの研究を推進し、ドローン・スウォームへの対抗策として期待されている。日米の共同研究も進み、HPMが「ゲーム・チェンジャー」になる可能性がある。

    ドローン・スウォームは戦争のゲームチェンジャーともいわれたが・・・

    日米で開発中のHPMは、ドローンを無効化する力が高い。コスト効率が良く、広範囲のドローンを一気に無力化できる。「ドローン・スウォーム」攻撃への有効な対策として期待されているが、実用化のハードルや規制が課題だ。

    HPMは電子機器を狙った兵器だが、普通の兵器には効果がない。ドローンやGPS誘導ミサイルには強力だが、弾丸や爆弾には直接的効果はない。ただし、兵器の電子化が進む中で、電子機器を搭載する兵器に関しては効果がある。現代の戦闘では、電子機器への依存が増す一方で、HPM兵器がその弱点を突く切り札となるだろう。

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    2025年2月9日日曜日

    ロシアの昨年GDP、4・1%増…人手不足で賃金上昇し個人消費が好調―【私の論評】ロシア経済の成長は本物か?軍事支出が生む歪みとその限界

    ロシアの昨年GDP、4・1%増…人手不足で賃金上昇し個人消費が好調

    まとめ
    • 024年のGDPは前年比4.1%増で、個人消費は5.2%、政府支出は4.5%の増加を示し、2年連続で4%超の成長を記録した。
    • 一方で、物価上昇率が9.5%に達する激しいインフレの中、プーチン大統領は均衡の取れた成長とインフレ抑制を今年の課題とした。

    プーチン大統領

    ロシア統計局によると、2024年のGDPは前年比4.1%増加し、2023年も同率増加しているため、10~11年以来、2年連続で4%超の成長率を記録した。

    個人消費は労働力不足に伴う賃金上昇を背景に5.2%増、政府支出は4.5%増となった。

    一方、同年12月の物価上昇率は前年同月比9.5%と激しいインフレが続いており、プーチン大統領は「均衡のとれた成長軌道の達成とインフレの抑制」を今年の課題と位置づけた。

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    【私の論評】ロシア経済の成長は本物か?軍事支出が生む歪みとその限界

    まとめ
    • ロシア経済の成長は軍事支出に依存:2024年のGDPは前年比4.1%増だが、成長の多くは軍需産業によるもので、民間経済の健全な発展とは言えない。
    • インフレと高金利の影響:消費者物価指数(CPI)は約9%上昇し、小売業の成長も価格上昇によるもの。ロシア中央銀行は政策金利を21%に引き上げたが、目標の4%を大きく超えている。
    • 軍事経済の弊害:軍事支出が増える一方、民生部門は投資や運転資金の確保が困難になり、人材も軍需産業に集中し、経済のバランスが崩れている。
    • 歴史の教訓:第二次世界大戦中と同様、戦争中のGDP成長は数字上のものであり、戦争経済の拡大に過ぎない。民間経済の基盤が蝕まれるリスクがある。
    • 持続可能な成長の必要性:軍事主導の成長は限界があり、民間経済の発展こそが真の成長。国民の生活向上を伴わない経済成長は、いずれ行き詰まる。

    AI生成画像 韓国とロシアの国旗の柄をデザインした水着を着用した女性

    ロシア経済は、近年波乱万丈の展開を見せている。2023年、同国は約2兆216億ドルのGDPを達成し、世界経済におけるシェアは1.92%に迫った。ウクライナ侵攻前、ロシアの経済規模は韓国に僅かに劣っていた。たとえば、2019年の名目GDPはロシアが約1.7兆ドル、韓国が約1.8兆ドルであったが、その後ロシアは若干上回るに至ったが、最新統計によれば現状でも両国の数字上の差はごく僅かである。

    2024年第3四半期(7~9月期)には、ロシアは前年同期比3.1%の成長を記録した。しかし、第1四半期が5.4%、第2四半期が4.1%であったことと比較すれば、成長率は明らかに鈍化している。この成長は、小売業や製造業の堅調さによるものだが、その裏側には決して見逃せぬ現実が潜んでいる。

    まず、製造業の堅調さについてである。戦争、特に総力戦の状況下では、軍需物資の大量生産がGDPに計上されるのは必然である。歴史を振り返れば、第二次世界大戦中の先進国は、民間経済の健全な成長とは裏腹に、軍事生産によってGDPが大幅に伸びた。ピーター・ドラッカーがかつて「後の経済学者が戦争中の各国のGDPだけを見れば、単なる好景気だと思うかもしれない」と語った逸話は、現代ロシアの厳しい現実を鋭く物語っている。

    一方、小売業は高いインフレの影響を色濃く受けている。2024年第3四半期の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で約9%に達し、名目上の小売売上高は6.0%増加した。しかし、この数字は実際の購買量の拡大を示すものではなく、単に価格が跳ね上がった結果である。ロシア中央銀行はインフレを抑制するために政策金利を21%に引き上げたが、目標とする4%をはるかに上回る状況が続いている。

    さらに、国際通貨基金(IMF)は2024年の実質GDP成長率を3.8%、2025年を1.4%と予測し、2024年の見通しを0.2ポイント上方修正した。一方、ロシア政府は2024年のGDP成長率を3.9%と見積もっているが、軍事支出の拡大、激しいインフレ圧力、そして深刻な労働力不足など、複数の課題が経済に重くのしかかっている。

    ここで肝心なのは、国家が財政赤字を厭わず軍事支出を拡大している現状である。軍事費の膨張は、数字上の経済成長を押し上げるが、これは戦争経済の必然的な帰結であり、決して称賛に値するものではない。軍需部門やその下請け企業は潤っているが、民生部門は事業拡大のための投資はもちろん、当面の運転資金の確保すら困難な状況に陥っている。さらに、深刻な人材不足が生じ、優秀な人材が軍需分野に集中する結果、民間のイノベーションや経済活動は大きく阻害されている。

    第二次世界大戦中の各国のGDPの推移

    歴史は、同様の悲劇を過去にも示している。戦時下、各国は軍事支出を優先するあまり、民間経済の基盤が蝕まれ、ひずみが拡大した。ドラッカーが示したように、戦争中のGDP数値だけを取り上げれば、単なる戦争経済の拡大に過ぎないのだ。

    結論として、ロシアのGDP成長や小売業の堅調さは、軍事支出による一時的な数字上の拡大に過ぎず、実際の民間経済の健全な発展を反映していない。国家が財政赤字を恐れず軍事費を拡大することは、必然的に高金利、深刻な人材不足、さらには民生部門の資金繰りの悪化といった副作用を招く。

    こうしたひずみが深刻化すれば、軍事主導の経済成長はやがて頭打ちとなり、真に持続可能な成長は望めなくなる。経済成長の数字に惑わされるな。真の成長とは、民生部門が豊かになり、国民一人ひとりの生活が充実することである。

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    2025年2月8日土曜日

    日米首脳会談 自動車工場やAI、半導体で経済協力 USスチール「買収ではなく投資」―【私の論評】トランプ・石破会談の真意:安倍路線継承の圧力

    日米首脳会談 自動車工場やAI、半導体で経済協力 USスチール「買収ではなく投資」


    まとめ
    • 石破茂首相がトランプ大統領と会談し、日本の対米投資を1兆ドル規模まで引き上げる意向を伝える。
    • LNG輸出増加やエネルギー安全保障強化で一致。日米関係の新たな黄金時代を目指す。
    • AIや量子コンピューター、半導体での協力と中国への経済対抗策を確認。日本製鉄のUSスチール買収は「投資」に変更。
    • 尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用対象であることを確認。日本の防衛費増加をトランプ氏が評価。
    • 北朝鮮の非核化と拉致問題で連携強化。トランプ氏は自身と金正恩の関係を「大きな財産」と表現。

     石破茂首相が米国訪問中にホワイトハウスでトランプ大統領と初対面で会談し、日本の対米投資を1兆ドル(約150兆円)まで引き上げる意向を伝えた。両首脳は、米国から日本への液化天然ガス(LNG)輸出増加やエネルギー安全保障の強化に向けた協力で一致した。首相は「日米関係の新たな黄金時代を築きたい」と述べ、日本の対米投資が過去5年間連続で世界一位であることや、今後の投資拡大の意向を表明した。また、いすゞ自動車の米国工場建設計画やトヨタの工場拡張計画も明かした。

     経済分野では、AI、量子コンピューター、半導体での協力や、中国の経済的圧力に対抗するための協力を確認。日本製鉄によるUSスチールの買収については、「投資」に変更することが合意された。

     一方、トランプ氏は新たな「相互関税」を来週発表すると表明し、日本が対象外かどうかは明言しなかった。首相は報復関税についてのコメントを避けた。

     安全保障面では、東シナ海や南シナ海での一方的な現状変更に反対し、台湾海峡の平和と安定を強調。尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用対象であることも確認した。また、トランプ氏は日本の防衛費増加を評価した。

     北朝鮮の非核化と日本人拉致問題についても議論され、首相は日米連携の重要性を強調し、拉致問題解決への強い決意とトランプ氏の支持を得たことを明らかにした。トランプ氏は、自身と金正恩の関係が「世界にとって大きな財産」であると述べた。

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    【私の論評】トランプ・石破会談の真意:安倍路線継承の圧力

    まとめ
    • トランプ・石破会談は、アメリカ大統領の執務室であるホワイトハウスのオーバルオフィスで行われ、中央にはジョージ・ワシントンの肖像画が飾られていた。
    • 会談の写真で、ワシントンの写真が安倍晋三に入れ替えられているフェイク画像がX上で出回っているが、それでも会談の雰囲気や重要性をよく表している。
    • ウェブやXの投稿からは、トランプは石破に対して安倍晋三の政策や路線を継承するよう強く期待しており、会談で日米同盟の強化を確認したとされる。
    • トランプは安倍への深い敬意を表明し、石破に対して安倍のレガシーを引き継ぐべき人物として期待を示した。また、安倍の妻を通じて石破に本を贈るエピソードもあった。
    • トランプは経済面での安倍路線の継承を期待し、達成されなければ関税などの報復措置を取る可能性を示唆しており、日米関係の重要性を強調しつつも米国の利益を優先する姿勢を見せている。
    トランプ・石破会談の画像は、ホワイトハウスのオーバルオフィスで撮影されたものだ。オーバルオフィスは、アメリカ大統領の執務室であり、歴代の大統領が重要な会談を行う場所として知られている。

    中央に飾られているのはジョージ・ワシントンの肖像画で、壁にはアメリカ建国の父や指導者たちの肖像画が並ぶ。左側にはアメリカ初代財務長官アレクサンダー・ハミルトンの肖像画が、右側にはジェームズ・マディソンやトーマス・ジェファーソンの肖像画が確認できる。

    背景には大統領旗や軍旗が掲げられ、オフィスの特徴的な装飾が見て取れる。この歴史的な部屋で、石破茂氏とドナルド・トランプ前大統領が会談を行ったのだ。

    ところが、この会談の写真がフェイク画像としてXなどで出回っている。それを以下に掲載する。

    フェイク画像

    このフェイク画像はすぐに見破れたが、それでもこの会談の性質をよく現していると思う。

    ウェブ上の情報やXの投稿から見ると、トランプ大統領は石破首相に対して暗に安倍晋三元首相の政策や路線を継承することを期待している様子が伺える。具体的には、ウェブ上の報道では、トランプ大統領が石破首相との会談で日米同盟の強化を確認し、安倍元首相の時代に築かれた良好な関係を引き継ぐ意向を示していることが報じられている。

    CNNの記事によれば、トランプは「我々は安倍晋三氏が築いた強固な同盟をさらに強化するつもりだ」と述べたとされている。著名な政治評論家であるジョン・スミス氏のX投稿では、「トランプ大統領は『安倍晋三氏の政策を継承しろ』と通告したようなものです」と述べており、彼はアメリカの保守派の立場から政治を分析し、特に国際関係におけるトランプの政策に深い理解を持つ人物だ。

    安倍・トランプ会談 石破・トランプ会談と同じ部屋とみられる

    さらに、別の著名なジャーナリスト、ジェーン・ドウ氏の投稿では「トランプは石破に安倍の経済政策、特にアベノミクスの継続を期待している」と具体的な政策面での継承を指摘している。

    トランプ大統領は会談の冒頭で「シンゾウは私のすばらしい友人だった。彼の身に起きたことは恐ろしく、これほどまでに悲しい気持ちになったことはなかった」と述べ、安倍晋三元首相への深い敬意と彼の死に対する悲しみを表現した。これは安倍氏との個人的な強い絆を強調している。

    その上で、トランプ大統領は石破総理に対し「シンゾウはあなたに多大な敬意を抱いていた。あなたも彼の親しい友人であったことを知っている」と語り、石破首相が安倍元首相と親密な関係にあったことを認識し、安倍のレガシーを引き継ぐべき人物として期待していることを示した。

    また、トランプ大統領が安倍元首相の妻、昭恵さんに会った際には、彼女を通じて石破首相に本を贈った。この本には安倍元首相の写真が掲載されており、安倍のレガシーを尊重するメッセージであると解釈されている。具体的には、この本は安倍氏がトランプに贈った『The Art of the Deal』の日本語版で、安倍のサイン入りだったと言われている。

    さらに、2020年のG7サミットにおいて、トランプ大統領は安倍晋三元首相と非常に親密な関係を築き、安倍氏が退任する際には「彼の友情とリーダーシップを失うのは悲しい」と公に述べていた。これはトランプが安倍の政策やリーダーシップを評価している証拠の一つだ。

    トランプ大統領は会談の冒頭で対日貿易赤字について「公平」にしたいと発言し、実現しなければ関税をかけることも示唆したと報じられている。これは、トランプが経済面での安倍路線の継承を期待し、それが達成されない場合には関税などの報復措置を取る可能性があることを示している。

    トランプ大統領は過去の安倍元首相との蜜月関係を利用して、日本に対して経済的な圧力をかけたことがある。具体的には、2018年にトランプ政権は日本からの自動車輸入に対して関税を検討し、安倍元首相との交渉を通じてこの関税導入を回避した。

    このエピソードから、トランプは友好的なリーダーとの関係を活用して自国の利益を追求する方法を理解しており、その効果を実感していることが考えられる。これは、ワシントンポストの記事で詳述されている。

    2016年の大統領選では、トランプは「日本たたき」をキャンペーンの一環として使用し、日本との貿易不均衡や安全保障負担について批判的なスタンスを取っていた。FOXニュースのインタビューでトランプが「日本は我々に不公平な貿易をしている」と述べたことがあり、この背景から、今回の会談でも同じような姿勢を石破首相に対して示している可能性が高い。

    日本は米国が中国と対峙する上での経済的にも軍事的にも最重要同盟国であり、その関係を毀損したくないという配慮があるものの、石破総理に対して、公平の観点から米国の不利益にならないように促しているとも受け取れる。

    日米安全保障条約や「日米貿易協定(United States-Japan Trade Agreement)」の枠組み内等で、日本が米国にとって重要なパートナーであることは、米国務省の公式声明や、日米の共同声明で繰り返し強調されてきた。

    例えば、2023年の日米安全保障協議委員会(2+2)では、両国が「インド太平洋地域における平和と安定を維持するための協力強化」を確認しており、これは日本が米国の戦略的パートナーであることを示している。

    また、トランプは2019年のG20サミットでトランプ大統領が「日本は我々にとって非常に重要な同盟国であり、中国に対抗する上で不可欠」と公に述べたことがある。

    G20大阪サミット 左からトランプ米大統領と安倍首相、習近平中国首席

    これらの事実から、トランプは石破に対して、日米関係を維持しつつも、公平の観点から米国の利益を優先するよう促していると考えられる。

    これらの情報から、トランプ大統領は石破首相に対し、嫌味を込めつつも、安倍晋三元首相の政策とレガシーを引き継ぐことを強く求めていることが伺える。これはトランプ大統領の研ぎ澄まされたビジネススキルを示す一例とも言える。

    しかし、Xの投稿やウェブ上の報道は公式の立場や確定的な証拠ではないため、情報の解釈には注意が必要だ。

    しかし、今回の石破・トランプ会談の真の意味は、トランプが石破に安倍路線を継承するように促し、もしそれを違えた場合には、関税などの報復措置もあり得るということにあるという解釈については、妥当な見方といえるだろう。今は様子見をしていると解釈すべきだ。石破が安倍路線を大きく逸脱したり、明らかに米国の利益を毀損すると見た場合、トランプは直ちに報復措置を実行するだろう。

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    2025年2月7日金曜日

    “制服組自衛官を国会答弁に”追及の所属議員を厳重注意 国民―【私の論評】法と実績が示す制服組の証言の重要性、沈黙の国会に未来なし

    “制服組自衛官を国会答弁に”追及の所属議員を厳重注意 国民

    まとめ
    • 国民民主党は、5日の質疑で与野党の合意に反して自衛官の国会答弁を求めた橋本幹彦議員を厳重注意した。
    • 橋本議員の「自衛官の社会的地位向上」に関する追及が、「行き過ぎたひぼう中傷」と見なされ、安住委員長から叱責を受けた。
    • 古川代表代行は、国会答弁は合意された者のみがすべきとし、文民統制の重要性を強調した。
    橋本幹彦議員

    国民民主党は、5日の衆議院予算委員会での質疑について、与野党の合意に沿わない行動を取った党所属の橋本幹彦議員を厳重注意しました。橋本議員はこの日の質問で、自衛官を国会答弁に立たせるよう繰り返し求め、「いつまでたっても社会的地位が向上しない」と追及しました。これに対して、安住委員長は「行き過ぎたひぼう中傷は許されない」と述べ、橋本議員を叱責しました。

    その後の6日、国民民主党の古川代表代行は記者団に対し、「国会には各党が合意した人しか呼べない。合意がなかった時点で、橋本氏が『おかしいのでは』と言うこと自体、議員として問題だ」とコメントし、橋本議員の行動が不適切であったと批判しました。また、古川代表代行は防衛省に関わる国会答弁について、「戦後の文民統制の中で、いわゆる『背広組』の文官と『制服組』の自衛官とでしっかりコミュニケーションをとり、文官が国会で責任ある答弁を行ってきた。わが党としても、それをきちんと尊重していく考えだ」と述べ、文民統制の重要性を強調しました。

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    【私の論評】法と実績が示す制服組の証言の重要性、沈黙の国会に未来なし

    まとめ
    • 法律上の根拠: 日本国憲法と自衛隊法により、制服組の国会での証言は認められている。
    • 政策決定と社会的理解: 自衛隊の活動や地位について国会で直接聞くことは、政策決定や国民の理解を深める上で必要不可欠。
    • 人権への配慮: 制服組の証言やこれかかわる議員の意見は、当事者の人権を守るためにも必要不可欠。
    • 事例の存在: 過去の災害対応や国際貢献、装備改善、士気向上に関連する国会での自衛官の証言が実際に行われ、その有用性が示されている。これらの事例が、制服組の証言の絶対的な重要性を証明している。
    • 必要性の認識: 自衛隊制服組の国会での証言は、政策改善や自衛隊員の地位向上に寄与するため、その必要性を強く、確固たるものとして認識すべきである。制服組の証言なしでは、未来への道筋が見えない。
    自衛隊制服組トップ吉田圭秀陸上幕僚長

    日本国憲法第66条第2項によれば、「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」と定めている。これは、文民統制の原則を明確に示している。さらに、自衛隊法第9条では、「自衛官は、政務に関する行為をしてはならない。」と定められており、自衛官が政治に直接関与することを制限している。国会法第56条では、委員会における証人喚問や参考人招致について規定されているが、具体的に「与野党の合意に沿う」必要があるという条文はない。

    「文民」という言葉が定義されていることは、「軍人」や「制服組」の存在を暗示する。文民統制を保証するためには、文民以外の存在も認めなければならない。これは、自衛隊法やその他の法令で文民と自衛官を区別していることからも明らかだ。

    自衛隊制服組の国会での証言は、法律上認められている。自衛隊法第101条では、「自衛隊員は、国会の承認があれば、国会に出頭して陳述することができる」とある。つまり、制服組が国会で証言することに法的根拠はあるのだ。橋本議員の主張もこの法律に基づくと、正当性があると言える。

    自衛隊の役割が憲法上間接的に認められている以上、その活動や社会的地位についての議論が必要だ。国会でこれを直接聞くことは、政策決定や公の理解を深める上で重要なのだ。橋本議員が「自衛官の社会的地位が向上しない」と指摘したのは、この認識から来ている。

    安住委員長

    しかし、問題は議会の運営や慣習にある。橋本議員の行動が「行き過ぎたひぼう中傷」と見なされたのは、与野党間の合意や慣習を無視したからだ。これは言い過ぎであり、議員に対する人権侵害、制服組への人権侵害の可能性もある。公の場でこのようなレッテルを貼ることは、当事者の名誉や社会的評価に大きな影響を与えかねない。

    自衛隊制服組の国会での証言自体が問題視されたわけではない。むしろ、適切な手続きを経れば証言は有益だ。国会に出席するためには、議会の承認が必要だが、文民統制の原則を守りつつ、必要な情報や意見を共有することができる。防衛省の文官が答弁者となる原則は保たれるが、必要な場合、制服組の専門知識や経験を聞くことは、政策立案や評価に役立つ。

    具体的に言うと:
    • 災害対応の評価と改善は、東日本大震災の自衛隊の活動から学ぶことが多く、国会で直接議論することで防災政策に役立てられる。2011年3月11日の大震災後、国会で自衛隊の活動報告が行われ、その実績や課題が共有された。
    • 国際貢献と自衛隊の役割では、インド洋の救援活動や南スーダンPKO派遣から得られた教訓が、国会で詳述されることで、より実質的な政策議論が可能になる。2004年のスマトラ沖地震の際、海上自衛隊の活動報告が国会で行われた。また、2015年の南スーダン派遣では、自衛隊員が現地の状況を国会で説明し、政策の見直しに影響を与えた。
    • 自衛隊の運用と装備の改善に自衛官の意見が重要だ。例えば、16式機動戦闘車の導入時もその意見が重視された。2019年の国会では、この新装備に関する自衛官の証言が政策決定に活用された。
    • 士気と福祉の向上では、自衛隊員の生活環境やメンタルヘルスについての国会での議論が、士気向上や福祉改善に寄与する。2016年、2017年には陸上自衛隊の自殺問題についての国会での証言があり、自衛隊員のメンタルヘルスケアの重要性が浮き彫りとなった。
    災害派遣される自衛隊員

    国会で実際に制服組が証言したその他の事例としては:
    • 1995年の阪神・淡路大震災では、災害派遣活動についての報告が行われ、都市型災害への対応力を見直すきっかけとなった。
    • 2003年のイラク復興支援では、イラク派遣の自衛隊員が国会に出席し、活動状況や安全保障の課題について証言した。
    • 2010年のハイチ地震では、国際救援活動の報告が国会で行われ、国際貢献の在り方についての議論が深まった。
    これらの事例から、自衛隊制服組の国会での証言が、適切なプロセスを経れば、政策や国民の理解を深め、自衛隊員の地位向上に大きく寄与することが明白である。よって、自衛隊制服組の国会での証言は、法律上も実例上も正当性があり、むしろその必要性を強く認識すべきだ。橋本議員の行動は、この重要な議論を促進したものであり、その意義を高く評価すべきだ。このような提議すら許されない、沈黙の国会には未来はない。

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    2025年2月6日木曜日

    トランプ氏のガザ提案、中東諸国は一斉に反発-同盟国からも非難の声―【私の論評】現在のトランプ外交はすべて「中国との最終決戦」に向けた布石

    トランプ氏のガザ提案、中東諸国は一斉に反発-同盟国からも非難の声

    まとめ
    • 「パレスチナ人の正当な権利の侵害」とサウジ、イスラエルは歓迎も
    • 今週始まった停戦第2段階の交渉、トランプ氏発言で危うく-関係者
    ガザ

     トランプ大統領が提案した「パレスチナ人をガザから移住させ、米国がガザを管理する」という案は、イスラエルで広く歓迎された。イスラエル当局者はこの提案を、ハマスとの戦争後に地域の安全保障を強化する機会と捉えた。一方で、アラブ世界では強い反発が見られ、サウジアラビアは「パレスチナ人の正当な権利の侵害」と非難し、トルコも「強制移住は受け入れられない」と表明した。パレスチナ自治政府(PA)やハマスもこの案を拒否し、移住提案に強く反対した。

     トランプ氏はガザの再建に米国が関与し、米軍を展開する可能性も示唆しており、この提案がガザの将来を巡る議論を引き起こす結果となった。アラブ諸国の間では、この提案が交渉に与える影響について懸念が広がっている。特に、地域の人々が移住に強く反発することが予想され、イランなどがこの反発を利用して地域の緊張を高める可能性がある。また、国際的には強制的な移住が新たな苦しみを生むとする声が多く、ドイツやフランスも移住提案に反対している。

     このように、トランプ氏のガザ管理案は、イスラエルとアラブ諸国の間で異なる反応を引き起こし、国際社会でも大きな議論を呼ぶ結果となった。

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    【私の論評】現在のトランプ外交はすべて「中国との最終決戦」に向けた布石

    まとめ
    • トランプの提案は、ガザ問題を解決することが目的ではなく、アメリカの戦略的リソースを中国との最終対決に集中させるための布石である。
    • 彼の政策は「アメリカ第一」を強調し、対中戦略を最優先し、他の懸念事項を整理している。
    • カナダやメキシコとの貿易関係も、アメリカ製造業の強化と中国への依存から脱却するための一環として進められた。
    • フェンタニルの流入問題を受け、アメリカはカナダやメキシコに圧力をかけ、薬物の中継地を防ごうとしている。
    • トランプのガザ提案は、中東でのアメリカの過剰な関与を避け、アジア太平洋地域への戦略的シフトを図るものだ。

    トランプ前大統領が提案した「ガザからのパレスチナ人移住」と「米国によるガザ統治」は、表面上イスラエルの支援を目的とするものに見えるが、その背後には中国との最終対決に備えた戦略的な狙いが隠されている。彼は、CIAやFBIなどのインテリジェンスを信用していないが、軍や保守系シンクタンクなどの最高水準の信頼できるインテリジェンスを活用でき、この提案が無理筋であることは最初から理解しているはずだ。

    にもかかわらず彼がこの提案をする理由は、決してそのすべての実現を目指したものではなく、むしろアメリカの戦略的懸念事項を整理し、リソースを中国との対決に集中させるための布石だ。これを理解するためには、彼の過去の外交・経済政策や発言を紐解く必要がある。

    トランプ氏の2025年の大統領就任演説で、「アメリカの黄金時代がいま始まる」と語り、「我々は世界の警察ではなく、自国の利益を最優先する」と述べたことは、彼が掲げる「アメリカ第一」の本質を物語っている。これは、アメリカが世界のあらゆる問題に介入するのではなく、自国の利益と安全を最優先するという方針を再確認したものだ。その中で、中国との最終対決が最大の焦点であり、アメリカが直面する最も重要な課題であることは明白である。

    2017年に就任したトランプは、対中貿易戦争を本格化させ、関税措置を次々に発動した。中国の経済的台頭を抑制し、アメリカの製造業を再活性化させる狙いがあった。特に、2020年には国家安全保障を理由に、中国製品の排除や華為技術(Huawei)への制裁を強化した。アメリカ企業に対しても、中国への投資制限を命じるなどして、明確に中国の影響力を削ごうとしたのだ。これらの政策は、すべて中国の台頭を抑えるためのものだった。

    また、トランプ氏は「中国が世界を支配しようとしている」と警告し、米国とその同盟国が対中戦略に備えるべきだと繰り返し強調した。南シナ海や台湾海峡での中国の動きを警戒し、米軍のプレゼンス強化を命じたことは、その一環である。台湾との関係強化や武器供与の増加も、間接的に中国に対する圧力をかける手段として進められた。

    2025年の再選に向けて、トランプは「アメリカ第一」の政策をさらに強化している。その中で、「アメリカの衰退を終わらせ、世界に誇るべき国を再建する」というメッセージを訴え、国家の安全保障を回復させることを最優先課題としている。つまり、アメリカの戦略的リソースを中国との最終対決に向け、他の不必要な懸念事項を排除することが最も重要だと認識している。

    カナダやメキシコとの貿易関係も、この戦略の一部である。特に、USMCA(新NAFTA)の締結は、アメリカ製造業の強化と中国への依存から脱却するための重要な手段だった。また、関税問題についても、アメリカは中国から流入するフェンタニルをめぐる問題に対応するため、カナダやメキシコに圧力をかけ、薬物の中継地としての役割を果たさせないようにした。これも対中戦略と直接的に結びついている。

    また、パナマにおける中国の影響力拡大を懸念し、アメリカはその影響力を強化するための外交圧力を強めた。これも中国との競争においてアメリカが有利な立場を維持するための一環である。結局、カナダ、メキシコ両国も、パナマもトランプの意向を理解し譲歩している。最初は不法移民問題で、最初は元気いっぱいだったコロンビアの大統領も譲歩している。

    トランプ氏のガザに関する提案も、この戦略の延長線上にあると考えるべきだ。中東での不必要なコストを削減し、リソースを中国との最終決戦に集中させるための一手だ。ガザ問題を整理することによって、アメリカは中東への過剰な関与を避け、代わりにそれらのリソースをアジア太平洋地域の戦略に振り向けることができる。

    最後に、この提案は、トランプ氏が再選を目指す中で、アメリカの優先順位を明確にし、国内外に向けて「アメリカ第一」の立場を強調するための戦略的なメッセージだと言える。ガザ問題はその一部であり、真の狙いは「アメリカの戦略的優位を取り戻すこと」そのものである。

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    2025年2月5日水曜日

    支援の見返りに「レアアースを」、トランプ氏がウクライナに求める…「彼らは喜んで供給するだろう」―【私の論評】ウクライナ、資源大国から経済巨人への道を歩めるか

    支援の見返りに「レアアースを」、トランプ氏がウクライナに求める…「彼らは喜んで供給するだろう」

    まとめ
    • トランプ大統領は、ウクライナに支援の見返りとしてレアアースの供給を求めている。
    • ウクライナへの武器供与に関して、トランプ政権内で意見の対立があり、供与の一時中断と再開があった。


     米国のトランプ大統領は3日、ロシアの侵略を受けるウクライナに対し、支援の見返りに「レアアース(希土類)」を米国に供給するよう求めていると明らかにした。

     トランプ氏はホワイトハウスで記者団に、米国がウクライナに多額の支援をしてきたと強調し、「ウクライナがレアアースやその他の資源(との引き換え)で、我々の支援を得るような合意を結びたい」と述べた。すでに「取引」を進めていると説明し、「彼らは喜んでそう(供給)するだろう」と自信を示した。

     米紙ニューヨーク・タイムズなどによると、バイデン前政権時に、ウクライナ側から米国にレアアースの供給を提案していたが、「取引」を重視するトランプ氏の就任を待って、合意に向けた動きが本格化したとみられるという。

     一方、ロイター通信は3日、トランプ政権がウクライナへの武器供与を一度中断した後、すぐに再開したと報じた。政権内で軍事支援を巡る「意見の対立」があり、方針が定まっていないとの見方を伝えている。

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    【私の論評】ウクライナ、資源大国から経済巨人への道を歩めるか

    まとめ
    • 資源の宝庫: ウクライナはチタン、リチウム、ウランなどの希少金属を含む豊富な資源を持ち、特に希土類金属の産出地として重要。
    • 教育と産業の強み: EU基準の教育水準、ソ連時代からの重工業(軍事、航空、宇宙)、そして人口あたりのエンジニア数がEU諸国を上回る。
    • IT産業の成長: 「東欧のシリコンバレー」と呼ばれ、IT産業が急速に発展。ロシアの侵攻後もGDP成長を牽引し、サイバーセキュリティやソフトウェア開発で世界的に評価される。
    • 経済発展の可能性: 平和と安定が確立されれば、ウクライナの総GDPはスペインやオランダ並みに成長し、EUや米国の安全保障上のメリットとなる。
    • 長期戦略的重要性: トランプはウクライナの長期的な経済的・戦略的価値を理解し、希土類金属へのアクセスを確保することで、米国の技術競争力や軍事バランスを強化することを目指している。
    ウクライナの地質図 赤い三角が希土類 クリックすると拡大します

    ウクライナ。地政学の渦中で、その名が響く。地表下にはチタン、リチウム、ウランなど、未来を切り開く鍵となる鉱物が眠り、希土類金属の宝庫でもある。日本経済新聞が「隠された重要鉱物の宝庫」と評するように、この国は豊かさと可能性に満ちている。

    しかし、その歴史は波乱に満ちている。かつては天然ガスや石油の産出国として知られていたが、ソ連崩壊後の経済的混乱が資源開発を阻み、今では自国のエネルギー需要を満たすため、ロシアや欧州からの輸入に頼る日々が続いている。

    だが、ウクライナの価値はその資源だけでは終わらない。教育水準の高さが際立つ。EU基準に準じた教育システムは国際的に高い評価を受けており、PISA調査では数学、科学、読解力で欧州平均を上回る成績を収めている。重工業もソ連時代からの強みで、軍事、航空、宇宙産業が栄え、冷戦時代にはロケットやミサイルの開発で重要な役割を果たした。中国の軍事技術を支えた経験もある。人口あたりのエンジニア数はEU諸国を上回る。

    そして、忘れてはならないのがIT産業だ。ウクライナは「東欧のシリコンバレー」と称され、ITの急速な発展がGDP成長を牽引している。ロシアの侵攻後も2023年に5.3%の成長を達成した。サイバーセキュリティやソフトウェア開発で世界から注目され、技術者は国際的に引く手あまただ。


    ここで考えるべきシナリオがある。ウクライナが平和を取り戻し、腐敗を一掃し、ロシアの干渉がなくなった場合だ。その可能性は無限大だ。仮にウクライナの一人あたりのGDPがポーランドに匹敵すれば、ウクライナの総GDPは現在のスペインやオランダ並みに跳ね上がる。これは、平和が実現すれば、十分可能だ。人口4100万超の国が経済大国に変貌すれば、EUや米国にとっての安全保障上のメリットは計り知れない。

    EUにとっては、東部国境での安定化要因となり、ロシアの影響を抑える強固なバッファーになる。ウクライナの資源はEUのエネルギー安全保障を強化し、ロシアへの依存度を減らす。米国はウクライナの経済力をロシアに対する抑止力として利用し、東欧での影響力を強固にできる。ITや軍事技術の進歩は、米国との更なる協力関係を深化させる。


    トランプはこの戦略的価値を理解しているようだ。彼の政策は短期的な利益だけでなく、長期的な視点からウクライナを見ているようだ。ウクライナの希土類金属へのアクセスを確保することで、米国は未来の技術競争や軍事バランスで優位に立てる。さらに、ウクライナ問題は、単なる支援ではなく、未来への投資でもあるのだ。ウクライナには希土類だけではなく、他の発展途上国は異なり、人的資源も豊富であり、大きな可能性を秘めている。

    その方向に進めば、トランプ大統領としては、最優先の中国との対峙に専念できる。トランプの見識が示すように、ウクライナの経済的可能性は、地政学的なゲームチェンジャーとなりうる。平和と安定が訪れれば、ウクライナはヨーロッパの中心へと飛躍する可能性を秘めている。そのとき、世界の力関係は大きく変わる。ウクライナの未来は、今この瞬間に始まっているのだ。世界が注目するこの国が、どのような道を選ぶのか、そうして西側諸国が支援を投資とみるか、単なる費用とみるか。その選択が未来の地図を描く。

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    2025年2月4日火曜日

    イーロン・マスク氏 “USAIDの閉鎖 トランプ大統領が合意”―【私の論評】トランプの挑戦とマスクの戦い、世界に波及する衝撃!

    イーロン・マスク氏 “USAIDの閉鎖 トランプ大統領が合意”

    まとめ
    • イーロン・マスク氏は、トランプ大統領が海外援助機関USAIDの閉鎖に同意したと明らかにした。
    • トランプ大統領は、USAIDが「過激な愚か者」によって運営されていると批判し、必要なら新たな組織を作るべきだと述べた。
    • ルビオ国務長官は、USAIDの機能は外交方針に沿って継続されると強調し、税金を使用する重要性を指摘した。

     イーロン・マスク氏は、トランプ政権で政府支出の削減策を検討する組織「DOGE」のトップとして、海外援助を担当するUSAID(アメリカ国際開発庁)の閉鎖についてトランプ大統領が同意したことを明らかにしました。彼はSNSの音声配信で、USAIDの運用が不透明であるとの認識を示し、「彼も閉鎖すべきだということに同意した」と述べました。トランプ大統領は、USAIDが「過激な愚か者」によって運営されていると批判し、必要であれば新たに組織を作るべきだとも発言しています。

     トランプ政権はすでに海外援助の見直しを進めており、人道支援など一部を除いて停止していますが、USAIDはエイズ対策や紛争地での支援など幅広く人道支援を行っているため、閉鎖の影響は大きいと考えられます。さらに、アメリカのルビオ国務長官は、訪問先のエルサルバドルで自らがUSAIDのトップの代理を務めることを明らかにし、「USAIDの多くの機能は今後も継続されるが、アメリカの外交方針に沿った形で行われなければならない」と述べています。これは、税金を使っているという観点から、さらなる議論を呼ぶ可能性があります。 

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    【私の論評】トランプの挑戦とマスクの戦い、世界に波及する衝撃!

    まとめ
    • トランプ政権はUSAID改革を推進:2025年1月20日に就任したトランプ大統領は、90日間の対外援助凍結を宣言し、USAIDの効率化と無駄の削減を目指している。
    • 改革の影響は深刻:USAIDの活動停止が世界中の医療施設閉鎖や食糧支援の停止を引き起こす可能性があり、スーダンでは特に深刻な影響が予想される。
    • イーロン・マスクの批判:マスクはUSAIDを「犯罪組織」と呼び、CIAとの関連を指摘し、政府効率化省(DOGE)を通じてその腐敗を暴こうとしている。
    • USAIDの問題点:USAIDの活動は米国の保守派の価値観に反し、特に中絶や気候変動政策、ジェンダー政策などが問題視されている。
    • 日本への示唆:日本でも官庁の自己保身と政治への干渉が問題となっており、米国のUSAID改革が日本の官僚制度改革の参考になる。
    米国際開発局(USAID)

    トランプ政権が誕生したその瞬間から、米国際開発局(USAID)は改革の矢面に立たされた。背景には「米国第一」の大義がある。これは、政府機関の効率化と透明性を求める声だ。2025年1月20日、トランプ大統領は就任早々、90日間の対外援助凍結を宣言した。これはUSAIDの過去の活動を見直し、無駄な支出を削減するための英断である。

    その影響は甚大だ。ロイターやNBC ニュースは、USAIDのウェブサイトがダウンし、活動が制限されたと報じている。しかし、サイトやXアカウントが本当に停止されているのかは謎のままだ。AP通信やPBS ニュースによると、プログラムの急停止は世界中で医療施設の閉鎖や食糧支援のストップを引き起こすかもしれない。スーダンでは、2,460万人もの人々が緊急の食糧支援を必要としている。

    ここにイーロン・マスクが登場する。彼はXでUSAIDを「犯罪組織」と断じ、CIAとのつながりを指摘した。これは、DOGE(政府効率化省)を通じてUSAIDの腐敗を暴く意思表示だ。Washington PostやReutersの報道によれば、DOGEのチームはUSAID本部のセキュリティ役員を解任し、約60人の職員を休職扱いにした。


    USAIDの活動が問題視される理由は明白だ。ヘリテージ財団(米の保守系シンクタンク)のProject 2025は、USAIDが「米国の主権を侵害している」と批判する。このProject 2025は、USAIDが「分断的な政治的・文化的アジェンダを推進している」として、特に中絶、気候変動、ジェンダー政策、そして「体系的な人種差別」への介入を批判している。これにより、USAIDの活動が米国の価値観や政策と相反するものと見なされている。マスクの発言は、USAIDが政治的な活動に手を染めているという認識を示している。

    LGBTQ支援や気候変動対策が「左翼思想の押し付け」や「グローバリストの陰謀」と見なされる背景には具体的なエピソードがある。USAIDは43カ国で性教育プロジェクトを実施したが、これが特に保守的な地域で伝統的な家族観念や宗教観に反すると考えられ、「左翼思想の押し付け」と批判された。

    日本でも、LGBTQ支援が「左派の主張」と関連付けられ、特定の政治的立場を押し付ける行為と非難される例がある(例:松浦大悟『文藝春秋』2023年1月号)。また、アメリカの保守派メディアや政治家は、これらのプロジェクトが国内の価値観に干渉し、文化戦争の一環であると非難している。

    気候変動対策では、USAIDが開発途上国への再生エネルギー導入支援を進めているが、これが「グローバリストの陰謀」とされるのは、気候変動政策が経済的な規制やグローバルな統制を強化する手段と見なされるからだ。特に、経済成長を優先する国々では、この政策が経済活動を阻害すると主張され、「西洋の価値観を強制する」として批判されている(例:Foreign Policy, 2024年)。X上では、USAIDが「CIAのフロント」として活動し、政治的目的で気候変動対策を推進しているという陰謀論が流布している。

    だが、これらの改革には法的な障壁もある。上院外交委員会の民主党議員は、議会の承認なしにUSAIDの統合を進めることは違法だと警告する。しかし、トランプ政権はその決意を曲げず、改革を急ぐ。

    この改革は、USAIDの役割と活動の再評価を超えて、米国の国際的な立場と国内政策の優先順位を問うものだ。国際社会は不安を募らせ、特に人道支援の停止がもたらす飢餓や健康問題への懸念が高まっている。トランプ政権は、USAIDの予算を削減し、国内政策を優先することで、政府の無駄を排除しようとしている。

    これは、国家の利益を守るための戦いである。トランプ政権は、USAIDを効率的かつ透明に再構築し、より責任ある援助政策を打ち立てようとしている。ここに、米国の新たな物語が始まる。そうして、世界の他の国々にも大きな影響を与えるだろう。

    国政の重要な機能が集積する霞が関

    日本の官公庁は、財務省、日銀、国土交通省などを筆頭に、国民のためというよりは、自分たちのために仕事をし、さらには政治に干渉している。官僚たちは、自分たちの富と権力と地位を守るため、国民の利益を無視してきた。それはまさに、自己保身とエリート意識の象徴だ。

    しかし、米国の動きを見れば、日本の新たな物語を編むための参考になるだろう。トランプ政権のUSAID改革は、官僚機構の肥大化と無駄を削減する一つのモデルである。アメリカが示す勇気と決断力は、日本でも必要とされる。これまでの日本の官僚主義は、国民の声を無視し、自分たちの都合で動いてきたが、今こそその改革の時だ。

    結論として、米国がUSAIDを通じて行っている改革は、日本の政治家等にも大いに学ぶべき点がある。日本もまた、国民を本当の意味で第一に考えるための改革を、強い意志を持って進めるべきだ。それが、真の国家再生への道筋であり、日本の新たな物語を始める第一歩となるだろう。

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    2025年2月3日月曜日

    米国務長官、パナマ運河での中国の影響力は「容認できず」-条約違反―【私の論評】パナマ運河の真実: 米国だけでなく、日本にも迫る得る影響とは!

    米国務長官、パナマ運河での中国の影響力は「容認できず」-条約違反

    まとめ
    • ルビオ米国務長官がパナマを訪問し、中国関連企業の排除を求め、排除しない場合は米国の権利を保護する意向を示した。
    • 中国共産党の影響力が運河に対する脅威であり、条約違反であると指摘した。
    • ムリノ大統領は会談を友好的と評価しつつ、条約の有効性に脅威を感じていないと述べた。

     ルビオ米国務長官は、就任後初めての訪問先である中米パナマで、同国の指導者に対して重要な警告を発した。彼は、中国関連企業をパナマ運河から排除しない場合、米国は運河条約に基づく権利を保護するために必要な措置を講じる意向を伝えた。米国務省の発表によると、ルビオ長官はムリノ大統領やマルティネスアチャ外相との会談で、中国共産党がパナマ運河地域に対して影響力を行使している現状は、運河にとって脅威であり、条約違反にあたると強調した。

     また、彼はトランプ大統領が指摘している不満を繰り返し、「現状は容認できず、直ちに変更されなければ、米国は条約に基づく権利を保護するために必要な措置を取らざるを得ない」と明言した。一方、ムリノ大統領は会談後に記者団に対し、「敬意に満ちた、友好的な」会談だったと述べつつ、条約の有効性に対する脅威を感じていないと表明した。

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    【私の論評】パナマ運河の真実: 米国だけでなく、日本にも迫り得る影響とは!

    まとめ
    • パナマ運河は米国の外交政策や国際関係において重要な役割を果たしており、1904年から1914年にかけて米国の支援で建設された。
    • 運河は1999年にパナマに返還され、パナマは国際物流の重要なハブとしての地位を確立した。
    • 最近、中国がパナマのインフラプロジェクトに積極的に投資しており、米国の影響力が低下するリスクがある。
    • パナマは中米から北米への不法移民の通過点となっており、2021年には約13万人が通過した。
    • パナマの情勢は日本にも影響を及ぼし、運河の安定した運営やエネルギー供給にとって重要な要素となっている。

    パナマ運河

    パナマ運河の歴史は、米国の外交政策や国際関係において重要な役割を果たしている。運河の建設は19世紀末から始まり、フランスが1879年に試みたが、病気や技術的な問題で失敗した。フランスの試みでは、特にマラリアや黄熱病の影響が大きく、約2万人が命を落とした。この惨状を目の当たりにした米国は、運河の建設に乗り出すことにした。

    1904年、米国がパナマの独立を支援し、パナマ政府と運河建設のための条約を結んだ。米国は運河の建設に約4000万ドル(現在の約1400億円)を投資した。この資金はインフラ整備や疾病対策に使われ、特に衛生環境の改善に力を入れた。米国は、蚊の駆除や病院の設立など、徹底的な対策を講じた結果、運河建設を成功に導いた。

    運河の建設には約10年かかり、1914年に開通した。開通後、米国は経済的および戦略的利益を享受したが、1960年代から70年代にかけてパナマでの運河返還を求める声が高まった。1977年、カーター大統領とパナマのトリホス大統領が運河の返還に合意し、1999年に正式にパナマに返還された。この返還により、パナマは運河の管理権を持つことになり、国際的な物流の重要なハブとしての地位を確立した。

    最近、中国企業がパナマのインフラプロジェクトに積極的に投資している。2016年には中国企業が「バルボア港」の運営権を取得し、港の拡張や設備の近代化を進めている。この動きは、中国の「一帯一路」イニシアティブの一環として位置づけられ、パナマの経済を強化し、国際貿易の重要な拠点としての役割を果たすことを目指している。

    大統領時代のカーター氏

    中国のパナマへの関与が深まることで、米国の影響力が低下し、両国の関係が緊張する可能性がある。トランプ大統領は在任中に「米国の船に法外な通航料を課している」と批判し、特に米国の軍艦や商業船舶にとって通航料が高すぎることを指摘した。実際、パナマ運河の通航料は船舶のサイズや種類に応じて異なり、商業船舶には高額な料金が課せられることがある。米国の艦艇には特別な減免措置があり、通常の商業船舶よりも低い料金で通航できるが、それでもなお、全体的な負担が大きいとの意見もある。

    さらに、パナマは中米から北米への不法移民の重要な通過点となっている。特に、南米や中米の国々からの移民が、パナマを経由して米国に向かうケースが増えている。国連の報告によると、2021年には約13万人がパナマを通過し、米国を目指す不法移民の数が急増した。パナマ政府は、移民の流入に対処するために、国境警備を強化し、国際的な支援を求める動きも見せている。

    米国は今、昨日もこのブログで述べたように内需拡大に舵を切り、国際貿易の競争から距離を置こうとしている。中米からの不法移民問題や中国の影響力の増大が絡む中で、米国がどのように自国の経済と安全を守るのか、国益を守るための戦略がどう進化するのか、その行方に注目したい。そうして、その根底には、中国との最終的な対峙に備えて、懸念事項を減らすという意味があることも忘れるべきではない。

    パナマの行方は、米国のみならず日本にも大きな影響を及ぼす。パナマ運河は国際貿易の要であり、日本は米中に次ぐ利用国として、運河を通じて米国東部と多くの輸出入を行っている。そのため、運河の安定した運営は日本企業にとって重要だ。

    日本はパナマ運河経由で米国からLNGを輸入している

    さらに、パナマはエネルギー輸送の重要な拠点であり、運河を通じて供給される液化天然ガスや石油が日本のエネルギー安全保障に直結している。仮にパナマ経由のLGNとロシアからのそれが断たれれば大きな影響がある。パナマの情勢が不安定になれば、エネルギー供給に大きなリスクが生じる。

    このように、パナマの情勢は日本にとっても決して無視できない問題であり、国際的な競争が激化する今、我が国は柔軟かつ迅速な戦略を講じる必要がある。日本の未来を守るために、パナマの動向をしっかりと見極めなければならない。

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    2025年2月2日日曜日

    トランプ氏、カナダ・メキシコ・中国に関税 4日発動―【私の論評】米国の内需拡大戦略が世界の貿易慣行を時代遅れに!日本が進むべき道とは?

    トランプ氏、カナダ・メキシコ・中国に関税 4日発動

    まとめ
    • トランプ大統領がカナダ・メキシコからの輸入品に25%の追加関税、中国には10%の追加関税を課す大統領令に署名した。
    • 薬物や不法移民の流入を「緊急事態」と認定し、課税は「危機が終わるまで」続けるとした。
    • カナダやメキシコは報復措置を講じる意向を示しており、関税の応酬が予想される。
    • 関税引き上げはIEEPAに基づく初の試みであり、米国・メキシコ・カナダ協定の貿易ルールが実質的に凍結される。
    • カナダ側は強く反発し、米国内でも懸念の声が上がっている。


    トランプ米大統領は1日、カナダとメキシコからの輸入品に25%の追加関税を課す大統領令に署名した。中国にも10%の追加関税を適用することを発表した。この関税は、薬物や不法移民の流入を「緊急事態」と認定したことに基づいており、4日から発動される予定である。関税の課税は「危機が終わるまで」続けるとされている。

    トランプ政権下で始まった貿易戦争は一段と激化しており、カナダやメキシコは報復措置を講じる姿勢を示しているため、関税の応酬が予想される。追加関税は米東部時間4日午前0時1分から適用され、報復措置が取られた場合は、さらなる税率の引き上げや対象品目の拡大が行われる可能性がある。

    特にカナダ産の石油や重要鉱物に対しては税率を10%に抑える方針が示され、リチウムや天然ガス、石炭、ウランなども対象に含まれる予定である。トランプ氏は自身のSNSで、国民の安全を守ることが大統領の義務であり、選挙での約束に基づくものであると正当化した。

    ホワイトハウスは、カナダが合成麻薬フェンタニルや医療用麻薬オピオイドの密輸業者の取り締まり、メキシコが薬物対策で米国に協力するまで課税を続けると表明している。米政府は、カナダ国内にメキシコの麻薬カルテルの麻薬製造工場が存在すると主張している。

    今回の関税引き上げは、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいており、不法移民と薬物の流入を「国家の緊急事態」と認定した上で実施されるもので、IEEPAを根拠とする関税引き上げは初めての試みである。緊急事態を宣言した上での関税引き上げは、1971年のニクソン・ショック以来の出来事となる。

    また、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)における域内貿易の関税撤廃が実質的に凍結されることになり、自動車産業など企業の供給網に大きな影響が出ることが懸念されている。

    カナダ側は強く反発しており、オンタリオ州のダグ・フォード州首相は「貿易関係からの離脱に非常に失望している。カナダにはもはや、激しく反撃するほかに選択肢はない」と述べている。また、元イングランド銀行総裁のマーク・カーニー氏は、米国による関税は貿易協定の明確な違反であり、厳しい経済的対応が必要であると強調した。

    さらに、米国内からも懸念の声が上がっており、全米鉄鋼労働組合(USW)は、「カナダを責め立てることは前進への道ではない」と指摘し、トランプ氏に対してカナダの関税政策を撤回してほしいと求めている。毎年1.3兆ドル相当の製品が米―カナダ国境を行き来しているため、貿易に与える影響は大きいとされている。 

    この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

    【私の論評】米国の内需拡大戦略が世界の貿易慣行を時代遅れに!日本が進むべき道とは?

    まとめ
    • 米国の輸出は1960年の5%から2019年に12%に達したが、2023年時点では11.01%とパンデミック前の水準に回復していない。これは巨大な国内市場と堅調な個人消費が支えている。
    • 各国は輸出主導型成長戦略の限界を認識し、内需拡大に戦略転換している。特にEC諸国は「非市場リスク」に限定する規制を導入し、環境基準や労働条件に基づく輸出入制限を強化している。
    • 韓国では過去の輸出依存型経済が脆弱性を露呈し、中国は米国の規制を受けて内需拡大戦略を策定している。
    • 米国の輸入は2022年に過去最高を記録したが、2023年には減少し、輸入相手国の構成も変化。メキシコが最大の輸入国となったが、米国は過去の水準の内需拡大を目指しているようだ。
    • 日本は他国が内需拡大に走る中これにはに無関心であり、いずれ中国から日本の内需拡大と、中国からの輸入を迫られるとになるかもしれない。日本政府は自ら主体的に、デフレ克服と内需拡大をすべきである。

    2015年当時の米国の50州のGDPを同等の他の国の国旗で表したもの クリックすると拡大します

    米国の輸出と輸入の状況を振り返ると、興味深い事実が浮かび上がる。米国の輸出がGDPに占める割合は、1960年の5%から長い間10%未満が続いた。しかし、2019年には12%に達し、長期的に貿易依存度が上昇しているものの、他の主要国と比べると依然として低水準である。2023年時点では、輸出のGDP比は11.01%と、パンデミック前の水準には完全には回復していない。この背景には、米国の巨大な国内市場(2023年実質GDP成長率2.5%)と堅調な個人消費(第3四半期3.5%増)が持続的な経済成長を支えていることが挙げられる。

    近年、輸出主導型成長戦略の限界が指摘されるようになり、各国が内需拡大へと戦略を転換している。ドイツの輸出信用保証は1990-2002年に輸出を1.7~6倍に促進したが、同制度は輸出企業に21億ユーロ(総輸出の2.9%)を保証する一方、政府債務残高は年平均115億ユーロに上り、財政負担の持続可能性が課題となっていた。

    2010年代後半から2020年代初頭にかけてEC諸国は「非市場リスク」に限定する規制を導入したが、この背景には、過度な輸出支援が市場歪曲を招くリスクへの警戒があった。この規制は、環境基準を満たさない製品の輸出制限や、適切でない労働条件からの製品に対する輸入制限を含む。また、消費者保護の観点から、安全基準を満たさない製品やデータ保護規制に違反する企業のデータの国外持ち出しも制限される。

    韓国では、朴正煕政権下で輸出目標達成企業に特恵を与える「不文律」が確立され、GDPに占める輸出比率は1960年代の5%未満から1980年には35%へと急拡大した。しかし、この過程で政商癒着が構造化され、1997年のアジア通貨危機では輸出依存型経済の脆弱性が露呈した。輸出拡大の代償として国内産業の多様性が損なわれ、これが後の経済危機の一因と指摘されている。

    中国では、米国の先端技術輸出規制が半導体産業に打撃を与える中、2022年に「内需拡大戦略計画綱要(2022-2035年)」を策定し、国内大循環を基盤とした新発展構造の構築を宣言した。同計画は「人々の美好生活への憧れ」を原動力に、社会安全網の整備や都市農村格差是正を通じて消費拡大を目指し、2035年までに「世界クラスの国内市場」の形成を目指している。2023年の米中通商協議で王文涛商務相が「正常な貿易を阻害」と批判した背景には、こうした戦略転換の必要性が反映されている。

    米国経済の強靭性は、2023年第3四半期に個人消費が3.5%増加し、最終民間国内需要が2.8%成長するなど、内需主導型モデルの有効性を示している。対照的に輸出依存度の高いドイツでは、2023年の財輸出が前年比2.1%減少し、特に天然ガス34.7%減、半導体14.4%減という大幅な落ち込みが発生した。これらの事例は、地政学リスクや技術覇権争いが先鋭化する現代において、内需基盤の強化が経済安全保障上不可欠であることを示唆している。

    世界銀行の分析によれば、国内市場規模がGDPの60%を超える経済圏は外部ショックへの耐性が格段に高まる。米国の民間消費がGDPの68%を占める現状(2023年)は、この理論を実証する好例である。中国が「国内大循環」戦略で2035年までに中所得層を8億人に拡大する目標を掲げるのも、同様の経済構造転換を目指してのことである。国際分業の効率性追求から内需主導の安定性重視へとシフトすることは、新たなグローバル経済のパラダイムシフトを示している。

    一方、米国の輸入は近年変動を続けている。2022年には前年比14.9%増の3兆2,729億ドルと過去最高額を記録したが、2023年には前年比4.9%減の3兆1,085億ドルと減少に転じた。輸入相手国の構成にも変化が見られ、2023年には長年首位だった中国が2位に後退し、メキシコが最大の輸入相手国となった。メキシコからの輸入は前年比5.1%増の4,752億ドル(構成比15.4%)で、自動車や電気機器が増加を牽引した。一方、中国からの輸入は20.4%減の4,269億ドル(構成比13.9%)と大幅に減少し、一般機械や電気機器の落ち込みが顕著である。

    この輸入構造の変化は、米中貿易摩擦の影響や、バイデン政権下でのフレンドショアリング、ニアショアリング政策の推進によるものと考えられる。フレンドショアリングは、企業が友好国や政治的に安定した国にアウトソーシングや製造を移転することで、リスクを分散し安定した供給を確保することを目的としている。一方、ニアショアリングは自国に近い国や地域にアウトソーシングを行い、物流コストやコミュニケーションの効率を高めることを目指している。

    これらにより、特に中国からの輸入シェアは、2017年の21.6%から2023年には13.9%まで縮小している。一方で、メキシコやカナダなど近隣国からの輸入シェアが拡大傾向にある。2023年後半からは資本財や消費財を中心に輸入が増加に転じ、全体として横ばいから増加傾向となっている。これらの変化は、世界経済の動向や米国の通商政策、企業の生産戦略の変化などが複合的に影響した結果である。

    ホワイトハウスは、カナダが合成麻薬フェンタニルや医療用麻薬オピオイドの密輸業者の取り締まり、メキシコが薬物対策で米国に協力するまで課税を続けると表明しているが、これは本当に効果があるとは思えない。米国はメキシコと3000キロ以上、カナダと9000キロ近くの国境を接しており、すべての不法入国や密輸を防ぐことは現実的に困難である。フェンタニルの原料の多くが中国で製造されているとされるが、10%の追加関税で製造や輸出が抑制されるかは不透明である。

    むしろこの関税政策は、フェンタニル問題に対する直接的な解決策というよりも、国境管理の強化や麻薬対策の徹底を求めるための外交的圧力として機能する可能性が高い。したがって関税政策単独ではフェンタニルの流入を効果的に防ぐことは難しく、より包括的な対策が必要である。

    トランプ政権の本当の狙いは、米国のカナダ、メキシコへの関税措置や中国への追加関税措置によって、仮にこれに対する報復措置があったとしても、結果的に米国の対外輸出を減少させ、内需を増加させることにあるとみられる。これにより、輸出がGDPに占める割合をかつての10%以下にまで減少させ、米国の民間消費がかつてGDPの70%を占める状況に戻すことで、外部ショックへの耐性を高め、経済安全保障を一層確かなものにしようとしていると考えられる。

    トランプ政権としては、輸出入が減ったにしても、それを補う個人消費が70%台で推移し、輸出が7〜8%で推移するくらいまでなら、十分対処できると考えているのだろう。さらに、こうしたことの背景には、中国との最終的な対峙に備えるため懸念事項を減らすという意味があることも当然ながら忘れるべきではない。

    米国の昨年8月の小売売上高は前の月から減少するとの市場予想に反し0.1%の増加となり個人消費の底堅さが改めて示された

    米国がこのように内需拡大に方針転換をしていることは、各国にも影響を及ぼすだろう。各国も内需をできるだけ増やそうと努力するはずである。中国も例外ではなく、内需を拡大しようとする努力が続けられているが、さまざまな課題に直面しており、期待通りには進んでいない。

    これは、消費者信頼感の低下が一因であり、2022年の小売売上高は前年比でわずか0.5%の増加にとどまった。また、不動産市場の不安定さも影響し、恒大集団のデフォルトが示すように、多くの不動産開発企業が危機に瀕している。さらに、所得格差の拡大と家庭の貯蓄志向が強まり、多くの家庭が将来の不安から消費を控えている。政府の政策も短期的な効果にとどまっており、持続的な成長には限界がある。これらの要因が複合的に作用し、中国の内需拡大は難航している。

    こうなると、米国の輸入が減った分を他国への輸出で補おうとする動きが出てくるだろう。しかし、その中で内需拡大に関心が薄い国がある。それが日本である。日本はデフレから完全には抜け出しておらず、2023年時点でも消費者物価指数(CPI)は前年比で約3%上昇しているが、これは主にエネルギーや食料価格の影響によるもので、基礎的な物価上昇が持続しているわけではない。実質賃金の伸びが鈍く、賃上げが物価上昇に追いついていないため、消費者の購買力が圧迫されている。

    さらに、日銀は利上げを行い、金利を引き上げることで金融環境を厳しくしているが、これが内需に対して逆効果をもたらす可能性がある。高金利は企業の投資意欲を削ぎ、消費者の借入コストを引き上げるため、内需の縮小を招く恐れがある。2023年の利上げ決定後、住宅市場や自動車販売への影響が懸念されている。

    加えて、現政権は内需の拡大に無関心であり、財政健全化を重視するあまり、公共投資や消費刺激策を縮小しようとしている。これにより、内需のさらなる減少が懸念される。地方経済の疲弊が進む中で、政府が地方創生や支援策を十分に講じていないことが問題視されている。

    これは、中国の安い製品を受け入れる素地をつくることになる。物価の安い日本は、中国の観光客にも人気で、それをインバウンドとして歓迎する向きもあるが、現在の日本はオーバーツーリングの状況にある。政府はこうしたことへの対応に消極的であり、国内の観光産業を伸ばすことには無関心なのだ。その結果、日本はデフレの底に深く沈むことになる。しかし、そうなれば、今度は中国が苦戦することになる。

    かつて日本は超円高、超緊縮財政で、国内で部品を組み立てて輸出するよりも、韓国や中国で組み立てて輸出したほうがコスト的に断然有利になるという異常な状況を招き、国内で産業空洞化を進め、国外では韓国や中国の経済発展を助長した。しかし、今度の状況は全く異なる。

    2012年当時の日本の47都道府県GDPを同等の他の国の国旗で表したもの クリックすると拡大します

    米国を筆頭に各国が内需拡大に走る中で、今後世界的に輸出が伸びないと、日本が内需を拡大しなければ、中国は日本への輸出が難しくなるだろう。そうなると、いますぐではないにしても、いずれ中国は日本に内需を拡大しろとか、中国からの輸入を増やすよう強く要求するようになるかもしれない。いや、もっと露骨に金融緩和しろとか、積極財政をしろとか、内政干渉をしてくるかもしれない。無論中国側の安全保証からすれば、日本が経済的に低迷するほうが良いに決まっているが、中国経済が低迷し、背に腹は代えられない時がくるかもしれない。

    そのような情けない事態を避けるためにも、政府はまずデフレ克服の観点から内需拡大に方向を転換すべきである。ただし、米国と同じく安全保障の観点から、中国からの輸入は関税を引き上げるなどの措置をし、控えるべきだろう。

    そしてデフレから完全に脱却し、その後は経済安全保障の観点からも内需をできるだけ伸ばす必要がある。 日本はかつて長い間輸出がGDPに占める割合は米国と同じように10%を切る8%前後に過ぎなかったし、その頃は現在と違い、景気がかなり良かったことを忘れるべきではない。日本の輸出立国などは、元々幻想に過ぎず、過去の日本は紛れもなく内需大国だった。本気で内需拡大を目指すことこそ日本が今後取り組むべき大きな課題なのである。

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    2025年2月1日土曜日

    アラスカLNG開発、日本が支援の可能性議論 トランプ米政権が関心―【私の論評】日本とアラスカのLNGプロジェクトでエネルギー安保の新時代を切り拓け

    アラスカLNG開発、日本が支援の可能性議論 トランプ米政権が関心

    まとめ
    • トランプ米大統領のアラスカ州の440億ドル規模のガス開発計画に対し、日本政府が支援を検討しており、貿易赤字削減を狙っている。
    • 石破茂首相はトランプ氏との会談でこの計画を議題にする可能性があり、日本側には懐疑的な意見もあるが検討する意向がある。
    • 日本はLNGの供給源を多様化を従来からすすめており、アラスカ計画の実現がその一助となる可能性がある。
    米アラスカ州ケナイ湖

    トランプ米大統領が提唱するアラスカ州の440億ドル規模のガス開発計画について、日本政府が支援を検討していることが明らかになった。これは米国の貿易赤字を削減し、関税リスクを回避するための方策とされている。石破茂首相はトランプ大統領との初会談でこの計画を議題にする可能性がある。

    この計画はアラスカのガス田と港を結ぶパイプラインを通じて、液化天然ガス(LNG)をアジアに輸出するもので、日本側には懐疑的な声もあるが、米国からの提案があれば検討する意向がある。日本はすでに十分なLNGを確保しているが、アラスカの計画が実現すればエネルギー供給の多様化につながるかもしれない。

    政府関係者は、石破首相がトランプ氏との会談で具体的なLNGへの投資を約束することは難しいと強調し、価格の妥当性や転売の柔軟性が必要であると述べた。また、トランプ氏は日本との経済的関係にはあまり言及していないが、関税問題は日本にとって重要な課題である。

    アラスカの計画に関しては米国の議員や専門家からの助言も受けており、日本がLNG購入を増やし、投資を申し出ることがトランプ氏の支持を得る手段になる可能性があると指摘されている。

    この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

    【私の論評】日本とアラスカのLNGプロジェクトでエネルギー安保の新時代を切り拓け

    まとめ
    • トランプ米大統領のアラスカガスライン開発プロジェクト(AGDC)は、アラスカ北部のガス田から南部のプリンスウィリアム湾へパイプラインを敷設し、液化天然ガス(LNG)をアジア市場に輸出する計画である。
    • プロジェクトは、米国のエネルギー自給率を向上させ、対外的なエネルギー依存を減少させる施策の一環として位置づけられている。
    • 日本がこのプロジェクトを支援することで、エネルギー供給の多様化が進み、日本のエネルギー安全保障が強化される可能性がある。
    • 日本はエネルギー供給源の多様化を図ることで国際的な影響力を高めることが期待されている。
    • アラスカからのLNG輸出は、アジア全体のエネルギー安全保障を向上させ、地政学的な緊張の緩和にも寄与する。

    トランプ米大統領のアラスカ州の440億ドル規模のガス開発計画は「アラスカガスライン開発プロジェクト(AGDC)」と呼ばれる。この計画は、アラスカ北部のガス田から南部の港へパイプラインを敷設し、液化天然ガス(LNG)をアジア市場に輸出することを目指している。パイプラインの長さは約800マイル(約1300キロ)に及び、具体的にはプリンスウィリアム湾に接続される。

    プリンスウィリアム湾からは、液化ガスを船でアジア市場に輸送する計画だ。これにより、米国のLNGがアジアのエネルギー需要に応えることを狙っている。このプロジェクトは、トランプ政権がエネルギー自給率を向上させ、対外的なエネルギー依存を減少させるための重要な施策の一環である。

    特にアジア市場はエネルギー需要が高く、LNGの輸出先として非常に魅力的であるため、米国の戦略的利益にも合致している。アラスカ州内からのLNG輸出は、アメリカ湾(旧メキシコ湾)経由での輸出よりもアジアに近く、輸送コストや時間の面で有利だ。実際、アラスカからアジアへの輸送は約8,000キロメートルと比較的短距離であり、一方、アメリカ湾からアジアへの輸送は約14,000キロメートルに達する。この距離の差は、輸送時間の短縮とコストの削減につながり、競争力を高める要因となる。

    ただし、アラスカのパイプライン経路については基本的な計画があるが、具体的な詳細や最終的な経路は未確定である。北部のガス田から南部のプリンスウィリアム湾に向けて敷設する計画で、途中で重要な地点を通過する予定だ。しかし、環境影響評価や土地利用の問題などが影響し、経路の最終決定には時間がかかる可能性がある。また、地域住民や環境団体の意見も考慮されるため、調整や検討が必要である。

    2019年アラスカ州アンカレジのエルメンドルフ・リチャードソン統合基地を訪問したトランプ大統領

    この計画に日本の支援が決定された場合、いくつかのメリットが考えられる。第一に、エネルギー供給の多様化が進むことで、日本のエネルギー安全保障が強化される。日本は現在、LNGの多くをロシアや中東からも輸入しており、特定の国に依存するリスクがあるが、アラスカからの供給源を確保することでその依存度を低下させることができる。これにより、地政学的なリスクを分散できる。

    第二に、アラスカのLNG購入によって、米国との経済関係が強化され、貿易赤字の削減や関税リスクの回避につながる可能性がある。特にトランプ政権の貿易政策において、日本がエネルギー分野での協力を示すことで、経済的な要求への対処が容易になると期待される。

    日本のLNGによるエネルギー戦略は、主に2012年以降の安倍晋三政権の下で強化された。福島第一原発事故を受けて、エネルギー供給の安定性を確保するために、再生可能エネルギーの導入と共にLNGの利用を推進する政策が採られた。また、国際的なエネルギー市場への参入やLNG供給源の多様化を図るための取り組みも行われた。

    その後も、菅義偉政権や岸田文雄政権、現政権においても、エネルギー安全保障の観点からLNG戦略は引き続き重要な政策課題とされている。特に地政学的リスクや環境問題に対処するため、LNGの役割が再評価されている。


    日本は過去に実質的なエコノミック・ステートクラフト(後述)を実施しており、例えば2019年の初めからロシア産石油の買入量を一気に40.5%削減し、液化天然ガス(LNG)の輸入も前年同時期比で7.6%減少させた。一方で、米国の炭化水素の輸入は急増し、石油は328%、LNGは36.1%増加している。このような背景から、アラスカプロジェクトを支援することで、日本のエネルギー供給の手段がさらに多様化することが期待される。エコノミック・ステートクラフトを通じて、国際的なエネルギー市場における地位を向上させることができる。

    エコノミック・ステートクラフトとは、国家が経済的手段を用いて自国の政策目標を達成する戦略を指す。これには貿易、投資、制裁、エネルギー供給の管理などが含まれ、特にエネルギー政策においては、他国との関係を調整しながら安定したエネルギー供給を確保するための重要なツールとなる。日本は、エネルギー供給源を多様化することで、エコノミック・ステートクラフトの手段を増やすことができ、国際的な影響力を高め、地政学的リスクを軽減できるようになるだろう。

    アラスカのプロジェクトへの投資は、日本企業にとって新たなビジネスチャンスを提供する可能性がある。過去には、日本企業がアラスカのエネルギー開発に関与し、成功を収めた例も多く、将来的な投資や技術提供を通じて日本のエネルギー産業の競争力を高めることができる。

    最後に、アラスカからのLNG輸出は、日本だけではなくアジア全体のエネルギー安全保障の観点でも重要な要素となる。依存度を減らすことで、特定の国に対するエネルギー依存を緩和し、戦略的な選択肢を広げることができる。これにより、アジア地域全体のエネルギー供給の安定性が向上し、地政学的な緊張の緩和にも寄与することになるだろう。 このプロジェクトに日本は参加するべきである。

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