2019年7月21日日曜日

イラン革命防衛隊、英タンカー拿捕の映像公開―【私の論評】イランと英国の対立も制限なきチキンレースになることはなく、いずれ収束する(゚д゚)!

イラン革命防衛隊、英タンカー拿捕の映像公開

イラン革命防衛隊がへりコプターから英タンカーに降下し、拿捕する様子

イラン革命防衛隊は、中東・ホルムズ海峡で、イギリスのタンカーを拿捕した際に撮影したとする映像を公開しました。

ヘリコプターからおろされたロープを伝い、タンカーの甲板に次々と人が下りていきます。ヘリコプター内部から撮影された映像には、覆面姿の兵士が複数映りこみ、腕にはイランの国旗が確認できます。この映像は、イラン革命防衛隊が20日、国営テレビを通じて公開したもので、イギリスのタンカー「ステナ・インペロ」を拿捕した際に撮影されたものとみられます。

国営イラン通信によりますと、イラン側は「イギリスのタンカーはイランの漁船と衝突したうえ、救難信号に応えなかった」と主張。ただ、実際に衝突事故があったのかどうかは明らかになっていません。

また、ロイター通信によりますと、イランの港湾関係者は「タンカーの乗組員23人はイラン側が調査をする間、船内に残ることになる」と説明しているということです。

「ザリフ外相との会話やイランの声明からは、今回の件を、ジブラルタルでのタンカー拿捕の報復とみていることが明白にわかる」(イギリス ハント外相)

こうしたなか、イギリスのハント外相は20日午後、イランのザリフ外相と電話会談をし、「先週は事態を鎮静化させたいと言っていたのに、イランがその真逆の行動に出たのは非常に残念だ」と伝えたということです。ハント外相は、ジブラルタル沖でイランの原油を積んだタンカー「グレース1」を拿捕したのはEUの制裁に違反している疑いがあったからだと改めて強調した上で、“『ステナ・インペロ』はオマーン領海にいたところを強制的にイランに連れていかれた、これは国際法に明らかに違反している”と主張して、タンカーの解放を求めました。

イギリスのテレグラフ紙は、イギリス政府が資産凍結などの対抗措置を検討していると報じています。ハント外相は「イラン核合意は引き続き順守する」としていますが、これまでアメリカとは一線を画した対応してきたイギリス・ドイツ・フランスの核合意当事国が今回の拿捕をきっかけに方針を変化させるかどうかも1つの焦点です。(21日08:51)
【私の論評】イランと英国の対立も制限なきチキンレースになることはなく、いずれ収束する(゚д゚)!


イランがホルムズ海峡で英船籍タンカーを拿捕(だほ)した問題を受け、欧州連合(EU)とドイツ、フランスは20日、それぞれ声明を出し、一斉にイランを非難しました。タンカーと乗組員の速やかな解放を要求し、独仏は英国との連帯姿勢を鮮明にしました。

EUの報道官は声明で、拿捕に「深い懸念」を示し、「緊迫した状況をさらに悪化させる恐れがあり、解決の道を探ろうとする取り組みを台無しにしてしまう」と批判。「船と乗組員の即時解放を要求し、自制を求める」と訴えました。

独外務省はイランを「最大限に非難する」とした上で、「民間海運への正当化できない攻撃だ」と指摘。状況悪化への懸念を示し、「英国と協力し合う」と強調しました。仏外務省も「地域の緊張緩和を妨害する行為を断固として非難する」とし、英国との「完全な連帯」を表明しました。

イランと英国の対立の深まりは、欧州が存続を目指すイラン核合意をめぐる問題にも影響を与える可能性があります。

今日のイラン危機は、ペルシャ湾岸国だけではなく全世界に教訓を示しています。

イラン危機の現状をみて、ロシアや中国といった国は、西側がハイブリッド戦争(軍事力と政治的効果を狙った市民活動など各種手法を組み合わせた戦争)に対する答えを持っていないという自分たちの考えが正しかったと確信するでしょう。

イラン海軍の軍事力は非常に弱く、軍事作戦が展開されれば、バーレーンを拠点とする米海軍第5艦隊に粉砕されることでしょう。

そのためイランは代わりに、ハードパワーがあまり問われないハイブリッド戦争を展開しています。これにより、西側がいかにハイブリッド戦争に対する準備をしていないかが浮き彫りになっています。

ハイブリッド戦争は、在来型・非在来型軍事手段と偽情報、名誉毀損(きそん)、経済、ソーシャルメディアの操作、宗教やその他政府が関連する活動の利用などの手段を組み合わせ、「伝統的」戦争を行うことなく敵を弱体化させることを目的としています。

現在進行しているイラン危機は、ロシアや中国が被害を被ることなく、いかに西側のハードパワーに対抗するかということをみる試金石だともいえそうです。

ハイブリッド戦争の提案者らは西側と「戦わない」ことを選びましたが、これは賢明な判断であり、堅実な軍事戦略です。

イラン、ロシア、そして最近では中国も、伝統的軍事力と深く結びついた自由民主主義が築き上げた構造を破壊することに非常にたけています。英議員ボブ・シーリー氏は「これらの国は以前に比べ、慣習にとらわれない考え方をするようになっている」と警告しています。
ボブ・シーリー氏

英国はイランへの経済制裁について、政治的には欧州連合(EU)を支持する一方、軍事的には米国と緊密な関係を保とうとしている。「英国は戦略的に苦境に陥っている」とシーリー氏は話す。

イランは自分たちの苦境にできる限り外交的関心を集めたいと考えており、それを実現するためには中東の安定性を損なうこともするだろう。米国もしくは英国が軍事行動を起こせば、イランはそれを可能な限り迅速に国際問題化する可能性がある。

イランの政治は唯一の階層的構造があるわけではなく、対抗する勢力が複数存在している。「代理戦争や非対称戦争についてやり取りする時、必ずしもイラン議会と交渉するとは限らない。むしろ政権とは距離を置くイラン革命防衛隊を相手にすることになる」とシーリー氏は説明する。

英国防参謀総長を務めたことがあるデビッド・リチャーズ氏は、これらはすべて、ブレグジット後の大規模戦略を策定する必要があることを示していると指摘する。「英国は種々の危険や危機に見舞われ揺れており、自らが取るべき世界的な戦略や目的を誰も実際には理解していない」

リチャーズ氏はペルシャ湾もしくはそれ以外の地域における問題で「意図されたものかどうかにかかわらず、新首相は今後半年間、試されることになるだろう」と語った。
「大部分(の政治家)が、そのような試練に対する準備をまったくしていないことを懸念している」
イランは結局のところ、米国ではない英国などにテロを仕掛けて様子を見ているるというのが正しい見方だと思います。

米国とイランの対立は果てしないチキンゲームになることはありません。それは、両者とも理解していることでしょう。それについては、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
際限なきチキンゲームに、イラン、相次ぐ核合意破り―【私の論評】チキンゲームの最終段階は米イラン双方とも最初から見えている(゚д゚)!
ウラン濃縮度引き上げを発表 するイラン政府高官
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
このままイランが制裁破りをすれば、米国は武力行使の以前の段階で、種々の金融制裁を実施し、さらに最終的には米国の「ドル使用禁止」という切り札により、イランが崩壊して終わることになります。
これは、中国、北朝鮮とて同じことです。ドル決済ができなければ、お手上げになります。古代ですら、イランは海外との取引をしていたはずです。そのイランが、現代では海外と取引がほとんどできなくなれば、古代以前の石器時代に戻るしかなくなります。勝負は最初から決まっています。

古代からのイランの輸出品「ペルシャ絨毯」
ただし、米国が一足飛びにイランに対して本格的な金融制裁をしてしまえば、イラン側も必死になり、それこそ破れかぶれで、テロ攻撃、イスラエル攻撃などを実施することも考えられます。だから、米国としてはそれをする前の様子見をしているというところでしょう。イランはイランで、どこまで制裁破りをすれば、米国がどのような挙動に出るのか見極めるために、いろいろ実施しているというところでしょう。 
現状の制裁でも、時間が経てば、イランはかなり疲弊します。そこで、最後の手段として本格的金融制裁をするかしないかを決定するでしょう。これは、中国に対しても全く同じです。チキンゲームの最終段階は米イラン双方とも最初から見えているのです。
「ドル使用禁止」という制裁は、米国ドルが基軸通貨である現在、世間で一般に思われている以上に厳しい制裁です。これが、日本のような国であれば、「ドル使用禁止」になったにしても、GDPの殆どが内需で占められ、貿易依存度が低い国では、確かに相当苦しいですが、何とかはできます。ちなみに日本の貿易依存度は27%です。

しかし、イランのような国ではそのようなわけにはいきません。イランは貿易依存度が41%です。 このような国では、「ドル使用禁止」されると、その制裁の効果は破滅的なものになります。

そのため、イランも対立が長引けば、いずれ「ドル使用禁止」をされて、破滅することは最初から理解していることでしょう。この破滅的な政策にあっては、いくらイランがハイブリット戦争を仕掛けたにしても、太刀打ちできないです。

ただし、そうはいってもどこまで米国がハイブリット戦争や、テロなどを仕掛けられれば、「ドル使用禁止」などで対抗してくるかを探っているとみるべきでしょう。

これは、米国だけではなく、米国の同盟国である英国も同じことです。場合によっては、我が国に仕掛けてくるということも十分に考えられます。

そうして、イランは米国や英国に対しても、ハイブリッド戦争やテロを仕掛けて自らに有利なのはどの程度なのかということを探り、その範囲内でいろいろ仕掛けてみずらにとっても有利なところはどこなのか探りを入れているのでしょう。

これは、かつての中国もそうでした。南シナ海で海洋進出してみたり、その他世界でいろいろなことを仕掛けてみました。その結果オバマはさしたる反撃もしなかったため、調子に乗ってやりすぎたところをトランプに貿易戦争を挑まれました。

米国としては、どこまでイランや中国、そしてロシアのような国々にハイブリット戦争や、テロを挑まれた場合許容できる点と、そうではない点をある程度明確にしているでしょう。

ある地点を超えた場合、何のためらいもなく「ドル使用禁止」「資産の凍結」などを実行することでしょぅ。そうして、その場合は、軍事的報復なども計算に入れているでしょう。

だから、英国も同盟国の米国の戦略まで含めてみれば、英国がハイブリット戦争に対して全く準備していないということはないのです。

シティ・オブ・ロンドン

英国のポンドは基軸通貨ではなくなったものの、ロンドンの金融街であるシティは未だに数々の特権を認められた自治都市を形成しています。これは米国のウォール街がニューヨーク市のいち区画に過ぎないのとは異なります。

英国の中央銀行である、イングランド銀行を筆頭に、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備銀行)の株式の大多数をシティーの金融街が握っており、英国(シティー)が今でも米国対して大きな影響力を持っているのです。

シティーが米国に作ったのがCFR(外交問題評議会)です。金融ばかりでなく米国の政治、経済、軍事も対してもシティが大きな影響力を行使することができるのです。その権力の中央に位置するのがイングランド銀行なのです。

イランがこの実体を知らないまま、英国に対してハイブリット戦争をなどを仕掛け続ければ、米国から痛い目に合わせられる日がくるのは必定です。ただ、米国とてすぐに厳しい措置をとれば、イラン側がどのような行動をするか、確かめながら実行しなけば、かえって被害を被る可能性も否定しきれません。

そのため、イランと英国の対立も制限なきチキンゲームになることはなく、いずれどこかの点で収束することでしょう。

ホルムズ海峡「有志連合」結成へ 問われる日本の決断―【私の論評】イランでも米国でも政治には宗教が大きく影響していることを忘れるべきではない(゚д゚)!



2019年7月20日土曜日

中国が"米国を圧倒すること"はあり得るか―【私の論評】日本は中国に対しては表では親和的に、裏では習近平が最も恐れる輸出制限・制裁の準備を粛々と進めよ(゚д゚)!

中国が"米国を圧倒すること"はあり得るか

日本は中国に対する幻想を捨てよ

静岡大学教授/文化人類学者 楊 海英
楊 海英氏

米中覇権争いが繰り広げられるが、中国の実力とはどれほどのものか。静岡大学教授で文化人類学者の楊海英氏は「中国が将来、米国を圧倒することはあり得ない」という。その理由とは――。

日本は将来、米中のどちら側につくのか

米中2大国の覇権争いが世界から注目されている。経済の分野では「貿易戦争が発動された」とか、先端科学技術分野では、「5世代移動通信システム(5G)開発の主導権をめぐって対立している」といった報道が多い。そして、将来はどちらが勝つのかという結果まで、日本では予想され始めた。結果を予測する際の隠れた目的は、日本は米中のどちら側につくのかという死活の問題も絡んでいるのではないか。

私は中国が将来、米国を圧倒することはあり得ない、と判断している。そう考える理由を以下に述べておく。私が依拠している情報はすべて、中国で生まれ育ち、そして30年間にわたって、研究者として現地で調査してきた経験に基づいている。

本末転倒の使命感が中国のウソの発展を支えた

第1に、中国は国内総生産(GDP)の数字が世界第2位だ、と自他ともに認めているが、実際は水増しされた統計によって得られた数字である。1991年からほぼ毎年のように中国の各地方で現地調査に行ってきたが、その都度、知人の幹部(公務員)はいかに上級機関から言われた「任務を達成」するかで頭を抱えていた。

天災や社会的動乱など、どんな理由があっても、前年度より「成長」していなくてはならなかった。北部中国の場合は旱魃(かんばつ)が数年間続いたり、民族問題が勃発(ぼっぱつ)して生産ラインが止まったりすることはよくあるが、それでも「成長」し続けなければならない。南部には水害がある。それでも、「成長」は幹部の昇進に関わるだけでなく、社会主義中国の「発展」を示す指標とされている。

「中国の共産党政府が13億もの人民を養っている」という独特な使命感を誇示するためにも、「成長」と「発展」は欠かせない。人民が政府と党を養っているとは、とうてい考えられない。この本末転倒の使命感が虚偽の統計とウソの発展ぶりを支えてきたし、これからも変わらない。つまり、中国には米国と対峙しうる充分な国力は備わっていないということである。

近代社会は米国も日本も、そして西洋諸国も、産業革命以来に数百年の歳月を経て、少しずつノウハウを蓄積して発展してきたが、中国はそうしたプロセスを無視しようとしている。共産党の指導部の野心が正常な発展を阻害していると判断していい。

あらゆる経済活動の権利を握っているのは共産党

第2に、中国が口で言っていることと、実際に実行していることとは、すべて正反対であると世界は認識すべきである。このことは、「大国」としての中国に世界をリードできるソフト・パワーがあるかどうかを試す試金石でもあるからだ。

例えば、「米国は自由貿易を阻害している」とか、「中国は世界の自由貿易の促進に貢献している」とか、中国はよく国際会議の場で主張する。ここ数年、トランプ政権が誕生してからは、さらにこうした主張を広げている。ときにはまるで前政権のオバマ大統領の自由貿易促進演説を剽窃(ひょうせつ)したかのような言い方を中国の習近平国家主席は口にする。しかし、事実はむしろ逆である。

 まず、中国は国内で自由貿易を実施していない。あらゆる経済活動の権利を握っているのは、中国共産党の幹部たちとその縁故者たちで、一般の庶民が中小企業を起こすのも、厳しい審査が設けられている。国営の大企業は共産党の資金源である以上、中小企業や個人の経済活動はすべて国営企業を支えるために運営しなければならない。
ジャック・マーはなぜ引退せざるを得なかったのか

 それでも、個人が持続的に努力してある程度裕福になると、政府からつぶされる危険性が迫ってくる。利益を党に寄付し、経営者も党員にならなければならない。従業員の数も一定程度に達すると、共産党の支部を設け、党の指導を受けなければならなくなる。いわゆる「党の指導」とは、企業の利潤を政府と結びつけることである。経営者個人の自由意思で経済活動が行われていないのが実体である。
アリババの創業者 ジャック・マー会長
 世界的なIT企業に成長したアリババの経営者、ジャック・マーの例が典型的だ。まだ、50代半ばという若さで経営権をすべて譲って、引退せざるを得なくなった。引退しなければ、腐敗だの、汚職だので逮捕される危険性があったからだろう。言い換えれば、政府はこれ以上、アリババのようなIT企業が国際舞台で成長しつづけるのに危機感を覚えたからである。

米中の対峙は異なる体制の深刻なイデオロギー戦だ

 次に、当然、中国は国際貿易の面でも自由なやりとりを許していない。例えば、外国企業が中国で投資して得た利益を自国には持ち出せない。引き続き中国国内で投資し、事業を拡大せざるを得ない。本国への資金の還流は厳しく制限されている。

 そして、情報化時代の現在、データの流通はさらに厳しく制限されている。中国で蓄積されたデータを国際社会で運用しようとすると、「安全性に問題がある」としてあの手この手で阻止される。

 このように、資金・データ、物流など、あらゆる面で中国こそ自由貿易に逆行する活動を白昼堂々と展開しているにも関わらず、米国を批判するのは、自国の汚い手口を隠すためだと理解しなければならない。

 実は、日本を含む国際社会も中国の手口、言行不一致を知っていながら、あえて批判したり、反論したりしないのも、これ以上不利益を被らないようにするためだろう。中国も国際社会の弱みを知っているから、自国の行動を是正しようとは思っていない。

 しかし、トランプ大統領はちがった。国内において自国民の自由な経済活動を制限し、少数民族を抑圧し、国際的には自由主義陣営に脅威を与えているのは、一党独裁が原因である、と認識している。トランプ政権の本音は、ペンス副大統領の演説やその側近たちのスピーチから読み取れる。

 つまり、米国と中国との対峙は決して「貿易戦争」だけではない。異なる体制がもたらす、深刻なイデオロギー戦である。そして、このイデオロギー戦はどちらかが体制を転換しない限り、解決の見通しは立たない。

独裁政権に媚びを売っても日本の国益にならない

 では、日本はどうすべきか。2大国の対立の陰に潜みながら、勝った側につこうという戦術は無意味である。どちらが人類の歩む道を阻害しているかを判断して、二者択一の決断を早晩しなければならないだろう。そのためには、現在の日本で流行っている軽薄な言説を改めるべきであろう。それは以下の2点である。

 第1は、トランプ大統領は商人だから、なんでも利益優先で「取引」しようとしている、という誤読である。日本には日本の国益、中国には共産党の党利党益があるのと同様に、米国にも国益があって当然だ。世界の多くの国々が米国を指導者とする自由と人権、民主と平等という理念を共有している以上、日本も米国と歩調を合わせ、同盟を強化するしかない。同盟関係を裏切って、独裁政権に媚(こ)びを売っても、日本の国益にはならない。

歴代の共産党指導者は真の友好を求めてきたか

 第2に、ツイッターなど最新の技術を駆使するトランプ大統領は「変幻自在」で先行き不透明で、内心が読み取れない、と日本のメディアはよく語る。これも同盟国としてあるまじき批判といえよう。

 では、毛沢東をはじめ、歴代の中国共産党の指導者は日本国民に胸襟(きょうきん)を開いて、真の友好を求めてきたことがあるのか。ツイッターも電子メールが出現した時代と同様で、一種のツールでしかない。日本は米国に対する先入観と、中国に対する幻想を放棄しない限り、米国が中国を完全に圧倒した暁には、見放されるかもしれない。

 もちろん、自発的に「中国の朝貢(ちょうこう)国」になる道も残されている。そうなれば、100万人単位で強制収容されているウイグル人のように、おおぜいの心ある日本人は自国の領土内で、中国共産党の刑務所に閉じ込められるだろう。

今こそ、日本人に「第2の維新」が迫ろうとしている。
楊 海英(よう・かいえい)
静岡大学教授/文化人類学者
1964年、南モンゴル(中国・内モンゴル自治区)出身。北京第二外国語学院大学日本語学科卒業。1989年に来日。国立民族学博物館、総合研究大学院大学で文学博士。2000年に帰化し、2006年から現職。司馬遼太郎賞や正論新風賞などを受賞。著書に『逆転の大中国史』『独裁の中国現代史』など。

【私の論評】日本は中国に対しては表では親和的に、裏では習近平が最も恐れる輸出制限・制裁の準備を粛々と進めよ(゚д゚)!

上の記事では、「日本は米国に対する先入観と、中国に対する幻想を放棄しない限り、米国が中国を完全に圧倒した暁には、見放されるかもしれない」としています。

確かに、日本国内は言うに及ばず、自民党内にも親中派・媚中派の政治家が存在します。しかし、少なくとも安倍総理とその取り巻きは違います。なぜなら、日本の対韓国輸出規制強化は、中国も意識したものであると考えられるからです。

米国のトランプ政権も、日本の対韓国輸出規制強化は、中国に対する牽制にもなるものととらえているでしょう。日本は対韓国規制を公表する前に、当然のことながら同盟国である米国に対して、これについて連絡しているでしょう。その上で韓国に対して、厳しい態度で臨んでいるわけですから、米国はこの制裁を対中国牽制にもなるとみて歓迎しているものと思います。

日本が韓国に輸出する規制対象3品目のひとつ「フッ化水素」の一部が中国に輸出され、韓国の半導体製造大手サムスン電子やSKハイニックスの中国工場で使われています。両社は半導体の10~20%を中国で生産しているとみられます。日本政府が8月末にも韓国をホワイト国指定から外し中国工場への先端材料の供給が滞るなら中国にも影響がでそうです。

このことは、最初から日本政府も当然のことながら理解していたでしょう。

中国メディアの今日頭条は14日、日本による対韓国輸出規制強化問題に関して「日韓の反応から力の差が分かる」と紹介する記事を掲載しました。

記事はまず、今回の日本の制裁があるまでは、韓国の半導体は「世界で揺るがぬ地位」を確立し、「日本を超えた」とも言われていたと紹介。そのため、半導体の3品目が制裁対象になっただけで国を揺るがす問題になったことを意外に感じた中国人は多かったと指摘しました。

韓国国内では、政府や企業が抗議をし、WHOに提訴を発表し、国民は日本製品不買運動に参加しています。「これだけの反応があったということは、日本がそれだけ韓国に打撃を与えた証拠」だと伝えました。それに引き換え、日本では大きな反応は起きていないです。「韓国からの報復は想定内」で、それでも制裁に踏み切ったのは「韓国の手の内にあるカードが少ないことを知っていたから」だと推測しています。

韓国は、日本とは違い決定打になるようなカードを持っていないと言えるでしょう。記事は、韓国の半導体製品でもスマホでも、輸出を止めたところで日本に打撃を与えるには及ばず、日本は他国から輸入すれば良いだけの話だと指摘しています。一方の韓国は、今回規制された3品目のかなりの部分を日本の輸入に依存しており、大きな打撃となるのは明らかです。

記事は結論として、日本の今回の規制に伴う2国間の反応の違いで、「日韓の実力差」が明らかになったと結論付けました。韓国のある分野が日本を超えたように見えたのは表面的で、日本の実力が見えていなかっただけだと分析しています。これは中国も同様で「ピークは過ぎたとはいえ、日本の実力を甘く見てはいけない」と注意を呼び掛けています。

韓国国内では国民の間でも不買運動が行われているようですが、反応が激しければそれだけ日本から受けた打撃の大きさを示してしまうと言えるでしょう。この事実は、日本を落ちぶれた先進国と見くびることさえあった中国人にも、少なからず衝撃を与えているようで、今まで見えにくかった日本の実力の一端を見せつけたと言えるのかもしれないです。

そうして、これは他ならぬ中共の幹部たちも気づいていることでしょう。日本からの部品や素材がなければ、韓国のようにお手上げになることはまだまだあります。特に工作機械など日本の独壇場です。これをストップされれば、韓国も中国もそれこそお手上げになりすま。

そうして、中国の製造技術にはとんでもない未成熟な部分があります。それについては以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【石平のChina Watch】中国製造業のアキレス腱―【私の論評】集積回路、ネジ・ボルトを製造できない国の身の丈知らず(゚д゚)!
深セン市にある「中興通訊」の本社
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。
 中国は今、海外から大量の集積回路を輸入しており、2017年の集積回路輸入数は3770億枚に上っている。中国製のラジオ、テレビ、通信機、コンピューターなどのあらゆる電子機器の心臓部分の集積回路は海外からの輸入に頼っているのである。輸入が一旦途切れてしまうと、中国企業はスマートフォンの一つも作れない。それがすなわち、先端領域における中国製造業の「寒い」現状である。 
 しかし中国国内企業は今まではどうして、自国産の集積回路の開発と製造に力を入れてこなかったのか。 
 集積回路の開発には莫大(ばくだい)な資金と時間が必要とされるが、金もうけ主義一辺倒の中国企業からすれば、それなら海外から部品を調達した方が早いし、知的財産権がきちんと保護されていない中国の状況下では、自力で開発した製品も競合業者によって簡単にコピーされてしまう。 
 だから中国国内企業の誰もが自力開発に力を入れたくないのだが、その結果、集積回路のような、製造業が必要とする最も肝心な部品は外国企業に頼らざるをえない。中国製造業の最大のアキレス腱(けん)は、まさにこういうところにあるのである。
さらに、もっと驚くべきことがあります。それを以下に引用します。
中国が製造できないのは集積回路だけではありません、多少とも先端技術などを要するものは製造できません。たとえば、中国はネジやボルトに関しては日本からの輸入に頼っています。 
中国メディアの捜狐は昨年11月10日、空母や戦闘機、高速鉄道に使われているボルトはどれも輸入品という「直視しなければならない現実」に関する記事を掲載しました。 
中国の機械工業の進歩は目覚ましく、利益率・輸出額ともに増加しているといいますが、戦闘機などに使用されるねじ・ボルトなどの部品は「ほぼ100%輸入」に頼っているというのです。記事は、中国で生産されている部品はいずれも精度の低いものばかりで、高速鉄道などに求められる精度や耐久性の高い部品は、日本や他国に頼るしかないと指摘しました。
日本製のネジ
例えば、中国の戦闘機「Jー20」のボルトはどうしても最高級の水準が求められ、ねじはすべて高温・腐食にも耐えるチタン製でなければならないといいます。しかし、中国にはこうした高いレベルのねじの生産技術も生産ラインもないと嘆きました。軍事分野以外でも、高速鉄道、長征7号ロケットにも海外から輸入した高品質のボルトが大量に使われているといいます。 
では、なぜ中国国内では生産できないのでしょうか。記事は、化学工業、冶金、鍛造の技術が遅れていることが原因だと分析。日本などのように「専門分業」ができておらず、製品システムや品質が不健全で、専門分野での研究が不足しており経験も足りないため、製造能力が低いのだとしました。

こうした現状に、中国のネット上では「作れないのではなく作りたくないだけ」、「ボルトなどの部品は買えば良い」などの意見があると紹介。しかし、これらの意見はいずれも現実を直視していないと切り捨てました。
ネジ・ボトルというと、日本では東京の大田区や大阪の東大阪の先端的な中小企業の独壇場です。中国にはそのような中小企業は育っていないのです。

無論、中国でも普通のネジは作成できますが、戦闘機や高速鉄道などの使用に耐えるネジは未だに製造できないのです。

中国や韓国の場合、日米では当たり前のように製造しているもので、製造が困難なものが多くあります。

このあたりを輸出規制すれば、韓国の製造業は崩壊、中国も「製造2025」などといっておられなくなります。このことを中共は良く理解していると思います。今頃習近平は頭を悩ませていると思います。

習近平

日本のマスコミは、中国は最近日本にすり寄ってきているなどと報道していますが、現実はそうではありません。尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域で先月10日、中国海警局の船4隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認しました。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは60日連続で、平成24年9月の尖閣諸島国有化以降で最長の連続日数を更新しました。

このような状況では、とても中国が日本にすり寄ってきたなどとは解釈できません。このようなことがなくならない限り、日本は中国が日本にすり寄ってきたなどと解釈すべきではないのです。

中国はすり寄り姿勢をみせつつ、尖閣での示威行動は改めないわけですから、日本としても中国と表では習近平を招くなどのことをしながら、いつでも中国に対して、輸出制限や、制裁をできるように準備をすすめるべきです。

それを日本が準備していることを米国に知らせれば、米国としても中国に対する大きな牽制になるということで大歓迎することでしょう。

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2019年7月19日金曜日

河野外相、駐日韓国大使に猛抗議! 徴用工解決策、勝手な説明に「極めて無礼」―【私の論評】戦後日韓関係の変質は、1993年の「河野談話」に始まり、2019年の「新河野談話」で完了(゚д゚)!

河野外相、駐日韓国大使に猛抗議! 徴用工解決策、勝手な説明に「極めて無礼」

河野氏(左)は、呼び出した南氏に猛抗議した =19日午前

河野太郎外相が激怒した-。いわゆる「元徴用工」の異常判決を受け、日本政府が要請した仲裁委員会開催について、韓国政府が期限内に回答しなかったため、河野氏は19日午前、南官杓(ナム・グァンピョ)駐日韓国大使を外務省に呼び付け、激しく抗議した。南氏が白々しく、日本がすでに拒否した解決策に言及しようとしたところ、河野氏から「憤怒」「激高」「激憤」といえる発言が飛び出した。

日本政府の強烈な怒りを韓国政府に明確に伝えるため、対談はテレビカメラを含めたメディアにも長時間公開された。

河野氏はまず、韓国の対応について「非常に残念だ」と強調。「国際法違反の状態をこれ以上野放しにせず、直ちに是正措置を取ることを強く求める」として、日本企業に実害が出ない解決策を講じるよう求めた。

これに対し、南氏は「本国に伝える。両国関係を損なわせずに訴訟が終結されるよう環境づくりに努力している」と答えた。

ただ、南氏が日韓両国企業の出資を柱とする、常軌を逸した解決策を勝手に説明し始めたため、河野氏は話を遮り、次のように言い切った。

「すでに受け入れられないと伝えている。知らないふりをして改めて提案するのは極めて無礼だ!」

日本側は今後、国際司法裁判所(ICJ)への提訴に向けた検討を本格化させる。狂気の文在寅(ムン・ジェイン)政権が退陣しない限り、日韓関係の正常化はあり得ないようだ。

【私の論評】戦後日韓関係の変質は、1993年の「河野談話」に始まり、2019年の「新河野談話」で完了(゚д゚)!

まず、河野外相、駐日韓国大使に猛抗議した模様をノーカットで掲載した動画を以下に掲載します。


以下にこの発言に関する臨時会見での後の外務大臣の発言を掲載した外務省のウェブページからその内容を掲載します。

河野外務大臣臨時会見記録

(令和元年7月19日(金曜日)10時47分 於:本省中央玄関ホール)
冒頭発言
【河野外務大臣】昨年の韓国の大法院判決により韓国側に国際法違反の状況が生じておりましたので,今年の1月に請求権協定に則った協議の申し入れを行いました。協議が成立しませんでしたので,5月20日に協定に則り仲裁付託のプロセスを始めたわけでございますが,仲裁人の指名,あるいは第三国の選定といった必要なプロセスが期限内に行われず,国際法違反の状況の是正に至りませんでした。その仲裁プロセスができなかったことは残念でありますが,韓国側にこの国際法違反の状況の是正を速やかに行っていただくよう強く求めたいというふうに思います。後ほど,外務大臣としての談話を発出させていただくことになっております。私(大臣)からは以上です。

▶質疑応答
【記者】大臣の発言に対し南(ナム)大使からどのような反応があったのでしょうか。

【河野外務大臣】韓国側に大法院の判決の問題と関係のない問題を混同するようなご発言がございましたが,それはきちんと混同のないように韓国国内で説明をいただきたいと思います。また韓国側から提案がひとつございましたが,この提案は国際法違反の状況を是正するものではございませんでしたので,外交当局間で示されたときに,それは残念ながら解決策たり得ないということはすでに申し上げております。それをベースに何か解決策を議論するということには残念ながらなりません。

【記者】今後の日本政府の対応ですが,国際司法裁判所への提訴を含めて,どのような対応を検討していますでしょうか。

【河野外務大臣】必要に応じた適切な対応をしっかり取ってまいりたいと思います。また,この大法院判決によって日本企業に実害が生じるようなことが万が一起これば,必要な措置を適切に取っていくことになろうかと思います。

【記者】来月にはGSOMIAの更新期限を迎えますけれども,安全保障上の関係にも影響する可能性が出てくるかと思いますが,その点についてはどのようにお考えですか。

【河野外務大臣】日米韓,しっかり連携をして地域の安全保障を確実に高めていかなければならないと思っています。それは外交当局間でも認識は一緒でございますし,防衛当局間でも同じような認識というふうに承知をしております。

【記者】日韓請求権協定の第3条3項の期限は過ぎたんですが,今後日本政府としては仲裁は求めないということ,区切りをつけたという認識でいいのか,ということが一点と,あと先ほど実害があれば必要な措置と仰いましたけれども,これは賠償を国際法に則って韓国政府に請求するということも念頭にあるという理解でよいのでしょうか。

【河野外務大臣】仲裁のプロセスで問題解決できなかったことは非常に残念でございます。外交当局間の対話はしっかりしてまいりたいというふうに思いますが,韓国側に必要な是正の措置を速やかに取っていただきたいというふうに思います。今後,必要な措置をいつどのようにするか,日本側の考えを公にすることは差し控えたいというふうに思います。

【記者】関係のない問題を混同されているというお話がありましたが,日本側の輸出管理の規制の話でしょうか。また,日本としては別問題だという説明ですけど,完全に韓国としては混同されて関係が悪化しているんですが,この現状をどうごらんになりますでしょうか。

【河野外務大臣】輸出管理の問題は日本の国内法令に,いわば任されているものですので,日本として必要な見直しをやるというのはこれは当然のことであります。これは大法院判決とは何ら関係なく行われているものでございます。そこを混同して説明されるようなことがないように我々としては注意喚起をしていきたいと思います。

【記者】会談の場で,日本が到底受け入れられない解決案について韓国側がこれまで提案してきたけれども,とあえて言ったこと,あの場面についてはどのように受け止められましたでしょうか。

【河野外務大臣】韓国側から提案をいただいているわけですが,それは問題の解決に資することがない,国際法違反の状況を是正しないものですので,これは日本として受け入れられないということはその場で申し上げたものでございます。

【記者】先ほど来,輸出管理の問題は大法院判決とは何ら関係がないと仰ってますけども,当初日本側が輸出管理の問題を発表したときに,日韓の信頼関係が損なわれている要因としてですね,この問題を世耕大臣とか経産省の方も仰ってたわけですけども,何ら関係ないというのは言い過ぎなのではないでしょうか。直接関係ないかもしれないですけども,間接的には少なくとも関係があるんじゃないでしょうか。

【河野外務大臣】関係ありません。

【記者】では当初の説明は何だったんですか。

【河野外務大臣】経産省にお聞きください。

【記者】官房長官もそのようなことを仰っていましたけれども,背景として,1つとして,労働者の問題があると仰っていますけれども,その点の矛盾についてはどうご説明されるんですか。

【河野外務大臣】輸出管理はきちんと輸出管理当局間で対話が行われている前提で,その対話が行われていなかった,というふうに承知をしておりますが,今,外交当局で問題解決に当たっている大法院判決に関するものとは全く関係がありません

【記者】そうすると外務省と経産省で言っていることが違うということにはならないですか。

【河野外務大臣】違うことにはならないと思います。

【記者】先ほどの場で,改めて韓国側が提案を示したことを受けてですね,非常に無礼だと強い調子で非難されたわけですけれども,そこで韓国大使がどういうふうな表現ぶりで応答があったのでしょうか。大臣のその非難について。

【河野外務大臣】その後の話について,公にするのは差し控えたいと思います。

【記者】日本側が韓国側の大使の発言を遮ってですね,かなり大きな声で無礼だというのはかなり異例だと思うのですが,それはどういう説明ですか。

【河野外務大臣】この韓国側の提案については,既に外交当局間の間で問題解決には資するものではないということを申し上げております。それを韓国側が公に提案として出してきたということについて,これは日本側からおかしいではないかということを以前にも抗議をしているものでございます。

本日午前臨時会見に応える河野外務大臣

河野太郎外相は19日、いわゆる徴用工訴訟をめぐり、日韓請求権協定に基づく仲裁委員会の設置に韓国政府が応じなかったことを受け、談話を発表した。全文は以下の通りです。

大韓民国による日韓請求権協定に基づく仲裁に応じる義務の不履行について

 1 日韓両国は、1965年の国交正常化の際に締結された日韓基本条約およびその関連協定の基礎の上に、緊密な友好協力関係を築いてきました。その中核である日韓請求権協定は、日本から韓国に対して、無償3億ドル、有償2億ドルの経済協力を約束する(第1条)とともに、両締約国およびその国民(法人を含む)の財産、権利および利益並びに両締約国およびその国民の間の請求権に関する問題は「完全かつ最終的に解決」されており、いかなる主張もすることはできない(第2条)ことを定めており、これまでの日韓関係の基礎となってきました。

 2 それにもかかわらず、昨年一連の韓国大法院判決が、日本企業に対し、損害賠償の支払等を命じる判決を確定させました。これらの判決は、日韓請求権協定第2条に明らかに反し、日本企業に対し一層不当な不利益を負わせるものであるばかりか、1965年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆すものであって、極めて遺憾であり、断じて受け入れることはできません。

 3 わが国は、国際社会における法の支配を長く重視してきています。国家は国内事情のいかんを問わず国際法に基づくコミットメントを守ることが重要であるとの強い信念の下、昨年の韓国大法院の判決並びに関連の判決および手続きにより韓国が国際法違反の状態にあるとの問題を解決する最初の一歩として、本年1月9日に日韓請求権協定に基づく韓国政府との協議を要請しました。

 4 しかしながら、韓国政府がこの協議の要請に応じず、また、韓国大法院判決の執行のための原告による日本企業の財産差押手続が進む中、何らの行動もとらなかったことから、5月20日に韓国政府に対し、日韓請求権協定第3条2に基づく仲裁付託を通告し、仲裁の手続きを進めてきました。しかしながら、韓国政府が仲裁委員を任命する義務に加えて、締約国に代わって仲裁委員を指名する第三国を選定する義務についても、同協定に規定された期間内に履行せず、日韓請求権協定第3条の手続きに従いませんでした。

 5 このことにより、5月20日に付託した日韓請求権協定に基づく仲裁委員会を設置することができなかったことは、極めて遺憾です。

 6 昨年の一連の韓国大法院判決並びに関連の判決および手続きによる日韓請求権協定違反に加え、今般、同協定上の紛争解決手続である仲裁に応じなかったことは、韓国によって更なる協定違反が行われたことを意味します。

 7 日本政府としては、こうした状況を含め、韓国側によって引き起こされた厳しい日韓関係の現状に鑑み、韓国に対し、必要な措置を講じていく考えです。

 8 本件の解決には、韓国が度重なる国際法違反の状態を是正することが必要であり、韓国に対し、そのための具体的な措置を直ちに講ずるよう、改めて強く求めます。

この談話の韓国語訳はこちらからご覧になることができます。中国語訳はこちからご覧いただけます。

上記1〜4については、当然といえば当然という内容です。しかし、韓国が日本に対して過去にどういうことをしてきたのか、このように、大臣の談話として公表されたことは誠に有意義なことです。

わが国のメディアによる日韓関係の報道は、周回遅れであり、現在の状況を一般の日本国民にきちんと知らせるためには、大臣自身が一から説明したことは大変有意義なことです。

今回の「河野談話」には、「これまで韓国が日韓請求権協定を守らなかった」という点が強調されていて、それだけでも韓国にに対し、毅然とした対応を取る、という決意を読み取ることができます。

今回の「河野談話」には、新しい論点はほとんどありません。ただ、本日が、日韓関係が決定的に変質した「区切り」になることは間違いないです。

河野洋平氏

思えば、1993年、河野洋平が発した「河野談話」は、日本が実行してもいない「自称元慰安婦の強制連行問題」を、あたかも事実であるかのように認めてしまったという意味で、日韓関係を破壊する契機になったことは間違いありません。

つまり、戦後日韓関係の変質は、1993年の「河野談話」に始まり、2019年の「新河野談話」で完了することになる、という言い方もできるのかもしれません。

これこそは、歴史に残る素晴らしき新河野談話です。1991年の河野談話とは天と地との差があります。あれから28年、日本にはやっと、国益と国家の尊厳を断固として守る政治家と政権が現れたようです。

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2019年7月18日木曜日

「親中」に逆風が吹き始めた台湾総統選―【私の論評】台湾では、宗族の良い要素だけが残ったため、民主化が実現されている(゚д゚)!


民進党・蔡英文と国民党・韓国瑜の対決は“米中代理戦争”に

台湾総統選挙に向けた国民党予備選で勝利した韓国瑜・高雄市長

台湾・高雄市の現職市長、韓国瑜(かん・こくゆ/ハン・クオユ)が来年(2020年)1月の台湾総統選の国民党候補となった。民進党の候補は現職総統の蔡英文。鳴り物入りで国民党候補の予備選出馬を表明していたフォックスコン(鴻海精密工業)会長の郭台銘が選ばれなかったのは、おそらく香港の「反送中デモ」の盛り上がりが台湾世論に影響したせいもあるかもしれない。

 なぜ郭台銘が国民党候補に選ばれなかったのか、韓国瑜が出馬することで台湾の情勢はどう動くのか、考えてみよう。

人気が失速した「親中」郭台銘

 国民党の総統候補選びは党員による選挙ではなく、一般有権者への民意調査で決められた。一般市民の固定電話1.5万軒を対象に7月8日から1週間、5人の国民党総統候補の中でどの候補者を支持するか調査が行われ、15日に発表された。その結果、韓国瑜の支持率が44.8%と圧勝。郭台銘は27.7%と第2位だったが、17%も差をつけられた。ちなみに朱立倫(しゅ・りつりん)支持は17.9%。

 7月10日に行われたメディアによる民間の調査では韓国瑜支持者が41.9%、郭台銘支持者が32.1%で9%の差がついていた。郭台銘はこのとき「絶対信じられない。これはサンプルの取り方がおかしいんだ」とムキになっていたが、今回の民意調査で、郭台銘は本人が思っているほど人気がないことがさらにはっきりしたわけだ。

 韓国瑜は記者会見で、「総統候補予備選に勝ったからといって全く嬉しくもない。ただ重圧を感じるだけだ」とコメント。一方、郭台銘はよほどショックだったのか、会見時は「すまない・・・」と言って涙を拭いて鼻をかみ、「台銘を選べば台湾は幸せになれたが、台銘を選ばなければ、台銘(私)が幸せだということだ」と悔しさをにじませた。さらに「韓市長には歴史的な地位を築いてほしい。3期連続任期を果たしてほしい。そのための協力を惜しまない」とエールを送った。

 さて、なぜ郭台銘は敗れたのだろうか。郭台銘の悔し泣きの涙が本物だとすると、彼自身は自分が総統候補になると信じていたのだろう。元々は「一番なりたくない職業、台湾総統」と言ってはばからなかった彼が、「媽祖のお告げ」などと神妙なことを言って国民党総統候補に名乗りを上げたのは、中国共産党の強い要望があったからだと言われている。だが、郭台銘の背後には中国共産党の影が見えすぎて、有権者だけでなく国民党員からも敬遠されたのではないか、と見られている。

 民意調査によれば、韓国瑜支持者は、実は国民党支持者ではなく韓国瑜個人のファンが多いらしい。台湾民放のTVBSの調べでは、韓国瑜は4月25日の段階で支持率44%。韓国瑜、蔡英文、柯文哲の誰に入れるか、という質問で「誰にも入れない」という答えは全体の8%だった。ここに韓国瑜の選択肢が無くなると「誰にも入れない」という答えは15%に跳ね上がる。韓国瑜だから投票する、韓国瑜が選挙にでないなら選挙に行かない、という熱烈な支持者が韓国瑜にはついている、ということだ。

 一方、郭台銘はその知名度やカリスマ性から中間層の票を取り込みやすいと信じられていたが、台湾有権者の間で中国に対する警戒心が強まったのが人気の失速につながった。いうまでもなく、香港の「反送中デモ」をきっかけに、中国の言う「一国二制度」の危うさがあらためて台湾人の意識に上ったことが大きい。

米国は蔡英文に肩入れ、米中代理戦争に

 多くのチャイナウォッチャーや国際政治学者たちの見立てでは、来年の台湾総統選挙は一種の“米中代理戦争”になると言われている。台湾淡江大学の黄兆年教授がBBCにこうコメントしている。「台湾総統選は台湾内部の政党同士の競争というだけでなく、国際強権同士の競争であり、つまりはワシントン VS. 北京の競争だ」。

 米国は蔡英文・民進党政権推しで、中国は国民党推しである。国民党主席の呉敦儀(ご・とんぎ)は、もし次の総統選で国民党が政権に返り咲けば、中国共産党の和平協議プロセスに入り、国共内戦の終結に区切りをつける意志を示している。

 共産党も国民党も「大中華主義」であり「一つの中国」を原則としている以上、この和平協議プロセスの行きつく先は中台統一である。その中台がたとえ「一国二制度」の名のもと、異なる政治システムを容認するという建前であっても、香港の「一国二制度」の現状をみれば、それが事実上、中国共産党による台湾の併呑(へいどん)という形に終わるという可能性は極めて強い。

 つまり、国民党政権が誕生すれば、中国が太平洋に進出するのを防ぐ橋頭堡の役割を果たしていた台湾が中国の一部になってしまい、米国のアジア戦略は根本から見直しを迫られる、ということになる。
 中国が郭台銘を国民党総統候補として本命に推していたのは、韓国瑜よりも郭台銘の方がコントロールしやすいと考えたからだと見られている。韓国瑜は今年3月に香港に赴き中央政府駐香港連絡弁公室(中聯弁)を訪問した初の台湾地方首長という意味で、親中派である。だが韓国瑜は所詮、地方政府の首長であり、外交政策や両岸政策(台中政策)を含む国際情勢についての定見はほとんどない。しかも、ポピュリスト政治家の典型である彼は、中国の思惑より台湾世論の風向きに敏感だ。台湾人は近年、経済利益よりも国家安全を重視する傾向が顕著で、これは6~7年前と比較して大きな変化といえる。そして台湾人の国家安全に対する要求は、具体的には米国との協力が絶対条件であると考えるようになっている。だから韓国瑜は、「国家安全は米国に頼り、市場は中国に頼り、技術は日本に頼る」という方針をあえて表明していた。中国にとっては、「中国との関係強化が台湾の最大の安全保障」と訴える郭台銘の方がいいに決まっている。

 だが、蔡英文 VS. 韓国瑜の一騎打ちの構造になるなら、米国は当然蔡英文に肩入れするだろうから、韓国瑜は中国との関係について時機を選んで態度を表明することになろう。韓国瑜にとっては、どの程度、親中的姿勢を見せるのが適当なのか、かなり悩ましいものになるかもしれない。

 蔡英文は先日、カリブ海諸国に外遊に行く途中、ニューヨークに立ち寄り2泊、帰りにデンバーで2泊と、異例の米国での長時間滞在を果たした。ニューヨークでは台湾と外交関係を持つ在外公館関係者や米台企業家と公式に会合をもち、また夜の宴会には米超党派議員5人も出席。コロンビア大学では、中国が提示する一国二制度を使った台湾統一のプロセスについて、香港の一国二制度の経験を例に挙げて、はっきりと否定する内容の演説を行った。これらは台湾現職総統としては異例の公式行事と言える。蔡英文にこれだけの活動を認めた米国政府は、明確に蔡英文総統の再選を支持しているというメッセージを発していると受け止められるだろう。
台湾の蔡英文総統

選挙戦の戦略に制限が出てきた韓国瑜
 さて、韓国瑜が国民党総統候補予備選に勝利して発した「嬉しくとも何ともない。プレッシャーがあるのみ」というコメントは本音であろう。いかに選挙巧者の韓国瑜であっても、米国を後ろ盾にもつ蔡英文に勝つのは簡単ではない。一番最近の民意調査によれば、蔡 VS. 韓の一騎打ち選挙になった場合、蔡英文支持率が45.9%、韓国瑜が39.0%と蔡英文が6.9ポイント、リードしている。ここに柯文哲や郭台銘が無所属で参戦したとしても、僅差ではあるが蔡英文リードは変わらない。
 もともと韓国瑜の方が人気が高かったはずだが、香港の「反逃亡条例改正案デモ」(反送中デモ)での影響で蔡英文への支持が優勢になった。理由は単純で、中国の一国二制度下にある香港で司法の独立や言論の自由が守られない厳しい現実を目の当たりにして、「ひょっとしたら中国とうまく『和平協議』をすることで、一国二制度下で、民主主義と中国との経済一体化による果実の両方を手に入れながら、中国からの軍事的恫喝も解消することができるのではないか」とゆれ動いていた台湾民意が、冷や水をかぶせられたように正気に戻ったからだ。こうなってくると、韓国瑜が掲げる“中国に頼る”経済振興政策に吸引力はなくなってくる。一応、香港デモについての立場を聞かれたときは「わからない」と、あいまいな態度をとり、中国に嫌われないように言葉を選んだが、このコメントは台湾内の支持をむしろ減らした。

 いまや香港では親中派を名乗るビジネスマンであっても、中国の機嫌を損ねることよりも、米国の香港人権・民主主義法によって香港の関税優遇措置などを撤回されることの方を恐れている状況だ。台湾とて、中国経済との接近を大々的に打ちだせば、米国を敵に回すことになるやもしれない。必ずしも親中的経済政策は台湾財界へのポジティブなメッセージにはならなくなってきたのだ。世界各国が今、「米国か中国か」という踏み絵を迫られているなか、すでに民主主義の果実を享受している台湾ビジネスマンたちも立場を明確にすることを恐れている。だから郭台銘ですら、香港の反中送デモの勢いを見て「一国二制度は失敗だ」と口走ったのだ。

 かといって、韓国瑜は国民党の方針に反して反中を打ち出すわけにもいかず、和平協議プロセスを否定するわけにもいかない。非常に選挙戦の戦略に制限が出てくる。これが米中代理戦争の要素がないならば、蔡英文の4年の政治・経済の失点をあげつらうだけでよかったのだが。

 国民党内部では、台湾の主権問題、両岸経済のテーマ、和平協議の方針などをもう一度すり合わせ、有権者の支持をえるための方策を練り直す必要が出てきた。だが、国民党の姿勢が変われば、今度は中国はどんな態度で出てくるか。

 また韓国瑜は昨年、高雄市長に当選したばかりで、高雄市を台湾一の大都市にするという公約を果たさずに、総統選候補となった。このことは、高雄市民や市議の不満を少なからず引き起こしている。高雄市の民進党系6団体は、韓国瑜に対する高雄市長罷免動議を出す準備をしているという話もある。韓国瑜には根強いファンがいるものの、この公約破りの後に、かつてのような韓流マジックを再び起こせるかはあやしい。

 今後の米中両国の台湾に対する出方によって、移ろいやすい台湾民意はまだまだ一転二転するかもしれない。台湾総統選は始まったばかり。その結果によって、日本の安全保障も大きく変わりうるわけだから、不安に揺れ動く台湾に共感をよせて、日本人も改めて民主と自由の価値を一緒に考えていく機会にしたらどうか。

【私の論評】台湾では、宗族の良い要素だけが残ったため、民主化が実現されている(゚д゚)!
台湾と大陸中国の対立といういうと、多くのメデアは単純化し、民主台湾と、中共一党独裁の大陸中国の対立という具合にみて報道しがちです。

現在の台湾は、大陸中国とは違い民主的な形態をとる国家です。なぜこの違いがでてきたのでしょうか。無論、現在の台湾はもともと大陸中国が支配していたわけでもなく、そこに国共内戦で負けた蒋介石率いる中国国民党軍が入り、台湾民主主義共和国を樹立したのがはじまりです。その前は、日本が統治していました。その前は、台湾が大陸中国に属していたというはっきりした歴史的記録はありません。

台湾初代総統 蒋介石

そうして、この両者には民主主義と、一党独裁主義の違いの他に、もっと根底的な社会構造の違いがあります。

それは、宗族のあり方の違いです。台湾には宗族の伝統は残っていますが、大陸中国のような残り方はしていません。そこが、大陸中国との根本的な違いです。

ちなみに、大陸中国の宗族については昨日このブログに掲載したばかりですので、そこから下に宗族に関する部分のみ引用します。
宗族(そうぞく)とは、中国の父系の同族集団。同祖、同姓であり、祭祀を共通にし、同姓不婚の氏族外婚制をたてまえとするものです。同じく血縁でも母系は入らず、女系は排除されます。 
したがっていわゆる親族のうちの一つであっても、親族そのものではありません。文献では前2世紀頃あるいは3世紀頃からみえます。同族を統率する1人の族長の支配下におかれ、族内の重要問題は,同族分派の各首長 (房長) らによる長老会議または族人による同族会議が召集され、協議決定されました。

宗族は往々集団をなして同族集落を構成し、その傾向は華中、華南に強く、1村をあげて同族であることも少くありませんでした。その場合、閉鎖的で排他性が強く、利害の衝突から集落相互間に争いを引起すこともありました。また同族結合の物的基礎として、共同の祖先を祀る宗祠設立のほか、義荘,祭田の設置、族譜 (宗譜) の編集なども行われました。
・・・・・・・・・・・・・・・・ 
中国人にとって、今でも一族の利益、一族の繁栄はすべてであり、至高の価値なのです。それを守るためにはどんな悪事でも平気で働 くし、それを邪魔する者なら誰でも平気で殺してしまうのです。一族にとっては天下国家も公的権力もすべてが利用すべき道具であり、 社会と人民は所詮、一族の繁栄のために収奪の対象でしかないのです。 
だから「究極のエゴイズム」を追い求め、一族の誰かが権力を握れば、それに群がり、もし失脚すれば、一族全員がその道連れ となって破滅するのです。 
習近平と王岐山一族が、いま何をやっているか、なぜそうなのか。正に宗族の論理によって突き動かされ、一族だけの利権を追 求し、一族だけが繁栄を究めているのです。 
中国共産党が『宗族』を殲滅したのではなく、むしろ、宗族の行動原理は生き残った上で、党の中国共産党政権自身を支配しているのです。中国における宗族制度の原理の生命力はそれほど堅忍不抜なものであり、宗族は永遠不滅なのです。 
中国人は、現代日本人の感性や規範、道徳、しきたりとまったく異なる伝統を今でも保持しているのです。
現在の台湾では、宗族の伝統は残ってはいますが、中国のように「究極のエゴイズム」を追い求めるような存在ではありません。

台湾においても、従来の宗族は儒教を通して、祖先崇拝、族長の統治、系譜の存在、一族の互助、家廟、祀堂場所の建立など、宗族の組織は非常に厳密でした。宗族員の結合は堅く、宗族の機能も広汎でした。

しかし、古くは日本統治、最近では産業の進展にともない、宗族の構成は大きく変化しました。

喪失して要素としては、族長権威と、共有財産です。持続されている要素としては、祭祀と墓参りです。残存要素としては、豊かな人間関係、経済の援助、系譜の尊重などです。

台湾では、宗族の良い要素だけが残ったようです。ここが、宗族の伝統の悪い面も根強く残り、中国共産党をも支配している大陸中国とは、対照的です。

台湾では、宗族の構成が大きく変化したからこそ、まがりなりにも民主主義が根付いているということができます。

ちなみに韓国も宗族の概念が今でも息づいています。いくつかの宗族は、ソウル市内に各々「何々宗親会」の事務所をかまえています。いわば宗族互助組織です。それこそ同宗族の子弟の、進学のための奨学金や就職の面倒まで、これがみるのです。

韓国の宗廟 昌徳宮(チャンドックン)

また各宗族は「族譜(チョクポ)」とよばれる家系図を有し、自己の家系に著名な人物のいることを誇るのです。婚姻の際にはこの族譜をたがいに見せあい、家格の妥当性をさぐりあいます。もちろん、悠久の歴史をへているのであるから、改竄もくわえられ、族譜の売買もおこなわれています。ここが、台湾と韓国との違いでもあるようです。これについては、述べるとながくなりますので、また機会を改めて掲載させていただきます。

台湾の総統選挙で、国民党が勝利すれば、やがて大陸中国に支配され、悪しき宗族の伝統が復活し、台湾の社会を後戻りさせてしまうことにもなりかねません。そうなると、現在の台湾のような民主的な社会をつくり出すことは困難になるでしょう。

それだけ、次の台湾の総統選挙は重要なものなのです。

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2019年7月17日水曜日

まさに血で血を洗う戦い!? “独立王国化”する中国マフィア…共産党は“容赦なき”取り締まり ―【私の論評】宗廟、宗族を理解しなけば、中国社会を理解できない(゚д゚)!

まさに血で血を洗う戦い!? “独立王国化”する中国マフィア…共産党は“容赦なき”取り締まり 

この土地には、共産党の権力など及んでいない--。

 こんな大胆な発言さえ聞こえてくるという。

 昨秋から、中国共産党が一段と力を入れて取り組んできたマフィア撲滅キャンペーンでの一幕である。

 問題はすでに各地で明らかであったが、湖北省での事件をきっかけに事態の深刻さを認識した中央が、徹底的な撲滅を指示したのである。

 キーワードは「掃黒」と「除悪」である。

 黒社会(ギャング)を打倒し、社会から悪を取り除く。だが、実態は字面以上に恐ろしい。

中国の黒社会

 というのも社会に浸透した組織犯罪が目に余るレベルに達し、独立王国化しているためだ。

 そもそも中国では地方の当地の権力者と地回りのヤクザが結びつきやすいという歴史がある。

 古くから、「游侠」という言葉があったように、中央から派遣されてきた官僚も、こうした地方の勢力と対立しては、うまく土地を経営できなかったというのが実態だったからだ。

 今年建国70周年を迎える中華人民共和国も、建国から5年間は、ひたすら地下に巣くう秘密結社の退治(これはマフィアの進化形とされる)に費やされたとも言われている。まさに血で血を洗う凄まじい戦いだったともいわれている。

 中国のマフィアが日本の暴力団と違うのは、単なる犯罪集団の枠を超えて、地域のルール形成にも役割を担っているからである。

 今回のマフィア退治の過程でもいくつかの例が明らかになっているが、一部の権力者はマフィアと結びつくだけでなく、貧しい者に金を配るなど義賊的な手法で人心掌握にもぬかりはないというから恐ろしい。

 それだから中央から派遣されてきた公安が地元の協力を全く得られないどころか、追い返そうとする事態にまでなっているというから頭が痛い。

 だが有史以来、中国共産党がギャングの跋扈跳梁を許したことはない。取り締まる側のやり口も容赦ない。

今年中国のネット上に(公文書)の形で「“掃黒除悪十二類重点打撃対象(“掃黒”・
“除悪”12種類の主要な打撃対象)」と題するビラが掲載され、主要な打撃対象と
なる12種類の「黒悪勢力(暴力団・悪人勢力)」の詳細が箇条書きで示された。

 3月28日、湖北省の武穴市公安局は同市梅川鎮の書記・程少徳を筆頭に息子など7人の組織メンバーを逮捕したと公表したのだが、驚いたことに、その情報公開の資料の末尾には、「彼らの罪について知っていることを通報してほしい」との市民への呼びかけが記されていたことだ。

 とりあえず逮捕して、その後で罪を募集したというわけじゃないだろうが、この機会に徹底的に罪を重くして葬ってやろうとの決意が伝わってくる。まさに問答無用な大鉈が振り下ろされているのである。

 中国の権力の恐ろしさがよくわかるが、その一方では「天網恢恢疎にして漏らさず」などといいながらきっちり逃げおおせているやくざがいるのを見ると、中国の広さをあらためて実感させられるのだ。

 ■富坂聰(とみさか・さとし) 拓殖大学海外事情研究所教授。1964年生まれ。北京大学中文系に留学してジャーナリストとして活動。中国の政・官・財界に豊富な人脈を持つ。『中国人民解放軍たのち、週刊誌記者などを経の内幕』(文春新書)など著書多数。近著に『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』(PHP新書)。

【私の論評】宗廟、宗族を理解しなけば、中国社会を理解できない(゚д゚)!

中国でなぜ黒社会がはびこるのか、それは中国の独特の社会を理解しないと永遠にわからないと思います。そもそも、宗廟、宗族がわからないと中国の伝統文化や社会の源流が理解できないです。

まずは、宗廟(そうびょう)とは、中国において、氏族が先祖に対する祭祀を行う廟のことです。中国の歴代王朝においては、廟号が宗廟での祭祀の際に使われます。日本では、台湾の台中にある林氏宗廟や、世界遺産に登録されている朝鮮王朝(李氏朝鮮)の李氏宗廟が有名です。

宗族(そうぞく)とは、中国の父系の同族集団。同祖、同姓であり、祭祀を共通にし、同姓不婚の氏族外婚制をたてまえとするものです。同じく血縁でも母系は入らず、女系は排除されます。

したがっていわゆる親族のうちの一つであっても、親族そのものではありません。文献では前2世紀頃あるいは3世紀頃からみえます。同族を統率する1人の族長の支配下におかれ、族内の重要問題は,同族分派の各首長 (房長) らによる長老会議または族人による同族会議が召集され、協議決定されました。

宗族は往々集団をなして同族集落を構成し、その傾向は華中、華南に強く、1村をあげて同族であることも少くありませんでした。その場合、閉鎖的で排他性が強く、利害の衝突から集落相互間に争いを引起すこともありました。また同族結合の物的基礎として、共同の祖先を祀る宗祠設立のほか、義荘,祭田の設置、族譜 (宗譜) の編集なども行われました。

これらが、本当に理解できていないと、彼らの「戦争も腐敗も善とな る」という、日本人にはとても理解しがたい、怖ろしい論理を知ることはできません。この原論は世界に散った華僑の 世界にいまも生きています。

華僑がマレーシアから引き離して独立させた人口国家が現在の都市国家シンガポールです。現在ではトランプと金正恩の首脳会談やら、シャン グリラ対話の開催地として、多くの日本人にとっては「国際都市」の好印象を持たれ、グローバルシティのイメージがあるようでず、どっこい、この華僑の都市 になぜかチャイナタウンがあります。「チャイナタウン in チャイナタウン」です。

時間をかけてシンガポールの下町をゆっくりと町を歩いた人であれば、誰で奇妙なことに気がついたと思います。通りの名前です。金門通り、寧波通 り、等等ですつまり出身地別に居住区が異なるのです。

広東省の省都・広州市のど真ん中に観光名所「陳氏書院」があります。立派なお屋敷跡です。じつはこの陳氏書院とは陳氏宗廟な のです。



ミャンマーの下町に宏大に拡がるチャイナタウンも華僑の街です。横丁を丁寧にあるいてみると、ある、ある。李氏宗家とか、黄 氏宗廟とか、一族の名前が建物の入り口に冠されています。古都マンダレーへ行くと雲南会館とか、四川友好会館とかの立派な建物 があちこちに目に飛びこんできます。

そして中国のいたるところ、宗廟があって、世界中に散った一族が集まる習慣がいまも確然として残っているのです

これが、宗族、日本人に分かりやすく言えば、「一族イズム」です。

中国人にとって、今でも一族の利益、一族の繁栄はすべてであり、至高の価値なのです。それを守るためにはどんな悪事でも平気で働 くし、それを邪魔する者なら誰でも平気で殺してしまうのです。一族にとっては天下国家も公的権力もすべてが利用すべき道具であり、 社会と人民は所詮、一族の繁栄のために収奪の対象でしかないのです。

だから「究極のエゴイズム」を追い求め、一族の誰かが権力を握れば、それに群がり、もし失脚すれば、一族全員がその道連れ となって破滅するのです。

習近平と王岐山一族が、いま何をやっているか、なぜそうなのか。正に宗族の論理によって突き動かされ、一族だけの利権を追 求し、一族だけが繁栄を究めているのです。

中国共産党が『宗族』を殲滅したのではなく、むしろ、宗族の行動原理は生き残った上で、党の中国共産党政権自身を支配しているのです。中国における宗族制度の原理の生命力はそれほど堅忍不抜なものであり、宗族は永遠不滅なのです。

中国人は、現代日本人の感性や規範、道徳、しきたりとまったく異なる伝統を今でも保持しているのです。

いわゆる黒社会も、この宗族とは無縁ではないです。習近平の宗族は運良く、共産党を支配することができましたが、そうではない宗族で、これに反対したり、反対者とみなされる宗族が、黒社会を形成しているのです。

中国は昔から、そうして現在も宗族が中心となって、社会を構築してきました。こうした中国の本質にからみると、共産主義も、資本主義も、政府も、憲法も法律もいや国そのものですらどうでも良いことなのです。一番重要なのは、自らから属する宗族なのです。

中国農村部の老人

宗族のために生き、宗族のために働き、宗族のために死ぬのです。これが中国社会の本質であり、だからこそ、中国は現在先進国では当然とされている、国民国家とは程遠い組織であり、先進国では当たり前の、民主化、政治と経済の分離、法治国家化もできないのです。

そのため、先進国とは永遠に理解し合えることはないのです。これを実現するためには、まずは宗族を廃止して、近代的な国民国家を設置しなければならないのです。しかし、そのようなことはできそうもありません。

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苦境・韓国の中国離れはトランプに大朗報―【私の論評】中国凋落による変化はすでに避けられない。ならば変化の先頭に立つべき(゚д゚)!


2019年7月16日火曜日

苦境・韓国の中国離れはトランプに大朗報―【私の論評】中国凋落による変化はすでに避けられない。ならば変化の先頭に立つべき(゚д゚)!


ニューズウィーク日本版
ロバート・ファーリー

韓国経済界の代表と会見する文在寅大統領

<中国の政治的な不確実性、産業スパイの懸念などから今後も韓国の脱・中国の流れは続きそう>

アメリカのトランプ政権はいささか強引過ぎるやり方で、友好国の企業に中国との「縁切り」を迫っているが、韓国は一足先に脱・中国を開始した可能性がある(写真は韓国経済界の代表と会見する文在寅〔ムン・ジェイン〕大統領)。

香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストによると、韓国企業はここ数年、中国市場への関与を減らし、ベトナムへの投資とサプライチェーンの多様化を推進している。ロッテグループやサムスンなどの企業がこのような意思決定に至った理由は、中国の政治的な不確実性、産業スパイの懸念、アメリカによる制裁の恐れなどだ。

例えば韓国へのTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備に対する中国の反発は、韓国企業に中国投資の安全性への疑念を抱かせた。中国では中央政府と地方で規制がばらばらなため、企業は統一的な経営戦略が立てづらい。さらに、韓国企業は中国市場における現地企業との競争で優位性を失いつつある。

ベトナムにも中国と同様の問題はあるが、中国に比べて資本の集積度が低く、欧米に敵対的ではなく、国内市場の競争も激しくない。将来的には他の国々も韓国に続く可能性がある。

日本による半導体素材などの韓国への輸出管理強化の影響はまだ不明。代替品を探す韓国が中国に目を向ける可能性はあるが、全体としては今後も韓国の脱・中国の流れは続きそうだ。

トランプ政権にとっては願ったりかなったりだろう。中国を世界経済から排除することは現時点ではまず不可能だが、一部の企業(外国企業も含む)が自主的に中国離れを進めれば、さまざまな政策手段を動員して「中国外し」を加速させることが可能になるかもしれない。

もっとも、多くの面で中国企業が韓国勢に追い付いてきたことを考えれば、韓国の脱・中国は遅きに失した感もあるが......。

【私の論評】中国凋落による変化はすでに避けられない、ならば変化の先頭に立つべき(゚д゚)!

上の記事からは、韓国が比較的はやく中国離れしつつあることを述べていますが、政府レベルではそうなのかもしれませんが、市場レベルではすでに世界は中国から離れつつありました。特に2016年あたりの、中国を巡る変化は、多くの人々が注目すべきでした。以下に2016年当時の中国について回想します。

2016年10月、悲願だったIMFのSDR入を果たし「国際通貨」となった中国人民元ですが、当初から暗雲が立ち込めていました。中国においては当時よりはるか前から、人民元の対ドル為替の下落などを受け自国通貨の暴落を不安視し、資産を外貨化もしくは海外退避させる中国国民が急増していました。

この当時から国際通貨としては程遠かった中国人民元

この当時から、自国に有利な人民元経済圏を形成するという中国の目論見は崩れ去り、中国を待つのは通貨暴落・国家崩壊だとみられていました。

中国がIMFの特別引き出し権(SDR)の構成通貨に決定してから約1年が経過した時点においてさえ、中国の対外貿易に占める人民元建て決済のシェアが昨年の26%から16%に縮小していました。

その理由は、人民元の対ドル為替の下落であり、中国経済の衰退への不安がありました。当時から中国では外貨準備高の減少が問題となっており、中国政府は外貨送金などについて、規制をかけ始めていました。外貨準備高の減少は、人民元決済の代わりに外貨決済が増えていることが一因でした。

そして2016年時点ですでに、中国人自身が、人民元の暴落を恐れて外貨預金口座の開設を急増させていました。同年1~11月にかけて、中国の筧が保有している外貨預金は32%も増加したといわれています。

加えて、外貨建ての理財商品が飛ぶように売れていました。しかも利率は気にせず、元安に備えるために買っていました。同年11月に中国の銀行が販売した外貨建ての理財商品は、前月比で49%増になったとも報じられていました。

さらには中国からは違法なキャピタルフライトも加速し、資金流出が止まらない状態でした。そのため人民元は1ドル6.89元近辺と、8年ぶりの安値水準に落ち込んでいました。

中国からの米国への純資金流出(流出と流入の差額)は米国大統領選から膨らみ続け、同年の11月までの12カ月合計では1兆ドルにも及んでいると報じられていました。そして中国当局の取締りをくぐり抜けた資本逃避は5,000億ドル、日本の歳出の約半分前後の50兆円以上の金が人々とともに中国から大脱走していました。

問題は、中国が為替介入をするほど外貨が流出しますから、それをヘッジファンド筋に狙われれば、中国通貨当局が支えられなくなって人民元が大暴落する可能性が高まっているたということです。加えて、ドナルド・トランプ氏は中国を為替操作国に認定すると公言していましたから、露骨な為替介入は難しい状況でした。

ドイツ銀行は同年10月のレポートで、今後2年間に人民元が対ドルで17%下落するというレポートを発表しました。これはトランプ氏が次期大統領に決まる前の予測ですから、現実には下落幅はさらに広がりました。

しかもトランプ氏は中国の産品に対して高い関税をかけるとも主張していました。通常は通貨の価値が下がれば輸出競争力が高まりますが、関税をかけられれば、そのメリットを享受できなくなります。中国にとって米国は最大の輸出国ですが、その米国が中国品をもう受け付けないとしたわけです。

中国との貿易戦争はトランプ氏の大統領選挙での公約

そうなれば、輸出が落ち込む一方で、輸入コストが大幅に上がるという、負の面しかなくなることが予想できました。すでに食糧輸入国に転落していた中国にとって、これは死活問題でした。

当時米国とEUに加えて日本が中国をWTO(世界貿易機関)協定上の市場経済国地位を認定しないことを決めました。過剰生産された鉄鋼などを世界に対して不当廉売してきたことが理由でした。これに対して中国は猛反発しました。人民日報は「中国の市場経済地位認定を拒否する西側は代償を払うことになる」という記事を書いて欧米日を批判していました。それだけ後がないということの現れでもありました。

これらの状況をみていれば、中国離れは当時から当然の帰結でした。中国企業が韓国勢に追い付いてきたことなどとは全く別にして、韓国はこの当時から中国から離れることを検討すべきでした。

この時代には、文在寅大統領はまだ誕生しておらず、朴槿恵大統領でしたが、その朴槿恵大統領が中国寄りの外交をしてました。ご存知のようにこの時期には、すで朴槿恵大統領はすでにレイムダック化していました。2017年5月になって文政権が登場しましたが、文大統領は中国に従属しようとする姿勢は変えませんでした。

朴槿恵(左)と習近平(右)

今頃になって、中国から離れる姿勢をみせたのはやはり、遅きに失したと言わざるを得ません。本来ならば、大統領になったばかりの時点で、中国から離れる姿勢をみせるべきでした。

トランプ大統領としては、現在韓国が中国から離れる姿勢を見せたことを喜んでいるのではなく、いつまでも中国に従属する姿勢をやめなかった韓国ですら、とうとう中国から離れる姿勢を見せたことを喜んでいるに違いありません。

とはいいながら、世界には未だ中国幻想に酔っている人間が大勢います。すでに米国では、議会においては超党派で中国に対峙する姿勢をみせていますが、民主党の政治家の中には、未だ中国幻想に酔っているものも多数存在するでしょう。ただし、大勢はすでに挙国一致で中国に対峙しようとしているわけですから、そのようなことはおくびにも出せないだけです。

そのような人々は、EU内にも多数存在するでしょう。だから、世界の中には未だ、中国に期待する声は絶えないのです。

そうして、我が国にも、野党は無論のこと、与党の中にすら、親中派、媚中派の政治家も大勢いて、安倍総理としても政権運営のためには、これらの人々を無視するわけにもいかず、習近平に対して来春の国賓としての再来日を要請するなどという事態に至っています。

2016年あたりの、市場の動きや、その後の米国の中国に対する出方などをみていれば、韓国のように今更中国から離れる姿勢をみせるには、遅きに失したと言わざるを得ないのですが、世の中には時代の変化に追いついていけない人は大勢います。

国も、人でも、そのようなことにはならないように、気をつけるべきです。 
「変化はコントロールできない。できるのは変化の先頭に立つことだけである」
とドラッカー氏は語っています。しかし、この変化の時代を乗り越える唯一の方法が、あえて変化の先頭に立ち、変化の生み手になることだといいます。

恐怖は、後方の席に深々と腰を落ち着かせたとき、高まるのです。変化は、最前列で腰を浮かせハンドルを握るとき、初めてコントロールできるのです。 

いわんや今日の乱気流下の悪路にレールはないのです。自らハンドルを握ることなく、転覆を避けることはできないのです。急激な構造変化の時代を生き残るのは、チェンジ・リーダーとなる者だけであるとドラッカーは語っています。

そして、そのチェンジ・リーダーになるための方法が、変化を脅威でなく、チャンスとしてとらえることだといいます。進んで変化を探し、本物の変化を見分け、それら本物の変化を利用することです。
「みずから未来をつくることにはリスクがともなう。しかし、みずから未来をつくろうとしないことのほうがリスクは大きい」(『ドラッカー 365の金言』)
中国の凋落という避けられない変化に対して、トランプ氏はまさに変化の先頭に立っているではありませんか。オバマ氏は、この変化の先頭には立とうとはしませんでした。クリントン氏ももし大統領になったとして、どうしたかは疑問符がつきます。

私は、日本や安倍総理は無論この変化の先頭に立っている部分はあると思います。それでも未だ完璧ではないと思います。ぜひとも、先頭にたっていただきたいものです。

韓国はこの変化の先頭に立つことに出遅れましたが、それでも重い腰をあげました。今は、政府や個人だけではなく、企業もこの変化の先頭に立つべき時なのです。

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2019年7月15日月曜日

「合意なき離脱」へ突き進む英国―【私の論評】英国がEUから離脱するのも、米国が中国と対峙するのも必然である(゚д゚)!

「合意なき離脱」へ突き進む英国

次期保守党党首確実のジョンソン氏の甘い見込み

岡崎研究所

 メイ英首相の保守党党首辞任に伴う、同党党首選挙は、6月20日の保守党議員による5回目の投票の結果、ボリス・ジョンソン前外相:160票、ジェレミー・ハント外相:77票、マイケル・ゴーブ環境相:75票となり、ジョンソンとハントの戦いとなった。16万人の保守党員による郵便投票により、7月22日の週に新たな党首が決まることになる。ジョンソンは、同棲中との恋人との喧嘩沙汰で警察が呼ばれるなど、様々な問題を提起されて資質を問われているが、保守党員の間での圧倒的優位は揺るぎないようであり、ジョンソンの勝利は確実と見られる。

1月16日、議事堂の外では各人の主張に応じた旗が振られた。

 そのジョンソンが、6月24日夜のBBCのインタビュー番組に出演してBrexitについて語っている。6月18日のTalk Radio における1つの発言とあわせて、6つの発言の要旨を紹介する。

1. 鍵となるのは、離脱協定の使える部分を取り出して使うことである。アイルランド国境の問題には10月31日以降の移行期間において取り組む必要がある。

2. 移行期間を得るためには、EUとの何等かの合意が必要であり、その合意を目標とする。

3. EUは英国と新たなディールを交渉しようとするであろう。何故なら、欧州議会には有難くもないBrexit党の議員がいる。彼等は我々を追い出したいのだ。清算金が欲しいというインセンティブがある。勿論、英国には離脱してWTOの条件に戻る用意があるが、そのこともインセンティブとなる。

4. 我々は、10月31日に離脱する用意をしつつある。何事があろうと。必死でやる。何事があろうと。(Talk Radioにて)

5. 「no-deal Brexit(合意なき離脱)」で下院の承認を得ることが出来ると思っている。与野党ともやり遂げなければ選挙区で致命的しっぺ返しに直面することを理解していると思う。

6. 人々は英国政治の背中にとりついた巨大な「夢魔」を熊手で取り除いて欲しいと渇望していると思う。彼等は我々がこの国のために何かとてつもなく素晴らしいことをやり遂げることを欲している。

 ジョンソンの言っていることの核心部分は、離脱協定を解体して、都合の良い部分は都合の良いように料理しよう、ということである。交渉には清算金を梃に使いたいらしい。アイルランド国境の問題は、離脱後に移行期間を設けてそこに先送りしたいらしいが、一方的な要求である。そもそもEUは離脱協定の再交渉はしないと言っている。6月21日のEU27の首脳会議でもこのことを確認している。

 こういうことでは、入口で衝突してEUとの交渉は成立しないのではないかと思われる。ジョンソンは新たな交渉チームを組織する必要があろうが、引き受け手があるのかも疑問である。下院は「合意なき離脱」を否認するのかも知れないが、下院がどう動こうとEUとの間に合意が成立しなければ、自然と「合意なき離脱」となる。事態は、間違いなくその方向に進んでいる。

【私の論評】英国がEUから離脱するのも、米国が中国と対峙するのも必然である(゚д゚)!

英国が合意なき離脱をした場合、一時的には経済が相当落ち込むことが見込まれています。にもかかわらず、なぜ英国はEUを離脱するのでしょうか。すくなくとも、なぜ国民投票で離脱が決まったのでしょうか。

英国のEU離脱の要因としては多くの理由があることは否定できないですが、よく移民の問題が主要な要因として取り上げられます。これは表面的には正しいのですが、より根底にある問題を見過ごすべきではないです。

英国の社会法制度が欧州大陸の国々のそれとはそもそも相容れないのではないでしょうか。特にEU諸国からの移民問題は、その根底にある社会法制度の違いという問題が一つの形で顕在化したのに過ぎないのではないでしょうか。

社会法制度の違いとは、簡単に言うと、大陸法の国と英米法の国の制度が異なるということです。ドイツ、フランスをはじめとする欧州の大陸国家は大陸法(シヴィル・ロー)の国であり、英国は英米法(コモン・ロー)の国です。

両者の違いを一言でまとめると、大陸法国家では成文法が法体系の根幹をなし、裁判官は成文法のみに縛られます。一方、英米法国家では不文法(成文化されていない法)が存在し、裁判官は成文法、不文法を踏まえて自分の判断を下します。

コモンローとシビルローでは歴史も体型も全く異なる

現在の裁判官は過去の裁判官が下した判断(判例)に拘束されます。大陸法では書かれたもの(成文法)が重要で、英米法では歴史的経緯(判例の積み重ね)を重視するともいえます。

最近の研究で明らかになってきたように、国内社会法制度の違いはそれぞれが選好する国際協力の在り方の違いにも反映されます。大陸法国家は条約を好みます。そして条約の締結とともに国内法を条約と整合的になるように改正します。

一方、英米法国家は条約より「ソフト」な国際宣言のようなものを好みます。英米法国家には不文法が存在するので、条約を締結しても大陸国家のように成文法を改正して整合性をはかるということができないからです。

しかし興味深いのは、国際宣言は大陸国家では無視されることが多いです(成文法の改正に至らないことが多い)が、英米法国家においては各々の裁判官が国際宣言を勘案するという意味で、結果的に履行される度合いが高いことです。不文法や国際宣言の良し悪しの話でなく、国内制度と国際制度の整合性が問題なのです。

法体系およびそれによって生じた社会法制度の違いは英国と欧州大陸国家の協力を困難にしています。少なくとも今までの欧州統合は英国に大きなストレスがかかる構造となっていました。

例えば欧州司法裁判所は基本的に大陸法的アプローチをとっています。大陸法国家は欧州司法裁判所の判決に合うように国内成文法を改正することで整合性を確保できます。

英国は紙に書かれたルールに基づいて下された欧州司法裁判所の判断と、不文法をも踏まえた国内裁判所の判断の間の整合性をとることが、大陸法国家よりも困難であることは容易に想像がつきます。

人の能力評価の方法についても英米法国家と大陸法国家では大きく異なります。大陸法国家では筆記試験で人の能力を計ります。例えば大学入学のための厳格な筆記試験が存在する場合が多いです。

そして試験をパスした後はエリートとして扱われ、よほどのことがない限り卒業できます。一方、英米法国家では大学入学のための筆記試験は不在であるか軽視され、高校時代の成績や推薦状がものをいいます。しかし入学後は卒業までサバイバル・レースが続きます。「成文法―筆記試験」、「過去の判例の蓄積―過去の経歴・経過重視」と見事に対応しているのです。

ここで国際協力の要素を入れると話はどのようになるでしょうか。入学のための筆記試験が国際交流の大きなハードルになりそうなことは容易に想像がつきます。直観的な例をあげるならば、大陸法国家出身者(例えばフランス人)が英米法国家(例えば英国)の大学に合格する方が、英国人がフランスの大学に合格するより容易であるということです。ただしこれは英国の大学に入学したフランス人が無事に学位を取得できるのかという問題とは別です。

一般的に、大陸法国家では専門職業(例えば技術士等)に就くには、難関の筆記試験に合格する必要がある場合が多いです。そして合格者が少ないので、合格後の労働市場における競争はそれほど熾烈ではありません。

一方英米法国家では、大学卒業後見習いで専門職に就き(筆記試験が不在である場合も多い)、経験を積み、学会で発表し、有名な先輩専門職の推薦状をもらい、審査を受けた後、専門職となる。

見習いとして働き始めることはそれほど難しくないですが、その後のサバイバル競争で生き残るのが難しいです。上述の大学入学の例同様、大陸法国家出身者が見習いの専門職として英米法国家で働き始める方が、英米法国家出身者が大陸法国家で専門職として働きはじめるよりも容易だということになります。

これは、弁護士の実数にも大きな影響を与えています。英国には、国民一人あたり694人の弁護士が存在します。フランスは、2461人に一人です。米国に至っては、320人に一人です。そのためもあってか、英米は訴訟社会ともいわれています。

米国ドラマ"フレイキング・バッド"に登場した悪徳弁護士ソウル・グッドマン

話をもう一歩移民問題に戻します。あなたがレストランにおける給仕のマネージャー格を採用しようとしたとします。二人から応募があり、一人は大卒ですがウエイトレスの経験は1年、もう一人は高卒ですがウエイトレスとしての経験を5年有していたとします。

他の要件が全く一緒ならどちらを選ぶでしょうか。大陸法国家では前者、英米法国家では後者が採用される傾向が強いです。大陸法国家では候補者が大学入試に合格した能力の持ち主であるということを評価し、英米法国家ではウエイトレスとしてのより長い経歴を評価するのです。

欧州大陸国家と英国とで社会・労働市場が完全に分かれていれば問題は生じないです。しかし両者が統合し始めたらどうでしょうか。ここで重要なのは、経験は後から追加的に積むことができるが、試験を受けなおすことは極めて困難であるという事実です。

結果的に、例えば、フランス人がロンドンのレストランで働く方が、英国人がパリのレストランで働くより容易であるということになります。上述の大学入学の例と同じです。ロンドンのレストランで働くのはフランス人かもしれないし、ポーランド人かもしれないですか、根底にある問題は、英米法国家(英国)の社会法制度が大陸法国家のものよりもオープンで柔軟的あるということです。

大陸法国家では社会のあらゆるところに門番(ゲート・キーパー)が存在し、入り口段階で規制しようとします。そして筆記試験やその類似物としての学位(入試を突破した証)が門番の役割を果たすことが多いです。

英米法国家では入り口には門番はおらず、とりあえず門の中には入れます(その後に熾烈な競争があります)。英国と欧州大陸国家の間で欧州統合のストレスの感じ方が違う根源的な理由はこの社会法制度の違いではないでしょうか。

英米法社会の強みはオープンであることとそれに付随する競争の存在ですが、これは外国人による参入が容易であることを意味します。職を追われた英国人は職を得た、例えばポーランド人が長い間仕事を続けられたか(サバイバルできたか)には関心示さず、職を追われた事実から外国人を敵視してしまいます。一方、英国人が大陸法国家においてウエイトレスの職を見つけるのは相対的に困難です。

英国のEU離脱を移民等の表面的な問題としてとらえるのでは、根底にある本質を見過ごすことになりかねないです。背景にある社会法制度のズレを看過してはならないです。オープン、筆記試験の軽視、経歴・経緯重視、競争重視、という英米法国家が有する従来の強みが、もしかすると現在国際協力の場において弱みになっているのかもしれないです。英国がその伝統である開かれた社会法制度を維持できなくなっているということに他ならないです。

このようなことから、英国がEUから離脱するのは当然といば当然なのかもしれません。EU 内の国々では経済の内容が大きくことなります。しかし、社会制度の違いという問題は経済の内容よりもさらに、埋めがたい溝です。

やはり、イギリスは短期的には経済的に大きな問題を抱えることになりますが、長期的にはEUから離脱すべきなのでしょう。問題はどのようにハードランディングを避けるかということです。

そうして、この問題は先進国と中国の関係にもあてはまります。中国が経済的に発展すれば、そのうち中国も他の先進国と同じようになるだろうと、先進国は考えていましたが、これはことごとく裏切られました。

中国と先進国の差異は、英国と大陸との違いよりはるかに大きいです。先進国では、英国とフランスのように、コモンローとシビルローの違いはありますが、民主化、政治と経済の分離、法治国家化という面でみれば、互いに似通っています。そうして、これが先進国の共通の理念となっています。

この面では、EU諸国も、英国も互いに理解することができ、ある程度の歩み寄りも可能でしょう。

しかし、中国には民主化、政治と経済の分離、法治国家などという概念はありません。だからこそ、中国は海外からの資金で、国内インフラを整備することにより、経済を発展させても、結局社会構造は何も変わらなかったのです。

しかし、その中国が経済力を軍事力を拡大させ、世界の秩序を自分たちの都合の良いように作り変えようとしました。オバマ政権までの米国は戦略的忍耐などとして、これに対して何も手を打ちませんでした。


しかし、トランプ大統領になってからは、これに対峙しています。世界中の社会が中国の都合の良いように、作り変えられてしまっては、先進国の人々にとってはこの世の闇になるからです。発展途上国の人々も今のままだと中国に搾取されるだけの存在になり、闇から抜け出すことは不可能ということになります。

このようにみると、英国がEUから離脱するのも、米国が中国に対峙するのも必然であるということができます。

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