2020年8月22日土曜日

対中国機密包囲網『ファイブ・アイズ』に日本参戦へ! 自由と民主主義を守るための戦い…英も独仏より日本の参加を待望 ―【私の論評】他のメディアが教えない、日本がファイブアイズに入ることの本当のメリットを教えよう(゚д゚)!


「ファイブ・アイズ」入りに前向きな姿勢の河野防衛相

 中国による「香港国家安全維持法」施行をきっかけに、共産主義対民主主義の構図が鮮明になってきた。「自由の砦(とりで)」を守るために何が必要なのか。国際投資アナリストの大原浩氏は寄稿で、米英など5カ国による機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」に日本も6番目の国として参加することだと主張する。


 香港の民主活動家、周庭(アグネス・チョウ)氏が、香港国家安全維持法違反の容疑で10日に逮捕された。しかし、日本のメディアやネットなどで強い批判が起こり、そのせいもあってか、翌日の深夜に釈放された。

 日本以外の国でも抗議の声は上がったが、われわれが「民主主義の敵」に対して、彼女と一緒に戦う姿勢を見せるだけでも十分な効果があった。15世紀のフランスでは、当時まだ10代だったとされる、オルレアンの少女ことジャンヌ・ダルクがフランス軍の兵士を鼓舞して勝利に導いた。

 周庭氏は香港における「共産主義と民主主義の戦い」の象徴的存在だが、ほかにも逮捕され大陸に送還された数千人以上とも言われる人々を含めた「自由の闘士」が頑張っている。彼らを支援し、日本にも迫る「民主主義の敵」と対峙(たいじ)するにはどうしたら良いのだろうか。

 一つの答えが「日本のファイブ・アイズへの加盟」である。ファイブ・アイズは1940年からナチス・ドイツの暗号「エニグマ」を解読するために米国陸海軍の暗号部と英国の政府暗号学校が協力したことが発端だ。46年にソ連の共産主義に対抗するための協定も結び、その後、カナダとオーストラリア、ニュージーランドが参加した。ファシズムや共産主義から民主主義を守る「自由の砦」なのだ。



 日本が一方的に参加したいというわけではなく、ファイブ・アイズの方からも、日本に「打診」が行われている。

 英国のトム・トゥゲンハート下院議員は、河野太郎防衛相が日本を含む「シックス・アイズ」を提案したことについて歓迎の意を示したと報道された。同国のトニー・ブレア元首相は産経新聞の電話インタビューに、自由主義諸国が連携して中国の脅威に対抗する必要があるとし、「ファイブ・アイズ」への日本の参加を「われわれは検討すべきだ」と述べている。

 実際、日本と英国には明治維新以来浅からぬ縁がある。明治維新の際には、英国が新政府を支持したし、第一次世界大戦を挟んで「日英同盟」も結んだ。不幸なことに第二次世界大戦ではドイツと組んだために英国を敵に回したが、この紳士の国は、過去のことをネチネチと掘り返して嫌がらせをする日本の近隣の国々とは全く違う。

 一方で、ファイブ・アイズの中心ともいえる米国だが、11月の大統領選でのドナルド・トランプ大統領の再選が微妙な情勢だ。歴史的に「反日」の民主党政権になれば日本にとっては大打撃である。万が一の時の保険としても英国との関係は極めて重要だ。

 2018年からは、日本、ドイツ、フランスが中国のサイバー活動を念頭に会合を開き、ファイブ・アイズとこの3国の連携で情報共有の新たな枠組みが作られている。日本加盟への道筋は既につけられているし、ドイツやフランスよりも日本の方が6番目の加盟国としてふさわしいと、少なくとも英国からは思われているのだ。このことは民主主義国家として誇っても良いと思う。

 日本、韓国、フランスが参加した枠組みが発足したとの報道もあったが、駐留米軍1万2000人削減を行ったトランプ氏と犬猿の仲であるアンゲラ・メルケル氏率いるドイツが入っていない。韓国については、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を安全保障とは関係のない政治交渉に使う国であるから、ファイブ・アイズ加盟国から信頼があるのではなく「中国と手を切るべし」という踏み絵だと考えるべきだろう。

 もっとも、正式にファイブ・アイズに加盟するためには、国内での機密保持がまず大事であるから、まともなスパイ防止法がなく「スパイ天国」と揶揄(やゆ)される現状を早急に改善しなければならない。

 ■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

【私の論評】他のメディアが教えない、日本がファイブアイズに入ることの本当のメリットを教えよう(゚д゚)!

ファイブアイズとは米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの五ヶ国を言いこれらの国々が情報を共有している関係を言います。正式にはUKUSA協定といいます。2018年から日本、ドイツ、フランスがこの組織の会合に参加し、中共のサイバー攻撃を念頭に会議を重ねています。現在では韓国もこの会議に参加しています。

日本は今までもファイブアイズと連携を深めてきたが・・・・

現在の世界情勢、特に中共の危険な膨張を考えたとき、日本がこの組織に正式参加することはそれなりにメリットがあると思います。現実には上記の様にある意味すでに参加しているともいえるかもしれません。しかし、正式参加と今までの会合参加とどう違うのでしょうか。

様々な報道によれば河野大臣は参加に前向きだそうですが、現時点では正式参加の必要は無いとも言っているとのことです。ただし、これは正式な政府のコメントでは無いので、あくまでこのような事を言っているらしいというだけのことです。

ただ、現実問題として本当に日本が参加する可能性がどれほどあるのかと考えると、日本国内で得られる公開情報だけで考えると、かなり問題があるようにみえます。

日本側の問題としては、ブログ冒頭の記事のように、日本にはスパイ防止法が無いということがあります。少なくとも先進国と言われる国々で、諜報活動を禁止し、国家機密を探りあるいは第三国に渡した者はかなりの重罪を課せられます。しかし、日本にはそれに当たる法律がありません。

かつて自民党がこの法案を提出したことがありますが、成立には至りませんでした。主としてマスコミが報道の自由、表現の自由を盾にこの法案に対しキャンペーンを張って大反対し、国民がそれを受け入れた結果です。

しかし、どのような国家にも国家機密はあります。全ての国家の機密、特に他国との協定内容を全て公表しなければならないとすれば、まず他国が日本との協定を結ばないでしょうし、どのような約束もしないでしょうし、日本の提案など絶体に受け入れないでしょう。

さらに、特に国家防衛に関する面では軍事機密があって当然であり、それまで公表できるわけがありません。ところが、日本のマスコミはそれを国民の知る権利を侵していると言っているわけです。

この様な日本が他国との機密を前提とした協約を結べるわけがありません。日本はスパイ天国であり、多くの国家機密が支那やロシア北朝鮮に流れ出ています。ところが、その情報を持ちだした人間が仮に判明しても極論を言えばスパイ行為そのものを処罰できないのです。

ただし、スパイがスパイ行為をする過程において、国内法に違反した場合は、その範囲内で、最も重い刑罰を与えることはできますし、実際行われています。しかし、スパイ行為そのものは、明白であっても、それをもって刑罰を与えることはできないのです。

最近、米国では中共に米国の機密を渡した人間が逮捕され、かなりの長期刑を申し渡されたといいます。

米国は以前からかなり機密の保持に神経を使っていますが、それでもかつて原爆の製法をソ連に盗まれたりしています。これは、有名なローゼンバーグ事件ですが、これは当初、米国によるユダヤ人迫害(ローゼンバーグ夫妻はユダヤ人)だとかなり世論の反発を買ったといわれていましたが、実際に彼等がソ連に原爆の情報を渡していたことが証明されています。なお、夫妻は死刑になっています。

ピカソも冤罪だと信じたローゼンバーグ夫妻は本当にスパイだった

この様な事件は無数にあり、金で情報を売った者、ハニートラップにかかった者、最初からスパイとして代々米国に住み着いていた移民などが逮捕されいずれも重罪になっています。そうして、情報が中共に渡ったため、中共に潜伏していた米国情報員が多数処刑されているといわれています。

日本では、海外に派遣されている大使館員などがハニートラップに引っかかる例はかなりあるようで、たとえば2004年の上海総領事館員自殺事件等が知られています。これは、領事館員がハニートラップにかかり、情報を明かすように脅迫されて自殺した事件です。

現在でも、政治家などが突然親中派になったかのような事が度々起きていますが、ほとんどがハニートラップだと言われています。また、自衛隊幹部の妻が多く中国人だとの噂さえあります。無論公式発表ではありませんが、「自衛隊員妻に中国人600人」等で検索してみると、かなり引っかかります。

そのような状況で、日本がファイブアイズに正式に加入できるか、というより加入しても欧米が本来の自分たちと同じ立場に日本を置くかと言えばそれはかなり疑わしいです。というより、あり得ないと思えます。

1980年代から90年代初頭における、アメリカ合衆国連邦政府の度重なるダンピング提訴や、日本企業と米国企業との間の受注合戦や訴訟合戦において、米国の国益を守るために、三沢飛行場、ワシントン州、ニュージーランド、オーストラリア、香港(現在は撤去)のエシュロンをフル稼働させた可能性があり、それが日本の企業活動に大きな損害を与えたとされています。

その一方、施設を提供している見返りとして、日本政府の求めに応じて、エシュロンから得られた情報が提供されたと推定される例がいくつかあります。朝鮮民主主義人民共和国の金正男が成田空港で入国拒否された件がそれであり、事前に日本に対して通報があったとされています。

また、日本赤軍最高幹部であった重信房子が極秘裏に日本に帰国して潜伏しているという情報もエシュロンによって情報が得られ、日本政府に通報されたと噂されている。

上で述べたように、ファイブアイズは、日本にはスパイ防止法が無い現在の状態でなぜ日本に参加を呼びかけたのかは疑問です。しかし、その目的の一つには、日本が独自に集めた中共の情報を吸い上げるということが考えられます。

ファイブアイズ自体は、旧ソ連や現ロシアの情報に関しては、かなりの蓄積があると考えられますが、中共が脅威となったのは、最近のことで、これに対する蓄積は意外と少ないと考えられます。

ファイブアイズの国々において、中共が本格的に脅威として認識されたのは、米国でトランプ大統領が登場して以降と考えられます。

しかし、日本は良かれ悪しかれ、中国は隣国であり、たとえスパイ防止法がなくても、かなりの情報を戦前戦後から現在に至るまで蓄えていると考えらます。いや、それどころが、スパイ防止法がないことに中国などのスパイが安心して無警戒になり、常識では考えられないような情報をもたらしている可能性があります。

これは、良く警察が重大犯を、釈放して自由に行動させその過程で様々な情報を得るということに似ています。これらの情報の蓄積こそ、現在ファイブアイズが求めているものと考えられます。だからこそ、ファイブアイズは日本に期待していると考えられます。これ意外ににファイブアイズが日本に期待する理由はみあたりません。

日本の情報機関として有名なものに内閣官房の内部組織の内閣情報調査室(内調)があります。内調は主に情報の集約やオシント(公開されている情報を情報源とする情報収集活動)を行っています。オシントというと、「なーんだ」と思う人は、諜報活動に疎いです。実はスパイ活動のうち007のような派手な活動は、ほんの一部で、スパイ活動の大部分は一見地味に見えるこのオシントによるものです。CIAもかつてのソ連のKGBの活動も大部分は、オシントです。ヒューミント(人を介して行う超包活動)はごく一部です。

内閣情報官だった北村滋氏は。2019年9月より国家安全保障局長、内閣特別顧問となった

世界中の様々な情報をつなぎ合わせると、様々なことがわかってきます。たとえば、第二次世界大戦中に、新聞その他の公開情報から、たとえばドイツの高官がある町の結婚式に参加した等の情報を丹念につみあげていき、独ソ戦の開始日をあてた諜報員がいます。このように、内調は、戦前の情報を引き継ぎ、戦後から今にいたるまで様々な情報を蓄積しているのです。

日本には、内調その他の情報機関として、警察庁警備局(公安警察)、外務省国際情報統括官組織、防衛省情報本部、法務省公安調査庁、海上保安庁警備救難部などが挙げられます。

日本の情報機関において特徴的なのは、警察(公安警察)が人事面で優勢である点です。日本の情報機関における取りまとめ的な位置づけである内閣情報調査室には警察官僚やノンキャリアの警察官が数多く出向しており、トップの内閣情報官は創設時から警察官僚が代々務めています。また、外務省国際情報統括官組織、防衛省情報本部、公安調査庁、海上保安庁警備救難部にも警察官僚が出向しています。

ただし、日本では様々な組織に情報が分散して蓄積されたり、それぞれの組織が他の組織がはりあうなどのことをしているため、情報が一本化されていないという欠点がります。

現在、中共はファイブアイズの敵となりました。無論日本の敵ともなりました。利害が一致するところが大きくなりました。

日本に、スパイ防止法がないということは、スパイが摘発できないという欠点はありますが、それでもスパイを自由に泳がせて、その行動を把握しやすくするという、ファイブアイズの国々にはない利点を生み出しています。中共側が露呈してないと思っていることでも、日本側がすでに把握していることはかなりあると思います。

もし、日本がファイブアイズに加入した場合、ファイブアイズは日本の長期に渡る濃密な中共の情報を得ることができます。そうして日本としては、まずはファイブアイズ加入を契機として、日本国内の中共スパイ情報を統一する良い機会となります。

それと、ファイブアイズに加入するには、少なくとも日本はスパイ防止法とまでいかなくとも、最低限ファイブアイズから得られた情報を漏洩した人間を摘発するための法整備をしなくてはならないことでしょう。これには、多くの国民も賛同することでしょう。そうして、これが実質的に日本のスパイ防止法に発展していく可能性もあります。

さらに、今までは情報を収集して、国内法に違反した場合にのみスパイを摘発できたのですが、今度はファイブアイズの他の国々が、摘発して処罰できることになります。

たとえば、日本の情報組織がある政治家が、確実にスパイであるという情報をつかんだとします。いままでだと、その政治家がスパイ活動をするために、国内法に違反した場合だけ、摘発することができましたが、その情報をファイブアイズと共有しておき、当該政治家がファイブアイズのスパイ防止法等に違反した行為をしていれば、その政治家をファイブアイズの国々が摘発することもできます。

日本がファイブアイズに入った後に、それまで頻繁にファイブアイズの国々に入国した政治家が入国しなくなったとしたら、これはかなり怪しいということになります。それも、日本だけではなく、ファイブアイズのスパイ活動にも加担している可能性が高いです。

これは、双方にとって良いことです。日本としては、今まで蓄積してきた濃密なスパイ情報を一本化できるだけではなく、有効に使える道ができることになります。また、ファイブアイズはその情報を有効に使うことができます。

これこそが、日本がファイブアイズに入ることの本当のメリットなのです。

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2020年8月21日金曜日

習近平も恐れ震える…米の経済制裁から始まる「中国崩壊」のシナリオ―【私の論評】中共の幹部は考え方を180度転換しなければ米国の制裁は続き、枕を高くして寝ることはできない(゚д゚)!




共産党幹部への「個人制裁」

米国のドナルド・トランプ政権が中国と香港の高官に対する制裁を連発している。空母2隻を動員した南シナ海での軍事演習や中国総領事館の閉鎖などと比べると、一見、地味で小粒な対抗手段のように見えるが、中国共産党には、実はこれが一番効くかもしれない。

まず、最近の動きを確認しよう。

第1弾は米国務省と財務省が7月9日、新疆ウイグル自治区での人権弾圧を理由に実施した制裁だった(https://www.state.gov/the-united-states-imposes-sanctions-and-visa-restrictions-in-response-to-the-ongoing-human-rights-violations-and-abuses-in-xinjiang/https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm1055)。

グローバル・マグニツキー人権説明責任法に基づいて、中国共産党中央政治局委員であり、同自治区の党委員会書記でもある陳全国氏のほか、同自治区の現・元公安部ら計4人を対象に、米国内の資産を凍結し、米国企業との取引を禁止した。

続いて、7月31日には新疆ウイグル自治区の準軍事組織である新疆生産建設公団と、その幹部である彭家瑞氏と元幹部の孫金竜氏の2人を制裁した(https://www.state.gov/on-sanctioning-human-rights-abusers-in-xinjiang-china/https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm1073)。トランプ政権は、公団がイスラム系少数民族の大量強制収容に直接関与した、とみている。

さらに、香港に国家安全維持法が施行されると8月7日、米財務省は香港の自治と自由、民主主義に対する弾圧を理由に、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官や香港警察トップら11人を制裁した(https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm1088)。


トランプ大統領は7月中旬、中国との関係を極端に悪化させたくないという理由で一時、中国高官に対する制裁を見送る方向に傾いた、と報じられた。だが、以上を見れば、制裁続行は明らかだ。むしろ、今後も制裁は追加されていく可能性が高い。

こうした制裁は本人と中国に、どれほど打撃になるのか。

クレジットカードが使えない香港高官

米財務省には、制裁実務を監督する外国資産管理局(OFAC)という部局がある。制裁対象に指定された個人は「特別指定人物(SDN)」と呼ばれ、OFACの公開リストに掲げられる(https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/OFAC-Enforcement/Pages/20200807.aspx?src=ilaw)。

リストを見れば、各国政府はもちろん世界中の企業や個人、団体は、だれが米政府の制裁対象になっているか、ひと目で分かる仕組みだ。企業や個人は、自分が制裁されないように、SDNになった人物とは取引を中止せざるをえない。実際に、クレジットカード会社は林鄭月娥長官のカードを使用停止にした。


その点は、彼女自身が8月18日の記者会見で「個人的なことで多少の不便はあるが、気にするものではまったくない。たとえば、クレジットカードの利用が妨げられる」と認めた。この発言を受けて、米ブルームバーグはVISAとマスターカードにコメントを求めたが、返事はなかったという(https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-08-18/hong-kong-s-leader-has-credit-card-trouble-after-u-s-sanctions)。

クレジットカードの使用停止くらいなら、大した痛手ではないかも知れないが、次に大きな制約は、たとえば住宅ローンだ。SDNに指定された人物と銀行が住宅ローン契約を結んでいると、その銀行が制裁対象になる。それだけでなく、ローンごと住宅も没収されかねない。ローンが凍結されたら、銀行は担保の住宅を差し押さえざるをえないからだ。

では、どうするか。香港紙、サウスチャイナ・モーニング・ポストは8月18日付の記事で「制裁された香港警察のトップは、制裁の発動直前に別の中国系銀行にローンを乗り換えた」と報じている(https://www.scmp.com/business/banking-finance/article/3097848/hong-kongs-police-chief-shifted-his-mortgage-bank-china)。

同紙によれば、彼は2017年3月、ローンで香港のマンションを購入したが、トランプ政権が制裁を発表する3日前にローンを別の銀行に移し替えた、という。事前に制裁情報が漏れていたか、危険を察知したのかもしれない。

ちなみに、このマンションは広さ41平方メートルで80万6000米国ドル(約8500万円)という。警察トップが住むマンションにしては狭すぎる、と思われるだろうが、これは居住用でなく、投資用だった可能性が高い。記事は、彼が過去20年間に不動産取引で数百万香港ドルを稼いでいた、と報じている。

習近平政権は「内側から」崩壊する

話は、制裁される個人だけにとどまらない。

彼のローンはもともとHSBCが提供していたが、中国銀行(香港)に移された。HSBCは国家安全維持法を導入した香港当局を支持する姿勢を表明したが、一方で、米政府にも逆らえない。彼との取引を続けていたら、HSBCは米国に制裁されてしまう。そうなったら事実上、国際金融界から追放されたも同然になる。

中国銀行は中国政府の機関のようなものなので、米政府の意向を無視できるが、HSBCはそうもいかず、中国と米国の間で股割き状態になってしまった。同じようなケースはこれから、頻発するだろう。金融機関だけでなくホテルや航空会社など、高官が利用しそうな企業は、いずれも「中国をとるか、米国をとるか」二者択一を迫られるのだ。

クレジットカードや住宅ローンより強烈なのは、もちろん米国内にある資産の凍結、それから米国への入国制限である。中国共産党幹部の多くが米国に不動産などの資産を保有しているのは、よく知られている。これらの資産が凍結され、事実上、米国に没収されたら、彼らは怒り狂うに決まっている。

もともと米国の不動産を入手したのは、引退後、あるいは逃亡した後、米国で暮らすためだ。そのうえ、入国まで制限されたら、彼らの人生設計は完全に狂ってしまう。しかも、である。本人だけでなく、多くの場合、制裁は家族にも及ぶ。つまり、留学の形で先に逃した子弟や愛人の生活までが破綻しかねない。

トランプ政権は高官制裁を通じて、本人はもとより、本人と家族の日常生活に関わる、あらゆる「米国コネクション」を断ち切ってしまおうとしているのだ。

以上から、米国の制裁がいかに中国要人を痛めつけるか、分かるだろう。だが、米国の真の狙いは制裁そのものではない可能性もある。制裁によって、中国共産党内部の対立と分断を促して、習近平体制の基盤を揺るがそうとしている。

制裁された個人が「オレがこんな目に遭うのは、習近平のせいだ」と不満を募らせれば、政権の求心力が失われていく。真綿で首を絞めるように、ジワジワと周辺から締め上げて、最後にトップを倒す。トランプ政権はまさに、そんな作戦を展開しているように見える。1発の銃弾も使わずに、自己崩壊を狙っているのだ。

中共の浸透工作が日本にも…

さて、最後に私の身近で起きた中国共産党の浸透工作を紹介しておこう。中共が世界にばらまいている英字紙、チャイナ・デイリーが私の自宅に配られてきたのだ。

最初は購読している日本の新聞配達店が読者サービスでポストに入れたのか、と思った。そこで、配達店に聞いてみると「そんな新聞は配っていない」という。ご近所にも配られている形跡があり「これは誰かがポストに入れたのだ」と分かった。中共の工作員が1軒1軒、配って歩いていたのである。

英字紙だから、誰もが読むわけでもないだろうが、ご近所は外国人も多い。ちらっと目を通してもらうだけでも効果はある、と踏んでいるのだろう。

私は、見覚えのある著名エコノミストの写真が付いた解説記事に目が止まった。モルガン・スタンレー・アジアの元議長でイェール大学教授のステファン・ローチ氏だ。「エコノミストは『ギャング・オフ・フォー』を非難する」とタイトルにある。

ローチ氏は記事で最近、相次いで中国批判の演説をしたマイク・ポンペオ国務長官らトランプ政権の要人4人をやり玉に挙げて「彼らは米国経済のお粗末さから目を逸らすために、中国を攻撃しているのだ」と批判していた(ネット版は、https://epaper.chinadaily.com.cn/a/202008/10/WS5f309d28a3107831ec754257.html)。

これまで幾多の経済危機に際して、ローチ氏は鋭い見解を発信しつづけてきた。そのローチ氏がトランプ政権を厳しく批判し、中国の肩を持つとは、ファンの1人としてやや意外ではあった。
だが、考えてみれば「経済合理性に至上の価値を見い出すエコノミストとすれば、イデオロギー闘争の次元に行き着いた米中冷戦など、とんでもないと思うのだろう」と合点もいった。これは日本のエコノミストも同じである。
というわけで、タダで配られてきたチャイナ・デイリーはすぐゴミ箱行きにならず、こうしてコラムのネタにもなっている。暑い最中、誠にご苦労さまだが、ぜひ工作員の方は引き続き、私の自宅に配っていただけたら、と思う。
ただし、私はエコノミストではなく、ひたすら経済合理性重視でもない。中国批判の矛先が鈍るのを期待したら、がっかりするだろう。
8月18日に配信予定だった「長谷川幸洋と高橋洋一の『NEWSチャンネル』」は、政策工房社長の原英史さんをゲストにお招きし「コロナ下の規制改革」をテーマに議論する予定でしたが、高橋さんが軽い熱中症にかかったため、来週に延期となりました。高橋さんはすでに回復し、元気です。8月11日公開版は、大阪大学大学院の森下竜一寄附講座教授と学究社社長で元一橋大学客員教授の河端真一氏をゲストにお招きし、新型コロナワクチン開発の現状などについて徹底議論しています。ぜひ、ご覧ください。
【私の論評】中共の幹部は考え方を180度転換しなければ米国の制裁は続き、枕を高くして寝ることはできない(゚д゚)!

香港関連の制裁者名簿を以下に掲載します。
林鄭月娥(キャリー・ラム:Carrie Lam)香港特別行政区行政長官
陳國基(エリック・チャン:Eric Chan)香港特別行政区の国家安全保障委員会の事務局長 
鄭若驊(テレサ・チェン:Teresa Cheng)香港司法長官
李家超(ジョン・リー:John Lee Ka-chiu)香港特別行政区安全保障担当長官
鄧炳強(クリス・タン:Chris Tang)香港警察(HKPF)署長
盧偉聰(ステファン・ロー:Stephen Lo)元HKPF委員
曽国衛(エリック・ツァン:Erick Tsang)香港特別行政区憲法・本土問題担当秘書
駱恵寧(ルオ・フーニン:Luo Huining)香港連絡弁公室主任
夏宝龍(シア・バオロン:Xia Baolong)国務院香港・マカオ事務局長
張暁明(チャン・シャオミン:Zhang Xiaoming)国務院香港・マカオ事務局副局長
鄭雁雄(ツェン・ヤンシォンZheng Yanxiong)国家安全維持公署署長
⇒参照・引用元:『アメリカ合衆国 財務省』公式サイト「Treasury Sanctions Individuals for Undermining Hong Kong’s Autonomy(財務省、香港の自治を阻害したと個人に制裁を科す)」(原文・英語)

米国の制裁は過酷で、合衆国の金融機関の手の届く本人の資産、口座は全て凍結。新しく口座を作ることもできません。これは合衆国の金融機関だけではなく、イギリスの『HSBC』、さらには中国の金融機関も協力を始めています。


なぜかといえば、合衆国の制裁に協力しない金融機関もまた同様に制裁を受けるからです。合衆国に持つ口座を凍結されたりしたら、その金融機関の死活問題です。つまり、この11人、およびその家族は中国国内の金融機関においてもお金の移動などが制限される可能性が高いです。

合衆国の制裁について、「香港連絡弁公室」トップの駱恵寧主任は「海外に資産を持っていないので制裁は無意味」とうそぶいたそうですが、自分の家族にも累が及び、中国内の金融機関も制裁に協力するとしたらどうなることでしょうか。それでもうそぶいていられるでしょうか。

これは、日本で普通に暮らしている人や、中国人でもあまり資産を持たない一般人民には、想像できないところがあるでしょう。

多くの一般的な日本人は、貯蓄など円で行っています。わざわざドルに替える人は、特殊です。日本の円は国内では、無論のこと、海外でも信用力が高いので、その時々で為替の変動はあるものの、多くの日本人はそのようなことを気にしません。日本円で貯蓄するのが普通です。

日本国債は、ほとんどが日本の機関投資家が購入し、その金利はゼロに近いものや、マイナスになっているものもあるくらいです。この状況では、財務省やその走狗たちが、いくら財政破綻するなどといっても、多くの機関投資家は国債を購入します。

なぜでしょうか。円は非常に信用力があるので、国債を持っている限りにおいては、為替のリスクヘッジなど考慮する必要がないからです。わざわざドルにかえたり、米国債を大量に購入したりすれば、常に為替リスクがあるからです。日本円による貯蓄や、国債を所有することはこの為替リスクをヘッジ(避ける)ことになるがらです。

このような通貨を持つ日本と、中国の人民元とではまるで違います。人民元もある程度の信用がありますが、それはあくまで中国が所有するドルと、米国国債が信用の裏付けになっています。

仮に、中国政府のドル保有高や、米国債保有が少なくなれば、人民元の価値はかなり落ちます。

それと、貿易はほとんどの場合ドルで決済されています。人民元ではほとんど行われていません。中国政府のドル保有残高がなくなれば、ほとんどの貿易ができなくなります。

そうして、中国では、政府高官や富裕層は、ほとんどどの場合、ドルベースで蓄財しています。なぜなら、人民元は紙切れになる恐れがあるのですが、ドルはそうではないと信じているからです。

ここで、注目すべきは、米国はドル取引のほとんど全てに関する情報を把握できます。ということは、ドルベースのお金の流れは、ほとんど把握しているということです。

無論米国は、中国高官のドルベースでの預金や、金の流れなどほとんどを完璧に把握しています。

米国は、まずは香港関連の、高官などから、ドルベース資産の凍結や、米国への渡航禁止などの措置をはじめましたが、これは、どんどん対象が広がっていくのは目に見えています。

これに対して中国は米国に対して報復はできません。なぜなら、米国人で中国に大量を蓄財をしている人などいません。さらには、中国は米国高官の金の流れや信用情報など全く把握できていません。できることといえば、中国への渡航を禁止することくらですが、これはあまり意味を持ちません。

中国高官が、米国に入国できないことに比較すれば、米国高官が中国に入国できないことは、それほど深刻な問題ではありません。一生入国できなくても、ほとんど困ることはないでしょう。

「香港国家安全維持法」が施行された現状では、米国高官が中国に足を踏み入れれば、逮捕される可能性すらあるので、誰も行きたがらないでしょう。

さらに、米政府は米国在留中の中国共産党員とその家族のビザを取り消すことができ、そのうえ該当者の国外追放へと続けていく可能性もあります。こうなると、中共幹部の家族が米国から国外追放になり、さらに、資産も凍結ということで、二重苦、三重苦になるのは目に見えています。

私は米国がマグ二ツキー法を施行し始めた頃から、中共もこのような目にあうことを十分に予想できました。

米国には、まだまだ奥の手があります。究極の制裁は、米ドルと人民元の交換を禁止することと、中国の米国債を無効化することです。ここまで、実施された場合、中国経済は間違いなく、毛沢東時代に戻ることになるでしょう。贅沢に慣れ親しんだ、中共幹部にはこの状況は耐え難いものに違いありません。

中共もこれを十分に予想できたと思います。にもかかわらず、中共が新たな世界秩序をつくることを、わざわざ2018年時点で公表したのは、本当に愚かとしか言いようがありません。

先日もこのブログに書いたばかりですが、まさに中共高官は選択を迫られています。その記事より、以下に引用します。
中国共産党幹部は、厳しい選択を迫られているようです。習近平に従い続け、いずれ米国などにある個人資産を凍結されてしまい、家族がいる米国などに入国できなるどころか家族が米国から追い出されることを許容するのか、さらには米国による対中国冷戦により、経済が落ち込むだけではなく、あらゆる面で生活そのものが制約されるようになることを許容し続けるのか。
あるいは、習近平を失脚に追い込み、米国に親和的な体制に戻すのか?ただ一ついえることがあります。米国としては、まず習近平を失脚させることがすべての前提条件のようですが、その後に中共が根本的に体制を改めなければ、冷戦を継続するでしょう。
中国が、ドルの裏付けなしに、人民元を大量に刷りまくることもできますが、そのようなときに予想されるのは、深刻なインフレです。とてつもない、インフレが生じ中国国内は混乱の巷となることでしょう。

人民元を数える中国の銀行員
そのようなことを避けるには、二つに一つしかありません。一つは、中国を中心とした人民元を基軸通貨とする経済圏をつくり、細々と生きていく道です。この場合、米国や日本などの他の先進国との貿易はほとんどできず、日本から先端的な工作機械などを輸入できなくなり、中国はハイテク製品などは製造できなくなります。「中国製造2025」は絵に描いた餅にすぐなくなります。

二つ目は、まず習近平を失脚させ、中国の国内体制を変える道です。ただし、米国は中国の過去の裏切りには、ほとほと愛想がつきているでしょうから、習近平が失脚したくらいでは、制裁を継続することでしょう。

では、どうすれば、米国が制裁を解除できるかといえば、まずは中国共産党一党独裁をやめ、他の政党もつくり、全体主義をやめることです。

さらに、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を先進国並みに実施して、経済社会活動を自由にすることです。これをもって、多くの中間層を輩出して、自由に社会経済活動を実施させることです。

ここまで、実行するとおそらく、中国共産党は、統治の正当性を失い、崩壊することでしょう。

無論一足飛びにそれはできないでしょうが、それにしてもこの方向性で着実に前進していることを米国に示すことができなければ、米国は制裁を継続することでしょう。

ここで、大陸中国におおいに参考になるのは、台湾の民主化でしょう。とにかく、中共の幹部は考え方を180度転換しないかぎり、米国の制裁はおさまらず、いつまでも枕を高くして寝ることはできないでしょう。

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2020年8月20日木曜日

中東地政学を変え得るイラン中国同盟はなされるのか―【私の論評】米国の冷静な詰将棋は、対中国だけではなく、中東でも着々と実行されている(゚д゚)!

中東地政学を変え得るイラン中国同盟はなされるのか

岡崎研究所

最近、イランと中国の接近に注目が集まっている。報じられているイランと中国の協定案は、投資と安全保障に関する25年間の包括的戦略パートナーシップを語っている。具体的には、中国はイランの空港、港湾、電気通信、運輸、石油・ガス田、インフラ、銀行に投資し、イランから25年にわたり、1日1000万バレルに達する需要を満たす大量の原油を値引いて受け取るという。


 報じられているイランと中国の協定は、両国の経済にとって重要であるのみならず、地政学的にも大きなインパクトを持ちうる。中国が今後25年にわたりイランから一日1000万バレルの需要を満たす石油を輸入することは、トランプ政権から最大限の圧力をかけられているイランにとってまさに生命線であり、中国にとっては経済の運営に不可欠な石油を確保することになる。中国によるイランの港湾などインフラへの投資はイラン経済に活を入れることになるであろうし、中国は資機材などの輸出で経済の活性化にプラスとなる。兵器開発や情報共有など軍事面でも関係を強化するという。

 中東の地政学への影響について、フィナンシャル・タイムズの国際問題編集長デイヴィッド・ガードナーによる8月3日付けの論説は、「サウジアラビア、エジプト、UAEとバーレーンは3年以上カタールを封鎖してきたが、ここにきて米国はサウジなどにカタールの封鎖を止めるよう言っている。それはイランと中国の同盟の見通しが強まったためである。中国が、バーレーンの米国第5艦隊の基地、カタールのアルウデイドの中東最大の米空軍基地のすぐそばのイランのペルシャ湾岸への進出を考えているとしたら、アラブ諸国の対立は有害である」と解説している。

 ただ、協定はまだ草案の段階である。イランは元来大国との付き合いに慎重であり、どこまで中国との関係に深入りするか分からない。米大統領選挙の民主党候補に確定しているバイデンは、イラン核合意に復帰すると明言しており、バイデンが次期大統領になれば米国の対イラン制裁が再び解除され、イランの西側との経済関係が復活することが予想される。しかし、選挙結果は分からず、イランとしては双方の可能性にヘッジする必要がある。

注:チャートはブログ管理人挿入

 イランの慎重さは2015年のイラン核合意の際にもみられる。核合意締結に際してのイランの第一の選択肢は西側との経済関係の再建であったと思われる。しかし、その一方で、イランは核合意の翌年の2016年に習近平を招聘し、中国との提携を模索している。

 中国にとってイランとの関係強化は経済面のメリットにとどまらず、南西アジア、さらにはペルシャ湾への進出の足掛かりを得ることになる。中国は一帯一路計画の西進を図っており、イランは重要なパートナーとなりうる。また、中国はイランのChahbahar港を支配下の置くかもしれないと報じられている。Chahbahar港はインドが開発したものだが、米国の圧力で手放したものである。中国は、西アジアに足場を築くことは、この地域及びさらにはペルシャ湾での影響力行使に欠かせないと考えているようである。

 ただ、イラン国内では、経済が低迷する中では不利な条件で協定を結び、中国の影響下に立たされるとの懸念も聞かれるとのことで、イラン特有の慎重さも見られるとのことである。イランの内閣は協定案を承認したが、まだ国会には提出されていないと報じられている。

 イランと中国の協定は両国にとってのみならず、中東情勢、中国の外交に大きな影響を与えるものである。中国が乗り気であることは間違いないが、何事にも慎重なイランが最終的にどう対処するか注目される。

【私の論評】米国の冷静な詰将棋は、対中国だけではなく、中東でも着々と実行されている(゚д゚)!

トランプ大統領の就任後、米国はイランに対し継続的に非常に厳しい制裁を行っています。中共はこの協議の中でかなりのことを行っ、すでに米国の制裁に違反している疑いがあります。

以前に複数の中国企業がイランと違法な取引を行って制裁に違反したとして、米国から制裁を受けたことがあります。この点から見ると、中共は米国の対イラン制裁を破壊し、イランの核開発計画を陰で推進する最大の黒幕のようです。

国際社会が制裁を継続する中、イラン政府に経済、外交、軍事分野で支援を提供する国は中共しかありません。

中国とイランは表面的には一種の政治的同盟を結んでおり、経済面では相補互恵の関係にありますが、実際のところは中共が、長年にわたり制裁を受けてきたイランが空前の孤立無援という困難の中にあることを利用して、イランを手中に収めて操ろうとしていると考えるべきだと思います。

最も分かりやすい例が、中共が一帯一路というエサを撒いて、それから交換条件として戦略的価値の高いイランの2つの港を手に入れようとしていることです。

一方、中共が協議に基づきイランに対する巨額の投資を行えば、間違いなくより多くの中国企業が巻き込まれ、米国の制裁対象になるでしょう。

さらに中国がイランと同盟を結んだ場合、米国から大きな打撃を被るほか、中共が中東地域で行っている外交政策全体も大きく損なわれる可能性があります。

何十年もの間、中共はイスラエルから高度な軍事技術を入手してきましたが、そのイスラエルの最大の敵がイランであるため、中国とイランが手を結んだ場合、イスラエルが疎遠になる可能性があります。

2018年王岐山国家副主席がエルサレムを訪れてネタニヤフ首相と会談

さらに同様の状況がサウジアラビアを筆頭とするスンニ派諸国(イランはシーア派)との間にも発生して、中共がこれらの国とのビジネスチャンスを失う可能性もあります。

このパートナーシップは、中国イランの双方にとって良いことばかりではないようです。

中東においては、やはり米国が中国よりは、戦略的に動いているようです。イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)は、犬猿の仲でした。これを、先日もこのブログに掲載したように、米国が仲介して「歴史的な和平合意」を成立させたのです。

イスラエルとアラブ諸国はもともと対立関係ですが、イランとの対立で共通していました。アラブ人とペルシャ人は共にイスラム教徒ですが、スンニー派とシーア派で対立しています。さらにイラン(ペルシャ人)はアジアに属するので、アラブ諸国から見れば異質な存在です。

それでもアラブ諸国とイランは対イスラエルで共闘していました。そのためイスラエルとアラブ諸国は犬猿の仲でした。それだけにイスラエルとUAE国交正常化は歴史的な転換点です。これは、中東の安定化を意味します。同時に対イランで共通しています。サウジアラビア諸国+イスラエル連合によるイランとの対立です。

米国は中国共産党・イランと対立しています。仮にイラン・中国と米国とが戦争になれば、米軍は中東とアジアに戦力を二分することになるはずでした。これでは米国が不利になります。ところがイスラエルとアラブ諸国が同盟すれば、この状況は変わってきます。

結果的に米軍は、戦略の選択肢を増やすことが可能になります。米軍主力でイラン戦を実行してから、その後の追撃戦はイスラエル・アラブ同盟軍にまかせ、中国共産党との戦争に挑めるし、中国共産党との戦争に専念できます。

状況によっては、イスラエル・アラブ同盟軍とイランが対峙していることを前提として、最初から中国だけと対峙に挑む事が、可能になります。

こうなれば中国共産党は、遅かれ早かれ米国と真正面から対峙することを覚悟しなければならなくなります。これが米国の当面の戦略でしょう。「一帯一路」を掲げながらも具体的戦略に欠ける中国とは大違いです。

トランプ米大統領は19日、イランとの核合意で解除された同国に対する全ての国連制裁の復活を国連安全保障理事会に求める意向を明らかにしました。この動きは、中国とイランのパートナーシップと無関係ではないでしょう。

ポンペオ国務長官がニューヨークの国連本部を20日に訪問し、「スナップバック」と呼ばれる制裁復活手続き開始を正式に申し入れます。

ポンペオ国務長官

トランプ大統領はホワイトハウスでの記者会見で、「イランが核兵器を手にすることは決してない。われわれは、中東和平を不可能にした失敗した構想、失敗に終わった政策に高い代価を支払った」と語りました。

2015年のイラン核合意に盛り込まれたスナップバック手続きを米国が申し立てた場合、国連安保理は制裁緩和継続に向けた決議案を30日以内に採決する必要があります。米国が拒否権を行使し、決議が採択されなければ、イラン核計画の制限と引き換えに緩和された制裁が復活し、核合意の実質的崩壊につながります。

トランプ政権の下で18年に核合意から離脱した米国に国際的制裁を再び発動させる権限はないというのが、同盟国を含む世界の主要国の立場であり、衝突は避けられそうにありません。

この制裁復活手続きは、イラン・中国のパートナーシップに対するさらなる牽制です。できるできないは別にして、イランに対しては相当の圧力になります。

イランとしては、イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)の和平や、その後の他のアラブ諸国の出方や、上で述べた中国とのパートナーシップの負の部分と、メリットを天秤にかけ、メリットが少ないと考えた場合、慎重なイランは、最終的に中国とのパートナーシップを蹴る可能性もあります。

米国の冷静な詰将棋は、対中国だけではなく、中東でも着々と実行されています。

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2020年8月19日水曜日

【アメリカ発】憂慮すべきバイデン親子の中国ビジネス―【私の論評】バイデン氏の大統領への道は閉ざされたと見るのが妥当(゚д゚)!


バイデン父子

アメリカ大統領選挙のテーマはいくつもあるが、トランプ政権で対立が深刻化している中国との関係をどうするのかは、日本を含む世界の関心事である。中小企業コンサルタントであり、同時にReactionary Timesの編集ディレクターを務めるJulio Rivera氏が、バイデン候補の「中国と近すぎる関係」に警告を発した。

* * *  

 ここ数か月はおそらく、米中関係が何世代にもわたって経験してきた最悪の時期だった。過去数週間を見ても、マイク・ポンペオ国務長官が5Gに関して中国製品の危険を公言したり、米軍が空母部隊を南シナ海に派遣して訓練を実施したことに対して、中国軍が東アジア各地で対抗する訓練を実施するなど、いくつかの事件が起きている。アメリカ政府は中国領事館の閉鎖を命じ、FBIは中国在住のアメリカ人に「中国当局による恣意的拘禁の危険性が高まっている」と警告した。

  これら最近の出来事は、中国が最終的にはアメリカに対して軍事行動を仕掛ける事態になるのではないかという懸念を引き起こすのに十分である。

  トランプ大統領の側近としてホワイトハウスで戦略担当を務めたスティーブン・バノン氏が指摘しているように、コロナ問題が発覚した当初、中国はウイルスの人から人への感染を否定しておきながら、同時にアメリカ、ブラジル、ヨーロッパから感染を防ぐ防護器具を大量に買い占めていたのである。そうした事実に基づき、トランプ政権と与野党の政治家たちは、中国の初動ミスが問題を拡大したと非難している。

 コロナ問題に関しては、すでに世界各国で中国に対する損害賠償請求の動きが始まっており、アメリカでは11月の大統領選挙が近づくなかで、トランプ、バイデン両候補の中国に対するスタンスが重要課題になっている。 

 トランプ大統領は2017年の北京訪問当時から、米中貿易が不公正であると指摘し、アメリカの対中貿易赤字や、中国による知的財産の窃取を問題視してきた。「私たちは、この赤字をもたらしている不公正な貿易慣行と、市場での成功を妨げる障壁に直ちに取り組まなければならない。そして、強制的な技術移転や知的財産の窃盗に目を向けなければならない。それだけで、アメリカと米国企業に年間3000億ドル以上の損害を与えている」と述べた。

  7月にFBIが中国製マルウェアに関連する企業に警告を発したように、トランプ氏の懸念は当を得ている。そうしたマルウェアによって中国政府は民間企業のデータベースに不正にアクセスし、中国で操業しているアメリカ企業に対して中国政府が義務付けている税務ソフトを通じて強制的にデータを収集しているとされる。

 一方、バイデン氏が11月の大統領選挙で勝利すれば、状況は今と全く異なるものになるだろう。同候補はすでに、トランプ政権が中国との新たな貿易協定に向けて戦略的に利用してきた対中制裁関税を撤廃する意向を表明しており、もしバイデン政権が誕生すれば、中国に対して融和政策を取ることを示唆している。

  バイデン氏が大統領になれば、中国の国益にかなうことは間違いない。彼の息子であるハンター・バイデン氏も、それによって恩恵を受けるだろう。彼は過去10年間、中国政府が支援する投資会社BHRの取締役を務めてきた。ニューヨークタイムズの報道によると、ハンター氏は2017年に同社の株式の10%を約42万ドルで購入したという。

  ジャーナリストのピーター・シュワイザー氏の著書によれば、ハンター氏は父親がオバマ政権で副大統領を務めていた時期に中国を訪れ、同社は中国共産党との間で15億ドルの巨額投資契約をまとめたのだという。 

 何十年にもわたってアメリカを食い物にしてきた国に世界の支配権を譲るのかどうかを考えると、これらの事実は非常に憂慮すべきものだろう。 

(この記事は「American Thinker」の許諾のもと同サイトの記事を翻訳・要約したものです)
 American Thinker :月間ユニークユーザー300万人を誇るアメリカの保守系ニュースサイト。各界の専門家やジャーナリスト・作家の寄稿を中心とし、エリート層の読者が多いことで知られる。

【私の論評】バイデン氏の大統領への道は閉ざされたと見るのが妥当(゚д゚)!

私は、結局バイデンはトランプに勝利できないと思います。理由は、上の記事にもあげられたものもありますが、何といつても、認知症疑惑があることと、増税をするということにつきます。

米大統領選で、ジョー・バイデン前副大統領(77)が勝利したら、超大国・米国に「認知症」疑惑を抱えた大統領が出現することになります。それは、米国民にとっても、同盟国にとつても大きな不安材料を抱え込むことになります。

バイデン氏は演説の中で独立宣言の中の一節を思い出せなかった・・・

本日は、大きなニュースが米国より舞い込んできました。米国のテレビ局FOXTVでも最も人気の高いアンカーマンで、反民主党、反バイデンの急先鋒であるショーン・ハニティ氏の情報として、バイデン氏が脳神経の手術を3回受けたことがあると報じたのです。

事実であれば、これまで疑惑視されていたバイデン氏の病気説が思いがけず確認された形になります。番組では、仮にバイデン氏が大統領になっても早期退任することになる、という説まで出た。これは、痴呆症が取り沙汰されるバイデン氏にとって、手痛い話題になることは確実でしょう。

もう一つは、バイデンは増税論者であるということです。バイデン前副大統領は9日、新型コロナウイルス危機に見舞われた米製造業の復活に向け、4年間で総額7000億ドル(約75兆円)の公共投資計画を発表しました。投資額は「第2次世界大戦以来で最大規模」と強調。財源確保のため将来の増税に言及し、減税を掲げるトランプ大統領との違いを鮮明にしました。

具体的には、再生可能エネルギーやインフラ整備に絡む米国製品購入に4000億ドル、次世代技術の研究開発に3000億ドルを投じる。公共投資に大きな比重を置き、減税や規制緩和を通じた民間企業支援に注力するトランプ氏との差別化を図りました。世論調査では、経済に限ってはトランプ氏がほぼリードしており、てこ入れを狙った形なのかもしれません。

一方、公共投資には財源問題も付きまとう。バイデン氏は「トランプ減税」を撤廃して連邦法人税率を現行の21%から28%に引き上げると改めて主張しました。これまでに富裕層課税や所得税増税も取り沙汰され、金融市場では「バイデン氏勝利」への警戒感がくすぶっています

バイデン氏はこの日、民主党の急進左派が提唱する高齢者向けの医療保険改革や環境規制には一切触れませんでた。「反ビジネス」色の強い政策を打ち出せば、「トランプ氏の離反票や無党派層を取り込めない」(バイデン陣営関係者)と判断したからです。2016年の前回大統領選では、党内対立が敗因の一つに挙げられており、政策の擦り合わせが大きな課題になりそうです。

私は、この増税の話をした途端に、バイデンは結局負けるのではないかと判断しました。

大統領選挙は11月です。大統領就任は、来年1月です。米国では、未だにコロナの感染者数や、死者は増えています。

全米で流行が続いている新型コロナウイルス感染症が、アルツハイマー病や事故、糖尿病などを抜いて、米国人の死因の第3位に浮上した。

米ジョンズ・ホプキンス大学の統計によると、米国の新型コロナウイルス感染者は540万人以上、死者は17万人以上に上る。過去3週間の統計では、1日の平均で1000人以上が新型コロナウイルスのために死亡した。

新型コロナウイルス感染症が米国人の死因の第3位に浮上した

この状況では、たとえ来年ワクチンができあがり、多くの人々が接種できるようになっても、経済が落ちこんでいるのは、目に見えています。

そこで、わざわざ「トランプ減税」を撤廃して連邦法人税率を現行の21%から28%に引き上げるとか、富裕層課税や所得税増税を実施したとすれば、落ち込んだ経済にさらに追い打ちをかけるようなものです。

米国では、すでに景気がかなり落ち込んだときには、積極財政(減税、給付金、補助金など)と無制限の金融緩和で乗り切るというのが定番になっています。

そうして、乗りきった後にインフレになれば、緊縮財政(増税などの緊縮財政)と金融引締で、インフレを沈静化させるというのが、マクロ経済上の常識です。これにより、米国はサブ・プライム・ローン問題や、リーマンショックを乗り切りました。

特にリーマンショックに関しては、米国は震源地であるにもかかわらず、明らかに経済政策が功を奏して比較的はやく立ち直りました。このときに、日本では財務省は緊縮財政を継続し、日銀は他国の銀行が無制限の金融緩和をするなか、ほとんど緩和をせず、そのため日本だけが、リーマンショックとは、あまり関係なかったにも関わらず、深刻なデフレ・円高に陥り、一人負け状態になりました。

バイデン氏の経済政策は、実体経済などおかまいなしに、増税すれば勝ちのように考えている日本の財務省のような政策です。

これで、多くの有権者が、バイデン氏支持をためらうようになったでしょう。他にも、様々な問題があり、それプラス増税で、バイデン氏の大統領への道は閉ざされたと見るべきだと思います。ただ、現状ではそれが表沙汰になっていないだけなのでしょう。

トランプ氏は今後の選挙運動で、バイデン氏の認知症や、経済政策の間違いを暴き立てるでしょう。これでは、バイデン氏には勝ち目はないとみるのが妥当だと思います。

無論、選挙は水物ですから、バイデン氏が勝つこともありえますが、それにしても、米国にとっても日本や他の同盟国にとっても、良いことではないのは確かです。

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2020年8月18日火曜日

米トランプ政権の対中強硬路線―【私の論評】ポンペオ長官の楔は中共を震撼させ、北戴河会議で異変が(゚д゚)!

米トランプ政権の対中強硬路線

アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

昨年10月、ペンス米副大統領が、対中政策転換を示唆する演説を行った。それは、あたかも「現代版ハル・ノート」のようであった。

だが、今年7月、ポンペイオ米国務長官が習近平主席を名指しで非難する演説を行った。今、思えば、今度のポンペイオ長官の演説の方が、より「現代版ハル・ノート」に近いのかもしれない。


おそらく、米トランプ政権は、いつでも対中戦争を始められる準備をしているのではないか。よく知られているように、目下、米国の世論調査では、民主党のバイデン候補がトランプ大統領をリードしている。しかし、仮に、米軍が東シナ海・南シナ海で中国軍と開戦して勝利すれば、11月の大統領選挙でトランプ大統領の再選される可能性が高まるだろう。

一部の論者が指摘しているように、確かに、現在置かれている中国の状況は、戦前の大日本帝国のそれに似ているかもしれない。(ロシアや朝鮮半島を除き)中国は四面楚歌の状態である。

けれども、今の中国と昔の日本との最大の違いは、戦争のできる態勢にあるか否かではないか。現在、中国は、表向き「戦狼外交」を展開している。だが、それは国内の矛盾を隠すため、海外に強気な姿勢を見せているに過ぎないのではないだろうか。

1)経済の悪化、(2)「新型コロナ」の第2波・第3波の襲来、(3)長江・黄河流域の洪水(特に、前者の場合、三峡ダムを死守するために上下流の堤防を決壊させている)、(4)蝗害等、中国共産党が対米戦争を遂行するに当たっての障害には枚挙にいとまがない。

かつての大日本帝国は、戦争も辞さない「強硬派」と戦争を回避しようとする「融和派」に分かれていた。しかし、一旦、「大東亜戦争」が始まったら、国内は一致団結した。

だが、今日の中国は「習近平派」と「反習近平派」に分かれ、激しい党内闘争を行っている。例えば、今年の夏、非公式の北戴河会議が開催された。だが、その期間が非常に短かったのである(中国共産党ナンバー3の栗戦書<全国人民代表大会常務委員長>がすでに北京へ戻ったという情報もある)。

こんな状況下で、中国共産党が対米開戦に踏み切れるのか、甚だ疑問である。

さて、最近、トランプ政権は具体的にどんな対中強硬政策(「ウイグル人権法」及び「香港国家安全維持法」への報復措置を含む)を採ってきたのか、主な政策を列挙してみよう。
ファーウェイ(華為技術)と関連企業114社への輸出管理を強化した。 
米国人にファーウェイ(華為技術)の使用を禁じている(規制はTikTokやWeChatまで及ぶ)。 
米国では「クリーン・ネットワーク計画」と呼ばれる取り組みを拡充し、通信分野での中国企業を排除した。 
テキサス州ヒューストンの中国総領事館を閉鎖した。 
中国人記者に対し、駐米ビザの延長を厳格にする。 
米国への中国人留学生を厳しく規制する。 
中国高官の米国資産を凍結する。 
中国高官の米国へのビザ発給を厳格化する。 
米国は西太平洋に、2つ、ないしは、3つの空母打撃群を展開させた。トランプ政権は、いつでも中国軍を迎え撃つ準備が整っている。 
米政府は、台湾との関係強化、および台湾の国際的地位向上を目指し、今年8月9日、アレックス・アザール厚生長官を同国へ送り込んだ(2014年、マッカーシー環境保護局長官以来、6年ぶりの閣僚訪台となる)。 
米国上院は、2021年度「国防権限法(NDAA 2021)」を可決した。その中で、台湾を環太平洋軍事演習(リムパック)に招請することが提案された。
その他、トランプ政権の意向を受けてか、米戦略国際問題研究所(CSIS)は、日本の「親中派」の代表、自民党の二階俊博幹事長や今井尚哉首相補佐官を名指しして非難した。米国が日中間の緊密な関係を憂慮している証左ではないか。

ところで、米『ワシントン・タイムズ』紙は、今年6月15日付で、余茂春(Miles Yu、マイルズ・ユー)米海軍兵学校(USNA)教授との独占インタビュー記事を掲載した。

実は、余茂春は、ポンペイオ国務長官のアドバイザーであり、トランプ政権で対中政策を担う重要人物である。余は、重慶市で生まれ育ち、「文化大革命」を経験した。1979年に南開大学歴史学部に入学している。1983年、余茂春は同大学を卒業後、渡米し、1985年にペンシルバニア州のスワースモア大学(Swarthmore College)に入学した。そして、1994年、カリフォルニア大学バークレー校で歴史学博士号を取得した。

その後、余は、米海軍兵学校で近代中国と軍事史の教鞭を執る。現在、余茂春の教え子の中に、米国防省や国務省で要職についた人が少なくないという。

澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。元拓殖大学海外事情研究所教授。専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等。

【私の論評】ポンペオ長官の楔は中共を震撼させ、北戴河会議で異変が(゚д゚)!

ポンペオ氏の今回の演説は、まさにハル・ノートのようなものです。

    「ハル・ノート」(1ページ)
    (外務省外交史料館提供)
昭和16年(1941年)11月27日(木)6:45から8:45にかけて(米時間 26日 16:45から18:45にかけて)、野村吉三郎駐アメリカ大使と来栖三郎特命全権大使は、ハル米国務長官と会談します。ここでハルは「乙案」の拒否を示す「ハル・ノート」を提示しました。これによって、「乙案」を最終案とする第7回御前会議以来の日本の交渉は破綻しました。

今年の北戴河会議は、2年前と較べても、さらに強烈なアメリカ発の「津波」が押し寄せている中で開かれました。米国と対決するのか、妥協を図るのか。21世紀前半の中国の命運を左右する「大英断」を、習近平政権は迫られたのです。

日本でたとえるなら、太平洋戦争を決断した1941年(昭和16年)の御前会議のようなものです(無論実体は全く違います、あくまで単なるたとえです)。

御前会議

 習近平総書記は、2018年3月に国家主席の任期を撤廃し、「半永久政権」の道筋をつけました。来年7月に控えた中国共産党創建100周年で、「過去4000年でどの皇帝や王も成し得なかった貧困撲滅の達成」を宣言する予定です。 

その功績を掲げて、2022年秋の第20回中国共産党大会で、総書記再任を決めます。続いて、2023年3月の全国人民代表大会で国家主席を再任させるのです。これが習近平総書記が狙う半永久政権構想と思われます。 

ところが今回、米国はそこに大きな楔(くさび)を打ち込んでのです。「トップを替え、国家体制を替えなければ、戦争も辞さない」というわけです。

こうしたポンペオ氏の演説の直後に、北戴河会議は開催されたのです。この楔は相当に効いたようです。

国営新華社通信電子版は8月14日、中国共産党機関紙・人民日報の評論記事を転載しました。記事は「なぜ人民軍隊に対する党の絶対的な指導制度を揺るがしてはならないのか(中国語は、党対人民軍隊的絶対領導制度為何動揺不得?)」とのタイトルがつけられ、中国共産党による軍の支配権について持論を展開しました。

同記事は終始、中国の軍は共産党の軍であると主張しました。

「国家は、階級の矛盾による調和不可能の産物である。軍隊は階級統治の暴力的ツールだ。(中略)国家政権を奪取し、政権を強化していくにはまず、軍を掌握しなければならない」

「政権を奪取するため、必ず強い武装力量(軍)を持たなければならない。(政権奪取で)勝利した後、武装力量を借りて…自らの統治を維持していくべきだ」

「この軍隊は最初から最後まで、党の指示に従う。いかなる人がいかなる方法で、軍を党から離脱させようとしても、失敗に終わるだろう」

「(文化大革命の)四人組は常に軍権の掌握を狙っていた。しかし、軍は彼らの指令に従わなかった。四人組が失脚した際、軍権の掌握ができなかったと嘆いた」

中国国民にとって、人民解放軍が共産党の支配下にあることは言うに及ばないことである。北戴河会議の開催中に、官製メディアが軍権掌握に関する記事を発表したのは意味深長で、党内で軍権をめぐる激しい論争、または争奪戦が勃発した可能性があると推測できます。中国共産党の歴代最高指導者が自らの権力基盤を強固にするには、軍権の掌握を必須条件としてきたからです。

記事の中では、「(軍に対する)最高領導権と指揮権は、党中央にある。(中略)軍事委員会主席の責任制度を貫徹し、(軍の)すべての行動について、党中央、中央軍事員会および習近平主席の指揮に従うことを確実に守っていく」との内容があります。

この内容から、北戴河会議において、一部の人物が中央軍事委員会主席を務める習近平氏に異議を唱えたとみられます。または、軍への指導権を分権化すべきだという意見もあったと見て取れます。

しかし、習近平氏らはこれらの意見をすべて却下したようです。「絶対的な領導制度というのは、『絶対的な』要求に達するということだ。(中略)これは手抜きしてはいけないうえ、議論の余地もないということだ。いわゆる『絶対』とは、…唯一性、徹底的にかつ無条件に行うことを意味する。全軍の絶対的な忠誠心、絶対的な純粋さ、絶対に信頼できることを守っていく」

この記事は一部の内容にも関わらず、文脈から軍権をめぐって、会議中に習派閥とその反対勢力の間に生じた張りつめた気配が強く感じとれます。

さらに、記事が示唆した他の内情も多くあります。

例えば、「敵対勢力は、『軍の非党化、非政治化』と『軍隊の国家化』を大々的に宣伝しており、(中略)軍隊を党から分離させようとしている」

「いわゆる『政治的遺伝子組み換え』を行い、軍の『色』を変えようとする狙いがある。その下心ははっきりしている」

「『軍の非党化』という主張を持つ人は、西側国家の軍と政党の関係性の表面しか見ていない。政権を担う政党が変わる時、軍の指導権は資産階級の『左手』から『右手』に変わったに過ぎない」

これには、多少説明を要するかもしれません。中国人民解放軍は他国にみられるような軍隊ではありません。国に所属するのではなく、共産党に所属する共産党の私兵であり、さらに驚いたことには、様々な事業を展開する日本で言えば総合商社のような存在でもあるのです。いわば、武装した総合商社のような存在なのです。

「いわゆる『軍の非政治化』は、軍が政治問題に介入しないことを指すが、これも実際には、資産階級の嘘のスローガンである」などがあります。

これらの情報から、北戴河会議の一部の出席者が、人民解放軍を党の軍隊ではなく、国の軍隊にすべきだという異例の声があったことが読み取れます。しかしながら、党の指導者に軍への支配を放棄させることは、権力を放棄させることを意味します。党の最高指導者はこのような声を絶対に容認できません。習陣営は、この記事を通じて強く反論したのでしょう。

人民解放軍の実体は、中共の私兵である同時に、様々な事業を行う武装した総合商社である

党内の激しい対立を露呈したこの記事は、まもなく新華社通信電子版から取り下げられました。いずれにせよ、人民解放軍の所在は中国共産党の根幹にかかわる大問題です。ポンペオ長官の楔は相当に中共を揺るがしたとみるべきです。

中国共産党幹部は、厳しい選択を迫られているようです。習近平に従い続け、いずれ米国などにある個人資産を凍結されてしまい、家族がいる米国などに入国できなるどころか家族が米国から追い出されることを許容するのか、さらには米国による対中国冷戦により、経済が落ち込むだけではなく、あらゆる面で生活そのものが制約されるようになることを許容し続けるのか。

あるいは、習近平を失脚に追い込み、米国に親和的な体制に戻すのか?ただ一ついえることがあります。米国としては、まず習近平を失脚させることがすべての前提条件のようですが、その後に中共が根本的に体制を改めなければ、冷戦を継続するでしょう。

いずれにしても、中共幹部は、厳しい選択を迫られているのです。

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2020年8月17日月曜日

イスラエル・UAE和平合意はトランプの中東政策が有効な証拠―【私の論評】この和平は世界とって良いこと、トランプ氏の大統領選の一環などと矮小化すべきではない(゚д゚)!


イスラエル ネタ二アフ首相(左)とUAE の支配者とされるムハンマド・ビン・ザーイド氏(右)

<引用元:デイリー・シグナル 2020.8.14>ジェームズ・カラファノ氏による論説

13日のイスラエルとアラブ首長国連邦(UEA)の間の「歴史的な和平合意」―米国が四半世紀かけて仲介してきたイスラエルとアラブ国家の間の最初の関係正常化への合意―の発表は、ドナルド・トランプ大統領が長年の間で米国・中東政策を間違わずに正しく行った最初の大統領であることをさらに示す証拠だ。

合意の下で、イスラエルとUEAは「完全な関係の正常化」を達成することとなり、それには大使館、貿易、観光旅行、直行便の開設や他の合意も含まれる。アラブ国家でそれ以外にイスラエルと外交関係を持つのはエジプトとヨルダンの2カ国のみだ。

トランプ、ベンヤミン・ネタニヤフ首相、そしてUEA指導者が出した共同声明によると、大幅な譲歩としてイスラエルは、同国のネタニヤフ首相が併合を計画していたウェストバンク(ヨルダン川西岸)の一部に対する「統治権の宣言を停止」して、今後はアラブ・イスラム世界の他の国々との関係を拡大する努力に集中する。

21世紀のこれまでの米国の中東政策の歴史は次の通りだ。

ジョージ・W・ブッシュ大統領:全てを修復しようと熱心に取り組み始める。結果:失敗。

バラク・オバマ大統領:できるだけ速く逃げ、全てを無視しようと努める。結果:大失敗。

トランプ大統領:固執し、火を消し、友人の友人となる―が、彼らが自分達の近辺を安全にするために公平な負担を負うことを主張。結果:成功。

外交的躍進を宣言した共同声明は、それが「トランプ大統領の要求」で実現されたものだとしている。これはまさに、トランプがイスラエルと隣国との間の和平がうまく収まるように計画しているということを示す最新の証しだ。

率直な話をしよう。トランプ政権はダウのついてない日よりも速く崩れ落ちていたオバマ政権の中東政策を引き継いだ。

イランは核合意後にさらに好戦的になり、その代理人は所かまわず行進していた。ISISはシリアとイラクの一部で残忍なカリフの支配権を握っていた。シリアは内戦で崩壊した。イラクは瀬戸際だった。イスラエルは国際的な孤立が高まろうとしていた。

だがトランプは即座に、こうした米国の政策による失敗からことごとく脱した。

その後トランプ政権は、米国の不可欠な利益を守っていた中東での持続可能な存在を発展させるためのキャンペーンを開始した。

特にトランプ政権は、イスラエル・パレスチナ和平交渉の進展のためにイスラエルに対する支持を制限することを止めた。パレスチナが交渉を拒否していたために暗礁に乗り上げたためだ。

さらにトランプ政権は、エジプト、トルコ、サウジアラビアといった戦略パートナーとの関係を維持した―彼らが悪戦苦闘し、つまずき、時には互いに、地域の他国と、そしてワシントンと衝突することがあったとしても。

それからトランプ政権は、中東戦略的同盟のビジョンを追加した。同盟は最終的にイスラエルとアラブ国家を、地域の安定と繁栄のための勢力となる共同体制へと団結させるよう意図されていた。

同盟は中東のNATOとはならない。それは米国の支持と関与を受けた集団となり、イランを追い詰め、イスラム主義の多国籍テロと戦い、地域紛争と人道上の危機を未然に食い止め、経済的統合を推進するものだ。

トランプはそのとても野心的な目標を達成していない―全くもって。だが13日に発表されたUEAとイスラエル間の合意は、トランプが持続可能な安全保障体制のためのブロックの整備を進展させていることを裏付けている。

UEA・イスラエル合意は、トランプが中東で必要とされることについて正しかったことを示している。アラブのリーダーは、パレスチナ政権が要求してるように関係改善のための外交努力をボイコットするのではなく、イスラエルに外交的に関与したほうが、より多くの事を達成できる。

トランプの仕事は終わっていない。他のアラブ国家は先行するUEAに倣い、イスラエルとの関係正常化合意を結ぶだろう。米国はすでに、ペルシャ湾岸の他の国の高官から個人的に肯定的な反応を受けている。実際にバーレーンが次にイスラエルとの恒久的和平を結ぶ可能性がある。

トランプ政権は、後戻りができないほどに米国の未来の政策を計画する上での転換点を越えた可能性がある。11月の大統領選でトランプが再選を果たしても、ジョー・バイデン元副大統領が勝ったとしても。

この証拠として、バイデンはあらゆる点でトランプを即座に批判しているのに、この民主党指名確実候補者はイスラエル・UAE合意を称賛する声明を出した。

「今日、イスラエルとアラブ首長国連邦は中東の大きな分断に橋渡しをする歴史的な一歩を踏み出した。UAEがイスラエルの国を公式に認定すると申し出たことは、歓迎すべき、勇敢で、大いに必要とされる政治的手腕の行為だ。またイスラエルが中東の活気に満ちた欠くことのできない、生活に浸透した一部であるというのは重要な認識だ。イスラエルは、歓迎する全てにとって貴重な戦略的・経済的パートナーとなる可能性があり、そうなっていくだろう」とバイデンは、声明の中で述べた。

バイデン氏

つまり、米国が1月にトランプ大統領、またはバイデン大統領のどちらに主導されたとしても、イラン合意の復帰はないだろう。その上、ワシントンの多くの人はある範囲の、現実・想像上の懸念をめぐって、イスラエル、トルコ、サウジアラビア、そしてエジプトに対して喜んで断固たる行動を取るだろうが、実際には米国は地域の権力者に反対するよりも協力したほうが得るものが大きい。

トランプは冷戦の終結以来で、もっとすばらしい中東への肯定的な道を築くのに最高の可能性をもたらした。選挙の競争でトランプが勝つにせよ、バイデンが勝つにせよ、次期政権がこの約4年の進展を最後までやり通す以外の道を取ることは、自己破滅となるだろう。

またトランプの下での米国の政治手腕の業績を認めないとすれば、それは間違いで、気難しく、党派心に偏ったことだ。

ジェームズ・ジェイ・カラファノは、ヘリテージ財団外交防衛政策研究所の副所長

【私の論評】この和平は世界とって良いこと、トランプ氏の大統領選の一環などと矮小化すべきではない(゚д゚)!

イスラエル(左)とUAE(右)[の国旗

UAEは、イスラエルと国交を持つアラブ諸国として1979年のエジプト、1994年のヨルダンに次ぐ3例目となります。

イスラエルとUAEの国交正常化を国際社会が歓迎する中、「裏切り者!」とUAEを非難したのはやはりイランとトルコでした。パレスチナ人はMBZ( UAE の支配者とされるムハンマド・ビン・ザーイドの写真)に靴をぶつけたり、燃やしたりしています。イスラム教を政治に持ち込み続ける限り、紛争も殺戮も憎悪も終わり尽きることはありません。

中東地域で孤立するイスラエルは以前からアラブ諸国との国交正常化に前向きで、特にUAEとは最近、COVID-19対策(共同でのワクチン開発)やIT分野で協力関係を築くことで合意し、官民双方で関係強化が進んでいました。

この点、イスラエル・UAEの国交正常化は寝耳に水の話題ではありません。もっとも、米国が仲介役をアピールするように、本合意はイスラエル・UAEの二国間関係のみで成り立ったわけではなく、既に進展していた非公式な関係深化が今のタイミングで公式化したことにも相応の事情が考えられます。

対イラン関係

イスラエル・UAE・米国は、イランを中東の安全保障上における脅威と捉え、その軍事的影響力を削減するという目標を共有しています。この点で本合意は「イラン包囲網」としての意味を持ち得ます。一方、「包囲」を経た対イラン関係については、3国間で異なる青写真を用意していると考えられます。

少なくともUAEは、地理的に極めて近いイランが政治的にも経済的にも一定程度の安定性を保ち、この上でサウジやバハレーンといったUAEの友好国とイランとの間の緊張が緩和されるのが理想でしょう。

 西岸併合

西岸併合については「一部」「延期」「停止」等、様々な表現が用いられており、国交正常化と引き換えに西岸併合を取りやめると考えるのは早計かもしれません。実際、イスラエルのネタニヤフ首相は国内向けの会見で、一部西岸地域への主権適用の計画は進めると発言しました。

本合意は、あくまで現時点でイスラエル・UAEは経済的実利を優先した結果と考えられます。あるいは、西岸併合を必ずしもバーターとしない国交正常化に合意したUAEは、西岸併合を暗黙裡に了解したとも言えます。

イスラエルの思惑

西岸併合は現内閣のマニフェストとして注目されてきました。しかし外相・国防相等の側近から慎重論が出ている他、COVID-19対策に予算・労力を割くべき中で、西岸併合は次第に非現実的な様相を帯び始めました。

こうして、一時的とはいえ西岸併合を持て余している状況下、これを引き換え(に見える形)としたUAEとの国交正常化は、現内閣の安定性を維持しつつ、経済外交を進展させ、さらに有言不実行(マニフェストの不履行)との誹りを免れるという、イスラエル政府にとって好都合なタイミングと言えます。

さらにこれによって、中東地域での孤立を解消し、パレスチナ問題でイスラエル側の主張を支持するアラブ諸国を増やすことで西岸地区での主権維持が見込め、これが中長期的には国内右派・極右勢力の支持を維持することにもつながります。以上を考慮すれば、本合意はイスラエルにとって「コストなきディール」だと言えます。

UAEの思惑

世界有数のハイテク産業を有するイスラエルと経済・技術協力を推進できる点で、UAEにとって本合意の経済的利点は疑いがありません。一方、イスラエルとの国交正常化には、パレスチナやこれを支持する勢力から「裏切り者」との非難を浴び、アラブ諸国としての体面を保つ上で不都合だという事情もありました。

このため、西岸併合をイスラエルに放棄させたという物語の筋を強調することで、UAEは本合意を「裏切り」には該当しない、むしろパレスチナを支持する行動としてアピールする向きが見られます。もっとも、こうした評価をパレスチナ側から得ていないは既述の通りてすが、そもそもUAEに限らず、多くのアラブ諸国が「パレスチナ支援」を自国のプレゼンスを示すアジェンダとして(のみ)利用している現状は暗黙の事実であり、パレスチナ側の批判をUAEが考慮する可能性は低いです。

米国の思惑

11月に大統領選挙を控える状況下、トランプ大統領には今のタイミングでなされた本合意を「歴史的な平和貢献」と表現し、これを自身の業績としてアピールする狙いが見て取れます。逆に言えば、大統領選挙後を見据えたパレスチナ問題への政策が用意されているかどうかは未知数です。

それは、さておき、米国としては中東が平和になれば、現在継続中の中国との対峙に専念できるわけで、これは米国にとってもかなり良いことです。無論日本にとっても良いことです。

中国と本格的に対峙しているときに、中東で問題が起これば、米国としてもこれを放置できず、軍隊などを派遣すれば、二正面作戦になってしまうおそれもあります。このブログにも以前述べたように、米軍でさえ二正面作戦は負担が大きいです。

      13日、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化を
      発表するトランプ米大統領=ホワイトハウス

イスラエル・パレスチナ関係への影響


通常、国際社会で国交正常化が批判されることはないとの考えに立てば、イスラエル・UAEの国交正常化によって中東地域で孤立するのは、皮肉にもパレスチナの側となります。西岸併合計画への抵抗で協力を発表したパレスチナ自治政府(PA)とハマースは、本合意を受けてさらなる協力体制を構築するかもしれません。

しかしながら、パレスチナは外国からの政治的支援なくして独立を実現できません。パレスチナ諸派を蚊帳の外にした「歴史的成果」は、彼らを着実に八方塞がりな状況に追い込んでいくことになります。

さらに、これまで水面下で進んでいたアラブ諸国とイスラエルとの関係が、本合意をきっかけに地域レベルで立て続けに公式化する可能性もあります。こうなると、二国家解決の実現可能性はますます低くなり、逆に一国家解決の実現可能性が高まることになります。

今回の和平合意は、メディアによっては、トランプ大統領の再戦に向けたパフォーマンスとして矮小化するものもありますが、間違いなく世界にとって良いことです。

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