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2024年11月18日月曜日

前知事の斎藤元彦氏(47)、110万票あまりを獲得し再選 兵庫県知事選挙 投票率は11年ぶりに50%超―【私の論評】兵庫県知事選とメディア報道の闇:斎藤知事再選の裏に潜む既得権益の攻防

前知事の斎藤元彦氏(47)、110万票あまりを獲得し再選 兵庫県知事選挙 投票率は11年ぶりに50%超

まとめ
  • 斎藤元彦氏が110万票を獲得し、兵庫県知事選で再選を果たした。
  • 斎藤氏は無所属で出馬し、前尼崎市長の稲村和美氏を含む新人6人を破った。
  • 知事選の投票率は55.65%で、前回より14.55ポイント上昇し、11年ぶりに50%を超えた。


斎藤元彦前知事の失職に伴う兵庫県知事選は、110万票あまりを獲得して斎藤前知事が再選しました。

当選したのは、前兵庫県知事の斎藤元彦さん(47)です。

斎藤さんは県議会で不信任決議を可決されて失職。無所属で出直し選挙に臨み、110万票あまりを獲得して前尼崎市長の稲村和美さんなど新人6人を破り、2回目の当選を果たしました。

当選確実 斎藤元彦氏
「多くの方に応援していただいた。本当に嬉しく思います。県職員の皆さんとの関係ももう一度スタート、県議会の皆さんとも政策を前に進めていく。あらゆる県民の皆さんとオール兵庫で、県政を前に進めていくことが大事」

落選確実 稲村和美氏
「候補者の資質、政策を問う選挙というより、何を信じるかが大きなテーマに」

知事選の投票率は55.65%で、前回を14.55ポイント上回りました。50%を超えたのは11年ぶりです。

【私の論評】兵庫県知事選とメディア報道の闇:斎藤知事再選の裏に潜む既得権益の攻防

まとめ
  • 齋藤元知事は、医療や教育、地域経済振興などの実績が県民に評価され、立花孝志氏による支持活動やSNS戦略が若年層を中心に大きな影響を与えた。
  • 稲村氏をはじめとする対立候補たちは説得力に欠ける政策と戦略ミスが目立ち、内部告発者自殺事件の自殺の理由の疑義により信頼を失った。
  • メディアは斎藤氏に対して事実に基づかない報道や疑惑を誇張し、利権構造を守る勢力の代弁者として機能していた。
  • 斎藤氏の改革的な政策が既得権益を脅かしたため、彼を攻撃する報道が利権を守ろうとする勢力によって操作されていた可能性が高い。
  • 偏向報道は国民の判断を歪め、民主主義の健全性を損ねている。メディアは事実に基づいた公正な報道への自己改革が求められる。


斎藤元彦前知事の再選は、兵庫県の政治史において極めて意義深い出来事として記録されるだろう。無所属での出馬という厳しい状況にもかかわらず、斎藤氏が圧倒的な支持を獲得した背景には、彼の実績と地域に根ざした政策が県民の信頼を勝ち得たという事実がある。特に注目すべきは、医療や教育の充実、地域経済の振興といった、県民の生活に直結する課題への具体的な取り組みが、広範囲に評価された点だ。このような取り組みは、単なる選挙公約ではなく、実際の成果を通じて明確に示されており、再選の原動力となった。

その一方で、今回の選挙戦を語る上で欠かせないのは、斎藤氏の支持基盤をさらに強固なものにした立花孝志氏の存在だ。立花氏は、政見放送をはじめとするメディアを通じて、斎藤氏の実績と人柄を力強く支持し、県民に訴えかけた。特に、内部告発者の自殺を巡る報道の中で、斎藤氏を不当に批判する構図を鋭く批判しつつ、彼の透明性ある政治姿勢を強調した点が印象的である。

街頭演説する立花孝志氏

これにより、現状に不満を抱える層や若年層の関心を引き寄せることに成功した。さらに、立花氏がSNSを活用して展開したデジタルキャンペーンは、多くのフォロワーに強い影響を与えた。この戦略は、特にオンライン情報に敏感な世代に大きな効果を発揮し、彼らの投票行動を積極的に促した。

SNSの影響力が今回の選挙で如何に大きな役割を果たしたかは、統計データからも明らかだ。選挙後の調査によれば、投票者の約60%がSNSを通じて候補者の情報を得たと回答している。斎藤陣営はこの流れをいち早く読み取り、効果的に利用することで、多くの県民に直接アプローチすることに成功した。特に、TwitterやInstagramでの情報発信は迅速かつ的確であり、斎藤氏の政策や活動を県民に広く周知させる上で重要な役割を果たした。SNSが選挙戦略の鍵となる時代において、斎藤氏の陣営がいかに時代の潮流を掴んでいたかが伺える。

反対勢力の自滅も、斎藤氏の再選を後押しする要因となった。稲村和美氏を含む新人候補たちは、説得力に欠ける政策提案や戦略ミスによって、有権者の支持を得ることができなかった。加えて、内部告発者の自殺の理由(パワハラによるもの)への疑義が反対陣営にとって致命的なダメージとなったことも否めない。この告発者が斎藤氏に対する不信任決議に絡んでいた事実が明らかになると、反対勢力の信頼性は著しく低下し、選挙戦全体における支持を失う結果となった。

また、パワーハラスメント疑惑や「おねだり」疑惑といったネガティブな報道も斎藤氏を揺るがすには至らなかった。多くの主張が根拠に乏しく、明確な証拠が欠けていたため、むしろ反対勢力が意図的に情報を操作しようとしているという印象を有権者に与えた。結果的に、斎藤氏への信頼が損なわれるどころか、彼の潔白が際立つ形となり、県民の支持をさらに強固なものにしたと言える。

こうした一連の出来事を背景に、地元団体や市民団体が展開した投票促進活動も重要な役割を果たした。教育機関や若者団体を中心に、選挙への関心を高めるキャンペーンが行われ、これが地域全体の投票率向上に寄与したことは間違いない。これらの活動が、斎藤氏の勝利を支える重要な要素となった。

しかし、今回の選挙戦を通じて浮き彫りになったのは、メディアの報道姿勢に対する根本的な疑念である。政府に対する批判や地方行政への監視を本来の役割としてきたメディアは、近年ではその役割を逸脱し、特定の利権の代弁者へと成り下がっている現実がある。政府批判と齋藤知事に対する貶め報道の共通点は、いずれも事実に基づく精査を欠き、感情的な扇動を主体としている点にある。メディアは、あたかも「正義の味方」を装いながら、実際には既得権益の維持や利権構造を守るための道具として機能しているのだ。

たとえば、齋藤知事の改革的な政策は、既得権益を脅かすものであった。このため、彼に対するメディアの攻撃が特定の既得権益を守ろうとする勢力によって操られていた可能性は極めて高い。医療や教育、経済政策において一定の成果を上げていたにもかかわらず、メディアはその功績を意図的に無視し、スキャンダルや疑惑を誇張することで、改革の勢いを削ぐ試みを続けた。これらの報道の背後には、斎藤氏が挑戦した利権構造を守りたい勢力の存在が明白だ。

知事パワハラ疑惑と、告発男性の自殺を関連付けて報道したマスコミ

こうしたメディアの偏向は、公正中立な報道機関としての役割を完全に放棄したも同然であり、結果として国民の判断を歪める重大な影響を及ぼしている。報道が特定の利権や勢力の影響下にある現状は、民主主義社会の健全性を深刻に脅かしている。

メディアは、今一度自らの役割を見つめ直し、事実を忠実に報じ、公正な議論を促進する使命を果たすべきだ。それができなければ、国民からの信頼を完全に失い、結果として自らの存在意義を危うくすることになるだろう。この点において、メディアの自己改革は待ったなしの課題である。

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2024年10月29日火曜日

<北極圏を侵食する中国とロシア>着実に進める軍事的拡大、新たな国の関与も―【私の論評】中露の北極圏戦略が日本の安全保障に与える影響とその対策

<北極圏を侵食する中国とロシア>着実に進める軍事的拡大、新たな国の関与も

岡崎研究所

スヴァールバル諸島の位置

スヴァールバル諸島はノルウェーの主権下にあるが、1920年の条約により加盟国は経済活動や研究を自由に行える特殊な地位にある。この島々は現在、中露両国が北極圏での影響力と軍事プレゼンスを拡大する戦略的な拠点となっている。

中露の軍事化の動きは顕著で、ロシアはウクライナ侵攻後、軍事パレードや正教会の十字架の設置などを行い、さらには議員がテロリスト用の刑務所建設を提案するなど、強硬な姿勢を見せている。一方、中国も北極圏への関与を深めており、新たな砕氷船の建造や、北極圏から900マイル離れた場所に位置づける「近北極圏」国家として自らを宣言している。中国はスヴァールバルに「黄河」と名付けられた研究施設を運営し、軍事的な研究を含む活動を行っている。

スヴァールバル諸島の戦略的重要性は、その位置から来ている。ベア・ギャップと呼ばれる海域を通じてノルウェー本土と結ばれ、またロシアのコラ半島の北に位置し、軍事的な観点から非常に重要なエリアだ。ロシアは、もし紛争が起これば、このベア・ギャップを封鎖することで西側からの進入を防ごうとする可能性がある。


経済活動面では、中国は3Dマップ作成のためのレーザー技術研究や、キルケネス港の拡張計画に関心を示すなど、積極的に土地やインフラへの投資を進めている。しかし、ノルウェー政府は最近、中国の3億ドル以上の土地買収計画を阻止した。

このような地政学的な動きは、スヴァールバル諸島の住民に不安を引き起こしており、特に2022年以降、信頼の崩壊が指摘されている。

さらに、インドも北極圏への関心を示し、ロシアとの連携を強化しており、中露だけでなくインドも含めた大国間のパワーバランスが今後の北極圏の動向を左右する可能性がある。以上の状況から、スヴァールバル諸島は国際的な緊張の火種となる可能性があり、各国間の軍事協力や対立がますます複雑化していることが伺える。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中露の北極圏戦略が日本の安全保障に与える影響とその対策

まとめ
  • 中露の北極圏拡大: ロシアと中国は北極圏での軍事プレゼンスを強化し、特にロシアは北方艦隊の防衛体制を再編成している。中国も「氷上シルクロード」構想を推進し、資源開発に積極的である。
  • スヴァールバル諸島の重要性: スヴァールバル諸島はノルウェーの主権下にあり、加盟国は自由な経済活動が可能だが、現在中露の影響力拡大のための戦略的拠点となっている。
  • 日本への影響: 北極圏での中露の軍事活動は、日本にとって新たな安全保障上の脅威となり、エネルギー供給の安定性にリスクをもたらす。
  • 過去の日本の取り組み: 日本は北極政策を策定し、国際的な協力や研究を進めてきたが、中露の影響下に置かれる可能性のある北極海航路の動向を注視する必要がある。
  • 安全保障政策の再検討: 北極圏の動向に対応するため、日本は安全保障政策を見直し、国際的な協力を強化することが求められている。


2022年夏、北極圏をめぐる地政学的緊張が高まる中、ロシアと中国はこの地域での影響力を強化し、軍事プレゼンスの拡大に注力している。ロシアのプーチン大統領は、7月に改訂された「ロシア連邦海洋ドクトリン」を通じ、北極圏を戦略的優先地域とし、北方艦隊の防衛体制を強化する方針を打ち出した。特に、北極海航路沿いでの防衛強化が強調され、これは資源保護のみならず、NATOに対する警戒も意識したものである。

また、8月にはNATOのストルテンベルグ事務総長(当時)がカナダを訪れ、ウクライナ紛争以降の北極圏における地政学的な変化を懸念し、中国とロシアの戦略的連携をリスクとして指摘した。

中露の北極圏での影響力拡大はスヴァールバル諸島にとどまらず、ロシアが北極圏内で再開発を進める旧ソ連時代の軍事基地や、新設された施設もその例である。ロシアはフランツ・ヨーゼフ諸島やノヴァヤゼムリャに新たな軍事インフラを構築し、対空ミサイルシステムや新型レーダーを配備し、地域における軍事力を強化している。さらに、ノルウェーに近接するコラ半島にも潜水艦基地を増強し、北極海航路沿いでのロシアの存在感を高めている。このような施設増強は、ロシアが北極圏全体を支配する能力を増強し、NATOとの対峙の場を拡大する意図を示している。

一方、中国も「氷上シルクロード」構想の一環として北極開発を積極的に進め、ヤマルLNGプロジェクトへの大規模投資を行っている。具体的には、中国企業がこのプロジェクトに対して約270億ドルを投資したとされ、これはロシアの天然ガスをヨーロッパやアジアに輸出するための重要なインフラとなる。

さらに、中国はロシアとの連携を強化し、北極圏での資源確保や軍事協力を進展させており、両国の連携は軍事演習にも及んでいる。近年では「海洋安全保障と環境保護」を掲げた合同演習が実施され、北極圏での戦略的パートナーシップが強固になっている。これらの活動は、単なる経済的影響にとどまらず、軍事的なプレゼンス拡大も意図されている。

さらに、グリーンランドやアイスランドにも中国の関与が増加している。中国はこれらの地域で科学調査やインフラ投資を進め、北極圏全域における影響力を強化している。例えば、グリーンランドにおける鉱山開発プロジェクトへの投資を通じて、中国は現地政府と密接な関係を築きつつあり、これは米国や西側諸国にとって戦略的懸念となっている。

アイスランドにおいても、中国は海底ケーブルの敷設計画を推進し、通信インフラを通じた地域での影響力拡大を図っている。これらの動向は、中国が北極圏における物理的プレゼンスを確立し、北極海航路を利用した貿易ルート確保を目指していることを示している。

北極圏の動向は日本の安全保障にとっても深刻な影響をもたらす。北極圏での中露の軍事活動は、従来の南西方面からの脅威に加え、北からの新たな安全保障上の挑戦となる。日本は、北極海航路が中国とロシアの影響下に置かれると、エネルギー供給の安定が揺らぎ、経済的にも不安定さが増すリスクに直面することになる。

特に、エネルギー輸送路が制限される可能性があるため、日本は北方防衛を含めた安全保障政策の再検討が求められる。ロシアが北極圏での活動を強化する中、日本は北方領土問題や周辺海域の安全保障についても、さらなる警戒が必要になる。

北極圏の軍事プレゼンス強化は、ロシアの北方艦隊がアジアにまで影響力を拡大する可能性を含んでおり、特に日本海やオホーツク海周辺での軍事的緊張を高める要因となる。2021年には、ロシアが北方艦隊を使って日本海での軍事演習を行い、その一部は北極圏での行動を模したものとされている。

これは、北極におけるロシアの軍事活動が、日本周辺地域に直接的な影響を与えることを示唆している。中国も北極圏での影響力拡大を通じて、日本周辺への圧力を増強する姿勢を示しており、これらの動向は日本の経済的安定および安全保障に対する直接的な脅威となり得る。北極圏の緊張が高まる中で、日本は安全保障政策を包括的に見直し、国際的な協力を強化する必要がある。

北極の白熊とパンダ AI生成画

これまで日本は北極圏に向けた様々な取り組みを行ってきた。特に、2009年には北極政策の基本方針を策定し、北極圏の持続可能な開発と環境保護を重視した。また、2012年からは「北極に関する国際協力のための日本アークティック会議」を開催し、国内外の専門家を招いて、北極問題に関する研究や情報交換を進めている。

さらに、2016年には日本が北極評議会にオブザーバーとして参加することが認められ、国際的な議論に積極的に関与する姿勢を示している。これらの活動は、日本が北極圏における持続可能な開発と安全保障の両面でのリーダーシップを発揮しようとする努力の一環であり、国際社会における存在感を高める狙いも含まれている。

2019年には日本が「北極海航路」の商業利用に向けた調査を行い、これに関する報告書を発表した。北極海航路は、従来の航路に比べて輸送時間を短縮できる可能性があり、日本にとって経済的なメリットが期待されている。

しかし、この航路が中露の影響下に置かれる場合、日本のエネルギー供給や経済活動が脅かされる恐れがあるため、日本は北極圏における動向を注視し続ける必要がある。日本のこれらの取り組みは、北極圏の変化に対する対応を強化するための重要なステップであるが、新たな脅威への備えも不可欠となる。

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2024年10月4日金曜日

日銀追加利上げのハードルさらに上昇か、世界的な金融緩和強化の流れ―【私の論評】日銀の独立性と過去の失敗:石破政権が目指すべき金融政策の方向性

日銀追加利上げのハードルさらに上昇か、世界的な金融緩和強化の流れ

まとめ
  • 英中銀とECB、一段と積極的な緩和の道筋が予想されている
  • 他国・地域の利下げペース加速時の日銀利上げは一段と困難との見方
日銀は、金融政策決定会合で、政策金利を0.25%程度に引き上げる追加の利上げを決定

 多くの先進国で金融緩和が強化される中、日本銀行が利上げを検討していることで、その政策が際立つ恐れがある。

 イングランド銀行や欧州中央銀行は利下げを示唆し、カナダとスウェーデンでも弱い経済データにより追加緩和の見通しが高まっている。エバコアISIのアナリストは、日本が利上げを行うのは他国の利下げ加速により困難になると指摘する。

 米国では大幅な利下げが進んでおり、特に米雇用統計の低調さが金融政策に影響を与えている。日本政府・日銀は、米経済の軟着陸を確認するまでは一層の緩和縮小はないとの立場を示している。石破茂新首相も追加利上げは必要ないと発言し、日銀への政策指示とも取れる発言を行った。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日銀の独立性と過去の失敗:石破政権が目指すべき金融政策の方向性

まとめ
  • 林芳正官房長官は、石破茂首相の発言が金融市場に影響を与えたことに関連し、日銀の金融政策の独立性を強調し、具体的な手法は日銀に委ねるべきとの立場を表明した。
  • 日銀は「物価の安定」を主要な目標としており、雇用はその副次的効果とされているが、世界標準では雇用の最大化も重要な目標とされている。
  • 過去の日銀の失敗として、1980年代後半に日銀が資産価格の高騰を理由に金融引き締めに転じた結果、実際の物価上昇を無視して企業の資金調達コストを上昇させ、経済成長を鈍化させてバブル崩壊を招いた事例がある。
  • 政府は日銀に直接命令を出せないが、協調のための対話は可能であり、過去の事例として「アベノミクス」やコロナ対策における政府・日銀の連携が挙げられる。
  • 石破政権は短期的には日銀との協調を図り、長期的には日銀法の改正を目指すべきである。
林官官房長官

林芳正官房長官は3日午後の記者会見で、石破茂首相の発言が金融市場に影響を与えたことに関連し、日銀の金融政策の独立性を強調しました。政府として、金融政策の具体的な手法は日銀に委ねるべきとの立場は変わらないと述べました。

石破首相は、植田和男日銀総裁との会談後に、追加の利上げを行う状況ではないとの見解を示しました。林官房長官は、日銀が金融市場や経済状況を見極める余裕を持ちつつ、政府と連携して適切な政策を運営することを期待すると述べました。

この林官房長官の発言に間違いはありません。しかし、全く問題がないかといえばそうとはいえないです。

世界標準における中央銀行の独立性には、通常、金融政策の目標として「物価の安定」に加え、「雇用の最大化」も含まれます。特に米国の連邦準備制度(FRB)のような例では、「デュアルマンデート(二重の使命)」として、物価安定と雇用最大化の両方を目標に掲げています。

具体的には、政府がこれらの目標を設定し、中央銀行は専門的な立場から、インフレや雇用のバランスを取るために政策手段を自由に選択します。例えば、インフレが高騰しすぎれば利上げを行って物価を抑制し、逆に景気が低迷し失業率が高まれば、金融緩和を行い雇用を促進するという判断が行われます。だからこそ、上の記事にあるように、米雇用統計の低調さが金融政策に影響を与えているのです。

日本銀行(日銀)の総裁が雇用に関して言及したことは、過去に何度かありますが、日銀が直接的に雇用を目標とすることは少なく、その役割は通常、物価の安定や経済成長を通じて間接的に雇用に影響を与えるという形で述べられています。

植田総裁は、日銀の政策目標として雇用を明確に掲げたことはありません。金融政策の結果として、経済成長や雇用の改善が期待されるという見方を示しているに留まります。日本銀行の主要な役割は依然として「物価の安定」であり、雇用はその副次的な効果として扱われています。

日銀総裁が雇用もに関して言及した、近年の例として、2013年から2020年まで日銀総裁を務めた黒田東彦氏の発言が挙げられます。黒田総裁は、日銀の「量的・質的金融緩和」政策を通じて日本経済のデフレ脱却と成長を促進し、その結果として雇用の改善にも貢献することを目指すという趣旨の発言をしています。

金融緩和について説明する黒田氏

ただし、日銀の法律上の使命は「物価の安定」を中心としており、米国のFRBのように「雇用の最大化」を明確に目標にしているわけではありません。日銀が雇用に関する発言をする際も、物価の安定を達成することで、間接的に経済の成長や雇用改善につながるというスタンスが一般的です。

日銀総裁が雇用に言及することはあるものの、日銀の主要な使命は「物価の安定」にあり、雇用はその結果として改善を期待される分野という位置づけが主流です。

世界標準では政府が「物価安定」と「雇用の最大化」の両方を目標として掲げ、それに基づき中央銀行が独立した判断で金融政策を運営することが、世界標準における中央銀行の独立性の定義です。

しかし、現行の日本銀行法では、「物価の安定」だけが日銀の主要な目標として位置づけられています。このため、日銀はこの目標を達成するために独立して金融政策を実施します。政府、特に財務省は、経済全体の政策の枠組みを決定し、日銀との協調のもとで全体的な経済政策を運営しますが、具体的な金融政策の目標を設定するのは日銀自身です。日銀は政府の経済政策を尊重しつつも、実際の金融政策の運営に関しては独立性を持っています。

日銀の独立性は、物価の安定を図るために金融政策を自由に実施できることを意味します。つまり、日銀が設定する具体的な金融目標(例:2%のインフレ目標)は、政府が決定した経済政策の一部として位置づけられますが、実際の目標設定と手段と運営は日銀が独自に行います。このように、政府が全体的な経済政策の枠組みを設定し、日銀がその中で「物価の安定」を主な目標としてそれを定め金融政策を実施するという構造になっています。

日銀は「物価の安定」だけを主目的にしていることで、過去に大きな間違いをしています。1980年代後半、日本は金融緩和と低金利政策を採用し、土地や株式の資産価格が急激に上昇しました。マスコミは「狂乱物価」などと報道しました。この際、日銀は株価や不動産価格の高騰を懸念し、一般物価が高騰していないにもかかわらず金融引き締めに転じました。

この判断は誤りであり、実際の物価上昇ではなく資産価格の変動を理由に金融政策を変更したことが、企業の資金調達コストを上昇させ、経済成長を鈍化させた結果、バブル崩壊を招いたたのです。しかも、日銀はその後も引き締め策を継続し、日本はデフレに見舞われました。この経験からも、金融政策は物価や資産価格だけでなく、経済全体の健全性(特に雇用)を考慮する必要があります。一般物価を基準に考えると、そもそもバブルであったという認識が間違いであり、これは単なる好景気であったと認識すべきでした。

日銀が物価の安定だけに拘泥すれば、これからも同じような間違いを犯す可能性があります。

政府は日銀に直接命令を出すことはできませんが、協調のための話し合いは可能です。実際、政府と日銀の間での対話は、経済政策の整合性を保つために重要です。安倍晋三元首相の在任中には、特に「アベノミクス」において、日銀の金融緩和政策を後押しし、政府と日銀の連携が強調されました。

コロナ対策においても、日銀と政府は連携して(安倍首相の言葉を借りると政府と日銀の連合軍)、政府が大量の国際を発行し、日銀がそれを引き受ける形で、資金調達し、安倍・菅政権であわせて100兆円の対策を打つことができました。これと、雇用調整助成金制度を活用し、他国では一時失業率がかなり上がったにもかかわらず、日本ではそのようなことはありませんでした。

上のグラフをみると、イタリアはコロナによる打撃きが大きく、死者も多く、医療分野の財政支出が多いです。日本の場合は政府関係機関による支援が多いです。これは世界最大です。これによって、日本経済はほとんど毀損されず、雇用も守られました。このような大偉業をマスコミは全く無視しました。

それどころか、安倍・菅政権のコロナ政策は失敗であると喧伝しました。これを評価したのは、主に海外のメディアや識者でした。

日銀と政府の金融政策に関する協議は、政府の財政政策と日銀の金融政策を効果的に結びつけ、持続可能な経済成長を促進するために不可欠です。今後も、物価や雇用に関する目標について意見交換を行うことが重要です。石破政権もこのような意見交換は継続すべきです。

さらに、日銀の独立性に関しても、日銀法を改正して、世界標準にすることと「雇用の最大化」も政府の金融政策の目標、日銀の政策の中に含めるべきです。

岸田政権は、短期では日銀との協調をすべきですし、長期では日銀法の改正を目指すべきです。

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2024年9月24日火曜日

ロシア軍機に初のフレア警告、無線通告では不十分と判断か…防衛省「警告の意図を明確に」―【私の論評】ロシア太平洋艦隊の戦闘力不足と日本への影響:米戦争研究所の分析と日本の安保意識の高まり

ロシア軍機に初のフレア警告、無線通告では不十分と判断か…防衛省「警告の意図を明確に」

まとめ
  • 23日、ロシア軍機が礼文島付近で3回領空侵犯し、木原防衛相は厳重に監視する方針を示した。
  • 初めてフレアを使った警告が行われた。
  • 領空侵犯はロシア・中国の艦艇との連携の可能性がある。
  • 防衛省は意図を分析し、警戒監視を続けている。
ロシア軍哨戒機「IL38」

23日、北海道・礼文島付近でロシア軍哨戒機「IL38」が3回領空侵犯し、木原防衛相はこれを「軍事的挑発」とし、厳重に監視する意向を示しました。

ロシア軍機による領空侵犯は2019年の沖縄付近以来で、フレアを使用して警告するのは今回が初めてです。木原氏は、この警告が相手の動きに応じたものであると説明。防衛省も、フレアの使用を「強度の高い警告」と位置づけています。

さらに、22日と23日にはロシア軍と中国軍の艦艇9隻が宗谷海峡を東に進み、ロシア軍機の領空侵犯が艦艇との連携に関連する可能性があると防衛省は見ています。防衛省は引き続き警戒監視を強化し、ロシア側の意図について分析を進めています。

この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ロシア太平洋艦隊の戦闘力不足と日本への影響:米戦争研究所の分析と日本の安保意識の高まり

まとめ
  • ロシア太平洋艦隊は日本を脅かすほどの戦闘力がなく、現状での軍事的挑発は意味が薄い。
  • ロシアの軍事演習や領空侵犯は、実際の軍事的脅威というより政治的メッセージや威嚇の手段として行われている可能性が高い。
  • これらの行動は、ロシアが限られた軍事力で存在感を示し、地域での影響力を維持しようとする試みかもしれない。
  • 日本にとっては、防衛産業の活性化や国民の安全保障意識の向上など、一部プラスの影響もある。
  • しかし、これらの「プラスの影響」は平和と安定を脅かす行為を肯定するものではなく、現状対応の副産物として捉えるべきである。
ロシアが日本に対する「軍事的挑発」をしたとして、現状ではあまり意味はありません。そもそも、ロシア太平洋艦隊に日本を脅すほどの戦闘力はありません。これについては、以前このブログでも述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
北方領土で演習のロシア太平洋艦隊は日本を脅かせるほど強くない──米ISW―【私の論評】ロシアが北方領土で軍事演習を行っても日本に全く影響なし(゚д゚)! 2023年4月17日

詳細は、この記事もしくは元記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事の内容を要約したものを以下に掲載させていただきます。

米シンクタンク戦争研究所(ISW)の分析によると、ロシアの太平洋艦隊は他国から脅威とみなされるには戦闘力が不足している可能性が高いとされている。 
ロシアは太平洋艦隊の抜き打ち検査の一環として、ミサイル発射と魚雷のテストを実施した。ISWはこれを、近日開催されるG7サミットで日本のウクライナ支援を抑止するための威嚇と分析している。 
ロシア国防相はこの検査の目的を「海洋における敵の攻撃を撃退するための能力向上」と説明し、千島列島南部とサハリン島への敵上陸を撃退する能力も含むと付け加えた。 
ISWは、ロシアが日本の北方領土周辺で軍事態勢を強化していることを、日本のウクライナ支援増加への警告と見ているが、同時にロシア軍が現時点で日本を脅かす立場にないと評価している。太平洋艦隊の一部部隊がウクライナ東部で大きな損害を被ったことを指摘し、ISWは太平洋艦隊が戦力投射能力に必要な戦闘力を欠いており、日本への真の脅威や中国に対する軍事大国としての印象を与えることは困難だと結論づけている。
米国のシンクタンク戦争研究所(ISW)のロゴ

私は、この分析は正しいと思います。現状のロシア太平洋艦隊は、日米に比して貧弱で駆逐艦以上の戦闘艦艇は7隻程度しかなく海上自衛隊の10分の1程度です。さらに、海上自衛隊は、現代海戦の要ともいえるASW(Anti Sumarine Wafare:対戦戦争)能力では、ロシアをはるかに上回っています。では、ロシアはなぜこのような「軍師的挑発」を行ったのでしょう。

ロシアの太平洋艦隊の戦闘力不足に関する分析と最近の領空侵犯事件は、一見矛盾するように見えますが、これらは異なる観点から解釈することができます。

戦力投射能力の不足は大規模な軍事作戦や持続的な脅威を与える能力の欠如を示唆していますが、単発的な挑発行為や小規模な軍事行動は依然として可能です。領空侵犯は実際の軍事的脅威というよりも、政治的メッセージや威嚇の手段として使用されることがあり、ロシアは限られた軍事力でも存在感を示そうとしている可能性があります。

この行動はロシアが地域での影響力を維持しようとする試みかもしれず、実際の軍事力が不足していても、こうした行動で緊張を高め、注目を集めることができます。また、領空侵犯はロシアの軍事戦略の一部である可能性もあり、相手国の対応を試したり、防空システムの情報を収集したりする目的があるかもしれません。

内政的な理由も考えられ、国内向けに強硬な姿勢を示すことで政権の支持を維持しようとしている可能性があります。したがって、太平洋艦隊の全体的な戦闘力不足と個別の挑発的行動は必ずしも矛盾するものではなく、ロシアは限られた能力の中で最大限の効果を得ようとしている可能性が高いと考えられます。

プーチンロシア大統領

ただ、このような軍事的挑発がロシアの思惑通りに運ぶかどうかは、全く別の話です。

これ、日本にとって必ずしもマイナスの影響だけではなく、いくつかのプラスの側面も見られます。中国やロシアの軍事的挑発は、日本にとって必ずしもマイナスの影響だけではなく、いくつかのプラスの側面も見られます。

特に注目すべきは防衛産業の活性化です。実際に、三菱重工業の株価は上昇傾向にあり、2023年5月頃から値上がりを強め、2024年2月には1万2000円を突破しました。

2024年2月時点で約12,000円だった株価は、4月に1:10の株式分割が行われ、株式分割後には理論上約1,200円となりました。アナリストたちは三菱重工業の株価がさらに上がると予想しています。2024年9月19日時点の株価から、さらに5.92%上昇すると予測されており、アナリストの平均目標株価は1,966円となっています。この上昇傾向は、防衛関連企業への注目度の高まりを反映している可能性があります。

このような状況は、直近で政治的にも影響を与える可能性があります。例えば、自民党総裁選において、高市早苗氏のような世界水準からみれば真っ当な安全保障政策を主張する候補者が注目を集める可能性があります。高市氏は「国の究極の使命は、国民の皆様の生命と財産を守り抜くこと、領土領海領空、資源を守り抜くこと」と主張しており、このような状況下でその主張が注目されています。

また、軍事的挑発は日本国民の安全保障に対する意識を高める効果があり、長期的に見て国の防衛力強化に対する理解と支持につながる可能性があります。同時に、日米同盟をはじめとする国際的な安全保障協力の強化にもつながり、日本の外交的立場を強化し、国際社会での影響力を高める機会となる可能性もあります。

さらに、防衛力強化の必要性から、先端技術の研究開発が促進される可能性があり、これらの技術は民間分野にも応用され、産業全体の競争力向上につながる可能性があります。ただし、これらの「プラスの影響」は、平和と安定を脅かす行為を肯定するものではなく、あくまでも現状に対応する中で生じる可能性のある側面として捉えるべきです。ただし、現状のロシアの日本への軍事的挑発はロシアの意図を成就させるものとはならないでしょう。

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2024年9月16日月曜日

「トランプが負けたら米国は血の海になる」!?…大統領選「テレビ討論会」はデタラメだらけ!ハリスとABCが深めた「米国の分断」―【私の論評】行き過ぎたアイデンティティ政治が招きかねないファシズムの脅威

「トランプが負けたら米国は血の海になる」!?…大統領選「テレビ討論会」はデタラメだらけ!ハリスとABCが深めた「米国の分断」

まとめ
  • テレビ討論会での司会者の偏った対応が、トランプとハリスの発言に対するファクトチェックに影響を与えた。特に中絶に関する議論では、ミネソタ州の法律が誤解され、トランプの指摘が否定された。
  • ハリスはトランプ政権下での体外受精治療(IVF)の禁止を主張したが、トランプはその方針を打ち出しておらず、ハリスの発言は事実誤認であった。
  • FBIの犯罪データについて、トランプの主張が正しい可能性があるにもかかわらず、司会者はそのデータを根拠にトランプを批判した。
  • シャーロッツビル事件に関するトランプの発言が誤解され、ハリスはその文脈を無視して批判を行ったが、司会者はその誤りを指摘しなかった。
  • 政府とメディアが一体となって真実を歪め、政敵を攻撃する傾向が見られ、これはファシズム的な現象として警戒すべき状況である

アメリカ大統領選挙のテレビ討論会

アメリカ大統領選挙のテレビ討論会において、司会者の偏った対応や事実誤認が見られた。トランプの発言に対して不適切なファクトチェックが行われ、ハリスの誤った発言は修正されなかった。中絶に関する議論では、ミネソタ州の法律や実態が正確に伝えられず、体外受精治療に関するトランプの方針も無視された。犯罪統計についても、FBIのデータの不備が考慮されなかった。シャーロッツビル事件や移民問題に関するトランプの発言も、文脈を無視して批判された。

中絶に関して、ミネソタ州知事ワルツの発言をトランプが指摘した際、司会者は不適切なファクトチェックを行った。実際には、ミネソタ州の中絶指針では妊娠期間による制限がなく、生存乳児保護規定も削除されている。これは生後の赤ちゃんを殺すのを認めたと表現しても、間違いとはいえない。

ハリスの体外受精治療に関する発言も事実誤認であり、トランプ政権がIVFを禁止したのが仮に事実として正しいとしても、自分たちの政権でIVFを復活させればよいだけである。そしてそもそもトランプ政権がIVFを禁止したという事実はない。トランプが最近発表したIVF支援方針は無視された。

犯罪統計に関しては、FBIのデータ収集システムの問題(システム交換によるものとされる)により、多くの都市のデータが反映されていない状況が指摘された。そのため、FBIの統計と司法統計局の調査結果に大きな矛盾が生じている。トランプの犯罪増加の主張に対する司会者の反論は、この状況を考慮していなかった。

シャーロッツビル事件に関するトランプの発言は、文脈を無視して批判された。トランプがネオナチや白人至上主義者を「とてもよい人」と呼んだという解釈は、左派系のファクトチェック機関も否定している。しかし、ハリスはこの誤った解釈を繰り返し、司会者も修正しなかった。

移民問題に関して、トランプのスプリングフィールドでの発言が取り上げられた。ハイチからの移民が増加したことによる地域の変化や住民の不満が背景にあるが、これらの複雑な状況は無視され、トランプの「ハイチからの移民がペットを食べている」という一部の発言のみが切り取られ批判された。

これらの事例は、政府とメディアが一体となって真実を歪め、政敵を攻撃するファシズム的な傾向を示している。この状況下で、かつての民主党支持者やイーロン・マスク、ザッカーバーグなどの著名人がトランプ支持に回る現象が起きている。これは現在の民主党のあり方にファシズムの兆候を感じ取り、民主主義の危機を懸念しているためだと考えられる。

朝香 豊(経済評論家)

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】行き過ぎたアイデンティティ政治が招きかねないファシズムの脅威

まとめ
  • 著名人(ケネディ、イーロン・マスク、ザッカーバーグ)は、民主党の権威主義や検閲が民主主義に対する脅威であると認識しているようだ。
  • 民主党がポリティカル・コレクトネス、アイデンティティ政治、キャンセル・カルチャーを受け入れていることが、言論の自由を脅かす。
  • アメリカ社会では、アイデンティティ政治やキャンセル・カルチャーの進行が表現の自由や学問の自由に対する懸念を呼んでいる。
  • 調査結果によると、多くのアメリカ人がポリティカル・コレクトネスやキャンセル・カルチャーを自由や社会の分断に対する脅威と見なしている。
  • トランプ氏の今後の討論会欠席の意向を表明したが、これはハリス・メディアに付け入る隙を与えないようにすることと、米国社会のさらなる分断をさけるためと、さらにトランプの選挙戦略の一環とみられる。

ロバート・ケネディ・ジュニア、イーロン・マスク、ザッカーバーグのような著名人は、警告のサインに気づいているようです。彼らは、民主党の権威主義と検閲へのシフトが民主主義への脅威であることを理解しています。


イーロン・マスク(左)とザッカーバーグ
これらの人物は、自由と米国建国時の理念を守ろうとしているようです。彼らは、現状の民主党が米国の憲法上の権利に重大な危険をもたらしていることを認識しています。 また、民主党がポリティカル・コレクトネス、アイデンティティ政治、キャンセル・カルチャーを受け入れていることも、ファシズム的傾向を示していると言えるでしょう。彼らは、米国人をグループに分け、対立を煽り、検閲や反対意見の封殺を推進していると批判されています。これは、民主主義社会の根幹である言論と表現の自由を侵食する危険な動きです。


これらのうち日本ではあまり知られていないアイデンティティ政治(Identity Politics)とは、個人の人種、性別、宗教、性的指向、階級などの社会的な属性に基づいて、そのグループの利益や権利を重視し、政治的主張や活動を行うことです。この考え方では、歴史的に抑圧されてきたグループが自身のアイデンティティを強調し、平等な権利や社会的な公正を求めることが重視されます。しかし、これは一方で米国人としての統一性や共通の理念を破壊する動きでもあります。

ポリティカル・コレクトネスやキャンセルカルチャーは、アイデンティティ政治の一環とみなすことができます。これらは、アイデンティティ政治が重視する社会的な公正や権利の拡張を目指すものの一部であり、特定の社会的グループの利益を守るために展開されています。要するに、ポリティカル・コレクトネスやキャンセルカルチャーはアイデンティティー政治を展開するための道具といえます。

アイデンティティ政治は米国人としての統一性や共通の理念を破壊する動きでもある

例えば、黒人の権利運動、LGBTQ+の権利拡大、フェミニズムなどがアイデンティティ政治の一部です。支持者はこれが社会正義の推進に不可欠だと考える一方で、批判者は、米国人という統一性や共通の理念等を破壊し、社会を分断させたり、特定のグループを優遇しすぎる可能性があると懸念しています。

アメリカ社会では、ポリティカル・コレクトネス、キャンセル・カルチャー、アイデンティティ政治が行き過ぎた事例が増加しています。これらの現象は、表現の自由や学問の自由を脅かす可能性があるとして、特に保守派からの批判が高まっています。 

一例として、2020年6月にサンフランシスコのゴールデンゲートパークで発生した事件があります。抗議者が、アメリカ国歌「星条旗」の作詞者であるフランシス・スコット・キーの銅像を引き倒しました。理由はキーが奴隷所有者であったからですが、この行為は歴史的人物の功績を全否定することにつながるとして批判されました。

 また、大学キャンパスでの言論の自由の制限も問題視されています。保守派の講演者が、学生団体からの抗議により講演を中止せざるを得なくなるケースが増加しており、これが多様な意見を聞く機会を奪い、大学本来の自由な議論の場を損なっていると指摘されています。

 さらに、ソーシャルメディア企業がトランプ氏などの保守派のアカウントを停止したり、投稿を削除したりすることも、表現の自由を脅かす行為として批判されています。特定の政治的見解を持つユーザーが選択的に規制されることは、公平性に欠けるとの指摘があります。 

2021年3月に実施されたハーバードアメリカ政治研究センターとザ・ハリス・ポールによる世論調査では、キャンセル・カルチャーに対する懸念が浮き彫りになりました。調査結果によると、回答者の64%がキャンセル・カルチャーの成長を自由への脅威と見なしており、36%はそう考えていませんでした。

また、36%がこの問題を大きな懸念事項と捉え、54%がインターネット上で意見を表明する際にキャンセルされることを懸念していると答えました。この調査は、アメリカ社会におけるキャンセル・カルチャーに対する不安が広がっていることを示しています。 ポリティカル・コレクトネスやアイデンティティ政治に関する他の調査結果も存在します。

2021年のピュー研究所の調査では、アメリカ人の59%が「人々は自分の言動に過度に気をつけている」と答えており、ポリティカル・コレクトネスに対する懸念が示されています。

また、2018年のギャラップ社の調査によると、アメリカ人の57%が「アメリカは政治的に正しくなりすぎている」と考えています。

2020年のユーガブ社の調査では、55%が「キャンセル・カルチャーは民主主義社会にとって脅威である」と回答しています。

さらに、2022年のアメリカン・パースペクティブス調査では、回答者の66%が「アイデンティティ政治は人々を分断している」と感じています。

2021年のモーニング・コンサルト社の調査では、アメリカ人の64%が「ポリティカル・コレクトネスは表現の自由を制限している」と回答しています。

キャンセル・カルチャーは異論を唱える人を社会的・文化的に抹殺する


これらの調査結果は、多くのアメリカ人がポリティカル・コレクトネスやアイデンティティ政治に対して懸念を抱いていることを示しており、特に表現の自由や社会の分断に関する不安が顕著です。

これらの事例からも、アイデンティティ政治とキャンセル・カルチャーが行き過ぎると、社会の分断を深め、民主主義の基盤である言論の自由を脅かす可能性があることがわかります。今後、多様性を尊重しつつ、米国民としての統合を図りながら、いかに建設的な対話を促進するかが、アメリカ社会の重要な課題となっています。

米国社会の分断は、直接的ではないにしろ、先日のトランプ氏暗殺未遂事件などにつながっている可能性は否定しきれません。本日も暗殺未遂がありました。米国の社会の分断は、深刻なレベルに達しているようです。

なお、この記事の筆者である朝香氏は、「今回の討論会を通じて、トランプ陣営はハリス陣営の戦術を十分に理解できた。これを踏まえて、次回の大統領選挙討論会ではトランプが攻勢に出ることを期待したい」と述べています。

しかし、トランプ氏は今後討論会に出ない意向を表明しています。私はこれに賛成です。なぜなら、討論会が繰り返されるたびに、ハリス陣営やメディアはあらゆる手段を用いてトランプ氏を攻撃し、彼らに付け入る隙を与えるだけになるでしょう。

その結果、米国社会の分断が一層深まる可能性があります。これを考えると、今後の討論会に参加しないというトランプ氏の考えは、正しいし合理的であり、これはトランプ氏の巧妙な戦略の一環である可能性が高いです。この点については、以前のブログでも言及していますので、ぜひそちらもご覧ください。


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2024年9月15日日曜日

中国から台湾へ密航者相次ぐ いずれも軍事要衝に漂着、ゴムボートをレーダー検知できず―【私の論評】日本の安全保障と中国人の日本移住:米台との比較と今後の課題

中国から台湾へ密航者相次ぐ いずれも軍事要衝に漂着、ゴムボートをレーダー検知できず

まとめ
  • 台湾の海巡署は、9月14日に北部・新北市の海岸付近でゴムボートに乗った中国籍の男を発見・拘束し、男は脱水症状を訴えて治療を受けている。
  • 男は中国浙江省寧波から出発し、台湾で新たな生活を始めたかったと供述している。
  • 現場は中国軍の上陸が想定される淡水河の河口から数キロの地点であり、台湾への密航者の漂着が相次いでいることから、台湾側の対応能力を試す「グレーゾーン作戦」の可能性が指摘されている。


台湾の海巡署は、9月14日に北部・新北市の海岸付近でゴムボートに乗った中国籍の男を発見し、拘束した。この男は重度の脱水症状を訴え、病院で治療を受けている。彼は30歳前後で、中国浙江省寧波から出発したと供述し、「中国で借金があり、台湾で新たな生活を始めたいと思った」と説明している。

拘束された地点は、中国軍が台湾に侵攻する際の上陸地点として想定される淡水河の河口から数キロの距離にあり、台湾当局はこの地域における中国からの侵入に対して警戒を強めている。実際、6月には小型ボートを使って侵入した中国海軍の退役軍人が逮捕され、「自由を求めて台湾に投降した」と供述していた。

今回の事件は、台湾における中国からの「密航者」の漂着が相次いでいることを示しており、台湾の対応能力を試す「グレーゾーン作戦」の一環ではないかとの懸念も広がっている。台湾の陸軍は、有事に備えて防衛部隊を配置しており、淡水河の河口は台北の官庁街から約22キロの距離に位置している。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日本の安全保障と中国人の日本移住:米台との比較と今後の課題

まとめ
  • 台湾では、中国人男性が亡命を希望し、海巡署が逮捕した事件が発生。これにより台湾の防衛上の弱点が指摘されている。
  • 日本でも密航の問題があり、中国からの不法入国が増加している。特に「蛇頭」と呼ばれる密航組織が関与しているケースが多い。
  • 日本と台湾は密輸密航対策協力覚書を締結し、海上保安機関間の協力を強化している。
  • 中国経済の悪化により特に若年層の不安が高まっている。これが日本への移住の増加につながっている。
  • 日本に移住する中国人の増加には不動産市場や教育機関への影響、安全保障上の懸念があり、高度人材の受け入れについても慎重な対応をすべきであり、日本も米台と同じく中国人の移住を制限すべきである。

台湾メディアの「フォーカス台湾」によれば、台湾の海巡署は9月9日、新北市の河口に小型船で侵入した60歳前後の中国人男性を逮捕しました。この男性は、中国政府を批判したことを理由に亡命を希望していると供述しています。この事件に関連して、台湾の国防相は、中国の「グレーゾーン作戦」の可能性を指摘しました。

海巡署は、レーダーで小型船を台湾の漁船と誤認し、対応が遅れたことが問題視されています。台湾政府は、警備体制の強化を検討しており、過去11年間で121人の中国人が台湾に不法進入していることも報告されています。専門家は、この事件が台湾の防衛上の弱点を探る中国の試みである可能性を指摘しており、台湾の沿岸警備の課題が浮き彫りになっています。

日本でも、密航の問題があります。日本への中国からの密航に関する具体的な統計データは限られていますが、いくつかの重要な点があります。近年、日本の国境を越えた不法入国が増加しており、特に「蛇頭」と呼ばれる国際的な密航組織(主に中国の福建省を拠点とする)が関与しているケースが多いです。また、国内に根付いた不法滞在者が犯罪グループを形成し、身代金目的の誘拐や広域窃盗事件が報告されています。


2018年には日本と台湾が「密輸密航対策協力覚書」を締結し、海上保安機関間の協力が強化されました。密航者は小型船やゴムボートを使用することが多く、レーダーでの検知が難しい場合もあります。経済的理由から新たな生活を求める人々が密航を試みるケースも見られ、これらは日本の法執行機関にとって継続的な課題となっています。

日本の海上保安庁と台湾の海巡署(日本の海保に相当)が2024年7月18日、千葉県房総半島沖で初めての合同訓練を実施しました。これは1972年の日台断交後、初めての海上訓練となります。この訓練の主な目的は、中国の強引な海洋進出に対応し、東シナ海や南シナ海での不測の事態に備えることです。また、台湾有事への危機感が高まる中、訓練の定例化も目指しています。

この訓練に関しては、具体的な訓練内容は公開されていないため、詳細は不明ですが、両国の海上保安機関の連携強化と、地域の海上安全と法執行能力の向上を目的としたものだと推測されます。「密輸及び密航への対策に係る協力に関する覚書」に基づいた訓練も行われた可能性が高いと考えられます。

日台合同訓練のため東京港に入港する台湾の「巡護9号」7月11日

私は、今回の出来事は確かに「グレーゾーン作戦」などの軍事的な意味合いを否定はしませんが、そのようなことよりも、もっと差し迫った脅威が、それも台湾よりは日本にあると考えています。

それは、中国経済の悪化が移住や密航等の増加につながる可能性です。まず、経済の減速に伴い、失業率の上昇や所得の低下が予想され、これによりより良い経済機会を求めて海外へ移動しようとする人々が増える可能性があります。また、経済悪化は社会的な不満や不安を高める傾向があり、政治的な抑圧と相まって、一部の人々が国外への脱出を考えるきっかけとなることも考えられます。

さらに、経済の不確実性が高まると、富裕層が資産を海外に移転しようとする動きが強まります。これが合法的な移住だけでなく、非合法な手段での出国にもつながる可能性があります。中小企業の倒産が増加することで、経営者や従業員が新たな機会を求めて海外へ移動しようとすることも考えられます。また、特に若年層において、中国国内での将来に対する不安が高まっており、これが海外への移住や場合によっては密航につながる可能性もあります。

米台と日本における中国人の移住状況には顕著な違いがあります。米国では、2023年に不法入国した中国人が3万7000人以上に達し、前年の約10倍に増加しました。この急増の背景には、ビザ発給制限や中国国内の経済・政治的な不満、さらにSNSを通じた密入国情報の拡散が影響しています。

多くの人々がより良い経済機会や自由を求めて、冒険的な試みとして不法入国を選択しています。

台湾は中国人の移住に対して厳格な規制を設けています。原則として、中国人の台湾への渡航は禁止されており、移住には特別な手続きが必要です。主に、台湾人との結婚や台湾での就労、投資、就学が認められています。

特に中国人配偶者の場合、居住権を得るまでに長期間かかります。また、中国人は台湾国籍と中国国籍を同時に持つことができず、台湾国籍を取得するには中国国籍を放棄する必要があります。これらの規制は、人口構成の変化や安全保障上の懸念から設けられており、台湾政府は慎重に管理しています。

一方、日本では、中国人の合法的な移住が増加傾向にあります。これは、日本の労働力不足を背景に外国人労働者の受け入れが拡大していることが大きな要因です。

また、日本の大学や専門学校への留学生の増加、さらに日本企業による中国人高度人材の採用も進んでいます。これらの動きは、教育やキャリア向上を目的とした安定した移動パターンを示しています。

このように、米台への不法入国は主に経済的な冒険を求める動機による一方、日本への合法的移住は、より安定した生活を求める傾向が強いです。今のままだと、今後日本への合法移住が増えていくのは間違いありません。

米台が中国人の移住を制限しているにもかかわらず、日本はそうではありません。これは、大きな問題になりつつあります。

日本に移住する中国人の増加には、いくつかの懸念すべき点があります。特に、多くの中国人移住者が日本に帰化せず中国籍を保持し続けることは、潜在的な危機をもたらす可能性があります。

まず、不動産市場への影響や教育機関への圧力、文化的摩擦、雇用市場への影響などが懸念されます。さらに、安全保障上の問題も重要です。中国籍を保持し続ける移住者の中に、中国政府のスパイ活動に関与する可能性がある人物が含まれる可能性があり、日本の国家安全保障に影響を与える恐れがあります。

在日中国人組織で日本最大規模の「華人時代」写真は2018年の東京マラソンの応援で集まったときの写真

この懸念は、中国の法律によってさらに深刻化する可能性があります。中国には、海外に居住する中国人にも中国政府への協力を求める法律が存在します。具体的には以下の法律が挙げられます。
  1. 国家情報法(2017年制定):第7条で「いかなる組織及び公民も、法に基づき国の情報活動を支持、協力、協助する義務を負う」と規定しています。
  2. 反スパイ法(2014年制定、2023年改正):海外の中国人を含むすべての中国国民に対し、スパイ活動に関する情報を当局に報告する義務を課しています。
  3. 国家安全法(2015年制定):第11条で「中華人民共和国の公民、法人その他の組織は、国家の安全を維持する義務を負う」と規定しています。
これらの法律は、中国国籍を持つ者に対して、居住地に関わらず中国政府への協力を求める内容を含んでおり、日本在住の中国人にも適用される可能性があります。この法律により、個々の中国人の人柄や信条などは関係なく、日本への安全保障上の脅威が高まったといえます。

長期的には、移住者の増加が日本の社会保障制度に追加の負担をかける可能性や、特定の地域で中国文化の影響が強まり、日本の伝統的な文化や生活様式が変化する可能性も懸念されます。

高度人材を含む中国人の日本への移住には、極めて慎重な対応が必要です。中国の国家情報法により、これらの人材が日本の重要な技術や情報を中国政府に提供する可能性があり、安全保障上の重大な懸念があります。

また、産業スパイのリスクや、企業や研究機関の中枢での意思決定への影響も無視できません。さらに、習得した技術や知識の中国への移転、日本の長期的な国家戦略への悪影響、そして社会的影響力を通じた中国に有利な世論形成の可能性も考慮すべきです。

特に政府機関や防衛関連企業での機密情報へのアクセスは、国家安全保障上の極めて深刻なリスクとなります。

これらの理由から、特に高度人材とされる中国人の移住については、日本の国家安全保障、技術的優位性、そして長期的な国益を守るため、厳格な審査基準を設け、受け入れを厳しく制限すべきです。同時に、既に日本国内にいる中国人高度人材に対しても、適切な監視と管理体制の構築や場合によっては国外退去を求めるなどの対応が不可欠です。無論、高度人材以外の中国人に対しても、厳しくすべきです。

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2024年9月3日火曜日

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習近平の中国で「消費崩壊」の驚くべき実態…!上海、北京ですら、外食産業利益9割減の衝撃!

まとめ
  • 上海と北京で消費が深刻に低迷しており、特に上海では6月の小売総額が前年同期比で9.4%減少した。
  • 上海の宿泊・外食関連売上は6.5%減、日用品は13.5%減少し、市民の生活が「縮衣節食」に変わっている。
  • 北京でも上半期の小売総額が0.8%減少し、外食産業の一定規模以上の飲食店の利益が88.8%減少した。
  • 消費低迷は政府関係者や富裕層を含む市民全体の金銭的余裕の欠如を示しており、未曾有の大不況が進行している。
  • 上海と北京の消費崩壊は、中国全体の経済に深刻な影響を与える可能性があり、今後の経済政策に注目が必要。
上海の目抜き通り

上海と北京という中国の主要な経済都市で、深刻な消費低迷が発生している。これらの都市はかつて「中国の繁栄」の象徴とされていましたが、現在は「消費崩壊」とも言える状況に直面している。

上海では、2024年6月の小売総額が前年同期比で9.4%減少した。特に、宿泊や外食関連の売上は6.5%減、食料品は1.7%減、衣料品は5.0%減、日用品に至っては13.5%も減少している。このような数字は、上海の市民が外食を控え、日常生活においても節約志向が強まっていることを示している。市民は「縮衣節食」の生活に入り、消費活動が大幅に縮小している。

一方、北京でも同様の傾向が見られます。2024年上半期の北京市の小売総額は前年同期比で0.8%減少したが、外食産業に関するデータは特に衝撃的だ。一定規模以上の飲食店の利益が前年同期比で88.8%も減少し、これは業界全体にとって深刻な問題を示している。外食産業全体の売上は637.1億元で前年同期比3.5%減に留まっているが、利益の大幅減少は、激しい価格競争に巻き込まれていることを意味している。飲食店は、最低限の売上を維持するために価格を抑え、利益を削るしかない状況に追い込まれている。

このような消費の低迷は、政府関係者や企業の経営者、富裕層を含む市民全体が金銭的な余裕を失っていることを示している。特に、北京は中央官庁や大企業の本社が集まる場所であり、ここでの消費低迷は驚くべき現象だ。飲食を重視する文化を持つ北京っ子が、外食を控えるほどの節約を強いられていることは、未曾有の大不況が進行している証拠だ。

上海と北京での消費崩壊は、これらの都市の経済に大きな打撃を与えるだけでなく、中国全体の経済にも深刻な影響を及ぼすだろう。これらの都市でさえ消費が低迷しているとなれば、全国の消費市場がどれほどの不況に陥っているかは明白だ。さらに、不動産開発という中国経済の支柱産業が崩壊している中で、消費の低迷が続く場合、中国経済はさらに厳しい状況に直面することが予想される。

このように、上海と北京の消費低迷は単なる一時的な現象ではなく、深刻な経済問題を反映しています。これらの都市での消費の縮小は、中国全体の経済に対する警鐘であり、今後の経済政策や市場の動向に注目が必要です。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国経済のデフレ圧力と国際金融のトリレンマ:崩壊の危機に直面する理由

まとめ
  • 中国政府が公表する公式のGDP統計は信頼できないが、消費動向や物価指数から中国経済がデフレ圧力に直面していることが明らかである。
  • 消費の低迷や不動産市場の低迷が進行しており、デフレ圧力が拡大しているため、政府は内需刺激策を検討しているが、人民元安への懸念から大規模な金融緩和には踏み切れない。
  • 中国経済は国際金融のトリレンマに直面しており、独立した金融政策、為替相場の安定、自由な資本移動の3つを同時に達成することができない状況にある。
  • 中国共産党は統治の正当性を維持するため、経済成長や社会の安定を重視しており、変動相場制や資本自由化の根本的な制度改革を躊躇している。
  • トリレンマから脱出できない場合、経済成長の鈍化や不動産市場の崩壊、金融システムの機能不全が進行し、最終的には経済崩壊に至る可能性がある。
中国の経済状況について、中国政府が公表する公式のGDP統計は信頼できないと、このブログでは何度か述べてきました。しかし、これだけでなく、消費動向などの実態からも中国経済の状況を把握することができます。消費の低迷は、中国経済がデフレ傾向にあることを示唆しています。例えば、6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で+0.2%とほぼゼロに近い水準であり、コアCPIも+0.6%と低い水準が続いています。


また、景気減速を背景に消費が低迷しており、特に上海や北京などの主要都市でも消費の落ち込みが顕著です。さらに、消費者の低価格志向が強まり、小売業では値下げ競争が激化しています。このような状況では、需要が低迷する一方で生産が続いているため、需給ギャップが拡大し、デフレ圧力を招いていると判断できます。

加えて、不動産市場の低迷も影響を与えています。不動産価格の下落は資産デフレを引き起こし、さらなるデフレ圧力となっています。これらの要因から、中国経済はディスインフレ段階を経て、デフレ圧力に直面しているといえます。

政府もこの事態に危機感を強めており、内需刺激策を検討していますが、人民元安への懸念から大規模な金融緩和には踏み切れない状況です。したがって、公式のGDP統計の信頼性に疑問があるとしても、消費動向や物価指数などの実態的な指標から、中国経済がデフレ圧力に直面していることは明らかだと考えられます。

中国経済がデフレ圧力に直面していることは明白ですが、金融緩和に踏み切れない主な理由は以下のとおりです。

第一に、人民元安への懸念があります。中国当局は人民元の為替レートを非常に重視しており、過度な人民元安を避けたいと考えています。金融緩和を行えば、金利差から資金流出が加速し、人民元安が進行する可能性が高まります。昨年は人民元安により米ドル建てGDPが29年ぶりに減少し、世界経済における中国の存在感低下につながりました。このような事態の再発を当局は恐れています。

第二に、国際金融市場の動向があります。米国ではインフレの粘り強さが意識され、FRBの金融政策に対する見方が変化しています。これにより米ドル高圧力が生じており、中国が金融緩和に動けば、金融政策の方向性の違いから更なる資金流出と人民元安を招く恐れがあります。

第三に、不動産市場や家計債務への懸念があります。金融緩和は不動産市場の過熱や家計債務の拡大につながる可能性があり、これらのリスクを当局は警戒しています。

これらの要因により、中国当局は金融緩和に慎重にならざるを得ず、景気下支えのための対応は「小出し」に留まる可能性が高いと考えられます。デフレ圧力に直面しながらも、人民元安や金融リスクを恐れて大規模な金融緩和に踏み切れない状況が続いているのです。

以上は、現象面を指摘してきましたが、このような現象を招いているのには根本的な要因があります。

中国経済は随分前から、国際金融のトリレンマ(三すくみ)に直面しています。このトリレンマとは、一国が「独立した金融政策」「為替相場の安定」「自由な資本移動」の3つを同時に達成することができず、2つしか選択できないという理論です。この理論は、経験則的にも数学的にも証明されているものです。


中国の場合、独立した金融政策を維持したいという意向がある一方で、人民元の急激な変動を避けるために為替相場の安定も重視しています。そのため、資本移動を部分的に制限しています。

しかし、近年の段階的な資本自由化により、人民元相場と内外金利差の相互影響が強まっており、中国はトリレンマの制約を強く受けるようになっています。金融緩和を行おうとすると、資本流出と人民元安の圧力が生じ、人民元安を防ぐためには外貨準備の取り崩しが必要になります。

また、資本規制を強化すると国際化が後退するリスクもあります。これらの要因により、中国当局は大規模な金融緩和に踏み切れない状況にあります。

トリレンマの制約が強まる中で、金融政策の独立性、為替相場の安定、資本移動の自由化のバランスを取ることがますます難しくなっています。結論として、中国はデフレ圧力に直面しながらも、国際金融のトリレンマゆえに大規模な金融緩和に踏み切れない状況に陥っているのです。この問題を解決するには、長期的には変動相場制への移行など、より根本的な制度改革が必要になると考えられます。

以上のようなことは、経済理論から言って明らかといえるのですが、中国共産党が変動相場制への移行や資本自由化などの根本的な制度改革を躊躇しています。その根本原因は、党の統治の正当性に深く関わっています。

中国共産党の統治の正当性は、主に以下の要素に基づいています:
1. 経済成長の維持と国民生活の向上
2. 社会の安定性の確保
3. 国家主権と領土保全の維持
4. ナショナリズムの高揚
変動相場制への移行や資本自由化は、これらの要素を直接的に脅かす可能性があります。

まず、経済成長の維持について、変動相場制への移行は人民元の急激な変動をもたらす可能性があり、輸出主導の経済構造を持つ中国にとって、経済の不安定化を招くリスクがあります。これは党の経済運営能力への信頼を損なう可能性があります。

次に、社会の安定性に関して、資本自由化は大規模な資本流出のリスクを高めます。中国の富裕層を中心に、「自国内に全財産を置くことに政治的リスクを感じる人は少なくない」とされており、資本移動が完全に自由になれば、海外資産の保有割合を大きく増やす可能性があります。これは国内経済の不安定化につながり、社会の安定を脅かす可能性があります。

さらに、国家主権の観点から、資本自由化は外国資本の影響力を増大させ、中国共産党の経済政策の自主性を弱める可能性があります。党は「独立した金融政策」と「為替相場の安定」を重視しており、これらを犠牲にすることは党の統治能力への疑念を生む可能性があります。

中国の政治体制における「正統性」の問題は、経済社会の変容に適応しながら、いかに党の統治を正当化するかという課題と密接に関連しています。急激な制度改革は、党が長年かけて構築してきた正統性の基盤を揺るがす可能性があるため、慎重にならざるを得ないのです。

加えて、資本規制は経済的理由だけでなく、情報統制や社会管理の手段としても機能しています。資本の自由化は、これらの統制手段を弱める可能性があります。

また、近年の米中対立の激化や、COVID-19パンデミック後の世界経済の不確実性の増大により、中国政府はより慎重な姿勢を取っています。これらの国際情勢の変化も、根本的な制度改革を躊躇させる要因となっています。

一方で、中国の金融政策は必ずしも完全に閉鎖的ではなく、徐々に開放を進めている面もあります。例えば、人民元の国際化や、外国投資家向けの債券市場の開放などが挙げられます。これらの段階的な改革は、急激な変化を避けつつ、国際的な要請に応える試みと見ることができます。

北京 天安門

結論として、中国共産党は経済の安定と成長、社会の安定、国家主権の維持、ナショナリズムの高揚を通じて統治の正当性を確保しています。変動相場制への移行や資本自由化などの根本的な制度改革は、これらの要素を脅かす可能性があるため、党はこれらの改革を慎重に進めざるを得ない状況にあると言えます。同時に、国際的な要請に応えるため、段階的な開放政策も進めており、中国共産党はこの複雑なバランスの中で制限をうけながら、政策決定を行っています。

中国が国際金融のトリレンマから脱出できない場合、長期的には深刻な経済問題に直面し、最終的には経済崩壊に至る可能性があります。具体的には、経済成長の鈍化と停滞が予想されます。資本移動の制限により、海外からの投資が減少し、国内の資金調達コストが上昇することで、企業の投資意欲が低下し、経済成長が著しく鈍化する恐れがあります。

最悪の場合、経済の完全な崩壊と政治体制の崩壊につながるリスクも否定できません。中国政府は段階的な改革を進めていますが、根本的な制度改革を先送りし続ければ、長期的には経済崩壊のリスクが高まることは避けられないでしょう。

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2024年8月6日火曜日

植田日銀の「利上げ」は意味不明…日本経済をブチ壊し、雇用も賃金も押し下げる「岸田政権の大失策」になりかねない―【私の論評】日本株急落の真相:失われた30年再来の危機とその影響

植田日銀の「利上げ」は意味不明…日本経済をブチ壊し、雇用も賃金も押し下げる「岸田政権の大失策」になりかねない

まとめ
  • 日本銀行は政策金利を0.25%に引き上げ、長期国債買い入れの減額方針を発表したが、これは金融引き締めをするということであり、経済合理的ではない。
  • 日本経済は消費低迷と総需要不足が続いており、GDP成長見通しも下方修正されている。
  • 日銀のシナリオ通りに経済が推移しているという主張は、実際には日銀の資料が悪い方向に書き換えられており、詐欺に等しい。
  • 利上げは消費や企業の資金調達コストを押し上げ、実質賃金のマイナス傾向や失業者の増加を助長する。
  • 政治的な圧力や自民党内の発言が日銀の政策変更に影響を与え、利上げが自己目的化している。
 日本銀行の政策変更は非常に非合理的な判断である。7月31日に日銀は政策金利を0.25%に引き上げ、長期国債買い入れの減額方針を発表した。これは簡単に言えば、金融引き締めを強化するということだ。

 しかし、日本経済の現状を見ると、消費の低迷が続き、経済全体での総需要不足も明らかだ。多くの国民が期待している所得の安定的な拡大が実現できるかどうかは、現状では非常に微妙な段階にある。このタイミングでの金融引き締めは、経済合理的にはあり得ない。

 日銀は「経済・物価情勢の展望」(いわゆる展望リポート)を公表しているが、この最新版も今回公表された。そこでは、実質国内総生産(GDP)の見通しが下方修正されている。今年度の成長見通しは1月時点でプラス1.2%だったが、4月には0.8%、今回は0.6%とどんどん低下している。経済の失速が明らかであるにもかかわらず、展望リポートのシナリオ通りに経済と物価が推移しているので、利上げしても大丈夫だというのが日銀の公式の姿勢だ。しかし、そのシナリオを毎回悪い方向に書き換えているため、「シナリオ通り」というのは詐欺に等しい言い訳だ。

 植田和男総裁は「消費は底堅い」と記者会見で発言しているが、これは官僚用語で、その真意は「消費は今より悪くはならない(良くもならない)」ということだ。しかし、利上げをすれば消費に関わるローンの金利が上がり、企業の資金調達コストも上昇するだろう。預金金利も上がるが、そのメリットよりもデメリットの方が大きい。消費が低迷しているときに、さらにそれを押し下げるような政策を取るのは、当たり前だが逆効果だ。

 実質賃金のマイナス傾向も続いており、雇用においても失業者の増加が目立つようになってきた。定額減税や春闘などの賃上げ効果が本当に消費の拡大に結びつくのか、しかもそれが長期間持続するのかは現状では不透明だ。このような状況での利上げはあり得ない選択だ。

 しかし、河野太郎デジタル相や茂木敏充自民党幹事長などの有力者から「円安阻止のための利上げ」や「金融政策の正常化」を求める発言が続いた。自民党総裁選などの政治事情が今回の日銀の政策変更を促した可能性がある。そもそも衆院選を今行えば与党の大敗はほぼ確実だ。


 政治情勢が不透明化する前に、今しか利上げのタイミングはないと判断したのだろう。しかし、それは国民経済のためではなく、単に利上げが自己目的化しているだけに過ぎない。他方で、神田眞人前財務官を内閣官房参与に任命するなど、岸田文雄政権の財務省依存も鮮明になっていい。日銀といい財務省といい、官僚たちのやりたい放題だ。

(上武大学教授 田中秀臣)

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。「まとめ」は元記事の要点をまとめ箇条書きにしたものです。

【私の論評】日本株急落の真相:失われた30年再来の危機とその影響

まとめ
  • 株価は将来の経済状況を予測する手がかりとなり、経済の実態に先行して変動する傾向がある。
  • 2024年8月5日には日経平均株価が前営業日比4,451円28銭安(12.4%下落)と過去最大の下落幅を記録し、1987年のブラックマンデーを上回る下落幅となった。
  • 株価下落の主な原因としては、日本銀行の利上げ、米国の景気後退懸念、円高の進行が主要な原因。日銀は7月末に政策金利を0.25%に引き上げ、これが市場の不安を引き起こした。
  • 利上げは企業の資金調達コストを上昇させ、個人消費を抑制し、企業業績に悪影響を与える可能性がある。これにより、株価に対する悪影響が長期にわたって続く可能性がある。
  • 「失われた30年」の再来の可能性:継続的な利上げが行われれば、日本経済が再び「失われた30年」と呼ばれたような長期的な停滞に陥る可能性が高い。円高が進行し、輸出企業の収益に圧迫要因となり、産業の空洞化や若者の雇用状況の悪化が懸念される。

株価は経済の先行指標として知られており、将来の経済状況を予測する手がかりとなります。投資家は将来の企業業績や経済環境を予想して株式を売買するため、株価は経済の実態に先行して変動する傾向があります。

最近の日本株市場では、日経平均株価が8月以降大幅に下落しています。特に2024年8月5日には、日経平均株価が前営業日比4,451円28銭安(12.4%下落)と、過去最大の下落幅を記録しました。これは1987年10月20日のブラックマンデー翌日の3,836円48銭安を大きく上回る下落幅です。下落率でみても、ブラックマンデー時の14.9%に次ぐ史上2位の大きさとなりました。


この急激な下落の主な原因としては、日本銀行による利上げに加え、米国の景気後退懸念や円高の進行が挙げられます。7月末の金融政策決定会合で日銀は政策金利を0.25%に引き上げ、長期金利の変動許容幅を拡大しました。この決定を受けて、投資家は今後の金融引き締めや経済成長の鈍化を懸念し、株式売却に動いたと見られます。また、東京為替市場では円相場が1ドル=142円台を記録し、約7ヶ月ぶりの円高水準となりました。

利上げが株価に悪影響を与える理由としては、企業の資金調達コストが上昇し収益性が低下する可能性、個人消費が抑制され企業業績に悪影響を及ぼす可能性、債券の利回りが上昇し相対的に株式の魅力が低下することなどが挙げられます。

ただし、株価の下落は一時的なものである可能性もあります。市場が新しい金融環境に適応し、企業が対策を講じるにつれて、株価は徐々に安定化する可能性があります。専門家は、株価の下落で割安感が生じていることから、今後新たに買い入れる動きが増える可能性を指摘しています。

しかし、株価が多少戻したとしても、利上げの悪影響は長期にわたって続く可能性があります。金利上昇の影響は経済全体に浸透するのに時間がかかり、その効果は徐々に現れてきます。例えば、企業の設備投資の抑制、個人の住宅購入の減少、消費の低迷などが、時間の経過とともに顕在化する可能性があります。また、円高傾向が続けば、輸出企業の収益に長期的な圧迫要因となる可能性もあります。

今後の株式市場の動向は、米国経済の状況にも大きく左右されると考えられます。米国経済が景気後退に向かうとの見方が強まれば、日本および世界の株式市場の動揺はさらに深まる可能性がある一方、米国経済が失速を免れるとの見方が広がれば、株式市場は安定を取り戻してくるでしょう。

米国の7月の雇用統計は悪化を示した クリックすると拡大します


したがって、株価の短期的な回復は必ずしも経済全体の回復を意味するものではなく、利上げの影響を慎重に見極める必要があります。日本経済の先行きを考える上で、株価動向は重要な指標の一つとなりますが、他の経済指標も含めた総合的な判断が求められます。

株価のような先行指標は別にして、利上げの影響は経済に即座に現れるものではなく、半年以上経過してから顕在化することが多いです。特に失業率のような遅行指標は、経済状況の変化を後追いで反映するため、利上げの悪影響がすぐには明確にならない可能性があります。

この時間差は、利上げ政策の評価を複雑にし、その是非を判断することを困難にします。短期的には、円高による輸出企業への影響や株価の下落など、一部の指標に変化が見られるかもしれません。しかし、雇用や消費などの広範な経済指標への影響は、より長期的に現れるため、政策の誤りが認識されにくくなります。

この時間差は政策立案者に誤った安心感を与える可能性があり、初期段階で大きな悪影響が見られないことから、利上げの決定が正しかったと誤解される恐れがあります。実際には経済の様々な部分で徐々に悪影響が蓄積されていく可能性があります。企業の資金調達コストの上昇、個人消費の抑制、投資の減少などが時間をかけて経済全体に波及していくのです。

このような状況下では、政策の適時な修正が難しくなります。悪影響が明確になった時点では、すでに経済に深刻なダメージが及んでいる可能性があるからです。したがって、利上げの影響を正確に評価するためには、長期的な視点と幅広い経済指標の慎重な分析が不可欠です。短期的な反応だけでなく、中長期的な経済トレンドを注視し、必要に応じて迅速に政策を調整する柔軟性が求められます。そうしなければ、利上げの間違いが曖昧になり、適切な政策対応が遅れる危険性があります。

このような状況下での利上げは、日本経済の脆弱な回復を阻害し、デフレ脱却の道のりをさらに遠のかせる可能性が高いです。日銀は経済指標を慎重に分析し、実体経済の動向に即した政策運営を行うべきです。現在の政策変更は、短期的な政治的圧力や自己目的化した利上げの思惑に基づいているように見え、長期的な経済成長と国民の生活向上という本来の目的から逸脱していると言わざるを得ません。

さらに懸念されるのは、今後さらなる利上げが行われれば、日本経済が「失われた30年」の状況に逆戻りする可能性が極めて高いことです。これは日本経済にとって壊滅的な結果をもたらす恐れがあります。

今後利上げが続けば、就職氷河期がやってくる

まず、継続的な利上げは円高を加速させ、日本の輸出産業に深刻な打撃を与えるでしょう。円高により日本製品の国際競争力が低下し、企業は利益を確保するために海外、特に中国や韓国などへの生産拠点の移転を加速させる可能性があります。これは日本国内の産業の空洞化を引き起こし、雇用機会の喪失や技術力の低下につながります。

若者の雇用状況も極めて深刻な事態に陥る可能性があります。企業の海外移転や投資抑制により、新規雇用が大幅に減少し、若者の就職難が再び深刻化するでしょう。これは、少子高齢化が進む日本社会にとって、将来の労働力不足や社会保障制度の持続可能性にも大きな影響を与えかねません。

さらに、利上げによる資金調達コストの上昇は、新興企業や中小企業の成長を阻害し、イノベーションの停滞を招く恐れがあります。これは日本の長期的な競争力低下につながり、国際社会における地位の低下を加速させる可能性があります。

結論として、現在の日本経済の状況下での継続的な利上げには、良い点は一つもないと言えます。それどころか、日本経済を再び長期的な停滞に陥らせ、国民の生活水準を低下させ、将来世代の機会を奪う危険性があります。日銀は、この危険な道を進むのではなく、実体経済の回復と持続的な成長を支援する政策に立ち返るべきです。

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2024年8月1日木曜日

追加利上げに2人反対 日銀審議委員の中村、野口両氏―【私の論評】日銀の追加利上げと金融政策の転換:オントラックとビハインド・ザ・カーブの狭間で

追加利上げに2人反対 日銀審議委員の中村、野口両氏

日銀植田総裁

 日銀は31日、追加利上げの決定には投票権を持つ9人の政策委員のうち、植田和男総裁ら7人が賛成し、審議委員の中村豊明、野口旭の両氏は反対したと公表した。

 日銀の公表文によると、中村氏は「次回の金融政策決定会合で法人企業統計などを確認してから、変更を判断すべきで、今回は考え方を示すにとどめることが望ましい」と主張。野口氏は「賃金上昇の浸透による経済状況の改善をデータに基づいてより慎重に見極める必要がある」と反対した。

 中村氏は日立製作所出身、野口氏は積極緩和論者「リフレ派」として知られる。

【私の論評】日銀の追加利上げと金融政策の転換:オントラックとビハインド・ザ・カーブの狭間で

まとめ
  • 日銀は経済・物価データが「オントラック」(想定通り)と判断し、政策金利を0〜0.1%から0.25%に引き上げた。
  • 長期国債買い入れ額の段階的減額計画と、今後の経済・物価動向次第での追加利上げ方針を示した。
  • 一部の政策委員は、「ビハインド・ザ・カーブ」の原則に基づき、経済データの慎重な分析を求めて利上げに反対。
  • 消費者物価指数(CPI)見通しが不変にもかかわらず追加利上げを決定し、「定期的な利上げ」姿勢を示唆。
  • 円安是正のための政府との協調が背景にあり、中央銀行の独立性に関する懸念が浮上。
ことし1月の金融政策決定会合

日銀は7月31日の金融政策決定会合で、政策金利を0〜0.1%から0.25%に引き上げることを決定しました。この追加利上げは、円安是正のための政府との協調が背景にあるようです。
また、日銀は長期国債の買い入れ減額計画を発表し、2026年1-3月までに買い入れ額を3兆円程度に減らす方針を示しました。さらに、消費者物価指数(CPI)の見通しを維持し、経済・物価が見通し通り推移すれば引き続き利上げを行う方針も明らかにしました。この決定には9人の政策委員のうち、植田和男総裁を含む7人が賛成し、審議委員の中村豊明氏と野口旭氏の2人が反対しました。

中村氏は、次回の金融政策決定会合で法人企業統計などを確認してから変更を判断すべきであり、今回は考え方を示すにとどめることが望ましいと主張しました。野口氏は、賃金上昇の浸透による経済状況の改善をデータに基づいてより慎重に見極める必要があると反対しました。

中村氏と野口氏の反対理由は、経済データの確認と慎重な判断を重視する姿勢に基づいています。中村氏は、法人企業統計などのデータを確認してから政策変更を判断するべきだと考えており、今回の利上げは時期尚早であるとしています。野口氏も同様に、賃金上昇が経済全体にどの程度浸透しているかを慎重に見極める必要があると主張し、データに基づいた判断を求めています。

このような反対意見は、日銀の政策決定プロセスにおいて重要な役割を果たしており、経済データの慎重な分析とその結果に基づく政策判断の必要性を示しています。政策委員の中でも意見が分かれる中で、植田総裁を含む多数派は、現状の経済・物価見通しに基づいて追加利上げが適切であると判断しましたが、少数派の意見も無視できない重要な視点を提供しています。

以上のように、日銀の追加利上げ決定には、経済データの慎重な分析とその結果に基づく判断が求められており、中村氏と野口氏の反対意見はその重要性を強調しています。

興味深いのは、経済・物価見通しがあまり変わっていないにもかかわらず、追加利上げが決定されたことです。特に、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)=コアコアCPIは、2024年度の前年比1.9%、2025年度の同1.9%、2026年度の同2.1%と、4月の見通しから全くの不変でした。

物価見通しが何も変わらないのに、追加利上げというのはかなりショッキングです。これは日銀が「定期的に利上げをする」姿勢を示していると解釈できます。植田総裁の説明によれば、基調的なインフレ率が維持されれば、それに応じて金利正常化を進めるという方針が示されています。

日銀の最近の利上げ決定は、経済状況を考慮すると適切ではありません。

まず、政治家による「金融政策の正常化」への言及は懸念すべき点です。河野太郎デジタル相や茂木敏充幹事長、さらには岸田文雄首相までもがこの表現を使用していることは、日銀に対する政治的圧力になった可能性は否めません。

日銀上田総裁(左)と岸田首相

日本経済はまだデフレからの完全な回復過程にあり、現在のインフレ状況では利上げは時期尚早です。「ビハインド・ザ・カーブ」の原則に従えば、金融政策は実体経済の動きよりも遅れて行うべきであり、その理由として、経済のラグ効果、過剰反応の防止、そしてインフレ目標の達成が挙げられます。

金融政策の効果が実体経済に現れるまでには時間がかかり、一時的な経済指標の変動に過剰に反応すると経済に悪影響を及ぼす可能性があるためです。政策金利の変更が企業の投資や消費者の支出に影響を与えるまで、さらに失業率に影響を与えるまでには、通常数ヶ月から1年程度のラグ(遅れ)が存在します。

また、インフレ率が目標を超えるまで利上げを行わない「ビハインド・ザ・カーブ」のアプローチは、経済が十分に回復し持続的な成長軌道に乗るまで過度な引き締めを避けるために重要です。この観点から、インフレ率が4%程度を超えるまでは利上げを控えるべきなのです。

日銀の現在の姿勢は、アベノミクス以前に見られた早期利上げによって景気回復を阻害し、デフレを継続させてしまった過去の誤りを繰り返す危険性があります。

さらに、円安が日本経済に悪影響を及ぼすかどうかについては慎重な検討が必要です。現段階での利上げや円高は日本経済にとってマイナスとなる可能性が高いのです。

植田和男総裁は、今回の利上げについて「経済や物価のデータがオントラック(想定通り)だったことに加え、足元の円安が物価に上振れリスクを発生させている」と説明していますが[、この判断は経済の実態を正確に反映していません。

未だ個人消費の弱さが顕著な中での利上げは、経済が本当に「オントラック」であるかという疑問を生じさせます。実際の経済指標は日銀の評価よりも弱い可能性があります。これは、日銀のヒアリングや指標が実態を正確に捉えきれていない可能性があります。

現状では、実質賃金がようやく上昇に転じようとしたばかりであり、消費の回復が十分に進んでいない可能性があり、経済が完全に「オントラック」であるという判断には疑問符がつきます。

したがって、日銀の「オントラック」という評価は、経済の一部の側面のみを反映している可能性があり、より包括的な経済指標の分析が必要です。このような状況下での利上げ決定は、経済の実態を十分に考慮していない可能性があり、慎重に再検討すべきです。


実際、個人消費の弱さが目立つ中でのこのタイミングでの利上げは、円安を強く意識したものか、あるいは円安を強く警戒する政府の意向を受けたものと受け止められかねません。

結論として、日銀の今回の利上げ決定は、経済の実態や「ビハインド・ザ・カーブ」の原則を十分に考慮せず、政治的圧力や円安への過度な警戒に影響された可能性が高く、適切な判断とは言えません。今後の金融政策運営においては、より慎重な分析と判断が求められます。

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