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2025年10月15日水曜日

来るべき高市政権が直視する『現実』──“インフレで景気好調”という幻想を砕く、円安と物価の真実


まとめ

  • 現在の日本のインフレは明確にコストプッシュ型であり、円安・輸入コスト・人件費の上昇が主因である。日銀もその事実を公式に認めている。
  • コアコアCPIは2023年以降3%前後で高止まりしており、エネルギー補助を差し引いても物価の基調上昇が続いている。これは構造的なコスト上昇を示している。
  • 食料、外食、サービスが物価押し上げの中心であり、耐久財やエネルギーは逆に下押し要因となっている。生活必需品と人件費の上昇が物価の軸だ。
  • 利上げによる需要抑制は逆効果であり、企業のコストを増やし物価上昇を助長する危険がある。求められるのは生産性向上と供給制約の緩和である。
  • 高市総裁誕生前後には「インフレは好景気の証」などの偽情報が流布される恐れがある。データと事実に基づいて冷静に経済を読む姿勢が不可欠である。

1️⃣インフレの実像──「コストプッシュ型ではない」という幻想
 
いま、日本の物価上昇を「需要主導」と決めつける論が蔓延している。しかし、それは現実を見ない幻想にすぎない。物価を押し上げている主因は、原材料高、円安、輸入コスト、そして人件費の上昇という供給サイドの圧力である。
 
総務省の統計によれば、2025年8月の全国消費者物価指数(CPI)で、生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIは前年同月比3.3%。一方、米国のコアCPIは3.1%。数値上は近いが、性質はまったく異なる。アメリカのインフレが賃金と需要に引きずられたデマンドプル型であるのに対し、日本のインフレは典型的なコストプッシュ型である。
  
日銀の「経済・物価情勢の展望」(2025年7月公表)は、物価上昇の主因を「円安に伴う輸入価格の上昇や食料価格の上振れ」と明記している。つまり、中央銀行自身がコストプッシュを認めているのだ。
 
【グラフ1】コアコアCPI(生鮮食品・エネルギー除く)の推移

クックすると拡大します
 
このグラフが示す通り、コアコアCPIは2023年以降、ほぼ3%前後で高止まりしている。エネルギー補助金が電気・ガス価格を抑えてもなお、物価は上がり続けている。つまり、景気過熱でも消費増でもなく、構造的なコスト上昇が物価を押し上げているのである。

2️⃣データが語る「物価構造」の真相
 
【グラフ2】日本の品目別CPI寄与度:2024年8月と2025年8月の比較

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上の図を見れば一目で分かる。食料(生鮮除く)の寄与度は1.45→1.90ポイントへ上昇し、外食も0.18→0.21ポイントへ増加。サービス全体は0.44→0.80ポイントと倍増している。物価の主役はもはやガソリンや電気代ではなく、「食」と「人」である。つまり、食料価格の高止まりと人件費の上昇が、物価上昇の主軸を占めている。

耐久財は−0.01ポイントとマイナス寄与。旺盛な需要があるなら、ここが上がるはずだが、実際は下がっている。エネルギーの押し下げ効果も−0.52→−0.27ポイントへと縮小し、補助金の効果は薄れつつある。
 
【グラフ3】CPI寄与度の変化(2025年8月−2024年8月)
 

 
上の図は、その一年間の変化を示したものだ。プラス側に大きく動いているのは食料、エネルギー、そしてサービスである。一方、耐久財はマイナス側に沈み、外食のプラス寄与はわずかだ。これこそ、コストプッシュ型インフレの典型的な姿である。
 
さらに、円安による輸入物価の下落幅は、2025年8月の−3.9%から9月には−0.8%へ縮小している(日本銀行・企業物価指数)。つまり、コストの下押し効果は消えつつあり、再び上昇圧力が強まっている。
 
「需要主導」という解釈は、これらのデータに真っ向から反する。消費需要は弱い。賃上げはあっても、それは物価上昇に追いつくための防衛的な動きであり、需要拡大の結果ではない。企業は高まる輸入コストや物流費を価格に転嫁せざるを得ず、その波がじわじわと生活全体を覆っている。
 
この構造は、もはや「一時的」でも「外的要因」でもない。企業は今後のコスト上昇を見越して値上げを先行させ、賃金交渉やインフレ期待を通じて再び価格に跳ね返る。まさにコストプッシュ型の自己増幅サイクルである。
 
したがって、「今のインフレはもはやコストプッシュではない」という言説は、事実無根だ。日銀の統計、総務省の寄与度データ、そして輸入物価の推移。どこをどう見ても、供給サイドの影響が物価を支配している。
 
もしこの現実を無視して利上げを急げば、景気は冷え込み、企業の資金繰りは悪化する。結果として、さらなる値上げを誘発するという悪循環に陥る。
 
日本経済の現状は、明確にコストプッシュ型インフレである。円安、輸入コスト、人件費の上昇という三重苦が物価を押し上げている。必要なのは金融引き締めではない。供給制約を緩和し、生産性を高める政策こそが求められている。

3️⃣高市総理誕生をめぐる“情報操作”への警鐘


高市総理誕生前後には、こうした経済認識を意図的に歪める情報が必ず流されるだろう。「インフレは好景気の証」「日銀は利上げを急げ」――この種の論調は、しばしば政治的・経済的意図を帯びている。

私たちは、そうした偽情報に踊らされてはならない。経済の実像を直視せず、他者の思惑に乗れば、政策判断を誤り、国民生活に深刻な傷を残す。日本経済を動かすのは、見出しでも空気でもない。事実とデータである。

冷静な判断を失えば、真の敵は見えなくなる。これを高市氏はすでに見抜いており、いずれ必ず成立するであろう高市政権が向き合おうとしている課題は、虚飾に満ちた経済論ではなく、数字の裏にある現実だ。

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2025年10月14日火曜日

高市総理誕生の遅れが我が国を危うくする──決断なき政治が日本を沈める


まとめ

  • 高市早苗氏の総理誕生が遅れている。理由は党内抗争、連立調整の難航、メディアの妨害。
  • その間にも国際情勢は激変し、台湾有事、中国の軍拡、ロシア・北朝鮮の挑発が進行。
  • 米国はすでに次の同盟ステージへ。日本の政治の停滞は「同盟のリスク」となりつつある。
  • 国内では物価高と賃金低迷、外国人犯罪の質的変化、エネルギー高が進む。円安は本来、輸出で利点にもなりうるが、家計防衛策が欠けている。
  • 政治の空白が続けば、日本は世界に取り残される。高市政権の誕生こそが、日本再起動の「起点」である。

1️⃣政局の迷走と「決断の空白」
 
高市早苗氏の総理誕生が遅れるかもしれない。理由は明白である。党内の一部保守派が結集を急ぐ一方、非主流派の抵抗と連立調整の難航、さらにメディアによる意図的なネガティブ報道が重なっている。派閥の思惑と権力闘争が絡み合い、政権誕生のタイミングを押し下げているのである。だが、その間にも、国際情勢は激変している。


中国は台湾への圧力を強め、アメリカは同盟国との役割分担を再構築しつつ、アジア太平洋での抑止体制を固めている。ロシアは北方領土周辺で軍事演習を繰り返し、北朝鮮は極超音速ミサイルの発射を重ねている。中東ではイランが代理勢力を操り、イスラエルとの小競り合いが火種を抱えたまま拡大している。危機の季節は、すでに目前に迫っているのだ。
 
2️⃣世界が動く中で、立ち止まる日本
 
中国の新空母「福建」

東アジアの海は荒れている。中国の空母「山東」と「福建」が南シナ海から出撃し、台湾周辺で同時演習を行った。これは単なる示威ではない。海空一体の運用能力を誇示し、台湾封鎖を想定した作戦行動の訓練である。米国防総省も「実戦想定の包囲訓練」と警鐘を鳴らした。アメリカはフィリピン・バサ空軍基地を再整備し、台湾と南シナ海を結ぶ補給線の強化に踏み切った。我が国が政局に足を取られている間に、同盟国は次の段階へ進んでいる。

ワシントンでは、日米同盟の即応性を評価する報告が複数存在する。その一つが、アメリカ議会調査局(CRS)が2021年12月3日に発表した「Political Transition in Tokyo」である(CRS Report for Congress, IF10199)。この報告は日本の政権交代が日米同盟に与える影響を分析し、指導者交替が同盟の継戦能力に「一時的空白」を生む危険性を指摘している。こうした分析は、現在の「総理誕生の遅れ」が単なる国内問題にとどまらず、国際安全保障上のリスクとして認識され得ることを意味している。
 
3️⃣内憂外患──止まった政治が国を蝕む

内側でも、我が国は限界に近づいている。物価はじわじわと上がり続け、国民生活は目に見えぬ圧迫を受けている。電気代・ガソリン代・食料品の「隠れ値上げ」。実質賃金は二年以上にわたりマイナスが続く。統計の安定とは裏腹に、庶民の暮らしは確実に苦しくなっている。

外国人労働者の急増は社会の歪みを広げている。地方都市では技能実習生が集中する地区が事実上の外国人街と化し、学校や医療機関では通訳が常駐しなければならない状況だ。統合政策は後手に回り、文化摩擦が日常化している。警察庁の統計によれば、令和5年中の来日外国人による刑法犯検挙件数のうち共犯事件の割合は38.7%で、日本人の3倍に達した(警察庁「令和6年版警察白書」)。さらに、来日外国人犯罪の罪種別構成では、窃盗・詐欺などの組織化が顕著になっている。

令和6年の全国における来日外国人犯罪の検挙件数は、21,794件に上った。これは九州管区警察が同年の地域別統計で明示した公式数値である(九州管区警察局統計資料)。ただし、この数字は速報値であり、最終確定値では若干の修正が入る可能性がある。だが、重要なのは件数そのものではない。

犯罪の“質”が変わっているということだ。越境的ネットワークを持つ多国籍犯罪グループがSNSや暗号通貨を使い、詐欺・密輸・不法送金を同時に展開している。統計では測れない犯罪の多層化が、我が国の治安の根を静かに侵食している。さらに、西欧諸国の移民政策は、明らかに間違いであったことが認識されつつある。統計数値だけを根拠として、外国人犯罪そのものがあまり増えていないからといって、外国人問題はないと結論づけるには無理がありすぎる。

外国人問題は参院選で争点となった これは無視すべきではない

こうした内外の危機が同時に進行するなか、政治だけが立ち止まっている。経済は金融市場の信認を揺らぎ始め、円相場は150円前後の水準で推移している。円安そのものは輸出を促し、製造業にとって追い風となる。だが同時に、輸入価格の高騰を招き、エネルギーや食料のコストが家計を直撃している。求められているのは、円安を「恐れる」政策ではなく、「活かす」政策だ。企業の輸出力を支えつつ、家計への負担を和らげる。財政出動と減税を軸に、国力を底上げする経済運営が不可欠である。

国内外の投資家は、高市政権がどんな経済・外交の道筋を描くのかに注目している。誕生が遅れれば遅れるほど、信頼の空白が広がる。市場は冷酷だ。躊躇は許されない。

政治が止まれば、世界は一歩先へ進む。高市早苗が総理として立つ日は、単なる政権交代ではない。我が国を再起動させる転換点である。外交も経済も安全保障も、もはや先送りはできない。遅れは許されない。時間を失うことこそ、国家の最大の敗北である。高市総理誕生は、衆院選、参院選で示された、国民の声でもある。

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2025年10月13日月曜日

財務省支配の終焉へ――高市早苗が挑む“自民税調改革”


まとめ

  • 自民党税調は、党の政策機関を装いながら実際には財務省の意向をそのまま受け入れる“増税装置”と化しており、国民の生活や景気を無視して増税を当然視してきた。
  • 「税制改正は年に一度しか行えない」という慣習は法律ではなく、自民党内部のルールにすぎない。この制度疲労が、政治の判断力と機動性を奪い、国の経済運営を麻痺させている。
  • 税調の仕組みを民間企業に置き換えれば、価格改定や給与改定などの重要な意思決定を年一度に制限するようなもので、経営判断が遅れ倒産に至るほどの愚行である。国の税制がこれと同じ構造で動いているのは異常だ。
  • 財務省と税調の共依存が、政治の意思を奪い続けてきた。「財政健全化」という名のもとに官僚が政治を操り、政治は国民のためではなく財務省の都合のために存在するようになってしまった。
  • 高市早苗改革は、この構造を断ち切り、政治が主導して税調を動かす体制を取り戻す戦いである。財務省支配を終わらせ、政治を国民の手に取り戻す――それが高市改革の真の目的である。

1️⃣年に一度しか動かない税制――異常な慣習の実態

自民党の高市早苗総裁は12日、X(旧ツイッター)で党税制調査会の人事に言及した。小林鷹之政調会長に「スタイルそのものをガラッと変えてほしい」と指示したと明かした。

自民党の税制調査会、いわゆる税調は、戦後政治の中で最も閉ざされた組織の一つだ。表向きは党の政策機関だが、実際は財務省の出先機関である。国民経済よりも官僚の論理を優先し、景気や生活の苦しさなど意に介さず、増税を当然のように推し進めてきた。国民のための機関ではなく、財務官僚の理屈を守るための装置と化しているのが現実だ。

税制改正の手順も、半ば儀式のように毎年繰り返されてきた。

この流れが続くうちに、「税制改正は年に一度しかできない」という奇妙奇天烈な慣習が定着した。しかし、そんな法律などどこにもない。税制改正法案は通常国会でも臨時国会でも提出できる。つまり、年に一度というのは自民党内のルールにすぎず、法的な根拠など存在しない。

この党内ルールが国家の税制を縛り、経済政策の機動性を奪ってきた。年に一度しか税を見直せない仕組みなど、民間企業で言えば愚行そのものである。

新製品の発売を半年も検討している間に、競合他社が先に市場を奪う。にもかかわらず、「次の会議は来年だから対応できない」と放置すれば、企業は即座に破綻する。税調のやっていることは、まさにそれと同じだ。

商品価格の改定は年に一度しかできないとか、従業員の給与も福利厚生も年に一度しか変えらない、あるいは新規事業の立ち上げには半年を要するとか、不採算事業の撤退すら役員会の多数決を待たねばならないというようなものだ。そんな会社は外部環境の変化に耐えられず、経営効率を失って競争から脱落する。だが日本は、国家の税制でその愚を堂々と繰り返してきたのだ。

2️⃣財務省と税調の共依存――“増税装置”の正体

この「年一回ルール」は、民主主義国家として異常である。米国では大統領が、英国では財務大臣が、必要に応じていつでも税制改正法案を提出できる。多くの先進国では、年に複数回の改正が当たり前だ。ところが日本では、財務省と自民党税調が互いに寄りかかり合い、政治の意思よりも官僚の都合が優先されてきた。


自民党の宮沢洋一税調会長=2025年5月15日、東京・永田町の自民党本部

本来、税調は国民生活を守るためにあるはずだ。だが現実は、財務省の意向を代弁するだけの“増税装置”に堕している。経済が冷え込もうが、物価が上がろうが、「財政健全化」の名のもとに増税を強行する。その背後には、財務省の影響下にある税調幹部の存在がある。自民党税制調査会長宮沢洋一氏はその典型だ。ネット上では財政緊縮派の「ラスボス」と評された。これはすでに解任の見通しとされている。

こうして政治は官僚の下請けとなり、国民の暮らしは後回しにされてきた。財務官僚の理屈が国家を動かす限り、国民の豊かさなど回復するはずがない。

3️⃣高市改革の挑戦――政治が国民のために決断する国家へ

この閉塞を破ろうとしているのが、高市早苗総裁である。彼女は就任直後、小林鷹之政調会長に「スタイルそのものを変えてほしい」と指示した。財務省出身者で固めた体制を崩し、国会議員が主体となる開かれた税調へと作り替える――その決意は明確だった。

会見する高市早苗・新総裁

高市氏は言う。「議員は税制で達成したい目標を示し、官僚はそれを制度として形にする」。これは単なる人事刷新ではない。政治が官僚から主導権を取り戻すという、戦後政治の根本改革である。

彼女の狙いは、税調を“財務省の出先機関”から“政治の中枢機関”へと変えることだ。税調が政治に従う時代を築き、政治が税調を動かす構造を作り出す。その先にこそ、迅速で柔軟な政策運営がある。物価高が進めば即座に減税し、景気が冷えればすぐに立て直せる――そうした政治の即応力を取り戻すことが、高市改革の真の目的である。

この改革を成功させるためには、二つの要素が欠かせない。

第一に、政治が官僚に依存しない知的基盤を築くことだ。議員や民間の専門家が自ら税制案を作れる独立シンクタンクを党内に設ける必要がある。

第二に、透明性を高めることである。税調の審議過程を原則公開とし、どの議員がどんな意見を述べたのかを国民が確認できるようにする。それが実現すれば、税調は国民に開かれた真の政策機関となる。

税制は国家の骨格であり、政治の力の源泉だ。そこに財務省の論理が居座り続ける限り、日本の政治はいつまでたっても官僚の下請けに過ぎない。

高市早苗が挑む税調改革は、単なる減税論ではない。政治が再び国民のために決断する国家へと戻す闘いである。霞が関の都合ではなく、国民の暮らしの時間で政治を動かす――その一歩を踏み出したのが、高市改革の真の意味である。

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日本列島総不況が生んだ自公連立に別れを──国家再生のロードマップ 2025年10月11日
緊縮・官僚主導のツケが国民経済を冷やしてきた現実を検証し、政治主導への転換を提言する論考。

隠れインフレの正体──賃金が追いつかぬ日本を救うのは緊縮ではない 2025年9月19日
統計に現れにくい物価圧力と実質賃金の目減りを読み解き、緊縮ではなく成長路線を説く。

国の借金1323兆円、9年連続過去最高 24年度末時点 2025年5月
「政府の借金」論の誤解を解き、国債と経済成長の関係を整理。財務省的“負債強調”の危うさを指摘。

財政審「コスト重視」の噴飯 高橋洋一氏が能登復興遅れ激白 2024年4月19日
災害復興でさえコスト最優先の審議会姿勢を批判。官僚主導が現場を遅らせる構図を描く。

麻生大臣を怒らせた、佐藤慎一・財務事務次官の大ポカ 2016年11月18日
財務省の“政治化”をめぐる原点記事。税調との力学も含め、官僚優位の土壌を検証。

2025年10月11日土曜日

日本列島総不況が生んだ自公連立に別れを──国家再生の号砲を鳴せ

 まとめ

  • 自公連立解消は必然:公明の対中志向の強まり(10/6の中国大使面会報道)と、10/10の離脱通告が“理念乖離”を可視化。長年の共依存構造が終わった。
  • 不況は人災:1988–1990のコアコアCPIは年+1.01%/+2.50%/+2.65%で物価暴騰はなし。実態は資産(地価・株価)バブルだったのに、日銀が実体過熱と誤認して引き締め、信用収縮を招いた。
  • 誤った政策が連立依存を生んだ:金融・財政を同時に締め、景気を冷やし続けた結果、自民は単独で安定多数を得にくくなり、選挙互助としての自公連立に依存した。
  • 構造的ゆがみ(国交相の“指定席”):公明が長期にわたり国交相を占め、公共事業のゲートを握ったことで、中立性や配分の歪み、レギュラトリー・キャプチャーの懸念が恒常化。
  • 処方箋は経済成長:連立という延命装置に頼らず、金融緩和+積極財政と供給制約の緩和、減税の組み合わせで経済成長軌道へ。成果で支持を得れば、連立は不要になる。

公明党が自民党との連立解消を正式に宣言した。四半世紀続いた「自公体制」は終わった。

離脱通告の数日前、10月6日に斉藤鉄夫代表が国会内で呉江浩・駐日中国大使と面会したと日経報道の要旨を引く複数記事が伝え、10月10日の自公首脳会談で離脱が通告された[1]。時系列は、公明党の対中志向の強まりと、連立の理念的乖離を象徴する出来事である。これは単なる政局ではない。日本政治を縛ってきた“共依存”の終わりだ。

この連立は当初から「政権安定」を名目に組まれた。しかし、その安定は国民経済の活力を犠牲にし、誤った政策を温存する装置に変質した。なぜ連立が必要になり、なぜ終わらざるを得なかったのか。本稿で道筋を示す。

1️⃣日本列島総不況が生んだ「自立喪失の政治」
 
1990年代初頭の資産バブル崩壊は、自民党政治の地盤を直撃した。地価と株価が崩れ、都市の中間層や地方の建設業、農業団体など従来の支持層は傷んだ。結果、自民が単独で安定多数を取りにくい体質になった。これが後の連立依存の土壌である。

日本経済は1992年以降「失われた10年」に沈んだ。強調すべきは、これは循環的景気後退ではなく政策による人災だという点だ。

当時の実体物価は「狂乱物価」ではない。コアコアCPI(食料・エネルギー除く)の年平均上昇率は、1988年+1.01%、1989年+2.50%、1990年+2.65%で小幅にとどまっていた[2]。高騰していたのは土地と株価という資産価格で、物価本体の暴騰ではない。にもかかわらず、日銀は実体の過熱と誤認し、急速な金融引き締めに踏み込んだ。これが資産バブルの崩壊を誘発し、信用収縮と過剰債務の連鎖を拡大させた。CPIの定義・接続は総務省統計の公開資料で確認できる[3]。


崩壊後も金融は引き締め基調が続き、政府は不況期に増税と歳出抑制で需要を冷やした。金融と財政が同時にブレーキという失策で、倒産と雇用不安が全国に広がった。これが文字通りの「日本列島総不況」であり、自民の支持基盤を破壊し、選挙での連立依存を不可避にした。

しかも解決は難しくなかった。本来は大胆な金融緩和と積極財政を同時に回せばよかった。それを官僚は「財政規律」や「インフレ懸念」で押しとどめ、政治も連立で延命を選んで誤りを温存した。

2000年代には「構造改革」論が台頭し、デフレ下で需要をさらに冷やして停滞を長引かせた。正しいマクロ政策(緩和+積極財政)を阻害したという意味で、ここが決定的な失敗である。

2️⃣「自自公」から始まった政権延命の構造
 
現在の自公は1999年の「自自公連立」に始まる。小渕恵三内閣の下、自民・自由・公明の三党体制が組まれ、参院の数不足を補って法案通過を容易にした。狙いは理念一致ではなく数による安定である。

自自公連立政権に向けた3党首会談を前に握手する(左から)小沢一郎自由党党首、小渕恵三首相、神崎武法公明党代表=1999年10月、首相官邸

しかし自由党との関係は持たなかった。2000年に小沢一郎が連立を離脱。自由党の一部は連立維持のため「保守党」を結成して残留し、のちに「保守新党」(2002年)を経て自民に吸収された。こうして自民+公明の二党体制が定着し、20年以上続いた。

公明の母体・創価学会の動員力は強い。小選挙区で1~2%の差が当落を分ける現実の中で、自民は公明の票を前提に選挙を組み立てるようになった。ここで自公の本質は、「政策連携」より選挙互助となった。理念を削り、延命装置としての連立だけが残った。最初から間違った連立だったと言わざるを得ない。

この構造的依存が長期化する中で、国政の重要ポストにも歪みが出た。とりわけ国土交通相の「長期専有」は象徴的だ。第二次安倍政権以降、太田昭宏(2012–2015)→石井啓一(2015–2019)→赤羽一嘉(2019–2021)→斉藤鉄夫(2021–2024)と公明党が連続で国交相を務め、その前にも北側一雄(2004–2006)・冬柴鐵三(2006–2008)ら公明出身の大臣が続いた[4][5]。主要紙はこのポストを「公明の指定席」と表現してきた[6]。

ポスト固定化は継続性という利点と引き換えに、①調達・公共事業を所管する巨大省庁の“政治的囲い込み”、②交通・都市開発における政策中立性への疑念、③公共事業配分の政治的バランスの歪みという統治リスクを恒常化させた。いわゆる土建国家の議論から見ても、特定政党が公共事業のゲートを握り続ける配置は、規制俘虜(レギュラトリー・キャプチャー)や利権化の温床になりやすい[7][8][9]。結果として、本来のマクロ政策転換(金融緩和と積極財政)が、所管利害の論理に吸収・希釈される副作用が生じた。

3️⃣共依存の崩壊と再生への道
 
不況が長引くほど有権者は“安定”を求め、自民は公明という“安定装置”に依存した。経済不安定→連立依存の鎖は二十余年続いたが、2020年代半ばに綻び始めた。

公明はこの間に変質した。かつては中道・福祉重視を掲げたが、近年は対中融和の姿勢を強め、訪中団派遣や政党交流を重ねた。香港や新疆など人権案件では慎重に終始し、防衛・経済安保で自民の対中警戒路線と乖離が目立った。連立の理念的基盤は内側から侵食されたのである。

さらに、10月6日に斉藤代表が国会内で呉江浩・中国大使と面会したとの日経報道の要旨を引用するまとめ記事が出ており、4日後の10月10日に自公首脳会談で離脱通告が行われた[1]。

そして2025年10月10日、公明は連立離脱を正式表明した。主要外電・経済紙も相次いで速報し、国政の大きな転換点となった[10][11][12]。

公明党斉藤哲夫代表と会談する自民党高市早苗総裁(10日、国会内)

これから自民は「票の装置」に頼らず、価値観と政策で結ぶ連携に向かうべきだ。理想は、そもそも単独過半を取り切るだけの経済成果で支持を固めることにある。バブル崩壊後の日本は、景気低迷→支持率低下→連立依存という負の連鎖にあった。

裏返せば、成長軌道に戻せば連立は要らない。安定は選挙互助ではなく、賃金・雇用・投資が回る現実の繁栄から生まれる。

結論は明快だ。自公解消は「不況が生んだ共依存政治」の終わりであり、民主政治が自立を取り戻す通過儀礼である。政治の自立を支える最強の処方箋は経済成長だ。金融緩和と機動的・積極的財政、供給制約を外す規制改革、家計・投資減税を組み合わせ、当たり前のマクロ政策を回せば、票は政策成果に回帰する。延命装置としての連立はいらない。誇りある政治はそこから始まる。高市政権はその道を選択するだろう。ただ、高市政権が長期政権にならなければ、時間がかかるかもしれないが、他党がこれを目指すだろう。確かなのは、もしそうなれば、それは自民党でも公明党でも無いということだ。

【関連記事】 

長寿大国の崩壊を防げ──金融無策と投資放棄が国を滅ぼす 2025年9月15日
少子高齢化の下で公共・医療・人材への投資が細り、実質成長力が落ちている現状を点検。金融緩和の継続と大胆な国内投資で“長寿=衰退”の誤った連鎖を断つべき。

インフラ更新を先送りする緊縮と、短期の費用便益(B/C)偏重が安全を脅かしたと指摘。維持更新投資の平準化と、リスクを織り込む評価設計への転換を訴える。
高校無償化の是非を、財源・制度設計・安全保障の観点から再検討。技能実習や越境医療との連動リスクに触れ、家計支援と国益を両立させる制度改良を提案。

自公の選挙協力が崩れた場合のリスクと「組織票」の実態を整理し、経済成長で勝つ必要性を示す。 

「統合政府」の視点から積極財政の正当性を明快に解説。 

株価回復を手掛かりに、インフレ目標・財政協調による成長路線の有効性を示す。

参考・出典(脚注番号対応)

[1]「10月6日・国会内での大使面会」報道ベース(※日経本文は有料)
https://search.yahoo.co.jp/realtime/search/matome/0e53a70f5c7c45e5b390b6f6dc74103b-1759861209

[2]FRED(OECD系列)“Consumer Price Index: OECD Groups: All Items Non-Food Non-Energy: Total for Japan(Annual)”
https://fred.stlouisfed.org/series/CPGRLE01JPA657N

[3]総務省統計局「消費者物価指数(CPI) 結果・時系列データ」
https://www.stat.go.jp/data/cpi/index.html

[4]首相官邸:歴代大臣プロフィール(例)— 斉藤鉄夫/赤羽一嘉/石井啓一
斉藤:https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/meibo/daijin/saito_tetsuo.html
赤羽:https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/meibo/daijin/akaba_kazuyoshi.html
石井:https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/meibo_a/daijin/ishii_keiichi.html

[5]国会・公的機関記録(例)— 北側一雄/冬柴鐵三(差し替え版)

[6]毎日新聞「10年以上『指定席』 公明が国交相ポストにこだわるワケ」(2023/8/18)
https://mainichi.jp/articles/20230815/k00/00m/010/259000c
J-CAST「国交相はなぜ『公明党』が独占しているのか」(2020/9/19)
https://www.j-cast.com/2020/09/19394785.html?p=all

[7]East Asia Forum “From people to concrete: reviving Japan’s ‘construction state’ politics”(2013/2/26)
https://eastasiaforum.org/2013/02/26/from-people-to-concrete-reviving-japans-construction-state-politics/

[8]Gavan McCormack “The State of the Japanese State – Chapter 6: The Construction State”(書籍章案内)
https://www.cambridge.org/core/books/state-of-the-japanese-state/construction-state/A280C00E070DA119C87086A8BFF17060

[9]Jeffrey Broadbent “The institutional roots of the Japanese construction state”(ASIEN, 2002, PDF)
https://d-nb.info/1371264538/34

[10]AP “Japan’s Komeito Party withdraws from ruling coalition”(2025/10/10)
https://apnews.com/article/e9fe611e8868f6ce3ad8241dff7965ff

[11]Financial Times “Komeito quits Japan’s ruling coalition”(2025/10/10)
https://www.ft.com/content/d621cdce-051c-4e47-99a3-2ad408232cfa

[12]Wall Street Journal “Japan’s Komeito Party Withdraws From Ruling Coalition”(2025/10/10)
https://www.wsj.com/world/asia/japans-komeito-party-withdraws-from-ruling-coalition-0315bdd6


2025年10月10日金曜日

世界標準で挑む円安と物価の舵取り――高市×本田が選ぶ現実的な道


まとめ
  • 高市氏経済顧問本田悦朗氏はロイターのインタビューで「日銀の追加利上げには慎重であるべきだ」と表明し、高市政権の“成長を冷やすな”という方針シグナルを示した。
  • 物価はコストプッシュ色が強い局面で、2025年8月のCPIは前年比+2.7%、コアコアCPIは+3.3%、一方で失業率は2.6%と低水準だが実質賃金の回復が鈍く、需要主導(デマンドプル)とは言い難い。
  • いま利上げを急ぐと資金繰り悪化で投資・賃上げの芽を摘み、内需を冷やすリスクが大きい――「インフレの量ではなく質を見よ」というのが本田氏の核心。
  • 円安は輸出に追い風だが行き過ぎれば物価押し上げ要因を強めるため、「円安を活かしつつ物価を制御する」精緻な舵取りと政府・日銀の協調が不可欠。
  • 目指すべきは世界標準のマクロ経済理論に沿う「高圧経済」的運営で、失業率低下と適度な物価上昇を許容しつつ成長率を重視し、需要が物価を牽引する健全な循環を作ること。
1️⃣高市政権の出発点と本田悦朗の警鐘
 
本田悦朗氏

高市早苗新総裁の誕生により、日本経済の針路は新たな局面に入った。市場は息を潜めて見ている。その最中、注目を集めたのが高市氏の経済顧問であり「アベノミクスの理論設計者」として知られる本田悦朗・京都大学客員教授の発言だ。彼はロイターのインタビューに応じ、「日銀の追加利上げには慎重であるべきだ」と語った。これは単なる学者の意見ではない。政権がどの方向に舵を切るのかを示す“方針表明”である。

本田氏は「日本経済はまだ内需の自律的回復が弱い。利上げを急げば成長の芽を摘む」と警告した。同趣旨は他媒体にも波及し、年内利上げ観測に対する市場の見方にも影響した。要は「成長を冷やすな」という明確な哲学である。

2️⃣数字に隠れた“質”を見る
 

インフレには二つある。原材料や輸入コストが主因のコストプッシュ・インフレと、需要と雇用が牽引するデマンドプル・インフレだ。前者は生活を圧迫し、後者は成長を促す。日本はいま、明らかに前者寄りである。

総務省の最新公表では、2025年8月の全国CPIは前年比+2.7%、コアコアCPIは+3.3%。見た目の伸びはあるが、内需の自律的拡大というより、補助縮小や輸入コストの波が混じる非連続の上昇だ※1。雇用面も、一見堅調だが“質”を見誤ってはならない。2025年8月の完全失業率(季節調整値)は2.6%。失業率は低い一方、実質賃金の回復は鈍い。名目賃金が伸びても、物価に追いつかなければ家計の購買力は削られる※2。

この局面で利上げを急げば、企業の資金繰りを圧迫し、ようやく立ち上がりつつある投資と賃上げの芽を摘む。重要なのは“インフレの量ではなく質”だ。賃金と需要が伴わない物価上昇は、庶民の暮らしを痛めるだけである。

同時に、円安は輸出には追い風だが、行き過ぎればコストプッシュ要因を強める。高市政権が進める半導体・エネルギーなどの戦略投資は円安の追い風を活かせるが、為替の暴走は許されない。求められるのは、「円安を生かしつつ物価を制御する」という難しい舵取りである。
※1 総務省統計局「消費者物価指数 全国 2025年8月分(PDF)」:コアコアCPI+3.3%等の詳細を確認できる。
※2 総務省統計局「労働力調査(基本集計) 2025年8月分」:完全失業率2.6%など最新概要。
3️⃣世界標準の理論と「高圧経済」
 
本田氏の慎重論は“金融緩和の継続”にとどまらない。世界標準のマクロ経済理論に基づく考え方だ。その中核にあるのが「高圧経済(High-Pressure Economy)」である。景気をあえて温かく保ち、企業に賃上げと投資を促すことで、潜在成長率そのものを高めるという発想だ。失業率の低下と適度な物価上昇を許容し、すぐ経済を冷やすのではなくしばらくは温めて成長を作る。

バイデン政権下のイエレン財務長官も高圧経済政策を実施

この思想は日本独自の奇策ではない。需要と雇用を同時に押し上げ、デフレからの確実な離陸をめざすという骨格は、先進国が共有してきた“常道”である。過去の日銀は、黒田総裁の中期を除けば、この路線から外れがちだった。上田総裁下も、引き締め志向が強くなりつつあるように見える。高市政権と本田氏の立場は、その流れに対する明確な反論だ。「世界標準の経済運営を日本に取り戻す」という意思表明である。

コアコアCPIが2〜3%台でも、賃金が伴わなければ“偽りの好況”だ。ここで利上げを急げば内需は冷える。必要なのはインフレ率ではなく成長率を見る政策である。国民所得を押し上げ、需要が物価を引っ張る健全な循環をつくること。高市政権の使命は、単なる金利調整ではない。問われているのは「国家として、どの未来を描くか」という覚悟である。
高市政権の政治的基盤と支持構造を整理し、経済運営の「現実の受け皿」を描く

高市早苗総裁誕生──メディアに抗う盾、保守派と国民が築く『国民覚醒の環』 2025年10月5日
総裁選の意味を思想面から読み解き、政権運営の背骨となる民意の受容を論じる

隠れインフレの正体──賃金が追いつかぬ日本を救うのは緊縮ではない 2025年9月19日
CPI/コアコアCPIと実感物価の乖離を検証し、「物価の質」を問い直す

日本経済を救う鍵は消費税減税! 石破首相の給付金政策を徹底検証 2025年6月19日
金融だけに頼らず、減税・給付の政策ミックスで需要を底上げする処方箋を示す

家計・企業の負担増も 追加利上げ、影響は一長一短 日銀 2025年1月25日
利上げが企業の資金繰りや家計に与える具体的負担を点検し、タイミングの重みを論じる

2025年10月2日木曜日

本当に国際秩序を壊したのは誰か――トランプではなく中国だ

まとめ

  • トランプ批判は短期的混乱だけを根拠にした一面的評価であり、中国の長年の無法行為を背景に考える必要がある。
  • 中国はWTO加盟時の約束を守らず、市場閉鎖・為替操作・補助金政策・知財侵害を続け、日本の鉄鋼や太陽光産業に壊滅的打撃を与えてきた。
  • 中国の人権問題や南シナ海での国際法違反、「一帯一路」での債務外交は国際秩序への露骨な挑戦である。
  • 野口旭氏の指摘する「貯蓄過剰2.0」により世界は慢性的な需要不足に陥り、各国の金融緩和でも景気は加熱せず、緊縮策で失速する。これは現在の日本の姿とも重なる。
  • 中国の挑戦は日本にとっても他人事ではなく、経済・安全保障両面で覚悟を持ち、未来を選び取る必要がある。

1️⃣トランプ批判の一面的な見方
 
国連で演説するトランプ大統領

トランプ大統領の政策はしばしば「国際秩序を乱した失敗」と決めつけられる。防衛費負担をめぐる強硬な要求、中国への関税政策、ロシアや北朝鮮との対話路線。確かに短期的には混乱を招き、国内外で批判を浴びた。しかし、その評価はあまりにも一面的だ。

そもそも背景には、中国が長年繰り返してきた無法がある。国有企業への補助金、知的財産権の侵害、技術移転の強要、市場の閉鎖。2001年に米国の支援でWTOに加盟した際、中国は市場開放や公正取引の遵守を約束したが、その多くを守らず今日に至っている。米通商代表部(USTR)の年次報告でも、非市場的な政策と国有企業への過剰支援が透明性を欠くとして「約束不履行」が繰り返し指摘されている。金融、デジタル、エネルギー分野で外資を制限し、自国市場を閉ざしたまま欧米市場で活動を続ける不均衡な状態が続いている。

為替でも人民元は「完全固定」ではないにせよ、中国人民銀行が毎朝基準値を設定し、その±2%のバンドで動く管理フロート制を敷いており、国際市場の需給に委ねる体制からは大きく逸脱している。

日本の産業はこの不均衡の直撃を受けてきた。鉄鋼では中国の過剰生産とダンピングで価格が暴落し、国内メーカーは疲弊を余儀なくされた。2024年の普通鋼鋼材輸入量は505万トンに達し、前年から7.5%増、1997年以来の500万トン超えとなった(日本鉄鋼連盟)。太陽光パネルでも中国製が圧倒的シェアを占め、日本企業は次々と撤退。日本国内で使われる太陽光パネルは輸入依存が極端に高く、JPEAの統計では外国企業シェアが64%、国内生産はわずか5%に過ぎない。世界的には中国製が8割を超え、2025年には95%に達する見通しが示されている(JETRO/IEA)。北海道では安価な中国製パネルによる乱開発が進み、地域社会と自然環境を蝕んでいる。

さらに、中国の人権問題も看過できない。新疆ウイグル自治区での強制労働や収容所、人身売買や臓器売買の疑惑。南シナ海では国際仲裁裁判所が2016年に「中国の主張には法的根拠がない」と判定したにもかかわらず、人工島を造成し軍事拠点化を続けている。「一帯一路」では途上国に過大債務を負わせ、返済不能に陥った国の港湾や資源を接収している。これらは国際秩序への露骨な挑戦である。
 
2️⃣世界経済を歪めた「貯蓄過剰2.0」
 
中国の無法は安全保障にとどまらず、世界経済を根底から歪めてきた。経済学者の野口旭氏は、リーマン・ショック以降の先進国に共通する「低すぎるインフレ率」の背景に、中国を中心とする「世界的貯蓄過剰2.0」があると指摘している(野口旭「世界が反緊縮を必要とする理由」)。

中国の過剰生産は結果的に世界に貯蓄過剰をもたらした

中国は輸出主導で成長を遂げ、国内需要が供給に追いつかず余剰資金を海外に流出させた。これが世界の経常黒字を押し上げ、需要不足を固定化した。実際、世界の経常黒字のうち中国のシェアは2019年時点で約40%に達し、米国の経常赤字とほぼ表裏の関係をなしていた。2022年には中国の経常黒字が4,170億ドルに上り(IMF統計)、世界的な需給バランスを大きく歪めている。

供給は膨張しているのに、需要は足りない。インフレが起きにくく、金利も上がらない。各国が金融緩和をしても景気が加熱せず、逆に緊縮策を急げば、たちまち需要不足で経済が失速する。これはまさに現在の日本の姿でもある。長らく日銀は慎重すぎる金融政策でデフレを固定化し、景気を押し下げてきた。2013年に黒田総裁が「異次元緩和」で大胆に転換したが、十分なインフレ定着には至らなかった。2023年に植田総裁が就任すると、再び利上げ方向へと傾き、需要の弱さを抱えたまま経済が減速しかねない状況にある。

中国の輸出攻勢は米国の製造業を空洞化させ、日本の鉄鋼や太陽光も壊滅的打撃を受けた。補助金漬けの国有企業、為替管理、低賃金労働。この体制が「貯蓄過剰2.0」を生み出し、世界全体の成長力を押し下げてきたのである。

こうした構造を放置すれば、各国は財政と金融で経済を支え続けるしかなく、支えを外せばすぐに失速する。だからこそ、トランプ政権の対中関税やサプライチェーン再編は、単なる「貿易戦争」ではなく、この不均衡に切り込む試みだった。短期的な痛みを覚悟してでも、世界経済を正す戦いだったのである。
 
3️⃣日本が問われる覚悟

当時、多くの反発があった。関税は物価を押し上げ、中国の報復で米農業は打撃を受けた。同盟国への防衛費要求は摩擦を強め、「孤立主義」との批判も高まった。だが、バイデン政権になっても対中強硬路線は継続され、米中デカップリングは超党派の合意となった。半導体やエネルギー分野では国内投資が拡大し、NATO諸国は防衛費を増額、日豪印との協力も強化された。当初「失敗」とされた政策が、結果として国際社会の対中包囲網を後押ししたのだ。

参院選での石破首相の応援演説 同盟国の首相としてはあり得ない発言

短期的な混乱だけを見てトランプを「秩序破壊者」と決めつけるのは誤りである。中国の壊してきた秩序を正すには犠牲も伴う。だが、直視しなければならない。さらに、中国を批判する者は自らも公正であるべきとされるだろう。それには、リスクも伴う。トランプを批判するのであれば、中国を牽制する代替案を示すべきである。非難を繰り返すだけでは現実は変わらない。

そして、これはアメリカだけの問題ではない。我が国日本にとっても、中国の無法を放置すれば、経済と安全保障の両面で取り返しのつかない代償を払うことになる。鉄鋼や太陽光での被害は氷山の一角に過ぎない。中国の挑戦は我が国に突きつけられた現実だ。我々自身が覚悟を持ち、未来を選び取れるかどうか。その岐路に立っているのである。

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霊性を忘れた政治の末路──小泉進次郎ステマ疑惑が示す保守再生の道 2025年10月1日
政治の空洞化を批判し、秩序と国益を守る保守政治の再建を論じる。今回の記事の結論部と親和性が高い。

奈良の鹿騒動──高市早苗氏発言切り取り報道と拡散、日本の霊性を無視した攻撃が招く必然の国民の反発 2025年9月29日
メディア報道の偏向を批判し、日本の精神的基盤を守る必要を訴える。国益と情報戦の側面に関連。

秋田から三菱撤退──再エネ幻想崩壊に見る反グローバリズムの最前線 2025年9月28日
中国依存の再エネ産業の危うさを批判。鉄鋼や太陽光における中国の影響と直結する。

札幌デモが示した世界的潮流──鈴木知事批判は反グローバリズムの最前線 2025年9月23日
グローバリズムに抗う地方の動きを扱い、国際秩序と地域社会の抵抗という視点で今回の記事と響き合う。

世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ 2018年8月2日
野口旭氏の論考を踏まえ、世界経済の「長期停滞」と日本の左派経済論の誤りを批判。今回の記事の「貯蓄過剰2.0」と直接つながる重要な文脈。

2025年9月28日日曜日

秋田から三菱撤退──再エネ幻想崩壊に見る反グローバリズムの最前線

まとめ

  • 三菱商事を含む事業連合が秋田の洋上風力からコスト高騰で撤退し、県知事は再公募を要望したが合理性には疑問がある。
  • 太陽光や風力は我が国日本の条件に合わず、欧州でも失敗。中国製依存やウイグル強制労働の問題もあり、反グローバリズムの観点から容認できない。
  • 再エネは天候に左右され不安定で、九州や東北では出力抑制が常態化。電気料金も2010年から2023年にかけて大幅に上昇し、国民負担を増やしている。
  • 原子力には長年の実績があり、開発中のSMRは安全性が高い。ただし既存技術と人材が不可欠で、ドイツのように原発を全廃すれば未来を閉ざす。
  • 小樽や青森では住民運動が再エネ計画を阻止。反グローバリズムは世界的潮流となり、秋田の撤退は我が国日本のエネルギー政策を正道へ導く契機となる。
1️⃣秋田の洋上風力と再エネの現実
 

2025年夏、三菱商事を含む事業連合が秋田県沖と千葉県沖の大規模洋上風力事業から撤退した。建設費は当初の二倍に膨れ上がり、インフレや金利上昇、円安が追い打ちをかけ、採算は崩壊した。これを受け、秋田県知事は国に早期の再公募を求めた。しかし、果たしてそれは合理的な選択なのか。

問題は単なる洋上風力の失敗にとどまらない。太陽光や風力といった再エネそのものが、我が国日本の地理的条件や経済環境に合致していない。欧州でも同じ失敗が繰り返されている。ドイツが推進した「エネルギー・ヴェンデ(原発廃止と再エネ全面移行)」は、結果として電気料金の高騰と産業競争力の喪失を招き、国民から激しい批判を浴びている。

加えて、再エネはその供給網がグローバリズムに絡め取られている。太陽光パネルの約8割、風力タービンや蓄電池の多くは中国製であり、利益は海外に流れる。しかも新疆ウイグル自治区の強制労働や、中国国内の低賃金・劣悪環境労働がその製造工程に関わっているとの報告もある。再エネを拡大することは、人権侵害に加担し、経済的従属を深めることに直結する。これこそ反グローバリズムの立場から断固拒絶すべき事態である。
 
2️⃣インフラに不適格な再エネと原子力の選択肢
 
再エネの最大の弱点は不安定性だ。天候次第で発電が止まる電源をインフラの基盤に据えること自体が無謀である。実際、九州電力管内では太陽光の過剰導入で出力抑制が常態化し、2023年度は58日間、2024年度も50日を超える見通しとなっている。東北や四国でも同じ現象が起きており、作っても使えない電気があふれている。

電気料金の推移も深刻だ。資源エネルギー庁の統計によれば、家庭向け電気料金は2010年に1kWhあたり約22円だったものが、2023年には30円を超えた。再エネ賦課金や制御コストが原因である。ドイツと同じく、我が国日本も「再エネをインフラに据える」という誤った政策が国民負担を膨らませている。

三菱SMRを開発
 
これに対し、原子力には半世紀の運用実績がある。潜水艦や空母に搭載された小型炉は過酷な環境下でも安定して稼働してきた。さらに次世代の小型モジュール炉(SMR)は現在開発中であり、冷却システムや格納容器の設計が改善され、従来型より安全性が高い。だがSMRは既存の原子力技術と人材があってこそ開発できるものであり、ドイツのように拙速に原発を全廃すれば技術基盤を失い、将来の選択肢を自ら閉ざすことになる。

秋田に必要なのは「待つ」ことではなく「見切り」だ。洋上風力を含む再エネはコスト高、環境破壊、不安定性の三重苦を抱え、社会インフラとして失格である。我が国日本の未来を託す価値はない。撤退こそが最も合理的な選択である。
 
3️⃣地方の抵抗と反グローバリズムの潮流
 
再エネが国家政策として押し付けられても、地方には抗う力がある。小樽市では2022年、天狗山スキー場近くに計画された風力発電が、住民や市議会の強い反発で撤回された。青森でも漁業者の反対が計画を修正させた。秋田でも漁協が同意しなければ事業は進まない。地方の意思は巨大資本や国策すら押し返す力を持つのだ。

HPで計画中止発表 小樽市・余市町にまたがる風力発電計画 地元の理解得られず…資材高騰も理由

そして今、反グローバリズムは世界の潮流となりつつある。一昔前は陰謀論と片付けられた言葉だったが、いまや米国では「アメリカ・ファースト」が政権の中枢を担い、欧州でも反グローバリズムを掲げる政党が議席を伸ばしている。英国のEU離脱(Brexit)はその象徴である。2024年のEU議会選挙では右派政党が躍進し、エネルギーや移民政策で国の針路を大きく動かした。

秋田が再エネ撤退を決断することは、単なる地域防衛にとどまらない。我が国日本がグローバリズムの呪縛から抜け出し、真に自立したエネルギー政策を打ち立てる突破口となる。地方の勇気ある行動が、政府の誤りを正し、我が国日本全体を正道へ導く力になるのだ。

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札幌デモが示した世界的潮流──鈴木知事批判は反グローバリズムの最前線 2025年9月23日
2025年9月の札幌デモでは、鈴木知事への批判を通じて反グローバリズムの潮流が鮮明になった。地方から始まる抵抗が、世界的な動きと響き合う様子を描いた。

移民・財政規律にすがった自民リベラル派──治安も経済も壊して、ついにおしまい 2025年9月21日
宏池会の変質、移民問題、反グローバリズムの潮流を総括。

アジア株高騰──バブル誤認と消費税増税で潰された黄金期を越え、AI・ロボット化で日本は真の黄金期を切り拓く 2025年9月17日
AI・ロボット化と現実的エネルギー政策で新黄金期を展望。

安倍暗殺から始まった日本政治の漂流──石破政権の暴走と保守再結集への狼煙 2025年8月2日
安倍元首相暗殺以降の地殻変動と保守再結集を論じる。

羊蹄山の危機:倶知安町違法開発が暴く環境破壊と行政の怠慢 2025年6月17日違法開発の経緯と道・町の対応を検証。

2025年9月19日金曜日

隠れインフレの正体──賃金が追いつかぬ日本を救うのは緊縮ではなく高圧経済だ


まとめ
  • 統計上は落ち着きを見せるが、パッケージ縮小や補助金縮小など「隠れインフレ」で生活コストは確実に上昇している。
  • 実質賃金は長期的にマイナスが続き、2025年5月▲2.9%、6月▲1.3%、7月▲0.2%(確報)、8月▲1.4%(速報)と依然厳しい。
  • 欧米では賃金上昇が物価に追いつきつつあるが、日本では遅れが顕著で、特に若年層や低所得層が打撃を受けている。
  • 「隠れインフレ」を口実にした金融引き締めや増税は誤りであり、日本経済をデフレ不況に逆戻りさせる危険がある。
  • 必要なのは高圧経済による金融緩和と積極財政の継続に加え、生活コストを直接和らげる補助や給付の二段構えである。

🔳統計に現れない「見えない物価高」
 
日本の物価統計は、表面上は落ち着いているように見える。総務省が発表した**2025年8月のコアCPIは前年比2.7%、コアコアCPIは3.3%**の上昇にとどまった。しかし庶民の実感はまったく違う。洗剤や食品のパッケージは小さくなり、外食の質は落ち、公共料金の補助は縮小される。数字に出にくいこれらの変化が、生活コストを着実に押し上げている。まさに「隠れインフレ」である。

見えないインフレは日本ても家計を直撃

街のスーパーで手に取った商品は、量が減っても値段は据え置きだ。即席麺は五個入りから四個入りへ、牛乳やパンも容量が縮んでいる。名目価格が変わらなくても実質的には値上げである。さらに電気やガス料金への補助縮小が家計を直撃する。庶民の財布をじわじわと削る「見えないインフレ」は現実の生活を圧迫している。
🔳賃金が追いつかぬ現実

問題は賃金が物価に追いついていないことだ。以下の表とグラフを見れば一目瞭然である。
データ表(更新済み)

月/年 コアCPI前年比 コアコアCPI前年比 名目賃金前年比 実質賃金前年比
2024-09 2.9% 3.4% 1.1% -2.0%
2024-10 2.8% 3.3% 1.5% -1.8%
2024-11 2.7% 3.2% 1.8% -1.6%
2024-12 2.8% 3.3% 2.0% -1.4%
2025-01 2.9% 3.4% 2.1% -1.2%
2025-02 2.8% 3.3% 2.2% -1.0%
2025-03 2.9% 3.4% 2.3% -0.8%
2025-04 2.8% 3.3% 2.5% -0.6%
2025-05 2.7% 3.2% 1.4%(確報) -2.9%
2025-06 2.8% 3.3% 3.5% -1.3%
2025-07 3.1% 3.4% 4.1% -0.2%(確報)
2025-08 2.7% 3.3% 3.2%(速報) -1.4%(速報)

図:CPI(コア/コアコア)と名目・実質賃金の推移(2024年9月〜2025年8月、出典:総務省・厚労省)

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実質賃金は長くマイナス圏に沈み、2025年5月には前年比▲2.9%と大幅に下落した。6月も▲1.3%、7月になってようやく+0.5%とプラスに見えたが、確報で▲0.2%に下方改定された。これは夏のボーナスによる一時的な効果にすぎない。基調として賃金が物価に追いついたわけではない。**8月も▲1.4%**と再び悪化し、生活実感との乖離が続いている。

欧米では賃金上昇が物価に近づきつつあるが、日本では実質賃金のマイナスが続いている。若い世代や低所得層では、食費と光熱費が家計の多くを占めるため、隠れインフレの打撃はさらに重い。
🔳緊縮の罠を避けよ

ここで警戒すべきは、隠れインフレを口実にした誤った処方箋である。財務省や日銀は「国民が物価高で苦しんでいる」と唱え、金融引き締めや増税を正当化しかねない。しかしこれは輸入インフレの実態を無視した欺瞞にすぎない。外因による物価高に引き締めで対抗すれば、内需は冷え込み、賃金は伸びず、生活苦はむしろ強まる。

金融引き締めを進める日銀の植田総裁

必要なのは逆だ。高圧経済の視点に立ち、金融緩和と積極財政を続け、経済をフル稼働させて賃金を押し上げることである。インフレが進んでも、雇用が悪化しない限り、経済はフル稼働させるべきなのだ。これは、アメリカではバイデン政権下のイエレン前財務長官が唱えた政策の下で、労働市場の逼迫が賃金上昇と生産性改善をもたらした。日本もまた、物価の抑制に固執するのではなく、雇用・賃金主導の成長へと舵を切るべき局面にある。

同時に、エネルギーや食料への補助、低所得世帯への給付など、生活コストを直接和らげる政策も不可欠だ。この二段構えの対応があって初めて、物価と賃金のバランスが取れ、国民生活を守ることができる。

日本の基調インフレは、欧米のコアCPIと同じ定義で見ても3%を超えている。国際的に見ても決して軽い水準ではない。統計と実感の乖離を冷静に直視しながらも、緊縮の罠に陥ることなく、成長と生活防衛を両立させる政策が求められている。

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2025年9月15日月曜日

長寿大国の崩壊を防げ──金融無策と投資放棄が国を滅ぼす

 

まとめ

  • 孤立死の増加、百寿者の過去最多更新、そして札幌で開かれた国際医療機器規制当局フォーラム──一見無関係な三つの出来事だが、背後には同じ構造問題が横たわっている。
  • 金融政策の誤解:名目金利の引き上げを「正常化」とするのは誤りであり、実質政策金利と自然利子率で判断すべきだ。現状の金融環境は需要を押し上げており、日銀はむしろさらなる緩和を行うべきである。
  • 投資不足が招いた惨状:八潮市の道路陥没、和歌山市の水管橋崩落、鎌倉市の断水など、インフラ老朽化による事故が相次ぐのは投資先送りの結果である。
  • 公共投資は資産形成:社会的割引率で評価すれば多くのインフラ投資は便益が費用を上回る。命を守るだけでなく、物流や生活を安定させ経済的な富を生む。
  • グローバル依存の危うさ:フリント市の鉛汚染や英国の下水問題が示すように、投資を怠れば社会は崩壊する。日本でも「貿易赤字=悪」という誤解が続くが、真の問題は医療やエネルギーの過度な海外依存である。
この数日のニュースは、日本の現状を鋭く映し出している。孤立死の増加、百歳を超える高齢者の過去最多更新、そして札幌での国際医療機器規制当局フォーラム。一見すれば無関係に見える三つの出来事だが、その根は同じである。金融と財政の政策不全、そしてグローバリズムの負の外部性という大問題だ。
 
🔳金融政策の誤解と投資不足が生む惨状

日銀がマイナス金利を解除し、政策金利を0.5%に上げたからといって「正常化」と呼ぶのは誤りである。世界標準の経済学では、実質政策金利と自然利子率の関係こそが重要だ。期待インフレが1%あれば、名目0.5%の金利は実質でマイナス0.5%となり、依然として景気を押し上げる条件にある。

さらに景気の過熱度を測るアウトプットギャップとは、実際の経済活動と潜在的な生産力の差を示す指標である。プラスなら需要超過で過熱気味、マイナスなら需要不足だ。日本では推計上プラスに転じたとされるが、失業率や賃金の伸びを見れば完全雇用には程遠い。信用スプレッドも大きく広がっておらず、資金は依然として流れている。つまり、日本の金融環境はまだ需要を押し上げる側にある。結論として言えるのは、日銀は利上げではなく、むしろさらなる緩和を行うべきだということだ。

一方で、必要な社会的投資は著しく不足している。八潮市では老朽化した下水道管が破裂し、大穴にトラックが転落して運転手が命を落とした。和歌山市の水管橋崩落による6日間の断水、鎌倉市の老朽管破裂による断水も記憶に新しい。国交省の統計では道路陥没は年間1万件規模に達する。これは「投資の先送り」の代償である。
 
🔳公共投資とグローバリズムの負の遺産
 
公共事業は「無駄」と決めつけられるが、社会的割引率(4%程度)を基準に費用便益比を算出すれば、多くのインフラ投資の便益は費用を上回る。道路や橋、上下水道の更新は命を守るだけでなく、経済的にも富をもたらす。物流が止まらなければ企業は稼ぎ続け、家庭に水が届けば生活は安定する。事故や災害を防げば医療費や復旧費も抑えられる。インフラ更新は「支出」ではなく「資産形成」である。

米国フリント市では、水道水が汚染された

海外の例を見れば、この真実は一層鮮明だ。2016年米国フリント市では腐食対策を怠り、水道水が鉛に汚染され数万人が被害を受けた。フリント市の水道事業は市が直接運営する公営事業でした。問題の発端は、財政難のフリント市がデトロイトからの水購入をやめ、自前のフリント川を水源としたことだ。

2023年英国では下水処理投資を怠った結果、未処理下水の放流が年間361万時間に達した。英国の水道・下水事業は1989年に全面ら民営化された。テムズ・ウォーターなど複数の大手水道会社が地域ごとに事業を担っているが、その多くは海外投資ファンドや外国資本に支配されているのが現状だ。利潤追求が優先され、老朽インフラへの再投資が不足した結果、2023年には未処理下水の放流が年間361万時間に達した。

いずれも「投資を怠った代償」である。同じ誤りは日本でも続いている。さらに日本では「貿易赤字は悪」という短絡思考がさらに事態を悪化させる可能性がある。現実には景気が良くなれば輸入は増えるが普通で、赤字は拡大する。ことさら赤字を問題にすれば、とんでもないことになりかねない。問題は赤字か黒字かではなく、中身と持続性である。とりわけインフラ、エネルギーや医療必需品の過度な海外依存こそが危険なのだ。

🔳国際会議が突きつける矛盾と日本の課題
 
IMDRFは、9月15日から19日まで札幌で開催される

札幌で開かれた国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)は、世界各国の規制当局が集まり、医療機器の安全基準や品質管理を議論する場である。日本が国際社会に責任ある参加をしている証でもある。

しかし、いくら立派な基準を世界と議論しても、国内の医療現場に資材や機器を安定供給できなければ意味はない。老朽化したインフラや脆弱な供給網を放置すれば、せっかくの国際会議も「絵に描いた餅」で終わる。IMDRFは、日本が国際舞台で役割を果たしつつ、国内の基盤整備を怠るという矛盾を突きつけている。

結論は明快だ。金融と財政を正しく噛み合わせ、地域の見守りや在宅医療の整備、人材の処遇改善、老朽化インフラの更新を急ぐべきである。同時に、医療必需品やエネルギー資源の一極依存を脱し、国内補完と分散調達を進めねばならない。

これらを怠ったまま「長寿社会」や「子育て支援」を語るのは虚しい。道路が陥没し、断水が続き、医療現場で防護具すら尽きる状況では、支援は砂上の楼閣だ。基盤が崩れれば、自由も責任も秩序も成立しない。

孤立死の増加も、百寿者の増大も、国際会議の開催も、すべては一つの問いに帰着する。社会の基盤を守る覚悟があるかどうかである。そして日銀は、景気を冷やすのではなく、さらなる緩和を通じて需要を支えなければならない。それをやり遂げて初めて、日本は「長寿大国の品位」と「真の豊かさ」を取り戻すのである。

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2025年9月13日土曜日

日本が世界を圧倒する──"レールガン+SMR"が東アジアの戦略地図を塗り替える


まとめ

  • 日本は2025年、実験艦でのレールガン射撃に成功し、11月にはさらなる成果が示される予定。
  • アメリカは開発を断念、中国・欧州・ロシアは停滞、日本だけが実用化へ前進。
  • レールガンは安価な電磁弾で飽和攻撃を防ぎ、防衛コストを劇的に下げる。
  • SMR統合により「電力=火力」の時代が到来、尖閣・台湾シナリオで圧倒的抑止力を発揮。
  • 日本は製造業比率・研究開発投資・産業統合力で優位性を確立。
🔳世界の停滞と日本の躍進
 
「あすか」に搭載されたレールガン。白い布で覆われている。

日本は2025年、実験艦「あすか」に試作レールガンを搭載し、海上射撃に成功した。標的艦への命中に加え、従来よりも遠距離射撃でも成果を上げ、その映像を公開した。装備は8〜9トン級で、今後は20メガジュール級を目指す。さらに11月の技術シンポジウムでは、射程延伸、連射性能向上、砲身寿命改善、電源効率化、さらには陸上配備構想まで、さらなる成果が示される予定だ。

これに対し、アメリカは2021年に開発を断念した。理由は砲身摩耗、発射頻度の低さ、艦艇の電力不足、そして莫大なコストである。欧州は「PILUM計画」で200キロ射程を掲げるが、まだ理論段階にとどまる。中国は艦載試験を進めていると報じられるが、耐久性や精度は不透明だ。ロシアも2010年代に小型試験を行ったが、制裁による部材不足で停滞している。各国が足踏みする中、日本だけが実用化に向け着実に歩を進めている。
 
🔳電力=火力の時代へ
 
レールガンの最大の強みは「火薬不要」である。高速弾を安価に撃ち出せ、敵の飽和攻撃を受けても持ちこたえられる。従来の防空は高額な迎撃ミサイル頼みだったが、これからは低コストで持続的な防御が可能になる。防衛コストを下げつつ、攻撃側には莫大な負担を強いる──この力学の逆転こそが抑止力を飛躍的に高めるのだ。
SMRの1ユニットはトレーラーで運搬できる

将来はSMR(小型モジュール原子炉)との統合が決定打となる。レールガンは莫大な電力を消費するが、SMRなら安定出力を長期間供給できる。両者を組み合わせれば、艦艇はレーザー兵器や大型センサーと同時運用でき、「電力=火力」の新時代が現実となる。エネルギー補給に頼らず戦い続けられる艦隊は、尖閣のグレーゾーンから台湾有事の長期戦まで、あらゆる局面で圧倒的な抑止力を発揮するだろう。

具体的なシナリオを描けばこうだ。尖閣では無人機や武装漁船に対し、非炸薬弾で警告射を浴びせ、低コストで消耗戦を制する。台湾有事では外縁に展開した艦艇が敵艦隊や無人機を次々と撃破し、決定打となるミサイルを温存できる。短期決戦にも長期戦にも対応できる「削り続ける力」を日本は手に入れるのだ。
 
🔳日本を支える産業と研究力
 
日本の優位性を支えるのは、単なる技術力ではない。まず、日本はGDPに占める製造業比率が20%前後と、米国(約11%)、EU(約15%)に比べても高い水準を維持している。とりわけ精密加工や特殊合金の分野では世界トップクラスであり、こうした産業基盤が電磁加速兵器の開発を支えている。

日本の製造業を支える精密加工の現場

さらに、日本は研究開発投資でも高い水準を誇る。OECDの統計によれば、日本の研究開発費のGDP比は約3.3%で、OECD諸国の中でも上位に位置する。中国は2.5〜2.8%程度で日本より低く、米国は日本とほぼ同水準か年によってやや上回る。つまり、日本は米中と比べても同等以上の研究開発集約度を持ち、世界の中でも確固たる地位にある。

重要なのは、単に資金を投じるだけでなく、基礎研究と応用研究を結びつけ、艦艇建造からエネルギーシステムまで一貫して統合する産業の結合力だ。この点で日本は、海外依存が強い米国、米国と同じく海外依存が強くかつ精密加工に弱点を抱える中国、制裁下で技術鎖国を余儀なくされるロシアとは対照的に、安定した開発力を維持できている。

レールガンが日本の安全保障にもたらす意味は明快だ。敵は「数千発のミサイルを撃っても安価な電磁弾に迎撃される」と悟り、日本への攻撃計画は根本から狂う。日本は「安く、深く、持続的に守る力」を手に入れ、東アジアの戦略バランスを一変させるのである。

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日本の防衛費増額とNATOの新戦略:米国圧力下での未来の安全保障 2025年7月12日
GDP比2%の防衛費増額計画とNATOの戦略を比較し、日本の安全保障の進路を論じた記事。

アングル:中国のミサイル戦力抑止、イランによるイスラエル攻撃が …(私の論評) 2024年10月17日
中国の飽和攻撃戦略をイラン・イスラエル紛争に重ね、日本にとっての抑止課題を分析した記事。

NATO、スウェーデンが加盟すれば「ソ連の海」で優位…潜水艦隊に自信―【私の論評】忘れてはならない! 海洋戦略の視点 2023年12月31日
北欧の安全保障環境の変化と海洋戦略の重要性を扱い、日本の防衛にも通じる視点を示した記事。  


【独自】海自潜水艦に1000キロ射程ミサイル…敵基地攻撃能力の具体化で検討―【私の論評】日本の潜水艦隊は、長射程巡航ミサイルを搭載し、さらに戦略的要素を強めることに 2021年12月30日
海自潜水艦に1000キロ射程ミサイル搭載を検討!敵基地攻撃能力の具体化で、日本の潜水艦隊は戦略的役割を一変させる。

2025年9月5日金曜日

ドイツで何が起きているのか──AfD支持者7人の突然死と“民主主義の危機

 
まとめ
  • ドイツ地方選でAfD候補者7人が死亡したが、制度や高齢化による偶然とされている。
  • AfDは不法移民や治安強化を訴え支持を拡大、2025年には支持率16〜22%、第一党の州も出現。
  • 既存政党はAfDを民主主義の敵とみなし批判、一方で市民運動が盛り上がるなど反応が分かれる。
  • AfDは全レベルの議会に議席を持ち、制度内部からの影響力強化を進めている。
  • AfDの台頭を「制度に挑戦する異端」と見なすのではなく、制度の再構築を促す歴史的な試金石と捉えるべき

🔳AfD候補者の連続死と選挙制度の構造的背景
 
2025年9月、ノルトライン=ヴェストファーレン州の地方選挙を目前にして、AfD(ドイツのための選択肢)の候補者や予備候補が13日間で7名も死亡する事件が発生し、驚きと衝撃をもたらした。最初は6名と報じられたが、自然死とされた1名が追加され、合計7名となった。そのうち本選候補者は4名、補欠候補者2名、そして長期療養中の80歳の候補者が1名皿に加わるという構成である。公式発表によれば、死因はすべて自然死、既往症、自殺とされ、警察や選挙管理当局も他殺の痕跡は認めなかった。しかしその連続性の強烈さは、SNSやメディアに陰謀論的な反応を引き起こし、政治的な不安を煽ったことも事実だ。

だが、この事態の裏側には、ドイツの地方議会制度の都議選などとは単純比較できない特徴がある。多くの地方議員は報酬の低い非常勤の名誉職であり、その大半は高齢の定年世代や自営業者で構成されている。立候補者総数は約2万人にのぼり、その中で死亡したのは16名。そのうちAfD所属は7名という事実は、選管も「統計的には異常とはいえない」と評価しているにもかかわらず、死者名が投票用紙や郵送票に含まれていたため、印刷の差し替え、投票の無効再処理や補欠選挙の検討といった実務上の混乱を引き起こしてしまった。冷静さを訴えた州副代表ケイ・ゴットシャルク氏と、「統計的にあり得ない」と発言した全国代表アリス・ワイデル氏とのやりとりは、この事件の政治的緊張を物語っている。

🔳支持構造の厚みと既成政党の対応
 
AfD共同代表アリス・エリーザベト・ワイデル

AfDが掲げる政策には、不法移民の制限、EU官僚主義への批判、原発再稼働/エネルギー価格安定、伝統的家族観の強調、治安強化など、現実に根ざした争点が含まれている。かつて「過激」と嘲笑されたそれらが、市井の実感と結びつき、旧東ドイツ地域や地方都市、更には学歴が高くない層や18歳から44歳の若年層からの支持を急速に得ている。2021年の連邦選挙支持率が10.3%だったのに対し、2025年には16%から22%に達し、東部では第一党にまで上昇した(2025年2月23日の連邦選では20.8%を得票)(ニューヨーク・ポスト, ウィキペディア, AP News, ガーディアン)。

この躍進に対し、SPD(連立与党第一党)や緑の党(中道左派、2025年2月の選挙以降、野党に転じた)はAfDの政策を「民主主義への脅威」として批判を強めている。一方CDUは選挙戦略として右寄りの姿勢を取り、AfD支持層の一部を取り込もうとしている。だが、この対抗姿勢がかえってAfDの主張に正統性を与えてしまう面もある。市民側からは「#BleibOffen(開かれた社会であれ)」というムーブメントが広がり、多様性と民主主義の価値を守ろうとする流れも拡大している。

AfDは2024年の欧州議会選において15.9%という結果を得て連邦第二党となり、党員数も2023年から60%増加し約4万7千人となった(Reuters)。さらに2025年にはアリス・ワイデル氏が党首候補を務めるというかたちで、AfDが制度の内部で存在感を高めてきたことが明確になった。

🔳欧州右派再編の震源としてのAfD
 
ヨーロッパ3大国(黄色)

ヨーロッパ三大国において、AfDほど制度内で影響力を保持する右派政党はほかにない。フランスのRNは欧州市場で結果を出したが議会ではやや勢いを欠き、英国のReform UKは支持率10%でも議席に結びついていない。これに対しAfDは比例代表を活かし、連邦議会・欧州議会・州議会に議席を持ち、制度の中で確実に存在し続けている。Reutersによれば、ドイツ国内情報機関はAfDを「過激主義的」と分類し、監視の対象としたことで物議を醸した(Reuters)。さらにその後、裁判所の判断によりその分類は一時保留されるなど、議論の渦中にある(Reuters)。

国際メディアはAfDの台頭を民主主義の分断として捉えている。Guardianは若年層や地域分断に注目し(ガーディアン)、WSJは欧州右派再編の中心としてAfDを描いた(ウォール・ストリート・ジャーナル)。FT(フィナンシャルタイムズ)は若者への入り口としてのSNS活用を評価し、Reutersは移民政策と地域の現実の乖離こそAfD支持の根深さと位置づけた(ガーディアン, Reuters)。

この事件は、単なる候補者の不幸や悲劇として片づけられるべきではない。AfD(ドイツのための選択肢)は、グローバリズムと移民政策に疲弊したドイツ国民の「声なき声」をすくい上げ、腐敗し硬直化したエリート主導の政治体制に真正面から異議を唱えてきた。いまやAfDは、現実政治に働きかける政党へと変貌し、既成政党が目を逸らしてきた「不都合な真実」を代弁する存在となった。

こうした動きを単に「過激」「極右」とレッテルを貼り、制度の外に排除することは、民主主義の破壊行為そのものである。むしろ、AfDの台頭こそが体制の病理を照らし出し、いまドイツ社会に求められている本質的な変化の兆しと見るべきだ。既得権層がこの現実から目を背け、言論封殺や社会的抹殺で対抗すれば、それは民主主義の名を借りた「リベラル独裁」に他ならない。

この構図は、実はわが国・日本においても他人事ではない。国民の多数が望む保守的価値観(家族、国柄、安全保障、伝統)に反し、少数のイデオロギー集団がメディアと官僚制を通じて政策を捻じ曲げている構図は、奇しくも現在のドイツと酷似している。政治家や評論家が「国民が間違っている」と言わんばかりの姿勢を見せる限り、同じように“正統な保守勢力”の排除が進み、やがて同様の悲劇的な摩擦が生じることを我々は覚悟すべきだ。

民主主義とは、国民を“啓蒙する”ことではない。国民の意志を制度に反映させる“誠実な媒介装置”でなければならない。AfDの台頭を「制度に挑戦する異端」と見なすのではなく、制度の再構築を促す歴史的な試金石と捉えること。それこそが今、ドイツ、そして我が国・日本においても問われている姿勢である。

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ドイツが常設部隊をバルト三国に配置した意義を、NATO戦略や地政学の観点から解説。ロシアの侵略行動が引き起こした防衛意識の変化を追う。

ドイツが大規模財政出動へと舵を切った背景を分析し、安倍政権時代の政策と比較。緊縮に囚われ続ける日本との違いに警鐘を鳴らす。

ドイツ、移民政策厳格化の決議案可決 — 私の論評:2025年ドイツ政治の激変―AfD台頭と欧州保守主義の新潮流 2025年1月31日
最大野党CDUがAfDに歩み寄る形で移民政策厳格化案を支持したことで、ドイツ政治に大きな転換点が訪れたことを解説。移民に寛容だった体制の再構築と、欧州全体の保守化の流れも分析。

東ドイツ地域でAfDが支持を拡大している背景に、産業空洞化・物価高・エネルギー政策の失敗など経済問題を重視。西側エリート層との断絶も指摘。

変化が始まったEU、欧州議会選挙の連鎖は続くのか? ― 私の論評:日本メディアの用語使用に疑問、欧州の保守政党を"極右"と呼ぶ偏見 2024年6月21日
欧州で拡大する保守政党の連携や政策協調を紹介しながら、日本の報道がしばしば「極右」とラベリングすることへの疑義を呈した記事。

2025年8月21日木曜日

製造業PMI49.9の真実──外部環境ではなく政策の誤りが経済を蝕む


まとめ

  • 製造業PMIが49.9となり、2カ月連続で縮小。輸出受注は17カ月ぶりの低水準に沈み、世界経済の減速や円高、コスト高が重なり製造業を直撃している。
  • 外部要因以上に国内政策が深刻。日銀は金利を高止まりさせ円高を招き、銀行はリスクを避けて中小企業や新産業への資金供給を怠り、低金利でも資金が実体経済に届かない。
  • 財政政策も失策。防衛費や社会保障に偏重し、成長を支える公共投資や法人減税は後回し。消費税・社会保険料の重負担が内需を冷やし、研究開発支援も不足している。
  • エネルギー政策の迷走。再エネ偏重投資と原発再稼働の遅れで電力コストが高騰し、企業は国内投資を避けて海外へ拠点を移し、産業空洞化を招いている。
  • 安倍政権期との差が決定的。異次元緩和や公共投資、法人減税で外部ショックを和らげた当時とは対照的に、現政権は外部要因を逆に増幅させ、経済の体力を奪っている。

🔳製造業PMI49.9が突きつけた現実
 

2025年8月、日本の製造業活動を示すPMI(購買担当者景気指数)の速報値は49.9となった。50を下回れば縮小を意味する。二カ月連続の縮小であり、景況感が悪化していることは明白だ。

直近のPMI推移を見ると、2025年春先には急落した後、持ち直しつつも依然として50を下回る局面が続いていることが分かる。7月に一時50.0まで回復したものの、8月には再び49.9へと縮小領域に戻った。つまり、日本の製造業は「底打ち感が出ては後退する」という不安定な状態にあり、構造的な弱さが数字に現れている。

今回の数字で際立つのは輸出の落ち込みだ。新規輸出受注は17カ月ぶりの低水準に沈んだ。背景には世界経済の減速がある。アメリカや欧州で需要が鈍り、日本の主力輸出品である自動車や電子部品に冷たい風が吹いている。そこへ追い打ちをかけるのがトランプ政権による通商政策の不透明さであり、さらに円高傾向が輸出採算を直撃している。加えて原材料費や人件費の高騰、物流の混乱といった国内要因が企業の体力を削っている。

製造業は日本経済の柱である。その縮小が続けば、設備投資は鈍り、雇用は減少し、景気全体を押し下げる。もはや単なる統計数字ではなく、日本経済の行方を左右する危険信号である。

🔳外部要因以上に深刻な国内政策の失敗
 
ただし問題の核心は、外部環境よりも国内の政策にある。日銀は「物価安定」を掲げながら金利を高めに維持し、円高を招いている。欧米が景気減速に合わせて緩和的な政策をとるなか、日本だけが逆行している。これでは輸出依存度の高い製造業が打撃を受けるのは当然だ。


さらに問題なのは、低金利の環境にあるはずなのに企業への資金供給が滞っている点だ。銀行は自己資本規制に縛られリスクを取らず、国債や大企業向け融資に偏重する。新規事業や中小企業への融資は後回しにされ、ベンチャー企業や成長産業には資金が流れない。低金利でも資金が回らなければ、設備投資も研究開発も停滞する。日銀の金融政策は「蛇口を開いたのに水が流れない」状態に陥っており、実体経済に届かないのだ。

財政政策も同様だ。防衛費や社会保障費が膨張する一方、成長を下支えする投資や法人減税は後回しにされてきた。その結果、製造業は研究開発支援も税制優遇も十分に受けられない。消費税や社会保険料の重荷は内需を冷やし、国内市場までも痩せ細らせている。

エネルギー政策の迷走も深刻だ。再生可能エネルギーに偏重投資しながら、採算性も安定供給力もないまま進めた結果、電力コストは高止まりしている。さらに原発再稼働は政治的理由で遅れ、安定した電源が確保できない。エネルギーが不安定で高コストであれば、企業は国内投資をためらい、生産拠点を海外に移すのは当然だ。これが日本の産業基盤を空洞化させている。

AIや半導体、そしてエネルギー産業といった国家の未来を担う分野への投資も不十分であり、日本は世界の成長潮流に取り残されつつある。PMI49.9という数字は、こうした政策の失敗が積み重なった帰結にほかならない。

🔳安倍政権との比較と「数字を複数で読む」視点

思い起こされるのは安倍政権時代だ。2014年から2016年にかけて、世界経済の減速と原油安で輸出は停滞し、PMIが50を割る場面もあった。だが当時は「異次元緩和」と呼ばれる金融政策を展開し、量的・質的緩和やマイナス金利政策によって長期金利を押し下げた。結果として円は1ドル=80円台から120円台へと進み、輸出企業の収益を支えた。さらに公共投資や法人減税も実施され、政策が外部ショックを緩和する役割を果たした。

日銀黒田総裁と安倍首相(当時)

ところが現在の石破政権下では逆の構図になっている。金利は相対的に高止まりし、円は強含みで、輸出企業の競争力を削いでいる。財政も防衛費と社会保障費に偏り、成長分野への投資は置き去りにされたままだ。外的要因を和らげるどころか、逆に増幅させているのである。

ここで忘れてはならないのは「数字を一つだけ見てはいけない」ということだ。マスコミはPMI49.9という数値を取り上げ、「縮小だ」とだけ報じる。しかし実態を知るには複数の数字を合わせて見る必要がある。新規輸出受注が17カ月ぶりの低水準に落ち込んでいること、円相場が円高に振れていること、企業物価指数(PPI)が高止まりし、消費者物価指数(CPI)が家計を圧迫していること。これらを突き合わせると、単なる景況感の悪化ではなく、政策の誤りが外部ショックを拡大させている姿が浮かび上がる。

結論は明快である。今回のPMI49.9は「外部要因の影響を受けた一時的な落ち込み」ではない。国内の金融・財政政策の失敗が、日本経済の体力を奪い、外的ショックを深刻化させているのである。安倍政権時代に可能だった「政策で緩衝材を作る」という発想は今や影も形もない。数字を複数組み合わせて読むことで、その深刻さは誰の目にも明らかだ。

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