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2025年8月21日木曜日

製造業PMI49.9の真実──外部環境ではなく政策の誤りが経済を蝕む


まとめ

  • 製造業PMIが49.9となり、2カ月連続で縮小。輸出受注は17カ月ぶりの低水準に沈み、世界経済の減速や円高、コスト高が重なり製造業を直撃している。
  • 外部要因以上に国内政策が深刻。日銀は金利を高止まりさせ円高を招き、銀行はリスクを避けて中小企業や新産業への資金供給を怠り、低金利でも資金が実体経済に届かない。
  • 財政政策も失策。防衛費や社会保障に偏重し、成長を支える公共投資や法人減税は後回し。消費税・社会保険料の重負担が内需を冷やし、研究開発支援も不足している。
  • エネルギー政策の迷走。再エネ偏重投資と原発再稼働の遅れで電力コストが高騰し、企業は国内投資を避けて海外へ拠点を移し、産業空洞化を招いている。
  • 安倍政権期との差が決定的。異次元緩和や公共投資、法人減税で外部ショックを和らげた当時とは対照的に、現政権は外部要因を逆に増幅させ、経済の体力を奪っている。

🔳製造業PMI49.9が突きつけた現実
 

2025年8月、日本の製造業活動を示すPMI(購買担当者景気指数)の速報値は49.9となった。50を下回れば縮小を意味する。二カ月連続の縮小であり、景況感が悪化していることは明白だ。

直近のPMI推移を見ると、2025年春先には急落した後、持ち直しつつも依然として50を下回る局面が続いていることが分かる。7月に一時50.0まで回復したものの、8月には再び49.9へと縮小領域に戻った。つまり、日本の製造業は「底打ち感が出ては後退する」という不安定な状態にあり、構造的な弱さが数字に現れている。

今回の数字で際立つのは輸出の落ち込みだ。新規輸出受注は17カ月ぶりの低水準に沈んだ。背景には世界経済の減速がある。アメリカや欧州で需要が鈍り、日本の主力輸出品である自動車や電子部品に冷たい風が吹いている。そこへ追い打ちをかけるのがトランプ政権による通商政策の不透明さであり、さらに円高傾向が輸出採算を直撃している。加えて原材料費や人件費の高騰、物流の混乱といった国内要因が企業の体力を削っている。

製造業は日本経済の柱である。その縮小が続けば、設備投資は鈍り、雇用は減少し、景気全体を押し下げる。もはや単なる統計数字ではなく、日本経済の行方を左右する危険信号である。

🔳外部要因以上に深刻な国内政策の失敗
 
ただし問題の核心は、外部環境よりも国内の政策にある。日銀は「物価安定」を掲げながら金利を高めに維持し、円高を招いている。欧米が景気減速に合わせて緩和的な政策をとるなか、日本だけが逆行している。これでは輸出依存度の高い製造業が打撃を受けるのは当然だ。


さらに問題なのは、低金利の環境にあるはずなのに企業への資金供給が滞っている点だ。銀行は自己資本規制に縛られリスクを取らず、国債や大企業向け融資に偏重する。新規事業や中小企業への融資は後回しにされ、ベンチャー企業や成長産業には資金が流れない。低金利でも資金が回らなければ、設備投資も研究開発も停滞する。日銀の金融政策は「蛇口を開いたのに水が流れない」状態に陥っており、実体経済に届かないのだ。

財政政策も同様だ。防衛費や社会保障費が膨張する一方、成長を下支えする投資や法人減税は後回しにされてきた。その結果、製造業は研究開発支援も税制優遇も十分に受けられない。消費税や社会保険料の重荷は内需を冷やし、国内市場までも痩せ細らせている。

エネルギー政策の迷走も深刻だ。再生可能エネルギーに偏重投資しながら、採算性も安定供給力もないまま進めた結果、電力コストは高止まりしている。さらに原発再稼働は政治的理由で遅れ、安定した電源が確保できない。エネルギーが不安定で高コストであれば、企業は国内投資をためらい、生産拠点を海外に移すのは当然だ。これが日本の産業基盤を空洞化させている。

AIや半導体、そしてエネルギー産業といった国家の未来を担う分野への投資も不十分であり、日本は世界の成長潮流に取り残されつつある。PMI49.9という数字は、こうした政策の失敗が積み重なった帰結にほかならない。

🔳安倍政権との比較と「数字を複数で読む」視点

思い起こされるのは安倍政権時代だ。2014年から2016年にかけて、世界経済の減速と原油安で輸出は停滞し、PMIが50を割る場面もあった。だが当時は「異次元緩和」と呼ばれる金融政策を展開し、量的・質的緩和やマイナス金利政策によって長期金利を押し下げた。結果として円は1ドル=80円台から120円台へと進み、輸出企業の収益を支えた。さらに公共投資や法人減税も実施され、政策が外部ショックを緩和する役割を果たした。

日銀黒田総裁と安倍首相(当時)

ところが現在の石破政権下では逆の構図になっている。金利は相対的に高止まりし、円は強含みで、輸出企業の競争力を削いでいる。財政も防衛費と社会保障費に偏り、成長分野への投資は置き去りにされたままだ。外的要因を和らげるどころか、逆に増幅させているのである。

ここで忘れてはならないのは「数字を一つだけ見てはいけない」ということだ。マスコミはPMI49.9という数値を取り上げ、「縮小だ」とだけ報じる。しかし実態を知るには複数の数字を合わせて見る必要がある。新規輸出受注が17カ月ぶりの低水準に落ち込んでいること、円相場が円高に振れていること、企業物価指数(PPI)が高止まりし、消費者物価指数(CPI)が家計を圧迫していること。これらを突き合わせると、単なる景況感の悪化ではなく、政策の誤りが外部ショックを拡大させている姿が浮かび上がる。

結論は明快である。今回のPMI49.9は「外部要因の影響を受けた一時的な落ち込み」ではない。国内の金融・財政政策の失敗が、日本経済の体力を奪い、外的ショックを深刻化させているのである。安倍政権時代に可能だった「政策で緩衝材を作る」という発想は今や影も形もない。数字を複数組み合わせて読むことで、その深刻さは誰の目にも明らかだ。

【関連記事】

今回のPMI低迷の背景には、金融政策や財政運営の誤り、通商交渉の失策、そしてエネルギー政策の迷走が絡み合っています。より深い理解のために、以下の記事もぜひご覧ください。

減税と積極財政は国家を救う──歴史が語る“経済の常識”  2025年7月25日
拡張的財政政策の歴史的根拠を示し、今の日本が取るべき方向性を説いています。

景気を殺して国が守れるか──日銀の愚策を許すな  2025年8月12日
日銀の金融政策が景気を冷やす構造的問題を明らかにし、政策転換の必要性を訴えています。

日米関税交渉親中の末路は韓国の二の舞──石破政権の保守派排除が招く交渉崩壊  2025年8月8日
通商交渉の弱体化が製造業を直撃するリスクを分析しています。

トランプ半導体300%関税の衝撃、日本が学ぶべき『荒療治』 2025年8月4日
米国の通商政策の転換点と、それにどう対応すべきかを論じています。

日本経済を救う鍵は消費税減税! 石破首相の給付金政策を徹底検証  2025年6月19日
財政刺激策の比較を通じて、消費税減税の効果を検証しています。

2025年8月12日火曜日

景気を殺して国が守れるか──日銀の愚策を許すな


まとめ

  • 斎藤経済政策担当副委員長の「性急な利上げ回避」発言は国際標準のマクロ経済学的にみても妥当であり、政治介入ではない。
  • 白川総裁時代までの日銀は教条的に利上げを繰り返しデフレを長期化させ、黒川総裁時代は一時改善されたものの、昨年(2024年)も短期金利・長期金利上限を引き上げる政策ミスを犯した。
  • コアコアCPIは2%前後で、その多くが外的要因によるため、インフレ率2%での即利上げは不要。高圧経済の観点からは4%程度までは容認し、雇用や賃金動向を見極めるべきである。
  • 条件付きの追加緩和で労働市場を加熱させ、デフレマインドを完全に払拭することが経済安定に不可欠である。
  • 米中対立や台湾有事リスクなど地政学的リスク下で景気を冷やせば防衛力・経済安全保障が弱体化するため、金融政策は国際情勢も踏まえて運営すべきである。
最近、金融政策を巡る論争が政界・日銀双方で再び熱を帯びている。米国の関税政策や世界的なインフレの動きが日本経済に波及する中、利上げの是非をめぐる意見が交錯している。しかし、この議論には本質的な視点が欠けている。それは、我が国の金融政策が過去に何度も犯してきた「教条的で理由なき利上げ」の誤りを繰り返してはならないという一点だ。本稿では、国際標準のマクロ経済学の立場から、なぜ今の日本が利上げをすべき局面ではないのかを、経済と地政学の両面から論じる。
 
🔳教条的利上げの歴史と昨年の誤り
 
斎藤経済政策担当副委員長

自民党の斎藤経済政策担当副委員長は、ロイターへのインタビュー(2025年8月6日配信)で「米国の関税が日本経済に与える影響を踏まえ、性急な利上げは避けるべきだ」と明言した。このような発言を「政治介入」と批判する声もあるが、国際標準のマクロ経済学的観点から見れば、むしろ極めて正当な見解である。

本来、矛先を向けるべきはこうした慎重論ではなく、日銀が歴史的に繰り返してきた教条的で理由なき利上げの姿勢だ。白川総裁時代までは景気や雇用の実態を顧みず、引き締めを優先した結果、デフレを長期化させた。黒田総裁による異次元緩和でようやく正常な政策が導入されたが、現植田日銀総裁は、昨年(2024年)には短期金利をマイナス0.1%からゼロ%へ、長期金利の上限も0.5%から1%へと引き上げた。これは供給ショックによる一時的な物価上昇を景気過熱と誤認したものであり、明らかな政策ミスである。

🔳 利上げ不要の経済的根拠と高圧経済の必要性
 
植田日銀総裁

足元のコアコアCPI(生鮮食品・エネルギー除く)は前年比でおおむね2%前後を推移している。その大半は輸入エネルギーや食料品の価格上昇といった外的要因に起因し、国内需要の過熱とは性質が異なる。こうした供給サイド要因に対しては、金利引き上げではなく財政出動や規制緩和で対応するのが筋である。

米FRBのブレナード元副議長は、供給ショックによる一時的インフレに過剰反応せず、雇用と成長を優先すべきだと繰り返し説いた。日銀の昨年の利上げは、この教訓を無視した拙速な判断だった。

さらに、高圧経済の観点から言えば、インフレ率が2%に達したからといって即座に引き締めるべきではない。4%程度まで容認し、雇用統計や賃金上昇の持続性を見極めながら利上げ時期を判断すべきである。この間に条件付きの追加緩和を実施し、労働市場を加熱させて長年染み付いたデフレマインドを完全に払拭する必要がある。
 
🔳地政学的リスクと金融政策の戦略的運営
 
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世界は今、米中対立、台湾有事の危機、ウクライナ戦争、中東情勢の不安定化など、多重の地政学的リスクに覆われている。これらは日本のエネルギー供給や貿易を直撃し、経済・安全保障両面の脆弱性を高める。こうした状況で国内経済を冷やす利上げを行えば、税収基盤は縮小し、防衛力強化や経済安全保障政策の遂行が困難になる。

経済力は国防力の基礎である。景気をいたずらに冷やせば、我が国は国際競争力と安全保障の両方を失いかねない。金融政策は物価や金利だけでなく、国際情勢と実体経済を総合的に踏まえて運営されるべきだ。

現在の日本は、利上げが不要どころか、条件付きの追加緩和を検討すべき局面にある。供給ショック(原油高や食料価格高騰など、供給側の制約で物価が上がる現象)は、金利を上げても解決しない。むしろ利上げで景気を冷やすだけで、副作用が大きい。こうした場合は、政府が財政出動(補助金や減税)や規制緩和で直接コストを下げる政策を行うべきだ。また、為替の急変動は金融政策ではなく、為替介入や通貨スワップなど財務省の権限で対処すべき領域である。

供給ショックや為替変動を理由に日銀が利上げに動くのは、本来の役割を逸脱した誤りだ。日銀は、過去の教条的誤りを繰り返すのではなく、経済成長と防衛力強化を同時に実現する戦略的金融運営へ舵を切らなければならない。それが、我が国の未来を守る唯一の道である。

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【日米関税交渉】親中の末路は韓国の二の舞──石破政権の保守派排除が招く交渉崩壊 2025年8月8日
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2025年7月31日木曜日

西欧の移民政策はすべて失敗した──日本が今すぐ学ぶべき“移民5%と10%の壁”

 まとめ

  • 日本の外国人比率は2040年に10%を超えると予測されており、その前段階として2030年頃に5%を突破する見込みがある。
  • 欧州では移民比率が5%を超えた段階から社会的摩擦や治安悪化が発生し、10%を超えると構造的な崩壊が進んだ。
  • スウェーデン、フランス、ドイツはいずれも移民政策に失敗し、暴動、テロ、無法地域の形成など深刻な社会混乱を経験している。
  • EUは地域統合の成功体験を移民統合に誤って適用したが、制度では文化・宗教の断絶を克服できなかった。
  • 日本は「共生」を唱える前に、“何を拒むか”という覚悟と選択が迫られており、これは国家存続の問題である。


迫り来る「移民10%社会」の現実
 
2025年7月30日、鈴木馨祐法相は日本記者クラブでの会見において、日本の外国人比率が2040年までに10%を超える見通しを示した。これは、国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)が以前示していた「2070年代に10%到達」という推計を30年以上も前倒しする内容である。

すでに2024年末、在留外国人は約377万人に達し、総人口の約3%を占めている。政府は有識者による推計をもとに、今後さらに詳細な報告書を公表する予定だ。

鈴木馨祐法相

この数字の意味するところは深い。2040年に「10人に1人が外国人」になる日本とは、文化や宗教、価値観の異なる集団が日常的に定着する社会である。同時に65歳以上の高齢者が総人口の3割を超え、労働年齢人口が急減するという人口構造の激変に直面する中での変化だ。

そして、より現実的に警戒すべきは、移民比率5%の突破が目前に迫っているという事実である。IPSSや法務省、総務省の統計に基づけば、現行ペースが継続した場合、2030年頃には外国人比率が5%に到達するとの見方が出ている。これは、在留外国人が約640万人前後にまで膨らむ計算であり、人口減少の影響も加味すればさらに早まる可能性もある。

この「5%」という水準は、単なる通過点ではない。欧州各国の経験が示しているのは、移民比率が5%を超えたあたりから、地域社会における摩擦や治安悪化が明確に顕在化し始めるという現実である。つまり、日本は今後数年のうちに、そうした社会的転換点に踏み込む可能性が高いということだ。
 
移民比率5%超で始まる“崩壊の序章”
 
この警戒ラインを裏付ける事例は、欧州に山ほどある。スウェーデンでは、外国生まれの人口がすでに20%を超えており、移民比率が5%を超えた2000年代初頭から都市部での治安悪化が始まった。2023年には移民ギャングによる爆発事件や銃撃が頻発し、政府はついに「移民政策の失敗」を公式に認めた。

黙殺されたケルンの集団性的暴行に抗議する女性

フランスでも、2005年のパリ郊外暴動や、その後に続いたイスラム過激派によるテロは、移民比率が8〜9%だった時点で発生している。ドイツでは2015年の難民急増時に12%を超え、ケルンでの集団性暴行事件を機に、移民への不信が一気に噴出した。いずれの国でも、5〜10%台で社会秩序が崩れ始め、無法地帯や“並行社会”が形成されていった。

EUの幻想と、日本が選ぶべき道
 
なぜ欧州はこのような破綻を招いたのか。その根底には、EUが成功体験を移民政策に誤って応用した過信がある。冷戦後、法と市場での地域統合に成功したEUは、「異なる民族や宗教とも制度さえ整えば共生できる」と錯覚した。だが、それは同質文化圏における限定的な成功を、無理に普遍化したにすぎなかった。

イスラム圏やアフリカからの移民は、言語も文化も価値観も大きく異なる。制度が整っていても、衝突は避けられなかった。暴動、治安崩壊、無法地域、福祉制度の圧迫──これらはすべて「共生幻想」の末路である。


そして決定的な事実がある。西欧には、移民政策に成功した国は一つも存在しない。スウェーデンの福祉国家も、フランスの理念も、ドイツの法秩序も、軒並み崩れ去った。理念では国家は守れない。守るべきは現実である。

2040年、日本は外国人比率10%という“臨界点”を迎える前に、2030年という“入口の警告”を迎える。移民比率5%という「危険水域」に突入するその時、日本はどう動くのか。今問うべきは、「どう共生するか」ではない。「何を拒むか」である。

この国が生き延びるか、静かに崩れていくか。その分岐は、すでに数年後に迫っている。これは理屈ではない。現実と覚悟の問題である。国家の存亡を決する問いが、いま眼前にある。
参院選2025で「外国人問題」が大争点に!国民の怒りが噴出、メディアは沈黙?読売新聞が挑んだ「規制と共生」の議論。 

大阪における中国人移民の急増と民泊・不法滞在の実態を暴露し、治安や地域社会への深刻な影響を指摘している。

川口クルド人出稼ぎ断定、20年前に封印…日弁連が問題視(2024年11月)
トルコ出身クルド人の難民申請を「出稼ぎ」と断定した報告書の存在を報告し、制度の構造的問題を鋭く描いている。

ドイツの移民政策失敗から学ぶ日本の未来:治安悪化と文化喪失への警鐘(2024年6月23日)
日本は、自国の利益と国民の安全を最優先する政策を堅持すべきドイツの二の舞を演じないためにも、日本の未来を守る正しい選択をすべき。

【移民ショック】ドイツ女性集団わいせつ、容疑者18人が難民申請者…メルケル首相の寛容策に逆風「駅前の秩序も保てず」―移民・難民問題は対岸の火事ではない(2016年1月9日)
ドイツ西部ケルンで昨年の大みそかに多くの女性が移民系とされる男の集団に襲われる事件が起き、容疑者に難民申請者が含まれていることが判明、移民な問題は、日本にとって対岸の火事ではない。 

#移民政策 #日本の危機 #西欧の失敗から学べ

2025年7月20日日曜日

理念の名を借りた利権構造──日本だけが暴走するLGBT政策の真実

まとめ
  • 日本のLGBT理解増進法は、欧米諸国や台湾に比べても突出して急進的かつ拙速に導入されており、教育現場への影響が懸念されている。
  • 欧米では未成年の性転換治療に対する見直しが進んでおり、イギリスのタヴィストック・クリニック閉鎖やスウェーデン・フィンランドの方針転換がその象徴である。
  • 保守層は、この法律の裏に「公金チューチュー」的な利権構造が存在すると警戒しており、百田尚樹氏の日本保守党設立もこの危機感に基づく。
  • 台湾では「ジェンダーレス」ではなく「男女平等」を原則とし、実用性重視のトイレ制度(ポッティ・パリティ)など現実的な対応を取っている。
  • 今回の参院選に限らず、今後のすべての選挙で制度の中身と背後の利権構造を見抜く「有権者の目利き力」が問われている。

拙速すぎたLGBT理解増進法──日本だけが突出する危うさ
 
文部科学省は近年、「多様性の尊重」や「ジェンダー平等」といった理念を掲げ、教育現場に新たな指導方針を導入しつつある。これは単なる理念ではなく、具体的な制度としてすでに実行段階に入っている。令和4年12月には「生徒指導提要」が改訂され、性的指向や性自認に関する配慮が制服、更衣室、宿泊行事などに明記された。さらに令和5年6月、国会で「LGBT理解増進法」が成立。文科省は教職員の研修や相談体制の整備を全国の教育委員会に要請している。

だが、保守層からは「子どもへの過剰な性教育」「家庭の教育権の侵害」といった懸念の声が相次いでいる。こうした拙速な導入は、日本にとって決して無害ではない。欧米ではすでに、同様の流れが深刻な社会問題を引き起こしている。

イギリスでは、未成年への性別移行治療を行っていた「タヴィストック・クリニック」が2023年に閉鎖された。安易に思春期ブロッカーを処方し、後に後悔した若者たちが集団訴訟を起こしたことが引き金となった。スウェーデンでは2021年、カロリンスカ大学病院が18歳未満へのホルモン療法を原則中止。フィンランドも2020年、ガイドラインを改定し「心理的支援の優先」を明記した。

米フロリダ州では「教育現場での親の権利」により保護者の同意なく子どもに性自認を教えることを制限

アメリカでも連邦レベルでLGBT教育を義務づける法律は存在しない。各州に委ねられ、たとえばフロリダ州では2022年に成立した「Parental Rights in Education(いわゆる“Don’t Say Gay”法)」が、保護者の同意なく子どもに性自認を教えることを制限している。

アジアに目を向ければ、同性婚を合法化した台湾ですら、日本のような全国一律の「LGBT理解増進法」は存在しない。法整備は限定的で、教育現場への介入は見られない。日本は、世界でも例を見ないほど“理念先行”の道を突き進んでいるのだ。


理念の裏で進む利権構造──保守層が憂える「公金チューチュー」

 
このような制度の急進化に、保守派は強く反発している。作家の百田尚樹氏は、「この法律の成立は、自民党が左に大きく傾いた証だ」と断じ、LGBT理解増進法に対する危機感から日本保守党の設立を決意した。氏は「言論の自由を脅かす悪法」と位置づけ、その撤廃を訴えている。杉田水脈氏、小野田紀美氏といった議員たちも、法案の曖昧さや恣意的運用の危険性を早くから警告していた。

さらに深刻なのは、「理解増進」という名目のもとで進行している利権構造だ。実際、各自治体がLGBT関連の啓発事業を外部に委託し、その多くが特定のNPO法人などに流れている。印刷物の制作、講演活動、研修ビデオの配信といった表向きの活動の裏で、「予算獲得のための理念」が一人歩きしているのが実情である。

これは、かつての男女共同参画、慰安婦支援ビジネスと同じ構図だ。国民の税金が、特定の思想を推進する団体に流れ込む「公金チューチュー」の温床になりつつある。
 
台湾に学ぶ現実主義──理念より「誰が使うか」を考えよ

トイレ待ちの長蛇の列に並ぶ女性たち 東京駅 ジェンダーレストイレの前に女性トイレを増やすべきでは

「ジェンダーレストイレ」も、この問題の象徴的な事例である。美辞麗句だけで制度を語るのではなく、誰のための政策かを現実に即して考えなければならない。

台湾では、現在も一部に性別中立トイレが存在するが、その数は全国に約600か所とごくわずかで、男女別トイレは4万か所以上にのぼる。台湾は「ジェンダーレス」ではなく、「男女平等(gender equality)」を原則とし、2006年には女性用便器を男性の2倍以上にすることを定めたポッティ・パリティ(potty parity=トイレの平等)制度を導入した。これは理念ではなく、使用時間の統計や公共空間の利便性を根拠とした現実的な政策である。

また、多目的トイレや個室の設計で、トランスジェンダーや障害者に配慮する構造も整っている。要は、理念を掲げて対立を煽るのではなく、「誰もが不便なく使える空間」を目指すのが本来の公共設計なのだ。

選挙は未来への責任だ──すべての投票で問われる「目利き力」

いま問われているのは、「理念先行で作られた制度」が、現実社会にどれだけ歪みをもたらすかという視点である。スローガンに踊らされて税金を吸い上げられる構図に、我々はそろそろNOを突きつけるべきではないか。

今回の参議院選挙では、このような制度の実態と背景を見極め、どの候補がそれに対して明確なスタンスを示しているかを重視して投票すべきである。だが、それだけではない。今後の衆院選、地方選挙を含むすべての選挙で、この視点を失ってはならない。

理念の仮面をかぶった制度が、利権や思想の押しつけにすり替わる構図は、教育、福祉、文化、あらゆる分野で広がり得る。だからこそ、有権者には「中身を見抜く力」と「継続的な判断」が求められる。

未来は、表面的なキャッチコピーではなく、政策の背後にある実態を見抜いた者たちの手によって決まる。投票とは、その第一歩である。

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今回の参院選は、単なる政権の勢いを問うものではない。自民党という政党のあり方、その先にある国家の背骨を巡る構造的な転換点なのだ。

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2025年7月14日月曜日

安倍構想から11年──佐賀オスプレイ配備、ついに始動

まとめ
  • 佐賀空港へのオスプレイ配備は、2014年に安倍政権が防衛省を通じて佐賀県に検討を要請しており、11年の調整を経て2025年7月に正式配備が開始。8月中旬までに全17機が順次移駐予定。
  • この配備は「南西シフト」戦略の中核をなすもので、佐賀空港は台湾・東シナ海・朝鮮半島への即応展開に最適な地理的位置を持ち、沖縄の基地負担軽減にも寄与する。
  • V-22オスプレイは約1,600kmの航続距離と高い機動力を備え、佐賀から台湾・与那国・尖閣・上海圏まで往復可能。邦人救出(NEO)や災害対応など非戦闘任務にも活用できる。
  • 米海兵隊の統計では、オスプレイの重大事故率(3.16件/10万飛行時間)は旧型ヘリより低く、安全性は証明されている。自衛隊も訓練・整備体制を整備し、地元理解も進んでいる。
  • 配備は地域振興策と一体で進められ、「国防と地域活性化の両立」を掲げる取り組みに。抑止力としての意義は大きく、主権と平和を守る現実的かつ不可欠な手段である。
佐賀配備が意味する日本防衛の変化

佐賀駐屯地に到着した陸上自衛隊の輸送機V22オスプレイ

2025年7月9日、陸上自衛隊は佐賀空港にV-22オスプレイを正式配備し、本格運用を開始した。これは単なる装備の更新ではない。日本の安全保障の地図を塗り替える決定的な一手である。

この配備は、防衛省が進める「南西シフト」構想の一環である。中国の東シナ海・台湾海峡への軍事的圧力が高まる中で、自衛隊は従来の北方偏重から脱却し、南西方面への重点的な戦力再配置を進めてきた。与那国、宮古、石垣、奄美などに新部隊を創設し、それらを支える拠点として九州・本州各地でも再編が進む。佐賀空港はその“空の中継拠点”として、まさに要の位置にある。

この構想の起点は、安倍晋三政権下にまでさかのぼる。2014年7月、防衛省は新たに導入されるオスプレイの配備先として佐賀空港を選定し、佐賀県に対し移転に関する検討を要請した。当時からこの空港は、地理的優位性に加えて既存の民間空港施設を活用できる点でも適地とされていた。また防衛省は、将来的に米海兵隊が共同で使用する可能性についても言及しており、日米同盟の観点からも戦略的価値は高い。

2014年7月 安倍首相

そして要請から11年。2025年、ついにオスプレイの佐賀配備が現実となった。8月中旬までに全17機が順次、佐賀に移駐する予定である。これに先立ち、陸自のオスプレイは暫定配備先である木更津駐屯地(千葉県)から高遊原分屯地(熊本県)に移動し、うち1機がすでに佐賀駐屯地に飛来している。

佐賀空港は、台湾、朝鮮半島、東シナ海に対する初動展開に適しており、沖縄の基地負担軽減にも寄与する配置といえる。航空自衛隊と陸上自衛隊の連携強化にもつながり、日本全体の防衛バランスの再構築に不可欠な拠点なのだ。

 オスプレイの性能と台湾有事への即応力

配備されたV-22オスプレイは、固定翼機の速度とヘリの柔軟性を併せ持つ航空機である。巡航速度は約450km/h、航続距離は約1,600km。給油なしで佐賀から沖縄本島、与那国、尖閣諸島、台湾、上海近郊までを往復可能とする。

この行動範囲は、戦力投射だけでなく、台湾有事や災害時の邦人救出(NEO)といった非戦闘任務にも極めて有効である。台湾には現在、約2万人の日本人が居住しており(外務省「令和5年 海外在留邦人数調査」)、いざという時に自力で彼らを救出できる手段を持つことは、主権国家として当然の備えである。
VSS事故履歴 クリックすると拡大

一部では、「オスプレイは危険だ」「墜落が多い」といった声もある。しかし米海兵隊の公式データ(FY2022)によれば、MV-22オスプレイのクラスA(重大)事故率は10万飛行時間あたり3.16件。これはCH-53E(12.27件)、CH-46E(9.45件)などの従来型ヘリよりはるかに低い。むしろ、統計的には安全な航空機の部類に入る。

自衛隊は2019年から長崎・相浦駐屯地で飛行訓練を重ね、整備体制や操縦士養成を段階的に進めてきた。騒音測定や住民説明会も継続的に行われ、地域との信頼構築も進んでいる。

国防と地域振興は両立できる


2024年末、防衛省と佐賀県、地元自治体との協議は大きく前進した。地域振興策や空港整備とセットでの受け入れ協議が本格化し、地元経済界からも前向きな声が上がっている。「基地は地域を壊すのではなく、守る存在であり得る」。そんな現実的な声が広がり始めているのだ。

オスプレイは、災害派遣や離島支援、有事の即応展開、邦人救出といったあらゆる任務に対応可能な“万能輸送機”である。そして何より重要なのは、敵に「日本は本気だ」と思わせる抑止力そのものが、この機体の配備によって実現するという点だ。

戦争を望まぬならば、備えよ。これは古来から変わらぬ現実の鉄則である。

佐賀の空が、未来の日本を守る前線となる。その新たな役割を、私たちは誇りと責任をもって受け止めなければならない。

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2025年6月13日

対潜水艦戦に優れる日本は戦略的優位を保つ。緊張緩和は必要だが、それは中国が挑発をやめることから始まる。

2025年7月5日土曜日

トランプの移民政策が米国労働者を大復活! 雇用統計が証明、日本は米国の過去の過ちを繰り返すべきではない

まとめ
  • トランプ政権の移民政策が2025年7月4日の雇用統計で、米国内生まれの労働者数を150万人増やし過去最高に押し上げ、外国生まれの労働者(特に不法移民)を100万人減らした。
  • 2019年以降のトレンドが2025年に逆転し、雇用が米国人に戻った歴史的変化が確認される。
  • 不法移民減少による正規雇用の拡大が賃金上昇や経済安定に寄与し、国民の期待を高めている。
  • 長期的な影響には労働不足やインフレリスクがあり、2025年以降のデータで判断が必要とされるが、米国人労働者が増えたことは社会を立て直すための大きな勝利だ。
  • 日本は過去の米国のような移民政策の失敗を避け、独自の道を模索すべき。
2025年7月4日、最新米国雇用統計が公表された。トランプ政権の移民政策が、米国内生まれの労働者(ネイティブボーン・ワーカー)を過去最高に押し上げ、外国生まれの労働者(特に不法移民)を一気に叩き落としたのだ。この大胆な変化は、以下グラフを見れば明らかだ。

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トランプは2025年1月の再就任後、不法移民の取り締まりを鉄腕で進め、移民法をガッチリ固めた。さらに、米国生まれの労働者や正規就労者を最優先する経済戦略を打ち出し、雇用市場を根底から揺さぶった。この一連の動きが雇用統計に火をつけ、米国の労働力を新生させた。
 
雇用が米国人に帰ってきた!データが物語る力 


まず飛び込むのは、米国内生まれの労働者数の大躍進だ。トランプ就任後、150万人もの増加を記録し、過去最高に達した。グラフの緑の線がその勢いを雄弁に語る。2025年に入り急上昇し、国内労働力が息を吹き返した証拠だ。正規の仕事が米国人に流れ込み、経済が息づき始めた。この変化は数字以上の意味を持ち、国の未来を支える力を呼び覚ました。
 
対して、外国生まれの労働者数は100万人も減った。グラフの紫の線がその急落をはっきり示す。2019年以降増え続けた不法移民が、2020年代後半に一気に後退。トランプの強硬策と不法就労の取り締まりが効を奏した。特に2025年の落ち込みは、彼の意志が貫かれた証だ。
 
グラフを深掘りすれば、緑の線は2000年代初頭から2025年までの流れを描き、外国生まれの労働者が増える中、米国生まれの労働者が停滞していた時代を映し出す。だが2025年、その流れが大逆転。紫の線のバーグラフがそれを裏付け、緑のバーが跳ね上がり、赤のバーが沈む瞬間が続く。雇用が米国人に戻った歴史的瞬間だ。
 
この成果は、正規雇用の爆発的拡大に表れる。不法移民が減った分、企業が米国生まれの労働者を積極採用し、賃金上昇や労働条件の向上が見えてきた。雇用統計の好転は経済の安定や消費力アップに直結し、ポストのコメント欄で「正規雇用が増えれば賃金が上がる」との声が上がる。政治的にもトランプ支持の声が炸裂し、日本との比較が議論を熱くしている。
 
未来への道と日本の教訓 

だが、ここで油断は禁物だ。短期の勝利は大きいが、長期の見通しは不透明だ。アメリカ生まれの労働者の増加が続けば、労働力の安定や国内産業の息吹が期待できる。だが、労働供給の減少が企業の人手不足や生産性低下を招く恐れもある。不法移民の減りが農業や建設でコスト高やサービス低下を引き起こすリスクも捨てきれない。他の経済指標とも絡む。失業率は今低いものの、労働需給が崩れれば賃金インフレや失業率上昇が待っているかもしれない。米国移民データベースによると、不法移民追放がGDP成長を最大7%落とす恐れもある。インフレも頭を悩ませ、2025年以降のデータが勝負を分ける。


ここで日本の移民政策に目を転じる。労働力不足を補うため外国人を増やしてきたが、支援不足や言語教育の弱さで失敗の危険が高い。MPI(移民政策研究所)の記事によれば、米国の国内優先策が示唆する道は参考になる。だが、日本が同じ轍を踏む必要はない。日本が過去の米国のように不法移民を放置し結果として、低賃金層の賃金を抑えるようなことがあってはならない。それに何も増して、移民の増加は社会不安につながることを忘れてはならない。米国も含めて、世界で移民の受け入れに成功した国はない。
 
 米国人労働者の復活を讃えよう

先には、米国生まれの労働者数と、外国人労働者数に焦点を当ててきたが、雇用統計全体ではどのようなことが言えるか振り返っておこう。

NFPは非農業部門雇用者数

失業率は2023年の高さ(約4.4%)から2025年6月に4.1%まで低下し、トランプ政権の政策が雇用に影響を与えた可能性がある。非農業部門雇用者数(NFP)は2024年以降回復し、2025年6月に14.7万人増。労働参加率は図に明示がないが、失業率低下と連動。賃金は年率4.3%上昇。移民政策が雇用を増やした一方、労働力減少や業界課題が残る。さらなるデータで検証が必要だ。

結論だ。この雇用統計のネガティブな部分にだけ注目すべきではない。米国人労働者が増えたのは、それまで失業していた人々が雇用されたということだ。それは社会を立て直すための大きなな勝利であり、トランプの政策が点けた希望の光だ。見過ごされていた国内労働者の力を引き出し、経済に再び力を与えた意義は計り知れない。米国は労働市場の健全性を取り戻しつつある。日本は、米国の過去の過ちを繰り返すべきではない。

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2025年6月19日木曜日

日本経済を救う鍵は消費税減税! 石破首相の給付金政策を徹底検証

まとめ
  • 石破茂首相は2025年6月、物価高対策として給付金(1人2万円、非課税世帯や子どもは4万円)を給付金は「消費減税よりはるかに効果的だ」「決して少なくない」と推すが、消費税減税には慎重。給付金は迅速だが持続性に欠ける。
  • 日本の経済は低成長(GDP成長率1.2%)、物価上昇(CPI 2.5%)、格差拡大(非正規雇用37%)に苦しむ。国の借金は経済規模の2.5倍、毎年の赤字は経済の6%。
  • ただし統合政府(政府+日銀)の視点では、資産600兆円が総債務1250兆円を相殺し、ネット債務はGDP比100%。日銀の国債保有(50%)で実質黒字。EUでは統合政府統計が標準。
  • 消費税減税(10%→5%)は低所得層の消費を刺激し、GDPを0.5~1.0%押し上げる。逆進性を和らぎ、格差縮小に効果的。給付金の乗数効果(0.3~0.6)は小さい。
  • ガソリン暫定税率廃止は物価を0.2~0.3%抑制、地方経済を支える。消費税減税を優先し、ガソリン税廃止を次に、給付金は補助的役割にすべき。
石破首相の給付金政策と日本の経済危機


石破茂首相は2025年6月18日、カナダでのG7首脳会議後に記者会見を開き、物価高対策として給付金政策を説明した。給付金は1人2万円、子どもと住民税非課税世帯の大人には4万円を支給し、2024年度補正予算の低所得世帯向け給付(1世帯3万円+子ども1人2万円)より手厚いと強調。「決して少なくない額」と述べ、総合的な支援を訴えた。物価高対策の基本は賃上げとし、給付金を参院選公約に検討。消費税減税より給付金は困窮層に重点を置き、迅速だと主張。消費税は社会保障の財源で、減税には「慎重な上にも慎重」とし、給付金の正当性を訴えた。

日本の経済は停滞している。2025年6月、推定実質GDP成長率は1.2%(IMF予測)、消費者物価指数は2.5%上昇、実質賃金は横ばい(総務省)。家計消費は2024年も低迷(内閣府)、エネルギーや食料品の値上がりで低所得層は苦しむ。非正規雇用は37%(総務省)、格差は拡大(ジニ係数0.33、OECD 2023)。国の借金は経済規模の2.5倍に膨らみ、毎年の赤字は経済の6%に相当する(IMF、2024年)。しかし、統合政府(政府+日銀)の視点では、政府の資産約600兆円(金融資産、国有資産、日銀保有国債等)が総債務約1250兆円を相殺し、ネット債務はGDP比約100%に縮小する(財務省、2023年)。


日銀が国債の約50%(約600兆円)を保有し、利払い負担が政府に戻るため、実質的な財政赤字は黒字となる。EUでは統合政府ベースの統計が標準的で、資産と負債の差を重視する(Eurostat、2024年)。日銀はゼロ金利を緩め、短期金利は0.1~0.25%。この状況で、恒久的減税、給付金、消費税の逆進性、ガソリン暫定税率廃止を、標準的なマクロ経済学で検証する。日本の主流経済談義、財務省、マスコミの声、現代貨幣理論(MMT)は無視し、データと理論で迫る。

恒久的減税と給付金の経済効果

標準的なマクロ経済学では、財政政策の効果は乗数効果で評価される。恒久的減税は家計の可処分所得を増やし、消費と投資を押し上げる。消費税を10%から5%に下げれば、年間10兆円の減税(財務省試算)。低所得層の消費を刺激し、OECD(2018)は乗数効果を0.5~1.0と推定。日本の需要不足はGDPギャップ5~10兆円(内閣府)。減税ならGDPを0.5~1.0%押し上げ、企業や雇用に波及する。給付金(1人2万円、総額2.5兆円)は貯蓄に回る。2009年の定額給付金の消費性向は20~30%(内閣府)。乗数効果は0.3~0.6(IMF、2010)、GDP押し上げは0.1~0.2%。給付金は即効性があるが、持続性がない。減税が優れる。


消費税の逆進性は深刻だ。10%の消費税は低所得層(年収300万円で負担率7~8%)を直撃、高所得層(年収1000万円で3~4%)は軽い(総務省家計調査)。2024年の物価上昇が実質所得を削り、格差は悪化。消費税を5%に下げれば、低所得層の消費が跳ね、GDPは0.5~1.0%増(Poterba、1996)。食料品を0%の軽減税率にすれば逆進性は和らぐ。食料品は低所得層の家計の30%(総務省)。非正規雇用者(37%)の生活を支え、格差を縮める。

消費税の財源問題とガソリン税廃止

消費税は社会保障の専用財源ではない。2024年度の消費税収22兆円は一般会計(114兆円)の一部。社会保障費(36兆円)の60%を賄うが、公共事業や債務返済にも流れる(2024年度予算)。5%減税で10兆円減収でも、経済成長で所得税や法人税が増え、赤字を補う(成長率1%増で2兆円増、財務省)。国債は国内保有率90%、金利は低い(10年物0.8~1.0%、日銀)。財政赤字(経済の6%)は管理可能(S&P格付けA+)。減税は経済活性化を優先すべきだ。


ガソリン暫定税率(1リットル25.1円)の廃止は、2024年の原油高(WTI80ドル/バレル)と円安(1ドル150円)で効果を発揮。2.5兆円の減収でガソリン価格が25円下がり、物価は0.2~0.3%抑制(日銀)。地方や低所得層(燃料費は支出の5~10%)の負担が減る。乗数効果は0.4~0.7、GDPは0.1~0.2%増(OECD)。消費税減税ほどではないが、地方経済を支える。

日本の経済は需要不足、格差、物価圧力に苦しむ。石破首相は給付金を推すが、消費税減税は逆進性を和らげ、消費を刺激し、格差を縮める最優先策だ。ガソリン暫定税率廃止は物価抑制に役立つ。給付金は持続性がない。減税と税率廃止で税収は12.5兆円減るが、低金利と国債の国内保有率で財政は耐える。消費税減税をまず実行し、ガソリン税率廃止を進め、給付金は補助に留める。経済を動かし、国民を救う道はここにある。

引用文献

OECD Economic Outlook Volume 2024 Issue 2, 2024年12月4日
IMF Japan 2025 Article IV Mission Statement, 2025年2月7日
総務省家計調査, 2024年
内閣府令和6年度経済財政報告, 2024年
日本銀行統計, 2024年
財務省国際収支状況, 2023年
Eurostat Government Finance Statistics, 2024年
Blanchard, O. (1985), “Debt, Deficits, and Finite Horizons,” Journal of Political Economy, 93(2), 223-247, https://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/261297
Poterba, J. (1996), “Retail Price Reactions to Changes in State and Local Sales Taxes,” National Tax Journal, 49(2), 165-176, https://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/NTJ41789195

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2025年6月7日土曜日

夫婦別姓反対!日本の家族と文化を守る保守派の闘い

まとめ

  • われわれ保守派の反対:選択的夫婦別姓は日本の伝統と家族観を脅かす。われわれ保守派は家族の一体感と文化を守るため断固反対。
  • 法務委員会の議論:2025年6月6日、立憲・国民が別姓導入法案、維新が旧姓使用拡大法案を提出。自民は親子別姓の懸念で早期採決を拒否。
  • 法的基盤:2015年最高裁は夫婦同姓を合憲とし、民法750条で姓の選択自由を保証。2020年法務省調査で同姓支持が約60%。
  • 文化的基盤:夫婦同姓は2000年の「氏姓制度」に根ざす日本の独自文化。儒教圏とは異なり、レヴィ=ストロースやハンチントンがその独自性を指摘。
  • 新たな反対視点:「選択的夫婦別姓」は問題をぼかす策略。デジタル効率(総務省2023年)、心理的結束(2019年日本家族社会学会)、文化ブランド(2023年観光庁)から反対。選択的夫婦別姓をめぐる議論は、家族観と文化の核心を突く問題だ。われわれ保守派はこれを日本の伝統と未来への挑戦とみなし、断固反対する。最新の議論、法的・文化的基盤、新たな反対理由を整理し、現代的で斬新な視点を加えて提示する。

最新の法務委員会:別姓導入をめぐる攻防


2025年6月6日の衆議院法務委員会では、立憲民主党と国民民主党が夫婦別姓導入を目指す民法改正案を、日本維新の会が旧姓の通称使用拡大を目的とした法案を提出した。自民党の山下貴司氏は、親子が異なる姓になることで家族の一体感が損なわれると懸念。旧姓の通称使用拡大で対応可能とし、早期採決を拒否した。

立憲民主党の米山隆一氏は、別姓を選んでも家族の絆は同姓夫婦と変わらないと反論し、家族内に単一の「家族姓」は存在しないと説明した。公明党の大森江里子氏は、現行法の改姓強制に人権問題を認めつつ、慎重な議論を求めた。

6月10日の次回委員会では参考人質疑が予定される。立憲は来週中の採決を狙うが、自民は徹底した議論を主張し、調整が続く。石破茂首相は党議拘束について、過去の脳死関連法案での détachment例を挙げ、今回は価値観の根幹に関わらないとして慎重だ。森山幹事長は党の一致を強調。共産党の山添政策委員長は、拙速な採決のリスクを避け、継続審議も視野に入れる。

法的・社会的基盤:夫婦同姓の意義と策略の言葉


最高裁大法廷は2015年12月16日、夫婦同姓を「合憲」と断じ、氏の統一が家族の一体感と社会の秩序を支えると明言した。現行の民法750条は、結婚時に夫婦が夫または妻の姓を自由に選べる仕組みだ。2020年の法務省統計によれば、96%の夫婦が夫の姓を選ぶが、妻の姓を選ぶ選択肢も存在する。制度の欠陥を訴えるのは的外れだ。夫婦の話し合いで姓を決められる日本に、別姓を押し込む必要はない。

野党の一部は夫婦別姓を「進歩的トレンド」と持ち上げるが、われわれ保守派はこれを日本の伝統の軽視と断じる。「選択的夫婦別姓」という言葉は、別姓導入による家族の一体感への懸念を薄める策略だ。1996年の法務省法制審議会がこの言葉を打ち出した時、伝統を重んじる層の反発を和らげようとした意図は明らかだ。われわれ保守派は、この言葉が問題の本質をぼかすと警戒する。

夫婦同姓で500年後は「全員佐藤さん」という主張もある。これは、東北大学の2022年シミュレーションに基づくが、非現実的な前提(出生率や結婚パターンの不変性)を無視する。2023年厚生労働省データでは、国際結婚が年間約2万件(全結婚の約4%)で、外国姓の導入が進む。民法750条は夫婦が夫または妻の姓を自由に選べ、2020年法務省統計で96%が夫の姓を選ぶが、妻の姓を選ぶケースが佐藤姓の独占を抑える。2022年内閣府「地域コミュニティ調査」では、地方で姓の多様性が維持されている。過去50年でも佐藤姓は1.6%(1980年)から1.5%(2020年)とほぼ横ばいだ。この誇張された主張は、別姓導入の根拠として弱い。


デジタル社会では、姓の統一が行政の効率性を支える。総務省の2023年「マイナンバー制度の運用状況報告」では、家族情報の統合が姓の統一を前提に効率化されていると推測される。別姓導入はデータベースの複雑化とコスト増を招く可能性がある。米国では、別姓による家族情報の不一致が税務申告のエラーを生む例が報告されている(2021年IRS「Taxpayer Advocate Service Annual Report」)。この視点は、伝統論に現代の技術的現実を加えた新たな反対理由だ。

日本の文化と新たな反対視点:伝統と現代の融合

日本の夫婦同姓は、2000年以上の歴史に裏打ちされた文化の結晶だ。奈良時代から続く「氏姓制度」は、家族の連続性を重んじ、『日本書紀』や『続日本紀』にその記録が刻まれる。「夫婦同姓は明治になってからの伝統」という意見は、これを無視し、歴史を矮小化したものにすぎない。

儒教文化圏の中国や韓国では、宋代以降、男性中心の家系継承が女性の姓の保持を強いた。韓国では2008年まで夫婦同姓の選択肢がなく、今も別姓が標準で、女性は男性の姓を名乗れない。日本は夫婦が自由に姓を選べる「選択的夫婦同姓」の国だ。文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースは『野生の思考』(1962年)で、日本の家族構造が血縁より社会的な結びつきを重視すると論じた。サミュエル・ハンチントンは『文明の衝突』(1996年)で、日本が儒教とは異なる文明圏を築いたと指摘した。

社会心理学では、姓の共有が家族の集団アイデンティティを強化する。2019年の日本家族社会学会調査(『家族社会学研究』Vol.31, No.2)では、同姓の夫婦が強い家族の一体感を感じ、子どもの社会的適応や自己認識に間接的な好影響を与えると報告された。別姓は子どもの社会的適応に微妙な影響を及ぼすリスクがある。

グローバル化の文脈では、夫婦同姓は日本の文化ブランドだ。2023年の観光庁「訪日外国人消費動向調査」では、訪日外国人の30%以上が日本文化全般に魅力を感じるとされ、家族文化はその一部と推測される。別姓導入は、この独自性を薄め、グローバルな均質化に流される危険をはらむ。2020年の法務省調査で、夫婦同姓を支持する声は約60%を占める。最高裁の判決と日本の歴史を顧みれば、夫婦別姓を「進歩」と呼ぶのは誤りだ。

われわれ保守派は、家族の絆、行政の効率、文化の独自性を守るため、別姓導入に断固反対する。これは単なる制度の話ではない。日本という国の魂をめぐる闘いだ。

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2025年6月5日木曜日

ロシアの戦争継続はいつまで? 経済・軍事・社会の限界が迫る2025年末の真実

まとめ
  • 経済的限界: ロシア経済は2024年に4.1%成長したが、2025年には成長率が1.3~1.5%に低下。国家福祉基金の枯渇、財政赤字1.7%、石油収入の26.9~41.7%減、インフレ9.5%、金利21%で戦争資金が2025年中に尽きる(ブルームバーグ、2024年12月;ロイター、2025年1月)。
  • 軍事的限界: 半導体など西側技術への依存と労働力不足(失業率2.3%)で軍事生産が制約。2025年2月時点で人的損失70万、装備2万台以上喪失。2025年夏に死傷者100万人、兵器在庫枯渇の予測(CSIS、2025年2月;フィナンシャル・タイムズ、2024年11月)。
  • 政治・社会的限界: プーチン支持率80%超だが、経済苦境と人口減少(2024年死亡数59.6万人超)で不満増大。国際的孤立が進み、BRICSや中国は西側の代替にならず、2025年に政権への圧力高まる(ロシア統計局、2024年12月;ガーディアン、2024年10月)。
  • 継戦能力: 制裁の累積効果、技術・労働力・財政の限界で、戦争継続は2025年末~2026年半ば(約6~12か月)が限界。専門家も同様の評価(ブルームバーグ、2025年1月;国際戦略研究所、2025年2月)。
  • 結論: 戦争経済への依存は一時的な成長をもたらしたが、持続性がない。2025年以降、スタグフレーションやリセッションのリスクが迫る(ワシントン・ポスト、2024年12月)。
経済的限界:資金と資源の枯渇


ウクライナ侵攻以降、西側の厳しい制裁と戦争経済への転換でロシアは複雑な局面に立たされている。2024年、GDPは4.1%成長し、軍事費の急増と政府の財政刺激策で一時的に持ちこたえた。2025年の国防費は予算の41%(約1770億ドル)を占め、装甲車両やドローンの生産を拡大した。しかし、2025年には成長率が1.3~1.5%に低下し、経済は過熱から冷却へと向かう。国家福祉基金は3年間で3分の2が消え、2025年秋には底をつく可能性が高い。財政赤字はGDPの1.7%に達し、エネルギー収入も制裁で大きく減少した。2024年末、石油価格は1バレル64.4ドルに下落、2023年初頭比で26.9~41.7%減という厳しい現実だ。インフレ率は9.5%に跳ね上がり、中央銀行は金利を21%に引き上げたが、民間投資は縮小し、経済の持続性が揺らいでいる。これらの経済的制約は、戦争を支える資金が2025年中に尽きることを示唆する(ブルームバーグ、2024年12月;ロイター、2025年1月;国際通貨基金、2024年10月)。

軍事的限界:兵器と兵力の消耗

ロシアは米国製の半導体がなければ戦争を継続できない

軍事面では、兵器と兵力の維持が戦争の生命線であるが、ここにも暗雲が垂れ込める。ロシアは軍事生産を加速させたが、半導体などの先端技術は西側に依存し、制裁で入手が難しく、トルコや中国経由の迂回ルートではコストと時間がかかり、性能も不十分だ。労働力不足も深刻で、動員や徴兵逃れによる人口流出で失業率は2.3%と過去最低だが、技術労働者の不足が軍事生産を圧迫する。ウクライナでの損失は甚大で、2025年2月時点で人的損失は70万人以上、車両・装備は2万台以上と報告される。補充は追いつかず、専門家は2025年後半に主要兵器の在庫が枯渇すると予測する。米シンクタンクCSISは、2025年夏までにロシア軍の死傷者が100万人に達する可能性を指摘し、英米情報機関もこれを裏付ける。人的・物的損失の増大は、軍事能力の限界を2025年以降に露呈させるだろう(CSIS、2025年2月;フィナンシャル・タイムズ、2024年11月;BBC、2025年1月)。

政治・社会的限界:国民の支持と国際的孤立


政治面では、プーチン政権の支持率は未だ高く、戦争への支持は依然強い。しかし、経済的苦境が長引けば、国民の不満が膨らむ危険がある。制裁による国際的孤立は進み、BRICSや中国との関係強化でしのごうとするが、西側の技術や経済的支援の完全な代替にはならない。内部の政治的安定は保たれているが、戦争終結後の経済調整や不平等の拡大が政権に圧力をかける。社会的には、軍事費や契約兵への高額報酬で一部の生活水準は上がったが、インフレによる実質所得の減少と人口減少が不満を醸成する。2024年、死亡数が出生数を59.6万人上回り、社会の耐久力は試されている。戦争の負担が国民の支持を揺らし、2025年以降に動揺が広がる可能性がある(ロシア統計局、2024年12月;ガーディアン、2024年10月;エコノミスト、2025年2月)。


これらの現実を直視すれば、ロシアが戦争を続けられるのはあと約6~12か月、つまり2025年末から2026年半ばまでが限界だ。専門家や情報機関も「継戦能力はあと半年から1年」と評価し、2025年夏以降に経済や社会問題が深刻化すると指摘する。中国やインドとの関係強化や迂回貿易で一時的にリソースを補充できても、制裁の累積効果、技術依存、労働力不足、財政の限界は避けられない。戦争経済への依存は一時的な成長をもたらしたが、持続可能な発展を犠牲にした。プーチン政権は経済と政治の板挟みに苦しみ、2025年以降、スタグフレーションやリセッションのリスクが迫る。戦争終結や制裁緩和がなければ、ロシアの脆弱性はさらに露わになるだろう(ブルームバーグ、2025年1月;ワシントン・ポスト、2024年12月;国際戦略研究所、2025年2月)。あと半年から1年。それがロシアの戦争継続の現実的なタイムリミットである。

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2025年6月2日月曜日

ウクライナの「クモの巣」作戦がロシアを直撃:戦略爆撃機41機喪失と経済・軍事への衝撃

まとめ
  • ウクライナ保安庁が「クモの巣」作戦でロシアの軍用飛行場を無人機攻撃、戦略爆撃機など41機を破壊。損失は約70億ドル(約1兆円)、ロシアの巡航ミサイル搭載機の34%を直撃。
  • ロシアは攻撃前、戦略爆撃機を60~70機保有(実働50~60機)、41機喪失で残存30~50機に減少し、戦略航空戦力と核抑止力に深刻な打撃。
  • ロシア経済は2024年GDP約2兆ドル、軍事費は1,489億ドル(GDP7.1%)で、70億ドルの損失は軍事予算の5%。制裁やインフレで経済は脆弱化。
  • ウクライナは西側から1,000億ドル以上の支援で精密攻撃を強化、ロシアはキエフなど都市部への無差別攻撃を繰り返し、北朝鮮や中国の支援に依存。
  • ロシアの持久戦優位性が揺らぎ、50万人の動員に対し30万人以上の死傷者、兵器生産の停滞、インフラ事故で国内混乱が増幅。緊張は高まり、ロシアの戦略と経済に大きな制約を強いるだろう。
無人機(ドローン)攻撃によるものとされる黒煙=1日、ロシア・イルクーツク州

ウクライナ保安庁がロシアの軍用飛行場を無人機で襲撃する「クモの巣」作戦を敢行し、戦略爆撃機など41機を破壊したとウクライナメディア「ウクラインスカ・プラウダ」が報じた。この作戦は1年半以上かけて準備され、トラックに隠した無人機を遠隔操作で攻撃する巧妙な手法だ。ロシアは攻撃前、戦略爆撃機(Tu-95、Tu-160、Tu-22M3)を60~70機保有していたと推定されるが、稼働率を考慮すると実働は50~60機程度だ(国際戦略研究所『Military Balance 2024』)。

もしウクライナの主張通り41機が破壊されたなら、残存機数は30~50機に激減し、ロシアの戦略航空戦力や核抑止力に深刻な打撃を与える。損失額は約70億ドル(約1兆円)、ロシアの巡航ミサイル搭載可能な機体の34%を直撃したとされる。

ロシアの反応と広がる混乱

ロシアの戦略爆撃機「ツポレフ95」

ロシア国防省はイルクーツク州やムルマンスク州など5州の飛行場が攻撃され、航空機が火災を起こしたが、けが人はなく、関係者を拘束したと発表した(タス通信、2025年6月1日)。イルクーツク州知事は「シベリア初の無人機攻撃」と強調。一方、ロシア西部ではブリャンスク州で陸橋崩壊による列車脱線で7人が死亡、クルスク州でも鉄橋事故で運転士らが負傷し、原因が調査中だ(ロイター、2025年6月1日)。

ウクライナのゼレンスキー大統領は作戦を主導したマリュク長官と笑顔で握手する写真を公開し、「1年6か月9日にわたる準備の末の歴史的行動」と絶賛した(ウクライナ大統領府、2025年6月1日)。この作戦はロシアの軍事力を弱体化させるウクライナの戦略の一環であり、潜伏者の活用が鍵だ。

経済と軍事への甚大な打撃
この攻撃の衝撃はロシアの経済と軍事に重くのしかかる。ロシアの2024年名目GDPは約2兆ドル(約300兆円)、軍事費は約1,489億ドル(約22兆円)で、GDPの7.1%を占め、欧州全体の防衛費(約4,570億ドル)を超える(SIPRI 2024)。だが、70億ドルの損失は軍事予算の5%に相当し、高価な戦略爆撃機の喪失はウクライナへの攻撃力と核抑止力を直撃する(BBC、2025年6月2日)。

日本の2024年GDPは約4兆ドル、軍事費は553億ドル(GDPの1.4%)だが、もし3%に引き上げれば約1,800億ドルとなり、ロシアを上回る(SIPRI 2024)。ロシア経済は軍事費に偏重し、予算の40%が防衛・安全保障に投じられるが、インフレ率7.4%と労働力不足で成長は鈍化(世界銀行、2024年)。制裁によるハイテク製品の入手困難やエネルギー輸出の減少(1日約7500万ドル、ブルームバーグ、2024年12月)も重なり、今回の損失は経済と戦略に致命的な打撃だ。

ウクライナは軍事拠点やインフラを的確に攻撃し、米国、NATO、EUからの約1,000億ドル以上の支援でドローンや精密兵器を強化している(SIPRI 2024)。2023年の黒海艦隊攻撃では旗艦「モスクワ」を撃沈し、ロシアの黒海支配を揺さぶった(ロイター、2023年4月)。対して、ロシアはキエフなど都市部への無差別攻撃を繰り返し、2024年10月のミサイル攻撃では民間施設を破壊、20人以上の死傷者を出した(国連人権高等弁務官事務所、2024年11月)。

ドネツク州バフムト西方に位置するチャソフヤルで行われたロシア軍人の葬儀(2025年2月25日

支援は北朝鮮の砲弾(2024年約100万発)や中国の部品供給に限られ、西側に劣る(CSIS 2024)。従来、領土や資源、兵力で持久戦はロシア有利とされたが、この状況が続けば優位性は崩れる。ロシアは50万人の動員に対し、30万人以上の死傷者を出し(英国防省2024年)、兵器生産はソ連在庫に依存、新規生産が滞る(フィナンシャル・タイムズ、2025年6月2日)。ブリャンスクやクルスクのインフラ事故はウクライナの作戦と連動し、国内の混乱を増幅させる(ガーディアン、2025年6月2日)。今回の攻撃はロシアの軍事力と経済を直撃し、戦争の負担を増大させる。緊張は高まり、ロシアの戦略と経済に大きな制約を強いるだろう。

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2025年5月26日月曜日

プーチンがいなくなっても侵略行為は終わらない!背景にあるロシア特有の被害者意識や支配欲…日本人が知っておきたい重要なポイントを歴史から解説—【私の論評】ポストプーチンのロシアはどこへ? 経済の弱さと大国意識の狭間で

プーチンがいなくなっても侵略行為は終わらない!背景にあるロシア特有の被害者意識や支配欲…日本人が知っておきたい重要なポイントを歴史から解説

岡崎研究所

まとめ

  • ロシアはウクライナ戦争後もNATO、特にバルト諸国への脅威を増す。プーチンのNATO拡大への主張はエストニア外相が「デタラメ」と断じ、部隊移動がその矛盾を露呈する。
  • フィンランドとスウェーデンのNATO加盟はプーチンの誤算だ。NATOに侵略意図はなく、ロシア側がパイプライン破壊やGPS妨害で挑発を続ける。
  • ロシアの行動は、モンゴルやナポレオン以来の被害者意識に根ざす。「力だけが頼り」と信じ、外国からの攻撃を恐れる歴史が背景にある。
  • ロシアのメシアニズム思想は、ウクライナを「人為的な政治体」とみなし、「ロシア世界」の拡大を正当化する。プーチンの支配欲に思想的支えを与える。
  • プーチンがいなくなっても、被害者意識とメシアニズムがロシアの侵略を止めない。ウクライナのNATO加盟は現実味を欠くが、ロシアの行動は続く危険がある。

 2025年5月5日のウォール・ストリート・ジャーナルは、ウクライナ戦争の終結後、ロシアがNATO、特にエストニアなどバルト諸国への脅威を増すと警告する。プーチンはNATO拡大を戦争の原因と主張するが、エストニアのツァクナ外相は「NATOが脅威という話はデタラメだ」と断じる。

 ロシアはウクライナ侵攻でエストニア国境近くの精鋭部隊を移動させ、NATOへの備えを弱めた。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、プーチンの誤算だ。元米軍司令官ホッジスは、NATOに侵略意図があれば破壊工作や領空侵犯が起きるはずだが、ロシア側では何もないと指摘する。

 逆に、ロシアはバルト海のパイプライン破壊やGPS妨害、国境での不審な活動を繰り返す。エストニアはロシア軍がウクライナで足止めされていることに安堵するが、和平後、ロシアの脅威が高まると警戒する。

 ロシアの行動の根底には、NATOを敵視する政治・軍事的戦略と、歴史的な被害者意識やメシアニズム思想がある。モンゴル、ナポレオン、ドイツの侵攻を経験したロシアは、「力だけが頼り」と信じ、外国からの攻撃を恐れる。

 加えて、「ロシア世界」を広げる使命感が、ウクライナを「人為的な政治体」とみなす思想を支える。スルコフ元大統領補佐官は、ロシアの影響力拡大を「ルスキーミール(ロシア世界)」と呼び、プーチンの支配欲に思想的支えを与えた。

 ウクライナのNATO加盟は現実味を欠くが、ロシアの侵攻は加盟阻止ではなく、支配欲とメシアニズムに突き動かされた。プーチンがいなくなっても、この思想がロシアの侵略を止めない危険がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ポストプーチンのロシアはどこへ? 経済の弱さと大国意識の狭間で

まとめ
  • ロシアの構造的要因:上の記事は、ウクライナ侵攻をプーチン個人の問題ではなく、ロシアの「被害者意識」や「支配欲」に結びつけ、プーチン後でも攻撃的な姿勢が続く可能性を指摘する。SRCの木村汎の研究と一致し、ナショナリズムや歴史的トラウマが外交を駆動するという。
  • 経済的制約の深刻さ:しかし、ロシアのGDPは韓国や東京都並み(2021年で1.83兆ドル)で、制裁によるエネルギー収入の減少がプーチン後の軍事行動を制限。後継者は大規模な戦争を避け、サイバー攻撃や小規模な挑発に頼る可能性が高い。
  • 国際環境の影響:服部倫卓の研究では、国際的孤立や中国・インドとの協力が外交を制約。経済的弱さから、ロシアは中国への従属リスクを抱え、NATOとの全面対立より限定的な牽制を選ぶだろう。
  • 上の記事の限界:記事は経済的制約やNATO・ロシアの相互作用を軽視し、「侵略の継続」を単純化。SRCの研究では、経済や国際環境がロシアの行動を大きく縛るとされる。
  • ポスト・プーチン期の展望:ロシアの弱い経済とエリート層の権力維持の思惑により、後継者は国民の不満を抑えるためナショナリズムを煽りつつ、サイバー攻撃や小規模な挑発で「大国」の看板を守ろうとする。中国との協力で経済を支えるが、従属的な立場に陥るリスクがあり、上の記事の懸念は大規模戦争ではなく、狡猾な牽制として現れることになるだろう。
ロシアのウクライナ侵攻は、プーチン一人の暴走ではない。Wedge ONLINEの記事「プーチンがいなくなっても侵略行為は終わらない!」は、ロシアの行動を「被害者意識」や「支配欲」に結びつけ、プーチンがいなくなってもNATOやバルト諸国への敵対姿勢が続く可能性を訴える。

北大スラブ・ユーラシア研究センター(SRC)

確かに、ロシアの奥底に流れる歴史の傷や大国への執着は、容易には消えない。しかし、この記事をロシア研究では定評のある北大スラブ・ユーラシア研究センター(SRC)の視点で読み解くと、鋭い指摘の一方で、経済的制約や国際環境の重みを軽視する危うさが見える。

また、「ロシアのGDPは韓国や東京都並みで、制約が大きすぎる」という現実は、ポスト・プーチン期のロシアの動きを予測する鍵だ。木村汎や服部倫卓の研究を手に、ロシアの未来を私なりに描いてみよう。

上の記事では、プーチン個人の影を越え、ロシアの構造的な闇に光を当てる点が最大の特徴だ。木村汎の『ロシアの国家アイデンティティ』は、ソ連崩壊後の屈辱がロシア人の心に深く刻まれ、ナショナリズムと西側への対抗心を燃やしていると説く。記事が引用するウォール・ストリート・ジャーナルの言葉、「ロシアがNATOを脅威とみなすのは、NATOが脅威だからではなく、ロシア自身が脅威を生み出している」は、SRCの中井遼の研究が示す「脅威の自己増幅」と響き合う。

プーチンが去っても、ロシアのエリートや国民に染みついたこの意識は、攻撃的な外交を支える。記事は、この点を一般読者に分かりやすく伝え、ポスト・プーチン期の危険性を浮き彫りにする。

しかし、記事には穴がある。ロシアの行動を「被害者意識」や「支配欲」に集約しすぎ、経済や国際情勢の重みを軽く見ているのだ。2021年のロシアのGDPは1.83兆ドルで、韓国(1.91兆ドル)を下回り、日本の東京都(約1.0兆ドル)の倍にも満たない(IMFデータ)。この経済規模で、ウクライナ侵攻のような大規模戦争を続けるのは無謀だ。

2022年以降の西側制裁は、エネルギー収入を絞り、ルーブルを揺さぶる。木村の研究は、ロシアの大国意識がエネルギー依存や経済的限界に縛られると明かす。記事がこの現実をほぼ無視し、「侵略は続く」と断じるのは、危うい単純化だ。

モスクワの赤の広場で、ウクライナ4州の併合を記念して開かれた集会とコンサート(2022年9月30日)

ポスト・プーチン期のロシアはどうなるのか。服部倫卓の「ロシアの権力構造と後継者問題」は、プーチンの「垂直的権力体制」が後継者を縛ると警告する。エリート層――シルシキ、FSB、軍部――は権力維持のため、ナショナリズムを煽り、反西側姿勢を続けるだろう。

しかし、ロシアの経済的制約は、この動きに冷水をかける。ウクライナ侵攻は軍事予算(2021年で約660億ドル、SIPRIデータ)を食い潰し、制裁でエネルギー輸出が激減した2025年のロシアは、財政的に息切れしている。

後継者は、大規模な戦争を続ける金がない。木村の研究が示す「第三のローマ」や「スラブの保護者」といった使命感は、サイバー攻撃や情報戦、近隣諸国への小規模な挑発で生き延びるだろう。記事が危惧するバルト諸国への脅威も、全面戦争ではなく、こうしたハイブリッドな形で現れる可能性が高い。

国際環境もロシアを縛る。服部の研究は、国際的孤立の度合いが外交を左右すると説く。2025年5月のX投稿では、プーチンがウクライナ交渉にガルージン外務次官を送り、対話の窓口を残した。これは孤立を避ける現実的な一手だ。

ポスト・プーチン期の後継者も、中国やインドとの協力を深め、経済的制約を緩和しようとするだろう。だが、岩下明裕教授のエネルギー外交研究が示すように、中国との関係は対等ではない。ロシアは「下請け」に甘んじるリスクを抱え、外交の自由度を失う。NATOがウクライナやバルト三国への支援を強めれば、記事が警告する脅威は現実味を帯びるが、経済的限界はロシアを低コストの挑発に追い込む。

記事のもう一つの弱点は、NATOを「被害者」と決めつけ、ロシアとの相互作用を見逃す点だ。SRCの研究、たとえば中井遼の分析は、NATO拡大がロシアの脅威認識を刺激し、対立を増幅したと示す。

2004年のバルト三国加盟やウクライナのNATO接近は、ロシアにとって戦略的緩衝地帯の喪失だ。経済的制約下の後継者は、NATOとの全面対立を避け、限定的な牽制に頼る可能性が高い。記事がこの複雑な力学を簡略化し、日本との類比(尖閣問題など)で読者を引き込もうとする試みも、SRCの厳密な地域分析とは距離がある。

では、ポスト・プーチン期のロシアの姿は何か。私の示した――GDPが韓国や東京都並みで制約が大きすぎる――は、未来を予測する鍵だ。経済的困窮は、後継者を低コストの挑発や中国依存に追い込む。服部の研究は、エリート層の利害が強硬姿勢を支えると警告するが、木村の研究は、大国意識が経済的現実で挫かれる可能性を指摘する。

2025年のロシアは、エネルギー収入の減少と制裁に苦しみ、ウクライナ侵攻のような冒険は難しい。後継者は、国民の不満を抑え、エリートを繋ぎ止めるため、情報戦や小規模な介入で「大国」の看板を守るだろう。中国やインドとの協力は、経済的制約を和らげるが、ロシアを従属的な立場に押し込む。上の記事が指摘する「侵略の継続」は、形を変えた牽制として現れる可能性が高い。

現在もロシア連邦海軍唯一の航空母艦として運用中の「アドミラル・クズネツォフ」1990年就役

結論だ。上の記事では、ロシアの侵攻をプーチン超えた構造に結びつけ、ポスト・プーチン期の危険性を訴える。これは、SRCの木村や服部の研究と合致する。だが経済的制約――GDPが韓国や東京都並みという現実――を軽視し、NATOとの複雑な力学を単純化している。

ポスト・プーチン期のロシアは、経済の弱さと国際環境に縛られ、大規模な戦争ではなく、狡猾な挑発で生き延びる道を選ぶだろう。上の記事は読者を掴むが、SRCの研究や私の経済的視点を取り入れれば、ロシアの未来はもっと鮮明に見える。ポスト・プーチンのロシアは、大規模な戦争を継続したくてもできないのだ。

参照
  • 木村汎『ロシアの国家アイデンティティ』(北海道大学出版会、2008年)
  • 服部倫卓「ロシアの権力構造と後継者問題」(『スラブ・ユーラシア研究報告集』、2016年)
  • 笹川平和財団「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」(2021年)
  • X投稿(ガルージン外務次官の交渉参加、2025年5月15日)
  • IMFデータ(2021年、ロシアGDP:1.83兆ドル、韓国GDP:1.91兆ドル)
  • SIPRIデータ(2021年、ロシア軍事予算:660億ドル)

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2025年5月20日火曜日

高橋洋一氏 物価高対策「今でしょ」 与党が秋に補正予算検討 立民は石破政権の延命に協力—【私の論評】経済危機を救う補正予算の力! 石破政権の減税拒否が日本を沈める

高橋洋一氏 物価高対策「今でしょ」 与党が秋に補正予算検討 立民は石破政権の延命に協力

まとめ

  • 補正予算の先送り: 自民・公明は物価高対策の2025年度補正予算案を秋の臨時国会で検討。今国会(~6月22日)で対応すべきなのに、参院選狙いで先送り。物価指数(総合3.6%、コアコア1.6%、食料品7.4%など)高騰で消費税軽減が必要。
  • 与党と財務省の影響: 財務省の減税反対で消費税軽減せず、補正予算を今国会で出さない。予備費対応は参院選向けの戦略。
  • 野党の消極姿勢: 立憲民主党は不信任案を出さず石破政権に協力。両党の思惑一致で同時選挙回避、自民・立民ともに有利な状況を優先。
石橋首相

自民・公明両党は13日、物価高やトランプ米政権の高関税に対応するため、2025年度補正予算案を秋の臨時国会で検討すると合意。しかし、現在開催中の第217回国会(1月24日~6月22日)で十分に対応可能であり、物価高対策を今行うべき。3月の消費者物価指数は総合3.6%、生鮮食品を除く総合3.2%、基調を示す米国版コア(食料(酒類除く)・エネルギーを除く総合、いわゆるコアコアCPI)1.6%、食料品7.4%、エネルギー6.6%と高騰。

食料品の消費税軽減税率を8%から0%にすれば効果的だが、財務省の減税反対で政府は動かず、補正予算を先送り。参院選を意識した与党の戦略に加え、立憲民主党が内閣不信任案を出さず石破政権に協力的な姿勢を見せる。結果、衆参同時選挙の可能性が消え、自民は損失を抑え、立民は国民民主の台頭を防ぐ思惑が一致。与党が補正予算を避け、野党が不信任案を出さない状況が続く。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】経済危機を救う補正予算の力! 石破政権の減税拒否が日本を沈める

まとめ
  • 補正予算の重要性:経済危機を乗り切るには迅速な補正予算が不可欠。コロナ禍(2020年、57.6兆円)と阪神淡路大震災(1995年、3.2兆円)の成功事例は、雇用維持(失業率2.9%、3.2%)と生産回復を示す。
  • マクロ経済の基本:需要と供給のバランスが生産、物価、失業率を動かす。需要増で生産と雇用が上がり、物価も上昇。需要減では逆。
  • フィリップス曲線:物価と失業率の関係。失業率が低いと賃金と物価が上がり、高いと物価は上がらない。コロナと阪神は労働市場の余裕で物価下落(CPI-0.4%、-0.1%)。
  • 現在の物価高:2025年3月、CPI3.6%(食料品7.4%)は供給ショック(高関税、エネルギー高)が原因。消費税0%化で消費を増やし、失業率上昇(2.6~3.0%から3.5%)を防げる。
  • 石破首相の誤り:2025年5月19日、減税を「金利の恐ろしさ」で拒否(ロイター)。マクロ経済やフィリップス曲線を理解せず、財務省に従い、ギリシャの特殊事情を無視。政権の継続は国民と自民党に有害。
迅速に補正予算を組むことは、経済危機を乗り切る生命線だ。過去の成功事例からその力を学び、現在の物価高(2025年3月、CPI3.6%、食料品7.4%、エネルギー6.6%)に立ち向かう道を探る。だが、その前に、マクロ経済とフィリップス曲線の基本を押さえておく必要がある。経済の仕組みを認識すれば、石破茂首相の減税反対の愚かさが浮き彫りになる。


マクロ経済は、国の経済を大きく見る視点だ。GDP(生産)、物価、失業率、金利が絡み合い、需要と供給のバランスで動く。需要が強ければ、生産が上がり、仕事が増え、物価も上がる。需要が弱いと、生産も仕事も減り、物価は下がる。この単純な理屈が全てだ。

フィリップス曲線は、物価と失業率の関係を示す。仕事が豊富で失業率が低いと、企業が人を奪い合い、賃金が上がり、物価も跳ね上がる。逆に仕事が少なく失業率が高いと、賃金も物価も上がらない。ケインズ経済学の核心である。この曲線は、経済の「物価と雇用のせめぎ合い」を教えてくれる。

コロナ禍でマスクをつけて歩く大勢の人々

コロナ禍(2020年)は、需要と生産が同時に崩壊した危機だ。補正予算57.6兆円(給付金12.9兆円、企業支援15.4兆円)が消費を押し上げ、消費は2.5%増、生産(GDP)は2020年第3四半期に5.3%増(内閣府)。失業率は2.9%(米国は14.7%、総務省)にとどまり、労働市場の余裕で物価は0.4%減(デフレ)。フィリップス曲線上、失業率が高めでインフレは起きなかった。給付金の効果(乗数1.0)は貯金(30%、日銀)でやや弱まったが、雇用を守り抜いた。迅速な予算編成が成功を呼んだ。

阪神淡路大震災(1995年)は、生産が壊滅した危機だ。複数回の補正予算3.2兆円(復旧・復興)が生産を立て直し、神戸の生産は1996年に9割回復(兵庫県統計)。失業率3.2%(米国5.6%より低)、物価は0.1%減(デフレ、総務省)。フィリップス曲線では、労働市場の余裕でインフレなし。震災後3カ月で第1次予算を組んだ迅速さが勝利を呼んだ。


今、物価高が日本を襲う。トランプ政権の高関税やエネルギー高で生産が縮み、物価は3.6%上昇(食料品7.4%)。失業率2.6~3.0%(推定)でも、フィリップス曲線上、供給ショックが物価を押し上げる。消費税を8%から0%に下げれば、消費が上がり、失業率の上昇(3.5%リスク)を抑えられる。

だが、石破首相は動かない。2025年5月19日の参院予算委員会で、「金利の恐ろしさ」を理由に減税を拒否。「日本の財政はギリシャより悪い。社会保障費が増える」と財政規律を振りかざし、加藤勝信財務相も「市場の信認」を盾に国債を否定(ロイター)。

石破の頭には、マクロ経済やフィリップス曲線の基本がない。供給ショックで物価が上がるのに、消費を増やす減税を「国債が怖い」と拒むのは、財務省の操り人形だ。ギリシャの危機はユーロ圏の特殊事情(通貨主権なし)なのに、それを無視して増税を避けるだけ。経済を救う気ゼロだ。国民経済を犠牲にしても、自らの政権を維持しようという魂胆が丸見えだ。参院選に負けても、内閣支持率が低下しても、居座るつもり満々だ。厚顔無恥とはこのことだ。

コロナと阪神の補正予算は、迅速に動き、雇用を守った。今、供給ショックを放置すれば、国民の生活は物価高で疲弊、参院選で自民党は大敗する。石破政権は経済を殺す疫病神だ。マクロ経済は需要と供給の綱引き。フィリップス曲線は物価と雇用の羅針盤だ。今すぐ減税で家計を救え。石破の緊縮脳では日本が沈む。国民のために、そうして自民党にとってもこの政権は一刻も早く終わらせるべきだ。

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