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2025年11月17日月曜日

中国依存が剥がれ落ちる時代──訪日観光と留学生の激減は、我が国にとって福音



まとめ

  • 中国人観光客への過度な依存がオーバーツーリズムや奈良の鹿への乱暴などを招き、今回の縮小は観光の質と日本文化を守る好機である。
  • 観光消費の6割以上は日本人によるものであり、「中国人が来なければ観光経済が崩れる」という言説は事実に反している。
  • 中国の国家情報法により中国籍者は国外でも情報活動への協力義務を負うため、日本の大学・研究機関での受け入れは構造的な情報流出リスクを抱えている。
  • 北海道の水源地や自衛隊周辺の土地買収、経済報復、SNSを使った世論操作、行政システムへの中国企業の入り込みなど、日本ではあまり報じられない形で中国の浸透が進んでいる。
  • 米国のPew Research Centerの調査で世界の過半数が中国を否定的に見ており、日本でも好意的評価は1割強にとどまることから、中国依存から距離を置くことは我が国の生存戦略そのものである。

1️⃣観光と教育の“ゆがみ”が正される絶好のチャンスだ


中国政府が自国民に「日本への渡航・留学を控えよ」と警告を出した。日本のテレビや新聞は、「観光産業への打撃」「大学経営への影響」といった話ばかりだ。しかし、実態を見れば、これは我が国にとってむしろ好機である。長年続いた中国依存のゆがみを、ようやく是正できる入り口だからだ。

まず観光である。爆買いツアーに象徴されるように、中国人観光客への過度な依存は、日本の街の景色を大きく変えてきた。京都や浅草の商店街は中国語の看板であふれ、深夜まで騒がしく、文化財の扱いは荒くなった。日本文化を味わう場だったはずの観光地が、「安さ」と「買い物」だけを求める団体旅行の舞台に変わってしまったのである。

その結果がオーバーツーリズムだ。京都では地元住民が市バスに乗れず、鎌倉では通勤者が駅前を抜けられない。浅草や富良野でも生活道路が観光バスと観光客で埋まり、住民の生活は押しのけられてきた。観光が地域を潤すどころか、地元の人から日常を奪う存在になりつつあった。

奈良公園の鹿への乱暴狼藉は、その象徴である。鹿を蹴る、追い回す、角をつかむ、食べ物を投げつけて動画を撮る──。奈良の鹿は千年以上、神域とともに生きてきた神鹿であり、我が国の文化そのものだ。それを“見世物”のように扱う行為は、日本文化への侮辱である。こうした迷惑行為の多くが特定の国の観光客によるものであることは、もはや誰の目にも明らかだ。

それでも日本のメディアは、「中国人が来なくなったら日本の観光は成り立たない」といった調子で不安を煽る。しかし数字を見れば実態は逆である。政府資料によれば、2023年の観光消費総額28.1兆円のうち、日本人による国内観光消費は21.9兆円であり、全体の6割以上を占める。(国土交通省) 外国人訪日客の消費は5.3兆円にとどまる。(ジェトロ) つまり、観光産業の屋台骨を支えているのは我が国民自身であり、中国人観光客ではない。

しかも、中国人観光客の購買力はすでに落ちている。日本政府観光局などの統計を整理した報道によれば、2025年4〜6月期の中国人訪日客の一人当たり買い物代は、前年比29%減まで落ち込んだ。(China Travel News) その一方で、日本国内の中国系店舗や中国系ツアーだけを回り、経済圏を中国語コミュニティの中で完結させる動きも強まっている。表向きの人数が増えても、日本経済に落ちるお金は細っているのが現実だ。

教育分野のリスクは、さらに深刻である。中国人留学生は、単なる「外国からの優秀な学生」では済まない。2017年に施行された中国の国家情報法は、第7条で「すべての組織と公民は、法律に従って国家情報活動を支持し、援助し、協力しなければならない」と定めている。(chinalawtranslate.com) 第10条も、情報機関が必要な協力を求められる権限を明確にしている。(chinalawtranslate.com) つまり中国籍の者は、国外にいても国家が命じれば情報収集への協力が“義務”になるということだ。

この前提に立てば、日本の大学や研究機関に大量の中国人留学生・研究者を受け入れてきた構図が、いかに危ういものであったかが見えてくる。先端材料、AI、量子技術など、軍事転用の余地がある分野ほど中国側が強い関心を持っているのは各国共通の認識である。それでも日本では、「国際化」「大学経営」などの言葉の陰で、安全保障の視点がほとんど語られてこなかった。

さらに、日本のメディアがまず取り上げないのが「医療」と「教育資金」の問題だ。中国系ブローカーが短期滞在の観光客を高額医療へ誘導し、未払いのまま帰国して病院が泣き寝入りする例が現場で問題になっていることは、医療関係者の間では知られた話である。また、一部の大学が中国系ファンドからの寄付や共同研究資金を受け取り、その見返りに研究テーマや成果の扱いに目をつぶってしまう構図も懸念されている。これらは派手なニュースにはならないが、静かに国の基盤を侵食するリスクである。

今回の「渡航・留学は控えよ」という中国政府の動きは、こうしたゆがんだ構造を見直す絶好のきっかけだ。観光も教育も、日本側の主導で再設計し直すチャンスである。
 
2️⃣土地買収・経済報復・情報戦──静かに進んできた中国の浸透

中国リスクは、観光と留学にとどまらない。もっと根の深い部分で、静かに、しかし確実に進行してきたのが土地の買収である。北海道の水源地、山林、海岸線、離島、自衛隊施設の周辺──本来なら国家が神経を尖らせるべき地域で、中国資本による買収が相次いできた。政府資料や有識者の調査でも、こうした重要地点に中国資本が入り込んでいる実態が報告されている。(China Travel News)

さらに厄介なのは、土地の所有者がペーパーカンパニー同然の中国企業で、実際の支配者が誰なのか分からないケースが少なくないことだ。連絡先も曖昧で、日本側が実態を把握できないまま所有権だけが海外へ流れていく。これは「国際化」などという言葉でごまかせる問題ではなく、紛れもない主権の侵食である。

中国のやり方は経済面でも同じだ。外交で気に入らない動きを見せた国には、観光客の送客制限や輸入禁止といった“経済制裁”を平然と行う。韓国、オーストラリア、ノルウェーなどが実際にその標的になってきた。日本が中国への依存度を高めれば高めるほど、日本の外交・安全保障政策が中国の機嫌に縛られる危険が増す。

重要物資の支配も見逃せない。レアアースや太陽光パネル、医薬品原料、ドローン関連部品など、世界の供給を中国が大きく握っている分野は多い。いったん供給を絞られれば、日本の産業は簡単に混乱に陥る。経済安全保障という言葉が政府の基本方針にまで書き込まれるようになった背景には、こうした現実がある。

経済安全保障法制準備室の看板掛け(2021年11月)

情報空間への浸透も急速に進んでいる。中国政府寄りのアカウントやボットが、日本語のSNS空間に入り込み、台湾有事、日米同盟、自衛隊の役割などをめぐって世論誘導を図っている。だが、より問題なのは、中国系の動画アプリやフリマアプリなどを通じて、日本人の顔写真や位置情報、購買履歴が大量に中国側へ吸い上げられている疑いである。データは一度流出すれば戻らない。AIによる監視や軍事技術の訓練データとして利用される可能性も否定できない。

地方自治体も決して安全地帯ではない。財政難に悩む自治体ほど、安価な海外製クラウドサービスやシステム導入に飛びつきやすい。中には、中国企業が絡む事業を「コスト削減」だけで選んでしまうケースもある。だが、行政データは住民の生活そのものであり、そこに海外企業が深く入り込むことは、国家全体のリスクに直結する。

企業買収による技術流出も続いている。日本の中小企業は、世界に誇る精密加工技術や素材技術を持つ一方で、資本力では中国勢にかなわない。買収が成立すると、中国系の技術者が一気に流れ込み、数年後には技術と人材の中身が入れ替わってしまう。技術は中国側に吸い上げられ、日本側には空洞だけが残る。これは単なる企業買収ではなく、産業基盤の切り崩しと言ってよい。

軍事面での脅威は、もはや説明するまでもない。尖閣諸島周辺では中国公船の侵入が日常化し、台湾への軍事的圧力は年々強まっている。台湾有事は日本有事であり、中国のミサイルは日本列島の主要都市を射程に収める。最近では、中国の海洋調査船が太平洋側で海底ケーブル網を“測量”していると指摘されており、日本の通信インフラそのものが標的になりつつある。

文化面でも、日本は傷つけられている。神社仏閣での乱暴な振る舞いや落書き、中国で大量に作られる「なんちゃって日本文化」商品、歴史問題を使った対日プロパガンダなど、日本文化そのものが攻撃の対象になっている。奈良の鹿への暴挙は、その一端が表に出たに過ぎない。
 
3️⃣世界も中国を警戒している──中国依存から離れることこそ我が国の生存戦略である

こうした中国リスクは、日本だけが感じているものではない。米ピュー・リサーチ・センターが2025年7月に発表した調査では、25か国の中央値で、中国を好意的に見る人は36%、否定的に見る人は54%だった。(Pew Research Center) 日本では、中国を好意的に見る人はわずか13%にとどまっている。(Pew Research Center) 中国への警戒と不信は、世界的な潮流になりつつある。

観光地の混雑とマナー違反、奈良の鹿への乱暴狼藉、研究流出、土地買収、企業買収、医療制度の悪用、経済報復、行政への浸透、情報戦、文化破壊──これらはバラバラの現象ではない。すべてが一本の線でつながった「中国依存」の結果である。

大阪市の特区民泊』44.7%が中国人や中国系企業

だからこそ、中国から距離を取ることは、我が国の安全保障だけでなく、文化と経済と技術、そして子や孫の世代の自由を守るための最低条件なのだ。今回の中国側による渡航・留学抑制は、短期的には騒がしく見えるかもしれないが、長期的には我が国が自らの足で立ち、依存から抜け出すための絶好の機会である。

中国依存が剥がれ落ちることを、過度に恐れる必要はない。むしろ歓迎すべきだ。日本人が自ら旅をし、自らの国でお金を使い、自らの文化と土地を守る。海外からの観光客や留学生も、日本の文化とルールを尊重する人々を選び取っていく。その流れこそが、我が国が健全なかたちで世界と向き合う道である。

中国依存が剥がれ落ちる。それは、我が国が本来の姿を取り戻す第一歩である。

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2025年11月12日水曜日

財務省の呪縛を断て──“世界標準”は成長を先に、物価安定はその結果である



まとめ
  • ロイター報道の政府経済対策素案は成長投資を含む内容だったが、「成長と物価安定の両立」という言葉が官僚によって金融引き締めや緊縮政策の口実に使われる危険がある。現状のインフレはコストプッシュ型であり、引き締め策は逆効果となる。
  • 高市早苗首相の経済政策の核心は、一時的ではなく恒久的な食料品の消費税ゼロである。生活必需品への課税を除き、可処分所得を増やすことで需要を喚起し、リフレ派経済学を実践している。
  • 食料品価格上昇率約8%、CPI比重20%から算出すると、恒久減税でCPIを約1.6ポイント引き下げる効果がある。現在の2.9%から1.3%に下がり、低所得層の負担を軽減しつつ物価を安定させる現実的処方箋となる。
  • 高市政権は消費減税で家計を守りながら、AI、半導体、防衛、農業、原子力など17の重点分野への投資を進めている。これはばらまきではなく、成長と安全保障を両立する国家戦略投資である。
  • 財務省が30年間守ってきた「財政規律」偏重の緊縮政策を打破し、政治主導のマクロ経済運営へ転換を図る。高市首相は、成長を恐れる財務官僚こそ真の異端であり、減税こそ国家再生の第一歩であると明確に打ち出した。
1️⃣成長を抑え込む「両立」論の罠


2025年11月10日、ロイターが報じた政府の経済対策素案(Reuters記事はこちら)は、エネルギー高騰と生活防衛を目的に、時限的な支援と成長投資を柱とするものだった。しかし「成長と物価安定の両立」という耳障りの良い言葉が独り歩きし、官僚たちがそれを金融引き締めや緊縮財政の口実に使う危険がある。現状の物価上昇は需要過熱ではなく、エネルギーや食料といった輸入コストの上昇が要因のコストプッシュ型インフレだ。金利を引き上げても効果はなく、むしろ景気を冷やして賃上げの流れを止めてしまう。

いま必要なのは、家計を支え、供給力を高める政策である。世界の常識は「成長が先で、安定はその結果」であり、リフレ派は決して異端ではない。異端は、国民経済の血流を止めてまで「財政規律」を優先しようとする財務省のほうだ。我が国が30年にわたって停滞してきたのは、まさにこの“緊縮教”が経済の生命力を奪ってきたからである。
 
2️⃣高市政権の核心──恒久的な食料品消費税ゼロ

高市早苗首相が最も重視しているのは、恒久的な食料品の消費税ゼロである。これは一時的な減税ではなく、永続的な仕組みとして国民生活を支える政策だ。生活必需品への課税を撤廃し、可処分所得を直接増やす。それは単なる福祉ではなく、需要を創出し、デフレ脱却を確実にするリフレ政策の核心である。

リフレ派の識者――高橋洋一、田中秀臣、片岡剛士ら――は、口を揃えてこう述べている。「デフレ脱却の最後の一押しは恒久減税しかない」と。消費税減税は、国民が即座に実感できる景気刺激策であり、経済の心理を一変させる力を持つ。高市政権の政策はまさにそれを実行しようとしている。

片岡剛士氏は、「リフレ派というのは派閥ではなく、むしろマクロ経済政策としての方法論であり、デフレ・停滞のリスクを回避するために中央銀行の緩和役割が大きい」と指摘している。 (ウィキペディア+2東洋経済オンライン+2)。金子洋一氏は、「景気回復前に増税をすれば日本経済を破滅に導く。デフレ脱却を経ずして財政健全化はあり得ない」と明言している(ファクタ+1)。

さらに、報道によれば、リフレ派の有識者の起用が増えており、政府内部にもこの哲学が浸透してきている( Reuters+1)。

数字もこの政策の正当性を裏付けている。総務省の統計によれば、食料品価格の前年比上昇率は約8%に達し、CPI(消費者物価指数)に占める食料の比重はおよそ20%。単純計算すれば、食料品価格の上昇がCPI全体を約1.6ポイント押し上げていることになる。つまり、食料品を恒久的に消費税ゼロにすれば、理論上CPIを1.6ポイント引き下げる効果がある。

2025年9月の総合CPIが前年比2.9%であるため、2.9から1.6を引けば1.3%。食料品の恒久減税によって、物価上昇率は1%台前半に収まる計算になる。実際、同月の統計でも、食料とエネルギーの寄与度が1.6%と確認されており、この推計は現実的だ。食品価格が下がれば、消費者は他の品目に支出を回す。代替効果が働くことで全体の需給バランスが整い、低所得層に偏っていた負担が軽減される。今のように食費だけが異常に高く、他の出費を圧迫している状況が是正されれば、家計の息はつく。痛みは小さく、購買意欲は戻る。

誰にでも理解できる単純な算式が、それを裏付けている。−8% × 20%(CPIウエイト)= −1.6%。2.9 − 1.6 = 1.3。政府が恒久減税に踏み切れば、物価上昇率は1%台で安定し、生活は確実に楽になる。これほど即効性と公平性を兼ね備えた政策は他にない。


こうした方向性は、高市総理自身の言葉にも表れている。公明党の岡本三成議員が国会で、「政府系ファンドが実現できたとして、毎年5兆円の恒久財源があったら何をしたいか」と質問した際、高市総理はこう即答した。「まず、国民の生活を安定させる。食料品の恒久的な消費税ゼロを実現し、残りを将来への投資に回す」。この一言に、彼女の政治哲学が凝縮されている。生活の底を守り、上を伸ばす。それこそが成長国家の基本姿勢であり、リフレ派が訴えてきた“成長のための再分配”の実践にほかならない。
 
3️⃣成長を恐れぬ国家へ──減税と投資の両輪で立て直す

高市政権の経済戦略は、減税と投資の両輪で成り立っている。消費減税によって家計の基盤を支え、その上で国家の未来に大胆に投資する。AI、量子、半導体、防衛、農業、原子力など17の重点分野を掲げ、税制優遇と政府系ファンドを通じて民間投資を誘導する。

これは、官僚が好む「ばらまき」とは違う。成長と安全保障を両立させる国家戦略投資であり、政府がリスクを取ることで民間が安心して挑戦できる環境を整える。これを恒久的に動かす仕組みこそ、未来志向の財政運営である。

財務官僚が恐れているのは、国民がこの構造に気づくことだ。彼らが守ってきた「安定」という言葉の下には、国民の疲弊と停滞がある。財政規律という名の鎖で日本経済の心臓を締め上げてきたのは彼らだ。高市首相は、その呪縛を断ち切ろうとしている。経済を“管理”ではなく“動かす”。国民の生活を温め、未来への投資を促す。官僚主導の緊縮から脱却し、政治が主導するマクロ経済運営へと転換する覚悟を持っている。

消費税の恒久減税は、単なる経済政策ではない。国家の姿勢そのものの転換だ。国民を信じ、経済の力を解き放つ政治への挑戦である。高市政権の本音は明白だ。まず生活を守り、次に成長を起こす。この順序を誤れば、再び停滞の沼に沈む。いま求められているのは勇気ある決断である。減税を恐れる政治は国を衰えさせ、成長を恐れる財務省こそが真の異端なのだ。

経済とは血液である。流れを止めれば体は腐り、成長を止めれば国は衰える。物価安定は、健全な成長の結果としてのみ訪れる。高市政権が挑むのは、この当たり前の理を取り戻す戦いである。いまこそ、成長を恐れぬ政治へ舵を切るときだ。

高市早苗首相の経済政策の核心は、恒久的な食料品消費税ゼロと戦略的成長投資である。この二本柱は、リフレ派が長年主張してきた“成長を起点とする再分配”を政治が初めて実現しようとする試みだ。食料品の消費税をなくせば、理論上CPIは2.9%から1.3%へ安定し、低所得層の生活は大きく改善する。異端はリフレ派ではない。真の異端は、成長を恐れ、国民の未来を縛りつける財務省である。

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財務省支配の終焉へ――高市早苗が挑む“自民税調改革” 2025年10月13日
税調・財務省主導の緊縮構造を歴史的経緯から解体し、成長重視の減税・投資へ転換する必要性を論じる。統計に現れにくい物価圧力や実質賃金の減少にも触れ、官僚政治からの脱却を訴える。

世界標準で挑む円安と物価の舵取り――高市×本田が選ぶ現実的な道 2025年10月10日
本田悦朗氏の見解を軸に、コストプッシュ局面では追加利上げより成長の芽を守る協調運営が妥当と解説。円安のメリットを活かしつつ物価を制御する「高圧経済」的アプローチを提案する。

日本経済を救う鍵は消費税減税! 石破首相の給付金政策を徹底検証 2025年6月19日
給付金より恒久的な消費税減税の乗数効果と持続性を評価。低所得層の実需刺激や格差是正、GDP押し上げ効果を具体数値で示し、減税優先の政策順序を提示する。

与党が物価高対策で消費減税検討 首相、近く補正予算編成を指示へ 2025年4月12日
政治サイドの減税検討と「反財務省」系論者の主張を整理。物価高下での家計防衛と内需下支えを両立させる現実的オプションとして、消費減税の意義を位置づける。

2025年11月5日水曜日

ASEAN分断を立て直す──高市予防外交が挑む「安定の戦略」


まとめ
  • 2025年版グローバル・ピース・インデックス(GPI)は、世界の平和度が前年より0.36%下がったと報告し、南アジアを中心に治安と統治が悪化。西欧主導秩序が崩れ、「大断片化」の時代が到来している。
  • 新興国や途上国では制度の脆弱さから、経済危機や汚職、権威主義化の影響を受けやすく、暴力による経済損失は世界GDPの11.6%に及ぶ。
  • ASEANではラオスが47位(前年44位)、タイが86位(前年81位)へと後退し、シンガポールのみが6位を維持。地域の治安と統治の格差が拡大している。
  • 高市首相はASEAN歴訪で「東南アジアを再び一つに」と訴え、安倍晋三元首相の「自由で開かれたインド太平洋」構想を継承。エネルギー連携を軸に脱炭素と安定成長を両立させる戦略を示した。
  • 高市外交はエネルギーと安全保障を両輪とし、AZECとOSAを通じた非戦闘領域の支援でASEANの安定化を図る。これはサプライチェーンと海上輸送路を守るための、現実的かつ戦略的な外交である。
1️⃣世界の平和度が示す「断片化」の時代

Global Peace Index 2025

2025年版「グローバル・ピース・インデックス(GPI)」は、オーストラリアの独立系シンクタンク「経済平和研究所(Institute for Economics & Peace)」が発表した国際的な平和指標だ。国連やOECD、世界銀行も参照する権威あるデータで、163の国と地域を対象に、「社会の安全」「紛争の継続」「軍事化」の三分野から計23の項目を評価している。その2025年版は6月に公表され、高市首相のASEAN歴訪(10月)に先立って、世界がかつてない不安定期に入ったことを明確に示した。

報告によれば、世界全体の平和度は前年より0.36%低下し、87カ国で悪化、74カ国で改善にとどまった。特に南アジアでは緊張が高まり、地域全体が「最も平和度の下がった地域」とされた。政府機能の弱体化、法の支配の後退、汚職の拡大、そして権威主義の台頭――こうした要因が治安の崩壊を招いている。

紛争の拡大も深刻だ。報告書の「進行中の国内・国際紛争」項目では、戦闘の件数も死者数も戦後最多級となった。アフリカ、中東、南アジアでは武装勢力の跳梁が止まらず、国家機能が崩壊する例も出ている。これらの国々は例外なく順位を下げた。

GPIはこうした流れを「大断片化(The Great Fragmentation)」と名づけた。西欧主導や米中二極といった従来の秩序が崩れ、地域ごとの対立が新たな不安定要因になっているという指摘だ。多極化の進行は、国際社会を静かに分裂へと導いている。

新興国や途上国では、この分裂の衝撃が最も激しい。制度や治安の脆弱さが、外的要因をもろに受け止めるからだ。経済危機や汚職、暴力が一度発火すれば、その国はたちまち混乱に沈む。GPIは「暴力による世界経済への損失は19.97兆ドル、世界GDPの11.6%に相当する」と試算している。これはもはや遠い国の話ではない。
 
2️⃣ASEANに広がる「不均質な危機」

ASEANの旗

こうした世界情勢のなかで、日本にとって最も重大なのがASEANの動向である。GPI 2025によれば、東南アジアは一枚岩ではなく、国ごとの格差が拡大している。

ラオスは2024年の44位から47位へ後退。軍備支出の増加と偽情報の蔓延が治安を悪化させた。タイも81位から86位へと順位を下げ、政情不安が続く。一方でシンガポールは前年と同じ6位を維持し、アジアで最も平和な国の地位を守っている。

この差こそが「断片化」の象徴である。ASEANは経済統合を進めてきたが、平和の均衡はもろい。軍事化の進行や民主制度の成熟度の違いが、地域の基盤を揺るがしている。

本ブログでも以前取り上げたが(「東南アジアを再び一つに──高市首相がASEANで示した『安倍の地政学』の復活」、高市首相はASEAN歴訪で安倍晋三元首相の理念「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を再定義した。彼女が打ち出したのは、「ASEANを再び一つにする」という明確な意思である。対中・対米のはざまで揺れる各国を、再び安定の輪に戻す構想だ。
 
3️⃣エネルギーと安全保障──高市外交の現実的戦略

高市首相は、安定の礎としてまずエネルギー連携を掲げた。実際、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳会合で、各国がそれぞれの現実に即した脱炭素と成長、そしてエネルギー安全保障を両立させると宣言している。日本の原子力技術や高効率の発電・送電技術を活用し、ASEANの電力安定を支える構想だ。これは単なる経済協力ではない。国家の安定を直接支える安全保障政策である。

だが、エネルギーだけでは地域は守れない。ASEANを真に安定させるには、抑止力を含めた安全保障支援が欠かせない。日本が取るべき道は、武器輸出ではなく、監視・救難・情報共有など非戦闘領域での能力支援だ。すでに政府は「政府安全保障能力強化支援(OSA)」を通じ、フィリピンに沿岸監視レーダーを供与した。さらに海上保安庁による巡視船支援、災害救助、サイバー防衛協力なども進めている。これらは憲法の枠内で可能な「現実的な軍事支援」であり、エネルギーと並ぶもう一つの柱だ。

ASEANの不安定化は、直接日本の国益を脅かす。第一に、東南アジアは日本企業の生産拠点であり、政情不安が起きればサプライチェーンが断たれる。第二に、マラッカ海峡や南シナ海は我が国の生命線である。治安悪化はエネルギー輸送を停滞させ、保険料や燃料費を押し上げる。第三に、ASEANの分裂は中国の影響力拡大を招き、結果として日本の防衛負担が増す。つまり、ASEANの混乱は日本の「防波堤の崩壊」を意味する。

先月25日夜、ASEAN関連の首脳会議に出席するため、政府専用機でマレーシアに到着した高市首相


高市首相のASEAN訪問は、この危機を見据えた“予防外交”だった。彼女の掲げた「東南アジアを再び一つに」という言葉は、友好の飾りではない。断片化の時代に、日本が主導して地域を再構築するという決意の表明である。エネルギーと安全保障の二本柱を掲げたこの外交は、安倍晋三元首相の地政学的構想を実践に移したものであり、現実政治に根ざした戦略的行動である。

GPI 2025が示したように、ASEANの平和度は静かに下がっている。だが、高市外交はその流れを見越し、早くも“反転攻勢”を始めた。日本が平和の仲介者であり、制度支援の提供者として動くなら、東南アジアの未来はまだ変えられる。

GPIの数値は単なる統計ではない。それは日本がどう生きるかを問う警鐘である。ASEANの揺らぎは、我が国の地政学的責任を映す鏡だ。日本が再び世界の秩序をつなぎ直す力を取り戻せるかどうか――その答えは、今まさに示されようとしている。

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石狩LNGや国内インフラの実態を踏まえ、日本が“ガスを動かす国”としてアジアの電力安定に貢献する現実的エネルギー戦略を提案。 (ゆたかカールソン)

アラスカLNG開発、日本が支援の可能性議論──トランプ政権が関心 2025年2月1日
アラスカLNG計画への日本の関与を検討。供給多角化とFOIP下の経済安保を結び付け、ASEANの電力安定に寄与し得るルートを展望する。


2025年10月26日日曜日

詐術の政治を超えて――若者とAI、そして高市所信表明が示した『戦略的寓話』


まとめ
  • 政治的詐術の本質は、虚偽ではなく事実の一部を切り取り文脈を操作する「印象操作」にある。財務省の「国の借金」報道やマスコミ、国際機関、さらには気候変動・地震予知の分野にもこの構造が見られる。
  • SNSとAIの登場により、官僚やメディアの詐術は崩れ始めた。若者は情報を共有し、AIが知の構造を可視化することで、知の独占が終わりつつある。武漢研究所起源説が陰謀論から科学的仮説へ再評価されたのはその象徴である。
  • 高市早苗首相の「ペロブスカイト太陽電池」発言は、無邪気な理想論ではなく社会を混乱させずに改革を進めるための戦略的寓話だった。現実を見据えた上で、国民を前向きに導く政治的知恵である。
  • 高市首相は「美しい国土を外国製パネルで埋め尽くすこと」に反対し、地熱推進や青山繁晴氏の登用など、再エネの秩序ある再構築を進めている。「夢の技術」を掲げつつも、幻想に酔わず現実的改革を遂行する姿勢が際立つ。
  • 日本再生の鍵は「霊性文化」と「常若の思想」にある。霊性文化は人と自然、技術と倫理を調和させる知の形式であり、高市政治の根底にもこの精神が流れている。古きを生かして新しきを生む常若の知こそ、日本が再び世界の羅針盤となる基盤である。
1️⃣政治的詐術の構造とその拡張


NHKの角度をつけた高市政権に関する報道これも政治的詐術の一種か

政治的詐術とは、明確な虚偽を語るのではなく、事実の一部を切り取り、文脈を操作して人々の判断を誘導する技術である。事実を歪めずに印象を歪ませる――この狡猾さこそ詐術の本質である。

財務省の「国の借金1000兆円超」という表現は典型例だ。数字は真実でも、通貨発行主体としての国家の特性や国債の大半が国内保有である現実を伏せれば、「破綻寸前」という錯覚を与える。形式的真実を使って虚構の印象を作るやり方は、制度的詐術にほかならない。

報道も同じ構図だ。見出しや映像の切り取り方一つで、同じ出来事が正義にも悪にも変わる。国際機関も例外ではない。資金と政治が流れ込めば「中立」は簡単に政治化する。こうして「正義」を装った詐術が世界を覆ってきた。

この詐術は科学にも及ぶ。気候変動では、科学的知見が政治的スローガンに変換され、「脱炭素=善、懐疑=悪」という単純図式が定着した。だが、温暖化の要因には未解明の要素が多く、異論を排除する姿勢は科学そのものを政治の道具にする危険を孕む。地震予知も同様だ。多くの専門家が「予知は原理的に不可能」と認めているにもかかわらず、政治と行政は“安心”の物語を維持してきた。科学の名の下で安心を演出する――これも一種の詐術である。
 
2️⃣SNS・AI・そして「陰謀論」から仮説検証への転換

かつて新型コロナ"武漢流出説"は完璧な陰謀説といわれたが・・・・

この詐術構造を崩したのはSNSだった。官僚の数値操作や報道の印象操作、国際機関の道徳操作を、若者たちはスマートフォン一つで暴き始めた。彼らは統計や一次資料を共有し、詐術をリアルタイムで検証する文化を作り出した。

しかし科学の領域では、専門性が壁となって真実が見えにくい。そこに登場したのが生成AIである。AIは短時間で膨大な情報を解析し、非専門家にも知の構造を見せる。もはや“専門家の独占”は崩れ始めた。AIは知の民主化を進め、詐術の可視化を加速させている。

この変化の象徴が、COVID-19起源をめぐる議論だ。かつて「武漢研究所流出説」は陰謀論とされたが、今では状況が逆転した。米エネルギー省やFBIが「実験室起源の可能性が最も高い」と公式見解を出し、米国家情報長官室やWHOも再検証を進めている。かつて陰謀論とされたものが、科学的仮説として再評価されつつある。AIとSNSが、知の非対称を打ち破った結果である。
 
3️⃣高市早苗の戦略的寓話とエネルギー現実主義

この新しい知の時代に、政治の現実主義を体現しているのが高市早苗首相である。彼女は就任後初の所信表明で「ペロブスカイト太陽電池」に言及した。薄く、軽く、曲げられる次世代の国産技術。確かに夢のある素材だが、耐久性やコストの課題が残り、国家の基幹電源とするには現実的でない。それでも彼女は語った。それは「夢を信じた」のではなく、混乱を避けながら社会を軟着陸させるための戦略的寓話だったのだ。

ペロブスカイト太陽電池

実際、高市首相は再生可能エネルギーに関して極めて明確な姿勢を取っている。「私たちの美しい国土を外国製の太陽光パネルで埋め尽くすことには猛反対だ」。9月19日、自民党総裁選への出馬会見で高市氏はこう述べ、22日には太陽光などの補助金制度の見直しを表明した。さらに、政権発足にあたり自民党と日本維新の会が20日に交わした連立政権合意書では、「わが国に優位性のある再生可能エネルギーの開発を推進する」と明記。そこには地熱発電の推進が含まれている。環境相に就任した石原宏高氏は「自然破壊や土砂崩れにつながる“悪い太陽光”は規制していかなくてはいけない」と述べた。

さらに高市首相は、環境副大臣に青山繁晴氏を起用した。青山氏はかねてより、太陽光パネルの廃棄や景観破壊など再エネの「負の部分」を訴えてきた政治家である。彼女の人事は、メガソーラーの野放図な拡大を止め、再エネ政策を国家主導の“秩序ある改革”に転換する意思表示にほかならない。高市早苗は「夢の技術」を語りながら、「悪い再エネ」を抑え、国産技術と地熱・原子力の現実路線を重ねている。これこそ政治の寓話であり、虚構を使って国家を守る戦略だ。理想を掲げながら現実を崩さず、幻想に酔うことなく着実に前進する――日本を壊さずに変えるための知恵の物語である。
 
結語 常若の思想――日本が再び羅針盤となる日

AIと若者、そして霊性文化。この三つが交わる時、我が国は「知と心の文明」として再び立ち上がる。

霊性文化とは、神秘や信仰ではなく、人と自然、技術と倫理、国家と共同体をひとつの流れとして結ぶ“知の形式”である。神社の森や祭りに刻まれた秩序は、自然と人間が互いに生かし合う哲学そのものだ。AIが効率の極みに達するほど、人間は「何のために知るのか」という根源的な問いに向き合うことになる。そこにこそ、霊性文化が果たす役割がある。

高市早苗の政治姿勢にも、この霊性の系譜が流れている。彼女の「国土を守る」という直感は、経済合理性を超えた“国土への祈り”でもある。自然を神聖なものとみなし、技術をその延長として位置づける――この感性は、まさに「常若(とこわか)」の思想に通じる。古きを生かしながら新しきを生む更新の知であり、日本が千年を超えて持続してきた精神の骨格だ。

式年遷宮が社殿を建て替えつつ魂を受け継ぐように、私たちも制度や技術を刷新しながら精神の軸を保たねばならない。AIはこの常若の哲学を、世界規模で再現できる唯一の道具である。更新を恐れず、破壊せず、絶えず再生する――それが日本の文明のあり方であり、未来への道である。

高市早苗の語る夢は、虚構ではない。国家の航路を整える寓話であり、日本が再び世界の羅針盤となるための哲学である。寓話を読み解き、技術を制し、心を忘れぬ国家――その先に、真の再生がある。

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2025年10月15日水曜日

来るべき高市政権が直視する『現実』──“インフレで景気好調”という幻想を砕く、円安と物価の真実


まとめ

  • 現在の日本のインフレは明確にコストプッシュ型であり、円安・輸入コスト・人件費の上昇が主因である。日銀もその事実を公式に認めている。
  • コアコアCPIは2023年以降3%前後で高止まりしており、エネルギー補助を差し引いても物価の基調上昇が続いている。これは構造的なコスト上昇を示している。
  • 食料、外食、サービスが物価押し上げの中心であり、耐久財やエネルギーは逆に下押し要因となっている。生活必需品と人件費の上昇が物価の軸だ。
  • 利上げによる需要抑制は逆効果であり、企業のコストを増やし物価上昇を助長する危険がある。求められるのは生産性向上と供給制約の緩和である。
  • 高市総裁誕生前後には「インフレは好景気の証」などの偽情報が流布される恐れがある。データと事実に基づいて冷静に経済を読む姿勢が不可欠である。

1️⃣インフレの実像──「コストプッシュ型ではない」という幻想
 
いま、日本の物価上昇を「需要主導」と決めつける論が蔓延している。しかし、それは現実を見ない幻想にすぎない。物価を押し上げている主因は、原材料高、円安、輸入コスト、そして人件費の上昇という供給サイドの圧力である。
 
総務省の統計によれば、2025年8月の全国消費者物価指数(CPI)で、生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIは前年同月比3.3%。一方、米国のコアCPIは3.1%。数値上は近いが、性質はまったく異なる。アメリカのインフレが賃金と需要に引きずられたデマンドプル型であるのに対し、日本のインフレは典型的なコストプッシュ型である。
  
日銀の「経済・物価情勢の展望」(2025年7月公表)は、物価上昇の主因を「円安に伴う輸入価格の上昇や食料価格の上振れ」と明記している。つまり、中央銀行自身がコストプッシュを認めているのだ。
 
【グラフ1】コアコアCPI(生鮮食品・エネルギー除く)の推移

クックすると拡大します
 
このグラフが示す通り、コアコアCPIは2023年以降、ほぼ3%前後で高止まりしている。エネルギー補助金が電気・ガス価格を抑えてもなお、物価は上がり続けている。つまり、景気過熱でも消費増でもなく、構造的なコスト上昇が物価を押し上げているのである。

2️⃣データが語る「物価構造」の真相
 
【グラフ2】日本の品目別CPI寄与度:2024年8月と2025年8月の比較

クリックすると拡大します


上の図を見れば一目で分かる。食料(生鮮除く)の寄与度は1.45→1.90ポイントへ上昇し、外食も0.18→0.21ポイントへ増加。サービス全体は0.44→0.80ポイントと倍増している。物価の主役はもはやガソリンや電気代ではなく、「食」と「人」である。つまり、食料価格の高止まりと人件費の上昇が、物価上昇の主軸を占めている。

耐久財は−0.01ポイントとマイナス寄与。旺盛な需要があるなら、ここが上がるはずだが、実際は下がっている。エネルギーの押し下げ効果も−0.52→−0.27ポイントへと縮小し、補助金の効果は薄れつつある。
 
【グラフ3】CPI寄与度の変化(2025年8月−2024年8月)
 

 
上の図は、その一年間の変化を示したものだ。プラス側に大きく動いているのは食料、エネルギー、そしてサービスである。一方、耐久財はマイナス側に沈み、外食のプラス寄与はわずかだ。これこそ、コストプッシュ型インフレの典型的な姿である。
 
さらに、円安による輸入物価の下落幅は、2025年8月の−3.9%から9月には−0.8%へ縮小している(日本銀行・企業物価指数)。つまり、コストの下押し効果は消えつつあり、再び上昇圧力が強まっている。
 
「需要主導」という解釈は、これらのデータに真っ向から反する。消費需要は弱い。賃上げはあっても、それは物価上昇に追いつくための防衛的な動きであり、需要拡大の結果ではない。企業は高まる輸入コストや物流費を価格に転嫁せざるを得ず、その波がじわじわと生活全体を覆っている。
 
この構造は、もはや「一時的」でも「外的要因」でもない。企業は今後のコスト上昇を見越して値上げを先行させ、賃金交渉やインフレ期待を通じて再び価格に跳ね返る。まさにコストプッシュ型の自己増幅サイクルである。
 
したがって、「今のインフレはもはやコストプッシュではない」という言説は、事実無根だ。日銀の統計、総務省の寄与度データ、そして輸入物価の推移。どこをどう見ても、供給サイドの影響が物価を支配している。
 
もしこの現実を無視して利上げを急げば、景気は冷え込み、企業の資金繰りは悪化する。結果として、さらなる値上げを誘発するという悪循環に陥る。
 
日本経済の現状は、明確にコストプッシュ型インフレである。円安、輸入コスト、人件費の上昇という三重苦が物価を押し上げている。必要なのは金融引き締めではない。供給制約を緩和し、生産性を高める政策こそが求められている。

3️⃣高市総理誕生をめぐる“情報操作”への警鐘


高市総理誕生前後には、こうした経済認識を意図的に歪める情報が必ず流されるだろう。「インフレは好景気の証」「日銀は利上げを急げ」――この種の論調は、しばしば政治的・経済的意図を帯びている。

私たちは、そうした偽情報に踊らされてはならない。経済の実像を直視せず、他者の思惑に乗れば、政策判断を誤り、国民生活に深刻な傷を残す。日本経済を動かすのは、見出しでも空気でもない。事実とデータである。

冷静な判断を失えば、真の敵は見えなくなる。これを高市氏はすでに見抜いており、いずれ必ず成立するであろう高市政権が向き合おうとしている課題は、虚飾に満ちた経済論ではなく、数字の裏にある現実だ。

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2025年10月14日火曜日

高市総理誕生の遅れが我が国を危うくする──決断なき政治が日本を沈める


まとめ

  • 高市早苗氏の総理誕生が遅れている。理由は党内抗争、連立調整の難航、メディアの妨害。
  • その間にも国際情勢は激変し、台湾有事、中国の軍拡、ロシア・北朝鮮の挑発が進行。
  • 米国はすでに次の同盟ステージへ。日本の政治の停滞は「同盟のリスク」となりつつある。
  • 国内では物価高と賃金低迷、外国人犯罪の質的変化、エネルギー高が進む。円安は本来、輸出で利点にもなりうるが、家計防衛策が欠けている。
  • 政治の空白が続けば、日本は世界に取り残される。高市政権の誕生こそが、日本再起動の「起点」である。

1️⃣政局の迷走と「決断の空白」
 
高市早苗氏の総理誕生が遅れるかもしれない。理由は明白である。党内の一部保守派が結集を急ぐ一方、非主流派の抵抗と連立調整の難航、さらにメディアによる意図的なネガティブ報道が重なっている。派閥の思惑と権力闘争が絡み合い、政権誕生のタイミングを押し下げているのである。だが、その間にも、国際情勢は激変している。


中国は台湾への圧力を強め、アメリカは同盟国との役割分担を再構築しつつ、アジア太平洋での抑止体制を固めている。ロシアは北方領土周辺で軍事演習を繰り返し、北朝鮮は極超音速ミサイルの発射を重ねている。中東ではイランが代理勢力を操り、イスラエルとの小競り合いが火種を抱えたまま拡大している。危機の季節は、すでに目前に迫っているのだ。
 
2️⃣世界が動く中で、立ち止まる日本
 
中国の新空母「福建」

東アジアの海は荒れている。中国の空母「山東」と「福建」が南シナ海から出撃し、台湾周辺で同時演習を行った。これは単なる示威ではない。海空一体の運用能力を誇示し、台湾封鎖を想定した作戦行動の訓練である。米国防総省も「実戦想定の包囲訓練」と警鐘を鳴らした。アメリカはフィリピン・バサ空軍基地を再整備し、台湾と南シナ海を結ぶ補給線の強化に踏み切った。我が国が政局に足を取られている間に、同盟国は次の段階へ進んでいる。

ワシントンでは、日米同盟の即応性を評価する報告が複数存在する。その一つが、アメリカ議会調査局(CRS)が2021年12月3日に発表した「Political Transition in Tokyo」である(CRS Report for Congress, IF10199)。この報告は日本の政権交代が日米同盟に与える影響を分析し、指導者交替が同盟の継戦能力に「一時的空白」を生む危険性を指摘している。こうした分析は、現在の「総理誕生の遅れ」が単なる国内問題にとどまらず、国際安全保障上のリスクとして認識され得ることを意味している。
 
3️⃣内憂外患──止まった政治が国を蝕む

内側でも、我が国は限界に近づいている。物価はじわじわと上がり続け、国民生活は目に見えぬ圧迫を受けている。電気代・ガソリン代・食料品の「隠れ値上げ」。実質賃金は二年以上にわたりマイナスが続く。統計の安定とは裏腹に、庶民の暮らしは確実に苦しくなっている。

外国人労働者の急増は社会の歪みを広げている。地方都市では技能実習生が集中する地区が事実上の外国人街と化し、学校や医療機関では通訳が常駐しなければならない状況だ。統合政策は後手に回り、文化摩擦が日常化している。警察庁の統計によれば、令和5年中の来日外国人による刑法犯検挙件数のうち共犯事件の割合は38.7%で、日本人の3倍に達した(警察庁「令和6年版警察白書」)。さらに、来日外国人犯罪の罪種別構成では、窃盗・詐欺などの組織化が顕著になっている。

令和6年の全国における来日外国人犯罪の検挙件数は、21,794件に上った。これは九州管区警察が同年の地域別統計で明示した公式数値である(九州管区警察局統計資料)。ただし、この数字は速報値であり、最終確定値では若干の修正が入る可能性がある。だが、重要なのは件数そのものではない。

犯罪の“質”が変わっているということだ。越境的ネットワークを持つ多国籍犯罪グループがSNSや暗号通貨を使い、詐欺・密輸・不法送金を同時に展開している。統計では測れない犯罪の多層化が、我が国の治安の根を静かに侵食している。さらに、西欧諸国の移民政策は、明らかに間違いであったことが認識されつつある。統計数値だけを根拠として、外国人犯罪そのものがあまり増えていないからといって、外国人問題はないと結論づけるには無理がありすぎる。

外国人問題は参院選で争点となった これは無視すべきではない

こうした内外の危機が同時に進行するなか、政治だけが立ち止まっている。経済は金融市場の信認を揺らぎ始め、円相場は150円前後の水準で推移している。円安そのものは輸出を促し、製造業にとって追い風となる。だが同時に、輸入価格の高騰を招き、エネルギーや食料のコストが家計を直撃している。求められているのは、円安を「恐れる」政策ではなく、「活かす」政策だ。企業の輸出力を支えつつ、家計への負担を和らげる。財政出動と減税を軸に、国力を底上げする経済運営が不可欠である。

国内外の投資家は、高市政権がどんな経済・外交の道筋を描くのかに注目している。誕生が遅れれば遅れるほど、信頼の空白が広がる。市場は冷酷だ。躊躇は許されない。

政治が止まれば、世界は一歩先へ進む。高市早苗が総理として立つ日は、単なる政権交代ではない。我が国を再起動させる転換点である。外交も経済も安全保障も、もはや先送りはできない。遅れは許されない。時間を失うことこそ、国家の最大の敗北である。高市総理誕生は、衆院選、参院選で示された、国民の声でもある。

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世界が霊性を取り戻し始めた──日本こそ千年の祈りを継ぐ国だ 2025年9月30日
世界的な霊性回帰の潮流の中で、日本文化と精神の再評価を訴える。

2025年10月13日月曜日

財務省支配の終焉へ――高市早苗が挑む“自民税調改革”


まとめ

  • 自民党税調は、党の政策機関を装いながら実際には財務省の意向をそのまま受け入れる“増税装置”と化しており、国民の生活や景気を無視して増税を当然視してきた。
  • 「税制改正は年に一度しか行えない」という慣習は法律ではなく、自民党内部のルールにすぎない。この制度疲労が、政治の判断力と機動性を奪い、国の経済運営を麻痺させている。
  • 税調の仕組みを民間企業に置き換えれば、価格改定や給与改定などの重要な意思決定を年一度に制限するようなもので、経営判断が遅れ倒産に至るほどの愚行である。国の税制がこれと同じ構造で動いているのは異常だ。
  • 財務省と税調の共依存が、政治の意思を奪い続けてきた。「財政健全化」という名のもとに官僚が政治を操り、政治は国民のためではなく財務省の都合のために存在するようになってしまった。
  • 高市早苗改革は、この構造を断ち切り、政治が主導して税調を動かす体制を取り戻す戦いである。財務省支配を終わらせ、政治を国民の手に取り戻す――それが高市改革の真の目的である。

1️⃣年に一度しか動かない税制――異常な慣習の実態

自民党の高市早苗総裁は12日、X(旧ツイッター)で党税制調査会の人事に言及した。小林鷹之政調会長に「スタイルそのものをガラッと変えてほしい」と指示したと明かした。

自民党の税制調査会、いわゆる税調は、戦後政治の中で最も閉ざされた組織の一つだ。表向きは党の政策機関だが、実際は財務省の出先機関である。国民経済よりも官僚の論理を優先し、景気や生活の苦しさなど意に介さず、増税を当然のように推し進めてきた。国民のための機関ではなく、財務官僚の理屈を守るための装置と化しているのが現実だ。

税制改正の手順も、半ば儀式のように毎年繰り返されてきた。

この流れが続くうちに、「税制改正は年に一度しかできない」という奇妙奇天烈な慣習が定着した。しかし、そんな法律などどこにもない。税制改正法案は通常国会でも臨時国会でも提出できる。つまり、年に一度というのは自民党内のルールにすぎず、法的な根拠など存在しない。

この党内ルールが国家の税制を縛り、経済政策の機動性を奪ってきた。年に一度しか税を見直せない仕組みなど、民間企業で言えば愚行そのものである。

新製品の発売を半年も検討している間に、競合他社が先に市場を奪う。にもかかわらず、「次の会議は来年だから対応できない」と放置すれば、企業は即座に破綻する。税調のやっていることは、まさにそれと同じだ。

商品価格の改定は年に一度しかできないとか、従業員の給与も福利厚生も年に一度しか変えらない、あるいは新規事業の立ち上げには半年を要するとか、不採算事業の撤退すら役員会の多数決を待たねばならないというようなものだ。そんな会社は外部環境の変化に耐えられず、経営効率を失って競争から脱落する。だが日本は、国家の税制でその愚を堂々と繰り返してきたのだ。

2️⃣財務省と税調の共依存――“増税装置”の正体

この「年一回ルール」は、民主主義国家として異常である。米国では大統領が、英国では財務大臣が、必要に応じていつでも税制改正法案を提出できる。多くの先進国では、年に複数回の改正が当たり前だ。ところが日本では、財務省と自民党税調が互いに寄りかかり合い、政治の意思よりも官僚の都合が優先されてきた。


自民党の宮沢洋一税調会長=2025年5月15日、東京・永田町の自民党本部

本来、税調は国民生活を守るためにあるはずだ。だが現実は、財務省の意向を代弁するだけの“増税装置”に堕している。経済が冷え込もうが、物価が上がろうが、「財政健全化」の名のもとに増税を強行する。その背後には、財務省の影響下にある税調幹部の存在がある。自民党税制調査会長宮沢洋一氏はその典型だ。ネット上では財政緊縮派の「ラスボス」と評された。これはすでに解任の見通しとされている。

こうして政治は官僚の下請けとなり、国民の暮らしは後回しにされてきた。財務官僚の理屈が国家を動かす限り、国民の豊かさなど回復するはずがない。

3️⃣高市改革の挑戦――政治が国民のために決断する国家へ

この閉塞を破ろうとしているのが、高市早苗総裁である。彼女は就任直後、小林鷹之政調会長に「スタイルそのものを変えてほしい」と指示した。財務省出身者で固めた体制を崩し、国会議員が主体となる開かれた税調へと作り替える――その決意は明確だった。

会見する高市早苗・新総裁

高市氏は言う。「議員は税制で達成したい目標を示し、官僚はそれを制度として形にする」。これは単なる人事刷新ではない。政治が官僚から主導権を取り戻すという、戦後政治の根本改革である。

彼女の狙いは、税調を“財務省の出先機関”から“政治の中枢機関”へと変えることだ。税調が政治に従う時代を築き、政治が税調を動かす構造を作り出す。その先にこそ、迅速で柔軟な政策運営がある。物価高が進めば即座に減税し、景気が冷えればすぐに立て直せる――そうした政治の即応力を取り戻すことが、高市改革の真の目的である。

この改革を成功させるためには、二つの要素が欠かせない。

第一に、政治が官僚に依存しない知的基盤を築くことだ。議員や民間の専門家が自ら税制案を作れる独立シンクタンクを党内に設ける必要がある。

第二に、透明性を高めることである。税調の審議過程を原則公開とし、どの議員がどんな意見を述べたのかを国民が確認できるようにする。それが実現すれば、税調は国民に開かれた真の政策機関となる。

税制は国家の骨格であり、政治の力の源泉だ。そこに財務省の論理が居座り続ける限り、日本の政治はいつまでたっても官僚の下請けに過ぎない。

高市早苗が挑む税調改革は、単なる減税論ではない。政治が再び国民のために決断する国家へと戻す闘いである。霞が関の都合ではなく、国民の暮らしの時間で政治を動かす――その一歩を踏み出したのが、高市改革の真の意味である。

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日本列島総不況が生んだ自公連立に別れを──国家再生のロードマップ 2025年10月11日
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隠れインフレの正体──賃金が追いつかぬ日本を救うのは緊縮ではない 2025年9月19日
統計に現れにくい物価圧力と実質賃金の目減りを読み解き、緊縮ではなく成長路線を説く。

国の借金1323兆円、9年連続過去最高 24年度末時点 2025年5月
「政府の借金」論の誤解を解き、国債と経済成長の関係を整理。財務省的“負債強調”の危うさを指摘。

財政審「コスト重視」の噴飯 高橋洋一氏が能登復興遅れ激白 2024年4月19日
災害復興でさえコスト最優先の審議会姿勢を批判。官僚主導が現場を遅らせる構図を描く。

麻生大臣を怒らせた、佐藤慎一・財務事務次官の大ポカ 2016年11月18日
財務省の“政治化”をめぐる原点記事。税調との力学も含め、官僚優位の土壌を検証。

2025年10月11日土曜日

日本列島総不況が生んだ自公連立に別れを──国家再生の号砲を鳴せ

 まとめ

  • 自公連立解消は必然:公明の対中志向の強まり(10/6の中国大使面会報道)と、10/10の離脱通告が“理念乖離”を可視化。長年の共依存構造が終わった。
  • 不況は人災:1988–1990のコアコアCPIは年+1.01%/+2.50%/+2.65%で物価暴騰はなし。実態は資産(地価・株価)バブルだったのに、日銀が実体過熱と誤認して引き締め、信用収縮を招いた。
  • 誤った政策が連立依存を生んだ:金融・財政を同時に締め、景気を冷やし続けた結果、自民は単独で安定多数を得にくくなり、選挙互助としての自公連立に依存した。
  • 構造的ゆがみ(国交相の“指定席”):公明が長期にわたり国交相を占め、公共事業のゲートを握ったことで、中立性や配分の歪み、レギュラトリー・キャプチャーの懸念が恒常化。
  • 処方箋は経済成長:連立という延命装置に頼らず、金融緩和+積極財政と供給制約の緩和、減税の組み合わせで経済成長軌道へ。成果で支持を得れば、連立は不要になる。

公明党が自民党との連立解消を正式に宣言した。四半世紀続いた「自公体制」は終わった。

離脱通告の数日前、10月6日に斉藤鉄夫代表が国会内で呉江浩・駐日中国大使と面会したと日経報道の要旨を引く複数記事が伝え、10月10日の自公首脳会談で離脱が通告された[1]。時系列は、公明党の対中志向の強まりと、連立の理念的乖離を象徴する出来事である。これは単なる政局ではない。日本政治を縛ってきた“共依存”の終わりだ。

この連立は当初から「政権安定」を名目に組まれた。しかし、その安定は国民経済の活力を犠牲にし、誤った政策を温存する装置に変質した。なぜ連立が必要になり、なぜ終わらざるを得なかったのか。本稿で道筋を示す。

1️⃣日本列島総不況が生んだ「自立喪失の政治」
 
1990年代初頭の資産バブル崩壊は、自民党政治の地盤を直撃した。地価と株価が崩れ、都市の中間層や地方の建設業、農業団体など従来の支持層は傷んだ。結果、自民が単独で安定多数を取りにくい体質になった。これが後の連立依存の土壌である。

日本経済は1992年以降「失われた10年」に沈んだ。強調すべきは、これは循環的景気後退ではなく政策による人災だという点だ。

当時の実体物価は「狂乱物価」ではない。コアコアCPI(食料・エネルギー除く)の年平均上昇率は、1988年+1.01%、1989年+2.50%、1990年+2.65%で小幅にとどまっていた[2]。高騰していたのは土地と株価という資産価格で、物価本体の暴騰ではない。にもかかわらず、日銀は実体の過熱と誤認し、急速な金融引き締めに踏み込んだ。これが資産バブルの崩壊を誘発し、信用収縮と過剰債務の連鎖を拡大させた。CPIの定義・接続は総務省統計の公開資料で確認できる[3]。


崩壊後も金融は引き締め基調が続き、政府は不況期に増税と歳出抑制で需要を冷やした。金融と財政が同時にブレーキという失策で、倒産と雇用不安が全国に広がった。これが文字通りの「日本列島総不況」であり、自民の支持基盤を破壊し、選挙での連立依存を不可避にした。

しかも解決は難しくなかった。本来は大胆な金融緩和と積極財政を同時に回せばよかった。それを官僚は「財政規律」や「インフレ懸念」で押しとどめ、政治も連立で延命を選んで誤りを温存した。

2000年代には「構造改革」論が台頭し、デフレ下で需要をさらに冷やして停滞を長引かせた。正しいマクロ政策(緩和+積極財政)を阻害したという意味で、ここが決定的な失敗である。

2️⃣「自自公」から始まった政権延命の構造
 
現在の自公は1999年の「自自公連立」に始まる。小渕恵三内閣の下、自民・自由・公明の三党体制が組まれ、参院の数不足を補って法案通過を容易にした。狙いは理念一致ではなく数による安定である。

自自公連立政権に向けた3党首会談を前に握手する(左から)小沢一郎自由党党首、小渕恵三首相、神崎武法公明党代表=1999年10月、首相官邸

しかし自由党との関係は持たなかった。2000年に小沢一郎が連立を離脱。自由党の一部は連立維持のため「保守党」を結成して残留し、のちに「保守新党」(2002年)を経て自民に吸収された。こうして自民+公明の二党体制が定着し、20年以上続いた。

公明の母体・創価学会の動員力は強い。小選挙区で1~2%の差が当落を分ける現実の中で、自民は公明の票を前提に選挙を組み立てるようになった。ここで自公の本質は、「政策連携」より選挙互助となった。理念を削り、延命装置としての連立だけが残った。最初から間違った連立だったと言わざるを得ない。

この構造的依存が長期化する中で、国政の重要ポストにも歪みが出た。とりわけ国土交通相の「長期専有」は象徴的だ。第二次安倍政権以降、太田昭宏(2012–2015)→石井啓一(2015–2019)→赤羽一嘉(2019–2021)→斉藤鉄夫(2021–2024)と公明党が連続で国交相を務め、その前にも北側一雄(2004–2006)・冬柴鐵三(2006–2008)ら公明出身の大臣が続いた[4][5]。主要紙はこのポストを「公明の指定席」と表現してきた[6]。

ポスト固定化は継続性という利点と引き換えに、①調達・公共事業を所管する巨大省庁の“政治的囲い込み”、②交通・都市開発における政策中立性への疑念、③公共事業配分の政治的バランスの歪みという統治リスクを恒常化させた。いわゆる土建国家の議論から見ても、特定政党が公共事業のゲートを握り続ける配置は、規制俘虜(レギュラトリー・キャプチャー)や利権化の温床になりやすい[7][8][9]。結果として、本来のマクロ政策転換(金融緩和と積極財政)が、所管利害の論理に吸収・希釈される副作用が生じた。

3️⃣共依存の崩壊と再生への道
 
不況が長引くほど有権者は“安定”を求め、自民は公明という“安定装置”に依存した。経済不安定→連立依存の鎖は二十余年続いたが、2020年代半ばに綻び始めた。

公明はこの間に変質した。かつては中道・福祉重視を掲げたが、近年は対中融和の姿勢を強め、訪中団派遣や政党交流を重ねた。香港や新疆など人権案件では慎重に終始し、防衛・経済安保で自民の対中警戒路線と乖離が目立った。連立の理念的基盤は内側から侵食されたのである。

さらに、10月6日に斉藤代表が国会内で呉江浩・中国大使と面会したとの日経報道の要旨を引用するまとめ記事が出ており、4日後の10月10日に自公首脳会談で離脱通告が行われた[1]。

そして2025年10月10日、公明は連立離脱を正式表明した。主要外電・経済紙も相次いで速報し、国政の大きな転換点となった[10][11][12]。

公明党斉藤哲夫代表と会談する自民党高市早苗総裁(10日、国会内)

これから自民は「票の装置」に頼らず、価値観と政策で結ぶ連携に向かうべきだ。理想は、そもそも単独過半を取り切るだけの経済成果で支持を固めることにある。バブル崩壊後の日本は、景気低迷→支持率低下→連立依存という負の連鎖にあった。

裏返せば、成長軌道に戻せば連立は要らない。安定は選挙互助ではなく、賃金・雇用・投資が回る現実の繁栄から生まれる。

結論は明快だ。自公解消は「不況が生んだ共依存政治」の終わりであり、民主政治が自立を取り戻す通過儀礼である。政治の自立を支える最強の処方箋は経済成長だ。金融緩和と機動的・積極的財政、供給制約を外す規制改革、家計・投資減税を組み合わせ、当たり前のマクロ政策を回せば、票は政策成果に回帰する。延命装置としての連立はいらない。誇りある政治はそこから始まる。高市政権はその道を選択するだろう。ただ、高市政権が長期政権にならなければ、時間がかかるかもしれないが、他党がこれを目指すだろう。確かなのは、もしそうなれば、それは自民党でも公明党でも無いということだ。

【関連記事】 

長寿大国の崩壊を防げ──金融無策と投資放棄が国を滅ぼす 2025年9月15日
少子高齢化の下で公共・医療・人材への投資が細り、実質成長力が落ちている現状を点検。金融緩和の継続と大胆な国内投資で“長寿=衰退”の誤った連鎖を断つべき。

インフラ更新を先送りする緊縮と、短期の費用便益(B/C)偏重が安全を脅かしたと指摘。維持更新投資の平準化と、リスクを織り込む評価設計への転換を訴える。
高校無償化の是非を、財源・制度設計・安全保障の観点から再検討。技能実習や越境医療との連動リスクに触れ、家計支援と国益を両立させる制度改良を提案。

自公の選挙協力が崩れた場合のリスクと「組織票」の実態を整理し、経済成長で勝つ必要性を示す。 

「統合政府」の視点から積極財政の正当性を明快に解説。 

株価回復を手掛かりに、インフレ目標・財政協調による成長路線の有効性を示す。

参考・出典(脚注番号対応)

[1]「10月6日・国会内での大使面会」報道ベース(※日経本文は有料)
https://search.yahoo.co.jp/realtime/search/matome/0e53a70f5c7c45e5b390b6f6dc74103b-1759861209

[2]FRED(OECD系列)“Consumer Price Index: OECD Groups: All Items Non-Food Non-Energy: Total for Japan(Annual)”
https://fred.stlouisfed.org/series/CPGRLE01JPA657N

[3]総務省統計局「消費者物価指数(CPI) 結果・時系列データ」
https://www.stat.go.jp/data/cpi/index.html

[4]首相官邸:歴代大臣プロフィール(例)— 斉藤鉄夫/赤羽一嘉/石井啓一
斉藤:https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/meibo/daijin/saito_tetsuo.html
赤羽:https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/meibo/daijin/akaba_kazuyoshi.html
石井:https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/meibo_a/daijin/ishii_keiichi.html

[5]国会・公的機関記録(例)— 北側一雄/冬柴鐵三(差し替え版)

[6]毎日新聞「10年以上『指定席』 公明が国交相ポストにこだわるワケ」(2023/8/18)
https://mainichi.jp/articles/20230815/k00/00m/010/259000c
J-CAST「国交相はなぜ『公明党』が独占しているのか」(2020/9/19)
https://www.j-cast.com/2020/09/19394785.html?p=all

[7]East Asia Forum “From people to concrete: reviving Japan’s ‘construction state’ politics”(2013/2/26)
https://eastasiaforum.org/2013/02/26/from-people-to-concrete-reviving-japans-construction-state-politics/

[8]Gavan McCormack “The State of the Japanese State – Chapter 6: The Construction State”(書籍章案内)
https://www.cambridge.org/core/books/state-of-the-japanese-state/construction-state/A280C00E070DA119C87086A8BFF17060

[9]Jeffrey Broadbent “The institutional roots of the Japanese construction state”(ASIEN, 2002, PDF)
https://d-nb.info/1371264538/34

[10]AP “Japan’s Komeito Party withdraws from ruling coalition”(2025/10/10)
https://apnews.com/article/e9fe611e8868f6ce3ad8241dff7965ff

[11]Financial Times “Komeito quits Japan’s ruling coalition”(2025/10/10)
https://www.ft.com/content/d621cdce-051c-4e47-99a3-2ad408232cfa

[12]Wall Street Journal “Japan’s Komeito Party Withdraws From Ruling Coalition”(2025/10/10)
https://www.wsj.com/world/asia/japans-komeito-party-withdraws-from-ruling-coalition-0315bdd6


2025年10月10日金曜日

世界標準で挑む円安と物価の舵取り――高市×本田が選ぶ現実的な道


まとめ
  • 高市氏経済顧問本田悦朗氏はロイターのインタビューで「日銀の追加利上げには慎重であるべきだ」と表明し、高市政権の“成長を冷やすな”という方針シグナルを示した。
  • 物価はコストプッシュ色が強い局面で、2025年8月のCPIは前年比+2.7%、コアコアCPIは+3.3%、一方で失業率は2.6%と低水準だが実質賃金の回復が鈍く、需要主導(デマンドプル)とは言い難い。
  • いま利上げを急ぐと資金繰り悪化で投資・賃上げの芽を摘み、内需を冷やすリスクが大きい――「インフレの量ではなく質を見よ」というのが本田氏の核心。
  • 円安は輸出に追い風だが行き過ぎれば物価押し上げ要因を強めるため、「円安を活かしつつ物価を制御する」精緻な舵取りと政府・日銀の協調が不可欠。
  • 目指すべきは世界標準のマクロ経済理論に沿う「高圧経済」的運営で、失業率低下と適度な物価上昇を許容しつつ成長率を重視し、需要が物価を牽引する健全な循環を作ること。
1️⃣高市政権の出発点と本田悦朗の警鐘
 
本田悦朗氏

高市早苗新総裁の誕生により、日本経済の針路は新たな局面に入った。市場は息を潜めて見ている。その最中、注目を集めたのが高市氏の経済顧問であり「アベノミクスの理論設計者」として知られる本田悦朗・京都大学客員教授の発言だ。彼はロイターのインタビューに応じ、「日銀の追加利上げには慎重であるべきだ」と語った。これは単なる学者の意見ではない。政権がどの方向に舵を切るのかを示す“方針表明”である。

本田氏は「日本経済はまだ内需の自律的回復が弱い。利上げを急げば成長の芽を摘む」と警告した。同趣旨は他媒体にも波及し、年内利上げ観測に対する市場の見方にも影響した。要は「成長を冷やすな」という明確な哲学である。

2️⃣数字に隠れた“質”を見る
 

インフレには二つある。原材料や輸入コストが主因のコストプッシュ・インフレと、需要と雇用が牽引するデマンドプル・インフレだ。前者は生活を圧迫し、後者は成長を促す。日本はいま、明らかに前者寄りである。

総務省の最新公表では、2025年8月の全国CPIは前年比+2.7%、コアコアCPIは+3.3%。見た目の伸びはあるが、内需の自律的拡大というより、補助縮小や輸入コストの波が混じる非連続の上昇だ※1。雇用面も、一見堅調だが“質”を見誤ってはならない。2025年8月の完全失業率(季節調整値)は2.6%。失業率は低い一方、実質賃金の回復は鈍い。名目賃金が伸びても、物価に追いつかなければ家計の購買力は削られる※2。

この局面で利上げを急げば、企業の資金繰りを圧迫し、ようやく立ち上がりつつある投資と賃上げの芽を摘む。重要なのは“インフレの量ではなく質”だ。賃金と需要が伴わない物価上昇は、庶民の暮らしを痛めるだけである。

同時に、円安は輸出には追い風だが、行き過ぎればコストプッシュ要因を強める。高市政権が進める半導体・エネルギーなどの戦略投資は円安の追い風を活かせるが、為替の暴走は許されない。求められるのは、「円安を生かしつつ物価を制御する」という難しい舵取りである。
※1 総務省統計局「消費者物価指数 全国 2025年8月分(PDF)」:コアコアCPI+3.3%等の詳細を確認できる。
※2 総務省統計局「労働力調査(基本集計) 2025年8月分」:完全失業率2.6%など最新概要。
3️⃣世界標準の理論と「高圧経済」
 
本田氏の慎重論は“金融緩和の継続”にとどまらない。世界標準のマクロ経済理論に基づく考え方だ。その中核にあるのが「高圧経済(High-Pressure Economy)」である。景気をあえて温かく保ち、企業に賃上げと投資を促すことで、潜在成長率そのものを高めるという発想だ。失業率の低下と適度な物価上昇を許容し、すぐ経済を冷やすのではなくしばらくは温めて成長を作る。

バイデン政権下のイエレン財務長官も高圧経済政策を実施

この思想は日本独自の奇策ではない。需要と雇用を同時に押し上げ、デフレからの確実な離陸をめざすという骨格は、先進国が共有してきた“常道”である。過去の日銀は、黒田総裁の中期を除けば、この路線から外れがちだった。上田総裁下も、引き締め志向が強くなりつつあるように見える。高市政権と本田氏の立場は、その流れに対する明確な反論だ。「世界標準の経済運営を日本に取り戻す」という意思表明である。

コアコアCPIが2〜3%台でも、賃金が伴わなければ“偽りの好況”だ。ここで利上げを急げば内需は冷える。必要なのはインフレ率ではなく成長率を見る政策である。国民所得を押し上げ、需要が物価を引っ張る健全な循環をつくること。高市政権の使命は、単なる金利調整ではない。問われているのは「国家として、どの未来を描くか」という覚悟である。
高市政権の政治的基盤と支持構造を整理し、経済運営の「現実の受け皿」を描く

高市早苗総裁誕生──メディアに抗う盾、保守派と国民が築く『国民覚醒の環』 2025年10月5日
総裁選の意味を思想面から読み解き、政権運営の背骨となる民意の受容を論じる

隠れインフレの正体──賃金が追いつかぬ日本を救うのは緊縮ではない 2025年9月19日
CPI/コアコアCPIと実感物価の乖離を検証し、「物価の質」を問い直す

日本経済を救う鍵は消費税減税! 石破首相の給付金政策を徹底検証 2025年6月19日
金融だけに頼らず、減税・給付の政策ミックスで需要を底上げする処方箋を示す

家計・企業の負担増も 追加利上げ、影響は一長一短 日銀 2025年1月25日
利上げが企業の資金繰りや家計に与える具体的負担を点検し、タイミングの重みを論じる

2025年10月2日木曜日

本当に国際秩序を壊したのは誰か――トランプではなく中国だ

まとめ

  • トランプ批判は短期的混乱だけを根拠にした一面的評価であり、中国の長年の無法行為を背景に考える必要がある。
  • 中国はWTO加盟時の約束を守らず、市場閉鎖・為替操作・補助金政策・知財侵害を続け、日本の鉄鋼や太陽光産業に壊滅的打撃を与えてきた。
  • 中国の人権問題や南シナ海での国際法違反、「一帯一路」での債務外交は国際秩序への露骨な挑戦である。
  • 野口旭氏の指摘する「貯蓄過剰2.0」により世界は慢性的な需要不足に陥り、各国の金融緩和でも景気は加熱せず、緊縮策で失速する。これは現在の日本の姿とも重なる。
  • 中国の挑戦は日本にとっても他人事ではなく、経済・安全保障両面で覚悟を持ち、未来を選び取る必要がある。

1️⃣トランプ批判の一面的な見方
 
国連で演説するトランプ大統領

トランプ大統領の政策はしばしば「国際秩序を乱した失敗」と決めつけられる。防衛費負担をめぐる強硬な要求、中国への関税政策、ロシアや北朝鮮との対話路線。確かに短期的には混乱を招き、国内外で批判を浴びた。しかし、その評価はあまりにも一面的だ。

そもそも背景には、中国が長年繰り返してきた無法がある。国有企業への補助金、知的財産権の侵害、技術移転の強要、市場の閉鎖。2001年に米国の支援でWTOに加盟した際、中国は市場開放や公正取引の遵守を約束したが、その多くを守らず今日に至っている。米通商代表部(USTR)の年次報告でも、非市場的な政策と国有企業への過剰支援が透明性を欠くとして「約束不履行」が繰り返し指摘されている。金融、デジタル、エネルギー分野で外資を制限し、自国市場を閉ざしたまま欧米市場で活動を続ける不均衡な状態が続いている。

為替でも人民元は「完全固定」ではないにせよ、中国人民銀行が毎朝基準値を設定し、その±2%のバンドで動く管理フロート制を敷いており、国際市場の需給に委ねる体制からは大きく逸脱している。

日本の産業はこの不均衡の直撃を受けてきた。鉄鋼では中国の過剰生産とダンピングで価格が暴落し、国内メーカーは疲弊を余儀なくされた。2024年の普通鋼鋼材輸入量は505万トンに達し、前年から7.5%増、1997年以来の500万トン超えとなった(日本鉄鋼連盟)。太陽光パネルでも中国製が圧倒的シェアを占め、日本企業は次々と撤退。日本国内で使われる太陽光パネルは輸入依存が極端に高く、JPEAの統計では外国企業シェアが64%、国内生産はわずか5%に過ぎない。世界的には中国製が8割を超え、2025年には95%に達する見通しが示されている(JETRO/IEA)。北海道では安価な中国製パネルによる乱開発が進み、地域社会と自然環境を蝕んでいる。

さらに、中国の人権問題も看過できない。新疆ウイグル自治区での強制労働や収容所、人身売買や臓器売買の疑惑。南シナ海では国際仲裁裁判所が2016年に「中国の主張には法的根拠がない」と判定したにもかかわらず、人工島を造成し軍事拠点化を続けている。「一帯一路」では途上国に過大債務を負わせ、返済不能に陥った国の港湾や資源を接収している。これらは国際秩序への露骨な挑戦である。
 
2️⃣世界経済を歪めた「貯蓄過剰2.0」
 
中国の無法は安全保障にとどまらず、世界経済を根底から歪めてきた。経済学者の野口旭氏は、リーマン・ショック以降の先進国に共通する「低すぎるインフレ率」の背景に、中国を中心とする「世界的貯蓄過剰2.0」があると指摘している(野口旭「世界が反緊縮を必要とする理由」)。

中国の過剰生産は結果的に世界に貯蓄過剰をもたらした

中国は輸出主導で成長を遂げ、国内需要が供給に追いつかず余剰資金を海外に流出させた。これが世界の経常黒字を押し上げ、需要不足を固定化した。実際、世界の経常黒字のうち中国のシェアは2019年時点で約40%に達し、米国の経常赤字とほぼ表裏の関係をなしていた。2022年には中国の経常黒字が4,170億ドルに上り(IMF統計)、世界的な需給バランスを大きく歪めている。

供給は膨張しているのに、需要は足りない。インフレが起きにくく、金利も上がらない。各国が金融緩和をしても景気が加熱せず、逆に緊縮策を急げば、たちまち需要不足で経済が失速する。これはまさに現在の日本の姿でもある。長らく日銀は慎重すぎる金融政策でデフレを固定化し、景気を押し下げてきた。2013年に黒田総裁が「異次元緩和」で大胆に転換したが、十分なインフレ定着には至らなかった。2023年に植田総裁が就任すると、再び利上げ方向へと傾き、需要の弱さを抱えたまま経済が減速しかねない状況にある。

中国の輸出攻勢は米国の製造業を空洞化させ、日本の鉄鋼や太陽光も壊滅的打撃を受けた。補助金漬けの国有企業、為替管理、低賃金労働。この体制が「貯蓄過剰2.0」を生み出し、世界全体の成長力を押し下げてきたのである。

こうした構造を放置すれば、各国は財政と金融で経済を支え続けるしかなく、支えを外せばすぐに失速する。だからこそ、トランプ政権の対中関税やサプライチェーン再編は、単なる「貿易戦争」ではなく、この不均衡に切り込む試みだった。短期的な痛みを覚悟してでも、世界経済を正す戦いだったのである。
 
3️⃣日本が問われる覚悟

当時、多くの反発があった。関税は物価を押し上げ、中国の報復で米農業は打撃を受けた。同盟国への防衛費要求は摩擦を強め、「孤立主義」との批判も高まった。だが、バイデン政権になっても対中強硬路線は継続され、米中デカップリングは超党派の合意となった。半導体やエネルギー分野では国内投資が拡大し、NATO諸国は防衛費を増額、日豪印との協力も強化された。当初「失敗」とされた政策が、結果として国際社会の対中包囲網を後押ししたのだ。

参院選での石破首相の応援演説 同盟国の首相としてはあり得ない発言

短期的な混乱だけを見てトランプを「秩序破壊者」と決めつけるのは誤りである。中国の壊してきた秩序を正すには犠牲も伴う。だが、直視しなければならない。さらに、中国を批判する者は自らも公正であるべきとされるだろう。それには、リスクも伴う。トランプを批判するのであれば、中国を牽制する代替案を示すべきである。非難を繰り返すだけでは現実は変わらない。

そして、これはアメリカだけの問題ではない。我が国日本にとっても、中国の無法を放置すれば、経済と安全保障の両面で取り返しのつかない代償を払うことになる。鉄鋼や太陽光での被害は氷山の一角に過ぎない。中国の挑戦は我が国に突きつけられた現実だ。我々自身が覚悟を持ち、未来を選び取れるかどうか。その岐路に立っているのである。

【関連記事】

霊性を忘れた政治の末路──小泉進次郎ステマ疑惑が示す保守再生の道 2025年10月1日
政治の空洞化を批判し、秩序と国益を守る保守政治の再建を論じる。今回の記事の結論部と親和性が高い。

奈良の鹿騒動──高市早苗氏発言切り取り報道と拡散、日本の霊性を無視した攻撃が招く必然の国民の反発 2025年9月29日
メディア報道の偏向を批判し、日本の精神的基盤を守る必要を訴える。国益と情報戦の側面に関連。

秋田から三菱撤退──再エネ幻想崩壊に見る反グローバリズムの最前線 2025年9月28日
中国依存の再エネ産業の危うさを批判。鉄鋼や太陽光における中国の影響と直結する。

札幌デモが示した世界的潮流──鈴木知事批判は反グローバリズムの最前線 2025年9月23日
グローバリズムに抗う地方の動きを扱い、国際秩序と地域社会の抵抗という視点で今回の記事と響き合う。

世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ 2018年8月2日
野口旭氏の論考を踏まえ、世界経済の「長期停滞」と日本の左派経済論の誤りを批判。今回の記事の「貯蓄過剰2.0」と直接つながる重要な文脈。

2025年9月28日日曜日

秋田から三菱撤退──再エネ幻想崩壊に見る反グローバリズムの最前線

まとめ

  • 三菱商事を含む事業連合が秋田の洋上風力からコスト高騰で撤退し、県知事は再公募を要望したが合理性には疑問がある。
  • 太陽光や風力は我が国日本の条件に合わず、欧州でも失敗。中国製依存やウイグル強制労働の問題もあり、反グローバリズムの観点から容認できない。
  • 再エネは天候に左右され不安定で、九州や東北では出力抑制が常態化。電気料金も2010年から2023年にかけて大幅に上昇し、国民負担を増やしている。
  • 原子力には長年の実績があり、開発中のSMRは安全性が高い。ただし既存技術と人材が不可欠で、ドイツのように原発を全廃すれば未来を閉ざす。
  • 小樽や青森では住民運動が再エネ計画を阻止。反グローバリズムは世界的潮流となり、秋田の撤退は我が国日本のエネルギー政策を正道へ導く契機となる。
1️⃣秋田の洋上風力と再エネの現実
 

2025年夏、三菱商事を含む事業連合が秋田県沖と千葉県沖の大規模洋上風力事業から撤退した。建設費は当初の二倍に膨れ上がり、インフレや金利上昇、円安が追い打ちをかけ、採算は崩壊した。これを受け、秋田県知事は国に早期の再公募を求めた。しかし、果たしてそれは合理的な選択なのか。

問題は単なる洋上風力の失敗にとどまらない。太陽光や風力といった再エネそのものが、我が国日本の地理的条件や経済環境に合致していない。欧州でも同じ失敗が繰り返されている。ドイツが推進した「エネルギー・ヴェンデ(原発廃止と再エネ全面移行)」は、結果として電気料金の高騰と産業競争力の喪失を招き、国民から激しい批判を浴びている。

加えて、再エネはその供給網がグローバリズムに絡め取られている。太陽光パネルの約8割、風力タービンや蓄電池の多くは中国製であり、利益は海外に流れる。しかも新疆ウイグル自治区の強制労働や、中国国内の低賃金・劣悪環境労働がその製造工程に関わっているとの報告もある。再エネを拡大することは、人権侵害に加担し、経済的従属を深めることに直結する。これこそ反グローバリズムの立場から断固拒絶すべき事態である。
 
2️⃣インフラに不適格な再エネと原子力の選択肢
 
再エネの最大の弱点は不安定性だ。天候次第で発電が止まる電源をインフラの基盤に据えること自体が無謀である。実際、九州電力管内では太陽光の過剰導入で出力抑制が常態化し、2023年度は58日間、2024年度も50日を超える見通しとなっている。東北や四国でも同じ現象が起きており、作っても使えない電気があふれている。

電気料金の推移も深刻だ。資源エネルギー庁の統計によれば、家庭向け電気料金は2010年に1kWhあたり約22円だったものが、2023年には30円を超えた。再エネ賦課金や制御コストが原因である。ドイツと同じく、我が国日本も「再エネをインフラに据える」という誤った政策が国民負担を膨らませている。

三菱SMRを開発
 
これに対し、原子力には半世紀の運用実績がある。潜水艦や空母に搭載された小型炉は過酷な環境下でも安定して稼働してきた。さらに次世代の小型モジュール炉(SMR)は現在開発中であり、冷却システムや格納容器の設計が改善され、従来型より安全性が高い。だがSMRは既存の原子力技術と人材があってこそ開発できるものであり、ドイツのように拙速に原発を全廃すれば技術基盤を失い、将来の選択肢を自ら閉ざすことになる。

秋田に必要なのは「待つ」ことではなく「見切り」だ。洋上風力を含む再エネはコスト高、環境破壊、不安定性の三重苦を抱え、社会インフラとして失格である。我が国日本の未来を託す価値はない。撤退こそが最も合理的な選択である。
 
3️⃣地方の抵抗と反グローバリズムの潮流
 
再エネが国家政策として押し付けられても、地方には抗う力がある。小樽市では2022年、天狗山スキー場近くに計画された風力発電が、住民や市議会の強い反発で撤回された。青森でも漁業者の反対が計画を修正させた。秋田でも漁協が同意しなければ事業は進まない。地方の意思は巨大資本や国策すら押し返す力を持つのだ。

HPで計画中止発表 小樽市・余市町にまたがる風力発電計画 地元の理解得られず…資材高騰も理由

そして今、反グローバリズムは世界の潮流となりつつある。一昔前は陰謀論と片付けられた言葉だったが、いまや米国では「アメリカ・ファースト」が政権の中枢を担い、欧州でも反グローバリズムを掲げる政党が議席を伸ばしている。英国のEU離脱(Brexit)はその象徴である。2024年のEU議会選挙では右派政党が躍進し、エネルギーや移民政策で国の針路を大きく動かした。

秋田が再エネ撤退を決断することは、単なる地域防衛にとどまらない。我が国日本がグローバリズムの呪縛から抜け出し、真に自立したエネルギー政策を打ち立てる突破口となる。地方の勇気ある行動が、政府の誤りを正し、我が国日本全体を正道へ導く力になるのだ。

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