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2018年11月にはパキスタン最大の都市カラチにある中国総領事館が襲撃を受けた |
スーパーヒーローの責任はスーパーに重い。かの「スパイダーマン」はそう言っていた。そのとおり。だがスーパー大国には、スーパーな敵意や憎悪も向けられる。
こうした襲撃で犯行声明を出す集団の主張は多岐にわたり、この地域で中国の置かれた立場の複雑さを浮き彫りにしている。
■高まるウイグルへの注目
状況は今後、もっと深刻になるだろう。アフガニスタンからのテロ輸出を防いでいた米軍が撤退した以上、中国は自力で自国民の命と自国の利権を守らねばならない。
■中国人の資産は格好のソフトターゲット
中国による少数民族弾圧を許すなというアルブルミの主張は、ミャンマーの仏教徒系軍事政権によるイスラム教徒(ロヒンギャ)弾圧などの事例と合わせ、アジア各地に潜むイスラム聖戦士の目を中国に向けさせている。
中国の王毅外相(右)と、タリバン幹部のバラダル師=7月28日、中国天津市) |
中国は自国西部新疆地域に集まって住むウイグル人を弾圧しています。中国にいるウイグル人は1200万人ほどですが、米国務省によるとこのうち最大200万人が中国の「再教育」拘禁施設に入った経験があったり、現在も閉じ込められています。
今年初めにBBCが伝えたところによると、元収監者は「施設で政治的洗脳、強制労働、拷問、深刻な性的虐待を経験または目撃した」と暴露しました。中国は「ウイグル収容所」と関連し、極端主義とテロリズムを根絶するために設計された「職業訓練センター」だとして人権侵害容疑を強く否定してきました。
CNNは「中国はこの数年間に海外のウイグル人を新疆に送還しようと努力していてタリバンと中国政府の密着がウイグル人の懸念をもたらしている」と伝えました。6月に発表されたウイグル人権プロジェクト報告書によると、1997年以降に各国からウイグル人が中国に送還された事例は少なくとも395件に達するといいます。
BBCもアフガン内ウイグル人の恐れは根拠がないものではないと伝えました。マザリシャリフに住むあるウイグル人家族の家長は「私たちの身分証にはウイグル人と明確に記載されている」として10日にわたり家にとどまっている理由を説明しました。アフガン内ウイグル人の多くは数十年前に親が中国を離れた移民第2世代ですが、身分証には依然として「ウイグル」または「中国難民」と書かれているといいます。
日本のテレビに中国による弾圧を証言するウイグル人女性 |
政治的に大きな代償を払うことを覚悟してでもアフガニスタンという長年の不良資産を「損切り」したのは、米国政府がインド太平洋地域に本格的に関与しようとする意思の表れです。米軍が長年アフガニスタンの治安を担ってきたことで、中国をはじめ近隣諸国はその恩恵に浴してきたのですが、その安全装置が突然なくなってしまったのです。
アフガニスタンの隣国である中国にとって、将来の戦略的利益よりも、タリバンの突然の復権による安全保障上の課題のほうがはるかに大きいのではないでしょうか。
中国国内の世論は当初「米国の敗走」を嘲笑するムードが支配していましたが、その後「タリバン警戒論」が噴出し始めています。中国政府は7月28日、タリバンのナンバー2であるバラダル氏を招き、その関係の良好さをアピールしていますが、アフガニスタンに潜在する東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)を名乗る武装グループの動向に神経を尖らせていることは間違いないです。
国内の弾圧を逃れてタリバンの下にやってきた中国新疆ウイグル自治区の若者の数は約3500人、内戦が続くシリアなどでも実戦経験を磨いているといわれています。米国政府は2002年にETIMをテロ組織に指定しましたが、昨年その指定を解除しています。
ETIMのメンバーがアフガニスタンとの国境をくぐり抜けて国内でテロを行うことを恐れる中国政府は、タリバンから「ETIMとの関係を絶ち、同勢力が新疆ウイグル自治区に戻ることを阻止する」との言質を取っていますが、タリバンがその約束を守ることができるとは思えません。
タリバンは当初強硬姿勢を控え、より穏健なイメージの構築に努めていましたが、徐々にその本性をあらわし始めています。タリバンにとって誤算だったのは、アフガニスタン政府の約90億ドルの外貨準備を手に入れることができなかったことです。同国の外貨準備の大半は海外の口座に預託されており、タリバンがアクセスできるのは全体の0.2パーセント以下にすぎないといいます。
勝利に貢献した兵士への恩賞に事欠くばかりか、政府が銀行に十分なドルを供給できないことから、通貨アフガニが急落、食品価格などが高騰する事態になりつつあります。資金不足のなかでタリバン兵が、麻薬の原料であるケシの栽培に走り、住民への略奪や暴行を本格化させれば、再び国際社会から見放されてしまうでしょう。
そもそもアフガニスタンには近代的な意味での「国」が成立する政治風土がありません。戦国時代の日本のように諸勢力が分立する状態にあり、外部から強力に支援して中央政府をつくったとしても国全体を統治できないことは米国の20年に及ぶ統治が教えてくれています。
「テロリストにとって反米というスローガンはもはや時代後れである」との指摘もあります。アラブ首長国連邦(UAE)などのアラブ諸国とイスラエルとの間で国交が樹立した現在、「反米」はアラブの富豪からテロ活動資金を引き出せる「錦の御旗」ではなくなっています。
かつてのようにタリバンがアフガニスタンを制圧したからといって、ただちにテロリストが米国に押し寄せるわけではないのです。
面子を捨て実をとるであろう米国がタリバンと秘密裏に和解するようなことになれば、アフガニスタンに潜在するテロリストを恐れなければならないのは中国
ということになります。
タリバンの首脳部は中国の意向に従うそぶりを示していますが、中国で生活するウイグル人たちへの圧政を看過すれば、イスラム原理主義を標榜する存在意義があやうくなります。イスラム教の教義には、イスラム教の教えを世界に広めよというものがあります。世界と無論中国も含んでいます。
そうして、烏合の衆であるタリバンの中央の指令が末端まで徹底されるという保証もありません。
中国人民解放軍は18日から、タジキスタン領内で同国軍と共にアフガニスタンからのテロリスト潜入を防ぐための軍事演習を開始しました。タジキスタンにはロシア軍が駐留しており、中国の軍隊が同国内で演習を行うのは極めて異例のことです。中国が「混乱の矢面に立たされている」という危機意識を持っていることの証左でしょう。
「サイゴン陥落は米国時代の終わり」と嘯いていた旧ソ連でしたが、15年後に崩壊したのは自らでした。「『大国の墓場』であるアフガニスタンに派兵しない」とする中国ですが、中国が新疆ウイグル自治区において、ウイグル人への弾圧をやめない限り、英国、旧ソ連、米国と同様の失敗を繰り返すのは時間の問題でしょう。
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