2024年8月5日月曜日

ウクライナ軍、ロシア潜水艦をクリミア半島で「撃沈」―【私の論評】ロシア潜水艦『ロストフナドヌー』撃沈が示す対空能力低下とウクライナ戦争への影響

ウクライナ軍、ロシア潜水艦をクリミア半島で「撃沈」

まとめ
  • ウクライナ軍は8月2日にクリミア半島のセバストポリ港でロシアの潜水艦「ロストフナドヌー」を撃沈したと発表。
  • 撃沈が確認されれば、ロシア海軍にとって大きな損失となる。
  •  ウクライナ国防省はSNSで潜水艦の沈没を報告し、攻撃した兵士たちを称賛。
  • ロシア側は潜水艦の防御演習が行われていたとし、地域は落ち着いていると主張。
  • ウクライナ軍はクリミアでS-400地対空ミサイルの発射機4基にも損傷を与えたと報告。

ロシア軍の通常型潜水艦、キロ級「ロストフナドヌー」

 ウクライナ軍参謀本部は、8月2日にロシアが併合したクリミア半島のセバストポリ港でロシア軍の潜水艦「ロストフナドヌー」を攻撃し、沈没させたと発表しました。ただし、証拠は示されていません。もし撃沈が確認されれば、ロシア海軍にとって大きな痛手となります。ウクライナ国防省もSNSで潜水艦の沈没を報告し、攻撃した兵士たちを称賛しました。

 一方、ロシア側は潜水艦の防御演習が行われていたとし、市内は落ち着いた状況だと報告しています。また、ロシアの軍事ブロガーは、潜水艦が修理ドックで攻撃を受けた可能性を指摘しました。

 「ロストフナドヌー」は2014年に進水したキロ級潜水艦で、昨年9月にウクライナ軍の攻撃で損傷しましたが、その後修理が完了し、試験が行われていました。さらに、ウクライナ軍はクリミア半島でS-400地対空ミサイルの発射機4基にも損傷を与えたと報告しています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。「まとめ」は元記事の要点をまとめ箇条書きにしたものです。

【私の論評】ロシア潜水艦『ロストフナドヌー』撃沈が示す対空能力低下とウクライナ戦争への影響

まとめ
  • 今回の撃沈が本当であれば、ロシアの対空能力低下の可能性がある。S-400地対空ミサイル発射機の損傷や潜水艦撃沈の報告がその証拠となる可能性。
  • 撃沈されたとする潜水艦は、カリブル巡航ミサイル搭載可能な改良型キロ級潜水艦で、ロシア黒海艦隊の重要な資産である。
  • 米国の支援によるウクライナ軍の防空システムの強化や監視能力の向上が影響している可能性がある。
  • ロシア海軍の能力低下、ウクライナの士気向上、国際社会からの支援増加の可能性がある。
  • ロシアの戦略変更や報復攻撃の可能性があり、状況の推移を注視する必要がある。
ウクライナ軍がロシアの潜水艦「ロストフナドヌー」を撃沈したとする報告が事実であれば、これはロシアの対空能力の低下を示す重要な証拠となります。まず、ウクライナ軍はクリミア半島でロシアのS-400地対空ミサイル発射機4基に激しい損傷を与えたと報告しています。S-400はロシアの最新鋭の防空システムであり、これが機能していれば潜水艦への攻撃を防ぐことができた可能性かあったはずです。

S-400地対空ミサイル発射機

次に、ロシア側は潜水艦の防御演習が行われていたと主張していますが、その最中に攻撃を受けたことは、防空体制が十分に機能していなかったことを示唆しています。また、潜水艦「ロストフナドヌー」は修理ドックに入っていた際に攻撃を受けたとされ、修理中の艦艇は通常、防空システムによって厳重に守られるべきであるため、これができていなかったことはロシアの防空能力の脆弱性を示しています。

ロストフナドヌーは、ロシア海軍の黒海艦隊に所属するキロ級潜水艦で、改良型キロ級潜水艦(プロジェクト636.3)に分類されます。この潜水艦は2014年に進水し、黒海艦隊に配備されました。全長約73.8メートル、排水量約3,100トンの通常動力型(ディーゼル電気推進)潜水艦であり、高い静粛性と潜航能力を持っています。

ロストフナドヌーはカリブル巡航ミサイルを搭載可能で、これらのミサイルはウクライナの重要インフラに対する攻撃に使用されてきました。2023年9月13日にはウクライナ軍のミサイル攻撃により損傷を受け、その後ロシア側が修理を行っていたとされています。

巡航ミサイル「カリブル」

また情報収集に支障がでる可能性もあります。潜水艦による情報収集活動には、いくつかの具体的な手法があります。まず、電子情報収集では敵の通信や電子機器からの信号を傍受し、分析します。また、音響情報収集では水中音響センサーを用いて敵艦船や潜水艦の動きを追跡します。沿岸監視では敵の港湾施設や防衛システムの活動状況を観察し、海底ケーブル傍受では海底通信ケーブルを通じて通信内容を収集します。さらに、写真や映像撮影を行い、特殊部隊の輸送や回収を支援することもあります。

ロストフナドヌーのような潜水艦が失われると、ロシアの情報収集能力が著しく低下する可能性があります。

さらに、ウクライナ軍はクリミア北部のジャンコイにあるロシア空軍基地を攻撃し、防空ミサイルシステム「S-400」などを破壊したと報告しています。これもロシアの防空能力が低下している証拠です。最後に、米国はウクライナに対してパトリオットやNASAMSなどの防空ミサイルシステムを追加供与することを決定しています。これは、ロシアの防空能力が低下していることを受けて、ウクライナの防空能力を強化するための措置と見られます。

また、米軍はウクライナに対して航空機や監視衛星を用いた監視支援も行っています。米軍の無人偵察機「グローバル・ホーク」や「MQ-9リーパー」は、情報収集、監視、偵察(ISR)活動において重要な役割を果たしています。これにより、ウクライナ軍はロシア軍の動きをリアルタイムで把握し、効果的な攻撃を実行する能力を高めています。特に、グローバル・ホークは高高度から広範囲を監視できるため、敵の動きを詳細に追跡することが可能です。

グローバル方向

ロストフナドヌー潜水艦の沈没が事実であれば、ウクライナ戦争に多くの影響を与える可能性があります。まず、ロシア海軍の能力が低下し、黒海艦隊の海上作戦が制限されることが考えられます。この損失はウクライナ軍と国民の士気を高める要因となり、戦争の心理的側面において重要な影響を与えるでしょう。

さらに、ロシアは海上からの作戦を縮小し、陸上や空中からの攻撃にシフトする可能性があります。この事件は国際社会においてウクライナの防衛能力の向上を示すものとして受け止められ、さらなる軍事支援を引き出す要因になるかもしれません。

また、黒海地域の軍事バランスにも影響を与え、他の沿岸国の戦略を変える可能性があります。

これらの要素を総合すると、ロシアの対空能力が低下している可能性があり、潜水艦撃沈事件はその一例と考えられます。

しかし、ロシアが報復攻撃を強化するリスクも考慮する必要があります。これらの影響は、状況の進展によって変わる可能性があるため、注意深く見守る必要があります。

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2024年8月4日日曜日

日米2+2「在日米軍に統合軍司令部」の発表に反発する中国、「他国からの反撃の最前線に東京を置くことに」―【私の論評】安倍政権下の日米同盟強化と日本の安全保障政策の未来

日米2+2「在日米軍に統合軍司令部」の発表に反発する中国、「他国からの反撃の最前線に東京を置くことに」

まとめ
  • 日米両国は、在日米軍に新たな軍事司令部を東京に設置し、同盟の抑止力・対処力を強化することを決定した。
  • 日本は自衛隊の統合司令部を設置し、防衛費をGDPの2%に引き上げる計画を進めている。
  • 中国の軍事的台頭が懸念されており、2030年までに1000発以上の運用可能な核弾頭を保有する見込みである。
  • 米国と日本は「パトリオット」ミサイルの共同生産を進め、日米関係が真の軍事同盟へと変貌している。
  • 日本は中国との軍事衝突の最前線に立つ可能性が高まり、憲法改正なしでの米軍と自衛隊の一体化が進行している。
握手する上川陽子外相(右)とブリンケン米国務長官

 日米両国は、変化する安全保障環境に対応するため、同盟関係をさらに深化させる動きを見せている。その中心的な取り組みとして、在日米軍に新たな軍事司令部を設置することが先月東京で開催された日米の安全保障協議委員会(2プラス2)発表された。この新司令部は東京に置かれ、中将の指揮下で日本との軍事作戦の調整や合同演習の計画を担当する。これにより、在日米軍はハワイのインド太平洋軍司令部からの指示を待つ必要がなくなり、より迅速な対応が可能になると期待されている。

 日本側も、この動きに呼応する形で自衛隊の統合司令部を防衛省地下に設置する計画を進めている。さらに、日本政府は防衛費をGDPの2%まで引き上げる方針を打ち出し、安全保障体制の強化に向けた具体的な取り組みを示している。

 これらの動きには、中国は反発しているが、背景には中国の急速な軍事的台頭がある。中国は2049年までの「国家再興」を目指し、世界最大の海軍を構築するなど、軍事力の増強を急速に進めている。特に注目すべきは、2030年までに1000発以上の運用可能な核弾頭を保有すると予測されていることだ。このような中国の軍事的拡大は、日米両国にとって大きな懸念材料となっている。中国海軍は艦艇数では、すでに世界最大になっている。

 日米同盟の性質も、これらの地政学的変化に応じて進化している。かつては単なる二国間関係であった同盟が、今や地域全体の安全保障を視野に入れたものへと発展している。特に、「自由で開かれたインド太平洋戦略」の推進は、この新たな方向性を象徴するものといえるだろう。

 さらに、米国と日本は防空用迎撃ミサイル「パトリオット」の共同生産を進める計画も発表した。これは、日本の工場を利用してパトリオットミサイルの生産を増強するものであり、特にウクライナの防空システムを支援するためのものである。この計画では、日本の三菱重工業が米国のロッキード・マーティン社のライセンスの下でミサイルを製造することになる。この取り組みは、日米両国の防衛産業協力を強化し、供給の多様化と拡大を図るための重要なステップとされている。

 これらの一連の動きは、日米関係が真の軍事同盟へと変貌したことを示している。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のクリストファー・ジョンストン氏は、「司令部設置は米国が同盟国の能力を支援するため、これまでにはなかったような手段を取る用意があることを意味する。日米関係は真の軍事同盟へと変貌した」と述べている。

 しかし、このような同盟関係の強化には課題も存在する。日本が中国との潜在的な軍事衝突の最前線に立つ可能性が高まっていることは、重大な懸念事項である。また、憲法改正を経ずに米軍と自衛隊の一体化が進行していることも、日本の安全保障政策に関する重要な議論を喚起している。

 これらの動向は、日本の安全保障環境が急速に変化していることを示すとともに、日本国民に対して、この新たな現実に対する備えと覚悟を問いかけている。日米同盟の強化が中国の軍事的台頭に対する重要な対応策である一方で、それに伴うリスクと責任についても慎重に検討する必要がある。今後、日本がこの複雑な安全保障環境にどのように対応していくかは、アジア太平洋地域の安定と平和に大きな影響を与えることになるだろう。

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【私の論評】安倍政権下の日米同盟強化と日本の安全保障政策の未来

まとめ
  • 2015年に成立した安全保障関連法の改正により、日本は集団的自衛権の限定的行使が可能となり、日米同盟の実効性が高まった。
  • 2016年に安倍首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想は、日米同盟を地域的な文脈に位置づけ、インド太平洋地域の安定と繁栄を目指すもので、後にトランプ政権にも採用され、日米同盟の地域的影響力を拡大させた。
  • 安倍首相は日米豪印の4カ国による戦略的枠組み「クアッド」の形成にも重要な役割を果たし、中国の影響力拡大に対抗する目的で設立された。
  • 安倍政権下で日本は防衛費を増加させ、防衛能力を強化し、2022年末には「反撃能力」の保有を含む新たな国家安全保障戦略が閣議決定された。
  • 今後の課題として、憲法改正を行い自衛隊を正式な軍隊として位置づけること、スパイ防止法の成立、セキュリティ・クリアランスの対象範囲の拡張が挙げられる。
日米関係が今日のような発展を遂げたのには、安倍晋三首相の尽力によるところが大きいです。その中でも特に重要な貢献は、2015年に成立した安全保障関連法の改正です。この法改正により、日本は集団的自衛権の限定的行使が可能となり、日米同盟の実効性が高まりました。これにより、日本は「盾」の役割を超えて、より積極的に地域の安全保障に貢献できるようになりました。


安倍首相は2016年に「自由で開かれたインド太平洋」構想を提唱しました。この構想は、日米同盟を地域的な文脈に位置づけ、インド太平洋地域の安定と繁栄を目指すものです。この構想は後にトランプ政権にも採用され、日米同盟の地域的影響力を拡大させる要因となりました。

さらに、安倍首相は日米豪印の4カ国による戦略的枠組み「クアッド」の形成にも重要な役割を果たしました。クアッドは、インド太平洋地域における中国の影響力拡大に対抗する目的で設立され、日米同盟を基盤としつつ、より広範な地域的協力体制を構築する試みとして評価されています。

防衛力の強化も、安倍政権下での重要な取り組みです。日本は防衛費を増加させ、防衛能力を強化しました。2022年末には、相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の保有を含む新たな国家安全保障戦略が閣議決定され、日本の防衛政策は大きく転換している。これらの動きは、日米同盟における日本の役割拡大につながっています。

また、上の記事にもあるように、日米両国は防空用迎撃ミサイル「パトリオット」の共同生産を進める計画も発表しました。この取り組みは、日米両国の防衛産業協力を強化し、供給の多様化と拡大を図るための重要なステップとされています。

パトリオット・ミサイル

これらの一連の動きは、日米関係が上の記事にもあるように、真の軍事同盟へと変貌したことを示しています。

安倍首相の外交努力により、日米同盟は単なる二国間関係から、地域全体の安全保障を視野に入れたものへと発展しました。これは、日米両国がより積極的に地域の課題に取り組み、同盟関係を深化、拡大、維持することにつながります。

これらの取り組みにより、日米同盟は従来の「盾と矛」の役割分担を超えて、より対等で包括的な安全保障パートナーシップへと進化しました。安倍首相の外交・安全保障政策は、日米同盟を21世紀の地政学的課題に対応できる柔軟で強固な枠組みへと変革させたと評価できます。

今後の日本の課題として、憲法改正を行い自衛隊を正式な軍隊として位置づけること、そして真の意味での軍事力の強化を図ることが挙げられます。憲法改正については、自民党が最優先課題として取り組んでおり、岸田総理大臣も自身の総裁任期中に憲法改正を実現したいとの意向を示している。

しかし、憲法改正には国会での十分な議論が必要であり、特に緊急事態条項の創設は重要です。これについては慎重な姿勢が求められるでしょう。このため、政府はまず他の優先課題を解決し、憲法改正の環境整備を進めることが重要です。


さらに、国内の安全保障対策としてスパイ防止法の成立が挙げられる。現在、具体的な法案は提出されていないですが、国家の安全保障を確保するためには、適切な範囲での情報保護が必要である。政府は、法案の内容を精査し、国民の基本的人権を侵害しない形での法整備を進めるべきである。

また、セキュリティ・クリアランスの対象範囲の拡張も重要である。経済安全保障の観点から、産業・技術基盤の強化が求められており、重要な情報や技術が漏洩しないようにするための制度が必要です。

日本のセキュリティ・クリアランス制度には、重要な課題がいくつか存在します。性行動を含む個人の行動や背景を包括的に審査する必要性、閣僚や高官を含むより広範な対象への適用、そして国際的な基準に沿った制度の整備が重要である。

特に、性行動は多くの国のセキュリティ・クリアランス制度において重要な審査項目の一つとして含まれており、個人の脆弱性や潜在的な脅迫のリスクを評価する上で重要な要素とされている。日本の現行制度でこの点が欠如していることは、重大な問題点として指摘すべきである。

また、閣僚や高官がセキュリティ・クリアランスの対象外となっている点も、重大なセキュリティリスクとなり得る。これらの課題を解決するためには、個人のプライバシーと国家安全保障のバランスを慎重に取りながら、より包括的で効果的なセキュリティ・クリアランス制度の構築が必要である。

政府は、有識者や産業界との対話を重視し、セキュリティ・クリアランスの対象範囲を拡大するための具体的な施策を講じるべきです。

これらの課題を達成するためには、政府は以下の道筋をたどるべきである。まず、憲法改正に向けた環境整備を進めるため、他の優先課題を解決すべきです。次に、防衛力の強化を継続し、自衛隊の装備や訓練の充実を図るべきです。さらに、スパイ防止法の成立に向けて法案の内容を精査し、国民の基本的人権を侵害しない形での法整備を進める。

最後に、セキュリティ・クリアランスの対象範囲を拡大するため、有識者や産業界との対話を重視し、具体的な施策を講じるべきです。

これらの取り組みにより、日本は真の意味での軍事力の強化を図り、国内外の安全保障環境に対応できる体制を整えることができるでしょう。



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日米首脳共同声明「未来のためのグローバル・パートナー」全文 中国の「危険な行動」に言及―【私の論評】安倍イズムの影響下での日米同盟強化: 岸田政権の課題と展望 2024年4月11日

安保、資源で「準同盟」強化 中国を警戒、重なる思惑 日豪―【私の論評】2015年の安倍政権による安全保障法制の整備がなければ、豪州をはじめとする他国の関係はかなり希薄なものになっていた(゚д゚)! 2022年10月23日


2024年8月3日土曜日

経済安全保障:日米同盟の 追い風となるか向かい風となるか―【私の論評】日米の経済安全保障政策:戦争経済への移行と国際的協力の重要性

経済安全保障:日米同盟の 追い風となるか向かい風となるか

ミレヤ・ソリ-ス  ブルッキングス研究所東アジア政策研究センター(CEAP)所長

まとめ

  • 経済安全保障政策が台頭しており、技術力向上や過度な依存、サプライチェーン崩壊リスクに備えるため、米国と日本が新たな対外経済政策ツールを開発している。
  • 米国の外交政策は「経済安全保障は国家安全保障」という原則に基づき、中国との戦略的競争が深化していることが背景にある。
  • 米中間の競争は多次元的で、特に技術分野においてどちらが優位に立つかが焦点となっており、経済的手段が重要な役割を果たしている。
  • 米国は、外国直接投資の審査や輸出管理の改革、サプライチェーンの強靭性向上を図るための新たな取り組みを進めている。
  • バイデン政権は、同盟国との協調を重視し、経済安全保障措置に関する国際的な基準設定や資源の共有を推進している。

経済安全保障

経済安全保障政策は、技術力を向上させることや過度な依存、サプライチェーンの崩壊リスクに備えるために重要な役割を果たしている。特に、アジアや欧州の各国政府は、地政学的対立が続く中で経済的相互依存の利点を最大限に活用し、デメリットを最小限に抑えるための新しい対外経済政策ツールを開発している。米国と日本は、この経済安全保障の枠組みを導入しつつあり、その背景には中国との戦略的競争の深化がある。両国は、技術革新を活用し、貿易や技術に関するルールを整備することで、中国がもたらす課題に対処する目的を共有している。

米国の外交政策は、経済と安全保障の融合が進んでいる。これは、トランプ政権とバイデン政権の両方で「経済安全保障は国家安全保障」という考えが中心に据えられていることに起因している。特に、米中関係の悪化や中国の軍民融合政策への懸念が、米国の経済安全保障政策を強化する要因となっている。米国は、経済的相互依存の中でライバル関係を管理する難しさを認識しつつ、同盟国との協力を強化している。

具体的な政策としては、外国直接投資(FDI)の審査強化や輸出管理の改革が進められている。2018年に制定された外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)により、重要技術やインフラに関わる外国投資の審査が強化され、バイデン政権下では国家安全保障上のリスク評価に関する具体的な指針が示された。また、輸出管理改革法により、デュアルユース製品のライセンス要件が見直され、中国企業に対する規制が強化されている。

さらに、バイデン政権は半導体や重要鉱物のサプライチェーンの見直しを行い、国内投資を促進するための施策を講じている。特に、2022年に成立した「CHIPSおよび科学法」では、米国でのチップ製造を促進するための資金が割り当てられ、同時に中国などの懸念国での事業拡大が制限されることとなった。

このように、米国と日本は経済安全保障政策を通じて、中国との競争に立ち向かうための協力を深めており、経済的関与とヘッジのバランスを取ることが求められている。新たに設置された日米の経済版「2+2」は、これらの分野での協調を優先し、今後の国際的な経済安全保障の枠組みを形成する上で重要な役割を果たすことが期待されている。

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【私の論評】日米の経済安全保障政策:戦争経済への移行と国際的協力の重要性

まとめ
  • 経済安全保障政策の強化:米国と日本は、技術力向上や過度な依存、サプライチェーン崩壊リスクに備えるため、経済安全保障政策を強化している。
  • 米中戦略競争:米国は、中国との戦略的競争が深化している背景から、外国直接投資の審査や輸出管理の改革、サプライチェーンの強靭性向上に向けた新たな取り組みを進めている。
  • 同盟国との協調:バイデン政権は同盟国との協調を重視し、経済安全保障措置に関する国際的な基準設定や資源の共有を推進している。
  • 日米経済安全保障協力の深化:トランプ政権下でも日米の経済安全保障協力が促進されることになる。特に造船技術や半導体産業、エネルギー技術分野での協力がさらに進展するだろう。
  • 戦争経済への移行:世界情勢の変化により、多くの国々が戦争経済に近い経済体制に移行しつつあり、これが国益を守るための必要不可欠な選択肢となっている。
上のミレヤ・ソリ-ス氏の論文にもある通り、米国と日本は、技術力向上や過度な依存、サプライチェーンの崩壊リスクに備えるために経済安全保障政策を強化している。特に、中国との戦略的競争が深化している背景から、米国は外国直接投資の審査や輸出管理の改革、サプライチェーンの強靭性向上に向けた新たな取り組みを進めている。

同時に、バイデン政権は同盟国との協調を重視し、経済安全保障措置に関する国際的な基準設定や資源の共有を推進しています。

トランプ政権になれば、さらに日米の経済安保で協力関係は促進されることになるでしょう。これは、世界情勢の変化と米国の戦略的目標を反映しており、日米関係の新たな段階を示唆しています。特に注目すべきは、トランプ氏の「大海軍主義」的姿勢と、それに伴う日本の造船技術と能力への期待です。

米戦艦上で演説するトランプ大統領

さらに、F35戦闘機の部品に中国製部品があることが発見され、一時製造停止になっている問題に象徴されるように、半導体産業における日米協力の深化、エネルギー技術分野での協力強化など、様々な分野で日米の経済安全保障協力が進展しています。これらの動きは、従来の平和時経済から「戦争経済」に近づく傾向を示しています。

戦争経済とは、戦争中または戦争準備中の国家が、軍事目的のために経済資源を動員し、経済活動を戦争遂行に適応させることを指します。戦争経済の特徴としては、資源の動員、政府の介入、産業の再編、財政政策の変更、そして国民生活への影響が挙げられます。

具体的には、人材や資材、資金が軍事活動に集中され、政府が経済活動を直接管理し、民需産業が軍需産業に転換されます。また、戦争資金を調達するために増税や国債の発行が行われ、消費財の不足や生活必需品の配給制が敷かれることもあります。

戦争経済は、国家の全体的な経済活動を戦争目的に適応させるための包括的な取り組みを意味し、その結果、平時とは異なる経済構造と政策が展開されます。ウクライナ戦争の継続や、ガザ地区の戦闘の継続、さらには紅海でのフーシ派の活動、中国の海洋進出、台湾の危機など世界は平時とは異なる状況にあり、多くの国々で戦争経済への移行が促される状況にあります。

ただ、ロシアやウクライナなどを例外として、実際には多くの国々が戦争をしているわけではないので、完璧に戦争経済に移行することはないですが、それでも平時とは異なる戦争経済に近い経済体制に移行しつつあります。

米ペンシルベニア州スクラントンの工場で、155ミリ砲弾の筒を機械で加工する作業員ら

「戦争経済」への移行は、単にネガティブな側面だけでなく、現代の国際情勢において国益を守るための必要不可欠な選択肢となりつつあります。以下の要因がこの傾向を加速させています。
1. 地政学的リスクの増大:中国の台頭やロシアの行動など、国際秩序の不安定化が進んでおり、各国は自国の安全保障を最優先せざるを得ない状況にあります。

2. 技術覇権競争の激化:AI、量子コンピューティング、宇宙開発など、先端技術の分野で国家間の競争が激化しており、これらの技術は経済的利益だけでなく、国家安全保障にも直結しています。

3. サプライチェーンの脆弱性:COVID-19パンデミックや半導体不足など、グローバルサプライチェーンの脆弱性が露呈し、重要物資の国内生産や同盟国との協力の重要性が再認識されています。

4. 経済的相互依存の武器化:経済制裁や貿易規制が外交・安全保障政策の手段として頻繁に使用されるようになり、経済と安全保障の境界が曖昧になっています。

5. 非伝統的脅威の増大:サイバー攻撃、気候変動、パンデミックなど、従来の軍事的脅威とは異なる新たな脅威が増大しており、これらに対処するためには経済と安全保障を一体的に考える必要があります。
このような状況下で、日本が国益を守りつつ国際社会で影響力を維持・拡大するためには、経済安全保障の観点から戦略的に行動することが不可欠となっています。日米の経済安全保障協力の深化は、このような文脈で理解する必要があります。

この協力関係は、日本にとって多くの利点をもたらす可能性があります。高度な技術力や製造能力の再評価、新たな市場や事業機会の創出、安全保障の強化、グローバルな課題に対する影響力の増大などが期待されます。

一方で、特定の国との関係悪化や国際的な緊張の高まり、平和主義的立場への影響など、潜在的なリスクも存在します。しかし、これらのリスクを慎重に管理しつつ、変化する国際情勢に適応することが、日本の国益を守る上で重要となっています。

海自の観艦式

結論として、日米の経済安全保障協力と「戦争経済」への移行は、現代の国際情勢において日本が自国の利益を守りつつ、国際社会に貢献するための重要な手段となっています。この変化は、単に軍事的な観点だけでなく、技術革新、経済成長、国際的影響力の強化など、多面的な効果をもたらす可能性があります。

日本は、この新たな国際環境において、自国の価値観や原則を堅持しつつ、柔軟かつ戦略的に行動することが求められています。経済と安全保障を一体的に捉え、同盟国との協力を深めつつ、グローバルな課題解決にも貢献していくことで、日本は国際社会における自国の地位を向上させ、国益を最大化する機会を得ることができるでしょう。

このアプローチは、従来の平和主義的立場と完全に矛盾するものではなく、むしろ変化する世界において平和を維持し、日本の安全と繁栄を確保するための現実的な選択肢として捉えるべきです。日本が直面する課題と機会を冷静に分析し、バランスの取れた政策を追求することが、今後の日本の国際的地位と国内の発展にとって極めて重要となるでしょう。

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2024年8月2日金曜日

「人口減少」は本当に問題なのか まかり通るネガティブな未来予想も 1人当たりのGDPと関係薄く 機械化やAIで対応可能だ―【私の論評】人口減少と経済成長:デフレの誤解と持続可能な解決策


まとめ
  • 総務省の調査によると、日本の人口は過去最大の減少幅を記録し、外国人人口は増加して初めて300万人を超えた。
  • 人口減少が必ずしも大きな問題ではなく、人口増加のほうが経済に悪影響を与える。データによると、人口減少国のほうが1人当たりGDP成長率が高い。
  • 人口減少対策として、外国人労働者の受け入れよりも、機械化やAI活用による1人当たりの資本増加策を優先すべきだ。
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 総務省の最新の人口動態調査によると、日本の人口減少が加速し、過去最大の減少幅を記録した。一方で、外国人人口は増加し、初めて300万人を超えた。筆者は一般的な見解とは異なり、人口減少が必ずしも大きな問題ではないと主張している。その理由として、歴史的に人口増加のほうが人口減少よりも問題視されてきたことを挙げている。

 経済成長理論では、人口増加は1人当たりの資本を減少させ、貧困の原因となる可能性があるとされている。世界のデータ分析によると、人口減少国のほうが1人当たりGDP成長率が高い傾向にあることも示されている。また、人口減少の影響は予測可能であり、適切な対策を事前に講じることができる。

 さらに、人口動向に関する政策は、客観的な証拠に基づいていないことが多い。筆者は、人口減少対策として外国人労働者の受け入れよりも、機械化やAI活用による1人当たりの資本増加策を優先すべきである。

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【私の論評】人口減少と経済成長:デフレの誤解と持続可能な解決策

まとめ
  • 人口増加は1人当たりの資本を減少させ、貧困や経済格差を拡大するリスクがある。
  • 人口減少とデフレには直接的な因果関係はなく、適切な金融政策により経済成長と物価安定は可能。
  • 人口減少への対策として、労働生産性向上、高齢者・女性の労働参加促進、AI・ロボット化の推進が有効。
  • 外国人労働者の受け入れは短期的には効果的だが、長期的には持続可能な解決策とは言い難い。
  • 人口変動の経済への影響を一面的に捉えるのではなく、多角的な視点で対応策を考える必要がある。
経済成長理論において、人口増加が1人当たりの資本を減少させ、貧困の原因となる可能性がある理由について説明します。経済成長の主要な要因は資本の蓄積、労働力の投入、技術進歩です。人口が増加すると、資本(機械や設備など)がより多くの人々に分配されるため、一人当たりの資本量が減少します。これにより、一人当たりの生産能力が低下する可能性があります。

最近の経済成長理論でも、人口増加は1人当たりの資本を減少させるため、貧困の原因になりうると指摘されています。急激な人口増加は資源の分配を困難にし、貧困や経済格差を拡大するリスクがあります。

大勢の買い物客でごった返すナイジェリアの最大都市ラゴスの市場

最近の経済成長理論でも、人口増加は1人当たりの資本を減少させるため、貧困の原因になりうると指摘されています。急激な人口増加は資源の分配を困難にし、貧困や経済格差を拡大するリスクがあります。

例えば、ナイジェリアやエチオピアなどでは、急速な人口増加に対して雇用創出や産業の発展が追いついていないため、若年層の失業問題や貧困の拡大が顕著です。また、インドのムンバイやブラジルのリオデジャネイロなどの大都市では、急激な人口増加と都市への人口流入により、インフラ整備が追いつかずスラムが形成され、住居や衛生設備が不足しています。

さらに、教育や医療サービスの質の低下も問題となっており、人口増加に対して学校や病院の整備が追いつかないことで、教育機会の不平等や健康格差が拡大しています。また、急速な人口増加は食糧やエネルギーの需要増加をもたらし、森林破壊や水資源の枯渇などの環境問題を引き起こすこともあります。

これにより、長期的には持続可能な発展を阻害し、貧困の連鎖を生み出す要因となっています。さらに、人口増加率が高い国では、労働市場に新規参入する若年層の数が経済成長による雇用創出を上回るケースがあり、賃金の低下や失業率の上昇が起こり、結果として貧困や経済格差の拡大につながる可能性があります。

これらの事例は、人口増加が必ずしも経済成長や繁栄をもたらすわけではなく、適切な政策や産業発展が伴わない場合、むしろ貧困や格差を拡大させる可能性があることを示しています。日本の過去においては、終戦直後からしばらく人口増が続いたものの、それを上回るような産業の発展があったため、経済成長と繁栄をもたらしたといえます。人口が増えたから、経済発展したという見方は、間違いです。

また、人口減少とデフレの間には直接的な因果関係はありません。デフレは主に貨幣的現象であり、金融政策の結果として生じます。中央銀行の政策が適切であれば、人口減少下でもインフレ目標を達成することは可能です。
インフレ・デフレは貨幣現象であり、人口の増減とは無関係

さらに、人口が減少しても中央銀行が貨幣の流通量を減らさずにそのままにしていれば、むしろインフレになる可能性があります。これは、経済の規模に対して相対的に貨幣量が増加することになるためです。つまり、人口減少下でも、適切な金融政策によって緩やかなインフレ状況にすることは可能なのです。

人口減少は労働供給の減少を意味しますが、同時に需要の減少も引き起こします。これらの効果は相殺される傾向にあり、必ずしも物価の下落につながるわけではありません。また、技術進歩や生産性の向上により、人口減少下でも経済成長と物価の安定は実現可能です。

一方、人口減少の弊害は資本増強などで対応策があります。具体的には、労働生産性の向上、高齢者や女性の労働参加促進、教育と訓練の強化が重要です。特に、AI化やロボット化の推進は非常に有効な選択肢となります。

外国人労働者の受け入れも一つの方法ですが、長期的には限界があります。主な供給元であるアジア諸国も少子高齢化が進んでおり、外国人材の確保が難しくなる可能性があります。また、外国人労働者の受け入れには賃上げ圧力や文化的な摩擦が伴うことが多く、社会的な調整が必要です。

さらに、外国人労働者が増加すると、社会保障や教育などの公共サービスに対する負担も増加します。これらの要因により、外国人労働者の受け入れは短期的には効果的であっても、長期的には持続可能な解決策とは言い難いのです。

AIやロボット化持続可能の人口減の解決策

これに対して、AI化やロボット化は技術的進歩とともに持続可能な解決策となり得ます。AIやロボットは一度導入すれば安定した生産性を維持でき、人件費の増加や労働力不足のリスクを軽減できるためです。

また、AIやロボットは24時間稼働可能であり、労働力の効率を大幅に向上させることができます。さらに、技術の進歩により、AIやロボットの性能は日々向上しており、今後ますます多くの業務を自動化することが可能になるでしょう。

結論として、人口減少は確かに経済に影響を与えますが、それがデフレの直接的な原因ではありません。適切な金融政策と経済政策によって、人口減少下でも経済成長と物価の安定を実現することは可能です。日本の取り組みは、同様の課題に直面する他の国々にとって重要な参考事例となるでしょう。

無論、これは日銀が人口減に応じて、それに応じた金融政策を実行する場合に限ります。日銀が誤った金融政策をした場合はその限りではありません。また、政府がこれらの点を無視して移民を増やした場合も、その限りではありません。

一番の問題は、人口減少を一面的にとらえ、これに対して間違った対応をしてしまうことです。いわゆる人口ボーナス・人口オーナス論などの、人口減少や増加が経済に与えるという考え方は過度に単純化されており、他の重要な要因も考慮に入れる必要があります。

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2024年8月1日木曜日

追加利上げに2人反対 日銀審議委員の中村、野口両氏―【私の論評】日銀の追加利上げと金融政策の転換:オントラックとビハインド・ザ・カーブの狭間で

追加利上げに2人反対 日銀審議委員の中村、野口両氏

日銀植田総裁

 日銀は31日、追加利上げの決定には投票権を持つ9人の政策委員のうち、植田和男総裁ら7人が賛成し、審議委員の中村豊明、野口旭の両氏は反対したと公表した。

 日銀の公表文によると、中村氏は「次回の金融政策決定会合で法人企業統計などを確認してから、変更を判断すべきで、今回は考え方を示すにとどめることが望ましい」と主張。野口氏は「賃金上昇の浸透による経済状況の改善をデータに基づいてより慎重に見極める必要がある」と反対した。

 中村氏は日立製作所出身、野口氏は積極緩和論者「リフレ派」として知られる。

【私の論評】日銀の追加利上げと金融政策の転換:オントラックとビハインド・ザ・カーブの狭間で

まとめ
  • 日銀は経済・物価データが「オントラック」(想定通り)と判断し、政策金利を0〜0.1%から0.25%に引き上げた。
  • 長期国債買い入れ額の段階的減額計画と、今後の経済・物価動向次第での追加利上げ方針を示した。
  • 一部の政策委員は、「ビハインド・ザ・カーブ」の原則に基づき、経済データの慎重な分析を求めて利上げに反対。
  • 消費者物価指数(CPI)見通しが不変にもかかわらず追加利上げを決定し、「定期的な利上げ」姿勢を示唆。
  • 円安是正のための政府との協調が背景にあり、中央銀行の独立性に関する懸念が浮上。
ことし1月の金融政策決定会合

日銀は7月31日の金融政策決定会合で、政策金利を0〜0.1%から0.25%に引き上げることを決定しました。この追加利上げは、円安是正のための政府との協調が背景にあるようです。
また、日銀は長期国債の買い入れ減額計画を発表し、2026年1-3月までに買い入れ額を3兆円程度に減らす方針を示しました。さらに、消費者物価指数(CPI)の見通しを維持し、経済・物価が見通し通り推移すれば引き続き利上げを行う方針も明らかにしました。この決定には9人の政策委員のうち、植田和男総裁を含む7人が賛成し、審議委員の中村豊明氏と野口旭氏の2人が反対しました。

中村氏は、次回の金融政策決定会合で法人企業統計などを確認してから変更を判断すべきであり、今回は考え方を示すにとどめることが望ましいと主張しました。野口氏は、賃金上昇の浸透による経済状況の改善をデータに基づいてより慎重に見極める必要があると反対しました。

中村氏と野口氏の反対理由は、経済データの確認と慎重な判断を重視する姿勢に基づいています。中村氏は、法人企業統計などのデータを確認してから政策変更を判断するべきだと考えており、今回の利上げは時期尚早であるとしています。野口氏も同様に、賃金上昇が経済全体にどの程度浸透しているかを慎重に見極める必要があると主張し、データに基づいた判断を求めています。

このような反対意見は、日銀の政策決定プロセスにおいて重要な役割を果たしており、経済データの慎重な分析とその結果に基づく政策判断の必要性を示しています。政策委員の中でも意見が分かれる中で、植田総裁を含む多数派は、現状の経済・物価見通しに基づいて追加利上げが適切であると判断しましたが、少数派の意見も無視できない重要な視点を提供しています。

以上のように、日銀の追加利上げ決定には、経済データの慎重な分析とその結果に基づく判断が求められており、中村氏と野口氏の反対意見はその重要性を強調しています。

興味深いのは、経済・物価見通しがあまり変わっていないにもかかわらず、追加利上げが決定されたことです。特に、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)=コアコアCPIは、2024年度の前年比1.9%、2025年度の同1.9%、2026年度の同2.1%と、4月の見通しから全くの不変でした。

物価見通しが何も変わらないのに、追加利上げというのはかなりショッキングです。これは日銀が「定期的に利上げをする」姿勢を示していると解釈できます。植田総裁の説明によれば、基調的なインフレ率が維持されれば、それに応じて金利正常化を進めるという方針が示されています。

日銀の最近の利上げ決定は、経済状況を考慮すると適切ではありません。

まず、政治家による「金融政策の正常化」への言及は懸念すべき点です。河野太郎デジタル相や茂木敏充幹事長、さらには岸田文雄首相までもがこの表現を使用していることは、日銀に対する政治的圧力になった可能性は否めません。

日銀上田総裁(左)と岸田首相

日本経済はまだデフレからの完全な回復過程にあり、現在のインフレ状況では利上げは時期尚早です。「ビハインド・ザ・カーブ」の原則に従えば、金融政策は実体経済の動きよりも遅れて行うべきであり、その理由として、経済のラグ効果、過剰反応の防止、そしてインフレ目標の達成が挙げられます。

金融政策の効果が実体経済に現れるまでには時間がかかり、一時的な経済指標の変動に過剰に反応すると経済に悪影響を及ぼす可能性があるためです。政策金利の変更が企業の投資や消費者の支出に影響を与えるまで、さらに失業率に影響を与えるまでには、通常数ヶ月から1年程度のラグ(遅れ)が存在します。

また、インフレ率が目標を超えるまで利上げを行わない「ビハインド・ザ・カーブ」のアプローチは、経済が十分に回復し持続的な成長軌道に乗るまで過度な引き締めを避けるために重要です。この観点から、インフレ率が4%程度を超えるまでは利上げを控えるべきなのです。

日銀の現在の姿勢は、アベノミクス以前に見られた早期利上げによって景気回復を阻害し、デフレを継続させてしまった過去の誤りを繰り返す危険性があります。

さらに、円安が日本経済に悪影響を及ぼすかどうかについては慎重な検討が必要です。現段階での利上げや円高は日本経済にとってマイナスとなる可能性が高いのです。

植田和男総裁は、今回の利上げについて「経済や物価のデータがオントラック(想定通り)だったことに加え、足元の円安が物価に上振れリスクを発生させている」と説明していますが[、この判断は経済の実態を正確に反映していません。

未だ個人消費の弱さが顕著な中での利上げは、経済が本当に「オントラック」であるかという疑問を生じさせます。実際の経済指標は日銀の評価よりも弱い可能性があります。これは、日銀のヒアリングや指標が実態を正確に捉えきれていない可能性があります。

現状では、実質賃金がようやく上昇に転じようとしたばかりであり、消費の回復が十分に進んでいない可能性があり、経済が完全に「オントラック」であるという判断には疑問符がつきます。

したがって、日銀の「オントラック」という評価は、経済の一部の側面のみを反映している可能性があり、より包括的な経済指標の分析が必要です。このような状況下での利上げ決定は、経済の実態を十分に考慮していない可能性があり、慎重に再検討すべきです。


実際、個人消費の弱さが目立つ中でのこのタイミングでの利上げは、円安を強く意識したものか、あるいは円安を強く警戒する政府の意向を受けたものと受け止められかねません。

結論として、日銀の今回の利上げ決定は、経済の実態や「ビハインド・ザ・カーブ」の原則を十分に考慮せず、政治的圧力や円安への過度な警戒に影響された可能性が高く、適切な判断とは言えません。今後の金融政策運営においては、より慎重な分析と判断が求められます。

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2024年7月31日水曜日

トランプ氏とEVと化石燃料 民主党の環境政策の逆をいく分かりやすさ 米国のエネルギー供給国化は日本にとってメリットが多い―【私の論評】トランプ再選で激変?日本の再生可能エネルギー政策の5つの課題と展望


まとめ
  • ドナルド・トランプ前大統領は、再選された場合にバイデン政権の電気自動車(EV)普及義務を初日に終了すると発言し、民主党の政策を撤回する意向を示した。
  • 自動車規制は国際的な覇権争いの一環であり、EUもエンジン車の新車販売禁止方針を撤回した事例がある。
  • EVの環境への影響は不明確で、発電に多くの化石燃料が使用されているため、EVが本当に環境に優しいかは議論の余地がある。
  • トランプ氏は化石燃料の採掘を推進し、米国を最大のエネルギー供給国にすることを目指している。
  • 日本は、米国のエネルギー供給国化を好都合とし、「小型モジュール式原子炉」や2030年代以降の「核融合」技術を活用することが望ましいとされている。


 ドナルド・トランプ前大統領は、大統領に再選された場合、バイデン政権の電気自動車(EV)普及義務を初日に終了すると述べ、民主党の重要政策を撤回する意向を示した。自動車を巡る規制は各国の覇権争いの一環であり、その方針はしばしば変わる。例えば、欧州連合(EU)は「2035年にエンジン車の新車販売を禁止する」という方針を撤回した。

 ドイツはかつて、日本のハイブリッド車に対抗して「ディーゼル車が環境に良い」と主張していたが、現在はEV化を進める一方で、合成燃料を使うエンジン車を例外とする方針に転じている。そもそもEVが本当に環境に優しいかどうかは定かでなく、発電の多くが石炭、液化天然ガス(LNG)、原油などの化石燃料に依存しているため、電気を作る過程で二酸化炭素(CO2)が多く発生する。CO2を発生させる電気で走るEVと、カーボンニュートラルの合成燃料を使うエンジン車では、どちらが環境に優しいかの答えは簡単には出ない。

 トランプ氏は、民主党の環境政策に対抗する形で、化石燃料の採掘を推進する「ドリル、ベイビー、ドリル」という公約を掲げている。これにより、米国は最大のエネルギー供給国となり、エネルギー価格も安定すると予想される。トランプ政権になれば、気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」からの再離脱も確実視されている。

 日本にとって、米国がエネルギー供給国となり価格が安定することは好都合である。日本は、環境を考慮した「小型モジュール式原子炉」でしのぎながら、2030年代以降の「核融合」時代につなげていくことが望ましい。これにより、エネルギー供給の安定と環境保護の両立が期待される。

 国際政治の中で、日本は欧米からの変化球に対応するため、柔軟なエネルギー戦略を維持する必要がある。EVは長期的には普及すると考えられ、電気は扱いやすいエネルギーであるため、自動車の電化は不可避といえる。しかし、EV化は一直線には進まない可能性があり、基本となる電力をいかに安く生産できるかが重要である。日本は、エネルギー供給の安定と環境保護を両立させるため、柔軟な対応が求められる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプ再選で激変?日本の再生可能エネルギー政策の5つの課題と展望

まとめ

日本の再生可能エネルギー政策の5つの課題と展望は以下5つつに集約される。
  • トランプ前大統領が再選された場合、化石燃料の利用が推進され、再生可能エネルギーへの依存が減少する可能性が高い。
  • 日本のエネルギー自給率は低く、当面は化石燃料に頼る必要があり、再エネは実験的な取り組みに留めるべきである。
  • 日本が中国からの再エネ製品を大量に輸入し続けることは、トランプ政権からの貿易摩擦を引き起こすリスクがある。
  • 日本の再エネ政策は公的資金に依存しており、固定価格買取制度(FIT制度)による負担が国民にかかっている。
  • 再生可能エネルギーの発電コストは高く、市場原理による効率化が不十分であるため、バランスの取れた、化石燃料を重視するエネルギーミックスを目指すべきである。将来は、小型モジュール炉、核融合によるエネルギーに転換すべきである。
これら、5つについて以下に解説します。

ドナルド・トランプ前大統領が再び大統領に就任した場合、EV車だけにとどまらず、再生可能エネルギー(再エネ)政策も大きな転換を迎える可能性が高いです。トランプ氏の「ドリル、ベイビー、ドリル」というスローガンは、米国内の豊富な化石燃料資源を有効活用し、エネルギー自給率を高め、経済成長を促進する意図を示しています。この方針は、短期的なエネルギー安全保障と経済成長を重視する現実的なアプローチと言えます。



実際、化石燃料の利用は世界的に増加傾向にあります。国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、2022年の世界の石炭消費量は過去最高を記録し、2023年もさらに増加する見込みです。また、天然ガスの需要も2022年に若干減少したものの、2023年には回復し、今後も増加すると予測されています。

再エネは、その非効率性と高コスト、さらに不安定な供給という本質的な問題を抱えています。日本のエネルギー自給率は12.1%と極めて低く(資源エネルギー庁、2019年データ)、安定的なエネルギー供給のためには、当面は化石燃料に頼らざるを得ない状況です。

将来的には、小型モジュール炉や核融合などの新技術がエネルギー問題の解決に貢献すると期待されています。例えば、日本原子力研究開発機構は2050年頃の核融合発電の実用化を目指しています。これらの技術が実用化されるまでの間、エネルギー効率の低い再エネに過度に依存するのではなく、化石燃料を効率的に活用することが重要です。

米Westinghouse Electric Companyの小型モジュールを収めた建物

世界的にも、再エネへの過度な依存からの転換が見られます。例えば、ドイツでは2022年に石炭火力発電所の再稼働を決定し、フランスでは原子力発電の新規建設計画を発表しています。これらの動きは、エネルギー安全保障と経済性を重視する傾向を示しています。

日本においても、再エネは実験的な取り組みに留め、主要なエネルギー源としては化石燃料や原子力を活用すべきです。経済産業省の資料によると、2030年度の電源構成目標では、再エネは36〜38%に留まっており、残りは原子力や火力発電で賄う計画となっています。

さらに、日本が再エネにこだわり続け、中国からの太陽光発電パネルなどの再エネ製品を大量に輸入し続けることは、トランプ政権によるバッシングの対象にもなり得ます。トランプ氏は過去にも中国製品に対して強硬な姿勢を示しており、再エネ製品の大量輸入は米国との貿易摩擦を引き起こす可能性があります。これにより、日本のエネルギー政策が国際的な圧力にさらされるリスクが高まります。

また、日本の再エネ政策は公的資金に大きく依存するスキームとなっています。固定価格買取制度(FIT制度)を通じて、2012年の導入以降、2021年度までの買取費用総額は約23.5兆円に達しています。この費用は最終的に電気料金に上乗せされ、国民が負担しています。

2021年度の賦課金総額は約2.7兆円で、標準家庭で年間約8,400円の負担となっています。さらに、再生可能エネルギー関連の補助金も多額に上ります。例えば、2021年度の経済産業省による「再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業」の予算は50億円でした。


これらの公的資金の大規模な投入にもかかわらず、日本の再生可能エネルギーの発電コストは国際的に見て依然として高い水準にあります。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の2020年のレポートによると、日本の太陽光発電のコストは他の先進国と比べて約2倍高いとされています。このような状況は、再生可能エネルギー政策が公金に依存し、市場原理による効率化が十分に機能していない可能性を示唆しています。

結論として、短中期的には再エネは実験程度にとどめ、化石燃料の効率的な利用を継続しつつ、長期的には小型モジュール炉や核融合などの新技術の開発・実用化を進めることが、日本のエネルギー安全保障と経済成長を両立させる現実的な方策と言えます。再エネへの依存は避け、バランスの取れたエネルギーミックスを目指すべきです。

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2024年7月30日火曜日

【中国のプーチン支援にNO!】NATOが懸念を明言した背景、中国の南シナ海での行動は米国全土と欧州大陸への確実な脅威―【私の論評】米国のリーダーシップとユーラシア同盟形成の脅威:カマラ・ハリスとトランプの影響

【中国のプーチン支援にNO!】NATOが懸念を明言した背景、中国の南シナ海での行動は米国全土と欧州大陸への確実な脅威

岡崎研究所

まとめ
  • NATOは中国をロシアのウクライナ侵攻の「decisive enabler」(決定的な支援者)として非難し、グローバルな脅威に対する認識を強めている。
  • 中国はロシアに半導体や戦闘機部品などを供給しており、ロシアが戦争を継続する上で決定的な役割を果たしている。
  • 米国とドイツは欧州に長距離火力を増強する計画を発表し、NATOの抑止力と対応能力の強化を目指している。
  •  中国の南シナ海における行動は、国際航行の自由を脅かすだけでなく、戦略原潜の配備を通じて米本土や欧州全域への攻撃能力を獲得する軍事戦略的意図がある。
  • NATOは中国の行動を欧州と太平洋の安全保障に対する「システミックな挑戦」と位置づけ、対応を強化しているが、世界が冷戦初期のような危険で不安定な状況に直面する中、米国のリーダーシップの在り方が問われている。

 ウォールストリート・ジャーナル紙の社説「NATO Wakes Up to the China Threat」は、NATOが中国をロシアのウクライナ侵攻の「decisive enabler」(決定的な支援者)として非難したことに焦点を当て、現代の脅威がグローバルに広がり、冷戦初期のような不安定な時代に突入していると警告している。

 NATOは、2024年7月にワシントンで開催された首脳会議において、ウクライナへの新たな長期支援を発表した。この会議での共同宣言では、中国がロシアの戦争継続を支える重要な役割を果たしていることが強調され、中国の「無制限のパートナーシップ」と「ロシアの防衛産業基盤への大規模な支援」が、ロシアのウクライナ戦争を決定的に支援していると述べられた。具体的には、中国はロシアに対して数百万ドル相当の半導体、戦闘機部品、ナビゲーション機器などを供給しており、これがロシアの軍事能力を維持する上で不可欠な要素となっている。

 さらに、米国とドイツは、欧州に長距離火力を増強する計画を発表し、NATOの迅速な対応能力を強化することを目指している。特に、米国は2026年から新たに開発中のトマホークミサイルや極超音速ミサイルを欧州に配備する予定であり、これによりNATOの抑止力が向上すると期待されている。この増強には防衛費の増額が必要であり、欧州諸国がその責任を果たすかどうかが重要な課題として浮上している。

 また、南シナ海での中国の行動も深刻な懸念材料だ。中国は南シナ海全域に歴史的権利を主張し、軍事施設を建設しているだけでなく、戦略原潜を配備することで米本土や欧州全域への攻撃能力を強化している。南シナ海は国際航行の自由にとって重要な海域であり、中国の行動はこの自由を脅かすものと見なされている。特に、中国の新型原潜は長射程のミサイルを搭載できる能力を持ち、これにより南シナ海が中国にとって戦略的に重要な地域となっている。

 NATOは、中国の行動を欧州と太平洋の安全保障に対する「システミックな挑戦」と位置づけ、これに対抗するための対応を強化している。しかし、世界が冷戦初期のような危険で不安定な状況に直面する中、米国がそれに対応できるリーダーシップを発揮できるかどうかという問題も依然として残っている。このように、NATOは中国のロシア支援を非難し、グローバルな脅威に対する強靭さを増しているが、依然として多くの課題が残されていることを強調している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。「まとめ」は元記事の要点をまとめ箇条書きにしたものです。

【私の論評】米国のリーダーシップとユーラシア同盟形成の脅威:カマラ・ハリスとトランプの影響

まとめ
  • 世界が不安定な状況に直面する中、米国のリーダーシップが重要であり、それはトランプかハリスのどちらが大統領になるかにかかっている。
  • カマラ・ハリスの外交経験不足や不明確な対中政策は、米国の国際的信頼性を損なう可能性がある。
  • トランプ氏の再選は中国に対する強硬姿勢を強化し、同盟国への支援を増やす一方で、国際的緊張を高めるリスクもある。
  • 中国とロシアの連携強化によるユーラシア同盟の形成は、新たな地政学的脅威となる可能性がある。
  • 中央アジア諸国を巡る米中ロの影響力争いが続く中、国際社会は多面的アプローチを取る必要がある。
上の記事にもあるように、世界が冷戦初期のような危険で不安定な状況に直面する中、米国がそれに対応できるリーダーシップを発揮できるかにかかっていますが、これは現時点では、トランプとカマラ・ハリスのいずれかが大統領になるかにかかっているといえます。無論、カマラ・ハリスは現時点では民主党公認の大統領候補ではありませんが、現時点ではそうなる可能性が最も高い人物です。


カマラ・ハリスの外交経験の欠如は、国際舞台での米国信頼性を損ない、特に中国やロシアとの交渉や対立において致命的な結果を招く可能性があります。彼女の対中国政策が不明確であるため、中国の影響力が増大し、米国の立場が弱まる恐れがあります。

また、ハリス氏のリベラルな立場は国内の政治的分断を深め、重要な外交政策の実行を困難にし、国際的な危機への迅速な対応を妨げる可能性があります。

さらに、ハリス氏の経済政策が国際関係に与える影響も懸念されます。特に、中国との貿易関係において強硬策を採る場合、経済的な対立が激化し、米国経済に悪影響を及ぼす可能性があります。軍事的対応においても、経験不足が障害となり、ロシアのウクライナ侵攻や中国の南シナ海における行動に対して迅速かつ効果的に対応できるかが疑問視されます。

これらの課題に適切に対処できなければ、米国の国際的な立ち位置が揺らぎ、同盟国との関係が悪化する可能性があります。結果として、米国のリーダーシップが低下し、グローバルな安全保障環境が不安定化するリスクが高まります。保守派の観点からは、これらの懸念が現実のものとなることは、国家の安全保障にとって深刻な脅威となるでしょう。

一方トランプ氏が大統領になった場合は、中国に対する強硬な姿勢が一層強化されると考えられ、特に南シナ海における中国の軍事的行動に対抗するための具体的な措置が講じられるでしょう。これにより、米国の同盟国にとっては、より強力な軍事的支援を受ける機会が増える一方で、地域の緊張が高まるリスクも伴います。

また、米国の経済的利益を守るために、中国との貿易関係において厳しい制裁が再導入される可能性があり、これが国際的な経済環境に影響を与えるでしょう。トランプ氏の「アメリカ第一」政策は、国際秩序の変化を促し、米国のリーダーシップを再確認させる一方で、国際的な対立を激化させる危険性も孕んでいます。

このような状況下で、トランプ政権がどのように国際的な課題に対処するかが、米国の国際的な立ち位置や安全保障環境に大きな影響を与えることになるでしょう。保守派にとっては、これらの政策が国益を守るために必要な手段と見なされる一方で、国際的な緊張を引き起こす要因ともなり得るため、注意深い対応が求められます。

ただ、国際情勢が不安定化する中で、米国の国益を守り、同盟国との関係を適切に管理し、中国やロシアといった競合国に対して強い姿勢で臨むためには、トランプ氏の再選がより望ましいといえます。トランプ氏の経験と実績は、複雑な国際情勢に対処する上で、ハリス氏よりも信頼できるといえます。

一方、中国とロシアの提携の強化は、さらなる危機を孕む可能性があります。それは、中露と中央アジア諸国をも含んだユーラシア同盟の結成です。

中央アジアの国々、特にカザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンは、その地政学的重要性から、米国、中国、ロシアの間で熾烈な影響力争いの舞台となっています。これらの国々は豊富な天然資源を有し、ユーラシア大陸の中心に位置することから、戦略的に非常に重要な地域です。

ユーラシア経済連合+中国が「ユーラシア同盟」になる可能性も・・・

ロシアは歴史的に中央アジアに強い影響力を持っており、旧ソ連時代からの政治的、経済的、文化的つながりを維持しています。集団安全保障条約機構(CSTO)を通じて軍事的な影響力も保持しています。

中国は「一帯一路」構想を通じて、中央アジアへの経済的進出を加速させています。インフラ投資や貿易拡大を通じて、これらの国々との経済的結びつきを強化しています。また、上海協力機構(SCO)を通じて政治的、安全保障面での協力も進めています。

一方、米国は「新シルクロード」構想を掲げ、中央アジアとの関係強化を図っています。テロ対策や民主化支援を通じて影響力の維持を試みていますが、地理的な距離もあり、中国やロシアほどの影響力は持ち得ていません。

このような状況下で、ユーラシア同盟の形成は現実的な可能性として浮上しています。中国とロシアの戦略的パートナーシップが深化し、経済的な相互依存が強まることで、中央アジア諸国もこの同盟に取り込まれる可能性があります。特に、エネルギー供給やインフラ投資における協力が進むことで、地域全体の軍事的な結束も強化されるでしょう。

しかし、ユーラシア同盟の形成には多くのリスクと課題も伴います。中央アジア諸国は、一方的な依存を避けるため、米中ロの間でバランスを取ろうとする傾向があります。また、これらの国々は自国の主権と独立性を重視しており、どの大国にも完全に取り込まれることを望んでいません。

このような状況に対して、国際社会は多面的なアプローチを取る必要があります。特に、既存の同盟関係を強化し、経済的相互依存を戦略的に活用することが求められます。また、中央アジア諸国への経済協力や外交的関与を強化することで、特定の大国の影響力が過度に強まることを防ぐ努力が必要です。

8月にカザフスタン訪問予定の岸田首相

日本においても、中央アジア諸国との関係強化が重要です。「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進する中で、中央アジアとの連携を深めることで、地域の安定と繁栄に貢献することができるでしょう。同時に、米国や欧州諸国と協調しながら、中央アジアにおける民主化や経済発展を支援することも重要です。

結論として、中央アジアを巡る米中ロの影響力争いは、今後も続くと予想されます。この地域の安定と繁栄のためには、大国間のバランスを保ちつつ、中央アジア諸国の自立性を尊重する国際的な取り組みが不可欠です。

世界の危機は、中国の海洋進出だけではありません。中露の接近により、新たな脅威が生まれる可能性もあるのです。

次の総理大臣は、こうした事態にも対応できる人物になっていただきたいものです。

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2024年7月29日月曜日

在日米軍の機能強化、「統合軍司令部」創設で自衛隊との連携円滑に―【私の論評】日米安全保障体制の進化とその影響:地域の安定と防衛力強化の新たな展望

在日米軍の機能強化、「統合軍司令部」創設で自衛隊との連携円滑に

まとめ
  • 米国は在日米軍の再構成と統合軍司令部の創設を提案し、日本の「統合作戦司令部」との連携強化を目指している。
  • 現在の在日米軍司令部の権限は限られており、新たな統合軍司令部の設置により、自衛隊との連携の円滑化が期待されている。
  • 憲法上の制約により、日米の部隊運用は「統合」ではなく「共同」にとどまり、今後の具体的な運用方法の協議が重要となる。
日米の安全保障協議委員会(2プラス2)

 日米の安全保障協議委員会(2プラス2)で、米国は在日米軍の再構成と統合軍司令部の創設を提案した。これは、日本が令和6年末に設置予定の「統合作戦司令部」との連携を強化し、部隊運用の円滑化を目指すもの。

 日本は自衛隊の統合作戦司令部を設立し、米軍との連携を強化することで、反撃能力の整備を進める計画。しかし、現在の在日米軍司令部は基地管理に限られ、部隊指揮は米ハワイのインド太平洋軍司令部が担当している。これにより、時差や距離の問題が生じ、円滑な意思決定が難しいと指摘されている。

 米軍は新たに在日米軍の指揮権限を持つ統合軍司令部を設け、自衛隊との連携を強化したいと考えている。ただし、自衛隊は憲法上の制約から、韓国軍と在韓米軍のように連合司令部を設けることは難しいため、日米の部隊運用は「統合」ではなく「共同」にとどまる。

 今後、日米は作業部会を設置し、具体的な運用方法を協議する予定。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。「まとめ」は元記事の要点をまとめ箇条書きにしたものです。

【私の論評】日米安全保障体制の進化とその影響:地域の安定と防衛力強化の新たな展望

まとめ
  • 日米安全保障体制は1951年に始まり、1960年の改定を経て発展し、現在は地域の安定と繁栄に寄与する包括的なパートナーシップとなっている。
  • この体制は日本の防衛、地域の平和維持、国際的な安全保障課題への対応など、多面的な役割を果たしている。
  • 近年の安全保障環境の変化に対応し、日米防衛協力の範囲が拡大され、日本の安全保障政策も大きく変化している。
  • 2022年の新戦略文書では日本の防衛力強化方針が示され、日米同盟のさらなる深化が図られている。
  • 基地問題や憲法解釈の変更など課題も存在するが、サイバーセキュリティや宇宙空間利用など新たな分野での協力も進んでいる。


日米安全保障体制は、第二次世界大戦後の日本の安全保障政策の根幹をなす重要な枠組みとして発展してきました。この体制の起源は1951年に締結された旧日米安保条約にさかのぼり、1960年の改定を経て現在の形に至っています。

当初は冷戦下での共産主義の脅威に対抗するために設立されましたが、時代とともにその役割は大きく進化し、現在では地域の安定と繁栄に寄与する包括的なパートナーシップへと発展しています。

この体制の重要性は、単なる軍事同盟を超えた多面的な側面を持っています。まず、日本に対する武力攻撃に対して日米が共同で対処することを規定しており、これが潜在的な脅威に対する強力な抑止力となっています。

さらに、インド太平洋地域全体の平和と安定に寄与し、地域秩序の維持に重要な役割を果たしています。また、日米両軍の協力体制が強化されることで、様々な事態に対する共同対処能力が向上し、両国が国際的な安全保障課題に協力して取り組むための基盤ともなっています。

近年の安全保障環境の変化、特に中国の台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発などを背景に、日米安保体制の重要性はさらに高まっています。2015年には新たな日米防衛協力のための指針(ガイドライン)が策定され、両国の防衛協力の範囲が平時から緊急事態まで、さらには地球規模の課題にまで拡大されました。このガイドラインの改定は、変化する安全保障環境に対応するための重要なステップでした。

日本の安全保障政策も大きく変化しています。2015年の平和安全法制の整備により、日本の自衛隊と米軍の協力がより緊密になり、同盟の実効性が高まりました。この法整備により、日本は集団的自衛権の限定的な行使が可能となり、米国との協力の幅が広がりました。また、2018年には新たな「防衛計画の大綱」が策定され、多次元統合防衛力の構築が目指されることとなりました。

2015年の平和安全法制の整備に関連して伝えるテレビ報道

さらに、2022年12月に策定された新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画では、日本の防衛力を大幅に強化する方針が示されました。特に、反撃能力の保有や防衛費の増額など、従来の専守防衛の概念を超えた新たな方向性が打ち出されています。これらの変化は、日米同盟の強化と密接に関連しており、両国の防衛協力をさらに深化させる基盤となっています。

一方で、日米安保体制には課題も存在します。在日米軍基地問題、特に沖縄県における基地負担の軽減は長年の課題であり、地元住民との調和を図りつつ同盟の実効性を維持することが求められています。また、日本の防衛費増額に対する国内外の反応や、憲法解釈の変更に伴う国内の政治的議論など、同盟の管理には継続的な努力が必要です。

国際情勢の変化も日米同盟に影響を与えています。米中関係の緊張や、台湾をめぐる情勢の不安定化など、インド太平洋地域の安全保障環境は複雑化しています。このような状況下で、日米同盟はより重要性を増しており、両国の協力関係をさらに深化させていくことが求められています。


また、サイバーセキュリティや宇宙空間の利用、経済安全保障など、新たな分野での協力も重要性を増しています。2023年1月の日米安全保障協議委員会(2+2)では、これらの分野での協力強化が確認されました。

結論として、日米安全保障体制は、日本の安全保障政策の要であり続けており、変化する国際環境に対応しつつ、両国の協力関係をさらに深化させていくことが重要です。この体制は、単なる軍事同盟を超えて、地域の平和と繁栄を支える重要な柱として機能し続けています。

今後も、日米両国は同盟関係を基盤としつつ、新たな課題に対応し、インド太平洋地域ひいては世界の安定と繁栄に貢献していくことが期待されています。

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2024年7月28日日曜日

自民総裁選、高市早苗氏〝出馬封じ〟報道 選管委メンバー選び、候補の推薦人になれない…「岸田派ゼロ」の異様 無派閥から最多5人―【私の論評】高市早苗氏に対する「高市潰し」疑惑:政治的影響力の増大と次期総裁候補としての台頭

自民総裁選、高市早苗氏〝出馬封じ〟報道 選管委メンバー選び、候補の推薦人になれない…「岸田派ゼロ」の異様 無派閥から最多5人

まとめ
  • 自民党が総裁選の選挙管理委員会を発足させ、岸田首相が11人のメンバーを指定した。
  • 選管委メンバーの人選について、高市早苗氏の「出馬封じ」との報道が出た。
  • 選管委メンバーは無派閥から5人、安倍派から3人、他派閥から各1人選出され、岸田派は起用されなかった。
  • 選管委メンバーには高市氏の前回推薦人2名が含まれており、高市氏側から「出馬封じ」との反発がある。
  • この人選は岸田首相の再選への執念と、高市氏への「潰し」の疑惑を招いているとの見方がある。

岸田首相

 自民党は岸田文雄首相の党総裁任期満了に伴う総裁選の選挙管理委員会を事実上発足させました。委員会のメンバー11人は岸田首相が指定し、総務会で報告された。

 この人選については、無派閥から最多の5人を選出し、岸田派からの起用は見送られたことが注目されている。また、前回の総裁選で高市早苗氏の推薦人だった議員2名が選ばれており、これにより高市氏に近い議員からは「出馬封じ」との反発が出ている。

 党幹部はこの人選が意図的なものではないと否定しているが、岸田首相の再選への執念や内閣支持率の低迷、党内からの退陣圧力の高まりを背景に、「高市潰し」の疑惑が持たれている。この状況は、岸田自民党から離れた「岩盤保守層」のさらなる怒りを招く可能性がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】高市早苗氏に対する「高市潰し」疑惑:政治的影響力の増大と次期総裁候補としての台頭

まとめ
  • 高市早苗氏に対する「高市潰し」の疑惑が複数存在し、これらは高市氏の政治的影響力の増大を示唆している。
  • 総務省の内部文書問題や朝日新聞の報道など、高市氏に関する批判的な報道が増加している。
  • 高市氏は2023年11月に勉強会を立ち上げ、著書の出版や全国での講演会を計画するなど、総裁選に向けて精力的に活動している。
  • 高市氏は複数の総裁候補ランキングで上位に位置しており、有力候補として認識されている。
  • 「高市潰し」と見られる動きの増加は、逆説的に高市氏が次期総裁の最有力候補の一人として浮上していることを示している。
高市早苗氏に対する「高市潰し」の疑惑について、上の記事の内容以外に、いくつかの具体的な事例があります。

まず、総務省の内部文書問題は、2023年3月に大きく取り上げられました。この問題は、放送法の解釈に関する行政文書が公開されたことに端を発しています。文書は、2015年に高市早苗氏が総務大臣を務めていた際のもので、立憲民主党の小西洋之参院議員が公開(写真下)しました。


これに関しては、高橋洋一氏などがこの文書が捏造であることを証明しています。高橋氏は、文書が行政文書であることは確認できるが、その内容が正しいかどうかは別問題であり、文書には多くの不備があると指摘しています。私自身も、この文章の内容の不備を確認しました。

具体的には、文書の配布先に大臣側が含まれていないため、大臣側がチェックできない形で文書が作成されており、その正確性が担保されていないと述べています。また、文書には日時不明の電話会談の記述があり、これも信憑性に欠けるとしています。

次に、朝日新聞の記者による「高市早苗潰し」を目的とした記事についてです。具体的には、2023年5月20日付の朝日新聞の記事「高市氏、総裁選出馬の意向 地方議員に伝達」があります。この報道では、高市氏が5月19日に国会内で開かれた日本会議地方議員連盟の会合で、次期総裁選への出馬意向を伝えたとされています。

しかし、高市氏はこれを否定し、自身のTwitter(現X)アカウントで「私が総裁選出馬の決意を伝えた??…という旨の変な記事のために、時間を使うのは無駄ですね」と投稿し、記事の内容を否定しました。また、「『高市早苗潰し』が目的と思われる記事で、朝から他社の記者さんから電話やメールが殺到して、仕事になりませんでした」と批判しています。

さらに、奈良県知事選挙の敗北についても触れます。この選挙では、自民党が分裂し、日本維新の会の候補が当選しました。高市氏は県連会長として推薦候補の擁立を主導しましたが、選挙期間中に高熱が続き、十分な応援ができなかったことが敗北の一因とされています。


高市氏は「国会答弁に追われた上、高熱が続き、張り付きで応援することができませんでした」とコメントしています。党内の調整不足が敗因であると指摘されていますが、これは高市氏の調整不足が主な原因ではなく、党内の複雑な力関係や他の要因が絡んでいます。具体的には、現職の荒井知事への支持が分かれたことや、維新の候補が強力な支持を得たことが影響しています。

これらの事例は、高市氏に対する政治的な攻撃や批判が続いていることを示しており、「高市潰し」として見られることがあります。以上に加えて、さらに上の記事にも指摘されているように、総裁選の選管委メンバーに前回の総裁選で高市早苗氏の推薦人だった議員2名が選ばれているという疑惑です。

高市早苗氏の総裁選への動きが活発化している中で、「高市潰し」と見られる報道や動きが増えていることは、逆説的に高市氏が有力候補として台頭していることを示唆しています。2021年の前回総裁選で善戦した高市氏は、その後も着実に準備を進めており、2023年11月に「『日本のチカラ』研究会」を立ち上げ、2024年7月8日には経済安全保障に関する著書の出版を予定しています。さらに、7月から8月にかけて東京都、宮城県、沖縄県、兵庫県で講演会を計画するなど、精力的に活動しています。

高市氏に対する「高市潰し」と見られる報道や批判が増えていることは、彼女の政治的影響力が増大していることの裏返しと言えるでしょう。特に、朝日新聞の報道に対する高市氏の反発や、総務省の内部文書問題をめぐる議論は、高市氏の存在感が無視できないものになっていることを示しています。

従来の総裁選候補としての高市氏は泡沫候補扱いだったが最近では上位に・・・

また、高市氏は現在、複数の総裁候補ランキングで上位に位置しており、これも彼女が有力候補として認識されていることを裏付けています。現職閣僚としての立場から直接的な発言を控えているものの、党内外での支持基盤を着実に固めつつあると見られています。

高市氏の総裁選出馬に必要な推薦人20人の確保については、一部で不透明さが指摘されていますが、これも逆に高市氏への警戒感の表れと解釈できます。保守層からの強い支持を背景に、高市氏の総裁選出馬の可能性は依然として高く、むしろ「高市潰し」と見られる動きが増えていることこそが、高市氏が次期総裁の最有力候補の一人として浮上していることを示す証左と言えるでしょう。

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2024年7月27日土曜日

“トランプ氏のウクライナ平和計画”ポンぺオ元国務長官ら寄稿 「ロシアは勝てない」―【私の論評】トランプ氏の新ウクライナ政策:支援強化と柔軟な外交戦略の可能性

“トランプ氏のウクライナ平和計画”ポンぺオ元国務長官ら寄稿 「ロシアは勝てない」

まとめ
  • ポンペオ元国務長官らが、トランプ氏の対ウクライナ政策について、ウクライナ支援強化とロシアへの強硬姿勢を示すコラムを寄稿した。
  • 提案には、5000億ドルの武器貸与計画、武器供給の制限解除、ウクライナのNATO加盟推進などが含まれる。
  • このコラムは、トランプ氏がプーチン大統領に有利な候補者だという見方に反論する内容となっている。

ポンペオ前国務長官

 ポンペオ元国務長官とトランプ陣営のアーバン氏が、トランプ氏の対ウクライナ政策についてウォールストリートジャーナルに寄稿しました。彼らは、トランプ氏が再選された場合、ウクライナ支援を強化し、ロシアに戦争での勝利を諦めさせる方針を示しています。

 具体的には、対ロシア制裁の強化、5000億ドルの武器貸与計画の策定、ウクライナへの武器供給の制限解除を提案しています。さらに、ウクライナのNATO加盟の迅速化と経済発展支援も主張しています。

 この寄稿は、トランプ氏がプーチン大統領に有利な候補者だという見方に対する反論となっています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。【まとめ】は、元記事の要点をまとめ箇条書きにしたものです。

【私の論評】トランプ氏の新ウクライナ政策:支援強化と柔軟な外交戦略の可能性

まとめ
  • ポンペオ元国務長官らは、トランプ氏の再選時のウクライナ政策として、支援強化と対ロシア制裁強化、5000億ドルの武器貸与計画、ウクライナのNATO加盟推進を提案している。
  • トランプ支持のシンクタンクAFPIは、ウクライナへの軍事支援を和平交渉参加の条件とし、外交的解決を推進する姿勢を示している。
  • トランプ氏は「ウクライナの存続は重要」と述べ、支援に前向きな姿勢を示しつつ、欧州諸国の負担増を主張している。
  • トランプ氏は「24時間で戦争を終結させる」と主張し、迅速な和平交渉の意向を示している。
  • トランプ氏は支援方法を融資形式に変更する可能性や、直接交渉による迅速な解決を提案するなど、柔軟な対応を示唆している。


上の記事にもあるように、ポンペオ元国務長官とトランプ陣営のデビッド・アーバン氏は、2024年7月25日付けのウォールストリートジャーナルに「トランプ氏のウクライナ平和計画」("Trump's Ukraine Peace Plan")と題したコラムを寄稿しました。このコラムでは、トランプ氏が再選された場合の対ウクライナ政策について詳述されています。

まず、彼らはウクライナへの支援を強化し、ロシアのプーチン大統領に戦争での勝利を諦めさせる方針を示しています。具体的には、対ロシア制裁を強化し、ウクライナがアメリカ国民の税金を使わずにアメリカから必要なだけ武器を購入できるよう、5000億ドルの武器貸与計画を提案しています。また、ウクライナに供給する武器の種類や使用法の制限を解除し、ロシアに「決して勝てない」という明確なメッセージを送るとしています。

さらに、ウクライナのNATO加盟を迅速に実現し、経済発展を支援するべきだと主張しています。これにより、ウクライナの防衛力と経済基盤を強化し、ロシアの侵略に対抗する力を持たせることを目指しています。

デイビッド・アーバン氏

トランプ前大統領を全面的に支援するシンクタンク「米国第一政策研究所」(America First Policy Institute, AFPI)は、トランプ氏の再選戦略を見据えて設立され、トランプ政権当時の閣僚や政府高官を含む多くの有力スタッフが名を連ねています。AFPIは、米国の外交政策において中国を最優先事項とすべきだと主張し、ウクライナ問題をそれに次ぐ位置づけとしています。

AFPIが発表した「An America First Approach to U.S. National Security」という本では、ウクライナへの今後の軍事支援をロシアとの和平交渉への参加を条件とすることを提案しています。この提案によれば、ウクライナが和平交渉に参加する一方で、ロシアが交渉を拒否した場合はウクライナへの支援を拡大するとしています。AFPIは、ウクライナが外交を通じて領土を回復するという目標を支持していますが、同時に戦闘の停止を提唱しています。さらに、和平合意後もロシアに対する抑止力としてウクライナに武器を供給することを示唆しています。

これらの提案は、トランプ氏の潜在的な第二期政権におけるウクライナ政策の青写真を示唆するものと考えられます。しかし、AFPIは公式にトランプ陣営の代弁者ではないと述べています。このアプローチは、ウクライナへの支援を継続しつつも、外交的解決を強く推進する姿勢を示しているといえるでしょう。

AFPIのロゴ

ドナルド・トランプ前大統領は、2024年4月18日にSNSで「我々にとってウクライナの存続は重要だ」と述べました。この発言は、これまでロシアの侵略を受けるウクライナへの支援に消極的だったトランプ氏が、11月の大統領選を見据えて姿勢を修正し始めたと受け止められています。また、トランプ氏は「ウクライナの存続は、米国よりも欧州にとってはるかに重要だ」とも指摘し、欧州諸国がより多くの負担をするべきだとの持論を崩していません。

さらに、トランプ氏は2023年5月に「第3次世界大戦の危機を電話1本で終わらせる」と発言しています。これは、トランプ氏が米大統領に復帰したらウクライナ戦争を「24時間で終わらせる」と述べたもので、ロシアとの和平交渉を迅速に進める意向を示しています。

これらの発言は、トランプ氏が再選された場合、ウクライナ支援を打ち切ることはありえないことを示唆しています。むしろ、ロシアが譲歩しない場合、トランプ政権がさらに強硬な手段を取る可能性が高いことを示しています。

というよりは、より柔軟な対応をする可能性が高いです。2024年4月12日、フロリダ州の邸宅「マール・ア・ラーゴ」での記者会見で、トランプ氏は「我々は資金供与でなく融資の形にするよう考えている」と述べました。これは、ウクライナ支援の方法を変更する可能性を示唆しています。

トランプ氏は過去に、自身がゼレンスキー大統領とプーチン大統領と会談すれば、戦争を24時間以内に終結させられると何度か主張しています。2024年7月19日、トランプ氏はゼレンスキー大統領と電話会談を行いました。ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、この会談を「非常に効果的だった」と評価し、「トランプ氏のチームがウクライナが必要とするものやロシアのリスクなどを理解すると信じる根拠を与えてくれた」と述べています。

これらの発言から、トランプ氏のウクライナに対する姿勢は、支援の継続を前提としつつも、その方法や交渉アプローチについて独自の見解を持っていることがわかります。支援を完全に打ち切るのではなく、融資形式への変更や直接的な交渉による迅速な解決を提案しています。

紋切り型の「ウクライナ支援即打ち切り」などの対応をしないことは明らかです。それよりも、プーチンの出方により、柔軟に対応することでしょう。かなり厳しくなる可能性もあります。


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