検索キーワード「トランプ ウクライナ 原潜」に一致する投稿を関連性の高い順に表示しています。 日付順 すべての投稿を表示
検索キーワード「トランプ ウクライナ 原潜」に一致する投稿を関連性の高い順に表示しています。 日付順 すべての投稿を表示

2016年12月19日月曜日

中国「海賊行為」で米中衝突危機 専門家「『なめられたことをやられては困る』と軍事衝突もあり得る」―【私の論評】衝突すれば日本にも大きな火の粉がふりかかる(゚д゚)!

中国「海賊行為」で米中衝突危機 専門家「『なめられたことをやられては困る』と軍事衝突もあり得る」

中国軍艦が奪った無人水中探査機の同型機(米国防総省提供・共同)
 ドナルド・トランプ次期米大統領への報復か-。中国海軍が15日にフィリピンの公海上で、米海軍の無人水中探査機1機を強奪した。米政府は国際法違反として返還を求めているが、中国は無視している。中国の「海賊行為」が対中攻勢を強めるトランプ氏を刺激することは間違いなく、米中の緊張関係が高まり、専門家は「軍事衝突もあり得る」と警戒している。

 事件はフィリピン北部ルソン島にあるスービック湾の北西約90キロの海域で発生した。米海軍の測量艦が2機の水中探査機を回収しようとしていたところ、中国海軍の潜水救難艦が約450メートルのところまで近づき、小型ボートを出して1機を奪った。測量艦は無線で返還を求めたが、潜水救難艦は要求を無視し、現場から離れた。

 米国防総省のジェフ・デービス報道官は中国の行動を「国際法違反だ」と批判した。報道官によると、水中探査機は海水温度や塩分濃度などを収拾していたという。

 米メディアでは、中国の狙いはトランプ氏に対するメッセージと報じられている。

 FOXニュースは「中国が南シナ海で米軍のドローンを米国人の目の前で盗んだ」という見出しで、今月2日に台湾の蔡英文総統と電話協議をしたトランプ氏に対する不満が、中国の行動の背景にあるとした。

 トランプ政権の発足を来年1月に控え、共和党からは現オバマ政権批判も上がっている。米上院軍事委員会委員長のジョン・マケイン上院議員(共和党)はワシントン・ポストの取材に対し、「こうした行動は米国が強烈で断固とした対応をしない限り続くだろう。これはオバマ政権ではできなかったことだ」と述べた。

ジョン・マケイン上院議員
 台湾の蔡総統との電話会談に加え、中国を台湾の一部とする「一つの中国」原則に疑義を呈したトランプ氏に対し、中国は反発。米シンクタンクは13日付の報告書で、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島の人工島にミサイルや航空機を迎撃する「近接防空システム」を配備したとみられると指摘している。

 米中関係を危機に陥れるような行動に出た中国の狙いは何なのか。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「軍の一部がやったのか、国家の意思としてやったのかは分からないが、完全な違法行為だ」と指摘。中国が国家として行っていた場合、「米国がどこまで耐えられるか一歩一歩試しているのだろう。オバマ政権のうちに、できるだけ既成事実を作っておこうということではないか」と話す。

 トランプ次期政権の対応について、藤井氏は「トランプ政権は中国に対する警戒感が非常に高まる中でスタートすることになる。アメリカとしても『なめられたことをやられては困る』ということになるから、南シナ海で軍事衝突のようなことが起きるかもしれない」と解説した。

 まさに一触即発の事態だ。

【私の論評】衝突すれば日本にも大きな火の粉がふりかかる(゚д゚)!

中国が、米国の無人水中探査機1機を強奪したことは、一昨日のこのブログにも掲載しました。その記事のリンクを掲載します。
【緊迫・南シナ海】中国海軍艦船が米海軍の無人潜水機奪う 米政府は「国際法違反」と非難―【私の論評】南シナ海を中国戦略原潜の聖域にする試みは最初から頓挫か?
イージス艦、潜水艦、空中ドローン、シーグライダーの連携作戦の模式図
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、無人水中探査機がどのような機能を持ったものなのかを説明するとともに、中国がこの無人水中探査機を強奪した理由に関しても掲載しました。この理由に関しては、私の憶測にすぎないのですが、それを以下に再掲載します。
このシーグライダー(無人水中探査機)は、当然中国の戦略原潜の動向もキャッチできるものと思われます。今回中国に強奪されたものはどのようなものかはわかりませんが、中国としては、このシーグライダーにかなりの脅威を感じているようではあります。

中国がせっかく、長年努力を傾注して、南シナ海を中国原潜の聖域にしようとしても、米国側に南シナ海にシーグライダーを多数設置し、中国原潜の動向を探っていたとしたら、そもそも聖域になりません。

米軍が、このシーグライダーを南シナ海の各所に多数配置して、有人潜水艦や、無人潜水艦、空中ドローン、イージス艦など多数配置して、これらを連動させるようにすれば、中国戦略原潜が不穏な動きをみせれば、すぐに撃沈できるようになります。

実際、今回中国側に捕獲されたシーグライダーがどの程度の能力のものかはわかりませんが、シーグライダーを戦術的に活用しようとするなら、今はそこまではいっていなくても、将来はそのようにするのは当然のことです。

そうして、中国では未だシーグライダーの技術は進んでいないと思われます。今回の強奪は、米軍のシーグライダーがどの程度の能力を持っているか確かめるためと、中国もシーグライダーを開発するため、技術を盗むという目的もあるものと思います。

もし、今回強奪さた米軍のシーグライダーの技術水準が高ければ、すでに中国による、南シナ海の原潜の聖域化は頓挫してしまっているかもしれません。
さて、中国がなぜこのような強奪をしたかについてブログ冒頭の記事の、「今月2日に台湾の蔡英文総統と電話協議をしたトランプ氏に対する不満が、中国の行動の背景にある」としていますが、私はそれだけではないと思います。

やはり、南シナ海を中国戦略原潜の聖域にするという試みが頓挫しそうなので、かなりの脅威をいだき、何が何でも南シナ海を聖域にするという決意を示したものと思います。そうして、この無人水中探査機の性能を調べることと、その技術をコピーすることも理由だったと思います。

このような、無人水中探査機は、ほとんど音を出さないので、中国海軍には探知不可能なのだと思います。ほとんど無音に近く中国海軍が全く探知できない潜水艦を開発する日本がこれを開発した場合、ほとんど無音で、中国側は全く探知できず、自由自在に南シナ海の海域の中国軍の動きを丸裸にできるようになります。米国ももちろん、これを開発し、将来は軍事用に多数の無人水中探査機を世界中の海に放つつもりでしょう。

米国と中国の間には戦争勃発の可能性があり、起きた場合、その展開は日本の動向に大きく左右される。米国の大手安全保障研究機関、ランド研究所がこんな衝撃的な予測を今年の夏に打ち出していました。その要旨を以下に掲載します。

ランド研究所
同研究所は、米陸軍当局からの委託で米中戦争に関する調査や研究を進め、その結果を今年7月末、約120ページの「中国との戦争」という報告書にまとめた。予測期間は2025年までとされています。 

同報告書は、米中戦争が勃発するきっかけとして以下のような事態を想定していた。
・東シナ海の尖閣諸島などをめぐる日中両国の軍事摩擦
・南シナ海での中国のフィリピンやベトナムへの軍事威圧
・北朝鮮の政権崩壊に伴う米中双方の朝鮮半島への軍事介入
・中国の台湾に対する軍事的な攻撃あるいは威嚇
・排他的経済水域(EEZ)や、その上空での艦艇、航空機の事故
以上のような小規模な軍事的摩擦や衝突が米中両国の戦争へとエスカレートしうるとしています。さらに同報告書は、米中戦争の規模などは以下のようになるだろうと予測していました。
・米中戦争は非核の通常戦力による戦闘となる。
・戦闘では主に水上艦艇、潜水艦、航空機、ミサイルが用いられる。宇宙とサイバー空間も戦いの場となる。
・戦闘は東アジアで始まり東アジアで続くが、西太平洋の広大な地域も戦場となる。
・通常兵器での戦闘が激しくなっても、核兵器は使われないだろう。
・中国は米国本土への攻撃は行わないだろう。
・米国は逆に中国本土へ激しい攻撃を加えるだろう。
・地上戦闘はほとんど起きない。
同報告書は以上のように米中戦争の特徴を予測し、さらにその戦闘の形態について、(1)短期で激烈、(2)長期で激烈、(3)短期で軽微、(4)長期で軽微――の4つのパターンを挙げていました。

その上で、それぞれのパターンついて、経済や政治など非軍事面での両国の損失を推定し、戦争の帰趨までを予測していました。 

その予測によると、数日から数週間の「短期」の場合、そして今から近い将来に戦争が起きた場合には、米国が圧倒的に有利だとしています。

一方、2025年に近い時期に米中戦争が起きた場合は、中国軍が「A2/AD」(接近阻止・領域否定)戦略の戦闘能力を着実に強化しているので、勝敗の決まらない膠着状態となる可能性が高いとしていました。 

同報告書で特に注目されるのは、米中戦争の勃発と展開に日本が非常に重要な役割を果たすと強調している点です。具体的には、日本は次のような形で関与する可能性があるとしています。
・中国は尖閣諸島周辺における日本との対立で、米国の日米安保条約の誓約を過少評価し、尖閣で日中間の戦闘が起きても米軍は介入しないとみて軍事行動に出る可能性がある。

・中国は米国との戦争になれば、日本の米軍基地や自衛隊基地を攻撃する確率が高い。その場合、日本はほぼ自動的に米国と共に戦うことなる。

・北朝鮮が中国の「同盟国」として米軍や在日米軍基地にミサイル攻撃を加える可能性がある。その場合も、日本は米国の味方としての立場を明確にするだろう。
このように同報告書は、米中戦争では日本が最初から米国の同盟国として戦う見通しが強いことを強調しています。日本が集団的自衛権の一部行使を容認したことで、その展望はさらに現実的なものとなったとしています。

同報告書は、米中戦争の勝敗の帰趨についても日本の動向が決定的な要因になり得るとして、以下のような点を強調していました。
・米中戦争において、米国の同盟国、友好国の動きはきわめて重要である。中でも日本の役割は決定的となる。 
特に2025年近くの米中戦争では、日本の潜水艦、水上艦艇、戦闘機、ミサイル、情報・監視・偵察(ISR)などの能力は米側にとって不可欠な基本戦力となる。

・米中戦争が長引けば長引くほど、日本の軍事的な対米協力の効果が大きくなる。日本の支援のおかげで、米軍は他の地域の米軍部隊を中国との戦争に転用する必要が減るだろう。中国軍にとって、日米連合の部隊と戦うことは困難になる。

・中国軍は2025年頃までには、年来の対米軍戦略の基本である「A2/AD」戦略の能力を大幅に高め、対米戦を勝敗のつかない長期戦に持ち込むことができるようになる。しかし、日本が米軍を全面支援することで均衡は変えられ、米軍は有利になる。 
以上の日本に関する数々の指摘の中で、「米中戦争が、尖閣諸島をめぐる日中の対立から勃発し得る」という点は、現在の日本にとってきわめて深刻な意味を持つと言えます。

同時に、米中関係が表面的に経済交流などで協調的、友好的にみえても、水面下では最悪の状態にあり、米中戦争の発生も想定しているという米国の現実的な姿勢も、日本はしっかり認識しておくべきです。

さて、上の予測では、米国の大手安全保障研究機関、ランド研究所の分析であるため、軍事に関する分析が中心となっていますが、アメリカにはもう一つ大きな安全保障策があります。

それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
超大国といわれるアメリカの一番の強さは、軍事力でもなく、イノベーション力でもありません。それは、米国による世界の金融支配にあります。現在の世界の金融体制は、ブレトン・ウッズ体制に端を発しています。これは、第二次世界大戦末期の1944年にアメリカのブレトン・ウッズで連合国通貨金融会議が開かれ、国際通貨基金(IMF)や国際復興開発銀行(IBRD)の設立が決定されたものです。 
当時、世界の金の80%近くがアメリカに集中しており、アメリカは膨大な金保有国でした。その金と交換できるドルを基軸通貨とし、他国の通貨価値をドルと連動させるという仕組みで、金・ドル本位制ともいわれます。
世界各国、特に先進国の中で、食料や資源を100%自給できている国は少ないです。中国の食料自給率は85%以下といわれており、アメリカから穀物を買えない事態になれば、13億の人民は飢餓に苦しむことになります。

これに関しては、一昔前にある中国の高官が穀物の需要が増えたり、減ったりする中国の状況を「中国人の胃はゴムボールのようである」と語っていたことがあります。要するに、穀物需要がかなり減ったり、増えたりしても、中国は何とかなることを強調したかったのでしょう。

現実には、そんな馬鹿な話があるはずもなく、貧困層は穀物が手に入らず飢え死にしていたというのが実情でしょう。しかし、それは今から数十年も前のことで、今ではそのようなことはあり得ないでしょう。現状では、中国の貧困層でも何とか食欲を満たす穀物は手に入れられる状態になっていることでしょう。

実際最近では中国が突如、近年世界の穀物輸入国上位に躍り出てきました。2013年~14年期、中国の穀物輸入量は2,200万トンという膨大な量になりました。2006年の時点では、ま中国では穀物が余り、1,000万トンが輸出されていたというのに、何がこの激変をもたらしたのでしょうか?

2006年以来、中国の穀物消費量は年間1,700万トンの勢いで増大し続けている年間1,700万トンというと、大局的に見れば、オーストラリアの小麦年間収穫量2,400万トンに匹敵します。
人口増加は鈍化しているにもかかわらず、穀物の消費量がこれほど増加しているのは、主に、膨大な数の中国人の食生活レベルが向上し、より多くの穀物が飼料として必要な肉や牛乳、卵を消費しているからです。

2013年、世界全体で推定1億700万トンの豚肉が消費されました。そのうちの半分を消費したのが中国でした。人口14億人の中国は現在、米国全体で消費される豚肉の6倍を消費しています。 
とはいえ、中国で近年、豚肉消費量が急増しているものの、中国人一人当たりの食肉全体の消費量は年間合計54キロ程度で、米国の約107キロの半分にすぎません。しかしながら、中国人も世界中の多くの人々と同じように、米国人のようなライフスタイルに憧れています。

中国人が米国人と同量の肉を消費するには、食肉の供給量を年間約8,000万トンから1億6,000万トンへとほぼ倍増させる必要があります。1キロの豚肉を作るにはその3倍から4倍の穀物が必要なので、豚肉をさらに8,000万トン供給するとなると、少なくとも2億4,000万トンの飼料用穀物が必要になります。 
それだけの穀物がどこから来るのでしょうか。中国では、帯水層が枯渇するにつれて、農業用の灌漑用水が失われつつあります。たとえば、中国の小麦生産量の半分とトウモロコシ生産量の1/3を産出する華北平原では、地下水の水位が急激に低下しており、年間約3メートル低下する地域もあるほどです。 
その一方で水は農業以外の目的に利用されるようになり、農耕地は減少して住宅用地や工業用地に姿を変えています。穀物生産高はすでに世界有数レベルに達しており、中国が国内生産高をこれ以上増やす潜在能力は限られています。
2013年に中国のコングロマリットが世界最大の養豚・豚肉加工企業、米国のスミスフィールド・フーズ社を買収したのは、まさに豚肉を確保する手段の一つでした。 
また、中国政府がトウモロコシと引き換えに30億ドル(約3,090億円)の融資契約をウクライナ政府と結んだのも、ウクライナ企業と土地利用の交渉を行ったのも、その一環です。こうした中国の動きは、私たち人類すべてに影響を与える食糧不足がもたらした新たな地政学を実証したものです。 
このようなときに、米国に金融制裁を実施されたら、食料事情は逼迫するでしょうし、食料以外にも様々な物資の供給に支障をきたすことになります。
このように米国による対中国金融制裁が発動された場合、中国はとんでもないことになります。もともと、中国が経済発展できたのは、米ドルを多く蓄えていたからです。それが、信用を創造し、さらに外貨を獲得して、インフラ投資をすることによって発展できたのです。

しかし、金融制裁などされれば、中国の国家戦略は根底から覆されることになります。軍事的にも、経済的にも中国にはほとんど勝ち目はありません。

このようなことを掲載すると、あたかも私は、米中軍事衝突はないと考えていると思われるかもしれません。しかし、そうではありません。

考えてみてください、中国の現体制は、統治の正当性がかなり低いです。日本には、天皇陛下という国民統合の象徴が存在します。米国では、民主的な手続き経て選ばれた大統領が統治します。しかし、中国ではそのようなものは存在しません。

中国では、建国以来毎年平均2万件もの暴動が発生していました。そうして、2010年あたりからは、毎年平均10万件ほどの暴動が発生しているとされています。

中国共産党は、自分たちの統治の正当性を強化するため、日本を悪魔化し、人民の憤怒のマグマを日本に向けさせることで何とか自分たちの保身をはかってきました。また、大規模な治安組織である、城管、公安警察、人民解放軍を駆使して、人民を弾圧することによつても、統治の正当性を強調してきました。しかし、これには限界があります。

中国は日本を悪魔化しないと、統治の正当性を強調できない
この統治の正当性が崩れかけた場合、中国共産党は自分たちの保身のために何をするかわかりません。最近では、韓国で朴槿恵の統治の正当性が崩れて大変なことになっています。しかし、中国において共産党が統治の正当性を失った場合、共産党幹部は、朴槿恵の弾劾裁判どころの話ではなくなります。

人民法廷が開かれ、一族郎党が死罪や流刑や、とんでもない運命をたどることになりかねません。それを防ぐために、どう考えてみても無謀な対日米開戦を実行して、自分たちの保身をはかるということは十分に考えられます。

そうなった場合、米国による金融制裁や、軍事的な攻撃により、現在の中国の体制は完璧に崩壊することでしょう。

しかし、崩壊する過程において、日本にも当然のことながら、大きな火の粉がふりかかることは間違いありません。かかった火の粉は、無論自分で振り払わなければなりません。

ランド研究所の「米中戦争が、尖閣諸島をめぐる日中の対立から勃発し得る」という点は、現在の日本にとってきわめて深刻な意味を持つと言えます。

同時に、米中関係が表面的に経済交流などで協調的、友好的にみえたとしても、水面下では最悪の状態にあり、米中戦争の発生も想定しているという米国の現実的な姿勢も、日本はしっかり認識しておくべきです。

【私の論評】



2021年9月11日土曜日

英空母「クイーン・エリザベス」が東京湾・浦賀水道で護衛艦「いせ」と並進、『防衛百景』の現場を見に行く:英海軍・海上自衛隊―【私の論評】中露にとって未だに米英空母打撃群は脅威!だからこそ、英国は空母打撃群を派遣した(゚д゚)!

英空母「クイーン・エリザベス」が東京湾・浦賀水道で護衛艦「いせ」と並進、『防衛百景』の現場を見に行く:英海軍・海上自衛隊


「クイーンエリザベス」(左手前)と並走する「いせ」(右奥)

2021年9月4日、英空母「クイーン・エリザベス」が初来航し、横須賀の米海軍基地へ入港したのはご存知のとおり。同空母は欧州からインド洋、南シナ海、東シナ海と「不安定の弧」と呼ばれたユーラシア大陸辺縁海域・地域を西から辿り、日本へ到達した。 


長い航海の目的はインド太平洋地域の平和と安定のために英国の関与意志を示すものだと言われている。相手は中国だ。日本来航の前に、同空母打撃群は各国軍との共同訓練を重ねており、新たな防衛協力体制を見せることは覇権主義的海洋進出を続ける中国を牽制する狙いがあるとみられている。

9月6日には岸信夫防衛大臣が横須賀に接岸中の同空母を視察し、今回の派遣行動には英国の強い意志を感じるとのコメントを発信している。横須賀入港期間中にはこうした政治的・軍事的な活動に専念、乗組員は新型コロナ感染症拡大防止対策のため上陸はせず、次の予定へ向けそのまま出港するとされた。これは同じく横須賀へ入港していた英補給艦「タイドスプリング」やオランダ海軍フリゲート艦「エファーツェン」も同様。前述のように来航前にも日本近海で多国間共同訓練を行なっていたが、来航後には日英米蘭加共同訓練「PACIFIC CROWN 21」が予定されていた。 

そして「クイーン・エリザベス」は予定を一日早めた9月8日に横須賀港の米海軍基地を離れ、14時には浦賀水道の航路入口へ差し掛かる。観音崎から遠望していると、同空母の異形さが際立った。暗色に見えた塗装も日光を受けると独特の白灰色が浮かび上がる。英国近海の海と空に溶け込む迷彩色なのだろう。

スキージャンプ方式の艦首を持つ飛行甲板にはSTOVL(短距離離陸垂直着陸)能力を持つステルス戦闘機F-35Bを複数駐機させている。艦載機を載せずに出入港することの多い米海軍空母の出港とはまた違う様相で興味深い。

 横須賀港外で沖止めしていた海上自衛隊護衛艦「いせ」が「クイーン・エリザベス」を待ち受け、航路上で接近し、2隻は並進し始める。上空には哨戒ヘリが滞空しており、おそらく2隻並んだ姿を撮影していると思われた。多国間共同訓練でよく行なわれる「フォトセッション」と呼ばれるものだろう、共同訓練の広報写真を撮影しているはずだ。これを中国も見ることになる。

しかし平日の午後2時である。航路の混み合う時間帯だ。そして「クイーン・エリザベス」の満載排水量は約6万7700t、「いせ」は約1万9000t。2隻の巨大船の周囲を多数・多種多様な船舶が行き交う光景は凄まじさを感じた。航路の安全航行を担当する海上保安庁と東京湾海上交通センターの確かな仕事ぶりを連想した。と同時に、巨大船の通航にも怯まず航行する民航船や遊漁船なども頼もしい。ちなみに通航量で見ると東京湾中央航路は、東京港や横浜港等へ出入港する船舶が1⽇あたり約500隻航⾏する世界有数の海上交通過密海域だという。 

その後「クイーン・エリザベス」は航路を南下し東京湾を出て、関東地方東方の沖合で行なわれた共同訓練に参加したという。

 ●英空母「クイーン・エリザベス」スペック 基準排水量:約4万5000t 満載排水量:約6万7700t 全長:284m 最大幅:73m 乗員:約670名、航空要員約600名、司令部要員約90名 主機:統合電気推進(ガスタービン発電機×2、ディーゼル発電機×4) 最高速力:約26kt(約48km/h) 武装:CIWS×3、単装機銃×4、多銃身機銃など 搭載機:F-35×約40、EH-101(AW-101)ヘリ×6など ◎日英米蘭加共同訓練「PACIFIC CROWN 21」参加部隊 

●英空母打撃群:英空母「クイーン・エリザベス」、英駆逐艦「ディフェンダー」、英補給艦「タイドスプリング」、英補給艦「フォートビクトリア」、 蘭フリゲート艦「エファーツェン」、 加フリゲート艦「ウィニペグ」、英F-35B、米F-35B ●海上自衛隊:護衛艦「いせ」、「いずも」、搭載航空機(SH-60J/K)、MCH-101 ●航空自衛隊:F-35A、E-767 ●訓練項目:戦術運動、通信訓練、発着艦訓練など

【私の論評】中露にとって未だに米英空母打撃群は脅威!だからこそ、英国は空母打撃群を派遣した(゚д゚)!

先日、このブログで以下のようなことを掲載しました。

現在、世界各国が持っている海軍の船は、実は2種類しかありません。1つは空母などの水上艦艇、もう1つが潜水艦です。水上艦艇はすべて、いざ戦争が起こったら、ターゲットでしかありません。

船が浮かんでいる時点で、レーダーなどで、どこで動いているのか存在がわかってしまいます。そこを対艦ミサイルなどで撃たれてしまったら、空母だろうと何であろうと1発で撃沈です。しかし、潜水艦はなかなか見つからないので、その意味では現代の海戦においては潜水艦が本当の戦力なのです。

そういう観点から見ると、中国はたくさんの水上艦艇を所有していますが、潜水艦そのもや対潜戦闘などの能力、水面より下の戦力は弱いです。一方日米は、水面より下の戦力においては圧倒的に強いです。

この原則は、英国海軍にもあてはまります。本当の戦力は、英国海軍でも潜水艦なのです。では、今回の英国空母打撃群にも潜水艦が随伴していたのでしょうか。

やはり、随伴していました。英海軍の原子力潜水艦1隻が2021年8月11日(水)、韓国の釜山に入港しました。

姿を見せたのはイギリス海軍のアスチュート級攻撃型原子力潜水艦で、艦名は不明であるものの、西太平洋を航行中のイギリス空母「クイーン・エリザベス」を中心とした空母打撃群(CSG21)に付き添っている潜水艦ではないかと見られています。

アスチュート級攻撃型原潜

 「クイーン・エリザベス」空母打撃群を構成する艦の中に潜水艦は含まれていないものの、常に随伴していたようで、7月上旬に同空母打撃群がスエズ運河を抜け紅海(インド洋)に入った際には、空母打撃群の構成艦であるフリゲート「リッチモンド」が、同行していた船として、アスチュート級原子力潜水艦の艦影を公式Twitter(ツイッター)に上げていました。

 今回、釜山に入港したアスチュート級原子力潜水艦が、7月にフリゲート「リッチモンド」が公開した原潜と同じ船かは不明ですが、イギリス海軍の原子力潜水艦が極東に来航することは、なかなかありません。

 なお、イギリス原潜が入港した釜山にはアメリカ海軍の基地があり、在韓米海軍の司令部が置かれています。ここは排水量10万トンを越えるアメリカ海軍の原子力空母も接岸可能な広さを有しています。

英空母打撃群は、英国のポーツマスを出港し、スエズ運河、インド洋を経て、日本に入港しました。その間インド洋までは、アスチュート級攻撃型原子力潜水艦が随伴していたわけですが、8月11日には韓国の釜山に、入港しています。

これは何を意味するのでしょうか。現在英空母打撃群の脅威となるのは、中露のみです。中露と比較すれば、世界トップクラスの日米には劣るとはいえども、英国の対潜哨戒能力は、中露よりもはるかに優れおり、英空母打撃群が中露に対応するには、空母打撃群の対潜戦闘能力と、攻撃型潜水艦1隻で十分と判断したのでしょう。

実際、英空母打撃群が、英国を出発してから、日本に入港するまで、まったく平穏無事であったというわけではありません。実際、こ2つの出来事がありました。

6月23日、ロシア国防省は黒海でイギリス海軍の駆逐艦「ディフェンダー」に対し、国境警備隊の巡視船による警告射撃およびロシア軍のSu-24攻撃機で警告爆撃を実施したと発表しました。

ロシア国防省によると、本日11時52分に「ディフェンダー」は黒海の北西部でロシアの国境を越えた。(クリミア半島)フィオレント岬の付近3kmの領海に入った。
領海侵犯が発生した場合の武器の使用について事前に警告されていたが、イギリス艦はこれに反応しなかった。12時6分と12時8分に、ロシア国境警備隊(FSB所属)の巡視船が警告射撃を行った。
午後12時19分、黒海艦隊のSu-24M攻撃機が警告爆撃を行い、駆逐艦の進路上に4発のOFAB-250爆弾を投下した。
午後12時23分、誘導ミサイル駆逐艦ディフェンダーは、黒海艦隊とFSBの国境警備隊の共同行動によりロシア連邦の領海の国境を離れた
(元はロシア語の記事を和訳 
出典:ЧФ совместно с ФСБ остановил нарушение российской границы эсминцем Великобритании (黒海艦隊はFSB(連邦保安局)と共同で、イギリスの駆逐艦によるロシア国境侵犯を阻止した):ロシア軍広報TVズヴェズダ
イギリス海軍の駆逐艦「ディフェンダー」とオランダ海軍のフリゲート「エファーツェン」の2隻は、極東に向けて遠征作戦を実施中のイギリス海軍の空母クイーン・エリザベスを中心とする空母打撃群CSG21の参加艦艇で、2隻はロシアを牽制する目的で一時的に分派されボスポラス海峡を通過し(モントルー条約で空母は通れない)、黒海に入ってウクライナのオデッサに寄港した後に、ロシアが占領し実効支配しているクリミア半島付近で行動中でした。

これは今年の春にロシア軍がウクライナ国境に大戦力を集結させて開戦の危機を煽っていた挑発行為への対抗策で(現在は国境線の戦力は撤収済み)、本来はCSG21の行動計画には無かった黒海での対ロシア牽制作戦が急きょ組み込まれたものです。

6月14日、ボスポラス海峡を通過し黒海に向かう英駆逐艦「ディフェンダー」(左)と蘭フリゲート「エファーツェン」(右)

また当初はイギリス海軍の護衛艦艇2隻を派遣する方針でしたが、直前になって1隻はオランダ艦と入れ替えになっています。これは2014年にウクライナ東部で起きたマレーシア航空17便撃墜事件(親ロシア武装勢力の地対空ミサイルによる犯行とされる)での犠牲者にオランダ人が多いことが関係しているのかもしれません。

CSG21の作戦計画とは別に行動していたアメリカ海軍の駆逐艦「ラブーン」も先行して黒海に入っており、米英蘭の3隻の軍艦が黒海でのロシア牽制作戦を実施中でした。その最中にロシア軍は我慢がならなかったのか、これまで過去にも行ってきた攻撃機による接近飛行での威嚇だけでは済ませず、大胆にも警告爆撃という非常に強い行動を示してきたのです。

なおイギリス当局はロシア側から警告射撃を受けた事実を否定しています。イギリス側はクリミア半島をロシア領と認めておらずウクライナ領扱いした上で「ウクライナの領海を無害通航した(つまり領海内に入った事実は認めている)」と述べています。そしてロシア軍は実弾演習していただけで英駆逐艦への警告射撃も警告爆撃も無かったという見解を提示しました。

これは射撃と爆撃はあったが、英艦への警告とは認められていないという意味になります。
HMSディフェンダーへの威嚇射撃は行われていません。

イギリス海軍の艦船は、国際法に則ってウクライナの領海を無害通航しています。

(元は英語の記事を和訳)

出典:Ministry of Defence Press Office (英国防省広報) Twitter
ロシア軍は黒海で砲撃演習を行っており、その活動を海事関係者に事前に知らせていたと信じています。

HMSディフェンダーに向けられた射撃はなく、彼女の進路に爆弾が投下されたという主張も認められていません。

(元は英語の記事を和訳)

出典:Ministry of Defence Press Office (英国防省広報) Twitter
※)英語では船のことを女性に例えます。

仮にロシア側の主張が正しい場合でも、領海内であろうと無害通航権があるので、英駆逐艦が敵対行動をしておらず単純に領海に入っただけであるならば、ロシア側の警告射撃および警告爆撃は国連海洋法条約では認められない行為です。

英空母打撃群CSG21の黒海での対ロシア牽制作戦は、ロシアの過剰な反応により緊張状態をもたらすことになりました。

英空母打撃群が日本に入港するまでに公表されている出来事で大きなものは、空母打撃群を追尾している中国潜水艦を発見したことです。

英空母クイーン・エリザベスを中心とする空母打撃群は7月末に南シナ海に入り軍事演習を実施して8月6日に米海軍のグアム基地に入港したのですが、南シナ海を離れて太平洋に入った際に23型フリゲートのリッチモンド(F239)とケント(F78)が2隻の中国海軍の商級(Type093)攻撃型原潜が空母打撃群を追尾してくるのを発見、さらに水中から空母打撃群を護衛しているアスチュート級攻撃型原潜が別の商級攻撃型原潜を発見したと英国メディアが報じました。

発見した中国海軍の攻撃型原潜に対して英海軍がどのように対処したのかは不明ですが、元英海軍のクリス・パリー少将(フォークランド紛争でアルゼンチン海軍の潜水艦を座礁に追い込んだ経験をもつ)は英国メディアの取材に対して「今回のニュースはイラクやアフガニスタンで著しく低下した対潜水艦戦能力が回復して本来の任務が遂行できるようになったことを示しており良いニュースだ」と述べています。

元英海軍のクリス・パリー少将

さらに、この海域は、対潜哨戒能力が世界トップクラスの日米潜水艦が、定期的に巡航(公表されていないが、軍事筋の常識)しており、これは英空母打撃群だけが発見したのではなく、日米も当然発見していたことでしょう。ただ、日米の発見は、当たり前ですが、英軍による発見はニュースパリューがあるので、公表したのでしょう。

以上から推察すると、英国の空母打撃群は、中露に対しては十分な対潜戦闘能力を持っており、中露両軍の艦艇から十分に防御できるし、これを護衛する攻撃型原潜は1隻で十分と考えているということです。

さらに、南シナ海、東シナ海およびその他の日本領海などでは、日米の潜水艦隊が守備しているため、空母打撃群から潜水艦を離脱させ、韓国に寄港させても、全く問題がないと考えているということです。というより、中国に対して、日米英の連携や日米の海戦能力の高さを見せつけたとも考えられます。

冒頭で、本当の戦力は、英国海軍でも潜水艦であると述べましたが、これは日米英等の対潜哨戒能力が高く、攻撃力の高い攻撃型原潜を持つ英米等、ステルス性の高い潜水艦を持つ日本等、海戦能力の高い国にはあてはまりますが、対潜哨戒能力が低く、低いステルス性しかない潜水艦しかもたないため海戦能力の低い中国にはあてはまりません。ロシアも同じです。

中露にとっては、未だに米英の空母打撃群は脅威なのです。だからこそ、英国は空母打撃群を日本に派遣したのです。

【関連記事】

中国軍機19機、台湾の防空圏に侵入 台湾が発表―【私の論評】中国の台湾武力侵攻は、少なくとも今後数十年は不可能(゚д゚)!

中国の空母戦力が抱えるミサイルへの脆弱性―【私の論評】海戦で圧倒的に有利な日米は、 中国の空母開発を大歓迎(゚д゚)!


中国の台頭を招くバイデン政権の外交安全保障政策に備えよ―【私の論評】日本のやるべきことは、トランプ政権時代と変わらない!仲間を増やすことと潜水艦隊の強化(゚д゚)!

2020年9月25日金曜日

TikTokめぐり米国に反撃、技術競争では中国有利か―【私の論評】米中デカップリングが進めば、軍事でもAIでも中国の歪さが目立つようになる(゚д゚)!

 TikTokめぐり米国に反撃、技術競争では中国有利か

岡崎研究所

 9月6日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのラナ・フォルーハーは、中国がTikTokの技術を輸出規制の対象とする決定をしたことを捉え、中国も技術のデカップリングに動いていること、差し当たり技術の競争の面で中国の方が少々有利と見られることを論じている。


 8月3日、トランプ大統領は、中国製アプリTikTokの9月中旬以降における米国での使用を禁止するとともに、TikTokの米国事業の米国企業への売却を求める方針を打ち出した。TikTokは、Huaweiとは異なり、戦略的な資産ではなく、TikTokの一件のみをもって一戦を交える用意は中国にはないであろうと思っていたが、案に相違して中国は反撃に出た。

 8月28日、中国商務省は、その輸出規制を改定して複数の技術を規制対象に追加した。これには TikTokの「personalized recommendation engine」を指すと思われる技術が含まれている。これこそが利用者の好みに合わせて動画を配信出来るTikTok独自のアルゴリズムだという。8月29日、新華社はこの新規則により、TikTokを運営する ByteDanceは、中国政府の許可を得ないとTikTokを売却出来なくなるであろうと報道した。ByteDance は新規則に従うと早速表明している。

 TikTokの米国事業の売却は、MicrosoftおよびOracleとそれぞれ交渉中であるが、中国がこの輸出規制の権限を使って売却を阻止出来るのか、あるいは阻止する積りがあるのかは良く分からない。阻止してみたところで、米国でのビジネスが出来ないのであれば、意味はないが、トランプが閉店安売りを強いることを阻止する代償として中国(および ByteDance)が受け容れる用意があるのかは不明である。

 中国として、トランプ政権がTikTokだけでなくTencentのWeChatなど今後も標的を増やすことを睨んで牽制の意味も込めて打った一手であろう。

 フォルーハーの論説は、中国が技術の輸出規制に動いたことは、中国も技術のデカップリング(米国との切り離し)に動いていることの証と捉えている。それは、米国の動きに触発された最初の一手ということであろうが、中国は受けて立つ積りである。デカップリングが進行する世界での両国の技術に係わる力関係は、国内の製造業の基盤および輸出市場の観点からも中国に有利に展開すると、フォルーハーは見ているようである。

 換言すれば、米国が中国にデカップリングを強いるには時期を失している。中国は既に強くなり過ぎていて中国もデカップリングを強い得る立場に立とうとしている、ということではないかと思われる。もしそうであるならば、米国市場から中国企業を手当たり次第排除するだけでは中国に勝てないであろう。

 中国が市場、人口、面積のみならず、技術的優位を獲得し、それを武器に世界戦略に出てきた現実は、大国米国でも、なかなか手に負えない状況になってきたようである。IT技術、宇宙開発、海洋進出、核開発等、いずれの分野でも中国は一国主義を取っている。米ソ冷戦時代でさえ、宇宙協力や核軍縮協定等が存在したが、中国と世界との貿易上の相互依存は深まっても、重要な戦略分野での協力が難しい。協力どころか、もはや切り離しや対立傾向がみられる。

 米国が中国を警戒するのは、中国は、IT技術等を、純粋に経済利用するのではなく、中国の独裁共産主義体制や人権弾圧等、米国が最も重視している民主主義、個人の尊厳と反対の目的のために利用しているからである。これが続く限り、経済とイデオロギーが相まって、米中対立は長期化するのだろう。

【私の論評】米中デカップリングが進めば、軍事でもAIでも中国の歪さが目立つようになる(゚д゚)!

上の記事は、英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのラナ・フォルーハー氏の論説に基づいて、中国に有利としているようですが、その根拠は薄弱です。これに似たような論調で、軍事的にも中国が有利とする説があります。

その根拠となっているのは、DF-17ミサイルの弾頭部のHGV(極超音速滑空兵器)です。極超音速のミサイルであり、米国はこれを撃ち落とせず、よって空母もすぐに撃沈されるので、米軍は負けるというものです。

超音速ミサイルなどについては、ここでは詳細は述べません。それについて知りたい方は、以下の記事などにあたってください。
迫り来る極超音速ミサイルの脅威  現状では迎撃不可能?
これに関しては、脅威であることには違いないですが、だからといって米軍が負けると結論を出すのははやすぎです。

なぜ、そうなのかといえば、このブログの読者なら、もうご存知でしょう。それは、中国の軍事技術が発展していることは事実ですが、その発展の仕方があまりに歪だからです。

決定的なのは、中国の対潜哨戒能力が米国に比較すると極度に劣っていることです。さらに、原潜の攻撃能力などもかなり劣っているところがあるということです。

日米に比較するとかなり能力が劣る中国のY8型哨戒機

そのため、米軍の原潜(米国は原潜しかない)は中国側に発見されることなく、自由に航行できるのに対して、中国の原潜および通常型の潜水艦は米国に簡単に探知されてしまいます。そうして、魚雷などで撃沈されてしまいます。

そうなると、他の中国の空母などの艦艇や航空機などもすぐに撃沈、撃破されてしまいます。仮に超音速ミサイルで攻撃しようにも、中国は原潜を探知できないのですから、攻撃のしようがありません。

これは、最初からわかりきっていることなので、もし米軍がたとえば、南シナ海で中国と本気で事を構えようとした場合、南シナ海にすぐに超音速ミサイルルで撃破されることが予め予期される、空母打撃群や強襲揚陸艦を最初に派遣し戦端を開くことなど考えられません。

米軍が艦艇や空母打撃群を南シナ海に派遣しているうちは、本気で戦争する気はないとみるべきでしょう。本当に戦争になる場合は、まずは空母、艦艇を引きあげさせるでしょう。

そうして、まずは原潜を派遣(軍事機密なので公表されていませんが、私はもうすでに派遣していると思いますます、実行するしないは別の話)して、南シナ海の中国軍基地を取り囲み、南シナ海に中国の潜水艦や艦艇、航空機が近づけないようにするでしょう。また、中国の沿岸などに、原潜を派遣して、中国の超音速ミサイルの基地を叩くでしょう。

後は、原潜で南シナ海の中国の基地を包囲すれば、補給がたたれ、中国側はお手上げになるはずです。その後必要があれば、米軍は空母打撃群や強襲揚陸艦を派遣して、中国の残存兵力を無効化し、占領するかもしれませんが、私自身は、南シナ海の中国軍基地など、米国にとってはあまり意味のないものなので、そこまではしないだろうと思います。ただ、破壊するか、元の環礁にできるだけ近いかたちで原状復帰をすることになるかもしれません。

米海軍のCVN-73ジョージ・ワシントンとCVN-74ジョン・C・ステニス空母打撃群

中国の技術水準はかなり歪です。次世代通信システム機器5G 通信機器では既に中国は世界のトップの水準になっています。かなり技術を盗んでいるとはいえ、量子コンピュータ、AI技術、宇宙機器のレーダー、電磁波技術、AI技術、クラウド・ビッグデータ、自動運転技術、サイバー技術などで、米国に肉薄するか、米国より優勢になってきているものもあります。

ところが、航空機や高速鉄道などのボルトを製造できません。先日もこのブログに掲載したように、航空機のエンジンもまともに製造できません。

なぜこのようになるかといえば、自由主義諸国に比較して、技術の裾のが広くないからでしょう。中国の場合は、ロシアから導入された技術と、他国から盗んだ技術を基盤にしています。

ロシアというか、ソ連の技術は第二次世界大戦終了後にドイツの科学技術者を大勢連れてきて、様々な技術を発展させ、その後は他国から盗んだものを基盤にしています。ロシアは、ソ連の頃から対潜哨戒能力はかなり劣り、現在も劣っています。

だから、中国のそれも未だに劣っているのでしょう。それに、これは最高機密に属するので、他国から盗むのも困難です。だから、今でもロシア・中国ともにかなり劣っているのでしょう。

これは、軍事技術のほんの一部であり、他にも劣るところは、かなりあります。

これと同じようなことが、ITについてもいえるでしょう。

中国のAI技術が急速に伸びてきていると言われますが、果たして今現在どこまで伸びてきているのでしょうか。米著名シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が昨年10月に開いたパネル討論会で、中国のAI技術の現状に関する一般的な誤解が幾つか明らかになりました。

登壇した専門家によると、中国はAI技術で世界一になるために政府主導のもと官民が足並みをそろえて邁進しているわけではなく、また膨大なデータ量で米国を凌駕しているわけでもないといいます。

これについては、以下の記事が参考になります。
「AI大国、中国脅威論」の5つの誤解 米戦略国際問題研究所のパネル討論会から
この内容は、中国のAIの問題点をあまり突いてはいないと思います。しかし、技術競争では中国有利などとは単純にはいえないことが、何となく理解できます。

一方、アルゴリズムの研究の停滞は、中国のAIのボトルネックとなるかもしれません。

昨年上海市で開催された院士サロンにおいて、中国工程院院士の徐匡迪氏ら複数の院士からの「AIの基礎的アルゴリズムの研究を行っている数学者は、中国にどれほどいるのだろうか」という問いかけが業界の共鳴を呼び、「徐匡迪の問いかけ」と呼ばれるようになっています。

昨年4月28日に開かれた「超音波ビッグデータ・AI応用・普及大会」において、東南大学生物科学・医療工学学院の万遂人教授は、「中国のAI分野でアルゴリズムの研究に取り組んでいる科学者は極めて稀だ」とし、「徐匡迪の問いかけ」は中国のAI発展の重要問題を突いていると述べ、「この状況に変化がなければ、中国のAI応用は掘り下げが困難で、重大な成果も得難い」としました。


「アルゴリズム」とは、簡単に言うと「手順や計算方法」のことです。さらにざっくりとした言い方をすれば「やり方」とも言えるでしょう。

そもそもコンピュータは日本語に訳すと「電子計算機」となります。つまりコンピュータは、人の手では時間がかかりすぎたり、面倒だったりする計算を代わりにやってもらうためにあるのです。

そのときコンピュータにさせる「計算の手順、やり方」こそが「アルゴリズム」である、というわけです。

重要なのは、ある結果にたどり着くためのやり方(アルゴリズム)はたくさんあることです。

いくつかのアルゴリズムがある場合、より効率よく計算できるアルゴリズムのほうが優れていることになります。


さて、中国のアルゴリズム研究はどの程度なのかといえば、その尺度としては、数学のノーベル賞ともいわれるフィールズ賞が一応の目安となりそうです。

フィールズ賞(フィールズしょう)は、若い数学者のすぐれた業績を顕彰し、その後の研究を励ますことを目的に、カナダ人数学者ジョン・チャールズ・フィールズ (John Charles Fields, 1863–1932) の提唱によって1936年に作られた賞のことです。以下に国別の受賞者数の表を掲載します。

この表を見ると、米国は13人受賞、中国は0人です。日本は3人です。ロシア(ソ連時代含む)は9人です。

AIを発展させるためには、アルゴリズムも発展させる必要があります。

現状では、中国は確立されたアルゴリズムのもとで様々な開発を行っているものと思われます。

既存の方法でも、新たな方法でも、アルゴリズムが効率的なければ、システムも効率の良いものにはならないです。

そうして、アルゴリズムの研究は、やりはじめて、すぐに成果があがるものではありません。長い時間がかかります。金を投資して、掛け声をかければ、すぐにできるようなものではありません。

奥行きも、間口の広さでも、現在中国は米国に遠く及ばないと言って良いでしょう。

上の記事にもあるように、AIに関しては、小手先の目先の技術については、中国が進んでいるところがあるのかもしれませんが、アルゴリズムに関しては、米国が圧倒的にすすんでいます。

やはり、軍事でみてきたように、AIでも中国の発展は歪です。

現在はまだ目立ちませんが、米中のデカップリングがすすめば、AIでも軍事技術にみられるような、中国の歪さが目立つようになると思います。

【関連記事】

「TikTok」 中国の運営会社がトランプ政権相手取り裁判の方針―【私の論評】KikTokの本当の脅威は、得られた膨大な情報をAIを用いて分析するオシントだ(゚д゚)!

中国、ウクライナの軍用エンジン技術に触手 訴訟警告で米中対立―【私の論評】日本の製造業は、モトール・シーチを対岸の火事ではなく、他山の石と捕らえよ(゚д゚)!


2024年4月11日木曜日

日米首脳共同声明「未来のためのグローバル・パートナー」全文 中国の「危険な行動」に言及―【私の論評】安倍イズムの影響下での日米同盟強化: 岸田政権の課題と展望

日米首脳共同声明「未来のためのグローバル・パートナー」全文 中国の「危険な行動」に言及

まとめ
  • 日米同盟がかつてない強さに高まり、両国が大胆な措置を講じてきたことを確認
  • 防衛・安全保障協力の深化に向け、日本の防衛力強化や日米指揮統制体制の向上などを歓迎
  • 先端技術分野での共同開発・生産、経済安全保障の強化などによる日米の技術的優位性の確保
  • インド太平洋地域の自由で開かれた秩序の維持に向けた地域協力の推進
  • 気候変動対策での両国の連携強化とクリーンエネルギー分野でのリーダーシップ発揮


  日米首脳共同声明は、過去3年間にわたり、両国が勇気ある措置を講じることにより、日米同盟が前例のない高みに到達したことを確認している。この歴史的な展開を踏まえ、両首脳は新たな日米グローバル・パートナーシップの構築に合意した。

  そのための具体的な取組として、まず防衛・安全保障協力の強化が掲げられている。日米両国は、同盟がインド太平洋地域の平和、安全および繁栄の礎であり続けることを確認し、日本の防衛力強化や指揮統制体制の強化など、同盟の新たな時代に対応した取組を支持した。さらに、日米の指揮統制体制の向上や情報協力の深化、ミサイル防衛の強化など、地域の安全保障上の課題に直接対処するための具体的な施策も明記。

 加えて、宇宙開発、イノベーション、経済安全保障、気候変動対策など、幅広い分野で日米が連携して取り組むための新たな戦略的イニシアチブを発表した。特に、次世代技術の共同開発や、経済安全保障の強化に向けた政策協調の強化などが重要な柱となっている。

 一方で、北朝鮮の核・ミサイル問題、ロシアのウクライナ侵略など、地域や世界の安全保障上の重要課題に対しても、関係国と協調して対処していくことを表明。

 さらに、日米両国民の絆を一層深化させるため、人的交流の強化やグラスルーツレベルの地方自治体間連携など、多様な取組についても言及されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】安倍イズムの影響下での日米同盟強化: 岸田政権の課題と展望

まとめ
  • 日米首脳会談の共同声明は、日米同盟の新たな時代を示す戦略的パートナーシップの構築を目指すものであり、防衛、経済、技術、外交など広範な分野に焦点を当てている。
  • 共同声明の注目すべき点は、日本の防衛力の抜本的強化、先端技術分野での日米協力の深化、経済安全保障の強化の3つに集中している。
  • 日本の防衛力の強化は、専守防衛の原則からの転換を意味し、抑止力と対処力の強化につながる。
  • 先端技術分野での協力は、経済安全保障上も重要であり、両国の競争力を高める。
  • 日米関係の強化には、安倍首相のリーダーシップや外交努力が大きく寄与しており、岸田首相もこの路線とともに、日本国内の政策に関しても安倍イズムを継承すべきである。

この共同声明は、21世紀の課題に取り組む日米同盟の新たな時代を切り拓くべく、防衛、経済、技術、外交など、広範な分野における具体的な戦略的パートナーシップの構築を示すものとなっています。

共同声明の中で特に注目すべき点は以下の3つです。

1. 日本の防衛力の抜本的強化
共同声明では、2027年度までに日本の防衛費をGDP比2%まで増額し、反撃能力の保有や統合作戦司令部の新設など、日本の防衛力を大幅に強化することが盛り込まれています。これは注目すべき点です。
なぜなら、これまで日本は専守防衛を旨としてきましたが、今回の防衛力強化は抑止力の大幅な強化につながるものです。地域の安全保障環境が厳しさを増す中で、日米同盟の抑止力と対処力を引き上げる上で、日本の防衛力強化は不可欠な取り組みだと位置づけられているからです。

このような日本の防衛力増強は、同盟国である米国にとっても大きな意義を持ちます。日本の防衛力が強化されることで、米国の同盟国としての負担が軽減され、より効果的な抑止力の発揮が期待できるためです。

2. 先端技術分野での日米協力の深化
共同声明では、AI、量子、半導体、バイオテクノロジーなどの重要・新興技術分野で、日米が協力して研究開発や産業基盤の強化に取り組むことが明記されています。
これは注目に値する点です。先端技術分野でのリーダーシップを確立することは、経済安全保障上も極めて重要です。両国が互いの強みを活かしながら、これら次世代技術の開発や保護に協力することで、技術的な優位性を確保し、経済的な競争力を高めていくことができるためです。

また、こうした技術協力は、日米同盟の絆をより強固なものにする効果も期待できます。先端技術を共に推進していくことで、経済的な利益共同体としての側面が一層強化されるからです。

3. 経済安全保障の強化
共同声明では、日米両国が非市場的な政策や慣行への対処、信頼性のあるサプライチェーンの構築など、経済的側面からの安全保障強化に取り組むことが明記されています。
これは重要な点です。地政学的な競争が激化し、経済的な安全保障の確保が喫緊の課題となる中で、日米が緊密に協調してこの分野に取り組むことは、両国の経済的利益を守る上で不可欠だからです。

特に、先端技術分野での覇権を握ることは、経済安全保障上も極めて重要です。日米が連携して、こうした分野での優位性を確保していく狙いがうかがえます。
 
以上3点は、共同声明の中でも特に注目すべき点だと考えられます。日米同盟を21世紀の安全保障環境に合わせて強化していく上で、これらの取り組みが大きな意味を持つためです。


日米が安全保障面での一体化を模索することは、もはや多数の米国民にとって当然のことです。今回の合意に対する大きな騒ぎは起きていません。日本との同盟強化に反対する声はほとんどなく、ドナルド・トランプ前大統領や共和党支持者を含めても、日米同盟の強化に異議を唱える声はありません。

日本という国が米国にとってより身近な存在になっています。大谷翔平選手やテレビドラマ、アニメなどを通じて、日本文化が米国に浸透しており、日本人に対する親近感が高まっています。これは、中国に対する米国民の嫌悪感とは対照的であり、日本は米国人にとって好意的な国として位置付けられています。

ギャラップ世論調査では、日本が米国人にとって最も好きな国の一つに選ばれています。この好意的な姿勢は、日米関係の強化にも繋がっていると言えます。

しかし、一方で岸田首相に対する米国メディアの関心は薄いです。岸田首相の政治的地位は不安定であり、政権内部や有力派閥のスキャンダルに揺れ動いています。そのため、米国メディアは岸田首相を「影の薄い総理大臣」と見ており取り上げることが少ないです。これは安倍首相とは対照的です。

しかし、日米関係の強化に向けては、両国のまともな官僚や議員らが着実に動いているようです。両国の政治的不安定さにもかかわらず、日米関係の堅固さを確保するために、彼らは日々努力しているようです。そのため、今回の日米首脳会談も、両国の関係強化の一環として注目されています。

官僚レベルにおける日米関係強化に向けた取り組みには以下のようなものがあります。

防衛・外交面では、外務省北米局と米国務省が定期的な政治対話を行っており、北朝鮮問題に関する制裁政策の調整や台湾問題に関する協議などが実施されているほか、自衛隊と米軍の共同訓練を強化することで軍事面での協力関係を深めています。

経済・貿易面では、経済産業省と米通商代表部がIT分野など特定分野の共同研究を進める一方で、農林水産省と米農務省もTIFAにおける農産品の市場開放交渉を行っています。

文化交流面では、文部科学省と米教育省が大学間交流事業の拡大に努めるとともに、外務省と米国務省が語学研修制度を活用した若手研修生の派遣数を増やしています。

テクノロジー面では、総務省と米通信委員会が5G技術の標準化で、経済産業省も半導体技術分野で共同研究を進めることで協力体制を強化しています。

さらに、環境・エネルギー面では再生可能エネルギー分野、科学技術面では宇宙開発分野での国際協力も進められています。

上に述べた具体例は、ごく一部にすぎません。 

なぜ日米関係がこのようになっているかといえば、やはり安倍首相の尽力があったおかげです。

これなくしては、現在の日米同盟の強固な地位と日米協力体制がこの水準に達することは極めて困難であったと思います。

特に、トランプ政権下で米国第一主義が強まる中、安倍首相はトランプ大統領個人との信頼関係を築き、日米同盟の重要性を直接説得しました。加えて、日米同盟を東アジアにおける安定と繁栄の礎と位置づける戦略もトランプ政権のアジア観と合致するものでした。


この結果、トランプ政権下では一時東アジアからの関与が低下した傾向に歯止めが掛かり、日米同盟を軸とする米国の東アジアに対する関与が強化されることになりました。同時に、安倍首相の尽力により日米同盟の重要性が再確認されました。

安倍首相の日米同盟強化への献身的な努力とリーダーシップなくしては、現在の日米同盟の堅実な関係基盤と協力体制を築くことは不可能でした。安倍首相の尽力こそが、今日の日米同盟の地位向上に不可欠な要因だったのではないかと考えます。

そのことを岸田首相は再認識すべきです。岸田文雄首相は昨年2月26日の自民党大会で、2012年の政権交代後からの自公政権10年間について話しをしました。安倍元首相の強力なリーダーシップの下、経済状況は改善し雇用と企業収益が拡大したこと、デフレから脱却できたことなどを指摘しました。外交・安全保障面では「自由で開かれたインド太平洋」の推進、日米同盟の深化、平和安全法制の整備などの実績を挙げました。

10年間を振り返り、民主党政権下で失われた日本の誇りと自信、活力を取り戻すため、皆で力を合わせ国を前進させたとアピールしました。今こそ安倍元首相と菅前首相が築いた10年間の成果の上に、次の10年を創造する時だと強調しました。防衛力を抜本的に強化し、積極的な外交を展開することで、戦後最も複雑な状況の中でも国民を守り抜く考えを表明しました。

岸田首相は、今回の日米首脳会談は、安倍首相が敷いた既定路線に乗った形で、成功を収めたことを理解すべきです。

そうして、米国との関係については、米国政府という相手があることであり、安倍首相が構築した日米関係の方向性を崩すことは最早できません。さらに、日米関係を基軸とした外交・安全保障に関しても、これを崩すことはできません。


問題は、国内であり、もっと有り体にいえば、自民党党内です。これについては、米国はこれに干渉することはできず、ただしLGBT理解増進法案などの例外はありますが、国内の大きな方向性に関しては、もっぱら岸田首相が采配しなければなりません。ここでも岸田首相は、安倍路線を継承するべきなのです。

そのことを強く認識して、経済状況を改善し雇用と企業収益が拡大する路線を継承し、デフレから完全脱却すべきなのです。それとともに、自民党内のリベラル派に対して一定の歯止めをかけなければなりません。外交だけではなく、国内でも安倍イズムを継承することが、自民党政権を安定化させる唯一の道だと認識して、その方向に転換すべきです。

これをないがしろにすれば、岸田政権が崩壊するだけではなく、自民党が崩れ、それだけならまだしも、安倍首相が語っていたような、悪夢の民主党政権のよう暗黒史を自民党政権が自ら招くことになりかねません。そうなれば、いずれ自民党は再び下野することになるでしょうが、それまでの間に悪夢の自民党政権が日本国内を毀損すことになりかねません。さらには、次の政権は安倍イズムとは、逆の政権運営をするかもしれません。

これだけは、絶対に避けるべきです。岸田政権は今後、安倍イズムを定着させるべく、邁進すべきです。

【関連記事】

今後も南シナ海で共同パトロール実施へ、日豪比と=米大統領補佐官―【私の論評】日米首脳会談で浮上!安倍から岸田政権への「統合作戦司令部」構想の歴史とバイデン政権の影響

米英豪「AUKUS」、日本との協力を検討 先端防衛技術で―【私の論評】日本の情報管理体制改革がAUKUS参加と安全保障の鍵となる

次期戦闘機の第三国輸出解禁が必要な理由 議論が深まるAUKUSのあり方、日本も取り残されるな―【私の論評】日本の選択―武器輸出解禁で防衛力強化、TPPをWTOルールとし国際ルールをリードせよ

オーストラリア海軍要員、英の最新鋭原潜で訓練へ AUKUSで関係深化―【私の論評】豪州は、AUKUSをはじめ国際的枠組みは思惑の異なる国々の集まりであり、必ず離散集合する運命にあることを認識すべき(゚д゚)!

トランプ氏の「インド太平洋」発言、対中外交戦略の大きな成果に 北朝鮮への対応でも議論進む―【私の論評】トランプ外交を補完した安倍総理の見事な手腕(゚д゚)!

2022年12月17日土曜日

日本「反撃能力保有」に〝中国震撼〟 空母「遼寧」など艦艇6隻で威嚇 安保3文書を閣議決定、岸田首相「防衛力を抜本強化」 米国は高く評価―【私の論評】中共最大の脅威は、海自潜水艦が長距離ミサイルを発射できるようになること(゚д゚)!

日本「反撃能力保有」に〝中国震撼〟 空母「遼寧」など艦艇6隻で威嚇 安保3文書を閣議決定、岸田首相「防衛力を抜本強化」 米国は高く評価

たな国家安全保障戦略など「安保3文書」を決定し会見する岸田文雄首相=16日午後、首相官邸

 岸田文雄首相は16日夜、国家安全保障戦略など「安保3文書」を閣議決定したことを受け、首相官邸で記者会見した。3文書は、敵ミサイル拠点などへの打撃力を持つことで攻撃を躊躇(ちゅうちょ)させる「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を明記するなど、戦後の安保政策を大きく転換する内容となった。「増税ありきの財源論」や「首相の説明不足」などへの批判もあるが、日本を取り巻く安全保障環境の悪化を受けた「防衛力強化」は避けられない。同盟国・米国などが高く評価する一方、中国は反発したのか空母「遼寧」など艦艇6隻を沖縄周辺に送り込んできた。


 「わが国の周辺国、地域において、核・ミサイル能力の強化、あるいは急激な軍備増強、力による一方的な現状変更の試みなどの動きが一層、顕著になっている」「現在の自衛隊の能力で、わが国に対する脅威を抑止できるか」「率直に申し上げて、現状は十分ではない」「私は首相として国民の命、暮らし、事業を守るために、防衛力を抜本強化していく」

 岸田首相は注目の記者会見で、こう決意を語った。

 「安保3文書」は、日本が「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」との認識を示したうえで、中国や北朝鮮を念頭に「力による一方的な現状変更の圧力が高まっている」と指摘した。

 共産党一党独裁のもと、軍事的覇権拡大を進める中国の動向を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記した。

 「反撃能力」保有をはじめとする「防衛力強化の重要性」を訴え、一連の施策が「安全保障政策を実践面から大きく転換する」とも強調した。

 具体的には、米国製巡航ミサイル「トマホーク」など、複数の長射程ミサイルを順次配備する。宇宙・サイバー・電磁波などの新たな領域と陸海空を有機的に融合する「多次元統合防衛力」を構築する。

 自衛隊では長く予算不足を強いられてきたため、弾薬・誘導弾が必要数量に足りていないうえ、戦闘機などが、他の機体から部品を外して転用する「共食い修理」が続けられてきた。今回、こうした状況も解消する。

 来年度から5年間の防衛力整備経費を約43兆円と定め、インフラ整備など防衛力を補完する予算を含め、2027年度に「対GDP(国内総生産)比2%」に達することを目指すとした。

 防衛費の財源については、安倍晋三元首相が日本経済への打撃を考慮して提示していた「防衛国債」を排除し、財務省の筋書きなのか「増税」方針を強行する構えだ。防衛力には力強い経済が不可欠であり、自民党安倍派を中心に反発は続いている。それを意識したのか、次のようにも語った。

 「安倍政権において成立した安全保障関連法によって、いかなる事態においても切れ目なく対応できる態勢がすでに法律的、あるいは理論的に整っているが、今回、新たな3文書を取りまとめることで、実践面からも安全保障体制を強化することとなる」

 日本の決意と覚悟が込められた「安保3文書」を、米国は歓迎した。

 ジョー・バイデン米大統領は16日、ツイッターに「(日米同盟は)自由で開かれたインド太平洋の礎石であり、日本の貢献を歓迎する」と投稿した。ジェイク・サリバン大統領補佐官も同日、「日本は歴史的な一歩を踏み出した」とする声明を発表した。

 渡部悦和氏が懸念「いまだに非核三原則」

 一方、中国外務省の汪文斌報道官は16日の記者会見で、「中国への中傷に断固として反対する」「アジア近隣国の安保上の懸念を尊重し、軍事、安保分野で言動を慎むよう改めて促す」などと語った。自国の異常な軍備増強を棚に上げた暴言というしかない。

 さらに、中国海軍の空母「遼寧」と、ミサイル駆逐艦3隻、フリゲート艦1隻、高速戦闘支援艦1隻の計6隻の艦艇が16日、沖縄本島と宮古島の間を南下して東シナ海から太平洋に航行した。防衛省統合幕僚監部が同日発表した。「安保3文書」への軍事的威嚇のようだ。

 今回の「安保3文書」をどう見るか。

 元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は「画期的な内容だ。NATO(北大西洋条約機構)並みの『防衛費のGDP比2%』の目標を明記したことで、実質的に防衛戦略の大転換となった。『反撃能力』も明記し、長射程ミサイルの順次配備など具体的整備と予算を確保したことも大きな前進だ」と評価する。

 ただ、懸念される点もあるという。

 渡部氏は「ロシアのウクライナ侵攻では『核抑止』が重要なポイントと認識されたが、いまだに『非核三原則を維持』という。『専守防衛の堅持』も(日本の国土が戦場になることを意味するが)、長年の抑制的な安全保障政策の根本を変えられなかった。防衛費増額の財源も『国債発行』が通常の考え方だと思う。増税では日本経済の成長を抑制する。経済と安全保障は一体不可分であるはずだ」と語った。

 大きな決断をした岸田首相だが、問題は山積している。

【私の論評】中共最大の脅威は、海自潜水艦が長距離ミサイルを発射できるようになること(゚д゚)!

中国は、日本の安全保障関連3文書の改定について「中国の脅威を軍拡の言い訳にしている」と強く反発しています。こうした強い反発があるということは、中国がこれを脅威に感じているということであり、日本にとっては、そもそもの狙い通りといえます。

日本の防衛力増強に警戒心を強めており、日本周辺での軍事活動をこれまで以上に積極的に行っていく可能性があります。 

隣国の日本が「反撃能力」(敵基地攻撃能力)を保有し、中国軍の射程圏外から攻撃できるスタンド・オフ・ミサイルの配備を進めれば、中国は間違いなく、有事の際に不都合が生じます。台湾統一をにらんだ動きにも、一定の影響が出ます。 

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(電子版)は社説で、日本の反撃能力に関して「自衛隊の対外攻撃能力を高める」と警戒をあらわにしました。「中国を脅威と見なせば(そうでないのに)本当に脅威となってしまう」と警告。その上で「中国の総合的な実力は今や日本を超えている」と自信も示してみせました。

中国外務省の汪文斌副報道局長は「訳もなく中国の顔に泥を塗ることに断固反対する」と表明。「中国の脅威を誇張して自らの軍拡の言い訳とするたくらみは思い通りにならない」と反発しました。 


中国にとっての最大の脅威は、自衛隊が運用する12式地対艦誘導弾の射程を伸ばすほか、新たに開発する高速滑空弾を量産、米製巡航ミサイルのトマホークなどを取得します。いずれも2027年度までに配備することでしょう。

その中でも、ミサイルを地上や護衛艦にだけでなく、自衛隊機や特に潜水艦への搭載することが最大の脅威でしょう。

このブログの読者であればもうおわかりでしょう。

海自の潜水艦にはSLBMが装備されておらず、無論これを発射する発射装置も搭載されていません。そのため、海自の潜水艦から発射できるのは、ハープーンなどの対艦ミサイル等に限られていました。

現在大半の海自の護衛艦や潜水艦に搭載されているハープーン対艦ミサイルは、米国製です。このミサイルは、本来は航空機搭載用でしたが、ブースターロケットを追加することで水上艦艇や潜水艦からも発射可能になりました。

潜水艦から発射する際には、魚雷発射管からカプセルに入れられたものを発射、水面に到達してからロケットに点火する方式になっています。

発射されたミサイルは慣性誘導方式(加速計による飛行経路算定とジャイロによる姿勢制御)で目標まで飛行しますが、目標命中直前にはアクティブレーダーホーミング式に切り替わり確実に敵艦めがけて突入するようになっています。

ただ、魚雷発射管から発射するミサイルであり、重量は  690kg、射程距離 約124kmに過ぎません。

米製巡航ミサイルのトマホーク等を潜水艦から発射するためには、SLBMが発射できる発射装置が必要です。あるいは、米国大型原潜に匹敵するほどの魚雷発射管が必要です。

ということは、日本は従来型の潜水艦に加えて、トマホーク発射可能な潜水艦を新しく建造するということを意味します。

読売新聞は、10月29日に、政府は、自衛目的でミサイル発射拠点などを破壊する反撃能力の保有を目指していると報道しています。その手段となる地上目標を攻撃可能な長射程ミサイルは、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」の改良型やトマホークを主力に据える方向としています。

発射機材は、車両や水上艦、航空機を念頭に置いてきたそうですが、配備地などを探知されかねません。相手に反撃を警戒させ、抑止力を高めるには、より秘匿性の高い潜水艦を選択肢に加える必要があると判断したそうです。


実験艦は2024年度にも設計に着手し、数年かけて建造する計画です。ミサイル発射方式は、胴体からの垂直発射と、魚雷と同様の水平方向への発射の両案を検討するそうです。実験艦の試験を踏まえ、10年以内に実用艦の導入を最終判断します。

このブログも以前から掲載しているように、現在艦艇には二種類しかありません。水上に浮く海上艦艇と、海面下を航行する、潜水艦です。

海上艦艇は、空母であろうが、何であろうが、今やミサイルの標的に過ぎません。しかし、潜水艦はミサイルで攻撃することはできません。そのため、現在の海戦における主役は潜水艦です。

よって、潜水艦の能力がより高く、対潜哨戒能力がより高いほうが、海戦能力が高いということになります。潜水艦、航空機、海上艦艇等の能力も含めて総合的に対潜水艦戦闘力(ASW:Anti Submarine Warfare)が強いほうが、海戦能力が高いことになります。

ASWに関しては、米国も日本も中国よりはるかに能力が高いです。日本の場合は、対潜哨戒能力、潜水艦のステルス性に優れています。中国海軍はこれを発見するのは難しいです。米国の場合は、対潜哨戒能力、攻撃型原潜の攻撃能力が優れています。

優れているどころか、米国の攻撃型原潜は海中に潜むあらゆる武器を装備した巨大な格納庫のある海中基地といっても良いほどです。かつて、トランプ氏は大統領だったときに、これを「水中の空母」と評していました。

日本も米国も海戦能力では中国をはるかに上回っています。日本は、ステルス性においては、中国海軍が探知するのが難しい潜水艦をすでに22隻配備しています。中国が尖閣諸島に侵攻しようとしても、日本が尖閣諸島を数隻の潜水艦で包囲すれば、そもそもこれに近づくことすらできません。

近づけは撃沈されるだけです。まかり間違って人民解放軍を尖閣諸島に上陸させたにしても、潜水艦で包囲されれば、補給ができず、上陸した人民解放軍はお手上げになってしまいます

台湾有事などでは、米軍が大型攻撃型原潜を台湾近海に3隻も派遣すれば、これに十分対処できます。最初に、米攻撃型原潜は、中国の監視衛星の地上施設とレーダー基地を破壊し、中国軍の目を見えなくして、その後、中国の台湾に近づく艦艇のほぼすべて撃沈することになるでしょう。

このように潜水艦を用いれば、尖閣有事も、台湾有事もさほど難しいこともなく十分に日米とも対処できます。

ただ、日米ともに尖閣有事や、台湾有事のシミレーションにおいては、なぜか潜水艦が登場することはありません。これに疑問を感じる方は、是非ご自分で調べてください。ほとんどの場合、潜水艦は登場しません。登場するのは例外中の例外です。

なぜかというと、潜水艦が登場しなければ、中国海軍はかなりの攻撃ができ、米軍ですら危うくなるのですが、潜水艦が登場した途端に、戦況は明らかに変わり、圧倒的に日米に有利になるからとみられます。

そうなると、台湾有事なども何の心配もないということになり、世間の目を惹き付けることができなくなるどころか、予算の配分も難しくなります。それと、日本では、いわゆる中国配慮というものがあると思われます。

海戦では圧倒的に日本が有利であると発表しようものなら、中国様がお怒りなるので、それはなかなかできないのでしょう。

ただ、仮に海戦能力が低いにしても、中国はミサイルなど台湾や日本を簡単に大破壊する能力はあります。だから、これに対する警戒は怠ってはならないです。ただ、中国がいとも簡単に、台湾や尖閣諸島に侵攻できると思い込むのは明らかな間違いです。侵攻と破壊は違います。侵攻はかなり難しいですが、破壊は簡単です。

これは、ロシアがウクライナ侵攻が簡単であると過信して、ウクライナに侵攻して大苦戦しているのと同じように、戦争を誘発する恐れがあります。侵攻は難しいですが、ロシアはウクライナのあらゆる都市を破壊しています。

少し話がずれてしまいましたので、話を元に戻します。

今でも本当は、海戦能力に圧倒的に中国より優れた日本が、今度は潜水艦にトマホークなども装備できるようにするというのですから、これは中国にとっては大きな脅威です。

今までは、中国は日本に侵攻しようとすれば、海戦能力に劣るため、日本の潜水艦に阻まれて、これは不可能でした。しかし、中国はミサイルで日本を破壊することはできます。無論、ミサイルには核も搭載できます。これで、日本を脅すことはできました。

しかし、日本が反撃能力を持つことになれば、中国は日本の航空機や艦艇などは発見できこれに対応するのは可能ですが、日本は中国が発見しにくい潜水艦搭載のミサイルで中国の監視衛星の地上施設や、レーダー基地、ミサイル基地等を叩くことができますし、場合によっては、三峡ダムなどの中国のウィークポイントを叩くこともできます。ちなみに、三峡ダムが破壊されると、中国の国土の40%が洪水に見舞われるといわれています。


仮に、日本が中国に核攻撃を受けたにしても、日本の潜水艦隊は海中に逃げ、トマホークなどにより、中国の軍事重要拠点やウイークポイントを攻撃することになるでしょう。これは、日本が限りなく戦略的な攻撃手段を持つことになります。

日本が核で攻撃されたということになれば、日本も中国に対して遠慮はせずに、攻撃することになります。しかも、日本の潜水艦が米国の攻撃型原潜のような原潜であれば、燃料を補給せずとも、水や食料がつきるまで潜航できますが、日本の潜水艦には動力にも限りがあり、それが尽きる前に全面攻撃することになるでしょう。攻撃できる目標すべてに対して、短期間に集中して全面攻撃ということになるでしょう。

もちろん、これは仮定の話ですが、今までは日本は中国から核攻撃されても、反撃は生き残った潜水艦が、比較的近くの艦艇などを撃沈できるだけでしたが、今後は中国奥地の目標物まで攻撃できるようになるということです。

これは、大変革であり、中露北には大きな脅威になります。

ただ潜水艦というキーワードをもっと日本国民にわかりやすく伝えるべきだと思います。そのためには、尖閣付近の中国の艦艇の鼻先で、潜水艦や対潜哨戒機、艦艇により数隻の模擬艦艇を撃沈してみせて、その意味あいを国民に平易に説明するとか、トマホークが発射可能の潜水艦ができれば、それの発射実験で、たとえば、日本海に潜んだ潜水艦から、北海道の無人島にトマホークを着弾して見せるなどのことを実施すべきと思います。

今後も、潜水艦を一切シミレーションに出さないとか、潜水艦で大規模な訓練をしないなど、いつまでも潜水艦を日陰者扱いしているようでは、せっかく海自の潜水艦からトマホークを発射できるようになっても多くの国民は萎縮し、中国は今後も尊大に振る舞い、日本などいとも簡単にひねりつぶせるかのように行動し続けることになりかねません。

【関連記事】

中印の係争地で両軍が衝突、双方に負傷者 同地域では昨年9月にも…依然として緊張が続く―【私の論評】中国の台湾侵攻ファンタジーより中印国境紛争のほうが、はるかに深刻な現実的脅威(゚д゚)!

中国「台湾侵攻」の“大嘘”…! 日本で報じられない「米軍トップ」の“意外すぎる発言”の中身と、日本人の“低すぎる防衛意識”…!―【私の論評】少し調べれば、中国が台湾に侵攻するのはかなり難しいことがすぐわかる(゚д゚)!

ペロシ訪台の陰で“敗北”した人民解放軍―【私の論評】海中の戦いでも負けていたとみられる中国海軍(゚д゚)!

すでに米国にも勝る?中国海軍の大躍進―【私の論評】中国海軍は、日米海軍に勝てない!主戦場は経済とテクノロジーの領域(゚д゚)!

日本をうまく利用した中国、台湾と尖閣も必ず狙ってくる 関係を見直す時期ではないか―【私の論評】ODA と超円高と中国の日本浸透を許すことで、中国を怪物に育てあげてきた日本(゚д゚)!

2018年11月22日木曜日

シュライバー米国防次官補単独会見 米、中国海軍と海警、海上民兵の一体運用による尖閣奪回を警戒―【私の論評】冷戦Ⅱで日本は尖閣から中国を排除しやすくなった(゚д゚)!

シュライバー米国防次官補単独会見 米、中国海軍と海警、海上民兵の一体運用による尖閣奪取を警戒

シュライバー米国防次官補
【ワシントン=黒瀬悦成】シュライバー米国防次官補が21日、産経新聞との単独会見で東シナ海での中国海警局の公船や漁船に乗り込んだ海上民兵に対して厳しく対応していく姿勢を打ち出したのは、これらの勢力が実質的に中国人民解放軍の指揮下にあり、「非軍事組織」を装いつつ中国軍と事実上一体となって尖閣諸島(沖縄県石垣市)の奪取に動くことを強く警戒しているためだ。

 日本の海上保安庁に相当する中国海警局は7月、中央軍事委員会の傘下にある人民武装警察部隊(武警)に編入された。軍の指導機関である軍事委の傘下に入ったことで、沿岸警備とは別に中国海軍と連携した軍事行動をとる恐れがあるとの懸念が強まっている。

 また、米海軍大学校のアンドリュー・エリクソン教授は軍事専門誌で、中国の海上民兵が「人民解放軍の指揮命令系統に組み込まれ、国家主導の作戦で運用されている多数の証拠がある」と指摘。エリクソン氏は、これらの海上民兵をウクライナの分離独立派を支援するロシア軍要員「緑の小人」にちなんで「青い小人」と名付け、米国としてもその実態を白日の下にさらすべきだと訴える。

 さらに、米議会の超党派政策諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」が14日に発表した年次報告書によると、中国海軍は今年、原子力潜水艦やフリゲート艦を尖閣諸島の接続水域に初めて侵入させ、軍用機の訓練飛行を頻繁に実施するなど、尖閣をめぐる日本の主権と施政権を否定する行動を繰り返している。

 日中首脳は10月の首脳会談で東シナ海を「平和・協力・友好の海」とすることを確認したが、中国による行動は発言とは正反対といえる。米国防当局者によると、マティス国防長官は10月、シンガポールでの魏鳳和国防相との会談で、この問題に関する米国の懸念を明確に伝えたという。

 北朝鮮問題に関しては、「交渉は外交官に任せる」として国務省主導の非核化協議を支援する立場を打ち出す一方、「北朝鮮との間では幾つかの信頼醸成措置が取られたものの、北朝鮮は通常兵力を全く削減していない」と指摘し、「北朝鮮は引き続き重大な脅威だ」と訴え、米韓同盟に基づく米軍駐留の必要性を強調。在韓米軍の削減をめぐる議論は「現時点で一切行われていない」とした。

 非核化協議を進展させる狙いから中止されている米韓の大規模合同演習を来年春以降に再開するかについては「北朝鮮の交渉態度が誠実かどうか次第だ」と指摘。これに関し国防総省は21日、今後の演習に関し、規模を縮小して実施するなどの選択肢を検討しているとする声明を発表した。◇

 ランドール・シュライバー米国防次官補 西部オレゴン州出身。海軍情報士官として湾岸戦争(1991年)などに参加後、ハーバード大で修士号(公共政策)取得。ブッシュ(子)政権下の2003~05年に国務次官補代理(東アジア・太平洋問題担当)を務めるなどした後、コンサルタント会社「アーミテージ・インターナショナル」をリチャード・アーミテージ元国務副長官らと共同設立した。アジア地域を専門とする政策研究機関「プロジェクト2049研究所」の代表も務めた。18年1月から現職。

【私の論評】冷戦Ⅱで日本は尖閣から中国を排除しやすくなった(゚д゚)!

海上民兵
昨日は海警については掲載したので、本日は海上民兵について掲載します。

海上民兵について、上の記事では詳細については掲載されていません。これは、どのような存在なのか、今一度振り返っておきます。

海上民兵は過去にすでに尖閣諸島付近に姿を現しています。2016年8月5日に尖閣諸島周辺に200~300隻にも上る中国漁船接続水域に現れました。その後、5日間にわたってこの海域にとどまり操業を続ける様子を、警戒にあたった海上保安庁の航空機がしっかりと映像に捉えていました。

「視界の及ぶ限り延々と中国漁船が浮かんでいました。この漁船団とともに最大で15隻もの中国海警局の公船が一体となって、日本の領海への侵入を繰り返していたのです。警戒にあたる巡視船の基本は、マンツーマンディフェンスですが、これほどの数だと、対応しきれません」(海上保安庁幹部)

現場からはさらに驚くべき動きが伝えられました。

「尖閣諸島周辺海域に押しかけた中国漁船に多数の海上民兵が乗船していたというのです。その数は100人を下らない。多くは漁船の船長として、乗組員である一般の漁民らを指揮していたと見られています」(同前)

今回だけでなく、近年、尖閣周辺に入り込む中国漁船に海上民兵が乗船するのは、もはや日常の光景と化しています。

「尖閣周辺の上空で毎日欠かさず警戒にあたる海上自衛隊の哨戒機P─3Cが捉えた中国漁船の写真には、海上民兵と思しき軍服を着た人物が乗り込み、船体には軍の識別番号、甲板には20mm連装機関銃を搭載した様子まで映っていた」(防衛省関係者)

そもそも海上民兵とは、漁民や民間の船会社の船員などのうち、軍事的な訓練を施され、必要に応じて漁船などで軍の支援活動をする者たちをいいます。漁業繁忙期には漁にいそしみ、漁閑期には国防を担うことで日当を政府からもらう、パートタイムの軍人というべきかもしれません。民兵(Min Bing)の略である、MBのワッペンや記章が付いた軍服を着て活動します。

中国民兵の肩章

中国国防法22条には、「人民の武装力は中国人民解放軍および予備部隊、人民武装警察部隊、民兵組織によって構成される」と謳われ、民兵は軍を所掌する中央軍事委員会の指導下にありますが、彼らはフルタイムで軍務に従事するわけではありません。その数は10万人以上とも言われるますが、正確には判明していません。

この海上民兵が米軍や自衛隊関係者の間で大きく注目されています。近年、急激に活動を活発化させているからです。

「2009年に海南島沖の公海上で米海軍の音響測定艦インペッカブルが、中国の海上民兵が乗り込んだトロール漁船などから執拗に妨害を受けるということがありました。

南シナ海で中国が進める人工島の埋め立て作業にも海南島などの海上民兵が動員され、さらに2015年から米軍が始めた『航行の自由』作戦に参加したイージス艦が、海上民兵が乗る武装漁船によって取り囲まれるという事態が二度にわたり起きたことを米太平洋艦隊の司令官が2016年5月に明らかにしています。

海上民兵は単なる半漁半軍の集団ではなく、米中の軍事的緊張の最前線に躍り出る存在となったのです」(同前)

その海上民兵たちの拠点となる漁村は、東シナ海および南シナ海に面した浙江省から福建省、広東省、海南省にかけての海岸線沿いに複数点在しています。日本の公安当局はその実態の把握に躍起となっています。

「浙江省や福建省などでは海軍の教育施設で海軍兵士と一緒に30日ほどの軍事訓練を受けており、その活動は海軍艦船への燃料や弾薬の補給から偵察、修理、医療など幅広く行います。なかには、機雷の設置や対空ミサイルの使用に習熟した民兵もおり、敵国艦船への海上ゲリラ攻撃を仕掛けるよう訓練された部隊もあるようです」(公安関係者)

この他にも中国が西沙諸島や南沙諸島などに作った人工島をあわせて新設した三沙市への移住を海上民兵に対して促すこともあるといいます。

1日あたり35元から80元(約500~1200円)の居住手当が支払われるといいますが、移住先の人工島で漁業などに従事させることで、中国領であるとの既成事実を作り上げようといしているのかもしれません。

以上のようなことから、海上民兵を日本の屯田兵のようなものとみなすことができると思う人もいるかもしれません。しかし、それは全くの間違いです。日本の屯田兵は、当時自他ともに自国領土とされる北海道に展開されていました。

屯田兵は、国境係争地等や他国領土、領海に配置されたことはありません。それは、あくまで軍隊が行っていました。屯田兵はあくまで、自国領地を守るという意味合いで設置されたものであって、中国の海上民兵とは全く異なるものです。

さて、このような海上民兵と闘うためにはどうすれば良いのでしょうか。

中国が尖閣諸島に多数の「漁民」を軽武装で上陸させてくる可能性があります。実際には民兵であるこれら「漁民」は人民解放軍の指揮下にある「漁船」で上陸し、日本側が出動させるヘリコプターに対してフレア・ガン(照明弾や発煙弾を発射する信号銃)を一斉発射して撃退することでしょう。

このような、尖閣攻撃は、中国側が日本のなまぬるい対応を事前に知っているためにその可能性が高くなってきました。

日本側は憲法上の規制などで尖閣に侵入してくる中国の軍事要員に対しても警察がヘリで飛来して、違法入国で逮捕し、刑事犯として扱おうとする対応を明らかにしています。だから中国側の偽装漁民はフレア・ガンでまずそのヘリを追い払うわけです。ヘリがフレア・ガンに弱いことはよく知られています。この場合、米軍の介入も難しくなります。

フレア・ガンを撃つ女性

日本に必要なのは、尖閣諸島を、重要施設が集中している「東京都千代田区」と同じにみなし、そこへの侵略は本格的な軍事作戦で撃退することです。日本側はいまその軍事反撃ができないことを内外に広報しているような状態であり、中国の侵略をかえって誘発する危険を高くしています。

日本は自国の防衛のために現実的かつ本格的な軍事作戦を遂行する意思や能力があることを示さねばならなりません。そのことこそが中国の軍事的な侵略や威嚇への抑止となります。

幸いなことに現在、トランプ大統領の安倍晋三首相への信頼度は高いです。トランプ大統領は、安倍氏をいまの世界で最高水準の指導者とみなし、日本をアメリカにとって第一の同盟国とみています。

現在トランプ政権では、対中国冷戦Ⅱを本気で実行している段階です。トランプ政権下では日本は中国に対して強い措置をとる際に従来のように米国政府にいちいち了解を求める必要はもうなくなりました。

2018年からは、米国はこれまでと異なる対中政策をとりはじめ、その結果、まったく新たな米中関係が始りました。この変化は日本にとっても、プラスが多いです。

もし中国が海上民兵を主体に尖閣上陸しようとした場合、日本が武力も含めて何らかの措置を講じ、海上民兵尖閣から排除した場合、米国は日本を同盟国としてさらに信頼することになるでしょう。

一方、世界の中で、中国、北朝鮮、韓国とごく一部の国を除いて、日本が海上民兵を排除したとしても、ほんどの国がそれを当然とみなし、非難する国はないでしょう。避難するどころか、中国の侵略や干渉に悩まされている国々からは賞賛の声があがることでしょう。

そうして、国内でも中国が武装海上民兵を尖閣に上陸させた場合、それを迅速に排除すれば、政府に対する信頼はますます深まるでしょう。野党は、大反対するかもしれませんが、これはかえって多数の国民から反発を買うことになるでしょう。

その逆に、海上民兵にやすやすと尖閣を奪取された場合、政府の支持率はかなり落ちることになるでしょう。これは、特に最近の政府の韓国に対する厳しい対応に対して、国民やマスコミなどから反対の声が起こらないことからも容易に推察できます。

もし、尖閣がやすやすと海上民兵に奪取された場合、普段野党は親中派・媚中派のようであるにもかかわらず、途端にあたかも反中派になったように、倒閣のために政府を大批判し、マスコミもこれに迎合し、これでもかこれでもかと政府の不手際を批判することになるでしょう。

その挙句の果てに、中国から大目玉を喰らって、意気消沈するなどの喜劇が発生するかもしれません。

このよなことにならないためにも、日本は法改正して、海保と海自が連携行動出来るようにすれば良いのです。当然海保の巡視艇は、中国の海警船並に、兵器を搭載します。敵の海警船と、我が巡視艇同士でも、砲撃戦が出来るようにしておくのが急務です。ことが大きくなったら海自の潜水艦やイージス艦が出て行けば良いのです。

また、予め中国に対して、海上民兵は軍事組織とみなすとはっきりと伝えておくことも重要です。

肝腎なことは、「中国は尖閣だけでなく、沖縄諸島を略奪することを企図している」ことをはっきりと表明していることです。これに対応するには妙案などありません。昨日もこのブログに示したように、迅速に行動することです。

いずれにせよ、トランプ政権になり冷戦Ⅱが始まってからは、日米の関係性からいって、日本は以前よりはるかに尖閣対応がやりやすくなったのは確かです。オバマ政権時代までには考えられないような対応ができるようになりました。

【関連記事】

米国で報告された尖閣周辺の「危ない現状」―【私の論評】尖閣有事には、各省庁が独自に迅速に行動しないと手遅れになる(゚д゚)!

米国が本気で進める、米中新冷戦「新マーシャル・プラン」の全貌―【私の論評】日本は中国封じ込めと、北方領土返還の二兎を追い成功すべき(゚д゚)!

2022年9月14日水曜日

トラス英首相の積極財政路線 日本との経済面では緊密関係 安全保障でも対中包囲網の強化を―【私の論評】本格的な「地政学的戦争」の先駆者英国と日本は、これからも協力関係を深めていくべき(゚д゚)!

日本の解き方


リズ・トラスト英首相

 英国でリズ・トラス首相が誕生したが、中国やロシア、欧州連合(EU)などとの関係は変わるのか。日本はどのように連携すべきか。

 就任したばかりのトラス氏は、早速1500億ポンド(約25兆円)規模のエネルギー費対策を発表した。

 トラス氏は保守党の党首争いで、リシ・スナク前財務相と争ったが、スナク氏が財務相経験者らしく緊縮路線だったので、党首争いの流れのまま、積極財政路線を貫いたのだろう。

 具体的には、家計のエネルギー料金の上限を2年間、年2500ポンド(約42万円)程度に抑える計画を発表した。

 家計の年間エネルギー代の平均は4月に54%値上がりして1971ポンド(約33万円)となり、10月には80%上昇して3549ポンド(約59万円)に達する見通しだった。今回の措置は4月よりは高いが、当初予定より引き下げる形になっている。

 英国では、インフレがひどい状況になっている。インフレ率は7月時点で10・1%と1982年2月以来の高水準だ。ロシアによるウクライナ侵攻が主原因であるが、英国がEUを離脱したため、安価な労働力が利用できなくなって、供給サイドの拡大もままならないことも背景にある。

 イングランド銀行(英中央銀行)は10月のインフレ率が13%を超えると予想している。政府は今回の措置がインフレ率を最大5ポイント押し下げると期待する。

 大規模財政出動を懸念する声もあるが、家計や企業が直面している問題の解決には財政出動は大きくないといけない。トラス氏は正しい方向の経済政策を実行しようとしている。

 経済面でいえば、EU離脱後の英国が各国との経済連携を模索する中、日本と経済連携協定(EPA)を締結した。当時の担当大臣はトラス氏だった。このため、経済関係では日本にとってなじみが深い。

 さらに、英国は日本主導の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)にも参加の意向を示している。これらの英国の取り組みは、日英にとって好ましいもので、経済関係ではかなり緊密になっているといえるだろう。

 筆者は、日英関係を経済だけに限らず、安全保障まで広げたらいいと思っている。

 もともと経済圏と安全保障圏は、EUと北大西洋条約機構(NATO)との関係を見ればわかるように、かなりオーバーラップしている。経済関係と安全保障関係は互いに補完的であるので当然のことだ。

 であれば、日英が安全保障関係でも連携するのは自然だ。日米安保の関係は揺るぎないが、日本としては英国との関係があってもいい。かつて、日英同盟があり、当時の日本は輝いていた。いま第2の日英同盟があれば、対中包囲網がより強化されるだろう。これをオーストラリアやニュージーランド、さらにはインドまで広げると、対中戦略はかなり万全になるはずだ。

 日本の周辺には、中国、ロシア、北朝鮮と3つも専制国家があり、世界の危険地帯だ。日本の安全保障のためには、民主主義の同盟国が多いほどいい。そのカギを英国は持っている。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】本格的な「地政学的戦争」の先駆者英国と日本は、これからも協力関係を深めていくべき(゚д゚)!

実は、日英には大きな共通点があります。それについては、あまり語られることもないのですが、本当に重要な共通点があります。それについては、以前このブログでも述べたこがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米空母カールビンソン、ベトナム・ダナンに寄港 戦争終結後初 BBC―【私の論評】新たな日米英同盟が、中国の覇権主義を阻む(゚д゚)!
この記事は、2018年のものです。詳細は、この記事ご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
日本と英国といえば、昨年は事実上の日英同盟の復活がありました。2017年8月30日、英国のテリーザ・メイ首相が日本を訪問しました。アジア諸国の歴訪でもなく、メイ首相はただ日本の安倍晋三首相らと会談するためにだけに、日本にまで出向いて来たのです。その目的は、英国と日本の安全保障協力を新たな段階に押し上げることにありました。
日本を訪問した英メイ首相と安倍首相
英国は1968年、英軍のスエズ運河以東からの撤退を表明しました。以来、英国はグローバルパワー(世界国家)の座から退き、欧州の安全保障にだけ注力してきました。ところが、その英国は今、EUからの離脱を決め、かつてのようなグローバルパワーへの返り咲きを目指しています。

そして、そのために欠かせないのが、アジアのパートナー、日本の存在です。日本と英国は第二次世界大戦前後の不幸な時期を除いて、日本の明治維新から現代に至るまで最も親しい関係を続けてきました。

日本の安倍首相とメイ首相は「安全保障協力に関する日英共同宣言」を発表し、その中で、「日英間の安全保障協力の包括的な強化を通じ、われわれのグローバルな安全保障上のパートナーシップを次の段階へと引き上げる……」と述べ、日英関係をパートナーの段階から同盟の関係に発展させることを宣言しました。

そして、「日本の国際協調主義に基づく『積極的平和主義』の政策と英国の『グローバルな英国』というビジョンにより」と述べ、英国がグローバルパワーとして、日本との同盟関係を活用して、インド太平洋地域の安定に関与していく方針を明確にしました。

この突然ともいえる、日英同盟の復活ですが、これにはそれなりの背景があります。日英はユーラシア大陸の両端に位置しているシーパワーであり、その安全のためにユーラシアのランドパワーを牽制(けんせい)する宿命を負っているといえます。
ユーラシア大陸の両端に位置する海洋国家、英国と日本
日本は中国の海洋進出を警戒しているし、英国はロシアの覇権を抑え込んできました。英国はロシア、日本は中国と別々の脅威に対峙しているようにも見えますが、日本と英国は、ユーラシアというひとかたまりのランドパワーを相手にしているのであって、本質的には同じ脅威に対峙しているのです。

そうして日英同盟は結局、日英米の三国による同盟関係の追求に発展することでしょう。それは覇権の三国同盟ではなく、新しい安全保障の枠組みとしての「平和と安定の正三角形」になることでしょう。そうして、それこそ、新日英同盟の本当の意味があり、それが実現すれば、日本の国際的地位と外交力は飛躍的に向上することになるでしょう。

昨日は、このブログでユーラシア大陸の中国とロシアについて述べました。 これも以下に引用します。

NATOには、ベルギーに欧州連合軍最高司令部という司令部があります。しかし、両国にはこれに相当するような両国統一の司令部がないですから、一緒に戦えるとは考えられませんし、戦おうともしていないと考えられます。
欧州連合軍最高司令部
 
両国による合同軍事演習や訓練は、政治的なデモンストレーションに過ぎないと考えられます。もちろん政治的な意味はありますし、それを無視するべきでもありませんが。しかし、彼らの動きは極めて戦術的で便宜的な部分が多いと考えられます。ただ、これからロシアや中国を追い込めば追い込むほど、お互いの絆は強まることにはなるでしょう。

しかし、仮にロシアが米国との関係を改善できるのなら、中国そっちのけで米国に専念することになるでしょう。中国も同じでしょう。現在は、米国と対立しているから互いに相手を利用しようとしているだけです。

9月15日からウズベキスタンで習主席とプーチン大統領の会談が行われることになっていますが、これは、どちらから声を掛けたかはわかりませんが、習近平がプーチンに会いたくて会いに行くというわけではないでしょう。

むしろ中国としては、ここまで来てしまった以上、ロシアをある程度は支援せざるを得ないのですが、米国との関係もあり、ロシアを支援しすぎると米国との関係がこじれるので、それ以上リスクを取ってまでロシアにのめり込むことはしないでしょう。

ただ、習近平は、北京オリンピックの直前に、北京でプーチンと首脳会談をし、そうして共同声明を出し、「中国とロシアの友情にリミットはない」と発言してしまいました。

当初はもっと早くロシアのウクライナ侵攻はは、終わると考えていたのでしょう。しかし、これだけ戦争が長続きしてロシアに対する反発が高まれば、当然、ロシアに関与しているとみられる中国に対する批判が激しくなることになります。

中国はそのことにやっと気が付いたようで、ずいぶん軌道修正をしました。それ以来、中国はロシアに対して必ずしも完全に支持しているわけではありません。急に状況が変わったとは考えられず、ロシアとはつかず離れずになると思います。

ただ、ロシアを完璧に切るわけにはいかないでしょう。そうすれば、米国が中国に強く出る可能性もあるので、ロシアに頑張ってもらわないといけないです。でも、中国がロシアを最後まで支持して運命を共にすることはないでしょう。

何しろ、中露はかつて中ソ国境紛争で戦った仲です。現状では、戦術的には結びついてはいますが、元々はユーラシア大陸で覇権を争う、隣国同士です。現状では、人口でも経済でも、中国がロシアを圧倒しているということと、米国との関係が、両国とも悪くなっているので、今は結びついていますが、いずれかが米国との関係さえ良くなれば、米国側に近づくことが戦術ということになります。

今は、影を潜めていますが、根の部分では敵対していると見るのが、正しい見方であると考えられます。両国とも米国との関係が改善されなくても、中国の経済がかなり悪くなれば、その根の部分が表に出てきて、両国関係は悪化することになるでしょう。
中国とロシアは、根底ではユーラシア大陸の覇権をめぐり互いに争う、覇権国家ですが、現在では、ロシアのGDPは韓国より若干下回る程度です。中露ともに一人あたりのGDPは1万度を若干上回る程度に過ぎませんが、ロシアの人口は1億4千万人であり、中国の人口は14億人であり、経済では中国が、ちょうどロシアの十倍程度の規模です。

この状態では、中露が現状で対峙することは得策ではないことが明らかであり、そのため中露は戦術的に結びついています。

そうして、中露はいずれもランドパワーの国であり、中露ともに海軍を有していますが、その実力はやはり未だランドパワーの国の海軍であり、いまでも日英におよばないです。

特に、日英には強力な潜水艦隊が存在しています。日本は、通常動力のステルス性に優れた22隻の潜水艦艦隊を持ち、これは対潜哨戒能力が未だ低い、中露を脅かしています。英国はアスチュート級を7隻建造する計画で、2007(平成19)年6月に1番艦「アスチュート」が進水、2010(平成22)年8月に就役して以降、これまでに4番艦「オーディシャス」までが同海軍に引き渡されていました。

さらに、今年就役した「アンソン」は2011(平成23)年10月13日に起工。約10年後工期を経て2021年に進水し、今年8月31日に就役し海上公試に入りました。

水中排水量は約7700トン、全長97m、全幅11.3m。乗員数は約100名(最大109名)で、ロールス・ロイス製の加圧水型原子炉「PWR2」を1基搭載し、速力は30ノット(約55.6km/h)。533mm魚雷発射管を6門備え、国産の「スピアフィッシュ」魚雷のほか、アメリカ製の「トマホーク」巡航ミサイルなどを装備しています。

これらは、攻撃型原潜であり、現在の攻撃型原潜として最新型であるとともに、かなりの攻撃力があります。米国にも攻撃型原潜が多数あるのですが、旧式化しつつあるため、今後の製造計画から、一時的に攻撃型原潜の数が減るこどか予想され、まさにそれを補うのが英国の攻撃型原潜であるといえます。

英国はいわゆる「グローバル・ブリテン」を標榜していますが、現在では空母「クイーン・エリザベス」による空母打撃群だけでは、役不足であり、この裏付けとなるのが、まさにアスチュート型攻撃型原潜であるといえます。

日英は、対潜哨戒能力でも中露を大幅に上回る能力を有しており、そのため対潜戦闘力はかなり強いです。実際に日英・中露が海戦ということになれば、中露はかなり不利です。中国は艦艇数は多いですが、対潜哨戒力が劣っており、実際に海戦ということになれば、かなり苦しい戦いを余儀なくされることになります。ロシアも同じです。

これに、シーパワーの雄である、米国が加わり、日米英で、中露と対峙ということになれば、中露としては絶望的です。中国海軍のロードマップによれば、2020年には第二列島線を確保することになっていましたが、それどころか、2022年の今年になってすら、台湾や尖閣諸島を含む第一列島線すら確保できていないという現実が、それを如実に示しています。

ランドバワー国が、シーパワー国になるのは、そう簡単なことではないのです。ランドパワー国が、多数の艦艇を建造して、海洋に乗り出したからと言ってそれで、すぐにシーパワー国になれるわけではありません。そうして、ランドパワーの国と、シーパワーの国が海で戦えば、ランドパワー国にはほとんど勝ち目はないのです。

現在の中国は鄧小平が劉華清(中国海軍の父)を登用し、海洋進出を目指した時から両生国家の道を歩み始めました。そして今、それは習近平に引き継がれ、陸海併せ持つ一帯一路戦略として提示されるに至っています。しかしこれは、マハンの「両生国家は成り立たない」とするテーゼに抵触し、失敗に終わるでしょう。

劉華清(中国海軍の父)

事実、両生国家が成功裏に終わった例はありません。海洋国家たる大日本帝国は、大陸に侵攻し両生国家になったため滅亡しました。大陸国家たるドイツも海洋進出を目指したため2度にわたる世界大戦で滅亡しました(ドイツ第2、第3帝国の崩壊)。ソビエト帝国の場合も同じです。よもや、中国のみがそれを免れることはないでしょう。一帯一路を進めれば進めるほど、地政学的ジレンマに陥り、崩壊への道を早めてゆくことになります。

そうして、もう一つ忘れてはならないことがあります。英国は、地政学的戦いの先駆者であるという事実です。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

米中の争いも、軍事的なもので本格的に対峙すれば、互いに核保有国であり、最終的には核ミサイルの打ち合いになりかねません。そのため、軍拡競争的なことはするでしょうが、互いに真正面から軍事衝突することはしないとみられます。そうなると、米中の本格的な争いの領域は「地政学的」なものにならざるをえません。

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。これは、かつての英国がアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

中国企業がスパイ行為などにより技術の窃盗を繰り返したり、貿易のルールを平然と破ったりするのは、それがビジネスであると同時に、国家による戦争だからです。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎(とが)め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

そうして、英国は本格的な「地政学的戦争」における、先駆者であるのです。香港を中国に蹂躙された英国としては、その憤りをいずれ何らかの形で晴らそうとするのは当然であり、その意味でも日英は手を携えるべきです。

日本にとっては、これから中国と対峙していく上で、英国は強力な助っ人となるのは確かであり、EUを脱退した英国としてもTPP加入は、念願であり、日英の協力関係は、今後ますます強めていくべきです。

【関連記事】

ロシアが北朝鮮に頼るワケ 制裁と原油価格低下で苦境 「タマに使うタマがないのがタマに傷」日本の自衛隊も深刻、切羽詰まる防衛省―【私の論評】中国がロシアを最後まで支持して運命を共にすることはない(゚д゚)!


台湾・蔡英文総統、20日退任 存在感向上、末期まで支持失わず―【私の論評】蔡英文政権の成功と、 アジアのリーダーにありがちな金融財政政策の失敗

台湾・蔡英文総統、20日退任 存在感向上、末期まで支持失わず まとめ 蔡英文総統は2期8年の在任中、米国など国際社会との連携を強化し、台湾の存在感を高めた。 中国との対話は実現せず緊張が続いたが、極端な言動は控え、武力行使の口実を与えなかった。 防衛力強化と米国との安全保障協力を...