2021年5月18日火曜日

〝イスラム教徒の幻滅〟がイスラム過激派を衰退させた―【私の論評】そもそも統治の正当性がなかったイスラム過激派が衰退したように、中共もこれから衰退する(゚д゚)!

〝イスラム教徒の幻滅〟がイスラム過激派を衰退させた

岡崎研究所


 オサマ・ビン・ラーデンが2011年5月2日の米軍による「ネプーチュンの槍」作戦で殺害されてから丁度10年を迎えた。この間、ほとんどのイスラム・テロは、米国と西側を標的とするグローバルな脅威から、ローカルな活動しかなし得ない存在へと変わった。アフガンのタリバン、ナイジェリアのボコハラム、アフリカの角のアル・シャバーブなどである。また、アルカイダは今や中心的な司令部もイデオロギーもない民兵組織に分散してしまったし、資金力のある「イスラム国」も作戦し得る場所としてはモザンビークなどの不安定な場所しかない。

 2001年の9・11同時多発テロが与えた衝撃は大きく、米国をはじめ、パニックに見舞われた状況であった。その中で、本来はそうではないはずのイスラムのテロが、戦略的脅威であるかのように見られるようになっていた。しかし、イスラム過激派によるテロは、かつては国際政治の中心的な課題であったが、今はそうではなく、若干の国において、その国の問題としてくすぶっているような問題になったと言ってよい。したがって、バイデン大統領がアフガンからの米軍の9月撤退を決めたのも是認される状況であると思われる。

 イスラム過激派の脅威がこのように小さくなったのは、米国を先頭に各国がその抑え込みに努力したことも大きいが、政治的イスラムの自壊という側面も大きいように思われる。ワシントン・ポスト紙コラムニストのファリード・ザカリアは、イスラム過激派のテロがローカルな存在に縮小した原因について、4月30日付けの同紙コラム‘Ten years later, Islamist terrorism isn’t the threat it used to be(10年経ち、イスラム・テロはかつてのような脅威ではない)’において、政治的イスラムが一部のイスラム教国の国家権力の一部分になったが実績が芳しくなく大多数のイスラム教徒を幻滅させたためである、という説を紹介している。このザカリアの論説には賛成できる。

 ザカリアは、「政治的イスラムを育てた土壌、現在の政権への不平、不満と宗教指導者への盲目的信頼は急速に減少した」、「今あるのはローカルな問題、不満であるが、これは世界的な運動の一部ではない」などとも指摘する。その通りであろう。
 
 アラブ諸国が今後どう発展していくのか、そこで近代化とイスラムがどう折り合っていくのかは難しい問題である。宗教の自由を尊重する自由民主主義は、一つの回答になり得ると思われる。

 なお、ザカリアは、米国には脅威を誇張する伝統があるが、それは避けるべきである、と言っている。これ自体は適切な指摘であるが、対中政策を念頭に置いてそう言っているのであるとすれば異論がある。米国の今の対中脅威認識は誇張されているとは思われない。香港の1国2制度は国際条約で2047年まで続くことになっていた。この条約を破った上に、香港政策はすべて中国の内政事項という主張は全く認められないことである。台湾への武力行使も内政問題ではありえない。米国の現在の対中政策は、脅威の誇張とは評価しがたい。

【私の論評】そもそも統治の正当性がなかったイスラム過激派が衰退したように、中共もこれから衰退する(゚д゚)!

上の記事を読んで、私自身は、イスラム教徒の幻滅自体がイスラム過激派を衰退させたわけではないと思います。もちろんその側面は大きいですが、それだけではありません。やはり、大きいのは統治の正当性を失ったというか、元々それがなかったことが大きいと思います。

無論、イスラム教徒の幻滅がイスラム過激派の正当性を失わせたという側面も否めないですが、それだけではないでしょう。


あらゆる組織のリーダーには、正当性が要求されます。政府や大企業の本部などにも統治の正当性が求められます。それを失えば、すべての組織が瓦解します。

ドラッカーはリーダーの正当性について以下のように語っています。
社会においてリーダー的な階層にあるということは、本来の機能を果たすだけではすまないということである。成果をあげるだけでは不十分である。正統性が要求される。社会から、正統なものとしてその存在を是認されなければならない。(『マネジメント──基本と原則[エッセンシャル版]』)
企業、政府機関、非営利組織など、あらゆる組織にとって、本来の機能とは、社会のニーズを事業上の機会に転換することです。つまり、市場と個人のニーズ、消費者と従業員のニーズを予期し、識別し、満足させることです。

さらに具体的にいうならば、それぞれの本業において最高の財・サービスを生み出し、そこに働く人たちに対し、生計の資にとどまらず、社会的な絆、位置、役割を与えることです。

しかしドラッカーは、これらのものは、それぞれの組織にとって存在の理由ではあっても、活動を遂行するうえで必要とされる権限の根拠とはなりえないとしています。神の子とはいえなくとも、少なくともどなたかのお子さんである貴重な存在たる人間に対し、ああせい、こうせいと言いえるだけの権限は与えないといいます。

ここにおいて、存在の理由に加えて必要とされるものが、正統性です。ドラッカーは
「正統性とは曖昧なコンセプトである。厳密に定義することはできない。しかし、それは決定的に重要である」としています。

かつて権限は、腕力と血統を根拠として行使されました。近くは、投票と試験と所有権を根拠として行使されています。

しかしドラッカーは、マネジメントがその権限を行使するには、これらのものでは不足だといいます。

社会と個人のニーズの充足において成果を上げることさえ、権限に正統性は与えないというのです。一応、説明はしてくれます。だが、それだけでは不足なのです。腹の底から納得はされないのです。

マネジメントの権限が認知されるには、所有権を超えた正統性、すなわち組織なるものの特質、すなわち人間の特質に基づく正統性が必要とされるというのです。
そのような正統性の根拠は一つしかない。すなわち、人の強みを生かすことである。これが組織なるものの特質である。したがって、マネジメントの権限の基盤となるものである。(『マネジメント[エッセンシャル版]』)
強みを生かすことは組織特有の機能です。ドラッカーは、組織における権力の正統性の基盤も、この人の強みを生かすという組織の機能に置くべきであるとまでいっているのです。

それは、国も同じことです。人の弱みではなく、強みを活かすことができる社会を構築しなければならないのです。そのために、政府がすべきことは、まずは民主化です。民主化されていない社会では、人の強みを活かすことなどできません。

さらに、政治と経済を分離することです。これができなければ、政府が経済に直接介入することになり、人は組織の強みを脅かし続けることになります。これでは、人や組織の強みを活かすことはできません。

そうして、法治国家です。法のもとで、万民が法のもとで平等でなければ、人や組織の強みを活かすことはできません。

これらが成就されて、はじめて、人やその集まりであるあらゆる組織の強みを活かすことができるのです。

組織といえども、人それぞれが持つ弱みを克服することはでません。しかし、組織は人の弱みを意味のないものにすることができます。

これらができて、はじめて富裕層だけではなく、星の数ほどの多数の中間層が生まれ、これらが自由に社会経済活動ができるようになります。

そうして、彼らが自由に活動して、あらゆる地域、あらゆる階層において、イノベーション(ドラッカーは、技術革新ではなく、社会を変革するのが真のイノベーションであるとしています)を成し遂げます。かつて、これを成し遂げた国だけが、先進国になることができました。

それ以外の国は、たとえ経済成長したとしても、一人あたりの所得が100万円前後で止まってしまいました。これを中所得国の罠と呼んでいます。これには、サウジアラビアなどのほんの僅かの例外しかありません。また、発展途上国から先進国になったのは、日本だけです。それとは、逆に先進国から発展途上国になった国は、アルゼンチンだけです。

現在まで、順調に経済成長してきた中国の一人あたりのGDPは現在100万円前後になっています。ここから先は中国は中所得国の罠にはまって経済成長はとまってしまうでしょう。

3月18日 米中外相会談

3月18日米国と中国の外交のトップ会談で激しい言葉の応酬がありました。中国側は「中国共産党の地位は人民が選んだものだ」と述べ、米国側に共産党による指導の正当性を強調しました。

中国国営の新華社によりますと、会談で中国側は台湾問題に触れ、「いかなる妥協の余地もない」と述べ、米国が進める政府高官の台湾訪問や武器売却の中止を求めました。

香港を巡っては「選挙制度の変更は内政問題だ」として民主派の排除を進める愛国者による統治の決定を尊重するよう要求しました。

また、米国がウイグル族への弾圧をジェノサイド(大量虐殺)と認定したことには「今世紀最大の嘘だ」と反発しました。

こうした主張に先立ち、中国側は「中国共産党は人民が選び14億人に心から支持されている」と述べ、共産党体制を正当性を強調しました。

中国の王毅外相は米国を強く牽制(けんせい)したと明らかにし、外交担当トップの楊潔篪(ようけつち)政治局委員は会談は有益だったとしつつ、「双方に重要な相違点がある」とも指摘しました。

さて、中国共産党政権には、統治の正当性があるのでしょうか。私は、そうではないことが、今後中国が経済成長しないことによって立証されると思います。無論、中国の経済統計はほとんどデタラメなので、中国政府は政治的メッセージとして、これからもデタラメな統計を出して、他国を幻惑し続けるでしょうが、真実を変えることはできません。

他国に比較して、ほとんど変動しない中国の不思議な経済成長率

たとえば、貿易統計をみていると、当該国が成長しているかどうかをかなりの程度まで推測できます。一般にどの国でも、景気が良いと輸入が増えます。これによって、当該国の景気が良いのか悪いのかかなりの程度まで推測できます。しかも、輸出・輸入統計は相手国があるため、相手国の統計をみればわかります。それ以外にも多くの経済学者らが、中国の真のGDPを知るてがかりを得つつあります。

現在、中国は近い将来米国の経済を追い抜くなどと予測する識者もいるようですが、それは全くの間違いです。それは、現在の中国経済をみていてもわかりますが、中国共産党の統治の正当性は、わざわざ米中外交のトップ会談で大声で主張しなければならないほど低いことからも、容易に理解できます。

本当に正当性があるなら、それをわぞわざ、外国に来てまで主張することはありません。正当性があるなしは、本来中共が主張するものではなく、中国の多くの人民が決めるべきものです。民主化、政治と経済の分離、法治国家化がされていない中国では、多くの人民が中共の正当性を認めているるとは、とても思えません。

もし、中共が認めているとするなら、それは武力を背景に無理やりそういわせているか、人民が他の世界の社会制度こを熟知していないからにすぎないです。

そうして、そもそも統治の正当性がなかったイスラム過激派が衰退したように、中共もこれから衰退していくでしょう。

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2021年5月17日月曜日

中国念頭の共同訓練、日米豪仏「参加定例化」へ 陸上部隊による国内初の実動訓練 中国は新たに強襲揚陸艦の開発―【私の論評】台湾有事で中国の艦艇や潜水艦が、港を出た途端に全艦撃沈の憂き目に会いかねない(゚д゚)!

中国念頭の共同訓練、日米豪仏「参加定例化」へ 陸上部隊による国内初の実動訓練 中国は新たに強襲揚陸艦の開発


 自衛隊と米国、フランス、オーストラリア各国軍による離島防衛の能力向上を目的とした共同訓練「アーク21」は17日、最終日を迎えた。軍事的覇権拡大を進める中国は、沖縄県・尖閣諸島や台湾への野心をあらわにしている。先週末に公開された日米仏の共同訓練は、離島への着上陸と市街地戦闘などが想定された。3カ国の訓練は今後定例化されるという。

 「太平洋国家として日米と認識を共有している。今後も日本で訓練を続け、相互運用能力の向上を図りたい」(仏陸軍のマルカイユ中佐)

 「フランスが参加し、良い機会となった。戦術技能の共有は重要だ」(米海兵隊のネルソン中佐)

 米仏の指揮官は、今回の共同訓練の意義をこう強調した。

 陸自は15日、宮崎県えびの市と鹿児島県湧水町にまたがる霧島演習場で、仏陸軍、米海兵隊との共同訓練を報道関係者に公開した。演習場を離島に見立てて、陸自のCH47大型輸送ヘリコプターから部隊を投入する「ヘリボン」作戦や空港のターミナルビルを占拠した敵を掃討する想定の市街地戦を展開した。日米仏の陸上部隊が日本国内で実動訓練したのは初めて。

 オーストラリアも交えた東シナ海での海上訓練と合わせ、4カ国は九州周辺で離島防衛の能力向上を主な目的とした訓練を行った。

 中国が、東・南シナ海で軍事的緊張を高めるなか、水陸両用作戦の実戦的な内容を誇示し、牽制(けんせい)する狙い。今後も連携を強化する考えだ。

 こうしたなか、中国軍の看過できない動向が報じられた。

 香港誌、広角鏡は17日までに、中国が新たに「076型」強襲揚陸艦の開発を進めていると報じた。大型ステルス無人攻撃機「攻撃11」の搭載を計画しているという。

 中国軍は4月、習近平国家主席が出席して、初の強襲揚陸艦「海南」(075型)の就役式を海南省三亜(海南島)の軍港で行った。尖閣や台湾侵攻を想定した装備とみられ、推定排水量約4万トンは米軍のワスプ級強襲揚陸艦に匹敵する。同誌によると、076型は空母に相当する戦力になるという。

 日本政府は、6月に英コーンウォールで開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせて、日本と米国、オーストラリア、インドの4カ国による戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」首脳会談の開催を検討している。

 クアッドに、英国やフランスなどを加えた自由主義陣営の包囲網で、中国の軍事的暴走を阻止するしかない。

【私の論評】台湾有事で中国の艦艇や潜水艦が、港を出た途端に全艦撃沈の憂き目に会いかねない(゚д゚)!

海上自衛隊が14日、米仏豪と実施中の離島防衛訓練「アーク21」で、東シナ海で艦艇が隊形を組んで航行する画像を公開しました。 「アーク21」は11~17日の日程で11隻が参加しています。

この4ヵ国が東シナ海で揃う訓練は初めてで、結束をアピールして尖閣諸島や台湾の情勢を巡り緊張関係にある中国を強く牽制する狙いとみられます。

自衛隊と米仏豪各国軍による共同訓練「アーク21」の開始式=11日午後、長崎県佐世保市

陸上自衛隊も14日から霧島演習場で仏陸軍、米海兵隊との演習をしており、15日には九州西方沖の艦艇から演習場に部隊を送り込む水陸両用作戦を想定した演習をします。

陸上自衛隊、米海兵隊、仏陸軍の兵士約200名が5月15日に雨の中霧島演習場へCH-47で降着ししました。

これは11日に開始された日米仏共同演習ARC 21の一環で、15日には東シナ海で3ヵ国にオーストラリアも加わり11隻が共同訓練を行いました。

もし、近い将来に台湾が戦場になれば、日本政府が真っ先にやるべきは邦人救出です。

台湾には現在約2万人の邦人がいますが、これはコロナ禍で減った数字で、収束して元の水準に戻れば4万人にもなります。それこそ中国から弾道ミサイルが撃ち込まれている中で、これだけの人数をどう救出することになるのでしょうか。

具体的には、オスプレイを活用して在留邦人をピックアップし、輸送機C2、もしくは政府専用機に乗せて帰国させることになるでしょう。場合によっては、陸自の特殊作戦群(特殊部隊)の投入もあり得るでしょう。
陸自のオスプレイ

自衛隊が防衛出動した場合、何ができるのでしょうか。海洋国日本の自衛隊が大きな力を発揮するのが、“海の中”です。

このブログでも過去に何度か述べてきたように、自衛隊が台湾有事で活躍できるのは潜水艦の運用です。P1やP3Cといった哨戒機で、中国の潜水艦の位置を探知します。その位置情報を米軍に伝え、米艦艇が対潜ミサイルなどで沈めることになるでしょう。自衛隊機が対潜魚雷などで沈めることもできるでしょう。

海自の『そうりゅう』型やその後継の『たいげい』型は世界最高性能を誇る通常型潜水艦で、性能の高さだけでなく、世界最強の米海軍と共同訓練を行なっているので、練度も高いです。

洋上を機動する中国海軍の空母をはじめとする水上艦艇に対しては、高性能の魚雷やハープーン対艦ミサイルで攻撃できます。もちろん中国潜水艦に対しても優位に戦う能力があります。日本の潜水艦が展開するだけで、中国海軍の行動を牽制することができるでしょう。

敵の潜水艦を駆逐する戦闘でも、自衛隊のほうが圧倒的に有利です。対潜水艦では索敵能力が極めて重要で、先に相手を発見したほうが勝つとされています。

海自の対潜能力(ASW)は世界一とも言われています。海上自衛隊はその誕生から、対潜水艦作戦に重点を置いてその能力向上に努めてきました。保有する護衛艦には最新鋭の対潜装備の他、高性能の哨戒ヘリコプターも搭載しています。さらにP1およびP3C哨戒機も多数保有しており、これらを駆使して水中の敵潜水艦を探知して捕促し、対潜魚雷、対潜ロケット、対潜弾投射機で攻撃します。

台湾有事では、表では米中がドンパチやっている中で、文字通り水面下で、潜水艦による“神経戦”が繰り広げられることになるでしょう。日中開戦となれば中国がもっとも恐れるのは海上自衛隊の対潜能力と潜水艦戦力です。

それとともに、軍事衝突の行方は日本の準備と覚悟にかかっているでしょう。

現状の法制度では、台湾有事に自衛隊が本来持つ能力を発揮するのは難しいです。ただ、自衛隊の軍隊としての能力は中国軍を上回っていると見て間違いないです。中国の装備は徐々に向上していますが、まだ自衛隊のほうがレベルが高く、隊員の練度も中国よりかなり高いです。正面からぶつかれば自衛隊は中国軍に負けることはありません。

制度を整え米軍と一緒に作戦を行なえるのだとすれば、複数の安保シンクタンクの台湾有事のシミュレーションで中国が勝つとなっていたシナリオ等、簡単に覆すことができるでしょう。

ただ、制度が整うのを待っていれば、時宜を逸する可能性も否めません。ところが、最近菅政権は、超法規的措置を実行に移しました。それは、コロナワクチンを歯科医も打てるようにすると公表したことです。医師法によれば、治療目的などで、注射を打てるのは医師・看護師だけです。歯科医は口腔外科などでは、麻酔の注射をすることはありますが、それ以外の治療目的での注射はできません。

これは、先日も述べたように、戦後4度目の数十年ぶりの措置です。結局まともに国会審議などをしていれば、野党がのらりくらりとして、はなはだしいときには、審議拒否などして結局何も決まらないという事態が想定されたので、超法規的措置に踏み切ったのでしょう。

菅総理は、場合によっては、このような超法規的措置を実行する腹づもりがあるということです。本来ならば、このような超法規的措置については、戦争につながるなどとマスコミや野党が大騒ぎすべきなのでしょうが、今のところそのような動きは全くありません。これは、おそらく、国民の反発をかなり恐れてのことでしょう。

もし、そのようなことをすれば、マスコミや野党は、人非人のように多くの国民から謗られ、完璧に信頼を失ってしまうような事態を想定しているのかもしれません。

このブログでも述べたように、台湾有事になってからでも遅いことなどまったくなく、日米の潜水艦隊が台湾を包囲すれば良いのです。その他の空母や艦船などは、プラスアルファ程度であると考えて良いです。先にも述べたように、台湾有事は、日米の潜水艦隊によって戦われ、大勢が決まることになります。

日本の潜水艦は、静寂性( ステルス性)を利用し、台湾付近の海域を自由に動きまわり、情報を収集し、その情報を米軍の攻撃力に優れた攻撃型原潜と共有し、米軍原潜が中国の補給船や、補給用の航空機を撃破するという方式を実施すれば良いのです。

中国側は、日本の潜水艦を全く探知できないし、米国の潜水艦も発見しにくいです。米国の対潜能力(ASW)も世界一の水準です。これは日米にかなり有利な展開となります。中国が、強襲揚陸艦「海南」(075型)を台湾に覇権すれば、間髪いれず、日米の潜水艦隊がこれをすぐに撃沈することになるでしょう。

海上自衛隊の潜水艦「けんりゅう」

このようなことをいうと、中国の超音速ミサイルがどうの、ドローンがどうのと言われるかたもいるでしょうが、考えてみてください、どんなに優れた攻撃兵器を持っていたにしても、発見できない敵に対しては無効です。

無論台湾有事では、自衛隊の潜水艦隊が、自分を守るために、敵を攻撃しなければない場合もあるでしょうし、米国をはじめとする他国の艦艇・潜水艦を守るため、攻撃するという事態も想定されます。これに関しては、日本の海自には法的縛りがあります。この縛りを逸脱するのは、今の日本では、全く困難であるようにも見えます。

しかし、これも、超法規的措置でまねがれる可能性もでてきました。それは、菅総理によりコロナワクチンを歯科医師でも打てるようにした超法規的措置が実現したからです。

台湾の在留邦人を救うために、自衛隊が敵をやむなく攻撃したり、台湾に侵攻する中国を攻撃する味方の他国の軍隊が敵からの攻撃にさらされた場合、これに対して止む無く攻撃した場合、これを違法であるとして、攻撃した自衛隊員を殺人罪で起訴してみたり、政治利用したりすれば、それこそ、ワクチンの接種どころの話ではなく、人非人、碌でなしなどの言葉を浴びせられるのを覚悟しなくてはならないでしょう。妥当性が十分に考えられる場合には、超法規的措置もワクチンと同じく、あまり問題にされない可能が十分あります。

以上のようなことを考えれば、中国が台湾に侵攻するのは、自殺行為ともいえます。それどころか、中国が台湾侵攻を宣言して、中国の艦艇や潜水艦が、港を出た途端に全艦撃沈ということにもなりかねないです。そうなると、中国の艦艇は一歩も港から出られなくなります。これでは、台湾侵攻などおぼつきません。

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2021年5月16日日曜日

台湾、感染拡大止まらず 16日は207人 動揺広がる―【私の論評】感染者・死者数ともに他国と比較して少ない日台は、ワクチン接種でも常識的な動き(゚д゚)!

台湾、感染拡大止まらず 16日は207人 動揺広がる


台湾当局は16日、新型コロナウイルスの感染者が207人確認されたと発表した。海外で感染した症例が1人で、残りの206人は全て台湾域内で感染した。3日連続で過去最多を更新した。感染を抑えていた台湾だけに、急増する感染者の拡大に、政府や市民の間では動揺が広がっている。

当局の衛生福利部(厚生省に相当)中央感染症指揮センターが16日、記者会見を開き、感染状況を説明した。台湾でこれまで見つかる感染者の大半は、海外からの渡航者だった。

しかし、台北市内の接客を伴う飲食店でクラスターが発生して以降、今週から域内で感染する人が急増した。15日は180人と一気に増え、わずか1日で、それまでの累計の域内感染者数(164人)を上回った。

会見で、新型コロナ対策の指揮を執る陳時中・衛生福利部長は「外出は極力控えてほしい」などと危機感を示し、対策の徹底を呼びかけた。

当局は15日、台北市の警戒レベルを引き上げ、5人以上の会食や、屋外での10人以上の集まりを禁止した。台湾全土では、接待を伴う飲食店やスポーツジム、サウナ、カラオケ店などの施設の営業を全て禁止した。

市民の間には動揺が広がっている。台北市内は16日、日曜日にもかかわらず、人出が一気に減った。市内中心部の飲食店で働く20代男性店員は「台湾人は非常に神経質だ。休日でも当面は外出をせず、お客さんはお店に来ないだろう。残念だが、仕方がない」と語った。

台湾の感染者は累計1682人。海外からの渡航者が多く、域内での感染者数は550人。死者は累計12人にとどまる。

【私の論評】感染者・死者数ともに他国と比較して少ない日台は、ワクチン接種でも常識的な動き(゚д゚)!

台湾国内では近日、北部・台北市、新北市、北東部・宜蘭県でクラスターが相次いで発生。関連の感染者や感染経路不明の患者などが急速に増加し、予断を許さない状況となっていると報道されています。

台湾の感染者数は、本日207人だそうですが、これは日本と比較してどうなのでしょうか。残念ながらネットには最新で、両国とも15日の分しか掲載されていないので、15日で比較します。

15日は、台湾では185人、日本では6331人です。台湾の人口は2357万人、日本は1.263億人ですから、日本の人口は台湾の、5.36倍です。185×5.36=991ですから。台湾が日本の人口に換算した感染者数は991人です。

日本と比較すれば、さほどのことはないです。ちなみに、本日のコロナ死者数は台湾は本日0人、日本は、94人です。ちなみにかなりコロナ禍が緩和されたと報道される米国では、737人です。日本の人口は、米国の約1/3ですから、米国の現在の死者数を日本にあてはめる(1/3にする)と、245人ということになり、米国の死者数は日本にあてはめても、未だに一桁多いということになります。


台湾と日本は、死者数で比較すると、米国よりは日本は桁違いに低く、台湾は皆無ということです。この事実から考えると、日台とも大騒ぎする必要はありません。

それにしても、台湾がなぜこのように日本よりは、感染者数も死者数も少ないのか、これにははっきりとした背景があります。

それは、このブロクでも何度か指摘したように、2019年の夏から中国が中国人の台湾旅行を禁止したため、元々感染拡大の危険性は少なかったという特殊事情もあります。

無論コロナ禍発生直後に、海外からの渡航者の受け入れ拒否をすぐにしたということも効いていると思います。日本政府が国家安全保障会議で、外国人の入国拒否の対象を大幅に拡大することを決めたのは、昨年の4月1日でした。日本が台湾なみに、入国拒否の対象を拡大していれば、日本も台湾並のコロナ禍ですんだという可能性は十分にあります。

では、ワクチンの摂取状況はどうなっているのでしょうか。

台湾では、新型コロナウイルス対策を担う中央感染症指揮センターは15日、1日当たりのワクチン接種者が、接種開始以来最多となったとして、自費接種の予約を一時的に中止すると発表しました。

3月22日からアストラゼネカ製ワクチンの接種を開始した台湾。医療従事者を最優先として、対象者を段階的に拡大してきたのですが、接種状況がふるわず、計31 万回分余りあるワクチンを保存期限前に使い切るため、4月下旬からは自費接種も開始されていました。

これは、自費接種では費用がかかることから、予約をキャンセルしたり、無断で接種に来ないなどということは、ほとんどないからでしょう。日本では昨日述べたように、超法規的な措置で、歯科医もコロナワクチンを打てるように本腰を入れて、ワクチン接種に取り組む姿勢をみせていますが、台湾のように接種状況がふるわない場合には、自費接種も検討すべきでしょう。

それに、日本でも医療従事者、高齢者の接種を優先していますが、キャンセルなどで余った場合は、接種会場近くにいる人に、優先順位などは無視して接種して、無駄をなくすべきです。

同センターによると、14日に接種を受けた人は3万2351人で、内訳は公費2万9159人、自費3192人。3月以来の累計は18万6149人になりました。陳時中(ちんじちゅう)指揮官は、ワクチンを余らせたり、期限を切らしてしまう事態は避けられるとの見通しを示した上で、自費接種の予約をストップさせるのは、公費対象者を優先させるためと説明しています。予約を済ませている人の予定は変える必要がなく、次のワクチンが到着したら予約を再開するとしています。


日本のワクチン接種数は、累計で、5月13日までで、約400万です。台湾は、約18万ですから、日本に換算(5.36倍)すると100万を若干下回る程度です。ということは、日本の接種が遅れているとはいえ、台湾よりはかなり進んでいるといえます。これは、台湾よりも日本のほうが、感染者数や死者が多いので当然といえます。

台湾のワクチン接種数=日本のワクチンを一回以上接種

これは、どういうことかといえば、このブログでは何回か述べてきたように、一般にワクチン接種は感染が多いところからやりはじめるというのが、防疫上の常識であるからといえます。

もし、台湾がこの常識を破り、強力にワクチン接種をすすめていて、日本などの接種がそのために遅れたとしたら、台湾は日本からかなり非難されるということにもなりかねません。

その意味では、日台ともにワクチン接種に関しては、常識的な行動をしているということです。

台湾のマスコミはどうなのか知りませんが、日本のマスコミは上記のようなコロナ禍について、他国との比較分析をせずに、単に数ヶ月前と比較する等して、感染者数が増えていると報道したり、日本のワクチン接種は遅れているとするのみで、結局何をいいたいのか、全くわかりません。マスコミだけをコロナの情報源としている人たちは、コロナの状況を客観的に理解していないといえると思います。

上で述べたデータはすべて、ネットから入手できるものばかりです。マスコミだけを情報源とするのでなく、自分で調べるということも重要なことだと思います。まずは、国際比較などもせず、具体的なデータは感染者数だけとか、ワクチン接種に関しては、日本よりはるかに感染者数が多い国と比較して、日本は遅れていると断定するというお粗末な報道は信じるべきではありません。そうしなければ、簡単にマスコミに操られ煽られることになります。

最近は、テレビに顔を出す感染症専門家というのもあまりあてにならないと思えるようになってきました。無論、彼らもその分野においてはそれなりの専門家であることは間違いないのだと思います。

しかし、経済学においてはマクロ経済とミクロ経済があります。ミクロ経済学とマクロ経済学では見方が、全く違います。ミクロで正しいことが、マクロでは正しいとは必ずしもいえません。たとえば、家計と、日本経済は全く別ものです。これを同次元に扱うことは間違いです。

しかし、マスコミなどでは、これをないまぜにして論じて、国の借金1000万円超などとして、不安を煽っています。

それと同じように、感染症学にも、ミクロとマクロの見方があり、現在テレビに出ている専門家は、ほとんどがミクロの専門家であり、当然のことながらマクロ的な見方ができず、それをマスコミに利用されているのではと思えるようになってきました。これに関しては、いずれまともな専門家自身の方に是非聴いてみたいです。

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2021年5月15日土曜日

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【日本の解き方】経済成長のカギ握るワクチン接種状況 高齢者の接種が順調に進めば4~6月期GDPの追い風に



 5月18日に1~3月期国内総生産(GDP)速報値が公表される。緊急事態宣言の影響はどの程度になるのか。そして3度目の宣言が延長されたことによる4~6月期への打撃はどの程度大きくなると考えられるだろうか。

 1~3月期GDPについては、既に終わっているので予想しやすい。1月からの緊急事態宣言の影響で前期比年率5%減程度となるというのが多くの民間エコノミストの予想だ。

 4~6月期については、まだ半分以上残っているので、現段階では予想が難しい。3、4月の時点では多くの民間エコノミストがV字回復するとみていて、前期比年率5%増程度とする予想が多かった。

 しかし、連休前に緊急事態宣言が出され、5月末まで延長されることになったので、4~6月期も前期比年率で若干のマイナス成長になる可能性も排除できない。

 当面の課題は、緊急事態宣言を5月末で解除できるかどうかだ。これは新規感染者数の予測次第で大きく結論が左右される。新規感染者数自体の予測は、これまでのデータもあり、予測者によりそれほど大きな違いはないが、ワクチン接種状況によりブレが大きくなる。日本では本格的なワクチン接種が4月から始まったばかりなので、今後接種がどのように行われるかや、その効果について不透明な部分もあるためだ。

 効果についてはある程度分かるが、どのように接種率が高まるかを見込むのは簡単ではない。政府は7月末までに約86%の自治体で65歳以上高齢者(約3600万人)の接種が完了すると見込んでいる。

 海外の例をみると、高齢者のワクチン接種が終われば医療崩壊という最悪の事態はなくなり、ある程度の経済活動はできる。その意味で、まさに高齢者のワクチン接種がカギになる。

 日本でワクチン接種がうまくいくのか懸念されている主要な問題はワクチンの打ち手不足だ。

 菅義偉首相の訪米により海外からの供給にはメドがたったが、看護師不足は事実だった。

 ところが、本コラムで指摘したが、政府は4月26日に歯科医師にもワクチン接種を認めるという超法規措置を出した。

 これはほとんど報じられていないので、民間予測の前提にも盛り込まれていない。しかし、実際には、超法規的措置は思わぬ効果を呼んでおり、看護師協会にも好影響を与えているようだ。看護師の供給が潜在看護師の職場復帰を容易にする政府の措置の効果と相まって実際にはかなり増えそうだ。

 となると、緊急事態宣言の動向も変わってくる。ワクチン接種がうまくいかないという前提では、7月にまた感染者数が増加することが予測され、5月末の解除は難しく、長期再延長というストーリーになるが、接種がうまく進めば5月末解除、または短期の再延期ですむこともあり得るだろう。

 前述したように4~6月期GDPがどうなるかもワクチン接種状況に依存するので、現段階で確たることは言い難いが、幾分の明るい兆しもある。もっとも30兆円以上のGDPギャップは残っており、対策は必要だ。 (内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】マスコミは森叩きのホップで成功したが、ワクチン叩きのステップ五輪叩きのジャンプでコケて8月にはお通夜状態に(゚д゚)!

厚労省が4月26日に日本医師会へ歯科医医師によるワクチン接種への協力を求める通知を出していまずが、これは実は、かつてない超法規的措置です。そもそも、ワクチンを注射できるのは、医師法によって医師と看護師しかできないと定められています。

しかし、歯科医もできるとしたのです。これは、上の記事にもあるように、超法規的措置です。これは、現行の法律では、医師法違反ということになります。過去にもインフルエンザやその他の病気でワクチンを集団接種することはありましたが、このような超法規的措置は過去に一度あったきりです。

ポリオ生ワクチン(経口式)の接種をうける子どもたち(1961年)

それは、1960年(昭和35年)のポリオ大流行時にソ連やカナダから超法規的措置で生ワクチンを緊急輸入し、大流行を終息させた誇るべき先例です。

超法規的措置とは、法治国家において、法令が想定していない緊急事態などの場合に、法令に規定されていない非常の措置を行うことを言います。国家緊急権とはやや異なる概念です。

戦後日本において行われた事例は、上記を含めて以下に述べる事例も「超法規的措置」というより「超実定法的措置」が適切な表現となされ、憲法に反する行政権の行使ではなく、違憲ではないとされています(第183回通常国会衆議院内閣答弁書)。

戦後の日本においては、ポリオの生ワクチン輸入を除いては、日本赤軍が人質を取り獄中のメンバー釈放を要求した日本赤軍事件(クアラルンプール事件とダッカ日航機ハイジャック事件)があります。その結果、獄中にいる11人のメンバーが釈放されました。

ダッカハイジャック事件 開放されたよど号の乗客たち

ダッカ事件では、犯人グループの要求に応じた際に時の内閣総理大臣・福田赳夫が「人命は地球より重い」と述べました。この措置に対し、一部諸外国から「(日本から諸外国への電化製品や日本車などの輸出が急増していたことを受けて)日本はテロリズムまで輸出するのか」などと非難を受けたといわれています。

ただし、当時は欧米各国においても、テロリストの要求を受け入れて、身柄拘束中のテロリストを釈放することが通常であり(例、PFLP旅客機同時ハイジャック事件ハーグ事件、ルフトハンザ航空615便事件などを参照)、日本政府のみがテロに対して弱腰であったわけではありませんでした。1970年代後半は、このような無謀な要求をするテロに対処するために、世界各国で対テロ特殊部隊の創設が進められるようになりました。

さて、話をワクチンに戻します。いまでこそ、ポリオ(小児まひ)は、日本で自然発生はなく、世界でもパキスタンとアフガニスタンの2カ国以外では根絶されました。しかし約60年前、1960年の日本では大流行し、報告されただけでも5000例以上に達しました。ポリオウイルスは運動神経を冒し、一生残る手足のまひを引き起こすこともあります。ポリオが大流行した当時、幼い子供を持つ親たちの不安はさぞや大きかったことでしょう。

既に当時、海外ではポリオワクチンは実用化されていましたが、日本では開発途上で供給量はきわめて不足していました。国策としてワクチンの国産を目指すのは間違っていませんでしたが、対策が遅れていたという一面があったのは否定できませんでした。大流行の翌年、1961年にも流行の兆しがあった時点で、世論にも押され、ソビエト連邦から緊急にワクチンを輸入しました。

海外で実績があるワクチンであっても国内で使用するには、本来は承認の手続きが必要ですが、当時の古井喜実厚生大臣は「責任はすべて私にある」と言って、超法規的措置をとったそうです。1300万人分のワクチンが輸入され、日本全国で接種され、流行はおさまりました。以降、グラフに示すように、日本ではポリオの報告件数は急速に減少しました。



このようなことは、前例を踏襲するのが通例となっている官僚にはできない意思決定です。菅総理大臣が意思決定したからこその、超法規的措置です。 これと同じ考え方をすれば、実は薬剤師もワクチンを打てるし、獣医も打てるということになります。

まだ通達は出していませんが、本当は法改正しなければこれはできないことです。しかし、法改正をまともに行っていては、とても間に合わないことがはっきりしたので、超法規的措置を発令したということです。

法律に従って人の命を諦めるか、法律を無視しても人の命を守るかという究極の選択としてみれば、4月26日の超法規的措置は理解できます。

このような超法規的措置は先にも述べたように過去にはありません。これは、政府が本気で7月末までに約86%の自治体で65歳以上高齢者(約3600万人)の接種が完了させるつもりであることを示していると考えられます。

それにしても、60年前の、生コロナ緊急輸入の超法規的措置や、クアラルンプール事件とダッカ日航機ハイジャック事件での超法規的措置に関しては報道したのに、なぜマスコミは今回の超法規的措置を報道しないのでしょうか。

日本では、「超法規的措置」は滅多にあるものではありません、今回も含めて戦後三回しかなかった大事件です。

報道するのが当たり前であり、しないのはかなり異常です。これは、私の類推ですが、クアラルンプール事件とダッカ日航機ハイジャック事件での超法規的措置に関しては、時の政権を弱腰であると、批判することができたので報道したのでしょう。

ポリオワクチンに関しては、当時の国民の大きな関心事であり、これを報道しないなどということは、常識的に全く考えられなかったのでしょう。

しかし、それは現在でも同じです。コロナワクチンに関しては、今の国民の大きな関心事です。

それでもなお、報道しないというのは、マスコミはこれを現政権のプラスになると考え、プラスになることは、報道の自由という権利を行使して、報道しなかったのでしょう。

このブログでは、以前からマスコミの最終目標は、森叩きのホップワクチン叩きのステップオリンピック叩きのジャンプで、菅政権を退陣に追い込むことだと指摘してきましたが、今回の超法規的措置報道のスルーは、この通りに動いていることの証左であるといえると思います。

特に、ワクチン叩きや、オリンピック叩きに関しては、それがうまくいっても、失敗しても叩く腹だったのでしょうが、現状ではオリンピック開催阻止と、ワクチン接種の遅れを徹底的に叩く方向に定まったようです。

しかし、実際には、オリンピック開催中止はよほどのことがなければ、ありえないでしょう。小池知事は中止するかもしれないなどという噂がながれていますが、小池知事が中止するというなら、政府はIOCへの賠償金は、東京都が負担せよということになるでしょう。

そうなると、東京都は財源がかなり豊富であるにもかかわらず、コロナ病床を増やさなかったほどドケチな小池知事は中止に固執することはできなくなります。結局五輪は開催されるのです。

実際に日本国内では、様々な国際大会なども開催されています。五輪だけが例外になることはほとんど考えられません。

さらに、コロナワクチン接種は現在まで、日本の感染者数や死亡者がかなり低いということから、世界的にみてワクチン接種が遅れていましたが、これは、感染者数や死者数がかなり多いところから、接種を始べるべきという防疫上の常識から考えて当然だったといえます。

しかし、超法規的な措置までとって、政府は本気で接種の拡大をはかろうとしています。7月に入れば、状況はかなり改善されることになります。

8月に入れば、8日にはオリンピックは他の国際スポーツ大会と同じく、さしたる混乱もなく閉会し、その後はコロナ死者数はかなり減り、9月あたりには、誰の目から見ても、コロナの収束は近くなるでしょう。そのときには、マスコミは嫌々ながら、コロナが収束に近づいたことを報道するでしょうが、特にテレビのワイドショーはお通夜のような雰囲気になるでしょう。

そうして、その頃に解散総選挙が行われることになるでしょう。その後しばらく、野党もマスコミもお通夜状態のショックから立ち直れないことになるでしょう。

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2021年5月14日金曜日

経済制裁に「資源の呪い」、上向かぬロシア経済―【私の論評】日米・EUは対露経済制裁でロシア経済を疲弊させ、プーチンを退陣に追い込め(゚д゚)!

経済制裁に「資源の呪い」、上向かぬロシア経済

岡崎研究所

 アンダース・アスルンド(大西洋評議会シニアフェロー)が、4月22日付のProject Syndicateに、「ロシアの下を向く経済」との論説を寄せ、ロシア経済がいかに良くないかを解説している。


 ロシア経済は、2014年以来、実質成長ゼロである。プーチンは、経済停滞の責任を、「外部の力」、すなわち世界的な石油価格などに負わせているが、不健全な経済政策と西側の制裁は彼自身以外の誰の過ちでもない。

 2008年ー2013年と2014年ー2019年では、1年の外国直接投資の平均流入はGDPの3.1%からGDP の1.4%に減少した。(2014年のロシアによるクリミア併合に対する西側の制裁も影響しているのだろう。)

 4月21日、プーチンは年次演説で「マクロ経済の安定とインフレーションの封じ込めは確実に達成される」と約束した。しかし、マクロ経済の安定はそれ自身目的ではなく、継続的な成長のための手段であって、経済政策の目的は、市民の福祉を最大化することである。しかしプーチンの明示的目的は、彼の独裁的権力を最大化することである。

 米国の制裁によるコストは見た目より大きい。ロシアがドルでの取引ができないことは、その投資機会を厳しく制約し、その成長を阻害する。プーチンとその極端な緊縮政策のおかげで、ロシアの生活水準は最近の7年間で11%低下した。

 上記アスルンドの論説は、ロシア経済の苦境を数字の面で裏付けるとともに、プーチンが自らの行動により招いた西側からの制裁、保守的な経済政策、腐敗などにその原因を求めている。的を射た論説であるが、石油価格の低迷も大きい影響を与えている。

 ロシアのGDPは、IMF統計で今は韓国以下で、世界第11位である。日本の3分の1にもならない。プーチンの治政下、ロシアは衰退してきたと何度も指摘してきたが、そのことは今や誰の目にも明らかになっている。

 石油価格は脱炭素化の中、今後は低くなっていくことが確実である。石油依存経済からの脱却はロシアでも言われているが、うまくいっていない。国際政治の用語で「資源の呪い」という言葉があるが、資源国は資源頼りになり、製造業を発展させられないことを言うが、ロシアはその典型である。

 さらに、プーチンのマクロ経済の安定とインフレ封じ込めへのこだわりがある。これが健全財政政策につながっている。今世界では、金融の緩和、財政出動による景気刺激策が主流であるが、プーチンは保守的でそういう政策を採用していない。そもそもプーチンはエリツィンの後継者としてあらわれたが、エリツィン時代はマクロ経済は安定せず、インフレはひどかった。プーチンは石油価格の上昇にも支えられ、エリツィン時代の混乱を抑え、安定の時代を作り出し、それ故に国民の支持も得た。彼がマクロ経済の安定とインフレ封じ込めを言うのはその成功体験による。

 しかし時代は変わるのであって、時代の要請には気を配り、変えるべきものは変えなければならないが、それが出来ていない気がする。それに、対西側対決路線は経済的には制裁などの不利をもたらしている。

 プーチンは2036年まで政権の座にとどまれることになっているが、時代に合わない指導者になっており、とても2036年まで務められるとは思えない。そうすることはロシアにとってよい結果をもたらさないと思われる。

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ロシア連邦統計局が1月1日発表した同国の20年GDP(国内総生産)・速報値は前年比3.1%減となりました。新型コロナのパンデミック(感染症の世界的大流行)による国内経済への悪影響やロシア産原油への需要低下、原油価格の急低下が影響し、11年ぶりの大幅減少となりました。

ただ、市場予想の3.7%減やロシア経済発展省の予想(3.9%減)ほどは落ち込みませんでした。また、スペインの11.0%減、フランスの8.4%減、ドイツの5.0%減など、欧州各国に比べると下落幅は抑えられました。

強気にみえるプーチンだがマクロ経済についてはかなり疎いようだ

20年GDPがマイナスとなったのは、主に、ホテルやレストランなどの観光業や運輸業、文化・スポーツ・レジャー業などでの大幅な落ち込みが要因です。また、産油国であるロシアにとって、GDPに占めるウエートが高い原油輸出が昨年3月初めの原油価格の急低下で減少したことも響きました。

主な内訳は製造業が前年比横ばいとなった一方で、鉱業は同10.2%減、運輸・倉庫業も同10.3%減、ホテル・レストラン業は同24.1%減、文化・スポーツ・レジャー業も同11.4%減と、大きく落ち込んだ。また、支出面から見たGDPのうち、個人消費は同8.6%減、輸出は同5.1%減でした。
 
経済発展省は、21年のロシア経済の見通しについて、4-9月期は前年比で伸びが急低下したあと、10-12月期に前年比7.4%増と急回復し、21年全体で同3.3%増になると予想しています。ちなみに、パンデミック前の20年1-3月期は同1.6%増でした。

以前から述べているように、韓国やロシアの経済は東京都よりも多少大きいくらいです。確かに東京都の経済は都市としては大きいですが、これが独立して国になり、軍備を整えたにしても、できることは限られています。

ただ、以前からも述べているように、ロシアはソ連の軍事・宇宙・核開発技術の継承者でるため、決して侮ることはできませんが、それにしても、我々日本人はロシアを等身大でみていく必要があります。


先日も、このブロクで述べたように、ナヴァリヌイに対する毒殺未遂、その帰国直後の拘束、執行猶予判決の実刑化、ナヴァリヌイ釈放要求デモに対する取り締まりなど、ロシアの現状は西側のパートナーになりうる国ではなく、西側との対決を選んだ国であるといえます。

そうして、社会の安定が続くためにも、ロシア経済は成長の持続可能性を高めていく必要があります。 ロシア経済が今後10年で活力を取り戻すためには、引き続き資源国として歩み続けるにせよ、産業構造の多角 化を図るにせよ、外資の一段の導入が不可欠です。

そのためには、ビジネス環境の一段の整備に努めると同 時に、やはり欧米との関係改善も大きな課題となるはずでした。

産業政策と外交政策を両立させるためには、政治の安定が必要条件になります。つまるところ、プーチン政権から権 力がスムーズに移行されるかどうかが、今後のロシア経済のカギを握ることになるはずです。となると、ロシア経済の回復は絶望的とみるべきでしょう。

昨年のロシア経済は新型コロナウイルスのパンデミックの影響で深刻な景気減速に見舞われたが、後半以降は底入れしてきた。国内の新規感染者数は昨年末を境に頭打ちするも、死亡者数は拡大が続くなど依然事態収束にほど遠い状況にあります。政府はワクチン接種を呼び掛けるも足下では目標を下回るなか、プーチン大統領は秋の集団免疫獲得に向けて国民に積極的な接種を呼び掛けていますが、その実現は依然見通せません。

欧米諸国との関係が急速に悪化するなか、その一因となっているナワリヌイ氏の処遇を巡っては全土に抗議デモが広がりをみせる一方、欧米の制裁強化懸念に対してプーチン大統領は強硬姿勢を示すなどけん制しています。

収監中のナワリヌイ氏

他方、金融市場では欧米との関係悪化がルーブル相場の重石となるなか、中銀は先月利上げ実施に追い込まれました。さらに、ロシアの財政政策の基本は、自立した国家運営を確保するため、均衡財政を維持することを目的としているようです。景気回復が道半ばのなかでの金融引き締めは景気に冷や水を浴びせるのは確実です。

緊縮財政は経済の低成長につながることは必至です。プーチン大統領は18年、景気対策をうたい約27兆ルーブル規模の国家事業計画を打ち出したものの、その進捗は既に「不透明な状況に陥っています。ロシア政府が緊縮財政に動けば、推進は一層困難になります。

このブログでも述べているように、コロナ禍等による景気の落ち込みにおいて、政府が実施すべきは、大規模な積極財政と、金融緩和です。世界の多くの国々で、そのような政策を実行する中で、ロシアだけがそうではないとすれば、ロシア経済は確実に落ち込みます。

プーチン大統領の強気姿勢が凶と出るのは間違いありません。

現状では、EUや日米は、経済安保で経済が落ち込みつつあるロシアをさらに、締め上げるという行き方が、最も妥当であると考えられます。その先に、ロシア経済のさらなる弱体化、プーチンの退陣、そうして西側のパートナーになりうるロシアがみえてくることになります。

そのときになってはじめて、日本はロシアとまともに北方領土交渉ができるようになるでしょう。

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2021年5月13日木曜日

台湾を見殺し?バイデン政権が見せ始めた「中国に融和的」な本性―【私の論評】バイデンが中国に融和的になっても、中国は台湾に武力侵攻できない(゚д゚)!

台湾を見殺し?バイデン政権が見せ始めた「中国に融和的」な本性

                台湾海軍の軍事演習

(北村 淳:軍事社会学者)
 
 台湾国防部によると、本年(2021年)4月だけで中国軍航空機による台湾の防空識別圏への侵入は107ソーティー(Sortie:作戦機1機による1任務1回の出撃)を数えた。本年1月から4月では283ソーティーにのぼっており、すでに昨年の75%に達している。

  【写真】台湾空軍の戦闘機。アメリカ義勇航空隊「フライング・タイガース」の塗装が施されている。 

 中国軍機による台湾ADIZ(防空識別圏)侵入は主として対潜哨戒機による南西部のバシー海峡上空方面に集中している。これは、アメリカ海軍潜水艦が西太平洋から南シナ海に侵入する際にはバシー海峡海中を通過するため、中国側はバシー海峡での対潜能力を向上させるため頻繁に同空域に対潜哨戒機を接近させていると考えられる。 

 ただし、最近はH-6Kミサイル爆撃機ならびに戦闘攻撃機のADIZ侵入回数が増加している。バシー海峡を通航する米海軍水上艦を対艦超音速巡航ミサイルで攻撃するデモンストレーションを実施し、米海軍を牽制しているものと思われる。

 ■ 台湾に対する疲弊作戦

  もちろん、中国軍機の執拗な台湾ADIZ侵入は、一義的には台湾への軍事的威嚇とりわけ台湾空軍への疲弊作戦ということができる。これは東シナ海方面で航空自衛隊に対して継続しているものと同じで、長期にわたってADIZ侵入や接近を執拗に繰り返し、台湾軍戦闘機や自衛隊戦闘機にスクランブルを強い続けることにより、台湾空軍と航空自衛隊のパイロット、整備要員、そして機体を疲弊させる作戦である。そうした疲弊作戦は、空中戦のような戦闘ではない以上、何といっても手持ちの航空機の数が決め手となる。

 そして、中国側は新鋭戦闘機だけでなく旧式戦闘機でも台湾機を誘い出すことが可能である。また、高速の戦闘機に限らず、低速の哨戒機や、場合によっては低速非武装の輸送機でも、台湾や日本の戦闘機を誘い出すには十分だ。反対に、台湾側は数に限りのある戦闘機を発進させなければならず、加速度的に疲弊してしまうのである。

  ちなみに、中国空軍はおよそ700機の近代的戦闘機とおよそ450機の旧式戦闘機、50機程度の戦闘爆撃機、120機のミサイル爆撃機、およそ50機の各種警戒機を運用している。また中国海軍は144機の近代的戦闘機、120機の戦闘攻撃機、およそ50機の旧式戦闘機、30機のミサイル爆撃機、それにおよそ40機の各種哨戒機を運用中だ。これに対して台湾空軍は新旧合わせてわずか250機の戦闘機で立ち向かうことになる。 

■ 徐々に現れ始めた「中国に融和的」な本性 

 中国軍が台湾ADIZへの侵入を急増させたのは、トランプ政権が台湾への武器輸出促進や政府高官の訪問といった露骨な「親台湾・反中国」政策を推進したことへの対応である。  そして、バイデン政権が今のところトランプ政権の対中強硬姿勢を継承しているのを威嚇するように、中国はADIZ侵入をはじめとする台湾への軍事的威圧を強化し続けている。そのため、「米中軍事衝突が勃発しかねない」といった論調も現れ始めている。

 ところが、対中強硬派の米海軍関係者たちがかねてより危惧していたとおり、バイデン政権の対中軍事姿勢が徐々に「中国に融和的」な本性を現し始めた。  バイデン政権の対中軍事政策の司令塔であるインド太平洋調整官、カート・キャンベル氏は先週、「万が一にも中国が台湾を軍事攻撃した場合、アメリカが中国と干戈(かんか)を交えてでも台湾を防衛するか否かに関して、バイデン政権が明確な立場を示すことは差し控えるべきである。そのような行動は『アメリカの国益を深刻に損なう』からだ」と述べた。

  キャンベル調整官は、オバマ政権時代に南シナ海問題を巡って中国に妥協的な政策をとった張本人として対中強硬派から「目の敵」にされていた。そのキャンベル氏が、アメリカは台湾を巡って明確な立場を示すべきではなく、かつてのように(トランプ時代以前のように)戦略的に曖昧な立場を継続することが肝要である、と主張しているのだ。

  要するに、トランプ政権のように台湾を軍事的に支援し、反中姿勢を露骨に示してしまうと、中国の台湾への軍事的強硬姿勢を加速させてしまい、やがては米中軍事対決に至るおそれがある。それはアメリカにとって最悪の事態である。したがって、アメリカとしては中国と台湾を巡ってうやむやな立場を取り続けることによって、「曖昧な安定」という現状維持を継続させるべきである、というわけだ。

 このように、バイデン政権発足後、これまではトランプの親台湾政策をあたかも踏襲するポーズを保持してきたが、かつての曖昧戦略への回帰修正が開始されたようである。

  その結果、これまで米海軍が頻繁に実施していた台湾海峡通航や南シナ海でのFONOP(公海航行自由原則維持のための作戦)は偶発的軍事衝突を引き起こしかねないという理由で徐々に減らされるか、あるいは実質的に軍事的価値のない作戦に制限される可能性が高い。

  もちろん、キャンベル調整官やバイデン政権にとって、尖閣諸島の日本主権を支持するための東シナ海での中国への軍事的圧力などは論外ということになる。

北村 淳

【私の論評】バイデンが中国に融和的になっても、中国は台湾に武力侵攻できない(゚д゚)!

上の記事のような見方は、複数の識者がしています。たとえば、古森 義久氏(産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)も、昨日冒頭の記事と同じ、JBプレスに以下の記事を掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
やはり「トランプ路線継承」ではなかったバイデン政権の対中政策
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 バイデン政権の大統領副補佐官(国家安全保障担当)、インド太平洋調整官のカート・キャンベル氏は5月4日、「ウォール・ストリート・ジャーナル」がニューヨークで主催した、大企業代表たちが出席するシンポジウム形式の会議で演説した。

  キャンベル氏は、バイデン政権の対中・対アジア政策立案の中枢にいる人物である。演説の内容は、やはり対中政策が主体となった。

  キャンベル氏はバイデン政権の中国へのアプローチについて、「オバマ政権の対中協力という努力と、トランプ政権の“中国に対抗”という強硬路線の、両方からの借用だと特徴づけられる」と述べた。バイデン政権の高官が、同政権の対中政策の一部がオバマ政権の政策からの借用であることを認めたのだ。

  キャンベル氏はこの演説で対中政策に関して以下のような骨子を述べた。 

 ・バイデン政権の対中政策は、オバマ大統領トランプ大統領のそれぞれの中国に対する政策要素の混合である。両方の政策の合成だともいえる。

  ・オバマ、トランプ両政権のそれぞれの中国へのアプロ―チには英知が含まれているが、同時にそれぞれに矛盾も存在した。私たちバイデン政権としては、中国と共通の懸念を抱く課題について、中国と協力できる領域への関心を高めている。

 ・バイデン政権は、中国に対して「攻勢的」と「防御的」の両方の措置をとっていくだろう。中国との競合では、テクノロジー分野への投資を強め、中国で活動する米国企業への中国側からの侵害を防ぐ手段もとることになるだろう。 
       バイデン政権の大統領副補佐官(国家安全保障担当)、
       インド太平洋調整官のカート・キャンベル氏

このような状況になることは、このブログではすでに随分前から予測していました。その記事のリンクを以下に掲載します。

バイデン政権、対中強硬派のキャンベル氏を起用―【私の論評】対中国強硬派といわれるカート・キャンベル氏の降伏文書で、透けて見えたバイデンの腰砕け中国政策(゚д゚)!

 この記事にも、掲載したように、キャンベル氏は今年の1月に、中国への降伏宣言ともいえる内容の論文を公表しています。この記事より、一部を引用します。詳細は、是非この記事をご覧になってください。

"

そもそもキャンベル氏の主張そのものにも疑問符がつきます。キャンベル氏は、「How Can America Shore Up Asian Order ~ A Strategy for Balance and Legitimacy」と題した外交論文を1月12日にForeign Affairs(オンライン)誌に掲載しましたた。そうしてこの論文は、率直に言って中国への降伏宣言ともいえる内容だと思います。

同論文は、19世紀の勢力均衡と欧州の協調を論じたヘンリー・キッシンジャーの博士論文を引用して、アジアの秩序を形成するためには、以下が必要であると主張しています。(詳細は、この記事を御覧ください)

①バランス(勢力均衡)の修復

②レジティマシー(正統性)の回復

③連携(コアリション)の促進が重要

そうして、多くの人々がすでに指摘していることですが、同論文で「インド太平洋」という言葉は度々使われるものの、「自由で開かれたインド太平洋」は一度も引用されていないのです。

キャンベル氏の任命により、バイデン政権は、オバマ政権下での消極外交路線に回帰するのは目に見えています。米国が、対中国戦略において、他国と足並みを揃えるだけでは誰も前に出なないというか、出られません。

トランプ氏の外交政策は強引過ぎた面はあったものの、単独でも中国と対立する姿勢は、一定のリーダーシップと存在感を見せていました。キャンベル氏が論文で見せる弱腰あるいは護送船団姿勢では中国とはまともに戦えません。

アジアの新秩序は米国が他国と協調するような姿勢では樹立できません。米国がまず先頭にたたなければ、難しいです。
"
 
このような予測をたてていたので、私自身は、バイデン政権が見せ始めた「中国に融和的」な姿勢を見せ始めたことには、あまり驚きはしません。

冒頭の記事のタイトルには「台湾を見殺し」という、刺激的な文言がありますが、バイデン政権が中国に融和的な姿勢をみせたとしても、さすがに台湾海峡の現状変更までは許すことはないと考えられます。

ドナルド・トランプ政権が米中関係を逆転させて以来、バイデン政権も『台湾重視』の基調は踏襲しているようです。ただしバイデン政権は、台湾海峡での軍事的紛争を望まず現状を維持を望んでいるようではあります。


特に、中国が勝手に中間線をずらしたり、ましてや台湾に武力侵攻を許すようなことはしないでしょう。バイデン政権がこれを許したにしても、米国議会は共和党は無論のこと、多数の民主党議員も黙ってはいないでしょう。超党派で新たな立法をしたり、様々な働きかけをして、バイデンの尻を叩くでしょう。

台湾海峡の中間線とは、台湾海峡で中国大陸と台湾本島の中間点を結ぶ線です。米国と台湾の米華相互防衛条約締結時(1955~79年)の58年に米軍が台湾防衛のために引いた「デービス線」に由来し、中台双方の軍は平時には越えないとされています。

ただ、中国側は公式に認めておらず、中台間の「暗黙の了解」として運用されてきました。台湾の国防部は北緯27度、東経122度と北緯23度、東経118度を結ぶ直線と定めています。

中国側は、この中間線を超えることもありますが、台湾は無論のこと、米国もこの中間線を中国が勝手にずらすことは認めないでしょう。具体的には、中国がこの中間線を超えるような行為をすれば、米台もこれを超えて、中国側に入る行動をして、中国を牽制することになります。

さらに、米国はQUADに参加しています。たとえバイデンが中国に融和的な態度をとったにしても、QUADがある限り、米国は台湾危機を見過ごすことはできないでしょう。

日本では、2016年に施行された安保関連法において台湾危機を「日本の存立が脅かされる明白な危険」と見ることができる「存立危機事態」という判断が下されれば、限定的集団的自衛権を行使できる道を開いてあります。自衛隊が集団的自衛権を行使する初の事例が台湾有事になり得ます。

特に、日本単独では、この判断は難しいかもしれませんが、QUADに加盟していることから、他の加盟国から要請があれば、前向きに検討し、場合によっては「集団的自衛権」を行使することになるでしょう。

具体的には、台湾有事には、日本は潜水艦隊を台湾付近に派遣して、情報収集にあたり、米国を含むQUAD諸国に情報提供をすることになるでしょう。無論、その過程で、中国軍を攻撃する可能性もないとは言い切れません。

日本の潜水艦は静寂(ステルス)性に優れていることから、中国軍はこれを発見できません。日本の潜水艦隊は、中国に発見されることなく、中国軍の動きを把握して、原子力を用いるという構造上によりステルス性には劣る米軍の原潜に協力すれば、米軍の攻撃力が驚異的に高い原潜が、中国軍に大打撃を与えることになります。

1997年から就役するアメリカ海軍有する世界最強の攻撃型原子力潜水艦シーウルフ級

無論中国も、超音速ミサイルなどで挑んでくるでしょうが、どんなに優れたミサイルでも、発見できない敵に対しては無効です。ここが中国の致命的弱点です。

ちなみに、日米それに豪も対潜哨戒能力が中国に比べて、非常に高いので、中国の潜水艦はすぐに日米豪に発見されてしまい、事実上行動できなくなります。行動すれば、すぐに発見され、撃沈されてしまいます。となると、中国の空母の護衛艦はすぐに撃沈されることになります。潜水艦も、護衛艦も役にたたないてのですから、当然のことながら空母も無効にできます。

仮に、中国軍が台湾に侵攻したとしても、日米の潜水艦隊がこれを包囲して、中国軍の補給を絶てば、中国軍はお手上げになります。

実際には、中国が台湾に侵攻すると発表したとたん、中国の軍港は、日米の潜水艦隊に包囲され、一歩も軍港の外にでれなくなるのではないかと思います。一歩でも出れば、撃沈されることを覚悟しなければならなくなります。

さらに、台湾は小さな国ではありますが、軍事力も整えています。最近では、通常型の潜水艦を開発し、5隻の潜水艦隊で台湾を守備する計画をたてています。

専門家の中には、これに成功すれば、台湾は今後数十年にわたって、中国の侵入を防ぐことができるだろうとしています。無論、これは開発中ですから、今すぐ役にたつというわけではありません。

さらには、日本の潜水艦と同等か、そこまでいかなくても、中国に発見できないくらいの静寂(ステルス)性を確保することが条件でしょう。台湾の技術水準からすれば、日本等の国々が支援すれば、十分可能でしょう。

ただし、すぐに役立つものもあります。それは、台湾が開発し実戦配備している、巡航ミサイルや対空ミサイルです。

台湾の巡航ミサイルは、中国の2/3を射程におさめているといわれています。これは無論、北京にも到達しますし、陸上や海上の攻撃目標を攻撃できます。あの三峡ダムにも到達します。台湾が、三峡ダムに対して巡航ミサイルで飽和攻撃を行えば、これを破壊することができるかもしれません。そうなれば、中国の2/3は水没するともいわれています。

さらに、中国の航空機はステルス性が低く、最新のものでさえ、肝心のステルス性は、米軍でいえば、第1世代のそれと同程度とされています。そうなると、中国が台湾に侵攻目的で航空機を派遣した場合、台湾が装備している対空ミサイルで多数撃墜されることになります。

台湾が単独で中国と戦ったにしても、中国側はかなりの損失を被ることになります。それに、QUADが加勢すれば、中国は台湾に侵攻することはできないでしょう。

中国は軍事力では、台湾に侵攻はできないのです。ただし、軍事力等で台湾に圧力をかけまくれば、台湾のほうから折れてくるかもしれないということで、台湾付近で大きな軍事演習をしたり、中間線を超えて艦艇や航空機を巡航させているのでしょう。

ただ、台湾にはその気は全くないようで、中国の試みは徒労に終わる可能性が高いです。


台湾が日米首脳会談へ示した期待と懸念―【私の論評】台湾は元々反中、日台は協力して「赤狩り」時代の到来に対処せよ(゚д゚)!

中国爆撃機10機超、9時間にも及ぶ爆撃訓練…台湾への攻撃力アピールか―【私の論評】中国が台湾侵攻のため航空機を派遣すれば、甚大な被害を被る(゚д゚)!

2021年5月12日水曜日

「一帯一路」を自国から締め出した豪州―【私の論評】一帯一路で中国は大失敗するが、脆弱な国や地域を大混乱に陥れる可能性が高いことに豪州は気づいた(゚д゚)!


 ASPI(オーストラリア戦略政策研究所)のマイケル・シューブリッジ防衛・戦略・国家安保担当部長が、外国関係法に基づき豪州の国全体としての外交政策が首尾一貫したものに整えられたことを評価する論説を、4月23日付のASPIのStrategistに書いている。


 昨年12月、豪州議会において外国関係法が成立した。外国関係法とは言うが、中国の浸透を阻止するための法律である。この法律は、概括的に言えば、州および特別地域、地方自治体、公立大学が外国の諸機関と結ぶ取極めについて、これら取極めを豪州の国益および外交政策との整合性の観点から外務大臣の承認に係らしめるものとして、既に締結された取極めについてもこの基準に反すると判断されれば廃棄する権限を外務大臣に与えるものである。この法律に基づき、4月21日、ペイン外相は、ビクトリア州政府が締結した4つの取極めを廃棄することを決定した。そのうちの2つは2018年及び2019年に締結されたいずれも「一帯一路」プロジェクトに係わる中国の国家発展改革委員会との取極めである。他の2つはイラン及びシリアとの取極めである。

 豪外務省には 1,000を超える取極めが報告されている由であるが、同外相は1つの取極めを承認したこと、残りについては審査を続けるが大多数には何ら影響はないとの見通しを述べた。

 外国関係法の標的がビクトリア州の「一帯一路」に係わる取極めにあることは当初から明らかだったようである。大学については議論があったが、留学生や資金を中国に依存する大学が多く、孔子学院を誘致している大学もあることに懸念があった。結論的には対象となる大学間の取極めは相手の大学に十分な自立性がない場合に限定することで大学も対象に含めることとされた。

 以上の事態の展開の大きな背景は、豪州国内で強まっている中国の豪州国内への干渉に対する懸念と嫌悪であることは指摘するまでもない。

ASPI(オーストラリア戦略政策研究所)

 ASPIの論説が、今回の決定を国の首尾一貫した政策を整えるものであり、主要な政策変更だと評価していることは頷ける。豪州の中国との関係は最悪の状態にあるが、それにもかかわらず、あるいはそれが故に、この政策変更に踏み切ったことは評価に値しよう。キャンベラの中国大使館は「一帯一路」に関する取極めが廃棄されたことに不快感と反対を表明し、中国に対する非合理的で挑発的な行動だと非難している。

 ASPIの論説は、豪州のそれとは対照的なものとして、ニュージーランドの中国との関係及び4月19日のマフタ外相の「龍とタニファ」と題する演説に言及している。この演説は、中国との関係が如何に大切であるかを強調するものであり、そこには中国の悪行を非難する言葉あるいは豪州のような友邦を支持する言葉は一言もない。「人権のような問題は一貫性があり国にとらわれない方法でアプローチされるべきである」と述べているが、ウイグル族への虐待は非難するが、中国を名指しはしないという意味であろうか。

 4月22日、ウエリントンでペイン外相と会談した後の共同記者会見で、「ファイブ・アイズ」を中国に対する意見表明の場として使うことについて問われて、マフタ外相は、「ファイブ・アイズは安全保障とインテリジェンスの枠組みである。特定の問題について、例えば人権の分野で、連合を作るために常に最初の寄港地としてファイブ・アイズを持ち出す必要はない」と述べた。豪州が耐え忍んでいるような中国の経済的ボイコットにあえば、ニュージーランドはひとたまりもないと彼女は思っているのであろう。そのために、「ファイブ・アイズ」はインテリジェンス共有の枠組みであり、政策調整の場ではないとの理屈を述べている。「ファイブ・アイズ」(昨年、香港について共同声明を出したことがあるが、その際、中国は激越に反発した)を持ち出して嫌がるニュージーランドを巻き込む必要はなかろうが、ニュージーランドは中国との抜き差しならない関係に陥ることの危険性は認識している要があろう。

【私の論評】一帯一路で中国は大失敗するが、脆弱な国や地域を大混乱に陥れる可能性が高いことに豪州は気づいた(゚д゚)!

日本と異なり豪州は連邦制をとります。地方政府の権限が強いとはいえ、重要なのは「国防上の問題」です。地方自治体が金目当てに中国とやりたい放題で良いわけがありません。

クアッドもそうだが、オーストラリアが、米国と英国、カナダ、ニュージーランドの英語圏4カ国とつくる機密情報共有の枠組み「ファイブアイズ」も、オーストラリアがこんな状態ではその名が泣こうというものです。機密情報がダダ漏れになるところでした。

しかし、豪州は何とか踏みとどまる方向に動き出したようです。

ここで気を付けねばならないのは、日本も他人事ではないということです。

先日もこのブログに掲載したように、愚かな中国共産党政権は、他国の地方から中央を包囲する「毛沢東戦略」を実践し、その毒牙は日本の地方にも向けられているからです。

微笑みながら相手国の土地やインフラ施設の乗っ取りを狙う「チャーム・オフェンシブ(微笑み攻勢)」がそれです。姉妹都市や文化交流を装った日本の地方自治体への働きかけは彼らの常套手段であり、最も得意とする浸透工作でもあるようです。中国は、かつての西欧列強の植民地経営を一帯一路で実現し、大儲けをするつもりのようです。

中国共産党は、先日も述べたように、大きな勘違いをしています。かつて、西欧列強が行った植民活動は、ほんの一部の例外を除いて惨めな失敗をしています。その結果、ほとんど全部の西欧列挙が20世紀には植民地を手放しました。植民地経営は西欧列強を潤わせるどころか、経済的な負担を敷いていたというのが実情でした。

中国が、土地やインフラ施設の乗っ取りをはかり、それに成功したとしても、かつての西洋列強が失敗したように、それで儲かることはほとんどないのです。これについては、このブログでも以前述べたことがあります。その記事のリンクを掲載します。
【日本の解き方】中国が狙う「一帯一路」の罠 参加国から富を吸い上げ…自国の経済停滞を脱却する魂胆も―【私の論評】国際投資の常識すら認識しない中国は、儲けるどころか世界各地で地域紛争を誘発しかねない(゚д゚)!

習近平

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分のみを引用します。
一帯一路は、中所得国の罠に陥ったアジアや中東、アフリカの途上国を相手にせざるを得ないのですが、それらに投資しても儲かることはありません。少なくとも、中国より経済発展している国や地域に投資すれば良いのでしょうが、そもそもそのような国や地域は中国の助けをあまり必要としません。

仮に、中所得国を借金漬けにしたあげく、闇金まがいの取り立ても辞さないようにしたとしても、元々富がないのですから、そこから簒奪できる利益はわずかです。これは、どう考えても成功しようにありません。

ただ、中国が借金をかたに、弱小国の社会を自分の都合の良いように作り変える危険性は否定できません。そうなると、それらの国々の社会は不安定化することになり、地域紛争などに繋がる可能性はあります。

そのため、米国が対抗する方針を打ち出しているのは良いことです。無論米国は、これで儲けるのではなく、中国の影響力を排除するのが狙いです。いくらバイデンであっても、習近平ほど愚かではありません。
かつての、西洋列強が植民地経営に失敗した理由は単純です。結局のところ、自国よりも経済かなり成長している国や地域に投資をすれば、儲かるのですが、そうでなければ、結局損をするだけなのです。

それどころか、独立運動などの鎮圧のために金食い虫の軍隊を大量に派遣したりすれば、大損するだけなのです。さらには、植民地のインフラが乏しければ、当然のことながら、インフラにも手をかけなければならなくなるのです。それどころか、場合によっては、植民地の人々に水・食糧を提供しなけばならないことすらあったのです。

豪州は、先進国ではありますが、中国よりはるかに経済成長しているといえるでしょうか。無論、豪州全体ではなく、地域的にみれば成長している地域もあるでしょうから、そこに投資をして、金を生み出すインフラを取り上げるなどすれば、儲かるでしょう。

しかし、豪州でも、このように経済発展をしている地域においては、そもそも中国の手助けなどいらないでしょう。だとすれば、豪州でも中国は、経済成長していないところに投資をすることになり、やはり失敗する確率が高いでしょう。

この状況は、日本でも変わりないでしょう。この十数年、北海道は経済的には色めき立っています。

特に2018年、冷え込んでいた日中関係をよそに、中国ナンバー2(李克強首相)が北海道の地を踏んだという事実は重いもので、かの国の北海道接近はより確実となりました。「経済進出と世論工作の両面で、北海道に沖縄と同格の重みをもたせている」(在北京の共産党関係者)ということが証明されたかっこうです。

現在、道内で外資によって買収された林地は2725ヘクタール(2019年、道庁調べ)。ただし、これらは申告ベースなので実際はケタが一つ違うはずです。

農地の買収も方々で進んでいます。中国とかかわりの深い日本法人K社(本社・兵庫県)の子会社E社(北海道むかわ町)が400ヘクタールを買収(2012年当時は1170ヘクタールを所有)していますが、解(げ)せないことに、当法人は用途不明の広大な土地を複数の地点に寝かせたままにしたり、個人に転売したりしています。「いったいどこから、何の目的で資金が調達されているのか」「国家的なセクターからの調達なのでは……」と地元のJC理事らは訝しがります。

これらの森林や農地の買い占めによって、中国が大きな利益を得るということはないでしょう。。日本そのものが、あまり経済成長していないし、北海道が急速に成長しているということもありません。無論一部の施設などは、例外となる可能性はあります

しかし、だからとって、これを許容するには問題が大きすぎます。上でも述べたように、中国が借金をかたに、弱小国の社会を自分の都合の良いように作り変える危険性は否定できないからです。そうなると、それらの国々の社会は不安定化することになり、地域紛争などに繋がる可能性はあるからです。

北海道の国土の中国による買収が進むこうしたエリアでは外国人従業員が増え、ガバナンスへの波及も無視できなくなっています。トマム地区の外国人比率は、50.5%(2019年7月末)。とうとう半数を超えました。地元の女性と結婚するなど、何組かのカップルも誕生しています。

トマムリゾートのザ・タワー

外国人参政権こそまだですが、日本に住んで、その市町村に住民票があれば、外国人でも事実上、政治に参加できるようになりました。「住民投票条例」と「自治基本条例」のためです。

あらかじめ投票方法や有資格者を条例で定め、請求要件さえ満たせばいつでも、どんな些細なことでも実施できるというもので、市町村体位で独自に制定されています。外国人にも投票権が保証されるケースがあり、地方行政に直接参加できるわけです。

北海道内ですでにこうした条例を定めている自治体は、芦別市、北広島市、増毛(ましけ)町、稚内市、安平(あびら)町、むかわ町、猿払(さるふつ)村、美幌町、遠軽(えんがる)町の9自治体で、2015年以降は、新たに北見市、苫小牧市、占冠村が続きました。この2市1村は、いずれも外国人に対して、居住期間など条件付きで投票権を認めています。

これら12の自治体はある意味、地雷を抱えているといえます。条例を根拠に、多数派の居住者(外国人)が首長のリコールを成立させることもできるとなると地方自治が将来、多数派に牛耳られることもあり得ます。そうした懸念を道議会に忠告したのが米国総領事館だったというところに、行政機構の弛緩が窺えます。

やはり、人口という数の力は厳然とした力であり、武力にも匹敵します。

かつて「北海道人口1千万人戦略」という構想が話題になったことがありました。国交省と道開発局が主催する講演会(2005年)において発表されたもので、北海道チャイナワークの張相律代表が提唱しました。

当時は荒唐無稽なプランという受け止め方でしたが、昨今の北海道を見ていると、単なる個人の思いつきレベルではなかったことがわかってきます。「1千万人のうち200万人が中国移民」というのがポイントでした。

5人に1人が中国移民、という「戦略」が14年前に提唱されていたのです。そして土地が次々と買収され、実際に人数も増えています。このことが何を意味するのか、少なくとも政治家や官僚は警戒心を持つべきです。

結局、中国は西欧列強がかつて植民地を手放したように、外国の土地やインフラを手放すことになるでしょう。

しかし、注意しなければならないのは、西欧列強が世界中に植民地を持って、それは手放すまでの間には、相当長い時間がかかったことや、植民地と宗主国の間に相当の軋轢を生じましたし、地域が不安定化したことです。

日本も、西欧列強と同じ道を歩もうとしましたが、その日本も結局植民地経営で富を得ることはありませんでした。たとえば、朝鮮半島には、莫大な投資をしましたが、ご存知のように何ら実りの大きいことはありませんでした。

かつての西欧列強がそうだったように、一帯一路や、豪州、日本への投資に結局中国は失敗するでしょう。これは、過去の歴史を真摯に学べば誰にでも理解できます。そのことを、愚かな習近平は理解していないようです。失敗に失敗を繰り返し、その果にどうしようもなくなってから気がつく可能性が高いです。

西欧列強は、自国では民主主義を実施していましたが、植民地人に対して宗主国と同じような権利を認めることはありませんでした。日本だけが例外だったかもしれません。日本が朝鮮半島を統治したときに、韓国の道議会議員の80%が朝鮮人でした。警察官も朝鮮人が多かったのです。

しかし、中国は全体主義国家であり、植民先の国民に対して自国と同じ権利を認めたとしても、植民地は大変なことになります。それどころか、植民地は中国以下の劣悪な社会環境になることでしょう。

このような中国が世界中で、地域を不安定化させ、特に市民社会が脆弱な国や、地域で、大問題を引き起こす可能性が大きいことを、豪州は気づいたのです。日本の政治家や官僚は警戒心を持ち、豪州のやり方を参考にすべきです。

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2021年5月11日火曜日

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中国の2020年総人口は14.1億人、「一人っ子政策」導入以来最低の伸び

 中国が11日に発表した2020年の総人口は、1970年代後半に「一人っ子政策」が導入されて以来、最低の伸びとなった。人口減少を回避するため、当局は出生数の増加に向けた対応を迫られそうだ。

中国春節

     中国が発表した2020年の国勢調査によると、総人口は14億1000万人で、前回調査(2010年)時の13億4000万人から5.38%増加した。10年前の伸び率は5.84%増だった。

 中国は2016年、人口を2020年までに約14億2000万人にする目標を掲げていたが、この目標をわずかに下回ったことになる。

 中国国営メディアはこのところ、今後数年で人口が減少に転じる可能性があるとの見方を伝えている。国連は中国本土の人口が2030年にピークに達し、その後減少に転じると予測している。

 英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は4月下旬、状況に詳しい複数の関係者の話として、中国の人口が2020年に前年比で減少したと報道。中国国家統計局は、2020年の人口は増加したとの1行の声明文を発表したが、いつに比べて増えたかは明らかにしなかった。

 経済力の強化を目指す中国では、以前から人口問題に対する懸念が浮上している。

 中国政府は2016年に一人っ子政策を廃止し、二人っ子政策を導入した。

 国家統計局の寧吉哲局長は11日、国内人口は今後ピークに達するが、時期は不明だと発言。高齢化が進み、出生数が減少しているため、政府は人口動態に関連するさまざまなリスクに積極的に対応していくと述べた。

 2010年以前の6回の公式な人口統計(初回は1953年)では、人口は一貫して2桁の伸びを示していた。

 今回の国勢調査では、若者の人口が予想外に増加した。14歳以下が占める割合は、2020年が17.95%。2010年は16.6%だった。

 2016ー19年の年間の出生率は、2016年を除いておおむね低下している。同局長によると、2020年の出生数は1200万人、出生率は1.3だった。

 北京のシンクタンク「全球化智庫」の人口統計学専門家は「出生数が急減していることは確かだ。さまざまなデータがそれを示している」と指摘。

全球化智庫の2020年報

 「中国が出生数の急減に直面していることは、国勢調査の公表がなくても分かる」とし、2020年の人口が減少しなかったとしても「2021年か2022年、もしくは非常に近い時期に」人口が減少するとの見方を示した。

 中国では、特に1990年以降に生まれた都市部の夫婦の間で、子供をもうけるよりも、自由やキャリアを重視する傾向が強い。

 人口が多い大都市で生活費が上昇していることも、出生数を抑制する要因となっている。

 政府系シンクタンクの2005年の報告書によると、普通の世帯で子供1人を育てるには49万元(7万4838ドル)かかったが、地元メディアによると、2020年は199万元と、4倍に上昇している。

上海の保険会社に勤務する26歳の既婚女性は「私の年齢の女性が子供を産めば、自分のキャリアに破滅的な影響が出る。また、(上海の)養育費も高すぎる」と語った。

【私の論評】民主化が期待できないこれから先の中国は、「少子高齢化」と「中進国の罠」に阻まれ、先細りしていくだけ(゚д゚)!

世の中には、不思議な人がいて、人口が減るとデフレになって経済が落ち込むと信じている人もいるようです。

これは、あきらかな間違いです。考えてみてください、人口がどんどん減っていったとして、それに対して中央銀行が何もしなければどうなりますか?無論インフレです。何しろ、人が減って、通貨流通量はそのままなのですから、当然のことながらインフレになります。

通常はそうならないように、中央銀行は、人口が減りつつあれば、通貨流通量を減らします。政府は、緊縮財政をします。それでインフレにはなりません。

インフレ、デフレは純粋に通貨の流通量の問題であって、人口増・人口減は直接関係はありません。生産能力以上に通貨が増えれば、インフレになり、通貨が減ればデフレになります。

そうして国全体のGDPを伸ばすには、方法が2つあります。それは人口を増やすこと、もう一つは個人あたりのGDPを増やすことです。両方ができれば、さらにGDPは伸びます。さらに、中央銀行が、通貨量の管理を行えば、デフレにもインフレにもならず、経済が順調に伸びます。

ただし、国民経済といった場合は、一人あたりのGDP(=一人あたりの所得)で見るのが正しい見方です。いくら国全体で経済が伸びても、一人あたりの所得が伸びなければ、意味がないからです。特に先進国ではそのような見方をすべきでしょう。

そうはいっても、軍事力の観点などからみると、一人あたりのGDPが多少他国よりも少なくとも、人口が大きく国全体のGDPが他国よりも大きければ、軍事費を相対的に大きくできます。

その他、政府主導の公共事業なども相対的に大きくできます。ここ10年の中国がまさにそうで、毎年かなりの勢いで軍事費を伸ばし、国内のインフラ投資や一帯一路など政府による大事業を展開してきました。

過去20年の中国は、まさに人口が増えるのと、一人あたりのGDPが増え、経済が急激に経済が伸びてきました。

ただし、最近ではそれにも陰りが見えてきました。まずは、上の記事にもある通り、人口の伸びが止まったことです。

中国の老人

さらに、中国では海外移住する人たちが、この10年間で加速しています。1978年以来、累計1000万人以上の人が移住。これは北京のシンクタンクの調べによる数字です。

現在中国には、3億5千万人のミドルクラス消費者と10億人のその予備軍がいますが、彼らが目指すのは海外不動産を買うこと(中国では土地は政府の所有であり、不動産所有が認められていないため)。

最も上流の、超富裕層となると、究極の目的はグリーンカードや永住ビザの取得です。中国ではでは、海外に居住できるスキームに投資したい人が後を絶たないです。このように海外に移住する人は全体から比べれば、数が少ないとはいえ、何しろ富裕層ですから、経済に悪影響を与えないわけはありません。

さらに、追い打ちをかけているのが、このブログでも過去に何度か述べているように、中国が中進国の罠にはまりつつあることです。中進国の罠とは、発展途上国が一定の中所得までは経済発展するのですが、その後は成長が鈍化し、なかなか高所得になれないという経験則です。ここで、中所得の国とは、一人あたりGDPが3000~10000ドル(日本円では所得が年間で30万円〜100万円)あたりの国をいうことが多いです。

この中進国の罠を破って、発展途上国から先進国になったのは、日本だけです。先進国から、発展途上国になったのはアルゼンチンだけです。例外は、日本から多大な経済支援を受けた韓国や、エジプトなどの産油国などだけです。中国だけが、この罠から逃れられる見込みはありません。

中進国の罠については、このブログで何度か解説したことがあります。その最近のものを以下に掲載します。
対中同盟の旗印に民主主義を掲げるのは難しい―【私の論評】実は民主化こそが、真の経済発展の鍵であることを中国をはじめとする発展途上国は認識すべき(゚д゚)!


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、中国は中進国の罠に間違いなくはまり込みつつあるのは確かです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分の一部を引用します。

「民主化」それに続く「政治と経済の分離」「法治国家化」が行われなければ、多数の中間層が生まれることもなく、今日の中国のように、いくら政府が音頭をとって巨額の投資をして、イノベーションをうながしたとしても、それは地域的にも、階層的にも、点のイノベーションにしかなりえず、一部の富裕層が豊かになるだけです。

そうして、あらゆる地域、あらゆる階層(特に多数の低所得層と数少ない中間層)の社会に非合理、非効率が温存され、旧態依然とした社会が残り、経済発展できないのです。

先進国が、故なく先進国になったのではなくそれにはまず「民主化」をすすめ、その後「政治と経済の分離」「法治国家化」をすすめたからこそ、先進国になったのであり、そうしなければ、「中進国の罠」からに阻まれ、先進国になることはなかったのです。

日本では、生産年齢人口が1995年、総人口も2011年から減少し、従属人口比率が高まる局面、すなわち働く人よりも支えられる人が多くなる状況で「人口オーナス」が常態化しています。中国でも少子高齢化が政府の大きな負担となりつつあります。

文革などで伝統文化が破壊されたことから、家族で高齢者を扶養する風習がなくなり、政府が主体となって介護サービスを提供する状態になっているのは日本と似ているところがあります。

中国の社会保障費(介護を含まず)は国家歳出の2割以上を占め、その伸びは国防費を上回っていますが、実態に比べて財政の投入量ははるかに少ないです。このような事情から、「中国経済も2015年に人口オーナス時代に突入したのではないか」との懸念がすでに出ています。

日本の場合は、民主化が達成さているので、人口オーナスが常態化していますが、それでも様々なイノベーションが可能で、この問題を解決できる可能性が十分あります。

しかし、民主化されていない中国では、たとえ政府が音頭をとって、少子高齢化問題に対するイノベーションを起こそうと思っても、それは点のイノベーションに過ぎす、あらゆる地域、あらゆる階層において不合理・非効率が温存され、少子高齢などの問題を解決することは困難を極めることでしょう。

民主化が期待できない、これから先の中国は、少子高齢化と、中進国の罠に阻まれて、先細りしていくだけです。

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2021年5月10日月曜日

ロシアが演習でウクライナを「恫喝」した狙い―【私の論評】現状では、EU・日米は、経済安保でロシアを締め上げるという行き方が最も妥当か(゚д゚)!

ロシアが演習でウクライナを「恫喝」した狙い

岡崎研究所

 ロシア軍がウクライナとの国境地帯に集結し、ウクライナとロシアとの緊張が高まっていた。戦車、軍用機、海軍艦艇とともにロシア軍兵士約10万人が展開し、米国とNATOはこれを厳しく非難していた。


 この展開についてロシア側は、部隊は演習をしているのであり、誰に対する脅威でもない、と言ってきた。4月23日、ロシアのショイグ国防相は、演習は終わったとして部隊に撤収を命じた。ただし、ショイグは、NATOの年次欧州防衛演習(東欧諸国で6月まで行われている演習)で不利な状況が出て来た場合にすぐ対応できるようにロシアの全部隊は即応体制にとどまるべきである、とも述べている。

 ウクライナのゼレンスキー大統領の補佐官の一人は、撤退が正確に何を意味するのか確かではないと注意喚起した。彼は「撤退は歓迎されるが、最近の数か月と過去数年の前例のないロシア軍の増強を見ると、撤退声明が何を意味するのかはっきりしない、まだこの件がどう展開するか、予見するのは難しい」と述べている。

 とはいえ、緊張は緩和されつつあると見てよいだろう。歓迎できる展開である。

 ロシアがどうして撤収に踏み切ったのかについては、4月13日にバイデン大統領が欧州のどこかで米ロ首脳会談を開くことを提案し、ウクライナ問題も話し合うことを電話でプーチン大統領に提案したことが大きな役割を果たしたという説が多い。おそらく、その通りなのだろう。

 4月22日、ロシアが2014年に一方的に併合を宣言したウクライナ南部クリミア半島で、
 軍用ヘリコプターから軍事演習を視察するショイグ国防相

 ロシアの今回の演習は、ウクライナ領内に侵攻する能力を誇示し、ウクライナを恫喝することを目的にしていた。

 プーチンに敬意を示していたトランプと違い、バイデンはロシアに厳しく、クリミア併合についても認めていないし、今後も認めるつもりはないと明言している。これを受け、ウクライナのゼレンスキー大統領もクリミア奪還を言うなどしている。今回の演習はそういうことも考慮したうえで、バイデン政権を試すものであったと思われる。

 今後の米ロ首脳会談がどういう話し合いになるのかが注目されるが、プーチンもバイデンも基本的な立場を変えるとは思われない。この問題は米ロ間で意見が異なる問題として残っていくことになろう。

 ロシアとウクライナの関係は、こういう演習騒ぎや東部ウクライナでの紛争の激化を受けて、どんどん悪くなっていくだろうと思われる。プーチンの支持率を80%以上に押し上げたクリミア併合は、ロシアとウクライナ関係に大きな懸案として残るだろう。

 なお、1994年に米英露は、ウクライナが非核兵器国となることの見返りに国境の尊重などをいわゆるブダペスト合意で約束した。この合意は政治的なものであるが、ロシアにより破られた。

【私の論評】現状では、EU・日米は、経済安保でロシアを締め上げるという行き方が最も妥当か(゚д゚)!

ナヴァリヌイに対する毒殺未遂、その帰国直後の拘束、執行猶予判決の実刑化、ナヴァリヌイ釈放要求デモに対する取り締まりなど、ロシアの現状は西側のパートナーになりうる国ではなく、西側との対決を選んだ国であるといえます。

3月月初めEUの外交責任者であるジョセップ・ボレルがモスクワを訪問しましたが、セルゲイ・ラブロフ外相から非礼とも受け止められる扱いを受け、ほうほうの体でブリュッセルに戻りました。

ジョセップ・ボレル

そうして同月22日に開かれたEU外相理事会は予想通りロシアに新たな制裁を科すことを決めました。ロシアのラブロフ外相はボレルに恥をかかせるために共同記者会見を利用したとしか考えられないです。

その上、ボレルがモスクワ訪問中にEU3か国(ドイツ、ポーランド、スウェーデン)の外交官追放措置を、ボレルに事前に通報することなく突然発表しました。このようなロシアの振る舞いはEU=ロシア関係を今後難しいものにしていくでしょう。

EUの中では、バルト諸国やポーランドなど東側の国がロシアに厳しく、独仏伊西など西側の国がロシアに甘いという分裂がありますが、今後、東側諸国の意見がより強く反映した政策になっていく可能性が強いです。ドイツ、スウェーデン、ポーランドは自国の外交官追放に対し、ロシアの外交官を追放する措置をすぐにとりました。

プーチンのロシアは、国際法を無視するという点で、習近平の中国と同じです。中ロは最近ますます共同戦線をはっています。プーチン政権は、改正憲法で、憲法は国際法より上位の法であると勝手に規定し、ロシアをならずもの国家にしています。

こういうロシアの変化は、当然、日ロ関係にも影響を与えます。メドヴェージェフは改正憲法でロシアの領土を譲渡してはならないことになったので、日ロ間の領土交渉は終わったとの趣旨の発言をしています。

このような政権を相手に条約を結んでも意味がありません。ロシアとの外交関係のあり方を真剣に再考すべきです。日ソ共同宣言に違反するロシアの言動は厳しくとがめ、覚悟を持って、本当のロシアに日本も対峙していくべきです。

プーチン

プーチンはネオスターリン主義者であり、プーチンとの関係で日ロの諸問題を話し合いで進展させることはほぼ不可能です。プーチンは2036年まで政権の座に居られることに改正憲法でなっていますが、ロシア国内での反プーチンのデモなどを見ると、そういうことにはならないでしょう。ポスト・プーチンをにらんで、対ロ外交は考えていかざるを得ないでしょう。

ただし、このブログにも度々掲載しているように、ロシアのGDPはいまや日本の1/5であり、東京都とほぼ同じです。東京都がいくら軍事力を強化したにしても、限界があるのと同じく、現状のロシアは、米国抜きのNATOとも本格的に対峙することはできないでしょう。

とはいいながら、ロシアは旧ソ連の核や軍事技術を継承する国であり、侮ることはできませんが、それにしても限界は見えています。

ウクライナのゼレンスキー大統領の補佐官の一人は、ウクライナ付近のロシア軍の撤退が正確に何を意味するのか確かではないと注意喚起したといいますが、その意味するところは、大規模な演習にはとてつもなく大きな費用がかかるので、いつまでも続けることはできないということを意味しているのだと思います。

国内最大規模の実弾射撃訓練「富士総合火力演習」(2014年)でさえも、2時間で使った弾薬約44トンは約3・5億円相当です。燃料費の約3000万円を合わせて約4億円です。ロシアの実施する、大演習だとまさに天文学的な費用がかかるものと考えられます。

富士総合火力演習


1991年12月、ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)が崩壊しました。2021年はそれから30年が経過したメモリアルイヤ ーです。連邦を構成した15の共和国はその後、いわゆる体制転換を経て現在に至っています。ウクライナもその一つです。 

 ソ連の後継国家であるロシアの経済は、この30年で10年ごとに危機と繁栄、停滞と紆余曲折を経てきました。この 間、課題であった原油依存からの脱却はあまり進みませんでした。

さらに原油価格の低迷に加えて、2014年のクリミ ア危機以降は欧米から経済制裁を受けており、経済は苦境にあえいでいます。 

 他方で、ロシア社会は近年、所得格差の是正などに成功したことなどから安定を強めています。とはいえそうした安 定は2000年代の繁栄の10年期の貯金を切り崩して実現した安定でもあります。

社会の安定が続くためにも、ロシア経済は成長の持続可能性を高めていく必要があります。 ロシア経済が今後10年で活力を取り戻すためには、引き続き資源国として歩み続けるにせよ、産業構造の多角 化を図るにせよ、外資の一段の導入が不可欠です。

そのためには、ビジネス環境の一段の整備に努めると同 時に、やはり欧米との関係改善も大きな課題となるはずでした。 

 産業政策と外交政策を両立させるためには、政治の安定が必要条件になります。つまるところ、プーチン政権から権 力がスムーズに移行されるかどうかが、今後のロシア経済のカギを握ることになるはずです。となると、ロシア経済の回復は絶望的とみるべきでしょう。

現状では、EUや日米は、経済安保でロシアを締め上げるという行き方が、最も妥当であると考えられます。その先に、プーチンの退陣、そうして西側のパートナーになりうるロシアがみえてくることになります。


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