2021年12月31日金曜日

バイデン氏正念場 ウクライナ侵攻許せば台湾は…―【私の論評】来年中国の台湾侵攻はなし、ロシアのウクライナ侵攻もその確率は低い(゚д゚)!

バイデン氏正念場 ウクライナ侵攻許せば台湾は…

12月30日、米デラウェア州の自宅で、ロシアのプーチン大統領と電話会談するバイデン米大統

 外交努力による緊張緩和か、重い代償を払う制裁か。12月30日の米露首脳会談で、バイデン米大統領はプーチン露大統領に〝二者択一〟を迫った。中国が威圧を強める台湾海峡と二正面の抑止作戦を強いられた超大国の苦悩は、2022年の不穏な世界の幕開けを印象付けた。

 「バイデン氏は2つの方向をプーチン氏に明示した」と米政府高官は語る。

 ウクライナ情勢の緊張緩和に導く外交の道筋。もうひとつは、ウクライナに軍を進めることでプーチン氏自らが選択する「深刻な代償と結果」を伴う制裁だ。いずれも「この先のロシアの行動次第」と高官は語るが、バイデン氏にも賭けであるのは間違いない。

 制裁は国際金融決済システムからロシアを締め出すもので、石油・天然ガス輸出に頼る露経済への打撃は甚大だ。「両国関係を完全な決裂に導く」と露側が反発したのは制裁を脅威と受け止めた証左とする見方も米側にはある。

 だが、現実にウクライナ侵攻を抑止できなければ、プーチン氏との神経戦は敗北に等しい。

 もうひとつの〝最前線〟で、中国の習近平政権はロシアの後を追うように、サイバー攻撃や世論工作などを駆使した〝ハイブリッド戦争〟と軍事侵攻の二段構えで台湾統一の機会を狙っている。ウクライナ情勢をめぐり1月に持ち越された米露高官協議の行方は、2月の北京冬季五輪以降の中国の出方にも影響を与える。昨年のアフガニスタンの混乱で傷ついたままの米国の威信が、決定的に試されるときが近づいている。

【私の論評】来年中国の台湾侵攻はなし、ロシアのウクライナ侵攻もその確率は低い(゚д゚)!

このブログでは、何度か述べてきたように、中国が台湾に武力進行するおそれはないでしょう。その理由の一つは、冷戦中にソ連が北海道に侵攻するなどと言われていましたが、それはありえないかったのと同じ理由です。

自衛隊は冷戦時代、音威子府(おといねっぷ)がソ連軍との決戦場になると思い定めていた

ソ連が崩壊してから今年で30年です。ソ連軍の戦略は以下のようものでした。
・戦略核兵器により、アメリカ、イギリスなどと対峙し、
・ソ連軍は、ワルシャワ条約機構軍を頼みとして、NATOと対峙する。
・太平洋と大西洋では、潜水艦隊が、アメリカの空母を狙い、アメリカの対潜部隊を、ソ連の対艦ミサイルが狙うというものでした。
そんな中、極東地域では、ソ連軍の、日本侵攻も噂されていました。というより、マスコミが煽りまくっていました。

さてソ連が北海道に侵攻するとなると、揚陸艦艇が必要になります。

当時のソ連海軍において、揚陸艦は、約90隻、192000トンでした。海上自衛隊の6隻、約10000トンの輸送艦で、陸自1個師団の半数の輸送能力しかないですから、これをもとに掲載んしてみるとどう見ても当時のソ連では、10万人の輸送能力しかなかったのです。

しかも、それが海軍の全力であるから、極東地域は、4万人が限度だったことでしょう。また、陸自の場合は、部隊の移動だけが輸送艦定数の計算対象で、その後の補給は別です。

しかしながら、敵地に侵攻する部隊は、補給線の確保は、必須課題です。そうして、敵前上陸に際しては、激しい抵抗線があります。

ミサイル艇や対艦ミサイル、空対艦ミサイルによる、反撃により、2割程度の犠牲は覚悟せねばなるないでしょう。また、冷戦時代から日本は米国の依頼もあって、オホーツク海において、対潜哨戒活動を行い、日米の潜水艦はソ連の潜水艦などの情報をつかみ、この封じ込めに成功していました。

そうなると、ソ連が日本に侵攻ということになれば、ソ連の艦艇は日米の攻撃を受けて、2割の程度の犠牲どころか、半分以上が撃沈されるおそれもありました。

ただ、当時のソ連軍には、空挺師団があり、戦車をも空挺できる事は考慮する必要が有るかもしれませんが、それでも海上輸送と比較すれば、さほど多くの兵員を送れるわけではありません。

空挺師団の役割は、後続の陸上部隊が到着することを前提として、ピンポイントで、橋頭堡を構築することなどが主任務です。後続部隊が来なければ、限られた戦力では持ちこたえられません。

当時一部でいわれた、カーフェリー揚陸艦論ですが、カーフェリーは、甲板強度を確保してあれば、戦車などの重量物の運搬は可能です。しかしながら、敵前揚陸は、本船から直接揚陸させる事が必要で、一般船舶のような船首では、上陸地点への進出は「座礁」であり、とても、貨物を戦力投入しうる物ではありません。

ただ、既に接岸揚陸中の艦艇に、ポンツーン(浮橋架設用の船)などを介して接舷するのであれば、不可能ではありません。但し、この作戦は、橋頭堡確保以降の後詰めであり、交戦中にその様な事をしていれば、直ちに敵に攻撃されることになります。

さて、このようにして、上陸を達成しうる部隊は、およそ5万人です。対する陸自は、北海道、北部方面隊と4個師団をあわせて、4万人。また、有事には、本土から1個師団が北方機動するので、更に増強が可能でした。

但し、この場合は、十分な準備期間が必要で、約2週間前に、察知している事が必要でしょうが、無論ソ連が北海道侵攻を目指すような大戦争を行うということになれば、それは、事前に必ず日本や米国に知られることになります。当時から監視衛星や、偵察機がありましたから、大きな動きはすぐに日米に察知されます。

当時のソ連軍が北海道に侵攻となると、日米が十分に準備を整えているところに侵攻することになります。第二次大戦中のような奇襲は不可能です。

地上軍の攻撃には、「攻者3倍の法側」と言うものがあります。これは、2対1で、完全相殺し、残る1で占領維持するということを意味します、

5万の攻撃部隊と、4万の守備隊。この辺でお分かり頂けると思いますが、国土の損害や、犠牲を別にしても、攻撃に踏み切るだけの兵力投入が、ソ連軍には出来なかったのです。

と言う図式から、北海道侵攻の脅威は、幻に過ぎなかったのです。そのようなことは当時からわかっていましたが、無論それでも当時は北海道にソ連の脅威にそなえて陸自、海自、空自ともに駐屯していました。これは、無論正規の軍隊が攻めてこれないにしても、決死覚悟のゲリラ部隊などが侵入してきた場合に備えるという意味合いもありました。

これと同じようなことが、現在の中国による台湾侵攻にもいえます。このあたりは、以前もこのブログに掲載したことがあるので、その記事のリンクを以下に掲載します。
中国軍改革で「統合作戦」態勢整う 防衛研報告―【私の論評】台湾に侵攻できない中国軍に、統合作戦は遂行できない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。
中国が台湾を武力統一しようとする場合、最終的には上陸侵攻し、台湾軍を撃破して占領する必要があります。来援する米軍とも戦わなければならないです。

その場合、中国は100万人規模の陸上兵力を発進させる必要があります。なぜなら台湾軍の突出した対艦戦闘能力を前に、上陸部隊の半分ほどが海の藻くずとなる可能性があるからです。

それに、昨日も述べたように、日米の潜水艦隊が台湾に加勢すると、上陸部隊のさらに半分が海の藻屑となります。これでは、台湾に到達する前に、全部隊が撃破されることになります。

日米が加勢しないとしても、100万人規模の陸上兵力を投入するためだけにでも5000万トンほどの海上輸送能力が必要となります。これは中国が持つ全船舶6000万トンに近い数字です。

台湾有事を気楽に語っている軍事評論家も忘れているようですが、旧ソ連軍の1個自動車化狙撃師団(定員1万3000人、車両3000両、戦車200両)と1週間分の弾薬、燃料、食料を船積みする場合、30万~50万トンの船腹量が必要だとされています。
旧ソ連軍の演習
船舶輸送は重量トンではなく容積トンで計算するからです。それをもとに概算すると、どんなに詰め込んでも、3000万トンの船舶が必要になります。

この海上輸送の計算式は、世界に共通するもので、中国も例外ではありません。むろん、来援する米軍機を加えると、中国側には上陸作戦に不可欠な台湾海峡上空の航空優勢を確保する能力もありません。

それだけではありません。軍事力が近代化するほど、それを支える軍事インフラが不可欠です、中国側にはデータ中継用の衛星や偵察衛星が決定的に不足しています。
中国側には台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる能力がなく、1度に100万人規模の上陸部隊が必要な台湾への上陸侵攻作戦についても、輸送する船舶が決定的に不足しており、1度に1万人しか出せないのです。そしてなによりも、データ中継用の人工衛星などの軍事インフラが未整備のままなのです。

こうした現実があることと、さらに米軍の強力な攻撃型原潜が台湾を包囲してしまえば、対潜戦闘能力(ASW)が劣る中国には、この包囲を突破できなくなります。仮に突破して、陸上部隊を上陸させたにしても、補給船や、航空機が攻撃型原潜に破壊され、補給ができなくなり、陸上部隊はお手上げになってしまいます。

このようなことを考えると、中国が台湾に侵攻することはないでしょう。侵攻すれば、侵攻部隊は大被害を受けて、しりぞかざるを得なくなり、人民解放軍の能力がどの程度のものなのか、世界中に知られてしまい、習近平は物笑いの種になり、当地の正当性を失うだけです。 

一方、現在のロシアにも、兵站に問題があり、ウクライナに侵攻するのは、かなり難しいです。現在も、それに将来もロシア人の多いウクライナのいくつかの州に侵攻できるだけです。ウクライナに侵攻して、ウクライナを併合するようなことはできません。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

ロシア軍、1万人以上撤収 南部のウクライナ国境―【私の論評】一人あたりGDPで韓国を大幅に下回り、兵站を鉄道に頼る現ロシアがウクライナを屈服させ、従わせるのは至難の業(゚д゚)!
7日、ウクライナ東部ドネツク州で、親ロシア派武装勢力との境界線付近を歩くウクライナ軍兵士


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、結局一人あたりGDPでは、韓国を大幅に下回る現在のロシアでは、そもそもウクライナ全土を併合するような大戦争はできません。それに、ロシア軍の兵站は鉄道に頼っているため、鉄道網が破壊されると、補給ができなくなるという致命的な欠陥があります。

それに、現在のロシアは、インフレの加速したため、中銀は金融引き締めの度合いを強めているほか、感染再拡大による影響も顕在化するなど、足下では幅広く企業マインドが下押しされるなど景気の悪化が懸念されています。

ロシアはワクチン開発国ながら国民の間に疑念がくすぶるなかでワクチン接種が進んでいません。プーチン大統領は国民にワクチン接種を呼び掛けるほか、事実上の接種義務化などの動きもみられますが、政府の旗振りにも国民は踊らされることはありませんでした。総選挙で与党は政権基盤を維持出来ましたが、国民の間には着実に政府に対する不満のマグマは溜まっているのは間違いないです。

この状況で、ウクライナに攻め込んでも、さらに経済が悪化するだけですし、クリミアのときのように国民からの支持が大きく伸びるということもないでしょう。私としては、プーチンは、米国の厳しい制裁を逃れたいので、その取引材料として、ウクライナを利用しているのではないかと思います。

実際プーチンは、バイデンと電話会談する機会を得ることができました。ウクライナ問題がなけば、このようなことはなかったでしょう。

以上中国の台湾への侵攻は、来年もないでしょう。現状に大きな変化がない限り、来年以降もないでしょう。

ロシアによるウクライナ侵攻もかなり確率が低いと思います。ただ、状況が悪化した場合、来年はドネツク州への侵攻はあるかもしれませんが、年明けすぐということはないでしょう。ただ、確率は低いです。

来年は、平和な年になっていただきたいものです。皆様本年中は、お世話になりました。良いお年をお迎えくださいませ。

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2021年12月30日木曜日

【独自】海自潜水艦に1000キロ射程ミサイル…敵基地攻撃能力の具体化で検討―【私の論評】日本の潜水艦隊は、長射程巡航ミサイルを搭載し、さらに戦略的要素を強めることになる(゚д゚)!

【独自】海自潜水艦に1000キロ射程ミサイル…敵基地攻撃能力の具体化で検討


 政府は、海上自衛隊の潜水艦に、地上の目標も攻撃可能な国産の長射程巡航ミサイルを搭載する方向で検討に入った。ミサイルは海中発射型とし、自衛目的で敵のミサイル発射基地などを破壊する「敵基地攻撃能力」を具体化する装備に位置づけられる見込みだ。

 複数の政府関係者が明らかにした。相手に発見されにくい潜水艦からの反撃能力を備えることで、日本への攻撃を思いとどまらせる抑止力の強化につなげる狙いがある。配備は2020年代後半以降の見通しだ。

 岸田首相は22年末に改定する安全保障政策の基本指針「国家安全保障戦略」に、「敵基地攻撃能力」の保有について明記することを目指している。保有に踏み切る場合、潜水艦発射型ミサイルは有力な反撃手段の一つとなる。

 搭載を検討しているのは、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」を基に新たに開発する長射程巡航ミサイル「スタンド・オフ・ミサイル」。射程は約1000キロ・メートルに及び、敵艦艇などに相手のミサイル射程圏外から反撃することを想定する。将来的には敵基地攻撃への活用も可能とみられている。

 スタンド・オフ・ミサイルは現在、航空機や水上艦からの発射を前提にしている。防衛省は22年度予算案に開発費393億円を盛り込んだ。

 潜水艦に搭載する場合、浮上せずに発射できるよう、垂直発射装置(VLS)を潜水艦に増設する方式や、既存の魚雷発射管から発射する方式などが検討されている。自衛隊は、スタンド・オフ・ミサイルより射程は短いが、魚雷発射管から発射する対艦ミサイルは既に保有している。

 中国は日本を射程に収める弾道ミサイルを多数保有するほか、近年、日本周辺海域や南・東シナ海で空母を含む艦隊の活動を活発化させ、軍事的挑発を強めている。北朝鮮も核・ミサイル開発を進めている。

 日本を侵略しようとする国にとっては、先制攻撃で自衛隊の航空機や水上艦隊に大打撃を与えても、どこに潜むか分からない潜水艦から反撃される可能性が残るのであれば、日本を攻撃しにくくなる。

 自衛隊の潜水艦は現在21隻体制で、航続性能や敵に気付かれずに潜航する静粛性などに優れ、世界最高水準の技術を誇る。

 政府はこの潜水艦の能力を生かし、弾道ミサイルによる攻撃や、艦隊などによる日本の島嶼(とうしょ)部への侵略を防ぎたい考えだ。

【私の論評】日本の潜水艦隊は、長射程巡航ミサイルを搭載し、さらに戦略的要素を強めることになる(゚д゚)!

このニュースを、ロシアのメディア「スプートニク」は、素早く報道しています。
日本政府、海自潜水艦に国産の長距離巡航ミサイルを搭載する方向で検討=読売新聞

やはり、このニュースはロシアも相当気になるということなのでしょう。無論中国も気にしていることでしょう。北朝鮮も気にしているでしょう。

上の記事でも「自衛隊の潜水艦は現在21隻体制で、航続性能や敵に気付かれずに潜航する静粛性などに優れ、世界最高水準の技術を誇る」と記載されてますが、これはこのブログでも過去に何度か掲載してきたように事実です。

航続性能については、軍事秘密なのではっきりしたことは公表されていませんが、最新鋭潜水艦では最長で2週間をはるかに超える潜水が可能とされています。

特に静寂性(ステルス性)については、最新型のリチウムイオンバッテリーを駆動力に用いる潜水艦では、ほとんど無音に近いです。ただ、古い型の潜水艦でも日本の現役の潜水艦はすべて静寂性にはかなり優れています。これを中露海軍が探知するのは難しいです。

さらに、日本の自衛隊の潜水艦探知能力は、米国とならんでトップクラスであり、中露をはるかにしのぎます。

その日本の潜水艦が、米国の攻撃型原潜に劣るのは、航続性能や攻撃力ですが、その攻撃力が「スタンド・オフ・ミサイル」を装備したとなると、これは米国の攻撃型原潜に近い性能を有することになります。

新型巡航ミサイルの原型となる地対艦誘導弾システム:12式地対艦誘導弾(12SSM)

日本は、米中露のように、戦略原潜のような戦略兵器は持っていませんが、日本の潜水艦が「スタンド・オフ・ミサイル」を装備すれば、今までも戦略的だったのですが、より戦略兵器に近づくことになります。

日本では、三菱重工が地上、戦闘機、艦艇のいずれからも発射できる射程距離1000キロを(1000〜1500km)超える巡航ミサイルを開発中で。開発費は約1000億円で、地上配備型は2025年、艦艇搭載型は2026年、戦闘機搭載型は2028年までに配備を完了する計画だとされています。

そうして、今回はさらに、潜水艦に、地上の目標も攻撃可能な国産の長射程巡航ミサイルを搭載することを検討し始めたのですから、中露・北朝鮮なども心穏やかではないでしょう。

ちなみに1000キロとはどの程度の距離なのか、以下に地図を掲載します。


この地図をご覧になれば、わかるように1000キロだと、東京から打っても、北朝鮮には届きませんが、日本の潜水艦は北や中国には探知できないので、潜水艦で近づいて発射すれば、日本の領海内からでも、北京や平壌に届きます。

いまのところ、目立った反論などはありませんが、この計画が進行するにつれて、中露・北朝鮮の反発が強まることになることでしょう。どの程度の反発を示すのか今から楽しみです。反発が激しければ、激しいほど日本の戦略を恐れているということなると思います。

そうして、これは無論、日本にとっては良いことだと思います。運用の仕方によっては、東アジアの軍事バランスに大きな影響を与えることになるでしょう。無論、日本にとって良い方向にです。

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2021年12月29日水曜日

潜水艦建造、予算巡り与野党攻防 装備品、来年引き渡しピークへ/台湾―【私の論評】台湾は潜水艦で台湾を包囲して、中国の侵攻を長期にわたって防ぐことに(゚д゚)!

潜水艦建造、予算巡り与野党攻防 装備品、来年引き渡しピークへ/台湾

台湾初の国産潜水艦(試作艦)の模型

 潜水艦の自主建造の予算を巡り、立法院(国会)で与野党が攻防を繰り広げている。予算執行の凍結を訴える野党・国民党に対し、軍は来年、装備品の引き渡しがピークを迎えると説明し理解を求めている。

 外交および国防委員会は29日、来年度の国防部(国防省)の予算を審議。国民党は進捗(しんちょく)の遅れなどから急いで予算を通す必要はないとして、30億台湾元(約125億円)の凍結を求め、民進党の立法委員(国会議員)と応酬した。

 海軍の蒋正国・参謀長は、装備品107項目の調達のめどは全て立っているとし、来年はこれらの装備品が順次、台湾に到着する重要な1年になると指摘。建造や支払いもピークを迎えるとし、予算の執行が凍結されれば、国際社会や海外企業の台湾に対する信頼に影響が出るとの見解を示した。

【私の論評】台湾は潜水艦で台湾を包囲して、中国の侵攻を長期にわたって防ぐことに(゚д゚)!

海軍司令部は先月16日、台湾で初となる国産潜水艦の主要ブロックの完成を記念した式典を南部・高雄市で開催しました。2025年の試作艦引き渡しを目指しています。

蔡英文(さいえいぶん)総統は、軍艦や軍用機などの国産化を推進しており、先月21日には自主開発、製造した新型高等練習機「勇鷹」が初飛行に成功しています。

国産潜水艦は昨年11月から建造が進められていました。式典は、船体の主要ブロックの耐圧殻とセイルの結合が完了したことを受けて行われたもので、今後耐圧試験を経て問題がなければ、潜望鏡や通信用アンテナなどの設備を設置します。

式典には海軍司令の劉志斌上将(大将)や台湾国際造船の鄭文隆董事長(会長)らが出席した。劉氏は建造チームに対し、蔡総統と国民の期待と支援に応えるために、協調性と協力の精神を保ち、計画通りに初の潜水艦建造を進めるよう激励しました。

海軍司令の劉志斌上将(大将)

台湾国防部(国防省)は4月2日夜、台湾による潜水艦の新規建造計画を欧州の複数の主要国が支援していると発表しました。建造支援が米国からだけでないことを認めるのは異例です。

米政府は2018年、この近代化計画に米メーカーが参加するのを承認。台湾が主要部品を確保するのを助ける動きと見なされていました。ただ、関与する米企業名は明らかになっていません。

欧州諸国は全般に、中国の不興を買うのを懸念して台湾への武器売却承認には後ろ向きでした。ただ、台湾は18年、英領ジブラルタルに拠点を置く企業と新潜水艦の設計について協議していることを明らかにしていました。

現在台湾で活動できる台湾の潜水艦4隻のうち、2隻はオランダが1980年代に建造したが、同国はその後、さらなる潜水艦の売却を拒んできました。

フランスもこれまでに台湾にフリゲート艦と戦闘機を売却。台湾は昨年、艦船のミサイル妨害システム最新化のため、フランスから機器購入の意向があると表明している。

台湾国際造船(CSBC)は昨年、新潜水艦8隻の建造を開始。25年に最初の引き渡しを目指すとしていました。

一方、2019年の台湾報道を引用して北朝鮮が台湾の潜水艦支援へ協議していたとの米メディア報道について、国防部は2日これを否定しました。

台湾は、新型潜水艦によって、台湾の台潜水艦攻撃能力(ASW)を強化することを目指しています。これは、ASWが劣っている中国に対して、コストパフォーマンに優れた戦略といえます。潜水艦の建造にも多額の資金が必要となりますが、大型空母ほどではありません。

昔からの諺にあるとおり、艦艇には二種類しかありません。まずは、水上に浮く空母、戦艦、強襲揚陸艦などの艦艇です。もう一つが潜水艦です。水上の艦艇はいずれミサイルや、魚雷で撃沈されます。しかし、潜水艦はそうではありません。

そのため、現代では潜水艦こそが、海戦での決定打になるのです。だから、本当の海軍力とは、潜水艦とそれをサポートする能力なのです。

そうして、潜水艦の静寂性や攻撃能力などの能力の差異が、決定的な戦力の優劣につながります。第二次世界大戦中でもそのような傾向がありましたが、当時は水中から発射できる誘導弾(ミサイル)や、誘導魚雷などはありませんでしたし、艦艇や潜水艦を発見する電子機器などが発達していなかったため、潜水艦が海戦の主役になることはありませんでした。

第二次世界大戦中のドイツの潜水艦「Uボート」

当時は、空母打撃群が花形でした。しかし、第二次世界大戦後は、対艦・対空誘導弾(ミサイル)が実用化され、誘導魚雷も開発されたため、潜水艦が海戦の主役となりました。もはや空母打撃群は、時代遅れなのです。

台湾の潜水艦の能力がどの程度になるのかは、軍事秘密ですので、表にはでてきませんが、当然のことながら、日本の最新鋭潜水艦のようにステルス性(静寂性)に優れた、中国海軍には発見するのが難しい潜水艦の建造を目指していると思います。

ASWの強化には対潜哨戒機なども欠かせません。これに関しては、台湾はすでに導入しています。

台湾ではすでに2017年12月1日に米国から購入した哨戒機P3C12機の部隊編成が完了し1日、台湾南部・屏東県の空軍基地で式典が行われた。増強が進む中国海軍の潜水艦に対応するほか、中国が人工島の造成を進める南シナ海での哨戒任務にも当たるとされました。

それまでの対潜哨戒機S2Tは艦載型で航続距離が短い上、導入は50年前の1967年で老朽化が進んでいました。P3Cは2001年の米ブッシュ(子)政権下で売却が承認されましたが、1機目の納入は2013年まで遅れました。台湾の国防部(国防省に相当)は、P3Cは約12時間の連続飛行が可能で、対潜哨戒能力が大幅に向上するとしていました。

式典では蔡英文総統が訓示し、「P3Cの全機納入で、軍の戦力はさらに強化される」と述べました。台湾では13年以降、哨戒機は海軍ではなく空軍が運用しています。

台湾の対潜哨戒機P3C

台湾が潜水艦を自主開発することにより、P3C12機の運用ともあいまって、飛躍的にASWが高まります。これは、ASWが弱い中国にとっては、頭が痛いことでしょう。

米国の専門家は、台湾が潜水艦の開発に成功すれば、今後数十年にわたって中国の侵攻を止めらるだろうと論評しています。それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。以下にその記事のリンクを掲載します。

台湾が建造開始の潜水艦隊、中国の侵攻を数十年阻止できる可能性―【私の論評】中国の侵攻を数十年阻止できる国が台湾の直ぐ傍にある!それは我が国日本(゚д゚)!

詳細は、この記事をごらんいただくものとして、この記事では台湾が8隻の優れた潜水艦を持つことができれば、中国の侵攻を数十年阻止できる可能性を指摘しました。元記事よりも、私の記事では根拠を明確にして説明しました。

ただ、この記事では、潜水艦8隻で最終的にどのような戦略をとるのかについては説明しませんでした。以下にこれを説明しようと思います。

台湾は、常時2〜3隻の潜水艦で台湾周辺を包囲する計画なのだと思います。ASWに劣る中国海軍は、多くの艦艇をもっていたのしても、潜水艦のステル性が低いのと、対潜哨戒能力が劣るため、台湾の海域に潜水艦が潜んでいれば、台湾に兵を送ることはできません。

送ろうとすれば、台湾の潜水艦に撃沈されてしまいます。その前に、台湾近海の中国の潜水艦は、台湾の潜水艦に撃沈されることになるでしょう。

それでも、中国が台湾に無理やり兵を送り込んだにしても、今度は補給船や航空機が台湾の潜水艦に破壊されることになります。それでは、中国軍は武器・弾薬、食料・水が補給できずにお手上げになってしまいます。

私は、台湾はこのようなシナリオを描いていると思います。常時2〜3隻で台湾を包囲するためには、交替艦としして2〜3隻は必要になります。さらに、故障や訓練のなどのことも考えて予備に2隻は必要となります。だから、最低でも8隻必要なのでしょう。

このような戦略をとられると、中国は台湾に今後少なくとも数十年は手出しかできなくなるでしょう。

ただ、こうした戦略すでに、米国の攻撃型原潜が実施していると思います。米攻撃型原潜は、台湾近海にすでに潜んで中国海軍の動きに睨みを利かしていることでしょう。日本もステルス性に優れた潜水艦により情報収集などに当たっているでしょう。何しろ、潜水艦の行動などは、各国とも表に出さないのが普通です。日本も例外ではありません。

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2021年12月28日火曜日

ソロモン諸島、中国が治安支援 警察関係者受け入れ―【私の論評】一人ひとりの国民が豊かになるために、ソロモン諸島は、民主的な道を歩むべき(゚д゚)!

ソロモン諸島、中国が治安支援 警察関係者受け入れ

ソロモン諸島の海岸

 南太平洋の島嶼国ソロモン諸島は28日までに治安維持能力の向上のために中国から警察関係者の受け入れを決めた。国内ではソガバレ首相が2019年に台湾と断交し中国と国交を樹立したことなどに不満が高まり、今年11月に暴動が発生していた。今回の決定はソガバレ氏の親中姿勢が変わっていないことを裏付けており、反発の高まりが予想されている。

 ソロモン諸島政府は23日の声明で、「将来の騒乱への対応能力を強化することが急務だ」と述べ、中国から警察関係者6人の派遣を受けると発表した。警察官の訓練などを担当するという。ヘルメットや警棒など装備の提供も受ける。

 ソロモン諸島の首都ホニアラでは11月、ソガバレ氏の退陣を求める反政府デモが暴徒化し、中華街で略奪や放火が相次ぎました。

 デモ参加者の多くは、ホニアラがあるガダルカナル島と長年対立するマライタ島出身者だった。マライタ島は親台湾派住民が多く、ソガバレ氏が中国と国交を結んだことに反発が強まっている。地元マライタ州政府は中央政府の親中的な政策に反発し、中国企業の島内での活動を禁止する措置を取っている。

 また、ソガバレ政権はデモ隊を沈静化させるために近隣国オーストラリアに支援を要請し、兵士や警察官約100人の派遣を受けていた。中国がソロモン諸島の警察力向上を支援することに対し、豪州が警戒を強めそうだ。

(シンガポール支局 森浩)

【私の論評】一人ひとりの国民が豊かになるために、ソロモン諸島は、民主的な道を歩むべき(゚д゚)!

太平洋島嶼地域の戦略上の重要性は一層増大しています。恐らく中国はこうした重要性を十分認識の上、これらの国々との関係強化に努めているのでしょう。いずれ中国が南シナ海でやっているような軍事化を太平洋の中心で行うような事態になることも考えられます。

太平洋にはグアム、ホノルル、クワゼリンなど米軍の戦略的施設があり、太平洋は米国が圧倒的な存在感を確立している地域です。更に今後の宇宙戦争を有利にするためにも太平洋の空間確保や施設設置は重要と中国が考えているとしても不思議ではありません。中国による本格的な太平洋進出は、米国のインド太平洋戦略を大きく複雑化させる。

12月9~10日に開催された、米国主催の「民主主義サミット」にはフィジー、キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ等の島嶼国が招請されたことが注目されました。そこに米国の国防上の強い危機感が表れているようです。


日米豪欧州などが改めて太平洋島嶼国、太平洋水域の重要性を認識、確認することが重要です。なおインド洋では米中がセイシェルに注目していると言われています。地政学の舞台は益々大陸から大洋の開かれた地域に拡大しています。

ソロモン諸島では、反政府抗議行動が暴動に転じ、4人の犠牲者が出たことを受けて、オーストラリアは治安維持を支援するため警察・兵士を派遣するに至りました。

前週、3日にわたって続いた暴動では、抗議参加者による建物への放火や店舗での略奪が見られた。目撃者は、抗議者の怒りの矛先は高失業率や住宅難といった問題に向けられていたと話しています。

だがこの暴動に先立ち、ソロモン諸島で最も人口の多いマライタ州では、ソガバレ首相の率いる現政権が2019年に台湾と断交して中国を公式に承認したことに対する住民の抗議行動がありました。

ソガバレ首相

中国との外交関係樹立という決定は、マライタ州とソロモン諸島政府との緊張を招くだけでは終わらなかったのです。人口65万人のソロモン諸島は、大国間の地政学的な対立に巻き込まれてしまったのです。

中国と台湾はここ数十年、南太平洋を巡るライバル関係にあります。この地域の島しょ国の中には、一方から他方へと関係を乗り換える動きもあり、中台双方が影響力を高めるために援助やインフラの提供を競い合っているという指摘も表面化しています。

台湾と公式の外交関係を維持している国は15カ国。台湾と断交し、中国に乗り換えた最も最近の2例が、2019年9月のソロモン諸島とキリバスです。

ところがソロモン諸島マライタ州のダニエル・スイダニ州首相は、州内から中国企業を追放し、米国からの開発援助を受け入れたのです。

スイダニ州首相は5月に治療を受けるために台北を訪問し、ソロモン諸島の中央政府および駐ホニアラ中国大使館から抗議を受ける事態となりました。

担当医師らは、スイダニ州首相には脳腫瘍の疑いがあり、外国の病院での治療を推奨していたと話しています。州首相の帰国は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関連で数回にわたり延期されいましたが、10月にはマライタ州に戻っています。

首相のソガバレは中国寄り、マライタ州のスイダニは親台湾で両者はパーソナリティーでも競争しているという状況にあります。

ソロモン諸島の首都ホニアラの中国系住民が多い地区で起きた火災(先月25日、交流サイトの動画から)


ただ、中台問題だけが暴動の要因ではなく、そこには経済的な問題もあります。フィナンシャル・タイムズ紙のキャサリン・ヒル中華圏特派員は12月1日付けの同紙解説記事‘Economic woes, not China, are at the heart of Solomon Islands riots’において、暴動の原因は、中国問題よりも経済にあると主張しています。

豪州ローウィ研究所のジョナサン・プライクも同様の分析を述べ、地政学、経済、島嶼人種間の格差の3要因を指摘の上、「地政学が火花になったが、真の原因は外交よりも深いものだ」、「人口の3分の2を占める30歳未満の多くが経済機会を見つけられないでいる」、「地域間の経済格差が島嶼間にある人種対立に油を注ぐことになっている」と中台の競争が最大の要因ではないと述べています(11月26日付ローウィ研究所サイト)。

IMF2021年10月13日の資料によれば、ソロモン諸島の一人あたりのGDPは、2,281ドル(世界140位)、中国は10,511ドル(世界84位))、台湾は28,358ドルです。これだと、ソロモン諸島そのものが貧困であるのは確かです。この貧困が対立の根本的要因になっていることは十分に考えられます。

中国は、国全体では、GDPは世界第二といわれていますが、個人ベースではこの程度です。そのため、以前このブログで中東欧諸国と中国の関係に関して述べたように、中国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無なのです。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

ただ、中国は独裁者やそれに追随する一部の富裕層が儲けるノウハウを持っているのは確かであり、ソロモン諸島の為政者が、独裁者となり自分とこれに追随する富裕層が大儲けするという道を選ぶ可能性はあります。

ただ、一人ひとりの国民が豊かになる道を選びたいなら、やはり民主的な国家を目指すべきです。その場合は、急速に民主化をすすめた台湾が参考になります。このブログにも何回か掲載したように、先進国が豊かになったのは、民主化をすすめたからです。民主化をすすめなかった国は、たとえ経済発展しても、10000万ドル前後あたりで頭打ちになります。これは、中進国の罠と呼ばれています。

結局のところ、為政者の考え一つで大きく変わりますが、忘れてはならないのは、ソロモン諸島では大陸中国で行われていない選挙制度があり、有権者が将来を決めることができるということです。

米国や日本、台湾、それに太平洋に領土を持つフランスやイギリスなど、当然のことながら、ソロモン諸島が中国の覇権の及ぶところにはなってもらいたくないでしょうから、やはりソロモン諸島の住民に対して啓蒙活動や、一人ひとりの住民が豊かになり、自らの力で持続的に繁栄できるように支援をすべきでしょう。そのための、ノウハウなら中国にはありませんが、先進国ならあります。

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2021年12月27日月曜日

ロシア軍、1万人以上撤収 南部のウクライナ国境―【私の論評】一人あたりGDPで韓国を大幅に下回り、兵站を鉄道に頼る現ロシアがウクライナを屈服させ、従わせるのは至難の業(゚д゚)!

ロシア軍、1万人以上撤収 南部のウクライナ国境


 インタファクス通信は26日までに、ロシアの南部軍管区に属する1万人以上の部隊がクリミア半島などでの展開を終えて駐留する基地に撤収を始めたと伝えた。

  南部軍管区はウクライナに近いロシア南部の各州を管轄。欧米は衛星写真などを基に、ロシアがウクライナ国境付近に約9万人の部隊を集結させ、年明けにもウクライナに侵攻する可能性があると主張してきた。今回の撤収が欧米とロシアの間の軍事的緊張の緩和につながるかは不明。

  同軍管区は25日、インタファクスに対し、計1万人を超す部隊が1カ月の訓練を終えて撤収中だと明らかにした。

【私の論評】一人あたりGDPで韓国を大幅に下回り、兵站を鉄道に頼る現ロシアがウクライナを屈服させ、従わせるのは至難の業(゚д゚)!

このブログでは、以前ロシアがウクライナに侵攻するにしても、最大でいくつかの州であろうことを予測したことがあります。その根拠として、現状のロシアのGDPは韓国以下であり、しかも韓国よりも一人あたりではさらに低いので、とても大規模な戦争を遂行できるだけの力はありません。

ロシアは面積こそ世界一ですが、人口は約1億4000万で日本をわずかに上回る程度。経済規模は日本の3分の1以下、米国の10分の1以下で、世界で12位。G7各国はもちろん、韓国をも下回るのです。

一人あたりのGDPでは、韓国31,638ドル、ロシアは10,115ドルです。ちなみに日本は40,089ドルです。(2020年)

そうして、ロシア陸軍の兵站は、鉄道にかなり依存しているので、国境付近ではある程度のパフォーマンスを発揮できるものの、ウクライナの奥にまで侵攻はできないということも根拠にあげました。

これらを考慮すれば、ロシアがウクライナに深くまで侵攻して、ウクライナ全土を傘下におさめることなどできません。

現状でも、ロシアがウクライナに再度侵攻するにしても、できるのはせいぜいいくつかの州だけであり、それも軍事力だけで攻め落とすのは不可能であり、ウクライナでも、ロシア人が多く住む州で、ロシア人を味方につけてハイブリッド戦に持ちこみ、それでようやっといくつかのロシア人の多い州を併合できるということになると予測しました。

7日、ウクライナ東部ドネツク州で、親ロシア派武装勢力との境界線付近を歩くウクライナ軍兵士

そうして、この予測は現在だけではなく、将来にもあてはまります。ロシアの経済が今後すぐに上向くことはないでしょうし、さらに兵站の大きな部分を鉄道に頼っている状況が変わらいなかぎり、この状況は変わりません。

この状況は、当然のことながら、米国やNATO諸国に見透かされているでしょう。米国、NATOは環視衛星などで、ロシアの鉄道輸送を監視しており、南部のウクライナ国境の南部軍管区がどの程度の戦争ができるのか、詳細まで熟知していることでしょう。

このようなことを言うと、ロシアの軍事技術が高いし、核兵器があるから、ウクライナに簡単に侵攻できる、などと言う人いるかもしれません。

確かに、ロシアは軍事技術は未だに高く、核兵器も有しており、軍事的に侮れるような国ではありません。ただ、ロシアがウクライナに侵攻するのは、ウクライナを破壊するためではありません。破壊するだけなら、ロシアは存分に力を発揮できるでしょう。

ただし、ロシアにとっては、ウクライナの一部でも、占拠し、さらに統治する必要があるのです。そうなると話が違ってきます。長期にわたって、軍隊を駐留させる必要があります。そのためには、兵站は欠かせません。兵站に不安があるようでは、占拠し統治するのは不可能です。

ロシアの兵站の特徴については、「のりものニュース」に興味深い記事が掲載されていました。そのタイトルとリンクを以下に掲載します。

その差は鉄道の線路幅にあり? ウクライナとポーランド ロシアの脅威度が段違いなワケ

燃料が無くては、戦車は動けない。タンクローリーから給油されるT-72戦車。タンクローリーも鉄道で前線まで移動してくることが多い(画像:ロシア国防省)。

 この記事では、ウクライナとポーランドとでは、ロシアの脅威度が段違いであり、その根拠はウクライナはロシアと同じ広軌の線路を用いて、ポーランドはそうではないからとしていますが、確かに、平時ではそうかもしれませんが、戦時ではこれがウクライナにとって格段に不利だとはいえないでしょう。

ウクライナ軍は、国境内にロシア軍が入れば、自ら線路を破壊するでしょう。線路など、手榴弾でも破壊できます。

さらに、米軍やNATO軍は、先にもあげたように、ロシアの鉄道やウクライナの鉄道を監視していますから、ロシア軍がウクライナ侵攻をはじめれば、当然ウクライナの鉄道などを航空機かミサイルで破壊することでしょう。そうなると、ロシア軍には戦車の燃料や弾薬、水・食料などの物資が届かず、お手上げになってしまいます。

今回の1万人以上のロシア軍の撤退は、以上のようなことが影響しているものと思います。今回ロシアがウクライナ領内に入り込んだ場合、米軍やNATOに鉄道網を破壊する口実を与えてしまうことになります。

ロシアがウクライナ攻勢すれば、米軍、NATOはウクライナ領内だけではなく、ロシア領内の鉄道を破壊するかもしれません。無論、米軍、NATOの情報筋は、ウクライナの鉄道や、ロシアの鉄道のどの部分を破壊すれば、最も効果があるかを熟知していることでしょう。

一度、米軍やNATO軍が、ウクライナや、場合によってはロシア領内の鉄道網の破壊に踏み切れば、その後も何度も繰り返されるという危機もありえます。

バイデン米大統領(左)とプーチン露大統領(右)

それに、米国のジョー・バイデン大統領は7日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とビデオ会談し、ロシアがウクライナの国境周辺で軍備を増強させていることについて深い懸念を表明しました。そして、ウクライナへ侵攻すれば「強力な経済的およびその他の措置」を講じると述べました。

ジョー・バイデン米国大統領は4月15日、米国大統領選挙への介入や米国企業へのサイバー攻撃などを理由に、ロシアへの制裁を強化する大統領令に署名しました。同令を受けて財務省は、米国金融機関にロシア中央銀行などとの取引の一部を禁止するとともに、合計で25の企業・機関、21の個人を特別指定国民(SDN)に指定しました。国務省も、在米のロシア外交官10人の国外退去を決定した。バイデン政権は、状況次第で制裁内容を拡大するとしていました。

もし、ロシアがウクライナに侵攻すれば、米国の追加制裁が発動されるのは必定でしょう。そうなると、ロシア経済はますます疲弊することになります。

さらに、ロシアがウクライナの一部でも新たな占拠すれば、ウクライナがNATOに与する格好の根拠を与えることになります。ロシアとしては、それだけは絶対避けたいのでしょうが、現在のロシアにはウクライナに対して、十分な経済支援などできません。

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2021年12月26日日曜日

「日本も尿素水不足」報道は本当なのか? 韓国では需要逼迫し流通に打撃 経産省担当者「来年1月には緩和期待」―【私の論評】中国のような異常な社会ではまともな組織は生き残れない(゚д゚)!

 「日本も尿素水不足」報道は本当なのか? 韓国では需要逼迫し流通に打撃 経産省担当者「来年1月には緩和期待」

 韓国でトラックなどディーゼル車に使われる尿素水(アドブルー)の需要が逼迫(ひっぱく)し、流通に打撃を与えたことが話題になった。日本でもフリマアプリで高値で取引されており、韓国メディアでは、「日本も混乱の兆しがある」と報じたが、果たして本当なのか。

 韓国では、アドブルーの原材料となる産業用尿素の97%以上を中国に依存しているが、中国が輸出規制したことで物流や社会インフラが混乱し、詐欺事件まで発生した。

韓国で11月、尿素水確保のため列を作るトラック

 一方、中央日報(日本語電子版)は「韓国批判した日本も『尿素水大乱』の兆し…」と報じている。

 「価格が高騰していることは事実で、企業側から手に入りづらいと聞いている。ただ国内の製造メーカーはフル稼働していると聞いており、需要逼迫の明確な理由が分からず、われわれも困惑している」

 そう語るのは、全日本トラック協会の担当者だ。企業側が必要以上の在庫を抱えていることに加え、アドブルーの転売が横行している可能性があると推察する。

 フリマアプリ「メルカリ」を確認したところ、数多くのアドブルーが出品されており、従来1リットル当たり300円程度のものが1000円程度で取引されている。中には10リットルのアドブルー57個を約54万円で取引したものまであった。メルカリは21日、冷静な行動を取るよう呼び掛けた。出品者に入手経路を確認する可能性もあるという。

 そもそも日本は韓国と違って、アドブルーを国内で生産できるはずだが、なぜ逼迫しているのか。

 経済産業省は「10月15日からアドブルー用の尿素について中国が輸出を停止している状況のためだ。ネット上での高額な出品は把握しており、対策は不断に検討している」(素材産業課)と回答した。

 中国では尿素の原料となるアンモニアの生産に不可欠な石炭不足が輸出規制の背景にあった。

 一方、国内最大級の商用生産尿素プラントを持つ三井化学は「アドブルーの原材料が液化天然ガス(LNG)のため、中国の影響は受けていない。ただ10月中旬から11月末にかけて定期修理のため工場の稼働を停止していた。稼働停止中も在庫をお客さまに適切に供給しており、現在は高稼働を続けている」(コーポレートコミュニケーション部)と回答した。

 中国の影響と大手の一時的な稼働停止が重なったのが要因だと考えられるが、前出の経産省担当者は「早ければ来年1月を目途に需要逼迫の緩和が期待できる」と話す。

 国内での影響は限定的といえそうだ。

【私の論評】中国のような異常な社会ではまともな組織は生き残れない(゚д゚)!

日本ではまた転売ヤーが暗躍しているようではありますが、まだメルカリで転売して、小遣い稼ぎをしようという連中だけのようではあります。

どうやら、組織的に大掛かりに買い占めをしようとする大手転売ヤーや、中国企業でもその動きはないようです。

これにはやはり過去の苦い経験等が関係していると思います。そうです、あのマスクの転売です。日本でマスク不足になった背景には、日本国内の大掛かりな転売ヤーや中国の転売ヤーが比較的大きな資本を用いて、転売用マスクを買い占めたり、中国企業が多数マスク製造業に参入したうえで備蓄したりで、値上がりを待って売ろうとしていたことも大きな原因の一つです。

中国英字紙グローバル・タイムズの昨年7月の記事によると、新型コロナウイルスの流行が下火になった中国で、マスクの供給能力が需要を大幅に上回り、価格が急落していたと報道されています。

当時の価格は昨年2月の水準から80―90%も下落。年末までに95%の業者が経営破綻し、米食品医薬品局(FDA)や欧州連合(EU)の輸出許可を有する5%しか生き残れないとの予測も出ていました。

同紙によると、コロナ流行が本格化した昨年2月には数百社程度だった中国のマスクメーカーは1万社を突破。1―6月の繊維製品(マスク含む)輸出額は前年同期比32・4%も増加したそうです。

専門家によると、既に国内のマスク生産能力は世界全体の需要を上回り、「世界中の人が毎日1枚使ったとしてもなお、中国の生産能力は過剰だ」(大健康国際のバイ・ユ氏)としていました。

いわゆる、アベノマスクが配布されはじめたのが、4月の17日からですから、これもマスク転売ヤーや中国企業などに対して、インパクトを与えたのは間違いありません。アベノマスクは、布製でしたが、これもかなりインパクトがあったと思います。

もし、この布製マスクが日本で普及した場合、布自体は日本国内ではありふれたものなので、紙製が不足しても、布製で代替する可能性高いです。これに、あせった日中の転売ヤーや中国企業が4月あたりから買い占め、備蓄などをやめて、一斉に販売に転じたわけです。

日中の転売ヤーや中国のマスク業者がマスクで通常以上に儲けらた期間は、おそらく半年にも満たなかったでしょう。備蓄や、転売目的で買い占めをした組織の中には大損をしたところもかなりあるでしょう。

これについては、先日もブログに掲載したばかりです。私自身は、いわゆるアベノマスクは、日中の転売ヤーや中国企業などへの牽制になったものと確信しています。

このような状況を日中の組織的転売ヤーや中国企業などは見聞きしているはずです。マスク騒動の二の舞いにはなりたくないでしょうから、現在個人の転売ヤーのなかには転売するものもいるようですが、組織的な転売ヤーはまだ現れていないのでしょう。中国ではそもそも、原材料が少ないので、そもそもモノが入りにくい状況ですし、新規参入する企業もないのでしょう。

もし、マクス騒動とその後の組織的転売ヤーの没落がなければ、今ごろ日本でも転売ヤーが暗躍して尿素水の買い占め等を行っていたと思います。

かつて黄色いダイヤと呼ばれたカズノコ

日本ではかつて買い占めで大きな非難を浴び、会社が倒産したり、社名に傷がついたりする大事件がありました。それは、1980(昭和55)年の「カズノコ買い占め事件」です。

カズノコといえば、正月のおせち料理には欠かせない食べ物。ニシンの卵を原料にするカズノコは「黄色いダイヤ」とも呼ばれる高級品です。

カズノコが高級品となる理由は、漁期が短いことです。多くはカナダやアラスカで取れますが、だいたい3月から4月までの1か月間しか漁ができません。

そうして、取り扱う水産会社にとってもリスクの高い商品です。というのも、春ごろに取って加工し貯蔵できるにもかかわらず、売れるのは年末の1か月ぐらいしかないのです(卸は10~11月)。

そのため、買い付ける際は正月前にどれくらい売れるかを予測して価格を決めなければなりません。うまくいけば利ざやが稼げますが、売れなかったら大損です。

カズノコを仕入れる水産会社が利益を得るために考えるのは、市場価格だけではありません。為替相場も重要です。

仕入れたときよりも円高であれば、その分利益も増えます。いわゆる北商倒産事件の起こる1970年代後半は円高が進んでいる時期でしたから、いわゆる北商倒産事件前年の1979(昭和54)年も例年通り利益が得られるだろうと考えられていました。

北商の倒産を伝える当時の新聞紙面
三菱商事はそれを見越して、子会社である水産会社「北商」を通じて例年通り大量のカズノコを買い付けていました。ところが、1979年は思ったほど為替相場が円高になりません。

在庫を放出すればダメージを食い止められますが、カズノコの価格は暴落して業界全体に影響が出てしまいます。

そこで同社は卸の時期になっても在庫を売らず、年末が近づき価格が上がるのを待つことにします。そうなると、今度は市場への供給量が減り価格は高騰に転じます。

正月には欠かせないカズノコは、それでも売れるはずでした。しかし多くの人は買わず、「今年は高いから諦めよう」と思ったのです。

この予想だにしなかった「カズノコ離れ」によって、大量の在庫を抱えた北商は経営が悪化し、倒産してしまいます。

しかも大量の在庫を抱えての倒産だったことから、親会社である三菱商事はマスコミから買い占めをもくろんだとして大きな批判を浴びることになったのです。これは「カズノコ買い占め事件」として、今なお日本の経済史に残る事件として語り継がれています。

どんな理由や意図があったとしても、価格が高騰している中で大量の在庫を抱えていれば「買い占め人」のそしりを受けることは否めません。

転売ヤーやマスク事業に参入した中国企業の没落や、北商倒産事件の事例などをみているとドラッカーの「社会や経済はいかなる企業をも一夜にして消滅させる」という言葉を思い出してしまいます。

ドラッカーは、企業の社会的責任について以下のように述べています。
社会的責任の問題は、2つの領域において生ずる。第一に自らの活動が社会に対して与える影響から生ずる。第二に自らの活動とは関わりなく社会自体の問題として生ずる。(『マネジメント【エッセンシャル版】』)
工場の目的は、騒音を出し、有害なガスを出すことではありません。顧客のために高性能の製品をつくることである。そのために騒音を出し、熱を出し、煙を出す。これら社会に及ぼす影響は、組織の目的に付随して起こる。かかる副産物はゼロとすることが理想です。

他方、組織は社会環境のなかに存在します。それは社会の機関です。したがって社会自体の問題の影響を受けざるをえないのです。地域社会が問題視せずとも、社会の問題は組織にとって関心事たらざるをえないです。健全な企業、健全な大学、健全な病院は、不健全な社会では機能しえません。

あらゆる組織が、自らの本業を傷つけない限りにおいて、それら社会の問題の解決に貢献しなければならないのです。

社会や経済はいかなる企業をも一夜にして消滅させるとドラッカーは言います。企業は社会や経済の許しがあって存在しているのであり、社会と経済がその企業は有用かつ生産的な仕事をしていると見なす限りにおいて、その存続を許されているにすぎないのです。
社会性にかかわる目標が必要となるのは、マネジメントが社会に対して責任を負うからではない。企業に対して責任を負うからである。(『マネジメント【エッセンシャル版】』)

そもそも、組織的な転売ヤーとか、 短期的な儲けのためだけに新たな事業に参入するなどの組織は、組織ではあるものの、とてもまともな組織とは呼べません。

健全な社会においては、まともでない組織は生き残れないのです。たとえ、当初はまともな組織であっても、途中からまともでなくなった組織は生き残れないのです。そうして、不健全な社会ではまともな組織は機能しえません。

それは、特に中国にあてはまるでしょう。中国のような不健全な社会では、まともな組織は機能しえないのです。

特に最近の中国共産党の大企業に対する規制などは、いままで中国政府を支えてきた富裕層の反発を招くことになり、多くの一般国民からの反発に加え富裕層からの反発も招くことになれば、中国共産党の当地の正当性の基盤が揺らぐことにもなりかねません。

米中両サイドから中国デカップリンクがはじまり、チャイナ・リスクはさらに破滅的になりました。中国当局による中国企業への統制強化が新たな「チャイナ・リスク」となってるのですから、日本企業だけが安泰でいられるわけなどありません。

尿素は、石炭から作られますが、海外メディアなどによりますと、米中の対立によって、米国と歩調を合わせたオーストラリアに対し、中国は石炭の輸入を停止。尿素の原料となる石炭の不足に加え、中国国内では「農業の肥料」としての用途が高いため、そちらを優先し、尿素水の輸出を制限したのです。

中国の尿素水製造会社、特に海外輸出の多い企業は打撃を被っていることでしょう。中国ではこのようなことは、しょっちゅうおこります。現在は尿素水てすが、今後は様々な分野でこのようなことが起こり続け、中国の国内のあらゆる産業が毀損されることになるでしょう。

日本のような比較的まともな社会では、まともな企業こそが生き残るでしょうが、中国のような異常な社会ではまともな組織は生き残れないのです。だから、儲けを狙った新規参入が一般化しているのです。マスク騒ぎはその典型例です。誰もがまともに事業をして、成り立つのなら、このようなことはないはずです。

中国に拠点を持つ企業も、なるべくはやく撤退すべきです。もう、中国でまともにビジネスができると考えるのは大きな間違いです。

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2021年12月25日土曜日

岸田首相「1月訪米」“絶望” 外相・防衛相見送り、2プラス2はオンラインに切り替え 識者「ボイコット表明の遅れ影響」―【私の論評】岸田政権は、安倍・菅政権の方針を学び踏襲し両政権ができなかったことを成し遂げた後に独自カラーを出せ(゚д゚)!

岸田首相「1月訪米」“絶望” 外相・防衛相見送り、2プラス2はオンラインに切り替え 識者「ボイコット表明の遅れ影響」

バイデン米大統領は、岸田首相に不信感を持っているのか

 林芳正外相と岸信夫防衛相が来年1月上旬に予定していた訪米を見送る方向で調整に入った。米国側の提案で、新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染拡大を理由にしている。岸田文雄首相と、ジョー・バイデン米大統領による初の対面による日米首脳会談の1月開催も絶望的となった。岸田首相はやっと、北京冬季五輪の「外交的ボイコット」を表明したが、遅すぎて米国の不信感を高めたとの指摘もある。

 産経新聞は25日朝刊で、1月7日に開催予定だった日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)が、米国側からオンライン形式に切り替えるよう提案があったと報じた。

 菅義偉政権下の今年3月、東京で開催された日米2プラス2では、「自由で開かれたインド太平洋」の推進などで一致し、年内に改めて開催することで合意していた。

 バイデン氏は今月6日、中国当局による新疆ウイグル自治区などでの人権弾圧を受けて、北京冬季五輪に政府代表を派遣しない「外交的ボイコット」を表明した。英国やオーストラリアなどがすぐ同調した一方、岸田政権は「適切な時期に」「国益に照らして…」などと決断を先延ばし、24日になって表明した。

 首相周辺は「(米中間で)微妙なバランスをとった」と語っているが、人類の普遍的価値である「人権」と「損得」をてんびんにかけた、「米中二股外交」ではないのか。

 同盟国が即賛同しないことで、「米国の求心力を弱め、事実上、中国共産党を助けた」という指摘もある。

 日米2プラス2が対面で開催されなければ、外相らの微妙な事前調整も困難となり、岸田首相の通常国会開会前の「1月訪米」は相当厳しい。

 ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、「日本が東アジアの当事者にもかかわらず、米国は『岸田首相は、ここまで中国に配慮するのか』と驚いているはずだ。2プラス2のオンライン開催は、米国の不快感を示すサインだ。『外交的ボイコット』の表明が、あまりにも遅れたことが影響している。これで1月の日米首脳会談は絶望的とみていい。岸田首相は10月に就任したが、通常国会閉会後の来年5月以降まで日米首脳会談が開催されない、極めて異例の事態に陥りそうだ」と語った。

【私の論評】岸田政権は、安倍・菅政権の方針を学び踏襲し両政権ができなかったことを成し遂げた後に独自カラーを出せ(゚д゚)!

米国での感染者数は増加傾向にあり、平均で1日191,326人の新規感染者が報告されています。1日平均人数のピークだった 1月8日の76%になります。

パンデミック(世界的大流行)開始以降、同国では感染者52,134,735人、死者819,218人が報告されています。以下に最近の日時統計のグラフを掲載しておきます。


確かに直近では、増えつつあることが認識できます。では、菅義偉政権下の今年3月、東京で開催された日米2プラス2(日米外務・防衛担当閣僚)時にはどうだったかといえば、以下のグラフが示すように、7間平均の死者数は3月15日では、7人ということで、かなり収束していました。


菅総理は、4月15日から16日まで、米国を訪問しています。その頃には死者数は2000人くらいとなっており確かに多くはありましたが、訪問の意思決定はその前になされており、その時には、感染者数・死者数とも少なかったといえます。

そのため、米国が「オミクロン株」などを理由に、2プラス2をオンラインで開催することにしたのは、格別不自然とは言えないと思います。

ただ、岸田首相は10月に就任しましたが、通常国会閉会後の来年5月以降まで日米首脳会談が開催されないという事態になりそうなことはあながちありえなくもない状況になってきました。

なぜなら、「外交的ボイコット」を表明したのが、24日と遅れたこともありますが、それ以前に林外相がしでかした、外交的不手際です。それは、このブログにも最近掲載したばかりです。その記事のリンクを以下に掲載します。
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林外相

詳細は、この記事をご覧いただくものとして一部を以下に引用します。
林芳正外務大臣は11月21日、フジテレビの番組に出演し、18日の中国・王毅外相との電話協議のなかで、中国訪問を打診されていたことを明らかにしていました。応じるかどうかについては、「現時点では何も決まっていない」としていました。

公式訪問は、招いた側が招かれた側の同意か感触を得たうえで発表するのが、普通の外交儀礼です。招いた側が友好姿勢を示す一方、応じるかどうかの選択を相手に委ねるのが普通です。ところが、今回は招かれた側の日本の外務大臣が3日遅れで、一方的にテレビで公表しました。これだけでも、十分に異例でした。

このことがあった上で、さらに 岸田政権の北京冬季五輪の「外交的ボイコット」を表明したが、遅すぎて米国の不興を買ってしまったおそれが十分にあります。

南アフリカ政府は24日、新型コロナウイルスの陽性者と接触しても無症状の場合は隔離や検査は不要との新方針を発表しました。コロナを巡る状況を勘案し、封じ込めから緩和策への移行が妥当としています。

南ア保健省は新たな方針の要因として、オミクロンなど感染力の高い変異株の出現、人口の60%がワクチン接種や感染したとの推計、無症状者が多いことや診断症例が少ないことなどを挙げました。南アでのオミクロン株騒ぎも収束しつつあります。

そうなると、5月あたりには米国でも収束している可能性があります。いまのところ、米国でコロナ禍により、感染者・死者数が増えているのは事実なので、岸田政権が米国の不興を買ったかどうかは、まだはっきりしない部分があります。

しかし上の記事でも指摘されているように、通常国会閉会後の来年5月以降、米国でコロナ感染が収束していても、日米首脳会談が開催されないということにでもなれば、極めて異例であり、米国の不興を買ったのは間違いないとみて良いでしょう。

そうならないように、岸田政権は今からでも失地を回復する努力をしていただきたいものです。

そうして、岸田政権はまずは、経済政策、外交政策に関しては、安倍・菅政権の政策をしばらくは踏襲するべきです。安倍・菅政権の政策がすべて満点とはいいませんが、方向性としては良かったです。

安倍政権は結局二度も増税してしまったとか、菅政権においては、コロナ病床確保には失敗たなどの失敗はありました。しかし、安倍政権下では、雇用が劇的に改善ました。菅政権においては、結局医療崩壊に陥ることもなく、ワクチン接種を強力に推し進め、結果としてコロナ収束に導いたほか、経済対策においては先進国中もっとも失業力を低くしたという偉業を達成しました。

外交政策においては、安倍政権においては、全方位外交で、特に中国包囲ということで成功しました。菅政権においては、安倍外交を踏襲するということで、目立った失点はなかったと思います。

岸田氏が属していた宏池会はしばらく総理を務める人がいなかったため、政権を担当したことがありません。その間に世界は激変しました。

そのことを考えれば、経済、外交、安全保障などの重要な政策は、まずは安倍・菅政権の政策の結果ではなく、その方針をよく研究して踏襲して、様子をみるべきでした。岸田カラーはそれ以外のことで出すべきでした。

これは、バイデン政権を参考にすべきでした。バイデン政権は現在のところ、結局トランプ政権を政策を踏襲しているところが多いです。移民政策では中途半端で、多くの国民から不興を買っています。経済対策についても踏襲していますが、さらに大きな対策を打とうとして、民主党の議員からも不興を買っています。

しかし当初は親中的政策に走るのではないかとも危惧されていましたが、対中政策に関してはトランプの政策を継承しています。バイデン政権がもしこれを外して、親中的な政策をうちだしていたら、政権の支持率は地に落ちたでしょう。

トランプのほうがより積極的だったとは思いますが、バイデンも中国に対して現状変更は絶対に許さないという厳しい姿勢で臨んでいます。

岸田政権は、まずは経済・外交政策、安全保障政策でも、安倍・菅政権の方針を真摯に学びとり、その精神まで自分のものとして、それを踏襲した上で、両政権ができなかったことを成し遂げその後に独自のカラーをだすべきでした。

安倍元総理大臣と菅前総理大臣

特に、安倍政権がなぜあのような長期政権になり得たのか、真摯に学ぶべきです。また両政権がなし得なかったことを実施することは、何もないところから始めるよりは、始めやすいですし、なぜなし得なかったのかも学べます。

岸田総理は、完全に順番を間違えてしまいました。しかし、いまならまだ間に合います。新しい資本主義なる、意味不明のキャッチフレーズは捨て去り、高市政調会長が総裁選で主張していた経済対策を参考にするとか、安倍総理の外交政策を参考にするなどして、政策の大転換をはかるべきです。

そうでないと米国の不興を買い続け、国内からも、特に保守層から不興を買ってしまうことになると思います。

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2021年12月24日金曜日

米、ウイグル輸入禁止法成立 強制労働防止、来年6月発効 日本企業に影響―【私の論評】ウイグル人への人権侵害をやめない限り、国際社会はより厳しい制裁を加えるだけ(゚д゚)!

米、ウイグル輸入禁止法成立 強制労働防止、来年6月発効 日本企業に影響

 バイデン米大統領は23日、人権侵害を理由に中国・新疆ウイグル自治区からの輸入を全面的に禁止する「ウイグル強制労働防止法案」に署名、同法が成立した。

中国・新疆ウイグル自治区で監視カメラの下を歩く子どもら=2019年6月4日

 180日後の2022年6月下旬に発効する予定。自治区全体を禁輸対象とするのは初めて。人権をめぐる米中の対立が制裁と報復の応酬に発展する可能性もあり、米国に進出する日本企業は厳しい対応を迫られる。

  同法は新疆ウイグル自治区で「全部または一部」が生産された製品の輸入を原則禁止。輸入企業に説明責任を負わせ、強制労働を利用していないことを「明確かつ説得力のある証拠」に基づき立証できなければ輸入できない。米政府に対し、強制労働に加担する海外の個人や団体の制裁リスト作成も求めている。 

【私の論評】ウイグル人への人権侵害をやめない限り、国際社会はより厳しい制裁を加えるだけ(゚д゚)!

同法案は今月、全会一致で上下両院を通過していました。民主・共和両党の間には大半の問題で大きな隔たりがあるが、対中国政策ではほぼ一致しています。

新疆ウイグル自治区は衣服に使用される綿花の主要産地で、太陽光パネルの原材料となるポリシリコンの生産でも重要な地位を占めています。世界的なサプライチェーンへの影響が大きい同地域で、イスラム系の少数民族ウイグル族らが抑圧されていることが懸念され、同法案の成立が後押しされました。

23日法案に署名するバイデン大統領

この成立で、新疆産の製品を米国で使用している企業は対応を迫られます。成立前からすでに、米インテルが新疆の労働力や製品を使用しないようサプライヤーに要請し、その後謝罪するなど、物議を醸していました。

新疆ウイグル自治区で2021年3月26日、綿花畑で働く労働者たち

同法は、新疆でのウイグル族や他の民族弾圧で中国政府に加担している企業・団体のリスト作成を国土安全保障省に義務付けています。米税関・国境警備局(CBP)局長が例外として認めない限り、同自治区からの全ての産品が強制労働で製造されていると見なす「反証を許す推定」も盛り込まれました。

これまで米国は、自治区で生産された綿製品や農産物の加工品などについて、強制労働で生産された疑いがあるとして輸入を停止してきましたが、この法律はすべての品目を対象としており、自治区で生産された製品などを米国に輸出してきた日本企業に影響が及ぶことになります。

一方日本では、新疆ウイグル、チベット、内モンゴルの各自治区や香港の出身者らで作る複数の民族団体は24日、中国政府による諸民族への迫害行為を黙認しないという日本政府の表明などを呼びかける要望書を中谷元首相補佐官(国際人権問題担当)に提出しました。

要望書は日本ウイグル協会やチベット亡命政権の代表機関ダライ・ラマ法王日本代表部事務所、南モンゴルクリルタイ(世界南モンゴル会議)など9団体が作成。ウイグル協会は「ウイグルジェノサイドに抗議の声を上げるタイミングはとっくに過ぎている」と訴えました。

自治区の出身者らが中谷氏に面会することは認められず、自民党の山田宏参院議員と長尾敬前衆院議員が代わりに要望書を手渡しました。山田氏によれば、中谷氏は「(海外での重大な人権侵害行為に制裁を科すための日本版)マグニツキー法も含めてしっかり検討する」と語ったといいます。

もう「検討」の時期はすでに終了したと思います。中谷氏には、日本版マグニツキー法成立に向けて努力すると、言い切ってほしかったです。

ウイグル人に対する人権侵害の実体は、様々なメディアで報道されていますが、以下のマンガでもその実体験が綴られています。ぜひご覧になってください。
私の身に起きたこと ~とある在日ウイグル人男性の証言2~

来年の北京オリンピック・パラリンピックへの対応をめぐり、24日松野官房長官は記者会見で、閣僚など政府関係者の派遣を見送り、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長ら3人が出席すると発表しました。

これは遅すぎです。中国と心中するという腹もない、現状の日本が、北京五輪に閣僚級を送り込むことなどできないことは、最初からはっきりしていました。閣僚送り込むだけの勇気もないのなら、もっと早い時期に決めるべきでした。

同盟国の米国、友好国のオランダなどが12月上旬に(外交的ボイコットを)表明していたのですから、同じ価値観外交を展開している日本としても早く表明しなければ、日本は人権より経済かという疑念を持たれかねないです。

中国外務省は24日に発表した報道官談話で、米国で中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区を産地とする物品の輸入を原則禁止する「ウイグル強制労働防止法案」が成立したことに対し、「中国の内政に乱暴に干渉したものであり、強烈な憤慨と断固とした反対を示す」と強く反発しました。

談話は「米国の行為は市場ルールとビジネスのモラルに完全に背く。全世界のサプライチェーン(供給網)の安定を破壊し、国際貿易の秩序を妨げるだけだ」と非難しました。

新疆の問題については「人権問題ではなく、反テロ、反分裂の問題だ」と主張。「中国は事態の発展を見て、さらに反応をとる」と米国を牽制(けんせい)したが、具体的な対抗措置については明らかにしませんでした。

中国政府は「さらに反応をとる」と虚勢を張っていますが、実際のところ米国に対して有効な対抗措置を何一つも取れないでしょう。毛沢東のいう「張子の虎」とはまさに今の習近平のことです。ウイグル人に対するジェノサイドをやめない限り、国際社会はより一層の制裁を加えることになるだけでしょう。

行き着く先は、ドルと元の交換禁止措置などになると思います。そうなると、現在の貿易の決済はほとんどがドルで行わているので、中国は貿易決済ができなくなります。

米国は、貿易などでも、投資の面でも、中国にとって上客であるはずです。そもそも、中国人民元は、最近はそうでもなくなりつつありますが、中国が大量のドルや米国債を保有しているから信用されているという事実を中国は忘れているのではないでしょうか。

そのドルの胴元でもある米国を怒らせて、何のメリットがあるというのでしょうか。通常の感覚なら、上客の頼みだからといって何から何まで聞く必要まではありませんが、できる範囲ではなるべくお客の要望に沿おうとするというのが、まともな商売人の道だと思います。

中国には、その程度の倫理感もないようです。

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2021年12月23日木曜日

「アベノマスク廃棄」 国の調達は本当に無駄だったのか?―【私の論評】本当は失敗ではなかったアベノマスク(゚д゚)!

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
「アベノマスク廃棄」 国の調達は本当に無駄だったのか?

岸田文雄首相

「アベノマスク」は、昨年4月からマスク不足の解消を目的として、全世帯に配布されたものだ。その在庫について、岸田文雄首相は希望者に配布し有効活用を図った上で、2021年度内に廃棄する方針を表明し、報道もされている。

この問題が表面化したのは2021年11月5日の会計検査院20年度決算検査報告からだ。同報告で、「アベノマスク」と呼ばれた全世帯向けを含め、国が調達した布マスクは3月時点で8300万枚(約115億円相当)が倉庫で保管されていたと報じられた。マスク不足だった昨年、国が調達したのは無駄だったのか。

「アベノマスク」は1億3000万枚準備、1億2600万枚配布

この種の報道は、その後発表される政府資料を事前に政府が報道機関にリークしたもので、マスコミは政府からいわれるままに報道する。

10月末の報道によれば、昨年、「アベノマスク」といわれる世帯向け布マスクを約1億3000万枚、介護施設や妊婦向けには約1億5700万枚を調達。このうち、それぞれ約400万枚と約7900万枚が保管されていた。マスクの平均単価は約140円。

所管する厚生労働省は、介護施設向けはマスクの品薄状態が解消された後、希望する施設のみへの配布に方針を切り替えた。

「アベノマスク」は全世帯への配布を終え、保管されていた400万枚は余剰分という。

政府が2020年に配布した通称「アベノマスク」

介護施設向けは1億5700万枚準備し、当初は全施設にプッシュで配布したが、施設側が調達可能になった後、希望配布に切り替え。その時に7900万枚の在庫。「アベノマスク」は1億3000万枚準備し、1億2600万枚配布し、400万枚の在庫となった。

これでわかるだろう。「アベノマスク」については、全国民への配布だったが、予定どおり無駄なしで完了。一方、介護施設向けは多くが在庫になった。しかし、新聞の見出しでは「アベノマスクも」などと書かれて、「アベノマスク」が大量在庫になったかの印象となり、国民へのミスリードになった。

見込みを誤って介護施設でマスク不足になったら、その方が問題

介護施設向けについては、準備量が結果としては多かったが、当初のマスク不足への対応は出来た。マスク不足がどのように解消されるかを当時予測するのは不可能だ。後から過剰な準備だったと結果論で言うのは簡単だが、見込みを誤って介護施設でマスク不足になったら、その方が問題だろう。さらに、「アベノマスク」は当時売り惜しみをしていた業者に打撃を与えたともいわれている。

この20年度決算検査報告では、会計検査院法に基づく意見表示などは付されていない。つまり、会計検査院として調査をしたが、問題なしという見解だ。

マスコミは、10月末の報道で「アベノマスクも」という奇妙な見出しだったが、今回の報道では、介護施設向けまで含めて「アベノマスク」と称している。

マスコミは「アベノマスク」と揶揄したいがためか、事実は無駄なしで貶める余地がないのに、介護施設向けまで用語を広げているようだ。これでは、もはやまともな報道と言えない。そこまでしてでも元首相を話題にしたいのだろうか。

++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。

【私の論評】本当は失敗ではなかったアベノマスク(゚д゚)!

国会閉会を受けて21日、岸田首相が首相官邸で会見を行いました。そのときに、岸田文雄首相は昨年政府が配布した布製マスクについて、希望者に配布し有効活用を図った上で、2021年度内に廃棄する方針を表明しました。新聞やテレビの報道の情報源はこれです。

この方針表明の動画を以下に掲載します。


この動画をご覧いただければ、冒頭の部分で、岸田首相は昨年政府が配布したマスクについて語っていますが、無駄だったなどとは一言も言っていません。布製マスクに関しては、簡単にまとめると以下のように語っています。
・国民の不安を解決した ・布製マスクの配布の後、マスクの製造・流通が回復 ・初期の目的を達成 ・現在5億枚を超える高性能マスクに備蓄に至った ・財政資金効率性に基づき見直し

この部分をマスコミは見事にスルーしています。しかも、高橋洋一氏も語るように、 20年度決算検査報告では、会計検査院法に基づく意見表示などは付されていません。つまり、会計検査院として調査をしたのですが、問題なしという見解です。問題とみなせば、必ず意見表示をすはずです。

「アベノマスク」については、上の高橋洋一氏の記事にもあるように、全国民への配布だったのですが、予定どおり無駄なしで完了。一方、介護施設向けは多くが在庫になったということです。

介護施設向けなどもあわせると、かなりの多さともみえますが、国家レベルの事業と考えると、この程度の余剰はむしろ、配布漏れを防ぐためには、致し方なかったと思います。

ただこれを、とんでもない余剰と受け取る人は、これが国家レベルの事業であったことを認識していないのではないでしょうか。自宅のマスク、あるいはせいぜい1介護施設や学校、あるいは大きくても市町村レベルなどのマスク等しか想定していないのではないでしょうか。

日本の人口は約1億2千万人です。世帯数は5340万世帯です。これらに、行き渡るように配布するというのは壮大な事業です。それに付随する保管費用なども、一家庭内や一企業内のレベルよりは、はるかに大きくなるのは当然です。

10年くらい前だったと思いますが、プーチンが北方領土に数千億円かけて支援するなどを公表したことがあって、これに対して「ものすごい」と評価する人がいましたが、数千億というと個人的には天文学的な数字と感じるかもしれませんが、日本ではこのくらいのこと以上のことを各自治体(都道府県単位)に対して普通にしています。

ただ、人口では1/3以下の韓国よりもGDPでは若干を若干下回る程度の現在のロシアでは、この国家事業はたしかに大判ぶるまいだったのでしょう。

国家レベルの事業と、個人事業や家計を同次元でみるととんでもないことになります。特にマクロ経済などはそうです。これに関しては、過去に何度か述べてきたので、ここでは詳細は述べませんが、マスク一つとってもそうだということです。

そうして、この国家事業をあの時期にあえて実行したということに大きな意義があったのです。

安倍政権でのマスク配布が組織的にマスクを買い占めていた日本国内の転売ヤーは無論、中国の企業も慌てて在庫を吐き出すしかなくなり、日本国内でもマスクが誰にでも手に入るようになったのです。費用対効果は絶大でした。私自身は、物理的マスクの効果もありがたいですが、こちらのほうが余程すごいことだと思いました。


私自身は、当時の安倍総理は、当然このことを意識していたと思います。そうして布マスクにしたということも意図があったと思います。不織布マスクは、確かに布製のマスクよりは効果があり衛生的でもありますが、布は洗えば何度でも使えますし、これが日常的に使われるようになれば、布そのものは日本国内にありふれたものですから、手作りも可能です。

これに気がついた、日本国内の転売ヤーや中国の企業も、恐慌状態になったと思います。だから手持ちの在庫を、吐こうとして躍起になったのです。大損したものも大勢いました。これからも、似たようなことが起こった場合、特に国内転売ヤーや中国の企業などにも、また悪巧みをしようと企てることを防ぐ抑止力になると思います。

これは、明らかな成功事例だからこそ、マスコミは大失敗だと歴史改竄に必死なのではと勘繰りたくもなってしまいます。

アベノマスクが配布されだしてから、儲からなくなった転売ヤーの悲惨な事例が報道されたり、転売ヤーと思しき人が道路上で安売りしている姿などみて、「ざまー見やがれ」と思ったものです。

ところで、岸田政権のアベノマスク廃棄宣言に“もらえるのか?”との問い合せ殺到。担当部署は昼食もとれない忙しさとフジTVのイットが報道しました。廃棄ならもし近くに在庫されている場所があるなら、取りに行くので私も頂戴したいです。


このアベノマスク、他の見方もできると思います。このブログでは、兵站のことをしばしば語っています。 兵站とは、軍隊の戦闘力を維持し、作戦を支援するために、戦闘部隊の後方にあって、人員・兵器・食糧などの整備・補給・修理や、後方連絡線の確保などにあたる機能です。

どの国の軍隊、日本では自衛隊は、兵站がなければ戦えません。いかに屈強な兵士であっても、一日3000キロカローの食料、水、兵器、弾薬は欠かせません。このブログも掲載したように、戦争の素人は戦略を語り、プロは兵站を語るといわれるくらい兵站は重要です。

日本では、戦後は戦争に直接見舞われたことがないので、国家レベルの兵站などどの程度なのかわかりませんでしたが、アベノマスクは無論戦略物資ではありませんが、国家レベルで物資を集め、全世帯に配布したということでは、兵站とも似たところがあり、日本の兵站の力量をみる上ではかなり参考になります。

日本はいざとなれば、あのようなことができる底力があるということが十分に示されたと思います。東日本大震災では、自衛隊の素早い展開力が海外から評価されました。アベノマスクでは、日本の兵站の能力を現在各国の軍事専門家が評価していることでしょう。そうして、その評価は決して低くはないでしょう。

そうして、安倍元首相をどうしてもマスコミは貶めたくて仕方がないことがわかり、本当はマスコミは安倍氏がまた総理に返り咲くことを恐れているのではないかと思ってしまいました。二度あることは三度あるという諺どおりに・・・・・・・・・。

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