2025年3月31日月曜日

<解説>ウクライナ戦争の停戦交渉が難しいのはなぜ?ベトナム戦争、朝鮮戦争の比較に見る「停戦メカニズム」の重要性―【私の論評】ウクライナ戦争停戦のカギを握る米国と日本:ルトワックが明かす勝利への道

 <解説>ウクライナ戦争の停戦交渉が難しいのはなぜ?ベトナム戦争、朝鮮戦争の比較に見る「停戦メカニズム」の重要

岡崎研究所
まとめ
  • トランプ・プーチン会談と停戦の進展: 3月18日の電話会談で、プーチンがウクライナのエネルギーインフラに対する限定的停戦に同意したが、トランプの長期和平案には抵抗。トランプはロシアから初の譲歩を引き出したが、交渉は依然厳しい。
  • ゼレンスキーの反発とロシアの要求: ゼレンスキーはプーチンの無条件停戦拒否を批判し、ロシアの動員停止や武器供与中止要求を非難。クレムリンはウクライナのNATO排除や4州占領を条件に掲げ、キーウを交渉から外そうとしている。
  • トランプ仲介の問題: トランプのロシア寄り姿勢と公平性への疑問が浮上。米国が当事者を個別に調整する方式は誤解を招きやすく、停戦と中東情勢を絡めた交渉の可能性も懸念される。
  • ロシアの部分停戦戦略: ロシアは戦闘を部分的に停止し、優勢な戦線を維持する意図。完全停戦ではなく、自身に有利な形で戦争を展開しようとしている。
  • 歴史的教訓: ベトナム戦争では米軍撤退後に停戦が崩壊したが、朝鮮戦争では駐留で維持。停戦には維持メカニズムが不可欠だと歴史が示している。


 ウォールストリート・ジャーナル紙の3月18日付解説記事が、ウクライナ戦争の停戦交渉について、トランプ・プーチン電話会談までの進展を詳しく紹介しつつ、今後も厳しい交渉が続くとの見通しを示した。プーチン大統領は3月18日の電話会談で、ウクライナのエネルギーインフラに対する限定的な停戦に同意したが、トランプが推し進める長期的な和平計画には依然として抵抗を見せた。

 トランプはこれまでキーウ側に譲歩を迫ってきたが、今回はロシアから初めて具体的な譲歩を引き出した。クレムリンに対し、関係改善と孤立解消を説得材料に使ったのだ。ホワイトハウスは、停戦合意を拡大するため中東でさらなる協議を予定し、「エネルギーとインフラの停戦、黒海での海上停戦、そして完全停戦と恒久的平和に向けた技術的交渉から始めることで両首脳が合意した」と発表した。

 ゼレンスキー大統領は、プーチンが即時無条件停戦を拒否したことを非難し、ロシアがウクライナ南部と北部で新たな攻勢を準備していると警告。プーチンの要求する動員停止や西側の武器供与中止を「我々を弱体化させる狙いだ」と強く批判した。ロシアの譲歩は、米国の圧力でキーウが受け入れた完全停戦には程遠く、クレムリンは今後の交渉が厳しいと示唆。永続的平和には「根本原因」への対処が必要とし、ウクライナの4州占領やNATO排除を条件に挙げた。クレムリンは「ウクライナ問題」を米露二国間で処理し、キーウを交渉から排除したい考えを示したが、トランプがこれを受け入れるかは不明だ。

 トランプの仲介には問題が浮上している。公平性が疑われ、ロシア寄りの姿勢が目立つ。ゼレンスキーは抵抗するも、トランプから武器供与や情報共有の停止をちらつかせられ、譲歩を強いられている。トランプは「停戦合意」の形を急ぎ、プーチンの立場を有利にさせる懸念がある。さらに、米国が当事者間を個別に調整する方式は誤解や猜疑心を招きやすい。トランプはウクライナ問題だけでなく、中東情勢やイラン核問題をプーチンと話し合い、停戦と別のディールを絡める可能性もある。ロシアは部分停戦を積み重ね、優勢な戦線を維持する戦略を取っているようだ。

 歴史的に見ると、ベトナム戦争の休戦交渉が似ている。米国は北ベトナム軍の駐留を認め、南ベトナムに圧力をかけ合意させたが、米軍撤退後、北ベトナムが侵攻し統一が完成した。一方、朝鮮戦争では米軍が駐留を続け、北朝鮮の全面侵攻を防いだ。停戦には維持メカニズムが不可欠だと歴史が教えている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライナ戦争停戦のカギを握る米国と日本:ルトワックが明かす勝利への道

まとめ
  • ルトワックの停戦提案: エドワード・ルトワックは、ウクライナ戦争を消耗戦とみなし、もはやロシアにもウクライナにも勝利はないとする。米国主導で住民投票による解決を提案。ゼレンスキーとプーチン双方に受け入れ可能な案とし、米軍やNATOの駐留を抑止力にすべきと提案
  • 歴史的教訓: ベトナム戦争では停戦後の米軍撤退で合意が崩壊し、南ベトナムが滅んだ。一方、朝鮮戦争では米軍駐留が休戦を維持。ルトワックは駐留の重要性を強調し、過去の失敗を繰り返すなと警告。
  • 米国の役割: ルトワックは、米国が500億ドル超の支援と外交力で停戦を主導すべきと主張。ロシアを抑えつつ中国との対決を優先し、最小限の駐留と制裁で効率的に安定を図るべきと主張。
  • 日本の支援の必要性: 日本は実質GDP世界3位の経済力を持ち、米国と協力してアジアの安定を支えるべき。過去のソ連対峙や2022年の対露制裁参加をなどから、ウクライナでの成功が東アジアの抑止につながるだろう。
  • 経済強化の戦略: 日本は大胆な積極財政と金融緩和で実質GDPを2位に押し上げ、抑止力を高めるべき。半導体製造装置や素材産業のリーダーシップを活かし、ロシアと中国を牽制し発言力を取り戻すべき。
エドワード・ルトワック

昨日もこのブログに登場したエドワード・ルトワックというアメリカの軍事戦略家が、ウクライナ戦争の停戦について熱く語っている。彼の言葉には、現実と地政学が絡み合い、聞く者を引き込む力がある。

ルトワックは言う。ウクライナ戦争は、ロシアもウクライナも決定的な勝利を手にできない消耗戦だ。2023年10月の『UnHerd』のインタビューで、彼は「もう膠着状態だ。完全勝利なんて夢物語にすぎない」と言い切った。戦争を終わらせるには、米国が動くしかない。

彼のアイデアはシンプルだ。ドネツクやルガンスク、クリミアといった紛争地域の未来を住民投票で決める。国連やOSCEが監視し、ゼレンスキーには民主的な正統性を、プーチンには面子を保つ出口を与える。「これならゼレンスキーも断りにくいし、プーチンも納得する」と彼は2023年の『The Telegraph』で力強く書いている。米国は、500億ドルを超える軍事支援と外交の力で、この流れを仕切るべきだと彼は睨んでいる。

歴史を振り返れば、ベトナム戦争の停戦交渉が頭に浮かぶ。1973年のパリ和平協定だ。米国はキッシンジャーの采配で、北ベトナム軍が南に居座る案を押し通した。南ベトナムのグエン・バン・チューは「裏切りだ」と叫んだが、米国は援助を切り上げるぞと脅し、合意を飲ませた。協定から2カ月で米軍は撤退。

当時のベトナム共和国大統領グエン・バン・チュー

だが、監視委員会は役に立たず、北ベトナムは軍を増強した。1975年4月、サイゴンが落ち、南は消えた。停戦を守る仕組みがなかったからだ。一方、朝鮮戦争はどうだ。1953年の休戦協定後、米軍は韓国に残った。今も28,500人が駐留し、有志国も当初は支えた。1954年、北朝鮮が仕掛けた小競り合いを米軍が叩き潰し、大事に至らなかった。70年以上、休戦が続いている。駐留の力がものを言ったのだ。

ルトワックは、停戦が紙切れにならないためには仕組みが必要だと声を大にする。住民投票だけでは足りない。2023年の『Foreign Policy』で彼は言い放った。「ロシアは隙を見れば埋める。抑止力がなければ終わりだ」。米軍やNATOの駐留が鍵だと彼は見ている。朝鮮戦争のやり方を参考にしろと言うわけだ。「ウクライナ東部に米軍やNATOが少しでもいれば、ロシアは手を出せない」と2023年のCSIS討論で断言している。べトナムのような失敗は繰り返すなと。

2014年のクリミア併合後、監視が甘かったから今があると彼は振り返る。「駐留がなけりゃ、プーチンは合意をゴミ箱に捨てる」と警告する。ただ、彼は中国との対決を優先したい。2024年の講演で「ウクライナに全力を傾けるな。太平洋が本番だ」と言い切った。だから、駐留は最小限でいい。5,000人規模の米軍とNATO部隊で十分だと踏んでいる。監視団や経済制裁も絡めて、効率よく抑え込む。それが彼の絵だ。ボスニアのデイトン合意も引き合いに出す。1995年、NATOの部隊が駐留して和平が保たれた。あれをウクライナでもやれと。

米国はどう動くべきか。ルトワックは、ウクライナへの支援を続ける一方、戦争を早く終わらせろと迫る。F-16やATACMSを渡してる今、支援は盤石だ。バイデン政権がNATO加盟を急がないのは賢いと彼は2023年の『Wall Street Journal』で褒めた。だが、戦争を長引かせるな。ベトナムみたいに投げ出すな。朝鮮戦争みたいに守り抜け。中国を睨む大局を見据えながら、だ。住民投票を仕切り、米軍と有志国で抑え、監視と制裁で固める。それがルトワックの答えだ。歴史の教訓と現実が交錯する彼の言葉は、読む者を最後まで引きずり込む。

私はルトワックの案に賛成だ。なぜか。現実を見据えたこの策は、血を流し続ける戦争を終わらせ、未来を切り開く力がある。住民投票で決着をつけ、米軍と有志国が駐留して守る。歴史が証明しているではないか。ベトナムみたいに逃げれば崩壊だ。朝鮮みたいに踏ん張れば持つ。ロシアを抑え、中国に備える。米国が動けば世界が変わる。この案は、弱さじゃなく強さだ。迷うな。進め。そして守れ。それが勝利への道だ。

日本はこの方向で米国を支えるべきだ。なぜか。まずは日本の実質GDPは、2023年時点で約4.2兆ドルだ。インフレ調整後の数字で見れば、世界3位。米国、中国に次ぐ経済力であるという地事実がある。名目GDPではドイツに抜かれ4位と言われるが、それはドイツの物価高騰と円安のせいだ。

戦前、日本はソ連と対峙し、アジアの防波堤だった。1941年、日ソ中立条約を結んだが、ソ連は終戦間際に裏切り、満州と北朝鮮を押さえた。その結果、北朝鮮が誕生し、朝鮮戦争で米国を脅かした。今のロシアや中国の台頭も、その流れの果てだ。当時日本が米国と協力してソ連を抑えていれば、アジアは違う道を歩んでいたかもしれない。

ノモンハン事件

2025年の現在、日本は米軍と共同演習を重ね、F-35を配備し、中国の脅威に備えている。2022年、ロシアがウクライナに侵攻した時、日本は即座に経済制裁に加わり、G7の一角として米国を支えた。岸田首相は「ウクライナは明日の東アジアだ」と喝破した。その通りだ。ウクライナでロシアを止めなければ、中国は台湾や尖閣に手を出すだろう。

過去の過ちを繰り返すな。日本が米国と組んで駐留を支え、監視を固めれば、ウクライナはもとよりアジアも守れる。日本も経済力を出し、技術も出し、自衛隊の力も活かすのだ。2023年の実質GDP成長率は1.68%。日本は半導体製造装置や素材産業などで世界をリードしてる。この力を米国と合わせれば、ロシアも中国も震え上がる。

さらに、大胆な積極財政と金融緩和策で実質GDPを再び世界2位に押し上げれば、それが最大の抑止力になる。国民も防衛力増強やウクラライナ支援などに反対することはなくなる。1990年代、日本は実質GDPで2位だった。それが中国に抜かれた。過去の緊縮策ではダメだ。失われた30年を完璧終わらせろ。金をばらまき、需要をぶち上げ、企業を動かせ。2位を取り戻せば、アジアでの発言力が増し、ロシアや中国への牽制が効く。

日本が動けば、アジアの未来が変わる。誰もが頷くだろ。これが日本の道だ。米国と共に進め。そして守れ。勝利はそこにある。

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2025年3月30日日曜日

「トランプ誕生で、世界は捕食者と喰われる者に二分割される」アメリカの知性が語るヤバすぎる未来―【私の論評】Gゼロ時代を生き抜け!ルトワックが日本に突きつけた冷徹戦略と安倍路線の真価


まとめ
  • 世界秩序の崩壊と「弱肉強食」の台頭: トランプ再選後、アメリカが国際秩序維持を放棄し、「Gゼロの世界」が到来。世界は「弱肉強食の掟」が支配するジャングルとなり、アメリカが他国を「捕食」する構図が生まれた。
  • アメリカの捕食行為: トランプ氏はグリーンランド、カナダ、パナマ運河などを狙い、反発されてもディールで利益を強要。ロシアはウクライナを、中国は技術で他国を取り込む動きを見せる。
  • 中国と台湾情勢: 中国は経済低迷で台湾侵攻はすぐにはないが、再生可能エネルギー技術等を武器に影響力を拡大し、米中対立の受益者となる可能性がある。
  • テック企業の台頭: 秩序崩壊でテック企業が国家を超える力を持ち、AI開発などで世界を形成する未来が予想される。
  • 日本の選択: 日本はアメリカと中国の間で自主防衛力強化(核保有含む)か国際支援で味方を増やすかの選択を迫られ、危機感を持って対応する必要がある。

イアン・ブレマー氏

トランプ大統領の再選以降、世界は強者が弱者を飲み込む「捕食の世界」に変貌し、日本人だけがその危機に気づいていない可能性があると、'69年生まれ。ユーラシア・グループ代表。毎年発表する「世界の10大リスク」も注目を集める国際政治学者のイアン・ブレマー氏は警告する。以下は週刊現代の大野和基氏が、ブレマー氏に取材した内容を要約したものである。
トランプの派手な言動は2年後の中間選挙を意識した一時的なものではなく、第二次トランプ政権の誕生によって世界秩序は完全に崩壊し、もう元には戻らないと彼は断言する。
米コンサルティング会社ユーラシア・グループの代表であるブレマー氏は、15年前から「国際秩序を維持する意志や能力を持つ国家が不在の世界」=「Gゼロの世界」の到来を予見し、警鐘を鳴らしてきた。
昨年11月のトランプ再選後、アメリカがNATOのあり方の見直しを表明し、国際支援を次々と打ち切ることで、世界の秩序維持を放棄した結果、ブレマー氏の予言したGゼロが現実化したと分析する。
これにより、世界は「弱肉強食の掟」が支配するジャングルのような状態となり、食物連鎖のピラミッドの頂点にトランプ大統領率いるアメリカが立ち、それ以外の国々はすべてアメリカに「喰われる」敗者となる危険な構図が生まれた。
トランプ氏は就任早々、「グリーンランドを買いたい」「カナダを51番目の州にする」「パナマ運河を奪う」などの発言を行い、これらは単なる挑発ではなく、捕食の試みとして実行されている。
カナダやデンマークから反発があっても、「奪うのをやめる代わりに何をくれる?」とディールを提案し、アメリカの欲しいものを強要する形で搾取を進めている。
ロシアはこれに気づき、ウクライナを飲み込もうとしており、現在進む停戦協議でウクライナが領土を放棄すれば、第二次大戦後アメリカが築いた「武力による領土拡大を禁じる国際ルール」が消滅し、力を持つ国々が弱い国を捕食する動きが加速するだろう。
一方、台湾をめぐる情勢は複雑で、中国は経済低迷によりすぐには動かないが、再生可能エネルギー分野での技術優位を活かし、「中国に従えば技術を提供する」と他国を取り込む戦略を進める可能性がある。
これにより、米中対立が激化する中、逆説的に中国が受益者となる未来も考えられる。
また、秩序崩壊後、AI開発を進めるテック企業が国家に代わって世界を変革する力を持ち、倫理やモラルを無視した活動が加速し、国家を超える存在となる可能性もある。
日本は、アメリカの傍若無人な意向と中国の脅威に挟まれ、自主防衛力を強化するか(核保有の選択肢も含む)、アメリカが手を引いた国際支援を引き受けて味方を増やすかの二択を迫られる。
ブレマーは、日本人がこの「トランプ後の世界」のジャングルの掟にすぐ認識を改め、どの国よりも強い危機感を持って生き残り策を真剣に考えるべきだと強調する。
この記事は、2つの元記事を統合して、要約したものです。以下に元記事のURLをあげます。詳細を知りたい方は、これらの記事をご覧になって下さい。
「トランプ誕生で、世界は捕食者と喰われる者に二分割される」アメリカの知性が語るヤバすぎる未来
「台湾有事はすぐには起こらない。しかし中国は……」アメリカの頭脳が読み解くヤバすぎるトランプ後の世界
【私の論評】Gゼロ時代を生き抜け!ルトワックが日本に突きつけた冷徹戦略と安倍路線の真価
  • 「Gゼロの世界」の予見: アメリカが「世界の警察官」をやめるとの発言(ニクソン、オバマ、トランプなど)から、無秩序な「Gゼロ」の到来は予想されていた。歴史的反省と時代の流れが背景にある。
  • ルトワックの現実主義: エドワード・ルトワックは、Gゼロを生き抜くため「戦略的抑制」「地経学」「同盟強化」「情報収集」「内政安定」を提唱。日本には技術力と現実的な戦略を提言。
  • 具体例と助言: ベトナム戦争の失敗や米中貿易戦争を例に、日本に中国との対決回避、高い技術力の活用、クアッド強化、情報機関設立を助言。安倍政権のロシア外交を評価。
  • 安倍路線の継承: Gゼロ時代を生き抜くには、技術力、外交、情報、内政を組み合わせ、核シェアリングを含む安倍路線を強力に推進すべき。
  • 支持の理由: ルトワック流の見方は理想や理念を排し、現実と闘志で国を生き残らせると筆者が支持。冷徹な戦略が混沌の時代に必要だ。
アメリカは随分前から世界の警察官を自認しなくなっていた 画像はAI生成画像

イアン・ブレマー氏が叫ぶ「Gゼロの世界」なんて、ぶっちゃけ新鮮味はない。アメリカが「世界の警察官」をやめると言い出した瞬間から、こんな時代が来るのは目に見えていたのだ。誰が最初にその旗を振ったのか、はっきりした名前を挙げるのは難しい。だが、歴史をひも解けば、第二次大戦後のアメリカが超大国として君臨したことに嫌気がさした反省から、この考えは生まれた。

具体的なターニングポイントは、リチャード・ニクソンが1969年7月25日にぶち上げた「ニクソン・ドクトリン」だ。彼はグアムで演説し、ベトナム戦争のドロ沼に疲れ果てたアメリカが、もう直接首を突っ込むのはやめて、同盟国に自分で身を守れと突き放した。これが「警察官」役を縮める最初の火種だ。時は流れ、バラク・オバマは2010年代にその流れをはっきり口に出す。2016年、The Atlanticのインタビューで彼は言い切った。「アメリカはすべての争いに飛び込めないし、飛び込むべきでもない」。軍事でなんでも解決するなんて馬鹿げていると、慎重な顔を見せたのだ。

オバマはシリアで「米国は世界の警察官であってはならないと」発言

さらにドナルド・トランプが2018年12月、イラクで吠えた。「俺たちは世界の警察官じゃない」。彼は「アメリカ第一主義」を、国際的な責任なんて知ったこっちゃないとばかりに突き進めた。だが、こんな話は冷戦時代からチラホラあった。過剰な介入にうんざりした声は、ずっとくすぶっていたのだ。要するに、「誰が最初か」なんて詮索より、時代のうねりが複数の指導者に同じことを言わせてきたと見るべきだ。

「Gゼロ」の足音は、冷戦後のアメリカ一極支配が崩れ、多極化の波が押し寄せる中で、みんなが薄々感じていた転換点だ。こんな無秩序な世の中を、アメリカの戦略家エドワード・ルトワックは冷徹に見つめる。軍事戦略や地経学の達人として、『戦略:戦争と平和の論理』で彼は喝破する。混沌を生き抜く知恵を、国家に叩き込もうとしたのだ。

ルトワックはまず、無駄な動きをせず資源を賢く使う「戦略的抑制」を掲げる。ベトナム戦争でアメリカが突っ込みすぎて大損した失敗を引き合いに出し、Gゼロでは大事なものだけ守れと迫る。日本には、中国と正面切ってぶつかるな、技術力と同盟で抑え込めと助言する。軍事より経済がものを言う「地経学」も彼の肝だ。2018年の米中貿易戦争で、アメリカがファーウェイを締め上げたのを褒めちぎり、日本には高い技術力を武器に世界と渡り合えと焚きつける。

同盟の絆も欠かせない。安倍政権がロシアと腹を割って話したのを「賢い」と褒め、インドやオーストラリアとのクアッドを固めろと後押しする。情報だって命綱だ。湾岸戦争の勝ちとベトナムの負けを比べ、日本にはもっと現場の耳目を磨けと迫る。そして、内政がぐらついたら終わりだ。コロナ禍でEUがバラバラになったのを笑いものにし、日本にはグローバル化の夢を捨て、自国第一で団結しろと喝を入れる。防衛力と経済の足腰を鍛えろと、尻を叩くのだ。

エドワード・ルトワック

ルトワックはGゼロをただの混乱とは見ない。戦略を立て直すチャンスだと肯定的に捉える。歴史の教訓と今の動きを絡め、彼は日本に道を示す。技術力、柔軟な外交、情報収集、内政の強さ。この四つを勢いで組み上げろと叫ぶ。もっともだ。

そして外交と安保では、安倍路線をガッチリ継承しろ。核シェアリングも視野に入れ、揺るぎない国を守る覚悟を決めろ。それが、この荒々しい時代を生き抜く唯一の道だ。このルトワック流の見方は、甘っちょろい理想や理念をぶっ飛ばし、現実を直視する力強さがある。私はこれを支持する。なぜなら、国を生き残らせるには、綺麗事より冷たい頭脳と熱い闘志が必要だからだ。

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2025年3月29日土曜日

石破政権延命に手を貸す立民 国民民主と好対照で支持率伸び悩み 左派色強く 減税打ち出せず―【私の論評】石破政権崩壊カウントダウン!財務省の犬か、玉木政権への道か?

石破政権延命に手を貸す立民 国民民主と好対照で支持率伸び悩み 左派色強く 減税打ち出せず

まとめ
  • 石破政権の商品券問題と支持率急落: 石破首相が新人議員に10万円の商品券を配布し、予算成立後の政策ミス(高額療養費凍結表明)で支持率が急落。立憲民主党の野田代表は説明を求めるが、退陣要求は慎重。
  • 立民の対応と政権延命への関与: 立民は予算成立に協力し、石破政権の延命を助けていると批判され、国民民主の対決姿勢とは対照的。野田代表の財務省寄り姿勢も影響。
  • 立民の支持率伸び悩みの要因: 左派色の強い政策(選択的夫婦別姓、ジェンダー平等)や増税路線が現実的でなく、支持率向上につながらない。
国民民主党代表玉木氏

 立憲民主党の野田佳彦代表は16日、石破首相が自民党新人議員との会食で10万円の商品券を配った問題について、「徹底して説明を求めるが、内閣不信任決議案提出や退陣要求は簡単にしない」と述べ、対応と支持率低迷の要因を考えたいとした。

 石破政権は2月25日の自民・公明・維新の3党合意で2025年度予算を修正した時期が絶頂期だったが、3月3日、首相公邸で新人15人に商品券を配り、翌4日に予算が衆院通過。おそらく少数与党でも通過できた高揚感と油断があったのだろう。林芳正官房長官も同席し「前夜祭」ムードだったが、3月7日に高額療養費引き上げ凍結を表明し、参院での予算再修正が不可避に。

 17日の世論調査で商品券問題が響き支持率急落。立民は予算成立に協力し、石破政権延命に手を貸していると見られ、財務省寄りとの評価も。対照的に、国民民主は年収の壁問題で妥協せず支持率上昇。立民は選択的夫婦別姓やジェンダー平等など左派色が強く、野田代表や小川幹事長の増税路線が現実的でなく、支持率が伸び悩む一因に。

(たかはし・よういち=嘉悦大教授)

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【私の論評】石破政権崩壊カウントダウン!財務省の犬か、玉木政権への道か?

まとめ
  • 石破政権の支持率急落と失策: 支持率が共同通信(3月27日)で27%、日本経済新聞(3月24日)で35%と低迷。「10万円商品券問題」や高額療養費見送り(3月7日)が国民の信頼を失わせ、矢田稚子補佐官クビ(3月31日)で政権がグチャグチャだ。
  • 財務省の影響と減税回避: 石破が財務省に操られ、減税をケチり2万円時限措置に留まる。玉木の「10万円減税」提案(3月16日)とは対照的で、国民の怒りとXでの「財務省の犬」批判を招く。
  • ダブル選挙の可能性: 石破が「予算否決なら解散も」(日本経済新聞、2024年12月28日)と発言。産経新聞(3月27日)は4月に「石破おろし」が加速と予測。自公過半数割れで自民が弱体化し、2009年の麻生政権崩壊の再現が囁かれる。
  • 国民民主党と玉木の台頭: 若者支持率トップ(産経新聞、3月29日)、地方選挙勝利(熊本県知事選、2024年11月)。玉木は「自民の腐った体質」(FNN、3月24日)と批判し、現実的政策で支持拡大。東洋経済(3月24日)は「玉木首相が現実味」と分析。
  • 政権交代への期待: 石破の失態と財務省支配で国民が離反。Xで「自民終わり」(3月29日)、「玉木なら救う」(3月28日)と声が上がり、野党連合の首相指名で玉木が浮上。4月以降が勝負だ。
商品券問題では当初は記者に逆質問をするなど強気の石破総理だったが・・・・・
石破政権はスタートから支持率がガタ落ちだ。共同通信(3月27日)では27%、日本経済新聞(3月24日)では35%と低空飛行だ。原因はバレバレだ。「10万円商品券問題」や物価高対策のグダグダさだ。減税を避ける姿勢が国民をブチ切れさせてる。財務省がガッチリ首根っこを押さえ、「減税なんて許さん」と石破を締め上げている。例えば、玉木は3月16日の「日曜報道THEPRIME」で「10万円減税で物価高をぶっ潰せ」と吠えた。
だが石破は2万円のショボい時限措置で済ませ、財務省に尻尾を振る。Xでは「石破は財務省の犬」と罵声が飛び交う。さらに3月7日、高額療養費の負担上限引き上げを見送り、参院で予算を無理やり修正だ。毎日新聞(3月8日)は「国民に何も説明できず、信頼をぶち壊した」とぶった切った。追い打ちで、読売新聞(3月28日)は国民民主党出身の矢田稚子補佐官を3月31日でクビにすると報じた。自民と国民民主の絆がズタズタだ。
昔、野田佳彦が2012年に消費増税で国民を裏切り、支持を失った。あの時と同じだ。財務省は今も「増税以外認めねえ」と石破を操り、減税をケチらして延命に走らせてる。石破が追い詰められてダブル選挙に突っ走る可能性は大きい。2024年12月28日の日本経済新聞で「予算や法案がコケたら解散も同日選もあり」と言い放った。産経新聞(3月27日)は予算成立後の4月初旬に「石破おろし」が火を噴くと睨んでる。
2012年消費税増税法案に向けての決意を語る野田首相
プレジデントオンライン(1月10日)は「衆参同日選なんて言ってるのは自信過剰か、政治センスゼロか」と石破をコケにした。財務省は裏で「予算を通せば石破を延命させられる」と画策し、朝日新聞(3月16日)は「財務省前で抗議デモが拡大」と報じた。大平正芳は1980年にダブル選挙で自民を勝たせたが、今の石破は少数与党だ。自公で衆院過半数すら割ってる。朝日新聞(3月15日)は「派閥再編も失敗、石破派すらバラバラ」と突き離した。

Xでは3月29日に「石破でダブル選挙なら自民は終わり」と叫び声が響く。「高市早苗が後継でも勝てねえ」と悲鳴もある。2009年、麻生太郎が衆院選でボロ負けして民主党に政権を渡した。あの再現だ。高額療養費のグダグダ、矢田のクビ、財務省の鉄拳で石破の足元はグラグラだ。
国民民主党は若者(18~40代)で支持率トップだ(産経新聞、3月29日)。地方選挙でもバンバン勝っている。玉木は3月24日のFNN取材で「商品券問題は自民の腐った体質そのもの」とぶちかまし、石破に政治倫理審査会での説明を突きつけた。減税と物価高対策をズバッと掲げ、石破との差を見せつけた。3月13日の衆院予算委では、石破が「高額療養費のミス」と頭下げたが、玉木は「国民の生活が第一だ」と喝を入れ、支持をガッチリ掴んだ。
東洋経済(3月24日)は「玉木首相が現実味を帯びてきた」とぶち上げた。石破政権がボロボロで、野党連合に期待が集まる。2024年11月の熊本県知事選じゃ、国民民主の推した候補が勝ち抜き、玉木の地方での力が証明された。Xでは3月28日に「玉木なら現実的な政策で日本を救う」と声が上がる。自民がダブル選挙でコケたら、野党が首相を指名する。立憲の野田が大連立を蹴った(1月4日、毎日新聞)中、国民民主が主導権を握る可能性が高い。
時事通信(3月20日)は「国民民主が野党の現実派の要」と持ち上げた。財務省の締め付けに縛られず、玉木の現実的な政策と若者人気は野党の柱になる力だ。FNN世論調査(3月24日)で石破支持率は30.4%まで落ちた。朝日新聞(3月17日)は「商品券問題で国民がキレてる」と突き放した。一方、国民民主は40代以下でトップを走り、玉木への期待は、大きい。

新川浩嗣財務次官


石破が新人15人に10万円商品券をバラまいた(読売新聞、3月14日)ことは「石破、お前もか」と国民を呆れさせた。自民内部でも批判が爆発だ。玉木は「国民のための政治」で対抗し、支持を掴む。毎日新聞(3月16日)は「自民の倫理観がボロクソ」と斬った。3月7日の高額療養費見送りで参院予算修正、矢田の3月31日クビは政権のグチャグチャを象徴する。財務省は「財政健全化」と称して国民を締め上げ、Xでは「財務省解体」とハッシュタグが飛び交う。
2024年10月の党大会で玉木は「国民目線の経済政策」をぶち上げ、支持率を跳ね上げた。東洋経済(3月24日)は「石破の弱さが玉木総理を呼ぶ」と分析だ。4月に党内抗争や不信任案でダブル選挙が火を噴く可能性が高い。2009年の民主党政権誕生は、自民の失態と野党の結束が鍵だった。今も同じだ。Xでは2024年10月30日に「自民が玉木を担ぐ裏技も」と囁かれた。玉木が野党の現実派リーダーとして立つシナリオがガチで現実味を帯びる。
石破が減税をケチり、財務省の言いなりで高額療養費見送りや矢田クビに走った。ダブル選挙に突っ込めば、自民はボロ負けだ。国民民主党の支持率急上昇と玉木の政策が、野党連合の首相候補として飛び出す可能性が大きい。商品券の失態、予算の混乱、連立の崩壊、若者支持、地方の実績が「玉木政権」を現実にする。財務省の暗い影が石破を縛る中、玉木が国民の声でぶち破る。だが、野党の結束や自民の逆襲が勝負を分ける。4月以降の動きに注目だ。かつて民主党は政権交代したが、長持ちしなかった理由は経済だ。玉木政権が経済を好転させれば、長続きするであろう。

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2025年3月28日金曜日

日本の所得水準、50年後は世界45位に後退 日経センター―【私の論評】外国人流入は日本を救うどころか滅ぼす!日銀の金融緩和こそ賃金アップの鍵

日本の所得水準、50年後は世界45位に後退 日経センター

まとめ
  • 日本経済研究センターの50年予測によると、日本の1人当たり実質GDPは2024年の29位から2075年には45位に低下し、世界の中位群に後退。成長にはAI活用や雇用改革が必要。
  • 日本全体の実質GDPは24年の4位(3.5兆ドル)から75年に11位(4.4兆ドル)に下がり、平均成長率は71〜75年で0.3%にとどまる。米国と中国はAIで生産性を上げ、1位と2位を維持。
  • 人口減少が成長を抑制し、日本の合計特殊出生率は75年まで1.1に低下。純移民数は年23万〜24万人で、75年の総人口は約9700万人、外国人1600万人に。成長維持には外国人流入が不可欠。
  • 1人当たりGDPは75年に4万5800ドル(約690万円)でG7最下位となり、韓国(21位)や中東欧諸国などに抜かれる。
  • 世界成長率は21〜30年の3.3%から71〜75年の1.3%に鈍化。新興国の影響力が増し、BRICS合計GDPは75年に米国の1.4倍に拡大。
日本経済研究センター 代表理事・会長 喜多 恒雄氏

日本経済研究センターは今後50年の長期経済予測を発表。1人当たり実質GDPで日本は2024年の29位から2075年には45位に低下し、世界の中位群に後退。成長にはAIなどデジタル技術の活用や雇用改革が必要とした。日本の実質GDPは24年の4位から75年には11位に下がり、成長率は0.3%に低迷。米国と中国はAI活用で生産性が上がり、GDP1位と2位を維持。日本はAI効果が弱く、G7最下位が続く。

人口動態では、日本の合計特殊出生率は75年に1.1に低下、総人口は9700万人に減少。移民純流入は年23万〜24万人で、世界5位の受け入れ国となるが、成長維持には外国人流入が不可欠。韓国の1人当たりGDPは日本を上回り、中東欧諸国などにも抜かれる。

世界全体の成長率はAIで21〜30年は3.3%だが、71〜75年には1.3%に鈍化。東アジアの人口は6億人以上減少し、アフリカが40年代半ばに上回る。新興国の影響力拡大で、75年のGDPはインド3位、インドネシア5位、BRICS合計は米国の1.4倍に。米国はG7連携やCPTPP・EU統合で対抗が必要と指摘した。

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【私の論評】外国人流入は日本を救うどころか滅ぼす!日銀の金融緩和こそ賃金アップの鍵

まとめ
  • 「外国人流入が成長に不可欠」は誤り。全体GDPは増えても、1人当たりGDPは労働力増加だけでは上がらず、資本希薄化で下がる。BorjasやOttavianoらの研究で、低スキル移民が賃金と生産性を下げる実証がある。
  • 賃金上昇には日銀の金融緩和が有効。総需要を刺激し、労働市場を逼迫させることで賃金が上がる。世界標準のマクロ経済学の原則にもとづけば積極的緩和を支持。
  • 日本の賃金30年停滞は日銀の失策が原因。デフレ放置と緩和不足で需要が低迷。OECDデータで他国が20〜30%賃上げの中、日本は横ばい。
  • アベノミクス初期の緩和で賃金上昇が見られたが、消費税増税と日銀の躊躇で失速。対照的にFRBは大胆な緩和で賃金を伸ばした。
  • 日経センターレポートは経済学を無視した暴論。外国人頼みは1人当たりGDPを下げ、日本を貧しくする。日銀の緩和こそ解決策なのに、それを否定するレポートは日本を滅ぼす毒だ。
成長維持には外国人流入が不可欠????

「成長維持には外国人流入が不可欠」という記述は、1人当たりGDP(≒一人あたりの所得)を考慮すると明らかな間違いだ。全体のGDPは労働力が増えれば上昇する可能性がある。しかし、1人当たりGDPは労働力増加だけでは上がらない。資本が希薄化すれば逆に下がるのがマクロ経済学の基本だ。

Borjasの研究では、米国の移民流入が全体GDPを増やす一方、1人当たりGDPは移民のスキル次第で低下することが実証されている。労働供給が増えると賃金が下がり、生産性も落ちる場合がある。OttavianoとPeriの分析でも、低スキル移民が既存労働者の賃金を圧迫し、1人当たりGDPを下げるケースが確認されている。

資本ストックが労働力増加に追いつかない場合、1人当たりGDPは停滞する。Acemogluらの研究がこの点を明確に示している。移民の質が生産性向上につながらなければ意味はない。

Docquierの国際比較では、高スキル移民がなければ1人当たりGDPの上昇は期待できない。日本のような経済でも、スキル選抜がなければ効果は薄い。外国人流入が成長の最低条件という主張は誤りだ。生産性向上や資本蓄積が成長の鍵であり、労働力の量だけでは不十分である。全体GDPと1人当たりGDPを混同した明らかな過ちである。

ここで、賃金を上げるための施策は、外国人流入ではなく、日銀による金融緩和策を継続することであることを、世界標準のマクロ経済学の観点と、日本の他国にはない特殊事情観点からさらに解説する。特に、日本の賃金が過去30年以上も上がらなかったのは、日銀の金融政策が間違え続けたためである点に焦点を当てる。

世界標準のマクロ経済学では、賃金上昇は労働需要の増加に依存する。ケインズ経済学やニューケインジアンモデルに基づけば、総需要が不足すると企業は雇用を増やさず、賃金も上がらない。金融緩和はマネーサプライを増やし、総需要を刺激する。これにより失業率が下がり、労働市場が逼迫して賃金が上昇する。リフレ派の経済学者クルーグマンは、デフレ下では積極的な金融政策で需要を喚起すべきだと主張する。日本でも主流派経済学者といわれる人々の論点は話しにならいが、世界標準のマクロ経済学に準拠する高橋洋一や田中秀臣が同様の見解を示し、日銀の消極的な政策を批判してきた。

日本銀行

日本の賃金停滞の原因は、日銀がデフレを放置し、金融緩和を十分に行わなかったことだ。1990年代以降、日本はゼロ金利政策を導入したが、マネタリーベースの拡大が不十分で、デフレ期待が根付いた。フィリップス曲線の観点から見れば、インフレ率が低すぎると賃金上昇圧力が生まれない。

実際、1997年の消費税増税や2000年代の量的緩和打ち切りは、景気回復を阻害し、企業に賃上げの余力を与えなかった。OECDデータによれば、日本の名目賃金は1997年から2020年までほぼ横ばいであり、米国やドイツでは20〜30%上昇したのと対照的だ。

アベノミクスの初期(2013〜2015年)には、日銀が量的・質的金融緩和(QQE)を始め、インフレ率が一時1%を超えた時期には、実質賃金がプラスに転じた企業もあった。しかし、2014年の消費税増税で景気が失速し、日銀が追加緩和を躊躇した結果、賃金上昇は止まった。対照的に、米国のFRBは2008年危機後に大胆な量的緩和を続け、失業率低下と賃金上昇を実現した。世界標準のマクロ経済学者の岩田規久男(元日銀副総裁)は「日銀がインフレ目標2%を本気で追わなかったことが賃金停滞の元凶」と指摘する。

外国人流入に頼るより、金融緩和で需要を喚起する方が賃金上昇に直結する。他国と日本の違いは、日銀の金融政策のみと言っても過言ではない。賃金停滞の核心は、日銀がデフレを放置し、積極的な緩和を怠ったことだ。

OECDデータや他国との比較、理論的裏付けからも、日銀の失策が決定的な差を生んだ。労働市場や生産性の問題も、その根底には金融政策の失敗があり、他国が同様の問題を抱えつつ賃金を伸ばした事実がこれを証明する。微細な例外(財政政策の影響など)はあるが、主要因として日銀の金融政策の特異性を超えるものはない。


日本は現在インフレ気味ではあるが、これは主にコストプッシュ型(エネルギーや輸入価格の上昇)であり、需要牽引型ではない。ニューケインジアンモデルでは、持続的な賃金上昇には総需要の拡大が必要だ。日銀が金融緩和を継続し、インフレ期待を高めれば、企業は投資を増やし、労働需要が上がる。これが現状でも原理が当てはまる証拠だ。米国の2021〜2022年のインフレ期(CPI6〜9%)でも、FRBの緩和策が需要を支え、賃金が年5%上昇した例がある。日本も同様に、エネルギー・資源価格高騰の対策を行いつつ緩和を維持すればインフレを賃金上昇に変えられる。外国人流入に頼る必要はない。

日本経済研究センターのレポートの主張はマクロ経済学の初歩すら理解していない。1人当たりGDPと全体GDPの区別もできず、「労働力が増えれば成長する」と安直に結論づけるのは、データも理論も無視したど素人レベルの戯言だ。日本の資本ストックが追いつかない中、外国人流入を増やせば、1人当たりGDPは下がり、デフレがさらに悪化する。無論賃金も下がる。

こんな政策を「最低条件」と持ち上げるのは、経済を数字で読めない無能の証明だ。日銀が金融緩和で需要を喚起すれば、外国人頼みなど不要なのに、それを無視して移民にすがるのは、日本の未来を貧しくするだけだ。アベノミクスでさえ緩和不足で失敗したのに、このレポートは30年の教訓をまるで学んでいない。

国力を削ぐような愚策を「成長」と呼ぶなら、そんな成長はゴミ箱に叩き込め! 日銀がまともな金融緩和を続ければ、日本は自力で立ち直れる。それを否定するこのレポートは、日本を亡国の淵に突き落とす毒だ。こんなものを信じる奴は、日本の敵だ!

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2025年3月27日木曜日

ガザ再建計画の最大の障害はイラン、第1期トランプ政権が残した遺恨は原油相場を刺激―【私の論評】トランプのイラン強硬策とイスラエルの攻撃計画:中東危機と中国対決の行方

ガザ再建計画の最大の障害はイラン、第1期トランプ政権が残した遺恨は原油相場を刺激

まとめ
  • フーシ派の攻撃と中東緊迫: フーシ派がイスラエルにミサイル攻撃と紅海妨害、ガザ停戦が崩壊。米空母が増派され、イランに核開発停止を2カ月猶予で要求、緊張が高まる。
  • ガザのパレスチナ人排除計画米国がエジプトにガザのパレスチナ人受け入れを要求、拒否なら援助削減と警告。トランプ政権が支持しガザ再建急ぐが、任期内に時間切れの恐れ。
  • イランとの対立と対話断絶イランがハマスやフーシ派を支援、米国は制裁で資金を抑え込む。トランプ氏は対話を避け、イランは戦争準備を表明し、衝突時の解決策が見えない。

イスラエル南部アシュケロンで14日、稼働するミサイル迎撃システム

イエメン西部を支配するフーシ派は、ガザへの人道支援や電力を止めたイスラエルに対し、紅海での妨害やミサイル攻撃を再開した。トランプ米大統領は、これをイランの影響下にある攻撃とみなし警告したが、フーシ派は意に介さず攻撃を続け、イスラエルでは防空システムが作動しサイレンが鳴り響いている。

イスラエル軍もガザへの空爆と地上作戦を再び開始し、ガザ停戦合意は完全に崩壊した形だ。一方、米軍は空母ハリー・S・トルーマンでフーシ派拠点を攻撃していたが戦力不足で、空母カール・ビンソンが紅海に到着。さらに空母ジェラルド・R・フォードが中東に向かう可能性もあり、中東の緊張が高まっている。米国はイラン最高指導者に核開発停止を求める書簡を送り、2カ月の猶予を与えたが、イランとの対話は難しく、戦争へのカウントダウンが始まった可能性もある。

ガザのパレスチナ人排除の動きも進んでいる。UAE経由で米国がエジプトに「ガザのパレスチナ人を受け入れなければ援助を減らす」と警告。エジプトのシシ大統領は50万人をシナイ半島北部に一時的に受け入れる案を示したが、エジプト国営放送は否定。トランプ政権はこれを支持し、ガザ再建を急ぐが時間は限られている。

イランとの関係では、ハマスやヒズボラ、フーシ派を支援するイランが障害となり、米国は制裁でイランの資金を減らそうとしている。しかし、トランプ氏は任期4年内で解決を目指すためイランとの対話を避け、イラン核合意を破棄した経緯から交渉は困難。イラン外相は戦争準備を表明し、衝突が起きれば解決策が見えない状況だ。

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【私の論評】トランプのイラン強硬策とイスラエルの攻撃計画:中東危機と中国対決の行方

まとめ
  • トランプの強硬策とイスラエルの準備: トランプはイランに「核武装は許さない」と警告、制裁強化。2025年2月のワシントン・ポストによれば、イスラエルが2025年前半にイラン核施設を攻撃予定。2024年10月の漏洩(ニューヨーク・タイムズ)ではミサイル準備が発覚。
  • イスラエルの動きと支援: 2025年初頭、トランプ政権がイスラエルにバンカーバスターを売却。2025年2月、ネタニヤフが「今がチャンス」と支援要請(ワシントン・ポスト)。イランの防空網は2024年10月に壊滅、攻撃可能性高い。
  • イラン核武装の影響: イランが核を持つと、サウジやトルコが核開発へ(2025年3月ブルッキングス)。2024年11月の国際危機グループは全面戦争と経済崩壊を警告。
  • トランプの中国優先: トランプは中東を避けたい。2025年3月のフォーリン・ポリシー誌で「アジア重視」、イスラエルに任せる。2025年2月のブルームバーグでイラン石油締め上げを計画。
  • 中国支援封じとリスク: 2025年1月のロイターで、サウジやUAEに圧力、中国のイラン支援を潰す。イスラエルの暴走で中国戦略が狂うリスクあり。

国際社会を巻き込んだ緊張が続くアメリカとイラン

トランプ大統領は就任前からイランに牙をむき、「核武装したらタダじゃ済まねえぞ」と凄みを利かせ、制裁をガンガン強化しつつも外交で解決しろと吠えてきた。2025年2月のワシントン・ポストが報じたところ、米国の情報屋どもはイスラエルが2025年前半にイランの核施設、フォルドーやナタンズを破壊する気だと睨んでる。トランプもその動きをチラ見しながら動いてるようだ。

今、イランは2024年10月のイスラエルからの一撃で防空網がボロボロだ。弱り切ったイランならトランプの「話せば分かるだろ」に乗ってくる可能性はなくはない。だが、ここでイスラエルが黙ってはいない。イランのイスラム革命体制を根こそぎぶち壊す気満々だ。2025年2月のウォールストリート・ジャーナル(WSJ)がすっぱ抜いた記事では、イスラエルはトランプのバックアップを当てにして核施設に大規模攻撃を仕掛ける算段らしい。もしイスラエルが動けば、米・イラン間の話し合いはぶち壊しだ。外交なんて夢のまた夢になる。

証拠なら山ほどある。2024年10月、ニューヨーク・タイムズが暴いた米国の機密漏洩では、イスラエルが空中給油訓練や長距離ミサイル「ロックス」を準備してたことがバレた。これはイランのミサイル攻撃への仕返しとピッタリ重なる。2025年1月の米国防情報局(DIA)の報告でも、イスラエルが核施設を遠くからミサイルで叩くか、バンカーバスターでぶち抜くかの二択を練っていて、2025年上半期に実行する気だと読んでる。

BLU-109バンカーバスターを搭載したイスラエルの戦闘機

さらにトランプ政権は2025年初⁰初頭にBLU-109バンカーバスターのガイダンスキットをイスラエルに売り渡し、攻撃力をグンと上げてやった。2025年2月、ネタニヤフ首相がトランプと会った時(ワシントン・ポスト報道)、ネタニヤフは「今がイランを叩くチャンスだ」と息巻いてた。シリアやヒズボラがヘロヘロなのを理由に支援をせがんだらしい。2018年のイラン核合意破棄でもネタニヤフの影がチラついてたが、今回も同じパターンだ。

イランが核を手に入れたら、中東は一気に火薬庫になる。イランの核が現実になれば、サウジやトルコが「俺らも核持つぞ」と動き出し、中東の軍事バランスが崩れる。2025年3月のブルッキングス研究所の分析では、サウジは米国やパキスタンから核技術をせびり、トルコはNATOの枠外で勝手に核を作り出すと見ている。

核が次々広がれば、ちょっとしたミスでドンパチが始まり、テロリストに技術が漏れる危険も跳ね上がる。2024年11月の国際危機グループの報告は、イランが核を盾にヒズボラやフーシ派をガンガン支援し、イスラエルや米国の仲間を叩きまくると警告している。「中東で全面戦争が始まる引き金だ」とまで言われ、イスラエルは先制攻撃に大義名分を得る。石油が止まって経済もズタボロだ。

米国の頭のいい連中は、イスラエルの攻撃が米国をイランとの戦争に引きずり込むとビビってる。2025年3月のアトランティック・カウンシル分析では、核施設を叩けばイランの仕返しが米軍基地や仲間国に飛んでくると警告してる。WSJやワシントン・ポストが「半年以内に攻撃あり得る」と騒ぎ、トランプがやたら対話を叫ぶのも、イスラエルの動きを止めたいからかもしれない。

だが、イランの防空網は2024年10月のS-300破壊でボコボコだ。米国の支援もあるイスラエルは「勝てる」と確信してる。その可能性はかなり高い。イランが核に近づけば、イスラエルのやる気はさらに燃え上がり、トランプの外交はイスラエルの我が道で潰される危険がある。

中国との対決に専念したいトランプだが・・・・・

中国との対決を優先したいトランプはどう動くか。中東でドロドロになるのはゴメンだ。イラン問題をサクッと片付ける手が必要だ。第一に、イスラエルに「好きにやれ」と任せつつ、巻き込まれない作戦だ。2025年3月のフォーリン・ポリシー誌が報じたが、トランプ政権は「中東の軍事負担は減らし、アジアに全力投球する」と息巻いてる。米軍は動かさず、イスラエルに武器と情報を渡して代わりに戦わせる気だ。2019年、中国との関税戦争に集中するためシリアから手を引いた前例もある。

第二に、イランに経済で首を絞め、核を諦めさせる「超強力圧力2.0」だ。2025年2月のブルームバーグ報道では、トランプ政権がイランの石油輸出をゼロ近くまで締め上げる新制裁を用意しているとされている。中国への牽制に力を使う気満々だ。

第三に、中国がイランを助ける道を閉じる外交だ。2025年1月のロイター報道では、トランプがサウジやUAEに「イランと取引するな」と圧力をかけ、中国の裏支援(2024年のイラン・中国25年協定)を潰す動きが見える。中東をイスラエルに丸投げし、中国との貿易・技術戦争に全力をぶち込むつもりだ。だが、イスラエルの攻撃が大きくなりすぎれば、トランプの対中国戦略は中東のドタバタで大きな影響うけるかもしれない。

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2025年3月26日水曜日

中国が海底ケーブル切断装置開発 深海で作業可 香港紙「重要なネットワーク混乱させる」―【私の論評】中国の海底ケーブル戦略と西側の対潜戦力:隠された意図を暴く

中国が海底ケーブル切断装置開発 深海で作業可 香港紙「重要なネットワーク混乱させる」

まとめ
  • 中国船舶科学研究センター(CSSRC)が深さ4000mで海底ケーブルを切断できる小型装置を開発し、中国の最新潜水艇と統合可能。
  • 香港紙が初公開と報道、台湾やバルト海でのケーブル損傷事案が続き、グレーゾーン攻撃や通信不安定化の懸念が浮上。
  • CSSRCは海洋資源開発目的と主張するが、戦略拠点付近での切断は地政学的危機を引き起こす可能性がある。
AI生成画像

中国船舶科学研究センター(CSSRC)が世界最強の海底ケーブル切断装置を開発したと発表。深さ4000mで動作し、鋼鉄、ゴム、ポリマーで覆われた装甲ケーブルを切断でき、中国の最新有人・無人深海潜水艇と統合可能。香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが初公開と報道。ダイヤモンドでコーティングされた直径15cmの研削砥石刃が毎分1600回転し、ロボットアームで操作される。

台湾やバルト海で海底ケーブル損傷事案が続き、グレーゾーン攻撃の懸念が浮上。米国グアムなど西太平洋の戦略拠点付近でケーブルが切断されれば通信が不安定化する恐れがあるが、CSSRCは海洋資源開発への貢献を目的と主張している。

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【私の論評】中国の海底ケーブル戦略と西側の対潜戦力:隠された意図を暴く

まとめ
  • 中国の海底ケーブル陸揚げ地点は上海、広東省(広州・深圳)、青島に集中し、通信インフラの要所だ。米国はこれを監視対象と認識している。
  • 通信途絶を狙うなら、深海より陸上拠点をミサイルで攻撃する方が効果的だが、中国は深海ケーブル切断技術を公表し、技術力と抑止力を誇示する。
  • 中国の潜水艦技術は沈没事故(例: 周級核潜水艦)で課題が露呈し、ASW能力も発展途上。この弱点を補う非対称戦術としてケーブル切断が浮上。
  • 西側のASW能力は強化中(例: 米国監視網改修、AUKUS、英ドレッドノート潜水艦)。これが中国の焦りを誘い、ケーブル切断を戦略的選択肢に。
  • 米海軍大学のライル・ゴールドスタインは、中国が西側のASW優位性に対抗し、非対称戦術で影響力を拡大する可能性を指摘。ケーブル切断がその一例だ。
海底ケーブルマップ

日本で海底ケーブルの陸上接続点は、東京湾周辺や千葉、神奈川に集中している。東京が経済と通信の中心だからだ。APCN-2やTGN-Pacificがここに繋がる。地理的な利便性とインフラ集積が背景にある。地震対策で大阪や九州にも一部あるが、東京近郊が主力だ。詳細は非公開だが、通信戦略の要である。この地上施設が破壊されれば、通信が途絶える。

中国もかなり集中しており、特に沿岸の主要都市に集中している。上海だ。中国最大の経済都市で、アジア太平洋を結ぶケーブルがここに集まる。APCN-2やEAC-C2Cがその例だ。上海市内の通信事業者のデータセンターがその拠点と考えられている。次に広東省だ。広州と深圳が特に重要だ。深圳はテクノロジーの中心地で、香港に近い利点を活かし、TGN-IAなどが陸揚げされている。広州も通信の要として欠かせない。

そして青島だ。山東省にあって、北東アジア向けのケーブル、例えばJCNやNCPがここに接続される。これらの場所は、中国の通信インフラの心臓部だ。海底ケーブルが陸上ネットワークと結ばれる戦略的な要所である。ただし、具体的な施設名や位置はベールに包まれている。通信事業者や政府が厳しく管理し、詳細は公開されない。だから正確な場所をピンポイントで特定するのは至難の業だ。セキュリティのため、こうした拠点は厳重に守られ、場合によっては分散もされている。

米国の情報当局は、この事実をしっかり握っているだろう。上海、広州、深圳、青島。これらは単なる都市ではない。国際データ伝送のハブであり、地政学と経済の要衝だ。米国は中国の海底ケーブル網やその技術の動きを目を離さず見ている。中国船舶科学研究センター(CSSRC)が開発したケーブル切断装置や、中国企業がケーブル運用に関わる動きを、危険なシグナルと捉えている。


例えば、ファーウェイ・マリンが絡むプロジェクトには、監視や情報収集のリスクがあるとして、米国は真っ向から反対してきた。報道や公開情報によれば、米国は中国の海洋活動やインフラ展開を監視するプログラムを進めている。当然、中国の陸揚げ地点もそのターゲットだ。具体的にどこまで掴んでいるかは機密だから明らかではない。だが、米国の関心と技術力を考えれば、これらの地点が見逃されているはずがない。可能性は極めて高い。

もし通信をぶった切るなら、深海のケーブルを切るより、陸上の拠点をミサイルで叩く方が断然効果的だ。深海での作業は技術的に難しく、時間もかかる。だが、陸上の接続点は手が届きやすい。一撃で複数のケーブルを潰せる。なのに中国はなぜ深海ケーブル切断技術を大々的に公表するのか。その答えは、技術の誇示と抑止力だ。深さ4000mで動く装置は、中国の海洋工学の凄さを示す象徴だ。

深海での隠密作戦は責任を追及されにくい。陸上攻撃のような直接的な火種を避け、柔軟に動ける戦略を手にしている。海洋資源開発を口実にすれば、国際的な批判もかわしやすい。中国では最新潜水艦の沈没事故が話題だ。2024年の周級核潜水艦沈没疑惑や、2003年の明級潜水艦事故がある。潜水艦技術に穴があるのは明らかだ。静粛性や推進技術で、米国やロシアに後れを取っている。対潜戦(ASW)技術もまだまだだ。この弱点を埋めるため、ケーブル切断能力を非対称戦術として打ち出している可能性がある。

中国人民解放軍海軍(PLAN)は潜水艦の近代化を急ぐが、事故や限界が次々と露呈している。周級潜水艦の沈没疑惑は、設計や運用のミスを疑わせる。訓練不足や品質管理の甘さが原因かもしれない。ASW能力を高めようと、海底センサー網や無人潜水艇(UUV)を開発しているが、米国のソナーやP-8ポセイドン哨戒機には及ばない。この差が、ケーブル切断を頼りにする理由かもしれない。

しかも、西側のASW能力はどんどん伸びている。これが中国を焦らせている可能性は大きい。米国は2023年に海底監視網を強化し、AUKUS協定でオーストラリアに核潜水艦技術を渡した。2025年のSea Dragon演習では日本やインドと手を組む。イギリスのBAEシステムズは、2025年3月20日、ドレッドノート原子力潜水艦の1番艦「ドレッドノート」のキールをバロー・イン・ファーネス造船所に据え付けたと発表した。英国海軍史上最大の潜水艦だ。西側のASWが強まる中、中国は潜水艦の弱さを補うため、ケーブル切断を前面に出して劣勢をカバーしようとしているのだろう。

海底ケーブルには軍事情報も流れているし、さらに潜水艦探査センサーなどに繋がれていることにも留意が必要だ。これを破壊されれば、当然のことながら、ASW能力はある程度削がれることになる。

ドレッドノートは、イギリス海軍が2030年代初頭からの配備に向けて建造中の原子力弾道ミサイル潜水艦の艦級

この見方を裏付ける専門家がいる。米海軍大学のライル・ゴールドスタインだ。彼は中国の潜水艦技術が西側に遅れていると断言する。だが、非対称戦術としてのケーブル切断が戦略の鍵だと見ている。西側のASW優位性に対抗するため、直接ぶつからず影響力を広げる手段として、中国がこれを使う可能性を指摘する。ゴールドスタインの分析は、中国の海洋戦略が弱点を逆手に取った柔軟さを持つと強調する。

彼の『The National Interest』(2015年8月17日)の記事「A Frightening Thought: China Erodes America's Submarine Advantage」から引用しよう。「中国海軍は、これまで弱点だった対潜戦(ASW)能力を大きく改善している。この動きは、西側の潜水艦優位性を脅かす。とくに中国が非対称戦術を使えば、従来の海軍力のバランスを崩す戦略を取る可能性がある。」この言葉は、ケーブル切断が潜水艦技術の遅れを補う現実的な選択肢であることを示唆する。結論だ。中国がの意図や戦略にもよるが、ASWの遅れを補う意図がケーブル切断装置開発公表の裏にある可能性は高い。

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