2019年4月19日金曜日

インド経済にとって最大の「アキレス腱」とは?―【私の論評】今回の国政選挙ではモディ政権が勝利するだろうが、その後の対パキスタン政策に注視(゚д゚)!

インド経済にとって最大の「アキレス腱」とは?
総選挙後のモディ政権の「安全保障政策」に注目

野瀬大樹 (公認会計士・税理士)


4月の頭、私は毎月恒例のインド南部ハイデラバードへの出張の日程を調整するために現地のインド人社長に電話をした。

「今度のご訪問ですが4月11日はいかがですか?」

 すると、先方社長は即座に「11日はダメだ。だって選挙じゃないか。うちも会社は休みだよ」とのこと。

 そうだ。2019年4月11日、それは世界最大の選挙、5年に1度のインド下院(ロク・サバ―)選挙が始まるまさにその日だったのだ。外国人であり投票権を持たない私はそれをすっかり忘れていた。

2019年4月11日 インド総選挙

「世界最大の選挙」インドで始まる

 インドは13億を超える人口を抱える世界2位の人口大国。そして人口1位の中国と異なり民主主義国家であるため、自動的にインドが「世界最大の民主主義国家」となり、さらにその有権者数は日本の約9倍の9億人といわれている。投票所の数は小さなものも含めるとなんと100万カ所も存在するのだ。

 そのため、選挙は日本よりずっと大がかりだ。

 選挙のスタートは4月11日で最終的な結果が判明するのは5月23日と実に一カ月を超える長丁場。投票日の夜にはほぼ結果が分かる日本の総選挙とは大違いだ。州ごとに投票日が定められており先述のハイデラバードがあるテランガナ州は初日の4月11日、最も注目が集まる首都デリーは5月12日だ。

 余談だがこの投票日は暴動や有権者同志の小競り合いも警戒して「ドライデー」と言われる「お酒が飲めない日」でもある。選挙に対するインド政府の緊張感が伝わってくるようだ。とにかくそれくらいインドの総選挙は「大がかり」な一大イベントなのだ。

 もちろん日本と違い、選挙に関連する暴動や抗議活動、またテロへの警戒など警備面での手続きも必要なので一概には比較できないが、9億人の有権者に一斉投票をよびかけてそれを集計するということの難しさは容易に想像がつくだろう。前回の記事でも書いたがインドの国家運営はまさに「芸術的」なのである。

投票方法から見る「政府への不信感」

 また、今回は全ての投票所において「VVPAT」が導入される初めての選挙である点も注目されている。VVPATとは「Voter Verifiable Paper Audit Trail」の略で、電磁的な投票を行うと同時に投票記録が紙にも印字され、有権者に発行されるシステムのことである。どこに投票したかが分かる紙を受けることができるため、電子投票による不正の可能性を排除できるのだ。

 インドは未だに紙での投票を行う日本と異なり、原則として全て「電子投票」だ。有権者は投票所に行き各政党のシンボルマークが描かれたボタンを押すことで投票する。これは、多すぎる有権者からの投票を管理するのには紙では非現実的なのと、インドは貧富の差が激しく未だに文字を読めない人が多く存在することが原因だ。

 ただ、この電子投票に対して「作為的に操作されているのではないか」という疑惑が昔から存在していたため、選挙管理委員会はその疑念を払拭することを目的に前回(2014年)の総選挙でVVPATを試験的に導入し、今回から完全導入する運びとなった。注目すべきは、このような装置が100万カ所あるすべての投票所に導入されなければならないほど、有権者が自分の国の選挙運営に疑念を持っていたということである。

 また、選挙管理委員会はインドの国民的娯楽と言われる映画においても、「伝記もの」については選挙期間中の上映を止めるよう通達を出した。特定の人物を演出付きで描く「伝記もの」は投票行為に影響を与え、選挙の公平性を毀損するとの判断だ。こうした娯楽への介入に踏み切るほど、選挙委員会も「透明性」に関してピリピリしているのだ。

モディ政権が選挙直前で巻き返しに成功したワケ

 さて、その選挙の結果は5月23日まで未確定だが、現状では年初の予想を覆し現首相モディが率いるインド人民党が支持を盛り返しつつある。

 支持率が下落傾向にあった農村部への所得補償を滑り込みで決めたことや、カシミール地方でのインド・パキスタン両軍の衝突事件における強硬な姿勢が支持率の回復に繋がったと見られている。

 また、モディ首相は4月14日に懸案のカシミール地方を訪問し、自身の政権運営の成果を強調した。さらに同日、まだ選挙も始まったばかりなのに「政府が選挙後100日に行う事」というアジェンダを発表した。経済成長の約束はお決まりだが、雇用創出や全国的な水質の改善などの施策まで打ち出した。「今後も我々が政権運営を担う」という自信の表れだろう。

インド経済にとって最大の「アキレス腱」とは?

 ただ、こうした政府の強気な姿勢には新たな懸念も感じる。

 パキスタン政府の「穏便に事を収めたい」という姿勢のおかげもあり、印パ危機は去ったように見えているが、今回の支持率回復に味をしめたインド政府が今後も強気な姿勢を続けた場合、その安全保障上の姿勢がインド経済に悪影響を及ぼす可能性があるのだ。

 現在のインド経済にとって最大のアキレス腱は、雇用問題でも国内需要の弱さでもなく、実は「ルピー安」だ。昨年後半の記録的なルピー安相場は底を打った感があるものの、まだその水準は低いままである。原油輸入国であるインドにとってルピー安は経常収支の悪化だけでなく、原材料価格の高騰が国内のインフレを招き、結果として個人消費に冷や水を浴びせる厄介な問題なのだ。ルピー安によって恩恵を受けるような強力な輸出産業もまだ育っていない。

「ルピー安」が招いた大手航空会社の経営危機

 このインド経済の懸念事項「ルピー安リスク」が顕在化したと言えるのが、まさにいま日本でも話題になっている「ジェットエアウェイズ騒動」だ。ジェットエアウェイズは国内第2位のシェアを誇っていた航空会社で、インドでは日常茶飯事の遅延や欠航が少ないことを売りにして業績を拡大。国際線も活発に飛ばすなどインド旅客業界で大きな存在感を誇っていた。

 実際、私もインド国内の移動でよく使っていたが、昨年半ばより徐々に欠航が発生しその数は日を追うごとに増加。4月18日以降は完全に運行停止になった。

 理由は経営状況の悪化。2018年初頭より続いたルピー安による燃料価格の高騰にもかかわらずシェアの死守を意識したジェットエアウェイズは航空チケットの値上げに踏み切れずにいた。そして予想以上に続いたルピー安により徐々に燃料費が経営を圧迫。パイロットに支払う給料さえ滞るようになり、ストライキなどが原因で欠航が相次いだのだ。ルピー安は国内大手航空会社を1年ちょっとで機能不全に陥れるほどのインパクトを持つ重要な経済上のファクターなのだ。

 ルピー相場に大きな影響を及ぼす安全保障は、経済とは切っても切り離せない関係にあり、その緊張は再び大きなルピー安を引き起こす可能性がある。事実、今年1月に上昇に転じていたルピー相場は印パが緊張状態になった2月に対ドルで急落している。

今後のインド経済を占う「外交政策」の行方

 インドのような成長途上の大きな国を安定した成長軌道に乗せるには強力かつ安定した政権が必須だ。インドでビジネスをしている私も今回モディ率いるインド人民党が支持率を盛り返した点には正直ホッとしている。中国とは違い民主主義国家で、移ろいやすい有権者の支持を得てそれを実現するのは難しいからだ。

 しかし、やや右派的性格を持つモディ政権が行う今後の外交上の判断次第では、「ルピー安不況」が顕在化するリスクも確かに存在する。

 5年目に突入したモディ政権は、当初ドラスティックな政策を次々打ち出すと考えられていたが、実際は良く言えば穏健で調整型とも言える国内向け政策をとっている。モディ政権の優勢で選挙が一段落したあとの外交は「穏健で調整型」になると私は希望も込めて予想しているが、果たしてどうだろうか。

【私の論評】今回の選挙ではモディ政権が勝利するだろうが、その後の対パキスタン政策に注視(゚д゚)!

インド経済は、モディ首相就任後、外資導入の積極化やインフラ整備の推進といった投資促進に加え、上記でも掲載したように、2016年11月には高額紙幣を廃止し、2017年7月には物品サービス税(GST)導入といった経済構造改革も断行しながら、高い成長率を達成してきました。

構造改革により、一時的に経済が混乱する局面はあったものの、2018年後半からはインド経済は持ち直しの動きが見られます。2018年実質GDP成長率は、+7.3%に達した模様です。


2019年もインド経済は消費主導の成長が続くと予想しています。これまでの金利上昇や貿易摩擦の激化など輸出環境の悪化が、設備投資や輸出を鈍化させる見込みですが、民間消費は旺盛なままであり、引き続きインド経済の牽引役になると期待できます。農作物の最低調達価格の引上げが実施されることから、農業所得が持ち直す見込みで、これも、消費が堅調さを維持することにつながるでしょう。

生産面では、耐久消費財生産も非耐久消費財生産も、それぞれ堅調に拡大しています。総固定資本形成は、現在のところ好調ですが、金利が上昇してきたことや貿易環境の悪化などを背景にやや鈍化することが懸念されます。

設備稼働率は、断続的に上昇してきましたが、今年は総選挙を控えていることもあるためか、企業の新規投資計画は、モディ政権になって初めて鈍化してきており、企業が先行きへの不透明感から、設備投資にそれほど前向きでないことがうかがわれます。

したがって、経済成長が大きく加速すると見込むことは難しいものの、2019年の実質GDP成長率は、旺盛な消費需要に支えられて2018年と同程度の成長を予想しています。モディ政権が維持されれば、やや上振れて、+7.5%程度の経済成長を達成することは可能ではないかと考えています。

インド経済に与える原油価格の影響は大きいのですが、2018年との比較でいえば、原油価格が落ち着きを取り戻したことは、インド経済にとって追い風になるでしょう。インフレ率が安定すれば、賃金の実質増加割合も増えるため、消費拡大に寄与します。また経常収支の改善にも繋がるでしょう。

金融政策は、政府と中央銀行の確執が取りざたされてきましたが、中銀総裁の辞任により、風向きは変わりました。インド中銀が、金融政策で引き締め姿勢から緩和的な姿勢に転換する可能性もあります。

インド失業率の推移

インドのベンガルールにある私立アジム・プレムジ大学が16日発表したリポートで、2016─18年に職を失ったインド人は少なくとも500万人に達し、都市部に住む若い男性が最も打撃を受けていることが分かりました。

上の記事にもあるとおりインドでは、5月19日に総選挙が終了する予定で、モディ政権は雇用を含む経済業績の擁護に躍起となっています。

リポート「2019年、インドにおける労働の現状」の筆頭執筆者は「2016年以降、高等教育を受けた人の失業が増加しているが、それに加えて、相対的に教育水準が低く(非正規の可能性が高い)人の失業も増加し就業機会が狭まっている」と述べました。

ただリポートは、この期間に創出された雇用は明らかにしていません。全体の動きをみると、2014年から2018年までの年間統計では失業率が問題となる水準ではなさそうです。

2016年11月にモディ首相が脱税抑制と電子取引促進のため高額紙幣を突然廃止したことで中小企業が打撃を受け、レイオフの波が発生しました。さらに、17年に「物品サービス税(GST)」が導入されると、一部企業にとって困難が増幅する結果となりました。

リポートによると、失業者の大半は高等教育を受けた20─24歳の若年層。リポートは「たとえば都市部の男性の場合、この年齢層は労働年齢人口の13.5%ですが、失業者全体に占める比率は60%に上る」としています。

公式統計で過去5年間の経済成長率が7%前後となっているにもかかわらず、モディ首相は数百万人の若年失業者の雇用に十分な措置を講じていないと批判されています。

ビジネス・スタンダード紙は2月、政府が公表を拒んだ公式調査として、2016/18年度の失業率は少なくとも過去45年間で最高水準に達したと伝えました。

シンクタンクのインド経済モニタリングセンター(CMIE)がまとめたデータによると、今年2月の失業率は7.2%と、2016年9月以来最高に上昇。前年同月の5.9%からも上昇しました。これは直近では問題ありといえそうです。

このような状況では、通常の先進国ならば、雇用の改善のために金融緩和ということになるのでしょうが、インドではそれと同時に構造改革が必要です。

米国では、労働者の大多数は大企業で働いていて、自営業はほんの10%にすぎません。一方、インドでは、大きな企業で働いている労働者はほとんどいなくて、80〜85%が自営業者です。これは、インドは米国より起業の盛んな社会であり、これが雇用問題を悪化させている点は否めません。

LiveMint が要約している世界銀行の報告書草稿に掲載されているデータによると、インドには正式な月給稼ぎの雇用が少ないです。米国のような先進国と比べて少ないだけでなく、そこまで発展していない他の多くの国々と比べても少ないのです。



この問題の解決は、労働者の人数が急速に増えているインドにとって最大の課題です。土地改革と労働市場の規制緩和が最初の一歩です。ここでいう規制緩和には、企業の成長を抑制するオウンゴールを止めることや、馬鹿みたいに「気前のいい」育児休暇手当をもとめる法制化をやめることなども含まれます。

2018年は、米国の金融引き締めが断続的に実施され、金利が上昇したことで、新興国通貨安・米ドル高がトレンドとなりました。インドルピーも、この流れの中で下落を強いられましたが、米FRBの金融引き締め姿勢に変化を嗅ぎ取った市場では、新興国通貨に対する見直し機運が高まっています。ルピーの安定は、インド経済にとっては大きな支援材料になるでしょう。

輸出については、まず輸出が米中貿易戦争を背景とする世界貿易環境の悪化を受けて、年明けから鈍化傾向です。輸入は旺盛な消費需要を背景に、拡大基調を維持するでしょう。

今回の総選挙の前哨戦ともいわれた国内5州の議会選挙モディ首相
率いる国政与党インド人民党(BJP)は5州で全敗した

今月の総選挙に関しては、与党インド人民党の地方選挙での苦戦が続いていることから、予断を許さない状況です。最終的に、国政レベルではインド人民党の辛勝で落ち着くと予想していますが、地方選の結果は、インド上院での勢力構成に跳ね返ります。

下院での多数を維持することでモディ政権が維持されても、議会勢力図の変化は政権の安定感を損ない、経済政策ではこれまでほど構造改革で指導力を発揮できない可能性が出てきます。

そうなると、総選挙後の民間設備投資の加速は、思ったより進まないかもしれません。また、公共投資については、総選後には政府が再び財政再建に注力する可能性が高く、インフラや住宅開発など政府プロジェクトの大幅な加速は見込みにくくなるでしょう。

なお、今回の総選挙に向けて、インドの野党連合はベーシックインカムの導入を提唱しています。もし、政権交代が起こった場合には、財政の悪化とインフレ懸念の増大に気を付けておく必要があるでしょう。

インド経済は、2019年度が+7.5%、2020年は投資の回復が順調に続けば+7.7%まで成長率が上昇することも十分に視野に入ります。企業業績も拡大が続く見込みです。内需消費が主導するインド経済は、相対的に米中貿易摩擦の影響を受けにくいと考えられます。

インド株式市場は、予想PER(株価収益率)からすれば、株価に割高感はありません。選挙やインフレ懸念が払しょくできれば、株式市場を取り巻く環境は良好な状態が続くでしょう。

上の記事にもあるように、インド経済にとって最大の「アキレス腱」であるルピー安ですが、上昇基調にあります。



2月に隣国パキスタンとの軍事対立が激化しました。インド・パキスタンの南アジア二大国が帰属を争うカシミール地方のインド側・プルワマで2月14日に起きた自爆テロでは、同地に駐留する治安部隊44人が死亡するなど大きな被害が出ました。

翌15日にはパキスタン「領内」に拠点を持つイスラム過激派ジャイシュ・エ・ムハンマド(JeM、ムハンマドの軍隊)が犯行声明。インド軍は26日、カシミール地方を分断する停戦ライン(LoC)を越境して過激派拠点を報復爆撃。その後もLoCを挟んだ印パ両軍による砲撃の応酬もあり、事態は再び緊迫化の一途をたどりました

4月にいよいよ投票が始まる総選挙を控え、国内向けに強硬姿勢を示す必要があったインドに対し、国際通貨基金(IMF)との協議が続き経済再建を優先するパキスタンはおおむね冷静かつ妥協的な姿勢を続けるという、かなり対照的な構図となりました。

しかし、3月14日にはパキスタン領内にあるシーク教の聖地にインド人巡礼者を受け入れるための二国間協議が予定通り行われ、事態は徐々に緊張緩和の方向に進みました。これにより、買いが入りました。4~5月に実施される総選挙で苦戦が予想されていたモディ首相率いる与党の支持率上昇を好感しているものとみられます。

インドルピーは2018年10月に史上最安値となる1ドル=74ルピー台を付け、その後も70ルピー台の安値圏が続きました。3月10日にインドの選挙管理委員会から5年に1度の総選挙(下院選)の日程が公表されると、選挙情勢への関心が高まりました。

民間調査などによると、2月のインド国内でのテロ攻撃に端を発したパキスタンとの対立が、与党の支持率上昇に寄与しました。それまで与党の苦戦が報じられてきたが、モディ政権が続くとの期待が高まり、3月中旬には一時68ルピー台にまで上昇しました。

以上の情勢から、おそらくモディ政権が今回の選挙で勝利するでしょうが、問題はその後の外交・軍事政策いかんと考えられます。特にパキスタン関係のいかんよっては、再びルピー安に見舞われる可能性は十分にあります。

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2019年4月18日木曜日

アメリカの株高と金利安定は長期化しそうだ  日本は消費増税を取りやめたほうがいい―【私の論評】増税凍結の判断は連休開けの5月〜6月にかけての可能性が高まった(゚д゚)!


東洋経済オンライン / 2019年4月17日 7時40分

NYダウは16日の時点では回復している


アメリカ株の回復が続いている。ニューヨークダウ平均などは最高値圏まであと一歩のところまで上昇している。

筆者が2月に執筆したコラム「アメリカ株は『もう上がらない』と言い切れるか」(2月12日配信)では、早期バランスシート縮小停止などFRB(連邦準備制度理事会)による緩和政策が、新興国を含めた世界経済の安定をもたらし、一部で高値警戒感がささやかれていたアメリカ株を中心に、リスク資産の上昇をもたらす、との見通しを示した。

■「FRBの豹変」は2016年と似ている

その後実際に、FRBは「政策スタンスのハト派化」を強めた。3月半ばのFOMC(連邦公開市場委員会)において、多くのメンバーが政策金利を当面据え置くことを示し、そしてバランスシート縮小を9月早々に停止するとした。

FRBの政策判断の背景には、成長率、インフレが下振れるリスクが高まっていることがある。しかし、2018年後半のアメリカを震源地とした株式市場の大幅な下落は、FRBの判断ミスに対する懸念が主たる要因だった。FRBの政策については、従来からドナルド・トランプ大統領がたびたび批判するなど、混乱している状況をどうみるか、考え方はさまざまだろう。

実際には、インフレ率が2%前後で安定しているにもかかわらず、FRBが政策金利を3%台へ利上げすることへの懸念は、トランプ大統領だけではなく多くの投資家に共有されていた。昨年末から年初早々にジェローム・パウエル議長などが利上げ見送りのメッセージを早々に示し大きく方針転換を行い、金融市場が発するリスクシグナルに柔軟に配慮した、アグレッシブな政策変更は妥当と筆者はみている。

このFRBの豹変は、金融市場が動揺した後に路線変更を行った2016年初と似ている。当時も、2016年初に1年間に4回の利上げを想定していたFRBは、あっさりと利上げを見送り、その後の景気回復と株高をもたらした。2016年と2019年の共通点を指摘する声は増えているが、年初から筆者自身はこの点を強く意識していた。

依然、欧州などの経済指標は停滞している。だが、下落していたグローバル製造業景況感指数は、3月に下げ止まりの兆しがみられる。金融市場で悲観論が強まった2016年初に世界経済が下げ止まったが、この点でも2019年と2016年は似てきている。年初から株高のピッチが速いため多少のスピード調整はありうるが、筆者は「2019年は金利安定とリスク資産上昇が併存し続ける可能性が高い」とみている。

日本の経済メディアでは、筆者からすれば根拠が曖昧にしか思えない「金融緩和の弊害」が強調され、また金融政策の役割や効果を軽視する論調が目立つ。実際には、一足早く成長率が高まり、中央銀行が利上げを始めたアメリカでも、金融緩和的な状況を保つことが重要である構図は、2019年になっても変わっていない。

主要な先進国、さらには多くの新興国で経済成長率が2000年代よりも高まらない中で、中銀が経済を浮上させる景気刺激的な総需要安定化政策を継続することが必要ということである。

また、労働市場において、アメリカや日本などで大幅な失業率の低下がみられている。失業率低下が、賃金やサービスインフレの上昇につながっていないことには、さまざまな議論があるが、筆者は依然として日米ともに失業率には低下余地があると考えている。

もはや10年以上も経過するが、2008年の世界的な金融危機による経済ショックが極めて大きかったが故に、表面的な失業率の改善などが示すよりも経済全体にはなおスラック(余剰)が残っており、それが低インフレの長期化をもたらしているとみている。

■「消費増税」=「緊縮財政政策」への危機感が薄すぎる

FRBも、2019年初からのハト派方向への転換に加えて、6月は大規模な会議を開催する予定だ。そこでは、これまでFOMC等で議論してきた、次の景気後退に備えた政策枠組みなどが話し合われる見込みだ。

国民の経済厚生を高めるための金融政策の在り方などについて、重鎮の経済学者なども参加する予定であり、具体的な、インフレ目標の引き上げなどを含めた金融政策のフレームワークなどもテーマになるという。経済安定、低インフレが長期化する中で、インフレ上振れを許容するアグレッシブな金融政策の妥当性が議論されるのではないか。

アメリカでこうした議論が活発になっていることには、低インフレ、低金利が長期化していることがある。これは、主要国経済の「日本化」ともいえるが、この状況に経済学者やエコノミストが強い危機感を感じていることが、政策議論が活発になっている要因の背景となっている。

本来であれば2%インフレの目標実現に一番遠い位置にある日本において、こうした議論がより真剣に行われる必要があるはずだ。ただ、実際には反対のことが起きている。日本銀行の金融政策運営は、2018年からは、利上げバイアスが強い事務方の影響が増している。根拠が曖昧な「金融緩和の弊害」が強調されるなど、金融政策に関する議論について、日本では2012年以前のように、アメリカなどとの対比でかなり低調になっているようにみえる。

一方、2019年10月予定の消費増税については、景気指標の下振れを受けて見送られる可能性がやや高まっているが、可能性は五分五分だろうか。もし増税が実現すればGDPを0.5%前後押し下げるマイナス効果があり、日本経済は主要先進国の中で最も緊縮的な状況に直面する、とみている。だが、日本の経済学者などは、緊縮財政政策への危機感が薄いままである。

こうした状況では、これまでも連載で繰り返し述べてきたが、「アメリカ株>日本株」、のパフォーマンス格差が続く可能性は依然として高いとみる。こうした構図が変わるには、日本銀行による金融緩和徹底は言うまでもないが、消費増税の取りやめ、あるいは家計部門への負担を相殺する追加的な財政政策の発動が必要だろう。

村上 尚己:エコノミスト

【私の論評】増税凍結の判断は連休開けの5月〜6月にかけての可能性が高まった(゚д゚)!

増税などすべきでない理由は、このブログでも何度か掲載してきました。私としては、ぞ増税しないのがごく当然であり、増税するのは異常であるとしか思えません。

特に、14年4月に増税したあとのことを考えれば、10月に再度増税するということは狂気の沙汰としか思えません。

しかし、財務省の増税キャンペーンに煽られたのか、多くの頭の悪い政治家や、マスコミ、それに追随する識者など、あたかも増税は既定路線であるかのような口ぶりで、増税を語っています。

しかし、そうとばかりはいえないことが言えないような事態も生じています。

10月に実施予定の消費増税について、自民党の萩生田光一幹事長代行は本日、日本銀行が7月に発表する6月の企業短期経済観測調査(短観)などで示される経済情勢次第で延期もあり得るとの認識を示しています。

同党幹部が具体的な判断材料を示して増税延期に言及したのは初めてです。市場は反応薄でしたが、夏の参院選を控え、与党幹部から同様の発言が続けば波乱要因となる可能性もあります。

萩生田氏は18日のインターネット番組「虎ノ門ニュース」のジャーナリスト、有森香氏の番組で、10月の8%から10%への消費税率引き上げに関し、「景気が回復傾向にあったが、ここに来て日銀短観含めて落ちている。6月はよくみないといけない」と指摘しました。

その上で、「本当にこの先、危ないぞというのがみえてきたら、崖に向かってみんなを連れていくわけにはいかない。そこはまた違う展開があると思う」と語りました。同氏は党総裁特別補佐、官房副長官などを歴任しており、安倍晋三首相の側近として知られます。

萩生田光一氏

夏には参院選も予定されています。萩生田氏は増税を「やめるとなれば、国民の了解を得なければならないから信を問うということになる」としましたが、衆参同日選の可能性については「ダブル選挙というのはなかなか日程的に難しい。G20(20カ国・地域)サミットもある」と否定的な見方を示しました。

以下に萩生田氏の上記発言の部分を含む動画を掲載します。下の動画は、消費税の話題から始まるように設定しています。




消費増税を巡り、政府は世界的な経済危機や大震災などリーマンショック級の出来事がない限り、予定通り実施する方針を示しています。菅義偉官房長官は同日の記者会見で、政府の考え方は「全く変わらない」と語りました。

日銀が4月1日に発表した3月調査の短観では、大企業・製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)はプラス12と、昨年12月の前回調査から7ポイント悪化しました。悪化は2四半期ぶりで、悪化幅は2012年12月調査(9ポイント悪化)以来の大きさでした。6月調査は月末に開かれるG20サミット終了後の7月1日に発表の予定です。

消費増税を巡っては、同党の西田昌司参院議員も18日のインタビューで、完全にデフレ脱却という状況ではなく、景気回復が実感できないとの声も多いため、現在の経済状況を「事実として受け止めれば消費増税という選択肢はあり得ない」と指摘しました。

増税延期論者は実際は党内にも「それなりにいると思う」と付け加えました。10月からの幼児教育の無償化は消費増税分が財源だが、延期の場合は「国債発行する以外にはない」と述べました。ただし、以前も指摘したように、日本政府の借金など、負債だけではなく資産も加味すれば、ゼロであり、米英よりもはるかに財務は良い状況にあります。

さらに、日銀が金融緩和で、市場から国債を買い取ってきたため、市場では国債が少ない状況にあるうえ、国債の金利もご存知のようにあがっていません。この状況では、国債をある程度刷り増ししたところで、何の支障もありません。というより、国債を発行することがすべて悪であるかのような考えは全くの間違いです。

西田昌司参院議員

このような主張がでてきたということは、無論自民党内でそのような意見の人が一定以上存在することを示していると考えられます。

ただし、安倍総理も現状では、予定通り増税するとしていることから表だってはっきりとはいえない雰囲気があるものと考えられます。安倍総理やその側近たちは、財務省や増税賛成の他の大勢の自民党の議員の議員らの手前、本当は増税などやりたくないにもかかわらず、はっきり言える状況ではなく、その機会を伺っているのではないかと思います。

このブログでは、最近は経済が停滞する傾向がみられつつあると掲載したことがあります。ただし5月には元号が変わり、平成から令和と変わり、祝賀ムードがあり、さらには27日から始まるゴールデンウイークの10連休があります。そのため、景気が目立って落ち込むことはないと思います。

ただし、その反動と経済の停滞が、連休後に顕著になり、5月から6月上旬ぐらいにかけて、それが誰の目に見えて明らかになり、首相が『こんな景気の状況じゃ消費増税できません』と言って、通常国会会期末に消費増税凍結を信を問うと言って、衆参同日選挙を7月に実施と宣言する可能性があると思います。

自民党の中には、憲法改正の国民投票を成功させるため、自民党内に増税の先送りを後押しに利用すべきだと主張する人はある一定数以上は存在するでしょう。もし、5月から6月にかけて、経済の停滞が明らかになった場合、10%への引き上げに伴う駆け込み需要・反動減を抑えるための大型景気対策を実施しても、景気の落ち込みは破滅的となり、世論の不興は避けられないでしょう。憲法改正の国民投票で過半数の賛成票を集めるためには増税の再々延期しかないと考えられます。

まさに、萩生田氏はそれを想定しているのではないかと思います。そうして、6月になっても増税を阻止してみせるという財務省に対する牽制でもあるのではないかと思います。そうして、6月になってからでも、増税凍結の判断を実行に移す方法があるということを意味しているのだと思います。


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人民元の限界とドル覇権

倉都康行 (RPテック代表取締役、国際金融評論家) 

 最近の為替市場や株式市場の慌ただしい展開に比べれば、国際通貨制度の動きは極めて緩慢である。10年前の金融危機の際には「ドルの信認低下」が世界中で騒がれたが、IMF(国際通貨基金)の統計によれば、昨年9月末時点での準備通貨におけるドルのシェアは61・9%と、ユーロの20・5%、円の5・0%、ポンドの4・5%を大きく引き離しており、事実上の「世界通貨」としての地位は揺らいでいない。

 とはいえ、ドルの占める割合が徐々に低下していることもまた事実であり、2015年3月末の66・0%という水準から約3年半で4・1%のシェア・ダウンとなっていることを考えれば、今後一段と低下する可能性もないとは言えないだろう。

(注)ユーロは左から20%→19.1%→20.5%で推移 (出所)IMF資料を基にウェッジ作成


 では、この間に準備通貨のシェアはどう変わったのだろうか(上図)。ドル以外の通貨をみると、ユーロは20・0%からわずかに上昇、3・8%と同水準にあった円とポンドはともに1%超の上昇となっている。豪ドルやカナダドルは1%台のシェアでさほど変わっていない。一方で16年12月末から公表開始となった人民元のシェアは、2年足らずの間に1・1%から1・8%まで伸びて、豪ドルを抜いている。カナダドルのシェアを追い越すのも時間の問題であろう。

 つまりドルのシェアを食っているのは、円やポンド、そして人民元といった通貨であることが分かるが、その変化のタイミングもまた重要である。しばらく65%台を維持していたドルのシェアが顕著に低下し始めたのが17年3月末以降であることは、トランプ大統領の登場が変化の一つの契機になっていると思われるからである。

進む新興国の「ドル嫌い」
逃避先は金と人民元


 トランプ大統領は就任以来、その政治的軍事的優位を利用して経済制裁をたびたび発動してきた。米財務省外国資産管理室を通じて実行された制裁件数は、10年の1000件から18年には6000件以上に急増した。中でも、ドルの使用を制限する金融制裁は極めて強力である。その対象国は、イランやベネズエラ、ロシア、そしてトルコなど敵対国から友好国まで幅広い範囲となっている。

 こうした厳しい制裁方針は、当然ながら他国のドル依存体制にも影響を及ぼしていく。米国の核合意からの離脱でドル利用が困難になったイランは、欧州諸国と共同で非ドルの決済システム構築を検討中であり、ロシアはユーロ中心となっている外貨準備においてドル保有をさらに低下させたと言われている。中国が米国債保有額を徐々に低減させていることも明らかになった。今後2年間のトランプ政権運営下で、ドル保有額が一段と減少する可能性は高い。

 こうした新興国におけるドル保有の引き下げは、財政赤字や経常赤字を懸念した従来の「ドル離れ」とは性格が異なり、「ドル嫌い」といった方が適切なのかもしれない。準備通貨としての地位は認めざるを得ないが、制裁によって身動きを縛られることになれば、自国経済が麻痺(まひ)しかねない。その防衛策として、幾つかの国々で発動されているのが「金への逃避」である。

 昨年8月に1195ドルまで下落した金は今年に入って上げ足を早め、1340ドル台にまで上伸し、その間10%を超える上昇率を記録している。ドル金利のピーク感や地政学リスクへの懸念などを背景に金を選好する機関投資家が増えているが、新興国などの中央銀行も昨年来着々と金購入を継続している。金の国際調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)にれば、18年の各国中銀やIMFなどの公的部門に拠る金購入量は前年比74%増の651・5トンと1971年の金ドル兌換(だかん)停止以来の最高水準を記録した、という。

(出所)World Gold Council資料を基に筆者作成

 その牽引(けんいん)役となっているのがロシアであり、昨年の金購入量は274・3トン、金額では270億ドルとともに過去最高記録を更新している(上図)。中銀全体の購入量も過去最高に達したと推定されるが、ロシアはいずれも40%以上を占めており、その外貨準備における金保有比率は18%前後に上昇したようだ。ドイツやオーストリア、インドネシアなど金売却を進めた国もあるが、ロシアと同様に金購入を増やしているのがトルコやカザフスタン、インド、ポーランドといった国々である。

 インフレ・ヘッジという従来の金選好要因は低インフレが続く今日では説得力を失っているが、政治的なヘッジという判断での金購入には合理性がある。信用通貨へのアンチ・テーゼとして生まれた暗号通貨への信頼性が失墜したいま、ドルの逃避先としてはまず金だ、というのが実態なのかもしれない。

 そして、金とともに注目されているのが人民元だ。人民元は中国政府の「準備通貨化」という国策も手伝って徐々に利用度を上げてきた。準備通貨におけるシェアは前述のようにまだユーロや円、ポンドの比ではないが、市場での利用頻度は確実に上昇している。

 その一例が、イングランド銀行(英中銀)が半期に一度公表している「マーケット・サーベイ」に表れている。調査に拠れば、18年4−9月期の「ドル・人民元」の取引額は前期比17%増加して「ユーロ・ポンド」を抜き、取引シェアは2・3%から2・8%へと拡大して全体の7番目の位置にまで上昇している(下表)。

(出所)Results of the Foreign Exchange Joint Standing
Committee (FXJSC) Turnover Survey for October 2018を基に筆者作成

 世界全体で為替取引額がやや低下傾向にある中で人民元取引が顕著な増加を見せていることは注目に値しよう。香港市場では人民元の投機的な動きがたびたび見られるが、ロンドン市場においては人民元建て社債のような資本取引の定着を背景とする取引が着実に増えているのかもしれない。

 ドル・人民元取引が第6位の「ドル・カナダ」を抜くのも時間の問題だろう。ドル円に次ぐシェアを獲得する時代の到来は、そう遠いことではないかもしれない。

西側体制に挑む中国
拙速な国際化の代償


 だが、いかに準備通貨や決済通貨、あるいは資本通貨としての台頭が目覚ましくとも、人民元はユーロや円、ポンドに比べればまだマイナー通貨との印象は拭えない。ドルを脅かす存在になる日が近未来にやってくるという可能性もほとんどないと言ってよいだろう。

 もっとも、この数年、ブレトンウッズ体制に挑む元の国際化の動きがあった。従来西側諸国が担ってきた、途上国へ手を差し伸べる役割をも演じ始めたのである。習主席の鳴り物入りで始まった「一帯一路」プロジェクトやインフラ投資銀行であるAIIBの創設がその好例だ。いずれも、人民元を最大限に活用しようとする試みを胚胎するものであり、特に一帯一路はアジアから中東、アフリカにまで至り世界的規模に及んでいる。

 だがその積極策はパキスタンやスリランカなどで深刻な過剰債務問題を生んでいる。従来、ソブリンの債務問題にはIMFや先進国政府・銀行などが協調して対応に当たってきたが、一帯一路では国際協調路線が採れず、袋小路に陥る可能性が高い。それは人民元の拙速な国際化政策の代償でもあろう。

 また、IMFは16年秋に人民元をSDR(特別引出権)バスケットの構成通貨に採用することを決定し、ドル、ユーロ、円、ポンドに並ぶ主要通貨としてのお墨付きを与えたが、あくまで国際政治的な判断であり、金融経済的な判断ではなかった。市場における人民元に対する評価とIMFの決定との間には、大きな溝があると言わざるを得ない。

 人民元には準備通貨としての基本的な脆弱(ぜいじゃく)性もある。一に、その流動性や交換性についての信認が乏しいことである。経済力と金融力が比例しないのは日本を見れば明白であるが、中国の場合はさらに資本規制・為替管理がいつ課されるか分からない、という懸念が残る。人民元の国際化に関しては習政権の誕生以来改革は棚上げ状態にあり、同主席の長期政権化の下で国家による中央集権的な管理体制がむしろ強化される方向性が顕著となって、人民元の変動相場制移行など改革期待感は大きく後退している。

遅れる中国の市場整備
当面続く米国の通貨覇権


 さらに、人民元の運用機会が制限されていることや、債券市場の多様化や透明化が遅れていることも、人民元が国際通貨体制のメジャー・グループに入れない要因となっている。例えば主要通貨の場合、準備通貨として保有する中銀など公的機関や貿易決済のために外貨を保有する企業、それを預金として受け容(い)れる銀行は、当該国で運用する機会を探さねばならない。

 米国や日欧などでは短期から超長期まで幅広い満期を擁する国債が常時売買されており、格付けが高く流動性も高い投資適格社債や証券化商品なども存在する。だが中国の場合、国債市場は発展中だがまだ海外投資家が自由にアクセスし得る状況ではなく、社債などの信用格付けも整備されている状況からはほど遠い。

 為替市場だけでなく社債などの資本市場にたびたび政府介入が見られることも、市場が政治的に歪(ゆが)められていることを示唆している。また外貨を中長期で保有する際には時にヘッジ機能も必要になるが、人民元の場合はオプションやスワップなどのデリバティブズ取引は未発達である。

 換言すれば、人民元が主要な準備通貨として認められるには、中国の国家主義的資本システムが胚胎する「非市場的ルール」という印象が断ち切られる必要がある、ということでもある。だが13年に習主席がトップの座に就任して以来、市場化や自由化などの構造改革機運は大きく後退しており、米国による圧力もその流れを変えるには至らないだろう。

 08年に金融危機が世界を襲った際には一気にドル不信が巻き起こり、ドル一強体制の終焉(しゅうえん)まで囁(ささや)かれたことがあったが、約10年が経過して判明したことは、逆に国際通貨体制におけるドルの強靭(きょうじん)さであった。ユーロなど既存通貨だけでなくSDRのようなバスケット通貨構想もドルを代替する力が無(な)いことが、あらためて確認されたのである。

 そして経済力では目覚ましい拡大を続ける中国の人民元が準備通貨の主役候補になれそうにないことは、米国の通貨覇権がまだ当面持続することを意味している。奇妙な話ではあるが、米中覇権戦争におけるトランプ流の圧力が効かずに中国が市場経済国へと変身しない方がドルの長期的覇権を担保することになる、ということもできる。

 つまり、外貨準備に占めるドルのシェアがいずれ50%台に低下し、人民元が5%程度まで上昇することになったとしても、中国が国家主導の経済モデルを放棄しない限り、ドルの「世界通貨」としての役割が低下したり存在感が薄れたりすることはないだろう。

代替性のないドル一強という
アンバランスな通貨体制


 もっとも、粘り強いドルにも脆弱な構造問題があることは誰でも知っている。経常赤字は慢性化しており、財政赤字は今後急拡大することが予想されている。排他的な保守主義を主張するのはトランプ大統領だけではない。米議会にも10年前のような「世界的な金融危機の際には海外勢のドル不足を支援する」といった金融当局の行動を許すムードはない。そして英エコノミスト誌は、オフショアダラーである「ユーロダラー市場」を採り上げて、「最後の貸し手が存在しないリスク」を指摘している。

 言い換えれば、政治的かつ経済的な問題を抱え続ける米国のドルが代替性のない「最強通貨」として君臨する時代がまだまだ続く、ということでもある。二番手のユーロは経済同盟が完備されていない不完全通貨から抜け出せず、準備通貨化への意欲も乏しい。円やポンドの役割は低下する一方で、人民元の信頼性や利便性が急速に改善する見通しも薄い。国際政治経済がG2時代へと移行する中で、通貨体制はアンバランスな状態が続く。

 歴史的に国際通貨制度は、金・銀時代やポンド・ドル時代、ドル・金時代、ドル・マルク・円時代に見られるように、複合的で補完性のあるシステムであった。だが今後は「信頼性に欠ける一強通貨」という資本システムに依存せねばならない、フラジャイルな時代の到来が不可避となるだろう。

【私の論評】国際金融のトリレンマにはまり込んだ中国人民元の国際化は不可能(゚д゚)!

上の記事では、回りくどい解説をしていますが、「国際金融のトリレンマ」という昔から知られている原理を知れば、人民元の国際化は現状のままでは不可能であることがすぐに理解できます。

今年3月の全人代は「異例」づくめだった

先月開催された中国の全国人民代表大会(全人代)では、金融政策で量的緩和を実施しないことが明らかになりました。その背景は何なのでしょうか。結論からいえば、中国の政治経済の基本構造が根本要因です。

基本知識として、先進国ではマクロ経済政策として財政政策と金融政策がありますが、両者の関係を示すものとして、ノーベル経済学賞の受賞者であるロバート・マンデル教授によるマンデル・フレミング理論があります。

経済学の教科書では「固定相場制では金融政策が無効で財政政策が有効」「変動相場制では金融政策が有効で財政政策無効」と単純化されていますが、その真意は、変動相場制では金融政策を十分緩和していないと、財政政策の効果が阻害されるという意味です。つまり、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先する方が、マクロ経済政策は効果的になるというものです。

これを発展させたものとして、国際金融のトリレンマ(三すくみ)があります。この結論をざっくりいうと、(1)自由な資本移動(2)固定相場制(3)独立した金融政策-の全てを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べないというものです。

これらの理論から、先進国は2つのタイプに分かれます。1つは日本や米国のような変動相場制です。自由な資本移動は必須なので、固定相場制をとるか独立した金融政策をとるかの選択になりますが、金融政策を選択し、固定相場制を放棄となっています。



もう1つはユーロ圏のように域内は固定相場制で、域外に対して変動相場制というタイプです。自由な資本移動は必要ですが域内では固定相場制のメリットを生かし、独立した金融政策を放棄します。域外に対しては変動相場制なので、域内を1つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえます。

中国は、こうした先進国タイプになれません。共産党による一党独裁の社会主義であるので、自由な資本移動は基本的に採用できません。例えば土地など生産手段は国有が社会主義の建前です。

中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社を持つことができません。中国に出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁までで、外資が会社の支配権を持つことはできません。

一方、先進国は、これまでのところ、基本的に民主主義国家です。これは、自由な政治体制がなければ自由な経済体制が作れず、その結果としての成長がないからです。

もっとも、ある程度中国への投資は中国政府としても必要なので、政府に管理されているとはいえ、完全に資本移動を禁止できません。完全な資本移動禁止なら固定相場制と独立した金融政策を採用できますが、そうではないので、固定相場制を優先するために、金融政策を放棄せざるをえなくなったのです。

要するに、固定相場制を優先しつつ、ある程度の資本移動があると、金融政策によるマネー調整を固定相場の維持に合わせる必要が生じるため、独立した金融政策が行えなくなるのです。そのため、中国は量的緩和を使えなくなってしまったのです。

そもそも、国内で金融緩和政策すらできない国の、通貨が本格的に国際化できるはずもありません。何か国際金融において、大きな問題が起こったにしても、金融緩和できないのであれば、その問題にまともに対処することすらできません。

中国は、グローバル経済に組み込まれた今や世界第2位の経済大国であり、こうした 国は最終的に日米など主要国と同様の変動相場制に移行することで、国内金融政策の 高い自由度を保持しつつ、自由な資本移動を許容することが避けられないです。

移 行が後手に回れば国際競争力が阻害されたり、国内バブルがさらに膨らむおそれがあります。一方で、 拙速に過ぎれば、大規模資本逃避や急激な人民元安が懸念されます。何より金融緩和ができないという状況は、最悪です。なぜなら、マクロ経済上の常識である、金融政策=雇用政策という事実から、中国では雇用を創造することができないからです。中国は今後一層難 しい舵取りを迫られることになるでしょう。

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2019年4月16日火曜日

「台湾国産潜水艦」工場の着工迫り反発強める中国―【私の論評】日本は台湾がシーパワー国になれるよう支援すべき(゚д゚)!

「台湾国産潜水艦」工場の着工迫り反発強める中国

 井上雄介 (台湾ライター)

    台湾の国産潜水艦(IDS)建造計画が着々と前進している。台湾メディアの上報は、造船大手の台湾国際造船(台船)が近くIDS専用工場の建設に着手すると伝えた。陳水扁・民進党政権時代の2002年以降、17年の紆余曲折を経た計画が、ようやく日の目を見ようとしている。

 台湾は、日増しに高まる中国の脅威を前に、現在保有する4隻の潜水艦の更新と増強にこだわり続けてきた。通常動力の潜水艦は、自衛用には理想の装備と考えられている。進撃してくる敵艦隊の攻撃のほか、戦時に予想される海上封鎖の突破にも役立つためだ。

   台湾の造船最大手、台湾国際造船は21日、第二次世界大戦期に米国で建造された海軍の
             テンチ級潜水艦「海獅(アシカ)」の延命改修が完了したと発表した。1945年の終戦
            直前に就役したディーゼル潜水艦で、73年に台湾に供与された。就役期間は世界最長。

 台湾は当初、海外からの調達を試みたが、中国政府の圧力で各国とも二の足を踏んだ。ブッシュ政権時代の米国が一時8隻の売却を承諾したが様々な理由で中断。オバマ政権時代に入ると、幾度打診してもなしのつぶてとなった。馬英九・国民党政権末期に、海軍トップが「もう待てない」と国内建造を強く進言して計画が始動した。

 16年に台湾独立志向の蔡英文・民進党政権が発足すると、計画が加速。同年中に台船が受注し、今年ようやく工場建設にこぎつけた。 

 工場の設計プランは、ドイツ、日本、韓国の技師に委託して提出させたが、最終的に日本人退職技師のものが選ばれたという。

 工場の設計は、秘密保持に重点が置かれている。人工衛星から写真撮影ができない「密閉式」の建屋となり、鋼材など材料の加工から装備の据え付け、完成後の保守まで全作業を建屋内で行う。内部の様子が見えないよう、建屋の大扉も進水時以外は閉め切りとなる。

潜水艦の自主開発に舵を切った蔡英文総統(写真中央)

 台船は潜水艦の設計を、ジブラルタルの軍事コンサルティング会社、Gavron・Limited(GL)に委託。GLは、英国の潜水艦設計専門の退職技師ら約30人を送り込んだ。武器などの装備は、欧米の専門会社15社と仮契約を結んだ。

 建造費用は1号艦が約500億台湾元(約1800億円)。うち専門工場の建設費が86億台湾元。残りの400億台湾元余りは装備とシステムの費用に充てられる。IDSは8隻建造し、工場建設や機械の購入費用が分担されるため、最終的には1隻当たり約250億台湾元に下がる見通しだ。

 もちろん中国は計画に強く反発。同国外務省は1月、いかなる国であれIDSへの関与を許さないと警告しており、今後、関連の外国企業に圧力が掛かる可能性もある。

 ただ、これまでのところ計画は順調で、厳徳発国防相はこのほど「IDS計画は一切が正常に進んでいる」と述べ、1号艦は24年の10~12月に進水する見通しを明らかにした。今後の行方に注目したい。

【私の論評】日本は台湾がシーパワー国になれるよう支援すべき(゚д゚)!

昨今の台中関係を考えますと、潜水艦は台湾の中国に対する抑止力を高めるための大きなカギとなるのは明らかです。航空戦力は既に圧倒的に中国側が有利であり、中国から台湾への攻撃があった場合、単純に両国間の戦力差を比較すると台湾は2、3日で制空権を失うと言われています。

これに関しては台湾の中国に対する、「A2AD(接近阻止・領域拒否)」的な能力の向上が重要ですが、実現には新鋭の潜水艦が不可欠です。しかし、現在台湾が保有する4隻の潜水艦(2隻は米国製、2隻はオランダ製)は、老朽化が進んでいます。これに対し、中国は約60隻もの潜水艦を保有しています。

2001年に米国のブッシュ(子)政権は、台湾に8隻のディーゼル推進式潜水艦の売却を決めたものの、結局、実現していません。そこで蔡英文政権は米国からの購入を断念し、自主建造に方向転換、2026年までに1隻目を就役させることを目指しています。

台湾の王定宇・立法院議員は、台湾の海中戦闘能力向上のための防衛計画は10年前に始まっていて然るべきものであり、潜水艦建造は既に予定より20年遅れている、と強い懸念を示しています(昨年4月9日付、台北タイムズ)。また、船体は自主建造できるにせよ、エンジン・武器システム・騒音低減技術等は海外から導入する必要があります。

王定宇・立法院議員

状況を俯瞰すると、米国から台湾に潜水艦技術が供与されることが望まれるところです。この点、昨年4月9日、台湾国防部は、台湾の潜水艦自主建造計画を支援するために米企業が台湾側と商談をすることを米政府が許可したと明らかにしていました。

台湾の経済団体「台湾国防産業発展協会」は、5月10日に台湾南部の高雄市で「台米国防産業フォーラム」を開催し、米国の軍事企業と技術協力について議論しました。

同フォーラムでは、艦船の製造、宇宙空間・サイバースペースの安全に重点が置かれ、米台間でハード・ソフト両面での協力が推進されました。米国からロッキード・マーチン社など15社以上が参加しました。これを機に、潜水艦技術の輸出についても商談が進む可能性もあります。

ただ、商談が成立したとしても、実際に輸出されるには米政府の許可が必要となります。この点は不透明な要因ですが、最近の米国の潮流は台湾への武器供与に積極的になっています。

台米国防産業フォーラムに出席する在日米陸軍元司令官のワーシンスキー氏

2016年7月、米議会では、台湾関係法と「6つの保証」(1982年にレーガン大統領が発表)を米台関係の基礎とすることを再確認する両院一致決議が採択されています。台湾関係法は、台湾防衛のために米国製の武器を供与することを定めています。

「6つの保証」の内容は、1.台湾への武器売却の終了時期は合意されていない、2.台湾と中国の間で米国が仲介することはない、3.台湾に中国と交渉するよう圧力をかけることはない、4.台湾の主権に関する立場を変更することはない、5.台湾関係法の規定を変更することはない、6.台湾への武器売却決定に当たり事前に中国と協議することはない、となっています。

トランプ政権は、昨年6月、14億ドル相当の武器を台湾に売却すると議会に通知し、同12月に発表された米国の「国家安全保障戦略」では、台湾関係法に基づく台湾への武器供与が明記されなどしています。

台湾は、日本の潜水艦技術にも強い関心を持っていると言われています。日本の潜水艦技術は世界でもトップクラスであり、特に騒音軽減技術が優秀です。台湾が最新鋭の潜水艦を導入することは、日本の安全保障にとっても当然プラスになります。

これを機会に、日本は、台湾がいずれ強力なシーパワー国に成長できるように支援すべきです。無論これには、数十年の年月を要するでしょう。軍事技術だけではなく、かなりのコストを要するため、経済的にも発展しなければ、シーパワー国にはなれません。

ソ連とその後継のロシアは、結局シーパワー国にはなれませんでした。中国は、最近海洋進出を強化していますが、未だシーパワー国にはなれていません。経済力だけでもなれないのです。韓国もなれないでしょう。

トランプ大統領は韓国にはほとんど興味がないようですし、日本としてはもう昨年で韓国を相手にしても時間と労力の無駄であることがはっきりしました。

日本としては、韓国の異常ぶりを国際社会に晒し続けるにしても、もう韓国には一切深入りせず、台湾を支援すべきです。そのほうが、はるかに費用対効果が大きいです。今年は、日米両国とも韓国から台湾に軸足を移す年になるでしょう。そのほうが日米としては、対中封じ込めに余程効果を期待できます。

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2019年4月15日月曜日

大阪補選の結果次第で、消費増税が吹っ飛ぶ可能性にお気づきか―【私の論評】補選の結果いかんで、令和年間は大変化の時代に突入(゚д゚)!

大阪補選の結果次第で、消費増税が吹っ飛ぶ可能性にお気づきか

実は、とても重要な選挙だ








大阪補選に注目すべき理由

先週8日に実施された大阪ダブル選挙(府知事・市長)では、維新の吉村・松井両氏と、反維新の小西・柳本両氏の戦いだったが、吉村・松井の完勝に終わった。投票締め切りの20時直後に、NHKから当確が出たほどの維新の圧勝だった。

事前の世論調査では、大阪市長選挙では、「維新劣勢」あるいは「互角」と報じられていたが、蓋を開ければ改めて大阪の維新の強さが分かった。大阪府知事選の投票率は49.49%、大阪市長選は52.70%で、前回2015年の「ダブル選」と比べ、知事選は4.02ポイント、市長選は2.19ポイント投票率が上がったことにも注目すべきだ。

今回のダブル選は「大阪都構想の推進」が争点であった。維新は、これまでの府市行政での実績も十分あり、さらに2025年万博と夢洲IRという将来への布石も打ってきた。こうした実績と政策を丁寧に訴えたことが、維新の勝因だろう。実績と政策に勝るモノはない。維新は正攻法で選挙に臨み、それに賢明な大阪府市民が応えた、ということだ。

さて、これから大阪都構想を具体的に進めるためには、大阪府議会と大阪市議会の両方が住民投票を行い、過半を超える賛意をとる必要がある。この意味で、大阪都構想の実現にはまだハードルが残っている。

今回、大阪では府知事・市長のダブル選挙と同時に、大阪府議会議員選挙と大阪市議会議員選挙もあった。府議選の投票率は50.44%、市議選は52.18%、前回よりそれぞれ5.26ポイント、3.54ポイント上がり、府議会も市議会も維新は大きく議席を伸ばした。その結果、大阪府議会では定数88のところ、維新が51議席をとり過半数を超えた。

しかし、大阪市議会では定数83のところ維新は40議席。過半数には二人分足りなかった(もっとも、2議席ぐらいなら、維新以外の議員の切り崩しなどを行えばなんかなるという、射程距離の範囲だ)。

松井新市長は、選挙後に「大阪都構想に反対の人もいるのも事実なので、丁寧に説明していきたい」と話した。選挙前に公明党幹部が再三使っていた「丁寧に説明」という言葉を繰り返したあたり、4年間の任期をもらったことによる余裕の対応である。

維新は、この10年間で大阪経済を浮揚させてきた。景気も雇用も10年前と比べてよくなった(4月1日付け本コラム「平成は終わるが、大阪の成長を終わらせてはいけない 大阪選挙の論点を11の図表で確認」 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63847 参照)。2025年には万博も控えているし、カジノ施設などを建設する夢洲IR計画もこれまでの路線通りなので、これを起爆剤として、今後の大阪経済も発展するだろう。

さて、ダブル選後の大阪で、次の参院選の前哨戦ともいわれる衆院大阪12区補欠選挙(大阪府寝屋川市、大東市、四條畷市)が行われる。これは、自民党の北川知克・元環境副大臣が亡くなったことにより行われるもので、候補者は、無所属元職の宮本岳志氏(59)=共産、自由推薦、日本維新の会新人の藤田文武氏(38)、無所属元職の樽床伸二氏(59)、自民新人の北川晋平氏(32、亡くなった北川氏の甥)=公明推薦の4氏。


この補選は国政選挙であり、この結果は①消費増税はもちろんのこと、その先に控える②憲法改正にも大きく影響するだろう。それぞれ説明しよう。

消費増税が吹っ飛ぶ…?

まず、消費増税について。これまでの言動からみると、宮本氏は消費増税に反対、藤田氏も反対、樽床氏は賛成、北川氏も賛成だろう。常識的には自民党の弔い合戦なので北川氏が有利であるはずだが、ある世論調査をみると、そうはなっていない(https://www.47news.jp/news/3466883.html)。先のダブル選でも事前調査はあまり当たっていなかったので、過信するわけにはいかないが、参考にすべき材料ではある。

政権与党である自民・公明は、政府が今年10月からの消費増税実施を予定しているので、消費増税賛成にならざるを得ない。一方維新は、国政では今年度予算に反対している。これは、10月からの消費増税に反対だからだ。

この大阪12区衆院補選で維新が勝つと、自民は7月参院選を控えて「やっぱり消費増税では選挙が戦えない」という声が高まり、消費増税は腰砕けになるような感じがする。となると、この補選で自民党が負ければ、安倍政権は消費増税を引っ込める可能性が出てくるだろう

安倍政権は、これまで消費増税を2回スキップしている。一度目は2014年12月の衆院解散総選挙において、2015年10月から予定されていた消費増税をスキップ。二度目は2016年5月の伊勢志摩サミットにおいて、2017年4月から予定されていた消費増税をスキップした。

過去2回のケースはともに、予算成立の前であった。今回は、予算成立後であるが、消費増税延期の「大義名分」があり、そのうえで増税延期に関連する補正予算を出せば、消費増税を吹っ飛ばすことは可能だ。

ダブル選挙の日程を読む

なお、一部から消費増税をスキップするために「7月21日に衆参ダブル選挙がある」という予測が出ている。筆者も過去に衆参ダブル選挙の可能性を指摘しているが、その期日は7月21日より前の可能性があるだろうと思っている。なぜか。

マスコミが「7月21日説」を唱えるのは、今国会の会期末が6月26日だからだ。この場合、会期末まで国会をやれば、参議院選挙の投票日は閉会日から「24日以後30日以内」(公職選挙法第32条)なので、7月4日告示、21日投開票というスケジュールが出てくる。

しかし、このスケジュールで衆参ダブル選挙をやろうとすれば、会期末ぎりぎりで解散することになる。このスケジュールを完全に否定するワケではないが、これではさすがにあまりに芸がないだろう。

6年前に選ばれた参院議員の任期は7月28日まで。となると、参院選はその日の前から30日以内に行う(公職選挙法第32条)ので、投票日は6月30日、7月7日、14日、21日の日曜日がありえることが分かる。

衆議院の解散による衆議院議員の総選挙は、解散の日から40日以内に行う(公職選挙法第31条)ので、解散日によっては、7月21日以外の日に衆参ダブル選挙を設定できるのではないだろうか。ちなみに候補となるのは、6月30日(友引)、7月7日(仏滅)、7月14日(大安)、7月21日(赤口)である。

いずれにしても、5月20日の今年1-3月期のGDP速報はマイナスが見えており、場合によっては昨年度GDPもマイナスかもしれない。

さらに、IMF(国際通貨基金)は9日、世界経済の見通しを発表し、今年の世界全体の成長率を前年比3.3%と予測、1月の時点から0.2ポイント下方修正した。国別では、2019年のアメリカの成長率を2.3%とし、今年1月時点から0.2ポイント引き下げ。ユーロ圏は1.3%と0.3ポイント下落。日本は1.0%と0.1ポイント下げた。

IMFは、日本の10月の消費増税を歓迎するというが、これは、日本の財務省からIMFへ出向している職員が言うことなので、すなわち日本の財務省の意見と考えたほうがいい。先週紹介したウォール・ストリート・ジャーナルの社説のように「いまのタイミングで増税とはワケがわからない」というのが常識だろう。

補選が「国の形」に影響を与える可能性

さて、大阪補選に話を戻そう。この結果が②憲法改正に与える影響も大きい。現時点では、憲法改正に向けた国会の議論は停滞している。

衆院憲法審査会は、与野党幹事間の懇談会を開き、今後の段取りを話し合うはずだったが、今国会で3月28日、4月3日、4月10日と立憲民主党をはじめとする野党はこの審査会を3回連続で欠席した。この野党による国会サボタージュがあるならば、改憲勢力だけで議論を進めていく本気の覚悟がなければ、話は停滞したままになるだろう。

この場合、公明党の積極性がポイントとなる。公明党は改憲ではなく「加憲」という独特委の言葉を使っているが、改憲には実はあまり積極的でないことはご承知の通りだ。

そのような中で、大阪12区衆院補選で維新が勝てば、憲法改正に弾みがつくだろう。なぜなら、維新は憲法改正推進派だからだ。

実は、維新の憲法改正は、大阪都構想の次の段階として見据える「道州制」と大きく関係している。今のところ、維新は憲法改正について、①教育無償化、②統治機構改革、③憲法裁判所の設置という3点に絞っている。ここで、②の統治機構改革の一環として、本格的な道州制を導入することが提言として入っている。

大阪都構想は、大都市問題を解決するためのツールである。大阪市のような政令指定都市は基礎的な自治体の範囲を大きくしすぎて、広域的な行政を行う府県と業務がバッティングし、二重行政状態になっている。

これは、反対に言えば府県の広域行政が狭すぎるという問題でもあるので、広域行政を府県からさらに広く道州まで広げる、というのが道州制である。道州の広域行政は、現在は国の出先機関(各地方整備局など)がカバーしているが、地方分権を進めることでそれらは各府県とともに道州に移管され、広域行政を担うことになる。

このような道州制の本格的な実施を進めるなら、国の形をどうするのかという「国家百年の計」の観点から憲法改正まで視野に入れて、進めていかなければならない。

大阪ダブル選挙の結果を受けて、大阪が変わり始めることで、ようやく日本の形を変える長い道のりの第一歩を踏み出した。令和の時代に適した、新しい国作りが求められているなか、大阪補選の結果が国政に与える影響はとても大きいことを改めて指摘しておこう。

【私の論評】補選の結果いかんで令和年間は、大変化の時代に突入(゚д゚)!

さて、今月21日に投開票が行われる、衆議院大阪12区補欠選挙。報道ベンチャーのJX通信社では13日・14日の2日間、電話世論調査を行い、定性的な情報も加味して情勢を探りました。調査の概要や実施方法は、本稿末尾の記載の通りです。
維新・藤田氏がリード 北川・樽床氏追う 宮本氏は伸び悩む 
衆院大阪12区補欠選挙の中盤情勢は、日本維新の会公認の藤田文武氏がリードし、自民党公認・公明党推薦の新人北川晋平氏と無所属の前職樽床伸二氏が追う展開となっている。共産党前職で今回の補選に無所属で立候補した宮本岳志氏は伸び悩んでいる。ただ、有権者の3割弱が態度を決めておらず、情勢は流動的だ。 
藤田文武氏

藤田氏は日本維新の会支持層の6割台半ば、自民党支持層の約3割に加え、無党派層の約2割から支持を得ている。北川氏は、自民党支持層の4割弱と公明党支持層の約7割から支持を集めている。無党派層からの支持は1割弱に留まっている。樽床氏は日本維新の会支持層の約1割、公明党支持層の約2割、立憲民主党支持層の約4割のほか、無党派層から3割弱の支持がある。宮本氏は共産党支持層の7割、立憲民主党支持層の約3割から支持されている。 
今回の補欠選挙は、自民党の北川知克氏の死去に伴うもので、甥の北川晋平氏がその後継候補として出馬している。しかし、北川氏は自民党支持層を固めきれておらず、藤田氏と樽床氏に支持層を奪われている状態だ。 



大阪ダブル選の結果、強く影響か 
今月7日に行われた大阪府知事選の投票行動と照らし合わせると、知事選で維新・吉村氏に投票した有権者は半分弱が藤田氏を支持している。一方、小西氏に投票した有権者は半分弱が北川氏を支持しているほか、約2割が樽床氏を支持している。 
投票にあたって重視する政策を聞いたところ「経済や景気、雇用」とした有権者が28.6%で最も多く、「福祉や医療」が27.2%、「大阪都構想について」が13.6%と続いた。経済や景気、雇用、福祉や医療を重視するとした有権者からの支持は、藤田・北川・樽床3氏が分け合っているが、大阪都構想を重視するとした有権者は6割以上が藤田氏を支持しており、大阪ダブル選の影響が色濃く反映した情勢と言えそうだ。 
調査の概要:13日(土曜日)と14日(日曜日)の2日間、無作為に発生させた電話番号に架電するRDD方式で、大阪12区(寝屋川市・大東市・四條畷市)内の18歳以上の有権者を対象に調査した。有効回答は全体で632件だった。
現状では、維新の藤田氏が有利ということですから、 これはひょっとすると、藤田氏が圧勝すれば、高橋洋一氏が主張しているように、増税延期は無論のこと「国の形」に影響を与える可能性もでてきました。

2010年、当時の橋下府知事が府と市の二重行政による無駄を省き、効率的な行政を進めることができるとして提唱したこの構想は、大阪市を解体し、東京のような特別区に再編成するというものでした。

ところが、2015年、大阪市で行われた住民投票で僅差で否決、一度は廃案に追い込まれました。大阪市長だった橋下氏が政界を引退した後、松井、吉村両氏は再び住民投票を実施すべく奔走してきました。ところが、それまでタッグを組んでいた公明党との交渉は決裂。今回のダブルクロス選挙に突入することになりました。

日本維新の会の足立康史衆議院議員

日本維新の会の足立康史衆議院議員は、AmebaTVのニュースで以下のようにうったえていました。
大阪維新が勝手に言っているわけではないく、東京都と同じように政令市の代わりに特別区を置くという、大都市地域特別区設置法に基づいているもので、自民党や公明党等が作った法律だ。これからの大都市は経営を一元化していくために特別区を作った方が良いことには彼らも賛成していたはず。 
それなのに、今回は維新の会以外、自民から共産まで全部反対に回った。都構想実現の際には莫大な費用がかかるとも言われているが、今まで無駄なビルをたくさん建てたりしてきたことに比べれば一時的なもの。将来への投資ということで、我々は心配していない。 
大阪だけでなく、国全体として経済が成長すればパイは増える。東京だけに頼るんじゃなく、全国の都市が成長する中で高齢者の福祉、子供たちの教育といったものに初めて税金が回せるようになる。
高橋洋一氏が主張するように、都構想がどうなるかで、将来の日本の姿が決まることでしょう。日本では東京と福岡以外では全県が人口減少しています。都に変えるのに確かにお金はかかりますが、変えない方がここから100年間でもっとお金がかかることになります。

どこで変えるべきかが問われてきたのに、平成の31年間、結局野放しにされてきました。残念ながら、人口100万人以下の県は県としてこれからは、成立するのが困難になるでしょう。日本国のあり方を変えないといけないのですが、前回の4年前の選挙の時に、この都構想に反対したのは70代以上の高齢者でした。

他の各年代は賛成の方が多かったのです。4年経って構図が変わってきたようです。大阪では、変えたことによって良いことがあると実感できる出来事がいくつかありました。

例えば関空民営化後に来日する外国人の3、4割が関空を経由するようになりました。変化を嫌う人は外国人がたくさん入ってくると大変だと思うかもしれないですが、潤うという事実があります。変化することによって良いことがあるというのは、平成の間に日本が忘れていたことでもあります。

変化について、経営学の大家ドラッカー氏は以下のように語っています。
長い航海を続けてきた船は、船底に付着した貝を洗い落とす。さもなければ、スピードは落ち、機動力は失われる。(『乱気流時代の経営』)
 あらゆる製品、あらゆるサービス、あらゆるプロセスが、常時、見直されなければならないです。多少の改善ではなく、根本からの見直しが必要です。

なぜなら、あらゆるものが、出来上がった途端に陳腐化を始めているからです。そして、明日を切り開くべき有能な人材がそこに縛り付けられるからです。ドラッカーは、こうした陳腐化を防ぐためには、まず廃棄せよと言います。廃棄せずして、新しいことは始められないのです。

ところが、あまりにわずかの企業しか、昨日を切り捨てていません。そのため、あまりにわずかの企業しか、明日のために必要な人材を手にしていません。

自らが陳腐化させられることを防ぐには、自らのものはすべて自らが陳腐化するしかないのです。そのためには人材がいります。その人材はどこで手に入れるのでしょうか。外から探してくるのでは遅いのです。

成長の基盤は変化します。企業にとっては、自らの強みを発揮できる成長分野を探し出し、もはや成果を期待できない分野から人材を引き揚げ、機会のあるところに移すことが必要となります。
乱気流の時代においては、陳腐化が急速に進行する。したがって昨日を組織的に切り捨てるとともに、資源を体系的に集中することが、成長のための戦略の基本となる。(『乱気流時代の経営』)
ドラッカーは企業経営について、語っているのですが、これは無論政治の世界にも当てはまります。

平成年間の日本はほとんどの期間がデフレスパイラルの底に沈んでいました。そのような状況では、企業は無論のこと政府や地方行政も停滞するのが当然でした。この時期に、企業や日本政府や地方行政組織が変化することは容易なことではありませんでした。

そんなことをすれば、組織自体が崩壊したり毀損したりする可能性のほうが大きかったのです。だからこそ、変化を厭い、個人なら保身、組織なら現状維持ということで精一杯だったのです。

これから始まる新たな令和年間は、平成年間のような状況にはすべきではありません。この年間は、まともなマクロ経済政策を実行できる状況にし、その上で憲法改正は無論のこと、積極的に国益に沿って「国の形」を変えていく年間にすべきです。

今回の補選が良い結果に終わり、それが令和年間の変化の幕開けとなれば良いと思います。いや、そうしなければならないのです。

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2019年4月14日日曜日

金正恩氏、文政権に「おせっかいな仲裁者ではなく...」 米韓首脳会談も不調、苦しい立場に―【私の論評】朝鮮半島問題の本質を理解しない文在寅は、今のままでは米中露北からまともな扱いを受けられない(゚д゚)!

金正恩氏、文政権に「おせっかいな仲裁者ではなく...」 米韓首脳会談も不調、苦しい立場に

行き詰まる米朝交渉、その打開を目指した韓国・文在寅大統領だが、なかなか思うに任せない。

 2019年4月11日(現地時間)、米ホワイトハウスで行われた米韓首脳会談を受け、韓国メディアでは厳しい論評が相次いだ。さらに北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長からは、「仲裁者」としての立場を改めて否定するような発言まで飛び出した。

トランプ氏とともに笑顔で記者に対応した文氏だったが…(米ホワイトハウス公式FBより)

朝鮮日報は「ノーディール」とバッサリ

 2019年2月27、28日に行われた、ベトナム・ハノイでの第2回米朝首脳会談の「決裂」から、約1か月半。両国の仲裁者を自任する文氏にとっては、ドナルド・トランプ米大統領になんとしても、再び交渉のテーブルに着いてもらうことが、最大のミッションだった。そのために文氏が提案したとされるのが、段階的な非核化・制裁緩和を容認する「グッド・イナフ・ディール(十分に良い取引)」への転換だ。

 しかしトランプ氏は、制裁緩和はあくまで完全な非核化が前提だとする「ビッグ・ディール(大きな取引)」論を曲げなかった。また3回目の米朝首脳会談についても、実施に意欲を見せつつ、「一歩一歩だ」「急げば良い取引にならない」。早期開催を求めた文氏と、考え方の溝を垣間見せた。

 今回の会談に対し、韓国内の採点は総じて辛い。特に、保守系の大手紙・朝鮮日報は、「ハノイに続きワシントンでもノーディール」(引用は日本語ウェブ版より。以下同じ)と切り捨てる。野党・自由韓国党の羅卿ウォン・院内代表も、「(米国に)なぜ行ったのかわからない」「アマチュア外交」と糾弾した(中央日報)。

韓国リベラル派も認める「カード不足」

 もちろん、評価の声もある。リベラル派新聞のハンギョレは、「ひとまず、文大統領が南北首脳会談を推進し、金委員長を説得するための基本動力は作られた」「仲裁者または促進者として文大統領の役割に重ねて信頼を示した」と、会談の成果を強調した。

 だが、そのハンギョレですら、「しかし、金(正恩)委員長を説得するカードが明確でないのが問題だ」「文大統領はトランプ大統領に直接確認した『ビッグ・ディール』と『より明るい経済的未来』という立場を金委員長に伝え、決断を下すよう説得するしかない」と指摘する。つまり、文氏が「仲介役」として双方を説得しようにも、肝心の「カード」がないということだ。とすれば結局、文氏にできることは「説得」しかない。それを、支持層のリベラル派さえ認めざるを得ないわけである。

こうした中で12日、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は最高人民会議での演説で、自ら米国との関係に言及した。国営メディアの朝鮮中央通信によれば、「今年の末までは忍耐力を持って米国の勇断を待ってみる」と期限を切りつつ、米国側に「ビッグ・ディール」からの譲歩を迫ったのである。

金氏、トランプ氏とは「敵対的ではない」 韓国ははしごを...

その演説内容は、
「私とトランプ大統領との個人的関係は両国間の関係のように敵対的ではなく、われわれは相変わらず立派な関係を維持」
「米国が正しい姿勢をもってわれわれと共有できる方法論を探した条件で第3回朝米首脳会談をしようとするなら、われわれとしてももう一度ぐらいは行ってみる用意がある」
「今後、朝米双方の利害関係に等しく合致し、互いに受け付け可能な公正な内容が紙面に書かれれば、私は躊躇(ちゅうちょ)せずその合意文にサインするであろうし、それは全的に米国がどんな姿勢でどんな計算法をもって出てくるかにかかっている」
など、米国の譲歩を前提にしてはいるものの、交渉に対し前向きとも取れるものだ。

一方、韓国側に対しては、
「南朝鮮(韓国)当局は、すう勢を見てためらったり、騒がしい行脚を催促しておせっかいな『仲裁者』『促進者』の振る舞いをするのではなく、民族の一員として気を確かに持って自分が言うべきことは堂々と言いながら、民族の利益を擁護する当事者にならなければならない」
と要求、改めて「仲裁者」としての立場を否定する。韓国としては、はしごを外されたに等しい内容だ。

【私の論評】朝鮮半島問題の本質を理解しない文在寅は、今のままでは米中露北からまともな扱いを受けられない(゚д゚)!

以前このブログで指摘した通り、文在虎も韓国の大多数の政治家も、それに韓国マスコミも、朝鮮半島問題の現状を理解していないようです。

朝鮮問題も当初は、米国・韓国と中露・北朝鮮の対立というところから出発しましたが、朝鮮戦争終了から70年近くたち、随分と様相が変わってしまいました。

韓国は、北との接近をはかりつつ、中国に従属しようとしています。これは明らかに、同盟国米国に対する敵対行為です。

2017年文材寅は中国を訪問したが、驚くほどの冷遇を受けていた

ソ連は崩壊し、ソ連の軍事力や軍事技術を引き継いだロシアは、軍事大国としては相変わらず大国ではありますが、経済規模は縮小し、今やそのGDPは東京都を若干下回る程度しかありません。ちなみにこれは、韓国と同規模です。中国は、経済発展をとげ一人あたりのGDPはまだまだ小さいものの、全体では世界第二位の経済大国になりました。

これについては、中国の経済統計はデタラメで、未だドイツ以下とする識者もいますが、それが事実だとしても、ロシアなどは問題外であるほどに経済が大きくなったのは事実です。しかも、人口はロシアは一億四千万人ですが、中国は十三億人以上です。極東においては今やロシアよりも、中国のほうがはるかに影響力が強大です。

一方の北朝鮮は、中国の干渉を嫌うようになりました。張 成沢氏や金正男氏を殺害したのはそれを阻止するためです。北朝鮮は核ミサイルを開発しました。これについては、ほとんど報道されませんが、北の核ミサイルは、日米にとって脅威であるばかりではなく、中露にとっても脅威です。

北朝鮮にとって、ロシアの影響力は弱まったのですが、中国の影響力は増すばかりで、金正恩は、自らが後継者となった金王朝を守るためには、中国の影響を弱めなければならないと判断したため、核ミサイルの開発により、中国に脅威を与えるとともに、米国との接近を図ろうとしたのです。

そのため、結果として、北朝鮮とその核は、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐ役割を果たすようになりました。

ただし、金正恩としても、中国の影響力を削ぎたいのであり、中国と本格的に対立しようなどという意図は毛頭ありません。無論、米国に従属したいとは毛頭考えていません。米国に従属してしまえば、金王朝を守り抜くことは難しくなります。金正恩の本音は、国境を接している中国の北朝鮮への影響を削ぎ、自らと自ら継承した金王朝を守り抜くことです。

だからこそ、米国に接近を図ったのです。そうして、米朝会談にまでこぎつけることができました。

そうして、北朝鮮は、韓国と統一したり、中国・ロシア、米国などと対立する気は毛頭ありません。本当に望んでいるのは、現在の体制をそのまま維持することです。

一方、米国や中国・ロシアも現状維持を望んでいます。米国にとっては、朝鮮半島問題で最悪なのは、半島全体が中国の影響下に収まってしまうことです。一方中国にとっては、北朝鮮が完璧に米国の配下に収まってしまうことです。

これらの状況よりは、現状維持のほうが、米国にとっても中露にとってもはるかに良いのです。これについては、以前のこのブログにも掲載しました。

朝鮮半島において、現状維持が崩壊するような動きがあれば、米中露とも具体的な行動をすることでしょう。

2017年9月6日、ロシア極東ウラジオストクで行われた経済フォーラムで握手するプーチンと文

現状では、ロシアは経済的に半島問題に直接介入する力はありません。米中としても、米中の経済冷戦が勃発した現在、朝鮮半島は現状維持をして、経済戦争に専念したいと考えています。特に、米国は本気で長期にわたる冷戦を挑んでいます。朝鮮半島問題などは、この冷戦で勝利すれば、自動的に解決すると考えています。

ところが、文在寅をはじめとする韓国の政治家やマスコミは、この現状を把握していないようです。だから、以前このブログでも述べたように、文材寅は米中露・北朝鮮が現状維持を望んているにもかかわらず、それを破壊するような行動に出て、一人芝居をしているようなものなのです。

金正恩は、韓国や文在寅に対して、親近感を抱いているわけでも何でもありません。厳しい制裁に対する抜け穴として利用したいと考えているだけです。だから、文在寅に対して良い顔をしておだててきました。

金正恩におだてられた文在寅

そうして、文在寅は、有頂天になり、北制裁の緩和や排除を標榜し、米国に赴き、仲介者の役割を果たそうとしました。

北朝鮮としては、これ自体は悪いことではありませんが、文在寅の一人芝居が過ぎるようになってきたため、それを放置しておけば、自らも米国や中国・ロシアから、現状維持を崩そうとしてみられる危険性を懸念するようになったのでしょう。

だからこそ、韓国の「仲裁者」としての立場を否定してハシゴを外したのでしょう。文在寅はこうした背景を理解しないと、いつも北朝鮮からハシゴを外されるようになるでしょう。

そんなことより、文在寅は、朝鮮半島問題の本質である現状維持(Status quo)を理解したその上で北、米中露へ対応していくべきでしょう。これができないから、一人芝居状態になっているのです。トランプ、習近平、プーチン、金もその点では一致していると思います。

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2019年4月13日土曜日

【日本の解き方】紙幣刷新と共に経済対策を! 1人30万円配る「ヘリ・マネ」は社会保険料の減額で可能だ―【私の論評】増税してしまえば、ヘリマネなどの対策をしても無意味に(゚д゚)!

【日本の解き方】紙幣刷新と共に経済対策を! 1人30万円配る「ヘリ・マネ」は社会保険料の減額で可能だ

新紙幣のイメージを発表する麻生財務相。一万円札は渋沢栄一、五千円札は津田梅子、
千円札は北里柴三郎の肖像となる(左から)=9日、財務省

紙幣のデザイン刷新が公表された。一万円札、五千円札、千円札のデザインは、それぞれ渋沢栄一(日本資本主義の父)、津田梅子(津田塾大創設者)、北里柴三郎(日本細菌学の父)の肖像画となる。

 デザイン一新は2004年以来であり、5年後をメドに新札が発行される予定だ。20年に1度、偽造防止の観点からデザイン一新が行われているが、5年後の話を今したわけで、改元に合わせた話題作りだろう。

 一方、政府はキャッシュレス化を推進している。「キャッシュレス決済比率」は、キャッシュレス支払い手段による年間支払金額を国の家計最終消費支出で除したものと定義できるが、それで日本をみると2割弱であり、先進国の4~6割に比べると低い。

 その半面、現金残高を名目国内総生産(GDP)で除した「現金比率」をみると、日本は2割程度と先進国では一番高く、他国は1割未満である。

 日本では、現金が安全確実な決済手段として確立されており、金融機関の支店や現金自動預払機(ATM)が整備されているので、結果としてキャッシュレス化が低くなっている面もある。

 キャッシュレス化だけを進めようと思えば、偽造通貨を放置するのがいいというのは暴論で、紙幣が決済手段である限り偽造防止は必要である。実際、キャッシュレス化は現実の通貨を前提としたものなので、キャッシュレス化のためにも一定の通貨は必要だ。ただ、実は、まともな偽造対策は、偽造を誘発する高額紙幣の廃止なのだが、今回は見送られた。

 せっかくだから、この際、新札発行とともに経済対策もしたらいい。思い起こされるのが「政府紙幣」だ。

 今回は、既存の紙幣のデザイン一新であるので、厳密には「政府紙幣」の発行ではないが、新札を1人あたり一定の額を配るという政策はありえる。実際に新札を配布するのは煩瑣(はんさ)なので、例えば、全国民が負担している社会保険料を一定額減額するというのが簡便な方策だろう。

 もちろん、そのために予算上は財源が必要であるが、国債発行でいい。その国債を日銀が買い取れば、理論的には、将来の利払い負担が実質的に減少し、その総和で財源は確保できる。

 これは、ノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマン氏が唱えていた「ヘリコプター・マネー」と実質的に同等である。元米連邦準備制度理事会(FRB)議長のベン・バーナンキ氏も言及したことがある。

 もちろん、この政策をやり過ぎればひどいインフレになるが、現在の日本の状況ならインフレ目標まで達していないのだから、1人あたり30万円くらいなら、配っても大丈夫だろう。

 こうした手法は、過去から考案されていたもので、最近出てきた現代貨幣理論(MMT)を借りなくても、既存の標準理論から数量的に導き出すことができ、実行も可能なものだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】増税してしまえば、ヘリマネなどの対策をしても無意味に(゚д゚)!

上記の高橋洋一氏のような考え方は当然でてくるでしょう。しかし、高橋洋一氏も、新紙幣の発行は別次元の問題として、それ以前に当然日本政府や日銀がまともなマクロ経済政策を実行してほしいと思っていることでしょう。

おカネの顔だけで、日本経済再生を実現できるはずはないです。肝心なのは、間違った経済政策を改めることで、最優先すべきは令和に入って5カ月後に予定している消費税率の10%引き上げを少なくても凍結することです。5%への税率引き下げなら、大いに空気が変わることでしょう。

消費税増税はあらゆる面でチェックしても、不合理極まるものです。デフレを再来させ、経済成長をゼロ%台に押し下げ、勤労世代や若者に重税を担わせることになります。

結婚や子作りを難しくする増税をしておいて、若い世代の教育無償化や子育て支援を行うとは、欺瞞です。水が溢れているときに、本当の解決策は水道の蛇口を止めることなのに、それをせずに一生懸命に水を汲み取っているようなもので、それでは何の解決策にもなりません。

財務省は消費税増税が政府債務削減によって財政健全化のために必要だとするムードを創り上げ、政治家やメディアに対して増税キャンペーンを繰り広げていますが、これも真っ赤な嘘で、政府債務はむしろ消費増税後、急増しています。

下のグラフは1997年度の消費税率3%から5%、2014年度の5%から8%へのそれぞれの引き上げ後の中央政府の債務残高の推移を示しています。いずれのケースとも、政府債務は増加基調が続いています。原因ははっきりしています。税収が増えても、そっくり同じ額を民間に還流させないと、経済は萎縮するのです。



増税ショックを和らげるためという財政支出拡大額も増収分の一部に過ぎませんい。しかも、一時的な泥縄式の補正予算なので経済効果は不十分で、経済がゼロ・コンマ台の成長に陥るのです。

その結果、消費税以外の税収が伸びません。となると、今度は財政支出を大幅削減するので、デフレ病が進行することになります。そこで、財政健全化という同じ名目で、増税を行う、という悪循環にはまるのです。

この債務悪化傾向が多少でもなだらかになるときは、輸出増で法人税収が持ち直す局面に限られます。円高や輸出減で法人税収が落ち込むと、たちまち債務悪化に拍車がかかります。こうした失敗は1997年度の増税後に体験済みなのに、その教訓から行政府、国会、財界、学界、メディアも何も学んでいません。

日米欧と新興国の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が11日(日本時間12日)、米ワシントンで始まりまし。日本が初めて議長国を務め、世界経済をテーマとした初日の討議では、麻生太郎財務相が「国際協調を強めなければならない」と主張。米中貿易摩擦で減速傾向が目立ち始めた世界経済を、早期に回復軌道に戻す政策対応を各国に求めました。

麻生氏は「今年後半には世界経済が勢いを取り戻す」との見通しに言及。日本政府として10月に消費税率を引き上げる方針を表明し、「需要の変動を乗り越えるため十二分の財政措置を講じる」と述べました。

日銀からは黒田東彦(はるひこ)総裁が出席。黒田氏は開幕前に記者会見し、英国の欧州連合(EU)離脱などの景気下押し要因に警戒感を示したが、米中の貿易摩擦について「米中は協議を続けており、決裂による関税引き上げのリスクは抑制されている」と指摘した。

麻生財務大臣の発言に、多くのG20参加者の多くが、内心驚いていることでしょう。麻生大臣に援護射撃をするような黒田総裁の発言にも首を傾げた人が多かったのではないでしょうか。

安倍晋三首相は「リーマン・ショック級の出来事が起きない限り、予定通り引き上げる」と繰り返し述べている。しかし、問題なのは増税後の国内景気だ。それこそ、リーマン・ショック級の事態を招く恐れがある。

黒田総裁の下で副総裁を務めた経済学者岩田規久男氏は最近、デフレ脱却を完全なものにするために「10月の消費税増税は凍結すべきだ」とあるシンポジウムで訴えました。

日銀の大規模金融緩和によって2%の物価上昇目標が達成しかかった14年4月、消費税率8%への引き上げの影響で個人消費が大幅に減少し、目標が遠ざかりました。岩田氏はこのように分析しています。

一方、増税に向けて軽減税率の適用やキャッシュレス決済時のポイント還元など着々と準備は整えらているようです。しかし、これは政府自身、増税による景気悪化は不可避とみているための一時しのぎの対策にすぎないです。対策が終了した後の反動減をむしろ恐れるべきです。景気悪化を恐れるなら、最初から増税しなければ良いのです。


大阪市で6月、20カ国・地域(G20)首脳会合が開かれます。世界経済の不安定要因が増大している中、さらには国内経済の後退が表面化しつつある中で、日本が予定通りの増税を議長国として表明して良いはずがありません。

消費税の増税は過去の失敗例を引くまでもなく、景気を悪化させ、税収を減らし、それは上のグラフにも示されているように結果的に政府の赤字を増やしてしまいます。

ただし、日本政府のBSをみれば、日本政府はかなり資産も有しており、資産と負債をあわせるとほとんどゼロであり、この状況ではわざわざ増税する必要性は全くありません。これについては、昨年IMFも同様の指摘をしています。

大阪のG20で、日本が増税するなどと表明すれば、参加国から疑義の声があがることも考えられます。過去に増税でにがい思いをしているのは日本だけではありません。

たとえば、英国はロンドンオリンピックの前の年には、量的緩和政策で景気が回復基調に入ったにもかかわらず、「付加価値税(日本の消費税に相当)」の引き上げで消費が落ち込み、再び景気を停滞させてしまいました。

その後、リーマン・ショック時の3.7倍の量的緩和を行っても、英国経済が浮上しなかった教訓を日本も学ぶべきです。

ロンドンオリンピックのビーチバレーの試合

それでも増税しその後日本経済が低迷し、世界経済にも悪い影響を与えれば、海外から非難されることになるでしょう。このような増税は絶対にすべきではないのです。

増税をとりやめた上で、上の記事で高橋洋一氏が主張したようなことをすれば、日本経済は再び成長起動にのることでしょう。増税したあとでこれを実行したとしても、一時的な効果しか期待できず、日本経済は再びデフレスパイラルの底に沈むことになります。ましてや、軽減税率の適用やキャッシュレス決済時のポイント還元などは、ほとんど何の効果も期待できません。

平成14年4月の消費税増税のときも、政府は様々な対策を打ちましたが、ほとんど効果はなく、増税推進派の「増税が日本経済に及ぼす影響は軽微」という主張は全くの間違いであることがわかりました。今年10月の消費税増税は、前回の増税よりもさらに深刻な悪影響を日本経済にもたらすことになります。

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2019年4月12日金曜日

文大統領“屈辱” 米韓首脳会談たった「2分」 北への制裁解除熱望も成果ゼロ―【私の論評】トランプ大統領は、外交音痴の文に何を話しても無駄と考えた?


トランプ氏(右)との首脳会談に臨んだ文氏だが、表情はさえなかった

ドナルド・トランプ米大統領が、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領との首脳会談で「冷淡」姿勢を貫いた。北朝鮮への制裁解除や、南北共同事業再開を熱望する文氏に対し、トランプ氏は否定的見解を示したのだ。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との3回目の首脳会談についても、急がない方針を打ち出した。米韓首脳がサシで話した時間はわずか2分程度で、踏み込んだ交渉はできなかったとみられる。「大韓民国臨時政府発足100周年」という重要な記念日に、自国を留守にしてまで訪米した文氏だったが、ほぼ、「成果ゼロ」で終わったようだ。

 「今は適切な時期ではない。(北朝鮮が『完全な非核化』をして)適切な時期を迎えれば、大きな支援が行われるだろう。韓国、日本、多くの国々も支援に手を挙げると考えている」

 トランプ氏は11日午後(日本時間12日未明)、ホワイトハウスで行われた米韓首脳会談の冒頭、こう断言した。報道陣から、南北共同事業である開城(ケソン)工業団地や、金剛山(クムガンサン)観光再開について問われたことに対する回答だった。

 昨年6月と今年2月に続く、正恩氏との3回目の米朝首脳会談についても、トランプ氏は「可能性はあるが、急ぐつもりはない」といい、米国の求めるビッグディールは「核兵器を取り除くことだ」と明言した。

 「従北」の文氏には、「ゼロ回答」に等しい通告だった。

 以前から、文氏は世界各国を訪問して、北朝鮮に対する制裁解除を呼びかけてきた。今年1月の年頭記者会見では、開城工業団地と金剛山観光の再開に意欲を見せていた。

 同盟国の韓国に対し、「冷たすぎる」ようにも見えるトランプ氏の対応は、会談時間にも表れていた。

 韓国・聯合ニュースによると、トランプ氏と文氏の2人きりの会談は29分間行われたが、報道陣との質疑応答が27分間続き、実際の会談は2分程度だったのだ。

 決して、トランプ氏に時間がなかったわけではない。報道陣とのやり取りでは、ゴルフのマスターズ・トーナメントについて「誰が勝つと思うか?」と聞かれ、タイガー・ウッズなど有力選手の名前まで挙げて冗舌に答えていた。

 トランプ氏の米韓首脳会談での態度について、米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「事実上、『韓国との首脳会談を拒否した』といってもいいぐらいの対応といえる。2分というのは、通訳の時間を入れたらゼロに近い。文氏は首脳会談前、マイク・ポンペオ国務長官や、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と会っている。トランプ氏としては『文氏に伝えるべきことは2人を通じて言ってあるので、首脳会談では具体的なことを話す必要はない』ということではないか」と説明した。

 韓国サイドでも開催前から、首脳会談の行方を心配する意見があった。

 首脳会談の席には両大統領に加え、メラニア夫人と金正淑(キム・ジョンスク)夫人の姿があった。1泊3日の実務訪問に夫人を同行させることも、夫人同伴の首脳会談も極めて異例といえる。

 この形式について、韓国紙、朝鮮日報(日本語版)は11日、社説で「北朝鮮制裁の緩和を望む文大統領と実質的な話し合いをするつもりはないからだとの印象を与える」として、「今回の韓米首脳会談が韓米同盟の決裂を防ぐ機会になることを祈るばかりだ」と指摘していた。

 そもそも、今回の会談日程は、文氏には厳しいものだった。

 11日は、日本統治下の1919年に、中国・上海で独立運動家らによる「大韓民国臨時政府」が設立されてから100周年にあたるのだ。過激な「反日」言動を続ける文氏にとって、ソウルで11日夜に行われる記念式典は晴れの舞台になるはずだった。

 韓国情勢に精通するジャーナリスト、室谷克実氏は「トランプ政権が、会談日として11日を提示したのは意図的だ。文氏に対して『無理に来なくていい』というメッセージだったのではないか」と分析する。

 案の定、トランプ政権に「冷遇」された文氏は、ほとんど成果のないまま帰国することになった。今後、米韓関係はどうなりそうか。

 前出の島田氏は「北朝鮮による瀬取り取り締まりのため、米国は3月、沿岸警備隊の大型警備艦を朝鮮半島沖に派遣した。『韓国船舶が北朝鮮に協力している』との情報があり、派遣には『韓国の監視』という意味もある。米韓両軍の大規模軍事演習も3つすべてが中止されており、事実上、米韓同盟は空洞化したといっていい」と話した。

【私の論評】トランプ大統領は、外交音痴の文に何を話しても無駄と考えた?

文在寅(ムン・ジェイン)大統領が大恥をかきました。重要行事を放り出して米国まで行ったのに、トランプ大統領から「北朝鮮への制裁は緩和しない」と言い渡されてしまったのです。

4月11日にワシントンで開かれた米韓首脳会談は異例づくめでした。通常は首脳だけで膝を突き合わせる「首脳の単独会談」に何と、両国のファーストレディも参加したからです。

文在寅政権に批判的な保守系紙の朝鮮日報は会談当日に掲載した社説「『夫婦同伴の韓米首脳会談』だなんて」(4月11日、韓国語版)で以下のように疑念を表しました。
●(韓国)大統領府は首脳会談が2時間以上にわたり「単独会談」→「スタッフが同席しての小規模の会談」→「昼食兼拡大会談」の順で開かれると発表した。
●ところがこの単独会談に双方の夫人が同席するという。1日3泊の実務訪問に大統領夫人が同行するのも異例だが、首脳会談を夫婦同伴でするのもほぼ前例がない。
●通訳の時間を除けば事実上、挨拶を一言交わせば終わってしまう短い時間であり、実質的な単独会談はないも同然だ。「スタッフが同席しての小規模の会談」がそれなりの議論の機会にも見えるが、それだってすぐに昼食会に移ってしまう。
●韓米首脳が同席者なしで北朝鮮の核、韓米同盟など重要な案件に関し深い会話を交わす時間は実質的にない。この形式は米国側が提案したという。
実際、4月11日の米韓首脳会談は朝鮮日報が危惧したように首脳が膝を突き合わせて話し合う機会はありませんでした。両大統領と記者とのやりとりに時間が使われ、「夫婦同伴の首脳会談」でさえ2分間に終わったと冒頭の記事にもあるように、韓国各紙は報じました。それどころか会談自体が、記者団を前に文在寅大統領の要求をトランプ大統領がことごとく打ち砕いて見せる場となったのです。

大統領執務室での首脳会談の冒頭、韓国が望んでいる北朝鮮への制裁緩和について記者が聞くと、トランプ大統領は「制裁を続ける。それを強化する選択肢だってある。今の水準が適切と思うが」と答えました。

「文大統領が言う『小さな取引』に応じる気はないか」との問いには「いろいろな『小さな取引』もあり得る。一歩一歩、部分的に解決もし得る。だが、現時点では(完全な非核化を求める)『大きな取引』を話し合っている。それにより(北朝鮮の)核を取り除かねばならない」と真っ向から否定しました。

さらに第3回米朝首脳会談について「可能性はある。ステップ・バイ・ステップでね。すぐに始まりはしない。私がそうなると言及したことはない」「私はずうっと言ってきたが、早めれば良い取引にはならない」と急がない姿勢も明確にしました。

これに先立ち、文在寅大統領が記者団に「対話の機運を維持し、第3回朝米首脳会談が近く開かれるとの見通しを国際社会に示すことが重要だ」と語ったのを、またもや明確に否定しました。

一連のやり取りはホワイトハウスの「Remarks by President Trump and President Moon Jae-in of the Republic of Korea Before Bilateral Meeting」(4月11日)で読めます。

同盟国のトップを呼びつけておいて、万座の中でこれほど徹底的にその意向を否定して恥をかかせるのも珍しいです。

「首脳だけで顔合わせする時間はなし」という異例の設定も、文在寅の話などに耳を傾けず、トランプ大統領が一方的に説教する構図を世界に見せつけるのが目的だったのでしょう。

なお、4月11日は文在寅政権が肝入りで開く大韓民国臨時政府の発足100年記念式典の当日でした。ワシントンに向かった文在寅大統領は参加できず、代わりに李洛淵(イ・ナギョン)首相が出席しました。

4月11に挙行された大韓民国臨時政府の発足100年記念式典

米韓首脳会談の開催をどちらの国が言い出したかは不明ですが、この記念式典から勘案すると、4月11日という設定は米国が決めたのは確実です。

米国の政界は「文在寅政権は金正恩(キム・ジョンウン)政権の使い走りだ」と見なしています。2月27〜28日にハノイで開かれた米朝首脳会談で「非核化せずに制裁解除だけ狙う」北朝鮮の姿勢が確認できました。

というのに3月1日、文在寅大統領が「開城工業団地と金剛山観光事業の再開」を言い出し、制裁の解除に動いたからです(デイリー新潮「米国にケンカ売る文在寅、北朝鮮とは運命共同体で韓国が突き進む“地獄の一丁目”」[19年3月20日掲載]参照)。

北朝鮮も韓国の尻を叩いています。3月15日、北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官は各国の外交官やメディアを集めた席で「韓国は米国の同盟国であるため『プレイヤー』であって『仲介者』ではない」と言い放ったのです。

「米朝の仲介者」のイメージを演出することで国民の支持を集めてきた文在寅政権に対し、「仲介者」の称号を剥奪すると脅し、自分の側に引きつけようとしたのです。効果はすぐに出ました。

4月4日、韓国外交部で北朝鮮の非核化問題を担当する李度勲(イ・ドフン)朝鮮半島平和交渉本部長がソウルで講演し「制裁では北朝鮮の核問題は根本的に解決できない」と語りました。

同じ席で、文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保特別補佐官も「(北朝鮮がすでに廃棄したと主張する)核施設への査察を認めれば米国も制裁緩和など相応の措置が可能だ」と述べ、開城工業団地の再開などを米国に要求しました。

いずれの発言も、米国に対し「制裁を緩和せよ」と要求する一方、その姿勢を北朝鮮に見てほしいという文在寅政権の願いがこもっていたのでしょう。

北朝鮮も援護射撃に出た。4月10日、金正恩委員長は党中央委員会総会に出席し「自力更生の旗を高く掲げて社会主義建設を粘り強く前進させる」「制裁で我々を屈服させられると誤断している敵対勢力に深刻な打撃を与えるべきだ」と述べました。

もちろんトランプ政権はこんな小細工に動じませんでした。それどころか北朝鮮を忖度して動く韓国にお仕置きをしてみせたのです。

金正恩委員長の顔色を常に窺う文在寅大統領も、トランプ大統領に面と向かって「制裁を緩和してくれ」と言い出す勇気はなかったのでしょう。

米国は韓国が裏切るたびに「通貨」を使って韓国に警告を発してきました。

ことに今、韓国の貿易収支が悪化し、通貨危機に陥りやすくなっている(デイリー新潮「韓国、輸出急減で通貨危機の足音 日米に見放されたらジ・エンド?」[19年2月1日掲載]参照)。

赤っ恥をかかされた文在寅大統領は今後どうするのでしょうか。とりあえずは「韓米首脳会談は成功だった」と言い張るつもりでしょう。

左派系紙で政府に近いハンギョレはこの会談を報じた記事の見出しを「韓米首脳、第3回朝米会談に共感帯…トランプ『引き続き対話するのが望ましい』」(4月12日、韓国語版)と付けました。

読者をミス・リードする見出しです。確かに、次の米朝首脳会談の開催に関しトランプ大統領は否定していないです。だが、はっきりと「急げば失敗する」と言っているのです。

どうせ保守派は「赤っ恥をかいた文在寅」と大笑いするでしょう。だったらせめて、支持してくれる左派からの称賛は得ておこうとの計算でしょう。左派はハンギョレなど左派系紙しか読まないのです。

会談後、青瓦台(大統領府)高官は韓国メディアに「文大統領はトランプ大統領に南北首脳会談の開催方針を伝え、肯定的な返事を得た」と明かしました。これも「米韓首脳会談がうまくいった」とのイメージ作りです。

今回の首脳会談を材料に保守勢力が文在寅政権批判を強めるのは間違いないです。そもそも政策の失敗により韓国経済は苦境に陥っている(デイリー新潮「文在寅の“ピンボケ政策”で苦しむ韓国経済、米韓関係も破綻で着々と近づく破滅の日」[19年4月5日掲載]参照)。

ここで政権を責め立てれば、2020年の国会議員選挙で保守派が圧勝できます。保守の中には「もし3分の2の議席を確保すれば、文在寅弾劾も夢ではない」と語る人もいます。韓国の次の注目点は、国をも滅ぼす激しい左右対立です。

それにしても、文在寅大統領は無論のこと、韓国の政治家のほとんどは外交の素人のようです。日本も似たりよったりのところがありますが、それにしても安倍総理はそこまでは外交音痴ではありません。

朝鮮半島問題に関して、文在寅は素人?

そもそも、朝鮮半島がどのような状況にあるのか、文在寅や韓国の政治家は理解していないようです。何やら、韓国は北朝鮮のすぐ隣にあり、韓国も北朝鮮も民族的には同じであり、元々気脈が通じており、さらに文大統領は北朝鮮を訪問したことがあり、自分たちは半島問題を掌握していると思いこんでいるようてすが、実際はそうではありません。

私自身は、彼らの朝鮮半島理解は、日本のお花畑の政治家や、マスコミと大した違いはないと思います。ただし、韓国の政治家の半島理解の程度ひ著しく低いにもかかわらず、さも自分たちは他国の政治家よりも良く知っていると思い込んでいるところが、傲慢で始末に負えないと思います。

これについては、以前このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
北朝鮮『4・15ミサイル発射』に現実味!? 「絶対に許さない」米は警告も…強行なら“戦争”リスク―【私の論評】北がミサイル発射実験を開始すれば、米・中・露に圧力をかけられ制裁がますます厳しくなるだけ(゚д゚)!
金正恩氏は東倉里から“人工衛星”を発射するのか

朝鮮半島の状況を考える上で、まずは正確に現状はどうなるっているかを把握しなければなりません。その上で、関係諸国がそれを維持したがっているのか、はたまた破壊したがっているのかを理解するのは重要なことです。では、この記事より現状に関する部分のみを引用します。
北朝鮮の望みは、体制維持です。金正恩とその取り巻きの独裁体制の維持、労働党幹部が贅沢できる程度の最小限度の経済力、対外的に主体性を主張できるだけの軍事力。米国に届く核ミサイルの開発により、大統領のトランプを交渉の席に引きずり出しました。間違っても、戦争など望んでいません。 

この立場は、北朝鮮の後ろ盾の中国やロシアも同じです。習近平やウラジーミル・プーチンは生意気なこと極まりない金一族など、どうでも良いのです。ただし、朝鮮半島を敵対勢力(つまり米国)に渡すことは容認できないのです。
だから、後ろ盾になっているのです。結束して米国の半島への介入を阻止し、軍事的、経済的、外交的、その他あらゆる手段を用いて北朝鮮の体制維持を支えるのです。 

ただし、絶頂期を過ぎたとはいえ、米国の国力は世界最大です。ちなみに、ロシアの軍事力は現在でも侮れないですが、その経済力は、GDPでみると東京都を若干下回る程度です。 

ロシアも中国も現状打破の時期とは思っていません。たとえば、在韓米軍がいる間、南進など考えるはずはないです。長期的にはともかく、こと半島問題に関しては、現状維持を望んでいるのです。少なくとも、今この瞬間はそうなのです。 

では、米国のほうはどうでしょうか。韓国の文在寅政権は、すべてが信用できないです。ならば、どこを基地にして北朝鮮を攻撃するのでしょうか。さらに、北の背後には中露両国が控えています。そんな状況で朝鮮戦争の再開など考えられないです。 

しかも、文在寅は在韓米軍の撤退を本気で考えています。そうなれば、朝鮮半島が大陸(とその手下の北朝鮮)の勢力下に落ちます。ならば、少しでも韓国陥落を遅らせるのが現実的であって、38度線の北側の現状変更など妄想です。 
しかも、以前からこのブログにも掲載しているように、現状をさらに米国側から検証してみると、北朝鮮およびその核が、朝鮮半島全体に中国の覇権が及ぶことを阻止しているのです。北の核は、日米にとって脅威であるばかりではなく、中国やロシアにとっても脅威なのです。 
さらに、韓国は中国に従属しようとしてるのですが、韓国は中国と直接国境を接しておらず、北朝鮮をはさんで接しています。そうして、北朝鮮は中国の干渉を嫌っています。そのため、韓国は米国にとってあてにはならないのですが、かといって完璧に中国に従属しているわけでもなく、その意味では韓国自体が安全保障上の空き地のような状態になっています。 
この状況は米国にとって決して悪い状態ではないです。この状況が長く続いても、米国が失うものは何もありません。最悪の自体は、中国が朝鮮半島全体を自らの覇権の及ぶ地域にすることです。これは、米国にとっても我が国にとっても最悪です。
このように、米国・中国・ロシア・北朝鮮ともに、現状を破壊することは望んではいないのです。現状維持(英語の外交用語で"Status quo")が当面これらの国々にとってベストな選択なのです。 その中で、韓国だけが、制裁で大変な北朝鮮にうまく利用されて、勘違いして、現状を変更しようとしているのです。

米国・中国・ロシアにとって、北朝鮮と韓国が統一するのかどうかなど二義的な問題にすぎません。統一朝鮮が米国側につけば、中国・ロシアの負けです。統一朝鮮が、中露側につけば米国の負けです。

そのようなことになる前には、当然かなりの紆余曲折があり、中米露とも失うものが大きい可能性があります。そのようなことになるよりは、現状維持がはるかに良いのです。

北朝鮮は、南北統一を望んでいません。統一すれば、金王朝が危うくなるだけです。平和的な統一に必要な妥協を受け入れる動機が、同氏にはほとんどありません。

そこにきて、韓国の文在寅は、現状を破壊する方向に向かおうとしています。これでは、文在寅は、周辺国からは単なる秩序破壊者であり、単に一人芝居をしているようにしかみえません。

これが、文がマスコミ関係者というのなら、それはそれで良いかもしれませんが、到底朝鮮半島の未来を背負って立つ人材ではありません。トランプ大統領もこの程度の人物にまともに話をしても時間の無駄と判断したのでしょう。

金正恩は、中国の干渉を嫌っています。この干渉から逃れるため、核を開発して、米国のトランプ大統領を交渉のテーブルに引き出したのです。これが、トランプ大統領が金正恩をある程度評価する真の理由です。

しかし、米国とて北朝鮮に過度に肩入れすれば、現状を破壊してまうことになりかねません。それに北の核は米国にとっても相変わらず脅威であることには変わりありません。

トランプ政権というか米国は、朝鮮半島は現状維持したうえで、中国と対峙し、かなりの時間をかけても、中国の体制を変えるか、あるいは、中国経済を弱体化させ、周辺諸国に対して影響力を行使できないまでに弱体化させようとしています。

もし、これが成就すれば、朝鮮半島問題などほとんど何もしなくても、自動的に解決するでしょう。その中にあって、現状を変更させようとする文在寅は邪魔な存在以外の何ものでもありません。

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