2024年9月22日日曜日

ユニクロ柳井氏の「日本人滅びる」発言 混同に注意、企業経営者の「ミクロ」の視点で「マクロ」経済の答えは出てこない―【私の論評】マクロ・ミクロ経済の違いを水道管理の例で徹底解説:相互作用とバランスの重要性

 高橋洋一「日本の解き方

ユニクロ柳井氏の「日本人滅びる」発言 混同に注意、企業経営者の「ミクロ」の視点で「マクロ」経済の答えは出てこない

まとめ

  • ユニクロの柳井正会長は生産性向上のために移民受け入れを提唱し、日本人の働き方について警鐘を鳴らした。
  • 楽天の三木谷浩史会長は、海外企業の労働環境を引き合いに出し、労働規制の見直しを求めた。
  • ZOZOTOWNの創業者前沢友作氏は「日本人らしさ」を重視し、連帯の重要性を主張した。
  • 経営者の意見はミクロ経済の視点に基づいており、日本全体の問題はマクロ経済で考えるべきである。
  • 日本経済の低迷は金融政策と財政政策に起因しており、経営者にマクロ経済の解決策を求めても効果が薄い。

 ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の「日本人は滅びる」発言が論争を呼んでいる。柳井氏は生産性向上のため移民受け入れを提唱し、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は労働規制の見直しを求めた。

 一方、ZOZO創業者の前沢友作氏は「日本人らしさを生かして連帯すべき」と反論した[2]。これらの意見の相違は、企業経営のアプローチの違いと捉えることができる。

 しかし、経営者の発言はミクロ経済の範疇であり、日本全体の問題はマクロ経済の視点が重要となる。マクロ経済の観点からは、バブル崩壊後の日本経済の低迷は金融政策と財政政策の問題に起因するのだ。

 経営者にマクロ経済の問題を尋ねても適切な解決策は得られず、問題を複雑化させるだけである。政府と日銀にとっては、この状況が過去の失政を隠蔽するのに好都合となっている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。まとめは、元記事の内容をまとめ5つの箇条書きにしたものです。

【私の論評】マクロ・ミクロ経済の違いを水道管理の例で徹底解説:相互作用とバランスの重要性

まとめ
  • ミクロ経済は企業や家庭の水道管理に例えられ、マクロ経済は政府や水道局による大規模な水の供給管理に相当する。
  • マクロの適切な水管理があって初めて、企業や家庭は効率的に水を利用でき、両者は相互に支え合っている。
  • 個別の企業や家庭が自己利益のみを追求すると、渇水時の水確保やインフラ整備が不十分になり、全体に悪影響を与える。
  • マクロレベルでの水源管理やインフラ投資が不足すると、個々の節水努力では水の安定供給を維持できない。
  • 水道の例と同様に、経済政策でもミクロとマクロの両方を考慮し、バランスの取れた対策が必要である。

最近の水道メーターはデータを管理会社に発信し、さらにスマホで確認できる

マクロ経済とミクロ経済を巡っては、上の記事で述べられているような混乱がよく生じます。ここでは、水の管理を例に挙げて、両者の違いを説明しましょう。ミクロ経済を企業経営者の視点から見ると、自社の建物内の水道設備、つまり蛇口から水道メーターまでの管理に例えられます。これには社内の水の使用量管理、水道料金の支払い、配管の修理や維持、節水対策の実施が含まれます。

一方、マクロ経済を政府や水道局の視点から見ると、より大規模な水の供給と管理を担当します。具体的には、水源の確保と保護、浄水場の運営、主要な水道管のネットワーク整備、水質管理、供給量全体の調整、水道料金の設定、渇水時の対応などが含まれます。

マクロ経済は単にミクロ経済の積み上げではない

マクロ経済が単にミクロ経済の積み上げではない理由は、水の管理でも明らかです。例えば、ある企業の水の使用が他の企業や家庭の利用可能な水量に影響を与えることがあります。また、個々の企業が水を大量に使用したり、汚染を発生させたりすれば、社会全体の水質や供給に影響を及ぼすこともあります。

さらに、政府の水道料金設定や節水政策が、企業や家庭の水使用に大きな影響を与えます。大規模な水道システムの運営は、各企業や家庭が独自に水を確保するよりも効率的です。

このように、水の管理においては、ミクロとマクロの両方の視点で異なる要素や対応が必要となります。マクロ経済は、複雑な相互作用や大規模な要素を考慮に入れる必要があるため、単にミクロの行動を足し合わせたものでは説明できません。この例は、経済全体にも当てはまります。

ミクロの観点だけで水道を管理すると、いくつかの問題が生じる可能性があります。例えば、企業や家庭が自己の利益のみを考えると、全体としての水資源の効率的な利用が難しくなることがあります。渇水時に一部の企業が過剰に水を確保すれば、他の利用者に深刻な影響を与える可能性があります。また、大規模なインフラ整備が疎かになると、水の安定供給が脅かされる恐れがあります。

さらに、個別の利用者では一貫した水質管理が難しくなり、公衆衛生上の問題に発展する可能性もあります。各家庭や企業が独自に水を確保する場合、非効率な投資が生じ、災害時には大規模な供給が困難になることも考えられます。このように、ミクロの視点だけでは水道システム全体の持続可能性を確保することは難しく、マクロ的な視点が必要です。

マクロ的な管理が長期間適切に行われないと、ミクロの努力では補えない深刻な問題が生じることがあります。例えば、水源の管理や大規模な浄水場、主要な水道管ネットワークの整備が適切でない場合、個々の家庭や企業が節水に努めても、安全で安定した水の供給は困難になります。

安定した水の供給があってこそ、ミクロレベルでの水道管理が意味を持ちます。蛇口をひねれば清浄な水が出るという状況が確保されているからこそ、個々の利用者は自分たちの使用量や料金管理に集中できるのです。水源や主要設備に問題があれば、いくら注意深く水を使っても水質や供給量の問題を解決することはできません。

つまり、水道事業はマクロとミクロの両方の視点が調和して初めて機能します。マクロレベルでの適切な計画や投資が、ミクロレベルでの効率的な水利用を可能にし、それが全体の水道システムの持続可能性を支えるのです。

マクロ的な管理が不足している状況をミクロの視点だけで捉えると、様々な問題が生じます。個別の事例や短期的な現象に注目することで、長期的かつ構造的な問題を見逃す恐れがあります。例えば、水道インフラの老朽化を単なる漏水事故としか認識できないことがあります。

水道は局所的な対策では対処できない場合がある

局所的な解決策では根本的な原因に対処できず、同じ問題が繰り返されるリスクもあります。資源が効率的に配分されないことで、全体のパフォーマンスが低下することもあります。相互依存性を無視した対策は、他の部分に悪影響を及ぼす可能性もあります。したがって、ミクロ的アプローチだけでは複雑な経済システムや社会インフラの問題に適切に対処することはできず、マクロとミクロの両方の視点が必要です。

水道の例から得られる教訓は、経済においてもマクロとミクロの視点を統合することの重要性です。個々の経済主体の行動(ミクロ)を理解し、それが集積して形成される経済全体の動き(マクロ)を把握することが不可欠です。

水道システムの持続可能性が適切なマクロ管理とミクロレベルでの効率的な利用に依存するように、経済の健全な発展も、適切なマクロ経済政策と個々の経済主体の合理的行動の調和に依存します。一方だけでは十分ではなく、両者のバランスが重要なのです。この教訓は、経済政策の立案や企業戦略の策定において、常にマクロとミクロの両面から分析し、総合的な視点を持つことの重要性を示しています。

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2024年9月21日土曜日

3位転落 小泉進次郎の「誤算」、自民党総裁選の終盤情勢は?「高市総理」誕生なるか―【私の論評】高市早苗氏の支持急増と派閥政治への影響:保守主義と急進改革の対立

3位転落 小泉進次郎の「誤算」、自民党総裁選の終盤情勢は?「高市総理」誕生なるか

まとめ
  • 自民党総裁選は2024年9月27日に投開票予定で、候補者は9人。小泉進次郎氏の支持が伸び悩む中、高市早苗氏が勢いを増している。
  • 各種世論調査では、石破茂氏、高市氏、小泉氏が上位3位にランクインしており、高市氏の支持が特に強い。
  • 国会議員票の行方が重要で、小泉氏は約50票を確保しているが、目標には届いていない。
  • 決選投票では高市氏と石破氏が進む可能性が高く、政策を明確に打ち出す候補が有利になる傾向がある。
  • 各メディアの調査結果では、候補者間での支持率に差が見られ、総裁選の行方は依然として不透明である。

小泉進次郎氏

自民党総裁選は2024年9月27日に投開票が予定されており、9人の候補者による論戦が繰り広げられている。当初、有力視されていた小泉進次郎氏の支持が伸び悩む一方で、高市早苗氏が勢いを増しており、石破茂氏も有力候補として注目されている。小泉氏は改革派として、国政選挙において「改革といえば自民」というイメージを掲げ、迅速な変革を進めることを主張している。

世論調査の結果では、石破氏、高市氏、小泉氏が上位3位を占めることが多く、自民党支持層では高市氏の支持が強い傾向がある。地方党員票では石破氏と高市氏が優位に立ち、国会議員票の行方が重要な要素となっている。小泉氏は約50票を確保しているが、目標には届いていない状況だ。多くの議員がまだ態度を決めかねているため、選挙戦は流動的だ。

今後の展開として、高市氏と石破氏が決選投票に進む可能性が高いとの見方があります。決選投票では国会議員の動向が鍵を握り、政策を明確に打ち出す候補が票を伸ばす傾向にあるため、高市氏に有利な局面も考えられます。

各種調査結果の現状は以下の通り:

●共同通信(9月15~16日)
1位 高市早苗氏 27.7%
2位 石破茂氏  23.7%
3位 小泉進次郎氏 19.9%

●朝日新聞(9月14~15日)
1位 石破茂氏 32%
2位 小泉進次郎氏 24%
3位 高市早苗氏 17%

●読売新聞(9月14~15日)
1位 石破茂氏 26%
2位 高市早苗氏 25%
3位 小泉進次郎氏 24.1%

●産経新聞(9月14~15日)
1位 小泉進次郎氏 29.4%
2位 石破茂氏 24.1%
3位 高市早苗氏 16.3%

●日経新聞(9月13~15日)
1位 石破茂氏 25%
2位 高市早苗氏 22%
3位 小泉進次郎氏 21%

総裁選の行方は依然として不透明であり、上位3候補による激戦が続いている状況だ。

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【私の論評】高市早苗氏の支持急増と派閥政治への影響:保守主義と急進改革の対立

まとめ
  • 高市早苗氏の支持率上昇は、自民党内の主要派閥に危機感を与え、従来の派閥政治の構図を揺るがす可能性がある。
  • 高市氏の支持が急増している理由は、経済安全保障政策の実績や保守的な国家観、経済成長を重視する政策によるもの。
  • 高市氏の政策は、戦略的な財政出動や既存の制度を基盤とした着実な改革を強調し、企業からの支持も集めている。
  • ドラッカーの保守主義を例に、高市氏の漸進的な改革が予測可能で実現可能なアプローチと評価できる一方、小泉進次郎氏の急進的な改革はリスクを伴う可能性が大きい。
  • 小泉氏の急進的な改革路線は、自民党の保守的支持層には危険と映る可能性があり、それに対して高市氏の保守的な政策が支持を集めている。

高市早苗氏

高市早苗氏の支持率上昇と勢いの増加は、自民党内に大きな波紋を広げています。当初は泡沫候補に近い扱いを受けていた高市氏ですが、最近では急速に支持を集めており、この状況は一部の派閥にパニックを引き起こしています。

特に旧岸田派、麻生派、旧二階派などの主要派閥は、高市氏の台頭に危機感を抱いているとされています。これらの派閥は従来の派閥政治の枠組みの中で影響力を維持してきましたが、高市氏の支持拡大により、その構図が崩れる可能性が出てきたためです。

高市氏の支持が急増している理由として、経済安全保障担当大臣としての実績や、明確な国家観と経済政策の主張が挙げられます。彼女は経済や国防に関して保守的な立場を示しており、一部の支持層から強い支持を得ています。

また、高市氏は「子育て支援金制度」について、「社会保険料で財源を生み出すことになると、実質的に増税と同じだ」と述べています。さらに、「特に子育て世代の生活を圧迫することになり、やるべきではない」と明確に否定的な立場を示しています。

代替案として、「所得が増えれば歳入は2倍から3倍に増える。まずはいかに所得を増やすか、GDPを大きくしていくかということで成長戦略を訴えている」と述べ、経済成長を通じた財源確保を主張しています。

さらに、高市氏は成長分野や危機管理分野への戦略的な財政出動を主張しており、これが企業からの支持を集めている可能性があります。「明確な国家観を持ち、国家経営理念をしっかり打ち出せる人」という姿勢を強調する彼女のアプローチは、従来の派閥政治とは異なる動きを生み出しています。

この状況は、自民党内の力学や総裁選の行方に大きな影響を与える可能性があり、今後の展開が注目されています。特に、岸田派や麻生派、二階派などの主要派閥が高市氏の台頭にどのように対応するかが、総裁選の結果を左右する重要な要素となるでしょう。

麻生太郎氏

麻生派が高市早苗氏を支持する可能性は十分に考えられます。まず、河野太郎氏の支持が伸び悩んでいる現状があり、麻生派としても期待通りの展開にはなっていません。また、麻生派内には石破茂氏に対して否定的な感情を持つ議員が多く、小泉進次郎氏が菅義偉元首相の後ろ盾を得ていることから、麻生派にとって小泉氏を支持することは難しい状況です。

高市氏の経済安全保障政策や保守的な姿勢は麻生派の政策方針と比較的近く、決選投票で高市氏と石破氏、または高市氏と小泉氏という構図になった場合、麻生派にとって高市氏を支持することが戦略的に有利な選択肢となる可能性があります。麻生氏が派閥内で柔軟な対応を取る余地を示唆していることも、高市氏への支持につながる要因となるでしょう。

当初、泡沫候補に近い扱いを受けていた高市氏がここまで勢いを増したことは驚くべきことです。一方で、当初は有望視されていた小泉進次郎氏が勢いを落としたことも、同様に注目すべき点です。

これは、小泉氏が改革推進派である一方、高市氏が保守派であるという立場の違いの結果かもしれません。ただし、保守主義については多くの人に誤解があるように思われます。保守主義とは、政治上の立場ではないことをこのブログでは過去に掲載しました。どちらかというと、日本語でいうところの中庸に近いものです。

経営学の大家ドラッカーは保守主義について次のように明確に述べています。

「保守主義とは、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会を保つための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していく原理である。これ以外の原理はすべて破綻を招く」(ドラッカー名著集(10)『産業人の未来』)。

ドラッカーが提唱する保守主義は、過去を懐かしむものではなく、未来志向のもとで現実的な問題解決を目指すものです。この考え方には、未来志向であること、現実的な問題解決を重視すること、既存の知識や方法を活用することという3つの特徴があります。

ドラッカーは「過去は復活しえない」「青写真や万能薬をあきらめ、目前の問題に対して有効な解決策を見つける」「使えるものはすでに手元にあるものだけである」と述べ、既存の制度や知識を基盤とした漸進的な改革を重視しています。

彼は、急激な変化が社会に不安定をもたらす可能性があるため、予測可能で実現可能な改革を推奨しています。また、漸進的な改革は広範な合意を得やすく、社会の分断を防ぐ効果もあります。

ドラッカー

一方で、小泉進次郎氏の改革路線は、より急進的で大胆な政策を打ち出しています。彼は「聖域なき構造改革」を掲げ、選択的夫婦別姓やライドシェアの全面解禁、解雇規制の緩和などを提案しています。こうした改革は革新的と評価される一方、急激な変革が社会に混乱をもたらすリスクも指摘されています。特に労働市場改革などの敏感な分野では、慎重なアプローチが求められるべきです。

2023年6月に成立したLGBT理解増進法は、急進的改革の一例として挙げられます。この法律は性的マイノリティへの理解を促進するものですが、その成立過程や内容は、ドラッカーの保守主義的アプローチとは異なり、急進的な側面が目立ちました。拙速な成立には疑問が呈されており、急進的な改革には予期せぬ結果が生じる可能性もあることを認識する必要があります。

こうした背景から、小泉進次郎氏の急進的な改革路線が、保守的な自民党の支持層には危険と映った可能性があります。小泉氏が総理となり、改革を実行すれば、自民党の保守岩盤支持層がさらに離れるという危機感を抱いているのかもしれません。

これは必ずしも上で述べた理路整然としたドラッカーの保守主義の認識に基づくものではなく、肌で感じ取った危機感や地頭での判断かもしれません。しかし、従来の派閥の論理からは離れた動きとして注目すべきと思います。

一方で、高市氏は急激な変革よりも既存の制度や価値観を基盤とした政策を重視しており、それが支持を集める要因となっていると考えられます。彼女の政策や行動を過激と見なす人もいますが、歴史的および国際的な視点から見ると、高市氏の政策等は保守本道を着実に進めているに過ぎないと言えるでしょう。

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2024年9月20日金曜日

<主張>日本人児童刺殺 中国政府に反省ないのか―【私の論評】深セン日本人児童殺害事件:邦人保護の緊急性と中国入国管理強化の必要性

<主張>日本人児童刺殺 中国政府に反省ないのか

まとめ
  • 中国深圳市で日本人男子児童が刺殺され、以前にも日本人母子が襲撃される事件が発生し、日本人の安全に対する懸念が高まっている。
  • 中国外務省は「同種の事件はどの国でも起こり得る」とし、具体的な再発防止策を示さない姿勢は大問題である。
  • 岸田首相は中国側に説明を求めるよう指示したが、より積極的な外交的対応をすべきである。
  • 事件の根本には中国共産党による反日教育があり、在留邦人の安全確保には中国の姿勢の変化が必要である。
  • 日本政府は中国への不要不急の渡航自粛を促し、企業は駐在員や家族の帰国を検討し、政府は帰国後の支援を行うべきである。

 中国深圳市で日本人学校に通う10歳の男児が刺殺され、数ヶ月前には蘇州市でも日本人母子が襲撃される事件が発生した。これらの事件は、日本人が中国で安全に暮らし、活動できるかという深刻な疑問を投げかけている。無辜の児童が命を奪われた痛ましさと、理不尽な凶行への怒りは計り知れない。

 中国外務省の対応は不十分で、「同種の事件はどの国でも起こり得る」という発言は許しがたい。短期間に日本人が相次いで襲撃される国は中国以外にない。中国政府は事態を深く反省し、具体的な再発防止策を明確に示すべきだ。

 岸田首相は中国側に説明を求めるよう指示したが、自ら動いて中国首脳に対策を講じるよう直接迫るべきである。また、日本政府は中国側に犯行動機などの情報公開を強く求めるべきだ。

 事件の根本的な原因として、中国共産党政権による反日教育が指摘される。東京・九段北の靖国神社で相次ぐ中国人の落書きも同じだ。政治的思惑で反日をあおる中国の姿勢が改まらない限り、在留邦人の安全は確保できない。

日本政府は中国への不要不急の渡航自粛を国民に促し、企業は駐在員や家族の帰国を検討すべきだ。政府は帰国後の住居や教育などの支援も行うべきである。

 このような邦人が被害を受ける悲劇を二度と繰り返さないために、日中両政府による迅速かつ効果的な対策が急務である。

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【私の論評】深セン日本人児童殺害事件:邦人保護の緊急性と中国入国管理強化の必要性

まとめ
  • 深センでの日本人児童殺害事件は、意図的に日本人を標的とした可能性があり、邦人に対する重大な脅威として捉えるべきである。
  • 日本政府は海外で生活する日本人、特に子供の安全を守る責務があり、迅速かつ的確な対応が求められる。
  • 過去の事例(バングラデシュでの日本人殺害など)を踏まえ、今回の事件でも邦人保護のため帰国を強く促すべきである。
  • 中国での組織的な反日教育や歴史的対立の背景を考慮し、予防的に邦人の帰国を促すことが重要である。
  • 国内の安全確保のため、中国人の入国管理についてより厳密な審査や監視体制の検討が必要である。

この事件は確かに大変悲惨で、特に子供が犠牲となったことは多くの人々に深い衝撃を与えています。まずはなくなったお子さんの御冥福をお祈りさせていただきます。

深センでの日本人児童刺殺事件は、南山区(Nanshan District)で発生したと報道されています。南山区は、深セン市の中でも比較的裕福なエリアで、特に高い技術産業や外国人居住者が多く、日本人学校もこの地域に位置しています。


中国における日本人学校での事件がどのような意図のもとで発生したか、現時点での公式な情報はまだ明確ではないものの、日本政府は迅速かつ的確な対応を行うべきです。

日本政府は、海外で生活する日本人を保護をする責務があります。特に子供の安全が脅かされる状況では、迅速な対応が求められます。過去の例では、政治的緊張が高まった国や地域で、政府が自国民に対し帰国を促すケースは少なくありません。

たとえば、2020年の新型コロナウイルスのパンデミック初期には、日本政府は感染リスクの高い地域からの邦人の帰国を奨励しました。こうした前例に基づき、今回の事件を受けて、深刻な安全保障上の懸念がある場合には帰国を強く促すことは正当です。

バングラデシュ北部ラングプルで、日本人男性の星邦男さんを銃撃し死亡させたとされる四人の犯人

日本人がターゲットとなった事件は、過去にも世界各地で発生してきました。たとえば、2015年10月3日、バングラデシュ北部ラングプルで、日本人男性の星邦男さんが銃撃され、死亡しました。星さんは農業プロジェクトに従事しており、移動中にバイクに乗った二人組に襲撃されました。

この事件では、イスラム国(ISIS)が犯行声明を出しましたが、バングラデシュ政府は国内の過激派組織「ジャマートゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ(JMB)」が関与している可能性を指摘しています。同時期にイタリア人もダッカで殺害されており、外国人を狙った一連の襲撃として国際的に大きな警戒が高まりました。日本政府も邦人保護のため、対応を強化しました。

今回の深センでの事件も、確証が得られていないものの、意図的に日本人を標的とした可能性が考えられるため、同様に邦人に対する脅威と捉えるべきです。

テロ行為はしばしば、社会に大きな恐怖や不安をもたらすことを目的としています。そして、その恐怖を最大化するために、無防備で弱い立場にある人々が意図的に狙われることが多いです。

2014年にパキスタンの学校で発生したタリバンによる襲撃事件での犠牲者

たとえば、2014年にパキスタンの学校で発生した襲撃事件では、タリバンが学生を標的にし、多くの子供たちが犠牲となりました。今回の深センでの事件がテロと見なされるべきかどうかはまだ議論の余地がありますが、子供が犠牲になったという事実は、深刻な意図を感じさせるものであり、日本政府としても「テロ」として警戒することは必要です。

中国当局が今回の事件をどのように認識し、対応するかは、今後の調査次第ですが、日本政府としては慎重かつ迅速な外交的対応が求められます。中国は1990年代から組織的・体系的な反日教育を実施しており、日中間の歴史的な対立や領土問題などが影響し、特定の個人や集団が日本人を敵視するケースも考えられます。

日本政府がこうした背景を踏まえて邦人保護に努めることは当然であり、事件の背景が明らかになるまでの間でも、予防的に帰国を促すべきです。

国内での安全を確保するため、中国人の入国管理について議論することも必要です。多くの国が、テロリズムや犯罪を防ぐために、特定の国からの入国に対して厳しい審査を行っています。

例えば、米国は9.11以降、特定の国からの入国者に対して厳しいセキュリティチェックを行う政策を導入しました。日本においても、中国からの移民や短期滞在者に対して、より厳密な審査や監視体制を検討することは、安全保障の観点から必要です。

深センでの事件は、偶然の犯行ではなく、日本人をターゲットにした計画的な襲撃である可能性が高く、邦人の安全が脅かされる状況にあります。日本政府は、まずは邦人保護を最優先に考え、帰国を強く促すことが重要です。また、国内でのテロの脅威に備えるため、中国人の入国についての議論も行う必要があります。

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2024年9月19日木曜日

今度はヒズボラの無線機が爆発、500人弱死傷 あわてて電池を取り外す戦闘員の姿も―【私の論評】中東情勢最新動向:イスラエルとヒズボラの緊張激化、米大統領選の影響と地域安定への懸念

今度はヒズボラの無線機が爆発、500人弱死傷 あわてて電池を取り外す戦闘員の姿も

まとめ
  • 18日にヒズボラの携帯無線機が爆発し、14人が死亡、450人が負傷。前日にはポケベルの爆発で12人が死亡、3000人近くが負傷。
  • ヒズボラ幹部が報復を宣言し、レバノン当局はイスラエルのモサドの関与を示唆。
  • 米国務長官とUN事務総長が事態悪化への懸念を表明し、外交努力への影響を警告。
  • イスラエルは北部国境に部隊を増派し、対立が激化する可能性が高まっている。

レバノンで起きたヒズボラの通信機器の連続爆発事件が、中東地域の緊張を高めています。18日には携帯無線機の爆発で14人が死亡、450人が負傷し、前日のポケベル爆発では12人が死亡、3000人近くが負傷しました。

これを受けてヒズボラ幹部が報復を宣言し、レバノン当局はイスラエルのモサドの関与を示唆しています。米国務長官とUN事務総長は事態悪化への懸念を表明し、外交努力への影響を懸念しています。

一方、イスラエルは北部国境に部隊を増派し、両者の対立が激化する可能性が高まっています。この一連の出来事は、中東地域の不安定さをさらに増大させ、平和への取り組みを複雑にする恐れがあります。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中東情勢最新動向:イスラエルとヒズボラの緊張激化、米大統領選の影響と地域安定への懸念

まとめ
  • ヒズボラはハマスよりも強力な軍事力を持ち、イスラエルにとってより深刻な脅威となっている。
  • イスラエルとヒズボラの間で低強度の戦闘が続いており、2024年8月には大規模な衝突が発生した。
  • 米国を含む国際社会は事態の沈静化と紛争の拡大防止に向けて外交努力を続けている。
  • トランプ政権によるアラブ諸国とイスラエルの関係改善は、ハマスやヒズボラの存在意義に深刻な影響を与えている。
  • 米大統領選挙の影響で、イスラエルは警戒を高めており、今回のポケベルやトランシーバーへの攻撃はその一環である可能性がある。
2023年6月21日、レバノン南部ジェジーヌ地区のアラムタ村で訓練を受けるヒズボラ戦闘員

ヒズボラやハマスはテロリストとして知られています。テロリストというと、日本では武装をした暴力団というようなイメージでしょうが、その軍事力だけをみれば軍隊と行っても良いような規模です。

そのなかでもヒズボラはハマスよりも強力な軍事力を持っており、イスラエルにとってより深刻な脅威となっています。具体的には以下の点でヒズボラの軍事力がハマスを上回っています。

1. ミサイル保有数:ヒズボラは12万~20万発の短距離ロケット弾やミサイルを保有しているとされ、これはイスラエル全土を射程に収めています。一方、ハマスは約2万発の中・長距離ミサイルを保有しているとされています。

2. 戦闘員数:ヒズボラは予備役を含めて約5万人の戦闘員を有しているのに対し、ハマスは約3万人の戦闘員を有しています[1]。

3. 戦闘経験:ヒズボラの戦闘員の中には、シリア内戦に参加した経験豊富なエリート特殊部隊約7000人が含まれています。この実戦経験がヒズボラの軍事力を高めています。

4. 装備と訓練:ヒズボラの戦闘員はハマスよりも訓練が行き届いており、装備も優れているとされています。

5. 地理的優位性:ヒズボラはレバノン南部を拠点としており、イスラエル北部に隣接しています。この地理的な近さが、イスラエルにとって即時的な脅威となっています。

これらの要因により、ヒズボラとの大規模衝突が発生した場合、イスラエルは甚大な被害を被る可能性があります。そのため、イスラエルはヒズボラに対してより慎重な対応を取らざるを得ない状況にあります。

レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは最近、イスラエルとの間で低強度の戦闘を続けています。両者の間で攻撃の応酬が続いており、特にレバノンとイスラエルの国境地帯で緊張が高まっています。2024年8月25日には、ヒズボラがイスラエル北部に対して320発以上のロケット弾を発射し、イスラエル軍も約100機の戦闘機でレバノン南部を空爆するなど、大規模な衝突が発生しました。

この衝突の背景には、2024年7月にイスラエル軍がヒズボラの幹部サーレハ・アールーリーをベイルートで暗殺したことへの報復があるとされています。また、イスラエル軍はガザ地区でのハマスへの攻撃を継続しており、ヒズボラはハマスに連帯を示す形で攻撃を行っています。

2024年8月25日には、ヒズボラがイスラエル北部に対して320発以上のロケット弾を発射

イスラエル側の対応としては、ガラント国防相が「戦争を望んではいないが、準備はできている」と発言し、ヒズボラをけん制しています。また、イスラエル軍はレバノンでの地上作戦を想定した訓練も実施しており、事態の悪化を防ぐことが焦点となっています。

一方、国際社会の動きとしては、米国が事態の悪化を防ぐため外交努力を行っています。2024年9月16日には、アメリカの特使がイスラエルを訪れ、ネタニヤフ首相らとヒズボラへの対応について協議すると報じられました。また、米国のブリンケン国務長官は、ガザ地区での戦闘を激化させ、戦闘を拡大させるような措置を避けることが重要だと強調しています。

イランはヒズボラの後ろ盾となっており、イスラエルとの対立においてヒズボラを支持しています。イランの国連代表部は、イスラエルが本格的な攻撃に踏み切れば、中東各地の親イランの武装組織がイスラエルに対する戦闘に加わる可能性を示唆し、警告しています。

この状況は、パレスチナ問題やイランの核問題など、中東地域の他の課題とも密接に関連しており、地域全体の安定に影響を与える可能性があります。米国を含む国際社会は、事態の沈静化と紛争の拡大防止に向けて外交努力を続けていますが、依然として緊張状態が続いています。

アブラハム合意

米トランプ政権におけるアラブ諸国とイスラエルの関係改善は、ハマスやヒズボラの存在意義に深刻な影響を与えました。これらの組織は、イスラエルとの対立を核心に据えているため、アラブ諸国がイスラエルと和解すれば、その政治的正当性が大きく損なわれます。

また、支援の減少、交渉力の低下、イデオロギー的基盤の弱体化、地域的影響力の低下といった問題に直面する可能性が高まります。2020年のトランプ政権の仲介によるアブラハム合意に対する強い反発は、この存在意義の危機を反映しています。

このような状況下で、ハマスやヒズボラは自らの存在意義を維持するために、より過激な行動に出る可能性があり、2023年10月のハマスによるイスラエル襲撃もこの文脈で理解できます。つまり、アラブ諸国とイスラエルの関係改善は、これらの組織の存在意義を脅かす重大な要因となっており、彼らの行動に大きな影響を与えていると言えるでしょう。

米大統領選挙の最中、イスラエルが警戒を高めている可能性は十分にあります。選挙結果によって米国の中東政策が大きく変わるため、イスラエルはその不確実性に備えていると考えられます。また、大統領候補者たちがイスラエル支持を強調することで、敵対勢力を刺激する恐れがあります。

さらに、テロ組織が米国の関心を利用して攻撃を仕掛ける可能性もあり、イスラエルはこれに対処するため警戒を強化しているでしょう。選挙期間中の米国の外交的空白を利用した地域の不安定化も懸念されます。このような状況から、イスラエルが警戒を高めるのは自然な流れと言えるでしょう。

今回のポケベルや、トランシーバーへの攻撃はその一環かもしれません。ただし、そうだとすれば、この攻撃にはリスクも伴います。地域の緊張を高め、報復攻撃を誘発する可能性があるため、イスラエルはこの決定を慎重に検討したことでしょう。

ただ、今回の通信機器への攻撃は、中東地域の出来事にとどまらず、世界中の戦争行為に影響を与える可能性を秘めており、まさにイスラエルはパンドラの箱を開けてしまったかもしれません。これについては、昨日の記事で詳しく解説しました。こちらもあわせて、ご覧になって下さい。

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衣服内で同時爆発、市民パニック 体中が出血、重傷者多数 レバノン―【私の論評】安倍政権下の日米安全保障協議(2プラス2)の成果:サイバー武力攻撃対策に先見の明

衣服内で同時爆発、市民パニック 体中が出血、重傷者多数 レバノン

まとめ
  • レバノンで17日に発生したポケベル型通信機器の同時多発爆発は、イスラエルのヒズボラ戦闘員を標的とした作戦と見られ、市民に大きな恐怖と混乱をもたらした。
  • 爆発により少なくとも9人が死亡し、約2,750人が負傷。病院には多くの重傷者が搬送され、医療従事者不足の中、非番の医師も治療に動員された。
  • 爆発の原因にはマルウェアや高性能爆薬の可能性があり、ヒズボラは通信機器の使用に警戒感を示し、独自の通信システムを利用するよう指示していた。


レバノンで17日、ポケベル型通信機器の同時多発爆発が発生し、市民をパニックに陥れました。この事件は、イスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘員を標的としたイスラエルの作戦だと見られています。

爆発により、少なくとも9人が死亡し、約2,750人が負傷しました。SNSには、爆発の瞬間を捉えた動画が投稿され、病院には多数の負傷者が搬送されました。爆発の原因については情報が錯綜しています。マルウェアの使用や高性能爆薬の仕込みなど、様々な可能性が指摘されています。

ヒズボラは以前から携帯電話の使用に警戒感を示しており、最近では独自の通信システムを利用するよう指示していたとされています。この前例のない攻撃は、市民を巻き込み、恐怖と憤りを引き起こしています。医療従事者不足の中、非番の医師も動員されて治療に当たりました。ヒズボラはイスラエルを非難し、報復を示唆しています。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】安倍政権下の日米安全保障協議(2プラス2)の成果:サイバー武力攻撃対策に先見の明

まとめ
  • ヒズボラが導入したポケベル型通信機器の爆発事件は、物理攻撃とサイバー攻撃の境界が曖昧になってきていることを示している。
  • 2019年日米安全保障協議委員会では、サイバー攻撃による物理的攻撃を武力攻撃とみなすものとして、日米安保条約第5条の規定を適用しうるものとした。これは安倍政権の成果。
  • サイバー攻撃が物理的被害をもたらす「サイバー物理攻撃」のリスクが増大しており、電力網や水処理施設、自動車システムなどが脆弱性が狙われる可能性が高まっている。
  • IoTデバイスの普及に伴い、サイバー攻撃の現実世界への影響が強まり、サイバーセキュリティと物理的セキュリティの統合が重要となっている。
  • 法規制の強化とリスク管理の必要性が高まり、統合的なアプローチによるセキュリティ体制の構築が求められている。
ヒズボラが導入した通信機器は、台湾メーカーの最新型ポケベルで、ここ数カ月以内に導入されたものです。この機器は、イスラエルに位置情報を察知されにくく、サイバー攻撃のリスクが低いと考えられいたようです。

爆発の原因については、通信機器内部に爆発物が仕込まれていた可能性や、遠隔操作で爆発させる技術的可能性が議論されています。多くの専門家やメディアは、この攻撃がイスラエルの工作である可能性を指摘していますが、具体的な証拠は公表されていません。

一方、米国防総省は事件への関与を否定しています。技術的側面では、使用されていた機器が従来のポケベルよりも高度な機能を持っていた可能性が示唆されています。

この前例のない攻撃方法は、中東地域の緊張をさらに高める可能性があり、特にヒズボラとイスラエルの関係に大きな影響を与えると考えられます。しかし、この事件の詳細な仕組みや背景については、まだ多くの不明点が残されています。今後の調査や関係国の声明によって、さらなる情報が明らかになることが期待されます。


2019年4月19日に開催された日米安全保障協議委員会(2プラス2)(写真上)では、日米両国が「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて協力することを確認しました。これについては、このブログにも掲載しました。この会議で特に注目されたのは、宇宙、サイバー、電磁波を含む新たな領域での協力の重要性が強調されたことです。

特筆すべきは、サイバー攻撃に対して日米安保条約第5条が適用され得ることが明記されたことです。この条項は、日本国の施政下にある領域に対する武力攻撃が発生した場合、日米両国が共同して対処することを定めています。具体的には、日本が武力攻撃を受けた際、アメリカ合衆国は日本を防衛する義務を負うことを意味します。

これは、サイバー攻撃による物理的攻撃を武力攻撃と同視し、自衛権の対象となり得ることを意味しています。この決定は、NATOなど他の国際的な取り組みの流れに沿ったものであり、サイバーセキュリティの国際規範の強化につながる重要な一歩だったといえます。

これらの成果は、安倍政権下での外交・安全保障政策の重要な一環として評価できます。安倍晋三首相の時代には、特に日米同盟の強化が重視され、「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンも安倍政権が提唱してきた戦略の一部でした。サイバー攻撃に対する日米安保条約第5条の適用を明記したことは、安倍政権のリーダーシップのもとで進められた安全保障政策の成果と言えます。

この合意は、主に中国とロシアの宇宙空間やサイバー空間での活動を念頭に置いたものですが、最近のレバノンでのポケベル型通信機器の爆発事件とも無関係ではないと考えられます。この事件は、通信機器を利用した新たな形態の攻撃として、サイバーセキュリティの重要性を改めて浮き彫りにしました。

ポケベル型通信機器の爆発事件は、従来の物理的な攻撃とサイバー攻撃の境界線が曖昧になりつつあることを示しています。この事件は、日米が2019年に合意したサイバー攻撃への対応強化の必要性を裏付けるものとなっています。通信機器を介した攻撃が、物理的な被害をもたらす可能性があることが明確になり、サイバーセキュリティと国家安全保障の関係がより密接になっていることを示しています。

このような状況下で、日米両国がサイバー防衛の協力を強化することは、同盟の強化だけでなく、新たな形態の脅威に対する国際的な対応能力の向上にもつながると考えられます。ポケベル型通信機器の爆発事件は、2019年の日米合意の重要性と先見性を改めて示す出来事となり、今後のサイバーセキュリティ政策に大きな影響を与える可能性があります。

AI生成画像

ポケベル型通信機器の爆発事件は、サイバー攻撃が物理的な被害をもたらす可能性を示す最新の事例です。このような「サイバー物理攻撃」または「サイバー運動攻撃」と呼ばれる攻撃は、近年増加傾向にあり、重大な懸念事項となっています。以下に、サイバー攻撃が物理的攻撃になりうる事例や可能性をいくつか挙げます

1. 産業制御システム(ICS)への攻撃:
2010年のStuxnetウイルスは、イランの核施設の遠心分離機を物理的に破壊しました。同様の攻撃が他の重要インフラに対しても可能です。

2. 電力網への攻撃:

2015年にウクライナで発生した停電は、サイバー攻撃によるものでした。2013年にはアメリカのカリフォルニア州で、メトカーフ変電所が物理的な攻撃を受け、大規模な損害が発生しました。2016年には、ロシアのハッカー集団がアメリカのバーモント州の電力会社のシステムに侵入を試みましたが、幸いにも電力網への直接的な影響はありませんでした。

同じ時期にイスラエルでも、国家電力局のコンピューターシステムが大規模なサイバー攻撃を受けましたが、迅速な対応により被害は最小限に抑えられました。

さらに、2022年にはアメリカで電力インフラに対する攻撃が急増し、過去10年で最多の件数を記録しました。これらの事例は、電力網がサイバー攻撃と物理的攻撃の両方に対して脆弱であることを示しており、電力インフラの保護が重要な課題となっています。

3. 水処理施設への攻撃:
2021年にフロリダ州の水処理施設がハッキングされ、飲料水に含まれる水酸化ナトリウムの濃度を危険なレベルまで上げようとする試みがありました。具体的には、ハッカーが遠隔操作で水処理システムに侵入し、水酸化ナトリウムの濃度を通常の100ppmから11,100ppm(約111倍)に引き上げようとしました。幸いにも、オペレーターがすぐに異常に気づいて設定を元に戻したため、実際の被害は発生しませんでした。

4. 自動車システムへのハッキング:
研究者たちは、車両の制御システムをリモートでハッキングし、ブレーキやステアリングを操作できることを実証しています。

5. 医療機器への攻撃:
インスリンポンプやペースメーカーなどの医療機器がハッキングされ、患者の生命を脅かす可能性があります。実際の攻撃ではなく、現在のところは潜在的なリスクや脆弱性の発見が報告されていますが、これらのリスクに対処することが患者の安全を確保する上で極めて重要です。

6. スマートホームデバイスの悪用:
スマート家電やIoTデバイスがハッキングされ、火災や他の物理的被害を引き起こす可能性があります。

これらの事例は、サイバーセキュリティが単にデータ保護の問題ではなく、物理的な安全にも直結することを示しています。重要インフラや産業システムのデジタル化が進むにつれ、このような脅威はさらに増大する可能性があります。

現在までは、サイパー攻撃が物理的攻撃になった事例はあまり報告されていませんが、今回の事件により、こうした攻撃が一気に顕在化したといえます。

今後の、サイバーセキュリティ対策は、デジタル空間と物理的な世界を包括的に捉えるアプローチが不可欠となりました。ネットにつながるIoT機器の普及により、サイバー攻撃が現実世界に及ぼす影響が増大しており、物理的なセキュリティ対策との連携が重要性を増しています。


同時に、人的要因や組織的な取り組みも考慮に入れる必要があります。統合的なリスク管理を行うことで、より効果的なセキュリティ体制を構築できます。

また、強化される法規制への対応も、この包括的なアプローチの中で考えていく必要があります。サイバー空間と物理的な世界の境界が曖昧になっている現代において、このような統合的な視点は、組織の安全と持続可能性を確保するための鍵となるでしょう。

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2024年9月17日火曜日

なぜ「日本語が話せない」在日中国人が急増しているのか…国内にじわじわ広がる「巨大中国経済圏」の実態―【私の論評】在日中国人の急増と社会・経済圏形成:日本がとるべき対策

なぜ「日本語が話せない」在日中国人が急増しているのか…国内にじわじわ広がる「巨大中国経済圏」の実態

まとめ
  • 日本における中国人の数は増加傾向にあり、2023年末時点で約82万2000人に達し、在日外国人の約3分の1を占めている。
  • 在日中国人の中で、「高度専門職」や「経営・管理ビザ」の取得者が増加しており、20~39歳の働き盛りが全体の半数を占めている。
  • 在日中国人は、内装業や顔認証システムの導入など、中国人向けのビジネスを展開し、独自の経済圏を形成している。
  • 中国系企業は、中国の先進技術(顔認証システムや清掃ロボットなど)を日本市場に導入する役割を担っている。
  • インバウンド事業、特に中国人団体旅行において、来日から観光、買い物まで一貫して中国人が関わる「一条龍」(イーティアオロン)と呼ばれる経済ネットワークが形成されている。
日本に住む中国人の数は年々増加しており、2023年末時点で約82万2000人に達しています。これは山梨県の人口に匹敵し、全在日外国人の約3分の1を占めています。中国人の多くは東京都や神奈川県、埼玉県など首都圏に集中し、特に20〜30代の働き盛り世代が増えており、「高度専門職」や「経営・管理ビザ」を取得している人が多いです。かつてのような不法滞在者や犯罪者は減少し、中国人の経済活動は日本国内でますます活発化している。


在日中国人は日本国内で中国人同士の取引を重視し、独自の経済圏を形成している。たとえば、内装業を営む周勇強氏のケースでは、中国人顧客が口コミで広がり、社員や仕入れ先、顧客のほとんどが中国人で構成されるビジネスモデルを構築している。日本では通常、マンションの内装があらかじめ整えられているが、

中国ではスケルトン状態で販売され、顧客自身が内装を手配する。そのため、日本国内でも中国人顧客が自分の好みに合わせて内装を変える需要があり、周氏の会社はこのニーズに応えている。また、富裕層が日本で不動産を購入した際に内装を依頼するケースも増えており、彼の会社はそれに対応してビジネスを拡大している。

一方、顔認証システムなどの先進技術も中国から日本に持ち込まれている。天時情報システムの武藤理恵氏が手掛ける顔認証システムは、非接触で衛生的であることから、特にコロナ禍で急速に需要が拡大した。このシステムは企業やホテル、スポーツジムなどに導入され、日本国内の中国系企業がその設置を担っている。武藤氏は中国の技術の進展に衝撃を受け、これを日本市場に導入することを決意し、日本におけるビジネス展開を図っている。

さらに、観光業でも中国人同士のネットワークが活発だ。団体旅行客は中国の旅行会社で手続きを行い、来日後も中国系旅行会社によってサポートされている。かつての「爆買い」ブーム時には、中国人観光客をターゲットとした免税店や土産物店が増加し、観光バスのガイドや販売員も中国人が多く従事していた。

また、個人旅行者はSNSを駆使して情報を集め、日本滞在中も中国人経営の違法タクシーなどを利用することがある。これらの中国人向けのビジネスは「中国式エコシステム」(中国語では一条龍"イーティアオロン")とも呼ばれ、中国人だけで経済活動が完結する仕組みが日本国内に広がっている。

このように、日本国内では中国人が独自の経済圏を形成し、観光業やサービス業、技術分野においてもその影響力を強めており、日本社会においても無視できない存在となっている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】在日中国人の急増と社会・経済圏形成:日本がとるべき対策

まとめ
  • 日本のインターナショナルスクールや進学校に中国人学生が増加傾向にあり、中国の中産階級や富裕層が日本の教育機関に注目している。
  • 中国人による高級マンション購入が増加しており、2022年の外国人による新築マンション購入の約7割を占めている。
  • 在日中国人コミュニティが独自の「中国式エコシステム」を形成し、日本のインフラや教育システムを利用しながら経済活動を行っている。
  • 中国の法律が海外在住の中国人に対しても中国政府への協力義務を課しており、これが潜在的な安全保障上のリスクとなっている。
  • 日本は国家安全保障の観点から、ビザ発給基準の厳格化や技術流出防止策の強化など、在日中国人に対する対策を強化する必要がある。
最近、日本のインターナショナルスクールや進学校に中国人の学生が増加しています。インターナショナルスクールは、英語での国際的な教育を求める中国人家庭に人気で、ビジネスや滞在の関係で通うケースも多いです。

また、日本の進学校には、中国のエリート層からの入学希望者が増えており、日本の教育システムに合わせた支援を受けることが一般的です。中国の中産階級や富裕層の家庭が、将来の国際的キャリアを見越して、日本の教育機関に注目しています。この動きは教育だけでなく、ビジネスや外交にも影響を与えています。

「億ション」を購入する中国人に関してはテレビも話題に

都内の高級マンション、いわゆる「億ション」を購入する中国人が増加しているという傾向が報告されています。不動産経済研究所の調査によると、2022年の外国人による新築マンション購入のうち、中国人が約7割を占めており、その多くが1億円以上の物件です。東京都心部、特に港区や中央区での購入が目立ちます。

日本の不動産市場の安定性や、円安の影響で割安感が出ていることも要因とされています。これらの購入者は、自社の中国人社員や家族の居住用、または資産運用として物件を取得しており、都心部の不動産価格上昇にも影響を与えている可能性があります。

東京には中国語専門の本屋(写真下)が開店しました。この書店は、在日中国人や中国語を学ぶ人々のために、中国本土や台湾、香港の書籍を約2万冊取り揃えています。書店内には文学作品や学術書、教材などが豊富にあり、訪れる人々は中国茶を楽しむこともできます。この新たな書店の開店は、日本における中国語の需要の高まりを反映しており、在日中国人コミュニティにとって重要な文化的資源となるでしょう。


中国人による「中国式エコシステム」は、日本のインフラや教育システムを利用して独自の経済圏を形成しています。この現象は、上の記事にもある通り在日中国人の増加に伴い、特に20代から30代の「高度専門職」や「経営・管理ビザ」を持つ人々が増えていることに起因しているようです。

彼らは日本でのビジネスや教育を通じて、自己のコミュニティ内で経済活動を行い、口コミを通じて顧客を増やしています。このような状況は、日本社会への統合を妨げる可能性があり、文化的な摩擦や教育システムへの影響も懸念されます。

また、中国系企業が日本市場で成長する一方で、関連ビジネスはほとんど中国人によって占められ、日本経済全体への還元が限定的であるという批判もあります。こうした動きは、長期的には日本社会の調和や国民の一体感に課題をもたらすかもしれません。

ただ、2023年末時点での在日中国人人口約82万2000人は、日本の総人口の約0.66%に相当します。これは日本の総人口の1%にも満たない割合です。そのため、現在のところは、大きな弊害があるとはいえないでしょう。

しかし、今後中国の経済の低迷などから、日本に合法的に移住する中国人が増えるのは間違いないでしょう。いずれ、弊害がかなりでてくることになるでしょう。

しかし、それ以前に日本は、中国人の「高度専門職ビザ」や「経営・管理ビザ」を制限すべきです。以前もこのブログに掲載したように、米台は中国人の移住を厳しく制限しています。これは、台湾に関しては、当然といえば、当然です。これは、中国による浸透を防ぐことが大きな目的であるからと理解できます。

では米国では、なぜ移住を制限しているかといえば、それはスパイの入国を阻止するという意味合いがあります。


2020年5月に発令された大統領布告13936号は、当時の米国大統領ドナルド・トランプ氏によって発令されました。この布告は、中国の軍民融合戦略に関連する学生や研究者のビザ発給を厳しく制限する内容を含んでいます。

具体的には、中国の軍事関連機関と関係のある学生や研究者に対して入国を制限し、スパイ活動や情報収集のリスクを軽減することを目的としています。また、米国の先端技術や機密情報が中国軍に流出することを防ぐため、ビザ発給の審査が厳格化されています。

この政策は、米国の国家安全保障と技術的優位性を維持するための重要な施策として位置づけられています。

米台と比較すると日本は、あまに無防備です。それは、現状では今だ在日中国人の数が少ないということに起因しているのでしょうが、在日中国人の数は今後増えることはあっても今のままでは、減ることはないでしょう。

中国の国家情報法、反スパイ法、国家安全法等の法律が海外在住の中国人を含むすべての中国国民に対し、中国政府への協力義務を課している現状を踏まえると、日本は国家安全保障の観点から、在日中国人に対する対策を強化する必要があります。

具体的には、ビザ発給基準の厳格化、技術流出防止策の強化、情報収集・分析能力の向上、違反者の国外退去等法的枠組みの整備、国際協調などが求められます。これらの対策を、すべての在日中国人、日本へ移住しようとする中国人に対して一律に適用されるべきであり、「日本社会・経済への貢献」、「平等・人権」、「人柄」、「信条」等という主観的・抽象的な判断に基づいて例外を設けるべきではありません。

日本は自国の安全と利益を最優先に考え、潜在的なリスクを最小限に抑えるための措置を講じる必要があります。

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2024年9月16日月曜日

「トランプが負けたら米国は血の海になる」!?…大統領選「テレビ討論会」はデタラメだらけ!ハリスとABCが深めた「米国の分断」―【私の論評】行き過ぎたアイデンティティ政治が招きかねないファシズムの脅威

「トランプが負けたら米国は血の海になる」!?…大統領選「テレビ討論会」はデタラメだらけ!ハリスとABCが深めた「米国の分断」

まとめ
  • テレビ討論会での司会者の偏った対応が、トランプとハリスの発言に対するファクトチェックに影響を与えた。特に中絶に関する議論では、ミネソタ州の法律が誤解され、トランプの指摘が否定された。
  • ハリスはトランプ政権下での体外受精治療(IVF)の禁止を主張したが、トランプはその方針を打ち出しておらず、ハリスの発言は事実誤認であった。
  • FBIの犯罪データについて、トランプの主張が正しい可能性があるにもかかわらず、司会者はそのデータを根拠にトランプを批判した。
  • シャーロッツビル事件に関するトランプの発言が誤解され、ハリスはその文脈を無視して批判を行ったが、司会者はその誤りを指摘しなかった。
  • 政府とメディアが一体となって真実を歪め、政敵を攻撃する傾向が見られ、これはファシズム的な現象として警戒すべき状況である

アメリカ大統領選挙のテレビ討論会

アメリカ大統領選挙のテレビ討論会において、司会者の偏った対応や事実誤認が見られた。トランプの発言に対して不適切なファクトチェックが行われ、ハリスの誤った発言は修正されなかった。中絶に関する議論では、ミネソタ州の法律や実態が正確に伝えられず、体外受精治療に関するトランプの方針も無視された。犯罪統計についても、FBIのデータの不備が考慮されなかった。シャーロッツビル事件や移民問題に関するトランプの発言も、文脈を無視して批判された。

中絶に関して、ミネソタ州知事ワルツの発言をトランプが指摘した際、司会者は不適切なファクトチェックを行った。実際には、ミネソタ州の中絶指針では妊娠期間による制限がなく、生存乳児保護規定も削除されている。これは生後の赤ちゃんを殺すのを認めたと表現しても、間違いとはいえない。

ハリスの体外受精治療に関する発言も事実誤認であり、トランプ政権がIVFを禁止したのが仮に事実として正しいとしても、自分たちの政権でIVFを復活させればよいだけである。そしてそもそもトランプ政権がIVFを禁止したという事実はない。トランプが最近発表したIVF支援方針は無視された。

犯罪統計に関しては、FBIのデータ収集システムの問題(システム交換によるものとされる)により、多くの都市のデータが反映されていない状況が指摘された。そのため、FBIの統計と司法統計局の調査結果に大きな矛盾が生じている。トランプの犯罪増加の主張に対する司会者の反論は、この状況を考慮していなかった。

シャーロッツビル事件に関するトランプの発言は、文脈を無視して批判された。トランプがネオナチや白人至上主義者を「とてもよい人」と呼んだという解釈は、左派系のファクトチェック機関も否定している。しかし、ハリスはこの誤った解釈を繰り返し、司会者も修正しなかった。

移民問題に関して、トランプのスプリングフィールドでの発言が取り上げられた。ハイチからの移民が増加したことによる地域の変化や住民の不満が背景にあるが、これらの複雑な状況は無視され、トランプの「ハイチからの移民がペットを食べている」という一部の発言のみが切り取られ批判された。

これらの事例は、政府とメディアが一体となって真実を歪め、政敵を攻撃するファシズム的な傾向を示している。この状況下で、かつての民主党支持者やイーロン・マスク、ザッカーバーグなどの著名人がトランプ支持に回る現象が起きている。これは現在の民主党のあり方にファシズムの兆候を感じ取り、民主主義の危機を懸念しているためだと考えられる。

朝香 豊(経済評論家)

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】行き過ぎたアイデンティティ政治が招きかねないファシズムの脅威

まとめ
  • 著名人(ケネディ、イーロン・マスク、ザッカーバーグ)は、民主党の権威主義や検閲が民主主義に対する脅威であると認識しているようだ。
  • 民主党がポリティカル・コレクトネス、アイデンティティ政治、キャンセル・カルチャーを受け入れていることが、言論の自由を脅かす。
  • アメリカ社会では、アイデンティティ政治やキャンセル・カルチャーの進行が表現の自由や学問の自由に対する懸念を呼んでいる。
  • 調査結果によると、多くのアメリカ人がポリティカル・コレクトネスやキャンセル・カルチャーを自由や社会の分断に対する脅威と見なしている。
  • トランプ氏の今後の討論会欠席の意向を表明したが、これはハリス・メディアに付け入る隙を与えないようにすることと、米国社会のさらなる分断をさけるためと、さらにトランプの選挙戦略の一環とみられる。

ロバート・ケネディ・ジュニア、イーロン・マスク、ザッカーバーグのような著名人は、警告のサインに気づいているようです。彼らは、民主党の権威主義と検閲へのシフトが民主主義への脅威であることを理解しています。


イーロン・マスク(左)とザッカーバーグ
これらの人物は、自由と米国建国時の理念を守ろうとしているようです。彼らは、現状の民主党が米国の憲法上の権利に重大な危険をもたらしていることを認識しています。 また、民主党がポリティカル・コレクトネス、アイデンティティ政治、キャンセル・カルチャーを受け入れていることも、ファシズム的傾向を示していると言えるでしょう。彼らは、米国人をグループに分け、対立を煽り、検閲や反対意見の封殺を推進していると批判されています。これは、民主主義社会の根幹である言論と表現の自由を侵食する危険な動きです。


これらのうち日本ではあまり知られていないアイデンティティ政治(Identity Politics)とは、個人の人種、性別、宗教、性的指向、階級などの社会的な属性に基づいて、そのグループの利益や権利を重視し、政治的主張や活動を行うことです。この考え方では、歴史的に抑圧されてきたグループが自身のアイデンティティを強調し、平等な権利や社会的な公正を求めることが重視されます。しかし、これは一方で米国人としての統一性や共通の理念を破壊する動きでもあります。

ポリティカル・コレクトネスやキャンセルカルチャーは、アイデンティティ政治の一環とみなすことができます。これらは、アイデンティティ政治が重視する社会的な公正や権利の拡張を目指すものの一部であり、特定の社会的グループの利益を守るために展開されています。要するに、ポリティカル・コレクトネスやキャンセルカルチャーはアイデンティティー政治を展開するための道具といえます。

アイデンティティ政治は米国人としての統一性や共通の理念を破壊する動きでもある

例えば、黒人の権利運動、LGBTQ+の権利拡大、フェミニズムなどがアイデンティティ政治の一部です。支持者はこれが社会正義の推進に不可欠だと考える一方で、批判者は、米国人という統一性や共通の理念等を破壊し、社会を分断させたり、特定のグループを優遇しすぎる可能性があると懸念しています。

アメリカ社会では、ポリティカル・コレクトネス、キャンセル・カルチャー、アイデンティティ政治が行き過ぎた事例が増加しています。これらの現象は、表現の自由や学問の自由を脅かす可能性があるとして、特に保守派からの批判が高まっています。 

一例として、2020年6月にサンフランシスコのゴールデンゲートパークで発生した事件があります。抗議者が、アメリカ国歌「星条旗」の作詞者であるフランシス・スコット・キーの銅像を引き倒しました。理由はキーが奴隷所有者であったからですが、この行為は歴史的人物の功績を全否定することにつながるとして批判されました。

 また、大学キャンパスでの言論の自由の制限も問題視されています。保守派の講演者が、学生団体からの抗議により講演を中止せざるを得なくなるケースが増加しており、これが多様な意見を聞く機会を奪い、大学本来の自由な議論の場を損なっていると指摘されています。

 さらに、ソーシャルメディア企業がトランプ氏などの保守派のアカウントを停止したり、投稿を削除したりすることも、表現の自由を脅かす行為として批判されています。特定の政治的見解を持つユーザーが選択的に規制されることは、公平性に欠けるとの指摘があります。 

2021年3月に実施されたハーバードアメリカ政治研究センターとザ・ハリス・ポールによる世論調査では、キャンセル・カルチャーに対する懸念が浮き彫りになりました。調査結果によると、回答者の64%がキャンセル・カルチャーの成長を自由への脅威と見なしており、36%はそう考えていませんでした。

また、36%がこの問題を大きな懸念事項と捉え、54%がインターネット上で意見を表明する際にキャンセルされることを懸念していると答えました。この調査は、アメリカ社会におけるキャンセル・カルチャーに対する不安が広がっていることを示しています。 ポリティカル・コレクトネスやアイデンティティ政治に関する他の調査結果も存在します。

2021年のピュー研究所の調査では、アメリカ人の59%が「人々は自分の言動に過度に気をつけている」と答えており、ポリティカル・コレクトネスに対する懸念が示されています。

また、2018年のギャラップ社の調査によると、アメリカ人の57%が「アメリカは政治的に正しくなりすぎている」と考えています。

2020年のユーガブ社の調査では、55%が「キャンセル・カルチャーは民主主義社会にとって脅威である」と回答しています。

さらに、2022年のアメリカン・パースペクティブス調査では、回答者の66%が「アイデンティティ政治は人々を分断している」と感じています。

2021年のモーニング・コンサルト社の調査では、アメリカ人の64%が「ポリティカル・コレクトネスは表現の自由を制限している」と回答しています。

キャンセル・カルチャーは異論を唱える人を社会的・文化的に抹殺する


これらの調査結果は、多くのアメリカ人がポリティカル・コレクトネスやアイデンティティ政治に対して懸念を抱いていることを示しており、特に表現の自由や社会の分断に関する不安が顕著です。

これらの事例からも、アイデンティティ政治とキャンセル・カルチャーが行き過ぎると、社会の分断を深め、民主主義の基盤である言論の自由を脅かす可能性があることがわかります。今後、多様性を尊重しつつ、米国民としての統合を図りながら、いかに建設的な対話を促進するかが、アメリカ社会の重要な課題となっています。

米国社会の分断は、直接的ではないにしろ、先日のトランプ氏暗殺未遂事件などにつながっている可能性は否定しきれません。本日も暗殺未遂がありました。米国の社会の分断は、深刻なレベルに達しているようです。

なお、この記事の筆者である朝香氏は、「今回の討論会を通じて、トランプ陣営はハリス陣営の戦術を十分に理解できた。これを踏まえて、次回の大統領選挙討論会ではトランプが攻勢に出ることを期待したい」と述べています。

しかし、トランプ氏は今後討論会に出ない意向を表明しています。私はこれに賛成です。なぜなら、討論会が繰り返されるたびに、ハリス陣営やメディアはあらゆる手段を用いてトランプ氏を攻撃し、彼らに付け入る隙を与えるだけになるでしょう。

その結果、米国社会の分断が一層深まる可能性があります。これを考えると、今後の討論会に参加しないというトランプ氏の考えは、正しいし合理的であり、これはトランプ氏の巧妙な戦略の一環である可能性が高いです。この点については、以前のブログでも言及していますので、ぜひそちらもご覧ください。


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