2024年12月4日水曜日

中国が南シナ海スカボロー礁とその周辺を「領土領海」と主張する声明と海図を国連に提出 フィリピンへの牽制か―【私の論評】中国の明確な国際法違反と地域緊張の高まり

 中国が南シナ海スカボロー礁とその周辺を「領土領海」と主張する声明と海図を国連に提出 フィリピンへの牽制か


中国政府はフィリピンと領有権を争う南シナ海のスカボロー礁とその周辺が「領土領海」と主張する声明と海図を国連に提出したと発表しました。

中国の国連代表部は2日、スカボロー礁と周辺海域が「領土領海」と主張する声明と関連する海図を国連に提出したとWEBサイトで発表しました。

声明と海図は国連のWEBサイトで公開されるとしています。

中国の海警局は先月30日スカボロー礁周辺に巡視船を派遣するなど領有権を争うフィリピンへの牽制を強めています。

中国政府は「領土領海」を主張する声明と関連の海図を国連に提出することでスカボロー礁の領有権を国際社会にアピールする狙いです。

【私の論評】中国の明確な国際法違反と地域緊張の高まり

まとめ
  • 中国政府は南シナ海のスカボロー礁に関して、独自に「領海基線」を定めて一方的に公表したが、この行動は国際海洋法条約(UNCLOS)に明確に違反している。
  • スカボロー礁はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に位置し、中国は2012年以降、実効支配を続けているが、2016年のハーグ仲裁裁判所は中国の主張を国際法上の根拠がないと認定した。
  • 中国が定めた「領海基線」は、スカボロー礁から12海里(約22.224キロメートル)の範囲を領土領海として主張しているが、これはUNCLOSの規定に違反している。
  • フィリピン政府は、中国の「領海基線」に対抗する法律を制定し、中国外務省はこれに強く反発したが、フィリピンは中国の主張を「法的根拠も効力もない」と非難している。
  • 中国の行動は国際法上の正当性を欠いており、国際社会はこのような不当な行為に断固として反対し、中国による南シナ海での横暴な振る舞いを徹底的に批判する必要がある。
中国政府は、南シナ海のスカボロー礁(中国名:黄岩島)について、領海を示す根拠となる「領海基線」を独自に定めて一方的に公表した。この基線は、中国が主張する領海の範囲を示すものである。しかし、この行動は国際海洋法条約(UNCLOS)の手続きに従っているようにみせながらも、明確に違反するものであり、国際社会からの強い批判を招いている。


スカボロー礁はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に位置しているが、中国は2012年以降、実効支配を続けてきた。中国のこの主張は、フィリピンと領有権を巡って争う動きの一部であり、中国の実効支配を正当化しようとする狙いがある。2016年のオランダ・ハーグの仲裁裁判所では、中国が主張する九段線に基づく主権や管轄権、歴史的権利は国際法上の根拠がないと認定されている。

九段線(九断線)は、南シナ海における広範な海洋権益を主張するための歴史的な線引きであるが、国際法的には認められていない。対して、領海基線は具体的に領海の範囲を定めるための地理座標を示すものであり、中国の場合にはUNCLOSの規定に違反するものである。

中国が定めた「領海基線」に基づいて、スカボロー礁から12海里の範囲を領土領海として主張している。12海里はキロメートルに換算すると約22.224キロメートルに相当し、スカボロー礁を中心とする半径約22.224キロメートルの円形の海域が、中国の主張する領土領海の範囲となる。しかし、この主張はUNCLOSの規定に違反しており、スカボロー礁はEEZまたは大陸棚に関する権原を生じない地形であると裁定されている。


中国のこの行動は、フィリピン政府が領海などの範囲を改めて明確に規定する法律を制定したことへの対抗措置とみられる。フィリピン政府は最近、領海などの範囲を改めて明確に規定する法律を制定し、中国外務省はこれに強く反発し、対抗措置をとる可能性を示唆していた。フィリピン政府は、中国が発表した「領海基線」は「法的根拠も効力もない」と非難しており、国連への抗議も行っている。

しかし、中国の行動はUNCLOSの規定に違反しており、その国際法上の正当性を欠いている。九段線を含む中国の主張は、UNCLOSを超えて主権や管轄権を主張するものであり、国際法違反と認定されている。スカボロー礁周辺では、中国海警局が船を相次いで派遣し、国連への海図寄託と合わせて実効支配を既成事実化しようとしている。中国側は「領海基線」の発表によって今後、スカボロー礁周辺で司法権を行使した動きに出る可能性もあり、フィリピンとの対立がさらに激しくなる恐れもある。


このように、中国が主張する領土領海の範囲はは明確なUNCLOS違反であり、その国際法上の正当性を欠いたものである。中国政府は、この行動を国連海洋法条約の締約国として履行義務の実践と位置づけるが、それは単なる自己正当化に過ぎない。

このような不当な行為には断固として反対すべきである。国際社会は、中国による南シナ海での横暴な振る舞いを徹底的に批判し、その無法な行動には厳しい制裁措置を講じる必要がある。国際法と海洋の秩序は守られなければならず、中国による南シナ海での横暴な振る舞いには断固として反対し、その無法な行動には厳しい制裁措置を講じる必要がある。国際社会は、この問題に対して一丸となって対応し、中国による不当な領有権主張を許さない姿勢を示すべきである。

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2024年12月3日火曜日

シリア・アサド政権は崩壊間近…ウクライナの泥沼にハマったプーチンが迫られる究極の選択」と、その後に襲う「深刻な打撃」―【私の論評】アサド政権崩壊がもたらす中東のエネルギー地政学の変化とトルコの役割

シリア・アサド政権は崩壊間近…ウクライナの泥沼にハマったプーチンが迫られる究極の選択」と、その後に襲う「深刻な打撃」

まとめ

  • シリア内戦が新たな局面を迎え、反政府勢力が重要都市アレッポを迅速に制圧し、アサド政権がほとんど抵抗せずに撤退した。
  • アサド大統領がモスクワに逃亡したとの情報があり、これは政権崩壊の兆しと見られている。
  • ロシアはシリアを戦略的に重要視しており、アサド政権を守ることが国益に直結しているが、ウクライナ戦争によりシリアへの支援が限られている。
  • アメリカとトルコは反アサド勢力を支援しており、アサド政権が崩壊すれば中東のパワーバランスが大きく変わる可能性がある。
  • ロシアはウクライナとシリアの両方を維持する難しい選択を迫られており、アサド政権の存続がロシアにとって大きな課題となっている。

 シリア内戦が新たな局面を迎え、反政府勢力がここ数年で最大の攻撃を開始した。主要都市アレッポが迅速に陥落し、シリアの状況は急変している。アレッポは首都ダマスカスに次ぐ重要な都市であり、その制圧は政権にとって大きな打撃である。政府軍はほとんど抵抗せずに撤退し、アサド大統領の逃亡が疑われている。

 日本のメディアでは、反政府勢力の攻勢が北部だけでなく中部にも広がっていると報じられているが、実際にはその進展はさらに深刻である。特にダマスカスでは激しい銃撃戦が続いており、アサド政権の支配が揺らいでいる。最近の報道によると、アサド大統領がモスクワに脱出したとの情報があり、これは公式には認められていないものの、ロシアのペスコフ報道官がコメントを拒否したことからも真実味が増している。

 アサド大統領のモスクワ訪問は、シリアの復興投資に関する話し合いだとする支持派の情報もあるが、それも疑わしいとされている。アサド一族が一緒にモスクワに向かったことは、政権崩壊の兆しを察知しての行動と見られている。反政府勢力が攻勢をかけた背景には、プーチン大統領のカザフスタン訪問や国防大臣の北朝鮮訪問があり、ロシア政府の動きが鈍いことを反政府勢力が見越して行動した可能性がある。

 シリアはロシアにとって戦略的に重要な地域であり、周辺には石油・天然ガスの重要な産出国が存在する。もしシリアが親欧米政権に転換すれば、中東のエネルギー供給がロシアにとって脅威となり得る。このため、アサド政権を守ることはロシアの国益に直結している。

 一方、ロシアはウクライナ戦争に注力しており、シリアへの兵力を十分に割くことができなくなっている。ロシア軍の支援が限られているため、アレッポの陥落はその象徴である。アサド政権の基盤は、ロシアやイラン、ヒズボラなどの支援に依存しているが、ヒズボラはイスラエルとの戦闘で弱体化しており、イランも直接的な支援が難しい状況である。これにより、アサド政権の支持基盤が大幅に弱体化している。

 また、アメリカは反アサド勢力を支援し、トルコは反政府勢力を強力に後押ししている。今後、アサド政権が崩壊すれば、ロシアやイランを除いた中東の多くの国々が利益を得ることが予想される。トルコが新たなパイプラインの重要な拠点となる可能性もあり、これがトルコのEU加盟の道を開くかもしれない。

 ロシアはシリアとウクライナの両方を維持しなければならない厳しい選択を迫られている。アサド政権を守るために兵力をシリアに動かすことは、ウクライナ戦争に悪影響を及ぼすリスクを伴う。今後のロシアの対応次第では、アサド政権が意外にも早く崩壊する可能性があり、その場合、プーチン政権への打撃は計り知れないものである。シリアの情勢は、ロシアの国際的な影響力や中東のパワーバランスに大きな影響を与えることが予想される。 

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】アサド政権崩壊がもたらす中東のエネルギー地政学の変化とトルコの役割

まとめ
  • アサド政権が崩壊すると、新たな親欧米政権が成立し中東のパワーバランスが変わり、エネルギー供給ルートが再編成されることでロシアに経済的打撃を与える可能性がある。
  • トルコは地政学的に重要な位置にあり、ロシアやカスピ海諸国、中東からのエネルギーをヨーロッパに輸送する際の要所となっている。
  • 欧州諸国はエネルギー供給の多角化を進め、トルコはその中核的な役割を担い、ロシアとの関係を維持しつつ独自の外交方針を展開している。
  • シリアの新政権がエネルギーインフラの再建を進めることで、トルコとシリアを結ぶ新たなエネルギー輸送ルートが構築され、トルコの地位がさらに強化される可能性がある。
  • トルコは米国との協調を重視し、ウクライナ戦争における停戦交渉に仲介役として関与することで、ロシアへの圧力を強める役割を果たすことが期待される。 


アサド政権が崩壊し、新たな親欧米政権が成立すれば、中東のパワーバランスが変化する。これにより、エネルギー供給ルートが再編成され、ロシアにとって経済的な打撃となる可能性がある。ウクライナ戦争におけるロシアの戦略にも影響を及ぼし、エネルギー市場での競争が激化することが予想される。

ロシアのウクライナ侵攻以降、国際政治・経済の舞台におけるトルコの発言力が顕著に高まっている。その背景には、トルコの地政学的優位性と、欧州諸国がロシアへのエネルギー依存を減らすための動きが密接に関係している。

トルコはユーラシア大陸でヨーロッパとアジアを結ぶ要衝に位置している。この地理的特性により、ロシアやカスピ海諸国、中東からの天然ガスや原油がトルコを経由してヨーロッパへ輸送されている。また、地中海に面していることから、中東や北アフリカからのエネルギー輸送にも重要な役割を果たしている。

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、欧州諸国はエネルギー供給の多角化を加速させており、トルコはその中核的な役割を担い始めている。さらに、トルコはロシアと友好的な関係を維持しながらも、欧州諸国や中東諸国とも独自の外交方針を展開しており、制裁回避国としての特異な地位を確立している。

このような状況下で、もしシリアのアサド政権が崩壊し、新たな親米政権が誕生すれば、トルコの地位はさらに注目を集めることになるだろう。新政権がシリア国内のエネルギーインフラの再建を進める中で、シリアを経由した新たなエネルギー輸送ルートが構築される可能性が出てくる。トルコはこれを活用してエネルギー地政学の最重要国として台頭することが予想される。

現状ではトルコにはシリアを経由するパイプラインは存在しないが・・・・

たとえば、トルコとシリアを結ぶパイプラインや輸送網の建設が進めば、中東のエネルギー資源がより効率的に欧州へ供給される道が開かれる。これにより、トルコはエネルギー輸送のハブとしての地位をさらに強化し、欧州諸国からの信頼と依存を一層高めることができる。一方で、ロシアの影響力は削がれる可能性が高まり、これはトルコが西側諸国にとって戦略的に不可欠な存在となることを意味する。

トルコ政府は、この新たな機会を最大限に活用するため、国内のインフラ投資を拡大し、エネルギー分野での国際協力を強化するだろう。同時に、ロシアやイランなどの競争相手とのバランスを取りながら、地域の安定を図るための外交努力を続ける必要がある。結果として、トルコは中東から欧州へのエネルギー供給網の中核を担うことで、国際政治・経済の舞台でその存在感を一層高めることになると考えられる。

ここで仮に、シリアのアサド政権が崩壊し、新米政権が誕生すればどうなるか。新政権はシリア国内のエネルギーインフラを再建し、新たな供給ルートを模索するだろう。その結果、シリアを経由したエネルギー輸送網がトルコと結びつき、中東から欧州へのエネルギー供給がさらに効率化される可能性が高い。トルコはこれを活用し、「エネルギー地政学」の最重要国として脚光を浴びることになる。

具体的には、トルコとシリアを結ぶ新たなパイプライン建設や輸送網の整備が進めば、中東のエネルギー資源が欧州に向かうルートはさらに多様化する。これにより、トルコのエネルギー輸送ハブとしての地位は揺るぎないものとなり、欧州諸国との結びつきは一層深まるだろう。同時に、ロシアのエネルギー市場での影響力は大きく低下する可能性がある。

エルドアン・トルコ大統領(左)とトランプ米大統領

さらに、米国との協調もトルコの戦略にとって重要な意味を持つ。トランプ前大統領が提案するであろう、ウクライナのNATO加盟を巡る一時的な妥協案や停戦交渉を進める中で、トルコが仲介役として重要な役割を果たす可能性がある。トルコはロシアと直接対話できる立場にあり、その地政学的な要所としての価値は、米国にとっても見逃せない。

過去の事例を見ても、トルコはシリア内戦における反政府勢力支援を通じて米国と連携しつつ、自国の国益を守るための巧妙なバランスを保ってきた。現在のウクライナ戦争においても、トルコは同様のアプローチを取るだろう。特に、シリアでの新たなエネルギー回廊の整備の目処がつけば、トルコはその地理的優位性を活かし、米国と協力してロシアへの圧力を強める可能性が高い。その結果、ウクライナ戦争の停戦・休戦が実現する可能性が高まることになるだろう。

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2024年12月2日月曜日

<社説>ワシントン駐在問題 県民へ説明責任を果たせ―【私の論評】琉球新報ですら批判するワシントン駐在問題が日本の安保・外交に与える悪影響

 <社説>ワシントン駐在問題 県民へ説明責任を果たせ

まとめ

  • 「オキナワ・プリフェクチャー・DCオフィス」(DC社)の設立・運営に関して、県議会への報告が怠られ、株式会社設立の決定文書が残されていないことが問題視されている。
  • 県議会はワシントン駐在費用を含む2023年度一般会計決算案に反対し、不認定となった。野党はこれまでの疑問を持ち続け、執行部を追及してきた。
  • 玉城知事は、基地問題解決のためにワシントン駐在の重要性を認識し、透明性を持った運営と再発防止策の実施が求められている。

玉城デニー沖縄県知事

 県庁内での不適切な運営が指摘されている「オキナワ・プリフェクチャー・DCオフィス」(DC社)について、玉城デニー知事は県民や県議会に対し、再発防止策を含めた丁寧な説明が求められている。県は2015年に米国における基地問題の発信拠点を設立し、米議員との面会や知事の訪米時の調整などの業務を担ってきたが、設立や運営に関する議会への報告が怠られていた。また、設立に伴い取得した株式が公有財産として適切に管理されていなかったことも明らかになった。

 特に問題なのは、株式会社の形態で法人を設立する決定に関する文書が残されていないことで、これにより政策決定過程が不明となり、県民に対する説明責任が果たせない状況となっている。県議会では、野党の沖縄自民・無所属の会や中立会派の公明、維新の3会派が、ワシントン駐在費用を含む2023年度の一般会計決算案に反対し、不認定とする事態に至った。これに対し、野党はこれまでの疑問を持ち続け、執行部を追及してきた。

 玉城知事は、政治的対立がある中でも、ワシントン駐在が基地問題解決に不可欠であるなら、追及に正面から向き合う必要がある。透明性を持った運営を確立するためには、政策決定過程の文書管理を強化し、再発防止策を講じることが急務であるとされている。

 この記事は、琉球新報による元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】琉球新報ですら批判するワシントン駐在問題が日本の安保・外交に与える悪影響

まとめ
  • 琉球新報は沖縄の米軍基地問題に関する報道が一方的であり、特に基地反対運動に偏った内容が批判されている。
  • 玉城デニー知事に関する報道は、知事の立場を支持する一方で、対立候補や批判的意見を軽視している。
  • ワシントン駐在問題に関して、琉球新報は知事を批判し、透明性や説明責任の欠如を指摘している。
  • 沖縄が独自に外交を行うことで、日本の安全保障政策に悪影響が及ぶ可能性がある。
  • ワシントン駐在問題は沖縄だけでなく、日本全体の問題として真剣に捉えるべきであり、知事はその責任を果たすべきである。
琉球新報社 本社ビル

上の記事の元記事は、琉球新報のものである。この新聞は沖縄の米軍基地問題に関する報道が一方的であると批判されている。特に基地反対運動に偏った報道が目立ち、沖縄の地方政治や選挙に関する報道も特定の政党や候補者に対して偏向しているとの指摘がある。特に左派的な立場が強調されることが多く、誤報が指摘されるケースも見受けられる。このような状況は、琉球新報の報道スタンスや編集方針に対する疑問を引き起こし、読者の信頼性を損なうことになる。

玉城デニー知事に関する琉球新報の報道もまた、特定の政党や候補者に対する偏向が指摘される。知事の選挙時や在任中の報道において、琉球新報は基地問題や県民の権利に対する知事の立場を強調し、支持する姿勢を示している。このような報道は、知事の政策や発言を肯定的に取り上げる一方で、対立候補や批判的な意見についてはあまり扱われない傾向がある。

具体的な例として、玉城知事の訪米や米軍基地問題に関する活動が挙げられる。琉球新報は知事の努力や成果を強調する記事を多く掲載し、反対派の主張が十分に取り上げられないケースが見受けられる。この結果、読者に対して知事に対する支持を促す報道姿勢があると批判されることがある。また、過去の選挙においても、琉球新報は玉城知事の当選を支持する内容の記事を多く掲載し、対立候補に対して相対的に厳しい視点で報じることがあったため、偏向報道との指摘が生じた。このような報道姿勢は、琉球新報の編集方針や地域における政治的立場が影響していると考えられる。

沖縄米軍基地の分布

しかし、琉球新報はワシントン駐在問題に関しては知事を批判している。ワシントン駐在の設立に際し、県議会への報告が不十分であり、特に設立決定に関する文書が存在しないことが問題視されている。琉球新報は、行政の透明性が県民の信頼を得るために重要であると考え、この点で知事を厳しく非難している。

また、基地問題との関連性も無視できない。ワシントン駐在は沖縄の米軍基地問題を訴えるための重要な拠点であり、知事には効果的な発信が求められる。知事が米国において具体的な成果を挙げられない場合、琉球新報はその取り組みを厳しく評価する。

さらに、県議会との政治的対立が影響している。2023年度の一般会計決算案が不認定となった背景には、知事のワシントン駐在に対する議会の不満がある。沖縄県議会は与党と野党に分かれており、与党は主に「沖縄社会大衆党」と「日本共産党」、および知事を支持する無所属議員が含まれる。

一方、野党には「沖縄自民党」や「維新の会」、さらには「無所属の会」があり、知事の政策や運営について厳しい視点を持っている。特に野党からは「資金の流れがおかしい」といった疑問が投げかけられ、知事が議会に対して十分な説明をせず、経営状況の報告も怠ったことが問題視されている。このような議会の反発は、知事の行動を厳しく評価する報道へとつながっている。

さらに、メディアの役割とリベラル・左派の県民の期待も重要な要因である。琉球新報は地域メディアとして、リベラル左派の声を反映したり代表したりする責任があると考えている。知事が基地問題解決に向けた明確なビジョンを示さない場合、批判的な報道を行うことが求められると考えているようだ。これらの要因が相まって、琉球新報はワシントン駐在問題に関して知事を批判する姿勢を取っている。

ワシントン駐在問題は沖縄県内の政治問題であるばかりでなく、日本の外交の問題でもある。外交は国家が主管するべきものであり、沖縄がまるで独立国のように外交を行うことは、国家の一体性や外交政策の一貫性を損なう危険がある。この状況は、沖縄の多くの県民の声が埋もれるだけでなく、日本全体の外交戦略や安全保障にも悪影響を及ぼす。

玉城知事(右)は、河野洋平氏(左)とともに訪中、李強首相と会談=2023年7月、北京の人民大会堂

具体的には、沖縄が独自に外交を行うことで、日本政府の安全保障政策に対する整合性が欠け、地域における戦略的立場が弱体化する恐れがある。特に、沖縄は地政学的に重要な位置にあり、米軍基地が存在することから、日本の防衛において重要な役割を果たしている。

もし沖縄が独自の外交を進めることで日本政府と米国との関係が希薄化すれば、日本全体の安全保障に深刻な影響を及ぼす可能性がある。知事が適切な対応を取らなければ、沖縄の未来が脅かされるのは明白である。これを無視することは、県民の期待を裏切る行為に等しい。ワシントン駐在問題に関しては琉球新報ですら知事を厳しく批判している。この問題は、日本全体の問題として、真剣に捉えなければならない。その意味でも、玉城知事はこれを明らかにすべきである。  【関連記事】

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2024年12月1日日曜日

中国、南鳥島沖で「マンガン団塊」大規模採鉱を計画…商業開発認められればレアメタル独占の可能性―【私の論評】日米とEUの戦略的関与で中国主導の深海資源採掘ルール形成を阻止せよ!

中国、南鳥島沖で「マンガン団塊」大規模採鉱を計画…商業開発認められればレアメタル独占の可能性

まとめ
  • 中国の国有企業が、大規模な試験を計画: 中国は、来年夏以降、小笠原諸島沖を含む太平洋の公海で、最大7500トンのマンガン団塊を採掘する試験を実施予定。
  • 国際ルールの整備と、中国の優位性: 現時点では国際ルールが不十分なため、商業開発は行われていないが、中国が商業開発を推進すれば希少金属の供給網を支配する可能性がある。
  • 日本の対応必要性: 日本は技術開発の遅れを取り戻すため、採鉱から製錬までの商業開発技術を戦略的に向上させる必要がある。


 中国の国有企業が来年夏以降、小笠原諸島・南鳥島沖で最大7500トンのマンガン団塊を採鉱する計画を発表した。これは水深5000メートル以上での商業規模に近い試験であり、世界初とされるものである。商業開発が認められると、希少金属の国際供給網を中国が独占する恐れがあるため、各国の関心が高まっている。

 公海の海底鉱物は国連海洋法条約により人類の共有財産とされ、国際海底機構(ISA)がその管理を行っている。現在、商業開発は規制されているが、特定の国や企業には探査権が与えられている状況である。中国の企業は、南鳥島沖で20日間の試験を行う予定であり、海底のマンガン団塊を集めるとともに、生態系への影響を調査することになっている。

 一方で、日本は南鳥島周辺の資源開発を目指しているものの、技術面では中国や欧米に遅れを取っている。このような状況に対し、東京大学の教授は、中国の試験が成功すれば、日本はさらなる技術の向上を急がなければならないと指摘している。

 国際的には、環境への影響を懸念する声も存在するが、環境に配慮した採鉱技術が実現すれば、商業開発を容認する議論が進む可能性がある。日本は、商業開発に向けて採鉱から製錬までの技術を戦略的に強化し、これ以上の遅れを取らないようにすべきである。 

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日米とEUの戦略的関与で中国主導の深海資源採掘ルール形成を阻止せよ!

まとめ
  • 中国の主導的役割: 中国は国際海底機関(ISA)で深海資源の採掘ルール作りにおいて主導的な役割を果たしており、特に採掘ライセンスの発行や技術規則の策定に強い影響を及ぼしている。
  • 日本の排他的経済水域(EEZ): 日本は自国のEEZ内にマンガン団塊を持ち、その採掘権利を有するが、これは問題の本質ではなく、ISAのルールづくりを中国が主導していることだ。
  • 国家安全保障と資源不足: 中国は深海底を国家安全保障の観点から「戦略的フロンティア」と位置づけ、資源不足に対処するため深海からの鉱物資源を重視している。
  • 国際法の未整備: 現在、深海採掘に関する国際的なルールは確立されておらず、中国はこの新たな産業のルール形成において優位性を持とうとしている。
  • 米国と国際連携の必要性: 米国はISAに正式加盟しておらず、観察者に留まっているが、UNCLOSの批准や環境基準の適用を通じてルール形成に関与し、他の西側諸国ととも深海資源の中国の一極支配に対抗すべきである。
上の記事では、結局日本の技術水準の話に帰結しており、この問題の本質が語られていない。問題の本質は、ISAのルールづくりが中国主導になっているということである。そこが明確に語られていないので、上の記事を読むと消化不良を起こしたような感じを受けてしまう。

まず、中国の小笠原諸島・南鳥島沖を含む太平洋の公海における採鉱計画は、日本の排他的経済水域(EEZ)内ではなく、公海に位置している。

一方、日本のEEZ内には、自国の資源としてのマンガン団塊が存在し、日本はその採掘権利を有している。したがって、日本は自国のEEZ内での資源開発を進める権利がある一方で、公海における他国の活動については、国際法に基づく監視や規制の枠組みの中での対応が必要となる。

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問題の本質は、小笠原諸島・南鳥島沖がどうのこうのというのではなく、ISAの公海資源の採掘のルールづくりに中国が主導的役割を果たしているということなのだ。

深海底採掘に関する国際的なルールはまだ確立されておらず、この新たな産業はようやく国際海底に広がる膨大な資源の開発を開始した段階にある。中国は、この分野で中心的な役割を果たすべく、国際海底機関(ISA)や国連海洋法条約(UNCLOS)の枠組みを活用しながら積極的に動いている。

中国はUNCLOS締約国として、長年にわたり新たな海洋法の形成に取り組んできた。その中で、中国の指導者たちは深海底が持つ戦略的および経済的価値に注目し、この分野への投資を強化してきた。特に、ISAでは中国の代表団が強い影響力を行使しており、採掘ライセンスの発行や技術規則の策定において重要な役割を果たしている。2023年のISA年次会合では、中国は発展途上国や一部のヨーロッパ諸国からの慎重なライセンス発行を求める声を抑制し、議論を自国の有利な方向へと導くことに成功した。

中国が深海底採掘に積極的に関与する理由は複数ある。その一つは国家安全保障の観点である。深海底は中国の国家安全保障法で「戦略的フロンティア」として位置づけられており、習近平政権の「全面的国家安全保障」のビジョンに基づき、軍事的・経済的利益の観点からも重要視されている。

また、最近は経済が落ち込みかなり緩和されてきたとはいえ、中国経済が抱える資源不足の問題に対応して、深海底から得られる鉱物資源が中国のサプライチェーン強化に寄与すると見込んでいるようだ。さらに、深海探査技術の開発は軍事目的にも応用可能であり、軍事的優位性を高める可能性がある。外交的には、国際海底という法的枠組みが未整備の領域で中国は主導権を握り、独自のルールを構築することで影響力を拡大しようとしている。

一方、米国はISAに正式加盟しておらず、観察者としての立場にとどまっている。この状況に対し、米国が取るべき対応としては、環境保護を前面に押し出して中国を外交的に孤立させることや、中国が「人類の共通資産」とされる国際海底資源を自己利益のために利用しているという矛盾を突くべきである。また、UNCLOSや新しい高海条約の批准を検討することで、国際法における影響力を強化し、ルール形成の場に直接関与することが重要である。トランプ政権は、事の重大性に気づけば、必ずこれに対処するだろう。

総じて、中国は深海底採掘のルール作りにおいて主導的な立場を確立しつつあるが、米国もその動きを抑制するための戦略を模索している。2024年7月に開催された国際海底機構(ISA)の会合では、深海採掘の規制や環境保護に関する議論が紛糾し、多くの加盟国が科学的知識の不足を理由に深海採掘の一時停止を求めたことが、主要な争点となった。また、ISAの運営や透明性に対する批判もあった。

米国は研修プログラムや環境対策に関する議論に貢献したが、採掘の迅速な承認に反対する強い意見に対抗するのは困難だった。その結果、政策形成における影響力は限られたままとなり、ISA内の信頼や運営問題を抱えた状態で主導権を発揮するには至らなかった。

中国が軍事拠点化している南シナ海スプラトリー諸島ティトゥ島。滑走路が見える(2023年)

中国にはすでに海洋における前科がある。中国は、南シナ海における人工島建設の過程で、高度な埋め立て技術を短期間で習得した。しかも、国際司法裁判所が、南シナ海の中国による支配には根拠がないと判決を出したにもかかわらず、我が物顔で、南沙諸島の礁に滑走路や軍事施設を構築し、特に永暑礁やスビ礁では、約3,000メートルの滑走路や複雑な施設を完成させた。

これにより、南シナ海での中国の環境破壊がすすみ、それだけではなく軍事的優位性が強化され、地域の安全保障や航行の自由に深刻な影響を及ぼしている。米国の戦略家、ルトワックは南シナ海の中国軍の基地は「無防備な前哨基地にすぎず、軍事衝突になれば5分で吹き飛ばせる。象徴的価値しかない」と語ったが、米国からみてはそうかもしれないが、周辺諸国にとっては大きな脅威である。これは、明らかに米国の失態であり、このような前哨基地は最初から構築させるべきではなかった。

さらに、これらの技術習得には、他国の技術を剽窃した可能性が指摘されている。特に、ドレッジ(浚渫)技術や埋め立てに使用される特殊装置の設計が急速に進歩した背景には、他国からの技術移転や非正規な手段での技術取得が絡んでいるとの見方もある。ただし、具体的な証拠の明示は限られているが、中国の知的財産侵害や技術移転問題が他の分野で多発していることからも、この可能性は否定できない。トランプ政権は、これを調査すべきであり、西側諸国は、半導体技術と同じく、高度な深海掘削技術の中国への移転も阻止すべきだろう。

現在の深海開発ルールは中国が優位性を持つ構造になっており、それに対抗するために、米国、日本、EUは戦略的な行動を取る必要がある。米国がまず行うべきは、UNCLOS(国連海洋法条約)を批准することである。これにより、国際海底機構(ISA)の意思決定に積極的に関与できるようになり、現在のように議論の場から除外される状況を改善できる。もしその気がないというなら、国連とは別個に西側諸国で別の組織を構築すべきだ。さらに、日本やEUとの連携を深め、環境基準やESG(環境・社会・ガバナンス)に基づいた厳格な規制を推進することで、中国主導のルールが緩和される可能性を低下させる必要がある。

また、米国は深海採掘に代わる技術開発にも注力すべきである。具体的には、日本が取り組んでいるような電子廃棄物からの資源回収を可能とする都市鉱山技術や、再利用可能な資源管理システムの研究に投資を行うべきだ。こうした取り組みによって、深海採掘への依存を低下させつつ、資源供給を安定化できると考えられる。

深海採掘に反対する国々は年々増加し2023年時点では21カ国になっていた

一方で、日米とEUは深海採掘の一時停止(モラトリアム)を支持し、環境保護を目的とする国際的な支持を広げる努力を進めるべきである。これに加えて、鉱物の効率的利用や代替エネルギー技術の研究を推進し、深海採掘の必要性を根本的に減少させる方策も重要である。しかし、当然のことながらISA内での影響力拡大もまた必要であり、特に環境保護基準や透明性の高い報告基準の採択を推進することで、中国の活動に一定の制約を加えるべきである。

これらの取り組みを通じて、中国が深海開発で優位性を確立するのを抑制し、公平な国際ルールを策定すべきである。また、環境保護と資源利用のバランスを取った持続可能な開発の実現も、今後の重要な課題として取り組むべきである。世界は、第二の南シナ海よりもさらにスケールの大きい、深海資源の中国一極支配を生み出すことがないように、結束すべきである。

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2024年11月30日土曜日

日英伊戦闘機開発 サウジも参加調整 2035年に初号機配備を目指す―【私の論評】安倍政権とアブラハム合意が導いた日英伊・サウジの次期戦闘機開発と防衛力強化

日英伊戦闘機開発 サウジも参加調整 2035年に初号機配備を目指す

まとめ
  • 日本・イギリス・イタリアの次期戦闘機「GCAP」にサウジアラビアが参加する方向で調整中であり、開発費の負担軽減が期待される。
  • 2035年に初号機を配備する目標で、年内にイギリスに開発管理の国際機関が設立される予定。

次期戦闘機想像図

 日本・イギリス・イタリアの3カ国が進める次期戦闘機の共同開発に、中東のサウジアラビアが加わる方向で調整が進んでいることが分かりました。

 地元メディアによりますと、イタリアのタジャーニ外相は27日、所属政党の会合で日本とイギリスとの次期戦闘機の共同開発「GCAP(グローバル戦闘航空プログラム)」について、「サウジアラビアにも拡大すると思う」と述べました。

 29日、イギリス国防省も「GCAPの3カ国は他国との協力に前向きだ」と声明を発表しました。

 サウジアラビアの参画は開発費の負担軽減などが期待できる一方、開発の遅れなどが懸念されていました。

 次期戦闘機は2035年に初号機を配備することを目指しています。

 年内に開発を管理する国際機関がイギリスに設立され、初代トップに岡真臣元防衛審議官が就任する予定です。

【私の論評】安倍政権とアブラハム合意が導いた日英伊サウジの次期戦闘機開発と防衛力強化

まとめ
  • 日本、イギリス、イタリアが進める次期戦闘機開発は「GCAP(グローバル戦闘航空プログラム)」に基づき、2035年に初号機を配備することを目指している。
  • 次期戦闘機は最新のセンサー技術やAI、ステルス性能を搭載し、各国の技術を結集することで優れた性能を実現する狙いがある。
  • サウジアラビアの参加はアブラハム合意によるイスラエルとの関係改善が背景にあり、開発費の負担軽減や新市場の開拓が期待される。
  • 安倍政権による安全保障政策の改革が、日本がこの国際的な防衛プロジェクトに参加するための法的枠組みを整える要因となった。
  • このプロジェクトは日本の防衛力を強化し、国際的な地位を高めるだけでなく、防衛産業の成長や武器輸出の機会拡大にも寄与する。

日英伊の3カ国が進める次期戦闘機の共同開発は、「GCAP(グローバル戦闘航空プログラム)」に基づいている。このプログラムの目的は、次世代戦闘機を共同で開発し、各国の防衛能力を向上させることだ。GCAPは2035年に初号機を配備することを目指し、各国の航空戦力を強化する新しい戦闘機の開発を進めている。

次期戦闘機は、最新のセンサー技術やAI、ステルス性能を搭載し、空対空および空対地のミッションに対応できる能力を持つことが期待されている。各国の技術を結集することで、個別に開発するよりも優れた性能を実現する狙いがある。そして、サウジアラビアの参加が調整中であることは、このプロジェクトの国際的な側面を強調している。サウジアラビアの参加は、開発費の負担軽減や新市場の開拓が期待される。

サウジアラビア国旗

サウジアラビアの参画は、アブラハム合意によるイスラエルとの関係改善が背景にある。アブラハム合意は、2020年にイスラエルとアラブ諸国(アラブ首長国連邦とバーレーン)との間で締結され、外交関係の正常化を促進した。この合意は、地域の安全保障環境に変化をもたらし、軍事的な協力や技術の共有を進める基盤を整えた。各国間の協力関係が深化し、地域の安全保障に寄与することが期待されている。

さらに、年内にイギリスに開発を管理する国際機関が設立され、岡真臣元防衛審議官が初代トップに就任する見込みだ。これにより、プロジェクトの円滑な運営が図られる。このように、日本・イギリス・イタリア・サウジアラビアの次期戦闘機の共同開発は、技術革新と国際的な防衛協力を推進する重要なプロジェクトであり、将来的な航空戦力の強化に寄与することが期待される。

この共同開発は、日本の防衛力を強化する大きなチャンスであり、新しい戦闘機を通じて最新技術を手に入れ、自国を守る力を高めることにつながる。

国際的な連携が深まることで、アメリカとの同盟関係も強化される。特に、イギリスやイタリアといった信頼できるパートナーとの協力により、地域の安全保障が向上し、日本の国際的な立場も強まる。サウジアラビアの参加は、中東の安全保障環境にも影響を与える。先進技術を持つ国々との協力により、地域の軍事力が向上し、日本にもその影響が及ぶ可能性がある。

最後に、このプロジェクトは日本の防衛産業にとっても大きなメリットがある。先進技術の開発に参加することで、防衛産業が成長し、将来的には武器輸出のチャンスも広がる。日本経済にとってプラスの影響が期待される。

総じて、日本・イギリス・イタリア・サウジアラビアの次期戦闘機開発は、日本の防衛力を強化し、国際的な地位を高めるための重要なステップである。このプロジェクトに参加できた背景には、安倍政権による安全保障政策の改革が大きく影響している。安倍政権は集団的自衛権の行使を容認し、防衛関連法を改正した。この改正により、日本は国際的な安全保障活動に積極的に参加できるようになった。

安倍首相

安倍政権の安保改正がなければ、日本はこの国際的な防衛プロジェクトに参加する法的な枠組みが整っていなかった可能性が高い。共同開発や技術共有が求められる防衛プロジェクトにおいて、法的な制約があると参加が難しくなるため、安保改正は重要な前提条件だった。したがって、安倍政権の安保改正がなければ、日本が今回のプロジェクトに参加することは難しかったであろう。これにより、日本の防衛力や国際的な地位を向上させる機会が制限されていたかもしれない。 

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2024年11月29日金曜日

ついに日本政府からゴーサイン出た! 豪州の将来軍艦プロジェクト、日本から輸出「問題ありません!」 気になる提案内容も明らかに―【私の論評】安倍政権から始まった日豪関係の深化を象徴する出来事

 ついに日本政府からゴーサイン出た! 豪州の将来軍艦プロジェクト、日本から輸出「問題ありません!」 気になる提案内容も明らかに

まとめ

  • オーストラリアの将来汎用フリゲート選定計画で、日本の提案が最終候補に選ばれ、国家安全保障会議で海外移転が認められることが確認された。
  • 提案された「令和6年度型護衛艦」は、現行の「もがみ」型護衛艦の能力向上型で、特に対空戦能力が強化されている。

「もがみ」型護衛艦

 防衛省は2024年11月28日、オーストラリア国防省の将来汎用フリゲート選定計画において、日本の提案が最終候補に選ばれたと発表した。日本案が採用される場合、国家安全保障会議で海外移転が認められることが確認された。このプロジェクトは、オーストラリアが海軍の戦闘能力を向上させるために進めており、日本、韓国、スペイン、ドイツが候補に挙がったが、日本とドイツが最終候補となった。

 日本案は三菱重工、ドイツ案はティッセンクルップが提案しており、最終審査は日独の競争になる。新型フリゲートは、現行のアンザック級を更新するもので、最初の3隻は輸入し、残りはオーストラリアでライセンス建造される計画だ。提案されているのは「令和6年度型護衛艦」で、これは「もがみ」型護衛艦の能力向上型であり、特に対空戦能力が強化されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】安倍政権から始まった日豪関係の深化を象徴する出来事

まとめ
  • 外務省はオーストラリアの将来汎用フリゲート選定計画において、日本の提案が最終候補に選ばれたと発表した。
  • 日本は令和6年度型護衛艦の完成品や技術情報をオーストラリアに移転することが決定され、この移転は「防衛装備移転三原則」に基づいている。
  • オーストラリア政府は「もがみ」型護衛艦を候補に選定し、今後、日本との協議を行う。これにより、両国の相互運用性向上が期待されている。
  • 安倍政権による安全保障法制の整備は、日本とオーストラリアの防衛協力を強化し、集団的自衛権の行使を可能にした。
  • 日本の艦艇の選定は、防衛技術や運用能力の向上、さらには新たな市場の開拓につながると考えられる。
  • 日豪関係の深化は、地域の安全保障体制を強化し、日本の国家存立を守るための不可欠な要素である。

外務省はオーストラリア国防省の将来汎用フリゲート選定計画において、日本の提案が最終候補に選ばれたと発表した。この重要な発表は、以下のURLから確認できる。
今回の件が実現することで、豪州次期汎用フリゲートの共同開発・生産が我が国の手で行われる可能性が高まった。以下の要点をまとめる。
オーストラリアの次期汎用フリゲートに関して、日本が関与する場合、令和6年度型護衛艦の完成品や技術情報をオーストラリアに移転することが決定された。この移転は「防衛装備移転三原則」に基づき、国家安全保障会議で審議された結果、適切と認められた。

オーストラリア政府は「もがみ」型護衛艦を候補に選定し、今後、日本を含む提案国との協議を行う。日本とオーストラリアの協力はインド太平洋地域の安全保障において重要であり、相互運用性の向上が期待されている。

移転された完成品はオーストラリア政府の適正な管理の下、目的外使用や第三国への移転には事前同意が必要とされるため、日本の安全保障上の問題はない。このため、必要な手続きは適切に行われる予定である。
オーストラリアは日本にとって重要な戦略的パートナーであり、同国のフリゲート艦の更新はインド太平洋地域における安全保障の強化に寄与し、地域全体の安定に繋がると考えられる。

さらに、日本の艦艇が選定されれば、共同開発や生産により両国の防衛技術や運用能力の向上が期待される。特に相互運用性の向上は、現代の安全保障環境において重要であり、共同演習や連携した対応が求められる。加えて、豪州による日本の護衛艦の選定は、日本の防衛産業に新たな市場を開く可能性があり、経済的な側面でも意義がある。

完成品の移転に関する厳格な管理方針は、日本の防衛装備品の流出を防ぎ、国際的な信頼を築く手段ともなる。このような協力関係は、日米同盟に次ぐ重要な枠組みとして、地域の安全保障体制をより強固なものにする役割を果たすだろう。


「もがみ」型護衛艦は海上自衛隊が運用する多目的護衛艦であり、主に対空、対潜、対水上戦闘能力を備えている。この艦は情報収集や警戒監視活動、国際平和協力活動にも従事することができる。

能力向上型の特徴として、まず対空戦能力の強化が挙げられる。新型のレーダーシステムやミサイルシステムが搭載され、敵航空機やミサイルに対する防空能力が向上した。これにより、艦隊の防空網が強化され、より効果的に防衛任務を遂行できるようになる。

次に、先進的な戦闘システムが導入され、最新の戦術情報処理システムが搭載された。これにより、戦場での情報共有や指揮統制が迅速化され、各種センサーの統合によって状況認識が向上し、戦闘時の対応力が高まる。

また、多目的運用に関しても、対潜戦や対水上戦における能力が強化され、さまざまな任務に柔軟に対応できる設計となっている。特に、「もがみ」型護衛艦は機雷の設置も可能であり、これにより海上の安全確保や海上交通の保護に寄与する能力を持っている。

さらに、ライフサイクルコストの最適化も図られており、新しい技術や設計の採用によりメンテナンスの効率が向上し、運用コストの削減が期待される。これにより、長期的な視点での運用が可能となる。

加えて、「もがみ」型護衛艦は小型化により、要員数を少なく抑えることができる利点がある。具体的には、乗組員数は艦艇の仕様や運用によって異なるものの約100名程度であり、これにより艦艇の運用効率が向上し、限られた人員での運営が可能となる。

さらに、ステルス性を重視した設計が施されている。具体的には、艦の形状や表面処理が工夫されており、レーダー反射面積を小さくすることで、敵の探知を難しくしている。この特性により、敵の早期警戒レーダーからの発見を避けることができ、戦闘環境において優位性を保つことが可能となる。

また、ステルス性の向上は、艦艇の運用において秘密裏の接近や情報収集活動を行う際に重要であり、特に現代の複雑な安全保障環境において、敵に対する奇襲効果を高める役割を果たす。これにより、「もがみ」型は多様な任務において柔軟に対応できる能力を持っている。

「もがみ」型護衛艦の能力向上型は、現代の複雑な安全保障環境に対応するために設計されており、特に対空戦能力や情報処理能力が強化されている。これにより、日本の海上防衛能力の向上に寄与し、国際的な平和維持活動にも貢献できる艦艇となっている。

2014年7月1日、安倍政権は「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」という閣議決定を行った。この決定は、日本の安全保障政策に大きな変革をもたらし、日本が対外的な安全保障活動に積極的に関与するための法的基盤を整えることを目指したものである。2015年5月14日には、国家安全保障会議と閣議で平和安全法制関連の2つの法案が決定され、翌日には衆議院と参議院に提出され、可決された。これにより、日本は集団的自衛権を行使できるようになり、国際的な安全保障活動においてより積極的な役割を果たすことが可能となった。

豪ハワード首相(当時 左) と安保共同宣言に署名する安倍首相(当時 右 ) 

このような法制が整備されなかった場合、日豪関係は現在よりもはるかに希薄なものとなっていたであろう。具体的には、安全保障協力が制約され、日本が集団的自衛権を行使できない場合、オーストラリアとの共同訓練や防衛協力が難しくなり、両国の連携が弱まる可能性が高い。結果として、安全保障における相互理解や信頼関係が築かれにくくなる。また、日本が国際的な平和維持活動や人道支援に参加する機会も限られ、オーストラリアとの連携を通じた地域の安定化への貢献が難しくなる。この結果、日豪関係は防衛面での協力が乏しくなり、経済や文化面での関係にも影響を及ぼすかもしれない。

さらに、アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しさを増す中で、日本とオーストラリアの協力は欠かせなくなっている。しかし、法制の整備がなければ、両国の安全保障上の連携は大幅に後退していたと考えられる。

総じて、安倍政権による安全保障法制の整備は、日本とオーストラリアの関係を強化する重要な要素となり、現在のような防衛協力や相互支援が実現する土台を築いたと言える。この背景がなければ、日豪関係は今ほど強固ではなかっただろうし、今日、オーストラリアの将来汎用フリゲート選定計画で、日本の提案が最終候補に選ばれることもなかっただろう。


私たちの国が直面する厳しい安全保障環境において、日豪関係の深化は単なる戦略的選択ではなく、国家の存立そのものを守るための不可欠な要素である。歴史的に見ても、自由と民主主義を守るためには、信頼できるパートナーとの連携が不可欠であり、オーストラリアとの協力はその象徴である。

日本は、過去の教訓を胸に刻み、未来に向けて確固たる防衛体制を築かなければならない。安倍政権の取り組みは、まさにその第一歩であり、我々の国益を守るための強固な基盤を提供するものである。これからも、日豪の絆を深め、共に力強い未来を築くために、我々は進み続けなければならない。

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2024年11月28日木曜日

米海軍がグアムに初のバージニア級原潜を派遣、印太地域情勢に対応―【私の論評】日本メディアが報じない米ヴァージニア級原潜の重要性と南シナ海における米軍の戦略

米海軍がグアムに初のバージニア級原潜を派遣、印太地域情勢に対応

まとめ
  • バージニア級攻撃型原子力潜水艦「ミネソタ」がグアムに到着し、地域の平和と繁栄を維持するための戦略を支援する。
  • ミネソタは140人の乗組員を有し、対潜水艦作戦や情報収集など多様な任務を担う次世代攻撃型潜水艦である。
26日、グアム島に到着したバージニア級攻撃型原子力潜水艦「ミネソタ(USS Minnesota)

アメリカ海軍が発表したところによりますと、バージニア級攻撃型原子力潜水艦「ミネソタ(USS Minnesota)が26日、グアム島に到着しました。すでにグアムに配備されているロサンゼルス級原子力潜水艦4隻に加わり、自由で開かれたインド太平洋と地域の平和、繁栄を維持するための戦略を最前線で支援するということです。

アメリカ海軍はニュースリリースで、ミネソタには140人の乗組員が乗船、任務は対潜水艦、戦艦作戦、打撃戦、情報収集、監視、偵察など多岐にわたるアメリカ海軍の次世代攻撃型潜水艦である。ロサンゼルス級潜水艦の退役後は後継艦として、その役割を引き継ぐと説明しています。

【私の論評】日本メディアが報じない米ヴァージニア級原潜の重要性と南シナ海における米軍の戦略

まとめ
  • 日本国内では、インド・太平洋地域の重要な安全保障ニュースがほとんど報道されていない。
  • ヴァージニア級攻撃型原子力潜水艦「ミネソタ」のグアム派遣により、グアムには合計5隻の潜水艦体制が整った。
  • ヴァージニア級原潜は米海軍の戦略的な抑止力を担い、最新のステルス技術や攻撃能力を備えている。
  • 米海軍はヴァージニア級の配備を通じて国際的な影響力を強化し、特にインド太平洋地域での安全保障を強化している。
  • 日本のメディアは重要な情報を報道せず、正しい情報を得て国際情勢を理解する必要がある。

インド太平洋地域

ヴァージニア級攻撃型原子力潜水艦「ミネソタ」のグアム派遣により、グアムには合計5隻の潜水艦体制が整った。

ヴァージニア級原潜は米海軍の戦略的な抑止力を担い、最新のステルス技術や攻撃能力を備えている。米海軍はヴァージニア級の配備を通じて国際的な影響力を強化し、特にインド太平洋地域での安全保障を強化している。

日本国内では、このニュースはほとんど報道されていない。上の記事のソースは、台湾メディアによるものであるが、インド・太平洋地域の安全保障にとって重大な内容であり、見逃してはならない。

今回のヴァージニア級攻撃型原子力潜水艦「ミネソタ」のグアム派遣により、グアムにはロサンゼルス級原子力潜水艦4隻とヴァージニア級1隻を合わせて、合計5隻の潜水艦体制が整った。

ヴァージニア級攻撃型原潜は、米海軍において戦略的な抑止力を担っており、特に対潜水艦戦や地上攻撃能力を持つため、敵国に対して強いメッセージを発信し、地域の安定を保つ役割を果たしている。

この潜水艦は最新のステルス技術を備えており、敵に発見されにくい設計になっている。その特性により、潜水艦は安全に作戦を遂行し、敵の防御を突破しやすくなる。また、最大で12発のトマホーク巡航ミサイルを搭載でき、地上目標への精密攻撃が可能である。

さらに、4基の魚雷発射管を装備し、対潜水艦戦や対艦攻撃においても高い能力を発揮する。これにより、ヴァージニア級原潜は現代の多様な戦闘シナリオに対応する能力を持ち、原子力推進により長期間の潜水任務が可能で、補給なしで数ヶ月にわたる作戦を行うことができる。

米海軍は、ヴァージニア級原潜の配備を通じて国際的な影響力を強化し、同盟国との連携を促進している。特にインド太平洋地域においては、安全保障の枠組みを強化する要素となっている。

11月21日のこのブログでは、南シナ海の現状について以下のように述べた

ルトワック氏
中国の南シナ海の軍事基地について、米国の戦略家ルトワック氏は2018年の産経新聞のインタビューで衝撃的な発言をした。彼は、中国が南シナ海を軍事拠点化する動きに対し、「航行の自由」作戦によって「中国による主権の主張は全面否定された。 中国は面目をつぶされた」と強調した。その上で、彼は中国の軍事拠点を「無防備な前哨基地にすぎず、軍事衝突になれば5分で吹き飛ばせる。象徴的価値しかない」と断言した。この発言は、現在の米軍の南シナ海における強化と相まって、ますます現実味を帯びている。
米軍は、南シナ海での優位性を保つため、これまでも攻撃型原潜をグアムに配備したり、P-8哨戒機を配備するなどして、南シナ海での優位性を継続してきた。今回のヴァージニア級攻撃型原潜の配置もこの一環とみられる。

昨年、米海軍はヴァージニア級原子力潜水艦の21隻目となる「ハイマン・G・リッコーヴァー」を2023年10月14日に就役させた。この潜水艦は弾道ミサイルを搭載しない攻撃型(SSN)に分類され、地域紛争での対艦・対地攻撃や特殊部隊の運搬といった多様な任務に用いることが想定されている。米海軍はこの艦種を最も力を入れて建造している。

ヴァージニア級の建造は2000年から始まり、魚雷発射管のほかに巡航ミサイル「トマホーク」のVLS(垂直発射機)モジュールも備えている。最新型のブロックVのヴァージニア級では艦体が延長され、発射モジュールが40基に増加しており、米海軍は最終的に34隻を就役させる予定である。

さらに、ヴァージニア級はオーストラリアへの輸出が決定され、これは米国が原潜を輸出する初の事例となる。この輸出は米、英、豪のAUKUS同盟の一環であり、豪海軍が攻撃型原潜の運用に習熟する目的も兼ねている。将来的には、英米豪がインド太平洋海域の防衛に当たることが期待されている。

オーストラリアが自国の原子力潜水艦を建造するまでの間の措置として、豪は3隻のヴァージニア級攻撃型原潜を取得する予定である。

米海軍はヴァージニア級の先進的な兵装開発を進めており、長距離極超音速兵器「ダーク・イーグル」を2028年にブロックVに搭載する計画である。また、トマホークには核弾頭タイプもあり、ヴァージニア級が将来的な核シェアリングの要素となる可能性も否定できない。豪が米国と核シェアリングを行う可能性や、日本における議論も再燃する可能性がある。

核シェアリングについて提起した安倍元総理

強力な敵基地攻撃能力を持つヴァージニア級は、米海軍の潜水艦戦力の要であるだけでなく、各国による核シェアリングの可能性をも秘めている。無論これらはあくまで可能性であり、実際の展開は多くの外交的、軍事的、法的要因に依存する。ただし、米国はそれを表立って公表するようなことはしていないが、ヴァージニア級がそのような可能性を秘めていることは否定できない。

このように、ヴァージニア級原潜は米国の軍事戦略においてインド太平洋地域の中心的な役割を果たしており、今後の国際情勢においてもその重要性は一層高まるだろう。米国は、これらの潜水艦を通じてインド太平洋地域の平和と安定に寄与することが期待されている。

しかし、ヴァージニア級攻撃型原潜のグァムへの新たな配置は、現状でも中国にとって不利な重要な動きであるが、日本のメディアではほとんど報道されていない。ましてや、その潜在可能性についてはほとんど報道されない。南シナ海において米軍は優位性を保つためにさまざまな取り組みを行い、これからもその活動は継続されるとみられる。しかし、日本のメディアはこの重要な情報を報道の自由として公表しないようだ。

このようなメディアの報道に惑わされることなく、私たちは正しい情報を得て、正確な見方をする必要がある。保守派として私は、真実を見極め、国際情勢を正しく理解することこそが、現在の日本にとって重要であることを強く訴えたい。

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2024年11月27日水曜日

<インドネシアとロシア初の海軍合同演習の意図>国際紛争解決へ、日本が「挑戦」する時―【私の論評】安倍外交の継承とアジア版クアッドが描く日本の未来戦略

<インドネシアとロシア初の海軍合同演習の意図>国際紛争解決へ、日本が「挑戦」する時

岡崎研究所

まとめ
  • インドネシアとロシアは、プラボウォ政権発足後初めて二国間海軍訓練を実施。これはインドネシアの外交的中立性維持と影響力拡大を象徴している。
  • インドネシアはBRICSへの加盟を表明し、米中露の間でバランス外交を展開。ロシアとの関係深化は、多国間協力戦略の一環とされる。
  • 米国の国際紛争への関与減少により、日本が主導してアジア諸国を巻き込む必要性が高まっている。
  • インドネシアを含む日印豪による新たな枠組み「アジア版クアッド」が地域安定の手段として議論されるべき。
  • インドネシアの戦略的立場を活用し、BRICSやASEANとの調和を保ちながら、日本が地域での主導的役割を果たすことが重要である。

ロシアとインドネシアが初の合同海軍演習を実施した

 11月4日付のフィナンシャル・タイムズの記事では、インドネシアとロシアが初の海軍合同演習を実施したことについて、その背景と意義が詳しく論じられている。プラボウォ大統領は、国際舞台でのインドネシアの存在感を高めることを目指しており、この合同演習はその一環として位置づけられている。演習はジャワ島東岸沖で行われ、ロシアは戦艦4隻とタグボート1隻を派遣した。

 プラボウォ大統領は、インドネシアの長年の中立的外交政策を維持しつつも、世界第4位の人口を有する国として相応しい影響力を求めている。また、インドネシアは豊富な天然資源を背景に、クリーンエネルギー供給網の中心国としての地位を確立しようとしている。これにより、同国は多国間の外交関係を強化し、特に中国や米国といった大国とのバランスを取ろうとしている。

 今回の合同演習は、インドネシアが過去にASEANの枠組みでロシアと共同訓練を行った経験はあるものの、初の二国間での実施となる。これは、インドネシアが米国やその同盟国とも毎年共同訓練を行っている中で、ロシアとの関係を深化させる重要なステップである。専門家は、このような動きがインドネシアの国際関与のあり方に劇的な変化をもたらす可能性があると指摘している。

 プラボウォ政権は、前任者のジョコウィ政権に比べて、世界の指導者との関与においてより積極的な姿勢を示しており、次期大統領として10カ国以上を訪問し、プーチンや習近平と会談を行っている。最近では、BRICSへの加盟意思も表明しており、これはロシアとの関係をさらに強化する意図を示している。プラボウォは、米国、中国、ロシアの間でバランスを取りつつ、各国との協力を進めようとしている。

 一方で、米国の国際紛争に対する関与が低下している中で、日本を含む同盟国が紛争解決の責任を共有する必要がある。特に、インドネシアとロシアの合同演習などの動きは、米国の影響力の低下を反映しており、日本がその空白を埋めるために積極的に行動する必要がある。

 インドネシア、タイ、マレーシアなどの国々がBRICSに加盟する動きは、反米的な姿勢を強める可能性があるものの、同時に米国との関係も維持したいという複雑な立場を示している。これに対し、日本はこれらの国々をどのように巻き込むかが重要な課題である。特にインドネシアは、将来的に国際的な影響力を持つ国となることが期待されており、インドとの協力関係を深化させることが鍵となる。

 また、インドネシアとロシアの合同演習やBRICS加盟の動きは、米国の威信が低下していることを示している。日本は、グローバル・サウスの支持を得るために、より積極的に行動する必要がある。特に、日印豪インドネシアからなる「アジア版クアッド」の立ち上げを考えることが重要である。 

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】安倍外交の継承とアジア版クアッドが描く日本の未来戦略

まとめ
  • 安倍氏の戦略は、単なる対中牽制を超え、アジア太平洋地域の安定と繁栄を目指した多角的な枠組みを構築した。
  • アジア版クアッドは、軍事同盟に頼らず、戦略的柔軟性と経済的相互依存を追求する枠組みとして注目されている。
  • ヨーロッパ型の軍事同盟モデルをアジアに適用する石破氏の発想は、地域の歴史的・文化的背景を無視したものである。
  • 2023年バリ島やジャカルタでの会合を通じて、海洋安全保障や経済協力などの幅広い多国間協力が議論された。アジア版クアッドは、オプションの一つとして浮上した。
  • 単なる軍事力の誇示ではなく、経済、文化、安全保障の全てにおいて地域の連帯を深める柔軟かつ現実的なアプローチこそが、アジアの安定に寄与し日本の未来を切り拓く鍵となるだろう。

地政学的激動の只中にある現代アジアで、日本の外交戦略は今、極めて重要な岐路に立たされている。その選択は、単なる政策の範囲を超え、日本の国家的アイデンティティとアジア太平洋地域全体の未来を決定づける歴史的なものだ。ここで浮かび上がるのが、安倍晋三元総理が提唱したビジョンをどのように継承するかという課題である。安倍氏の外交は、単なる対中牽制を超えた戦略的多角化の象徴であり、アジア太平洋地域の安定と繁栄を目指す高度に洗練された枠組みを提示してきた。

2022年から2023年にかけて水面下で進められてきた「アジア版クアッド」構想は、その一例といえる。この枠組みは、ニューデリー、東京、ワシントン、キャンベラでの外相会合や非公式な外交対話を通じて徐々に具体化された。そして、インドネシアの戦略的重要性が議論の中心となり、地域の安定に向けた多国間協力の可能性が再認識された。

2023年インドネシア、首都ジャカルタで開催されたASEAN会議

特に2023年3月のジャカルタでのASEAN会議における非公式戦略対話では、南シナ海の安全保障、気候変動対策、経済的レジリエンスといった課題が集中的に取り上げられた。この場で、ジョコ・ウィドド大統領が「アジア太平洋地域の安定は軍事同盟だけでなく、経済的相互依存と文化的対話によってもたらされる」と強調した発言は、参加各国に深い影響を与えた。

こうした背景の中で、アジア版クアッドは、従来の軍事同盟の硬直性を排し、戦略的柔軟性と経済的相互依存を同時に追求する革新的な枠組みとして注目されている。この構想は、冷戦期の二項対立的な国際秩序が崩壊し、多極的で複雑な新時代が到来する中で生まれた知的遺産ともいえる。安倍外交の遺産を継承するこの取り組みは、単なる対中牽制にとどまらず、地域全体の安定と発展を目指す多国間協力の新たな模範を示している。

一方で、石破茂氏が提唱する「アジア版NATO」の構想は、その発想が現実の地域情勢と乖離しているとの批判を免れない。ヨーロッパのNATO型集団安全保障体制をそのままアジアに移植するという考え方は、この地域の複雑な歴史的背景や文化的文脈を無視した危険な試みと言える。韓国や中国による歴史修正問題、ASEAN諸国の微妙な立場の違い、そして中国・ロシアとの地政学的対立が絡むこの地域では、単純な軍事同盟モデルは分断と緊張を助長する危険性が高い。

石破首相

2023年9月にバリ島で開催された非公式戦略対話は、アジア版クアッドの可能性を明確に示す場となった。この対話では、海洋安全保障やデジタルインフラ、気候変動対策を含む幅広い協力が議論され、特にインドネシアの独自の視点が注目を集めた。インドネシアのような国々は、中国との経済的依存関係を維持しながら安全保障上の選択肢を広げたいと考えており、アジア版クアッドの柔軟な枠組みはこうした戦略に合致している。

南シナ海における中国の挑発的な行動に対し、直接的な対決を避けつつ、地域の安定に向けた多国間協力を模索するこうしたアプローチは、まさに安倍氏の外交哲学の延長線上にあるものだ。

現在、日本の進むべき道は明らかである。安倍晋三氏が築いた知的かつ戦略的な外交の遺産を引き継ぎ、アジア太平洋地域の安定と繁栄を主導する新たな枠組みを構築することが求められている。単なる軍事力の誇示ではなく、経済、文化、安全保障の全てにおいて地域の連帯を深める柔軟かつ現実的なアプローチこそが、日本の未来を切り拓く鍵となるだろう。

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2024年11月22日


2024年11月26日火曜日

川口クルド人出稼ぎ断定、20年前に封印 「難民申請者の出身地が特定の集落に集中」「出稼ぎ村」報告書、日弁連が問題視 産経報道―【私の論評】日本の未来を守る移民・難民政策:国益重視の戦略的対応とは

川口クルド人出稼ぎ断定、20年前に封印 「難民申請者の出身地が特定の集落に集中」「出稼ぎ村」報告書、日弁連が問題視 産経報道

まとめ
  • 法務省入国管理局が2004年、トルコ南部の複数の村を調査し、「出稼ぎ」と断定する「トルコ出張調査報告書」を作成。
  • 難民申請者の出身地が特定の集落に集中し、出稼ぎ目的が多いことを指摘。「日本で再度働きたい」との相談や、高級住宅の居住状況も記録。
  • クルド人側の弁護団が法廷で報告書を問題視し、日本弁護士連合会も「人権侵害」と指摘。
  • 法務省は調査結果の公開を控えざるを得なくなった。
  •  2024年11月25日付の産経新聞が報じて発覚。


 法務省入国管理局が2004年にトルコ南部の村々を調査し、クルド人の難民申請を「出稼ぎ」と断定した報告書『トルコ出張報告書』をまとめていたことが明らかになった。この報告書は、クルド人の難民申請の妥当性に疑問を投げかけるものであるが、日本弁護士連合会が「人権侵害」と指摘したことから公表されなかった。

 問題の中心は、難民申請者の個人情報をトルコ当局に提供した疑いがあることである。法務省は「新たな迫害がないよう配慮して調査した」と反論したが、日弁連は「重大な人権侵害だ」として当時の法相に警告書を出した。

 この結果、報告書の内容は「封印」されることとなった。しかし、調査した3県出身者が現在も難民申請者の8割を占めているという事実は、報告書の結論を裏付ける可能性がある。

 統計によると、過去20年間でトルコ国籍の難民申請者は1万2287人に上ったが、難民認定されたのはわずか4人である。一方で、川口市のトルコ国籍者は約200人から約1200人に増加している。

 この事例は、難民認定の複雑さと、人権保護と入国管理の両立の難しさを浮き彫りにしている。報告書の内容が公表されなかったにもかかわらず、難民認定率の低さと特定地域からの申請者の多さは、当初の調査結果と一致する傾向を示している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】日本の未来を守る移民・難民政策:国益重視の戦略的対応とは

まとめ
  • 21世紀の移民・難民問題は、安全保障や経済、文化、国際関係に深刻な影響を与える複雑な課題となっている。
  • 日本では入管法厳格化や低い難民認定率である一方、米国の強硬策、EUの社会的反発など、移民政策が各国で多様化・緊迫化している。
  • 難民認定には、UNHCRやNGO等からの多角的な情報収集や人権保護に重要な役割を果たすが、複数の機関を活用した公平な制度が求められる。デジタルフォレンジック技術も併用すべきである。
  • 現行制度の問題点: 日本の難民認定制度は曖昧であり、形式的な厳格化では本質的な解決に至らない。
  • 求められる政策: 日本は欧米諸国の失敗を学び、自国の安全保障や社会的調和を重視した慎重かつ戦略的な政策判断が必要。


21世紀における国際的な移民・難民政策は、かつてないほど複雑で、流動的な様相を呈している。グローバル化が進展した世界において、人の移動は単なる人道的課題を超え、国家の安全保障、経済、文化、そして国際関係に深刻な影響を与える重大な政治的課題となっているのだ。

日本の状況は、この国際的な潮流の中でも特異な位置にある。2023年6月の入管法改正は、難民申請手続きにおける一層の厳格化を示す象徴的な出来事である。3回目以降の申請者に対する強制送還制度の導入された。その年の難民認定者数は303人と、過去最多を記録したものの、全体の申請者数から見れば、その認定率は極めて低い。

米国の移民政策は、さらに複雑で劇的な様相を見せている。バイデン政権は12万5000人の難民受け入れを公約として掲げるが、現実は全く異なる。900万人以上の不法移民が流入し、社会的緊張は臨界点に達している。再選されたトランプ元大統領の2025年移民政策は、さらなる強硬路線を予感させる。南部国境の壁建設、国境警備の徹底的な強化、H-1Bビザ(就労ビザ)の資格要件厳格化、ドローン監視や生体認証システムの導入──これらの施策は、移民問題に対する軍事的アプローチとさえいえるほどの徹底ぶりだ。


EUの状況も、同様に緊迫している。ドイツ、ハンガリーを筆頭に、移民・難民受け入れに対する社会的反発が急速に高まっている。厳格な国境管理、送還促進策、文化的同化圧力──これらの政策は、多文化共生という理想と現実の社会的摩擦との間で苦悩する欧州の姿を浮き彫りにしている。

日本社会における移民・難民政策は、さらに慎重かつ多角的な視点が求められる。単なる人道的配慮だけでなく、治安、公共サービス、労働市場、文化的調和──これらすべての側面を総合的に検討しなければならない。移民は単なる数字ではない。彼らは社会の構造そのものに影響を与える、生きた存在なのだ。

難民申請の「真偽」を確認する従来のアプローチ、特に本国への直接的な照会は、もはや有効性を失っている。代わりに、より洗練され、人道的で、かつ戦略的なアプローチが不可欠となる。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、Human Rights Watch、Amnesty Internationalなどの国際的なNGOは、この文脈において重要な役割を果たし得る。

これらの機関は、単なる情報源ではない。彼らは、申請者の人権を保護しながら、客観的で多角的な情報収集が可能な、高度に専門的なネットワークを持っている。国連や米国務省の人権報告書、デジタルフォレンジック技術、第三国の専門家ネットワーク──これらを総合的に活用することで、申請者の証言の信憑性を公平かつ科学的に検証できる可能性が高まる。ただし、これらの第三国のネットワーク、国際機関、NGOとも完璧に公平・中立とはいえず、複数の機関やNGOを利用すべきだ。

法務省入国管理局の『トルコ出張報告書』は、その方法論において問題を含んでいた。しかし、報告書の内容を全面否定することはできない。特に、クルド人の難民申請の妥当性への疑義ついてはそうである。法務省は、一度封印されたことに躊躇することなく、このような調査を、上であげた様々なアプローチを用いて再度実行し難民認定などに活かしていくべきである。

危 険 な 過 積 載 の 通 称 「 ク ル ド カ ー 」  2 0 2 3 年 7 月 、 埼 玉 県 川 口 市 ( 市 民 提 供 )

そうして、難民認定にもこのようなアプローチを含むべきである。難民発生の原因や影響を正確に把握することは難しいかもしれないが、難民申請者が国内で逮捕状を出されているか否か、国内での生活実態などは、比較的簡単に調べられるだろう。

現在の曖昧な難民認定制度は、米国やEUの失敗を繰り返す危険性をはらんでいる。入管法の形式的な厳格化は、本質的な解決策とは言えない。いくら厳格化しても、難民認定の方法が曖昧であれば、意味はない。真に求められているのは、国民国家日本として、まず第一に日本人の人権、日本の国家安全保障、日本の社会的調和を同時に追求する、高度な戦略的思考なのだ。

日本は今、歴史的な岐路に立っている。グローバル化した世界において、移民・難民受け入れを当然とした、欧米諸国の大失敗に学び、慎重な移民・難民政策が求められている。国際社会の信頼を得つつ、自国の安全と社会的安定を確保するべきであり、その高度な政策判断が、今、日本に課せられた最大の挑戦なのである。

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在日クルド人のトラブル続出…「素性」わからぬ不安 警察介入も難しく―【私の論評】難民認定申請をしている間は、外国人が合法的に日本に在住できることが問題の根底に 2023年9月2日


【移民ショック】ドイツ女性集団わいせつ、容疑者18人が難民申請者…メルケル首相の寛容策に逆風「駅前の秩序も保てず」―【私の論評】移民・難民問題は対岸の火事ではない、「事なかれ主義」で臭いものに蓋ではもう通用しない 2016年1月9日

2024年11月25日月曜日

「河村たかし前市長の政策と理念を引き継ぐ」名古屋市長選で広沢一郎が当選 自・立・国・公推薦の大塚耕平さんら破る―【私の論評】名古屋市長選の勝因と敗因:広沢氏の戦略とメディアの責任を問う

「河村たかし前市長の政策と理念を引き継ぐ」名古屋市長選で広沢一郎が当選 自・立・国・公推薦の大塚耕平さんら破る


 河村市政15年の評価などが争点となった名古屋市長選挙が11月24日、行われ、新人で元副市長の広沢一郎さんが当選を果たしました。

 過去最多に並ぶ7人が立候補した名古屋市長選は、河村前市長から後継指名を受けた元副市長の広沢一郎さん(60)が、自民、立憲、国民、公明が推薦した大塚耕平さんらを破り当選を果たしました。

名古屋市長選挙で当選した広沢一郎さん: 「『河村前市長の政策と理念を引き継ぐ』。この一点で勝負してきたのでそれが有権者の心に響いたんだと思う」

 広沢さんは、市民税減税など河村前市長の進めた政策の継続を訴え、支持を集めました。

【私の論評】名古屋市長選の勝因と敗因:広沢氏の戦略とメディアの責任を問う

まとめ
  • 沢氏は市民生活に直結する政策を提示し、若年層から中高年層まで幅広い支持を集めた。
  • SNS活用と討論会の効果: SNSを活用した選挙戦略と、討論会での説得力ある発言が市民の信頼を獲得した。
  • 前市長の路線継承: 河村たかし氏の政策を引き継ぐ姿勢が、支持層の票を取り込む要因となった。
  • デマや誤解が大塚耕平氏の評価を下げたが、得票数の差異などから、これが主因とは言えないだろう。
  • マスコミや有識者と呼ばれる者たちが陥った「傲慢」のツケはで彼らがこのまま衰退していくのは必然であり、むしろ健全な民主主義の回復のために必要な過程であるといえるだろう。

広沢氏が名古屋市長選挙で勝利した背景には、複数の要因が絡み合っている。彼は、まず具体的で実現可能な政策を掲げ、地域経済の振興や公共交通の改善、子育て支援といった市民生活に直結する課題に焦点を当てた。特に名古屋市の経済成長を目指した具体的な数値目標を示すなど、市民に「この人ならやれる」という信頼感を抱かせるマニフェストを提示したことが決定打となった。

選挙前の世論調査でも、広沢氏は他の候補者を大きくリードしていた。選挙1か月前の時点で彼の支持率は40%を超え、特に若年層や中高年層からの支持が顕著であった。この数字は、単なる偶然ではなく、彼の政策が幅広い世代の関心を的確に捉えていたことを物語る。また、SNSを駆使した選挙戦略も奏功した。

TwitterやInstagramなどを積極的に活用し、短期間でフォロワー数を大幅に増加させた。これにより、若者層だけでなくインターネットに慣れた幅広い市民層へのメッセージ発信が可能となり、リアルタイムでの情報共有が彼のイメージをさらに強化した。

さらに討論会でのパフォーマンスも見逃せない。広沢氏は具体的なデータを駆使して説得力のある主張を展開し、他候補者の発言に対して的確かつ冷静に反論を加えた。こうした議論の姿勢は聴衆の信頼を勝ち取り、政策に関する深い理解をアピールする結果となった。また、地元の商工会や教育関連団体、環境保護団体からの支持を受け、地域経済への理解と貢献意欲を強調した。

河村たかし氏

広沢氏の勝因を語る上で、前市長である河村たかし氏の存在も重要である。河村氏が進めてきた市民参加型政治や地域経済活性化政策を継承することを明確に打ち出し、その支持層の票を取り込むことに成功した。河村氏がかつて推進した減税政策の成果、すなわち企業の税負担軽減と地元経済の活性化といった具体例を広沢氏はさらに発展させることを約束し、これが「河村たかしの後継者」としての信頼を得る要因となった。

一方で、対立候補である大塚耕平氏にはいくつかの逆風があった。選挙戦では、SNSを通じて「大塚氏は移民推進派で増税派である」というデマが拡散された。これらは明らかに事実と異なる情報であるが、その影響力は無視できない。

彼は移民政策に慎重な立場を取っており、またMMT(現代貨幣理論)を信奉して財政支出の拡大を提唱する姿勢を示しているが、増税そのものを主張したことはない。にもかかわらず、こうした理論への誤解が彼を「増税派」と見なす風潮を助長した可能性は否定できない。

ただ、ここで注目すべきは、マスコミやいわゆる有識者たちがこうした選挙の本質を正確に報道せず、むしろSNS上のデマにすり寄るような形で一部の情報を誇張した点である。兵庫県知事選でも名古屋市長選でも、彼らは「SNSのデマが選挙を歪めた」などと解説したが、それは県民や市民を愚弄するような発言にほかならない。

果たして本当に、多くの有権者がデマに踊らされただろうか? 答えは否である。むしろ、こうしたデマの影響を誇張することで、彼ら自身の不確実な報道や分析の責任を覆い隠そうとしているのではないかと疑わざるを得ない。

米大統領選結果

そもそも日本のメディアの報道姿勢には深刻な問題がある。米国大統領選においても、トランプ氏の支持率を過小評価する米メディアの報道をそのまま垂れ流し、選挙後に実際の得票率との乖離が指摘されても、その分析を真摯に報じることはなかった。また、日本国内でも総裁選のたびに「石破人気」を煽った結果、政権発足直後の支持率が危険水域に突入するという矛盾を生んだのは記憶に新しい。

日本のマスコミは、世論の動向や政治的判断を正確に伝える役割を放棄し、自らの偏向的な解釈を市民に押し付けてきた。その結果、信頼を失い、視聴者や読者から見放されつつあるのが現状である。

我々は、こうしたマスコミの欺瞞を見抜き、真実を自らの手で見極める覚悟を持たねばならない。マスコミや有識者と呼ばれる者たちが陥った「傲慢」のツケは、すでに彼ら自身に返りつつある。彼らがこのまま衰退していくのは必然であり、むしろ健全な民主主義の回復のために必要な過程であるといえるだろう。



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