2025年11月4日火曜日

高市政権82%、自民党24%――国民が問う“浄化の政治”とは何か

 まとめ

  • 高市政権は高支持率を維持しているが、自民党の信頼は依然として低迷しており、拙速な解散は危険である。党の信頼を取り戻す「整備と浄化」の時間が必要だ。
  • 解散前に整えるべき三本柱は、政治資金の透明化、生活実感を伴う家計支援、連立や政策協定の明示であり、これらのうち二つ以上を実現してから信を問うべきだ。
  • 自民党保守派は「お行儀の良いサラリーマン」ではなく、防衛増税を巡る党内審議で怒号を飛ばすほど激しく増税派と対立し、その闘いが党の流れを変えた。
  • 2025年5月の「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」再始動が保守派結集の転機となり、分裂ではなく結集を選んだことで高市総裁誕生の道が開かれた。
  • 高市首相の外交姿勢には「霊性の文化」と「改革の原理としての保守主義」が融合しており、韓国旗への一礼に象徴される礼節と尊厳の政治こそ、時を待ちながら信頼を築く真の保守の道である。
1️⃣支持率の乖離が示す現実


高市政権の支持は高水準だが、自民党そのものへの信頼はまだ戻っていない。事実、今年7月のNHK世論調査で自民党支持は24%まで落ち込み、低迷を示した。これは石破政権末期の数字で、高市政権発足後の“ご祝儀相場”とは対照的である。いま必要なのは、内閣の勢いに頼ることではなく、党そのものの信頼を積み直すことだ。ちなみに内閣支持の方はJNNなど複数調査で80%前後という極めて高い数値が確認されている。(Reuters)

公明離脱を経た政権構造は再設計の途上であり、生活実感もなお鈍い。賃上げは進むが、家計は物価上昇の影を引きずり、国民の評価は「今すぐ選挙で信を問え」とまでは熟していない。ここで拙速に解散に踏み切れば、比例票の取りこぼしが連鎖し、政権の足腰を逆に弱める危険がある。結論は明快だ。いまは“整備と浄化”の時間である。
 
2️⃣90日で整える三本柱


第一に、政治資金の透明化を本気でやる。パーティー券と収支の公開を機械判読レベルまで上げ、第三者監査を常設する。これはマスコミが煽りまくり、検察が起訴できない政治資金不記載問題を裏金問題にすり替え、実際よりも巨悪に仕立てたが、それにしてもこの問題を放置はできない。与党だけでなく、野党も同じ規制をかけるべきだ。

第二に、家計に届く即効策で“実感”を作る。エネルギー・燃料負担の時限軽減と、中小の価格転嫁支援を機動的に打ち、数字だけでなく生活の手触りを変える。

第三に、選挙後の枠組みを先に見せる。維新などとの政策合意を文書で明示し、政権像をあらかじめ提示する。この三本柱のうち二つ以上を確実に形にしてから、春から夏にかけて信を問う――それが勝ち筋である。

「今すぐ選挙」という意見にも理はなくもない。野党再編が遅れ、追い風は吹いている。しかし、党支持が立ち上がらないまま走れば、勝っても脆い。政権構想が曖昧なまま突っ込めば、「場当たり」の烙印を押されるだけだ。ここは焦らない。勝つために、整える。
 
3️⃣分裂ではなく結集――霊性と「改革の原理としての保守主義」

自民党の結集を訴える高市総裁

かつて、岸田・石破リベラル路線が続いた時期に「高市は塔を出て新党だ」「野党と合流だ」という声があった。私も一度はこのブログに、かつての三木武夫首相のやり方を参考に、それを主張したこともあった。その背景には自民党のリベラル・左派、官僚、マスコミによる日本の毀損という危機感というより絶望感があった。

だが、出なかった判断は結果として正しかった。中国の浸透、マスコミや財務官僚、党内左派の結束は侮れない壁だった。そこで自民党内の保守は逃げず、党内で真正面から闘った。象徴的なのは、防衛増税を巡る自民党会合で怒号が飛び交った一件だ。あの場面は、保守が“お行儀の良いサラリーマン”などではなく、現場で命懸けの論戦をしていた事実を物語る。(TBS NEWS DIG)

そして2025年5月、麻生太郎氏を本部長とする「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」が再始動した。ここに保守が結集し、流れは変わった。高市総裁誕生への道筋は、この“分裂ではなく結集”の選択から拓けたのである。(eikei.jp)

高市首相は外交でも日本の「霊性の文化」を体現し始めている。韓国・慶州での首脳会談に先立ち、日韓両国旗に向けて深く一礼した所作は、屈従ではなく“相手の象徴への敬意”という日本的礼節そのものだ。礼を尽くし、相互の尊厳を起点に対話を始める――その一瞬に、争いを前提にしない力の行使があった。(Alamy)

ここに「改革の原理としての保守主義」が重なる。保守とは、古びた制度にしがみつくことではない。受け継ぐべき原理を守りながら、時代に合わせて形を大胆に変える胆力である。伝統の根を守り、枝葉を剪定する。その作法で政治を“浄化”し、社会を“調和”へ導く。だからこそ、今は拙速に旗を振る時ではない。党の信頼を磨き、生活の実感を作り、政権の枠組みを定める。順序を守ってから、堂々と信を問う。

最後にもう一度だけ言う。焦って解散はしない方がいい。高市政権は、霊性の文化が教える「時を待つ徳」と、保守が示す「原理に立脚した変革」を重ね合わせ、春に勝つ準備を整えるべきだ。数字は待ってくれる。だが、信頼は準備の先にしか生まれない。

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連敗の事実とメディア環境の偏りを検証し、政党内手続きが民意を代替できない危険を指摘。保守再生の条件を逆照射する一篇。

2025年11月3日月曜日

山上裁判が突きつけた現実──祓(はら)いを失った国の末路


まとめ

  • 山上容疑者の「宗教二世の悲劇」は虚構であり、父の自殺や母の破産、兄の病など主要な不幸は統一教会入信以前または本人の自立後に起きているため、宗教との因果関係は薄い。
  • 日本人の「霊性の文化」とは、他人を責めず己を省みる心であり、神道の祓(はらい、祓え)に象徴される内省の倫理が潜在意識に根づいてきたが、現代はそれを失い外に敵を求めるようになっている。
  • マスコミは事実の検証よりも感情を優先し、全国紙が同じ見出しで報道するなど「第二の加害」とも言うべき同調報道を行い、社会全体が山上の誤った因果を共有する結果になった。
  • 事件そのものにも、警備の不備、発砲音や煙、弾道と致命傷説明の矛盾など多くの不審点があるにもかかわらず、報道は「宗教問題」へ論点を固定した。
  • 安倍暗殺は日本人の精神性崩壊の象徴であり、「日本死ね」「安倍政治を許さない」などの言葉の暴力がその前兆で、現在の高市早苗氏へのマスコミ攻撃もその延長線上にある。

安倍晋三元首相が凶弾に倒れてから三年。奈良地裁で続く山上徹也被告の公判は、いまも世論を揺らしている。
検察は計画的な殺人として死刑を求める構えを見せ、弁護側は「母親の信仰に苦しんだ宗教二世の悲劇」として情状酌量を訴える。だが、法廷で明らかになりつつある事実は、マスコミが作り上げた“物語”とはあまりに違う。
本稿では、山上の生い立ちを時系列で整理し、統一教会との関係を冷静に見直した上で、事件を覆う報道の異様さと、日本人が忘れかけた「霊性の文化」の視点からこの事件の本質を考えたい。

1️⃣山上の境遇を時系列で検証する──「宗教二世の悲劇」は虚構である


山上徹也の人生は「宗教に翻弄された悲劇の息子」としてセンセーショナルに語られてきた。だが、事実を時系列で追えば、その構図は根底から崩れる。

父親の自殺は1984年。母親が統一教会に入信する七年前のことであり、当時、彼女が傾倒していたのは別の団体「朝起き会」だった。兄の小児がんも信仰とは無関係の病気である。母親が破産したのは2002年。山上はすでに海上自衛官として自立しており、妹も十九歳。母の破産が家庭を崩壊させたとするのは不自然だ。むしろ子どもが巣立った後に信仰にのめり込み、資金を使い果たした結果の破産だったと見る方が筋が通る。

山上自身の自殺未遂も、本人が語る「兄妹の生活費のため」という説明には無理がある。当時、妹は成人しており、兄も高校を卒業していた。生活を支える必要性は乏しく、むしろ山上自身の精神的な混乱が原因だったと考えられる。
さらに兄の自殺(2015年)を宗教のせいにする根拠もない。教育面の報道にも誤りが多く、「同志社中退」「京大に入れた」という話は事実ではない。母親は息子を名門高校に通わせており、妹も宗教による被害を否定している。

こうして整理すれば、山上家の不幸の多くは統一教会入信以前、あるいは本人が自立した後に起きている。つまり、「宗教が家庭を壊した」という構図は成り立たない。山上は、己の不幸を宗教のせいにし、さらにそれを政治的対象にすり替えた。彼は“被害者”ではなく、誤った因果を信じた“加害者”だったのである。

2️⃣日本人の「霊性の文化」──無意識に受け継がれる心の規律

日本の霊性の文化とは、他人を責めず、まず自らを省みる心の在り方である。古来より我が国では、災いや不運に直面しても、外に原因を求めず、己の内を清めようとしてきた。神道の祓(はらえ)は、悪を他者に転嫁するための儀式ではなく、心を正し、穢れを祓う行為である。

この精神は、多くの日本人が明確に意識しているわけではない。だが、無意識のうちに深く刻み込まれている。
神社の鳥居をくぐるときに自然に一礼し、墓前に立てば静かに手を合わせる。その姿に、我が国の霊性の文化は今も息づいている。善悪を超えて“清め”を尊び、自然との調和を重んじる感覚――それが日本人の魂の奥底にある。


霊性の文化は、特定の宗教を信じることではない。
自然、祖先、社会の秩序と調和して生きようとする心の態度だ。古来の神道においても、悪を罰するより、まず心を整えることが重んじられた。行いを正し、他人を思いやり、争いを避ける。その積み重ねが「和」を生んだ。
しかし、近代以降の合理主義が進む中で、この精神は言葉を失った。だが、それでも日本人の潜在意識の奥には今も息づいている。

この霊性を忘れたとき、人は不幸の原因を外に探し、他者を責め始める。山上の行為は、まさにその典型であった。自らの苦悩を省みず、外に敵を作って憎悪に変える。霊性を失った現代日本の危うさが、そこに凝縮されている。

3️⃣報道の同調と「第二の加害」──そして事件に潜む不可解な闇

本来、事実を冷静に伝えるべきマスコミが、この事件では感情を煽る役割を果たした。
父の自殺、母の破産といった時期の異なる出来事を一括りにし、「宗教二世の悲劇」と報じ続けた。事実の検証より“共感”を優先し、山上の動機を美化した報道があふれたのである。

特に異様だったのは、暗殺の翌日、全国主要紙の一面見出しが軒並み同じ構成だったことだ。
「銃撃」「旧統一教会」「安倍元首相と宗教団体」――この三語が全国の紙面を埋め尽くした。まるで一つの脚本に基づいていたかのように、どの社も同じ語り口で事件を描いた。
異なる編集方針を掲げる新聞が、同じ方向へ一斉に流れる。その同調ぶりは、日本の報道界に根深い“忖度”と“自己検閲”の存在を示していた。

安倍氏暗殺の翌日の主要紙、地方紙新聞見出し

報道が同じ方向を向いた瞬間、社会は思考を止める。
「なぜ守られなかったのか」「なぜ撃たれたのか」という根源的な問いがかき消され、「統一教会と政治」という筋書きだけが残った。
これこそが“第二の加害”である。山上が抱えた誤った因果を、マスコミが国民全体に拡散させたのだ。

さらに事件そのものにも、いくつもの不可解な点が残っている。
SPの動きの遅さ、発砲の間隔、弾道の方向、そして未発見の弾丸。映像では花火のような鈍い音と白煙が映り、黒色火薬の使用をうかがわせるが、警察の説明は「無煙火薬」だった。医療側は「頸部損傷」、警察は「上腕損傷」と説明を変え、致命傷の特定も揺れている。
単独犯が自作の銃でこれほどの威力を再現できたのか――疑問は残る。

だが、マスコミはこれらを深く掘り下げず、「宗教問題」としての枠に押し込めた。結果、事件は「安倍政治の終焉」という政治的物語にすり替えられた。まるで銃弾ではなく、情報の奔流が安倍晋三を葬ったかのようだった。

我が国の霊性の文化は、本来こうした「不可視の悪意」を察する感性を持っていた。
だが現代の日本は、その直観を失い、表面的な物語に酔っている。安倍晋三という政治家の死を、誰がどう利用したのか――そして、本当に山上単独による犯行だったのか。その前提すら疑う勇気を、私たちは取り戻さねばならない。

それこそが、我々が見失った「真実への祓い」の道である。

4️⃣精神の崩壊としての暗殺──「言葉の暴力」が生んだ日本の危機


安倍晋三暗殺事件は、単なる政治テロではない。
それは、日本人の精神が崩れかけていることを示す“鏡”だった。

「日本死ね」――この言葉が流行語大賞に選ばれたとき、私は背筋が凍った。
「安倍政治を許さない」「安倍を叩き切ってやる」「安倍が死んでよかった」。
これらの言葉は、事件の数年前から社会に充満していた“怨嗟の毒”である。
それを、政治的主張の一部として拍手喝采したメディアや知識人がいた。
その瞬間、我々はすでに“言葉の殺人”を始めていたのだ。

安倍の命を奪った銃弾は、冷たい金属ではなく、長年積み重なった憎悪の言葉が形を変えたものだった。
この事件は、一人の男の狂気ではなく、社会全体が育てた“集団の病”である。
日本人が長い歴史の中で培ってきた「祓い」「慎み」「敬い」の心が失われ、
罵倒と正義が混ざり合う“暴言の時代”が生まれてしまった。

この流れは今も続いている。
マスコミが高市早苗氏を標的にし、根拠の薄い疑惑を繰り返し報じる姿は、
まるで“第二の安倍狩り”だ。
彼女が女性であれ保守であれ関係ない。
「憎む相手を作り、集団で叩く」――それが今の日本社会の快楽になっている。
これほど霊性を失った姿があるだろうか。

かつて日本人は、他人の不幸を喜ぶことを恥じとした。
他者を悪しざまに罵れば、自分の魂が穢れると知っていた。
だが今や、言葉の刃を振るう者が“正義”の顔をしている。
これこそ、日本人の精神性崩壊の危機である。

安倍暗殺事件は、その頂点だった。
山上が引き金を引く前に、すでに我々は「祓い」を忘れ、
言葉で互いを撃ち合う国になっていたのだ。

霊性を取り戻さねば、この国は再び誰かを“正義”の名のもとに殺すだろう。
安倍晋三の死を無駄にしないために、我々が向き合うべき敵は他人ではない。
それは、我々自身の心の荒廃である。

そして、この言葉は決して「リベラル・左派」などにだけ向けられたものではない。
自らを「保守」と呼ぶ人々が、これを他人事として切り捨てるなら、それこそが霊性を失った証である。
「霊性の文化」とは、信条や立場の違いを超えて、己の内に潜む驕りと憎悪を祓い清める力のことであり、
それを欠けば、右も左も同じく“正義”という名の暴力に呑まれる。

保守であれリベラル・左派であれ、真の危機は思想の違いではない。
我々一人ひとりが、言葉の刃で他者を断罪し、自らの心を荒らしてゆくことこそが、この国を蝕む病である。
「霊性を取り戻す」とは、信念を捨てることではなく、信念を祓い清めてもう一度“祈りの国”を思い出すことなのだ。

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伊勢の「常若」を軸に、現下の政局や市場変動を超える日本の霊性文化の持続性と、その制度的継承の意味を解説。

国民の祈りを裏切るな──アンパンマン型リーダーを欠けば自民党に未来はない 2025年10月3日
日本の物語観(祓いと循環)から政治リーダー像を読み直し、高市氏が体現し得る資質を論じたエントリー。

世界が霊性を取り戻し始めた──日本こそ千年の祈りを継ぐ国だ 2025年9月30日
SBNRの潮流を日本固有の「二重の祈り」(天皇の祈り/庶民の祈り)に接続し、現代政策への含意を提示。

奈良の鹿騒動──高市早苗氏発言切り取り報道と拡散、日本の霊性を無視した攻撃が招く必然の国民の反発 2025年9月29日
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2025年11月2日日曜日

高市外交の成功が示した“国家の矜持”──安倍の遺志を継ぐ覚悟が日本を再び動かす


まとめ
  • 高市首相は就任直後から迅速に外交を展開し、米・印・ASEANとの関係を再構築した。2025年の習近平主席との会談では日中対話を復活させ、これは自民党の戦略本部が事前に高市政権を想定して準備していた成果である。
  • 高市外交の根底には、安倍晋三の「自由で開かれたインド太平洋」構想があり、理念と現実を結ぶ「対話による抑止」を実践した点に真価がある。安倍が築いた戦略的一貫性を忠実に継承した。
  • 安倍・菅政権は国債発行による約100兆円の補正予算で失業率と医療崩壊を防ぎ、総需要・雇用・医療を同時に守り抜いた。まさに我が国財政政策の世界に誇れる金字塔である。財務省は緊縮論崩壊を恐れ沈黙した。
  • 岸田政権の「新しい資本主義」、石破政権の「新しい安全保障」などは耳障りの良いだけのスローガンで、安倍の成功モデルを放棄した結果、外交は迷走し経済も停滞した。言葉だけの“新しさ”が国家を鈍化させた。
  • ドラッカーの説く「改革の原理としての保守主義」は、安倍政権の成功を導いた実証の原理である。岸田・石破両政権はこれを無視して失敗したが、高市政権は再びこの王道に立ち戻り、日本再生の道を示した。
1️⃣高市外交の即応力と戦略的勝利


高市早苗首相は就任直後から、驚くべき速さで外交を動かした。米国のトランプ前大統領との会談を皮切りに、インドのモディ首相、ASEAN諸国の首脳らと相次いで協議を行い、短期間で日本外交の信頼を取り戻した。こうした一連の成果の頂点が、2025年10月31日、韓国・慶州で行われたAPEC首脳会議での中国国家主席・習近平との会談である。

この会談で両首脳は、「相互利益を高める関係を築く」と確認し、長く停滞していた日中高官レベルの対話を再開させた。日本側は東シナ海や南シナ海における中国の活動、希土類輸出規制、日本人拘束事件などの懸案を率直に伝えた。高市外交は、対立でも融和でもない。“言うべきことは言う”という現実的外交だった。これは安倍晋三が打ち立てた「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の理念を、実際の行動に移したものである。

多くのメディアは、会談の成果よりも「実施された」という事実だけを淡々と報じた。だがその裏には、緻密な準備があった。2025年5月、自民党「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」は麻生太郎副総裁を本部長に、前国家安全保障局長の秋葉剛男氏を招き、次期政権の外交方針を具体的に検討していた。高市政権の誕生を見越し、政権発足と同時に外交を再始動できる体制が整えられていたのだ。

高市外交の即応力は偶然ではない。党の設計力、政府の実行力、そして安倍晋三が遺した国家戦略が、すべて噛み合った結果である。安倍外交を忠実に継承しつつ、より現実的な判断で国益を守る――それが高市外交の真の力である。

2️⃣危機を乗り越えた財政の金字塔と沈黙する財務省

高市外交の背景には、安倍・菅両政権が築いた経済政策の成果がある。新型コロナの危機に際し、政府は増税を行わず、国債発行による約100兆円規模の補正予算を決断した。雇用調整助成金や持続化給付金などの制度が機能し、失業率は3%台に抑えられた。欧米で見られたような急激な雇用喪失も、医療崩壊も起こらなかった。

この三本柱――「総需要の維持」「雇用の確保」「医療体制の維持」――を同時に達成した国はほとんどない。まさに我が国財政政策の世界に誇れる金字塔として記録されるべき成果である。

現財務次官新川浩嗣氏

しかし、メディアはこの因果をほとんど報じなかった。そのため、菅政権はあたかもコロナ対策に失敗したかのようにマスコミなどに扱われ、短命に終わったが、岸田政権の半ばまで経済が比較的安定していた理由を、多くの国民が理解できなかった。財務省もまた、この成功には一切触れなかった。安倍政権が「増税なき国債発行」で危機を乗り切ったと認めれば、「国債=将来世代への負担」という彼らの持論が崩れるからだ。下手に批判すれば、緊縮財政の誤りが露呈し、積極財政の正しさが明らかになってしまう。ゆえに財務省は沈黙したのである。マスコミも右に倣えだった。

岸田・石破両政権は、安倍流の積極財政を受け継がず、財務省の意向に沿って緊縮へ舵を切った。安倍が築いた「すでに成功した方法」を捨て、“耳障りの良い理想”を掲げるだけの政治に転落した。その象徴が岸田政権の「新しい資本主義」である。格差是正と成長の両立をうたいながら、実際には増税と配分偏重を正当化する口実にすぎなかった。石破政権も「新しい安全保障」「持続的共生社会」といった曖昧な言葉を並べたが、現実を動かす力は何一つなかった。

安倍時代に証明された成功の方程式――経済・安全保障・外交を一体で動かす国家運営――を捨て、「新しさ」を演出するだけの政治に堕したことこそ、日本衰退の最大の要因である。それを高市総理はしっかり認識している。

3️⃣「改革の原理としての保守主義」──安倍の遺産を継ぐ高市政権

衆院本会議で、立民主議員の質問を聞く安倍首相(右)と高市総務相(肩書は当時)=2020年2月13日

高市早苗の政治姿勢の根底には、安倍晋三が遺した思想がある。その考え方を最も正確に言い表しているのが、ピーター・ドラッカーの『産業人の未来』の一節だ。
保守主義とは、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会をもつための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していくという原理である。これ以外の原理では、すべて目を覆う結果をもたらすこと必定である。
安倍政権の外交・安保・経済政策は、この原理に忠実だった。理想を掲げながらも、手法は常に現実的であり、実証済みの政策を積み上げて成果を出した。「自由で開かれたインド太平洋」「日米同盟の深化」「国債による機動的財政出動」――いずれも机上の理論ではなく、現実の行動だった。だからこそ、憲政史上最長の政権を築けたのだ。

岸田・石破両政権は、この原理を完全に無視した。安倍の成功を「古い」と切り捨て、「新しい資本主義」「新しい安全保障」といった看板を掲げ、言葉の新しさで中身の空洞を覆い隠した。理念を再定義するふりをして、実績を否定したのである。結果として外交は迷走し、経済は鈍化し、国民の信頼は失われた。両政権の凋落は、政治資金問題でも、統一教会問題でも、派閥政治でもない、本質はすでに成功が実証された安倍路線の継承をしなかったことにある。

ドラッカーの言葉は現実となった。「これ以外の原理では、すべて目を覆う結果をもたらす」。岸田・石破政権の失敗こそ、その実例である。だが一方で、高市政権は再び安倍が示した道へ戻った。実証された手段を基盤とし、現実を見据えて未来を切り開く――それが“改革の原理としての保守主義”である。

結語

高市早苗の外交は、偶然でも演出でもない。党の戦略、政府の実務、そして安倍晋三が遺した国家理念が一体となって結実した成果だ。理念を現実に変える力、成功した方法を磨き続ける知恵――これこそが真の保守であり、真の改革である。

日本が再び世界で存在感を取り戻すためには、「すでに成功した道」に立ち返ることだ。高市外交の成功は、その第一歩であり、我が国が再び世界の舞台で輝くための確かな道標である。

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「原潜も選択肢」──日本がいま問われる“国家の覚悟” 2025年11月1日
10月31日の小泉進次郎防衛相発言を起点に、日本の潜水艦戦略の転換を論じる。高市外交の文脈と連続性をもつ。

秋田に派遣された自衛隊──銃を持たぬ“熊退治”の現実 法と感傷が現場の命を危うくする 2025年10月31日
「熊を撃てぬ国」の続編的記事。法制度の歪みが現場を危険に晒す実態を、現場の証言から描く。

東南アジアを再び一つに──高市首相がASEANで示した『安倍の地政学』の復活2025年10月28日
LNG供給とインド太平洋構想を結びつけ、日本が地域秩序の軸として再び台頭する姿を分析。

米軍「ナイトストーカーズ」展開が示す米軍の防衛線──ベネズエラ沖から始まる日米“環の戦略”の時代 2025年10月24日
米軍の動きを通して、「環の戦略」の全貌と日本防衛の新たな地政学的立ち位置を考察。

日本の沈黙が終わる――高市政権が斬る“中国の見えない支配” 2025年10月19日
情報戦と世論操作の実態に切り込み、高市政権が進めるスパイ取締法構想の背景を明らかにする。

2025年11月1日土曜日

小泉防衛相『原潜も選択肢』──日本がいま問われる“国家の覚悟”

まとめ

  • 2025年10月31日、小泉進次郎防衛大臣が「原子力推進潜水艦も議論対象」と明言し、戦後初めて原潜保有を政策議論の俎上に載せた。背景には中国やロシアの潜水艦活動の活発化と、我が国のシーレーン全域に及ぶ安全保障環境の変化がある。
  • 日本の通常動力潜水艦は世界最高水準にあり、たいげい型を中心に静粛性と造船精度で群を抜く。米海軍関係者からも「日本の通常型は我々の原潜より静か」と評されている。
  • 原潜は長期間の潜航が可能という強みを持つが、原子炉を搭載する以上、完全な無音化は不可能であり、最終的な静寂性では日本の通常型に及ばない。
  • 米国は冷戦期に通常型潜水艦の建造を中止し、現在は原潜しか造れない国になった。日本はその轍を踏まず、原潜と通常型の両輪を維持すべきである。
  • 小型モジュール炉(SMR)を原潜動力として開発すれば、民間と軍事の技術革新が相互に加速し、工場製造による短工期化とコスト削減が可能となり、我が国のエネルギー安全保障と防衛抑止力の両面を強化できる。
1️⃣小泉防衛大臣の発言が示した政策転換


2025年10月31日、小泉進次郎防衛大臣は「すべての選択肢を排除せず、原子力推進潜水艦も議論対象にある」と明言した。長らくタブー視されてきた原潜保有の可否を、政府として正式に政策議論の俎上に載せた発言である。シンガポール紙『The Straits Times』はこの発言を「防衛政策の明確な転換点」と評し、国際社会も強い関心を寄せた。

その背景には、安全保障環境の急速な悪化がある。中国海軍は南シナ海から西太平洋に原潜と攻撃型潜水艦を常時展開し、ロシアの太平洋艦隊もオホーツク海を拠点に活動を強化している。台湾海峡有事を想定した演習が頻発し、日本のシーレーン全域が潜在的な作戦空域と化した。防衛省の有識者会議が2025年9月に公表した「防衛力の抜本的強化に関する報告書」で、「長距離かつ長時間潜航を可能とする潜水艦能力」の必要性が明記されたのは、こうした現実を踏まえてのことだ。日本は今、近海防衛の殻を破り、広域防衛へと戦略を転じざるを得ない。

2️⃣日本の潜水艦技術と静粛性の真価

久慈港上諏訪岸壁に停泊する最新鋭潜水艦「じんげい」 2024年7月13日

日本の通常動力潜水艦は、すでに世界の頂点に立っている。たいげい型をはじめ、川崎重工と三菱重工が手がける艦は、リチウムイオン電池による静音航行、防振構造、吸音タイルの貼付精度など、あらゆる点で群を抜く。米海軍関係者の間でも「日本の通常型は、我々の原潜より静かだ」と評されているほどだ。短期間の潜航では、世界最静音といって差し支えない。

原潜の強みは、燃料補給や充電を必要とせず、数か月単位で潜航できる点にある。海上交通路の監視、インド太平洋全域での情報収集、長期の抑止任務など、行動範囲の広さでは圧倒的だ。しかし、いかに技術革新が進んでも、原子炉を搭載する限り「完全な静寂」は不可能である。自然循環冷却やウォータージェット推進などの工夫によって騒音は劇的に減ったが、タービンの軸音や冷却系のわずかな振動はゼロにはできない。これが原潜という構造の宿命だ。

したがって、「原潜はうるさい」という古い通念は時代遅れではあるが、完全に間違いとも言い切れない。静粛性の最終段階で原潜に勝るのは、依然として電池駆動の通常型である。日本はこの静音技術を極限まで磨き上げており、世界に類例がない。

米国は冷戦期に通常型潜水艦の建造をやめ、今では原潜しか造れない国になった。ディーゼル電動潜水艦のノウハウはすでに失われ、盟友オーストラリアにすら通常型供与ができず、AUKUSで原潜供与に踏み切ったのはその裏返しでもある。日本はこの轍を踏むべきではない。原潜と通常型の両輪を維持し、任務に応じて最適な艦を選べる態勢を保つことこそ、真の海洋国家の戦略的柔軟性である。

3️⃣SMR原潜の現実性と民間技術の加速効果

NuScale Power社のSMR(小型モジュール炉)の1ユニットモジュールの模型

その中で注目されるのが、SMR(小型モジュール炉)を原潜に搭載する構想である。SMRは小型で安全性が高く、自然循環冷却を採用できるため静粛性との両立が図れる。日本では経産省と日本原子力研究開発機構(JAEA)を中心に研究が進み、民間では東芝の4S炉や三菱重工のiSMRなどが開発段階にある。これらは潜水艦用動力に転用しやすい設計思想を持ち、国内技術の蓄積をそのまま防衛分野に活かせる。

SMRを原潜搭載を前提に開発すれば、民間と軍事の両分野が相互に加速する。SMRの特徴はモジュール化と工場製造にあり、量産効果で建設期間を半減できると米国ITIFの報告書も指摘している。 日本政策投資銀行(DBJ)の調査でも、標準化と供給網整備が進めば導入速度が上がり、社会実装への障壁が下がると結論づけられている。

民生と軍事で技術・人材・部品供給を共有できれば、制度的ボトルネックが一気に消える。国家としてのエネルギー安全保障と防衛抑止の両面で、大きな“投資のうねり”を生む。小泉防衛大臣の「選択肢を排除しない」という言葉は、この二つの流れを一本に束ねる号砲にほかならない。

結論

我が国が原潜を持つべきか否か。その議論は単なる装備論を超え、「海に生きる国家としてどこまで責任を負うか」という覚悟の問題である。
静粛性で世界を凌駕する通常型潜水艦を極めつつ、SMRを軸とした新世代原潜の研究を進める。その両輪を維持できるのは、日本だけだ。
原潜に頼り切るのではなく、静けさを極めた通常型を磨きながら、長期行動を支える原潜を育てる。そのバランスを保った国こそ、真に強い海洋国家である。

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2025年10月31日金曜日

秋田に派遣された自衛隊──銃を持たぬ“熊退治”の現実 法と感傷が現場の命を危うくする


 まとめ

  • 秋田県に自衛隊が熊駆除の名目で派遣されたが、任務は後方支援に限られ、銃による駆除は認められていない。法の制約によって現場は危険にさらされ、形だけの対応に陥っている。
  • 北海道などでは猟友会が低報酬と高リスクを理由に協力を拒否しており、積丹町の副議長も「問題は個人ではなく制度と運用にある」と指摘するなど、現場と行政の乖離が深刻化している。
  • ライフル銃の規制強化が熊駆除を困難にしており、安全距離からの射撃が制限され、熟練射手の減少と威力不足の装備が現場のリスクを高めている。
  • 熊の出没は「餌不足」だけでなく、個体数の増加や人間の生活圏拡大、放置農地や生ゴミなどの人為的要因によっても起きており、餌の有無を問わず出没リスクが恒常化している。
  • 熊問題は単なる獣害ではなく、国家の危機管理と安全保障の縮図であり、法と感傷が現場を縛る現状を改め、現実に即した柔軟な運用と理性的な防衛体制の再構築が求められている。

1️⃣撃てない自衛隊と崩れる現場の現実


秋田県でクマによる人身被害が相次いでいる。ついに自衛隊が出動する事態となったが、その任務内容を知って驚いた人も多いだろう。彼らの役割は、箱わなの設置補助や駆除個体の搬送といった後方支援に限られ、銃による駆除は行わないという。だが、誰もが抱く疑問はひとつである。それなら、なぜ自衛隊が行くのかということだ。

今回の派遣は「自衛隊法第83条」に基づく災害派遣であり、治安維持や有害鳥獣駆除ではなく、あくまで自治体の支援が目的である。自衛隊は警察権も狩猟権も持たず、熊を撃ち殺すことは法律上できない。彼らが担うのは、危険地帯の警戒やワナ設置の補助、捕獲後の搬送といった作業にすぎない。つまり、熊退治のための出動ではなく、被害の後始末のための出動である。

この「撃てない」現実の背景には、もっと深い構造的問題がある。北海道奈井江町で猟友会が報酬の低さから協力を拒否した事件(2024年5月)に続き、2025年秋には積丹町でも同じような事態が起きた。副議長を務める猟友会関係者は、出動停止の背景について「個人の問題ではなく、危険業務に見合う報酬や役割分担、手続・責任の所在など制度・運用上の課題が大きい」との趣旨を示していると報じられている。出動要請に応じなかった背景には、危険な任務に対して報酬が見合わず、責任ばかり押しつけられるという現場の不満がある。熊が頻発しているにもかかわらず、行政と現場の間に深い溝があるまま問題が長期化しているのだ。

こうした状況は、秋田の派遣にも通じる。現場は限界にあり、猟友会は高齢化し、夜間出動や山中での活動が難しい。警察や自治体職員には銃器の扱いができない。ヒグマの出没は年々市街地に迫り、農作物を荒らし、人を襲う。2024年の秋田県では人身被害が過去最多を記録した。機動力と安全管理能力を備えた自衛隊の出動は当然の流れだが、彼らには撃つ権限がない。命を守る力を持ちながら使えないという、この歪んだ構図が続く限り、根本的な解決は望めない。
 
2️⃣銃を縛る法と熊を呼ぶ社会構造

さらに、銃規制の硬直化が事態を悪化させている。ハーフライフル銃の所持条件が厳しくなり、散弾銃の長期所持が前提とされた。安全距離からの正確な射撃が難しくなり、熟練射手が減少したことで、駆除は一層危険な近距離戦に変わった。これは、安全のための規制がかえって現場の安全を奪っているという皮肉な結果である。

このように、人材の枯渇、装備の制約、法の硬直が三位一体となって、現場を追い詰めている。自衛隊員が銃を使えるのは正当防衛や緊急避難に限られ、熊を危険動物として射殺するには知事の許可と狩猟免許が必要だ。だが、熊に襲われたときにそんな手続きをしている暇はない。人命を守るための行動が、法の網に阻まれているのだ。

市街地を当たり前に彷徨くようになった熊

一方で、熊の出没増加には生態的な背景もある。多くの報道では「木の実やサケの不漁による餌不足」が原因とされるが、これは一面的な理解にすぎない。確かに、北海道東部ではサケの遡上減少やドングリの不作が確認されており、栄養状態の悪い個体が人里に出てくる事例はある。しかし、環境省や複数の研究報告によれば、ヒグマの個体数自体が増加しているほか、人間の生活圏が拡大し、森林と住宅地の境界が曖昧になったことが、出没増の主因とみられている。

さらに、放置農地や果樹園、生ゴミ置き場など、人間が生み出した“餌場”に依存する個体も増えている。つまり、熊は「餌がないから」ではなく、「人里の方が手っ取り早いから」出没するケースも多いのだ。餌が豊富な年でも個体数が多ければ競争が激しくなり、人里に出る熊は一定数現れる。こうして、「餌不足の有無を問わず」出没のリスクは恒常的に高まっている。

専門家の分析では、過去30年でヒグマの生息域は拡大し、東北地方では“餌が足りている年”でも人里出没が増える傾向があるという。原因は単なる山の不作ではなく、個体数の増加、里山管理の崩壊、人手不足による巡回減少といった社会構造の変化である。要するに、山ではなく社会が熊を呼び寄せているのである。
 
3️⃣感傷では命を守れない──制度と現場の再設計を

北海道紋別市で射殺された体重400キロにもなるオスのヒグマ(2015年9月
)
このブログでも指摘したように札幌市手稲区での連続目撃も、こうした問題の延長線上にある。住宅地のすぐ近くで熊が目撃され、早朝には道路を横断する姿まで報告された。もはや“山の出来事”ではない。行政の対応が遅れれば、被害が出るのは時間の問題だ。自衛隊の派遣は機動的対応として意義があるが、最も危険な局面での判断と行動を現場に委ねられない仕組みのままでは、迅速な対応は望めない。

秋田の自衛隊派遣は、地方の危機管理の限界を映す鏡である。熊の駆除は単なる動物対策ではなく、人命を守る安全保障そのものだ。老朽化した行政組織、過剰な規制、そして感情的な「かわいそう」論が絡み合い、現場の力を奪っている。

札幌市手稲区の記事で私が指摘したように、駆除は人間のエゴではなく地域社会を守るための義務である。動物愛護の感傷に溺れて「撃つな」と叫ぶ人々は、三毛別や紋別での400キロ級のヒグマを知らない。私が2016年のブログ記事で指摘したように、北海道では学生がヒグマに遭遇した事例もある。現場を知らぬ議論は、結局、命を軽んじることになる。

積丹町の副議長が示した「問題の核心は個人ではなく制度とその運用にある」という趣旨の主張には、今回の構図が凝縮されている。制度が現場を縛り、現場が逃げ、そして国家が後追いで自衛隊を出す。これがいまの日本の熊問題であり、同時に日本の安全保障の縮図でもある。

熊との戦いは、単なる自然保護の議論ではない。人間社会の秩序と生命を守るための戦いである。法律が人を守るためにあるのなら、現場の命を守れるよう柔軟に運用されるべきだ。規制の理念を否定する必要はない。しかし、規制のために人命が失われるなら、それは本末転倒である。人を守るために法を変える。そこにこそ、現代の「国防」の本質がある。

秋田の山奥で熊と向き合う自衛隊員、低報酬に苦しむ猟友会員、そして都市の縁で不安に怯える市民――この三者の姿が交わる場所に、今の日本の危機管理の縮図がある。感傷では命を守れない。現実を直視し、人間社会の安全を守るための法と制度を立て直す時が来ている。
 
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札幌市手稲区前田で熊らしきものを目撃──命を守るのは感傷ではなく防衛だ 2025年9月24日
札幌市手稲区の住宅地周辺で相次ぐ熊の目撃情報をもとに、地域社会が直面する現実の脅威を描き、「駆除は人間のエゴではなく、安全保障の一環である」と論じた。

ついに日本政府からゴーサイン出た! 豪州の将来軍艦プロジェクト 2024年11月28日
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ヒグマ駆除「特殊部隊と戦うようなもの」—北海道の猟友会が協力辞退/【私の論評】安保と熊駆除 2024年5月27日
奈井江町での猟友会辞退事件を通じて、低報酬・高リスクという現実と、ライフル銃規制強化による現場力の衰退を告発。過度な規制が人命保護を阻む危険を訴えた。

「ポケモンGO」利用規約に仕組まれた“ワナ”/【私の論評】スマホでできるのは、ポケモンGOだけじゃない(゚д゚)! 2016年7月25日
長万部キャンパスでの熊遭遇注意喚起と、紋別の400キロ個体事例を紹介。動物愛護の感傷が現実の危険に勝てないことを、早くから指摘。

2025年10月30日木曜日

ロシアの“限界宣言”――ドミトリエフ特使「1年以内に和平」発言の真意を読む


まとめ
  • 2025年10月29日、サウジ・リヤドの投資会議でキリル・ドミトリエフ特使が「1年以内に和平」と発言。投資家とアメリカに向けた安心と交渉のシグナルであり、ロシアを和平主導国として見せる戦略的演出だった。
  • ドミトリエフはスタンフォード大学出身の投資家で、ロシア直接投資基金(RDIF)トップ。プーチン政権の経済・外交をつなぐ“財政戦略家”として、経済カードを用いた停戦ムード作りを担っている。
  • ロシアは人的損耗、装備喪失、財政赤字、産業疲弊に苦しみ、長期戦を維持できる体力を失いつつある。「1年以内に和平」という発言は、裏を返せば“あと1年が限界”という現実認識を反映している。
  • 戦車3,000両超、死傷者100万人規模、北朝鮮製弾薬への依存など、ロシアの継戦能力は急速に低下。国防費はGDP比6%を超え、国家福祉基金の取り崩しで軍費を賄うなど、経済基盤は脆弱化している。
  • 日本は感情論ではなく現実主義で対応し、エネルギー調達の多元化、制裁の実効性確保、地政学リスクへの備え、ウクライナ復興への経済参加を通じて、停戦後の国益確保を図るべきである。

1️⃣「1年以内に和平」の真意――市場とワシントンへの同時メッセージである

サウジアラビア・リャド投資会議

ロシアのキリル・ドミトリエフ特使(ロシア直接投資基金〈RDIF〉トップ、国際経済・投資協力担当)は、サウジアラビア・リヤドの投資会議で「ウクライナ戦争は1年以内に終わる」と述べた。

発言の場は公開の投資フォーラムであり、言葉の矛先は二つある。第一に、原油・ガス・資金の循環をにらむ市場関係者への安堵シグナル。第二に、米政権中枢――直近で会合したトランプ政権側関係者――への“交渉は前に進む”という政治的合図である。

ロシア側は「米・サウジ・ロシアという資源大国の協調」を強調し、地政学リスクの沈静化と投資正常化を同時に演出した。リヤドという舞台設定そのものが、資源と投資の回路を意識した戦略だった。

発言は2025年10月29日、リヤドの投資会議でのもの。直前週には、同氏の訪米と米側要人との接触が報じられている。

この男――キリル・ドミトリエフとは何者か。スタンフォード大学出身の投資家で、ゴールドマン・サックスを経てロシア直接投資基金の初代CEOに就いた。プーチン政権の経済戦略を支える“財政と外交の中継点”であり、海外資本との交渉を担うエリート官僚だ。

つまり彼は、単なる経済人ではなく「投資と政治を同時に動かす仕掛け人」である。今回の発言も、市場の不安を抑えながら、米国に対して「ロシアは和平を主導する立場にある」と印象づける狙いが透けて見える。彼は経済カードを駆使して停戦ムードを演出する役割を果たしているのだ。
 
2️⃣裏返しの意味――ロシアの継戦体力は“壁”に近づいている


「1年以内に和平」という言い回しは、ロシアが無期限の持久戦を選べない現実をにおわせる。人的損耗、装備の枯渇、弾薬・機器のサプライ制約、財政・マクロの歪み――どれも“少しずつ効く”が、積み上がると止血が要る。ロシア国内でのガソリン価格急騰・供給問題は、まさに「戦争・経済・国家体制の三重圧力」の中で、ロシアの継戦・持久能力が限界に近づきつつあることを示す シグナルとみることができる。

ロシアは予備装備の引っ張り出しと改修で弾力を見せてきたが、前線の消耗ペースと背後の補充ペースの差は埋まり切らない。ドローンと長射程で後方を叩かれる構図は定着し、国内インフラ・精製所・輸送の復旧コストが財政をじわじわ圧迫している。

人員面では、追加動員の政治コストが上がり、刑務所・周縁地域からの動員に頼るほど、部隊の質・統制・士気のばらつきが増す。経済は軍需で見かけの成長を演出できても、実生活のインフレと金利で“疲れ”がたまっている。

だからこそ「1年」という期限付きの“楽観”を、投資家とワシントンに投げてきたのである。発言の最後に「我々はピースメーカーだ」と重ねたのも、停戦の主導権を自分たちに引き寄せたいからだ。
 
3️⃣日本の選択――資源・制裁・安全保障を一本の線で貫け


日本は、資源市場と金融の安定を最優先しつつ、対露制裁の実効性と国益の均衡を取らねばならない。

第一に、LNG・原油の多元調達と長期契約をてこに、価格変動と供給途絶への耐性をさらに厚くすること。

第二に、対露テクノロジー流出と資本還流の“抜け穴”を塞ぐ国内執行を強化し、同盟・有志国の輸出管理と足並みを揃えること。

第三に、黒海・バルト・北極圏で進む新しい回廊の地政学に目を配り、インド太平洋側の抑止と経済安全保障を噛み合わせること。そして最後に、ウクライナ支援の継続と復興局面の経済参加――エネルギー、交通、デジタル――を、官民で“事業化”しておくべきだ。

日本の強みは、感情で揺れない現実主義と資金・技術・調達の組み合わせにある。ここを磨けば、停戦の“翌日”に国益を取りこぼさない。岸田、石破両政権には国益毀損の危機が常につきまっとていたように見えたが、高市政権ではそのようなことはないだろう。
 
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ウクライナの「クモの巣」作戦がロシアを直撃:戦略爆撃機41機喪失と経済・軍事への衝撃 2025年6月2日
後方航空基地への複合打撃が、ロシアの抑止・攻撃能力と財政コストにもたらす衝撃を検証。持久戦の前提がどこで崩れるかを示す。

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ドミトリエフの経歴と“経済カード”の使い方を整理。資源・投資を梃にした停戦演出の文脈がわかる。

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資源調達の多元化は最強の保険である。停戦の翌日から効く“現実の安全保障”としてのLNG戦略を具体化。

ロシア制裁で起こる“もう一つの戦争”—【私の論評】バルト・北極圏の地政学が日本に与える影響 2025年1月14日
北極・バルトの回廊とサプライ・シーレーンを重ね、エネルギー・海運・安全保障を一本の戦略に束ねる必要を説く。

2025年10月29日水曜日

安倍構想は死なず――日米首脳会談が甦らせた『自由で開かれたインド太平洋』の魂


まとめ

  • 高市首相とトランプ大統領が日米同盟を「安全保障・経済・技術」を貫く総合戦略へ拡張した。
  • 高市氏が政調会長時代に立ち上げた「FOIP戦略本部」は自民党の正式組織で、2025年5月に再始動した。
  • FOIPの理念は安倍晋三元首相が提唱し、高市政権が継承・発展させる。
  • 会談では防衛と資源協力を軸に、同盟の現実的な地盤を固めた。
  • 日米首脳会談最大の成果は、安倍構想の理念を「標語」から「運用」へ転換し、FOIPを実務として再起動させたこと。
2025年10月27〜28日に東京で行われた日米首脳会談は、同盟の重心を改めてインド太平洋戦略に据え直す節目となった。高市早苗首相はトランプ米大統領と会談し、同盟を安全保障だけでなく経済・技術まで貫く「総合戦略」へ拡張する姿勢を明確にした。会談当日、日本政府は首脳会談・署名式・ワーキングランチの実施概要を公表しており、実務協議が連続して行われたことが分かる。(外務省)
 
1️⃣高市外交の原点──党の正式組織「FOIP戦略本部」

自民党「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」の初会合であいさつする麻生最高顧問(党本部5月14日)

この再起動には前史がある。高市氏が政調会長時代に立ち上げた「自由で開かれたインド太平洋戦略本部(FOIP)」は、自民党の正式組織であり、単なる保守馬議員などの勉強会や議連とは異なる。岸田・石破両政権において長らく休眠状態だったものが、2025年5月14日に本部は再始動し、麻生太郎最高顧問が本部長に就任。

秋葉剛男前国家安全保障局長らを招いて、日本が複雑化する国際環境でいかに外交を主導するべきかを議論し、「日本が世界の架け橋となり、FOIPを軸に国際社会をリードする」方針を確認した。この経緯は党公式サイトと機関紙に記録が残る(自民党)。この動きは、結果的に高市政権の外交路線の原型となり、先の総裁選での勝利、そして第102代内閣の発足へとつながる流れを形づくった。

FOIPはそもそも安倍晋三元首相が世界に向けて最初に打ち出した構想である。2007年、インド国会での演説「二つの海の交わり」で、インド洋と太平洋を「自由と繁栄の海」と位置づけるビジョンが示された。その後、この構想が日本外交の柱として進化した。(外務省)
 
2️⃣防衛と資源で地盤を固める──現実主義の“芯”

日米首脳会談

今回の会談では、防衛面の連携強化と資源・産業協力が並行して動いた。米国と日本は同盟の運用を実務ベースで詰め、地域の抑止と即応を高める方向で一致した。あわせて、クリティカルミネラルやレアアースなどサプライチェーンの強靭化に向けた合意が伝えられ、戦略資源の確保を同盟課題として扱う段階に入った。(Reuters)

経済安保とエネルギーでは、希少資源の多角調達や精錬能力の拡充に加え、原子力分野を含む産業協力が議題となった。要は「防衛と資源」を両輪に、同盟の実効性を底面から押し上げる設計だ。日本側の基本線として、高市政権は所信表明や会見で繰り返しFOIPを外交の柱と位置づけ、ASEANや同志国との連携を強化する方針を公言している。(首相官邸ホームページ)
 
3️⃣FOIPの実務的再起動──“標語”を同盟運用へ


肝心なのは、これら個別合意の背後にある戦略の芯である。今回の首脳会談は、FOIPを“標語”から“運用”へ引き上げた。日本政府は首脳会談の公式記録を示し、米側も来日に合わせて会談や署名の事実が国際メディアで報じられた。安全保障の共同運用、重要鉱物の供給網、テクノロジー協力という三層がかみ合い、同盟の心臓部を再びインド太平洋に置くという意思が可視化されたのである。(外務省)

ここで忘れてはならないのが継承である。FOIPの原点は安倍構想だが、高市はそれを「党の正式組織」という手堅い器で受け継ぎ、政権の政策運用にまで落とし込んだ。政権交代の只中にあっても、首相就任直後の会見で高市はFOIPを外交の柱として推し進めると明言し、実際に今回の会談でそれを動かした。理念から現実へ——この一本筋が通った。(首相官邸ホームページ)

結論は明快である。今回の最大の成果は、希少資源協力そのものでも、防衛費の議論でもない。それらを束ねる“枠”を、もう一度、実務として動かし始めた点にある。安倍が提示した海のビジョンを、高市が党と政権の両輪で運用へ繋ぎ、同盟のエンジンに据え直した。FOIPは再び走り出したのである。(外務省)

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東南アジアを再び一つに──高市首相がASEANで示した日本の役割とFOIPの実務化 2025年10月28日
高市首相のFOIP提案を軸に、分断が進むASEANをどう再結束させるかを具体策で描く。エネルギー連結・供給網強化・現実主義の三点で、今回の首脳会談と地続きの実務路線を示す。

国連誕生80年──戦勝国クラブの遺産をいつまで引きずるのか 2025年10月25日
国連偏向と機能不全を検証し、日本は「同盟と小多国間」で結果を出すべきだと提言。FOIPの価値連携と二国間・小多国間の現実策を後押しする内容。

トランプ来日──高市政権、インド太平洋の秩序を日米で取り戻す戦いが始まった 2025年10月23日
“高市・トランプ同盟”をキーワードに、軍事・経済・技術の三領域で日本が主導を強める必然を論じる。今回の首脳会談の「前章」として最適。

安倍のインド太平洋戦略と石破の『インド洋–アフリカ経済圏』構想 2025年8月22日
安倍FOIPの戦略価値を再評価し、資源分散的なスローガン外交を批判。高市政権の「継承と実務化」という路線の思想的土台になる。

アラスカLNG開発、日本が支援の可能性議論──トランプ政権が関心 2025年2月1日
LNGを梃子にした日米経済安保の新局面を解説。希少資源・原子力に加え、ガス供給網でFOIPを下支えする現実的エネルギー戦略を論じる。

2025年10月28日火曜日

東南アジアを再び一つに──高市首相がASEANで示した『安倍の地政学』の復活

まとめ

  • オーストラリアのスザンナ・パットン(ローウィ研究所副所長)は、2024年9月25日付『フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)』に寄稿した論考「The Two Southeast Asias」で、ASEANが「大陸」と「海洋」に分裂しつつある現実を指摘した。
  • 高市早苗首相がASEAN会議で掲げた「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は重要な理念だが、海洋国家と大陸国家で受け止めに差があり、地域の分断を象徴している。
  • 日本は海洋国家群と安全保障を共有しつつ、大陸国家群とも経済的関係を維持しており、米中対立のどちらにも偏らず両陣営を橋渡しする役割が求められる。
  • ASEANの分断の背景には、電力・資源の格差がある。電力とガスの相互融通ネットワークを構築することが、経済と安全保障の両面で信頼を生み出し、地域の再統合を進める鍵となる。
  • 日本が取るべき道は、再エネ偏重ではなく、LNG・水素・次世代原子力(SMR・核融合炉)を段階的に組み合わせる現実的エネルギー戦略であり、理念ではなく実効性でASEANの一体化を支えることだ。
高市早苗首相は、マレーシアで開かれたASEAN関連会議で外交デビューを果たした。就任直後に東南アジアを選んだのは象徴的だ。地域は米中対立の圧力下で軋み、結束の岐路に立っている。高市首相は安倍晋三氏が掲げた「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を前面に掲げ、日本がASEANとともに秩序を守り、繁栄を広げる意思を明確にした。だが、現実の東南アジアはすでに「ひとつ」ではない。オーストラリアのローウィ研究所副所長スザンナ・パットンが指摘するように、ASEANは今、「二つの東南アジア」に分かれつつある。高市首相の外交デビューは、その分断のただ中で日本がどう舵を取るのかを示す試金石となる。

1️⃣スザンナ・パットンの警鐘──「二つの東南アジア」

スザンナ・パットン
オーストラリアのローウィ研究所(Lowy Institute)は、シドニーに拠点を置く同国有数の国際戦略シンクタンクであり、インド太平洋地域の安全保障や外交政策を中心に世界的に影響力を持つ研究機関だ。その副所長を務めるスザンナ・パットン(Susannah Patton)は、東南アジア情勢の専門家として知られる。彼女は2024年9月25日付で米誌『フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)』のウェブサイトに寄稿した論説「The Two Southeast Asias(2つの東南アジア)」(https://www.foreignaffairs.com/)で、ASEANの分断が加速している現実を鋭く描き出した。

パットンによれば、米中対立が激化する中、ASEAN諸国の間には地理的・戦略的な亀裂が生まれつつあり、地域は「大陸の東南アジア」と「海洋の東南アジア」という二つの軸に割れ始めている。大陸側(タイ、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー)は地理的にも経済的にも中国と密接で、インフラ投資や経済協力を通じて中国寄りの傾向を強めている。一方、海洋側(インドネシア、マレーシア、シンガポールなど)は、米国や日本、オーストラリアといった域外勢力と連携しつつ、米中の間で均衡を取る姿勢を見せている。

フィリピンは米国との防衛協定を重視し、ASEANの枠組みよりも二国間関係を優先する「例外的存在」として位置づけられている。こうした構図が、従来の「一体的なASEAN」像を崩しつつあるのだ。

FOIPの理念――「法の支配」「航行の自由」「開かれた経済圏」――は、これらの対立する立場をどう調整できるかにかかっている。中国への依存度が高い大陸諸国にとってFOIPは抽象的な理念に過ぎず、海洋諸国にとっては生存戦略そのものだ。この温度差こそが、パットンの言う「二つの東南アジア」の根幹である。

2️⃣日本が担うFOIPの現実的展開

「自由で開かれたインド太平洋」構想を通して、世界平和に貢献し、日本を守り抜く

日本は海洋国家群と安全保障・経済の両面で深く結びつき、海上交通路の安全確保やインド太平洋構想(FOIP)を通じて協力を積み重ねてきた。高市首相がASEAN会議で強調したのも、まさにこの点である。FOIPを現実の協力枠組みへと作り替え、理念を実行力ある政策へと転換する姿勢を見せたことは、ASEAN分断克服に向けた第一歩といえる。

同時に日本は、大陸側諸国とも経済・インフラ協力を続けており、これらの国々が中国の影響下に固定されることは望ましくない。ASEANの一体性が崩れれば、日本は個別対応を迫られ、地域外交の機動性を失う。したがって日本には、海洋諸国との連携を深めつつ、大陸諸国に対しても「中国か米国か」という二択を超えた選択肢を提示する外交力が求められる。

パットンの描く構図は単純な分断ではない。ベトナムやタイのように、陸上国家でありながら海洋安全保障に積極的な国もある。ASEAN諸国の多くは両大国の間でバランスを取る「ヘッジ外交」を採用している。つまり、地域の分断は静的ではなく、揺らぎながら再編されていく過程にある。日本がどのように関与するかで、東南アジアの将来は対立にも、再統合にも向かうのだ。

3️⃣エネルギー連携こそ分断克服の鍵

現在のASEAN分断には一定の必然があるが、それを放置すれば東アジア全体の安定は揺らぐ。日本が果たすべきは、遠慮ではなく前進である。地域を協力の方向へ導く最も有効な手立てが、エネルギー連携だ。

ASEANは経済成長が続く一方、電力・資源構造に大きな格差を抱えている。インドネシアやマレーシアは天然ガスを輸出できるが、カンボジアやミャンマーでは停電が日常化している。発電手段もばらばらで、石炭依存から脱せない国もあれば、再エネ導入で行き詰まる国もある。この不均衡が域内の不信を生み、協力の障壁になっている。

ASEAN諸国各国のエネルギー事情

だからこそ、相互に補い合う「エネルギー融通体制」の構築が急務である。電力とガスのネットワークを結び、危機の際には供給を融通し合う仕組みを築くことで、経済と安全保障の両面で信頼関係が生まれる。エネルギーの安定供給は、FOIPの理念にも通じる「連結性(connectivity)」を実体化させるものだ。

ただし、ここで「再生可能エネルギー偏重」は禁物である。メガソーラー開発が示すように、景観破壊や森林伐採、土砂災害の増加といった負の側面は無視できない。天候に左右される電力は安定性に欠け、結果的に電力コストを押し上げ、地域格差を広げる。理想を掲げるだけの再エネ政策は、ASEANの協力をむしろ壊すことになりかねない。

日本が進むべき道は、現実に根ざした持続可能なエネルギー協力である。当面は液化天然ガス(LNG)を基盤に安定供給網を整え、水素エネルギーの共同開発を進める。日本は天然ガスの生産国ではないが、世界最大のLNG輸入国として、アジアの需給を調整する力を持つ。物理的に在庫を放出して輸出する余力は限られるものの、日本企業は長期契約の柔軟化を進め、余剰分を海外に振り向ける仕組みを確立している。

2023年度にはLNGの対外販売が過去最高を記録し、日本は「ガスを産む国」ではなく「ガスを動かす国」としての地位を確立しつつある。国内需要が落ち着く時期には、契約カーゴを東南アジアに回すことが可能であり、これが地域の電力安定に寄与するだろう。さらに高市政権は原発の早期稼働を目指しており、そうなるとさらに余力が出てくる。

次の段階として、小型モジュール炉(SMR)や核融合炉などの次世代原子力技術を中心に据え、東南アジア諸国が段階的にエネルギー自立を実現できるよう支援すべきだ。化石燃料はその橋渡しの役を担う。理念ではなく実効性。言葉ではなく、稼働する仕組み。これこそがASEANの再統合と東アジアの安定をもたらす現実的な道である。

理念ではなく実務の力――それこそが日本がASEANの分断を超え、再統合を後押しする現実的な道なのである。日本が「つなぐ力」を発揮すれば、分断は協力へと転じる。求められているのは、理想を語ることではない。確かな技術と決断で、東南アジアの未来をともに築く覚悟である。

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2025年10月27日月曜日

日経平均、ついに5万円の壁を突破──高市政権が放った「日本再起動」の号砲


まとめ
  • 日経平均が史上初の5万円台を突破したのは、FRBの利下げ期待や米株高の流れに加え、高市政権によって国内政治の停滞感が払拭され、市場が「日本再起動」を織り込み始めた結果である。
  • 日本経済の長期停滞は、財務省の緊縮政策と日銀の硬直した金融運営を放置した「経済音痴の政治」に起因し、国債利回りに群がる「債権村」が既得権を守ってきた。しかし市場は実体経済に正直であり、政治が動けば株は上がる。
  • 高市政権は、防衛・半導体・AIなどの国家投資を推進する一方で、移民依存を是正し、生産性向上と技術革新による人口問題への対応を図っている。さらにエネルギー政策では、再エネ偏重から原子力・先進炉(SMR)中心の現実的路線へ転換した。
  • 世界最大の資産運用会社ブラックロックが日本株を「オーバーウエイト(資産構成比率を通常より高めて保有)」に設定したことに象徴されるように、海外資本は再び日本の成長構造に注目している。
  • 日米同盟は安全保障から「産業同盟」へと進化しており、重要鉱物協定(CMA)や半導体・エネルギー分野での協力が強化されている。日米首脳会談を契機に、両国は戦略産業を共同運営する新段階に入り、日本は再び国際秩序の中心的役割を取り戻しつつある。
2025年10月27日午前、東京株式市場に歴史的瞬間が訪れた。日経平均株価が、ついに「5万円台」という未踏の大台を突破したのだ。バブル期の幻を追い越し、戦後経済の殻を突き破るような衝撃だった。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ継続期待が市場に広がり、米国株3指数が最高値を更新した流れを日本市場が正面から受け止めた。そしてもう一つ、見逃せぬ追い風がある。それが――高市早苗政権の登場である。直近でも日経は過去高値圏へ迫っており、5万円突破へ向けた地合いは着実に醸成されていた。
 
1️⃣停滞を招いた「決められない政治」とマクロ経済音痴の罪


長らく「何も決められない政治」に国民はうんざりしていた。さらに深刻だったのは、マクロ経済に疎い政治家たちが、財務省による誤った財政政策と、日銀による硬直した金融政策を放置し続けたことである。いまだにマクロ経済と、ミクロ経済の区別がつかず、マクロ経済はミクロ経済の積み上げだけであると信じる政治家は多い。緊縮一辺倒の歳出抑制と、実体経済を見失った金利政策が、日本を長期低迷に追いやった。経済政策を国家戦略の中核に据えるという視点が欠けていたのだ。結果として、我が国は「企業が世界で稼ぎ、国内は停滞する」という歪な構造に陥った。

しかし2025年、この構図が崩れ始めている。世界最大の資産運用会社ブラックロックは、日本株を戦略的に「オーバーウエイト(=資産全体に対して通常より高い比率で保有する)」とする見解を繰り返し示している。根拠は「賃上げを伴う適温インフレ」と「ガバナンス改革の進展」だ。これは単なる投機的判断ではない。世界の資金が、停滞を脱し始めた日本の構造改革そのものを買い始めている証拠である。
 
2️⃣高市政権の「現実主義」──移民政策の是正とエネルギー転換


高市早苗は違った。就任直後から、防衛産業の再構築、半導体、エネルギー、AIへの国家投資を矢継ぎ早に打ち出した。さらに、前政権まで続いた「実質的な移民受け入れ政策」を見直し、日本人の雇用と地域社会を守る方向へ舵を切ろうとしている。人口減少を「安価な外国人労働力」で補う発想から、「生産性の向上と技術革新」で克服するという、本来あるべき国家戦略への回帰である。

また、エネルギー政策でもようやく“まともな方向転換”が見えてきた。再生可能エネルギー偏重から脱し、原子力や先進炉を含む現実的な電源ポートフォリオへ移行する流れが進んでいる。日本企業サイドでも、高速炉開発での主導的役割を担う三菱重工や、融合分野での供給網確立など、原子力・先進炉領域でのプレゼンス強化が続く。米国側もSMR(Small Modular Reactor=小型モジュール炉)を含む次世代炉の推進を進めており、日米の技術と市場の補完関係は今後の要となる。

こうした政策群が、「言葉だけの成長戦略」から「現実に資金が動く経済」へと転換をもたらした。市場は政治を見ている。政治が迷えば株も沈む。だが政治が動けば、株は天を衝く。ここで忘れてはならないのは、「債権村」の存在である。これは、財務省、日銀、銀行界、そして一部のエコノミストらが形成する、国債利回りと緊縮財政を軸に自己利益を守ってきた閉鎖的ネットワークの俗称だ。この債権村の論理は「国の借金=悪」という古い呪縛に縛られ、長年にわたって積極財政を封じてきた。しかし、市場そのものは極めて正直だ。実体経済の回復や政治の決断があれば、債権村の論理を無視してでも資金は動き、株は上がる。今回の5万円突破はまさにその証左である。
 
3️⃣日米同盟は「産業同盟」へ──通商・供給網の新段階


今回の上昇を単なるバブルの再来と見るのは浅い。米中貿易摩擦懸念の後退とFRBの緩和観測に加え、日米の通商・供給網連携が制度面で前進していることが重要だ。とりわけ、米日・重要鉱物協定(CMA:Critical Minerals Agreement)は、EV電池の要素鉱物を巡るサプライチェーンを強化し、日本を事実上のFTA相当とみなす基盤として機能している(IRA税額控除の扱いは2025年秋に大きく変動している)。

一方で、米国の通商再編や臨時関税の枠組みは、同盟国にも新たな負担を迫る局面がある。米議会調査局(CRS)は、日本への15%関税が同盟調整を難しくし得る点を指摘しており、首脳会談では「同盟を損なわずにサプライチェーン強靭化を進める調整」が焦点となる。ここを乗り切れれば、日米は「モノのやり取り」を超えた戦略産業の共同運営へと歩を進めるだろう。

三国連携でも、米・日・韓の産業相会合が半導体、バッテリー、AI安全性、輸出管理の協調を打ち出しており、「高信頼の供給網」をインド太平洋に構築する流れはすでに始まっている。この会談で両首脳が信頼関係を築けば、株価はもう一段の上昇を見せるはずだ。日本は、いまや単なる“アメリカの部品”ではない。共に世界秩序を守る“同盟の柱”として再び脚光を浴びようとしている。

バブル崩壊、失われた三十年、デフレの闇――長い眠りからようやく目を覚ました日本経済。その再生の引き金を引いたのは、金融でも輸出でもない。「政治の決断」だった。高市政権の誕生は、単なる政権交代ではない。日本が「自らの力で未来を切り拓く国家」に戻るための転換点である。財政と金融の是正に加え、エネルギーと人口構造という、国家の持続を左右する土台の再建に踏み込んだ政権は、戦後でも極めて稀だ。5万円突破はその第一歩にすぎない。本当の勝負はこれからだ。我が国はようやく、再び歴史の主役に返り咲こうとしている。

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トランプ来日──高市政権、インド太平洋の秩序を日米で取り戻す戦いが始まった 2025年10月23日
日米首脳会談を軸に、インド太平洋での「産業同盟」化と安全保障再構築の展望を論じています。

高市総理誕生──日本を蝕んだ“中国利権”を断て 2025年10月21日
高市政権誕生の意味を、対中依存の是正と経済主権回復の観点から分析しています。

オールド・メディアも中共も止められぬ──日本の現実主義が導く総理、高市早苗 2025年10月17日
メディア構造と対中戦略の文脈で、高市政権の現実主義と制度改革の方向性を示しています。

高市総理誕生の遅れが我が国を危うくする──決断なき政治が日本を沈める 2025年10月14日
決断の遅れが市場・外交に与えるリスクを整理し、政策実行力の重要性を提起しています。

アジア株高騰──バブル誤認と消費税増税で潰された黄金期を越え、AI・ロボット化で日本は真の黄金期を切り拓く 2025年9月17日
日本株上昇局面を背景に、エネルギー・技術・人材の再配置による成長戦略を論じています。

2025年10月26日日曜日

詐術の政治を超えて――若者とAI、そして高市所信表明が示した『戦略的寓話』


まとめ
  • 政治的詐術の本質は、虚偽ではなく事実の一部を切り取り文脈を操作する「印象操作」にある。財務省の「国の借金」報道やマスコミ、国際機関、さらには気候変動・地震予知の分野にもこの構造が見られる。
  • SNSとAIの登場により、官僚やメディアの詐術は崩れ始めた。若者は情報を共有し、AIが知の構造を可視化することで、知の独占が終わりつつある。武漢研究所起源説が陰謀論から科学的仮説へ再評価されたのはその象徴である。
  • 高市早苗首相の「ペロブスカイト太陽電池」発言は、無邪気な理想論ではなく社会を混乱させずに改革を進めるための戦略的寓話だった。現実を見据えた上で、国民を前向きに導く政治的知恵である。
  • 高市首相は「美しい国土を外国製パネルで埋め尽くすこと」に反対し、地熱推進や青山繁晴氏の登用など、再エネの秩序ある再構築を進めている。「夢の技術」を掲げつつも、幻想に酔わず現実的改革を遂行する姿勢が際立つ。
  • 日本再生の鍵は「霊性文化」と「常若の思想」にある。霊性文化は人と自然、技術と倫理を調和させる知の形式であり、高市政治の根底にもこの精神が流れている。古きを生かして新しきを生む常若の知こそ、日本が再び世界の羅針盤となる基盤である。
1️⃣政治的詐術の構造とその拡張


NHKの角度をつけた高市政権に関する報道これも政治的詐術の一種か

政治的詐術とは、明確な虚偽を語るのではなく、事実の一部を切り取り、文脈を操作して人々の判断を誘導する技術である。事実を歪めずに印象を歪ませる――この狡猾さこそ詐術の本質である。

財務省の「国の借金1000兆円超」という表現は典型例だ。数字は真実でも、通貨発行主体としての国家の特性や国債の大半が国内保有である現実を伏せれば、「破綻寸前」という錯覚を与える。形式的真実を使って虚構の印象を作るやり方は、制度的詐術にほかならない。

報道も同じ構図だ。見出しや映像の切り取り方一つで、同じ出来事が正義にも悪にも変わる。国際機関も例外ではない。資金と政治が流れ込めば「中立」は簡単に政治化する。こうして「正義」を装った詐術が世界を覆ってきた。

この詐術は科学にも及ぶ。気候変動では、科学的知見が政治的スローガンに変換され、「脱炭素=善、懐疑=悪」という単純図式が定着した。だが、温暖化の要因には未解明の要素が多く、異論を排除する姿勢は科学そのものを政治の道具にする危険を孕む。地震予知も同様だ。多くの専門家が「予知は原理的に不可能」と認めているにもかかわらず、政治と行政は“安心”の物語を維持してきた。科学の名の下で安心を演出する――これも一種の詐術である。
 
2️⃣SNS・AI・そして「陰謀論」から仮説検証への転換

かつて新型コロナ"武漢流出説"は完璧な陰謀説といわれたが・・・・

この詐術構造を崩したのはSNSだった。官僚の数値操作や報道の印象操作、国際機関の道徳操作を、若者たちはスマートフォン一つで暴き始めた。彼らは統計や一次資料を共有し、詐術をリアルタイムで検証する文化を作り出した。

しかし科学の領域では、専門性が壁となって真実が見えにくい。そこに登場したのが生成AIである。AIは短時間で膨大な情報を解析し、非専門家にも知の構造を見せる。もはや“専門家の独占”は崩れ始めた。AIは知の民主化を進め、詐術の可視化を加速させている。

この変化の象徴が、COVID-19起源をめぐる議論だ。かつて「武漢研究所流出説」は陰謀論とされたが、今では状況が逆転した。米エネルギー省やFBIが「実験室起源の可能性が最も高い」と公式見解を出し、米国家情報長官室やWHOも再検証を進めている。かつて陰謀論とされたものが、科学的仮説として再評価されつつある。AIとSNSが、知の非対称を打ち破った結果である。
 
3️⃣高市早苗の戦略的寓話とエネルギー現実主義

この新しい知の時代に、政治の現実主義を体現しているのが高市早苗首相である。彼女は就任後初の所信表明で「ペロブスカイト太陽電池」に言及した。薄く、軽く、曲げられる次世代の国産技術。確かに夢のある素材だが、耐久性やコストの課題が残り、国家の基幹電源とするには現実的でない。それでも彼女は語った。それは「夢を信じた」のではなく、混乱を避けながら社会を軟着陸させるための戦略的寓話だったのだ。

ペロブスカイト太陽電池

実際、高市首相は再生可能エネルギーに関して極めて明確な姿勢を取っている。「私たちの美しい国土を外国製の太陽光パネルで埋め尽くすことには猛反対だ」。9月19日、自民党総裁選への出馬会見で高市氏はこう述べ、22日には太陽光などの補助金制度の見直しを表明した。さらに、政権発足にあたり自民党と日本維新の会が20日に交わした連立政権合意書では、「わが国に優位性のある再生可能エネルギーの開発を推進する」と明記。そこには地熱発電の推進が含まれている。環境相に就任した石原宏高氏は「自然破壊や土砂崩れにつながる“悪い太陽光”は規制していかなくてはいけない」と述べた。

さらに高市首相は、環境副大臣に青山繁晴氏を起用した。青山氏はかねてより、太陽光パネルの廃棄や景観破壊など再エネの「負の部分」を訴えてきた政治家である。彼女の人事は、メガソーラーの野放図な拡大を止め、再エネ政策を国家主導の“秩序ある改革”に転換する意思表示にほかならない。高市早苗は「夢の技術」を語りながら、「悪い再エネ」を抑え、国産技術と地熱・原子力の現実路線を重ねている。これこそ政治の寓話であり、虚構を使って国家を守る戦略だ。理想を掲げながら現実を崩さず、幻想に酔うことなく着実に前進する――日本を壊さずに変えるための知恵の物語である。
 
結語 常若の思想――日本が再び羅針盤となる日

AIと若者、そして霊性文化。この三つが交わる時、我が国は「知と心の文明」として再び立ち上がる。

霊性文化とは、神秘や信仰ではなく、人と自然、技術と倫理、国家と共同体をひとつの流れとして結ぶ“知の形式”である。神社の森や祭りに刻まれた秩序は、自然と人間が互いに生かし合う哲学そのものだ。AIが効率の極みに達するほど、人間は「何のために知るのか」という根源的な問いに向き合うことになる。そこにこそ、霊性文化が果たす役割がある。

高市早苗の政治姿勢にも、この霊性の系譜が流れている。彼女の「国土を守る」という直感は、経済合理性を超えた“国土への祈り”でもある。自然を神聖なものとみなし、技術をその延長として位置づける――この感性は、まさに「常若(とこわか)」の思想に通じる。古きを生かしながら新しきを生む更新の知であり、日本が千年を超えて持続してきた精神の骨格だ。

式年遷宮が社殿を建て替えつつ魂を受け継ぐように、私たちも制度や技術を刷新しながら精神の軸を保たねばならない。AIはこの常若の哲学を、世界規模で再現できる唯一の道具である。更新を恐れず、破壊せず、絶えず再生する――それが日本の文明のあり方であり、未来への道である。

高市早苗の語る夢は、虚構ではない。国家の航路を整える寓話であり、日本が再び世界の羅針盤となるための哲学である。寓話を読み解き、技術を制し、心を忘れぬ国家――その先に、真の再生がある。

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高市総理誕生──日本を蝕んだ“中国利権”を断て 2025年10月21日
高市政権の発足を受け、対中依存の構造を断ち切るべきだと論じる総括記事。外交・安全保障・経済の三領域での優先課題を提示する。

日本初の女性総理、高市早苗──失われた保守を取り戻す“転換点” 2025年10月20日
自民・維新の連立合意を背景に、高市政権の歴史的意味と保守再建のロードマップを示す。

総裁選の政治的混乱も株価の乱高下も超えて──霊性の文化こそ国家の背骨だ 2025年10月4日
常若(とこわか)をキーワードに、日本の霊性文化が政治と経済の動揺を超える「精神のインフラ」であることを論じる。 

世界が霊性を取り戻し始めた──日本こそ千年の祈りを継ぐ国だ 2025年9月30日
解説:世界的な価値観転換と日本の霊性文化の復権を重ね、制度と精神の継承が国家力になると提言。 

「対中ファラ法」強化で中国の影響力を封じ込めろ──米国の世論はすでに“戦場”だ、日本は? 2025年7月23日
解説:米国のFARA強化を素材に、情報戦・世論戦での制度対応の遅れを日本に警鐘。高市政権下の対外情報戦略の論点整理にもつながる。

2025年10月25日土曜日

国連誕生80年──戦勝国クラブの遺産をいつまで引きずるのか

まとめ

  • 国連は「連合国」体制の延命装置であり、1945年の構造を今も引きずっている。常任理事国の拒否権が紛争解決を麻痺させ、戦後秩序の惰性だけが残った。
  • 理念の裏で資金と承認をめぐる政治が肥大化している。「人権」「ジェンダー」「多様性」などの旗印の下で、実効よりも象徴を優先する構造が国連機関に広がった。
  • UNRWAの不祥事は理想を掲げる国連の腐敗を象徴する事件だった。職員の一部がハマス攻撃に関与した疑惑を受け、米・英・豪など主要国が拠出を停止した。
  • 米国はトランプ政権期に国連への資金依存を見直し、実効性を問う路線へ転換した。UNRWA拠出打ち切りや人権理事会離脱は、理念より現実を重視する判断だった。
  • 国連の「先住民族」政策は日本にもねじれを生んだ。アイヌをめぐる国際的枠組みは定義が曖昧なまま政治化・利権化し、国際承認が目的化している。
1️⃣1945年の影に縛られた組織

国連ビル

国際連合(United Nations)は第二次大戦の惨禍を繰り返さないために生まれた。だが“United Nations”の原義は「連合国」、つまり戦勝国連合である。常任理事国と拒否権という設計は、その性格を今も露骨に残す。世界の重心は移り、冷戦も終わった。それでもひとつの拒否権で紛争対応が止まり、会議と声明だけが積み上がる。理念の看板は色あせ、現実の戦火の前で手足が止まる──この構図こそ国連の病巣である。

戦後の専門機関でも力学は変わった。国連食糧農業機関(FAO)は2019年以降、中国の屈冬玉がトップに就き、組織運営を主導してきた。国際電気通信連合(ITU)は2015〜2022年の間、中国出身の趙厚麟が事務総長を務め、その後は米国出身のボグダン=マーティンに交代した。国連機構の舞台は、価値の普遍を競う場ではなく、現実の影響力を取り合う場へとすっかり様変わりしたのだ。(FAOHome)
 
2️⃣理想の仮面と資金の流路──アイデンティティー政治の装置化

「人権」「ジェンダー」「先住民族」。美しい言葉は、資金と承認をめぐる政治の標語にもなる。国連や関連機関のプログラムは各国の拠出金を梃子に、無数のNGO・実施団体へと再配分される。成果よりも“国際的承認”の獲得が目的化するとき、事業は延命し、報告書は増える。理想は掲げる。だが、現場で何が変わったのか──そこが薄い。

UNRWA職員を装ったテロリスト・ハマスを象徴する画像

象徴的なのがUNRWAである。2024年1月、イスラエルの指摘を受けて、国連はUNRWA職員の一部が10月7日のハマス攻撃に関与した疑いを調査し、職員の解雇に踏み切った。米国、英国、豪州、カナダ、フィンランド、オランダ、イタリアなど複数の国が相次いで資金拠出を停止・凍結した。理想の看板を掲げる機関が、信頼の根幹でつまずいた現実は重い。(Reuters)

国連の紛争関与は“中途半端”になりがちだ。シリア停戦の仲介は決定打にならず、南スーダンや他地域でも平和維持はしばしば後追いになった。ルワンダ、スレブレニツァでの失敗は歴史に刻まれた。介入しても遅く、介入しなくても弱い(存在感や影響力がない)──この矛盾は、機構と権限の設計の古さから来ている。

米国の態度は、ここを鋭く突いた。トランプ政権は2018年に国連人権理事会から脱退し、同年UNRWAへの拠出を打ち切った。価値観ではなく実効、象徴ではなく費用対効果を問うという宣言である。その後、米政府は一部の国連関連拠出を段階的に見直し、国益と整合しない分野にブレーキをかけた。(Reuters)
 
3️⃣日本への波紋──「先住民族」枠組みと政策のねじれ

国連を批判するトランプ大統領

国連は2007年に「先住民族の権利宣言(UNDRIP)」を採択し、各国に尊重を求めた。日本政府は2008年、アイヌを先住民族と認める立場を表明した。だが国連は法的に硬い定義を持たず、運用は幅が広い。学術的にも起源と文化形成は多層で、先住性の評価には議論が残る。要するに、“先住民族”と断じ切れるほど定義が固いわけではないのに、国際的承認と国内制度化が先に走った。この順序が、国内の議論を細らせ、政策を利権と補助の回路へと滑らせたのである。

ここで大切なのは、文化の尊重と政策の実効を分けて考えることだ。歴史と地域の実相を丁寧に見ないまま、上から「先住民族」ラベルを貼ると、現場は硬直し、検証は甘くなる。国際勧告に合わせること自体が目的化すると、税金は理念の看板に吸い込まれ、暮らしの改善はおざなりになる。

結論は明快である。国連は、戦勝国体制の設計を引きずったまま、拒否権というおもしで身動きが取れず、専門機関も影響力ゲームに巻き込まれている。理想を語りながら、資金の流路は政治を肥やし、失策は現場に落ちる。UNRWAの一件は、看板と実態のずれを白日にさらした。米国が拠出や関与を減らしたのは、感情ではなく計算の結果である。(Reuters)

日本はどうするか。答えは簡単だ。国連中心主義から距離を取り、主権と同盟を基軸に、必要な協力は二国間・小多国間で組む。文化は自分たちで守り、政策は自分たちで検証する。戦後の記念碑を守るために金を注ぎ込む時代は終わった。これからは、結果を出す仕組みに金を使うべきだ。

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