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2022年7月24日日曜日

[スキャナー]ロシア産業界にじわり打撃、制裁で機械も原材料も不足…「一番怖いのは機械の故障」―【私の論評】対露経済制裁は確実に効いており、3年後くらいにはソ連崩壊時並になるのは間違いない(゚д゚)!

[スキャナー]ロシア産業界にじわり打撃、制裁で機械も原材料も不足…「一番怖いのは機械の故障」

ロシア銀行大手ズベルバンクから預金を引き出すために列をつくる人々=2月25日、チェコ・プラハ

 ロシアがウクライナ侵略を始めてから24日で5か月となる。プーチン露大統領は、侵略に伴って米欧や日本が科してきた対露制裁を、ロシア経済を発展させる機会にすると強弁してきたものの、産業界の基礎体力はじわじわと奪われている。
  「一番怖いのは機械の故障だ。ここの製本機はドイツ製で、企業が撤退したので保守サービスが受けられない。いざとなったら自力での修理も考えている」

 モスクワ北東部で印刷工場を経営するアルチョム・ジュジャコフさん(51)は深いため息をついた。工場にある印刷機器はすべて外国製だ。今年4月に欧州連合(EU)が発動した、精密機器の輸出を禁じる制裁の直撃を受けた。

 ジュジャコフさんの工場では、ほぼ全量を欧州製に頼っていたインクも輸入できなくなった。侵略前からロシアでは製造していなかった厚手の上質紙も手に入らない。それ以外の紙やインクは中国製などで代替しているが、調達コストは2割ほど上がり、最近はロシア製の紙も品薄だという。

対応に奇策次々

 プーチン政権は制裁の打撃を緩和し、自国経済の機能を維持するため、国際ルールも無視して様々な奇策を繰り出している。

 最も制裁の影響が顕著だとされる自動車産業の「生産を維持し、雇用を守る」(副首相)ため、政府は5月、新車を認可する際の安全基準などを引き下げた。

 ロシアの自動車大手アフトバスが6月に発表した「新型モデル」は、ブレーキ時にタイヤがロックしないようにするアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)やエアバッグといった装備が付いておらず、排ガス性能も最新の基準には適合しない。アフトバスを傘下に置いていたフランスのルノーが保有株を売却して撤退したため、いずれも自前の技術では調達できなくなったのだ。

【随時更新】ロシア軍、ウクライナを侵略…最新ニュース・速報まとめ

 アフトバスは、ソ連時代に生産していた車種の復刻版も相次いで発表し始めた。ロシアの自動車業界は、急速に懐古色が強まっている。


 露政府は3月には、対露制裁で輸入が禁止された品目について、商標権者の許可なく輸入して流通させても合法とみなす「並行輸入」制度を導入した。産業貿易省が、スマートフォンや自動車、精密機器から医療品まで広範なリストを発表しており、国が率先して違法行為を推奨している格好だ。

 外国のリース会社から借りている航空機を返却せず、所有権をロシアの航空会社に移すことを認める法律も発効している。

物流混乱

 制裁対象の品目以外でも原材料の調達は課題になっている。モスクワでクラフトビールの醸造会社を経営するアレクサンドル・グロモフさん(32)は、欧州の仲介業者から輸入しているモルト(麦芽)やホップの供給が途絶える事態を心配し、精神安定剤を服用している。侵略の影響で物流が混乱したため、国境の税関も大混雑しており、原料を運ぶトラックの通関に1週間以上かかることもあるという。

 人材流出も加速している模様だ。米紙ニューヨーク・タイムズは、侵略開始から1か月で5万~7万人のIT技術者がロシアから出国したとの推計を伝えた。周辺国などで人材の囲い込みが起きており、侵略は長期的にもロシア経済に深い傷を残しそうだ。

【私の論評】対露経済制裁は確実に効いており、3年後くらいにはソ連崩壊時並になるのは間違いない(゚д゚)!

ロシア制裁については、すぐには効果がないとか、抜け穴があるので効かないなどの意見もありますが、どの意見も明確な定量的な裏付けがないままになさてれいます。

ただ、わかっていることもあります。ロシア経済発展省は24日までに、今年上半期に破産宣告あるいは債務返済のための資産整理を申告した同国国民の人数は前年同期比で37.8%増を記録したとの報告書を公表しました。

これらロシア国民の総数は12万1313人で、破産宣告が最多の地域は首都モスクワの6000人以上でしたた。首都近辺の地域がこれに続き5600人以上となりました。

同省当局者は今年上半期の数字に触れ、破産に見舞われた国民の人数は既に相当な高水準に達していると認めました。

報告書によると、個人の破産は2019年には6万8980人だったが、21年には19万2833人とほぼ3倍に膨れ上がっていました。

個人的な破産宣告の件数とロシアによるウクライナ侵攻との明白な因果関係を示す材料はないが、ロシアは侵攻以降、多数の国際的企業が同国市場から撤収するなどの影響を受けています。ロシアは日米欧やほかの諸国から資産凍結などの制裁も科されました。これは、やはり制裁の強化によるものとみるべきでしょう。

さらに、米ソ冷戦も参考になります。第二次世界大戦の終結直前の1945年2月から1989年12月までの44年間続き、連合国としては味方同士であったアメリカ合衆国とソビエト連邦が軍事力で直接戦う戦争は起こらなかったので、軍事力(火力)で直接戦う「熱戦」「熱い戦争」に対して、「冷戦」「冷たい戦争」と呼ばれました。

ソビエト連邦の崩壊(1988年 - 1991年)とは、ソビエト連邦(USSR)が内部分裂を起こし、主権国家としての存続を断念した出来事です。

冷戦が始まってから、ソビエトが崩壊するまでは、 45年もかっているのです。ソ連は崩壊しましたが、新たにできたロシア連邦が、ソ連の軍事技術、宇宙開発技術、核兵器などを継承しました。

ただ、経済は著しく低迷しており、その窮状は、想像を超えており、当時のロシア連邦空軍は燃料すら十分ではなく、国内のパトロールさえままならぬ状態で、見るに見かねた米空軍がロシア連邦空軍がパトロールできるように燃料などの支援を行ったとの記録があります。

このような状態にあってもロシア連邦は、核兵器や軍事技術を継承し維持したのてす。1991年ウクライナは独立しましたが、ウクライナはこのとき世界第三位の核保有国となりましたが、核兵器を廃棄することを決めました。もし、ウクライナが核兵器を廃棄しなければ、今日ロシアに侵攻されることはなかったかもしれません。

米シンクタンク、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)は、1914年の第1次世界大戦勃発から約100年間の経済制裁、204ケースを分析した。対象国の政策変更を実現させたか、制裁の効果はどの程度あったか、などを1~16点で評価しました。その結果、制裁が「成功」とされる9点以上だったケースは、34%でした。

ジェフリー・ショット氏

分析を担ったPIIEのジェフリー・ショット氏(73)は、「中でも軍事行動に対する制裁の成功ケースは約20%にとどまった。いまのロシアに対する輸出制裁は武器を製造できなくし、徐々に兵力を弱めるだろうが、制裁でただちに軍事行動を止めることはできない」と説明しています。

だからといって、「さらに厳しい制裁を科して対象国を追い込むことは、激しい対抗行動を引き起こす」として、ショット氏は太平洋戦争前の日本に対する米国の制裁を例にあげています。1941年夏に米国が打ち出した石油輸出禁止によって追い込まれた日本は、真珠湾を攻撃し対米開戦に踏み切りました。「石油禁輸が日本に多大な圧力となり、不幸な結果を招いた」

ショット氏によると、最古の経済制裁は紀元前432年の古代アテネによる経済封鎖にさかのぼります。それがスパルタとの「ペロポネソス戦争」につながったといい、制裁が戦争の理由の一つになるのは昔から変わらないようです。

制裁が失敗に終わる原因について、ショット氏は「抜け穴」となる支援国の存在をあげる。「21世紀に入りグローバル化が加速し、モノやサービスを供給するさまざまな経路ができたため、制裁対象国を支援する国がでてくる」。実際、制裁を科せられたロシアも中国やインドに原油などを輸出することで、経済が下支えされています。

ショット氏は、ロシアの軍事行動に武力ではなく経済制裁で対抗するのは「やむをえない」といいますが、「歴史からの教訓の一つは、制裁は始めるよりやめるのが難しいことだ」と長期化を予測しています。

制裁には別の意味合いもあります。「制裁側が同盟関係を広げて、包囲網をつくることが重要だ。一致して制裁を科すことは、ロシアに対してだけでなく、他の国が将来とる可能性のある行動、たとえば中国が台湾に対して軍事行動をとることを牽する効果もある」
としています。

ただ、以上は具体的数値に基づくものですが、実際にロシア経済が戦争継続が不可能になるまで、どのくらいの年月を必要とするかの答えにはなっていません。

それに対する答え出した人もいます。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
対露経済制裁は効果出ている 3年続けばソ連崩壊級の打撃も…短期的な戦争遂行不能は期待薄―【私の論評】制裁でロシア経済がソ連崩壊時並みになるのは3年後だが、経済的尺度からいえばこれは長い期間ではない(゚д゚)!
販売できる商品が何もない魚介類専門店で店員に詰め寄る市民たち(1990年11月22日、モスクワ)

この記事の元記事で、高橋洋一氏はロシア経済について具体的に数字を出しながら推測しています。その部分を以下に引用します。
 5月13日の英エコノミスト誌によれば、ウクライナ侵攻以降、ロシアの輸入は44%減少、輸出は8%減少した。輸出の減少が抑えられているのは、エネルギー価格の上昇にも支えられているという。

 これらからロシアの国内総生産(GDP)の動きを推計すると、年率10%程度の減少になるだろう。これは、リーマン・ショック並みの影響だといえ、これが3年間程度継続すると、ソ連邦崩壊並みになる。

ロシアが公表するGDPなどの資料は、昔から信用できないことが多く、だから髙橋洋一氏は輸入、輸出に着目したのだと思います。GDPに関しては、ロシア政府が公表するものですが、輸出入に関しては、相手国があることですし、あまりごまかすことはできません。

GDPと、輸出入に関してはある程度の相関関係があります。経済が良くなると、輸入が増える傾向にあります。輸出は、GDPに直接影響を与えます。これらから推測すると、ロシアのGDPの事実額までは推定できないかもしれませんが、GDP伸び率などは、当たらずとも遠からずの予測はできます。

これらの推測から、現状の制裁が3年続けば、ソ連邦崩壊時並の経済状況になると高橋洋一氏は予測しているのです。

経済制裁だけで、こうなるのですから、ロシアのへの経済制裁は相当効いているといえます。冷戦が始まってから、ソ連邦が崩壊するまでには45年もかかっていることを考えると、3年でこれほどの成果を出せる現状の経済制裁はかなり有効だということがいえると思います。

第二次世界大戦後、ソビエト連邦のGDPは米国についで世界第二位だったこともあります。その後日本に追いつかれて、世界第三位に落ちましたが、その後は冷戦を経て、ソ連が崩壊し、ロシア連邦がその後を引き継いだのですが、経済は落ちる一方でしたが、プーチンになってからエネルギー戦略でいっとき多少持ち直したものの、また落ち始め、現在のGDPは韓国を若干下回るまでに落ち込んでいます。

そうして、韓国の人口は、5千万人であり、ロシアの人口は1億4千万人ですから、一人あたりのGDPではロシアは1万ドル(日本円で100万円くらい)に過ぎず、これは途上国並です。一人あたりのGDPは、一人あたりの年収に近似できますから、いかに低いかが理解できます。

もともとの水準低いからこそ、3年間現在の水準の経済制裁が続けば、ソ連崩壊並になるのでしょう。

これを期間が長いとか、効き目がないという人は、一体何をを標準としているのか、聞きたいです。

先にあげた、ブログ記事にも述べましたが、もし戦争がエスカレートして、NATOとロシアとの直接戦争になってしまったとしたら、ロシアは核兵器数だけは世界一ですから、これは大変なことになります。

通常兵力では、現在のロシア連邦軍は米国を抜いたNATO軍よりも遥かに脆弱であり、まともに対峙することもできません。

核兵器についても、数は多いものの、旧式なものが多く、新型を開発しているとはいっても実数は多くはないです。さらに、防空能力でも米EUにはとても及びません。核兵器を用いても何をしてもロシアには全く勝ち目はありません。

ただ、両陣営が本格的に武力で対立して、核ミサイルを打ち合えば、世界は第二次世界大戦よりもはるかに甚大な被害を被ることになります。そこから、復興するには数十年の年月を要することでしょう。

これと、経済制裁の3年とどちらが良いかということになれば、経済制裁のほうが良いに決まっています。

ただ、これは思ったよりは長いと感じてしまうのかもしれません。それに、たしかに直接被害を被っているいるウクライナの人にとっては、大変なことです。

経済制裁でロシアの国力を削ぎ、軍事的にも弱体化させ、3年間でロシア連邦の戦力を削いで戦争継続を不能にするには、現在はない新たな手立てが必要だと思います。

現状では、NATOはウクライナ軍がロシア領内に侵攻することがないように、兵器も制限をつけているようですが、これはそのままでも良いのですが、ウクライナの都市などが、ロシア軍のミサイルによって徹底的に破壊されている状況にあります。

この状況を変えるために、防御型の兵器を強化すべきです。特に、ロシアからのミサイルを迎え撃つ兵器が必要です。たとえば、イスラエルのアイアンフィストのようなミサイル兵器です。


この装置は、RADAエレクトリック・インダストリーズが開発した固定式のレーダーセンサー、およびエルビット・システムズ(英語版)の子会社であるエリスラ(英語版)社が開発した付属の受動型赤外線検知器により、飛来する脅威を探知します。脅威が差し迫っている際には、炸裂する投射迎撃体がその前方へ撃ち出されます。

迎撃体は脅威となるものの非常に近くで炸裂し、破壊もしくはこれを逸らして、弾頭を起爆させることなしに安定を失わせます。このためには炸裂の爆風効果のみが用いられます。迎撃体のケーシングは可燃性の素材で製造されており、そこで炸裂によって生成される破片は存在せず、副次的な損害を最低限にする助けとなっています。

このような防空システムは様々なものがあります。有効なものを配備して、ロシアからのミサイル攻撃による被害をなるべく減らしつつ、経済政策を継続するという方式が良いと思います。

そうすれば、ロシアからのミサイル攻撃を受けつつも、ウクライナの復興ができるでしょうし、現在国外に退去していた人たちが、ウクライナに戻ることも増えているといいます。防御兵器が充実すれば、これも加速すると思います。

いずれにしても、ロシアへの経済制裁が効いていないということはありません。そうして、私自身は3年間という期間は長いとは思いません。


近づきつつある民主主義国ウクライナのEU加盟―【私の論評】プーチンのウクライナ侵攻は、結局ウクライナの台頭を招くことに(゚д゚)!



2022年6月28日火曜日

ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる―【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる

岡崎研究所

 6月9日付のワシントン・ポスト紙(WP)に、同紙コラムニストのファリード・ザカリアが、「最善の対中戦略? ロシアを敗北させろ」と題する論説を寄せ、ウクライナ戦争でのロシアの敗北が中国に与える影響を論じている。


 ザカリアは、論説の冒頭で、バイデン大統領の次の言葉を引用した。「もしロシアにその行動に重い対価を払わせないならば、それは他の侵略国に彼らも領土を取得し、他国を従属させられるとのメッセージを送るだろう。それは他の平和的民主国の生き残りを危険にさらす。そしてそれは規則に基づく国際秩序の終りを意味し、世界全体に破局的結果をもたらす侵略行為に扉を開く」。

 その上で、論説の最後の方で、今、最善の対中戦略はロシアをウクライナで敗北させることであるとした。それは、ロシアを強く支持した習近平にとって、同盟国ロシアが敗北することは、自らの痛手ともなるからである。逆に、プーチンが生き残れば、習近平も、西側諸国は規則に基づく国際秩序を十分に守れなくなっていると思い、攻撃に出る危険も増すと述べる。

 ザカリアの論説は、良く考えられた的を射た論説である。

 ロシアのウクライナ戦争を失敗に終わらせること、ロシアがこの戦争で弱い国になってしまうことを確保することは、今後の世界情勢がどういうように発展していくかを決めると思われる。

 中国は、米国を主敵と考え、対米関係で対抗的姿勢をとっており、ロシアのウクライナ戦争を非難していない。経済制裁によるロシアの苦境を和らげるように、欧州が輸入することをやめようとしている石油を買っている。

 中国は、ロシアへの武器供与はしていないようであるが、それ以外には総じてロシアと協力的関係を維持している。習近平が個人的にもプーチンを支持しているからであろう。

 ロシアの侵攻前、2月4日、北京五輪開会式の日に行われた習近平とプーチン会談で、プーチンがウクライナ侵攻計画を習近平に話したかどうかについては、断言できない。在ウクライナ・中国大使館は侵攻まで、首都から退避する措置を何らとらなかったからである。

求められる日本の不退転の姿勢

 今はウクライナでのロシアの敗北は、中国に大きな影響を与える。

 ザカリアがロシアのウクライナでの敗北を確実にすることが対中戦略上も決定的重要性を持つというのはその通りであろう。ロシアは衰退しているが、衰退する大国は危険でもあることを第一次世界大戦のオーストリア・ハンガリー帝国を例に指摘しているのもその通りだろう。

 日本は、南を中国、北はロシアと国境を接している。かつて安倍晋三政権時代、日本は、対中戦略において、ロシアと接近することも必要だとした。

 それは、冷戦時代に米国が対ソビエト戦略において中国と接近したのと似ている。しかし、ウクライナへのロシアの侵攻や北朝鮮のミサイル発射に対する中露の協力的姿勢を目の前にした今日、もはや、そのやり方は通用しないことがわかった。

 日本にとっては、より厳しい国際環境にあるが、自国の国防力を強化するとともに、日米同盟の緊密化、さらに価値観を共有する友好国と共に、より協力して行動することが必要だろう。

【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

ファリード・ザカリアが、「最善の対中戦略? ロシアを敗北させろ」 という主張には、賛成できる面もありますが、賛成できない面もあります。まずは、どの程度の敗北を想定しているのかはっきりしていない点があります。

無論私自信も、ロシアは敗北させるのは当然のこととは思っています。ただ、どこまで敗北させられるかは未知数の部分もあります。そもそも、ロシアはウクライナに攻め込んでいますが、ロシア自体はウクライナに攻め込まれているわけではありません。また、ウクライナが攻め込むつもりもないでしょう。


また、NATO諸国もロシアがNATO諸国のいずれかの国が侵攻されない限り、ロシアを直接攻撃したり、ロシア領に侵攻することはしないでしょう。

そうなると、ロシアが戦争に負けても、最悪ウクライナから引き上げるだけということになるでしょう。ロシアのモスクワを含む一部の地域にでもNATO等が侵攻していれば、それこそ、第一次世界大戦のドイツに対するような過酷な制裁を課することができるかもしれません。

しかし、ウクライナ戦争の戦後は、そのようなことはできません。ロシアを敗北させるには、限界があるということです。

であれば、敗北させたり、制裁を課したりするだけではなく、他の手立てを考えるべきだと思います。

それは、人口4400万人のウクライナの一人あたりのGDP(4,828ドル、ロシアは約1万ドル) を引き上げ、人口1億4千万人のロシアよりGDPを遥かに大きくすることです。現在ロシアのGDPは韓国を若干下回る程度です。

韓国の人口は、5178万ですから、一人あたりのGDPで韓国を多少上回ることで、ウクライナのGDPはロシアを上回ることになります。

そうして、その条件は揃いつつあると思います。まずは、戦争が終了した場合、西側諸国の支援のもとに復興がはじまります。ロシアは戦争に負けても、ウクライナに賠償金支払うつもりは全くないでしょうが、西側諸国が凍結したロシアの私産をすべてウクライナ復興にあてることになるでしょう。

あれだけ国土が痛めつけられたわけですから、これを復興するということになれば、それだけで経済活動はかなり盛んになるはずです。日本も第二次世界大戦では甚大な被害を受けましたが、凄まじい速度で復興しました。インフラが破壊されたということは、別の面からみると、効率が良く、費用対効果が高いインフラに取り替えることができるということです。

さらに、ウクライナはITなども進んでいますから、爆発的な成長が期待できます。軍需産業も存在しますから、軍需と民間の両方で経済を牽引することができるでしょう。

ただ、戦後復興が終了した後に、さらに経済を大きくしようとすれば、西欧諸国なみの民主化は避けて通れないでしょう。実際このブログで過去に紹介したように、経済発展と民主化は不可分です。その記事のリンクを以下に掲載します。
米中「新冷戦」が始まった…孤立した中国が「やがて没落する」と言える理由―【私の論評】中国政府の発表する昨年のGDP2.3%成長はファンタジー、絶対に信じてはならない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
G20の状況をまとめると、高所得国はもともとG7諸国とオーストラリアであった。それに1万ドルの壁を破った韓国、サウジ。残りは中所得国で、1万ドルの壁に跳ね返されたアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの6ヶ国、まだそれに至らないインドとインドネシア。それに1万ドルになったと思われる中国だ。

さらに、世界銀行のデータにより2000年以降20年間の一人当たりGDPの平均を算出し、上の民主主義指数を組み合わせてみると、面白い。中所得国の罠がきちんとデータにでている。
民主主義指数が6程度以下の国・地域は、一人当たりGDPは1万ドルにほとんど達しない。ただし、その例外が10ヶ国ある。その内訳は、カタール、UAEなどの産油国8ヶ国と、シンガポールと香港だ。

ここでシンガポールと香港の民主主義指数はそれぞれ、6.03と5.57だ。民主主義指数6というのは、メキシコなどと同じ程度で、民主主義国としてはギリギリだ。

もっとも、民主主義指数6を超えると、一人当たりGDPは民主主義度に応じて伸びる。一人当たりGDPが1万ドル超の国で、一人当たりGDPと民主主義指数の相関係数は0.71と高い。

さて、中国の一人当たりGDPはようやく1万ドル程度になったので、これからどうなるか。中国の民主主義指数は2.27なので、6にはほど遠く、今の程度のGDPを20年間も維持できる確率はかなり低い。
現状のロシアの一人あたりのGDPは、中国と同程度の1万ドル前後です。中国の人口は14億人で丁度ロシアの人口の十倍なので、国単位では中国のGDPはロシアの十倍になっていますが、両国とも、バルト三国や台湾よりも一人あたりのGDPは低いのです。

どうして民主化が経済発展に結びつくのかに関してはの論考は、ここで述べると長くなってしまうので、下の記事を参考にしてください。
【日本の解き方】中国共産党100年の功罪と今後 経済世界2位に成長させたが…一党独裁では長期的に停滞へ―【私の論評】中国も、他の発展途上国と同じく中所得国の罠から抜け出せないワケ(゚д゚)!
戦後復興後にウクライナが民主化に取り組み西側諸国のようになれば、 一人あたりのGDPがロシアをはるかに上回るのは、さほど難しいことではないでしょう。

それに、最近ウクライナが本格的に民主化する可能性が高まってきました。それは、ウクライナのEU加盟の可能性です。


ウクライナにとり欧州連合(EU)加盟は念願である一方、EU基準に程遠い制度や体質が改善されず実現は夢のまた夢でした。候補国として一歩を踏み出せた意義は大きいです。ロシアの侵略に対する欧米の「支援疲れ」も叫ばれる中、勇気づけられたことでしょう。

ロシアとの関係を断ち切りたいウクライナにとって、EU加盟で域内諸国との人、物、金の移動が自由になればメリットは大きいです。各国との通商がより活発になり、企業誘致やEUからの助成金も見込めます。外交上もロシアに対抗する後ろ盾ができ、国力の底上げにつながります。

ただ、今回の動きがロシアの侵略で大勢の命が失われた結果であることも忘れてはならないです。EU加盟には法の支配や人権など多くの項目でEU基準をクリアする必要があります。ウクライナは加盟に向けて国内法や規制を変更してきたが、それでも候補国になれていなかったのが実情です。

新興財閥(オリガルヒ)が政権と癒着する、裁判官や検察官の試験に賄賂で合格する、大学教授が授業の単位を金で売るなど、ウクライナは有数の汚職国家といわれてきました。

親露派政権が倒れてクリミア半島が占領された2014年以降、国家汚職対策局を設置するなど汚職排除に努めたましたが、いまだになくならないです。基準があいまいな汚職対策をEUがどう評価するかが、加盟に向けたポイントになります。

EU加盟は社会が変わるということです。汚職や腐敗体質が浸透しているウクライナは、急激な変化が生む負の側面も想定しておかなくてはならないです。

通常、加盟手続きには10年前後かかります。EUも1カ国を特別扱いするわけにいかず、他の候補国よりも先に加盟することはないです。道のりは長いですが、西側諸国の全面的支援もあります。焦らずに課題を着実に解決すれば加盟が早まる可能性もゼロではないです。

そうして、ウクライナがEU諸国並に民主化できれば、さらに経済発展する可能性が高いです。過去の汚職や腐敗にまみれてきた、ウクライナが社会を変えることは難しいかもしれませんが、それでも、民主化してロシアのGDPをはるかに凌駕することを目指すべきです。

そうして、日本のかつての池田内閣の「所得倍増計画」のように、「ウクライナGDPロシア凌駕計画」などと公言したうえで、実際にそれを達成すれば、より効果的でしょう。

また、ウクライナならそれも可能です。すでに一人あたりのGDPがロシアのそれを上回っているバルト三国の人口は、三国合わせても619万人です。これでは、バルト三国全体をあわせても、ロシアのGDPを上回るのは至難の技です。

台湾も一人あたりのGDPでは、中国を上回っていますが、台湾の人口は、2357万人であり、バルト三国などよりは大きいですが、台湾が中国のGDPを上回るのは到底不可能です。

ウクライナは戦争前のロシアのGDPを上回る可能性が十分あります。そうして、もしそうなったとすれば、これはとてつもないことになります。ウクライナは軍事にも力をいれるでしょうから、軍事費でも、経済的にもロシアを上回る大国が東ヨーロッパのロシアのすぐ隣にできあがることになります。

その頃には、ロシアの経済は疲弊して、ウクライナのほうが存在感を増すことになるでしょう。そうして、ロシアのウクライナに対する影響力はほとんどなくなるでしょうしょう。実際、日本でも1960年代の高度経済成長の頃から、当時のソ連の影響は日本国内ではほとんどなくなりました。これを見る中国は、武力侵攻は割に合わないどころか、経済的にも軍事的にも疲弊しとんでもないことになることを思い知るでしょう。

それどころか、ロシアの国民は繁栄する一方のウクライナに比較して没落する一方のロシアの現状に不満を抱くようになるでしょう。ロシア人以外の民族で構成さているロシア連邦国内の共和国などでは独立運動が再燃するかもしれません。

実際、ウクライナが大国になれば、多くの国がウクライナと交易してともに従来より栄えるようになるでしょう。ロシアの経済の停滞を補う以上のことが期待できます。ウクライナがNATO入る入らないは別にして、安全保証ではロシアの前にウクライナが控えているという事実が安心感を与えることになるでしょう。

また、ウクライナ戦争中に西欧諸国から支援を受けたウクライナは、その期待に答えようとするでしょう。

もし大国になったウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアはパニック状態になるでしょう。それは、中国も驚愕させることになるでしょう。

日本としては、戦災・震災の復興の経験を生かし、ウクライナに対して資金援助だけではなく、様々なノウハウを提供すべきでしょう。さらには、ロシアに侵攻される直前のウクライナは日本にも似た状況にあったことから、復興し経済成長したウクライナのあり方は、日本にとっても非常に参考になります。

日本は、自らも学ぶという姿勢でウクライナに支援すべきでしょう。

ただし、先程も述べたように、ウクライナが西洋諸国なみの民主化を実現しなければ、これは絵に描いた餅で終わることになります。

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2022年4月12日火曜日

バイデン外交の欠陥が露呈しているウクライナ戦争―【私の論評】バイデンは、中東諸国やイスラエル、トルコ等とはある程度妥協しても良いが、中国にロシアを説得させてはいけない(゚д゚)!

バイデン外交の欠陥が露呈しているウクライナ戦争

岡崎研究所

 3月22日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙コラムニストの ジャナン・ガネシュが、ウクライナ問題では、バイデンの理想主義的外交がサウジアラビア等の離反を招き米国外交の足かせとなっており、もっと現実主義的外交をすべきであると論じている。


 ガネシュは、ウクライナ戦争を民主主義と独裁主義の戦いと位置付けたのでは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコ、更には中国の協力を得ることができないので、より現実的な外交政策をとるべきだと述べる。歴史的にも、米国は、ソ連との対抗で中国に肩入れしたり、韓国やラテンアメリカの軍事政権を支援したりしたように、目的のためには、非民主的勢力の協力を得て来たと指摘する。そして、今後の中国との覇権争いにおいても、そのような戦術が必要となると論じている。

 バイデン外交には、人権・民主主義を重視する民主党の基本的立場が背景にある。また、トランプの理念なき外交を批判して政権を獲得したこともあり、自らの持論でもある民主主義重視の価値観外交を進めて来た。

 また、バイデンの個人的性格にもあるのか、これまでサウジやア首連の指導者、イスラエル首相、ブラジル大統領など、政策的に問題のある政治指導者とは会おうとしなかった。政策や意見が合わなくとも、いざという時のために、首脳レベルで直接働きかけを行なえるような最低限の個人的関係が構築されていることが望ましい。

 また、このようなバイデンの頑なさと共に、あまりに率直な発言に、やや不安を覚えるところがあった。バイデンは、早々にウクライナに軍事介入をしないことを明言し、プーチンを戦争犯罪人と呼び、また、制裁が効果を生ずるのには時間がかかるなど、それらが事実であるにしても、外交駆け引き的な要素が少なく選択の余地を自ら狭めている印象もある。

 バイデンは、プーチンの理不尽な侵略に対して米国自身が交渉する余地は無く、当面制裁強化一本やりということであろうが、そうであればこそ、実利を重視し民主的とは言えない第三国に対しては今後もう少し柔軟な対応に軌道修正し、少しでも対ロシア制裁への協力を求めることが望ましい。西側同盟以外の国々が制裁に参加せず協力しないということは、制裁の抜け穴が広がることを意味しかねない。ウクライナ後の中国対策においても同様であろう。

即時停戦がロシアのためであるという説得を

 3月16日頃には、ウクライナ筋から15項目からなる停戦合意が近いとの見通しも報道されたが、3月23日には、ロシア側から米国が停戦を妨害しているとのコメントがあり、停戦の機運が遠のいているが、これはロシアが交渉を引き延ばしていることを示唆している。プーチンは、もともと停戦するつもりは無く文民に対する無差別攻撃を継続、強化することにより、ウクライナ側の戦意喪失を待つ作戦なのではないかと疑いたくなる。

 ウクライナ人の命を救うためには、プーチンがこのような軍事侵攻に踏み切った理由やこれまでの経緯を考慮すべきだとの意見が内外に散見されるが、これは正に信用できないプーチンの主張である。ウクライナ人側には、命を懸けても守りたいものがあることを理解すべきであろう。

 ロシアに影響力を持つ国や人脈を持つ人物は、全力でロシア側に即時停戦を働きかけ、無差別攻撃を続けることが利益とならないことをロシア側に理解させるよう努力すべきである。特にプーチンに対しては、その意図は交渉により実現すべきもので、そのためにはまず即時停戦が必要であると説得するべきであり、それができるのはロシアが頼りとしている中国しかない。

 3月24日の北大西洋条約機構(NATO)緊急首脳会議でもそのような意見が出たようであるが、中国には、そのような役割を果たす重い責任があるというべきであろう。

【私の論評】バイデンは、中東諸国やイスラエル、トルコ等とはある程度妥協しても良いが、中国にロシアを説得させてはいけない(゚д゚)!

ロシア軍がこのような苦戦するのは、最初からある程度予想がつきました。軍事専門家らによれば、ウクライナ全土を制圧するには最低60万人の軍が必要だとされています。

ソビエト連邦軍主導のワルシャワ条約機構軍による軍事介入したチェコ事件においては、80万人の軍隊が動員されました。チェコの人口は1000万人(ウクライナ4000万人)ですし、面積も半分以下です。

にもかかわらず、ウクライナに投入された軍は19万人です。しかも、キエフ、ハリコフ、東部、南部と広い戦線にわたって投入されました。これでは、制圧どころではありません。

苦戦するのが最初から目に見えていました。仮に、西側諸国からの支援がなかったにしても、かなり苦戦したでしょう。

さらに、ロシアの経済が脆弱(GDPでは韓国より若干下回る、一人あたりGDPは100万戦後で、これは韓国をはるかに下回る)であることから、ロシア軍の戦いはお粗末なものになるであろうことは、最初から予測されたことです。

初戦でのロシア軍のウクライナー侵攻

こうしたことはバイデン政権もわかっていたはずです、プーチンにロシアがウクライナに侵攻すれば、相当苦戦することや、西側諸国が支援すれば、さらに苦戦することなどをプーチンに知らしめるべきでしたし、ある程度戦争がエスカレートした場合は、米軍が直接介入する可能性を示唆すべきでした。バイデンはやはり、外交で失敗したと言えるのだと思います。

特に、上の記事でも述べているように、バイデンは、早々にウクライナに軍事介入をしないことを明言し、プーチンを戦争犯罪人と呼び、また、制裁が効果を生ずるのには時間がかかるなど、それらが事実であるにしても、外交駆け引き的な要素が少なく選択の余地を自ら狭めている印象もあるとしていますが、まさにそのとおりです。

腹の中ではどう思っていても、ウクライナに段階的に軍事介入する可能性ははっきり否定すべきではありませんでした。それに制裁されるにしても、それが効き目がでてくるのに時間はかかると認識させたのは間違いないです。

これでは、プーチンは下手をすると、米国やNATOはウクライナに対して、武器供与も、軍事費の支援もしないと思い込んだかもしれません。制裁も、ウクライナを打ち負かす前までに効力を表すことはないとの確信を抱いたかもしれません。

現在、ロシアはウクライナに侵攻を行ったと国際社会から批判されています。侵攻とは、挑発もされないのに、先制武力攻撃を行うことです。プーチンは色々と言い訳をして「ウクライナが先に挑発してきた」と言っていますが、国際社会の圧倒的多数は「それは挑発と認められない」と評価しています。

一方で、バイデン大統領は相当のポンコツです。ポーランドに行ってロシアの国際法違反を片っ端からあげつらうまでは良かったのですが、「プーチンを権力の座に留まらせない」とまで発言しました。さすがに同盟国の英仏が「我々は知らん」「いい加減にしろ」と呆れられていましたが、米国政府の高官も火消しに必死でした。

それはそうでしょう。プーチンを「挑発もされないのにウクライナに手を出した」と批判しているのに、バイデンがプーチンを挑発してどうするのでしようか。


そうして、最近のマスコミなどの論調では、真実をつきとめようとか、ロシアの立場にもたってみるべき、などのごたくを並べる者もいますが、これは明らかな間違いです。現在進行形の出来事に、しかも戦時に「真実が知りたい」と思い、探ること自体が、プロパガンダに騙される原因になるだけです。真実など歴史にならないとわからないのに現在進行形の時に探るものではありません。

そのようなことよりも、西側諸国としては、この戦いに何としても、勝つべきです。そのためには、より現実的な外交政策をとるべきなのは間違いありません。戦争が現に始まっているのですから、まずはこれに勝たねばなりません。

勝つためには、場合によっては、妥協も必要です。ただ、やって良い妥協とそうではない妥協とがあります。それは、踏まえるべきでしょうが、して良い妥協はすべきです。

妥協には2つの種類があります。1つは古い諺の「半切れのパンでも、ないよりはまし」、1つはソロモンの裁きの「半分の赤ん坊は、いないより悪い」との認識に基きます。前者では半分は必要条件を満足させます。パンの目的は食用であり、半切れのパンは食用となります。半分の赤ん坊では妥協にもなりません。

ソロモン王の裁き

何が受け入れられやすいか、何が反対を招くから触れるべきでないかを心配することは無益であって、時間の無駄です。心配したことは起こらず、予想しなかった困難や反対が突然ほとんど対処しがたい障害となって現れことになります。

何が受け入れられやすいかからスタートしても得るところはありません。それどころか、妥協の過程において大切なことを犠牲にし、正しい答えはもちろん、成果に結びつく可能性のある答を得る望みさえ失うことになるのです。

現在でいえば、バイデンは中東諸国やイスラエル、トルコ等とはある程度妥協しても良いと思います。ただ、上の記事にもあるように、中国に即時停戦が必要であるとロシアを説得させることはするべきではありません。

それで、ロシアが即時停戦をしたとすれば、習近平の存在感は嫌がおうでも高まります。下手をすると、習近平はノーベル平和賞を受賞するかもしれません。そうなると、習近平はそれを利用して、国内での権威付け行い、統治の正当性を強化するでしょう。

そうなると、習近平は余勢をかって、喜び勇んで台湾併合にはずみをつけるかもしれません。その後世界は中国にさらに翻弄されることになるでしょう。これは、悪い妥協です。バイデンはこの種の妥協は、絶対にすべきではありません。

今のところ、そのような兆候はありませんから、さすがのバイデンも中国に利するような真似はしないつもりなのでしょう。

無論、戦争に勝つためには、戦争や戦闘における真実を知る努力は、必要ですが、それ以前のなぜ戦争になったのかなどという事柄は、裁判のとき、さらにその後で、歴史的事実になった後に詳細を分析して、後世に役立てるべきです。

そうして、そのようなことよりも、日本としては、ウクライナがロシアに降伏して、何か良いことがあるのか自問すべきです。 自分を殴っている相手に自らの生殺与奪の権を委ねれば、殺されるだけです。

 国が殺されるとはどういうことでしょうか。男は奴隷にされます。現に、ロシアに捕まったウクライナ人の少なからずがシベリア送りにされています。女は犯される。降伏するとは、殺され、犯され、奴隷にされることなのですが、それで良いはずはありません。  

事実、プーチンはそれを実行してきました。そんな国が日本の隣にあるのです。 では、どうすべきなのでしょうか。

殴られないようにするには、軍事力をつけるしかありません。そうして、それを可能にする経済力もつけねばならないです。ドイツは「防衛費をGDP2%超にする」と宣言しましたが、最低の数字です。 日本は、これを上回るようにすべきです。

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2022年3月31日木曜日

ウクライナ戦争で迎えるポスト・アメリカ時代―【私の論評】ウクライナ戦争はいずれ終わり、第二次世界の戦後も終わり、本格的な新冷戦が勃発する(゚д゚)!

ウクライナ戦争で迎えるポスト・アメリカ時代

岡崎研究所

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのファリード・ザカリアが、3月10日付の同紙で、プーチンのウクライナ侵略は新たなポスト・アメリカ時代の始まりを告げるものであり、それがどのような時代となるかを論じている。


 ザカリアは、ロシアのウクライナ侵略により時代が変わり、新たな時代がどのような時代となるかを論じている。重要なことは、冷戦終了後の時代を特徴付けていた経済合理性に基づく経済成長や市場経済の原則に代わり、安全保障を始めとする政治的考慮が優先する時代となると指摘している。具体的には、当面の間、ロシアと西側諸国の間での第二次冷戦構造が復活するのであろう。

 その結果、国際社会が相互依存関係に頼らず不効率な国内生産を重視するため、世界的に慢性的なインフレ状態となる可能性があり、特に、エネルギー価格が高止まりすることから、炭化水素生産国に富が集中することとなると論じている。

 次に、ザカリアは、新時代の決定的な特徴の1つとして、パックス・アメリカーナの終焉を指摘している。オバマ元大統領が既に米国は世界の警察官ではないと述べたが、中東では、イスラエルとの同盟や湾岸産油国の保護者としての米国の存在感は継続していた。ところが、ウクライナ危機で米露が対立する中で、アラブ首長国連邦は安保理決議案に棄権し、サウジアラビア、イスラエル、ブラジルといった従来の親米諸国が対ロシア制裁に参加せず、経済関係を継続するとしている。

 国連緊急総会でのロシア非難決議には、141カ国が賛成し、ロシアの孤立が顕著であったとメディアは報じたが、3月8日に、ロシアが非友好国と指定した国、即ち、対ロシア制裁に参加したのは48の国に過ぎない。その内訳は、米国、欧州連合(EU)諸国、英国、カナダ、豪州、日本、韓国、台湾など先進国を除けば、あとは欧州の小国、シンガポール、ミクロネシアだけである。中南米、アフリカおよび大半のアジア諸国、アラブ諸国は参加していない。

 ザカリアの論説の最後には、もう1つのあり得る大きな変化として、欧州が結集して戦略的な役割を担うようになり、米国との同盟関係が強化される可能性を挙げ、その為にはウクライナでの成功、即ちプーチンの野望を挫くことが必須の条件だと結んでいる。しかし、逆に、ウクライナ問題でプーチンの主張が実現すれば、ロシアの脅威が前線諸国におよび、EUや北大西洋条約機構(NATO)が分裂しかねない恐れもある。

 いずれにしてもウクライナ戦争後の地政学的国際秩序がどうなるかには不確定要素が多い。プーチンが勝利し、或いは、膠着状態となれば、その過程で欧州の安定が脅かされ、アジアでの中国の力による現状変更への道を開く恐れがある。逆に、対露経済制裁とウクライナ間接支援によりプーチンが妥協しウクライナが生き延びれば、西側諸国の経済制裁の抑止力が評価され、アジアにおける力による現状変更の試みに対しても歯止めとなろう。

司法権など国際秩序の礎も重要

 バイデンは、ロシアとの直接軍事衝突が第三次世界大戦になりかねないことを恐れ、条約上の防衛義務がない限り、ロシアに侵略された国に対し集団的自衛権は行使しないとの原則を明確にした。この原則は、今後万が一ロシアがモルドバやジョージア、或いは、フィンランドなどに侵攻したとしても当てはまるのであろうか。そうであれば、是が非でもウクライナについて経済制裁や間接軍事支援だけでプーチンを挫折させなければならず、中国に対する牽制も重要であり、日本企業も有事に備える必要があろう。

 第三次世界大戦を避けたいとの考慮が、米国とロシアの指導者に非対称的に作用するとプーチンが思い込めば、今後もロシア、中国、更には北朝鮮が、その要求を実現するために武力や核を威嚇手段として用いる可能性も排除できない。また、これまでの相互確証破壊理論や核の傘による拡大抑止の考え方がどう影響を受けるのかもポスト・アメリカ時代において極めて深刻な問題になると考えられる。

 ポスト・アメリカ時代を前に、領土や独立の不可侵、武力や核による威嚇禁止、国際人道法の遵守、核不拡散、更に表現・報道の自由等の人権の尊重、公正で独立した司法権などの国際法や国際人権法の原則を国連総会の場で再確認する決議を採択するといったことも意味があるのではないか。ロシアや中国はともかく、国連緊急総会の対ロシア非難決議に賛成した国々の間で、これらの原則を改めて共有することは、新たな国際的秩序の枠組みを模索する基礎となるのではないか。

【私の論評】ウクライナ戦争はいずれ終わり、第二次世界の戦後も終わり、本格的な新冷戦が勃発する(゚д゚)!

上の記事にあるように、今後もロシア、中国、更には北朝鮮が、その要求を実現するために武力や核を威嚇手段として用いる可能性も排除できないです。

日本は、この3カ国と、近い距離にあることを忘れてはならないです。ロシアが、ウクライナで核や化学兵器を使いかねないと懸念されているわけですから、日本でも将来中露北がそれを使う可能性は、これを全く否定することはできません。

米国は、核攻撃できる国へ軍事介入しないといわれています。逆にいえば、核を持たなければ米国に潰されるのです。北朝鮮は、この米国事情をよく承知していたので、経済を犠牲にしてでも必死になって核とミサイルの開発をしてきました。

その結果、北朝鮮はある程度この地位を獲得したともいえ、米国はへたに手出しができないかもしれないです。北朝鮮がこれを利用するとかなり厄介なことになります。

仮に北朝鮮が日本に核攻撃しても、米国が北朝鮮からの反撃を恐れて北朝鮮への核の使用を控える可能性があります。

 北朝鮮は24日、巨大な新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射実験を行った。
 写真は、新型とされるICBMの前を歩く金正恩朝鮮労働党総書記。KCNAが24日に公開


また、日本が北朝鮮に独自制裁をした場合、北朝鮮が反発して核をちらつかせるとどうなるてでしょうか。

このような恫喝は実際にはあり得ないという人もいるでしょうが、今年1月、ロシア、米国、中国、英国とフランスの核保有5カ国は、「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない」とする共同声明を出したにもかかわらず、今回ロシアはウクライナを侵攻し、プーチン大統領が核兵器の使用も示唆しているのは、その趣旨に反しており、ロシアの核の恫喝は現実に行われています。

そのため、米国は核の恫喝を恐れ、やはりロシアのウクライナへの侵攻に手をこまねいています。

米国のバイデン大統領は20年の大統領選の際に、新たな核戦略のガイドラインで核の役割を限定すると宣言していました。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、北大西洋条約機構(NATO)同盟国から抑止力低下への懸念が起きている。そこで、バイデン氏は方針転換し、核兵器の根本的な役割は抑止力とするようです。


NATO同盟国が米国に意向を伝えられるのは、NATOでは核シェアリングしており核は共同運用だからです。翻って、日本では核シェアリングの議論すらできにくいですが、北朝鮮の核が米国本土も射程にしている中、それでいいのでしょうか。

やはり、日本は米国との核シェアリングも視野にいれるべきです。この論議をもともにしただけでも、北などには抑止力になります。核シェアリングを実現すれば、これは中露に対しての強力な抑止力になります。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ(Sergei Lavrov)外相は30日、同国がウクライナに侵攻して以降、初めて中国を訪問しました。多極化する新たな世界秩序への移行に向け、中国などの友好国と共に取り組む意向を表明しました。

ラブロフ氏は王毅(Wang Yi)外相と会談。事前に公表された動画でラブロフ外相は「われわれはあなた方や支持者と共に、多極的で公正、民主的な世界秩序に向けて歩んでいく」と語りました。

中国外務省が出した公式声明によると、王外相は、中ロ関係は国際情勢の変化という試練に耐えたなどと述べました。
 
ラブロフ外相は、アフガニスタンの将来に関する一連の会合に出席するため、中国東部の黄山(Huangshan)を訪れました。

中国は、ロシアのウクライナ侵攻を非難しておらず、国際社会で孤立を深めるロシアに対し、外交面では一定の支持を示しています。

中露はすでに、新冷戦に入ることを覚悟しているようです。全体主義と民主主義は元々相容れないのです。

それを第二次世界大戦の勝利に大きく貢献したり、多くの犠牲者を出したことを根拠に、中華民国、ソビエト連邦を国連の常任理事国としてしてしまったことが、そもそもの間違いです。

中華民国は現在の台湾ですが、現在の台湾と、当時の中華民国は別物であり、この中華民国の統治のもと、戦後まもなくから80年代まで、台湾では戒厳令が続くという異常な状態でした。李登輝が体制転換を行い、台湾は民主化の道を歩むことになりました。それ以前の台湾は、全体主義国家といっても良い状況でした。

その後中華民国は、台湾に退き大陸中国には中共が統治する中華人民共和国が成立しました。1971年中華民国(台湾)は国連安保理常任理事国の座を失い、中華人民共和国が国連安保理常任理事国と見なされるようになりました。ただ、国連憲章では、未だに中華民国が常任理事国として記載されいています。

本来、中共やロシアが常任理事国の座を継承するとされたときに、世界秩序は大きく変わっていたのですから、国連のシステムも大きく変えるべきだったのを、世界はそのまま放置しました。

これが、その後の様々な紛争や今回のウクライナ問題の遠因ともなっていると考えられます。

第二次世界大戦中の"United Nations"のポスター

今回のロシアによるウクライナ侵攻により、第2次世界大戦で、旧ソ連が2000万人を超す犠牲者を出すことによって得られた国連安全保障理事会常任理事国のステータスは消滅するでしょう。今回の侵攻で、ロシアは権利を自ら放棄したとも言えます。これはロシア・ウクライナ戦争はいずれ決着を迎えることになるでしょうがその枠を超えて『第二次世界大戦の戦後の終わり』を迎えるということになるでしょう。

そもそも、国連の常任理事国の拒否権は戦争を止めることができない珍奇な制度です。ウクライナもロシアも多くの死者を出しています。平和のための新たな仕組み作りに向けた機運が高まることになるでしょう。

ただ、いずれにせよ、国連緊急総会の対ロシア非難決議に賛成した国々とそうではない国々との対立がはじまることになるでしょう。両陣営とも本格的な戦争には発展しないようにはするでしょうが、第2次世界大戦中の連合国と枢軸国との関係のようになるでしょう。ただ、今回のウクライナ戦争よりもさらに深刻な事態になる可能性については、覚悟すべきかもしれません。

第二次世界大戦の連合国(United Nations)が作ったのが、国債連合です。日本では国際連合などといわれていますが、その実、国連連合は、連合国(United Nations)なのです。

国連憲章における敵国条項においては、未だに日本とドイツは敵国のままです。これも、戦後の国際社会の大きな変貌を全く無視しています。要するに国連は、全く形骸化した、機能しない組織であり、今後新たな冷戦に入る世界は、中露北、イラン等の枢軸側と、米国を中止とした連合国側に別れて戦うことになり、現在の国連の枠組みは崩れることになるでしょう。

これは、おそらく連合国側が勝つことになるとは思います。なぜなら、民主主義と全体主義を比較した場合、民主主義体制のほうが、より自由であり、しかも経済的に恵まれる可能性が高く、多くの人は全体主義よりは、民主主義体制のほうが受け入れやすいからです。全体主義を指向する人は、自らの権力欲や富の最大化を希求し、他人を思いやる気持ちに欠けた少数派であることがほとんどだからです。

こういう人も必要なこともありますが、それは危機に瀕したわずかの期間だけであり、この種の人が長い間権力座にとどまると、変化に柔軟に対応できなくなり、いかなる組織も長い間に機能不全に陥ることになります。

新しい秩序ができるあがるまでにはある程度の時間がかかり、様々な紆余曲折があることが予想されます。そうして、新冷戦終了後に新たな秩序が形成されることになります。新冷戦がどの程度続くのか今はまだ見えません。

日本も将来を見越しながら行動するべきであり、安全保障をはじめ食糧、エネルギーなどあらゆる問題を率直に議論していかなければならないです。今までの枠組で考えていては、冷戦後の新秩序においても、第二次世界大戦後のように敗戦国になるということすらあり得ます。

ただし、将来を見越して、連合国に貢献し、新たな世界の新秩序づくりに参画して、リーダーシップを発揮すれば、日本は世界でその存在価値を飛躍的に増大することができます。

そうして、敗戦国になるのか、戦勝国になるのかは、日本の決意次第だと思います。政府も頑張り国民の理解と支持があれば、日本は冷戦に続く新冷戦においても戦勝国になるでしょう。そうして、新たな国際組織は、世界の変化に応じて靭やかに、変化できるものとすべきです。

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2022年3月26日土曜日

中村逸郎教授「北方領土返還は今がチャンス」 驚きのシナリオを解説「十分に可能性がある」―【私の論評】日本は、侵略戦争の戦後の新たな秩序づくりに貢献し、北方領土を取り戻せ(゚д゚)!

中村逸郎教授「北方領土返還は今がチャンス」 驚きのシナリオを解説「十分に可能性がある」

筑波大教授の中村逸郎氏

 ロシア政治が専門の国際政治学者で、筑波大教授の中村逸郎氏が26日、ABCテレビ「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」(土曜前9・30)に生出演。ロシアのウクライナ侵攻について語った。

 中村教授は北方領土問題に言及し、「ロシアは崩壊寸前。北方領土返還が今がチャンス。十分に可能性がある」と主張。中村教授の北方領土返還に向けたシナリオは、(1)経済制裁の影響でロシアがデフォルトに陥って経済が壊滅、(2)食料などが届かなくなるなど北方領土に住むロシアの人の生活が崩壊、(3)日本は「島民への人道支援」を名目に北方領土に介入。島民は日本の支援なしでは生活できない状況に。(4)ロシア離れを起こした北方領土島民が独立を宣言して日本が受け入れる、というものだ。

 中村教授は「経済が落ち込んで、最初に切られるのは北方領土の人たち」と断言。その理由について、「北方領土の人たちの日常品はウラジオストクから海で運ばれるんですが、船舶の会社が経済制裁を受けて破綻寸前なんですね。ですから、ウラジオストクから日常品が北方領土入っていかないという現実が迫ってるんです」と説明。「そうなると北方領土の人たちは生活できないわけで、すぐそこにある北海道に支援を求めてくる可能性が高いわけです」と続けて、北方領土返還は現実味があるとした。

【私の論評】日本は、侵略戦争の戦後の新たな秩序づくりに貢献し、北方領土を取り戻せ(゚д゚)!

「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」での中村教授の発言の動画を以下に掲載します。
上の記事では北方領土返還のチャンスが近づきつつあるという中村逸郎教授の発言に対して「驚きのシナリオ」と形容していますが、わたし自身はこれは驚きでも何でもなく、このように考えるのが普通ではないかと思います。

それについては、以前このブログでも述べました。その記事のリンクを以下に掲載します。
北方領土の主権主張「永久に忘れた方がいい」…ロシア外務省幹部が強硬姿勢示す 交渉"さらに難航"の恐れ―【私の論評】ウクライナ人も多数居住する北方領土が戻ってくる可能性はかつてないほど高まりつつある(゚д゚)! 

外務省のザハロワ報道官は2016年5月19日、「ロシア・東南アジア諸国連合(ASEAN)
首脳会議」の公式レセプションで、ロシアの民族舞踊「カリンカ」を披露した

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分を掲載します。

ロシア連邦が経済的に苦しくなれば、軍事的にも守備できる範囲は狭まり、ロシアはモスクワを中心とした部分のみを自らのテリトリーとして他は手放す可能性が高まることが考えられます。

とはいいながら、ロシアはなるべく多くのテリトリーを維持したいと考えるでしょうが、それにしても極東はかなり無理になり、その中でも北方領土は放棄する可能性が高いです。

その頃には、極東にも別の国ができているかもしれません。そうなると北方領土はロシアとの交渉ではなく、その国との交渉となります。その頃には、極東の新しい国も経済的に低迷し、日本支援に期待するようになっている可能性もあります。

そのときが、日本が北方領土を取り戻す最大の機会だと思います。現在のロシアもそうした可能性も意識の上に顕在化はしていないものの、潜在的にはありうると感じているのではないでしょうか。

だからこそ、そのようなことは断じてあってはならないという思いから、あまり有名でもない人物の発言をわざわざ取り上げ異例ともいえる報道官の発言となったのではないでしょうか。

私自身は、北方領土が戻ってくる可能性はかつてないほど高まりつつあると思います。

この記事では、北方領土においてはウクライナ人が多いことも掲載しました。この記事も掲載したように、1989年の調査では12%、1991年の調査によると全人口の4割がウクライナ人とする調査もあります。2016年時点で、国後島に7914人、択捉島に5934人、色丹島に2820人の計16,668人のロシア国籍の住民が在住していますが、そのうち1割~4割ほどが民族的にはウクライナ人とされます。

徳島文理大学大学院教授八幡和郎氏は、この北方領土のウクライナ人について興味深いことを述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
北方領土不法占拠者の四割はウクライナ人である

どうして(北方領土に)ウクライナ人が多いかと言えば、海外との交流が多かったウクライナの人は、故郷を離れて移住することを嫌がらず、欧米にも多いし、在日のロシア人と思われている人のかなりはウクライナがルーツである。また、黒海に面しているので、海に囲まれた島での生活への順応度が高かったのではないか。

彼らの国籍がどうなっているのかは、正確には分からない。というのは、旧ソ連人でずっと同じ所に住んでいる人はいいのだが、引っ越していたとか、混血だとか、夫婦が別のルーツだとかいう人の扱いはややこしく大量の無国籍者も出ているようだし、二重国籍もいる。ただ、もし島民の多くにとって、日本に返還されたときに帰るべき故郷がウクライナである人の割合がロシアの他地域以上に高いのは間違いない。

その意味でも、ウクライナ支援をするなら、北方領土問題について、旧ソ連の一員としての歴史的責任を明らかにし、また、島民の帰還に協力することくらいは、約束してもらっていいのではないかと思うのだ。

岸田総理は参議院予算委員会で、北方領土について「ロシアにより不法占拠されている」と明言したそうだが、もう少し正確に、北方領土は「ロシア・ウクライナ・ジョージアなどによって構成されたソ連軍によって不法占拠された。そのときの指導者はジョージアのスターリンだった。その後、日ソ交渉の際にウクライナ人フルシチョフは返還を拒否した。ソ連解体ののちはロシアが占拠を継続しているが、島民のなかでウクライナ人の比率が非常に多く一説には四割にも上る。ロシアのみならず不法占拠に荷担しているウクライナにも強く抗議したい」というべきであった。

国会で演説させるなら、北方領土のウクライナ人たちに島を離れて日本に返すように呼びかけることを条件にして欲しいくらいだった。
ウクライナは旧ソ連の中核であって被支配者でないという、八幡氏の主張は、筋が通っており、正しいとは思います。ただ、単純比較はできないかもしれませんが、日本も戦中に満蒙開拓団を中国の東北地方や内モンゴルなどに、国策として開拓民を送っているということもありますし、終戦間近に旧ソ連が日ソ不可侵条約を破り、開拓民たちの居住していた地域にも侵攻して酷い目にあったという記憶もあります。

そうして、満蒙開拓団は戦後すべて引き上げて、日本に戻り、現地に残って開拓を継続した人はいません。稀に残った人もいますが、その人達は残留孤児として中国人に育てられ、戦後の日中の交渉で、日本に戻ってきた人もいます。

私が言いたいのは、満蒙開拓団によって満州等に行った人たちは、国策に従っただけであり、何の罪もないということです。

昭和13年10月号(満州移住協会発行)

上の写真は、「開け満蒙」という雑誌の表示を飾った、満蒙開拓青少年義勇軍の写真です。これは、満州国の治安回復と維持、それに対ソ国防の一環を目的とした開拓移民政策の一環としてつくられたものです。

農家の二、三男を中心として志願者を募集、昭和13(1938)年5月に、北海道の第一陣として当時15歳の少年たちが札幌駅を出発しました。8万6000人の青少年義勇軍は、関東軍の予備隊的な存在でしたが、昭和20(1945)年8月9日のソ連参戦時には、関東軍に編入、ソ連軍と激しい戦闘をしました。

北方領土に居住するウクライナ人たちも、旧ソ連の国策によって移住したのであり、金儲けをしようとか、一旗揚げようとかという人たちもいたかもしれませんが、自ら意図して意識して違法な不法占拠してやろうと考えて来たわけではないでしょう。

ただ、厳密にいえば、不法占拠をしていたことには変わりありません。しかし、不法占拠に対する措置はあとからでも十分にできます。まずは日本は北方領土をいかに取り返すに専念して、不法占拠に対する処置や、北方領土の主権回復に関係する様々な問題の解決などは、あとからじっくり実施しても良いと思います。まずは、北方領土が戻ってくる道筋をつけることが最優先だと思います。

ロシアのウクライナ武力侵攻自体は到底許されることではありません。これを許してしまえば、その後の世界はカオスに突入することになります。まずは、一日もはやく戦争を終わらせるようにして、その後にある程度様々な情報を集めた上で、ロシアの言い分も認められる部分は認めるべきと思います。

それを前提とした上で、公平な裁判をすべきと思います。ただ、裁判をするためには、ロシアが政変などで体制が変わり、旧体制が裁かれるということになると思うので、それまでには、多少年月を要するかもしれません。逆にいえば、ロシアがウクライナに侵攻してしまった現状においては、そこまでしなければ、世界は混沌するするだけになるといえるでしょう。いずれ、そこまでしないとならないと思います。しかし、単純にロシアやプーチンを悪魔化すべきではないとも思います。

日本は、極東軍事裁判で一方的に悪者にされて、連合国側の価値判断だけで裁かれたことを忘れるべきではありません。そうして、この裁きは第二次世界大戦の戦後を終わらせる重要な裁判になることを認識すべきです。

そうして、第二次世界大戦後に一度も他国に攻め入ったり、介入したり、戦争もしたことのない日本こそ、今後の世界の新秩序を樹立するためにリーダーシップを発揮すべきです。米英や中露など第二次世界大戦戦勝国が、表立って動けば反発する国も多く、まとまるものもまとまらないと思います。日本がリーダーシップを発揮すれば、正面切って嫌がるのは、中露と北朝鮮と、韓国だけでしょう。それも露骨に嫌がり、大反対するでしょう。しかし、日本はこれに怯むべきではありません。

現在のロシアは、旧ソ連邦が崩壊したときとも状況は似ていると思います。私は、旧ソ連邦が崩壊したときも、北方領土を取り返す好機だと思いましたが、日本政府の動きは鈍く結局返ってきませんでした。

西欧諸国も、冷戦終了後にも、ソ連崩壊後にも、新たな秩序づくりには、積極的には取り組みませんでした。とにかく、現実離れした、第二次世界大戦直後の秩序にしがみつこうとしました。

それは、ソ連崩壊後ですら、国連憲章の記載は未だに、中華民国、ソビエト連邦のままであり、中華人民共和国、ロシア連邦が常任理事国の地位を引き継いでいることでも理解できます。このような中途半端なことをしたことが、ロシアのウクライナ侵攻の遠因にもなっていると思われます。

国連憲章を書き換えるか、中共やロシア連邦は常任理事国にしないなど、どちらか一方にするか、そもそも世界が第二次世界大戦終了直後とは変わってしまったのですから、国連のシステムを変えるか、あるいは新たな枠組みを作り出すのか、はっきりすべきでした。

このような優柔不断な有様だったからこそ、日本政府の努力が足りなかったせいもありますが、日本は北方領土を取り戻すことができなかったのだと思います。

今回のロシアのウクライナ侵攻後の戦争終了時には、そのようなことがないように、日本は世界の新たな秩序をつくるための提言やシステムの概要など今から準備をしておくべきものと思います。そうせずに曖昧なままにしておけば、世界は今後もウクライナ戦争のような事態に巻き込まれることになります。そうして、それは第三次世界大戦へとも繋がりかねません。

岸田政権には全く無理かもしれませんが、そのような提言やシステムの概要が必要になったときには、岸田政権ではない可能性も高いです。まずは、志の高い超党派の議員団などで実施してはいかがでしょうか。今後の世界には、中露や北朝鮮が、それを受け付けるか受け付けないかは別にして、新たな秩序づくりは避けて通れません。それを避ければ、世界はいずれ崩壊します。

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2022年2月27日日曜日

強固な抵抗に遭うロシア軍、補給線に「明白なぜい弱性」 米当局者―【私の論評】先が見え始めたか、愚かなプーチンのウクライナ侵略(゚д゚)!

強固な抵抗に遭うロシア軍、補給線に「明白なぜい弱性」 米当局者

戦闘地帯に展開するウクライナ軍兵士

ウクライナ・リビウ/米ワシントン(CNN) 米当局者はCNNに対し、ウクライナに侵攻したロシア軍がウクライナ軍による「予想より強固な」抵抗に遭い、軍への補給で予期されなかった問題が起きているとの見方を示した。

ロシア軍は人員、装甲車両、航空機で予想より大きな被害を受けている。これはウクライナの防空システムが侵攻前の米国による情報分析よりも有効に機能していることが理由のひとつとなっている。国防幹部はまた、ウクライナ空軍と防空システムが制空権をめぐって戦っていて、ロシアが制空権を握れていないと指摘した。

十分な制空権がないと、進行する陸軍が空からの標的を認識して攻撃することはより困難になる。

ただ、当局者は戦況は現時点のものであり、ロシア軍が攻撃を続ける中ですぐに変わる可能性があるとも注意を促している。

軍事情報企業IHSジェーンズによると、ウクライナ軍はレーダー誘導ミサイルや熱探知ミサイル、対空砲など様々な防空兵器を保有している。米国は対空ミサイル「スティンガー」をこの数週間で供与し、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国も同様だ。

当局者によると、米国は26日夜の時点で、ロシア軍がウクライナの都市を制圧したことを示す情報を持っていない。ただ、ロシア軍は首都キエフを含む大都市のいくつかを包囲しようと行動を続けている。

ロシアの大規模な侵攻軍に燃料や弾薬の補給を維持するのも難しい状況となっている。ある米高官が説明するように、ロシアは早期の勝利を予想し、十分な再補給の計画を怠っていた可能性がある。この高官は、補給線は「明白なぜい弱性だ」と語った。

こうした課題がこれまで、ウクライナの主要都市の早期制圧を防いできた。米当局者は制圧は数日の問題だと懸念を示していた。当局が侵攻初日の夜に陥落の可能性があると見ていたロシア国境に近いハリコフも、まだロシア軍の手に落ちていない。

ただ、こうした当局者らはロシア軍がウクライナ軍を数で圧倒的に上回り、主要都市の周囲に軍を進めようとしていると指摘。軍の遅い動きの原因が補給の問題にどれほど帰着するのかは不明だとした。

ロシアは進軍の遅さについて、交渉の時間を与えるための停止であり、軍事的な後退ではないとしている。

ロシア国防省は26日、ウクライナ政府との交渉のため一時停止が指示されていたものの、その後軍に「全方向への」攻撃の再開命令が下ったと発表。ウクライナが協議を拒否し、攻撃継続が命じられたとしている。

ウクライナ政府の顧問は26日早くに、ウクライナが交渉を拒絶したことはないと否定した。

NATO当局者は最新の情報を基に、ロシア軍が「問題を抱えている」と指摘し、「燃料が不足し、進みが遅く、士気は明らかに問題となる」と述べた。

ロシア軍が攻勢を強めてくるかとの問いには、他に選択肢はないとの見方を示し、「彼らは予定より遅れている。彼らにとって手に負えなくなりつつある。1日延びるごとに大きな痛みとなる」と語った。

【私の論評】先が見え始めたか、愚かなプーチンのウクライナ侵略(゚д゚)!

ロシア軍の兵站は、鉄道に頼っているいるため、脆弱であることはこのブログで何度か述べたことがあります。鉄道に頼るということは、線路を破壊されれば、兵站が滞ることを意味します。

ロシア軍の兵站線(戦場において物資の輸送・供給などを行うため確保される物流連絡路)は、現在でも鉄道頼りです。ユニークな鉄道旅団という部隊も10個、存在します。鉄道の警備、建設、保守を担い民間から提供された車輌を運用することもできる、ロジスティックの専門部隊です。

そしてロシア国内ではその鉄道旅団を介し、工場から陸軍補給倉庫、軍管区から師団、旅団レベルまでを鉄道で結びつける体制が構築されています。主要兵站駅には、戦車や車輌が貨車に自走して乗降できるプラットフォームなど、専門の施設も用意されています。ウクライナ国境に集結した兵力の兵站線も鉄道が担っており、動画もよく投稿されています。

兵士1人当たり1日3000kcalの食糧、重さではおよそ100キログラムです。2万人規模の一個師団なら、2000トンの物資を消費します。さらには、弾薬その他消耗品の補給も必要です。

米軍のMRE(Meals,Ready to Eat=携行食)

これを適宜補うためには、作戦本部が予め消費を予測し、生産・輸送・備蓄・補給がネットワークとして存在しなければならないのです。

以前このブログに掲載したように、戦史家のマーチン・ファン・クレフェルトは、その著作『補給戦――何が勝敗を決定するのか』(中央公論新社)の中で、「戦争という仕事の10分の9までは兵站だ」と言い切っています。

実は第2次世界大戦よりもはるか昔から、戦争のあり方を規定し、その勝敗を分けてきたのは、戦略よりもむしろ兵站だったのです。極限すれば兵士1人当たり1日3000kcalの食糧をどれだけ前線に送り込めるかという補給の限界が、戦争の形を規定してきました。そう同著は伝えています。

エリート中のエリートたちがその優秀な頭脳を使って立案した壮大な作戦計画も、多くは机上の空論に過ぎません。

大東亜戦争中の日本軍は、兵站をあまり考えなかったので、実は戦死者のかなり多くが戦闘によって死亡したのではなく餓死だったとされています。

現実の戦いは常に不確実であり、作戦計画通りになど行きません。計画の実行を阻む予測不可能な障害や過失、偶発的出来事に充ち満ちているのです。予測されるよりも多くの物資を蓄えておき、それをいつでも供給できるようにしなければ、確実に勝てると思われる戦争でさえも負けてしまうのです。

餓死寸前で米軍の捕虜となったマーシャル諸島の日本軍の水兵たち

では、トラックで運べばよいではないかという話になりますが、実はロシアではこれも頼りになりません。ロシア軍の旅団には2個トラック大隊があり、150台の貨物トラック、50台のトレーラー、260台の特殊トラックが定数になっています。

ロシアの旅団編制は米国など西側とは違うので単純な比較はできませんが、砲兵火力を重視した内容で、戦車や装甲車の数は米軍の旅団戦闘団(BCT)の4分の3、しかし砲兵は3倍、防空部隊も2倍です。航空優勢は米軍に取られることを念頭に、支援火力は自前で持ち、防空力を強化する編制になっているのです。

多連装ロケット砲大隊を含む砲兵は、短期集中で大火力を投射できますが大量の弾薬を一挙に消費します。この砲兵部隊に弾薬を完全に補給するのには、56台から90台の貨物トラックが必要になるとされます。しかし150台しかないトラックの半数を、砲兵部隊の弾運びのためだけに割くなど不可能です。

この兵站線の特徴からロシア軍は、旧ソビエト連邦領域内で「積極的防衛作戦」は行えますが、領域外で持続的な作戦行動を行う能力は限定的です。そうして、兵站を鉄道に頼ることの不利な点は、国境付近に集結した兵力を数えるだけではなく、軍用列車を観察することでロシア軍がどう動くつもりなのか占うことができるのです。

米軍では、偵察衛星などでこの動きをかなり詳細につかんでいることでしょう。そうして、その情報はウクライナ軍にも提供され、ウクライナ軍はあまり大きな不意打ちをくらうこともなく、逆にロシア軍に対して不意打ちをくらわすことができます。

それに、先日も掲載したように、都市部の武器を携行して立てこもるウクライナ軍を攻撃するのはかなり難しいです。人口280万人のキエフを占領しようと思えば、ロシアは数カ月の市街戦と利用可能な人的資源の全てを投入する必要があるとの見方もあります。米国の経験から、ホテル程度の建物一つを占領するだけでも、一個大隊または700-800人が必要だといいます。

ロシアとしては、ドンバス地方の侵攻だけではなく、首都攻略などを目指すようにみせかけた侵攻も含めて複数箇所から攻撃をして、脅せばゼレンスキー政権は崩壊し、ゼレンスキー大統領をはじめ幹部は、投降するか海外に逃亡すること等を前提として、戦略特に兵站計画を組んだのでしょうか。仮に代替案もないとしたら、あまりに愚かです。

ウクライナ東部と国境を接するロシア領ベルゴロドに急遽招集された約5,000人のロシア軍兵士は「ウクライナでの戦闘行為は契約に含まれていない」と主張して命令を拒否、そのため暴動に発展しているとウクライナメディアのObozrevatelは報じています。

招集された約5,000人のロシア軍兵士はウクライナで何が起きてるのかを知っており、プーチンの始めた戦争に自分の命を捧げるぐらいなら起訴された方がマシだと抵抗しているともいえるでしょう。

Obozrevatelの報道が真実かどうかは謎であり、ウクライナ側のプロパガンダである可能性も高いですが、本報道はウクライナ軍公式SNSなどを通じて多くの国民が目にしているため戦意高揚としての役割は十分果たしているようです。

ただし、報道の内容が真実で本当に暴動が発生しているなら「ウクライナでの戦いは先が見え始めた」と言えるでしょう。

それに、ウクライナ軍兵士に比較して、ロシア軍兵士は士気が低いのは確かでしょう。第二次世界大戦時のようにドイツ軍が侵攻してきて、それを迎え撃ついわゆる大祖国戦争のような戦争なら、ロシア兵の士気もあがるでしょうが、明らかに他国への侵略とわかる戦争で士気があがるはずもありません。


そのような戦争に命を捧げようなどという兵士は少ないでしょう。今どき、督戦隊を送り込んで、無理やりロシア兵を突撃させるわけにもいかないでしょう。一体プーチンは何を考えているのでしょうか、理解に苦しみます。

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2022年2月21日月曜日

台湾で半導体材料の拠点増強 日本や米独大手が続々 TSMCが誘因―【私の論評】ロシアのウクライナ侵攻で、日本でも半導体不足がさらに深刻になる恐れも(゚д゚)!

台湾で半導体材料の拠点増強 日本や米独大手が続々 TSMCが誘因

TSMC社屋

日本や米国、ドイツなどの大手企業が、台湾で半導体材料の増産や拠点の拡大を続々と進めている。台湾の政府系研究機関、工業技術研究院(ITRI)産業テクノロジー国際戦略発展所の研究ディレクターを務める楊瑞臨氏は、半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が最新の技術を採用し続けていることが、同社との連携を図る海外企業を引き付ける要因になっていると分析している。

化学素材メーカー、ADEKA(東京都荒川区)は今月、先端半導体向け材料の生産のため、台湾に新工場を建設すると発表。24年には生産を始める見通しだという。電子材料の住友ベークライト(同品川区)は南部・高雄市の現工場敷地内に新規生産ラインを設置し、23年にも台湾での半導体封止材の生産能力を倍増する。

日本企業の他にも、独メルクや米インテグリスが昨年12月、台湾での拠点増強のための投資を発表した。

楊氏は20日、中央社の取材に、これらの海外企業は台湾での生産能力を増強することで、自身の競争力を高めようとしていると指摘。台湾で増産したり、拠点を開設したりする材料や化学メーカーはさらに増えるとの見方を示した。

ウクライナ情勢の緊迫も関係している。ロシアとウクライナは半導体製造に必要な一部資材の供給地であることから、日本やドイツの企業はリスク分散のため、台湾や韓国への拠点設置を加速させていると楊氏は説明した。

【私の論評】ロシアのウクライナ侵攻で、日本でも半導体不足がさらに深刻になる恐れも(゚д゚)!

緊迫化するウクライナ情勢次第で、半導体不足がさらに深刻化するかもしれないです。


米国ホワイトハウスが半導体業界に対し、サプライチェーンを多様化するように要請したと、ロイター通信などが報じています。

米国の調査会社によると、米国は半導体の原材料のネオンやパラジウムはウクライナ産とロシア産に頼っており、有事が起きれば、供給が止まることも考えられます。2020年秋以降、コロナ禍により半導体不足が世界的に深刻化していますが、ウクライナ危機がさらに拍車をかけるのでしようか。

ウクライナはかつてソビエト連邦の一部で、1991年のソ連崩壊で独立を果たした。2014年には、ウクライナ政府と反政府デモの衝突をきっかけに、ロシアが強硬姿勢になり、クリミア半島を併合することとなりました。

NATO加盟を進めようとするウクライナに対し、ロシアは反発を強めています。2021年秋以降、ロシア軍はウクライナとの国境に10万人規模の兵力を駐在させているとされ、緊張が高まっていました。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、16日にもロシアが侵攻すると発信していました。米国内でもロシアの侵攻が近いとの報道があり、予断を許さない状況となっています。

米バイデン政権は、ロシアがウクライナに侵攻した場合には厳しい輸出規制を行うことを示唆しており、対決姿勢を強めています。 半導体や人工知能(AI)などを主な標的とし、現代兵器に不可欠なハイテク製品の調達網を遮断する構えです。

G7声明について記者団に対応する鈴木俊一財務相=2022年2月14日午後6時17分、財務省


先進7カ国(G7)はロシアに対する輸出規制と金融制裁を一斉に発動する方向で調整中。シン氏は、輸出規制の対象に量子コンピューターやロボット、極超音速技術も含まれるとの見方を示した。金融制裁では「ロシア最大の金融機関や国有企業」を対象にすると明言した。ロシア側も報復として、欧州向けの天然ガスや半導体の資材の供給をストップする恐れがあります。

半導体の需要は今後も増え続けるとみられ、米インテルや台湾TSMCなどのメーカーも、工場建設を計画するなど、供給能力を増やすことが喫緊の課題です。現状では日本の企業に直接関係してはこないですが、今後米国内でネオンが不足すれば、日本への輸出などが少なくなる可能性があります。

すでに、ウクライナ危機が天然ガスや原油価格の上昇を招いていますが、ロシアが軟化し対話路線となれば、逆にこれらが急落することも考えられます。


半導体については、ウクライナ危機が去ったとしても、容易に解決することは困難でしょう。だかこそ、日本や米国、ドイツなどの大手企業が、台湾で半導体材料の増産や拠点の拡大を続々と進めているのです。

ウクライナ問題をロシアとウクライナと米国・EUの争いであり、日本と関係ないと考えている人もいるかもしれませんが、意外なところで影響がでる可能性もあるのです。

プーチン大統領はまさに力を背景にしてウクライナ問題、ひいては欧州の安全保障秩序の再編にチャレンジしています。このプロセスを中国も当然見ています。中国は様々な国内事情を抱え、そう簡単にロシアと同じ事ができるとは思えないですが、注視していく必要はあると思います。

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ウクライナ危機はプーチン政権崩壊にもなり得る―【私の論評】弱体化したロシアは現在ウクライナに侵攻できる状況にない(゚д゚)!

2022年2月10日木曜日

ウクライナ危機はプーチン政権崩壊にもなり得る―【私の論評】弱体化したロシアは現在ウクライナに侵攻できる状況にない(゚д゚)!

ウクライナ危機はプーチン政権崩壊にもなり得る

岡崎研究所

 ウクライナ危機は、プーチン政権の終わりにつながり得るかもしれない。ウクライナ危機が深刻化する中、こうした指摘も増えてきているようだ。


 ワシントン・ポスト紙コラムニストのジェニファー・ルービンは、1月26日付けで‘The West may not be able to deter Putin. But at least he knows the consequences will be devastating.’(西側はプーチンを抑止することができないかもしれない。しかし少なくとも彼は結果が破壊的であることを知っている)と題する論説を書いている。

 上記のルービン論説の他、ウォールストリート・ジャーナル紙も1月26日付で同紙コラムニストのホルマン・ジェンキンズによる‘Waiting for the Last Days of Putin’(プーチンの最後の日々を待つ)と題する論説を掲載している。また、ワシントン・ポスト紙は1月28日にもカール・ビルト(スウェーデン元首相)の‘Why Putin’s gamble on Ukraine is insane’(なぜプーチンのウクライナについてのギャンブルは気違い沙汰なのか)という論説を掲載、ビルトは「ロシアの侵攻は長期的対決の始まりになり、結果としてより大規模な戦争とロシアの政権の崩壊につながる可能性がある」としている。

上記ルービンは、今回のウクライナ危機についての諸問題を、次のように指摘する。

・ロシアが侵攻すれば、西側同盟を再活性化し、ロシアは経済的にどうしようもない国、国際的な「のけ者」になる。プーチンはこれを理解しているだろう。

・ホワイトハウス高官は、「もしロシアがウクライナに侵攻すれば、従来のような漸進主義はとらず、今回はエスカレーションの梯子のトップから始め、そこにとどまる」と言っている。

・米政権は、北アフリカ、中東、アジアを含む世界の各地で、ロシア産でない天然ガスの追加量を見出し、欧州に割り当てようとする努力をしている。ノルドストリーム2は閉鎖されうる。

・米政権は、人工知能、ロボット、レーザー、防衛、航空宇宙のような分野(プーチンが石油・ガスから経済を多様化させようと力点を置いている)で対ロ制裁の構えを見せている。

・ロシアの侵攻は、スウェーデンやフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加入、NATOの拡大につながるだろう。

・ウクライナ軍の抵抗によるロシア側の死傷者を考えると、軍事的冒険は、国内での愛国的プーチン支持を巻き起こすよりもロシアを混乱させるだろう。しかし、プーチンは自らを追い込んでおり、後戻りするのは難しいかもしれない。

 その上で、ルービンは、今後の見通しについて、ロシアにおけるプーチン政権の終りにつながりうると論じている。ルービンの論旨には賛成できる。

ソ連の栄光は取り戻せない

 ロシア人は、今ウクライナと戦争をすることを支持する気分にはないだろう。ウクライナとの戦争でロシア国民が愛国心を高揚させて、プーチンの支持率が大きく上がるというようなことは考えられない。

 プーチンは何かを勘違いしているように思われる。小規模であっても、旧ソ連を復活させることは、歴史を書き換え、逆回転させることであって、昔の栄光を取り戻したいという、いわばノスタルジア政治であるが、そのようなことは起きないし、無理にそうする力は今のロシアにはない。プーチンが今の路線を突き進むとプーチン政権の崩壊に至る可能性もあるとのルービンその他の指摘は、その通りであろう。今度の危機は、まさに現実が見えなくなった独裁者の末期的な誤判断であると思われる。

 プーチンの退場が早ければ早いほど、世界平和のためにも欧州の平和のためにも良い。今すぐにというわけではないが、キエフでのレジーム・チェンジより、モスクワでのレジ-ム・チェンジの可能性が、出てきたのではないだろうか。プーチン後の政権は、今の政権よりはましであろうから、それが出てきたときに日露関係の改善も考えたらよいだろう。

【私の論評】弱体化したロシアは現在ウクライナに侵攻できる状況にない(゚д゚)!

2017年当時も、北朝鮮はミサイルを連射し、トランプ政権は3つの空母打撃軍を朝鮮半島付近に派遣し、さらにこの打撃群には、外見は空母のように見える、日本のヘリコプター搭載護衛艦も旭日旗を掲揚しつつ随伴していました。

        星条旗を掲げ航行する米原子力空母「ジョージ・ワシントン」(奥)と
          これに伴走する旭日旗を掲げた海自「いづも型」護衛艦(手前)


その姿は米国で毎日のようにテレビで報道され、米国では今にも日米合同軍が、北朝鮮に攻め込むのではないかという雰囲気だったと、知り合いの米国人が語っていたのを思い出します。

無論、冷静に考えてみれば、日本の海自が北朝鮮に攻め込むなどということはあり得ないし、さすがに米国の報道機関も、日本が北朝鮮に攻め込むなどとは報道はしてはいないのですが、日本のことをあまり知らない多くの米国人はそのように思ってしまうのかもしれません。

実際、日本による北朝鮮侵攻はありませんでしたし、米国によるそれも結局ありませんでした。

ロシアのウクライナ侵攻もこれと似たようなところがあるのかもしれません。連日のように、ロシア軍の動きをテレビなどで報道されると、多くの人はそう思ってしまうのかもしれません。


ただ、一番の責任はプーチンにあるのではないかと思います。このブログでもすでに何度か述べたように、現在のロシアはウクライナに攻め入り、ウクライナ全土を占拠する力はありません。

その理由ははっきりしています。まずは、現在のロシアのGDPが韓国なみであるということです。しかも、一人あたりのGDPでは韓国をはるかに下回ります。そのロシアが、いくら旧ソ連の核兵器や軍事技術を継承する国家であったにしても、大戦争を遂行する力はありません。

上の記事では、「プーチンは何かを勘違いしているように思われる」としていますが、私はプーチンは意図的にロシアによるウクライナ侵攻を喧伝しているか、喧伝するのを許容しているのだと思います。

そうでなければ、すぐにウクライナ国境付近から軍隊を引き上げさせ、通常の守備レベルに戻すと思います。そうすれば、西側諸国もすぐにロシア批判をやめるでしょう。

プーチンとしては、現状のように西側諸国が、ロシアの軍事的脅威を煽るのは、決して悪いことではないのでしょう。

プーチンは旧ソ連に戻ったような気分が味わえますし、ロシア国民にもそのような気分を味合わせることができます。何よりも現状のロシアやプーチンの立場の弱さを糊塗し、さらに米国やEUに対して大きな譲歩を迫ることができる可能性もあります。プーチンとしては、現状を放置したままにして、そうした機会をうかがっているというのが実情でしょう。

実際、ロシアは弱体化傾向にあります。

まずは、直近で一番国民生活を苦しめているのはインフレです。ロシアでは2020年から食料品を中心にインフレが進んでいます。昨年12月のインフレ率は8.4%と中央銀行の目標値(4%)の2倍以上となりました。日本でも、原油価格の高騰によりインフレになるのではと心配する人もいますが、日本では日銀の物価目標2%にも到達していない有様です。ロシアと比較すれば、杞憂に過ぎないです。


ウクライナ情勢の緊迫化により通貨ルーブル安も進み、「輸入品の価格上昇でインフレ率が2桁になる」との懸念が高まっています。

ロシアの中央銀行は昨年12月、主要政策金利を7回連続で引き上げており、金利高による景気悪化も現実味を帯びつつあります。

プーチン政権の長期化への不満がこれまでになく高まっている中で、インフレと不景気の同時進行(スタグフレーション)が起きるリスクが生じています。

上のグラフご覧いただければ、2015年あたりには、ロシアはかなりのインフレだったことがわかります。これは、無論ロシアのクリミア侵攻に対する西側諸国の報復制裁の悪影響によるものです。これは、最近のことなので、多くのロシア国民の記憶にも新しいでしょう。

ロシアでは、ソ連崩壊後の1990年代前半のインフレや経済の混乱は極めて深刻でした。男性の平均寿命がいっとき60歳を切った時期さえありました。忍び寄るインフレの足音がソ連崩壊時の悪夢を多くの国民やプーチン大統領の脳裏に呼び覚ましていたとしても不思議ではないです。

販売できる商品が何もない魚介類専門店で店員に詰め寄る市民たち(1990年11月22日、モスクワ)

さらに、現在のロシアは人口が減少傾向です。ロシア連邦統計局は1月28日に、「同国の人口が昨年に100万人以上減少した」と公表しました。

減少幅はソビエト連邦崩壊以降で最悪であり、日本の年間の人口減少数(約50万人)をも上回っています。経済が悪化したことで出生率が低下し死亡率が上昇しているロシアに対し、新型コロナのパンデミックが追い打ちをかけた形です。

ロシア政府は2020年夏に世界で初めて新型コロナのワクチン(スプートニクV)を承認したのですが、自国産ワクチンに対する国民の根強い不信感から接種率40%台と低迷しています。このことも出生率に悪影響をもたらしているようです。

最後に、ロシアでは、石油資源が減少化傾向にあります。ロシアの昨年の原油生産量は前年比25万バレル増の日量1052万バレルだったのですが、ソ連崩壊後で最高となった2019年の水準(日量1125万バレル)に達していません。

ロシアを石油大国の地位に押し上げたのは、西シベリアのチュメニ州を中心とする油田地帯でした。巨大油田が集中し、生産コストが低かったのですが、半世紀以上にわたり大規模な開発が続けられた結果、西シベリア地域の原油生産はすでにピークを過ぎ、過去10年で約10%減少しています。

ロシアが原油生産量を維持するためには東シベリアや北極圏などで新たな油田を開発しなければならないのですが、2014年のロシアによるクリミア併合に端を発する欧米諸国の経済制裁の影響で技術・資金両面から制約を受け、期待通りの開発が進んでいません。

ロシア政府が2020年に策定した「2035年までのエネルギー戦略」では「2035年時点の原油生産量は良くても現状維持、悪ければ現在より約12%減少する」と予測しています。その後ロシア政府高官が相次いで「自国産原油の寿命は20年に満たない可能性がある」とする悲観的な見方を示しています。

このような状況で、西側諸国の制裁がさらに強まれば、ロシアはとんでもないことになります。

ただ現在のような状況をいつまでも続けているわけにはいきません。会津の什の掟ではありませんが、「ならぬことはならぬものです」。いずれプーチンは、ウクライナ侵攻をきっぱりと否定しなければならなくなります。その時期を誤れば、プーチンのロシア国内での威信は地に落ち、それこそプーチン政権崩壊につながりかねません。

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