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2022年6月30日木曜日

原潜体制に移行する周辺国 日本は原潜・通常潜の二刀流で―【私の論評】日本が米国なみの大型攻撃型原潜を複数持てば、海軍力では世界トップクラスになる(゚д゚)!

原潜体制に移行する周辺国 日本は原潜・通常潜の二刀流で


 先日、参院選を控えて、各党党首による政治討論が放映された(フジテレビ)。その中で、原子力潜水艦の保有の是非について、議論があり、筆者がかねて主張しているところから、興味深く視聴した。短い時間制限の中、深い掘り下げた議論には至らなかったが、結論は、維新・国民・NHKの3党が導入・装備に賛成し、自民・公明・立民・共産・社民・れいわの6党が反対した。若干の所見を披露したい。

誤解招く「1隻1兆円」

 岸田文雄首相(自民党総裁)の発言の要旨は、「防衛力強化は行わねばならぬが、いきなり原潜はどうかと思う」「我が国は原子力基本法による平和利用の方針がある」「運用コストが高い」「(中国を念頭に)対応はしっかり整備されている」といったところであるが、現状肯定を金科玉条とする体制側の悪い側面が出た主張で、将来を見越した英明さに欠ける。原子力基本法は、何と70年前の法律である。

 中国は原潜体制を着実に拡大し、その拠点を南太平洋、インド洋に設けようとしている。隣国韓国・北朝鮮も原潜装備を計画中である。QUAD(クアッド)態勢を重視する我が国であるが、インドは原潜(アクラ級2隻)を保有し、今年、豪州も米国からの原潜導入に踏み切った(バージニア級8隻)。このような情勢をどう判断しているのだろうか。新しい技術、国際政治情勢にも拘(かか)わらず、憲法と同様、過去の柵(しがらみ)から脱皮できないようでは、あまりにも情けないと言わざるを得ない。

 経費について、野党党首から「1隻1兆円」の発言があり、調べたところ、調達費・30年間のライフサイクルコストを合計すると1兆円という数値がインターネットで、読み取れる。30年間であるので年割330億円であり、如何(いか)に論戦とはいえ一般国民に誤解を与える数値を政治家たるもの、大いに慎んでほしいものである。因(ちな)みに豪州がフランスと進めていた先進通常潜水艦を米原潜に変更した陰には、性能・価格の高騰問題があるとされており、浅薄な懐勘定はすべきではない。

 ここで、原潜と通常型潜水艦の差異について述べたい。通常型潜水艦は、動力源はディーゼルエンジンであり、これにより搭載電池を充電する。潜航中は電池により、運航・機動・作戦行動に必要な動力すべてを賄う。従って潜航中は、必然的に電池容量を睨(にら)みながらの行動となり、高速での運航は、極端に制限される。ある程度の潜水行動後は、シュノーケル潜度まで浮上し、エンジンによる電池充電が必要である。電池性能は大きく進歩し、最近の潜水艦はリチウム電池の採用(海自たいげい型)に見られる如(ごと)く、かなりの期間、潜水運航が可能である。

海上自衛隊の「はくりゅう」(Wikipediaより)

 他方、原潜は、搭載する原子炉で全ての動力を時間に制限なく自給できることから、大型化(多機能化)、高速、深深度、長期間無寄港運航が可能であり、通常型とは性能のレベルが異なる存在である。先述のテレビ放送で、通常型が比肩できる性能を有し、瞬発力で原潜が勝る程度の解説字幕表示があったが、真に恥ずかしい真偽を問われる内容であると考えている。

 岸田首相の「対応力は整備されている」発言も問題である。現状での潜水艦警戒監視システム、日米共同の情報共有網、探知に有利な我が地勢等の総合力を踏まえての発言であろうが、軽率な発言である。静粛化技術の進歩、欺瞞(ぎまん)装置、無音状態で曳航(えいこう)、大洋適地で自力運航を開始する方法等、平時は「奥の手は見せない」のが、この世界での常識である。甘く見てはならない。

 全般に見て、与党の主張は、現在進めている通常型潜水艦体制の充実・発展に向けた態度が顕著であり、原潜はその次といった方針が見え見えである。新型電池搭載の「たいげい」以下の整備を進めることは大いに結構で反対するものではない。特異な列島地形、緊要な水峡を多数抱える我が国は、他国に無い通常潜の所要があることは十分理解する。

政治家に高い見識期待

 しかし周辺国の情勢は、間違いなく早晩、原潜体制に移行する。こと原潜整備に限れば、我が国の取り組みが最も遅れている現状にあることを承知し、原潜・通常潜の二刀流に取り組むべき時期に来ているのである。原潜保有をテレビ局が取り上げること自体、時代の変化を感じ、結構なことと感じているが、将来を見越した長期的観点と政治家の一層の高い見識を期待する。

(すぎやま・しげる)

【私の論評】日本が米国なみの大型攻撃型原潜を複数持てば、海軍力では世界トップクラスになる(゚д゚)!

上の記事で補足させていただくとすれば、まずは日本の通常型潜水艦は、ステル性(静寂性)に優れていることだと思います。特に最新鋭艦の場合は、無音に近いです。潜水艦の性能の細部などについては各国ともあまり表に出さないので、実際はどうなのかはわかりませんが、おそらく日本の最新鋭の通常型潜水艦のステルス性は世界一だろうとされています。

そうなると、日米海軍と比較すると、格段に劣る中露の対潜哨戒能力ではこれを発見するのはかなり難しいです。

一方、原潜については、補足することはほとんどありませんが、大型化(多機能化)ということでは、米軍の攻撃型原潜の例をださせていただくと理解しやすいと思います。

日本の通常型潜水艦も最近は大型化しています。最新艦の「はくげい」の基準排水量は、3,000トンであり、乗組員数は70名です。

一方米国の攻撃型原潜(核を搭載してない戦略型原潜ではない原潜)のオハイオ級の基準排水量は16,764 トンです。排水量だけて5倍です。乗員は155名です。日本の最新鋭イージス艦「はぐろ」の基準排水量が 8,200 トンですから、オハイオ級は2倍近いです。

オハイオ潜水艦は今はもう核ミサイルを搭載していないですが、米海軍のすべての潜水艦と同様、原子力を動力とする。現在の呼称は「巡航ミサイル搭載原子力潜水艦(SSGN)」で、原子炉によってタービン2基に蒸気を送り、その力でプロペラを回すことで推進します。 

海軍によると、その航続距離は「無制限」。連続潜航能力の唯一の制約となるのは、乗組員の食料を補給する必要性のみです。

 オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できる。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

この他にも、魚雷、対空ミサイル、対艦ミサイルを備えているわけですから、これは艦艇というよりは、水中の武器庫、水中のミサイル基地と言っても良いくらいです。

かつてトランプ氏が大統領だったときに、米国の攻撃型原潜のことを「水中の空母と評しましたが」このことを言いたかったのでしょう。

フランスの空母シャルル・ド・ゴールと並走する英国のコリンズ級原潜

こうした攻撃型原潜ですが、欠点もあります。それは、原子力潜水艦の構造上どうしてもある一体程度の騒音が出て、日本の通常型潜水艦のように無音にすることはできないのです。ただ、日本の技術をもってすれば、かなり静寂性に優れた潜水艦を建造できるだろうとはいわれいるようですが、それでも無音に近くすることは不可能とされています。

ただ、米国の巨大な攻撃型原潜にはこれを補ってあまりあるほどの利点があります。それは、やはり群を抜いた攻撃力と無限ともいえる航続距離を有していることでしょう。

それに、騒音という欠点は、日米であれば、対潜哨戒能力が高いので、十分補うことができます。そのせいもあって、日米は対潜水艦戦争(ASW:Anti Submarine Warefare)では両国とも世界のトップクラスといわれ、中露をはるかに凌駕しています。

こうしてみていくと、日本のステルス性の高い潜水艦は、あくまで艦艇であり、米国の大型攻撃型原潜のように水中のミサイル基地というわけではありませんが、ステルス性を生かして、敵に脅威を与えたり、情報収集活動には向いていることがわかります。

両者は同じ潜水艦というよりは、別ものと捉えたほうが良いです。日本が、専守防衛だけすると割り切るのであれば、現在の通常型潜水艦でも十分だと思います。ただ、専守防衛とはウクライナの事例でもわかるとおり、ロシア領内からミサイルを打ち込まれれば、国土が破壊され放題になります。

これに対抗するため敵基地攻撃能力も持とうとすれば、米国の大型攻撃型潜水艦のようなもののほうが、有効です。

それに、日本が専守防衛だけではなく、日本のシーレーンの防衛や、インド太平洋地域の安全保障にも関わるつもりであれば、攻撃型原潜は必須です。

両方を持ってれば、これらを有効に使うこともできます。まずは、ステルス性の高い通常型潜水艦で、情報収集活動をしたり、攻撃型原潜を脅かす艦艇・航空機・潜水艦などを攻撃して、これを守り、攻撃型原潜は、通常型潜水艦の情報に基づき、効果的な攻撃をすることができます。

敵基地攻撃は無論のこと、敵レーダー基地や、監視衛星の地上施設などを破壊することができます。

ちなみに、米軍は数十年前から通常型潜水艦の建造をやめ原潜の建造に集中したため、現在その建造能力は失われています。

一方日本は、原潜を建造したことはないものの、原子力産業が存在し、潜水艦建造能力もあることから、原潜の建造はやる気になれぱできます。

日本が、米国並の攻撃型原潜と、ステルス性に優れた潜水艦の両方をある程度以上持って運用することができるようになれば、海戦能力としては世界一になるかもしれません。

なぜなら、日本の最新鋭の通常型潜水艦は、米海軍てもこれを発見するのは難しいからです。そのステルス性に優れた、潜水艦と、攻撃型原潜が協同できるようにし、さらに世界トップクラスの対潜哨戒能力が加われば、これは海軍としてはも向かうところ敵なしということになります。

そうなれば、米国と並び世界トップクラスの海軍になるでしょう。

それは、中露が最も恐れているところだと思います。


横須賀に停泊中の米海軍の攻撃型原潜「イリノイ」を視察する元IEA(国際エネルギー機関)事務局長田中氏

元IEAの事務局長だった田中伸男氏は、以下のように主張しています。
日本の持つディーゼルとリチウムイオン電池の潜水艦は静音性などに大変優れるが、毎日浮上する必要があり、秘匿性能と航続距離に課題がある。最近、北朝鮮のミサイルを撃ち落とす新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画が放棄された。

敵国領内での基地攻撃の可否が議論されているが、そもそも攻撃を受けた場合、通常型巡航ミサイルでの反撃は攻撃ではなく防御だ。非核巡航ミサイルを装備した原潜による敵の核攻撃抑止も、米国の核の拡大抑止の補完として検討されるべきであろう。

まずは1隻、米国から購入し技術移転、乗員の訓練などのための日米原子力安全保障協力が必要だ。日本に核装備は不要で核兵器禁止条約にも加盟すべきだが、緊張の高まる北東アジアの状況を考えれば、むつ以来のタブーを破り原子力推進の潜水艦建造を検討する必要があると考える。

私もこの意見には賛成です。米国からまず1隻を購入するなり、リースするなりすれば、良いと思います。潜水艦建造能力や原子力産業がある日本が、まず一隻を購入するなりリースするなりした上で原潜建造に取り組めば、オーストラリアより先に原潜を建造できるようになる可能性もあります。

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2022年6月23日木曜日

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すでに米国にも勝る?中国海軍の大躍進

岡崎研究所

 6月7日付のウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、「中国海軍の大躍進:カンボジアでの基地は北京の世界的軍事野望の最新のしるしである」との社説を掲載し、警鐘を鳴らしている。


 このWSJの社説は、時宜を得た問題提起をしているいい社説である。中国海軍が大躍進しているというのはその通りである。東シナ海、南シナ海での中国海軍の活動に加え、世界的に中国海軍が基地のネットワークを作ろうとしている。大西洋に接する西アフリカにまで軍事基地を作ろうとしている。

 WSJの社説が特に警笛を鳴らすのは、米中の海軍力の戦略バランスが、中国に優位に働いている点と、中国が世界的に基地のネットワークを秘密裡に、段階的に構築している点である。前者については、中国が現在の355隻から2030年までに460隻に増強する計画があるのに対して、米海軍は、現在の297隻から27年には280隻にまで減少すると言われている。日本がそれを補填する海軍力を増強できるかは、今後の動きに関わってくる。

 中国の海のネットワーク化は、着実に進んでいる。まずは主要な港湾を、スリランカやギリシャ、イタリア等でおさえ、中東のアラブ首長国連邦(UAE)等とも関係を深め、さらにはアフリカのジブチやケニア、モーリタニアにまで及んでいる。

 最近では、ソロモン諸島と安全保障協定を結び、その他の南太平洋の島嶼諸国とも同様の協定を締結しようとしている。中国は、最初は、民間経済やインフラ整備から各国に介入し、次第に警察の治安部隊、軍事的関与にまで触手を伸ばす。

 中国が何を目的としているかについては、政治的影響力の強化、軍事的影響力の強化、及び制裁を課された場合の資源確保などであろう。中国のこの動きには十分注意していく必要がある。太平洋諸国については、日本も、豪州や米国と協力して、中国に対抗していく必要があろう。

日本にも求められる海軍力の増強

 タイ湾の海域については、カンボジアでの基地建設について関心国と意見交換をしていく必要もある。タイやベトナムがカンボジアでの中国海軍基地を歓迎しないことはほぼ明らかであり、実りのある話し合いになる可能性がある。

 タイ湾からインドに向かう海域については、ミャンマーがあり、中国が進出してくる可能性が高い。中国は、既にミャンマーの軍事政権に対しては、相当の武器供与をしている。日本は、自由で開かれたインド・太平洋構想の推進の観点から、インドともこの問題で協力の余地がないか、考えたらよい。

 この問題については、外交面でやれることも案外あるのではないかと思われるが、より大きい問題は、海軍力の増強である。米海軍が相対的に力を落とす中、日本の海軍力も強化すべきであろう。日本の防衛予算は増額が必須であるが、それをどこに振り向けていくかについて、このWSJ社説の問題提起を考慮すべきであろう。

【私の論評】中国海軍は、日米海軍に勝てない、主戦場は経済とテクノロジーの領域(゚д゚)!

上のような記事を読むと、またかという感じがします。

2020年9月に米国防総省は「中国の軍事力についての年次報告書」を公開し、中国の海軍力はアメリカを凌駕し、「世界最大の海軍を保有している」と発表しています。

また米海軍大学校やランド研究所などのシミュレーションでも、中国が台湾に侵攻した場合、中国海軍が勝つという結果が出たことが、ニュースとして報じられました。

それ以来、米海軍が中国軍に負けるという記事がマスコミ等でいくつも掲載されるようになりました。上の記事もこのような背景から掲載されたものと考えられます。

しかし、ここで考えなくてはならないのは、国防総省等がなぜこうした発表を行うのかということです。

彼らがやっている戦力分析やシミュレーションの目的はただひとつ、連邦議会に対してもっと艦船を購入してくれるように説得することにあるのです。


国防総省のいう「世界一の海軍」とは艦船の数などを指しているのです。しかし、実際には2020年おいても、上の表の通り、米軍の艦艇数は、中国のそれを上回っています。ただ国防省は、米軍は艦艇を世界中に振り向けなければならないのに対して、中国はインド太平洋地域にだけ配置すれば良く、そうすると中国のほうが米国を上回るというのです。

しかも、中国の艦艇製造速度は早く、いずれ全体の艦艇数でも中国が米国を上回るとしています。ただし、最近は中国の艦艇製造数もひところよりはかなり減りましたし、米国はトランプが大統領の時代に艦艇数を増やすことを決めました。

しかし、もうすでに何十年も前から、海軍力の意味は変わってきています。昔から、「艦艇には2種類しかない、水上艦艇と潜水艦である。水上艦艇はそれが空母であれ、何であれ、ミサイルや魚雷などの標的に過ぎない。しかし潜水艦は違う。現代の本当の海軍の戦力は潜水艦である」と言われています。

実際、1982年のフォークランド紛争において、イギリスは1隻の原潜を南大西洋で潜航させていたのですが、このたった1隻によってアルゼンチン海軍は敗北しました。原潜からの魚雷が、アルゼンチン海軍最大の軍艦「へネラル・ベルグラノ」を沈めたのです。

ところが米国防省などがシミュレーションを行うときは、原潜を考慮に入れることはありません。これを入れてしまうと、ゲームそのものの目的を潰してしまうことになるからです。原潜だけでなく、総合的な海軍力でいえば、米国が圧倒的であることは疑いがないです。

特にその中でも、米海軍はASW(対潜水艦戦闘力)が中国海軍をはるかに凌駕しており、その中でも対潜哨戒力は、中国を圧倒しています。さらに、米軍の攻撃型原潜は、いまや水中の武器庫と化しており、巡航ミサイル、対空ミサイル、対艦ミサイル、魚雷などありとあらゆる武装を格納しています。

たとえば、攻撃型原潜オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

その中国海軍と米海軍が戦えば、米軍が圧倒するのは疑いがないです。よって、台湾有事においては、米海軍攻撃型原潜で台湾を包囲すれば、それで解決できます。大型のものを3隻派遣して、交代制で24時間常時台湾近海に1隻を潜ませ、中国海軍が台湾に侵攻しようとすれば、魚雷、ミサイルですべての艦艇、多くの航空機を撃沈することができます。

それどころか、巡航ミサイルで中国のレーダー基地、監視衛生の地上施設なども叩くことができます。

それでも仮に、中国軍が陸上部隊を台湾に上陸させることができたにしても、攻撃型原潜で陸上部隊への補給を絶てば、陸上部隊はお手上げになります。

中国海軍が多くの艦艇を持ち、さらに世界中に基地のネットワークを作ろうと、いざ米海軍と海戦ということになれば、米軍は圧倒的に勝利しかつほとんど被害を被ることはないでしょう。一方中国海軍は壊滅的な打撃を受けることになります。

ただ、このようなストーリーでは面白みもないですし、米海軍も艦艇の予算を得ることもしにくくなります。だからこそ、攻撃型原潜抜きで戦えは、艦艇数の多い中国海軍に、米海軍はまけてしまうというストーリーで耳目を惹きつけ、さらにドローンの脅威などで味付けすれば、多くの人々の耳目を惹きつけ予算を獲得しやすくなります。

ドローンであろうと、偵察衛星であろうと、水中に潜む潜水艦を発見できなければ無意味です。潜水艦への攻撃は潜水艦が発見できてはじめて可能になります。その能力が日米は中露をはるかに凌駕しているのです。これにより、日米と中露が海戦を行えば、中露にはまったく勝ち目がありません。中露は日本の海上自衛隊と単独と戦っても勝ち目はないでしょう。

現在の技術では監視衛生で水中の潜水艦は発見できないし、中露のドローンも対潜哨戒力は低い

米国防省の報告書や、さらにこれらを根拠とするマスコミ報道を真に受ける必要はありませんが、ただそうはいっても米国防総省としては、中国海軍への対抗措置として新たな試みに挑戦し続けるべきです。新たに攻撃型原潜を増やすとか、水上艦艇でも必要なものを増やすとか、メンテナンスのための工廠を増やすなど、現実的な予算の要求をすべきと思います。

日本も米国並にASW(対潜水艦戦闘力)が強く、特に対潜哨戒能力は米軍とならび世界トップクラスです。これは、冷戦中に米国の要請によって、オホーツク海のロシア原潜の行動を監視することによって得た能力です。

日本の場合は、米国のように攻撃力の強い、攻撃型原潜はありませんが、ステルス性に優れた通常型潜水艦があります。この潜水艦も米国の攻撃型原潜には及ばないものの、通常型としては十分な攻撃力があります。現在22体制で運用されており、日本は専守防衛はできます。

中国海軍が日本に侵入しようとして、陸上部隊を送ってきた場合などは、これらを撃沈できますし、たとえ陸上部隊が上陸したとしても、潜水艦隊で包囲して補給を絶てば、陸上部隊はお手上げになります。そのため、中露や北などが、日本に上陸しようとしても、なかなかできません。よって、日本は独立を維持することはできます。

マスコミで喧伝されてはいますが、中国にとっては台湾や尖閣諸島に武力で侵攻して、略奪するようなことは、簡単なことではないのです。

ただ、日本でもなぜか米国のように、日本防衛といういうと、水上艦艇、航空機、陸上兵力による防衛ばかりが議論され、潜水艦はでてきません。日本も潜水艦なしで、中国と対峙するとなると、かなり分が悪いです。これは、日米というか、いずれの国でも、昔から潜水艦の行動は隠密にされるのが普通だからかもしれません。

日米ともに、自国のASWの能力や、潜水艦隊の実力を国民に正しく啓蒙すべきでしょう。特に日本では、中国の軍事力の拡大の脅威を盲目的に信じて、中国には到底勝てないと思い込む人も多く、「中国に頭を下げるべき」とか「攻め込まれたら、戦え戦え正義のために戦えだけではだめだ」などという言葉を真に受ける人もいるようです。これでは、いたずらに中国のプロパガンダに加担することになってしまいかねません。

尖閣危機、台湾危機を一方的に煽る人もいますが、一方的に煽るのではかえって中国のプロパガンダに加担することにもなりかねません。なぜなら、それによって尖閣も台湾もすぐに簡単に中国によって侵略されしまうと信じ込む人が増えるからです。

実際、台湾も尖閣もいつ中国に奪取されてもおかしくないと考える人は多いです。しかし、あれだけ何回も長期間わたって尖閣や台湾を脅しているのはどうしてでしょうか。中国が台湾や尖閣を奪取できるだけの軍事力があるなら遠の昔に奪取しているはずです。

それどころか、中国海軍のロードマップでは、2020年には、第二列島線まで、確保する予定だったはずですが、現状では第一列島線すら確保はできていません。なぜできないのでしょうか。

かといって、日本の海自の海軍力はアジア最強であって、中国など全く脅威ではないと主張するのも問題です。バランスが重要だと思います。

そうして、最近のこのブログで述べたように、日本の潜水艦隊の運用は専守防衛にかなり傾いており、ロシアがウクライナにしたように中国が日本の国土にミサイルなどを直接打ち込めば、国土は破壊され、多くの国民の生命や財産が失われる可能性は否定できません。独立が維持できても、国土が破壊されてしまえば、悲惨なことになります。できることなら、こうしたことも防ぐべきです。

これを防ぐためには、先日もこのブログに掲載したように、日本も攻撃型原潜を持つことも検討すべきです。ある程度大型で、巡航ミサイルなども多数搭載できる攻撃型原潜があれば、敵基地攻撃もできます。

さらに、日本がタイやカンボジアなどを含む、アジア太平洋地域全体の安全保障に関与したり、日本のシーレーン全体の安全保障も関与するというのなら、攻撃型原潜の保有も必須となるでしょう。なぜなら、これらも日本の安全保障のテリトリーに加えるというのなら、長時間潜水でき、かつ大量の兵器を格納できる原潜が必要になるからです。

それとともに、日本はいたずらに中国の軍事的脅威だけに注目することなく、地政学的戦いにも注力すべきです。

米国と中国の真の戦場は、経済とテクノロジーの領域にあります。なぜなら、軍事的には中国はいまだ米国に対抗できる力がなく、外交戦略においては、中国に対峙しているのは、米国一国ではなく、すでにより広範な反中国同盟だからです。

さらに、米国も中国を武力で追い詰めれば、中国の核兵器の使用を誘発し、中国が核を使えば米国もそれに報復することになり、エスカレートして終末戦争になることは避けたいと考えているからです。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

「中国製造2025」の段階を示すダイアグラム

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえば過去に英国がアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

現状では台湾にすら武力侵攻は難しい中国です。中国としては、軍事力ではない他の分野で日本に対抗しようとするのは、当然です。そうした日本が中国と対峙するのは米国と同じく「地政学的戦争」になるのは明らかです。

日本では、岸田文雄政権が看板政策に掲げる経済安全保障推進法が先月11日の参院本会議で可決、成立しました。半導体など戦略的に重要性が増す物資で供給網を強化し、基幹インフラの防護に取り組む体制を整える。2023年から段階的に施行します。

どの程度実効的な措置がとれるのかが課題です。

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2022年6月13日月曜日

クアッドが注力すべき中国の違法漁業と海上民兵―【私の論評】違法漁業と海上民兵には飢餓戦略が有効か(゚д゚)!

クアッドが注力すべき中国の違法漁業と海上民兵

岡崎研究所

 5月の東京における日米豪印4カ国によるクアッド首脳会議では、IPMDA(海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ)が発表された。世上あまり注目されていないようであるが、意義のある重視すべきイニシアティブと考えられる。


 その内容は、ルールに基づく海洋秩序に対する挑戦に対抗するために、違法漁業、瀬取り、密輸など、違法な活動を継続的にモニターすることを目的とするものである。衛星技術によってこの地域の幾つかの既存の監視センターを繋ぎ包括的な追跡システムを作るとしている。

 念頭にあるのは中国の漁船団による収奪的な漁業である。米国の当局者は「この地域における違法漁業の95%は中国によるものだ」と述べている。南シナ海その他海域におけるその活動はつとに報道されているが、2020年夏には300隻近い漁船団がエクアドル領ガラパゴス諸島の周辺海域に出現し、荒っぽい漁業を行い環境破壊の懸念を惹起する事件を起こしている。

 しかし、それだけではない筈である。中国の漁船には偽装漁船もあり、その実態は解明されていないが、海警の船舶と連動して、いわゆる海上民兵として政治目的のために行動する例がある。

 昨年3月からほぼ1カ月の間、中国の海上民兵とおぼしき多数の船舶が南沙諸島のウィットサン礁(フィリピンの排他的経済水域内にある)に集結する奇怪な行動をしたのも、その一つである。クアッドの共同声明には「海上保安機関の船舶及び海上民兵の危険な使用」を含む「威圧的、挑発的又は一方的な行動」に反対するとの文言はあるが、IPMDAと関連付けることは(恐らくは意図的に――反カ国色が強過ぎるとパートナーを募ることに支障が生ずる)避けている。しかし、海上民兵は最も警戒を要する問題の一つであり、これがIPMDAの継続的モニターの対象を外れることはあり得ないだろう。

海洋秩序維持で他国への広がりも

 今後、クアッド諸国はインド・太平洋の諸国と協議してIPMDAによる海洋秩序維持の態勢を整えるようである。どの程度の下工作が行われたものか分からないが、このイニシアティブのパートナーとなることに関心を持つ諸国は少なからず存在するだろう。IPMDAは、これら諸国が自らの能力の足らざるところを補い、「威圧的、挑発的又は一方的な行動」に対処する上での助けになるに違いない。

 IPMDAは安全保障、経済権益の保全、環境保護などインド・太平洋の諸国が関心を有する分野において、これら諸国の需要に応えることを狙いとするものと考えられる。そういう形でクアッドは活動の裾野を広げることも出来る。その着眼点は高い評価に値すると思われる。

【私の論評】違法漁業と海上民兵には飢餓戦略が有効か(゚д゚)!

IPMDAの継続的モニターで中国の違法操業や海上民兵の動きを封殺することはできるでしょぅか。私は、できないと思います。最初は警戒するかもしれませんが、これに対して何もしないということであれは、中国は図に乗って、海上民兵を有効に使い、場合によっては島嶼を手に入れるなどのことを平気でするでしょう。

それも、南シナ海でやったように、サラミ戦術で少しずつ実行支配し、これに対して有効な手を打たなければ、少しずつ支配地域を拡大し、いつの間にか多くの部分や、島嶼などを実行支配すなどのことを行うでしょう。

なぜそのようなことを自信を持って言えるかといえば、米国と中国の真の戦場は、軍事力ではなく、経済とテクノロジーの領域であり地政学的な戦いだからです。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業、海民兵を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえばイギリスがアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

中国企業がスパイ行為などにより技術の窃盗を繰り返したり、貿易のルールを平然と破ったりするのは、それがビジネスであると同時に、国家による戦争だからです。

中国が南シナ海の環礁を埋め立てて、実行支配したのも、地政学的戦いの一環です。従来であれば、環礁を領地とするためにでさえ、軍隊を派遣して戦争をして、敵を排除して手に入れたものです。

南シナ海の環礁を埋め立てて作った中国の軍事基地

実際第2次世界大戦中の日米はそうでした。大量の兵器や兵隊を送り込み、真正面から戦争して、敵を排除して、日米は太平洋の島々を自らの支配下に置きました。

しかし、中国は違います、軍隊ではなく、環礁を埋め立てるための道具や、人員を送り込み、環礁を埋め立て、他国が危機感を感じながらも、結局軍事的には何もせず、中国が環礁を埋め立ててそこを実行支配することを許してしまいました。

中国が民兵を場合によっては軍事目的にも使おうとしているのは明らかです。例えば2014年、東シナ海において、横、あるいは縦に並んで航行しながら、タンカーからフリゲート艦に燃料を給油する訓練が行われました。次いで、2019年には、洋上において横に並んで航走しながらコンテナ船から駆逐艦や補給艦にコンテナなどの貨物を移送する試験が行われました。

また2020年に行われた民間企業等を動員した大規模な統合軍事演習では、普段はカーフェリーとして利用されているRo-Ro船が、車両搭載用ランプ(傾斜路)を強襲上陸作戦用に改造されて参加していました。

そもそもタンカーであれ、コンテナ船であれ、Ro-Ro船であれ、商業目的に用いられる船舶は、できる限り大量の物資や車両、燃料などを積載して、仕出し港から仕向け港にできるだけ早く、安全かつ経済的にそれらの荷物を届けることにより利益を上げることを目的とするものです。

本来、そのような目的に合致しない洋上で貨物や燃料を移送する装置などを設置することは、設置に必要な区画や重量の分だけ積載可能な貨物の量が減るばかりか、船自体の重量を増加させ、速力や燃料効率に影響を及ぼすなど経済コストは悪化します。

とくに、Ro-Ro船の車両搭載用ランプの改造については、そのランプを水面下まで下げることにより、水陸両用車両や舟艇を船内から洋上に、あるいは洋上から船内に積み下ろしできるようにしています。一般的なランプとは強度や重量など構造が大きく異なるものです。

このような取り組みは、漁船についても同様です。外洋で操業する漁船が新造される場合には、「海上民兵」として必要な武器庫と弾薬庫を設置することが一部の地方政府の条例により義務づけられていることも明らかにされています。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎(とが)め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

中国は国営企業、民間企業、民兵を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえばイギリスがアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

中国企業がスパイ行為などにより技術の窃盗を繰り返したり、貿易のルールを平然と破ったり、周辺諸国などにお構いなしに、環礁を埋め立てたり、埋め立てた環礁を実行支配したり、世界各地て違法操業したりするのは、それがビジネスであると同時に、国家による戦争だからです。

中国漁船による違法漁協や民兵とおぼしき多数の船舶が南沙諸島のウィットサン礁(フィリピンの排他的経済水域内にある)に集結する奇怪な行動をしたのもこれは従来の戦争は異なる、「地政学的戦争」の一環なのです。

そうして、こうした戦争に対して、、IPMDA(海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ)などで監視を強めるだけでは、中国の戦争を止めることはできないでしょう。これは、海軍力では日米などに格段に劣る中国による地政学的戦争なのです。

簡単にはやめないですし、監視するくらいでは、絶対にやめません。

ただ、これらに対する有効な手立てはあります。それは、こうした海域や島嶼付近に日米およびEUなどの潜水艦隊を派遣することです。

海上民兵が上陸した島嶼や、違法漁業をする海域で、これらを潜水艦で取り囲み、行動できなくしてしまうのです。そうして、船舶や航空機による補給を絶ってしまうのです。

こうしたことを実施されると、ASW(対戦戦闘力)が劣る中国は何もできなくなります。そうして、日米EUの潜水艦隊は中国軍に対して警告し、海上民兵に対して補給をしようとする船舶、航空機は撃沈すると、警告し、実際中国軍が艦艇などで補給しようとした場合、それを撃沈すれば良いのです。無論このようなことは、最終段階であり、いくつかの段階を踏み、途中で警告などをしながら、最後の段階でこれを実行するということになります。

水も、食糧も、弾薬も補給させないようにします。そうなれは、海上民兵は島嶼か海上で餓死することになります。そうなる前に降伏するでしょう。こうしたことにより、中国の地政学的戦いを封じることができます。こういうことをすると、警告しただけでも相当効き目があると思います。

それでも、実行しようとした場合は、補給する艦艇や航空機を攻撃し、無力化すれば良いのです。ASWその中でも、対潜哨戒能力に劣る中国は、これに対抗する術はなく、このようなことを米国等が実行したとしても、ほとんど被害を被ることはないでしょう。このくらいのことをしないと、中国の海上民兵による地政学的戦争はこれからも続き、世界が不安定化するだけになります。日米EU諸国もこれを覚悟して、いずれ踏み切るべきでしょう。

鳥取飢え殺し

そうして、これは昔からある戦法です。はやい話が兵糧攻めです。織田信長の家臣であった羽柴秀吉は,播磨三木城や鳥取城を,兵糧攻めにより落城させたと伝えられています。ご存知のとおり、兵糧攻めとは、城を包囲し城内へ食料を持ち込ませないことで、城内にいる兵士や馬などを飢えさせる戦法で,直接武器を使うわけではないですが、残酷な方法です。

大東亜戦争末期の日本に対して米軍は「飢餓作戦」を実施しています。米軍が行った日本周辺の機雷封鎖作戦作戦名です。この作戦米海軍が立案し、主に米陸軍航空軍航空機によって実行されました。日本の内海航路朝鮮半島航路に壊滅的打撃を与え、戦後海上自衛隊戦術思想や日本の海運に影響を残しました。

飢餓作戦のためB-29爆撃機から投下されたパラシュート付きのMk26機雷

中国の海上民兵はプロの軍人ではありませんし、日米EUなどがこのような試みをすることを警告しただけでも、無謀な振る舞いをやめる可能性も高いです。鳥取城に立て籠った人たちやかつての皇軍のように、飢えてもなお最後の最後まで低抵抗戦する者はいないでしょう。

ただ、これは中国による地政学的戦いの一環なのですから、海上民兵の中に人民解放軍が紛れている可能性もあります。その場合は万難を廃して、使命を遂行しようとするかもしれません。そうなった場合は、餓死するまで包囲を続けるしかないでしょう。ただ、人民解放軍でもそこまでする人間はいない可能性のほうが高いです。

降伏すれば、手厚く保護してあげれば良いのです。

通常の戦闘のほかにも、海上民兵による地政学的戦闘に備えるためにも、AUKUSが結成されたのでしょう。

上で述べた「飢餓戦略」など、物騒に思われるかもしれませんが、「地政学的戦争」の観点からすれば、こうしたことも考えておくべきです。そうして、これに近いことがすでに、世界の海のいずれかで行われているかもしれません。

ただ、潜水艦の行動に関しては、従来からいずれの国も公にしないのが普通であり、米国では軍のトップですら、米国の戦略原潜の所在を知らないくらいですから、何か大きな事件でも起こらない限り表には出てこないだけかもしれません。

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2022年6月10日金曜日

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台湾問題で米中激突!国防相が初の対面会談  バイデン政権、新たな武器売却で強い姿勢も…「習氏の“3期目”見据え問題起こしたくない」中国

ロイド・オースティン米国防長官

 ロイド・オースティン米国防長官と、中国の魏鳳和国務委員兼国防相が、シンガポールで開幕するアジア安全保障会議(10~12日)に合わせて、初めての対面会談を行う。世界の安全保障環境が複雑さを増すなか、最大の焦点は「台湾問題」とみられる。軍事的覇権拡大を進める中国に対し、ジョー・バイデン政権は会談直前、台湾に新たな武器売却を通知して強い姿勢を見せた。

 「遠くない将来に会うことを楽しみにしている」

 オースティン氏は5月の議会証言で、魏氏との会談にこう意欲を見せていた。会談では、米中対立や台湾問題、南シナ海の緊張、ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮による核・ミサイル開発など、多くの論点で応酬が激化しそうだ。

魏鳳和国務委員兼国防相

 米政府高官は「われわれの立場からすれば、会談は地域的、世界的な問題における競争の管理に焦点が当てられると見込んでいる」と述べた。ロイター通信が報じた。

 台湾問題では、バイデン大統領は5月の来日時、台湾への軍事的関与について記者に聞かれて、「イエス(当然だ)」「それが、われわれのコミットメント(約束)だ」と語っている。米国の「あいまい戦略」の転換とも受け止められた。

 さらに、台湾外交部(外務省)は9日、米政府が海軍艦船の付属部品と関連する技術支援など、総額1億2000万ドル(約160億円)相当分を売却すると台湾政府側に通知したと発表した。バイデン政権下での武器売却は4度目となる。

 今回の米中国防相会談をどう見るか。

 中国事情に詳しい評論家の石平氏は「中国はこれまで通り、強い言葉で米国を牽制(けんせい)するだろうが、実際は何もできない。(ロシアのウクライナ侵攻を受けて)中国の台湾統一(台湾侵攻)に国際社会の同意が得られるはずがない。自由主義陣営は着々と連携を強めている。中国の習近平国家主席も『3期目政権』を見据えて、秋の党大会まで問題を起こしたくないというのが本音だろう」と指摘した。

【私の論評】地経学的臨戦態勢にある米中で実は、軍事トップ同士の会談は大きな意味はない(゚д゚)!

上の記事にもある通り、台湾国防部(国防省)は9日、米政府が台湾に対し海軍艦艇の部品などの売却を決めたと報道資料で明らかにしました。売却額は1億2000万米ドル(約160億6600万円)。中国軍の航空機や艦艇が台湾周辺での活動を活発化させていることから、米国が売却に同意したといいます。

同部によると、売却計画は米議会に通知され、1カ月後に発効する見通しです。

総統府の張惇涵(ちょうじゅんかん)報道官は9日、報道資料で心からの謝意を表明。バイデン米政権発足以来4度目で、今年に入ってからは3度目の武器売却の発表となったことに言及し、米政府の台湾の国防における需要に対する重視の表れである上、台米間の強い協力関係を示し、台湾の自衛力向上に寄与すると歓迎しました。

国防部(国防省)は9日、米政府が台湾に対し海軍艦艇の部品などの売却を決めたと報道資料で明らかにした。売却額は1億2000万米ドル(約160億6600万円)。中国軍の航空機や艦艇が台湾周辺での活動を活発化させていることから、米国が売却に同意したといいます。

同部によると、売却計画は米議会に通知され、1カ月後に発効する見通しです。

総統府の張惇涵(ちょうじゅんかん)報道官は9日、報道資料で心からの謝意を表明。バイデン米政権発足以来4度目で、今年に入ってからは3度目の武器売却の発表となったことに言及し、米政府の台湾の国防における需要に対する重視の表れである上、台米間の強い協力関係を示し、台湾の自衛力向上に寄与すると歓迎しました。

総統府の張惇涵(ちょうじゅんかん)報道官

オースティン米国防長官は10日、アジア安全保障会議(シャングリラ対話)出席のため訪れたシンガポールで、中国の魏鳳和(ぎ・ほうわ)国務委員兼国防相と会談しました。台湾問題やロシアのウクライナ侵攻などについて協議。ロイター通信によると、オースティン氏は台湾を不安定化させる行動を控え、ロシアを支援しないよう魏氏に要求しました。

中国メディアによると、魏氏は「『一つの中国』原則は中国と米国の関係の政治的な基礎」と強調。米国が進めている台湾への武器売却が「中国の主権と安全の利益を深刻に損なう」と非難しました。

両者の対面での会談は、昨年1月のバイデン米政権発足以来初めてです。米側によると、中国が会談を申し入れたもようです。

米国は中国を「国際秩序を作り替える意思を持つ」(ブリンケン国務長官)と警戒する一方、対話も重視。中国は米主導で「対中包囲網」構築が進んでいることにいらだちを見せますが、緊張が高まることも望んでいません。会談では偶発的衝突を回避する方策も議論された可能性があります。

3年ぶり開催のアジア安保会議では、オースティン氏が11日、魏氏が12日に演説する予定。会期中に開かれる日米韓3カ国の防衛相会談では、7回目の核実験に踏み切る可能性が指摘される北朝鮮情勢について協議される見通しです。

実は米国と中国の真の戦場は、軍事力ではなく、経済とテクノロジーの領域にあります。なぜなら、軍事的には中国はいまだ米国に対抗できる力がなく、外交戦略においては、中国に対峙しているのは、米国一国ではなく、すでにより広範な反中国同盟だからです。

軍事的には、米軍が攻撃型原潜を3隻程度台湾海峡に常駐させれば、中国は台湾に侵攻できません。なぜなら強力な米攻撃型原潜によって、台湾海峡の中国の艦艇をすべて撃沈できるからです。それは、米攻撃型原潜が桁違いに攻撃力が強いこと、さらに米軍はASW(Anti Submarine Warefare :対潜水艦戦闘)において、中国海軍に対して比較にならないほど強いからです。

メンテナンス中のシーウルフ級攻撃型原潜巨大さがよくわかる

米海大などがシミュレーションを行うときは、原潜を考慮に入れることはないです。これを入れてしまうと、ゲームそのものの目的(予算獲得など)を潰してしまうことになるからです。原潜だけでなく、総合的な海軍力でいえば、米国が圧倒的であることは疑いがないです。

このような事実を言ってしまえば、中国は台湾に軍事侵攻できないのは明白です。また、米海軍も予算を獲得しにくくなります。それに米国では未だ、空母打撃群信奉者が多いです。米海軍は正しく情報を開示しつつも、オバマ時代の緊縮で、航空母艦等の稼働率が劇的に低下するという危機的状況に陥りつつあるということを主張すべきでしょう。

稼働率の低下の最大の原因は、海軍工廠(こうしょう)と民間造船所を含んだアメリカ国内における造艦・メンテナンス能力の不足にあり、これはすぐに改善されるものではありません。これこそ米海軍の深刻な問題です。

ただこうした地味な内容よりも、原潜抜きで米中が戦うことを想定すれば、中国にもかなり勝てる見込みがでてきて、白いので耳目を惹きつけることができ、なんと言っても予算獲得のためには、効果的です。

ただし原潜が闘うことを前提とすれば、中国軍が台湾に多数の人民解放軍を上陸させることができたにしても、米国が台湾を攻撃型原潜で包囲すれば、人民解放軍はこの包囲を解くことができず、上陸した部隊は補給が途切れてお手上げ状態になります。

それに現在では海中の巨大武器庫と化した、米攻撃型原潜は、魚雷はもとより巡航・対艦・対空ミサイルを多数搭載し、ありとあらゆる強力な攻撃が可能です。ある意味では、水中の空母のようものです。

そんなことは、米中双方ともわかっていることですが、米国としては最近ではプーチンが常軌を逸して、最初から不可能に近いウクライナ侵攻に踏み切ったということもあり、牽制のために台湾に武器を供与したりしているわけですが、海軍力で米軍が中国軍よりも圧倒的に強いという事実は変わりません。

プーチンとしては、GDPが中国の1/10であり、今や韓国を若干下回るような規模では、中国のように米国やEUに対して「地政学的戦い」を挑むことはできないので、無謀な軍事的侵攻をせざるを得なかったかもしれません。それにしても、あまりに無鉄砲でした。

それに中国側からみれば、米軍が偶発的にでも中国を攻撃すれば、通常兵器では中国軍には太刀打ちできないことは最初からわきりきっていますし、それを挽回するには中国は核兵器に頼らざるを得なくなることが予め予想され、それこそ核戦争にエスカレートしかねないので、それは避けたいのです。

だからこそ、米国と中国の真の戦場は、軍事力ではなく、経済とテクノロジーの領域であり地政学的な戦いになるのです。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえばイギリスがアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

中国企業がスパイ行為などにより技術の窃盗を繰り返したり、貿易のルールを平然と破ったりするのは、それがビジネスであると同時に、国家による戦争だからです。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎(とが)め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

トランプは2018年3月に鉄鋼25%、アルミニウム10%、さらに中国からの輸入品600億ドル分にも追加関税をかけると発表した。そして7月から9月にかけて2500億ドル分の中国製品に追加関税をかけたのです。

これらの措置は中国経済に大きなダメージを与えました。この関税戦争は、2020年1月に、トランプ大統領と中国の劉鶴(りゅうかく)副首相が合意書を交わすことで一応の収束をみたのですが、地経学的臨戦態勢は続いています。バイデン政権になっても、トランプ時代におこなった中国への追加関税は維持されたままなのです。

そうして、今回の米中の軍トップの会談は、米中の地政学的戦争にはあまり関係はありません。せいぜい、米国も中国も勘違いして、偶発的衝突を回避するための話し合いということではは意味があったとは思いますか。

米中軍事トップの会談など、地政学的戦いには大きな意味はもちません。

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2022年5月31日火曜日

中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか―【私の論評】米軍による台湾防衛は実は一般に考えられている程難しくはないが、迅速に実行すべき(゚д゚)!

中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか

岡崎研究所

 バーンズ米中央情報局(CIA)長官は、5月7日に行われたフィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューで、ウクライナ情勢は中国指導部の台湾統一戦略に何らかの影響を与えているだろう、と述べた(CIA director says China ‘unsettled’ by Ukraine war, FT, May 8)。バーンズは以下の諸点を指摘する。


・習近平がロシアによるウクライナ侵略の残忍性との関連により中国にもたらされる可能性のある評判の低下に少々動揺し、戦争がもたらした経済的な不確実性にも不安になっているとの印象を強く受ける。

・中国は「プーチンがやったことが欧州と米国を接近させた事実」にも失望しており、台湾につき「どんな教訓を引き出すべきか慎重に検討している。

・プーチンのロシアからの脅威を過小評価することは出来ないが、習の中国は「われわれが国家として長期的に直面する最大の地政学的課題」だ。

 上記のバーンズの発言は、慎重な言い回しのなかにも、米CIA当局の判断が的確に示されている、と言って良いだろう。

 プーチンと習近平は、オリンピックの開会式に合わせて北京で会談し、両者の間の連携には「限界」はない、と宣言した。しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、欧米各国の間で反ロシアの同盟関係が急速に進んでいることを見て、習近平は不安の色を隠せないようだ。

 バーンズの見る通り、習近平にとっては、ロシアの侵略がはじまってから、10~12週間がたち、中国にとっては、台湾問題との関係で、自分たちの計算が狂ってきたと思っているのではないか。習近平にとっては、ロシアの無謀な侵略とロシア経済が制裁によって受ける不確実性を中国としては今後どのように考えればよいのか、という点も重なっているだろう。

 いまだ台湾に残る米国が助けてくれるかの懸念

 ウクライナのケースと台湾のケースを比較することには慎重でなければならないが、「台湾関係法」という国内法をもち、台湾の防衛に事実上コミットしている米国としては、台湾を「準同盟国」として扱う以上、もし将来、中国から台湾への一方的な軍事侵攻があれば、台湾を如何に支持、防衛するか、について、今回のバーンズ発言からは、今一つ明瞭な答えは出ていないといえよう。

 現在、台湾住民たちにとっての最大の関心事は、依然として「いざとなったとき、米国は助けにきてくれるだろうか」という一点に尽きるといえよう。これは、現在のバイデン政権の一大課題である。

 なお、バイデン大統領は5月23日、クワッドの首脳会合のために訪日した際、岸田文雄首相との首脳会談後の共同記者会見で、台湾が攻撃された際の米国の台湾防衛の意思を問われ、「一つの中国」政策を維持するとしつつ、「イエス」と答えた。

【私の論評】米軍による台湾防衛は実は一般に考えられている程難しくはないが、迅速に実行すべき(゚д゚)!

ヘインズ国家情報長官

バーンズ米中央情報局(CIA)長官が上記のような見解を示す一方、米国の情報機関を統括するヘインズ国家情報長官は10日、議会上院の公聴会で、台湾統一を目指す中国について「彼らは、われわれの介入を押し切って台湾を奪えるように懸命に取り組んでいる」と述べて、軍備の増強を進めているとの見方を示しました。

ただ「中国は武力衝突を避ける形で強制的に統一することを望んでいる」と述べて、軍事力を行使せずに統一を実現するため、外交、経済、軍事面で圧力を強めているとの考えを示しました。

さらにヘインズ長官は、中国がロシアによるウクライナへの侵攻について分析を続けているとの見方を示し「中国は欧米各国が一致して制裁を打ちだしたことに驚いている。彼らは台湾の文脈でもこのことを考えるだろう」と述べました。

そのうえで「ロシアで起こったことを見て、中国の自信は揺らいでいるかもしれない」と指摘し、苦戦が伝えられるロシア軍の状況を踏まえ、台湾への侵攻について、より慎重になっている可能性があるとの見方を示しました。

ロシアのウクライナ侵攻の失敗は、中国が想像するほど台湾攻略は容易ではないというシグナルを中国に送るもので、自国より小さかったり軍事的に弱かったりする相手をミサイルで負かすことができるという誤った通説を打ち砕くことにもなるのは間違いないようです。

ウクライナで破壊されたロシアの戦車

米空軍の上級戦略顧問であるエリック・チャン氏はVOAに対して「ロシアのウクライナ侵攻が迅速な軍事行動によってウクライナ占領という『既成事実』を作ることを目的としていたように、中国も迅速な軍事行動によって台湾占領の既成事実を作ることを望んでいた。しかし、ウクライナ戦争が長引いていることで、中国の最高指導部は、これまでの作戦よりもさらに迅速で破滅的な戦略が必要だと考えるようになっている」と指摘しています。

つまり、艦船を多数遊弋(ゆうよく)させ時間をかけて台湾封鎖を実行する余裕はなく、いきなり台北などの台湾本土の重要都市へのミサイル攻撃や空爆、艦船による艦砲射撃などで主導権を奪い、米国などの外国勢力の支援が入る前に、多数の空挺部隊などを台湾に上陸させて、台北や高雄などの重要都市を占領し、1週間程度で中国の制圧下に置くという作戦です。

ある専門家は「そのために、台湾の物資、指導部、通信施設など、開戦当初はより強力に台湾を叩くことを検討するのではないか」と予測しています。

そのうえで、「中国は台湾に対する『法戦』を強化し、『台湾は中国の一部』であり、この戦いは『中国の内政問題』であることを国際的に強調し、米国やその他の国がウクライナと同じように台湾を援助することを警告・抑止する方式をとり、より長い時間をかけて、台湾の中国化を既成事実化するだろう」と指摘しています。

ただ、ロシア軍もこうしたようなことを実行しようとして、露軍が首都キーウ(キエフ)近郊のアントノフ国際空港を一時占拠したのですが、その目論見は失敗しました。そうして、制空権すら掌握できず、苦戦しています。

中国軍も、様々な企てをしつつ台湾に侵攻するかもしれませんが、それがすべて思い通りに進むとは限りません。

中国が一番簡単に間違いなく台湾に進行できる確実な方法があります。それは、恐ろしい話で書きたくもありませんが、全くの仮の話として書かせていただきますが、台湾に核ミサイルを打ち込み、全土を破壊し、その後に台湾に侵攻することです。そうなれば、中国は全く抵抗を受けずに台湾に侵攻することができます。

しかし、このことに意味があるでしょうか。そもそも、中国が台湾を侵攻する目的は何なのでしょうか。それには、遠大な計画があるのかもしれません。ただ、それを実現するためにも、まずは台湾を併合するというのが、中途の目標になるのは間違いないでしょう。

併合するためには、併合されるべき人達がいなければ無意味です。併合すべき、産業や物資などがあれば、なお良いです。しかし、台湾が核で完全破壊されたとすれば、人もほんどいなくなり、産業も何もありません。そんなところに人民解放軍が上陸したとしても、何の意味もありません。仮に生き残っている人がいたとしても、敵愾心に燃えているでしょうから、こう人たちを納得させ併合するのは至難の技です。

ただ、そうなる前に米国は中国に反撃するでしょう。そうして、その反撃は大方の人が想像するように、空母などの艦船や航空機、あるいは海兵隊によるものではないないでしょう。なぜなら、それには大きな犠牲が伴うからです。空母やその他の艦艇や、海兵隊員を載せた揚陸艦も、中国のミサイルの格好の標的になるだけです。

ですから、それはこのブログでも過去に掲載したきたように、攻撃型原潜による反撃になるでしょう。従来から述べているように、中国海軍はASW(対潜水艦戦)能力が、米軍よりも段違いに劣っているからです。

米攻撃型原潜は、大型になると1隻で100発以上ものトマホークを搭載できます。これらを台湾近くの海域に交替しつつ常時2〜3潜ませれば、米軍は台湾を常時包囲できます。台湾の近くには、日本があり、日本には米潜水艦隊の基地もあり、交替はスムーズにいくでしょう。

それに加えて、米軍は最近潜水母艦フランクケーブルを日本に寄港させたりしていますが、これにより、台湾付近の原潜は緊急時には、交代せずとも、ミサイル、食糧、水などの補給をうけて長い期間台湾包囲の任務につくことができます。

潜水母艦「フランクケーブル」

中国軍はこの包囲を容易に破ることはできません。対潜哨戒能力に優れた米軍は、まずは中国の潜水艦を台湾付近から追い払うか、撃沈するでしょう。その後、中国が台湾に艦艇で上陸部隊を送れば、これを撃沈するでしょう。

仮に上陸させるることができても、台湾は米原潜に包囲されていれば、これを突破することができず、補給線や航空機による補給ができなくなります。そうなれば、台湾に上陸した人民解放軍はお手上げ状態になってしまいます。

米軍の台湾防衛というと、すぐに空母だのイージス艦だの、航空機や海兵隊がどうのなどと思い浮かべるから防衛が難しいと思うのかもしれませんが、攻撃型原潜で台湾を包囲して防衛すると考えれば、これはかなりやりやいです。何しろ、現在の攻撃型原潜は、様々な大量兵器の格納庫と化しています。

対艦ミサイル、魚雷、巡航ミサイル、SLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)、核も通常型も搭載できます、まさに、現代の潜水艦は、水中のミサイル基地なのです。しかも、敵はなかなか発見されにくく、原潜ならほぼ無限に近いくらい潜航できます。水も、酸素も生成することができます。ただし、従業員の休養や物資、武装の補充のために、定期的にいずれかの港に寄港する必要はあります。

ただ、心配なのは、米軍がどのタイミングで、台湾封鎖をするかです。私は、もし中国が台湾に核先制攻撃をかけて台湾を崩壊させた場合は、確実に台湾を包囲すると思います。確かに、これをしてしまえば、中国が台湾を併合する意味はなくなりますが、それでも台湾を軍事拠点として利用できます。

中国軍がこれを目指して、中国軍を上陸させようとした場合、米軍はこれを阻止するために、台湾を潜水艦で封鎖するでしょう。

もし、台湾危機がバイデン、もしくはバイデン以降でも、バイデンのような大統領であれば、核戦争になることを恐れて、なかなか包囲に踏み切れず、それこそ台湾が核攻撃を受けたあとに重い腰をあげるということになるかもしれないです。

ただこのようなことだけは、避けていただきたいです。中国が台湾侵攻の素振りをみせれば、できるだけ早い時期に実行すべきです。どの時点で米軍が決断しても、中国の台湾侵攻を防ぐことができます。たとえば、仮中国軍が台湾にかなり上陸してしまったとしても手遅れにはなりません。封鎖してしまえば、補給ができなくなり、中国軍はお手上げになるからです。

そうして、これは比較的やりやすいです。なぜなら、同じ原潜でもSLBM原潜(核兵器搭載原潜)ではないので、核戦争を招く可能性は低いからです。それに、米軍は中国軍より、ASWでは格段に優勢なので、犠牲者もほとんど出ません。

それに、原潜を台湾近海に潜ませておけば、それだけで抑止力になります。中国海軍が、台湾侵攻の素振りをみせた場合、攻撃型原潜が何らかの形で威嚇をすれば、中国は台湾侵攻を思いとどまるかもしれません。

トランプ氏は、黒海に核武装した原潜を派遣せよと述べたことがありますが、これはアイディアとしては悪くはないですが、あまり実用的ではないと思います。

なぜなら、黒海に米原潜を派遣すれば、黒海艦隊は沈黙するでしょうし、ウクライナは穀物を輸出できるようになるかもしれませんが、軍事的にはロシア軍が黒海艦隊の行動を封じられたとしても、ロシアとウクライナは陸続きなので、ロシア軍の補給を絶つことはできません。

やはり、ウクライナと台湾では状況が全く異なります。米政権としては、このようなことを踏まえて、台湾有事が懸念された場合は、迅速に行動していただきたいものです。はやく行動することが台湾の安全保障により多く貢献することになります。

台湾が核兵器で完全破壊されてしまってから動くようでは、中国が台湾を軍事基地化することを防ぐことはできますが、国際的にかなり非難されることになるでしょう。アフガンの撤退で失敗し、ウクライナの安全保障で失敗し、台湾でも失敗と評価されることになるでしょう。

日本としても、中国との有事があった場合は、米国は日本が焦土と化してからでないと、米国は助けに来ないと判断せざるを得なくなるでしょう。米国の国際的な地位はかなり下がることになります。

中国軍が台湾に侵攻しようとし、それに米軍が対抗して攻撃型原潜で台湾を包囲すれば、台湾近海の、すべての中国の艦艇は撃沈され、航空機も甚大な被害を受けることになるでしょう。

仮に台湾に、上陸部隊を送り込めたとしても、補給ができずに、陸上部隊はお手上げになりことになります。しかも、ASWに劣る中国軍はこれに有効に反撃する手立てはないのです。予想されるのは、ほとんど無傷の米軍と、壊滅的打撃を受ける中国軍です。

その後は、米潜水艦隊が国際的非難を受けることもなく、中国近海を遊弋し、中国海軍は港を一歩も出ることができなくなるでしょう。それどこころか、南シナ海を現在でも遊弋している米潜水艦隊は余勢をかって南シナ海の中国の軍事基地を吹き飛ばすことになるでしょう。

上記のような展開が予想されるからこそ、ヘインズ国家情報長官は、「ロシアで起こったことを見て、中国の自信は揺らいでいるかもしれない」と指摘し、苦戦が伝えられるロシア軍の状況を踏まえ、台湾への侵攻について、より慎重になっている可能性を指摘したものと思います。

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2022年4月15日金曜日

ネプチューン地対艦ミサイルによる巡洋艦モスクワ撃沈の衝撃―【私の論評】海戦の主役が変わったことを告げる「モスクワ」撃沈(゚д゚)!

ネプチューン地対艦ミサイルによる巡洋艦モスクワ撃沈の衝撃

ウクライナ防衛企業ウクロボロンプロムよりネプチューン地対艦ミサイル

 現地時間4月14日(日本時間4月15日)、ロシア国防省の発表によるとロシア海軍の黒海艦隊旗艦である巡洋艦「モスクワ」が曳航中に沈没しました。前日に爆発炎上し総員退艦、その後まだ浮いていたのでセヴァストポリ港に戻ろうと曳航している最中でした。

 ウクライナ側は前日に地対艦ミサイル「ネプチューン」2発を巡洋艦モスクワに命中させて撃破したと主張しています。ロシア側はこれを認めていませんが、どちらにせよ艦は失われました。

 ロシア海軍黒海艦隊旗艦スラヴァ級ロケット巡洋艦モスクワ撃沈。その衝撃は戦史に永久に刻まれることになるでしょう。ウクライナ海軍地対艦ミサイル部隊の大戦果であり、ロシア海軍の大失態となります。

巡洋艦「モスクワ」を喪失した意味

 巡洋艦モスクワはロシア海軍黒海艦隊旗艦であり、黒海艦隊の中では最大最強の艦でした。ただし主兵装の超音速巡航ミサイル「P-1000ヴルカン」には対地攻撃能力は無く、ウクライナとの戦争でこの艦は広域防空艦として価値を発揮していました。

 長距離艦対空ミサイル「S-300F」を搭載した巡洋艦モスクワはウクライナ南部の黒海沿岸の沖合いに進出し、防空網の一角を担っていました。長射程の対空ミサイルでウクライナ空軍機の活動を妨害していたのです。

 これが消えました。ロシア海軍黒海艦隊には他に広域防空艦は居ません。ウクライナ空軍は南部での行動の制約が大きく解かれたのです。

 また、これでもうロシア軍は揚陸艦隊を用いてオデーサに上陸作戦を行うことが困難になりました。ロシア艦隊は地対艦ミサイルを恐れて、容易には沿岸に近付けなくなった筈です。

 そして首都モスクワの名前を関する軍艦の喪失はロシア全軍どころかロシア全国民の士気を下げ、ウクライナの士気を大きく向上させることになります。

地対艦ミサイル「ネプチューン」

 ウクライナ語”Нептун”の発音は「ネプトゥーン」の方が近く、英語のNeptune(ネプチューン)と語源は同じでローマ神話の海神の名前です。

 ネプチューンは亜音速の対艦ミサイルで、アメリカ軍のハープーン対艦ミサイルやロシア軍のKh-35対艦ミサイルとよく似た性能です。固体燃料ロケットブースターで加速した後にジェットエンジンを始動して巡航し、海面を這うような低い高度で飛んで行きます。

 ネプチューンはウクライナ国産の新兵器で生産に入ったばかりであり、開戦前のスケジュールでは最初の1個大隊の編成完了が4月予定だったので、ぎりぎりでロシアとの戦争に間に合いました。

 ネプチューン地対艦ミサイル1個大隊は4連装発射機が6両で1斉射24発、予備弾含め3斉射分72発が定数となっています。

 ウクライナ海軍の想定ではトルコ製「バイラクタルTB2」無人偵察攻撃機で洋上索敵を行い目標艦を発見したらネプチューン地対艦ミサイルで攻撃するという手順を予定していましたが、実際の巡洋艦モスクワ攻撃ではどのような攻撃方法だったのかはまだ発表がありません。

 なおロシア海軍は巡洋艦モスクワが被弾する2日前に、黒海艦隊のフリゲート「アドミラル・エッセン」がウクライナ軍のバイラクタルTB2無人機を撃墜したことを誇る動画をUPしていました。これはウクライナ軍がドローン(無人機)による洋上索敵を積極的に行っていた可能性を示しています。

 あるいは無人機のバイラクタルTB2はロシア海軍を油断させるための囮で、本命の対艦索敵はアメリカ軍の偵察手段だった可能性もあります。一部のウクライナ報道ではバイラクタルTB2を囮に使ってその隙にネプチューンで攻撃した戦法が示唆されています。

 黒海にはアメリカ軍の大型無人偵察機「グローバルホーク」が開戦後も頻繁に飛んで来ていたので、巡洋艦モスクワの位置情報の提供を行っていた可能性があります。ただしこれが仮に事実だとしても公表したらロシアを怒らせるので、黙っている筈です。

 まだ不明な点は多いのですが、今回のネプチューンによる歴史的な大戦果の詳細はいずれ明らかにされていくことでしょう。

【参考外部記事】ウクライナ軍事ポータルサイト「Український мілітарний портал (ウクライーンシクィー・ミリタリニィー・ポルタル)」の英語版記事より。
The first battalion of “Neptune” coastal missile system will be delivered by April 2022 – Neizhpapa
“Moskva” missile cruiser – the flagship of the Russian`s Black Sea Fleet – sank

※なおネプチューンの発射車両は試作型と量産型で車両が異なります。
試作型の発射車両:КрАЗ-7634НЕ(ウクライナ製)
量産型の発射車両:タトラT815-7(チェコ製)

【私の論評】海戦の主役が変わったことを告げる「モスクワ」撃沈(゚д゚)!

今回の、モスクワの沈没に関しては、アメリカ国防総省 カービー報道官は、
「ウクライナ側が言うようにミサイル攻撃によるものかは確認できないが、それに反論する立場でもない。ウクライナ側がミサイルで攻撃したというのは、ありうることだ」と語っています。

上の記事では、ウクライナ側がミサイル攻撃したという記事が正しいものとして、ウクライナ側の主張を掲載しています。

この記事も、このウクライナ側の主張が正しいものとして、解説します。今回のモスクワ撃沈は、もう数十年前からいわれていた海戦の変貌ぶりを示したものといえます。

NHKどらま「坂の上の雲」で放映された日本海海戦における日本艦隊の旗艦「三笠」

海戦の主役は大きく2回変わっています。最初は、「大艦巨砲」ともいわれるように、巨砲を何門も持つ大艦同士が、海上で大砲撃戦を行い、海戦の雌雄を決定しました。その典型的な事例は、日露による日本海海戦です。

次の時代は、空母打撃群による海戦です。空母を主力とする艦隊を空母打撃群と呼び、この空母打撃群の空母以外の艦艇は、空母を護衛するのが主な目的であり、空母に積載した航空機が、海戦の雌雄を決めることになりました。その典型例は、大東亜戦争における太平洋の戦いです。

日本では、空母打撃群という呼び名はありませんでしたが、本格的な空母打撃群を最初に運用したのは、日本海軍でした。この空母打撃群は、ハワイ真珠湾攻撃等で活躍しましたが、やがて物量にまさる米軍が、空母の数でも、航空機の数でも日本をはるかに上回るようになり、各地で日本の空母打撃群を破るようになりました。

米国のハワイには、真珠湾の戦いの記念館があります。そこには、日本海軍が最初に空母打撃群を運用しはじめたということが展示物で示されています。米軍はそれを参考にして、空母打撃群を運用させるようになり、今日米海軍の主力になっているという旨のことが展示されています。

発艦した航空機から撮影した空母「赤城」

そうして、数十年前までは、実際にそうでした。しかし、もう随分と前から、実は空母打撃群は海戦の主役ではなくなっています。その主役は何かといえば、第二次世界大戦までは脇役であった潜水艦です。

このブログにも以前述べたように、米国の戦略家である、エドワード・ルトワック氏は次のように語っています。

「現在では、艦艇は2種類しかない、空母やイージス艦のような水上艦艇と潜水艦の二種類しかない。そうして、水上艦は空母であれ、他の巨大な艦艇であれ、いずれミサイルや魚雷で撃沈されてしまう。もはや、大きな目標でしかない。しかし、潜水艦はそうではない、水中に潜航して、容易に撃沈されることはない。現在の海戦の主役は潜水艦なのだ」

この言葉、最初はルトワックが語ったのかと思っていましたが、そうではないようです。潜水艦が原子力で動くようになり、さらに魚雷だけではなくミサイルを装備するようになった頃から言われはじめたそうです。

そうして、ロシアは2020年トルコ軍兵士が27日にシリアのアサド政権軍の空爆で死亡したことを巡り、トルコ側の対応に問題があったと主張し、シリア沖に巡行ミサイルを搭載した艦船2隻を派遣したことがあります。そのときの1隻が今回撃沈された「モスクワ」です。ルトワックは、これについて以下のような発言をしています。

「ロシアのミサイル巡洋艦など、象徴的なものにすぎない。米軍なら5分で吹きとばせる」

これは、事実なのでしょう。だからこそ、今回「モスクワ」はウクライナ軍に撃沈されたとウクライナ側は公表し、米国もこれをはっきりとは否定しなかったのでしょう。

無論、ルトワックの脳裏には、攻撃型原潜などを想定したものと思います。米国の攻撃型原潜の大型のものになると、100発以上もの巡航ミサイル「トマホーク」を搭載できます。しかも、米軍はロシア軍よりも、対潜哨戒能力に優れていいます。

この攻撃型原潜が、ロシアの艦艇を攻撃すれば、ひとたまりもないでしょう。

ただ、今回のウクライナによる「モスクワ」攻撃は、地上のミサイルランチャーから、ネプチューンを発射して撃沈したとされています。潜水艦から発射したものではないですが、ルトワックも語っていた「水上艦は空母であれ、他の巨大な艦艇であれ、いずれミサイルや魚雷で撃沈されてしまう。もはや、大きな目標でしかない」という発言を実証したといえます。

考えてみると、フォークランド紛争時には、ルトワックの語ったことは、現実になっていたと考えられます。

1982年3月のフォークランド紛争では、イギリス海軍の原子力潜水艦「コンカラー」によるアルゼンチン海軍巡洋艦「ヘネラル・ベルグラーノ」の撃沈はアルゼンチン海軍の戦意に冷や水を浴びせることになり、空母「ベインティシンコ・デ・マヨ」を始めとしたアルゼンチン海軍の水上戦闘艦は現存艦隊主義に転じて、二度と出撃してくることはありませんでした。

潜水艦の能力でも、対潜哨戒能力でも英軍に著しく、劣っていたアルゼンチン軍は、海戦においては最終的には、英軍の敵ではなかったようです。ただ、英軍はそれまでアルゼンチン軍のフランス製のエグゾセミサイルで、駆逐艦「シェフィールド」が沈没するなどの被害を受けています。

「モスクワ」と同程度以上の艦艇が撃沈されたのは、フォークランド紛争以来といわれています。今回の「モスクワ」撃沈により、まさに、水上艦は現代の海戦においては、「ミサイル」や「魚雷」の大きな目標にすぎないことが、さらに鮮明になったといえます。

なお、先のルトワックの発言については、「極端」と批判する人たちもいますが、今回の「モスクワ」撃沈が本当であったら、「極端」とはいえないと思います。

このブログでは、こうしたルトワック氏の発言などにもとづいて、私は日本の潜水艦隊の優位性を主張してきましたが、半信半疑の人も多いようです。今回の「モスクワ」撃沈がウクライナのミサイルのものであれば、「極端」とはいえなくなると思います。

陸上から放つミサイルも、水中から放つミサイルも同じことですし、潜水艦からの発射は、陸上からよりも、敵に発見されにくく軍事的にさらに有利といえます。しかも、日本の潜水艦のステルス性は「世界一」であり、この優位性についても理解が進むと思います。中国の台湾侵攻に関して、まるでこの世に潜水艦など存在しないかのような論評をする人もいますが、それでは全く意味がありません。

ウクライナ軍が日本の海自なみの最新鋭の潜水艦を持っていれば、軍事上かなり有利になっていたと思われます。もしそうだったら、初戦でロシア黒海艦隊は壊滅していたことでしょう。さらに、潜水艦からミサイルを発射し陸上の主要な目標を破壊し、かなり有利に戦争を遂行できたと思います。

このブログで、以前紹介したように、トランプは、「(プーチンが)またその言葉(核兵器)を口にしたら、われわれは原子力潜水艦核を送って、沿岸を上下左右に航行させるぞと言うべきだ」と語っていました。

これを、かなり物騒な発言とするむきもありますが、これはプーチンに対してかなりの牽制になりますし、核ミサイルでなくて、通常のミサイルを搭載する攻撃型原潜を派遣しても、ロシア側にとってかなりの脅威となるでしょう。

何しろ、米国の攻撃型原潜でも大型のオハイオであれば、巡航ミサイル・トマホークを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。無論、その他にも魚雷、防空ミサイルも搭載しています。

このような攻撃型原潜を、2〜3隻黒海でも配置すれば、巨大なミサイル基地が即座にできあがり、米国のインテリジェンスンスに基づき、ロシアの軍事拠点を攻撃をすれば初戦でロシア軍は崩壊していたかもしれません。

今後の軍事研究の発展のためにも、ミサイル巡洋艦「モスクワ」の撃沈が、ウクライナのミサイルによるものだったのか、公表していただきたいものです。

それにしても、今回の「モスクワ」の沈没、ウクライナ側の発表が正しかろうが、正しくなかろうがロシア軍にとっては大打撃であることには変わりはないです。過去の日本の例でいえば、開戦2ヶ月目にして、連合艦隊の旗艦「大和」が沈んだようなものです。ロシア軍の士気の低下は免れないと思います。

ミサイル巡洋艦「モスクワ」

モスクワは、ロシア軍が3隻しか保有していない大型巡洋艦の1隻です。搭載する防空ミサイルシステムS300でウクライナ軍の戦闘機や無人機をけん制し、南部一帯での部隊展開を支えてきました。黒海艦隊は、ロシアにとって重要な標的である港湾都市オデッサなどの攻略を目指していました。

ところが独立系メディア、メドゥーザによると、ロシア軍はモスクワを失ったことで、残る部隊をウクライナ軍の攻撃から防ぐ能力が著しく衰える恐れがあります。ロシアとウクライナの交戦を理由に、トルコが黒海への軍艦の侵入を制限しているため、ロシアが地中海経由で代替の巡洋艦を派遣することも難しいです。

侵攻以降のロシア軍の被害も甚大とみられます。ウクライナ国防省は15日、ロシア軍の死者が「2万人を突破した」と発表。ロシア側は最新の死者数を1300人余としていますが、契約軍人を募るキャンペーンを強化するなど、実際は兵力不足が深刻な可能性が高いです。

こうした状況の中、ロシアの政権与党幹部は15日「軍事作戦は間もなく完了する」と同国メディアに強調。5月9日の対独戦勝記念日に合わせた「勝利宣言」名目で、プーチン大統領が幕引きを図る可能性も大いにありそうです。

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2022年3月29日火曜日

米、ロシアより中国対応優先 新国家防衛戦略の概要発表―【私の論評】米国がロシアよりも中国への対峙を優先するのは、正しい(゚д゚)!

米、ロシアより中国対応優先 新国家防衛戦略の概要発表

米国防総省(通称ペンタゴン)

 米国防総省は28日、バイデン政権で初となる国家防衛戦略(NDS)の概要を発表した。戦域としてまずインド太平洋における中国への対応を優先し、続いてウクライナに侵攻したロシアの挑戦に対処する姿勢を明確にした。必要に迫られた紛争で勝利する備えをしつつも、米国や同盟国への戦略的攻撃や侵略行為の抑止を最重視するとした。

 国防総省は同日、機密扱いの国家防衛戦略を議会に送達した。今回初めて「核態勢見直し」(NPR)と「ミサイル防衛見直し」(MDR)を組み込む形で戦略見直しを総合的に実施。機密扱いではない国家防衛戦略は近く公表する。

 戦略は、中国が軍事・経済・科学技術など複数の領域で突きつける脅威に対処し、国土を防衛することを最優先事項とした。

 一方、ロシアも「重大な脅威」とし、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国と協力して頑強な抑止を敷く。北朝鮮、イラン、他の過激派組織を含む脅威に対処する能力も維持するとしている。

  トランプ前政権の2018年国家防衛戦略では、中露2大国との紛争に同時に対処する従来の「二正面作戦」から、各地における脅威を抑止しつつ一大国の侵略に打ち勝つ構想へと修正したが、ヒックス国防副長官は同日の記者会見で、この路線を「本質的に継続する」と語った。

【私の論評】米国がロシアよりも中国への対峙を優先するのは、正しい(゚д゚)!

ロシアより中国対応優先というバイデン政権の姿勢については、すでに予兆がありました。それは、このブログでも何度か述べたように、バイデン政権初の「アジア太平洋戦略」においてはっきりしていました。それについては、このブログにも述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
ロシア艦艇24隻を確認 日本海・オホーツク海―【私の論評】バイデン政権に完璧に無視されたロシア太平洋艦隊(゚д゚)!

極東に新しく配属されたボレイ型原子力潜水艦「ウラジーミル・モノマフ

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分のみを引用します。

最新の「インド太平洋戦略」にロシアという文言が一言もないというのが、現在のバイデン政権の考えを雄弁に語っていると思います。いくらプーチンが去勢をはってみたところで、いまや一人あたりのGDPが韓国に大幅に下回るロシアにできることは限られています。インド太平洋地域におけるバイデン政権の最優先課題はやはり、中国なのです。

そうして、この戦略には「日本」という言葉は2度でてきます。以下にその部分だけを引用します。
  • オーストラリア、日本、韓国、フィリピン、およびタイとの 5 つの地域条約同盟をさらに深める。
  • 拡大抑止と韓国・日本の同盟国との連携の強化、朝鮮半島の完全な非核化の追求 
バイデン政権としては、日本をはじめとする同盟国等も米国が中国と対峙するための支援を惜しまないでほしいと願っているのでしょう。

こうした中で、ロシアを囲い込みに協力している日本は、米国に対してかなり貢献しているといえるでしょう。その安心感もあって、戦略のなかに「ロシア」という文言は一言も出さなかったのでしょう。冷戦時と比べれば、隔世の感があります。 

ロシア囲い込みとは、日本の対潜哨戒等によるロシア原潜の実質上の囲い込みです。潜水艦の行動は昔から、各国とも公表しないのが通例であり、海自もこれをあまり公表しないので、日本国内でもあまり知られていないようです。

日本は、冷戦中に米国の要請を受け、対潜哨戒機を大量に購入して、オホーツク海におけるロシア原潜の行動の監視を強化しました。これで、実質的にロシア原潜の囲い込みに成功し、米国の冷戦勝利に大きく貢献したとともに、日本の対潜哨戒能力は米国と並び世界のトップクラスへと飛躍的に向上しました。

この哨戒活動は今でも続いています。これは、さらに強化され、日本は現在潜水艦22隻体制をを構築し、オホーツク海方面での、ロシア原潜の動きに目を光らせいることでしょう。

バイデン政権初の「アジア太平洋戦略」は2月11日に公表されています。2月22日、バイデン大統領は、プーチンがウクライナ東部への派兵の意向を表明したことを受け、「これはロシアのウクライナ侵攻の始まりだ」と述べ、ロシアに対する制裁を発表しています。

2月11日にはすでにロシアがウクライナに侵攻する兆候を掴んでいたと思います。にもかかわらず、「アジア太平洋戦略」には、「ロシア」という文言が一つもないのです。

これは、バイデン政権の中国への対峙を優先するという意思の現れであり、それは妥当であると考えられます。

名目GDPを見ると、10年時点で中国は6兆338億ドル、ロシアは1兆6331億ドル。その後、中国は右肩上がりで成長線を歩んでいますが、ロシアは停滞し、成長さえ果たしていません。

 20年には中国が14兆8867億ドル、ロシアは1兆4785億ドルと、その差は4倍から10倍にまで膨らんでいます。コロナ禍の20年には1人当たりGDPでもロシアは中国にとうとう抜かれてしまい、どちらがシニアパートナーで、どちらがジュニアパートナーかは火を見るより明らかだからです。

ちなみに、現在一人あたりのGDPは中国がロシアを追い越したとはいえ、さほど変わりはありません。そうして、人口はロシアは1億4千万人、中国は14億人であり、丁度ロシアの10倍です。人口比で10倍であり、GDPも10倍ということなのです。それを考えると、中国も人口が多いだけで、経済的に恵まれているとは言い難いです。


ロシアの経済規模は約150兆円で世界10位前後に位置しますが、中国の10分の1、日本の3分の1。国民1人当たりGDPは約120万円で、中国やマレーシアと同水準です。また、経済制裁により、今後のロシア経済は2桁以上のマイナス成長は避けられないとみられます。

ただ、中国共産党はそれでも軍事や他国に介入するなどの資金は、ロシア政府に比較すれは潤沢に得ることができます。

両国ともランドパワー国であり、中露の海軍力は一般に考えられているよりも、はるかに能力が低いです。特に、ASW(対潜戦)においては、日米をかなり下回り、海戦においては勝つことはできません。

しかし、だからといって安心できるわけではありません。特に、中国は豊富な資金力をもって、貧しい国や市民社会が不安定な社会に対して介入することができます。これと軍事力やその他をあわせたハイブリッド戦を展開することができます。これは、現在のロシアにはあまりできないことです。

ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアとウクライナの関係だけの問題ではありません。これは、ロシアによる戦後秩序の破壊行為の一環とみるべきなのです。

世界は第2次世界大戦の終結から現在まで、基本的には「自由主義的世界秩序」に支えられてきました。この秩序は民主主義、自由、人権、法の統治、自由経済などを基盤とし、米国の主導で構築され運営されてきました。

ところが、この世界秩序は、ソ連崩壊から30年経った今、中国とロシアの挑戦により崩壊の危機を迎えるにいたったのです。

中国は南シナ海、東シナ海へと膨張し、東アジア全体に覇権を確立して、同地域の他の諸国を隷属化しようしています。ロシアはクリミア併合に続くウクライナ侵攻に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっています。両国はその目的のために軍事力の行使を選択肢に入れています。

中国とロシアの軍事的な脅威や攻撃を防いできたのは、米国と同盟諸国が一体化した強大な軍事力による抑止でした。

ところが、近年は米国の抑止力が弱くなってきました。とくにオバマ政権は対外的な力を行使しないと宣言し、国防費の大幅削減で米軍の規模や能力はすっかり縮小してしまいました。それが、米国の降参ともいえるような、アフガン撤退や、今回のロシア軍によるウクライナ侵攻に結びついた面は否めません。

犬を抱くウクライナ女性兵士

その結果、いまの世界は中国やロシアが軍事力を行使する危険性がかつてなく高まってきたといえます。そうして現実にロシアのウクライナ侵攻が起こってしまったのです。武力行使による膨張や現状破壊を止めるには、軍事的対応で抑止することを事前に宣言するしかないのです。

そうして、ロシアより中国のほうがはるかに強大であり、ロシアを制裁して、経済を弱らせて何もできないようにしたとしても、中国が今のままであれば、何も問題は解決しません。中国との対峙こそが、最優先課題なのです。

これは、米国にとってもそうですが、日本にとってもそうです。その意味では、米国がロシアより中国対応優先するのは正しいです。優先順位を間違えるべきではありません。日本も優先順位を間違えるべきではありません。

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