2019年1月27日日曜日

米国務長官、タリバンとの協議で「進展」 米軍のアフガン撤収に「真剣」―【私の論評】ドラッカー流マネジメントの観点からも、戦略的な見方からも、米国が中国との対峙を最優先する姿勢は正しい(゚д゚)!


ポンペオ米国務長官のツイート

ポンペオ米国務長官は26日、アフガニスタン情勢に関しツイッターで「米国は和平を追求し、アフガンが今後も国際テロの空間とならないようにするとともに、(米軍)部隊を本国に帰還させることを真剣に考えている」と述べ、将来的にアフガニスタン駐留米軍を順次撤収させていく考えを示した。撤収開始の時期などについては明らかにしなかった。

 米国のハリルザド・アフガン和平担当特別代表は21~26日にカタールのドーハでアフガンのイスラム原理主義勢力タリバンと和平協議を実施。現地からの報道では、双方は米軍撤収に関し一定の合意に達したとされるが、ポンペオ氏は「協議では和解に関し重要な進展があった」としたものの、米軍撤収に関する合意には言及しなかった。

米国のハリルザド・アフガン和平担当特別代表

 ポンペオ氏はまた、和平に関し「アフガン政府および全ての関係当事者と一緒に取り組んでいる」と指摘。「米国はアフガンの主権と独立、繁栄を目指す」とも語り、不完全な合意で情勢を不安定化させないよう慎重に協議を進める立場を打ち出した。

 一方、ハリルザド氏もツイッターで「近く協議を再開する」とした上で、「多くの取り組むべき課題が残されている。関係当事者間の対話と包括的停戦を含む全ての課題で合意できなければ合意にはならない」と強調した。

 ロイター通信などによると、今回の協議では和平合意が成立してから16カ月以内に米軍がアフガンから撤収を始めることで一致したとされるが、ハリルザド氏の発言は米軍撤収の議論が先行することにクギを指す狙いがあるとみられる。

【私の論評】ドラッカー流マネジメントの観点からも、戦略的な見方からも、米国が中国との対峙を最優先する姿勢は正しい(゚д゚)!

米国とアフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)は26日、17年以上にわたるアフガン紛争の終結を目指す和平協議で、いくつかの争点が残っているものの、大きく前進したと発表しました。

米国のザルメイ・ハリルザド(Zalmay Khalilzad)アフガン和平担当特別代表はカタールで、タリバンの代表団と6日間という異例の長さの和平協議を行っていました。ハリルザド氏はアフガン生まれ。ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)元米政権下の外交で重要な役割を果たしました。

ハリルザド氏はツイッター(Twitter)に「ここでの協議は、これまで行われてきたものよりも実りが多かった。重要な諸問題で著しい進展があった」と投稿しました。アフガンとその重要な近隣諸国で協議を行ってからカタール入りしたハリルザド氏は協議後、アフガンの首都カブールに戻り、今回の協議の成果について説明することになっています。

合意案の詳細は明らかにされていないですが、タリバンが外国の過激派をかくまわないと保証することと引き換えでの米軍撤収も含まれているとの観測が出ています。米軍事介入のそもそもの原因は、タリバンが外国過激派をかくまったことでした。

タリバンのザビフラ・ムジャヒド(Zabihullah Mujahid)報道官は、協議で「進展」があったと認める一方、停戦やアフガン政府との協議に関する合意があったとの報道は「事実ではない」と述べました。

タリバンのザビフラ・ムジャヒド(Zabihullah Mujahid)報道官

しかし、タリバンのある幹部は協議後、匿名を条件にパキスタンからAFPの電話取材に応じ、「米国はわれわれの要求の多くを受け入れた。双方は重要な点に関してかなりの合意に達した」「まだ意見の一致を見ていない問題で妥協点を見いだす努力が続いている。アフガン政府も関与している」と述べ、協議の先行きに楽観的な見方を示しました。

米国はアフガニスタンからも撤退しそうですが、ではなぜこのようなことを米国はするのでしょうか。これには、様々な憶測が飛び交っていますが、私はやはりトランプ氏の意向がかなり反映していると思います。

長い間企業家の道を歩んで、失敗や成功を数々積み重ねてきたトランプ氏は、既存の政治家や、軍人とは異なる考え方をします。その最たるものは、物事に優先順位をつけるということでしょう。

経営学の大家であるドラッカー氏は優先順位について以下のように語っています。
いかに単純化し組織化しても、なすべきことは利用しうる資源よりも多く残る。機会は実現のための手段よりも多い。したがって優先順位を決定しなければ何事も行えない。(『創造する経営者』)
トランプ政権にとって最大の優先課題は、やはり中国です。中国の体制を変えるか、体制が変えられないなら、経済的に他国に影響を与えることができないほどに中国の経済を衰退させることです。

経済の指標としては、現在のロシアあたりを念頭においているかもしれません。ロシアの現在のGDPは最新の統計では韓国と同程度の規模です。そうして、これは東京都と同程度の規模です。

これでは、いくらロシアのプーチンが力んで見せても、どうあがいても米国の敵ではありません。最早、NATOともまともに対峙することはできないです。ただし、旧ソ連からの核兵器や軍事技術などを引き継いでいるのは現ロシアなので、その点では確かに侮ることはできないですが、GDPがこの程度の規模のロシアには、できることは限られています。

とはいいながら、やはりロシアは侮れません。油断すれば、米国はウクライナでの失敗を繰り返すことになります。

ロシアと中国の両方と対峙するべきと主張していたのが、先日国防長官を辞任したマティス氏です。

しかし、考えてみてください、中国とロシアの両方に対峙し、さらにアフガン、シリア、イラクなどで戦っている状況は、優先順位というものを考える人間からすると、これでは戦える戦も負けてしまうと考えるのが普通です。これは、戦中の日本を彷彿とさせます。

トランプ氏は、実際に米国の大統領の立場に立ち、米国の軍事力や経済力の現実を知り、その上で今一度米軍の安全保障政策をみると、実務家のトランプ氏はこれでは到底、米国はいずれの戦線でも勝つことはできないと考えたに違いありません。

いまや世界で唯一の超大国米国にも、限界があります。第二次世界大戦時には米国も総力戦となり、米国だけではなく、多数の連合国とともに戦いました。だから、ドイツと日本と同時に戦うことができました。しかし、現状はそのようなことはなく、ほとんどが米国の負担によってすべての戦線で戦わければならないのです。

それは、到底不可能で、現状のままであれば、米国は勝てる戦争にも勝てないとトランプ氏は考えたのでしょう。だからこそ、先日はシリアからの撤退を決めたのです。そうして、今度はアフガニスタンからの撤退を決めたのでしょう。

ドラッカー氏

ドラッカー氏は優先順位について、さらに以下のように語っています。「誰にとっても優先順位の決定は難しくない。難しいのは劣後順位の決定。つまり、なすべきでないことの決定である。一度延期したものを復活させることは、いかにそれが望ましく見えても失敗というべきである。このことが劣後順位の決定をためらわせる」。

トランプ氏はシリア問題やアフガニスタン問題に関しては、劣後順位が高いと考えたのでしょう。

シリアについては、以前もこのブログで述べたように、反政府勢力が勝っても、アサド政権側が勝っても米国に勝利はありません。反政府勢力が、米国の味方などという考えは間違いです。もし反政府戦力が勝てば、反米政権を樹立するだけです。

このあたりについては、他の記事で挙げています。一番下の「関連記事」のところにリンクを掲載しておきますので、興味のあるかたは当該記事をご覧になってください。

この混乱したシリアに関しては、トルコがこれに介入すると名乗りをあげたので、トランプ氏としてはトルコに任せるべきと判断したのでしょう。そうして、イラクには米軍を駐留させ続けながら、シリアからは撤退する道を選んだのでしょう。

アフガニスタンに関しては、17年間も紛争が続いているのにもかかわらず、未だに米国は勝利を収めていません。これ以上米軍が関与しても、米国が勝利を収めることはできないでしょう。もっと上位の問題を解決しないとこの紛争は本質的に解消しないとトランプ氏は考えたのでしょう。であれば、暫定政権を支援しつつアフガニスタンからは撤退すべきなのです。

優先順位の分析については多くのことがいえます。しかしドラッカーは、優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気だといいます。彼は優先順位の決定についていくつかの原則を挙げています。そしてそのいずれもが、分析ではなく勇気にかかわる原則です。

 第一が、「過去ではなく未来を選ぶこと」である。 

 第二が、「問題ではなく機会に焦点を合わせること」である。

 第三が、「横並びでなく独自性を持つこと」である。

 第四が、「無難なものではなく変革をもたらすものに照準を当てること」である。

そうして、ドラッカー氏は、優先順位について以下ような結論を述べています。
容易に成功しそうなものを選ぶようでは大きな成果はあげられない。膨大な注釈の集まりは生み出せるだろうが、自らの名を冠した法則や思想を生み出すことはできない。大きな業績をあげる者は、機会を中心に優先順位を決め、他の要素は決定要因ではなく制約要因にすぎないと見る。(『経営者の条件』)
今一度、アジア情勢でこの結論をあてはめてみると、米国にとって最大の機会は、中国の覇権主義を封じることです。今や一人あたりのGDPはまだまだの水準ですが、国としてGDPは中国は世界第二の水準になりました。これについては、実際ははるかに小さくてドイツ以下であろうとみるむきもあります。

ただし、それが事実であろうが、なかろうが、ロシアなどよりははるかに大きく、現在は米国が問題を抱える国としては、中国が最大です。

であれば、中国との対峙を最優先にあげることは、ドラッカー氏の結論にも適合しています。そうして、中東の問題や、北朝鮮、韓国の問題なども、そうしてロシアの問題もこの優先順位の高い中国の対峙という問題に比較すれば、決定要因ではなく制約要因にすぎないと見るべきなのです。

実際、中国の問題が解消できれば、北朝鮮問題や韓国の問題など簡単に解決できるでしょう。ほとんど何もしなくても半自動的に解消されるかもしれません。ロシアとの問題も解消できるかもしれません。

米国が、第一次冷戦ソ連に勝利し、第二次冷戦でも中国に勝利すれば、ロシアは米国に対峙することはためらうことでしょう。それよりも良好な関係を継続したいと考えるようになるでしょう。

その後は、ロシアか中東が米国にとっての最優先課題になるのかもしれません。しかし先にも述べたように、ロシアは今やGDPは東京都より若干少ない程度ですし、中東諸国もそのロシアよりも下回る程度に過ぎません。

こうして、考えるとやはり米国が中国との対峙を最優先するのは当然のことです。そうして、超リアリストの 政治学者であるミアシャイマー氏やこのブログにも度々登場する、世界一の戦略家ともいわれるルトワック氏は、 「ロシアと組んで中国を封じ込めろ」と主張しています。

ミアシャイマー氏

そして、ルトワック氏は、米ロが直でつながるのは難し いので、 「日本が米国とロシアをつないでくれ」 といっているのです。 そして、彼は日本がロシアに接近することを勧めています。 ロシアとつながることが、日本がサバイバルできるかどう かの分かれ目だととも語っています。

安倍総理がプーチンとの会談を重ねているのも、領土問題そのものよりも米国とロシアとの橋渡し役が多いのかもしれません。米国といえども中国とロシアを同時には戦えません。そのためにはロシアと中国を組ませない工作が必要です。シリアからの撤退もその一つかもしれません。

このように経済学の大家ドラッカー流の考え方でも、国家戦略の大家からみても、やはり米国は中国との対峙を最優先として、他の要素は決定要因ではなく制約要因にすぎないと見るべきなのです。

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2019年1月26日土曜日

韓国「救助」主張の北漁船は『特殊部隊用』か レーダー問題で軍事専門家が衝撃解析 ―【私の論評】なぜ米国はレーダー照射問題に無関心なのか、その背後に何が?

韓国「救助」主張の北漁船は『特殊部隊用』か レーダー問題で軍事専門家が衝撃解析 

韓国“暴挙”海自機にレーダー照射

軍事アナリストの西村金一氏

 韓国による「理不尽な言いがかり」の背景として、韓国海軍の駆逐艦による火器管制用レーダー照射問題の「論点ずらし」を狙っている可能性が高い。こうしたなか、韓国側が救助活動をしていたという“北朝鮮漁船”への疑問が強まっている。アンテナの形状などから、軍事専門家は「軍や特殊部隊が使用する船舶」との疑いを強める。日米情報当局も「北朝鮮工作船と酷似している」と分析。文在寅(ムン・ジェイン)政権は、一体何を隠しているのか。

 衝撃の解析をしたのは、元防衛省の情報分析官だった軍事アナリストの西村金一氏。夕刊フジで「北朝鮮漁船は、朝鮮人民軍や工作機関所属の可能性がある」と語っていた(10日発行)が、さらに解析を進めて、新たな事実を発見した。

 北朝鮮船には、前方と後方にそれぞれ3~4メートルのマストがあり、イカ釣り用とみられる電球が並んでブラ下がっていた。実は、その上に「モールス通信用とみられるケーブル」が架かっていたのだ。漁船の装備を偽装した“特殊アンテナ”といえる。

TV番組で「モールス通信用とみられるケーブル」を指摘する西村氏のボールペンのペン先

 西村氏は「こうしたアンテナは、普通の北朝鮮漁船には見られない。一般の音声通信だと50~70キロ先までしか届かないが、『トントン、ツーツー』と長さが違う符号を組み合わせたモールス通信を使えば、少なくとも1000キロ先まで届く。北朝鮮船が、軍や特殊部隊が使用する工作船の可能性がさらに高まった」と語った。

 北朝鮮は2001年12月、鹿児島県・奄美大島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に、中国漁船を偽装した不審船を侵入させ、海上保安庁の巡視船に発見された。銃撃戦の末、不審船は自爆沈没した。日本が船を引き揚げて調べたところ、「北朝鮮の工作船」と判明した。

 西村氏は「あの事件以来、北朝鮮はより本物の漁船のように偽装した工作船を出してきている。今回が、まさにそうだろう。工作機関の司令部がある、北朝鮮北東部の清津(チョンジン)か、東部の元山(ウォンサン)の所属ではないか」と語った。

 救難信号(SOS)の疑問もある。

 日本のEEZ内でありながら、自衛隊も海保も北朝鮮船のSOSを受信していない。それなのに、北朝鮮や韓国から約500キロも離れた現場海域に、韓国海洋警察の警備艇と、韓国海軍駆逐艦が集合していた。

 西村氏は「普通の漁船なら、SOSに音声や有線通信を使うはずだが、使用した形跡がない。加えて、あれだけ広い海域で、レーダーにも映らない北朝鮮船の位置がピンポイントで分かり、所属が異なる海洋警察と海軍の船が同時に集まったのも尋常ではない。北朝鮮船が、暗号化されたモールス通信で本国に救助要請し、ハイレベルのルートから韓国側に救助依頼した可能性が高いのではないか」と分析した。

 工作船とみられる北朝鮮船は、日本のEEZ内で何をしていたのか。韓国がもし、北朝鮮の工作船をひそかに救助したとすれば、同盟国・米国や、国際社会に対する説明責任を果たさなければならない。


【私の論評】なぜ米国はレーダー照射問題に無関心なのか、その背後に何が?

工作船とみられる北朝鮮船が、日本のEEZ内で不穏な動きをみせ、それに韓国海軍が何らかの関わりを持っているかもしれないこと自体については、十分にあり得ることだと思います。

最近のなりふり構わない韓国の北朝鮮への擦り寄り姿勢をみていれば、何らかの形で韓国が北に恒常的に支援をしていて、それが今回たまたま露見しそうになったのでレーダー照射という事態になったことは十分にあり得ることです。

それよりも、私が気になるのは、これだけ徴用工問題やレーダー照射で日韓関係がかなり悪いのに、それに対していまのところ米国が何の動きも見せていないことです。

過去においては日韓関係が大きくこじれると、米国が調停役として振る舞ってきました。記憶に新しいところでは2014年。歴史問題をめぐる軋轢から両国首脳が1年以上も会談していないことを見かねたオバマ政権が仲介し、安倍晋三首相と朴槿恵(パク・クネ)大統領の会談を実現させました。翌15年末には、いわゆる慰安婦問題をめぐり深刻化した日韓対立の仲裁に入り、慰安婦合意を締結させました。

安倍晋三首相と朴槿恵(パク・クネ)大統領の会談を実現させた米国オバマ大統領

米国が日韓の外交問題に介入してきたのは北朝鮮問題があったからです。中国(とロシア)を支援国とする北朝鮮と対峙するために、米国は日韓とスクラムを組む必要があったのです。91年にアジアを外遊したベーカー国務長官は、チェイニー国防長官に宛てた外電で「対北朝鮮政策において米国と同じ方向性を維持させるために、日本と韓国を仲介するという重要な役割がある」と述べています。

ところが、トランプ政権が従来の外交路線を一転させてから潮目が変わりました。北朝鮮の金正恩党(キム・ジョンウン)委員長と直接対話するなど自己流の外交を進めるトランプは、かつての米政権ほど日米韓の同盟を重要視していないようです。特に韓国は、重要視していないようです。

実際、徴用工やレーダー照射問題で日韓対立が深まってもトランプ政権から表立って懸念の声は聴かれていません。歴史問題ならまだしも、軍事問題でもだんまりを決め込むあたり、無関心ぶりは本物かもしれないです。

この無関心ぶりは一体どこから来ているのでしょうか。私は、やはり最近の米国の対中国冷戦に関係していると思います。

米国からすれば、北朝鮮問題など中国との対峙と比較すれば、小さなものであり、大きな枠組みでの問題を解決するにおいては小さな従属関数にすぎないのでしょう。

中国との対峙に勝利を収めれば、北朝鮮問題などすぐに解決すると踏んでいるのでしょう。さらに、日韓の問題などとるに足りない些細な出来事と見ているのでしょう。

それと、以前からこのブログに掲載しているように、トランプ政権自体が北朝鮮や韓国の見方を変えたのだと思います。

かねてから、中国に従属しよう、北朝鮮に擦り寄ろうとする韓国については、トランプ政権は最早米韓同盟は形骸化したとみなしているのでしょう。

一方北朝鮮に関しては、従来は核で米国を脅かす存在と考えていたのでしょうが、ある事実に気づいたのでしょう。

それは、以前からこのブログに掲載してきたように、北の核が中国の朝鮮半島への浸透を防いできたという事実です。このブログにも掲載してきましたが、韓国とは異なり北は反中もしくは嫌中であり、中国から完全独立することを希求しています。

韓国は日米にとって安全保障上は空地としてか意味をなさなくなった

もし、北が核開発をしていなければ、いくら反中嫌中であったにしても、ずいぶん前に完璧に中国に浸透され、金ファミリーは中国のいいなりなっていたか、最悪滅ぼされて中国の傀儡政権が権力を握っていたかもしれません。

この傀儡政権は、やがて韓国を飲み込んだかもしれません。そうなると、半島全体が中国の覇権の及ぶ地域となり、半島全体が日本や台湾などの周辺地域に浸透するための前進基地になったかもしれません。

ところが、この事態を北朝鮮が事実上回避しているのです。北朝鮮の核は、中国にとっても大きな脅威なのです。中国が北に本格的に侵攻する構えを見せたり、北に本格的に傀儡政権を作ろうという動きをみせれば、北は核兵器によって中国に報復することができます。

ただし、北が中国に報復ということにでもなれば、北は確実に中国によって葬り去られることになるでしょうから、北としては、ありったけの核を中国に打ち込むことになるでしょう。中国の主要都市である重慶市、上海市、北京市、成都市、天津市、広州市、保定市、、蘇州市、深セン市などは標的になるでしょう。北京は火の海になるでしょう。中国はこれを恐れているため、北は中国から独立していられるのです。

この事実に気づいたトランプ政権は、現状の半島の状況を中国に対峙するには、ベストであるという考えに変わったのでしょう。

米国にとっては、韓国については何も期待していませんが、ただ中国に対峙するためには、朝鮮半島の南半分が中国にかなり浸透されているとはいえ、それでも一応独立国として安全保障上の空き地のような状態になっていることは望ましいです。

そうして、その空き地のすぐ北には、北朝鮮が控えているわけです。これでは、韓国があからさまに完璧に中国に従属しようと望んでも、中国はなかなかそれを実行に移すことは難しいでしょう。

そもそも、軍隊を送り込もうにも、陸続きではないので、軍隊は船で送らなければなりません。そうなると、遅れた現在の中国海軍は、米国などに簡単に駆逐されてしまいます。

トランプ政権がこのような見方をしているとすれば、韓国が北に制裁破りをするような行為は、余程のことがなければ、それは大局からみれば、どうでも良い些細なことに過ぎないのでしょう。

北は、韓国のように中国に従属することはしません。その意味では、現在の韓国は北の都合の良いように利用されているだけです。韓国がかなり大掛かりな支援をしない限り、米国はこれを放置するかもしれません。

ただし、北の核は米国も狙っていることは事実ですし、北は拉致問題や人権問題もあるのは事実です。また、金正恩は、叔父や血のつながった兄を殺した、人物でもあります。だからこそ、米国も未だ表立っては、北朝鮮を認めるようなことはできないのです。だからこそ、現在でも制裁を継続しているのです。

おそらく、次の米朝会談で、米国がどのような条件で北を認めるのかはっきりさせることでしょう。核の扱いについても、北の望む通りにはさせないでしょう。かといってすぐに核廃棄といえば、中国が喜ぶだけです。このあたりのバランスが難しいところです。

下手をすると、朝鮮半島は中国のものになってしまいます。中国を睨みつつ、核の廃棄方法や時期を明確にするでしょう。その内容により、トランプ政権はどのくらいの期間でどの程度中国を叩くつもりなのか、知ることができるかもしれません。その意味でも、次の米朝会談に注目です。

ただし、日本としては、将来的に空地の韓国が中国にそそのかされて、対馬に侵攻するなどということもあり得るかもしれないと覚悟すべきです。韓国が対馬奪取に成功することでもあれば、中国は尖閣や沖縄などに侵攻可能とみて、これらを本格的に奪取しにやってくるかもしれません。これらは、日本が独自に迅速に阻止しなければなりません。

そうでなければ、米国は日本も韓国と同じく安全保障上の空地とみなすようになるかもしれません。

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2019年1月25日金曜日

中国が台湾に仕掛ける「ハイブリッド戦」―【私の論評】TPP加入で台湾は大陸中国のような卑劣な手を使わずとも「ハイブリッド戦」に大勝利(゚д゚)!

中国が台湾に仕掛ける「ハイブリッド戦」

岡崎研究所

中国の最近の台湾政策は、非軍事面でのプロパガンダに重点を置く「ハイブリッド戦」(hybrid warfare)に移行しているようである。「ハイブリッド戦」とは、サイバー攻撃を含む各種圧力を意味している。もともと中国の台湾政策の中には「入島、入戸、入脳」というスローガンがある。これは「台湾島に入り、各家々に入り、人々の頭脳に入る」ということである。

台湾

 1月18日付け本欄『習近平が大々的に発表した「包OK括的な台湾政策」』で御紹介した通り、中国の習近平国家主席は年明け早々1月2日に行われた台湾政策に関する包括的な演説の中で、次の5つの柱を明らかにした。すなわち、(1)平和的統一、(2)一国二制度の導入、(3)一つの中国、(4)中台経済の融合、(5)同胞意識の促進、である。中国側は、軍事的・政治的・経済的圧力を掛けつつ、プロパガンダや偽情報で台湾人の人心を攪乱・掌握することを目指す「ハイブリッド戦」により、これらの目標の達成を追求していくことになろう。

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのイグネイシャスは、12月13日付けの同紙コラム‘China’s hybrid warfare against Taiwan’で、中国の台湾に対する「ハイブリッド戦」や台湾人の意識について報告しており、興味深い。同氏は、両岸関係の専門家や台湾当局者の話として、次のような点を紹介している。

ワシントン・ポスト紙コラムニストのイグネイシャス

・台湾人は長年中国の圧倒的な軍事力に直面してきたが、今や『母なる中国』に誘惑する中国側の努力がより洗練されてきていることも懸念しなければならない。それは、政府と市民社会の強い協力を必要とする挑戦だ。

・中国側は、ソーシャルメディア、新聞、テレビを通じてあらゆるビジネス、企業、労働者に「あなたが民進党を支持すれば台湾は罰せられるが、北京を助けるならば利益になる」と巧妙に働きかけている。

・平和的な統一を促進するため、中国は、台湾により親中的な政権ができるよう影響を与えようとするだろう。

・親中工作員が毎日Facebookなどのソーシャルメディアに何千もの偽情報を投稿している。

 11月24日の台湾での統一地方選において、蔡英文民進党政権は大敗を喫したが、その背後で中国が直接・間接に選挙に介入したことは間違いないと思われる。それがどのような形をとったかについては、種々想像される以上のことは明白ではない。それらが、イグネイシャスが指摘する通り、ソーシャルメディア、新聞、テレビなどを通じ「あなたが民進党を支持すれば、台湾に不利に働くが、北京を助けるならば利益になる」という巧妙な脅し方であったことは、十分に想像できる。

 今日の社会では、フェイク・ニュースの類が意外な影響を与えることがある。今日の台湾と中国の関係は、単にビジネスを通じるものばかりではなく、観光客、研究者、学生等種々の面での人的交流が強まっているので、台湾は中国による硬軟両様のハイブリッド戦の対象となりやすい。イグネイシャスは、蔡英文政権の関係者が今回の地方選挙を控え、「親中工作員が毎日、Facebookなどのソーシャルメディアに何千もの偽情報を投稿していた」と述べたとレポートしているが、あながち、誇張とは言えまい。

 他方、上記イグネイシャスの論説は、中台間の軍事的戦闘が両者の間で近く行われると思っている台湾人はほとんどいない、ということも指摘している。

 これまでの中国と台湾の軍事面での対立で代表的なものは、1996年の中国(江沢民政権下)による台湾周辺海域へのミサイル発射であった。(いわゆる「台湾海峡の危機」)。この危機的事態に対抗して、米国(クリントン政権下)は、第7艦隊の空母2隻を台湾海峡に急派し、中国の活動を阻止した。その時、中国は何もすることなく活動を停止したが、これは中国にとっての屈辱となり、その後の中国の軍事力拡大の原因ともなったと言われる。

 今日の中国は軍事的に強大化したとはいえ、公然と台湾に軍事的侵攻をおこなうことは、米国との間の直接的対決になるばかりではなく、国際的に見ても、中国にとって計り知れないほどのリスクを抱え込むこととなる。とはいえ、中国の戦闘機や爆撃機が、演習と称して、台湾海峡やその周辺で軍事演習をおこなう回数が着実に増えていることには引き続き警戒を要しよう。

 蔡英文自身の基本的立場については、「現状維持」を中心軸に据えながら、中国との関係を平和的で健全なものにすることに変わりはなく、台湾人の大多数がこの「現状維持」を支持している。1月14日、昨年の統一地方選挙での大敗の責任を取り頼清徳内閣は総辞職し、蘇貞昌が後継の行政院長となった。蘇貞昌は陳水扁政権下でも行政院長を務めたベテランであり、今回の再登板に際し、国民とのコミュニケーションを強化しながら円滑な政策推進をしていく、といった慎重な姿勢を表明している。

【私の論評】TPP加入で台湾は大陸中国のような卑劣な手を使わずとも「ハイブリッド戦」に大勝利(゚д゚)!

台湾は、中国からの浸透をなんとか防ごうとしているようですが、これを台湾だけが行うことは難しいです。やはり、他国の助けが必要です。そうして、その動きはすでにあります。

蔡英文総統は2日、中国の「台湾同胞に告げる書」発表40年式典で習近平国家主席が発表した談話に関し、断固として「一国二制度」を受け入れないとする台湾の立場を表明しました。欧州連合(EU)、英議会、欧州議会、ベルギー議会などが最近、蔡総統の談話内容を支持する発言を行っています。

断固として「一国二制度」を受け入れないとする台湾の立場を表明した蔡英文総統

2日の蔡総統の談話を受け、欧州連合の関係者は直ちに、台湾メディアの取材に対して、「欧州連合は台湾海峡両岸を含むアジア地域の安全、平和、安定を重視している。また、台湾海峡両岸関係の建設的な発展が、アジア太平洋地域の平和と発展のために重要な一環となると考える。過去2年間、台湾海峡両岸の関係は停滞しているが、欧州連合は現状維持と対話の再開、相互自制が極めて重要だと考える。欧州連合はいかなる対話、協力、信頼確立のための提唱にも賛成する。今後も台湾との関係を発展させるために尽力し、台湾と欧州連合が共有する価値観の拠りどころとなっているガバナンス・システムを支持する」などと発言しました。

これに続き、台湾との関係強化を目指す英国の超党派国会議員連盟「台英国会小組(The British-Taiwanese All-Party Parliamentary Group)」の共同代表を務めるナイジェル・エヴァンス(Nigel Evans)下院議員やデニス・ローガン上院副議長は今月10日、蔡総統を支持し、中国の指導者が掲げる「一国二制度」に反対する旨の共同声明を発表しました。共同声明は、台湾海峡に対するいかなる脅威や威嚇も無責任な行為であり、圧倒的多数の台湾人は「一国二制度」に強く反対していると強調するものでした。

ナイジェル・エヴァンス氏

この声明はまた、「台湾の民主主義は成熟しており、イギリスを含む各国と同様に、自由、人権の尊重、法治など普遍的価値観を共有している。台湾に住む2,300万人の住民の自由と民主主義に対するこだわりは尊重されるべきである。東アジアの繁栄と安定は国際社会と密接に関わっており、台湾海峡両岸がWHO(世界保健機関)やICAO(国際民間航空機関)でいずれも意見を表明できるようになることを望む」と指摘。さらに、台湾海峡両岸双方が話し合いと交渉によって、この地域の平和と安定を確保して欲しいと呼び掛けました。

ベルギー議会の親台湾派グループの共同代表者であるPeter LUYKX議員、Georges DALLEMAGNE議員、Vincent VAN QUICKENBORNE議員は今月10日、ベルギーのディディエ・レンデルス外務・欧州問題大臣宛てに、欧州議会の親台湾派グループのWerner LANGEN議員、Andrey KOVATCHEV議員、Hans van BAALEN議員、Laima ANDRIKIENE議員は今月14日、欧州連合外務・安全保障政策のフェデリカ・モゲリーニ上級代表宛てに、それぞれ連名で蔡総統の台湾海峡両岸関係に関する談話を支持する内容の書簡を送りました。いずれも、大多数の台湾人が「一国二制度」を拒否していることを強調。ベルギーあるいは欧州連合は台湾との関係を発展させるべきだと訴えるものでした。

そのうちベルギー議会の親台湾派グループの書簡は、ベルギー国会が2015年に採択した決議に言及。中国による台湾への武力行使は、台湾海峡及びアジア太平洋地域の平和と安定に損害を与えるものであり、これに強く反対すると主張しました。また、欧州連合や米ホワイトハウスも最近、台湾海峡両岸の平和と発展を支持する旨の発言を行い、台湾と中国の双方が速やかに話し合いを再開するよう呼びかけていると指摘しています。

また、欧州議会の親台湾派グループが欧州連合外務・安全保障政策のフェデリカ・モゲリーニ上級代表に宛てた書簡は、台湾海峡両岸の最近の動向が地域の平和と安定に与える影響について関心を寄せるよう呼びかけると共に、中国の習近平国家主席が掲げる「一国両制度」は香港で失敗しており、蔡総統及び大多数の台湾人がこれに明確に反対していると指摘する内容でした。いずれの書簡も、台湾に住む2,300万人の住民が自由と民主主義の価値観を守ろうとしていることについて、これを支持すると表明しています。

外交部(日本の外務省に相当)は、欧州連合など台湾と近い理念を持つ国々との関係を引き続き強化し、自由、民主主義、人権という価値観を共同で守っていきたいとの立場を改めて強調すると共に、各国からの声援を歓迎し、感謝すると述べています。

米国連邦議会下院は23日(米東部時間22日)、台湾が世界保健機関(WHO)にオブザーバーの身分で復帰できるよう支持する決議を採択しました。これに対して総統府は23日、米下院に感謝するニュースリリースを発表しました。内容は以下の通りです。
中国による台湾への圧力が続き、台湾は国際社会で苦境に立たされている。しかし、米国など理念の近い国々は台湾を支持し、協力する立場を表明し、台湾に住む2,300万人の人々の権益や福祉に関心を寄せている。全国民はこれに心より感謝している。国際社会の一員として、台湾は今後も米国の行政及び司法部門と緊密な協力関係を築き、より強力なパートナーシップを育み、国際社会の平和と安定や幸福のために貢献したいと考えている。
そうして、日本もこの動きに呼応して台湾を支援しています。

蔡英文総統は2017年6月、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加意欲を示した台湾に対して、日本の菅義偉官房長官が「歓迎したい」と台湾を支持する発言をしたことについて、自身のツイッターで大きな自信を得たとともに日本の支援を感謝すると投稿しました。

蔡総統のツイッターによると、米国を除く11カ国でのTPPへの参加意欲を示したことを受け菅官房長官は、記者会見で台湾の参加を支持する発言をしました。そこで、蔡総統はツイッターに、この発言で台湾はTPP参加への更に大きな自信を得ることができたことのほか、日本の支援に対し謝意を投稿した。

蔡総統のツイッターには日本経済新聞が報道した関連記事も掲載されていました。

日本経済新聞は同年6月26日、日本政府報道官、菅官房長官が記者会見で、TPPへの参加意欲を示した台湾に対して「歓迎したい」、「台湾やそのほか関心のある地域・国に対して、必要な情報を提供する」と発言したことを報道しました。

林全行政院長(首相)は、同年同月23日に日本経済新聞から受けたインタビューで、TPP11への参加意欲を表明していました。

このブログにも過去に掲載したように、TPPは中国に対する包囲網になるばかりではなく、米国が保護主義に走ることも牽制します。

そうして、中国はTPPには加入できません。なぜなら、TPPに入るために整っていなければならない諸制度などが中国では整っていませんし、それを整えようとすれば、中国は根本的な構造改革を迫られます。

しかし、台湾は他の先進国並に社会構造的にはTPPに入りうる体制になっているので、あとは足りない諸制度などを整えれば、十分入ることは可能です。

中国には入れないTPPに台湾が入ったとすれば、これは大きな意義があります。TPPにはなから入れない遅れた社会体制の中国が、TPPに入ることができる中国よりははるかに進んだ社会体制の台湾を取り込むことなど、全く矛盾しています。

本来ならば、台湾のような社会体制を大陸中国こそが取り込むべきなのです。それを長年中国共産党が阻止して、中国の遅れた社会構造は建国以来ほとんど変わっていません。これこそ、本当に異様で異常であるにもかかわらず、海外からの天文学的な投資があったからこそ、経済的に発展できたというのが真の中国の姿です。

各国の様々な支援とともに、台湾がTPPに入れば、台湾は中国のように卑劣な手を使わずとも「ハイブリッド戦」(hybrid warfare)に大勝利を収めることができます。

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2019年1月24日木曜日

密接になる日英、中国・北朝鮮に対処するために―【私の論評】韓国は日本にとって足手まといに、そんなことより日英同盟を一層強化せよ(゚д゚)!

密接になる日英、中国・北朝鮮に対処するために

岡崎研究所 

2019年1月10日、安倍晋三総理は、ロンドンにて、テリーザ・メイ英国首相と会談した。両首脳は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、海洋安全保障、質の高いインフラや通信インフラ分野等における日英協力の強化で一致した。同日、29項目にわたる「日英共同声明」が発出された。

日英新同盟記念絵葉書三越呉服店謹製(明治38年)

 日英両国は、2017年8月のメイ首相の訪日以来、英海軍艦艇の日本寄港等、日英間の安全保障分野での協力を推し進め、現在、両国は、「安全保障上の重要なパートナー」となっている。安倍総理は、「日英同盟」以来の密接な日英関係とも述べている。

 これを更に進めるため、今年の春、日本において第4回日英外務・防衛閣僚会合(「2+2」)を開催する予定である。今年前半には、英海軍艦艇「HMS モントローズ」の日本寄港が計画されている。これは、北朝鮮に関連する国際連合安全保障理事会決議の履行を支援するため、「瀬取り」を含む違法な海上活動を警戒監視するためである。同時に、海洋進出、海洋での軍事行動を活発化させている中国を牽制するためでもあろう。

 「質の高いインフラ」というのも暗に、中国の進めている「一帯一路」を批判しているとも考えられるし、「通信インフラ」での協力というのも、ファーウェイやZTE等中国の通信会社を政府の通信ネットから排除した米国にいち早く呼応した英国とそれに続いた日本との連携とも言えよう。

 今回発出された日英共同声明の第7項目には、次のような一文がある。「インド太平洋地域及び欧州において自衛隊及び英国軍の共同演習を増加する。我々は、将来のあり得べき交渉を見据え、日本国自衛隊と英国軍の共同運用・演習を円滑にするための行政上、政策上及び法律上の手続を改善する枠組みに引き続き取り組む。」すなわち、日英共同演習は、インド太平洋地域のみならず、欧州でも行う可能性がある。また、日英防衛協力を深化させるために、必要な立法や政策立案を両国が行うことを努力することを明記した。第7項目の末尾には、次のような記述もある。「将来の戦闘機及び空対空ミサイルに関する協力を探求する可能性を含め、将来の能力のため、防衛産業パートナーシップ及び政府間協働プロジェクトを進展させる。」日本は、新防衛装備移転3原則が制定されてからも特に具体的な案件が取り決められることはほぼなかったが、次世代戦闘機を含め、日英間の共同開発等、両国の防衛装備品協力への道が開かれた。太平洋を結ぶ日米同盟と、大西洋間の米英同盟を、さらに連携させるユーラシア大陸をまたぐ日英準同盟が形成されて行くのかもしれない。

 英国は、EUからの離脱・Brexitを控え、新たなパートナーを探していることは間違いない。特に、普遍的価値や利益を共有し、経済力等国力も近い相手が望ましい。日本も、厳しい北東アジアの環境の中で、日米同盟を基軸にしつつも、豪州、インド、英国、フランス等、新たな地平を広げたいと思っている。巨大化する中国や、核武装した北朝鮮、難しい交渉相手ロシア等に対処するには、自由民主主義、法の支配と人権等の共通の価値観を有する仲間を増やすことが、何よりの戦略外交と言えよう。

【私の論評】韓国は日本にとって足手まといに、そんなことより日英同盟を一層強化せよ(゚д゚)!

現代の世界は第一次世界大戦前と酷似しているという英国の歴史家は多いです。大国が衰退を始め、それに乗じて別の国家が膨張し、混沌と不確実性が世界中に蔓延しています。欧州では統合を率いてきた英国がEU(欧州連合)からの離脱を決めたのですが国会でこれが否決されています。ロシアはウクライナ領のクリミアを事実上併合、第二次世界大戦後初めて中東に軍事介入し、バルト海では軍の活動を活発化させました。

一方、アジアでは中国が南シナ海の島々に軍を駐屯させ、空母の建造を推進、太平洋の西部にまで海軍を展開させ、海のシルクロード構想のもと海洋進出を着々と進めています。

そして、米国は世界の警察官としての座から退くことを表明以来海外の紛争に関わることに消極的になっています。

こうした時代にあって、最も重要なことは同盟の相手を増やし、安全保障の傘を大きく広げることです。19世紀の英国の著名な政治家であり、2回にわたって首相を務めたヘンリー・ジョン・テンプルは1848年、英国下院での演説の中で、「英国には永遠の味方もいなければ、永遠の敵もいない。あるのは永遠の利益だけだ」と述べました。混沌とした時代の中で国家が生き抜くためには敵と味方を峻別し、堅固な戦略的自律を維持することだ、とテンプルは説いたのです。

そして、その言葉は現代の日本に対して同盟関係の再編を宿題として提起しています。

2017年8月30日、英国のテリーザ・メイ首相が日本を訪問しました。アジア諸国の歴訪でもなく、メイ首相はただ日本の安倍晋三首相らと会談するためにだけ、日本にまで出向いて来たのです。その目的は、英国と日本の安全保障協力を新たな段階に押し上げることにありました。

訪日のためだけにユーラシアを越えるほど、メイ英首相にとって日本との安全保障協力は重要だ

英国は1968年、英軍のスエズ運河以東からの撤退を表明しました。以来、英国はグローバルパワー(世界国家)の座から退き、欧州の安全保障にだけ注力してきました。ところが、その英国は今、EUからの離脱に大きく傾き、かつてのようなグローバルパワーへの返り咲きを目指しています。

そして、そのために欠かせないのが、アジアのパートナー、日本の存在です。日本と英国は第二次世界大戦前後の不幸な時期を除いて、日本の明治維新から現代に至るまで最も親しい関係を続けてきた。

「スエズ以東」に戻ってきた英国

日本の安倍首相とメイ首相は「安全保障協力に関する日英共同宣言」を発表し、その中で、「日英間の安全保障協力の包括的な強化を通じ、われわれのグローバルな安全保障上のパートナーシップを次の段階へと引き上げる……」と述べ、日英関係をパートナーの段階から同盟の関係に発展させることを宣言しました。

そして、「日本の国際協調主義に基づく『積極的平和主義』の政策と英国の『グローバルな英国』というビジョンにより」と述べ、英国がグローバルパワーとして、日本との同盟関係を活用して、インド太平洋地域の安定に関与していく方針を明確にしました。

この方針は、2017年12月にロンドンで開催された日英の外務・防衛担当閣僚会議、通称2プラス2に引き継がれ、両国間で詳細に協議されました。協議の後に発表された共同声明によれば、日英両国はインド太平洋地域の安定のため、英国が近く配備する予定の最新型空母をこの地域に展開させることや、北朝鮮の脅威に対して協調して対処すること、自衛隊と英軍との共同演習を定例化し、部隊間の交流を深めていくこと、さらに、将来型の戦闘機の共同研究を進めることなど23項目について合意しました。

昨年末にロンドンで開催された日英の外務・防衛担当閣僚会議

河野太郎外相は会談後の記者会見で、「英国がスエズの東に戻ってくることを大いに歓迎する」と述べ、英国のグローバルパワーへの復帰を強く促したのです。

このように2017年は日英の安全保障関係がパートナーの関係から同盟国の段階へと劇的に進展した年となりました。日英が互いを「同盟国」と公式に呼び合ったのは、1923年に日英同盟が解消して以来、おそらく初めてのことでしょう。ただ、多くの人にとっては日英関係が突然接近したかのように思えたことでしょうが、実はかなり以前から日英の安全保障面での接近は始まっていました。

例えば、英国政府と関係の深いシンクタンク、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は2012年1月、日英安全保障協力を側面支援するため、東京にアジア本部を開設し、活動を始めました。そして13年10月、英国からエリザベス女王の次男であるアンドルー王子を招聘(しょうへい)して、東京で初めての日英安全保障会議を開催しました。

この会議には日本から安倍首相が参加し、日本が英国との安全保障協力を強化していく方針を表明しました。この日英安全保障会議は、以後、ロンドンと東京で定期的に開催されています。

また、歴史的につながりの深い海上自衛隊と英海軍は、先達(せんだつ)を務めるように日英の部隊間の交流を活発化させました。15年2月、横須賀の海上自衛隊自衛艦隊司令部に英海軍から連絡将校が派遣され、常駐するようになりました。英海軍から連絡将校が派遣されるのはかつての日英同盟解消以来、初めてのことでした。

また、ソマリア沖で、海賊対策の任務に当たっている多国籍の海軍部隊、第151統合任務部隊(CTF−151)の司令官に海上自衛隊の海将補が着任するときは、慣例のように英海軍から補佐役として参謀長が派遣されるようになりました。

この動きは16年から一気に加速しました。10月、英空軍の戦闘機、ユーロファイターの部隊が日本の三沢基地に飛来し、航空自衛隊と共同訓練を行いました。米国以外の空軍戦闘機の部隊が、日本本土に展開して、自衛隊と共同訓練を実施したのはこれが初めてでした。

同じ時期、陸上自衛隊富士学校のレンジャーが英国のウェールズの基地で、英陸軍や米海兵隊の部隊といっしょに偵察活動の共同訓練を実施しました。17年5月には、陸上自衛隊、英陸軍、米海兵隊、それにフランス海軍が参加した日米英仏の共同演習も初めて実施されました。多国籍の演習ではあったが主導していたのは日英でした。

三沢基地から飛び立つ英空軍のユーロファイター。手前は航空自衛隊のF2

そして、18年、英国陸軍の部隊が日本の富士山麓の自衛隊演習場に派遣され、陸上自衛隊との初めての共同演習を行い、海上自衛隊と英海軍の対潜水艦共同演習も実施されました。
一方、こうした部隊間の交流を進めるための法整備も順調に進められ、17年1月、日英の部隊同士で互いの補給物資を融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)が結ばれたほか、部隊が相手国を訪問する際の法的地位を定めた訪問部隊地位協定(VFA)の締結についても現在、日英間で作業が進んでいる。
ランドパワーとシーパワーの必然的なせめぎあい

このように急ピッチで進む日英協力だが、「復活」とは言っても、厳密に言えば、かつての旧日英同盟とはその目的も構造もまるで違います。21世紀の世界にふさわしい新しいタイプのものです。

旧日英同盟はユーラシアのランドパワー(内陸国家)であるロシアが領域外に拡大しようとするのを、シーパワー(海洋国家)である英国と日本が連帯してこれを阻止しようとする軍事同盟であった。1902年に最初の条約が調印され、その後2回、条約が更新され、23年に解消されるまで、20年余りにわたって続きました。

当時の日本はロシアに対峙するため大陸への進出を果たしたいと考えており、ロシアが満州に関心を示していることを警戒していました。他方、英国もロシアが中国や中東地域へ進出を図ろうとしていることを警戒していました。しかし、当時の英国は南アフリカでの戦争に注力しており、アジアに力を注ぐ余裕がなかったため、新興国だった日本の力を借りる必要があったのです。

それは、日本にとって国際社会での日本の地位を高めるという効果が期待されましたし、事実、そのようになりました。04年に起きた日露戦争で日本が勝利すると、日本は史上初めて欧州を下したアジア国家として世界から注目を集めるようになったのです。ただ、その後、米国が日本の台頭を警戒するようになり、旧日英同盟は23年、解消しました。

日本が近代国家として初めて結んだ旧日英同盟が極東の新興国、日本をアジアの大国に押し上げ、日本の国際社会での地位を揺るぎないものにした歴史的意義は極めて大きいです。

これに対して、21世紀の新日英同盟は戦争に備える軍事同盟ではありません。海洋安全保障、テロ対策、サイバーセキュリティ、インテリジェンス、人道災害支援、平和維持活動、防衛装備品開発など、多様化する安全保障のあらゆる分野で包括的に協力し合う関係づくりを目指すものです。

それでは、日英が同盟を結び、安全保障面での協力を強化することは、世界の安定にとって、どのような意義があるのでしょうか。

東西冷戦時代から今日に至るまで、アジア太平洋地域では、米国を中心に、日本、韓国、フィリピン、タイ、オーストラリアがそれぞれ別個に同盟を結んでいました。それは「ハブ・アンド・スポークの同盟」と呼ばれ、米国が常にハブであり、スポークがその相手国でした。これに対して、欧州のNATOのように複数の国が互いに同盟を結び、協力し合う関係を、「ネットワーク型の同盟」と呼びます。

ハブ・アンド・スポーク同盟の最大の問題は、協力し合う相手が常に一国しかないために、国同士の利害が一致しない場合、機能不全に陥ることです。また、二国間の力のバランスに大きな差があると、弱い側が常に強い側に寄り添う追従主義に陥りがちであり、スポークの国は戦略的に自律するのが難しいです。そのため、2000年代以降、スポークの国同士の協力が急速に進展してきています。

具体的には、日本では安倍政権発足以来、政府の首脳陣がほとんど毎月のように東南アジア、南アジア、さらに欧州諸国に足を伸ばし、安全保障協力を拡大しようとしていますし、自衛隊も、オーストラリア、インドなどと定期的に共同の演習を実施しています。また、日米とオーストラリア、日米と韓国、日米とインドといった三国間での安全保障協力も進んでいます。米国との同盟関係を共有する国同士が個別に同盟関係を築き、米国との同盟を支えようとしているのです。

ただし、このようなネットワーク型の同盟には、NATOにとっての米英がそうであるように、コア(中軸)となる二国間関係が必要です。日英同盟はまさにそのコアになりえます。

以前にもこのブログでも掲載したように、日英はユーラシア大陸の両端に位置しているシーパワーであり、その安全のためにユーラシアのランドパワーを牽制(けんせい)する宿命を負っています。

日本は中国の海洋進出を警戒しているし、英国はロシアの覇権を抑え込んできました。英国はロシア、日本は中国と別々の脅威に対峙(たいじ)しているようにも見えますが、日本と英国は、ユーラシアというひとかたまりのランドパワーを相手にしているのであって、本質的には同じ脅威に対峙しているのです。

また、日英はともに米国の重要な戦略的パートナーです。日英はそれぞれ米国と深い同盟関係で結ばれ、情報や軍事、外交などあらゆる分野で深い協力関係にあります。つまり、日英が今、同盟関係に進もうとするのは歴史の偶然ではなく、地政学的な必然です。
英国は核保有国であり、国連安保理の常任理事国であり、米国と肩を並べる最強最大の情報機関を持ち、ロイターやBBCのような世界に影響力のある報道機関があり、国際石油資本を持ち、ロイズ保険機構のような世界の保険料率を決定する機能を持ち、さらに、世界の金融センターであるシティーを持ちます。日本が、このような国家と「同盟国」と呼び合える関係を築くことは極めて大きな国益です。
いずれTPPが日米英同盟を強化する
ただ、そこで重要なのは、日英共にその関係を既存の米国との同盟関係とどう調和させるかという問題です。そして、それは結局、日英米の三国による同盟関係の追求に発展するでしょう。それは覇権の三国同盟ではなく、新しい安全保障の枠組みとしての「平和と安定の正三角形」でなくてはならないです。そこにこそ、新日英同盟の本当の意味があり、それが実現すれば、日本の国際的地位と外交力は飛躍的に向上することになるでしょう。

他方、それは日本にとって、日米同盟だけに依存してきた現状から脱し、第二次世界大戦後初めて戦略的自律を手に入れることを意味します。日本は安全保障や外交面で常に独自性を問われることになるでしょう。

英国はNATO、EU、英連邦など多層的に同盟を維持し、これらを使い分けながら自律を維持してきました。日本も米国、英国との「正三角形」を軸に、アジア太平洋諸国との同盟をバランス良く組み合わせ、多層的に同盟を構築、運用しなくてはならないだろう。

そのためにも、日本は英国のTPP11加入を支援し、加入後は英国も含めたTPPが多いに繁栄するようにリードし、これによる中国包囲網を鉄壁にし、トランプ大統領の後の大統領がTPPに入ってもらうに仕向け、これによって日米英の同盟を鉄壁なものにしていくべきです。

TPPに米国が加入することと、日米英同盟が強化されることには、他のTPP加入国も賛成するでしょう。何よりも、中国や北朝鮮の脅威からTPP加盟国を守る心強い味方になります。

今でも北朝鮮に接近し、中国に従属しようとする韓国などにかまけている時ではありません。韓国の反日には他国が認める様々な客観的な反証データを提示しつつ、抗議は続けるものの、実質的に断交状態にすべきです。韓国は日本にとって足手まといになるだけです。韓国との関係が悪くなったとしても、日英の関係を更に強化することにより、日本の国際的地位と外交力は飛躍的に向上するのです。

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2019年1月23日水曜日

対中貿易協議、トランプ米大統領の態度軟化見込めず=関係筋―【私の論評】民主化、政治と経済の分離、法治国家が不十分な中国で構造改革は不可能(゚д゚)!

対中貿易協議、トランプ米大統領の態度軟化見込めず=関係筋

米中会談時に演説するトランプ米大統領。2017年11月に北京

複数の米政府当局者によると、トランプ大統領は米中貿易協議で成果を出し、株価を押し上げたいと考えているが、中国側が知的財産権の問題を含め、本格的な構造改革に踏み切らない限り、態度を軟化させることはないとみられる。

中国側が米国製品の輸入拡大を提案しても、それだけでは問題は解決せず、1月末に訪米する劉鶴副首相との協議でも構造改革が議題になる見通しという。

米政府は、中国が知的財産を盗んでおり、中国に進出する米国企業に技術移転を強制していると批判。中国側はそうした事実はないと反論している。

米政府は3月1日までに貿易協議で合意できなければ、2000億ドル分の中国製品に対する制裁関税の税率を10%から25%に引き上げる方針だが、関係筋によると、両国の隔たりは大きく、合意には構造問題の解決が不可欠という。

ある米政府当局者は匿名を条件に「まだ、我々の懸念が十分に対処されたと言える状況ではない」と指摘。対中強硬派のライトハイザー通商代表部(USTR)代表が率いる米国の交渉団は、貿易不均衡だけでなく、構造問題を重視しているとの認識を示した。

国家経済会議(NEC)のカドロー委員長も、ロイターに対し、技術の強制移転、知的財産権の侵害、出資制限が、トランプ政権の優先課題だと指摘。「大統領はこうした問題がいかに重要であるかを繰り返し表明している。大統領は譲歩しない」と述べた。

関係筋がロイターに明らかにしたところによると、トランプ政権は、協議の進展がみられないため、劉鶴副首相の訪米を控えた米中の通商予備協議を拒否した。

劉鶴副首相

フィナンシャル・タイムズ(FT)紙も、通商予備協議が拒否されたと報じたが、複数の米当局者は報道を否定。カドロー委員長はCNBCに対し、通商予備協議を巡る「報道は真実ではない」と言明した。

ホワイトハウスのウォルターズ報道官も「今月末の劉鶴副首相とのハイレベル協議の準備のため、接触を続けている」と述べた。

ただ、ある関係筋は「協議は進展しているが、文書化できる合意はまだ何も成立していないと認識している」とコメントした。

トランプ大統領は、株価への影響を意識し、協議が概ね順調に進んでいるとの見解を示している。19日にはホワイトハウスで記者団に「何度も協議を重ねており、中国との合意がまとまる可能性は十分にある。順調に行くだろう」と表明した。

ムニューシン財務長官は先月、中国が1兆2000億ドルを超える米国製品の輸入を確約したことを明らかにしたが、米当局者は「単なる『確約』で事が解決すると考えるのは、我々の過去の経験を見過ごしていると思える」とコメント。

米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所で中国問題を担当するスコット・ケネディ氏は、中国側は新法の制定などを通じて知的財産権の問題にすでに対処したとの考えを示唆しているが、米国側は満足していないとし、「今後の協議で、中国が知的財産の問題でさらに譲歩するのか、引き続き輸入拡大に軸足を置くのかがわかるだろう」と述べた。

カドロー委員長は「私に言えるのは、月末の劉鶴副首相との会談が非常に重要だということだけだ」と語った。

【私の論評】民主化、政治と経済の分離、法治国家が不十分な中国で構造改革は不可能(゚д゚)!

ペンス米副大統領は16日、「中国当局は国際ルールを無視している」と中国を再び非難しました。米ボイス・オブ・アメリカが17日報じました。

ペンス副大統領は同日、米国務省が開催した「駐外公使会議(Global Chiefs of Mission Conference)」で演説を行いました。副大統領は演説のなか、複数回にわたって中国当局に言及しました。

ペンス副大統領

「中国は近年、世界の安定と繁栄を半世紀にわたり維持してきた国際法とルールを無視してきた。米国としてはもう座視できない」

また、副大統領は、中国当局が「債務トラップ外交」と「不公平な貿易慣行」で影響力を拡大し、南シナ海で「攻撃的な行動」を取っていると批判しました。「すべての国は航行の自由と開かれた貿易取引ができるよう、米国は自由で開かれたインド太平洋を支持する」

ペンス副大統領は、中国当局が不公平な貿易慣行を改め、構造改革を実施すべきだと強調しました。昨年2500億ドル(約27兆円)相当の中国製品を対象にした追加関税措置を通じて、トランプ政権は「中国に警告した」と述べました。副大統領は今後、米中通商協議で中国当局が米中双方の利益にかなう改革に取り組まなければ、対中関税を引き上げると強調しました。

副大統領は会議に出席した米国の外交官に対して、中国当局やイスラム過激派テロ組織「ISIS」、イラン、キューバ、ベネズエラなどが「米国が過去半世紀にわたり守ってきた国際秩序を覆そうとしている」が、これに対抗するために「米国が戻ってきた」と述べましたた。過去の政権の外交・軍事政策を修正したトランプ政権は、「力による平和」の実現に注力し、米の軍事力を強化していくといいます。

劉鶴副首相とのハイレベル協議においては、知的財産権の保護や非関税障壁など中国経済の「構造改革」が主な争点となるとみられます。

さて、このような「構造改革」を本当に実行するためには、ただ単に中国政府が掛け声をかけて、資金を投入すればできるというものではありません。

構造改革とは、現状の社会が抱えている問題は表面的な制度や事象のみならず社会そのものの構造にも起因するものであり、その社会構造自体を変えねばならないとする政策論的立場のことです。

日本では、いわゆる構造改革は失敗して結局何も変わりませんでした。その要因としては、日本の経済の不振は、構造的なものよりも、マクロ経済政策が間違っていたことによることのほうがより悪影響が大きかったためです。

このような状況の中では、まずはまともなマクロ政策を実施して、ある程度経済を良くしなければ、構造改革などできません。実施したとしても、何が良くなれば、何かが悪くなるというもぐら叩き状態になるだけです。そのため、日本のいわゆる構造改革はほとんど掛け声だけに終わりました。何一つ成功したものはありません。

今でも構造改革病の人がいるようですが、そういう人には現在の韓国を見ろといいたいです。現在の韓国では、まさに過去の日本のように構造改革病にとりつかれています。文在寅は、金融緩和はせずに、最低賃金だけあげるという、まるで立憲民主党代表の枝野氏の主張するような経済対策を実行したがために、雇用が激減してとんでないことになっています。

しかし、中国は日本などの先進国とは異なります。中国はまずは構造改革しないことには、まずは米国の制裁を免れることはできないですし、制裁は別にしてもこれから先経済発展するのも不可能です。

そのことは中国もある程度は理解していたようで実は、中国自身も過去に構造改革を進めようとしていました。

2015年の中国経済を振り返ると、1-9月期の成長率は実質で前年同期比6.9%増と前年よりも0.4ポイント低下しました。もっと低いのではとの見方もあって議論になっていますが、確かなのは構造変化が進んでいることで、第2次産業の伸び鈍化と第3次産業の堅調(伸び横ばい)、投資の伸び鈍化と消費の堅調(伸び横ばい)という“ふたつの二極化”が起きていました。

中国経済を「世界の工場」に導いた従来の成長モデルは限界に達しており、対内直接投資が伸び悩むとともに対外直接投資が急激に増えてきました。中国経済を供給面から見ると世界における製造業シェアがGDPシェアを10ポイントも上回る過剰設備の状態にあり、需要面から見ると投資の比率が諸外国と比べて突出して大きい過剰投資の状態にあります。そして、この過剰設備(又は過剰投資)の調整を進めれば、成長率を押し下げる大きな負のインパクトをもたらすことになります

中国政府はこの負のインパクトを和らげようと、新たな成長モデルを構築するための構造改革を進めていました。具体的には、需要面では外需依存から内需主導への構造転換、供給面では製造大国から製造強国への構造転換、同じく供給面では第2次産業から第3次産業への構造転換の3点である。この構造改革を三面等価の観点から再整理すると下図表のようなイメージになります。


この構造改革に成功しても中国の成長率鈍化は避けられないです。しかし、成長の壁を克服するには他に道がないため、中国はこの構造改革は続けるしかありません。従って、第2次産業の伸び鈍化と第3次産業の堅調(伸び横ばい)、投資の伸び鈍化と消費の堅調(伸び横ばい)という“ふたつの二極化”も長く続くトレンドと考えられます。

そうして、この構造改革の最大のポイントは、個人消費を拡大することです。実際、中国の個人消費はGDPの40%であり、これは日本のような先進国が60%程度、米国では70%にも及ぶことを考えると、数字の上では確かにこの考えは妥当といえば妥当です。

それにしても、この構造改革なかなか進みませんでした。それが進まない中で、米国から厳しい経済冷戦を挑まれてしまったのです。

中国政府事態は、個人消費の拡大という構造改革を自身ですすめつつ、米国からは知的財産権の保護のための構造改革を迫られています。

さて、これらの構造改革を進めるには、実際にどのような改革を行うべきなのでしょうか。

それに必要なのは、まずは中国社会の根本的な構造改革が必要です。それについては、以前からこのブログに掲載してきました。

そうです、民主化、政治と経済の分離、法治国家化です。まずは、これがある程度実施されなければ、そもそも個人消費の拡大などおぼつきません。

先進国が先進国となり、国が富んだのは、まさにこれらを実行したため、多数の中間層ができあがり、それらが自由で活発な社会経済活動を行ったからです。個人消費を伸ばすにはまずはこれが不可欠なのです。政府が音頭をとって、金をバラマキ、個人消費を拡大することはできません。それは、一時的には可能かもしれませんが、長い間継続するのは不可能です。

また、知的財産権の保護についても、まずは中国国内で、これらが保証されない限りは、不可能です。そのため、やはり民主化、政治と経済の分離、法治国家は避けて通れません。

ただし、これを実行すれば、中国における共産党統党独裁は崩さざるを得ません。これらを実行すれば、中国共産党の統治の正当性が崩れてしまうからです。

中国の選択できる道は、共産党1党独裁を崩しても、構造改革を進め、国と国民を富ませるか、構造改革を拒否するしかありません。

なお、構造改革を拒否すれば、中国は経済的に衰退して、図体が大きいだけの、アジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。そうして、他国に対して影響力を行使できなくなります。

米国としては、中国がどちらの道を選んでも良いわけです。ただ、現状のままの中国は許容しないということです。

私としては、中国の共産党幹部は、先進国の民主化、政治と経済の分離、法治国家化などによってなぜ先進国が先進国となり得たのかなど、本当は理解していないため、結局中国は滅びの道を自ら選ぶことになると思います。

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2019年1月22日火曜日

混迷深める英国のEU離脱 「リーマン級」打撃に現実味…日本も政策総動員で備えを ―【私の論評】日本は英国のTPP加入で窮状を救い、対中国包囲網を強化せよ(゚д゚)!

混迷深める英国のEU離脱 「リーマン級」打撃に現実味…日本も政策総動員で備えを 
高橋洋一 日本の解き方

英メイ首相

英国議会で、欧州連合(EU)離脱案が大差で否決された。今後、どのような影響が出てくるだろうか。

 英国のEU離脱は2016年6月23日に国民投票が行われ、僅差で決まった。

 そもそも英国は、貿易取引ではEUに加盟して有利な条件を受ける一方、ユーロに加盟せずに独自通貨のポンドで金融政策の自由度を確保するという「究極のいいとこ取り」であった。このため、筆者はそもそもEU離脱には懐疑的だったが、もはや時間は戻せない。

 国民投票の結果、英国のEU離脱の期限は3月末となった。ただし、行政機関や企業などが混乱しないように20年12月末までは「移行期間」として現行の諸法制が適用されるとされていた。

 そのためには、英国とEU間で離脱条件などが合意される必要がある。EUとの合意を前提として英国に有利なソフト・ブレグジットか、EUに有利なハード・ブレグジットのどちらになるかが関心事であった。

 今回、英議会が離脱案を否決したので、英国とEU間の合意の可能性はかなり遠のいた。つまり、「合意なき離脱」ということになりそうだ。この「合意なき離脱」ということになると、英国には打撃が大きい。

 EUのユンケル欧州委員長は、「もうすぐ時間切れだ」とし、「無秩序な離脱のリスクが高まった」と述べ、英国国内での意見集約を促している。

 しかし、英国のメイ政権ではいかんともしがたい状況だ。英議会でEU離脱案が大差で否決されたので、コービン党首率いる労働党が提出した内閣不信任案は否決されたが、英国内の政治が混乱したまま時間が過ぎ、3月末の期限を迎える公算が高い。

英政府は、その場合、国内総生産(GDP)を8・0~10・7%押し下げるという予測を昨年11月に出した。イングランド銀行は3~8%、国際通貨基金(IMF)は5~8%のマイナス効果になるとみている。

 具体的には、製造業で欧州から受け入れてきた労働者が不足して生産不足に陥る可能性が高い。金融業でも、適用ルールの不明確さから企業活動に混乱が生じかねない。こうした「合意なき離脱」による経済活動への悪影響はいうまでもなく計り知れない。EU側で、離脱の期日延期が検討されていると報じられているのもこのためだろう。

 筆者は、かつての本コラムで、英国のEU離脱は、世界経済にリーマン・ショック級の影響を与える可能性があると書いている。その当時は「合意ある離脱」が前提であり、英国政府の予測ではGDPに与える悪影響は、3・6~6・0%であった。今は、「合意なき離脱」を覚悟せざるを得ない状態であり、そのインパクトは2倍程度だろう。であれば、まさに、リーマン・ショック級になるのは避けられない。

 日本として政策総動員を準備すべきだ。実際のリーマン・ショック時は、「ハチに刺された程度」と楽観視し適切な政策が打てずに、大混乱したことを忘れてはいけない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本は英TPP加入で窮状を救い、対中国包囲網を強化せよ(゚д゚)!

英国が欧州連合(EU)と合意したEU離脱案の採決は、保守党内から大量の造反者が出て、432対202という歴史的な大敗北となりました。

強硬離脱派も、残留派も反対し、労働党からは内閣不信任案が出されました(下院で否決)。EU側は当然ながら失望を表明し、メディアでは「合意なき離脱の可能性が高まる」との見出しが踊っています。

しかし、英ポンドはそれにも関わらず売られていません。「合意なき離脱」の可能性が高まっているのであれば、英ポンドはもっと売られていて良いはずです。つまり、表向きの混乱とは裏腹に「合意なき離脱」の可能性はやはり低いのです。そして今後ますますその可能性が低いことが明らかになっていくでしょう。

英ポンドは市場で売られていない

離脱案が否決されたので、メイ首相は3日以内(1月21日)に代替案を出すことになっているが、この代替案もどうなるかわからないです。

とはいえ、今後は野党の労働党との折衝が始まります。その中で、与野党の多くの議員はソフトな離脱案か再度の国民投票を希望しており、強硬離脱派はあくまで少数意見ということが明らかになってくるでしょう。

そして、万が一「合意なき離脱」の可能性が高まった場合、多くの議員は一致団結してそれを阻止するということがはっきりしてくるでしょう。

つまり、双方の多数派である労働党と保守党の穏健派が合意して超党派的な連合ができれば、簡単に終わる問題なのです。

ところが、そこに英国の政治事情が絡むので、スッキリとは進まないでしょう。メイ首相の頑な態度が、すんなりと合意に向かう道を閉ざしているとも言えるし、態度をはっきりさせないコービン党首が障害になっているとも言えます。

労働党は、結局どうしたいのか、はっきり態度を表明しなければならないです。ソフトな離脱案で行くのか、それとも再度の国民投票を行うのかです。それがはっきりすれば、超党派の連合も形成しやすくなるでしょう。

私は、ソフトな離脱案が結局成立する可能性が6、7割、再度の国民投票の可能性が3、4割と見たいです。個人的には「合意なき離脱」に至る確率は低いとみています。

現在、外国為替市場で少しずつ英ポンドが買われ始めているのは、結局「合意なき離脱」という選択肢が消えて、英ポンドが再評価され買い戻される、その動きを先取りしつつあるのでしょう。

英ポンドは極めて安い水準に放置されていたので、戻り始める(価値が上がる)とかなりのポテンシャルがあります。そして、「合意なき離脱」の選択肢が消えることは、この(2018~19)年末年始に不安定化していた市場に安心感を取り戻すことになるでしょう。

市場は過度な悲観にさらされていましたが、過度な悲観からの巻き戻しが今後、起こる可能性が高まっているのかもしれないです。

国旗を掲げながらブレグジットを支持するデモ隊

さらには、英国のTPP加入の可能性も高まっています。英国は、TPP参加を表明しています。英国のフォックス国際貿易相はロンドン市内で講演し、英国が欧州連合(EU)を離脱した後に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を目指す意向を表明しました。

メイ首相はこれまで離脱後にEU以外の第三国との自由貿易協定(FTA)を締結する方針を示していましたがTPPは一国帯一国の交渉で決めるFTAではありません。TPPは貿易だけでなく投資や知的財産など多くの協定がすでに決まっていて加盟をすればTPPルールを守らなければならないです。

TPPの性質はFTAではなくEUに近いものです。FTAは相手国との貿易について自由に交渉できますがTPPはできないです。EUを離脱する英国がTPPに参加するというのは矛盾しているようにもみえます。

なぜ、EUを離脱する英国がTPPに参加しようとしているのでしょうか。それはEUとTPPは協定の性質が違うからです。

EUはEuropean Unionの略称であり、欧州連合のことです。2013年7月にクロアチアが加盟したことにより以下の28か国が欧州連合に加わっています。

IMFによると、2010年の欧州連合のGDPは16兆1068億ドル(約1300兆円)です。米国のGDPをやや上回っており、世界全体の約26%を占めています。

欧州連合には最高意思決定機関があります。全加盟国の政府の長と欧州委員会委員長、及び大統領にも相当するとされる常任議長による欧州理事会です。

欧州連合の市場は統合されています。外交・安全保障分野と司法・内務分野での枠組みが新たに設けられ、ユーロの導入によって通貨も統合されています。欧州議会の直接選挙が実施されたり、欧州連合基本権憲章が採択されています。

ただし、ブログ冒頭の高橋洋一の氏の記事にあるように、英国はこのユーロは用いていません。そのため英国独自で金融政策を行うことができます。

EU加入国(青)と加入する可能性がある国(緑)

第二次大戦後に急激に社会主義国家圏が拡大していきました。ヨーロッパの社会主義圏の拡大を防ぐためEUは資本主義経済圏の民主主義国家の連合を結成したのです。

1991年にソ連は崩壊し、強大な社会主義国家圏は消滅しました。EUを強固しなければならない根拠となっていた社会主義圏が消滅したためにEUの国家間の矛盾が表面化していきました。

政治は本質的にローカルであるグローバルではありません。国によって生活や経済の程度に差があります。GDPに差があるし国家予算にも差があります。どうしても政治的な対立は生じることになります。

ソ連が存在していた時は対立を我慢していたが、ソ連が崩壊すると対立にが表面化していったのです。この対立を調整するのがEUの課題となっていき、英国はEUを離脱を決意したのです。

英国のEU離脱と米国のトランプ大統領のアメリカファーストをきっかけに、米国や英国だけでなくヨーロッパの多くの国々で反グローバル化の動きが広がっているとマスコミや評論家が指摘しています。

政治はローカル=反グローバルであり、経済はグローバルです。政治と経済は密接に関係していますが、二つの本質的な性質の違いを区別しなければならないです。区別しないから反グローバルを安易に政治目的に使うようになってしまったのです。

格差や貧困が原因で国外に出た難民を受け入れるかどうかを決断するのは政治です。難民を受け入れるか否かを決めるのはそれぞれの国の経済力や国民性が左右するからです。それは政治であり、ローカルな問題なのです。

EUがソ連圏に対抗した政治優先の連合であるのに対して、TPP11は経済優先の連合です。それがEUとTPPの根本的な違いです。そもそも、EUはソ連が存在しなければ結成されなかったかもしれません。

1988年ソ連ではじめてミスコンが行われたときの写真

EUは社会主義国家と対峙した連合でしたから社会主義国家は参加できません。しかし、TPP11は違います。TPP11は社会主義国家であるベトナムが参加しています。このことからもEUとTPP11が性質の違う協定であることが分かります。TPP11は政治ではなく経済を中心とした協定なのです。

EUから離脱した英国がTPP11に参加するのはTPP11がEUのような政治協定ではなく経済協定だからです。

TPP11は政治的にはそれぞれの国が独立しています。EUで問題になっている難民受け入れはTPP11加盟国のそれぞれの国が自由に決めるのであってTPP11全体の問題にはなりません。

このように、TPP11は人類史上初めての新しい協定です。こういうと誇大な表現と思われるかもしれませんが、そうではありません。

EUも国際連合も政治を中心とした連合です。経済も問題にするが優先しているのは政治です。それに比べてTPP11は経済を中心にした連合です。このような連合は、過去にあってもよさそうですが、このような協定はありませんでした。

世界は第二次世界大戦までは戦争の連続であり、帝国主義の世界でした。戦後は議会制民主主義国家圏と社会主義国家圏の対立が続きました。まさに、世界の歴史は、政治対立の歴史であったのです。

ソ連が崩壊し、独裁国家も減り、議会制民主主義国家が増えていきました。政治対立、戦争が少なくなったアジア、環太平洋地域だからこそTPP11が誕生したのです。

英国がTPP参加を表明しましたが、TPPの正式名称は、環太平洋パートナーシップです。名称からすれば環太平洋の国ではない英国は参加できないことになります。しかし、英政府はTPPの参加条件に地理的な制約がないことを確認しています。

それに日本の茂木敏充経済再生担当相も、英国の参加が可能との見解を示しています。経済は政治と違い本質的にグローバルです。TPPには世界のどこからでも参加できるのです。

このTPP11実現をリードしてきたのが安倍政権です。経済政策を重視する安倍晋三首相は「保護主義からは何も生まれない」として、自由貿易体制の維持に取り組んでいます。それがTPP11の実現であり、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の署名です。

メイ首相はEUとの離脱交渉で、「EUの関税同盟と単一市場から英国を離脱させ人の移動の自由を終わらせる」、「モノに関しては自由貿易圏を創設する」などの条件を掲げています。これに対し、人、モノ、金、サービスの四つの移動の自由を基本理念に掲げるEUは、メイ政権の提示条件が妥協的であると批判し、交渉は膠着状態に陥っています。

しかし、EUの本音は別のところにあるようです。

実はEUは、域内2位の経済力と最大の軍事力を誇る英国の離脱と、英国に追随する他国の動きを警戒し、英国を牽制しているのです。その顕著な例が、メイ政権のモノの移動の自由に関する条件を逆手にとり、アイルランド国境管理問題を持ち出し、北アイルランドがEUとの関税同盟に残留せざるをえないよう仕向けています。

つまり、北アイルランドに経済的国境を作るという圧力をかけ英国の提示条件を拒絶しているのです。ちなみに、英国とEUは2017年12月、地続きであるアイルランドと英領北アイルランドの物理的な国境管理(税関、検問所)を離脱後も復活させないことで基本合意した。

これに対し、メイ首相はEUに「合意なき離脱」という脅しをかけ、自らの離脱計画案の再考をEU側に求めています。仮にメイ首相の案をEUが飲んでも、あるいは合意なき離脱となった場合でも、英国国会で批准されるかどうかは不透明で、メイ政権は厳しい舵取りを余儀なくされています。

もともと英国はEU加盟に積極的ではありませんでした。EUの前々身であるEECにはフランス主導であることを理由に加盟を拒否し、EU加盟時には共通通貨のユーロを使わなかったことなどの事例がそれを物語っています。

自国に対するプライドもあるし、EU経済圏に入ることのメリットも少ないと考えていたようです。ただ、ヨーロッパ全体が一つの経済圏としての機能を持ち始めたため貿易の面で加入せざるを得ない事情があったようです。

しかも、英国はEUの盟主であるのなら離脱はなかったと思われますが、英国がEUの大統領を輩出しているわけでもないし、フランス、ドイツなどにリーダーシップを握られていることが面白くなかったわけです。

英国がリーダーシップを取れなかった理由は国内経済の低迷にあります。英国は国家の伝統ばかりを後生大事に抱えていてイノベーションができていなかったことに起因します。

英国国内の一部には離脱以降、世界経済の中で英国が新たな立ち位置を築くことができるのではないかとの期待もあります。しかし、その一方で、メイ首相の構想ではEUの規制から逃れられず、世界各国と自由にFTAを結ぶことができなくなると危惧する意見が出るほど国論が混乱しています。

いずれにせよ英国が歴史的な変化の前に苦悩していることだけは間違いありません。

先日の英経済紙フィナンシャルの一面に「英国のTPP加盟を歓迎する」との安倍首相のインタビュー記事が掲載されました。内容は「日本は諸手を上げて英国のTPP加盟を歓迎する。英国は合意なきEUを回避するため妥協してほしい」「英国のEU離脱による、日本のビジネスを含むグローバル経済に対するネガティブなインパクトが最小化されることを心底願っている」というものでした。

「日本は諸手を上げて英国のTPP加盟を歓迎する」という安倍総理の
インタビューを掲載したフィナンシャルの記事を報道する日本のテレビより

実際、英国の窮状を救うことができるのは日本だけかもしれません。TPP交渉で米国の離脱後も粘り強く推進してきた日本が、英国をTPPの枠組みに入れることでEU離脱後の英国経済の破綻を防ぐことができるものと考えられます。

さらに、TPPのもう一つの本質的な機能は中国包囲網の形成にあります。

TPPへの英国の加盟は、海洋国家の日米英の連携が一層強まり、中国政府と中国海軍による違法行為の封じ込めに役立つものとなります。英国は、インド太平洋地域にも英領西インド諸島を領土として持ち、ヨーロッパでも英国の領海、領有は広く、軍事戦略上きわめて有効です。

英国のTPP加盟はEU離脱後の英国経済のマイナス面を補うだけでありません。日本は積極的に英国支援に向かうべきです。そうして、英国のEU離脱によるリーマンショック級の悪影響が出ることを未然に防ぎ、今後も日英同盟を強化していくべきです。

ただし、英国のEU離脱は、世界経済にリーマン・ショック級の影響を与える可能性があるのは事実であり、日本もそれに備えるべきです。米国が対中国冷戦を実行し、英国がEU離脱し、世界経済に悪影響を与えるかもしれない今日、わざわざ消費増税などすべきではありません。財務省は、このような世界情勢を理解できないのでしょうか。だとすれば、大虚け者(おおうつけもの=虚けとはもともと、からっぽという意味であり、転じて虚け者とは、ぼんやりとした人物や暗愚な人物、常識にはずれた人物をさす)と呼ぶ以外にありません。

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2019年1月21日月曜日

照射問題に見る韓国軍艦の不自然な行動 文在寅氏は北朝鮮の言いなりか―【私の論評】南北統一の虚妄より、北の核が結果として朝鮮半島への中国の浸透を防いでいることに注目せよ(゚д゚)!

照射問題に見る韓国軍艦の不自然な行動 文在寅氏は北朝鮮の言いなりか




レーダー照射問題:韓国軍艦のとった不自然な行動

 日本の排他的経済水域内で、北朝鮮の漁船らしき木造船を救助するのに、北朝鮮の海軍警備艇や民間船舶ではなく、韓国の軍艦・警備艦が向かった。

 北朝鮮は、排水量1000トン以上の貨物船などの民間船舶を170隻以上、フリゲート艦、コルベット艦、哨戒艦、高速艇および警備艇の海軍戦闘艦艇約200隻を保有している。

 これらの艦船が本来救出に来るべきなのだが、そうではなかった。

救助に派遣されたのは韓国の最新鋭艦

 1993年5月に、ノドンミサイルとみられる発射実験が行われた際に、その観測支援のためにフリゲート艦とコルベット艦の2隻が日本海に展開したことがある。

 本来、この木造船を救助する必要があるならば、今回もその当時と同様に、軍艦あるいは民間船舶を派遣するのが普通だろう。

 しかし、なぜか韓国が、韓国海洋警察の警備艇に加え、海軍駆逐艦までも派遣した。

 北朝鮮の木造船を捜索するため、派遣された警備艇の参峰号は、韓国最大で最新の警備艇(排水量約6300トン、韓国は2隻保有)だ。

 駆逐艦の広開土大王(クァンゲトデワン)は、韓国で最初に建造された駆逐艦で約4000トンだ。

 木造の小船を大型艦艇が挟み込んで救助しているというのは、常識ではあり得ない不思議な光景である。

 韓国の大型の軍艦と警備艇が、日本海の真ん中よりも日本に近い位置にいた木造船をしかもレーダーには映らない木造船をどのようにして発見したのか。それが疑問である。

北朝鮮のアナログステルス戦闘機

 詳しく説明すると、レーダー波を金属製の航空機に当てると電波が反射して戻ってくるが、木材の場合はレーダー波を反射しない。

 軍事専門家は、北朝鮮特殊部隊を空輸する木材と布で作られた輸送機「An-2」を、皮肉を込めて「アナログステルス戦闘機」と呼ぶ。

 この木造船がSOSの救助信号を発信した可能性もあるが、海上保安庁も海上自衛隊も確認していないという。

 韓国が発表した北朝鮮の木造船の映像をよく見ると、イカ釣り用の電球が並ぶ上に、前方のマストから後方のマストにかけて、AM通信(モールス通信)用のケーブルらしきものがかけられている。

韓国側が発表した映像から

 北朝鮮の木造船は、モールス通信を使用して本国に救助を依頼したのではないだろうか。

 また映像を見ると、その木造船は、沈みかけていない。漂流する原因は、燃料切れだと推測される。

 私は、韓国の大型艦は北朝鮮の木造船に燃料を渡していると判断している。
救助に向かう燃料がない北朝鮮

 韓国が、沈没しそうな木造船と漁民を救助しているというのならば、漁民を救助している写真やその木造船をロープで曳行している写真を発表すべきだろう。

 大きな疑惑がいくつも生じるのは当然のことである。

 私の推測では、北朝鮮の小型木造船は、燃料切れを起こし、本国に燃料補給の救助を求めた。

 だが、北朝鮮は漁船を救助するために、海軍警備艇や民間船舶を派遣するための燃料がない。

 また、海軍軍艦はポンコツで500キロも離れた日本海の中央まで移動して帰投することができない。

 このような理由から、北朝鮮金正恩委員長は、韓国に支援を依頼した。

 北朝鮮としては、金正恩委員長の要求を何でも聞き入れる文在寅大統領に頼めば、すぐに引き受けてくれるだろうという予想通りになった。

いまや金正恩の言いなり、文在寅大統領

 金正恩が頼めば、文大統領は「北朝鮮は非核化をします。国連制裁を解除すべきだ」と欧州諸国を駆けずり回る。

 「自国の漁船を救助してほしい」と頼めば、大型軍艦や警備艇を派遣する。韓国文在寅大統領は、いまや北朝鮮の言いなりのようだ。

 そのことと、南北の陸と海上の境界の障害が徐々に取り除かれていること、南北の融和行事などを合わせると、南北の統一は近いと見てほぼ間違いないのではないか。

 だが、その統一は韓国主導による連邦制ではなく、北朝鮮が韓国を呑みこむ占領という形で行われるのではないか考えられる。

(これについては、軍事情報戦略研究所朝鮮半島分析チーム「可能性が高くなりつつある北朝鮮による半島統一」『JBPress(2018年12月3日)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54805』で詳細に分析している)

【私の論評】南北統一の虚妄より、北の核が結果として朝鮮半島への中国の浸透を防いでいることに注目せよ(゚д゚)!

冒頭の記事では、南北統一のことがいわれています。そうして、その統一は韓国によるものではなく、北朝鮮による半島統一ということがいわれています。

このように多くのメディアで、南北統一が当然のようにいわていますが、南北統一は解決策なのでしょうか、あるいはそれこそが問題なのでしょうか。北朝鮮と韓国の最近の緊張緩和によって、1950年代から分断している南北の統一に新たな可能性が浮上しているのは事実です。

統一という言葉は、東西ドイツを隔てるベルリンの壁が崩壊して家族が再会し、軍が武装解除したときのことを思い起こさせます。

韓国と北朝鮮は平和的な統一を繰り返し訴え、韓国で開催された昨年の平昌冬季五輪では統一旗を掲げて共に入場行進を行いました。また最近にK─POP歌手らの一行が北朝鮮を訪問した際、彼らは北朝鮮人と手をつなぎ、「われらの願いは統一」を歌いました。

「少女時代」のソヒョンが、北朝鮮芸術団と共に感動のステージを披露し、話題を呼んだ。
2018年2月12日11日、国立劇場ヘオルム劇場で開催された北朝鮮芸術団「三池淵管弦楽団」
のソウル公演に、白いワンピースに身を包んだソヒョンがサプライズ登場。

ところが、70年にわたり緊張状態が続く朝鮮半島において、「統一」の理念ははますます複雑さを増し、非現実的だと考えられるようになりました。両国の格差がかつてないほど広がる中、少なくとも韓国ではそのように捉えられていると、専門家や当局者は言います。

韓国はテクノロジーが発達し、民主主義の下で活気に満ちた主要経済大国となりました。一方、北朝鮮は金一族の支配下にあり、個人の自由がほとんどない、貧しく孤立した国です。

1990年に再統一した東西ドイツとは異なり、朝鮮半島の分断はいまだ解決されていない同胞同士の内戦に基づいてます。韓国と北朝鮮は朝鮮戦争を終結するための平和条約に署名しておらず、お互いをまだ正式に認めていません。

過去には、北朝鮮の独裁政権が崩壊し、韓国に吸収されるという前提に基づいた統一計画を描く韓国の指導者もいました。しかしリベラルな文政権はそうしたアプローチを和らげ、最終的に統一へとつながるであろう和解と平和的共存を強調しています。

韓国では、統一を支持する世論も低下しています。韓国政府系シンクタンク・韓国統一研究院(KINU)の調査によると、2014年には70%近くが統一が必要と回答したのに対し、現在は58%に低下しています。1969年に政府が実施した別の調査では、90%が統一を支持すると答えていました。

統一にかかる費用は最大5兆ドル(約550兆円)と試算されており、そのほとんどが韓国の肩にのしかかることになります。

一昨年7月にベルリンで行ったスピーチの中で、文大統領は「朝鮮半島平和構想」について説明。北朝鮮の崩壊を望まない、吸収による統一を追求しない、人為的な方法による統一を追求しない、ことを明らかにしました。

「求めているのは平和だけだ」と、同大統領は語りました。

一昨年7月にベルリンでスピーチした、文大統領
両国とも、統一についてそれぞれの憲法で明記しており、北朝鮮は「国家の最重要課題」と表現しています。

韓国統一省のように、北朝鮮にも「祖国平和統一委員会」があります。北朝鮮からの報道を集めたウェブサイト「KCNAウオッチ」の記事をロイターが分析したところによると、国営メディアは2010年以降、統一について2700回以上言及しています。

北朝鮮は昨年1月、声明で「国内外にいる全ての朝鮮人」に共通の目的を目指すことを呼びかけ、「お互いの誤解と不信感を払拭(ふっしょく)し、全ての同胞が自身の責任と国家統一の原動力という役割を果たすべく、南北間における連絡や移動、協力や交流を広範囲で可能にしよう」と訴えました。

北朝鮮人は、韓国にいても北朝鮮にいても統一を支持しているようです。韓国にいる脱北者の95%以上が統一を支持すると回答しています。

北朝鮮「建国の父」である金日成主席は1993年、祖国統一のための「10大綱領」を発表。その中には、国境は開放しつつ、2つの政治体制を残す提案が含まれていました。

北朝鮮は1970年代まで、憲法でソウルを首都と主張していました。一方、韓国は現在に至るまで、北朝鮮に占拠されたままだとする「以北五道」に象徴的な知事を任命しています。

昨年4月25日、南北統一は解決策なのか、あるいはそれこそが問題なのか、北朝鮮と韓国の最近の緊張緩和によって、1950年代から分断している南北の統一に新たな可能性が浮上していました。

「統一は結局、非核化であろうと人権問題であろうと、あるいは、単に南北間で安定したコミュニケーションを築くことであろうと、喫緊の短期目標の多くを達成困難にする」と、韓国シンクタンク「峨山(アサン)政策研究所」のベン・フォーニー研究員は語りました。

開城(ケソン)工業団地

両国は、開城(ケソン)工業団地のような小規模の協力でさえ、問題にぶつかってきました。北朝鮮の核兵器開発を巡る緊張が高まる中、2016年に閉鎖されるまで、この工業団地では両国の労働者が共に働いていました。

最近では、両国は離散家族の連絡事業再開で合意には至りませんでした。

不信感は根強いです。朝鮮半島を支配するための長期計画の一環として、北朝鮮の指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は核兵器を開発したと、一部の韓国人と米国人は信じ続けているようです。一方の北朝鮮は、韓国の駐留米軍について、金氏の転覆を狙った侵略部隊だと懸念しています。

1990年に東西ドイツが統一したとき、朝鮮半島のモデルになることを期待する向きもありました。

しかし、東西ドイツの場合は内戦を経験しておらず、東ドイツは北朝鮮と比べて国民に対する統制がはるかに弱かったと、元韓国統一省の当局者は2016年のリポートで指摘しました。さらに、東ドイツは核武装はしていませんでした。

最も大きな障害は、金正恩氏自身かもしれないです。平和的な統一に必要な妥協を受け入れる動機が、同氏にはほとんどないと専門家は言います。韓国も、同氏に実権を許すような取り決めに合意する可能性は低いです。

北朝鮮を独立国として、また米同盟国である韓国との間の緩衝地帯として維持することに、中国も既得権を有しています。

長期的に見れば、完全な統一を強硬に求めることを放棄すれば、両国は関係を修復できる可能性があると、朝鮮半島情勢について複数の著書があるマイケル・ブリーン氏は指摘しています。

「矛盾しているようだが、統一はある種、ロマンチックで、健全で、民族主義的な夢として考えられている」と同氏は言う。「だが実際には、問題の多くはそこから生じている」

そもそも、統一後を考えた場合、金正恩にとって、韓国人が1番のリスクになります。北朝鮮と違い韓国人には将軍様への敬意などはなく、気に入らなければデモとクーデターで彼を攻撃する存在に豹変します。結果、アラブの春以降のアラブや中東が再現されることになります。

北朝鮮の核とミサイル廃棄と南北統一は別問題です。 米国としては、本土に届き中東に渡る可能性がある核とミサイルは絶対許せないです。周辺諸国も北朝鮮の難民を望んでいないです。一方北朝鮮は、国の枠組みは変えたくないです。その金体制維持に最も邪魔なものは自由や人権、南北で人の往来が始まれば政権が脅かされることになります。

他国は朝鮮半島の統一を望んでいません。しかし、当事者間の問題であり、関与はしないだけのことです。 中国、ロシア、日本、米国、どこにも積極的なメリットはなく、投資リスクも大きいです。北朝鮮が今のまま、自由化を進める方がメリットが大きいし、衝突リスクも低いです。

それに、以前も述べたように、現在のように北が核を持っている状況は、中国の影響が半島に及ぶことを防いでいます。北の核は中国にとっても脅威なのです。そうして、北朝鮮は中国から完全独立を希求しています。韓国は、中国に従属する道を選びました。

この状況は、米国にとって良い状況です。ただし、北朝鮮が米国を脅かす核ミサイルを開発せず、開発したものがあれば、破棄し、中東に核を渡さないことを約束すれば、中国を睨む米国にとって現状は最善といっても良い状態です。

以上のようなことから、半島情勢をみるときには、南北統一が近いなどという見方はしないほうが良いでしょう。そんなことよりも、北朝鮮の核が結果として、半島への中国への浸透を防ぐ役割もしていることに注目すべきです。

北朝鮮が核を開発していなければ、今頃北朝鮮は中国の傀儡政権であったか、そこまでいかなくても、完璧に中国の意図に沿って動く国であったことは間違いないです。

その場合、韓国は中国の従属国ですから、統一は現状よりはやりやすかったと思います。ただし、統一とはいっても中国の傀儡国家として統一ということになるでしょう。日本としては、対馬のすぐ先が、中国の傀儡国家という状況になります。

それよりは、北により中国からの浸透が防がれてる状況のなかで、韓国が中途半端な中国の従属国であるという現在の状況のほうが日本にとってもよりましであるといえます。

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