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岡崎研究所
東南アジア |
我々は、南シナ海における、平和、安全、安定、航行と上空飛行の自由を維持・促進することの重要性を再確認し、南シナ海を平和、安定、繁栄の海とすることの利益を認識した。我々は、2002年の「南シナ海行動宣言(DOC)」が完全かつ実効的な形で実施されることの重要性を強調した。我々は、ASEANと中国との継続的な協力強化を歓迎するとともに、相互に合意したタイムラインに沿って実効性のある「南シナ海行動規範(COC)」の早期策定に向けた中身のある交渉が進展していることに勇気づけられた。我々は、ASEAN加盟国と中国が単一のCOC交渉草案に合意していることに留意し、2018年11月にシンガポールにおける第21回ASEAN首脳会議で発表された通り、2019年中に草案の第一読会を終えることを期待する。この点に関して、我々は、COCの交渉に資する環境を維持する必要性を強調した。我々は、緊張、事故、誤解、誤算のリスクを軽減する具体的措置を歓迎する。我々は、相互の信用と信頼を高めるため、信頼醸成と予防的措置が重要であることを、強調した。
我々は、南シナ海に関する問題を議論し、地域における埋め立てへの一部の懸念に留意した。我々は、相互の信用と信頼を高め、自制して行動し、事態を複雑化させる行動を避け、国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法に沿って紛争を平和的に解決することの必要性を再確認した。我々は、全ての領有権主張国、あらゆるその他の国による全ての行動において、非軍事と自制が重要であることを強調した。
出典:‘Press Statement by the Chairman of the ASEAN Foreign Ministers’ Retreat’(17-18 January 2019)
COCについては、早期策定に向けた具体的な日程が示された。声明では「相互に合意したタイムライン」とあるが、中国の李克強首相は昨年11月のASEAN首脳会議に際する関連会議で2021年までに妥結したいと表明している。今回の議長を務めたタイのドン外相は記者会見で、早期妥結が可能である旨、述べている。2021年よりも早く妥結もあり得るという話もある。
しかし、ASEANと中国との間で昨年8月に合意されたとされるCOC草案は公表されていない。法的拘束力を持たないものになるのではないかとも言われている。中国は軍事活動通告のメカニズムも提案している。域外国と合同軍事演習を実施する場合、関係国に事前通告しなければならず、反対があれば実施できない、という内容である。例えば、ASEAN加盟国が米国と合同演習をしようとしても、中国が反対すれば、実施できないことになる。仮に、こういう内容のCOCになってしまっては、かえって有害と言えるかもしれない。
南シナ海問題は、もはや地域の問題ではなくグローバルな問題である。航行と上空飛行の自由を確保するための主要各国の取り組みが重要であり、実際に、そのようになってきている。米豪だけでなく英仏など欧州の国も「航行の自由作戦」(あるいはそれに準ずる行動)を実施し始めた。英国のウィリアムソン国防相は、最近、シンガポールあるいはブルネイに基地を置くことについて言及した。南シナ海における英国のプレゼンスを維持するため、補給・維持修理の要員と補給艦を配備するということのようである。また、フランスも、インド太平洋の海洋秩序維持のため、日本との協力を進めつつある。
【私の論評】COCの前にASEANは域内での軍事経済的結束を強め、域外の国々の協力も仰ぐべき(゚д゚)!
まずは、COCについて簡単に説明しておきます。南シナ海の領有権問題をめぐって、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国は紛争を予防するための仕組みとして南シナ海行動規範(COC)の策定を進めています。
2002年にASEANと中国が南シナ海行動宣言(DOC the Declaration on the Conduct)に合意したが、実効性を書きました。このため法的拘束力を持つ「行動規範(COC)」の策定を目指すことになりました。
13年のASEAN拡大国防相会議から4年越しの交渉の末、17年8月の中国・ASEAN外相会議で枠組み合意し、具体的な条文の策定への協議を開始することになりました。しかし、法的拘束力の有無さえ明確にしない骨抜きの内容で、策定交渉が長引き、結局は中国が軍事拠点化を進めるための時間稼ぎに使われてしまいました。
実際この間にも中国は、実効支配している南沙諸島の岩礁や暗礁を埋め立てて人工島の建設を進めており(→「スプラトリー諸島(南沙諸島)の人工島」)、埋め立て面積は16年5月までに13平方キロ以上になりました。
中国により軍事基地化された南シナ海の環礁 |
16年末までに各島に対空砲や地対空ミサイル等の防空システムを配備、主要な島には3000メートル級の滑走路や大型船が寄港できる港湾施設、通信・偵察システムなども整備して軍事拠点化を進めています。
とはいいながら、中国を相手にASEAN諸国が一致強力し、様々な要求をつきつけたり批判していくというのはやぶさかではないです。
なお、南シナ海の中国の軍事基地に関しては、多くの人々がどの程度のものか理解していません。これに関しては、産経新聞のインタビューで米国の戦略化ルトワック氏が答えています。その記事の内容を以下に掲載します。
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に南シナ海に関連する部分のみ引用します。
「米中冷戦は中国が負ける」 米歴史学者ルトワック氏
ルトワック氏 |
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に南シナ海に関連する部分のみ引用します。
一方、中国が南シナ海の軍事拠点化を進めている問題に関しては、トランプ政権が積極的に推進する「航行の自由」作戦で「中国による主権の主張は全面否定された。中国は面目をつぶされた」と強調。中国の軍事拠点については「無防備な前哨基地にすぎず、軍事衝突になれば5分で吹き飛ばせる。象徴的価値しかない」と指摘した。
ルトワック氏はまた、中国の覇権的台頭を受けて2008年以降、米国と日本、オーストラリア、ベトナム、インドなどの国々が「自然発生的かつ必然的な『同盟』を形成するに至った」と指摘。これらの国々を総合すれば人口、経済力、技術力で中国を上回っており、「中国の封じ込めは難しくない」とした。
ルトワック氏はさらに、これらの国々が中国に対抗するための能力向上を図る必要があると指摘。日本としては例えばインドネシアの群島防衛のために飛行艇を提供したり、モンゴルに装甲戦闘車を供与するなど、「同盟」諸国の防衛力強化のために武器を積極的に輸出すべきだと提言した。
ルトワック氏が語るように、南シナ海の中国の軍事基地は、米国にとっては「無防備な前哨基地にすぎず、軍事衝突になれば5分で吹き飛ばせる。象徴的価値しかない」のです。
さらにASEAN諸国が結束すれば、人口、経済力、技術力で中国を上回っており、「中国の封じ込めは難しくない」としています。
であれば、ASEAN諸国が何をすべきか、自ずと浮かび上がってきます。中国を含めたCOCというよりは、まずはASEAN諸国の結束をはかり、域内を防衛するための軍事協定を結ぶとともに、域内の経済の活性化を図ることです。できれば、共通の軍隊を持つべきです。
さらに、南シナ海問題は、もはや地域の問題ではなくグローバルな問題なのですから、ASEAN諸国だけではなく、日米豪や英国なども含めて、軍事的にも経済的にも他国にも協力を仰ぎ、この地域で中国を囲い込むとともに、徹底して動きを封じ込めることです。
なお、この地域では、米・英・豪などに対しては、警戒心や恨みの感情がのこつています。このあたりは、日本が大きな橋わたしをすることができるでしょう。
昨年東アジアサミット前に、記念撮影する安倍首相(右端)ら |
今後の課題は、COCプロセスをどの程度速やかに進める事ができるかという事、さらにはこの新たな文書にどれほど権利主張諸国の行為を抑制する効果があるかという事です。
まずは、こうした中国封じ込め政策をASEAN域内と域外の国々よって実行し、現在米国が挑んでいる対中国冷戦の趨勢を見守ることです。
そうして、中国の体制が変わって、民主化、政治と経済の分離、法治国家がある程度なさるか、あるいは中国が経済的に疲弊し、他国に対する影響力を失った時には、本気でCOCを考えるべきです。
南シナ海の長期的な平和と安定にとって重要なことは、COCが実効性を獲得し、これによって確実に関係国が自制を働かせ、信頼醸成措置を促進させて、配慮が不要な領域での協力活動を実施する事です。
COCを実効力あるものとするには、DOCの欠陥やDOCの実施を遅らせてきたいくつかの要因を克服しなければなりません。
実行的なCOCができた暁には、南シナ海の中国の軍事基地を排除すべきでしょう。できれば、中国に実施させるべきでしょう。中国ができないというなら、COCの内容を中国にとってかなり厳しいものとして、2度と南シナ海等に進出しないように因果を含めた上で、ASEANならびに友好国がこれを担うべきです。
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