2019年2月3日日曜日

2度目の米朝首脳会談と南北融和を優先する韓国―【私の論評】第二回米朝会談では、ICBMの廃棄を優先させ中短距離の弾道ミサイルが後回しにされる可能性が高い(゚д゚)!



岡崎研究所

 北朝鮮をめぐっては2月末に2度目の米朝首脳会談が開催されることが発表されるという大きな動きがあった。他方、南北関係は、韓国の文在寅政権は開城工業団地と金剛山観光の再開のために国連決議迂回の道を探るなど、韓国の対北宥和ぶりが目立つ。ここでは、最近の北朝鮮情勢について、これらの点を中心に紹介する。

 まず、今年の金正恩の新年の辞では、以下の諸点が注目される。

(1)「外部勢力との合同軍事演習をこれ以上許容してはならず、外部からの戦略資産をはじめとする戦争装備搬入も完全に中止」すべき。

(2)停戦協定当事者(注:中国のことか)との緊密な連携の下に朝鮮半島の現停戦体制を平和体制に転換するための多国間協商も積極的に推進していく。

(3)全同胞は「朝鮮半島平和の主は我が民族」という自覚を持って一致団結していくべき(注:文在寅の考えと同じ)。

(4)開城に進出した南側企業人の困難な事情と民族の名山を訪れたいとする南側同胞の願いを察し何の前提条件や対価なしに開城工業地区と金剛山観光を再開する用意がある。

(5)北と南が協力するなら「あらゆる制裁と圧迫」も我々の行く手を妨げることはできない。

(6)我々は「すでにこれ以上、 核兵器を作りも試験もしないし、使用も伝播もしない」(注:現水準は維持すると取れる)。

(7)米国が約束を守らず、一方的に強要し、制裁と圧力に進むのであれば、「新たな道」を模索せざるを得なくなる。

 文在寅政権は、今度は開城団地と金剛山観光の再開(昨年9月の南北首脳会談で合意)を実現しようとしている。康京和外相は1月11日、議員との会合で、多額の現金支払いによらない方法でこの問題を解決することが可能かどうか研究する必要がある、と述べている。これは政府がバルクの現金支払いを禁止している国連制裁回避の方法を探していることを示す。既に企業関係者から近々現地を訪問する申請も出されているようだ。開城団地は北による4回目の核実験を受けて2016年2月に閉鎖されたが、それまでは北にとり重要な外貨獲得の場所となっていた。韓国企業による投資、生産物の輸出の他、北の労働者には毎年総額約1億ドル以上の賃金が支払われていた。

 南北融和を優先する文在寅政権は、国際社会の努力からも外れている。非核化の進展がないにも拘らずここまで前のめりに南北融和を優先する韓国の動きには、引き続き注意が必要だ。対米関係が一層軋む可能性もある。今までの対韓不信に加え、米軍経費負担交渉の難航もあり米韓間の緊張は高まっているようである。

 国際制裁は北朝鮮に効いているものと思われる。金正恩は新年の辞でも「過酷な経済封鎖と制裁」として、それに言及している。昨年訪欧した際、文在寅は独仏英などに制裁解除を働きかけたが、当然ながら欧州首脳は賛同しなかった。

 米朝の非核化交渉は昨年7月以来膠着していた。しかし、これまで延ばされてきた2回目の米朝首脳会談開催の動きは、急速に進んだ。金正恩は1月8、9日に北京で習近平と会談した。この訪中は、今年が中朝国交樹立70周年に当たることもあろうが、核問題や米朝交渉の今後につき協議するために行われたものと思われる。朝鮮中央通信によると習近平は「北朝鮮の主張は当然の要求であり、懸念が解決されなければならない」と理解を示したという(ただし中味の説明はない)。さらに、金英哲副委員長が1月17-19日に訪米した。首脳会談の調整をしたものと見られる。それに先立ち、金正恩宛てのトランプの書簡も届けられたという。そして、2月末に2度目の米朝首脳会談が開催されることが発表されるに至った。

 何らかの進展があったため2度目の首脳会談が開催されることになったのは間違いないだろうが、それが何であるかはまだ分からない。懸念されることは、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることである。

【私の論評】第二回米朝会談では、ICBMの廃棄を優先させ中短距離の弾道ミサイルが後回しにされる可能性が高い(゚д゚)!

冒頭の記事の結論である、「懸念されることは、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることである」は実際に大いにあり得ることです。

私は、トランプ大統領はこのような合意を目指していると思います。なぜなら、このブログでも最近指摘しているように、結果として北朝鮮の核が結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいるからです。

これは、北朝鮮が核開発をしていかなった場合どうなったかを考えてみれば、容易に理解できます。北の核は、米国を標的にしているのは無論ですが、これは当然のことながら中国も標的にし得るのです。もし、北が核開発をしていなかった場合、今頃金一族は中国に滅ぼされ、北には中国の傀儡政権が樹立され、韓国も完璧に中国に従属し、半島全体が中国の覇権の及ぶ範囲内になっていたかもしれません。そうして、将来は朝鮮半島は中国の一省が、自治区になったかもしれません。

2015年5月に、北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行い、2016年1月6日には、「水爆実験」とうたった地下核実験が強行されましたた。また、同1月28日にはミサイル実験の準備が複数箇所で同時に進行中であることが報道されました。そうして、その後実際に長・中・短距離の弾道ミサイルを乱れ打ちされました。

これらの示威行動の目的は何だったのでしょうか、そもそも誰に向けた威嚇だったのでしょうか。さまざまな解説がなされていますが、そのほとんどが、アメリカを対象にしたものだということになっていました。私は、その意味合いは確かにあったと思います。

しかし、これら一連の北朝鮮の行動全体を見た場合、どう解釈すべきなのでしょうか。私は、SLBM実験以降、従来とは質的にまったく別なものになったと考えています。これらは主に中国を対象とした示威行動と見て間違いないのです。

その上で、国際社会、特に米国に対し、「中国離れ」をアピールするという持って回った構図になっています。「中国の覇権主義に反対である。場合によってはこの核は対中国の威嚇にもなる」という意味合いだったのでしょう。

2011年金正日氏がの遺体を載せた車につきそう金正恩氏(一番手前)

2011年に父。金正日総書記の死によって、北朝鮮の最高指導者の地位を継承した金正恩・国防委員会第一委員長、朝鮮労働党第一書記は、当初、父から後見としてつけられていた実力者、高官、側近らの粛清を続け、2016年以降、ほぼ国内に対抗勢力がいない状況になりました。私は、ここで彼は、ようやく中長期的な国自体のテーマに取り組むようになったと見ています。

その課題は、言うまでもなく絶望的な状況にある経済の立て直しです。それまでも、現在も北朝鮮をあらゆる意味で支えているのは中国ですが、その中国にいろいろ求めても、これまではかばかしい結果が返ってきませんでした。

金正恩第一書記は、中国の対北援助の基本方針が「生かさず殺さず」であると見切ったようです。そのため、他から援助を引き出そうとしているのでしょう。

金正恩・第一書記はこの間、側近に対し「中国は100年の敵」と言ってはばかりませんでした。2016年あたりにも、「中国相手でも臆することなく強気に出なければならない。中国がアメリカに同調し、制裁を加えるというなら、北京に核ミサイルを撃ち込むことも辞さない」という内容の話を側近にしたという情報もあります。もちろん、オフレコの内輪話ということだが、当然、中国の耳に入ることは計算の上だったのでしょう。

さらに、金正恩は当時北朝鮮ナンバー2といわれた、叔父の張成沢を処刑しています。これは、張成沢氏が中国と親しい関係があったことが関係しているといわれています。

処刑される直前の張成沢、顔と手に殴られたようにあざがある

北朝鮮がもっている唯一の対外交渉カードは、いうまでもなく核・ミサイル開発です。国際社会は、経済制裁を解き援助を行う条件として、必ずイランのように核開発を放棄することを求めています。

しかし、核を手放せば少なくとも現体制は外からの圧力、特に中国からの圧力で潰されることになります。北朝鮮、もしくは金正恩・第一書記がとりうる手段は、これまで通りの対外恐喝路線しかないのです。

しかし、2016年以降はそれまで通り、米国、そして韓国、日本にだけ向かっているわけではないのです。先の側近へのコメントだけではなく、「水爆」、SLBMを振りかざしたのも、同じ意味があります。

これまで開発した通常核ですらミサイル搭載が不確かであるのに、それよりも重い弾頭を用意しようとしていました。さらに、北朝鮮の通常動力型潜水艦では行動範囲が限られているにもかかわらずSLBMを保持しようとしています。

これらがもし開発に成功したとして、その標的はどこなのでしょうか。米国などはとても無理で、近国しかありえないです。これらの一連の開発は、米国にとってはほとんど影響のないものですが、中国にとっては直接的な脅威になるのです。

中国を標的にする背景には、南シナ海問題で、国際社会、特に米国の中国に対する風当たりが強くなっていることがあり、これに同調する姿勢をとることで少しでも自らの立場に正当性を付加しようとしていること、さらに、経済問題などの内部環境から見て、中国が今、北朝鮮を潰しかねないような厳しい制裁を行うことができない、と見切っていることがあるようです。

中国の対北朝鮮政策は、2016年以降岐路に立つことになったのです。このような「狂犬」に出会って、棍棒で叩きのめすべきか、避けて通るべきか、中国側が思い悩んでいるのは確かです。

中国は、このまま北朝鮮を放置すれば、韓国、台湾、日本と核開発ドミノが起きる可能性を懸念しています。さらに、2016年以降、米国、日本が、対北朝鮮封鎖のために軍事力を朝鮮半島周辺に集中し始めており、このことも、中国の安全保障に悪影響を与えるという理由で、中国国内では北朝鮮に対し強硬に出るべきだという意見が強くなっていました。

しかし、現実には今、北朝鮮は、隣国が大混乱に陥るような強硬手段をとる余地がないほど、足下の経済問題が深刻だとみて良いです。中国は当面、慎重な態度をとり続けなければならないようです。

中国はこれまで北朝鮮の核・ミサイル問題を「対米交渉カード」に利用してきました。ところが今や「飼い犬に手を噛まれる」の格好になっています。中国への核・ミサイル威嚇は北朝鮮の「対米交渉カード」となったのです。

2016年6月、ムスダンとみられる弾道ミサイル発射実験の様子

そうして、昨年米国は本格的に対中国経済冷戦に踏み切りました。この動きは、超党派の米国議会も同調した動きであり、次の大統領トランプであろうが、なかろうが、米国は中国が体制を変えるか、経済的にかなり弱体化するまで、制裁を続ける腹です。

そうして、その後米朝会談が開催され、今年の2月下旬には第二回米帳会談が開催される予定です。

この会談では金正恩は核の即時完全放棄ではなく、「核実験の無期限凍結」という、核カードを決して手放さない形の妥協と引き換えに、中・長期的な経済援助を引き出そうとするでしょう。

しかし、中国まで核恐喝の標的にしたことで、北朝鮮の現体制を取り巻く環境がさらに厳しいものになったことは確かです。

私としては、トランプ政権としては、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、中国や日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることは十分にあり得ることと思います。

米国にとっては、北朝鮮の核によって、中国に従属しようとする韓国を含む朝鮮半島に中国が浸透することを防ぎつつ、対中国冷戦をさらに継続するというのは、危険ではありますが、魅力的なシナリオでもあります。

私は、次回の米朝会談において、トランプ大統領は、金正恩がどれほど本気で中国と対峙するかを見極めた上で、今後の対中国冷戦の戦略を考える腹であるとみます。

日本としては、北の核は確かに日本にとって危機であることには違いないですが、それは中国の核とて危険であり、中国の核は北朝鮮の核よりはるかに日本にとって脅威であるという事実を思い起こすべきだと思います。

日本が周辺国の核に対処すべきことがらについては、昨日のこのブログにも掲載したので、ここでは詳細を記すことはしません。そちらを参照していただきたいと思います。

第二回米朝会談にて、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、中国や日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しされるようなことがあれば、日本としてはそれに対応しなければなりません。

日本としては、日朝首脳会談により、金正恩の腹を探ることがより一層重要になってくるものと思います。

【関連記事】

トランプ氏、米のみの制限を認めず 「全核保有国の新条約を」INF破棄で―【私の論評】今回の破棄は、日本の安保にも関わる重要な決断(゚д゚)!

レーダー照射で逆ギレ「韓国」が米国と訣別する日―【私の論評】文在寅の甚だしい誤認、北は反中もしくは嫌中、親中にあらず(゚д゚)!

ルトワック氏単独インタビュー詳報―【私の論評】今後日本は日米英の結束を強めつつ独自の戦略をたて、繁栄の道を歩むべき(゚д゚)!


北朝鮮に強いシグナルを送った米国―【私の論評】ダメ押し米国!着実に奏功しつつある北制裁、中国への見せしめにも(゚д゚)!

2019年2月2日土曜日

トランプ氏、米のみの制限を認めず 「全核保有国の新条約を」INF破棄で―【私の論評】今回の破棄は、日本の安保にも関わる重要な決断(゚д゚)!

トランプ氏、米のみの制限を認めず 「全核保有国の新条約を」INF破棄で

演説前に眉を整えるトランプ大統領=1日,ホワイトハウス

    トランプ米大統領は1日、ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄を同日発表したことに関連し、ホワイトハウスで記者団に対し、「全ての核保有国を集めて新しい条約を結ぶ方が(米露2国間よりも)はるかにましだし、見てみたい」と述べた。

 トランプ氏は一方で、「条約は全ての国が順守しなければならないが、一部の国は条約など存在しないかのような振る舞いをする」と指摘し、ロシアのINF条約違反を批判した。

 同氏はその上で、「全ての国が同意する新条約ができたとしても、他国が条約を守らない一方で米国の行動が制限され、不利な立場に陥るようなことがあってはならない」と強調した。

 一方、トランプ政権高官は1日の電話記者会見で、米国が条約破棄を2日に通告し、6カ月後に失効するまでの期間が「ロシアが条約を順守する唯一にして最後のチャンスだ」と訴えた。ただ、これまでにロシアは条約を順守する意向を示していないとしている。

 同高官はまた、2021年2月に期限を迎える米露の新戦略兵器削減条約(新START)の延長の是非について、関係省庁が検討を始めたことを明らかにした。新STARTは、米露が合意すれば5年間の延長が可能となる。

【私の論評】今回のINF破棄は、日本の安保にも関わる重要な決断(゚д゚)!

トランプ大統領の決定は単なる無謀な核軍拡競争につながり、日本、そして世界にとって迷惑なものなのでしょうか。 

この認識は、はっきりいって間違いです。なぜなら、ソ連時代は極東になかった中距離核ミサイルが、今では北朝鮮と中国に100基以上も存在するようになっているからです。

東アジアの核戦力配置図 クリックすると拡大します

1987年の合意以降、米ソ双方は中距離核ミサイルをかなり撤廃しました。ところがその後、周辺諸国の各配備によりロシアが割を食うことが増えたのです。そして今では日米にとっても、「中国の中距離核ミサイル」という新たな要因が登場しているます。

双方とも相手を表向きは「お前こそ条約に違反して中距離核ミサイルを開発しているではないか」と非難していますが、1987年の合意見直しは、今や米ロ双方にとって必要になったのです。

1987年の合意後、ロシア周辺の諸国が中距離核ミサイルの開発・配備を始めたのです。それは、中国、イラン、北朝鮮による、米国を狙う長距離核ミサイル開発の途上の成果でもあったし、パキスタン、インド(そしておそらくイスラエルのもの)等紛争を抱える隣国を狙ったものでもありました。これは、直接ロシアを狙ったものではありませんが、ロシアにとって脅威になったのはいうまでもありません。

ロシアはこれらの国と紛争になった場合、米国向けの長距離核ミサイルICBMを使うわけにはいかないです。と言うのは、これが発射された瞬間、上空の米国の衛星が探知して、米国はこれを米国向けのものと誤認、対応した行動をとってくるからです。

こうしてロシアは、中国やイランの核ミサイルに対して抑止手段を持たない状況に陥ったのです。中ロは準同盟国同士と言っても、互いに信用はしていません。今でもロシア軍は、極東・シベリア方面での演習では、「国境を越えて押し寄せる大軍」に対して戦術核兵器(小型で都市は破壊できないが、大軍を一度に無力化できる)を使用するシナリオを使っています。

これに加えてブッシュ政権のチェイニー副大統領は、東欧諸国に「イランのミサイルを撃ち落とすため」と称して、ミサイル防御ミサイル(MD)の配備を始める構えを見せました。

これは防御と言いながら、実質的にはかつて廃棄したパーシング2ミサイルの技術を使ったミサイルで、容易にロシアを標的とした中距離核ミサイルとなり得るとロシアは判断したようです。

カリーブルを発射したロシアの駆逐艦

「ロシアが秘密裏にINF開発のための実験をしている」と米国が言い始めたのはこの頃、つまり2000年代初頭のことです。ロシアはそれを否定しつつ、実は開発にはげみ、その成果は中距離巡航ミサイル「カリーブル」等として実りました。

カリーブルは2017年12月、ボルガ河口のロシア軍艦から発射され(1987年のINF全廃条約は「陸上」配備のものしか規制していません。水上から撃てば違反ではない、という理屈)、みごとはるか遠くのシリアに着弾したとされています。

今やロシアは中距離核ミサイルを再び手に入れて、これを極東に配備すれば中国、北朝鮮、韓国、グアム、日本を射程に収めることができるようになったのです。

米オバマ前大統領は国防支出を削減、特に核兵器の近代化を止めました。その間、ロシアは、中距離核兵器だけでなく、長距離核戦力を制限する新START条約の枠内ではありましたが、長距離ICBM、潜水艦発射の長距離SLBMの近代化を着々と進めました。経済力のないロシア(GDPは韓国と同程度)は、核戦力でしか米国との同等性を確保できないからです。

だからトランプは大統領に就任早々、核軍備充実を公約のようにして言及し続けてきました。今回のINF全廃条約脱退は、ボルトン大統領安全保障問題補佐官等、かつてのチェイニー副大統領のラインを受け継ぐ超保守派の進言によるものとも言われています。

しかし、これはトランプ自身の信念を反映していると見られ、たとえこの先ボルトンが更迭されても政策の大元は揺るがないでしょう。

すると、米国の新型中距離核ミサイルはまたドイツ等西欧諸国に配備されることになり、轟然たる反米、反核運動を引き起こすのでしょうか。 

おそらくそうはならないでしょう。と言うのは、中距離の核弾頭つき巡航ミサイルや弾道ミサイルは冷戦時代に米国がそうしていたように、西側原潜に搭載して、北極海に潜航させておけば、ロシアを牽制することができるからです。

だからこそ、昨年10月27年ぶりに、米軍空母が北極海で演習し、力をロシアに誇示したのでしょう。これまでも長距離核ミサイルを搭載した原潜の潜航海域を確保することは、米国、ソ連・ロシア、そして中国(南シナ海がその海域にあたる)にとって重要な問題でしたが、今度は中距離核ミサイル搭載原潜の潜航海域を確保することが必要になっているのです。

昨年北極海で演習した米空母ハリー・S・トルーマン

冷戦時代には、ソ連のINFが極東に配備されなかったことで、ソ連の核の脅威は日本には直接及びことはありませんでした。

しかし現在の最大の問題は、北朝鮮の核は言うに及ばず、中国保有の中距離核ミサイルです。

後者は100発を越えるものと推定されていて、中国軍による台湾武力統合などの有事には、日本が米軍を支援するのを止めるため、中国は中距離核ミサイルで日本の戦略拠点、米軍、自衛隊の基地を狙うことでしょう。

こういう時に、「お前が撃つなら、俺も撃つぞ」と言って中国を思いとどまらせることのできる抑止用の核兵器は、今、西太平洋の米軍にわずかしかありません。

かつてはトマホークという核弾頭つき巡航ミサイルが米国原潜等に配備されていたのだですが、これはブッシュ時代の決定でオバマ政権が廃棄してしまったままになっているのです。

これでは、日本は有事に米国との同盟義務を果たすことはできず、米国は日本を見捨てて裸のままに放置することになるでしょう。中国は日本に中立の地位を認めることなく、政治・経済・軍事、あらゆる面で服属を求めてくるでしょう。

そうなると、日本も核抑止力を強化せざるを得ないです。しかし、日本本土に米国の中距離核ミサイルを配備することは、ドイツ以上に難しいです。それに陸上に核ミサイルを配備することは、敵の先制・報復攻撃を容易にして、危険です。

いま米国が開発しようとしている、トマホーク巡航ミサイル新型は海中の潜水艦、あるいはグアムの爆撃機や戦闘機に装備するのが妥当です。

しかし、米国は日本に開発の費用分担を求めてくるでしょう。それは当然のことです。このままでは日本は、中国の属国になってしまう可能性もあります。

しかし日本を守ることは、米国の利益にもなります。在日の米軍基地は、米軍が西太平洋、そしてインド洋方面に展開するに当たって、不可欠の補修・兵站基地となっていますし、日本や西欧等の同盟国が、中国やロシアの中距離核ミサイルに脅されて次々に同盟関係から「脱退」したら、米国は本当の裸の王様になってしまうからです。日本は費用を分担するが、何か見返りに米国から獲得しておくべきでしょう。

ドイツには、昔から米国が置いている「戦術」核弾頭が今でも数十発あるが、これはDual Keyと言って、実戦に使用する時にはドイツ、米国両国政府の合意が必要になっています。ドイツ政府も、これの使用を積極的に米国に発議できるようになっているのです。そして米政府はドイツ政府の了解なしには、これを使用できないです。日本もこのような権利を得るべきです。

そして将来的には、日本も核兵器を開発する可能性の余地を残すのです。その「可能性」自体が抑止力になります。インドが、核ミサイルを保有していながら米国と原子力協力協定を結んでいることを念頭に置くべきです。

なお、中ロ両国周辺の海域は、米国原潜からの中距離核ミサイル発射拠点として、中ロ両国にとって戦略的意味を増していくことになるでしょう。米空母が北極海でわざわざ演習するのは、そういう意味を持っているのです。

長距離の戦略核兵器については、米ロ双方とも増強・近代化というトレンドは中距離核戦力と同じですが、こちらの方は別の条約が機能しており、長距離とは別の問題となります。2021年には失効するので、更新が必要となります。

いずれにしても、今回のロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄は、トランプがやみくもに核増強に突っ走ろうとしている等という単純な話ではないのです。

【関連記事】

2019年2月1日金曜日

トランプ氏「大きく進展」 米中貿易協議、首脳会談調整へ―【私の論評】「灰色のサイ」がいつ暴れだしてもおかしくない中国(゚д゚)!

トランプ氏「大きく進展」 米中貿易協議、首脳会談調整へ

1月31日、ホワイトハウスで劉鶴副首相(左端)と面会するトランプ大統領

 米国と中国の両政府による閣僚級貿易協議が1月31日、2日間の日程を終えた。トランプ米大統領は同日、中国代表団を率いる劉鶴副首相と会談し、中国の知的財産権侵害問題などをめぐり、「極めて大きな進展があった」と協議成果を評価した。一方で「いくつかの重要な問題」を積み残したとして、妥結に向けて中国の習近平国家主席と会談する意向を表明した。

 トランプ氏は劉氏とホワイトハウスの大統領執務室で面会。中国側が表明した米国産大豆の大規模購入に

 具体的な米中首脳会談の日程や場所は、まだ中国と話し合っていないとした。

 米政府は協議終了後に声明を発表し、「議論が広範な論点に及んだ」と指摘。中国による技術移転の強要や市場開放のほか、米国産品の購入拡大による貿易不均衡の是正を話し合ったことを明らかにした。

 声明で米政府は「あらゆる合意事項は完全に順守されることで両当事者が一致した」とした。トランプ政権内には、通商問題をめぐる過去の米中合意が守られてこなかったとして、合意内容を強制執行する仕組みを最終合意に盛り込むよう要求する意見がある。

 一方、声明には「(昨年12月の)首脳会談で合意した3月1日は厳格な交渉期限だ」と明記。期限延長の可能性を否定した。最終合意までに「さらなる作業が残っている」とも述べた。

 ロイター通信によると、閣僚級協議の米側代表である通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は、中国側から2月中旬に米交渉団が訪中するよう招請を受けたと明らかにした。

 米中は昨年12月の首脳会談で90日間の協議期限を設定。米国は協議中の対中制裁強化を猶予するとした。ただし3月1日までの期限内に合意できない場合、米国は中国からの2千億ドル(約21兆8千億円)相当の輸入品に課した10%の制裁関税を25%に引き上げる。

【私の論評】「灰色のサイ」がいつ暴れだしてもおかしくない中国(゚д゚)!

閣僚級貿易協議に先立ち、米国のトランプ大統領は、3月1日が中国との通商協議の厳格な期限だと述べ、期限までに合意に達しない場合は中国製品への関税を引き上げるとの見解を明らかにし。ホワイトハウスが31日明らかにしました。

トランプ大統領

ホワイトハウスは、現在ワシントンで行われている米中通商協議について「トランプ大統領は、(12月の)ブエノスアイレスにおける両国首脳会談で合意した90日の猶予期間は厳格な期限であり、米中が3月1日までに満足できる結果に達しなければ、米国は中国製品への関税を引き上げると繰り返した」と述べました。

米国の景気は、昨年はまずまずというところで、特に雇用がさらに改善されました。2019年には、景気を良くしたいトランプ陣営の政策と、それを抑制するFRBの政策とのバランス、また、2020年8月の東京オリンピック後の日本の政策や2020年11月のアメリカ大統領選挙の動向によって今後の流れが定まって来るのでしょうが、今のところは小さなものはいくつかはあるものの、大きな懸念材料はありません。

習近平

一方、中国の習近平国家主席は1月21日、甚大な影響をもたらす想定外の事態を意味する「ブラックスワン(黒い白鳥)」に警戒するとともに、顕著であるにもかかわらず看過されているリスクを指す「灰色のサイ」を回避する必要があるとの認識を示しました。国営新華社通信が報じましたた。

中国は昨年の経済成長率が28年ぶりの低水準を記録するなど、景気の失速ぶりが目立っています。

習氏は、経済動向が妥当な範囲内に収まる見通しで、中小企業の金融問題を実利的に解決するほか、雇用の安定を目指し企業支援を強化すると述べました。また多額の負債を抱える「ゾンビ」企業の問題を適切に解消するとしました。

技術上の安全性は国家安全保障の重要部分であり、人工知能(AI)や遺伝子編集、自動運転車(AV)などの分野で法制化を加速すると表明。外部環境が困難かつ複雑となる中で、中国は海外の利益を護るとともに、海外事業やその職員らの安全確保を強化するとしています。

灰色のサイ

本日は中国の「灰色のサイ」について掲載します。

「灰色のサイ」という概念は、米国の学者ミシェル・ウッカー氏が2013年1月にダボス世界経済フォーラムで提起したものです。

『灰色のサイ:発生する確率の高い危機にどう対処するか』は、彼女の著作ですが、それによると、「ブラックスワン」は発生する確率は低いが大きな影響を与える事件のことであり、「灰色のサイ」とは発生する確率が高い上に影響も大きな潜在的リスクのことです。

予兆は目にしていたのに、防ぎきれない

灰色のサイはアフリカの草原で成長し、体が並外れて大きくて重く、反応も遅いです。我々が遠くから見ていても、サイは全く気に留めないです。

しかし、サイは一旦狂ったように走り出すと、一直線に猛突進し、その爆発的な攻撃力の前に、我々はあまりにも突如過ぎて防ぎきれず、吹き飛ばされて地面に転がってしまいます。

そのように、突如やって来る災厄、もしくはあまりにも小さすぎる問題に端を発している危険ではなく、多くの場合は長きにわたってその予兆を目にしてきたにもかかわらず、注意を払わなかっただけという例えなのです。

言い換えると、金融システムの崩壊のような「ブラックスワン」が突如として到来するのに対し、「灰色のサイ」は長きにわたって積み重なったものがようやく姿を現してくるというものです。

10年前も暴走した「灰色のサイ」

「灰色のサイ」は発生する確率の高いリスクであり、社会の各分野で相次いで登場している。多くの経済事件は、「ブラックスワン」というよりも「灰色のサイ」であり、爆発前にすでに前兆が見られているが、無視されてきた。

例えば、2007年から2008年までの金融危機は、一部の人々にとっては「ブラックスワン」的な事件ですが、大多数の人々にとってこの危機は数多くの「灰色のサイ」が集まった結果でした。早くから警告を示す兆候が見られていたのです。

国際通貨基金と国際決済銀行は危機が発生する前に、継続的に警告を発していました。 2008年1月、世界経済フォーラムはリスク報告で、予想されている不動産市場の衰退、流動性資金の緊縮、そして高止まりしているガソリン価格など、どれも実際に発生して経済崩壊のリスクを押し上げていると指摘していました。

現在、不平等という問題も一種の「灰色のサイ」かもしれないです。この問題も、もはや今に始まったことではないですが、これまでずっと重視されてきませんでした。

金融危機勃発後から今日に至るまで、世界経済でも特に先進経済地域の蘇生は力のない状態のままであり、中流及び貧困層の生活は悪化の一途をたどり、貧富の差は拡大しています。最終的に一連の「ブラックスワン」事件を招く要因の一つになるかもしれないです。

中国人民大学・重陽金融研究院の高級研究員である何帆氏は、「未来経済学において最も重要な問題は収入の不平等であり、この問題は世界経済の頭上にある『ダモクレスの剣』である」と指摘しています。

最大の「サイ」は不動産バブル

現在の中国経済において「灰色のサイ」は何なのでしょうか。

中国金融改革研究院の劉勝軍院長は、不動産バブルこそ疑問の余地なく最大の「灰色のサイ」だと表明しました。「一方では中国の住宅価格のバブル化に関してもはや議論はされていないが、他方では住宅価格の調整や管理がかつてないほど効力が失われており、多くの人々が『住宅価格は二度と下がらない』という錯覚に陥っている」と彼は語りました。

2頭目の「灰色のサイ」は通貨、人民元の切り下げです。切り下げによる資金の流出は1997年のアジア金融危機のような大きな動揺を引き起こすことになるでしょう。過去数年、中国内資産価格の高止まりや経済成長の減速、経済モデルチェンジの不確実性などの要素の影響で人民元の切り下げ予想が形成され、外貨準備高が4兆ドルから3兆ドルに減少するという事態を招きました。

最近の外貨準備高はやや安定しているとはいえ、それは主に為替管理を強化した結果であり、人民元切り下げの予想はまだ完全に払拭されていません。

3頭目の「灰色のサイ」は、銀行の不良資産の増加です。現在、政府側が公表した銀行の不良資産率は2%前後で、これは非常に良い数字です。しかし、株式市場の銀行株の株価から見ると、不良率は明らかに低く見積もられています。

多くの銀行株の実勢利回りのPE値(株式の時価と純利益の比)は5倍前後で、今のところA株式市場の株価収益率の中央値の60倍以上。銀行株のP/B値(一株当たりの株価と一株当たりの純資産の比率)は2倍以下です。これは、株価がすでに一株当たりの純資産を下回っていることを意味しています。

米国に似てきた住宅ローン事情

最大の「灰色のサイ」と見なされている不動産バブルについて、天風証券マクロ分析チームは米国の金融危機を鑑に、中国の住宅価格における「セーフティクッションの厚さ」を分析しました。

米国の家庭での住宅ローン支出の平均と世帯収入の比率は、2000年以降急速に上昇し、2000年の時点でこの指標は65%でしたが、2006年にはすでに99%に達しており、住宅ローンによる圧力の限界に限りなく近づいていました。

世帯収入の全てを住宅ローン支出につぎ込むならば、家計が崩壊するのは時間の問題です。2007年に米国の家庭での住宅ローン支出の平均と世帯収入の比率は101%に達し、極限点を超えると同時に危機が発生しまし。

中国の家庭の住宅ローン支出と世帯収入の比率は、2006年から2016年までに33%から67%に上昇しまし。2013年から2016年までの間に、不動産価格も大幅に上昇しました。その様相は、2001年から2004年にかけて、米国の国民が積極的にレバレッジをかけた過程と似ています。

世帯における債務という観点から見れば、2016年の中国は2004年の米国にかなり似ています。2016年下半期に中国は通貨政策の緊縮と住宅購入制限政策を打ち出したのに伴い、中国の世帯においても能動的なレバレッジから受動的なレバレッジに変わりつつありますが、住宅ローン支出と世帯収入の比率は、その後も上昇を続けています。

これについては、以前このブログにも掲載しましたが、中国の蘇寧金融研究院は昨年、家計債務の増加ペースが非常に速いとの見解を示しました。過去10年間において、部門別債務比率をみると、家計等の債務比率は20%から50%以上に膨張しました。一方、米国では、同20%から50%に拡大するまで40年かかりました。

今や中国の家計の債務費比率は、リーマンショック時の米国と同水準になっているのです。
天風証券は、「これは良い兆候ではなく、中国の『灰色のサイ』が動き出したのかもしれない」と見ています。まさらにいつサイが暴走しないとも言い切れない状態になっています。

米国に経済制裁を挑まれている現在、「灰色のサイ」が暴れまくることになれば、習近平はさらに苦しい対応を迫られることになります。

【関連記事】

対中貿易協議、トランプ米大統領の態度軟化見込めず=関係筋―【私の論評】民主化、政治と経済の分離、法治国家が不十分な中国で構造改革は不可能(゚д゚)!

中国経済が大失速! 専門家「いままで取り繕ってきた嘘が全部バレつつある」 ほくそ笑むトランプ大統領―【私の論評】すでに冷戦に敗北濃厚!中国家計債務が急拡大、金融危機前の米国水準に(゚д゚)!

米国、3月に中国の息の根を止める可能性…米中交渉決裂で中国バブル崩壊も―【私の論評】昨年もしくは今年は、中国共産党崩壊を決定づけた年と後にいわれるようになるかもしれない(゚д゚)!

2019年1月31日木曜日

日欧EPA、世界GDPの3割 あす発効、世界最大級の自由貿易圏誕生へ―【私の論評】発効によって一番ダメージがあるのは韓国(゚д゚)!

日欧EPA、世界GDPの3割 あす発効、世界最大級の自由貿易圏誕生へ

仏ボルドーのワイン醸造元。日欧EPA発効で欧州産ワインの市場拡大が見込まれる

 日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が2月1日の午前0時に発効する。国内総生産(GDP)の合計で世界の約3割、貿易総額で約4割を占める世界最大級の自由貿易圏が誕生する。



 関税の撤廃などで貿易や投資が活発になり、日本のGDPを約5.2兆円押し上げると試算される。米中による貿易戦争が激しさを増す中、日欧は連携して保護主義的な動きの台頭に対抗する構えだ。

 日本側の関税撤廃率は品目ベースで約94%。欧州産のチーズやワインなどにかかる関税が撤廃や引き下げとなり、日本の消費者には恩恵となる。

 一方、安価な輸入品の増加により酪農をはじめとする農林水産業には打撃となる恐れがある。



 EU側の関税撤廃率は約99%。日本からの輸出は自動車への関税が発効から8年目に撤廃されるなど、企業にとっては商機が広がる。日本の雇用は約29万人増加する見込みだ。

 日欧はともに近く貿易交渉を控える米国を牽制(けんせい)する狙いもある。日欧間で関税が下がれば、米国産品の競争力が相対的に低下する。日本は米国に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への復帰を促す考えだ。

【私の論評】発効によって一番ダメージがあるのは韓国(゚д゚)!

日欧EPA発効で、私自身はワインとチーズが安くなるということで大喜びです。しかし、これで思わぬところに影響がでそうです。

実はEUとの自由貿易がスタートすることによって、お隣の韓国と日本との一騎打ちがスタートすることになりそうです。なぜでしょうか?
この記事では、日本とEUがEPAを結ぶと、どのようなことを意味するのか? それがなぜ、韓国メーカーとの戦いになるのか? このあたりをご紹介していこうと思います。

2018年7月17日、日本とEUとの間で、日欧EPAの署名を行いました。その後各国の国会において日欧EPAの承認がなされました。そうして、明日から日欧EPAは、無事に発効することになりました。

発効とは、日欧EPAに加盟している国に対して、協定書で決められている内容が遅滞なく行われることを意味します。

一例を申し上げれば、関税撤廃の予定が「即時撤廃」に指定されている物は、日欧EPAの発効によって、すぐに関税の撤廃がおこなわれます。発効のタイミングによって、一気に、欧州産の高品質な品物が関税ゼロで日本市場に押し寄せてくるかもしれません。

また、この日欧EPAを考えるときは、とても重要なことがあります。それが相手国におけるEPAの締結状況です。今回であればEUは、すでに他国とも同じような自由貿易協定を結んでいます。すでに締結している協定に加えて、今回、新しく(追加)日本との自由貿易を始めるということです。

決して、相手国は、日本だけと自由貿易を結んでいるわけではありません。もちろん、これは日本側も同じです。(2017年現在、日本は15の地域との間にEPAを発効)

では、2017年現在、EUはどこの国と自由貿易を結んでいるのでしょうか?

2018年7月現在、EUは以下の国との間で自由貿易協定を結んでいます。
  • チリ
  • 南アフリカ
  • コートジボワール
  • ペルー
  • メキシコ
  • カメルーン
  • 韓国
  • 中央アメリカ
  • ラテンアメリカ・カリブ諸国
この協定国の中には、韓国があります。韓国は、アジア地区においては、唯一、EUとの自由貿易協定を結んでいます。日本がEUとEPAを結べば、すでにEUと自由貿易を結んでいる以下の国々と似た土俵に立てます。

この中で注目すべき国は韓国です。韓国といえば、日本企業と競合する製品を輸出する国として有名です。そんな韓国は、日本よりも一足先にEUと自由貿易を結んでいます。そのため、これまでは、欧州市場で韓国製品と日本製品が戦おうとしても関税が賦課される分だけ価格競争に勝てないことが多かったです。

例えば、日本からEUへオレンジを100万円分輸出します。EUが設定しているオレンジへの関税は、日本産が10%、韓国産の物が0%であるとすればどうるなでしょうか。
この場合、EU側の輸入者にとっては、
  • 日本産であれば10万円の関税(100万円の10%)
  • 韓国産であれば、関税はゼロ。
という状況だったのです。日欧EPAを結べば、この関税負担分がなくなり、これまでよりも価格競争力をつけた物を輸出できます。これが自由貿易協定を結ぶメリットの一つです。

サムスン社旗

日欧EPAが発効すると、韓国には、どのような影響があるのでしょか? それを考えるときは、日本とEU、そして韓国の三か国を多面的にとらえる必要があります。一般的に韓国で有名な企業(サムスンなど)は、日本企業と似た製品を輸出しています。しかし、もう少し韓国製品を詳しく見ると、製品の核となる部分は、日本からの輸入に頼っていることが多いです。

つまり、日本から製品に使う部品を輸入して、韓国の工場で最終完成品医にした後、EUへ輸出しています。韓国からの輸出品であれば、韓国とEUとのFTAを使い、関税ゼロで輸出ができます。また、韓国は、アメリカともFTAを結んでいるため、西へ東へと自在に関税ゼロで輸出ができるようにして、自国の競争力を保っていたのです。

ところが、日欧EPAが発効すると、関税面での不利な扱いが徐々に解消されていきます。関税無しで輸出ができるのは、日本の輸出企業にとって大きな追い風です。

では、一方の韓国企業を考えてみましょう。この場合、これまで当たり前にあった日本製品との関税の壁がなくなるため、まさに逆風です。本音のレベルでいうと、韓国企業にとって「日欧EPAの発効」は最も忌み嫌うことでしょう。

日欧EPA発効で、韓国国内自動車業界が少なからず打撃を受けるという見方が出ています。グローバル舞台で競争関係にある日本自動車企業がEU市場で関税引き下げ分を値下げしたり、マーケティング拡大、ディーラー網管理などのさまざまな戦略を通じて韓国車のシェアを蚕食する可能性があるからです。

 韓国自動車産業協会の関係者は、『中国市場の供給過剰、米国市場の成長鈍化など主要市場が厳しくなる中、世界3大市場の欧州まで日本に奪われるかもしれないという危機感が強まっている』とし、『製品の競争力を高められるよう全方向での協力が必要な時期』と述べました。

おそらく、今後日本企業の韓国からの引き上げなども予想できるため、韓国の関連株(輸出企業・船会社・自動車など)も安くなりそうです。

関税撤廃で欧州への日本車輸出が加速するか

日本が、どこかの国とEPAを結ぶときは、すでに相手国が「他の国と自由貿易を結んでいないのか」を確認すべきです。もし、結んでいるときは、どのような国と結んでいるのか? それらの国からは、どのような商品が輸出されているのかを調べるべきです。

すると、それぞれの国に属する企業がどのような動きをするのかが何となく予想できます。今回の件でいうと、日本とEUのEPAによって、韓国に大きなダメージがあると予想できます。

一方米国も、日欧EPAの発効に「臍(ほぞ)をかむ」思いのようです。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(昨年7月7日付)は、「日欧EPAは米国に対する警鐘」と題する社説を掲げました。

経済に明るくない大統領を選んだ結果、米国は国際貿易のグローバル化という波に背を向けて、一人で爪をかむ心境に追い込まれているようです。そう言っては失礼ですが、「類は友を呼ぶ」で、保護貿易論者の下には、それ相当のスタッフしか集まらなかったようです。当初の日本やEUに対する関税引き上げなど、勇ましい議論は影を消しています。

欧州は、米国がTPPから離脱したことを「天佑」と見て、一挙に協定をまとめ上げたと言えるでしょう。もう一つ、米国が保護貿易主義に戻ってしまい、日欧が手を携えて自由貿易を守るという使命感も妥結に導いたものでしょう。さらに、EUから英国が離脱すれば、TPPに加入する可能性が高まります。

日本はTPPから米国が抜けた穴を日欧EPAで補いつつ、さらに米抜きTPPの「TPP11」はすでに発効しています。

一方、以前このブログに掲載したように、日欧EPAは、中国に接近しようとするドイツに対する牽制ともなっています。

いずれにせよ、自由貿易協定をめぐる安倍政権の動きは、米国と中国を牽制するだけではなく、混沌とする世界に新たな秩序をもたらし、世界を救うことにつながります。日本のマスコミや野党は全く評価しませんが、これだけをもってしても、素晴らしい成果であるといえます。

【関連記事】

中国は入れない日欧EPA 中国に“取り込まれる”ドイツを牽制した安倍外交 ―【私の論評】「ぶったるみドイツ」に二連発パンチを喰らわした日米(゚д゚)!

米EU、車除く工業製品の関税撤廃目指す-土壇場で貿易戦争回避―【私の論評】基軸通貨国米国が貿易赤字になりがちであることにトランプ大統領は気づいたか?一方習近平は益々の窮地に(゚д゚)!

TPP「拡大」打ち出して米国と中国を牽制―【私の論評】世界は、軍事・経済的覇権によって振り回され続けることに倦んでいる(゚д゚)!

【社説】米国がTPP11発効で失った市場―【私の論評】トランプの次の大統領がTPPを見直す(゚д゚)!

お先真っ暗…韓国「雇用政策」大失態、貿易戦争も直撃、対中輸出3兆円減の試算も―【私の論評】金融政策=雇用政策と考えられない政治は、韓国や日本はもとより世界中で敗退する(゚д゚)!

2019年1月30日水曜日

厚労省の無理解が招く「統計不正」お手盛り調査の愚―【私の論評】統計不正は、財務省の緊縮が誘発した(゚д゚)!

厚労省の無理解が招く「統計不正」お手盛り調査の愚
「統計法違反」の調査を”身内”に委ねる信じがたい感覚

第198回通常国会にて施政方針演説を行う安倍首相。「統計不正」は今国会の焦点になりそうだ

 毎月勤労統計の不正調査が問題になっていて、今国会でも与野党で厳しい論戦になりそうだ。

 根本厚労大臣は、国会開催前に素早く調査したが、その調査方法が野党から批判されている。「第三者」による調査が相当あやしいものであることが明らかになってきたのだ。

 そこで、実態が明らかになれば批判を招くのが確実な調査方法を、なぜ厚労省、あるいは厚労省特別監察委員会はとってしまったのだろうか。
国会提出前に予算案が修正される異常事態

 まず、今回の統計不正事件を振り返っておこう。

 今年1月11日の厚労省のホームページ( https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000467631.pdf)によれば、毎月勤労統計において、①全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたこと、②統計的処理として復元すべきところを復元しなかったこと、③調査対象事業所数が公表資料よりも概ね1割程度少なかったことを明らかにしている。

 ①では、毎月勤労統計は従業員500人以上の事業所は全数調査がルールだが、2004年からは、東京都内1400事業所のうち3分の1だけを抽出していたという。

 ②では、2004~2017年の調査で、一部抽出調査であるのに、全数調査としていたために、統計数字が過小になっていた。

 ③では、1996年から全国3万3000事業所を調査すべきを3万事業者しか調査しなかった。ただし、誤差率は実際の回収数を元に算出されていたので、誤差率への影響はないという。

 手続き面からみれば、①~③は、統計法違反ともいえるもので、完全にアウトである。

 実害という観点でいえば、②のために、2004~2017年の統計データが誤っていたということになり、統計の信頼を著しく損なうとともに、雇用給付金等の算出根拠が異なることとなり、この間の追加支給はのべ1900万人以上、総計560億円程度になる。

 これらの措置のために、来年度予算案は修正されている。予算案が国会提出前に修正され閣議決定をやり直すことはちょっと記憶にないほどの異例な事態だ。
あまりに早すぎだった調査報告書の公表

 予算面の金額もさることながら、今回の統計不正により、国家の根幹となる統計数字への国民の信頼が大きく揺らいでいる。筆者のように、データに基づく分析を行う者にとっては、とてもショッキングな出来事だ。

 もっとも、今回の統計不正について、厚労省の対応は驚くほど素早かった。事件発覚後10日ほどのうちに、「第三者委員会」として「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」を立ち上げ、責任の所在の解明を行った。

 1月22日、「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」の報告書を公表(https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/000472506.pdf)、関係者の処分を行った( https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/000472513.pdf)。

厚労省らしからぬ素早さに驚いていると、「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」そのものやその調査方法に疑惑がでてきた。

 まず、指摘したいのは、本件は統計法違反の案件という点だ。こういう事案であれば、第三者とは告発した先の捜査当局である。まずこれが筋であって、もし告発しないなら、可能な限り捜査当局のような姿に近づけないと第三者とはいえなくなる。

「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」の委員長は樋口美雄氏。この方は慶大出身の学者だが、今は厚労省所管の労働政策研究・研修機構理事長。これでは、外形的に中立性を疑われてしまう。

 労働政策研究・研修機構は独立した行政法人であるが、そのトップは厚労大臣が任命する(独立行政法人通則法第20条)からだ。

 労働政策研究・研修機構は、厚労省からみれば、いわば子会社であり、身内感覚だろう。

 元役人の筆者の感覚では、少なくとも外形的にはもう少し中立的な「第三者」にしないとまずい。思わず笑ってしまうところだ。

 さらに、本件発覚後の「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」によるスピード調査は、あまりに素早すぎて、事実上厚労省がやったのがバレバレだ。

 こうした「委員会」は、実際には事務局である役所がほとんど仕切り、「委員会」の委員はお飾りである。

 それでも外形的にお飾りがバレないように時間をかけて検討し、委員がやった痕跡は残すようにする。

 今回の場合、あまりに早すぎで、10日で調査後、立派な報告書が出てくると、流石に委員ではなく役人がみんなやったのでしょうとなるだろう。

 それが、委員の職員への聴取において、厚労省官房長が職員に質問していたことが発覚し、報道されてしまう。実態は、厚労省が職員への聴取を行う場に、委員が同席させてもらったのだろう。

激減する政府の統計職員数

 なぜこのような無様なことになったのか。筆者の推測では、後で述べるような、今回の統計不正の本質について厚労省幹部がわかっていなかったからだ。

 もし本質がわかっていれば、意図的に時間をかけて対応できる。わかっていないと、国会開催が迫る中、追及されたくないあまり、早く決着を焦り、稚拙な第三者委員会を作り、拙速な調査で関係者処分を行う。つまり、厚労省幹部が国会答弁を上手くできないので、答弁しないで済むように早期決着を目論んだのだ。

 今回の場合、外形的に第三者に疑惑の念なしの委員会を立ち上げ、時間をかけて調査し、国会では、今調査中を連発し、頃合いを見て、調査結果を公表、関係者を処分、今後の予防策を打ち出すのが手筋だ。

 今回の件で、①全数調査ではなく一部抽出は、手続きとしては完全なアウトであるが、正式な手続きを踏めば統計的には正当化ができる。そもそも統計は全数調査ではなく抽出調査でも一定の精度を確保するための学問だ。

 なぜ抽出調査に切り替えざるを得なかったのが今回の問題の本質だ。

 それは、統計業務の人員・予算カットがある。

 まず、日本政府の統計職員数について、国際比較の観点から見てみよう。総務省の資料によれば、国の統計職員数は1940人(2018年4月1日)。省庁別では、農水省613人、総務省584人、経産省245人、厚労省233人、内閣府92人、財務省74人、国交省51人などである。

 なお、2004年でみると、農水省には4674人の統計職員がいたが、農業統計のニーズの減少のため、これまで4000名以上を削減してきた。他の省庁でも、若干の減少である。今回問題になった厚労省は351人の職員だったが、今や233人に減少している。

 日本政府の統計職員数は1940人であるが、これは人口10万人あたり、2人である。2012年でみると、アメリカ4人、イギリス7人、ドイツ3人、フランス10人、カナダ16人であり、日本の現状は必ずしも十分とは言えない。

 どこの世界でも同じだと思うが、統計の世界でも、従事人員の不足は間違いを招くという有名な実例がある。1980年代のイギリスだ。政府全体の統計職員約9000人のうち、2500人(全体の約28%)を削減したところ、1980年代後半になって、国民所得の生産・分配・消費の各部門の所得額が一致せず、経済分析の基礎となる国民所得統計の信頼が失われてしまった。

 日本の統計業務では、人数だけではなく質の問題もある。海外では、統計職員は博士号持ちの専門家が多いが、日本ではまずいない。

 しかも、日本では各省ごとに統計が分散し省庁縦割りだ。そのため、省庁ごとの壁があり、農水省の統計職員の減員分を各省に配分することができなかった。もし横断的な専門組織があれば、統計人員・予算の大幅減少は避けられただろう。

 こうした問題の本質をつかみ、今後の対策として横断的な統計専門部署の創設まで準備しておれば、安心して、第三者委員会での調査に時間がかけられたはずだ。

 このように対応できなかったのは、統計不正問題の本質の把握ができなかった証であり、それこそが重大である。

【私の論評】統計不正は、財務省の緊縮が誘発した(゚д゚)!

今回問題となっている「毎月勤労統計」とは、賃金、労働時間及び雇用の変動を明らかにすることを目的に厚生労働省が実施する調査です(調査の概要と用語の定義はこちらをご覧下さい)。

その前身も含めると大正12年から始まっており、統計法(平成19年法律第53号)に基づき、国の重要な統計調査である基幹統計調査として実施しています。

毎月勤労統計調査は、常用労働者5人以上の事業所を対象として毎月実施する全国調査及び都道府県別に実施する地方調査のほか、常用労働者1~4人の事業所を対象として年1回7月分について特別調査を実施しています。

調査方法は、下の図のようなかたちで行われています。


「毎月勤労統計」に関して、さらに詳細を知りたいかたは以下をクリックしてください。
本来、従業員500人以上の全企業を調査対象にする(全数調査)ところを、東京都では抽出調査にしていたのですが、そこで厚労省は該当の1464事業所のうち491の事業所だけを不適切に抜き出し、調査を済ませていたといいます。これにより実情との誤差が生じ、失業給付などが本来より少なく給付されていたというのです。

この問題が発覚したのは去年12月ですが、不適切な調査は2004年から10年以上に渡って行われており、担当部署にはそれを正当化するような記述を含むマニュアルまで存在しました。

しかしこれも2015年以降に削除され、組織的な隠蔽が図られていた疑いもあります。さらに2016年10月には厚労大臣の名で「全数調査を継続する」旨の書類を総務省に提出。去年1月には"データ補正"も始まり、抽出調査に3を掛けて全数調査に近づけていたとみられています。

しかし先月、総務省統計委員会が「調査結果が不自然」と指摘し、厚労省はついに今月になって不正を公表した。安倍総理は再度調査を行い、過去に遡り給付する方針を示していますが、対象者はのべ2015万人、給付額は合わせて564億円になる見通しで、システム改修などの費用も加えると、総額約795億円がかかる可能性があるといいます。

問題発覚を受け、小泉進次郎厚生労働部会長は「法律を守る意識がないからこういう事案が生まれるのか、それとも法律を守らなければいけないが無理がきて、守らないといけないからといって捻じ曲げて嘘をつき通す形になっているのか。役所自身の責任感を発揮していただきたい」と指摘しています。

今回の件は、厚生労働省統計情報部の中の課の話ですから、そこの部長にも上がっていなかったかもしれないです。だから当然のことながら事務次官も知らず、厚労省で統計に関わっている職員は200人くらいしかいないので、数人の職員しか知らず、課長さえも知らなかった可能性もあります。

ただし、まともな統計の手法でやれば、3分の1の抽出でもほとんど正確に把握できるはずです。元々統計というのは抽出調査をするものです。200万事業所のうち3万件調査するところ、東京だけ1000少なかったにもかかわらず、2万9000で割り算をせず、3万で割っていました。

そこで生じた誤差0.3%〜0.4%分だけ水準が低くなり、それに基づく雇用保険などに過不足が出たのです。2015年の段階で方法を変えるか、もうちょっとお金をかけていれば良かったかもしれません。

今回の件が発生した背景には、まず第一に日本政府の中に数字でやるという風土があまりないことが挙げられます。ほとんどが文系の人ばかりで、"みんな訳わからない"という感じになっているようです。
冒頭の高橋氏の記事にもあるように、海外では統計の部署が横断的な組織になっています。統計はスペシャリストのものですし、博士号を持っている人がやるような仕事になっています。
それに対し日本は各省それぞれが持っているし、この30年農水省だけで統計関連の職員が数千人減っているのですが、縦割りなので減った分を他の省に回すこともできません。日本の統計職員は世界的に見ても少ないし、不安に見えます。だから他にも怪しい統計もある可能性高いです。
実際24日には、厚生労働省が不適切な手法で統計調査を行っていた問題を受けて、政府がほかの統計調査を点検した結果、財務省の「法人企業統計調査」で、本来発表すべきデータの一部を掲載していないミスがあったことが分かりました。

この結果、財務省が、全国の企業およそ3万社を対象に、3か月ごとに業績や設備投資の金額を聞き取る「法人企業統計調査」で、本来発表すべきデータを掲載していないミスがあったことが分かりました。

掲載漏れが見つかったのは、68ある業種区分のうちの「損害保険業」で、平成20年度から29年度までの10年間にわたって、「配当率」、「配当性向」、それに、「内部留保率」の3つが掲載されていませんでした。

財務省では、これら3つのデータは、すでに公表している別のデータから算出可能だとしていて、速やかにホームページに追加して掲載することにしています。

過去に公表した調査結果を修正する必要はないということで、財務省は「二度とこのようなことがないよう再発防止に努める」としています。

今後、厚労省は弁護士など第三者からなる特別監察委員会を開き、事実関係を調べる方針ですが、弁護士で良いのでしょうか。彼らも、統計のプロではありません。やはり、統計の専門家を特別監査委員会に加えるべきです。
それにしても、十数年続いた統計不正問題を見つけた政権や大臣が責任とらさられるなら、もう誰も問題を暴こうとしなくなるでしょう。朝日新聞や野党の安倍叩きのもたらす弊害は深刻です。

しかも批判するなら上記のように、予算を削って、統計に関わる人々を少なくしてしまった財務省の緊縮主義が筆頭にあげられるべきなのに、そこはなぜか無視です。彼らも、問題の本質がわかっていないのでしょう。

勤労統計不正の背景には、現状では担当部署が予算が少なく、しかも初歩的な統計知識ない人材しか育成できておらず、そうなってしまったのはこの20数年の財務省の緊縮主義があると理解すべきです。その緊縮主義に加担してきた経済学者たちやメディアが今更騒いでいるのは滑稽ですらあります。

これは何やら、金融緩和が雇用と密接に結びついているということを理解しない人が日本には多いということ、デフレや、景気が悪いときには、緊縮財政ではなく積極財政をすべきことなどという経済の常識とも共通点があると思います。

文系だろうが、理系だろうが、長期の数字の動きと、短期の数字の動きをみる習慣があれば、このようなこともすぐ理解できるはずです。

政治家や官僚などは、高等数学は知らなくても良いですが、少なくとも様々な統計数字、最低5個くらいは、その数字の動きとその意味するところを知る努力は欠かすべきではないです。

それすらできない人は、政治家や、官僚、報道人、学者などになるべきではないです。これらの人が数字ではなく、情緒でものを語っても無意味ですし、馬鹿をさらけ出すことになるだけです。

【関連記事】


2019年1月29日火曜日

米、ファーウェイ副会長起訴 身柄引き渡し正式要請へ―【私の論評】米中の閣僚級通商協議は決裂するのが確実か?

米、ファーウェイ副会長起訴 身柄引き渡し正式要請へ

保釈された孟晩舟

 米司法省は28日、米国の要請でカナダ当局が逮捕した中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の孟晩舟(もう・ばんしゅう)副会長兼最高財務責任者(CFO)をニューヨークの連邦大陪審が起訴したと発表した。同省は起訴を受け、孟被告の身柄引き渡しをカナダ当局に正式要請すると表明。カナダ公共放送は同日、同国の司法省が米政府から正式要請を受け取ったと報道した。米中両政府は30、31日にワシントンで閣僚級貿易協議を予定しており、米中関係のさらなる緊迫は確実だ。

 起訴状によると孟被告は、米政府による対イラン独自制裁に違反し、イランにある華為の関連会社「スカイコム」を通じてイランと商取引を展開。また、一連の制裁違反を隠蔽(いんぺい)するため、2007年ごろから米金融機関に虚偽の説明をしたとして詐欺などの罪に問われている。スカイコムと中国の華為本社、同社の米関連会社も起訴された。

 孟被告は昨年12月にカナダ当局に逮捕され、現在は保釈されている。米国とカナダの間で取り決められている引き渡し要請の期限は今月30日で、米国の正式要請を受けてカナダの裁判所が可否を判断する。

 司法省はまた、華為が米携帯電話大手「Tモバイル」からスマートフォンの品質試験を行うロボットの技術を盗み出した罪で、ワシントン州シアトルの連邦大陪審が華為の関連会社2社を起訴したと発表した。

 このロボットは「タッピー」と呼ばれ、人間の指を模した装置でスマホ画面の反応などを測定する。華為はTモバイルと業務提携していた14年ごろ、自社の社員を同社に潜入させ、ロボットの写真を無断で撮影したほか、指状の装置部分をひそかに取り外して盗み出そうとした。

 ロス商務長官はこの日、司法省で行われた記者会見で「嘘やいんちき、窃盗は適切な企業の成長戦略ではない」と強く批判。レイ連邦捜査局(FBI)長官も同じ記者会見で「米国の法を破り、司法妨害をし、米国の安全保障を危険にさらす企業をFBIは決して許さない」と強調した。

【私の論評】米中の閣僚級通商協議は決裂するのが確実か?

昨年4月16日、米国は、中国通信大手ZTEに対して、制裁違反を理由として、7年間の米国内販売禁止と米国企業によるソフトウェアとハードウェアの販売を禁じる命令を出しました。

これにより、スマートフォン北米市場でシェア4位だったZTEは事実上の事業停止状態に追い込まれました。現在、通信業界では次世代規格である5Gの規格決定と基地局などインフラ整備のテストと準備が始まっていますが、この処置によりZTEは次世代規格に加われなくなりました。

基本的に、現在のスマートフォンは米国企業が持つ特許なしには製造できません。なぜなら、現在のスマートフォンは、グーグルのアンドロイドもしくはアップルのiOSなしでは成立しないからです。また、通信チップもクアルコムやインテルなどがその中核を占めており、チップ供給なしではスマートフォンを生産することは不可能なのです。

そして、米国は中国の最大手通信機器企業であるファーウェイにもその捜査の手を伸ばしていました。ファーウェイは中国人民軍の工兵部隊出身者が創業者であり、中国政府や中国人民軍とかかわりの深い企業です。



実際に、2012年10月、米連邦議会下院の諜報委員会 は、ファーウェイとZTE社の製品について、中国人民解放軍や中国共産党公安部門と癒着し、スパイ行為やサイバー攻撃のためのインフラの構築を行っている疑いが強いとする調査結果を発表し、両社の製品を合衆国政府の調達品から排除し、民間企業でも取引の自粛を求める勧告を出していました。

この二社は昨年、米国の制裁対象になりました。実はこれに先立ち、昨年3月7日、米国財務省は、シンガポールに本社を置く半導体企業であるブロードコムによるクワルコム買収に懸念を示す声明を出していました。

ブロードコム、クワルコムともに通信チップの有力企業であり、ブロードコムはもともと米国企業であるが、華僑資本などによる買収により二大本社体制をとっている企業です。財務省はその理由を安全保障上の理由としている。

安全保障を考えた場合、通信は非常に重要な意味を持つ技術であり、これを他国に奪われることは非常に危険といってよいです。だからこそ、今回の処分となったといえます。

また、これは米国の反撃の始まりに過ぎないものでした。米国は中国への経済制裁をかけるにあたり、安全保障と知的財産権を大きな要素として挙げています。現在、米国が覇権国家の地位を維持できるのは、豊富な知的財産権とそれを前提にしたルール作りをできるからです。

当然、これを害するもの、それも不正な方法で害するものが出てくれば、相手が対抗できる存在になる前に潰すのが王道であり、今ならそれが可能です。

中国は他国企業の技術移転と技術を持つ多数の企業の買収により、一気に技術レベルを上げています。そして、このままでは世界の技術的主導権を握られる恐れすらあるわけです。

しかし、現在の中国は物を生産できても、その規格作りやチップなどキーパーツや生産機械の製造までは出来ないです。つまり、米国にとって、中国を潰すには今しかないのです。

規格作りやチップなどキーパーツや生産機械の製造まで、手がけるようになり、さらにそれを世界中に販売する力を持てば、これは米国でもなかなか潰すことはできません。

そうした中で、ファーウェイの孟晩舟(もう・ばんしゅう)副会長兼最高財務責任者(CFO)が昨年カナダ当局により逮捕され、さらに本日はニューヨークの連邦大陪審が孟氏を起訴しました。

米国最高裁

起訴を受け、首都ワシントンで30日から始まる米中の閣僚級通商協議は難航しそうです。中国の劉鶴副首相は米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表ら米高官と会談します。

米国側は中国に対して技術移転強要の中止や知的財産権の保護を求めています。一方、中国側はトランプ米政権に対して輸入関税の撤廃を求めています。

米国と中国の当局者は孟副会長の起訴を通商協議と切り離す意向を示しています。しかし米司法省が断固とした態度に出た以上、この問題を素通りするのは難しいでしょう。

さらに、米国議会の動きもあります。そもそも、米議会は7年も前から、中国を警戒してきました。米国議会の政策諮問機関の「米中経済安保調査委員会」は2012年2月15日日、公聴会を開き、中国の大手国有企業の対米活動について論議をしました。議員から、透明性を欠いたまま、政府の意向を体現しようとする国有企業の実態が報告され、最新軍事技術の流出の可能性も含め、警戒論が相次ぎました。

米下院情報特別委員会は2012年10月8日、中国の大手通信機器企業の活動が米国の国家安全保障への脅威になるとする調査報告書を発表、これら企業は中国共産党や人民解放軍と密接につながり、対米スパイ工作にまでかかわるなどと指摘しました。

当時問題視された中国企業は、米市場でも製品などが広く流通している「華為技術」と「中興通訊(ZTE)」。報告書ではまず、両社の中国の党、政府、軍との特別な関係を挙げ、それぞれ社内に共産党委員会が存在し、企業全体が同党の意思で動くとしました。

このようにファーウェイは米国側からは7年も前から超党派でスパイ工作の疑惑を指摘されていたのです。

米国議会

さらに、米議会の超党派議員は今月16日、華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)を含む中国の通信機器関連企業が、米国の制裁措置、もしくは輸出制限措置に違反した場合、米国の半導体やその他の部品の販売を禁止する法案を提出しました。

法案を提出したのは共和党のトム・コットン上院議員とマイク・ギャラハー下院議員のほか、民主党のクリス・バン・ホーレン上院議員とルーベン・ガレゴ下院議員。

同法案は米国の制裁措置、もしくは輸出制限措置に違反する中国の通信機器企業に対する米国の部品の輸出を大統領が禁止することを要求するもので、ファーウェイとZTEを名指ししています。

コットン議員は声明で「ファーウェイは事実上、中国共産党の情報収集機関だ」と指摘。「ファーウェイのような中国の通信機器メーカーが米国の制裁措置、もしくは輸出制限措置に違反した場合、死刑に値する措置を受ける必要がある」としました。

このように、司法も議会もファーウェイに対しては、かなり厳しい見方をし、断固とした態度に出た以上、トランプ政権はこの問題は素通りできないです。

通商協議はおそらく決裂し、トランプ大統領がさほど間を置かずに怒りのツイートを発することでしょう。実際、昨年5月には共同声明で中国が米農産物やエネルギーの輸入拡大に合意し、知財権の重要性を認めたにもかかわらず、数日後にトランプ大統領はこの枠組みを拒否していました

これでは、30日から始まる米中の閣僚級通商協議は決裂するのが最初から決まっているようなものです。そうして、米国の対中冷戦は次の次元に入っていくのは確実です。

【関連記事】

2019年1月28日月曜日

【日本の選択】韓国に“譲歩”し続けてきた日本、これ以上はダメだ 思い出す福沢諭吉の嘆き「背信違約が韓国の人々の特徴」―【私の論評】中国がまともになるか、弱体化するまで、日本は韓国と断交せよ(゚д゚)!

【日本の選択】韓国に“譲歩”し続けてきた日本、これ以上はダメだ 思い出す福沢諭吉の嘆き「背信違約が韓国の人々の特徴」



 韓国軍合同参謀本部は23日、自衛隊哨戒機が、韓国海軍の艦艇に高度約60~70メートル、距離540メートルの「近接威嚇飛行」を行ったと発表した。さらに、18、22日にも「威嚇飛行」を行ったと主張し、「明白な挑発行為だ」と非難した。これに対し、岩屋毅防衛相は、韓国側の主張を完全否定し、自衛隊が国際法規、国内法に則って合法的に活動していたと指摘した。

 またしても、日本と韓国の主張が明らかに食い違っている。

 だが、冷静に考えてみて、自衛隊哨戒機が韓国海軍に威嚇飛行する必要や意義がないのは明らかである。それでも韓国側の主張こそが正当だというのであれば、そうした証拠を出せばよいだけの話だ。根拠なく日本を攻撃するだけでは、謂れなき誹謗(ひぼう)中傷というより他ない。

 事実を軽んずる韓国の姿勢を繰り返し見せ付けられると、福沢諭吉の言葉を思い出さずにはいられない。

福沢諭吉

 福沢は『脱亜論』で、中国、朝鮮を「悪友」とし、悪友と親しむ者も悪名を免れないとして、日本は亜細亜と離れるべきだと福沢は説いた。福沢は当初から中国や朝鮮を軽蔑していたわけではない。むしろ、中国や朝鮮と連帯する可能性を模索していた思想家だった。

 だが、福沢の希望はことごとく裏切られ、その結論として『脱亜論』に至るのである。福沢は自らが創刊した『時事新報』において、痛切に朝鮮の不誠実を非難したことがある。

 「左(さ)れば斯る国人に対して如何なる約束を結ぶも、背信違約は彼等の持前(もちまえ=本来の性質)にして毫(ごう=ほんの少し)も意に介することなし。(略)朝鮮人を相手の約束ならば最初より無効のものと覚悟して、事実上に自ら実を収むるの外なきのみ」

 背信違約こそが、朝鮮半島の人々の特徴であり、約束が約束として機能しないというのだ。

 一つの民族、国民を一括りにして論じているのだから、今で言えば「ヘイト・スピーチ」の類といってもよい。確かに、韓国の中に誠実な人が一人もいないと断ずるのは大げさだろう。だが、一連の韓国政府、軍部の行動をみていると、福沢ならずとも、彼らの誠意を疑わざるを得なくなってくる。

 私は日韓がいがみ合っていることは、決して日本の国益にならないと考えている。できるのであれば、友好関係を維持すべきである。

 だが、事実を曲げ、約束を違えるような韓国政府に、日本政府が媚(こび)を売る必要は全くない。およそ日韓関係において、日本はあらゆる譲歩をしてきた。これ以上、譲るところは何もない。あとは、かの国が成熟した民主主義国家へと変貌することを待ち望むだけである。

 彼らが「千年の恨み」と繰り返すのであれば、向こう千年間、冷ややかに傍観し続けるくらいの余裕が日本には必要だろう。

 ■岩田温(いわた・あつし) 1983年、静岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、同大学院修士課程修了。拓殖大学客員研究員等を経て、現在、大和大学政治経済学部政治行政学科専任講師。専攻は政治哲学。著書に『平和の敵 偽りの立憲主義』(並木書房)、『「リベラル」という病』(彩図社)、『政治学者が実践する 流されない読書』(育鵬社)など。

【私の論評】中国がまともになるか、弱体化するまで、日本は韓国と断交せよ(゚д゚)!

この段階まで来たのであれば、既に韓国政府を相手に交渉をしても無駄です。やはり、前かこのブログでも主張してきたように、断交をするのが一番だと思います。

断交する前に、それを韓国にわからせるため、効果的な制裁を課した上で、それでも韓国が態度を変えなかった場合、断交で良いでしょう。

韓国に対する制裁はすでに始まっています。

防衛省は、韓国で開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)の拡大国防相会議(ADMMプラス)に合わせ、釜山港に、いずもなど護衛艦数隻を派遣することを計画していました。

海自はいずもの釜山への入港は見送るものの、各国海軍と洋上で行う共同訓練への参加は検討を続けるそうです。

いずも

これから、様々な制裁が発動されていくものと思います。実効性のある制裁は以下のものが考えられます。

最初の制裁としては、「在韓日本大使の帰国」である。この問題が解決するまで、大使を韓国に戻さない決意が必要です。

第2の制裁は「ノービザ渡航の廃止」など、韓国人の日本入国のハードルを上げることです。商用出張の長期滞在ビザについても、窓口規制でビザ取得までに時間をかけると同時に、発行数も極端に減らすべきです。

最近、日本で働く韓国人の数が増えています。

17年末時点で、「技術・人文・知識・国際業務」ビザを取得した韓国人は2万1603人で、前年比で約14%も増加しました。一昨年の韓国大卒者の就職率はわずか67・7%です。何と今後5年で、韓国青年1万人の日本での就職を目指すプロジェクトを韓国政府が発表しています。まず、この動きをストップするのです。

当然、就職ビザがなければ、韓国人は日本で働けない。「世界一反日」ともいわれる韓国から、なぜ、多くの就職者を受け入れなければならないのか。同じ外国人を受け入れるにしても、もっと親日的な台湾や東南アジア、インドなどの国々があるではないか。

第3の制裁は「輸出信用状の発行制限」です。

貿易関係者によれば、日韓の輸出入に関しては、日本の銀行の信用枠を利用することが多いといいます。韓国にもいくつかの国策銀行が存在しますが、財務状況が悪いところから信用枠が狭く、日本側に依存しているといいます。この信用枠利用を即刻、制限すべきです。

第4の制裁として「日本の資本財や中間財の輸出制限」も考えられます。日本から、IT製品の基幹部品や素材、工作機械の輸出を止めれば、韓国経済は機能しなくなります。

いずれの懲罰も、日本側にも痛みを伴うものである。財界・産業界の支持や協力が不可欠で、日本政府の一時的救済策も必要でしょう。

ですが、ここで日本国民が団結して、韓国の「卑怯で無法な脅迫」に屈しない態度を示さなければ、韓国の「反日暴走」はとどまるところをしらないです。

日本としては、このくらいのことを実施し、それでも韓国政府の態度が改まらないときには、断交すれば良いのです。

このようなことを実施しても、米国は何も驚きはしないでしょう。米国は、すでに2013年当時戦略的変化を選択しました。集団的自衛権行使を含む日本の軍事力強化に対して、歓迎と協力の意を公に表明したのです。

米国は同年10月3日、日米安全保障協議委員会(2+2)の閣僚共同声明に「集団的自衛権の行使容認に向けた取り組みなど、日本の努力を歓迎する」という趣旨の文言を盛り込みました。

米国のこうした考えは、それまでも複数のルートで感知されていました。しかし米国は、アジアにおけるもう一つの同盟国である韓国の懸念などを考慮して、こうした意向を明確にすることは避けていました。

当時のこの声明は、日本にアジア・太平洋地域の防衛に関する役割を委任することが、北東アジアをめぐる今後の米国の戦略的利害と合致したため実現したというのが、専門家らの一致した分析でした。

米国は、当時の軍備縮小の流れの中で、北東アジアの安全保障についてかなりの部分を日本に「アウトソーシング(委託の意)」し、負担を減らしたいというわけです。ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)で東アジア担当大統領特別補佐官を務めた経験を持つ戦略国際問題研究所(CSIS)のマイケル・グリーン日本部長は「日本が防衛費を増やし軍事力を強化することは、米国の立場から見て望ましく、必要なこと」と語りました。
当時米国は、政府支出の自動削減措置(セクエスター)により、当時10年間で国防費をはじめとする安全保障予算を1兆ドル(現在のレートで約97兆円)以上も削減しなければならないことになっていました。

当時の米国の外交問題評議会(CFR)は「国防予算の削減で米国の軍事的衰退は避けられず、これにより韓半島(朝鮮半島)を含む米国の(戦争)抑止力、防衛力、紛争対応力は弱まるだろう」と分析しました。

ただし、この状況は現在のトランプ政権で一変しました。米国は軍事予算を増やしています。ところが、一旦予算が減らされた軍隊を元に戻すにはそれなりに時間がかかります。
米国は、当時からすでに韓国を信頼していないのです。そうして、最近でも中国に引き続き従属しようとする姿勢を崩さない韓国には業を煮やし、今後は北朝鮮を対中国の強力な盾として利用しようとしているようです。

実際、このブログにも掲載してきたように、北朝鮮は中国からの完全独立を希求しています。この点で、韓国とは全く異なるのです。北の核は米国も狙っていますが、無論中国も狙っています。

北朝鮮の核は結果として、朝鮮半島への中国の浸透を防いでいる

だからこそ、まがりなりにも北朝鮮は独立していられるのです。もし北が核を開発していなければ、今頃、朝鮮半島は中国の一省になっていたか、そこまでいかなくても朝鮮半島は統一されて、中国の傀儡政権が実権を握っていたかもしれません。

金王朝は、傀儡政権によって命脈を断たれたかもしれません。金一家はこれを恐れたたため、核を開発して中国に対峙してきたのです。

これからの朝鮮半島情勢は、米国の対中国冷戦を抜きには語れません。というより、安全保障上では中国に対峙することこそが、決定要因であり。北朝鮮、韓国などは制約要因に過ぎないです。

中国がまともな体制に変わるか、経済的に弱体化させて、他国に影響を及ぼせなくすることが、本命であり、これが解決されれば、北朝鮮や、韓国の問題などほぼ自動的に解消されます。これは、米国にとってもそうですが、日本にとっても同じです。

中国をどうにかしない限り、韓国は図に乗りっぱなしですし、北も同じく拉致問題などの緒もつかめないままになってしまうでしょう。

以上のようなことから、日本は韓国といずれ断交すべきです。中国がまともな体制となるか、弱体化すれば、北は中国の頸城から開放され、韓国は従属先を失うことになります。そこから、全く新しい朝鮮半島の秩序が形成されていくことになります。そうなれば、統一への道筋もつけられるかもしれません。

日本としては、朝鮮半島がまともになるまで、断交で良いです。

【関連記事】

韓国「救助」主張の北漁船は『特殊部隊用』か レーダー問題で軍事専門家が衝撃解析 ―【私の論評】なぜ米国はレーダー照射問題に無関心なのか、その背後に何が?

照射問題に見る韓国軍艦の不自然な行動 文在寅氏は北朝鮮の言いなりか―【私の論評】南北統一の虚妄より、北の核が結果として朝鮮半島への中国の浸透を防いでいることに注目せよ(゚д゚)!

文在寅は誰にケンカを売っているのか?―【私の論評】中国に従属し、安全保障を放棄したぶったるみ韓国にうつつをぬかすより日本はやるべきことをやれ(゚д゚)!

レーダー照射で逆ギレ「韓国」が米国と訣別する日―【私の論評】文在寅の甚だしい誤認、北は反中もしくは嫌中、親中にあらず(゚д゚)!

「金王朝」死守したい金正恩の頼みの綱はやっぱり核―【私の論評】韓国は中国の朝鮮半島浸透の防波堤の役割を北に譲った(゚д゚)!

2019年1月27日日曜日

米国務長官、タリバンとの協議で「進展」 米軍のアフガン撤収に「真剣」―【私の論評】ドラッカー流マネジメントの観点からも、戦略的な見方からも、米国が中国との対峙を最優先する姿勢は正しい(゚д゚)!


ポンペオ米国務長官のツイート

ポンペオ米国務長官は26日、アフガニスタン情勢に関しツイッターで「米国は和平を追求し、アフガンが今後も国際テロの空間とならないようにするとともに、(米軍)部隊を本国に帰還させることを真剣に考えている」と述べ、将来的にアフガニスタン駐留米軍を順次撤収させていく考えを示した。撤収開始の時期などについては明らかにしなかった。

 米国のハリルザド・アフガン和平担当特別代表は21~26日にカタールのドーハでアフガンのイスラム原理主義勢力タリバンと和平協議を実施。現地からの報道では、双方は米軍撤収に関し一定の合意に達したとされるが、ポンペオ氏は「協議では和解に関し重要な進展があった」としたものの、米軍撤収に関する合意には言及しなかった。

米国のハリルザド・アフガン和平担当特別代表

 ポンペオ氏はまた、和平に関し「アフガン政府および全ての関係当事者と一緒に取り組んでいる」と指摘。「米国はアフガンの主権と独立、繁栄を目指す」とも語り、不完全な合意で情勢を不安定化させないよう慎重に協議を進める立場を打ち出した。

 一方、ハリルザド氏もツイッターで「近く協議を再開する」とした上で、「多くの取り組むべき課題が残されている。関係当事者間の対話と包括的停戦を含む全ての課題で合意できなければ合意にはならない」と強調した。

 ロイター通信などによると、今回の協議では和平合意が成立してから16カ月以内に米軍がアフガンから撤収を始めることで一致したとされるが、ハリルザド氏の発言は米軍撤収の議論が先行することにクギを指す狙いがあるとみられる。

【私の論評】ドラッカー流マネジメントの観点からも、戦略的な見方からも、米国が中国との対峙を最優先する姿勢は正しい(゚д゚)!

米国とアフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)は26日、17年以上にわたるアフガン紛争の終結を目指す和平協議で、いくつかの争点が残っているものの、大きく前進したと発表しました。

米国のザルメイ・ハリルザド(Zalmay Khalilzad)アフガン和平担当特別代表はカタールで、タリバンの代表団と6日間という異例の長さの和平協議を行っていました。ハリルザド氏はアフガン生まれ。ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)元米政権下の外交で重要な役割を果たしました。

ハリルザド氏はツイッター(Twitter)に「ここでの協議は、これまで行われてきたものよりも実りが多かった。重要な諸問題で著しい進展があった」と投稿しました。アフガンとその重要な近隣諸国で協議を行ってからカタール入りしたハリルザド氏は協議後、アフガンの首都カブールに戻り、今回の協議の成果について説明することになっています。

合意案の詳細は明らかにされていないですが、タリバンが外国の過激派をかくまわないと保証することと引き換えでの米軍撤収も含まれているとの観測が出ています。米軍事介入のそもそもの原因は、タリバンが外国過激派をかくまったことでした。

タリバンのザビフラ・ムジャヒド(Zabihullah Mujahid)報道官は、協議で「進展」があったと認める一方、停戦やアフガン政府との協議に関する合意があったとの報道は「事実ではない」と述べました。

タリバンのザビフラ・ムジャヒド(Zabihullah Mujahid)報道官

しかし、タリバンのある幹部は協議後、匿名を条件にパキスタンからAFPの電話取材に応じ、「米国はわれわれの要求の多くを受け入れた。双方は重要な点に関してかなりの合意に達した」「まだ意見の一致を見ていない問題で妥協点を見いだす努力が続いている。アフガン政府も関与している」と述べ、協議の先行きに楽観的な見方を示しました。

米国はアフガニスタンからも撤退しそうですが、ではなぜこのようなことを米国はするのでしょうか。これには、様々な憶測が飛び交っていますが、私はやはりトランプ氏の意向がかなり反映していると思います。

長い間企業家の道を歩んで、失敗や成功を数々積み重ねてきたトランプ氏は、既存の政治家や、軍人とは異なる考え方をします。その最たるものは、物事に優先順位をつけるということでしょう。

経営学の大家であるドラッカー氏は優先順位について以下のように語っています。
いかに単純化し組織化しても、なすべきことは利用しうる資源よりも多く残る。機会は実現のための手段よりも多い。したがって優先順位を決定しなければ何事も行えない。(『創造する経営者』)
トランプ政権にとって最大の優先課題は、やはり中国です。中国の体制を変えるか、体制が変えられないなら、経済的に他国に影響を与えることができないほどに中国の経済を衰退させることです。

経済の指標としては、現在のロシアあたりを念頭においているかもしれません。ロシアの現在のGDPは最新の統計では韓国と同程度の規模です。そうして、これは東京都と同程度の規模です。

これでは、いくらロシアのプーチンが力んで見せても、どうあがいても米国の敵ではありません。最早、NATOともまともに対峙することはできないです。ただし、旧ソ連からの核兵器や軍事技術などを引き継いでいるのは現ロシアなので、その点では確かに侮ることはできないですが、GDPがこの程度の規模のロシアには、できることは限られています。

とはいいながら、やはりロシアは侮れません。油断すれば、米国はウクライナでの失敗を繰り返すことになります。

ロシアと中国の両方と対峙するべきと主張していたのが、先日国防長官を辞任したマティス氏です。

しかし、考えてみてください、中国とロシアの両方に対峙し、さらにアフガン、シリア、イラクなどで戦っている状況は、優先順位というものを考える人間からすると、これでは戦える戦も負けてしまうと考えるのが普通です。これは、戦中の日本を彷彿とさせます。

トランプ氏は、実際に米国の大統領の立場に立ち、米国の軍事力や経済力の現実を知り、その上で今一度米軍の安全保障政策をみると、実務家のトランプ氏はこれでは到底、米国はいずれの戦線でも勝つことはできないと考えたに違いありません。

いまや世界で唯一の超大国米国にも、限界があります。第二次世界大戦時には米国も総力戦となり、米国だけではなく、多数の連合国とともに戦いました。だから、ドイツと日本と同時に戦うことができました。しかし、現状はそのようなことはなく、ほとんどが米国の負担によってすべての戦線で戦わければならないのです。

それは、到底不可能で、現状のままであれば、米国は勝てる戦争にも勝てないとトランプ氏は考えたのでしょう。だからこそ、先日はシリアからの撤退を決めたのです。そうして、今度はアフガニスタンからの撤退を決めたのでしょう。

ドラッカー氏

ドラッカー氏は優先順位について、さらに以下のように語っています。「誰にとっても優先順位の決定は難しくない。難しいのは劣後順位の決定。つまり、なすべきでないことの決定である。一度延期したものを復活させることは、いかにそれが望ましく見えても失敗というべきである。このことが劣後順位の決定をためらわせる」。

トランプ氏はシリア問題やアフガニスタン問題に関しては、劣後順位が高いと考えたのでしょう。

シリアについては、以前もこのブログで述べたように、反政府勢力が勝っても、アサド政権側が勝っても米国に勝利はありません。反政府勢力が、米国の味方などという考えは間違いです。もし反政府戦力が勝てば、反米政権を樹立するだけです。

このあたりについては、他の記事で挙げています。一番下の「関連記事」のところにリンクを掲載しておきますので、興味のあるかたは当該記事をご覧になってください。

この混乱したシリアに関しては、トルコがこれに介入すると名乗りをあげたので、トランプ氏としてはトルコに任せるべきと判断したのでしょう。そうして、イラクには米軍を駐留させ続けながら、シリアからは撤退する道を選んだのでしょう。

アフガニスタンに関しては、17年間も紛争が続いているのにもかかわらず、未だに米国は勝利を収めていません。これ以上米軍が関与しても、米国が勝利を収めることはできないでしょう。もっと上位の問題を解決しないとこの紛争は本質的に解消しないとトランプ氏は考えたのでしょう。であれば、暫定政権を支援しつつアフガニスタンからは撤退すべきなのです。

優先順位の分析については多くのことがいえます。しかしドラッカーは、優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気だといいます。彼は優先順位の決定についていくつかの原則を挙げています。そしてそのいずれもが、分析ではなく勇気にかかわる原則です。

 第一が、「過去ではなく未来を選ぶこと」である。 

 第二が、「問題ではなく機会に焦点を合わせること」である。

 第三が、「横並びでなく独自性を持つこと」である。

 第四が、「無難なものではなく変革をもたらすものに照準を当てること」である。

そうして、ドラッカー氏は、優先順位について以下ような結論を述べています。
容易に成功しそうなものを選ぶようでは大きな成果はあげられない。膨大な注釈の集まりは生み出せるだろうが、自らの名を冠した法則や思想を生み出すことはできない。大きな業績をあげる者は、機会を中心に優先順位を決め、他の要素は決定要因ではなく制約要因にすぎないと見る。(『経営者の条件』)
今一度、アジア情勢でこの結論をあてはめてみると、米国にとって最大の機会は、中国の覇権主義を封じることです。今や一人あたりのGDPはまだまだの水準ですが、国としてGDPは中国は世界第二の水準になりました。これについては、実際ははるかに小さくてドイツ以下であろうとみるむきもあります。

ただし、それが事実であろうが、なかろうが、ロシアなどよりははるかに大きく、現在は米国が問題を抱える国としては、中国が最大です。

であれば、中国との対峙を最優先にあげることは、ドラッカー氏の結論にも適合しています。そうして、中東の問題や、北朝鮮、韓国の問題なども、そうしてロシアの問題もこの優先順位の高い中国の対峙という問題に比較すれば、決定要因ではなく制約要因にすぎないと見るべきなのです。

実際、中国の問題が解消できれば、北朝鮮問題や韓国の問題など簡単に解決できるでしょう。ほとんど何もしなくても半自動的に解消されるかもしれません。ロシアとの問題も解消できるかもしれません。

米国が、第一次冷戦ソ連に勝利し、第二次冷戦でも中国に勝利すれば、ロシアは米国に対峙することはためらうことでしょう。それよりも良好な関係を継続したいと考えるようになるでしょう。

その後は、ロシアか中東が米国にとっての最優先課題になるのかもしれません。しかし先にも述べたように、ロシアは今やGDPは東京都より若干少ない程度ですし、中東諸国もそのロシアよりも下回る程度に過ぎません。

こうして、考えるとやはり米国が中国との対峙を最優先するのは当然のことです。そうして、超リアリストの 政治学者であるミアシャイマー氏やこのブログにも度々登場する、世界一の戦略家ともいわれるルトワック氏は、 「ロシアと組んで中国を封じ込めろ」と主張しています。

ミアシャイマー氏

そして、ルトワック氏は、米ロが直でつながるのは難し いので、 「日本が米国とロシアをつないでくれ」 といっているのです。 そして、彼は日本がロシアに接近することを勧めています。 ロシアとつながることが、日本がサバイバルできるかどう かの分かれ目だととも語っています。

安倍総理がプーチンとの会談を重ねているのも、領土問題そのものよりも米国とロシアとの橋渡し役が多いのかもしれません。米国といえども中国とロシアを同時には戦えません。そのためにはロシアと中国を組ませない工作が必要です。シリアからの撤退もその一つかもしれません。

このように経済学の大家ドラッカー流の考え方でも、国家戦略の大家からみても、やはり米国は中国との対峙を最優先として、他の要素は決定要因ではなく制約要因にすぎないと見るべきなのです。

【関連記事】

もう“カモ”ではない、トランプの世界観、再び鮮明に―【私の論評】中東での米国の負担を減らし、中国との対峙に専念するトランプ大統領の考えは、理にかなっている(゚д゚)!

米軍シリア撤退の本当の理由「トランプ、エルドアンの裏取引」―【私の論評】トランプ大統領は新たなアサド政権への拮抗勢力を見出した(゚д゚)!

【瀕死の習中国】トランプ氏の戦略は「同盟関係の組み替え」か… すべては“中国を追い込む”ため―【私の論評】中国成敗を最優先課題にした決断力こそ企業経営者出身のトランプ氏の真骨頂(゚д゚)!

中国経済が大失速! 専門家「いままで取り繕ってきた嘘が全部バレつつある」 ほくそ笑むトランプ大統領―【私の論評】すでに冷戦に敗北濃厚!中国家計債務が急拡大、金融危機前の米国水準に(゚д゚)!


日本保守党・百田代表「政府の怠慢」「制裁が足りない」初出席の拉致集会で政府批判 「日朝国交正常化推進議連」の解散も要求―【私の論評】日本とイスラエルの拉致被害者扱いの違いと国民国家の責任

日本保守党・百田代表「政府の怠慢」「制裁が足りない」初出席の拉致集会で政府批判 「日朝国交正常化推進議連」の解散も要求 まとめ 百田尚樹代表は、国民大集会で日本政府の北朝鮮による拉致問題への対応を「怠慢」と批判し、経済制裁の強化を求めた。 他の政党や超党派の「日朝国交正常化推進議...