2022年5月21日土曜日

企業物価が大幅上昇しても川下まで価格転嫁は難しい 有効需要作る対策は減税だ!―【私の論評】実は、私達は岸田政権により経済的に末恐ろしい局面に立たされている(゚д゚)!

日本の解き方

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 4月の企業物価指数が前年同月比10%上昇の上げ幅となった。企業物価指数は、日銀が公表している企業の間で取引されるモノの価格を示す指数で、企業の仕入れ価格や卸売価格が対象だ。

 1960年以降のデータがあり、前年同月比をみると、2度のオイルショックがあった1973年3月から74年12月までと、79年11月から80年12月までの期間は10%超の上昇率だったが、今年4月はそれ以来の上げ幅となった。

 本コラムでは、30兆円程度以上のGDPギャップ(総供給と総需要の差)があるので、エネルギー・原材料価格の上昇があっても、なかなか消費者物価に転嫁できないということを書いてきた。

 18日に公表された1~3月の実質国内総生産(GDP)速報でも、年率換算で1・0%のマイナス成長なので、まだGDPギャップはある。さらに、企業物価の中身をみても、消費者物価への転嫁ができないとの主張は変わらない。

 企業物価統計には「需要段階別・用途別指数」がある。これをみると、「素原材料」は前年同月比65・5%増、「中間財」が同18・0%増、「最終財」が同4・9%増だった。要するに、物価を「川上」と「川下」に分けると、消費者物価指数が最も「川下」で、企業物価指数は「川上」だ。その企業物価指数の中でも、素原材料が最も川上、その次に中間財、その下が最終財となるが、一番川上のエネルギー・原材料価格が上がっても、川下に行くほど、価格転嫁ができないことを如実に物語っている。

 3月の素原材料は同51・0%増、中間財は同16・4%増、最終財は同4・1%増だった。そして同月の消費者物価指数総合は同1・2%増と、川下ほど転嫁できない状況が明らかだ。

 4月の消費者物価指数総合は、携帯電話料金の値下げ効果がなくなったことで、大きく上昇した。しかし、GDPギャップが相当程度あるので、今後も4%にはなかなか届かないとみられる。そしてインフレ率の基調となるエネルギーと生鮮食品を除く指数は当分の間、2%にもならないだろう。

 1973年と79年には、消費者物価は企業物価に追随したので、今回も追随してインフレになるという意見もある。

 しかし、現状のGDPギャップを見るかぎり、需要不足は広範な業種にあると考えられる。そうした業種では、エネルギー・原材料価格の上昇があっても消費者価格への転嫁ができずにコストアップの影響をモロに受ける。

 転嫁がうまくできるような環境作りが必要だが、まずは最終需要が増えるような有効需要を作らなければいけない。その際、エネルギー・原材料価格の上昇が原因なので、それを緩和するために、ガソリン税減税と個別消費税の減税(軽減税率適用)が適切な対応策になるが、岸田文雄政権では補正予算がショボすぎて、そうした対策ができていないのが残念だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】実は、私達は岸田政権により経済的に末恐ろしい局面に立たされている(゚д゚)!

消費者物価指数はどうなっているのかということについては、昨日このブログに掲載したばかりです。


コアコアで0.8%に過ぎず、総合で2%を超えているのは、エネルギー価格や生鮮食品価格が上がっているためです。その原因は、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁などによるエネルギー価格の高騰が原因です。

昨日の記事では、この状況であれば、経済対策としては、エネルギー価格を下げたり、消費税減税をしつつ、金融緩和策を継続するべきという結論でしたが、上の高橋洋一氏の記事も概ね同じようなことを指摘しています。

ただ、昨日は企業物価が上がっていることは指摘しませんでした。企業物価が上がっているということは、本来ならば日本にとっては、チャンスでもあります。

00年以降をみても、企業物価が上昇したのは、08年のリーマン・ショック直前と、14年の消費増税時があるが、前者では世界経済の急落、後者では消費増税による景気ショックがあり、消費者物価に反映する余裕もなく、その直後に企業物価は急落しました。

今回は、世界での新型コロナ後の景気拡大への方向もあり、日本にとってはまたとないチャンスである。ここで、日本は財政政策と金融政策をフル稼働すれば、GDPギャップ(完全雇用を達成するGDPとの乖離)も縮小し、景気の腰折れもなく、賃金と物価がともに上昇する好循環にも入れるはずなのです。

5月12日には、日銀政策会合が行われています。その要旨をみると、日銀では極めてまともな論議が行われています。一部を以下に引用します。
  • わが国経済は、依然として感染症からの回復途上にあるうえ、 資源輸入国であるわが国では、資源価格の上昇は、海外への所 得流出に繋がるため、経済に下押しに作用する。こうした経済・ 物価情勢を踏まえると、現在の強力な金融緩和を続けることで、 わが国経済をしっかりと下支えする必要がある。
これは現下の日本経済を考えると、当然の結論であり、日銀がこの姿勢を崩さなければ、今後日本が金融政策で大きな間違いをすることはなさそうです。

上の記事で、高橋洋一氏は結論で、以下のように述べています。
転嫁がうまくできるような環境作りが必要だが、まずは最終需要が増えるような有効需要を作らなければいけない。その際、エネルギー・原材料価格の上昇が原因なので、それを緩和するために、ガソリン税減税と個別消費税の減税(軽減税率適用)が適切な対応策になるが、岸田文雄政権では補正予算がショボすぎて、そうした対策ができていないのが残念だ。

 実際、岸田政権の補正予算はあまりにショボすぎます。

政府は、先月まとめた物価高騰の緊急対策を実行するため、一般会計の総額で2兆7009億円の今年度の補正予算案を閣議決定しました。財源は、全額を追加で発行する赤字国債で賄うことにしています。

政府が17日、持ち回り閣議で決定した今年度の補正予算案は、一般会計の総額で2兆7009億円で、原油価格の高騰対策として来月分以降の石油元売り会社への補助金などとして1兆1739億円、予備費を積み増すための1兆5200億円などを計上しています。

2兆7009億円では、あまりに少なすぎます。桁を間違えているのではないかと思えるほどです。ちなみに、これは内閣府が算出した需給ギャップ17兆円よりもはるかに少ないです。これは、高橋洋一氏の算出した30兆円よりは少ないです。

ただ、内閣府という政府の機関が算出しているわけですから、本来は少なくと17兆円の補正予算を組むべきでした。17兆円の補正予算ならば、来春まだ需給ギャップがあれば、さらに補正予算を組めばなんとかなります。しかし、3兆円未満の対策であれば、最初から効果がないことはわかりきっています。

このままの状況だと、最初に価格転嫁ができない中小企業の事業の継続ができなくなるでしょう。たとえば、老舗の飲食店などで長く良心的な商売を続けてきた店が、営業できなくなって店じまいをするようになります。その後は、そのような店だけではなく中小企業で廃業するところが増えてくるでしょう。

株価は最近低迷気味です。これは典型的な先行指標ですから、市場は半年後くらいには間違いなく景気が悪くなるとみているのです。そうして、景気は落ち込み、その後に失業率が11月頃から上がり始めるでしょう。なぜそうなるかといえば、失業率は典型的な遅行指標ですから、景気が落ち込んだからといってすぐに失業率は上がらず半年後くらいから上がりはじるからです。

就活生には、今年は就職浪人などしないことをおすすめします。来年になって、岸田政権の姿勢が変わらない限り、今より良い就職先がみつかる見込みはありません。まともに就職活動がてぎるのは、今年の10月あたりまででしょう。内定が決まっても、来年になって取り消しということもあるかもしれません。こんなことはいいたくないのですが、特に女性には、厳しくなります。油断せずに、10月までの間に内定先を複数決めるべきと思います。

それから、このような状況が続くと、採用の条件として「コミュニケーション能力重視」という会社が増えるかもしれません。これは、以前このブログで指摘したように、いわゆる調整型の社員を採用したいいということなのですが、それではありまに体裁が悪いので「コミュニケーション重視」と言い換えているだけです。それも致し方ないです、企業の責任ではありません。モノが売れないのですから、創造性に富んだ人やチャレンジ精神にあふれる人が、多数社員になられても困るのです。


もし、岸田政権が崩壊したり、岸田政権の方針が変わって、まともな経済対策をやり始めるということもまかり間違ってあるかもしれませんが、今はとにかく最悪の状況を考えて、リスク回避をすべきときです。状況が変われば、来年になってからいろいろ決めても遅くはありません。

続けて脅すようなことをいいますが、日銀の黒田総裁の任期は来年3月までです。4月からの新しい日銀総裁になれば、先にも示したような日銀会合のようなことはなくなり、金融引締論が大勢を締めて金融引締に走るかもしれません。そうして日銀の人事を決めるのは岸田総理です。そうして、この状況が長く続けば、日本はまた「失われた30年」を繰り返すことになります。その間賃金は上がりません。韓国や台湾より、名目でも賃金が低くなるかもしれません。

岸田総理

岸田政権によって、本当に末恐ろしい局面にわたしたちは直面しているのです。昨日もこのブログで解説したように、私達ができるのは、参院選でまともな人を選ぶか、自民党の議員で多数派に属している人で、マクロ経済などに明るい議員などに陳情を続けるしかありません。

間違っても、「悪い物価」「悪い円安」などを煽る人たちに、煽られて、増税すべきとか、金融引締すべきなどと思い込むようなことはすべきではありません。

そんなことをすれば、自分の子供や孫の、就職氷河期で悩まされることに加担することになりかねません。それどころが、自らが数年後に家族離散して、年越し派遣村の炊き出しの行列に並ぶことになるかもしれません。そうなってからでは遅いのです。

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2022年5月20日金曜日

【速報】4月の消費者物価指数2.1%上昇 増税時除くと約13年半ぶりの2%超え―【私の論評】コアコアCPIもみないで、大騒ぎする人はただの愚か者!その声を聞けばあなた自身もその愚か者以下に(゚д゚)!

【速報】4月の消費者物価指数2.1%上昇 増税時除くと約13年半ぶりの2%超え


4月の消費者物価指数は去年より2.1%上昇しました。

消費増税の影響を除くと2%を超えるのは2008年9月以来およそ13年半ぶりです。

総務省が発表した4月の全国の消費者物価指数は変動の大きい生鮮食品を除いた指数が101.4となり、去年4月より2.1%上昇しました。

上昇は8か月連続で、2%を超えるのは消費増税による影響を除くと2008年9月以来およそ13年半ぶりです。

原油価格の高騰を背景に▼都市ガス代金が23.7%、▼電気代が21%上昇するなどエネルギー価格の上昇が目立ちました。

また、ウクライナ情勢や円安の影響で輸入品への依存度が大きい食料品なども大きく上昇しました。

【私の論評】コアコアCPIもみないで、大騒ぎする人はただの愚か者!その声を聞けばあなた自身もその愚か者以下に(゚д゚)!

物価上昇ということで、マスコミは大騒ぎで、とにかく2%以上物価が上がったということしかいいません。しかし実際はどうなのでしょうか。それは総務省から出されている統計数値を見れば、誰でも確認できます。それを以下に掲載します。


消費者物価指数は、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く消費者物価指数)はやはり1%にも届かない0.8に過ぎないです。総合だとこれも予想どおり2%真ん中くらいです。

企業物価指数との差がはげしく、消費物価指数だけで判断しても日本の景気、状態は読み解けないです。消費物価指数は結果であって、中身がどうであろうが物価が上がれば反映されるので、中身を見ずに議論する人が多いです。

いわゆる「悪い物価」論です。たとえ「悪い物価」論であっても、まともな論であれば、コアCPI(生鮮食品除く)、コアコアCPIなどを参照しつつ、まともなことを言えば良いのですが、総合の2.5%だけみて、「悪い物価だ」「大変だ」と騒ぐのはいかがなものかと思います。

コアコアCPIは、消費者物価指数(CPI)から酒類を除いた天候や市況など外的要因に左右されやすい食料と、エネルギーを除いた指数のことです。毎月総務省が発表している指標として、金融関係者から注目されています。

何故酒類は省くのかというと、酒類以外の食料品は気象条件によって大きく価格が変わることがあるからです。エネルギーというのは、電気・ガス・都市ガス・ガソリン等が挙げられます。この指標が下がると、物価が下がったということを意味しています。

「悪い物価」と大騒ぎするひとたちは、コアコアCPIが何を意味するのか理解していないのかもしれません。新聞にはそういう人たちが多いようです。日経新聞さんは「はい、金融引き締めをしろ」などと主張しそうなので怖いです。

コアコアCPIが0.8%に過ぎないのに、金融引締などしてしまえば、せっかくデフレから抜けかかっているにもかかわらず、日本はまたデフレに逆戻りです。

そうなると、まずは雇用がかなり悪化します。ただ、失業率は典型的な遅行指数なので、金融引き締めをしてもすぐには失業率は上がらず、半年してから失業率が上がることになります。

物価目標2%も達成できず、経済活動も衰え、経済活動が低迷して、とんでもないことになります。それこそ、以前このブログでも、指摘したとおり、失われた30年を繰り返すことになり、その結果半年以降には、それが顕著になり、それ以降その状況が続くことになります。

こうした状況では、最も良い経済対策は、総合物価を押し上げているエネルギー価格や生鮮食品や、原材料などの物価上昇を抑えつつ、金融緩和を継続することです。

これ以外の政策は全部悲惨な結果を生む出すだけです。エネルギー価格を下げる方式には、補助金やトリガー条項の撤廃もありますし、稼働を停止している原発の多くを再稼働させることなどで十分に対応できます。

生鮮食品や、原材料価格の高騰に対応するには、消費税の減税などで、十分に対応できます。

その財源に関しても、このブログで以前も述べたように、日銀政府の連合軍で十分に賄うことができます。政府が国債を発行して、日銀がそれを買い取るという方式で十分にできます。

それをしたとしても、「政府の借金」が増えて、次世代への付けになるということもありません。このブログでも指摘したように、現在日本には、需給ギャップが30兆円以上もあるといわれています。これに対策を打たずに、放置しておけば、日本は確実に深刻なデフレに舞い戻ることになります。

そうなれば、過去の繰り返しです。皆さん自身も、勤めている会社の業績が落ち、解雇されるかもしれません。解雇されてもすぐに次の仕事が見つかれば良いかもしれませんが、デフレだとそういうわけにもいかず、奥さんの仕事もみつからず、お子さんたちは進学の夢をあきらめ、派遣の仕事を転々として、自活するしかなくなるかもしれません。

そうして、家族一人ひとりが、自分の身を守ることで精一杯となり、一家離散ということになり、ある日ふと気がついてみると年越し派遣村で炊き出しの順番の列に並んでいるということにもなりかねません。

 炊き出しの昼食に並ぶ「年越し派遣村」の人たち。奥に見えるのが宿泊用テント
 =2009年1月4日、 東京・千代田区の日比谷公園

今後政府が緊縮財政を継続し、日銀が金融引き締めに転ずれは、多くの人がこれに近い運命に甘んじなければならなくなります。そうして、米国や英国など他国では、現在利上げなどをして、金融引締をしていますが、これはその前段階で、インフレ傾向になったからです。

米国やロシアでは昨年時点で、6%を超えるインフレになっていました。米国はだからこそ、今年に入って利上げをして、金融引締に転じたてのです。

コアコアCPIで0.8程度の日本が、金融引締に転ずれば、確実にデフレになります。そうして、米国などの金融引締に走った国々が金融引締から金融緩和に転じるときには、日本の経済はかなり毀損され、それこそ、経済制裁を受けたロシアよりも景気の回復が遅れることになるかもしれません。

本日は、財務省のエースキャリア官僚が、酒に酔って電車内で乗客に暴行した現行犯で逮捕されたというニュースが飛び込んできました。

財務省総括審議官の小野平八郎容疑者(56)は20日午前0時半ごろ、走行中の東急田園都市線の車内で、乗客に対し、殴るけるの暴行をした現行犯で、通報を受けて駆けつけた警察官に桜新町駅で逮捕されました。


財務省は国民経済など無視して、省益優先で、緊縮財政で国民に本来しなくても良い負担を強要するような組織なので、このタイプの人物がいても不思議ではないです。

財務省のサイトをみても現時点では、人事異動の通知だけは掲載されていますが、職員が国民に暴行を働いたことに対するお詫びの掲示はありません。サイトで小野平八郎と検索しても、お詫びに関する記載はありません。普通はトップページでお詫びをするのでないでしょうか。何と傲慢なのでしょうか。そもそも、財務省は、はなから国民など気にもとめていないのでしょう。

少なくとも森友学園問題での赤木氏の自殺で判明した事実上のパワハラ体質もありますし、財務省幹部の精神的な腐敗の闇は深いようです。ただ、この闇は断じて解消さけなければなりません。

以上のようなことを防ぐためには、まずはマクロ経済を理解した、まともな経済対策を提言できるような政治家を選ぶべきと思います。

現在の政治家の多くは、マクロ経済を理解せず、それこそ財務官僚や日銀官僚のいいなりになるどこか、彼らを後押しするようなことを平気でします。

やはり、まともな政治家を増やす必要があります。しかし、かといってかつての民主党政権のような政権が誕生してしまえば、とんでもないことになります。40歳台以上の方々なら、民主党政権下のデフレの酷さを今でも覚えていることでしょう。就職氷河期の怖さも覚えているでしょう。

そうして、何よりも、20年〜30年たつと現在の仕事で、現在の職位のままでも賃金は倍になるという当たり前が当たり前でなくなってから久しいこの日本の状況(他の先進国ではこの常識は未だに当てはまります)は何がなんでも打破しなければならないです。老人でないと、この当たり前の状況を知らないという今の日本は異常です、本当に特に若い人たちにとっては、希望の持てない社会にいつの間にかなってしまいました。

夏の参院選では、政権交代はないですから。この状況を打破するために、自民党にお灸を据えても過去の悪夢の民主党政権のような事にはならないと考えている人もいるようですが、それは考え直したほうが良いかもしれません。

参議院全国比例は、個人名で投票できます。 人で選ぶのが正しいです。まともな経済対策を望むならマクロ経済に明るい人を選ぶべきでしょう。一方、いくら正しい主張をしているからといって泡沫候補に投票しても死に票になるだけです。逆に保守系のまともな自民議員を大勝させた方が政治は動く可能性は高まります。

小さな党でまともなことを主張している党に入れるという考えもあるでしょうが、少なくとも衆参それぞれ5人以上の議員を出さなければ小さな党は結局何もできず、何かをしようとしたとしても完結させることができません。結局提言レベルでとどまってしまうのです。政治の世界では何かの動きを作り出せるような議員でなければ、たとえ良い人であっても、無意味です。

まともな有力な自民党の議員を選び、その自民の議員に陳情した方がよほど政治が動く可能性が高まります。

現在のように、様々な懸念事項が明らかになっておりそれに対する対処法も議論の余地がないくらい明白なときは、多数派に属していながらも、マクロ経済に明るく、安保などでもまともな考え方をしている手堅い候補者を選ぶべきでしょう。

経済が安定し、伸びていて、安保上の懸念もないような状況なら、将来のことを考えて、党派は無視して、新たな考えを持つ人に期待しても良いとは思いますが、今はその時期ではないです。安保でも、経済でも何をすべきかをわきまえている人で党でも派閥でも多数派に属している人を選ぶべきと思います。

以上のようなことを考慮したうえで、夏の参院選では、誰を選ぶべきかを慎重に考えて投票すべきと思います。

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2022年5月19日木曜日

あの国営放送が“プーチン戦争”批判を展開!ロシアでいま起こっていること―【私の論評】たとえプーチンが失脚したとしても、それは院政に向けたカモフラージュの可能性が高い(゚д゚)!

あの国営放送が“プーチン戦争”批判を展開!ロシアでいま起こっていること

 討論番組でコメントするミハイル・ホダレノク元大佐(「ロシア1」から)

いよいよロシア国内で表立った造反の動きが出てきた──。ロシア軍が苦戦し、ウクライナ侵攻の行く末が見通せないこともあって、有力者や政権内部からの批判を、国営放送が公然と放送し始めている。もう誰もプーチン大統領についていけないということなのか。今後、国民からの支持も失いかねない。

◇ ◇ ◇

「全世界がロシアと敵対している」「状況はこれから悪化する」

16日、国営放送「ロシア1」の番組内で淡々とこう話したのは、ロシア軍退役大佐で軍事アナリストのミハイル・ホダレノク氏だ。

■プロパガンダを真っ向批判

さらに、「『情報の鎮静剤』は飲まないようにしよう」「ウクライナ軍の士気や心理の崩壊を伝える情報が流されることがあるからだ」「そのどれひとつとして現実に即していない」と、ロシア政府によるプロパガンダまで批判したのだ。

「特別軍事作戦」を巡る討論番組で飛び出した異例の発言に、他の出演者はただただ硬い表情を浮かべ、沈黙するだけだった。

現状を苦々しく感じているのは、ホダレノク退役大佐だけではない。この放送の前日、同じ国営放送でアナトリー・アントノフ駐米大使も、作戦をネガティブに捉える有力者の声を紹介していた。アントノフ大使は、政府内の有力者の一部が侵攻をやめようとしていることを示唆。ある人物は、軍を撤退させ「悔い改めたい」と考えていると話した。

ロシアが国際社会から孤立

あのロシアで戦争批判が国営放送で公然と流されるのは異例のことだ。3月中旬には、やはり国営放送のニュース番組で女性スタッフが「戦争反対」と書かれたボードを掲示。あの時、女性は拘束されたが、なぜか今回はスルッと放送されている。筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう言う。

「女性スタッフが拘束された3月中旬と現在では、全く状況が違っています。戦況の悪化はもちろんですが、ロシア自体が国際社会から完全に孤立してしまっている。“仲間”のはずの旧ソ連国までがロシアから距離を置いています。現状を嘆くホダレノク退役大佐は、『プロパガンダでなく現実を見ろ』『もう戦争は続けられない』というメッセージを発信したかったのでしょう。ホダレノク退役大佐は軍人で、アントノフ大使は外務省所属。少なくとも軍と外務省がプーチン離れを起こし始めているということ。そこに、メディアまで追随し始めた格好です。国営放送は多くの国民が見ています。今後、現場の兵士の士気に加え、国民感情にも多大な影響が出てくるでしょう」

プロパガンダが通用しなくなれば、ロシア国民は一気に目を覚ます可能性がある。プーチン大統領はどんどん追い詰められている。

【私の論評】たとえプーチンが失脚したとしても、それは院政に向けたカモフラージュの可能性が高い(゚д゚)!

上の記事、ソースは「週刊現代」であり、あまり信憑性はないのではないかとは思っていましたが、ニューズウィークも似たような報道をしており、少なくともロシア軍が苦戦し、ウクライナ侵攻の行く末が見通せないこともあって、有力者や政権内部からの批判を、国営放送が公然と放送し始めたことは間違いないようです。

ただ、これをもってすぐにプーチン氏が弱体化して、クーデターやプーチン氏の失脚が起こると考えるのはまだ時期尚早だと思います。

9日の対独戦勝記念日を境に、有力な後継候補も浮上しています。

戦勝記念日の映像で、プーチン氏がドミトリー・コバリョフ氏という36歳の男性と親しく話す姿が見られ、ロシア国内では後継者のお披露目ではないかとの憶測が飛び交っています。同氏はオリガルヒの息子で、大統領府の局長級とされ、プーチン氏とはホッケー仲間とされています。

戦勝記念日の映像で、プーチン氏(右)がドミトリー・コバリョフ氏(左)という36歳の男性と親しく話す姿

交代の時期までささやかれていまい。6月12日の「ロシアの日」という祭日です。1990年にはロシア共和国の国家主権の宣言が採択され、91年には初の大統領選が行われた日てす。

プーチン氏は退陣し、院政を敷きたいと考えているようです。大統領令でコバリョフ氏を大統領代行に据えて『終戦宣言』を行わせ、数カ月後に大統領選を実施する可能性があります。ただ、スムーズな禅譲が実現できるかどうかは不確実です。

コバリョフ氏と仲が良いFSBが、プーチン氏を説得したとの情報もあります。しかしGRUなど他の諜報機関がコバリョフ氏に不満を持てば、大統領選で野党勢力を支援する可能性もあります。

本当の意味でのプーチン後は誰も知らないというのが現実だと思います。それは以前もこのブログで指摘しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
プーチン氏「がん手術」で権力一時移譲か 米英メディア指摘 「宮廷クーデター」に発展の恐れも 「今回の情報は信憑性が高い」と識者―【私の論評】プーチン後のロシアがどうなるか、またはどうなるべきか、実はそれを知る者は誰もいない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より結論部分を引用します。 

プーチン氏はかつて、エリツィン氏に代わる若く現代的な指導者のように見えました。西欧では、民主的なロシアへの期待も高まりました。しかし実際には、プーチンは、その後の20年間でロシアを中世に引き戻しました。国家と教会を1つの迫害機構の中に統合し、国民を「伝統的価値」に押し込めただけでなく、国家権力という何世紀も前の概念を復活させました。

プーチンは昔の専制君主のように、自身は不滅だと信じているようです。ロシアに後継者育成計画や緊急時対応計画、もしくは現実には何の計画もないのはこのためです。メディアが「プーチン後」について口を閉ざす理由もここにあります。

ロシアがこれと似たような状況にあったのは、100年も昔のことではありません。スターリンが死去した後には、ロシアのニュースはしばらく途絶えました。米国の識者たちは当時、スターリンには自ら選んだ後継者がいるのか考えを巡らせていました。

しかし、スターリンの没後数年のうちに、後継者育成の計画や手続きがなかったことは明白になりました。ロシアには混乱が生じ、権力闘争が繰り返し繰り返し行われました。この限られた観点で言えば、歴史は悪くない教科書でしょう。プーチン後のロシアがどうなるか、またはどうなるべきか、それを知る者は誰もいないと考えて差し支えないでしょう。

パトルシェフ氏が一時権力を移譲されるからといって、彼がポストプーチンを担うと考えるのは、早計です。やはり、激しい権力闘争が行われるでしょう。映画『スターリンの葬送狂騒曲』のような状況になることでしょう。
これは、プーチンが本当に失脚したり、死亡した場合にどうなるかということです。現在のロシアでも後継者育成の計画や手続きなどはありません。米国では、大統領が業務が遂行できなくなったり、死亡した場合は、副大統領が大統領の代行をすることが決まっています。副大統領や、さらにその下の閣僚などが死亡した場合も誰が代行するのか決まっています。

しかし、ロシアにはそのようなシステムは存在せず、プーチンが失脚したり、死亡した場合は壮絶な権力闘争が起こり、その闘争に勝利した者が、大統領になることでしょう。一応選挙はするでしょうが、それは形ばかりのものになることでしょう。

一方、プーチンが力を失わず、院政をとるつもりなら、たいした権力闘争も起らず、表面上はスムーズに権力の移譲が行われることになるでしょう。そうしてプーチンとしては、表向きで合法的にも大統領としてなるべく長くとどまれるように画策するとともに、それに失敗した場合にも備えて院政の準備もしつつあったと考えられます。

プーチンの院政への布石は以前から着々と実施されています。それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。
プーチン院政への布石か 経済低迷のロシア、政治経験ゼロのミシュースチンが首相に―【私の論評】プーチン院政は、将来の中国との本格的な対峙に備えるため(゚д゚)!

ロシア下院は16日、内閣総辞職したメドベージェフ首相の後任としてプーチン大統領が
指名したミシュースチン連邦税務局長官(左)を賛成多数で承認した。2017年4月撮影
 

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。

プーチンは何のために、院政をするのでしょうか。それは、外交は全くの素人であり実績のないミシュースチン氏を首相に据えたとということで、予測することができると思います。

1966年生まれのミシュスチン氏はシステム工学を学んだ後、経済学の分野で博士号を取得した。税制改革には手堅い実績のある人物です。

プーチン氏は国内政治に関しては、ミスチュスチン氏にまかせて、様々な改革を実現させようとしているのです。さらに、ミスチュチン氏は仮に改革に失敗したとしても、面倒な後ろ盾等もなく、容易に取り替えが聞く人物でもあるのでしょう。

そうして、プーチンは院政を敷いて、自らは国際政治を主に担当しようとしているとみて間違いないでしょう。その国際政治の最優先順位は無論隣国の中国でしょう。

はやい話が、将来本格化する中国との対峙に備えて、それに取り組みやすい最善の体制を築いたのです。
そうしてプーチンがなぜ中国との対峙を本格化させようとするかといえば、現状のよな中国の属国であるかのようなロシアを潔しとしないからでしょう。かつて、中ソは国境紛争などもあって、対峙していましたが、当時はソ連のほうが軍事的に圧倒的に優勢であり、中ソの対峙においてもソ連が圧倒的に有利でした。しかし、ソ連が崩壊してからはそのようなことはありません。

そもそも、現状のロシアは経済(GDP)も人口でも中国の1/10の規模であり、特に中国と国境を接している地域では、中国側とロシア側の人口の不均衡は甚だしく、多くの中国人が越境して、ロシア領内で様々なビジネスを行い、ロシアの住民にとってもなくてはならない状況になっており、国境そのものが曖昧となっており、この状況は国境溶解とも呼ばれていました。

この状況に歯止めをかけ、かつてのソ連時代のような栄光を取り戻すことが、ロシア人ではなくソ連人であるプーチンの野望です。

そうして、その野望の行き着く先は、中国との本格的な対峙ですが、その前に片付けることがあったのでしょう。それがNATOとの対峙を終わらせることです。ただし、NATOと直接軍事衝突してしまっては、現在のロシアでは負けることがわかりきっているので、ウクライナを利用しようとしたのでしょう。

ウクライナを完璧にロシアのものとしてしまえば、全体をロシア領としないまでも、ウクライナに親露政権、できれば傀儡政権を樹立して、ウクライナおよび、NATOに加入していない旧ソ連圏の国々をこれ以上NATOに加入させないこと、あわよくば、NATOに現在加入している旧ソ連圏内の国々をロシア側にとりもどそうとしたのでしょう。

そうすることによって、ウクライナをロシアの盾として、NATOとの対峙を気にせずに、中国と本格的に対峙する予定だったのだと思います。ウクライナに親露政権を樹立できれば、プーチンはウクライナに戦術核を配備したかもしれません。

ただ、プーチンは計算違いをしました。それは、ロシア軍がウクライナを本格的に攻撃するそぶりをみせれば、ウクライナはすぐに怖気づき、大統領や閣僚は国外逃亡して、その機に乗じて首都キエフに侵攻して、首都をおさえた上で、選挙を実施し、親露政権かあわよくば傀儡政権を樹立しようとしたのでしょうが、ゼレンスキー大統領も閣僚も国外逃亡をしないどころか、ロシアと本格的に戦う構えをみせました。

しかも、ウクライナ軍の抵抗は、予想をはるかに上回るものでした。この計算違いは、プーチンも内心認めざるを得ない状況に陥っているとみられます。

そうして、プーチンは院政の準備を本格化させることでしょう。すんなり、プーチンが失脚したとしても、それはプーチンの院政をカモフラージュするためかもしれません。国営テレビのプーチン戦争批判もその一環にすぎないものかもしれません。

米国ならびにその同盟国は、たとえプーチンが失脚して、ロシアがウクライナから軍隊を引き上げたとしても、なお情勢を見極めてから、制裁を解除すべきと思います。

ロシアが新体制になって、プーチンを戦争犯罪人として国内で裁いて重罪を課したり、あるいは戦争犯罪人として、国際的な裁判に差し出せば、プーチンの院政は失敗したとみなせるでしょう。この場合や、プーチンが死亡した場合は、激烈な権力闘争がはじまるでしょう。

ただ、体制が変わったにしても、プーチンのようにソ連の再興を夢見るような人物が権力者になれば、何も変わりはありません。第2のプーチンになるだけです。この場合も、西側は制裁を継続すべきです。そうして、この機会に乗じて、中国にもロシアなみの制裁を課すべきでしょう。ロシアも中国も本質は同じです。

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2022年5月18日水曜日

女性役員の選任を義務付けた州法は「違憲」 米カリフォルニア州裁判所―【私の論評】機械的に女性取締役や政治家を増やしても、社会は良くならない(゚д゚)!

 女性役員の選任を義務付けた州法は「違憲」 米カリフォルニア州裁判所


米カリフォルニア州ロサンゼルスの上級裁判所は17日、州内に本社を置く上場企業に女性役員の選任を義務付けた州法について、違憲と判断した。

カリフォルニア州では2018年、同州に本社のある全ての企業に対し、2019年末までに役員の少なくとも1人は、女性を自認する人物を選ぶよう定めた州法が成立した。違反した企業には最高30万ドルの罰金が科された。

2022年1月までには、義務化された女性役員の人数は、役員が5人以下の企業は2人に、役員6人以上の企業は3人に、それぞれ増えることになっていた。

上級裁判所のモーリーン・ダフィ=ルイス判事は、同州法について、州法と連邦法で定められた平等に扱われる権利に違反していると述べた。

シャーリー・ウェバー州務長官は、上訴すると表明した。

州議会でこの州法の成立に尽力したトニ・アトキンス上院議員(民主党)は、今回の判断は残念だとし、「我々が適法だと思うことと現実が一致しないことがある」ことを思い知らされたと述べた。

アトキンス氏は声明で、「企業の役員により多くの女性がいるということは、より良い意思決定と、競合他社を凌駕(りょうが)するビジネスを意味する」、「今回の残念な判断にかかわらず、我々はこの州法が変わらず重要であると考える」と述べた。

反対派の反応

この州法に異議を唱えていたのは、保守派の法律関係団体「Judicial Watch」。

性別に基づく割り当てを強制し、カリフォルニア州法と連邦法で定められた平等保護の権利を侵害する州法を、納税者の資金で執行することは違法だと主張していた。

「Judicial Watch」は今回の裁判所の判断を歓迎している。トム・フィットン代表は、問題の州法について、「急進左派による、差別禁止法に対する前代未聞の攻撃」だと批判した。

これまでにこの州法に基づいて訴追された企業は1社もなく、州側も提訴するつもりはないと証言している。それでも、この州法は女性役員の向上につながったと評価されている。

しかし、同州法で申告義務が発生した企業の半数が実際には申告を行っていなかったと指摘する声が上がっている。

また、この州法が施行される数週間前、アレックス・パディヤ州務長官(当時)が、同州法を執行するのは実質的に不可能だと、ジェリー・ブラウン州知事(同)に書簡で警告していたことが裁判で浮上。同州法が不安定な土台の上に成り立っていたとの指摘も出ている。

(英語記事 Californian court strikes down women on boards law

【私の論評】性差の前に、日本は社会を変えるために実施すべきことがある(゚д゚)!

    カリフォルニア州のアレックス・パディヤ前州務長官は2018年、女性役員を義務付けた州法について、実質的に執行不可能だと警告していた

    米カリフォルニア州といえば、オレンジ郡ラグーナウッズの教会で15日に起きた銃撃事件は日本国内で大きく報道されていますが、 女性役員の選任を義務付けた州法は「違憲」との報道はほとんどなされていません。知らない人も多いのではと思い、本日はこの内容を取り上げました。

    上の記事にもあるように、2018年8月にカリフォルニア州議会は、米国市場で上場する州内の企業に女性取締役(female directors)の選任を義務付ける法律を可決しました。州知事の署名を得た後、施行されました。

    米国企業はデラウェア州会社法を設立準拠法としていることが多いのですが、本社所在地がカリフォルニア州であれば適用され、当面2019年末までに1名以上の女性取締役を置くこととされました。

    その後2021年末までに、取締役総数が5名の企業では、女性取締役2名以上、取締役総数が6名以上の企業では、女性取締役3名以上を置かなければならなりました。なお、ここで女性とは、生物学的な性別ではなく、当人が自分自身のジェンダーをどう認識しているかで決まるとされました。

    この規定の順守状況を企業から州政府に届け出ることと、州政府が企業の対応状況を集計し、報告書を作成・公表することも定められました。女性取締役数が未達の場合や届出をしていない場合など、最初の違反には10万ドル、2度目以降は30万ドルの罰金が科されることになりました。

    女性取締役を置くことで、企業の経営に多様な価値観が反映され、事業を成功に導くとともに、州経済が活性化されると期待されるとされました。米国では、カリフォルニア州が女性取締役の選任を義務化する最初の州となりましたが、欧州では既に多くの国々で上場企業に女性取締役を一定比率選任すべきとする法規定や企業行動規範が策定されており、その動向は日本にも及んでいるとされました。


    わが国のコーポレートガバナンス・コードでは、当初から取締役会の多様性を求めていましたが、2018年6月の改訂で、「取締役会は、…(中略)…ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。」とジェンダーという用語が付加されました。

    企業社会における男女の平等や、女性の社会進出推進についての法制度的対応は、当然のこととされ、一層の充実が期待されましたが、こうした動向に疑問が呈されました。カリフォルニア州の新法に関する論評記事の中には、法制化に厳しい意見も少なくありませんでした。

    まず、法的な規制の必要性や規制手段の妥当性への疑問があります。カリフォルニア州でも女性取締役が不在の上場企業がおよそ4分の1ありましたが、女性取締役数は増加を続けており、現状で法的対応をとる必要性は薄いという指摘もありました。また、不平等の是正は、教育による方法もあれば、反差別法で行うということも考えられます。企業法の分野で対応をとる必要はないという指摘です。

    取締役会の多様性は、性別に限った問題ではなく、スキル(特に最近はIT系の知見)や専門分野、人種や文化の多様性も企業の活力になり得るとの意見もあります。ことさら性別を取り上げることへの疑問です。

    さらに、男女が共に働く職場は上場企業だけではないことから、カリフォルニア州の新法は上場企業の問題としているところも疑問視されていました。未上場企業やNGO、労働組合に多様性が欠如しているという問題も指摘されていました。上場企業は株式会社であり、その取締役選任は株主の自治的な決定に委ねられるべきですが、女性定員制は、その自治権を侵害する可能性があるとも指摘されていました。

    企業における女性の処遇を適正化に対しては、法的規制の必要性や相当性については、様々な見解があり得ます。わが国でもいずれ欧州やカリフォルニア州のように女性取締役選任の義務付けが行われるべきとの意見も多かったのですが、今回の米カリフォルニア州の女性役員の選任を義務付けた州法は「違憲」という判決は、こうした風潮に一石を投じるものになったのは間違いありません。

    私は、とにかく女性の役員を増やせば良い、女性の政治家を増やせば良いし、それが新たしい考え方であり正義だ、それ以外は古い考えであり、間違いだ、という風潮には以前から疑問を感じてきました。日本には、長い歴史で育まれてきた独特の文化や思想があります。それを、なんでも『ガラパゴス』と呼び、『国際基準』に乗り遅れているとさげすむ風潮に乗っかる必要などありません。


    そもそも女性か男性かではなく、取締役は「能力」で選任すべきと思います。不平等な評価システムの結果として取締役に女性がいないのなら問題ですが、そうでないなら女性を取締役にするのが目的になってしまうのは、逆差別です。

    この話題はいつも不思議でしかたありません。女性が先で能力には触れていないです。能力がある女性はどんどん上に立つべきですが、女性管理職比率目標ありきで、とにかく上に立たせるのは、本人にとっても周囲にとっても不幸な話です。男女関係なく、平等に評価される社会であってほしいものです。

    そうして、私は思うのですが、日本ではやるべきことが他にあります。たとえば、財務官僚や日銀官僚が政治集団のように振る舞い、デフレなのに緊縮財政をしたり、金融引締をしたりと馬鹿真似を繰り返したため、30年間も日本人の賃金は上がりませんでした。

    これを変えて、日本経済が良くなれば、賃金があがり、人手不足となり、女性の就業機会も増えます。女性の就業機会が増えれば、企業における性差を巡る不合理も徐々に解消されていくでしょう。女性の就業機会が増えないことには、企業内における性差の問題も根本的には解消されません。

    そもそも安全保障がまともでなければ、男性も女性も不幸になります。それに日本特有な鉄のトライアングルも解消しなければなりません。強力な鉄のトライアングルが存在する限り、日本社会は良くなりません。これを根絶することはできないでしょうが、欧米なみに弱めていくことはできるでしょうし、そうすべきです。

    そうして、以上は根底に日本社会を良くするために実施するということがなければ、意味はありません。

    これらを変えずに、女性役員や女性政治家を機械的に増やしてみたとしても、社会は良くなりません。そもそも、性差の問題も社会を良くするための一つの課題に過ぎません。根本によりよい社会をつくっていくという考えがなければ、社会は良くなりません。

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    2022年5月17日火曜日

    韓国で早くも「反日」暴挙 林外相の訪韓中に竹島EEZで無断調査 地下構造や資源探査か 「尹大統領は決して“親日”ではない」―【私の論評】日本は、ロシアと韓国の過去の「力による現状変更」も許さず厳しい制裁措置を実行すべき(゚д゚)!

    韓国で早くも「反日」暴挙 林外相の訪韓中に竹島EEZで無断調査 地下構造や資源探査か 「尹大統領は決して“親日”ではない」

    尹大統領(左)に岸田首相の親書を手渡した林外相=10日、ソウル

     新たな「反日」暴挙なのか。韓国が不法占拠する島根県・竹島南方の日本の排他的経済水域(EEZ)内で、韓国側の調査船が無許可で海洋調査を実施したようなのだ。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)新政権は、日韓関係の改善を呼びかけるが、今回のタイミングを見る限り、岸田文雄政権を軽んじ、挑発した可能性すらある。

     産経新聞の17日朝刊によると、問題の調査は、韓国国営企業から委託されたノルウェー船籍の調査船「ジオ・コーラル」が実施した。竹島の南方約100キロの海域で、船尾からケーブルのようなものを引き、日韓の地理的中間線の日本側への侵入を繰り返したという。海域の地下構造や資源を探査した疑いがあるという。

     現場では、海上保安庁の巡視船が無線で委託元などについて聞き取り、「わが国の同意を得ない調査は認められない」と注意した。

     日本政府による外交ルートでの韓国への対応は明らかになっていないが、問題は調査船が活動したタイミングだ。

     産経新聞は、調査は尹氏が就任したタイミングで実施され、林芳正外相は訪韓中だったと報じた。林氏は9日、岸田首相の親書を抱えて、尹大統領の就任式(10日)に出席するために訪韓している。

     韓国側の調査船が活動した海域に近い日本のEEZ内では、石油・天然ガス開発の国内最大手「INPEX」(インペックス)が今月5日、天然ガスなどの商業生産化を調査する試掘を始めている。

     一連の韓国側の動きは偶然とは考えられない。どう見るか。

     朝鮮近現代史研究所所長の松木國俊氏は「韓国側の動きはタイミングを含め、尹氏の『竹島問題で日本に譲らない』という姿勢を示す意図があったのではないか。尹政権は決して『親日』ではない。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は強硬な『反日』で日韓関係を最悪な状態にしたが、尹氏は関係改善をチラつかせる巧妙な『反日』と見るべきだ。日本の国内世論が分断される恐れもある。岸田政権は手ごわい相手だと認識し、毅然(きぜん)とした対応をすべきだ」と語った。

    ■韓国による主な「反日」暴挙

    □韓国国会議長(当時)による「天皇陛下(現上皇さま)への謝罪要求」

    □韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射事件

    □日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄決定

    □いわゆる「元徴用工」訴訟をめぐる異常判決

    □自衛隊旗(旭日旗)への侮辱

    □不法占拠する島根県・竹島への韓国警察庁長官上陸

    □世界文化遺産への「佐渡島の金山」推薦に反発

    □林芳正外相の訪韓中に、島根県・竹島周辺のEEZ内で無断海洋調査の動き

    【私の論評】日本は、ロシアと韓国の過去の「力による現状変更」も許さず厳しい制裁措置を実行すべき(゚д゚)!

    昨日当ブログでは、英国トラスト外相の「ロシアをウクライナ全土から押し出すために、これまで以上に、より早く行動し続ける」という発言は、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退すべきとの考えを示唆したものとみられることから、日本もロシアは北方領土から撤退すべきと主張すべきであるとしました。

    その部分を以下に引用します。
    日本としては、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退はもとより、北方領土からも撤退すべきと主張すべきでしょう。

    そうして、これは全くあり得ない話ではありません。このブログでも以前も指摘したように、ロシアのウクライナ侵攻は日本が北方領土をとりもどす機会にもなり得るのです。

    今回のロシアのウクライナ侵攻に対する西側諸国などによる制裁などで、プーチン政権が窮地に陥り、状況が一変する可能性があります。今後、プーチン政権が崩壊すればロシア各地で分離独立運動が激しくなり、ロシア連邦は多数の国家に分割されるでしょう。

    そうなった時、北方領土に住む約2万人のロシア人、ウクライナ人(ソ連邦時代に移り住んだ人が多い)島民は食料品などの生活必需品の調達もままならず、孤立状態に陥ることが予想されます。その後は日本に支援を求めてくる可能性が極めて高いです。

    日本が人道支援名目で北方領土に介入すれば、ロシア人、ウクライナ人島民は日本の支援なしで生活できなくなります。“ロシア離れ”が進んだ島民たちによる住民投票で独立宣言がなされれば、あとは独立した北方領土を日本が受け入れるかたちで返還が実現する可能性があります。

    経済制裁の影響ですでに北方領土に住むロシア人の生活が破綻寸前であり、この返還シナリオは決して机上の空論ではありません。ただ、日本にとってはただ黙って棚ぼたのように戻ってくるのと、日本がロシアは撤退すべきと主張した上で戻ってくるのでは意味合いが全く違います。無論後者のほうが日本の世界における存在感は高まります。

    日本がこう主張すれば、ロシアは大反発するでしょうが、英国は大歓迎でしょう。英国の賛同を得れば、他の西側諸国も賛同する可能性は高いです。今回のウクライナ侵略による制裁として、ロシアはウクライナだけではなく、北方領土も失うということになれば、「力による現状変更」は絶対に許されないことが、理念ではなく事実として世界が認識することになります。

    日本としては、北方領土のみならず、不当に韓国に占拠されている「竹島」から、韓国が撤退すべきと主張すべきです。無論、北朝鮮に対しても拉致被害者の変換を主張すべきです。両方ても「力による現状変更」です。国家による犯罪です。

    その他にも、南シナ海の中国が環礁を埋め立ててつくった軍事基地などに関しても、周辺諸国で領有権を主張する国は、中国の南シナ海における実行支配をやめるように主張すべきでしょう。

    第二次世界大戦中からそれ以降にかけて、不当に他国占拠されたような地域を持つ国々はこのような主張をすべきです。そうして、「力による現状変更」は絶対に許されないことが、理念ではなく事実として世界が認識させるようにするのです。

    無論、ただ主張するだけでは、理念を主張するのと何の変わりもありません。ただ、目の前にロシアという現実があります。ロシアは経済制裁と、西側諸国などによる軍事支援で、北方領土に住むロシア人の生活が破綻寸前になっいます。

    これと同じようなことを、第二次世界大戦中以降に「力による現状変更」を行った国々に対してできる仕組みを構築するのです。

    国際システムにおける「現状」(Status-quo)とは、国境の画定、2国間・多国間で形成された合意や規範、現存する国際法や国際制度・規範などを広く包摂する概念です。これを大きく分類すると、領土と主権に関する現状、国際法・条約・協定や地域枠組みなどの制度に関する現状、及び安全保障や自由貿易の秩序をめぐる望ましい力の分配、規範や行動に関する現状などがあります。


    そうして「現状維持」が重要であるとされる理由は、国際システムが概ね良好な状態にあると見なし、平和の維持とルールに基づく競争を担保し、国家の行動に予測可能性をもたらすからです。

    そうして、特に、ある国が武力で現状変更しようとした場合は、その被害を受けている国に対する支援をすぐにできる枠組みを構築し、すでに現状変更されている場合は、それに対する経済的な報復の枠組みも最初から構築し、すみやかに実施できるようにするのです。

    統治の役割は、国債社会のために意味ある決定と方向付けを行うことです。国際社会のエネルギーを結集することです。問題を浮かびあがらせることです。選択を提示することです。

    過去の経験則から、統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺します。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできません。それらの機関は、実行に焦点を合わせていないし、体制がそうなっておらず、そもそも関心が薄いです。

    国連が機能しないのは、統治と実行が曖昧なところがあるのが大きな原因の一つです。これを分離させた新しい組織を構築した上で、「力による現状変更」に対する制裁を速やかに実行できるようにするのです。

    日本としては、こうした国際組織の構築を提言すべきとは思いますが、それと平行し、ロシアや韓国、北朝鮮に対して現状変更を許さないという姿勢をはっきりさせ、元に戻さなければ、制裁を続けるべきです。

    日本は比較的経済は大きいですし、技術水準なども高く、ロシアも韓国、北朝鮮も日本の技術や素材に頼っているところが大きいです。日本が単独で、ロシアや韓国、北朝鮮に対して制裁をしてもかなり効き目があります。ロシアや北朝鮮に制裁をして韓国にしないということでは、筋が通りません。

    「現状変更は許さない」と岸田首相は、他国との首脳会談で発言しています。許さないというのなら、ロシアと韓国の過去の「現状変更」も許すべきではありません。このようなことを許そておけば、これからも世界で「現状変更」を企む、中国のような国がはびこることになります。

    ウクライナに対しては武器の供与もすべきです。韓国に対しては、貿易管理などの曖昧な言い方ではなく、経済安全保証の一環として、はっきりと「経済制裁」をすべきです。そうして「竹島」を返還するまで継続すべきです。

    また、尖閣を中国が奪取しようとした場合、ASW(対潜水艦戦闘)が中国よりも格段に優れた日本は、潜水艦で中国の艦艇や航空機などの侵入を防ぐことができます。これにより、たとえ人民解放軍や民兵が尖閣諸島に上陸しても、補給を絶って無力化できます。国際法的には何の問題もありません。ただ、法的な不備などは解消しておくべきでしょう。

    こうしたことでノウハウと実績を蓄積し、「力による現状変更」を許さない仕組みや組織を提言すべきです。G7としては唯一、ロシアと韓国との間に領土問題を抱え、北朝鮮との間で「拉致問題」を抱える日本こそ、こうしたことを実行すべきです。

    ロシアのウクライナへの侵攻、北方領土問題、竹島問題、拉致問題などを別ものと考えるべきではありません。その根底は同じく「力による現状変更」なのです。現在進行しているか、過去の問題かの違いだけではあり、これはいずれも明白な国際法違反です。

    尖閣問題はこれから「力による現状変更」がこれから起きるかもしれず、それが起こりそうになれば、日本はそれを防ぐべきですし、起きてしまえば、原状復帰すべきです。

    さらに、憲法9条を国際法の観点からみれば、世界の他の多くの国々が似たような日本の憲法9条とおなじような国連憲章やパリ不戦条約を源とする、平和条項を持ちながら、軍隊を持ち、自衛権も有しているのと同じく、日本も軍隊を持ち自衛権を有しているのは疑いようもないの事実であり、国内法をその観点からつくりなおしていくべきです。

    ただし、誤解を招かないため、そうして現行の日本憲法は実質的に日本ではなく米国によって制定されたものであるため、それを改善したり、作り変えたりすることには大賛成です。

    【関連記事】

    英は「自由で開かれたインド太平洋」の良きパートナー【私の論評】日本は、ロシアはウクライナだけではなく北方領土からも撤退すべきと主張すべき(゚д゚)!



    2022年5月16日月曜日

    英は「自由で開かれたインド太平洋」の良きパートナー―【私の論評】日本は、ロシアはウクライナだけではなく北方領土からも撤退すべきと主張すべき(゚д゚)!

    英は「自由で開かれたインド太平洋」の良きパートナー

    岡崎研究所

     英国のトラス外相は4月27日、ロンドン市長官邸で『地政学の復帰(The return of geopolitics)』と題する講演を行い、ロシアによるウクライナ侵略を受け、これまでの自由主義陣営のアプローチが失敗したことを率直に認め、侵略者に対抗する自由主義陣営の取り組みを再活性化することを説いている。


     演説は、北大西洋条約機構(NATO)の集団防衛の強化など、広範な内容を含むが、ここでは、インド太平洋に関連する部分を中心に、主要点を下記の通りご紹介する。

    ・われわれは、新しいアプローチを必要としている。それは、強固な安全保障と経済的安全保障を融合させ、より強固なグローバルな同盟関係を構築し、自由主義国家がより積極的で自信に満ち、地政学を認識するものだ。

    ・われわれは、欧州大西洋の安全保障かインド太平洋の安全保障かという誤った選択を拒絶する。現代の世界では双方とも必要だ。

    ・われわれは、日豪のような同盟国と協力して、インド太平洋における脅威に先手を打ち、太平洋地域を確実に守る必要がある。台湾のような民主主義国が自衛できるようにしなければならない。

    ・自由貿易はルールに則って行われなければならない。グローバル経済にアクセスできるか否かは、ルールを守っているか否かによるべきだ。(ウクライナを侵略したロシアへの経済制裁により)われわれは、経済的アクセスが自明のものではないことを示している。

    ・各国はルールに従って行動しなければならない。これには中国も含まれる。

    ・中国の台頭は不可避ではない。ルールに従って行動しなければ、中国の台頭は続かない。

    ・中国は主要7カ国(G7)との貿易を必要としている。G7は世界経済の半分を占めている。我々には選択肢がある。われわれは、国際的なルールが破られた時に、どのような選択をする用意があるかを、ロシアの事例で示した。短期的な経済的利益よりも安全保障と主権の尊重を優先する用意があることも示した。

    ・わずかな「のけ者」を除き、世界のほとんどが主権を尊重しており、われわれは新旧の同盟国や友邦との協力を緊密化している。同様の積極的なアプローチは、ライバルを抑制し、繁栄と安全保障の強力な推進力となり得る。それゆえ、われわれはインドやインドネシアなどとの自由貿易協定や環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、TPP11)への参加など、新たな貿易リンクを築いている。

    ・悪意のあるアクターが多国間機関を弱体化させようとしている世界では、二国間および複数国間グループがより大きな役割を果たす。NATO、G7、英連邦などのパートナーシップは不可欠だ。

    ・われわれは、英国主導の「合同遠征軍」、ファイブ・アイズ、米豪とのAUKUSパートナーシップといった世界中の他の関係とともに、NATO同盟を強化し続けるべきである。そして、日本、インド、インドネシアなどの国々との関係を深化させ続けることを望んでいる。

    (出典:‘The return of geopolitics: Foreign Secretary's Mansion House speech at the Lord Mayor's 2022 Easter Banquet’, Liz Truss, GOV.UK, April 27)

    *   *   *   *   *   *   *

     トラス外相のロジックは明快で、自由主義国家がより積極的に行動し、経済および安全保障のパートナーシップによるネットワークを通じて、自由と民主主義が強化され、侵略者が封じ込められるような、ルールに基づく世界を目指している。そのために、軍事力、経済安全保障、グローバルな連携の深化を3つの柱に据えている。演説の内容は、もとより日本としても賛同できるものである。
     
     トラス外相は、その文脈において、インド太平洋地域では中国がルールを破っているとして、厳しい警告を発している。特に、守るべき民主国家として台湾の名を挙げていることは、強いメッセージと言える。

    日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」にも合致

     英国は既に、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に参加し、日本とも安全保障協力を進め、インド太平洋に空母打撃軍を含む艦隊を派遣し、インド太平洋地域で合同軍事演習に数多く参加し、TPP11への参加も申請するなど、インド太平洋におけるプレゼンスを強めてきた。ただ、ロシアによるウクライナ侵略を受け、英国はインド太平洋に手が回らない、あるいは手を伸ばし過ぎるべきではない、という意見も見られる。

     トラス外相の演説は、こうした意見への反論としても意味が大きいと思われる。ルールに基づいた国際秩序維持の観点からも、地政学的観点からも、英国がインド太平洋におけるプレゼンスを弱めるとは想定しがたい。

     英国の方針は、日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」とも合致しており、英国は心強いパートナーである。トラス外相の演説の後、5月5日に英国で行われた日英首脳会談においても、岸田文雄首相とジョンソン首相は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け日英が緊密に連携していくことを改めて確認した。

     首脳会談では、自衛隊と英国軍の共同運用・演習の際の両者の法的地位や手続き等を定めた「日英円滑化協定」の署名を急ぐことでも合意した。日英間で結ばれれば、日本にとっては同盟国である米国は別として、豪州に次ぎ2国目の円滑化協定となり、日英防衛協力の深化の象徴となろう。

    【私の論評】日本は、ロシアはウクライナだけではなく北方領土からも撤退すべきと主張すべき(゚д゚)!

    4月27日、ロンドン市長官邸で講演を行ったリズ・トラスト英国外相

    英国のリズ・トラス外相は27日の『地政学の復帰(The return of geopolitics)』の講演で、ロシアに対しては、ロシア軍を「ウクライナ全土から」押し出さなければならないと発言しました。ウクライナの勝利は西側諸国にとって「戦略的急務」となっていると語りました。

    英国はこれまで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻を「失敗させ、そう見せる必要がある」と述べるにとどまっていました。この日のトラスト氏の発言は、ウクライナでの戦争をめぐる英国の目標を、これまでで最も明確に示したものといえます。

    トラス外相は、西側の同盟諸国はウクライナへの支援を「倍増」しなくてはならないと強調。「ロシアをウクライナ全土から押し出すために、これまで以上に、より早く行動し続ける」と述べました。

    これは、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退すべきとの考えを示唆したものとみられます

    侵攻開始から1カ月の節目に、ロシアはその目的を「ドンバスの解放」と位置付けました。ここでいうドンバスとは主に、ウクライナのルハンスクとドネツクの両州を指しています。

    これらの地域の3分の1以上はすでに、2014年に始まった紛争で親ロシア派の武装組織が制圧しています。


    トラス氏の野心的な目標は、全ての西側諸国と共有されているわけではありません。武力によってであれ交渉によってであれ、達成は難しいとの懸念があるためです。

    フランスやドイツの政府関係者からは、戦争の目的を明確にすればロシアを挑発するリスクがあるという慎重な声も出ています。それらの関係者は、ウクライナ防衛という表現に絡めて話をすることを好んでいます。

    トラス外相の発言は、目標を高く設定することで、ウクライナが今後、交渉の場に立った際に、政治的和解についてより有利に立てるようにしたいという西側諸国の思いを反映しています。

    トラス外相はまた、西側諸国は「経済的影響力」を使って、ロシアを西側の市場から排除すべきだと述べました。

    上の記事にもあるとおり「グローバル経済へのアクセスは、ルールにのっとっているかで決められるべきだ」とトラス氏は指摘しました。

    最大野党・労働党のデイヴィッド・ラミー影の外相は27日、トラス氏の演説は、保守党政府の10年超にわたる防衛・安全保障政策の「失敗を認めたように思える」と指摘しました。

    トラス氏は演説の中で、西側諸国はロシアのさらなる侵攻を防ぐための対策を講じるべきだと訴えました。

    これには防衛費の増額も含まれるとし、北大西洋条約機構(NATO)が各国の拠出目標として設定している国内総生産(GDP)2%という数値は「上限ではなく下限と見るべきだ」と述べました。

    さらに、ロシアから脅威を受けている国々に対する武器供与にも積極的な姿勢を示しました。

    「ウクライナだけでなく、西バルカン諸国やモルドヴァ、ジョージアといった国々が、主権と自由を維持する耐久力と能力を持てるようにするべきだ」

    また、スウェーデンやフィンランドがNATO加盟を選んだ場合には「迅速に統合させることが必要だ」と述べました。

    「ウクライナの戦争は我々の戦争、全員の戦争だ。ウクライナの勝利は、我々全員の戦略的急務になっているからだ」

    「重火器、戦車、戦闘機……倉庫の奥まで探し回って、生産能力を高める必要がある。そのすべてをする必要がある」

    「私たちは慢心できない。ウクライナの運命はまだ拮抗(きっこう)している。はっきりさせておきたいのは、もしプーチン大統領が成功すれば欧州全体に甚大な悲劇が起こり、世界中に恐ろしい影響が出るということだ」

    トラスト外相の講演が行われたロンドン市長公宅マンションハウス

    プーチン大統領は27日、ウクライナに介入する国は「電光石火」の対応に直面することになると警告しました。

    議会での演説でプーチン氏は、「我々にはあらゆる手段がある。(中略)我々はそれを鼻にかけるのではなく、必要に応じて使用する」と述べました。

    プーチン氏の言う「手段」は、弾道ミサイルや核兵器を指しているとみられます。

    ただ、英国は核保有国でもあります。ロシアにとっては英国を刺激することは得策ではないのは明らかですが、プーチンがわざわざこのような発言をするということは、かなり追い詰められているとみて間違いないでしょう。

    ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退すべきとのトラスト外相の発言は、プーチンにとってはかなりショッキングなものだったようです。

    日本もロシアに対しては、英国なみの対応をすべきでしょう。特に日本はG7では唯一ロシアとの間に領土問題を抱えている国です。しかも、ロシアにより不当に占拠されているのです。

    日本としては、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退はもとより、北方領土からも撤退すべきと主張すべきでしょう。

    そうして、これは全くあり得ない話ではありません。このブログでも以前も指摘したように、ロシアのウクライナ侵攻は日本が北方領土をとりもどす機会にもなり得るのです。

    今回のロシアのウクライナ侵攻に対する西側諸国などによる制裁などで、プーチン政権が窮地に陥り、状況が一変する可能性があります。今後、プーチン政権が崩壊すればロシア各地で分離独立運動が激しくなり、ロシア連邦は多数の国家に分割されるでしょう。

    そうなった時、北方領土に住む約2万人のロシア人、ウクライナ人(ソ連邦時代に移り住んだ人が多い)島民は食料品などの生活必需品の調達もままならず、孤立状態に陥ることが予想されます。その後は日本に支援を求めてくる可能性が極めて高いです。 

    日本が人道支援名目で北方領土に介入すれば、ロシア人、ウクライナ人島民は日本の支援なしで生活できなくなります。“ロシア離れ”が進んだ島民たちによる住民投票で独立宣言がなされれば、あとは独立した北方領土を日本が受け入れるかたちで返還が実現する可能性があります。

    経済制裁の影響ですでに北方領土に住むロシア人の生活が破綻寸前であり、この返還シナリオは決して机上の空論ではありません。ただ、日本にとってはただ黙って棚ぼたのように戻ってくるのと、日本がロシアは撤退すべきと主張した上で戻ってくるのでは意味合いが全く違います。無論後者のほうが日本の世界における存在感は高まります。

    日本がこう主張すれば、ロシアは大反発するでしょうが、英国は大歓迎でしょう。英国の賛同を得れば、他の西側諸国も賛同する可能性は高いです。今回のウクライナ侵略による制裁として、ロシアはウクライナだけではなく、北方領土も失うということになれば、「力による現状変更」は絶対に許されないことが、理念ではなく事実として世界が認識することになります。

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    2022年5月15日日曜日

    ロシアで「クーデター計画進行中」 ウクライナ諜報部門トップ見解―【私の論評】クーデターの可能性を指摘するのはウクライナだけではない(゚д゚)!

    ロシアで「クーデター計画進行中」 ウクライナ諜報部門トップ見解

    ロシアのプーチン大統領(右から2人目)=モスクワで2022年5月9日

     ウクライナ国防省の諜報(ちょうほう)部門トップのブダノフ准将は14日放映の英スカイニュースのインタビューで、ロシアのプーチン大統領に対する「クーデター計画」が進行しているとの見方を示した。ウクライナに侵攻したロシア軍の劣勢が引き金になっていると分析し、「計画は止められない」状況にあると述べた。

     ブダノフ氏は、ロシア軍が各地で敗北を重ねていると指摘。「それが最終的にロシアの指導者交代につながる。このプロセスはすでに開始されている」と述べ、プーチン氏の求心力低下を示唆した。

     また、プーチン氏が「がんやその他の病気」を患い、精神的・肉体的に「非常に悪い状態」にあるとも指摘した。ウクライナ側が情報戦の一環としてプーチン氏の重病説を広めていることを否定し、「確かな情報」と主張した。

     プーチン氏の健康状態を巡っては、英紙タイムズも14日に米誌を引用する形で「血液のがん」を患っていると報じた。

     一方、ブダノフ氏は戦況について「8月に重大局面を迎える」との見通しを示した上で、「戦闘行為は年内に終結するだろう」と述べた。「重大局面」の詳細な内容については語らなかった。

    【私の論評】クーデターの可能性を指摘するのはウクライナだけではない(゚д゚)!

    こういう話は真偽の確認ができないだけになんとも言えないですが、このままプーチンがトップにいることが不都合と思う人たちは増えていることは想像に難くないです。しかし、クーデターはよほど周到に準備し、軍を動かせなければ成功しないです。

    これはウクライナ政府発の情報です。プーチンが側近に疑心暗鬼になるために出されている可能性もあります。ただ、それが有効になるほど露政府の中枢部が不安定になっているということかもしれないです。

    もし、ロシアでクーデターが起こり、プーチンが失脚するとして、クーデターは誰が実行することになるのでしょうか。それは私自身はシロビキ以外にないと思います。


    シロビキとは、プーチン政権内で高い地位に就いている治安機関出身者の呼称です。シロビキの中でもパトルシェフ安全保障書記、ボルトニコフ連邦保安局長官、ナルイシキン対外情報局長官は、1970年代後半プーチン大統領とKGBの支局で同僚として活動したプーチン大統領が最も信頼する側近です。

    オリガルヒが寝返ったとしてもプーチン大統領は脅威を感じないでしょう。オリガルヒは治安部隊を利用できません。だから真の脅威はシロビキです。特にパトルシェフ氏やボルトニコフ氏は強い権力を持つだけでなく利用し、暗殺計画も可能です。体制が腐敗していると感じれば自分たちの利益を守るために、必要なことは何でもするでしょう。

    現在シロビキは、ロシアという国が崩壊するか、自分たちの立場が悪くなるか、そういう選択を迫られる可能性があります。

    プーチン大統領は今回の戦争を実質的に失敗したわけですが、その責任が誤った情報にあるというふうに考えているといわれていますから、FSB・連邦保安局の幹部たちが調査を受けたり、SVR・対外情報局のナルイシキンが公の場で叱責をされるようなことがありました。

    こうした情報機関すべてに対して今、プーチン大統領が不満をぶつけているとするなら、今度は情報機関側の方で、なんらかの自分たちを防衛する措置というのを取る可能性は多いにあり得ます。

    元英国陸軍上級将校で北大西洋条約機構(NATO)の欧州連合国遠征軍副司令官も務めたジェームズ・エヴァラード卿は、英紙「ザ・サン」にこう語っています。

    ジェームズ・エヴァラード卿

    「プーチンは困惑している。自身に対するクーデターが起きるタイムリミットが迫っているからだ。ロシアの強硬派は、ウクライナがNATOとEUに奪われたら、プーチンを排除するだろう。プーチンが動いたことで、全てが悪い方にいった。プーチンの立場は弱まるばかりだ」

    また、プーチン氏は自分の保身に必死で、「批判の矛先をそらすために、紛争を他の国まで拡大する可能性がある」ともエヴァラード卿は語っています。

    こうした状況に敏感に反応したのが周辺の国です。12日、フィンランドがNATOに加盟を申請する方針を発表しました。さらにフィンランドの隣国スウェーデンも加盟に向けての議論が続いています。この事態は、プーチン氏をより追い込むことになります。

    「プーチンはNATOの拡大を止めようとしたが、裏目に出て失敗した。プーチンの唯一の逃げ道は、ウクライナでの戦いをエスカレートすることだ」とエヴァラード卿は指摘しています。

    エヴァラード卿は「これはウクライナにとって長い戦争の始まりであり、NATOにとっては、新たな冷戦の始まりだ」と警告しました。

    英紙ザ・タイムズは3月23日、FSBが「クーデターを起こすリスクが日増しに強まっている」とする内部告発情報を報じていました。FSB幹部が、米欧による厳しい経済制裁の直撃を受けたことに不満を募らせているのが理由だとしていました。

    アンドレイ・ズボフ氏

    ロシアの政府系調査機関によると、3月時点でのウクライナ侵攻を支持する人の割合は約7割だそうです。しかし侵攻はプーチン氏の政権基盤を揺さぶり始め、政権の今後について「崩壊するかどうかではなく、いつ崩壊するかの問題だ」(ロシアの歴史学者アンドレイ・ズボフ氏)との指摘さえ聞かれるようになっていました。

    ウクライナによる情報だけであれは、信ぴょう性は低いとは思いますが、複数の人などのクーデター説があります。これでは、絶対に否定すべきということにはならないと思います。

    無論ロシアの情報組織や、治安部隊の組織のあり方から、ロシアでクーデターが起こる可能性はかなり少ないと指摘する人もいます。

    ただ、プーチン氏の弱体化が予想に反して急速に失われる可能性もあります。ロシアのウクライナ侵攻直前に、ロシアや軍事に詳しい人たちの中には、ロシアのウクライナ侵攻する可能性を、様々な根拠をあげつつかなり低いとしていた人たちも多くいました。

    私自身も、侵攻の可能性は否定はしませんでしたが、低いだろうと思っていましたが、実際に侵攻が行われました。その反省もこめて、ロシア国内のクーデターの可能性も否定はせず、今後のその可能性について検証していこうと思います。

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    2022年5月14日土曜日

    「キシダに投資」呼びかけも…くすぶる金融所得課税強化 経済成長導く政策も力不足―【私の論評】日本では批判されない岸田首相が海外リベラルメディアには、なぜ厳しく批判されるのか(゚д゚)!

    日本の解き方

     岸田文雄首相は英ロンドンの金融街シティーで「インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」と述べ、日本への投資を呼びかけた。


     この講演で、岸田首相は「資産所得倍増プラン」と言っている。昨年9月の自民党総裁選において、岸田氏は「令和版所得倍増」を掲げていたが、その後、政府答弁において「平均所得や所得総額の単なる倍増を企図したものではない」と説明し、事実上取り下げた。

     今後は、全体の所得ではなく、「資産所得」という資産に由来した所得を倍増させると述べている。講演の和文では「資産所得」と書かれており、これが「資産と所得」なのか、「資産に由来した所得」なのか判別できなかったが、英文をみると後者であった。

     岸田氏は、講演ではもちろん金融所得課税の話をしなかった。昨年の首相就任時に発言したところ株価が急落し、「岸田ショック」と批判されたからだろう。

     しかし、松野博一官房長官は、9日の記者会見で、金融所得課税の強化については一般投資家が投資しやすい環境を損なわないよう十分に配慮して検討していくとの方針を示している。

     率直に言って、検討することは投資しやすい環境を損なうと思うが、官房長官の発言は事務方の原稿通りとみられ、課税強化の本音も透けてみえる。

     岸田氏の講演では、①人②科学技術・イノベーション③スタートアップ④グリーン、デジタルへの投資を掲げている。ただし、その投資を支える政策手段が、岸田政権では弱い。

     世界が投資を自国に呼び込むための常套(じょうとう)手段は、優遇策と規制緩和だ。しかし、岸田政権発足直後の所信表明演説では「規制改革」への言及がなかった。これまでの政権では何らかの表現で「規制改革」が盛り込まれてきたが、なかったのはほぼ40年ぶりのことだ。

     経済成長をどのように確保するのかもポイントだが、適切なマクロ経済政策とともに、規制改革がその原動力になる。

     「名目経済成長率」は、「実質経済成長率」と「インフレ率」に分けられるが、後者のインフレ率はマクロ経済政策の分野で、前者の実質経済成長率に大きく寄与するのは規制改革だ。

     要するに、積極財政と金融緩和、規制改革がキモになるが、現在の岸田政権ではいずれも力不足だ。

     とりわけ規制改革を打ち出さないで、どのように成長を達成し、日本への投資を呼び込むのだろうか。

     一部で話題になったのが、岸田首相は、昨年の政権発足時の資産公開で、家族分を含め東京都渋谷区や広島市の住宅、預貯金など2億868万円の資産を保有する一方、株式を所有していないということだ。

     これでは「岸田政権に投資してくれ」と呼びかけても、説得力がないと言われかねない。約2億円の資産で株式投資ゼロという人はかなり珍しいのではないか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

    【私の論評】日本では批判されない岸田首相が海外リベラルメディアには、なぜ厳しく批判されるのか(゚д゚)!

    岸田首相が、投資を呼びかけても、無駄なことは従来からわかっていました。岸田政権の政策は面白くもなんともなさすぎるからです。

    上の記事にもあるように、確かに岸田首相の所信表明演説に「規制改革」という言葉がありませんでした。「規制改革」という言葉は、1979年の大平政権で出た言葉で、それ以降の首相の所信表明演説には必ずといって良いほど入っていた言葉です。もちろん菅政権までずっとありましたが、岸田首相の演説には入っていませんでした。

    過去40年間入っていたものを、なぜ抜いてしまったのかと訝しく思いましたが、それが岸田首相のいう「新しい資本主義」なのかもしれないと思いました。

    規制改革は、はっきり言って「官僚に対する圧力」でもあるともいえます。官僚はいろいろな規制を見直せという話があっても、放っておくと何もしません、首相が「規制緩和」というと、それが官僚に対しての圧力となるのは確かです。

    岸田首相が「規制改革」といわなかったことで、霞が関の官僚は皆ぬか喜びしたでしょう。内心ほっとしたと思います。財務省は沸き立ったと思います。

    規制があると、規制に引っ掛かるかどうかの線引きのようなところに、当然ながらいろいろな既得権も生まれて来ます。だからいつも見直せというのが普通なのですが、岸田首相の所信表明演説にはなかったということで、官僚たちが安堵し、それが例の財務省の矢野論文にもなり、官僚の方が悪ノリをし始めたということになったのでしょう。

    所信表明演説する岸田首相

    かつて「官僚支配」などという言葉もありましたが、規制改革がないということは、「官僚支配」に戻るということを意味します。

    そもそも、規制改革をなぜやるかと言うと、実質経済成長率を高めるためです。規制改革がなければ、なかなか新しい産業の芽が出て来ないので、実質経済成長率が高まらないのです。

    岸田内閣の主要政策のサイトをご覧いたたければ、岸田内閣は分配に力を入れることを表明しています。ただ、単に分配をするということでは成長率が下がってしまいます。実際韓国の文在寅政策では、分配に力を入れ、最低賃金を上げる政策をとりましたが、それによって得られたのは、雇用の激減と成長の鈍化でした。

    自民党の公約集では、さすがに規制改革という言葉は入ってはいましたが、「規制改革会議」をやめ、「デジタル臨時行政調査会」に名前を変え、「成長力会議」もやめて「新しい資本主義実現会議」になりました。この辺りに政権の性格が出ているように思います。

    実は規制改革がないと株価が上がりにくいです。規制改革をなぜやるかと言うと、将来の成長を見込む面白い種をいくつか出し、経済の先行指標でもある株価を上げるというところもあって、それとともに「官僚の圧力」にもなります。

    規制改革があれば、「このような産業が伸びそうだ」ということになり、それによって新たなチャンスが生まれると踏んで市場はそれを歓迎して株価が上がりますが、規制改革がないとそのようなチャンスは生まれようもなく、面白みもなく株価は上がりません。

    ただ、規制改革をすぐ行っても、すぐに変わるというわけではありません。何かが変わるまでには、すくなくても数年はかかります。

    ただ規制改革をしないと、あとが大変になるのです。需要サイドだけで物事を考える人は、規制改革をして供給が増えすぎたらどうなるなどと言いますが、供給サイドで何かが変われば、それにともない需要がついてくるということもあります。

    たとえば、日本では規制されていてできない分野の一つ「電波オークション」があります。これがないから日本では通信産業が伸びなかったのです。電波オークションをやると新規参入が増えて面白くなるのですが、これをやっていないので、既存のテレビなどは面白くはならないのです。

    もっとも「電波オークション」自体は技術革新が進んで実施してもほとんど意味がなくなってましまいました。なぜなら、今ではネットがありますから、誰もが自由に放送ができます。今から十数年前に「電波オークション」を解禁すれば、テレビ局なども大儲けできたと思いますし、新規参入が多く出てきて、競争によってテレビはもっと面白いメディアになっていたと思います。

    「新しい資本主義」がどういうものになるのか、まだ見えない部分が多いですが、12日はこれについての報道がありました。以下にそれを引用します。
    自民 「新しい資本主義」実現に向け 政府へ提言の骨子案
    岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の実現に向け、自民党の実行本部は、デジタルとグリーン、それに人への投資の3つの分野に、官民を挙げて重点的に投資するよう求めることなどを盛り込んだ、提言の骨子案をまとめました。

    「新しい資本主義」の実現に向けて、自民党は、実行本部で具体策を議論していて、政府に対する提言の骨子案が明らかになりました。

    それによりますと、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などを受けて、自由・民主主義と、権威主義の対立軸が鮮明になっており、市場や競争に任せればすべてうまくいくという、これまでの資本主義の考え方を見直す必要があると指摘しています。

    そのうえで、
    ▼量子技術やAI=人工知能などのデジタルの分野、
    ▼カーボンニュートラルなどのグリーンの分野、
    ▼新たな奨学金制度の導入をはじめとする人への投資の、
    3つの分野に、官民を挙げて重点的に投資するよう求めています。

    このほか、スタートアップ企業を支援するため、5か年計画を策定して、大学の周辺に企業の集積地をつくるなどの取り組みを進めるべきだとしています。

    実行本部は、近く開かれる会合で骨子案を示し、提言の取りまとめに向けて詰めの議論を進めることにしています。
    この何が「新しい資本主義」なのか全くわかりません。 ただ、この報道にも「規制改革」という言葉は一つもなく、いまのところ「規制改革をやらないのが新しい」としか見えません。


    新しい技術に関してはそれ自体が「新しい資本主義」とはいえないですし、「人への投資」ということが言われていますが、これは経済が成長すれば、自ずと賃上げということになります。

    経済が成長すれば、人手不足となり、賃金を上げないと人が集まらないということになります。

    人への投資は、税制で支援しても多少はできなくはないのですが、根本方で経済成長の種がないと実現しにくいです。経済成長なしで、分配だけ考える人は多いのですが、それは無理です。逆に、経済成長すれば分配が簡単なので、まずは経済成長を考えるべきです。そのような考え方をしないから、岸田首相は出身派閥が掲げたせっかくの「所得倍増計画」の看板を降ろさざるを得なくなったのでしょう。

    所得倍増計画には、実質経済成長率を高めるような政策は、規制改革がないと実施しにくいです。それとともに、需要を増やすためには、マクロ経済政策でインフレ目標を高めるべきです。無理です。

    「インフレ目標2%」にこだわり、2%を超えたらすぐに金融引締に転ずるようなことをすれば、仮に年間で1%くらいしか伸びないと、倍増するのに75年程度かかることになります。

    これは、「72の法則」として良く知られています。ちなみに、お金が2倍になる期間が簡単にわかる便利な算式。 「72÷金利≒お金が2倍になる期間」となる。 たとえば、金利18%でお金を借りた場合、「72÷18=4」となるので、約4年で借りたお金が2倍になることがわかります。

    インフレ目標を4%くらいに引き上げて、需要を少し強くすれば、簡単に名目5%くらいにできるのできます。目標を5%にすると倍増が13年~14年になるので、良い目標になります。ちなみに、この手法を高圧経済と呼びます。

    まさに米国はその高圧経済によって、超インフレになったため、利上げをしたのです。

    日本であれば「インフレ目標2%が達成できないから引き下げろ」と言う人が多いですが、それは、逆です。4%に上げてしまえば良いのです。そうすれば、2%くらい簡単にクリアできます。4%を目標にすれば、達成率が半分でも2%になるでしょう。

    ただ、「規制改革」という岸田首相にはそのような考えは到底できないでしょう。


    日本のメディアでは厳しく批判されることのない岸田首相ですが、海外のメディアは手厳しいです。

    たとえば、昨年の衆院選について書かれている米有力紙ニューヨーク・タイムズの記事を読み、思わず笑ってしまいました。

    記事には、岸田氏について「何人かの外務省の公務員は、陰で、彼を“お行儀の良いタイプの犬”と呼んで、チワワというニックネームをつけた」という、岸田氏を30年前から知っている元防衛大臣中谷元氏の発言が紹介されています。

    リベラル系のニューヨーク・タイムズが、保守系の安倍氏な菅氏を批判するというならわかります。実際結構批判していました。典型的なリベラル系ともいえる岸田首相をここまて酷評とするとは、思いも寄りませんでした。

    海外のリベラルメディアも、さすがに中身のない岸田氏の話には反発したのでしょう。全く中身のない日本メディアは、同類の岸田首相に対して批判できないのでしょう。両方とも今の日本にはいてもいなくても良い存在かもしれません。

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    2022年5月13日金曜日

    安倍元首相「日銀は政府の子会社」発言は完全に正しい…批判するマスコミと野党は無知―【私の論評】「政府の借金」という言葉は間違いだが「政府の小会社」は、政府と日銀の関係を適切に表している(゚д゚)!

    安倍元首相「日銀は政府の子会社」発言は完全に正しい…批判するマスコミと野党は無知

    日本銀行

     安倍晋三元首相が「日銀は政府の子会社」と発言したことについて、マスコミや野党から批判の声が上がっている。筆者からみると、数年に一度起こる現象だ。はっきりいえば、無知なマスコミが取り上げて、無知な野党が騒ぐだけだ。

     安倍氏が言ったのは、以下の2点だ。

    (1)日銀が購入した国債について、政府は利払いをするが、これは政府に戻ってくる

    (2)日銀が購入した国債について政府が償還する必要がない

     利払い・償還の負担がないことを「日銀は政府の子会社」と表現した。

    (1)については、日銀は無コストの日銀券発行により国債を購入するので、政府から受けた利払いは収益になる。その収益は納付金制度があるので、政府に支払という意味で、正しい。また、(2)については、財政法に基づく予算総則の規定により、これも正しい。

     安倍氏の発言は正しいので、その表現にも意図するところにも何も問題はない。このようなことが可能になるのは、民間でいえば、親会社と子会社の関係くらいしかないだろう。

    「手段の独立性」

     では、なぜマスコミは「日銀が政府の子会社」という表現に反応するのか。そもそも、(1)と(2)を正確に理解しているマスコミはほとんどいない。これは学者にもいえる。さらに「日銀の独立性」について、マスコミは正しく理解していない。マスコミのなかには、日銀が政府から独立しているかにように思い込んでいる人も少なくない。

     日銀は政府機関であるし、政府は日銀の役員任命権(国会同意が条件)、予算認可権も保持しているので、民間でいえば、まさに「子会社」そのものだ。こうした状況は先進国の中央銀行でも同様だ。

     そこで、中央銀行の独立性とは「手段の独立性」であるとされている。この「手段の独立性」とは、中央銀行は大きな目標について政府と共有しながら、日々の金利の上げ下げについて独立して行使する権限が付与されているということだ。これは、民間の親会社が経営目標を子会社に与えるが、日々の細かい経営にまでは口出しせずに子会社に運営を任せるとほぼ同じだ。このため、中央銀行は政府の子会社という比喩が使われることもしばしばだ。

     この話は世界では常識だ。筆者は20年以上前に米国留学した際、のちにFRB(連邦準備制度理事会)議長になるバーナンキ教授から教わり、その後何度もいろいろなところで書いている。小泉政権のとき、副長官、幹事長、官房長官であった安倍氏にも何回も説明した。バーナンキ氏がFRBの要職になり来日したときに講演の機会があり、この話をしたが、不思議なことにこの箇所はマスコミで報道されなかった。もちろん、FRBのホームページにはしっかりと英文で書かれている。

    政府の対応もお粗末

     以上の経緯からみても、安倍氏の発言には何も問題ない。筆者からみると、今回のマスコミ報道は「またか」という印象だ。マスコミの記者は短期間のローテーションで移動するので、まったくの素人であり、「手段の独立性」という言葉も知らないだろう。そこで、トンチンカンなことが繰り返されるのだ。

     政府の対応もお粗末だ。松野博一官房長官は「コメントしない」と言いつつ、日銀の自主性を尊重すると言っているが、まともに答えていない。ただし、今回マスコミでこれを追及しているのは、時事通信、毎日新聞、東京新聞くらいしかない。さすがに他紙は深追いしていないので、多少は学習効果があったのか。

     それにしても、安倍氏は一部マスコミにとって「アイコン」なのだろう。首相の職から離れてもこれだけ話題になるのは驚かざるを得ない。

    (文=高橋洋一/政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授)

    ●高橋洋一

    1955年、東京生まれ。80年、大蔵省(現財務省)入省、理財局資金企画室長、内閣参事官など歴任。小泉内閣、安倍内閣では「改革の司令塔」として活躍。07年には財務省が隠す「埋蔵金」を公表、08年に山本七平賞受賞。政策シンクタンク「政策工房」会長、嘉悦大学教授。

    【私の論評】「政府の借金」という言葉は間違いだが「政府の小会社」は、政府と日銀の関係を適切に表している(゚д゚)!

    安倍元総理の発言を巡って、日経新聞は以下のような報道をしています。
    財務相「日銀、政府子会社でない」 安倍氏発言を否定
    鈴木俊一財務相は13日の閣議後の記者会見で、日銀の独立性に関して「日銀は政府が経営を支配している法人とは言えず、会社法で言うところの子会社にはあたらない」と述べた。「日銀は政府の子会社だ」とした自民党の安倍晋三元首相の発言を否定したものだ。日銀法により「金融政策や業務運営の自主性が認められている」と強調した。

    鈴木氏は日銀が保有する国債について「日銀が金融政策の一環として買い入れているもので、時々の金融政策によって大きく変動しうる」と指摘した。「永続的に日銀が国債を買い入れる前提に立った財政運営は適切とは考えていない」と訴えた。

    安倍氏は9日、大分市で開いた会合で「(政府の)1000兆円の借金の半分は日銀に(国債を)買ってもらっている。心配する必要はない」とも語っていた。
    日銀は法的には、公的な「認可法人」なので、そもそも会社法とは関係ありません。鈴木財務大臣は、そのことを語ったのであって、安倍発言の特に「「(政府の)1000兆円の借金の半分は日銀に(国債を)買ってもらっている。心配する必要はない」というところまでは否定していません。

    民間の親会社が経営目標を子会社に与えますが、日々の細かい経営にまでは口出しせずに子会社に運営を任せるとほぼ同じだ。このため、中央銀行は政府の子会社という比喩が使われることもしばしばだ手段の独立性の表現として子会社という比喩はよくなされることです。

    この比喩は、政府と日銀の関係をよく表しているものと思います。そうして、この「政府の小会社」という比喩は「政府の借金」という言い方に比較すれば、現実を良く表しいるともいえます。

    このブログでも以前指摘したように、「政府の借金」という表現は完璧に間違いです。その記事のリンクを以下に掲載します。
    日銀保有の国債は借金ではない 財務省の見解が変わらないなら国会の議論に大いに期待―【私の論評】高校の教科書にも出てこない「政府の借金」という言葉を国会で使わなければならない、日本の現状(゚д゚)!

    この記事は、4月11日の参院決算委員会で、西田昌司議員が、政府の借金は日銀が保有する国債を除いて考えるべきだとの持論に、鈴木俊一財務相が、「その通りだなという気がする」と答えたと報じられたものに関するものです。

    詳細は、この記事をご覧いただくものとして、金融上の常識として、日銀保有の国債は借金ではないですし、そもそも「政府の借金」という言い方自体が全く間違いであり、これは政府や日銀の金融行動と個人の行動を同事件に扱うことからでてくる間違いです。それに関する部分をこの記事より抜粋します。
    日銀は政府の子会社だから親会社の子会社に対する借金は、借金ではない、という話でしたが、親会社と子会社の間であろうが、借金は借金じゃないか、と素朴に感じる方もおられるかもしれません。仮に日銀は政府とは別の組織だと考えたとしても、日銀による政府に対する貸し出しは、私たち一般の国民が銀行や消費者金融からおカネを借りる、いわゆる「借金」とは全く異なります。 

    第一に、日銀は政府に対して「貸したカネを耳をそろえて返せ!」という圧力はかけません。日銀はいくらでもおカネをつくり出せる存在ですから、貸したカネを返してほしい、という動機がそもそもありません。

    日銀以外の存在にとっては、おカネは大変に貴重な代物ですが、日銀にとっておカネは別に貴重でも何でもありません。なんといっても、おカネは「日本銀行券」であって、日銀が自らいくらでもつくり出すことができるのです。

    もちろん、借金の返済期日が来れば、政府は借りたおカネを返さなければなりません。でも、そのおカネを、政府はまた日銀から借りることができるのです。一般にこれは「借り換え」といわれます。つまり10万円を1年間借りていたとしても、1年後にまた10万円を同じ人から借りる、というのを延々と繰り返すことができるわけです。そうなれば実際、その借りたおカネを返す必要が延々となくなります。それと同じことが、政府は日銀に対してできるわけです。 第二に、普通、借金すると利子を払わないといけませんが、さきほども指摘したように、政府が日銀からおカネを借りた場合、利子を払う必要がありません。これが、法律で定められています。 だから、あっさりいうと、日銀から政府がおカネを借りた場合、政府はその利子を払わなくてもいいし、元本そのものも延々と返さなくてもいいのです。

    返さなくてもいいし利子もない借金など、もう一般社会における借金ではありません。はっきりいって、「もらった」のと全く同じ。 なぜ、そんなふうに「日銀から政府への貸し出し」は、私たちの借金と違ってものすごく優遇されているのかというと、それはひとえに日銀が政府の子会社だからです。

    したがって、日銀が政府の一部だと考えても、そう考えずに独立の存在だと考えても、結局は、日銀から政府が借りたおカネは、いわゆる普通の「借金」としては考えなくても良いのです。ということになるんです。 たとえば、政府と日銀はものすごく仲の良い親子がいて、子どもが親からおカネを借りて、一応親は「貸した」とはいってるけど、利子も取らないし、返せともいわない、というのと同じような関係といえます。

    それも親密な親子関係は、いつまで続くとも限りませんが、日銀と政府の関係は法律で規定されています。

    以上は、おカネについてある程度知っている銀行員や税理士、財務官僚なら、「当たり前の常識」として知っている事実です。高校の「政治経済」にも当たり前に解説されていることです。ただ、もともと「借金」などではないので、高校の教科書では「借金」という言葉は使わないので、多くの人が別の話として理解していないのかもしれません。

    この記事でも、日銀を「政府の子会社」と表現しています。これは、日銀と政府の関係を比喩的ではありますが、正しく表しているからです。 

    ただ、厳密にいえば、日銀は会社法等で定めらた小会社ではありませんから、厳密にはそうではありませんが、比喩的に使うならば正しいです。そうして、「政府の借金」という言葉は、個人の行動と政府・日銀などの金融行動を同次元に扱っているという点で全くの間違いですし、誤解を招きやすいてす。

    この記事でも述べたのですが、西田昌司議員が、「政府の借金」という言葉を用いたのは、あまりにこの言葉が使われてしまっているので、その言葉を使わなければ説明できないから使ったのでしょうが、彼自身は「政府の借金」なる言葉は、不適切と思っていることでしょう。

    国会で質問する西田昌司議員

    鈴木俊一財務相が、「その通りだなという気がする」と答えたのは、そもそも「政府の借金」なる言葉は適切ではないで、「その通り」とは言い切れないからでしょう。無論、鈴木氏がそう考えて発言したかどうかは、定かではありませんが、国会の答弁の雛形は財務省が作成するので、さすが財務省も「政府の借金」という言葉を国会で認めるわけにもいかず、「その通りだという気がする」という雛形を作成したのかもしれません。

    言葉というものは、厳密に使わないと、誤解を招くことになりますが「政府の小会社」という言葉は比喩としてはかなり理解しやすいです。比喩として用いるなら全く問題はないです。問題がないどころか、政府と日銀の関係を適切に表しています。

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